米国の図書館における東アジアの学生 - 国公私立大学図書館協力委員

(訳)
米国の図書館における東アジアの学生:その期待への取り組み
訳者:西
脇
亜由子
抄録:マサチューセッツ大学アマースト校理工学図書館(Science and Engineering Library of the University of Massachusetts Amherst)では,東アジアからの多くの留学生にサービスを行っているが,その図書
館の使い方は米国人学生とかなり異なる。彼らは図書館で長時間過ごすが図書館員に研究支援を求めること
はほとんどなく,研究の大部分で Google を利用する結果,図書館が提供するかなり有用な情報源に気付か
ない。東アジアの留学生の期待を理解するため,筆者は中国,日本,韓国の大学図書館を訪問し,米国の図
書館との重要な相違点を見出した。それは東アジアと米国における学術文化の差異から生じている場合もあ
るが,図書館員教育の違いにもよると考えられる。筆者は,本稿でいくつか所見を述べるとともに,米国北
東部で成功している低料金の図書館員研修企画の事例にも触れる。
キーワード:留学生,米国図書館,理工系図書館員,中国人学生,韓国人学生,日本人学生,職能開発
1.はじめに
マサチューセッツ大学アマースト校は,他の多く
の大学やカレッジと同様,この 10 年で留学生の募
集を増やしてきた。過去 10 年にわたり毎年約 2,000
名の留学生がマサチューセッツ大学アマースト校に
在籍している。2012 年には、留学生 103 名が学部
に,417 名が大学院に入学し,キャンパスの留学生
の総在籍数は 1757 名となっている(University of
Massachusetts Amherst. Office of Institutional
Research, 2013)。このうち約 40%が自然科学部,
工学部,看護学部,公衆衛生・健康科学部に入学す
ると考えられる(Institute of International Education, 2013)
。こうした傾向により大学の知的文化的
活動が増大し世界中の学者と学会の連携が確立・強
化されてきたことは明らかである。
2.特別な利用者グループとしての留学生
留学生たちは米国の図書館に幅広い期待を抱いて
やって来る。その母国での経験においては,受入先
の大学の図書館で提供される情報源を効果的に利用
する準備が十分でないか,全くできていないのでは
ないか。図書館員は長年この点に関心を抱いてお
り,このテーマに関する文献は多い(Morrissey &
Given, 2006; Sarkodie-Mensah, 1992; Wayman,
1984)
。しかしながら,論者の大半は留学生を単一
のグループとして取り扱っている。アジアの留学生
に焦点を当てている論者もいるが,やはり留学生は
単一で未分化のグループとしている。だが,このよ
うな一般化は文化的・経済的差異の重要性を考慮し
ていない。東南アジア・東アジアへの研究休暇旅行
の助成金を得たある幸運な図書館員は,留学生の場
合にはこうした違いを意識することが重要だと強調
している(Hickok, 2011)。
東アジア出身の利用者が高い割合を占めるマサ
チューセッツ大学の理工学図書館において,我々は
留学生の奮闘ぶりを直接目にしてきた。多数の留学
生が図書館を利用するが,その大半は静かな学習場
所として使う。彼らはめったに研究への助けを求め
ず,研 究 と 日 常 生 活 に 関 す る 情 報 検 索 は Google
(また時には Google Scholar)にかなり依存してい
る。彼らが図書館員に助けを求めて近づくのは,通
常,特定の資料の探し方または図書館資料の貸出に
ついて尋ねるときである。これに対し,マサチュー
セッツ大学アマースト校の米国人学生は,比較的図
書館で過ごす時間が短く,研究に行き詰まった場合
はよく図書館員に助けを求めるが,留学生とほぼ同
程度に Google や Google Scholar を使ってもいるの
である。
我々はこの他にも東アジアからの留学生が他の留
学生や米国人学生と際立って異なる特徴に気づい
た。
・図書館に初めて来館した東アジアの留学生の大半
は,自分の課程に必要な教科書が図書館に揃って
いると期待している。特に理工学分野では教科書
が非常に高価であるため,それが図書館にないと
知ると彼らはがっかりする。
・東アジアの留学生は,一般に,指導教員の勧めに
きちんと従うため,図書館で探すよう言われた資
料が図書館にない場合,戸惑うことがよくあるよ
うだ。彼らは ILL が使えると分かると非常に喜
ぶが,図書館に自分たちの学習を助ける資料が全
て所蔵されていないことに驚くのである。
1
米国の図書館における東アジアの学生:その期待への取り組み
・東アジアからの留学生は,理工学図書館の開館日
には毎朝必ず最初に入館し,夜は最後に退館す
る。学期間の休暇中や週末休暇が長いときには,
理工学図書館の利用者のほとんどが東アジアから
の留学生ということもよくある。
より大きな図書館コミュニティにおける業務の一
環として,筆者は「留学生に対する学術サービス分
科 会( Interest Group in Academic Services to
International Students : IGALSIS)」という米国図
書館協会(American Library Association)の検討
会議の共同議長を務めている。検討会議には主に米
国とカナダの約 65 名の図書館員が参加している。
彼らはみな東アジアからの学生たちに共通の特性を
認 め て い た。昨 年 の 夏 に は IFLA( International
Federation of Library Institutions and Associations)年次大会でオーストラリアの図書館員と話
をしたが,オーストラリアでも東アジアからの学生
の割合がかなり高くなっており,こうした点に関心
が持たれているとのことだった。
たしかに,留学生にとっては,とりあえず友人と
会い共に学習する静穏な場所として図書館は重要で
あるが,彼らは(図書館員を含む)多くの価値ある
情報源が利用できることを知らないようである。
3.留学生へのサービス普及の取り組み
マサチューセッツ大学の大学図書館では,キャン
パスで留学生へのサービス普及に取り組んできた。
3 名の図書館員が毎年秋学期の開始前の留学生オリ
エンテーションに参加し,彼らに役立つオンライン
情報を提供できるよう,留学生向け図書館ガイドを
作成した(Borrego, Schmidt, & Will, 2013)。オリエ
ンテーションでの説明の最後に,名刺(裏面に図書
館ガイドのウェブアドレスを明記)を学生ひとりひ
とりに渡しながら,
「私があなたの担当図書館員で
す。図書館について何でも質問があれば私の所に来
てください。
」と伝えている。我々がこの取り組み
を始めて以来,助けを求めてくる留学生の数がわず
かに増加してきている。
4.背景
マサチューセッツ大学アマースト校は,5 つの
キャンパスからなるマサチューセッツ大学システム
における旗艦キャンパスである。大学は 1863 年に
マサチューセッツ農科大学として開校した。1931
年,学部増加に伴い校名をマサチューセッツ州立大
学に,1947 年にはマサチューセッツ大学と変更し
た。大学システムの 5 キャンパスのうち最大規模の
28,000 名を超える学部生・大学院生が在籍し,敷地
2
面積も最大級のほぼ 1,450 エーカー(5.87 平方キロ
メートル)を誇る。約 1 億 7 千万ドルの研究費を獲
得 し( University of Massachusetts, Office of the
President, 2013)
,その半分以上が自然科学,工学,
健康科学の分野で使われている。マサチューセッツ
大学アマースト校の留学生は 70ヶ国以上から来て
おり,2012 年には大学院生の 26.6%,学部生の 1.9
% を 占 め て い る( University of Massachusetts
Amherst. Office of Institutional Research, 2013)。
5.計画
理工学図書館を使う留学生のほとんどは東アジア
出身で,主に中国,台湾,日本,韓国から来ている
( University of Massachusetts Amherst. Office of
Institutional Research, 2013)。これらの国の図書館
を訪問すれば学生の図書館の使い方や図書館に対す
る期待を把握するのに役立つと思われた。そこで,
いくつかの点でマサチューセッツ大学アマースト校
に近い大学の図書館を訪問したいと考えた。また,
マサチューセッツ大学アマースト校東アジア言語図
書館の Sharon Domier や他の同僚のつてを利用し,
5 つの大学(中国の同済大学,北京理工大学,日本
の慶應義塾大学,北海道大学,韓国の延世大学)を
選んだ。私の疑問点の背景を理解してもらうためマ
サチューセッツ大学の図書館と留学生の図書館利用
についての資料を準備した。
約 6 週間かけて,つたない言語を使いつつ,3ヶ
国を見聞きしてまわった。ほとんど公共交通機関の
みを使用したことで,それぞれの国の文化を体験す
る貴重な体験となった。各国の大学で働いたり教え
たりしている知人と連絡をとり,大学とその運営体
制,およびアジアにおける学術文化について話し
合った。
6.各大学の見学報告
6.1 同済大学(中国・上海)
上海市四平路にある同済大学のメインキャンパス
に丸 2 日滞在した。特別コレクション・企画部長の
Cao Jiebing 氏に案内していただいた。同済大学は,
5 つのキャンパスに自然科学,工学,医学,芸術,
法律,経済,経営の各学部がある。大学には留学生
も多い。50,000 名の学生と 6,200 名の教員が在籍す
る。大学の 4 つの図書館には 221 名のスタッフがい
る。同済大学図書館は,2009 年に米国イリノイ州
シカゴでの米国図書館協会の年次大会で国際的なイ
ノベーションを称える ALA 会長賞を受賞してい
る。
分館を見学している間に,個々に勉強している学
大学図書館研究 XCVIII(2013.8)
生にインタビューする機会を得た。合計 10 名の学
生と話をした。Cao 氏と彼女の同僚が私の質問を快
北大には 2 日間滞在した。鈴木宏子氏に訪問の調
整をしていただき,図書館とその学生支援業務につ
く中国語に訳して下さった。私がインタビューした
学生はみな流暢に英語を話せたが,通訳により誤解
を防ぐことができた。
いて理解を深めるため図書館スタッフによるプレゼ
ンテーションなどのワークショップも行われた。部
局図書館以外に北海道大学博物館も見学した。学生
6.2 北京理工大学(中国・北京)
北京理工大学は,科学技術に重点化された,開放
的で公立の研究型大学である。2010 年で学生数
22,500 名と教員数 1,950 名となっている。2 つの総
合図書館(訪問した中関村キャンパスと良郷キャン
パスに所在)と,4 つの分館がある。75 名のスタッ
フのうち 18 名が博士号,13 名が修士号を持ってい
る。学部生は 16 時間の情報リテラシー講習を受講
する。図書館自体にも情報学と図書館情報学の修士
課 程 が あ る( Beijing Institute of Technology,
2012)
。
Cui Yuhong 図書館長と Chan Yen 副館長は,18
名の学生に会う手配をして下さり,私の質問に答え
る時間を取ってもらった。この時も学生はみな流暢
に英語を話していたが,私の質問を中国語にも訳し
ていただいた。
6.3 慶應義塾大学 日吉キャンパス(日本・横浜)
慶應義塾大学は,著名な学者福澤諭吉によって
19 世紀半ばに創設された。2012 年には,学部生
28,844 名と大学院生 4,637 名,教員 2,983 名が在籍
する。キャンパスには留学生も多く,慶應大学から
は昨年 218 名の学生が海外へ留学している。
日吉メディアセンター事務長の市古みどり氏に日
吉キャンパスを案内していただいた。2 日間滞在
し,各図書館で学生の様子を見学し,図書館スタッ
フと話すことができた。図書館内で学生と話す機会
はなかったが,学生の図書館利用についてスタッフ
と多くの議論ができた。キャンパス内のコーヒー
ショップで図書館利用について学生と気軽な話もし
た。
6.4 北海道大学(日本・札幌)
北海道大学は私の大学と長年の関わりがある。札
幌 農 学 校 は,1876 年 マ サ チ ュ ー セ ッ ツ 農 科 大 学
(現マサチューセッツ大学アマースト校)の初期の
学長のઃ人であるウィリアム・S・クラークの支援
を受け設立された。両大学間の強い絆は現在も続い
ている。2012 年には学部生 11,712 名,大学院生
6,468 名,教員 2,053 名が北大に在籍している。2 つ
の総合図書館と 16 の部局図書館には 90 名のスタッ
フがいる(Hokkaido University, 2013)。
とは直接話せなかったが,図書館スタッフが学生の
利用傾向に関するデータや情報を提供してくれた。
6.5 延世大学(韓国・ソウル)
延世大学は,1885 年に設立され,21,480 名の学
部生と 6,698 名の大学院生が在籍し,教員数は 4,416
名である。延世大学には,国際交流や奨学金制度の
長い歴史がある。図書館には 44 名の図書館員が配
置され,そのうち 11 名は「主題専門家」として指
定を受け 2007 年から専門的な研究者支援を行って
いる。Key Sun-ah(Sonia)氏(研究教育サービス
担当)と Chae Junglim 氏(広報渉外担当)が案内
して下さった。延世大学中央図書館は,2008 年に
大規模改装され,延世サムスン図書館として再編さ
れた。この図書館は私が視察した中で最も近代的で
設備の整った図書館の 1 つであり,見学時にも学生
が頻繁に利用していた。
7.所見
今回の視察を通して,アジアからの留学生がその
他の地域からの留学生と異なる理由が明らかになっ
た。また,米国とアジアの図書館員が多くの価値観
を共有し図書館に求める点も似ていることに気づい
た。
一般に,アジアの大学図書館は図書購入費を提供
するが購入図書を選書するのは教員である。また図
書館が必要とされる教科書全てを購入し学生に貸出
するため,学生は自分で図書を買う必要がない。そ
のため学生は学部生時代に数冊程度の本を買うだけ
である。
他のサービスにおいても違いがある。大学や学生
の所属によっては図書館相互貸借が有料となる。特
に中国の農村部の大学では書庫は閉架になってお
り,学生はサービスデスクで本に目を通すとのこと
だ。一方で十分な予算があるごく少数の図書館で
は,メディア制作設備も利用できる。私が訪問した
図書館では,中国を除く全ての図書館で学生への論
文やレポート作成支援も行われていた。
だが最も顕著で他の原因とも考えられる相違点
は,東アジアの大学図書館における図書館員の教育
と地位である。米国では,専門の図書館員は主題分
野で文学士(B.A.)または理学士(B.S.)を取得し
た後,図書館学(現在,より一般には図書館情報
3
米国の図書館における東アジアの学生:その期待への取り組み
学)で修士号を取得する。また,米国の大学図書館
員の多くは特定の専門分野における修士号あるいは
・キャンパスで中国系研究者や学生協会のメンバー
と会い,もっと手助けできることがないか検討す
博士号も持っている。例えば,マサチューセッツ大
学アマースト校理工学図書館の図書館員は,みな正
規の自然科学系の学歴と学位がある。東アジアで
る(マサチューセッツ大学アマースト校では,韓
国や日本の学生のための同様の組織は見当たらな
かった)。
は,図書館員は図書館学の学士号を取得していて
も,専門分野の学歴はない。さらには,2-3 年おき
に図書館内で異動があり,時には図書館を離れ大学
・図書館スタッフが,文化の違い,特に図書館の
「専門用語」にまつわる言語の障壁をより意識で
きるような方法を探る。
本体の業務につくこともある。そのため,図書館員
が図書館と関係ない分野の学部の業務を行ったり,
専門知識を得て教員や学生との関係性を築く前に,
違う業務を与えられることもしばしば生じる。これ
・科学技術に関連する祝日や記念日には,留学生を
引きつけるイベントや展示を図書館で開催する。
・留学生の母国の新聞や雑誌に図書館からオンライ
では,アジアの学生が自分の研究に関して図書館員
に支援を求めないのも当然である――彼らは図書館
員が質問を理解できるとは期待していないのだ。教
員が図書館資料を選書したり,図書館員と学部の間
に確立した関係性が見られないのもそのためであ
る。
これに関連して,授業における図書館員の役割も
異なる。米国では,図書館員がઃ学期に 1,2 度授
業へ参加し,学生に図書館を紹介し図書館資料の利
用方法を教えるのが一般的である。一部のクラスに
は「エンベディッド(埋め込まれた)
・」ライブラ
リアンが授業のウェブサイト上に存在しオンライン
上や実際の教室での議論に参加する場合もある。私
が同済大学に訪れた際に,中国の図書館には学期に
わたり単位が取れる講義を図書館員が行うことがあ
ると聞いたが,これは珍しいことである。教育は教
員のものと考えられているためだ。
しかし,東アジアの大学が主題知識をもつ図書館
員の優位性と,図書館と学部間の関係強化の重要性
に着目するようになり,こうした考え方は変わりつ
つある。延世大学の理工系図書館で新たに雇用され
た図書館員は,全員が図書館学と専門の学位を持っ
ている。同済大学では,多くの図書館員が専門分野
の学位を持ち,図書館での管理運営業務を行うこと
が多いが,必要な場合には専門知識も提供してい
る。こうした変化の多くは,利用者にできる限り最
高のサービスを提供しようとする図書館員自身に
よって起こされている。
8.マサチューセッツ大学アマースト校図書館にお
ける改善策
以上のような違いから,東アジアの留学生のため
に,いくつかの試みを計画している。
・理工学図書館内に図書館員の写真や学歴,それぞ
れの担当する学部についてポスターや案内掲示を
行う。
4
ンでアクセスできるようリンクを集め,留学生用
の図書館ガイドで利用できるようにする。
最も重要なこととして,同僚の図書館員には,留
学生を意識して仕事をするように徹底したい。ま
た,自分が行ったようにマサチューセッツ大学ア
マースト校国際プログラム事務局を通じて,図書館
の国際化のための助成金を申請することを同僚にも
勧めたい。マサチューセッツ大学アマースト校キャ
ンパスにいる留学生のためだけでなく,グローバル
社会に生きる学生にとって,図書館がグローバルな
視点を持つことは不可欠であるからだ。
9.図書館員の専門能力開発の課題
私が訪問した大学の図書館員との議論では,専門
分野の主題知識に関する話題が何度も出た。研究者
と仕事をする図書館員が専門分野教育を重要視して
いるのは明らかである。米国の図書館員は専門分野
の学士や修士の学位を持っているものの,適切な専
門教育を受けていない分野の学部や学科を担当する
ことが往々にしてある。科学技術分野では,米国の
図書館員の約 30%しか理工学の正規の教育を受け
ていない。そうした教育を受けた者でさえ,理工系
分野の動向についていくのに苦労している。
ニューイングランドの図書館員がとった解決策の
1 つは,図書館員のための自然科学集中講座(Science Boot Camp for Librarians)である。研修の成
否や費用は参加者の地理的条件による。研修は大学
のキャンパスで開催され,参加者は学生寮に宿泊
し,当該キャンパスに所属する教員が講義を行う。
講座は必ずしも専門的な内容ではないが,用語や背
景の知識を得ることができ図書館員が教員や学生の
研究を支援するのに役立つ。さらには,ニューイン
グランドの大学図書館員同士の関係を構築し,大学
間の協力関係への発展にも有効であるという利点も
ある。地域に根ざした集中講座方式は米国西部の図
書館員グループで採用されているほか,南東部と北
太平洋沿岸の州でも計画されている。
大学図書館研究 XCVIII(2013.8)
集中講座を成功させる原則は 2 つあり,半日の研
修企画のような場合にもあてはまる。1 つは,すで
に述べた地域性という側面である。参加者が研修に
出席する際,また研修後に出席者同士が会うための
移動距離が少ないことである。もう 1 つは,同じ大
学から参加する教員や研究者の活用ということであ
る。彼らは豊かな知的資源である。このような企画
によって図書館員と支援対象である研究者や教授の
間に深い関係を築くことができる。また研究者たち
は,知り合いの図書館員から頼まれれば,喜んで講
師になってくれるのだ。
集中講座は 9 つの後援機関から資金援助を受けて
おり,各参加者からは参加費を徴収する。2013 年
の Science Boot Camp for Librarians はマサチュー
セッツ大学アマースト校で 2013 年 6 月 12〜14 日に
開催された。各後援機関は 1,000 ドルを出資し(各
キャンパスの企画者 3 名に対し支払われた)
,今年
の参加費は全日程 250 ドルで,学生寮の個室 2 泊・
宴会・特別デザート企画・学生食堂での全ての食事
(宴会を除く)
・コーヒーブレイクや全ての資料が含
まれる。1 日のみの参加希望者も若干おり,その場
合の参加費は 125 ドルで,参加日の食事・コーヒー
ブレイク・その日のセッションの全ての資料が含ま
れる。
Table 1
Budgeted Income
Institutional Contributions
$9,000
21 Attendees at $250 each
$5,250
4 Attendees at $125 each
$500
Total
$14,750
講座のセッションは,理工学図書館内の夏期は使
われていない広い学習エリアで行われた。学習机と
実行委員会は,メーリングリスト,口コミ,図書
館ガイドツール(Libguides)などを駆使して本企
画 の 広 報 を 行 っ た( Home - Science Boot Camp
2013 - subject research guides at university of
mssachusetts amherst)。これらの手段はすでに定
着しており,非常に効果的だった。
(1 日のみの参加者も含む)53 名の参加者の総費
用は,15,700 ドルである。これに含まれていないも
のとして各セッションの録画費用があるが,この録
画は―ニューイングランド地域も参加している―全
米医学図書館ネットワークのビデオプロジェクトが
費用負担している。
Table 2
Expenses(not complete at this time)
Lodging
North Apartment Dormitory for campers
49 Rooms for 2 nights
$47/night
$4,606.00
Campus Hotel for out-of-town
speakers
2 Rooms for one night
$130/night $260.00
Meals and coffee breaks
Lunch 6/12/13 Dining Commons
$9.75
for 53 people
$516.75
Afternoon break 6/12/13 for 53
people
$146.60
Banquet buffet 6/12/13 for 53
$28.95
people
$1,534.35
Bartender/no setup fee/inclusive
$65.00
Cupcakes & Coffee for lightning
rounds
$156.40
Breakfast 6/13/13 Dining Commons for 53 people
$7.50
$397.50
Morning break 6/13/13 for 53
people
$170.30
Lunch 6/13/13 Dining Commons
$9.75
for 53 people
$516.75
Afternoon break 6/13/13 for 53
people
$146.60
椅子はこの企画のために配置換えし、プロジェク
ター・スクリーン・マイク・演壇を設置した。講師
には「知識のある非専門家」に適したレベルの内容
で講義を依頼したが,どの講師もこうした要求に見
Dinner 6/13/13 Dining Commons for 53 people
$12.50
$662.50
事に応えてくれた。各セッションは 2 つの講義から
なり,そのセッションのテーマの概要と,その分野
Breakfast 6/14/13 Dining Commons for 53 people
$7.50
$397.50
での特定の研究課題に焦点を合わせた内容となって
いる。講義の後には質問時間も設けられた。各講師
には薄謝を進呈している。また,各セッションは録
画され,ニューイングランドの図書館員のための
Lunch 6/14/13 Dining Commons
$9.75
for 53people
$516.75
e-Science Portal に掲示されており,自由に視聴で
きる(University of Massachusetts Medical School,
2013)
。
Honoraria
7 session speakers
$200
$1,400.00
10 capstone researchers
$25
$250.00
Supplies(outdoor signage, bad-
ges, folders, materials for merit
badges, etc.)
$647.53
Total
$11,843.50
5
米国の図書館における東アジアの学生:その期待への取り組み
集中講座の企画を通じて得られた点を以下にいく
つか挙げておく。同様の企画開催を考える人には参
考になるかと思う。
・大学間のコミュニティが基本である。ある大学が
集中講座を主催するとしても,大学のネットワー
クから多くの対価を得ている。それに加え,こう
したコンソーシアムによってより多くの研究者を
集め,その中から講師を依頼できるようになる。
地域の連携ができれば計画・実施もさらに容易に
なり,講座の受講者も自然に集まるだろう。
・機関による支援は不可欠である。9 館の図書館長
から講座へ資金が提供され,図書館員が講座の計
画に時間を費やすことも認められ,会場予約や支
払を行うといった運営支援が行なわれた。
・身近にあるものを使う。図書館ガイドや学生寮,
地域の観光施設,企画グループメンバーの能力―
これらはみな費用を低く抑えるのに役立った。各
キャンパスでは「持ち帰り」用のペンや付箋紙と
いった広報グッズを提供した。
・講座には,楽しい要素も取り込む。技能章(メ
リット・バッジ)や講座のテーマソングなどに
よって,本企画が主催者・参加者両者にとって仕
事とは感じられなくなったと思う。同様に楽しい
話をしてくれる研究者を見つけることも重要であ
る。
・集中講座の適切な開催規模というのは一定ではな
い。仲間意識やコミュニティの結束は参加者数が
増えるほど弱まると思われる。一方で,規模が大
きくなるほどコストは減少するだろう。
今回の視察で私の訪問先の図書館員は,この集中
講座に大変興味を持っていることが分かった。いつ
かアジアの図書館員がこうした自然科学の集中講座
に参加し,帰国後に同じような研修を主催してくれ
ることを願っている。ニューイングランドの研修企
画者の一人として,同様の企画開催を支援できれば
非常に嬉しいことである。
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明治大学学