電子情報通信学会論文誌原稿 ( N o . 1) 研究速報 イ ベ ン ト 駆 動 方 式 に よ る LAN 通 信 量 解 析 モ デ ル 学生員 正員 進† 石原 岩田 晃†† 正員 岡田 稔†† 正員 櫻井 桂一††† N etw o r k Tr af f ic Mo d el w ith Ev en t Dr iv en Meth o d o n Lo cal Ar ea N etw o r k S u s u mu I S H I H AR A† , S tu d en t Memb er Min o r u OK ADA† † , Ak ir a I WATA† † an d K eiich i S AK U R AI † † † , Memb er s †名古屋大学大学院工学研究科電気系専攻,名古屋市 Dep t. o f Electr ic En g . , S ch o o l o f En g . , N ag o y a U nivers ity, N agoya, 464-01, J apan ††名古屋大学情報処理教育センター,名古屋市 Education Center for Information P roces s ing, N agoya U nivers ity, N agoya, 464-01, J apan †††愛知県立大学,名古屋市 Aich i P r ef ectu r al U n iv er s ity , N ag o y a, 4 6 7 , J ap an 著者分冊指定: A 連絡先:石原進 名古屋大学情報処理教育センター 〒464-01 名古屋市千種区不老町 tel (052)-789-3902 fax (052)-789-3901 e-mail s us umu@ecip. nagoya-u. ac. jp 電子情報通信学会論文誌原稿 あらまし ( N o . 2) ネットワーク負荷の時間的集中度が高い LAN の通信量を正確に予測する,イベント駆動方式に よるネットワークトラフィックモデルを提案する.こ のモデルによるシミュレーションで,教育用 LAN の 一セグメントあたりのクライアント数の目安を得るこ とができた. キーワード シミュレーション技法,トラフィック 解析,LAN ,WS システム 電子情報通信学会論文誌原稿 ( N o . 3) 1. まえがき 本論文では ,教育用ワークス テーション (WS) シス テ ム等 に 見 られ る L AN の ト ラ フィ ッ ク 解 析 に適 し た , イベ ント 駆動 方式 によ るシ ミュ レー ショ ンモ デル を提 案す る. すな わち ,利 用す る通 信プ ロト コル に忠 実に 動 作 する ネ ッ ト ワ ーク 上 の 各 ノ ード の モ デ ル を仮 定 し , これ らを イベ ント 駆動 方式 で並 列に 動作 させ るも ので ある .本 手法 は, 時間 的に 高い 負荷 集中 時で のネ ット ワーク通信量 を,区間平均モデルに 基づく従来法(1) よ りも正確に予測できる. 2. シミュレーションモデル 2.1 システムの構成 今回のモ デルでは,OS I 階層モ デルの物理層 からト ランスポート層までを次の仮定でモデル化している. ・トランスポート層 TCP(2) ・ネットワーク層 IP ・データリンク層 Ethernet(3) (1 セグメント) ・物理層 同軸ケーブル 10Base5 この モデル に上 位アプ リケー ション のモ デルを 組み 合わ せる こと によ り, 種々 のプ ロト コル の組 み合 わせ 電子情報通信学会論文誌原稿 ( N o . 4) に応じたシミュレーションが可能である. 一つの LAN ノード(ワー クステー ション) は TCP モ ジ ュー ル と E t h e r n e t モ ジ ュ ール で 構 成 さ れて い る . シミ ュレ ーシ ョン は, 各ノ ード にお ける 次イ ベン トの 発生 時刻 まで の時 間を 経過 時間 とす るイ ベン ト駆 動方 式で 行う(4)(5) . この 経過 時間 を累 積す るこ とに よっ て,通信量の解析が可能になる. 時間 経過の 最小ス テッ プを決 定する のは Ethernet モジ ュー ルであ る.E t h e r n e t モジ ュール は, 自分の ノー ド i と他のノード j の状態か ら,ノード i における次 イベント発生時刻 tni を決定する.TCP モジュールは Ethernet モジュールの動作に対 して受動的であり,そ の動作は各ノードで独立である. 2.2 Ethernet のモデル化 各ノードの Ethernet モジ ュール は,CS MA/CD に 従っ て状 態遷 移を行 い, 伝送 路に パケッ トを 送信 する (3). CS MA/CD 方 式で は 伝 送路 上 の キャ リ ア の有 無 がそ の動 作に 直接 影響 を与 える .本 手法 では 動作 を厳 密に 模擬 する ため ,伝 送路 上の 各ノ ード 位置 での キャ リアの有無をそれぞれ独立に判定する. 2.2.1 状態遷移 各ノードの Ethernet モジュ ールは図 1 の状態遷移 電子情報通信学会論文誌原稿 図 に 従 っ て 状 態 遷 移 を 行 う . ノ ー ド ( N o . 5) i の 状 態 S i∈ { S LP , CS , P R, TR, CD, WT} は Ethernet の 状 態 ではなく,本モデルで規定するものである. ■SLP(Sleep) :送 信をして いない状 態.送信 バッ ファにデータが存在すると CS に遷移する. ■CS (Carrier Sense) : キ ャ リ ア セ ン ス を 行 う . キャリアがなければ PR に遷移する. ■PR (Preamble):パ ケットの 送信を 開始する が, 衝 突の 可 能 性が あ る 状態 . Ethernet の 同 軸ケ ー ブ ル 10Base5 の一セグメ ント内での通信で衝突 の危険があ るの は, 送信 を開 始し てか ら, (1) 式 で求 めら れる 時 間 Td 以内 であ り,こ の値 はジャ ム信 号の送 信時 間と フ レ ー ム ギ ャ ッ プ の 時 間 の 和 T j am よ り 小 さ い . 2l ( 1 ) Td = max v こ こ で l m ax は 最 長 ノ ー ド 間 距 離 で あ り , v は 信 号 速度で ある.CS →PR の状 態遷移 があって から Td だ け経 過した時 点で,こ の間に 衝突があ ると CD に遷移 する.衝突がなければ TR に遷移する. ■ TR (Transmission) : パ ケ ッ ト の 送 信 を 行 い , SLP に遷移する.衝突の可能性はない. ■C D ( C o l l i s i o n De t e c t ) : ジャ ム信 号を 送信 する . ジャ ム信 号の 送信 が終 了し た後 ,こ のパ ケッ トの 送信 電子情報通信学会論文誌原稿 ( N o . 6) にお いて衝突 回数が ncol <16 の時 は,次 の送信 を再 試行 する までの 待ち 時間を 計算 し, WT に 遷移 する . ncol =16 の 時 は こ の パ ケ ッ ト の 送 信 を あ き ら め , SLP に遷移する. ■WT (Wait):再 試行の ための 待ち時間 が経過 する と CS に遷移する. 2.2.2 キャリアおよび衝突の検出 図 1 の状 態遷移に おいて CD でキ ャリアの 検出, PR で衝突の検出を行う.衝突の検出は自分以外のノー ドが 発生 した キャ リア によ る信 号波 形の 乱れ を検 出す るこ とで ある から ,モ デル 上で はキ ャリ アの 検出 と同 様の 手法 を用 いる こと がで きる .こ こで キャ リア 検出 を行う ノードを i ,そ の他のノ ードを j とし, また, ノ ード j が 最後 にキ ャリ アを 発生 した 時刻 を t c p j , キャ リ ア を消 滅 さ せ た時 刻 を t c d j と す る. ノ ー ド i , ノ ー ド j の間の 距離を lij とす ると,現 在時刻 t に関 して 以下の条 件が満たされると き,ノード i にノ ード j が 発生したキャリアが存在する. l l l l tcdj + vij < tcpj + vij ≤ t ∨ tcpj + vij ≤ t ≤tcdj + vij (2) 状態 PR では衝 突の検出 とともに実 際に衝突 を検出 した時刻 tcoli を計 算す る.S i =PR の時, ノード i に 最 初 に 到 着 す る 他 ノ ー ド j の キ ャ リ ア 到 着 時 刻 t c ai 電子情報通信学会論文誌原稿 ( N o . 7) は(3) 式で与えられる. tcai = min j ≠ i, tcdj < tcpj (3) l {tcpj+ vij } このとき,ノード i で CS→PR の状態遷移を行っ た 時 刻 t t s i に 対 し て , 条 件 t t s i ≤ t c ai を 満 た せ ば 衝 突 が 起 き て お り , t c o l i は t c o l i =t c ai で 与 え ら れ る . 2.2.3 次イベント発生時刻の決定 Ethernet モ ジ ュー ル の 各状 態 に おけ る 次 イベ ン ト 発生時刻 tni は次のようにして計算される. ■SLP:送 信バ ッフ ァにデ ータ がある かど うか は, TCP モジュー ルの動作に依存 するため,送信 バッファ 内 のデ ータ の有 無の 判断 は TCP モ ジュ ー ルの 動作 終 了後に行う.従って,tni=∞とする. ■CS:自分のノード i の位置におい て他のノードj の 発 生し た キ ャ リ アが な く な る まで の 時 間 を 計算 す る . S j ∈ { P R, TR, CD} のと きは ,現 時点 でノ ード j が 出し ているキ ャリアの 消滅がノ ード i に伝 わるの は, ノード j にお けるイ ベント 発生後, すなわ ち状態 遷移 が 起き た後 であ る .従 って ,S j∈ { P R, TR, CD} の 状 態 に ある ノ ー ド j が 存 在 す ると き に は t n i= ∞ と な る . S j ∈{SLP, l {tcdj + vij } で 与 え ら 自分 以外のす べてのノ ード j の状態が C S , W T } で あ れ ば , t n i は tni = max j≠i 電子情報通信学会論文誌原稿 ( N o . 8) れる. ■PR:この状態では衝突の危険がある時間 Td だけ 経 過 さ せ る . す な わ ち , t n i = t c p i +T d . ■TR:パケット 長に応じた送信時間を 経過させる. 従っ て, 現在 送信 中の パケ ット 送信 に必 要な 時間 とフ レ ー ム ギ ャ ッ プ の 時 間 の 和 を T p i と す る と , tni = ttsi + Tpi. ■CD:次イベントの発生は ジャム信号の送信が終了 した とき であ るか ら, ジャ ム信 号の 送信 に要 する 時間 と フ レ ー ム ギ ャ ッ プ の 時 間 の 和 を T j am と す る と , tni = tcoli + Tjam. ■WT : 乱数 に より 決 定さ れ る 再試 行 まで の 待ち 時 間 T b i を 経 過 さ せ る . す な わ ち , tni = tcoli + Tjam + Tbi で 与えられる. 2.3 TCP のモデル化 TCP では,送信側 TCP が送信セグメントに対する 応答を受信側 TCP より受け取り,応答が再送タイム アウト時間内に得られないときには再送を行うことに よ り, 通信 の信 頼性 を保 証し てい る( 2 ) . モデ ルで のデ ー タフローを図 2 に示す. 再送タイム アウトの値 T rtoi は通信効率 に大きな影 響を 与え るた め, その 設定 方法 には 多く の手 法が 提案 さ れて いる .本 方法 では TCP の 仕様 書に 参考 とし て 電子情報通信学会論文誌原稿 ( N o . 9) 示されてい る指数平均による方 法を用いる(2).こ の方 法で は, 送信 した セグ メン トに 対す る応 答を 受信 する ま での 時間 ( r o u n d t r i p t i m e ) T rt t i を 測定 し て おき , こ れ を 元 に (4) 式 で smoothed round trip time T s rtti を与える. Tsrtti = α Tsrtti -1 + (1 – α ) Trtti (4) こ れよ り再 送タ イム アウ ト T rtoi は (5) 式で 与え られる. Trtoi = min {Tmax, max {Tmin, β Tsrtti}} (5) また,再 送時にはバックオ フすなわち T rtoi を再送 が行われる度に 1. 5 倍する方法をとる. TCP モジュールにおける次イベント発生時刻は,各 TCP モジュールにおける再 送タイムアウト時刻,time wait timer 終了時刻, 送信開始時刻,受信 バッファの 容量が空く時刻の最小値として与えられる. 3. シミュレーション 3.1 場面設定 本手 法で作 成さ れたモ デルに よるシ ミュ レーシ ョン 結果の一例 を示す.図 3 に示す ネットワーク 環境で上 位層プロトコルに ftp を用いてサーバ WS から一斉に 各 クラ イア ント W S に ファ イル 転 送を 行う も のと する . 電子情報通信学会論文誌原稿 ( N o . 10) また ,教 育環 境で のネ ット ワー クア クセ スの 集中 を模 擬す るた め, 各ク ライ アン トの 送信 開始 時刻 につ いて 以下 のよ うな 仮定 をす る. 情報 処理 教育 の教 室で ,教 官の 指示 の後 に学 生が 一斉 にネ ット ワー クに アク セス する こと を考 える と, この とき の学 生の 反応 には ばら つき がある .従っ て,学生 の利用 するク ライア ント i にお けるフ ァイル転 送開始 時刻 tsi およ びファイ ル転 送終 了時刻 tei は、 一例 とし て図 4 に 示す よう に各 クラ イア ント でま ちま ちで ある と考 えら れる .実 験で は, tsi の 分布 は正 規分 布 N (µ, σ 2) の正 の部 分に 従うと仮定した. T C P モジ ュー ルのパ ラメー タは 次のよ うに設 定し た. ・ 上 位 層 の 受 信 バ ッ フ ァ サ イ ズ 48Kbytes ・ 送 信 , 受信 バ ッ フ ァ の 容 量 は 十分 に 大 き い . ・デ ータの セグ メント 化,受 信セグ メン トのソ ート に要する時間は 0 ・式 (4)(5) の パ ラ メ ー タ α =0. 8 , β =1. 5 3.2 シミュレーション結果 サーバから n 台のクライアント へのファイル転送時 間 の 平 均 te i – ts i の 計 算 結 果 を 図 5 に 示 す . こ こ で は , 転 送フ ァ イル の サ イズ を 1Mbytes , µ = 1. 0[s ec] と し, σ を変化させてシミュレーションを行った.n 電子情報通信学会論文誌原稿 ( N o . 11) =8~16の あた りで ファ イル 転送 時間 が急 増し てい るこ とが わか る.ま た,σ が小 さく ,ネッ トワー クア クセ スの集 中度が大き いときには, 少ない n でのフ ァイル 転送時間の増加が見られる. さら に,ファ イル転送 期間 [ts, te] のサ ーバに おけ る全 Ethernet パケット送信試行回数を S p,全衝突回 数を S col と して ,サ ーバ にお ける Ethernet パ ケッ ト衝 突率 S col /S p を 図 6 に 示す . n が ある 値を 超 えると S col /S p が急 激に 増加 して おり ,フ ァイ ル転 送時間と同様 の傾向を示している.衝 突率の目安を 10% と する と,n =10~20あた りが 衝突 が多 発す る変 化点と見られる. 4. むすび 本論 文では LAN にお ける通 信量 を評価 するた めの モデ リン グの 一手 法と して ,通 信プ ロト コル に忠 実に 従 う ノー ド モ デ ル を並 列 に 動 作 させ る 方 法 を 提案 し た . この 結果 ,ネ ット ワー クを 長期 的な ネッ トワ ーク 平均 遅延 をサ ービ ス時 間と する 待ち 行列 でモ デル 化し た従 来法(1)に較べて ,過渡的な負荷 集中時の誤差 の発生要 因を 少な くす る事 がで きた .ま た本 手法 によ るシ ミュ レーションにより, 教育環境においては 10Mbps の媒 電子情報通信学会論文誌原稿 ( N o . 12) 体で はク ライ アン ト数 15 台前 後が 一つ の目 安と なる こと が示 され た. 今後 の課 題は 実シ ステ ム実 験と の比 較 を 行う こ と , プ ロト コ ル の 範 囲を 拡 大 し , リピ ー タ , ルー タ等 を含 む多 様な ネッ トワ ーク トポ ロジ に対 応す ることである. 謝辞 本 研究 の機会 を与 えて戴 く本 学情報 処理 教育 セン ター 長毛 利佳 年雄 教授 ,並 びに 討論 戴く 岡田 研究 室 諸 氏に 感 謝 する . ま た, 基 礎 的検 討 (4) を 行 った 現 NTT データ通信の岡崎香織氏に感謝する. 文献 ( 1 ) E. Drakopoulos and M. J . Merges : "P erformance Analys is of Client-S erver S torage S ys tems ", IEEE Trans . Comput. , 4 1 , 11, pp. 1442-1452 (1992) ( 2 ) Information S cience Ins titute U nivers ity of S outhern California: "Trans mis s ion Control P rotocol", RF C 793 (1981) ( 3 ) AN S I/IEEE 802. 3-1988, IS O 8802-3 (1989) (4)岡崎香織: 情報処理教育を指向したネット ワークファイルシステム ,名古屋大学卒業 論文 (1994) (5)石原進,岡田稔,櫻井桂一: 情報処理教育 用LANのネットワーク負荷解析 ,電気関 電子情報通信学会論文誌原稿 係学会東海連大,p. 401 (1994) ( N o . 13) SLP CS WT TR PR CD 図 1 Ethernet モジュールの状態遷移図 Fig. 1 State diagram of Ethernet module send buffer SEND Ethernet module Higher level application segment data Timeout receive ACK retransmission queue Check ACK RECEIVE Higher level application sort segments receive buffer of higher level application Ethernet module receive buffer 図 2 TCP モジュールでのデータフロー Fig. 2 Dataflow of TCP module File Server WS Client WS 1 2 n Ethernet 1 segment 2.5 m 図 3 ネットワーク環境 Fig. 3 Network environment. Client WS 1 2 3 4 ts 1 t e1 ts n n ts µ time t en te 図 4 各クライアント WS におけるファイル転送時間の例 Fig. 4 File transfer time on client WSs Fi le Tr an sf er Ti me [ se 1000 σ = 0.0 sec σ = 2.0 sec σ = 5.0 sec 100 10 µ = 1.0 sec File Size = 1 Mbytes 1 1 2 4 8 16 32 64 Numb er o f Cli en t W S Se rv er Co ll is i on Ra te [% ] 図 5 サーバからクライアントへのファイル転送時間の平均 Fig. 5 Average file transfer time from a server to clients. 40 σ = 0.0 sec σ = 2.0 sec σ = 5.0 sec 30 20 µ = 1.0 sec File Size = 1 Mbytes 10 0 1 2 4 8 16 32 64 Nu mber o f Cl i ent W S 図 6 ファイル転送時のサーバ WS における Ethernet パケットの衝突率 Fig. 6 Ethernet collision rate in file transfer at File Server WS.
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