鉄道事業者の新規事業参入 - 神戸大学大学院経営学研究科 神戸大学

<専門職学位論文>
鉄道事業者の新規事業参入
-電子マネービジネスにおける「Suica」と「PiTaPa」の事例研究-
2005 年 8 月 23 日提出
神戸大学大学院経営学研究科
忽那憲治研究室
現代経営学専攻
学籍番号
041B244B
氏
深
名
田
明
夫
<専門職学位論文>
鉄道事業者の新規事業参入
-電子マネービジネスにおける「Suica」と「PiTaPa」の事例研究-
2005 年 8 月 23 日提出
神戸大学大学院経営学研究科
忽那憲治研究室
現代経営学専攻
学籍番号
041B244B
氏
深
名
田
明
夫
論文要旨
鉄道事業者の新規事業参入に関して何を戦略的な資産と位置付けてどのように活用すべ
きか。この問題意識に関して、鉄道事業者が電子マネービジネスへ参入した事例として東
日本旅客鉄道株式会社および株式会社スルッと KANSAI を取り上げ、両者の戦略の違いを
明らかにし、「顧客に蓄積される有形資産(ツール)」を活用することが重要であることを
明らかにする。その上で、鉄道事業者の新規事業参入全般についても「顧客に蓄積される
有形資産(ツール)」を活用すべきであるとの一般化仮説を提示する。
目次
第1章
TU
イントロダクション(鉄道事業の特性) ......................................................................................1
UT
第1章
第1節
イントロダクション ....................................................................................................1
第1章
第2節
鉄道事業のバリューチェーンとサービス業の特性 ......................................................2
第1章
第3節
本稿の構成 ...................................................................................................................4
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第2章
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先行文献レビュー ..........................................................................................................................4
UT
第2章
第1節
はじめに ......................................................................................................................4
第2章
第2節
資源ベース理論 ...........................................................................................................5
第2章
第3節
サービス・マネジメント論 .........................................................................................9
第2章
第4節
鉄道事業者の多角化戦略 ...........................................................................................12
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第3章
先行研究を踏まえた論点整理 ......................................................................................................14
第4章
事例研究 ......................................................................................................................................17
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第4章
第1節
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第4章
第1節
第1項 電子マネーとはなにか .............................................................................17
第4章
第1節
第2項 ICカードの特徴 ....................................................................................19
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第4章
第2節
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UT
事例研究:東日本旅客鉄道株式会社 .........................................................................20
UT
第4章
第2節
第1項 「Suica」の導入の経緯 ............................................................................20
第4章
第2節
第2項 「FeliCa」の採用 ....................................................................................23
第4章
第2節
第3項 鉄道乗車券としての「Suica」 .................................................................24
第4章
第2節
第4項 電子マネーとしての「Suica」 .................................................................27
第4章
第2節
第5項 今後の「Suica」の展開について .............................................................31
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第4章
第3節
TU
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UT
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事例研究:株式会社スルッとKANSAI及び阪急電鉄株式会社 ..................................33
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第4章
第3節
第1項 スルッとKANSAIとは .............................................................................33
第4章
第3節
第2項 「PiTaPa」の開発 ....................................................................................34
第4章
第3節
第3項 ポストペイ方式の導入と「PiTaPa」の特徴 ............................................36
第4章
第3節
第4項 「PiTaPa」の普及 ....................................................................................39
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第4章
第4節
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第5章
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2社の比較 .................................................................................................................42
UT
まとめ ..........................................................................................................................................43
第5章
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第1節
事例研究からのインプリケーション .........................................................................43
UT
第5章
第1節
第1項 電子マネービジネス参入にとっての戦略資産について ...........................43
第5章
第1節
第2項 「Suica」と「PiTaPa」の戦略上の相違点 ...............................................49
TU
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第5章
TU
電子マネーの定義とICカードの特徴 ......................................................................17
第2節
UT
UT
一般化仮説の提起(今後の課題) .............................................................................51
UT
第1章
イントロダクション(鉄道事業の特性)
第1章
第1節
イントロダクション
長 引 く 景 気 低 迷 や 少 子 高 齢 化 が 進 む 中 、鉄 道 事 業 者 が そ の 基 幹 事 業 で あ る 鉄 道 事
業 に の み 依 存 し て 企 業 活 動 を 営 む こ と が 可 能 な 時 代 は 終 焉 を 迎 え つ つ あ る 。鉄 道 輸
送 サ ー ビ ス の 量 的 な 推 移 に つ い て 輸 送 人 員・輸 送 人 キ ロ( 輸 送 人 員 ×平 均 乗 車 キ ロ )
を 見 る と 、 1990 年 代 前 半 か ら 減 少 傾 向 に あ る こ と が 分 か る 。 こ の 傾 向 は 、 首 都 圏
で は 顕 在 化 す る の が 比 較 的 遅 か っ た が 、関 西 の 私 鉄 で よ り 顕 著 に 見 ら れ る 傾 向 で あ
る 。こ の よ う な 実 態 を 踏 ま え る と 、鉄 道 事 業 者 は 新 規 事 業 開 発 を 行 い 、収 入 源 を 鉄
道事業から非鉄道事業へとシフトさせていかなければならないことは明白である。
し た が っ て 鉄 道 事 業 者 に お い て 多 角 的 に 事 業 展 開 を 進 め る こ と は 、経 営 上 極 め て 重
要な要素の一つであり、そこに焦点をあてて、分析することの意義は大きい。
鉄 道 事 業 者 の 多 角 化 戦 略 に つ い て は 、海 外 に お い て は ほ と ん ど 研 究 の 蓄 積 を 見つ
け る こ と が で き な い 1 が 、国 内 に お い て は 、大 手 私 鉄 を 対 象 と し た い く つ か の 研 究
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の 蓄 積 が あ る 。後 の 章 に お い て 、こ れ ま で 研 究 さ れ て き た 内 容 に つ い て 概 観 す る が 、
そ の 内 容 を 先 取 り し 概 括 的 に 述 べ る と す れ ば 、従 来 の 鉄 道 事 業 者 の 新 規 事 業 開 発 は 、
駅 周 辺 の 不 動 産 開 発 を 中 心 と し た 事 業 展 開 で あ っ た と い え る 。し か し な が ら 冒 頭 に
述 べ た よ う に 景 気 低 迷 が 続 く 中 で 、平 成 13 年 か ら 14 年 に か け て 、鉄 道 沿 線 並 び に
駅 周 辺 の 地 価 が 大 き く 下 落 し 、そ の 結 果 一 部 の 大 手 私 鉄 に お い て は 、こ れ ま で 鉄 道
事業についで収益の柱とみなされていた不動産事業が逆に財務体質を大きく毀損
さ せ る 要 因 と も な っ て お り 、必 ず し も 駅 及 び 駅 周 辺 の 有 形 資 産 が 、私 鉄 経 営 の 戦 略
資 産 と し て 絶 対 的 な 価 値 を も つ と 言 い 難 く な っ て い る 。こ の よ う に 、鉄 道 沿 線 の 有
形 資 産 は も は や 戦 略 的 資 産 と し て 位 置 付 け る こ と が で き な く な り 、ま た デ モ グ ラ フ
ィ ッ ク な 要 因 を み て も 、鉄 道 事 業 の 不 振 は 長 期 に わ た っ て 継 続 す る も の と 考 え ざ る
を得ない。
鉄 道 事 業 者 に と っ て 悲 観 的 な 状 況 が 想 定 さ れ る 中 で 、現 在 鉄 道 事 業 者 が 取 り 組ん
で い る 事 業 、並 び に 今 後 取 り 組 む べ き 事 業 は 、何 を 戦 略 的 資 産 と 位 置 づ け 、そ の 戦
略 的 資 産 を ど の よ う に 活 用 し た 事 業 展 開 で あ る べ き か 。本 稿 で は 、そ の 一 例 と し て
電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス へ の 参 入 事 例 を 取 り 上 げ 、こ れ ら の 課 題 に つ い て 明 ら か に す る 。
取 り 扱 う 事 例 は 、東 日 本 旅 客 鉄 道 株 式 会 社( 以 下 JR 東 日 本 )の「 Suica」と 株 式 会
社 ス ル ッ と KANSAI の「 PiTaPa」で あ る 。鉄 道 事 業 者 の 電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス へ の 参
入 は 、こ れ ま で の 典 型 と さ れ て き た 駅 周 辺 不 動 産 開 発 と は 異 な る 領 域 で の 事 業 展 開
1
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正 司 [2001]に よ る と 、高 機 能 な 駅 、鉄 道 企 業 自 ら が ビ ジ ネ ス の 場 と し て 拡 張 し た 駅 空 間 と い
う概念は、わが国独特のものであり、このことが海外において鉄道事業の多角化戦略が取り上
げられていない理由の一つであるとしている。
1
で あ り 、ま た ケ ー ス の 中 で も 詳 し く 述 べ る が 、同 じ 鉄 道 事 業 者 が 同 じ 電 子 マ ネ ー ビ
ジ ネ ス へ 参 入 し て い る に も か か わ ら ず 、そ の 手 法・プ ロ セ ス は 大 き く 異 な る 。こ の
点を特に注目していくこととする。
第1章
第2節
図表1
鉄道事業のバリューチェーンとサービス業の特性
鉄道事業のバリューチェーン
⑤ダイヤの作成=輸送サービスの設計
(コンセプトから具体的な提供商品へ)
⑥価格の設定、狭義の「商品」設定
⑦きっぷ等のデリバリー(仕組み構築)
人事・財務等支援的機能
⑩輸送サービスの提供と消費(
価値創造・
価値消費)
④運転士・車掌・指令員など運行に
直接必要な人的資源の開発
⑨対価の収受ときっぷの発行
③車両の開発・製造・メンテナンス
⑧サービス内容の提示
①輸送サービスのコンセプト設計
②線路・駅など地上設備の建設・メンテナンス
(出所)筆者作成。
鉄 道 事 業 者 の 多 角 化 戦 略 を 考 え る 場 合 に は 、鉄 道 輸 送 サ ー ビ ス を 提 供 す る 上 でど
の よ う な 資 源 が 使 わ れ て い る か を 確 認 し 、そ れ ら が 他 の 事 業 で 利 用 可 能 で あ る か ど
う か を 明 ら か に し な け れ ば な ら な い 。図 表 1 で は 鉄 道 輸 送 サ ー ビ ス の バ リ ュ ー チ ェ
ーンを示しているが、これにより鉄道輸送サービスを提供するのに必要な「機能」
としてどのようなものがあるか、確認することができる。
① で 挙 げ る 輸 送 サ ー ビ ス の コ ン セ プ ト 設 計 と は 、速 達 性 を 重 視 す る 、列 車 本 数 を
重 視 す る 、乗 り 心 地 を 重 視 す る 、あ る い は 可 能 な 限 り ロ ー コ ス ト 運 営 に 徹 す る 、な
ど 輸 送 サ ー ビ ス を 提 供 す る た め の 基 本 的 な 考 え 方 を 決 め る プ ロ セ ス で あ る 。こ の コ
ン セ プ ト に 基 づ き 、線 路・駅 お よ び そ れ ら に 付 帯 す る 地 上 設 備 を 建 設 し( ② の プ ロ
セ ス )、車 両 を 開 発 す る( ③ の プ ロ セ ス )。ま た 列 車 の 運 転 に 必 要 不 可 欠 な 、運 転 士
や 車 掌 な ど の 運 転 要 員 を 養 成 す る こ と も 必 要 で あ る ( ④ の プ ロ セ ス )。 バ リ ュ ー チ
ェ ー ン の 中 で 最 も 中 心 的 な 位 置 付 け と な る の が 、ダ イ ヤ の 設 定( ⑤ の プ ロ セ ス )で
あ る 。新 し い 路 線 を 開 通 し な い 限 り は 、過 去 に 設 定 し た ダ イ ヤ を 修 正 す る 、い わ ゆ
る ダ イ ヤ 改 正 が 主 た る 作 業 内 容 と な る が 、ダ イ ヤ は 鉄 道 輸 送 サ ー ビ ス の 設 計 図 と も
呼 べ る も の で あ り 、⑤ の プ ロ セ ス は 製 造 業 で い う 商 品 開 発 工 程 に 相 当 す る も の と 言
2
え る だ ろ う 。⑥ に 挙 げ る プ ロ セ ス は 、輸 送 サ ー ビ ス の 対 価 を 設 定 す る プ ロ セ ス で あ
る 。鉄 道 利 用 者 が 輸 送 サ ー ビ ス の 提 供 を 受 け る 場 合 、通 常 乗 車 券 を 購 入 す る こ と に
な る が 、そ の 乗 車 券 に は 普 通 乗 車 券 や 定 期 券・回 数 券 な ど 多 種 多 様 な も の が あ る し 、
特 別 企 画 乗 車 券 な ど 旅 行 業 商 品 に 近 い 性 質 の も の も あ る 。ま た 学 生 割 引 や 株 主 優 待
割 引 な ど を は じ め と す る 割 引 制 度 も 多 数 存 在 す る 。ど の よ う な 乗 車 券 を 設 定 し 、ど
の よ う な 利 用 者 に 訴 求 す る の か 、あ る い は ど の よ う な 割 引 制 度 を 導 入 す る か と い う
検 討 そ の も の は 、プ ラ イ シ ン グ の プ ロ セ ス で あ る 。ま た ⑦ の プ ロ セ ス は 輸 送 サ ー ビ
ス の 提 供 を 受 け る た め に 必 要 と な る き っ ぷ 、あ る い は き っ ぷ に 相 当 す る 証 票 を ど の
よ う に 利 用 者 に 届 け る か と い う こ と を 検 討 す る プ ロ セ ス で あ る 。航 空 会 社 な ど で は
チ ケ ッ ト レ ス サ ー ビ ス も 定 着 し つ つ あ る が 、こ の よ う に デ リ バ リ ー の プ ロ セ ス 自 体
をなくそうという考え方を作り出すのもこのプロセスのひとつである。
⑧ の プ ロ セ ス で は 、⑦ ま で の プ ロ セ ス で 鉄 道 事 業 者 が 決 め て き た こ と を 利 用 者に
対 し て 告 知 す る プ ロ セ ス で あ る 。例 え ば ど こ に 線 路 が 敷 設 さ れ て い る の か 、駅 は ど
こ に あ る の か 、ど の 線 路 に ど ん な 列 車 が 走 っ て い る の か 、運 賃・料 金 は い く ら か か
る の か 、列 車 は 何 時 に あ る の か 、と い っ た 内 容 が 含 ま れ る 。ま た 、列 車 は ダ イ ヤ で
き め ら れ た 時 刻 ど お り に 走 行 し て い る と は 限 ら な い 。遅 れ の 情 報 等 に つ い て 利 用 者
に 伝 え る こ と も 、こ の ⑧ の プ ロ セ ス の ひ と つ で あ る 。⑨ の プ ロ セ ス は ⑧ で 示 さ れ た
サ ー ビ ス 内 容 を 踏 ま え て 、利 用 者 が 利 用 す る か ど う か の 判 断 を 行 い 、利 用 す る と 判
断 し た 際 の 購 入 プ ロ セ ス で あ る 。き っ ぷ は 輸 送 サ ー ビ ス の 提 供 を 受 け る た め の 証 票
と な る も の で あ り 、き っ ぷ を 入 手 す る こ と で 、最 終 的 な ⑩ 輸 送 サ ー ビ ス の 提 供 / 消
費へつながっていく。
このように鉄道輸送サービスをバリューチェーンという形で分解することで一
つ の 特 徴 的 な 姿 が 浮 か び 上 が る 。つ ま り 、鉄 道 輸 送 サ ー ビ ス は 、複 数 の 機 能 が 直 列
的 に 結 び つ く の で は な く 、並 列 的 に 開 発 さ れ た の ち 、最 後 の サ ー ビ ス 内 容 を 告 知 し
提 供 す る フ ェ ー ズ に お い て 、一 気 に 統 合 さ れ る と い う 点 で あ る 。本 稿 は 鉄 道 事 業 者
の 電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス へ の 参 入 を ケ ー ス と し て 取 り 上 げ る が 、そ の 他 の 新 規 事 業 に
注 目 す る 場 合 も 、バ リ ュ ー チ ェ ー ン の 各 プ ロ セ ス で ど の よ う な 資 源 が 使 わ れ た り 生
み 出 さ れ た り し て い る か 、ま た そ れ ら の 資 源 は 新 規 事 業 開 発 を お こ な う 上 で 利 用 可
能 か ど う か を 検 討 す る こ と は 重 要 で あ り 、そ の 意 味 で も バ リ ュ ー チ ェ ー ン を 確 認 す
ることの意義は大きい。
鉄 道 事 業 は 、よ り 広 い 概 念 で 言 え ば サ ー ビ ス 業 の な か の 一 業 種 で あ る 。し た が っ
て 、多 角 化 戦 略 や 新 規 事 業 参 入 に つ い て 議 論 す る 際 に は 、サ ー ビ ス 業 の 特 性 に つ い
て 十 分 理 解 し て お く 必 要 が あ る 。鉄 道 輸 送 サ ー ビ ス は 、先 に 示 し た バ リ ュ ー チ ェ ー
ン か ら も わ か る と お り 、多 く の 機 能 が 複 雑 に 組 み 合 わ さ っ て 提 供 さ れ る サ ー ビ ス で
あ る 。機 能 の 多 様 性・複 雑 性 が ゆ え に 、中 小 私 鉄 と 呼 ば れ る 企 業 で さ え も 、組 織 ・
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機 能 が 分 化 し た 大 企 業 と し て の 特 性 を も っ て お り 、大 企 業 を 分 析 対 象 と す る 戦 略 論
で示される知見やノウハウを用いて、鉄道事業者の多角化戦略を検証することは、
意 義 あ る こ と と 考 え る 。し か し な が ら 戦 略 論 で 展 開 さ れ る 理 論 は 製 造 業 に お い て 十
分 に 確 立 さ れ た も の で あ っ た と し て も 、サ ー ビ ス 業 に そ の ま ま あ て は め る こ と が 困
難 な ケ ー ス も 多 い 2 。次 章 に お い て は 以 上 の 点 を 踏 ま え 、サ ー ビ ス 業 の 特 性 に 関 す
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る 先 行 研 究 の レ ビ ュ ー を お こ な い 、サ ー ビ ス 業 で あ る 鉄 道 事 業 者 と い う 側 面 を 特 に
注目して取り上げる。この点が本稿の特徴のひとつであるといえる。
第1章
第3節
本稿の構成
第 1 章 で は 、鉄 道 事 業 者 の お か れ て い る 状 況 に つ い て 述 べ て き た 。鉄 道 事 業 の 将
来 展 望 、過 去 の 多 角 化 戦 略 の 概 観 に 加 え 、鉄 道 事 業 の バ リ ュ ー チ ェ ー ン あ る い は よ
り広い観点から、サービス産業としての特性についてごく簡単に言及した。第 2
章 で は ま ず 鉄 道 事 業 者 の 新 規 事 業 参 入 に つ い て 研 究 を 進 め る に あ た っ て 、確 認 し て
おくべき先行文献のレビューを行う。レビューする先行研究の領域としては主に、
資 源 ベ ー ス 理 論 に 関 す る も の 、サ ー ビ ス・マ ネ ジ メ ン ト に 関 す る も の 、そ し て 鉄 道
事 業 の 多 角 化 戦 略 に 関 す る も の で あ る 。第 3 章 に お い て は 、本 稿 で 扱 う テ ー マ に 沿
っ て リ サ ー チ ク エ ス チ ョ ン を 提 起 す る 。第 4 章 で は 、ま ず 電 子 マ ネ ー に 関 す る 先 行
研 究 に つ い て 取 り 上 げ 、 本 稿 で 言 う 「 電 子 マ ネ ー 」 の 定 義 づ け と 、 IC カ ー ド の 特
徴 に つ い て 言 及 す る 。 そ の 後 JR 東 日 本 の 事 例 及 び 株 式 会 社 ス ル ッ と KANSAI( 阪
急 電 鉄 )の 事 例 を ケ ー ス に よ り 紹 介 し 、両 社 の 共 通 点・相 違 点 な ど を ま と め 、鉄 道
事業者が電子マネービジネスへ参入する際の戦略ならびに活用した資産について
整 理 す る 。そ し て 最 終 章 で は 、第 3 章 で 提 起 し た リ サ ー チ ク エ ス チ ョ ン が 支 持 さ れ
る こ と を 述 べ 、最 後 に よ り 一 般 化 し た 仮 説 が 成 り 立 つ か ど う か 言 及 し 、今 後 に 残 さ
れた課題として提示する。
第2章
先行文献レビュー
第2章
第1節
はじめに
鉄 道 事 業 者 の 新 規 事 業 開 発 や 多 角 化 戦 略 に 関 す る 研 究 に つ い て は 、そ れ 自 体 が ひ
と つ の 研 究 分 野 と し て み る こ と が 可 能 で あ り 、本 稿 も 基 本 的 に は そ の 分 野 に お け る
研 究 の ひ と つ と い う 位 置 づ け で あ る 。ま た よ り 大 き な 視 点 で 見 れ ば 、経 営 戦 略 論 ・
多 角 化 戦 略 論 の 一 部 を 形 成 す る も の と 捉 え る こ と も で き る 。 例 え ば 正 司 [2001]は
「 私 鉄 企 業 に お け る 多 角 化 戦 略 も 、1 民 間 企 業 が 行 な っ て い る 事 業 展 開 と い う 意 味
で は 、 通 常 の 企 業 の ケ ー ス と な ん ら 変 わ ら な い は ず で あ る 」 と し 、「 多 角 的 事 業 展
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Looy et al.[2003]の 訳 書 序 文 を 参 考 と し た 。
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開 の 事 由 と し て は 、ヒ ト 、モ ノ 、カ ネ 、情 報( 市 場 情 報 、の れ ん・鉄 道 会 社 と し て
の 信 頼 性 等 を 含 む )と い っ た 経 営 資 源 の 有 効 活 用 、な い し は シ ナ ジ ー 効 果 な ど が 指
摘 さ れ て い る 」 と 述 べ 、 そ の 点 を 示 唆 し て い る 。 ま た 、「 鉄 道 企 業 の 場 合 、 本 業 で
提 供 し て い る も の が 輸 送 サ ー ビ ス と い っ た 無 形 の 用 役 で あ る こ と 、公 共 性 の 名 の 下
に 規 制 下 に あ る こ と は 、特 に 製 造 業 と は 違 っ た 側 面 で あ る 」と 述 べ 、鉄 道 事 業 の 新
規 事 業 参 入 や 多 角 化 戦 略 に 関 す る 研 究 が 、サ ー ビ ス 事 業 者 で あ る こ と に 起 因 す る 一
定の特殊性を持つことも指摘している。
こ れ ら の 指 摘 を 考 慮 す れ ば「 鉄 道 事 業 者 の 多 角 化 戦 略 」と い う 小 さ な 領 域 に 絞 り
込 ん だ 視 点 だ け で は な く 、資 源 ベ ー ス 理 論 に 基 づ く 経 営 戦 略 論 の 視 点 、そ し て サ ー
ビス・マネジメント論の視点から先行研究をレビューする意義が大きいと考える。
後 の 節 に お い て は 、そ れ ぞ れ の 分 野 に つ い て よ り 詳 細 な レ ビ ュ ー を お こ な う が 、概
略 を 先 に 述 べ る と す る な ら ば 、資 源 ベ ー ス 理 論 に お い て は「 企 業 に 蓄 積 さ れ た 有 形
の 資 産 」を 主 た る リ ソ ー ス と し て と ら え る と こ ろ か ら 発 展 し 、最 近 で は 、ブ ラ ン ド 、
ロ イ ヤ リ テ ィ 、リ レ ー シ ョ ン シ ッ プ と い っ た 無 形 の 資 産 も 注 目 し つ つ あ る こ と を 指
摘 す る 。サ ー ビ ス・マ ネ ジ メ ン ト 関 連 で は 、そ も そ も サ ー ビ ス と は 何 か 確 認 す る こ
と か ら ス タ ー ト す る 。経 営 戦 略 論 の 大 き な 流 れ が 基 本 的 に は 製 造 業 を モ デ ル と し て
い る 点 に つ い て 先 ほ ど 触 れ た が 、ど こ に 注 目 す れ ば 製 造 業 と 異 な る 視 点 か ら 多 角 化
戦 略 を 論 じ る こ と が で き る の か 、そ の 切 り 口 は ど こ に あ る の か を 明 ら か に す る こ と
を 主 眼 に 先 行 研 究 を レ ビ ュ ー す る 。そ し て 資 源 ベ ー ス 理 論 、サ ー ビ ス・マ ネ ジ メ ン
ト の 論 点 に「 鉄 道 事 業 者 の 多 角 化 戦 略 」に 特 化 し た 論 点 を 加 え 、本 稿 の ベ ー ス と な
るべき論点・概念を提示する。
第2章
第2節
資源ベース理論
鉄 道 事 業 は 複 雑 な 生 産 用 役 の 組 み 合 わ せ で 成 り 立 つ 事 業 で あ り 、大 企 業 的 な 特徴
を 持 っ て い る 。新 規 事 業 開 発 、あ る い は イ ノ ベ ー シ ョ ン の 担 い 手 は 主 と し て 中 小 企
業 で あ る と い う 議 論 3 が 多 い 一 方 で 、企 業 戦 略 論 の 立 場 か ら す れ ば 、シ ナ ジ ー を 生
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み 出 す 戦 略 的 資 産 は 大 企 業 に 蓄 積 さ れ て い る と い う 主 張 も 成 り 立 つ 。大 企 業 で の 新
し い 事 業 創 造 に 向 け た モ チ ベ ー シ ョ ン に つ い て は 、新 規 事 業 が も た ら す 収 益 が 既 存
事業の事業規模と比較して一定の基準を超えることが困難であるという事情など
か ら 、否 定 的 な 評 価 と な ら ざ る を 得 な い が 、資 金 や 人 的 資 源 も 豊 富 で あ る 大 企 業 の
ほ う が 、新 し い 事 業 を 創 造 す る ポ テ ン シ ャ ル が 高 い と い う 主 張 も あ な が ち 間 違 っ て
はいないはずである。
このような主張をするためのベースとなる企業戦略論は二つの大きな流れを形
3
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忽 那 他 [1999]を 参 考 と し た 。
5
成 し 、 発 展 し て き た 4 。 そ の 一 つ が Porterに 代 表 さ れ る 企 業 外 部 の 市 場 ・ 環 境 分 析
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に 依 拠 し た ポ ジ シ ョ ニ ン グ・ア プ ロ ー チ で あ り 、も う 一 つ が そ の ア ン チ テ ー ゼ と し
て 出 現 し て き た 企 業 内 部 の 資 源・能 力 分 析 に 依 拠 し た 資 源・能 力 ア プ ロ ー チ 、資 源
ベ ー ス 理 論 と い う こ と に な る 。こ の ア プ ロ ー チ で は 、企 業 内 部 の 独 自 の 資 源 や 希 少
な 能 力 に 好 業 績 の 源 泉 が 求 め ら れ 、競 合 他 社 か ら 見 て 模 倣 困 難 な 経 営 資 源・能 力 を
保 有 す る こ と の 重 要 性 が 強 調 さ れ る 。鉄 道 事 業 者 が 新 規 事 業 参 入 を 行 な う 上 で ど の
よ う な 戦 略 的 資 産 を 活 用 す べ き か 、と い う 本 稿 の テ ー マ に 従 っ て 、主 と し て 後 者 の
資 源 ベ ー ス 理 論 の 研 究 蓄 積 に つ い て 概 観 す る が 、ポ ジ シ ョ ニ ン グ・ア プ ロ ー チ の 立
場 を と る Porterの 主 張 に つ い て も 参 考 と な る 点 を 確 認 し て お く 。
Porter[1987]は ① ポ ー ト フ ォ リ オ ・ マ ネ ジ メ ン ト 、 ② リ ス ト ラ ク チ ャ リ ン グ 、 ③
ス キ ル の 移 転 、④ 活 動 の 共 有 、の 4 つ の タ イ プ の 全 社 戦 略 を 提 唱 し た 。本 社 機 能 が
各 事 業 に 対 し て ど の 程 度 関 与 す べ き か と い う 視 点 か ら 、そ の 関 与 の 程 度 に よ る タ イ
プ 分 け が 主 た る テ ー マ で あ っ た が 、③ 及 び ④ に 関 し て は「 本 社 機 能 」の 中 で も 多 角
化 戦 略 に 関 す る 機 能 で あ る と 考 え て よ い 。例 え ば ③ に 関 し て は 、消 費 者 マ ー ケ テ ィ
ングの特別なノウハウ、ケイパビリティを複数の事業単位に横断的に広める際の
「 本 社 機 能 」 の 必 要 性 を 述 べ て い る し 、 ④ に 関 し て は R&D、 流 通 チ ャ ネ ル 、 部 品
製造設備のような重要な機能を、複数の事業単位間で共有するという「本社機能」
の 必 要 性 に つ い て 述 べ て い る 。③ は 移 転 さ れ た 事 業 に お け る 競 争 ポ ジ シ ョ ン が 向 上
す る 点 に お い て 意 義 が あ り 、④ は 共 有 に よ っ て 生 ま れ る 規 模 の 経 済 性 が 各 事 業 単 位
の 競 争 優 位 に 寄 与 す る 点 に お い て 意 義 が あ る と し て い る 。ポ ジ シ ョ ニ ン グ・ア プ ロ
ー チ の 立 場 を と る Porter で は あ る が 、多 角 化 戦 略 の 源 泉 と な る 資 源 に つ い て 言 及 し
て い る 点 で は 、他 の 資 源 ベ ー ス 理 論 の 議 論 と 同 様 参 照 す る 価 値 が 大 き い と 言 え る だ
ろう。
Collis and Montgomery[1998]は 企 業 戦 略 の フ レ ー ム ワ ー ク を ① 資 源( セ ッ ト )、②
事 業 群 、③ 組 織 構 造・シ ス テ ム・プ ロ セ ス 、④ ビ ジ ョ ン 、⑤ 目 的 と 目 標 の 5 つ の 要
素 か ら 成 り 立 つ と し 、そ の 上 で 、① に つ い て は「 事 業 単 位 レ ベ ル に お け る 競 争 優 位
を 決 定 す る 耐 久 資 本 財 の よ う な も の 」と 述 べ て い る 。① と ③ を 別 の 概 念 で ま と め て
い る 点 を 考 慮 す る と 、① の 概 念 は 主 と し て「 耐 久 資 本 財 」や「 技 術 」を 指 し 、③ の
「 見 え ざ る 資 産 」と は 別 の 概 念 と し て 捉 え て い る と 考 え ら れ る 。さ ら に「 資 源( =
① )は 単 一 事 業 内 及 び 事 業 間 で 価 値 を 創 造 す る た め の 究 極 の 源 泉 」と し 、価 値 創 造
の 究 極 的 な 源 泉 は「 耐 久 資 本 財 」で あ る と 、資 源 の 捉 え 方 が か な り 限 定 的 で あ る 点
が特徴的である。
Penrose[1980]は 企 業 を「 統 合 的 な 管 理 機 構 の 下 に 制 御 さ れ る 資 源 の 集 合 体 」と し
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伊 丹 ・ 軽 部 [2004]を 参 考 と し た 。
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て 位 置 づ け 、「 継 続 的 に 蓄 積 さ れ る 未 利 用 な ( あ る と き に は 未 知 で も あ る ) 生 産 用
役 が 事 業 活 動 を 通 じ て 顕 在 化 す る プ ロ セ ス 」と し て 企 業 成 長 を 捉 え て い る 。そ の 上
で「 未 利 用 な 生 産 用 役 の 存 在 こ そ が 、企 業 成 長 や 多 角 化 、さ ら に は イ ノ ベ ー シ ョ ン
の 源 泉 と な る 」と 主 張 し て お り 、日 々 遂 行 さ れ る 事 業 活 動 に よ っ て は 生 産 用 役 の す
べ て は 完 全 に は 使 い 尽 く さ れ な い と い う 意 味 で 、未 利 用 な 形 で 不 可 避 的 に 企 業 内 部
に 蓄 積 さ れ る も の と し て と ら え て い る 5 。こ の 主 張 は 、企 業 に 蓄 積 さ れ る 資 源 を 有
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効 に 活 用 す る 方 法 論 に 注 目 し て い る 点 で 特 徴 的 で あ る 。有 形 の 資 源 そ の も の よ り も 、
そ の 資 産 を 活 用 す る ノ ウ ハ ウ に 注 目 し て い る と い う 点 で 、 む し ろ 無 形 の 資 産 、「 見
えざる資産」の重要性を主張したものであると言えよう。
資 源 ベ ー ス 理 論 を 体 系 的 に ま と め た 人 物 と し て は 、Barney[2001]が 知 ら れ る 。彼
は「 持 続 的 競 争 優 位 を 左 右 す る 要 因 は 、所 属 す る 業 界 の 特 質 で は な く 、そ の 企 業 が
業 界 に 提 供 す る ケ イ パ ビ リ テ ィ ( 能 力 ) で あ る 」 と 捉 え 、 Porter[1987]の 主 張 と は
大 き く 異 な る 。「 稀 少 か つ 模 倣 に コ ス ト の か か る ケ イ パ ビ リ テ ィ は 、 他 の タ イ プ の
資 源 よ り も 、持 続 的 競 争 優 位 を も た ら す 要 因 と な る 可 能 性 が 高 い 」と 主 張 し 、さ ら
に「 企 業 戦 略 の 一 環 と し て こ の 種 の ケ イ パ ビ リ テ ィ の 開 発 を め ざ し 、そ の た め の 組
織が適切に編成されている企業は、持続的競争優位を達成できる」と述べている。
ま た「 ケ イ パ ビ リ テ ィ は 模 倣 に コ ス ト が か か る と い う 特 徴 が あ り 、そ の 企 業 独 自 の
歴 史 、サ プ ラ イ ヤ ー・顧 客・従 業 員 と の 間 に 築 か れ た 関 係 性 を 反 映 し て い る こ と が
多 い 」と も 述 べ て お り 、Penrose [1980]と 同 様 、
「 見 え ざ る 資 産 」に も 注 目 し て い る 。
た だ し 、 Penrose [1980]が 「 企 業 内 に 蓄 積 さ れ る 他 の 有 形 資 産 を 活 用 す る た め の ノ
ウ ハ ウ と い う 無 形 の 資 産 」 に 注 目 し て い る の に 対 し 、 Barney[2001]は 、 関 係 性 と い
っ た 企 業 外 部 に 蓄 積 さ れ る 「 見 え ざ る 資 産 」 も 、「 模 倣 困 難 な ケ イ パ ビ リ テ ィ 」 に
含めている点が特徴的である。また「 顧客ロイヤルティは多くの企業にとって、
持 続 的 競 争 優 位 を も た ら す 決 定 的 要 素 」と 述 べ 、よ り 直 接 的 に 企 業 外 部 に 蓄 積 さ れ
る「見えざる資産」の重要性を指摘している。
「 見 え ざ る 資 産 」に 注 目 し た 研 究 者 と し て は 伊 丹・軽 部 [2004]を 挙 げ る こ と が で
き る 。資 源 ベ ー ス 理 論 の 意 義 と し て 、同 一 環 境 に 直 面 し つ つ も パ フ ォ ー マ ン ス が 異
な る 理 由 を 、企 業 内 部 の 資 源 蓄 積 や 能 力 の 違 い に 求 め る こ と が 可 能 と な っ た と い う
点 を 評 価 し た 上 で 、「 何 ら か の 資 源 を 保 有 す る こ と が 、 自 動 的 に 企 業 の 競 争 優 位 や
成 長 の 源 泉 と な る こ と は 無 い 」「 資 源 に 内 在 す る 潜 在 的 な 生 産 用 役 を 引 き 出 し 顕 在
化させるためには、資源投入を通じた実験的な行為や活動が必要となる」として、
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この趣旨に従えば、資金力・ノウハウ・あるいは取引先や顧客との関係性といった資産を
多く持つと考えられる大企業の方が、中小企業よりも、イノベーションの担い手となり得ると
の主張は可能であろうし、鉄道事業者もその要件を満たすといえる。
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保 有 す る 資 源 そ の も の よ り も 、そ れ を 引 き 出 す た め の 仕 組 み・仕 事 の 進 め 方 と い っ
た 、「 見 え ざ る 資 産 」 が 重 要 で あ る と 述 べ て い る 。 さ ら に 「 こ れ ま で の 経 営 資 源 蓄
積 に 関 す る 研 究 で は 、『 経 営 資 源 』 を 生 産 活 動 へ の 投 入 物 と し て の 資 源 と い う よ り
も、明示的暗示的に他企業と差別化し競争力をもたらす『企業特殊的な経営資源』
を 分 析 対 象 に し が ち で あ り 、そ の た め 企 業 内 蓄 積 を 前 提 と し た 議 論 を 行 な っ て き た
の で は な い か 」 と 、 従 来 の 論 点 を 批 判 的 に 概 括 し て い る 。 そ の 上 で 、「 企 業 と 顧 客
と の 関 係 性 な ど 企 業 外 部 に 蓄 積 さ れ る 「 見 え ざ る 資 産 」 だ け で な く 、「 企 業 の 外 の
市 場 に 企 業 に と っ て 有 用 な 資 源 蓄 積 が あ る 」と し て 、消 費 者 同 士 で 交 わ さ れ る 情 報
等も企業にとっての見えざる資産として捉えようとしている点が特徴的である。
こ れ ま で 述 べ て き た こ と を 総 括 す る と 、従 来 の 資 源 ベ ー ス 理 論 の 論 点 は 、企 業 内
部に蓄積される有形の資産を中心に競争優位の源泉として捉えるところから発展
し て き て お り 、後 に 企 業 と 顧 客 と の 関 係 性 、顧 客 同 士 が 形 成 す る コ ミ ュ ニ テ ィ も 含
めて、競争優位の源泉として捉えるようになってきた。
図表 2 では鉄道事業者を念頭において新規事業参入に活用が可能と思われる資
産 を 、企 業 内 部 に 蓄 積 さ れ て い る の か 、外 部 に 蓄 積 さ れ て い る か と い う 軸 で マ ッ ピ
ン グ し て い る 。こ れ ま で の 論 点 を ま と め る と 資 源 ベ ー ス 理 論 で 扱 う 戦 略 資 産 の 概 念
は 、矢 印 の 右 側 つ ま り「 企 業 が 保 有 す る 資 産 」か ら 出 発 し 、次 第 に 左 側 の 概 念「 顧
客 が 保 有 す る 資 産 」を 議 論 の 範 囲 に 取 り 込 む よ う な 形 で 発 展 し て き た と い え る 。そ
の 間 に 、有 形 資 産 か ら 無 形 資 産 へ と 概 念 の 広 が り を み せ た こ と も 注 目 す る 必 要 が あ
り 、 多 く の 先 行 研 究 で は 、 む し ろ 「 無 形 の 資 産 」「 見 え ざ る 資 産 」 が 模 倣 困 難 性 の
程 度 が 高 く 、資 源 ベ ー ス 理 論 の 観 点 か ら よ り 重 要 で あ る と の 議 論 が な さ れ て き て い
る と い え る 。逆 説 的 に 言 え ば 、顧 客 が 保 有 す る 資 産 の う ち 、有 形 の 資 産 を 新 規 事 業
参 入 の た め の 競 争 優 位 の 源 泉 と し て 扱 っ た 事 例 は 見 当 た ら ず 、鉄 道 事 業 者 の 電 子 マ
ネ ー ビ ジ ネ ス へ の 参 入 に つ い て 、こ の 点 に 注 目 す る こ と で 何 ら か の 示 唆 が 得 ら れ る
とするならば、非常に興味深いといえるだろう。
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図表2
戦略資産の概念的広がり
企業戦略論(資源ベース理論を中心に)からの導出
企業が保有する資産
駅ビル
駅周辺不動産
組織風土
仕事の仕組み・
仕事の進め方
ブランドイメージ
コミュニティ
顧客ロイヤリティ
情報端末(
インターネット)
会員証・
ポイントカード
IC乗車券(
定期券・
SFカード)
顧客が保有する資産
情報
戦略資産の
概念的な広がり
(出所)筆者作成。
第2章
第3節
サービス・マネジメント論
経 済 学 の 始 祖 と も 言 わ れ る Smith[1776]は 「 生 産 的 な 労 働 と は 、 有 形 財 も し く は
売 買 可 能 な 物 に 付 随 し 、 そ れ ら を 生 み 出 す た め に 行 な わ れ る も の で あ り ・・・非 生 産
的 な 労 働 と は 、達 成 と 同 時 に そ の 成 果 が 消 滅 す る も の を 言 う 」と 述 べ 、サ ー ビ ス に
関 し て 経 済 的 な 価 値 が な い と 示 唆 し て い る 。 ま た Marshall[1920]も 「 生 産 と 同 時 に
消 え て な く な る サ ー ビ ス や そ の 他 の 財 は 、当 然 な が ら 財 産 と は い え な い 」と し て お
り 、サ ー ビ ス 産 業・サ ー ビ ス 業 は ご く 最 近 ま で 経 済 的 価 値 が 認 め ら れ て こ な か っ た
こ と が 伺 え る 。し か し そ の 一 方 で 世 界 経 済 に お け る サ ー ビ ス 産 業 の 役 割 は 高 ま り つ
つ あ り 、ま た 製 造 業 で あ っ て も 、単 に 製 品 を 製 造 す る こ と だ け を 事 業 活 動 領 域 と し
て い る ケ ー ス は 少 な い 。こ の よ う な 歴 史 的 な 背 景 お よ び 企 業 実 態 を 踏 ま え つ つ 、サ
ービスとはなにか、サービス産業の特性はなにかを明らかにする。
サ ー ビ ス の 定 義 に つ い て 幾 つ か の 文 献 で 見 る こ と が で き る 。 例 え ば 、 Quinn and
Gagnon[1986]は 、「 サ ー ビ ス と は 、 主 た る 成 果 と し て 製 品 も 物 も 生 ま な い す べ て の
経 済 活 動 を 指 す 」と し 、製 造 業 の 対 比 の 中 で サ ー ビ ス 業 の 欠 け て い る 点 に 注 目 し た
定 義 を お こ な っ て い る 。Kotler [1997]は 、
「他者に対して提供される活動もしくは便
益であり、本質的に無形で、購入者に所有権を一切もたらさないもの」と定義し、
Gronroos[1990] は「 サ ー ビ ス と は 、無 形 性 と い う 特 徴 を 少 な か ら ず 備 え た 活 動 、も
し く は 一 連 の 活 動 で あ り 、通 常 は 顧 客 が サ ー ビ ス 提 供 者 、物 的 資 源 や 財 及 び サ ー ビ
ス 提 供 シ ス テ ム と の 相 互 作 用 を 与 え る こ と に よ っ て 生 ま れ る 」 と し 、「 顧 客 の 抱 え
る 問 題 に 対 す る 解 決 策 と し て 提 供 さ れ る も の で も あ る 」 と 述 べ て い る 。 Kotler も
Gronroos も 肯 定 的 な 観 点 か ら 、サ ー ビ ス に つ い て 定 義 し 、特 に 無 形 性 と い う 特 性 に
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注目していることが分かる。
こ れ ら の 定 義 を 踏 ま え 、 Looy et al.[2003]は サ ー ビ ス の 特 性 と し て ① 無 形 性 、 ②
同 時 性 、③ 消 滅 性 、④ 異 質 性 、を 挙 げ て い る 6 。こ の 特 性 を 時 に は メ リ ッ ト と し て
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活 用 し 、時 に は デ メ リ ッ ト と し て 別 の 何 か で カ バ ー し 、顧 客 に 価 値 を 提 供 し て い く
こ と が サ ー ビ ス・マ ネ ジ メ ン ト に 他 な ら な い 。中 で も「 無 形 性 」に つ い て は サ ー ビ
ス・マ ネ ジ メ ン ト の 分 野 で し ば し ば 指 摘 さ れ る サ ー ビ ス の 特 性 で あ る 。物 が 生 産 さ
れ る 物 的 資 源 で あ る の に 対 し 、サ ー ビ ス は 遂 行 さ れ る「 活 動 」も し く は「 行 為 」で
あ り 、物 と 違 っ て 購 入 し て も 持 ち 帰 る こ と は で き な い 。サ ー ビ ス は 物 質 的 な 実 態 が
無 い だ け で な く 、サ ー ビ ス は 明 確 な イ メ ー ジ を つ か む こ と が 難 し い 点 も 特 徴 の ひ と
つである。
無 形 性 に 関 し て 注 意 し な け れ ば な ら な い の は 、全 て の サ ー ビ ス が 完 全 に 無 形 であ
る わ け で は な く 、む し ろ 有 形 要 素 が 一 連 の サ ー ビ ス プ ロ セ ス の 中 に 含 ま れ て い る 場
合 の ほ う が 多 い と い う こ と で あ る 。 Looy et al.[2003]は 、 例 と し て フ ァ ー ス ト フ ー
ド 店 を 挙 げ 、フ ァ ー ス ト フ ー ド 店 は サ ー ビ ス 業 で あ り な が ら 有 形 要 素 と し て の 料 理
そ の も の が 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る こ と を 指 摘 し て い る 。鉄 道 事 業 は 、駅・車 両 、
あるいはきっぷ 7 など有形要素がサービス提供プロセスにおいて極めて重要な役
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割 を は た し て い る こ と は 、先 述 の バ リ ュ ー チ ェ ー ン 8 か ら も 見 て と れ る 。顧 客 に 対
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し て 最 後 に 提 供 す る の は 、鉄 道 輸 送 と い う 無 形 の サ ー ビ ス で あ る が 、そ の 前 段 の プ
ロ セ ス の 大 半 は 有 形 要 素 を 構 築 も し く は 活 用 す る プ ロ セ ス で あ る と い う 点 が 、鉄 道
輸 送 サ ー ビ ス の 大 き な 特 徴 と も 言 え る だ ろ う 9 。 ま た 、「 サ ー ビ ス 提 供 プ ロ セ ス へ
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の 参 加 を 通 じ て 何 を 得 る こ と が で き る の か 、そ の ヒ ン ト を 顧 客 に 与 え る こ と に よ っ
て 購 入 前 の サ ー ビ ス の 評 価 を 可 能 に し な け れ ば な ら な い 」と 述 べ 、製 造 業 が 顧 客 へ
のメッセージの中で製品の無形性を強調する
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の と は 反 対 に 、「 無 形 の も の を 有形
Looy et al.[2003]は 、サ ー ビ ス の 基 本 的 特 性 と し て 無 形 性 と 同 時 性 を 挙 げ 、消 滅 性 及 び 異 質
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性については、無形性及び同時性から派生的に導かれる特性と位置づけている。
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事業者と利用者の間で取り交わされた契約(運送約款)に基づき、提供される輸送サービ
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スの内容を目に見える形で記したもの。
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図表 1 を参照。
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駅・線路・車両の建設・製造は有形要素構築プロセスであるし、ダイヤの作成にしても、
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一見無形のプロセスであるが「時刻表」に表すなど、有形化するプロセスを間に入れることに
よ り 、 顧 客 に 対 し て 無 形 性 か ら 有 形 性 へ の 転 換 を 図 っ て い る 。 乗 車 券 に つ い て も 、「 サ ー ビ ス 」
の内容を記しているという意味において無形性から有形性への転換プロセスの一端を担ってい
ると考えられる。
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自動車メーカーが広告宣伝において、無形の便益を訴求していることを指摘している。一
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に す る こ と に よ っ て 、顧 客 の 評 価 プ ロ セ ス を 支 援 し な け れ ば な ら な い 」と 主 張 し て
い る 。さ ら に「 無 形 性 の 度 合 い の 高 ま り と と も に …( 中 略 )… 無 形 の 要 素 を ア ピ ー
ル す る 戦 略 か ら 、有 形 の 要 素 を ア ピ ー ル す る 戦 略 へ と 変 わ る 」と 述 べ 、無 形 性 が 高
まるほど、有形化の重要性が高まることを示唆している。
こ こ ま で 、サ ー ビ ス の 特 性 と し て 無 形 性 に つ い て 焦 点 を あ て て き た が 、も う ひ と
つ重要な特性として、同時性が挙げられる
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。同時性とは生産と消費が同時にな
さ れ る こ と を 指 し て お り 、鉄 道 事 業 に お い て 、運 転 士 が 列 車 を 運 転 す る こ と と 、乗
客 が 目 的 地 へ 向 か う こ と が 同 時 に 行 な わ れ る こ と が そ の よ い 事 例 で あ る 。こ の 同 時
性 に つ い て も 無 形 性 と 同 様 、提 供 さ れ る サ ー ビ ス の 種 類 に よ っ て 、そ の 程 度 は 異 な
る 。病 院 の 医 療 行 為 な ど は 同 時 性 が 極 め て 高 い 部 類 に 含 ま れ る が 、鉄 道 輸 送 に つ い
て は 、あ ら か じ め ダ イ ヤ を 設 定 す る プ ロ セ ス 等 の バ リ ュ ー チ ェ ー ン の 上 流 部 分 に お
い て は 、サ ー ビ ス の 消 費 は ま だ な さ れ て い な い 。バ リ ュ ー チ ェ ー ン が 相 当 程 度 の 時
間的広がりを持つことから、同時性の度合いは高くないといえる。
同 時 性 が も た ら す 、サ ー ビ ス・マ ネ ジ メ ン ト の 困 難 さ の 一 つ は 、在 庫 と し て 商 品
を 確 保 で き な い 点 が 挙 げ ら れ る 。従 っ て 、生 産 能 力 を ど の 程 度 確 保 す る か と い っ た
マ ネ ジ メ ン ト が 要 求 さ れ る 。同 時 性 が も た ら す サ ー ビ ス・マ ネ ジ メ ン ト の も う ひ と
つ の 困 難 さ は 、サ ー ビ ス 提 供 に 関 わ る 従 業 員 の レ ベ ル が 、提 供 さ れ る サ ー ビ ス の 品
質 そ の も の に 影 響 を 与 え て し ま う こ と で あ る 。例 え ば 鉄 道 輸 送 サ ー ビ ス を 単 な る 出
発 地 点 か ら 目 的 地 ま で の 移 動 で あ る と 捉 え る な ら ば 、主 た る サ ー ビ ス 提 供 者 で あ る
運 転 士 の レ ベ ル に よ っ て 、サ ー ビ ス の 品 質 が 変 化 す る こ と は ほ と ん ど な い 。し か し 、
き っ ぷ の 購 入 プ ロ セ ス 等 も サ ー ビ ス 消 費 の 一 部 と み な す な ら ば 、従 業 員 の 接 客 技 術
や 、発 券 に 必 要 な 商 品 知 識 に よ っ て サ ー ビ ス の 品 質 は 大 き な 影 響 を 受 け る こ と に な
る 。そ れ ゆ え 、ど の よ う な 価 値 基 準 に 基 づ い て サ ー ビ ス を 提 供 す る の か と い っ た サ
ービスコンセプトを明確にし、それを従業員全員で共有化する必要がある。
同 様 の こ と が 、利 用 者 に 関 し て も 言 え る 。従 業 員 の レ ベ ル が 同 じ で あ っ た と し て
も 、利 用 者 が サ ー ビ ス 消 費 プ ロ セ ス に 関 し て 、習 熟 し て い る 場 合 と 習 熟 し て い な い
場 合 で は 、サ ー ビ ス 全 体 に 対 す る 評 価・満 足 度 に 大 き な 差 が 生 じ る 。き っ ぷ の 購 入
を と っ て も 、ス ム ー ズ に 購 入 で き る 場 合 も あ れ ば 、迷 っ た 挙 句 購 入 に 至 ら な い 場 合
も 考 え ら れ る 。こ れ は 従 業 員 だ け で な く 利 用 者 に も 、サ ー ビ ス コ ン セ プ ト や サ ー ビ
ス 提 供 プ ロ セ ス を 十 分 に 理 解 さ れ な け れ ば 、サ ー ビ ス の 品 質 確 保 に 大 き な 影 響 が 及
ぶ こ と を 意 味 す る 。さ ら に サ ー ビ ス の 提 供 と 消 費 が 同 時 に 行 な わ れ る 場 合 に は 、そ
の サ ー ビ ス が 容 易 に 利 用 で き る 状 況 を 、利 用 者 と と も に 作 り 上 げ な け れ ば な ら な い 。
例 と し て BMW社 の キ ャ ッ チ コ ピ ー 「 駆 け 抜 け る 喜 び 」 を 挙 げ て い る 。
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Looy et al. [2003]の 訳 書 上 巻 pp.18-19.を 参 照 し た 。
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鉄 道 事 業 者 の 例 で 言 え ば 、 た と え 事 業 者 が 便 利 な IC 乗 車 券 を 開 発 し 提 供 し た と し
て も 、そ れ に よ っ て サ ー ビ ス 消 費 プ ロ セ ス が ど の よ う に 改 善 す る の か 、ど れ だ け 便
利 に な る か を 利 用 者 に 認 知 し て も ら わ な け れ ば 、そ の 利 便 性 は 実 現 す る こ と は な い 。
同 時 性 と い う 特 性 は 、商 品 の 利 用 者 と の リ レ ー シ ョ ン シ ッ プ を 、よ り 緊 密 に す る こ
とを企業側に求めるような性質であると言えるだろう。
こ こ ま で 見 て き た と お り 、サ ー ビ ス の 主 な 特 性 と し て 無 形 性 と 同 時 性 を 挙 げ る こ
と が で き る 。こ れ ら の 特 性 の プ ラ ス の 側 面 を 活 用 し 、マ イ ナ ス の 側 面 を 何 ら か の 形
で 補 う こ と に よ っ て 、サ ー ビ ス・マ ネ ジ メ ン ト は 行 な わ れ て き た は ず で あ る 。従 っ
て 、サ ー ビ ス 業 を 営 む 企 業 に お い て 蓄 積 さ れ て い る 有 形 無 形 の 資 産 の 中 に は 、無 形
性・同 時 性 に 特 徴 付 け ら れ た も の が 多 数 存 在 し 、新 規 事 業 参 入 に 際 し て は こ れ ら の
資 産 を 活 用 す る こ と で 優 位 性 を 確 保 で き る 可 能 性 は 高 い と 考 え ら れ る 。鉄 道 事 業 は
サ ー ビ ス 業 で あ る が 、駅 や 車 両 や 乗 車 券 な ど 構 成 す る パ ー ツ の 一 つ 一 つ は 有 形 の 物
質 で あ る も の も 多 い 。電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス も ま た サ ー ビ ス 産 業 の 一 つ で あ る 。有 形
要 素 の う ち の 一 つ が 、 ウ ォ レ ッ ト と し て の IC カ ー ド で あ り 、 サ ー ビ ス ・ マ ネ ジ メ
ン ト 論 の 観 点 か ら は 、鉄 道 事 業 と 電 子 マ ネ ー 事 業 の 親 和 性 の 高 さ が 示 唆 さ れ て い る
といえる。
第2章
第4節
鉄道事業者の多角化戦略
この論文の位置づけは鉄道事業者の多角化戦略という研究領域の延長線上にあ
る と 考 え て い る 。こ れ ま で 、よ り 大 き な 視 点 と し て の 企 業 戦 略 論 、資 源 ベ ー ス 理 論
の 先 行 研 究 や サ ー ビ ス・マ ネ ジ メ ン ト の 特 性 に 関 す る 先 行 研 究 に つ い て 振 り 返 っ て
き た が 、こ の 節 で は 、鉄 道 事 業 者 の 新 規 事 業 参 入 あ る い は 多 角 化 戦 略 に つ い て の 研
究蓄積について振り返る。
第 1 章 で は 、従 来 の 鉄 道 事 業 者 の 新 規 事 業 開 発 は 、駅 周 辺 の 不 動 産 開 発 を 中 心 と
し た 事 業 展 開 で あ っ た と 、こ れ ま で の 鉄 道 事 業 者 が 行 っ て き た 新 規 事 業 開 発 を 概 括
し た が 、こ の 分 野 に お け る 代 表 的 な 研 究 者 と し て 石 井 [1995]を 挙 げ る こ と が で き る 。
石 井 [1995]は 、 「鉄 道 事 業 者 に お け る 多 角 化 に 共 通 す る 部 分 に つ い て み る と 、 鉄 道
輸 送 と い う の は 鉄 道 単 体 で 輸 送 サ ー ビ ス が 完 結 す る の で は な く 、バ ス な ど と の 乗 り
継 ぎ に 始 ま っ て 、駅・タ ー ミ ナ ル 施 設 に お け る 各 種 サ ー ビ ス 、構 内 で の 買 い 物・飲
食・物 販 、ア コ モ デ ー シ ョ ン な ど が ト ー タ ル に 提 供 さ れ る こ と に よ っ て は じ め て サ
ー ビ ス が 完 結 す る 」と 主 張 し て い る 。さ ら に 「鉄 道 会 社 は オ ン・レ ー ル・ビ ジ ネ ス を
中 心 に 、自 社 の 沿 線 に 発 生 す る 需 要 は 自 社 で 吸 収 す る こ と を 建 前 に 、
『需要吸収型』
あるいは『需要開拓型』のビジネス方針に基づいて様々な事業に取り組んでいる」
と 述 べ て い る 。鉄 道 事 業 を 中 心 と し つ つ 、鉄 道 事 業 が も た ら す 外 部 経 済 性 を 吸 収 す
る観点での新規事業開発にその特徴を見出した点に大きな貢献があったといえる。
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新 規 事 業 参 入 の 動 機 付 け と い う 観 点 で は 、 「兼 業 に よ っ て 本 業 と の 相 乗 効 果 ( シ
ナ ジ ー 効 果 )が 期 待 で き る こ と も 魅 力 の 一 つ で あ る 」と し 、
「沿線の宅地開発やレジ
ャ ー・ス ポ ー ツ・レ ク レ ー シ ョ ン 施 設 、さ ら に は 文 教・文 化 施 設 な ど の 建 設・設 置
は 鉄 道 利 用 客 の 増 加 に 直 結 し 、都 心 部 へ の 片 荷 輸 送 を 改 善 す る と 共 に 鉄 道 の 長 期 安
定 収 入 源 に つ な が る 。同 時 に 、鉄 道 事 業 と 兼 業 や 関 連 事 業 と は 相 関 関 係 が あ る 」と
主 張 し て い る 。例 え ば 、あ る 駅 周 辺 地 域 に シ ョ ッ ピ ン グ セ ン タ ー を 建 設 す る と 、当
然 そ の 施 設 は 鉄 道 利 用 客 の 集 客 施 設 と な り 、こ れ に よ っ て 鉄 道 事 業 か ら 関 連 事 業 へ 、
あ る い は 関 連 事 業 か ら 鉄 道 事 業 へ 、相 互 送 客 の サ イ ク ル が 発 生 す る 。こ の シ ナ ジ ー
が 新 規 事 業 参 入 の 動 機 付 け と な っ て い る と 主 張 す る も の で あ る 。ま た 、大 手 私 鉄 の
グ ル ー プ 戦 略 は 、「 総 合 生 活 産 業 へ の 脱 皮 」 と 「 事 業 領 域 の 広 域 化 」 が 中 心 テ ー マ
で あ る と し 、「 前 者 は 、 自 社 沿 線 や 地 域 社 会 の ニ ー ズ を 先 取 り し て 事 業 の 推 進 を 図
る こ と を 目 的 と し て い る の に 対 し 、後 者 は 、自 社 沿 線 か ら 離 れ た 地 域 で も 大 手 私 鉄
の ネ ー ム・バ リ ュ ー と 信 頼 性 を 武 器 に 国 内 外 で さ ま ざ ま な 事 業 を 展 開 し て い く こ と
を 目 標 に し て い る 」と 述 べ て い る 。こ こ で は 、鉄 道 事 業 者 の 新 規 事 業 参 入 に お い て 、
「 見 え ざ る 資 産 」と し て 、ブ ラ ン ド や 信 頼 性 と い っ た 経 営 資 源 が 新 規 事 業 参 入 を 行
なう上での戦略的資産として捉えられていることが注目すべき点である。
正 司 [2001]は「 沿 線 住 民 に と っ て の 私 鉄 企 業 は 、彼 ら の 都 市 生 活 の 様 々 な 局 面 に
深 く か か わ り を 持 っ て い る 」「 わ が 国 の 大 都 市 住 民 に と っ て 、 私 鉄 各 社 が 非 常 に 身
近 な 存 在 と い っ て よ い 」と 述 べ 、石 井 [1995]と 同 様 、鉄 道 事 業 が も た ら す 外 部 経 済
性 を う ま く 活 用 し た 新 規 事 業 開 発 が 有 効 で あ る と い う 考 え を 示 し て い る 。多 角 化 の
効 果 と い う 観 点 で は 、「 ① 多 角 的 に 事 業 展 開 す る こ と で 、 鉄 道 事 業 へ の 乗 客 数 を 増
加 さ せ る こ と 、② 乗 降 客 を 中 心 対 象 に し な が ら 事 業 を 展 開 し て 、収 益 を 上 げ る こ と
で 、例 え ば 本 社 費 の よ う な 共 通 費 部 分 の 鉄 道 事 業 に よ る 負 担 割 合 を 下 げ る 、③ ヒ ト
を よ り 有 効 に 活 用 で き る こ と に 代 表 さ れ る よ う な 、各 種 経 営 資 源 の 有 効 活 用 を 通 じ
て 鉄 道 事 業 の 費 用 削 減 に 貢 献 す る 等 々 の 可 能 性 が 存 在 す る こ と 等 」を 指 摘 し て お り 、
主 と し て 企 業 内 部 の 資 源 に 対 し て「 範 囲 の 経 済 性 」を 機 能 的 に 活 用 す る 点 を 強 調 し
ている。
ま た「 わ が 国 私 鉄 企 業 の 多 角 的 事 業 展 開 は 、企 業 と し て 成 熟 し て か ら 行 な わ れ る
よ う に な っ た わ け で は な い 点 は 留 意 し な け れ ば な ら な い 。こ の 背 景 に は 輸 送 需 要 だ
け で は 決 し て 十 分 で は な い と の 考 慮 が あ っ た こ と が 推 察 さ れ る 」と し 、独 特 の 視 点
か ら 新 規 事 業 開 発 の 動 機 づ け に つ い て 述 べ て い る 。鉄 道 事 業 の 業 績 如 何 に 関 わ ら ず 、
鉄 道 輸 送 サ ー ビ ス は 本 来 的 に 外 部 経 済 性 が 大 き く 、そ の 外 部 性 を 内 部 に 取 り 込 む 企
業 戦 略 が 、必 然 的 に 育 ま れ た も の だ と 解 釈 で き る 。必 ず し も 本 業 で あ る 鉄 道 事 業 が
衰 退 し て い る か ら 新 規 事 業 開 発 に 着 手 す べ き で あ る と か 、本 業 の 鉄 道 事 業 が 好 調 だ
か ら 着 手 す べ き で は な い と い う 議 論 で は な く 、外 部 経 済 性 を 内 部 に 取 り 込 む べ き で
13
あ る と の 観 点 か ら 新 規 事 業 開 発 を 行 な う べ き と 解 釈 さ れ る も の で あ り 、鉄 道 事 業 者
の多角化戦略の必然性を主張したものと考えてよいだろう。
こ れ ら の 論 点 を ま と め る と 、ま ず 鉄 道 事 業 の 新 規 事 業 参 入 の 特 徴 の 一 つ は 、本 業
である鉄道事業の顧客を創出しようとする試みであり、新規事業参入することで、
鉄 道 利 用 者 の 促 進 に つ な げ よ う と い う も の で あ る 。沿 線 地 域 の 住 宅 開 発 が そ の 典 型
で あ り 、不 動 産 開 発 事 業 に よ っ て 本 業 で あ る 鉄 道 事 業 を 活 性 化 さ せ る こ と を 目 指 し
た も の で あ る 。も う 一 つ の 考 え 方 は そ の ち ょ う ど 反 対 で 、外 部 経 済 性 の 内 部 化 で あ
る 。鉄 道 事 業 そ の も の が 大 き な 外 部 経 済 性 を 有 し て い る こ と か ら 、鉄 道 事 業 者 の 新
規 事 業 参 入 は そ の 外 部 性 を 取 り 込 む 形 で 行 な わ れ る べ き で あ る と さ れ て き た 。外 部
性 を 内 部 に 取 り 込 む と い う こ と は 、鉄 道 利 用 者 を 他 の 事 業 の 顧 客 と し て 利 用 す る と
言 い 換 え る こ と が 可 能 で あ る 。い ず れ も ベ ー ス と な る 考 え 方 は 同 じ で 鉄 道 沿 線 と い
う 限 ら れ た 空 間 の 中 で 、鉄 道 事 業 か ら 関 連 事 業 へ 、ま た 関 連 事 業 か ら 鉄 道 事 業 へ と 、
顧客を還流させることが鉄道事業者の一般的な新規事業開発の姿であった。
第3章
先行研究を踏まえた論点整理
繰 り 返 し に な る が 、鉄 道 事 業 者 の 新 規 事 業 開 発 は 鉄 道 沿 線 と い う 限 ら れ た 空 間の
中 で 、鉄 道 事 業 、関 連 事 業 相 互 に 顧 客 を 還 流 さ せ る こ と で あ っ た 。新 し い 新 規 事 業
開 発 の あ り 方 は ど う か と い え ば 基 本 的 に は 変 わ ら な い 。し か し そ の よ う な 還 流 を 起
こ さ せ る た め の 戦 略 的 資 産 が 、必 ず し も 企 業 側 に 蓄 積 さ れ た 、駅 ビ ル な ど の 有 形 資
産 だ け で は な い と 考 え る こ と は 可 能 で あ る 。資 源 ベ ー ス 理 論 で 扱 う 戦 略 的 資 産 の 範
囲 は「 企 業 が 保 有 す る 資 産 」か ら 出 発 し 、次 第 に 図 表 2 の 左 側 の 概 念「 顧 客 が 保 有
する資産」を議論の範囲に取り込むような形で発展してきたことを確認してきた。
鉄 道 事 業 者 の 多 角 化 戦 略 に 照 ら し 合 わ せ て み た 時 に 、一 番 左 側 の 領 域「 顧 客 が 保 有
す る 資 産 」が 戦 略 的 資 産 と な り 得 る の で は な い か と い う 仮 説 を 立 て て 検 証 し て み る
意義は大きいと考える。
ま た こ の 論 点 は 、サ ー ビ ス・マ ネ ジ メ ン ト の 先 行 研 究 か ら も 支 持 が 得 ら れ る も の
と 考 え る 。第 2 章 で 確 認 し た「 製 造 業 が 顧 客 へ の メ ッ セ ー ジ の 中 で 製 品 の 無 形 性 を
強調するのとは反対に、
( サ ー ビ ス 業 で は )無 形 の も の を 有 形 に す る こ と に よ っ て 、
顧客の評価プロセスを支援しなければならない」との論点
12
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は、サービス業を営
む 企 業 が 新 規 事 業 参 入 を 行 な う 場 合 、む し ろ「 目 に 見 え る 資 産 」を 活 用 す る こ と が
重 要 で あ る と の 仮 説 を 導 き う る も の で あ ろ う 。ま た「 同 時 性 と い う 特 性 が 、利 用 者
とのリレーションシップをより緊密にすることを企業側に求める」という論点は、
あ る 特 定 の サ ー ビ ス の マ ー ケ テ ィ ン グ の 議 論 に 限 定 さ れ る も の で は な く 、サ ー ビ ス
12
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Looy et al.[2003]を 参 考 に し た 。
14
産業をベースに多角化を目指す戦略論にも当てはまるものと考えられる。つまり
「 顧 客 が 保 有 す る 有 形 の 資 産 」を バ リ ュ ー チ ェ ー ン の 中 か ら 探 し 出 し 、顧 客 と の 関
係 性 を 高 め る 為 の 足 が か り と し て 、新 規 事 業 へ 参 入 す る 際 の 競 争 優 位 の 源 泉 と し て
利用することが必要であるとの仮説が導きだせるのではないだろうか。
鉄 道 事 業 者 に と っ て 、顧 客 が 保 有 す る 有 形 の ツ ー ル と は ど の よ う な も の を さ すの
か 。 第 1 章 で は 、 鉄 道 事 業 の バ リ ュ ー チ ェ ー ン を 10 の プ ロ セ ス に 分 解 し た が 、 そ
れ ぞ れ の プ ロ セ ス を 実 行 に 移 す 場 合 に は 、何 ら か の 経 営 資 源 を 用 い て い る は ず で あ
る し 、場 合 に よ っ て は 、シ ナ ジ ー 効 果 を も た ら す 何 ら か の 経 営 資 源 を 生 み 出 し て い
る場合もある。そのような観点から資産項目を抽出したものが、図表 3 である。
図表3
各プロセス毎に見る
活用される資産/蓄積される資産
プロセス
活用される/創造される資産
①
経営者、経営ノウハウ
②
駅舎、駅ビル、変電・送電設備、製造技術、保守技術
③
車両、工作機械、製造技術、保守技術
④
研修設備、人材(素材)
⑤
利用者の要望、評判
⑥
利用実績データ、市場調査結果
⑦
券売機、改札機、ネットワークインフラ、代理店との関係
⑧
ポスター、チラシ、パソコン、携帯、時刻表、雑誌
⑨
きっぷ(磁気カード、ICカード)、クレジットカード
⑩
2次アクセス手段(自転車、自家用車)及び利便性(バス、住宅・オフィス)
(注)斜字体は無形(見えざる)資産、下線は企業外部の資産(ツール)を示す
(出所)筆者作成。
こ の よ う に バ リ ュ ー チ ェ ー ン 毎 に 活 用 さ れ て い る 資 産 、生 み 出 さ れ て い る 資 産を
見 る と 、こ れ ま で の 鉄 道 事 業 者 の 多 角 化 戦 略 が 、主 に 企 業 内 部 の 有 形・無 形 資 産 を
活 用 し て き た こ と が よ く わ か る 。駅 ビ ル や 駅 舎 を 活 用 し た シ ョ ッ ピ ン グ セ ン タ ー 事
業 は そ の 典 型 で あ る 。ま た 保 守 技 術 を 用 い た メ ン テ ナ ン ス 受 託 業 務 や 自 動 車 整 備 等
も 鉄 道 事 業 者 が 行 っ て き た 新 規 事 業 と し て あ げ る こ と が で き る 。同 様 に 企 業 外 部 の
無 形 資 産 も 新 規 事 業 開 発 に 活 用 さ れ て き た 。鉄 道 事 業 そ の も の の 需 要 を 生 み 出 す こ
と を 主 眼 に 行 わ れ た 住 宅 開 発 や 都 市 開 発 は 、利 用 者 の 認 識 、つ ま り「 鉄 道 沿 線 に 住
む こ と の 利 便 性 」や「 ブ ラ ン ド 」が 成 功 の 原 動 力 と な っ て い る 。企 業 が 保 有 す る 線
路 設 備 、駅 設 備 と い っ た 有 形 資 産 が そ の よ う な 認 識( 無 形 資 産 )を 生 む こ と に 結 び
つき、新規事業としての成功をもたらしたと言えるだろう。
図表 3 からも分かるとおり、
「 顧 客 が 保 有 す る 有 形 資 産( ツ ー ル )」は チ ラ シ 、パ
15
ソ コ ン 、携 帯 電 話 、時 刻 表 、雑 誌 、カ ー ド 、自 転 車 な ど が 挙 げ ら れ る が 、本 稿 で は
こ れ ら の 中 か ら 一 つ の 事 例 と し て「 き っ ぷ 」を 新 規 事 業 参 入 の た め の 戦 略 資 産 と し
て 位 置 付 け た 、電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス を 取 り 上 げ る 。こ れ ま で の 議 論 と 若 干 重 複 す る
が 、電 子 マ ネ ー 事 業 に 注 目 す る 理 由 を 、大 き く 分 け て 三 点 挙 げ る こ と が で き る 。一
つ 目 は こ れ ま で 鉄 道 事 業 者 が 取 り 組 ん で き た 事 業 内 容 と 比 較 し た 場 合 、大 き く そ の
領 域 が 異 な る 点 で あ る 。駅 や 駅 周 辺 不 動 産 を 活 用 し た 従 来 型 の 新 規 事 業 開 発 と は 大
き く 異 な る ビ ジ ネ ス で あ り 、従 来 の 論 点 で は 説 明 が つ か な い 新 し い 新 規 事 業 参 入 の
あり方が示唆されるのではないかと期待できる。
二 つ 目 は 、電 子 マ ネ ー と い う 金 融・決 済 ビ ジ ネ ス 自 体 が 、そ の ほ か の 事 業 、例 え
ば小売業やショッピングセンター事業等をサポートする側面を持っている点であ
る 。つ ま り 自 社 で 電 子 マ ネ ー を も つ こ と 自 体 が 、既 存 の 周 辺 事 業 や 今 後 の 新 規 事 業
の 顧 客 獲 得 等 に お い て 、大 き な 役 割 を 果 た し 得 る 。電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス は「 何 ら か
の 戦 略 資 産 を 活 用 し て 参 入 し た ビ ジ ネ ス 」 で あ る だ け で な く 、「 こ の ビ ジ ネ ス そ の
も の が 何 ら か の 新 た な 新 規 事 業 参 入 の ベ ー ス と な る べ き 資 産 」と な り う る 点 が 興 味
深い。
三 つ 目 は 、そ の 業 界 に お い て ト ッ プ に 近 い ポ ジ シ ョ ン に あ る と い う 点 で あ る 。鉄
道 事 業 者 が 取 り 組 む 新 規 事 業 は 、本 業 の も た ら す 外 部 経 済 性 を 内 部 化 す る と い う 大
きな目的があったために、必ずしもその業界のトップシェアをとっていなくとも、
事 業 と し て 継 続 さ せ て き た ケ ー ス は 多 い 。そ れ ゆ え 一 部 バ ス 事 業 や 旅 行 業 と い っ た
交 通 関 連 の 分 野 で 大 き く 成 長 し た 会 社 を 除 け ば 、そ の 業 界 に お い て ト ッ プ ク ラ ス の
事 業 に 成 長 す る こ と は 稀 で あ っ た 。 JR東 日 本 の 電 子 マ ネ ー 「 Suica」 は 、 業 界 最 大
手 で 先 行 し て 参 入 し て い た 「 Edy 13 」 を 激 し く 追 従 す る 勢 い で 普 及 し つ つ あ り
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、
こ の こ と は 、本 業 で あ る 鉄 道 業 が 衰 退 し た と し て も 、そ れ を 補 う 基 幹 事 業 へ と 成 長
していく可能性を秘めているとも考えられる。本稿のテーマに取り組む背景には、
鉄 道 事 業 が 斜 陽 産 業 と な っ て い る こ と が 挙 げ ら れ る が 、そ の 観 点 か ら も JR東 日 本 の
進める電子マネービジネスは特徴的かつ象徴的な位置づけとして捉えることがで
きる。
本 稿 の 目 的 は 、 冒 頭 で も 述 べ た と お り 、「 電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス へ の 参 入 事 例 を 取
り 上 げ 、そ こ で 利 用 さ れ た 戦 略 的 資 産 が 何 で あ っ た の か 、ど の よ う に 活 用 さ れ た の
か と い う 点 に つ い て 明 ら か に す る こ と 」で あ る 。次 章 で は 、先 行 文 献 か ら 示 唆 さ れ
る よ う な 視 点 を 念 頭 に 置 き つ つ 、「 顧 客 に 蓄 積 さ れ る 有 形 資 産 」 を 活 用 し た 新 規 事
業 開 発 の 一 例 と し て 、 JR 東 日 本 の 「 Suica」 の 事 例 を 取 り 上 げ る 。 ま た 、 ㈱ ス ル ッ
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ビットワレット社が提供するするプリペイド型の電子マネーサービス。
『 日 本 経 済 新 聞 』 2005 年 5 月 22 日 の 記 事 を 参 考 と し た 。
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と KANSAI( 阪 急 電 鉄 )の「 PiTaPa」の 事 例 と 対 比 さ せ る こ と に よ っ て 、先 に 述 べ
た 仮 説 に つ い て 検 証 を お こ な う 。基 本 的 に は 電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス が「 ホ ル ダ ー 数 ×
加 盟 店 数 」 に よ っ て そ の ビ ジ ネ ス 価 値 が 決 ま る と の 前 提 に 立 ち 、 IC 乗 車 券 の 普 及
の さ せ 方 の 違 い を 説 明 変 数 、ホ ル ダ ー 数 を 被 説 明 変 数 と し て 、価 値 の 違 い に つ い て
確 認 す る 。あ わ せ て 普 及 方 法 の 違 い に つ い て も 確 認 し 、両 者 の 戦 略 上 の 違 い を 明 ら
か に す る 。 ま と め る と リ サ ー チ ク エ ス チ ョ ン は 以 下 の と お り で あ る 。 一 点 目 は JR
東 日 本 と ㈱ ス ル ッ と KANSAI( 阪 急 電 鉄 )は ど の よ う に し て 、電 子 マ ネ ー の ウ ォ レ
ッ ト と し て の IC カ ー ド を 普 及 さ せ た の か 。 そ し て そ の 結 果 普 及 枚 数 に ど の よ う な
差 が 生 じ た の か 。 二 点 目 は 両 者 の IC カ ー ド の 戦 略 的 位 置 付 け の 違 い は ど の よ う な
も の か 。そ し て 三 点 目 は 電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス へ 参 入 す る に あ た っ て の 、両 社 の と っ
た 戦 略 は「 顧 客 が 保 有 す る 有 形 の ツ ー ル を 有 効 に 活 用 し た( す る )」と い え る の か 。
これらについて、次章以降で明らかにする。
第4章
事例研究
第4章
第1節
電子マネーの定義とICカードの特徴
第4章
第1節
第1項
電子マネーとはなにか
そ も そ も 電 子 マ ネ ー と は 何 か 、そ の 定 義 を 明 ら か に し て お く 必 要 が あ る 。ま ず は
先 行 研 究 や 各 機 関 の 報 告 書 を レ ビ ュ ー し 、既 存 研 究 で 電 子 マ ネ ー が ど の よ う に 捉 え
ら れ て い る か 確 認 す る 。そ れ を 踏 ま え て 本 稿 に お け る 電 子 マ ネ ー の 定 義 づ け を 行 な
うこととしたい。
「 電 子 マ ネ ー 」と い う 言 葉 は 多 義 的 に 使 用 さ れ る が 、極 め て 近 い 概 念 と し て 、
「電
子 決 済( = 決 済 方 法 の 電 子 化 )」と い う 言 葉 も あ り 、両 者 の 概 念 整 理 は 必 要 で あ る 。
1997 年 の 大 蔵 省 報 告 書
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に お い て は 、「 決 済 手 段 の 電 子 化 ( = 電 子 マ ネ ー )」 に つ
い て「 利 用 者 の 保 持 す る 電 子 機 器 に 記 録 さ れ た デ ジ タ ル・デ ー タ が そ れ 自 体『 価 値 』
を 有 す る も の と し て 、こ れ を 交 換 又 は 増 減 す る こ と に よ り 決 済 を 行 う も の 」と し て
い る 。一 方「 電 子 決 済 」は 利 用 者 が 決 済 の た め の「 価 値 」の 移 転 を 第 三 者 に 対 し て
指図する場合にその指図を電子機器や通信機器を通じた電子的な方法によりおこ
な う も の と 整 理 し て い る 。こ の 定 義 に よ る と 、イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 じ た 銀 行 振 込 や 、
通 常 の ATMを 使 っ た 振 込 み 行 為 、あ る い は ク レ ジ ッ ト カ ー ド 取 引 は 後 者 の「 電 子 決
済 」と い う こ と に な る 。広 義 の 意 味 で は 電 子 決 済 も「 電 子 マ ネ ー 」の 概 念 を 含 め る
こともあるが、通常は「決済手段の電子化」について電子マネーと呼んでいる。
日銀報告書
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で は 、「 テ レ ホ ン カ ー ド 等 で 既 に 普 及 し て い る プ リ ペ イ ド カ ー ド が、
大 蔵 省 [1997]を 参 考 と し た 。
日 本 銀 行 [1999], p.5.を 参 考 と し た 。
17
① ICカ ー ド や 暗 号 技 術 の 使 用 に よ り セ キ ュ リ テ ィ が 向 上 し 、② 特 定 の 目 的 に 限 ら ず
よ り 汎 用 的 に 使 用 で き 、③ カ ー ド 上 の 電 子 的 価 値 を 現・預 金 に 元 本 で 返 還 で き る よ
う に な っ た も の と 捉 え る と 理 解 し や す い 」と し て 、電 子 マ ネ ー ス キ ー ム を 分 か り や
す く 紹 介 し て い る 。こ こ で は 、電 子 マ ネ ー の 概 念 を よ り 広 範 囲 に 定 義 し て い る 。ま
た 、三 輪 [2000]は「 電 子 マ ネ ー と 電 子 決 済 の 両 者 は 実 際 の 利 用 環 境 で は 区 別 が な く
な っ て い く 」「 1 枚 の ICカ ー ド に 乗 せ ら れ た 電 子 マ ネ ー で 支 払 う か 、 ク レ ジ ッ ト カ
ー ド あ る い は デ ビ ッ ト・カ ー ド で 支 払 う か は 、背 後 の シ ス テ ム は と も か く 当 事 者 に
と っ て さ し た る 違 い は な い 」と し て 、利 用 者 の 立 場 か ら す る と 、電 子 マ ネ ー と 電 子
決済は大きな違いはなく、区別する意義は小さいと示唆している。
ま た 、 三 輪 [2000]は 、 電 子 マ ネ ー の 分 類 に つ い て 、「 決 済 手 段 の 電 子 化 」 と 「 決
済 方 法 の 電 子 化 」 と い う 切 り 口 以 外 に 、「 ICカ ー ド 上 に 電 子 的 価 値 を 保 管 す る 製 品
( = ICカ ー ド 型 ) と ネ ッ ト ワ ー ク 型
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と呼ばれる製品に分けることができる」と
し 、こ の 両 方 を 電 子 マ ネ ー と し て 位 置 付 け て い る 。ま た 、オ ー プ ン ル ー プ 型 と ク ロ
ーズドループ型という区別
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を取り上げて、現在普及している電子マネーのほと
ん ど が 、ク ロ ー ズ ド ル ー プ 型 で あ る こ と を 指 摘 し て い る 。し か し な が ら 、ク レ ジ ッ
トカード業界を中心にポイントの発行や相互交換サービスをおこなっている事例
が 多 く 見 ら れ る よ う に な り 、そ の ポ イ ン ト が 最 終 的 に「 Suica」や「 Edy」の バ リ ュ
ー と な っ て 、決 済 手 段 に 用 い ら れ る こ と を 考 え る と 、電 子 マ ネ ー 業 界 に お い て 、部
分的ではあるがオープンループ化が進行していると捉えることも可能である。
例 え ば 、 日 本 航 空 が 発 行 す る JAL カ ー ド を 使 っ て 買 い 物 を す る と ポ イ ン ト が 付
与 さ れ る 。 こ の ポ イ ン ト は JAL カ ー ド に よ っ て 発 行 さ れ た バ リ ュ ー で あ る が 、 こ
の ポ イ ン ト を「 Suica」の バ リ ュ ー に 置 き か え 、
「 Suica」の 加 盟 店 で 買 い 物 を す る こ
と が で き る 。利 用 者 の 立 場 か ら す る と 、JAL カ ー ド に よ っ て 発 行 さ れ た 決 済 手 段 を
現 金 化 す る プ ロ セ ス な し に 「 Suica」 の バ リ ュ ー と し て 行 使 し た こ と に な り 、 オ ー
プンループ型電子マネーの特性を部分的に持ち合わせているということができる
だろう。
本 稿 で 用 い る「 電 子 マ ネ ー 」の 概 念 に つ い て は 、広 義 の 概 念 で 捉 え る こ と と した
い 。鉄 道 事 業 者 の 新 規 事 業 参 入 に つ い て 、利 用 者 に 焦 点 を あ て て 議 論 す る た め 、で
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電子的価値をパソコンのソフトウェア上に保存し、これをネットワーク経由で送信するこ
とにより決済をおこなうもの。
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三 輪 [2000]に よ る と 、
「 財・サ ー ビ ス と 交 換 で 受 け 取 っ た 電 子 的 価 値 を 現・預 金 化 し な く て
も他の主体との決済にそのまま使用できるものと、転々流通性がなく受け取った価値を必ず
現・預金化しなければならないもの」があり、前者をオープンループ型、後者をクローズドル
ープ型と定義している。
18
き る だ け 利 用 者 の 側 面 か ら 定 義 づ け を お こ な う 必 要 が あ る と 考 え る た め で あ る 。そ
の 意 味 で 、三 輪 [2000]が 指 摘 す る と お り 、利 用 シ ー ン で は ほ と ん ど「 Edy」や「 Suica」
と 差 が な い「 PiTaPa」を 電 子 マ ネ ー で は な い と 整 理 す る 考 え 方 は 本 稿 に は ふ さ わ し
く な く 、電 子 マ ネ ー の 概 念 に 含 ま れ る と の 前 提 で 議 論 を す す め る 。す な わ ち 、本 稿
で は 、「 オ ー プ ン ル ー プ 型 で あ る か ク ロ ー ズ ド ル ー プ 型 で あ る か に 関 わ ら ず 、 決 済
手 段 及 び 決 済 方 法 を 電 子 化 し た ツ ー ル 全 般 」 を 電 子 マ ネ ー と 定 義 す る 。 な お IC カ
ー ド 型 か ネ ッ ト ワ ー ク 型 か に 関 わ ら ず 、電 子 マ ネ ー と 考 え る が 、本 稿 で 扱 う の は ほ
と ん ど が IC カ ー ド 型 で あ る 。
第4章
第1節
第2項
ICカードの特徴
ICカ ー ド は 、大 記 憶 容 量 、演 算 機 能 、認 証 機 能 を 備 え て お り 、JR東 日 本 が 発 行 す
る 「 Suica」 等 の 乗 車 券 利 用 の ほ か 、 住 民 基 本 台 帳 カ ー ド な ど の ID活 用 、 電 子 マ ネ
ー 「 Edy」 な ど の 決 済 利 用 、 医 療 ・ 保 険 の 個 人 情 報 を 記 録 す る 医 療 利 用 な ど 、幅 広
い 用 途 で 活 用 さ れ て い る 。鉄 道 事 業 者 の IC乗 車 券 は 、利 用 者 に と っ て 、き っ ぷ 購 入
やチャージの手間、財布から出す手間、精算の手間等が無くなる点
19
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、発行者に
と っ て 自 動 改 札 機 の 保 守 コ ス ト や 乗 越 し 精 算 コ ス ト の 削 減 効 果 が 大 き い 点 な ど 、利
用 者 、発 行 者 と も メ リ ッ ト が あ る こ と か ら 、海 外 は も と よ り 日 本 国 内 で も 急 速 に 普
及している。
日 本 国 内 の IC 乗 車 券 は 、 鉄 道 事 業 者 等 で 構 成 す る 日 本 鉄 道 サ イ バ ネ テ ィ ク ス 協
議 会 ( Congress Japan Railway Cybernetics) の 「 自 動 改 札 シ ス テ ム に 用 い る IC カ ー
ド 乗 車 券 規 格 」 に 準 拠 し て い る 。 サ イ バ ネ 規 格 と は 、 鉄 道 業 界 に お い て IC カ ー ド
の 普 及 ・ 促 進 を 図 る た め 、 自 動 改 札 シ ス テ ム に 用 い る 「 非 接 触 近 接 型 IC カ ー ド 乗
車 券 規 格 」 と し て 定 め ら れ た 業 界 任 意 の 規 格 で あ り 、 IC カ ー ド の 形 状 、 材 質 、 耐
久 性 等 の 物 理 特 性 や 定 期 券 面 の 印 字 内 容 を 変 更 す る 印 刷 方 法( リ ラ イ ト 印 刷 )と い
っ た 媒 体 規 格 と 、電 波 イ ン タ ー フ ェ イ ス や 論 理 プ ロ ト コ ル と い っ た イ ン タ ー フ ェ イ
ス規格を規定している。
こ の サ イ バ ネ 規 格 に 準 拠 す る 代 表 的 な 非 接 触 ICカ ー ド が「 FeliCa」で あ り 、鉄 道
分 野 だ け で な く 、一 部 の バ ス 事 業 者 の IC乗 車 券 に も 採 用 さ れ て い る 。JR東 日 本 な ど
「 Suica」 を 発 行 し て い る 3 事 業 者 と JR西 日 本 が す で に 相 互 利 用 し て い る ほ か 、 関
東 で 磁 気 ス ト ラ イ プ の 共 通 カ ー ド 「 パ ス ネ ッ ト 」 を 発 行 す る 鉄 道 ・ 地 下 鉄 23 事 業
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IC乗 車 券 の 全 て が こ れ ら の 要 件 を 満 た す わ け で は な い 。 ま た ICカ ー ド だ け が こ れ ら の 要 件
を 満 た す と い う も の で も な い 。 PiTaPaは ポ ス ト ペ イ 方 式 を 採 用 し て い る た め 、 チ ャ ー ジ は 不 要
であるが、チャージが必要な鉄道事業者も多数ある。また精算の手間が省けることは、磁気式
の SFカ ー ド で も 可 能 で あ り 、 そ の よ う な サ ー ビ ス も 提 供 さ れ て い る 。
19
者 、 同 じ く 磁 気 方 式 の 「 バ ス 共 通 カ ー ド 」 を 利 用 す る 路 線 バ ス 27 事 業 者 が 、 平 成
18 年 か ら ICカ ー ド 乗 車 券 の 仕 様 を「 FeliCa」で 共 通 化 す る こ と を 決 定 し て お り 、デ
ファクトスタンダードになる可能性が高い
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。
ま た 「 FeliCa」 は カ ー ド 発 行 者 が IC チ ッ プ の 余 っ た メ モ リ エ リ ア を 提 携 事 業 者
に 貸 し 出 す こ と が で き る 貸 与 領 域( パ ブ リ ッ ク エ リ ア )を も っ て お り 、自 社 内 利 用
と し て 複 数 の デ ー タ が 格 納 で き る ほ か 、こ の 領 域 を 他 の 事 業 者 に 貸 与 す る こ と に よ
り IC カ ー ド ホ ル ダ ー に 対 し て 複 数 の 事 業 者 に ま た が っ た 多 機 能 サ ー ビ ス を 提 供 す
る こ と が 可 能 と な る 。 JR 東 日 本 を 始 め 、「 FeliCa」 を 採 用 し て い る 鉄 道 事 業 者 は こ
の 貸 与 領 域 を 有 効 に 活 用 し IC カ ー ド の 価 値 を 高 め る こ と が 大 き な 戦 略 上 の 課 題 と
なっている。
第4章
第2節
事例研究:東日本旅客鉄道株式会社
第4章
第2節
第1項
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「 Suica」 の 導 入 の 経 緯
JR 東 日 本 は 鉄 道 事 業 を 基 幹 と し 、 「信 頼 さ れ る 生 活 サ ー ビ ス 創 造 グ ル ー プ 」を め
ざ し て い る 。 同 社 の 鉄 道 ネ ッ ト ワ ー ク は 、 関 東 ・ 甲 信 越 ・ 東 北 に ま た が る 1 都 16
県 と い う 広 大 な エ リ ア に 及 び 、都 市 間 輸 送 の 充 実 及 び 沿 線 地 域 の 活 性 化 に 大 き く 貢
献 し て い る 。ま た 同 社 は 小 売 や 飲 食 な ど の 駅 ス ペ ー ス の 活 用 、シ ョ ッ ピ ン グ セ ン タ
ー 、オ フ ィ ス 、ホ テ ル 、不 動 産 な ど 、豊 富 な 経 営 資 源 を 活 用 し て 約 1,700 の 駅 を 中
心に高付加価値のサービスを提供している。鉄道事業と相乗効果を発揮しながら、
顧 客 に 快 適 性 と 利 便 性 を 提 供 し て い る と い え よ う 。 そ の JR 東 日 本 が 首 都 圏 の 駅 で
IC 乗 車 券「 Suica」の 発 売 を 開 始 し た の が 2001 年 11 月 18 日 で あ り 、そ れ と 同 時 に 、
東 京 、千 葉 、埼 玉 、神 奈 川 、茨 城 な ど 8 県 下 の 26 路 線 424 駅 で「 Suica」に よ る サ
ービスを開始した。まずは導入に至るまでの経緯について、以下に述べる。
JR東 日 本 で は 、 国 鉄 が 分 割 民 営 化 し た 87 年 ご ろ か ら 財 団 法 人 鉄 道 総 合 技 術 研 究
所
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で ICカ ー ド の 研 究 を 始 め て い た 。 同 社 が ICカ ー ド の 開 発 に 着 手 し た の は 、 磁
気 方 式 の カ ー ド に 比 べ て 多 く の メ リ ッ ト が あ る と 考 え た 為 で あ る 。「 お 客 様 に と っ
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金 融 情 報 シ ス テ ム セ ン タ ー [2004], pp.84-85.を 参 考 に し た 。
東日本旅客鉄道株式会社の事例は、同社のプレス資料、アニュアルレポート、決算短信、
広報誌、雑誌記事、新聞記事、大学への寄付講座講演録、並びに一般書籍をもとに作成してい
る。
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日 本 国 有 鉄 道 の 分 割 ・ 民 営 化 に 先 立 ち 1986 年 12 月 10 日 に 運 輸 大 臣 ( 現 国 土 交 通 省 大 臣 )
の 許 可 を 得 て 発 足 、 1987 年 4 月 1 日 に JR各 社 の 発 足 と 同 時 に 国 鉄 が 行 っ て い た 研 究 開 発 を 継
承する法人として本格的な事業活動を開始した。車両、土木、電気、情報、材料、環境、人間
科学など鉄道技術に関する基礎から応用までのあらゆる分野を研究領域としている。
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て も 、 JR側 に と っ て も メ リ ッ ト が あ る の は 、『 カ ー ド が き っ ぷ に な る 』 こ と だ と 考
え ま し た 。ICカ ー ド な ら そ れ が 可 能 で す し 、電 子 マ ネ ー 的 な 使 い 方 も で き る カ ー ド
に な れ ば と 思 い 、 開 発 を ス タ ー ト さ せ ま し た 。」 JR貨 物 取 締 役 で 、 当 時 鉄 道 総 研 情
報システム研究室・主任研究員だった三木彬生はこう語っている
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。
IC カ ー ド 技 術 の 鉄 道 へ の 応 用 は 、 研 究 開 発 を ス タ ー ト し て 10 年 後 の 97 年 に 実
用 化 の レ ベ ル に 達 し た 。JR 東 日 本 で は 90 年 か ら 磁 気 の 自 動 改 札 機 を 導 入 し て お り 、
その時点では、初期の自動改札設備は相当償却が進んでいた。自動改札機は概ね
10 年 で 老 朽 取 替 え が 必 要 と な る の で 、 次 期 シ ス テ ム を 磁 気 式 の ま ま い く の か 、 IC
カードにするのか判断を迫られたちょうどそのころに実用化の目途が立ったとい
うことになる。
後でも触れるが、
「 Suica」の 実 用 化 に 向 け た 実 証 実 験 は 3 回 に わ た っ て 行 わ れ て
い る 。第 3 次 フ ィ ー ル ド 試 験 は 1997 年 4 月 か ら 始 ま る が 、1998 年 の 3 月 、コ ス ト
面・サ ー ビ ス 面・拡 張 性・安 全 性・最 新 技 術 の 動 向 な ど 、総 合 的 な 経 営 判 断 の 結 果 、
次 期 自 動 改 札 シ ス テ ム は ICカ ー ド を 投 入 す る こ と が 決 定 さ れ 、 2000 年 の サ ー ビ ス
開始を目指した準備が具体的に動き出した
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。
そ も そ も 、 IC カ ー ド の 自 動 改 札 シ ス テ ム の 前 身 で あ る 磁 気 式 の 自 動 改 札 シ ス テ
ム の 導 入 の 背 景 は い か な る も の で あ っ た だ ろ う か 。 日 本 で の 自 動 改 札 機 は 、 1967
年 に 阪 急 電 鉄 が 北 千 里 駅 に 導 入 し た の が 始 ま り だ が 、 関 東 で は 導 入 が 遅 れ 、 1990
年 に 入 っ て か ら で あ っ た 。東 京 駅 と 駒 込 駅 を 皮 切 り に 首 都 圏 で の 導 入 を 始 め 、現 在
首 都 圏 で は 、全 て の 駅 を 自 動 改 札 化 し て い る が 、自 動 改 札 機 の 導 入 に よ っ て 、さ ま
ざ ま な メ リ ッ ト が も た ら さ れ た 。一 点 目 は 改 札 業 務 に 携 わ る 人 員 を 減 ら し 人 件 費 の
削 減 が 可 能 に な っ た こ と 、二 点 目 は 肉 眼 に 頼 っ て い た キ セ ル の 摘 発 や 不 正 乗 車 を 機
械 で チ ェ ッ ク で き る よ う に な り 、首 都 圏 で 年 間 150 億 円 と い わ れ た 不 正 乗 車 を 防 止
し 運 賃 収 入 面 で の 損 失 を 減 ら し た こ と 、三 点 目 は 自 動 化 に よ っ て 、短 い 時 間 に よ り
多くの乗客が入出場でき大量迅速輸送の要請に応えることが可能となったことが
挙げられる。
ストアードフェアシステム
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を導入することができたのも、大きなメリットの
一 つ で あ る 。こ れ は 、磁 気 式 の プ リ ペ イ ド カ ー ド で 、事 前 に き っ ぷ を 購 入 し な く と
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岩 田 [2005]よ り 引 用 し た 。
高 井 [2003]を 参 照 し た 。
プ リ ペ イ ド カ ー ド ( prepayment card= 代 金 前 払 い カ ー ド ) を 自 動 改 集 札 機 に 入 れ る と 乗 車
駅情報が記録され,取り出し口から受け取って乗車する。降車してから同様に自動改集札機に
入れると乗車区間の運賃をカードの磁気情報から差し引いて戻すシステムを指す。社団法人日
本 民 営 鉄 道 境 界 ホ ー ム ペ ー ジ ( http://www.mintetsu.or.jp/dictionary/sa/082.html) よ り 引 用 し た 。
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も 、改 札 機 に 直 接 カ ー ド を 投 入 す る こ と で 自 動 的 に 運 賃 が 引 き 落 と し さ れ る と い う
も の で あ る 。 JR東 日 本 で は 、「 イ オ カ ー ド 」 と い う 名 前 で リ リ ー ス さ れ た 。 そ れ ま
で の「 オ レ ン ジ カ ー ド 」は 、同 じ プ リ ペ イ ド カ ー ド と は い っ て も 、券 売 機 で 切 符 を
購 入 す る こ と が で き る が 、そ れ 自 体 は き っ ぷ に は な ら ず 単 な る 商 品 券 と 同 じ よ う な
位置付けでしかなかった。
こ こ で あ え て 、磁 気 式 の 自 動 改 札 シ ス テ ム に つ い て 言 及 し た の は 、磁 気 式 の 定 期
券 や 磁 気 式 の プ リ ペ イ ド カ ー ド が 利 用 者 に 普 及 し て い た と い う 事 実 が 、 IC カ ー ド
を 普 及 さ せ る 上 で 大 き な 意 味 を 持 っ て い た と 考 え ら れ る か ら で あ る 。も し「 Suica」
を リ リ ー ス す る 以 前 に 、 JR 東 日 本 の 利 用 者 が プ リ ペ イ ド カ ー ド を 所 持 し た こ と も
な く 、 ま た 利 用 し た 経 験 も な け れ ば 、 IC カ ー ド の プ リ ペ イ ド カ ー ド (「 Suica イ オ
カ ー ド 」) の 普 及 は な か っ た と 考 え ら れ る し 、 ま た 、「 Suica イ オ カ ー ド 」 の 普 及 が
な け れ ば 、 シ ョ ッ ピ ン グ が 可 能 な 電 子 マ ネ ー と し て の 「 Suica」 の 普 及 も な か っ た
と考えられる。
さ て 、こ の 磁 気 式 の 自 動 改 札 の シ ス テ ム に 代 わ っ て 導 入 さ れ た の が 、ICカ ー ド 出
改 札 シ ス テ ム で あ る 。 こ の 「 Suica」 の シ ス テ ム は 当 時 、 約 460 億 円 か か る と 試 算
さ れ て お り 、一 方 で 磁 気 式 の 出 改 札 シ ス テ ム の ま ま 設 備 更 新 を 行 な っ て い た と す る
と 330 億 円 の コ ス ト が か か る と 試 算 さ れ て い た 。つ ま り ICカ ー ド 化 す る こ と に よ る
追 加 的 な 投 資 額 が 130 億 円 と い う 試 算 結 果 で あ り 、こ の 130 億 円 の 設 備 投 資 に 対 応
するメリットがどれだけあるのかが論点となったとされている
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。
最 終 的 に は 130 億 円 の 追 加 投 資 を 行 な っ て も 、 IC カ ー ド を 導 入 す る 価 値 が あ る
と の 判 断 が な さ れ た 訳 だ が 、そ の よ う な 判 断 が な さ れ た 背 景 と し て 以 下 の 点 を 挙 げ
る こ と が で き る 。 一 点 目 は 駅 業 務 自 体 を ス リ ム 化 で あ る 。 磁 気 式 が IC に 変 わ っ た
だ け で は ス リ ム 化 に つ な が ら な い が 、ク レ ジ ッ ト カ ー ド 等 と 一 体 化 さ せ 、現 金 に よ
る チ ャ ー ジ を 減 ら せ ば 入 金 機 等 の 削 減 に つ な が る 。二 点 目 は 、コ ス ト ダ ウ ン で あ る 。
機 械 設 備 の 摩 耗 の 減 少 に よ る メ ン テ ナ ン ス コ ス ト の 削 減 、あ る い は 磁 気 の き っ ぷ の
減 少 な ど に よ っ て 資 材 調 達 コ ス ト を 削 減 す る こ と が で き る 。ま た 三 点 目 は 利 用 者 に
と っ て の 利 便 性 の 向 上 で あ る 。駅 で き っ ぷ を 買 わ な く て も 済 む と い う 点 は 磁 気 式 の
プ リ ペ イ ド カ ー ド で も 実 現 さ れ て い た が 、パ ス ケ ー ス か ら カ ー ド を 取 り 出 さ な く と
も 利 用 で き る こ と で 、サ ー ビ ス ア ッ プ に 貢 献 で き る 。さ ら に 磁 気 カ ー ド と 比 較 し て
セ キ ュ リ テ ィ が 向 上 す る 点 、 そ し て IC カ ー ド を 利 用 者 に 持 っ て も ら う こ と に よ っ
て 、ビ ジ ネ ス チ ャ ン ス が 大 幅 に 増 え る 点 、こ う い っ た 点 が 評 価 さ れ 実 用 化 に む け て
の開発が行われていった。
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高 井 [2003]を 参 照 し た 。
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第4章
第2節
第2項
「 FeliCa」 の 採 用
「 Suica」は ソ ニ ー の「 FeliCa」を 採 用 し て い る 。既 に 述 べ た 内 容 と 若 干 重 複 す る
か も し れ な い が 、「 FeliCa」 が 採 用 さ れ た 背 景 に つ い て 述 べ る 。 あ わ せ て 「 FeliCa」
が 交 通 IC カ ー ド と し て 普 及 し た 経 緯 に つ い て も 言 及 す る 。
「 FeliCa」 導 入 の 経 緯 を た ど っ て い く と 、 鉄 道 総 研 で IC カ ー ド に よ る 定 期 券 の
開 発 が 行 な わ れ て い る 時 ま で 遡 る 。 ソ ニ ー の IC タ グ 開 発 ス タ ッ フ が 新 聞 記 事 で 鉄
道 総 研 の IC を 用 い た 出 改 札 シ ス テ ム の 開 発 に つ い て 知 り 、「 定 期 券 に 使 う な ら IC
タ グ が 向 い て い る か も し れ な い 」と 考 え た と い う 。そ し て 、当 時 ソ ニ ー の 名 誉 会 長
で あ り 、 鉄 道 総 研 の 理 事 長 で も あ っ た 井 深 大 を 介 し て 、 開 発 中 の IC 読 み 取 り 装 置
を 鉄 道 総 研 に み せ る こ と と な っ た 。 鉄 道 総 研 側 は 、 ソ ニ ー が 開 発 中 の IC タ グ 読 取
装 置 に 関 心 を 示 し 、共 同 開 発 を 申 し 出 た と い う 。ソ ニ ー の「 FeliCa」は 、も と も と
IC タ グ か ら 出 発 し た が 、紆 余 曲 折 を 経 て 現 在 で は 非 接 触 型 IC チ ッ プ の 代 表 格 と な
っ た 。 交 通 IC カ ー ド の デ フ ァ ク ト タ ン ダ ー ド と し て 定 着 し つ つ あ る が 、 そ の き っ
か け と な っ た の は 香 港 の 地 下 鉄 に つ か わ れ る IC カ ー ド「 八 達 通( オ ク ト パ ス )」に
採 用 さ れ た こ と だ っ た 。 97 年 に 本 格 的 な サ ー ビ ス 開 始 と な っ た オ ク ト パ ス は 、 カ
ー ド を 財 布 や バ ッ グ に い れ た ま ま 、改 札 に か ざ す だ け で 通 れ る ス ピ ー デ ィ ー さ 、交
通 利 用 だ け で な く シ ョ ッ ピ ン グ に も 使 え る 利 便 性 な ど が 強 く 支 持 さ れ 、急 速 な 普 及
を 見 せ た 。国 際 標 準 化 機 構 ( ISO) の 認 証 こ そ 受 け て い な い も の の 、 交 通 カ ー ド と
してのデファクトスタンダードの座にあるといってよい。
非 接 触 型 の IC カ ー ド は 決 し て 「 FeliCa」 だ け で は な い 。「 FeliCa」 以 外 に も 「 タ
イ プ A 」 と 「 タ イ プ B 」 と い う ISO の 認 証 を 受 け て い る 二 つ の 規 格 が 存 在 し て お
り 、「 タ イ プ B 」 は 、 日 本 で も NTT コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ズ に よ り 2003 年 8 月 か ら
配 布 が 始 ま っ た 住 民 票 基 本 台 帳 カ ー ド に 採 用 さ れ て い る 。し か し「 八 達 通( オ ク ト
パ ス )」や「 Suica」、そ の 他 の 交 通 系 IC カ ー ド に 広 く 採 用 さ れ て い る「 FeliCa」は 、
そ の 普 及 度 に お い て 、「 タ イ プ A 」「 タ イ プ B 」 を は る か に 凌 い で い る 。
「 FeliCa」の 優 れ た 特 徴 と し て 以 下 の 3 点 を 挙 げ る こ と が で き る 。一 つ は 処 理 ス
ピ ー ド の 速 さ で あ る が 、 鉄 道 乗 車 券 と し て の 「 Suica」 に 求 め ら れ た 最 も 基 本 的 な
要 件 が こ の 「 速 さ 」 で あ る 。 駅 の 混 雑 緩 和 が IC カ ー ド を 導 入 す る 主 要 因 の 一 つ で
あるので、読み取りや処理速度が長くなったのでは、導入の意味をなさない。
「 FeliCa」 の 通 信 速 度 は 毎 秒 212 キ ロ ビ ッ ト で あ り 「 タ イ プ A 」「 タ イ プ B 」 と 比
較 し て 、 約 2 倍 の 通 信 速 度 を 実 現 し 「 Suica」 の 開 発 で 最 も 苦 労 し た 「 駅 務 機 器 と
カードとの間での安定した通信」の実現に大いに貢献している。
特徴の二点目は高度なセキュリティが確保されている点である。カードとリー
ダ・ラ イ タ ー と の 間 の 通 信 、リ ー ダ・ラ イ タ ー と 駅 務 機 器 に 埋 め 込 ま れ て い る コ ン
ト ロ ー ラ ー と の 間 の 通 信 は 全 て 暗 号 化 処 理 が な さ れ て い る 。さ ら に デ ー タ を 相 互 認
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証 す る 都 度 、暗 号 鍵 を 変 更 す る な ど 、安 全 対 策 が 何 重 に も 施 さ れ 、磁 気 カ ー ド と は
安 全 性 に お い て 数 段 の 差 が あ る 。こ の よ う に 高 い 安 全 性 が 確 保 さ れ て い る か ら こ そ
「 FeliCa」は 交 通 カ ー ド の み な ら ず 、少 額 決 済 の 電 子 マ ネ ー 、社 員 証 、ビ ル 等 の 入
館 証 と い っ た 、高 い セ キ ュ リ テ ィ が 前 提 と な る 分 野 で も 採 用 が 進 み 、ま た 一 枚 の カ
ードで、それら複数の用途を同時に提供することも可能となっている。
三 点 目 の 特 徴 は 二 点 目 と 深 く 関 わ り が あ る が 、マ ル チ ア プ リ ケ ー シ ョ ン 機 能 を搭
載 し て い る 点 で あ る 。 マ ル チ ア プ リ ケ ー シ ョ ン と は 1 枚 の IC チ ッ プ で 複 数 の 情 報
処理機能を持つことを意味し、今後の可能性を考えれば最も重要な要件と言える。
IC 乗 車 券 や 買 い 物 な ど に も 使 用 で き る 電 子 マ ネ ー の 特 性 、 つ ま り 「 汎 用 性 」 と 、
社 員 証 の よ う に 一 定 の 人 だ け が 使 え る「 個 別 性 」を 同 時 に 提 供 で き る の は 、こ の マ
ル チ ア プ リ ケ ー シ ョ ン 機 能 に よ る と こ ろ が 大 き い 。こ れ ら 3 点 が「 FeliCa」の 強 み
で あ り 、 JR 東 日 本 が 「 Suica」 に 「 FeliCa」 を 採 用 し た 理 由 で も あ る 。
第4章
第2節
第3項
鉄 道 乗 車 券 と し て の 「 Suica」
鉄 道 の 乗 車 券 と し て の 「 Suica」 の 仕 組 み は ど の よ う な も の だ ろ う か 。 本 節 第 1
項 に お い て 、開 発 過 程 で 3 回 の フ ィ ー ル ド 実 験 を 行 な っ た 点 に つ い て 触 れ た が 、中
で も 改 札 口 の 入 出 場 の 処 理 が 最 も 苦 労 し た 点 で あ り 、そ の 解 決 が ま さ に 実 用 化 に 向
け た 取 り 組 み の 大 き な 部 分 を 占 め て い た 。従 来 の 磁 気 式 の 自 動 改 札 機 で は 入 出 場 の
際 、カ ー ド が 改 札 機 に 投 入 さ れ た 後 、一 度 デ ー タ を 読 み 込 ん で 判 定 し 、デ ー タ を 書
き 込 ん で 最 後 に チ ェ ッ ク す る と い う 処 理 を 0.7 秒 で 行 っ て い る 。IC カ ー ド で は 改 札
処 理 に 必 要 な 電 波 が 飛 ん で い る 通 信 範 囲 が わ ず か 半 径 10 セ ン チ の エ リ ア で あ り 、
こ の エ リ ア に IC カ ー ド を か ざ し て い る 間 に 、 存 在 確 認 ・ 認 証 ・ 読 出 し ・ 判 定 ・ 書
込 み・書 込 み 確 認 と い う 一 連 の 処 理 を 行 う 。し た が っ て 通 信 速 度 を ど れ だ け 上 げ る
か、通信可能時間をいかに確保するかが大きな課題であった。
前 述 の と お り 、「 Suica」 の 開 発 、 IC カ ー ド に よ る 出 改 札 シ ス テ ム の 開 発 は 、 87
年頃から研究開発に着手し、その後 1 次、2 次、3 次というフィールド試験を行な
っている。
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図表 4
各試験における規模及び仕様
第 1 次試験
第 2 次試験
第 3 次試験
試験期間
1994/2~3
1995/4~10
1997/4~11
駅数(通路数)
8( 13)
13( 30)
12( 32)
モニター数
400
700
800
アプリケーション
定期券
ユーザーメモリ
512bytes
1024bytes
1200bytes
周波数
2.4GHz
32MHz
13.56MHz
通信速度
70kbps
250kbps
電源供給
内臓バッテリー
定 期 券 + SF
250kbps
バッテリーレス
( 出 所 ) 高 井 [2003]を も と に 筆 者 作 成 。
図 表 4 は 1 次 か ら 3 次 の 試 験 の 仕 様 等 を 示 し た も の で あ る 。1 次 の 試 験 で は 、通
信 速 度 を 70 キ ロ ビ ッ ト /秒 で お こ な っ た が 、こ れ は 実 用 に 供 す る 速 度 と し て は 遅 す
ぎ た 。こ れ を 踏 ま え 2 次 試 験 で は 、一 気 に 250 キ ロ ビ ッ ト の 速 度 ま で あ げ た 。し か
し 通 信 速 度 自 体 は 高 い レ ベ ル に 達 し て い る に も か か わ ら ず 、通 信 時 間 が 確 保 で き ず 、
通 過 阻 害 率 が 磁 気 カ ー ド の 4 倍 に 達 し た 。開 発 チ ー ム と し て は 、1 次 試 験 で の 不 具
合を改修し、万全に近い自信をもって望んでいただけに、予想外の結果であった。
開 発 チ ー ム は「 カ ー ド の 使 い 方 に 慣 れ れ ば 、安 定 性 が 高 ま り 信 頼 度 も 向 上 す る 」と
主 張 を し て い た が 「 全 然 使 い 物 に な ら な い 」「 カ ー ド が ま と も に 反 応 し な い こ と が
多 す ぎ る 」「 不 特 定 多 数 が 利 用 す る 改 札 口 で 、 電 車 に 乗 る の に 特 別 な 訓 練 が 必 要 な
カ ー ド で は ど う し よ う も な い 」と の 批 判 の 前 で は 、そ れ 以 上 の 反 論 は 意 味 を な さ な
かったという
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。通過阻害率、つまり有効な乗車券をかざしているにも関わらず
改 札 が し ま っ て し ま う 割 合 が 、磁 気 カ ー ド の 4 倍 に も 達 し て し ま っ て は 、実 用 化 に
は 程 遠 い 。 そ こ で 考 え ら れ た の が 、「 か ざ す の で は な く 触 れ る 」 と い う ア イ デ ア で
あ っ た ( 図 表 5 参 照 )。
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高 井 [2003]を 参 照 し た 。
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図表 1
「タッチ&ゴー」イメージ図
( 出 所 ) JR 東 日 本 HP「 Suica 誕 生 ま で の 軌 跡 」 よ り 引 用 。
「 タ ッ チ & ゴ ー 」と は「 Suica」の 利 用 者 に 対 し て 、利 用 方 法 を 説 明 す る た め の 、
い わ ば キ ャ ッ チ フ レ ー ズ の よ う な も の で あ る 。こ れ は 、
「 Suica」自 体 は 非 接 触 型 の
カ ー ド で あ る が 、あ え て タ ッ チ し て も ら お う と い う 作 戦 で あ る 。2 回 目 の 実 証 実 験
の 際 に 、モ ニ タ ー 利 用 者 が 改 札 口 を 通 過 す る 際 の 様 子 を ビ デ オ カ メ ラ に 収 め て 観 察
し て い た が 、通 過 す る 際 の か ざ し 方 を 見 る と 、通 信 範 囲 の 上 の ほ う を ス ッ と か ざ す
人 、改 札 機 上 面 に 沿 っ て 這 う よ う に か ざ す 人 な ど 、か ざ し 方 に ば ら つ き が あ る こ と
が 分 か っ た 。こ れ で は 通 信 可 能 範 囲 内 に か ざ す 時 間 が 一 定 し な い と い う こ と で 、本
来 触 れ る 必 要 が な い け れ ど も 、 軽 く タ ッ チ す る よ う な 形 、「 タ ッ チ & ゴ ー 」 い わ ゆ
る V 字 型 の 処 理 が 考 案 さ れ た 。併 せ て 、リ ー ダ・ラ イ タ ー を 手 前 に 15 度 傾 斜 さ せ 、
触 れ て ほ し い 部 分 を 分 か り や す く 図 示 し 、 そ の 部 分 を LED の ラ イ ト で 明 示 す る と
い う 工 夫 を 加 え た 。そ う す る こ と に よ っ て 、浅 く 入 っ て 深 く 出 る 場 合 と 深 く 入 っ て
浅 く 出 る 場 合 の 、通 信 範 囲 内 で か ざ し て い る 時 間 が ほ と ん ど 一 定 に な り 、結 果 的 に
安 定 し た 処 理 が で き る こ と に な っ た 。 こ の 「 触 れ る 」 と い う 考 え 方 は 、 JR 東 日 本
の「 Suica」だ け で な く 、同 じ く「 FeliCa」を 使 っ て い る 交 通 事 業 者 の 共 通 の 考 え と
して定着している。
さて、
「 Suica」と デ ー タ の や り 取 り を 行 な っ た 後 、改 札 機 の 入 り 口 に 設 置 さ れ た
読 み 取 り 機 が カ ー ド に 書 き 込 ま れ た 情 報 を 読 み 取 り 、そ れ を 記 録 す る 。各 駅 務 機 器
は LAN で 結 ば れ て お り 、 そ れ ら の 情 報 は 駅 サ ー バ ー に 集 め ら れ た 後 で 、 毎 日 定 期
的 に セ ン タ ー サ ー バ ー へ 送 ら れ 保 管 さ れ る 。1 日 約 400 万 件 を 超 え る ト ラ ン ザ ク シ
ョ ン が あ り 、昼 間 に セ ン タ ー サ ー バ ー に 送 ら れ て き た 情 報 は 、夜 間 に バ ッ チ 処 理 さ
れ る 。 こ れ に よ り そ れ ぞ れ の 「 Suica」 の 利 用 実 績 が 整 理 さ れ る 。 駅 務 機 器 が カ ー
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ド と 情 報 交 換 を 行 な っ た 後 、情 報 の 経 路 を 確 実 に 確 保 す る ネ ッ ト ワ ー ク シ ス テ ム の
構 築 も ま た 、大 き な 課 題 と な っ て い た 。例 え ば セ ン タ ー サ ー バ ー に 直 接 デ ー タ を 送
る の で は な く 、一 度 券 売 機 や 改 札 機 な ど 個 々 の 駅 務 機 器 に デ ー タ を 蓄 積 し 、そ の 後
送 信 す る 仕 組 み と し た の は 、仮 に 通 信 が 切 断 さ れ た 場 合 で も 3 日 程 度 の デ ー タ を た
め て お く こ と が で き る の で 、そ の 間 に 復 旧 す れ ば 大 き な ト ラ ブ ル は 回 避 す る こ と が
できる為である。
「 Suica」シ ス テ ム 全 体 の 安 全 性・安 定 性 向 上 に 大 き く 貢 献 す る と
共に、過度にネットワーク負荷をかけない工夫であると言えるだろう。
こ の よ う な シ ス テ ム 開 発 を 経 て 、 2001 年 11 月 18 日 に 乗 車 券 と し て の 「 Suica」
の サ ー ビ ス を 開 始 し た 。新 し い 乗 車 券 を 導 入 す る 際 に は 事 前 に 発 売 を 開 始 す る の が
普 通 で あ る が「 Suica」導 入 の 際 に は そ れ が で き な か っ た 。な ぜ な ら ば 、
「 Suica」の
サービスを開始するに当たっては膨大な駅務機器を取り替える必要があった為で
あ る 。鉄 道 事 業 の 特 性 上 、サ ー ビ ス 提 供 を 停 止 す る こ と が 許 さ れ る 時 間 帯 は 、深 夜
か ら 早 朝 に か け て の 数 時 間 し か な い 。も し「 Suica」を 事 前 に 発 売 す る の で あ れ ば 、
駅 務 機 器 の 取 替 え を 、サ ー ビ ス 開 始 に 合 わ せ て 一 斉 に 行 わ な け れ ば な ら な い 。逆 に
それができないのであれば、
「 Suica」の 発 売 は 新 し い 駅 務 機 器 へ の 取 り 替 え が 終 了
し た 後 で な け れ ば な ら な か っ た 。結 局 JR 東 日 本 の 取 っ た 方 法 は 後 者 で あ っ た た め 、
改札機の取替えはサービス開始の 3 ヶ月前から着手することができた。しかし
「 Suica」の 事 前 発 売 は 一 切 行 な わ れ る こ と な く 、ま さ に 2001 年 11 月 18 日 ゼ ロ か
らのスタートとなった。
ゼロからのスタートだったにもかかわらず、
「 Suica」は 順 調 に 発 売 枚 数 を 伸 ばし
た 。 導 入 後 わ ず か 19 日 で 「 Suica」 の 発 行 枚 数 が 100 万 枚 を 超 え 、 2 ヵ 月 後 に は 定
期 券 120 万 枚 、
「 Suicaイ オ カ ー ド 」 28 80 万 枚 を 普 及 さ せ 、合 計 200 万 枚 と な っ た 。
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こ れ は 当 面 の 目 標 と し て 掲 げ て い た 600 万 枚 の 3 分 の 1 を 早 く も 達 成 し た こ と に
な る 。さ ら に 1 年 経 過 し た 2002 年 11 月 に は 、定 期 券 267 万 枚 、
「 Suicaイ オ カ ー ド 」
233 万 枚 の 合 計 500 万 枚 と な っ た 、そ し て 2 年 が 経 過 し た 2003 年 11 月 に は 合 計 で
750 万 枚 を 突 破 し 、2004 年 10 月 26 日 に は「 Suica定 期 」447 万 枚 、「 Suicaイ オ カ ー
ド 」 527 万 枚 、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド 「 ビ ュ ー Suica」 が 26 万 枚 と 、 つ い に 1,000 万 枚
を突破するに至った
第4章
第2節
29
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。
第4項
電 子 マ ネ ー と し て の 「 Suica」
2003 年 3 月 4 日 、JR 東 日 本 は「 Suica」が 新 幹 線 で 利 用 可 能 と な る 発 表 と 同 時 に 、
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JR東 日 本 が 従 来 か ら 普 及 さ せ て い た 磁 気 式 の プ リ ペ イ ド カ ー ド の こ と を 「 イ オ カ ー ド 」 と
呼 ん で お り 、 Suicaイ オ と は ICカ ー ド 化 し た プ リ ペ イ ド カ ー ド の こ と を 言 う 。
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発 行 枚 数 に つ い て は 、 各 時 点 に お け る プ レ ス 資 料 「 JR東 日 本 ニ ュ ー ス 」 に よ る 。
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「 Suica イ オ カ ー ド 」 の バ リ ュ ー を シ ョ ッ ピ ン グ に も 利 用 で き る よ う に す る 計 画 が
あ る こ と を 発 表 し た 。 こ れ を 期 に JR 東 日 本 が 新 た な ビ ジ ネ ス と し て 電 子 マ ネ ー 事
業に参入していくことになる。
電 子 マ ネ ー は 、 現 在 で は 「 Edy」 や 「 Suica」 等 非 接 触 IC カ ー ド が 主 流 と な っ て
い る が 、過 去 の 電 子 マ ネ ー の 全 て が そ う で は な か っ た し 、ま た そ れ が 普 及 に つ な が
らなかった理由でもある。
「 Suica」の 使 い 勝 手 の 良 さ の 一 つ に 、カ ー ド を 財 布 や パ
スケースに入れたまま自動改札機にタッチするだけで通過できる点が挙げられる
が 、こ の「 か ざ す だ け 」で 何 で も で き る と い う イ メ ー ジ が 、そ れ ま で の 電 子 マ ネ ー
との大きな違いである。
電子マネーは世界的にも数多く開発され、既に何度も実験がくり返されている。
そ の 最 初 と も い え る の が 1995 年 、 英 国 で 行 な わ れ た 「 モ ン デ ッ ク ス 」 の 実 証 実 験
で あ っ た 。こ の と き は ス ウ ィ ン ド ン と い う 小 さ な 町 に 限 定 し て 電 子 マ ネ ー の 流 通 が
試 み ら れ た 。ま た 、98 年 か ら 99 年 に は ビ ザ・イ ン タ ー ナ シ ョ ナ ル が 中 心 と な っ て
開発したビザ・キャッシュの実証実験が東京・渋谷を中心に行なわれた。さらに
1999 年 か ら 2000 年 に か け て は NTTや 銀 行 を 中 心 と す る 共 同 プ ロ ジ ェ ク ト が 、 東
京・新 宿 で ス ー パ ー キ ャ ッ シ ュ の 実 証 実 験 を 行 な っ て い る 。し か し こ れ ら の 実 証 実
験 は 、そ の ほ と ん ど が 加 盟 店 の 端 末 機 に ICカ ー ド を 差 し 込 ん で 決 済 を 行 な う 方 式 で 、
い わ ゆ る 接 触 型 ICカ ー ド に よ る も の で あ っ た 。接 触 型 ICカ ー ド の 場 合 、財 布 か ら カ
ー ド を 取 り 出 し 、端 末 機 に 差 し 込 み 、暗 証 番 号 を 打 ち 込 ん で 決 済 す る 。接 触 型 は セ
キ ュ リ テ ィ 面 で は 優 れ て い て も 、 扱 い は 面 倒 で 、 実 験 で は 年 間 利 用 件 数 10 万 件 に
満 た な い も の が ほ と ん ど だ っ た 。そ し て こ れ ら 全 て が 、開 発 の 途 中 で 頓 挫 し そ の 後
の実用化に結びつかなかった
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。
こ れ ら の 電 子 マ ネ ー の 事 業 主 体 と な っ た ク レ ジ ッ ト カ ー ド 会 社 や 銀 行 は 、JR東 日
本 と 比 較 す る と 決 済 ビ ジ ネ ス に お い て は る か に 認 知 度 が 高 く 、ブ ラ ン ド イ メ ー ジ も
勝 っ て い た は ず で あ る 。と こ ろ が 、ビ ュ ー カ ー ド
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で僅かに実績があるとはいえ、
一 般 の 消 費 者 に は カ ー ド 会 社 と し て は あ ま り 認 知 さ れ て い な い JR東 日 本 が 、電 子 マ
ネ ー 「 Suica」 に お い て モ ン デ ッ ク ス や ビ ザ ・ キ ャ ッ シ ュ 、 ス ー パ ー キ ャ ッ シ ュ を
凌 い で 普 及 が 進 ん で い る の は 、バ リ ュ ー を 蓄 積 す る「 ウ ォ レ ッ ト 」と し て の 非 接 触
型 ICカ ー ド が 乗 車 券 と し て 普 及 し て い た か ら と 考 え る の は 理 に か な っ て い る と 言
え よ う 。 多 く の 利 用 者 が 鉄 道 乗 車 券 と し て 「 Suica」 を 保 有 し て い な か っ た ら 、 電
子 マ ネ ー 事 業 に 参 入 し た と し て も 成 功 し た か ど う か は 疑 問 で あ る し 、お そ ら く 参 入
な ど 考 え ら れ な か っ た の で は な い だ ろ う か 。決 済 ビ ジ ネ ス に お け る ブ ラ ン ド 力 不 足
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い ず れ の 事 例 も 三 輪 [2000]を 参 考 と し た 。
JR東 日 本 の ハ ウ ス カ ー ド で あ り 、 1993 年 か ら 発 行 さ れ て い る 。
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を、カードホルダー数でカバーしたと考えるのがよいだろう。
単 な る 鉄 道 乗 車 券 で あ っ た 「 Suica」 に 電 子 マ ネ ー 機 能 を 追 加 し 新 た な 付 加 価 値
を も た せ る 過 程 に お い て 、ビ ュ ー カ ー ド を 運 営 し て い る カ ー ド 事 業 部 が 存 在 し 決 済
などのノウハウを持つ専門家が揃っていたことは、大きなプラスの要因であった。
カ ー ド 事 業 部 は 鉄 道 事 業 を 補 完 す る 目 的 で 92 年 に 設 立 さ れ た 部 署 で あ る が 、 自 社
の ク レ ジ ッ ト カ ー ド の 発 行 と 運 営 ・ 管 理 の ノ ウ ハ ウ は そ の ま ま 「 Suica」 の 電 子 マ
ネ ー で 必 要 な ノ ウ ハ ウ と し て 生 か さ れ る こ と に な り 、こ う し た 社 内 に 蓄 積 さ れ た ナ
レ ッ ジ 「 見 え ざ る 資 産 」 を 十 分 に 活 用 で き た 点 も 、 JR 東 日 本 に と っ て は 幸 い な こ
とであった。
「 Suica」で 本 格 的 に シ ョ ッ ピ ン グ サ ー ビ ス を 実 施 し た の は 、2004 年 3 月 22 日 で
あ り 、 こ の 時 点 で 東 京 、 神 奈 川 、 千 葉 、 埼 玉 な ど 首 都 圏 と 仙 台 で 「 Suica」 を 使 っ
た シ ョ ッ ピ ン グ が 可 能 と な っ た 。鉄 道 利 用 の プ リ ペ イ ド カ ー ド と し て の バ リ ュ ー と
電 子 マ ネ ー の バ リ ュ ー 合 わ せ て 2 万 円 ま で チ ャ ー ジ で き 、パ ス ケ ー ス や 財 布 に 入 れ
た ま ま 、端 末 に か ざ す だ け で 買 い 物 を す る こ と が で き る 。小 銭 を 出 す 手 間 、お つ り
をしまう手間はない。当初の加盟店は駅ナカ
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の 書 店 「 BOOK GARDEN」 や 飲 食
店 「 グ ッ ド タ イ ム ス 」、 お 土 産 店 「 ギ フ ト ガ ー デ ン 」 な ど 64 駅 196 店 で あ っ た が 、
8 月 ま で に は 駅 の コ ン ビ ニ エ ン ス ス ト ア 「 NEW DAYS 」 や フ ァ ー ス ト フ ー ド
「 Becker’s」や コ ー ヒ ー シ ョ ッ プ「 BECK’S」で も 使 え る よ う に な り 、2004 年 12 月
16 日 現 在 で 、 679 店 舗 ま で 増 加 し て い る 。 利 用 件 数 は 、 2004 年 3 月 の 導 入 当 初 は
一 日 あ た り 3,000 件 程 度 で あ っ た が 、 2004 年 7 月 時 点 で は 約 5 万 件 に ま で 増 加 し 、
2005 年 4 月 末 に は 10 万 件 を 達 成 し て い る 。「 Suica」 の 発 行 枚 数 は 約 1,201 万 枚 に
の ぼ り 、そ の う ち 電 子 マ ネ ー 機 能 を 搭 載 し た も の は 、685 万 枚 、利 用 可 能 店 舗 数 も
1,000 店 を 超 え て い る
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。
「 Suica」 を 利 用 し た シ ョ ッ ピ ン グ は 難 し い も の で は な い 。 ま ず は バ リ ュ ー を チ
ャ ー ジ す る と こ ろ か ら 始 ま る が 、 駅 の 「 Suica」 マ ー ク の あ る 自 動 券 売 機 あ る い は
カード発売機、乗り越し精算機にカードを入れ、現金等によりチャージを行なう。
既 に 鉄 道 利 用 目 的 で の チ ャ ー ジ の 経 験 が あ れ ば 、新 た に 覚 え な け れ ば な ら な い 操 作
は 全 く な い 。チ ャ ー ジ さ れ た バ リ ュ ー は 、電 車 の 乗 り 降 り 、シ ョ ッ ピ ン グ の ど ち ら
に も 使 う こ と が 可 能 で あ る の で 、シ ョ ッ ピ ン グ 用 、鉄 道 用 の 区 別 は 必 要 な い 。ま た
ク レ ジ ッ ト カ ー ド か ら キ ャ ッ シ ュ レ ス で チ ャ ー ジ す る こ と も 可 能 で あ る 。「 Suica」
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デパートの地下の惣菜店などを「デパ地下」とよぶのになぞらえて、駅構内で展開する店
舗 を JR東 日 本 で は 「 駅 ナ カ 」 と 呼 ん で い る 。
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利 用 件 数 ・ 発 行 枚 数 等 に つ い て は 、 各 時 点 に お け る プ レ ス 資 料 「 JR東 日 本 ニ ュ ー ス 」 に よ
る。
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に バ リ ュ ー が チ ャ ー ジ さ れ て い れ ば 、コ ン ビ ニ エ ン ス ス ト ア の レ ジ 等 で 従 業 員 の 指
示 に 従 っ て 精 算 機 に カ ー ド を タ ッ チ し 、あ る い は キ ヨ ス ク の 自 動 精 算 機 、自 動 販 売
機、コインロッカーの専用端末機にタッチすることで支払いを行なえる。
「 Suica」 シ ョ ッ ピ ン グ の 利 点 に つ い て 、 JR東 日 本 総 合 企 画 本 部 ITビ ジ ネ ス 部 次
長 、 大 場 善 幸 氏 は 次 の よ う に 語 っ て い る 。「 第 一 に 多 く の 皆 さ ん は す で に 『 Suica』
と い う カ ー ド を 持 っ て お ら れ ま す 。わ ざ わ ざ 新 し い カ ー ド を 申 し 込 む 必 要 が あ り ま
せ ん 。二 つ 目 は 通 勤 や 通 学 で 利 用 す る 駅 に 店 が あ る 。電 車 に 乗 っ た り 降 り た り す る
と き に 、目 の 前 に 店 が あ っ て 買 い 物 が で き る 。し か も 店 が 集 中 し て い る と い う 利 便
性 で す 。三 つ 目 に キ ャ ッ ス レ ス で 、小 銭 が 要 ら な い し 、お つ り を 貰 う 手 間 も あ り ま
せ ん 。 し か も カ ー ド を パ ス ケ ー ス に 入 れ た ま ま で 使 え る か ら 便 利 な の で す 。」
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こ の 大 場 氏 の 発 言 は 、電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス に お け る JR東 日 本 の 優 位 性 に つ い て 述
べ た も の と 解 釈 で き る 。大 場 氏 の 発 言 の 中 で 、一 点 目 の 指 摘 は 、顧 客 に 蓄 積 さ れ た
有 形 資 産 の メ リ ッ ト に つ い て 言 及 し た も の で あ る 。鉄 道 輸 送 を 提 供 す る プ ロ セ ス の
中で、利用者が乗車券を入手するプロセスがある
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が、電子マネービジネスの側
面 か ら 見 る と 、利 用 者 に 乗 車 券 を 渡 す と い う 行 為 に よ っ て 、電 子 マ ネ ー の「 ウ ォ レ
ッ ト 」と な る べ き 、ICカ ー ド を 保 有 さ せ て い る と 言 え る 。こ の こ と が 、電 子 マ ネ ー
ビ ジ ネ ス を 展 開 す る 上 で 極 め て 効 果 的 で あ る と 述 べ た も の と 理 解 で き る 。二 点 目 の
指 摘 は 、自 社 が 保 有 す る「 駅 」と い う 有 形 資 産 の 有 効 性 を 述 べ た も の で あ る 。従 来
の 鉄 道 事 業 者 の 多 角 化 の 実 態 を 見 て も 、「 駅 」 を 戦 略 的 な 資 産 と 位 置 付 け 、 シ ナ ジ
ー を 発 揮 さ せ る の が 典 型 的 な 手 法 で あ っ た 。電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス へ の 参 入 に 際 し て
も 、こ の 考 え 方 が 当 て は ま る こ と を 示 唆 し た も の で あ る 。三 点 目 の 指 摘 は 、非 接 触
型 の ICカ ー ド と い う ツ ー ル が 持 つ 優 位 性 に つ い て 述 べ た も の で あ る 。過 去 の 接 触 型
ICカ ー ド を 利 用 し た 電 子 マ ネ ー と 比 較 し た 場 合 の 優 位 性 に つ い て は こ の 点 を 挙 げ
ることができるだろう
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。
JR 東 日 本 に と っ て 、 加 盟 店 を 増 や す こ と は 必 ず し も 容 易 で は な か っ た が 「 駅 」
と い う 資 産 は 大 い に プ ラ ス に 作 用 し た 。電 子 マ ネ ー を 普 及 さ せ て い く プ ロ セ ス の 第
一 段 階 は 、 ま さ に 「 駅 ナ カ 」 の 店 舗 で 「 Suica」 が 使 え る よ う に す る こ と で あ っ た
と い え る 。 2005 年 1 月 に 発 表 さ れ た JR 東 日 本 の 中 期 計 画 「 ニ ュ ー フ ロ ン テ ィ ア
2008」 で は 「 駅 」 を 最 大 の 経 営 資 源 と 位 置 づ け 、「 駅 」 を さ ら に 便 利 で 魅 力 あ る も
の に か え て い く と 述 べ ら れ て い る 。ま た 、鉄 道 利 用 者 に と っ て の 駅 と し て だ け で な
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岩 田 [2005]よ り 引 用 し た 。
図表1を参照。
「 Suica」に と っ て は「 Edy」が 最 大 の 競 合 相 手 と い え る が 、
「 Edy」も「 Suica」同 様「 FeliCa」
を 採 用 し て い る た め 、 こ の 点 は 「 Edy」 に 対 す る 差 別 化 の 源 泉 と は な り 得 て い な い 。
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く 、地 域 の ラ ン ド マ ー ク と し て の 駅 、さ ら に は「 駅 ナ カ ビ ジ ネ ス 」の 活 性 化 に よ り 、
競 争 力 の 高 い 小 売・飲 食 業 態 の 確 立 も 目 指 し て い る 。冒 頭 で 鉄 道 利 用 者 が 減 少 傾 向
に あ る 点 に つ い て 述 べ た が 、 JR 東 日 本 で も 、 1992 年 度 か ら 運 輸 収 入 が 徐 々 に 減 少
し て お り 、そ の 運 輸 収 入 の 落 ち 込 み を カ バ ー す る た め 、駅 ナ カ の 開 拓 を は じ め と す
る「 生 活 サ ー ビ ス 」を 収 益 の 柱 と し て 育 て る こ と に 力 を 注 い で い る 。駅 を 高 付 加 価
値 の 商 業 ス ペ ー ス に 変 え て い く 取 り 組 み が 、そ の 最 た る も の と い っ て よ い 。そ の 意
味 で 、「 駅 ナ カ 」 の 店 舗 を 加 盟 店 と す る 取 り 組 み は 、 電 子 マ ネ ー と し て の 「 Suica」
の 魅 力 を 高 め る の に 役 立 つ と 同 時 に 、「 駅 ナ カ 」 の 価 値 向 上 に も 役 立 つ も の と 言 え
るだろう。
JR東 日 本 フ ロ ン テ ィ ア サ ー ビ ス 研 究 所 の 調 査
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によると、移動中の消費が多い
の は コ ン ビ ニ エ ン ス ス ト ア・売 店・自 動 販 売 機・喫 茶 店・ド ラ ッ グ ス ト ア な ど で あ
る 。 実 際 こ れ ら の 店 舗 は 駅 構 内 に も 多 く 立 地 し て お り 、「 鉄 道 を 利 用 し て 移 動 す る
途 中 に ち ょ っ と 寄 る 」と い う よ う な 利 用 が な さ れ て い る と い う 。従 っ て 駅 構 内 で は
省 時 間 型 店 舗 を 設 置 す る こ と が 、利 用 者 の ニ ー ズ に マ ッ チ し て い る と い う こ と が 分
かる。
「駅での滞在時間は利用者からしてみると、
『 待 ち 時 間 』で あ り 、あ ま り 望 ま
し く な い 時 間 の 過 ご し 方 で あ る 。一 方 で 、た と え 消 極 的 で あ っ て も 、あ る 程 度 以 上
の 時 間 駅 に 滞 在 す れ ば 、消 費 は 発 生 す る 。駅 と 消 費 の か か わ り を 調 査・研 究 し て い
く 中 で は 、い わ ゆ る『 消 費 の 場 』と し て の 駅 だ け で は な く『 時 間 消 費 の 場 』と し て
の 駅 と い う 視 点 も 重 要 で あ ろ う 」と 述 べ て お り 、駅 を さ ら に 便 利 で 魅 力 あ る も の に
変えていく姿勢がうかがえる。
「 Suica」を 活 用 し た 新 し い ラ イ フ ス タ イ ル の
「 ニ ュ ー フ ロ ン テ ィ ア 2008」で は 、
提 案 に つ い て 、一 つ の 大 き な 項 目 と し て 取 り 上 げ て い る 。
「 JR 東 日 本 グ ル ー プ の サ
ー ビ ス の あ り 方 に 変 化 を も た ら す だ け で な く 、お 客 様 へ の 新 し い ラ イ フ ス タ イ ル の
提 案 を 可 能 と す る 高 い ポ テ ン シ ャ ル を 持 っ て い ま す 」と 述 べ 、そ の 資 産 価 値 の 高 さ
に つ い て 自 ら 言 及 し て い る 。鉄 道 利 用 者 、あ る い は 鉄 道 非 利 用 者 を 含 む 一 般 消 費 者
が 「 Suica」 を 所 有 す る こ と に よ る 潜 在 的 な メ リ ッ ト は 大 き く 、 そ れ を 具 現 化 し て
いくことが中期経営計画の大きな課題であることを強調している。
「 Suica」ビ ジ ネ
スをグループの中核として成長・発展させるという意気込みは、顧客が保有する
JR 東 日 本 固 有 の 有 形 の 資 産( =「 Suica」)が「 駅 」と い う 企 業 内 部 に 蓄 積 さ れ て い
る 資 産 と 相 乗 効 果 を 発 揮 す る こ と に よ っ て 、大 き な 価 値 を 生 み 出 す こ と を 認 識 し て
いるからといえるだろう。
第4章
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第2節
第5項
今 後 の 「 Suica」 の 展 開 に つ い て
前 川 他 [2003]を 参 考 と し た 。
31
電 子 マ ネ ー と し て の 「 Suica」 に つ い て 、 こ れ ま で の 発 展 経 緯 等 に つ い て 述 べ て
き た が 、 今 後 の 「 Suica」 の 展 開 に つ い て は 、 利 用 シ ー ン に つ い て 多 様 な 広 が り を
見 せ る こ と が 示 唆 さ れ て い る 。「 ニ ュ ー フ ロ ン テ ィ ア 2008」 に お い て は 、「 Suica」
の 利 用 シ ー ン と し て 、駅 ナ カ だ け で は な く 、駅 の 外 、い わ ゆ る「 街 ナ カ 」で の 利 用
も 積 極 的 に 推 進 す る こ と を 述 べ て い る 。コ ン ビ ニ エ ン ス ス ト ア や レ ス ト ラ ン 、書 店
な ど の 加 盟 店 拡 大 に 積 極 的 に 取 り 組 む ほ か 、金 融 機 関 、航 空 会 社 な ど グ ル ー プ 外 と
の提携拡大を目指し
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提 携 事 業 者 間 で の ポ イ ン ト 交 換 や 「 Suica」 の 認 証 機 能 を 活
用したビル入退館管理システムの導入も進めている
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。
「 駅 の 外 」と 言 う と き 、必 ず し も シ ョ ッ ピ ン グ 利 用 の 電 子 マ ネ ー 機 能 だ け の こ と
を指しているわけではなく、広告媒体と連携したレコメンデーションツール
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と
し て の 利 用 や 入 退 館 シ ス テ ム と し て の 利 用 の 他 、も と も と の 機 能 で あ る 鉄 道 乗 車 券
と し て の 機 能 を JR東 日 本 以 外 の 鉄 道 事 業 者 に 提 供 す る こ と も 含 め て 検 討 し て い る 。
既 に JR東 日 本 以 外 で も 東 京 モ ノ レ ー ル や 東 京 臨 海 高 速 鉄 道 が 「 Suica」 の 発 行 主 体
と な っ て い る 他 、 JR西 日 本 の 発 行 す る IC乗 車 券 「 ICOCA」 と の 相 互 利 用 も 可 能 と
な っ て い る 。 ま た ㈱ ス ル ッ と KANSAIが 発 行 す る 「 PiTaPa」 と の 相 互 利 用 や 、 今 後
IC化 が 計 画 さ れ て い る 、
「パスネット」
「 バ ス 共 通 カ ー ド 」と の 相 互 利 用 に む け て の
準備も進められている
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。JR他 社 や バ ス 、私 鉄 で「 Suica」が 使 え る よ う に な れ ば、
今 は 東 日 本 に 限 定 さ れ て い る サ ー ビ ス エ リ ア も 全 国 に 広 が る 可 能 性 が あ る 。電 子 マ
ネ ー と し て の 利 用 機 会 も 東 日 本 エ リ ア だ け で な く 、全 国 規 模 で 生 ま れ る こ と に な り 、
大 き な ビ ジ ネ ス チ ャ ン ス に 結 び つ く 可 能 性 が 高 い 。ま た 、㈱ エ ヌ・テ ィ・テ ィ・ド
コモなどの携帯電話事業者とのアライアンスを通じて、
「 Suica」へ の チ ャ ー ジ 、チ
ケ ッ ト の 予 約・購 入 、オ ン ラ イ ン シ ョ ッ ピ ン グ で の 電 子 決 済 機 能 の 拡 充 な ど 、モ バ
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2005 年 4 月 末 時 点 で の 主 な 加 盟 店 チ ェ ー ン は 、コ ン ビ ニ エ ン ス ス ト ア で は 、フ ァ ミ リ ー マ
ート・スリーエフ、レストランではサンマルクカフェ、書店では丸善・三省堂などがある。そ
の他、劇団四季、大丸東京店、ビッグカメラ、新星堂、マツモトキヨシ、ドトールコーヒーシ
ョップの一部店舗でも利用可能である。またみずほ銀行や日本航空との間でカード事業におけ
る 提 携 を 発 表 し て い る 。 い ず れ も プ レ ス 資 料 「 JR東 日 本 ニ ュ ー ス 」 に よ る 。
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セ ン ト ラ ル 警 備 保 障 ㈱ と 共 同 で 、 ビ ル 入 退 館 管 理 シ ス テ ム を 商 品 化 し て い る 。 JR東 日 本 グ
ループ内で採用しているほか、ユーシーカードの一部のオフィスで採用実績がある。いずれも
プ レ ス 資 料 「 JR東 日 本 ニ ュ ー ス 」 に よ る 。
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携 帯 電 話 を 予 め 登 録 し て お き 、自 分 の 保 有 す る Suicaを ポ ス タ ー に か ざ す と 、携 帯 電 話 に そ
のポスターにかかれているショップの情報やクーポンが送信されてくるような仕組みを言う。
プ レ ス 資 料 「 JR東 日 本 ニ ュ ー ス 」( 2005 年 2 月 8 日 ) を 参 照 し た 。
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プ レ ス 資 料 「 JR東 日 本 ニ ュ ー ス 」( 2004 年 1 月 30 日 、 2004 年 4 月 27 日 ) に よ る 。
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イル端末を活用したインターネットとの融合を積極的に進めていく計画がある
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が 、こ れ に よ り リ ア ル な 店 舗 で の 利 用 だ け で な く 、イ ン タ ー ネ ッ ト シ ョ ッ ピ ン グ で
の決済手段としての広がりも期待できる。
「 Suica」 は 今 後 さ ら に ホ ル ダ ー 数 や 加 盟 店 数 を 増 や す こ と が 期 待 さ れ る と 同 時
に 、「 乗 車 券 」 や 「 財 布 」 と し て の 機 能 以 外 に も 、 様 々 な 用 途 に 使 わ れ る 可 能 性 が
示 さ れ て い る 。 磁 気 式 の プ リ ペ イ ド カ ー ド を 起 源 と す る JR 東 日 本 の カ ー ド は 、 時
代 と と も に バ ー ジ ョ ン ア ッ プ を 繰 り 返 し 、高 い 機 能 性 を 携 え て 多 く の 人 の 日 常 生 活
の中に入り込んでいるといえるのではないだろうか。
第4章
第3節
事 例 研 究 : 株 式 会 社 ス ル ッ と KANSAI及 び 阪 急 電 鉄 株 式 会 社
第4章
第3節
第1項
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ス ル ッ と KANSAI と は
阪 急 電 鉄 で IC乗 車 券 「 PiTaPa」 が 導 入 さ れ た の は 2004 年 8 月 1 日 で あ る 。 た だ
し 、注 意 し な け れ ば な ら な い の は 、阪 急 電 鉄 が 直 接「 PiTaPa」の 発 行 主 体 と な っ て
い る わ け で は な く 、 発 行 ・ 運 営 は ㈱ ス ル ッ と KANSAI 44 が 行 な っ て い る 点 で あ る 。
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そ も そ も 「 ス ル ッ と KANSAI」 と は 1996 年 に 関 西 の 鉄 道 ・ バ ス 5 社 局 で 開 始 し た
鉄 道・バ ス 共 通 の プ リ ペ イ ド カ ー ド シ ス テ ム で あ る が 、こ の シ ス テ ム に つ い て 言 及
す る に は 、 ス ル ッ と KANSAI協 議 会 、 ㈱ ス ル ッ と KANSAIに つ い て 説 明 す る こ と が
必 要 と な る 。ま ず は サ ー ビ ス と し て の ス ル ッ と KANSAI、ス ル ッ と KANSAI協 議 会 、
㈱ ス ル ッ と KANSAIに つ い て こ れ ま で の 経 緯 等 に つ い て 述 べ る こ と と す る 。
エラー! リンクが正しくありません。
「 ス ル ッ と KANSAI」の 源 流 は 、1990 年 2 月 に 関 西 の 鉄 道 事 業 者 で 組 織 す る「 関
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プ レ ス 資 料「 JR東 日 本 ニ ュ ー ス 」
( 2005 年 2 月 22 日 )に よ る 。フ ェ リ カ ネ ッ ト ワ ー ク ス ㈱
へ の 資 本 参 加 を 行 な っ た 後 、 フ ェ リ カ ネ ッ ト ワ ー ク ス ㈱ の 主 要 株 主 で あ る 、 ソ ニ ー や NTTド コ
モ と 共 同 で 、 FeliCaを 携 帯 電 話 に 搭 載 し た 「 モ バ イ ル Suica」 を 導 入 す る こ と を 発 表 し た 。
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株 式 会 社 ス ル ッ と KANSAI及 び 阪 急 電 鉄 株 式 会 社 の 事 例 は 、プ レ ス 資 料 、広 報 誌( H P 含
む )、雑 誌 記 事 、新 聞 記 事 、並 び に 横 江 友 則 氏( 株 式 会 社 ス ル ッ と K A N S A I 代 表 取 締 役 専 務 、
スルッとKANSAI協議会事務局長)へのインタビューをもとに作成している。
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「 ス ル ッ と KANSAI」 と は 協 議 会 の 名 称 、 商 品 ・ サ ー ビ ス と し て の 名 称 、 株 式 会 社 と し て
の名称に使われているので、注意が必要である。本稿では、協議会を指す場合は「スルッと
KANSAI協 議 会 」又 は「 協 議 会 」、商 品・サ ー ビ ス 名 を 指 す と き に は「 ス ル ッ と KANSAI」、カ ー
ド 発 行 等 を 行 な っ て い る 株 式 会 社 を 指 す と き に は 「 ㈱ ス ル ッ と KANSAI」 又 は 「 株 式 会 社 ス ル
ッ と KANSAI」 と 表 記 す る 。
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西 出 改 札 シ ス テ ム 研 究 会 」の 中 に「 カ ー ド 部 会 」を 設 置 し 、将 来 の 共 通 化 に 備 え た
検 討 を 開 始 し た と き に さ か の ぼ る 。そ の 検 討 内 容 は 関 西 全 域 を カ バ ー で き る 共 通 の
ス ト ア ー ド フ ェ ア シ ス テ ム の 構 築 を 前 提 に 、カ ー ド の 磁 気 情 報 等 シ ス テ ム の 共 通 化
実 施 時 に 必 要 な 事 項 を ほ ぼ 網 羅 し た も の で あ っ た と い う 。こ の と き 既 に「 ス ル ッ と
KANSAI」の 骨 格 が 確 立 さ れ た と 言 わ れ て い る 。阪 急 電 鉄 が 自 社 の み で 利 用 可 能 な
プ リ ペ イ ド カ ー ド「 ラ ガ ー ル カ ー ド 」を 導 入 し た の は 1992 年 で あ っ た が 、1996 年
に な る と 大 阪 市 交 通 局 、阪 急 電 鉄 、阪 神 電 鉄 、能 勢 電 鉄 、北 大 阪 急 行 の 5 社 で 共 通
利 用 が 可 能 な「 ス ル ッ と KANSAI」の サ ー ビ ス が 始 ま り 、以 降 加 盟 社 局 は 拡 大 を 続
け て い る ( 図 表 6 を 参 照 )。
ス ル ッ と KANSAI協 議 会 は「 加 盟 各 社 局 ご 利 用 の お 客 様 の 利 便 性 向 上 を 促 進 す る
と 共 に 、公 共 交 通 機 関 と し て 一 体 性 の あ る 運 輸 事 業 の 健 全 な 発 展 を 図 る こ と 」を 目
的 に 設 立 さ れ た 任 意 団 体 で あ り 、 2005 年 4 月 時 点 で は 、 関 西 圏 を 中 心 に 岡 山 地 区
を 含 め 、 計 49 事 業 者 で 構 成 さ れ て い る
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。 ㈱ ス ル ッ と KANSAIは 協 議 会 か ら 事 務
局 業 務 を 委 託 さ れ た 法 人 で あ り 、協 議 会 で 意 思 決 定 さ れ た 事 柄 を 実 行 す る の が 主 な
役 割 と な っ て い る 。協 議 会 発 足 当 時 、最 初 は 阪 急 電 鉄 が 事 務 局 を 引 き 受 け た が 、事
務 局 は 加 盟 各 社 局 で 持 ち 回 り に す る こ と と な っ て い た 。し か し な が ら 、業 務 量 が 増
加し、持ち回りでの対応が困難となったため、専任の事務局を作ることになり、6
社 か ら 人 を 出 し て 2000 年 3 月 、 大 阪 駅 前 第 2 ビ ル に 発 足 し た 。 そ も そ も 協 議 会 は
意 思 決 定 の 場 で あ り 、実 行 す る の は ま た 別 の 機 能 で あ る 。そ の 際 必 ず 契 約 行 為 が 発
生 す る が 、法 人 格 が な い と 契 約 は で き な い た め 、法 人 格 を 取 得 す る こ と が 検 討 さ れ
た 。社 団 法 人 、財 団 法 人 な ど い ろ い ろ な 形 態 の 中 か ら 、加 盟 各 社 局 か ら 出 資 を 募 り 、
㈱ ス ル ッ と KANSAIが 組 織 さ れ た 。
㈱ ス ル ッ と KANSAI で は 、各 加 盟 社 局 が 協 議 会 へ 納 め る 会 費 や PR 費 が 、委 託 経
費 と い う 形 で 協 議 会 か ら 入 っ て く る が 、そ れ だ け で 事 務 局 業 務 の 経 費 が 賄 え る わ け
で は な い 。 し た が っ て ㈱ ス ル ッ と KANSAI 自 体 も 収 益 を 確 保 す べ く さ ま ざ ま な 事
業 を 行 っ て い る 。そ の う ち の 一 つ が 、
「 ス ル ッ と KANSAI
3d a y チ ケ ッ ト 」等 の
販 売 業 務 で あ る 。国 内 外 の 旅 行 代 理 店 等 を 通 じ て 販 売 し 、こ の 取 扱 手 数 料 が 収 入 源
の 一 つ と な っ て い る 。ま た 、鉄 道 資 材 の 共 同 購 入 も 行 っ て い る 。鉄 道 資 材 は 各 社 共
通 の も の が 多 い こ と に 着 目 し 、大 量 購 入 に よ る 価 格 低 減 を は か っ て い る 。低 減 さ れ
た 部 分 の 一 部 を ㈱ ス ル ッ と KANSAI が 手 数 料 と し て 収 受 し て お り 、 そ れ ら の 事 業
に よ り 約 18 億 円 の 収 入 を 計 上 し て い る 。
第4章
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第3節
第2項
「 PiTaPa」 の 開 発
プ レ ス 資 料 「 ス ル ッ と INFORMATION」( 2005 年 4 月 11 日 ) に よ る 。
34
「 PiTaPa」の 導 入 に 関 す る 動 き は 図 表 6 に 示 し て い る が 、そ も そ も の 発 端 は「 顧
客 の 声 」 に 応 え る 形 で 誕 生 し た と 言 わ れ て い る 。「 PiTaPa」 の 前 身 と な る 、 磁 気 式
プ リ ペ イ ド カ ー ド は 1992 年 に 阪 急 電 鉄 で 導 入 さ れ た 「 ラ ガ ー ル カ ー ド 」 で あ る 。
そ の 際 、阪 急 電 鉄 と 相 互 直 通 乗 り 入 れ を し て い る 大 阪 市 交 通 局 で 利 用 で き な い と い
う ク レ ー ム が 多 く 寄 せ ら れ 、 大 阪 市 交 通 局 は 改 札 機 の 更 新 時 期 を 早 め 、 1996 年 に
対 応 し た 。同 じ 年 、5 社 局 共 通 カ ー ド「 ス ル ッ と KANSAI」が ス タ ー ト し 、そ れ 以
来 ネ ッ ト ワ ー ク を 広 げ る 形 で 発 展 を 遂 げ 、 現 在 で は 49 社 局 が 参 画 す る に 至 っ て い
る 。協 議 会 の 趣 旨 か ら も 分 か る と お り 、利 用 者 の ニ ー ズ に 耳 を 傾 け 改 善 し て い く 努
力を重ねてきた結果であると言えるだろう。
磁 気 式 プ リ ペ イ ド カ ー ド「 ス ル ッ と KANSAI」に 寄 せ ら れ た 利 用 者 か ら の 要 望 は 、
主 に 次 の 四 点 に ま と め ら れ る 。一 点 目 は 、駅 の 売 店・コ ン ビ ニ エ ン ス ス ト ア 等 で も
モ ノ が 買 え る よ う に し て 欲 し い と い う こ と 、二 点 目 は カ ー ド 残 高 が 足 り な い 場 合 で
も 、精 算 機 を 使 わ ず に す む よ う に し て 欲 し い と い う こ と 、三 点 目 は お 盆 、年 末 年 始 、
休 日 等 は 定 期 と 回 数 券 、オ フ ピ ー ク 回 数 券 と 回 数 券 の ど ち ら が 有 利 か 分 か り に く い
が 、複 雑 な 運 賃 制 度 を 十 分 理 解 し て い な く て も 最 適 な 運 賃 が 適 用 さ れ る こ と 、そ し
て 四 点 目 が プ レ ミ ア ム を つ け て 欲 し い と い う こ と で あ る 。そ の 他 に も 、JR西 日 本 と
相互利用や、定期券購入の仕組み
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そのものに対する疑問等も挙げられていた。
ス ル ッ と KANSAI協 議 会 で は 、こ れ ら の 要 件 を 満 た す 上 で 、磁 気 カ ー ド に よ る サ ー
ビ ス 提 供 で は 限 界 が あ る と 考 え 、ポ ス ト ペ イ 式 の IC乗 車 券 を 導 入 す る こ と を 決 定 し
たという。
利 用 者 か ら の 要 望 以 外 に も 、 鉄 道 会 社 側 の IC カ ー ド 導 入 に 対 す る 思 い 入 れ は あ
っ た 。例 え ば 阪 急 電 鉄 を は じ め と す る 鉄 道 会 社 各 社 は 、そ れ ま で「 輸 送 」そ の も の
を 自 社 が 提 供 す る サ ー ビ ス と し て 位 置 付 け て き た 。し か し お 客 様 に と っ て は 、鉄 道
会 社 が 提 供 す る 移 動 の 手 段 は 、本 源 的 な 需 要 で は な く 派 生 需 要 で あ る 為 、そ の 移 動
の 目 的 物 、例 え ば 商 品 の 購 入 や 観 光 施 設 へ の 入 場 と い っ た 部 分 ま で も カ バ ー す る イ
ン フ ラ が 必 要 で あ る と 考 え て い た と い う 。 つ ま り 、「 PiTaPa」 の 導 入 を 検 討 し 始 め
た 当 初 か ら シ ョ ッ ピ ン グ 利 用 、あ る い は 観 光 施 設 へ の 入 場 券 代 わ り と し て の 利 用 を
想 定 し 、交 通 事 業 者 に ク ロ ー ズ し た サ ー ビ ス で は な く 、広 く 開 か れ た 決 済 シ ス テ ム
と す る こ と を 考 え て い た 。横 江 氏 は「 交 通 と い う の は ひ と つ の 社 会 イ ン フ ラ で あ り 、
都 市 の エ レ ベ ー タ で あ る 。百 貨 店 で エ レ ベ ー タ に 乗 る の に エ レ ベ ー タ 代 は 払 わ な い
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横江氏によると「定期券売り場でお客様にならんで購入してもらっているが、それが本当
にいいサービスなのだろうかという疑問があった。昔からの名残であるとは言え、何万円もす
る商品をお客様に並ばせて買わす。自らは空調の効いた部屋で仕事している。昔であればいざ
知らず、本当にそれでいいのだろうか」という声が社内でもあったという。
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の は そ の コ ス ト は 商 品 に 含 ま れ て い る 為 で あ る 。そ の 仕 組 み を 、電 車・バ ス を 使 っ
て 実 行 し て い く べ き で あ る 。電 車・バ ス は 手 段 で あ っ て 目 的 で は な く 、何 か を す る
た め に 手 段 で あ る 電 車・バ ス を 利 用 す る 。そ こ に お 金 が か か る と い う 感 覚 で は よ く
な い 。目 的 物 に 含 め て 全 体 的 に 交 通 乗 車 に か か る コ ス ト を ゼ ロ に 近 づ け て い く 。こ
の 仕 組 み に よ っ て い ま ま で 乗 ら な か っ た 人 が 乗 る よ う に な る 」と 述 べ て い る 。 鉄 道
事 業 者 は こ う い っ た 社 会 シ ス テ ム を 提 唱 し 、新 し い ビ ジ ネ ス ス キ ー ム を つ く り 上 げ
ていくことが必要であるとの考えがうかがえる。
こ の よ う な 背 景 の も と 、「 PiTaPa」 導 入 が 進 め ら れ た が 、 シ ス テ ム 開 発 を 行 な う
上 で は 、以 下 の よ う な コ ン セ プ ト が 挙 げ ら れ た 。一 つ は 公 共 交 通 機 関 で の 確 実 な 運
賃 収 受 を 第 一 義 と す る こ と ( 自 動 運 賃 収 受 )、 二 つ 目 は 高 齢 者 、 身 体 障 害 者 、 交 通
弱者へのバリアフリーを実現すると共に全てのお客様に最新かつ最高のサービス
を 提 供 し 高 い 利 便 性 を 追 求 す る こ と ( ア メ ニ テ ィ )、 三 つ 目 は シ ス テ ム 全 体 と し て
万 全 の セ キ ュ リ テ ィ を 確 保 す る こ と ( ハ イ セ キ ュ リ テ ィ )、 四 つ 目 は 「 ス ル ッ と
KANSAI」共 通 仕 様 の 構 築 と 共 同 購 入 に よ り 、機 器 の 購 入 お よ び 保 守 に 関 し て コ ス
ト ダ ウ ン を は か る こ と ( ロ ー コ ス ト )、 そ し て 、 五 つ 目 が 、 ス ル ッ と KANSAI以 外
の 交 通 機 関 と の 相 互 利 用 の み な ら ず 、売 店 、コ ン ビ ニ エ ン ス ス ト ア 、ス ー パ ー 、飲
食 店 、公 共 施 設 な ど 、鉄 道・バ ス 以 外 で の 決 済 を 可 能 と す る こ と( マ ル チ モ ー ダ ル )
である
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。
こ の コ ン セ プ ト を 現 実 の も の と す る 上 で 最 も 苦 労 し た の が 、ア メ ニ テ ィ と ロ ーコ
ス ト の 両 立 で あ っ た 。ア メ ニ テ ィ を 高 め よ う と す る と コ ス ト が か か る 。関 西 の 交 通
事 業 者 の 経 営 状 況 を 考 え る と コ ス ト が か け ら れ な い 。こ の よ う な 問 題 を 解 決 す る た
め 、ス ル ッ と KANSAI 協 議 会 内 に IC カ ー ド シ ス テ ム 研 究 会 を 組 織 し 、そ の も と で
制 度 W G 、情 報・通 信 W G を 設 置 し て 、各 社 局 の 担 当 者 が 課 題 の 解 決 を 図 っ て き た 。
その中で出した結論がポストペイ方式の導入であった。
第4章
第3節
第3項
ポ ス ト ペ イ 方 式 の 導 入 と 「 PiTaPa」 の 特 徴
「 PiTaPa」 と は 「 Postpay IC for Touch & Pay」 略 で 、「 触 れ る だ け で 決 済 で き る 、
後 払 い IC」と い う 意 味 を 表 す と 共 に 、読 み 取 り 部 分 に IC カ ー ド を「 ピ タ ッ ! 」と
触 れ る と「 パ ッ ! 」と 瞬 間 的 に 決 済 さ れ る と い う 利 用 シ ー ン に お け る 一 連 の 動 き を
イ メ ー ジ し た も の で あ る 。 名 前 の 由 来 に も あ る 通 り 、「 PiTaPa」 の 最 大 の 特 徴 は 、
利用実績に応じた金額を事後精算できるポストペイサービスを提供する点である。
本 節 第 2 項 で も 、開 発 の コ ン セ プ ト に つ い て 若 干 触 れ た が 、こ の ポ ス ト ペ イ 方 式 を
採用した理由について再度確認する。
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横 江 [2002]を 参 照 。
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ポ ス ト ペ イ 導 入 の 理 由 を 大 き く 二 つ 挙 げ る と す る と 、利 用 者 の 利 便 性 と 事 業 者の
メ リ ッ ト で あ る 。横 江 氏 は「 ポ ス ト ペ イ 方 式 で は 、お 客 様 は バ リ ュ ー の 積 み 増 し を
しなくてもいい。
『 PiTaPa』に 先 立 っ て 、JR 東 日 本 が プ リ ペ イ ド 方 式 の『 Suica』を
既にサービス提供していたが、
『 Suica』を 見 て い る と 、確 か に 以 前 と 比 べ て か な り
便 利 に な っ た 。た だ し サ ー ビ ス ダ ウ ン と な っ た 点 が 一 つ あ っ た 。そ れ は 手 元 で 残 額
が 分 か ら な い と い う こ と 」 と ポ ス ト ペ イ 導 入 の 理 由 を 振 り 返 っ て い る 。「 ラ ガ ー ル
カ ー ド は 10 円 で も 残 高 が 残 っ て い れ ば 乗 車 す る こ と が で き る 。し か し 10 円 で 乗 車
す れ ば 必 ず 精 算 が 発 生 す る 。残 高 が 不 足 し て い る こ と に 気 付 か ず に 改 札 を 出 よ う と
す る と 、改 札 機 が 閉 じ 、そ の と き 初 め て 精 算 し な け れ ば な ら な い と 分 か り 、精 算 機
に 並 ぶ 。こ れ は 手 間 。関 東 の お 客 様 は そ れ で『 仕 方 な い ね 』と い う 話 と な る が 、関
西 で は 持 ち こ た え ら れ な い と こ ろ が あ る 」と し て 、お 客 様 の 利 便 性 向 上 の 為 、精 算
が不要なシステムの導入を検討したと述べている。
ま た 事 業 者 の メ リ ッ ト は 改 修 コ ス ト の 削 減 で あ っ た 。バ リ ュ ー の 積 み 増 し が 必要
の な い ポ ス ト ペ イ シ ス テ ム で あ れ ば 、交 通 事 業 者 は 精 算 機 、券 売 機 の 改 修 が 必 要 な
い 。 改 札 機 の み を 、 ポ ス ト ペ イ の IC カ ー ド 対 応 に す れ ば 事 足 り る 。 利 用 者 の 利 便
性 と 加 盟 各 社 局 の 苦 し い 財 政 事 情 を 考 慮 に 入 れ た 決 断 が 、ポ ス ト ペ イ で あ り 、こ れ
によりローコストとアメニティの両立が可能となった。
ま た 、「 PiTaPa」 は JR東 日 本 や JR西 日 本 と 共 通 利 用 す る た め に 、 プ リ ペ イ ド 機 能
も 備 え て い る 。し た が っ て「 PiTaPa」は ポ ス ト ペ イ が 最 大 の 特 徴 と い い つ つ も 、チ
ャ ー ジ の 必 要 性 が 生 じ る こ と を 当 初 か ら 念 頭 に 置 い て い た 。そ こ で 開 発 し た 仕 組 み
が「 オ ー ト チ ャ ー ジ 機 能 つ き プ リ ペ イ ド サ ー ビ ス 」で あ っ た 。こ れ は 、残 額 が 少 な
く な っ た カ ー ド に 対 し 積 み 増 し 機 に よ っ て チ ャ ー ジ す る の で は な く 、改 札 機 に よ り
自動チャージするもので、お客様は現金によるチャージをする必要がない
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。こ
こ で も ロ ー コ ス ト & ア メ ニ テ ィ を 実 現 し 、さ ら に は 、共 通 利 用 と い う マ ル チ モ ー ダ
ルというコンセプトも実現可能としている。
ポ ス ト ペ イ 方 式 は メ リ ッ ト ば か り で 、デ メ リ ッ ト は 無 い の で あ ろ う か 。最 も 大 き
な課題は、いかにしてユーザーを獲得するかということであったと考えられる。
「 PiTaPa」 を 利 用 し よ う と す る と き 、「 Suica」 と の 相 違 点 は 、 カ ー ド の 入 手 プ ロ セ
ス が 複 雑 な 点 に あ る 。最 初 に 銀 行 口 座 を 指 定 し 、郵 送 で わ ざ わ ざ 申 込 手 続 き を と ら
な く て は な ら な い 点 、し か も 住 所 や 職 業 、電 話 番 号 な ど の 属 性 情 報 に つ い て 明 ら か
に し な け れ ば な ら な い 点 で 、ク レ ジ ッ ト カ ー ド の 申 込 、あ る い は 携 帯 電 話 の 申 込 と
同 じ よ う な 煩 雑 さ を 感 じ る こ と に な る 。磁 気 式 の プ リ ペ イ ド カ ー ド を「 購 入 し 、保
有 し 、使 う 」と い う 経 験 は 利 用 者 側 に ス ト ッ ク さ れ て い た 。そ の 中 で 、ポ ス ト ペ イ
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横 江 [2002]を 参 照 。
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に 移 行 す る と い う こ と は 、そ れ ま で の 経 験 と は 違 う 方 法 で 入 手 し な け れ ば な ら な く
な る 。 こ れ は ㈱ ス ル ッ と KANSAI に と っ て 、 大 き な 決 心 で は な か っ た の か と 想 定
さ れ る 。し か し 横 江 氏 は「 ハ ー ド ル が あ る こ と は 想 定 し て い た 。し か し ク レ ジ ッ ト
カ ー ド の 申 込 な ど に は 慣 れ て き て お ら れ る し 、ま た 一 部 の 世 代 で し か 持 た な い と い
う も の で も な く な っ て き て い た の で 、そ れ ほ ど の ハ ー ド ル で は い の で は な い か と 考
え た 。ま た 、一 旦 申 し 込 ん で し ま っ た ら そ の 後 の い ろ い ろ な 手 続 き が 不 要 に な っ て
く る メ リ ッ ト は 大 き い 」と 述 べ 、普 及 に 対 し て 若 干 の 困 難 は 伴 う こ と を 想 定 し つ つ
も、得られるメリットの大きさをより重要視していたことを示唆している。
「 PiTaPa」の 基 本 的 な 仕 組 み は 、利 用 デ ー タ を 一 ヶ 月 間 集 計 し 、月 次 で の 利 用 額
を 利 用 者 指 定 の 口 座 か ら 引 き 落 と す と い う も の で あ る 。携 帯 電 話 、ク レ ジ ッ ト カ ー
ド と 同 様 の 感 覚 で 利 用 で き る と こ ろ が 特 徴 の ひ と つ で あ る 。こ の 仕 組 み を 簡 単 に 説
明 し た も の が 図 表 7「 PiTaPa の サ ー ビ ス イ メ ー ジ 図 」で あ る 。ま ず 利 用 者 は「 PiTaPa」
の 発 行 主 体 で あ る ㈱ ス ル ッ と KANSAI に カ ー ド の 発 行 を 申 し 込 む 。 カ ー ド の 発 行
を 含 む 運 営 全 体 は 「 PiTaPa セ ン タ ー 」 で 一 元 的 に 行 な っ て い る が 、 そ の 「 PiTaPa
セ ン タ ー 」の 運 営 を 担 っ て い る の は 三 井 住 友 カ ー ド で あ る 。通 常 で あ れ ば 2 ~ 3 週
間 で「 PiTaPa」が 発 行 さ れ 、利 用 者 の 手 元 に 届 く 。利 用 者 は そ の「 PiTaPa」を 使 っ
て 鉄 道 を 利 用 し た り コ ン ビ ニ エ ン ス ス ト ア・自 動 販 売 機 な ど で 商 品 の 購 入 を す る こ
と に な る 。 そ の 利 用 実 績 デ ー タ は 各 鉄 道 事 業 者 ・ 加 盟 店 等 か ら 「 PiTaPa セ ン タ ー 」
に 集 め ら れ 、そ の デ ー タ に 基 づ き 、一 ヶ 月 分 の 利 用 金 額 を ま と め て 、利 用 者 の 指 定
さ れ た 口 座 か ら 引 き 落 と す と と も に 、デ ー タ 自 体 は 各 鉄 道 事 業 者 、加 盟 店 へ と 配 分
される。
図表7
PiTaPaのサービスイメージ図
利用データの送信
利用
PiTaPa加盟店
(サンクス等)
鉄道・バス事業者
阪急電鉄等
申込
利用額の清算
利用データの送信
運賃の清算
業務運営受委託※
PiTaPa発行者
㈱スルッとKANSAI
口座の開設・預金
委託業務内容※
・カード調製
・会員管理
・加盟店管理
・請求
・代金回収
・Web対応
・コールセンター
・不正データ管理
・運賃計算
・利用データ集計
・社局間清算
・加盟店清算
等
請求
支払(
引 落)
カード発行
利用データの送信
PiTaPaセンター
(
三井住友カードに委託)
利 用 者(
PiTaPa会員)
利用
利用者指定の金融機関
口座引き落としの通知
(出所)プレス資料・HP等の情報をもとに筆者作成。
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こ の よ う な 仕 組 み で 提 供 さ れ る サ ー ビ ス の 中 で 特 徴 的 な も の と し て 、公 共 交 通機
関 利 用 促 進 ポ イ ン ト サ ー ビ ス を 挙 げ る こ と が で き る 。こ れ は シ ョ ッ ピ ン グ の 決 済 金
額 に 応 じ た ポ イ ン ト を 利 用 者 に 付 与 し 、そ の ポ イ ン ト 残 高 に 応 じ た 金 額 を 鉄 道・バ
ス で の 利 用 実 績 か ら 差 引 い て 請 求 す る 仕 組 み で あ り 、「 シ ョ ッ プ d e ポ イ ン ト 」 と
い う サ ー ビ ス 名 称 で 提 供 さ れ て い る 。こ の ポ イ ン ト の 原 資 負 担 は 各 加 盟 店 と し 、公
共交通機関利用促進による環境保護に協力していただけるよう広く募集している。
ポ イ ン ト の 付 与 割 合 は 通 常 0.1% と い う 還 元 率 で あ る が 、 加 盟 店 に よ っ て は そ の 5
倍 、 10 倍 の ポ イ ン ト を 付 与 す る な ど 、 加 盟 店 の コ ス ト に お い て 自 主 的 に 設 定 す る
ことが可能となっている
第4章
第3節
第4項
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。
「 PiTaPa」 の 普 及
「 ス ル ッ と KANSAI」は「 PiTaPa」の サ ー ビ ス を 開 始 し て か ら も 磁 気 式 プ リ ペ イ
ド カ ー ド で の サ ー ビ ス 提 供 を 継 続 す る ス タ ン ス を と っ て い る 。磁 気 式 プ リ ペ イ ド カ
ー ド は 各 社 共 通 の ユ ニ バ ー サ ル な サ ー ビ ス と 位 置 付 け 、 各 加 盟 社 局 に IC カ ー ド シ
ステムへの移行のタイミングにズレがあったとしても対応できるようにしている。
ま た 旅 行 者 な ど 一 回 利 用 が 前 提 の 顧 客 に と っ て 、簡 単 か つ 利 便 性 の 高 い 共 通 の サ ー
ビ ス を 受 け る た め の ツ ー ル と し て の 意 義 も 大 き い 。磁 気 式 プ リ ペ イ ド カ ー ド の ユ ー
ザ ー の 中 で 不 便 を 感 じ て い な い 人 、あ る い は「 PiTaPa」を 保 有 す る に は 抵 抗 の あ る
人 は 、引 き 続 き 磁 気 式 の カ ー ド を 選 べ る こ と と し 、逆 に 磁 気 式 の カ ー ド で は 実 現 し
な い サ ー ビ ス も 利 用 し た い 人 は「 PiTaPa」を 選 べ る と い っ た よ う に「 品 揃 え を 増 や
す」というの考え方がこのスタンスの背景にある。
「 PiTaPa」を 早 く 普 及 さ せ た い の で あ れ ば 、利 用 者 の 選 択 肢 の な か か ら 磁 気 式 カ
ー ド を な く し 、可 能 な 限 り「 PiTaPa」へ シ フ ト さ せ る と い う 戦 略 は 確 か に あ る 。そ
う な れ ば 改 札 機 の メ ン テ ナ ン ス コ ス ト も 下 げ ら れ る し 、事 業 者 側 の メ リ ッ ト は 大 き
い 。し か し な が ら 横 江 氏 は 、
「普及しているものを途中でやめてしまうのではなく、
よ り 利 便 性 の 高 い も の を 品 揃 え と し て 追 加 す る こ と に よ っ て 、だ ん だ ん 移 行 し て も
ら う こ と が 正 し い や り 方 で あ る と 思 う 」と 述 べ て お り 、顧 客 の 利 便 性 を 損 ね て ま で
普 及 の 促 進 を す る よ り は 、顧 客 の 利 便 性 、選 択 肢 の 拡 大 を 優 先 し た こ と が う か が え
る。
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シ ョ ッ プ d e ポ イ ン ト は 100 円 に つ き 1 ポ イ ン ト が 付 与 さ れ 、500 ポ イ ン ト で 50 円 差 引 く
こ と と な る 。 つ ま り 50,000 円 の 決 済 を す る と 50 円 割 り 引 か れ る こ と に な る 。 た だ し 、 加 盟 店
に よ っ て は 100 円 に つ き 5 ポ イ ン ト な い し は 10 ポ イ ン ト を 付 与 す る 店 舗 も あ り 、こ の 場 合 還 元
率 は 0.5% 、 1% と な る 。
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ま た 、横 江 氏 は 、ゆ っ く り 普 及 さ せ る こ と の 別 の メ リ ッ ト に つ い て 次 の よ う に 述
べ て い る 。「 じ わ じ わ 浸 透 さ せ て い け ば い い と 考 え る 理 由 と し て 、 今 の 制 度 を 引 っ
張 ら な く て い い と い う こ と が 挙 げ ら れ る 。 あ る 時 点 で 磁 気 式 を や め て IC に す る と
す れ ば 、磁 気 式 カ ー ド の 制 度 を 引 き 継 が な け れ ば な ら な く な る 。… 中 略 …
鉄道会
社 の 歴 史 は 長 い の で 、地 層 の よ う に い ろ い ろ な 制 度 が 重 な っ て お り 、そ れ ら を 引 き
ず っ て ( IC カ ー ド シ ス テ ム で ) 制 度 化 す る の は 大 変 。 … 中 略 …
我々としては、
磁 気 式 カ ー ド と し て の 制 度 が あ り 、そ の 上 で『 PiTaPa』サ ー ビ ス を 追 加 す る と い う
考 え 方 を と っ た 。そ う す る と『 PiTaPa』サ ー ビ ス は 従 来 の サ ー ビ ス に こ だ わ る 必 要
は 全 然 な く な る 。Nearly equal の 制 度 を 入 れ る こ と に よ っ て 、IC カ ー ド を ど ん ど ん
普 及 さ せ て い く 。そ し て 磁 気 式 が 1 割 を 切 る ぐ ら い に な っ た 時 、ど う す る か と い う
議 論 を す れ ば い い 。今 す べ て の カ ー ド を 取 り 替 え よ う と す る こ と は 全 然 得 策 で は な
い 。 取 り 替 え よ う と す る な ら ば 、『 こ ん な 制 度 な か っ た ら い い の に 』 と い う 制 度 ま
で 引 き ず ら な く て は な ら な い 。じ わ じ わ 浸 透 さ せ て い き 、全 体 と し て あ る べ き 制 度
に し て い く 。」
こ の 考 え 方 は 、 従 来 の イ オ カ ー ド の 延 長 線 上 に 「 Suica」 を 位 置 付 け る JR東 日 本
と は 対 象 的 な 考 え 方 で あ る 。名 称 を 見 た だ け で も 、こ れ ま で 普 及 さ せ て き た イ オ カ
ー ド の バ ー ジ ョ ン ア ッ プ と し て 位 置 付 け て い る「 Suica」
(「 Suicaイ オ カ ー ド 」)に 対
し て 、 従 来 の 磁 気 式 カ ー ド と は 、 別 の も の と 位 置 付 け た 「 PiTaPa」、 と い う 構 図 が
浮 か ん で く る 。 横 江 氏 の 発 言 の 中 か ら 読 み 取 れ る 普 及 に 関 す る 考 え 方 は 、「 磁 気 式
カ ー ド が 普 及 し て い た メ リ ッ ト を 引 き 継 ぐ 」 と い う 側 面 ば か り で な く 、「 磁 気 式 カ
ー ド が 持 っ て い た デ メ リ ッ ト 部 分 を 引 き 継 が な い 」と い う 側 面 も 非 常 に 大 き な ウ ェ
イ ト を 占 め て い る こ と が 分 か る 。た だ し 、こ の 横 江 氏 の 考 え 方 は 必 ず し も「 ゆ っ く
り 普 及 さ せ る こ と の メ リ ッ ト 」を 説 明 し 得 る も の と は 言 い が た い 。確 か に「 負 の 資
産 」を 引 き 継 が な い こ と は 大 き な メ リ ッ ト で あ る が 、そ れ を ゆ っ く り 行 う 必 然 性 に
つ い て は 疑 問 を 抱 か ざ る を 得 な い 。角 [2005] 50 に よ る と 、ICカ ー ド に つ い て「 思っ
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た よ り も 伸 び て い な い の は 事 実 」と し た う え で 、そ の 原 因 に つ い て ネ ッ ト ワ ー ク が
不 十 分 で あ る こ と と 、ポ ス ト ペ イ を 採 用 し た こ と を 挙 げ て い る 。ネ ッ ト ワ ー ク が 不
十 分 で あ る 点 に つ い て は 、図 表 6 で も 示 し て い る 通 り 、既 に 拡 大 す る 計 画 が あ る た
め 心 配 に は 及 ば な い が 、角 氏 が も う 一 点 指 摘 し た「 ポ ス ト ペ イ の 採 用 」が 思 っ た よ
り も 伸 び て い な い こ と の 大 き な 要 因 で あ る と す る な ら ば 問 題 は 深 刻 で 、戦 略 の 見 直
し も 必 要 と な る 。特 に「 PiTaPa」の 持 つ 幾 つ か の 側 面 の う ち 、電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス
と い う 切 り 口 で 見 た 時 に は 、ホ ル ダ ー 数 は 事 業 そ の も の の 成 功 に 直 接 関 連 す る 事 柄
で も あ り 、こ の 電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス に お い て は 苦 戦 を 強 い ら れ る こ と に な る の で は
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角氏は阪急ホールディングス株式会社代表取締役社長である。
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ないだろうか。
「 PiTaPa」は ポ ス ト ペ イ で あ る が ゆ え に 、必 然 的 に ユ ー ザ ー を 特 定 す る 必 要 が あ
る 。そ の 為 、普 及 に は 手 間 が か か っ て し ま う が 、反 面 一 度 手 元 に カ ー ド が 届 い て し
ま え ば チ ャ ー ジ の 手 間 が 無 く 、後 払 い と い う こ と も あ っ て 非 常 に 手 軽 に 利 用 す る こ
と が で き る 点 が 大 き な 魅 力 で あ る 。事 業 者 側 に し て も 、発 行 の 際 に 取 得 し た 個 人 属
性情報に、利用履歴情報を紐付けてマーケティングに活用できる
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点は魅力であ
る 。 1 年 間 一 度 も 利 用 し な か っ た 場 合 に 、 口 座 管 理 料 と し て 、 1,050 円 徴 収 さ れ る
こ と は 利 用 者 に と っ て は 抵 抗 感 が あ る か も し れ な い が 、500 円 の デ ポ ジ ッ ト を 徴 収
す る 「 Suica」 と 比 較 す れ ば 、 ま だ 利 用 者 の 理 解 が 得 ら れ や す い 。 事 業 者 に と っ て
見 れ ば 、休 眠 口 座 、つ ま り「 企 業 に と っ て 利 益 を も た ら さ な い 顧 客 」を 判 別 し 、退
会 を 促 進 す る か 、も し く は 利 用 を 促 す こ と に な る た め 、優 良 顧 客 を 優 遇 し コ ス ト の
か か る 顧 客 と の 取 引 を 継 続 し な い と い う CRMの 観 点 か ら み る と 、 こ の 口 座 管 理 料
の徴収は合理的である。
先 に も 述 べ た と お り 、磁 気 式 の プ リ ペ イ ド カ ー ド を「 購 入 し 、保 有 し 、使 う 」と
い う 経 験 は 、イ オ カ ー ド で あ る か 、ラ ガ ー ル カ ー ド で あ る か に 関 わ ら ず 、利 用 者 側
に ス ト ッ ク さ れ て い た こ と は 間 違 い な い 。そ れ を 最 大 限 活 用 し よ う と し た JR東 日 本
と 、敢 え て 活 用 し な か っ た ㈱ ス ル ッ と KANSAIの 戦 略 の 違 い は 、良 し 悪 し の 議 論 と
は 別 と し て 、 普 及 枚 数 の 違 い に は 現 れ て い る と 考 え る べ き で あ ろ う 。 2004 年 4 月
11 日 、「 PiTaPa」の 会 員 は 10 万 人 を 超 え た 。京 阪 が 発 行 す る「 e-knenet PiTaPa」の
会 員 が 4 万 人 、阪 急 が 発 行 す る「 HANA PLUS」の 会 員 が 4.1 万 人 「
、 KO B E
PiTaPa 52 」
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と「 PiTaPaベ ー シ ッ ク カ ー ド 」の 会 員 が あ わ せ て 1.9 万 人 で あ る 。沿 線 人 口 等 の 違
いはあるものの、
「 Suica」と 比 較 し た と き 、普 及 枚 数 で み る と「 Suica」の 120 分 の
1 程 度 で あ り 、 そ の 違 い は 歴 然 と し て い る 。 し か し そ の 反 面 、「 Suica」 に は な い 、
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PiTaPaの 発 行 主 体 は ㈱ ス ル ッ と KANSAIで あ る た め 、 取 得 さ れ た 個 人 情 報 は 基 本 的 に は ㈱
ス ル ッ と KANSAIに よ っ て 管 理 さ れ る 。 個 人 情 報 保 護 法 の 趣 旨 に 照 ら し 合 わ せ れ ば 、 各 鉄 道 事
業 者 は ㈱ ス ル ッ と KANSAIが 取 得 し た 個 人 情 報 を ワ ン ・ ト ゥ ー ・ ワ ン ・ マ ー ケ テ ィ ン グ に 活 用
することはできない。このような不都合を解消するため、例えば阪急電鉄では、子会社である
阪 急 カ ー ド が 発 行 す る HANA PLUSカ ー ド と PiTaPaを セ ッ ト で 普 及 さ せ 、PiTaPaの 利 用 料 金 請 求
を一本化する事で、阪急電鉄にも個人の属性情報と履歴情報が集まるようなスキームを構築し
ている。
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神戸高速鉄道㈱、神戸市交通局、神戸新交通㈱、山陽電気鉄道㈱、北神急行電鉄㈱、神戸
市 が 会 員 と な っ て い る 「 KOBEカ ー ド 協 議 会 」 が 発 行 す る 多 機 能 カ ー ド 。 VISAブ ラ ン ド ( 三 井
住友カード提供)もしくは、マスターカードブランド(トヨタファイナンス㈱が提供)のいず
れ か の ク レ ジ ッ ト カ ー ド に PiTaPa機 能 が 付 加 さ れ た も の 。
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ポ ス ト ペ イ と い う 特 徴 を も っ て お り 、例 え ば カ ー ド の ホ ル ダ ー が 1 人 増 え た 時 の 効
用 は 、 利 用 者 ・ 事 業 者 と も に 「 Suica」 以 上 の も の が 期 待 で き る の で は な い だ ろ う
か。
次 節 な い し 次 章 で は 、 こ れ ま で 述 べ て き た 、 JR 東 日 本 の 「 Suica」、 ㈱ ス ル ッ と
KANSAI の「 PiTaPa」の 特 徴 を 対 比 さ せ 、新 規 事 業 開 発 あ る い は 多 角 化 戦 略 の 観 点
か ら 、2 社 の 取 っ て き た 戦 略 に ど の よ う な 特 徴 が あ る の か 検 証 し て い く 。ま た 、
「鉄
道 事 業 者 が 電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス に 参 入 す る 際 に 、何 を 戦 略 的 資 産 と し 、ど の よ う に
活 用 し た の か 」と い う 論 点 に つ い て 、こ の 2 社 の 事 例 に よ っ て 明 ら か と な っ た 点 に
ついて述べていくことにする。
第4章
第4節
2社の比較
こ こ ま で 、JR 東 日 本 の「 Suica」と ㈱ ス ル ッ と KANSAI( 阪 急 電 鉄 )の「 PiTaPa」
について述べてきたが、改めて幾つかの切り口から整理してみたい。
共 通 点 と し て ま ず 挙 げ な け れ ば な ら な い の は 、両 者 と も 磁 気 式 の 鉄 道 事 業 用 プ リ
ペ イ ド カ ー ド を 発 行 し て い た 点 で あ る 。鉄 道 利 用 に 限 定 し て い た と は い え 、電 子 マ
ネ ー の 原 型 と な る サ ー ビ ス を 事 前 に 提 供 し て い た 点 は 注 目 さ れ る 。二 点 目 は 一 点 目
に 関 連 す る が 、鉄 道 の カ ー ド と し て ま ず サ ー ビ ス 提 供 し 、そ の 後 に シ ョ ッ ピ ン グ 利
用 の サ ー ビ ス を 提 供 し た 点 で あ る 。「 鉄 道 利 用 向 け 」 と い う プ ロ セ ス を 踏 ん で か ら
「 シ ョ ッ ピ ン グ 向 け 」へ と 展 開 し た と こ ろ は 、同 じ く 電 子 マ ネ ー 事 業 に 参 入 し て い
る 「 Edy」 と は 、 当 然 な が ら 異 な る 特 徴 で あ る 。 三 点 目 は 両 者 と も 鉄 道 サ イ バ ネ 規
格 に の っ と り 、非 接 触 で 高 い セ キ ュ リ テ ィ が 確 保 さ れ る「 FeliCa」を 採 用 し た こ と
が 挙 げ ら れ る 。非 接 触 で あ る と い う こ と が 高 い 利 便 性 に 結 び つ き 、普 及 の 原 動 力 と
な っ て い る と 考 え ら れ る 。四 点 目 は 、両 社 と も ハ ウ ス カ ー ド を 発 行 し て い る 点 で あ
る 。 JR 東 日 本 は 「 ビ ュ ー カ ー ド 」、 阪 急 電 鉄 は 「 HANA PLUS カ ー ド 」 を 発 行 し 、
そ の ハ ウ ス カ ー ド に 「 Suica」 な い し 「 PiTaPa」 の ロ ゴ を 入 れ 、 IC 乗 車 券 ・ 電 子 マ
ネ ー と し て も 利 用 可 能 と し て い る 。五 点 目 は 、四 点 目 と 関 連 す る が 、両 社 と も ハ ウ
ス カ ー ド 以 外 の 他 の ク レ ジ ッ ト カ ー ド 会 社 と 提 携 し 、「 Suica」 な い し 「 PiTaPa」 の
サ ー ビ ス を 提 供 し て い る 点 で あ る 。JR 東 日 本 は 日 本 航 空 と 連 携 す る こ と に よ っ て 、
日 本 航 空 か ら「 JAL カ ー ド Suica」が 発 行 さ れ て い る 。ま た み ず ほ 銀 行 と 連 携 し て 、
み ず ほ 銀 行 の 発 行 す る カ ー ド に も 「 Suica」 機 能 を 提 供 し て い る 。「 PiTaPa」 の 場 合
は阪急電鉄が連携しているわけではないが、サービス提供主体であるスルッと
KANSAI 協 議 会 が 、 KOBE カ ー ド 協 議 会 が 発 行 す る カ ー ド に 対 し 、「 PiTaPa」 の サ
ー ビ ス を 提 供 し て い る 。そ の 他 、基 本 的 な 事 柄 で あ る が 、両 社 が 共 に 鉄 道 事 業 者 で
あ る こ と 、ま た そ の 本 業 で あ る 鉄 道 事 業 の 先 行 き に 対 し て 、危 機 感 を 抱 い て い る こ
とも、共通点として挙げるべきであろう。
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次 に 相 違 点 で あ る が 、最 も 異 な る 点 は 、
「 Suica」が プ リ ペ イ ド カ ー ド で あ る の に
対 し「 PiTaPa」は 基 本 的 に は ポ ス ト ペ イ で あ る と い う 点 で あ る 。二 点 目 は 一 点 目 と
密接に関連するが、
「 Suica」が 駅 の み ど り の 窓 口 や 自 動 券 売 機 で 気 軽 に 購 入 す る こ
と が 可 能 で あ る が 、「 PiTaPa」 は 駅 で 購 入 す る こ と は で き な い 点 で あ る 。「 PiTaPa」
を 入 手 し よ う と 思 え ば 、ま ず は 駅 な ど で 申 込 用 紙 を 入 手 し 、そ こ に 、住 所・氏 名 ・
銀行口座など個人の属性情報を記入し、
「 PiTaPaセ ン タ ー 」に 送 付 す る 必 要 が あ る 。
与 信 審 査 が 進 め ら れ 、審 査 に 通 れ ば カ ー ド が 発 行 さ れ る と い う「 や や こ し い 」プ ロ
セ ス を 経 て 入 手 す る こ と が 可 能 と な る 。三 点 目 に つ い て も 二 点 目 と 密 接 に 関 連 す る
が 、会 員 の 個 人 属 性 が 発 行 主 体 と し て し っ か り と 把 握 で き て い る か ど う か 、と い う
点 で あ る 。そ も そ も「 Suica」の ホ ル ダ ー の こ と を 会 員 と は 呼 ば な い し 、
「 Suica」の
ホ ル ダ ー が ど の よ う な 人 か 把 握 す る こ と は 基 本 的 に は で き な い 。「 PiTaPa」 の 場 合
は 、ホ ル ダ ー 一 人 ひ と り の 属 性 情 報 や 利 用 履 歴 を セ ン タ ー で 把 握 す る こ と が で き る
し 、む し ろ 把 握 す る こ と で 初 め て 決 済 代 金 の 請 求 、引 落 が 可 能 と な る 。四 点 目 と し
て 、「 Suica」 は 発 行 に 際 し て 預 か り 金 ( デ ポ ジ ッ ト ) を 収 受 す る が 、「 PiTaPa」 は
収 受 し な い 。そ の 代 わ り 、1 年 間 利 用 の な い 会 員 に 対 し て は 、口 座 管 理 料 と し て 1,050
円 を 請 求 す る 。 五 点 目 は 、 カ ー ド の 発 行 主 体 が 「 Suica」 の 場 合 は JR東 日 本
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であ
る が 、「 PiTaPa」 の 場 合 は 、 阪 急 電 鉄 や 京 阪 電 鉄 で は な く 、 あ く ま で ㈱ ス ル ッ と
KANSAIと い う こ と に な る 。そ の 他 、加 盟 店 獲 得 に 関 し て「 Suica」の 場 合 は 駅 ナ カ
中心であり、基本的には沿線に留まっているとの評価が適切であろう。一方の
「 PiTaPa」は 例 え ば 沖 縄 や 東 京 に も 利 用 可 能 な シ ョ ッ プ が 存 在 す る し 、鉄 道 沿 線 以
外 の 観 光 施 設 も 利 用 可 能 と な っ て い る 。こ の よ う な 加 盟 店 獲 得 に 関 す る 方 針 も 大 き
く異なっているといえよう。
以 上 ま と め た と お り 、「 Suica」 と 「 PiTaPa」 と の 間 に は 、 共 通 点 ・ 相 違 点 が 見 て
と れ た 。次 章 で は こ の 共 通 点・相 違 点 を も と に し て 、解 釈 を 施 し な が ら 、第 3 章 で
述べたリサーチクエスチョンについて検証していくこととする。
第5章
まとめ
第5章
第1節
事例研究からのインプリケーション
第5章
第1節
第1項
電子マネービジネス参入にとっての戦略資産について
JR 東 日 本 や (株 )ス ル ッ と KANSAI は 電 子 マ ネ ー の ビ ジ ネ ス ス キ ー ム の 中 で 、 カ
ー ド 発 行 者 、あ る い は バ リ ュ ー 発 行 者 と い う プ レ イ ヤ ー と し て「 新 規 事 業 」に 参 入
し た と い う 前 提 で 論 を 進 め て き た 。こ の 電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス に 鉄 道 事 業 者 と し て 参
入 す る に あ た っ て 、ど の よ う な 経 営 資 源 を 用 い て き た の か を 確 認 し 、新 規 事 業 と し
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東 京 モ ノ レ ー ル 及 び 東 京 臨 海 鉄 道 も Suicaの 発 行 主 体 と な っ て い る 。
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て の 電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス に 参 入 す る に あ た っ て 、何 が 重 要 な「 戦 略 資 産 」で あ っ た
のか図表 8 び図表 9 を参考にしながら確認する。
図表8
電子マネービジネスに活用されている資産
JR東日本
ハウスカードノウハウ
加盟店獲得
決済サービス
IC化の追加投資分
FeliCaの技術
人的つながり(井深)
SFカードの保有
SFカードの利用経験
そのまま改札機で利用可能
精算不要の利便性
駅ナカの加盟店開拓
駅ビル、駅ナカの権利
ICカード関連機器
チャージ機
ネットワーク・インフラ
ICカードの保有
ICカードの利用経験
非接触の利便性
チャージ機の利用方法
時間の流れ
(出所)筆者作成。
図表9
電子マネーとしてのSuica
非接触ICの採用
IC乗車券としてのSuica
顧客のアセット
磁気式カードのシステム・
イオカードの普及
企業側のアセット
磁気式システム老朽化
130億円の追加投資力
電子マネービジネスに活用されている資産
㈱スルッとKANSAI・阪急電鉄
スルッとKANSAI協議会
共同開発のコンセプト
オープンアーキテクチャ
全国に広がる加盟店
非接触ICの採用
FeliCaの技術
フォロワとしての利点
SFカードの保有
SFカードの利用経験
ICの利便性+ポストペイの利便性
非接触
チャージレス
そのまま改札機で利用可能
精算不要の利便性
IC乗車券・
電子マネーとしての PiTaPa
顧客のアセット
磁気式カードのシステム・
ラガールカードの普及
企業側のアセット
世界初のポストペイ
与信審査
時間の流れ
(出所)筆者作成。
ま ず 「 Suica」 も 「 PiTaPa」 も 電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス に 参 入 す る に あ た っ て 、「 ウォ
レ ッ ト 」 と し て 使 っ た の は 、 鉄 道 乗 車 券 と し て の IC カ ー ド で あ っ た 。 同 業 他 社 の
「 Edy」が そ の よ う な ベ ー ス と な る デ バ イ ス を 持 た な か っ た こ と と 比 較 す る と 、既
に 利 用 者 が 保 有 し て い る IC カ ー ド を 活 用 し て 電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス に 参 入 し た こ と
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は 、本 稿 の テ ー マ を 考 え る と 注 目 す べ き 点 の 一 つ と い え る 。な ぜ な ら ば「 顧 客 が 保
有 す る 有 形 の 資 産 」 で あ る IC 乗 車 券 を 有 効 に 活 用 し て い る と 明 確 に 言 え る か ら で
あ る 。 ま た 多 く の カ ー ド ホ ル ダ ー が 存 在 す る と い う こ と は 「 非 接 触 IC カ ー ド を 利
用した経験」
「 非 接 触 IC カ ー ド に バ リ ュ ー を チ ャ ー ジ し た 経 験 」と い っ た 、経 験 と
いう無形資産が顧客に蓄積されていたことも注目すべきであろう。
「 PiTaPa」は 鉄 道 乗 車 券 と し て サ ー ビ ス が 提 供 さ れ た 当 初 か ら シ ョ ッ ピ ン グ での
利 用 を 想 定 し て い た 。一 方 の「 Suica」は 、2001 年 11 月 に 鉄 道 乗 車 券 と し て 利 用可
能 と な っ た の に 対 し 、シ ョ ッ ピ ン グ 利 用 が 可 能 と な っ た の は 、2004 年 3 月 で あ り 2
年 以 上 の タ イ ム ラ グ が あ る 。 し か も 当 初 発 売 し た 「 Suica」 で は シ ョ ッ ピ ン グ 利 用
が 出 来 な い 仕 様 と な っ て い た た め 、 従 来 の 「 Suica」 の ホ ル ダ ー に 対 し て は 、 電 子
マ ネ ー 対 応 の「 Suica」へ 無 料 交 換 を 行 っ て い る 。
「 Suica」の 発 行 枚 数 に つ い て 、2005
年 4 月 時 点 で 1,200 万 枚 で あ る が 、こ れ は 電 子 マ ネ ー 非 対 応 の「 Suica」を 含 ん だ 数
字 で あ り 、電 子 マ ネ ー 機 能 を 備 え た も の だ け で 言 え ば 、685 万 枚 の 発 行 枚 数 で あ る 。
「 Edy」 の 発 行 枚 数 は 2005 年 4 月 時 点 で 1,020 万 枚 で あ る が 、 仮 に 「 Suica」 が 導
入 当 初 か ら 電 子 マ ネ ー 機 能 を 備 え た も の で あ っ た と す る な ら ば 、「 Edy」 を し の ぐ
発 行 枚 数 と い う こ と に な り 、電 子 マ ネ ー の カ ー ド 発 行 主 体 と し て は 非 常 に 悔 や ま れ
る 点 で は な い だ ろ う か 。 さ ら に 注 目 す べ き は 、 電 子 マ ネ ー 非 対 応 「 Suica」 か ら 電
子 マ ネ ー 対 応 「 Suica」 へ の 交 換 が 無 償 で 行 わ れ た に も か か わ ら ず 、 今 な お 500 万
枚 の 「 Suica」 は 交 換 さ れ ず 、 電 子 マ ネ ー 機 能 を 持 た な い ま ま と な っ て い る と い う
点である
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。「 顧 客 に 蓄 積 さ れ た 資 産 」 は 、 仮 に そ こ に 欠 点 が あ り 、 事 業 者 側 が 無
償 で 取 り 替 え る と 申 し 出 た と し て も 、そ の ま ま 顧 客 に「 蓄 積 」さ れ つ づ け る 傾 向 に
あ る こ と が こ の 事 例 か ら は 推 測 さ れ る 。顧 客 に 蓄 積 さ れ る 資 産 は 極 め て 重 要 で あ り 、
ま た 事 業 者 固 有 の デ バ イ ス を 顧 客 に 蓄 積 さ せ る 際 に は 、将 来 の 事 業 展 開 を 十 分 に 加
味する必要があるといえるだろう。
電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス へ 参 入 し て い く こ と が 可 能 と な っ た 背 景 に は 、単 に 鉄 道 乗車
券 と し て の IC カ ー ド を ベ ー ス に 多 数 の ホ ル ダ ー が 存 在 し て い た と い う 要 因 だ け で
は な い こ と も 付 け 加 え る 必 要 が あ る だ ろ う 。 例 え ば 「 Suica」 の 場 合 、 JR 東 日 本 が
も と も と 展 開 し て い た ハ ウ ス カ ー ド 事 業 で 獲 得 し た ノ ウ ハ ウ 、ナ レ ッ ジ が 重 要 な 役
割 を 果 た し て い る し 、加 盟 店 獲 得 に 関 し て も「 駅 ナ カ 」の テ ナ ン ト を 中 心 に 取 り 組
ん で い る こ と を 考 え る と 、駅 や 駅 ビ ル と い っ た「 企 業 が 保 有 す る 有 形 資 産 」が 重 要
な 役 割 を 担 っ て い る と 言 え よ う 。さ ら に 、「 Suica」の シ ス テ ム の う ち 、改 札 機 器 に
つ い て は も っ ぱ ら 鉄 道 事 業 用 に 供 さ れ て い る が 、カ ー ド 発 行 機 や バ リ ュ ー チ ャ ー ジ
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2004 年 2 月 18 日 に 発 行 枚 数 が 800 万 枚 を 達 成 し て い る こ と か ら も 、 か な り の 割 合 で 、 交
換が進んでいないことがわかる。
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機 と い っ た 駅 務 機 器 類 や 、セ ン タ ー サ ー バ ー を は じ め と す る ネ ッ ト ワ ー ク イ ン フ ラ
に 関 し て は 、鉄 道 事 業 用 と シ ョ ッ ピ ン グ 用 を 共 用 し て い る 部 分 も 多 く 、こ こ で も 既
存事業の有形資産を新規事業に有効活用しているといえる。
さ て 、も う ワ ン ス テ ッ プ 遡 っ て 、IC 乗 車 券 と し て の「 Suica」
「 PiTaPa」を 発 行 す
る 上 で 戦 略 資 産 と な っ た も の は 何 か と い う 点 も 検 証 し て み た い 。 鉄 道 事 業 用 の IC
乗 車 券 を 導 入 す る こ と 自 体 は「 新 規 事 業 」と は い え な い か も し れ な い が 、
「 IC カ ー
ド が 新 し い 事 業 に 結 び つ く チ ャ ン ス が あ る の で は な い か 」と い う リ ア ル オ プ シ ョ ン
と し て の 価 値 は 高 く 評 価 さ れ て い る も の と 推 測 で き る 。 IC の 乗 車 券 導 入 に 際 し て
利 用 し た「 戦 略 資 産 」が 存 在 し て い た の で あ れ ば 、そ れ は「 新 規 事 業 開 発 を お こ な
う上での重要な資産」と位置付けてもよいと考えるからである。乗車券としての
IC カ ー ド を 普 及 さ せ る と い う フ ェ ー ズ に 着 目 す る 時 、
「 Suica」と「 PiTaPa」を ひ と
く く り で 論 じ る こ と は で き な い 。な ぜ な ら ば 、一 方 は プ リ ペ イ ド 、一 方 は ポ ス ト ペ
イと、大きく根本の性格が異なっており、その違いから普及の方法、普及の速度、
普 及 の 枚 数 に 決 定 的 な 影 響 を 与 え て い る か ら で あ る 。む し ろ そ の 点 に 、本 稿 の リ サ
ーチクエスチョンを検証するための、重要な要因があると考えられる。
JR東 日 本 が 「 Suica」 を 普 及 さ せ る に あ た っ て 、 最 も 役 立 っ た こ と は 、 そ れ ま で
に「 イ オ カ ー ド 」を 発 行 し て い た こ と で は な い だ ろ う か 。実 際 に ど れ だ け の イ オ カ
ー ド ユ ー ザ ー が 存 在 し て い た か は 正 確 に 把 握 す る こ と は 出 来 な い が 、JR東 日 本 の 推
計 に よ れ ば 200 万 人 程 度 の ユ ー ザ ー が 存 在 し て い た と さ れ て い る
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。これだけ多
く の 人 が「 イ オ カ ー ド 」を 保 有 し 、買 い 替 え や 買 い 増 し を 経 験 し て い た と い う こ と
は、
「 Suica」を 普 及 さ せ る 上 で プ ラ ス に 作 用 し た も の と 考 え ら れ る 。例 え ば「 Suica」
発売時に「イオカード」を保有していた人がいたとする。その残高がなくなれば、
次 に 「 Suica」 を 買 う 動 機 付 け は 働 く だ ろ う 。 こ れ ま で 普 及 し て き た イ オ カ ー ド と
利 用 方 法 や 購 入 方 法 に ほ と ん ど 差 が 無 く 、単 に 材 質 が 変 わ り 利 便 性 は 向 上 し た プ リ
ペ イ ド カ ー ド を 、「 引 き 続 き 」 購 入 し よ う と 考 え る の は 十 分 合 理 性 が あ る と 言 え る
からである
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。こ の 点 を 考 慮 す れ ば 、導 入 4 年 足 ら ず で 1,200 万 枚 も 普 及 さ せ る こ
とに成功した要因の一つとして、
「顧客が磁気式プリペイドカードを保有していた」
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Suica発 行 前 の イ オ カ ー ド ホ ル ダ ー は 約 200 万 人 と 推 計 さ れ て い た が 、実 際 に は こ の 数 字 を
は る か に 上 回 る Suicaホ ル ダ ー が 誕 生 し て い る 。 単 に 磁 気 の イ オ カ ー ド ホ ル ダ ー が Suicaに シ フ
トしただけではなく、普通きっぷを利用していた人もプリペイドカードを利用するようになっ
た と い う こ と が 言 え る 。 こ の 点 に つ い て は 今 城 [2004]を 参 照 し た 。
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イ オ カ ー ド と 、Suicaの 相 違 点 の 一 つ に 500 円 の デ ポ ジ ッ ト を 徴 収 さ れ る こ と が 挙 げ ら れ る 。
そ の こ と に 抵 抗 を 感 じ て 、Suicaを 購 入 せ ず に 引 き 続 き イ オ カ ー ド を 購 入 す る 利 用 者 は い る と 考
える必要はある。
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点 を 挙 げ る こ と は 可 能 で あ る 。こ の 点 か ら 鉄 道 事 業 者 が 電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス へ 参 入
す る 際 に は 「 顧 客 に 蓄 積 さ れ た 有 形 資 産 = 磁 気 式 プ リ ペ イ ド カ ー ド ( き っ ぷ )」 が
極めて重要な役割を担っていたことが分かるだろう。
一 方 の 「 PiTaPa」 に つ い て は 「 Suica」 と は 全 く 異 な る 考 え 方 の も と 、 会 員 獲 得
が 行 わ れ た 。 第 4 章 第 3 節 で も 述 べ た と お り 、「 PiTaPa」 を 入 手 す る た め に は 、 そ
れ ま で の 磁 気 式 の プ リ ペ イ ド カ ー ド を 入 手 す る プ ロ セ ス と は 全 く 異 な り 、む し ろ ク
レジットカードや携帯電話を購入するのと同じような手続きが必要であった。
「 PiTaPa」 の サ ー ビ ス が 開 始 と な っ た 際 「 ラ ガ ー ル カ ー ド 」 を 保 有 し て い た 人 が 、
残 高 が な く な っ た 際 に「 PiTaPa」の 申 込 を す る か を 考 え る と き 、必 ず し も 申 し 込 み
をするとは言えない
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。ま た 阪 急 電 鉄 は「 PiTaPa」を 普 及 さ せ る 方 法 と し て 、ハ ウ
ス カ ー ド に 「 PiTaPa 」 を 付 加 し 、 ハ ウ ス カ ー ド 自 体 を 普 及 さ せ る こ と に よ っ て
「 PiTaPa」を 普 及 さ せ る と い う 戦 略 を 採 っ て い る も の と 考 え ら れ る
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。実 際 に 2005
年 4 月 時 点 で の 普 及 枚 数 10 万 枚 の 内 訳 を み て も 、
「 PiTaPa」の 機 能 を 単 体 で 提 供 し
て い る カ ー ド 「 ベ ー シ ッ ク カ ー ド 」 は わ ず か 、 1.3 万 枚 に と ど ま っ て お り 、 普 及 し
て い る「 PiTaPa」の 8 割 以 上 が ク レ ジ ッ ト カ ー ド 機 能 の 付 加 機 能 と し て 提 供 さ れ て
いるのである
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。
ラ ガ ー ル カ ー ド と 比 較 し て 、 PiTaPaは 利 用 可 能 な 鉄 道 ・ バ ス 事 業 者 が 大 幅 に 少 な い と い う
点 も 、 PiTaPaの 普 及 を 遅 ら せ る 要 因 の ひ と つ で あ る と 想 定 さ れ る 。 角 [2005]を 参 考 と し た 。
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筆 者 は 阪 急 夙 川 駅 に PiTaPaの 申 込 用 紙 を 貰 う 目 的 で 出 向 い た が 、HANA PULSカ ー ド に つ い
て は 、 告 知 物 等 も あ っ て 申 込 用 紙 を 簡 単 に 見 つ け る こ と が で き た 。 し か し PiTaPaの 単 体 と し て
の機能のみを提供している「ベーシックカード」については、宣伝物を見つけることすら出来
ず、あえて駅員に言わない限り申込用紙を入手することも困難であると感じた。
59
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図 表 10 を 参 照 。 87% が ク レ ジ ッ ト カ ー ド に 付 加 さ れ た PiTaPaで あ る 。
47
図表10
PiTaPaの内訳
全体で10万
クレジットカード
87%
13%
e-kenet PiTaPa
KOBE PiTaPa
HANA PLUS
PiTaPa ベーシック
(出所)スルッとKANSAI協議会プレス資料をもとに筆者作成。
JR 東 日 本 で 、 イ オ カ ー ド の 普 及 実 績 が 「 Suica」 の 普 及 に 貢 献 し た こ と と 対 比 す
ると、同社のプリペイドカードである「ラガールカード」の普及が「イオカード」
程 に は 、 IC 乗 車 券 の 普 及 に 貢 献 し て い な い こ と が 分 か る 。 さ ら に 言 え ば 、 こ れ ま
で 顧 客 が「 ラ ガ ー ル カ ー ド 」を 購 入 し 、利 用 し 、ま た 買 い 替 え・追 加 購 入 し た と い
う 経 験 に つ い て 、「 PiTaPa」 を 普 及 さ せ る 戦 略 と し て 、 活 用 し な か っ た と 言 う ほ う
が 正 し い 。 そ し て そ の 結 果 、「 PiTaPa」 は 「 Suica」 程 に は ホ ル ダ ー 数 を 獲 得 で き ず
にいる要因ともなっていると考えられよう。
新 規 事 業 と し て 電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス に 参 入 す る に 当 た り 、直 接 的 、間 接 的 に 活用
し た 戦 略 資 産 に つ い て ど の よ う な も の が あ っ た の か を 確 認 し 、そ れ ぞ れ が ど の 段 階
で 有 用 性 を 発 揮 し た の か と い う こ と を 明 ら か に し て き た 。同 じ 電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス
に 参 入 し て い る も の の 、電 子 マ ネ ー 事 業 に 関 す る 事 業 観 の 違 い や 、経 営 戦 略 全 体 に
お け る IC カ ー ド の 位 置 づ け の 違 い な ど 「 Suica」 と 「 PiTaPa」 で は 大 き く 異 な っ て
い る た め 、保 有 す る 資 産 の 活 用 の 仕 方 に 違 い が 見 ら れ た 。本 稿 第 3 章 で 提 起 し た リ
サ ー チ ク エ ス チ ョ ン で は 、「 電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス へ の 参 入 」 あ る い は 「 電 子 マ ネ ー
の ウ ォ レ ッ ト と し て の IC カ ー ド を 普 及 さ せ る こ と 」と い う 限 定 的 な テ ー マ に 絞 り 、
それを達成するためにどのような戦略的資産を用いたのかということを主たる論
点 と し た 。「 Suica」は 顧 客 に 蓄 積 さ れ た 有 形 資 産 で あ る「 イ オ カ ー ド 」を 有 効 に 活
用 し て カ ー ド の ホ ル ダ ー 数 を 一 気 に 増 や す こ と が で き 、「 ラ ガ ー ル カ ー ド 」 を あ え
て 活 用 し な か っ た「 PiTaPa」は ホ ル ダ ー 数 を 増 加 さ せ る の に 苦 慮 し て い る と い う 結
果が見てとれた。
48
第5章
第1節
第2項
「 Suica」 と 「 PiTaPa」 の 戦 略 上 の 相 違 点
前 項 に お い て は 、電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス へ の 参 入 と い う 観 点 に 絞 り 込 み 、普 及 枚 数
が多いという観点から、
「 Suica」の 戦 略 を 成 功 事 例 と し て 扱 っ た 。な ら ば「 PiTaPa」
の 戦 略 は ど の よ う に 評 価 す る こ と が で き る だ ろ う か 。「 PiTaPa」 が 「 電 子 マ ネ ー の
ウ ォ レ ッ ト と し て の IC カ ー ド を 普 及 さ せ る こ と 」 と い う 目 的 の み で 戦 略 を 構 築 し
て い た と す る な ら ば 、「 PiTaPa」 は 失 敗 事 例 と い う こ と に な る 。 し か し 決 し て そ れ
だ け を 目 的 と し て「 PiTaPa」を 普 及 さ せ よ う と し て い る わ け で は な い 。1 枚 の「 Suica」
と「 PiTaPa」を 比 較 す る と 、逆 に「 PiTaPa」の ほ う が 戦 略 的 資 産 価 値 が 高 い と も 考
え ら れ る 。顧 客 に と っ て み れ ば 、チ ャ ー ジ 不 要 で 利 便 性 が 高 く 、企 業 に と っ て み れ
ば 、属 性 情 報 が 正 確 で 、履 歴 情 報 と の 紐 付 け も 可 能 、さ ら に デ ポ ジ ッ ト が な い 代 わ
りに口座管理料を徴収することにより未利用者の退出を促す仕組みも内在してい
る 。こ の よ う な 側 面 に 焦 点 を 当 て る と す る と 、む し ろ「 PiTaPa」は 失 敗 事 例 で は な
く 、 別 の 観 点 か ら 、「 顧 客 に 戦 略 的 価 値 の 高 い ツ ー ル を 保 有 さ せ た 事 例 」 と も 解 釈
可能である。
「 PiTaPa」自 体 は 電 子 マ ネ ー と し て 収 益 を あ げ な く と も 、ク レ ジ ッ ト カ ー ド 普 及
の た め の 付 加 的 な 魅 力 と し て 存 在 し 、そ の ク レ ジ ッ ト カ ー ド が 、顧 客 の 属 性 情 報 や
履 歴 情 報 を 把 握 す る ツ ー ル と し て 機 能 し 、鉄 道 事 業 や 消 費 者 金 融 業 、百 貨 店 事 業 な
ど阪急グループが手がける他のビジネスのマーケティングツールとして活用され
る 。こ の よ う な ね ら い が あ っ た と す る な ら ば 、決 し て 失 敗 事 例 で は な く 、む し ろ 本
稿 の 仮 説 で あ る「 顧 客 に 蓄 積 さ れ る 有 形 の 資 産 」を 活 用 す る 好 例 と 考 え る べ き で あ
る 。 角 [2005]は 、「 今 ま で の カ ー ド で は 、 誰 に 発 行 し た カ ー ド で あ る か 分 か り ま せ
ん し 、 ど の よ う な 移 動 を し た の か そ の 詳 細 が つ か め ま せ ん 、 そ れ が IC カ ー ド に な
れ ば 把 握 可 能 で す 」と 述 べ 、マ ー ケ テ ィ ン グ ツ ー ル と し て の 資 産 価 値 を 高 く 評 価 す
る と と も に 、「 普 及 に 時 間 が か か っ て も ポ ス ト ペ イ 方 式 の 方 が 正 し い と い う 考 え に
かわりはありません」と述べている。
も ち ろ ん 「 Suica」 も そ れ 自 体 が 「 顧 客 に 戦 略 的 価 値 の 高 い ツ ー ル を 保 有 さ せ た
事 例 」と し て み る こ と は で き る 。電 子 マ ネ ー の ウ ォ レ ッ ト と し て 活 用 さ れ て い る こ
と は も ち ろ ん 、ビ ル の 入 退 館 シ ス テ ム の 鍵 と し て 活 用 し て い る 事 例 や 広 告 媒 体 と 連
携 し た レ コ メ ン デ ー シ ョ ン ツ ー ル と し て 活 用 し て い る 事 例 は 「 Suica」 が 他 の 事 業
に 対 し て シ ナ ジ ー 効 果 を 発 揮 し て い る 典 型 で あ る 。 こ の 点 か ら も 「 Suica」 は 「 顧
客 が 保 有 す る 戦 略 的 資 産 」 か ら 生 ま れ た も の で あ る と 同 時 に 、「 Suica」 自 体 も 「顧
客 が 保 有 す る 戦 略 的 資 産 」で あ る と 言 え る だ ろ う 。 ま た 「 Suica」 を JR 東 日 本 の ハ
ウ ス カ ー ド で あ る 「 ビ ュ ー カ ー ド 」 と 組 み 合 わ せ る こ と に よ り 、「 PiTaPa」 と 同 様
のマーケティングツールとしても活用可能である。
49
図表11
事業者から見たICカードの
リッチネスとリーチのトレードオフ
リッチネス
本稿で扱わなかった被説明変数
PiTaPaのポジション
CRMの実践
等にとっての
効用曲線
トレードオフ線
Suicaのポジション
電子マネービジ
ネスにとっての
効用曲線
リーチ
本稿で扱った被説明変数
リッチネス:1枚のカードが事業者のもたらす情報量・利用シーンの多さ、魅力度
リーチ:普及枚数
(出所)Evans and Wurster[2000], p.74.をもとに筆者作成。
「 Suica」 も 「 PiTaPa」 も 「 顧 客 が 保 有 す る 有 形 の 資 産 ( ツ ー ル )」 で あ る と は 言
え 、 そ の 性 質 は 大 き く 異 な る 。 ま た 同 じ 「 Suica」 で も 、 あ る い は 同 じ 「 PiTaPa」
で も 、ハ ウ ス カ ー ド と 一 体 化 し て い る か ど う か で 、1 枚 あ た り の 資 産 価 値 は 大 き く
異 な る 。図 表 11「 事 業 者 か ら 見 た IC カ ー ド の リ ッ チ ネ ス と リ ー チ の ト レ ー ド オ フ 」
で は 、リ ッ チ ネ ス と リ ー チ を そ れ ぞ れ 、
「1 枚のカードが事業者にもたらす情報量・
利 用 シ ー ン の 多 さ 、 魅 力 度 」 及 び 「 普 及 枚 数 」 と 捉 え 、「 Suica」 と 「 PiTaPa」 を マ
ッピングしたものである。カードを普及させる上で、個人情報の提供を求めない
「 Suica」 は 、 確 か に 気 軽 に 購 入 す る こ と が で き 普 及 さ せ る 上 で 障 壁 は 低 い 。 し か
し そ の よ う な 形 で 普 及 さ せ た 「 Suica」 は 、 顧 客 と ワ ン ・ ト ゥ ー ・ ワ ン ・ リ レ ー シ
ョ ン を 構 築 す る 上 で は 、 大 き な 価 値 を 持 つ と は い え な い 。「 PiTaPa」 の 場 合 は ど う
か 。ラ ガ ー ル カ ー ド を 購 入 す る 感 覚 で 駅 へ 出 向 い た と し て も 、入 手 で き る の は 申 し
込 み 用 紙 だ け で あ る 。申 し 込 み 用 紙 を 手 に し た 人 の う ち 、実 際 に 申 し 込 み を 行 う 人
は 限 定 的 で あ る と 考 え ら れ る 。し か し 、申 し 込 み が あ っ た 場 合 は 、正 確 な 情 報 が 入
手 で き 、普 及 の し や す さ と そ の カ ー ド が も た ら す 情 報 は 、そ の 意 味 で ト レ ー ド オ フ
といえる。
そ し て 、 電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス で 必 要 な 要 件 を 考 慮 し た 効 用 曲 線 と CRMで 必 要 な
効 用 曲 線 を 重 ね 合 わ せ た も の が 図 表 11 の 中 で 示 さ れ て い る 。 こ こ か ら 言 え る こ と
は 、電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス は ホ ル ダ ー 数 が 非 常 に 重 要 と な る ネ ッ ト ワ ー ク 型 ビ ジ ネ ス
で あ り 、 電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス で 利 用 す る と い う 前 提 で の 価 値 は 「 Suica」 の ほ う が
「 PiTaPa」よ り も 高 い 。一 方 で 、カ ー ド が も た ら す 顧 客 情 報 の 量・質 が 重 要 と な る
50
「 CRMの ツ ー ル 」 と し て 利 用 す る こ と を 前 提 と す る な ら ば 、「 PiTaPa」 の 方 が そ の
価 値 が 高 い と い う こ と で あ る 。す な わ ち 、そ れ ぞ れ の 目 指 す 戦 略 に 従 っ て 、リ ッ チ
ネ ス / リ ー チ の ト レ ー ド オ フ 直 線 の 中 で 、そ れ ぞ れ が 合 理 的 な ポ ジ シ ョ ニ ン グ を と
っ て い る と 言 え る だ ろ う 。そ し て そ の 次 の ス テ ッ プ と し て 、「 Suica」で あ れ ば 、各
ク レ ジ ッ ト カ ー ド と 一 体 化 さ せ る こ と で リ ッ チ ネ ス を 増 加 さ せ 、ま た「 PiTaPa」で
あ れ ば 、協 議 会 に 加 盟 す る 鉄 道 会 社 が 順 次 採 用 す る こ と で リ ー チ を 増 加 さ せ て い る 。
結 果 的 に 「 Suica」「 PiTaPa」 の そ れ ぞ れ が 別 の プ ロ セ ス を た ど り な が ら 、 よ り 高 い
価 値 を も つ 戦 略 資 産 と し て 、顧 客 の 財 布 に 滑 り 込 ん で い る と い え る の で あ る 。こ の
両 社 の 事 例 か ら 新 規 事 業 参 入 に 際 し て「 顧 客 の 保 有 す る 有 形 の ツ ー ル を 有 効 に 活 用
し た か 、 あ る い は 有 効 に 活 用 し よ う と し て い る 。」 と の 結 論 が 導 き だ さ れ た と 言 え
るのではないだろうか
第5章
第2節
60
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。
一般化仮説の提起(今後の課題)
こ こ ま で 、鉄 道 事 業 者 の 電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス へ の 参 入 事 例 を 取 り 上 げ 、そ こ で 利
用 さ れ た 戦 略 的 資 産 が 何 で あ っ た の か 、ど の よ う に 活 用 さ れ た の か と い う 点 に つ い
て 検 証 を 行 っ た 。 鉄 道 事 業 者 に よ る 電 子 マ ネ ー ビ ジ ネ ス へ の 参 入 に 特 化 し 、「 磁 気
式 の プ リ ペ イ ド カ ー ド を 顧 客 が 保 有 し て い る こ と が 、顧 客 の 利 用 経 験・行 動 に 影 響
を 与 え 、さ ら に そ の 利 用 経 験・行 動 を 活 用 す る こ と に よ っ て 電 子 マ ネ ー の ウ ォ レ ッ
ト と も な る IC 乗 車 券 を 普 及 さ せ た こ と 」 を 明 ら か に し た 。 あ る い は そ の 反 対 に 、
それらを活用しなかったことによって普及が阻害されたことを明らかにすること
で「 顧 客 が 保 有 す る ツ ー ル 」が 新 規 事 業 参 入 の 成 功 要 因 と な っ て い る こ と を 確 認 し
て き た 。 二 つ 目 の 視 点 と し て 、 IC 乗 車 券 と し て の 「 Suica」 や 「 PiTaPa」 自 体 が 、
リ ッ チ ネ ス と リ ー チ の ど ち ら を 重 視 し て い る か と い う 点 で 性 質 は 異 な る も の の 、次
な る 新 規 事 業 に 対 す る 戦 略 的 資 産 と な っ て い る こ と も 確 認 で き た 。 特 に 「 PiTaPa」
は 普 及 枚 数 を 犠 牲 に す る 代 わ り に 、カ ー ド ホ ル ダ ー 一 人 ひ と り の 属 性 を 把 握 し 、ま
た 利 用 履 歴 ま で も 把 握 で き る よ う な 、リ ッ チ ネ ス が 非 常 に 高 い ツ ー ル を 顧 客 の 懐 に
送り込むことを目指した戦略をとっていることも明らかとなった。
JR 東 日 本 と ㈱ ス ル ッ と KANSAI と い う 二 つ の 事 例 か ら 、 少 な く と も 電 子 マ ネ ー
ビ ジ ネ ス に お い て は「 顧 客 が 保 有 す る 有 形 資 産 が 新 規 事 業 参 入 に お い て 重 要 な 戦 略
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IC乗 車 券 と し て の Suicaの 普 及 に 寄 与 し た 要 因 と し て 「 イ オ カ ー ド 」 の 普 及 以 外 に も あ る 。
例 え ば 、非 接 触 型 ICカ ー ド の 技 術 、
「 FeliCa」の サ プ ラ イ ヤ ー で あ る ソ ニ ー と の 結 び つ き な ど は
「 Suica」 の 導 入 あ る い は 、「 Suica」 の 成 功 の 要 因 と し て 重 要 な 役 割 を 担 っ て お り 、 こ れ ら の 企
業に蓄積された「見えざる資産」もやはり重要性の高い戦略資産であることが分かる。本稿の
主張はこのような資産について「重要性が低い」とするものではない。
51
的 資 産 で あ っ た 」こ と が 明 ら か に な っ た 。し か し 鉄 道 輸 送 サ ー ビ ス の バ リ ュ ー チ ェ
ー ン の 中 で 活 用 さ れ て い る か 、生 み 出 さ れ る 経 営 資 源 の 中 の 全 て の「 顧 客 が 保 有 す
る 有 形 資 産 」に つ い て 検 証 さ れ た わ け で は な い 。
「『 顧 客 が 保 有 す る 有 形 資 産 』を 活
用 し て 新 規 事 業 を 行 う こ と が 今 後 の 鉄 道 事 業 者 と し て 目 指 す べ き 方 向 で あ る 」と い
う 一 般 化 仮 説 は 支 持 さ れ る の だ ろ う か 。こ の 検 証 に つ い て は 、今 後 に 残 さ れ た 課 題
の ひ と つ で あ る 。鉄 道 事 業 者 が 取 り 組 む 新 規 事 業 、関 連 事 業 を 概 観 す る と き 、最 初
か ら「 顧 客 が 保 有 す る 有 形 資 産( ツ ー ル )を 活 用 す る 」発 想 は 無 か っ た か も し れ な
い が 、 結 果 的 に 「 顧 客 が 保 有 す る 有 形 資 産 ( ツ ー ル )」 を 活 用 し て い る も の は た く
さ ん 存 在 す る 。例 え ば 当 初 利 用 者 に 対 し て 、列 車 の 運 賃 料 金・時 刻 を 知 ら せ る た め
の手段として用いていた鉄道事業者のインターネットサイトは今やきっぷの予約
は も ち ろ ん 、ホ テ ル の 予 約 や シ ョ ッ ピ ン グ ま で 可 能 な 、ポ ー タ ル サ イ ト 的 な も の へ
と 発 展 し て き て い る 。こ の よ う な ポ ー タ ル サ イ ト は 利 用 者 が パ ソ コ ン や 携 帯 電 話 を
持 っ て い る と い う こ と が 前 提 と な っ て 運 営 さ れ て お り 、か つ 利 用 者 の 保 有 す る ツ ー
ル が 技 術 的 進 化 を 遂 げ る の に 合 わ せ て 、提 供 す る サ ー ビ ス 内 容 も 事 業 領 域 も 変 化 さ
せ て き た と い え る 。利 用 者 が 保 有 す る ツ ー ル の「 リ ッ チ ネ ス 」に 変 化 が 生 じ た 場 合 、
あ る い は「 リ ー チ 」に 変 化 が あ っ た 場 合 、ビ ジ ネ ス チ ャ ン ス は 生 ま れ る 。そ し て そ
の チ ャ ン ス を 活 か す た め に は 、「 顧 客 が 保 有 す る ツ ー ル 」 に 注 目 し て い か な け れ ば
な ら な い 。リ ッ チ ネ ス や リ ー チ の 程 度 に よ っ て 、新 規 事 業 参 入 に 与 え る 影 響 度 は 大
き く 差 が あ る か も し れ な い が 、そ れ ぞ れ の ツ ー ル は 利 用 さ れ る 可 能 性 を 持 っ て お り 、
少 な く と も「 鉄 道 事 業 者 が 新 規 事 業 参 入 を 行 う 場 合 に 、顧 客 が 保 有 す る 有 形 資 産( ツ
ール)を活用すべきである」ということは支持されるのではないかと考えている。
鉄 道 事 業 が か な り 日 常 生 活 に 密 着 し て い る だ け に 、利 用 者 が 日 常 使 う も の の 中 に は 、
鉄 道 利 用 に 関 連 す る も の も 少 な く な い 。そ し て そ れ ら 一 つ 一 つ を ビ ジ ネ ス チ ャ ン ス
の 源 泉 で あ る と の 認 識 で 注 目 し て い く こ と が で き れ ば 、鉄 道 事 業 者 が 、衰 退 し つ つ
あ る 鉄 道 輸 送 サ ー ビ ス だ け に 依 存 し て 事 業 と と も に 心 中 す る こ と を 回 避 し 、企 業 と
して永続的に成長し続ける活路を見出していけるものと考えている。
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