※ ホームページ等で公表します。 (様式1) 立教SFR-院生-報告 立教大学学術推進特別重点資金(立教SFR) 大学院生研究 2007年度研究成果報告書 研究科名 立教大学大学院 異文化コミュニケーション 研究科 異文化コミュニケーション 専攻 所属・職名 指導教員 異文化コミュニケーション研究科・教授 自然 自然・人文の別 研究課題名 氏 名 ・ 人文 鳥飼玖美子 個人・共同の別 印 個人 ・ 共同 名 文学作品の翻訳の持つ可能性 在籍研究科・専攻・学年 異文化コミュニケーション研究科・ 研 究 代 表 者 異文化コミュニケーション専攻・ 博士後期課程2年 在籍研究科・専攻・学年 異文化コミュニケーション研究科・ 異文化コミュニケーション専攻・ 博士後期課程2年 氏 名 齊藤美野 印 氏 名 齊藤美野 研 究 組 織 研究期間 2007 年度 研究経費 200 千円 研究の概要(200~300 字で記入、図・グラフ等は使用しないこと。) 本研究は文学作品の翻訳を題材とするものであり、ドイツロマン主義思想家・作家や現代の哲学 者 な ど の 翻 訳 に 関 す る 論 考 か ら 「 等 価 性 」、「 逐 語 訳 」 等 の 概 念 に つ い て 考 究 し 、 文 学 作 品 の 翻 訳 の もつ可能性として破壊的な性質を挙げた。翻訳という行為が、目標言語や文化、人々のもつ規範に 対 し 与 え る 影 響 力 の こ と を 「 破 壊 性 」 あ る い は 「 変 容 の 力 」 と 呼 び 、 そ れ に つ い て W. ベ ン ヤ ミ ン や、近現代の作家・思想家の論を参照し考察した。また、翻訳の等価性は起点・目標両テクストの どのような対応法に見出されるかという点からも、翻訳が目標テクストや目標言語に対しどのよう な影響を与える可能性をもつか論じた。 キーワード(研究内容をよく表しているものを3項目以内で記入。) 〔 文学作品の翻訳 〕 〔 逐語訳 〕 〔 等価性 〕 ※ ホームページ等で公表します。 (様式2-1) 立教SFR-院生-報告 研究成果の概要(図・グラフ等は使用しないこと。) 文 学 作 品 の 翻 訳 の も つ 可 能 性 と し て 、「 破 壊 性 」、 例 え ば 訳 出 先 の 言 語 ( 目 標 言 語 ) を変える性質など、既存の何かを壊し変化させる力があるという考えのもと、その性 質がどのようなものか考察した。その際、翻訳という行為を「翻訳」と鍵括弧に入れ て捉えることで、ある書記言語が記載されたテクストを別の書記言語へ置き換える行 為以外も含めた「翻訳」行為について論じた。主に、フリードリヒ・シュライエルマ ッ ハ ー( F r i e d r i c h S c h l e i e r m a c h e r )、ヨ ハ ン ・ W・ v・ ゲ ー テ( J o h a n n W. v. G o e t h e )、 テ オ ド ー ル ・ W・ ア ド ル ノ( T h e o d o r W. A d o r n o )、マ ル ク ・ ク レ ポ ン( M a r c C r é p o n )、 ジ ャ ッ ク ・ デ リ ダ ( Jacques Derrida) の 5 名 の 論 述 を 参 照 し 、 こ の 作 家 ・ 思 想 家 ・ 哲 学者たちが翻訳の性質として何を挙げているか見ていった。 シ ュ ラ イ エ ル マ ッ ハ ー と ゲ ー テ は 、 18 世 紀 か ら 19 世 紀 の ド イ ツ に 生 き た ロ マ ン 主 義者である。両者は文芸翻訳について論じており、翻訳の破壊性は主に訳出先の文化 (目標文化)における文学や言語(目標言語)の規範を壊すもの、そして発展させる ためのものとして述べられていた。例えばシュライエルマッハーは 2 種類の翻訳法を 挙げるが、文芸翻訳の方法としてふさわしいと考えていたのは、異国の要素をドイツ 語及びドイツの文芸に持ち込むことができるほうの方法である。その翻訳法は、翻訳 者が原作から得たものと同じ印象を目標テクストの読者に伝えようとするものであ り 、 原 作 者 が 自 分 で 訳 し た よ う な 翻 訳 で あ る と 説 明 さ れ て い る 。( も う 一 方 の 翻 訳 法 は、原作者を目標言語の世界へ引き入れ、目標言語使用者に変貌させるものである。 これは、原作者が目標言語の使用者として初めから目標言語で書いたような翻訳であ る と さ れ る 。) ア ド ル ノ の 論 は 、ヴ ァ ル タ ー ・ ベ ン ヤ ミ ン( Wa l t e r B e n j a m i n )が 主 張 す る 逐 語 訳 と は ど の よ う な も の か を 知 る た め に 参 照 し た 。 ベ ン ヤ ミ ン が 「 翻 訳 者 の 使 命 」 ( 1 9 2 3 / 1 9 9 6 )と い う 論 考 に お い て 翻 訳 者 の 使 命 を 全 う す る 方 法 と し て 挙 げ る 逐 語 訳 と は、どのような方法であるかについての解釈を試みたのである。ベンヤミンとアドル ノの論を合わせて考えると、目標言語は逐語訳によって変容し、それは具体的にはパ ラタクシスの技法による総合文の並列であると推測できた。つまり目標言語の文章構 造を打ち壊し、そのことで意味を変容させる働きを翻訳(逐語訳)は持ち得ると考え られるのである。 現代の哲学者クレポンと哲学者・思想家であるデリダの論における翻訳は言語に関 する現象と表せるものであり、翻訳を母語との関連から考察したものである。両者の 論において翻訳とは、言語が形作られる現象であると説明されていた。翻訳によって 言語が破壊され変容し、またそのことで母語というものが成り立つ、そして変化して い く と い う こ と で あ る 。母 語 は 同 一 性 の 拠 り 所 と し て 機 能 し て い る か の よ う で あ る が 、 実は確固としたものではなく常に乱される可能性をもったものであり、そのような母 語の変化が翻訳によって引き起こされる。両者の論は翻訳の破壊的性質を、母語を変 容させるものと、さらには母語と自己同一性の関係をも変容させるものとするのであ った。 以上の論から翻訳の破壊性というものが、様々であることがわかったが、各論に共 通して挙げられる特徴として、それが否定的なものではないということがあった。例 えば、目標言語を発展させる原動力であるし、また母語を形作る重要な働きをするも のなのである。このように翻訳の破壊性という側面を複数の角度から論じることがで きた。 ※ ホームページ等で公表します。 (様式2-2) 立教SFR-院生-報告 研究成果の概要 つ づ き ま た シ ュ ラ イ エ ル マ ッ ハ ー や ゲ ー テ 、ベ ン ヤ ミ ン の ほ か に も ド イ ツ ロ マ ン 主 義 者 の 翻 訳 論 に 注 目 し 、 フ ラ ン ツ ・ ロ ー ゼ ン ツ ヴ ァ イ ク ( Franz Rosenzweig ) に 焦 点 を 当 て た 研 究 も 行 っ た 。そ し て 、翻 訳 の も つ 可 能 性 と し て は 、題 材 が 同 じ で あ っ て も 原 文 ( 起 点 テ ク ス ト )と 訳 出 物( 目 標 テ ク ス ト )を ど の よ う に 対 応 さ せ る か に よ っ て 異 な る目標テクストを生み出すということを考えた。 ド イ ツ 語 へ の 聖 書 翻 訳 を マ ル テ ィ ン ・ ブ ー バ ー ( Martin Buber ) と 共 に 行 な っ た ローゼンツヴァイクの翻訳法について、先行してドイツ語へ聖書を訳したマルティ ン ・ ル タ ー ( Martin Luther ) と 比 較 し な が ら 述 べ た 。 16 世 紀 始 め の ル タ ー の 訳 は 、 当 時 の ド イ ツ の 一 般 民 衆 が 聖 書 を 読 め る よ う に と 、逐 語 訳 を 避 け 明 瞭 な 言 葉 に 訳 出 し た も の で あ る 。 そ れ に 対 し 、 20 世 紀 の ロ ー ゼ ン ツ ヴ ァ イ ク ・ ブ ー バ ー 訳 は 、 原 典 に 忠 実 に 起 源 に 立 ち 戻 る よ う に 訳 す る こ と で 、ル タ ー に よ っ て 作 ら れ た 聖 書 の 翻 訳 の 伝 統 を 変 え る も の で あ っ た 。こ ち ら は 、読 み や す さ よ り も 異 質 さ を 強 調 す る も の と い う こ と で あ る 。2 種 類 の 聖 書 翻 訳 が 、同 じ テ ク ス ト の 翻 訳 で あ っ て も 、起 点・目 標 テ ク ストをどのように対応させるかによって大きく異なる目標テクストを生み出すこと を 論 じ る こ と が で き た 。ま た 、ロ ー ゼ ン ツ ヴ ァ イ ク ら の 翻 訳 は 、目 標 言 語・文 化 に 異 質 さ を 持 ち 込 む も の で あ っ た こ と か ら 、ロ ー ゼ ン ツ ヴ ァ イ ク ら が 翻 訳 に 言 語 や 文 化 を 変 化 さ せ る 力( 先 述 し た 破 壊 性 と 表 せ る 性 質 )を 見 出 し て い た 、あ る い は そ の よ う な 力を期待していたことがわかった。 以 上 の よ う に 2007 年 度 に 行 っ た 研 究 は 、 文 学 作 品 の 翻 訳 の 持 つ 可 能 性 と し て 、 何 か を 変 容 さ せ る 力 、破 壊 性 を 見 出 す も の で あ っ た 。こ の 研 究 に よ っ て 、翻 訳 と い う 行 為・現象を捉える為の視野が広がり、また今後の研究のための土台となる翻訳行為・ 現象の捉え方が確保できた。 ※ この(様式2)に記入の成果の公表を見合わせる必要がある場合は、その理由及び差し控え期間等 を記入した調書(A4縦型横書き1枚・自由様式)を添付すること。 (様式3) 立教SFR-院生-報告 研究発表(研究によって得られた研究経過・成果を発表した①~④について、該当するものを記入してください。該当するものが多い場 合は主要なものを抜粋してください。 ) ①雑誌論文(著者名、論文標題、雑誌名、巻号、発行年、ページ) ②図書(著者名、出版社、書名、発行年、総ページ数) ③シンポジウム・公開講演会等の開催(会名、開催日、開催場所) ④その他(学会発表、研究報告書の印刷等) ① 齊 藤 美 野 ,「『 翻 訳 』の 破 壊 性 ,あ る い は 変 容 の 力 」,『 異 文 化 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 論 集 』,6 号 , 2008 年 , pp. 47-58 齊 藤 美 野 ,「 起 点・目 標 テ ク ス ト 対 応 の 方 法 」,『 翻 訳 研 究 へ の 招 待 』,2 号 ,2 0 0 8 年 ,p p . 9 3 - 1 0 0 ④(学会発表) 齊 藤 美 野 ,「 ド イ ツ ロ マ ン 主 義 者 の 翻 訳 論 : F . ロ ー ゼ ン ツ ヴ ァ イ ク に 焦 点 を 当 て て 」, 2 0 0 7 年 9 月,日本通訳学会第8回大会
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