コンクール資料 - 一般社団法人日本草地畜産種子協会

(独)農 畜 産 業 振 興 機 構
畜 産 業 振 興 事 業
第 10 回
全国草地畜産コンクール表彰式
平成 18 年 6 月 30 日
社団法人 日本草地畜産種子協会
目
次
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
全国草地畜産コンクール表彰・発表会次第
審査員紹介
入賞者紹介
入賞者の経営内容等
【飼料生産部門】
耕畜連携による飼料イネの安定生産
−耕種・畜産農家の二人三脚で成し得た粗飼料生産−
1
2
3
5
7
大洗町水田農業担い手組合 代表
清
宮 一
美(茨城県大洗町)
地域の仲間と融和した循環型酪農の実践
波多腰 和
寿(長野県波田町)
都市化の進む中で築いた土地循環型酪農経営
松
崎
19
33
隆(岡山県岡山市)
家畜が守る地域の農地
43
−中山間地の条件不利地での飼料作物生産と肉用牛繁殖・肥育一貫経営−
明
石 良
生(熊本県美里町)
ほ場と財布にやさしい粗飼料生産
照
井
明(北海道白糠町)
【放牧部門】
牛と人のゆとりを実現する良質粗飼料生産と放牧酪農
大
和 章
脇 薫
関 秀
71
明(兵庫県香美町)
中山間地(シバ型草地)で取り組んできた和牛繁殖経営
井
61
二(北海道幕別町)
放牧による足腰の強い但馬牛生産を目指して
森
57
79
夫(愛媛県西予市)
冒険心と情熱が支えた牛の放牧
−島の資源を活かした和牛の放牧ゆとり経営−
85
みしま農産㈲ 代表
日
Ⅴ
Ⅵ
髙 郷
士(鹿児島県三島村)
審査講評
審査委員長 萬田富治
パネルディスカッション
―進み始めた飼料増産―草地畜産コンクール受賞者に学ぶ―
95
107
第 10 回全国草地畜産コンクール表彰・発表会次第
Ⅰ
1
日 時:平成18年6月30日(金)13:00∼16:30
2
場 所:
「発明会館ホール(株式会社 発明会館内)
」Tel 03-3502-5499
〒105-0001
3
東京都港区虎ノ門2−9−14
次 第
〔全国草地畜産コンクール表彰・発表会〕
(1) 開
会
13:00
(2) 挨
拶
13:00∼13:10
社団法人 日本草地畜産種子協会会長
(3) 祝
辞
13:10∼13:20
農林水産省生産局長
(4) 審査結果の講評
13:20∼13:40
萬田審査委員長
(5) 受賞者の表彰
13:40∼13:55
(6) 受賞者の経営内容発表(各10分)
14:00∼15:10
(7) パネルディスカッション(座長:萬田審査委員長)
15:10∼16:30
「進み始めた飼料増産―草地畜産コンクール受賞者に学ぶ―」
(8) 閉
会
16:30
Ⅱ
審
査
員
紹
介
(順不同)
審査委員長 萬
田
審 査 委 員
福
田
加
納
鵜
川
姫
田
後
藤
佐
富
治
北里大学獣医畜産学部附属
フィールドサイエンスセンター長
晋
九州大学大学院農学研究院助教授
春
平
(独) 農業・食品産業技術総合研究機構
畜産草地研究所 研究管理監
洋
樹
(独) 農業・食品産業技術総合研究機構
北海道農業研究センター
企画管理部 業務推進室長
尚
農林水産省生産局畜産部畜産振興課長
正
和
三重大学生物資源学部生物循環機能学教授
藤
健
次
(独) 農業・食品産業技術総合研究機構
九州・沖縄農業研究センター
イネ発酵TMR研究チーム長
小
阪
進
一
酪農学園大学草地学教授
内
藤
廣
信
(社)中央畜産会常務理事
前
田
誠
元日本農業新聞論説委員
入 賞 者 紹 介
Ⅲ
(順不同)
【飼料生産部門】
(1)大洗町水田農業担い手組合 代表
せい
みや
清
は
宮
た
こ
かず
み
一
美(茨城県大洗町)
し かずとし
(2)波 多 腰 和 寿(長野県波田町)
まつ
ざき
あか
いし
(3)松
(4)明
てる
(5)照
たかし
崎
石
隆 (岡山県岡山市)
りょう
せい
良
い
生(熊本県美里町)
あきら
井
明 (北海道白糠町)
【放牧部門】
やま
と
しょう
(1)大
和
もり
わき
しげ
い
せき
ひで
(2)森
(3)井
脇
関
じ
章
二(北海道幕別町)
あき
薫
明(兵庫県香美町)
お
秀
夫(愛媛県西予市)
(4)みしま農産㈲
ひ
日
だか
髙
さと
郷
代表
し
士(鹿児島県三島村)
Ⅳ
入 賞 者 の 経 営 内 容 等
耕 畜 連 携 に よ る 飼 料 イ ネ の 安 定 生 産
− 耕種・畜産農家の二人三脚で成し得た粗飼料生産 −
茨城県大洗町成田町50
大洗町水田農業担い手組合
会長 清宮 一美
1.出品財
出 品 区 分:飼料生産部門 飼料作物(一年生)の部
草 種 ・ 品 種:飼料用イネ(クサホナミ、はまさり)
出品ほ場面積:59.1ha
利 用 形 態:サイレージ
2.地域の概要
大洗町は、県都水戸市から南東に14kmの太平洋に面した比較的温暖な地域で、稲、
麦、カンショ、大根を主体として農業及び漁業と観光を基幹産業として発展してきた。
農業は総耕地面積595ha、うち水田360ha、畑233haとなっており、農
業産出額では、カンショ、大根など畑作の占める割合が比較的高い。
3.水田農業及び飼料稲導入の経緯
水田は、下層に泥炭層を含む湿田が多く、ほ場の区画も小さい。
このため転作作物として麦、大豆等の作付に取り組んだが定着せず、地力増進作物や
景観形成作物などの導入にも取り組んだが、必ずしも収益に結びつかず、県営ほ場整備
事業の実施によりほ場の大区画化も進む中、安定的に生産可能な転作作物の導入が課題
となった。
役場、JA、普及センターなど関係機関で検討していく過程で、湿田でも栽培可能な
「飼料イネ」が水田機能の維持と国内自給粗飼料の増産に有効であるとともに農家所得
にも有利であるとの結論に達し、平成13年から飼料イネが導入されることになった。
4.耕畜連携
飼料イネの田植、水管理など肥培管理は、耕種農家(水稲生産者)が担うとともに、
収穫調製作業については、JAが導入した大型収穫調製用機械を活用しながら、地域の
認定農業者を構成員とする「大洗町水田農業担い手組合」を設立し、作業を受託するこ
とにした。
しかし、飼料イネの利用者となる畜産農家は、町内に2戸(酪農1、肥育1)と少な
く、町では酪肉近代化計画も策定されていない状況であったため、隣接する茨城町の酪
農家に働きかけ、「馬渡飼料利用組合」(代表:清水裕一、組合員8名)との利用協定
を締結し、市町区域を超えた広域的な耕畜連携のシステムとなった。
1
5.推進体制(稲作農家、畜産農家及び関係機関の連携システム)
耕種側と畜産側との利用協定は、転作の方法や水田農業ビジョンを検討するなど地域
の水田農業の方針を決定する組織である「大洗町水田農業推進協議会」と茨城町の酪農
家を構成員とする「馬渡飼料利用組合」との間で締結している。
そして、飼料イネの栽培管理は、地主である稲作農家が担当し、専用機械を利用する
収穫調製作業を「大洗町水田農業推進協議会」からの委託により「水田農業担い手組合」
が請負っている。また、飼料イネ(WCS)の運搬と利用配分などは「馬渡飼料利用組合」
が分担している。
なお、収穫調製機は、補助事業等を活用しながらJAが導入したものを「大洗町水田農
業担い手組合」がJAからリース利用している。
さらに、これらのシステムを役場、JA、普及センター、試験研究機関など関係機関
が助成事業の推進、資材調達、作業出役の調整、栽培技術指導などを通して支援してい
る。また、年間数回、耕種農家、畜産農家、関係機関を交えた「耕畜連携会議」を開催
し、生産数量や品質など生産者側、利用者側の意向調整、課題解決にあたっている。
2
6.飼料イネ生産の概要
(1)栽培体系(稚苗移植栽培)
種 子 予 措
は種・育苗
4月中・下旬
5月上・中旬
水管理(中干し)
7月中旬
ア
移
植
除草剤散布
5月下旬・6月上旬
収 穫 調 製
6月上旬
搬出運搬
10月上∼11月上旬
10月上∼11月中旬
食用イネとの作業が競合しないように品種は極晩生(クサホナミ・はまさり)を
選定し、播種、移植時期を20日程度遅らせている。
イ
土壌診断(リン酸緩衝液による可給態窒素の簡易測定)に基づいた施肥管理。
輪換田ほ場でも、施肥診断に基づき栽培した結果、ほ場間のバラツキも少なく生育
が揃い、倒伏防止にもつながっている。
ウ
飼料イネは遅植えや無防除のほ場が多く、例年イネツトムシの発生が多く被害も
見られるが、17年産は予察に基づく適期防除により最小限の被害に留まった。
(2)飼料用イネの生産量の推移
年
次
面積(ha)
収穫ロール数
10a当りロール数
平成13年度 平成14年度 平成15年度 平成16年度 平成17年度
48
30
27
30
59.1
4,766
3,112
2,696
3,337
6,196
9.9
10.5
9.6
11.0
10.5
品種
日本晴(47)
クサホナミ (20)
クサホナミ (20) クサホナミ (21) クサホナミ
(
クサホナミ ( 1)
ホシアオバ(10)
ホシアオバ( 7) ホシアオバ( 8) はまさり(29)
)はha
(30)
ロール数は収穫機クボタ換算(230kg)
(3)水田農業担い手組合の経営類型
担い手組合員の経営は、カンショ、ダイコンなど畑作を主体する「畑作中心型」3
戸と水稲経営を主体とする「水稲中心型」3戸、及び家族労働主体とする「家族労働
型」4戸に大別される。
収穫調製に伴う担い手の作業受託料は、15,000円/日だが、一人当たり6∼8日程
度の出役となるため、実質10万円程度の収入になる。
<構成員別経営類型>
構成員年齢 56 50 51 38 55 57 51 38 36 38 52
作物構成
水
稲
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
カンショ
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
ダイコン
○
○
○
○
○
○
ジャガイモ
○
○
○
○
○
○
ニンジン
○
麦
○
大
豆
○
ソ
バ
○
肥 育 牛
○
3
(4)収穫調製(JAリース)・運搬作業に使用した機械
作業内容
刈取梱包
ラップ
積み込み
運搬
使用機械 自走ホールクロップ収穫機 2 ラッピングマシン(自走)4 ロールベールグラブ
1 2tトラック 3
フレール型コンバインベーラ
1
グラブ付バックホーン 1 4t 〃 1
(5)飼料イネ生産コスト
生産コストは、耕種農家の経営規模によって減価償却費が異なるため、定額となら
ないが、概ね現物32円/kgとなっている。
<10a当たりの飼料イネ生産コスト及び調製費用内訳(生産者事例)>
項
目
金 額(円)
備 考
資材費
6,290 種子・農薬費、肥料、その他資材
3,339 燃料費
生 光熱動力費
農機具費
12,910
償却費、修繕費
産
労働費
16,905
耕起、播種・育苗、施肥、田植え等
コ
20,900 土地改良水利費
ス 土地改良水利費
委託費
15,000 収穫調製委託費(下記内訳参照)
ト
合 計
76,375
収 資材費
4,902 ラップフィルム、トワイン
穫 光熱動力費
911 ガソリン・軽油
調 農機具費
4,650 収穫機械リース料
製 労働費
3,359 10a当たり人件費
内 その他
528 保険・農機具共済料等(機械、傷害)
訳
計
14,020
(6)品種別実績収量(平成17年産)
品種名 面 積(ha) 収 量(kg/10a) 生 産 量(kg)
クサホナミ
30.6
2,425.1
742,080
はまさり
27.3
2,423.2
661,520
その他
1.2
1,796.7
21,560
合 計
59.1
2,411.4
1,425,160
収穫調製の様子
7.飼料イネ(WCS)利用の概要
(1)「馬渡飼料利用組合」農家別供給状況(平成17年産)
利用農家 S.U
A.T
M.S
A.K
O.H
K.K
T.O
T.T 県畜産 合計
機 ヤンマー 1,734
439 1,859
150 2,050
252
380
384
- 7,248
種 クボタ
11
136
115
132
28
32
70
524
※ヤンマー180kg、クボタ230kg、単価:10円/kg。
4
(2)「馬渡飼料利用組合」組合員の経営概況
飼養頭数
自給飼料作付面積(ha)
糞尿
氏名 畜種
飼養方式
成牛・肥育 育成牛 計
トウモロコシ 混播※ エンバク 計 処理方式
S.U 酪農
186 40 226 フリーストール
6
5
− 11 堆肥舎
A.T 酪農
116 55 171 フリーストール
6
4
− 10 堆肥舎
M.S 酪農
109 40 149 フリーストール
−
8
−
8 堆肥舎
A.K 酪農
43
6 49 つなぎ 1.5 1.5 1.5 4.5 自然流下
O.H 酪農
150 80 230 フリーストール
−
10
− 10 堆肥舎
K.K 酪農
90 27 117 つなぎ
5
5
− 10 堆肥舎・
T.O 酪農
78 22 100 つなぎ
−
−
−
− 自然流下
T.T 肥育
200 52 252 升飼い
−
−
−
− 解放・型
※混播:トウモロコシ+ソルゴー
(3)飼料イネ(WCS)の給与方法
給与牛は、酪農・肥育とも乾乳牛及び育成牛主体となっており、搾乳牛への給与は
一部に留まっている。
しかし、今後供給量が増加するとともに、搾乳牛への影響等が明確となれば、安全
な自給粗飼料として利用が進む見込みである。
<農家別給与実態>
氏名 畜種 給与形態
S.U
A.T
M.S
A.K
O.H
K.K
T.O
T.T
酪農
酪農
酪農
酪農
酪農
酪農
酪農
肥育
TMR
TMR
TMR
TMR
TMR
TMR
分離
分離
搾乳牛
乾乳牛
育成牛
給与量 開始月 終了月 給与量 開始月 終了月 給与量 開始月 終了月
−
−
−
−
−
− 10 10
8
−
−
−
5 11
4
4 11
4
−
−
− 10 11
4 10 11
4
−
−
− 10 10
4 10 10
4
1.5 12
3 1.5 12
3 1.5 12
3
2.5∼3 11
3 6∼8 11
3
−
−
−
−
−
− 10 10
4 10 10
4
給与対象:3∼6ヶ月令、給与量:7kg、期間:10∼8月
[飼料イネの収穫調製の様子(調製ロールは速やかにほ場から搬出される)]
5
8.飼料イネ(WCS)の品質
品質は、年々安定してきており、概ね利用農家から喜ばれている。
<品質安定対策>
ア
品質低下防止のため水田に置かず路肩に速やかに搬出する
イ
ラップの多重巻きの実施(7∼8重巻き)
ウ
牛の嗜好性が高いフレールチョッパー型収穫機(ヤンマー)での調製が93%を占める。
エ
収穫、運搬時の丁寧な作業等により,廃棄率を3%以下に抑えている。
オ
ほ場の団地化を図り、効率的、安定的な作業を可能とした。
カ
平成17年産の収穫期は9/27∼11/14(実38日間)となり、終盤は若干刈り遅れ気味で
あるものの、利用畜産農家からは現状までにクレームは無い。
(1)平成16・17年産
サンプル
S農家
T農家
O農家
S農家
※標準
飼料稲WCS分析結果(乾物中)
乾物率 水分 粗蛋白 粗脂肪 可溶無窒物 粗繊維 粗灰分 可消化粗蛋白 可消化養分
39.5
34.5
33.3
33.2
37.3
60.
65.
66.
66.
62.
6.2
8.0
6.8
5.3
7.0
2.3
2.6
2.6
2.3
2.9
44.8
41.4
45.7
48.0
50.9
26.6
29.6
28.9
28.5
26.3
20.1
18.4
17.1
16.9
12.9
3.2
4.1
3.5
2.7
-
50.4
50.8
53.9
54.0
-
pH
備考
4.65
4.65
4.54
4.35
-
H16
H16
H17
H17
※参考:日本飼養標準よりイネ黄熟期サンプル
9.飼料イネ(WCS)の購入価格
(平成15年度)畜産農家への販売価格は、10円/kgが基本となっている。
平均収量が概ね2,100kg/10aとなることから、21,000円/10aが現物代金となる。
また、このほか収穫機械の修理代、運搬費等を畜産農家で負担しているため、総額で
28,478円/10aを支払うことになり、現物価格は約13.6円/kgとなる。
なお、販売額を超える生産コストが掛かっているが(2.3倍程度)、これは、水田農業
構造改革交付金、産地づくり推進交付金、転作達成者補助、給与実証事業など様々な助成
金により補われている。
[飼料イネの給与の様子]
6
<畜産経営の庭先における飼料購入価格>
飼料名
成分 (%)
収量(kg/10a)
価格
価格(円/kg)
乾物率 乾物中TDN 原物 乾物 (円/10a) 原物
乾物
TDN
稲発酵粗飼料
35.5
51.3 2,100
746 18,478
8.8
24.8
48.3
(平成15年産)
28,478
13.6
38.2
74.5
稲ワラ
87.8
37.6
500
439 15,000
30.0
34.2
90.9
チモシーCA
89.8
62.8
48.0
53.5
85.2
チモシーUS
89.8
62.8
54.0
59.4
94.6
スーダン
89.7
52.2
41.0
45.7
87.5
オーストオーツ 88.0
55.3
43.2
38.0
68.7
バミューダヘイ 90.9
54.0
38.0
41.8
77.4
(注)稲発酵粗飼料の上段は平成16年給与実証助成を含めたもの。下段は含めない。
稲発酵粗飼料の原物収量、乾物率及び乾物中TDNはサンプル3点の平均。
その他の乾草は平成15年2月∼平成16年1月の平均価格、成分は日本標準飼料成分表
(2001年)を用いた。
10.堆肥の還元利用
堆肥は,主として露地野菜を中心とした畑作経営に利用されている。
水稲作への利用は,ほ場が湿田かつ肥沃な地域であるため、あまり行われてこなか
った。
飼料稲への堆肥の利用は、耕畜連携事業を活用することで、平成16年度から実施
しており、17年度は堆肥の利用を推進するため、馬渡飼料利用組合員の構成員が新た
に自走式堆肥運搬散布車を導入している。
11.地域農業への役割及び今後の方向
湿田でも栽培可能な飼料イネ栽培は,稲作農家が既に持っている稲作の基本技術を
生かすことができ、また、畜産農家の国産自給飼料の確保にもつながっている。
飼料イネ栽培・稲発酵粗飼料の生産を仲立ちとした耕畜連携の取組みは、地域のモ
デル的存在となっている。
今後は、現在計画されているほ場整備事業の実施後に新たに整備される大区画ほ場
を利用して、飼料イネの作付拡大を図るとともに、収穫調製の受託組織である「水田
農業担い手組合」の法人化を推進しながら、安全・安心な畜産物生産に貢献し、同時
に省力技術の導入を進めながら受託作業の拡大、付加価値米の生産販売などに取り組
んで行く予定である。
[水田への堆肥散布の様子]
[飼料イネの打込み式湛水直播の様子]
7
受賞者のことば
耕種・畜産農家の二人三脚で成し得た粗飼料生産
大洗町水田農業担い手組合
会
長
清宮
一 美
1.地域の概要
大洗町は水戸市を離れて東へ三里、磯節で名高い大洗海岸と涸沼、涸沼川に挟まれた
沖積水田地帯と洪積火山灰土の涸沼台地からなっており、主にかんしょ、米、大根が栽
培されている。
また、観光地としても知られ、海産物のほか北海道への旅の玄関口となるフェリータ
ーミナルや鮫の種類では全国1を誇る県立水族館「アクワ・ワールド大洗」、そして昨
年には70店舗の入る「大洗リゾートアウトレット」も開店し、まさに活況を呈してい
る。
町内には、温泉も掘られ、地元でしか購入できない特産のかんしょ「べにあずま」か
ら醸した地酒焼酎「大洗」も堪能できる。是非、訪れて頂きたい。
2.耕畜連携の取組み経緯
大洗町の水田は、昭和52年から平成2年まで実施された神山土地改良事業により、
基盤整備が進められたことを契機として、転作作物の作付に本格的に取り組んだ。
始まった当時は大いに意気込み、麦、大豆の作付では、汎用コンバインなど大型機械
の導入、有人ヘリによる集団防除の実施など関係者の協力により、品質、収量確保に努
めたが、汚粒の発生や湿害に苦しみ、担い手の高齢化なども手伝い、ついに定着するこ
とがなかった。
その後も転作作物としてキカラシ(地力増進作作物・景観形成作物)を導入したが、地
力増進作物は連作できないことや転作率が上がったことなどで、地域の土地利用を根本
的に見直さなければならない状況となった。
平成12年に役場、JA、普及センター、生産者代表で転作作物の検討を進める中で
は、近県で成功している「ハトムギ」の栽培に注目が集まり、視察研修まで実施したが、
販売先、加工施設(委託先)、栽培性(脱粒性が高い)など課題も明らかとなり、導入
1
には至らなかった。
そんな中、普及センターや役場から国の国産自給飼料の確保対策として施策が組まれ、
転作作物としても麦、大豆と同等の助成を受けられることが紹介され、一気に推進の機
運が高まった。
JAが国や町の助成を受けて専用収穫機械の導入方針を示したことから、集落説明会
でも栽培し易いイネと言うこともあり、理解が得られ生産に前向きとなった。
また、併せて町内には畜産農家が少ないため、飼料イネを利用する畜産農家の確保が
課題となり、普及センター等の調整により、隣接する茨城町の酪農家と利用協定を結ぶ
ことができた。
3.飼料イネ生産と利用
平成13年から飼料イネの作付を始めて、6年目を迎える。
現在では約60haの飼料イネを作付し、6千有余のWCSロールを馬渡飼料利用組合員
8戸(茨城町ほか)で利用して頂いている。
生産が始まった当初に問題となったラップのキズやフレール型コンバインで調製した
飼料イネ(WCS)の嗜好性が劣る点なども、取扱いの工夫や収穫機械の導入などで改
善が図られ、昨年は利用農家から1件のクレームも無く、合格点を頂ける飼料が生産で
きたものと理解している。
また、生産技術面では、土壌診断に基づく施肥指導やイネツトムシの防除、品種比較
試験などを中心に普及センターから支援して頂いているほか、直播栽培やロングマット
移植栽培など省力栽培技術などでは普及センターに加え、国、県の農業研究機関に現地
試験として試験課題に取上げて頂き、ご指導頂いていることも、今日このような安定し
た生産体制を築く原動力であると思っている。
4.関係者の理解と努力
今日、安定した飼料イネの生産体制が整っているのは、第一に利用者である「馬渡飼
料利用組合」の方々が、飼料としての経済的な有利性ばかりでなく、安全性や地元の水
田農業存続を尊重し、互いの農業や地域を発展させていこうとする地域農業に対する深
い理解が支えとなっている。
馬渡の組合では、飼料イネの周年利用を前提に考えれば、まだまだ受入れられると言
って頂いており、私たち生産者も期待に応えられるよう高品質・安定生産そして増産に
努めていかなければならないと考えている。
そして、私たち組合を影になり、日向になり支えて来てくれた役場農林水産課、JA
水戸大洗、水戸普及センター、県農業研究所、国の農業研究機関などなど多くの方々の
協力、支援があったればこそ、水稲農家と畜産農家を結び付ける連携が軌道に乗ったも
のと深く感謝している。
それは、関係者との調整、制度面、助成事業の導入、資材の調達、栽培技術指導など
多くの要となる項目であった。
2
5.これからの方向
飼料イネの生産については、概ね軌道に乗っていると思うが、現状に満足することな
く、適期収穫、収量向上を進めさらに良い飼料イネ(WCS)の生産に努めていく決意であ
る。
さらに、これからの目標としては、飼料イネの生産コストを低減させていくこと、畜
産農家で生産した堆肥の受入れシステムを構築すること、の2点が連携の安定化・恒常
化にとって重要であると考えている。
今後は乾田直播栽培を検討するとともに、計画的な堆肥還元のシステム作りを進めて
いきたい。
また、大洗町内では新たな再ほ場整備事業の計画が進められており、地域の水田を有
効活用する一手段として集落の要請があれば、飼料イネの生産及び収穫調製に積極的に
協力していくつもりである。
それが、畜産農家への供給量確保にも繋がって行くものと考えている。
そして、担い手組合の今後の発展と事業の拡大を目的に、法人化も検討している。
この法人では、飼料イネの収穫調製以外に農作業受託、農産物の販売など事業の多角
化を進めて行く予定でいる。
最後に、構成員の理解のもと平成12年度に発足した「大洗町水田農業担い手組合」
がこれまで以上に協力、連携し、地域農業と自らの経営発展を目指し、今後とも充実し
た活動を展開していく決意である。
大洗町磯浜海岸の初日の出
3
地域の仲間と融和した循環型酪農の実践
長野県東筑摩郡波田町
波多腰 和寿
1.出品財
区
分:飼料生産部門 飼料作物の部
草 種 ・ 品 種:飼料用トウモロコシ
出品ほ場面積:11.39ha(うち借地10.57ha)
利 用 形 態:サイレージ
2.地域の概要
波田町は、長野県のほぼ中央に位置し、松本盆地と呼ばれる主要農業地帯の西部に位
置している。
西方には急峻な北アルプスを望み、農地は、標高 900mから 600mにかけ緩やかに傾斜
しながら丘陵地帯を形成している。
飛騨高山へ通じる街道沿いで、上高地、乗鞍岳への観光客の玄関口にもなっている。
気候は内陸性の高冷地気候に属し、平均気温は11.5℃で、気温の日較差が大きく、
西側の山を越えて吹き込む乾燥した空気によって、夏季の朝夕は比較的過ごしやすいが、
冬季の寒さは厳しい。
年間の降水量は1,120mm、初霜は10月上旬、遅霜は5月中旬頃まである。
農業産出額では、全国でも有数のスイカの産地であることから、野菜が1位を占め、
次いで米、果実(リンゴ等)、苗木・緑化木、畜産と多様な農業生産がされている。
畜産においては、酪農家が10戸で250頭、肉用牛農家が10戸で450頭を飼養
している。
3.経営の概要
(1)経営形態:酪農専業経営
(2)家族と労働力
区
家
常
分
族
雇
臨時雇
続
柄
本
人
年
齢(歳)
農業従事日数(日)
35
271
父
63
50
母
59
187
祖母
84
1人
29
0
343
延べ7日/人(飼料収穫調製)
1
7
(3)経営土地面積
土地の所有と利用状況
区
(単位:a)
面
分
積
備
うち自己所有
考
(筆数)
うち借地
利
農
水田
613
40
573
23
用
地
畑
566
82
484
20
1,179
122
1,057
53
53
内
計
容
畜舎
0
(4)家畜の飼養・出荷状況
品
種
ホルスタイン種
区
分
経産牛
期
首
73.0
48.0
7.0
期
末
89.0
14.0
29.0
平
均
82.9
31.0
18.0
未経産・育成牛
子牛
(5)施設等の所有・利用状況
構造
種
類
牛舎
棟数
取得
資材
面積数量
形式能力
台数
鉄骨
2棟
所有
年
金額(円)
区分
H14
39,775,000
自己
備
(利用状況等)
1,410 ㎡
畜
舎
雨どい
鉄製
一式
H15
523,278
自己
換気扇
直下型
14機
H17
1,969,537
自己
連動スタンチョン
鉄製
15m
H17
339,000
自己
2,730,000
自己
その他
一式
施 堆肥舎
鉄パイプ 2棟
H14
H15
9,074,000
2,094,750
自己
自己
110m
H14
3,266,000
自己
設
井戸
一式
2
考
設計料
構造
棟数
資材
面積数量
形式能力
台数
年
トラクター
〃
30ps
75ps
1台
〃
S56
H15
1,300,000 自己
525,000 自己 中古
〃
79ps
〃
H11
2,703,000 自己 中古
〃
〃
〃
80ps
〃
〃
H15
H15
2,199,750 共同 中古
820,000 共同 中古
〃
115ps
コーンハーベスター
モアコンディショナー
2 条クラッシュ
2.4m
一式
H16
ホイールローダー
0.6m3
〃
ロータリー
0.9m3
2.6m
マニアスプレッタ
種
類
取得
金額(円)
所有
区分
備考
(利用状況等)
881,339 自己 リース
1台
〃
H16
H12
3,404,500 自己
792,215 自己
4t
〃
H15
1,174,000 自己
ダンプ
2t
〃
S61
1,700,000 自己
〃
2t
〃
H14
100,000 自己 中古
〃
機 軽トラック
2t
660cc
〃
〃
H17
H15
700,000 自己 中古
391,000 自己 中古
軽乗用
660cc
〃
H15
420,000 自己 中古
14m3
〃
H14
2,940,000 自己
5t
〃
H14
5,617,500 自己
精液ボンベ
バックホー(DR17) 0.24m3
〃
〃
H14
H15
128,100 自己
525,000 自己 中古
除雪機
〃
H14
304,500 自己
械 TMR ミキサー
バルククーラー
管理機
オイル循環器
7ps
〃
〃
H14
H14
168,000 自己
265,650 自己
パソコン
DT
〃
H14
149,100 自己
〃
〃
H14
H15
84,000 自己 中古
282,450 自己
簡易トイレ
洗浄機
バキュームカー
マニュアスプレッタ
2t
3t
一式
ユニック
4t
一式
48,000 組合有
河西部機械利用組合
36,000 組合有
4tユニック利用組合
※
機械類30台のうち、共同所有は5台、中古機械導入は12台
3
(6)経営の推移
年
次
項
目
経営規模
経営および活動の推移
実家は酪農経 (経産牛)小さい頃より牛が大好きで、小規模酪農なが
営をしていた
ら、よく両親の手伝いをした
平成
元年
7頭
酪農学園大学 入学
5年3月
∼8年
10頭
酪農学園大学 卒業
卒業後、同校の農林技師として2年間勤務。北
海道酪農を体で覚える絶好の機会に恵まれる
8年4月 本人酪農経営
∼
開始
10頭
地元へ帰郷。実家の酪農を継いで、酪農経営者
としてスタート。「南信酪農農業協同組合(南
酪)」の酪農ヘルパーもこなしながら、管内酪
農家を見聞し、地域にあった規模拡大計画を練
ることができた。
地元酪農家との交流も積極的
に進める
12年
同年代の仲間
づくり
13頭
松塩地区農業後継者クラブ会長として地元の
後継者をまとめる
13年
自給飼料面積
を増やす
13頭
公社営畜産基地建設事業(補助率 50%)の導
入を決意し、家族や南酪と計画を練り地域住民
の同意を得ながら新牧場を建設する
14年
新牧場で酪農
経営拡大
79頭
新牛舎に北海道より初妊牛導入
自給飼料生産に本格的に取組む
機械装備など大規模経営の醍醐味を感じる
地元のコントラクターとの連携を進める
16年
自給飼料の生 73頭 コーンクラッシャー付きハーベスター等を導
産体系整う
(期末) 入し、サイレージの迅速調整、品質向上
17年
乳牛のコンフ 89頭 直下型ファンによる暑熱対策進をめる
ォートにも取 (期末)
り組む
(7)収益等
粗収益:77,352千円
所得率:11.7%
負
債:76,060千円
4
4.飼料作物の生産
本年度の飼料作物作付け状況及び飼料作物の単位収量
飼料用
区分
草種・品種
トウモロコシ
飼料作物作付け面積(ha)
ライ麦
(裏作)
11.4
6.7
0.4
540
2,400
飼料作物の単位収量
当該農家
5,800
(kg/10a)
近隣平均
5,600
近隣になし
収量と刈り取り時期
分
2,500
単位:㎏/10a
品
区
牧草
オーチャ・チモ
ライ麦
目
飼料用
トウモロコシ
当該ほ場
540
6,100
(刈取り時期)
(5/2)
(9/12)
当該農家
540
5,800
(刈取り時期)
(4/下∼5/上)
(9/上∼10/下)
波田町平均
540
5,600
(刈取り時期)
(4/下∼5/上)
9/上∼10/下)
収穫調製後 TDN 収量
計
ライ麦
ロール
サイレージ
6,640
97
1,366
6,340
97
1,300
6,140
97
1,180
5.経営、技術面での取組み
(1)栽培管理技術
自給飼料畑は牛舎から3.5キロメートル圏内に43筆が散在している。10エリ
アに分類して、肥培管理や収穫などの作業体系の効率化を図っている。
飼料用トウモロコシは、農業改良普及センターとタイアップし、品種展示圃場を提
供・運営し、最新品種の適応試験にも取組み、栄養価が高く栽培しやすい品種を選抜
している。
また、土壌分析や飼料分析も実施し、これらの結果に基づいた肥培管理を実施して
いる。
(2)収穫・調製・利用技術
飼料用トウモロコシは、すべてスタックサイロとしてサイレージ化している。
スタックサイロとしたのは、1本毎の収穫調製が容易でサイレージ化方式の中では
もっとも低コストだからである。
一方、発酵品質が上がり難いため、大学での経験から県下では初めてコーンクラッ
シャー付きハーベスターを導入し、しっかりと破砕するとともに十分に踏圧すること
で、スタックサイロでも発酵品質の良好な、消化率の高いサイレージに仕上げること
ができるようになった。
また、食い残しが激減し、乾物摂取量の増加にも役立っている。
5
「結い」による集中的な共同作業を実現し、良質で嗜好性の高いサイレージに仕上
げるポイントは、酪農仲間と栽培前から、お互いの収穫調製計画を充分検討すること
が最も大切なことである。
(3)家畜排泄物の処理と利用技術
バイオベッド
フリーバーン1
バイオベッド部分
は、春秋に自給飼料
畑に施用する
給
餌
通
路
フリーバーン2
バイオベッド
堆肥化施設(CS ランド)
入口
出口
良質堆肥として
耕種農家へ販売
する
牛の飼養方式がフリーバーンのため、ベッドにはもみがら等を補充して、飼槽付近
の通路にあるふん尿混合物をホイールローダーで搬出し、側壁無しの開放直線型ロー
タリー撹拌堆肥処理機(CSランド)で、堆肥化処理をしている。
混合物は機械攪拌を繰り返すことで好気性発酵し完熟堆肥が完成する。
堆肥の利用割合は、耕種農家への販売が23%、イナワラ交換が7%、自家利用が
70%である。
販売用の良質堆肥は、仕上がり水分40%程度となり、さらりとして使いやすく、
耕種農家の評判は上々である。
最近では、堆肥の作り方などの質問も多く、農家の意識の高さも感じられる。
水分調整や発酵程度など、リクエストのある農家には、できるだけ応えながら堆肥
化している。
フリーバーンのバイオベッド部分は、30∼50cm厚で管理して、春秋2期に分
けて搬出し、自給飼料畑用に中熟堆肥として利用している。
10a 当たり3tを目標にしているが、自給飼料畑も11ha ほどあるので、堆肥は
足りないほどである。
6
畑作農家から見た「良質堆肥+転作」は、連作障害など問題が出てきて輪作体系を
組めるメリットがあるようだ。
利用期間が短いので自給飼料生産面では、利用しづらいが、波多腰牧場があること
を意識していただくことが何より重要である。
(4)生乳生産技術
飼料給与は宅配TMRに自給飼料などをミックスして対応しているが、平成14年
から着実に個体乳量は向上しており、現在、年間経産牛1頭当たり乳量9,144㎏を
実現している。
生乳品質も平成17年度に開かれた中信酪農専門委員会(酪農家123戸)乳質共
励会で、堂々の4位入賞となり、全県581戸の乳質ランクでも14位となっており、
乳量・品質ともに高水準であると評価されている。
6.地域農業や地域社会と融和
(1)良質堆肥を利用した、耕種農家と畜産農家の連携が充分に図れるよう心掛けている。
堆肥販売が間に合わない分もあるので、コントラクターへの外部委託や保管施設の整
備も今後考えている。
(2)畑作農家側で、耕作ができなくなったり、遊休化しそうな農地(34筆、8.6ha)や、
輪作体系の要望(8筆、2ha)などに対しては、地域の農地保全の意識をもって、農
地の賃貸にも出来る限り対応している。
(3)仲間と連携した地域内生産飼料の確保
品
目
トウモロコシ
(単位:ha)
自家面積
酪農仲間面積
コントラクター面積
11.4
1.5
−
−
ライ麦
6.7
−
牧草
0.4
3.2
2.0
麦桿
−
3.5
5.0
イネWCS
−
−
3.0
18.5
8.2
計
10.0
当経営内で自給できる飼料面積は延べ18.5ha であるが、地域の酪農家(5戸、
8.2ha)からのトウモロコシや牧草ロールベールの調達、コントラクター(10.0
ha)から受け入れる飼料の栽培面積を合計すると、地域内の 36.7ha から飼料を確
保していることになる。
7
(4)酪農の現場を肌で感じて、酪農の大切さを理解していただくよう積極的に見学や実
習を受け入れている。
地元の保育園、小学生などや、「生活クラブ」の皆さんが年3回程度視察に見えら
れる。
(5)降雪時などには、大型機械を利用して周辺道路の除雪を受託するなど地域の皆さん
の要望にも応えるようにしている。
(6)長野県の新規就農里親支援事業にも参画し、里親認定された。
今後、酪農後継者の育成にも努めていく(H18.6∼1名受入れ予定)。
7.今後のめざす方向と課題
(1)地域に融和した波多腰牧場にしていくためには、人とのつながりを大切にし、耕種
農家や消費者がお互いにメリットを感じられるよう情報交換や交流をすすめたい。
農地を最大限に活用することで、良質な自給飼料を主体にした生乳生産を実現した
い。
人や地域資源が循環する酪農の大切さをアピールしながら、地域農業が活性化する
ような活動をしていきたい。
(2)自給飼料を増産させるためには、ほ場数の増加が絶対条件である。
面的な集積をできるだけ進めたい。
特に、酪農家間では互いの畑を交換したり、耕種農家には輪作の推進や畑の提供を
働きかけたい。
収穫調製については、これまでの「結い」を最大限に活用し、安全で精度の高い作
業を心掛ける。
また飼料用トウモロコシの品種試験を今後も継続し、現場に適応した品種の選定を
行っていく。
8
(3)これからは安全安心が当たりまえの生乳生産を進めることが重要である。
購入飼料はnon−GMOの飼料給与に対応できてきているので、更に安全で良質
な地域内自給飼料の割合を高めていきたい。
(4)乳牛に関わる飼養管理技術は毎年改良されているので、アンテナを高くし、新しい
技術には果敢に取り組んで試行錯誤しながら、現場にあった技術として吸収していく。
最適なフリーバーン牛舎管理技術の構築、初任牛のIVFの積極的活用、乾乳牛舎・
育成牛舎・飼料調製庫の早期整備を図りたい。
(5)酪農家の高齢化が進む中、少数ではあるが若い酪農就農希望者もいることから、地
元の南信酪農業協同組合等と連携し、体験実習や就農に向けた実践研修を提供できる
体制を整えたい。
8.経営改善主要諸元
(1)経産牛1頭当たり飼料作物作付け面積
22.0a
(2)飼料のTDN自給率
26.0%
(3)飼料作物の反収(トウモロコシ)
5,800㎏
(4)飼料作物の1㎏当たり生産費
30.9円
(5)飼料作物の調製利用方法
サイレージ
(6)飼料作物労働時間
2.4hr/10a
(7)飼料作物収穫物の品質 乾物中(%)
DM 33.5 TDN 66.8 CP 8.5 NDF 50.4
(8)飼料作物収穫物の発酵品質(現物中)
pH 4.2
乳酸 0.75% 酢酸 0.39% 酪酸 0.0%
(9)経産牛1頭当たり乳量(㎏)
H14 年 8,353 H15 年 8,653 H16 年 8,953
(10)年平均生乳品質 乳脂率 4.06%
H17 年 9,144
無脂固形分率 8.82%
(11)年平均衛生乳質 生菌数 5.42万/ml 体細胞数 10.6万/ml
(12)経産牛1頭当たり所得
109,092円
(13)家族労働力1人当たり所得
5,021千円
9
受賞者のことば
地域の仲間と融和した循環型酪農の実践
長野県東筑摩郡波田町
波多腰和寿
このたびは、全国草地畜産コンクール入賞を大変嬉しく思い、感謝申し上げます。
私は、現在の牛舎建設をしてからまだ 4 年あまりと日は浅く、これから地にしっかり根
を張っていくところだと思っています。
今後も、この受賞を糧にして私なりの酪農を追及していきたいと思います。
私は、幼いころから酪農専業を夢見ながら、高校、酪農学園大学、そして同大学の農場
勤務を経て平成 8 年に帰郷し、地元の酪農ヘルパーをこなしながら小規模酪農から規模拡
大を模索しました。
自己所有地内で考えましたが、絶好の場所はなく、新たな農地用地取得に奔走しました。
現牧場の周辺の地域住民の皆さんが賛同して下さり、酪農規模拡大に目途が立ちました。
住民の皆さんと意見交換をすることで「地域の皆さんに受入れられるような酪農経営」
が一番大切だと思うようになりました。
これまで両親が繋げてきてくれた経営を受け継ぎ、「地域密着型の酪農をやろう」と、
平成13年には公社営畜産基地建設事業の承認を得て、これまでの経産牛10頭規模から、
89頭規模(平成17年度末)に拡大してきました。
まだ規模拡大中で、施設等への投資がもう少し必要です。
自給飼料の中心は、飼料用トウモロコシと、裏作利用のライ麦です。地域内自給とうい
う面では、さらにコントラクター組合ともスクラムを組んで、地元産麦稈の収集、牧草ロ
ールベールの調達を外部化、イネホールクロップサイレージにも先駆的に取組んでいます。
また、先輩酪農家から調達している地域内生産飼料は、省力で確保でき大変助かってい
ます。
堆肥の有効活用については、波多腰牧場の独特のシステムが生きています。
耕種農家への販売や水稲農家との稲わら交換は基本的な行為ですが、農家側から堆肥の
1
作り方などの質問も多く、農家の意識の高さも感じられます。
最近は、水分調整や発酵程度など、特別にリクエストのある農家には応えながらいくつ
かのバリエーションを持って堆肥化しています。
家畜排泄物を付加価値の高い良質堆肥にすることで、地域の野菜・果樹農家の皆さんと
資源循環型農業を着実に進め、「波多腰牧場」は無くてはならない存在として、信頼関係
を築くことに充分な時間をかけたいと考えています。
生乳生産においては、「生活クラブ」へ、NON-GMO(非遺伝子組換え作物)のみの
飼料で生産したパスチャライズド牛乳を提供しているのが特徴です。
消費者の皆さんに農場を見学していただき、安心で安全な生乳生産をしている酪農が大
切な産業であることを理解してもらうよう心がけています。
また、地域の中学生などの見学や実習なども受入れて、地域の方にも親しみのある「波
多腰牧場」であることをアピールしています。
今後も地域住民の中に溶け込んで、地域の皆さんに必要とされる経営をしていくことが、
私の考えている循環型酪農経営であり、私の生き残る道であると思います。
常に「おかげさまで!」の気持ちを忘れずに、これまで学んできたことや就農して規模
を拡大し培ってきた将来像をじっくりと実行していけば、魅力ある酪農経営が自然に出来
上がると信じています。
このためにも、乳牛の健康を重視しながら生産性の向上をさらに進め、最低限のコスト
で機械力も活用し、耕畜連携を意識しながら自給飼料の増産を図り、育成牛舎や乾乳牛舎
などの施設の充実、投資の時期や順番、収益のバランスをみながら、ゆとりある酪農経営、
ビジョンを達成したいと思います。
「今までの経営にプラスα」を楽しみとして、1つ1つ前向きに取り組んで行くことが
大切だと考えています。
2
都市化の進む中で築いた土地循環型酪農経営
岡山市松新町334
松
崎
隆
1.出品財
出 品 区 分:飼料生産部門
草
種:イタリアンライグラス
利 用 形 態:サイレージ
出品圃場面積:624a
2.地域の概要
岡山市は岡山県の南部に位置し、瀬戸内海に近く気候温暖で果樹、野菜、酪農など地
域色豊かな農業が営まれている。
牧場は岡山市内中心部より約10km、車で20分の混住化の進む農村の平坦な水田
地帯にある。
当集落には大規模農家が多くあったが、市街化の進展とともには少なくなり、数戸あ
った酪農家も姿を消し、今は1戸だけとなった。
そのため、牧場を訪れる人誰もがこんな住宅地に牧場があるのかと驚いている。
気候は平均気温16.3℃、降水量は1,141㎜と温暖少雨の瀬戸内海型気候となっている。
3.経営概要
(1)経営形態:酪農(水稲)複合専業経営
(2)労働力の構成
区分
続柄
年齢
農業従事日数
自家労働
経営主
55
350 日
経営作業全般
妻
55
350
搾乳・記帳
長男
32
350
繁殖・飼養管理・飼料生
妻
30
300
産
孫3人
臨時雇
1人
作業分担
哺乳・搾乳・記帳
3h/日
1
搾乳
(3)家畜飼養頭数
畜
種
経産牛
未経産牛
育成牛
子 牛
60
20
15
乳用牛
合
(単位:頭)
計
備 考
95
H16年
(4)飼料作物作付面積
(単位:a)
区
分
スーダングラス
イタリアンライグラス
624
1,167
飼料作物
合
計
1,791
(5)主な施設・機械の状況
種
類
規模・能力
数量
備考
成牛舎
46等繋ぎ
1棟
鉄骨
施
成牛舎
26頭収容
1棟
簡易パーラー
設
育成牛舎
30頭収容
1棟
鉄骨
堆肥舎
600㎡
1棟
鉄骨
牛糞乾燥ハウス
700㎡
2棟
ビニル
トラクター
31∼56ps
4台
フォークリフト
2台
パワーショベル
1台
ホイルローダー
1台
ロールベーラー
2台
機
ラッピングマシン
2台
械
ベールクリパー
1台
ジャイロメーカー
1台
デスクモア
3台
テッダー
1 台
堆肥袋詰機
1式
2tダンプ
3台
軽トラック
3台
2
4.経営の推移
年次
乳牛飼養頭数
経営及び活動の推移
昭和32年
1頭
父母が1頭の子牛を導入し酪農開始
46年
20頭
経営主就農
48年
30頭
46頭自然流下式牛舎新築(後継者資金)
51年
牛糞乾燥施設導入
57年
ホーレージハーベスター体系導入
58年
牛群検定事業に参加
60年
流下式からバーンクリーナー方式に改造
平成
6年
80頭
長男が就農
8年
ロールべーラー体系を導入
14年
堆肥舎整備
16年
育成牛舎整備
17年
経産牛 71頭
簡易パーラー施設整備
未経産牛35頭
5.飼料作物の生産
(△=播種
区
分
イタリアンライグラス
スーダングラス
地目
面積
1
2
3
4
5
田 624a
□
田 543a
□
田 624a
△
6 7
8
9
□
□=収穫)
10 11 12
△
△
△
□
6.経営・技術面での改善への取組み
(1)都市化の進む中での大型経営の確立
昭和46年に就農して酪農経営を引き継いだ時は、経産牛20頭規模の経営であっ
た。
昭和48年後継者資金を借受け46頭牛舎を建設、そ の後もパイプラインミルカー、
バルククーラーを導入し2∼3年後には目標頭数となった。
平成6年には長男が就農し乾乳牛舎、育成牛舎を建設、飼料圃場の拡充などの生産
基盤の整備や消費者との交流など地域基盤も充実している。
(2)自給飼料生産基盤の確保、省力化体系
自給飼料の生産は水田利用で、平坦地帯であるため転作は浸水もあり苦労も多いが、
イタリアン、スーダングラスの作付けでロール体系を確立している。
3
当初、機械は5名の利用組織であったが、酪農家の脱落により、現在では2戸の共
同利用となっている。
転作田の他、水稲裏作、期間借地によりイタリアンライグラスを作付けしている。
期間借地(水稲裏小作)ではイタリアン収穫後、堆肥を散布し、耕起して返してい
る。
スーダングラスは厚播きにして細茎に仕上げ、ロールサイレージとして利用してい
る。
(3)多頭飼育におけるふん尿処理
酪農経営において、飼養規模の拡大に対して適切なふん尿処理の対応が経営発展の
ポイントになるが、圃場還元のみでなく、処理の過程で周囲に迷惑をかけないことが
大切である。
当牧場は昭和51年牛糞乾燥ハウスを設置(共同)、平成13年堆肥舎を建設し、
堆肥の流通体制を確立した。
敷料はオガクズを利用しているが、冬期は近くのカントリーのもみ殻を使用し、消
臭剤としてコーヒー粕を添加している。
堆肥は生糞を乾燥施設で水分調整した後、堆肥舎に移し、撹拌・発酵し堆肥化、バ
ラ及び袋詰めで販売している。
需要は果樹団地、野菜団地、家庭菜園用と順調である。
(4)地域の子供及び消費者との交流
都市化が進むなかで、地域住民や子供達とのつながりを大切にし、牛舎の案内や飼
料給与・搾乳などの作業体験をさせている。
今では幼児から高校生までのファンクラブがつくられている。又、チャリティファ
ームやバザーなど消費者との交流も行われており、ファアンクラブの輪が大人まで広
がっている。
(5)親子2代でゆとり酪農の実践
経営主夫婦、結婚10年目を迎えた長男夫婦でゆとりのある酪農経営実を実現し実
践している。
ヘルパーを利用することで経営主と長男はゴルフへ、妻と嫁は花の栽培など趣味を
楽しんでいる。
また、趣味を楽しみ家族の中に他人を受け入れることができることを経営のバロメ
ーターととらえている。
4
6.経営改善諸元
(1)経産牛1頭あたり飼料作物延べ作付け面積
29.8a
(2)飼料自給率(TDN)
36.1%
(3)粗飼料自給率(TDN)
66.7%
(4)乳飼比
34.5%
(5)イタリアンサイレージ生産コスト(TDN1kg)
39.5円
(6)経産牛1頭当たり乳量
8,503kg
(7)経産牛1頭当たり所得
270千円(H17年)
(8)家族労働1人当たり所得
4,044千円(H17年)
(9)所得率
30.2% (H17年)
5
受賞者のことば
都市近郊の中で信念を実らせた我が酪農
岡山市松新町
松
崎
隆
まり子
この度は、全国草地畜産コンクールにおいて、受賞という朗報に恵まれ大変光栄に思っ
ております。
昭和46年、岡山の中国・四国酪農大学校を卒業、すぐに家業である酪農に取り組んで
34年余りになりました。
牛飼いなんだから、牧草作りは当たり前のことと、両親の代から面積は現在には遠く及
ばないまでも、ずっと草作りを続けてきました。
天気勝負の草作り、雨続きでトラックが入れず、雨戸の上に乗せてイタリアンを田から
持ち出したこともなつかしく思い出されます。
一昨年は、翌日から雨との予報の中、ロール作業を終えたのは夜中3時ということもあ
りました。
私と家内は21歳同志で結婚し、22歳で長男を授かりました。
その長男が後継者として家業に就いたのは平成6年のこと。
ところが、私たちは少しでも草を作りたいのに、息子は電話一本でパレット積みまでし
てくれる購入乾草に魅力を感じていました。
当然、毎月の乳代から引かれる飼料代はうなぎ登りとなり、草の大切さを思い知りまし
た。
そして、可能な限り自給飼料を少しでも増やそうとの思いで、家族でがんばってきまし
た。
その答は、すぐに明確に出てきました。
草作りをしようという思いは様々なチャンスを吸引したのです。
河川敷ではありながら、水田の地目を持つ土地5ha を借り受けることとなったり、近所
でも多くの水田のお守りを頼まれることになりました。
私の住む学区は、人口13,000人、小学校の児童数は1,200人という住宅地に
あります。
1
牛舎を訪れる人々も多数いて、普通ならこんな所で酪農なんてできないという移転話の
ひとつも出そうな場所での経営であります。
住宅地を背後にしての経営、酪農の原点に忠実に草を作り、フンを土地に還元し、誰も
が気軽に牛舎へ遊びに来れるような経営で地域のオアシスを目指します。
天気と相談しながら、春作・夏作共に2回刈りを目標に、今ではすっかりおなじみとな
ったロール体系で道行く人たちに北海道もどきを提供しています。
緑色は人々に安らぎを与えてくれます。
牛舎周囲でいつまで牧草作りが可能なのかはわかりませんが、出来るだけ長く緑の番人
を続けたいと思っています。
今でこそ米価が下落し、米を作付けせずとも牧草だけのために土地を貸してくれる地権
者もあります。
30人余りになる地権者との書類の交換、米作りと牧草収穫とで超多忙をきわめるけれ
ど、妙な達成感があり、己の信じた道を歩んで来ることが出来て幸福に思います。
広大な平地なら何十町分もの作付けも可能でしょうが、市街化を背負いながら、調整区
域でも10a当たり500万ともなれば、土地を買う気はありません。
お守り役として大切な土地をあずかり、緑で彩り、周囲を和ませる。牛たちはおなかい
っぱい草を食べ、フンは大地にお返し、次の実りを期待する。
息子も今では私たちの考えを尊重してくれて草作りに力を注いでいます。
本日の映えある賞を我が家の経営の勲章として、今後も自給飼料生産に励みたいと思い
ます。
最後になりましたが、受賞のよろこびは家族の努力は勿論ではありますが、畜産協会は
じめ関係機関のご指導のたまものであります。
今後ともよろしくご指導たまわりたいと思います。ありがとうございました。
2
家畜が守る地域の農地
− 中山間地の条件不利地での飼料作物生産と肉用牛繁殖・肥育一貫経営 −
熊本県下益城郡美里町津留449
明石
良生
1.出品財
出 品 区 分:飼料生産部門(飼料作物(1年生)の部)
草 種 ・ 品 種:イタリアンライグラス、ヘイスーダングラス、なつ乾草、青葉ミレット
出品ほ場面積:345a
2.経営概要
熊本県のほぼ中央に位置する美里町は、熊本市から南東へ約 30km、車で約 40 分程度の
距離にある自然豊かな地域である。
東に九州山地が広がり、さらに甲佐岳、雁俣山、白山等に囲まれ、釈迦院川、津留川、
筒川、柏川、緑川水系の河川が流れ、その恵まれた自然を活かし人々が連携しながら農
林業を中心に営み、石橋、里山、棚田等地域資源を保持し、日本一の 3,333 段の石段、
日本一の石橋里山文化を形成している。
しかし、町内の総面積 144.03k ㎡、その 74,7%が山林、里山に囲まれた地域であり、農
業生産面においては、これと言った地域産物も少なく、構造改善事業等で行われたミカ
ン等の生産開発地は、時代の流れと共に遊休化し中山間地農業の衰退の縮図とも言える
地域である。
中山間地の条件不利地で、飼料作物生産の低コスト化を図るためコントラクターによ
る収穫作業に合わせた草種選定と嗜好性・作業ロスの軽減・効率給与等から判断したロ
ールラップ作業体系を確立し、粗飼料の自給率は繁殖部門 100%肥育部門 23.3%となって
いる。
肉用牛の水田放牧や遊休地放牧による飼養規模の拡大、更なる低コスト化への取組み
を実践してきた。
(1)経営形態:肉用牛繁殖・肥育一貫経営
(2)労働力の構成
区
分
家
族
労働力計
続柄
年齢
農業従事日数
うち畜産部門
47
263
253
肉用牛、水稲
妻
47
263
253
肉用牛、水稲
父
72
151
151
肉用牛
2.6人
677日
657日
本
人
1
備
考
(3)土地所有と利用状況
実面積
区分
個別
うち借地
畜産用地面積
備考(単位:a)
田
77
20
77 飼料生産延べ面積97
利用地 畑
268
250
268 飼料生産延べ面積729
計
345
270
345 飼料生産延べ面積826a
共同利用地
635.3
共同利用放牧場
(4)家畜の飼養・出荷状況
①
繁殖牛
品
種
区
分
平
均
褐毛和種(単位:頭)
経産牛 未経産牛
24.3
1.3
計
子牛
育成牛
25.6
18.1
0.6
年間出荷量
②
21
肥育牛
品
種
区
分
平
均
褐毛和種(単位:頭)
去
若齢
年間出荷量
勢
雌
その他
計
若齢
成牛
91
7.9
0.3
99.2
72
7
1
80
(5)施設等の所有・利用状況
トラクター
機
46ps1台
械 収穫用作業機 自走式モアー1台
その他作業機 ショベルローダ1台
施
ふん尿処理
堆肥舎(屋根付) 56㎡
その他
共同利用堆肥舎(760㎡)
設
木造繁殖牛舎(3棟) 330㎡
牛舎
賃貸肥育牛舎(1棟)735㎡
肥育牛舎(3棟)335㎡
2
(6)飼料作物の作付面積
草種・品種
イタリアンライグラス ヘイスーダン 夏乾草 青葉ミレット
(2回刈)
計
(共同利用放牧場)
(単位:a)
面積(ha)
345a
386a 60a
35a
826a
うち採草
288a
386a 60a
35a
769a
うち放牧
57a
57a
うち兼用 (水田放牧)
(635.3a)
(635.3a)
(水田放牧)
3.自給飼料増産への取組み
美里町中央地区は、山林面積94%を占める本県でも典型的な中山間地域である。
この条件不利地の耕地において飼料作物を生産し自給率向上を図ることは、現在の進
歩した機械体系による栽培方式からすると必ずしも有利な地域とは考えられない。
しかし、その不利な条件下にある耕地から最大限の生産を行うために立地に見合った
草種の選定、効率的な機械の導入と貯蔵体系等を組み合わせながら現在の経営を確立し
ている。
(1)経過
この経営確立までには、普通の経営者では考えられない鉄人的な努力とこの地域で
畜産を成功すると言う固い信念が裏打ちされている。
ちなみに繁殖・肥育一貫経営で繁殖部門の粗飼料自給率100%、肥育部門の粗飼
料自給率23.3%は本県指標を大きく上回っている。
条件不利地の立地条件(狭い圃場、湿田、非効率的な機械作業、ロスの大きい移動
時間等)を克服した経営を確立するために、5年前まで作付の主体であった長大飼料
作物(トウモロコシ、ソルゴー)を全て牧草型飼料作物に転換している。
この栽培方式の転換によって獣害も回避され、安定的な収量が確保出来るようにな
ってきた。
また耕起、施肥・播種、鎮圧、除草剤散布まで一連の小型作業機械を活用し、収穫
からロールラップ・貯蔵までの作業はコントラクターに委託している。
このため大型機械等の投資も少なく、しかも暑熱時の過酷な労働からも解消され安
定した生産量が確保されている。
なお、この栽培体系は、地域の肉用牛農家にも大きな波及効果をもたらし飼養頭数
の維持から拡大への気運を高めている。
①
中山間の条件不利地での飼料作物栽培に関しては、平成3年からその地域条件を
最大限に活用して自給率を向上させる取り組みを行っている。
②
平成12年から、コントラクターによる収穫作業に合わせた草種選定と嗜好性・
作業ロス軽減・効率給与等から判断したロールラップ作業体系の確立を行った。
③
平成13年から牛の嗜好性・収量・調製等に見合ったイタリアンライグラス、ヘ
イスーダン(2回刈)、なつ乾草、青葉ミレット等、牧草を中心とした栽培体系と
3
した。
④
放牧による更なる低コスト化への取組
平成8年度から始まった熊本型放牧事業(平坦地飼養牛の阿蘇地域での休止牧野
活用方式)は、この限られた立地条件のもとでの飼養規模拡大と低コスト化を促進
するためには、この方式は大変有効な手段であると認識を深めた。
しかし畜舎飼養牛の直接放牧には相当なリスクが伴うため、その解決策の1つと
して、本県で先進的に取り組まれている水田放牧に平成8年3頭からチャレンジし、
阿蘇地域への放牧のための馴致場としての活用を図ることとした。
なお、繁殖牛の水田放牧頭数の推移は表のとおりとなっている。
[繁殖牛の水田放牧頭数の推移]
項目
水田放牧面積
H8
57
放牧延頭数
120
⑤
H11
上段…本人分 下段…グループ全体
H12
H13
H14
H15
H16
57
57
57
57
57
57
125
310
390
475
475
475
420
1,080
1,380
1,820
1,820
1,820
120
120
120
120
120
120
耕作放棄地等での放牧
水田放牧の取り組みによって、放牧の優位性を体験し、また天草地域で行われて
いる耕作放棄地におけるシバ放牧地研修から、荒廃の進む地域内の耕作放棄地を活
用した放牧方式は出来ないものかと考え、放牧グループの立ち上げと共に指導機関
の支援も受けながら、平成9年にはみかん廃園地を放牧地に転換するシバ型草種の
放牧地造成に着手した。
その後、地域内の耕作放棄地等を繁殖牛放牧のための有限資源として活用するこ
ととし、地主等の理解を得ながら造成を進めてきた。
なお、この大きな事業の取り組みは個人では限界があるため、地域内の繁殖牛飼
養仲間(美里町中央地区和牛生産改良組合)42名の共同意識が大きく貢献したこ
とは言うまでもない。
⑥
シバ草地造成と放牧利用
繁殖、肥育の一貫経営が軌道に乗り始めた平成8年には、本人が中心メンバーと
なっている「美里町中央地区和牛生産改良組合」の若手グループ(中央町あか牛研
究会)が核となって繁殖部門の低コスト化のための水田放牧(60a に3頭入牧)、
平成9年にはみかん廃園地にシバ草地造成を見越して60a に3頭を入牧して放牧
を開始した。
その後、地域内外での遊休農地の増加と荒廃・竹林浸食の拡大・人工林地の荒廃・
高齢化、後継者不足による農村の衰退が深刻な時期とも重なり、放牧によってその
課題を解決していくとの決意のもと、平成17年には17箇所で635.3aの造
成地を保有するまでになり、延 2,180 日(本人 延 1,135 日、その他組合員 1,045
日)の放牧実績を上げ繁殖牛の低コスト化を図っている。
4
4.その取組みを支えた外部支援(協力組織)
自給粗飼料の増産と低コスト化を図るためのコントラクター組織、放牧による飼養管
理作業の軽減化のため牛及び山羊の放牧、堆肥処理の円滑化を図るため堆肥利用組合の
設立等、現在では組織の連携なくしては、個人の経営は持続できないほど、相互共存体
制が確立している。また主な協力組織は以下のとおりである。
(1)中央町あか牛研究会
(2)美里町中央地区和牛生産改良組合
(3)中央町堆肥利用組合
(4)中央町コントラクター
(5)緑川流域まきばの会
(6)飼料用稲生産利用組合
(7)中央町中部営農組合
5.生産技術
(1)肉用牛繁殖成績
平均産次数(産) 平均分娩間隔 平均子牛出荷月齢 子牛1日当たり増体重
6.1産
12.2ヶ月
8.7ヶ月令
1.09kg
(2)新技術
経
過
摘
要
分娩2ヶ月前
アイボメック塗布
分娩1ヶ月前
デワゾール(ビタミン25,000単位)50㏄投与
分娩直後
デワゾール(ビタミン)100㏄ 投与
分娩後30日
肝蛭駆除
分娩後40日経過して発情が来なかったらビタミン100㏄
投与
発情発言 90%程度
分娩後60日経過し発情が来ない場合は獣医の診察を受ける。
(3)家畜排せつ物の利活用
①固形分
内
容
割合(%)
品質等(堆肥化に要する期間等)
販
売
78.4%
共同利用堆肥センター588トンへ販売(9ヶ月間堆積)
交
換
3.2%
稲わら交換24トン(30日間)
18.4%
飼料作物圃場へ還元138トン(30日間)
自家利用
(注)年間堆肥生産量750トンを按分
5
6.将来の経営目標
(1)今後の肉用牛経営のあり方についての具体策
①
経営の向上による所得の確保
あか げ
わ しゅ
褐毛和種牛主体の繁殖・肥育一貫経営の規模拡大、具体的には平成25年を目標
として繁殖牛50頭、肥育牛200頭に拡大することを目指している。また、自給
率の向上とコスト低減を図るためコントラクターを活用した飼料作物栽培面積の拡
大、耕作放棄地等のシバ草種放牧地拡大、熊本型放牧の積極的活用により放牧頭数
の増頭を図る。
②
ゆとりある生活の実現
現在一貫経営に要する労働時間(5,257 時間)のうちその大半は、飼料作物生産、
シバ草地管理、堆肥処理、グループ活動に費やされおり、この現状での規模拡大は
労力的には厳しいものがあるが、各種作業等の外部化を積極的に進め、一貫経営の
向上に集中し、そのゆとりの創出に努める。
③
経営を通じての地域貢献
ふるさと
地域再生の信条として「牛による古里振興」を持っている。この信条が支えとな
って今日の経営があり、仲間が集まり、地域再生の足がかりがつかめ、地域から認
められた経緯がある。今後とも自分の経営基盤を固め、地域のモデルとなり、そし
て地域貢献を果たしていく。
(2)今後の地域づくりに対しての考え方
我が家の経営向上と地域の振興を一体化して進めることで、最終の念願であるあか
牛による地域再生が出来ると信じている。
そこで現在取り組んでいる組織および地域活動の今後の目標方向について述べてみ
る。
①
自給率向上と肥育素牛の低コスト生産
ア
地域における土地の流動化促進のための耕種農家等との連携促進
イ
既存コントラクターの充実…畜産以外も含む地域総合コントラクター組織とし
て拡充
ウ
②
耕種農家と連携した大型稲ワラ収納庫の建設
耕作放棄地を活用した放牧の推進
ア
地域内での肉用牛増頭手段としての放牧方式が定着しつつあるため、更にこの
方式の推進・・・シバ草地の造成と放牧
イ
放牧地造成には山羊の放牧が有効であるとの経験から、更にこの方式の推進…
開拓、除草、掃除刈での山羊の活用。
ウ
放牧によって集落の里山がよみがえりつつあり、住民からの理解も大きく前進
してきた。今後も地域景観づくりも兼ねてこれを推進。
③
良質堆肥づくりと耕畜連携
畜産農家が核となった耕畜連携体制づくりを模索中であるが、現在の良質堆肥づ
6
くりは継続しながら販売方式を見直しによる、地域資源循環型の耕畜連携を推進。
なお、その中核となる施設として共同利用堆肥センター、活動する組織としての
コントラクターの充実及び水田転作飼料イネの栽培拡大、堆肥施用によるブランド
米作り等を考えている。
④
畜産の振興
低コスト化と効率化を促進するため、地域で可能な肉用牛生産方式を確立する努
力を行ってきた、この生産方式をさらに充実するため、「やる気と技術を持ったシ
ルバー人材の活用」「新農政(担い手確保)の推進事務を補完するための退職者の
活用」「活き活きとした地域づくりを進める中での後継者づくり等」も検討中であ
る。
⑤
繁殖経営継続のための預かり牛舎(キャトルステーション)の建設
経営者の高齢化、不慮の事故、病気等によって肉用牛繁殖経営が廃業、規模縮小
につながるケースが予測されるため、放牧と組み合わせたキャトルステーションの
建設によって肉用牛繁殖経営を存続させる取組みを検討中である。
7.経営改善諸元
粗収益(千円):農業収入
畜産部門 62,380 千円
耕種部門 1,035 千円
農外収入 5,149 千円 計 68,834 千円
所得率(%):20.99%(所得 14,445,916 円/収入 68,834,220 円)
負 債(千円):27,610 千円
家族労働力 1 人当たり年間所得額(千円):5,082 千円
成牛(経産牛、繁殖牛)1 頭あたり 年間所得額(千円):肥育牛 165 千円
同
生産コスト(円):肥育牛 613,905 円
同
所得率(%):21,4%
同 飼養管理労働時間:肥育牛 52.9 時間(投下労働時間 5,257÷常時肥育牛 99.3 頭)
自給飼料生産コスト(円/TDN ㎏):39.81 円
粗飼料の自給率(TDN 換算):繁殖成牛 100%、育成牛 100%、子牛 100%、肥育牛 97%
飼料の自給率(TDN 換算):繁殖成牛 70%、育成牛 52%、子牛 29%、肥育牛 7%
7
受賞者のことば
牛が守る地域の農地
− 条件不利地域での自給飼料生産と肉用牛繁殖・肥育一貫経営の取り組み −
熊本県下益城郡美里町津留449
明石
良生
1.美里町の概要
私の住む美里町は、熊本市から南東へ約30km、車で約40分程度の距離にある自
然豊かな地域です。
東に九州山地が広がり、さらに甲佐岳、雁俣山、白山等に囲まれ、釈迦院川、津留川、
筒川、柏川、緑川水系の河川が流れ、その恵まれた自然を活かし人々が連携しながら農
林業を中心に営み、石橋、里山、棚田等地域資源を保持し、日本一の3,333段の石
段、日本一の石橋里山文化を形成しています。
しかし、町内の大半が山林、里山に囲まれた地域で農業生産面においては、これと言
った地域産物も少なく、構造改善事業等で行われたミカン等の生産開発地は、時代の流
れと共に遊休化し中山間地農業の衰退の縮図とも言える地域であります。
2.経営の経過
経営開始から約10年間は飼養頭数も少なく、耕種部門との複合経営であったため、
イタリアンライグラスによるトウモロコシを中心とした作付け体系でしたが、平成3年
からは繁殖牛・肥育一貫経営の規模拡大を進めたため、自給飼料の増産が必要となりコ
ントラクター組織を設立し、飼料生産利用機械の導入と併行して牧草を主体とした作付
体系への転換を図りしました。
(1)中山間の条件不利地での飼料作物栽培に関しては、平成3年からその地域条件を最
大限に活用して自給率を向上させる取り組みを行っています。
(2)平成12年から、コントラクターによる収穫作業に合わせた草種選定と嗜好性・作
業ロスの軽の減・効率給与等の面から判断しロールラップ作業体系に切り替えました。
(3)平成13年からは牛の嗜好性・収量・調製等に見合ったイタリアンライグラス(2
20a2回刈)、ヘイスーダン(220a2回刈)の牧草を中心とした栽培体系とし
1
て参りましが、平成16年からは、イタリアンライグラス(345a1回刈)、ヘイ
スーダン(193a2回刈)、なつ乾草(60a1回刈)、青葉ミレット(35a1
回刈)等、合計633aとし地域条件に見合った品種選定等を勘案した栽培体系にし
ました。
(4)放牧による更なる低コスト化への取組
平成8年度から始まった熊本型放牧事業(平坦地飼養牛の阿蘇地域での休止牧野活
用方式)は、この限られた立地条件のもとでの飼養規模拡大と低コスト化を促進する
ためには、この方式は大変有効な手段であると認識を深めた。
しかし、畜舎飼養牛を直接放牧には相当なリスクが伴うため、その解決策の1つと
しては、本県で先進的に取り組まれている水田放牧に平成8年3頭からチャレンジし、
阿蘇地域への放牧のための馴致場としての活用を図ることとしました。
(5)耕作放棄地等での放牧
水田放牧の取り組みによって、放牧の優位性を体験し、また、天草地域で行われて
いる耕作放棄地におけるシバ放牧地研修から、荒廃の進む地域内の耕作放棄地を活用
した放牧方式は出来ないものかと考え、放牧グループの立ち上げと共に指導機関の支
援も受けながら、平成9年にはみかん廃園地を放牧地に転換するためシバ型草種の放
牧地造成に着手した。
その後、地域内の耕作放棄地等を繁殖牛放牧のための有限資源として活用すること
とし、地主等の理解を得ながら造成を進めてきました。
なお、個人でのこの様な取り組みには限界があるため、地域内の繁殖牛飼養仲間(美
里町中央地区和牛生産改良組合)42名の共同意識が大きく貢献しました。
(6)シバ草地造成と放牧利用
繁殖、肥育の一貫経営が軌道に乗り始めた平成8年には、私が中心メンバーとなっ
ている、「美里町中央地区和牛生産改良組合」の若手グループ(中央町あか牛研究会)
が核となって繁殖部門の低コスト化のための水田放牧(60a に3頭入牧)、平成9年
にはみかん廃園地にシバ草地造成を見越して60a に3頭を入牧して放牧を開始しま
した。
その後、地域内外での遊休農地の増加と荒廃・竹林浸食の拡大・人工林地の荒廃・
高齢化、後継者不足による農村の衰退が深刻な時期とも重なり、放牧によってその課
題を解決していくとの決意のもと、平成17年には17箇所で635.3aの造成地
を保有するまでになり、延 2,180 日(明石氏 延 1,135 日、その他組合員 1,045 日)の
放牧実績を上げ繁殖牛の低コスト化を図ってきました。
3.その取組みを支えた外部支援(協力組織)
私の取組みを支えたのは、自給粗飼料の増産と低コスト化を図るためのコントラクタ
ー組織、放牧による飼養管理作業の軽減化のため牛及び山羊の放牧、堆肥処理の円滑化
を図るため堆肥利用組合の設立等外部支援組織が取れたためであり、現在では協力組織
の連携なくしては、経営が持続できないほど、相互共存体制が確立してきました。
2
主な協力組織は以下のとおりです。
(1)中央町あか牛研究会
(2)美里町中央地区和牛生産改良組合
(3)中央町堆肥利用組合
(4)中央町コントラクター
(5)緑川流域まきばの会
(6)飼料用稲生産利用組合
(7)中央町中部営農組合
4.今後の目指す方向
我が家の経営向上と地域の振興を一体化して進めることで、最終の念願であるあか牛
による地域再生が出来ると信じています。
そこで、現在取り組んでいる組織および地域活動の目指す方向について述べてみると
(1)自給率向上と肥育素牛の低コスト生産
①
地域における土地の流動化促進のための耕種農家等との連携促進
②
既存コントラクターの充実・・・畜産以外も含む地域総合コントラクター組織と
して拡充
③
耕種農家と連携した大型稲ワラ収納庫の建設
(2)耕作放棄地を活用した放牧の推進
①
地域内での肉用牛増頭手段としての放牧方式が定着しつつあるため、更にこの方
式を促進・・・シバ草地の造成と放牧
②
放牧地造成には山羊の放牧が有効であるとの経験から、更にこの方式を進め
る・・・開拓、除草、掃除刈での山羊の活用。
③
放牧によって集落の里山がよみがえりつつあり、地域住民からの理解も大きく前
進してきたので、今後も地域景観づくりも兼ねてこれを推進。
(3)良質堆肥づくりと耕畜連携
畜産農家が核となった耕畜連携体制づくりを模索中であるが、現在の良質堆肥づく
りは継続しながら販売方式を見直し、地域資源循環型の耕畜連携を推進。
なお、その中核となる施設として共同利用堆肥センター、活動する組織としてのコ
ントラクターの充実及び水田転作飼料イネの栽培拡大、堆肥施用によるブランド米作
り等を考えている。
(4)畜産の振興
低コスト化と効率化を促進するため、地域で可能な肉用牛生産方式を確立する努力
を行ってきたが、この生産方式をさらに充実するため、①やる気と技術を持ったシル
バー人材の活用、②新農政(担い手確保)の推進事務を補完するための退職者の活用、
③活き活きとした地域づくりを進める中での後継者づくり等も検討していきたい。
(5)繁殖経営継続のための預かり牛舎(キャトルステーション)の建設
経営者の高齢化、不慮の事故、病気等によって肉用牛繁殖経営が廃業、規模縮小に
3
つながるケースが予測されるため、放牧と組み合わせたキャトルステーションの建設
によって肉用牛繁殖経営を存続させる取り組みを検討しています。
5.おわりに
ふるさと
地域再生の信条として「牛による古里振興」を持っています。
この信条が支えとなって今日の経営があり、仲間が集まり、地域再生の足がかりがつ
かめ、地域から認められた経緯があります。
今後とも自分の経営基盤を固め、地域のモデルとなり、そして地域貢献を果たしてい
きたいと思います。
4
ほ場と財布にやさしい粗飼料生産
北海道白糠郡白糠町
照
井
明
1.出品財
出 品 区 分:粗飼料生産部門
経年草地の部
利 用 区 分:採草
出品ほ場面積:500a
草 種 ・ 品 種:チモシー(オーロラ)主体の早生種で構成された混播草地
(品種チモシー:オーロラ、アカクローバ:ホクセキ、
シロクローバ:ソーニャ)
ほ 場 管 理:早春BB121 20㎏/10a、一番草収穫後にBB840 20㎏/10aを
施肥、その他にスラリー2t/10a施用。
収穫作業は一番草6月22日(地域のオーロラの出穂期とほぼ一致)、
2番草8月24日でグラスサイレージとして調整される。
2.地域の概要
白糠町は道東釧路管内の西部地区に位置し人口11,000人、漁業と酪農が盛んな産
業の町です。
搾乳農家戸数86戸、町出荷乳量が25,439t、一戸当たり平均出荷乳量259t
と大規模な草地型酪農専業地帯のイメージの強い釧路管内の中では、小規模経営の地域
です。
3.経営の概要
(1)経営形態:酪農専業
乳牛飼養形態:フリーストール
サイレージ等の調製方式:バンカー、スタック等
(2)家畜飼養頭数
畜種
乳用牛
経産牛
90頭
育成牛
62頭
計
152頭
(3)経営土地面積
牧草地(採草地)
65ha(内借地14ha)
サイレージ用とうもろこし
14ha
1
合計
79ha
(4)施設
施設
搾乳牛舎
バンカーサイロ
規格・規模
フリーストール90頭
240∼360 5基
(内コーン用2基)
スラリー貯留槽
地下ピット、1,200
施設
ミルキングパーラ
育成・乾乳牛舎
規格・規模
ヘリンボーン6頭ダブル
一部フリーストール
70頭
(5)農業機械
機械(規格)
自走式ハーベスター
ダンプ(4t)
トラクター(5台、125∼76Hp)
サイレージカッター ・スプレイヤー
モアコン(ソアサー付)
(6)乳量・繁殖その他
経産牛1頭当たり乳量:9,856㎏
初産月齢:24ヶ月
分娩間隔:419日
飼料作物ha当たり生産量:牧草…46.4t
サイレージ用とうもろこし…52.8t
TDN自給率…49.8%
4.経営の特徴
(1)地域の収穫作業より約1週間ほど早く作業に取りかかり、自己所有の自走ハーベス
ター(中古)を活用して収穫期間を短縮している。
また、派遣労働力や作業の外注との組み合わせで適期収穫を実現している(地域の
収穫期間が1番草で約35日に対して8日で実施)。
(2)スラリーの積極的利用を進めるとともに、施肥設計のもと購入肥料費を削減してい
る。
(3)自給飼料の生産費用は平成15年度版北海道の畜産経営の同規模経営の数値と比較
するとスラリーの積極的活用により肥料費で40%、中古の作業機の活用により機械
の償却費で30%の経費削減をおこなっているが、逆に修理費では約2倍になってい
る。
これらの結果、自給飼料の生産費では約10万の削減を達成している。
経
産
牛
1
労
照
井
頭
当 費た り 経乳 量
種 子 そ の
賃肥 料
修
薬 剤資 場
牧1,456 2,602
766
489
( 単 位 : 円
償
理
施
782
2,237
北 海 の
道
1,462 4,382
98
85
935 1,131
畜 産 営
経
※ 平 成 1 5 年 北 海 道
( 乳 量 水 準 別 の 自 給 飼 料生 当
a 産 料費
2
却
設 機
械
借
2,159 1,366
3,076
727
地そ
の燃
料
合
)
計
974
1,090
13,921
1,299
855
14,050
営
た
牛と人のゆとりを実現する良質粗飼料生産と放牧酪農
北海道中川郡幕別町忠類日和
大
和 章
二
1.出品財
出 品 区 分:放牧部門(経営内放牧)
草 種 ・ 品 種:チモシー(オーロラ)、メドゥフェスク(ハルサカエ)、
シロクローバ(リベンデル)
利 用 形 態:昼夜放牧
出品ほ場面積:1,620a
2.経営全体の概要
幕別町忠類は北海道十勝支庁管内の南部に位置し、南東は太平洋に接し、西は日高山
脈に連なっています。
海洋性気候の影響を強く受け、5から9月の農耕期間の積算温度は2,240℃、降
水量は730㎜、日照時間は600時間となっています。
十勝支庁管内では気象条件は悪く、畑作物栽培の限界地帯に位置し、畜産経営が80%
を占めてします。
今年の2月6日に町村合併をし、忠類村から幕別町になりました。
忠類地域の人口は、1,853人、面積は137.6 です。
酪農業が基幹で酪農家戸数は前年で81戸、1戸あたりの平均出荷乳量は500トン
を超えています。
酪農は年々1戸あたりの乳牛飼養頭数と飼料作物面積が増加している地域です。
畑作物4品と園芸作物の栽培もあり、なかでも「ゆり根」の生産が盛んです。
大和牧場は忠類地域の北西部に位置し、父が経営しているときにはてん菜の栽培があ
りました。
平成元年に後継者として学校を卒業後就農し、平成7年から酪農専業となり集約放牧
を開始しました。
平成12年に父から経営移譲され、現在に至ってます。
(1)経営形態:酪農専業
(2)家畜飼養頭数:
畜種
経産牛
乳用牛
81
(単位:頭)
育成牛
仔牛
(12ヶ月∼) (∼12ヶ月)
23
21
1
計
125
備
考
(3)家族および労働力の状況
区分
経営主
父
母
年齢
主な作業内容
農業従事日数
36才 飼養管理、繁殖管理、採草・放牧地管理、搾乳
360日
70才 とうもろこしは種、粗飼料収穫、搾乳
340日
60才 ほ育管理、搾乳
330日
(4)経営土地面積
(単位:ha)
土地
合計
利用率
1年生 とうもろ
永年草地
その他
こし
うち放牧地 牧草
飼料作物 41.3 16.2
10.9
52.2 100%
区
分
(5)主要な機械・施設の所有状況
トラクター
125PS・1台、80PS・2台、60PS・1台、40PS・1台
(馬力・台数)
機
械
収穫用機械
テッターレーキ・1台、ジャイロレーキ・1台、
(名称・台数) モアコンディショナー・2台、コーンハーベスター・1/3台、
ロールベーラー・1台、普通ダンプ・2台、
テッピングワゴン・1/3台、ロールベーラー・1台、
ベールラッパー・1台
その他作業機
プランター・1台、カルチ・1台、播種用作業機1/7台、
(名称・台数) マニュアスプレッダ・1/2台、
ロータリーハロー・1/2台、サブソイラー・1/7台、
デスクハロー1/2台、スプレーヤー・1台、プラウ・1/3台、
タイヤショベル・1台
サイロ
バンカーサイロ(1,150m3)
(種類・容積) バンカーサイロ(65)
施
設
ふん尿処理
堆肥場(昭和53年建設)
(種類・容積) 堆肥舎(630㎡ 平成14年建設・道営草地整備事業)
尿貯留槽(3.53m3)
その他
牛舎(スタンチョン 99.17㎡ 昭和41年建設)
(種類・大きさ)牛舎(スタンチョン 120.06㎡ 昭和44年増設)
育成・乾乳舎(給餌場 247.93㎡ 昭和53年建設)
ほ乳・育成舎(平成16年建設 1棟)
パドック(昭和58年整備)
乾草庫(D型 330㎡ 昭和62年 1棟)
車庫・機械庫(568.08㎡ 2棟)
(6)収益など
粗収益:50,244千円
所得率:33.5%
負
債:38,494千円
2
3.飼料作物の生産
平成17年度の飼料作付け状況および飼料作物の反収
とうもろこし
(85日クラス)
41.3 41.3
10.9
25.1 20.6
16.2 16.2
4.5
3,767
5,235
3,864
5,164
草種・品種
飼料作物の
作付け面積
(ha)
面
1番草
積
うち採草
うち放牧
うち兼用
飼料作物の反収 経営全体反収(生草)
(kg/10a)
近隣平均反収(生草)
2番草
牧草および飼料用とうもろこしの収量と刈り取り時期
生草収量
番 草
1番草
2番草
放牧草
収穫調整後
TDN収量
当該ほ場
4,200
765
牧草収量と
(放牧時期)
(4/下∼10月)
刈り取り時期
該当農家
2,461 1,321
(㎏/10a)
561
(刈取り時期) (6/18∼20) (8/22∼27)
市町村平均
2,532 1,462
(刈取り時期) (6/17∼7/5)(8/28∼9/14)
549
生草収量
とうもろこし(85日クラス)
収穫調整後TDN収量
当該ほ場
飼料用とうも
ろこし収量と (刈取り時期)
刈取り時期
該当農家
(㎏/10a) (刈取り時期)
5,235
(10/3)
1,111
5,235
(9/30∼10/3)
1,111
市町村平均
(刈取り時期)
5,164
(9/26∼10/7)
1,096
4.経営・技術面での改善への取組み
(1)放牧技術
平成7年から放牧技術を導入し、毎年4月下旬から10月まで昼夜放牧を行います。
放牧地は16.2haの専用区を13牧区と、4.5haの兼用地を1番牧草収穫
後4牧区に分けています。
放牧期間はコーンサイレージの給与はせず、濃厚飼料の給与量を抑えています。
放牧期間を延長し、高栄養の放牧草を確保するために、メドゥフェスク、ペレニア
ルライグラス、オーチャードグラスの追播を実施しています。
追播するメドゥフェスクは新しい品種、オーチャードは晩生種を利用します。
3
(2)粗飼料の栽培技術
定期的に土壌分析を行い、土壌の成分を把握しています。施肥は単味肥料を配合・
利用し、コストの削減に努めています。
採草地はチモシーが主体のアルファルファ混播で、植生が悪化(裸地、雑草の侵入
割合)をみて更新します。
(3)収穫・調製・利用技術
牧草の収穫は地域の収量調査に参加して出穂期と刈り取り時期を予測判断し、出穂
始め刈り取りを実施しています。
収穫作業は2戸の共同とし、刈り取り後、原料の水分を40%以下を目安に1日程
度予乾し、カッティングベーラーによるロールラップサイレージ調製をします。
昨年は5月下旬から6月の生育期に低温と干ばつのため、極端に収量が低下しまし
た。
放牧草地も春の生産性が不良となり、生産乳量が低下しました。
飼料用とうもろこしは、機械の共同利用組合3戸での共同作業をします。雌穂の登
熟を確認し、黄熟期での収穫をしています。
(4)経営および生産技術面での創意工夫
放牧草地の生産性向上のための追播は、共同で専用機(シードマチック)を導入し
ました。
利用期間が少ない作業機なども共同利用が多く、減価償却費や修理費が低減できま
す。
乳牛に給与する濃厚飼料などの購入飼料は、全て指定された非遺伝子組み換え(n
on−GM)飼料を使用し、出荷された生乳はよつ葉乳業の「プレミアム牛乳」とし
て販売されています。
(5)家畜排泄物の処理と利用
牛床には麦桿を使用し、バーンクリーナーで排出されたふん尿は堆肥舎へ搬入しま
す。
ひと月に1∼2回の切り返しと同時に石灰質資材(ニッテンライム)を混和し、堆
肥化します。
その後秋に飼料用とうもろこしの作付けほ場へ散布し、すぐに土壌混和することか
ら有機物投入と酸度矯正を同時に行っています。
放牧草地には堆肥の量に余裕がある場合に施用し、採草地には堆肥の他、尿を散布
します。
4
(6)今後目指そうとしている経営の方向
放牧技術を導入してから、乳牛の疾病が減り人にも牛にも「ゆとり」ができました。
この経営スタイルを継続して行きますが、さらにコスト低減と作業の効率化を目指
し生産性の向上を図っていきます。
環境にやさしく負担の少ない酪農業を継続していきます。
5.経営改善主要諸元
(1)経産牛1頭あたり飼料作物作付け面積:0.64ha/頭(52.2ha/81頭)
成牛換算1頭あたり飼料作物作付け面積:0.5ha/頭(52.2ha/103頭)
(2)飼料の自給率(TDN自給率):67.2%
(3)粗飼料の自給率(TDN自給率):73.8%
(4)飼料作物の反収:4,059㎏/10a
(5)飼料作物のTDN1㎏当たり生産費:26.0円/㎏
(6)飼料作物の調製・利用方法:放牧草、サイレージ100%
(7)飼料作物10a当たり労働時間
種 類
耕起・整地・は種
牧草サイレージ
放牧地
0.10
コーンサイレージ
0.51
施肥・管理
0.13
0.59
(8)飼料作物の品質(粗飼料分析の平均)
種 類
生育ステージ
DM
牧草サイレージ
1番草
29.8
放牧草
生育中
75.7
コーンサイレージ
黄熟期
71.7
TDN
68.4
75.2
69.5
(hr/10a)
収穫・調製
合計
1.22
1.35
0.69
0.44
0.95
CP
10.4
20.3
8.2
(乾物中%)
NDF NFC
59.7
22.4
42.1
32.4
41.5
43.0
(9)経産牛1頭あたり乳量:6,864㎏/頭(556トン/81頭)
(10)経産牛1頭あたり所得:208千円/頭(16,811千円/81頭)
(11)家族労働1人当たり所得:6,004千円/人(16,811千円/2.8人)
(12)所得率:33.5%
5
受賞者のことば
牛と人のゆとりを実現する良質粗飼料生産と放牧酪農
北海道中川郡幕別町忠類日和
大
和 章
二
1.幕別町忠類の概要
幕別町忠類は北海道十勝支庁管内の南部に位置し、南東は太平洋に接し、西は日高山
脈に連なっています。
海洋性気候の影響を強く受け、5から9月の農耕期間の積算温度は2,240℃、降
水量は730㎜、日照時間は600時間となっています。
十勝支庁管内では気象条件は悪く、畑作物栽培の限界地帯に位置し、畜産経営が80%
を占めてします。
夏期は30℃を超える暑さが続いたり、冬期間はマイナス25℃を下回る日もある寒
暖差の大きい地域です。
今年の2月6日に町村合併をし、忠類村から幕別町になりました。
忠類地域の人口は、1,853人、面積は137.6 です。
酪農業が基幹で酪農家戸数は前年で81戸、1戸あたりの平均出荷乳量は500トン
を超えています。
酪農は年々1戸あたりの乳牛飼養頭数と飼料作物面積が増加している地域です。
年間出荷乳量が1,000トンを超える酪農家も7戸ありますが、地形条件から集約
放牧を導入している酪農家もあります。
畑作物4品と園芸作物の栽培もあり、なかでも「ゆり根」の生産が盛んです。
2.我が家の経営経過と放牧酪農への転換
我が家は忠類地域の北西部に位置し、父が経営しているときにはてん菜の栽培があり
ました。
平成元年に後継者として学校を卒業後就農したころは、高泌乳酪農を実践していまし
たが、平成6年の生産調整時にコストの低減を図るため、また、労働時間を少なくする
ために平成7年から酪農専業となり牧区を区切り集約放牧を開始しました。
1
平成12年に父から経営移譲され、現在に至ってます。
放牧草地は、チモシー主体の混播草地で、専用区10牧区、兼用地3牧区にしました
が、採食ムラがあり平成9年に現在の牧区に整備しました。
牛道を中央にし、専用区13牧区、兼用地を4牧区に区切りました。
3.追播技術の導入
放牧地は、チモシー主体の草種であれば、牛の踏みつけにより株が減少し、放牧期間
も短くなるのでメドゥフェスク、ペレニアルライグラス、オーチャードグラスを追播し
ます。
機械は「シードマチック」で忠類放牧研究会会員8戸で所有しています。
放牧研究会では、「アースクゥエイカー」も共同利用し、活動としては会員内牧場で
の研修などを行っています。
放牧は4月下旬∼10月いっぱいまでしています。放牧地中央の牛道は、砂利と火山
灰で整備し、泥濘化したら火山灰をいれます。
追播を繰り返すたびに放牧草の密度が高まり、秋遅くまで牛を放せるようになりまし
た。
2牧区に1個ずつ水槽と鉱塩を設置し、放牧地とパドックは自由に往き来ができるよ
うにゲートを閉めてません。
搾乳時間が近づくと自然に戻ってきます。
4.低コストへの挑戦
放牧地も含めた牧草地には、単味肥料を配合し施用します。
家畜のふん尿は月に一度切り返して堆肥化します。
切り返しと同時に「ニッテンライム」を混ぜ、放牧地以外のほ場に散布し酸度矯正と
有機物投入をします。
去年の秋には地域の酪農家数戸が利用を始め、JA全体での取扱い量が増加しました。
5.今後の酪農経営について
放牧酪農の実践によって乳牛の疾病が減少し、人にも牛にもゆとりができました。
この経営スタイルを継続していきますが、今後の目標として、繁殖成績の向上やスプ
リングフラッシュに泌乳のピークがくるような季節分娩にチャレンジしたいと考えてま
す。
さらに、自給飼料の品質を高め、購入飼料費を減らし、機械の共同利用により償却費・
修理費を抑えコストを下げた経営が目標です。
2
放牧による足腰の強い但馬牛生産を目指して
兵庫県美方郡香美町
森
脇 薫
明
1.出品財
出 品 区 分:放牧部門
草
種:野草
出品ほ場面積:59ha(共同利用)
2.地域の概要
香美町は、兵庫県の北部に位置し、日本海に面する地域で、内陸部は 1,000m級の中国
山脈に囲まれ、林野が約 86%を占めている。
町の中心を南北に縦断する矢田川水系に沿って耕地や居住地を形成し、日本海に至る
総面積 369k㎡の広大なエリアを有し、町の規模では県下一の広さである。
気候は、裏日本特有の多雨多湿で年間を通じて降水量が多く、降雨日数は 180 日にも
および、特に冬期には積雪が2mにも達することがある。
香美町は、「但馬牛の原産地」として優良系統牛の維持確保がなされ、和牛の原々種
として全国各地に広がっている。
また、“神戸ビーフ”“松阪牛”の肥育素牛として最高級肉質を誇るブランドを支え
ている。
香美町の農業粗生産額 19.3 億円のうち 33%を畜産が占めている。
平成 18 年2月現在の肉用牛繁殖経営は農家数 78 戸、飼養頭数 1,130 頭である。
近年、高齢化によって1∼2頭飼いの農家は減少しているが、企業経営感覚で多頭化
を目指す若い後継者も育ちつつある。
3.経営の概要
森脇牧場は香美町の中部に位置し、標高 400mの中山間地域にある。
経営規模は、繁殖雌牛 74 頭および経産牛肥育 10 頭、種雄牛1頭を飼育している。
昭和 49 年に繁殖素牛を3頭導入して、経営を開始した。昭和 60 年頃からの規模拡大
に伴い、昼夜放牧を取り入れ、作業の省力化および飼料費の削減などの低コスト化を実
践してきた。
(1)経営形態
肉用牛繁殖
+ 経産牛肥育 +種雄牛
1
(2)飼養頭数
成牛
育成牛
子牛
経産牛肥育
計
65 頭
9頭
65 頭
10 頭
149 頭
うち放牧頭数 33 頭
4頭
肉用牛
37 頭
(3)労働力
本人
妻
作業内容
放牧管理・飼養管理
飼養管理・経理
農業従事日数
330 日
320 日
(4)土地面積
耀山放牧場
長板放牧場
柤岡放牧場
草種
野草
野草
野草
面積
30.0ha
10.8ha
18.2ha
使用農家数
3戸
2戸
2戸
利用方式
預託
共同利用
共同利用
利用料金および借地料
300 円/頭・日
15 万円
21 万円
うち森脇畜産借地料
同上
8万円
11 万円
利用頭数
26 頭
31 頭
22 頭
うち森脇畜産利用頭数
6頭
20 頭
11 頭
牧柵の種類
有刺鉄線
電気牧柵
電気牧柵
放牧開始年度
昭和 62 年
平成3年
平成 13 年
備
考
牛舎から最も離
れている
2
個人確認
1週間交代で頭
数確認
(5)生産技術
繁殖和牛
平均産次数
平均分娩間隔
6.6 産
11.9 か月
平均授精
1回種付
平均子牛
出荷時の
回数
け割合
出荷月齢
日齢体重
1.42 回
70.8%
8.2 か月
0.933
(6)主な施設機械
施
設
機
械
牛舎、堆肥舎
トラクタ
その他
13ps
ホイルローダー、家畜運搬車、2t ダンプ、ユンボ
4.経営・技術面での改善の取り組み
(1)昼夜放牧の導入
飼養頭数の増加に伴い、省力化および低コスト化を目的に、昭和 62 年から兵庫県初
となる昼夜放牧に取り組んだ。
当時は、昼夜放牧の知識や経験が無かったことから、関係機関と連携し、血液検査
よる健康管理や衛生対策、シードペレットやシバによる牧養力の向上を図った。
その結果、放牧の安全性や効果を明らかにすることができ、そこから、放牧面積お
よび頭数の拡大を行っていった。
また、母牛の放牧によって空いた牛舎を利用し、子牛の発育にあったグループ分け
が可能となり、子牛の生産性の向上にも繋がっている。
(2)放牧地牧養力の向上
放牧地は、すべて野草地であるが、牧養力を高める目的で、雑灌木や有刺植物の刈
り払いを毎年実施している。
また、ワラビ防除のために除草剤を散布している。
さらに、耀山放牧場では、毎年野焼きを集落が実践していたが、今年からは高齢化
のため実施できなくなった。
(3)放牧場の使い分け
3ヶ所の放牧場は、それぞれ特徴があり、それらを使い分けることによって経営の
メリットを得ている。
耀山放牧場
長板放牧場
柤岡放牧場
牛舎からの移動時間(片道)
30 分
3分
5分
日常管理
預託
個人管理
1週間交代制
特徴
経験牛
未経験牛
経験牛
3
毎日自らが確認する長板放牧場では、未経験牛を放牧して、放牧管理を徹底して行
っている。
反対に、共同で放牧する耀山と柤岡放牧場は、預託や交代制で管理し、さらに他農
家の牛と接触するため、放牧経験牛を放牧している。
(4)スタンチョンの利用による放牧場での個体管理の徹底
スタンチョンを設置することによって、放牧場においても個体管理を実践している。
特に、補助飼料給与時に、育成牛は放牧経験牛に威嚇され、補助飼料を採食できな
いため、先に経験牛をスタンチョンで保定し、育成牛に補助飼料を給与している。
(5)バンクリーナーの利用による省力化の実践
除糞作業の省力化を目的に、平成7年にバンクリーナーを設置した。
これによって、現在の頭数でも1名で日常管理を行うことができる。
(6)育種価や枝肉成績を考慮した牛群整備の実践
年に2回配布される母牛の育種価および枝肉共励会などの成績をもとに、繁殖素牛
の保留を行っている。
これによって、子牛の出荷価格が高いだけでなく、優良系統の子牛は兵庫県や他府
県に種雄牛として買い上げられている。
5.将来の経営目標
(1)よりよい放牧を目指して
雑灌木や有害雑草の刈り払いや放牧面積にあった頭数を放牧することによって、今
まで以上に景観がよい放牧場を整備していきたい。
また、現在は季節繁殖のため、放牧開始が妊娠鑑定の終了する6月中旬となるが、
周年繁殖へ徐々に移行し、放牧開始を5月上旬にして、放牧期間の拡大を図りたい。
(2)繁殖・肥育一貫経営の実現
畜産関係の学校に進学している後継者の就農を視野に入れて、繁殖・肥育一貫経営
の計画を検討している。
肥育牛舎の建設は、今年度中にも建設したいと考えている。
さらには、生産から小売まで、顔の見える牛肉生産・販売を行っていきたい。
6.経営改善主要諸元
(1)粗収益
31,379 千円
(2)所得率
24.9%
(3)家族労働力1人当たり年間所得額
3,901 千円
(4)経産牛1頭当たり年間所得額
106 千円
(5)
402 千円
同
生産コスト
(6)粗飼料自給率(TDN 換算)
24.7%
(7)飼料自給率(TDN 換算)
13.1%
4
受賞者のことば
放牧による足腰の強い但馬牛生産を目指して
兵庫県美方郡香美町
森
脇 薫
明
このたびは全国草地畜産コンクール入賞という栄えある賞を頂くことができ、深く感謝
申し上げます。
我が経営は、昭和 49 年に繁殖和牛を3頭導入したことから始まりました。
その後、牛舎の建設を繰り返しながら、飼養頭数の拡大を行い、経営の安定化を図って
きました。
昭和 60 年頃までは、転作田に飼料作物を栽培しサイロに詰めたり、あぜの草を刈ったり
して、飼料費の低減を行ってきました。
しかし、規模が大きくなるに伴って、輸入乾草の購買が増えたり、糞尿処理にかかる時
間が増加したりしていました。
また、頭数の増加と牛舎の建設が間に合わず、子牛を飼育するスペースが無くなってい
ました。
そこで、昭和 62 年に放牧を試験的に行い、平成元年に畜産基地事業で放牧場が整備され
たのをきっかけに、本格的に昼夜放牧を始めました。
昼夜放牧を始めるにあたり、今まで外に出たことがない牛が、昼も夜も放牧しても大丈
夫かどうかが非常に不安でした。
その頃は、但馬牛を求めて全国から購買者が訪れており、非常に高値で取引されていた
こともあって、兵庫県で昼夜放牧をしているところはありませんでした。
そのため、島根県などの情報を取り寄せました。
また、家畜保健衛生所や普及センターなどの関係機関と一緒に血液検査や衛生検査、シ
ードペレットやシバの導入による牧養力の向上など放牧技術の確立を行ってきました。
また、放牧によって分娩が安産になり、繁殖成績が良くなるなど、生産性の向上も見ら
れました。
この一つ一つの積み重ねによって、放牧の安全性や効果を実感でき、放牧面積や頭数の
拡大に繋がっていると思います。
1
放牧開始当初は、有刺鉄線を利用していました。
しかし、牛がよく脱走し、夜まで探して回ったり、国道まで牛がでて、あわてて牛を連
れ戻しにいったりしたこともありました。
電気牧柵の利用によって、脱柵がほとんどなくなり、安心して放牧をすることができる
ようになりました。
現在、飼養頭数 74 頭の 50%にあたる 37 頭を放牧しています。
これによって、作業、特に糞尿処理の省力化や飼料費の低コスト化を図ることができ、
大きな経営改善ができています。
また、放牧によって空いた牛舎を子牛のスペースとして利用することによって、子牛を
発育や雌雄別にグループ分けすることができ、子牛の生産性の向上にも繋がっています。
放牧は、良いことづくめですが、非常に怖い反面もあります。それは事故です。
放牧開始から、何頭か事故で廃用にしました。
平成 15 年には、ワラビ中毒で2か所の放牧場で計4頭も廃用にしてしまいました。
牛はワラビを食べないものだと思い、放牧場のワラビの駆除を行いませんでした。
その後の調査で、数頭の牛が放牧場に草が豊富にあるにもかかわらず、ワラビを食べて
いることがわかりました。特に、若い牛に多いようです。
それからは、除草剤を利用してワラビの除草を行い、秋には粗飼料を給与しており、そ
の後は事故が発生していません。
事故があっても、1つずつ解決していき、次につなげることが重要で、これが放牧を長
く続けていける秘訣だと思います。
今後の放牧および経営の方向性ですが、放牧場の牧養力を高め、放牧頭数を増やすだけ
でなく、景観に配慮した放牧整備を行っていきたいと考えています。
また、経営の方では、長男の就農を視野に入れて、繁殖・肥育一貫経営、さらには生産
から小売までの牛肉生産販売を目指しています。
また、但馬牛産地の拡大に向けて、研修生や就農希望者の研修受入を行い、地域の後継
者の育成・確保を行っていきたいと思います。
足腰の強い但馬牛産地づくり、足腰の強い経営を目指して、これからもがんばっていき
たいです。
2
中山間地(シバ型草地)で取り組んできた和牛繁殖経営
愛媛県西予市野村町野村 10‐481
井
関 秀
夫
1.出品財の概要
出 品 区 分:放牧部門
草 種 ・ 品 種:シバ型(センチピードグラス等)
利 用 形 態:放牧
出品ほ場面積:500a (その他:飼料作付延べ面積 400a)
2.地域の概要
愛媛県西予市は、野村町、宇和町、城川町、明浜町、三瓶町の 5 町が合併し、平成 16
年 4 月に誕生した。
当市は愛媛県南部に位置し、地形としては、標高は海抜0mの明浜、三瓶から 1,400
mの大野ヶ原まで起伏に富み、東西 75km、南北約 45kmの広がりを持っている。
いわゆる美しいリアス式海岸から、起伏に富んだ山間部までの幅広い気候と特色を生
かし、豊かな海の幸、柑橘類・米の栽培、畜産と地形同様変化にとんだ自然一杯の「め
ぐみ」が魅力である。
また、農業産出額 1,317 千万円のうち畜産が 620 千万円を占めており、畜産の盛んな
地域である。
出品財位置
西予市野村町
井関秀夫
1
3.出品財の概要
昭和 53 年、傾斜 10∼30 度の岩石の多い地形であった耕作放棄果樹園(くり)、松林
(松くい虫被害林)5haを乳牛(成牛 30 頭)の放牧地として開墾し、野草利用の放牧
を開始した。
平成 8 年、酪農経営から和牛繁殖経営(繁殖牛 12 頭 育成牛 14 頭)に転換し、平成 9
年には放牧地 5haの 3haをセンチピードグラス、野シバ等のシバ型草地に更新し、現
在に至っている。
また、放牧面積 5haに平均放牧頭数 20 頭では、草地の裸地化が進むと思われるが、
当経営では、自給飼料生産(飼料作付け延べ 4ha:朝、夕サイレージ給与)も行って
おり、繁殖管理の徹底(朝、夕の発情確認)等を行うため、9∼16 時までの時間放牧を
実施している。このようなことが、すばらしい草地、景観を維持している。
傾斜角度 10∼30 度の放牧地に放牧することにより、足腰の強い繁殖牛になり、このこ
とが、産前産後の事故もなく、発情も明瞭で、繁殖成績も受胎率 95%以上、人工授精回
数 1.2 回、平均分娩間隔 12 ヶ月と良好であり、当放牧地は、生産コストの低減はもとよ
り、繁殖農家として一番大切な「子牛生産」に大きな役割を果たしている。
(1)放牧地の整備、更新状況
区分
昭和 54 年
平成 9 年
整備・更新(ha)
5(整備)
3(更新)
野草、野シバ等
センチピードグラス等
草種名
(2)放牧地の施肥管理状況
施肥管理については、肥料散布なし。
(3)経営内放牧の状況
区分
成牛
育成牛
放牧実頭数(平均)
20
3
放牧実面積(ha)
5
5
365 日(9∼16 時)
365 日(9∼16 時)
放牧期日
(4)放牧方法等
肉用繁殖牛を時間放牧(9∼16 時)にて実施している。
牧柵は有刺鉄線を利用している。
4.経営の概要
昭和 19 年(1944 年)静岡県からホルスタイン種 1 頭導入から酪農を開始した。
昭和 45 年(1970 年)には乳牛 5 頭と、その他(稲作、野菜)等の複合経営を実施して
きた。
2
昭和 53 年には現経営主(井関秀夫 47 歳)の就農に併せ、乳牛 30 頭規模の牛舎を住宅
地から離れた山間部に建設し、牛舎裏山の耕作放棄果樹園(くり)、松林(松くい虫被
害林)5haを放牧地として開墾し野草利用の放牧を開始した。
平成 3 年から、愛媛県八幡浜家畜保健衛生所協力のもと黒毛和種の受精卵移植に取組
み、生産された雌牛は繁殖牛として残し徐々に和牛繁殖牛を増頭してきた。
平成 8 年 10 月には、酪農経営から和牛繁殖経営(繁殖牛 12 頭、育成牛 14 頭)へと転
換し、平成 9 年には、放牧地 3haをセンチピードグラス、野シバ等のシバ型草地に更
新した。
平成 14 年からは、畜産試験場が実施している性判別受精卵移植技術試験に、自己牛を
提供し、そこで生産された雌牛を後継牛として保留するなど、和牛改良にも力を注いで
いる。
現在、飼養している繁殖牛 26 頭中 9 頭が受精卵移植により産出された繁殖牛である。
このようなことから、平成 17 年野村臨時市場での平均販売単価は去勢雄で 586,200 円、
雌で 444,600 円(市場平均は去勢雄 496,600 円、雌 409,900 円)となっており、市場で
の評価も高い。
平成 16 年 11 月から完全施行となった「家畜排せつ物法」に対応するため、平成 15 年に
たい肥舎を建設し、良質たい肥生産に力を入れている。
さらに、東宇和和牛繁殖部青年部長を務めるなど、地域のリーダーとして活躍してい
る。
(1)飼養頭数
区分
成牛
育成牛
子牛
計
肉用牛
26
5
20
51
うち放牧頭数
20
3
20(20a 草地)
43
(2)労働力等
区分
男
女
雇用
1
1
1
労働従事員
主な作業内容
農業従事日数
家畜管理、草地管理全般 飼料給与、牛舎内清掃
350 日
137 日
(3)主な施設機械
機
械
トラクター
28ps
収穫用作業機
モアー1 台、カッター1 台
その他作業機
2tダンプ 1 台、軽トラック 2 台
3
1台
29ps 1 台
飼料給与
92 日
(4)施設
施
設
サイロ
コンクリートサイロ 7 ヶ所
ふん尿処理
たい肥舎 88 ㎡
牛舎
鉄骨スレート 150 ㎡、200 ㎡
小学校廃材利用 300 ㎡
5.将来の経営目標
繁殖農家や肥育農家から認められる「子牛づくり」を目指す。
6.経営改善主要諸元
(1)飼料自給率 95.4%
(2)所得率
56.7%
(3)自給飼料生産コスト(円/TDN)
放牧地 6.6 円
4
飼料畑 20.2 円
受賞者のことば
中山間地(シバ型草地)で取り組んできた和牛繁殖経営
愛媛県西予市野村町野村 10‐481
井
関 秀
夫
全国草地畜産コンクール入賞という栄えある賞をいただき感謝しております。
私の経営は、祖父、父と酪農経営を営んできて、その土台を生かして私が和牛繁殖経営
に切り替えました。
父は山地酪農に憧れ、最初は酪農で放牧を実施しようとしておりました。
現在、その草地は和牛繁殖牛のシバ型草地となっております。
草地畜産は一代できるものではないと考えます。
父がいままで頑張ってきてくれたからこそ今の私がありますし、こうして賞をいただけ
たのだと思っております。
今後とも、この草地を守り、この街で、体が動くまで頑張っていきたいと思います。
最後に、これまてさまざまな関係機関にお世話になってきました。
本当に、国や県、市、農協等の関係機関のご指導、ご支援を感謝いたします。
1
冒険心と情熱が支えた牛の放牧
― 島の資源を活かした和牛の放牧ゆとり経営 ―
鹿児島県三島村硫黄島
みしま農産㈲ 代表 日髙 郷士
1.出品財
出 品 区 分:放牧部門
草 種 ・ 品 種:チガヤ、竹葉、暖地型牧草
出品ほ場面積:34.8ha(放牧地27.0ha)
2.地域の概要
三島村は、鹿児島市から南方約100kmの海上に点在する3つの島からなる。
人口は416人で産業は農業、漁業が中心である。
年平均気温は19.3℃と温暖で無霜地帯である。
しかし、台風や冬の季節風などにより年間を通して風が強く、風・塩害が頻発する。
平成16年の農業産出額は1.6億円で、そのうち畜産が約88%を占め、重要な基幹産業
に位置づけられている。
三島村の畜産は、肉用牛飼養戸数39戸、子取り用雌牛551頭の周年放牧体系を主体に
した肉用牛繁殖経営である。
みしま農産㈲のある硫黄島は、3島のほぼ中央に位置する周囲14.5kmの島で、現在も
盛んに噴煙をあげる活火山が島の北東部にそびえている。
飼養戸数は3戸で子取り用雌牛124頭が飼養されている。
3.経営の概要
みしま農産㈲は、硫黄島の標高約100mの台地の村有地約40 を借り、牧場全体面 積は
約40haで、周年放牧地27.0ha、採草地7.8haで、全てを村から借地している。
経営規模は肉用牛繁殖83頭、育成牛5頭の肉用牛繁殖専門経営である。
経営開始の昭和53年から放牧による労働力の省力化と笹(リュウキュウチク)やチガヤなどの
未利用資源の有効活用を実践してきた。
また、子牛育成技術の改善及び飼養管理の徹底、人工授精による改良や牛の登録の推
進等で子牛の商品性向上に努めてまた結果、本土並みの高価格販売を行っている。
4.経営形態:肉用牛生産専門経営
5.労働力:2名(本人62才、妻)
1
6.土地の利用状況
区分
実面積(a) 内借地(a) 内畜産利用面積(a)
耕地
牧草地
田
畑
計
牧草地
計
畜舎・運動場
その他原野
合 計
0
780
780
2,700
2,700
0
780
780
2,700
2,700
0
780
780
2,700
2,700
100
420
4,000
100
420
4,000
100
420
4,000
備考
採草地
放牧利用
7.飼養頭数
区分
成雌牛
育成牛
肉用牛
83
5
平成16年12月末現在
8.主な施設機械
種類 構造能力
牛舎
鉄骨
育成舎
木造
堆肥舎
サイロ 地下式
面積
480㎡
200㎡
80㎡
240
子牛
47
計
135
種類
トラクター
ディスクモア
ロールベーラー
ラッピングマシン
ロータリー
ブロードキャスター
ブッシュカッター
マニュアスプレッダー
トラック
軽トラック
能力
80ps
2t
台数
2
1
2
1
1
1
1
1
1
2
導入年
平成1,14
平成1
平成4,15
平成4
平成1
平成14
平成16
平成13
平成13
平成14,18
9.自給飼料の生産と利用状況
区分
地目
飼料作物
畑
放 牧 地 採草地
面積(a)
草
種
650 バヒア,ローズグラス,チガヤ
130 イタリアンライグラス
2,700 チガヤ,竹,バヒアグラス
10.飼料成分(乾物中%)
チガヤ
リュウキュウチク
DCP
4.3
13.5
TDN
54.3
44.8
2
単収 総収量
利用形態
(kg/10a) (t)
5,000kg 325t
乾草
7,000kg
91t 生草・サイレ ージ
3,500kg 945t
放牧
11.飼養規模の推移
頭数
100
村
90
80
子
牛
市
に よ る医
獣
診 療 始
開
場上
へ
師
ブ ッ シ ュチ
ョ
パ ー 入
導
ッ
場
70
人
完
60
和
制
50
牛
度
録
登
入
加
工
全
精
授
行
移
40
ロ ー ルー
ベ
ラ ー 入
導
採 草 地成
造
貯 蔵 飼 保
確
料
30
20
S53
S56
S59
S62
H2
H5
H 8 H 1 1H 1 4H 1 7
12.経営及び技術面での取組と今後の経営の方向
(1)草地整備造成
①
島内に豊富な未利用竹林を自力又は団体営草地開発整備事業で整備・改良し放牧
地として活用。
②
毎年計画的に暖地型牧草を追播して,草地の維持管理を図っている。
③
不可食雑草の除去や自家堆肥の施用による草生促進。
④
採草地利用による貯蔵粗飼料の確保とその冬期の利用。
(2)放牧関係新技術の積極的導入
①
竹林活用による干ばつ,塩害,台風害の回避。
牧柵の腐蝕防止のため,竹林による保護。
②
ブッシュチョッパー,播種機等活用による省力草地改良。
③
笹とチガヤの牧草利用。
(3)飼養関係技術の導入
①
施設への設備投資軽減のため,電柱等利用による牛舎の自力施工。
②
成雌牛の繁殖ステージごとの群管理を実施し,管理の効率化を図る。
③
自然交配から人工授精による家畜改良の促進及び子牛の商品性の向上。
④
ダニ駆除による疾病の発病抑制及び健康促進。
⑤
子牛の舎飼い(別飼い)による発育改善。
(4)今後の経営方向
①
ほ乳ロボットの活用による子牛管理の省力化。
②
母子超早期離乳による母牛の繁殖機能回復・促進。
③
条件不利地域での更なる放牧地利活用及び管理技術の波及。
3
13.経営改善諸元
成雌牛1頭あたりの放牧面積
成雌牛1頭あたりの飼料生産延べ面積
粗飼料の自給率(TDN換算)
飼料自給率(TDN換算)
自給粗飼料生産コスト(TDN換算)
成雌牛1頭あたり投下労働時間
平均分娩間隔
平均産次数
子牛生産率
平均子牛出荷月齢
子牛1日当たり増体重
粗収益
子牛1頭あたり平均価格
子牛1頭あたり総原価
〃
(自家労賃除く)
所得率
母牛1頭あたり所得
32.5a
84.1a
97.5 %
80.0%
11.9円
36.1時間
12.8ヵ月
4.9産
91.8%
9.5ヵ月
0.918kg
31,875千円
419千円
249千円
219千円
49.0%
189千円
14.経営のあゆみ
昭和 47年 ヤマハ発動機(株)の社員として、リゾート開発のため硫黄島に赴任
49年 結婚
52年 ヤマハ発動機(株)を退社
53年 みしま農産(有)を設立し、牧場経営を開始(従業員2名)
生産牛38頭を購買(無登記牛)、放牧場 15ha
58年
59年
59年
∼
62年
平成
放牧場40ha,生産牛70頭
従業員2名離社、夫婦2名での経営へ
黒島の子牛(3∼6ケ月令)を800円/kgで購入し、竹島の農家に肥
育預託。
増体分を800円/kgで買取、静岡県のキング食品(株)
に契約販売
63年 鹿児島中央家畜市場上場開始
元年 全国和牛登録協会の和牛登録制度へ加入が実現
2年 60haの放牧場を30haに縮小。3haの採草地(バヒアグラス、チ
ガヤ)を造成、貯蔵飼料確保に努める。
4年
10年
16年
17年
ロールベーラの導入で飛躍的に作業が効率化する。
まき牛よる自然交配から人工授精へ完全に移行
ブッシュチョッパー導入により、放牧場の更新が容易になる。
哺育ロボット導入(早期離乳技術に研究中)
4
受賞者のことば
冒険心と情熱が支えた牛の放牧
― 島の資源を活かした和牛の放牧ゆとり経営 ―
みしま農産㈲
代表
日髙
郷士
1.三島村の概要
三島村は、鹿児島市から南西に100kmの東シナ海上に点在する竹島、硫黄島、黒
島から成り、人口は 416 名で基幹産業はどの島も琉球竹の笹を活用した肉用牛の周年放
牧による子牛生産で、ほかに漁業、特用林産物(大名竹の子、椿油)の生産などがあり
ます。
私たち夫婦の住む硫黄島は、現在も盛んに噴煙をあげる活火山があり、温泉や椿の原
生林、野生化した孔雀が生息するのどかな島です。
硫黄島は平家物語に登場する、俊寛僧都流罪の島として文献にも登場し、平成 8 年に
「中村勘九郎」(現在は中村勘三郎)一座が世界初、伝説の島の砂の舞台で上演された
三島村歌舞伎「俊寛」は有名であります。
2.就農の経緯
私は、三島村の竹島の出身ですが、親の牛飼いの姿を見て育ち、個性的な牧場経営を
やりたいという夢は持ち続けていました。
昭和 47 年に、大学を卒業し就職した企業で、硫黄島のリゾート開発をまかされ、産
業のない島に雇用の場を作り、併せて島民と企業との融和を目指しました。
そこで、取組んだのが、ツワブキ、竹の子、椿、車輪梅、そして、放牧による畜産経
営の島民への普及でした。
結局、赤字を生んだ牧場経営は 6 年間で廃止となりました。
しかし、牧場経営の夢を捨てられず、企業を辞職し、企業有地100町歩の借用、村
役場や銀行から資金を借入れ牧場経営を再スタートさせました。
私の牧場経営は、冒険心と若さの燃焼がスタートであったと思います。
それが、生活のための畜産に変り、次に探究心と成果主義に変り、その楽しみがいつ
か自分型経営を実践しようという目標に変っていったと思います。
1
3.経営のあゆみ
昭和 53 年に「みしま農産(有)」を設立し、繁殖雌牛 38 頭、放牧場15ha、従業
員 4 名(夫婦 2 名と島に住む若者 2 名)の再スタートでした。
(1)放牧場や採草地の整備
放牧場の造成のために、11 トン型のブルドーザを 250 万円で購入し、チャーター船
で島に持込みました。
ブルドーザで竹を押し倒し焼却 → 造成 → 肥料散布 → 播種の方法で、放牧場
の拡大に取組みましたが、資金に乏しい状況では、肥料や種子の量も少なく、また、
竹の再生が強力なため、十分な草量の確保は難しい状況でした。
その後も、台風や塩害、水の枯渇、バッタの異常繁殖などの被害が散発しました。
そこで、小離島に適した経営のあり方、自然との調和を考えて経営を進めることに
しました。
また、平成4年に導入したロールベーラにより貯蔵飼料生産のための作業効率が飛
躍的に上昇したことが、安定的な規模拡大へとつながった大きな要因であります。
ア
草地・牧野を自力造成した工夫や効果
①
土地の形状を理解していることから、台風、梅雨時期の流水対策や塩害等を考
えて造成し、機械作業や牛の管理作業の効率化が図られた。
②
放牧場造成当初は、クローバやバヒアグラス、ローズグラスなどを混播するが、
気候の変動に強く、永年利用できる笹やチガヤを優占種にしてきた。(竹は、土
地の物理性に対しても効果があり、地下茎が深く干ばつに強い。)
③
貯蔵飼料用の採草地は、自然災害による被害を最小限に抑えるため分散させた。
④
冬に青刈給与(イタリアンライグラス、エン麦)するための採草地は、作業効
率を良くするため、畜舎周辺に造成した。
⑤
貯蔵粗飼料はサイレージ中心であったが、手間をかけても、中々品質が安定し
なかったことと、重く、妻の作業性を考え、乾草中心とした。(カッティングロ
ールベーラを導入してからは、一段と作業効率が良くなり牛の管理に余力が生ま
れた。)
⑥
イ
青刈草地の 100%堆肥使用により品質、収量と牛の嗜好性も向上した。
施設や機械の整備および保守
①
畜舎や牧柵施設を風・潮の害から守るために、防風竹林を保全した。
②
機械の導入はなるべく程度の良い、大型、中古機械を導入した。
③
畜舎、倉庫等は安価で丈夫で使い易さを念頭に、自力建築に努めた。
④
輸送費および修理費の縮減のため、機械の修理も島内で自力でおこなったこと
で、機械の原理を理解でき、作業能率の向上にもつながった。
⑤
機械の導入、建物の増築や改修は子牛価格の高い時期(収入が多い)に行った。
2
(2)繁殖牛の改良と子牛の生産
ア
衛生対策
硫黄島は、長年、無獣医の地域であり、衛生技術の向上に現在も努めております。
また、放牧衛生上最も重大なピロプラズマによる被害が以前は多発して、造成や
草の収穫作業に手間のかかった時期は、母牛の3分の1しか子牛を販売できない年
もありました。
近年は、県、村等の支援により、プアオン法による定期的(4 月∼10 月は 20 日
間隔、冬場は 30 日間隔)なダニ駆除の実践で、ダニは皆無となっております。
また、放牧場では子牛の下痢の発生率が低いため、出来るだけ3ケ月離乳にして
おります。
イ
子牛の管理
子牛は、離乳、別飼い後、広い牛房で5頭づつの群飼とし、運動量の確保と集団
管理による省力化に心掛けております。
敷料は、発酵促進の為にも、掃除刈や不良乾草を保管して、出来るだけ多く利用
しております。
ウ
繁殖牛の管理
①
発情や受胎牛の発見を容易にするために、牛群別放牧を実施している。
②
省力化のために、母牛の個性や状態を良く把握して、出来る限り自然分娩をさ
せている。
③
子牛を保留する際は、受胎率、分娩、子育てには遺伝的なものもあるので、そ
れらの良好な個体の産子を選定している。
④
放牧中の栄養管理は、受胎率や子牛の発育にも影響するため、草勢を見ながら、
適宜、濃厚飼料の給与を行っている。
⑤
エ
母牛の栄養管理と健康管理のために、交互で、一時期の間、舎飼を行っている。
子牛の販売および改良
家畜商による庭先取引や商社との契約販売を経た後、ようやく昭和63年から本
格的に鹿児島中央家畜市場(鹿児島県日置市)への上場が実現し、適正な評価が受
けられるようになったことで、農家の生産意欲も高まり、村全体の飼養頭数も10
年前の2倍程度に増加しております。
出荷当初は、島牛という理由と無登記牛であったため、相場に左右されやすい状
況がありました。
平成に入り、全国和牛登録協会の和牛登録制度への加入が認められたことを契機
に、国や県の家畜導入事業を積極的に活用し無登記牛を更新し、産肉能力の高い素
牛を積極的に導入し、採算性の高い母牛群へと改良を進めてきました。
あわせて、市場性の高い子牛づくりのために、平成10年からはまき牛種雄牛に
よる自然交配から血統や能力に対して適正な交配ができる人工授精へと完全に変え
ました。
また、子牛価格の低い時期は、将来性の見込める子牛の自家保留や導入を行い改
良を進めるように努めています。
3
4.今後の目指す方向
(1)放牧場の地力回復と拡大に取り組み、さらに放牧の集約化を図る。
(2)繁茂力が旺盛な竹やススキの飼料化、敷料・肥料化の実用化に取組む。
(3)笹やチガヤを中心とした、永年性自然野草の利用を地域内で(三島村)定着させ、
他の地域へも波及させたい。
(4)新規に導入したブッシュチョッパーを有効利用し、計画的な維持管理法を確立して、
さらに飼養規模を拡大させる。
(5)周年放牧体系での、早期離乳技術を確立させ、子牛の生産率向上に努める。
農業は、科学であり文化であり経済学でもある。食料供給者としての社会性も高いも
のがある。
それらの内、一つでもクリアーできたら、心も満足されるもと思います。
「人生は何をやったか。」「何が出来たか。」によって価値が決まると思います。
それを自分的近代化だと信じており、今後は、利益だけを追求するのではなく、心が
満足される経営へと移行できたらと思います。
これまで、何度も挫折感を味わってきましたが、容易に他に頼らず、自分の力で対応
してきたポジテイブな考えが、現在を支えていると思います。
三島村は、小離島であり、目立った産業もなく、当然、生活環境は厳しい。
しかしながら、郷土に対する愛着心は非常に強く、島民の素朴で強力な努力に貢献し
たい気持ちが自然に盛り上がってきます。
三島村の生産者が、村営の定期船で一緒になる機会は多く、その都度、畜産談義に華
が咲きます。
理想や課題を共有し、前向きに取り組んだ結果、村全体の畜産業が発展してきた様に
思います。
今後、小離島という厳しい環境ではありますが、これまでに蓄積した経験を活かし、
生産者に可能性を信じさせる原動力になるという思いで、「飽くなき可能性の追求」を
テーマに、さらに良い放牧場や草地づくりと規模拡大を図り、島興しにつなげていきた
いと考えております。
4
Ⅴ
審
査
講
評
第10回全国草地畜産コンクール審査講評
審査委員長
萬田富治
平成 17 年度全国草地畜産コンクール成績検討会(平成 17 年 3 月 13 日)において、全
国各地から推薦されたコンクール出品事例 15 点の書類審査を行い、飼料生産部門(永年
牧草の部)1点から1点、同部門(飼料作物の部)8点から4点、放牧部門6点から4点、
合計9点を受賞候補事例として選定し、4月下旬から5月下旬にかけて現地審査を行い、
その結果を踏まえて、6月9日に最終審査会を開催し、受賞者を決定した。
審査については当コンクールの趣旨とする「自給飼料の効率的な生産及び利用技術並び
に環境に調和した持続的生産・経営方式等優秀な事例を広く紹介し、飼料基盤の重要性の
啓発、経営の安定に資する」ことを基本に置き、経営技術の先進性、合理性、収益性、飼
料自給率、飼料品質、栄養収量又は牧養力、飼料の生産コスト、労働生産性、飼料生産技
術又は放牧技術、家畜ふん尿の適正利用、経営意欲、創意工夫、地域に対する貢献度等の
成績から総合的に評価させていただいた。いずれの事例も地域の立地条件や農業資源の賦
存状況を踏まえ、環境と調和した自然循環的草地畜産に意欲的に取り組んでおり、自立し
た特色ある経営が展開されていた。
以下に、各受賞事例について特徴点を挙げれば、北海道の草地酪農からは規模拡大のた
め、フリーストール・パーラー・TMR給与方式への転換に併せて畜舎周辺へ飼料基盤の
集積を図り、土壌診断、スラリー成分分析及び施肥マップの採用により、スラリーの合理
的施用技術を確立し、資源循環型畜産を推進する高泌乳牛飼養経営、一方、北海道十勝地
域で、消費者へのプレミアムミルクの提供やゆとりを追求した低コスト・高収益放牧酪農
経営、茨城県からは水田地帯と畜産地帯の町域を越えた稲WCSの地域連携のモデル的事
例、長野県からは園芸地帯の立地条件の中で、大部分の飼料基盤を借地として集積し、規
模拡大を実現した耕畜連携に取り組む酪農経営、兵庫県からは優良和牛遺伝資源の産地の
特性を活かし、優良和牛の増頭による収益性と飼料自給率向上の目標を野草放牧地の昼夜
放牧技術の確立で実現した肉用牛繁殖経営、岡山県からは都市化が押し寄せる立地条件
で、転作田、水田裏作、休耕田の裏小作などの借地により、飼料生産基盤を確保し、消費
者との交流を積極的に推進する持続性が期待できる大型酪農経営、愛媛県からは四国傾斜
地の岩の多い厳しい土地条件を短草型草地へ造成し、飼料畑と併せて飼料基盤として活用
することにより、ゆとりの創出と低コスト・高収益を実現した肉用牛繁殖経営、熊本県か
らは収益性の高いあか牛繁殖・肥育一貫経営を確立し、あか牛を多くの農家が飼養するこ
とで地域資源(農用地)の持続的管理と、地域の活性化のために、地域リーダーとして活
躍する肉用牛一貫経営、鹿児島の南の島、三島村からは地域資源を有効活用し、持続的な
経営を確立、島の振興策の一つとして大きな明るい指針を示した肉用牛繁殖経営など、優
れた事例である。今後は、これらの先進事例に学び、技術の普遍化を図ることにより、自
給飼料増産に活用する取り組みが期待される。
以上の多様な経営事例について、あえて自給飼料生産利用に限って特徴点を整理すれ
ば、まず第1に挙げられる点は、北海道では集約放牧酪農の経営的有利性はほぼ認められ
たことであり、土地集積など、条件が整えば、集約放牧技術はペレニアルライグラスの他、
メドフェスクを始め、新品種の市販、利用技術の開発により、かなり広範に普及できる段
-1 -
階に入ったと読み取れる。次に、草地畜産の展開において飼料基盤の集積が前提になるが、
土地購入ではなく、借地で飼料基盤を集積し、土地条件や経営条件に適した作付体系・利
用方式などの工夫をみることができ、耕畜連携の具体策として多くの事例の集積や分析が
今後の草地畜産の展開にとって鍵となる。肉用牛繁殖経営については、子牛市場は高値で
推移しているが、この状態が長期間継続するかどうかは予断の許されないところであり、
基本的には草地畜産の展開により低コスト・省力生産技術の追求が求められる。肉用牛繁
殖経営の展開方法として、山地傾斜地の国土保全的利用に期待されることは多くの事例が
示しており、地域の立地条件に応じた多様な放牧技術も開発されている。放牧適性の高い、
新草種の普及拡大と併せて、野草地の保全的利用技術の開発など、先進事例に学ぶことも
多い。繁殖経営は1年1産が収益にとって重要であり、牧養力の向上は大切であるが、繁
殖成績を向上させるための飼養管理技術の評価が野草地利用も含めて大切であろう。ま
た、近年は台風や長雨などの気象災害の影響が多く、自給飼料の高位生産だけではなく、
不足の事態に備えて、自給飼料生産の年次変動を避けるため草種や作付体系も選択肢の範
囲として地域ごとに策定し、指導を強化することも大切であろう。
以上のべたように、出品事例はいずれも特徴ある優れた経営・技術を実践しており、順
位付けについては審査委員を悩ませた。以下に、受賞経営の特徴について述べさせていた
だく。
飼料生産部門 永年牧草の部
( 1 ) 照井 明( 北 海 道 白 糠 郡 白 糠 町 ) 酪 農 経 営
飼料自給率の向上を目指し、畜舎周辺の離農跡地の集積を進め、自給飼料生産の効率的
生産を実現した酪農専業経営。家族労力 2.8 人で搾乳牛 90 頭クラスのフリーストール、
6頭ダブルのパーラー、TMR給餌で、経産牛1頭当たり乳量は 9,859kg、飼料基盤は草
地 65ha、トウモロコシ畑 14ha で1頭当たりの飼料生産延面積は 87.5aを確保。自給飼料
生産コストは 27 円と低コスト、飼料自給率は 49.8%、所得率は 18.9%、乳飼比は 34.4%、
生乳 3.5%換算 kg 当たり生産コストは 60.2 円の経営実績である。
チモシー主体混播草地の維持管理と利用については、良好な植生を維持する方法として
平成 15 年からスラリー施用を開始しており、スラリーの肥料特性を考慮し、ほ場別の土
壌診断やスラリーの分析結果に基づいた施肥設計を実施し、窒素過多とカリ過剰にならな
いように化学肥料を併用している。また、ほ場別に化学肥料の種類と量を記入した施肥マ
ップを作成し、肥料を直接ほ場に配送してもらうことにより、施肥作業の効率化を図るな
ど、創意工夫が見られ、結果として適切な施肥管理が実施されている。
牧草の刈取回数は 2 回/年とし、秋にハーモニーを散布することにより、エゾノギシギ
シの侵入を防ぐなど、雑草対策も周到に実施している。また、牧草の収穫は自走式ハーベ
スタ―(自己所有)と臨時雇用により、周辺酪農家よりも早く行い、サイレージ調製もバ
ンカーサイロ及びスタックサイロへの早期密封に留意し、高品質サイレージを短期間で調
製している。サイレージの取り出し・給与も機械化されており、飼料設計についてはトウ
モロコシサイレージを重視することにより高乳量を実現している。
飼料畑面積の拡大や施設整備など、ほぼ、経営基盤を終えた段階であり、今後、生産ロ
ス、労働時間や経費の節減などを図ることにより、さらに経営の発展が期待される。
-2 -
飼料生産部門
(1)波多腰
飼料作物の部
和寿 ( 長 野 県 東 筑 摩 郡 波 田 町 ) 酪農経営
スイカやリンゴ等、園芸作が中心の松本平において、トウモロコシを中心とする飼料生
産基盤の拡大と飼養頭数の増加を短期間で実現した酪農経営。平成 13 年に就農以降、畜
産基盤再編総合整備事業の導入により、10 頭規模の経営をわずか 4 年間で飼料生産基盤を
3.5km 以内に集積・拡充を図り、約 100 頭規模の経営に拡大している。これには就農前の
酪農ヘルパーや牛乳運搬業務の経験が飼料生産基盤の拡大に大きく貢献している。
飼料生産基盤は 35 戸からの 46 筆(牛舎から 3.5km 以内)に分散する転作田と畑の計
11.8ha のうち借地が 10.6ha で、借地料の総額は年間 200 万円になる。借地面積の 83%は
非農家からの借地であり、地主からは土地利用の担い手として認められた長期安定的な貸
借関係となっている。残りの 17%はスイカなど園芸農家からの借地で輪作による土壌管理
が目的であり、借地期間は 3 年程度が多い。耕種農家の要望に応える堆肥づくりに努める
とともに、地域農業の輪作の担い手となることで、耕種農家からも頼りにされている。こ
うした地道な努力を積み重ねることが、集積した借地の維持にもつながっている。分散ほ
場対策として飼料基盤を大きく 5 区分し、各区分ごとに同じ飼料生産方式で作業すること
により、効率的に利用している。トウモロコシの収穫は 2 戸共同作業でコーンクラッシャ
ーを使用し、スタックサイロに調製している。ライ麦はロールベールサイレージに調製し
て、乾乳牛に給与する。また、コントラクターが生産した稲 WCS(36 ロール、3ha 分)を
購入し、同じく乾乳牛に給与している。トウモロコシサイレージは宅配 TMR と輸入乾草・
配合飼料・圧ペントウモロコシ・ビートパルプを追加して TMR を再調製し、搾乳牛に給与
している。
個体乳量は 9,144kg、粗飼料自給率は 82.8%、飼料自給率は 23.7%、自給飼料生産コス
トは 31.4 円/TDNkg と低コストであるが、経産牛 1 頭当たり所得額は 124 千円、所得率は
13.9%程度である。その要因は経産牛 1 頭当たり減価償却費が高く、購入飼料費が高いこ
とにある。前者については、乳牛頭数増や施設整備後間もないことから減価償却費が年間
1,300 万円と高いことに起因するが、この費用は徐々に減少する。後者については、宅配
TMRがやや割高で、自家でも混合飼料を調製するため、ミキサーを自己所有するなど二
重投資になっていることがあげられる。この点については、全て自家でTMRを調製する
方策も検討されている。このように、現状の収益性は低いが、規模拡大の投資直後であり
ながら、1 戸当たり所得は 904 万円を確保し、今後さらに所得向上が見込められるので、
経済性については問題ない。
敷料は、もみ殻を使用し、バイオベッド(フリーバーン牛舎)+ロータリー撹拌式の
処理方式で、全て堆肥処理される。堆肥の利用仕向け量は自家利用 70%、販売 23%、交
換 7%である。ロータリーで撹拌処理された完熟堆肥が販売・交換用になる。また、堆肥
の搬出先を確保するため、30ha 分の稲・麦わらを堆肥との交換により収集し、肉牛農家に
販売している。
乳成分・衛生的乳質ともに高く、経営者の父が役員を務める乳業会社で「パスチャライ
ズミルク」(Non-GMO)に生産され、生活クラブ生協で販売されている。乳価にプレミア
ムはないが、その分は Non-GMO の宅配TMRの費用で相殺されている。
-3 -
「下原スイカ」のブランドで知られ、園芸作との土地利用競争が避けられない農業地帯
において、短期間で自給飼料基盤に立脚した 100 頭規模の酪農経営を確立した当事例は高
く評価できる。なかでも、堆肥や輪作を媒介とする地域の耕種農家との連携方法や分散ほ
場を利用した飼料生産方式は、水田・園芸作地帯における飼料生産拡大にとっての意義が
大きく、その普及性も高いと考えられる。
(2)明石 良 生 ( 熊 本 県 下 益 城 郡 美 里 町 ) 肉 用 牛 経 営
山林面積が 94%を占める中山間地域で地方特定品種褐毛和種のブランド作りと低コス
ト化を確立した繁殖・肥育一貫経営。経営が軌道に乗り始めた平成8年には、本人が中
心メンバーとなっている「美里町中央地区和牛生産改良組合」の若手グループ(中央町
あか牛研究会)が中心となり、繁殖部門の低コスト化のため、水田放牧を開始。引き続
き、平成9年にはみかん廃園地にシバ型草地を造成し、グループで放牧に取り組み、平
成 12 年からはコントラクター利用によるラップサイレージ体系で飼料生産を実施する
など、中山間地域で飼料基盤を確保し、飼料自給率向上に積極的に取り組んでいる。
繁殖部門については粗飼料自給率 100%を達成し、自給飼料生産コストは 39.8 円
/TDNkg、子牛 1 頭当たり生産費は 30 万円程度と低コストで、肥育部門の素畜費を低減し
ている。また、平均分娩間隔も 12.2 ヶ月と良好で、肥育牛の枝肉単価は平均的褐毛和種
の枝肉単価を上まわっている。
ふん尿は 3 名で構成する堆肥利用組合を利用して良質堆肥を調製後、飼料作物及び稲
わら交換など以外は共同利用堆肥センターへ原肥で販売している。このように、美里町
中央地区和牛生産改良組合(構成員 42 名)をはじめとして地域の畜産経営支援組織の設
立と実践に深く関わっており、自らの経営を軌道にのせるとともに、あか牛を多くの農
家が飼養することで地域資源(農用地)の持続的管理と、地域の活性化のために、地域
リーダーとしても精力的に活躍している。このため、経営内労働に比べて支援組織での
活動にも多くの時間が割かれており、今後、支援組織体制の見直し等により、時間的配
分を適正化し、労働時間の短縮を図ることによりさらなる経営の発展が期待される。
飼料生産部門
単年生牧草の部
(1)松崎 隆 ( 岡 山 市 松 新 町 ) 酪 農 経 営
都市化が押し寄せる立地条件で、転作田、水田裏作、休 耕田の裏小作などの借地により、
飼料生産基盤を確保した飼養頭数 95 頭の大型酪農経営。都市酪農の立地条件を活かして
酪農体験など消費者との交流も積極的に取り組んでおり、経営の持続性があり、普及性も
期待できる経営である。省力的飼料生産のため、イタリアンライグラスの収穫調製は、冬
作イタリアンライグラス2回刈りと夏作スーダングラス2回刈りを基本としている。6月
上中旬には、イタリアンライグラス2番草収穫とスーダングラス播種作業が重なる。この
時期の労力競合の回避のため、イタリアンライグラス栽培では早生系品種を活用し、6月
上旬まで2番草収穫を終了する。スーダングラス播種は堆肥施用後に全面耕起するほ場と
不耕起播種ほ場を設けるなどの播種作業分散対策を講じている。
個体乳量 8,503kg、粗飼料自給率 66.7%、飼料自給率 36.6%と高く、自給飼料生産コス
トは 39.5 円/TDNkg と低コストである。経産牛 1 頭当たり所得額は 155 千円、所得率は 16.6
-4 -
%と低いが、畜舎など、施設基盤の整備はほぼ終了しており、今後、収益性の向上が期待
される。
当該地域は湿潤な土地が多く土地売却ができない等により耕作放棄地が多く、酪農経営
を廃業した農地の跡地利用も問題となっているが、酪農家と水田農家の期間借地を仲立ち
する「岡山市地域水田農業推進協議会」の取り組みは、耕作放棄地等を酪農家が管理し、
土地の生産性を確保しながら地域景観の保持、農村地域の資源管理を低コストで行うこと
が出来ることを実証した優良事例である。このように、水田の借地を飼料生産基盤とする
資源循環型酪農経営の取り組みは、都市近郊型酪農が存立出来る経営事例として学ぶ点が
多い。搾乳体験等を通した地域住民との交流や、婦人はおかやま酪農共同組合婦人部の委
員長としての地域活動にも積極的に取り組んでおり、都市型酪農の模範例として評価され
る。
飼料生産部門
稲発酵粗飼料
( 1 ) 大 洗 町 水 田 農 業 担 い 手 組 合 代表 清 宮 一 美 ( 茨 城 県 東 茨 城 郡 大 洗 町 )
水田地帯と酪農地帯が分離している茨城県において、耕種農業を中心とする大洗町水田
農業推進協議会と、畜産が盛んな茨城町の馬渡飼料利用組合が町域を超えて耕畜連携を推
進した模範的事例である。この基幹的役割を担っている組織が、「大洗町水田農業担い手
組合」で、耕種農家(115 戸)が栽培した飼料イネ約 60ha の収穫調製作業を受託し、馬渡
飼料組合(酪農7戸、肥育1戸)へ良質な稲WCSを供給している。本連携システムは、
1) 飼料イネの栽培主体である耕種農家、2) 飼料イネ収穫調製作業を受託する大洗町水田
農業担い手組合、3) ブロックローテーションなど土地利用をとりまとめる土地改良区、
4)取引価格調整や交付金事務等を担う大洗町農林水産課、5) 収量確認等を行うJA水戸
大洗、6) 生産技術支援や関係機関の調整役の普及センターの6組織から構成される「大
洗町水田農業推進協議会」が運営の中心となっており、関係機関の支援、連携体制が極め
て緊密に行われている。このような水田地帯と酪農地帯が連携した事例は、飼料イネの更
なる普及定着へ向けた取り組みとして参考にすべき点が多い事例である。立地特性として
あげるならば、地区内に2つの土地改良区があり、ここを中心に大区画ほ場(広いほ場で
1ha)のブロックローテーションにより、集団的な土地利用を図ることで、クローラタイ
プの自走式フレール型収穫機(全面積の 93%収穫)等を駆使し、良質な稲WCSの調製と
効率的な機械作業を実現しているところに特徴がある。
耕畜連携システムの成果としては、飼料稲の販売代金(約 2.1 万円/10a)と耕畜連携交付
金(1.3 万円/10a)は担い手組合に入り、そこから作業受託料金(1.5 万円/10a)を差し引
いた 1.9 万円が耕種農家に配分される。耕種農家はこれに産地づくり交付金 7.5 万円/10a
(国 4 万円、町 2.5 万円、とも補償 1 万円)を加えた約 9.4 万円/10a を得ることになる。
これは現状の管理までの栽培コスト 76,375 円/10a を上回っている。一方、担い手組合は、
機械リース代、修理費、賃金(1.5 万円/日)を計上して、受託作業料金で収支償う状況
である。当該組合は 11 名の認定農業者等の担い手から形成されており、日給 1.5 万円と
いう比較的高い賃金率と若い世代もいることから組織としての継続性は高い。今後の課題
としては、稲WCSの低コスト化の追求と、飼料稲収穫作業と個別経営基幹部門(甘藷)
との労働配分の競合の調整、技術課題としては、ブロックローテーションにより、耕作地
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を移動させるため、裏作の利用は困難とのことであるが、イタリアンライグラス等の品種
特性を利用した栽培法も検討する余地があるものと思われる。
放牧利用部門 経営内放牧の部
(1)大和 章 二 ( 北 海 道 中 川 郡 幕 別 町 ) 酪 農 経 営
美しい日高連山を背景に、畜舎周辺に集積した放牧地を高度に活用した省力・低コス
ト・ゆとり追求型の酪農専業経営。平成7年に放牧の取り組みを開始、平成6年の生乳
生産調整をひとつの契機にして「楽をしたい」を目標に、コスト低減・労働時間の短縮
を実現している。又、グループでプレミアム牛乳の生産に取り組み、消費者ニーズにも
対応している事例である。経産牛 81 頭、個体乳量 6,876kg、粗飼料自給率 73.8%、飼料
自給率 67.2%と高く、自給飼料生産コストは 26 円/TDNkg と低コストである。購入飼料
費は 124 千円と抑えられており、経産牛 1 頭当たり所得額は 207 千円、所得率は 33.5%
と高い経営成果を挙げている。乳飼比は 21.1%、生乳 3.5%換算 kg 当たり生産コストは
44.46 円となっており、非常に低コストといえる。
このような経営成果は経産牛1頭当たり 64.4aの放牧地をはじめ、共同作業による牧
草及びトウモロコシの低コスト生産が大きく寄与している。放牧草地の状態と維持管理
についての特徴を見ると、放牧専用草地は 12 牧区で、その植生はメドウフェスクとオー
チャードグラス主体で、他にペレニアルライグラスとチモシーがやや混在し、シロクロ
ーバの割合は冠部被度で 20∼30%程度、雑草の少ない良好な植生状態を維持している。
兼用草地は 4 牧区で、草種は専用草地と同様であるがオーチャードグラスが優占傾向を
示し、追播は、メドウフェスク(ハルサカエ)とオーチャードグラス(ヘイキング)を、
毎年 7 月上旬に 2 牧区単位でシードマチック(8 戸協同)によって実施している。放牧
地の主力草種と期待されるメドウフェスク(ハルサカエ)は、(独)北海道農業研究セ
ンターの現地試験牧場として調査協力していることにもよるが、追播後の定着が良好で
晩秋の生産性に優れていると評価している。メドフェスクの追播時期は夏季となるが、
当該地域特有の霧の発生が多いことから定着に支障はないとのことである。オーチャー
ドグラスは、春から初夏にかけて干ばつ気味になること、また、夏以降の草量確保のた
めに選択されている。このように、地域の気象条件に対応した草種の選定と草量確保を
意識した追播技術により良好な植生を維持しており、周辺地域への普及拡大が期待され
る。
当人は 3 年前までは農協青年部長として活躍し、平成 13 年に設立された忠類放牧研究
会(8 戸)の一員として、北海道農業研究センターと連携しながら草地維持管理技術の開
発に積極的である。年齢も若く、当該地域における放牧酪農の先駆者として今後の活躍が
期待される。
(2)森脇
薫明(兵庫県美方郡香美町)肉用牛経営
優良和牛の主産地、美方郡の傾斜地を飼料基盤とする成牛飼養頭数 74 頭の肉用牛繁殖
経営。規模拡大に伴い放牧面積及び頭数を増やし、兵庫県下で最も早く昼夜放牧に取り組
んだ事例である。当事例における昼夜放牧の実証は、周辺地域に広まり、現在、美方郡で
の 252ha の牧場で 512 頭の放牧頭数まで拡大している。放牧のメリットとして、一部の牛
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を放牧することで畜舎にゆとりができ、子牛の発育が改善され、ふん尿処理作業が軽減で
き、飼養頭数を増やすことが出来たことを挙げている。分娩間隔は 11.9 ヶ月と繁殖成績
は優れており、優良雌牛の保留・導入、枝肉成績に基づく牛群整備を図った結果、子牛の
販売価格は 55 万円と高い。経営全体の粗飼料自給率(TDN)24.7%、飼料自給率(TDN)13.1%
と低いが、中山間地域で比較的頭数の多い肉用牛繁殖経営を成立させるための飼料基盤と
しては、山地傾斜地しか残されておらず、このような地域の土地利用方式として参考にす
べき優れた事例である。
放牧地は3ヶ所にわかれており、共同で放牧利用しているが、いずれも野草地である。
放牧牛は全て妊娠牛で、季節繁殖のため、分娩が1月から4月に集中し、妊確牛を放牧に
出す時期は6月となり、この時期は野草の放牧適期とほぼ一致している。放牧可能頭数は
ha 当たり1∼2頭程度で、1牧場は草勢も良好で、適切に管理されているが、2牧場は放
牧頭数が少ないため、放牧地の植生管理をはじめ、牧場への道路の補修などが必要と見ら
れる。こうした飼料生産に直接関わらない管理経費は各種事業の形でかなり投入されてい
る。これに対する理解が今後とも得られるかどうかは中山間地域の放牧利用において各地
域で見られる共通した課題である。
ふん尿は旧村岡町の堆肥センターで処理している。現在 11 戸(合計頭数 650 頭、和牛
のみ)の畜産農家が利用、堆肥センターが畜舎まで引き取りに来るが、堆肥センターは夏
場のみの稼働であり、処理量が多く、4ヶ月程度しか貯留できないため、この対策が必要
とされている。また堆肥は水田施用が中心のため大量に施用出来ないことも、今後の課題
となっている。
中山間地域では機械作業が容易な飼料基盤には恵まれていない。飼料基盤としては山地
傾斜地しか期待できない地域が多く、肉用繁殖牛の放牧利用が中心となる。放牧地に生産
性の高い牧草を導入すれば、施肥や掃除刈りなどの草地管理が必要となり、その分、コス
トがかかり、労力面で負担となる。野草地の牧養力は低いが、管理は容易で、肉用繁殖牛
の放牧地としては十分活用できることを当事例は実証している。
当事例は、もともと飼料基盤を保有していなかったが、野草地の放牧場を共同利用する
ことで飼料自給率を向上し、ふん尿の処理を軽減し、増頭を可能にした。飼料基盤がない
肉用牛繁殖経営でも、地域の土地資源を放牧に活用することによって、飼料自給率の向上
と環境負荷の軽減を実現できることを実証した事例として参考になる。当人は堆肥センタ
ー組合長、改良組合役員など地域リーダーとしても貢献しており、後継者も就農が予定さ
れており、今後の経営の持続性と発展が期待される。
(3)井関
秀夫(愛媛県西予市野村町)肉用牛経営
農地基盤が狭隘な中山間地域の中でも、さらに立地条件の厳しい急傾斜地で、酪農経営
から高収益の肉用牛繁殖経営へ転換した事例。昭和 53 年の就農に合わせて裏山(耕作放
棄栗園と松食い虫被害林)を開墾し、これを野草地利用する 30 頭規模の酪農経営を行っ
てきたが、酪農施設の更新期を迎え、平成 3 年以降、家畜保健衛生所が取り組む胚移植技
術を導入しながら、裏山を活用できる繁殖肉用牛経営に徐々に転換し、平成 8 年には転換
を終え、裏山の野草地にセンチピートグラス主体のシバ型草地を造成した。牛舎は酪農時
代の施設をそのまま使用し、肉用牛への転換のための施設投資はほとんどない。また、飼
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料生産の共同作業グループは酪農時代の仲間である。無借金経営で年間所得は 1,000 万円
を超えるほど収益性は高く(1 頭当たり 365 千円、全国平均 220 千円)、労働時間も短い
(1 頭当たり飼養管理労働時間 21 時間、全国平均 103 時間)。
急傾斜裏山の放牧利用と遠隔圃場における飼料生産を自給飼料基盤としながら、分娩間
隔が 12 ヶ月と短く、子牛価格も高い(平均 496 千円)、飼養管理技術に優れた省力的・
高収益肉用牛繁殖経営。自給飼料基盤は牛舎の裏山の岩石が多く、傾斜の強い放牧地(5ha)
と牛舎から離れた畑地(2ha、うち 1.1ha は借地、3 団地)を飼料基盤として利用している。
稲ワラ(3.5ha 分)も購入と堆肥交換で入手し、繁殖牛の飼料として利用している。舎飼
い牛のふん尿は全て堆肥舎で堆肥処理される。堆肥の一部は稲ワラ交換に利用され、残り
は自家利用(畑地 2ha のみ)されるが、不足するので酪農家のふん尿も利用している。
繁殖牛の事故防止のため、時間制限放牧で周年利用し、草地の生産が停止する冬期(11
∼4 月)には放牧地でミカンジュース粕(無償)を給与するなど栄養管理には留意してい
る。昼夜放牧ではないため、結果として過放牧にはならず、放牧地の植生や、放牧家畜の
ふん尿による環境汚染もなく、繁殖牛の栄養管理も適切であり、適度な運動もあり、繁殖
成績は優れ、高い経営成果となっている。
繁殖牛の 5∼8 月期の飼料依存割合(TDN 換算)をみると、放牧 27%、サイレージ 18%、
稲わら 9%、ビートパルプ 16%、ふすま 30%と算出され、放牧への依存度は特段大きいと
はいえない。したがって、繁殖牛(5∼8 月期)の飼料自給率は 45%程度となり、飼料構
造や費用構造からみると、放牧型肉用牛経営としての特徴は強いとはいえないが、放牧に
よる分娩間隔 12 ヶ月の実現と子牛の高価格販売、栗・松林跡傾斜地の有効活用、地元住
民への景観提供、野生動物に対する緩衝効果などは高く評価できる。このような傾斜地の
放牧利用はゆとり追求型の肉用牛繁殖経営の普及にとって大いに参考となる。また、農地
基盤がミカン作に適さないほどの条件不利地を抱える四国中山間地において、26 頭規模の
繁殖肉用牛経営で 1,000 万円を超える所得を、厳しい飼料基盤を活用しながら省力的に達
成できた点は高く評価できる。
(4)みしま農産(有)代表 日髙郷士(鹿児島県鹿児島郡三島村)肉用牛経営
鹿児島市から南方 100km の三島村・硫黄島の標高 100m の台地に展開する先導的肉用牛
繁殖経営。牧場総面積約 35ha のうち、周年放牧地 27.0ha、採草地 7.8ha で、ほとんどが
借地、経営開始当初から有限会社としてスタートするなど経営感覚に優れており、島とい
う不利な条件を関係組織の支援を得ながら克服し、琉球竹自生という島固有の資源を巧み
に活用した肉用牛繁殖経営を確立した。三島村畜産農家 39 戸のモデル的経営となってい
る。
家族労働力 1.4 人(2000 時間換算)で成雌牛 82.8 頭を飼養、放牧を導入することで成
雌牛1頭当たりの投下労働時間 36.1 時間、平均分娩間隔 12.8 ヶ月、子牛販売価格は 419
千円と本土並みの成績を上げ、その結果、家族労働力1人当たり年間所得額 11,150 千円、
所得率は 49.0%、子牛1頭当たり生産費は約 211 千円、家族労働費を除くコストは 182 千
円弱となっており、すばらしい経営成果を上げている。粗飼料自給率 97.5%、飼料自給率
80.0%を達成し、自給飼料生産コストは 11.9 円/TDNkg で、基盤のしっかりした安定経営で
ある。当事例は離島に見られがちな無登録牛飼養からの脱却のため、登録牛への入れ替え
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を積極的にすすめており、現在でも2頭の未登録牛を飼養している。そのため、素畜費等
が嵩み、現在は子牛価格の改善を図る過程にあり、借入金 15,224 千円は5年無利子の素
畜導入制度資金の残であり、今後、牛群資質の整備により、さらに収益性の向上が期待さ
れる。
出荷牛の輸送助成金、村雇用獣医師の提供などがあるとはいえ、離島のため、市場出荷
に延べ 70 日を必要とすること、資材輸送コストが高く、生産資材は本土よりも高いなど
ハンディが大きい。また、畜舎など施設建設は業者が本土から出張となり、建設費は高額
となる。このような不利な条件下でも、施設建設、機械修理などかなりの部分を自力で行
うことで、出費を抑えるなど、経費節減に努めている。ちなみに牛舎から農具庫、ブロッ
ク積みまでこなす腕前は大工プロ並み、狭い農具庫への作業機械のスムースな納車も優れ
たオペレーター並みの腕前である。新技術導入にも積極的であり、最近においては哺乳ロ
ボットによる早期離乳技術の導入や冬期飼料作物の栽培をはじめ、豊富に存在する琉球竹
を大学や企業と協定してカット、クラッシャーして敷料等にする機械の開発などに取り組
んでいる。
未利用地の竹林から造成した草地は大部分が借地で、バヒアグラス等の暖地型牧草
(30%)を竹林に定着させ、チガヤ(30%)と琉球竹(40%程度)がほどよく混在する周年
放牧地 27.0ha の放牧管理技術を独自に確立。採草地 7.8ha についてはブッシュチョッパ
ー(カッター)で竹林を刈り取り、チガヤとバヒアグラスが混在するそれぞれの草種特性
を活かした独自の草地管理技術を開発し、カッティングロールベーラにより乾草として収
穫利用している。高温多湿の風土にありながら、乾草調製時の水分の低下は早く、貯蔵乾
草中のカビ発生はなく、嗜好性は非常に優れている。当然、これを給与した子牛の肋張り
や飼料食い込み能力は優れ、肥育成績も良好なため肥育農家から高い評価を得ている。
チガヤが混在する採草地の収量は低いが、草地管理・乾草調製の容易さ、安定貯蔵が出
来、嗜好性の良さ、結果として市場評価の高い子牛生産につながっており、このような地
域資源の特性を活かした飼料利用が自給率の高い周年放牧技術を支えており、風土に適合
した低コスト・省力的生産技術として普及性があり、この当人の経営理念や経営展開過程
に学ぶべき点が多々あり、多くの後継者に継承してほしいものである。
このような不利な条件下で琉球竹自生という地域資源を飼料基盤として活用した当事
例は収入の機会の少ない島の産業振興の一つとして島の将来に大きな方向を示しており、
すでに新規に2戸の肉用牛繁殖農家が参入するなど波及効果をもたらしている。
国民的財産ともいえる地域資源を有効活用し、持続的な経営を確立、島への新規参入の
契機ともなり、大きな明るい指針を示した当事例は、離島の振興策の一つとして高く評価
される。
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Ⅵ
パネルディスカッション
進み始めた飼料増産−草地畜産コンクール受賞者に学ぶ−
[メ
モ]