人材育成型評価の方法

連載
学習塾のための人事制度・人材育成のポイント
第3回「人材育成型評価の方法」
株式会社新経営サービス
人事戦略研究所
コンサルタント
小
林
由
香
昇進昇格フレームと職務基準が見えてくれば、次に人事評価制度に着手しましょう。人
事制度というと、どうしても給与や賞与といった賃金に目が向いてしまいがちですが、実
は賃金制度自体はさほど難しいものではありません。その基となる社員の評価こそが重要
であり、同時に難しくもあります。
人事評価制度で押さえるべきことは、社員が理解し、納得できる基準やしくみを整える
ということです。しかも、各人に会社の方針に沿った活動を促すよう、人事評価基準を経
営課題に直結させることがポイントです。
職種ごとに評価の観点を変える
成果主義の人事評価基準を検討する際に重要なことは、職種別に期待される成果や職務
プロセスを構築することです。未だに全社一律の評価基準を使用している塾も多く見られ
ますが、教務職と事務職では求められる要件は同じではありません。
また、人事評価基準と経営方針がずれてしまっている塾が多いのも実情です。成果主義
と言いながら、「協調性」や「積極性」といった内容で判断していても始まりません。各
社員には、その時々の経営方針・部門方針に基づいて活動してもらわねばなりません。し
たがって、従来からの評価基準を踏襲するのではなく、会社が打ち出した経営方針、部門
方針に沿った成果をあげた社員を高く評価できるような評価基準が求められます。
例えば、単科受講生が多く、客単価アップが全社課題であれば、五科目受講率を上げた
教室を評価するとか、合格実績を上げることによる知名度アップが経営方針であれば、合
格実績を数値化して評価する、などです。
その場合、部門や職種によって求められる成果が違うはずですから、職種別に人事評価
基準を設定することになります。
数値責任と教務技術は分けて評価する
では、職種別の人事評価はどのように設計すればよいのでしょうか。ここでは、仕事の
成果を判定する「成果・業績評価」と、仕事のプロセス・姿勢などを判定する「職務評
価」を分けてご紹介しましょう。最終的には、この2つの基準が合わさって、職種別の人
事評価基準となります。
まずは、成果・業績評価から解説します。
成果・業績は、生徒数、売上高、粗利益高などの業績で判定しますが、特定の軸だけで
判断すれば、必ず不公平や矛盾を生じてしまいます。ですから、次の3つの角度から捉え
て、複数の組合せで評価基準を設定することが好ましいと考えます。
①「目標や計画に対する達成度」
②「前年からの伸び率」
③「業績の絶対額」
また、評価項目には、自塾の強化したい項目を盛り込みます。図1は、塾用の成果・業
績評価表のサンプルです。この塾では、合格実績で知名度を上げること、顧客満足度アッ
プを経営課題としているので、売上高、営業利益、生徒数以外にも、合格実績、アンケー
ト支持率などを採り入れています。ただ、一般の教務職員は、売上高などの数字に疎いの
が現状です。そこで、一番わかりやすく意識しやすい「生徒数」について、担当クラスの
「講習欠席率」や「退塾率」など具体的に示し、数字を意識させる狙いで評価するのも一
案です。この場合でも、自分の担当クラスだけに目が向かないように、生徒数実績につい
ては教室全体の数字を評価するなどチームワークを意識させる工夫も必要です。
一方、職務プロセス評価では、「仕事のプロセス・姿勢」を評価します。仕事の結果だ
けを評価していると、発展途上の人材が育ちにくいなど、組織上の弊害が出てくることも
確かです。そのため、仕事のプロセス・姿勢・能力といった数字に表れない要素について
も評価する必要があるのです。
図2は、一般教務職員用の職務評価のサンプルです。等級によって項目を変えてもかま
いませんし、等級ごとに重視する項目を決めて、ウエイトを変えてもいいでしょう。
プロ教師の処遇
さて、多くの塾で評価に悩むのが、
教務専念型
社員の存在でしょう。「教務一筋 」
、
「プロ教師 」
、 というと聞こえはいいのですが、教務面で熱心な反面、教室運営、営業活
動に関心が薄く、「営業は教務よりレベルが下の仕事」と思っている社員の扱いに困って
いる塾は多いようです。このような教務一筋の社員を、本人のモチベーションを下げず、
会社としても活かす方法とはどのようなものでしょうか。
最初に確認しておきたいことは、「教室長は責任が重くて大変そうだ 」
、 「授業だけな
ら楽しいしラクだ」という考えの社員を専門職として処遇するのではない、ということで
す。もちろん、管理職になれない社員の受け皿でもありません。年功序列の制度の下では、
このような社員でも給与は年々アップすることになりますが、成果主義を採り入れること
によって、教務専門職としての成果を測り、それに見合った処遇を行う、ということです。
具体的には、重点校・拠点校に配属して重要クラスの担任をまかせる、担当クラスの成績
上昇率、合格実績、アンケート支持率の評価ウエイトを高めに設定してシビアに評価する
ことなどが考えられます。要は、管理職にはならなくても、教務責任を負って仕事をし、
貢献してもらうということです。
また、得意な分野で役割を与える方法もあります。教室運営の責任者なることには抵抗
があっても、自分の専門教科に関しては遺憾なくリーダーシップを発揮するタイプの社員
もいるでしょう。この場合、専門職コースを設け、教科長、入試マネージャーなどの役職
を与え、責任を負わせるのも一案です。新入社員の教務研修、入試問題分析の責任者など
として活躍してもらえばいいのです。
評価の結果を教育のチャンスとして活かす
職種別の評価基準ができれば、評価者や評価期間、評価点の調整方法といった運用のル
ールを設定します。適切な評価基準をつくること以上に、その運用が成功の鍵を握ります。
ところで、皆さんの塾では、評価をやりっぱなしにしていないでしょうか?評価を行っ
たら、必ず本人へフィードバックする面談を行ってください。人事評価は社員の優劣を判
定することだけが目的ではなく、絶好の部下教育のチャンスでもあるのです。
皆さんは塾でテストをした後、当然、テストを返却しますね。テストの返却があまり遅
いとクレームになることさえあるでしょう。そして、テストを返却するとき、ほとんどの
先生は「間違えた問題のやり直し」を指示し、「わからない問題は質問に来るように」言
い、場合によっては「補習」を行うでしょう。それと同じなのです。せっかく評価をした
ら、できるだけ速やかに部下と面談を行い、改善点を指導し、今後の目標を一緒に考え、
やる気を引き出さなければなりません。ただし、そのためには、社員へのフィードバック
が出来るように、自塾の管理職を教育・研修する必要があります。
そこで、是非とも採り入れていただきたいのが、評価者訓練、面接者訓練です。いずれ
も、評価する側を対象に実施する研修ですが、自塾でも実施することができます。
まず、評価者訓練ですが、これは評価者ごとに持っている
甘い・辛い
といった傾向
を修正するための研修です。5∼6人ずつのグループに分かれ、共通で知っているその場
にいない部下を一斉に評価する方法と、各人が自分の部下を評価した結果を持ち寄る方法
があります。いずれにしても、各人がつけた評価点を一覧にし、評価項目ごとに「なぜこ
の点をつけたのか」を発表し合い、ディスカッションを重ねることで自らの評価傾向(エ
ラー)を実感していくのです。
一方、面接者訓練は、評価結果を部下にフィードバックするためのスキルを身につける
研修です。これは、ロールプレイング(役割演技)を用いて行います。参加者の中から2
名(上司役=自分自身、部下役=上司役の人の特定の部下)前に出てもらい、評価結果を
部下に伝える面談を、15分程度再現してもらいます。他の参加者は、ロールプレイング
終了後、上司役の人にアドバイスを行います。ごく簡単な方法ですが、極めて高い効果が
あります。
一般に、人事評価に対する不満の多くは、実は評価者に対する不満です。上司の評価能
力や面談能力を高めることが、人事評価の目的を実現することにつながるのです。
図1
成果・業績評価表
評価項目
定
教 室
売上高目標達成率
共 通
営業利益目標達成率
生徒数目標達成率
教 室
合格目標達成率
長 用
アンケート支持率
義
ウエイト
売
上
高
実
績
売
上
高
目
標
営
業
利
益
実
績
営
業
利
益
目
標
生
徒
数
実
績
生
徒
数
目
標
生
徒
数
実
績
生
徒
数
目
標
教
室
平
均
点
全
社
平
均
点
合
計
20%
教
6
月
務 職 用
退
退塾率
10
20
30
評価(×ウエイト)
70
80
90
100
82%以上
85%以上
88%以上
91%以上
94%以上
97%以上
100%以上 103%以上 106%以上
109%以上
82%未満
85%未満
88%未満
91%未満
94%未満
97%未満
100%未満
103%未満 106%未満 109%未満
20%
40%未満
40%以上
50%以上
60%以上
70%以上
80%以上
90%以上
100%以上 110%以上 120%以上
130%以上
50%未満
60%未満
70%未満
80%未満
90%未満
100%未満
110%未満 120%未満 130%未満
30%
82%未満
82%以上
85%以上
88%以上
91%以上
94%以上
97%以上
100%以上 103%以上 106%以上
109%以上
85%未満
88%未満
91%未満
94%未満
97%未満
100%未満
103%未満 106%未満 109%未満
15%
70%未満
70%以上
75%以上
80%以上
85%以上
90%以上
95%以上
100%以上 105%以上 110%以上
115%以上
75%未満
80%未満
85%未満
90%未満
95%未満
100%未満
105%未満 110%未満 115%未満
15%
40%未満
40%以上
50%以上
60%以上
70%以上
80%以上
90%以上
100%以上 110%以上 120%以上
130%以上
50%未満
60%未満
70%未満
80%未満
90%未満
100%未満
110%未満 120%未満 130%未満
100%
10%
9%以上
8%以上
7%以上
6%以上
5%以上
4%以上
3%以上
2%以上
1%以上
9%未満
8%未満
7%未満
6%未満
5%未満
4%未満
3%未満
2%未満
1%未満 0%
15%
9%以上
8%以上
7%以上
6%以上
5%以上
4%以上
3%以上
2%以上
1%以上
9%未満
8%未満
7%未満
6%未満
5%未満
4%未満
3%未満
2%未満
1%未満 0%
夏 期 講 習 欠 席 者 数
講習欠席率
0
評 価 ポ イ ン ト
40
50
60
末
塾
在
籍
者
数
数
期 中 平 均 生 徒 数
クレーム件数
半
合
期
計
件
数
実
績
5% 10 件以上
100%
9件
8件
7件
6件
5件
4件
3件
2件
1件
0件
本人
決定
図2
職務評価表【一般教務職用】
定
評価項目
生徒対応
義
0
常に生徒第一主義の立場で生徒
に接していたか
教室管理、成績管理など担任と
しての責任を果たしたか
担任業務
家庭との連絡を密にとり、保護
者に対して気持ちのよい対応を
して、信頼されていたか
保護者応対
職務・プロセス・能力
専門科目についての教務知識、
入試情報を有していたか
専門知識
指導技術
講師指導
3
4
4
講師に対して、教室方針にのっ
とった指導をしていたか
2
クレーム・トラブル クレーム・トラブル発生の際、
陣族かつ的確な対応ができるか
対応力
合
4
教師として、わかりやすい授業
を心がけ、常に研究していたか
教材の発注、検品、配布、在庫
管理などが正しく行えたか
教材管理
4
計
2
2
25.0
評価(×ウエイト)
評 価 ポ イ ン ト
ウエイト
1
2
3
4
生徒優先の姿勢がなく、コ 生徒に対して誠実に対応し 生徒への対応に問題はなく、 通塾時の声かけなどに熱心 常に生徒優先の姿勢を貫き、
ミュニケーションも不足し ようとしていたが、忙しいと 特に不満の声も聞かれなか で、コミュニケーション量も 他の職員も巻き込んでコミ
て、生徒の評判が悪かった きなど、後回しにすることも った
多く、生徒の評判が高かった ュニケーションを図り、教室
多かった
理念を体現していた
担任は任せられないので、 出席簿、座席表作成など担任 指示された担任業務は普通 細かな教室管理・成績管理が 担任意識が強く、自分のクラ
全く担当していなかった がすべき業務に杜撰さが見 にこなしていた
でき、クラス担任として科目 スの管理・運営は完璧であ
られ、成績の管理も不十分で
担当者にも指示が出せた
り、他のクラスにまで目が行
あった
き届いた
保護者への丁寧な対応がで 指示された電話・面談などは 保護者への接し方は常識的 家庭への連絡の頻度が高く、 家庭との情報交換を活発に
きず、家庭への電話なども 行っていたが最低限のもの なものであり、家庭とのコミ 保護者に丁寧・親切に対応し 行い、保護者の信頼度も高く
不熱心であり、不信感を持 であり、保護者から信頼され ュニケーションに特に問題 ていた
他の教師の模範となった
たれていた
るには至らなかった
はなかった
専門科目の知識が不足して 専門科目・入試情報に対する 専門科目の知識は標準的で、 専門科目に精通しており、入 専門科目のスペシャリスト
おり、授業中のミスが多く、知識は乏しいが、研究はして 入試に関する情報も最低限 試問題の分析などにも熱心 で、入試情報の入手も早く、
入試に必要な情報すら有し いた
は知っていた
で、最新の情報を取り入れて 情報提供を行って貢献して
ていなかった
いた
いた
教え方がへたで、生徒の評 教え方に工夫がなく、毎年同 クラスレベルにあわせた適 常に指導方法を工夫し、実際 授業が上手く、他の教師にも
判が悪かった
じ授業をしている
切な授業ができ、研究もして の授業にも反映され、生徒の 教え方の助言・指導を行って
いた
評判もよかった
いた
他人を指導できるレベルで 講師指導に消極的であった 必要な講師指導は行ってい 講師に対し積極的に教室方 講師指導の中心的存在であ
はなかった
た
針を伝え、講師の育成に力を り、講師の戦力化に力を発揮
入れた
した
各コースの使用教材・カリ 教材管理のルールは理解し 教材管理に特に問題はなか 各コースの使用教材・カリキ 教材管理のルールを、他の職
キュラムが把握できておら ていたが、生徒への配布漏れ った
ュラムに精通しており、安心 員にも指導できた
ず、教材管理のルールを理 などミスが多かった
して任せられた
解していなかった
ほとんど独力では処理がで 一応処理にあたるが、遅れた 自分で対処できることの判 内容を理解し、的確に処理 内容を理解し、常に迅速かつ
きなかった
り、不適切なことが多かった 断ができ、ほぼ問題は発生し し、報告も遅れず行った
的確な処理を行い、報告も十
なかった
分であった
本人
決定