No. 30 薬効薬理試験メニューの紹介(2) カニクイザルを用いた 中大脳動脈閉塞による脳梗塞モデル 薬理試験グループ 北島 俊一 中大脳動脈(MCA)閉塞モデルは臨床における脳梗塞に類似 していることから,サル,イヌ,ネコ,ラットなどを用いて広 く研究されています.脳血管の閉塞などによって血流障害が起 きますとエネルギー不全により急速に脳の機能障害を来たし, さらに組織が崩壊・壊死に陥り神経脱落症状がみられるように なります.脳梗塞による神経症状を小動物モデルを用いて研究 することは困難な部分がありますが,サルの脳梗塞モデルは臨 床に近い神経症状を示すことから薬効評価に適したモデルと考 えられています.このようなことから,当薬理試験グループでもtransorbital approach により中大脳動脈に糸を回し,覚醒下で閉塞する方法を用いてサルの 脳梗塞モデルを検討しましたので報告します. ■サル中大脳動脈閉塞方法 カニクイザル(♂)をペントバルビタール麻酔下,バイポーラ凝固装置を用いて 左眼球を摘出した.ドリルにて約5mmの小孔を卵円孔と眼窩裂の近くに作製し, 硬膜及びクモ膜を切開後,内頸動脈分岐部付近のMCA本幹に縫合糸を回し,縫合 糸の両端を合わせポリエチレンチューブ内に導入した.ポリエチレンチューブと共 に創を閉じ,モンキーチェアーに固定し,覚醒下,ポリエチレンチューブの先端の 縫合糸にクリップをかけてMCAを閉塞した.飼育ケージに戻し,神経症状を経時 的に観察して閉塞後24時間に安楽死ののち脳を摘出した.脳の外観及び結紮位置 を確認後,切片(4mm)を作製し,TTC染色して梗塞巣を確認した. ■結果 閉塞後速やかに右側手足の麻痺および左旋回が認めら れた.さらに座位・横位状態が続き意識は混濁していた. 閉塞24時間後の解剖所見 では左脳の外側溝周囲の浮腫 および軟化が顕著であった. (写真1) (写真1) TTC染色による梗塞巣は尾状核・被殻・外側溝周囲 の皮質に認められた.(写真2) (写真2) ■まとめ 今回の方法は覚醒下にMCAを閉塞できることから閉塞開始直後から神経症状を 評価することが可能であった.また,MCAに回した糸を緩めることにより再開通 モデルへの応用も可能と思われた.今後,脳虚血に伴う神経障害の進行を急性期だ けでなく,亜急性あるいは慢性期に渡ってゆっくり進行する神経細胞の変化や虚血 に至らなかった周辺部分の神経細胞の二次的変化について検討してみたい. 財団法人 食品農医薬品安全性評価センター ・薬効薬理試験メニュー の紹介(2) カニクイザルを用いた 中大脳動脈閉塞による 脳梗塞モデル ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・1 ・連載 病理の話題(1) 当センターにおける 病理組織織所見の再評価 (Peer Review)の現状 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・2 ・水生試験の現況 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・3 ・第28回日本トキシコロジー 学術年会ポスター発表 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・3∼5 1)げっ歯類を用いた毒性試験 から得られる定量値に対する 決定樹による統計解析の変遷, 特徴および一考察 2) 統合血液学検査装置ADVIA 120動物用バージョンの基 礎的検討 ・出張報告 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・5∼6 1)第74回日本薬理学会に 参加して 2) 日本薬学学会に参加して ・連載 統計学講座 No.8 等分散検定 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・7 ・第9回学術講演会のご案内 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・8 編集後記 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・8 No.30 本号から9回の予定で安評センター病理研修, 病理技術,希少所見の紹介,解剖・鏡検者の教 育および病理組織所見の管理・統制の方法など 皆様のお役に立つと思われる話題を連載する予 定です.今回はその一回目です. 連載 病理の話題(1) 当センターにおける病理組織所見の 再評価(Peer review)の現状 理専門家のライセンスを有する病理学者がおられ 病理臨床検査室長 岩田 聖 ない施設でGLP試験を実施された場合には,病理 病理組織所見の再評価(Peer review)については,吉富先 生,Dr.Word J.M.やDr. Seely J.C.らの報告に詳しく述べら れています.どの報告を読ん でも,日本にくらべ欧米では 早くからPeer reviewが行わ れてきている事が理解できま す.しかし,最近では日本のメーカーもPeer reviewを積極的に実施することが増えてきまし た.そこで,当センターにおける病理組織所見 の再評価(Peer review)の現状をご報告しま す. 所見の品質保証をする手段として是非御利用いた 【Peer reviewの形式分類】 Ⅰ.公式再評価 Formal peer review…プロト コール或はSOPへの記載・記録が必要 a.外部再評価 External review(第三者機 関に依頼し所見の正確性を保証する) b.内部再評価 Internal review(各研究機 関内部で実施される病理QA的行為) Ⅱ.非公式再評価 Informal peer review…プ ロトコール或はSOPへの記載・記録とも不 必要 a.組織検査進行中の再評価(同僚に参考意 見を聞く場合など) b.非標識標本での再評価(鏡検者自身ある いは同僚が非標識で行う) 長年NTP(National Toxicology Program) のQAP(Quality Assurance Pathologist, 品質保証病理専門家)としてご活躍になった吉 富克彦先生による報告(The Journal of Toxicological Sciences, Vol.23,SupplementⅠ,1-9, 1998)によ れば,病理組織所見の再評価(Peer review) は上記のように分類されています. 【安評センターで実施するPeer review】 安評センターでは病理所見の品質保証を目的 として,安評センターで実施されるGLP試験全 試験の病理所見について,公式な内部再評価を 標準化し実施しています.この場合,再評価者 (Peer reviewer)は日本毒性病理専門家のラ イセンスを有しかつ,病理経験年数の長い者が 2 その任にあたっています.とかく報告期限の早 期化を迫られている病理担当者としては頭が痛 いところですが,病理所見の品質保証のために は不可欠な行為である事をご理解いただき実施 しています. 一方,安評センター以外の施設で実施された 試験の病理所見についても,公式な外部再評価 として受託させていただいています.日本毒性病 だければ幸いと考えています.現在,安評センタ ーでは7名の職員が日本毒性病理専門家のライセ ンスを取得しています. 【安評センターが受けるPeer review】 欧米に申請される医薬品の場合に,安評セン ターで実施されたGLP試験について第3者機関 による公式な外部再評価が実施されることがあ ります.多くの場合,QAPとして知られてい る外国の病理学者が1週間ほど安評センターに 滞在されてPeer reviewが実施されます.針の 筵に英語攻め,われら病理担当者にとって試練 の場といったところです. 最近多いのが,試験委託者による再評価(Spon sor's review??:日本ではよく使うようです が和製英語のようです.米国のQAPであるDr. Seely J.C.先生にお聞きしたところ,“I am not sure what you mean by Sponsor's review. ”というお答えでした.)です.文献に よれば,病理組織診断の品質(正確性,一貫性) 監視のために,スポンサーが自己企業の専門家 を派遣して行う再評価という事になっています. 上述した形式分類にはあてはめにくいpeer reviewであり,公式なものにするのか,非公式 なものにするのかは試験委託者によっても考え 方が違うようです.安全性試験を第三者の立場 から実施している私どもにとって解釈が難しい 側面があるのが事実です.また,大きく違うの が日本の試験委託者と海外の試験委託者の考え 方だと思います.日本の試験委託者の場合,多 くが病理所見一つ一つについてのすり合わせに 重点がおかれます.試験間での所見の一貫性の ためには,重要なことと理解しています.一方, 海外の試験委託者の場合には,問題となった標 本を見ながらの意見交換を求められ,病理担当 者自身が評価されるといった感があり,病理組 織所見の再評価に関する陳述書1枚に重点がお かれるようです.いずれにしても標本を前にス ポンサーの病理学者の方と所見についての意見 交換ができる機会は,我々にとって貴重な時間 であることに間違いありません. No.30 以上,Peer reviewに関して素人の私ですが, 病理学検査担当の現場から現状を報告させてい ただきました.最後に,安全性試験における病理 組織学検査以外の定性データについてもPeer reviewの問題がある事を付け加えておきたいと 思います. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 水生試験の現況 希望される場合には,新ガイドラインの急性遊 泳阻害試験(48時間EC50)に旧ガイドライン の急性毒性試験(LC50)を盛り込んだ試験も実 施しています. (藻類生長阻害試験) 藻類細胞のカウントにフローサイトメトリー 法を採用しています.単細胞藻類の生細胞中に 含まれるクロロフィルは,アルゴンイオンレー ザーの励起によって強力な自家蛍光(680nm, 赤)を発します.従って,試験液中の藻類細胞 を特異的に検出し,製剤粒子等の夾雑物の影響 を受けずに精度良く測定ができます. 環境遺伝毒性試験室 室長補佐 大石法男 水生試験部門では,当セン ターの創設以来,主に農薬登 録申請用の水生生物試験を実 施しています.近年では,環 境中の化学物質による野生生 物への生殖・発生障害等がマ スコミ等で大きく報じられた こともあり,農薬を含む化学 物質の環境汚染問題に注目が集まっています. また,農薬の安全性試験においては,諸外国と の試験成績の相互受入れを円滑にするため, OECDのテストガイドラインを取り入れた新し い試験法が導入され,さらに,GLP条件下での 試験実施が必須となりました.当センターでは, 昨年8月に農林水産省のGLP査察を受け,適合 評価を頂きました.現在,登録申請用のGLP試 験を主体に受託活動を行っていますが,GLP対 象外の試験種(長期試験,繁殖試験等),ガイ ドライン対象外の動物種を用いた影響試験, MSDS用の簡易試験等も随時実施していますの で,ご入り用の際には,お問い合わせ下さいま す様お願いいたします. 以下,水生部門の主要試験について,その 特徴を紹介させていただきます. 今後も長年の経験と実績を生かし,ヒトを含 めた全生態系の安全確保に貢献したいと考えて います.今後とも宜しくお願いいたします. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第28回日本トキシコロジー学会学術年会 (2001年6月10日∼12日)にポスターによる 発表を2題行いましたので概要を説明します. げっ歯類を用いた毒性試験から 得られる定量値に対する決定樹による 統計解析の変遷,特徴および一考察 財団法人 食品農医薬品安全性評価センター, 九州大学大学院医学研究院 ○小林克己,北島省吾,志賀敦史,三浦大作, 庄子明徳,渡 修明,村田共治,井上博之, 大村 実 (コイ急性毒性試験) 5000 L容のコイ専用蓄養池を5基保有し, 一度に50000尾のコイが収容可能です.各蓄 養池には殺菌灯付きの大型循環濾過器を設置し, 最良の条件下で飼育を行っています.また,稚 魚の搬入時期と飼育方法を工夫することにより, 年間を通じて試験適合のコイを保有し,周年の 試験実施が可能です. (オオミジンコ急性遊泳阻害試験) ミジンコ影響試験については,旧ガイドライ ンでは暴露後3時間の50%致死濃度(LC50)を, 新ガイドラインでは暴露後48時間の50%遊泳 阻害濃度(EC50)を求めることになっています. 既存農薬の再登録の際,既存データとの比較を 【目的】決定樹が採用されて20年が経過し, その間種々の経路を辿った手法が発表され使用 されている.今回,これら決定樹をその特徴に よって分類し,考察を加えることで第二種の過 誤を防ぐ決定樹構築のために寄与したい. 【方法】我が国で最初の山崎ら(1981)の決定 樹[1],これを改良したタイプ[2],浜田ら(1998) のタイプ[3], 小林ら(2000)のタイプ[4]及び 日本製薬工業会(2000)のタイプ[5]などを対象 3 No.30 として,分類・考察を行った. 【結果】その特徴から,(1)等分散検定にBartlett の検定(BT-検定)を設定しているもの[1, 2, 3, 4]としていないもの[5],(2)パラメトリック検 定で分散分析を設定しているもの[1, 2]として いないもの[3, 4, 5],(3)ノンパラメトリック 検定で検出力の低いDunnettの検定を採用して いるもの[1, 2, 3]と代わりに検出力の高いSteel の検定を採用しているもの[4, 5],(4)定量値 の変換を含めた複雑な経路を含むもの[1, 2, 3] と単純なもの[4, 5]などに分類できる. 【考察】BT-検定は,分散が異なった群が1群 でも存在すると検出力が極めて高く,長期試験 では定量値の35∼50%で有意差(p<5%)が認 められ,検出力の低いノンパラメトリック検定 を選択することになる.第二種の過誤を防ぐに は,等分散検定にLevene(平均値との差)また はBrown-Forsythe(中央値との差)の検定を採 用し,また,群間比較は検出力の高いSteelの 検定を使用すればより多くの定量値自体を統計 学的に吟味することができると考える.加えて 各検定の有意水準は,5%を堅持したい. ディスカッション:質問のいくつかを紹介しま す.1)ノンパラDunnettの検出力について 2)Steelを使用した理由3)Bartlettの検定の問 題点4)ノンパラDunnettを現在も使用してい るが問題はないか?5)決定樹で最も適切なもの はどれか?6)両側検定・片側検定どちらを使用 するのか?7)有意水準は,何パーセントか?8) 決定樹は必要か?9)t-検定の繰り返しはダメな のか?10)将来の検定法の展望は?11)変換値 の検定は妥当か?12)変換した場合の表現はど うする?13)ノンパラを含めて分散分析はどう して必要ないのか?14)全て順位和検定で実施 してはどうか?15)等分散検定は何が適当か? 16)イヌの試験は適用できるか?17)ノンパラ Dunnettは誰が発表したのか?18)Steelの検 定の欠点と長所は?19)どうしてノンパラ Dunnettはダメなのか?20)Williamsの検定 の特徴は何か? 上記質問に対する見解を知りたい方は小林まで お問い合わせください. 4 総合血液学検査装置ADVIA120 動物用バージョンの基礎的検討 財団法人食品農医薬品安全性評価センター ○杉山 豊,向井大輔,牧野江梨子, 天野彰子,宇野冬美,芝田真希,井上博之 【目的】バイエル メディカル社製総合血液学検 査装置ADVIA120の動物バージョンの基本性能 を確認し,毒性試験での有用性を確認する. 【材料および方法】相関性試験:ラット,マウ スおよびイヌについて貧血動物を含め100サン プル以上用意し,既存機種(H*1E Ver.3.0)お よび目視法(白血球分類値,網赤血球率)との 相関を検討した.同時再現性試験:無処置イヌ 血液を5検体用意し20回以上の反復測定を行っ た.直線性試験:無処置ラットおよびイヌ血液 を用いCBC項目について検討した.異常例につ いて装置情報と塗抹標本との一致性について検 討した.また,マウスにアニリンを投与し網赤 血球パラメータの有用性を検討した. 【結果】相関性試験:従来機種である,H*1Eと の相関はおおむね良好な値を示した.目視法と の比較:白血球分類で単球比率が低い値を示し たが,その他の項目および網赤血球率は良好な 相関を示した.同時再現性試験および直線性試 験についても良好な値を示した.異常例の比較 検討:白血病および貧血例では塗抹標本情報と の一致性を示した.アニリン投与試験では,網 赤血球分画の変化を捉え,造血状態を反映する ことが示唆された. 【考察】相関係数が良好な値を示し,両機種間 の差は認められないと判断した.PLTについて はADVIA120が高い傾向を示したが,検出領域 の拡大によるものと思われた.目視との相関も 比較的良好であり,特に異常例などの検出力は 高く,毒性試験での有用性が確認された. No.30 ディスカッション:質問のあった幾つかを紹介 します.1)塗抹標本は作製しているか?2) SOPの再測定基準は?3)メンテナンスは大変 か?4)骨髄細胞は測定可能か?5)サンプル 量はどれくらいか? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 出張報告 第74回日本薬理学会年会に参加して 代謝分析室 稲垣 成憲 第74回日本薬理学会年会 が平成13年3月21日から2 3日までの3日間の期日で横 浜にて開催された.参加者は 約2,700名で演題数114 3題(特別講演10題,学術 奨励賞受賞講演3題,シンポ ジウム200題,ポスターセ ッション915題,セミナー15題)というもの であった.その中でも最近,Genomeに関する 演題も増えてきているように感じた.今回の学 会では主にPGE2とEP receptor,VEGF(vascular endothelial growth factor)と発癌との関係, IL-1βとNF-κBおよびIL-1βとPKC(protein kinase C)のiNOS発現のメカニズムについて 最近の研究成果を聴講した. 炎症時,IL-1βがreleaseされreceptorに結 合し,その後のsignalからiNOS mRNA発現 までの経路でNF-κBを介する経路があり,そ こにPKCが介していることが解明された.NFκBは細胞内でIκBαと共役しておりこのまま では核内に移行することはないが,IL-1βreceptor からのsignalによりIκBαがphosphorylation を受けNF-κBから外れる.freeになったNF-κ Bは核内に移行してiNOS mRNAの転写調節の 活性化をしている.IL-1β刺激によるiNOS mRNA発現は種々のPKC inhibitorにより消失 することが確認されている.どのようなPKC isozymesが関与しているかをknockoutを用 いて検討したところ,PKCα knockdownのみ がIL-1βからのiNOS mRNA生成を約50%減 弱したことが確認された.これらのことから, すくなくともPKCαがIL-1βによるNF-κBの 核内移行のステップで iNOS expression triggerにかかわっており,PKCαに依存する 経路はiNOS遺伝子のプロモーター領域に結合 するNF-κBによるtransactivation process を調節する可能性があるということが示唆され た. NSAIDsはCOXを抑制し,PGs生成を抑え ることにより大腸癌の発生や進展を抑制してい る.そのメカニズムは分かっていないが,癌の 発生と進展にPGE 2が大きく関わっていること が示唆されている.癌組織において,COX-2, EP3 receptorおよびVEGFが間質で強く染色 されることが確認され,EP3欠損マウスにおいて, VEGFが減少していることが認められた. VEGFは血管新生を促進する物質で癌の進展に は欠かせない物質である.そのVEGFはPGE2 EP3 receptor signalを介してreleaseされる ことが今回,明らかとなった. 今回の学会に参加して炎症の発生メカニズム や癌の進展のメカニズムについての見識を深め ることができた. 5 No.30 日本薬学会第121年会に参加して 代謝分析室 牧原 丈千 日本薬学会第121年会は 3月27日から3日間かけて, まだ雪の残る札幌市内の5つ の会場で開催された.例年 と同じく製薬企業,大学関 係者など多数の医薬品関係 者が参加し,特別講演,招 待講演,受賞講演,シンポ ジウム,ワークショップ,ミニシンポジウム, 一般学術発表(ポスター),その他,薬科機器, 新薬,書籍展示,新技術,新製品セミナーなど が行われた. 本年会のハイライトの1つとして新世紀での 薬学の発展や創薬戦略を議論する「21世紀に おける薬学の展開:薬学会における学術活動の 活性化に向けて」および「ファーマインフォー マティクスに基づいたポストゲノム創薬戦略」 の2題のシンポジウムが開催された.また,一 般学術発表は化学系薬学,創薬・創剤・医療薬 学,生物系薬学,物理系薬学,社会系薬学の5 つの系に分けてポスター形式で行われた. 中でも興味深かった演題について以下に紹介す る. ●医薬品の高機能分離と微量タンパク結合解析 (京都大学 中川 照眞) 医薬品分析は,創薬研究,前臨床研究,製造・ 規格設定等の広範な分野に関わる.また,医薬 品の有効性や安全確保の観点から,生体物質と 薬物相互作用を詳細に研究するための新しい方 法論の展開が必要である.このような観点から 高機能分離分析法の開発がきわめて重要である. 「高機能先端分析法の開発と薬物・タンパク 結合研究への応用」 制限進入型固定相を充填したHPLCカラムに, タンパク質を含む薬物試料を直接導入すると試 料量の増加に伴って薬物ピークの頭打ちが起こ る現象を発見した.理論的,実験的研究の結果, 頭打ちの高さはタンパク結合平衡状態における 非結合薬物濃度に,ピーク面積は薬物総濃度に それぞれ比例することが分かった.この方法は, 従来の先端分析法とは異なるので「高速先端分 析法(HPFA)」と命名した.HPLC/HPFA を用いて種々の医薬品の血漿タンパク質結合解 析やラセミ薬物のタンパク結合における立体選 択性を初めて明らかにするとともに,これらの タンパク結合の動物種差や競合効果,タンパク 分子上の結合部位の同定等に成功した.さらに, CEの必要試料量がきわめて微量である特徴を 6 利用して,CE/HPFAによる超微量タンパク質 の薬物分子認識機能の研究を展開した. ●ゲノム情報と創薬研究 (武田薬品工業 藤野 政彦) 遺伝子研究は急速に成果を上げている.この ゲノムの情報は今後の医学・医療や創薬研究に 大きな影響を与えることは確実であろう.ただ しゲノムの情報をどのように創薬に結びつけて いくのかに関しては今後の大きな課題である. ここ15年ほどの創薬研究は受容体拮抗剤と酵 素阻害剤とを中心に進められてきた.我々は新 しい画期的医薬品のターゲットとして公知の酵 素や受容体のみを取り上げているだけでは世界 に先駆けて成果を上げる確率は低いと考え最近 の遺伝子研究の成果を利用してリガンド不明の オーファン受容体を創薬のターゲットとするこ とを検討してきた.このような研究はまさにゲ ノム情報が基本にあり,そこで得られる成果は 従来の創薬研究の方法論に結びつける点で,今 後の創薬研究の主流になるものと考えている. 我々が取り組んできたオーファン受容体のリガ ンド探索研究の実例がいくつかある. (文献 第 121年会 日本薬学会要旨集1 p79) 今後はこのようなオーファン受容体のリガンド 探索をもとに新しい医薬品の開発研究が展開さ れると思われるが,さらに疾患遺伝子情報を利 用する創薬研究も本格的に展開されるものと考 えられる. No.30 生物統計講座No. 8 等分散検定 第一毒性試験室 小林克己 上述4手法を用いてマウスの飲水量(図1) の等分散性を吟味(IMP IM, SAS Institute Inc. U.S.A.)した結果を表1に示します. 65 60 55 Water con. 等分散検定の目的は各群の分散が一様性(等 分散)か否かを吟味することです.分布を利用 した検定では各群の分散が正規分布しているこ とが条件となります。この等分散の検定は,2 群間検定のt-検定の場合は,F検定(分散比の 検定)で吟味し,もし不等分散(p<0.05)の場 合は有意差検出感度を低下させたt-検定(例えば Aspin-WelchやCochran-Cox)への選択に,ま た3群以上の多群間検定の場合,もし不等分散 の場合は分布を利用しない順位和検定へ導く指 標として用いられています.ここでは多群間検 定について説明します.一般的には,非正規性 を前提としたBartlettの等分散検定と正規性を 前提としたO'Brien, Brown-Foresytheおよび Leveneの検定が用意されています.しかし, 一般的にはBartlettの検定が常用されています。 Bartlettの等分散検定は検出力が他の手法に比 較して高いことから,せっかく測定した定量値 を順位に変換した手法で検定しているのが現状 です. 50 45 40 35 30 25 2 1 3 4 Group 図1データー分布 表1.B6C3F113週齢雌マウスの飲水量(g/week) 群 動物数 平均値±標準偏差 1 2 3 4 10 10 10 10 43.8±9.0 35.4±3.4 31.9±1.5 30.7±2.1 実質有意水準, probability = p O'Brien Brown-Foresythe Levene Bartlett 0.0459 0.0340 0.0014 <0.0001 いずれも5%水準で有意差を示しましたが, 有意差の検出力は,Bartlettが最も高く次いで Levene, Brown-ForesytheおよびO'Brienの 順でした.またほぼ同一の分布が見られる場合 は,4手法とも同等の検出力を示します. 計算は,Bartlettの等分散検定が対数を使用 していること,加えて計算式が複雑であること から手計算では困難です.O'Brienは, 値を変換 後同一の分散にしてから ,またBrown-Foresythe およびLeveneの検定は各群の中央値および平 均値などからどのくらい各個体が離れているか を計算して,その値に対して分散分析で群間差 を検出します.従って,計算は分散分析のプロ グラムがあれば可能でまた手計算でも可能です. 私は,薬物投与によって影響のでる試験を設定 した場合,LeveneおよびBrown-Foresythe 検定のように正規性を前提とした手法を推奨し ます. 7 No.30 お知らせ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ◆編集後記◆ ◆編集後記◆ 賑やかなセミの声に包まれてお仕 事に励んでおられる事と思います. 29回続いてまいりましたデザイン を本号から一新しました. これを期に, より多くの方に目を通していただけ る様,内容の充実にもさらに努めて ゆきたいと考えておりますので忌憚 のないご意見をお寄せ下さいます ようお願い申し上げます. 前号から「薬効薬理試験のメニュ ー紹介」をさせていただいておりま すが,本号から新たに「病理」を切 り口に当センターに於ける病理の 現状,実績等について「病理の話題」 というタイトルで連載記事をお届け させていただきます. ご不明な点等 がございましたら遠慮なく事務局に お問い合わせください. 東京事務所 舟木拓治 ●第9回学術講演会のご案内 本年の学術講演会の日程,会場および演者の先生が決まり ましたのでお知らせいたします.お二人の先生には下記の 演題でご講演をいただく予定です.詳細は次号に掲載いた します.皆様方のご出席をお待ち申しております. 1.開催日時:2001年11月9日(金)13時30分から 2.場 所:アクトシティ浜松コングレスセンター 浜松市板屋町111-1 TEL:053-451-1111 3.演題ならびに講師: ※「薬物とフリーラジカル」 京都府立医科大学 第一内科学教室 教授 吉 川 敏 一 先生 ※「内分泌撹乱物質の(雌性)生殖器系への毒性・発がん性」 (財)佐々木研究所 病理部 部長 前 川 昭 彦 先生 4.参 加 費:無料 学術公演会に関するお問合せは事業部までご連絡ください. 安評ホームページ 変更のお知らせ 安 評 ホ ーム ペ ージアドレ ス は http://village.infoweb.or/∼ anpyo/から http://www.anpyo.or.jp/に 変更しました. 【研究所】 〒437-1213 静岡県磐田郡福田町塩新田 582-2 事業部 山本利男 TEL:0538-58-1659 FAX:0538-59-1170 【東京事務所】 〒110-0015 東京都台東区東上野 2-18-7共同ビル(上野)501号室 事業部 舟木拓冶 TEL:03-3837-2340 FAX:03-3837-7850 広報誌に関するご意見、 お問い合わせは下記までお願いします. 編集委員会事務局 山本利男 財団法人 食品農医薬品安全性評価センター 〒437-1213 静岡県磐田郡福田町塩新田582-2 TEL.0538-58-1659(ダイヤルイン) FAX.0538-59-1170 E-mail:[email protected] 安評ホームページ http://www.anpyo.or.jp/ 発行責任者/財団法人 食品農医薬品安全性評価センター 井上才祐 発行日/2001年8月
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