2.生保の経営破綻とセーフティーネットの限界

200年度特別講義内容(NO.2)
2002.9月作成
2.生保の経営破綻とセーフティーネットの限界
① 破綻事例(日産生命・東邦生命)の紹介
② 契約者保護制度の変遷と問題点
○受講者への配布資料
コピー
① 財界展望「契約者不在の生保セーフティーネットの再々構築を許すな」
(2000年3月号)
② 財界展望「生保各社の負担金を初公開する ――――生保セーフティ ―ネ
ットの知られざる『実態』」(1999年10月号)
③ 財界展望「生保『予定利率引き下げ』で、契約者はこれだけ損をする」
(1999年10月号)
④ 納税通信「破綻被害を防ぐには――――危険生保の選別法」(2000
年4月10日号)
⑤ その他、生保『一般課程・基礎研修テキスト/99年6月改訂版』P3
1〜35・40・41
**************
講
義
内
容
*****************
生命保険会社が破綻すると、遺された家族の生活を守るための死亡保険金や、あてにし
ていた老後の生活を支える年金が減らされる。これまで(講義時点)に、97年4月に日
産生命、昨年(99年)6月に東邦生命と生保2社が破綻し、多くの契約者が被害を受けた。
今回の講義では、(1)生命保険会社の経営破綻がどうして起こったのか、生保のかかえ
る根本問題を理解し、つぎに、(2)破綻すると契約者の契約がどうなるのか、(3)契約
者保護の仕組みがどうなっているのか、をみていった。掲載内容は、講義以降の動向につ
いても、必要と思われる範囲で補足した。
前回の生命保険の特徴で説明したように、契約者から集められた保険料は、将来の保険
金支払いに備えるため、生命保険会社では効率的で安定した資産運用(安全性、収益性、
流動性、公共性の原則)をすることにより、将来の保険金支払いに備え責任準備金を積み
立てている。
(1) 生命保険会社の経営破綻がどうして起こったのか
―――――生保のかかえる根本問題
■ 配当と逆ざや
保
険
料
↓
↓
(
+
)
●予定死亡率
⇒
死差益
●予定利率
⇒
利差益
(
・・・・
−
)
※「逆ざや」の発生
(=利差損)
‖
↑
保険料の割引率
死差益・費差益で穴埋め
⇒
●予定事業費
費差益
合計で(+)
合計で(−)
:
:
:
:
配当
責任準備金
(毎年配当型保険)
の積立不足
※保険料の清算
●経営破綻の要因●
■保険の配当タイプ
①毎年配当型保険(毎年剰余金がでれば配当がでる=1年収支)
②5年ごと利差益配当型保険(5年間トータルで剰余金がでれば5年ごとに配当
がでる=5年収支/配当は利差益のみ)
③無配当型保険
※一般的には、保険料は①→②→③の順で安くなる
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
■生命保険会社は、契約者が払い込む保険料の設定にあたって、資産運用による運
用収益をあらかじめ一定程度見込んで、その分保険料を割り引いて計算している。
この割引率を「予定利率」と言う。予定利率により保険料を割り引いているので、
毎年割り引いた分に相当する金額(「予定利息」と呼ぶ)を、運用収益などで賄って
いく必要がある。この予定利息分を運用収益などで賄えない状態を「逆ざや」とい
う。
↓
※2002年3月末決算より、それまで各社ばらばらに使われていた「逆ざや額」
の計算方法が統一された。
<「逆ざや額」算出式>
逆ざや額 =(①基礎利益上の運用収支等の利回り − ②平均予定利率)) ×
③一般勘定責任準備金
①
⇒
基礎利益(=利差損益+死差損益+費差損益)に含まれる一般勘定の収支か
ら社員(契約者)配当金積立利息繰入額を控除したものの一般勘定責任準備金に
対する利回り
②
⇒
予定利息の一般勘定責任準備金に対する利回り
③
⇒
危険準備金を除く一般勘定部分の責任準備金については、次の計算式で求め
る
(始期責任準備金
+
期末責任準備金
−
予定利息)
×
1/2
* 「不動産等の売却益・株式の評価替えによる益だし」
商法の特例で、責任準備金や配当準備金として積み立てることを条権に、
上場株式は行政の認可を受けた上で、評価益を資産に計上できる
(保険業法第112条)・・・生命保険協会・虎の巻P19
■<参考>逆ざや
(99年3月末実績/2000年3月末予測)
(単位:億円)
1999年3月末
2000年3月末予測
増減
増減%
(日経新聞調査)
アイエヌエイひまわり
アクサ
朝日
○
オリコ
オリックス
協栄
住友
23
*
2
*
1,300
8
*
42
*
700
○
1,300
2,300
700
2,100
セゾン
82
*
ソニー
110
*
31
*
大正
0
0%
0
0
−200
−8.7
第一
○
2,400
2,400
0
0
大同
○
121
121
0
0
太陽
○
900
*
千代田
○
440
380
−60
−13.6
東京
120
ニコス
5
日本
○
−20
−16.7
*
3,600
3,600
250
290
+40
+16.0
350
320
−30
−8.6
日本団体
富国
100
○
プルデンシャル
13
*
平和
59
*
0
0
三井
○
867
820
−47
−5.4
明治
○
1,500
1,300
−200
−13.3
安田
○
790
750
−40
−5.1
大和
○
41
○
350
300
−50
−14.3
東邦○――>GEエジソンへ
?
?
あおば(旧日産)
25
*
<契約管理会社>
第百
合
計
*
16,429
?
※「○印」は相互会社
■株式会社と相互会社の違い
株式会社
性質
営利を目的とする法人
(商法に基づき設立される)
相互会社
営利も公益も目的としない中間法人
(保険業法に基づき設立され、商法上
上の会社には属さない)
資本
株主(会社の構成員)の
出資する資本金
基金拠出金
(会社の構成員ではなく単なる債権者の
拠出)
構成員
株主
社員=保険契約者
意思決定機関
株主総会
社員総代会(保険会社が総代選出)
保険関係
営利保険
相互保険
(保険契約により保険関係
損益の帰属
(社員関係と保険関係が同時に発生する。
が発生する)
非社員関係の契約も認められている。)
株主
社員=保険契約者
(出典:金融審議会資料)
※
資金調達や保険会社の合併に有利な相互会社の「株式会社化」については、
講義のなかでは触れていない。「著書」P122−125を参照。
少し乱暴だが、「生命保険会社の経営破綻がどうして起こったのか」、この原因を簡単に
いえば、一つには保険会社の高い予定利率の設定であり、もう一つには資産運用の失敗に
あるといえる。そこでは、資産運用の「安全性」「収益性」の原則が無視されている。バブ
ル崩壊後、株価や不動産価値の下落、そして銀行を守るための超低金利政策などにより、
生保の資産の運用環境は悪化している。高い予定利率(保険料の割引率)で集められた保
険料を保険会社は、その予定利率と同等か、それ以上で運用しなければならないのだが、
現実の運用環境ではそれができない。逆ざやになった保険会社は、それを取り戻そうと為
替差損リスクのある海外投資などに手を染め、差損を増やしてしまう。一度運用で失敗す
ると、さらにその分も取り戻そうと承知でリスクを犯す、というアリ地獄にはまっていく。
現時点で、健全といわれる生保の多くは、株価の変動とは無縁の国債を中心に運用(販
売する保険商品の予定利率≦資産運用利率)をしてきており、逆ざやや破綻とは無縁のよ
うにみえる。しかし、今後資産運用の環境の改善がみられないかぎり、30年から50年
以上の保険契約の長期性に対し、運用期間の短い国債(国債の募集開始:長期国債10年
物=72年1月/超長期国債20年物=87年9月・30年物=99年9月)(国債の平均
利回り⇒http://www.mof.go.jp/jouhou/kokusai/siryou/を参照)では、安全な運用を維持で
きない。結局、これらの生保も、過去に高い予定利率で販売した契約のマイナス分を、国
債満期の際、費差益と死差益で補わなければならないという苦境にはかわりない。
そもそも予定利率を高く設定さえしていなければ、いわゆる「逆ざや」は発生しなかっ
たのだが・・・・。ここで、93年時点で生保各社が予定利率に対してどのように考えて
いたのか、みてみることにする。
■生保各社の予定利率に対する考え
(※東洋経済・1993.9.1 号
「各社トップに聞く・私は予定利率をこう考える」より作成)
1993年・予定利率=4.75%
予定利率
明治
4〜4.5%
セゾン
楽
5.0%
予定利率の考え方としては比較的低く抑えて、契約
者配当で調整するとよい
観
的
オリコ
6.0%
予
日本
4.25%
測
日産
4〜4.5%
大和
4.75%で自信を持てるのはうちぐらいだと思う
第百
4%前後
悲
協栄
3.5〜4%
観
第一
的
大同
予
安田
4.7%では来年また減配という問題が起きるのでは?
測
富国
4.75%という現在の予定利率はもう少し下げた方がよいと
4.0%くらいまで一挙に下げた方がよかったと思う
4%は切るべき
思う
上記は、93年当時の話であるが、現時点の標準予定利率=1.5%からは考えられな
い数値である。日本列島全体がそうであったように、生命保険会社もこれほどの景気の後
退を予測できずにいた。参考までに、これまでの生保の予定利率の推移は、以下のとおり
である。
■予定利率の推移■
契約年月
←―――――― 保険期間
10 年以下
〜 1952.2
――――――――→
・10 超→20 年以下・20 年超→終身
3.0 %
←
%
←
%
・1952.3〜
4.0
←
←
・S27
1976.3〜
5.5
←
5.0
・S51
1981.4〜
6.0
5.5
5.0
・S56
1985.4〜
6.25
6.0
5.5
・S60
●・1990.4〜
5.75
5.5
←
・H 2
・1993.4〜
4.75
←
←
・H 5
・1994.4〜
3.75
←
←
・H 6
1996.4〜
2.75
←
←
・H 8
1999.4〜
2.0
←
←
・H11
2000.4
1.5
←
←
・H12
※【参考】
簡易保険
※
1990.4→1994.3
●満期型
→
5.75
%
●終身型
→
5.5
%
上記の表は、マネー雑誌などでよく紹介されている数値である。最近までは、
国内主要生保は、この予定利率を基に同一商品を同一保険料で販売していた。
これに対し、外資系生保などは、競争力を高めるため、より予定利率(保険料
の割引率)の高い割安な保険料設定で同一保険商品を販売してきた。また保険
料の改訂時期も国内主要生保が、年度始めの4月に改定しているのに対し、7
月・10月など国内主要生保の様子をみながら保険料を改定している。ここで、
いいたいことは、保険料競争が以前からあったということだ。
個々の破綻事例をみる前に、破綻した 2 社の資産の状況をみておく。
■ 破綻生保の「総資産」の推移
(単位:億円)
日産生命
東邦生命
1987.3 月末
4,440
19,923
1988
:
6,964
25,526
1989
:
13,230
32,825
1990
:
16,270
40,758
1991
:
18,554
47,486
1992
:
19,443
51,185
1993
:
20,284
52,100
1994
:
21,029
53,534↓
1995
:
21,460
50,984↓
1996
:
21,674↓
49,941↓
1997
:
1998
:
1999
:
破綻20,609
45,095↓
30,014↓
破綻25,708
これら生保の資産の減少は、資産運用の問題だけが原因ではない。一度マスコミにより
危険生保のレッテルを貼られてしまうと、その記事をみた契約者は、破綻して自分の受け
取る保険金が減らされるのではないかと心配になり、他の安全な生保に契約を移してしま
う。それだけでなく、他の生保の営業職員が、今入っている保険会社は危ないから、自社
に乗り換えたほうがよいと、危険生保を特集した週刊誌の記事を片手に営業する。
※
日本生命の「行政処分」(不公正募集に対する業務改善命令)
営業職員や代理店によるこうした営業は、以前から行なわれていた。この動
きに歯止めをかける目的で、2001年11月1日に、金融庁は、他社を誹謗・
中傷する資料を作成・提示する不公正な募集を行なったとして、日本生命に対
し業務改善命令を発動している。
○処分理由
「保険契約に関する事項であって、保険契約者等の判断に影響を及ぼすこと
となる重要なものについて、誤解させる恐れのある資料を作成し、保険契約者
者等に配布・提示していたことが確認された。」(保険業法300条1項9号に
違反)
○業務改善命令の内容
① 役員、使用人、生命保険募集人に対する法令遵守教育・指導の徹底
法令等の遵守体制の整備・充実
②「保険契約者等に対して、保険契約に関する事項でその判断に影響を及ぼ
すこととなる重要なものについて、誤解させる恐れのあることを表示等す
る行為」の実効性のある再発防止策と、内部牽制体制の整備
こうした契約者の解約の動き(現金=流動性資産の流出)が危険生保にとどめをさす。
特に、97年4月に日産生命が破綻してからは、その傾向が強まる。戦後はじめての生保
破綻を機に、生保の安全性を簡単な記号であらわした格付会社の「格付け」が、マスコミ
の注目をあびることになった。この頃から、生保に関する週刊誌・月刊誌の記事や、単行
本が急激に増え、生命保険への契約者の関心が深まりはじめたようだ。その結果、2年後
の99年に東邦生命(6月)、3年後の2000年に第百生命(この講義をおこなっている
さなかの6月)
・大正生命(8月)
・千代田生命(10月9日)・協栄生命(10月20日)、4
年後の2001年に東京生命(3月)、とわずか3年間に6社がたてつづけに破綻した。
保険会社を舞台にくりひろげられた詐欺事件が最終的な破綻の引き金になった、大正生
命は、保険業界の一部では他の6社とは別格にみられているが、根本的に①高い予定利率
の保険商品の保有(破綻時の平均予定利率4.0%)による責任準備金の不足、②資産運
用の失敗(責任準備金がさらに不足)、③「格付け」の低下、④契約者の解約・新規契約の減
少による保有契約の減少(流動資産の流出)⑤「格付け」のさらなる低下など(③と④が
繰り返される)、状況は同じである。
なお、ここでは詳細については触れないが、生保版「会社更生特例法」(裁判所に更生特
例法を申請=表向きは保険会社の自主判断)で処理した千代田生命「以降」と、
「それ以前」
(大蔵省・金融庁が業務停止命令を発動)では破綻処理の方法が異なる。千代田生命破綻以
降は、会社更生特例法」型の処理が主流になった。それは、後述するセーフティーネットの
財源の問題と無縁ではない。この講義内容の紹介では触れていないが、講義中に破綻した
第百生命と講義後に破綻した生保4社については、著書『生保販売員必携』第 2 章と「追記」
を参照していただきたい。同書の内容は、前回紹介した生命保険の特徴と、今回の冒頭の
逆ざや以外は、ほぼこの講義内容にそくして作られている。手抜きになるが、講義の紹介
での説明不足については、同書をご覧頂きたい。
(※『生保販売員必携』まえがき・目次→
http://www2.ttcn.ne.jp/~seimeihoken/page1.htm)
(2)破綻すると契約者の契約はどうなるのか
■生保・破綻事例【1】・・・・・日産生命の場合
(1)業務停止命令の発令:1997年4月24日
(4月23日まで営業職員による契約募集が行われた)
→
破綻被害の増大
(2)状況:業界31社中第16位
●総資産:97年3月末
●超過債務額:
2兆609億円
525億円(当初・決算ベ−ス)
↓
3,028億円(最終:破綻処理・時価ベ−ス)
↓
●根本原因
過去の高い予定利率の契約の存在(逆ざや=毎年300億円)
(85年3月国内生保に金融機関との預金セット商品の販売が解禁
される)
●契約件数
1997.10.1
個人保険
個人年金保険
121万件
42
→
1999.11.30
59万件
16
163万件
75万件
(3)破綻処理
旧保険業法(111条)=「包括移転条項」(強制的)
大蔵大臣の権限で破綻生保の全契約を他の生保
に移転できる
↓↓
・新保険業法(96年4月半世紀振りに改正)
‖
「保険契約者保護基金」の設立(97年4月1日)
受け皿となる生保に2000億円を援助
↓↓(※あおば生命への実質救済資金1890.6億円=金銭贈与)
97年4月
業務停止命令
↓
・
大蔵大臣は日産生命の全契約を全額保護する旨を確言
・
受け皿となる生保があらわれない
↓
97年10月「あおば生命」(契約の保全を行う管理会社)設立
・
※約5か月間「解約」ができなかった
※約5か月間の保険料未納による「契約の復活」はできない
※保険金=解約返戻金の削減(予定利率の見直し・2.75%へ)
※「早期解約控除」制度(7年間の解約にペナルティ)の適用
↓
99年11月仏アルテミスの子会社タワ−・エス・エ−へ売却
※あおば生命の社名変更はなし(99.9 売買契約調印)
■あおば生命の沿革
1997年6月26日
あおば生命保険株式会社設立
(資本金100億円/株主:(社)生命保険協会)
7月
7日
7月30日
保険業の免許取得
日産生命保険相互会社と「保険契約移転に関する契約」
を締結
9月30日
10月
1日
日産生命の保険契約移転について大蔵大臣の認可を取得
営業開始
日産生命の保険契約とその他の財産をあおば生命に移転
同時に、保険契約者保護基金から2000億円(同社設立
時の出資金10億円など含む)※契約移転費用=99.35億円
(生保協会、モルガン・スタンレ−に同社の売却先探しを依頼)
↓
米AIG.その他買収を断念
1999年11月
フランス・大手流通グル−プ=プランタンの持ち株会社
「アルテミス」の子会社タワ−・エス・エ−へ同社を売却
※売却価格=250億円
(※旧日産生命の「名簿」=契約者リストの価値)
■生保・破綻事例【2】・・・・・東邦生命の場合
(1)業務停止命令の発令:1999年6月4日
(2)状況:業界44社中第11位(あおば生命を除く)
●総資産:99年3月末
2兆5,708億円
●超過債務額:約2,000億円(決算案)
↓
資産の評価損
↓
約6,530億円(99年9月末
有価証券 2,200 億
貸付金
1,100
不動産
1,000
その他
200
破綻処理・時価ベ−ス)
●根本原因
過去の高い予定利率の契約の存在(逆ざや=毎年600億円)
4,500
●破綻の発端
→
監査法人ト−マスの「不適法意見」(P‑4)
●契約者数
1999.3 末
個人契約
157万人
(3)破綻処理
「保険契約者保護機構」の設立(98年12月1日)
受け皿となる生保に4000億円を援助
↓↓
99年6月
業務停止命令
↓
99年12月
東邦生命をGEエジソン生命に売却決定
↓
2000年3月1日・GEエジソン生命へ契約移転
※約9か月間「解約」ができなかった
※業務停止命令が発令される前日までに解約手続きをしたにもかかわらず
解約事務手続きが完了せず、解約返戻金を削減される苦情有(約 1000 件)
※保険金=解約返戻金の削減(予定利率の見直し・1.5 %へ
)
※「早期解約控除」制度(8年間の解約にペナルティー)の適用
99.12.17 時点
※要処理額(法令に基づく責任準備金削減等調整後)約6000億円
※GEエジソンへの売却価格(のれん代)約2400億円
※契約者保護機構からの支援金額約3600億円(=要処理額−のれん代)
↓
支援金額約3849億円=契約移転時点
↓
最終・支援金額約3662億円=2001年3月清算後
●日産生命破綻による解雇者数
97.4 ?
日産生命
内勤
約1000名
営業職員
約3000名
代理店
97.10.1
99.9.30
・
不明
――↓―――――――――――――――――――――――――――――――――
あおば生命
内勤
364名
244(▲120)
営業職員
0
0
契約社員
代理店
0
0
パ−ト含む
96.4
内勤
本社 584 +支社 614 = 1,198
営業職員
代理店
2,997
法人 295 +個人 606 =
901
5,098
※解雇者数・内勤
約756名
営業職員
約3000名
合計
約3756名
破綻生保に勤めていた内勤社員・営業職員や、代理店も、破綻の被害者である
※東邦→「延命策」参照
■ 東邦生命の延命策
M&A
(=外資傘下入りの選択・相互会社の外資救済/GEキャピタルの「買収」スキ−ム)
※GEャピタル・サ−ビス
100 %出資
東邦生命
(相互会社)
GEファイナンシャル
・アシュアランス
①営業権譲渡の対価
①営業権の譲渡
(のれん代:最大700
②拠出金720億円
拠出金720億円
億円)
②財務再保険の収益
500億円→責任準備金
の積み増し
③共同保険式再保険の収益
(10 年間で約900億円見込
新会社(株式会社)1998.4.1 営業開始
GEエジソン生命
新契約の 3‑50%)
自己資本
1,440億円
①資本金
360億円(持ち株比率GE9:東邦1)
②法定準備金
360億円
③劣後ロ−ン
720億円
‖
議決権付
※東邦生命
⇒①既契約者約200万人の契約管理業務・資産運用業務を従来通り行う
↓
GEエジソン生命に委託
98.2
計画
99.3
内出向者
②本社・人員削減:2900→(2400名)→1855名/1660名
(GEエジソン出向者戻っても席なし紙一枚で退職)
③営業職員:GEエジソン生命に転籍
98.4
約6500名
↓
99.3
約4400
▲ 約2100名
※「財務再保険」(97.12.25 大蔵省通達で解禁→98.6.8 告示 233 号)
保険契約の一部を一定期間、再保険会社に移すことにより、
その一定期間中に保険料から得られる利益を再保険会社から
前倒しで得られる
↓
「自己資本の拡充を目的とした腐心の策。
逆にいえば、そこまで自己資本が脆弱になってしまった危ない会社
があるということ・・・」
(業界関係者)
●東邦生命−GEエジソン適用第1号
(既存契約のうち定期保険など将来的に収益がみこまれるものが対象)
●その他の適用事例:99年4月第百生命
■ 生保破綻処理の内容
生保が破綻すると、予定利率が見直され、年齢性別・加入している保険の種類や加入
時期にもよるが、契約者の死亡保険金や個人年金の受取額が減らされる。また、再出発
をする新会社あるいは引受会社では、契約が減少し会社経営が維持できなるのを防ぐた
め、解約に際し解約返戻金を減らす措置をとっている。このペナルティー制度を、「早
期解約控除」という。
① 最大保険金削減割合
養老保険
日産生命
東邦生命
−23%
−44%
一時払い養老保険
*
−21%
終身保険
*
−66%
一時払い終身保険
−65%
−82%
定期付終身保険
−42%
−59%
ガン保険
−42%
*
医療保険
−29%
*
育英保険
−14%
*
一時払い個人年金保険
−72%
−78%
個人年金保険
−57%
−66%
一時払い介護保険
−66%
定期保険(30年)
−10%
−13%
定期保険(10年)
−0%
−9%
*
※ 東邦生命については20〜50歳の例。年齢・性別・配当の種類・保険期間・保険
料払込期間・加入時期により削減割合は異なる。契約内容の基準日は98年12月
29日。
※ 東邦生命は2001年3月末までの特例期間のあいだ、上記数値に関係なく、死亡
保険金・入院給付金は満額補償された。
② 予定利率の見直し
日産生命
東邦生命
平均予定利率
4.46%
4.79%
92年度以前の契約
5.50%
←
93年度
4.75%
←
94〜95年度
3.75%
←
96〜97年度
2.75%
←
98年度
――
↓
見直し後予定利率
2.75%
2.75%
↓
1.5%
③ 早期解約控除
日産生命
東邦生命
適用期間
7年間
8年間
経過1年目
15%
15%
(97年度中)
(2000年度中)
2
13%
14%
3
11%
12%
4
9%
10%
5
7%
8%
6
5%
6%
7
3%
4%
8
なし
2%
ここで、今までマスコミが取り上げてこなかった、保険会社の破綻処理問題について話
しておきたい。
● エピソード(生保の破綻と契約者貸付制度)
2002年1月、私が生命保険に詳しいから相談にのってあげて欲しいと、
1通の手紙が自殺防止センターから私の事務所に回送されてきた。
手紙は、80代前半の身寄りのない一人暮らしの男性からのもので、前年
の12月、借りていた契約者貸付金のうち32万3,520円を一括して1
月31日までに返済しないと契約が失効するという内容の書面が、生命保険
会社から送られてきて悩んでいる、という内容であった。男性は、人様のお
世話になり迷惑をかけるくらいなら「命を絶つ」という断固とした人生観を
もって生きているのだという。そして、自分が死んだ時に葬式費などで他人
には迷惑をかけないですむように、苦しい家計の中から、毎月2万9,15
0円の保険料を負担していた。この男性にとって、生命保険は毎日の生活を
支える「心のささえ」であった。この心のささえの生命保険がなくなってしま
うのだ。びっしりと書かれた5枚の手紙には、その苦悩が綴られていた。
男性は、5年前に東京生命の終身保険(保険料の終身払い)
・死亡保険金額
500万円に加入していたが、生活費の不足を補うために、この保険の「契
約者貸付制度」
(解約返戻金の9割まで借入れが可能/貸付金利は契約時期に
より異なる)を利用し、貸付限度額いっぱいの金額を借りていた。ところが、
前年3月に東京生命が破綻した。破綻処理のなかで保険金額と、それに連動
して設定されている解約返戻金が削減された。この結果、この男性の契約者
借り入れが、元利合計199万1,110円に対し、新しく計算設定された
貸付限度額166万1,590円をオーバーしてしまったのだ。このオーバ
ー分が先の32万3,520円である。
そもそも生保が破綻しなければ、このような問題はおこらない。ある日突
然、預けている自分の財産の範囲で借りていたお金の一部が、他人(=保険
会社)から借りている借金に変わったので、その分を50日以内に返済しろ、
という督促状が送られてきたら、みなさんはどう思うだろうか。
貸付限度を超えた貸付を、保険業界では、「オーバーローン」と呼んでいる。
東京生命の破綻では、約1万人の契約者が、この男性と同じ「オーバーローン
返済」の督促状を受け取っている。まとまったお金を返済しろという突然の要
求に、これらの契約者も、この男性と同様に戸惑いをみせたと思われる。結
局、保険会社の「兄弟や身内に頼んで返済をしないと、契約が失効してしま
う」という説得に、泣く泣く応じたようだ。そして、保険会社の理不尽な要
求に応じられない契約者は、自分の保険を失った。
契約が失効になった場合、単に保障が無くなるばかりでなく、東京生命の
場合には、2つの特別配当を受け取る権利も失ってしまう。ひとつは、平成
18年度〜23年度までの6年間分配される「特別配当A」
(新規を除く、破
綻処理の対象となった契約の年間事業収益の80%)で、もうひとつは平成
18年度の「特別配当B」
(更生計画作成時に資産処分未了のもので評定額以
上の金額で売却された場合の差額、および旧役員等から賠償金等として回収
された「金員」)である。これら2つの特別配当が、破綻処理で保険金等を削
減された契約者で、配当が支給される時点で契約が有効に継続している契約
者に分配されることになっている。
この男性の場合、結論からいえば、当初の500万円から488万1,3
00円に削減された保険契約は失効したが、保険会社との折衝の結果、現在
の保険料負担とほぼ同額の定期保険に加入することになった。私自身は、こ
の結果に満足することはできないが、現在の保険会社破綻処理の仕組みと、
生命保険会社の契約引受の仕組みの中では、いたしかたないものであった。
ここで紹介したエピソードは、なにも東京生命に限った話ではない。同じように、他の
生保の破綻でも被害者は発生している。
破綻した生保の「オーバーローン」(契約者貸付限度超過)の問題の実態はつかめない。
破綻生保7社の実態調査(2002年1月実施)では、大正生命の数値しか確認できなか
った。他の生保は情報の開示を拒否した。2000年8月に破綻した大正生命の場合、翌
年3月末にあざみ生命へ契約を移転した時点で、4,611件、金額にして3億4,00
0万円あった。破綻生保の中で一番契約者の少ない大正生命で、これだけの被害者がいる。
東京生命の場合、約1万の被害者がいるが、これは別ルートから確認した。生保の情報開
示不足の問題については、以前からマスコミがとりあげていた。この問題は、次回の講義
(NO.3)の後半で取り上げるが、このように破綻処理の透明性がないところにも、情報開
示に消極的な業界の体質があらわれている。
※
日産生命はあおば生命に、東邦生命はGEエジソン生命に、大正生命はあざみ生命に、
千代田生命はエーアイジー・スター生命に、協栄生命はジブラルタ生命に、東京生命は T&D
フィナンシャル生命に、それぞれ契約が移転されている。実態調査は、移転先生保の広報
に対しおこなった。
生保の破綻処理に関しては、契約者保護の立場に立った処理方法がなされているのか、
疑問である。たとえば、銀行が破綻した場合でも、1000万円を超える普通預金があっ
ても、ローン(借り入れ)がある場合、1000万円を超える超過分と借入金を相殺すれ
ば、実質的には預金の全額が保護される仕組みになっている。この仕組みが生保の破綻処
理にあれば、借入額と利息の元利合計が解約返戻金をうわまわらなければ、借入れ割合に
より保険金額はことなるが、失効し契約そのものが無くなるということにはならない。し
かし、保険会社の破綻処理では、こうしたユーザー側に立った考え方はない。契約者が知
らないのをいいことに、生保の破綻処理方法は保険会社に都合よく作られているのである。
マスコミではほとんど取り上げられない問題が、もうひとつある。これも講義では触れ
ていないが、重要な問題なので紹介しておく。(以下『著書』P65〜66 から引用)
加入者が、気がつかないところで保険会社の破綻被害にあうこともある。それは、破綻
した保険会社を含む複数の保険会社で引き受ける共同募集(シェアーイン)の団体保険や
団体年金に加入している場合に起こる。破綻した保険会社が単独あるいは幹事会社(共同
募集での引受けシェアーが一番大きい会社)として契約が結ばれている場合はもちろん、
破綻処理の内容が決まるまでは、一切の保険金の支払いがされないことは理解できると思
う。しかし破綻保険会社が非幹事会社の場合は、破綻生保の保険金支払いは停止されるの
で、その分を除いた金額が幹事会社から保険金受取人の預金口座に振り込まれる。例えば、
団体年金の受取人が年金をA社から受け取っていたのにもかかわらず、非幹事会社の協栄
生命が共同募集に加わっていたため、預金口座に振り込まれた年金額が少ないと、A社に
問い合わせの電話が殺到し説明対応におわれるという状況も発生している。これは団体保
険・年金の加入者が共同募集の仕組みを理解していないことが原因している。シェアーイ
ン制度では、生保各社の契約の引受け割合は、契約者である企業と保険会社との間で決め
られる。もともと1社(あるいは複数社)で100%引き受けていた契約に、他社が契約
者である企業と交渉して後から割り込むことも多い。団体保険・団体年金は、仕組み上、
加入者が保険会社を選択することはできないが、特に破綻すると保険金額削減の可能性の
高い団体年金の加入者は自分がどの保険会社と契約をしているのか、また共同募集の場合
は、その引受け割合など確認しておく必要がある。といっても、生保破綻は時期やまた破
綻規模・処理内容(保険金の削減割合)の予測が困難なため、個々の加入者の対応は難し
い。
ちなみに教職員や防衛庁職員、商工団体を主な顧客基盤としていた協栄の場合、団体契
約の被保険者数は、「団体保険」で単独引受け契約または幹事会社契約=190万9370
名(1155団体)
・非幹事会社契約=2774万3158名(573団体)、「団体年金」
で単独引受け契約または幹事会社契約=36万3306名(342団体)
・非幹事会社契約
=170万3505名(243団体)と多い。
更生特例法を適用した千代田・協栄では、2001年3月末まで保険金支払いを100
%補償した死亡保険金などすべての保険金支払いを一時停止した。支払いが開始されるの
は機構と契約補償対象保険金に係わる資金援助に関する契約締結後に支払い準備が整い次
第開始される(更生特例法第177条の29)。
(3)約者保護の仕組みはどうなっているのか
―――――――契約者保護制度の変遷と問題点
■セーフティーネットの内容(財源・補償内容)
破綻処理の経緯
97年
4月
セーフティーネット内容
①破綻処理のための支援金財源
②補償内容
生命保険契約保護基金設立
(第1ネット)
(第1ネット)
2000億円生保拠出
日産生命破綻
●日産生命破綻処理で枯渇
取決めなし
10月
あおば生命へ契約移転
↑
ネットのない期間
98年
4月
東邦生命管理会社となる
↓
(営業権を GE エジソンへ譲渡)
↓
12月
99年
6月
11月
契約者保護機構設立
(第2ネット)
(第2ネット)
4600億円(※政府保証付借入枠)
東邦生命破綻
生保拠出
仏、アルテミスの子会社
●東邦生命破綻処理約3662億円
タワー・エス・エーへ
あおば生命を売却
12月
支出でほぼ枯渇
(残金約933億円)
GE エジソン生命へ
3月
GEエジソン生命へ
=責任準備金
10割補償
(解約・保険金の減額等
●養老保険その他
受付開始)
=責任準備金
(第3ネット)
○
01年
3月
4月
と入院給付金など
●個人年金
契約移転
4月
●死亡保険金
=満額補償
東邦生命を売却決定
00年
<個人保険>
9割補償
2003年3月末迄の時限措置
[生保追加拠出1000億円+
政府財政資金4000置億円+
<個人保険>
第2ネット残金]
すべて=責任準備金
9割補償
※東邦生命の機構の支出額は、2001 年 3 月の「清算後」の金額。『著書』の金額は、契約移転時点のもの。
■セーフティ−ネットへの生保の負担金(1999年7月作成)
(支援金・単位=億円)
負担金総額
⇒
98年度累計
99年度累計
⇒
支援金
契約者保護基金
2,225.57
(7年間)
338.67
225.61
1,661.29
支援金
契約者保護機構
4,000
負担金・残額
(8年間)
153.02
+
+
459.60
3,387.38
+
+
機構運営資金
年間約4000万円
※
約3,079
約3,926
毎年約4,000万円
生保の支払いは、基金は3月9月の年2回。機構は9月の年1回。
基金の1回の平均支払額(半年度分)=約113億円。機構の1回の平均支払額=2年間は460
億、残り8年間は400億円。ただし機構の第一回目の支払額は、1/4(98年12月から
99年3月までの1/4年度分)である。
※
支援金には、銀行借入利息225.57億円を含む。
※
機構の支援金に銀行借入利息を含めるかどうか、現時点では決めていない。
また、機構の運営資金には、今後発生する東邦生命やその他破綻生保の契約保全費用が追加される
可能性がある。
ここでは掲載できないが、講義では、契約者保護基金(以下、「基金」)と契約者保護機構
(以下、機構)にたいする97年〜99年の3年間の、生保各社(資料作成時点で破綻処
理中の東邦生命を除く47社)の負担実績を紹介している。各年度の各社の負担額は、過
去3年間の実績(保険料収入+将来の保険金の支払に備える責任準備金の積立額)に応じ
た金額で、年1回再計算し毎年調整される。
この基金や機構に対する各社の拠出金は、もともとは、契約者=社員の相互会社であれ
ば、契約者に対する配当やいわゆる「逆ざや」
(保険料の割引率で計算された予定利息額と
実際の運用収益との差)などの穴埋めに使われるものである。また株式会社であれば、株
主への配当、「逆ざや」などの穴埋め、内部留保などに使われるものである。
相互会社である日本生命をみると、基金と機構の負担金は3年間で約252・9億円と
なり、全体の約2割強を負担している。同社の 99 年3月末時点のいわゆる「逆ざや額」は
約3600億円。個々の生保については『著書』P44から45をみていただきたいが、
生保にとって痛い出費となっている。
少しらんぼうな計算だが、単純に生保各社の総負担額を 99 年3月末の全社の契約総件数
(東邦生命は決算を組めず、契約件数が発表されていないので除く)で割って、この時点
の1契約当たりのセーフティーネットへの負担金をもとめると、2434円(〔基金222
5.57億円+機構4000+a〕÷2億5578万7413件)になる。この金額を少
ないとみるか多いとみるか人により評価は異なると思う。しかし本来生保が破綻しなけれ
ば負担しないですむことを考えると、破綻生保の経営者の責任と、破綻するまで放置した
当局の監督責任は重い。
■場当たりなセーフティーネットの設立と生保の破綻
生保の破綻は突然やってくる。もし諸君が契約者で、自分が所属する保険会社が破綻し
たらどうするだろうか。
97年4月の保険契約者保護基金(正式名称:生命保険契約支援制度、以下「基金」と
呼ぶ)が設立された同月、日産生命が経営破綻し、大蔵大臣の契約者の契約全額保護の確
言は守られなかった。資金が枯渇した保護基金に代わり、98年12月に保険契約者保護
機構(以下、
「機構」と呼ぶ)が設立されたが、そのわずか7か月後には東邦生命が破綻し
た。
機構の財源は、その後に起きた第百生命と大正生命の相次ぐ破綻でほぼ枯渇(残金=約
220億円)し、それを補うために2003年3月末までの時限措置でつくられた政府財
政資金4000億円も「期限切れ」が近い。そうした状況下で、再びセーフティーネット
の資金の不足分をどこから捻出するのかという問題が持ち上がっている。(第4ネット)
※機構の財源
財源枠/生保負担分
4,600億円
支援金支出
3,662億8951万1937円
①東邦生命
(清算後)
②第百生命
③大正生命
1,450億円(清算前)
266億5105万6188円
(清算前)
残金
220億5943万1875円
機構設立にあたって、当局の8000億円の業界拠出要請にたいして、業界では事前積
立て限度額を4000億円までしか負担できないとした。4000億円を超える場合には
「必要な措置を政府に要請できる」と、具体的な議論をつくすことなく曖昧な取決めのも
とに、場当たりのセーフティーネットを立ち上げた。
見方によっては、「セーフティーネット」の構築の名のもとに、基金(第1ネット)は日
産生命の破綻処理のために、機構(第2ネット)は東邦生命の破綻処理のために各生保か
ら計画的にそれぞれの資金調達をしたようにもみえる。なぜならば、これら2社の債務超
過の内容をみると、ある日突然こうした状況になったわけではなく、当然当局も事前にそ
の内容を把握していたはずである。実際、破綻時の記者会見で日産生命の社長は「以前か
ら経営内容は大蔵省に報告していた」と語っている。
雑誌『金融法務事情』の98年2月25日号に、大蔵省銀行局保険部調査室長が「保険
制度における支払い保障制度の検討状況」という題で寄稿している。ここでは、機構設立
に際し同年1月30日の保険審議会で検討された「支払い保障制度の整備にあたっての考
え方(案)」が紹介されている。そのなかに2001年3月末までの補償を厚くする経過措
置の項目ではあるが、「公的支援」に触れ、「機関(機構のこと)経過措置の実施に伴う資
金調達を円滑に行なうことができるようにする観点から、公的資金(たとえば、政府保証、
日銀借入)が必要ではないか」とある。この問題を含め、定められた生保各社の負担金の
限度をこえた場合の具体的な恒久対応策を明確に決めなかったことは、東邦生命が破綻し
た現在、セーフティーネットにたいする契約者の信頼を損なう結果となっている。
業界としては、4000億円を超える負担に対して公的資金の導入を望んでいたのは明
らかである。99年6月18日、当時の生命保険協会会長吉田紘一(住友生命社長)は、
「相
互扶助の期間である以上、資金にはおのずと限度がある」と言っている。
自社の契約者の利益や財務内容に影響をもたらすこの4000億円を超える負担に対し
ては、あおば生命と東邦生命を除く45社のうち16社が応じられないといっている(99
年6月〜8月調査)。そうであるならば、当然公的資金の導入しかないのにもかかわらず、
公的資金の導入を望んでいる生保は、条件付も含めわずか14社であった。それ以外はこ
れら2つ質問に対し、「検討中」、「動向をみて社内で論議する」、「状況により判断する」、
あるいは「未回答」であった。こうした各社の意見からも、政府主導のもとに行われた機
構設立が、いかに場当たりにつくられたものであるかがみてとれる。
「機構の負担金の拠出にたいし契約者の同意がえられる」と考えているのは25社、4
社は未調査あるいは同意に努力等、その他は未回答あるいは分からない等である。実際、
契約者から保険料という形で集めたお金で負担金を拠出しながら、契約者の同意が得られ
かどうか回答できない、あるいは回答しないというのは、契約者からすれば納得がいかな
いのではなかろうか。もともと機構にたいする負担は法律で定められ、いわば生保に対す
る特別税のようなものだ。住友海上ゆうゆう生命は、「保険業法に定められた制度への拠出
であり、契約者の理解は得られるものと考えます」(広報)と答えている。
■破綻前の予定利率の引下げは契約違反
生保のセーフティーネットに関してはその他に、「破綻前の予定利率(保険料の割引率)
の引下げ」の問題がある。この意見はもともと生保業界からでたものである。契約者にと
っては破綻前でも破綻後でも保険財産が減らされること(保険金額の削減)にかわりはな
い。保険財産を他の安全な生保に移す時間も与えられず、いきなり早期是正措置が発令さ
れ、はい明日からあなたの保険財産はこれだけに減らされますと一本の書面連絡だけです
まされることに誰も納得しないだろう。破綻処理費用を抑えるという国や生保の都合だけ
で、個人の財産権を侵害することはけして許されない。まして2000年に再浮上した、
全社一斉の予定利率の引下げという意見などは論外である(※注)。
この「破綻前の予定利率の引き下げ論」が、2002年7月に再び持ち上がった。この
高木金融庁長官の発言に端を発した発言の背景には、第3ネットの支援財源のうち200
3年3月末までの時限措置でつくられた政府財政資金4000億円の「期限切れの問題」
と、不良債権の増加や株価下落によって窮地にたたされている銀行の存在があると思われ
る。簡単にいえば、国としては税金を出したくない、そうかといって、生保が破綻すると、
銀行が生保に拠出している劣後ローンなど資金の回収ができなくなると困るので、生保が
破綻する前に、生保の経営難の根本原因である逆ざやを一気になくそうという考えである。
ここでは、議論の詳細については触れない。
破綻前の既契約の予定利率引下げは、実施すれば無論のこと、論議をするだけでも、生
保離れを加速し、さらなる解約の増加と新規契約の減少をもたらす。その結果、予定利率
を下げた生保は財務内容がさらに悪化し、場合により破綻する。
保有契約の予定利率と現実の資産運用率の差がいわゆる「逆ざや」である。不良債権の
問題もそうだが、この逆ざやは現時点における負債というだけでなく将来にわたる負債と
いう側面もあり、生保にとって根本的な問題である(不良債権や逆ざやのない生保ももち
ろんある)。
生保は、銀行救済のための国の低金利政策が問題だと嘆き、なんとか金利が上昇し、株
価が上昇回復しないかとじっと待っている。終身保険など保障期間が長い商品を販売する
保険会社の経営には、株価や為替の変動に致命的な影響を受けない資産の運用が求められ
る。本来生保は、国の保障制度を補う契約者間の相互扶助を目的に設立されたはずだが、
いつしか利益追求がその目的になり、高い予定利率競争と株や不動産といった無理な投資
にはしった。これらの責任に対し当の生保は具体的にどう責任をとるのだろうか。高い予
定利率を認めた大蔵省はどう監督責任をとるのであろうか。最終的に公然と契約者に負担
を求める対応を契約者は許さない。
参考までに、「破綻前の予定利率の引下げ」について必要性がないと考える生保は46社
中5社であった。また必要性があると考えているのは条件付きも含め6社あった。未回答
の11社は論外として、その他の生保が24社あり、生保としては本音を言いにくい問題
である。(99年6月〜8月調査)
※注
当時金融再生委員会の相沢委員長の無責任な「逆ざや」解消狙いの発言
に端を発した2000年の一連の議論に対しては、99年8月24日付の
日本経済新聞に載った記事を見て言ったある30代の主婦の言葉を紹介し
ておく。その記事の内容は、生保が破綻前に予定利率の引き下げできるよ
う生保版・更生特例法の適用の検討を大蔵省が始めたというもので、彼女
はこう言っている。
「なんでそうなるの。約束が違うじゃない。もし本当な
ら、すぐに簡易保険か県民共済に変えなくちゃいけないわ」。破綻前の予定
利率の引き下げは、第二次大戦直後に行われているが、このときには理由
があった。更生特例法の厳格適用を検討せず、安易な法の再改正による破
綻前の予定利率の勝手な引き下げは、契約者にとって「約束違反」以外の
なにものでもない。一度芽生えた契約者の生保契約に対する不信感は、取
り消すことはできない。
なお、破綻前の予定利率引下げについては、2001年にも論議されて
いる。
■生保ペイオフはすでに始まっている・・・・(契約者保護の現状)
機構の設立と同時に、それまで決められていなかった契約者にたいする補償の限度額が
定められた。現在、2001年3月末までの死亡保険金と入院給付金の満額補償と年金の
責任準備金の10割補償(2001年3月末までは10割補償だが同じ契約でもその後の
責任準備金の積立分は9割補償となり年金給付金は削減される)となる。しかしその後は
責任準備金の9割補償となる。その他の満期金のある養老保険などはすでに責任準備金の
9割しか補償されない。生保破綻の場合、予定利率の見直しがともなう可能性が高いこと
を考えると2001年3月末までの死亡保険金と入院給付金の満額補償以外は生保のペイ
オフは部分的に始まっている(講義時点)
。この死亡保険と入院保険にしても、病気や高齢
などにより、銀行預金のように会社を簡単にかえることはできないこともある。それゆえ、
生命保険契約は契約の長期性を考えると、事実上生保のペイオフはすでに始まっている。
国がつくった現在のセーフティーネットは、契約者に生保選択にたいする自己責任を求
めている。そうであるならば、現在当該生保にしか教えていない金融監督庁の生保各社に
対しおこなった検査結果や早期是正措置の内容を「すべて」公表すべきである。また「毎
月」の各生保の資産内容や保有契約内容(件数・金額)などの、契約者自身がみずから保
険財産を守るために必要な情報を公表すべきではなかろうか。生保が年1回毎年6月から
8月に発表する前年度の過去の数字からだけでリスクを判断せよというのは無理がある。
破綻や早期是正措置などの発表があってからでは、契約者はみずから保険財産を守ること
はできない。
■契約者の生保ペイオフ対策
生命保険は一度加入してしまうと、手続きの面倒さも手伝いそのままにしてしまいがち
である。突然の生保破綻で保険金が削減されてからこんなはずじゃなかったと後悔しても
遅い。生保の破綻発表は突然あるという過去の経験から、契約者にとって重要なのは早め
の対応である。生保破綻の被害者になるかどうかは契約者自身の対応次第である。問題が
あるにせよ、次回の講義で説明する、格付会社の出している「格付け」(保険金支払能力格
付)というシグナルを契約者は真剣に受けとめる必要があろう。契約者は、自分の保険財
産は自分で守るほかない。
※エピソ―ド
この講義の中で生保の破綻(NO.2)や格付け(NO.3)も取り
上げ、聴講した学生諸君に家族の加入している生命保険は大丈夫か確認
するように注意を呼びかけた。第百生命が破綻した2週間後、授業が終
わっていつものように学生が私のもとに質問にきた。質問の内容は「お
父さんが加入している第百生命の契約はどうなるのか」というもので、
折角授業で一人でも破綻被害から救われるように注意したのにと、後味
の悪い想いにとらわれた。
■ 契約者保護の視点からみた問題点(デメリット)・・NO.1 & NO.2 のまとめ
● 自殺の免責期間の延長
1年超〜2年以内の自殺者の遺族に対する生活保障がなくなる
● セーフティーネットの財源問題
補償額は定められたが、破綻規模により超過債務に補填される
金額=割合は異なるため、加入している破綻生保により実際の補償
内容が異なる。加入生保により契約者間の不平等が発生する
――――→公的資金による破綻処理の必要性
● 生保版・会社更生法の適用
過去の破綻事例から、破綻は3月末の年度決算を組めるかどうか
で決まるので、破綻の発表は決算発表前の4月〜6月におこなわれ
るので、破綻時期がある程度予測可能であった。
生保版・会社更生法の適用では、破綻時期の予測がより難しい
(再び法案成立が検討される「破綻前の既契約の予定利率引き下げ」
についても同様)
****************************************
○
講義内容のうち、ここに掲載しなかったもの中で特に重要と思われるもの
①
本文中で説明や表掲載の省略について触れたもの以外に、破綻前に、破綻
した生保がどのよう営業活動をしていたのか、また、破綻後に、当該営業職
員や契約者がどのように感じたかなど、エピソードを話した。生命保険に関
して、自分には無縁だと思っている学生諸君には、こうした話が特に重要な
のだが、ここでは省いた。
②
『「総資産減少」危険生保一覧』表。
この表は、99年9月末時点で、2期連続して総資産額が減少している生
保について、総資産額の増減状況、保有契約高の増減状況、逆ざや額、平均
予定利率、「保険金支払能力・格付け」を併記したものである。この表の中に
は、講義中やその後に破綻した生保5社のデータも含まれている。また、2
002年9月現在破綻の可能性がマスコミで取り上げられている生保のデー
タも含まれている。
③
②に関連して、学生諸君に配布した納税通信「破綻被害を防ぐには ―――
―危 険生保の選別法」の説明も、将来の生命保険加入者である学生諸君には
重要な情報・知識である。
④
「生命保険契約者保護機構の仕組み」図
(講義内容NO.2/END)