悲しみに立ち向かう力に思う 3.11 本当に月日が過ぎるのは早いもので

悲しみに立ち向かう力に思う
3.11
本当に月日が過ぎるのは早いもので、東日本大震災の発生から丸 3 年が経過した。ただ、この
感覚は私のものであって、当事者にとっては気が遠くなるほど長い年月であったことであろう。
今から 3 年前の午後 2 時 46 分、東日本太平洋沿岸を強い地震動が襲い、次いで、10m を超える
巨大津波が町を次々とのみ込んでいった。この地震により、関連死も含めると犠牲者は実に 2 万
人を超える。
3 周年となる 3 月 11 日前後のテレビ報道には、肉親を失った悲しみから立ち直ろうと頑張って
いる多くの人たちの映像が映された。子供を、奥さんを、夫を、親を、
・・・、かけがえのない肉
親を失った人たちの心の深い傷と悲しみが癒えることはないようである。それでも懸命に前を向
こうとしている。
人間はなぜ悲しみを持つのか。他の動物であれば、例え、類人猿のような高等動物であっても
悲しみを引きずることはないように思う。悲しみの中で最も辛いものは、肉親の死であろう。東
日本大震災に限らず、日々、多くの不慮の死が訪れている。今も毎年 3 万人前後の自殺者がおり、
5 千人前後もの方が交通事故で命を落としている。また、各種の病気により予期せぬ死を迎えざ
るを得ない方など、多くの悲しみがある。太平洋戦争の死者数を見ると、日本人だけで 300 万人
とも言われている。わずか 3 年半の戦争であったので、毎日 2500 人近くが命を落としていた計
算になる。なお、中国人の死者数は日本人のそれをはるかに超えるとも言われている。
突然の災難
人間は生きている限り様々な不幸に出会う。私自身が当事者ではないので、東日本大震災に関
わる各種の辛い映像も客観的に見てしまう。しかし、もし被害区域に住んでいて、被災していた
とすれば、3.11 を迎える心情は全く違ったものとなる。たまたま、被災地域以外に住んでいただ
けのことである。また、今、元気にしているのは、たまたま交通事故に遭遇しなかったからであ
り、たまたま病気にかからなかったからである。これらの災難に遭遇する確率は低いともいえる
が、もし不幸にも当事者になれば、その苦しみや悲しみは半端なものではない。
クアラルンプール空港から飛び立って、8 日未明に南シナ海上空で消息を絶ったマレーシア航
空 370 便は、日本の自衛隊なども加えて 12 か国の態勢で捜索に当たっているにも関わらず、16
日になっても発見されていない。各種機器の発達した現代にあって実に不思議な出来事である。
しかし、370 便が発見されれば、また、多くの肉親が深い悲しみに包まれることは間違いのない
事実である。
絶望的な悲しみ
絶望的な悲しみはどこから出てくるのであろうか。絶望の結果と取る行動の一つとして自殺行
為がある。自殺者数を原因別に見てみると 1 番は自分の健康問題であり、自殺者の半数近くを占
める。次いで、経済・生活問題が 20%弱、家庭問題が 13%程度であり、次いで、勤務問題、男女
問題、学校問題、その他と続く。このように見ると、肉親の死は、案外と死を選択させるほどの
絶望感を与えていないのかもしれない。自殺者だけ見れば、自分の健康問題が自殺という行動を
選択させている。自分自身の死が目前に迫ってくる時に、人間は絶望感にさいなまれるようであ
る。もちろん、すべての人がそうだというわけではない。病気や事故により死を避けられない現
実を突き付けられた時に、それに勇敢に立ち向かっていく人が大半である。自殺の道を選択する
のは少数でしかないが、自殺の原因としては実に半分近いということも興味深い。
自業自得
多くの悲しみや苦しみが、天から突然に降ってくるのに対して、時には自業自得としか言えな
い苦しみにさいなまれる場合もある。STAP 細胞発見者の小保方さんを取り巻く環境はとても厳
しいものがある。画像の使い回し、他の論文からの無断引用など、研究者倫理の欠如による致命
的な問題が次々と白日の下に晒されている。
STAP 細胞の生成に成功したというニュースが世界を駆け巡ったのは僅か 1 か月前のことであ
る。小保方さんは一躍、時の人としてマスコミに取り上げられた。しかし、その絶頂期はいくら
も続かなかった。学位論文の正当性さえにも疑問が呈される事態となり、小保方さんの居場所は
どこにもなくなった。自ら招いた事態はいえ、その苦しみは想像しがたいほどのものであろう。
悲しみや苦しみの中から
人間には悲しみや苦しみから這い上がる力を持っている。大災害に遭遇しても、大戦争に巻き
込まれても、日本人は立ち上がってきた。ソチパラリンピックで、アルペンスキー男子回転座位
の金メダルを獲得した鈴木選手は小学校の時に交通事故で両足を失っている。両足を突然失った
苦しみからどのようにして這い上がって、金メダル獲得に結び付けたのか。強い精神力を持った
人であることは間違いない。
人間が悲しみや苦しみに立ち向かうには、様々な方法がある。家族の支えや友達の手助けなど
が一般的であろうか。また、自然から力をもらったり、時には目に見えない力に頼る場合もある。
神や仏のような絶対善に、温かい癒しや慈悲、また時には許しを感じることもある。前を向くた
めには、いかなる力でもいい。人それぞれである。どん底まで落ち込んでいる東日本大震災の被
災者、また、不治の病に侵された人、突然の事故に遭遇して肉体の自由の一部を失った人などが、
今一度、しっかりと立ち上がる力を与えられることを心より願う。
平成 26 年 3 月 17 日
矢田部龍一