造船で花咲いたFEM構造解析(6) ∼1970年代に迎えた黎明期の思い出∼

CAE 私の履歴書
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大で、我々はこれらの顧客や他の顧客へも有益となっ
た機能を急速に加えていくことができた。
最初、我々は、おもに静的および陰的な過渡問題(動
的問題、熱伝導)を含む解析モデルのバッチ処理に焦点
を絞った。我々は対話的なモデル化機能を開発するた
めの人的資源や技術を持っておらず、また、その当時
の形状モデル化技術は、我々の目的に対して十分な機
能を提供するには余りにも未熟であった。
数年後、動的陽解法の計算に必要な計算機資源が、
その手法が集中的に開発されてきた米国の国立研究所
の外でも一般的に利用できるようになった。そこで
我々は、計算速度のために計算精度を犠牲にすること
なしに、陽解法の有効性を示すのに必要な計算性能と
ともに汎用的な機能を提供する新しいアーキテク
チャーを用いて、動的陽解法機能(ABAQUS/Explicit)
の開発に着手した。我々は単一モデルの解析過程の一
つの段階として陽解法を適用できるように(たとえば、
陽解法による動的応答解析の前段階として、我々の一
般的なプログラムである ABAQUS/Standard で、構造物
の静的な初期荷重を与えるように)陽解法のアーキテク
チャーを用意した。
ABAQUS/Explicit の開発に着手して数年後、我々は
対話形式でのモデリングと、結果の可視化に取り組む
ことにした。我々の計画は、基本設計データが CAD や
PLM システム上に存在する設計環境内に、計算のモデ
ル化を支える強力な機能を提供することであった。こ
れは、重大な課題と向き合うことを要求した。なぜな
ら、有効な有限要素モデルを生成するのに必要なデー
タは、それらのシステムから、すぐには利用できない
からである。例えば、CAD のジオメトリはメッシュ分
割できるように整えなければならないし、多くの場合
において、有限要素解析(FEA)にとって重要でない
フィーチャを取り除かなければならない。更に設計は
常に変化しているので、設計が進むとともにすぐに適
用できるように、幾何学操作を取り込めるようでなけ
ればならない。この分野での我々の仕事は、ABAQUS/
CAE に お け る 汎 用 機 能 の 開 発 と、Dassault Systemes’
`
Catia V5のシミュレーション機能を非線形領域まで拡張
する ABAQUS for Catia V5の開発へと導かれた。このよ
うな重要な開発プロジェクトは、市場に受け入れられ
るまでに、多くの年月と沢山の工数(人年)を必要とす
る。このなかで我々は長期計画を立て、新しい機会が
生じるにつれて、これらの計画を修正することが必要
であることを学んだ。そのような状況においては、
我々のビジネスへの保守的な取り組みは非常に有効で
あったと思う。我々には、オーナーが技術に強いこだ
わりを持つ未公開企業のメリットがある。四半期とい
う短期間での財政的成功の圧力を受ける米国の公開企
業にとっては、何年か先に有効な機能を提供すると期
待できるプロジェクトに、コンスタントな投資を継続
することは非常に困難である。このような経営上の忍
耐と同時に、多大な活気をもって多くの開発計画を遂
行したことが、我々のビジョンを時間の枠を超えて展
開する上で大きな優位性を与えてくれたものと信じて
いる。
(次号につづく)
(今回はインタビューではなく、本人からの寄稿を翻訳
担当編集委員:長嶋利夫、石谷隆広)
造船で花咲いた FE M 構造解析( 6)
∼1970年代に迎えた黎明期の思い出∼
倉田 雅彦
造船界/船級協会で成熟したFEM−あれから30有余年
6.1 造船所も船級協会も頑張った
日本の造船所もFEMベースのタンカー解析システムを次々と開発し、それを用いた解析結果とロイドの
システムでチェックした結果が食い違った場合には、お互いに薀蓄を傾けての白熱した論議が交わされたこ
とは先ほど述べたとおりだが、その場合でも、お互いのシステムを非難するような泥仕合は一切無く、解析
精度と出力内容レベルの向上を求めて相互に緊密な協力体制が出来上がった。さらに、日本の造船所間に伝
統的に存在する隠し事がほとんどないオープンな雰囲気も相乗効果を発揮して、造船界におけるFEMシス
テムは見事に花開き、さらに磨きがかかるようになった。この間、船級協会の努力と見識が非常に良い刺激
となって、造船界におけるFEM技術を押し上げる貢献をしたことは間違いない。
(P44へ続く)
(34)
計算工学
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κΟσ
(P34より続く)
船級協会規則に直接計算による承認手順が導入されたが、それは従来から維持されてきた安全率のそぎ落
としを意図するものではない。船舶の挙動は弾性範囲内に限定され、実際に塑性範囲に及ぶような挙動は生
じないことが大原則である。船舶の寿命を一般に20年以上とみなして、その一生を通じて遭遇し得る波浪条
件や疲労の進行、腐食の進行なども考慮して、安全率の範囲は、統計的かつ理論的解析に加えて実績と経験
から決められるものである。船級協会の定める規則に適合して承認されなければ、その船舶は国際航海に従
事できないことになっているから、新しいタイプの船舶、サイズが大型化した船舶の船体強度の承認におけ
る船級協会の責任は重大である。造船所がそれぞれ独自に、または協同で新しい船舶の設計と建造法を開発
するのと並行して、船級協会が果たすべき役割は非常に大きく、船級協会によって成された多くの仕事は、
今日の多様化した船舶の誕生の実現につながっていると言っても過言ではない。
6.2 あれから30有余年経った今
造船におけるFEM構造解析実用化の黎明期を経験してもう30年以上が経った今、FEMコードの解析機能
の格段の拡張と強化、もはや当たり前になったプリ・ポスト処理、パソコンでいとも軽々と構造解析が自由
に実行できる環境など、当時ではまるで予想もできなかった時代の到来に感無量である。
今から90年前の1912年4月14日夜、豪華客船タイタニック号の処女航海における悲劇が起こった。タイタ
ニック号から海難救助要請信号CQDが発信されたが、このとき既にCQDより送信が容易な信号として、今で
はよく知られているSOS信号が国際的に採択されていたことから、タイタニック号からSOS信号も発信され
たが、恐らく世界で初めてのSOS信号の発信であったといわれている。1985年と翌1986年に、タイタニック
沈没の残骸が発見され、船体は3つの部分に割れて沈んでいる状態が確認され、俄然、沈没当時の様子をもう
一度検証しようとの動きが活発になった。この調査の一環として、沈没に至る過程がFEM手法を用いてシミュ
レーションされた。全船体の3次元FEMモデルでMSC/NASTRANを用いて船体が崩壊する過程が解析され、
タイタニック号の船体が折損しながら沈没する様子
が再現され、また使用されていた鋼材の品質が寒冷 筆者紹介
の海中で脆性破壊を起こしやすいものであったこと
くらた まさひこ
も確認された。このシミュレーションと解析は、
造船学科を出て先ず造船所に勤めたが、船
1998年にNHK BS2で放映されたドキュメンタリ「タ
級協会の役割に魅せられ、ロイド船級協会
イタニック号沈没の謎」で詳しく紹介された。大ヒッ
に転じ、船体検査員として船体設計審査に
トした映画「タイタニック」では、この調査で明ら
従事して18年、次いで、ロイドにおける構
かになった沈没の過程が、CGを駆使してリアルに表
造解析の立役者MSC/NASTRANに惹かれ
るままに、その普及のために設立された日
現されている。造船で実用化が促進されたFEM手法
本エムエスシー(株)に参加して、FEM構造
によって、タイタニックの悲劇が検証され、その検
解析の世界で10年間、多くの得がたい経験を積むことができた。
証結果が鎮魂歌として捧げられたことで、FEMの真
現在は、構造解析ソフトウェア関連マニュアルおよび文献の翻
価があらためて浮き彫りにされたと言える。
訳でささやかに関与している。
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計算工学