母乳栄養児に貧血が少ないのは何故なのか? 心

第18回日本腎不全看護学会学術集会・総会 スイーツセミナー
座長
江崎 アサ子先生
医療法人生寿会 岡崎北クリニック 看護師長
川上 浩先生
講演
共立女子大学大学院 家政学研究科 人間生活学専攻 教授
1 母乳の神秘を解き明かす:
母乳栄養児に貧血が少ないのは何故なのか?
講演
2
中山 昌明先生
福島県立医科大学
腎臓高血圧・糖尿病内分泌代謝内科学講座 教授
心血管病と貧血・鉄代謝の不思議な関係
11月14日
15:15∼16:45
日時
2015年
会場
第1会場(名古屋国際会議場 4号館1階 白鳥ホール)
[土]
(学会1日目)
本共催セミナーは、
事前予約制でございますが、
学術集会当日も配付いたします。
参加整理券は学術集会当日も配付いたします。
◉配付場所/当日整理券配付所
(1号館1階 アトリウム)
◉配付日時/2015年11月14日
(土)8:00∼11:30
(予定)※なくなり次第終了
[注意事項]
整理券は、
セミナー開始5分後に無効となります。
共催:第18回日本腎不全看護学会学術集会・総会/鳥居薬品株式会社
母乳の神秘を解き明かす:
母乳栄養児に貧血が少ないのは何故なのか?
川上 浩
先生
共立女子大学大学院 家政学研究科 人間生活学専攻 教授
母乳は、
新生児の発育に必要不可欠な栄養素が、
過不足なく含まれる完全栄養物であるといわれている。
国内
外で市販されている育児用調製乳には、
鉄が8∼12μg/mLとなるように配合されているが、
母乳の鉄濃度は
わずか0.2∼0.5μg/mLと、
育児用調製乳の20分の1以下で格段に少ない。
しかしながら、
健康な母親からの
母乳を飲んでいる新生児には、
鉄欠乏性貧血がほとんど観察されない。
母乳栄養児は、
少ない母乳中の鉄をど
のようにして最大限に活用しているのであろうか。
この謎を解き明かす一つの鍵が、
ラクトフェリン
(以下、
LF)
という鉄結合性の糖タンパク質である。
LFは、
母乳栄養児の細菌感染率が人工栄養児に比べて低いことから、
母乳中の生体防御因子を探索する研究の中で発見された。
LFはトランスフェリンファミリーに分類され、
3価
の鉄2分子をキレート結合できる。
その鉄結合力は、
血清トランスフェリン
(以下、
TF)
の約30倍と極めて強い。
学歴
昭和57年
昭和63年∼平成2年
平成5年
東京大学農学部 卒業
米国カリフォルニア大学デービス校栄養学部
農学博士(東京大学)
職歴
昭和57年
平成11年
平成17年
平成19年
平成21年
平成21年
雪印乳業株式会社 技術研究所
同社 栄養科学研究所 主査
同社 技術研究所 主幹
共立女子大学 准教授
共立女子大学 大学院 教授
東京大学 大学院 非常勤講師
ヒト以外の哺乳類
(サル・ウシ・マウスなど)
の乳にも含まれ、
最も多いのがヒトの初乳である。
動物種による違
いもみられ、
ウサギ・イヌ・ラットなどの乳にはLFは存在せず、
その代わりにTFが含まれることは興味深い。
ま
た、
LFの存在は乳中に限ったものではない。
乳児から成人にいたるまで、
生体内の様々な外分泌液
(涙・唾液・
膵液・胆汁など)
や、
免疫担当細胞である好中球にも含まれる。
特に消化管内では、
膵液や胆汁を通じて絶えず
LFが分泌され、
食物由来の3価の鉄の吸収に関与するともいわれている。
生体内の様々な組織で産生される
受賞歴
平成14年
平成25年
日本農芸化学会
Bioscience, Biotechnology & Biochemistry
「論文賞」
日本酪農科学会「学会賞」
LFについては、
単一成分としては実に多様な生理作用が数多く研究されている。
その一つが、
鉄吸収調節作用
所属学会
である。
貧血傾向にある成人女性にLF結合鉄を経口投与したところ、
ヘモグロビン値などに有意な改善が認
日本農芸化学会, 日本栄養食糧学会, 日本酪農科学会,
日本食品免疫学会, 日本動物細胞工学会
められた。
興味深いことに、
これらの貧血指標は正常域まで改善すると、
これを超えて上昇することはなかっ
た。
すなわち、
LFは鉄欠乏状態では消化管からの鉄吸収を促進し、
鉄が充足すると吸収を抑制することで、
体
内への鉄供給をコントロールしている可能性がある。
また、
副作用
(悪心・嘔吐など)
に関する自覚症状は全く
みられなかった。
さらに、
女性の長距離走ランナーでしばしば観察される貧血を予防する作用や、
遺伝性血栓
形成傾向妊婦における貧血を改善する作用なども報告されている。
一方、
LFは単球・マクロファージ・樹状細
学会活動
国際酪農連盟
(International Dairy Federation)
日本国内委員会 委員
日本酪農科学会 評議員 広報渉外委員長
腸溶性ラクトフェリン研究会 理事
日本栄養食糧学会,日本農芸化学会,
日本食品免疫学会,日本動物細胞工学会 会員
胞・T細胞・NK細胞・小腸上皮細胞などを介して、
生体内の様々な免疫反応に影響を及ぼすことが知られてい
る。
また、
小腸上皮細胞の刷子縁膜にはLFの受容体が存在することが、
ヒトを含めたいくつかの動物種で明ら
かにされている。
刷子縁膜の受容体を介して小腸上皮細胞に取り込まれたLFは、
カスパーゼ1の発現を介し
てIL-18の産生を促進し、
T細胞からのIFN-γの産生を高めて、
NK細胞を活性化する。
さらに、
TNF-αやIL-6な
どの炎症性サイトカインの産生を抑制し、
抗炎症作用を発揮することも知られている。
先に紹介した遺伝性血
栓形成傾向患者においては、
貧血を治療するために鉄剤の投与が行われた際の炎症性サイトカインの上昇が、
LFの投与では有意に抑制されることも報告されている。このように、1939年に初めて乳から発見されたLF
は、
75年以上の長い歴史の中で数多くの研究がなされ、
現在では様々な生理作用に期待が寄せられている。
本セミナーでは、
その中でもLFによる鉄吸収調節作用、
および免疫調節作用を中心に解説する。
心血管病と貧血・鉄代謝の不思議な関係
中山 昌明
先生
福島県立医科大学 腎臓高血圧・糖尿病内分泌代謝内科学講座 教授
慢性腎臓病・透析患者では心血管病に罹りやすいことが知られています。この原因には、肥満、喫煙、高血
経歴
圧、高血糖、高尿酸血症、脂質異常等々が挙げられますが、これらに加えて、腎臓病に特有の要因も明らか
昭和59年
にされています。その代表的なものがリン代謝異常、そして貧血です。腎機能が低下すると、血中のリン濃
昭和61年
昭和63年∼平成元年
度が上昇します。特に、糸球体濾過量で15 ml/min/1.73m 以下(CKDステージG5)になると、正常値を超
2
(Hammersmith Hospital, Royal Postgraduate Medical School,
University of London, UK)
えて血中リン濃度が高くなる例が明らかに増加します。さらに、透析を行っているかなりの方が極めて高い
リン濃度にあります。今世紀になってから、この高リン血症は、心臓血管病の発生の原因となっており、さら
には死亡率の増加へも関連する事実が明らかにされてきました。一方、腎機能が低下すると貧血が進行す
ることが知られています。いわゆる腎性貧血と呼ばれる病態です。この原因の一つは、腎臓で造られている
平成12年
平成17年
造血ホルモンのエリスロポエチン産生が(相対的に)低下することや、反応性が低下すること(エポ抵抗性
平成19年
平成21年
平成22年
の増加)が原因です。貧血は心臓への負担となり、心肥大進行、そして死亡率の増加と強く関連することが
平成22年 10月∼
明らかにされています。このような背景から、慢性腎臓病・透析患者の生命予後向上のためには、リンと貧
血管理をしっかり行っていくことが重要です。クエン酸第二鉄(リオナ®)は、保存期から透析患者までを対
象に高リン血症是正のために開発された薬剤ですが、大変興味深いことに、本剤が広く臨床現場で使用さ
れる中で、著しいHb上昇を示す例が確認されるようになってきました。まさに一挙両得、高リン管理と貧血
治療にインパクトを与えています。しかし、このような(意外な?)展開を目の当たりにして、現場の医師は、
期待と好奇心、そして危惧の念が入り混じったいささか複雑な心持になっている状況にあります。なぜな
ら、鉄を生体に負荷することによる医学的な不利益・安全性について未だコンセンサスが得られていない点
があり、専門家の間でも意見の違いがあるからです。本講演では、なぜ、腎機能が低下すると血中リン濃度
が上昇するのか。また、リン濃度上昇がなぜ血管病を発生させるのかについて解説します。次に、クエン酸
第二鉄が造血に関与する理由と機序について、また、この現象について、安全性の面での論点をわかり易く
まとめたいと思います。
東京慈恵会医科大学卒
国立病院医療センター内科
(東京)
研修
東京慈恵会医科大学第2内科
(現・腎臓高血圧内科)
入局
英国王立医学大学院 腎臓高血圧科留学
平成23年4月∼
その後、
慈恵医大柏病院、
国立佐倉病院
(千葉)
、
慈恵医大附属病院に勤務
慈恵医大内科講師、
慈恵医大透析室室長
東北大学大学院医学系研究科
腎不全対策研究寄附講座客員助教授
同 准教授
東北大学病院 血液浄化療法部 副部長
(兼任)
東北大学大学院・先進統合腎臓科学コアセンター
副コアセンター長 (兼任)
福島県立医科大学医学部
腎臓高血圧・糖尿病内分泌代謝内科学講座 教授
同 附属病院 腎臓高血圧内科 部長
同 付属病院 人工透析センター 部長
(兼任)
受賞歴等
平成元年
平成5年
平成8年
平成15年
Diploma of Nephrology and Hypertension取得
(Royal Postgraduate Medical School, UK)
医学博士
(慈恵医大)
授与
第16回米国腹膜透析年次総会
ベストアブストラクト賞受賞
日本腎臓学会 優秀論文賞 受賞
所属学会
日本腎臓学会、
日本透析医学会、
日本腹膜透析学会、
日本内科学会、
日本抗加齢医学会、
日本高血圧学会、
日本糖尿病学会 等
学会活動その他
平成23年∼平成24年 日本透析医学会理事
日本腎臓学会理事
平成24年∼現在