入試改革と高大接続 山野 晴雄 大学進学指導と大学の情報提供 私が、三六年間進路指導・キャリア教育に携わってきた桜華女学院では、コース制(普 通、福祉、スポーツ)による教科教育とキャリア教育の両輪で生きる力を獲得させること 教育の柱とし、大学進学希望の生徒に対する進路指導は、総合学習「人間・生きる」の取 り組みとともに、HR担任や進路指導担当者との進路面談・三者面談を重ね、また、大学 模試の受験、放課後・長期休業中の受験講習を行い、大学進学への支援を行う体制をとっ てきた。 生徒が進路を選択・決定する際に役立った情報としては、五〇期生(二〇一〇年度卒) の場合、「オープンキャンパスへの参加」が五八%で最も多く、次いで「進路の先生から の情報」「インターネット(HP)」「父母など家族からの情報」「学校案内・募集要項」 の順に、また、相談した相手としては「父母など家族」が八一%で最も多く、次いで「担 任の先生」「進路の先生」「友人」の順になっている。一方、東京都内の私立難関大学の 学生にとったアンケートでは、その大半が進学校出身であるが、進路の選択・決定の際に 役立った情報としては「オープンキャンパスへの参加」と「担任の先生からの情報」が三 九%で最も多く、次いで「予備校・塾の先生からの情報」「父母など家族からの情報」の 順に、また、相談した相手としては「父母など家族」が七八%で最も多く、次いで「担任 の先生」「予備校・塾の先生」「友人」の順となっている。桜華女学院のような進路多様 校の場合は、AO入試や推薦入試で進学する生徒が多いこともあり、学校側の教員の指導 ・援助が比較的大きな比重を占めているのに対し、進学校の場合は一般入試で進学する生 徒が多く、予備校・塾の教員からの情報・指導も無視できない影響を生徒に与えているこ とが知られる。 桜華女学院では、生徒への指導・助言を的確に行っていくためにも、生徒の入学・受験 実績のある大学を中心に、大学が主催する入試説明会や大学説明会には出来るだけ参加す るようにしてきた。また、大学の教職員が情報提供や高校側の意見を求めて学校に来られ ることも多く、そこで得た情報を生徒の指導に生かすことができた。ただ中には学校案内 を一通り説明するだけの教職員もいたが、それでは高校訪問をしていただく意味はない。 入試説明会にせよ、高校訪問にせよ、大学からの情報提供については、大学のセールスポ イント、新設学部・学科がある場合はその概要・特色、入試形態や受験科目の変更点、ま た各高校には、前年度の受験生の状況、在学生の学習状況、卒業生の進路状況などの情報 を提供してもらえると、生徒の指導に役てることができる。かつて日体大と併設校の会議 で、次のようなことがあった。大学側から併設校出身の学生は留年や中退が多いとの指摘 を受けたが、具体的に各併設校出身の学生の学習や部活動などの状況についての情報提供 はなかった。そこで、併設校を代表して私は、生徒の指導に役立てるために学生一人ひと りの情報の提供と、大学側が望むような生徒を併設校で育成していくために大学と併設校 の保健体育科の教員との合同研修会の開催を提案した。この提案を大学側も受け入れ、翌 年からは情報提供と研修会の開催が行われ、研修会の方はその後、保健体育科だけでなく、 他教科・校務分掌にも拡大されて実施されるようになった。個人情報の提供については本 -1- 人の承諾を得ておく必要があるが、大学側も高校側で求めている情報は何なのかを把握し たうえで提供することが必要だと考えている。 大学入試改革と地域での高大連携・接続 中央教育審議会は昨年一二月、「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等 学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」を答申したが、大学入試改 革では、現行の「一般入試、推薦入試、AO入試の区分を廃止」して大学入試の共通的な 新たなルールを構築することとし、高校二・三年生で複数回実施する「高等学校基礎学力 テスト(仮称)」で基礎学力を測定し、大学入試センター試験に代わる年数回実施の「大 学入学希望者学力テスト(仮称)」で思考力・判断力・表現力などを評価した上で、各大 学が個別で行う入試では面接・小論文・プレゼンテーションなど多様な方法で主体性・多 様性・協働性などを評価して選抜することが構想されている。答申からは、これからの大 学入試は、選抜にある程度時間をかけてじっくりと合格者を選んでいく、いわば大学入試 全体が「AO入試」となっていくことが読み取れる。そして、各大学に対しては、アドミ ッション・ポリシーの明確化、個別選抜の改革、「大学入学希望者学力テスト」の活用、 高校の学習成果の適切な評価などの取り組みを求めている。大学側にとっては、少子化の 中で受験生・学生の確保とともに、アドミッション・ポリシーにもとづく多元的・総合的 評価を重視した個別選抜の確立が大きな課題となる。 答申は、高校教育と大学教育、そしてそれを接続する入試の一体的な改革をめざすもの であり、高校教育と大学教育そのものの改革も求められている。そうだとすれば、高大接 続の観点からは、地域の高校と大学の教職員が共同で、たとえば個別選抜における多元的 ・総合的な評価のあり方や初年次教育のあり方、課題の発見と解決に向けた主体的・協動 的な学習・指導方法などについて、意見交換・研究を進めていくことも考えられる。 多摩地域では、多摩高進と東京多摩私立大学広報連絡会との間では合同研究会、多摩地 区専修学校協議会との間では合同研究会と高校生に授業を開放する「専門学校チャレンジ プログラム」が行われ、地域での高大連携・高専連携が長い間行われてきている。私も多 摩高進の役員の一人として、この高大連携・高専連携の構築に関わってきた。その詳細に ついては、本紙に寄稿された多摩高進事務局長・本間恒男先生の論考で紹介されているの で、それに譲るが(『教育学術新聞』第二五八五号、平成二六年一一月五日)、今後は、こ のような取り組みの基礎の上に、高校と大学・専門学校、さらに事業所などとコンソーシ アムを構築し、インターンシップやジョブ・シャドウイング、模擬授業、課題研究など高 校のキャリア教育プログラムを支援する取り組みとともに、生徒を継続的に育成していく 観点から、高校と大学の教職員が共同で、先に指摘したような高校教育・大学教育を円滑 に接続していくための教育のあり方を研究していく取り組みが重要だと考えており、その 実現に助力したいと思っている。 -2-
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