ロードスターボディには、他では得られない抜群の開放感と 潔く風を浴び、自然を感じて走る素晴らしさがある。 クーペボディには、堅牢なボディならではのドライビングプレジャーと スパルタンな男の密室としての価値がある。 それぞれのイチオシモデルを走らせ、真の大人に相応しいスポーツカー像を探る。 Text:石橋幸樹/ Photo:松本高好 AUDI TT Coupé3.2 quattro BMW Z4 Roadster 3.0si 026 027 イチ 押 し オ ープ ン BMW Z4 Roadster 3.0si BMW は 真 の 大 人 が な に を 欲 して い る か を よくわ か って い る ホ 028 ットドッグをほおばりつつ、サルサソース 素かつ上質な乗用車ではない、ということだ。 は M モデルなので、事実上の最高グレードと なので、アメリカ人ほどではないにしても、天 を上質なスーツにたらさないよう注意し 02 年のデビューからすでに 6 年が経過して 呼んで差し支えないだろう。実際、すぐ下の 井の低さや、スカットル周辺のタイトな造作は、 ながら、少し混んだ道を右に左にステアして、 いても、古さを感じさせないどころか、いまだフ 2.5R モデルとも価格差にして 100 万円以上 ちょっとキツい。屋根をあけてしまえば開放感 5th アベニューにあるオフィスを目指す。 レッシュな魅力を放つオープンカー。BMW の の開きがある。500cc の排気量に 100 万円 を得られるのだろうが、四六時中オープンとい Z4 3.0 を大人が乗りこなすシーンを思い描 グレード戦略に沿って、下は 2.2R から、上は のエクストラを投じることができるのは、まさし うわけにもいくまい。 いてみると、こんなふうに東海岸のエスタブリッ M ロードスターの 3.2R まで、4 種類もの直 6 く大人に他ならない。 だが、タイトなところを好意的に解釈すると、 シュメントになるのではないか。なにも、Z4 が ユニットがラインナップする。ボディシェルは、 戯言はそれくらいにして、オープンにしては ポジションをはじめ、パッケージングとしてはご アメリカの工場で組み立てられているからでは M を除けばほぼ同一なので、 「中身で選びたい」 節度のあるドアをあけて乗り込むことにしよう。 くオーソドックスであり、シートからの眺めなどは なく、また、北米市場での戦略モデルであるか という大人のチョイスには向いているだろう。 キャビンに収まった印象は、以前から感じてい BMW の考える「スポーツカー」をうまく体現し らでもない。 もはや、 BMW がプロダクトするのは、 今回の試乗では、3.0si が選ばれた。上か た通り「アメリカ人って、こんなタイトな室内で てるように思える。ダッシュボードの左右に広が 田舎のアウトバーンを疾駆するバイエルンの質 ら 2 番目とはいえ、先に述べたように最上級 大丈夫なのか?」 。筆者の身長は 176 センチ るネガクレープにしても、微妙に車幅感覚に役 029 直に切り込めないというか、スッキリとコーナー を脱出できないでいる (笑) 。ごく客観的に評価 すれば「普通」の出来、といった感じ。 オープンで走っていると、わりと風の巻き込 みが少なくない。おそらく、ロングノーズとショー トキャビン、そして比較的寝ているフロントスク リーンがもたらす空力的な影響だろう。 もっとも、 これは設計ミスなどではなく、オーソドックスな ものが大好きな BMW が「オープンカーは、風 をきって走ってこそ」と考えるオープンカーの味 付けだろう。なにしろ、彼らは F1 シーンでも最 大級の風洞トンネルを持っているのだから、や ろうと思えば巻き込みが一切生じないオープン カーだって作れるかもしれないのだから。 アルピンホワイトⅢの試乗車は 2006 年式のアプルーブド物件。ナビパッケージ付きで走行 6000km。価格は 468.3 万円。車両協力= BMW Tokyo 杉並アプルーブドカーセンター Tel.03-5307-5781 最後に、大人っぽくないのがランフラットタイ アのバタつく乗り心地だと気づいた。街中では かなり意識させられてしまう。さらに、18 インチ にサイズアップされているから、余計に乗り心 地に影響してくるのだろう。17 インチのノーマ ルを履けるなら、そちらのほうが確実にしっとり としたテイストになるはずだ。ちなみに、18 イ 立っているし、ナビモニターの上端も視界を遮 が必要なのだが、慣れてしまえばこちらのほうが ら始まるパワーゾーンで、シャシー全体が受け ンチで美味しいスピードは 100km/h あたりか らないばかりか、ダッシュに低く埋め込まれ、ド 感覚的には 3R エンジンを転がしてる気がす 止める掛け値なしの馬力感を得られよう。 ら。そこにいたってようやくフラット感が出てくる ライバーのやる気を促す「下から目線」を徹底 るのは確かだろう。ちなみに、スロットルのマッ 4000rpm も回して走っていると、Z4 の動 ようだ。 的に追求している気がする。 ピングが変わるだけでなく、パワーステアリング きは俊敏かつ、正確であることがよく分かる。 そして、BMW らしくカッチリとしたポジショ のアシスト量も変化するので、まさにスポーツド 4 輪の位置から、接地の圧力やグリップまで、 ンをとって走り出すと、アイポイントの低さから ライブ向けのデバイスということ。 それこそドライバーの腰に集中して情報を伝え か、ごく低速にも関わらず「駆け抜ける てくる。3 シリーズではこれほどリアル 歓び」を感じることができる。スーパー に伝わってきた記憶はないから、シャ セブン並みとまでは言えないものの、 シーを共有していても、重量バランス ポルシェの 997 あたりと比べても遜 の変化や、重心位置の変更で、ここま 色はないだろう。 でドラスティックに変わるものかと、改 スロットル ペダル に 対 するレスポ めて感心。旧型 M3 で感じられたよう ンスは鋭い部類には入らない。車重 な、ブッシュやマウントのコンプライア 1430kg に対して、30mkg 程度のトル ンスチューンで姿勢を正すのではなく、 クであれば、ひと踏みでスッと前に出る ダイナミックバランスを最適化すること 感覚は得がたいだろうが、エンジンの で車体の運動性能を向上させる方法 素性はいいだけに、もう一工夫あってもいいだ おなじみのストレートシックスは、いつものと を、BMW のエンジニアは完全にマスターして ろう。そこで、DDC(ドライビング・ダイナミック・ おり素晴しい出来栄え。回転精度の高さからく いるようだ。 コントロール)のスイッチを入れて、ペダルを踏 るスムーズネス、気筒内容量、ならびに燃焼環 ただし、電動パワーステアリングのセッティン みなおしてみる。 境の最適化から生じるパンチ力、どれをとって グに関しては、個人的にいまだリニアというか、 ちょっと驚いた。とにかく、踏みすぎたっ!て も最上級で文句の言いようがない。この Z4 で、 ナチュラルな気がしない。先入観もあるのだろ くらいスロットルが開くのだから。ちょっと慣れ もっとも魅力を感じるのは 4000rpm あたりか うが、どこかしら制御が入ってるかと思うと、素 Z4 3.0si 030 エンジン_直列 6 気筒 DOHC 2996cc 85.0 × 88.0mm 10.7:1 265ps / 6600rpm 32.1mkg / 2750rpm トランスミッション_ 6 段 AT ボディ_ 4100 × 1780 × 1285mm W / B 2495mm 1430kg タイア_ 225/45R17 新車価格_ 598 万円 *ユーズドカー・マーケット情報 デビューは 2002 年のパリサロン。日本では 03 年 6 月にデリバリーを開始した。まず 2.5i と 3.0i が導入され、10 月に 2.2i が追加されている。これらのうち現在の中古車市場で主流なのは 2.5i で、価格は 250 万円付近がスタートライン。今回試乗した 3.0si は、ニューエンジンをひっさ げて 06 年に登場したばかりなので 400 万円台後半から。しかしそれまでの 3.0i なら 300 万円台前半でも充分に選ぶことができる。すでに絶版となってしまった SMG 仕様も見つかる。 031 イチ 押 し ク ー ペ AUDI TT Coupé 3.2 quattro 驚 異 的 な 精 度 、剛 性 、 そ して ダイナミックバ ランス を 持 つ 現 代 の シュ ー ティング ブ レ ー ク も 032 う流行っていないと思うが、 その昔、 シュー 具を積み込んで、強力なエンジンとシャシーで 作ったクールなクーペとなれば、コーチビルダー は明らかに向上し、甘さや、緩さとはまったく無 ティングブレークというカテゴリーがあっ もって、猟場へいち早く到着しようという目的の は商売あがったり、ではなかろうか。 縁の 「道具感」 は、 いまやアウディのお家芸といっ たのをご存知だろうか。大型クーペをベースに、 クルマである。 2006 年に 2 代目 TT としてデビューした折 ていい。 リアのカーゴスペースを拡大した、スポーティか TT の大きく開くリアハッチを見ていたところ、 には、初代ほどのインパクトがなかったせいか、 国内では、2R エンジンを搭載した FF モデ つスノビッシュなモデルが多かった。 そんなことを思い出していた。さしずめ、TT3.2 ことスタイリングについてはそれほどの高評価 ルと、今回の試乗モデルに選んだ 3.2R クワ そうしたモデルの大半は、コーチビルダーに クワトロは現代のシューティングブレークといっ を得られなかったようだが、今となってはキープ トロの 2 モデルがラインナップ。2R 仕様もけっ よる手作りで、有名なものではリスター社のジャ ても、あながちハズレてはいないだろう。3.2R コンセプト路線はけっして間違っていなかった して悪くはないが、 A3と共有する堅牢なシャシー ガー XJ-S をベースにしたものや、ジェンセン・ の V6 エンジンは 250ps を絞り出し、全天候 と感じている。 には、V6 とクワトロの組み合わせがもっともふ インターセプター、アストンマーティン DB シリー 型のクワトロシステムは、いかなる道、コンディ TT のように、独特のプロフィールだけでそれ さわしい。さらに、上級グレードであるにも関わ ズなど、錚々たる顔ぶれ。いずれにしても、その ションでも難なく走破してしまう。そして、プレ と分かるクルマはけっして多くはないだろう。ま らず、585 万円という新車価格は、アウディの 名があらわすとおり、増えたスペースに狩猟道 ミアムという言葉がいま最も似合うアウディが た、スタイリングはともかく、インテリアの質感 レートとしてはバーゲンに近い(笑) 。 033 マは一様にこの傾向にあるため、TT だけの短 所というわけでもないのだが……。 大人らしく、ジェントルな運転さえしていれば、 TT は従順で、寛容で、頼もしい走りを見せてく れる。ひとたびアクセルを深く踏みつけて、 「や る気」になったとしても、その性格はほとんど変 わらない。イメージとしては、なんだか年上の女 性にでも翻弄されているようで、少し居心地が 悪いといえば、悪いのだ。 3.2R の V6 エンジンは、活発によく回る。 イタリア製エンジンのように「泣く」わけではな いが、それなりの音質で、室内に侵入してくる 音も耳障りな種類ではない。VW やアウディの V 型エンジンによくあった「こもり音」のレベル ファントムブラックパールの試乗車は 07 年式のアプルーブドカー。最新の 08 モデルでフルレザーパッケージ付き。走行 わずか 4400km で価格は 525 万円。車両協力=アウディアプルーブド世田谷 Tel.03-5752-4455 も下がり、車外で聞こえる音がそのままの音質 で耳に届く感触。 美 味しいゾーンはやはり 4500rpm 以 降。 フラットトルクな味付けながら、高回転になっ ても頭打ちする感触はないので、250 馬力を 体感したいなら、Sトロニックを駆使してバン バン回したほうがいい。そんな乗り方をしてい さて、車体のわりに大きく見えるドアを開けて なかったので、こだわる方はご留意を。 シー」ということ。 ても、横の乗員に気づかれる心配はまったく 乗り込んでみよう。ASF(アウディ・スペース・フ DSG から Sトロニックと呼び名が変更され ボディの下面側は、いつでも安定して路面に ないだろう。 レーム)なる軽量アルミボディという触れ込みだ たものの、そのミッションコントロールは鮮やか 吸い付くかのよう。それでいて、18 インチのタ が、ドアはそれほど軽くない。 なエンゲージでスタートする。踏み始めのコン イアはソフトな感触を伝えて、正確なことこの上 開口部が広いので、天井を気にすることなく マ何ミリというところで、少しだけもたつく様子 ない。コーナーに差しかかって、わざと大きな姿 ざっくりと乗り込めるのは、こうしたクーペとして がないでもなかったが、個体差のうちとして容認 勢変化をさせたとしても、不安になるようなこと は珍しい。運転席に限っては、かまぼ も一切ない。筆者の求める理想の足 こ型に変形したステアリングのおかげ に限りなく近い。 で、両腿のあたりも自在に動かせる。 高速領域でも、基本的に変わりはな シートからの眺めは質感の高いイン い。荷重のかかったダンパーは、それで テリアやダッシュボードに囲まれ、適度 もきちんと動くし、その精度もまたじつ なタイト感に溢れる。ただし、サイドス に高い。もはや取り付け位置の剛性だ クリーンや、リアクォーターの存在感も とかいうレベルではなく、クルマ全体の 高く、ちょっとした閉塞感を感じさせら 精度、剛性、ダイナミックバランスまで れることもある。もっとも、この密閉感 もがきわめて高い次元で融合している 覚はデートするのには好都合。趣味は といえよう。 悪いが、薄いフィルムでも貼ってしまえば、ふた できるレベル。 ただし、それゆえ、ドライバーの冒険心という りだけの空間はさらに密度を増すはずだ。 そして、空いた道に出てすぐさまアクセルを全 か、遊び心に対して相容れないところがあるの エンジンをスタートさせると、その音がかなり 開に。予想通り、エンジン音のボリュームがあ も事実。どんな操作、運転に対しても TT の深 のボリュームで室内に入り込んでくる。デートな がり、ぐいぐいとスピードを増していくのだが、ド い懐はなんでも聞き入れてくれるため、やんちゃ らば、気の利いた音楽でも流せばいいのだろう ライバーとしては平穏そのもの。メルセデスの 坊主としては少々つまらないわけだ。もっとも、 が、ストックのオーディオはそれほどの音質では お株を奪う 「エンジンよりも (はるかに)速いシャ 最近のドライバーエイドデバイスを搭載したクル ' TT Coupe 3.2 quattro 034 エンジン_ V 型 6 気筒 DOHC 3188cc 84.0 × 95.9mm 10.0:1 250ps / 6300rpm 32.6mkg / 2500 〜 3000rpm トランスミッション_ 6 段 Sトロニッ ク ボディ_ 4180 × 1840 × 1390mm W / B 2465mm 1470kg タイア_ 245/40R18 新車価格_ 585 万円 *ユーズドカー・マーケット情報 現行の 2 代目 TT は 2006 年 7 月に予約受付を開始。初冬からデリバリーが始まった。エンジンは 2R 直 4 と 3.2RV6 の 2 本立てで、前者は FWD、後者はクワトロと組み合わされる。トランスミッションはともに 6 段 Sトロニック、すなわち DSG だ。登場からまだ日が浅いので、中古車の 流通は Z4 ほど活発でない。とくに 3.2 クワトロは希少で、市場の主流は 2.0TFSI。価格は 300 万円台の後半からとなっている。3.2 のほうは 400 万円台後半が スタートライン。 035
© Copyright 2024 Paperzz