航空写真は森林地理空間情報の主役!

森林地理空間情報誌
LA FORET
航 空 写真 は森 林 地理 空間 情報 の 主役 !
森林総合研 究所
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飛躍的な電子情報時代
この20年余を振り返ると、電子情報や通信技術
が飛躍的に進歩した時代です。
パソコン通信から分散型のインターネットが世に
出たのが15年前。 その間、パソコンのCPU速度
やメモリー容量が 毎年のように倍、倍、倍にな
り、逆に価格はどんどんと低廉化しました。90年
代後半には人工衛星による位置情報(GPS)も利
用できるようになり、いつのまにか車や携帯で手
軽にナビゲーションができます。また、地理情報
システム(GIS)もパソコン版が普及しその解析技
術も格段に向上しました。今や電気店に足を踏み
入れれば、壁掛けテレビが壁面を埋め尽くしてい
ますし、デジタルカメラも無造作に山積みされて
います。つい数年前まで街角に軒を連ねていたカ
ラープリント店の風景が懐かしです。改めて、大
変な電子情報変革の時代にいることを思い知らさ
れます。
① GPS/IMU(慣性ユニット)
GPS位置情報によりパイロットは従来のコンパ
スと地図による目視飛行から、GPSによる数値
飛行に変わりました。これによって瞬時に計画
コ ー ス と の ズ レを 知 る こと が で き ます ( 写 真
左)。航空機(カメラ)の傾きを3次元で計測す
るIMUが撮影時の傾きを瞬時に計測・記録しま
す(写真右)。このGPSとカメラとは連動して
いて、撮影位置の取得や自動撮影が可能になって
いるのです。時期を変えて何度撮影しても、「い
つも同じ画角」の写真が得られるのです。
最新の空中写真技術
小型航空機から撮影する空中写真。何?今時古
いことをと思われる方もおられると思います。確
かに、空中写真より超解像度の人工衛星画像だ!
と認識されている方が実に多いのですが、この航
空撮影技術も電子情報技術の力を借りて大変革し
たのです。その大変革とは、写真から地形図やオ
ルソ画像を作成する作業で必要な野外作業(測
量)が不要になっているのです。
② 電子基準点の全国(2002年)整備
国土地理院では90年代から全国約20kmごとに電子
基準点を設置し1,230箇所に整備完了。これにより
高精度で位置情報を計測することができるように
なったのです。
図化
空中三角測量
水準測量
航空機による撮影
標定点測量
対空標識の設置
撮影計画
従来 の方法
オルソフォト
モザイク写真
現地作業
デジタル
処理
電子基準点の情報
航空機による撮影
撮影計画
最近の方法
±20kmごとに
1,300点
GPS飛行、自動撮影
POSデータ
オルソフォト
モザイク写真
後処理
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NAKAPR
O
図−1
理
航空機は気流の影響を受け、絶えず揺れています。
そのために撮影された1枚1枚の写真ごとに、航空
機(カメラ)と地上とがどのような位置関係で撮影
されたかを求めなければなりません。従来は、撮影
前に対空標識を設置しそれを測量し、撮影後に写っ
ている標識の位置関係から撮影時の角度を推定して
いました。その一連の現地作業が、航空機(カメ
ラ)の電子情報化により不要となっているのです
(図−1)。
もう少し詳しく述べると、
●
目視飛行
中北
従来の空中撮影と最近の撮影処理方法の違い
創 刊 号
IMU
機体上部に付けられた
カメラ用のGPS
GPSアンテナ
アンテナ
カメラ用の
NAKAP R
O
③ 画像処理による地形モデルとオルソ写真や
モザイク化
撮影された写真や画像はすぐに後処理がなされ
たのち、デジタル処理されます。ソフトウエア
の高度化によりステレオ写真の標定作業やマッ
チング、表面地形モデル(DSM)、等高線発
生、地形図にぴったり合うようオルソ処理も即
座にされます。オルソ写真をつなぎ合わせて広
域モザイク画像の作成も簡単なステップで出来
るようになりました。
このようにして、空中写真は天候が良ければ1
日で撮影が行われ、十数cmの解像度を持ちな
がら、地図に合致するオルソ(正射投影)画像
が確実に作成されます。下手に現地でポケット
コンパス測量するより高精度、高効率に求めら
れ、均一な精度というのも魅力的です。
空中写真は、事前の飛行プラン作成、機体・
パイロット・カメラマンの近隣空港への配置、
天候を見計らっての撮影実行、その後のデジタ
ル解析処理と、いくつもの人手や機材や行程が
統合化されて成り立っています。それぞれ最高
の技術を組合せ 『広域を、均一な精度で、客
観的な画像情報』 として作成される唯一の方
法です。高精細な人工衛星画像がしばしば取り
上げられますが、撮影時期を特定したり、鉛直
で撮影することは今後も衛星には望めません。
また、日本は、このような高度な航空撮影が
大変集結され整備されている国です。災害時に
はすぐに空中撮影されるようになっています。
もっと、この技術の高さとそれを使用できる環
境を認識し、様々な業務や運営、研究面等に活
かすべきと考えます。
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GISの背景画像ではなくマスター画像で
す!
パソコンの普及に合わせてさまざまなところで
GISが整備されつつあります。この空中写真や
写真評定図(上)
まるで定規で引いたように一直線、
撮影位置も撮影間隔も揃っている。
衛星画像をGISの背景画像に用いているところ
もあります。図面はもともと空中写真から作成さ
れたもので現地情報のほんの一部を簡略化して記
載したものです。図面以上に、空中写真から作成
したオルソ画像の方が現地の状況を手に取るよう
に客観的に把握できますし、既存の図面の精度検
証や、補完にも活用できる情報量を含んでいま
す。空中写真のオルソ画像上では、現地での測量
よりも高精度に、高効率で計測することも可能な
のです。もちろん、面的な状況把握は現地に行く
以上の効果があります。
しかし残念ながら、未だに多くの方が最新の航
空写真技術の高さを認識していません。単に撮影
するだけに比べると多少のイニシャルコスト(初
期投資額)がかかりますが、それ以上の価値を産
み出すこと、トータルとしての利用価値を認識す
べきと思います。GISの一番の主となるレイ
ヤー、それは空中写真から撮影した高精度のオル
ソ画像です。その上に既存の図面レイヤーを重ね
るという考え方です。
さて、これからの時代どのように進展していく
のでしょうか。良い時代でありたいと願いつつ。
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