オキナワモズク(本もずく)

第 30 回
オキナワモズク(本もずく)
注目成分
注目品種
フコイダン
フコキサンチン
イノーの恵み
ゲノムサイズ:約 1 億 5000 万塩基対(150Mbp)
染色体本数 :解析中
倍数性
:解析中
遺伝子数
:1 万 5000 個程度
ゲノム解読 :沖縄科学技術大学院大学(OIST)が沖縄県水産海洋技
術センターと共同でオキナワモズクの全ゲノム解読を
進めている。2016 年春の学会で途中経過を発表した
オキナワモズクは沖縄本島や鹿児島県奄美大島などの
みに自生している。養殖技術が沖縄県で確立され年 1
万 t を超えるモズクが供給されるようになった。生モ
ズクの旬は 4 月から 6 月頃(提供:沖縄科学技術大学
院大学)
「機能性食材研究」連載の第 30 回では、春から初夏に
年は 150 円になったとの報道もある。1kg150 円で計算す
かけてが旬の海藻類、オキナワモズクを取り上げる。褐
ると 1 万 t 当たりの出荷価格は 15 億円。年間の出荷価格
藻綱ナガマツモ目ナガマツモ科オキナワモズク属のオキ
ベースの市場規模は 20 億円程度だ。末端市販価格はお
ナワモズク種で、学名は Cladosiphon okamuranus To-
よそ 10 倍のため、市場規模は年 200 億円と見なせる。
kida。沖縄本島と鹿児島県の奄美大島などに分布してい
最大の産地は、沖縄本島の東海岸にあるうるま市の勝
る。
「本もずく」
「太もずく」とも呼ばれる。
連漁協。同市の海中道路の両側で養殖しているオキナワ
沖縄県では天然のオキナワモズクが収穫され、生産量
モズクを見ることができる。また、沖縄本島の西海岸の
は 1973 年頃には年 2000t だった。その後、沖縄県で養殖
恩納村漁業協同組合が作成している「恩納村のリゾート
技術が確立され、88 年に年 1 万 t、98 年に 2 万 t 台へと、
食材」のウェブサイトにも、前回(第 29 回)取り上げ
沖縄県におけるオキナワモズクの生産量は急増した。
た「海ぶどう」に次いで「もずく」が挙げられている。
ただし異常気象の影響などでここ数年は生産量が安定
収穫されたオキナワモズクの多くは加工食品の原料に
していない。2015 年度(2014 年 7 月から 2015 年 6 月)は
なる。パック入りのモズク酢食品が多く販売されている。
1 万 9000t の目標に対して実績は 1 万 3000t だった。2016
また、一部は成分を抽出した機能性素材として供給され
年度の目標は 1 万 8000t だが、2015 年度の実績を下回る
ている。この市場規模は年 10 億円規模とみられている。
懸念もある。生産量の低迷に伴い、生産地での 1kg 当た
「もずく」の名称は、“ 藻に着く ” ことに由来している。
りの出荷価格は上昇しており、昨年 135 円だったのが今
沖縄県では、オキナワモズクの他に、ナガマツモ目モズ
ゲノム解読を進めている OIST のマリンゲノミックスユニット(MGU)
の研究者。左から順に佐藤矩行教授、西辻光希ポストドクトラルスカラ
ー、有本飛鳥ポストドクトラルスカラー、将口栄一グループリーダー
オキナワモズクのゲノム解読を MGU と共同で進めている OIST の DNA
シーケンシングセクション(SQC)の藤江学技術主任(左)と新垣奈々
博士(農学)
https://bio.nikkeibp.co.jp/ 2016.6.13
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ゲノム DNA を抽出したオキナワモズク S 株の盤状体(走査型電子顕微鏡
で撮影)
。この円盤状の中心から芽が伸びて食用のモズクに成長する(提
供:OIST、撮影:OIST マリンゲノミクスユニット西辻光希博士)
オキナワモズクの機能性素材を事業化しているサウスプロダクト(沖縄
県うるま市)の伊波匡彦代表取締役社長。九州大学で博士(薬学)を取
得した
ク科モズク属のモズク(
「糸もずく」
「細もずく」とも呼
ノセンター(TTC、2014 年 3 月に解散)勤務時に、オ
ばれる)も養殖されている。モズク類の大量養殖に成功
キナワモズクからフコイダンを抽出する技術を確立し、
しているのは沖縄県だけといわれ、モズク類は沖縄の特
特許を成立させた。この特許を基に、サウスプロダクト
産品だ。本州の日本海側でイシモズクやモズク、九州の
やホクガン(沖縄県那覇市、上原武市代表取締役)がフ
西側でモズクが生産されているが、各県での生産量は
コイダン機能性素材を事業化している。サウスプロダク
100t 前後。モズク全体でも、沖縄の比率は 9 割を占める。
トが製造するフコイダン素材は、ヤクルト本社や明治ホ
オキナワモズクのゲノム解読は、OIST が沖縄県水産
ールディングス傘下の明治フードマテリアも販売してい
海洋技術センターと共同で進めている。解析対象は、同
る。機能性素材供給の最大手は沖縄県のゼネコンを中核
センターが2015年9月に品種登録した
「イノーの恵み」
(後
とする金秀グループのグループ企業である金秀バイオ
述)。モズク類で初の登録品種だ。ゲノム情報は、暑さ
(沖縄県糸満市、宮城幹夫社長)のようだ。
に強い性質や、養殖する商品の特徴を事前に調べるのに
■フコキサンチン
寄与する。フコイダンやフコキサンチンなどモズクの成
モズクに含まれるカロテノイド色素成分。抗酸化や抗
分の産生メカニズムの解明にも、ゲノム情報は役立つ。
肥満作用が報告されている。フコキサンチンを含む蛋白
質である FCP は、太陽光を効率よくエネルギーに変換
注目成分
する素材として注目されている。サウスプロダクトと大
■フコイダン
阪市立大学の橋本秀樹教授らが、開発を進めている。
海藻のぬめり成分に含まれる多糖類。
フコースを含み、
健康機能性が報告されている。モズク由来フコイダンを
注目品種
添加したお茶による不定愁訴(NUD)の改善効果は
● 「イノーの恵み」
2000 年、モズク由来フコイダンが著効した難治性機能
沖縄県水産海洋技術センターが 2015 年 9 月に登録した
性胃腸症(FD)の一例は 03 年に論文発表された。
オ キ ナ ワ モ ズ ク の 品 種。2011 年 か ら 研 究 を 開 始 し て
東邦大学医療センター大森病院総合診療・急病センタ
2014 年に遺伝子が成長や品質に影響することを見いだ
ーの瓜田純久センター長らは、FD の患者 8 人を対象に
し、県内に生息する 12 種類のモズクの中から、有望種
した 4 週間摂取の介入試験で、薬物治療にモズクフコイ
を見つけて品種登録した。収量が多く、長く細いという
ダンの摂取を加えると、治療抵抗性 FD が改善すること
特徴がある。同センターが沖縄県内の各漁協を通じて養
を見いだし、2016 年 5 月発行の雑誌「潰瘍」で発表した。
殖生産者へ無料で種苗を配布している。2016 年度に種
摂取したのは、サウスプロダクト(沖縄県うるま市、伊
付けされたオキナワモズクのうち数%程度を占めるよう
波匡彦社長)製の素材を用いたソフトカプセル。フコイ
だ。現状では、養殖しているオキナワモズクの 7 割が天
ダンの摂取量は 1 日当たり 240mg だ。
然のモズクの種から栽培したもので、3 割が種苗として
伊波社長は、沖縄県の第 3 セクターのトロピカルテク
培養したモズクという。
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https://bio.nikkeibp.co.jp/ 2016.6.13
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(河田孝雄)