01 01―■ 巻頭言 巻 頭 言 北陸農政局 局長 雜賀 幸哉 「21 世紀の資本」としての 農地への投資 雜賀 幸哉 北陸農政局 局長 昭和 55 年 3 月 北海道大学農学部農業工学科卒業 昭和 55 年 4 月 農林水産省入省 平成 8 年 2 月 OECD 事務局行政官 平成 18 年 4 月 農村振興局農地整備課長 平成 22 年 4 月 九州農政局整備部長 平成 25 年 4 月 九州農政局次長 平成 26 年 4 月 北陸農政局局長 トーマ・ピケティの「21 世紀の資本」が売れている。700 ページを超える大著で、その いる。以前から言われていることではあるが、非現実的な転用期待が農地価格を高値に安定 厚みを見ただけで気後れするが、そう難解なものではない。ベースとなる主張は、「歴史的 させているのだろう。北海道に目を転じると、農地の売買価格は約 26 万円であり、小作料 事実として資本の収益率は経済成長率より高い」ということであり、その結果、資本を持つ は都府県とそれ程差がないので、農地の収益率は 4 ∼ 5%になり、ピケティの言うところの もの、すなわち俗に言う金持ちの資産が増え続け、資本を持たないものとの格差が広がり続 標準的な資本収益率となっていることがわかる。都府県の農地価格が北海道並であるべきか けるということだ。資本主義経済では経済成長(フロンティアの拡大)あってこその資本投 否かは議論があるところかも知れないが、いずれにしても、都府県では、農地は買うより借 資なので、論理的には資本の収益率が経済成長率を上回り続けるとは考え難いのではと思う りた方がはるかに経済的である。その意味で、農地貸借による農業への企業参入を図る 2009 が、ピケティらによる膨大なデータの解析では、第一次及び第二次世界大戦とその間の期間、 年の農地制度改正は、企業にとっても経済合理性のあるものであり、食品関連産業を中心に そしてその後の高度経済成長期を除けば、資本の収益率は経済成長率より高く、第一世界大 企業の農業参入が加速化しているのもうなずける話である。 戦以前のように格差は再び広がりつつあるとのことである。歴史的事実の分析を背景に議論 ピケティの引用ばかりで恐縮だが、彼の議論だと、土地の価値のほとんどは、その土 を展開しているので理解しやすく、現代の課題にマッチしたシンプルな主張なので一般受け 地の改善に費やされた資本や労力の価値だということである。これも議論のあるところ しているのだろうが、理論的でないとかデータの分析が恣意的だとかの批判もある。 かも知れないが、こういう話をされると、どうしても土地改良事業が頭をよぎる。管内 ピケティの主張の是非はともかくとして、資本といえば、農地は重要な役割を占めている。 の圃場整備新規地区における経済効果の算出では、収益の直接的な増加が見込まれる営 もちろん、農地の資本に占める相対的価値は工業化等の進展に伴い低下しているが、その絶 農経費節減効果だけで事業費の 4 ∼ 5%の年効果額であり、資本収益率からみても妥当な 対的価値が揺るいでいるわけではない。ピケティによれば資本の収益率は概ね 4 ∼ 5%で、 投資となっている。多面的機能の発揮など国策としての圃場整備事業の意義は大きいが、 歴史的に見ても大きな変動はないとのことである。この収益率 4 ∼ 5%は、例えばマンショ 農地への資本増強という観点からみても圃場整備は意味のある事業ではないかと考えら ン経営において年間家賃をマンション価格の 20 分の 1 から 25 分の 1 に設定することを意味 れる。もちろん、多くのデータを整理したわけではないので確定的なことは言えないが、 し、賃貸マンション市場の動向も概ねそのようなラインで推移しているのではないかと思 費用対効果がでていれば概ね似たような状況ではないかと考える。 う。ピケティによれば、ヨーロッパの農地の収益率も歴史的に 4 ∼ 5%とのことである。こ 政府としては、中間管理機構を通じた担い手への農地の集積を強力に進めている。貸 れを日本の農地にあてはめてみるとどうだろうか。平成 25 年のデータでは、標準的な田の 借による集積を基本としており、多数の小規模地主と少数の大規模小作が誕生すること 価格は都府県平均で約 130 万円 /10 aとなっている。一方、小作料は約 1 万 5000 円 /10 a になる。担い手への集積の目的の一つは経営感覚のある農家の育成といえる。作物生産 であり、農地の資本としての収益率は 1%ちょっととなる。農地価格と小作料の関係を年次 における経営コストの削減も重要な経営課題だが、農業の基盤である農地資本への積極 別に比較してみると、昭和 40 年の 1%弱から昭和 55 年にかけて 2%まで上昇し、その後徐々 的、効率的投資も同様に重要な経営課題である。この農地資本への投資を誰が担うのか に減少し現在の 1%強の水準に至っている。この変動の要因は、小作料は基本的に米価の影 明確になっていない。農業をやめた小規模地主に期待するのは無理があるし、借りてい 響を受けて変動するものであることに対し、農地価格は地価の影響を強く受けているためか る農地に資本増強することに経済的合理性は求めにくい。大規模小作が中心となる農業 と考えられる。実際、農地価格は農地を農地として売却した場合の価格であり、転用した場 を見据えて、農地への継続的な投資を促すためのイノベーションが必要かも知れない。 合の価格は、住宅、商工業用で約 10 倍、道路、公園等公共用で約 5 倍の取引価格となって 02 ARIC情報|No.118 2015-07 ARIC情報|No.118 2015-07 03
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