抄録集のみダウンロード

抄録集
招聘講演
特別講演
教育講演
会長講演
シンポジウム
ワークショップ
ディベロプメンタルケアセミナー
88
招聘講演
ディベロプメンタルケア:あたたかい心を育む周産期ケア NIDCAP(Newborn Individualized Developmental
Care and Assessment Program) and brain development of the neonate
Harvard Medical School
Heidelise Als
There exist the world-wide increase in prematurity rates and more than 50% of children born preterm show later
learning disabilities, attention deficits, behavior problems, emotional issues, and school failure.
The brain development of the neonate and likely causes of neurodevelopmental deficit are as follow; All sensory
experience results in neural activity and impacts on developing structures. Consequences are greatest when strong and
unexpected experiences impact on a rapidly developing system. This results in a vulnerable if not critical period of
development. There is growing evidence that the brain and sensory organs and their neural connectivities are highly
influenced by environmental experience. The effect of unexpected experiences on the organization of the developing
brain includes both structural and functional changes. Possible pathogenic pathways of neurodevelopmental deficit may
involve injury and/or unexpected experience, which may lead to altered white matter development, which in turn, may
lead to differences in later migration, brain organization, synapse formation, and myelination.
We created NIDCAP (Newborn Individualized Developmental Care and Assessment Program) based on the concept of
synactive model of neualdevelopment.
(日本語訳)
世界的に早産による出生の比率が高まっており、その未熟児の半数が後に学習障害、ADHD、行動異常、情緒障害、学業
不良などの問題を伴う。
それらに関連した、新生児の脳の発達と神経学的発達障害の原因は、以下のように考えられる。すべての感覚経験は神経活
動に由来するものであり、神経発達に影響を及ぼす。急速な発達の途上にある神経系は、予期せぬ強い刺激に最もその影響
を受ける。これが感受期のいわゆる易障害性に繋がる。脳と感覚器官を結びつける神経学的コネクションは環境因子の影響
を強く受けることが近年の多くの研究から示されてきている。発達過程にある脳に対する予期せぬ刺激経験は、神経系の機
能のみならずその構造にまで影響を及ぼす。予期せぬ刺激が神経発達に及ぼす障害の病態生理として考えられているのは、
神経細胞のマイグレーション(移動)、脳機能の統合、シナップスの形成、髄鞘化に悪影響を及ぼし脳白質の発達を阻害する
と考えられている。
私達は神経発達における synactive model(お互いに協調し合うモデル)に基づいた NIDCAP (Newborn Individualized
Developmental Care and Assessment Program、新生児個別的発達ケアとその評価プログラム)を開発した。
89
特別講演1 命のうまれる時に人は・・・
曽野 綾子
1931 年
東京に生まれる
1953 年
三浦朱門と結婚
1954 年
聖心女子大学英文科卒業
1979 年
ローマ法王庁よりヴァチカン有功十字勲章
(La Croce Pro Ecclesia et Pontifice)を受ける
1983 年
韓国ハンセン病事業連合会よりダミアン神父賞を受賞
1987 年
(『湖水誕生』により)土木学会著作賞を受賞
1988 年
フジ・サンケイグループにより鹿内信隆正論大賞を受賞
1993 年
恩賜賞・日本芸術院賞受賞
1993 年
日本芸術院会員
1995 年
日本放送協会放送文化賞受賞
1996 年
パンティオン教皇庁立優秀芸術文化アカデミー会員
(Pontificia Insigne Accademia di Belle Arti e Lettre dei Virtuoso al Panteon )に任命される
1997 年
海外邦人宣教者活動援助後援会代表として読売国際協力賞を受賞
2003 年
文化功労賞となる
主な著作
『無名碑』(講談社
1969 年)
『地を潤すもの』(毎日新聞社
1976 年)
『神の汚れた手』(毎日新聞社 1980 年)
『時の止まった赤ん坊』(毎日新聞社 1984 年)
『天上の青』
(毎日新聞社 1990 年)
『神さま、それをお望みですか』
(文芸春秋社 1996 年)
『中年以後』
(光文社 1999 年)
『部族虐待』
(新潮社 1999 年)
『現代に生きる聖書』(NHK 出版 2001 年)
『狂王ヘロデ』(集英社 2001 年)
『原点を見つめて』
(祥伝社 2002 年)
『至福の境地』(講談社
2002 年)
『沈船検死』
(新潮社 2003 年)
『魂の自由人』(光文社
2003 年)
『アラブの格言』(新潮社 2003 年)
『なぜ人は恐ろしいことをするのか』(講談社 2003 年)
『生活のただ中の神』(海竜社 2004 年)
『ただ一人の個性を創るために』
(PHP 2004 年)
『人はなぜ戦いに行くのか』(小学館 2004 年)
『アメリカの論理 イラクの論理』(ワック 2004 年)
90
『透明な歳月の光』
(講談社
『哀
2005 年)
歌』(毎日新聞社 2005 年)
『日本財団 9 年半の日々』
(徳間書店 2005 年)
『晩年の美学を求めて』(朝日新聞 2005 年)
『「集団自決」の真実』(ワック文庫 2005 年)
『海は広く、船は小さい』
(海竜社 2005 年)
『戦争を知っていてよかった』(新潮社 2005 年)
『日本人が知らない世界の歩き方』(PHP
2005 年)
『魂を養う教育 悪から学ぶ教育』(海竜社 2005 年)
『貧困の光景』(新潮社
2006 年)
委員等
日本文芸家協会・理事
内外情勢調査会・理事
産業労働懇話会・委員
海外邦人宣教者活動援助後援会・代表
日本学生支援機構政策企画委員会・委員
91
特別講演 2
私たちはどこから来たのか
武蔵野美術大学
関野 吉晴
私たち日本人の祖先がどこから、いつ、どのようにやって来たのかを辿る旅、
「新グレートジャーニー」も始めて3年にな
る。世界地図を見ればわかるように日本はユーラシア大陸の東のはずれにある。ここには北から、南からそして黒潮に乗っ
て海から、様々なところから人類が集まってきた。争いがあり、交流し、混血を繰り返しながら今の日本人ができた。日本
人は決して単一民族ではない。かつてはユーラシア大陸の民族の吹きだまりといえる。
通常私たちが移動する場合、同じ緯度を移動したほうが楽だ。気候が似ているからだ。熱帯、亜熱帯で生まれた人類の多
くはアフリカを出で、東に向かう。しかしいずれヒマラヤ山脈にぶつかる。その山麓をさらに東に向かう。そのまま日本に
向かった者もいるだろうが少し南に向かうと温暖で過ごしやすいスンダランドがあった。かつてインドシナ、インドネシア、
フィリピンは陸続きで、アジア人の原郷といわれるスンダランドを形成していた。過ごし易ければ人口は増え、余所から人
が集まってくる。そうすると突き出される者が出てくる。突き出されて海に進出し、黒潮に乗ってやって来た人たちの道が
ある。それが「海のルート」だ。また多くの者は陸伝いに中国を北上し、朝鮮半島を経由して日本に向かった。これが「南
方ルート」だ。
一方、アフリカから出て、極北に向かった集団がいる。アフリカで生まれた人類にとっては、気候も食べ物も違うので命
がけの大冒険になる。サルの仲間で最も北に進出したのは下北半島のニホンザルだ。それより北には野生の霊長類は進出し
なかった。人類でも新人だけがここ2−3万年前に進出した。寒さに耐えうる住居、衣類を工夫しなければならなかった。そ
れまでおもに植物性の食べ物を食べていたが、極北に進出するにはマンモス、トナカイ、ケサイなどの大型動物を狩る技術
を獲得しなければならない。身体の代謝能力も肉食に見合うようにしなければならない。それを成し遂げた人々が極北に進
出し、新大陸まで足を伸ばした。その一部は東に向かい氷河時代には陸続きだったサハリンを経由して北海道にやって来た。
それが「北方ルート」だ。
人類がアフリカに誕生したのが700万年前。私たちの直接の祖先ホモ・サピエンス(新人)が生まれたのが20万年前。
10万年前にアフリカを出て、アフリカ人、ヨーロッパ人、アジア人に分かれていった。人類が初めて日本にやって来たの
が3−4万年前で、人類の歴史の中では、まだ新しい。
92
教育講演1
和の思想と生命倫理
北海道医療大学学長
松田 一郎
1 生命倫理学の成立
アメリカでは1970年代以降、臓器移植、安楽死、生殖補助医療、再生医療などの医療技術が開発され、それを巡る理論構築が必要
になった。これには個々人の価値観の多様性が関与するので、それに呼応した論議、及びそれに要する医療費負担についての社会
的同意が必要になった。生命倫理学が生まれた理由の1つである。日本ではまず、そのアメリカ型生命倫理学の導入と医療現場への
定着を目指し、例えば、インフォームド・コンセントではある程度成功したものの、他方で戸惑いも生れた。理由は導入された生命医学
倫理学はキリスト教啓蒙主義に基づくカント、ミルなどの18・19世紀の西欧哲学を基にしたもので、必ずしも日本人には馴染まないから
である。キリスト教社会のアメリカ、ヨーロッパでも、微妙な問題についての見解は異なる。和辻哲郎は「日本倫理思想史」の中で倫理
思想を説明し、「・・人間はただ社会においてのみ個人たり得るとともに、また個人を通じてのみ社会たり得るのである。そしてこの構造
の原理が倫理にほかならない」、「・・倫理思想が時と処によって異なった形態を持つことは、極めて当然であろう」と述べている。つまり
生命倫理を構成する要素には、人間の尊厳、生命の尊重のように、時代と国を超えて存在する道徳倫理と、それぞれの時代、社会、
民族、文化圏に規制された倫理観がある。生命倫理原則としてビーチャムらは、自律の尊重、仁恵、危害防止、正義を掲げ、ユネスコ
は公平、公正、連帯(solidarity)をあげている。連帯とは共同体の心情的団結を前提条件とし、人間同士の相互支援から出発し、社会
保障を権利として保証することである。
2 日本の倫理思想
儒教、仏教、その源流のインド哲学も加えて広く東洋思想と一括されることが多いが、日本と中国、台湾、韓国、インドでの生命医学
倫理観は必ずしも同じではない。例えば日本と韓国では、脳死死体からの臓器移植数にかなりの差があり、韓国でのその数は欧米並
みである。また、代理母、着床前診断も韓国では許されている。これは両国の文化の違いと受け取る以外説明できない。芳賀綏は積
極性を素直に示す韓国文化をユーラシア大陸文化に所属する凸型文化と分類し、外向より内向、攻撃より忍従、対立より和合、原理
原則より現実適合、目的達成よりは集団(個体)維持志向、剛ではなく柔の日本文化を凹型として紹介している。これは稲作文化圏で、
日本という「島」が持つ特有の文化である。ハンチントンも同様に、現在、世界には文明は中国、東南アジア、ベトナム、朝鮮を含んだ
中華文明、日本文明、ヒンドウー文明、イスラム文明、西欧文明、ロシア正教会文明、ラテンアメリカ文明の 8 つがあり、日本の文明は他
とは異なると指摘している。近年、外国、特にアメリカからの情報が日本文化に揺らぎをもたらしている現状は否定しないが、日本はこ
れまで独自の文化を育ててきたといえるだろう。
3 和の思想に内在する連帯の思惟とケアの倫理
多くの人が聖徳太子の「和」を日本独自の倫理教条と捉えてきた。日本の文化は 5 世紀頃に独自の展開を遂げたというハンチントン
の説明に一致する。和は一般に調和の意味に解されるが、中村元は、「和には調和に加えて相互支援の思想が含意されている」と指
摘する。論語の中で、和は「礼の用は和をもって貴しとなす」、「和すれば寡なきことなく、安ければ傾くことなし」のように説かれている
が、後者の成句を中村のいう相互支援の論拠と受けとっていいだろう。上述の連帯がこれに近い。和辻は、「仏教の真理は突き詰めて
いけば慈悲になるが、その語を用いないで、論語からでた和の語を用いたことに注目すべきである」と言う。慈悲は慈と悲、それぞれ別
のサンスクリット語に由来し、慈は友情、親密の思いを表し、また悲は不利益と苦難を除く意味に用いられる。論語では「仁を問う、子曰
く人を愛す」とあるように、仁は慈と共に人間関係に倫理を見出そうとした思想である。その意味ではギリガンらの「ケアの倫理」に相似
している。ビーチャムらはケアの倫理を「中心的な道徳原理というよりもむしろ家族内での他者との相互関係を基にした道徳的対応で、
さらに同情、憐れみ、誠実、愛などのように密接な人間関係に価値を置いた思惟で、自由主義の中心概念である権利に対する責務と
いう思考とは別の位置関係にある」と説明している。つまり、ケアという概念は自分自身が、ユニークな個性や価値観をもつ他人と同じ
位置に立つことを意味し、互いに分かち合える相互関係を育むことを目的としている。日本の生命医学倫理を理解する鍵はこの辺りに
あるように思う。
93
教育講演2
Neonatology and The Community: A Personal Perspective
元シカゴ大学小児科
John D. Madden
In the presentation we will discuss the evolution of neonatology from its early days when the newborn,
particularly the premature newborn, became the subject of intensive care, through the period of proliferation of
neonatal intensive care units. The emergence of regionalization with defined levels of care as a strategy will also be
discussed.
We will examine the spread of neonatal care into community hospitals emphasizing what were, in our opinion,
the multiple factors the convergence of which resulted in the development of those community programs.
Finally, we will review the advantages, the positive aspects of community based neonatal programs as they
interface with the rest of the child related community health programs both public and private. We will also look at the
negatives, both real and theoretical, of such programs and how those may be addressed.
Lastly, we will briefly describe our own program emphasizing those things which we are most proud of and
which we believe characterize the St. Jude Medical Center NICU in Fullerton, Ca.
94
教育講演3 新生児科・産科・小児外科,共に学んだ新生児外科疾患
順天堂大学小児外科・小児泌尿生殖器外科
山高 篤行
今回、症例を呈示し、新生児科・産科の先生方に
A) 新生児外科疾患における新術式
B) 産科ならびに新生児科による周産期管理が予後に影響を与える症例を報告させて頂きます。
A) 新生児外科疾患における新術式の供覧
1)新生児 Hirschsrpung 病に対する腹腔鏡補助下経肛門的結腸 pull-through: 開腹術でないため、極めて手術侵襲が少な
く、創部も殆ど目立たない。
2)腹壁破裂に対する suture-less 腹壁閉鎖: 従来は、腹壁を縫合閉鎖していたが、臍輪が自然閉鎖することに着目し、脱
出臓器を腹腔内に還納後、臍輪をテガダーム®にて被覆し、腹壁の縫合閉鎖は行わない。
3)胎児診断小腸閉鎖に対する腹腔鏡補助下経臍的治療
胎児診断と生直後の速やかな管理により、腹部膨満を予防でき、腹腔鏡下での閉鎖部小腸の検索が可能となった。閉鎖部小
腸を臍部より腹腔外に授動し、拡張部腸管切除小腸小腸吻合を行う。
4)腋窩弧状切開による食道閉鎖根治術
術後創部が、腋窩に隠れ、創部は殆ど目立たない。
5)鎖肛における腹腔鏡補助下結腸 pull-through
開腹を行わず、腹腔鏡補助下のもとに、骨盤底筋群の中心に結腸を pull-through し肛門形成を行う術式。極めて低侵襲であ
る。
6)尿道下裂における sliding urethral plate 術式
尿道下裂は、新生児期に治療を必要としないものの、産科・新生児科の先生方がよく経験される疾患であるため、その手術
時期、手術方法に関して報告させて頂きたい。手術には、極めて高度な技術が要求される。
B) 胎児ならびに周産期管理が予後に影響を与える症例の呈示
1)口腔内発症巨大奇形腫: 産科、新生児科、麻酔科とのチーム医療および綿密な周産期管理なしでは救命し得なかった症
例。
2)血流に富む巨大仙尾部奇形腫:出生前診断により、Kasabach-Merritt 症候群発症前に、タイムリーに切除術を施行する
ことができた。切除には血管を sealing することにより止血を計る LigaSure®を使用、大量出血を予防し得た。
3)プロトコール化による胎児診断横隔膜ヘルニア治療
産科・新生児科・小児外科での連携により、治療のプロトコール化が可能となった。プロトコール化により治療成績の向上
を認めている。
4)Congenial cystic adenomatoid malformation (CCAM)
出生前診断により、有症状症例が速やかに治療されることが可能となった。しかし、無症状症例に対して、いつ切除術を施
行すべきか、現在も尚答えは得られていない。有症状例、無症状例の双方を呈示させて頂く。
5)胎児診断泌尿器疾患
出生前診断された膀胱尿管移行部狭窄症、腎盂尿管移行部狭窄症をいつ手術するかについては、議論が多い。症例呈示によ
り、当科における手術のタイミングを報告させて頂く。
95
教育講演4
生殖補助医療と周産期の接点
徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部女性医学分野
苛原
稔
(1)生殖補助医療の発展と問題点
日本においても、生殖補助医療(Assisted reproductive technology:ART)を実施する施設が 600 施設を越え、ART の 1
年間の総治療周期数も 100,000 件を越えるようになり、加えて最近の 10 年間の妊娠率は約 20%前後と一定の水準に達し、
ART はすでに不妊治療の一般的な治療法となったと言える。
しかし、このような ART の目覚ましい発展の陰で多胎妊娠が急増し、周産期医療に大きな影響を及ぼしていることが指摘
されている。多胎妊娠は、医学的には妊娠中毒症、貧血、羊水過多、前期破水などの母体合併症の原因になるとともに、早
産による未熟児出生やそれに関連した周産期死亡、後障害などの新生児異常の発生を増加させる。また社会的には、減数手
術の是非に関する倫理的な問題、NICU の不足や医療費の増加などの医療上の問題、さらに精神的にも経済的にも家族の負
担を増加させる点など、様々な問題を発生させている。
すでに定着期に入った ART はより安全で質の高い ART を考えなければならない段階に達している。問題の多い多胎妊娠
の発生を予防することが急務と思われる。
(2)多胎発生の現状
日本産科婦人科学会の登録施設で実施された ART の成績報告(倫理委員会報告)によれば、ART の多胎妊娠の発生率は
約 17%であり、そのうち周産期医療的により問題の多い 3 胎以上の妊娠数は約 10%であった。また、我々が 2003 年に行っ
た「不妊治療により発生した多胎妊娠の状況に関する全国調査」によれば、2000―2002 年の 3 年間における3胎以上の妊
娠の発生原因では、ART によるものが実に 67.1%を占め、3胎以上の妊娠の実に約 2/3 は体外受精によって発生しているこ
とが明らかとなった。
(3)ART における多胎妊娠抑制の試み
ART では、移植胚数を減らすことにより多胎を予防できる。そのためには、着床率の高い卵巣刺激法、胚選択法、移植法
の導入や、凍結解凍胚移植の一層の成績の向上が望まれ、将来的には移植する胚を 1 個にすることを目標とすべきである。
今後は、生殖補助医療で着床率を上げる方法を検討し、移植胚数をさらに減少することにより、多胎妊娠の発生を激減させ
ることが可能となると考えられる。
日本産科婦人科学会・生殖内分泌委員会(1994 年)は、体外受精・胚移植における新鮮胚の移植胚数と妊娠率および多胎
妊娠率の関係について調査し、移植胚数を増加させると妊娠率は3個までは胚数に比例して増加するが、それ以上は横這い
になる一方、多胎分娩率は移植胚数が 4 個以上では急上昇すると報告した。この結果に基づいて日産婦学会は多胎妊娠に関
する会告を出し、多胎妊娠を予防するため「体外受精・胚移植においては移植胚数を原則として 3 個以内にする」よう勧告
した。しかし、3 個までの移植でも 10%程度の多胎妊娠が発生するわけであり、多胎妊娠を予防できたとは言えない。単胎
妊娠を目指すなら少なくとも2個以下、できれば1個の胚の移植で、従来と同程度の妊娠率が維持させる必要がある。すな
わち、妊娠率を低下させることなく移植数を減少させる技術の確立が必要になる。すでにフィンランドやベルギーでは条件
を設定して単一胚移植を行っており、多胎妊娠の抑制に成功しつつある。本邦においても、早急な検討が必要であろう。
そのためには ART 技術の改良による妊娠率のさらなる向上を目指すとともに、適切なガイドラインのもとに、移植数を減
少させる必要がある。技術の改良としては、卵巣刺激法の再検討、良好胚選択法の確立、凍結胚移植法の改良、胚盤胞移植
などが行われている。また、日本生殖医学会は患者の年齢別の移植数のガイドラインを示し、35歳以下で良好胚が得られ
た周期はでは可能な限り単一移植を進めている。
(4)ART実施医師の責務
ART による単胎妊娠を確実にするには、ただ1個の胚を移植して妊娠するのが理想であり、それに向けた研究は着実に成
果を上げているが、臨床応用にはまだいくつかのハードルを越える必要がある。ART 現場の医師はいたずらに妊娠率の向上
96
に走るのではなく、多胎妊娠のもつ危険性を十分認識して可能な限り多胎を防ぐ工夫をするべきであり、できることから導
入すべきと考えられる。また、周産期や新生児を担当する医師たちと十分な連絡を取り合い、総合的な成育医療を考えてい
く必要がある。
97
教育講演5
計量診断による周産期胎児情報解析の進歩
鳥取大学名誉教授
前田 一雄
診断客観化には計量が効果的である。かつては手動計測処理成功後電算化だったが人工神経回路網、周波数解析等新手技は
電算処理が主体である。実例で効果を説明する。
胎児心拍数図:我々は簡単な計測で不介入分娩の胎児心拍数図異常値発現率から定めた8評価点の5分間合計をFHRスコアと
し、10点を異常、20点を高度異常とした(1969)。そのデ-タを最近統計処理した所、分娩第1期最大FHRスコアは1分Apgar
スコアと相関し、FHRスコア10点ならApgar 6、FHRスコア20点ではApgar 3で、計量により分娩第1期でも児異常が検知される。
第2期スコアは児頭血pHと相関し、FDインデックスはUApHを予測した。最近、基線の周波数分析で胎児安静期と高度異常LOV
を鑑別した。
人工神経回路網(1998)ソフトは、5分間8種の胎児心拍数図所見×15分+転帰(1~3)・20例のデ-タで1万回訓練した後に
8所見を入力すると、正常・病的・中間の各転帰を5分毎にパ-セント表示した。既成知識のプログラミングではなく客観的
である。病的転帰確率は最大FHRスコアと相関した。また5分毎に過去の病的転帰平均値を正常平均値から引いたニュ-ラル・
インデックスの最終値は正常例ではプラス、新生児仮死では0以下で、新症例でも同様であり、長時間監視でも異常検知可能
である。
胎動心拍数図(actocardiogram、ACG、1984、前田):胎児安静期とノンリアクティブを鑑別し、また生理的・病的サイナソ
イダルを鑑別して疑陽性NSTを除外した。5 胎動指標値を設定し、指標値で計量的に1~4F相当の4行動期(安静・活動・
中間・高度活動期)を分類した。胎児中枢神経疾患A/B(acceleration/burst) 時間比の順位が諸隈の胎児中枢神経疾患行動
機能順位と一致したのでA/B時間比と中枢神経疾患重症度の回帰式を作成し、さらに10-0順位に修正した。胎児中枢神経疾
患、それ以外の胎児疾患、及び正常妊娠計29例のA/B時間比による重症度を同時に表示すると重症度5~6に間隙があり軽重
2群に分かれ、同重症度は中枢異常に関らず胎児疾患に共通かと思われた。高度胎児水腫例の重症度推移は疾患経過を最も
明瞭に表現した。無脳症胎児の胎動波形は独特で、中枢神経疾患の胎動は非中枢神経系疾患より強度であり、特徴的な胎動
制御が考えられた。
グレイレベル(GLHW)超音波組織特性:超音波画像ピクセル諸計量中、ヒストグラム底辺長(gray-level histogram width,
GLHW)には諸条件の影響が少ない。本指標は最大・最小ピクセル・グレイレベル差であり、自動計測できる。周産期では3
度胎盤(宇津)、羊水混濁・胎児PVE(山本)が高値で、胎児未熟肺では成熟肺及び胎児肝より低い(芹沢)。
超音波ドプラ胎児各弁膜信号の長時間記録も原信号計測があって完成したし、今後は超音波画像ピクセル・グレイレベル入
力の人工神経回路網組織診断や、独立要素解析による信号抽出など、計量の必要な諸研究が考えられる。
98
教育講演 6
大きく変わろうとしている新生児マススクリーニング
島根大学医学部小児科
山口 清次
緒言
「新生児代謝異常マススクリーニング」は、知らないで放置するとのちに障害の出てくるような先天性の代謝性疾患を新
生児期に見つけて、早期治療を開始することによって障害を予防する事業である。わが国では昭和 52 年に始まり、これまで
に約 8,000〜9,000 人の小児が障害から免れたといわれている。現在では「ガスリーテスト」という代名詞で新生児スクリー
ニングの社会的意義は一般社会に認知されている。しかし新生児スクリーニングをとりまく環境は大きく変わり、スクリー
ニング事業の効率化と立て直しが必要な時期にきている。今後の新生児スクリーニングのあり方について述べたい。
新生児スクリーニング事業開始 30 年間の環境の変化
スクリーニング事業開始以来、取り巻く環境はいくつかの点で変化している。すなわち、1)少子化の予想以上の進行、
2)国の経済状況の変化、3)患者家族の意識の変化、4)タンデムマスなどの画期的なスクリーニング検査技術の開発、
あるいは5)画期的な治療技術の開発などである。
タンデムマス導入によるスクリーニング対象疾患拡大
1990 年代に確立した「タンデムマス法」は最近急速に普及するようになり、従来の「ガスリーテスト」にとって代わろう
としている。現在スクリーニング対象疾患は6疾患であるが、タンデムマスを導入すると1回の検査で 20 種類以上の代謝疾
患をスクリーニングできる。検体として従来の血液ろ紙をそのまま使用でき、さらにランニングコストは現行の方法とあま
り変わらず、感度はガスリー法よりも良好である。対象疾患は、アミノ酸代謝異常(現行の3疾患を含む)の他、有機酸代
謝異常、脂肪酸代謝異常がスクリーニングできるようになる。
有機酸•脂肪酸代謝異常とは何か
有機酸血症はアミノ酸の中間代謝過程の障害によって起こり、脂肪酸代謝異常症はβ酸化系の酵素異常によって起こる。
これらの中には、ふだん正常とかわらぬ生活をしていながら、感染などのストレスが加わったとき急性脳症、突然死のよう
な症状で発症する疾患が少なくない。新生児スクリーニングによって発症前に発見されれば障害の予防に役立つ。これまで
はフェニルケトン尿症やクレチン症のように、知らずに放置すると知能障害が起こる疾患を対象としてきたが、今後は突然
死や急性脳症の発症するポテンシャルもあわせてスクリーニングできるようになる。
新しい技術の導入にともなう新しい体制作り
タンデムマスによってスクリーニング対象疾患は拡大する。しかし「隠れている病気をただ見つけただけ」では目的を達
成したことにならない。新技術を導入するにあたって重要なこととして以下の点があげられる。すなわち、1)新しい対象
疾患の自然歴の調査、2)わが国における疾患頻度と費用対効果の検討、3)対象疾患がスクリーニングで発見されたとき
の診療支援体制の整備、4)酵素•遺伝子診断を含む確定診断体制ネットワークの構築、5)患者追跡体制の整備、6)検査
施設基準の見直し(例えば年間約3万検体以上を一つの施設で検査)によるスケールメリットの向上、あるいは7)精度管
理体制の整備などがあげられよう。
おわりに
わが国では「少子高齢化」が社会問題となっている。新生児スクリーニングの拡大•充実は、安心して出産、育児のできる
社会の整備、医療費低減と国民福祉向上へ貢献し、結果的に少子化対策にも役立つ。わが国の新生児スクリーニングは、今
大きな転機にある。
99
教育講演7
周産期循環異常の病態と治療
財団法人脳神経疾患研究所附属総合南東北病院小児・生涯心臓疾患研究所
中澤
誠
人生最大の生体変化の起こる「出生」に対してヒトは種々の対応を通してこの難関をサーバイヴする。然るに、なんらか
の異常があれば、この対応が破綻をきたし生命の危機を招く。循環の確立・安定化はヒトの生命維持に最も基本であり、こ
こでは循環器異常を来たす病態をレビューし、個々の病態に応じた治療戦略・方策の功罪を述べる。
先ず総論として、正常出生時の心臓への後負荷増大、未熟な心臓の生理学的特性を示し、それが病的に作用ないし顕在化
する病態の基礎とその対処法を述べる。次いで各論的として、胎児期・新生児期に発症する幾つかの心疾患による循環異常
の基礎病態を解説し、その治療の実際と評価法を示す。この各論では、動脈管依存性疾患、弁狭窄性・逆流性疾患、血流転
換疾患(完全大血管転換症、総肺静脈還流異常症)、肺血流量増加疾患、そして当然それらの複合疾患などについて、薬物治
療、カテーテル治療、吸気内酸素濃度調整(高濃度酸素、低酸素吸入)などの内科的治療法の効果と限界・副効果を述べる。
100
教育講演8
新生児慢性肺疾患の新しい考え方
神奈川県立こども医療センター新生児科
大山 牧子
新生児慢性肺疾患(CLD)の概念が変わりつつある。人工換気と酸素毒性などの出産後因子による気管支肺異型成(BPD)
の頻度は低下し,より未熟な児に発症する CLD が増加してきた。後者の CLD の危険因子として,周産期感染症・炎症,動
脈管開存症,肺胞と肺血管の発育障害がクローズアップされてきた。なかでも,出産前因子として,未熟性と絨毛膜羊膜炎
(CAM)が重要視されている。
本講演では,はじめに CLD の出生前因子としての絨毛膜羊膜炎の最近の知見に触れる。次に,著者が CLD の病因を胎盤
病理から検索する過程で得た知見を,亜急性絨毛膜羊膜炎(SCAM),絨毛膜羊膜ヘモジデローシス(DCH),および羊膜壊死
を3つの keywords として述べる。最後に,胎盤所見を取り入れて CLD を分類することで見えてきた各病型の特徴について
考察する。
今後の展望
胎盤所見に基づく新しい CLD の分類により,CLD は RDS を基盤とするもの,遷延性感染(炎症)を基盤とするもの,
および反復する母体血の吸引によるものという3つの病因が明らかになった。今後,これらの病因別に CLD 症例の蓄積が
なされ,早産予防と出生前後の肺障害の予防が可能になることが望まれる。
参考文献
・ Ohyama M, Itani Y, Yamanaka M, et.al. Maternal, neonatal, and placental features associated with diffuse
chorioamniotic hemosiderosis, with special reference to neonatal morbidity and mortality. Pediatr 2004 Apr;
113:
800-5.
・ 渡辺達也,大山牧子,豊島勝昭他,胎盤病理と臨床像から見た新生児慢性肺疾患病型分類の再検討. 日本未熟児新生児学
会雑誌 2006;18(1):72-78.
・大山牧子 瀰漫性絨毛膜羊膜ヘモジデローシスを伴う新しい新生児慢性肺疾患の1病型—亜急性絨毛膜羊膜炎,羊膜壊死,
びまん性絨毛膜羊膜ヘモジデローシスを keywords にした病因検索—日本小児科学会雑誌 2006; 110: 511-520.
101
教育講演9
B群溶連菌(GBS)感染症
順和会山王病院小児科
保科
清
1970 年代に新生児の細菌感染症の中でもっとも多い疾患として脚光を浴びたのは、1973 年に Franciosi RA et al と Baker
CJ et al が症例をまとめた報告を同じ J.Pediatr.に掲載されたのがきっかけとなった。日本での最初の報告は、1978 年の仁
志田らによるものと思われる。
その後も種々の検討がなされ、保菌妊婦の検出に加え、何とか母親の血清抗体を測定して、保菌妊婦で抗体価の低い妊婦
を抽出して、その妊婦から出生する児への対応も検討された。GBS には、Ⅰa,Ⅰb 型、Ⅱ、Ⅲ型などのように Lancefield の
血清型があり、検出菌の血清型別を行い、対応する血清型の抗体価を測定しなければならないという問題があって、研究に
も実際のスクリーニングにも応用されにくい状況であった。
血清型は、Ⅰ~Ⅴ型までは決まっていたが、型別不能とされていた発症例からの検出菌株も、1990 年代に WHO により
NT6 株がⅥ型、7271 株がⅦ型、JM9 型がⅧ型と認定されて、その血清型も判定できるようになった。
GBS に対する抗体を持っている妊婦からの出生児では、妊娠 35 週以後であれば抗体が児に移行して発症を防げる可能性
もあるが、防げる確率は不明であった。
それならば、抗体保有の有無にかかわらず、分娩のために入院したか、陣痛発来とともに抗生剤を妊婦に点滴投与するこ
とが検討され、現在までこの方法が推奨されている。
GBS を保菌していれば、必ず出生児が発病するとは限らないし、保菌している GBS の血清型によって感染症を惹起しや
すいかどうかの問題もある。
妊婦 GBS 保菌株の血清型別分布も、欧米と日本でかなり違っていることも分かった。
1990 年代に入って、米国小児科学会と産婦人科学会より相次いで予防対策が提言され、1996 年に CDC から危険因子を
重視した予防対策が示された。
その後、GBS 感染症はかなり減少したが、それでも新生児細菌感染症の主要な原因菌であり続けていたため、2002 年に
CDC が改訂版を出した。
この改訂版は、危険因子よりも、妊娠 35~37 週における培養結果を重視した予防対策となった。
日本では、諸外国に比して発症率が低いためもあってか、産婦人科の先生方に全面的なご協力を受けにくかった。最近は
CDC 改訂版に準拠しているとは言えないが、妊娠 35~37 週における産道培養は実施されているようである。ただ、分娩時
に妊婦への抗生剤投与が実施されているかどうか、分娩が他院となったときに連絡がとれているかどうかなどは、まだ充分
とは言えない状況である。
新生児 GBS 感染症は、現在でも死亡ないし後遺症が残存する率の高い疾患である。
日本における出生数が減少している中で、発症率は低くても、新生時期から乳児期早期における細菌感染症の主要な位置
を占めていることには間違いない。一人でも多くの児が健全に成長するために、さらなるスクリーニングによる予防対策の
実施が望まれる。
102
教育講演 10
Scientific approach to secure transport to the healthy infant
1 University Medical Centre, Ljubljana, Slovenia
2 Massachussets General Hospital, Boston, U.S.A
Lilijana Kornhauser Cerar1, Irena Štucin Gantar1, David Neubauer1, Damjan Osredkar1,
Thomas Bernard Kinane2
More than 30 years ago, American Academy of Pediatrics (AAP) gave the recommendation for the universal use of car
seats for infants. (1) The implementation of the policy has resulted in the widespread use of these safety devices not
only in the U.S.A., but also in most European countries. There is no question that the car seat remains one of the most
effective strategies available to protect children from car injury and death in the early years of life. (2) However, with
time some unforeseen consequences occured, such as positional problems and the risk of respiratory compromise in
premature or low-birth-weight infants when placed in a semi-upright position in car safety seats. Such problems,
possibly related to excessive head flexion on the body leading to restriction of the upper airway, were first reported by
Bull and Stroup in 1985. (3) Several subsequent studies gave evidence that premature infants have periods of oxygen
desaturation, bradycardia, or apnea while positioned in the upright car seat. (4, 5) Because of these findings, specific
AAP policies were published in 1991 and 1996, regarding transportation and proper positioning of small infants at
possible risk of respiratory problems. For these infants, a recommendation was given to perform car safety seat testing
before discharge from the hospital. (6, 7) Abnormal cardiorespiratory events during such testing, e.g. apnea and/or
bradycardia, or even the finding of periodic breathing accompanied by mild oxygen desaturation only, should lead to
consideration of an alternative mode of transportation (8): either in a car bed (6) or in a modified car seat described by
Tonkin with coworkers. (9)
The study performed by Willet demonstrated normal polygraphic results in full-term infants. (4) On the other hand,
selected high risk full-term infants were found to have increased risk of developing hypoxia in a study by Bass et al. (5)
Merchant with coworkers showed that mean oxygen saturations declined significantly in both minimally premature
(born at 35-36 weeks' gestation) and healthy term infants: from 97% in the supine position to 94% after 60 minutes in
their car seats. (10) However, eight percent spent even more than 20 minutes with oxygen saturation values between 85
and 90%. As steady-state oxygen saturation values below 90% are not normally seen in healthy infants (11), such values
were indicating suboptimal oxygenation of these babies in the upright position. Similar results were found in the study
of Nagase et al.: in healthy full-term newborns mean oxygen saturation with the chair-shaped car seat (95.8%) was
significantly lower than that with the bed-shaped car seat (98.8%). (12) Newborns in the upright position had also
significantly more episodes of mild (<95%, >10 s) or moderate (<90%, >10 s) desaturation. In a recently published study
by Kinane et al., healthy term newborns were placed either to car seat or car bed position. Substantial period of time
with low oxygen saturation was noted in both groups, however, there were no significant differences in respiratory
physiologic features between the two groups. (13)
It has been generally accepted that the potential for harmful effects of such hypoxic events are substantially offset by
the crash protection afforded by these devices. Unfortunately, the portability of car seats and contemporary busy
lifestyles are resulting in infants spending extended periods of time in the car seat for reasons other than transport.
Callahan with coworkers found in 187 infants that 94% spent 30 minutes or longer in seating devices including car
103
seats each day; 19% of the infants spent even 8 hours or longer out of each day in them. The mean (± SD) time spent in
seating devices was 5.7 ± 3.5 hours per day and ranged from 0 to 16 hours. (14) Prolonged use of car seats in infants who
are too young to sit unsupported may also result in prolonged periods of oxygen desaturation.
A comprehensive review of peer reviewed published evidence noted that hypoxia has been frequently associated with
significant defects in cognition. (15) In some studies changes in cognitive function were seen with even mild levels of
oxygen desaturation. Such changes were observed in all groups except premature babies, who may be relatively
resistant, as their physiology is adapted to the relatively hypoxic intrauterine environment. However, the results from a
study by Hunt et al. suggested that also premature infants have a decreased neurodevelopmental performance after
such events. (16)
Current information therefore indicate that, in addition to infants born prematurely, near-term and term healthy
newborns may experience oxygen desaturation while properly positioned upright in car safety seats when compared to
positioning in a car bed. Although supine position in the car bed may overcome the position dependent airway instability,
gastro-esophageal reflux may occur, potentially resulting in significant apnea.
To compare respiratory physiologic features of healthy term infants placed either in upright or supine position, we
performed an observational prospective study at Maternity Hospital (MH) at University Medical Centre Ljubljana,
Slovenia, which is a tertiary perinatal centre with approximately 5500 deliveries per year. Equipment for the study was
funded by Aprica Childcare Institute from Osaka, Japan. The study was approved by National Medical Ethics
Committee and informed consent was obtained from the mothers of all participating infants. Between June and
November 2006, 200 healthy term infants were recruited. Criteria for inclusion were: gestational age at birth between
38 and 41 weeks, birth weight of 2800 to 4000 grams, birth by vaginal delivery, normal physical examination results,
and healthy mother (no history of chronic or pregnancy related diseases). Every child was tested in both positions,
namely in car seat and car bed position, as we decided to perform a direct comparison of respiratory physiologic features
in the same child.
The measurements were performed on second postnatal day, between feedings and after a diaper change when the
infant could be left undisturbed for the time required for the study. Each infant was first assigned to the control supine
position which was established by placing the infant face up in a standard hospital crib for 30 minutes. The order of the
next two positions was randomly assigned - either to car bed as the 1st position with placing the infant face up in an
Aprica Car Bed for 60 minutes, or the car seat, using a standard Römer car seat that results in 45o angle relative to the
horizontal, for the same time duration. After 1 hour ob observational time, the baby was tested in the position
randomized as the 2nd position.
A portable multi-channel recording system (Tyco Sleep Apnea Recorder HypnoPTT®) was used for physiological testing,
which included oxygen saturation, heart and respiratory rate, chest wall excursions, and oronasal air flow
measurement (thermistor). Recorded parameters were exported to a personal computer using a serial cable. For the
analysis, the data were read in real time mode and partly analyzed automatically with the HypnoScan® polygraphic
software.
104
The computer based analysis has not been completed yet. Currently, each recording is being interpreted by two
reviewers and scored for mean oxygen saturation and heart rate, time and percentage of study with oxygen saturation
of more than 95%, between 90 and 94.9%, 85 and 89.9%, and less than 85%, frequency and duration of bradycardia, for
frequency, duration and type of possible apneas, longer than 10 seconds, and frequency and duration of hypopneas,
defined as decrease in air flow of 50% with decrease in oxygen saturation for at least 4%.
As the data from the study by Merchant et al. suggest that observational period of 1 hour might be too short to detect all
respiratory adverse effects (10), we decided for phase II of the study, in which between December 2006 and March 2007
50 infants were tested for a longer period of time (2 hours in each position). Kinane et al. suggested that the harness
tension and the position of the buckle could also influence the results. (13) Another study with placement of infants in
the car seat or bed with loose or detached harness could answer this question. Our study has been done in conditions
without movement and vibration that may have diverse influences on the newborn during car transportation. However,
this aspect is being investigated by Aprica Childcare Collaborating Centre in Japan.
We hope that the results from our study will be helpful in finding the answers to at least two questions: "Does position
influence cardiorespiratory function in full-term newborns?" and if yes, "Which is the safest mode of home
transportation in these children?".
Literature:
1.American Academy of Pediatrics, Committee on Injury and Poison Prevention. Auto safety for the infant and young
child. AAP news, 1974; 10: 11.
2.United States Preventive Services Task Force. Guide to Clinical Preventive Services: an assessment of the
effectiveness of 169 interventions. Baltimore, MD: Williams & Wilkins; 1989: 316.
3.Bull MJ, Stroup KB. Premature infants in car seats. Pediatrics 1985; 75: 336-9.
4.Willet LD, Leuschen MP, Nelson LS, Nelson RN. Risk of hypoventilation in premature infants in car seats. J Pediatr
1986; 109: 245-8.
5.Bass JL, Mehta KA, Camara J. Monitoring premature infants in car seats: implementing the American Academy of
Pediatrics policy in a community hospital. Pediatrics 1993; 91: 1137-41.
6.American Academy of Pediatrics, Committee on Accident and Poison Prevention. Safe transportation of premature
infants. Pediatrics 1991; 87: 120-2.
7.American Academy of Pediatrics, Committee on Accident and Poison Prevention and Committee on Fetus and
Newborn. Safe transportation of premature and low birth weight infants. Pediatrics 1996; 97: 758-60.
8.Ojadi VC, Petrova A, Mehta R, Hegyi T. Risk of cardio-respiratory abnormalities in preterm infants placed in car
seats: a cross-sectional study. BMC Pediatrics 2005; 5: 28-33.
9.Tonkin SL, McIntosh CG, Hadden W, Dakin C, Rowley S, Gunn AJ. Simple car seat insert to prevent upper airway
narrowing in preterm infants: a pilot study. Pediatrics 2003; 112: 907-13.
10.Merchant JR, Worwa C, Porter S, Coleman JM, deRegnier RAO. Respiratory instability of term and near-term
healthy newborn infants in car safety seats. Pediatrics 2001; 108: 647-52.
11.Poets CF, Stebbens VA, Lang JA, O'Brien LM, Boon AW, Southall DP. Arterial oxygen saturation in healthy term
105
neonates. Eur J Pediatr 1996; 155: 219-23.
12.Nagase H, Yonetani M, Uetani Y, Nakamura H. Effects of child seat on the cardiorespiratory function of newborns.
Pediatr Int 2002; 44: 60-3.
13.Kinane TB, Murphy J, Bass JL, Corwin MJ. Comparison of respiratory physiologic features when infants are placed
in car safety seats or car beds. Pediatrics 2006; 118: 522-7.
14.Callahan CW, Sisler C. Use of seating devices in infants too young to sit. Arch Pediatr Adolesc Med 1997; 151: 233-5.
15.Bass JL, Corwin M, Gozal D, Moore C, Nishida H, Parker S, et al. The effect of chronic and intermittent hypoxia on
cognition in childhood: a review of the evidence. Pediatrics 2004; 114: 805-16.
16.Hunt CE, Corwin MJ, Baird T, Tinsley LR, Palmer P, Ramanathan R, et al. Cardiorespiratory events detected by
home memory monitoring and one-year neurodevelopmental outcome. J Pediatr 2004; 145: 465-71.
Address for correspondence:
Lilijana Kornhauser Cerar, MD, MSc
Division for Perinatology, Department for Obstetrics & Gynecology, University Medical Centre, Zaloška 11, SI-1525
Ljubljana, Slovenia
e-mail: [email protected]
106
教育講演11 感染症モニタリング(CRPの臨床的意義)
東京女子医科大学母子総合医療センター
佐久間
泉
はじめに
新生児の感染症は急激に全身感染症に移行しやすいため、感染の早期発見、早期治療が大切であるにも拘わらず、発熱など
の臨床所見および血液検査データ上の変化が乏しく、発見が遅れやすいという特徴がある。このような新生児感染症のモニ
タリングに有用な血液変化の特徴について言及する。
1.CRP
CRP は 1980 年代になって微量の検体で迅速に Bed side で測定できるようになり、客観的評価が得られるという点で、新生
児感染症のモニタリングに非常に有益なものとなった。しかし、一点の測定では上昇がみられず有用でなかったとする報告
や感染以外でも仮死、早期破水、呼吸窮迫症候群、脳内出血などにより、非特異的に上昇するとの報告があり、実際に使用
する際にはいくつかの CRP の特性をよく知ったうえで用いることが肝要である。CRP は通常は、組織障害の 12 時間後より上
昇を開始し、約 48 時間でピークに達するが、上昇するまでの時間の個人差が大きく、半減期が 4〜6 時間と短い。また、感
染症例において抗生剤治療の効果がでると CRP は比較的速やかに減少してしまう。このような特性に加えて、新生児におい
ては、感染症の有無に拘わらず、生後 24〜48 時間をピークとする生理的な上昇がみられる。この生理的な上昇は著者らの検
討によって、分娩のストレスが原因であることが証明された。具体的には、男女比、平均在胎週数・出生体重、Apgar score
をマッチングさせた 32 例(合併症無し、感染兆候無し)を、出生方法によるストレスが大きいと考えられた初産の経腟分娩
群 16 例(Group A)と、ストレスが小さいと考えられた陣痛発来前の帝王切開群 16 例(Group B)に分類し、それぞれの臍
帯血のカテコーラミン、コルチゾール及び出生後3日間の CRP の値を計測して検討した。その結果、CRP は両群とも生後 24
〜48 時間をピークに上昇してその後漸減し、生後 24 時間の CRP は GroupA(0.81mg/dl)が、GroupB(0.18mg/dl)より有意に高
値であった。また、CRP ピーク値も GroupA(1.23mg/dl)が GroupB(0.31mg/dl)より有意に高い値を示した。加えて、ストレス
ホルモンであるコルチゾールの臍帯血中値は GroupA(21.1pg/ml)が、GroupB(14.4pg/ml)より有意に高値で、ストレスの違い
を反映する結果となった 。さらに、コルチゾールと CRP のピーク値は正に相関し、CRP が分娩のストレスに鋭敏に反応する
ことが証明された。このように、CRP は出生後に生理的変動があり、しかも、その変化は分娩のストレスによって異なるた
め、一点の測定ではなく、経時的な変化を追う serial CRP を利用することが大切である。そして、連続測定の CRP を、分娩
のストレスによる出生後の生理的変動を考慮した上で感染のモニタリングとして用いると、抗生剤を早期に中止することも
可能となる。
2.IL-6
IL-6 は B 細胞の抗体産生細胞への分化を誘導するのみならず、造血・神経系細胞の分化・増殖や、肝細胞での急性期蛋白誘
導など、多彩な生理活性をもつサイトカインである。加えて、in vitro の実験で、早産児の IL-6 産生能はやや劣るものの、
成熟新生児では成人と変わらない IL-6 産生能が認められ、また、母体の IL-6 は胎盤を通過せず、臍帯血や新生児の IL-6
は児由来であることが明らかになった。このため、CRP などの他の急性期蛋白に先行して上昇する IL-6 を早期発見、早期治
療を要する新生児感染症の炎症のマーカーに用いる試みがなされ、IL-6 が 50〜100pg/ml 以上では感染の可能性が高いとさ
れている。しかし、IL-6 も CRP と同様に、出生後の生理的な変動があり、利用に際しては、その特性を理解する必要がある。
著者らの検討では、正常新生児の IL-6 は CRP と同様に出生後上昇してその後漸減するが、そのピークは生後 12 時間で、生
後 24〜48 時 間の CRP の ピークに先 行 することが 明 らかになっ た 。また、IL-6 ピーク値 も GroupA(222.2pg/ml)が
GroupB(33.3pg/ml)より有意に高い値を示し、IL-6 と CRP のピーク値は相関することも確認された(r=0.909、p < 0.0001)。
また、IL-6 のピーク値は臍帯血中のカテコーラミン、コルチゾールと正の相関を示し、分娩によるストレスを反映していた。
これにより、正常新生児の IL-6 は出生後に上昇して、生後 12 時間をピークにその後漸減し、その原因が分娩のストレスに
よることが明らかになった。従って、IL-6 を感染症の指標として用いる場合も、この生理的特性を理解し、serial CRP と
同様に、分娩のストレスの程度を考慮したうえで、連続測定を基本として臨床応用することが大切である。
107
教育講演12 新生児TSS様発疹症NTEDの全体像
自治医科大学総合周産期母子医療センター
高橋 尚人
新生児 TSS 様発疹症(NTED)は、最初の報告から 13 年を迎えた。この間、疾患概念の確立、原因の解明から病態の解析と多
くの臨床的・基礎的知見をもたらした。本講演では、NTED の歴史を概説し、NTED が教えてくれた重要な知見を総括したい。
1994 年の日本新生児学会で、当時原因不明の新生児発疹症として、東京女子医大で見られた症例を報告した。その後、厚
生科学研究班の一部に研究会(会長:仁志田博司)が組織された。そこでの調査により、本疾患が決して一部の施設の問題
でないことが判明した。96 年より、本疾患の原因として、MRSA が産生する毒素の可能性が、いくつかの施設から報告された
が、保菌児の多くは発症していないこと、また抗毒素抗体の変動も特異的でなく、原因の特定は容易でなかった。実は、こ
の 95 年から 97 年にかけての時期は、後に原因として明らかとなるスーパー抗原の研究上でも重要な、T 細胞レセプター、
MHC クラス II、さらにはスーパー抗原の三次元構造が解明された時期であった。当時、私はトロント留学中であったが、97
年に帰国後、患児の末梢血 T 細胞を解析したところ、TCR V・2 陽性 T 細胞が正常の約 3 倍に増幅していた。この結果から、
1997 年の日本未熟児新生児学会で、原因が toxic shock syndrome toxin-1(TSST-1)であると結論し報告した。同時に、疾患
名を、発症機序は TSS と同じであること、しかしながら TSS とは病態が大きく異なること、新生児特有の疾患であること、
などから新生児 TSS 様発疹症(NTED)を提唱した。その後、病態解明が急速に進み、診療上のいくつかの疑問が解決されたの
みならず、NTED は現在、ヒトとスーパー抗原の関係を示す代表的かつ貴重な疾患となっている。
NTED がもたらした最大の知見は、スーパー抗原がヒト患者 T 細胞にどのような影響を与えるか詳細に示したことである。
これにより、スーパー抗原が特異的 T 細胞に与える影響は単純な増幅ではないことが判明した。すなわち、増幅直前に特異
的 T 細胞は一旦、末梢血から消失し、急激な増幅期が数日続いた後、再度急速に減少する。このことは、スーパー抗原の関
与の診断を、増幅のみで行うのは危険であることを示しており、我々は活性化マーカーとしての CD45RO との double staining
を応用した。これらの診断方法は現在、TSS を初め他のスーパー抗原による疾患にも応用されており、また保険診療ではな
いが、SRL 社で「TSSA」の項目名で誰でも検討できるようになっている。
第二に重要なのは、MRSA についての知見である。NTED が本邦に広まった時期は、MRSA が NICU においても社会問題化した
時期であった。全国から NTED 患児由来 MRSA 株を譲り受け、遺伝子解析を行ったところ、株はほぼ単一クローン由来と判断
され、90 年代に本邦で広まった株と同じと考えられた。このように、NICU で保菌される細菌は決して病院・社会に蔓延する
細菌と無関係でないことが判明した。同様のことは将来、多剤耐性緑膿菌などにも言えるかもしれず、注意が必要である。
しかしながら、最近の NTED 全国調査では、原因として MRSA ではなく、MSSA による症例が増加している。これは NTED の流
行の様子が変わってきていることを示すだけでなく、NTED は古くから存在した疾患である可能性も想起させている。
第三には、臨床上の本疾患の重要性が明らかとなったことである。特に早産児では、無呼吸、DIC などの頻度が高いだけ
でなく、死亡例も報告されている。また、呼吸器および消化管粘膜への障害も診療上、重要と思われる。
最後に、最も興味深い知見は、TSS と比較した場合の軽症性についてである。もし、NTED が TSS のような病態であれば、
NICU 医療に非常に多大な損害を与えたと推測される。新生児特有の免疫応答が幸いしたのは事実であり、新生児免疫寛容の
易誘導性、母体からの移行抗体による抑制性も証明されている。最近、さらに、新生児は NTED において、積極的にサイトカ
インストームを抑制している可能性を示唆する知見が得られており、講演の中で紹介したい。NTED は新生児の免疫といった
基礎的なテーマにも知見を与えてくれつつある。
このように、NTED はスーパー抗原による疾患の知見を大きく変え、その疾患の代表となった。いまだに発症例の報告は海
外では多くないが、その臨床的・基礎的知見は多方面から興味をもたれている。NTED に関わる研究は、東京女子医大微生物
免疫学教室や調査に協力いただいた全国の方々の協力があればこその研究であり、この場を借りてすべての方に感謝申し上
げたい。
108
教育講演13 安定同位元素のC13の新生児医療への展開
帝京大学小児科
星
順
同位体の発見は 1 世紀以上以前に遡る。放射性同位体の発見は 19 世紀末であり、安定同位体は電子を発見したJJ
Thomson が 1912 年に質量分析器にてネオンの同位体を発見、さらに Kings と Birge が 1929 年に 13Cを発見した。
物質の最小単位である原子は原子核と周囲を運動する軌道電子からなり、原子核はプラスに荷電した陽子と帯電のない中
性子から構成される。原子の性質は陽子数(原子番号)で決定しているが、自然界には中性子数の異なる原子が存在しそれ
らを同位体と呼ぶ。同位体には自然界に安定して存在する安定同位体と、時間とともに放射線を発して(放射線崩壊)安定
な元素に変わっていく放射性同位体が存在する。例えば、炭素の同位体には安定同位体
12C・13Cと放射性同位体 10C・11
C・14C・15Cがある。安定同位体の存在比は 98.9:1.1 であるが放射性同位体は極僅かしか存在しない。かつ 14C以外の放
射性同位体は半減期が秒単位以下であり、年代推定に用いられるのは半減期の長い 14C(半減期約 5730 年)である。
同位体は質量と物性が僅かに異なるものの、多くは同じ元素として自然界で振る舞う。同位体のこのような性質から以下
のような様々な分野で利用されている。
地球科学的応用:物質の同位対比を質量分析器で測定することで、年代測定や産地の推定また地理的移動の推定が可能であ
り、考古学、地学、食物連鎖や物質循環などの生態学、有機塩素化合物の動態(環境汚染)等数多く利用されている。
植物学的応用:生態学の中でも植物における応用は、光合成による大きな同位体分別が知られており多くの研究がなされて
いる。同位体分別とは生態系等のある循環を元素が巡るうちに同位体比に変化が見られることをいう。植物は光合成の種類
によりC3植物・C4植物等に分類されるが、これらは
13Cの存在比が異なるため 13Cの分析にて分類可能である。またC
3植物における葉内の CO2 分圧と 13C存在比が比例することを利用し水利用効率の推定が簡便に行える。
有機化合物構造決定:有機化合物の構造解析には赤外分光法、X線結晶解析法、NMR法等がある。多種多様な蛋白質を網
羅的に解析するには後二者が主流である。さらに近年NMR法では蛋白質を 13C、15N、2H等の安定同位体で標識し異核種
多次元NMRを測定し構造計算を行うのが一般的となった。
医学応用:現在一般臨床で使用されている安定同位体は 13C尿素呼気試験のみである。平成 12 年に保険適応となって以来、
内視鏡を要しない簡便で安価な検査法として普及している。1983 年 Warren らにより分離され上部消化管疾患の原因と目さ
れている H.pylori の胃内の存在を診断するため検査法である。また、間接的ではあるが腫瘍診断用のPETに用いる 18F-
FDGはサイクロトロンによってH218Oから合成されている。
質量分析法・レーザー分光法等の高精度な測定法や赤外分光法のような簡便な測定法の開発が研究や臨床における応用の多
様化をもたらしてきた。安定同位体の医学応用は、標識したアミノ酸・糖・脂質・薬剤などを生体に投与して、呼気・血液・
尿や in vivo での標識物質または代謝産物を測定し代謝のメカニズムや生体内での機能に関する研究等が行われている。特に
13Cは
1985 年に 13C医学応用研究会が始まり基礎研究から臨床応用まで多くの研究が行われている。新生児領域では確立普
及した安定同位体の利用法は存在しないが、被爆がなく使用量が少量であるなどの利点から臨床研究は稀有ではない。
おもにそれらをレビューすることで新生児医療における安定同位体利用の展望の考察を試みる。
109
教育講演 14 胎児・新生児にはたすアクアポリンの役割
慶應義塾大学医学部薬理学教室
安井 正人
体内水分バランスは、生体の恒常性維持機能の最も重要な調節機構である。水分バランスの不均衡は、様々な病態に伴っ
て認められ、その補正が治療上有効となることが多い。水チャネル、アクアポリンの発見は、体内水分バランスや分泌・吸
収に対する我々の理解を分子レベルまで深めることとなった。腎臓における尿の濃縮・希釈はもちろんのこと、涙液・唾液の
分泌にも重要な働きをしている。
現在まで、哺乳類では13種類のアクアポリン(AQP0—AQP12)が確認されている。また、植物ではその数は 30 以上にもな
る。アクアポリンファミリーは、そのアミノ酸配列の相同性と機能から大きく2つのグループに分けられる。
水分子のみを
通過させるグループ(アクアポリン)とグリセリンなどの小物質を通過させるグループ(グリセロポリン)である。
最近、
それぞれのグループを代表する AQP1(ヒト由来)および GlpF(細菌由来)の3次元的立体構造が解明された。それぞれのポア
(通過孔)の構造から、水分子あるいはグリセリンに対する選択的透過性の機序が説明可能となった。
実際、これらの構造
を基盤に水分子あるいはグリセリンがいかにしてアクアポリンを通過するか、コンピューター上で再現できるようになった。
水分子がこの穴を通るスピードは予想以上に速く、計算上、一秒間に3x109 個の水分子がアクアポリン一つの穴を通過
すると考えられている。また、アクアポリンがなぜイオンに対して不透過か、その分子機構が明らかになりつつある。
アクアポリンはほぼ全身にわたって分布している。それぞれのアクアポリンはユニークな組織分布を示しており、それぞ
れに特有の生理的意義が示唆されている。
例えば、AQP0 とレンズ透過性、AQP2 と尿の濃縮、AQP5 と唾液の分泌などである。
また、グリセリン系の代表として、AQP3 と皮膚の保湿、AQP7 や AQP9 と脂質代謝などがあげられる。最近では、アクアポリ
ンと疾患との関連も徐々に明らかになりつつある。例えば、白内障、尿崩症(尿が濃縮できない病気)、口腔内乾燥症、乾燥
肌などがある。中でもその調節や、病気との関連が最もよく理解されているのは、腎臓にある AQP2 である。AQP2 の遺伝子
に異常があると、先天性の尿崩症になる。また、躁うつ病の治療でリチウムが長期にわたって投与されると AQP2 が減少し、
二次性の尿崩症になる。逆に妊娠に伴う浮腫や高血圧、うっ血性心不全などでは、AQP2 が増えすぎることで体内に余分な水
分が貯留してしまう。このような場合、AQP2 に対する拮抗薬が開発されれば、大きな治療効果をもたらすことが期待されて
いる。
地球上の生物は最初、海の中で誕生し、長い年月をかけて上陸してきた。「系統発生は、個体発生の中で再現される。」
という説が示すように我々ヒトも羊水の中で約10ヶ月間過ごし、外界(空気中)に誕生してくる。実際、出生前後は体
内水分分布の変化や水の移動が一生の中で最もドラマチックに起こる時期である。新生児は十分なあるいは余分な水分を
持って生まれてくるが、その後、負の水バランスが続き、数年でその体内水分含量は大人と同じになる。そして、加齢と
ともに体内水分含量は徐々に低下していく。そのような水分含量調節過程におけるアクアポリンの役割も明らかになりつ
つある。特に羊水調節、出世時における肺水のクリアランス、乳児の尿濃縮能の未熟性とその発達とアクアポリンの関連
などに焦点を絞って話を進めていきたい。
110
会長講演
周産期・新生児医療から学ぶあたたかい心
東京女子医科大学母子総合医療センター
仁志田 博司
我が国の乳児死亡率は1988年に4.8と人類史上初めて夢の5に壁を破ったが、その最大の要因は乳児死亡の2/3を
占める新生児死亡率が世界最小となったことである。また新生児死亡率の減少は産科・周産期医療の進歩に追うところが大
きいことは言うまでもない。さらに2004年には、乳児及び新生児死亡率は各々2.8及び1.5にまでなっているが、
その輝かしい成果の影で私達は幼い児の命を救うことに目を奪われ、それらの子ども達にあたたかい心を育むことを忘れて
いたことが気付かれるようになった。
未熟児医療の進歩によって、超早産で出生した児であっても視力や聴力が正常であるばかりでなく、運動障害も無くさら
にIQも正常である生存が期待できる時代になった。しかしながら、明らかな神経学的異常所見を認めずに正常と思われて
いた児の中に、周囲とのコミュニケーションが上手く取れない為に学習障害や行動異常を示す事例の存在が知られるように
なった。近年の脳科学の進歩は、そのような児において心の中枢と言われる前頭前野における高次脳機能に支障をきたして
いることを示し、さらにその要因の一つに発達途上にある脳への過剰なストレス負荷を挙げている。保育器の中で3ヶ月以
上もケアされる超未熟児が受けるストレスが如何に大きなものであるかは、窓を閉める音さえ列車が耳元を通る大きさであ
ることを考えれば、想像に難くない。さらに私達は、視力を守り脳性まひなどの神経学的障害を防ぐ目的で行う酸素濃度や
呼吸循環のモニターなどを中心とした新生児医療の中で、意図しないながらも過剰の侵襲を児に与え続けて、患児の心を育
むことを忘れていたのである。今回の招聘講演の Als 教授のグループは、我々が新生児医療の中で発達途上の幼児に如何に
多くのストレスを与えているか、またそのストレスが如何に児の心の発達に悪影響を及ぼしているかを示している。さらに、
それに基づいて Neonatal Individualized Developmental Care Program (NIDCAP) を開発して、小さな子どもにあたたか
い心を育むことの重要性を示している。
「あたたかい心」とは何であろうか。優しさや愛という言葉とも共通するが、人間が生来的に持っているより根源的なも
のであり、
「相手の苦しみや痛みを感じることの出来る心」であると言えよう。もともと人間という単語は中国由来ではなく
大和言葉であり、人と人の間を考えることが出来る社会的存在という意味を含んでいる。また「相手を思いやる」という表現
も素晴らしい大和言葉に一つであり、日本人にとって共に生きる心が社会の規範の中で如何に大切であるかを物語っている。
また近年の人類学さらに脳倫理学は、生物学的にはひ弱である人類が他のたくましい生き物に伍して厳しい自然の中を生き
抜くために、進化の過程でかち得た知恵が「共に生きることの重要性」であり、その具体的な現われが「あたたかい心」であ
ることを示している。もともと倫理の「倫」の意味は「仲間」であり、倫理とは仲間と共に生きるための論理を意味するので
ある。
本学会の最終日に、坂元正一名誉所長の追悼シンポジウムとして女子医大母子センターの20年の歩みを発表するが、特
に超低出生体重児の成育成績はその開設当時より我が国のみならず世界のトップレベルを維持している。その成果の背景に
は、医療技術や知識の向上もさることながら、周産期・新生児医療に対する「社会ダーウイズムからの脱却」の思想がある。
出生は医学的に人が最も死の危険に晒される時であるばかりでなく、家族にさえまだ認知を受けていない胎児・新生児は、
障害の有無だけでなくその可能性のみで容易に社会的選別の対象とされがちなのである。医学・医療の限界を知りながらも、
また治療を行うことがその児と家族に適切かという倫理的判断の必要性を知りながらも、医療者として「共に生きるあたた
かい心」を持ったことが、我々が他の施設に比してより多くの未熟児や重症児を助けてきた結果に繋がると確信している。
本講演では、女子医大母子センターのこれまでの成績を俯瞰し、これまで母と子の医療から学んできた「あたたかい心」の
重要性を解説する。
111
ディベロプメンタルケアセミナー
Practical Aspects of Implementation of Developmental Care
Robert Wood Johnson Medical School
and Cooper University Hospital, Camden, NJ, USA
gretchen Lawhon, RN, PhD, UMDNJ
The challenge in providing developmentally supportive acre is the integration of technologically advanced intensive
care with a sensitive and individualized approach, facilitating neurobehavioral development of the infant while
supporting parents as primary advocates and caregivers. The practical aspects of NIDCAP implementation of
developmentally supportive family centered care defy prescription and standardization due to its primary principle of
individualization. The plan of care for each infant must be thoroughly considered from the choice of bedspace and
bedding to the timing and method of feeding. Caregiving is a collaborative approach that includes family members,
nurses, physicians, therapists, and all other members of the multidisciplinary team. The infant’s caregiving may be
clustered to provide maximum periods of rest for growth and recovery. Each and every intervention should be evaluated
in terms of its potential benefit and, if necessary, planned for within the context of the full twenty-four hour experience
of the infant. The timing of the clustered caregiving should be arranged in collaboration with the family’s usual
availability to be with their infant. In this way parents will be present for caregiving interventions and supported in
actively caring for their infant’s needs. The actual sequence and pacing of the infant’s care is best determined by the
infant’s behavioral response to handling. Both the family and professional caregivers attend to the infant’s behavioral
communication as a guide to their interaction with the infant as an active participant in the experience of being cared
for. Decisions about when to offer the opportunity to suck on a pacifier or to nipple feedings are made in direct response
to the infant’s behavioral cues with sensitive assessment and evaluation of the infant’s ability and response. In this
manner the infant is supported and encouraged in progressive independent functioning based on neurobehavioral
maturation as opposed to a specific post conceptual age or weight criterion. In a similar vein the parents are encouraged
to develop their own competence and confidence in caring for their infant at their own pace. When parents have been
welcomed and supported as primary advocates and nurturing caregivers of their own son or daughter they are typically
well prepared and emotionally ready when the infant is clinically stable for discharge from the intensive care nursery.
gretchen Lawhon, RN, PhD, Clinical Nurse Scientist, Division of Neonatology, Children’s Regional Hospital at Cooper
University Hospital and Associate Professor of Pediatrics at UMDNJ, Robert Wood Johnson Medical School, One
Cooper Plaza, Suite 755 Dorrance Building, Camden, NJ 08103
Phone: 856-342-2442 Fax: 856-342-8007
email: [email protected]
112
シンポジウム 1-1.進化と文化
東京大学大学院情報学環
佐倉
統
人間の生物学的特徴は、社会と文化にあると考えられる。他の動物、とくに人間以外の霊長類と比較したときに、人間の
この2つの形質は群をぬいて高度であり複雑化している。したがって、人間の発達や社会生活や精神活動も、これらを維持
し、発展させるようにデザインされていることが多いと予想される(1,2)。
●複雑な社会
人間の社会に関しては、他の霊長類と比較したときに、とくに役割分担、共同体のまとまり、共同体への帰属意識などが
顕著である。私たちの祖先は、血縁関係にない個体とも頻繁に利他行動のやりとりをおこない、密接な共同体を形成するこ
とで、過酷な環境への適応をはたしてきたといえる。したがって人間の心のはたらきにも、社会を維持し、その規範を守る
ことを支持する傾向が生得的にプログラムされていると考えられる。実際、1980 年代に進化心理学者たちが明らかにしたよ
「人間は論理的に思考するのではなく、社
うに、人間の心理活動は社会契約を尊重し、維持するようにはたらいている (3,4)。
会的に思考する」──進化心理学では、しばしばそのように表現される。
人間がこのような有機的な共同体を必要としたのは、出産と育児の負担が大きいからだと考えられている(1,4)。その原因は
脳の大型化や直立二足歩行などが考えられる。いずれにせよ、母親単独では育児ができないため、父親との恒常的な結び付
きが必要とされ、さらには血縁個体を中心とした大家族が形成された。
●複雑な文化
社会が複雑で高度になれば、それを維持するためにはさまざまな社会的規範が必要になる。社会規範の大枠というか深層
部分は、おそらく生得的にプログラムされているだろうが、その表層部分は個々の社会のおかれた環境や条件に合わせて形
成していった方が、都合がいいだろう。とすれば、人間が出生後に社会生活を営んでいく過程で身につけていく事柄が相対
的に増加していくことになる。人間の文化的伝承システムは、その結果として生じたものでもあるだろうし、文化があるか
らこそ社会規範が維持形成されているという原因にもなっている。人間社会は、遺伝的継承と文化的伝承との二重の伝承シ
ステムによって、次の世代へと情報を伝えていく(5,6)。
人間の文化は、人間が周囲の環境を大きく変化させ、その変化によってみずからの進化の道筋に影響を与えることをも可
能にした。このようなニッチ構築(niche construction)の能力は他の動物にも見られるものだが、人間のそれは群を抜いて
いる。遺伝と文化に加えて、「三重伝承システム」と位置づけるべきだと主張している研究者もいる(7)。
●人間という生物
以上のことから、人間の生物学的特性は、その文化的・社会的特性と分かちがたく結びついていることが分かる。遺伝と
環境、あるいは進化と文化は、対立するものでもなく、分離できるものでもない。遺伝子は環境を選び、環境を改変し、そ
の変化が次の世代の遺伝子に影響する。両者セットになったひとつのシステムなのである。
これは、遺伝子が人間の特性を決定するという意味ではない。遺伝子や生物的特性も、環境や文化的特性も、どちらもが
人間という存在を形成し、生成する。遺伝子が決定するというのであれば、文化も人間を決定している。環境は常に開かれ
ていると解釈するならば、遺伝子もそうである。
進化生物学の立場から、新生児医学に何かメッセージを発することができるとすれば、
「人間の生物学的特性を無視しない
でいただきたい、しかし、文化的特性も同様に無視しないでいただきたい」ということに尽きる。両方そろって、はじめて
人間になれるのだ。
人間の「自然の姿」などというものを一義的に規定することは、まったく不可能である。仮に、ある程度そのようなもの
の輪郭を想定することができるとしても、それが必ずしも「善」であるとは限らない。自然に従うのも人間だが、そこから
逸脱するのも、また人間の本性なのである。
[email protected]
文献
(1) 佐倉統, 1997/2003. 進化論の挑戦. 角川書店.
(2) 佐倉統, 2002. 進化論という考えかた. 講談社.
(3) Barkow JH, Cosmides L, Tooby J, eds, 1992. The Adapted Mind. Oxford Univ Pr.
(4) 長谷川寿一・長谷川真理子, 2000. 進化と人間行動.東大出版会.
(5) Boyd R, Richerson P, 1985. Culture and the Evolutionary Process. Univ of Chicago Pr.
(6) Richerson P, Boyd R, 2005. Not by Genes Alone. Univ of Chicago Pr.
(7) Odling-Smee JF, Laland KN, Feldman MW, 2003. Niche Construction. Princeton Univ Pr.
113
シンポジウム 1-2.心を育む−進化精神医学の立場から−
埼玉医科大学精神医学
豊嶋 良一
テーマのとらえ方
「子どもの心を育む」というとき、それを育む人々自身がいかなる「心」で子どもを育むのかということが問題となるだ
ろう。少なくとも数万年前、われわれの脳が現在の形態・機能をもつようになったころから、おそらく生まれてくる子ども
自身に変わりはない。その後、大きく変化してしまったのは環境社会であり、その中で育った親たち、大人たちの心性であ
る。ことに最近300年間には科学が進歩し、その恩恵で飢餓や病気に苦しむことは少なくなった。いっぽう、太古から引
き継がれてきた神話的・宗教的価値観は徐々に消滅しようとしているかに見え、また同時に子を育む親心の発露のあり方も
変容してきている感がある。こうした古来の価値観の衰弱、心を育む文化の衰退を促したきっかけは科学技術の進歩ととも
に蔓延した、底の浅い科学思想だったかもしれない。いかにも脳科学で心の謎がすべて解明されるかのように語る言説など
は、その底の浅い科学思想の代表ともいえるだろう。
「心を育む」ことを考えるにあたっては、その対象である「心」とはなにか、
「育む」とはどうすることかを顧みたい。そ
のうえで、心を育むことで本来めざすべきであったことは何なのかについて、あらためて考えてみたいと思うのである。
「心」とは
「心」を「育む」というとき、その「心」ということばはどういうことを指しているのだろうか。日本語大辞典(小学館
1989 年)によると「こころ」の説明は次のとおりである。
①人間の知識・感情・意志などの働きのもとになっているもの。精神。Mind。
②自分の考え。気持ちのもっとも深いところ。まごころ。Heart。
③考え。思慮。Thought。
④ある行動に対するつもり。意志。Will。
⑤感じていること。気持ち。気。Feeling
⑥情け。思いやり。人情。Sympathy。
⑦ことばなどの真の意味。意義。Meaning。
⑧たましい。性根。Spirit。
上の項目①③④⑤は、「こころ」のはたらきは知、情、意のすべてを含むこと、「こころ」はそれらのすべてのはたらきのお
おもとであることを示唆している。項目②で、「こころ」が自分の気持ちのもっとも深いところを指すとされていることは、
「こころ」には「浅いところ」(表層)と「深いところ」(深層)があることを示唆している。項目⑥で人情やおもいやりの
意を挙げていることは、
「こころ」には「他者のこころ」を感受し、対他者的行動を促す働きがあり、心同士が互いに反応し
あうものであることを示唆する。項目⑦は「こころ」がことばや行為の真の意味を裏付けること、
「こころ」とものごとの意
味とは切り離せない現象であることを示唆する。項目⑧でみられるように、
「こころ」ということばが「たましい」やspirit
を意味するということは、「こころ」がふつうの事物と異なる独特で特殊の存在様式とみなされていることを示唆している。
「こころ」ということばはこれほどまでに多くの含みを有するが、それは心という現象がそれだけの広さと深さを有してい
るからであると捉えるべきであろう。もし、心を育むということを考えようとするのであれば、心という働き、現象、存在
がこうした広さと深さもつことを忘れてはならないように思われる。
3.「育む」とは
日本語の「育む」という言葉は、日本語大辞典(1989 年)によれば「羽含む」に由来するという。つまり、親鳥が雛を羽の
中に抱いて守り育てることを指す。この語源からわれわれは、
「育む」ということが本来、親としての自然の本能の発露であ
ることにあらためて気付かされる。子供をまっとうに育むには、親としての自然の本能が生のままに現れ出でるような、そ
ういう存在として親が生きているということが大切なのかもしれない。
4.「心」の由来とそれを「育む」もの -進化精神医学の観点から―
では、その「心」や、それを育む本能、たとえば「親心」の生命史における由来、本来の姿はどういうものであったのだ
ろう。またそれは近代社会という環境のもとでどのような困難に直面し、病んでいるのだろう。そして心を育む将来への指
針はあるのか。こうした点について、最近提唱され始めている「進化精神医学」の立場からの見解を紹介したい。
114
シンポジウム1-3.社会的シグナル検出者としての赤ちゃん:その発達的変化
京都大学文学研究科 板倉 昭二
ヒトの乳児は、きわめて早い時期から人の発するシグナルやある種のインタラクションを持っているように見える刺激に
対して強い感受性を持っていることが知られている。例えば、生後 1 ヶ月の乳児でも、顔のように見える模式的な図形をよ
く追従したり、人の目に対する選好を示したりする。ジョンソンとモートンは、選好追従法という方法を用いて、目と口か
らなる顔のような図形、それと同じ輪郭およびパーツを使用しているがパーツをスクランブルしたもの、また輪郭以外には
何もないそれぞれの刺激を対にして、1 ヶ月児の刺激に対する追従の度合いを調べた。その結果、顔様の刺激に対する追従
の頻度が最も高く、次いでスクランブル刺激、そして輪郭のみの刺激の順であった。すなわち、1 ヶ月児は顔様の刺激を選
好することが示唆されたのである。また、乳児は、自分に向けられた視線(目)と別の方向を見ている視線を識別すること
が分かっている。しかも、自分を見ている視線を選好して長く見ることがわかった。このように、ヒトの顔や目は成人に対
してと同様、乳児にもきわめて特殊な刺激であることが分かっている。
乳児は、また、生物学的な動きに対しても敏感に反応する。選好注視法を用いて、ヒトの関節部分に光点をつけて暗闇で
その歩行を記録した刺激と、同じ数の光点をランダムに動かす刺激を乳児に対呈示して、それぞれの注視時間を計測したと
ころ、前者に対する注視時間のほうが長かった。また、ランダムな動きではなくて、ある種統一された機械的な動きと比べ
ても、やはり生物学的な動きに対する注視時間が長かったという報告もある。乳児は、その発達初期から、生物学的な独特
な動きに対しても高い感受性を有している。さらに、物体が社会的関係を持っているような動きに対して選好を示すという
結果も報告されている。われわれは、以上のような知見を基に、乳児の社会的刺激に対する発達的変化を、縦断的調査によ
り検討した。本講演では、11 ヶ月までの途中経過を報告する。課題は以下の通りであった。
Moving ball:青と赤のボ―ルがコンピュータ画面上を移動し、社会的関係を持った動きとランダムな動きをする。注視時
間の%を産出。顔選好:はっきり見える顔(normal)とモザイク顔(mosaic)の刺激の呈示時間のうち、それぞれの刺激を見て
いた注視時間の(%)を算出。 視線選好:自分を見ている目の顔(toward)と他の方向を見ている目の顔(away)の刺激の呈示時
間のうち、それぞれの刺激を見ていた注視時間(%)を算出。反射的注意:視線が左右のどちらかのポイントに向けて動く。注
視時間の(%)を算出。表情識別:笑顔と無表情の人の顔の刺激。それぞれの刺激を見ていた注視時間(%)を算出。biological
motion:人が歩行する姿(human)のドット刺激とランダムなドット刺激の呈示時間のうち、それぞれの刺激を見ていた注視
時間(%)を算出。注意シフト:赤いドットが左右のうち片方に出た後、もう片方に出るという刺激。視線追従:画面上の人が
首を左右に動かし、左右の事物を見る刺激。なお, 刺激は月齢に関係なく共通であった。
赤ちゃんの認知研究では標準的な、選好注視法を用いた。参加児はモニターからおよそ60cm 離れた所に位置し、モニター
に呈示される刺激に対する注視時間が計測された。
結果を概略する。Moving ball 課題では、いずれの月齢でも、一方のボールが他方を追いかけるようにうごく chase 刺激
の方をより長く見ているが、月齢とともにその注視時間は減少し、それに呼応するような形で、2 つのボールがランダムに
うごく、random 刺激に対する注視時間が長くなった。顔選好課題では、いずれの月齢でも normal 顔に対する注視時間の
ほうが、mosaic 顔に対する注視時間よりも長くなっている。しかしながら、月齢間ではそれほど大きな差異は見られず、一
貫して、normal 顔をよく見ている。これに対して、mosaic 顔は、月齢とともに長くなり、13 ヶ月では、両刺激に対する注
視時間の差が小さくなっている。視線選好課題では、5 ヶ月時点で、away 刺激に対して選好が見られたものの、その後の月
齢では、両刺激間に差は認められなかった。反射的注意課題では、刺激による注視時間の差がいずれの月齢でも見られなか
った。刺激自体が適切ではなかった可能性がある。また、表情識別課題では、5 ヶ月と 11 ヶ月で smile に対する選好が見ら
れたが、他の月齢では差がなかった。先行研究と同様に、すでに 5 ヶ月で表情の弁別ができていることがわかる。Biological
motion では、5,7 ヶ月時点で、random 刺激に選好を示したが、9 ヶ月で human 刺激に対する注視時間のほうが長くなっ
た。9 ヶ月齢は、トマセロによると、人に対する認識が劇的に変化する時期と言われているが、そのことが反映されたのか
もしれない。注意のシフトについては、月齢に応じてスコアが高くなり、11 ヶ月ではほぼ満点になっている。また、視線追
従では、9 ヶ月までスコアがあがっているが、11 ヶ月では落ちている。少なくとも、9 ヶ月までには、ビデオ刺激に対して
も、視線追従反応が出現することがわかった。
追記:本研究は科学技術振興機構「日本における子どもの認知・行動発達に影響を与える要因の解明」の研究の一部である。
115
シンポジウム 2-1.人口動態統計よりみた出生体重減少
大正大学人間学部 中村
敬
【はじめに】
近年、新生児の出生体重が小さくなってきている。これは、地域で出生する多くの新生児を見ていても実感として感じら
れる。第一の命題は、「成熟新生児の出生体重が小さくなってきているのか」、この事実を検証する必要がある。人口動態統
計を紐解くと、母子保健指標として重要な意味を持つと言われている低出生体重児出生率が年々上昇し続けており、いつか
上げ止まりになると信じていたが、今も上昇を続けている(図)。そこで、第二の命題は「低出生体重児出生率が上昇し続け
ている」ことに焦点を当てたい。医学の進歩により極低出生体重児の出生数が増加したり、多胎児が増加したりしているこ
とが要因であろうか。第三の命題としては、生まれたときの体重が小さくなる理由であるが、①母体の体格や妊娠中の体重
増加と関係があるであろうか。日本人の女性の体格は小さくなってきているであろうか。以上3つの視点から、統計に示さ
れた事実を分析してみたい。
【方法】
分析に用いた資料は、厚生労働省大臣官房統計情報部より公表されている人口動態統計(~2005 年)、東京都母子医療ネ
ットワークデータベース(1988~2000 年)である。
【結果と考察】
1)出生体重の平均値の年次推移
人口動態統計に示されている年次別全出生児の平均体重の推移をみてみると、1980 年では 3190 グラム、1990 年では、
3120 グラム、2000 年では 3030 グラム、2004
年では 3010 グラムと約 25 年で平均値で約
図 低出生体重児出生率の年次推移
180 グラム減少している。
出生体重の平均値を妊娠週数別に年次推
10
移をみると、1980 年では 37~39 週 3140 グ
ラム、2004 年では 2970 グラムと平均値で
全国
9
東京都
170 グラムの減少、40~41 週でも、1980 年
3300 グラム、2004 年 3200 グラムと平均値
8
で 100 グラムの減少が見られる。この2つの
事実から出生児の平均体重が小さくなって
いる理由の一つは、胎内での発育が相対的に
% 7
悪くなってきていることを示している。
2)低出生体重児出生率の年次推移
6
図に示したように、低出生体重児の出生率
は 1960 年代の後半からは次第に低下し、
5
1975 年から 1980 年にかけて最低値になり、
その後次第に上昇し、2005 年現在でも上昇の
スピードはやや減速してきているが、ほぼ直
4
線的に上昇し続けている。
1968 1972 1976 1980 1984 1988 1992 1996 2000 2004 2008
出生体重別(500 グラム階級)の出生率を
みると、3000 グラム未満の体重ではすべての
階級で上昇しており、3000 グラム以上の体重では年々減少している。すなわち、新生児の体重は小さい方にシフトしている
ことを示している。医療の進歩と大きな関係がある 1500 グラム未満の低出生体重児出生率は 1980 年 0.38%、2004 年 0.76%、
2000~2500 グラム未満の低出生体重児出生率は 1980 年 4.0%、2004 年 7.45%と明らかに上昇している。一方巨大児は 1980
年 2.98%、2004 年 0.95%と明らかに低下している。
3)妊娠週数期間別出生数の年次推移
分娩週数が年々若い方へシフトしていれば、相対的に出生体重は小さくなる筈である。そこで、妊娠期間別の出生率を検
討すると、37 週未満の早産率は 1980 年 4.18%、2004 年 5.67%と上昇しており、出生体重減少の要因になっている。
4)多胎児出生率の年次推移
多胎児の出生率は 1980 年 1.22%、2004 年 2.26%と約2倍に上昇している。このことは、多胎児の増加が、相対的に出生
体重が減少する要因になっている。
5)出生体重を規定する要因
東京都母子医療ネットワークのデータベースを用いて、
【出生体重】を従属変数とし、
【母体の身長】、
【非妊時の体重】、
【妊
娠中の体重増加量】、
【胎児数】、
【母体の年齢】、
【分娩週数】を独立変数として GLM―1変量分散分析を行った(SPSS_V14)。
結果は、モデルの重相関係数は 0.645(p<0.01)であり、独立変数の F 値をみると、分娩週数(2,032.7、p<0.01)、母体の
体重増加量(1,813.8、p<0.01)、非妊時母体体重(1,674.4、p<0.01)、胎児数(564.4、p<0.01)、母体年齢(163.2、p<0.01)、
母体身長(29.3、p<0.01)であった。分娩週数、妊娠中の母体の体重増加量、非妊時の母体の体重が大きく関係しているこ
とがわかる。
116
シンポジウム2-2.平均出生体重減少に関与する社会医学的側面
国立保健医療科学院生涯保健部 加藤 則子
わが国の平均出生体重は、戦後上昇したが、1975 年をピークに以後減少の一途を辿っている。戦後、妊婦を始めとして国
民全体が充分な栄養を摂れなかった時代から、社会経済状態が改善するとともに国民の摂取カロリー量も上昇してきた。こ
れは毎年行われる国民栄養調査結果における、国民一人あたりのカロリー摂取量の推移にも現れている。
1975 年、国民の健康づくりの考え方が変わってきた。それまでは、カロリーや動物性蛋白等の充分な補充が国民の栄養の
課題であったが、当時「成人病」と呼ばれた、糖尿病、高血圧、肥満等を予防することが、保健課題となってきた。そのた
めカロリー摂取を適切なものとし、運動等に心がけるような健康づくり運動に移行した。この流れの中、妊娠中にカロリー
を摂りすぎると、糖尿病等の妊娠合併症などの原因ともなり、妊娠出産の危険につながるおそれもあるとして、また、妊娠
中に多量の摂食習慣が身に付くと、出産後もそれが後を引いて肥満がおこりやすくなる等の危惧の元に、妊娠中の体重増加
を 10Kg に抑えるのが望ましいと言われるようになった。妊娠中の栄養指導も、カロリーを取りすぎて体重が増えすぎない
ように、しかしながら良質なタンパク質を摂るようにといった内容に変化していった。母子健康手帳の妊娠後の体重経過の
記載欄にも、非妊時から 10Kg 増の位置に赤い横線を書き入れる医療機関などが増えてきた。これらの動きの結果として、
出生時の体重の全国平均が減少を始めたことから、こういった運動の著しい効果が現れたと言うことが出来る。
一方、理想とする女性の体格は時代とともに推移し、近年ではすらりとやせたスタイルが美しいとされる傾向がさらに強
くなってきた。これにはテレビや雑誌などのメディアの果たす役割も大きい。人気の若い女性タレントや女性歌手のテレビ
に映る姿を見て、若い女性がそれに憧れるのは無理もないことだろう。マスコミがあおり立てるがために女性のやせ願望が
蔓延し、ダイエットをしている女性が増加していることは社会問題と言わざるを得ない。国民栄養調査の平成 10 年の調査報
告と、約 20 年前の昭和 54 年の報告を比較してみると、やせ傾向の人は 15 歳から 19 歳で 13.5%から 20.4%へ 6.9%増、20
歳代でもその割合は 5.9%増加している。にもかかわらず、自分の体型に対する意識として太っていると感じている女性が
50.7%存在する。10 代女性の9割が標準体重より痩せているのに、自分が太っていると考えている人が5割以上もいる。多
くの若い女性がもっと痩せたいと考えているなら、社会に強力なダイエットブームが起こるのも無理はない。
このように強い痩身志向が若い女性に根強ければ、その女性たちが妊娠した時には太りすぎないように、そして出産後は
すみやかにスリムな体型に戻りたいと願うことは容易に想像が付く。また実際に、妊娠後の体重増加を 8Kg に押さえようと
指導する産科施設が存在した。甚だしい場合は 6Kg に押さえるとするものもあった。妊婦の太りすぎを予防しようとする国
の対策が、本来の目的を超えて、必要以上に妊娠中の体重増加を抑える傾向を生み出してしまったのである。これが平均出
生体重の減少傾向に拍車をかけたといえる。近年に置いては 10 年間に 70g~80g の平均体重の減少が観察されている。近年
の平均出生体重は終戦直後のレベルを大きく下回っている。
2006 年、産科外来を訪れる妊婦に調査したところ、9割が妊娠中の適切な体重増加が自分で分かると回答していた。それ
は 10Kg であると回答したものと 8Kg であると回答したものが多かった。妊娠中の食事制限をしていたものは 35.4%で、そ
の9割が栄養士等からの指導ではなく、自分で判断しての制限であった。妊娠中のダイエットや運動に関心を持つ動機とし
て、胎児が大きすぎない方がお産が楽である(68.9%)とか、お産のための体力を付けたい(65.4%)としている妊婦も多かった
が、妊娠線を残したくないと思っているものが 73.6%、産後早く元の体形に戻りたいと思っているものが 85.4%あり、容姿
に関する関心が安全なお産に関する関心を超えていた。女性の痩身願望の傾向は妊娠中の意識や生活実態にも影響を与えて
いることが明らかとなった。
妊娠中に太りすぎないようにする勧告は、健康づくりの一環としての国策として始まったものの、その後女性の痩身志向
が拍車をかけて本来の目標を超えて過度なものとなる傾向が現れ、それが近年の平均出生体重の明確な減少として現れてき
たという見方が出来る。
117
シンポジウム 2-3.妊娠中の栄養と胎児発育
独立行政法人国立健康・栄養研究所国際産学連携センター
吉池信男、林
芙美
妊娠中、胎児発育などのために必要となるエネルギー及び各種栄養素については、「付加量」という形で示されることが多い。
例えば、「日本人の食事摂取基準(2005 年版)」においては、妊娠初期・中期・末期のエネルギー付加量は、それぞれ+50、+
250、+500 kcal/日 とされている。これは、妊娠時に基礎代謝量が増加することなどによって生ずる基本エネルギー量の増
大(各期で+20、+85、+310 kcal/日)と、母体及び胎児におけるタンパク質及び脂質の蓄積量(各期で+48、+182、+
185 kcal/日)を合わせた量にほぼ相当する。このようなエネルギー付加量の考え方及び基礎データは、FAO/WHO/UNU の
テクニカルレポート(2004)に基づいている。妊娠中にはさまざまな微量栄養素が付加的に必要となるが、出生体重に影響を
及ぼすようなグロスの胎児発育という点では、エネルギー基質となるタンパク質、脂質、炭水化物の摂取量が重要というこ
とになる。
一方、わが国において、妊婦を含めて若い女性の“やせ”の割合が増加し、その背景として不健康な食生活などのために
十分なエネルギー量や栄養素が摂取されていないことが言われている。先に示した妊娠中の付加量についても、大多数の妊
婦ではそれだけの摂取量にはなっていない。さらには、ベースとなる妊娠以前の食事においてエネルギーや各種栄養素が不
足している状況も、国民健康・栄養調査などから観察されている。
妊娠中のエネルギーや栄養素摂取と出生体重との関係については、妊婦の個体差や摂取量の定量的な評価の難しさ等から、
必ずしも明確な関係が認められていない研究が多い。妊娠中にエネルギーやタンパク質の摂取を高める(あるいは低くする)
アドバイスを行った、あるいはそれらの補充を行ったコントロールトライアルに関するコクランデータベースを用いたレビ
ューでも、必ずしも一定の結果とはなっておらず、その著者らは妊娠中のアドバイスは、エネルギーやタンパク質摂取量を
高めることにはつながるが、胎児発育などの向上にはつながりにくいと結論づけている。本発表では、その他国内外での観
察研究、介入研究について紹介する。
118
シンポジウム2-4.胎児の発育ポテンシャルに影響する諸因子・個別化胎児発育曲線の展望
香川大学医学部母子科学講座周産期学婦人科学
秦
利之
胎児発育を評価し、その発育異常を同定することは現代の周産期管理における大きな目的のひとつである。そのために、
従来は多数例から求めた基準範囲(reference intervals)と個々の胎児の実際の値を比較し、その基準範囲の中にあるか、
それから外れるか否かによってその胎児発育が正常であるか異常であるかの判断を行っていた。この胎児発育評価法は臨床
的には確かに有用なのではあるが、二つの大きな問題を含んでいる。第一に全体に占める発育異常の頻度が少ないため多く
の疑陽性例が生じることである。第二にヒト個体には大きなバラツキがあり、どの対象から基準範囲を作成するかによって
個々の胎児の発育異常の評価が異なってくることである。例えば、人種、高度の違いによって胎児の発育に差が生じてくる
ことはよく知られた事実である。また、本シンポジウムの主題でもある同一の対象群でも年代、環境が異なることによって
その基準範囲が変化してくることである。
従来より、出生体重が基準範囲の10パーセンタイル未満の新生児を small for gestational age (SGA)、90パーセン
タイル以上の新生児を large for gestational age (LGA)と呼んでいるが、その児が本来備えている発育のポテンシャルよ
りもなんらかの原因(胎児側因子、胎盤因子、臍帯因子、母体側因子)で実際の発育が下回ってきたものを fetal growth
restriction (FGR)、上回ってきたものを macrosomia と呼ぶべきである。しかしながら、日常診療において SGA と FGR を、
あるいは LGA と macrosomia を区別することはしばしば困難である場合が少なくない。例えば、SGA で出生した新生児が妊娠
中より特に合併症もなく、単に小さいと言うだけで正常発育児と同様に良好な経過をたどることは日常診療においてしばし
ば遭遇する事実である。いわゆる normal small と呼ばれる児である。
以上述べた胎児発育評価のための基準範囲に関する種々の問題点は、個々の胎児を個別に評価することが可能となれば解
決することができる。これが、個別化胎児発育曲線を用いた胎児個別発育評価法である。個別化胎児発育曲線は Rossavik
と Deter によって1984年に提唱され、Rossavik growth model を用い、妊娠24週以前の2回の超音波計測値よりそれ
以後の胎児の発育予測曲線を作成し、個々の胎児について個別に発育評価を行うものである。Rossavik growth model は以
下の式で表される。
P = c (MA – SP) k + s (MA – SP)
P:超音波計測により得られたパラメーター、MA:妊娠週数、SP:パラメーターの発生週数(スタートポイント)、k, c, s:
係数
個別化胎児発育曲線より実際の超音波計測値が大きく下回ってくれば発育遅延、つまり FGR ということになり、個別化胎児
発育曲線より実際の超音波計測値が大きく上回ってくれば発育促進、つまり macrosomia ということになる。
従来の我々および Deter らの検討より、個別化胎児発育曲線を用いると FGR や macrosomia を同定できるばかりでなく、そ
の周産期予後をも予測し得ることが明らかとなってきた。つまり、従来の発育評価法よりも FGR の同定に優れ、また周産期
予後の悪い SGA も同定でき、さらに macrosomia の同定に有用で役に立つ情報を提供してくれることが現在までに報告されて
いる。また。単胎および双胎と同様に品胎においても妊娠後期および出生時の児の発育をうまく予測できることが判明して
いる。さらに、正常多胎児では正常単胎児に比較して軟部組織の蓄積の減少が特徴的であることが明らかとなった。一方、
新生児の身長の予測や、三次元超音波を用いた四肢の体積の個別化胎児発育曲線も報告されている。
Rossavik growth model を用いた個別化胎児発育曲線は、それぞれの胎児を個別に評価するテーラーメード診断法であり、
新しい胎児発育評価法として、今後その有用性ならびに臨床応用についてさらに検討を進めてゆく必要がある。
E-mail: [email protected]
119
シンポジウム2-5.出生体重の減少とadult disease
新潟大学小児科
内山
聖
子宮内で胎児が低栄養にさらされると、将来、心血管系疾患が発症しやすいことが疫学的に明らかにされ、動物やヒトで
病態が明らかにされてきているが、小児における成績は乏しい。胎児の低栄養(出生体重減少)が小児期における成人病(生
活習慣病)発症に関係するならば、今後、新たな予防対策を講じることが必要になる。
1) 3歳児の血圧と出生体重との関係
3歳児の体重と血圧を測定し、在胎週数で補正した出生体重との関係を検討した結果、小さく生まれて大きく育ったグルー
プほど血圧が高く、大きく生まれて小さく育ったグループほど血圧が低かった。
2)肥満小児における血圧調節因子
肥満小児を対象に、血圧と血清インスリンおよび体格因子(肥満度、体格指数、体脂肪率、皮下脂肪厚)の関連を二元配置
分散分析と Step-wise 多変量解析で検討した結果、血圧にはどの体格指数よりも血清インスリンが有意に関係していた。
3)肥満小児における出生体重とインスリン抵抗性との関係
肥満小児を対象に、出生体重および同 SD スコアとインスリン抵抗性(血清インスリン濃度、HOMA 指数)の関係を Step-wise
多変量解析で検討した結果、出生体重と同 SD スコアは血清インスリンおよびインスリン抵抗性の指標である HOMA 指数(高
値ほどインスリン抵抗性が強い)と有意の負の相関を示した。
4) 肥満小児における出生体重とインスリン抵抗性および内臓脂肪との関係
肥満小児において、出生体重 SD スコアと腹囲をそれぞれ三分法で分類し 9 群に分け、メタボリックシンドロームの症例数
と空腹時血清インスリンを比較したところ、男女とも出生体重 SD スコアが小さく、腹囲が大きい群が最も症例数が多く、
インスリンも高値を示した。
Step-wise 多変量解析では、出生体重および同 SD スコアは血漿インスリンおよびインスリン抵抗性の指標である HOMA 指数
とそれぞれ有意の負の相関を、QUICKI 指数(低値ほどインスリン抵抗性が強い)と正の相関を示した。腹部エコーによる腹
壁前脂肪厚(内臓脂肪)は出生体重とは独立して、血漿インスリンおよび HOMA 指数とそれぞれ有意の正の相関を、QUICKI
指数と負の相関を示した。
考察と結論:
Barker らは子宮内胎児発育遅延児は、将来、高血圧や心筋梗塞の発症率が高いことを疫学的に明らかにし、その後、多くの
大規模研究がこれを裏付ける成績を報告している。
私どもの成績でも、3 歳児の血圧は小さく生まれて大きく育ったグループほど高く、大きく生まれて小さく育ったグループ
ほど低かった。両者の関係は加齢に伴い強まることが報告されている。また、肥満小児での検討では、出生時体重および同
SD スコアは血清インスリンおよび HOMA 指数(インスリン抵抗性の指標)と負の相関を示した。すなわち、低出生体重がイ
ンスリン抵抗性を介して高血圧や2型糖尿病の発症に関わるという Barker 仮説を支持する成績といえる。また、内臓脂肪は
出生時体重とは独立してインスリン抵抗性と正の相関を示した。したがって、低出生体重は、児が肥満になったときにイン
スリン抵抗性のリスク因子となる。なお、ヒト成人ではインスリン抵抗性が高血圧や糖代謝異常の元凶とされている。
これまでの妊娠管理は無事な出産を目標にしてきたが、これからは妊娠中の栄養状態が産まれてくる子どもの健康に影響を
与える可能性を認識し、管理を行う必要がある。最近の若い女性のダイエット志向は、本人だけでなく産まれてくる子ども
にも多大な影響を与えると考えられ、小児期から栄養の重要性を教育することが、本人および次世代の生活習慣病予防にき
わめて重要である。
120
シンポジウム3-1.生育/成育の限界と母体保護法
愛育病院新生児科
加部 一彦
我が国でも 1980 年代以降、新生児医療は目覚ましい進歩を遂げたが、この間、「超低出生体重児の管理」は常に新生児医
療のフロンティアであり、今なお、医学的にも、生命倫理の観点からも多くの課題が残されている領域である。今回のシン
ポジウムでは、超低出生体重児、とりわけ超早産児に対する倫理的、法的アプローチについて歴史的変遷をたどりつつ述べ
たいと思う。
一定の割合で早産、低出生体重児が生まれてくる事は今も昔も変わりはなく、その生育に関しては、日本のみならず、世
界の各地に数多くの言い伝えが残されている他、歴史的書物の中にも低出生体重児に関する記述が散見されている。その中
で、児の生育に関し、
「7 ヶ月児は育つが 8 ヶ月児は育たない」とする言い伝えが洋の東西を問わずみられる事は興味深い事
であろう。我が国では、1703 年(元禄 16 年)に出版された育児書である「小児必用養育草」の中で、著者の香月牛山が「時
珍の説に、七箇月の子、八箇月の子、共に生育するなり。その内、七箇月の子は、猶更よく育つなり。七は陽数にして、よ
く変ずればなりと見えたり。必ず育つべき事なり。」と述べているし、古くはヒポクラテスも同様の言及を行っていると言う。
一方、
「近代新生児医療の父」とも言える 19 世紀フランスの医師 P.ブダンは、新生児に対する「保温、栄養、感染防止」の
重要性を説き、それによって低出生体重児の生存率が大きく改善されると述べる一方で、超低出生体重児に関しては積極的
介入をしないと明言しており、
「出生体重 1000g」が児の生存の限界と捉えられていた事がうかがえる。この様に歴史的には
「自然の流れ」に任されてきた超早産児に対する医療的介入は、そのまま、今日における新生児に対する医療の進歩の歴史
に重なっているとも言えるのであるが、特に 1980 年代以降の近年においては、加速する「新生児集中治療」の歩みそのもの
が、「児の生存限界」への挑戦の歴史でもあったと言えるだろう。
我が国における超早産児に対する医療的介入を考える上で、優性保護法(現・母体保護法)の果たした役割、特に同法が
「人工妊娠中絶可能な期間」を定義してきた事は極めて重要であった。同法第2条第2項により、人工妊娠中絶は「胎児が、
母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に、胎児及びその付属物を母体外に排出することをいう。」
と定義され、「胎児が母体外において生命を保続できない時期」すなわち、「胎児が生存の可能性がない時期」に限り人工妊
娠中絶を認めると定めている。また、
「胎児が母体外において生命を保続できない時期」に関しては、別に厚生事務次官通達
で示され、優性保護法施行当時は「通常妊娠8月未満」(昭和 28 年 6 月厚生事務次官通知)とされていたが、その後、昭和
51 年(1976 年)1 月に「通常満 24 週未満」、さらに平成 3 年(1991 年)1 月からは「通常満 22 週未満」と改められた。こ
の様に我が国では、胎児の「生存の限界」
「生育(生きて生まれる)の限界」は法律や医学的検討ではなく、一片の「厚生事
務次官通達」によって定義されてきたのだが、
「医療の進歩を見据えて」改定された新たな「定義」が、新生児医療の現場に
更なる限界への挑戦を促したと言う側面も指摘できるだろう。
「生育限界」を追求する医学的アプローチは、超低出生体重児
がコンスタントに救命できるようになるに従い、やがて生命のみならず身体的・機能的な成熟を伴う「成育の限界」を求め
て進歩してゆくのである。
医療の進歩により、超早産児が新たに「患者」となり、治療の対象とされる一方で、
「生育限界」はもとより、
「成育限界」
を単に医学的観点からのみ捉える事に対する批判や課題が指摘される様になった。今や、我々は周産期医療、新生児医療と
言った専門的観点を越えて、広く経済や法、生命倫理など多様な視点、価値観からこの問題に取り組む必要に迫られている
と言えよう。
本シンポジウムにおいては、超早産児の扱いに関するこれまでの歴史的・社会的経緯を踏まえつつ、特に「非医学的」観
点から、とりわけ小さく生まれてくる子ども達の「成育限界」に関する諸問題の多面的な整理を試みたいと考えている。
121
シンポジウム3-2.全国調査から見た妊娠22-23週出生児の予後の推移
兵庫県立こども病院総合診療科
上谷 良行
我が国においては小児科学会新生児委員会が 1981 年以降 5 年に一度ハイリスク新生児医療全国調査を実施し、超低出生
体重児の転帰について調査している。これらの調査で中心的役割を果たした石塚の報告によると、1976 年から 85 年に妊娠
24 週未満で出生し 28 日以降生存した症例は 10 例あるが、いずれも妊娠 23 週出生児であり、2 ヶ月以上生存した 7 例のう
ち 4 例が後遺症無しとされている。また、1989 年に実施した全国 540 施設を対象とした調査の中で 1986 年から 88 年の間
に妊娠 24 週未満で出生した児が 67 例あり(22 週 7 例、23 週 60 例)、28 日以上生存した児のうち 22 週出生児では全例後
障害を認めたが、23 週出生児では 48.3%が後障害無しとされていた。
全国調査からみた新生児期死亡率:1990 年以降は 5 年ごとに我が国において出生する超低出生体重児のほぼ全例が把握さ
れるほど質の高い調査がなされており、1990 年、95 年、2000 年の調査で妊娠 20・21 週出生児は 8 例、12 例、3 例が登録
されたが、すべて新生児期に死亡している。22 週出生児は、それぞれ 36 例、70 例、73 例が登録されたが、32 例(88.9%)、
62 例(88.6%)、50 例(68.5%)が新生児期に死亡しており、新生児期死亡率は低下傾向にある。23 週出生児では、過去 3
回の調査で 118 例、171 例、200 例が登録され、71 例(60.2%)、99 例(57.9%)、105 例(52.5%)が新生児期に死亡し、
死亡率は低下傾向にある。
全国調査から見た 3 歳時、6 歳時予後:これまで 3 回のハイリスク新生児医療調査で登録された超低出生体重児を対象に
予後の全国調査が 1990 年出生児では3歳時、6歳時、9歳時、1995 年、2000 年出生児については 3 歳時、6 歳時予後に関
して縦断的および横断的に厚生労働科学研究によって実施された。
今回、妊娠 22 週出生児をどのように捉えるかを考える上で、これまでの超低出生体重児の予後全国調査から妊娠 22—23
週出生児を抽出し、我が国における妊娠 22—23 週出生児の長期予後の推移について報告したい。
【対象】1990 年、 95 年および 2000 年出生超低出生体重児 3 歳時予後の全国調査の対象となった 853 例、757 例、790 例
のうち妊娠 24 週未満出生児 29 例、26 例、34 例を解析対象とした。そのうち 22 週出生児は 1 例、0 例、8 例であった。6
歳まで調査できたものについてはそのデータも解析した。
【調査項目】日常生活を送る上での不都合さからみた総合発達評価、脳性麻痺、精神発達遅滞、視力障害について検討した。
6 歳については就学状況も調べた。
【結果】妊娠 22 週出生児:1990 年出生の 1 例は重度の脳性麻痺で両眼失明していた。2000 年出生児 8 例では、脳性麻痺
の頻度は 50%、精神発達遅滞が 37.5%、視力障害は 12.5%に認められ、総合発達評価で正常と判定された児は 3 例 37.5%
であった。妊娠 23 週出生児:1990 年、95 年、2000 年出生児でそれぞれ 28 例、26 例、26 例について解析したが、総合発
達評価では 15 例(53.6%)、14 例(53.8%) 、12 例(46.2%)が正常判定であり、必ずしも予後が改善しているとはいえ
なかった。脳性麻痺も 7 例(25%)、4 例(15.4%)、10 例(38.5%)とむしろ増加傾向を示していた。両眼失明の頻度は 1
例(3.6%)、0 例(0%)、1 例(3.8%)で変化はなかった。
6 歳まで追跡できた症例はいずれも 23 週出生児で、1990 年は 19 例、95 年は 14 例が対象となった。就学状況を見ると
1990 年、95 年出生児で普通小学校就学児が 14 例(73.7%)、9 例(64.3%)であり、養護学校はそれぞれ 2 例、1 例で、3
例ずつの症例で就学先が未定であった。6 歳における脳性麻痺の頻度はそれぞれ 5 例(26.3%)、8 例(57%)で、精神発達
遅滞が 5 例(26.3%)、7 例(50%)、重複障害児が 4 例(21.1%)、6 例(42.9%)であり、最終的に正常判定は 13 例(68.4%)
と 5 例(35.7%)であった。
【まとめ】妊娠 22 週、23 週出生児の新生児期死亡率は低下傾向にあった。22 週出生児の 3 歳時予後の推移は検討できなか
ったが、2000 年出生児 8 例の 3 歳時予後は厳しいものがある。23 週出生児の 3 歳時、6 歳時予後については年次的に改善
しているとは言えなかった。
122
シンポジウム 3-3.妊娠 22 週出生児に対する対応:小児科医の立場から
大阪府立母子保健総合医療センター新生児科 白石
淳
【はじめに】
周産期医療の進歩により、多くの未熟な低出生体重児が助かるようになってきたが、妊娠 22 週出生児(以下 22 週児)にお
いては短期的および長期的に良好な予後とは言えない。当科で経験してきた 22 週児の診療成績と管理経験を振り返る。
【22 週児の診療成績】
・ 26 週未満児における生存退院率の変遷
1981 年の開設以来 2002 年までに、当科へ入院した 26 週未満児における生存退院率を以下に示す(図 1)。
在胎期間別生存退院率
22週
23週
出生体重別生存退院率
24週
25週
<500g
100%
100%
90%
90%
80%
80%
70%
70%
60%
60%
50%
50%
40%
40%
30%
30%
20%
20%
10%
10%
0%
500g≦,<750g
750g≦,<1000g
0%
1981~1987
1988~1992
1993~1997
1998~2002
2003~2006
1981~1987
1988~1992
1993~1997
1998~2002
2003~2006
図1.26週未満児の生存退院率
未熟である程に経年的に生存率は改善しており、近年では 22 週児ないしは 500g 未満児でも 50%を超えている。
・22 週児全分娩での検討
1981 年の開設以来 2006 年までに当センターでは 80 例の妊娠 22 週での分娩を経験した。(図 2)
死産
分娩部死亡
NICU死亡退院
NICU生存退院
8
7
6
5
4
3
2
1
20
06
20
01
19
96
19
91
19
86
19
81
0
図2.22週児の短期予後
1990 年までは、法律上中絶可能な対象であったため、24 例が死産(品胎 1 組)として扱われている。1983 年に 22 週 1 日
の児が、蘇生され新生児集中治療室(以下 NICU)で管理されたが、日齢 2 に脳室内出血、小脳出血および血性胸水にて死
亡している。1991 年1月に旧優生保護法が改正されて以来、当科での妊娠 22 週の死産は 15 人(双胎 2 組)、分娩部死亡は
12 人、NICU 入院は 29 人であった。分娩部死亡 12 人のうち、両親との話し合いおよび出生時の児の超未熟性から蘇生をし
なかったのは双胎 6 人と 22 週1日の単胎1人であったが、いずれも 1999 年以降である。
・ 2003 年までに当 NICU に入院した 25 症例についての検討(表 1)
NICU 入院症例の平均在胎期間は 22 週 4 日で、平均出生体重は 470.0±61.1g(336〜554g)であった。Apgar score は 1 分
値 2.5±1.6、5 分値 5.2±2.5 であった。院外出生は 1 人のみであったが、院内出生 24 人中 12 人が母体搬送当日ないしは翌日
に出生していた。NICU 入院のうち生存退院は 10 人(40.0%)であった。絨毛膜羊膜炎(以下 CAM)は 52%に、3 度以上
の脳室内出血(以下 IVH)は 44%に、真菌感染は 48%に、GI 療法を要した高カリウム血症は 52%に認められた。呼吸窮迫
症候群(以下 RDS)は 88%に認められており、薬剤投与を要した動脈管開存症は 24%のみであった。消化管穿孔は 4 人(8%)
に認められ、それぞれ原因は壊死性腸炎(以下 NEC)1 例、胎便関連性イレウス(以下 MRI)1 例、特発性消化管穿孔(以
下 FIP)2 人であった。生存退院群と死亡退院群の比較において、在胎期間と Apgar score(1 分 5 分とも)に両群間で有意
差を認めた。女児の方に生存例が多い傾向にあったが、有意差は認めなかった。
死亡原因は IVH とカンジダ感染症が多く、3 度以上の IVH に死亡症例が有意に多かった。(表 2)
長期的には、生存退院群の中で両眼失明が 2 人、聴力障害(要補聴器)が 1 人、その他ほとんどが CP、MR ないしはてん
かんを伴っており、3〜6 歳児の発達外来において intact survival(DQ>85,CP(-),MR(-),視力障害(-),聴力障害(-),てんかん(-))
であるのは、は 22 週 5 日出生の 2 人と 22 週 6 日出生の 2 人のみであった(intact survival 率=16%)。また、多くの症例で
123
四肢や体幹の皮膚に瘢痕が認められている。
【22 週出生児の管理】
サーファクタントや中心静脈カテーテルの開発等周産期医療の大きな進歩に加え、当科では様々な工夫および改良を行って
きた。
#.分娩前の管理
・ 母胎へのベタメサゾン投与
・ 全例が経膣分娩であり、抗真菌膣錠の膣内投与
・ 分娩時の臍帯のミルキング
#.出生後の管理
・ 救命する以上は、あくまでも intact survival を目指す
・ 最低 2 名の新生児科医と 1 名の助産師により分娩室内のラジアントウォーマー上で、生後 1 時間以内に full resuscitation
を終え、バッテリー車を連結し呼吸器を作動させたまま NICU へ移動
・ IVH および感染予防に細心の注意を払い、迅速な対応かつ minimal handling を基本とする
・ ビフィズス菌(以下 BBG)は日齢 0 ないしは 1 から開始し、生後 24 時間以内に母乳の口腔内塗布および経管投与を開
始。
【ファミリーケア】
プレネイタルカウンセリングを行い、22 週児の当科での短期・長期予後および診療成績を説明した上で、胎児の状態を考慮
し出生時の蘇生を含め治療方針を話し合う。ただし、切迫早産で緊急母胎搬送され、入院当日および翌日の分娩となること
も多く、十分な話し合いができないことも多い。短い妊娠期間と児の重症な経過とで混乱している両親に、いかに子どもへ
の気持ちを育んでもらえるか、いかに愛着形成をサポートできるかが課題である。こまめな児の状態説明を行い両親の質問
にも答えるよう心がける。重症経過や改善の見込みのない状態になった場合も、家族とのコミュニケーションを密にし子ど
もの最善の利益をともに考える。
【おわりに】
周産期医療の進歩およびわれわれの経験とそれに対して工夫してきた暫定的な管理法によって、短期予後の改善は認められ
ており、生存限界として妥当な週数と思われる。一方、成育限界は、短期・長期予後をもとに検討される医学的判断に加え、
社会的・倫理的観点から総合的になされなければならない。
表1.NICU入院症例の背景
平均在胎期間
22週4日
平均出生体重
470±61g
平均Apgar score 1分
2.5±1.6
平均Apgar score 5分
性別(M/F)
初妊/経妊
初産/経産
胎位(頭位/骨盤位)
CAM有り
3度以上のIVH
真菌感染症
高K血症(GI療法)
RDS
PDA
NEC
MRI
FIP
5.2±2.5
12/13
11/14
18/7
13/12
52%
44%
48%
52%
88%
24%
2%
2%
4%
表 2 . NICU 入院児 2 5 例の背景
生存退院( n= 10 )
死亡退院( n= 15 )
22 週 5 日
22 週 3 日
4 9 0. 4 g
4 5 6. 4 g
平均 Ap ga r scor e 1 分 *
3 .3
1 .9
平均 Ap ga r scor e 5 分 *
6 .3
4 .4
性別( M/F)
3 /7
1 0/ 5
初妊/経妊
4 /6
7 /8
初産/経産
5 /5
1 3/ 2
胎位( 頭位/骨盤位)
5 /5
8 /7
7( 70% )
7 ( 4 6 .7 % )
平均在胎期間
*
平均出生体重
CAM
3 度以上の IV H
真菌感染症
**
3( 30% )
8 ( 5 3 .3 % )
5( 50% )
7 ( 4 6 .7 % )
*: stud ent T-test にて有意差( P< 0. 0 5 ) が認めら れた。
**:Fisher の直接確率法にて有意差( P< 0. 0 5 ) が認めら れた。
124
シンポジウム 3-4.妊娠 22 週出生児に対する対応:産科医の立場から
国立成育医療センター周産期診療部産科 渡場 孝弥
(はじめに)
一般的に妊娠 22 週出生児の予後は極めて不良であり、American academy of pediatrics では妊娠 23 週未満もしくは体重 400g
未満の新生児蘇生が行われないという選択肢も容認されている。
産科医としての妊娠 22 週出生児への対応として 2 つの側面から考えることが必要である。1 つは産科管理が今以上に成育限
界に貢献できる余地があるのかということである。
もう 1 つは次回妊娠への影響から考えて適切な対応であるかということである。帝王切開での娩出は次回妊娠時の娩出方法
に影響を与える。特に極めて早期の帝王切開では体部縦切開や逆 T 字切開を余儀なくされることも多くその場合次回妊娠時
の子宮破裂の可能性は飛躍的に高くなるため、娩出方法の選択は重要な問題である。今回、これらの側面から産科管理が更
なる母児の予後改善に貢献できるかどうかを検討した。
(方法)
2002 年 3 月から 2005 年 12 月まで当センターで分娩した症例を対象とした。多胎、胎児奇形、娩出前の胎児死亡の症例は除
いた。これらの症例について tocolysis の方法、ステロイド投与の有無、娩出理由、娩出方法、児の予後について検討した。
今回、妊娠 22 週出生児は非常に限られたデータしか存在しないため妊娠 24 週出生児まで含めて上記の因子と予後との関係
を調べ、超早期の出生児においての産科管理が与える影響について調べた。また、一般的に成育限界を上回っていると考え
られる妊娠 25 週から 28 週までの出生症例との比較を行い、超早期の出生症例と比べて産科管理が与える影響が異なるかど
うかを検討した。
当センターでは帝王切開で極低出生体重児が分娩となる際には子宮筋弛緩を目的に原則として子宮筋層切開直前に母体にニ
トログリセリン静注を行っている。
(結果)
妊娠 22 週で出生した症例は 3 例で、経膣分娩し積極的な蘇生を行わずに早期新生児死亡した症例が 1 例、帝王切開にて出生
し蘇生は行ったが早期新生児死亡した症例が 1 例、乳児死亡した症例が 1 例であった。
妊娠 24 週までの症例は 14 症例で、死亡、後障害を含めた予後不良症例は 9 例(64.3%)であった。塩酸リトドリン、硫酸マグ
ネシウム、ステロイド投与、娩出方法と予後との関係は認められなかった。予後不良症例の娩出理由は 5 例が子宮収縮抑制
困難で 2 例が子宮内感染であったのに対し予後良好症例では子宮収縮抑制困難が 3 例で子宮内感染症例は認められなかった。
また 9 例(64.3%)の症例に帝王切開が行われ 8 例(88.9%)の症例に帝王切開時にニトログリセリンの投与が行われた。体下部
横切開以外の非定型的帝王切開施行例は認められなかった。妊娠 25 週から 28 週までの出生症例は 43 症例で予後不良症例は
13 例(30.2%)であった。塩酸リトドリン、硫酸マグネシウム、ステロイド投与、娩出方法と予後との関係は認められなかっ
た。25 週以降の症例では 41 例(95.3%)の症例に帝王切開が施行された。32 例(78.0%)の症例にニトログリセリンの投与が行
われた。ニトログリセリン投与症例では 4 例(12.5%)、非投与症例 9 例中 5 例(45.5%)に非定型的帝王切開が行われた(p=0.020)。
(結語)
超早期の分娩に関して今のところ産科管理法の改善の余地は少なそうである。
帝王切開時にニトログリセリンを投与することは次回妊娠への影響を減らすために有効である。
出生時の児の状態、両親の意向により方針を検討することが現時点では最も受け入れ安い指針であると思われる。当センタ
ーでは両親の意向や次回妊娠への影響を考慮し分娩時期や娩出方法を決定している。
125
シンポジウム3-5.米国における生育限界22週未熟児治療に対する考え方
セントルイス大学小児科新生児部門 野口 明彦
米国の未熟児出生率は日本と比べて高く、22週の未熟児が出生する状況は大きな産院では珍しくないが、22週の未熟児
に対し蘇生術を施すか否かの判断が日本と大きく異なることはないと思われる。妊娠週数の確定がされていることを前提と
して、米国では、医師は出産前に生存率、生存した場合のハンディキャップ等を説明し、治療の難しさと限度を理解して貰
うように努めるが、22週未熟児のデータに基いて、蘇生をしないよう示唆する医師が多い。両親は医師の示唆をただ受け
入れるというより、医師のアドバイス・意見に基づいて、生まれてくる子どもを蘇生するか否かを自主的に決断し、医師は
その意思を支持するのが通常である。ここで、未熟児生育限界で決断を下す際に考慮される米国の法律と倫理的な枠組みに
ついて触れてみよう。
法律的制限 法的な規制は発達途上といえる。法は最終的に上記の一般的アプローチを妨げるものではないが無視は出来な
い。現在の法的制限の基となっているのは1984年に制定されたChild Abuse Prevention and Treatment Act (CAPTA)へ
のBaby Doe 付加条項だ。この法律は、生命の危機にある一歳以下の幼児への治療を保留した事が判明した場合に第三者に実
情を調査させることを促したものであるが、以下の場合は該当しない。1)不可逆的に昏睡状態の場合、2)治療が死期を
遅らせるに過ぎない事が明らかな場合、3)治療が致命的な状況を改善し得ない場合、4)治療が生命の維持に無意味な場
合、5)治療が無意味か且つ非人道的と考えられる場合。この法律の意図は、いかなる発育過程であっても生命のある新生
児・幼児は法の保護下にあることを確認し、医師が治療を保留できる状況は限られているということを各医療団体の管理者
たちに留意させることであった。その後更に二つの法律が制定された。特にBorn-Alive Infants Protection Act (BAIPA)
はCAPTAの新生児への適応を明らかにしたものでCAPTAの主旨を貫きながらも、超未熟児の場合は医師が安楽ケアしか与えら
れない事もあることを認めている。しかし生存可能性のある22週未熟児治療に関して親の決断の位置付けがどこにあるの
かは明らかにしていない。2005年に米厚生省レヴィット長官は「かけがえのない命を持った新生児・幼児に治療を施さ
なかった個人,グループ、や施設に対して、その報告があればすべて調査を行う」と述べている。米国小児科学会、特に新
生児蘇生プログラム(NRP)の運営委員会は「同法は現状の医師の超未熟児対応の仕方に影響を与えるものではない。医師は、
出産前に色々な選択肢があることをできるだけ親と話し合うのが望ましい。蘇生を施さない方が、或いは治療を中止した方
が的確であると考えられる新生児の場合、その生命の尊厳を尊重し、安楽にさせるケアを与える事が必要である」との見解
を示した。
倫理的枠組み 倫理とは、何が一番適切か、不適切かを総合的に問うことである。超未熟児出生という状況を目前にした両
親が、統計的な数値を我が子の場合に当てはめて考えるのは当然であり、倫理的に許容できる。両親は子供の生命の価値と、
ハンディキャップによる負担を天秤で推し量ろうとするかもしれない。ここで法は「子供にとって一番よい選択が他の誰の
利害よりも優先すること」を要求しているが、新生児にとって何が最善かということは、通常両親によって決められるべき
だ。米国では個人の自律性が強調され家族の利害は二の次とする傾向があるが、家族員の一員、特にそれが極めてひ弱な新
生児であるケースでは、虐待やネグレクトなどの状況で無い限り、家族が決定するのは倫理的に妥当とされる。
最近の判決例 1990年のテキサス州の判例―23週の未熟児出産を前に、両親は新生児医と十分話し合いをした後、蘇
生をしないことを希望し担当医は合意した。しかし、たまたま分娩に立ち会った別の新生児医は、この話し合いに臨席して
おらず、両親の希望に基づいた決断を知らされていなかったため自らの判断で直ちに蘇生治療を始め、NICUに入院させた。
不幸な事に、この未熟児は脳室内出血のほか、様々の重症後遺症を抱えて生存する結果となり、家族は医師と病院を訴えた。
一審では被告側は2400万ドルの損害賠償支払いを命じられたが、控訴審では判決が覆され原告側の敗訴となった。「両
親といえども、子どもが必ず死ぬ運命であることが確定できない限り、蘇生治療の必要な緊急時にそれを拒否する権利を有
するものではない」というのが判決理由であった。
1999年と2004年ののウィスコンシン州の2判例―22週と23週の新生児に対し医師が安楽ケアのみを施しただけ
で蘇生治療をしなかったとして、家族は病院を告訴。が、法違反だという原告の言い分は退けられた。
連邦政府の法の適応され方は州によって細部で違うと思われる。
結論 超未熟児の蘇生治療に関わる米国の法について触れたが、日常数多い症例の中で裁判に持ち込まれることは極めてま
れだ。大切なのは、親と新生児医がデータ、可能性、見解の相違などオープンに話し合うことである。この点、NRP運営委員
会の法の解釈と指針は実用的である。事前に親と医師とが治療方針について合意するのが一番望ましい。米国でも医療の決
断の領域に政府が介入する事に反対する声は多い。親は新生児の代理人として最適であり、蘇生と治療に関してコンセント
フォームに署名するのは倫理的に法的にも、特に米国では望ましい。しかし現実には、これは実行されていない。産前に母
親と医師が話し合える時間が充分でない場合も多く、徹底出来ないことが大きな理由の一つだ。事前に話し合いが出来ない
緊急出産の場合は、医師(団)がデータをもとに方針を立て、蘇生をしない場合でも安楽ケアを続けつつ、両親と話し合う
機会を持つ。蘇生を始めた場合もできるだけ早い時期に親と話し合い、その後の方針を決める必要がある。いずれの場合も
治療方針の根拠と両親との対話の内容を新生児医がカルテに記載しておく事が大切である。臨床経過の途中で治療を中止す
る方が良いという合意に達することもある。新生児医が、親の決定と異なった治療方針を進める際は、病院の倫理委員会の
支持を得てから、後々の法的トラブルを回避するために裁判所からの命令書を取り付けることが必要だというのが一般的な
見解である。
126
シンポジウム 4-1.食道閉鎖症ならびに十二指腸閉鎖症に対する鏡視下手術の経験
大阪府立母子保健総合医療センター小児外科 奥山宏臣、窪田昭男、川原央好、長谷川利路、上野豪久
(目的)
新生児期の手術創は身体発育とともに大きくなり、なかでも開胸創は胸郭変形や肩甲骨挙状の要因ともなり、新生児外科症例におけ
る長期 QOL の大きな問題点となっている。近年、鏡視下手術器具の細径化や光学機器の高精細化に伴い、種々の新生児疾患に対
しても鏡視下手術の適応が可能となってきた。新生児に対する鏡視下手術は創が小さく低侵襲であるばかりでなく、視野の拡大による
確実な手術操作といった利点も期待できる。我々も 2001 年より食道閉鎖症ならびに十二指腸閉鎖症に対して鏡視下手術の積極的な
適応を試みて来たので、これらの自験例を対象として新生児に対する鏡視下手術の有用性や問題点について検討した。
(対象および方法)
鏡視下に根治術を施行した食道閉鎖症 7 例、十二指腸閉鎖症 7 例の計 14 例を対象として、手術時間、出血量、合併症などについて
後方視的に検討した。なお鏡視下手術適応の条件としては、体重 2kg 以上で呼吸循環動態が安定していることとした。手術時の工夫
としては、1.新生児用鉗子(径 3mm/長さ 20cm)を使用 2.低体温を予防するため送気ガスを加温 3.バルーン付トロッカーを使用して
腹壁・胸壁をつり上げて視野を確保 4.カメラヘッドの光学ズームにより視野を拡大する などが挙げられる。また食道閉鎖症に関して
は鏡視下手術を行った7例(鏡視下群)を、同時期に開胸手術を行った 11 例(開胸群)と比較検討した。なお開胸手術となった症例に
関しては、体重 2kg 未満、重篤な合併奇形以外に手術時間帯などの社会的要因も術式選択の基準となった。
(結果)
食道閉鎖症はいずれも気管食道瘻を伴う C 型で、手術時日齢は 1-3 日で、出生体重は 2.5-3.5kg(平均 2.9kg)であった。気管内挿管
による全身麻酔下に 3Fr Fogarty catheter を用いて右肺をブロックして分離肺換気とした。腹臥位に近い左側臥位として、3mm バルー
ン付きカメラポートを第6肋間中腋窩線より右胸腔内に挿入して CO2 送気により 5mmHg の圧で人工気胸とした。カメラのガイド下に3
本のワーキングポート(腋窩 5mm、肩甲骨下部 3mm2本)を挿入した。超音波凝固切開装置にて奇静脈切離後、気管食道瘻をできる
だけ気管に近いレベルでチタンクリップを用いて閉鎖した。次に上部食道の盲端を同定して十分に剥離後に、上下の食道を切離して
5-0 モノフィラメント吸収糸を用いて 10-12 針で全層結節縫合にて食道食道吻合を施行した。胃瘻は造設せず。術後は鎮静化して 5-7
日間の人工呼吸管理を行った。重篤な術中合併症はみられなかった。鏡視下群と開胸群の比較では、手術時間 260±40 分 vs. 194
±47 分、出血量 14±22ml vs. 21±17ml と手術時間は鏡視下群で有意(p<0.05)に長く、出血量は鏡視下群でやや少ない傾向にあ
ったが有意差はなかった。術後合併症として鏡視下群ではバルーン拡張を要した吻合部狭窄を1例に認めた。一方開胸群では縫合
不全を1例に、外科的処置を要した気管軟化症を3例(気管切開2、大動脈固定1)に認めた。胃食道逆流症に対する噴門形成術は
鏡視下群2例(2/7 29%)、開胸群 3 例(3/11 27%)に施行した。
十二指腸閉鎖症 7 例の手術時日齢は 3-15 日で、出生体重は 2.5-3.2kg(平均 2.7kg)であった。臍部より 3mm バルーン付きカメラポ
ート挿入して CO2 送気により 8-10mmHg の圧で気腹した。さらに左右の側腹部に3本のワーキングポート(5mmx1、3mmx2)を挿入した。
まず拡張した十二指腸球部を後腹膜より十分に授動して十二指腸閉塞部ならびに肛門側十二指腸を同定した。閉鎖部を中心として
その上下の十二指腸に約 2cm の切開を加えて、5-0 モノフィラメント吸収糸を用いて 15 針前後で全層結節縫合にて十二指腸を惻々
吻合した。手術時間は 190-290 分(平均 230 分)で出血量は 4-15ml(平均 6ml)であった。重篤な術中合併症はみられなかった。初期
の2例に縫合不全に対する再手術を要したが、最近の4例では合併症なく術後経過も良好である。
(まとめ)
新生児鏡視下手術を行った自験例の検討では重篤な術中合併症はなく、開腹・開胸手術への移行もなかった。また長期の生命予後
も良好であり、鏡視下手術は新生児においても安全で有用な術式と考えられた。食道閉鎖症では鏡視下症例の手術時間は長かった
ものの、術後の成績では開胸症例と遜色無い結果が得られた。十二指腸閉鎖症では初期の2例に縫合不全がみられ今後更なる手技
の習熟や工夫が必要と考えられた。
127
シンポジウム 4-2.新生児における内視鏡手術:その発展を妨げる諸問題
東京大学小児外科1)、埼玉県立小児医療センター外科2) 岩中 督1)、川嶋
寛1)、北野良博2)、内田広夫2)、四本克己2)
【はじめに】小児領域においても腹腔鏡・胸腔鏡を用いた内視鏡手術は徐々に裾野を広げ、その対象となる疾患は増加し、
一部の疾患では標準手術になりつつある。しかしながら個々の疾患の症例数はそのほとんどが本邦で数十~数百例以下の年
間発生数である。それ故、個々の手術の標準化に大変苦慮しているのが現状である。今回、埼玉県立小児医療センターでの
内視鏡手術の経験をもとに、新生児・乳児早期における内視鏡手術実施上の問題点を検討したので報告する。
【対象】平成9年7月より18年7月までの9年間に、埼玉県立小児医療センターで実施した小児内視鏡手術件数は 1,026
件であった。そのうち新生児件数は 65 件、体重 5kg 以下の件数は 223 件、10kg 以下は 370 件であり、これらの新生児・
乳児早期に実施された内視鏡手術の経験より、そのトレーニング法、手術で使用する器具、麻酔法の工夫、保険収載上の問
題点などを検討し、これらの手術が将来標準手術になりうるかどうかも含めて評価した。
【結果】症例の大半は肥厚性幽門狭窄症に対する腹腔鏡下幽門筋切開術が占めたが、新生児症例では他に腸回転異常症に対
する Ladd 手術、卵巣嚢腫の開窓術、回腸閉鎖症に対する腸吻合術、などの腹腔鏡手術、食道閉鎖症に対する気管食道瘻切
離・食道吻合術などの胸腔鏡手術が実施された。乳児早期症例では、ヒルシュスプルング病根治術、高位鎖肛根治術、横隔
膜ヘルニア根治術、噴門形成術などの腹腔鏡手術や、肺生検、横隔膜縫縮術などの胸腔鏡手術がこれらに加わった。幽門筋
切開術や噴門形成術は比較的症例数が多いため、研修中の小児外科医でも実施する機会が多く、およそ7−8例の経験でその
技術は安定したが、独力で個々の手術を完遂できる技術認定資格を得られるレベルには、2~3 年の経験では到達できなかっ
た。症例数が少なく難易度の高い食道閉鎖症根治術などにおいては、指導医クラスであっても術式の標準化にまでは至らず、
修練および術式の工夫には、家兎などの小動物を用いたトレーニングなどを併用する必要が感じられた。また、実際に体腔
が小さい新生児・早期乳児に対する内視鏡手術においては、手術器具の改良や工夫が不可欠である。現在市販されている器
具の大半は成人用であり、細くて短く、かつ先端が臓器損傷をおこしにくい条件を整えている小児用内視鏡手術器具の製品
化が望まれる。また自動縫合器などはその挿入に大きなポートを必要とし、かつ可動部分が長いためその使用にあたっては
大きな体腔スペースを必要とする。それ故、新生児・乳児の胸腔鏡手術には使用できず、肺切除術などでは血管・気管の処
理などで成人とは異なる工夫が不可欠である。また、新生児・乳児早期では片肺分離換気が困難であり、胸腔鏡手術時の麻
酔法には様々な対策が必要である。現時点では新生児・乳児早期の胸腔鏡手術は慣れた施設では実施可能なものの、標準手
術にはなり得ないと思われた。また、比較的頻度の少ない手術の多くが現時点では保険収載されておらず、全手術数 1,026
件中、腹腔鏡手術の 9 種類 75 件、胸腔鏡手術の 5 種類 19 件が未収載手術であった。社会保険事務局とその都度対応を相談
し実施してきたものの、個別相談を続けている限りこれらの手術が保険診療として認知されることはあり得ない。これらの
手術が保険収載されるべく先進医療を申請する準備を始めているが、実施症例数が少ないため、保険収載に至るまでには相
当時間がかかることが懸念される。
【まとめ】新生児・乳児早期で実施されている手術のうち、多くの手術が腹腔鏡・胸腔鏡で実施可能である。しかしながら、
症例数が少ないため標準手術化することは困難であり、かつ技術の習得にも時間がかかる。また器具の開発、保険収載上の
問題点を克服する必要もある。今後も症例を少しずつ積み重ね検討を継続していくとともに、症例の集約化を含め、実施施
設が密接に連携し経験を共有していく必要性が痛感された。
シンポジウム 4-3.新生児気道病変に対する内視鏡的アプローチ
松戸市立病院新生児科 長谷川 久弥
新生児気道病変は先天性、二次性、医原性のものなど、様々な原因で起こり、その病態も多岐に及ぶ。新生児気道病変の
診断・治療は、その大きさの制約などから以前は十分な検討が困難であった。新生児でも使用可能な細径気管支ファイバー
スコープの開発により、、現在では新生児においても十分な検査、治療が行えるようになった。
<気管支ファイバースコピーによる気道病変の診断>
喉頭・気管・気管支、いずれの部位においても形態的異常の診断が可能である。児の大きさ、観察部位などに応じて、外
径 1.4~2.4mm のファイバースコープを用いる。機能的異常の評価法としては、気道の脆弱性を定量的に評価するための気道
内圧断面積試験を行う。気道内圧断面積試験は、人工呼吸筋弛緩下に気道内圧を+10cmH2O~-10cmH2O まで連続的に変化させ、
この間の気道径の変化を気管支ファイバースコープで連続的に記録し、気道内圧と気道断面積との関係をコンピュータ-で
解析し求める。これにより、作成される1次直線から断面積が0になる(気道が閉塞する)予測気道閉塞圧を計算し、この
気道閉塞圧を比較検討することにより、気道の脆弱性の定量的評価を行う方法である。この気道閉塞圧は、治療によって大
きく変化することから、気管・気管支軟化症に対する治療の有効性を評価する上でも有用である。臨床的に治療を必要とす
る気管・気管支軟化症は-40cmH2O より少ない引圧の気道閉塞圧を示す場合で、気道閉塞圧が-40cmH2O より強い引圧に耐える
と計算された場合には臨床的には問題とならない。このため、気管・気管支軟化症の治療、管理では、気道閉塞圧≦-40cmH2O
を目標としている。
<気管支ファイバースコープを用いた気道病変の治療>
気管支ファイバースコープを用いた気道病変の治療は、直接的にファイバースコープを用いて治療を行う場合と他の処置
を行う場合の補助としてファイバースコープを用いる場合の2つがある。直接的にファイバースコープを用いて行う治療と
しては、細径気管支ファイバースコープとレーザーを組み合わせて行う気管・気管支肉芽に対する肉芽焼灼術や喉頭軟化症
(Olney1&2 型)に対する喉頭形成術、処置チャンネルからの吸引による難治性無気肺の解除、鉗子類を用いた異物除去など
がある。ファイバースコープとしては外径 2.3~3.0mm の処置チャンネル付きのファイバースコープを用いる。他の処置を行
128
う場合の補助としてファイバースコープを用いる場合としては、気管・気管支軟化症に対する人工血管を用いた外ステント
術、大動脈前方固定術、喉頭軟化症(Olney3 型)に対する喉頭蓋吊り上げ術などにおける術中モニタリングとして用いる場合、
気管・気管支狭窄に対するバルーン拡張術などの治療部位の位置決め、効果確認を行う場合などがある。
新生児の気道病変は内視鏡的アプローチなどの進歩により、従来では管理、治療が困難であった症例に対して、有効率の
高い新しい管理、治療法が行われるようになってきている。しかし、未だ難題も多く、日々進歩を必要とする分野である。
この分野における今後のさらなる発展が期待される。
129
シンポジウム 4-4.小児科医からみた新生児に対する内視鏡検査・治療の諸問題
慶應義塾大学小児科学教室
渡辺 久子
小児外科学の進歩は、親子に大きな福音をもたらし、内視鏡検査・治療の発展もその一つであろう。より早期に最小限の侵
襲で疾患の適確な発見、診断、治療を行うことが可能になれば、どれほど子どもの人生の QOL は改善されるであろうか。
しかしその一方、医療技術がどんなに進歩しても、生まれたわが子の障害の事実により親が受ける根源的な心の痛手と罪悪
感は古今東西変わらないものと思われる。それだけに新生児に対する内視鏡検査・治療を考える際には、わが子が障害をも
つという動揺のさなかにあって、ものいえぬ子に代わりインフォームドコンセントを与える親の、心の痛みへの、より深い
共感と配慮が必要である。ある親は、手術を受ければ治せることを知りながら頑なに手術を拒否した。よくよく話しを聞く
と、障害告知の際の医師の言葉の荒さに、自分たち親子の存在を否定されたと感じ、これ以上わが子を赤の他人に傷つけさ
せるものかと決意したという。障害や疾病は、罪もない親子の自然な喜びに満ちたふれあいを阻む。乳幼児期に小児外科手
術を受けて成長した子どもたちの思春期危機の治療をしていると、彼らが検査や治療の恐怖や痛み、あるいは手術瘢痕への
ひけめ等以上に、自分が病気で生まれたために最愛の両親を苦しめているという自己存在の不条理さに苦しんでいることが
明らかになる。このようなことを考えると、内視鏡を真に病める者への福音とするには、身体治療のための内視鏡と併行し
て、新生児と親の身になった感度のよい‘心の内視鏡’を発達させていく視点も必要ではないだろうか。
略歴:
慶応義塾大学小児科講師。小児精神科医。I973 年慶大卒業後小児科、精神科、神経内科を経て児童精神科診療に携わる。1990
年より英国で精神分析および乳幼児精神保健を研修。1993 年より現職。障害をもつ子の早期療育、親―乳幼児治療、周産期
の流産・死産・新生児死亡などの対象喪失の喪の仕事、虐待、葛藤の世代間伝達等を研究。著書は「母子臨床と世代間伝達」
金剛出版。世界乳幼児精神保健学会副会長(アジア地域)として 2008 年 8 月世界乳幼児精神保健学会世界大会を開催。
130
シンポジウム 4-5.新生児内視鏡下検査・治療に対する麻酔科的諸問題
東京慈恵会医科大学麻酔科学講座
上園 晶一
新生児に対する検査や手術に用いられる内視鏡としては、
(1)硬性ないし軟性気管支鏡、
(2)腹腔鏡、
(3)胸腔鏡、があ
げられる。各々の場合について、麻酔に関する問題点を簡単に述べる。
気管軟化症のように dynamic な狭窄がある場合と気管狭窄のように固定された狭窄部位がある場合とでは、麻酔
の管理の仕方が異なる。例えば、自発呼吸を残すべきなのか、それとも筋弛緩薬を用いてでも不動化をはかるべき
なのかは、患者の病態で決まってくることが多い。麻酔科医には、術前の(可能性の高い)診断について、十分な
情報が必要である。また、術中は、endoscopist と気道を共有することになるので、術操作の際には、endoscopist
と麻酔科医との間に十分なコミュニケーションが必要である。
(2) 低侵襲性の手術ということで、腹腔鏡手術は、爆発的な広がりを見せているが、この手術は、術中にかかる負荷と
いう点では、決して患者にとって低侵襲ではない。医療機器や外科手技の発展によって、新生児や乳児にも腹腔鏡
手術が導入されてきているが、未解決の問題も数多く存在する。術中には以下の点に気をつける必要がある。
(ア) 気腹操作は循環動態に多くの影響を与える。
(イ) 新生児では、機能的残気量が低く、クロージングキャパシティと酸素消費量が多いので、腹圧があがると容易に
低酸素血症に陥る。
(ウ) したがって、新生児の場合、高い気腹圧は避け、6mmHg 以下に設定すべきである。
(エ) 気腹中の乏尿は止むを得ない。尿量を目安に輸液していくと過剰輸液になりやすく、気腹終了後の肺水腫を招い
てしまう。
(オ) 腹腔鏡手術下では、出血部位の確認が難しかったり、止血コントロールがしにくかったりする。新生児では、頻
脈や血圧低下は循環血液量低下の late signs なので注意を要する。
(3)新生児を対象にした胸腔鏡下の手術(VATS)は、肺病変や PDA 結紮術に対して行われる。肺病変に対する VATS 手
術では、分離肺換気が必要であるが、新生児の場合、成人と異なり、ダブルルーメンチューブを用いることはできないので、
通常は、片肺挿管にするか、気管支ブロッカーを用いる必要がある。呼吸不全や肺高血圧症が存在する場合、分離肺換気は
適応がないので、VATS にこだわらず、開胸手術を行うべきである。
(1)
131
シンポジウム 4-6.新生児に対する腹腔鏡検査・手術:14 年間の経験
東京女子医科大学小児外科1)、順天堂大学小児外科・小児泌尿生殖器外科2)、
東京女子医科大学母子総合医療センター新生児部門3)、順天堂大学附属練馬病院小児外科4)
世川 修1)、山高篤行2)、吉田竜二1)、川島章子1)、木村朱里1)、光永眞貴1)、土屋晶義1)、
佐久間泉3)、楠田 聡3)、仁志田博司3)、宮野 武4)
【はじめに】演者らは、1992 年 12 月に本邦初の新生児腹腔鏡手術となる、新生児卵巣嚢胞に対する嚢胞穿刺、捻転解除術
を施行した。その後、徐々に適応疾患を拡げ、現在では多くの新生児小児外科疾患に対して腹腔鏡検査・手術を施行し、い
くつかの疾患では腹腔鏡手術が標準術式となっている。今回われわれは、14 年間の新生児に対する腹腔鏡検査・手術例に検
討を加え、最近の症例を呈示しその有用性を強調する。
【対象】1992 年 12 月より 2006 年 12 月までに、3ヶ月以下の幼弱乳児に対して施行した腹腔鏡検査・手術は 121 例であっ
た。このうち、新生児に対する腹腔鏡検査・手術 58 例に対して検討を加えた。
【結果】58 例の内訳は、腹腔鏡検査(鼠径ヘルニア対側精査を除く)11 例、腹腔鏡(補助下)手術 47 例であった。手術例
の内訳は消化器系 23 例、泌尿生殖器系 24 例と、ほぼ同数であった。消化器系の内訳は、肥厚性幽門狭窄症(幽門筋切開術
2例)、小腸閉鎖症(小腸吻合術5例)、重複腸管嚢胞(嚢胞切除+端々吻合術2例)、ヒルシュスプルング病(回腸瘻造設術
2例、プルスルー根治術8例)、鎖肛(人工肛門造設術2例、根治術1例)、胆道低形成(外瘻造設術1例)であった。泌尿
生殖器系の内訳は、新生児卵巣嚢胞(嚢胞穿刺6例、嚢胞穿刺+捻転解除術1例、嚢胞切除術9例)、多嚢胞異形成腎(腎尿
管摘出術4例)、副腎神経芽細胞腫(腫瘍摘出術2例)、単一偏位回転腎(腎瘻造設術1例)、中部尿管狭窄症(尿管皮膚瘻造
設術1例)であった。腹腔鏡検査例では全例確定診断を得ることができ、適切な治療法への移行が可能であった。腹腔鏡手
術例の術中合併症は、初期の肥厚性幽門狭窄症例で、二酸化炭素ガスの急速気腹による術中低体温を1例に認めた。術後合
併症は、多嚢胞異形成腎例で、尿管内の膿尿が原因と考えられる創部感染症を1例に認めた。
【症例1】出生後に胆汁性嘔吐で発症した女児。右下腹部に可動性を有する径約3cm の腫瘤を触知し、超音波、CT では単純
性嚢胞であった。術前診断として卵巣嚢胞、腸間膜嚢胞、重複腸管嚢胞などを疑い、日令5に腹腔鏡検査を施行。嚢胞は重
複腸管嚢胞であり、腹腔鏡下で穿刺吸引後、右下腹部の 15mm 創部より嚢胞を含めた腸管を創外に脱転し、腸管合併切除・端々
吻合を施行した。
【症例2】出生前に腹腔内嚢胞を指摘された鎖肛(直腸膣前庭瘻)の女児。出生後に右単一偏位回転腎の水腎症と診断。日
令 14 に腹腔鏡観察下に bladeless trocar を用いて後腹膜腔通路を作製。ほぼ正中に存在する右腎臓に経皮的経後腹膜腔経
由腎瘻を挿入した。
【症例3】出生前に腹腔内巨大嚢胞を指摘された鎖肛(直腸膣前庭瘻)の女児。日令2の腹腔鏡検査で、嚢胞が右尿管であ
ることが判明し経腹腔的尿管瘻を造設。日令 48 に腹腔鏡下尿管瘻閉鎖、経皮経腎尿管瘻挿入、人工肛門造設を施行。生後3
ヶ月時には胆道拡張に対して腹腔鏡下胆嚢外瘻造設術も施行した。
【考察】新生児小児外科疾患における腹腔鏡検査・手術は、麻酔・トレーニング・保険適応などの問題点はあるものの、以
下の点で有用であると考えている。
①新生児、乳児期の1cm 程度の創部は、ほとんど判別不可能となる。②対象臓器は小さいがカメラ画像で拡大されるため、
手技がより容易となる場合がある。③身体が小さいため画像診断には限界があり、術前に確定診断がつかない場合が多い。
④腹腔鏡検査はほぼ確実に確定診断が得られ、そのまま腹腔鏡(補助下)手術に移行可能である。⑤合併奇形として数疾患
が存在していることもあり、個々の手術による侵襲、癒着は最小限にすることが望ましい。⑥鎖肛やヒルシュスプルング病
の根治術が、腹腔鏡で施行されることが標準化されつつあり、生後早期の他手術による腹腔内の癒着は、最小限であること
が望ましい。
特に、鎖肛の合併奇形に対する手術では、将来的な腹腔鏡下鎖肛根治術を見据えた治療戦略が必要である。⑦出生前診断例
の場合、周産期管理を計画的に行うことにより、腹腔鏡手術をより容易かつ安全に施行できる状態に誘導することが可能で
ある。
132
シンポジウム 5-1.母親と胎児の会話
長崎大学医学部産婦人科
増崎 英明
母親と胎児の間の情報伝達は、一般に母親から胎児へ向かう一方向性のものと考えられています。たとえば遺伝は両親か
ら子供へ一方的に与えられる情報です。しかし母親と胎児における情報の流れは、必ずしも一方向性とは限らない、ある場
合は胎児から母親へ向けて発信されていることがあるように思います。たとえば胎動はどうでしょうか。超音波検査で胎児
を見ていると、母親を内側から舐めたり、蹴ったり、撫でたりしています。まるで扉を叩くように、胎児は子宮の裏側から
母親に向かってメッセージを送っているように感じられます。一方、母親に胎児の三次元画像を見せると、母親は胎児を見
つめながら自分のおなかをさすり始めます。水の中にいる胎児は母親を呼ぶことも泣いて注意を喚起することもできません
が、そこには言葉にならない会話があるように思えるのです。
さて私たち産科医は超音波検査によって胎児の大きさと形と動きを見守ります。その際、意識するしないに関わらず、胎
児の障害に気がつくことがあります。そのことに気づいた産科医の一瞬の動揺を見逃す母親はありません。産科医は母親に、
また父親に対して、胎児に障害のある可能性を告知せざるを得ません。告知の仕方は医師の数だけ違いがあるでしょうが、
受け取る側の反応は常にひとつ、驚愕と悲観です。
初めて告知を受けた日の母親の目や耳はふさがれていて、周りの様子は見えても聞こえてもいません。ただただ絶望の孤
島に置き去りにされているのです。懐妊の喜びは正常な子どもを妊娠できなかったという悲観に置き換えられ、生まれてく
る赤ん坊の死の予感に動揺し混乱し精神は危機的状況に陥ってしまいます。緊張のために見開かれた目の中には恐怖が宿り、
極端にデフォルメされた赤ん坊の映像が消えては浮かび、浮かんでは消え、耳には悪魔がささやきかけます。わたしのせい
だろうか、夫のせいだろうか、家系だろうか遺伝だろうか、あのとき飲んだ薬のせいか、日頃の行いのせいか、あるいは神
様の与えられた罰だろうか。いっそおなかの赤ん坊と一緒に死んであげる方が・・・・・
時間はそういう母親を少しずつ癒していきます。赤ん坊に障害のあることを客観的に知ろうとする知性が頭をもたげ、説
明する医師の声がわずかに聞こえるようになり、赤ん坊を映し出す超音波検査の画像が揺れながらもふたたび見え始めます。
赤ん坊のことを、怖いけれども知らなければならない。聞きたくはないが、障害の詳細を聞かなければならない。医師の話
が理解できるようになり、医師の顔が見られるようになると、自分の手をつかんでいる夫が側にいて、同じように不安でふ
るえていることが分かるようになります。
祖父母や上の子どもたち家族は、声を小さくして自分をいたわってくれている。悩ましげな表情の医師や看護師も悪魔の
仲間ではなくて、むしろ自分を気遣ってくれていることに気がつく。自分の周りに少し光がさしてくる。このことは他人事
ではない、まさしく自分に今起こっていることなのだと自分に言い聞かせることができるようになる。
そのとき赤ん坊は母親のおなかを内側からたたいて、自分の存在を知らせる。母親の中でくるりと回ってみせる。母親の
敷いた絨毯と自分の出したおしっこに包まれて安らいでいた赤ん坊は、秘密めいた薄暗い場所で、背伸びをし、あくびをし、
排尿し、眠り起き、しゃっくりをし、ため息をつく。母親は赤ん坊がそういう生活をしていることに、今こそ気づくことが
できる。声も出ない、ましてや啼いて訴えることもない生まれる前の生命は、こうした自分と母親とのきずなを通して、母
親に頑張るちからと、安らぎと、希望をもたらすことができる。母親は障害をもった赤ん坊に支えられ、自分の危機的状況
から逃れ出るためのエネルギーを与えられる。
長い年月、障害をもった多くの胎児とその両親・家族に関わってきました。出生前診断、遺伝カウンセリング、あるいは
家族への告知という作業を通して感じたことですが、母親と胎児の間には、こうした会話があるとわたしには思えます。
133
シンポジウム5-2.子どものねがい,親のねがい—障害児(者)支援の現場から—
かねはら小児科
金原 洋治
1. 新生児医療から発達障害児(者)支援への道程
昭和55年に新生児医療に関わりはじめた。数年間フォローアップしていると新生児医療現場の治療を終えた子どもたち
が家族と一緒に暮していくための支援のメニューが地域には極めて乏しいことに気づいた。障害があっても地域で幸せに暮
らすためにはどうすればよいかを親の会や地域の仲間達と話し合いながら、支援の場や制度やネットワークをつくり取り組
みを続けてきた。
1)支援の場:済生会下関総合病院療育部門、下関市こども発達センター、障害児デイケアハウスきのみ、重症心身障害者
地域生活支援センター「じねんじょ」、発達支援室ベースキャンプ。福祉作業所など。
2)システム:総合療育システム、学校での医療的ケア
3)ネットワーク:下関市小児発達研究会、遊花フォーラム、発達障害カンファレンス、こどもなんでもネットワーク下関。
2. 子どものねがい、親のねがい
各種の親の会と一緒に活動を続けてきた関係で、重症心身障害、ダウン症、自閉症などの親の会の顧問や社会福祉法人、
NPO法人の理事長や理事を務めている。障害があるこども達や親ごさんたちとの、長い付き合いの中で学んだことを以下に述
べる。
1) 障害がある子を育ててきた親の思い
z
障害がある子どもを育てることは、大変なこともあるが不幸せだと思ったことはない。
z
元気な他のきょうだいは18歳を過ぎると親の元を離れるが、この子はいつも側にいてくれるので嬉しい。
z
この子がいることで皆が声をかけてくれる。色々なところにいける。
z
素晴らしい人達と知り合うことができて人間として成長したと思う。
2) 親のねがい、子どものねがい
z
一日でも長く生きられるように支援して欲しい。
z
旅行やコンサート等色々な体験をして欲しい。
z
風を体験させたい。
z
自立してもらいたい
z
障害がある子を持っていても働きたい。
z
緊急の場合預かってもらえる場やショートステイできる施設が欲しい。
z
グループホームやケアホームが欲しい。
z
歌いたい,歩きたい、野球観戦がしたい。
z
障害があっても働きたい。
z
親元を離れて自分で暮らしたい。
z
みんなと一緒に勉強がしたい。
z
青春を親と離れて楽しみたい。いろんな所にいきたい。
3. 地域の人達から学んだことー心に響いたことばー
z
提言だけして途中で活動を止めるのなら早めに止めたほうがよい。(保護者、社会福祉法人理事長)
z
本当に必要と思うなら、あきらめずに何度も要望した方がよい。沢山の要望の中で熱意を感じた要望は汲み取られる。
(福祉行政担当者)
z
医者は他の職種の人達と比べると、同じことを考え発言し行動しても行政や
地域社会から受け入れやすい。取り組みやすい立場にいる。一歩踏み込んで取り組
む人が増えて欲しい(社会派映画監督)
z
障害が重くても地域の中で皆と暮らしたいという本人の願いを叶えるには、誰かが腹をくくって取り組む必要がある。
(社会福祉法人理事長)
z
ネットワークをみんな求めている。声をかけてもらってうれしい。(教師)
4.周産期、新生児医療現場へのメッセージ
1) 地域生活支援の視点を持つ
病院やセンターはとても大切だが出きることは限られている。地域生活全体を支援するという視点が大切である。生活障
害の部分を少なくすることが大切である。それぞれの分野でできることを考えつないでいく。その中で改めて病院の役割は
何か、新生児医療の現場ができることは何かということを考える。病院もレスパイト的な役目も果たす必要があるという視
点も大切である。
2) ソーシャルワークをするという視点を持つ
小児科医は子どもの最高のソーシャルワーカーだと思う。保健、福祉、教育など様々な場や人と繋がって仕事をしている
のでソーシャルワークしやすい立場にいる。目の前の子どもや家族が幸せに暮らすには、どこに、誰に親子を託せばいいか
134
ということを考えつないでいく。つないでいくためには地域のリソースを知る必要がある。実際は、地域の中には素晴らし
い人達が沢山いる。知らないだけだ。知ろうとすることから始める。一歩踏み込んでゆく。
3) ネットワークをつくる
大規模なセンターは、どこにでもあるわけではないし必要もない。たとえ素晴らしいセンターがあっても、ネットワーク
がなければセンターが活かされない。しかし、ネットワークはつくろうと思えばどこにでもつくることができる。なければ
つくればいい。
4) 弱さは触媒であり希少金属である
重い障害がある人達の支援をしていると、弱さはそれ自体で一つの価値があることに気づく。重い障害を持った人達は、
世の中を変え、人と人とをつなぎ、人としての本当の生き方を教えてくれる。
強さに支配された社会は、企業は残っても社会は崩壊し、生きる価値がない世界になってしまう。(浦河ベテルの家の「非
援助論」:医学書院)
135
シンポジウム5-3.あの脳性まひをもつ赤ちゃんはどこにいったの?:発達障害児の生涯にわたる障害の出発点
旭川児童院理学療法士
今川 忠男
脳性まひ児のための早期療育がわが国で開始されて約30年が過ぎようとしている。理学療法士がこの分野で貢献してき
たことは多くあると自負しているが、これまで実施してきた内容を「評価」し、今後の発展のための「提言」を行う必要も
多くある。
実施してきた理学療法を始めとする療育を評価する時、
「療育専門家」自身による尺度で比較検討されることは、従来から
行われ、わずかではあるが研究発表されている。結論から言うと、効果についての科学的証明は依然として獲得、確立して
いない。しかし、そのことよりも療育サービスを受けた「当事者」自身及び家族の価値観や生活の視点からの評価が検討さ
れ、療育の実践活動に取り入れられる機会が少ない現実がこれからの大きな課題となってくる。
脳性まひを持って生まれてきて、脳性まひを持ちながら人生を歩み、脳性まひを持ったままなくなっていく人たちと家族
も多くの長い歴史を持っていることを理学療法士をはじめ療育専門家が理解することが必要であるという認識でこのシンポ
ジウムに臨んでいきたい。
新生児集中治療室において、専門知識や技術が向上しているにもかかわらず、幼児期を越えても重度の神経学的障害が残
存するこどもたちや、小児期に重度の外傷を受けたこどもたちの数は期待通りの減少を見せていない。さらに重篤な神経学
的障害をもっていても、こどもたちや家族の人生の質を高めるべきであるという文化的期待感も高まっている。
脳性まひは、ある単一の診断名ではなく、運動や姿勢制御の異常発達を引き起こす多数の神経学的損傷状態を含む用語で
ある。最近は、脳性まひについて、
「発達の初期の段階で起こる脳の損傷や異常に起因する非進行性の、しかし臨床像は頻繁
に変化しうる運動機能障害症候群の包括的用語である」という統一した定義がなされている。脳性まひは小児期に生じる身
体障害では最も一般的であり、出生児 1000 人に対し 2~2.5 人の頻度で発生する。また、多様な病因による数多くの臨床神
経学的症候群を合併する。このような症候群の特徴は、運動制御の困難さ、代償による筋の長さの不均衡な変化、そしてそ
の結果、時に骨変形を伴うことである。病因が明確になることもあるが、たいていは不明なことが多い。脳性まひを引き起
こす数多くの出生前因子があり、現に脳性まひ児の多くが、脳の発育不全、出産時の虚血性低酸素症のような血管障害、感
染、妊娠中毒、子宮内での発育不全、超低体重出生といった、誘因を持っている。現在まで、様々な運動障害の背景となる
神経病理学的異常は、ほとんど知られていない。脳性まひと称する様々な症候群は、ほとんどの場合、四肢の障害部位や神
経学的障害の特徴によって分類されている。前者の分類には、片まひ(身体の一側が障害されている)、両まひ(すべての肢
が障害されるが、下肢がより重篤に障害を受けている)、四肢まひ(すべての四肢が等しく障害されている)が含まれる。神
経学的障害に基づく分類には、痙直型(他動運動に対する異常な抵抗を伴い、永続的に筋緊張が増加している。)、ディスキ
ネジア(不随意運動と筋緊張の不随意的変化)、失調型(随意運動の協調障害と平衡障害)、または混合型が含まれる。運動
障害は最も一般的な特徴であるが、他の障害を合併することが多い。中でも精神発達遅滞、てんかん、感覚障害は、合併し
やすい障害である。
脳性まひの定義には、
「頻繁に変化しうる」という用語が含まれる。これは、脳性まひが治癒しうるということを、意味し
ているのではないと認識することが重要である。脳損傷がもとどおりに治るという根拠はないからである。しかし、成熟的、
適応的過程が、こどもの臨床像を経時的に変化させうるであろう。それゆえ、治療では、こどもの最大限の可能性を引き出
すために、個人にとってどのような援助が最適かということに焦点を当てる。ここ数十年の間、多くの治療法が開発されて
きた。治療の方法はそれぞれで異なっていたが、それらの目的はすべて、
「脳性まひ児が自立できる可能性を最大限に引き出
すよう導き、また、青年期や成人期の生活をこどもたちが可能な限り健康におくれるように準備する。」これがすべての治療
法の目的である。
このシンポジウムでは、生涯にわたる障害を持つ脳性まひ児のライフサイクルを視野に入れ、その出発点の周産期・新生
児期から加齢にともなって変化する家族と当事者の必要性に焦点をあてた療育の提言を行っていきたい。
136
シンポジウム5-4.どんな小さな命でも生きたいと願い生まれてくる
人工呼吸器をつけた子の親の会会長
大塚 孝司
赤ちゃんがみな健康に生まれるわけではない。
赤ちゃんが、難病や障害を持って生まれるケースは、生命誕生の確率として避けては通れない事象である。自然界では自然
淘汰される命であっても、人間の世界では医学という命を助けるための技術が発達し、生きることの可能性がもたらされた。
小さな命の誕生は、どんな状態で生まれたとしても、周りの人たちに様々な影響を与えている。
病気や障害の判明する時期
医学が発達する以前は出産するまで分からなかったことが、現在では胎児やそれ以前の着床前、遺伝子レベルの段階まで可
能となった。また、胎児の段階で病気や障害を治療し、無事出産させることが可能なケースもある。しかし、正常に生まれ
た場合でも、生まれた後の発育段階で症状が現れる場合もある。
病気や障害の赤ちゃんを持った親の不安
喜びであるはずの妊娠や誕生が一転して不幸のどん底に落とされる。親の心は不安で揺れ動く。赤ちゃんの状態を初めて告
げられた時は、「頭の中は真っ白!」「なぜ自分の子が?」「自分のせい?」「何が悪かったんだろう?」「これからどう
したらいいの?」「自分の人生はどうなるの?」「舅・姑との関係」「世間体」「経済的問題」など様々なことが頭の中を
駆け巡る。
生かすも殺すも医者次第
生まれてくる子どもや生まれたばかりの子どもに重大な病気や障害があった場合、医師からの話の持って行き方でその子の
運命が決まってしまう。
医師から「おそらく数日の命」とか「もっても半年」、あるいは「病気・障害の子どもを育てていくことの大変さ」など、
マイナスのイメージで、親に「どうしますか?」と判断をゆだねられれば結論は決まってしまう。「一生懸命生まれてきた
命だから、一緒に頑張りましょう」と言ってもらえば、若い両親への大きな励ましになる。
赤ちゃんに対する意識
昔は「子どもは天からの授かりもの」とか「子どもは親を選んで生まれてくる」と言われていた。しかし、今は医療技術が
発達し生まれる前に一部の病気や障害の有無が判明する。そのため、親が子どもを選んで生む時代になって行くような気が
する。
社会の都合
現在、国の政策として医療費の抑制を命題に掲げている。その対策として障害者や高齢者等の医療費が標的となり、長期入
院やリハビリが打ち切られる状況にある。そして回復の見込みがないとされる患者を「終末期の状態」とし、治療の打ち切
りをしようとしている。新生児の場合も同様な方向にあるのか、最小限の治療のみを行う「看取りの医療」が取りざたされ
ている。なんだか「病気・障害がある赤ちゃんは、医療費削減のため速やかに逝ってもらう」と言われているような気がして
ならない。
冒頭でも述べたが病気や障害のある赤ちゃんは必ず生まれる。だからと言って、診断によって生まれてこないようにしたり、
積極的治療の中止をしたりしても良いのだろうか?「生きる価値のある命」と「生きる価値のない命」など、命の選別をし
ても良いのだろうか?「命の質」を社会の都合で判断するような「優生思想」が見え隠れするような気がしてならない。ど
んな病気や障害を持っていても普通に暮らせる社会であってほしい。
サポート体制の充実
病気や障害の赤ちゃんが生まれても「大丈夫だよ!」といってくれる環境が必要である。短い命かもしれないが、生命力を
信じ最善を尽くしてほしい。その結果として亡くなっても最善のことをなし終えた結果であり、皆に受け入れられることに
なる。生まれた命の看取りの方法を検討するよりも、その子が最大限輝いて生きることや、家族をサポートすることを真剣
に考えてほしい。
親も成長する
親はどんな状態の子どもであっても「子どもを授かった」という運命は変えられない。たとえ短い命であっても、「親」と
しての自覚ができ、短い時間だからこそ子どもから命の大切さを学び、普通では出来ない経験が人としても成長させると思
う。
子どもからのメッセージ
新生児に対する無駄な延命措置などないと思う。たとえ短い命であってもメッセージをもって生まれてくる。どんな小さな
命でもかけがえの無いものであり、小さな体で小さな幸せを一生懸命運んでくる。本人は何も出来ないかもしれないが、生
137
きることで周りの人を動かす力がある。この学会で私が話す機会が与えられたことも、息子が生まれ、生きてくれなかった
ら全く知らない世界のことであった。
命に対する思いは人それぞれ異なっていると思うが、どんな小さな命でも生きたいと願い生まれてくるのだから、大切にし
てほしい。
138
シンポジウム5-5.障害の告知,生きる,そして
光
みさかえの園むつみの家
福田 雅文
周産期医療に従事していた頃は生命予後に関しての説明は日常行っていた。そのなかで、重度の障害を残すことを告げる
ことは大変なことであった。親の多くはある程度予測はしていても、現実を突きつけられたときに、その現実を受け止める
のは余りにも大きな試練である。
母親は特に自分の体内に宿し成長した児に対しては、母親の責任として受け取り、子どもにすまないと思い、罪悪感に苛
まれ、絶望感のなかで何度も死を考えながら、涙の日々を送られているように思われる。そして、いつの間にか母親ひとり
きりで子ども支えている状況がしばしば見うけられる。暗い闇に突き落とされた母親は自分を支えることさえ厳しい中で、
生き抜かれます。どの母親も似たような道を歩まれると思われますが、その苦しみについてピュリッツアー賞やノーベル文
学賞を受賞し、輝かしい経歴をもつパール・バックさんの本で読み取れます。58歳になって、長年あたためていた「母よ
嘆くなかれ」を発表し、わが子が障害児であることを明らかにして、母親の悲しみとその悲しみとの融和の道のりについて
詳細に述べている。そのなかで「避けることのできない悲しみにどう耐えていくのかを学ぶことは、決してなまやさしいこ
とではない。それを学ぶ過程にあったころには、本当に超えがたい山のように思われた。その険しい道を歩いておられる人
たちのために、私の自分の心の中の葛藤が長い年月つづいたことを正直に申しあげたいのです。」と述べている。そして、
「人
間の本質」は娘が教えてくれたと。
多くのお母さんたちは日々の苦しみのなかで「生きるとは何か」
「人生の幸せとは何か」を子どもに問いかけられながら、何
年、何十年を生きているうちに母親たちは転換期をむかえているように思う。子どものあるがままを受け入れたとき、泣い
ているのは自分自身がかわいそうで泣いているのではないか、子どものことを本当に思ったら、ここで何かをやるべきでは
ないか。母親はおのれを捨てて事に当たる以外にこの子を助けることはでないと。そして同時に「懸命に生きようとしてい
る我が子の姿」に気づき、そのときの子どもの表情を「一点の曇りもない目映いばかりの美しい笑顔」
「天使」
「吾が師なり」
と表現し、その美しさに涙が流れ、とまりませんでしたと語られる。険しい山を乗り越えた母親たちはどんなに苦しくとも、
生きていく勇気と愛情に満ち溢れた日々へと変わっていくように思われる。
障害児者と触れ合うことで周囲が変わっていくことをよく経験します。ボランティアにくる学生さんも障害児者と触れ合う
ことで感動し、涙を流されます。何故、若いボランティアの人たちは涙をながされるのでしょうか。重度の障害の人たちと
触れ合う中で、何を感じるのでしょうか。人間が人間として生きていくためには「心と心を通い合わせること」に重要な意
味があるのはないでしょうか。
「ボランティアの涙」は障害児者と触れ合うことで、人間のこころの奥に住んでいる純粋、無
垢のやさしさが呼び起こされて、感動となって溢れ出てきた涙ではないかと思います。この涙があふれることで涙を流した
本人も周囲の人たちも純化され、癒されていくように思います。経済的な価値観が最優先され、物質的な豊かさを求め、競
争社会に振り回されている現代社会にあって、この「ボランティアの涙」は人間が生きていくための「いのちの泉」のよう
に思います。
障害児の草分け的存在の糸賀一雄氏は「この子らを世の光に」と表現し、障害児者の存在が世の中に如何に大切であるか
を説いておられます。糸賀氏と同時期に障害児に人生をかけた小児科医小林提樹氏が残した言葉にも通ずるものがある。真
正面から重症心身障害児対策に取り組んでいた小林氏は家族に対して障害の診断と発達が望めない絶望的な告知を行なうな
かで、告知後に再び訪れ、泣き崩れる母親の悲しみに触れ、この母親の涙をぬぐうのはいったい何であろうかと悩み、家族
の苦しみに応えるための一歩を踏み出され、当時ほとんどなかった福祉の道を築かれていく。そして、これが人の道である
と語っておられる。
障害児者の存在は必然です。私自身も障害児者と触れ合いことで多くのことを学んでいます。このシンポジウムを通して
「障害児者の存在そのもの」「障害児者が放つ不思議な力、光」について、皆さんに何かが伝われば、幸いです。
139
ワークショップ 1-1.文化的・宗教的背景の違いによる死産の受け止め方
東北大学産婦人科
室月
淳
夫婦が死産を悲しむ気持ちは人類共通と考えられるが,死産をどのように受け止め昇華していくかは文化的・宗教的背景
によってかなり異なる.文化人類学の分野ではいくつかの興味深い事実が報告されている.
タンザニアのある地方では,死産は夫婦やその親族と他の人間との争いの犠牲であったり,先祖の霊の祟りと考えられてい
る.そのため死産はその夫婦だけではなく一族の問題であり,死産後の女性は親族や隣人から厚く労われる.ジャマイカで
は,他の死産した女性の恨みや嫉妬が悪霊を呼ぶとされ,陣痛の床の下に悪霊が待ち構えていて生まれた赤ん坊をさらって
いくのが死産と考えられている.近隣の女性間の不和や緊張が根源にあるため,専門の治療家(ヒーラー)が女性の癒しを
行うと報告されている.ヒーラーは薬草などを使って治療も行うが土俗的宗教に基づいたいくつかの儀式を行うことにより
次の妊娠出産につなげていく.前者では伝統的コミュニティの中において,後者においては民間宗教といった違いがあるが,
いずれもそれぞれの民族におけるある種の「物語」の中で,自らに起こった胎児との死別という現象を確認し再解釈するこ
とにより,死産を体験した女性の癒しを行っている.おそらく伝統的日本においても同じような癒しのための装置があった
と推定される.
翻って,周産期死亡率が世界でいちばん低くなった現代日本では,伝統的コミュニティでのケアも信仰による癒しも影が薄
くなり,女性とその配偶者はオートノミーの名のもとに死産というむき出しの不条理の世界に投げ出されている.医療者の
われわれが新しい「物語」を作り出さなければならないのか,「セルフヘルプグループ」という新しいコミュニティがその
役割を担うことになるのか,いまだ新しい道筋は見えてきていない.
140
ワークショップ1-2.本邦における死産の疫学−日本産科婦人科学会周産期登録データベースから−
大分県立病院総合周産期母子医療センター
佐藤 昌司
周知のごとく日本における周産期死亡率は世界第一位の低率であり、その背景には日本人全体の教育ならびに生活水準の
高さと周産期医療従事者の弛まぬ献身的診療がある。一方で、周産期死亡のうち死産に関する疫学的集計に関しては、厚生
労働省の統計が存在するものの、詳細な内訳に関する情報が乏しいことも事実である。このような背景から今回、日本産科
婦人科学会が 2001 年から集計を続けている周産期登録データベースを基に、本邦における死産症例の年次推移および原因
あるいは背景疾患に関して検討した。
対象は、2001-2004 の4年間に日本産科婦人科学会周産期登録データベースに登録された妊娠 22 週以降の出産児 224,485
例である。このうち、死産症例 2,316 例に関して、下記の項目について検討した。
●死産数(率)の年次推移:周産期死亡数(率)、死産数(率)、死産の周産期死亡に占める割合
●死産症例の母体年齢
●死産症例の分娩時妊娠週数
●死産症例の背景疾患の内訳ならびに主な背景疾患の年次推移と臨床的特徴
以下、成績を示す。
●死産数(率)の年次推移:対象例に占める周産期死亡数、死産数、早期新生児死亡数はそれぞれ 4,086、2,316 および 1,770
であり、死産率は 1.0%、周産期死亡の 56.7%が死産例であった。4年間の死産率および周産期死亡のうち死産の占める比
率はそれぞれ 0.9-1.1%、54.2-57.6%とほぼ一定であった。
●死産症例の母体年齢:20 歳未満、20-24 歳、25-29 歳、30-34 歳、35-39 歳、40 歳以上における死産数(死産率)はそれ
ぞれ 40 例(1.18%)、228 例(1.07%)、604 例(0.91%)、725 例(0.88%)、403 例(1.0%)および 94 例(1.3%)(316
例は母体年齢不詳)であり、20 歳未満および 40 歳以上では他の年齢層に比較して死産率が高かった。
●死産症例の分娩時妊娠週数:妊娠 22-23 週、24-27 週、28-31 週、32-36 週および 37 週以降における死産数(死産率)は
それぞれ 313 例(33.3%)、519 例(13.0%)、444 例(6.3%)、594 例(2.0%)および 446 例(0.2%)であり、早い妊娠
週数ほど顕著に死産率が高い傾向がみられた。
●死産症例の背景疾患:死産例 2,316 例のうち原因不明が 580 例(25.0%)であった。原因あるいは背景疾患が存在してい
た症例の内訳は、常位胎盤早期剥離 412 例(17.8%)、胎児形態異常(胎児水腫を除き、染色体異常を含む)393 例(17.0%)、
臍帯因子(臍帯脱出、圧迫など)374 例(16.1%)、双胎間輸血症候群 186 例(8.0%)、胎児水腫 130 例(5.6%)、感染(絨
毛膜羊膜炎、母体感染を含む)68 例(2.9%)、胎盤疾患(常位胎盤早期剥離を除く)65 例(2.8%)、妊娠高血圧症候群 61
例(2.6%)、その他の母体疾患 47 例(2.0%)であり、形態異常、双胎間輸血症候群などの胎児疾患、ならびに常位胎盤早
期剥離が大きな比率を占めていた。
本データベースの登録施設は二次・三次産科医療機関が主体であり、基本的にはハイリスク母体・胎児に対して胎児救命
を目的に搬送ならびに管理を受けた症例群が中心である。このことが今回の集計で死産率ならびに周産期死亡率が本邦のそ
れらよりもかなり高率である理由と考えられる。一方で、今回の成績は救命目的での搬送、換言すれば人工死産例とは異な
る subgroup における死産の実態を表しており、背景疾患の内訳からみれば、周産期医療のさらなる向上あるいは胎児・新
生児治療の進歩によって死産を回避することが可能な事例が少なからず存在することを示している。ワークショップではデ
ータベースをもとにさらに検討項目を加え、医学的側面からみた死産例に関する現状ならびに問題点について触れてみたい。
141
ワークショップ1-3.死産胎盤の解析から
埼玉医科大学産婦人科
相馬 広明
目的:反復流死産は通常すべての妊娠の0.4-0.9%に起るといわれる。その病因として種々の因子があげられているものの、
その確定診断や適切な処置を定める事は、必ずしも
容易でない。とくに胎児水腫や浸軟児の多い死産児の死因を調べるには、病理解剖だけで明確な答えが引き出されないこと
もあり、反復死産例では、原因不明というような返答を
得ることもしばしばである。こんなとき胎児と共存していた胎盤の病理検査が重要な鍵を握ることがある。それによつて死
因が解明されれば、次期妊娠への大きな希望となり得る。胎盤は子宮内での胎児発育障害を反映することが知られているが、
その意味からも死産原因を検索するためには、胎盤検査は重要な手がかりとなる。しかしそれには胎盤病理についての正確
な知識が前提となろう。
方法:1991年から2006年までに埼玉医大産婦人科で扱つた死産胎盤157例について病理組織学的観察を試みたが、
これらのうち23例につき電顕的観察をも加えた。同時に早産(妊娠35週以前)胎盤242例についての病理所見を対照
として比較した。
成績:1)157例の死産妊婦の妊娠週数は25週以前が31.7%, 25週以後は68.2%であり、死産児体重は2000g以下が79.1%
と多く、胎盤重量は250g以下が52.3%となる。
2) 死産時の母体疾患として、胎盤早期剥離が14例あり、妊娠中毒症や前置胎盤などがつずく。児異常として胎児水腫や頚部
嚢水腫のほか種々の体表異常が随伴する。
3)死産胎盤の病理所見としては、対照例と比較して死産群に臍帯1動脈欠損、絨毛間血栓、脱落膜壊死、梗塞、胎盤後血腫、
抗リン脂質抗体陽性などが高い。
4)病理組織所見としては、とくに死産群に臍帯血管炎、脱落膜出血、絨毛内血管増殖、絨毛内出血、などの頻度が9.55%と
高い。また絨毛血管内における異常有核細胞の出現率が9.55%と高い。その他脱落膜血管壁のfibrinoid 変性が16.6%にみら
れた。
5)23例の胎盤絨毛の電顕所見の特徴としては、絨毛間質に血管増殖が見られる他、絨毛血管内に異常大型細胞の出現がみ
られ、それによつてvirus 封入体や先天性脂質代謝異常
産物などを見い出した。
結論:以上のように死産胎盤につぃての注意深い病理組織検索や超微構造上の特徴像の検出などにより、原因不明の死産の
病因の解明に役立つことを強調したい。
142
ワークショップ1-4.胎児死亡における臨床病理学的検討-胎盤以外のことからわかること
市立豊中病院病理診断科、大阪府立母子保健総合医療センター検査科* 竹内 真、中山雅弘*
【はじめに】
病理解剖の目的は、病気の性質や発生過程を理解することおよび新しい疾患や既知の疾患の変異を発見し明確にすること、
臨床診断の正確さや治療効果を判定することなどがあげられる。しかし、最近の画像診断の発達にともない病気の進展範囲
を把握することが可能になり、生検技術や免疫組織化学、DNA診断の進歩により的確な組織診断がなされるようになってき
た。そのため、剖検率の低下がわが国のみならず先進諸国でも共通の現象として認められる。ところが、胎児については、
画像診断や組織診断が困難な面があり、病理解剖は、診断だけでなく病態を把握するうえでも依然、重要な位置を占めてい
る。しかし、実際は胎児の病理解剖は日本病理剖検輯報には集計はされるが、剖検率には胎児は含まれていないし、多くの
産科医は、
「浸軟した胎児からは何もわからない」、
「病理医は周産期の知識が乏しいので」と胎児の病理解剖を敬遠している
のが現状ではないだろうか。一方、アメリカ小児科学会・産婦人科学会のガイドラインによると周産期死亡が生じた場合家
族のメンタルヘルスの観点からその死因を見極め家族に説明することが勧められ、病理解剖の必要性が見直されている。
【目 的】
1. 病理解剖により胎児死亡の原因がどの程度判明しているかを解析し、病理解剖の意義を明らかする。
2. 胎児死亡の原因に胎盤以外の検査でどの程度判明しているか明らかにする。
【対象・方法】
大阪府立母子保健総合医療センター検査科で1996-2003年の8年間で病理解剖となった胎児死亡症例335例(依頼症例を含む)
について、臨床記録と剖検報告を後方視的に検討した。ここで、大阪府立母子保健総合医療センター検査科での胎児の病理
解剖は、胎児の解剖だけでなく、胎盤検査、全身X線検査、可能であれば絨毛の組織培養による染色体検査を行っている。
【結 果】
1. 335例の中で、臨床診断されていた症例は233例、原因不明の子宮内胎児死亡は102例であった。病理解剖によって、38例
は原因が同定できなかったが、297例(89%)は病理診断がなされ、死因が判明した。また、原因不明の子宮内胎児死亡のうち
74例(73%)で病理診断が可能であった。
2. 病理診断された297例の内訳は、胎盤異常66例(臍帯異常 19例)、多胎 50例(TTTS 25例)、神経筋異常32例(無脳症 6例)、
染色体異常28例(18 trisomy 7例)、泌尿器系疾患22例(Potter sequence 10例)、骨系統疾患16例(osteogenesis imperfecta 6例)、
cystic hygroma(染色体異常除く) 15例、体壁異常17例(prune belly syndrome 6例)、心疾患(染色体異常除く) 14例、その他 37
例と様々であった。
3. 胎盤が診断するうえで重要であった症例は、胎盤異常や多胎、その他(ウイルス性胎内感染7例)および絨毛の組織培養によ
り診断した染色体異常やcystic hygroma(染色体異常を除く)で、166例(56%)を占めた。胎児の解剖および全身X線検査で死因
が判明した症例は131例であった。
4. 131例の中で浸軟した症例は26例含まれており、117例が臨床診断されている。このうち病理診断と一致した症例は97例
(83%)で、病理解剖によってさらに詳細が判明した症例は66例あった。特に骨系統疾患は全身X線検査にて、全例、病型も含
めた診断が可能であった。一致しなかった症例は10例あり、心疾患、神経筋疾患、体壁異常と様々であった。臨床上、原因
不明の子宮内胎児死亡が14例あり、1例を除き全例に浸軟を認めたが、診断は可能で、体壁異常が多かった。また、胎児水
腫をともなう心疾患や体壁異常を示す症例では病態を把握する上では胎盤検査は重要であった。
【まとめ】
1. 病理解剖となった死産児は87%で病理診断が可能であった。さらに原因不明の子宮内胎児死亡の症例でもその多くが診断
ができ、病理解剖の重要性が示された。
2. 胎盤検査は、胎児死亡のうち胎盤が関与する疾患が56%を占め、それ以外の症例の中にも病態を把握するため有用であり、
病理解剖をするにあたり必須の検査と考えられた。
143
ワークショップ1-5.子宮内胎児発育遅延と死産
国立成育医療センター周産期診療部
種元 智洋
WHOが発表した2000年の死産数は332万8千人であり、その年の1億3288万人の出生数に対して死産率は24/1000となる。
日本での死産率は厚生省の平成10年の発表によると死産率は31.4/1000、22週以降の死産は4.8/1000であった。このように死
産は稀ではないが、その原因や要因については明らかでない事も多い。そこで今回、胎児発育遅延に着目し、死産との関係
について考察した。
当センターでの2002年2月から2007年2月までの7290出産数のうち、22週以降の死産は78例(10.7/1000)であった。その中
で、双胎妊娠(30例)と詳細が不明な症例を除いた47例について後方視的に検討した。胎児推定体重は篠塚らによる超音波
胎児計測における基準値より算出し、-1.5SD未満を胎児発育遅延(FGR)症例とした。FGR症例は24例(51%)で、非FGR
症例は23例(49%)であった。その原因は染色体異常が(FGR例:10例、非FGR例:5例)、染色体が正常または未検査で胎
児形態異常を認めたものが(FGR例:6例、非FGR例:7例)、妊娠高血圧症候群、双角子宮など母体因子が(FGR例:2例、
非FGR例:0例)、常位胎盤早期剥離、臍帯過捻転、臍帯脱出、臍帯巻絡など胎盤・臍帯因子が(FGR例:4例、非FGR例:
9例)、子宮内感染(前期破水)が(FGR例:0例、非FGR例:1例)、原因不明が(FGR例:2例、非FGR例:1例)であった。
またFGRの観点から児生存について検討した。重度のFGRに対しては、未熟性と胎外治療の限界から、娩出のタイミングに
苦慮することが多く、現時点では統一的な見解が得られていない。当院におけるXX例のFGR症例の予後の検討より、早期娩
出を選択肢として考慮する場合は、26週未満または500g未満を児生存の臨界点、28週以降かつ700g以上を予後良好の基準
として娩出を検討している。
死産症例の半数はFGR例であり、死産とFGRは密接な関係を認めた。死産の原因は、FGR例では児の染色体異常が多く
(42%:10例/24例)、非FGR例では胎盤・臍帯因子が多かった(39%:9例/23例)。死産例においてはFGRの有無について
検討することも重要である。またFGRの管理においては、予期せぬ死産を避けるために胎児羊水染色体検査やFGR児生存の
臨界点などを考慮することが重要である。
144
ワークショップ1-6.形態異常と死産
神奈川県立こども医療センター産婦人科,横浜市立大学国際先天異常モニタリングセンター専門委員
山中 美智子
娩出以前に児が亡くなってしまう死産の主な原因の一つに胎児の先天的な形態異常がある。演者の経験では,かつて臨床
の場では「死産児は母親の産後の回復に障るので,母親には“見せない”方が良い」とされ,母親は生まれた児に会うこと
なく済まされてしまい,特に死産児に形態異常があるとますますその傾向は強かった。最近では死産に対するケアの考え方
が変わってきて,このような対応をするところは少ないと思われるが,死産を実際に経験した妊婦自身が,自らに起こった
ことを十分に知らされないままに終わっていくということが行われてきた。また,死産例についての疫学的検討もあまりな
されて来なかった。本ワークショップでは,先天的な形態異常からみた死産例の検討をするために,本邦唯一の全国規模先
天異常監視モニタリング調査である日本産婦人科医会による先天異常モニタリングのデータ,演者の施設におけるデータを
解析して報告する。
1972 年以来,調査を継続してきた日本産婦人科医会先天異常モニタリングシステムは,現在横浜市立大学産婦人科に本
部を置いて,妊娠 22 週以降の出産児で生後 7 日目までに判明した先天的な形態異常についての調査を行っている。海外諸
国とも定期的な情報交換を行い,国際先天異常監視機構(International Clearinghouse for Birth Defects Surveillance and
Research)の一員としても活動している。今回は,本データベースの 2000 年~2005 年の 6 年間の検討を行った。妊娠 22
週以降の出産児 512,104 例のうち、分娩時死産と報告された先天的形態異常児は 569 例で,形態異常を有する死産児の頻度
は 1.1/1,000 出産児であった。母体年齢は 19 歳以下が 2.1%,20 歳台が 40.9%,30 歳台が 51.3%,40 歳台が 5.6%であっ
た。在胎週数はあらゆる週数に認められるものの,22~27 週が 22.3%,28~35 週が 55.9%と多く,36 週以降は 21.8%で
あった。主な先天異常としては染色体異常が 168 例で約 30%と最も多く、そのうちの 8 割近くが 18 トリソミーであった。
ついで胎児水腫が 60 例,分類不能の多発奇形症例 42 例,Potter Sequence および嚢胞性腎奇形 37 例,無脳症 32 例,心奇
形 26 例などが続いていた。心奇形の中では Ebstein 奇形が 11 例と最も多かった。出生前に胎児の異常を指摘されていたも
のは 503 例で 88%であった。剖検は 117 例(20.5%)で施行され,染色体検査は 251 例(44.1%)で行われていた。
一方,演者の施設はこども病院に併設された産科であるため,胎児のリスクを中心とした診療を行っており,胎児に異常
を認める例が多い。このような背景をもつ周産期センターにおける死産例の検討を行った。1992 年~2005 年における当セ
ンターでの 22 週以降の分娩 5,163 例のうち,出生児に生命徴候を認めない死産となったのは 175 例であり,単胎 147 例,
多胎 28 例(26 組)であった。単胎の 147 例に絞って分析をしてみると,在胎週数は医会のデータと同様に 28~35 週が最
も多く 79 例であった。死産の原因が胎児因子によると考えられたものが 74%,早産や常位胎盤早期剥離など母体因子によ
ると考えられたものは 19%,臍帯因子によると考えられたものは 4%,原因不明が 3%であった。胎児因子によると考えら
れた 109 例の主な胎児異常の内訳は,やはり染色体異常が 34 例(31.1%)と最も多く,そのうちの 29 例が 18 トリソミー
であった。胎児水腫,子宮内胎児発育遅延,心奇形,Potter Sequence などがそれに続き,医会のデータと同様の傾向を示
した。
死産例に遭遇した時には,可能な限りその原因検索を行うことが重要である。糖尿病・自己抗体・TORCH・薬剤摂取
歴など母体因子の有無を検索し,胎児要因の検索も行う。出産児の外表所見を詳細にとることや,病理解剖検査や染色体検
査などの遺伝学的検査は重要であるが,胎児死亡後の時間の経過によりこうした検査が困難となってしまうことも多く,出
生前の超音波検査所見が重要な情報をもたらすことも多い。あるいは全身骨のレントゲン検査により新たな情報を得ること
もある。合わせて胎盤や臍帯の外表所見,病理学的検査も考慮する。こうした原因検索を行ってできるだけ診断を正確に行
うことは,病理学的・疫学的な解析が可能となるのみならず,こどもを亡くした家族にとっては再発リスクを知る上で重要
である。またこの「悲しい出来事」を家族が乗り越えて行くためにも,正確な情報が心理的回復に重要な役割を果たすこと
も多い。「死産を科学する」ことは,こどもを亡くした家族への援助の一つとして欠かすことのできない仕事である。
145
ワークショップ 2
-1.周産期医療整備
都市型
都立八王子小児病院新生児科
近藤 昌敏
治療を必要とする新生児を入院させる経路には大きく分けて母体搬送と新生児搬送の二つがあるが、いずれにしてもその
家族の生活圏内で治療されることが望ましく、これが地域化の基本であると思われる。
平成8年から国は「地域周産期母子医療対策事業」を開始し、地域の周産期医療システムの整備に本格的に取り組みだした。
この事業では人口100万人に対して1つの総合周産期母子医療センター、総合周産期母子医療センター1つに対して3~4つの
地域周産期母子医療センターが必要であるとされ、1次から3次医療まで地域において受けることができるように整備する
計画である。大阪府では、1977年新生児病床を確保するため6施設の小児科医のボランティア活動より、新生児診療相互援
助システム(NMCS:Neonatal Mutual Co-operative System)が発足し、その後大阪市、大阪府ならびに大阪医師会の援
助を受け、1987年には産婦人科診療相互援助システム(OGCS: Obstetric&Gynecological Co-operative System)が発足さ
れて周産期システムの発展にいたった。現在NMCSとして28施設OGCSとして43施設が登録(基幹病院10施設)されている。
大阪府は現場の医療機関が主導的に働きかけてシステムが構築されており、各施設が果たす役割が比較的明確に規定されて
いる。
一方東京都は昭和53年10月に新生児に対応できる11病院が、輪番制で当番日を決めた「新生児・未熟児特殊救急医療事業」
にはじまる行政主導型の周産期システムである。昭和62年には東京都母子保健サービスセンターが設立され、東京都全体の
周産期情報を収集分析し、保健施策に活用できるようになり、また各センターをオンラインで結びNICUと産科の診療能力
情報をリアルタイムに表示できるようした。国の「周産期母子医療対策事業」をうけて平成9年10月「東京都周産期医療対
策事業」として整備を進め、現在、総合周産期医療センター9病院、地域周産期医療センター13病院が認定され、NICUは
195床MFICU76床が整備されている。またその他に東京都周産期医療情報ネットワーク参加医療機関として2施設(NICU24
床)あり、NICU病床としては、出生数10万に対して200床をほぼ満足する状態となっている。しかし、既存の病院からのセ
ンター化のため、出生の3分の2を占める区部に総合8施設と、地域10施設があり、出生の3分の1を占める多摩地域には総合1
施設、地域3施設とその配置には大きな偏りがある。そのため平成17年末現在、区部では出生数1000に対してNICU2.85床の
病床数を確保できているが、多摩地域では出生1000に対してNICU1.12床しか確保できていない。それ以上に多摩地域では
母体搬送可能施設は2施設と少なく、平成16年度の母体搬送/新生児搬送実績では区部は2587/736件に対し、多摩地域では
841/669件と極めて母体搬送が少ない。多摩地域の母体は、特別区内へ搬送されるばかりでなく、受け入れ施設がないまま
新生児搬送をせざるを得ないのが現状である。
最近では次第に地域的な関連が強くなりつつあるが、まだ従来からの大学医局などの人的関係で結ばれた連携による搬送
が主体であり、ブロック化がうまく機能していないのが実情である。また周産期母子医療センターが近くに複数存在するこ
とで他の施設の対応に依存する傾向があり、その結果責任の所在が曖昧となりやすく、逆に患者の受け入れに時間がかかる
結果となることがある。
また東京都は、施設数も医師数も比較的恵まれているとはいえ、周辺の県からの患者の紹介も多く東京都のNICU・GCU
の入院患者の4分の1は他県の患者が占めており、いまだ病床は不足気味である。それに加えて近年分娩を取り扱う施設が減
少しており平成2年から分娩数はあまり変化ないにもかかわらず分娩取り扱い施設数は394から220ヶ所に減少しておりいっ
そう病床不足に拍車をかけている。
これらの現状を踏まえ、東京都は平成21年度に多摩地域に総合病院である広域基幹病院と小児医療センターを開設し、そ
こに大規模な周産期母子医療センターを開設することとした。また平成19年度に改定される保健医療計画の策定にあわせて
周産期医療体制を見直すことになり、周産期医療協議会の中に周産期医療対策部会を設置した。この部会の主な検討内容は、
以下のとおりである。
①3次施設である総合・地域センターの整備のみでなく、1次・2次のローリスクを扱う施設も含めた周産期医療の連携体制
の整備。(に東京都として取り組む→トル)
②NICUを有効に活用するために長期入院患者に対し、療育施設との連携を強化するとともに在宅療養が可能になるような
支援体制を充実させる。
③1次から3次まで地域の周産期医療を連続して提供できるよう正常分娩を含めた周産期情報の収集・解析をいっそう拡充
する。
④安全で安心なお産を実現させるため一般住民に周産期医療について正しい知識を普及させる。
146
ワークショップ2
-2.周産期医療整備 地方型
熊本市立熊本市民病院総合周産期母子医療センター新生児科
近藤裕一、川瀬昭彦
【熊本の過去と現在】S50年台前半の熊本県は、新生児死亡率ワースト3の常連であった。S54年に熊本市民病院に20床の未
熟児室が開設され全国平均に近づき、S59年に80床に増床され県の周産期医療の3次センターとなって、ほぼ全国平均の成績
となっていた。ところがH10年以降は年々悪化し、H14年にワースト1となった。この年の乳児死亡76例のうち、死亡に至る
病態が新生児期にありと判断した66例のうち、3割はunpreventable deathであったが、7割はpreventableと評価した。
当院の新生児収容数は、H14年までは毎年500名を超えていたが、「入院を断らない主義」では改善はないと判断し、H16年
412名、H18年309名と患者の受け入れを振り分けてきた。当院産科の年間緊急母体搬送断り数/受け入れ数も、H12年5/
177、H14年49/155、H16年65/107、H18年77/63と断り数が増え、受入数は減った。H16年からは、当院産科入院中の
妊婦を他院に送り出すという事態も発生している。
県内のNICUは熊本市民病院の15床のみであったが、H14年に熊本大学病院にNICU3床、H15年には熊本新生児病院(現福
田病院)にNICU6床が開設された。が県内での対応が困難となることが通年化し、H15年以降毎年20名以上の妊婦を主に
福岡県および鹿児島県の周産期施設にお願いしている。地域化が完成したと考えていた本県の周産期医療は、平成10年以降、
質的にも量的にも対応力不足に陥っている。
【対応できなくなった原因】
1)極低出生体重児の出生が多い:H14年の熊本県は、全国平均より20名も多くの超低出生体重児が生まれていた。全国の都
道府県の超低出生体重児の出生率と新生児死亡率には正の相関がみられる。極低出生体重児の出生率を5年区切りでみると、
出生千対でH1-5年は全国5.42/熊本5.81、H6-10年は6.02/7.03、H11-15年は6.87/7.73と全国平均も年々上昇してい
が熊本県はさらに高い。H17年は、全国7.71/熊本9.20まで上昇している。
「周産期母子医療センターネットワークデータベ
ースH15年報告」によると、組織学的絨毛膜羊膜炎の頻度が当院は65%と37施設中2番目であった。また熊本県の周産期死
亡率は全国平均である。早期新生児死亡は多いが、後期死産が少ないからである。これらが熊本県に極低出生体重児が多い
原因を一部説明しているのではないだろうか。2)救命率の向上と医療の高度化:細やかな呼吸循環管理、感染対策、栄養、
発達促進ケアなどなど、治療、ケアが格段に進歩し医療者の仕事量は増大している。3)外科系疾患の取り扱い:当院の小児
外科、心臓外科の充実により、それまで県外を含め他施設に紹介していた重症児も当科で治療できるようになった。4)新生
児病床の不足:熊本県のH17年の出生体重区分別の出生数に、東京都母子保健サービスセンターの調査によるハイリスク新
生児発生率を乗じてハイリスク新生児数を出し、それに当院のNICU在院日数を乗じて必要病床数を推定した。出生数約1.6
万の本県には、NICUが40床必要と算出された。現在、3施設で計27床まで増えたが、なお13床不足と推定される。5)新生
児科医の不足:NICU3ヵ所、小児救急基幹病院3ヵ所および大学病院の2つの小児科の計8枠の当直を回すためだけでも小児
科医の必要数は増えたが、開業指向、新研修制度もあり勤務小児科医は減少している。6)看護師の不足:公立病院の定員増
は難しい。7)長期入院児の存在:6ヶ月以上の入院児が、常時4名から10名あり、しかも多くが超重症児である。8)母体・
胎児あるいは新生児の適切な診断と紹介:H10-12年に母子あわせて年間10例以上の紹介があった43産科施設の、熊本市民
病院への母体紹介と新生児紹介の割合をみると、母体搬送のみの施設から新生児紹介率が80%強の施設まで差が大きかった。
9)小児科、産科の医療体制見直し:小児医療の拠点化が新生児医療の充実に結びつかない。阿蘇と天草では、小児科と産科
の拠点化にずれが生じた。
【今後の方策】新しい家族の始まりを支えるべき周産期医療は、破綻の恐れがある。医療圏、病院の設立母体を越え社会を
巻き込んで、小児医療と産科医療を連携させた中で考える必要がある。地方では集約化されても人口数万から10万の医療圏
を3-5名の小児科医で、小児救急と新生児医療の両者をカバーしなければならない。NICU専任当直は必須としない新生児
入院医療管理加算の増点が必要である。これは、NICUの後方ベッドにも適応できるものである。
147
ワークショップ2
-3.産科医の集約化とセミオープンシステム
東北大学
岡村 州博
産婦人科医師の減少の中で、より安全に妊娠分娩管理を行うことを目的として、仙台市では、産科勤務医の集約化と病院
の機能分担と産科セミオープンシステムを用いた産科医陵施設のネットワークづくりを施行した。産科、小児科、麻酔科の
ある仙台市内の6病院を分娩施設として産科セミオープンシステムの実施要綱を作成し、市内の病院、診療所産婦人科医師、
助産師、看護師を対象に説明会を開催し、仙台市医師会と分娩施設となる各病院間で契約を取り交わした。健診システムは
平成16年度に骨子を作成したが、妊娠初期に分娩施設に分娩を予約、その後は妊娠34週まで健診施設(産婦人科~婦人科無
床診療所および分娩を取り扱わない病院婦人科)で妊婦健診をおこない妊娠34週から分娩までは分娩施設でおこなう。その
間妊娠20週に分娩施設を受診、健診のほかに分娩予約確認、院内施設の説明、助産師との話し合いなどをおこなう。また、
妊婦共通診療ノートを作成し、救急時病診・病病連携がスムースにゆくよう配慮した。平成16年、仙台市では分娩の約7割
が病院で分娩がおこなわれており、また診療所の約7割が分娩を取り扱っておらずセミオープン化に向けての環境は整ってい
ると考えられた。日本産婦人科医会宮城県支部勤務医連携委員会と仙台市の病院産科医師数名で構成される妊婦健診標準化
準備委員会(仮称)が中心となり妊婦健診の標準化にむけたシステム作りおよび妊婦健診クリ二カルパス作成に取り組み検
討を重ねその骨子をまとめた。
その後、平成17年仙台赤十字病院がオープン化のモデル病院として承認され、10月1日より事業がスタートし、宮城県周
産期医療施設オープン病院化連絡協議会(事務局:仙台赤十字病院)が設置された。平成17年度は協議会が2回、作業部会が3
回開催され、平成17年12月には仙台市医師会と分娩6施設(仙台医療センター、東北公済病院、仙台市立病院、NTT東日本
東北病院、東北大学病院、仙台赤十字病院)との間で産科セミオープンシステムの契約を締結した。そしてセミオープンシ
ステムの共通診療ノートを作成、また分娩6施設へのアンケート調査(産科診療内容、分娩予約方法、母親教室など)を行い、
その結果をまとめた小冊子を参加施設へ配布した。
平成18年度はこれまでに2回の協議会と3回の作業部会が開かれ、妊婦健診の標準化と検査の統一を図り、産科セミオー
プンシステム診療マニュアルを発行した。現在このセミオープンシステムを利用した臨床研究について検討しており、近く
研究会を立ち上げデータの集積を開始する。
この間仙台産婦人科医会の年2回の学術講演会で、セミオープンシステム利用法についての解説や超音波検査法についての
勉強会を行い、産科診療のレベルアップに努めている。
平成18年1月から12月までのセミオープンシステム利用状況についてアンケート調査を行った。東北公済病院(年間分娩数
約900)では80%以上に達している。また市内42開業施設へのアンケートでは、回収率64%の現時点で分娩を取り扱わない開
業23施設中システム利用施設が19施設(83%)に達しており、そのうち年間100人以上の患者さんを取り扱った施設が5施設あ
った。利用率の差は病院の診療内容や立地条件で大きく異なるが、特に東北公済病院では常勤医の外来業務が軽減され、セ
ミオープンシステムの効果が著明である。
148
ワークショップ2
-4.これからの産婦人科医療供給体制?
石渡産婦人科病院
石渡
勇
はじめに
わが国は、最近10年以上に亘って、世界一の周産期医療を国民に提供してきている。しかし、それが崩壊しつつあり、地
域によっては、産み場を失ったお産難民が出現してきている。周産期医療供給体制の変遷と現在抱えている問題点と今後の
改善点、茨城県・医師会の取り組みについて報告したい。
Ⅰ 周産期医療供給体制の変遷と現状
1980年当時、母子の救急体制を一体化した「周産期医療の地域化構想」が提唱された。すなわち、周産期医療を担う医療機
関を機能と役割に応じて、一次医療機関(産科診療所と規模の小さな個人病院;正常とローリスク妊婦・産婦・新生児を担
当)、二次医療機関(総合病院産婦人科;中リスクを担当)、三次医療機関(周産期センター;いかなるハイリスクも担当)
に分け、これらの医療機関の協力と連携の強化により、地域の特性に応じた周産期医療システムである。さらに、1992年の
厚生省周産期医療体制整備事業(総合母子周産期センターを全国に設立;現在も8県に未整備)へと繋がった。これらのシス
テムの整備によって周産期医療はめざましく向上した。
しかし、その後、①高度生殖補助医療の普及、晩婚晩産、合併症妊婦の増加によりハイリスク妊娠・新生児が増加、②分
娩医療機関の減少(一次機関の減少;看護師の内診を禁じる看護課長通知と助産師不足、医師の高齢化、分娩の減少、訴訟)、
二次機関の減少(新医師臨床研修制度の導入、勤務医の労働環境悪化・低給与よる減少)、③産科医の減少、④医療訴訟の増
加、医療事故に対する警察の介入、等で周産期医療システムは崩壊した。
そこで、新たな体制を構築するために、集約化・重点化構想が持ち上がった。しかし、今後も周産期医療体制を維持する
ことも益々困難な状況となった。地方ではこの構想がでるまえに、分娩機関は減少し、すでに集約化・重点化ができない状
況である。さらに、①研修制度のひずみから、診療科・地域格差の拡大、労働環境の悪化、労働対価の低い給与体系、等に
より周産期医療をめざす医師のさらなる減少、中堅の勤務医(研修指導医を含む)のバーンアウト、②看護師の1:7問題に
よる看護師の引き抜きと病床数の削減があり、周産期センターにおいても増床できない状況、③2007年問題(周産期医療を
支える管理職医師の定年による大量退職と開業医の高齢化による廃院があいつぎ、産科医療機関が減少し、産科継続医療機
関に過重の負担がかかる)など、周産期医療に暗い影を落としている。
Ⅱ.周産期医療供給体制を崩壊させないための方策
1. 直ぐ取り組むべき対策
1)分娩医療機関を減らさないこと。産科診療所の代替は医療安全および医療法の観点から助産院では不可能である。
2)国民・地域住民に周産期医療に関し正しい情報を伝えること。
3)保助看法の解釈を見直し・凍結すること。看護師も助産に積極的に協力できるようにすること。
4)周産期医療に係わる医療費の適正化と大幅アップをすること。
5)一次機関の看護師の助産師養成とその支援すること。
6)産科勤務医の労働環境の改善と労働対価に見合う給与アップをすること。
7)地域の実情に即した医療体制のバックアップ(県・市町村)をすること。
8)多様なオープン、セミオープンシステムを展開すること。人的交流
9)助産師の活用、院内助産科の設置を図ること。
10)地域の状況により二次・三次病院の集約化・重点化を図ること。
2. 中期的・長期的に取り組むべき対策
1)産科医・小児科医の養成:地元に医師を確保するために、①医学部入試に地元枠、②現在不足し将来もなり手の少ない
産婦人科、小児科、麻酔科をめざす医師師への奨学金制度をつくること。
2)助産師の養成;入学枠の拡大(看護学校および医療機関からの推薦)や医師会立助産師養成夜間コースの設置を支援す
ること。
3)産科医の労働条件改善、女性医師の勤務条件・保育環境の整備を図ること。
5)周産期医療に係わる医療費の適正化とアップを図ること。
6)脳性麻痺児に対する無過失補償制度を創設すること。
7)公務員等の規正を緩和し、民間病院でアルバイトを可能とする(人的交流)。
3 安心して医療を提供できる法的環境整備(長期的と取り組み)
1)保助看法の解釈(看護師の内診問題)は立法・司法に委ねること。
2)医師法第21条改正、中立的医療事故調査委員会の設置を図ること。
3)医療法・医師法・保助看法などの見直しをすること。
Ⅲ. 茨城県・医師会の医師確保総合対策事業の実施状況
1 推進体制の整備及び情報提供の充実
(1)「医師確保支援センター」の設置
(2)ホームページの開設
149
(3)病院の求人情報を掲載開始(11月から) 現在52病院210人医師登録制度の創設)
:名称:
「i-doctor登録
制度」
登録者数:医学生: 178名 (うち筑波大学生 35名)
研修医:
91名
医 師:
62名 (うち県外 14名)
※2/19現在
(4)機関誌「いばらきの地域医療」の発行
2 地域医療定着の促進
○いばらき地域医療研修ステーションの設置
3 医学部進学に対する支援
○医師修学資金の貸与:18名 月額10万円/人、1人当年間1,200千円
4 初期臨床研修医の受入促進
(1)臨床研修病院合同説明会の開催
(2)地域医療実習生の受入
(3)指導医養成講習会の開催
(4)指導医シンポジウムの開催
(5)救急ライセンス研修の実施
5 後期研修医の受入促進
(1)後期研修費補助金の交付 (平成19年度から)
(2)後期研修医奨励金の支給:(小児科3名,産婦人科4名,麻酔科6名)年間25万円
6 女性医師の就業支援
○子育て支援奨励金の支給
1病院2人限度で、1人目80万円(給与減額がある場合は50万円)
2人目60万円(給与減額がある場合は30万円)
○いばらき医師子育て支援フォーラム
平成19年度のこれらの事業予算は95,239千円である。
7 その他
(1)自治医科大学への3名入学要望 → 平成19年度3名
(2)国への提案要望:
・医科大学入学定員の増員を図ること:特に,筑波大学及び自治医科大学をそれぞれ120名とすること
・医師不足地域における一定期間の診療の義務付けなど制度的な方策を講じること。
・小児科・産婦人科医師の増員を図るため,診療報酬上の配慮など
・関係学会と連携し専門医の養成及び認定数の調整を図るなど具体的な対策を講じる。
・医療事故の届出、分析、裁判外紛争処理制度(医療問題中立処理委員会の設置)
おわりに
戦後、特に最近30年間の周産期医療のひずみを改善することは困難である。
医療供給体制を考えるとき、医師の科目別・地域別格差、医療機関の地方偏在、医療費の適正化(国民総生産に対する医療
費)、労働環境の整備、等は必須の課題であり、これらの是正は医師会主導のもとに進められるべきであり、国の医療体制の
統制に委ねるべきではない。
150
ワークショップ2-5.大阪における地域周産期医療システムの現状と課題
大阪府立母子保健総合医療センター 末原 則幸
大阪における地域周産期医療システムは,昭和 40 年代に行われた妊産婦死亡調査、新生児死亡調査に始まりを見ることが
できる。
昭和 52 年には新生児診療相互援助システム(NMCS)、昭和 62 年には産婦人科診療相互援助システム(OGCS)平成 4
年には新生児外科診療相互援助システム(NSCS)が発足した。一方、そして、周産期医療の技術的中核施設として,昭和
56 年に大阪府立母子保健総合医療センターが開所し、平成 4 年に統合され再スタートした大阪市立綜合医療センターを含む
NMCS,OGCS の 6 基幹病院がシステム上、重要な役割りを担ってきた。これらを支えるべく大阪府医師会は周産期医療委員
会を設置し大阪府,大阪市の補助を得て,周産期医療のシステム化に貢献してきた。しかし、厚生労働省の総合周産期医療
対策整備事業に基づいて「大阪府における総合周産期医療対策整備事業」が開始されたのは平成 13 年になってであった。
そのような様々な活動の結果、早産低体重児やハイリスク胎児、新生児の診療、および産科固有の疾患等に関してはある
一定の成果を上げてきた。
しかし、昨今の,周産期医療に従事する医師不足が、周産期医療システムにも大きな陰を落としており、母体の救急救命
に関してはなお改善の余地があるといわざるを得ない。そこで、限りある医療資源、人的資源をより効率的に運用し,周産
期医療水準を維持向上させるための、周産期医療施設の集約化は避けられない情勢になっている。従来の周産期医療システ
ムの枠組みとは別に、脳出血、心疾患、重症感染症や重症外傷など母体の救命に関わる疾患に対応するため、大学病院や救
急救命センターとの連携や、システム内の地域中核施設の整備が急務となっている。
一方、周産期医療ニーズは増加するばかりである。そこで、周産期医療ニーズを減らすための取組みもなされてきた。多
胎を増やさない不妊治療現場での努力にも、今一歩踏み出す段階に来ていると判断し、大阪府医師会内の多胎に関する検討
委員会では「多胎を増やさない不妊治療」の報告書や単一胚移植をめざした「肺移植数に関する提言」をまとめ、大阪の全
産婦人科医に配布し、また関連学会にも配布した。
151
ワークショップ3-1.1絨毛膜性双胎妊娠の早期診断と初期管理
聖隷三方原病院産科
宇津 正二
Ⅰ、はじめに
10 年前の平成9年今は亡き小川雄之亮会頭が東京で開催された第 33 回日本新生児学会の『多胎をめぐる諸問題』のシン
ポジウムで、著者は
「多胎妊娠初期における管理について」
-特に双胎妊娠の早期膜性診断の重要性と双胎間輸血症候群発症予防についてを発表する機会を賜り、寺尾俊彦先生と多田 裕先生の座長のもとで
○多胎妊娠の問題点、
○超音波による双胎妊娠初期の膜性診断の重要性とその方法、
○双胎妊娠の初期管理とその問題点
○双胎妊娠の流産/早産と膜性
○1絨毛膜性双胎のハイリスク性と TTTS
○TTTS に特徴的な異常所見—特に臍帯の異常についてー
○ TTTS の発症に対する予防対策
などについて、独断的な推論や仮説を展開させて頂きましたが、今回はその後の経過や結果に基づいて特に1絨毛膜性双胎
妊娠の早期診断と初期管理の重要性と有効性について、この 10 年間の 40 例の自験例の成果から確信を得たポイントについ
て述べさせて頂きます。
Ⅱ、1絨毛膜性双胎妊娠のハイリスク性
そもそも双胎妊娠自体がハイリスクである事には異論のない所ですが、その内でも胎盤や羊水腔までも共有する1絨毛膜
性双胎妊娠は頗るハイリスクな妊娠で、超音波や MRI などの出生前胎児診断や、内視鏡的胎内治療が進歩発達してきた現在
にあっても、児の予後は妊娠中の胎児期から新生児期に亘る継続的な周産期の母児管理に懸かっているのは変わりなく、10
年後の今回再び本ワークショップが企画されたのだと思います。
1絨毛膜1羊膜性双胎(Monochorionic-monoamniotic Twin; MM 双胎 )では、臍帯の相互巻絡による臍帯血流障害で約 50%
の症例が胎児死亡に至るという危険性を抱え、1絨毛膜2羊膜性双胎(Monochorionic-diamniotic Twin; MD 双胎 )では、両
胎盤間の shunt 血流の著しい偏移の為に起こる両胎児間の循環不均衡から、放置し進行すると双方の胎児に循環障害から心
不全、脳室周囲軟化症(Paraventricular leucomalacia;PVL)低酸素性虚血性脳症(hypoxic-ischemic brain damage;HIB)な
ど所謂双胎間輸血症候群(Twin to twin transfusion syndrome; TTTS)が約 20〜30%にも発症する危険性があります。
その他にも一絨毛膜性双胎に特異的な異常としては、結合双胎、無心体双胎、
1児死亡や1児形態異常、体重差の大きい Discordant Twins などが挙げられますが、診断した時点でどのように判断し対処
し、治療または管理するかが非常に重要な問題であります。
Ⅲ、膜性診断と頸管所見
2絨毛膜性(2卵性)双胎でも、双胎妊娠であると云うだけで流産・早産、前置胎盤、胎位異常などの所謂産科的異常発
生のリスクは当然高いですが、何と云っても1絨毛膜性双胎を早く診断し、上に記したような特徴的な異常発現に備える・・・
というよりも異常発現リスクが高いということを妊婦さん自身もその家族も医療者側も認識した上で初期からの妊娠継続、
母児管理を進めて行くことが重要です。
特に胎盤が出来上がる妊娠 16週までに、また、TTTS の早期急性進行で流産や胎内死亡が発現することが多い妊娠 16 週ま
でに1絨毛膜性双胎であることが認識され、そのハイリスク性についても説明され充分理解出来ている事が望まれます。
その為には妊娠初期からの経膣超音波での羊膜腔と卵黄嚢の数、隔膜の厚みの観察、λサインや Twin peak サイン、Y-shape
junction や J-shape junction 等の特徴的な卵膜の所見から膜性診断を確実なものにしておかなければなりません。さらに、
流早産の心配についてもできるだけ早くから予測予防ができるように頸管長、頸管腺領域の確認・評価も重要です。
Ⅳ、臍帯の付着部、太さ、捻転などの観察とその評価
この 10 年間の経験症例の胎盤/臍帯の観察から、MD 双胎では臍帯付着部が辺縁付着や卵膜付着などの不公平な組み合わ
せの例と両方の臍帯付着部が近接している例、一方が臍帯過捻転の例などに TTTS 症例が多い傾向が認められ、妊娠早期か
らの臍帯の観察確認が重要で、次ぎの予防的な産科管理へと繋げる事ができると期待しています。
Ⅴ、TTTS の責任短絡血管を作らないような妊娠初期からの産科管理
MD 双胎の経験症例から TTTS は勿論、体重差も Hb 差もなく普通に元気で育ち無事生まれた症例では、出生後の胎盤表
面には髪の毛程度の細い短絡血管が数本認められるだけで、TTTS 症例に認められるような太い吻合血管は認められません
でした。
この事から、TTTS を発症するような吻合血管は作らない育てないと言う事が重要だと考え、特に胎盤形成時期の妊娠初期
(12w〜15w)から子宮内圧を上昇させない産科管理が最もその目的に合致するのでは無いかと考え実践してみました。妊娠中
の異常な陣痛や病的な子宮収縮を抑制することは TTTS 発症をブロックしてくれるだけでなく、更に重症化させる増悪要因
も抑制してくれることはこの後のワークショップで坂田麻理子氏が詳しく述べられるので省略しますが、妊娠初期からの子
宮収縮の抑制、子宮内圧を上昇させないような継続的な産科管理が結果として TTTS の発症を防いでくれている事実につい
て報告します。
152
ワークショップ 3-2.MD-Twin Score による一絨毛膜二羊膜性双胎児の胎児評価
宮崎大学医学部附属病院周産母子センター 金子政時、鮫島浩、児玉由紀、池ノ上克
1)目的:近年、双胎妊娠では膜性による予後の違いが明らかにされ、一絨毛膜二羊膜性双胎(MD双胎)と二絨毛膜二羊膜
性双胎(DD双胎)では妊娠および分娩中の異なった児の管理の必要性が要求されている。これまでに我々は、妊娠26週以
降のMD双胎妊娠の胎児評価法(MD-Twin Score)を新たに提唱し、神経学的予後の改善に有効であることを後方視的に証
明した。また、妊娠26週未満のMD双胎に関しては、双胎間輸血症候群(TTTS)のstage分類をQuinteroらは独自に提唱し
て胎内治療を試み、予後の改善を報告している。しかし、現時点では前方視的検討は少なく、妊娠初期から分娩まで一貫し
たMD双胎の胎児管理法が十分に確立しているとは言えない。そこで今回、MD-Twin Scoreを用いて分娩時期を決定し、児
の短期および長期予後を前方視的に検討した。
2)方法: MD-Twin Scoreは、妊娠26週以降のMD双胎を対象に、双胎間輸血症候群を含め様々な病態を考慮して神経学的予
後からみた胎児評価法である。概略を述べると、体重不均衡、羊水量不均衡、胎児水腫、臍帯付着異常、FHRモニタリング
異常に関して正常を0点、異常を1点とし、総合点を用いて胎児評価を行なう。以前行なった後方視的検討で、児の予後不良
に関して最大尤度検定を行なったところ各因子を単独で用いるよりも5因子の総合評価の方が優れており、3点を分岐点とし
て児の予後に有意差を認めた。今回、1996年7月~2002年12月に管理した43組、86児(平均分娩週数34.8±2.8)を対象とし、
MD-Twin Scoreを用いて前方視的に周産期管理を行なった。妊娠26週未満の分娩、p-PROM、染色体異常、形態異常、胎盤
早期剥離等の予期せぬ産科合併症を認めた症例は除外した。研究の除外基準に合致する妊娠26週未満ですでにMD-Twin
Scoreが3点以上であった症例3組は別枠で解析した。MD-Twin Scoreによる評価は、1週間に1度の割合で行い、MD-Twin
Scoreが3点となった時点でインフォームドコンセントを得て娩出とした。分娩方法は、MD-Twin Scoreが3点以上は全例帝
王切開、2点以下では前回帝王切開の既往、1児の胎位が非頭位、その他の産科的要因がある場合は帝王切開とした。娩出直
前のMD-Twin Scoreと児の予後(脳性麻痺;CP、精神発達遅滞;MR、新生児死亡、IUFD)とおよび新生児期の重症度(SNAP)
との関係を検討した。さらに、MD双胎児の予後を、同時期に出生したDD双胎児の予後と比較した。尚、DD双胎の妊娠管
理は、少なくとも1日1回のFHRモニタリングと1週間に1回のBPSを行い胎児の評価を行った。妊娠26週以降で、両児のうち
少なくとも1児のnon-reassuring fetal statusの出現あるいは陣痛発来した場合を娩出の時期とした。分娩方法は、MD-Twin
Score2点以下の場合と同じ適応で帝王切開を選択した。
3)成績: MD-Twin Score 2点以下は37組(86%)であり、3点となったのは6組(14%)であった。2点以下の37組は全例が
予後正常であり、一方3点で娩出した6組中1組の1児(脳室周囲白質軟化症)が予後不良であった。この1組は、分娩後の再
検討でMD-Twin Score4点であり、分娩前には体重差から過少評価された症例であったことが判明した。後方視的検討の結
果と比較すると児の予後不良の頻度は12.7%(59組中13組、15児)から1.2%へと有意に改善した。新生児早期の予後との
関連をみるとMD-Twin Scoreの上昇につれて新生児重症度スコア(SNAP)は有意に上昇し、妊娠中の評価と新生児の重症度
とが相関することも判明した。次にDD双胎児との予後の比較を行なった。同時期に管理したDD双胎は、83組、166児(平
均分娩週数34.6±3.3)であった。母体年齢、帝王切開数、分娩週数、男女比、早産率、出生体重は両群間に差はなかった。
DD双胎児166児のうち6児の予後が不良(CP;4児、MR;1児、新生児死亡;1児)であった(3.6%、6/166)。周産期予後に関して
MD双胎とDD双胎を比較したが、両群間で差を認めなかった。
今回の研究期間に、妊娠26週以前にMD-Twin Scoreがすでに4点の症例が3組存在した。これらの症例はプロトコールに沿っ
た管理ができなかったために研究対象から除外したが、神経学的予後は全例不良であった。
まとめ;①妊娠26週以降のMD双胎をMD-Twin Scoreで管理したところ、予後不良は1.2%であり後方視的検討を行なった期
間と比較して予後が著しく改善した。②妊娠26週未満でMD-Twin Score3点以上のMD双胎では予後は不良であった。③
MD-Twin Scoreで管理され、妊娠26週以降の出生したMD双胎児の予後はDD双胎児の予後と差はみられなかった。
153
ワークショップ3-3.一絨毛膜性双胎の早産管理は児の予後を改善する
奈良県立医科大学産婦人科
坂田 麻理子
1.バックグラウンド
多胎妊娠はハイリスク妊娠であることはいうまでもない。母体の健康にとっては、単胎妊娠と比較して生理的適応能力を超
えるスピードで増大する子宮のために身体的負担を受けやすく、妊娠高血圧症候群をはじめ妊娠合併症の発生率が高く、重
篤化しやすい。また切迫流早産から早産をきたしやすいことから、結果として児にとっては低出生体重児としてのリスクを
背負うこととなる。医療機関にとっては、一度に、そして長期間にわたって NICU を何床も占めることで,慢性的なベッド
不足をひきおこす原因となり、高額な医療費の支出にも関連するなど社会的な問題もはらんでいる。特に一絨毛膜性双胎
(Monochorionic twin;以下 MC 双胎)では低出生体重児であることに加えて、双胎間輸血症候群(Twin-twin transfusion
syndrome; TTTS)の発症によって、より重篤な状態で新生児科へバトンタッチせざるを得ないことも少なくなく、いかにし
て TTTS を発症させないか、早産をさせないかについて考えてきた。
われわれは以前から TTTS の発症は両児間の胎児胎盤循環不均衡から胎児循環不全に陥ることによって生じ、病的子宮収縮
がそのトリガーになりうることに注目してきた。そして MC 双胎の産科管理として TTTS 発症予防のために、妊娠初期から
徹底的に病的子宮収縮を抑制する管理プロトコールを構築し、前方視的に実践してきたので、その成果を提示する。
2.方法
対象期間:1997 年 7 月より 2007 年 3 月までの 9 年 8 ヶ月間
対象症例:4 施設で取り扱った MC 双胎妊娠例 62 例のうち、同一プロトコールで妊娠 16 週未満より周産期管理を実施し、
さらに分娩後胎盤まで検討しえた 40 例(80 新生児)について検討した。
母体年齢:平均 28.1(±4.8)歳、(17 歳~37 歳)
経産回数:初産 17 例、経産 23 例。
母体合併症:精神疾患合併例が 1 例存在し、それ以外に妊娠前から合併疾患を持つ例はなかった。
管理方針:①妊娠 16 週にいたるまでの間に、妊婦自身に子宮収縮を自覚する方法と、それを回避する必要性について家族
も含めて十分理解してもらい、普段から注意してもらう。②必要に応じて安静、子宮収縮抑制剤投与などにより 16 週前から
子宮収縮抑制を開始する。③最低 2 週間ごとの妊婦健診を受診してもらい、その都度超音波にて児推定体重、羊水量、胎児付
属物、各種循環系のパラメータや血流波形(胎児心胸郭面積比(cardio-thoracic area ratio; CTAR)、臍帯動脈,臍帯静脈、
中大脳動脈、下降大動脈、下大静脈前負荷指数(Pre-load index of inferior vena cava; PLI)、静脈管ほか)を観察し、胎児
循環機能を評価した。④前述の指標のうち、特に CTAR と PLI のいずれかまたは両方が持続的に 0.4 を超えた時点を胎内管
理限界と判断し、分娩時期を決定した。
3.結果
[1] 平均分娩週数:34 週 1 日(±19.9 日)であった。内訳は、妊娠 30 週未満 3 例、妊娠 30 週 0 日~31 週 6 日:8 例、32 週
0 日~33 週 6 日:6 例、34 週 0 日~35 週 6 日:17 例、37 週以降:6 例であった。
[2] 出生時児体重:40 例 80 児全体の平均は 1956(±462.9)g、(732g-2686g)で、それぞれのペアのうち小さい方(S)
は平均 1819 (±489.8) g、大きい方(L)は平均 2098(±397)g であった。このうち、25%以上の体重差を認めたのは 4 組
(10%)であった。
[3] 子宮内での児合併症:TTTS 発症、胎児水腫、子宮内胎児死亡とも認めなかった。
[4] 周産期死亡:認めなかった。
[5] 新生児予後:脳室周囲高輝度域(Periventricular echogenisity; PVE)I°を 2 例認めたが、脳室周囲白質軟化症
(Periventricular leukomalesia; PVL)はなく、全例 intact survival であった。
4.結語
MC 双胎妊娠で初期から(特に初期)の病的子宮収縮を抑制する管理を実践することにより、一例の予後不良例もなく intact
survival を得られることが確認できた。この方法での周産期管理は、TTTS はいつから始まるのか、何がきっかけで発症す
るのかという疑問から始まり、現在にいたる。MC 双胎において早産予防に努める(十分な切迫早産管理を行う)ことは、その
目的のみならず TTTS 発症の予防や児の予後改善の可能性につながることが期待される。実際には TTTS にいたらなくても
胎内からの循環不均衡により、TTTS 児のような新生児管理を必要とする例も多く存在する。今後はこれらの児を減らすた
めの指標についても検討し、提案する予定である。
154
ワークショップ 3-4.胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術
国立成育医療センター周産期診療部胎児診療科
左合 治彦
一絨毛膜双胎(MD 双胎)は胎盤を双胎で共有しており,胎盤において双胎間に血管吻合が存在する.この血管吻合による
両児間の血流不均衡が MD 双胎特有の病態を引きおこし,周産期予後を悪くしていると考えられている.その典型例が双胎間
輸血症候群(TTTS)であり,羊水過多と羊水過少を同時に認めることにより診断される.
TTTS は極めて予後不良な疾患で,羊水吸引術が施行されてきたが満足する成績が得られなかった.そこで新しい治療法と
して,原因となる胎盤吻合血管を遮断する胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)が導入された.本邦で FLP を本格的に
施行しはじめて5年が経過した.本邦における FLP の現状,治療成績,問題点について検討し,MD 双胎の管理法としての役
割について考察する.
妊娠 26 週未満の TTTS(羊水過多:最大羊水深度 8cm以上,かつ羊水過少:最大羊水深度 2cm未満)を FLP の適応とし
た.経皮的に胎児鏡を受血児羊水腔内に挿入し,胎盤表面を観察して両児間の吻合血管を Nd:YAG レーザーにてすべて凝固し
た.2002 年 7 月から 2006 年 12 月までに Japan Fetoscopy Group の 5 施設で FLP を施行した症例は 187 例となった.そのう
ち 2005 年 12 月までに分娩に至った 94 例の治療成績は,少なくとも 1 児生存率 87%,流産率 5%,平均分娩週数 31 週,神
経後遺症 5%で,欧米の治療成績に優るとも劣らなかった.しかし,術後出血,Mirror 症候群,常位胎盤早期剥離,肺塞栓
など重症母体合併症を 3%に認めた.TTTS の Quintero Stage が進行するほど治療成績が低下し,StageⅢでは 1 児死亡が,
StageⅣでは 2 児死亡や神経後遺症が増加した.術後 1 児 IUFD 例の予後は 2 胎児生存例と同等に良く,FLP 術後は1児 IUFD
によるもう1児への影響は認められなかった. 2 胎児生存例の早産娩出例で死亡例や神経後遺症例がみられ,この中の一部
の症例で TTTS の再発や anemia-polycythemia sequence を認めた.
FLP 治療後の児生存率は高く,また神経後遺症も少なく,妊娠 26 週未満の重症 TTTS に対して FLP は有効な治療法である.
FLP によって TTTS の周産期予後が改善され,ひいては MD 双胎の予後の向上が期待される.しかし,重症母体合併症など母
体に対するリスクがあり,FLP 施行にあたっては慎重な対応が必要である.今後も FLP 件数は増加し,MD 双胎管理における
TTTS の重要な治療法としての役割を担っていくと考えられる.
155
ワークショップ 3-5.一絨毛膜性双胎の胎児・新生児循環の心臓血管内分泌学的検討
1)神奈川県立こども医療センター周産期医療部新生児科、2)神奈川県立こども医療センター周産期医療部産科、
3)久留米大学小児科総合周産期母子医療センター新生児部門
豊島勝昭1)、川滝元良1)、前野泰樹 3)、小谷牧1)、今井香織1)、松倉崇1),柴崎淳1),星野陸夫1),大山牧子1)
石川浩史2)、鈴木理絵2)、長瀬寛美2)、永田智子2)、丸山康世)、山中美智子2)、猪谷泰史1)
心臓や血管に作用するホルモンとしてレニン・アンギオテンシン・アルドステロン (RAA) 系とANPやBNPなどのナトリ
ウム利尿ペプチド(NP) 系がある。RAA系ホルモンは腎不全や循環血液量の減少時に分泌が亢進し、血管収縮作用や心筋線
維化作用を有する。NP系ホルモンは心不全や循環血液量の増加時に分泌が亢進し、血管拡張作用・心筋保護作用・利尿作用
を有する。RAA系とNP系は拮抗するホルモン系であり、両ホルモン系のバランスにより全身の血管トーヌスは調節されて
いる。
我々は、臍帯血のANPやBNPは胎児心不全の診断、重症度評価に有用な生化学的マーカーとなる可能性を報告している(小
児循環器学会誌2005;21:123-129)。また、動物実験においてNP系ホルモンは動脈管拡張作用を有し、生後早期の新生児循環
に影響する可能性を報告している(Neonatology 2007.掲載予定)。
双胎間輸血症候群(TTTS)は胎盤血管吻合により両児間の循環血液量に不均衝が生じた一絨毛膜性双胎である。受血児は循
環血液過多(前負荷過剰) に対してNP系の分泌は亢進し、多尿(羊水過多)となる。供血児は循環血液過少(腎血流量過少) に
対してRAA系の分泌は亢進し、乏尿(羊水過少)となる。
近年、TTTSの胎児循環における供血児から血管吻合を介して受血児に移行するRAA系ホルモンの病的意義が注目されて
いる(Mahieu-Caputo D, et al. Fetal Diagn Ther 2001;16:241-244)。受血児は循環血液過多に関わらず、供血児からの移行
によりRAA系ホルモン過多状態 (Paradoxical RAA activation) となる。受血児の心臓は循環血液量の増大による前負荷過
剰に加えて、RAA系ホルモンの移行による全身血管の収縮のための後負荷過剰にも晒される。さらに、RAA系ホルモンの心
筋への直接作用により心筋の線維化・肥厚は進行する。受血児の胎児心不全や胎児水腫の成因としてParadoxical RAA
activationは報告されている。胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)は循環血液量の不均衝の改善のみならず、RAA系
ホルモンの移行を止めることから、受血児の心筋保護効果が期待できる。
我々は、胎児循環における受血児のParadoxical RAA activation は生後の新生児循環にも大きく影響していると考える。
受血児は、出生直後は高血圧・多尿であっても、数時間後から血圧低下・尿量減少・代謝性アシドーシスなどの循環不全を
きたし、循環管理に大量輸液を必要とすることがある。この受血児の生後の循環不全は脳室周囲白質軟化症(PVL)や脳梗塞
などの脳虚血性病変の原因になりうる。
我々は心エコー所見に加えて、NP系とRAA系ホルモンの出生時の臍帯血中濃度と循環不全時の新生児血中濃度の比較を
基に、受血児の生後循環不全の病態を循環器内分泌学的に検討した。循環不全時の心エコー検査では、大量輸液に関わらず
心臓のサイズは正常範囲であり、心ポンプ不全は必ずしも明らかでなかった。受血児の臍帯血中のNP系とRAA系は共に高
値であったが、循環不全時の新生児血ではNP系ホルモンはさらに増加し、RAA系ホルモンは著明に低下していた。
受血児では、出生後は供血児から移行していたRAA系ホルモンは消失する。受血児の腎臓は胎内で長期間、negative
feedbackによる抑制がかかっていたため、RAA系ホルモンの分泌能が乏しい。循環不全に関わらずRAA系ホルモンの分泌亢
進が生じない状態(Paradoxical RAA suppression)と考える。生後のNP系の亢進とRAA系ホルモンの分泌不全により受血
児の全身血管は弛緩状態となる。全身血管の弛緩は静脈系にプールされる循環血液量を増加するので、心臓への還流血液量
を減少させる。そのため、受血児は供血児から移行したRAA系ホルモンの消失時期に前負荷不足による心ポンプ不全をきた
すと考える。受血児の生後の循環不全は必ずしも心筋収縮力の低下ではなく、出生に伴うNP系とRAA系のバランスの破綻
による血管原性の可能性がある。
Quintero分類の重症度と生後に発症する循環不全の重症度は必ずしも一致しないため、受血児の生後循環不全の出生前予
測は困難である。FLPは胎児期のParadoxical RAA activationを解除することで、受血児の新生児循環不全を予防する可能
性もある。受血児の生後循環不全や脳虚血性病変を予防するためには、FLPの普及・適応拡大、胎児・新生児の心臓内分泌
学的評価法の確立、新生児循環管理法の工夫など、産科・小児科で情報交換・連携・協力を密にして検討していく必要があ
る。
156
ワークショップ3-6.双胎一児死亡後の待機管理の是非
北海道大学産科
水上 尚典
1. 双胎一児死亡の頻度
14 週時点で両児ともに生存している双胎妊娠 456 組(一絨毛膜性双胎 102 組、二絨毛膜性双胎 354 組)の検討では 24 週ま
でに少なくとも 1 児が流産ないしは胎内死亡した一絨毛膜性双胎妊娠は 13 例(12.6%)に比し、二絨毛膜性双胎でのそれら
は 9 例(2.5%)と報告されている。また、別の報告によれば妊娠 20 週以降分娩となった双胎 342 組中、一絨毛膜性双胎で
は 7/36 組(19%)、二絨毛膜性双胎では 13/306 組(4.2%)に一児死亡が認められた。日本産婦人科学会のアンケート調査
によれば 169 施設より回答が寄せられ 4,588 組双胎中、171 組(3.7%)に一児死亡が確認されている。これらのことは双胎
で一児死亡は希なことではなく妊娠 20 週以降およそ 3%〜5%に起こり、一絨毛膜性双胎ではより高頻度に起こることを示
している。
2. 一児死亡後の他児の予後
一児死亡後の他児の予後は胎盤膜性に依存していることが示唆されている。一絨毛膜性双胎の場合一児死亡が起こると残存
児の約 30%(13%〜58%)が胎内死亡もしくは新生児死亡するのに比し二絨毛膜性双胎でのそれは約 14%(7%〜25%)
である。また、残存児の神経学的後遺症は一絨毛膜性双胎では 33%(31%〜38%)に起こるのに比し二絨毛膜性双胎ではわ
ずかに 4%(0%〜7%)である。死亡と神経学的後遺症を予後不良例と定義すると予後不良例は一絨毛膜性双胎では 63%
(44%〜92%)であるのに比し、二絨毛膜性双胎では 18%(14%〜25%)と一絨毛膜性双胎では圧倒的に予後不良である。
3. どうして一絨毛膜性双胎では残存児の予後が不良なのか?
一絨毛膜性双胎では約全例に両児間に胎盤上で血管吻合があり二絨毛膜性双胎ではそれが殆どない。すなわち一絨毛膜性双
胎では血液を共有していることが残存児予後不良と密接に関係している。一絨毛膜性双胎一児死亡前後に生存児より死亡し
つつある胎児の血液移動が起こり、生存児の急激な貧血が循環不全を招来し、予後不良の原因となっていることが複数の報
告により強く示唆されている。TTTS に対する血管吻合遮断術後の一児死亡時には生存児に貧血が認めにくいことが明らか
にされている。
4. 一絨毛膜性双胎 TTTS 胎内死亡児が Donor or Recipient で他児の予後は異なるか?
Donor が先に胎内死亡した場合は Recipient であった児が重症貧血となる可能性は低く比較的に予後はいいが、Recipient
が先に胎内死亡死亡した場合、Donor であった児は予後不良で神経学的後遺症を有するようになる確率も高いとする報告が
ある。また、妊娠 26 週 TTTS において、供血児胎内死亡直前に認められた受血児の強い心不全徴候が供血児死亡後に速や
かに改善した症例が報告されている。
5. まとめ
双胎一児死亡後の生存児予後は胎盤膜性に大きく依存している。一絨毛膜性双胎一児死亡の場合は一児死亡直前に生存児か
ら死亡しつつある児への急激な血液移動が起こる。この時、急激に発生した残存児の貧血の程度により残存児の予後は決定
され、約 50〜60%が死亡もしくは神経学的後遺症を有するようになる。したがって、一絨毛膜性双胎一児死亡確認後は生存
児中大脳動脈血流速度を測定し生存児の貧血程度を推測する。極度の貧血が推測される場合は臍帯血穿刺を行い、必要あれ
ば胎児輸血が考慮される。30 週以降症例であれば娩出後の輸血も考慮される。30 週以前の症例での早期娩出は未熟性の不
利益のほうが上回る可能性があるので注意する。Donor が先に死亡した場合は生存児に極度の貧血はない可能性がある。こ
の場合、胎児貧血を評価しないでの早期娩出は正当化されない可能性がある。
157
ワークショップ 4-1.チームで支えるディベロプメンタルケア
聖隷クリストファー大学・大学院
大城 昌平
1988年,ブラゼルトン新生児行動評価(Neonatal Behavioral Assessment Scale; NBAS)の受講のためボストンを訪れ
た折,Dr. Als(Neurobehavioral Infant and Child Studies, Children's Hospital Boston, Harvard Medical School)と,
Brigham and Women’s Hospital in Bostonを訪問しました.母体内環境を再現したような静かで薄暗いNICU環境に感心し,
早産児へのディベロプメンタルケア(Developmental Care:以下DC)について学ぶことができました.
近年,日本においても,赤ちゃんの発達を育むことの重要性が認識されるようになり,多くのNICUでDCが実施されるよ
うになってきました.DCの理論は,Dr. BrazeltonによるNBASと,Dr. AlsのサイナクティブモデルSynactive model,そし
てNewborn Individualized Developmental Care and Assessment Program(NIDCAP®)の概念にあります.これらの概
念の基本の1つは,「赤ちゃんの行動から学ぶ」ということです.赤ちゃんの成熟や神経行動発達は,行動合図に反映され,
それは一人ひとりの赤ちゃんの個性的なものです.したがって,適切な介入を行うには,一人ひとりの赤ちゃん(と家族)
の行動合図,特に赤ちゃんのpositiveな側面をとらえる「感受性」が求められます.2つ目は,family centered intervention
です.赤ちゃんの成長・発達には,母親や家族が赤ちゃんを安心して育児していくことに自信を深めていくこと大切です.
親子の関係性は子どもの発達を支援します.そのためには,出生後のNICUには家族的な育児環境と機能をもつことが必要
です.
日本において,DCはNICUの環境調整やポジショニング,行動観察アプローチといったケアの方法論が先行して取り組ま
れているように思われます.しかし,その本質はケアスタッフと家族が一緒に,一人ひとりの赤ちゃんと家族に優しいケア
を実践し,赤ちゃんの発育や発達を支援するということです.DCの枠組みは,1)一人ひとりの赤ちゃんの発育や発達状況
を観察評価し,個別的なケアを行うこと.2)赤ちゃんとのコミュニケーションの手段として,赤ちゃんの示す行動合図をと
らえ,それに応じてケアの提供を考慮すること.3)環境調整やポジショニング,心地よい感覚刺激(カンガルーケアなど)
などの具体的な発達支援のためのケアの方法を検討し,提供すること.4)出生後から退院後を通して,家族介入を図り,赤
ちゃんと家族の関係性を育てること.さらに,地域での子育て支援の連携が含まれます.これらのDCを確立するためには,
赤ちゃんと家族を中心として,医師,看護師,臨床心理士,理学・作業療法士などの発達専門家developmental specialist
によるチームアプローチが不可欠です.近年では,NICUの医師や看護師などの理解が深まり,またそれぞれの専門性の向
上によって,いろいろな専門職者がNICUのケアに関わるようになってきました.各専門家は各専門分野の立場から,赤ち
ゃんと家族の育児・発達支援に必要な検査や観察評価,支援などの情報を発信し,チームで適切なサービス内容を検討する
ことが必要です.医師には医学的管理に加えて,各専門家による評価や治療経過から,子どもの発達や家族の育児状況に応
じた発育・発達支援が施せるようチームの連携をはかるチームリーダーとしての役割を担うことが求められます.
本ワ-クショップでは,これまでの経験から,ディベロプメンタルケアにおけるチームの協働について述べたいと思いま
す.
158
ワークショップ4-2.ディベロップメンタルケアの医師による理解のために
日本バプテスト病院小児科
山川
孔
ディベロップメンタルケア(以下DC)は豊穣な概念である。DCでは、赤ちゃんを、自ら環境とやりとりして自身の発達を
推し進めていく、主体的な存在だととらえる。ちなみに、これは寓話的な言説ではなく、脳の発達過程の研究をふまえての
主張である。その認識の下で、個々の赤ちゃんの要求に応じて個別化されたケアを行うのがDCである。赤ちゃんを脆弱で受
動的なものとし画一的なケアを行う従来型NICUケアとは、この認識の点で一線を画するケア体系である。
このDCには、看護師・理学療法士は積極的だが、医師には、従来のNICU医療を補完するものとして、DCを「一部許可
する」にとどまっている向きが多いかと思われる。医師がDCに消極的な理由として、以下が考えられる。
1. 従来のNICUケアでは医師は赤ちゃんの内蔵機能がもっとも脆弱な時期にもっぱら働くために、他職種に比べて、
赤ちゃんのほんらいの力強さを実感できる機会が少ない。
2. 現在の医療制度の下で医師はNICU医療の中心的存在を自任しているため、現在のNICU医療が構造的に抱える問題
を指摘されると反感を持ちやすい。
3. 他職種によって実践されているDCが医師の目には「エビデンスに欠ける」ものとうつりやすい。
4. NICUスタッフが家族を置き去りにして「発達によいケア」にまい進することが、仮にあるとすれば、それは本質
において従来型ケアと何の違いがあるのか。とくに経験を積んだ医師には、そういう危惧を抱く向きもあるかもし
れない。
そのため、DCと称しつつ、実際には従来型ケアの枠組みのもと、その邪魔にならない程度にDCの手技を各論的に一部採
用するにとどまる施設が多いと思われる。DCをより体系的に実践するためには、DCについて医師が理解を深めることが欠
かせない。したがって、
1. 医師が赤ちゃんの力強さを理解すること
2. 医師はNICUの主役を降りて「縁の下の力持ち」をもって任ずること
3. DCの研究をすすめ、さらなるエビデンスを蓄積し、個別化されたケアをめざすこと
4. ナラティブ・アプローチの視点から、赤ちゃんとともに家族もまた主体となるDC実践をめざすこと
が、当面の課題となるかと思われる。
参考文献
1. 堀内勁・他:Narrative based medicine・カンガルーケア. 小児科診療 2007;70(4):570-574
2. Goldson, E (Ed.). (1999). Nurturing the Premature Infant: Developmental Interventions in the Neonatal
Intensive Care Nursery. Oxford University Press, Inc. (山川孔訳『未熟児をはぐくむディベロプメンタルケア』医
学書院、2005年)
3. 野口裕二(2005)『物語としてのケア ナラティブ・アプローチの世界へ』医学書院
159
ワークショップ4-3.包括的なDevelopmental care —これまでの日本の動向と今後目指すところ—
元神奈川県立こども医療センター看護師
森口 紀子
日本の周産期医療は、周産期死亡率ひとつをとっても世界をリードしている存在であるが、その実態はスタッフの過剰労
働で補われていると言っても過言ではないだろう。そして、治療のメインは、急性期の集中ケアに力が注がれており、明ら
かな後遺症(頭蓋内出血による脳性麻痺など)は減少しても、子宮内環境とは程遠いストレスフルな集中治療環境において、
中村班の研究(1999)からもNICU卒業生のADHDやLDを併発する子ども達の存在が明らかにされている。このような背景の
中からDevelopmental Care(以下DC)が着目されるようになってきた。
現在、日本の多くのNICUにおいて実践されているDCは、NICUに入院する早産児やハイリスク新生児ケアにとって重要
な要素であり、新生児医療の縦糸(cure:治療)と横糸(care:DC)の関係にあると言える。しかしながら、日本における
DCは、環境調整やハンドリングなどの一部の直接ケアやケア後のなだめ行動に言及しているものが多い。
National Association of Neonatal Nurses(NANN:アメリカ新生児看護協会)では、さらに広義の内容で「DCはこどもと家
族と環境の間のダイナミックな相互作用の概念を包含する考え方である。 DCは、発達上の新生児と家族の個別的なニーズ
を支援するために、調整されたケア環境とケアの過程を通した概念枠組である。このケアの概念は、出生前から始まり、妊
娠中、出生時、入院中、退院そして家庭への移行、また乳児期とその後の幼年期のフォローを含み、地域でのケアへの連携
は退院に先立って行われる」と定義している。
この概念の違いが、欧米と日本における現在のDCへの取り組みの差であるように思われる。また、日本では看護師を中心
に取り組まれているDCであるが、欧米では看護師以外にも、医師、理学療法士、作業療法士、呼吸療法士、発達の専門家、
家族や子どものケアに関わる全ての人がその役割を担うことが明記されており、家族を含めたチーム医療の重要性を説いて
いる。
そこで今回は、これまでの日本におけるDCの概要とともに、DCの文献的考察(NIDCAP®含む)と、DCの先進国である
北欧での実際を報告する。北欧は、子どもや家族、そして、非侵襲的ケアを大切にしている文化が根底にある。スウェーデ
ンのDr Westrupは、NIDCAPの効果について、前方視的研究を行っている第一人者であるが、その共同研究者であり、
NIDCAPトレーナーであるAgneta Kleberg氏が在籍するLund University hospitalは、スカンジナビア半島を代表する
NIDCAPセンターである。彼女はここでNIDCAPの効果を検証し、スウェーデンにおける今後の課題についてもその著書で
述べているが、このLund University hospitalと、デンマークRigs HospitaletのNICUを訪問する機会を得たので、福祉国家
北欧と日本の医療を比較しながら、現在の日本にどうDCを取り入れていけばいいのか、今後の日本が目指す所をいくつか提
案できればと思う。具体的には、
① ベビーは自己制御行動を取れる能力(competency)を持つ素晴らしい存在である事を認め、ベビーが自己の能力を最大
限発揮できる環境を提供する。その環境の中には、物的環境以外にも人的環境である家族やスタッフが含まれる。
② 欧米に比較して、スタッフ数に限界があるのは致し方ない事として、ケアを行った後でなだめ行動を取るのではなく、
医療者のハンドリングそのものを見直す事で、ベビーのストレスを緩和する方法を探究する。
③ DCのゴールは、家族を含めた出生前から退院後までの一貫した包括的なケアである。家族が子どもの事を的確に理解し、
ケアできるように支援する。
160
ワークショップ4-4.赤ちゃんの発達を支援するケア−入院時から退院後へのフォローアップ
長野県立こども病院リハビリテーション科理学療法士
木原 秀樹
低出生体重や新生児仮死などのハイリスクで救命された赤ちゃんは、一般の児とは異なった出発点から、本来ご家族が描
いていた出産や育児感にずれが生じやすい。そのため、児のみならず家族を巻き込んだ育児支援(ファミリーケア)はとて
も大切であり、多職種のスタッフが児やその家族へ関わる必要がある。理学療法士(以下 PT)は入院中から退院後を通して
児にかかわる。PT は発達評価などを通して、家族へ児の個性(発達)を理解してもらい、退院後の適切な育児を支援してい
く役割がある。健全な発達を支援するケアとしてディベロップメンタルケアをとらえ、PT 介入の流れと支援内容に関する研
究成果について報告する。
新生児集中治療室(Neonatal Intensive Care Unit; NICU)や新生児病棟に入院する赤ちゃんのう
ち、特に早産児の発達予後が満期産による正常体重児に比し芳しくないことがわかっている。その原因として、(1)早産に
よる発達の未熟性、
(2)出生から出産予定日までの低栄養状態、
(3)発達予後に影響しやすい疾患罹患率の高さ、
(4)NICU
における治療環境の影響などが考えられる。早産児の発達予後が芳しくない原因は未だ明確でなく、多様な因子が絡んで起
きていると思われる。児の治療・ケアに関わる医師・看護師・PT・家族などがチームアプローチとしてそれぞれの因子に対
する原因の把握と治療・ケアの効果をあげていかなければならない。
赤ちゃんの健全な発達を支援するために PT が介入する役割は、(1)呼吸循環器系の安定(エネルギー消費の軽減、呼吸
器合併症の予防や改善)、(2)ストレスからの保護(安定した脳の成熟、呼吸循環器系の安定)、(3)発達の促進(適切な時
期に必要な刺激を入力、家族の育児力を高める支援)などがある。介入やケアを導入する時期は、児の呼吸循環器系の安定
やストレスからの保護などのタイミングを考慮することが重要である。児の発達状態を把握し適切なタイミングで介入する
ことで、児は治療刺激などを安定して受け入れることができる。修正 32~34 週未満の児は、積極的な働きかけを避け、呼
吸理学療法やポジショニングなどにより呼吸循環器系の安定やストレスからの保護に努めていく。修正 32~34 週以降は、
心肺や脳循環も安定し、哺乳能力も高まってくる。この時期から動睡眠と静睡眠の周期が出現し、視聴覚反応を中心に注意
力や相互作用能力がしだいに高まってくる。自律神経系の活動も修正 32~34 週以降から自己の鎮静化を促す副交感神経系
の活動が盛んになる。修正 36~37 週頃から自律神経系の活動バランスがとれるようになるため、治療刺激に対して児の自
己コントロール能力が徐々に発揮できるようになる。
これらを考慮しながら、
“呼吸理学療法”、
“ポジショニング”、
“運動発達促進”、
“感覚・認知発達促進”、
“哺乳練習”など
の支援をスタッフや家族とともに進めていき、退院後のフォローアップへつなげていく。呼吸理学療法は、酸素化の維持や
改善目的で、無気肺の発症や分泌物の貯留時に行う。修正 32 週未満の超早期からの呼吸理学療法を施行することもあり、早
期抜管や酸素管理の短縮により、早期から児と家族の関わる機会を増やす。ポジショニングは、皮膚保護や呼吸器合併症の
予防目的で「体位変換」、筋緊張コントロールや安静保持目的で「良肢位保持」を行う。入院早期からポジショニングを導入
することで呼吸循環器系の安定も図れる。そり返りやすい児の抱き方や哺乳姿勢を家族へ伝達することも育児支援の自信に
つながる。運動発達促進は、筋緊張が高く四肢などが硬く感じる場合やケア中などに手足を動かされることが苦手で驚愕・
啼泣しやすいような児に、四肢を動かす赤ちゃん体操を行う。家族へ体操を伝達し児に触れることに慣れてもらう。また発
達の遅れが予想される児に、頭部を保持する力や足のキッキング、手と口の協応動作などを促していく。感覚・認知発達促
進は、視聴覚の反応が弱い児に、その児が反応しやすい好きな物(人の顔やおもちゃ)や音を選択し注意力を高める。家族
へアイコンタクトや声かけによる働きかけを促すよう伝達する。易刺激性で、少々の刺激で驚愕・啼泣しやすい児や落ち着
きがなく睡眠時間が短い児に好きな方向や速さの揺れ刺激、触覚刺激などを積極的に入れる。スタッフや家族へ児が好まな
い刺激についても説明する。哺乳練習は、経口哺乳が不良な児に、当院の哺乳評価表を用い吸啜・嚥下・姿勢評価を行う。
可能な限り経口哺乳を進めていくために、哺乳瓶や直母哺乳における授乳タイミング・乳首の選択・児の姿勢などについて
家族へ伝達する。退院後フォローアップでは、児の退院前に Dubowitz 評価と自発運動(GMs)評価を用いたスクリーニン
グを行う。評価結果により NBAS 評価の視点に基づいた家族の育児支援を行い、退院後フォローアップにつなげる。
評価などを通して発達状態の把握をし、児の発達に合わせた支援を入院中から退院後も継続してフォローしていく(また
は地域支援へつなげる)ことが、児の健全な発達と家族の育児力向上を支援するディベロップメンタルケアのために重要で
あると考える。
161
ワークショップ 4-5.発達神経学からみたディベロプメンタルケア
東京女子医科大学小児科
平澤 恭子
小児神経の診療では近年発達障害の児が増加傾向にあり、これらの児の疾患概念、診断、治療などがクローズアップされて
いる。
では、なぜ、これらの児が現在増加し、問題となることが多くなってきたのだろうか? 児の発育環境が児の発達にどのよ
うな影響を与えているのであろうか? 児が母親を認識し、良好な親子関係や社会性の発達を成立するにあたり、どのよう
な経路をたどるのか、それらの発達はどのような事象によって阻害されうるのかを考察し、児の健全な発達におけるディベ
ロプメンタルケアの重要性について再検討したい。
発達心理学的な検討では、社会性の発達の起源は社会随伴性の検知(social contingency detection)にあるとされている。
この発達は1)自己認知 2)他人との相互関係の確立 3)共存感覚の発達という3つのステップをたどる。他人と区別
して自分であることの認知“自己認知”は、発達神経学者の Rochat らは double touch sense が重要としている。これは、
自分が自分の体をさわるとき、触る手と触られる部分の感覚の両者の感覚により、それが自分であることを認知し、double
touch sense がない場合には他人と認知するという説である。これは、新生児は他人の指を口角にあてると rooting reflex が
生じるのに対し、児自身の手が口角に触れても rooting reflex は生じないことを示すことで証明している。また、このよう
な自己認知に加え、その後の対人関係に重要な3つの要素人指向性、経験対象選好性、共感覚〔非様相的知覚〕を乳児期早
期にはすでに兼ね備えている。人指向性とは、例えば視覚刺激として、人間の顔を想像させるような模式的な図をより注目
する能力で、行動実験や実際に顔の模式図の画像とランダム画像を提示したときでは異なる事象関連電位が生じることなど
で証明されている。経験対象選好性は、胎内、過去に経験した音や匂いになじみやすいという性質、共感覚は視覚などの1
種類の感覚情報を利用して対象物が持つ複数の感覚情報を処理する能力で、Melzoff の乳首をもちいた実験などで証明され
ている。これらの能力を利用して、新生児は他人を認知するようになり、また人間の顔という視覚刺激や、その他人の仕草、
声などの様々な特性は共感覚などを利用して随伴性として認知し、母親や父親などを識別や感情の認知などが可能になると
考えられている。この随伴性の形成が愛着形成に大きく係わっていることが示され、これらがうまく確立しないと
disorganized attachment などを生じ、人との交流をうまく築きけないなどの問題が生じる。共感性などの発達にもまた随
伴性の認知や共感覚は重要である。Field らは6ヶ月、9ヶ月、などの児を対象に6ヶ月以降になると表情からそれが示す
感情を理解するようになることを明らかにした。この発達には、視覚刺激と聴覚刺激による随伴性刺激や共感覚が関与して
いるといえる。
一方、発達障害児に見られる様々な症状に注目すると、自閉症児などにもよく見られる触覚過敏、触覚鈍麻、多動、落ち着
きのなさなどがあげられる。このような触覚上の問題は一つには感覚統合の未熟性などが原因ではないかともされている。
触覚系の原始系〔防御反応など〕、識別系(共感覚などに基づくと考えられる)のアンバランスは発達障害によく見られる触
覚過敏、触覚防衛反応などをきたし、抱きにくさや児の不機嫌さをもたらすことになり、これは、さらにはだっこされるこ
とも嫌うことで、対人関係の成立をさらに遅らせることになってしまう。このような触覚系の異常に double touch sense な
ど自己認知の起源が関わっていることも容易に推測されることである。胎児が胎内ですでに自分の口に触る運動などは自己
認知につながっているとも考えられ、児の社会性の発達は産まれる前から始まっているとすると、早産などでこれらが絶た
れ、生後は過剰な触覚刺激が与えられた場合に double touch sense などによる自己認知が障害されることはないのだろう
か?また、満期産の新生児などでは共感覚を持っていることが示されているが、早期産児の場合にはどの程度発達している
のだろうか? このように出生後早期にさらされる過剰な刺激(音、触覚など)、不足する刺激(固有感覚、動きに対する感
覚)などは発達にどのような影響をもたらすのだろうか? このような環境が共感覚の獲得の遅れ、触覚による識別系、原
始系のアンバランスなどをもたらし、様々な発達上の問題を来す事はすでに多くの報告や系統的な研究がなされている。
自験例においても聴覚を利用した事象関連電位で一部の早産児で過剰な反応を示す例があることも見いだされた。
このシンポジウムの中では発達神経学、発達心理学などの研究事例を紹介しながら、デベィロプメンタルケアはそれらの発
達にどのように影響する可能性があるかなどを提示したい。
162
ワークショップ4-6.赤ちゃんと家族のこころを育むケア
山王教育研究所臨床心理士
橋本 洋子
周産期とは、こころを育むときです。かつて新生児は生理的な存在ではあっても、心理的な存在とはみなされていません
でした。最近の知見は、こころの芽生えが胎児期にはじまり、それが人との関係の中で育まれていくものなのだという点で
一致しています。生まれたばかりの赤ちゃんはすでに基本的な感覚能力をすべて有し、能動的に環境に働きかける力をもっ
ています。従来、認知能力がある程度発達してから人とのコミュニケーションが可能になると考えられていましたが、神経
生物学者および神経心理学者として名高い Trevarthen は、赤ちゃんが生まれながらにコミュニケーション能力を持ち、人
とのコミュニケーションに動機付けられていることを明らかにしています。
とは言っても、生まれたばかりの赤ちゃんは言葉がわかるわけではありません。意味のある身ぶりを理解するわけでもあ
りません。意味の世界にはまだ開かれていないけれど、音楽やダンスを共にするように、表情や音声・身体の動きを通して
相互交流が可能なのです。例えば「発声」を取り上げると、自分の発した声に対してあまりにも間延びして相手の発声があ
ったとしたら、私たちはそれを「応え」とは感じとらないことでしょう。揺らぎはあるけれど一定のリズムで、音の調子も
呼応しあい、やりとりの流れが共有できるように思うとき、私たちはそれをコミュニケーションと感じるのだと思います。
音楽をモデルとして考えると肯くことのできる、これらの非言語的なコミュニケーションを、音響学者で音楽療法にも携わ
る Malloch は「コミュニケーション的音楽性(Communicative Musicality)」と名づけました。そして、生まれたばかりの赤
ちゃんと親の間に、それと意識せずにコミュニケーション的音楽性が生じていることを、音声のコンピューター解析を行い、
呼応するパルス(脈動)、クオリティ(質)、ナラティブ(物語)という要素を見つけ出すことによって、明らかにしたので
す。日本でも、渡辺久子を中心に筆者らも加わって研究が進められていますので、当日ご紹介したいと思います。
では、どのようなケアを通して、親と子のコミュニケーションの発達は促進されるのでしょう。親に対して、赤ちゃんの
発声や身体の動きに応えるタイミングとその方法を指導すればいいのでしょうか。それは違うと、私たちは考えています。
親にとっても、コミュニケーション的音楽性とは情動を分かち合う内的な能力の表れであり、赤ちゃんを仲間と感じるとき
に自然に生じてくる動きなのです。親子をケアする者にとって、まず大切なことは「じゃまをしない」ことであり、親子が
安心して関係に自らを開くことができるように守ることであります。
「良いお母さんでなければ」などと思わず、その時のそ
のままに親子が出会い関係に没頭できるなら、自然に響きあうことができるのです。そのためには、周囲の人々は親子を守
る器として機能することが必要であると考えています。
NICUの赤ちゃんの場合には、まず救命治療が必須です。同時にコミュニケーション可能なひとりの赤ちゃんとしてケ
アされることが大きな意味を持ちます。親は、予期せぬ出来事にほとんど凍りついたようになっていますから、そっと少し
ずつ温められることが必要です。
「親なのだから~べき」というところで動くのではなく、こころが融けて動き出すのを親自
身が待てるように支えることが大切であると、私は考えています。通常の出産の場合よりはずっとゆっくりで一歩ずつ階段
を昇っていくような道のりかもしれませんが、やがて親子は出会い、少しずつ響きあうようになっていきます。NICUの
赤ちゃんと親のあいだにもコミュニケーション的音楽性が見られることを、私たちの研究グループでは見出しています。
周産期において「こころを育む」と言うとき、それは「育む」側も「育まれる」側も共に変化していくダイナミックで包括
的なプロセスです。ケアする者は、こころを対象化して「育てる」ことはできませんし、親子の出会いを操作することもで
きません。できることは、自分のこころを使いながら「器」として機能することであり、それが実はとても大きな意味を持
っていることを、あらためて意識化したいものであると考えています。
163
一般演題抄録集
2日目
7月9日(月)
、3 日目
7月 10 日(火)
第 1 会場(橙光)
第 2 会場(黄雲)
第 3 会場(紅玉)
第 4 会場(紫雲)
第5会場(青葉)
第6会場(紺青)
第7会場(紅梅)
第8会場(赤瑛)
164
新生羊における肺のサイズと肺循環、換
気、ガス交換指標との関係
埼玉医科大学総合医療センター 総合周産期母子医療
センター1、モナシュ大学 生理学部 2
○鈴木 啓二 1,2)
【背景】肺のサイズと肺の換気やガス交換との関係が
比較的研究されているのに比べ、肺のサイズと肺循環
との関係の研究はまだ少ない。
【目的】新生羊において
肺のサイズと肺のガス交換、循環、およびガス交換指
標との相関関係を調べること。
【対象および方法】対象
は種々のサイズの肺を持つ 19 頭の新生羊。このうち 9
頭では在胎 98-112 日(満期 147 日)から肺液と羊水
のドレナージにより種々の程度の肺低形成を作成し
た。在胎 138-141 日に全身麻酔下で胎児の左肺動脈に
超音波血流計を装着、主肺動脈にカテーテル留置など
を行った後娩出させ 2 時間人工換気した。この間体お
よび肺血圧、左肺動脈血流量、気道内圧および換気流
量を計測した。ガス交換の指標として Oxygenation
Index (OI)、肺胞動脈酸素分圧較差 AaDO2、Ventilatory
Efficiency Index (VEI)を、肺換気指標として全呼吸
システムコンプライアンス(Crs)、全呼吸システム抵
抗(Rrs)を、肺循環指標として肺血管抵抗(PVR)、肺
動脈コンプライアンス(PAC)を計算した。肺サイズの
指標として肺湿重量(LW)
、肺容積(LV)
、肺 DNA 含量
を測定し、上記のガス交換指標、換気指標、肺循環指
標との間の相関関係を検討した。
【結果】Crs は VEI、
OI とは相関していたが肺サイズの指標とは相関してい
なかった。Rrs はいずれの指標とも相関していなかっ
た。PVR はガス交換の指標とは相関していなかったが肺
サイズの指標とは負の相関関係があった(PVR vs LW,
r2=0.27; PVR vs LV, r2=0.40)。同様に PAC はガス交換
の指標とは相関していなかったが肺サイズの指標とは
正の相関関係にあった(PAC vs LW, r2=0.51; PAC vs LV,
r2=0.52 )。 AaDO2 は 肺 サ イ ズ の 指 標 と 相 関 し て い た
(logAaDO2 vs LW, r2=0.38; logAaDO2 vs LV, r2=0.29)。
一方 OI と VEI は肺サイズの指標とは相関していなかっ
た。
【結論】肺血管メカニクスの指標(PVR, PAC)は肺
換気の指標(Crs, Rrs)よりもよく肺サイズを反映し
ていた。AaDO2 は OI や VEI よりもよく肺サイズを反映
していた。肺循環指標は肺換気指標に比して肺サイズ
とより密接に関係していた。
Conditional knock out マウスを用いた
Stat-3 の肺発生時における役割の解明
慶應義塾大学 医学部 小児科学 周産期母子医療セ
ンター
○北東 功、松崎 陽平、池田 一成
【緒言】サイトカインは炎症の調節を行っているのみ
ならず、様々な役割を果たしているが、臓器の発生、
分化にも関与していると考えられている。Stat-3 は
Il-6 ファミリーの細胞内シグナル伝達物質で、DNA の
転写を活性化して、抗炎症作用、抗アポトーシス作用
等を通して、ホメオスタシスの維持に役立っていると
考えられている。また、Stat-3 の knock out マウスは
胎盤形成不全を来して、胎生早期に死亡することが知
られており、臓器発生にも重要であると考えられてい
る。今回、我々は臓器特異的 Stat-3conditional knock
out マウスを用いて、Stat-3 の肺発生における役割を
検討した。
【方法】Cre-lox システムを用いて肺 II 型上
皮細胞特異的 Stat-3 conditional knock out マウスを
作成した。Stat-3 を妊娠 0 日から肺摘出時まで knock
out し、妊娠 18.5 日胎児肺及び生後 25 日の成獣肺を摘
出し、H&E 染色と抗 Stat-3 抗体を用いた免疫染色を行
った。また、生後 6 週の成獣肺を摘出し、II 型上皮細
胞を分離、mRNA を抽出し、real-time PCR により Stat-3
の発現を観察した。コントロールは同胞マウスとした。
【結果】妊娠 18.5 日、生後 25 日の Stat-3 conditional
knock out マウスにおいて、肺形成に異常は認められ
なかった。抗 Stat-3 免疫染色では、肺 II 型上皮細胞
における Stat-3 の発現はほとんど認められなかった。
また、肺 II 型上皮細胞における Stat-3 mRNA の発現は、
コントロール群に比べ、10%に低下していた。【考案】
胎盤形成に Stat-3 は重要であり、Stat-3 の knock out
マウスは致死的である事が知られている。しかし、様々
な臓器での conditional knock out マウスで、臓器の
発生は正常に行われることが明らかとなっており、今
回の実験でも、Stat-3 は肺の発生に重要ではないと考
えられた。Stat-3 は抗炎症作用があることが知られて
おり、今後、高濃度酸素曝露などにより炎症を惹起し
た後の肺の状況を観察する必要があると考えられた。
結語:Stat-3 の肺特異的 conditional knock out マウ
スにおいて、肺の発生は正常であった。(会員外協力
者:Cincinnati 小児病院 Dr. J.A.Whitsett)
O-001
O-002
165
マイクロバブルテスト改良型自動機器の
開発
岩手医科大学
○塚原 央之、佐々木 美香、佐々木 智子、千葉 睦
実、千田 勝一
【目的】呼吸窮迫症候群(RDS)の予知法として普及し
ているマイクロバブルテストは,用手的な起泡操作に
若干の習熟を要し,算定する視野に主観の入る余地が
ある.この点を解決するために,我々は自動機器の開
発に取り組み,2005 年の本学会でその試作機を報告し
た.これは注射針付きディスポーザブルシリンジの内
筒を機械的に上下運動させて起泡し,それを CCD カメ
ラで捉えて,直径 15 μm 以下の同心円構造物を画像解
析ソフトで瞬時に測定するものである.しかし,シリ
ンジ内面に潤滑剤として塗布されたシリコン油が起泡
を抑制し,油滴がマイクロバブルと誤認される可能性
があるため,起泡法を変更する必要が生じた. 本研
究では茶筅にヒントを得た回転ブラシを考案し,これ
で起泡させる改良機を作成した.
【方法】ブラシは長さ
14 mm のナイロン糸を直径 4 mm のプラスチック円柱の
一端に貼り付けて作製した.この上端をモーター回転
部分に取り付け,検体の飛散を防止するためにプラス
チック製円筒カバーで覆って,その中で回転するよう
にした.この起泡効果についてブラシの本数,回転数,
検体量,CCD カメラの光源の強さ,視野の数について条
件を設定した.改良機の基本動作:羊水 100μl を特製
カバーグラス(カバーグラス上に 1 辺 20 mm の正方形
ができるように厚さ 200μm のプラスチック製フィルム
を接着させたもの)にとり飛散防止カバーを置く.「開
始」ボタンで自動的にブラシが下降し,10 秒間回転し
起泡する.カバーグラスがレール上を移動し,円筒カ
バーがフックによって途中で外れてカバーグラス上に
スライドグラスが載る.このスライドグラス下面に集
まるマイクロバブル数を算定する.全過程は 4 分以内
に終了する. この改良機を使用し, 37 週未満の早産
児から羊水を採取してパイロットスタディを行った.
【結果】改良機を使用したマイクロバブル数では,RDS
(n=6)で 0~4.7 個/mm2(中央値 2.4),非 RDS(n=9)
で 5.8~510.6 個/mm2((中央値 12.0)であった.【まと
め】改良機による RDS の判別は可能と考えられた.今
後は診断精度を検討する多施設共同研究を計画してい
る.
各種人工肺サーファタントの形態学的比
較
岩手医科大学 医学部 小児科学講座
○加賀 元宗、佐々木 美香、戸津 五月、千田 勝
一
【目的】呼吸窮迫症候群の治療薬として,世界では天
然由来の数種類の人工肺サーファクタント製剤が用い
られている.一方,肺サーファクタントに約 1%含まれ,
表面活性に必須の疎水性サーファクタント蛋白(SP-B,
SP-C)のアナログが合成され,これと脂質とを混合し
た人工肺サーファクタントも開発されている.本研究
ではこれらの人工肺サーファクタントの形態を明らか
にするために,電子顕微鏡を用いて比較した.
【方法】
天 然由 来製剤は Surfacten ,Survanta ,Infasurf,
Alveofact,Curosurf の 5 種類を用いた.合成ペプチド
を含む人工肺サーファクタンは,Cochrane ら,および
Takei らの報告に基づいて SP-B アナログまたは SP-C
アナログと脂質とを調整して用いた(以下,SP-B・脂
質,SP-C・脂質)
.人工肺サーファクタントの形態と比
較するために,脂質の組合せも使用した.これらの試
料は Notter らの方法に従って固定・染色した.
【結果】
人工肺サーファクタントの形態は線維状多層構造
(Surfacten,Survanta,SP-B・脂質,SP-C・脂質)と
小胞状多層構造(Infasurf,Alveofact,Curosurf)に
大別された.しかし,その中でも線維状構造の長さや
幅,小胞状構造の大きさは一様でなかった.脂質は全
般的に網目状で「暗-明-暗」の 3 層構造をとる部分が
多く,これは超音波処理で途切れた構造に変化した.
【考察】天然由来人工肺サーファクタントの形態は.
これまでの報告と基本的に同様であったが,本研究で
はさらに相違点のあることが明らかになった.一方,
SP-B アナログや SP-C アナログを含む人工肺サーファ
クタントの形態を観察したのは今回が初めてである.
これらの形態の違いは,精製法や成分,剤形,超音波
処理,autoclave 使用などによる影響が考えられた.
我々は Surfacten の活性が最も優れていることを報告
しており,活性にとって Surfacten のような構造が有
利と考えられた.
O-003
O-004
166
全国 NICU 施設における在宅人工呼吸管理
に関するアンケート調査
第1報 フォロー体制
川口市立医療センター 新生児集中治療科 1、第 9 回新
生児呼吸療法モニタリングフォーラム企画幹事 2
○滝 敦子 1)、奥 起久子 2)、田中 太平 2)、渡部 晋
一 2)
【はじめに】近年の周産期医療の進歩に伴い、在宅人
工換気が必要な患者が増加している。NICU をもつ施設
に対し、在宅人工換気患者フォロー体制についてアン
ケート調査を行ったので、分析して報告する。
【方法】
全国 165 施設の NICU に調査票を送付し、在宅人工換気
患者フォロー経験の有無およびフォロー体制について
質問を行った。
【結果】116 施設(70.3%)から回答を得た。過去5年
間に NICU に入院し在宅人工換気に移行した患者をフォ
ローした経験がある施設は 53 施設(46%)、在宅人工
換気患者のフォローが可能と回答した施設は 87 施設
(75%)であった。フォロー可能と回答した施設にお
いて、在宅人工換気患者のフォロー医師(重複あり)は、
小児科医師 57 施設(66%)
、NICU 医師 47 施設(54%)
であり、夜間・休日の対応医師は、小児科当直医 62 施
設(71%)、NICU 当直医 47 施設(54%)、主治医 15 施設
(17%)
であった。院内在宅看護部門を有しているのは 35 施設
(40%)であり、訪問看護ステーションを利用してい
る施設は 75 施設(86%)であった。院内でレスパイト
を行っている施設は 27 施設(31%)で、他院に依頼し
ている施設 12 施設(14%)とあわせても半数に満たな
かった。家族への退院前指導としては、83 施設(98%)
で院内外泊あるいは試験外泊が行われており、指導場
所としては小児病棟が多かった。66 施設(79%)で退院
前に在宅支援会議を開いており、主な参加者は看護師、
NICU、小児科医師、ケースワーカーであった。在宅人
工換気患者フォローを行っていない施設では理由とし
て、体制が整っていない(30%)、適応患者がいない
(25%)、後方病床がない(20%)
、スタッフ不足(15%)
、
夜間当直医がいない(10%)をあげていた。
【考察】在宅人工換気患者フォローを行っていない理
由として、1/4 の施設で適応患者がいないことをあげて
いたが、残り 3/4 は人的・物的医療資源の不足をあげ
ていた。フォローを行っている施設においても緊急時
の対応やレスパイトを含めたフォロー・支援体制が整
っているとは言い難く、一施設のみでの対応には限界
があると考えられる。在宅人工換気を推進するために
は、地域の開業医や養育施設、保健所などと連携して、
地域ぐるみの支援体制を整備する必要があると考えら
れる。(会員外協力者 下田あい子)
在 宅 人 工 換気ア ン ケ ー ト調査 第 2 報
NICU 入院中の長期人工換気患者と在宅人
工換気患者
川口市立医療センター 新生児集中治療科 1、第9回新
生児呼吸療法モニタリングフォーラム企画幹事 2
○滝 敦子 1)、奥 起久子 2)、田中 太平 2)、渡部 晋
一 2)
【はじめに】近年の周産期医療の進歩に伴い、在宅人
工呼吸管理の適応となる患者が増加している。在宅人
工呼吸管理患者および NICU 入院中の長期人工呼吸管理
患者についてアンケート調査を行ったので、第2報と
して NICU 入院中の長期人工換気患者と在宅人工換気患
者について分析して報告する。
【方法】全国 165 施設の NICU に調査票を送付し、過去
2年間の在宅人工呼吸器患者、NICU 入院中の6ヶ月以
上にわたる長期人工換気患者および在宅人工換気適応
があると思われる患者について質問した。
【結果】116 施設(70.3%)から回答を得た。過去2年
間に在宅人工呼吸器患者フォローを行った施設は 39 施
設(34%)
、患者数は 74 例であった。疾患の内訳は、
低酸素性虚血性脳症 17 例(23%)
、神経筋疾患 12 例
(16%)
、染色体異常 12 例(16%)、以下原発性中枢性
肺胞低換気症候群、気道病変、骨系統疾患、奇形症候
群の順であった。退院時期は、生後6ヶ月までが 15 例
(21%)
、6ヶ月~1歳が 18 例(26%)
、1歳台が 18 例
(26%)であった。一方、NICU に長期人工呼吸管理患者
を有する施設は 70 施設(60%)、患者数は 145 名であっ
た。在宅人工呼吸管理の適応があると思われる患者数
は 89 名で、疾患の内訳は、低酸素性虚血性脳症 38 例
(43%)
、神経筋疾患 12 例(13%)、骨系統疾患 11 例
(12%)
、以下慢性肺疾患、気道病変、染色体異常、奇
形症候群の順であった。患者の年齢は 0 歳 18 例(22%)、
1 歳 29 例(35%)
、2 歳 18 例(22%)
、3 歳以上 17 例(21%)
であった。在宅医療に移行できない理由としては、状
態が不安定 22 例(24%)、家族の受け入れ不良 18 例
(20%)、家族の希望がない 16 例(18%)、家庭の受け入れ
条件が整わない 14 例(16%)、在宅人工換気フォロー体
制の不備 5 例(6%)があげられていた。
【考察】在宅医療の適応があると思われる長期人工呼
吸管理患者を約半数の NICU で有しており、基礎疾患は
低酸素性虚血性脳症や神経筋疾患など予後不良のもの
が多かった。在宅医療に移行できない原因の半数以上
が家族の受け入れ不良や希望がないなどの家族側の要
因であった。NICU 後方支援施設の整備とともに、在宅
医療を推進するために、家族に対しての精神的援助や
訪問診療や訪問看護、ショートステイ、ホームヘルパ
ーやレスパイト制度の推進などの支援体制の整備が必
要と考えられる。
(学会員外協力者 下田あい子)
O-005
O-006
167
哺乳時チアノ-ゼを認める児における呼
吸停止のパターン分類
昭和大学 医学部 小児科
○日比野 聡、櫻井 基一郎、三浦 文宏、澤田 ま
どか、水谷 佳世、水野 克己、板橋 家頭夫
アプネカット使用児におけるテオフィリ
ン血中濃度の検討
東京都立八王子小児病院 新生児科 1、東京都立清瀬小
児病院 2
○安藤 和秀 1)、森田 清子 1)、鈴木 雅美 1)、高橋 秀
弘 1)、岡崎 薫 1)、柿沼 亮太 1)、近藤 昌敏 1)、西田
朗 2)
【概要】未熟性による無呼吸発作に対して、2006 年 8
月保険適応のあるアプネカットの販売が開始され、当
院では 9 月より使用している。今回我々は、静注製剤
とアプネカットによるテオフィリン血中濃度の比較を
行ったので報告する。【方法】2006 年 9 月から 2007 年
3 月に、東京都立八王子小児病院 NICU に入院し、未熟
性による無呼吸発作に対してアプニションおよびアプ
ネカットを使用し、投与開始 4 日以降にテオフィリン
血中濃度を測定した 14 例を対象とした(在胎週数 28.5
±2.46、出生体重 1033±357g)
。アプネカット使用児
においては、投薬方法を変更したため、変更前(変更
前群:製剤の容器を直接利用して計量)と変更後(変
更後群:1mL の注射用シリンジで計量)で比較を行った。
有意差検定には、Mann-Whitney U test を使用した。
【結
果】テオフィリン血中濃度測定回数は、アプニション
群 n=9、変更前群 n=9、変更後群 n=22 であった。測定
は、投薬後 8 時間に行った(7.8±1.2)
。血中濃度は、
アプニション群と変更後群との間に有意差を認めなか
った(p = 0.297)。変更前群は、変更後群より有意に
高値を示した(p = 0.004)。ともに、投与量において
は、有意差は認められなかった。
【考察】投与方法は、
テオフィリン血中濃度に有意な変化をもたらした。ア
プネカットは 2.5mL(10mg)注射器に入っている製剤で
ある。しかし、実際の投与量は、4mg/kg/day の分 2 で
あれば、1 回に 2mg/kg つまり 0.5mL である。製剤容器
を使用した計測では、わずかな誤差を生み、それが血
中濃度の増加をもたらした。このような微量なアプネ
カットを投与する際は、1mL の注射器に分けて投与する
ことが望ましいと思われた。
O-007
O-008
【目的】哺乳が安全に効率よく行われるためには、吸
啜・呼吸・嚥下運動の調和が必要である。早産児では
この調和が確立する時期には個人差があり、修正週数
や体重だけでは決定できない。実際に修正 35 週から 40
週を超えても哺乳時チアノ-ゼを認める児を経験す
る。哺乳時チアノ-ゼを認める児に対して哺乳中の吸
啜・呼吸運動をモニタリングし、呼吸停止のパターン
を分析したので報告する。
【対象および方法】対象は当
院 NICU 入院中に哺乳時チアノ-ゼを認めた 5 例に対し
て、哺乳開始より 5 分間の吸啜・呼吸運動を有症状期
と症状消失時の計 2 回測定した。平均在胎週数は 30.2
±2.5 週、平均出生体重は 1513.8±53.2g、測定時の平
均修正週数は 1 回目が 37.6±1.6 週、2 回目が 40.2±
1.7 週であった。方法は通常と同様の姿勢でびん哺乳を
行い、吸啜運動は圧センサーを装着した人工乳首を用
い、呼吸運動は換気量測定器を鼻腔に装着し測定した。
また、酸素飽和度、心拍数をパルスオキシメーターに
て測定した。【結果】有症状期と症状消失後の哺乳能力
を比較検討する項目として、吸啜頻度(回/分)は平均
29.5±9.3 から 51.4±2.6、連続する吸啜の平均持続時
間(秒)は平均 6.4±2.6 から 17.0±4.3、連続する吸啜
の平均持続回数(回)は平均 8.1±2.8 から 19.2±4.5、
初回の連続する吸啜の持続回数(回)は平均 13.6±7.6
から 46.2±12.7 とそれぞれ統計学的有意差をもって増
加した。また、5 秒以上の呼吸停止回数(回)、総吸啜時
間に占める呼吸を伴わない吸啜の割合(%)は、統計学
的有意差を認めなかったが改善傾向は認めた。さらに
呼吸停止時の換気量モニター波形は、通常の換気量か
ら瞬時に呼吸が停止するパターンと、換気量が徐々に
減少して呼吸が停止するパターンの 2 種類に分類可能
であった。有症状期には前者のパターンを多く認めた。
【まとめ】今回用いた各項目は哺乳能力の発達を評価
する上で有用であった。また、哺乳中の呼吸パターン
を検討することで、吸啜、呼吸運動が調和し哺乳運動
が発達していく様子を評価できると考えられた。
168
胎便吸引兎モデルを使用した胎便吸引症
候群の予防・治療法のための実証的研究第二報
長野県立こども病院 総合周産期母子医療センター
新生児科 1、長野赤十字病院 小児科 2
○廣間 武彦 1)、赤澤 陽平 2)、中村 友彦 1)
O-009
O-010
MAS が関与する PPHN の発症要因は
大阪府済生会吹田病院 小児科 1、大阪医科大学 小児
科 2、ソウル大学小児病院新生児科 3
○坂 良逸 1)、山岡 繁夫 2)、長谷川 昌史 2)、廣井 真
世 2)、大植 慎也 2)、小川 哲 1)、金 漢錫 2,3)、荻原
享 2)、玉井 浩 2)
【はじめに】MAS では PPHN を発症する頻度が高いこと
は良く知られているが、その理由は全く不明である。
今回我々は過去の報告をもとに、PPHN の発症要因を
「vasodilator としての NO 産生の指標となる cGMP の低
下/vasoconstrictor としての Endotherin-1(ET-1)の産
生亢進」と仮定し、[1]羊水混濁のみ(羊混)[2]羊水
混濁+肺病変(MAS)[3]胎児 or 新生児仮死のみ(仮死)
のいずれが、PPHN の発症要因となっているかを検討し
た。
【対象】大阪医科大学 NICU および済生会吹田病院
NICU で出生した新生児を対象とし、以下の 4 群に分け
た。コントロール群:n=14, 羊混群:n=15, MAS 群:n=14,
仮死群:n=8 【測定項目および方法】臍帯血、d-0(生
後 12~24 時間)、d-3~5 の血液を採取し、cGMP,ET-1,肺
病変の指標として KL-6 を EIA kit で測定した。生後
12-24 時間の肺高血圧の指標として肺動脈圧/体動脈圧
比(PAP/SAP)を心エコーで測定した。【結果】PAP/SAP
は MAS 群がコントロール群,羊混群,仮死群に比べ有意
に高かった。KL-6 は臍帯血では各群間で有意差はなか
ったが、d-0,d-3~5 では MAS 群がコントロール群,羊混
群 , 仮 死 群 に 比 べ 有 意 に 高 か っ た 。 ET-1 は 臍 帯
血,d-0,d-3~5 のいずれも各群間で有意差はなかった。
cGMP は臍帯血,d-0 において各群間で有意差はなかった
が、d-3~5 では MAS 群がコントロール群,羊混群に比べ
有意に高かった。
【考察】以上の結果から、羊混から MAS
に進展してはじめて肺血管系に変化が生じてくること
がわかった。d-3~5 において MAS 群で cGMP が上昇する
理由は不明である。MAS から PPHN の発症が内因性 NO
の産生により防御されたことを示しているのか?今後
の検討を要する。
Neonatal Resuscitation Program(以下 NRP)では、
胎便による羊水混濁が存在し、かつ出生時に児が元気
でない(心拍数 100/分以下・呼吸抑制・筋緊張低下の
いずれかの症状が一つでも存在する場合)場合、胎便
吸引症候群(以下 MAS)発症予防のために、以下の手技
を推奨している。
1.出生後直ちに咽頭・喉頭吸引。
2.気管内挿管のうえで、Meconium aspirator(以下
MA)を使用して、気管内吸引を施行。
3.吸引時間は3-5秒以内で吸引しながら挿管チュー
ブを抜管する。
一方、日本の新生児医療の現場では、NRP が推奨する
MA は存在せず、必要時には挿管の上、気管内吸引チュ
ーブで適宜気管内を吸引している。
目的:NRP 推奨の手技と日本の現場で実際に行われてい
る手技(挿管したまま気管内吸引チューブで胎便を吸
引)の効果(胎便の回収率と酸素化の変化)を、MAS
兎モデルを使用し比較検証した。
方法:体重 2.15±0.2kg の日本成熟家兎計 16 羽を麻酔
後、気管切開して内径 3.5mmの気管内挿管チューブを
挿入し、100%酸素で人工呼吸管理施行。PaO2400mmHg
以上を確認後、抜管し、20%新生児胎便(3.5ml/kg)を
気管内注入し、直ちに以下の2群に分けた。(吸引圧は
100mmHg、吸引時間は 5 秒以内とした。)
1、USA 式群:胎便を注入後、再挿管し、MA を用いて
気管内吸引しながらの抜管を、計 1 回施行した。
2、JPN 式群:胎便を注入してから、再挿管し、8Fr サ
イズ気管内吸引チューブを用いて、計 1 回気管内吸引
を施行した。
胎便吸引後人工呼吸管理を2時間施行した。
結果:1、胎便回収率は、USA 群 14.8%、JPN 群 19.5%
で有意な差はなかった。2、気管内吸引後の PaO2 は、
両群ともに胎便注入前に 400mmHg 以上であったが、1
時間、2 時間後、USA 群 190、105mmHg、JPN 群 243、151mmHg
と、いずれも低下したが、両群間に有意な差はなかっ
た。3、心拍数・血圧とも両群に有意な差は見られな
かった。
考察:JPN 群において胎便回収率と酸素化が良好な傾
向にあったが、両群に有意差は無かった。NRP が推奨す
る手技は、人工呼吸管理を必要とする児において再挿
管を必要とする。また、JPN 方式による吸引手技は、不
必要な挿管・人工呼吸管理を増やすかもしれない。ガ
イドラインへの結論とするには更なる検証が必要であ
るが、現時点では積極的な MA の導入は注意が必要と思
われる。
169
O-011
高頻度人工換気療法の実際
宮城県立こども病院
○菅野 啓一、丸山
新生児科
英樹、堺
第一報
Wilson-Mikity 症候群ハイリスク児にお
けるシベレスタットナトリウムの投与経
験
国立病院機構 岡山医療センター 総合周産期母子医
療センター 新生児科
○影山 操、竹内 章人、遠藤 志朋、中村 信、吉
尾 博之、山内 芳忠
【背景】Wilson-Mikity 症候群(WMS)は絨毛膜羊膜炎
に伴い好中球エラスターゼなどが関与して発症される
と考えられている。加藤らは 2005 年の未熟児新生児学
会において、選択的好中球エラスターゼ阻害剤である
シベレスタットナトリウムの慢性肺疾患に対する有用
性を検討し、重症化予防の可能性を指摘している。我々
も同様の考えから、2004 年 7 月以降に出生し WMS のハ
イリスクと考えられた超低出生体重児(ELBW)にシベ
レスタットナトリウム(本剤)を投与している。
【目的】本剤が WMS の重症化を予防する可能性および
安全性を検討する。
【対象・方法】本剤の投与対象は、出生時に呼吸窮迫
症候群がない ELBW で、周産期情報(妊娠前・中期の間
欠的性器出血の既往、前期破水、臍帯血もしくは生後
早期の IgM 値、入院時白血球数、羊水もしくは生直後
の胃内吸引物グラム染色)から WMS ハイリスクと考え
られた児とした。投与量は 0.2mg/kg/時とし投与期間は
14 日までとした。経過中 WMS でないと判断した場合は
投与を中止した。
本剤の治療期間、本剤投与中の有害事象などを後方視
的に検討した。
また本剤を投与し最終的に WMS と診断した症例(投与
群)と、2001 年以降に出生し本剤を投与されていない
WMS 症例(非投与群)とを、人工換気日数、在宅酸素の
有無、レントゲン所見などについて比較検討した。
【結果】2004 年 7 月以降に出生した ELBW43 例中 16 例
に本剤が投与されていた。WMS は 10 例であり、うち 9
例に本剤が投与されていた。本剤の治療開始日齢は中
央値 1(0~2)
、投与期間は 14(2~15)日で、白血球
減少、肝機能障害などの有害事象は認めなかった。感
染症などに関係したと思われる血小板減少症を 2 症例
に認めたが、本剤投与中に改善していた。
非投与群(n=6)vs. 投与群(n=9)では、小気腫陰影出現
日齢 5(2~15)vs.6(2~36)
、慢性肺疾患 6/6 vs. 7/9、
受胎後 36 週での酸素依存性 4/6 vs. 5/9、人工換気日
数 59.5(35~96)vs.41(0~58)、ステロイド療法 3/6
vs.2/9、在宅酸素 4/6 vs.2/9 であった。投与群では統
計学的に有意に人工換気日数が短く、在宅酸素療法が
少ない傾向があった。
【考察】本剤は WMS ハイリスク ELBW において有害事象
なく投与されていた。WMS においては人工換気日数の短
縮化、在宅酸素療法率の低下を認め、重症化を予防し
ている可能性がある。
【結論】シベレスタットナトリウムは ELBW に対して安
全に使用でき、WMS 重症化を予防する可能性がある。
O-012
武男
現在市販され臨床応用されている HFO 換気可能な人工
呼吸器機は 10 機種以上に及ぶ。各々様々な振動発生様
式でありその使用法も施設間差も見られる。正しい使
用方法の把握のために各機種の同一条件下での特性を
評価することが大切と考え以下の項目を測定し特性の
把握の一助とした。方法)2Lのボトルタンク(コンプ
ライアンス 0.8)を用いた閉鎖回路を作成し口元換気量
及び圧測定を FLORIAN(Actronic Medical Systems AG)
と圧力トランスデューサ(DENSO SPW1020)を使用し測定
した。使用した機種は 1)infant star 2)Neo Beat 3)Baby
log8000+ 4)SLE2000 5)SLE5000 6)ハミングV 7)カ
リオペα 8)ステファニー 9)3100A(センサーメデ
ィクス) である。測定項目)a)MAP の変化に伴う換気
量変化,b)振幅変化にたいする換気量変化及びc)
周波数変化による換気量,肺内平均圧変化,肺内での
HFO 波形なおa,bに関しては挿管チューブ径を(2mm
~3.5mm まで)周波数を(8.10.12.13.15HZ)と変化さ
せて計測した。cはMAPを固定し 15HZと 10HZで
振動させた。結果 1) 振幅(50%)に固定し平均気道
内圧(MAP),挿管チューブ径及び換気周波数を変化さ
せて際,口元換気量の多い群はピストン式 HFO であり
MAP の変化の影響を受けにくかった。2) MAP を固定し
た際機種によっては振幅を変えても同じ周波数では口
元換気量が上昇しない機種が存在した。対してピスト
ン式 HFO では換気量は比例して増大した。3) 口元換
気量を増大させる目的で周波数を変化させた場合の各
換気量,肺内圧変化を検討すると,振動発生方式の異
なる 3 機種全てで 10Hz の方が各項目(回路内圧,肺内
圧)の変動幅が多く肺内平均圧の変動幅も大きかった。
ここでもピストン式が安定していた。考察同じ HFO 機
種であっても各々の振動発生方式が異なると特性も異
なり機種によっては我々の想像以上に換気量や肺内圧
(特に肺内平均圧)に影響を与えるものも存在した。
患児によっては同じ HFO 管理でも機種によってはその
恩恵が得られない可能性もあり機種の選択も大事な要
素であると考えられた。学会外研究共同者 メトラン
株式会社 武田康一
170
呼吸管理を必要とした新生児の退院時胸
部 CT に関する検討
名古屋第二赤十字病院 小児科
○田中 太平、元野 憲作、伊藤 友弥、山川 聡、
廣岡 孝子、村松 幹司、横山 岳彦、岩佐 充二、
安藤 恒三郎
2004 年に総合周産期母子医療センターで
出生した CLD 児の臨床像
大阪市立総合医療センター 新生児科 1、
「周産期母子
医療センターネットワーク」の構築に関する研究班 2
○森 啓之 1,2)、市場 博幸 1,2)、青谷 裕文 2)、猪谷
泰史 2)、加部 一彦 2)、佐久間 泉 2)、松浪 桂 2)、藤
村 正哲 2)
【目的】新生児医療の進歩に伴い極低出生体重児の予
後は改善されてきているが、後遺症なき生存を目標に
するうえで、慢性肺疾患(以下、CLD)は克服すべき大
きな課題である。日本における代表的な周産期母子医
療センターにおける出生体重 1500g 以下の児における
CLD の状況を知るために、発症率、病型別の比較、関連
する周産期因子について、2004 年度の共通データベー
スの解析を行った。
【方法】 周産期総合母子医療セン
ターの共通データベース(参加 50 施設)に 2004 年度
に登録された患者 2777 名のうち、日齢 28 までに死亡
した 459 名を除く 2318 名を対象に解析した。CLD の定
義は旧厚生省研究班の定義に従った。まず CLD の発症
頻度について検討し、次に病型別の臨床像の比較検討
を行った。最後に CLD と関連の深い周産期因子を検討
するために、CLD 群と非 CLD 群に分けて、出生前因子、
出生時因子、呼吸器合併症とその管理、その他の合併
症、予後について比較検討した。
【結果】CLD の発症率
は 34.2%であった。
在胎週数別では 25 週以下では 80%
以上の高率で発症し 30 週以上では少なかった。病型別
では、1 型および 3 型が酸素投与日数、人工換気日数、
修正 36 週の酸素投与、CLD に対するステロイド投与、
在宅酸素療法率、死亡退院率ともに高く重症であった。
周産期関連因子の検討では、出生前因子では、子宮内
感染症が CLD 群に有意に高く、3 型 CLD 発症に関連し、
また早期産、低出生体重等の原因となっていることも
合わせ、CLD 発症および重症化の高リスク群と考えられ
た。出生時因子としては、在胎週数、出生体重、アプ
ガースコア(1 分値、5 分値)は CLD 群で有意に低く、
蘇生時の気管挿管率も高かった。呼吸器合併症(呼吸
窮迫症候群、空気漏出症候群、新生児遷延性肺高血圧
症、肺出血、胎便吸引症候群)は、胎便吸引症候群を
除くすべての疾患で、CLD 群に有意に高率であった。ま
た急性期の全ての重症合併症(脳室内出血、嚢胞性脳
室周囲白質軟化症、動脈管開存症、晩期循環不全、壊
死性腸炎、敗血症他)は CLD 群で高く、とくに循環系
の合併症は CLD の高リスク群と考えられた。予後の検
討では、入院日数、在宅酸素療法率、治療を要した未
熟網膜症、聴力スクリーニング異常、死亡退院率とも
CLD 群で有意に高く、CLD は生命予後、機能予後ともに
悪いことがあらためて確認された。
O-013
O-014
新生児一過性多呼吸(TTN)は肺液の吸収遅延が主たる
原因と考えられているが、肺液が吸収された後、日数
を経ても胸部レントゲン上、肺に浸潤陰影が残存する
症例を時に経験する。また、新生児呼吸窮迫症候群
(RDS)などのため短期間の呼吸管理を受けた後、慢性肺
疾患の定義に当てはまらないような児でも、軽度なが
ら肺浸潤陰影を残すこともある。今回、我々は気管内
挿管されて 2 日間以上の呼吸管理を必要とした症例に
ついて、退院時胸部 CT を撮影し、その画像について検
討したので報告する。【対象/方法】2005 年 1 月 1 日か
ら 2007 年 1 月 31 日までの期間で、2 日間以上人工呼吸
器を必要とした 46 例(在胎週数 33.5±3.4 週、出生体
重 1915±740g)を対象とした。なお、28日以上酸素投
与を必要とするような慢性肺疾患、肺の奇形、先天性
心疾患を合併している症例は除外し、胸部 CT 検査にあ
たっては家族の同意を得て行った。
【結果】退院時胸部
CT で肺浸潤陰影や索状陰影などを残した異常群(N=23)
と正常群(N=23)を比較すると、在胎週数、出生体重、
胸部 CT の検査日齢に有意差はなかったが、呼吸管理日
数(異常群 vs 正常群:7.5±4.6 日 vs 3.9±1.5 日 p<
0.01)、酸素投与期間(異常群 vs 正常群:11.3±7.1 日
vs 7.1±3.6 日 p<0.05)については正常群の方が有意
に短かった。呼吸管理日数だけで分類すると、呼吸管
理日数4日以内に抜管できれば 29.2%(N=24)
、5-8
日では 60%(N=15)、9 日以上では 100%(N=7)に異常陰影
を残した。疾患別に見ると、TTN では 34.8%(N=23)、
RDS では 61.9%(N=21)で肺に異常陰影を残している。
【考案】今回の検討によって、呼吸管理期間の短い方
が肺障害が少ないことが示されたが、出生後比較的短
期間の呼吸管理であっても、退院時に肺浸潤陰影を残
している症例が多いことが明らかとなった。器質的な
病変を残すことが、その後の気道過敏性や喘鳴につな
がる可能性も高く、今後さらなる検討が必要と考えら
れた。
171
2005 年度慢性肺疾患全国調査(速報)-
2000 年度出生児調査との比較
愛仁会高槻病院 小児科 1、埼玉医科大学総合医療セン
ター 小児科 2、大阪府立母子保健総合医療センター
新生児科 3、愛染橋病院 小児科 4、平成 18 年度厚生労
働省科学研究費補助金(医療技術実用化総合研究事業)
「超低出生体重児の慢性肺疾患発症予防のためのフル
チカゾン吸入に関する臨床研究 」5
○南 宏尚 1,5)、田村 正徳 2,5)、藤村 正哲 3,5)、川本
豊 4,5)
【目的】2005 年の新生児慢性肺疾患(CLD)症例の詳細
と CLD 管理法の現状を明らかにし、CLD が増加している
のか否か、CLD 発症に関連する要因の解析、さらに CLD
治療・管理のあり方を検討する。
【対象と方法】新生児
専門医の基幹・指定研修 265 施設に調査用紙を郵送し
(回答 223、回収率 84%)
、2005 年出生児の、1)体重
別入院症例調査、2)CLD 症例調査、3)CLD 管理方式
調査を行い、2000 年調査と比較した。【結果】1)体重
別入院症例:総入院数 50560、うち出生体重 1000g未
満(ELBW)は 2680 例で、同年出生 ELBW の 86%を把握
した。ELBW の日齢 28 以上生存率は 88.2%(2000 年
84.4%、以下括弧内は 2000 年数値)と有意に改善した。
2)CLD 症例:日齢 28 以上生存児より 1930 例の CLD
発症があり、発症率は全体で 3.9%(3.1%)、ELBW で
57.8%(54.0%)と上昇していたが、体重区分別の発
症率に変化はなかった。CLD 症例の在胎期間は 26.9 週
(27.1 週)
、出生体重は 887.4g(922.4g)と軽量化
しており、酸素吸入期間は 80.1 日(85.0 日)
、人工換
気期間は 42.9 日(48.8 日)と短縮していた。在宅酸素
導入率は 10.0%(5.1%)
、死亡率 4.1%(3.2%)と上
昇した。病型分類では 2 型 44.5%、1 型 22.7%、3 型
13.3%の順に多く、酸素吸入・人工換気期間、受胎後
36 週での酸素吸入率は、4 型、3 型、1 型の順に高く、
死亡率、在宅酸素療法率も同様の傾向であった。3)CLD
管理方式:急性期の SpO2 の上限を 98%以上、目標値を
95%以上の数値と回答した施設は約 50%(65%)あっ
た。また、人工換気における吸気時間は有意に短縮し、
目標 PCO2 は高くなっていた。CLD に対する全身ステロ
イド投与率は 22.3%(31.2%)と低下していた。
【結論】
ELBW に関して過去最大の CLD 調査を行った。この 5 年
間に CLD 発症率は高くなったが、より未熟で著しい軽
量児の入院数増加・生存率改善による見かけ上の発症
率上昇であった。また、いわゆる肺に優しい呼吸管理
を採用する施設が増加していたが、全体として CLD 減
少にはつながらなかった。ELBW の CLD 発症率は大規模
な周産期センターに限定しても 25%~95%と大きな施
設間格差があることから、新たな CLD 予防戦略と併せ
て管理法の標準化の検討が必要と思われた。
Pulmonary Score、血漿 BNP 値は CLD の重
症度の予測パラメーターとなるか?
藤田保健衛生大学 医学部 小児科 1、藤田保健衛生大
学 衛生学部 臨床病理学 2
○宮田 昌史 1)、加藤 規子 1)、竹内 正知 1)、水谷 仁
子 1)、久保田 真通 1)、畑 忠善 2)、山崎 俊夫 1)
O-015
O-016
【はじめに】CLD の重症度を早期に予測することは、CLD
の重症化を軽減する方策を立てるために有用であると
考えられる。Madan らは、重症度を予測するパラメータ
ーとして Pulmonary Score(PS)を提案している。一方、
血漿 BNP も肺高血圧の際に上昇するため CLD の重症度
を予測するパラメーターとなる可能性があると考えら
れる。
【目的】CLD の重症度を予測するパラメーターとして
PS および BNP が有用であるかを検討する。
【対象と方法】対象は 2005 年 5 月から 2006 年 12 月に
当院 NICU に入院した在胎 32 週未満の児で、受胎後
(PCA)36 週以降に生存退院し、染色体異常、先天奇形
症候群、動脈管開存症を含む先天性心疾患のない 31 例
(出生体重 1261±396g、在胎週数 29.5±2.2 週)であ
る。
NICHD の BPD の診断基準(2001)にのっとり、生後 28
日に酸素投与または nasal CPAP を含む人工呼吸管理を
していた場合に CLD と診断し、PCA36 週の時点で酸素投
与が不要なものを軽症群、30%未満の酸素投与が必要
なものを中等症群、30%以上の酸素投与か陽圧換気が
必要なものを重症群とした。今回の対象の重症度分類
は、重症群が 5 例、軽症群が 9 例、非 CLD 群が 17 例で
中等症群はいなかった。
PS は、日齢 28 の FiO2 の値に人工呼吸管理例は 2.5 を、
nasal CPAP 例は 1.5 を乗し、全身ステロイド投与例は
0.2 を、利尿剤投与例やステロイド吸入例は 0.1 を、メ
チルキサンチン製剤投与例は 0.05 をそれぞれ加えて求
めた。
BNP は日齢 7 から 1 週間毎に測定し、日齢 28 の値と
PCA36 週未満での最高値を評価の対象とした。統計学的
検定には one-way ANOVA、Fisher's PLSD を用いた。
【結果】日齢 28 の PS は重症群、軽症群、非 CLD 群で
それぞれ 0.872±0.466、0.426±0.113、0.257±0.012
で、重症群は軽症群、非 CLD 群に比し有意(p=0.0002、
p<0.0001)に高値で、軽症群は非 CLD 群に比し有意
(p=0.0363)に高値だった。日齢 28 の BNP は重症群、
軽症群、非 CLD 群でそれぞれ 2.2±0.7 pg/ml、3.1±3.0
pg/ml、5.1±5.9 pg/mlで各群間に有意な差はなかっ
た。BNP の最高値は重症群、軽症群、非 CLD 群でそれぞ
れ 30.0±25.9 pg/ml、17.4±15.2 pg/ml、11.9±7.7
pg/ml で、重症群が非 CLD 群に比し有意(p=0.0153)に
高値だった。
【考察】日齢 28.の PS は CLD の重症度を予測できる可
能性があると考えられた。一方、血漿 BNP は CLD への
治療による修飾を受けることが予想され、それのみで
は重症度を予測するパラメーターとはなり難いと考え
られた。
172
サーファクタント蛋白-D 遺伝子多型によ
る慢性肺疾患の発症予測
さいたま市立病院 周産期母子医療センター 小児科
○森 和広、杉山 隆輔、草野 亮介、市川 知則、
大森 さゆ、前山 克博
マウス新生仔の高濃度酸素曝露モデルに
おける肝細胞増殖因子の効果(第二報)
群馬大学周産母子センターNICU1、群馬大学大学院小児
生体防御学分野 2、群馬県立小児医療センター 新生児
科3
○大木 康史 1)、黛 博雄 1)、吉澤 幸弘 3)、高橋 恭
子 1)、森川 昭廣 2)
O-017
O-018
【背景】サーファクタント蛋白-D(Sp-D)は生体の自然
免疫を担う液性因子であるコレクチンの一つである。
Sp-D は気道の広い範囲に分布することから、特に呼吸
器感染症に抵抗すると考えられている。フィンランド
人集団において、単一アミノ酸置換を伴う Sp-D 遺伝子
多型の一部(Met11Thr)は、重症 RS ウィルス感染と関
連すると報告された(Meri Lahti, et. al. Pediatr Res
51:696699, 2002)。我々は日本人集団においても同様
の知見を得た(本学会にて発表予定)。一方、Sp-D は心
筋梗塞後再環流時における血管障害、リュウマチ様関
節炎、IgA 腎症の発症と関連すると報告されている。
Sp-D は獲得免疫を修飾し、自己免疫疾患発症の起点と
なる可能性が示唆される。慢性肺疾患(CLD)は未熟肺へ
の酸素毒性、圧損傷、子宮内感染、病原微生物、種々
のサイトカイン、化学伝達物質などによる複合的肺組
織障害である。非特異的生体防御として機能している
Sp-D 遺伝子多型は、CLD の発症リスクに影響する可能
性がある。
【目的】単一アミノ酸置換を伴う Sp-D 遺伝子多型
(Met11Thr、Ala160Thr、Ser270Thr)と慢性肺疾患と
の関連を明らかにすること。
【対象と方法】当院周産期センターNICU 退院児のうち
保護者が文書にて研究同意を表した 35 名の児を対象と
し て 、 SpD 遺 伝 子 多 型 Met11Thr ( rs721917 )、
Ala160Thr(rs2243639) 、 Ser270Thr(rs3088308) を
PCR-RFLP 法または直接シーケンシング法によって決定
した。本研究はさいたま市立病院倫理委員会の承認の
もとに行われた。
【成績】対象 35 名中 RDS13 名、CLD6 名(1 または 2 型
CLD3 名、3 または 3´型 CLD3 名)であった。Met11Thr
アレル頻度は CLD において 11Met 0.58;11Thr 0.42、
非 CLD において 11Met 0.68;11Thr 0.32 であった。CLD
群に 11Thr を多く認めたが統計学的有意差はなかった。
RDS から CLD への進展を認めなかった 9 名において
11Met 0.83;11Thr 0.17、RDS から CLD へ進展した(1
または 2 型 CLD )3 名において 11Met 0.67;11Thr 0.33、
3 または 3´型 CLD3 名において 11Met 0.67;11Thr 0.33
であった。Ala160Thr、Ser270Thr と CLD の発症と関連
する知見は得られなかった。
【結論】Sp-D 遺伝子 11Thr アレルは CLD 発症と関連す
る可能性がある。
【目的】肝細胞増殖因子(HGF)は成熟動物を用いた肺
傷害の実験系で,肺傷害抑制効果,肺再生効果を示す
事が報告されている.我々は 42 回本学会で,マウス新
生仔を高濃度酸素に曝露した新生児慢性肺疾患(CLD)
モデルにおける HGF の効果につき検討し,死亡率の改
善,気道過敏性の抑制,肺胞構造の単純化・肺胞数の
減少の改善効果を認めた.正常の肺組織の発達には血
管新生と肺胞構造の発達が協調していることが重要と
される.今回は HGF の有効性の機序としての肺胞構成
細胞および毛細血管の新生について検討した.
【方法】CD-1 マウスを用い,高酸素群・HGF 群は 3 生
日から 7 日間 90%酸素,7 日間大気下で,対照群は 14
日間大気下で飼育した.HGF 群は酸素曝露中に HGF 計
100 mg/kg を腹腔内投与した.細胞新生の検討は,10
生日に BrdU 200mg/kg を腹腔内投与後に肺組織を採取
して BrdU 免疫染色し,肺胞構成細胞総数に対する BrdU
陽性細胞の割合を細胞新生率として求めた.また,17
生日に採取した肺組織を抗第 VIII 因子抗体で免疫染色
し,陽性に染色される血管内皮細胞で確認される毛細
血管数を単位面積あたりで求めた.
【結果】高酸素群で対照群に対して有意に細胞新生率
が低下していた(16.1±2.4 vs 29.6±2.4%,p<0.05)
が,HGF 投与により有意に改善された(27.9±1.7%,p
<0.05)
.毛細血管数は高酸素群で有意に低下し(18.4
±1.5vs15.1±0.5/HPF,p<0.05)
,HGF 投与により改
善された(18.2±0.5,p<0.05)
.
【まとめ】高酸素群で著明に低下した細胞新生、毛細
血管新生は HGF 投与にて対照群と同等のレベルまで回
復した。高濃度酸素曝露によるマウス新生仔 CLD モデ
ルにおいて HGF が機能的,形態的異常の改善をもたら
す機序の一つとして,細胞新生,血管新生の改善があ
ると推測された.
173
O-019
動脈管再開通を 2 回以上反復した超早産
児の管理
未熟児動脈管開存症(PDA)に対するイン
ドメサシン投与時期と合併症の関係につ
いて
沖縄県立中部病院 総合周産期母子医療センター 新
生児科
○源川 隆一、梅田 さおり、真喜屋 智子、木里 頼
子、小濱 守安
【目的】重症 IVH(脳室内出血)予防のため超低出生体
重児に対するインドメサシン予防投与が注目されてい
る。しかし、予防投与のため不必要なインドメサシン
投与が行われる可能性がある。我々は、ルーチンの予
防投与は行わず、経時的な心臓超音波検査で投与時期
の判断をしているが、近年は投与時期が早くなる傾向
がある。超早産(在胎 28 週未満)児において投与時期
により合併症に違いが生じるのか検討した。【対象】
2002 年~2006 年(5 年間)に当 NICU に入院し、日齢 0
より管理した超早産児で生後 72 時間以内に死亡、複雑
心奇形例などを除外した 82 例。
【方法】インドメサシ
ンを生後 24 時間以内に投与した E 群(平均在胎 24.8
週±1.3 週,平均出生体重 729±172g;N=17),それ以
降に投与した L 群(在胎 25.6 週±1.5 週,体重 786±
210g;N=33),自然閉鎖した N 群(在胎 26.7±1.2 週,
体重 946±182g;32 例)に分類した。患者背景, イン
ドメサシン投与法, PDA ligation, 肺出血, IVH(3 度
以上),CLD(慢性肺疾患;修正 36 週で酸素使用), ROP
(未熟児網膜症;レーザー施行), NEC(壊死性腸炎),
予後について検討した。さらに症例を在胎 22-24 週に
限定した E 群(N=12),L 群(N=12)の検討も同様にお
こなった。
【結果】N 群は有意に E,L 群より在胎週数が
大きく、急性期に IVH, NEC,肺出血など重篤な合併症を
きたした症例はなかった。E 群のインドメサシン平均投
与時間は生後 13.5 時間、L 群は 93.2 時間だった。合併
症は、IVH(E 群 11.8%: L 群 18.2%), NEC
(E 群 17.6%:L
群 12.1%),PDA ligation(E 群 35.3%:L 群 36.4%),CLD
(E 群 66.7%:L 群 51.7%),ROP(E 群 73.3%:L 群 60%),
死亡(E 群 11.8%:L 群 9.1%)で統計学的な有意差は
認めなかった。肺出血は、E 群で有意に少なかった(E
群 0%:L 群 27.3%;P=0.02)
。在胎 22-24 週例の検討で
は IVH(E 群 8.3%:L 群 33.3% P=0.17),肺出血(E 群 0%:L
群 25% P=0.21),NEC(E,L 群とも 33.3%), PDA ligation
( E,L 群 と も 41.7% ) ,CLD(E 群 70%:L 群 90%
P=0.58),ROP(E 群 70%:L 群 60% P>0.99),死亡(E,L 群と
もに 16.7%)でいずれも統計学的有意差はなかったが、
IVH と肺出血が E 群で少ない傾向があった。【考察】今
回の検討は後方視的検討でコントロール研究でない
が、早期投与により肺出血、IVH が減少する可能性が示
唆された。IVH は今回の検討では在胎 22-25 週の症例
に発症しており、この週数の児に対してはインドメサ
シンの早期投与が IVH 予防に有効な可能性がある。
O-020
兵庫県立こども病院周産期医療センター新生児科
○芳本 誠司、秋田 大輔、坂井 仁美、上田 雅章、
柄川 剛、吉形 真由美、溝渕 雅巳、中尾 秀人
【背景】早産児管理において未熟児動脈管開存症(PDA)
の管理は重要である.急性期以後も再開通する症例を
経験する.さらに一時的な閉鎖がえられても再開通を
反復する症例も存在する.このような児の管理方法は
施設によって多様である.
【目的】当センターにおいて動脈管の再開通を 2 回以
上反復した症例について管理方法を検証する.
【対象】2002 年 1 月より 2006 年 12 月までに当センタ
ーにおいて出生直後より管理をおこなった在胎 32 週未
満あるいは出生体重 1.5kg 未満の早産低出生体重児
595 例のうち 2 回以上再開通した症例である.ただし日
齢 28 未満の死亡例,先天性心疾患合併例,染色体異常・
致死性疾患合併例は除外した.
【方法】後方視的に臨床経過を検討した.
【結果】対象は 10 例(1.7%)で全例超早産児であり平
均在胎 25.5±1.0 週,出生体重 732±157g であった.
再開通 2 回目は平均日齢 15±5 日に心雑音聴取あるい
は定期超音波検査にて発見されていた.心雑音以外の
所見としては頻脈,脈圧増大,末梢循環不全,乏尿,
腸管運動障害,肺うっ血を 3 例に認めた.これらの症
例に対しては閉鎖術を選択した.7 例に対してはインド
メサシン投与をおこない 6 例が閉鎖,1 例は短絡量減少
を確認したが,5 例はさらに再開通した.2 例は水分制
限の必要性,経腸栄養障害が出現し閉鎖術をおこなっ
た.3 例は体重増加良好のため経過観察とした.不可逆
性の腎不全,3 度以上の頭蓋内出血や壊死性腸炎などの
重篤な合併症はなく全例生存退院した.
【考察】未熟児動脈管は急性期の機能的閉鎖後,種々
の要因により再開通する.急性期の動脈管開存症と異
なり,治療的介入の要否,時期については議論が分か
れる.また,インドメサシンが動脈管の器質的閉鎖を
遅延させる可能性が指摘されており反復投与の功罪も
考慮しなければならない.
【結論】2 回以上再開通する症例では水分制限や栄養障
害が遷延する場合,閉鎖術を選択することにより重篤
な合併症なく PDA の管理ができた.
174
当院における未熟動脈管開存症に対する
治療の検討(第一報)
川口市立医療センター 新生児集中治療科
○森丘 千夏子、奥 起久子、箕面崎 至宏、滝 敦
子、島田 衣里子、山口 直人
インドメタシン予防投与下における超早
産児 PDA 管理の現状
高槻病院 小児科
○片山 義規、李 容桂、南 宏尚、住谷 珠子、上
村 裕保、根岸 宏邦、西野 昌光、三宅 理、橋本
直樹
【目的】当院では 2004 年 10 月より在胎 28 週未満の超
早産児全例に対して、IVH 発症抑制を目的にインドメタ
シン予防投与(0.1mg/kg/dose を6時間かけて 24 時間
毎に3回投与:NRN study のプロトコールに準じる)
(以下本療法)を行なっている。今回本療法下におけ
る超早産児の PDA 管理の現状を分析した。【対象と方
法】2004 年 10 月から 2006 年9月の2年間に当院 NICU
に入院した超早産児 68 例。カルテを後方視的に分析し
た 。【 結 果 】 対 象 児 の 在 胎 週 数 は 中 央 値
25.4(22.3-27.9)週、出生体重は中央値 675(386-1096)g
であった。日齢4での PDA 閉鎖率は全体で 85%(58/68)
であり,週数別では 22 週 83%(5/6),23 週 92%(11/12),24
週 70%(7/10),25 週 76.4%(13/17),26 週 100%(8/8),27
週 93%(14/15)であった。うち 10 例(17%:10/58)が再
開通し全例インドメタシン治療を行い 5 例に結紮術施
行。本療法後の PDA 開存 10 例は全例インドメタシン治
療後 8 例に結紮術施行。全体としてインドメタシン治
療は 29%(20/68)、そのうち結紮術は 65%(13/20)に施
行された。本療法後日齢4までの早期閉鎖群(A群:58
例)と開存群(B 群:10 例)、A 群のうち閉鎖維持群(C
群:48 例)と再開通群(D 群:10 例)の間で前期破水、母体
ステロイド、在胎週数、出生体重、Apgar score、S-TA
投与、出生時 Hb 値、Plt 値、生後早期ステロイドに統
計的に有意差は認めなかった。【考察】今回の結果は
NRN study 対照群の日齢6PDA 閉鎖率:59.4%及び PDA
治療率:53.4%に比べ、PDA 早期閉鎖率は高く PDA 治療
率は低い成績であった。超早産児において本療法によ
り未熟性の程度や出生前後の状況に関わらず PDA 閉鎖
を高い確率で期待できるものと思われる。
O-021
O-022
【目的】循環器外科がない当施設では未熟児動脈管開
存症(PDA)に対する外科的治療に制約があるため、
保存的治療を主体とした管理を行っている。また 2001
年 12 月より超低出生体重児に対してPDA閉鎖および
脳室内出血(IVH)予防を目的にインドメタシン予
防投与を開始した。予防投与開始前後でのPDAの管
理方法、および治療成績を比較検討したので報告する。
また投与回数と予後の関係についても報告する。
【対象・方法】1995 年 12 月~2006 年 3 月の約 10 年間
に入院した在胎 27 週未満の超低出生体重児 162 例を対
象とした。予防投与を始めた 2001 年 12 月を境に前期
群(102 例)
、後期群(60 例)とし、各群の臨床像、治
療成績について検討した。
【結果1;インドメタシン予防投与前後での比較検討】
出生体重、在胎週数、apgar score、RDSの有無、羊
膜絨毛膜炎(CAM)等の背景因子に有意差を認めな
かった。症候性PDA、肺出血、IVHの発症率にも
有意差を認めなかった。慢性肺疾患(CLD)は有意
に減少していた。死亡率と壊死性腸炎の発症率は減少
している傾向にあったが有意差はなかった。インドメ
タシンン頻回投与群(3~10クール)の割合は、前
期で10%、後期で15%と有意差はなかった。外科
治療は前期で1例、後期で2例と少なく、それ以外の
症例は内科的管理のみで閉鎖した。
【結果2;少数回投与群と頻回投与群との比較検討】
頻回投与が必要であった症例とそうでない症例とを比
較する目的で、後期の症例を2回以下の少数回投与群
(64%)および頻回投与群(3~10クール)の2
群に分け同様に検討した。背景因子には有意差を認め
なかった。人工換気離脱週数、IVH、肺出血、CL
Dの合併率、体重増加率に有意差を認めなかった。
【考察・結語】当初“脳室内出血予防”を目的として
インドメタシン予防投与を開始したが、IVHに関し
ては差がみられなかった。少数回投与群と頻回投与群
の比較では、体重増加率、抜管週数、CLDの有無に
ついて差を認めなかった。その理由として当院では経
腸栄養をなるべく止めず、過度の水分制限も差し控え
ていることが関係しているかと思われる。今後長期予
後を含めさらなる検討を行いたいと考えている。
175
早産児の動脈管自然閉鎖につながる出生
後 24 時間の経過の検討
東京慈恵会医科大学 小児科学講座 1、たけうちこども
クリニック 2
○長島 達郎 1)、小林 正久 1)、寺本 知史 1)、岡野 恵
里香 1)、竹内 敏雄 1,2)、衞藤 義勝 1)
【目的】早産児の出生後 24 時間の経過のなかで,動脈
管が自然閉鎖しやすくなるための因子を探し出す.
【対象と方法】平成 17 年 4 月から平成 19 年 1 月まで
に慈恵医大病院で出生し NICU で入院加療した在胎週数
29 週以下の早産児 48 例のうち,出生後に呼吸窮迫症候
群が合併し人工呼吸管理下でサーファクタント投与が
施行された早産児を研究対象とした.出生後、人工呼
吸をしなかった 2 例、人工呼吸は行ったがサーファク
タントを必要としなかった 3 例,人工呼吸とサーファ
クタント投与を行なったが動脈管開存症に治療を行な
う前に抜管した 1 例,人工呼吸とサーファクタント投
与を行なったが動脈管が自然閉鎖する前に抜管した 1
例,Dry lung syndrome や先天肺炎でサーファクタント
投与後も呼吸障害が重症だった 5 例,鎖肛手術をした 1
例,生後 24 間以内の早期死亡1例,先天性心疾患 1 例
を除外した.最終的に 33 例が研究対象となった.動脈
管が自然閉鎖した 13 例を閉鎖群,インドメタシン治療
を必要とした 20 例を非閉鎖群とし比較検討した.対象
の出生後 24 時間のクベース温度,クベース湿度,吸入
酸素濃度,体温,血圧(収縮期と拡張期),心拍数,酸
素飽和度,尿量,投与水分量,volume expander 投与量,
カテコールアミン(ドパミンとドブタミン)投与量,フ
ロセミド投与量,ミタゾラム投与量,pH,PO2,PCO2,
Base Excess,イオン化カルシウム値,赤血球数,Hb,
Ht,CRP のデータを集積し統計解析を行なった.
【結果】
p 値<0.05 で有意差が検出されたのは,出生後 1-8 時
間と 17-24 時間のクベース湿度(以下閉鎖群:非閉鎖群
の形で表記,83.5:86.8,82.3:86.5 %),1-8 時間のド
パ ミン 投与量 (3.6:2.8 μ g/kg/min), 17-24 時間 の
pH(7.42:7.37),17-24 時間の PCO2(30.7:35.8 mmHg),
13-24 時間の赤血球数(419:374 ×104/μl),13-24 時
間の Ht(48.7:43.8 %)であった.
【考察】今回の結果は
参考になる可能性はあるが,これを追求する事で早産
児の全身状態の総合的な改善から逸らすものとなって
はならない.また今後対象を増やす事で,今回検出さ
れた因子の信憑性を再確認し,これ以外の因子の検出
の可能性も探す必要がある.
高マグネシウム血症と未熟児動脈管開存
症の関連性
東京女子医科大学 循環器小児科 1、神奈川県立こども
国際
医療センター 新生児科 2、東京女子医科大学
統合医科学インスティテュート(IREIIMS)3
○豊島 勝昭 1,2)、門間 和夫 1)、中西 敏雄 1,3)
【背景】子宮収縮抑制薬である硫酸マグネシウム
(MgSO4)は、Mg2+が Ca2+と拮抗することにより子宮平滑
筋を弛緩する。Mg2+は胎盤移行性が高い。母体への MgSO4
長期投与による新生児の副作用として筋緊張低下や腸
管麻痺があるとされる。近年、母胎 MgSO4 投与が未熟児
動脈管開存症(PDA)の頻度を上げるという臨床報告が
ある。
【目的】母胎に MgSO4 を投与した仔ラットにおける Mg
血中濃度と生後の動脈管収縮経過、インドメサシンの
動脈管収縮効果を調べ,臨床における MgSO4 母胎投与と
動脈管の開閉機序との関連性を検討した。
【生後の動脈管収縮経過への影響】妊娠 21 日(満期;
21.5 日)の親 Wistar ラットに MgSO4 1g/kg を皮下注射
した。皮下注射 3 時間後に帝王切開にて娩出した新生
仔ラットを環境温 33℃で飼育した。生後 15,30 分に
-80℃のドライアイスーアセトンに投入し全身急速凍
結法で固定した。胸部をミクロトームで切り、実体顕
微鏡とミクロメータ下に動脈管内径(DA)を計測した。
対照である無投薬の新生仔の生後 0,15,30 分の DA は
80(x10μm), 28, 12 であった。皮下注射 3 時間後に親
ラ ッ ト の 心 臓 穿 刺 に よ り 採 血 し た Mg 血 中 濃 度 は
8.8mg/dl であった。帝王切開の 3 時間前に MgSO4 を母
胎投与した新生仔の生後 0,30 分の DA は 88,48 であり
生後の収縮が遅延した。生後 1 時間の新生仔ラットの
Mg 血中濃度は 5.8 であった。
【インドメサシンの動脈管収縮効果への影響】妊娠 21
日 の 親 Wistar ラ ッ ト に , イ ン ド メ サ シ ン (Indo)
10mg/Kg を胃内注入と同時に MgSO4 1g/kg を親ラットに
皮下注射した。1,2,4 時間後に帝王切開を施行した。皮
下注射 3 時間後に親ラットの心臓穿刺により採血した
Mg 血中濃度は 8.8mg/dl であった。娩出胎仔を全身急速
凍結法で固定し、DA を計測した。無投薬の胎仔 DA は
80(x10μm)である。Indo 単独投与の 1,2,4 時間の胎仔
DA は 44,32,22 である。Indo と MgSO4 を同時投与の 1,2,4
時間後は 93,44,31 であった。MgSO4 単独投与の 1, 4 時
間後の胎仔 DA は 88,82 である。MgSO4 は単独の動脈管
拡張効果は弱いが Indo の胎仔動脈管収縮効果を減弱し
た。
【結論】母胎 MgSO4 投与によって臨床的に経験する高
Mg 血症の胎仔・新生仔ラットではインドメサシンの動
脈管収縮効果が減弱し、生後の動脈管収縮経過が遅延
する。MgSO4 母体投与に伴う新生児高 Mg 血症では未熟
児動脈管開存症の症候化に注意すべきである。
O-023
O-024
176
心房性ナトリウム利尿ペプチドの血漿中
濃度と動脈管拡張効果
東京女子医科大学 循環器小児科 1、神奈川県立こども
国際
医療センター 新生児科 2、東京女子医科大学
統合医科学インスティテュート(IREIIMS)3
○豊島 勝昭 1,2)、門間 和夫 1)、中西 敏雄 1,3)
【背景】早産児や先天性心疾患児において出生後の動
脈管閉鎖が遅延することがある。未熟児動脈管開存症
や胎児・新生児期の重症先天性心疾患児においては心
房 性 ナ ト リ ウ ム ペ プ チ ド (atrial natriuretic
peptide:ANP)の血漿中濃度は 500-1000 pg/ml まで上昇
する。
カルペリチド(ハンプ)は ANP を遺伝子組み換えによ
り製剤化した薬剤で、新生児集中治療における臨床報
告も散見される。
【目的】カルペリチドを投与した新生仔ラットにおけ
る ANP の血漿中濃度と動脈管開存状態を調べ,ANP の生
後の動脈管開閉機序への関与を調べる。
【方法】カルペリチド(第一製薬)を用いた。胎生 21 日
(満期 21.5 日)に帝王切開にて娩出した新生仔ラットを
環境温 33℃で 60 分 生育後にカルペリチド 1 mg/kg を
皮下注射した。投与後 0,7,15,30,60 分に動脈管内径
(DA)と血漿中 ANP 濃度を測定した。DA 径は、全身急速
凍結法で固定した新生仔の胸部をミクロトームで切
り、ミクロメータ下に計測をした。血漿中 ANP 濃度は
頸部切開により採血した新生仔血から測定した。
【結果】DA 径は出生 0 分:80(x10μm)で,対照では出
生 60 分:8,出生 120 分:2 まで収縮する。生後 60 分
時にカルペリチドを投与すると投与量依存性に動脈管
は 再 拡 張 し た 。 カ ル ペ リ チ ド 1mg/kg の 投 与 後
0,7,15,30,60 分時の DA 径は 8,55,22,15,4、血漿中 ANP
濃度は 10 以下,740,550,410,230pg/ml であった。
【結論】血漿中 ANP 濃度の増減と比例して新生仔ラッ
トの動脈管は拡張・収縮した。動脈管を拡張した血漿
中 ANP 濃度は臨床で経験する未熟児動脈管開存症や重
症先天性心疾患の新生児と同程度であった。未熟児動
脈管開存症や先天性心疾患で生後の動脈管閉鎖が遅延
する機序には、心不全によって分泌亢進した ANP が関
与している。未熟児動脈管開存症においては内因性 ANP
が亢進すると動脈管は閉鎖しづらくなるので、インド
メサシンは内因性 ANP が亢進する前に投与することが
効果的である。
O-025
O-026
動脈管開存症手術後管理の重要性
獨協医科大学 総合周産期母子医療センター新生児部
門
○栗林 良多、山崎 弦、渡部 功之、新田 晃久、
鈴村 宏、有阪 治
【目的】動脈管開存症(patent ductus arteriosus、
以下 PDA)に対し外科手術を施行した症例において、術
後の呼吸循環管理について検討する。
【対象と方法】対象は過去 2 年 6 ヶ月間に当院 NICU に
入院し、PDA 結紮術またはクリッピング術を施行した
18 例である。出生時体重別では、1000g 未満 12 例、1000
~1499g 2 例、1500~2499g 3 例、2500g 以上 1 例であ
る。基礎疾患は、21-trisomy1 例、十二指腸閉鎖 1 例、
CHARGE 連合が 1 例あった。術前の薬物治療として 15
例でインドメタシンを 3~15 回(平均 6 回)、3 例でメフ
ェナム酸を 1~3 回投与した。手術は日齢 3~55(平均日
齢 22)に施行し、17 例は動脈管結紮術、1 例はクリッピ
ング術を行った。
【術後合併症】9 例において術後の心エコー検査で左房
の狭小化を認め、うち 4 例では明らかな低血圧となり、
6 例で頻脈を呈した。hypovolemia と判断し、カテコラ
ミンの併用下でヘスパンダー®、アルブミン、輸血など
の volume expander を投与することにより状態が安定
化した。その 1 例として、在胎 22 週 3 日、409g で出生
した症例において、インドメタシン 3 回投与で PDA の
改善が得られず日齢 3 で手術を行った。本例では術後、
左房狭小化への対処を速やかに行うことにより、容易
に良好な循環動態が得られた。また、安定した呼吸状
態を維持することができ、慢性肺疾患も軽度であった。
2 例において術後に高血圧・頻脈を呈し、心エコーで左
心系拡大・左室拍出量低下・乏尿を認めて afterload
mismatch と診断した。治療として hANP 0.1μg/kg/min
を投与し、左室拍出量の増大と利尿効果を認めた。呼
吸器合併症としては、無気肺 2 例、緊張性気胸 1 例、
左横隔神経麻痺 1 例を認めた。横隔神経麻痺は経過観
察のみで徐々に改善し、長期人工換気には至らなかっ
た。
【結論】新生児の動脈管開存症については、術後に循
環動態が急激に変動する。心エコー検査により
hypovolemia および afterload mismatch の有無を確認
し、それに応じた循環管理を行うことが必要である。
177
当院における窒素ガス吸入による低酸素
換気療法の実際
日本赤十字社医療センター 新生児科 1、日本赤十字社
医療センター 小児科 2、日本赤十字社医療センター
心臓血管外科 3
○矢代 健太郎 1)、与田 仁志 1)、中島 やよひ 1)、遠
藤 大一 1)、山本 和歌子 1)、松村 良克 1)、佐藤 美
紀 1)、土屋 恵司 2)、金子 幸裕 3)、川上 義 1)
窒素ガス吸入による低酸素換気療法は左心低形成症候
群における術前管理として最初に有効性が報告された
が、近年 2 心室型肺血流増加型心疾患の術前管理とし
ても有効との報告も目立つ。当院では 2002 年より同療
法を導入し、2 心室型肺血流増加型心疾患も対象として
おり、その安全性・有効性を考察する。対象:2002 年
12 月~2006 年 12 月に当科入院し、低酸素換気療法を
施行した 19 例の新生児〔A群〕と、同療法導入前の 2000
年 1 月~2002 年 11 月に当科入院した完全大血管転位症
(TGA)
〔B群〕6 例と大動脈縮窄症(CoA)〔C群〕6 例
の新生児で、他の複雑心奇形・全身の奇形症候群を合
併した児を除いた。方法:A群の手術までの管理期間、
施行前後のpH・BE・尿量・左室拡張末期径、副作
用の有無、レントゲン、B・C群の手術までの管理期
間、手術前のpH・BE・尿量、診断時と手術前の左
室拡張末期径、レントゲンを後方視的に検討した。結
果:A群は平均治療開始日齢 5 日(±3.03)、平均手術
日齢 14.19 日(±9.10)で、疾患の内訳は TGA6 例、CoA10
例、左心低形成1例、総肺静脈還流異常1例。治療開
始前後の pH・BE はそれぞれ 7.31(±0.11)→7.43(±
0.07)〔p=0.0011〕
、-2.53(±4.85)→2.54(±3.63)
〔p=0.0024〕と有意に改善し、左室拡張末期径は 14.21
(±4.06)→16.65(±5)〔p=0.2474〕と有意な増大
認めなかった。A群から TGA、CoA を抽出しB群、C群
と比較すると、TGA・CoA とも窒素吸入の有無による手
術開始日齢、術前のpH、BE、尿量、左室拡張末期径に
有意差はなかった。また低酸素換気療法によると思わ
れる治療中の副作用は認めなかった。考察:低酸素換
気療法の有無による TGA と CoA の術前状態の有意差は
認めなかったが、低酸素換気療法全体では治療開始前
後でpH,BEの改善が見られ、心不全進行を示唆す
る左室拡張末期径の拡大は見られず、治療中の副作用
は認めず安全に施行でき、術前状態の安定と日程調整
に寄与した。低酸素が与える長期的な影響は評価して
おらず検討の余地があるが、低酸素換気療法は 2 心室
型を含む肺血流増加型心疾患の術前の管理法として肺
うっ血の進行を緩和できる安全かつ有効な方法である
可能性が示唆された。
過去 10 年間に当科で出生した総肺静脈還
流異常症の検討
岡山大学大学院医歯薬学総合研究学科 産科・婦人科
学教室 1、岡山大学大学院医歯薬学総合研究学科 小児
医科学教室 2
○住田 由美 1)、赤堀 洋一郎 1)、安達 美和 1)、丸山
秀彦 2)、野口 聡一 1)、増山 寿 1)、平松 祐司 1)
O-027
O-028
【はじめに】総肺静脈還流異常症(以下 TAPVR)は胎児
診断が難しい上に、生後早期にチアノーゼを生じる先
天性心疾患(CHD)である。当科で出生した TAPVR につ
いて検討したため報告する。
【対象】1997 年 1 月より 2006 年 12 月までの 10 年間に
当科で出生し、先天性心疾患と診断された児 114 例の
うち TAPVR と診断された 13 例を対象とした。
【結果】在胎週数:38.5±1.6 週、出生体重:2605±447g、
Apgar score:(1 分値)6.8±2.3、(5 分値)7.5±1.3、
男女比:男 6 名・女 7 名。分娩方法:経腟分娩 7 例、
帝王切開術 6 例(うち適応が non reassuring fetal
status であったもの 3 例)であった。心臓と胃泡の位
置の異常を 7 例(53.8%)(内臓逆位 3 例、内臓錯位 4
例)に認めた。また 2 名に先天性食道閉鎖症を合併し
ており、胎児エコー上胃泡を認めなかった。
2 例(15.4%)に TAPVR の胎児診断がついており、それ
ぞれ上心臓型と下心臓型であった。TAPVR の胎児診断が
ついていない 11 例のうち 10 例は他の CHD も合併して
いたため生後すぐに小児循環器医の診断が可能であっ
た。しかし残り 1 例は TAPVR 単独例でありチアノーゼ
を契機に超音波検査を行い診断された。
出生した児は心機能上 3 例に手術適応がなく死亡した。
手術例 10 例のうち死亡は 3 例で、死亡例はすべて生後
数日での手術例であった。
【考察】心臓と胃泡の位置異常をみつけることは TAPVR
のスクリーニングに有用である。また胃泡を認めない
先天性食道閉鎖症を疑う症例では、TAPVR を否定すべく
胎児心エコーを入念に行った方が良いと思われた。
TAPVR のほとんどの症例で他の CHD も認めるため、CHD
いずれかの胎児診断がついていれば生後早期の超音波
検査で診断がつくが、TAPVR 単独例、とくに心臓型の胎
児診断は難しく、課題が残る。
178
当院における手術時体重 2.5kg 未満の先
天性心疾患の検討
静岡県立こども病院 循環器科 1、静岡県立こども病院
新生児科 2
○増本 健一 1)、臼倉 幸宏 2)
心奇形を伴う出生体重 2.0kg以下の児
の心臓手術成績の検討
日本赤十字社 1、日本赤十字社医療センター 新生児科
2
、日本赤十字社医療センター 小児科 3
○金子 幸裕 1)、与田 仁志 2)、中島 やよひ 2)、遠藤
大一 2)、山本 和歌子 2)、矢代 健太郎 2)、土屋 恵司
3)
、川上 義 2)
【目的】心奇形を伴う低出生体重児の治療成績は不良
である。その原因を明らかにすべく、当院での治療成
績を検討した。
【対象と方法】2001 年 4 月から 2007 年
1 月までに体重 2.0kg 未満で出生し、初回入院中に心臓
手術を行った 18 例を検討の対象とした。動脈管開存の
みの例は除外した。入院記録から、出生体重、在胎期
間、合併奇形、手術方法と生命予後の関連を検討した。
【結果】出生体重は 720-1902g(平均 1414g、中央値
1421g)
、在胎日数は 198-283 日(平均 235 日、中央値
249.5 日)で、17 例が light for date 児であった。心
疾患は、心室中隔欠損 6 例、大動脈縮窄 1 例、大動脈
縮窄複合 4 例、ファロー四徴 2 例、ファロー四徴兼肺
動脈閉鎖 2 例(うち主要体肺側副血行 1 例)、大血管転
位 2 例、房室中隔欠損 1 例であった。双胎児は3例あ
り、2例は双胎間輸血症候群であった。合併奇形は、
21 トリソミー3例、18 トリソミー6例、22q11 欠損1
例、他の染色体異常2例、VACTER 症候群 1 例であった。
手術は、人工心肺下根治術4例、非人工心肺下根治術
1例、非人工心肺下姑息術13例であった。手術時日
齢は 3-273 日(中央値 18.5 日)であった。手術から 30
日以内の死亡例はなく、在院死亡は 3 例(16.6%)そ
の死亡日齢は 90 日、213 日、227 日で、全例人工呼吸
管理下での死亡であった。退院後の死亡は 3 例で、死
亡日齢は 208 日、230 日、572 日であった。死亡例のう
ち 5 例は染色体異常を、残り 1 例は VACTER 症候群を伴
っていた。また、1000g以下で出生した 2 例はいずれ
も在院死亡した。死因は、敗血症が 2 例、突然死が 1
例、脳障害 1 例、肺出血 1 例、低栄養 1 例であった。
死亡例のうち 5 例は姑息術を(内 1 例は後日根治術施
行)
、1 例は一期的根治術を受けていた。1 歳以上で、
退院できない例は1例あった。
【考察】術後急性期の生
存率は良好であった。染色体異常や症候群を合併して
いない例では、長期成績は良好であった。しかし、染
色体異常や症候群を合併した例は予後不良であった。
心疾患が死因と関連しているのは 6 例中 2 例と考えら
れた。より早期手術へ、根治術中心へと手術方針を変
更したとしても治療成績の改善は少ないものと思われ
た。治療成績改善には、染色体異常や症候群による合
併疾患の治療も重要であることが示唆された。
O-029
O-030
【はじめに】当院では救命のために手術が必要な先天
性心疾患(以下 CHD)に対し、可能な限り積極的に手術
を行う方針を取っている。手術時の週数および体重が
少ない児に対する開胸術において、手術のみならず周
術期の合併症や呼吸循環管理に難渋する症例を経験し
ている。そこで、当院における手術時体重 2.5kg 未満
の CHD の手術成績と問題点について検討を行ったので
報告する。
【対象と方法】対象は 2002 年 1 月~2007 年
1 月に当院心臓血管外科へ入院となった手術時体重
2.5kg 未満の児 65 例中、
未熟児動脈管開存に対する PDA
結紮術 25 例、cut down による PI カテーテル抜去 1 例、
pacemaker lead 留置 1 例を除いた 38 例。生存例、手
術死亡例に分類し、手術時週数、手術時体重、手術時
日齢、体外循環使用の有無などを比較検討した。また、
術後の合併症および問題点などについて検討を行っ
た。【結果】手術時平均週数 39.5±4.7 週、平均日齢
21.2±37.3 日、平均体重 2.08±0.39kg、体外循環使用
は 28 例(73.7%)であった。手術死亡は 38 例中 7 例
(18.4%)、そのうち早期死亡(術後 30 日未満)は 4 例
(10.5%)であった。手術死亡例について、手術時平均
体重 1.96±0.64kg で、生存例(2.11±0.33kg)と比較
し有意差は認めなかったが、手術時平均週数 36.3±2.8
週、
手術時平均日齢 4.4±7.5 日であり生存例
(各々40.2
±4.7 週、25±40.3 日)と比較し有意に早期であった
(p<0.05)
。また、体外循環使用率は生存例(74.2%)、
手術死亡例(71.4%)で差を認めなかった。術後合併症
について検討すると、高肺血流に伴うショックまたは
呼吸障害、脳室内出血による水頭症、壊死性腸炎など
多彩であり、生存例も術後管理に難渋する例を多く認
めた。【まとめ】救命のため生後早期に手術を要する
CHD 児は重症例であり、手術時週数、手術時日齢が早期
であるほど手術死亡のリスクが高まることが示唆され
た。また、多彩な術後合併症の中には、脳室内出血や
慢性肺疾患の増悪など未熟性の影響と思われるものも
散見され、術後管理を困難にする原因と考えられた。
179
極低出生体重児における SVC flow と末梢
循環指標との関連性
国立成育医療センター 周産期診療部 新生児科
○高橋 重裕、大石 芳久、伊藤 直樹、藤永 英志、
難波 由喜子、塚本 桂子、中村 知夫、伊藤 裕司
Tei index を用いた子宮内発育遅延児の出
生前後の心機能適応能力の評価
福岡大学 小児科学教室 1、福岡大学病院総合周産期母
子医療センター 産科部門 2、福岡大学病院総合周産期
母子医療センター 新生児部門 3
○吉兼 由佳子 1)、吉里 俊幸 2)、森 聡子 3)、瓦林 達
比古 2)、廣瀬 伸一 1)
【背景と目的】心機能評価の一つとして収縮能と拡張
能を総合的に評価する Tei index(TI)が知られている。
正常新生児では、TI は出生後一過性に上昇した後にお
よそ 24 時間で低下し一定となることが報告されてお
り、本事象は心機能からみた子宮内から子宮外環境へ
の適応過程と捉えられる。本研究では TI を用いて子宮
内発育遅延(IUGR)児の出生前後の心機能適応能力を検
討した。
【対象と方法】院内出生し、染色体異常、TORCH
症候群、心形態異常、不整脈を除外した出生週数 28~
32 週、アブガースコア 5 分値が7点以上であった単胎
15 例を対象とした。対象を出生体重が当該妊娠週数の
10 パーセントタイルで Small for Gestational Age 児
5 例(S 群)と、Appropriate for Gestational Age 児
10 例(A 群)の 2 群に分けた。超音波断層装置を用い、
それぞれ右室(RV)、左室(LV)の TI を出生前 1 週間以内
に 1 回、出生後は 12 時間目(12h)から 72 時間目(72h)
まで 12 時間毎に測定した。A 群において両心室ともに
TI が正常値である 0.5 を下回った場合、36h 以降の計
測 を 中 止 し た 。 解 析 に は Mann-Whitney-U 検 定 と
Wilcoxon-T 検定を用い、有意水準は p<0.05 とした。
【結果】
出生前の TI は S 群 RV:0.30±0.02 (Mean+SEM)、
LV:0.31±0.09、A 群 RV:0.20±0.03、LV:0.30±0.03
で、両群、また両心室で有意差は認めなかった。出生
後では S 群の TI(RV)は 12h:0.59±0.06、24h:0.39±
0.03、36h:0.31±0.02、48h:0.27±0.02、60h:0.23±
0.03、72h:0.22±0.03 と 24h には 0.5 未満となった。
一 方 TI(LV) は 12h:0.76 ± 0.05 、 24h:0.75 ± 0.04 、
36h:0.72±0.03、48h:0.65±0.03、60h:0.64±0.04、
72h:0.61±0.03 と 48h 以降は有意に低下するものの高
値が持続した。各計測時において、TI(RV)は TI(LV)よ
り有意に低値であった。A 群の TI は各計測時点におい
て両心室間に有意差は認めなかった。(RV;12h:0.39±
0.04、24h:0.30±0.04, LV;12h:0.40±0.09、24h:0.27
±0.04)。【考察】IUGR 児における心機能は、出生前で
は AGA 児と同等であったが、出生後では AGA 児と異な
り、左室機能の catch-up に日数を要した。子宮内で慢
性的な低酸素状態に暴露されている IUGR 児において
は、臍帯動脈の血管抵抗が高い状態が持続し右室の後
負荷が増大する。さらに血流再分配がある場合は左室
の後負荷が減弱した状態が持続する。出生後はこの循
環動態から子宮外の左室優位の循環に移行する過程で
IUGR 児の左室機能の適応能力が AGA 児のそれに劣ると
考えられた。
O-031
O-032
【はじめに】
新生児の心拍出量を評価する方法として、心臓超音波
検査による上大静脈血流量(SVC flow)測定が知られ
ている。また Low SVC flow(LSF)は早産・低出生体重
児の脳室内出血と関連するとの報告もあり、SVC flow
測定は早産・低出生体重児の循環を評価する指標とし
て有用であるが、測定が困難であり、頻回の検査は児
にとって多大なストレスとなりうる。今回我々は、極
低出生体重児(VLBWI)における SVC flow と他の簡便
且つ侵襲度の少ない末梢循環指標との関連性について
検討したので報告する。
【目的】
Capillary refilling time(CRT)
、Perfusion index(PI)
と SVC flow との関連性を検討する
【対象と方法】
2006 年 8 月~2007 年 2 月に当院で出生し NICU に入院
した 32 週未満の VLBWI25 例のうち、SVC flow、CRT、
PI を測定しえた 23 例を対象とした。SVC flow は心臓
超音波検査にて生後 0-6 時間、6-24 時間、24-48 時
間、48-72 時間で測定し、測定方法は Evans らの報告
にならった。CRT 測定は、SVC flow 測定直前に児の踵
を 3 秒拇指で圧迫後、開放してから踵の色が回復する
までの時間をストップウォッチで 3 回計測し平均時間
を 算 出 し た 。 PI は パ ル ス オ キ シ メ ト リ (Mashimo
RadicalTM)を患児の足または手に装着し、SVC flow 測
定時の値を記録した。LSF は 47ml/kg/min 未満(生後 0
~72 時間における SVC flow の-1SD)と定義した。
【結果】
対象 23 例は在胎週数(中央値)28 週 5 日(23w3d-
31w6d)
、平均出生体重 963g(366-1462g)、アプガース
コアー5min(中央値)6(2-10)であった。また 23 例
中 6 例が TTTS であった。SVC flow と CRT の間には
r=-0.48 と負の相関がみられた。SVC flow と PI には
r=0.42 と正の相関が認められた。LSF を検出するため
の CRT のカットオフ値を 2.5 とすると感度 91%、特異
度 81%、陽性予測値 45%、陰性予測値 98% であった。
一方、LSF を検出するための PI のカットオフ値を 0.5
とすると、感度 78%、特異度 79%、陽性予測値 37%、
陰性予測値 96%であった。
【考察】
SVC flow と CRT、PI には相関がみられ、LSF を検出す
るための指標として CRT、PI は優れていた。CRT2.5 秒、
PI0.5 が LSF を検出するためのカットオフ値として最
適であると思われた。LSF による脳室内出血を予防する
ための簡便な循環指標として CRT、PI は有用である可
能性がある。
180
脳循環と心機能の急性期経時的評価-極
低出生体重児の検討-
東京医科大学 小児科
○高見 剛、春原 大介、近藤 敦、金高 由季、武
井 章人、宮島 祐、星加 明徳
【はじめに】近赤外線分光法(NIRS)による脳酸素モ
ニタリングは低侵襲性に長時間,脳循環を測定できる
有用な検査方法である.我々は超低出生体重児では左
室拍出量(LVO)の変化を反映して上大静脈血流(SVC
flow)および組織ヘモグロビン指標(THI),脳組織酸
素化指標(TOI)に変化が認められることを報告した.
今回,極低出生体重児(VLBW)において心臓および頭
部エコーより得られた心機能と脳血流所見を加え統計
学的検討を行った.
【対象と方法】VLBW に対して出生直
後より NIRS(NIRO-200/300)を用い THI,TOI を経時的
に計測した.生後 3-6,12,18,24,36,48,72h に頭
部エコーにより前大脳動脈の収縮期血流速度(Vmax)
,
平均速度(Vmean),RI,PI を計測,心エコーを用い SVC
flow,LVO,LVDd,LVFS, mVcfc,LV Tei index,ESWS
の経時的計測を行った.HR,mBP,SaO2,PaCO2 を同時
に記録した.【結果】対象は呼吸状態を安定して管理で
きた VLBW 15 例.在胎週数 23 週 5 日~30 週 2 日(27.0
±2.2 週)
,出生体重 551g~1440g(975.3±281.8g).
HR,SaO2,PaCO2 に有意な変化は認められなかったが,
mBP は生後 3-6h より徐々に増加する有意な変化を認め
た.脳循環と心機能の測定値に関しては THI 以外のす
べてに有意な変化が認められた.ESWS と LV Tei index
は生後 12~18h に上昇,その後低下した.LVFS,mVcfc
および SVC flow,LVO は生後 12~18h に低下,最低値
を示した後上昇した.TOI も 12~18h に最低値を示した
後上昇した.ESWS と LVFS,mVcfc には負相関,ESWS と
Tei index には弱い正相関が認められた.また,TOI と
SVC flow,LVFS,mVcfc には弱い正相関,TOI と LV Tei
index には弱い負相関が認められた.【考察】VLBW 出生
後の後負荷増大に伴う左心機能低下により,LVO および
SVC flow の低下が認められていると考えられ,脳組織
酸素化指標 TOI もこれらを反映して変動していると思
われた.心機能計測による循環管理は脳循環管理にも
有用であると考えられる.
極低出生体重極児における容量負荷の指
標としての心拍出量の有用性
名古屋第二赤十字病院 小児科
○横山 岳彦、元野 憲作、廣岡 孝子、村松 幹司、
田中 太平、岩佐 充二、安藤 恒三郎
【背景】極低出生体重児で、心臓のポンプ機能の指標
と し て 、 力 ー 速 度 関 係 か ら な る Stress-Velocity
index(SVI)の有用性が数多く報告され確立されたもの
となってきている。しかし、前負荷の良い指標は未だ、
確立していない。
【目的】容量負荷の必要性を判断する
指標として当院では、SVI と同時に心拍出量を測定し、
それによって容量負荷について評価を行ってきた。そ
の方法と有用性について報告する。
【方法】Colan らの
方法で収縮末期壁応力(ESWS)と心拍補正左室円周収縮
速度(mVcfc)を測定し、Doppler 法にて心拍出量を測定
し た 。 SVI が 良 好 に も 関 わ ら ず 、 心 拍 出 量 が
200ml/kg/min に達していない場合、容量負荷を行い、
その前後の平均血圧、心拍出量、尿量、乳酸値を検討
した。pared t-test を行い p<0.05 を有意とした。
【症
例】当院 NICU に入院した極低出生体重児のうち上記の
条件にあてはまる 5 例(品胎 3 例を含む)在胎 26 週 1.2
日±8.23 日(24 週 1 日~26 週 6 日)出生体重 784±
138.12g(613g~999g) カテコラミン、PDIII 阻害剤等
の Inotropic Agent は使用していない。【結果】
【基礎
輸液量と負荷量】基礎輸液量は 54.04±12.2ml/kg/day
であり、これに対して容量負荷を 12.0±4.9ml/kg 行っ
た。容量負荷の前後で ESWS と mVcfc には有意な変化は
なかった。
【平均血圧の変化】27.6±1.1mmHg から 32.0
±4.2mmHg(p=0.63)血圧の増大の傾向を認めた。【心拍
出 量 の 変 化 】 149.6 ± 32.2ml/kg/min 326.1 ±
83.8ml/kg/min 有意な変化を認めた。【尿量の変化】1.9
±1.3ml/kg/hr、4.1±2.3ml/kg/hr 有意な変化を認めな
か っ た 。【 乳 酸 値 の 変 化 】 26.0 ± 7.9mg/dl 、 13.5 ±
7.0mg/dl 有意な 変化 を認 めた 【結 語】 心拍 出量 が
200ml/kg/min 未満の児に容量負荷を行い、心拍出量の
増加、乳酸値の改善を得た。Doppler による心拍出量の
測定は、SVI と組み合わせることにより、容量負荷の必
要性を判定することができ、有用であると考えられた。
O-033
O-034
181
心エコーによる極低出生体重児心機能経
時的評価 第 33 報:右心不全検討(2)右
室拍出量
加古川市民病院 小児科
○村瀬 真紀、石田 明人、伊東 利幸、湊川 誠、
牟禮 岳男、樋上 敦紀、金澤 育子、住永 亮
【目的】早産児の早期右室拍出量(RVO)低下の臨床的意
義を検討すること。
【対象と方法】2000 年 9 月~2004
年 8 月に入院した極低出生体重児 256 例から、Light for
date、生後 48 時間以内の死亡、奇形を除いた AFD 児 195
例を対象とし、生後 3,12,24,36,48,72,96hr.に心エコ
ーによる心機能評価を施行した。パルスドップラー法
に て RVO を 測 定 し 、 在 胎 週 数 別
(22-25w,26-27w,28-29w,30-33w)に経時的変化曲線を
作製、生後 24 時間以内に曲線の-1SD を 2 回以上割った
16 例を右室低拍出群、残り 179 例を対照群とした。
【結
果】1)両群の在胎週数は右室低拍出群 28.3±3.1w, 対
照群 28.5±2.7w、
出生体重は右室低拍出群 1027±284g,
対照群 1081±281g で有意差がなく、性差、Apgar、入
院時検査、挿管期間、酸素投与日数なども差を認めな
かった。2)両群の生後 96hr までの心拍数,動脈血圧,
心
エ
コ
ー
に
よ
る
LVDd,LVDs,EDV,ESV,LA/AO,LVEF,LVFS,mVcfc,ESWS,AT/
RVET,LVSTI,RVSTI,LV Tei index の経時的変化に差を認
めなかった。右室低拍出群の左室拍出量(LVO)、左室一
回拍出量(LVSV)の経過は対照群より有意に低値であり
(それぞれ ANOVA test; p=0.002,p=0.011)、RV Tei index
の経過は高値の傾向にあった(p=0.062)
。3)右室低拍
出群の三尖弁閉鎖不全(TR)圧較差は、生後 24hr におい
て対照群より有意に高値であり(p=0.021)、生後 12hr
においても高値の傾向であった(p=0.059)。4)両群の
症候性 PDA、肺出血、IVH,PVL,CLD,ROP、死亡率に差を
認めなかったが、敗血症発症は右室低拍出群が有意に
高率であった(p=0.002)。5)対象 195 例において敗血
症発症の危険因子を Stepwise logistic regression に
て検索すると、早い在胎週数(OR=0.60)、早期 RVO 低下
(OR=12.80)、先天感染(OR=3.88)、出生前ステロイド欠
如(OR=0.47)が独立した有意な危険因子と認められた。
【考案】早期 RVO 低下は肺高血圧、RV Tei index 高値
と関連するが、早期 RV Tei 異常と異なり敗血症発症の
危険因子であることが判明した。早産児早期の RVO 低
下は LVO 低下と有意に関連するが、その臨床的意義は
LVO と独立している。
先天性心疾患で見られる動脈血酸素飽和
度と経皮的酸素飽和度の解離についての
検討
埼玉医科大学 小児心臓科
○赤塚 淳弥、竹田津 未生
O-035
O-036
【目的】近年、呼吸器疾患や心疾患の早期発見を目的
に出生児にルーチンでパルスオキシメータを装着し、
経皮的酸素飽和度(SpO2)を測定している施設が多くな
ってきている。しかし、チアノーゼ性心疾患を有しな
がら、出生早期に SpO2 低下が見られない、あるいは間
歇的に低下するのみという理由で発見が遅れて紹介さ
れる例を時に経験する。先天性心疾患にて入院中に動
脈血液酸素分圧(SaO2)と SpO2 の値に解離を認めた症例
の臨床的背景を検討した。
【方法】2005 年 1 月 1 日~
2006 年 12 月 31 日に当院 NICU に入院し、動脈ラインが
挿入されたもののうち、SaO2 が 90 以下の 21 症例(在
胎 36~41 週、出生体重 1894~4160g)を対象とした。
SaO2 と SpO2 の差が 2 日以上にわたり 10%以上である
ものを SaO2 と SpO2 の解離があるものとし(解離群)、
経過中に解離を生じなかったもの(非解離群)と臨床
的背景を比較した。
【結果】解離群は 8 例、非解離群は
13 例、在胎週数、出生体重に差はなかった。解離群で
は 8 例中 6 例が術前に血行動態不良のため動脈ライン
を要したが、非解離群では全例手術前の血行動態は安
定しており、動脈ライン確保は姑息術のために施行さ
れたものであった。SaO2 は解離群では SaO2-SpO2 解離
時、非解離時にかかわらず 70-80%、非解離群では 80
- 89% と 解 離 群 で 低 い 傾 向 が み ら れ 、 解 離 群 で の
SaO2-SpO2 解離時の SpO2 は常に SaO2 より高い測定値で
あった。SaO2-SpO2 解離時に、解離群 3 例が血行動態不
良のためアドレナリンが投与されており(非解離群 0
例)
、3 例が腹膜透析を施行されていた(非解離群 0 例)
。
死亡例は解離群で 6 例見られたが、非解離群ではなか
った。解離群での解離期間については、髄膜瘤術後の
感染のため生直後より重症管理を要し死亡した例と重
症新生児肺高血圧症で日齢 1 に死亡した例の 2 例では
う常に解離が見られたが、他の 6 例では SpO2 と SaO2
が一致する時期と解離する時期があり、主に術直後、
死亡前などで解離していた。【結語】SpO2 と SaO2 の解
離は1.チアノーゼの強い児が、2.血行動態の不良
な状態で生じやすいと考えられた。
182
妊娠に合併した一般救急疾患の受け入れ
に関する全国アンケート
国立循環器病センター 周産期科 1、厚生労働省研究
妊産婦死亡の分析と提言に関する研究班 2
○池田 智明 1,2)、岡村 州博 2)、池ノ上 克 2)、中林
正雄 2)、末原 則幸 2)
【目的】わが国の総合周産期母子医療センターは NICU、
MFICU の病床数などで指定されており、地域の周産期医
療の中心的役割を担っている。しかし、平成 18 年 8 月、
奈良県大淀町病院の重症の脳出血の産婦の救急搬送
は、わが国の母体一般救急疾患に対する周産期医療体
制に疑問を投げかけた。今回、妊娠に合併した脳卒中
などの成人一般救急疾患の診療体制について全国調査
を行った。
【方法】全国 61 の総合周産期母子医療セン
ター(大学附属病院でないセンター(以後センター)
41、大学附属病院も兼ねる(以後大学センター)20)
と 57 のセンターに指定されていない大学医学部附属病
院(以後大学)に、平成 18 年 11 月にアンケートを送
付した。調査項目は、(1)敗血症などの ICU 疾患、
(2)
成人脳卒中、(3)成人急性心疾患(4)成人外傷に対す
る診療体制、(5)手術室勤務体制、(6)緊急輸血に関
する体制である。また、平成 17 年(または 17 年度)
の診療成績も尋ねた。【結果】回答率はセンター32
(78%)
、大学センター14(70%)
、大学 30(53%)で
あった。90%の大学および大学センターが成人 ICU 疾
患の診療体制が整っていたが、センターでは 75%にと
どまった。平成 17 年に妊娠合併の脳卒中を受け入れた
施設は、大学センター50%、大学 37%、センター13%
であった。成人急性心疾患診療体制もセンターは不十
分な傾向にあった。1 年間の妊娠合併の外傷はそれぞ
れ、約 30%の施設で治療経験があったが、受け入れ体
制は大学センターが充実していた。緊急輸血体制は大
学と大学センターが、センターに比べてより余裕があ
る傾向にあった。8 つのセンター(25%)は成人救急疾
患に対する受け入れが不可能であった。不可能と答え
たセンターは、近隣の受け入れ可能な施設と共同で対
処すべきと回答した。【結論】約 1/4 のセンターが、成
人一般救急疾患の診療体制が不充分であった。未熟
児・新生児医療を主眼に発展してきたわが国の周産期
医療のピットホールと呼ぶべきであり、近隣の大学や
救命救急センターなどとのネットワークを考慮した、
周産期医療の再構築が必要である。
O-037
O-038
生体肝移植後の出産例 5 例の臨床的検討
京都大学 医学部附属病院 産婦人科 1、国立病院機構
京都医療センター2
○由良 茂夫 1)、最上 晴太 1)、藤井 剛 1)、藤井 信
吾 2)
当院では、平成 2 年より生体肝移植を開始し、平成 17
年 3 月までに計 1047 例に施行している。女性は 60%を
占め、生殖年齢である 20 歳代、30 歳代の女性が 91 例
(7.9%)含まれている。また、今後生殖年齢に到達する
10 歳代までの女性は 436 例(38%)である。肝移植術後
の追跡中に、院内で 3 例、院外で 2 例が出産を経験し
ている。今回、それらの妊娠経過を報告し、生体肝移
植後の妊娠・出産の問題点について考察したい。5 例の
妊娠年齢は 22 歳から 41 歳、平均 31.4 歳。肝移植術後
の期間は 20~84 ヶ月、平均 36.2 ヶ月であった。妊娠
前の治療として全例がタクロリムス 3~6.4mg/日を使
用しており、1 例では加えてプレドニゾロン 2.5mg/日
を併用していた。妊娠中にはそれらを同量ないし一部
増減量して継続投与していた。出産週数、児の出生体
重は 1 例が 28 週で 769g、
他の 4 例は 36~41 週で 1936
~3610gであった。また 3 例が帝王切開分娩となって
いた。院内で管理した 3 症例の主な経過は以下の通り
である。症例 1 は初産婦。原発性硬化性胆管炎にて 34
歳時に生体肝移植を施行された。37 歳時に自然妊娠し、
妊娠 39 週 5 日 2956g の女児を自然経腟分娩した。肝移
植 5 年後より原発性硬化性胆管炎が再発し、現在再移
植待ちである。症例 2 は初産婦。15 歳時に原因不明の
劇症肝炎にて生体肝移植を施行された。22 歳時に自然
妊娠し、妊娠初期に血中肝酵素の軽度上昇を認めたが
その後改善した。妊娠は順調に経過し、妊娠 41 週 2 日、
3610g の女児を自然経腟分娩した。現在まで肝機能の異
常は認めていない。症例 3 は 1 回経産婦。40 歳時に B
型肝硬変にて生体肝移植を受け、41 歳時に自然妊娠し
た。妊娠 35 週ころより肝機能異常が出現し、同時期よ
り血圧上昇、蛋白尿を認めた。妊娠高血圧症候群の合
併にて、妊娠 36 週 2 日帝王切開術施行し 1936g の女児
を出産した。出産後に肝生検を施行したが拒絶反応は
否定され、肝機能障害は速やかに軽快した。以上のよ
うに生体肝移植術後であっても妊娠出産は可能となっ
ているが、妊娠経過に種々の影響を及ぼす可能性があ
る。また原疾患や移植肝への影響も懸念され、文献的
な検討をまじえて問題点を検討する。
183
75g 糖負荷試験(75gGTT)を行った妊婦の
次回妊娠時の妊娠糖尿病(GDM)発症率の検
討
宮崎大学 医学部 産婦人科
○川越 靖之、鮫島 浩、池ノ上 克
O-039
O-040
合併症妊娠における血管増殖因子
防衛医大 産婦人科
○芝崎 智子、松田 秀雄、吉田 昌史、長谷川 ゆ
り、田中 雅子、古谷 健一
【目的】胎盤由来の血管増殖因子の不均衡による胎盤
形成不全が, 妊娠高血圧症候群(PIH)の発症に重要な
役割を果たしていることが報告されており, また子宮
内胎児発育遅延(IUGR)との関連も報告されている. 一
方癒着胎盤は絨毛組織が子宮筋層まで侵入する状態で
あるが, 血管増殖因子との関連についての報告は少な
い. これら合併症妊娠に対する血管増殖因子の関与に
ついて検討する. 【方法】当院で健診を受けている妊
婦から Informed consent を得た上で血清を採取し,妊
娠前期(妊娠 10 週~20 週), 妊娠中期(妊娠 26 週~
29 週), 妊娠後期(妊娠 32 週~35 週)に分けて
placental growth factor (PlGF), 及び可溶型 vascular
endothelial growth factor receptor-1 (VEGFR-1) の
濃度を, enzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)
法にて測定した. またその分娩時の臍帯血を採取し,
vascular endothelial growth factor (VEGF) を ELISA
法にて測定した. 分娩時における診断に従って妊婦を
PIH 群, IUGR 群, 前置胎盤群,コントロール群に分け,
それぞれをコントロール群と Mann-Whitney 検定を用い
て比較した. 【成績】解析できた症例数は以下の通り
であった. PIH 群: 妊娠前期 7 例, 中期 10 例, 後期 9
例, 臍帯血 18 例; IUGR 群: 前期 6 例, 中期 11 例, 後
期 7 例, 臍帯血 11 例; 前置胎盤群: 妊娠前期 5 例, 中
期 14 例(癒着胎盤 1 例), 後期 8 例(癒着胎盤 1 例),
臍帯血 19 例; コントロール群: 妊娠前期 54 例, 中期
79 例, 後期 97 例, 臍帯血 160 例. コントロール群にお
いて, PlGF は妊娠前期にはほとんど検出されず, 妊娠
中期に急増し, 妊娠後期では妊娠中期とほぼ同程度の
濃度であった. VEGFR-1 は妊娠後期に急増した. 妊娠中
期において, PIH 群, IUGR 群, 及び前置胎盤群では PlGF
は有意に低値を示した. 妊娠後期においても IUGR 群で
は有意に低値を示し, PIH 群では低い傾向を示したが,
前置胎盤群では有意差を認めなかった. VEGFR-1 は PIH
群, IUGR 群において高い傾向が, 前置胎盤群において
低い傾向が認められたが, 有意差は認めなかった. 臍
帯血中の VEGF はどの群においても有意差を認めなかっ
た. 【結論】PlGF は, 前置胎盤群では妊娠中期に PIH
群や IUGR 群と同様に低値を示したが, 妊娠後期にはコ
ントロール群と有意差を認めなかった. VEGFR-1 は前
置胎盤群において後期にコントロール群より低い傾向
にあり, 癒着胎盤との関連が示唆された.
【目的】諸外国の文献から GDM の発症率をみると、前
回 GDM であった群では 36%、前回 GDM でなかった群で
は 1%と報告されている。そこで自験例を用い、前回妊
娠時に GDM であった群と GDM でなかった群とで、次回
妊娠時に GDM が発症する頻度を検討した。
【方法】1997
年-2004 年の間に2回以上の妊娠を経験した症例の中
で、それぞれの妊娠中に 75gGTT を行った計 39 症例を
対象とした。75gGTT は GDM のリスク因子がある妊婦に
施行した。1回目の結果で GDM 群(n=5)と non-GDM 群
(n=34)とに分類した。【成績】次回妊娠時の GDM の発症
頻度は non-GDM 群では 3%(1/34)であった。GDM 群では
5 症例のうち 4 症例(80%)が再度 GDM と診断された。
【結
論】GDM 群では次回妊娠時に 80%が発症し、これまで
の報告より高い傾向があった。一因として前症例に対
するスクリーニングではなく、リスク因子を有する妊
婦を対象に糖負荷試験を行ったことが考えられた。一
方、リスク因子があっても前回の糖負荷試験が正常で
あれば、次回妊娠時の GDM 発症率は低いことが判明し
た。
184
O-041
羊水補充による妊娠継続は超早産児の予
後を改善するか
子宮頸癌、性器クラミジア、細菌性膣症検
診の実態と子宮頚管縫縮術施行状況につ
いて
市立札幌病院 産婦人科 1、名寄市立総合病院 産婦人
科 2、北海道大学大学院 生殖発達医学講座 3、北海道
周産期談話会 4
○島野 敏司 1,4)、川村 光弘 2,4)、水上 尚典 3,4)
【目的】北海道地方において妊娠時に子宮頸癌、性器
クラミジア、細菌性膣症(BV)検診がどの程度行われ
ているかを分娩施設において調査し、上記 3 種検診の
実態と子宮頚管縫縮術施行状況を調べその相関関係を
検討した。
【方法】2004 年度に 113 分娩施設を対象に 3
種検診実施状況と、総分娩数、子宮頚管縫縮術数を調
査した。比率の差に関する解析はMXN表に対する X2
検定を用い、有意水準を 5%とした。【成績】分娩施設
113 施設のうち 56 施設から有効回答を得た。回答施設
における総分娩数は 24,050 人であり、これは北海道全
体の 56.4%(24050 / 44020)に相当した。子宮頚癌検
診の「全例実施」「疑い例のみ実施」「非実施」の割合
は、87.5%、5.4%、7.1%であった。性器クラミジア検
診では「全例実施し、陽性者を治療」「疑い例のみ実施
し、陽性者を治療」「非実施」の割合はそれぞれ 87.5%、
12.5%、0.0%であり、BV 検診では、それぞれ同様に
57.1%、35.7%、7.1%であった。予防頚管縫縮術は、
単胎では 89.3%の施設で実施され、双胎では 89.1%の施
設が非施行であった。予防頚管縫縮術を施行された妊
婦は単胎・双胎の合計で 0.7%(165/24,050)であった。
緊急頚管縫縮術を施行する施設は 62.5%であり、その中
には感染徴候があっても行う施設が 25.0%であり、実
際、緊急頚管縫縮術を施行された妊婦は
0.3%(67/24,050)であった。3種検診実施状況と頚管縫
縮術施行状況は、BV 検診実施別緊急頚管縫縮術施行割
合にのみ有意差が認められた(3X3 表、χ2=19.431、
自由度=4)
。BV 検診非実施群での緊急頚管縫縮術施行
割合 0.8%(12/1488)が、BV 検診全例実施群や疑い例
のみ実施群での同術施行割合の 0.2%(35/14473)や
0.3%(20/7857)より高いことがその最大の理由であ
り(BV 検診非実施群の緊急縫縮術施行割合に起因する
χ2=14.418)
、これは BV 検診を受けなかった妊婦群で
は緊急頸管縫縮術を必要とした妊婦数が有意に多かっ
たことを意味していた。【結論】緊急頸管縫縮術は BV
検診を実施していない施設で有意に高かった。妊娠時
に BV 検診をし、陽性者を治療することが、緊急頸管縫
縮術を減少させる可能性が示唆された。
O-042
聖マリア病院 母子総合医療センター 新生児科
○原田 英明、中村 祐樹、小池 敬義、岡本 龍、
首藤 紳介、古川 亮、城戸 康広、橋本 崇、橋本
武夫
【背景・目的】羊水補充療法(amnioinfusion)の目的に
は,preterm PROM(pPROM)に伴う羊水過少症例に対する
妊娠継続がある.しかし児の予後改善につながってい
るかは議論がある. 当院では長年,妊娠 28 週未満の
pPROM 症例に対して羊水補充療法を施行してきた.今
回,過去 3 年間の超早産児における羊水補充療法と予
後の関係を検討した.【対象・方法】対象は 2003 年-
2005 年の 3 年間に入院した超早産児 108 例.このうち
単胎・pPROM 症例を,羊水補充症例(A 群 14 例)と未施
行例(NA 群 22 例)とし,周産期背景ならびに短期予後に
ついて統計学的に 2 群間で比較検討を行った.統計学
的手法は,連続変数には Mann-Whitney U 検定を,名義
変数には Fisher’s exact test を行い,p <0.05 を
有意とした.多変量解析にはロジスティック回帰分析
を使用した.【結果】A 群と NA 群の平均在胎週数・平均
出生体重はそれぞれ,25.3±1.7 週:25.4±1.5 週,
772.6
±295.8 g:779.4±186.6 g であった.死亡率(A 群:
NA 群 35.7%:4.5%)・MgSO4 投与率(57.1%:13.6%)・母
体インドメサシン投与率(57.1%:9.1%)が A 群で有意に
高かった.A 群では複数の子宮収縮抑制剤が併用され,
予後は明らかに不良であった.在胎週数・出生体重・
塩酸リトドリン投与・母体ステロイド投与・絨毛膜羊
膜炎については,両群間に有意差は認めなかった.多
変量解析の結果,死亡の危険因子は在胎週数が低い・
羊水補充施行であった.各オッズ比は, 0.26 ( 95%信
頼区間 .078 - .86 ) ・ 27.8 ( 95%信頼区間 1.35 -
500.0 )であった.【考察】今回の検討では,羊水補充
療法施行症例に予後改善は認めなかった.羊水補充症
例では複数の子宮収縮抑制剤が使用されていることか
ら,羊水補充療法とその周辺管理が予後に悪影響を与
える可能性が示唆された.多変量解析による検討結果
では,死亡の危険因子は在胎週数と羊水補充療法施行
であった.当院では臨床的に絨毛膜羊膜炎がないこと
が前提で羊水補充が施行されているが,両群間で病理
的診断に差がないことから,絨毛膜羊膜炎の臨床診断
の困難さが推測された.羊水補充療法施行にはより厳
密な適応基準が必要と考えた.
185
妊娠中期の膣内胎胞膨隆に対する頸管縫
縮術:当科6症例の検討
信州大学 医学部 産科婦人科
○金井
誠、芦田
敬、大平 哲史、鹿島 大靖、
小西 郁生
当院における pPROM の児の予後から見た
危険因子の検討
久留米大学 産科婦人科
○堀之内 崇士、蔵本 昭孝、下村 直也、下村 卓
也、河田 高伸、大島 雅恵、野々下 晃子、林 龍
之介、堀 大蔵、嘉村 敏治
【 目 的 】 preterm
premature rupture of the
membranes(以下 pPROM)は、早産の原因として重要であ
る。治療において妊娠期間の延長が図られる一方で、
子宮内及び胎児感染や羊水量の減少による児への影響
も十分配慮する必要がある。このため妊娠帰結の時期
の決定に際して苦慮することも少なくない。今回我々
は、妊娠 32 週未満に分娩した pPROM の新生児予後に影
響を及ぼす危険因子の抽出を行い、これらの因子が、
適切な妊娠帰結時期の決定に有用であるかを検討し
た。
【対象】2001 年 1 月 1 日から 2005 年 12 月 31 日ま
での 5 年間で当院にて pPROM の診断後、分娩となった
症例のうち多胎、胎児奇形・染色体異常を除いた 39 症
例を対象とし、分娩時期が妊娠 24 週から 28 週未満(A
群)、28 週以上 32 週未満(B 群)の 2 群に分けそれぞれ
を検討した。児の予後因子は生存の有無、慢性肺疾患
(CLD)
、脳室周囲白質軟化症(PVL)の罹病とした。また
これらの予後の危険因子として破水時及び分娩時の臨
床的絨毛膜羊膜炎、
(臨床的)子宮内感染、組織学的絨
毛膜羊膜炎の有無、母体発熱、白血球数、CRP、破水か
ら分娩までの期間、羊水量とした。尚、統計学的検討
は t 検定、χ2 検定、メタアナリシスを用い危険率 5%
以下を有意差ありとした。
【結果】A 群(13 例)の平均
年齢は 30.7±6.9 歳で、平均分娩週数は 25±1.0 週で
あった。生存 11 例に比して新生児死亡 2 例は分娩時の
CRP の上昇と発熱が有意に高く、羊水過少が有意に多く
認められた。CLD は 10 例で、発症の無かった 3 例に比
して破水時に子宮内感染を認めた例、分娩時の CRP の
上昇例、羊水過少例が有意に多く、破水から分娩まで
の期間は有意に長かった。PVL は 6 例で、発症の無かっ
た 7 例に比して分娩時の CRP 上昇例と羊水過少例が有
意に多く認められた。B 群(26 例)の平均年齢は 28.8
±5.9 歳で分娩週数は妊娠 31.2±1.8 週であった。CLD
は 3 例で、発症の無かった 23 例に比して破水時と分娩
時の CRP 上昇例が有意に多く認められた。PVL は 8 例で、
発症の無かった 18 例に比して破水時の CRP 上昇例と羊
水過少例が有意に多く認められた。
【考察】破水時に子
宮内感染や臨床的絨毛膜羊膜炎と診断された症例の児
の予後は不良であった。また CRP の上昇及び羊水過少
は、CLD、PVL の重要な危険因子と考えられるため妊娠
帰結の決定因子として考えるべきであろう。今後は、
更なる症例の積み重ねを行うと同時に、前方視的検討
が必要と考える。
O-043
O-044
【目的】妊娠中期の膣内胎胞膨隆症例に対しては、保
存的治療による妊娠期間の長期延長は難しく、母体に
床上安静を強いることは、血栓症のリスクも増大させ
る。したがって絨毛膜羊膜炎の軽度な症例や頸管無力
症においては、胎胞の還納と頸管縫縮術の完遂が、児
予後の改善だけでなく母体にとっても多大なメリット
になる。当科では胎胞の還納と頸管縫縮術の施行にミ
ニメトロ等を使用した手技を用いて対応しており、本
手技を施行した6症例の検討により、本手技の有効性
を検証した。【方法】我々の対応法は、制御不可能な感
染の無いことを確認の上、全身麻酔で骨盤高位とし、
膀胱充満法を試み、これが無効である場合には、羊水
穿刺を施行して羊水腔内圧を減圧した後、ミニメトロ、
粘膜鉗子、絹糸などを使用して胎胞の還納を行い、頸
管縫縮術を施行している。頸管縫縮術は、まず McDonald
法を施行し引き続いて Shirodkar 法を施行している。
【成績】症例 1~6 の膣内に胎胞が膨隆した週数→分娩
週数(妊娠延長期間)は各々32 週 2 日→35 週 0 日(19
日間)、22 週 5 日→36 週 4 日(97 日間)
、23 週 3 日→
38 週 5 日(107 日間)
、22 週 1 日→32 週 3 日(71 日間)、
20 週 1 日→31 週 3 日(79 日間)、19 週 3 日→24 週 0
日(22 日間)
であった。膨隆した胎胞の直径は 30~84mm、
平均 53mm であった。症例 1~5 は全て健児を得ている
が、症例 6 は臍帯因子と推察される突然の子宮内胎児
死亡を呈し妊娠 24 週 0 日に死産となった。症例1~5
は全て術前 CRP が 0.4mg/dl 未満で、白血球数も 10000
/μl未満であり、絨毛膜羊膜炎は軽度であった。症
例6は術前 CRP4.72mg/dl、白血球数 16550/μlであ
ったが、頸管縫縮術後には CRP が 0.21mg/dl、白血球数
も 10770/μlまで低下して子宮収縮も安定していた。
【結論】 膣内胎胞膨隆症例への胎胞還納と頸管縫縮
術の施行において、ミニメトロを使用することで、胎
胞への物理的圧迫や摩擦を最小限にして広い面積で胎
胞を子宮腔内へ押し込む処置が比較的容易になる。さ
らに縫縮後に頸管から抜去する行為も簡便で、手技の
経験や熟練度の差が解消される可能性を有する。膣内
へ脱出した胎胞を破水させずに還納し頸管縫縮術を行
う際に、ミニメトロなどを使用した我々の手技を施行
することで、長期間の妊娠期間延長を図ることが可能
となる可能性が示唆された。
186
O-045
ラ ビ ッ ト 早 産 モ デ ル に お け る
Lactoferrin の早産抑制効果とその機序
に関する検討
医学部 産婦人科 1、昭和大学藤が丘病院
O-046
昭和大学
産婦人科 2
○中山 健 1)、大槻 克文 1)、長谷川 明俊 2)、佐々木
康 1)、八鍬 恭子 1)、澤田 真紀 2)、満川 香織 1)、千
葉 博 1)、長塚 正晃 1)、岡井 崇 1,2)
【目的】Lactoferrin(LF)は、制菌・抗菌、抗炎症、免
疫調節など多彩な作用を有することが報告されてい
る。今回我々は当該施設での動物実験委員会の承認を
得て、子宮頸管内に E.coli を直接投与することにより
ラビット早産モデルを作成し、LF の早産抑制効果なら
びにその機序の検討を行った。
【方法】妊娠ラビットを
3 群に分け、内視鏡下で子宮頸管内に、生食群(n=3)
と E 群(n=8)では生食を、LF 群(n=7)には LF を投
与した。2 時間後に生食群に生食を、E 群と LF 群に
E.coli を同じ方法で投与した。1)妊娠継続日数、2)
胎仔生存率、3)母獣血清と羊水中の TNF-α濃度、4)
子宮頸管における matrix metalloproteinase (MMP)の
発現(Western blot 法)を検討した。【成績】1)妊娠
継続日数は、生食群 7.0±0 日、E 群 3.3±0.4、LF 群
4.9±1.8 であり、LF 群は E 群と比較し有意に長かった。
2)胎仔生存率は生食群 95.7%、E 群 0、LF 群 32.6 であ
り、LF 群は E 群と比較し有意に高値を示した。3)TNFα濃度は母獣血清中で、生食群 45.6±10.2pg/ml、E 群
96.6±22.6、LF 群 69.2±12.0、羊水中はそれぞれ 0
pg/ml、218.7±27.2、48.5±24.7 であり、LF 群では E
群と比べて有意差を認めずも低くなる傾向にあった。
4)LF 群では E 群と比べ MMP 発現の抑制傾向を認めた。
【結論】E.coli 投与ラビットにおける早産抑制効果に
は、抗炎症作用を介しての TNF-αの産生抑制と、それ
による頸管熟化抑止作用の関与していることが示唆さ
れた。Prebiotics で副作用の少ない LF は、ヒトにおい
ても炎症に起因する早産を予防する効果が期待され
る。
当院の在胎 32 週以下の児における臍帯血
IL-6 値と胎盤病理検査との関連
日本赤十字社医療センター 新生児科
○山本 和歌子、与田 仁志、中島 やよひ、遠藤
一、矢代 健太郎、松村 好克、佐藤 美紀、青木
則、川上 義
大
良
【目的】近年,早産の主因は,絨毛膜羊膜炎(CAM)が
背景にあり,サイトカインやケモカインを介した子宮
内炎症反応であることが明らかになりつつある。また,
子宮内の炎症が胎児に波及し,胎児が高サイトカイン
血 症 に 陥 い る FIRS ( Fetal inflammatory response
syndrome)と,種々の新生児合併症との因果関係が指
摘されている。FIRS の有無の評価は出生後の治療・適
応の面からだけでなく,その予後をみる上でも重要で
ある。 今回,分娩時の臍帯血中 IL-6 と胎盤病理検
査を後方視的に調査し,当院の早産例で CAM および
FIRS との関連を検討した。 【対象】 2006 年 3 月か
ら 2007 年 2 月までの 1 年間に当院で出生し,NICU に
入院となった 32 週以下の早産児において,臍帯血で
IL-6 を測定し得たのは 45 例で,そのなかで IL-6 の異
常高値を呈した早発型敗血症 1 例を除外した 44 例を対
象とした。胎盤病理検査による CAM の有無別に 1)臍帯
血中 IL-6, IgM 2)児の入院時 CRP 3)新生児合併症
(PDA,NEC,CLD,PVL,ROP)の有無について因果関係
を検討した。また,IL-6 は 11pg/ml 以上の例を高値と
した。【結果】胎盤組織学的に CAM を認めたのは(CAM
群)30 例で,CAM を認めなかったもの(非 CAM 群)は
14 例であった。CAM 群の IL-6,IgM,
CRP はそれぞれ 151.0
±182.9pg/ml,17.1±20mg/dl,0.7±2.2mg/dl であり,
非 CAM 群のそれはそれぞれ 4.8±5.5pg/ml,7.1±
3mg/dl, 0.01±0.01mg/dl であった。両者の IL-6 と IgM
には有意差(P<0.05)を認め,CRP には認められなか
った。また IL-6 の高値例は CAM 群で 21 例,非 CAM 群
で1例,IgM>20mg/dl の例はそれぞれ 5 例,0 例,CRP
>0.2mg/dl の例はそれぞれ 8 例,0 例であった。新生
児合併症を認めたのは CAM 群 23 例,非 CAM 群 11 例で,
両者に有意差はなかった。
【結語】 現在,早産の原因
となりうる子宮内感染の診断法として胎盤病理,CRP,
白血球数・分画などが用いられていることが多いが,
IL-6 は出生時の児の感染徴候を評価する検査法の一つ
として CRP より鋭敏に診断に役立つ可能性が示唆され
た。
187
妊娠超初期正常経過と正確な妊娠日数の
同定による胎芽初期胎児の予後判定
ますだ産婦人科
○増田 恵一
2nd trimester における長期出血例の予後
の検討
順天堂大学医学部附属静岡病院産婦人科 1、順天堂大学
医学部附属静岡病院新生児科 2
○輿石 太郎 1)、長田 久夫 1)、幡 亮人 1)、古堅 善
亮 1)、醍醐 政樹 2)、佐藤 洋明 2)、梅崎 光 2)、三橋
直樹 1)
【目的】2nd trimester に持続的、または断続的な性器
出血を認め早産に至った症例について、母体経過と児
の予後を後方視的に検討した。
【方法】当院で 1998 年 6 月より 2007 年 2 月までに分
娩した 4068 例中、2nd trimester において分娩の7日
以上前から持続的または断続的な性器出血をきたし
て、妊娠 30 週未満で早産に至った症例は 17 例(0.42 %)
であり、これを A 群(平均分娩週数; 25.3 週、平均出生
体重; 749g)とした。なお、前置胎盤、頚管ポリープや
頚管無力症を原因とする出血例は対象から除外した。
一方、A 群と分娩週数に差がなく、長期出血のない前期
破水によって同期間に早産となった 34 症例を抽出し、
これを B 群(平均分娩週数; 25.4 週、平均出生体重;
779g)とした。これら 2 群間で、妊娠歴、早産歴、感染
所見、脳室内出血(IVH)、慢性肺疾患(CLD28d, CLD36w)、
在宅酸素療法(HOT)、壊死性腸炎(NEC)などの、母体お
よび児の臨床的諸事項について、分散分析とχ2 乗検定
を用いて P<0.05 を統計的有意として比較検討を行な
った。さらに A 群内で、破水によらない羊水の減少を
呈 す る CAOS (chronic abruption oligohydramnios
sequence)に該当する 7 症例を A-I 群(平均分娩週数;
24.9 週、平均出生体重; 728g)と、長期出血のみ認めた
10 症例を A-II 群(平均分娩週数; 25.7 週、平均出生体
重; 764g)とした。また、胎盤の病理所見である瀰慢性
絨 毛 膜 板 ヘ モ ジ デ ロ ー シ ス (DCH) の 有 無 に よ っ て
DCH(+)群と DCH(-)群に細分類した。A-I 群と A-II 群間、
ならび DCH(+)群と DCH(-)群間でも、妊娠経過と児の予
後について上記と同様の比較検討を行なった。
【成績】 A 群では B 群と比べて CLD36w、HOT、早産歴
(-)の比率が有意に高かった。A-I 群は A-II 群と比べ全
ての項目で有意差は認められなかった。また、妊娠 20
週以前から出血している症例で DCH が有意に多く認め
られたが、DCH の有無と児の経過、妊娠歴などに有意差
は認められなかった。
【結論】2nd trimester における長期出血は、児の慢性
肺疾患の危険因子であると考えられた。また、今回の
検討では DCH の有無に臨床的意義は認められなかった。
O-047
O-048
{背景}従来、妊娠超初期から初期の胎芽胎児の発育
成長にはある程度の個体差が存在し正確な妊娠日数お
よび分娩予定日を確認することは、事実上不可能とさ
れてきた。しかし、正確な妊娠日数は胎芽初期胎児の
予後判定には必須であり、早産 予定日超過妊娠の管
理対処の基準となる。 {目的}種々のパラメーター測
定により正確な在胎期間を同定し、それに基づいた初
期の胎芽胎児の発育成長の経過観察から予後の推移推
定を試みる。{対象と方法}妊娠超初期(妊娠 16 日~38
日)の胎芽胎児を対象に、5MHz経膣走査法(Aloka
ssd6500 ssd5500)使用し正確な排卵日の同定(LH サー
ジ検出、エコー上の卵胞消失、子宮内膜変化、腹水貯
留、
頚管粘液変化、基礎体温) 出来た 232 例で胎嚢(GS)
卵黄嚢(YS)頭臀長(CRL) 胎児心拍数(FHR)を測定し、
各々のパラメーターと妊娠日数の相関を検討した。さ
らにそれらのパラメーターの日令変化の推移と胎芽胎
児予後の関係を検討した。
{結果}妊娠 16 日目(4 週 2
日)GS 径 1.5 ミリ 以降 21 日(5 週 0 日)まで GS 径
は1日 1 ミリずつ増大 以後個体差が大きく同定不可
能 21 日目(5 週 0 日)GS 内に YS が確認され 23 日目
(5 週2日)までに 100%出現 YS 径は 26 日以降5ミ
リ以上予後不良 26 日目 (5 週5日)後半 胎芽頭
臀長(CRL)1.7 ミリで胎芽心拍動検出 CRL は1日 0.7
ミリずつ増大 心拍数中心値 95 以後 38 日目(7 週3日)
まで1日 5 心拍ずつ増加 予後良好な場合は 個体差
による計測値の分散は小さい 27 日目(5 週6日)後
半 CRL2.5 ミリ胎芽心音聴取可能 38 日目(7 週3日)
心拍数 150 以後胎児心拍は変動が大きく妊娠日数同定
不可能
{まとめ)妊娠 21 日まで GS 径測定 妊娠 23
日までに YS(5 ミリ以上予後不良)出現確認 妊娠 26
日以降は CRL 測定 心拍数測定により正確な妊娠日数
(分娩予定日)の同定が可能である。妊娠 38 日以前に
はそれらのパラメーターの日令変化の個体差は少な
い。発生学的に胎芽と胎児の移行はこの時期とされて
おり、胎芽期の精密な測定をすることによってより正
確な妊娠予後推定が可能になった。臨床的には切迫流
産(出血等)の概念変化を促し、子宮外妊娠 胞状奇
胎 等妊娠異常早期対処による予後改善に貢献する。
188
IUGR の原因と生後の発達との関連につい
て
順天堂大学医学部産婦人科
○田中 利隆、伊藤 茂、依藤 崇志、西原 沙織、
宮川 美帆、武者 由佳、薪田 も恵、米本 寿志、
竹田 省
【目的】子宮内胎児発育不全(IUGR)の原因は様々であ
るが、原疾患の違いにより児発育の検討を行った報告
は少ない。今回、原疾患の違いによる出生後の児身長・
体重・頭囲についての検討を行った。【方法】2004 年 1
月から 2006 年 12 月までに当院で妊娠 28 週以降出生し
た児のうち、出生体重が出生児体格基準値(厚生省研
究班、1998)の 10%tile 未満で、3 ヶ月健診まで経過が
追えた 76 例(胎児奇形、染色体異常によるものは除外)
を対象とした。対象となった IUGR 症例(76 例)を明ら
かな原因がない群(U 群:48 例)
、妊娠高血圧症候群を
合併している群(P 群:17 例)
、膠原病を合併している
群(C 群:6 例)
、筋腫核出術を行った群(M 群:5 例)
に分け、それぞれの修正 37~42 週時、1 ヶ月健診時、3
ヶ月健診時の児身長、体重、頭囲について解析を行っ
た。
【結果】出生時の週数と体重の平均値は U 群:37.8
±3.2 週、2123±537.4g、P 群:32.6±3.0 週、1381±
464.7g、C 群:39.5±1.1 週、2520±149.0g、M 群:37.1
±3.3 週、1947±550.7g だった。修正 37~42 週時の身
長・体重・頭囲の平均値を比較すると、M 群の頭囲が P
群に比べ有意に小さかった(M:31.2±1.42cm 、P:33.2
±1.61 cm)。また身長・体重は全群間に有意差を認め
なかった。1 ヶ月健診時の身長・体重・頭囲の平均値は、
P 群の体重が U 群・M 群に比べ有意に大きく(P:3917
±508.4g、U:3559±428.8g、M:3290±507.4g)
、また
P 群の頭囲が U 群に比べ有意に大きかった(P:37.2±
1.66cm、U:35.9±1.26cm)
。3 ヶ月健診時は身長・体重・
頭囲の平均値は全群間に有意差を認めなかった。【考
察】今回の検討では症例数が少なく有意差を認めたの
は数項目であったが、妊娠高血圧症候群を合併した
IUGR 症例は、その後のキャッチアップが早いことが示
唆された。同様の報告も認めるがその原因は明らかで
はない。今後症例を重ね更なる検討の必要性があると
考えられた。
Light for dates 児における乳児期早期の
脂肪蓄積に関する検討
独立行政法人 国立病院機構甲府病院 1、日本大学 医
学部 小児科 2
○稲見 育大 1)、田口 洋祐 1)、斉藤 勝也 1)、加藤 麻
衣子 1)、久富 幹則 1)、藤田 英寿 2)、岡田 知雄 2)
<はじめに>
近年、胎児期から乳児期の成長が
将来の糖尿病や虚血性冠動脈疾患の頻度に大きく影響
してくることが知られ、様々な研究が進められている。
特に Light for dates はそのリスクが高いことが報告
されている。 今回我々は当院 NICU に入院した低出生
体重児の身長、体重、頭囲、胸囲および皮脂厚を退院
から 1 歳まで測定しその成長について検討した。<対
象と方法> 平成 18 年 1 月 1 日から 12 月 31 日までに
当院 NICU に入院し、新生児仮死、感染症、呼吸障害、
外表奇形等の合併症を認めない 1800g 以上 2500g 未満
の低出生体重児を対象とし、出生時、退院時、退院後
の健診時に体重、身長、頭囲、胸囲と 4 か所の皮脂厚(二
頭筋部、三頭筋部、肩甲骨下角部、腸骨稜上部)を測定
した。測定誤差を減らすため皮脂厚の測定は1人の医
師によってなされ、Holtain 社の Skinfold Caliper を
用いて各部位 3 回ずつ測定し平均値を出した。<結果
> 症例は 42 例(男児 15 例、女児 27 例)で平均在胎週
数は 36.3±2 週、平均出生体重 2117±194g であった。
分娩様式は頭位自然分娩が 36 例、帝王切開が 6 例であ
った。Light for dates(以下 LFD) 20 例、Appropriate
for dates(以下 AFD) 21 例、Heavy for dates 1 例であ
った。計測は合計 140 ポイントで行われた。 皮脂厚
は修正月齢で 3~4 か月まで急速に増加しその後徐々に
減少した。LFD、AFD 群に分けて修正月齢で 3 か月まで
の皮脂厚の増加を比較すると LFD 群でより増加してい
た。<考察>LFD 群では AFD 群と比較して生後早期によ
り脂肪を蓄積していた。以前の我々の報告で成熟児の
LFD 群においても同様の現象が認められた。生後早期の
脂肪蓄積はエネルギーの貯留の点において効率的であ
るとも考えられるが、この急速な脂肪の増加が将来の
糖、脂質代謝に影響を及ぼしている可能性もあること
が考えられ、文献的考察を含め報告する。
O-049
O-050
189
酸素投与・エリスロポエチン製剤・輸血と
未熟児網膜症
地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪府立母子
保健総合医療センター 新生児科 1、長野県立こども病
院 新生児科 2
○佐野 博之 1)、高橋 伸方 1)、望月 成隆 1)、三ツ橋
偉子 2)、和田 芳郎 1)、白石 淳 1)、平野 慎也 1)、北
島 博之 1)、藤村 正哲 1)
【背景・目的】
未熟児網膜症(以下 ROP)は、酸素使用との強い相関も示
されているが、その重症化を抑える方法が確立してい
ない。我々は昨年、エリスロポエチン製剤(以下 EPO)
を早期終了することで、手術率および反復手術率が有
意に低下することが示唆される報告を行った。その後、
SpO2 値の目標を下げ、酸素投与を減らすことによる手
術率低下を目指している。今回は酸素投与・EPO・輸血
と未熟児網膜症の関係を検討した。
【対象】
2003 年 10 月から 2006 年 6 月までに当院 NICU に入院し
た在胎期間 28 週未満の 125 例。
【貧血管理】
EPO 開始基準:生後 2 週間以降で Hb<12.0g/dl。
EPO 投与中止・終了基準:2004 年 2 月まで;Hb≧
12.0g/dl、2004 年 3 月以降;修正 30 週。
濃厚赤血球輸血基準:急性期;Hb<12.0g/dl。慢性期;
Hb<8.0g/dl で個々の症状に応じて。
【SpO2 管理】
SpO2 アラーム設定:2005 年 11 月まで(旧 SpO2 管理);
90~98%、2005 年 12 月以降(新 SpO2 管理);85~95%。
【検討項目】
(1)A 群 44 例:EPO 通常投与+旧 SpO2 管理、B 群 52 例:
EPO 早期終了+旧 SpO2 管理、C 群 29 例:EPO 早期終了
+新 SpO2 管理の 3 群に分けて ROP 手術率等の比較検討
を施行。
(2)ROP 無治療群:87 例と手術群:38 例に分けて、新生
児因子の比較検討を施行。
(3)ROP 手術の有無を従属変数、在胎期間・人工換気期
間・酸素投与期間・輸血回数・エスポー投与回数等を
共変量として、二項ロジスティック回帰分析を施行。
【結果】
(1)A・B・C の 3 群間で、在胎期間・出生体重に有意差
はなく、ROP 手術率も有意差はなかった。
(2)無治療群と手術群で、EPO 投与回数・酸素投与期間
に有意差はなく、在胎期間(無治療群>手術群)・輸血
回数(無治療群<手術群)に有意差があった。
(3)ROP 手術ありに対し、
「輸血回数が多い」のみが有意
であった(相対危険度 1.353)。
【結論】
EPO 投与基準を変更し、輸血回数を増加させず、EPO 投
与回数を減らせたが、ROP 手術率に変化はなかった。
SpO2 の目標値を下げ、酸素投与期間を減らせたが、ROP
手術率に変化はなかった。多変量解析で、ROP の手術率
に対して有意であったのは、「輸血回数が多い」のみで
あった。
【考察】
輸血回数を減らすことで、ROP の手術率を減少させられ
る可能性がある。しかし輸血回数の多さが児の未熟性
や重症度を表しているとも考えられる。今後は当院の
輸血基準の見直しとともに、児の重症度を考慮に入れ
た症例登録を行い、比較検討していく必要がある。
未熟児網膜症の蛍光眼底造影検査の有用
性
東京都立墨東病院 新生児科
○宮本 眞理子、高野 由紀子、岩瀬 真弓、近藤 雅
楽子、西村 力、大森 意索、清水 光政、渡邊 と
よ子
O-051
O-052
【目的】未熟児網膜症治療適応は眼底検査の所見で判
断される。初回治療適応については Early Treatment
for Retinopathy of Prematurity Cooperative Group :
Revised indications for the treatment of
retinopathy of prematurity. Arch Ophthalmol
121.2003 が基準とされ、一定の見解が得られているが、
追加治療については明確な基準がない。重症例では凝
固治療が十分なされ一見治癒したかに見えても、再増
殖が起こり重症瘢痕化する症例を経験することがあ
る。今回我々は接触型広画角デジタル眼底カメラ
(RetCam120®)の蛍光眼底造影ユニットを使用し未熟
児網膜症の蛍光眼底造影を行い、治療適応の判断に大
変有用であったので報告する。【対象と方法】2006 年
10 月~2007 年 3 月に当院 NICU に入院し未熟児網膜症
を発症して眼底検査で網膜血管伸展不良・血管拡張蛇
行・増殖組織など重症を示唆する所見が見られた超低
出生体重児 13 例を対象とした。対象の在胎週数は 24.5
±1.4 週、出生体重は 597±125g、双胎が 3 例、品胎
が 2 例、男性 6 例、女性 7 例であった。10%フルオレ
セインナトリウム 0.1ml/kg静注し約 20 秒後より
蛍光眼底写真を撮影し、通常の眼底写真と比較検討し
た。
【結果・考察】網膜血管の伸展状況、境界線・新生
血管・増殖組織など通常の眼底検査・写真では可視で
きないものが造影により明らかとなり、治療適応の判
断に有用であった。特に重症例の追加治療適応の判断
の際に新生血管の有無・部位の特定に大変有用であり、
良好な予後が得られた。
【結語】未熟児網膜症の診断・
治療に蛍光眼底造影検査が有用であり、今後の普及が
望まれる。
190
未熟児網膜症に対する蛍光眼底造影検査
の安全性についての検討
東京都立墨東病院 新生児科
○高野 由紀子、宮本 眞理子、岩瀬 真弓、近藤 雅
楽子、西村 力、大森 意索、清水 光政、渡邊 と
よ子
【目的】当院では 2006 年 10 月より未熟児網膜症の検
査に蛍光眼底造影(Fundus Fluorescein Angiography
FAG)を用いるようになった。この検査の安全性につい
て、報告する。
【方法】2006 年 10 月より 2007 年 3 月ま
でに、在胎 27 週以下で通常の眼底検査で重症と判断さ
れる症例 14 例に計 35 回(1 人 1~6 回)FAG を施行し
た。出生週数は 21 週 6 日~27 週 1 日、出生体重は 400g
~994g、検査を施行した修正週数は 29 週 5 日~49 週 1
日であった。検査の手順は体重あたり 0.1ml の 10%フル
オレセイン溶液を PI カテまたは末梢ルートから静注
し、血管が造影されるまでゆっくりと早送りし、約2
0秒後に撮影した。FAG 前後のバイタル、呼吸器条件、
血液検査について比較検討した。
【結果】心停止、ショ
ックなどの重篤な副作用、発疹、注射部位のトラブル
は認めなかった。FAG の結果レーザー治療を行った場合
に、呼吸器条件の後退や栄養の減量を認めた例があっ
たがレーザー治療のみと比べて差はなかった。血液検
査(WBC、Hb、Plt、BUN, Cre, AST, ALT, LDH)に関し
ても検査前後での有意な差は認められなかった。成人
では皮膚の黄染は 2 時間、尿の着色は 24 時間と言われ
ているが皮膚の黄染は 1 日程度、尿の変色は 1~2 日と
長く続いた。ルート内にフィルターがある場合、早送
りの速度が遅く造影がうまくできないことがあった。
【考察】開始後 6 ヶ月の時点では FAG による明らかな
副作用は認められなかった。2002 年に日本眼科学会か
ら出された眼底血管造影実施基準によると成人におけ
る重症な副作用(生命が脅かされ、集中治療を要し後
遺症を残す可能性があるもの、気管支痙攣、喉頭痙攣、
アナフィラキシー、心停止、痙攣等)は 0.05%程度であ
るが、発症例の予測は難しく、問診と対策が重要であ
るとされている。通常アナフィラキシーを起こしにく
く、また生直後から経過をみている新生児では既往歴
は明らかであり、蘇生等に対する万全の準備をしたう
えで検査を行えば、安全に施行できる検査といえる。
重症 ROP の視力予後に関連する検査であるので重要性
とリスクを両親によく説明した上で選択すべきであ
る。今のところは中等症、軽症の副作用も認めていな
いが、眼科診察自体が侵襲的なため影響がマスクされ
ている可能性もあり、今後も観察が必要と考える。
半導体レーザー光凝固後の瘢痕期未熟児
網膜症の近視の検討
東京都立墨東病院 新生児科
○宮本 眞理子、高野 由紀子、岩瀬 真弓、近藤 雅
楽子、西村 力、大森 意索、九島 令子、清水 光
政、渡邊 とよ子
【目的】瘢痕期未熟児網膜症は近視性乱視の発生率が
高く、網膜の瘢痕が強いほど強度近視になる、治療例
では近視が強いとする報告が数多くあり、凝固による
眼球発達異常や網脈絡膜萎縮が屈折要素に影響し近視
化するとの報告や、一方、凝固の有無と近視化との明
らかな関連はないとする報告もあり、議論の分かれる
ところである。今回我々は、瘢痕期未熟児網膜症の屈
折異常と凝固治療との関連を明らかにする目的で、瘢
痕期未熟児網膜症患者の屈折と瘢痕期病期、凝固範囲、
凝固数、活動期病期との関連を検討した。【対象と方
法】1999 年 6 月~2005 年 5 月に墨東病院 NICU に入院
し、未熟児網膜症を発症して半導体レーザー光凝固を
行い、修正 1 歳以降に屈折を測定できた 67 例 134 眼に
ついて診療録より後方視的に調査した。屈折は調節麻
痺薬塩酸シクロペントラート点眼下で検影法またはオ
ートレフラクトメーターにより測定し、等価球面度数
で表示した。対象の在胎週数は 26.3±2.0 週、出生体
重は 835±224g であった。
【結果・考察】瘢痕期 1 度で
は-0.25D 以上の近視が 75.2%、-5.0D 以上の高度近視
が 28.1%、瘢痕期 2 度以上では-0.25D 以上が 100%、
-5.0D 以上が 66.7~85.7%と瘢痕期 2 度以上では近
視・高度近視の発生率が有意に高かった(p=0.0208,p
=0.0002)。最終年齢と 1 歳時との屈折変化は-0.2~
1.9D であり、1 歳以降の屈折変化は軽度であった。瘢
痕期 1 度では活動期病期により近視の程度が異なり、
特に zoneI stage1or2 では plus disease の有無でレー
ザー照射数が同程度でも近視の程度が大きく異なって
いた(zoneI stage2 without plus disease 881±275
発、-1.5±2.3D、zoneI stage1or2 with plus disease
857±340 発、-9.0±4.8D)。これらの結果より未熟児網
膜症瘢痕期の近視化はレーザーそのものの影響より未
熟児網膜症の瘢痕期・活動期の重症度に依存し、1 歳ま
でに進行しそれ以後ほとんど変化しないと考えられ
る。
【結語】未熟児網膜症瘢痕期の近視化はレーザーそ
のものの影響より瘢痕期・活動期の重症度に依存する
ため、瘢痕期1度で治癒するよう積極的に治療すべき
であり、強度近視・屈折性弱視に対して早期より眼科
的フォローアップが必要である。
O-053
O-054
191
新生児における酸化ストレスに関する研
究(第 3 報)
藤田保健衛生大学 医学部 小児科
○竹内 正知、加藤 規子、水谷 仁子、久保田 真
通、宮田 昌史、山崎 俊夫
O-055
O-056
胎児心臓出生前診断の現状と問題点
長野県立こども病院 総合周産期母子医療センター
産科 1、長野こども病院 総合周産期母子医療センター
新生児科 2
○高木 紀美代 1)、小野 恭子 1)、岩澤 有希 1)、宮地
恵子 1)、砂川 空広 1)、菊池 昭彦 1)、中村 友彦 2)
【目的】当院における胎児心臓出生前診断の臨床統計
より現状を把握し、胎児心臓出生前診断の重要性と問
題点を検討する。
【対象】他院より胎児異常を指摘され
当院胎児心臓外来を受診した症例、および先天性心疾
患の家族歴があり、スクリーニング目的にて胎児心臓
外来を受診した症例を対象とした。胎児心臓外来では
小児循環器科医師により検査が実施され、2000 年から
約 2 年間、産婦人科医、助産師を対象に公開レクチャ
ーが施行された。
【結果】2000 年 9 月~2006 年 12 月に
胎児心臓外来を受診した症例は 422 症例で、延べ検査
実施件数は 663 回であった。胎児に心疾患を認めた症
例は 187 症例(44.3%)であった。受診患者数(a)、心疾
患を認めた胎児数(b)、胎児心臓外来未受診の心疾患を
有する新生児搬送症例数(c)の年次推移を検討すると、
2000 年~2003 年までは、(a)172 症例、(b)67 症例、
(c)103 症例であり、2004 年~2006 年までは、(a)250
症例、(b)120 症例、(c)63 症例と受診者数、出生前診
断された胎児数は増加し、心疾患を有する新生児搬送
例は減少した。紹介理由(有症率%)は、先天性心疾患
疑 い 198 症 例 (77.2 % ) 、 他 の 先 天 異 常 119 症 例
(31.9%)、先天性心疾患家族歴あり 79 症例(6.3%)、
多胎(TTTS・1児 IUGR など)11 症例(0%)、その他 15
症例(6.6%)であり、先天性心疾患疑いで紹介された症
例がもっとも有症率が高かった。先天性心疾患と診断
された胎児 187 症例中、他の先天異常を合併していた
症例は 50 症例(26.7%)で、染色体異常症が 19 症例
(38%)と最も多かった。心疾患と診断された症例中、
子宮内胎児死亡となった症例は 8 症例(4.2%)、妊娠の
中断となった症例は 5 症例(2.7%)、出生後の治療を希
望しなかった症例は 8 症例(4.3%)あった。治療を希望
しなかった症例は院内出生 2 症例、院外出生 6 症例で、
院外出生の 2 症例は出生後に治療を希望し新生児搬送
となった。
【まとめ】胎児心臓外来開設および公開レク
チャーを行うことで、先天性心疾患を有する児の予後
改善に貢献できる可能性が示唆された。先天性心疾患
が疑われた症例の 26.7%は他の先天異常を有してお
り、常に胎児の全身検索が必要であることが重要であ
ることがわかった。出生前診断され出生後の児の治療
を希望しなかった症例でも、出生後生存している我が
子と対面することにより治療を希望する症例があり、
出生前にすべてを決定しないと言う選択肢も考慮すべ
きではないかと考えられた。
【目的】最近、酸化ストレスと種々の疾患や病態との
関連が明らかになりつつあり、新生児領域でも慢性肺
疾患(CLD)や未熟児網膜症(ROP)などにおいて活性
酸素の関与が知られている。
我々は第 50 回日本未熟児新生児学会、第 42 回日本周
産期・新生児医学会で、CLD や重症 ROP 例で酸化ストレ
ス度が高いことを報告した。 今回は多変量解析を用い
て、酸化ストレスに影響を与える様々な病態や因子に
ついて検討した。
【対象と方法】2004 年 7 月から 2006 年 12 月に、当院
NICU に入院した新生児 101 例を対象とした。日齢 0、1、
3、5、7、14、21、28 に採血し、H&D 社製 FRAS4 を用い
て酸化ストレス度(Reactive Oxygen Metabolites、
d-ROM ) お よ び 抗 酸 化 力 ( Biological Antioxidant
Potential、BAP)を測定した。d-ROM、BAP を目的変数
とし、性別、在胎週数、出生体重、Apgar score、呼吸
窮迫症候群、CLD、光凝固を要した ROP、脳室周囲白質
軟化症、動脈管開存症に対するインドメサシン投与、
酸素投与日数、高濃度酸素(≧40%)投与日数、挿管
日数、無呼吸発作、感染、輸血、鉄剤投与、母体ステ
ロイド投与を説明変数として重回帰分析を行った。
【結果】 鉄剤投与が日齢 28 の d-ROM の有意な予測因
子であった(p=0.039、回帰係数=51.567)。また、在
胎 週数 が日 齢 0 の BAP の (p= 0.032、 回帰係 数=
69.124)、Apgar score 5 分値が日齢 1 の BAP の(p=
0.013、回帰係数=125.198)、高濃度酸素投与日数が日
齢 7 の BAP の(p=0.017、回帰係数=-126.412)有意な
予測因子であった。その他は有意な因子ではなかった。
【考察】鉄は、過酸化水素を還元してより反応性の強
いヒドロキシラジカルを産生させることが知られてい
る。今回の検討でも鉄剤投与が有意に d-ROM を上昇さ
せることから、活性酸素による組織傷害を増強させる
ことが推測される。従って鉄剤の投与は漫然と行うべ
きでなく必要最小限にとどめる必要があると考えられ
た。また、BAP を低下させた仮死と高濃度酸素投与は、
過剰な活性酸素産生につながることで抗酸化物質が消
費され、酸化ストレスを増していることが示唆された
ことから必要最小限の酸素投与を常に心がける必要が
あると考えられた。
192
STIC を用いて出生前診断を行った left
pulmonary arterial sling の 1 症例
関西医科大学 附属枚方病院 産科婦人科 1、関西医科
大学 附属枚方病院 小児科 2、神奈川県立こども医
療センター 新生児科 3
○依岡 寛和 1)、笠松 敦 1)、椹木 晋 1)、神崎 秀陽
1)
、大橋 敦 2)、金子 一成 2)、川滝 元良 3)
【概要】pulmonary arterial sling(以下 PA sling)と
は肺動脈起始異常であり、肺動脈が気管を巻き込んで
いるため気管狭窄を合併することがあり、ときに気管
低形成を伴う重症型も報告されているが我々の知る範
囲で出生前診断の報告がなく、予後を予測するのはさ
らに困難であると思われる。今回我々は妊娠 32 週より
胎児心臓異常を疑い、当院へ紹介となり精査をおこな
い,STIC を用いて出生前診断を行った left pulmonary
arterial sling の 1 症例を経験したので報告する。
【症例】27 歳 初妊婦 無月経にて近医を受診し、以
後妊婦健診をうけていたが胎児心臓の異常を疑い、当
院に紹介受診となった。当院初診時の超音波所見は胎
児右胸心、単一臍帯動脈、左肺動脈欠損との診断であ
ったが、同時に神奈川県立こども医療センター新生児
科へ超音波検査 STIC データの解析を依頼し、その結果
PA sling との診断に至った。その後外来経過観察とし
ていたが、妊娠 36 週 2 日より入院管理となり、妊娠 37
週 3 に自然陣痛発来し、2065g アプガースコア 9 点(1
分),9 点(5 分)で男児を経膣分娩した。児は直ちに NICU
へ搬送し、精査をおこなった。出生直後に呼吸状態が
不安定であり、HFO を装着して経過観察を行っていた。
気管内視鏡では児に明らかな気管の狭窄はみられなか
ったが、CT 検査において左肺動脈の起始異常を確認し
た。児は気管の低形成を伴わず現在経過良好で生後 32
日目に軽快退院となる。
出生前診断された大動脈縮窄・離断の臨床
像 ―出生後診断例との比較―
埼玉医科大学 小児心臓科 1、埼玉医科大学 産婦人科
O-057
O-058
2
○竹田津
未生 1)、板倉
敦夫 2)
動脈管依存性心疾患では、動脈管閉鎖により循環が成
り立たなくなるため、動脈管閉鎖前に心疾患を発見す
ることが重要であり、胎児診断が有用とされる心疾患
の代表とされる。中でも、動脈管閉鎖に伴いチアノー
ゼが明らかになり、重症化する前に発見されやすい肺
血流動脈管依存性心疾患と異なり、動脈管が狭小化し
ても呼吸障害などの非特異的な症状で発症し心疾患の
発見が遅れるのみならず、ductal shock、重度心不全
などの重篤な状態に容易に陥ってしまう大動脈縮窄
(CoA)・離断(IAA)に代表される体血流動脈管依存性心
疾患では、胎児診断の児の予後への寄与は大きいと考
えられる。当院で経験した CoA, IAA の術前臨床像を胎
児診断例と出生後診断例で比較し、胎児診断が児の臨
床像に影響を与えるかを検討した。【方法】2000 年以
降、乳児期早期までに入院した CoA、IAA の 24 例を対
象とし、胎児診断例(F 群)、出生後診断例(N 群)で
術前の臨床像を比較。【結果】F 群 8 例、N 群 16 例。F
群では IAA4例と大動脈弓低形成をともなう CoA2 例
は、3 vessel and tracheal view(3V&T)にて診断可能、
いずれも出生後すぐに入院、18 トリソミー合併のため
両親が治療を希望しなかった 1 例を除き全例動脈管の
閉鎖前に治療開始。N 群では入院は日齢 0~47、低出生
体重児のため NICU 入院、ルーチンエコーで発見された
2 例を除く 14 例は全例 ductal shock(7 例)、重度心不
全(7 例)で重症化してからの入院であった。F 群では
18、13 トリソミーの各 1 例を除く 6 例で待機手術で、
術前に人工呼吸管理を要したのは 3 例、50%であった
のに対し、N 群では 6 例が動脈管が再開通しないなどの
理由で入院当日~翌日の緊急手術を要し、
術前に 13 例、
81%が人工呼吸管理を要した。また、術後腎不全が残
存し、腹膜還流を要したものが 3 例あった。
【結語】IAA、
CoA の出生後診断例では心不全症状が主であるため心
疾患の発見が遅れ、大部分の症例が重篤な状態で入院
となっており、術前、術後とも胎児期診断例より集中
的な治療を要した。胎児診断は多くの例で大動脈弓矢
状断が描出できなくても 3V&T にて可能であり、3V&T
を含めた胎児心スクリーニング検査の普及により重症
化する前の胎児期に同疾患群が診断されることが望ま
れる。
193
胎児パルスオキシメーターによる分娩管
理を行った先天性完全房室ブロック 6 例
の検討
北里大学 総合周産期母子医療センター
○庄田 隆、望月 純子、金井 雄二、天野 完、海
野 信也
【目的】先天性完全房室ブロック(CCAVB)は胎児心拍
数図による胎児評価が困難であり周産期管理に苦慮す
る。今回我々は妊娠経過を超音波検査で管理し、分娩
経過を胎児パルスオキシメーターを用いて管理した症
例の臨床背景及び周産期予後について検討した。【対
象と方法】合併奇形の無い CCAVB6例を対象に充分なイ
ンフォームドコンセントを得たうえで Fetal oxygen
saturation monitoring system(Nellcor Inc.)を用い
て胎児動脈血酸素飽和度 (FSpO2) モニタリングによる
胎児管理を行った。
【結果】母体年齢は 25~36 才で初
産4例、経産 2 例で1例に橋本病の合併が認められた。
5例に抗 SS-A 抗体を認め内2例が抗 SS-B 抗体も陽性
であった。診断週数は 20~36 週で初診時の心拍数は 47
~67bpm であった。全例に心奇形は認められず妊娠経過
を通して BPS は 8/8 であった。UA-RI は全例で高値の傾
向であったが MCA-RI は全例ともに正常であった。
Ao-Vmax は4例で亢進し、
LV-EF は3例で亢進を認めた。
経過中1例に軽度の心嚢液貯留を認めたが進行は無
く、他の1例で妊娠後半に軽度の心機能低下を認めた。
1例が妊娠 34 週で PROM の為分娩となり5例は妊娠 36
~38 週で誘発分娩となった。分娩時の FSpO2 モニタリ
ングでは分娩中に一過性の変動を認めた症例もあった
が、いずれも FSpO2 は 30%以上を推移した。1例が分
娩停止の為帝王切開となったが他は経膣分娩が可能で
あった。Ap.S.は 1・5 分値ともに7~8、Ua-pH も 7.2
~7.3 で新生児仮死は認められなかった。全例に心不全
や皮膚所見は認められなかった。心拍数が 60bpm 以上
を保てた2例は保存的、保てなかった4例はペースメ
ーカー装着を必要とした。
【考察】6 例中 5 例が抗 SS-A
抗体が陽性であり抗体陽性時には CCAVB の発症を念頭
に置いた管理が必要である。心奇形を合併せず心室リ
ズム 55bpm 以上であれば CCAVB は子宮内で心不全に陥
る可能性は少ないとされるが妊娠中は心機能評価が重
要であり、分娩時には胎児パルスオキシメーターによ
る FSpO2 モニタリングが胎児評価に極めて有用である
ことが示唆された。
O-059
O-060
三重大学
○梅川
3D 超音波検査にて胎内診断し、EXIT を適
応し気道確保し得た下顎無形成の一例
医学部 産婦人科
孝、杉山 隆、杉原
拓、佐川
典正
【緒言】全前脳症や水頭症など中枢神経系の異常を伴
わない下顎無形成は非常にまれであり、胎内診断は困
難であるとされている。また、下顎無形成では出生時
の急性新生児呼吸困難症候群が問題となる。今回我々
は 3D 超音波検査を用いて下顎無形成の胎内診断を行
い、分娩時に EXIT を適応することによって気道確保し
得た症例を経験したので報告する。【症例】34 歳の 2
回経産婦。既往歴、家族歴に特記事項無く、血族婚を
認めない。妊娠 26 週 6 日羊水過多の精査目的に当科へ
紹介された。2D 超音波検査では下部顔面の形成異常、
耳介低位置を認めたが、下顎無形成と低形成の鑑別は
困難であった。MRI 検査では児の頚部屈曲が強く下顎の
観察は不可能であった。中枢神経系には異常を認めな
かった。そこで、3D 超音波検査を行ったところ、下顎
の無形成に加え耳介が顎の前面へ変位している耳頭症
の所見を認め、下顎無形成と診断した。分娩時に EXIT
による気道確保が必須であると判断し、両親に文書に
より同意を得た。妊娠 33 週 5 日に自然破水し、陣痛抑
制困難となったため全身麻酔下に緊急帝王切開術を施
行した。骨盤位であったため子宮は体部縦切開し EXIT
を施行した。児頭娩出後 7 分で気管内挿管、12 分で臍
帯を切断し分娩に至った。NICU 入院後、CT 検査で下顎
無形成と確定診断した。児は気道確保されたものの、
気胸等を併発し呼吸循環不全のため生後3日目に死亡
した。剖検では下顎の完全な欠損を認め、口腔は盲端
に終わっていた。その他、消化管や泌尿器系には明ら
かな異常を認めなかった。
【考察】出生時に気道確保が
必要となる下顎無形成など頭頚部の形成異常には、3D
超音波検査が有用であると考えられた。
194
出生前診断した胎児腹壁異常 44 例の臨床
的検討
九州大学 産婦人科 1、九州大学 小児外科 2
○日高 庸博 1)、湯元 康夫 1)、北條 哲史 1)、諸隈 誠
一 1)、吉村 宜純 1)、福嶋 恒太郎 1)、月森 清巳 1)、
増本 幸二 2)、田口 智章 2)
目的) 出生前診断した胎児腹壁破裂及び臍帯ヘルニア
症例における臨床的特徴を抽出することを目的とし
た。方法)1991 年から 2006 年までの 16 年間に当院で出
生前診断された 44 例について、母体年齢、診断時妊娠
週数、分娩時妊娠週数、超音波所見、胎児発育遅延の
有無、合併形態異常、染色体異常、児予後などについ
て後方視的に検討した。結果)腹壁破裂 11 例、臍帯ヘ
ルニア 33 例であった。前者の母体平均年齢は 28.5 歳
で従来報告されているような若年の傾向はなかった
が、2例の若年妊娠を含む一方で、3例の高齢妊娠も
見られた。腹壁破裂では染色体異常例はなく、他の形
態異常を合併したものは3例のみで、すべて消化管の
異常であった。早産率は 73%で、-1.5SD 以下の胎児発
育遅延が 27%に見られた。1例の胎児死亡例以外は生命
予後良好であった。臍帯ヘルニアでは染色体異常が8
例(13 トリソミー2例、18 トリソミー6例)に認められ
た。染色体異常のあるものとないものとで比較すると、
前者では 7/8 例に心疾患を認め、胎児発育遅延の頻度
が高く(75% vs 27%)、肝臓のヘルニア嚢内への脱出が
少なかった(38% vs 76%)。肝脱出例の 16%で染色体異
常があったのに対し、肝非脱出例では 50%であった。た
だし、染色体正常の臍帯ヘルニアでも 21 例中4例の死
亡があったが、肝脱出の有無と児予後との関連は確認
されず、むしろ合併形態異常の重症度が予後に相関し
て い た 。 臍 帯 ヘ ル ニ ア の 中 に は 、 OEIS 、
Beckwith-Wiedemann 症候群、Cantrell 症候群などの
multiple anomaly sequence の1症状であるケースも見
られた。妊娠中絶例を除いた染色体正常の臍帯ヘルニ
アでの早産率は 58%、胎児発育遅延の頻度は 37%と腹
壁破裂とほぼ同等であった。染色体異常なく合併形態
異常も伴わない孤発性のもので死亡例はなかった。結
論)腹壁破裂では、早産率や胎児発育遅延の頻度は従来
の報告通り高いものの、染色体異常や合併形態異常の
頻度は低く予後も良好である。臍帯ヘルニアでは、特
に合併形態異常の評価がその管理に重要であり、また
肝脱出,発育遅延,心疾患の有無などを総合的に評価す
ることで、より適切な患者へのカウンセリングが可能
となる。臍帯ヘルニアでも早産の可能性を念頭に置く
必要がある。
出生前に whirlpool sign の超音波所見
を呈した胎便性腹膜炎の 2 症例
聖隷浜松病院 総合周産期母子医療センター 産科
○中島 紗織、松下 充、神農 隆、黒崎 亮、三宅
法子、石井 桂介、村越 毅、成瀬 寛夫、鳥居 裕
一
胎便性腹膜炎症例における胎児超音波所見としては、
腹腔内石灰化、胎児腹水、および腸管拡張像が典型的
である。今回腸管のねじれたループにより形成される
渦巻状の所見(いわゆる whirlpool sign)を認めたた
め、小腸軸捻転に起因する胎便性腹膜炎を出生前に疑
った 2 例を経験した。
【症例 1】27 歳、2 妊 1 産。既往歴に特記事項なし。妊
娠 26 週 0 日近医にて胎児腸管の拡張と whirlpool sign
の超音波像を認めた。他院での精査を経て、胎便性腹
膜炎を疑われ、妊娠 27 週 0 日当院へ転院となった。入
院時経腹超音波では、whirlpool sign は消失し、胎児
腹水を認め、小腸は一塊となって高輝度に描出された
ため、胎便性腹膜炎が疑われた。妊娠 38 週 4 日に既往
帝王切開の適応にて、帝王切開術を施行した。児は
2270g の男児で、Apgar score8/9(1/5 分)であり NICU
に入院となった。3 生日に開腹術を施行された。胎便性
腹膜炎の所見を認めた。回腸末端より約 15cm の部位で
回腸が捻転しており、捻転部位より口側で離断型の回
腸閉鎖を認めた。回腸部分切除、回腸端々吻合術を施
行し、45 生日退院となった。
【症例 2】30 歳、4 妊 1 産。既往歴に特記事項なし。妊
娠 29 週時近医にて胎児腹水を確認され、妊娠 30 週 5
日精査目的に当科へ紹介となった。初診時超音波検査
にて胎児腹水、胎児腸管の拡張と whirlpool sign を認
めた。妊娠 31 週 5 日には whirlpool sign は消失し、
小腸は一塊となって高輝度に描出されたため、胎便性
腹膜炎が疑われた。妊娠 38 週 6 日に経腟分娩した。児
は 2958g の女児で Apgar score9/10(1/5 分)であり NICU
に入院となった。1 生日に開腹術を施行された。胎便性
腹膜炎の所見を認めた。トライツ靭帯より約 64cm の回
腸に離断型の回腸閉鎖を認め、V shape に腸間膜の欠
損も認めた。回腸閉鎖に対し回腸部分切除、端々吻合
術を施行し、75 生日退院となった。
【結語】腸軸捻転の際に画像所見として特徴的な
whirlpool sign は、出生前胎児超音波検査でも描出さ
れた。この whirlpool sign が先行する胎児腹水の症例
では、腸軸捻転を背景に持つ胎便性腹膜炎の可能性を
念頭に置く必要がある。
O-061
O-062
195
O-063
I- cell 病(Mucolipidosis type 2)の遺
伝子診断・出生前診断
ダウン症に合併した胎児一過性骨髄異常
増殖症・肝線維症における胎児超音波所見
の特徴
九州大学病院 産婦人科
○北條 哲史、湯元 康夫、日高 庸博、諸隈 誠一、
吉村 宜純、福嶋 恒太郎、月森 清巳
【目的】ダウン症における胎児一過性骨髄異常増殖症
(TAM)では、胎児超音波所見の特徴として胎児水腫、肝
腫大などがあげられる。一方、TAM の予後不良因子とし
て肝線維症が報告されているが、肝線維症を胎児期よ
り合併した症例における胎児超音波所見の特徴は明ら
かではない。そこで今回我々は、肝線維症を合併した
胎児 TAM 症例における胎児超音波所見の特徴を明らか
にすることを目的とした。
【方法】1997 年から 2006 年
までの期間に当院新生児内科でダウン症、TAM、肝線維
症と診断・管理された症例において、胎児および新生
児臨床所見を後方視的に検討した。TAM の診断は日齢 0
の血液学的検査にもとづいて行った。肝線維症の診断
は日齢 0 の生化学検査および線維化マーカー、もしく
は生検・剖検所見にもとづいて行った。検討項目は胎
児超音波所見、分娩週数、出生体重、新生児血液学的
所見、合併症、予後とした。【成績】出生時より肝線維
症を合併した TAM 症例を 9 例認めた。胎児超音波所見
として、胎児水腫を 2 例(22%)、腔水症を 4 例(44%)、
肝腫大を 7 例(78%)、脾腫大を 6 例(67%)に認めた。
また、肝内高輝度エコー像を伴った肝腫大を 7 例
(78%)、低輝度エコー像を呈する肝腫大を 5 例(56%)
に認めた。分娩週数の中央値(範囲)は 35(31-38)週、出
生体重の中央値(範囲)は 2,110(1,326-3,646)g であっ
た。児の予後は生存 5 例、新生児死亡 2 例、乳児死亡 2
例であった。死亡例の直接死因として肺出血を 3 例に、
消化管出血を 1 例に認めた。生存例と死亡例における
胎児超音波所見の検討において、生存例では低輝度エ
コー像を呈する肝腫大は 1 例も認められなかったが、
死亡例では低輝度エコー像を呈する肝腫大を 5 例中 4
例(80%)に認めた。また、出生時の血液生化学所見の
検討では生存例における白血球数、AST 値の中央値(範
囲)は 18,250/μl(14,780-147,000)、52U/l(47-82)、死
亡 例 に お け る 白 血 球 数 、 AST 値 の 中 央 値 ( 範 囲 ) は
146,155/μl(34,940-321,600)、361U/l(55-517)であっ
た。
【結論】胎児期における肝線維症の超音波学的特徴
は、肝内高輝度エコー像を伴った肝腫大であった。胎
児期における低輝度エコー像を呈する肝腫大の所見
は、予後不良因子であることが示唆された。
O-064
石川県立中央病院 いしかわ総合母子医療センター
○朝本 明弘、干場 勉、平吹 信弥、高橋 仁
I-cell 病(Inclusion cell disease,Mucolipidosis 2
型)は、ムコ多糖体蓄積症に類似した症状を呈するが、
より経過が急激で有効な治療法のない常染色体性劣性
遺伝病である。本疾患はリソソーム酵素の成熟過程の
先天的な異常のために多種類の酵素のリソソームへの
転 送 が 障 害 さ れ る 。 2005 年 に 責 任 遺 伝 子
GNPTA(encoding α/βGlcNAc-1-phosphotransferase)
が同定された。今回、GNPTA 遺伝子欠失が診断された児
の同胞の出生前診断を経験した。
[症例]発端者は血族
結婚のない健常な両親の第 2 子で運動発達、知的発達
障害を認めた。血液検査、酵素診断に加え遺伝子診断
で GNPTA 遺伝子エクソン 1 のホモ欠失が認められた。
患児では、イントロン 12 に A リピートの多型がみられ
た。また、GNPTA 遺伝子近傍の D12S1607 という多型マ
ーカーを用いて、患児家族(父、母、患児)で多型が
よく分離していた。遺伝子変異では、父親由来で GNPTA
遺伝子エクソン 9 に 1165T>C,Leu329Pro のミスセンス
変異が認められた。今回、第 3 子妊娠に至り小児科医
での遺伝カウンセリングにおいて出生前診断を希望し
た。妊娠中であり、早期の検査体制を準備するため北
陸先天異常研究会の地域ネットワークを利用した。当
院での遺伝カウンセリングで検査の意志を確認後、金
沢大学および当院の倫理委員会に申請、承認を得た。
[結果]妊娠 16 週に羊水穿刺を実施し、羊水上清の酵
素診断と羊水細胞の遺伝子診断を併用した。羊水中の
酵素活性(β-hexosaminidase, β-glucuronidase, α
-mannosidase, α-fucosidase)はいずれの酵素も対照
に比し活性の上昇は見られなかった。胎児 DNA 診断に
は父由来の変異部位のほか、エクソン 1 とイントロン
12 に見られた多型および遺伝子近傍のマーカーである
D12S1607 を用いた。これにより、胎児は両親から正常
なアレルを受け継いでいると考えられた。
[結論]妊娠
後の出生前診断依頼に対し、地域ネットワークを活用
して対応できた。I-cell 病の遺伝子による出生前診断
の報告はなく今後有用な手段と考えられた。
196
14 番 染 色 体 父 性 片 親 性 ダ イ ソ ミ ー
(pUPD14)の臨床、遺伝子診断、発症機序に
ついて
国立成育医療センター研究所 小児思春期発育研究部
1
、国立成育医療センター 周産期診療部 2、神奈川県
立こども医療センター 新生児科 3、高松赤十字病院
小児科 4、広島市民病院 周産期母子医療センター 新
生児科 5
○鏡 雅代 1)、山澤 一樹 1)、左合 治彦 2)、柴崎 淳
3)
、幸山 洋子 4)、林谷 道子 5)、中田
裕生 5)
<目的>二本の 14 番染色体が父親に由来する 14 番染
色体父性ダイソミ―(pUPD14)は、特徴的顔貌、胸郭低
形成、腹壁異常、羊水過多、巨大胎盤を主症状とする
疾患で、14q32.2 に存在するインプリンティング遺伝子
の発現異常に起因する。在胎 30 週未満から羊水穿刺を
必要とする羊水過多、ベル型と形容される特徴的な胸
郭低形成は胎児診断の上で重要な兆候である。出生後
の予後、遺伝子診断、疾患の発症機序も含めて紹介し
たい。<対象>上記の症状を全て有する孤発性正常核
型患者 11 例、同胞発症正常核型 患者 2 例(姉は死亡)、
羊水過多がなくその他の症状も軽度である
46,XX,r(14)(p11q32)患者 1 例である。<メチル化パタ
ーン解析>DLK1-GTL2領域の複数の DMR をメチル化パ
ターン特異的 PCR 法、COBRA 法にて解析し、全例で過
剰メチル化が同定された。<マイクロサテライト解析
>14 番染色体の約 20 座位を対象とするマイクロサテ
ライト解析により、正常核型の 6 例において pUPD14 が
見いだされた。また、染色体異常例は母親由来染色体
に欠失が生じていた。残る 7 例の 14 番染色体は両親由
来であった。<欠失解析>DMR のメチル化異常がインプ
リンティングセンター(IC)を含む領域の微小欠失に
由来すると考え、FISH 解析、SNP 解析、long PCR を施
行し、3 例で IC を含む微小欠失を同定した。環状 14
番染色体患者では、IC を含む末端約 6.5 Mb の欠失が判
明した。残り 3 例は欠失が同定できず Epimutation と
考えられた。<臨床症状・臨床経過>pUPD14 の 6 例、
Epimutation の 3 例は全主要兆候を認め、全例で 30 週
以前から羊水穿刺を施行されていた。胎盤重量は全例
で在胎週数平均の 130%以上を示した。長期生存例の 2
例は発達遅延を認めるものの、胸郭異常は消失し、通
常生活を送っている。欠失例は重症度に差異を認めた
が全主兆候を認めた。環状染色体例は pUPD14 に比較し
軽症であった。<考察>pUPD14 はこれまで 15 例ほどの
報告のみで、認知された疾患とはいい難い。しかし、
我々は 14 例の患者を同定しており、未診断の症例も存
在すると考えられる。インプリンティング遺伝子群は
胎盤に多く発現しており、今後胎児発育へのインプリ
ンティング遺伝子の関与についてより研究を進めてい
く予定である。更なる症例の集積を希望している。
O-065
O-066
Duchenne 型筋ジストロフィーの出生前診
断における当科のストラテジー
長崎大学 医学部 産婦人科
○三浦 清徳、三浦 生子、山崎 健太郎、嶋田
子、吉田 敦、中山 大介、増崎 英明
貴
【はじめに】Duchenne 型筋ジストロフィー(DMD)は、X
連鎖性の疾患であり、dystrophin 遺伝子の異常に起因
している。本疾患の出生前診断には、絨毛採取(CVS)あ
るいは羊水採取が行われているが、これらには流産や
感染などの危険性があり、その回避には大きな意義が
ある。また、遺伝子診断に際して、コンタミネーショ
ンの問題や dystrophin 遺伝子領域は約 2.3Mb の広範囲
にわたっているため同一遺伝子内に組み換えを認める
可能性を考慮する必要がある。今回、DMD 保因者の妊婦
における出生前診断の過程を報告し考察する。
【症例】
妊婦(G3-P1)は、dystrophin 遺伝子の exon47 欠失を
有する保因者と診断されていた。近医で妊娠と診断さ
れ、DMD の出生前診断を希望して来院した。また、第一
子は男児で、臨床所見より DMD を疑われていた。遺伝
カウンセリングを行い、インフォームドコンセントを
得て、まず妊娠初期に母体血漿中へ流入している胎児
由来 DNA(cell-free DNA)を用いて、PCR 法による児
の性別判定を行った。この際、X 染色体由来のアレル
(242bp)および Y 染色体由来のアレル(190bp)を認
め、児が男児と判定されれば、性別の確認と遺伝子診
断のため妊娠 12 週で CVS を行うことにした。一方、
242bp のアレルのみで女児と判定されれば、妊娠 16 週
で羊水採取し性別を確認することにした。結果は、
242bp および 190bp のアレルが認められた。したがっ
て、妊娠している胎児は男児と判定され、妊娠 12 週で
CVS を施行した。絨毛組織から直接 DNA を抽出し遺伝子
診断を行った結果、児の核型は 46,XY であり、exon47
の欠失は検出されなかった。また、両親、第一子およ
び絨毛組織の DNA について、X 染色体上の複数の遺伝子
型を比較検討したところ、第一子と胎児とでは、
dystrophin 遺伝子領域に組み換えはなく、妊婦からそ
れぞれ異なるアレルを受け継いでいることが確認され
た。5 週間後、培養した絨毛細胞から抽出した DNA にお
いても、上記と同一の結果が確認された。
【考察】X 連
鎖性の遺伝性疾患において、CVS に伴うリスクを回避す
るために、cell-free DNA による性別判定は有用である
ことが示唆された。また、遺伝子型解析を併用するこ
とで、コンタミネーションおよび dystrophin 遺伝子領
域内の組み換えの有無を確認し、迅速かつより確実な
診断が可能になると考えられた。
197
母体血漿中に流入する胎盤由来 mRNA の同
定とその臨床的意義
長崎大学 医学部 産婦人科
○三浦 生子、三浦 清徳、山崎 健太郎、嶋田 貴
子、平木 宏一、中山 大介、増崎 英明
【目的】近年、妊娠高血圧症候群、癒着胎盤、妊娠悪
阻あるいは胎児発育遅延(IUGR)などの妊娠合併症を
伴う例において、母体血漿中へ流入する胎児 DNA(cell
free fetal DNA:cff-DNA)量が増加していることから、
cff-DNA は胎盤機能を推定する分子マーカーとして注
目されている。しかし、cff-DNA は Y 染色体上の遺伝子
領域をターゲットにして検出されるため、対象が男児
を妊娠した例に限定されるという制約がある。一方、
母体血漿中に流入する胎盤由来 mRNA 量(cff-mRNA)の定
量は、性別に依存することなく、すべての妊婦に適応
しうる。そこで、母体血漿中へ流入している胎盤特異
的 mRNA を同定し、その臨床的意義について考察した。
【方法】同意を得て母体末梢血および胎盤組織を採取
し、これらを一組とした。そして、妊娠初期、中期お
よび末期の計 3 組をマイクロアレイ解析に用いた。正
常核型であることを G-banding 法で確認した母体末梢
血 4cc および胎盤組織 5g より、
それぞれ Quiagen Blood
Mini Kit および Quiagen RNeasy kit を用いて RNA を抽
出した。RNA 5μg を cDNA マイクロアレイ解析に用い、
母体白血球と胎盤におけるそれぞれのアレイ解析結果
を比較検討することにより、胎盤組織で発現している
が母体白血球では発現を認めない胎盤特異的 mRNA を同
定した。ついで、定量的リアルタイム PCR 法を用いて、
同定された cff-mRNA の母体血漿中への流入量を検討し
た。
【成績】約 54,000 個の cDNA を網羅的にスクリーニ
ングした結果、胎盤組織で発現しているが母体白血球
では発現を認めない約 50 個の遺伝子が同定された。そ
の中には、hCG および hPL 遺伝子が含まれていた。hCG
遺伝子は妊娠初期にのみ検出され、一方 hPL 遺伝子は
いずれの妊娠時期にも同定されていた。Cff-hPL mRNA
の定量解析の結果、妊娠経過とともに母体血漿中への
流入量は有意に増加する傾向が認められた(P=0.007)。
【結論】Cff-hCG および hPL mRNA の妊娠経過に伴う推
移は、従来知られているタンパクレベルによる結果と
同様であった。したがって、Cff-mRNA の定量化は胎盤
機能の推定に有用であり、今回同定された遺伝子群は
胎盤機能の遺伝子発現メカニズムの解明に利用でき
る。
広島県における双胎管理の実態 ―双胎
や MD 双胎は集約化されているか―
県立広島病院 産科 1、広島大学大学院 産科婦人科 2
○上田 克憲 1)、向井 百合香 1)、山崎 浩史 1)、占部
武 1)、工藤 美樹 2)
【目的】双胎、特に MD 双胎は DD 双胎に比較してより
ハイリスクであるため、妊娠早期から高次施設で管理
すべきとの見解がある。そこで、広島県周産期医療協
議会では、双胎あるいは MD 双胎の高次施設への集約化
の実態などを把握する目的で調査を行った。
【方法】広島県内のすべての分娩取り扱い施設を対象
として、2005 年 1 年間の分娩数、双胎分娩数、双胎の
膜性、分娩転帰などについてアンケート調査を行った。
【成績】分娩取り扱いを行っている 50 施設から回答が
得られ、回答施設での総分娩数は 18,761、双胎分娩数
は 195(DD 双胎;140、MD 双胎;44、MM 双胎;4、膜性
不明;7)であった。これは、調査年の県内の総分娩数、
双胎分娩数に対して、各々75.8%、70.9%に相当した。
分娩施設を周産期母子医療センター9 施設(以下、セン
ター)とセンター以外の 41 施設に区分したところ、セ
ンターでの双胎の頻度は 3.17%(141/4.451)と後者の
0.38%(54/14,3109)に比べ 8 倍以上の高値であった。ま
た、双胎全体では 72.3%がセンターで分娩管理されてい
たが、これを膜性別にみると、DD 双胎では 69.2%また
MD 双胎では 88.6%がセンターでの分娩管理例で、後者
が有意に高率であった。センターでの分娩例のうち 14
例(9.9%)が緊急母体搬送による分娩例であった。セン
ター間での新生児搬送例はなかったが、センター以外
の施設で分娩となった児のうち 12 名(15.7%)がセンタ
ーに新生児搬送となっていた。
また、妊娠の機序は、自然妊娠;87、ART;58、クロミ
ッド内服;20、hMG;10 の順であった。分娩様式の明ら
かな双胎 184 例のうち帝王切開が 167 例で帝切率は
90.8%であったが、膜性と帝切率には関連がなかった。
【結論】広島県においては双胎、特に MD 双胎のセンタ
ーへの集約化が相当進んでいるが、緊急母体搬送や新
生児搬送もいまだ少なくなく、今後さらなる集約化が
求められる。また、双胎の半数が自然妊娠、90%が帝王
切開による分娩例であった。
O-067
O-068
198
膜性別にみたハイリスク双胎 121 例の短
期予後と病因分析
国立病院機構 長良医療センター 産科 1、国立病院機
構 長良医療センター 小児科 2
○高橋 雄一郎 1)、岩垣 重紀 1)、塚本 有佳子 1)、川
鰭 市郎 1)、内田 靖 2)、中島 豊 1)
【目的】
一 卵 性 双 胎 に お い て は TTTS や
selectiveIUGR,MM 双胎でリスクが高いとされており、
近年 FLP による胎児治療も導入され新しい管理法が模
索されている。当院は 2005 年 3 月に開院し、同 11 月
より TTTS の FLP を導入しその予後の改善に努めてき
た。地域の周産期センターとしては膜性によらず、よ
りハイリスク例の紹介が多く、DD 双胎でも管理に難渋
する症例を多く経験してきた。そこで児の生存率から
みた予後不良群の原因を膜性別に検討した。【方法】
2005 年 3 月から 2007 年 3 月までの 24 ヶ月に長良医療
センターにて入院管理した双胎のうち出産が終了した
121 症例で、流産、他院出産例も含めた。
「生存」は新
生児期以降の生存であり二児生存、一児生存、両児死
亡の 3 群に分け、原因を解析した。
【成績】 膜性別内
訳は DD 双胎 63 症例 126 児、MD 双胎 51 例 102 児、MM
双胎 7 例でうち結合双胎 3 例、無心体 3 例であった。
MD は TTTS11 例(22%)、preTTTS 3 例(5.9%)、
selectiveIUGR12 例(24%)
、一児死亡 3 例(5.9%)、羊
水量異常 2 例(3.9%)であった。全生存率は DD111/126
(88%)
、MD73/102(72%)と有意差を認めた。一児死
亡は DD 1/63(1.6%), MD9/51(17.6%)で有意差を認め
た。両児死亡群を膜性別でみると DD7 例(11.1%)
、MD10
例(19.6%)であったが統計上有意差は認めなかった。
MM7 例中、1 例は両児生存で 3 例は結合双胎で死産とな
っている。無心体合併では 1 例生存、1 例胎内死亡、1
例中絶となっている。MD では羊水量異常の 2 例のうち
1 例で両胎児死亡となった。FLP 後の新生児死亡が 1 例、
TTTS の中絶が 1 例、胎児奇形 4 例であった。当院では
FLP8例のうちすくなくとも一児生存例は7例(87.5%)
であった。DD では CAM による流産症例が 6 例(DD の児
死亡のうち 12/15、80%)と多く、すべてが不妊治療後
であった。
【結論】当科では TTTS の FLP による予後の
改善が MD 双胎全体の予後をそれほど悪くしていない
要因と推察された。また DD 双胎においては不妊治療後
の CAM の例数が多いことが全体の生存率が下がる大き
な要因と思われた。今後のハイリスク双胎の治療戦略
の方向性が示された。また現在、児の長期予後の解析
を予定している。
胎児輸血施行し脳障害を回避し得た MD 双
胎一児死亡後の重症貧血例
国立病院機構 長良医療センター 産科
○高橋 雄一郎、岩垣 重紀、塚本 有佳子、川鰭 市
郎、中島 豊
O-069
O-070
【目的】MD 双胎の一児死亡の場合、生存児が予後不良
であるとする報告は多い。本邦でも約 40-50%の児で死
亡や神経学的後遺症を来すと報告されている。この主
因に関しては、循環血液量の急激な低下および貧血に
よる「循環説」が指摘されはじめている
(Fusi,Murotsuki,Benirsche)。MD 双胎一児死亡におけ
る胎児輸血に関しては Ville Y,SenatMV らにより、胎
児貧血を早期に診断し、貧血が認められれば胎児輸血
を行う、という strategy が報告された。しかし現時点
で、中枢神経学的後遺症を予防しうる、という明確な
エビデンスはないのが現状である。今回我々は、胎児
輸血を施行し、生後、神経学的後遺症を発症しなかっ
た一例を経験したので報告する。
【症例】29 歳の一経産
婦。妊娠初期に MD 双胎にて紹介となり、当科にて健診
を施行していた。妊娠 20 週 6 日、両児の羊水量の差を
生じ(MVP 2.8cm/7.8cm)
、preTTTS,selectiveIUGR の診
断にて管理入院となった。入院時 EFBW 206g(-3SD)(D
児)/ 309g(-0.6SD)(R 児)で体重差も認めていた。点
滴による tocolysis を開始したところ、羊水量の異常
は徐々に改善した。妊娠 23 週 1 日の超音波検査では D
児の羊水腔の増加、臍帯動脈拡張末期途絶(UAEDV)が
消失し、循環改善を認めた。しかし妊娠 23 週 5 日に突
然の D 児死亡が確認された。約 6 時間前には両児とも
心拍や胎動が確認されていた。この時点で co-twin(R
児)の血流評価を行ったところ中大脳動脈収縮期最高
血流(MCA-PSV)が異常高値(70-80cm/s,2MOM 以上)を
示し、重症胎児貧血が示唆されたために胎児採血施行
した。HGB6.0(0.5MOM)と重症貧血であったために O 型
Rh(-) 60ml の洗浄赤血球を輸血し HGB9.0 とした。翌日
には MCA-PSV は 50-60cm/sec 程度に低下し、
その後徐々
に正常化していった。切迫早産管理は必要であったが
児に特記すべき異常は認めず、妊娠 37 週 2 日に 2753
g(死産児 160g)の男児を経膣分娩された。現時点で
は画像を含め、神経学的後遺症を認めていない。【結
論】早期の胎児貧血の評価は重要で週数により胎児輸
血をすることが可能である。MD 双胎における胎児輸血
は少なくとも低血圧、貧血による循環障害を予防しう
る可能性が示唆される。今後、例数を集めて後遺症の
予防効果の検討を行っていくべきである。
199
Sequential method を用いた TTTS のレー
ザー治療の現況と胎児予後の予測因子の
検討
山口大学 医学部附属病院 周産母子センター1、山口
大学大学院 医学系研究科 産科婦人科学 2
○中田 雅彦 1)、村田 晋 2)、三輪 一知郎 1)、松原 正
和 2)、住江 正大 1)、杉野 法広 2)
【目的】TTTS の胎児予後の改善を図る目的で考案した
胎盤の吻合血管を一定の順に従って凝固する
sequential method によるレーザー治療(SQ 法)は,
特に供血児の胎児死亡(FD)を減少できる事が明らか
となっている.これまで,レーザー治療後の胎児の予
後予測因子として,stage の進行,供血児の臍帯動脈血
流途絶/逆流 (UA-AREDF)の存在,及び,胎盤の動脈動脈吻合の存在が報告されてきたが,SQ 法導入後の治
療成績や予後予測因子は明らかでないため,その成績
と予後予測因子の検討を行った.
【方法】当院で過去 3
年間にレーザー治療を施行した TTTS 59 例の内,分娩
転機の判明した 47 例を対象とし周産期予後を検討し
た.同時に SQ 法施行例の術前や術中の評価と FD との
関連について検討を行った.SQ 法は,動脈-動脈吻合,
受血児から供血児への動静脈吻合,供血児から受血児
への動静脈吻合の順に凝固する方法である.治療は当
施設の倫理委員会の承認のもと,インフォームドコン
セントを得て行った.【成績】治療時の妊娠週数は 21.1
±2.6 週で,stage I が 17%,II が 19%,III が 53%,IV
が 11%だった.流産を 1 例に認め,3 週間以内の前期破
水は 2 例に認めた.分娩週数は 32.3±4.2 週で,両児
生存が 66%,一児生存が 32%,0 児生存が 2%だった.供
血児の 79%,受血児の 87%が生存した.FD は供血児の
15%,受血児の 6%に認めた.SQ 法は 44 例(94%)に施
行したが,供血児の 6 例(14%)
,受血児の 2 例(5%)
に FD を合併した.供血児の FD 例と胎児生存例の比較
では,単変量解析において,治療時期が早期 (中央値
18.4 週 vs. 21.4 週),術前の供血児の UA-A/REDF の存
在(83% [5/6] vs. 29% [11/38],
),供血児の静脈管心
房収縮期血流途絶/逆流(DV-ARF)の存在(33% [2/6]
vs. 3% [1/38])が有意に(p<0.05)相関していたが,
治療時の stage,両児間の discordant rate,胎盤にお
ける動脈-動脈吻合の有無は相関していなかった.更に
多変量解析を行ったところ,前述のいずれの因子も供
血児の FD との関連を認めなかった.受血児の胎児死亡
は 2 例のみで,術前・術中の所見と関連する因子は認
めなかった.尚,SQ 例は両児生存率が 68%,少なくと
も一児生存率は 100%だった.【結論】供血児では,
UA-AREDF などの胎児循環が悪化した際に認められる所
見と FD との関連が報告されてきたが,SQ 法を行った場
合には胎児死亡が 14%にまで抑制されるため,これらの
因子は予後予測因子とならないことが明らかとなっ
た.
胎盤吻合血管レーザー凝固術導入前後に
よる一絨毛膜二羊膜双胎の予後について
の検討
聖隷浜松病院 総合周産期母子医療センター 周産期
科
○村越 毅、中島 紗織、黒崎 亮、松下 充、神農
隆、石井 桂介、成瀬 寛夫、鳥居 裕一
【目的】妊娠初期から同一施設・同一基準において管
理した1絨毛膜2羊膜(MD)双胎の周産期予後を双胎
間輸血症候群(TTTS)に対する胎児鏡下胎盤吻合血管
レーザー凝固術(FLP)導入前後で検討する。【対象お
よび方法】1997 年 1 月から 2005 年 12 月までに当院で
妊娠 16 週未満から管理開始した 124 組を対象とした。
FLP を導入した 2002 年 7 月以降を A 群(58 組)
、それ
以前を B 群(62 組)として早産率、生存率、神経学的
予後不良因子(CP, MR, epilepsy, PVL)につき検討し
た。双胎管理方針としては、最低 2 週間ごとの外来管
理および 30 週前後からの予防的管理入院を全例に行っ
た。頚管縫縮術は、1999 年までは希望者に、2000 年以
降は産科的適応のみ(双胎では予防的縫縮術は行わな
い)に施行した。FLP は妊娠 26 週未満の TTTS に対して
施行した。
【結果】22 週未満の分娩は A 群 3 例(流産 1
例、中絶 2 例)
、B 群 1 例(中絶)であり、22 週以降の
分娩は A 群 58 例、B 群 62 例であった。A 群および B 群
において、TTTS(羊水過多>8cm, 羊水過少<2cm)、25%
以上の胎児発育差、TTTS を伴わない一児胎児死亡、無
心体双胎の発症は A 群ではそれぞれ、10.3%, 6.9%, 0%,
3.4%であり B 群の 11.3%, 8.1%, 4.8%, 3.2%といずれも
差を認めなかった。36 週未満の早産は A 群 20.7% vs. B
群 41.9%(p=0.018)、32 週未満の早産は A 群 3.4% vs. B
群 17.7%(p=0.012)であり、いずれも A 群において有
意に早産率を低下させた。DD 双胎においては A’群
(2002
年 7 月以降)および B’群(2002 年 7 月以前)で 36 週
未満の早産 23.7% vs. 25.5%および 32 週未満の早産
5.0% vs. 4.3%と MD 双胎の A 群と差を認めなかった。
生存率は A 群 111/116(95.7%)
、B 群 115/124(92.7%)
と差を認めなかったが、生存 1 年以降の神経学的予後
不良は A 群 0/111 に対して B 群 9/115(7.8%)と A 群で
有意に減少できた(p=0.003)。
【結語】TTTS に対する FLP
を導入したことにより、妊娠初期から管理した MD 双胎
において、早産率を DD 双胎と同程度まで減少させるこ
とができた。また、生存率および神経学的後遺症も導
入以前に比較して有意に減少させることができた。
O-071
O-072
200
O-073
TTTS を発症しなかった discordant twins
の検討
長崎大学 医学部 産科婦人科学教室
○山崎 健太郎、三浦 清徳、吉田 敦、平木
中山 大介、増崎 英明
平成 16,17 年の群馬県における周産期死
亡の検討:その 1 妊娠 22 週以降死産症
例の検討
群馬県立小児医療センター 産科 1、群馬県立小児医療
センター 新生児科 2、群馬大学 医学部 産婦人科 3
○高木 剛 1)、竹中 俊文 1)、勝俣 祐介 1)、丸山 憲
一 2)、藤生 徹 2)、小泉 武宣 2)、篠崎 博光 3)
【目的】平成16年の群馬県の周産期死亡率は 7.2 と
全国平均の 5.0 を大きく上回り、全国でワースト1で
あった。そこで群馬県周産期医療対策協議会では周産
期死亡症例の実態調査を実施し要因分析を行った。今
回、妊娠 22 週以降の死産症例についての検討結果を報
告する。
【方法】群馬県内で平成 16、17 年に分娩を行
っていた産婦人科施設に対して調査票を送付し妊娠 22
週以降の死産症例に関する調査を行った。
【成績】調査
票を送付した 54 施設中 52 施設(96.3%)から回答を得
た。死産児数は 142 例であった。胎児死亡の時期は分
娩前 124 例(87.3%)、分娩中 16 例(11.3%)、不明 2 例
(1.4%)であった。分娩週数別死産数は妊娠 22 週から 42
週まで各週毎に変動があり、妊娠 23 週、34 週、39 週
にピークを有する三峰性の分布を示した。胎内死亡症
例では死亡確認週数と分娩週数が異なることがあるた
め胎児死亡確認週数に関しても調査を行った。妊娠 22
週未満に死亡が確認された症例は 4 例でうち多胎一児
死 亡 が 3 例 で あ っ た 。 死 産 原 因 は 臍 帯 因 子 (30
例:21.1%)、先天異常(27 例:19.7%)、超早産・妊娠中期
破水(19 例:12.7%)などが多かったが、原因不明との回
答が 36 例(25.4%)と最も多かった。特に胎児死亡確認
週数が 36 週以降では原因不明(14 例:41.2%)、臍帯因子
(11 例:32.4%)の占める割合が多かった。死産児のうち
多胎児は双胎 20 例、品胎 3 例の計 23 例(16.2%)であっ
た。多胎児の死産原因では双胎間輸血症候群を含む一
絨毛膜性双胎の胎内死亡が 9 例(39.1%)と最も多く、次
に超早産・妊娠中期破水例が 7 例(30.4%)であった。こ
の 7 例は全例体外受精(5 例)又は排卵誘発(2 例)による
ものであり、3 組 6 例の兄弟例を認めた。
【結論】今回
の調査における死産原因は原因不明の胎内死亡および
臍帯因子が多く、臍帯因子の 30 例中 28 例も分娩前の
死亡症例であった。つまり、明らかな異常を認めてい
ない児の突然の胎内死亡症例が多かったが、これらの
症例に対して解剖が行われた症例はほとんど無く原因
の検索に至っていないのが現状と思われる。多胎児死
産例では一絨毛膜性双胎の胎内死亡と不妊治療による
二絨毛膜性双胎の超早産例が多く、これらの多胎症例
に対する厳重な妊娠管理の徹底が必要と思われた。
O-074
宏一、
<はじめに> 双胎妊娠において,胎児間に発育の差
を認めること(discordance)がある.その原因につい
て,明らかになっているものは少ない.今回,胎児間
輸 血 症 候 群 ( TTTS ) を 発 症 し て い な い 双 胎 妊 娠 で
discordance を認めた一絨毛膜性双胎を中心に,周産期
の異常について検討した.<対象・結果> 双胎妊娠
55 例中一絨毛膜性双胎は 22 例で,そのうち TTTS を認
めたものは 5 例であり,二絨毛膜性双胎は 33 例であっ
た.TTTS を発症した 5 例を除外した 50 例のうち, 出
生時体重で 15%以上の discordance を認めたのは一絨
毛膜性双胎が 5 例および二絨毛膜性双胎が8例であっ
た.一絨毛膜性双胎5例の discordance の平均は 21.6%
(中央値 17.1%)であった.そのうち一例は小さい方の
児(18.6%の discordance)に片側の足趾の合指症およ
び対側の少指症を認めた.その他に妊娠糖尿病の合併
が一例および低置胎盤が一例認められた.妊娠 28 週の
早産が一例で,残りは妊娠 36 週ないし妊娠 37 週の出
生であった. 5 分後 Apgar score で新生児仮死を示す
ものはなかった.二絨毛膜性双胎8例の discordance
の平均は 28.2%(中央値 23.2%)であった.第二児が
Potter 症 候 群 で 死 産 と な っ た 例 で 38.8% の
discordance を認めたが,その他の例に周産期における
特記すべき異常はなかった.出生時週数は全て妊娠 36
から 38 週であり,新生児仮死所見はいずれも認められ
なかった.<考察> 今回,TTTS を発症していない一
絨毛膜性双胎では,discordance が 15%を超えるものは
一例(34.4%)を除いて 15 から 20%の範囲内であって,
周産期における所見は良好なものがほとんどであっ
た.一般に discordance が 20 ないし 25%を超えると周
産期の異常が増加するとの報告が多い.今回除外した
TTTS 発 症 例 は 流 産 な い し 早 産 が ほ と ん ど で ,
discordance も TTTS でない例に比べて大きかった.そ
のため TTTS 例を除外すると残った例の discordance は
小さくなったものと考えられる.二絨毛膜性双胎では
discordance が 20~25%を超えている例が多いにも関わ
らず,周産期における異常所見は必ずしも多く認めら
れなかった.
201
平成 16、17 年の群馬県における周産期死
亡の検討:その 2 早期新生児死亡症例の
検討
群馬県立小児医療センター 新生児科 1、群馬県立小児
医療センター 産科 2、群馬大学 小児科 3
○丸山 憲一 1)、鳴海 僚彦 1)、吉澤 幸弘 1)、黛 博
雄 1)、藤生 徹 1)、小泉 武宣 1)、高木 剛 2)、大木 康
史 3)
【目的】平成 16 年の群馬県の周産期死亡率は 7.2 で、
全国でワースト 1 であった。そこで、群馬県周産期医
療協議会は、周産期死亡症例の実態調査を行い、要因
分析を行うことにした。今回、早期新生児死亡症例に
ついての検討結果を報告する。
【方法】群馬県内の新生
児治療施設を有する小児医療機関および小児科常勤医
のいる公的病院および産科医療機関を対象に、調査票
を送付し、平成 16、17 年に生後 7 日未満で死亡した症
例に関する調査を行った。
【結果】本調査で明らかとな
った早期新生児死亡症例は全部で 43 例だった。このう
ち母親の住所が群馬県であったのは 34 例で、保健福祉
統計年報および人口動態統計概況では同時期の群馬県
の早期新生児死亡数は 44 であった。母親の患児分娩時
の年齢は 17~43 歳(中央値 31 歳)
、経妊回数は 0~4
回で、0 回が最も多く、経産回数は 0~2 回で、0 回が
最も多かった。患児妊娠に際して体外受精 3 例を含め
合計 8 例で不妊治療が行われていた。患児妊娠中の母
体合併症は、妊娠中毒症もしくは高血圧 4 例、糖尿病 2
例など合計 12 例でみられた。早期新生児死亡症例の在
胎期間は 22~42 週(中央値 36 週)、出生体重は 396~
4760g(同 2000g)で、8 例が双胎であった。分娩方法
は緊急帝王切開 15 例、選択的帝王切開 9 例、経膣分娩
19 例であった。早期新生児死亡例の死亡におもに関与
したと考えられる診断は、先天異常が 28 例で、染色体
異常、呼吸器系の先天異常がそれぞれ 10 例であった。
先天異常以外の診断としては出生体重 1000g 未満、在
胎期間 27 週未満の症例では呼吸不全が 2 例、新生児重
症仮死、B 群溶連菌による肺炎、肺出血がそれぞれ 1
例、在胎 32 週以降、出生体重 2000g 以上の 10 例では、
新生児重症仮死が 7 例、胎便吸引症候群、腎不全、原
因不明の突然死がそれぞれ 1 例であった。
【考案】今回
の調査では死亡におもに関与した診断は、先天異常が
最も多く、その多くは出生前診断を受け、小児科医の
分娩立ち合いが行われていた。一方、出生体重 2000g
以上の新生児重症仮死、胎便吸引症候群 8 例のうち、
小児科医による分娩立ち合いが行われていたのは 2 例
のみで、今後、早期新生児死亡を減らすためには、産
科医療機関を対象とした新生児蘇生のトレーニングプ
ログラムを行うなどの対策を立てるべきであると思わ
れる。また、今回、不妊治療のあった症例が比較的多
かったため、早期新生児死亡と不妊治療との関連につ
いても注意してみていく必要がある。
O-075
O-076
超早産児の予後と周産期因子に関する検
討(第 1 報) -死亡率と有病率の推移-
大垣市民病院 第二小児科 1、名古屋大学医学部附属病
院周産母子センター2
○大城 誠 1)、山本 ひかる 1)、細野 治樹 1)、田内 宣
生 1)、早川 昌弘 2)
【目的】超早産児の予後を改善するために、関連する
周産期因子を明らかにすることは重要である。今回は
NICU 入院中における死亡率と合併症の有病率につい
て、約 10 年間の推移を検討した。
【方法】大垣市民病
院 NICU に入院した大奇形を有しない在胎 28 週未満の
児で、1 期(1994-1997 年)の 47 例、2 期(1998-2001
年)の 60 例、3 期(2002-2005 年)の 49 例、計 156 例
を対象とした。全例における母体臨床因子と出生直後
の児臨床因子、72 時間以上生存の 146 例における敗血
症・症候性動脈管開存症・脳室内出血・消化管病変な
どの合併症の頻度とステロイド使用・呼吸管理法・輸
血状況・経腸栄養開始状況などの治療法の相違、1 ヶ月
以上生存の 129 例における慢性肺疾患・晩期循環不全・
ステロイド使用の頻度、生存退院の 118 例における未
熟児網膜症・呼吸器使用日数・酸素使用日数・入院日
数などについて、上記の期間別に比較検討した。カイ
二乗検定と多重比較検定を用いて、p<0.05 を有意差あ
りとした。
【結果】各期間の平均在胎期間(範囲)は 1
期 25.5(21.1-27.9)週、2 期 25.6(22.0-27.9)週、3
期 25.9(22.6-27.9)週で、平均出生体重(範囲)は 1
期 758(400-1,380)g、2 期 778(379-1,402)g、3 期
804(482-1,272)g であり、有意差を認めなかった。人
工サーファクタントとエリスロポエチン製剤の投与、
高頻度人工換気療法の併用は各時期共通の治療法であ
った。主な治療法の相違は 1 期の慢性肺疾患に対する
デキサメタゾン療法、2 期の低血圧に対するデキサメタ
ゾン療法、3 期の同調式人工換気療法と nasal CPAP の
多用・予防的抗真菌剤投与・超早期授乳、2 期と 3 期の
予防的インドメタシン投与であった。死亡退院は 1 期
17 例(36%)2 期 19 例(32%)に対し、3 期 2 例(4%)
と有意に低下していた。3 期は多胎例が少なく、重度脳
室内出血・敗血症・消化管病変・肺出血・慢性肺疾患
の合併と輸血例が減り、呼吸器と酸素使用および入院
日数が短縮していた。逆に晩期循環不全の症例が増加
していた。
【考察】3 期での死亡率と有病率の低下が確
認されたことは最近の超早産児管理法の有効性を示唆
している。次には死亡や合併症に関連する因子を解析
し、長期予後との関連を検討していく必要がある。
202
超早産児の予後と周産期因子に関する検
討(第 2 報) -死亡退院との関連因子-
大垣市民病院 第二小児科 1、名古屋大学医学部附属病
院周産母子センター2
○大城 誠 1)、山本 ひかる 1)、細野 治樹 1)、田内 宣
生 1)、早川 昌弘 2)
【目的】超早産児の予後を改善するために、関連する
周産期因子を明らかにすることは重要である。第 1 報
にて最近の数年間では NICU 入院中における死亡率と合
併症の有病率が低下していることを報告したが、今回
は死亡退院との関連因子について検討した。【方法】大
垣市民病院 NICU に入院した大奇形を有しない在胎 28
週未満の児で、1 期(1994-1997 年)の 47 例、2 期
(1998-2001 年)の 60 例、3 期(2002-2005 年)の 49
例、計 156 例を対象とした。第 1 検討として、死亡退
院 38 例と生存退院 118 例における母体臨床因子と出生
直後の児臨床因子を比較した。新生児期合併症は出生
直後には明らかでないため第 2 検討として、72 時間以
上生存した 146 例(死亡退院 28 例、生存退院 118 例)
における出生前後の臨床因子と敗血症・症候性動脈管
開存症・脳室内出血・壊死性腸炎などの合併症とステ
ロイド使用・呼吸管理法・経腸栄養開始状況などの治
療法を比較した。単変量解析の結果、p<0.1 であった
因子をロジスティック回帰分析にて多変量解析を行
い、p<0.05 を有意差ありとした。
【結果】第 1 検討の
単変量解析の結果で、在胎期間の延長・出生体重が大
きい・アプガースコア 1 分値と 5 分値・3 期の入院は死
亡の危険が少ない因子で、経膣分娩・多胎・出生時の
エピネフリン使用は死亡の危険が高い因子であった。
多変量解析の結果で、在胎期間の延長・3 期の入院は死
亡の危険が少ない因子で、多胎は死亡の危険が高い因
子であった。この三つの関連因子に初回動脈血液ガス
pH・pCO2・BE と出生時の Hb 値を加えて多変量解析を行
うと、初回動脈血液ガス pH・pCO2・BE も死亡に関連し
ていた。第 2 検討の単変量解析の結果で有意であった
高 K 血症・敗血症・肺出血・気胸・脳出血・壊死性腸
炎の因子に在胎期間・多胎・3 期の入院を加えて多変量
解析を行うと、気胸・脳出血・壊死性腸炎は死亡の危
険が高い因子であった。
【考察】当院では双胎間輸血症
候群の合併や人手を有する多胎の予後が不良であっ
た。死亡と関連していた気胸・脳出血・壊死性腸炎は 3
期で減っており、死亡の減少に寄与した可能性がある。
初回動脈血液ガス pH・pCO2・BE が死亡に関連していた
ことは出生直前後の周産期管理の重要性を示唆してい
る。次には合併症に関連する因子を解析し、長期予後
との関連を検討していく必要がある。
2002~2004 年に出生した妊娠 23 週出生児
短期予後の施設間格差
愛育病院 新生児科 1、慶應義塾大学 医学部 小児科
学教室 2、東京女子医科大学 母子総合医療センター3
○林田 慎哉 1)、池田 一成 2)、楠田 聰 3)、仁志田 博
司 3)
[目的]我々は昨年の日本周産期・新生児医学会学術
集会で、全国アンケート調査から得られた 22-23 週の
短期予後を発表した。以前の調査と比較して、短期予
後が有意に改善していることが明らかになった。一方
で昨年の未熟児新生児学会学術集会の特別シンポジウ
ム「医療の標準化による新生児医療の今後を探る」で
も発表された通り、低出生体重児の治療成績の施設間
格差が問題になっている。今回は、同じアンケート調
査から得られた結果を用いて、22・23 週の短期予後の
施設間格差を調査した。
[方法]新生児医療連絡会を通
じて、アンケート用紙を送付。2002~2004 年に出生し
た在胎 22・23 週の児を対象に、在胎週数/日数、出生
体重、性別、生存/死亡、後遺症の有無に関して調査
した。[結果]回答率は 56%(114/205)
。23 週出生児の
生存率の全国平均は 56.3%(234/416)であった。3 年
間の 23 週出生児の経験症例数は最も少ない施設で 0
例、最も多い施設で 17 例であった。経験症例数と生存
率の間に明らかな相関は認められなかった。7 例以上の
経験を持つ 20 施設での 23 週出生児の生存率は、最も
低い施設で 14%、最も高い施設で 100%と、大きな差
が認められた。次に経験症例 7 以上の 20 施設を、生存
率の高い 10 施設と低い 10 施設に分けて比較した。ど
ちらの群も、在胎日数が増すにしたがって、生存率が
改善する傾向を認めた。生存率 50%を越える在胎日数
は、生存率の高い群では 22 週 6 日であったのに対し、
生存率の低い群では 23 週 4 日であった。生存率の低い
群では、女児の生存率が男児に比し有意に高かったの
に対し、生存率の高い群では、男女差を認めなかった。
また、22 週出生児の生存率を 2 群で比較したが、有意
差は認めなかった。[考察]23 週出生児の治療成績に
は、厚生労働省研究班の調査で明らかになった低出生
体重児の治療成績以上の施設間格差が認められた。そ
の原因を明らかにしていくことで、我が国での 23 週出
生児の治療成績をさらに向上させていける可能性が高
いと考えられた。その一方で、22 週出生児の治療成績
は依然として厳しい現状が明らかになった。
O-077
O-078
203
Premature Infant Care in Japan and
Germanyーa Comparison
University of Heidelberg
○Daisy E Rotzoll
当院 NICU の新生児死亡症例の臨床診断と
病理診断の相違
埼玉県立小児医療センター 未熟児新生児科
○藤澤 ますみ、河野 淳子、川畑 建、長澤 真由
美、宮林 寛、清水 正樹、鬼本 博文、大野 勉
【目的】当院における新生児の病理解剖の結果から、
臨床診断と病理診断が一致しているかどうかを調査
し、新生児死亡例の病理解剖の有益性を検討する.
【方
法】1996 年 1 月から 2006 年 12 月までの 11 年間に死亡
した新生児例のカルテを後方視的に調査した.診断名
を次の 3 つに分類し、各々についての死亡退院時の臨
床診断と病理解剖での診断名を比較検討した.1)NICU
入院に至っている主病名(Main Diagnosis) 例:横
隔膜ヘルニア、新生児仮死など 2)死亡に至った直接的
な「原因」
(Cause of Death) 例:多臓器不全、敗血
症性ショックなど 3)予後に密接に関与したと思われる
病名あるいは状態(Relevant Condition) 例:代謝
性アシドーシス、帽状腱膜下血腫など 《1)と重複も
あり得る》上記のように定義を行い、死亡退院時の臨
床診断と病理でのレポートが一致するか否かを評価し
た.また、臨床経過や予後に影響を及ぼさないが、新
たに病理解剖で分かった病名についても検討した.
【結果】11 年間で計 5350 名の児が NICU に入院、うち
202 名が入院中に死亡した.死亡した児のうち、一旦退
院後再入院となった 2 例を除くと、在胎週数、出生体
重 の 中 央 値 は 各 々 36.7 週 ( 22.7-42.3 週 )、 2113g
(500-4748g)であった.死後病理解剖を実施されたの
は 116 名(58.0%)で、うち脳も含めた解剖を行った
ケースは 67 名(33.5%)であった.剖検施行例と非施
行間の臨床背景では、施行例に SFD の合併が有意に少
なかった(p<0.05)が、その他在胎週数、体重、性別、
奇形の合併の有無等の要因では差はみられなかった.
病理診断により上記の 1)~3)のいずれかに新たな診
断が追加されたケースは 41 例(35.3%)
、臨床で疑わ
れた疾患が存在しなかった症例が 3 例あった.うち 1)
あるいは 2)が病理診断と明らかに異なっているのは 3
例あり(Goldman 病理分類の I:重大な不一致に相当)、
その内訳は総肺静脈還流異常症、食道気管ろう、気管
無形成であった.
【結論】病理解剖を行うことにより約
1/3 の症例で臨床学的に有用な情報が得られると考え
られた.臨床現場における医療の質向上のためにも剖
検率を現在よりも上げていく必要がある.
O-079
O-080
Japan and Germany are two highly industrialized
countries coping with similar epidemiologic
problems such as diminishing birth rates and
simultaneously rising numbers of premature infants.
Japan is a rather centralized country in contrast
to Germany, where the 16 prefectures called
“ Länder ”
have far-reaching capacities.
Therefore, structures in neonatal care and neonatal
data collection vary considerably from one “Land”
to the other. In Germany, there is no central
institution collecting data on neonatal and
premature birth, morbidity or mortality rates. Each
“ Land ”
has its own institution called
“Landesärztekammer” collecting diverse neonatal
data and publishing these annually. The last review
considering all neonates born in Germany was
published in 2001. This lecture will cover data from
the lately published “ Land ” -specific Neonatal
Surveys in Germany from the year 2005 and compare
them with data from 2000. Comparisons to the
respective Japanese surveys (わが国の主要医療施設
におけるハイリスク新生児医療の現状と申請時期死亡
率) evaluating data from the years 2000 and 2005 will
be drawn and finally, hypotheses will be postulated
as to why country-specific differences exist in
neonatal and premature infant outcome in Japan and
Germany.
204
極および超低出生体重児の搬送における
背景因子と搬送に伴うリスクの検討
淀川キリスト教病院 小児科 1、愛育病院 新生児科 2、
独立行政法人 医薬品医療機器 総合機構 3、東京女子
大学 母子総合医療センター 新生児部門 4、大阪府立
母子保健総合医療センター5
○和田
浩 1)、加部 一彦 2)、青谷 裕文 3)、佐久間
泉 4)、松浪 桂 5)、藤村 正哲 5)
〔目的〕出生体重 1500g 未満の児のデータを基に,新
生児搬送における背景因子と,搬送に伴うリスクにつ
いて検討する。
〔対象および方法〕2003 年の周産期星医
療センターネットワーク共通データベース(出生体重
1500g以下(以下 VLBW)、2003 年出生児用)のデータ
を基に、統計学的に検討した。この期間に登録された
VLBW 症例は 2,145 例であった。このうち院外で出生し
新生児搬送の対象となったのは 301 例(14.0%)であっ
た。この搬送の有無による2群の比較を中心に,搬送
における背景因子とそれに伴い生じると考えられるリ
スクについて統計学的検討を加えた。〔結果〕「搬送あ
り」群(A 群)および「搬送なし」群(B 群)において,
在胎週数・出生体重・死亡率・性差などに有意差は無
かった。出生前因子として、母体基礎疾患および多胎
は B 群で有意に多かったが、帝王切開は A 群で有意に
多かった。蘇生時の酸素投与に有意差はなかったが、
挿管は A 群が有意に多かった。酸素投与日数・CPAP お
よび IMV 施行期間にも、両群間で有意差はなかったが、
HFO の使用は B 群で有意に多かった。疾患における比較
では1)呼吸および循環器疾患;RDS, PPHN, CLD など
の発症また NO の使用にも有意差は無かった。しかし
PDA は A 群で有意に多かった。気管切開、在宅酸素療法
の有無に有意差はなかった。2)消化器疾患;NEC に有
意差はなかったが、腸穿孔は A 群で有意に多かった。
3)神経疾患;IVH は総数に差はなかったが、重度(III
及び IV 度)のみでは A 群で有意に多かった。IVH 後水
頭症も同様に差を認めた。しかし痙攣発症、PVL,およ
び HIE に差は無かった。4)感染症;子宮内感染症、
敗血症、抗生剤使用の有無に差は無かった。5)その
他;ROP, 先天異常にも有意差は認めなかった。
〔考察〕
搬送の距離や搬送の方法は不明であり、搬送後の経過
への寄与が考えられる。母体にリスクがある場合は母
体搬送が選択されていることが、今回の結果からも伺
われた。重度の IVH に有意差を認め、長期予後も鑑み
搬送に伴い最も懸念される疾患のひとつである。また
敗血症に有意差はなかったが感染症の発症については
不明であり、今後の検討課題のひとつと考えられる。
〔結論〕2003 年のデータベースを用い検討した。発達
予後について、また具体的な症状および要した治療な
どについても今後比較が可能となれば実施すべきと考
えられ、データベースの再構築を含め更なる検討が必
要であるものと考えられる。
出生前に 18 トリソミー症候群が疑われた
症例の経過
長野県立こども病院総合周産期母子医療センター 遺
伝科 1、長野県立こども病院総合周産期母子医療センタ
ー 新生児科 2、長野県立こども病院総合周産期母子医
療センター 産科 3
○川目 裕 1)、広間 武彦 2)、宮下 進 2)、依田 達也
2)
、高木 紀美代 3)、菊池 昭彦 3)、中村 友彦 2)
【目的】18 トリソミー症候群(T18)は,多発先天形態
異常,重度の発達遅滞を有する染色体異常症候群であ
る.周産期の医療的対応は時代とともに変遷し家族と
の対話を通してきめ細かに対応することが求められて
いる.近年は胎児超音波によってほとんどの症例が出
生前に疑われるが,出生前に診断された症例の経過に
ついての知見は限られている.今回,我々は,出生前
に疑われた症例の当センターにおいての対応とその経
過・転帰について検討を行った.
【対象】2003 年 4 月か
ら 2006 年 3 月までの 3 年間に当院周産期センターに受
診し T18 が疑われた 14 例.最終診断は,羊水検査:7
例,出生後児の染色体検査:3 例,児の頬粘膜の FISH
検査:1 例,IUFD に至った 3 例は臨床所見の組み合わ
せから行った.【結果および考案】14 例の母体の年齢
は,23 歳から 45 歳(中央値:33 歳)
.当センター産科
への紹介週数は,25 週 0 日から 37 週 5 日.紹介理由は,
1 例を除き胎児の超音波異常所見の精査目的であった
(1 例は前医の羊水検査にて診断確定後の管理目的).
紹介元での超音波所見は,四腔断面の異常を含む心臓
異常(8),IUGR(7),羊水過多(5),皮下浮腫・腔水
症(2)脳室の拡大,胃泡の異常,四肢短縮等であった.
前医にて T18 の可能性の説明を受けていた症例はなか
った.当院受診時の超音波所見は,IUGR(13)
,先天性
心疾患(11)
,大槽の拡大(10)に加え,前腕の異常(4)
や overlapping fingers(6)等を認め,それらの組み
合わせから T18 を臨床的に疑うこととなった.当セン
ターにて T18 あるいは染色体異常症の可能性と羊水検
査の医学的意義についての情報提供が行われた 13 例中
8 例が羊水検査を希望されたが 2 例は医学的に施行で
きなかった.その後,妊娠経過については,6 例(43%)
が IUFD に至り,8 例が出生した.分娩様式は,経腟分
娩:1 例,帝王切開:7 例(1 例は母体適応,2 例は前
回帝王切開既往,4 例は児適応の帝王切開:3 例は T18
の情報提供後に希望される).IUFD の時期は,28 週か
ら 41 週にわたり,IUFD 時の状況は,全身浮腫の進行,
不整脈の出現,心拍数細変動の消失,変動一過性除脈
の頻発,自宅での胎動消失,破水であった.今回の検
討では,43%の胎児は IUFD となり児適応の帝王切開に
て 4 例が出生していることから,T18 は出生前において
胎児 well-being の悪化の可能性が高い.
出生前診断後,
医療対応によって出生までの妊娠経過が左右される.
O-081
O-082
205
当院 NICU に入院した 18trisomy 児の治療
の変遷
大分県立病院 総合周産期母子医療センター 新生児
科
○松本 直子、古賀 寛史、高橋 瑞穂、飯田 浩一
18トリソミーに対する治療方針の変更
とそれに伴う出生後経過と予後の変化
久留米大学病院 総合周産期母子医療センター 新生
児部門 1、久留米大学病院 総合周産期母子医療センタ
ー 産科部門 2
○神田 洋 1)、神戸 太郎 1)、廣瀬 彰子 1)、藤野 浩
1)
、前野 泰樹 1)、蔵本 昭孝 2)、堀 大蔵 2)、嘉村 敏
治 2)、松石 豊次郎 1)
【はじめに】18 トリソミーは生命予後不良の染色体異
常であり 1 歳以内に約 90%が死亡するとされている。
しかし一方では近年、積極的な治療介入により長期生
存および在宅管理の報告もみられるようになってき
た。当院でも、当初は予後不良疾患と診断した場合、
いわゆる仁志田のガイドラインを用いてクラス分けに
て Class C もしくは D とし、家族へ説明し積極的な治
療介入を行っていなかった。しかし、2001 年に長期生
存例を経験したのを契機に、Class B もしくは A で管理
することが多くなった。そこで今回、当院にて治療方
針が変わった 2001 年の長期生存例以前の症例と、それ
以降の症例について、それぞれの臨床像、予後につい
て実際にどのように変化したのかを検討したので報告
する。【対象・方法】1997 年 1 月~2006 年 12 月に当院
NICU にて管理した、17 症例を対象とした。このうち
2001 年の長期生存例までの 8 症例を前期群、それ以降
の 9 症例を後期群とした。平均在胎週数は前期群 36 週
0 日(29 週 3 日~40 週 3 日)
、後期群 37 週 2 日(31 週
3 日~39 週 2 日)
、平均出生体重は前期群 1441g(507g
~1956g)、後期群 1810g(834g~2360g)性別は前期群
男 5 女 3、後期群男 5 女 4 と、2 群間の背景には差は無
かった。それぞれの群における、合併症、出生後経過、
予後について診療録を用いて検討した。
【結果】前期群
8 例中では 7 例(87%)が 28 日以内に死亡し、退院できた
のは、きっかけとなった長期生存例の 1 例のみであっ
た。これに対し後期群 9 例中 28 日以内に死亡したのは
3 例(33%)のみであり、4 例(44%)が退院できていた(1
例は入院中)。全例に先天性心疾患を合併しており、心
室中隔欠損症、両大血管右室起始症、大動脈縮窄症、
動脈管開存症などであったが、前期群では手術施行例
は無く、後期群では 2 例あり、動脈管結紮術、肺動脈
絞扼術を施行していた。その他後期群では 3 症例に気
管開窓術を行っていた。その他の合併奇形には、臍帯
ヘルニア 2 例、Dandy-Walker syndrome が 1 例などであ
った。生存退院のうち 2 症例は在宅人工換気、2 症例が
在宅酸素を使用していた。
【結論】18 トリソミー症例に
対する治療方針の変化により、心臓手術などの治療介
入を行うことにより、長期生存および退院する症例が
明らかに増加した。
O-083
O-084
【目的】18trisomy は生後一年以内に約 90%が死亡す
る予後不良な疾患であり、その治療方針についてはど
こまで積極的に行うのかは賛否がある。今回当院 NICU
に入院した児の治療や家族とのかかわりについて検討
した。
【 対 象 】 1986 ~ 2006 年 に 当 院 NICU に 入 院 し た
18trisomy35 例。
【方法】入院および外来診療録をもとに後方視的に検
討した。
【結果】男児 11 例、女児 24 例。出生前に産科歴もし
くは胎児に異常を指摘されたものが 31 例であった。出
生前に染色体検査を行われていたのは 1 例のみであっ
た。平均在胎週数 37 週 3 日(28 週 5 日~43 週 3 日)、
平均出生体重 1783g(718g~3190g)。人工呼吸管理を
15 例に施行し、9 例は離脱していた。臍帯ヘルニアを
合併した 2 例については腹壁閉鎖術を施行し、1 例に動
脈管結紮術を施行した。転帰は死亡が 26 例、軽快退院
は 9 例であった。6 例は退院後死亡しているが 3 例は現
在も外来管理中である。軽快退院した 9 例は、退院時
全例で経管栄養を必要とし、在宅酸素療法を 7 例にお
こなった。
20 年の経過の中で、18trisomy に対する医療者側の取
り組みも変化してきた。初期は入院時に臨床的に
18trisomy が疑われた場合、対症療法のみと決めてしま
うことが多かった。一例の軽快退院を経験する 1993 年
以前の 14 例では 4 例に人工呼吸を行っていたが、全例
死亡していた。その後、家族に 18trisomy が疑われる
ことを伝えるのみでなく、治療の内容やそれに対する
医療者からの意見を伝えるようになっていった。2001
年以降の 10 例では 5 例で人工呼吸管理を行い、7 例は
軽快退院した。
【考察】単純に 18trisomy が疑われるからと治療を控
えていた時代から医療者側の考え方や介入の仕方が変
化し、結果として積極的治療を行わなかったとしても
そこに到る過程で段階的にその児の状態を受け入れら
れるように家族の気持ちに配慮し、治療方針を決定し
ていくようになってきた。またできるだけ家族ととも
にいられるようにしていくため、家族も医療的ケアを
獲得し、当院だけでなく地域の医療機関や保健所など
と協同して準備を進めていくようになった。
【結語】18trisomy は予後不良の疾患として知られるが
長期生存例もあり、その児に合わせた管理と家族への
サポートが重要である。
206
当センターにおけるトリソミー21 の診断
告知の現状 第 1 報
聖隸浜松病院 総合周産期母子医療センター 新生児
科
○道和 百合、加藤 晋、廣瀬 悦子、白井 憲司、
菊池
新、杉浦 弘、上田 晶代、西尾 公男、大
木 茂
近年、周産期医療の進歩により胎児期に異常を指摘さ
れる例が増加している。トリソミー21(以下同症)は一
般に 1000 出生に一人の割合で出生し、最も多い染色体
異常である。その診断告知の時期は施設によって異な
り、いまだ異論のあるところである。今回、当院での
過去 6 年間のカルテ記載をもとに、同症の臨床像及び
その診断告知の時期とその問題点について検討した。
【対象と方法】2000 年 1 月 1 日から 2005 年 12 月 31
日までに出生し、当院受診歴のある患者で病名に同症
の記載のある児 63 名について入院カルテ、外来カルテ
を詳細に検討した。
【結果】63 名のうち、当院 NICU 入
院歴のあるものは 31 名、そのうち院内出生は 16 名だ
った。妊娠中の超音波検査で、子宮内胎児発育遅延や
羊水過多・過少、胎児心奇形、消化管異常などの胎児
異常を指摘されていたのは、10 名だった。そのうち、
羊水染色体検査を受け、出生前診断されていたのは 2
名だった。院内出生、院外出生ともに、先天性心疾患
や、消化管異常など、新生児期に治療を要する疾患が
ある場合は、入院時または、日齢 5 までに、同症の説
明と染色体検査の説明がなされていた。一過性多呼吸、
初期嘔吐などの適応障害や、口蓋裂などの緊急を要さ
ない疾患の場合、ほとんどの症例で、日齢 5 以降に説
明をされ、退院後に結果報告を行っていた。同症疑い
にて外来紹介された例は 4 名で、初診時に疾患説明と、
染色体検査を施行されていた。
【考察】染色体異常は、
患者家族にとって衝撃の大きいものであり、その後の
患児の受け入れに大きな影響を及ぼす。当院では合併
症が緊急性を要するものではない場合は、母親が産院
を退院して面会にこられるようになったとき、院内出
生の場合は、検査前カウンセリングの後の精神的フォ
ローができるよう、母親が退院前日までに行っていた。
また、結果報告の面談は退院後 2-3 週間で行われてい
る例が多かった。緊急性のある合併症がある場合は、
入院時に診断、病状説明とともに、検査前説明がなさ
れていた。また、早産の場合は、病状が安定してきた
生後 1 ヶ月以降に検査前カウンセリングを行っていた。
患児と家族の愛着形成を阻害しないような配慮が必要
であり、説明後患者家族の精神的フォローが継続して
行っていくことが大切であると考えられた。
21 トリソミーの超低出生体重児の検討
―肺高血圧症の合併―
神奈川県立こども医療センター 周産期医療部 新生
児科
○小谷 牧、豊島 勝昭、小林 正樹、埴田 卓志、
渡邉 達也、柴崎 淳、星野 陸夫、大山 牧子、川
滝 元良、猪谷 泰史
【目的】当センター開設以来 14 年間の、21 トリソミー
の超低出生体重児について、臨床像、特に肺高血圧症
の合併について検討し、短期予後を明らかにする。
【方法】1992 年 10 月から 2006 年 12 月に当院 NICU に
入院した 21 トリソミーの超低出生体重児 8 例(男児 5
例、女児 3 例)を対象に、診療録から後方視的に検討し
た。
【結果】在胎 29.7±3.4 週(24~34 週)
、出生体重 770
±148g(560~986g)(small for gestational age 7
例、appropriate
for gestational age 1 例)
。Apgar1
分値 7.0±1.3 点、5 分値 9.0±0.9 点。院内出生 7 例、
院外出生 1 例。出生前診断は IUGR(7 例)、羊水過少(3
例)
、十二指腸閉鎖(1 例)
、四肢短縮症(1 例)
、心室
中隔欠損症(1 例)であった。21 トリソミーの出生前診
断例はなかった。潜在性胎児仮死(5 例)
、胎児発育停
止(2 例)
、切迫早産(1 例)の適応で全例帝王切開に
より出生した。出生直後の合併症は、心室中隔欠損症
(2 例)、十二指腸閉鎖(2 例)、一過性骨髄異常増殖症
(1 例)であった。生後 1 ヶ月に、4 例で甲状腺機能低
下を認めた。人工呼吸管理は 7 例で施行し、人工呼吸
管理日数は中央値 36 日(3~81 日)。全例一旦は呼吸器
からの離脱が可能であった。転帰は、生存退院 4 例、
死亡 4 例。死因は肺高血圧症 2 例、壊死性腸炎 1 例、
十二指腸閉鎖術後の乳糜腹水 1 例であった。5 例で予定
日前後にエコー上肺高血圧を示唆する所見を認めた。
最重症の 2 例は、
修正 34 週で抜管して安定していたが、
修正 42 週頃より肺高血圧症が増悪し、再挿管、イソプ
ロテレノール、エポプロステノール、一酸化窒素吸入
療法を含めた治療をおこなうも救命できなかった。ま
た、1例は肺高血圧症が持続して 1 年以上の長期入院
となり、ベラプロストを内服し退院できた。1 例は退院
前(修正 48 週)MRI検査時の鎮静を契機に肺高血圧
症が増悪し、在宅酸素療法を必要とした。
【結論】21 トリソミーの超低出生体重児は予後不良で
ある。特に肺高血圧を合併することが多く、一旦安定
していても予定日近くで肺高血圧が再燃・増悪するこ
とがあるため、慢性期の肺高血圧の評価が重要である。
O-085
O-086
207
性的児童虐待と産婦人科の関わり方、モデ
ルケースを通して
防衛医科大学校 医学部 産婦人科
○田中 雅子、松田 秀雄、川上 裕一、芝崎 智子、
長谷川 ゆり、吉田 昌史、古谷 健一
近年児童虐待への世間の認識や関心も高まり、ネグレ
クトや身体的虐待に対しては積極的な関与の必要性が
周知されてきている。一方で性的虐待は世間の関心も
低く被害者自身が事実を隠蔽する傾向があることから
稀なものだと考えられがちだが、実際は闇数が高く実
数は非常に多いと予想されている。性的虐待の被害者
に及ぼす影響は多大であり、性器損傷や性感染症感染、
妊娠といった身体的な被害はもちろんのこと、被害者
の心に大きな傷跡を残し、人格形成に障害をきたす。
境界型人格障害のうち 9 割程度は性的虐待を受けた経
験があるという報告もある。けれども心理的サポート
を受けた児童はトラウマから回復して前向きに人生を
歩むことができると言われている。我々は表面化しな
い性的虐待を早期に発見し、支援施設と患者をつない
でいく必要がある。このとき我々の治療がトラウマと
ならないように注意しなくてはならない。今回我々は
実父による性的虐待によって妊娠し分娩にいたった 13
歳の症例を経験した。症例は中学 2 年生、初潮を 12 歳
で迎えた後すぐに無月経となった。当初は誰も妊娠に
気付かず、妊娠 25 週を過ぎており妊娠継続することと
なった。児童相談所の心理的・社会的サポートを受け、
学業に関しては当院小児科病棟に入院して院内学級に
出席した。妊娠経過には特に異常は見られなかった。
分娩は当初は実母からの希望で全身麻酔下の帝王切開
を予定していたが、37 週に自然破水・陣発し、手術室
で子宮口全開大となったため硬膜外麻酔、プロポフォ
ール鎮静下にて吸引分娩となった。出生した児は実母、
本人からの希望にて一度も面会せずに乳児院に入院し
た。当科では類似の経験が無く、児童相談所と小児科
と協力しつつ手探りで診療に当たった。症例を振り返
るにあたり数々の反省点もあり、この症例をケースモ
デルとして性的児童虐待にどのように対応すべきか検
討したい。
O-087
O-088
妊娠と薬情報センターにおける相談業務
妊娠と薬情報センター1、国立成育医療センター周産期
診療部 2
○伊藤 直樹 1,2)、渡辺 典芳 1,2)、北川 道弘 1,2)
【目的】薬物の胎児への影響については必ずしも十分
な情報がない。そのため厚生労働省医薬食品局安全対
策課の事業として平成 17 年 10 月より国立成育医療セ
ンター内に妊娠と薬情報センターが開設され、服薬に
よる影響を心配する妊婦又は妊娠を希望する女性に対
する相談業務が開始されている。今回、妊娠と薬情報
センターの現状を報告するとともに、今後の展望に関
しても紹介する。
【方法】開設時より平成 18 年 11 月までの相談依頼を
受けた全例において、相談薬剤や件数の推移、薬剤の
種類等を検討した。なお利用手順は、ホームページ
(http://www.ncchd.go.jp/)等から妊娠と薬情報セン
ターを知り電話による利用方法の相談を受け、相談者
が相談薬剤などの記載された問診表を自ら作成し、主
治医の相談依頼書とともに書類を送付する。妊娠と薬
情報センターでは書類をもとに回答書を作成し、可能
な限り成育医療センター専門外来による回答を、不可
能な場合は主治医に回答書の説明を依頼している。電
話による回答は行っていない。回答書は、トロント小
児病院の催奇形情報・臨床研究センター(Motherisk)
と提携し基礎資料として参照するとともに、最新の文
献検索等を随時行い、検討会を経て作成している。
【成績】14 ヶ月間に 648 件の電話による利用方法の相
談と、334 件の回答書を作成していた。相談薬剤は 1549
薬剤に達し、精神神経系が 4 割程と最多だった。処方
医師は精神科(26%)
、内科(25%)が多かった。月ごと
の相談件数は、対象地域を世田谷区に限定していた開
設時は電話による利用方法の相談 30 件、回答書の作成
10 件程であったが、その後、東京都及び神奈川県(平
成 18 年 2 月)
、埼玉県及び千葉県(7 月)
、関東全域(9
月)と地域を拡大するともに徐々に増加した。現在で
は月 80 件の電話による利用方法の相談と 40 件の回答
書を作成していた。ただし成育医療センター専門外来
での回答は月 10~15 件と増加が乏しい一方で、主治医
からの回答は月 25~30 件と増加しており、遠方のため
に来院が困難である事例や、主治医からの回答を強く
希望する症例を認めていた。
【結論】対象地域の拡大とともに相談件数は増加して
いた。成育医療センター専門外来による対面相談を主
体としてきたが、今後はその限界も考慮し、全国展開
にむけた各地域の拠点病院の設置や電話による回答な
どを通じて、より多くの相談に対応したいと考えてい
る。
208
当院 NICU における 30 年間の長期入院例の
変遷
~長期 入 院 例 は増加 し て いる
か?~
日本赤十字社医療センター 新生児科
○川上 義、与田 仁志、中島 やよひ、遠藤 大一、
山本 和歌子
O-089
O-090
NICU 長期入院児に対する地域ネットワー
ク・信州モデル
長野県立こども病院 総合周産期母子医療センター
新生児科 1、熊本市民病院 総合周産期母子医療センタ
ー 新生児科 2
○横山 晃子 1,2)、栗原 伸芳 1)、三ツ橋 偉子 1)、佐
野 葉子 1)、依田 達也 1)、宮下 進 1)、広間 武彦 1)、
中村 友彦 1)
【背景】周産期医療の進歩により以前は救命不可能だ
った症例も救命可能となった。しかし一方で、これら
の重症疾患は長期 NICU 入院管理を要する。長期入院患
児の増加は、新たな入院患者の受け入れにも影響し、
近年の NICU における問題点の一つとなっている。当セ
ンターは開院当初より積極的に急性期を脱した患児の
地域周産期センターへの逆搬送をすすめており、現在
のところ県内の周産期医療は円滑に運営されており、
当センターのベッド運用状況について報告する。【目
的】当センターにおける入院患者、特に長期入院患者
の経過、転帰について後方視的に検討した。【方法】
2001 年 1 月から 2005 年 12 月の 5 年間に、当センター
に入院した児の疾病内容、入院時の状況、経過、平均
在院日数、転帰等を調査した。
【結果】入院数は 266.2
±30.9 人/年、在院日数は 43.6±6.2 日、出生場所は院
内 136.4±22.7 人/年(51%)
、院外 122.6±24.3 人/年
(46%)だった。転帰は転院 39%、転棟 10%、退院 47%、
死亡 4%だった。
6 ヶ月以上 1 年未満の入院は 5.8
±2.8 人/年で、転帰は転院 32%、転棟 17%、退院 29%、
死亡 20%、主疾患名は VLBW/ELBW40%、HIE4%、先天
異常・多発奇形 25%、その他(呼吸疾患、循環疾患、
外科疾患、神経・筋疾患)だった。1 年以上の長期入院
は 1.2±0.8 人/年で、主疾患名は VLBW/ELBW、HIE、先
天異常などで、転帰は転院を目的とした転棟および死
亡であった。調査期間 5 年間の中で、長期入院児発生
率や在院日数の年次変化はほとんどみられなかった。
【結語】転帰は転棟、転院をあわせると約半数となり、
退院より転院(逆搬送)が上回っていた。当センター
は、地域の周産期医療施設とのネットワーク作り、産
科医・小児科医・助産師・看護師の育成・療育・教育
と連携した成長、発達フォローアップ体制作りを重視
し、医師・看護師の研修やセミナーの開催、各地域に
おもむき NRP(新生児蘇生プログラム)講習会を定期的
に行うなど、地域全体に対する教育を目的とした活動
を続けている。また、長期医療・療育が必要な児は、
地域小児科医師、看護師、保健師、ソーシャルワーカ
ーなどとのカンファレンスで築いた地域ネットワーク
を通じて、児や家族に適した NICU 退室後の環境をつく
るように働きかけている。このため、転院(逆搬送)
率が高く、退院・転院の見込みのない NICU 長期入院患
者が少なく、円滑な周産期医療が運営されていると考
えられた。
【目的】NICU の病床数の不足の原因の一つに NICU 長期
入院例の増加が指摘され、昨年の本学会のシンポジウ
ムでも取り上げられ、社会的にも注目されている。し
かし、これら長期入院児が最近になり本当に増加して
いるかどうかは、将来の NICU 病床数を考える際に重要
なポイントであるが、この点についての報告は乏しい。
そこで、当院における過去 30 年間の長期入院例数の変
遷について検討した。
【方法】調査期間は 1976~2005 年の 30 年間とし、5
年ごとに 6 期に分けて比較した。この間に当院 NICU(広
義)に 6 ヶ月以上入院した 255 例を対象に、全入院数
(13261 例)に対する割合の変遷と、基礎疾患(未熟児
群、先天奇形・異常群、重症仮死群に大別した)につ
いて検討した。
【結果】1)全入院数に対する長期入院例の割合を 5
年毎にみると、0.5%、1.7%、4.0%、2.2%、1.5%、
2.2%と 1990 年までは増加傾向にあったが、最近 15 年
間では 2%前後で増加の傾向はみられなかった。
2)なお、12 ヶ月以上の超長期入院例についてみても、
0.04%、0.54%、0.96%、0.95%、0.49%、0.68%と
同様の結果であった。また、24 ヶ月以上の超長期入院
例の実数を各期毎にみても、0 人、1 人、4 人、4 人、3
人、5 人で、特に増加の傾向はみられなかった。
3)255 例の基礎疾患をみると、未熟児群 101 例
(39.6%)
、先天奇形・異常群 120 例(47.1%)
、重症
仮死群 34 例(13.3%)であり、各年代により大きな変
化は認めなかった。
【結論】新生児医療の進歩により、それまで救命しえ
なかった重症例が長期入院例となり、増加していた傾
向が 1990 年まで認められていた。しかし、それ以降は
重症児の救命例は一段と増加しているが、治療技術の
進歩および在宅医療の推進により、未解決の問題は山
積しているものの入院期間の長期化に一定の抑制効果
がみられている可能性が示唆された。
209
当院における過去 5 年間の ABR 異常児の検
討
聖マリア病院 母子総合医療センター 新生児科
○古川 亮、中村 祐樹、小池 敬義、首藤 紳介、
岡本 龍、城戸 康宏、橋本 崇、橋本 武夫
【 は じ め に 】 新 生 児 期 の 聴 性 脳 幹 反 応 ( auditory
brainstem response,以下 ABR)は難聴の早期発見,神
経学的成熟度の判定,脳幹機能の障害の診断に役立つ
とされている.今回,当院における過去 5 年間の ABR
異常児の検討を行ったので報告する.【目的】当院にお
ける ABR 異常児の周産期背景・予後を明らかにする.
【対象・方法】対象は 2001 から 2005 年の 5 年間に当
センターに入院した児の内,退院時に ABR 異常と診断
された例.ABR 波は左右耳別に 85dB の音圧によって記
録された.無反応,1-5 波の潜時間潜時 5.5 秒以上,波
形分離不良のいずれかの所見を認める例を ABR 異常と
診断した.1 波または 5 波が分離されないものを波形分
離不良とした.対象例の医療記録を調査し周産期背
景・予後を後方視的に検討した.
【結果】過去 5 年間の
総入院 2879 例の内,ABR 異常例は 35 例(1.5%)であ
った.異常所見の内訳は,無反応が 18 例,1-5 波の潜
時間潜時 5.5 秒以上が 11 例,波形分離不良が 6 例であ
った.周産期背景は,低出生体重児が 15 名(その内極
低出生体重児が 13 例)
,顔面頭頚部奇形が 8 名,新生
児仮死が 5 名,染色体異常・奇形症候群が 2 名,その
他が 5 名であった.その他は頭蓋内出血,低酸素性虚
血性脳症,先天性トキソプラズマ感染症,新生児糖尿
病,新生児痙攣が各々1 名ずつであった.ABR 異常 35
例の内,当院の外来でフォローアップが行われたのは
25 例であった.他院でのフォローアップとなった例が
7 名,死亡例が 2 名,不明例が 1 名であった.当院の外
来でフォローアップが行われた 25 例の内,15 例は聴覚
異常の所見を認めず正常聴力と診断された.ABR の再検
が行われたのは 10 名であり,その内フォローアップ中
に聴覚異常と診断されたのは1例であった.聴覚異常
例は両親が先天性難聴であり顔面頭頚部奇形を認め,
難聴のハイリスクの児であった.
【考察】今回の検討で
ABR 異常と診断されたのは従来の報告通り難聴のリス
クを有する症例が多かった.しかしその後フォローア
ップで聴覚異常を認めたのは 1 例であり,退院時の ABR
が異常であってもその後の経過により正常聴力を獲得
できる可能性が示唆された.また退院後,聴覚異常の
所見を認めず ABR の再検を必要としない例もあり,フ
ォローアップでの聴覚異常の有無の判断が重要であ
る.
新生児の時間外外来受診についての検討第2報-分娩施設での退院時指導の重要性
埼玉医科大学総合医療センター
小児科
○浅野 祥孝、山口 文佳、内田 さつき、田村 正
徳
【目的】一般小児科時間外外来を受診した日齢 28 未満
の児について分析し、時間外外来における、一般小児
科での新生児への対応について実態を把握し、検討す
ることを目的とした。【対象・方法】 平成 17 年 8 月 1
日から 18 年 7 月 31 日までの 1 年間に当院一般小児科
時間外外来を受診した日齢 28 未満の児 99 名を対象に
した(当院は平日と土曜の 9:00 から 17:00 までを時間
内とし、それ以外を時間外診療時間帯としている)
。帰
宅できた 77 名と入院した 22 名に関し、その傾向を比
較分析した。【結果】来院した 99 名のうち 22 名
(22.2%)が入院し、77 名(77.7%)が帰宅している。
入院した 22 名中 13 名(59%)は病歴と顔色、皮膚色
不良等の診察所見にて入院の必要ありと判断された。9
名(41%)は外来検査を施行した結果入院適応とされ
た。入院した 22 名の主訴は発熱が 9 名と最も多く、黄
疸 3 名、無呼吸 2 名、咳嗽 2 名、嘔吐 1 名、血便 1 名、
啼泣 1 名、吐血 1 名、臍発赤 1 名、哺乳不良 1 名であ
った。一方、帰宅した 77 名のうち 33 名(43%)は病
歴、臨床症状のみで帰宅可能と判断され、13 名(17%)
は浣腸、ガス抜き、鼻吸引等の処置が施され帰宅可能
と判断された。3 名(4%)は哺乳の回復などの経過を
みて帰宅と判断されている。残りの 27 名(36%)は採
血等の検査を施行し帰宅となった。病歴、臨床症状の
みで帰宅可能となった症例の主訴は、鼻閉・咳・鼻汁
が 8 名と最も多く、嘔吐 5 名、発熱 4 名、啼泣・不機
嫌 3 名、息苦しい 3 名、外傷 3 名、下痢 2 名、湿疹 2
名、性器出血 1 名、異常なし 2 名であった。【考察】当
院小児科時間外外来受診患者の入院率は全体では 6%
であるが、新生児期の患者では 22.2%と著しく高かっ
た。一方では分娩施設からの退院時に適切な育児指導
がなされていれば救急外来受診せずにすんだ事例が約
1/3 存在した。新生児の時間外受診時の感染のリスクの
関点からも、緊急を要しない受診を可及的に減らす努
力が必要と考えられた。
【結語】新生児の時間外外来受
診者は軽症、重症と 2 極化している。重症患者を見逃
さない一方で、不必要な受診を減らすための分娩施設
での啓蒙活動が大切であると考えられた。
O-091
O-092
210
早産児の出生時 Hemoglobin 値と経過およ
び短期予後の検討
東京慈恵会医科大学 小児科学講座 1、たけうちこども
クリニック 2
○長島 達郎 1)、小林 正久 1)、寺本 知史 1)、岡野 恵
里香 1)、竹内 敏雄 1,2)、衞藤 義勝 1)
NICU 退院後 1 年以内の再入院患者の検討
-感染症による再入院に注目して-
倉敷中央病院 総合周産期母子センター NICU
○渡部 晋一、澤田 真理子、川口 敦、西田 吉伸、
馬場 清
O-093
O-094
【はじめに】当院は岡山県西部地区の中核病院であり、
NICU 退院後も再入院児はほぼ全例当院でフォロー可能
である。NICU に入院した児は基礎疾患も多く、また超
低出生体重児では、慢性肺疾患の合併も多い。そのた
め NICU 退院後も早期に再入院する症例は多い。今回、
我々は最近5年間に当院 NICU を退院した児の退院 1 年
間の小児科病棟への再入院症例について検討した。
【対象と方法】2001 年 1 月から 5 年間に当院 NICU を生
存退院し、1 年以内に当院小児科に再入院した児の内、
心臓カテーテル検査、心臓手術に関連した再入院 88 例
を除く、119 例を対象とした。再入院の時期、主病名、
原因、起炎病原体等について検討した。
【結果】在胎週数は 34.66±4.51 週、出生体重 2106.12
±768.1g。ELBW12 例、VLBW9 例、LBW42 例、TTN9例、
染色体・奇形症候群 4 例、心疾患 8 例、新生児仮死 7
例、その他 28 例であった。退院後 1 年以内の再入院は
1 回 85 例、2 回 20 例(ELBW1 例、LBW7 例、心疾患 5 例)、
3 回 9 例(ELBW2 例、LBW4 例、奇形症候群 1 例)
、4 回 2
例(心疾患 2 例)
、5 回以上 2 例(CLDIII 型、骨形
成不全症)で、のべ再入院回数は 118 回であった。再
入院時主病名は気道感染(喘息様気管支炎を含む)68
回、腸炎 13 回、熱性痙攣 4 回、腸重積症 3 回、無呼吸
3 回であった。気道感染の原因としては RS ウイルス感
染症 30 回、肺炎球菌 7 回であった。パリビズマブ投与
にもかかわらずRSウイルス感染で再入院した症例は
8 例であったが、パリビズマブ投与例に ICU 入室症例
(先天性心疾患 2 例)はなかった。腸炎ではロタウイ
ルス感染症が6例であった。
【考察と結語】当院は NICU 退院後の児の状況を把握し
やすく、退院後の児の再入院状況をほぼ把握できてい
る。NICU を退院した児の再入院は気道感染と腸炎によ
るものが多かった。再入院児のうち心疾患児の反復入
院が多く、ICU に入室したRSウイルス感染症例も先天
性心疾患児であったがパリビズマブ投与を受けていな
かった。NICU 退院児ではパリビズマブの投与がRSウ
イルス感染の重症化を予防する一助になりうると思わ
れた。また接触感染を主とするRSウイルス感染症と
ロタウイルス感染症が多く、兄姉がいる場合、保育所
への入所をする場合には、予め注意を喚起する必要が
ある。
【目的】早産児のより良い経過と予後の獲得を目指し,
後方視的に手がかりを探し出す.今回は早産児の出生
時 Hemoglobin 値(以下 Hb)が,その後の経過および短
期予後に影響があるか検討する.
【方法】平成 13 年 11 月から平成 18 年 5 月まで慈恵医
大病院で出生し,新生児集中治療室で入院加療した在
胎週数 29 週以下の早産児 105 例を研究対象とした.こ
のうち,生後 2 週間以内の早期死亡 8 例,染色体異常 1
例,母体子宮破裂合併で重症新生児仮死の 1 例,先天
奇形(鎖肛)1 例を除外した.最終的に 94 例が研究対
象となった.この 94 例を在胎 23-26 週の 27 例をグル
ープ 1,27-29 週の 67 例をグループ 2 と,2 つのグル
ープに分けた.2 つのグループで Hb の中央値より低い
ものを低値群,高いものを高値群と分類し両群間の比
較検討を行なった.経過として,生後日齢 2 週間以内
の赤血球輸血量,経管栄養が 100ml/kg に達した日齢,
出生時体重を超えた日齢,光線療法日数,人工呼吸管
理日数を検討因子とした.短期予後として,人工呼吸
管理の有無,サーファクタント投与,動脈管開存症,
肺出血,軽症脳室内出血,重症脳室内出血,脳室周囲
白質軟化症,慢性肺疾患,消化管穿孔,未熟児網膜症,
全盲,死亡の合併を検討因子とした.低値群と高値群
との両群間比較を,経過については t 検定で,短期予
後には Fisher’s exact 検定で解析を行なった.
【結果】グループ 1,2 とも低値群と高値群の背景に差
はなかった.
グループ 1 の Hb の中央値は 13.8 で,低値群 13 例と高
値群 14 例を比較検討した.
グループ 2 の Hb の中央値は 15.7 で,低値群 33 例と高
値群 34 例を比較検討した.両群間比較で有意差をもっ
て検出された因子はグループ 1,2 とも,生後日齢 2 週
間以内の赤血球輸血量で,高値群で有意に赤血球輸血
量が少なかった.それ以外の因子は有意差を認めなか
った.
【考察】今回の検討では,早産児の出生時の Hb は,早
産児に特有な疾患の発症に差をもたらすほどの影響を
見出すことは出来なかったが,
出生時の Hb が高ければ,
生後日齢 2 週間以内の赤血球輸血量が少ないという結
果は注目に値すべきものであると考えられる.早産児
に 対 し て 出 生 時 に 臍 帯 血 を milking や late cord
clamping によって流入させる処置の有効性が近年多く
報告されてきており,こららの処置により早産児の出
生時の Hb を高く保つ事が出来れば,生後 2 週間以内の
輸血量を減らす事が出来る可能性がある.
211
O-095
NICU 退院後在宅医療-現状と課題
当院における早産、低出生体重児に対する
母子同室の検討
独立行政法人 国立病院機構 岡山医療センター 新
生児科
○吉尾 博之、竹内 章人、遠藤 志朋、丸山 秀彦、
影山 操、中村 信、横井 順子、山内 芳忠
【背景】母子同室を出生直後から行うことは母子愛着
形成の早期確立を促進する意味で極めて有効とされて
いる。当院では従来から成熟児のみならず早産、低出
生体重児においても出生直後から母子同室を行ってい
るが、在胎週数、出生体重および出生後の管理等を含
め明確な指針がない。【目的】早産児および低出生体重
児において出生直後からの母子同室の可能性と方向性
について検討する。
【方法および方法】平成 17、18 年
の2年間に当院で出生した在胎(GA)35 週、36 週の早産
児および正期産で出生体重(BW)2kg 以上の低出生体重
児で、出生時アプガースコア8点以上、明らかな合併
症状もなく母子同室が可能と推察された児を対象とし
た。
この条件に合う GA35 週の児(A 群)は、13 例(BW:2406
±161、2080~2604g)
、GA36 週(B 群)は 42 例(BW:2446
±316、2010~3052g)、正期産で BW2kg 以上の低出生
体重児(C 群)は 99 例(BW:2332±124、2004~2496g)
であった。全例出生直後よりカンガルーケア(原則2
時間、帝切例については母親が帰室後)を行った後そ
のまま母子同室とした。また母子同室中の黄疸治療は
ビリベッドで行った。【成績】輸液等の NICU 管理の必
要がなく母子同室のまま退院した児は、A 群 9/13 例
(69%)
、B 群 36/42 例(86%)、C 群 96/99 例(97%)
であった。
また平均在院日数は A 群 18±7.6 日(7~29)、
B 群 11±4.8 日(5~24)、C 群 10±4.4 日(5~29)であ
った。輸液が必要と判断された低血糖(40mg/dl 以下)
児は A,B 群各2例、C 群1例、黄疸児は A 群1例、B,C
群各 2 例であった。また母親の退院による社会的理由
で NICU 管理となった児は2例であった。
【考察】当院
では基本的に出生直後より頻回授乳(搾乳を含む)を
行っているが、必要に応じ糖水もしくは人工乳の補足
を行っている。早産児あるいは低出生体重児に母子同
室を続行しようとした場合、成熟児に比べより注意深
い観察と母乳以外の補足の必要性を感じさせられる。
また看護師を中心とした管理体制の充実が必須である
が、今回の結果からは、早産、低出生体重児であって
も注意深い管理の元では母子同室も充分可能で推進し
て行くべきものと考えられた。
O-096
愛仁会高槻病院 小児科
○南 宏尚、李 容桂、片山 義規、上村 裕保、住
谷 珠子、橋本 直樹、三宅 理、西野 昌光
【目的】NICU 退院後に医療処置を要する在宅医療に移
行した症例の現状と課題を明らかにする。
【対象】2001
年から 2006 年の 6 年間に当院 NICU に入院した児のう
ち、退院時在宅医療を必要とした 39 例。【結果】1)在
宅処置別のべ症例数は、吸引 20 例、酸素療法 23 例、
持続陽圧呼吸療法(CPAP)2 例、人工換気 1 例、気管切
開 7 例、経管栄養 18 例、胃瘻 1 例であり、約 6 割で複
数の処置を要した。2)基礎疾患は低酸素性虚血性脳症
(HIE)7 例、成熟児脳内出血 2 例、染色体異常 4 例、
奇形症候群 9 例、新生児慢性肺疾患(CLD)14 例、先天
性声門麻痺 1 例、後天性声門下腔狭窄 2 例であった。3)
入院期間は CLD では 3-7 ヶ月(中央値 5 ヶ月)
、その
他の疾患では 2-27 ヶ月(同 5 ヶ月)であった。4)37
例は NICU から直接退院し、医療処置の準備期間は、吸
引、酸素療法、経管栄養は 2 週間、その他の処置も 4
週間以内に習熟可能であった。HIE と先天性中枢性低換
気症候群各 1 例は小児病棟移床後に退院したが、その
原因は介助者の不安であった。5)同時期、基礎疾患や
重症度が同等であるにも関わらず、退院に至っていな
い症例を 9 例認め、うち 7 例はご家族に在宅医療の意
思がなかった。6)症例の自宅は、市内 12 例、市外 23
例、府外 4 例であり、ほとんどが通院に 30 分以上かか
っていた。7)退院後のフォローアップは 1 ヶ月間隔を
原則とし、重症児にはかかりつけ医と訪問看護を依頼
しているが、退院後 6 ヶ月間に、当院以外の診療所を
受診したのは 3 例のみであった。8)退院後の再入院は
16 例(うち 1 ヶ月以内は 4 例)
、RSV 感染症による死亡
1 例、在宅突然死 1 例であった。
【考察】在宅酸素、在
宅 CPAP 療法などの普及によって、以前よりも在宅医療
への技術的障壁は低くなっており、NICU から短期間の
指導で在宅医療に安全に移行することも可能となって
きた。一方で、ご家族の精神的障壁は決して低いとは
言えず、退院に対して消極的であったり、精神的に不
調となられたり、あるいは退院されても、頻回の相談、
他院への紹介を断るなど、入院施設への依存傾向が明
らかであった。在宅医療に際しては、家庭背景への理
解、MSW・臨床心理士を主体とするソフトケアの充実、
実効ある病診連携など医師・医療機関の努力がさらに
必要であると思われた。
212
当施設における在胎 24 週未満の超早産児
の短中期予後の検討
国立病院機構 佐賀病院 母子医療センター小児科
○松尾 幸司、岩永 学、小形 勉、漢 伸彦、高柳
俊光
【目的】当施設に入院した在胎 24 週未満の超早産児の
短中期予後について明らかにする。
【対象と方法】1999
年 4 月から 2007 年 2 月までに当施設に入院した在胎 24
週未満で出生した超早産児 21 例(在胎週数 23.0±0.5
週、出生体重 541.9±70.9g)と在胎 24 週児 21 例(在
胎週数 24.1±0.3 週、出生体重 664±129g)を対象とし
て、生命予後及び重篤な脳性麻痺の有無を後方視的に
検討した。
【結果】検討期間内に当施設に入院した在胎
22 週の児は 9 例で平均出生体重は 506g(463~560g)
。
生存退院が 5 例(生存率 55.6%)
、死亡例が 4 例であっ
た。在胎 23 週の児は 12 例で平均出生体重は 567g(448
~774g)
。生存退院が 9 例、入院中の児が 2 例(生存率
91.7%)
、死亡例が 1 例であった。同期間に当科に入院
した在胎 24 週児は 21 例で生存退院が 18 例、入院中の
児が 2 例、死亡例が1例(生存率 90.5%)であり、在胎
22 週児は在胎 23 及び 24 週児と比較して有意に生存率
は低かったが(p<0.01)、23 週と 24 週の生存率の間に
は有意差を認めなかった。死亡退院は5例で、生後 2
時間以内に死亡した蘇生困難例が 3 例(22 週 2 例、23
週 1 例)、日齢 20 で死亡した例が1例(22 週、腸軸捻
転)
、日齢 30 が1例(22 週、慢性肺疾患の増悪)であ
った。生存退院した症例では、退院時点では全例重篤
な神経学的後遺症は認めなかった。また、生存退院し
修正 1 歳以降の運動発達を観察できた 11 例(22 週 4
例、23 週 7 例)のうち、修正 1 歳の時点で坐位不能の
重篤な運動障害をきたした症例はなかった。一方、同
時期に出生した 24 週児では 12 例中 2 例に重度の四肢
麻痺を認めた。
【考察】当施設においては、在胎 23 週
出生の児と 24 週出生の児で生存率に明らかな有意差を
認めず、また生存例では短期的には重篤な後遺症を認
めていないことから、この週数の短期予後は比較的良
好と考えられる。しかし、22 週台の児に関してはなお
半数近くが死亡しており、この週数の短期予後は未だ
に不良である。今後は精神運動発達の詳細についても
検討する予定である。
O-097
O-098
妊娠 22 週出生児の現状と課題
愛仁会高槻病院 小児科
○南 宏尚、李 容桂、片山 義規、上村 裕保、住
谷 珠子
【背景】生育限界および成育限界への考え方は時代や
施設によって異なる。当院では総合周産期センターに
認可された 2001 年 9 月より、在胎 22 週児に対する周
産期管理をより積極的なアプローチに変更した。【目
的】在胎 22 週の超早産児に対する周産期管理の現状と
短期予後を明らかにし、今後の管理法検討に資する。
【対象と方法】対象は 1991 年 9 月から 2006 年 8 月ま
での 15 年間に当院で出生した妊娠 22 週の児。前期
(1991 年 9 月~2001 年 8 月)
と後期(2001 年 9 月~2006
年 8 月)に分けて、周産期情報、生命予後、新生児期
の罹病(IVH、PVL、その他神経学的異常、CLD、ROP)、
および一部発達予後について検討した。
【結果】15 年間
に 16 例の出生(前期 6 例:後期 10 例)があり、うち
NICU への入院は 14 例(同 4 例:10 例)あった。母体
年齢 35 歳以上は後期のみ 6 例あり。うち 1 例は不妊治
療後であった。出生前ステロイドは後期のみ 4 例に、
帝王切開も後期のみ 7 例に行われ、この内明らかな母
体適応は 4 例であった。小児科医による出生前訪問は
後期のみ 5 例、うち母体発熱による緊急帝王切開 1 例
で、新生児治療に対するご家族のクレームが発生した。
生存退院は後期のみ 6 例(生存退院率 60%)であった。
前期の死亡は、分娩室死亡 2 例、ショックによる早期
新生児死亡 4 例であり、後期では、早期新生児死亡は
なく、敗血症 2 例(日齢 12、日齢 35)
、副腎血栓症(日
齢 95)
、壊死性腸炎(日齢 101)とすべて preventable
death であった。生存退院 6 例のうち、IVH は 1 度 1 例、
PVL はなく、CLD による在宅酸素療法 4 例、網膜症治療
3 例であった。1 年以上フォローアップされている 5 例
中、脳性麻痺 1 例、精神運動発達軽度遅滞 2 例、境界 2
例、補聴器・眼鏡 0 例であった。
【結論】妊娠 22 週出
生児の生命予後は飛躍的に改善しており、周産期管理
をより積極的に行えばさらに改善する可能性がある。
一方で、新生児期に IVH、PVL など明らかな神経学的異
常を認めなかった症例でも、境界を含めた発達遅滞を
高率に認めた。この週数特有の脳病変や出生前後のさ
まざまな要因が関連していると思われ、さらに長期的
なフォローアップと周産期の要因分析が必要である。
また、母体の高齢化や不妊治療の影響によって、妊娠
22 週でも積極的な治療を望まれる母親が増えてきてお
り、突然の母体搬送や状態急変に際しても、産婦人科
と小児科双方が治療方針を落ち着いて説明・議論でき
る環境を整えるよう配慮すべきである。
213
Near term の severe IUGR:幼児期の catch
up growth に関係する因子の解析
さいたま市立病院 周産期母子医療センター 小児科
1
、さいたま市立病院 小児科 2
○市川 知則 1)、佐藤 清二 2)、草野 亮祐 1)、杉山 隆
輔 1)、大森 さゆ 1)、森 和広 1)、前山 克博 1)
NICU 退院後の広汎性発達障害発症頻度に
関する検討
愛知県心身障害者コロニー 中央病院 新生児科 1、愛
知県心身障害者コロニー 発達障害研究所 周生期学
部 2、愛知医科大学 生殖 周産期母子医療センター3
○山田 恭聖 1)、邊見 勇人 1)、岸本 泰明 1)、佐藤 義
朗 1,2)、齋藤 明子 1,2)、寺澤 かずみ 1)、二村 真秀
O-099
O-100
3)
【背景】子宮内発育遅延(IUGR)は胎児の発育が遅延も
しくは停滞し、在胎期間に相当する発育の得られない
状態であり、重症度はその後の発育に密接に関連する。
今回我々は、予定日付近に severe IUGR として出生し
た児のその後の発育を検討し、catch up growth に関す
る因子を解析した。
【対象と方法】対象は 2002 年から
2006 年に当院周産期センターに入院した児のうち、妊
娠中期以降に IUGR を指摘され、在胎 35 週以降に出生。
出生体重が-2SD 以下かつ身長が-2.5SD 以下であり、染
色体異常や生後の発育に影響するような先天異常や疾
患のない児である。出生後、必要な栄養管理を行い
2500g 前後で退院。生後 12 ヶ月間以上の発育データを、
外来カルテなどを元に集計し、それにかかわる因子を
後方視的に解析した。【結果】対象人数は 12 名(男児 5
名 女児 7 名)
、平均在胎週数は 36 週 2 日、平均出生
体重 1392g(-2.7SD)
、平均身長 38.7cm(-3.4SD)
、平
均頭囲 29.3cm(-1.5SD)であった。Asymmetrical IUGR
は 6 名、妊娠性高血圧(PIH)は 7 名、子宮内感染症は
1 名、多胎児は 2 名であった。経過中に他院から搬送入
院した 1 名以外に生後 1 週間以内の経静脈栄養を、敗
血症を起こした 1 名以外には 72 時間以内の早期経腸栄
養を行った。平均在院日数は 43.3 日。8 名(66.7%)に
生後 12 ヶ月以上での catch up growth をみとめた。
Catch up growth させる因子として統計学的に有意(p
<0.01)であったのは、生後 3 ヶ月までの体重増加率
および退院後の非完全母乳栄養(混合栄養および完全
人工栄養)であった。【考察】IUGR short の原因は多因
子であり、一元的に決めることは難しいとされている。
しかし Near term の severe IUGR の場合、早期の積極
的栄養管理が幼児期の発達に大きな影響を及ぼす可能
性が示唆された。特に生後 3 ヶ月までの体重の増加率
は重要であり、この時期の計画的な栄養管理が望まれ
る。退院後の自律授乳による完全母乳栄養は、栄養確
立までに時間を要し、早期の growth spurt を阻害する
因子となりうる。計画的に混合栄養を行うか、搾乳に
よる強化母乳を使用するなどの対策により、IUGR short
の発生を防げる可能性があると考えられた。
広汎性発達障害(PDD)は近年増加傾向にあり、NICU 管理
を必要とする周産期合併症が発症危険因子である可能
性が示唆されている。今回当院児童精神科で PDD と診
断された児を後方視的に検討することで、NICU 退院後
の PDD 発症頻度に関する若干の知見を得たため報告す
る。対象)平成 17 年度に当院児童精神科を初診で受診
した 2 歳から 5 歳の児で、DSM-IV-TR に従って児童精神
科医が PDD と診断した 296 名。方法)対象児の児童精
神科外来カルテをもとに、母子手帳からカルテに記載
した NICU 入院歴、周産期合併症を抽出した。当院 NICU
入院歴を持つ児においては、NICU 入院カルテより入院
経過を、新生児科外来カルテよりフォローアップ情報
を抽出した。地域の一般人口における NICU 入院率は、
愛知県周産期医療協議会資料より推測し、検定にはχ2
検定を用いた。結果)平成 17 年度の当院児童精神科初
診年齢が 2, 3, 4, 5 歳であった人数は計 346 名で、PDD
と診断された児は各年齢で 60,137, 70, 29 名の計 296
名であった。このうち NICU 入院歴があった児はそれぞ
れ 10, 10, 5, 2 名で、PDD と診断された児のうち NICU
入院歴のある頻度は 9.1%であった。これは、同年度に
県下 NICU に入院した児の全出生数に占める割合の
5.6%より有意に高かった(p=0.011)。また PDD と診断さ
れた児の中で、当院 NICU 入院歴がある児は各年齢で、
5, 2, 2, 1 名でであった。平成 18~20 年度まで同頻度
で PDD が診断されたと仮定した場合の平成 15 年度の当
院 NICU 退院児が 5 歳までに PDD を発症する予測値は
2.1%となり、検索しえた一般人口に対する PDD 発症頻
度の報告に比べ高かった。当院 NICU を退院し PDD と診
断された 10 例中、染色体異常、先天奇形を持たない児
は 6 名で、早産児 2 例、胎便吸引症候群 2 例、不当軽
量児 1 例、新生児一過性多呼吸 1 例であり、4 例が発達
順調としてフォローアップを終了された後の PDD 診断
であった。考察)NICU 入院歴のある児のその後の PDD
発症頻度は、一般人口のそれに比べ高い傾向があり、
その中には NICU 入院経過より長期のフォローアップが
必要でないと判断される患児も含まれる。NICU 退院後
の PDD 発症も見据えた長期のフォローアップ計画や、
より低年齢での PDD 発症危険群のスクリーニング法の
開発が望まれる。
214
就学時における未熟児の認知発達の特徴
と周産期因子との関連性の検討
順天堂大学医学部小児科 1、順天堂静岡病院新生児セン
ター2
○田中 恭子 1)、南風原 明子 2)、今 紀子 1)、吉川 尚
美 1)、久田 研 1)、東海林 宏道 1)、篠原 公一 1)、清
水 俊明 1)、佐藤 洋明 2)、梅崎 光 2)
【背景・目的】私達は新生児科医による定期検診に加
え、小児科医による発達外来において年齢に応じた発
達・知能検査(Bayley 乳幼児発達スケール・新版 K 式
発達検査・WISC・K-ABC 心理教育アセスメントバッテリ
ー)を施行し、必要と思われる早期介入を指示してい
る。今回は特に就学前における未熟児の認知発達の特
徴と周産期因子との関連性を後方視的に検討したので
報告する。
【対象・方法】当科発達外来にてフォローし
ている未熟児のなかで、就学前に発達検査を施行した
症例 41 名。認知発達検査として K-ABC 心理教育アセス
メントバッテリーを用い認知処理指数、同時処理指数、
継次処理指数を算出した。また対象となった児の周産
期因子(出生体重、在胎週数、性、胎内発育不全、栄養
法、新生児期栄養状態、在院日数、母体年齢)、3 歳時
の発達状況、及び合併症の有無などとの関連性を検討
した。【結果】対象例の平均在胎週数 29 週 1 日、出生
体重 1111g、男児 31 例、女児 10 例、子宮内胎児発育
遅延(IUGR)児 11 例であった。認知発達指数 94.0、同時
処理指数 92.6、継次処理指数 99.9 であり、同時処理指
数と継次処理指数との間に有意差を認めた。下位検査
のなかでは特に模様構成などの視覚的空間認知・構成
力が低値である傾向がみられた。IUGR 児ではより認知
発達指数が低値であった。また脳性麻痺児(4 例)、発語
の遅れを認めた児 15 例(2 歳で有意語なし)では特に同
時処理指数と継次処指数の差がより顕著であり認知発
達上の偏りを認めた。【考察】今回の結果から、就学時
の未熟児の認知発達において偏りを認める症例が多い
こと、また発語の遅れが予測因子となりえることが考
えられた。また就学前の認知発達の偏りは就学後の学
習障害発症のリスク因子となり得るため、その後の経
過に応じた適切な介入が必要と思われた。
極低出生体重児の身体発育と長期発達予
後との関連性
愛育病院 小児科 1、日本こども家庭総合研究所 2、愛
育病院新生児科 3
○石井 のぞみ 1)、安藤 朗子 2)、佐藤 紀子 1)、加部
一彦 3)、山口 規容子 1)
O-101
O-102
【目的】極低出生体重児において、身体発育のキャッ
チアップ(以下 CU)時期と知的予後との関係について
検討した。
【対象】1996 年 3 月~2000 年 8 月に当院を
生存退院した極低出生体重児 193 名のうち 6 歳の発達
検査を施行した 102 名中、重度後障害例 11 名を除いた
91 名を対象とした。対象者の在胎週数は 23~36 週、出
生体重は 458~1496g、うち在胎 27 週未満 14 名(15%)、
超低出生体重児 24 名(26%)、SGA 児 40 名(44%)で
あった。
【方法】1 歳 6 ヶ月・3 歳は新版 K 式発達検査、
6 歳・9 歳は WISC-III を用い、1 歳 6 ヶ月は修正月齢、
3 歳・6 歳は暦年齢で評価した。統計的には SPSS ソフ
トによる t 検定・カイ二乗検定を使用した。【成績】1
歳 6 ヶ月・3 歳・6 歳・9 歳時の発達検査が施行されて
いたのは、各々80 名・74 名・91 名・32 名で、6 歳時ま
でに CU が認められなかった 11 名を除く 80 名の CU 月
齢平均値は暦年齢 12.9±10.5 ヶ月。なお CU 月齢は、
体重が暦年令で標準成長曲線の 3 パーセンタイルに到
達した月齢とした。対象を CU 月齢 12 ヶ月未満の 46 名
(A 群、7.4±2.0 ヶ月)と、12 ヶ月以上の 45 名(B 群、
20.3±12.6 ヶ月以上)に分け各項目の平均値を比較し
た。B 群には 6 歳までに CU が認められなかった 11 名を
含む。A 群と B 群で、1 歳 6 ヶ月・3 歳・6 歳・9 歳いず
れの年齢においても全 DQ 又は FIQ 平均値に有意な差は
認めなかったが、CU 月齢 24 ヶ月で 2 群比較を行うと、
1 歳 6 ヶ月・6 歳で 24 ヶ月未満群の方が、有意に全 DQ
又は FIQ 平均値が高かった(p<0.05)
。A 群と B 群では、
在胎週数・SGA の比率については有意差がなかったが、
出生体重は A 群の方が有意に大きかった(p<0.01)
。
身長についても同様の検討を行ったが、身長の CU 月齢
が体重の CU 月齢とずれているため所属群が変化する例
は、91 名中 4 名のみで結果は全て体重の場合と同じで
あった。また頭囲については、22 名が出生時に標準成
長曲線の 10 パーセンタイル未満であったが、うち 20
名は修正 42 週までに CU していた。【結論】身体発育の
CU 時期が 12 ヶ月以上であっても 24 ヶ月未満であれば、
発達予後に与える影響は少ない可能性がある。
215
ドロップアウト例の検討から見たフォロ
ーアップ外来の問題点
帝京大学 医学部 小児科
○藤井 靖史、代田 道彦、内田 英夫、権東 雅宏、
星 順、柳川 幸重
極低出生体重児の就学前健診の時期に関
する検討
長野県立こども病院 リハビリテーション科 1、長野県
立こども病院 総合周産期母子医療センター 新生児
科2
○大沼 泰枝 1)、木原 秀樹 1)、依田 達也 2)、中村 友
彦 2)
【目的】当院では,ハイリスク児フォローアップ研究
会のプロトコールに従い,1998 年より修正 1 歳 6 ヶ月,
3 歳,6 歳,9 歳健診を実施してきた.6 歳健診で実施
された WISC-III 知能検査の結果は,就学指導の資料
として使用されることが多い.そこで当院では,就学
の準備に健診結果を有効に活用させるため,2005 年 4
月より,6 歳で行なっていた就学前健診を 5 歳半の時点
で実施している.今回は,健診を 6 歳で行なった群と 5
歳半で行なった群の知能検査結果を後方視的に比較
し,5 歳半で就学前健診を行なうことの意義について検
討した.
【方法】3 歳健診で実施された新版 K 式発達検査にて,
姿勢・運動,認知・適応,言語・社会の各領域の発達
指数が,80 以上の値を示した極低出生体重児を抽出し,
発達障害を有する児を除外した上で,6 歳 0 ヶ月±1 ヶ
月に健診をした 6 歳群(19 名)
,5 歳 6 ヶ月±1 ヶ月に
健診をした 5 歳半群(24 名)に群分けし,検討を行な
った.両群の出生体重,および 3 歳健診の新版 K 式発
達検査の各領域の発達指数は,t 検定の結果,有意差は
認められなかった.
【結果】以下の分析には,全て t 検定を用いた.1)知
能指数:言語性 IQ,動作性 IQ および全検査 IQ におい
て,6 歳群と 5 歳半群で有意差は認められなかった.2)
群指数:言語理解,知覚統合,注意記憶および処理速
度について,6 歳群と 5 歳半群で有意差は認められなか
った.3)下位検査:13 の下位検査それぞれについて,
検定を行った結果,絵画完成と絵画配列において 6 歳
群の方が 5 歳半群より評価点が高い傾向(p<.10)が
認められたが,有意差には至らなかった.
【結論】就学前健診を 6 歳で行った群と,5 歳半で行っ
た群では,WISC-III の結果に有意差は認められなかっ
た.そのため,3 歳健診で発達が標準範囲内にある対象
者に関しては,健診を早めることでの検査結果への影
響はないものと考えられる.健診を 6 歳時に行なって
いた間は,1 月~3 月生まれの児に対して,健診結果を
就学に活用できないといった問題があった.しかしな
がら,5 歳半の時点で健診を行うことで,小学校入学の
半年前までに健診を終えることができ,より早い段階
で保護者に検査結果をフィードバックすることが可能
となり,就学前の準備を行う時間的ゆとりができるも
のと考えられる.
O-103
O-104
【目的】効率の良いフォローアップ外来のあり方を考
えるために、当院のフォローアップ外来の問題点を検
討することを目的とした。
【対象】1998 年 4 月の開設以
来 2006 年 3 月までに当院 NICU に入院した 1579 名のう
ち、死亡例、神経合併症を有する基礎疾患合併例、在
胎週数不明を除く 1502 名(在胎 28 週未満 53 名、31
週未満 103 名、34 週未満 236 名、37 週未満 508 名、37
週以上 607 名)を対象とした。
【方法】フォローアップ
外来では、原則として1歳までに数回、1歳半、2歳
以降6歳までは1年毎に健診を実施している。発達検
査には遠城寺式乳幼児発達検査、田中ビネー検査、WISC
検査を用いている。ドロップアウトは診察予約日から
1年以上受診歴がないものとし、ドロップアウト時期
は最終外来受診時の修正月齢とした。在胎週数別に神
経発達予後とドロップアウト例の割合とその時期を比
較検討した。統計にはカイ二乗検定と回帰検定を用い、
P<0.05 を有意とした。
【結果】予後不良例(精神運動
発達遅滞、脳性麻痺)は全体で 84 名(5.6%)で、28
週未満 13 名(24.5%)
、31 週未満 14 名(13.6%)
、34 週
未満 16 名(6.8%)
、37 週未満 17 名(3.3%)
、37 週以上
24 名(4.0%)であった。診断時月齢の平均(SD)は、
精神発達遅滞 13.7(12.7)、粗大運動発達遅滞 10.0
(6.6)
、脳性麻痺 8.7(6.8)であった。一方、ドロッ
プアウト例は全体で 565 名(33.8%)で、在胎週数に
より頻度に差は認めないものの、在胎週数が短い程、
有意にドロップアウト時期は遅れており、在胎 28 週未
満で平均 30.9 ヶ月(SD24.1 ヶ月)であった。【考察】
NICU 退院後の児の 95%が健康に成長発達する中で、全
ての症例を6歳までフォローアップすることは現実的
には困難である。脳性麻痺を含めて運動発達障害は 24
ヶ月までに、また精神発達障害は 40 ヶ月までに 97%が
診断されている。現状では、最も予後不良例が多い在
胎 28 週未満でもドロップアウト例の半数が 39 ヶ月ま
で受診していることになり、運動障害の診断には対応
出来ていると思われる。今後、精神発達遅滞児の見落
としを少なくするために3歳半までのフォローアップ
外来の充実が課題になると思われた。また、3歳以前
に診断することが困難である軽度発達障害の診断のた
めに、乳幼児期の共同注意評価や言語発達、利き手の
評価が有用か否かを今後検討する予定である。
216
当院における SLE 母体児の発達予後につ
いての検討
順天堂大学医学部小児科・思春期科 1、順天堂大学医学
部産婦人科 2
○吉川 尚美 1)、今 紀子 1)、南風原 明子 1)、田中 恭
子 1)、大塚 宜一 1)、清水 俊明 1)、牧野 真太郎 2)、
田中 利隆 2)、伊藤 茂 2)、竹田 省 2)
【目的】全身性エリテマトーデス(以下 SLE)は、妊娠
中に活動性が増悪する例では流産や死産、胎児の発育
不良や早産となる例があり、また児の長期発達予後に
おいて学習障害の発症が多いとの報告もある。今回
我々は当院の SLE 母体分娩と当院で出生した SLE 母体
児の長期発達予後について検討を行った。
【対象】1988
年より 2006 年に当院産科で妊娠管理された SLE 母体と
その児【方法】SLE 母体の分娩について、出産年齢、在
胎週数、出生体重、死産または新生児死亡数を調べた。
また SLE 母体児の長期予後を検討するために、年齢に
応じた心理発達検査(0 歳~4 歳:Bayley 乳幼児発達検
査、4 歳~12 歳:K-ABC 心理教育アセスメントバッテリ
ー)と、さらに SLE に関連した各種抗体価を測定した。
【結果】19 年の SLE 母体分娩数はのべ 233 例であった。
母体平均年齢:31.5 歳、平均在胎週数:37 週 4 日、平
均出生体重:2563±129g、死産 4 例、新生児死亡 3 例、
新生児ループス発症 5 例であった。233 例のうち、早期
産 58 例、低出生体重児 72 例、子宮内発育不全 46 例で
あった。また対象例の中で心理発達検査を施行し得た
児は 22 名で、年齢 8 ヶ月~12 歳 9 ヶ月(男児:13 名、
女児:9 名)
、平均在胎週数 36 週 0 日、平均出生体重
2324±816gであった。Bayley 乳幼児発達検査施行例は
5 例で平均精神発達指数:94±9、平均運動発達指数:
96±17、K-ABC 心理発達バッテリー施行例は 17 例で平
均継次処理尺度:105±9.9、平均同時処理尺度:103±
13.7、平均認知処理尺度:106±12.3 といずれも正常範
囲の発達を認めた。血清学的検査では、抗核抗体陽性
者 10 名、抗カルジオリピン抗体陽性者 5 名、その他リ
ウマトイド因子、抗二本鎖 DNA 抗体、抗 SS-A 抗体、抗
SS-B 抗体は全例正常であった。
【考察】今回発達検査を
施行し得た SLE 母体児では順調な発達を認めた。しか
し、一方で症状がなくても抗核抗体、抗カルジオリピ
ン抗体陽性者が存在し、今後どのような経過観察をす
べきか検討が必要と思われた。
母体精神疾患を有する児の NICU 退院後の
社会的予後についての検討
飯塚病院 小児科 1、久留米大学 医学部 小児科 2
○井手 あやこ 1,2)、前野 泰樹 2)、須田 憲治 2)、松
石 豊次郎 2)
O-105
O-106
【はじめに】母体の精神疾患にて妊娠中に抗精神病薬
を内服している症例では、分娩後に新生児の薬物離脱
症候群や以後の発達についての管理が必要である。し
かし同時に、退院にあたって、精神疾患をもつ母親の
育児能力について検討が必要となることもしばしば経
験するが、退院後の育児状況についての報告は少ない。
実際に以前、当院で管理した「虐待」の症例について、
1年間 28 例の集計では、
(昨年の第 439 回福岡地方会
にて報告)5 例(18%)に母親の精神疾患を認めていた。
そこで今回、当院で周産期管理を行った精神疾患を有
する母親に関して、NICU 退院後の外来受診等を含めた
育児状況を後方視的に検討した。さらに、これらの児
や母親の今後のサポートについて考察を加えた。【対
象】H17 年 1 月から H18 年 12 月までの 2 年間に、母体
が精神疾患を有し抗精神病薬の内服加療を受けている
ために、出生後に当飯塚病院新生児センターにて入院
管理を行った 12 例を対象とした。母体精神疾患の内訳
は、統合失調症 4 例、うつ病 2 例、神経症 2 例、その
他の疾患が 4 例であった。
【結果】NICU 退院後の育児
は、2 例で乳児院への退院が一時検討されたが、家族の
協力があり、最終的には 12 例全員自宅に退院できてい
た。当院ソーシャルワーカーへの連絡は担当主治医の
判断で行うこととなっていたが、結果的には 12 例全例
がソーシャルワーカーの介入を受け、退院後保健師の
訪問を行っていた。退院後は 4 例(36%)が、4 ヶ月ま
でに外来定期受診を自主中止していた。特に覚醒剤使
用の既往のある母体では、退院後全く連絡が取れなく
なっていた。これら 4 例では、3 例が母子家庭であった。
しかし一方では、これら 4 例の症例のうち 3 例は、発
熱などの有症状時には、当院の救急外来を受診してい
た。外来の定期受診ができている 8 例に関しては、1
ヶ月および 4 ヶ月検診での体重増加および発達は良好
であった。
【結語】精神疾患を有する母親において、大
部分は外来を定期受診し、保健師などの訪問を受けな
がら、育児を行っていた。しかし、特に母子家庭など
の症例では外来定期受診が途切れることもあり、虐待
などのリスクとならないか、今後慎重に経過を追う必
要があると考えられた。一方、定期受診していない症
例でも救急外来は受診することも多く認め、経過観察
を継続して行く一つの足がかりになる機会にできる可
能性があると考えられた。
217
O-107
早産児の臍帯 milking の効果に関する研
究(第 3 報)3歳時での神経学的後障害と
身体発育
医学部 小児科 1、日本大学 医学部 産婦
O-108
日本大学
人科 2
通嘉 1)、岡田 知
○細野 茂春 1)、嶋田 優美 1)、湊
1)
1)
1)
雄 、麦島 秀雄 、高橋 滋 、原田 研介 1)、宮川
康司 2)、正岡 直樹 2)、山本 樹生 2)
[目的]臍帯の milking は循環の安定化、経管栄養の
許容と出生体重への復帰日齢が有意に早い事を報告し
た(Hosono S, et al. Arch Dis Child Fetal Neonatal
Ed. 2007 in press)。milking が神経学的発達および身
体発育に影響を及ぼすかどうかを検討した。[方法と
対象]2001 年から 2002 年の 2 年間に日本大学医学部付
属板橋病院産科に入院した妊娠 24 週以上 29 週未満で
出生し分娩前に milking の有無でランダム化した 40 例
中生存退院した 35 例を対象とした。神経学的後障害は
3歳時での精神運動発達遅滞、脳性麻痺、てんかん、
視力障害、聴力障害とした。 身体発育のキャッチア
ップは平成12年乳幼児身体発育調査報告書により作
成された発育曲線で-2SD 以上をキャッチアップとし
最終的に修正3歳で判定した。また3歳までの再入院
に関ついても検討をした。
[結果]対象の在胎週数と出
生体重は 26.7±1.4 週、862±195gであった。フォロ
ーアップ脱落は milking 群 18 例中2例、コントロール
群 17 例中2例であった。神経学的後障害は milking 群
16 例中3例(18.8%)、コントロール群15例中4例
(23.5%)と有意差は見られなかった。milking 群での体
重、身長の3歳児でのキャッチアップそれぞれ14例
(87.5%)、コントロール群13例(86.7%)で有意差は見
られなかった。milking 群、コントロール群の体重のキ
ャッチアップは修正6か月でそれぞれ8例(50.0%)、4
例(26.7%)、9か月で10例(62.5%)、8例(53.3%)、1
歳時で 12 例(75.0%)、11例(73.3%)で体重のキャッチ
アップは milking で早い傾向がみられた。再入院率は
milking 群3例(18.8%)でコントロール群5例(33.3%)
で有意差はなかった。[考案]修正6か月までは体重の
キャッチアップ率が milking 群で高い傾向が見られた
が、3歳時での神経学的後障害、身体発育と再入院率
について両群では有意差は見られなかった。長期予後
に関して milking 群がコントロール群と比較して劣る
点はなく、新生児期の輸血および血圧管理の優位性か
ら考えて臍帯の milking は考慮すべき治療と考えられ
た。
高乳酸血症の遷延の有無と、極低出生体重
児の 3 歳時における予後との関連
日本赤十字社医療センター 新生児科
○遠藤 大一、川上 義、与田 仁志、中島 やよひ、
山本 和歌子、矢代 健太郎、佐藤 美紀、青木 良
則、松村 好克
【緒言】高乳酸血症の遷延の有無と、極低出生体重児
の 3 歳時の予後との関連について検討したので報告す
る。
【対象と方法】2003 年 4 月~2004 年 3 月に当院に
入院した出生体重 1200g 以下の児のうち、(1)院外出生
例(2)死亡例(3)先天性 CMV 感染症を除いた 39 例で、3
歳までフォローアップ出来た 35 例を対象とした。血清
乳酸値は 4mmol/l 以上を高乳酸血症と定義し、出生か
ら退院迄の間に高乳酸血症が 24 時間以上遷延した症例
(遷延(+)群;11 例)と、遷延しなかった症例(遷延(-)
群;24 例)に分類し、高乳酸血症の遷延の有無と、3 歳
時の予後との関連について検討した。予後評価は、厚
生省研究班の 3 歳時の判定基準を参考にし、〔異常〕(1)
自立歩行が不可能な脳性麻痺(2)両眼失明(3)精神発達
遅滞:2 項目の DQ<70 + 1 項目の DQ<80、のいずれか
に該当する症例、〔境界〕(1)自立歩行が可能な脳性麻
痺(2)片眼失明(3)精神発達遅滞:1 項目の DQ<70 + 1
項目の DQ<80 または、3 項目の DQ<80、のいずれかに
該当する症例、
〔正常〕上記以外とし、異常・境界症例
を異常所見(+)症例、正常と判定した症例を異常所見
(-)症例とした。
【結果】異常所見(+)症例・異常所見(-)
症例の平均在胎期間・出生体重は 26.5±3.0vs29.6±
3.0 週・780.1±226.6vs925.9±209.6g であった。異常
所見(+)症例は 16 例(異常 11 例・境界 5 例)であり、異
常所見(-)症例(正常例)は 19 例であった。異常所見を
認めた症例は、遷延(+)群で 10/11 例(90.9%)であった
のに対し、遷延(-)群では 6/24 例(25.0%)であり、有
意差を認めていた(P<0.001)。また、異常所見の有無
に対する、高乳酸血症の遷延の感度・特異度は、それ
ぞれ 62.5%・94.7%であった。なお、在胎期間・出生
体重といった交絡因子の調整のために logistic 回帰分
析を用いて検討したところ、高乳酸血症の遷延の有無
が有意に選択されていた。
【結語】高乳酸血症(4mmol/l
以上)の遷延(24 時間以上)の有無を指標にすることに
より、3 歳の時点での異常症例は勿論、境界症例をも早
期に予測する事が可能と考えられ、フォローアップに
際し有用である思われた。
218
慢性肺疾患に対する短期少量ステロイド
投与と発達予後
川口市立医療センター 新生児集中治療科 1、東京医科
歯科大学 2
○山口 直人 1)、奥 起久子 1)、滝 敦子 1)、箕面嵜 至
宏 1)、島田 衣里子 1)、森丘 千夏子 1)、東 賢良 2)
【目的】川口市立医療センター新生児集中治療科では、
従来よりステロイドの副作用を考慮し、早産児の慢性
肺疾患に対してステロイドの予防投与は行わずに少量
投与を行ってきた。とくに 1999 年以降は重症慢性肺疾
患に対して抜管目的の DEX 少量短期投与(1クール:
DEX 初期量 0.1~0.2mg/kg/day、3~6 日間)を行い、不
応例については繰り返し投与を原則とした。この投与
量は 2002 年 2 月の AAP の勧告における推奨方法(DEX
初期量 0.2mg/kg/day、3~5 日の短期投与)とほぼ一致
している。1999 年から 2001 年に当院でステロイド少量
投与を行った症例における長期発達予後を後方視的に
検討し報告する。
【方法】1999 年から 2001 年に入院し
た在胎 26 週以下の超低出生体重児は 64 例、慢性肺疾
患は 28 例であった。このうち6歳時に WISC-R 発達検
査を施行した 19 例を対象として、ステロイド投与と長
期発達予後の関連について検討した。【結果】19 例中ス
テロイド投与を行った症例は 8 例、非投与例は 11 例で
あった。在胎週数、出生体重には有意差を認めなかっ
た。ステロイド投与開始時期は日齢 1~34 で、平均日
齢 28 であった。DEX 投与 3 クール以下、総投与量
1.5mg/kg 未満を少量投与群、4 クール以上、総投与量
1.5mg/kg 以上を中等量投与群とした。少量投与群は 5
例で平均総投与量 0.72mg/kg,投与開始日齢 10、中等量
投与群は 3 例で平均総投与量 3.02mg/kg,投与開始日齢
23 であった。6歳時 WISC-R 発達検査では、少量投与群
では、精神運動発達遅延(total IQ 70 未満)はなく,
境界(total IQ 70~84)1 例(20%)、正常(total IQ85 以
上)4 例(80%)、中等量投与群では精神運動発達遅滞 1
例(33%)
、境界 2 例(67%)、正常発達例はなかった。DEX
非投与群 では、発達遅延 2 例(18%),境界例 1 例(9%)、
正常発達例は 8 例(73%)であった.【考案と結語】慢性
肺疾患に対するステロイド投与症例において、DEX 総投
与量 1.5mg/kg 未満の少量短期投与症例では 5 例中 4 例
が 6 歳時の WISC-R 発達検査において正常発達であった
一方、DEX 総投与量 1.5mg/kg 以上の 3 症例では全例に
発達遅延がみられた。AAP が推奨している DEX 初期量
0.2mg/kg/day、3~5 日の短期投与では精神運動発達へ
の影響が少なくなる可能性があるが、症例数が少ない
ため,更なる検討が必要である。2002 年以降はステロ
イド吸入療法を導入しており、今後はこれを含めた検
討を行っていきたい。
当院におけるディベロップメンタルケア
の効果の検討
自治医科大学 小児科
○稲森 絵美子、本間 洋子、桃井 真里子
O-109
O-110
【はじめに】当院では過去10年間で、NICU 内の光や
音環境の改善を図り、ポジショニングやカンガルーケ
アを導入しながら、より赤ちゃんにやさしい環境作り
を心掛けてきた。これらのディベロップメンタルケア
は児の発達に寄与すると言われながらも、それを客観
的に評価した研究はまだ少ない。今回われわれは、NICU
で予定日を迎えた極低出生体重児の行動を、ブラゼル
トンの新生児行動評価尺度(NBAS)を用いて評価し、
ディベロップメンタルケア導入の効果について検討し
た。
【方法】対象は、1998年12月から1999年
7月までの間に当院 NICU に入院していた8名の極低出
生体重児(前期群)
、及び2006年12月から200
7年3月に入院していた極低出生体重児8名(後期群)
で、それぞれ週数と体重が近いものをマッチドペアー
とし、予定日前後に NBAS を施行した結果を比較した。
また、同時期に保育器に収容されていた児、それぞれ
6名についても、NBAS の「慣れ現象」のクラスターの
みを施行し、同様に比較した。
【結果】NBAS の6つのク
ラスターそれぞれについて、評価点を前期群と後期群
で比較したところ、統計学上有意な差は認められなか
った。保育器内の「慣れ現象」の結果についても同様
であった。マッチドペアー間で前期よりも後期の児の
評価が上がっていた組数は、「方位反応」で5/8、
「運動」で3/8、「状態の幅」で5/8、「状態の調
整」で5/8、
「自律系の安定性」で4/8であった。
【考察】NBAS は、個々の児の行動特性を、児と検査者
の関係性の中で動的に捉えるのに適したツールだと言
える。今回の研究では、前期群と後期群でそれぞれ8
名と例数が少なかったため、結果はディベロップメン
タルケアの効果よりも、個々の児の特性をより強く反
映していたのではないかと考えられる。また、NBAS の
「方位反応」「状態の幅」「状態の調整」のクラスター
は、児と環境との係わりの質により鋭敏に反応するク
ラスターではないかと考えられた。今後、続けて研究
を進めていきたい。
219
低置胎盤:胎盤-内子宮口間距離が21m
m以上あれば経腟分娩は安全か?
自治医科大学 1、芳賀 2
○吉川 仁 1)、大口 昭英 1)、渡辺 尚 2)、薄井 里英
1)
、桑田 知之 1)、高橋 佳代 1)、泉 章夫 1)、松原 茂
樹 1)、鈴木 光明 1)
低置胎盤とは、内子宮口と胎盤との距離が 20mm 以下と
するのが臨床的に適切、とする報告が多い。しかし、
これまでの 21mm以上の低置胎盤症例を扱った報告で
は、主に帝王切開率に焦点が当てられていて、出血量
に焦点を当てた報告はまだ少ない。方法:当院 15 年間
の低置胎盤例で、分娩前 3 週間以内に超音波で内子宮
口と胎盤との距離を計測しえた 75 例(4~36mm 4~
20mm:39 例 21~36mm:36 例)の分娩様式、分娩
時出血量について検討した。出血量については、帝切・
経腟を区別した。また、それぞれの低置胎盤例の後に
分娩となった非低・前置胎盤を 2 例ずつ、計 150 例を
コントロール群とし、低置胎盤群と比較した。結果:
分娩様式:緊急帝切率は、内子宮口と胎盤との距離 4
~20mmで 41%(16/39)
、21~36mmで 31%(11/
36)であり、有意差を認めなかった。分娩時出血量:
帝切・経腟とも、低置胎盤群はコントロール群に比べ
出血量は有意に多かった(帝切群(n=49):1338±591
vs. 880±425、p=0.013;経腟群(n=26):689±585 vs.
346±210、p=0.009)
。また、経膣で 1000ml 以上出血
した率は内子宮口と胎盤との距離 4~20mmで 50%(5
/10)、21-36mmで 13%(2/16)(p=0.06)
、減少す
る傾向はみられたが、有意差には至らなかった。結論:
内子宮口と胎盤との距離が 21~36mm でも、緊急帝王切
開率は約 3 割、また経腟での 1000ml 以上の出血率は約
1 割認めた。21mm 以上でも、リスクは消失しないこと
を認識する必要がある。
症例報告:前置胎盤および癒着胎盤合併の
妊娠中期中絶
長崎大学 医学部 産婦人科 1、五島中央病院 2
○中山 大介 1)、吉村 秀一郎 2)、三浦 清徳 1)、吉田
敦 1)、増崎 英明 1)
O-111
O-112
【はじめに】妊娠中期における前置胎盤の頻度は 2~
6%と比較的高い。前置胎盤を合併した例に中期中絶を
行う場合どのような異常が発生しやすいかに関する報
告は少ないが、手術の安全性は前置胎盤がない例と同
等であることが示唆されている。しかし前置胎盤の中
期中絶における術中出血量は症例による差が大きく、
ときに大量出血のために輸血さらには子宮全摘術を余
儀なくされる例がある。症例毎に出血量が大きく異な
る機序は不明であるが、なんらかのプラスアルファが
大量出血に関与している可能性がある。今回、妊娠 18
週に妊娠中絶手術を受けた前置胎盤例を報告する。術
中の出血がコントロールできず子宮全摘術を行った。
大量出血をもたらした要因について考察する。
【症例】
症例は 31 歳、2 回経妊1回経産婦。27 歳のとき骨盤位
のため帝王切開術を受け、30 歳のとき妊娠 5 週で自然
流産を経験した。今回頸管無力症のため妊娠 13 週 4 日
Shirodkar 手術を受けた。子宮前壁に径 4 cm の筋腫結
節がみとめられた。妊娠 16 週 5 日退院したが妊娠 18
週3日破水して再入院した。子宮内感染の所見があり、
超音波検査では前壁から内子宮口を覆う前置胎盤を認
めた。Shirodkar 糸を抜糸して翌日まで経過を観察した
が分娩の進行がみられないためラミナリア桿で頸管を
拡張後全身麻酔下に子宮内容除去術を行った。胎盤の
剥離は困難で、術中出血量は 4,000 ml に達した。濃厚
赤血球、新鮮凍結血漿、および血小板を輸血した。術
後も出血が持続し大量の輸血にも関わらず貧血が改善
しないため開腹した。胎盤付着部位の子宮筋層は菲薄
化し、前回の帝王切開創は離開していた。同部が主な
出血源であった。止血は困難であり子宮全摘術を行っ
た。術中出血量は 3,100 ml であった。組織学的には離
開した帝王切開創の部分に古い縫合糸と胎盤組織がみ
とめられた。帝王切開の瘢痕部に癒着胎盤が発生した
ものと考えられた。
【考察】前置胎盤合併例に対する中
期中絶は従来の報告では比較的安全とされているもの
の、今回のような例に遭遇することもある。本例でコ
ントロール不能の出血をもたらした要因として子宮筋
腫あるいは子宮内感染の存在も考えられるが第 1 は癒
着胎盤であろう。癒着胎盤の多くは妊娠中期に超音波
検査で診断できるとの報告がある。中期中絶において
も癒着胎盤を常に念頭に置いて術前評価を行う必要が
ある。
220
過去 10 年間の当科における前置胎盤につ
いての検討
香川大学 医学部 母子科学講座 周産期学婦人科学
○金西 賢治、犬走 英介、花岡 有為子、山城 千
珠、田中 宏和、柳原 敏宏、秦 利之
はじめに;前置胎盤は妊娠経過中に大量出血を合併す
ることが多く、しばしば妊産婦死亡の原因にもなり、
慎重な周産期管理を必要とする合併症である。我が国
においても妊産婦管理や分娩管理に対する世間の認識
はマスコミを含め、より安全なお産を求める風潮が高
まっており、今後その管理は、よりいっそう重要なも
のになっている。今回我々は、過去 10 年間に経験した
前置胎盤(一部低置胎盤)症例の診断および管理につい
て検討した。対象;1997 年から 2006 年までの 10 年間
に当科で管理した 22 週以降の総分娩数 2950 例中、多
胎妊娠例を除外した前置胎盤症例 24 例(0.8%)を対象に
した。経腟超音波法にて内子宮口にかかる胎盤所見に
より全例診断した。低置胎盤(胎盤辺縁から内子宮口ま
での距離が 1cm 未満)と診断し、出血にて帝王切開に至
った 3 例もこれに含めた。結果;母体の平均年齢は 31
歳で、分娩時期の平均は妊娠 35 週であった。出血によ
る緊急母体搬送例は 14 例、その平均は妊娠 32 週であ
った。母体死亡はなく、術中の出血コントロール困難
で子宮全摘を施行したものは 2 例であった。2 例とも前
回帝王切開の既往があり、術前の超音波では静脈など
の血管努張や血流増加などの所見はなかった。全例帝
王切開を施行し、術中出血量の平均は 2554.5g であっ
たが、子宮全摘術を行った 2 例でそれぞれ 15747g と
9141g であり、この 2 例を除外すると術中出血量の平均
は 2245.6g であった。妊娠経過中の出血の有無、母体
搬送の有無と帝王切開時の出血量の間に差は認められ
なかった。術中癒着胎盤が考えられ用手的に剥離した
ものが 2 例、そのうち子宮全摘したのは 1 例で他の 1
例は輸血を行ったが子宮は温存可能であった。結論;
現段階では超音波診断などによる術前癒着胎盤の有無
の診断は困難であった。術前の十分な説明や自己血貯
血など準備が重要であり、術中の所見や出血量などで
出血のコントロールと合わせて、適切な時期に子宮全
摘の判断を行うことが母体救命の要因と考えられた。
O-113
O-114
前置胎盤の術中出血に関する臨床的検討
大分県立病院 総合周産期母子医療センター 産科
○馬場 眞澄、佐藤 昌司、豊福 一輝、軸丸 三枝
子、嶺 真一郎、山口 裕子
【目的】前置胎盤の術中出血に関してはその量の予測
をすることは容易なことでなく、輸血及び人的準備を
いかにするかは重要な救命要素になる。前置胎盤の術
中出血量の予測に関しては、経膣超音波法やMRIに
よる画像診断の有用性が数多く報告されているが、今
回、すべての産科施設で可能な検査や問診のみで、出
血の重篤度の予想が可能かどうかを検討した。
【方法】
1991 年 1 月から 2006 年 12 月までの 16 年間、当科で取
り扱った前置胎盤症例 134 例を検討対象とした。術前
に把握できる患者データとして、1)年齢、2)経産回数、
3)既往帝切回数、4)分娩週数、5)母体搬送の有無、6)
手術の緊急度、7)妊娠中出血量、8)胎盤の付着部位の
8項目を挙げて多変量解析し、リスクファクターを抽
出した。その結果から出血の危険度を3段階に設定、
再度上記 134 例について検討した。
【成績】術中出血量
を規定する項目は既往帝切回数と胎盤の付着部位の2
項目であった。既往帝切回数が多いほど出血は多く、
子宮切開部に胎盤が付着している方の出血が多いこと
が判明した。この結果を組み合わせて危険度を3段階
に設定した。当科 134 症例に照合したところ、危険度
1(軽度)は症例数 96 例、同種血輸血率 3.1%、平均
出血量 1039ml、危険度2(中等度)は症例数 30 例、同
種血輸血率 10%、平均出血量 1331ml、危険度3(高度)
は症例数 8 例、同種血輸血率 62.5%、子宮摘除の割合
は 50%、平均出血量 5347ml であった。【結論】危険度
が上がる毎に出血が重篤化することが判明したが、前
置胎盤の帝王切開においてはすべての症例に対し、自
己血輸血の準備をしておく必要があると思われる。特
に危険度3すなわち既往帝切であり、子宮切開部位に
胎盤が付着している症例では子宮摘除の確率が 50%あ
り、自己血輸血のみならず同種血輸血も充分量準備す
るだけでなく、単純子宮全摘や骨盤内血管の処置に熟
練した人材の確保も必要であると思われる。
221
O-115
当センターでの分娩・産褥期の同種血輸血
の現況
ショック指数を用いた分娩後大出血母体
搬送例の評価
-搬送元報告出血量は正
確か?自治医科大学 産婦人科
○廣瀬 典子、薄井 里英、大口 昭英、桑田 知之、
馬場 洋介、吉川 仁、渡辺 尚、泉 章夫、松原 茂
樹、鈴木 光明
【目的】当院は年間約 200 の母体搬送を受け入れ、う
ち 10%強は分娩後搬送で、多くが産科大出血である。
大出血搬送では、搬送元は大混乱だった可能性が高く、
搬送元の報告出血量が正確か否かに一抹の危惧があ
る。以下 2 点の解明を企図した。1)どんな疾患が産褥
出血搬送されているか?各疾患での報告出血量とショ
ック指数(以下指数;脈拍数/収縮期血圧)に差異は
あるか?2)報告出血量と指数との関連から推定できる
範囲で、搬送元の報告出血量は正確だったといえる
か?【方法】2002-2005 年の 4 年間に当院に分娩後搬送
された 77 例のうち、大出血 44 例が対象。1)疾患別報
告出血量と当院到着時ショック指数、および疾患別輸
血・子宮摘出術率を調査。2)報告出血量と指数との関
連を検討。それに基づき報告出血量が正確か否かを評
価した。
【成績】疾患は多い順に胎盤遺残 17 例、弛緩
出血 15、産道裂傷 6、子宮内反 4、直腸出血 1、常位胎
盤早剥 1 例で、合計 44 例。1)疾患別報告出血量/ショ
ッ ク 指 数 は 、 胎 盤 遺 残 1112ml/0.78 、 弛 緩 出 血
2023/0.84、産道裂傷 1103/0.87、子宮内反 2190/1.71。
輸血と子宮摘出率は胎盤遺残 29%と 11%(5 例と 2 例
/17)、弛緩出血 26%と 0%(4 例と 0 例/15)、産道裂傷
14%と 0%(2 例と 0 例/14)、子宮内反 100%と 25%(4 例
と 1 例/4)であり、母体死亡なし。次に疾患別ではなく、
全 44 例をまとめて検討したところ、2)報告出血量は、
<1000ml が 25%(11 例)、1000~2000 が 50%(22 例)、>
2000 が 25%(11 例)。指数については、~1.0 は 34 例
(77%)、1~1.5 が 6(13%)、1.5~2 が 2(5%)、2~が 2(5%)
であった。指数1以上の 10 例(6+2+2)のうち 7 例
(70%;7/10)で、報告出血量は指数相当で、残り 3
例(30%;3/10)では指数推定出血量よりも報告出血
量が少ない(過少報告)と判定されたが、この 3 例も
指数 0.5 以上の解離はなかった。また報告出血量が
2000ml 以上でも指数1未満の症例が 6/11 例(54%)あ
り、この 6 例は搬送元で補液が相当量施行されていた。
【結論】分娩後(産褥)搬送の疾患別構成と出血状況
が明示された。ショック指数から判定する限り、出血
量は搬送元でほぼ正確に把握・報告されているものと
判断された。
O-116
聖隷浜松病院 総合周産期母子医療センター 産科
○松下 充、成瀬 寛夫、中島 紗織、黒崎 亮、三
宅 法子、神農 隆、石井 桂介、村越 毅、鳥居 裕
一
【目的】地域の中核病院としてハイリスク妊娠を数多
く扱っている当センターでの同種血輸血の現況を明ら
かにする。
【対象】2000 年 4 月から 2005 年 3 月に、当院で分娩・
産褥管理をを行い、同種血輸血を施行した 57 例を対象
とした。対象血液製剤は、赤血球濃厚液(MAP)、新鮮凍
結血漿(FFP)、濃厚血小板(PC)とした。
【方法】疾患毎に、血液製剤の種類および輸血量、
FFP/MAP 比を検討した。
【結果】(1)全体では、MAP 輸血は 64 名に 492 単位、FFP
輸血は 46 名に 830 単位、PC 輸血は 8 名に 130 単位が使
用された。FFP/MAP 比は 1.85 であった。
(2) 疾患の内訳は、常位胎盤早期剥離:16 例、前置・低
置胎盤:16 例、弛緩出血:5 例、膣壁血腫:4 例、頸管裂
傷:1 例、子宮破裂:1 例、妊娠高血圧症候群:1 例、HELLP
症候群 1 例、急性妊娠脂肪肝:1 例、血液疾患合併妊娠:3
例、その他:8 例であった。
(3)常位胎盤早期剥離 16 例中、MAP 輸血は 15 名に 110
単位、FFP 輸血は 15 名に 240 単位、PC 輸血は 2 名に 30
単位が使用された。FFP/MAP 比は 2.18 であった。
(4)前置・低置胎盤 16 例中、MAP 輸血は 16 名に 146 単
位、FFP 輸血は 12 名に 142 単位、PC 輸血は 1 名に 20
単位が使用された。FFP/MAP 比は 0.97 であった。
(5)弛緩出血は 5 例で、MAP 輸血は 5 名に 39 単位、FFP
輸血は 4 名に 42 単位、PC 輸血は 1 名に 20 単位が使用
された。FFP/MAP 比は 1.08 であった。
(6)膣壁血腫は 4 例で、MAP 輸血は 4 名に 58 単位、FFP
輸血は 2 名に 50 単位、PC 輸血は行われてなかった。
FFP/MAP 比は 1.08 であった。
【結語】分娩産褥管理中に同種血輸血を行う際には、
凝固因子の補充が必要となることが多い。当センター
での同種血輸血例においても、原因疾患によりばらつ
きはあるものの、FFP/MAP 比は 0.80 よりも高い結果と
なった。
222
当センターでの常位胎盤早期剥離と同種
血輸血の検討
聖隷浜松病院 総合周産期母子医療センター 産科
○松下 充、成瀬 寛夫、中島 紗織、黒崎 亮、三
宅 法子、神農 隆、石井 桂介、村越 毅、鳥居 裕
一
分娩周辺期の大量出血で輸血を要した症
例に関する臨床的検討
聖マリアンナ医科大学 産婦人科 1、聖マリアンナ医科
大学横浜市西部病院 2
○五十嵐 豪 1)、井槌 慎一郎 1)、細沼 信示 1)、杉下
陽堂 1)、奥津 由記 1)、中村 千春 2)、中村 真 1)、斉
藤 寿一郎 2)、石塚 文平 1)
分娩周辺期の大量出血は、医療レベルの向上により
年々減少している妊産婦死亡原因の中で明らかな減少
がなく、近年の妊産婦死亡の主因ともなっている病態
である。そこで今回我々は、聖マリアンナ医科大学病
院において 2004 年 1 月から 2005 年 12 月までの 2 年間
に分娩周辺期の大量出血で輸血を施行した症例につい
て検討した。2 年間の分娩総数は 1020 例(帝王切開 443
例;43.4%)であり、自己血を含め輸血を行った症例は
21 例(2%)であった。21 症例の疾患別内訳は、常位胎盤
早期剥離がもっとも多く 9 例(42.9%)、前置胎盤(うち 2
例は癒着胎盤)が 5 例(23.8%)、
弛緩出血が 4 例(19.0%)、
その他 3 例(14.3%)で、双胎妊娠は 1 例(4.3%)であった。
その中で前置胎盤および癒着胎盤であった 2 例(9.6%)
が単純子宮全摘術を行っている。また、出血のコント
ロールが得られず UAE(子宮動脈塞栓術)を施行したの
は 3 例(14.3%)であった.(常位胎盤早期剥離にて帝王切
開後 2 例、経膣分娩後弛緩出血 1 例) 21 症例中最も
大量の輸血を要した症例は、常位胎盤早期剥離で緊急
帝王切開を行い、術後出血に対し UAE を施行したがコ
ントロールがつかず最終的に単純子宮全摘術を施行し
た症例であり、総輸血量は赤血球濃厚液(MAP) 96 単位、
血小板濃厚液(PC) 174 単位、新鮮凍結血漿(FFP) 140
単位であった。21 症例のうち妊娠初~中期から当院で
管理されていた症例は 10 例(47.6%)であった。(前置胎
盤 4 例、常位胎盤早期剥離 3 例、弛緩出血 1 例、
その他 2 例) 一方、出血症状により緊急搬送となった
症例は 11 例(52.4%)であり(常位胎盤早期剥離 6 例、
弛緩出血 3 例、前置胎盤 1 例、PIH+ネフローゼ症
候群 1 例) 弛緩出血以外のすべてが緊急帝王切開分
娩であった。今回の 21 症例ついては、母体救命のため
に子宮摘出を必要とした症例が 2 例あったが幸い全例
において母体救命は可能であった。分娩周辺期の大量
出血症例に対しては、的確な診断およびそれに対する
迅速な初期対応が肝要であり、その際、個々の病態に
基づき、輸血のみならず、UAE、子宮全摘等の外科的処
置も母体救命のための選択肢のひとつとして考慮され
るべきであろう。
O-117
O-118
【目的】当センターで取り扱った常位胎盤早期剥離の
現況を明らかにする。
【方法】2000 年 4 月から 2005 年 3 月に、当院で分娩・
産褥管理を行った常位胎盤剥離例を後方視的に調査し
た。調査項目は、(1)母体搬送の有無、2)子宮内胎児死
亡の有無、(3)出血量、(4)妊娠高血圧症候群合併の有
無、(5)分娩週数、(6)DIC 合併の有無、(7)治療法であ
る。同種血輸血施行群(A 群)と同種血輸血無施行群(B
群)に分け、群間の比較には t-検定を用い、p<0.05 を
有意差ありと判断した。
【成績】(1)当該期間中の常位胎盤早期剥例は 47 例で
あった。緊急母体搬送例は 28 例(59.6%)であった。同
種血輸血が 16 例で、抗 DIC 療法が 27 例で施行された。
(2)同種血輸血を施行した 16 例中、濃厚赤血球(MAP)輸
血は 15 名に 110 単位、新鮮凍結血漿(FFP)輸血は 15 名
に 240 単位、PC 輸血は 2 名に 30 単位が使用された。
FFP/MAP 比 は 2.18 であった。
(3)分娩週数は、A 群 32.4±6.9,B 群 34.7±4.2 で両群
間で有意差を認めなかった。緊急母体搬送は、A 群 19
例,B 群 9 例で両群間で有意差を認めなかった。妊娠高
血圧症候群は、A 群 6 例,B 群 2 例で両群間で有意差を
認めなかった。子宮内胎児死亡は、A 群 0 例,B 群 10 例
で両群間で有意差が認められた。
臍帯血 pH は、
A 群 7.17
±0.03,B 群 6.90±0.03 で両群間で有意差が認められ
た。出血量は、A 群 841±410g,B 群 1478±800g で両群
間で有意差が認められた。産科 DIC 診断基準で 8 点以
上の例は、A 群 1 例,B 群 15 例で、両群間で有意差が認
められた。
【結論】同種血輸血を必要とする様な常位胎盤早期剥
離例では、凝固因子の補充が必要となることが多い。
そのため、当センターでも MAP に比して FFP の投与量
が多くなると考えられた。
223
子宮内反症に対する緊急子宮弛緩~3 例
の症例報告をふまえて~
聖隷浜松病院 麻酔科 1、聖隷浜松病院 産科 2
○黒崎 亮 1)、入駒 慎吾 1)、三宅 法子 1)、小久保 荘
太郎 1)、松下 充 2)、神農 隆 2)、石井 桂介 2)、村越
毅 2)、成瀬 寛夫 2)、鳥居 裕一 2)
【緒言】子宮内反症は、子宮体部が内方に反転して頸
管内に下降したり腟内あるいは腟外に脱出し、子宮内
膜面が外方に内転するもので、分娩第 3 期の臍帯の過
剰な牽引が原因とされている。脱出の程度により完全
内反症、不全内反症、子宮圧痕に分類される。
2,000-20,000 分娩に 1 例の頻度で発生する比較的稀な
産科合併症ではあるが、対応が遅れると大量出血・シ
ョックのため母体死亡に至ることもあり、早急な対応
が必要である。今回我々は、3 例の子宮内反症を経験し
たので報告する。
【症例 1】28 歳、0 妊 0 産。妊娠 38
週 5 日、正常経腟分娩にて 2782g の男児を娩出した。
胎盤娩出時に突然の腹痛を訴え、完全子宮内反症と診
断した。直ちに分娩部内の手術室に搬送し、セボフル
レン吸入下に用手的整復を行った。分娩時総出血量は
1666g で、輸血は必要なかった。20 ヶ月後、第 2 子を
分娩したが、その際は子宮内反をおこすことはなかっ
た。
【症例 2】34 歳、3 妊 2 産。妊娠 41 週 2 日、続発性
微弱陣痛のためオキシトシンによる陣痛促進を行い、
3382g の女児を経腟分娩した。30 分経過しても胎盤娩
出に至らず、用手剥離を行ったところ子宮の一部が内
反し、不全子宮内反症と診断した。分娩台にてただち
にニトログリセリンの静脈内投与を行い、用手整復を
行った。分娩時総出血量は 593g であった。
【症例 3】33
歳、0 妊 0 産。妊娠 41 週 4 日、正常経腟分娩にて 3836g
の女児を娩出した。胎盤娩出時に突然腹痛を訴え、完
全子宮内反症を発症、直ちに分娩部内の手術室に搬送
され、ニトログリセリンの静脈内投与を行い、用手整
復を行った。分娩時総出血量は 628g であった。
【考察】
子宮内反症では、大量出血、ショック状態に陥る症例
が少なからず存在するが、今回報告した 3 症例はいず
れも大きな合併症なく整復を得ることができた。要因
として、用手整復が速やかに行えたことが挙げられる。
そうした対応を実現するためには、産科医、助産師だ
けでなく麻酔科医を含めた応援をできるだけ多く集
め、可及的速やかに子宮弛緩を得、用手整復までの時
間を可能な限り短縮させることが必要であると考えら
れた。
短時間の十分な子宮弛緩が必要な際のニ
トログリセリンの使用経験
総合母子保健センター愛育病院 産婦人科
○竹田 善治、安達 知子、中山 摂子、中林 正雄
O-119
O-120
【目的】 臍帯ヘルニアなど特に愛護的に児を娩出す
る必要がある場合や横位の帝王切開,子宮内反症,胎
盤嵌頓などでは,短時間に十分な子宮弛緩を得ること
がより侵襲の少ない処置を行う点で望ましい.これら
の症例に対しニトログリセリン(NTG)の静注を行うこ
とで,十分な子宮弛緩を得て安全に目的を達すること
ができた 4 症例を報告する.【症例 1】38 才 G1P1 妊
娠 39 週 2 日陣発入院時横位と診断.第 3-4 腰椎間より
0.5%塩酸ブピバカイン(BPV)2.4ml による腰椎麻酔を
行い緊急帝王切開術施行.子宮下節を横切開し破膜後
内転を試みたが不可.そこで NTG100μg を静注し,再
度試行,30 秒後 100μg 追加投与したところで成功し,
骨盤位で 2912g の児を Apgar9/9(1 分後/5 分後)
,臍帯
動脈血 pH は 7.30 で娩出.母体血圧低下は 15mmHg であ
った.出血量 806g,術後経過は順調.【症例 2】40 才
G0P0 妊娠 41 週 3 日微弱陣痛のためプロスタグラン
ジン併用し経腟分娩.胎盤娩出後内診にて反転した子
宮内腔を触知し経腹超音波断層法にて子宮内反症と診
断.直ちにペンタゾシン 30mg,塩酸ケタミン 30mg を静
注し整復を試みるも子宮は硬く,整復不能であった.
そこで NTG を 100μg 静注し 2 分後に再度整復を試みた
ところ,容易に子宮内腔は押し込まれ 1 分以内に整復
に成功した.総出血量 1210g,母体血圧低下は 10mmHg
であった.
【症例 3】35 才 G3P2 妊娠 11 週より胎児
臍帯ヘルニアを指摘され,妊娠 36 週選択的帝王切開施
行.第 3-4 腰椎間より 0.5%BPV2.4ml による腰椎麻酔
を用い,子宮切開の直前に NTG を 100μg 静注.下節横
切開し 2526gの児を抵抗無くスムースに娩出.臍帯ヘ
ルニアは径 6 センチ大で破綻はなかった.
【症例 4】40
才 G0P0 妊娠 41 週 2 日正常分娩後,癒着胎盤疑いの
ため産褥母体搬送入院.分娩後 13 時間経過した時点で
第 2-3 腰椎間より 0.5%BPV2.0ml による腰椎麻酔を行
い胎盤用手剥離開始.しかし子宮口が狭く,NTG を計
400μg 投与した時点で子宮内腔に手が入り胎盤を完全
に除去できた.
【考察】 NTG は低血圧麻酔などに使用
される薬剤であるが,強力な子宮筋弛緩作用を有する
ことが知られている.提示した症例は通常の麻酔のみ
では処置が困難であったため,適応外の旨を説明,同
意を得て投与を行い目的を達することができた.また
投与に伴う低血圧や,弛緩出血,胎児への悪影響など
の副作用は認めなかった.NTG の併用は短時間に急速な
子宮弛緩が必要な場合に有用であると考えられた.
224
当科での VBAC と腹腔鏡下筋腫核出術後の
経腟分娩における分娩予後の比較検討
順天堂大学医学部附属順天堂医院 産婦人科
○牧野 真太郎、伊藤 茂、熊切 順、田中 利隆、
薪田 も恵、米本 寿志、竹田 省
O-121
O-122
鉗子分娩の合併症に関する検討
香川大学 医学部 母子科学講座 周産期学婦人科学
1
、内海病院 産婦人科 2
○田中 宏和 1)、秦 利之 1)、柳原 敏宏 1)、山城 千
珠 1)、金西 賢治 1)、花岡 有為子 1)、犬走 英介 1)、
林 敬二 2)
目的 近年,鉗子分娩の有用性が見直されるようにな
ってきた。そこで鉗子分娩症例を統計的に分析し,鉗
子遂娩術と合併症の関連について検討した。方法
1983 年の開院~2006 年 12 月までの全分娩数(22 週以
降)6082 例のうち,実施された鉗子分娩症例(558 例)
について,鉗子遂娩術の様式と合併症の関係を分析し
た。 母体合併症は,頭位単胎に実施された症例につ
いて,また出血量の検討では,頭位単胎で弛緩出血を
除外した症例について検討した。成績 頭位単胎の鉗
子分娩症例(542 例)の内訳は,高位・中位鉗子分娩が
89 例,低位・出口部鉗子分娩が 453 例であった。また
鉗子分娩の適応は,胎児ジストレスが 389 例,分娩停
止が 111 例,予防鉗子が 42 例であった。このうち,母
体合併症は子宮頚管裂傷が 16 例(高位・中位-9 例,低
位出口-7 例)
,腟壁裂傷が 52 例(高位・中位-13 例,
低位出口-39 例)
,3度以上の会陰裂傷が 16 例(高位・
中位-2 例,低位出口-14 例)
,膀胱麻痺が 9 例(高位・
中位-3 例,低位出口-6 例)認められた。頚管裂傷につ
いては中位以上の鉗子分娩で有意に多く認められた
が,他の母体損傷では,鉗子分娩の実施位置で有意差
は認められなかった。適応に関しては,分娩停止で有
意に3度以上の会陰裂傷が多かったが,他の母体損傷
では有意差を認めなかった。 母体の出血は,頭位単
胎で弛緩出血を除外した症例(518 例)のうち,500ml
以上が 246 例,800ml 以上が 84 例,1000ml 以上が 38
例であり,それぞれ正常分娩に比して有意に多いこと
が確認された。鉗子の実施位置に関する検討では,低
位以下の鉗子分娩症例に対し中位以上の鉗子分娩で有
意に多かった。また適応との関連では,分娩停止で多
量の出血例が有意に多く,胎児ジストレスで少なかっ
た。なお,輸血を要した症例は 2 例であった。 新生
児合併症については,2 例でくも膜下血腫を認め,1 例
に顔面神経麻痺を認めた。各症例ともに保存的治療に
て軽快した。その他重篤な新生児合併症は認めなかっ
た。結論 鉗子分娩は,母児に後遺症を残す様な重篤
な合併症をきたす事は少ない。しかし母体の軟産道損
傷の発生率は高くなり,出血も多くなる。したがって
実施に際しては,輸液路の確保を行うなど十分な準備
の上で実施すべきである。
<緒言>VBAC(vaginal birth after cesarean section)
については、現在その適応について多くの検討がなさ
れている。当科では、前回帝王切開術が早産でないこ
と、子宮下部横切開かつ子宮筋層が 2 層縫合されてい
ること、術後に創部の感染や出血を認めなかったこと、
児が単胎で巨大児でないこと、自然陣痛発来(陣痛誘発
は行わない)などの要約を満たした症例に対して、イン
フォームド・コンセントのうえ VBAC を行ってきた。ま
た近年の腹腔鏡下手術の増加に伴い、腹腔鏡下子宮筋
腫 術 後 の 妊 婦 の 分 娩 (VBALM: vaginal birth after
laparoscopic myomectomy)の取り扱いについて、当科
での手術であることを原則として VBAC に準じた要約を
定め経腟分娩を行ってきた。今回、当科で行った VBAC
と VBALM の分娩予後について比較検討したので報告す
る。<対象と方法>当科で過去 5 年間に扱った分娩
3279 例のうち、前回帝王切開妊娠は 218 例、腹腔鏡下
子宮筋腫核出後妊娠は 109 例であった。そのうち、VBAC
もしくは VBALM の適応と診断され患者の希望があった
のは、経腟分娩の方針で管理を行ったのはそれぞれ 32
例、72 例であった。これらの症例ついて比較検討した。
検討項目は分娩時の妊娠週数、母体年齢、児の出生体
重、Apgar score、臍帯動脈血 pH、帝王切開率とその適
応とした。<結果>両群での分娩時の妊娠週数、母体
年齢、児の出生体重、Apgar score、臍帯動脈血 pH に
有意な差は認められなかった。帝王切開率は VBAC32 例
中 2 例(6.5%)、VBALM72 例中 14 例(19.4%)であり、VBALM
において高い傾向があったが有意差はなかった(p=
0.09)。帝王切開の適応は VBAC2 例とも分娩停止、
VBALM14 例中、分娩停止が 6 例、予定日超過は 8 例であ
り、VBALM で有意に予定日超過による帝王切開が多かっ
た(P=0.046)。<考察>今回我々は当科で行った VBAC
と VBALM の分娩予後を比較し、その帝王切開率で有意
な差を認めなかった。しかし、予定日超過に関しては
VBALM で有意に多く、腹式帝王切開術の子宮下部横切開
に比べ子宮体部筋層の切開を必要とする腹腔鏡下筋腫
核出術では陣痛発来のメカニズムに対する影響がある
可能性が示唆された。
225
O-123
当院における血栓症既往妊婦の管理
名古屋大学 医学部 産婦人科
○早川 博生、炭竈 誠二、森光
雄、荒木 雅子、吉川 史隆
明子、真野
帝 王 切 開 術後の 血 栓 予 防ヘパ リ ン 投与
-APTT 延長例の出現頻度-
自治医科大学 産婦人科
○奥野 さつき、薄井 里英、大口 昭英、桑田 知
之、鈴木 寛正、吉川 仁、渡辺 尚、泉 章夫、松
原 茂樹、鈴木 光明
【目的】帝王切開術では、経腟分娩に比し、深部静脈
血栓症/肺塞栓症のリスクが高まる。当院では 2001 年
から、帝切術後血栓塞栓症予防策として、投与禁忌の
ない帝切後の全褥婦に対し、ヘパリンカルシウム皮下
注射による抗凝固療法を採用してきた。一方、ヘパリ
ンの抗凝固効果には個体差があるようで、術後ヘパリ
ン投与による術後出血や硬膜外血腫の発症が報告され
ている。そこで、当院では術後1日目に APTT を測定し、
コントロール時間の 1.5 倍以上の場合ヘパリンの追加
投与を見合わせるようにしている。今回最近6ヶ月間
にヘパリンを予防投与した帝王切開 301 例について術
後1日目の APTT 計測値とヘパリン投与によると考えら
れる合併症発症有無を調査した。
【方法】2006 年 3~9
月に当院で帝王切開分娩し、術後に予防的ヘパリン投
与された 301 褥婦が対象。ヘパリンカルシウム1回
5000 単位を手術帰室時に皮下注射し、以後、歩行開始
翌日の朝まで 1 日 2 回(1 日量 10,000 単位)注射した。
術後1日目の APTT を確認し、延長があればヘパリン療
法をその時点で打ち切った。APTT 延長例に対して、プ
ロタミン block は行わなかった。この期間内における
APTT のコントロール値は 29.9 秒であった。APTT の値
を<30 秒、30~45 秒、45~60 秒、≧60 秒に 4 分類し、
その出現率を検討した。【成績】APTT 値は<30 秒:
20.3%(61 例)、30~45 秒:73.1%(220 例)、45~60 秒:
6.0%(18 例)、≧60 秒:0.7%(2 例)。60 秒以上となった
2 例中の1例に、創部皮下出血が観察された。しかしヘ
パリン投与中止により、それ以上の重篤な副障害は発
生しなかった。術後出血再開腹例、著明な創部出血、
硬膜外血腫などの合併症はなかった。また、本調査期
間中の 301 例を含め、2001 年以降、
本療法開始後の 2771
例の帝王切開後症例中からは、臨床的診断可能な術後
深部静脈血栓症/肺塞栓症は1例も発生しなかった。
【結論】ヘパリン投与後には 1%程度に強度(コントロ
ールの 2 倍以上)の APTT 延長が、6%程度に中等度(同
1.5-2.0 倍)の APTT 延長が出現する。
術後1日目の APTT
がコントロール時間の 1.5 倍以上の場合には、ヘパリ
ン投与中止を考慮すべきかどうかについて今後さらに
検討すべきである。
O-124
由紀
【目的】近年、我が国でも生活習慣の欧米化や社会の
高齢化に伴い、静脈血栓塞栓症(VTE)の発症が急速に増
加してきている。妊娠中に発症した血栓塞栓症および
血栓性素因のある妊婦には抗凝固療法が必要となる
が、治療のため長期入院を強いられ、経済的にも精神
的にも負担が増加する。我々の施設では以前より在宅
にてヘパリン自己注射による抗凝固療法を行ってい
る。今回我々は血栓症既往妊婦のリスク因子や診断・
周産期管理について、後方視的検討をおこない、予防
法の妥当性・安全性を確認する事を目的とした。【方
法】対象は 2003 年 10 月から 2007 年 2 月までの間に当
院で扱った静脈血栓塞栓症の既往および血栓性素因を
有する妊婦 16 例、のべ 18 妊娠を対象とし、妊娠分娩
管理について後方視的に検討を行った。皮下注用未分
画ヘパリンを外来処方するために当院臨床受託研究審
査委員会で適応外投与に対する認可を受けた。自宅で
のヘパリン自己注射に対する十分なインフォームドコ
ンセントを得た上で、血液内科と血管外科と協力しな
がら治療を行った。全例に弾性ストッキングを着用さ
せ、手術症例は間欠的空気圧迫法を併用した。
【成績】
PS 活性低下7名、PC 欠乏症2名、抗リン脂質抗体症候
群1名、ATIII 欠乏症1名、不明5名の内訳だった。初
産時発症が7名、経産婦は9名であった。初発時の発
症部位は深部静脈血栓症(DVT)が左側8名、右側5名で
あり、肺梗塞1名、上矢状静脈洞血栓1名であった。
15名に用量調節療法を施行し、IVC フィルター留置は
行わなかった。管理下での合併症として深部静脈血栓
症 (DVT) 再 発 、 肺 梗 塞 、 Reversible Posterior
Leukoencephalopathy Syndrome(RPLS)、子宮破裂が見
られた。
【考察】ヘパリン自己注射をすることで入院期
間が大幅に短縮され、医療費負担の軽減にも効果があ
った。血栓症既往のある妊婦は抗凝固療法管理下でも
極めてハイリスクであり、妊娠・産褥全期間で血栓症
を発症する危険がある。分娩前後に重篤な合併症を起
こす危険も高く、ガイドラインに沿った管理方法につ
いても今後検討が必要になる可能性があると考えられ
る。
226
わが国の妊産婦における静脈血栓塞栓症
および関連周産期疾患と遺伝的素因につ
いて
国立循環器病センター 周産期科 1、大阪府立母子保健
総合医療センター2
○根木 玲子 1)、上田 恵子 1)、時任 ゆり 1)、山中 薫
1)
、野澤 政代 1)、池田 智明 1)、福井 温 2)、末原 則
幸 2)
【目的】妊娠中は凝固機能亢進状態となり、深部静脈
血栓症(DVT)や肺血栓塞栓症(PTE)が発症しやすい。
近年、DVT/PTE が遺伝的素因と密接に関連していること
が注目されている。さらに欧米では、習慣性流産など
の周産期疾患と凝固関連遺伝子との関連性も報告され
ている。そこで、日本人の妊産婦における、DVT/PTE、
習慣性流産を含む不育症、その他の関連周産期疾患の
遺伝的素因について検討した。
【方法】対象は、以下の
疾患の合併あるいは既往妊産婦 178 症例である。内訳
は、DVT/PTE が 12 症例、習慣性流産を含む不育症 124
症例、原因不明の IUFD、早期発症の妊娠高血圧症候群、
IUGR、常位胎盤早期剥離など、その他の関連周産期疾
患 42 症例である。試料は連結可能匿名化後に、血球試
料から DNA を調製し、プロテインC遺伝子、プロテイ
ンS遺伝子、アンチトロンビン遺伝子の全エクソンの
塩基配列を決定した。なお当施設の倫理委員会承認の
上、インフォームド・コンセントを得て解析を行った。
【成績】DVT/PTE 合併症例のうち3例に、プロテインS
機能に影響を与えると考えられる変異を認めた。不育
症症例においては、プロテインS、プロテインC、ア
ンチトロンビン機能に影響を与えると考えられる変異
をそれぞれ、2 例、3 例、3 例に認めた。その他の関連
周産期疾患においては、プロテインS、アンチトロン
ビン機能に影響を与えると考えられる変異をそれぞ
れ、2 例ずつ認めた。従って、これら 3 種類の遺伝子変
異は、DVT/PTE 合併症例の 25%に、不育症症例の 6.5%
に、その他の関連周産期疾患の 9.5%に認めた。
【結論】
妊産婦における DVT/PTE、不育症などの周産期疾患に対
し、遺伝子のシークエンスを行った結果、178 例中 15
例(8.4%)に、その活性の機能に影響を与える変異を
認めた。このことより、日本人においても、これら疾
患に遺伝的関連性があることが示唆された。
O-125
O-126
臍帯因子による分娩中の一過性徐脈出現
に関する研究
昭和大学 産婦人科
○長谷川 潤一、松岡 隆、大森 明澄、仲村 将光、
小谷 美帆子、市塚 清健、関沢 明彦、岡井 崇
【目的】臍帯因子により生じる分娩中の一過性徐脈の
パターンを分析し、その特徴を捉え発生機序を考察す
ること目的として以下の研究を行った。
【方法】当院で
妊娠 34~41 週に単胎、頭位で経腟分娩した症例を検討
した。臍帯因子を有する症例として、a) 臍帯付着異常
(辺縁・卵膜) b) 臍帯過捻転 c) 臍帯頚部巻絡(1 回、2
回以上)の計 248 症例を対象とし、分娩時の一過性徐脈
の出現頻度を無作為抽出した対照群 261 例と比較した。
CTG 記録を後方視的に解読し、分娩第1期最後の子宮収
縮 15~30 回及び第 2 期の全子宮収縮の回数あたりの一
過性徐脈(早発: ED、遅発: LD、遷延: PD、変動: VD)
の数を求めた。【成績】1) 各臍帯因子の一過性徐脈の
出現頻度が対照群より有意に高いものを列挙する。VD
の出現頻度は、分娩第 1 期における対照群で 8.7±0.8%
に対し、辺縁付着: 15.7±30.%、卵膜付着: 25.6±
6.7%、過捻転: 20.9±3.9%、頚部巻絡(1 回): 15.5
±1.5%、
(2 回以上): 18.2±3.5%であった(p<0.01)。
LD の出現頻度は、分娩第 2 期における対照群で 0.4±
0.1%に対し、辺縁付着: 3.3±3.0%、卵膜付着: 1.6±
0.6%、過捻転: 1.8±1.0%、頚部巻絡(1 回): 1.9±0.5%、
(2 回以上): 2.4±1.6%であった(p<0.01)
。頚部巻
絡では、分娩第 1 期の ED、LD、VD、PD の頻度は、いず
れも対照群より有意に高かった。2) 1 分・5 分後のア
プガースコアは、対照群で 8.7±0.0、9.4±0.0 に対し、
卵膜付着で 7.6±0.8(p<0.01)
、9.1±0.3 であった。
また、鉗子・吸引分娩率は、対照群 8.3%に対し、卵膜
付着で 20.0%であった。
【結論】いずれの臍帯因子を有
する症例においても、VD は分娩第 1 期より高頻度に認
められた。その中でも特に、過捻転、卵膜付着におい
て高頻度であった。また、いずれの臍帯因子を有する
症例においても、分娩第 2 期には LD が高頻度に認めら
れた。臍帯因子を有する症例では、分娩の早い時期か
ら、子宮収縮によって臍帯血管の圧迫を受けやすく、
分娩第 2 期に入ると重症化しやすいことが示唆された。
臍帯因子のなかでも卵膜付着は予後が悪く、特に注意
が必要であると考えられた。また、頚部巻絡のある症
例では、その程度によって様々な一過性徐脈が発生す
ることが分かった。
227
過長臍帯における分娩時の影響に関する
検討
昭和大学 産婦人科
○大森 明澄、長谷川 潤一、松岡 隆、小谷 美帆
子、仲村 将光、市塚 清健、関沢 明彦、岡井 崇
【目的】分娩時に臍帯圧迫が起こり易いと考えられる
過長臍帯の、CTG 及び児への影響を検討することを目的
とした。
【方法】無作為に抽出した妊娠 34~41 週、単
胎、頭位、経腟分娩の 300 例における臍帯長、臍帯異
常、CTG 所見、及び出生時の児の状態を後方視的に検討
した。臍帯長は分娩後に計測し、40cm 未満を S 群、40
~60cm を M 群、60cm 以上を L 群とした。CTG 所見とし
ては分娩第 1 期最後の子宮収縮 30 回及び、2 期の全子
宮収縮の回数あたりの変動一過性徐脈(VD)の出現頻
度を求めた。【成績】1)S、M、L 群それぞれの Apgar
Score は 1 分後 8.8±0.1、8.6±0.1、8.2±0.3、5 分後
9.5±0.1、9.4±0.1、9.1±0.2(p<0.05)で、臍帯動
脈血 ph は 7.34±0.01、7.33±0.02、7.29±0.11(p<
0.05)であった。2)VD の頻度は S+M 群、L 群で 1 期
10.1±1.1、14.2±2.6%(p<0.05)、2 期 35.1±4.1、
44.4±2.3%(ns)であった。3)S+M 群、L 群におけ
る臍帯過捻転と頚部巻絡それぞれの合併頻度は、6.3、
21.6%(p<0.05)、24.7、40.5%(p<0.05)であった。
4)VD の頻度は、S+M 群の臍帯過捻転と頚部巻絡の無
い症例群で第 1 期 10.2±1.3%、第 2 期 44.4±2.9%に対
し、L 群の過捻転、頚部巻絡の無い群、L 群の過捻転の
有る群、L 群の頚部巻絡の有る群でそれぞれ、第 1 期
9.9±2.7、18.9±3.9*、19.2±3.1*%(*: p<0.05)
、
第 2 期、39.2±3.8、35.6±8.2、37.1±5.1%(ns)であ
った。【結論】過長臍帯は第1期に VD の発生頻度が高
く、分娩の早い時期から臍帯圧迫を受けやすく、児の
状態を悪化させ易いことが示唆された。過長臍帯は過
捻転と頸部巻絡を高頻度に合併した。それらを合併し
ない過長臍帯において VD の出現頻度が増加しないこと
から、過長臍帯における VD の出現は、主に過捻転と頚
部巻絡が合併しやすいことが関与している可能性が考
えられた。
O-127
O-128
超高齢出産の管理とその問題点
小平記念・東京日立病院
○合阪 幸三
産婦人科
【目的】最近わが国では女性の社会進出が顕著となり、
結果的に結婚、出産が遅延する傾向にあることはよく
知られている。女性の場合は生殖可能年齢に制限があ
るため、自然妊娠例では 40 歳代前半が限界となるが、
諸外国での卵子提供を受けることにより 50 歳代で妊娠
し、出産する症例が報告されるようになってきた。今
回我々は米国で卵子提供を受け、体外受精技術により
妊娠した症例の出産を経験したので報告する。
【方法】
対象は米国において ED により妊娠した 31 例とした。
内訳は単胎 27 例、双胎 4 例で、出産時年齢は 52.8±3.9
歳であった。これらの症例における妊娠中の合併症の
有無、妊娠持続週数、児体重、母乳分泌状況などにつ
き検討した。分娩方式は、患者の希望、年齢的要因、
社会的背景を考慮し、全例予定帝切とした。なお当院
は NICU がないため、妊娠経過中に PIH、切迫早産など
により termination が必要となった場合は周産期セン
ターに母体搬送を行った。そのような症例は 2 例あっ
たがいずれも双胎のハイリスク症例であった。それら
は今回の検討からは除外し、対象とした症例は当院で
分娩終了となった症例のみとした。
【成績】単胎例(27
例)では、妊娠高血圧症(PIH、HT いずれも軽症)6 例、
切迫早産(リトドリン投与による tocolysis を要した
症例)8 例がみられた。全例に管理入院を勧めたが、患
者の同意の得られた 20 例(74.1%)について、PIH や切迫
早産の症状がない場合でも妊娠 30-34 週に管理入院と
した。分娩時の週数は 37.2±0.5 週で、児体重は 2782.8
±104.8g、分娩時出血量は 1085.7±203.0g(羊水込み)
で、産褥経過、新生児経過にはとくに異常は認められ
なかった。双胎例(4 例)はいずれも妊娠 24 週前後で
管理入院とし、リトドリン点滴による tocolysis を施
行した。2 例は PIH を合併したが、安静、減塩のみにて
管理し得た。分娩時週数は 35.1±1.3 週、出血量は
1296.4±286.4g、児体重は 2263.1±93.5g であった。
31 例中 12 例(38.7%)は母乳分泌が良好で、入院中は
ほぼ母乳のみで哺育可能であった。
【結論】女性の社会
進出が目覚ましい現在では、結婚年齢が遅延する結果、
ED による超高齢での妊娠、分娩が増加する可能性があ
る。症例によっては、妊娠、分娩、産褥期に重篤な合
併症を併発する危険性が高くなることから、一般施設
での安易な取り組みは慎むべきで、より高次の周産期
施設との連携が必要である。
228
妊娠リスク自己評価表を用いた分娩分散
化の試み
トヨタ記念病院 周産期母子医療センター 産科
○小口 秀紀、坂野 伸弥、関谷 龍一郎、鈴木 史
朗、岸上 靖幸
家庭医による分娩セミオープンシステム
の試み
亀田メディカルセンター 周産期母子医療センター
産科
○鈴木 真、清水 幸子、石黒 共人、山本 由紀、
杉林 里佳
【目的】産婦人科医師不足は社会的問題となっている。
当院の家庭医診療科は産婦人科、小児科とくに妊婦健
診、分娩に力を入れて研修を行っている。当院では平
成 18 年 6 月、家庭医療を中心としたサテライトクリニ
ック(SC)を約 40km 離れた館山市に開設した。それ
に伴い、産婦人科医の指導下での家庭医による妊婦健
診を行うことを試みたので報告する。【対象・方法】平
成 18 年 10 月より産婦人科医が週一回家庭医の診療を
指導するため、診療に同席しSCにて妊婦健診を行っ
た。SC での診療は妊娠 36 週までの妊婦健診のみとし、
以後は当院を含めた分娩施設に紹介し、またリスクの
ある症例については相談の上、適切な施設での管理を
依頼することとした。さらに、診療内容を共有するた
めに同一の電子カルテシステムを導入し、妊婦健診の
診療内容も当院と同一の内容とした。【結果】平成 18
年 6 月~平成 19 年 2 月 20 日までで 78 人の妊婦健診受
診者があった。9 月までは 29 人、10 月以降は 49 人が
受診し、
このうち 21 名がすでに当院に紹介されている。
また、現在は 30 人がSCで定期的な妊婦健診を行って
おり、このうち 18 名が当院での分娩を希望している。
当院への救急外来受診や電話相談ではとくに、当院外
来受診者との差異は認めなかった。
【結論】家庭医療を
中心としたクリニックにおいて産婦人科医の指導下に
妊婦健診を行うことを試みた。健診システム(内容・
記録)の統一化と周産期電子カルテシステムの導入に
より、診療情報の共有化ができ、当院との連携はスム
ーズに行えた。家庭医診療科の後期臨床研修における
産婦人科研修システムの充実と継続により、家庭医が
ローリスク妊婦に対する妊婦健診の一部を担うことが
可能であることが示された。このことは地域住民のニ
ーズへの対応だけでなく、産婦人科医の負担軽減に繋
がると考えられた。
O-129
O-130
【緒言】西三河北部医療圏の年間出生数は約 5,000 人
で、分娩は豊田加茂産婦人科医会に属する 4 病院、5
診療所を中心に行われている。当院は同医療圏唯一の
NICU を併設している総合病院で、同地区の母体搬送に
ついては「正当な理由がない限り母体搬送は拒否しな
い」との方針で活動してきた。しかし、分娩数と母体
搬送数の急増に伴い、産科病棟が満床となり、NICU に
空床があるにもかかわらず、母体搬送を断る事態が発
生した。そこで豊田加茂産婦人科医会と協議のうえ、
ハイリスク妊娠は積極的に受け入れるが、ローリスク
妊娠は一次施設に逆紹介する活動を開始し、リスク評
価による分娩場所の分散化を実施した。
【目的】当院初
診妊婦のリスクを把握するとともに、西三河北部医療
圏の分娩場所の適正化と分散化を試みる目的で初診妊
婦のリスク評価を行い、その問題点を検討した。【方
法】2006 年 4 月 1 日より 10 月 31 日までに当院を受診
した妊婦を対象とし、厚生省班研究より作成された妊
娠リスク自己評価表を用いて、リスク評価を行った。
産科自己リスクスコアにて 3 点以下をローリスク妊娠
とし、一次施設での分娩を所定の説明用紙にのっとり
依頼した。
【結論】351 例の妊婦に対し、妊娠リスク自
己評価表によるリスク評価を行った。妊婦のほとんど
は初期妊娠リスク自己評価表のみでリスク評価が行わ
れ、3 点以下が 210 例(59.8%)
、4 点が 43 例(12.3%)
、
5 点が 28 例(8.0%)
、6 点が 29 例(8.3%)
、7 点以上が
41 例(11.7%)であった。3 点以下の 210 例がローリス
クと判定されたが、双胎妊娠等の一次施設から紹介妊
婦が 55 例あり、一次施設への紹介を実際に依頼した妊
婦は 155 例(44.3%)であった。そのうちの 62 例(40%)
が趣旨に賛同され、一次施設への誘導が可能であった。
【考察】初診時にリスク評価を行うため、ほとんどの
症例は初期妊娠リスク自己評価表のみでリスク評価が
行われ、後半期妊娠リスク自己評価表の評価項目が評
価できなかった。また、今回 3 点以下をローリスクと
したが、ローリスクの設定についても検討が必要であ
ると思われた。しかし、リスク評価による分娩場所の
分散化により、当院の母体搬送の受け入れが容易にな
った。また、妊娠リスクを自己評価させることにより、
妊婦に妊娠にリスクがあることを啓蒙できた利点もあ
った。
229
O-131
ヘリコプターを用いた母体搬送の安全性
と有用性
アンバンウドビリルビンによる超低出生
体重児に対する高ビリルビン血症の管理
の検討
埼玉県立小児医療センター 未熟児新生児科
○宮林 寛、川畑 建、河野 淳子、藤沢 ますみ、
長沢 真由美、清水 正樹、鬼本 博文、大野 勉
O-132
亀田総合病院 腎臓高血圧内科 1、亀田総合病院 産婦
人科 2、亀田総合病院 新生児科 3、亀田総合病院 小
児外科 4、東京大学医科学研究所 探索医療ヒューマン
ネットワークシステム部門 5
○小原 まみ子 1)、清水 幸子 2)、佐藤 弘之 3)、石黒
共人 2)、山本 由紀 2)、杉林 里佳 2)、渡井 有 4)、上
昌広 5)、鈴木 真 2)
【目的】わが国では総合周産期母子医療センターなど
の高次周産期施設の不足、地域偏在が問題となってお
り、地域を越えた周産期医療ネットワークの構築が緊
急の課題である。ヘリコプターを母体搬送に用いるこ
とにより、搬送時間が短縮されるため、搬送元施設は
より広い範囲で収容可能な高次周産期施設を探すこと
ができる。しかし、母体ヘリコプター搬送の実行可能
性の評価は未だに充分でなく、解析、検討する必要が
ある。
【方法】千葉県房総半島の南東に位置する総合周産期
母子医療センターを有する亀田総合病院において、
2005 年 8 月から 2006 年7月までの 1 年間に、ヘリコプ
ターにより母体搬送された母体と児の搬送状況および
臨床状況を評価した。
【成績】この期間に 26 例の母体がヘリコプター搬送さ
れ、19 例が千葉県、7例が神奈川県からであった。ヘ
リコプターによる患者搬送時間は中央値 24 分(15-29
分)で、ヘリコプターの出発から患者ピックアップを経
た搬送先までの時間としても中央値 41 分(15-63 分)で
あった。一方、救急車での陸送推測時間の平均値は 125
分(90-180 分)であった。母体搬送となった原因疾患は、
切迫早産 8 例、前期破水 5 例、頚管無力症 5 例、重症
妊娠高血圧腎症 3 例、その他 5 例であった。5 例は妊娠
継続可能であり症状が安定し退院となり、残りの 21 例
は当院で出産となった。搬送時妊娠週数の中央値は 26
週(22-33 週)、出産時妊娠週数の中央値は 31(22-37 週)
であった。26 例中、在胎 24 週未満 500g 未満の超未熟
児 3 例と先天奇形を伴うと考えられる胎児水腫 1 例に
ついては、出生当日新生児死亡となった。残りの新生
児 22 例の内、17 例は NICU においての集中治療を必要
としたが、全例自宅退院できた。全ての母体は出産後
経過良好で退院した。ヘリコプター搬送中に治療の必
要な合併症を発症した妊婦はいなかった。
【結論】本研究により、ヘリコプターによる母体搬送
の実行可能性、有用性が示唆された。
【緒言】当院ではベッドサイドの検査で総ビリルビン
(以下 TB)に加えてアンバウンドビリルビン(以下 UB)を
測定し,両者を併用して高ビリルビン血症(以下高ビ血
症)の治療の指針としている.今回は当院での治療指針
の下で超低出生体重児(以下 ELBWI)の急性期 UB の経過
を検討した.
【方法】平成 16 年 4 月から平成 18 年 3 月の 2 年間に,
当院 NICU に入院した ELBWI69 人中,生存退院し,詳細な
経過確認が出来た 57 人を後方視的に検討した.TB,UB
の測定は UB アナライザーUA-2 を使用,治療の適応は中
村の基準を使用した.光線療法の適応は TB,UB の一方
が基準を超えた場合とし,交換輸血(以下 ET)の適応
は,TB,UB の双方が基準を超えた場合とした.UB のみが
高値を示した場合は,直接ビリルビン(以下 DB)の値も
測定した.日齢 14 までの経過を検討した.
【結果】在胎週数 26.2±2.3 週(平均±SD 以下同),出生
体重 789±124g.入院時 TB2.1±0.58mg/dl,UB0.04±
0.04μg/dl.TB 最高値 7.6±2.3mg/dl〔3.2-13.2〕,TB
最高日齢 9.1±4.3 日.UB 最高値 0.54±0.17μg/dl
〔0.2-1.13〕,UB 最高日齢 6.3±3.5 日.TB に比して UB
は有意に早く上昇した(P<0.001).光線療法は 56 人
(98.2%)に施行,開始日齢 1.2±1.4 日〔0-7〕,継続日数
7.8±3.2 日〔2-14〕.光線療法開始基準は TB のみ 12
回,UB のみ 47 回,双方 20 回と有意に UB が光線開始の基
準となっている事が多かった(P<0.001).平均 UB は日
齢2以降光線基準(0.3 以上)をほぼ連日超過してい
た.DB 上昇のため光線療法を中止した症例は 2 例存在
した.高ビに対して ET を施行した症例はいなかった.UB
が ET 基準(0.8 以上)を超えた症例は 4 例存在し,アルブ
ミン投与1例,光線方向増加 3 例施行,24 時間以内には
UB 低下している.TB の ET 基準を超えた症例はいなかっ
た.核黄疸の症状を発症した症例はなく,修正 1 歳時点
で明らかなアテトーゼ型麻痺を認める症例はない.
【考察】
当院の治療方針下での UB の経過を検討した.ET
を施行した症例,高ビの後遺症を残した症例はなく,高
ビに対しては有効であると考えられた.しかしながら,
光線療法を 98%の症例に,早期から長期間施行してお
り,DB 上昇をきたした症例も見られた.また,平均 UB は
日齢 2 以降ほとんど光線基準を超えているため,over
treatment の可能性も否定できないと考えられた.現在
の UB の光線基準である 0.3 以上が適切であるかどうか
は今後 RCT 等が必要と考えられた.
230
O-133
新生児黄疸の管理法
-第 2 報-
光線療法における酸化ストレスの変化に
ついての検討
名古屋市立大学大学院 医学研究科 新生児小児医学
分野 1、愛知県コロニー中央病院 新生児科 2
○垣田 博樹 1)、山田 恭聖 2)、邊見
勇人 2)、岸本
泰明 2)、後藤 盾信 1)、河合 里美 1)、水野 恵介 1)、
福田 純男 1)、鈴木 悟 1)、戸苅 創 1)
<緒言>高ビリルビン血症に対する光線療法は現在広
く行われている有効な治療のひとつである。今回の
我々の研究目的は、光線療法施行前後における酸化ス
トレスマーカーを測定することにより、光線療法と酸
化ストレスの関係について検討することである。<方
法>高ビリルビン血症のため光線療法を施行した 27 例
中、染色体異常、多発奇形、溶血性貧血を呈した症例
を除いた 24 例(在胎週数 33.7±4.3 週、出生体重 1922
±963g)を対象とした。24 例をさらに出生体重 2000g
未満 11 例(在胎 30.6±1.5 週、出生体重 1234±356g)
と出生体重 2000g 以上 13 例(在胎 38.5±2.9 週、出生
体重 2961±714g)の 2 群に分けた。光線療法開始前と
終 了 後 に 血 清 TB 、 Total Hydroperoxide(TH) 、
Biological Antioxidant Potential(BAP) 、 さ ら に
Oxidative stress index(OI)の指標として TH/BAP を測
定し比較検討した。TH と BAP はウイスマー社製の FRAS
を用い、光線療法の適応は村田の基準を使用した。<
結果>全症例、1500g 未満の群では光線療法開始前、終
了後の TB、TH、BAP、OI はいずれも有意差はみられな
かった。また出生体重 2000g 以上の群では TB、TH、BAP
では有意差はみられなかったが、光線療法開始前と終
了後では OI は有意に上昇した(OI:pre-photo 0.09±
0.02 vs post-photo 0.10±0.03, p<0.05)。さらに光
線療法開始前、終了後での OI の変化率は出生体重と正
の相関(r=0.452,p<0.05)がみられたが、在胎週数と
は有意な相関はみられなかった。<考察>今回の検討
では出生体重 2000g 以上の児では、光線療法により酸
化ストレスが誘導されることが示唆された。また OI の
変化率は在胎週数とは相関はなく、出生体重と正の相
関があることから、出生体重が光線療法による酸化ス
トレスの誘導に重要であることが示唆された。一般に
新生児においては、その体重と脂肪組織の割合は正の
相関があることが知られており、光線療法による酸化
ストレス誘導は、児の体重に占める脂肪の割合が関係
している可能性が考えられた。
O-134
香川大学 1、香川大学 医学部付属病院 総合周産期母
子医療センター新生児部 2
○久保井 徹 1)、小谷野 耕佑 1)、中村 信嗣 1)、岩城
拓磨 1)、大久保 賢介 1)、河田 興 2)、日下 隆 2)、今
井 正 1)、磯部 健一 1)、伊藤 進 1)
【背景】
経皮黄疸計(Konica Minolta, JM-103)を使用した早発
黄疸の早期発見・治療の有用性は広く認められている。
しかし、実際の新生児黄疸の生後 72 時間以内の管理に
ついては各施設により基準が一定でないのが現状であ
る。
【目的】
我々は在胎 36 週以上、出生体重 2300g 以上の健常新生
児 181 例の出生後 72 時間までの経皮ビリルビン値のノ
モグラムを作成し報告した(第 40 回日本周産期新生児
学会)。今回、このノモグラムを使用して経皮黄疸計に
よる生後 72 時間以内の早発黄疸のスクリーニングが可
能か検討した。
【対象と方法】
平成 18 年 1 月から 12 月までに当院で出生した 414 例
のうち、在胎 36 週以上、出生体重 2300g 以上の健常新
生児 313 例について経皮ビリルビン値ノモグラムに出
生時から生後 72 時間まで経時的に経皮ビリルビン値を
プロットした。97.5 パーセンタイル以上の経皮ビリル
ビン値であれば採血し、総ビリルビン値で村田の基準
に従って光療法の導入を決定した。
【結果】
97.5 パーセンタイルを超えた児は 11 例で、全例採血を
施行した。そのうち生後 72 時間以内に光療法を施行し
た児は 11 例全員であった。
【結語】
経時的に経皮ビリルビン値を測定し、ノモグラムと比
較することで介入の必要がある児を的確にピックアッ
プし、不要な採血を回避することができた。今後は経
皮ビリルビン値を測定すると、このノモグラム上に自
動的に測定値がプロットされるコンピューターソフト
を開発し、簡便な経皮黄疸計による早発黄疸の管理を
普及させたい。
231
当院での Down 症候群に発症した一過性骨
髄異常増殖症の臨床像の検討
大阪市立総合医療センター 新生児科
○田中
裕子、市場 博幸、江原 英治、郡山 健、
森 啓之、大西 聡、寺田 明佳
【はじめに】Down 症候群に合併する一過性骨髄異常増
殖症(Transient Abnormal Myelopoiesis; 以下 TAM)
は、Down 症候群の児の 10%に合併するとされている。
多くは一過性で自然治癒するが巨核芽球性白血病(M7)
に移行するものの他、約 20%で肝線維症や呼吸障害等
をきたし、致死的な経過をたどる。今回我々は当院 NICU
における Down 症候群に TAM を発症した例を後方視的に
検討した。また、化学療法を施行した例を 2 例経験し
その経過についても合わせて検討した。
【方法】1993 年 12 月より 2006 年 10 月に当院 NICU に
入院し、
TAM と診断された Down 症候群 13 例を対象とし、
在胎期間、出生体重、合併症の有無、血液学的データ、
臨床症状、予後について検討した。
【結果】自然軽快型 5 例、早期死亡型 3 例、肝機能障
害合併型 5 例に分類された。合併症は胎児水腫 3 例、
先天性消化器疾患 1 例、先天性心疾患(PDA を除く)6
例、PDA を含めた先天性心疾患 9 例、TAM に関係すると
考えられる死亡 3 例、全死亡例 4 例であった。肝機能
障害合併型では入院時すでに直接ビリルビン上昇が認
められ、胎内発症が疑われた 3 例や、芽球消失後肝機
能障害発症した 2 例を経験し、1 例化学療法を施行し
た。2 例で化学療法を行い、最初の 1 例は肝不全のため
死亡した。このため、後の 1 例は早期に化学療法を施
行し、肝機能障害も合併せず、芽球消失し、軽快退院
した。
【結論】TAM の予後不良因子は抽出が難しく、今回も検
討範囲内では明らかな予後因子を抽出できなかった。
今後多施設多数例での検討が望まれると思われた。
極低出生体重児に対する AT3製剤投与後
の血中濃度の変化
東京女子医科大学病院母子総合医療センター
○青柳 裕之、金子 孝之、柳 貴英、田村 良香、
山崎 千佳、佐久間 泉、楠田 聡、仁志田 博司
【はじめに】 新生児、特に低出生体重児はアンチト
ロンビン(AT)を代表とする抗凝固因子が低値である
ため、凝固機構の破綻が生じやすく DIC(播種性血管内
凝固症候群)に陥りやすい。DIC の治療に AT3の投与
が有効であると報告されているが、投与された AT3が
どの程度血中濃度に反映されているかを検討した報告
は少なく、特に低出生体重児では十分に検討されてい
ない。そこで AT3製剤投与前後で極低出生体重児の AT
3抗原量を測定し、血中濃度の変化を検討した。
【対象
と方法】対象は 2005 年 3 月~2007 年 2 月に当科へ入院
となった極低出生体重児。DIC の発症の疑い、脳室内出
血、あるいは出血傾向のため日齢 0 に AT3製剤(ノイ
アート)を投与した 8 例を投与群、凝固系に問題が無
く投与しなかった 9 例を対照群とした。AT3抗原の測
定は、シノテスト社のクイックターボ AT を用いて行っ
た。測定は、へパリン管採血によって得られた血漿 5
μlの検体を用いた。AT3抗原の測定は日齢 0 および 1
に行った。投与群では、日齢 0 に AT3製剤 60U/kg を投
与した。
【結果】対照群および投与群の在胎期間、出生
体重は、それぞれ対照群 897~1300g(平均 1066g)
、
27 週 4 日~30 週 2 日(平均 28 週 1 日)、投与群 604~
1318g(平均 847g)、24 週 1 日~28 週 4 日(平均 25 週
2 日)であった。基礎疾患として、対照群では子宮内感
染症、呼吸窮迫症候群、先天性リステリア敗血症、先
天性ヘルペス感染症等を認めた。日齢 0 の AT3抗原量
は、対照群 5±4mg/dl、投与群 4.9±5.6mg/dl であった。
一方、日齢 1 では、対照群 8.7±6.1mg/dl、投与群 21.4
±16.3mg/dl であった。対照群では平均 3.4mg/kg の上
昇であったが、投与群では平均 16.4mg/dl の上昇を認
め、両群に有意な差を認めた。
【考察】今回の検討の結
果、極低出生体重児に AT3製剤を投与すると血中 AT3
が有意に上昇するということが確認できた。現在、臨
床症状だけでは AT3製剤の新生児に対する明らかな効
果を判定することは困難であるが、AT3の血中濃度を
評価することで、AT3製剤投与の有効性を科学的に判
断できる可能性がある。近年、AT3の臓器保護作用も
報告されており、AT3血中濃度の測定は、AT3製剤投
与の有用性、治療効果を判定する指標の一つとして有
用であると考えられた。
O-135
O-136
232
当院における超早産児の重症脳室内出血
児の臨床的検討
聖マリア病院 母子総合医療センター 新生児科
○橋本 崇、中村 祐樹、小池 敬義、首藤 紳介、
岡本 龍、古川 亮、城戸 康宏、原田 英明、橋本
武夫
O-137
O-138
胎児期に診断した頭蓋内出血の 2 例
山口大学 医学部附属病院 周産母子センター1、山口
大学 大学院医学系研究科 産科婦人科 2
○村田 晋 1)、本田 梨恵 1)、砂川 新平 1)、三輪 一
知郎 2)、松原 正和 2)、住江 正大 1)、前場 進治 1)、
中田 雅彦 1)、杉野 法広 2)
【はじめに】胎児期の頭蓋内出血は稀で、妊娠中の診
断 例 の 報 告 は 少 な い . 今 回 我 々 は , CTG に て
non-reassuring fetal status(NRFS)と診断され、出
生前超音波検査にて胎児頭蓋内出血を強く疑った2症
例を経験したので報告する.【症例1】37 歳の経産婦.
前回の妊娠分娩に異常はなかった.今回の妊娠経過に
異常を指摘されていなかったが,妊娠 36 週 5 日に胎動
の減少を自覚し前医を受診し,NRFS にて母体搬送とな
った.CTG にて一過性頻脈を認めず,基線細変動の消失
を認めた.胎児超音波検査では,発育・羊水量は正常
だったが,BPS は 2 点.胎児脳幹部に出血を示唆する
1cm 径の高輝度領域を認め、頭蓋内出血を疑った.児の
予後予測は不確定で,インフォームドコンセントを得
た上で緊急帝王切開を施行した.児は出生時体重 3012g
の男児で,Apgar score は 2/2 点(1/5 分)で,臍帯動
脈 pH は 7.276 とアシドーシスはなかった.自発呼吸を
認めず人工呼吸管理を行った.出生後、右内頚動脈の
動脈瘤破裂によるクモ膜下出血と診断された.生後 7
日には出血後水頭症のため,脳室リザーバー留置術を
施行した.現在,生後 8 ヶ月で,大脳萎縮に伴う呼吸
機能の低下にて人工呼吸管理を継続中である.【症例
2】29 歳の初産婦で、妊娠経過に異常はなかった.妊
娠 34 週 1 日、NRFS が疑われ当院へ母体搬送された.CTG
にて一過性頻脈を認めず、基線細変動の減少を認めた.
超音波検査にて胎児脳実質内に 0.7cm 径の嚢胞性病変
と、1cm 径の高輝度領域を認め,大脳基底核周辺の出血
を疑った.BPS は 6 点で、インフォームドコンセントを
得た上で緊急帝王切開を施行した.児は出生時体重
1814g の女児で,Apgar score 1/ 5 点(1/5 分)
,臍帯
動脈 pH は 7.215 だった.呼吸障害に対し人工呼吸管理
を行ったが,痙攣等の中枢神経症状は認められなかっ
た.生後 43 日の MRI にて左視床に出血部位を認めた.
その後、出血後水頭症の発症はなく、出生後約 2 ヶ月
で NICU を退院し、経過観察中である.
【結語】胎児期
の頭蓋内出血の多くは出血後水頭症にて診断されてお
り、急性期に診断された例は少ない.2 症例共に CTG
での NRFS を契機に超音波検査にて診断に至ったが,
NRFS を呈した場合,頭蓋内出血を念頭におき,胎児期
もしくは出生後早期に精査を行う必要があると思われ
た.
【はじめに】我々は第 42 回日本周産期・新生児医学会
で Papile の分類で grade 2 以上の脳室内出血(IVH)
症例を検討し死亡率との強い関連性を示したが,神経
学的予後との関連性に関しては十分な評価ができなか
った.今回,より重度の IVH 症例で神経学的予後との
関連性も含めて検討したので報告する.
【目的】当院で
管理した超早産児の重症 IVH(grade 3 以上)の危険因
子および予後を明らかにする.【対象・方法】対象は
2003~2004 年の 2 年間に当センターに入院管理した超
早産児 82 例.このうち Papile の分類で grade 3 以上
の IVH を発症した 19 例を IVH 群,同時期に管理したそ
れ以外の 63 例を control 群とし retrospective chart
review をおこなった.また,生存退院した児において
は生後の臨床経過におよぼす影響,神経学的予後につ
いても検討した.【結果】IVH 群の内訳は,grade 3:3
例,grade 4:16 例で V-P shunt 施行例は 1 例であった.
IVH 群,control 群の在胎週数(25w3d±13d vs 25w6d
±10d)
,出生体重(698±198g vs 790±215g)
,性に統
計学的有意差はなかった.両群間の出生前の管理,分
娩方法,胎位に差は認められなかった.IVH 群で 1 分,
5 分での Apgar 値が有意に低く,出生後 S-TA 投与症例,
肺出血の合併症例が多く,死亡率が有意に高かった
(17.5% vs 57.9%:p<0.01)
.生存退院した 60 例(IVH
群:n=8,control 群:n=52)の検討では IVH 群におい
て抜管日齢(53±28d vs 38±24d)が遅い傾向が認め
られた.また control 群で ROP に対するレーザー凝固
術施行例が多い傾向が認められた(38.9% vs 0%)が,
死亡症例を加味すると差は認められなかった.入院期
間,退院時酸素依存性に関して差は認められなかった.
1 年以上外来フォローできている 41 例(68%)において,
IVH 群で有意に脳性麻痺・精神発達遅滞の発症頻度が高
かった(13.8% vs 60%:p<0.05)
.【考察】重症 IVH の
発症は出生後早期の呼吸循環状態と関連性が強いこと
が示唆された.また,S-TA 投与,肺出血等,胸腔内圧
の上昇に伴う急激な循環動態変化も重症 IVH 発症の一
因であると考えられた.IVH 群では ROP 治療症例は少な
かったが,治療にいたるまでの生存率に差が認められ
ており,この点に関しては更なる検討が必要である.
今回の検討で,重症 IVH と死亡率,神経学的長期予後
との関連性が示されており,今後生後早期の循環管理
をより慎重にし,重度の IVH 発症を予防する必要があ
る.
233
脳室周囲白質軟化症における脳血流動態
と体重との相関
名古屋市立大学大学院医学研究科 新生児小児医学分
野 1、名古屋市立城北病院 小児科 2
○福田 純男 1)、水野 恵介 1)、垣田 博樹 1)、後藤 盾
信 1)、河合 里美 1)、加藤 稲子 1)、鈴木 悟 1)、戸苅
創 1)、渡辺 勇 2)
O-139
O-140
Cystic PVL における酸化ストレスの検討
名古屋市立大学大学院 医学研究科 新生児小児医学
分野 1、愛知県心身障害者コロニー中央病院 新生児科
2
○垣田 博樹 1)、山田 恭聖 2)、邊見 勇人 2)、岸本 泰
明 2)、後藤 盾信 1)、河合 里美 1)、水野 恵介 1)、福
田 純男 1)、鈴木 悟 1)、戸苅 創 1)
<緒言>近年 PVL の病因のひとつとして、酸化ストレ
スの関与が報告されている。しかし、PVL の発症と酸化
ストレスの関係については不明な点が多い。今回我々
は、cystic PVL 例での出生直後の酸化ストレスマーカ
ーを測定し検討したので報告する。<方法>日齢 10 ま
でに cyst が確認できた early cystic PVL 群(7 例)、
日齢 10 以降に cyst が確認できた late cystic PVL 群
(10 例)
、control 群(17 例)を対象とした。入院時(出
生後数時間以内)の血清で Total Hydroperoxide(TH)
と Biological Antioxidant Potentials(BAP)、さらに
Oxidative stress index(OI)の指標として TH/BAP を
測定した。TH と BAP の測定はウイスマー社製の FRAS
を用いた。<結果>early cystic PVL 群、late cystic
PVL 群、control 群の在胎週数、出生体重はそれぞれ
early cystic PVL 群:31.2±1.8 週、1332±210g、
、late
cystic PVL 群:30.8±2.8 週、1474.6±380g、control
群 31.2±2.7 週、1502±438g であった。在胎週数、出
生体重、Apgar Score、BAP は 3 群間で有意差はみられ
なかったが、TH、OI は early cystic PVL 群では、late
cystic PVL 群、Control 群よりも有意に高値であった。
(early cystic PVL 群:TH 400.1±434.5 UCarr OI
0.18±0.2、late cystic PVL 群:TH 98.1±71.5 UCarr
OI 0.043±0.03、 control 群:TH 110.3±70.6、OI 0.049
± 0.03 UCarr )。 ま た cystic PVL 発 症 日 齢 と OI
(r=-0.513、p=0.035)、TH(r=-0.504、p=0.039)は負の
相関がみられた。<考察>今回の我々の検討では early
cystic PVL 群では、control 群、late PVL 群に比べて
出生直後にはより大きな酸化ストレスがかかっている
ことが示唆された。また発症日齢と OI、TH に負の相関
がみられたことから、胎児期または分娩時に大きな酸
化ストレスを受けると、早期に cystic PVL が発症する
可能性が示唆された。
【目的】低出生体重児において時に脳性麻痺、精神発
達遅滞、聴力障害、視力障害、てんかん、学習障害、
自閉症などの高度脳障害が認められる事がある。原因
として従来、脳室周囲白質軟化症(PVL)の関与が推察さ
れてきたが、最近では病変が白質のみならず大脳全体
及んでいる可能性が示唆される様になった。今回我々
は新生児の内頚動脈及び椎骨動脈の血流量を頚部より
超音波ドプラ法を用いて測定し、脳質周囲白質軟化症
発症と脳血流量及び体重との相関について比較検討し
た。
【対象と方法】当院に入院した低出生体重児 36 名
を対象とした。内訳は正常児 30 名(正常例)
(出生体
重:590g~1900g、中央値 1249g、在胎週数 25 週 4 日~
34 週 6 日)
、PVL と診断した児 6 名(PVL 例)(1090g~
1592g、中央値 1224g、28 週 0 日~32 週 2 日)である。
対象の児について日齢 0, 1, 2, 3, 4, 5, 7, 10, 14, 21,
28, 35, 42, 49, 56, 63, 70 に超音波カラードプラ法
及びパワーフロー法を用いて左右内頚動脈、左右椎骨
動脈における平均血流速度と測定部位の血管内径を測
定した。得られた値より血管断面積を算出し平均血流
速度との積により各測定部位における血流量を算出し
た。次に左右内頚動脈、左右椎骨動脈の総和を算出し
脳内に流入する総血流量を求めた。また測定と同時に
その日の児の体重を記録し、体重血流比:総血流量(ml/
分)/体重(kg)を算出し比較検討した。診断に使用した
機種は ALOKA, SSD-6500 である。
【結果】1. 脳内に流
入する総血流量は正常例より PVL 例が日齢 0, 1, 21,
28, 35, 42, 49, 63 で有意に低値を示した。2. 総血流
量は正常例では日齢 5 まで増加し、一時減少したのち
日齢 10 以降増加した。PVL 例では日齢 5 まで増加し、
一時減少したのち日齢 21 以降増加した。 3. 体重血流
比は正常例より PVL 例が日齢 0, 56, 63 で有意に低値
を示した。4. 体重血流比は正常例では日齢 5 まで増加
し、一時減少したのち日齢 10 以降増加した。PVL 例で
は日齢 5 まで増加し、以後全体として低下する傾向を
示した。
【考察】以上より、PVL 症例では生後の体重増
加に対して脳内への血液供給量の増加が伴わない可能
性が示唆され、PVL の発症が生後の脳血流動態に影響を
与えている可能性があるものと思われた。
234
臍帯血エリスロポエチン濃度と脳室周囲
白質軟化症
順天堂大学 医学部 小児科 1、安城更生病院 小児科
2
、岡崎市民病院 小児科 3
○奥村 彰久 1)、城所 博之 2)、加藤 徹 3)、久保田 哲
夫 2)、早川 文雄 3)
【目的】近年エリスロポエチン(EPO)の脳保護効果が
注目されている。また、脳室周囲白質軟化症(PVL)は
その発症に出生前因子の関与が大きいことが明らかに
なりつつある。我々は後に PVL を発症する早産児では
何らかのストレスを受けており、EPO はそれに反応して
上昇している可能性を考え、臍帯血中の EPO 濃度と PVL
との関係を検討した。
【方法】対象は 2000 年 1 月から 6 月までの間に安城更
生病院で出生した在胎 27 から 32 週の早産児 19 例であ
る。出生時に臍帯血を採取し、EPO 濃度を測定した。19
例のうち 4 例は頭部エコーにて深部白質に両側性の嚢
胞形成を認め、PVL と診断した。これらの 4 例では出生
後早期の脳波で急性期異常を認め、PVL の受傷時期は出
生周辺と推定された。また、以下の因子と臍帯血 EPO
濃度との関連を検討した。多胎・前期破水・絨毛羊膜
炎・妊娠高血圧症・性器出血・出生前ステロイド投与・
出生前 Mg 投与・アプガースコア・臍帯血ガス・人工換
気・light-for-date・ヘモグロビン値・網状赤血球数・
CK 値・CK-BB 値。
【成績】PVL を発症した児の EPO 値は中央値 16.5 mU/ml
(範囲 9.8-21.9 mU/ml)
、PVL を発症しなかった時は中
央値 17.0 mU/ml(範囲 5.0-83.4 mU/ml)であり、統計
学的に有意差を認めなかった。また、Light-for-date
児では中央値 9.7 mU/ml(範囲 5.0-72.6 mU/ml)、
appropriate-for-date では中央値 17.6 mU/ml(範囲
9.1-83.4 mU/ml)で、やはり有意差を認めなかった。
また、臍帯血 EPO 値とヘモグロビン・網状赤血球数と
の間にも相関を認めなかった。さらに、臍帯血 EPO 値
とその他のパラメータとの間にも関係を認めなかっ
た。
【結論】今回の検討では、臍帯血 EPO 値と PVL および
他のパラメータとの関連は認めなかった。臍帯血 EPO
濃度は出生後に EPO を投与した場合の濃度に比べ著し
く低く、今回の結果からは内因性 EPO は神経保護的に
は作用していない可能性が示唆された。
当院における低酸素性虚血性脳症の臨床
的背景および予後の検討
聖マリア病院 母子総合医療センター 新生児科
○小池 敬義、中村 祐樹、首藤 紳介、岡本 龍、
古川 亮、城戸 康宏、橋本 崇、原田 英明、橋本
武夫
【はじめに】低酸素性虚血性脳症(以下 HIE)に対して、
新生児にも脳低温療法が行われるようになってきた
が、その適応・方法に一定の見解が得られていない。
当院で脳低温療法導入を念頭におき、HIE 児の臨床像を
検討したので報告する。
【目的】過去 3 年間に当科入院
した HIE 児の臨床的背景と予後に影響を及ぼす因子を
後方視的に検討する。【対象・方法】2002 年から 2004
年に当科入院し、在胎週数 36 週以上で Apgar 5 分値 5
点以下もしくは日齢 7 未満にけいれんがあった症例の
うち HIE と診断されたのは 35 例あった。このうち、生
後 18 ヶ月まで外来 follow up できた 25 例を対象とし
た。ただし、染色体異常、先天奇形、感染症、頭蓋内
出血を除いた。まず、対象症例の臨床的背景を後方視
的に検討した。次に、対象症例を予後良好群、予後不
良群(死亡、生後 18 ヶ月で一人立ちしない)に分けて、
その予後に影響を及ぼす因子を検討した。
【結果】この
期間の当科入院は 1759 例、HIE が 35 例(2.0%)、follow
up できたのが 25 例(1.4%)であった。対象症例の在胎
週数は 39.3±1.9 週、出生体重は 2961±511g であった。
分娩経過の問題として non-reassuring fetal status
15 例、分娩停止 3 例、常位胎盤早期剥離 2 例、臍帯巻
絡 8 例、臍帯脱出 2 例が認められた。出生後の問題と
して胎便吸引症候群 9 例、気胸 3 例、肺出血 3 例、縦
隔気腫 1 例が認められた。院外出生は 20 例(80%)、死
亡は 3 例(12%)であった。生後 18 ヶ月での発達を評価
したところ、3 例(12%)に重度の精神発達遅滞があり、
7 例(28%)に重度の運動発達遅滞がみられた。次に予後
良好群 14 例(56%)、予後不良群 11 例(44%)に分けて
検討したところ、Sarnat 分類 3 度は 0 例、4 例と予後
不良群で重症になる傾向があった。予後不良群での
Apgar5 分値は有意に低く、退院時 MRI での基底核の高
輝度病変、
入院時 EEG の異常が有意に多かった。【考察】
HIE 児の検討を行い、院外出生が多く周産期管理の重要
性を再認識した。神経発達予後については運動発達が
より障害されていることが示唆され、その発症要因や
局在性について画像や生理検査を含めて今後評価して
いきたい。予後の評価には臨床症状、画像、生理検査
から総合的な判断が必要である。
O-141
O-142
235
背景脳波が中等度活動低下で脳低温療法
を行わなかった仮死症例の予後
聖隷浜松病院 総合周産期母子医療センター 新生児
部門
○大木 茂、加藤 晋、廣瀬 悦子、白井 憲司、道
和 百合、菊池 新、杉浦 弘、上田 晶代、西尾 公
男
【始めに】当院では在胎 35 週以降の仮死児のうち入院
時の背景脳波が、最高度もしくは高度活動低下を認め
た症例に対し脳低温療法を施行してきた。本療法導入
当所はまだ臨床データが少なかったため絶対予後不良
が予測される重症例を適応としたが、その有効性と安
全性が確認されつつある現在、その適応拡大を検討す
る必要があると考えた。今回は入院後の背景脳波が中
等度活動低下であったために脳低温療法を行わなかっ
た群の予後を後方視的に検討したので報告する。【対
象】2000 年 1 月から 2004 年 12 月までの間に新生児仮
死として入院した児のうち、5分 Apgar Score5 点以下
で挿管による呼吸補助が必要であったケース、もしく
は上記の条件を満たさないものの主治医が臨床経過よ
り低酸素性虚血性脳症の存在を考え脳波検査を行った
もののうち中等度活動低下の所見を得た症例。
【方法】
入院カルテから出生場所、在胎週数、出生体重、臨床
症状(アプガースコア、痙攣、挿管の有無など)、血液
検査データを集めた。また外来カルテのフォローアッ
プ記録から発達障害の有無を検討した。なお転院例に
関しては可能な限り転院先の医療機関に問い合わせて
最終的な予後を把握した。
【結果】観察期間内に当院に
入院した仮死児で背景脳波が中等度活動低下を呈した
例は 14 名いた。院内出生 6 名、院外出生 8 名。出生体
重 2212 - 4500g 。 在 胎 週 数 35-41 週 。 5 分 Apgar
score2-10 点。8 例で蘇生に際し気管挿管が選択されて
いた。3 例で生後6時間以内に痙攣を認めた。退院後の
予後に関しては 2 例で脳性麻痺及び精神運動発達遅延
を、また 1 例で広汎性発達障害を認めた。残りの 11 例
は神経学的後遺症を認めなかった。脳性麻痺を呈した 2
例はいずれも院外出生児で蘇生に際し気管挿管を要
し、生後6時間以内に痙攣を認めた。5 分 Apgar score
は1例で6点、残りの 1 例では記載がなかったが自発
呼吸を認めたのは生後 10 分であった。
【考案】背景脳
波で中等度活動低下を呈した例で 14 例中 11 例は神経
学的後遺症を呈さず正常発達したことが確認された。
しかし生後 6 時間以内に痙攣を認めた 3 例中 2 例で予
後不良であり、今後これらの症例に対する脳低温療法
の適応拡大を検討してみたい。
脳低温療法中の Microdialysis 法を用い
た生化学的モニタリングの経験
鹿児島市立病院 周産期医療センター 新生児科 1、沖
縄県立南部医療センター こども医療センター2
○徳久 琢也 1)、茨 聡 1)、丸山 英樹 1)、丸山 有子
1)
、向井 基 1)、藤江 由夏 1)、松井 貴子 1)、中澤 祐
介 1)、宇都宮 剛 1)、大城 達男 2)
【目的】Microdialysis 法は、ベッドサイドでリアルタ
イムに、組織の過度な破壊や刺激のない状態で、脳内
細胞外液中の物質をサンプリングすることが可能で、
グルコース(脳血液灌流の指標)
、乳酸、ピルビン酸(脳
虚血の指標)、グルタミン酸(興奮性アミノ酸放出の指
標)
、グリセロール(脳内細胞膜破壊の指標)などの測
定から脳内の変化をとらえることが可能なモニタリン
グである。今回、本法を用いて、脳低温療法(brain
hypothermia: BHT)中の脳内細胞外液レベルでの種々の
パラメータの変化を検討したので報告する。【方法】低
酸素性虚血性脳症(hypoxic ischemic encephalopathy:
HIE)にて入院し、BHT を施行した 3 例を対象とした。本
法は、半透膜を介した溶解物質の原理に基づく方法で、
その先端が分子量500~20,000の特定物質を
透過させる半透膜となっているカテーテル(外径
0.6mm)を用いる。このカテーテルを大泉門から脳組織
内へ挿入し、グルコース、乳酸、ピルビン酸、グルタ
ミン酸、グリセロールを BHT 開始後、連続して経時的
に測定した。なお、本法を導入する際に院内の倫理委
員会の承認を得、両親の承諾を得られた患児のみに本
法を施行した。
【結果】本法を施行したことによる副作
用(出血、感染等)は認められず、安全に施行するこ
とができた。対象は退院時予後良好例(MRI 所見、神経
学的所見上)2例、予後不良例(重度脳障害)1例。
予後良好の 2 例と、予後不良の 1 例の BHT 施行中 72 時
間の生化学的パラメータは、脳組織の乳酸(良好 2.4
±0.9mM(n=41)、不良 6.4±2.6mM(n=32)、p<0.001)、
乳酸/ピルビン酸比(良好 19.2±7.0(n=41)、不良 35.8
±11.5(n=32)、p<0.001)、グリセロール(良好 51.3
±8.1μM(n=40)、不良 215.6±36.5μM(n=35)、p<
0.001)であり、予後不良例は予後良好2例に較べて、
脳組織の嫌気性代謝の指標である乳酸、乳酸/ピルビ
ン酸比、細胞膜の破壊を反映するグリセロールにおい
てのみ有意に高い結果が得られた。グルタミン酸(良
好 3.9±3.2μM(n=35)、不良 2.3±1.0μM(n=27)、p=
0.14)、グルコース(良好 1.9±2.1mM(n=36)、不良 1.0
±0.4mM(n=29)、p=0.8)には有意差を認めなかった。
【結語】脳低温療法中の Microdialysis 法を用いた生
化学的モニタリングは、副作用を認めず、安全に施行
することができ、脳組織の代謝及び破壊の評価に有用
である事が明らかとなった。
O-143
O-144
236
当院に於ける過去 5 年間の選択的脳低温
療法施行例の検討
加古川市民病院 小児科
○湊川 誠、石田 明人、村瀬 真紀、伊東 利幸、
牟禮 岳男、樋上 敦紀、金澤 育子、住永 亮
【目的】新生児低酸素性虚血性脳症に対する選択的脳
低温療法(以下脳低温療法)は、近年多施設で施行さ
れるようになった。当院に於いても 2002 年以降、同治
療を導入している。今回我々は、当院に於ける脳低温
療法を施行された児の予後を検討し、その方法、適応
を再検討することを目的とした。【対象】2002 年から
2006 年に当院に入院した 3261 名中、脳低温療法を施行
した 7 症例。【方法】脳低温療法は、MAC8 社製、MC2100
を用いた。目標温度は、鼻咽頭温は 33.0℃~33.9℃、
直腸温は 36℃以上になるよう設定した。鼻咽頭温は、
ブランケットを使用、直腸温は、オープンベッドの温
度で調節した。受傷後 72 時間まで施行し、12 時間から
24 時間で 0.5℃の復温を目標とした。尚、1例は極低
出生体重児のため氷枕を用い鼻咽頭温を調節した。
【結果】1)全 7 例中、早産児、極低出生体重児は 1
例、過期産児は 1 例、巨大児は2例であった。Apgar1
分値 4 点以下の重症仮死児は 5 例、院外出生は5例で
あった。また 1 例は日齢1の ALTE の児であった。副作
用のため選択的脳低体温療法の中断を余儀なくされた
児は 1 例であった。2)全 7 例の在胎週数は 38.7±3.0
週、出生体重 3135±997g、Apgar3.1±3.2/3.7±3.1(1
/5 分値)
、脳低温療法施行日数 5.0±2.6 日、人工換気
日数 11±4 日(抜管症例のみ)
、酸素投与日数 50±57
日、在院日数 102±86 日であった。3)全例生存退院
したが、3 例が在宅人工呼吸管理、1例が在宅経管栄養
のみ施行した。5例に重度発達障害を認め、2 例は現在
まで明らかな発達異常は認めていない。4)Apgar5 分
値4点以下の症例に於いては、神経学的予後は全て不
良であった。Apgar5 分値 5 点以上で神経学的予後不良
であった2例は、新生児搬送に時間がかかったり、搬
送依頼まで時間がかかり、初期対応が遅れた症例であ
った。【考察】当院において脳低温療法は、比較的安全
に施行されたと考えられたが、明らかにその神経学的
予後を改善しているとは言えない。今後、さらに症例
の選択、方法について再検討する必要性があると考え
られた。
HIE に対する新生児脳平温療法の臨床的
検討
埼玉県立小児医療センター 未熟児新生児科
○清水 正樹、大野 勉、鬼本 博文、宮林 寛、長
澤 真由美、藤澤 ますみ、川畑 建、河野 淳子
【目的】新生児低酸素性虚血性脳症(以下 HIE)に対する
新生児脳平温療法(Brain Normo Thermia,以下 BNT)を行
った症例について,臨床的検討を行ったので報告する。
【対象と方法】2005 年 4 月~2007 年 2 月に,当センタ
ーNICU に入院した HIE 児のうち,新生児脳低温療法(以
下 BHT)の導入基準に当てはまらず,BNT を施行した 14
症例について,診療録から後方視的に検討をした。14
症例のうち BHT の選択基準に当てはまらず BNT 施行し
た 12 症例(A 群)と,BHT の除外基準に当てはまるため
BNT 施行した 2 症例(B 群)に分けて検討した。BNT は,
頭部冷却装置を使用せず,鼻咽頭温を 36~37℃,直腸温
を鼻咽頭温±0.5℃になるように開放型保育器のヒー
ティングパワーの調節により温度コントロールを行っ
た。予後評価は,退院時の神経学的評価,頭部画像所見,
経管栄養などの在宅医療を必要性の有無,転帰などを
調べた。
【結果】症例の平均在胎週数は 39 週 3 日,平均
出生体重は 3109.2g,平均アプガースコアは 2.3(1 分
値)/4.9(5 分値),HIE スコアは mild 8 名,moderate 4
名,sever2 名,入院時動脈血平均乳酸値は 7.91mg/dl で
あった。BNT 施行期間は平均 72 時間で,入院日数は 19
日(中央値)であった。A 群では,BNT 施行により鼻咽頭
温の上昇は抑えられ,その他バイタルサインへ明らか
な変化を認めた症例はいなかった。A 群の予後は,死亡
症例はなく,退院時での予後は良好 11 名,不良 1 名であ
った。B 群では,BNT により鼻咽頭温は安定していたが,1
症例が脳幹機能停止により死亡退院し,残りの 1 症例は
多発性嚢胞性脳軟化症となり在宅人工呼吸管理となっ
た。
【考案】A 群で,選択基準に当てはまらなかった理由
には,HIE スコアが mild であったり,開始時間や乳酸値
が基準外であったが,BNT でも予後良好な症例が多かっ
た。一方,選択基準にあてはまっていても,除外基準の
ため BNT を施行した B 群では,予後はいずれも不良であ
った。現在,BHT は,厚生労働科学研究「周産期医療水準
向上のための仮死児の脳障害予防対策の検討」(主任研
究者:藤村正哲)において,多施設共同無作為比較試験
の準備を進めている。BNT は,その多施設共同試験
で,BHT(冷却温度 34℃)の比較対照として予定している
が,BHT の適応となる症例に BNT を施行した場合の効果
や問題点については,今後の検討課題となる。
O-145
O-146
237
LDF を用いた脳血流測定による神経学的
予後の予測
関西医科大学枚方病院 総合周産期母子医療センター
○大橋 敦、竹安 晶子、黒柳 裕一、辻 章志、北
村 直行、木下 洋、金子 一成
O-147
O-148
新生児仮死における血清 HMGB-1 濃度
東京都立八王子小児病院 新生児科 1、東京都立清瀬小
児病院 2
○岡崎 薫 1)、安藤 和秀 1)、森田 清子 1)、鈴木 ま
さみ 1)、高橋 秀弘 1)、柿沼 亮太 1)、近藤 昌敏 1)、
西田 朗 2)
【目的】新生児仮死の本態は、虚血再灌流である。虚
血再灌流により、炎症性サイトカインなどのさまざま
な炎症性メディエーターが関与することが知られてい
る。High mobility group box-1 protein (HMGB-1)は、
新しい炎症性サイトカインであるが、新生児仮死にお
けるその動態は知られていない。今回、我々は、新生
児仮死における血清 HMGB-1 濃度を測定したので報告す
る。
【方法】2005 年1月から 2006 年 5 月までに東京都
立八王子小児病院 NICU に生後 6 時間以内に入院した新
生児を対象とした。母体および新生児感染症、母体合
併症、先天奇形を有する児、は除外した。入院時検査
後の残血清を用いて、the ELIZA methods にて血清
HMGB-1 濃度を測定した。有意差検定には、Mann-Whitney
U test を用いた。【結果】仮死児 53 名、非仮死児 32
名、合計 85 名の児を対象とした。分娩方法による血清
HMGB-1 濃度に有意な差は認められなかった。新生児仮
死において、血清 HMGB-1 濃度は有意に増加した(p =
0.033)。しかし、仮死の重症度とは有意な相関は得ら
れなかった。【結論】血清 HMGB-1 濃度は新生児仮死で
増加した。HMGB-1 は、炎症性サイトカインを誘導する
因子であり、仮死の病態に大きく関与していることを
示唆した。重症度では有意差を認めなかったが、対象
とした重症仮死児が少なかったことが影響している可
能性がある。今後、更なる検討を行う必要がある。
【はじめに】近年開発されたレーザードップラー血流
計(以下 LDF)は非侵襲的に新生児の脳血流を測定する
ことができる。今回、早期新生児期の脳血流の変化か
ら神経学的予後が予測できるか否かを検討する目的
で、LDF から得られたデータを定量的に解析した。すな
わち神経学的に予後不良な経過を辿った新生児(以下、
予後不良群)と神経学的に良好な経過を辿った新生児
(以下、予後良好群)に分け、後方視的に脳血流変化
を比較検討し、興味ある知見を得たので報告する。
【対象】2005 年 10 月から 2007 年 2 月までに、重症新
生児仮死または呼吸不全のため当院 NICU に入院とな
り、入院時から LDF による脳血流測定を行うことので
きた 10 例
【方法】頭部および下肢に LDF 測定プローブを装着し、
それぞれの血流を連続的に測定した。得られたデータ
から、下肢血流量変化(以下、ΔLBF)に対する脳血流
量変化(以下、ΔCBF)を求め、ΔCBF/ΔLBF を算出し、
二群間で比較した。神経学的予後の判定は、生後 6 か
月未満の児については退院時の頭部 CT または MRI 検査
と脳波検査で異常を認めなかったものを、生後 6 か月
以上の児に関しては上記検査で異常がなく、神経学的
発達も正常のものを予後良好群とし、それ以外のもの
を予後不良群とした。
【結果】予後不良群は 3 例、予後良好群は 7 例であり、
両群間に在胎週数、出生体重、Apgar スコアに有意な差
はなかった。しかし、予後良好群ではΔCBF/ΔLBF が
1.7±0.4(mean±SE)であったのに対して、予後不良
群ではΔCBF/ΔLBF が 22.1±3.8(mean±SE)と有意に
高値であった(p<0.05 Mann-Whitney U-test)
。
【考察】ΔCBF/ΔLBF の高値は、下肢血流に対する脳血
流の変動が大きいこと、すなわち脳血流の
autoregulation 機能の破綻を示唆している。今回の検
討で、ΔCBF/ΔLBF の高値(急激な脳血流量変化)を
呈した新生児は神経学的予後が不良であることが明ら
かになった。今後、LDF によるΔCBF/ΔLBF のモニタリ
ングによって神経学的予後が楽観できない新生児に、
迅速な原因究明と対処を行うことで予後を改善しうる
かもしれない。
238
新生児痙攣における発作時脳波所見と予
後の検討
安城更生病院 小児科 1、岡崎市民病院 小児科 2、名
古屋第一赤十字病院 小児科 3、順天堂大学医学部 小
児科 4
○城所 博之 1)、伊藤 美春 1)、久保田 哲夫 1)、鈴木
基正 2)、加藤 徹 2)、中田 智彦 2)、早川 文雄 2)、丸
山 幸一 3)、奥村 彰久 4)
【目的】新生児痙攣の発作時脳波所見を詳細に検討し、
脳波記録から予後を予測する因子を検討する。
【対象】2000 年から 2006 年までに安城更生病院ならび
に岡崎市民病院に入院し、脳波検査にて新生児発作と
診断された症例 27 例を対象とした。新生児発作の定義
は同一波形が律動的・反復性に出現し 10 秒以上の持続
を持つものとした。
【方法】発作イベントを含む脳波記録を後方視的に検
討し、各発作活動について以下の項目を検討した。1.
記録中に確認された発作回数 2.発作起始 3.発作波形
4.発作周期性 5.持続時間 6.焦点の拡大・移動の有無 7.
背景活動とした。
【成績】27 症例で計 97 回の発作活動を認めた。1 記録
当たりの発作回数は、1 回のみ 11 例, 2~4 回 6 例, 5
回以上 10 例であった。発作起始は前頭部、中心部、後
頭部、側頭部、前頭中心部、その他で各々、14、24、
19、16、13、14 回であった。発作波形は反復性棘波 6
回、反復性鋭波、鋭徐波、多鋭波 35 回、律動性θ群発
23 回、律動性δ群発 32 回であった。波形周期は
0.5-3Hz、4-7Hz、8-13Hz と分類し各々62、22、4 回で
あった。発作持続時間は 10-30 秒 17 回、30-60 秒 18
回、1-2 分 24 回、2-5 分 17 回、5 分以上 7 回であった。
発作焦点の移動・拡大は 40 回で認めた。背景脳波活動
は、最高度活動低下5例、高度活動低下5例、中等度
連続性低下 4 例、正常連続性 13 例であった。発作起始、
波形、周期、持続時間、焦点の拡大・移動の各項目と
予後との間には関連はなかった。一方、背景活動につ
いては、最高度活動低下から中等度連続性低下までを
示した 14 例では早期死亡/重度後遺症、予後良好、不
明が各々9 例 3 例 2 例であったが、連続性正常 13 例で
は各々4 例 8 例 1 例であった。
【結論】発作波形、焦点部位や周期性、持続時間など
発作時脳波所見は多種多様であり、いずれの項目にお
いても予後との関連性は認めなかった。背景脳波活動
の連続性が予後と密接に関連していた。
脳波にて確定診断されている新生児痙攣
の臨床像
安城更生病院 小児科 1、岡崎市民病院 小児科 2、名
古屋第一赤十字病院 小児科 3、順天堂大学 医学部
小児科 4
○伊藤 美春 1)、城所 博之 1)、久保田 哲夫 1)、鈴木
基正 2)、加藤 徹 2)、中田 智彦 2)、早川 文雄 2)、丸
山 幸一 3)、奥村 彰久 4)
【目的】新生児痙攣には非てんかん性発作が多く含ま
れるため、脳波検査が施行されていない場合はてんか
ん性発作かどうかの診断が曖昧となる。今回我々は脳
波にて確定診断された新生児痙攣の臨床像を検討し
た。
【対象・方法】2000 年から 2006 年までに、安城更生病
院、岡崎市民病院、名古屋第一赤十字病院の 3 施設に
入院した新生児で、脳波上の発作性変化を有し新生児
痙攣と診断した症例は 46 例であった。各症例の成因、
初発日齢、発作症状、予後について後方視的に検討し
た。新生児発作の定義は同一波形が律動的・反復性に
出現し 10 秒以上の持続を持つものとした。
【成績】成熟児は 34 例、早産児は 12 例であった。痙
攣の成因は、低酸素性虚血性脳症(HIE)14 例、低 Ca 血
症 4 例、中枢性感染症 4 例(ヘルペス感染症 2 例)
、脳
奇形 4 例、頭蓋内出血 2 例、脳梗塞 3 例、低血糖と高
アンモニア血症を各 1 例、fifth day fits 3 例、その
他 10 例であった。初発発作日齢は、日齢 0-1 で 8 例、
2-3 で 13 例、4-7 で 10 例、日齢 7 以降は 15 例であっ
た。主要発作症状は焦点性・多焦点性間代発作 23 例、
強直姿位 6 例、無呼吸・チアノーゼ 5 例であり、また
臨床症状を伴わない subclinical seizure を 12 例に認
めた。予後は死亡 9 例、後遺症あり 15 例、後遺症なし
13 例、不明 8 例であった。
【結語】脳波検査にて確定診断された新生児痙攣につ
いてその臨床像を報告した。新生児痙攣は過去の報告
と異なり成熟児に多かった。成因は多岐に渡り、臨床
発作症状は焦点性・多焦点性間代発作と subclinical
seizure で大半を占めた。ミオクロニー発作やスパスム
は稀と考えられた。また、いわゆる微細発作の臨床像
に発作波を伴う症例はなく、Mizrahi らの解放現象説を
支持すると思われた。
O-149
O-150
239
医師主導型治験(静注用フェノバルビター
ル)の実施について
香川大学 医学部 小児科 1、香川大学医学部附属病院
総合周産期母子医療センター新生児部 2
○大久保 賢介 1)、中村 信嗣 1)、小谷野 耕祐 1)、小
谷野 薫 1)、久保井 徹 1)、河田 興 2)、日下 隆 2)、
今井 正 1)、磯部 健一 1)、伊藤 進 1)
【目的】全国8施設が参加して行われた「静注用フェ
ノバルビタールの新生児けいれんに対する有効性、安
全性に関する研究(治験調整医師;伊藤進、河田興)」
を実施した経験について報告する。
【対象】治験期間中の新生児けいれん発症の危険性が
高かった4例において治験事前同意を取得し、新生児
けいれんを発症した2例において治験薬を投与した。
【結果】2 症例ともにフェノバルビタール血中濃度のコ
ントロールは容易で、新生児けいれんに対する有効
性・安全性を確認することができた。
【症例1】在胎 37 週 6 日、2274g、自然分娩にて他院
で出生。生後 10 時間より無呼吸発作出現し頻度が増え
たため生後 31.5 時間に当院へ新生児搬送となる。入院
時に口をもぐもぐする動き、手足のぴくつき、呼吸停
止を認めた。血糖、電解質に異常なく、頭部 CT 上出血、
梗塞像なく、けいれんの動画撮影、両親への説明同意
の上、生後 33 時間より静注用フェノバルビタール
20mg/Kg を使用開始した。翌日より 1 週間の維持投与を
行ったところけいれん症状は消失し、投与中止後1週
間の観察期間中もけいれん及び有害事象は認めず治験
を終了した。
【症例 2】在胎 39 週 3 日、3796g、自然分娩で出生。羊
水混濁あり、多呼吸持続するため生後2時間当院 NICU
入院となる。生後7時間で CRP 上昇を認め、Sepsis work
up で髄膜炎は否定した。しかし髄液がキサントクロミ
ーを呈していたため、頭部CT施行したところ、くも
膜下出血を認めた。日齢 5 に吃逆とともに右半身の
clonus、眼球右方注視を認めた。SpO2 低下なく、チア
ノーゼなし。5 分程で落ち着くも 15 分後に再び左半身
の clonus あり(動画撮影)。直ちに両親への説明同意
を得た上で静注用フェノバルビタール 20mg/Kg を使用
開始したところ脳波上認めていた右半球の発作波は消
失し、以後けいれん発作を認めなかった。
【考察】治験審査委員会への申請準備、同意取得方法、
治験実施にあたっては治験の手順をよく理解した新生
児科医が数名必要であると痛感した。特に新生児医療
の事象は夜間に起きることが多く、常にスタッフのモ
チベーションを高く維持しておくことが治験実施には
大切と思われた。そのためには治験期間中にどのよう
な手順でことを進めるかを再確認する作業が大切であ
り、スタッフ全員が治験を成功させようとする意識を
保つことが重要であった。
腹壁異常に合併する肺低形成の出生前診
断
大阪大学 小児外科
○鎌田 振吉、臼井 規朗、澤井 利夫、福澤 正洋
O-151
O-152
腹壁異常のうち破裂巨大臍帯ヘルニア、Body-stalk
anomaly、肝脱出の程度の著しい巨大臍帯ヘルニア症例
などに肺低形成の合併が報告されているが、的確な出
生前診断の報告はみられない。そこで胎児超音波肺低
形成指標の計測を行った腹壁異常症例の検討を行っ
た。
【方法】対象は 1991 年から 2003 年までに、当科で
肺胸郭断面積比(LT 比)、胸郭高躯幹長比(CT 比)の
計測を行った腹壁異常 26 症例で、疾患内訳は腹壁破裂
9 例、肝脱出を伴わない小臍帯ヘルニア 7 例、肝脱出を
伴う巨大臍帯ヘルニア 10 例(うち破裂ヘルニア 3 例)
であった。生後 30 日以内に呼吸不全で死亡し、肺対体
重量比により肺低形成と診断された 3 例(全例が巨大
臍帯ヘルニア、うち破裂ヘルニアは 2 例)を肺低形成
群とした。尚、肝脱出例(巨大臍帯ヘルニア)では肝
基部を含む胎児超音波腹部横断面にて、体腔外への肝
脱出断面積/全肝断面積比を算定し肝脱出率とした。計
測週齢は平均 33±3 週であった。
【結果】LT 比は肺低形
成群で 0.29±0.053 と他群(腹壁破裂 0.51±0.083、小
臍帯ヘルニア 0.54±0.069、巨大臍帯ヘルニア 0.52±
0.086)に比し有意に低下した。 CT 比は肺低形成群で
0.45±0.051 と小臍帯ヘルニア 0.37±0.042 に比し有
意に高値を示したが、腹壁破裂、巨大臍帯ヘルニアと
は有意差を認めなかった。肝脱出率は肺低形成群で
0.92±0.075、巨大臍帯ヘルニア 0.81±0.11 と有意差
を認めなかった。【まとめ】1)腹壁異常症例の胎児超
音波肺低形成指標を検討した。2)腹壁異常に合併する
肺低形成の出生前診断に肺胸郭断面積比の計測が有用
と思われた。
240
腹壁破裂に対する retractor を用いた還
納法:とくに一期的還納の有用性
順天堂大学 医学部 小児外科・小児泌尿生殖器外科
○小笠原 有紀、岡崎 任晴、小林 弘幸、山高 篤
行
脱出臓器の一期的還納が困難な腹壁破裂(以下,本症)
において,まず silo を造設し,二期的に腹壁閉鎖を行
うことが一般的である.われわれは,本症4例に対し
て Applied Alexis wound retractor and protectorR
(WPAR) を用いた silo 造設を施行し,
うち1例では silo
造設時に脱出腸管の損傷を回避しつつ一期的に還納し
得た後,腹壁欠損孔の自然閉鎖を行ったので,その有
用性について報告する.
3 例に対しては,まず WPAR にて silo 形成を施行し,そ
の後 3~5 病日で二期的腹壁閉鎖術を行った.3 例中 1
例では腹壁は縫合閉鎖を,2例では臍帯で欠損孔直上
を覆い TegadermR で被覆し自然閉鎖を行った.現在術後
8~36 ヵ月経過し,全例臍部の外観は美容的にも満足出
来るものである.
残る1例は在胎 38 週,2488g で出生した男児で,出生
後に本症と診断され,当科へ搬送となった.欠損孔は
径 2×2cm 大で,脱出臓器は全小腸であった.脱出腸管
壁の浮腫ならびに腸間膜の浮腫性肥厚が非常に強く,
一期的な用手還納は困難であると考えられ, WPAR を用
いた silo 造設の方針となった.しかしながら silo 造
設後,引き続き徐々に silo を用手的に加圧することに
より腸管を一期的に還納し得た.経過観察のために
WPAR は留置したまま手術を終了した.第 4 病日に WPAR
を除去し,欠損孔を臍帯で覆い TegadermR で被覆し,自
然閉鎖を行った.術後 4 ヵ月の現在,軽度の臍ヘルニ
アを認めるものの臍部の外観は健常児との大差は認め
ない.
WPAR を用いた還納法は,従来の silo 造設による二期的
閉鎖法のみならず一期的還納も可能な場合があり,本
症に対する有用性が高いと考えられた.
空腸閉鎖を伴う腹壁破裂に対して臍帯被
覆による腹壁閉鎖を施行した 1 例
日本大学医学部外科学講座小児外科部門
○南郷 容子、池田 太郎、星野 真由美、杉藤 公
信、越永 従道、草深 竹志
【はじめに】
腹壁破裂は 5~25%の頻度で腸閉鎖を合併し, 時に予
後の不良に関連する. 一方, 腹壁破裂に対する治療と
して最近, 腹壁欠損部を臍帯にて補填し, 縫合閉鎖を
行わない腹壁閉鎖法(以下, 本法)が報告されている.
今回我々は空腸閉鎖を伴う腹壁破裂に対し本法を行
い, さらに空腸閉鎖の 2 期的修復術を施した症例を経
験したので報告する.
【症例】
日齢 0, 女児. 在胎 25 週より胎児超音波および MRI 検
査で腹壁破裂と空腸閉鎖を指摘されていた. 胎児の成
熟をできるだけ待ち, かつ羊水への暴露による腸管の
炎症性肥厚・浮腫の影響を少なくするため, 在胎 34 週
5 日の陣痛出現前に予定帝王切開で娩出させた. 出生
体重 2000g, Apgar score 8 / 9 であった. 径 2cm の腹
壁欠損部より胃幽門部から下行結腸までの腸管脱出
と, 索状型の空腸閉鎖を認めた. 同日内に全身麻酔下
で, 空腸閉鎖に対して上腹部にチューブ空腸瘻を造設
するとともに, 脱出腸管は腹壁欠損部より還納した.
腹壁の縫合閉鎖は行わず, 残存した臍帯を用いて欠損
部を覆うのみとし, これをドレッシングフィルムによ
って被覆するようにしておいた. 日齢 24 には経腸栄養
を開始, 日齢 34 に空腸端端吻合術を施行し, 日齢 60
には完全経腸栄養へ移行した. 腹壁欠損部については,
補填に用いた臍帯の乾燥脱落の過程とともに, 欠損部
の縮小, 肉芽形成, 上皮による被覆瘢痕化が進み, 最
終的に整容性に優れた臍部の形成が得られた.
【まとめ】
空腸閉鎖を伴う腹壁破裂に対する治療として, 腹壁欠
損部の縫合閉鎖を行わず, 臍帯にて補填するとともに
チューブ腸瘻を作成し, 2 期的に空腸閉鎖の修復術を
行うことが可能であった. 本法では整容性に優れた臍
の形成も得られ, 小腸閉鎖を合併する症例に対しても
考慮する価値のある治療法であると思われた.
O-153
O-154
241
腹壁破裂症例に対する治療成績の検討―
院内出生例と他院出生後緊急搬送例の比
較―
神奈川県立こども医療センター 外科 1、神奈川県立こ
ども医療センター 新生児科 2
○武 浩志 1)、大浜 用克 1)、北河 徳彦 1)、川滝 元
良 2)、猪谷 泰史 2)
【目的】腹壁破裂は、感染や低体温、腸管浮腫の進行
などの問題があり出生直後より適切な管理と早期外科
治療が必要な疾患である。このため、出生前より産科、
新生児科、外科が連携し管理することが重要である。
小児外科医を有する当センター周産期医療部出生例
(院内出生例)と他院出生緊急搬送例(他院出生例)
の術前背景と治療成績について比較検討する。【対
象・方法】1985 年1月から 2006 年 12 月までに治療し
た腹壁破裂症例 41 例を対象とした。当センター周産期
医療部(1992 年 10 月開設)で管理された院内出生 22
例(出生前診断例 21 例と非出生前診断例1例)と他院
で出生後緊急搬送された 19 例に分類し、娩出法、出生
から手術開始までの時間、一期的閉鎖の有無、術後合
併症、人工呼吸を要した期間、経腸栄養確立までの期
間、術後入院期間について検討した。【結果】娩出方法
は、院内出生例は自然分娩1例、帝切 21 例(予定 10、
緊急 11)
、他院出生例は自然分娩 11 例、帝切8例であ
った。在胎週数(院内出生/他院出生)は、35.1±1.7
週/36.5±2.3 週、出生体重は 1,969±417g/2,169±
528g例、出生から手術開始までに要した時間は、3.2
±1.1 時間/5.0±1.0 時間(p=0.0027)であった。お
もな術前合併奇形・合併症は、腸閉鎖 4 例/1 例、消化
管穿孔1例(絞扼捻転)/1例(娩出時)であった。
一期的閉鎖は、18 例(81.8%)/16 例(84.2%)に可能
であった。術後腹腔内感染を発症した症例はなく、腸
穿孔を 2 例(院内他院出生各1例)
、腸瘻形成を 1 例(他
院出生例)認めた。人工呼吸管理期間は 8.8±6.8 日/
9.8±10.3 日、経腸栄養が 100kcal/kg/日に達するまで
の期間は 33.2±19.2 日/52.5±45.8 日、術後退院まで
の期間は 75.5±53.2 日/88.5±81.3 日であった。死亡
例は、総肺静脈還流異常による心不全で日齢1に死亡
した症例と短腸症候群 TPN による肝不全症例が各 1 例
であった。
【まとめ】術式、術後合併症、人工呼吸管理
期間、経腸栄養の確立までの期間、入院期間を院内出
生例と他院出生例に分類し比較したが有意差はなく、
院内出生の意義はみいだせなかった。しかし、院内出
生例は患者搬送の必要ないことや計画分娩が可能なこ
と、関連各科の連携が円滑なことなどより手術開始ま
での時間が有意に短縮していた。本症は治療上迅速な
対応が必要であり、胎児管理から外科治療まで可能な
周産期施設での管理が望ましいと考える。
O-155
O-156
ヒルシュスプルング病術後中期予後:腹腔
鏡補助下と開腹プルスルー法の比較検討
順天堂大学 医学部
○藤原 なほ、岡崎
小児外科・泌尿生殖器外科
任晴、山高 篤行
【目的】ヒルシュスプルング病の術後排便機能を、腹
腔鏡補助下結腸プルスルー(LPT)施行例と開腹プルス
ルー(OPT)施行例で比較検討した。
【方法】1991 から
2002 年に当科で経験した LPT 施行 22 例と OPT 施行 13
例を対象とした。全例が生後 1 年以内のプルスルー術
施行例であり、そのうち 6 例(LPT;5 例、OPT;1 例)
は、新生児期手術症例であった。排便機能評価法とし
て、排便回数、便失禁の程度、肛囲びらんの有無、粘
膜脱の有無、薬剤コントロールの程度の 5 項目(各 2
点 、 最 高 10 点 ) で 評 価 し た ス コ ア ( Continence
Evaluation Score=CES)を用いた。特に、便失禁の程
度は、continence=2 点、occasionally staining=1.5
点、staining=1、staining always=0.5 点、soiling
=0 点とし、0~1 点を severe incontinence(SIC)と
した。CES、SIC に関しては、術後各年毎の比較を両群
間で行った。手術侵襲評価には、有熱期間、白血球数
最高値、血清 CRP 最高値を用いた。
【結果】術時平均年
齢は両群間で有意差を認めなかった。LPT 群における術
後 7 年間の各年の平均 CES は、6.3、6.9、7.3、7.7、
8.3、8.9、9.0 で、OPT 群は、5.6、6.4、7.0、7.5、7.8、
8.3、8.4 であり、統計的有意差は無かったが、LPT 群
の CES が常に高値を示した。術後 4 年における SIC は、
LPT 群(5/22 例=23%)が、OPT 群(7/13 例=54%)
に比し低頻度であった。術後 6 年では、SIC を OPT 群で
は 23%(3/13 例)に認めたのに対し、LPT 群では SIC
症例はいなかった(0/10 例)
。LPT 群は、血清 CRP 最高
値(LPT;3.87±2.10mg/dL、OPT;9.17±4.99mg/dL)
及び、有熱期間(LPT;0.87±0.83 日、OPT;3.91±2.30
日)より、OPT 群と比較して有意に低侵襲であると考え
られた。
【結語】新生児期手術症例を含め、LPT は、低
侵襲であると同時に、OPT と同等、あるいはそれ以上の
術後排便機能が得られることが示唆された。
242
O-157
当院の総合周産期母子医療センターにお
ける新生児外科手術症例の検討
超低出生体重児の腸管穿孔合併症例にお
ける腸瘻閉鎖時期と身体発育に関する検
討
東京都立大塚病院 新生児科 1、東京都立大塚病院 小
児外科 2、東京都多摩がん検診センター3
○大橋 祥子 1)、菅 御也子 1)、岡田 真衣子 1)、藤中
義史 1)、岩村 美佳 1)、増永 健 1)、瀧川 逸朗 1)、後
藤 博志 2)、井村 総一 3)
【はじめに】新生児期における腸管穿孔はその予後に
大きく関与する。また低出生体重児の腸瘻の管理、閉
鎖の時期など多くの問題が存在する。今回腸瘻を有し
た超低出生体重児における腸瘻閉鎖までの経過とその
後の身体的発達との関連などを検討した。【対象と方
法】平成 11 年から当院新生児科に入院し、消化管穿孔
後に腸瘻造設術および腸瘻閉鎖術を施行され、修正1
歳まで生存しておりかつ発達を評価できた超低出生体
重児 8 例を対象とし後方視的に検討した。
【結果 1】修
正 6 ヶ月時および1歳時の身長、体重、頭囲と腸瘻閉
鎖時期や腸瘻形成から閉鎖までの一日あたりの体重増
加量との関連を検討した。腸瘻閉鎖までの期間と修正 6
ヶ月時および1歳時の身長、体重、頭囲には負の相関
が見られた。特に1歳時の身長と頭囲で強い相関関係
があった。また一日あたりの体重増加量と修正 6 ヶ月
時および1歳時の身長、体重、頭囲の相関関係はなか
った。【結果 2】8 症例を平成 14 年で区切り前期群、後
期群と二つにわけ検討した。前期群、後期群ともに平
均在胎週数、平均出生体重、消化管穿孔および腸瘻造
設日齢に有意差はなかった。腸瘻閉鎖を施行した日齢
は前期群で遅く 193±70 日、後期群で 131.5±44 日と
早かった。これに伴い閉鎖時の体重が前期群で 2319.7
±323g、後期群で 1385.7±274g と有意差があった。腸
瘻造設から閉鎖までの期間での体重増加は前期群で
13.8±3g/日であったのに対し後期群では 6.2±0.5g/
日であり、後期群では閉鎖時期は早かったもののそれ
までの体重増加は緩慢であったことがわかった。また
修正 6 ヶ月と 1 歳時の身長、体重、頭囲の平均を比較
すると有意差はなかったが平均値はいずれも前期群を
後期群が上回っており、後期群のより小さい体重、早
い日齢で腸瘻の閉鎖をした症例の方が修正 6 ヶ月ある
いは修正 1 歳時に良好な身体的発達を示していること
がわかった。【考察】比較的早期、低体重で腸瘻を閉鎖
した児でも身体的発達が劣らないという傾向が認めら
れた。実際の腸瘻の閉鎖時期や体重などの発達は腸瘻
を造設することになった部位と残存小腸の長さによる
ところが大きい。新生児期において腸瘻の管理には時
間と労力がかかるため、今回の結果をふまえると安全
に腸瘻閉鎖術を行える状況下では比較的早期の腸瘻閉
鎖術を行うことが児の身体発育の予後の改善につなが
る可能性があると考えられた。
O-158
自治医科大学 小児外科 1、自治医科大学 小児科 2
○田辺 好英 1)、横森 欣司 1)、高橋 尚人 2)、本間 洋
子 2)、桃井 真理子 2)
当院の総合周産期母子医療センターが開設されてから
約 10 年経過するが、この間に経験した新生児外科症例
(手術施行症例)について考察し、より充実した新生
児医療を施行していくための検討をした。(対象と方
法)総合周産期母子医療センターが開設した 1997 年か
ら 2006 年までに当科で経験した新生児外科手術症例
103 例について、前半を A 群(1997 年から 2001 年)
、
後半を B 群(2002 年から 2006 年)として各群の(1)
出生体重、
(2)出生までの経過(胎児診断や妊娠経過)、
(3)出生後診断と合併症、
(4)手術方法、(5)術後経
過などを検討した。
(結果)A 群 43 例、B 群 60 例であ
った。最小出生体重は A 群 718g(25w+0d)、
B 群 436g(23w
+0d)であり、院内出生、または母体搬送など母体から
胎児、さらに新生児に至るまでフォローできた症例は A
群 30 例(69%)、B 群 47 例(78%)であった。出生前診断は
A 群 10 例(23%)、B 群 31 例(51%)と B 群が多く、胎児医
療の発展に伴うものと示唆された。出生後診断は各群
に明らかな差はなく、いずれも消化管閉鎖が最も多く、
ついで消化管穿孔であった。しかし、B 群の症例は計画
的治療が施行できた症例が多く、術式や術後状態にも
反映した。
(考察)当院における総合周産期母子医療セ
ンターの役割は大きく、年々症例数は増加している。
また最近は周産期、新生児医療が目覚ましく発展し、
従来であれば救命不可能な症例も数多く存在する。外
科疾患を有する新生児も同様である。今回の検討から
低出生体重児や、合併症を併発した症例のようなハイ
リスク群であっても、出生前に胎児の状態が把握でき、
さらに母体とともに経過観察が可能であればより充実
した新生児医療が施行できることが示唆された。この
ためには新生児科や産科、また対応する外科系各科は
もとより、関係するコメディカルの方々まで含めた密
接な連携が必要である。
243
極低出生体重児に合併した胆石症例の検
討:経過観察結果
群馬県立小児医療センター外科 1、群馬県立小児医療セ
ンター新生児科 2、群馬大学大学院病態総合外科学 3
○鈴木 則夫 1)、西 明 1)、鈴木 信 3)、藤生 徹 2)、
丸山 憲一 2)、小泉 武宣 2)
出生前診断された先天性横隔膜ヘルニア
46 例の治療戦略とその成績
九州大学 大学院医学研究院 小児外科 1、九州大学
大学院医学研究院 産婦人科 2、九州大学 大学院医学
研究院 小児科 3
○増本 幸二 1)、永田 公二 1)、日高 庸博 2)、吉村 宜
純 2)、月森 清巳 2)、曳野 俊治 3)、田口 智章 1)
先天性横隔膜ヘルニア(CDH)は、周産期および周術期医
療の進歩にも関わらず、今なお予後不良な疾患の1つ
である。特に出生前診断例では予後不良であり、近年
まで、一酸化窒素吸入療法や膜型肺使用など最新の治
療が試みられていたが、十分な成果はあがらなかった。
我々も過去にいくつかの治療戦略を試み、近年良好な
治療成績を得るようになった。そこで、当科において
1982-2007 年 2 月までに経験した出生前診断例 46 例に
対する治療戦略の推移とその治療成績を報告する。治
療法の推移:1982-1993 年の期間(I 期)は早期手術を行
い、1994-1996 年の期間(II 期)は新たに母体にモルヒ
ネとジアゼパムを投与し、胎児を sleeping baby とし
て娩出し処置を行う胎児鎮静化(FS)を取り入れ、FS と
待機手術を治療戦略とした。その後、1997-2003 年の間
(III 期)は FS+早期手術を原則とした。さらに 2004 年
以降(IV 期)では gentle ventilation(GV)を中心とした
治療方針とし、手術時期を児の循環状態の安定化した
時期に行う待機手術へと変更した。具体的には、持続
的な筋弛緩剤投与を行わずフェンタニールのみでの鎮
静を図り、呼吸条件は HFO または CMV にて、preductal
SpO2 を 90%、preductal PaCO2 を 65mmHg まで許容し、
手術時期は血圧が安定化し利尿を認め、加えて心エコ
ー上 PDA の flow が左右もしくは両方向性となった時点
で行うことした。治療成績:I 期では7例、II 期 3 例、
III 期 22 例、IV 期で 14 例の出生前診断例を経験した。
I-IV 期での出生前診断週数は各々、平均 33.3 週、31.0
週、30.0 週、28.0 週と、IV 期で早い時期での診断がさ
れていた。肺胸郭比は I 期では測定できていないが、
他の 3 期では II 期が平均 0.10、III 期 0.09、IV 期 0.11
と明らかな差を認めなかった。これらの症例の生存率
は I 期 で 2/7(28.6%) 、 II 期 0/3(0.0%) 、 III 期
13/22(59.1%)、IV 期 13/14(92.9%)であり、他の期間に
比べて IV 期で有意に改善をみた。まとめ:われわれの
経験から、現在当科で行っている GV を中心にした周術
期管理と循環状態の安定化後の手術という治療方針
は、出生前診断された重症 CDH 症例の予後を大きく改
善させると考えられた。
O-159
O-160
【目的】溶血性疾患や代謝疾患、胆道系の先天異常、
高カロリ輸液等に合併するものを除くと小児、特に新
生児の胆石症は従来希とされていたが、最近、腹部超
音波検査の普及に伴い発見される機会が増加してい
る。我々は 1991 年から 2006 年の 15 年間に極低出生体
重児の 23 例に胆石症を経験し、その経過を検討した。
【症例】23 例での在胎週数は 24 週から 32 週、出生体
重は 580g から 1,434g。23 例中 20 例が超低出生体重児
で、胆石は日令 45 日から 190 日で、月 1 度、あるいは
退院時ルーチンの腹部超音波検査により診断され、
retrospective には全例、腹部単純レ線で胆石陰影を認
めた。【結果】23 例中、無症状の 2 例が他院に転科し経
過観察から逸脱、1 例では胆石の経過観察で腹部超音波
施行中に偶然肝右葉腫瘤を発見、肝芽腫が診断されて
生後 6 月、肝右葉区域切除(S5+S6)と胆嚢の合併切除
が行われた。残り 20 例中 16 例では胆石が自然排出さ
れたが、経過中 8 例で総胆管結石が見られ、5 例は NICU
入院中に保存的に治療、軽快した。3 例で総胆管拡張を
示し、うち 2 例では灰白色便と黄疸を伴ない手術目的
で入院したが、手術待機中に結石が十二指腸に排出さ
れた。現在 4 例に胆嚢胆石が残存、10 才以上の 3 例に
腹腔鏡的胆嚢摘出を考慮している。
【結語】未熟児胆石
症の原因として、利尿剤フロセミドの投与、光線療法、
経腸栄養が長期間行われない事などが挙げられるが、
23 例中 4 例では腎石灰化や結石も合併、重症仮死、頭
蓋内出血の合併など、長期の入院、輸液を要した症例
が多く、特にフロセミド投与が重要な要因と考えられ
た。経過観察で約 70%に胆石の自然排出が認められて
いるが、10 才以上での胆石残存例には手術を考慮して
いる。
244
Gross A 型食道閉鎖症における出生前診
断の検討
大阪府立母子保健総合医療センター 小児外科 1、大阪
府立母子保健総合医療センター 産科 2
○長谷川 利路 1)、奥山 宏臣 1)、川原 央好 1)、窪田
昭男 1)、上野 豪久 1)、瀬戸 佐和子 2)、末原 則幸 2)
【はじめに】先天性食道閉鎖症の出生前診断例が散見
されるが、FalsePositive も多く、正確に診断すること
は容易ではない。また報告例の殆どは、GrossC 型食道
閉鎖症で、発生頻度の稀な Gross A 型の報告例は極め
て少ない。今回 Gross A 型食道閉鎖症の出生前におけ
る画像所見を検討した。
【対象と方法】1981 年から 2007
年 2 月までに、
出生前診断された食道閉鎖症は 29 例で、
6 例が GrossA 型であった。1 例は 18-Trisomy を、1 例
は 6q 欠損、内臓逆位を、1 例は十二指腸閉鎖症と鎖肛
を合併した。診断時期は在胎 32~37 週で、超音波検査
が全例に行われ、MRI 検査が 1 例に追加された。その画
像所見、出生後の治療、転帰等を検討した。【結果】在
胎 32-37 週において、羊水過多は 6 例全例にみられ、
上部食道盲端の拡張は、5 例にみられた。十二指腸閉鎖
症合併の 1 例を除く 5 例では、胃胞は同定されなかっ
た。十二指腸閉鎖症合併例では、胃胞と十二指腸の著
明な拡張に加え、下部食道の拡張がみられた。
18-Trisomy 例は在胎 31 週で死産となり、他の 1 例は
39 週にて胎内死亡した。残る 4 例は、在胎 36-38 週、
体重 2060~2860g にて出生した。初期治療は胃ろう造
設で出生当日~5 日目に行われた。食道食道吻合は 3
例に生後 25 日~8 ヶ月にて行われた。Long-gap の 1 例
では、頚部食道ろう造設後、2 回の延長術を行い、1 才
2 ヶ月にて食道食道吻合が行われた。その後 3 例におい
て、胃食道逆流症がみられたため、噴門形成術が施行
された。これら 4 例の経過は良好である。
【考察】先天
性食道閉鎖症の出生前診断は、羊水過多、上部食道盲
端の拡張、及び胃胞が同定されないことでなされる。
今回の GrossA 型食道閉鎖症 6 例において、羊水過多は
全例にみられた。上部食道盲端の拡張は 5 例にみられ
たが、上部食道は嚥下運動により収縮拡張を繰り返す
ため、注意深い頻回の検査により、盲端が拡張するこ
とを確認する必要がある。胃胞は十二指腸閉鎖合併例
を除く 5 例で同定不可であった。同時期に経験された
約 1/3の GrossC 型症例では、気管と下部食道間のろう
孔を通じて羊水が流入するため、胃胞が同定されてい
る。これより、胃胞の消失は GrossA 型により特異的な
所見と思われるが、胃液や十二指腸液が貯留して、胃
胞が同定される症例もあり、注意を要する。
出生前診断された嚢胞性肺疾患の病態と
予後
大阪府立母子保健総合医療センター 小児外科
○奥山 宏臣、窪田 昭男、川原 央好、長谷川 利
路、上野 豪久
O-161
O-162
【目的】近年診断技術の進歩により出生前診断される
嚢胞性肺疾患は増加傾向にあるが、その病態は様々で
あり個々の症例に対する適切な治療方針が必要とな
る。そこで自験例を対象として、疾患毎の重症度に応
じた治療方針について後方視的に検討した。【対象お
よび方法】出生前診断された肺病変のうち手術を行っ
た 20 例を対象とした。これらの症例の出生前後の経過、
手術時期、手術所見、最終診断、予後について検討し
た。また出生前の重症度評価として胎児肺胸郭断面積
比(LT 比)を計測し肺低形成の指標とした。【成績】出
生前診断時期は在胎 18-37 週(平均 26±5 週)で、胎
児超音波所見は肺内嚢胞性病変 15 例、肺外腫瘤性病変
5 例であった。肺病変以外の所見として羊水過多を 3
例、胎児水腫を 4 例に認めた。分娩様式は胎児水腫が
進行した2例に緊急帝王切開を、嚢胞性病変の圧迫に
よる高度肺低形成の 4 例(LT 比<0.25)に待機的帝王
切開を行なった。一方肺低形成が無いあるいは軽度な
症例(LT 比>0.25)は経膣分娩であった。胎児治療と
しては多量の胸水を認めた肺葉外分画症 3 例のうち 2
例に胸腔羊水腔シャント留置を行いいずれも胸水が消
失し満期までの妊娠継続が可能となった。他の 1 例に
対しては母体へのステロイド投与を行ったが効果なく
帝王切開による早期娩出(35 週)となった。20 例の出
生時の週数は 37.5±3.3 週、体重は 3.0±0.6kg であっ
た。出生時に呼吸器症状(人工呼吸を要する呼吸不全 6
例、多呼吸・チアノーゼ 5 例)を認めた 11 例中 10 例
に対して新生児期に手術を行った。呼吸器症状を認め
ない 9 例に対しては新生児期 1 例、生後 9-26 ヶ月 8 例
に根治術を行った。術式は嚢胞切除 1、肺葉切除 14、
分画肺切除 5 で、最終組織診断は CCAM11、肺葉外分画
症 5、肺葉内分画症 2、気管支性嚢胞 2 であった。全例
生存中であるが、胎児水腫を伴った CCAM の1例では一
時的に在宅酸素療法が必要であった。【結論】LT 比が低
く胎児水腫を伴う CCAM 症例は重症であるが、適切な分
娩時期の選択や出生後の治療により救命が可能であっ
た。胸水を伴う肺分画症に対しては胸腔羊水腔シャン
トが有用であった。無症状の症例に対しては 1 歳前後
で待機手術の方針としたが、合併症はなく予後は良好
であった。出生前診断された嚢胞性肺疾患に対しては、
個々の疾患や重症度に応じた治療方針の決定が重要と
考えられた。
245
O-163
出生前診断の功罪
新生児慢性肺疾患と ACTH-副腎皮質ホル
モン系、Na 代謝の経時的変化の検討
岐阜県総合医療センター 新生児科
○山田 桂太郎、山本 裕、久保寺 訓子、折居 恒
治、内山 温、長澤 宏幸、河野 芳功
【はじめに】近年、新生児慢性肺疾患と副腎皮質機能
との関連について議論されている。今回、我々は在胎
32 週未満の早産児に対し、経時的な ACTH-副腎皮質ホ
ルモン、Na 代謝と新生児慢性肺疾患との関連について
比較検討をおこなった。
【対象】在胎 32 週未満の当科に入院した早産児で、母
体ステロイド、出生後にステロイド投与をなされなか
った 16 例。日齢 28 を越えて酸素投与を必要とした 8
症例を CLD 群(平均在胎週数 29.5±0.8、平均出生体重
1263±180g)とし、それ以外の 8 症例を non-CLD 群(平
均在胎週数 30.2±0.9、平均出生体重 1380g±172g)と
した。在胎週数、出生体重において、2 群間に有意差は
認めなかった。
【方法】血中 Na 値についてはほぼ全例基準値内でコン
トロールするよう Na 補充を行った。日齢 7、14、28 の
血中 ACTH、日齢 3、7、14、28 の尿中コルチゾール、尿
中アルドステロン、FENa、Na 添加量を測定した。
【結果】血中 ACTH、尿中コルチゾールは経時的変化、
群間の比較において有意な変化は認めなかった。尿中
アルドステロンの比較においては non-CLD 群が日齢 7
において有意に高値(p<0.01)をしめし、その後も CLD
群に比較して高値で推移する傾向があった。血中 Na 値
は両群ともに有意差は認めず、基準値内で control で
きていた。FENa は CLD 群が日齢 14、28 で有意に高値(日
齢 14:p<0.05、日齢 28:p<0.05)であった。Na 添加
量は日齢 28 で CLD 群が有意に高値(p<0.05)であった。
【結語】ACTH-コルチゾール産生系は CLD の有無に関
わらず、有意な差は認められなかった。CLD 群において、
アルドステロン分泌が少なく、Na を喪失しやすい傾向
があり、血中 Na を基準値に維持するために、より多く
の Na 補充が必要であった。CLD を合併している児は副
腎からのアルドステロン産生が抑制され、負の Na 代謝
になっている可能性がある。
O-164
大阪府立母子保健総合医療センター
○窪田 昭男、川原 央好、長谷川 利路、奥山 宏
臣、上野 豪久
【背景】出生後の診断では最善の治療を行っても救命
できないか救命されても重篤な後遺症を残す疾患があ
り、出生前診断はこれらの疾患の救命率を飛躍的に改
善した。一方、胎児診断を告げられ、胎児への愛着を
失い、出生後の治療を拒否する症例に遭遇することも
ある。出生前診断の功罪について考察する。【対象】過
去5年間の新生児外科疾患の出生前診断率は 46%(288
例中 133 例)であった。この内、体表奇形など胎児診断
が可能と考えられる疾患で 75%(154 例中 115 例)であっ
た。症例1:男児。在胎 29 週の超音波検査(FUS)で TEF
と診断された。在胎 37 週、胎盤早期剥離で緊急帝王切
開(C/S)で出生した。無呼吸のため、気管内挿管を試み
たが挿管できず、喉頭閉鎖症と診断し、生後 16 分で気
管切開し蘇生した。その後 TEF の根治術を行い、2 歳の
現在心身共に障害を認めず成長している。症例2:男
児。在胎 23 週で口腔内腫瘤が指摘された。FUS で上気
道が完全閉塞されていることを確認、在胎 33 週に EXIT
によって気管切開及び腫瘤(奇形腫)部分切除を行っ
た。出生後、多期手術で腫瘍を全摘した。2 歳の現在心
身共に障害を認めず成長している。症例3:女児。20
週で羊水過少、子宮・膣留水腫、片側水腎症、総排泄
腔遺残が指摘された。肺低形成があり、致命的かもし
れないとの説明を受けてから、両親は治療を強く拒否
した。36 週、骨盤位のため C/S にて出生。出生後暫く
はあらゆる治療を拒否。その後徐々に受け入れ、第 3
生日に人工肛門、膀胱皮膚瘻造設を受け、1 歳 1 ヶ月時
に総排泄腔遺残症に対する根治術を受けた。3 歳半の現
在、母子関係は極めて良好であり、心身共に成長障害
を認めていない。症例4:男児。在胎 23 週で横隔膜ヘ
ルニア、Down 症、D-D twin と診断された。単身赴任で
あること、双胎であること、重症であることなどを理
由に生後の治療を拒否。治療を受け入れさせるのに長
い時間を要した。生後、プロとコールに則った治療を
受けいれた。2 歳 9 ヶ月の現在、親子関係は極めて良好
である。
【考察】出生前診断によって周産期の治療成績
が良くなる疾患は確かに存在し、新生児外科疾患全体
の治療成績を向上させ得る。一方、重篤な疾患の告知
は母親の愛着形成の躓きや治療拒否につながる危険性
がある。より正確な診断、告知を誰がするか・その時
期、告知後の母親のメンタルケアなど十分な検討を要
する。
246
新生児血中ステロイドホルモン一斉測定
による新生児副腎および性腺機能評価(第
2 報)
慶應義塾大学医学部小児科学教室 周産期母子医療セ
ンター新生児部門 1、慶應義塾大学医学部 中央臨床検
査部 2、慶應義塾大学医学部小児科学教室 3
○三輪 雅之 1)、有光 威志 1)、本間 英和 1)、倉辻 言
1)
、北東 功 1)、本間 桂子 2)、池田 一成 1)、長谷川
奉延 3)
【目的】第 51 回未熟児新生児学会学術集会において、
我々は正期産児を対象に液体クロマトグラフ‐タンデ
ム質量分析(LCMSMS)により血中ステロイドホルモン
を一斉測定し、10 種のステロイドホルモンの基準値を
報告した。今回、早産児を対象に同じ方法を用いて血
中ステロイドホルモンを測定し、早産児の副腎および
性腺機能を評価した。【対象および方法】両親から検査
の同意を得た内分泌学的に異常のない早産児(男 9 名、
女 10 名、在胎週数 34-36 週、出生体重 1325-2515g、日
齢 4)の血清 100μl を用いた。cortisol・cortisone・
17OH-pregnenolone ・ progesterone ・ 17OHP ・
21-deoxycortisol ・ DHEA ・ androstenedione ・
testosterone・DHT を LCMSMS により測定した。測定値
の分布範囲を Mann-Whitney U 検定により正期産児と比
較 し た 。 さ ら に 正 期 産 児 で 性 差 を 認 め た 17OHP ・
testosterone・DHT については男女別々に検討した。
【成績】胎生皮質機能の指標である 17OH-pregnenolone
(中央値正期産児:早産児=2.1:5.6)および DHEA
( 0.49 : 3.95 )、 副 腎 機 能 の 指 標 で あ る cortisone
( 123.4 : 48.5 )、 副 腎 ア ン ド ロ ゲ ン の 指 標 で あ る
androstenedione(0.15:0.43)では早産児と正期産児
の間に有意差を認めた。一方、coritsol、女児 17OHP、
男児 testosterone では有意差を認めなかった。【考察】
34-36 週の早産児において、1.17OH-pregnenolone、DHEA
は正期産児に比べ有意に高値であり、胎生皮質がより
残存していることが示された。2.cortisol は有意差を
認めなかったが、cortisone は有意に低値であり、副腎
機能に一定の傾向は見出せなかった。今後検体数を増
し 34-36 週での血中ステロイドホルモン基準値を作成
するとともに、33 週以下の早産児での副腎および性腺
機能評価を行い、急性期離脱後循環不全の一因と考え
られる副腎不全の早期診断を試みる予定である。
早産児一過性副腎機能不全の新生児期臨
床像の検討 第 5 報:血液学的・細菌学的
検討
加古川市民病院 小児科
○村瀬 真紀、石田 明人、伊東 利幸、湊川 誠、
牟禮 岳男、樋上 敦紀、金澤 育子、住永 亮
O-165
O-166
【目的】急性期離脱後の早産児における原因不明の循
環不全病態が、本邦で広く問題にされている。我々は
以前この病態を早産児一過性副腎機能不全と仮称し、
早期の臨床像について検討しているが、今回生後早期
の血液学的・細菌学的データについて検討したので報
告する。
【対象と方法】2000 年 9 月~2006 年 12 月に当
院に入院した早産児で、前に報告した(第 41,42 回周
産期新生児医学会)当院の基準で早産児一過性副腎機
能不全と診断した児は 8 名で、これを副腎不全群とし
た。この 8 名に対して同期間に入院した児より週数、
体重を適合させた対照を 3 名ずつ選び計 24 名の対照群
とし、新生児期の血液データ、細菌学的データについ
て比較検討した。【結果】1)在胎週数は副腎不全群
26.3±2.3w、対照群 26.4±2.2w、出生体重は副腎不全
群 865±247g,対照群 875±218g、両群の性差、Apgar、
院外出生率、帝王切開率、挿管率などに有意差はなか
った。2)両群の入院時白血球数(WBC)、赤血球数、血
小板数、ヘモグロビン値、ヘマトクリット値、
MCV,MCH,MCHC、赤芽球数(EBL)、CRP,IgG,IgM、血液凝
固機能には有意差がなかったが、WBC 分画で好中球 I/T
比が副腎不全群で有意に低値であった(p=0.016)。3)
日齢1から日齢 28 までの WBC の経時的変化は、両群間
で有意差がなかったが、日齢 28 までの血小板数の経過
は二元配置分散分析(以下 ANOVA)にて、副腎不全群が
有意に低値であった(p=0.028)。CRP は日齢 3 から 5 で
副腎不全群がやや高値の傾向にあり(p=0.1~0.2)、ま
た日齢 3 と日齢4における EBL は副腎不全群が有意に
高値であった(いずれも p<0.05)。4)両群間で入院時
細菌培養、日齢 28 までの経時的な細菌培養陽性率、真
菌検出率、MRSA 陽性率に有意差を認めなかった。5)
分娩直前の母体血液検査比較では、母体血小板数が副
腎不全群母体において有意に低値であった(p=0.021)。
また分娩前膣培養陽性は副腎不全群 6/7 例、対照群
12/24 例 と や や 副 腎 不 全 群 が 高 率 の 傾 向 で あ っ た
(p=0.191)。【考案】副腎不全発症児は早期に有意な血
小板減少を認め、CRP 高値傾向、EBL 高値、生下時の I/T
比の低値より、何らかの骨髄機能変化による易感染性
の可能性が示唆される。母体血小板数も有意に低値で
あることから、胎児・母体双方における感染・免疫学
的環境の変化が、生後の胎児副腎→新生児副腎移行過
程を遅延させる要因を生み出しているのかも知れな
い。
247
急性期離脱後一過性循環不全における血
圧低下度と脳室周囲白質軟化症の関係
名古屋市立大学大学院医学研究科 新生児・小児医学
分野 1、聖隷三方原病院 小児科 2、豊橋市民病院 小
児科 3
○小林 悟 1)、宮崎 直樹 2)、幸脇 正典 3)、小山 典
久 3)、鈴木 悟 1)、戸苅 創 1)
一過性副腎不全と産科的因子の関係・第 2
報
東京都立墨東病院 周産期センター産科 1、東京都立墨
東病院 周産期センター新生児科 2、日本医科大学 産
婦人科 3
○永野 玲子 1)、西村 力 2)、櫻庭 志乃 1)、林 瑞成
1)
、渡辺 とよ子 2)、若麻績 佳樹 1)、中井 章人 3)、
竹下 俊行 3)
目的:一過性副腎不全は、出生後1週間以降に血圧低
下・尿量減少・電解質異常等の症状を生じる新生児の
疾患であり、新生児予後に大きく係わる疾患として注
目されている。出生後に生じるため、産科管理上の注
意点についての検討は明確にはなされていない。当周
産期センターでも、特に近年増加の一途を辿っている。
そこで昨年に続き、同疾患を生じた児の妊娠・分娩時
背景を後方視的に検討してみた。
対象:2005 年から 2006
年に当周産期センターで出生し退院に至った児のう
ち、晩期循環不全を発症した 35 例を対象とした。全例
妊娠 30 週未満であったため、コントロールとして同時
期の未発症症例 59 例を設定した。方法:両群間で、母
体年齢・経産数・不妊治療の有無・在胎週数・妊娠合
併症の有無(切迫早産・前期破水・絨毛膜羊膜炎・妊
娠中毒症・常位胎盤早期剥離・前置胎盤・子宮内胎児
発育遅延・多胎妊娠)
・分娩時背景(分娩様式・出生時
児体重・Apgar score・UmA pH・non-reassuring fetal
status の有無・出生前リンデロン使用) について比較
検討した。検定には T 検定・χ2 乗検定を用いた。さら
に一過性副腎不全発症を従属変数としてロジスティッ
ク回帰分析を行った。結果:単変量解析では、母体白
血球数 15000 以上(P<0.01)
・母体発熱 38.0℃以上(P
<0.05)・子宮頸管粘液中顆粒球エラスターゼ値(P<
0.05)・病理学的絨毛膜羊膜炎(P<0.05)が発症群で
有意に高く、出生時児体重(P<0.001)と 5 分後の Apgar
score(P<0.05)は発症群で有意に低かった。多変量
解析では、母体白血球数 15000 以上・small for date
児の項目が、独立して一過性副腎不全の発症に関連し
ていた。考察:今回の検討結果より、母体の感染兆候・
small for date 児であることが一過性副腎不全発症の
リスクファクターとして抽出された。これより、母体
感染は出生後の児の免疫機能や疾病罹患において多大
な影響を及ぼしている可能性が示唆された。結語:上
記項目を一過性副腎不全発症のリスクファクターとし
て認識し、新生児科と情報を共有していくこと、子宮
内炎症所見の積極的な検索に努めることなどが今後の
課題と思われた。
O-167
O-168
【目的】早産児において生後全身状態が安定した後に
突然の血圧低下・乏尿を呈する急性期離脱後一過性循
環不全(LCD)は近年も増加傾向にあり、脳室周囲白質
軟化症(PVL)に至る症例もみられる。今回、LCD にお
ける血圧低下および尿量低下の程度と PVL 発症の関係
について検討を行った。
【対象と方法】2000 年 1 月から 2004 年 12 月の間に豊
橋市民病院、聖隷三方原病院、名古屋市立大学病院に
入院した児で LCD を発症した 42 人を対象とした。これ
らの児を PVL 群、非 PVL 群に分け、PVL 群ではさらに2
歳時に座位可能であるか否かで重度 PVL・軽度 PVL の 2
群に分類した。PVL の診断は超音波検査もしくは頭部
MRI で行い、超音波診断では LCD 発症後 2-3 週間程で嚢
胞が発見された例とし、また頭部 MRI 診断ではその他
の PVL 発症要因が存在する症例は除外した。血圧低下
度の評価は、血圧がそれまでの 80%以下に低下した時
点を発症時とし、以降血圧が安定するまでの間 80%以
下にある面積を BP index として検討した。尿量低下の
評価は、4 時間毎の尿量が 1ml/kg/h 以下・0.5ml/kg/h
以下であった時間、無尿が連続した最長の時間をそれ
ぞれ検討した。
【結果】PVL 群は 10 例(在胎週数 27.5±3.0w、出生体
重 957±367g、発症日齢 21.5±12.1d)
(重度 7 例、軽
度 3 例)
、非 PVL 群は 32 例(在胎週数 27.4±2.5w、出
生体重 982±291g、発症日齢 16.4±6.5d)であった。
血圧低下度は重度 PVL 群で収縮期 BP index 282.1±
149.6、非 PVL 群で 59.7±70.0 と重度 PVL 群では収縮
期血圧低下度が有意に高かった(p<0.0001)。一方、
軽度 PVL 群と非 PVL 群の間には有意差を認めなかった。
尿量 0.5ml/kg/h 以下の時間は重度 PVL 群 22.3±11.2h、
、最長無尿時間は重度
非 PVL 群 10.5±10.9h(p=0.03)
PVL 群 12.6±8.0h、非 PVL 群 6.5±4.2h(p=0.04) と
重度 PVL 群では尿量低下時間が有意に長かった。
【考察】今回の検討では重度 PVL 群では非 PVL 群に比
べ血圧低下の程度は大きく、尿量低下時間も長い傾向
にあった。LCD 発症時には、ステロイド投与を含めた早
期の治療により症状を速やかに改善させることが神経
学的予後改善につながると考えられた。
248
超低出生体重児における治療プロトコー
ル変更の影響(第1報)
県立広島病院 新生児科
○藤原 信、福原 里恵、木原 裕貴、中田 久美子、
本田 茜
目的)我々は、ここ 5 年間の間で超低出生体重児に以
下の治療プロトコールの変更を行った。1)生直後か
ら SpO2 95%~85%に保つ、2)中心静脈栄養、2 倍量の
強化母乳、MCTオイルの積極的使用、3)ステロイ
ド静注療法の使用制限であった。これらの治療変更が
短期予後に影響を与えたか検討した。
方法)本院NICUで日齢0より管理した在胎 28 週未
満もしくは出生体重 1000g の AFD 児で1)生存退院2)
IVH 4 度でない3)2 日以上の絶食期間がないをすべて
満たす 2002 年 4 月~2003 年 12 月に管理した前期群 30
例、2005 年 1 月~2006 年 12 月に管理した後期群 28 例
について検討した。
結果)在胎週数出生体重で有意差なし。経時的変化で
は、CO2、FiO2 が慢性期に後期が高値であり後期の方が
慢性期の呼吸状態が不良であった。ステロイド静注療
法に関しては、CLD に対する投与は、8 名 vs8 名で投与
開始日齢は、19 日 vs 41 日と有意に後期の方が遅く、
ハイドロコルチゾンに力価を換算した積算量 52mg/kg
vs34mg/kg で後期が有意に低値であった。副腎不全に対
するステロイド静注療法は、0 名 vs 7 名で後期が有意
に多く投与開始日齢は、14 日で積算量は 61mg/kg で投
与持続期間は、30 日であった。修正 36 週の体重(g)1530
vs1836、修正 36 週頭囲(cm)29.4 vs 30.8,人工呼吸管
理日数 35 vs 52、酸素投与日数 54 vs84,修正 36 週酸
素投与 7 名 vs 17 名、在宅酸素療法 0 名 vs 9 名で後期
群が有意に高値であった。光凝固術は、17 名 vs 4名
で後期群が有意に低かった。背景因子で有意差を認め
た妊娠高血圧症例を除いて検討を行ったが、同じ結果
であった。
結論)後期の管理により修正 36 週の頭囲と体重が増加
し、光凝固術の症例が減り、CLD に対するステロイド静
注療法の開始時期を遅らせ積算量を減らすことができ
たが、在宅酸素を必要とする児が増加し、副腎不全に
よるステロイド静注療法が増加し前期の CLD に対する
ステロイドの積算量より多い量を投与していた。長期
予後に良い影響を及ぼす身体発育は促進されたが、悪
い影響を及ぼすと考えられる呼吸障害の増悪と副腎不
全の症例の増加を認めた。今後対象の神経学的予後を
調査し報告する予定である。
超早産児の低血圧に対するハイドロコル
チゾン投与:有効性に関する検討
兵庫県立こども病院 周産期医療センター 新生児科
○溝渕 雅巳、上田 雅章、坂井 仁美、柄川 剛、
吉形 真由美、芳本 誠司、中尾 秀人、秋田 大輔
【目的】超早産児における生後早期の低血圧は,発生
頻度が高く,予後不良と関連する因子として重要であ
る.近年,未熟性や SIRS に伴う副腎機能不全および循
環不全に対するハイドロコルチゾン(HDC)投与の有用
性が注目されている.今回,超早産児の生後早期の低
血圧に対する HDC 投与について,1)投与方法,2)低血
圧に対する効果,3)急性期の副作用を後方視的に検討
した.
【対象と方法】対象は 2006 年 4 月から 2007 年 2 月に
当院で管理した在胎 28 週未満の院内出生児 36 例中,
生後早期(生後 72 時間以内)の低血圧に対して HDC 投
与を行った 6 例(17%).HDC 投与の適応は,1)平均動脈
圧が 30 mmHg 未満が持続する,2)カテコラミンが投与
されている,2)Hypovolemia の補正が行われていること
とした.投与方法は,1 回量 2mg/kg とし,2 回目以降
の投与は 12 時間以上間隔をあけることとした.観血的
動脈圧,心拍数,周産期因子(CAM, 出生前ステロイド
など),副作用(高血糖,PDA, IVH, NEC, 黄疸など)
について検討した.
【結果】1)超早産児の低血圧に対して HDC 投与を行っ
た 6 症例の在胎週数は 23~25 週で,出生体重は全例
600g 未満であった.在胎週数に比較して低体重の児が
6 例中 3 例であった.2)HDC の投与量は 1.5~2.5 mg/kg
であった.2 症例に 2 回投与が行われ,全体で 8 回の投
与が行われた.投与時期は中央値で生後 20 時間であっ
た.3)HDC 投与開始時の平均動脈圧は 23.9±3.6mmHg
であった.HDC 投与後3時間で有意な上昇を認め,投与
後7時間でピーク値 37.0±3.3mmHg に達した.HDC の投
与は,心拍数には影響を及ぼさなかった.4)180 mg/dL
以上の高血糖を,8 回の HDC 投与中 2 回に認めた.HDC
投与後の血糖上昇は,生後 24 時間以内の投与に多く認
められた.PDA,IVH,NEC/腸穿孔, 黄疸には明らかな
影響は認められなかった.
【結論】1)超早産児の低血圧に対する HDC 投与は,血
圧の上昇に対して有効であると考えられた.2)HDC 投与
による重篤な合併症は認めなかったが,高血糖には注
意が必要と考えられた.
【考案】HDC 投与の適応,効果および安全性に対する,
前方視的検討が必要である.
O-169
O-170
249
早産児急性期離脱後循環不全におけるス
テロイド投与量と漸減方法の検討
独立行政法人 労働者健康福祉機構 横浜労災病院
新生児科 1、横浜市立大学 小児科学教室 2、慶應義塾
大学病院 中央臨床検査部 分離分析 3、慶應義塾大学
医学部 小児科 4
○飛彈 麻里子 1)、森 治郎 1)、島袋 林秀 1)、福田 美
和子 1)、喜多 麻衣子 2)、本間 桂子 3)、長谷川 奉延
3)
、城 裕之 1)
【目的】早産児急性期離脱後循環不全は、副腎皮質の
ストレス反応不良に起因すると考えられており、ヒド
ロコルチゾン投与を必要とする。ヒドロコルチゾン投
与量は、成書や欧米のマニュアルには 1-2 mg/kg/dose
との記載が多く、また明確な漸減方法の記載はない。
当院では投与量 10 mg/kg/dose 以上を必要とする症例、
漸減中に症状再燃し投与量増加を必要とする症例を経
験している。今回それらの症例の経過から、同病態の
治療に要したヒドロコルチゾン投与量と漸減方法を検
討した。
【対象と方法】2005 年 4 月から 2007 年 2 月ま
でに横浜労災病院 NICU に入院し、同病態を発症した 10
症例。診療録を用いた後方視的検討。【結果】在胎週数
は 26 週 0 日-33 週 2 日(26 週 3 人、27 週 1 人、28 週 3
人、29 週 1 人、33 週 1 人)。出生体重 768g-1258g(平均
948g)。男 4:女 6。第三次施設からのバックトランス
ファー直後の発症 2 例、双胎症例 2 組。発症日齢 8-20(平
均 13.4 日)。初回ヒドロコルチゾン静注量 1 mg/kg/dose
3 例(不応 1 例、初回反応あり 2 回目以降不応 1 例、反
応 1 例)。初回量 5 mg/kg/dose 2 例(両例反応)。初回
量 10 mg/kg/dose 4 例(全例反応)。経口 10 mg/m2BSA
で 開 始 症 例 1 例 。 静 注 回 数 は 1 回 が 1 症 例 (1
mg/kg/dose)、2 回が 1 症例(10 mg/kg/dose)、3 回が 1
症例(10 mg/kg/dose)。7 症例は 4 回以上の投与を要し、
静注投与量漸減中に症状の再燃を認め、再増量後漸減
となった。経過中に経口投与に切り替えての漸減続行
は 7 症例で、内服中の漸減は、3-4 日毎または定期の眼
科診察後に著変無いことを確認後に、投与量の約 25%
ずつ漸減可能であった。6 例の総投与日数は 19-61 日
(平均 38.5 日)。1 例は現在内服漸減中。
【考察】今回の
結果では、成書等に記載されているより多い量のヒド
ロコルチゾンを、複数回、長期に使用した症例が多か
った。成熟児の先天性副腎過形成新生児も急性期には
大量ヒドロコルチゾンを要するように、早産児も本病
態の急性期には高治療量を必要とすることが示され
た。今回の初回投与量、投与期間、漸減方法のばらつ
きは、症例個々の臨床像の多様性と成書における明確
な記載の欠如に起因していると考えられる。早産児の
生理学的な一日糖質コルチコイド必要量は不明である
ことも、治療に必要な投与量の決定を困難にしている。
今後暫定的治療プロトコール作成とそのプロトコール
の結果データの集積が、至適投与量決定および治療効
果判定法の確立に必要と考える。
ハイドロコルチゾン持続内服療法を試み
た超早産児 7 例の検討
国立病院機構佐賀病院 母子医療センター 小児科
○高柳 俊光、岩永 学、小形 勉、松尾 幸司
O-171
O-172
【緒言】最近、当施設では主に在胎 25 週以下の超早産
児で慢性肺疾患の増悪やいわゆる「晩期循環不全」を
発症した児に対して、ハイドロコルチゾン 1~2mg/kg/
日内服の持続投与(以後 HDC 持続投与)を行っている。
今回本治療を行った超早産児 7 例の NICU 入院経過及び
暦年齢 1 歳時の身体発育を検討した。【対象と方法】
2004 年 10 月から 2006 年 2 月にかけて NICU 入院中に
HDC 持続投与を行った 7 例(在胎週数 24.2±1.5 週、出
生体重 655±209g)を投与群、投与群 1 例当たりに在
胎週数、性別、慢性肺疾患の病型が近似した症例を 2
例ずつ抽出した 14 例を対象群
(在胎週数 24.3±1.1 週、
出生体重 670±124g)として、修正 40 週及び暦 1 歳時
の体重と頭囲を比較した。尚、この 21 例は頭部エコー
や MRI で有意の異常は認めておらず、NICU 退院後も明
らかな運動障害や摂食障害はない。投与群は概ね修正
34 週までに HDC を減量中止されていたが、1 例は修正
40 週、1 例は生後 8 ヶ月まで投与されていた。一方、
対象群 14 例中 12 例では慢性肺疾患の増悪時や抜管前
にデキサメサゾン(約 1mg/kg/クール)を 1~4 クール
投与されていた。
【結果】修正 40 週の体重と頭囲は投
与群で 2393±493gと 33.5±1.6cm、対象群で 2060±
310gと 32.6±1.4cmで投与群の方が NICU 入院中の
身体発育は良好であった。一方、暦年齢 1 歳時の体重
の SD スコアは投与群と対象群で各々-2.18±0.99 と
-2.13±1.07、
頭囲の SD スコアは算出できなかったが、
実測値は投与群 43.4±1.3cm、対象群 43.9±1.6cm であ
った。【考案】対象群と比較して投与群は NICU 入院中
の身体発育こそ良好であったが、その優位性は暦年齢 1
歳の時点では消失していた。今回は NICU 退院後の栄養
法の検討が出来ていないため、本結果の解釈は困難で
あるが、HDC 持続投与が NICU 退院後の児の発育に影響
を及ぼした可能性も否定できない。今後も精神運動発
達を含め注意深い経過観察を行う予定である。会員外
協力者人見会美子
250
O-173
急性期循環管理と急性期離脱後循環不全
の関連についての検討
高 TSH 血性低サイロキシン血症は子宮内
発育遅延を伴う超低出生体重児に高率に
発症する
京都大学 医学部 発生発達医学講座
○河井 昌彦、水本 洋、松倉 崇、丹羽 房子、中
畑 龍俊
O-174
国立病院機構岡山医療センター 総合周産期母子医療
センター 新生児科
○竹内 章人、遠藤 志朋、影山 操、中村 信、吉
尾 博之、山内 芳忠
【目的】急性期離脱後循環不全(本症)の原因につい
ての議論が盛んである。我々は過去数年間の本症の経
験から、出生後の循環管理が比較的容易で早期の尿量
が多い児ほど本症を発症しやすい、という印象を抱い
ている。今回我々は、急性期の尿量と本症に関連性が
あるという仮説を立てこれを検証する。
【対象・方法】対象は 2002 年 7 月から 2006 年 6 月ま
でに当科に入院した在胎期間 26 週未満の超低出生体重
児 25 例のうち生存退院した 22 例。本症に対しステロ
イド投与を要した 8 例(症例群)とその他 14 例(対照
群)に群別し、症例対照研究を行った。曝露要因を尿
量とし、各周産期因子、平均動脈血圧(MAP)、水分投与
量、容量負荷剤(VE)投与量、カテコラミン投与量
(inotorope score)、急性期のステロイド、インドメ
サシン投与の有無、急性期合併症等を交絡要因候補と
した。
【結果】日齢 14 までの尿量を 24 時間毎に検討したと
ころ、生後 49 から 72 時間において症例群で有意に多
かった。そこで生後 72 時間について詳細な検討を行っ
た。本症との関連が t 検定、χ2 乗検定で P 値 0.2 以下
の変数は尿量、水分投与量、VE 投与量、帝王切開の有
無であった。帝王切開、水分投与量は尿量との関連を
認めたため、尿量、VE 投与量のみを変数としてロジス
ティック回帰分析を行なった。生後 72 時間の尿量が時
間平均 1ml/kg/hr 増えると、オッズ比は 11.37 倍(95%
信頼区間 1.41-91.49)であった。生後 72 時間の VE 投
与量が 10ml/kg 増えると、オッズ比は 0.64 倍(95%信
頼区間 0.39-1.04)であった。
【考察】急性期の尿量と本症の関連性が証明され、急
性期の尿量が多いほど発症の危険が高いという関連が
みられた。FENa が高いといわれる超早産児において、
尿量が多いということは Na 排泄が多いとも考えられ
る。また Na を含む VE 投与が多いほど発症の危険が低
い傾向がみられたことも考えると、生後早期の負の Na
バランスと本症が関連している可能性が示唆される。
今後の多施設共同研究は急務であり、急性期循環管
理・水分管理についての詳細な検討も望まれる。
【背景と目的】 極低出生体重児では低サイロキシン
血症がしばしば見られるが、その多くは TSH の上昇を
伴わず、
「TSH の上昇を伴わない低サイロキシン血症」
に対する治療が長期予後を改善したとするエビデンス
は無く、その治療の是非に関してはコンセンサスは得
られていない。 一方、
「TSH の上昇を伴う低サイロキ
シン血症」は、たとえ一過性であったとしても適切な
治療が必要と考えられるが、早産児では「一過性高 TSH
血症を伴う低サイロキシン血症」の頻度が高く、この
病態を見落とさない管理が重要である。 このため、
極低出生体重児の TSH の上昇を伴う低サイロキシン血
症の割合およびリスク因子について検討した。【対象
と方法】 2004~2005 年の 2 年間に管理した極低出生
体重児のうち、経時的に甲状腺機能を測定した 43 名の
診療録を後方視的に検討した。 甲状腺機能検査(TSH,
free T4;FT4)は初回検査を生後 3 週間以内に行い、
FT4 1.0 ng/dl 以上かつ TSH 10 IU/L 未満になるまで、
1-2 週間隔でフォローした。【結果】 43 例中、高 TSH
血症(TSH≧15 IU/L)を呈したのは 7 例で、TSH の上昇
を伴わない低サイロキシン血症(1.0ng/dl 未満)は 12
例だった。 なお、高 TSH 血症を呈したのは、超低出
生体重児(1000g 未満 17 名)の 5 例(29.4%)、極低出
生体重児(1500g 未満 26 名)の 2 例(7.7%)であっ
た。なお、超低出生体重児における検討では、SGA 9
例中 5 例 (56%) が高 TSH を呈したのに対して、AGA 8
例中高 TSH を呈した例は無く、高 TSH 血症を伴う低サ
イロキシン血症は子宮内発育遅延を伴う超低出生体重
児に圧倒的に多い傾向が見られた。 一方、高 TSH 血
症 7 例のうち、初回検査で既に TSH が高値だったのは 5
例で、2 例はフォロー中に TSH の上昇をきたした遅発例
だった。 【結論】 超低出生体重児は高TSH血症
を伴う低サイロキシン血症のリスクが高く、甲状腺機
能を検索することが重要である。 とりわけ子宮内発
育遅延を有する超低出生体重児では、1 回の検査で判断
せず、定期的なフォローを行うことが重要であると考
えられる。
251
当センターにおけるダウン症児の甲状腺
機能の検討
広島市立広島市民病院 周産期母子医療センター 新
生児科
○中田 裕生、林谷 道子、野村 真二、早川 誠一、
新田 哲也
超低出生体重児における甲状腺機能低下
症と背景因子についての検討
東京都立大塚病院 新生児科 1、東京都多摩がん検診セ
ンター2
○藤中 義史 1)、菅 御也子 1)、岡田 真衣子 1)、大橋
祥子 1)、岩村 美佳 1)、増永 健 1)、瀧川 逸朗 1)、井
村 総一 2)
【目的】当院 NICU において甲状腺機能低下症と診断し
治療を要した超低出生体重児について、その背景因子
について検討すること。
【対象】2001 年 1 月~2006 年 12 月まで NICU に入院し
た超低出生体重児で、甲状腺機能低下症と診断され治
療を要した 11 例(男児 7 例、女児 4 例)について、合
併疾患、マス・スクリーニング濾紙血結果(TSH、FT4)、
精検時甲状腺機能(TSH、FT3、FT4)、治療開始日齢、
治療経過などについて検討した。
【結果】在胎週数は 23-29 週、出生体重は 518-992g、
合併疾患は RDS9 例、動脈管開存症 7 例、脳室内出血(2
度以上)3 例、水頭症 4 例、ROP5 例、外科的手術を要
した症例は 6 例で、脳室リザーバ留置・VP シャント術
が 4 例、腸穿孔が 2 例、動脈管結紮術 2 例(重複例含
む)であった。11 例中 7 例はマス・スクリーニング検
査にて TSH 高値、2 例は TSH 軽度高値を示し甲状腺機能
精査を施行、他は Basedow 病母体児、低血糖精査のた
め甲状腺機能精査を施行した。精密検査は日齢 19-167
に 施 行 、 血 清 TSH
0.12-169.59 μ U/ml 、 FT3
1.55-3.55pg/ml、FT4 0.17-1.29ng/dl であった。治療
開 始 日 齢 は 19-181 で 、 い ず れ も levothyroxine
sodium(L-T4)を 2-10μg/kg/日で内服開始した。内服後
はいずれも速やかに甲状腺機能は正常化し、退院後も
フォローできた 7 例においては、体重増加に伴い L-T4
を増量した例が 2 例あったものの、その他 5 例は増量
なく経過観察または中止され、甲状腺機能も正常範囲
であった。
【考察】低出生体重児においては、視床下部-下垂体
-甲状腺系の negative feedback 機構の未熟性やヨー
ド過剰などにより、成熟児と比較して甲状腺機能低下
症の頻度が高いと報告されている。今回の検討におい
ては、頭蓋内疾患(頭蓋内出血、水頭症)や長期の低
栄養(腸穿孔)が甲状腺機能低下に関与している可能
性が示唆された。いずれも一過性甲状腺機能低下症と
考えられたが、超低出生体重児においては決め細かく
甲状腺機能を追跡する必要があると考えられた。
O-175
O-176
【目的】ダウン症児の甲状腺機能を生後早期より測定
し、甲状腺機能異常の頻度について検討した。
【対象】
2001 年から 2006 年の間に当センターに入院したダウ
ン症児 54 例のうち、早期死亡 3 例と甲状腺機能検査を
行っていない 3 例を除く 48 例を対象とした。観察期間
は 5 ヵ月から 5 歳、男児 25 例、女児 23 例。TSH、fT3、
fT4 を測定し、甲状腺剤を投与した児を内服群、経過中
に TSH が 10μU/ml 以上かつ fT4 は正常範囲で甲状腺剤
の内服を行っていない児を高 TSH 群、TSH が 1.0~10μ
U/ml かつ fT4 が正常範囲の児を正常群とした。甲状腺
機能異常例と正常例との間の合併症の頻度を比較検討
した。【結果】内服群は 48 例中 11 例であった。このう
ち初回濾紙血検査では、11 例中 5 例で精密検査、3 例
で再検査後に精密検査、3 例で正常という結果であっ
た。内服開始時期は生後 2 週間までが 7 例、1ヶ月前
後が 3 例、1歳 10 ヶ月が 1 例であった。内服開始前に
高 TSH かつ低 fT4 であった例は 2 例のみで、9 例では TSH
が異常高値のために内服を開始した。高 TSH 群は 24 例
であり、このうち経過中に正常化した例は 16 例であっ
た。高 TSH が持続している例が 1 例と初め正常であっ
たが後に TSH 高値となった 3 例で、TSH 高値が持続して
いる。残り 4 例では、TSH 高値にもかかわらずその後の
フォローアップがされていなかった。正常群は 13 例で
あった。今回の検討では甲状腺機能亢進を認める例は
みられなかった。甲状腺機能異常の有無と、先天性心
疾患、消化器疾患、自動 ABR スクリーニング要精査の
発症に関連性を認めなかった。
【考察】ダウン症児では
甲状腺機能異常を合併する頻度が高く、今回の検討で
は甲状腺剤の内服を必要とした例、高 TSH の持続する
例を合わせると、48 例中 15 例(31.3%)で異常が認めら
れた。正常例の中にも経過とともに甲状腺疾患を合併
する症例やマイクロゾームテスト陽性例では甲状腺機
能異常のリスクが上昇するとの報告もあり、長期的な
フォローが必要と思われる。年 1~2 回の血液検査が推
奨されているが、心疾患などの合併症がないと外来受
診がなくなることもあり、今後ダウン症児のフォロー
アップ体制の確立が重要な課題と考えられた。
252
新生児集中治療室におけるハイリスク児
の血清 IGF-1(ソマトメジン C)測定の意
義
島根県立中央病院 母性小児診療部 新生児科 1、島根
県立中央病院 母性小児診療部 小児科 2、島根県立中
央病院 母性小児診療部 産婦人科 3
○加藤 文英 1)、横山 淳史 2)、矢野 潤 2)、津村 久
美 2)、菊池 清 2)、長谷川 明広 3)
【はじめに】IGF-1 産生には成長ホルモン(GH)依存性の
ものと非依存性のものがあり、産生部位は脳・眼・心
臓・肝臓・腎臓など様々である。血清中のIGF-1 のほと
んどは肝臓由来で、日内変動が少なく、GHの生理的分
泌や栄養状態を評価できると言われている。最近、臍
帯血、新生児期の血清IGF-1 値より、児のその後の成長、
未熟児網膜症発症と重症度を予測する試みもある。今
回、NICU入院後の経過観察中に血清IGF-1 値を測定でき
た症例で、その意義について後方視的に検討した。
【対
象と方法】対象は、2004 年 3 月から 2007 年 2 月に出生
し、当院NICUに入院した児のうち、日齢 5 から修正 65
週齢までに血清IGF-1 を測定した児 277 名(在胎 22 週~
41 週、420 検体)である。染色体異常、重度の頭蓋内出
血、明らかな内分泌学的異常を認めた児は除外した。
血清IGF-1 はIRMA法で測定した。測定時には家族に口頭
で説明し同意を得た。
【結果】1.修正週齢別の血清IGF-1
平均値(ng/ml):23-31 週 27.4、32-36 週 39.1、37-42
週 66.2、43-45 週 93.4、46-50 週 96.1、51-55 週 98.5、
56-65 週 76.1。2.AFD児 vs SFD児の血清IGF-1 平均値
(ng/ml):32-36 週 40.4 vs 23.4、37-42 週 68.9vs 46.2、
43-45 週 92.7 vs 94.1、46-50 週 95.2 vs 94.9、51-55
週 105.7 vs 96.2、56-65 週 74.6 vs 87.6。3.体重増加
不良群vs良好群の血清IGF-1 平均値(ng/ml):32-36 週
37.8 vs 42.9、37-42 週 54.9 vs 83.8、43-45 週 78.4 vs
94.1、46-50 週 64.2 vs 99.5、51-55 週 85.6 vs 100.5、
56-65 週 58.8 vs 71.8。4.血清総蛋白、アルブミン、
ALP、Ca、IP、Hbと血清IGF-1 との関係:相関は認めな
かった。
【まとめ】1.修正 23~55 週齢では、血清IGF-1
値は修正週数にしたがい増加した。2.AFD児とSFD児に
差がなかった。3.体重増加不良群に比して増加良好群
で血清IGF-1 値は高い傾向であった。4.血清蛋白、貧血
の程度、ALP、Ca、IP値と血清IGF-1 値は相関しなかっ
た。これらの結果は、出生後しばらくの間はGH非依存
性のIGF-1 産生のみで、乳児期後半よりGH依存性の
IGF-1 産生が加わるとする動物実験の結果と一致する。
また、栄養状態が血清IGF-1 値に影響を与えることをも
示している。今後、長期的に経過観察し、新生児期・
乳児期早期の血清IGF-1 値から児の発育を予想できる
かについて検討したい。但し、IGF-1 の意義を検討する
際には、IGF-1 受容体以降の個人差についても配慮する
必要があり、結果の解釈には慎重であるべきである。
O-177
O-178
極低出生体重児における成長と血中活性
型グレリンおよびレプチン値の検討
順天堂大学 医学部 小児科 1、浦安市川市民病院 2
○北村 知宏 1)、大川 夏紀 2)、吉川 尚美 1)、鈴木 光
幸 1)、李 翼 1)、久田 研 1)、東海林 宏道 1)、田中 恭
子 1)、篠原 公一 1)、清水 俊明 1)
【背景】グレリンは胃から分泌される成長ホルモン分
泌促進物質であり、食欲増進作用やエネルギー代謝に
作用しているが、近年レプチンや IGF-1 とともに周産
期における胎児の成長にも関与している可能性が示唆
され注目を浴びている。しかしながら極低出生体重
(VLBW)児の成長においてこれらのホルモンがどのよう
な影響を及ぼしているかは不明である。【目的】VLBW
児の周産期、および修正 1 歳までにおける児の成長に
活性型グレリンおよびレプチンが及ぼす影響を検討す
ることを目的に本研究を行った。
【方法】重症感染症や
合併奇形を認めない出生体重 1500g 未満の VLBW 児 38
例( 男児 18:女児 20、平均在胎週数 30.0 週、平均出
生体重 1091g)を対象とした。AGA15 例、SGA23 例であり、
全例で生後 24 時間以内に経管栄養を開始した。
生直後、
生後 2、4、6、8 週、修正 3、6、9、12 ヶ月時に採血を
行い、血漿活性型グレリン、レプチン、および IGF-1
値を測定し、哺乳量や生体計測値との関係および IUGR
の影響などにつき検討を行った。
【結果】血漿グレリン
値は生直後において、それ以降の測定値に比して有意
に低値を示した。また、修正 12 ヶ月時では修正 9 ヶ月
時よりも有意な高値を示した。AGA 群において出生時グ
レリン値は SGA 群より高値を示した。出生時、修正 3、
6、9 ヶ月時の BMI と各時期のグレリン値の間に負の相
関を認めた。レプチン値は生直後に比し生後 2、4、6、
8 週で有意に低値を示し生後 3 ヶ月以降有意に上昇し
た。またグレリン、レプチン値は生後 12 ヶ月において
負の相関を認めたが、その他の時期では IGF-1 値を含
め相関関係は認めなかった。その他グレリン値および
レプチン値と在胎週数、哺乳量との間に有意な相関関
係は認めなかった。
【考察】今回の結果から、血漿活性
型グレリン値は生直後には低値を示すが、生後 2 週目
に生後 8 週と同等の値を示し、生後 6 ヶ月にはさらに
上昇を示した。またレプチン値は生後 2 週目以降一時
低下を認めるが修正 3 ヶ月時には上昇した。生後 9 ヶ
月まではグレリン値は BMI と負の相関関係を示した。
しかし在胎週数や哺乳量、体重増加率や IGF-1値との
間には有意な相関関係は認められず、VLBW 児における
成長に及ぼす影響は今後更なる検討が必要と思われ
た。
253
O-179
新生児に対するフタル酸エステルの曝露
に関する検討
北海道大学病院 周産母子センター
○小西 祥平、長 和俊、岡嶋 覚、水上
田 俊、塩野 展子
MCT 配合母乳添加用粉末使用時の脂肪酸
臭および母乳の保存・解凍方法についての
検討
長野県立こども病院 総合周産期母子医療センター
新生児科 1、森永乳業株式会社 栄養科学研究所 2、昭
和大学 小児科 3
○三ツ橋 偉子 1)、廣間 武彦 1)、中村 友彦 1)、難波
和美 2)、高瀬 光徳 2)、下野 智弘 2)、三浦 文宏 3)、
板橋
家頭夫 3)
【目的】MCT 配合母乳添加用粉末(以下 HMS-2)は、
「HMS-1」に脂肪として MCT(中鎖脂肪酸トリグリセラ
イド)を配合し、熱量を高め、さらに水分制限によっ
て哺乳量が少ない場合でも蛋白質、カルシウム、リン
の必要量を摂取できるようにこれらの成分を増量して
いる。現在、臨床試験を実施中であるが、HMS-2 添加母
乳使用時に HMS-1 使用時にはみられなかった脂肪酸臭
が生成することが判明したので、その原因と対策につ
いて検討を行った。【方法】(1)-20℃で保存した母乳
を流水(12℃)で解凍した。(i)HMS-1、(ii)HMS-2 およ
び(iii)HMS-2 の MCT の一部を他の脂肪で置換した試料
を母乳に添加し、5℃で 24 時間保存した後、添加母乳
の pH、遊離脂肪酸含量及び組成を測定した。(2)搾乳
後の母乳を-20℃、-40℃、-80℃で 7 日間凍結保存し、
流水、37℃及び 55℃で解凍を行い(計 9 群)
、HMS-2 を
添加して 5℃で 3 時間保存した後に、添加母乳の pH、
遊離脂肪酸含量及び組成を測定した。【結果】(1)MCT
の量依存的に遊離カプリル酸(MCT の主成分)の顕著な
増加がみられ、遊離カプリル酸量が増加するほど添加
母乳のpH が低下し、脂肪酸臭が認められた。一方、
HMS-1 群ではpH の低下、遊離カプリル酸の増加は認め
られなかった。したがって、臭いの直接の原因は母乳
中のリパーゼによる脂肪酸分解(特にカプリル酸)に
よるものであると推察された。(2)-40℃もしくは
-80℃で凍結保存し、流水で解凍した群では、遊離カプ
リル酸の生成が最も低く抑えられた。一方、-20℃で凍
結保存し、55℃で解凍した群では、カプリル酸の遊離
が最も高かった。
【考察】HMS-2 添加母乳使用時にみら
れた脂肪酸臭は、MCT が母乳中のリパーゼによって切断
されたことが原因であった。したがって、脂肪酸臭を
抑えるには母乳中のリパーゼ活性を抑制する必要があ
り、母乳を-40℃以下で保存し、流水解凍を行うことが
望ましいと考えられた。
O-180
尚典、山
【目的】フタル酸エステル(主にフタル酸ジ-2-エチル
ヘキシル(DEHP))は、塩化ビニール樹脂(PVC)を中心と
したプラスチックに柔軟性を与える可塑剤である。近
年、医療器具より溶出したフタル酸エステルが人体に
影響をおよぼす可能性が指摘されている。今回我々は、
新生児に対するフタル酸エステルの曝露を評価するた
め後方視的検討を行った。
【対象】2001 年から 2005 年
の 5 年間に当院 NICU に入院した児のうち、妊娠 35 週
未満で出生し、出生時から生後 1 ヵ月まで栄養チュー
ブを必要とした 62 名を対象とした。生後 1 ヵ月までに
輸血あるいは消化管手術を必要とした児、先天異常を
認めた児は除外した。【方法】塩化ビニール製栄養チュ
ーブを使用していた 2003 年 4 月以前の児 A 群:39 名、
それ以降の PVC フリーの栄養チューブを使用していた
児 B 群:23 名に分け、臍帯血、生後 1 ヵ月の凍結保存
血清を用い、GC-MS により DEHP の代謝産物であるフタ
ル酸モノ-2-エチルヘキシル(MEHP)濃度を測定した。
Mann-Whitney の U 検定、Fisher の直接法を用いて A
群と B 群間で MEHP 濃度、臨床的背景を比較した。また
線形回帰解析を用いて生年月日と MEHP 濃度の関係、
Wilcoxon の符合付順位和検定を用いて臍帯血と生後一
ヶ月の MEHP 濃度の関係を検討した。最後に多因子解析
を用いて生後一ヶ月 MEHP 濃度に影響する因子の選択を
行った。p<0.05 を有意とした。 【まとめ】1.検査し
た全ての児において MEHP が検出された。2.臍帯血 MEHP
濃度は経年的に低下していた。3.B 群で経産婦の割合
が有意に高かったが、初産婦と経産婦との間で臍帯血
MEHP 濃度に差はなかった。4.臍帯血 MEHP 濃度に比べ
生後一ヶ月 MEHP 濃度は高かった。(0.012 vs 0.135μ
g/ml)(中央値)5.母乳栄養児では、非母乳栄養児に
くらべ生後一ヶ月 MEHP 濃度が高かったが、2 群間で母
乳栄養児の割合に差はなかった。6.塩化ビニール製の
栄養チューブを使用していた児は、PVC フリーチューブ
を使用していた児に比べ生後一ヶ月 MEHP 濃度が高値で
あった。(0.185 vs 0.079μg/ml)7.多因子解析の結果、
生後一ヶ月 MEHP 濃度に影響する因子として、栄養チュ
ーブの種類が選択された。
254
極低出生体重児における赤血球膜脂肪酸
組成の経時的変化―IUGR 児における DHA
の減少
順天堂大学 小児科
○東海林 宏道、久田 研、佐藤 弥生、李 翼、鈴
木 光幸、吉川 尚美、北村 知宏、田中 恭子、篠
原 公一、清水 俊明
極低出生体重児用 Na 調整ミルクの開発-
第 1 報 Na 不足がラット新生仔に与える
影響
東京女子医科大学 母子総合医療センター 新生児部
門
○金子 孝之、青柳 裕之、柳 貴英、田村 良香、
小保内 俊雅、山崎 千佳、佐久間 泉、楠田 聡、
仁志田 博司
<はじめに>低出生体重児、特に極低出生体重児は尿
細管での Na 再吸収能が未熟であり尿中への排泄が極め
て多く、高頻度に低 Na 血症を発症する。極低出生体重
児の低 Na 血症は、体重増加に影響を与え、晩期循環不
全の発症頻度を高める可能性が報告されている。極低
出生体重児の低 Na 血症を予防するために、現在 NaCl
の添加投与を行っているが、この方法では、児への総
電解質負荷が過剰となる。極低出生体重児の低 Na 血症
を予防するためには、Na 含量を増加し、K 含量を減ら
した Na 調整ミルクが必要と考える。このミルクの開発
に先立ち、新生仔期の Na 摂取量不足がラット新生仔の
腎機能に及ぼす影響、新生仔期の影響が予後に及ぼす
影響について検討した。<対象と方法> Na 含量の異
なる 3 種類のラット用人工乳(Na 含量:100(ラット母
乳レベル;S 群)
、50(L 群)
、25(XL 群)mg/100mL、以
降各含量の哺育群)を用い、日齢 7 から日齢 21 まで人
工哺育を行った。日齢 21 に血液採取および臓器摘出を
行った。一部の仔については、日齢 21 で離乳し、普通
固形食で週齢 15 まで飼育し、成育状況を比較した。<
結果> 人工哺育中の体重増加は 3 群間で優位差を認
めず、母獣哺育した際の発育と同等だった。摘出した
体重あたりの臓器重量は、Na 摂取量の減少に応じて低
下する傾向を示した。日齢 21 で採取した血漿中の Na
濃度は、Na 摂取量の減少に応じて減少する傾向を示し
た。血漿中の K 濃度は S 群と L 群との間でほぼ同程度
で、XL 群で他群よりも高い傾向を示した。血漿中 Na/K
比は人工乳中のレベルに応じて低下する傾向を示し
た。日齢 20 に採取した尿では、Na 摂取量の減少に応じ
て、Na 濃度と Na/K 比は顕著に低下し、K 濃度は顕著に
増加した。
週齢 15 の発育は 3 群間で差を認めなかった。
<考察>基礎的検討において新生仔期の Na 摂取量不足
が生体に大きな負荷を与え、長期予後にも影響する可
能性が示唆された。現在 Na 調整ミルクを開発し、極低
出生体重児を Na 調整ミルクで哺育する試験を計画中で
ある。会員外協力者:明治乳業株式会社研究本部食機
能科学研究所栄養研究部 村上 大輔、長田昌士
O-181
O-182
【背景】n-3 系多価不飽和脂肪酸(PUFA)であるドコサ
ヘキサエン酸(DHA)、n-6 系 PUFA であるアラキドン酸
(AA)は中枢神経を含む細胞膜に不可欠な成分であり、
特に DHA はその摂取が認知発達に影響を及ぼすことか
ら、母体からの移行が不充分な早産児ではその重要性
が高い。また子宮内胎児発育遅延(IUGR)児では将来
の認知、行動、発達障害を認める割合が高いとされ、
出生前後の栄養状態との関連性が注目されている。
【目的】IUGR を伴う極低出生体重児の脂肪酸組成を分
析し、IUGR を伴わない児と比較検討した。
【方法】当院
にて出生し、NICU に入院した極低出生体重児のうち AFD
児 12 例(平均在胎週数 29.4 週、出生体重 1223.8g)、
IUGR 児 10 例(平均在胎週数 30.2 週、出生体重 907.6g)
を対象とし、出生時より生後 8 週まで 2 週間ごとの赤
血球膜脂肪酸組成をガスクロマトグラフィー法により
測定した。
【結果】生後 8 週の AA 値(%/Wt)は、両群
ともに出生時に比べ有意に低下していたが、いずれの
ポイントにおいても両群間に有意差を認めなかった。
DHA 値は、AFD 群において出生時と生後 8 週の間に有意
差を認めなかったが、IUGR 群では生後 8 週の DHA 値が
出生時と比べ有意に低く、AFD 群との間にも有意差を認
めた。n-3/n-6 比についても生後 8 週において、IUGR
群で出生時と比べ有意に低値であり AFD 群との間に有
意差を認めた。AA/DHA 比は、両群ともに経過中有意な
変化を認めなかった。【結語】IUGR を伴う極低出生体重
児では伴わない群に比べ出生後、n-3 系 PUFA、特に DHA
の低下が顕著となるため、その補充が必要であると考
えられた。このことが IUGR 児におけるその後の認知発
達障害の一因である可能性が示唆された。
255
直接授乳とびん哺乳における吸啜パター
ンの経時的変化
昭和大学医学部小児科学教室
○滝 元宏、西田 嘉子、水野 克己、板橋 家頭夫
新生児ミルクアレルギーの臨床像に関す
る全国アンケート調査
昭和大学病院 小児科 1、独立行政法人 国立病院機構
相模原病院 小児科 2
○宮沢 篤生 1)、板橋 家頭夫 1)
[背景・目的]IgE 非依存型の遅延型反応が関与すると
考えられている新生児ミルクアレルギー(以下 NMA)は、
一施設当たりの症例数が少ないことや明確な診断基準
がないことなどの理由により、その臨床像が明らかに
されていない。今回われわれは全国のハイリスク新生
児入院施設の協力を得て NMA 発症患児の臨床像につい
て検討した。[対象と方法]日本周産期・新生児医学会
の認定基幹病院 263 施設を対象とし、2004 年 1 月~2005
年 12 月の 2 年間の体重別入院総数、NMA 診断とされた
症例数を調査した。さらに、NMA 症例については 2 次調
査を行い患者背景や臨床像を調査した。[結果]1)回
答が得られた 145 施設(55.1%)のうち、2 年間で NMA 症
例を経験した施設は 53 施設(31.0%)であった。発症頻
度は 0.21%(145/69796 例)で、出生体重 1000g 未満、
1000g 以上 1500g 未満、1500g 以上 2500g 未満、2500g
以上の児ではそれぞれ 0.35%、0.19%、0.17%、0.22%で
あった。2)2 次調査で回答が得られたのは 102 症例で
あった。対象の在胎週数は 36.5±3.8 週、出生体重は
2468±769g(平均±標準偏差)、男女比は 1.4:1 であっ
た。早期産、低出生体重児、新生児仮死以外の何らか
の合併症を有するものが 50.9%(50/102 例)にみられ、
内訳は呼吸器疾患 31 例、感染症 13 例、消化器疾患 11
例、心疾患 5 例、染色体異常 3 例であった。NMA 発症前
に消化管の外科的治療が行われていたのは 4 例、消化
管以外の外科的治療が行なわれていたのは 6 例であっ
た。NMA を発症した平均日齢は 11.6 日で、全体の
29.3%(29/102 例)が日齢 3、42.4%(42 例)が日齢 6 まで
の早期新生児期に発症していた。初発症状として何ら
かの消化器症状を呈する児は 85.2%(87/102 例)であり、
嘔吐(44.1%)、下血(38.2%)、腹部膨満(29.4%)の順であ
った。また活気不良(14.7%)や無呼吸発作(3.9%)、発熱
(2.9%)を認める児や、好酸球増多などの検査値異常以
外に有意な臨床症状を示さない児(4.9%)もみられた。
[結論]本邦で初めて NMA に関する全国疫学調査を行
い、その臨床像を明らかにした。NMA は早期新生児期の
発症例が多く、消化器症状を呈する児の診療にあたっ
ては本症を念頭において対応する必要があると考えら
れた。(本研究は、平成 18 年度厚生労働科学研究費補
助金(免疫アレルギー予防・治療研究事業)「食物アレ
ルギーの発症・重症化予防に関する研究」主任研究者
今井孝成によった)
O-183
O-184
【目的】母乳育児に困難を訴える母親に対して、科学
的データに基づいて、母乳育児支援を行うためには、
基準となる値が必要である。我々は第 51 回未熟児新生
児学会において直接授乳時の吸啜行動の変化を報告し
た。今回はびん哺乳時の吸啜パターンの変化と比較し、
両者の吸啜行動の相違を検討した。
【対象】生後 1・3・6 ヵ月の正常乳児に対し、直接授
乳・びん哺乳中に検討をおこなった。
【方法】圧センサーを装着した吸啜圧測定用のカテー
テルを、母親の乳首・人工乳首に装着し、安定して圧
波形を得られるところで固定した。一回の吸啜が 2 秒
以内の間隔でおこり、3 回以上連続して起こっている場
合を吸啜のバーストと定義し、その部分を検討した。
【結果】バースト時間は生後 1 ヵ月(直接:12.86s・
びん:29.01s)・生後 3 ヵ月(直接:14.94s・びん:
40.66s)・生後 6 ヵ月(直接:25.08s・びん:50.83s)と、
また各々のバーストの間の吸啜数は生後 1 ヵ月(直接:
17.11 回/バースト・びん:39.81 回/バースト)
・生後 3
ヵ月(直接:26.49 回/バースト・びん:56.77 回/バー
スト)・生後 6 ヵ月(直接:36.78 回/バースト・びん:
81.61 回 / バ ー ス ト ) と 時 間 と と も に 増 加 し た 。
Repeated-measured ANOVA にて両者の値に有意差(p<
0.01)を認めた。吸啜バーストの数に関しても、生後 1
ヵ月(直接:25.15 回/授乳・びん:8.4 回/授乳)・生
後 3 ヵ月(直接:33.08 回/授乳・びん:6.43 回/授乳) ・
生後 6 ヵ月(直接:19.6 回/授乳・びん:4.6 回/授乳)
と有意差(p<0.01)を認めた。また、直接授乳とびん
哺乳の吸啜パターンにおいて、Scheffe's F test にて
有意差(p<0.01)を認めた。
【考案】これらの結果から直接授乳・びん哺乳ともに、
乳児は成熟するにつれ、1 回のバーストにおいて、より
頻回に吸啜することができ、吸啜バーストそのものの
時間も増加することがわかった。しかし、直接授乳で
は間隔の短い吸啜バーストを頻回に繰り返す吸啜パタ
ーンに対し、びん哺乳では吸啜バーストの間隔が長く
なっていた。直接授乳では射乳反射の前後は非栄養的
吸啜になるのに対し、びん哺乳では常に栄養的吸啜で
あることがパターンの違いに関係していると推測され
る。
256
臍帯血シスタチン C による羊水過少児の
胎児腎不全診断と新生児腎不全予測
神奈川県立こども医療センター 新生児科
○豊島 勝昭、小林 正樹、新藤 史子、松倉 崇、
野崎 昌俊、小谷 牧、今井 香織、柴崎 淳、川滝
元良、猪谷 泰史
【背景】羊水過少児の胎児腎不全の診断や新生児腎障
害の予測は困難な場合がある。
シスタチン C は糸球体濾過後、近位尿細管で再吸収・
分解され、再び血中に戻らず、尿細管で分泌されない
低分子蛋白質である。腎臓内科では血清シスタチン C
は血清クレアチニンやクレアチニンクリアレンスに代
わる簡便な糸球体濾過量(GFR)の指標として注目され
ている。
【目的】臍帯血シスタチン C は羊水過少児の胎児腎機
能評価や生後腎障害の予測マーカーとなりうるかを検
討した。
【方法】2005 年 4 月~2007 年 3 月に当院 NICU に入院
した羊水過少 18 症例を対象とした。羊水過少の原因と
しての出生前診断は Potter sequence: 5 例、前期破
水:4 例、子宮内発育遅延児:7 例、原因不明:2 例で
あった。出生時に臍帯静脈血を採取し、シスタチン C
とクレアチニンを測定した。羊水過少のなかった 59 症
例のシスタチン C とクレアチニン値と比較した。また、
生後の臨床経過を追跡し、臍帯静脈血のシスタチン C
の臨床的意義を検討した。
【結果】羊水過少・過多のなかった 59 症例の臍帯静脈
血においてはクレアチニン 0.55±0.11mg/d、シスタチ
ン C1.67±0.26mg/l であった。Potter sequence(5
例)のクレアチニンは 0.44,0.62,0.58,0.50,0.63mg/dl
と上昇はなかったが、シスタチン C は 4.90,4.27,4.22,
3.56 ,2.66 mg/l と 有 意 な 上 昇 を 認 め た 。 Potter
sequence のうちの 4 例は肺低形成を合併し日齢 0 に死
亡、1 例は乳児期に透析治療を要する腎不全に進展し
た。
Potter sequence の 5 例を除く 13 例では 2 例(子宮
内発育遅延児)で臍帯血シスタチン C は 2.43,2.28 と上
昇していたが、生後速やかに低下した。他の 11 例では
シスタチン C の上昇はなかった。Potter sequence を
除く 13 例では臨床的にも新生児腎障害は明らかではな
かった。
【結論】臍帯血シスタチン C は胎児腎不全の診断、新
生児腎不全の予測に有用な指標となる可能性がある。
超低出生体重児における乳酸値の検討-
生後1週間の変化について-
淀川キリスト教病院 小児科
○豊 奈々絵、池上 等、坂野 公彦、津田 雅代、
小向 潤、西原 正人、鍋谷 まこと、和田 浩、玉
井 普、船戸 正久
目的】乳酸は嫌気的解糖の終末代謝物として主に、骨
格筋や赤血球、脳、皮膚、腸管などで産生される。肝
機能異常、脱水、大量出血、臓器血流低下、大血管血
流遮断、輸液製剤など様々な因子により影響を受け、
末梢循環不全の指標として用いられる。今回我々は当
院における、超低出生体重児の血中乳酸値を日齢 7 ま
で経時的に測定し、母体因子及び臨床経過と乳酸値と
の関係、その他の血液ガスについて検討したので報告
する。対象】平成 16 年 10 月~19 年 2 月までに当院に
入院した超低出生体重児のうち 56 人。男児 24 名、女
児 32 名。IUGR 児は 6 名。出生体重は 463g~980g(742g
±156g)
、在胎週数は 23~31 週(26 週 3 日±2 週 2 日)。
多胎が 7 組 13 例。方法】 採決方法は全て動脈ライン
より、出生直後から約 8 時間毎に日齢 7 まで乳酸値を
測定した。ガス測定はノバ・バイオメディカル株式会
社の Stat Profile M を使用した。結果】1 ヶ月以内の
死亡例 5 例、重度 IVH(3 度 7 例 4 度 6 例)を除いた
38 例における出生直後の血中乳酸値はこれまでの報告
通り日齢 0 に最高値をとり、以降徐々に漸減していく
ことを認めた。また、出生時に異常高値を示した例は、
MRSA による敗血症や DIC を認めた例、分娩時仮死など
があげられた。日齢 7 までの臨床経過で一旦安定した
乳酸値が再び上昇してくる背景として、IVH、感染、出
血、低血圧などが挙げられ、PDA との関係は認めなかっ
た。結語】超低出生体重児において生後 7 日間の乳酸
値が上昇する背景として、感染、IVH、出血、仮死など
が考えられた。
O-185
O-186
257
O-187
低出生体重児における胎便関連性腸閉塞
症例の検討
全国調査による新生児、乳児期の劇症肝不
全例の検討(第一報)ー疫学、成因、予後
ー
鳥取大学医学部周産期・小児医学 1、大阪府立母子総合
医療センター2、済生会横浜市東部病院こどもセンター
3
、筑波大学医学部小児科 4、日本小児肝臓研究会 劇
症肝不全 WG5
○長田 郁夫 1,2)、位田 しのぶ 2,5)、乾 あやの 3,5)、
須磨崎 亮 4,5)、松井 陽 4,5)
【緒言】小児劇症肝不全の原因、病態、臨床像、治療
成績など実態は不明の点が多い。1979 年から全国調査
が行われていたが、肝移植が導入されるようになって
からの実態調査が行われていなかったため 1995 年以降
の全国調査を行った。今回新生児、乳児期の調査結果
について報告する。
【対象と方法】全国の大学病院小児
科,
小児病院及び 300 床以上の総合病院小児科施設(640
施設)に 1995~2005 年に 1)高度の肝機能障害に基づい
て肝 性昏睡 II 度以上の脳症,PT40%以下を示す劇症
肝不全症例(A 群:発症時 0~15 歳)、2)急性肝炎重症型
(B 群:意識障害のないもの)について、一次調査(症例の
有無、成因)を行い、二次調査として 1)発症年齢,成因、
使用薬剤、臨床経過,予後,合併症などを調査。2) 全
国移植施設 9 施設で、WG メンバーによるカルテ調査を
行った。二次調査で得られた 135 例(A 群 105 例、B 群
30 例)のうち新生児、乳児期に発症した A 群 37 例、B
群 3 例を解析した。また 1979~1994 年の全国調査結果
と比較した。【結果】劇症肝不全の成因としての報告例
には感染性 7 例(HBV、HSV、EBV )、VAHS 1 例、代
謝性 7 例 (チロジン血症、OTC 欠損症、その他)、薬剤
性 3 例(疑診)、自己免疫性 1 例が含まれていた。また、
B 群 3 例のうち 1 例は HB 感染によるものであったが、
他の 2 例は原因不明であった。さらに A 群のうち新生
児期に発症したものの成因としては、HSV3 例、チロジ
ン血症 4 例、原因不明 4 例があげられた。A 群 37 例の
うち生存例は 20 例(生存率 54%)であった。37 例のうち
移植数は 27 例(73%)で、移植後生存は 15 例、移植での
救命率は 56%であった。また移植後の死亡は 12 例であ
った。【考案】2005 年の全国調査と以前の調査は調査方
法が同一ではないため厳密な比較とは言い難いが、症
例数 11 年間の 37 例は 1994 年までと比較して減少して
いると考えられる。その要因としては HB 母子感染予防
や献血用血液に対する HBV や HCV といった肝炎ウイル
スのスクリーニングが関与している可能性が考えられ
る。成因はウイルス感染、代謝性疾患が主だが、原因
不明例でが最多であった。移植医療の導入に伴い生存
率は上昇しているが、まだ充分ではないと考えられる。
(会員外協力者 大阪大学医学部小児科 虫明聡太郎、
別所一彦)
O-188
日本赤十字社医療センター 新生児科 1、日本赤十字社
センター 小児外科 2
○佐藤 美紀 1)、青木 良則 1)、八代 健太郎 1)、山本
和歌子 1)、遠藤 大一 1)、中島 やよひ 1)、与田 仁志
1)
、川上 義 1)、石田 和夫 1)
〔はじめに〕低出生体重児において、消化管の器質的
通過障害がないにも関わらず胎便が排泄されず腹満を
きたす症例がみられ、重症度も様々である。今回、比
較的重症な胎便関連性腸閉塞症の発症頻度、発症の要
因、臨床経過等について院内出生例を対照に検討した。
〔対象と方法〕当院で平成 10 年 1 月から平成 19 年 2
月までの 9 年間に経験した著明な腹部膨満により胃内
低圧持続吸引を要した 1500g未満の児 18 例を後方視
的に検討した。在胎週数、出生体重、IUGR の有無、母
体 MgSO4 投与歴、母体合併症、治療法、予後について
同期間の院内出生例のうち本症を認めなかった体重
1500g未満の 983 例を対照とし比較検討した。本症の
診断は次の条件をすべて満たすものとした。1、腹部膨
満かつ腸管蛇行を認める 2、腹部単純写真にて特徴的な
腸管ガスの拡張像を認める 3、胃留置カテーテル吸引液
が胆汁性または胆汁性嘔吐である 4、腸閉鎖症、ヒルシ
ュスプルング病、などの器質的異常、壊死性腸炎を認
めないこととした。
〔結果〕対象は男児 9 例、女児 9 例
の計 18 例。同期間の当院での総出生児における発症頻
度は 0.98%、体重 1500g 未満での発症頻度は 1.92%。
在胎週数平均 29.1±2.8 週、出生体重平均 771.3±
246.7g。IUGR10 例(52.6%)
、産科的合併症として、
母体PIH10 例(52.6%)
、羊水過少 3 例(15.7%)
、
前期破水 2 例(10.5%)
、多胎 4 例(21%)、母体 MgSO4
投与 5 例(26.3%)を認めた。対照群と比較し、IUGR、
母体 PIH、羊水過少、前期破水、多胎・双胎において有
意差を認めた(前 2 者p<0.01、他p<0.5)
。また、
PDA や RDS の合併にも有意差を認めた(p<0.5)
。発症
日齢は 0~20 日で平均 3.5 日、うち 12 例(66.7%)が
日齢3までに発症。治療として、グリセリン浣腸と胃
内低圧持続吸引の他に 8 例は造影剤(ガストログラフ
ィン)による注腸を施行。また、注腸とともに造影剤
胃内注入を 2 例で施行。腸穿孔し手術となった症例は 4
例(21.0%)であった。
〔考察〕胎便関連性腸閉塞症の
発症には、従来より IUGR、出生前の産科的合併症との
関連が言われているが当院にても有意差を認めた。
IUGR、超低出生体重児では、本症発症の可能性が高く
出生後早期より積極的に便排出を促すため、注腸や胃
内注入も考慮すべきである。積極的な内科的治療にて
も手術に至る症例がみられ、EDチューブやはさみう
ち療法など新しい治療法のさらなる検討が必要であ
る。
258
全国調査による新生児、乳児期の劇症肝不
全例の検討(第二報)ー臨床像、劇症化要
因ー
鳥取大学医学部周産期・小児医学 1、大阪府立母子総合
医療センター2、済生会横浜市東部病院こどもセンター
3
、筑波大学医学部小児科 4、日本小児肝臓研究会 劇
症肝不全 WG5
○長田 郁夫 1,5)、位田 忍 2,5)、乾 あやの 3,5)、須磨
崎 亮 4,5)、松井 陽 4,5)
【緒言】小児劇症肝不全のうち特に新生児期、乳児期
の症例数は限られているため、臨床像はよく知られて
おらず、また診断に際しての検査所見、劇症化に関連
する要因は不明の点が多い。2005 年の小児劇症肝不全
の全国調査の新生児、乳児期の調査結果をもとに臨床
像、劇症化に関連する要因などにつき解析した。【対象
と方法】全国の大学病院小児科,小児病院及び 300 床
以上の総合病院小児科施設(640 施設)に 1995~2005 年
に 1)高度の肝機能障害に基づいて肝 性昏睡 II 度以
上の脳症,PT40%以下を示す劇症肝不全(FHF)症例(A 群:
発症時 0~15 歳)、2)急性肝炎重症型(B 群:意識障害の
ないもの)について、一次調査(症例の有無、成因)を行
い、二次調査として 1)発症年齢,成因、使用薬剤、臨
床経過,予後,合併症などを調査。2) 全国移植施設 9
施設で、WG メンバーによるカルテ調査を行った。二次
調査で得られた 135 例(A 群 105 例、B 群 30 例)のうち
新生児、乳児期に発症した A 群 37 例において、臨床症
状、検査経過、劇症化に関連する要因について検討し
た。
【結果】1) HBV 感染による FHF3 例の母親はいずれ
も HBe 抗体陽性の HB キャリアーであり、3 例の発症時
期は 2 か月~9 か月であった。EBV は生後 9 ヶ月に発症
し、肝組織からの EBV 検出により診断されていた。チ
ロジン血症は乳児 4 例であるが、確定診断できていた
のは 1 例のみであった。また肝移植例 3 例は全例生存
していた。薬剤性の 4 例は被疑薬として抗生剤、解熱
剤などがあげられたが、確定診断はできていない。ま
た移植後の予後は不良であった。2) 診断としては画像
診断における腹水、肝萎縮、検査所見の a) PT 10%未
満,b) T Bil 18 mg/dl 以上, c) 直接 bil/総 bil(D/T)
0.67 以下が有用であった。また肝不全例の経過中、劇
症化例では上記 a),b),c)の出現、ALT,AST,γ-GTP の低
下が認められる傾向があった。
【考案】FHF の原因診断
はウイルス性、代謝性いずれも困難なことが多い。HB
による FHF 発症例の検討から母体が HBe 抗体陽性のキ
ャリアであっても母子感染予防処置は重要である。劇
症化する場合の AST, ALT の低下、PT の低下、D/T 低下
は肝の合成能に続いてビリルビン抱合能が低下するこ
とを反映していると考えられる。(会員外協力者 大阪
大学医学部小児科 虫明聡太郎、別所一彦)
O-189
O-190
生後早期の血清 CRP 上昇例における血清
lysophosphatidylcholine 測定の意義
神戸大学大学院 医学系研究科 成育医学講座 小児
科学 1、愛仁会 千船病院 小児科 2
○高寺 明弘 1,2)、粟野 宏之 1)、佐藤 有美 1)、藤林
洋美 1)、榎本 真宏 1)、柴田 暁男 1)、森岡 一朗 1)、
横山 直樹 1)、松尾 雅文 1)
【はじめに】新生児において生後まもなく血清 CRP が
上昇する症例をしばしば経験するが、必ずしも感染症
によるとは限らない。このような症例では、感染か否
かを迅速に評価できることが、児の治療、管理にとっ
て有意義である。昨年の日本未熟児新生児学会におい
て、我々は、様々な免疫細胞を賦活化する生理活性脂
質である lysophosphatidylcholine(LPC)が新生児感
染症例の血清で低下することを報告した。そこで、今
回は生後早期に血清 CRP が上昇した症例について、血
清 LPC 値が感染症診断の指標として有用か否かを検討
した。【対象・方法】2004 年 4 月から 2007 年 1 月まで
に神戸大学医学部附属病院周産母子センターに入院し
た児のうち、日齢 0~1 の血清 CRP が 1.0 mg/dl 以上で、
同検体で LPC 値を測定し得た 13 症例を対象とした。LPC
の測定は、内部標準物質を一定量添加した 20 μl の微
量血清からリン脂質を抽出した上で、LC-MS/MS を用い
た質量分析により行った。測定結果は内部標準との比
として算出し、mean ± SE で表示した。対象 13 症例を
細菌培養の結果より、培養陰性群(7 例)
、培養陽性群
(6 例)の 2 群に分類し、臨床背景、血清 CRP 値及び血
清 LPC 値を比較した。尚、別に、血清 CRP 0.5 mg/dl
未満の 10 例を正常対照群として用いた。二群の比較に
は t 検定を用い、
p<0.05 を有意差ありとした。【結果】
臨床背景は二群間で有意差はみられなかった。血清 CRP
値は、培養陰性群 2.85 ± 3.61 mg/dl、培養陽性群 2.06
± 3.22 mg/dl で有意差を認めなかった。培養陽性群の
血清 LPC 値は 0.70 ± 0.10 で、正常対照群 1.11 ±
0.04 と培養陰性群 1.02 ± 0.09 に比し有意な低値を
示した。正常対照群と培養陰性群に有意差はなかった。
【考察】生後早期に血清 CRP の上昇をみとめた場合、
血清 LPC が低値であれば感染症が、低下していなけれ
ば感染症以外の病態が関与していると推測される。
【結語】生後早期の血清 CRP 上昇例における感染の有
無は、血清 LPC 測定により鑑別できる可能性がある。
259
O-191
臍帯血中の急性期反応蛋白質値の上昇と
新生児の臨床症状
名古屋市立城北病院 小児科
○後藤 玄夫、和田平 優子、上田 博子、高橋
おり、清水 正己、吉田 智也、濱島 直樹、岩瀬
弘、福田 革、渡辺 勇
2000 年―2004 年の早発型・遅発型 B 群溶
連菌感染症の頻度 未熟児新生児医療研
究会調査
西神戸医療センター 小児科 1、大阪赤十字病院 小児
科 2、日本赤十字社和歌山医療センター 小児科 3、兵
庫県立尼崎病院 小児科 4、京都大学 小児科 5
○松原 康策 1)、金岡 裕夫 2)、奥村 光祥 3)、前田 真
治 4)、河井 昌彦 5)、中畑 龍俊 5)
【背景】米国では早発型 B 群溶連菌(GBS)感染症予防
CDC ガイドライン発行後、発症頻度が約 30%にまで減少
している。わが国への同ガイドラインの導入の是非を
考える上で、新生児 GBS 深部感染症の発症頻度を明確
にすることは重要である。しかしその疫学調査はない。
【目的】1)我が国の早発型・遅発型 GBS 感染症の頻度
の推定。2)垂直感染予防方法実施の有無とその内容の
調査。【方法】京都大学を中心とした未熟児新生児医療
研究会に参加する 32 施設に、2000 年 1 月-2004 年 12
月の 5 年間の、総出生数、母体搬送数、新生児搬送数、
新生児早発型・遅発型 GBS 感染症発症数をアンケート
で調査した。同時に妊婦の GBS 保菌検査状況と保菌判
明 妊 婦 に 対 す る 分 娩 時 抗 生 物 質 投 与 (intrapartum
antibiotic prophylaxis, IAP)の有無も尋ねた。GBS
感染症は、血液又は髄液から GBS が分離された症例と
定義した。
【結果】1)アンケート回収率:88%(28/32)。
2)5年間の施設毎の、出生数:434-4824(中央値 2452)
、
母体搬送数:0-584 (中央値 63) 、新生児搬送数:0-730
(中央値 77) 。3)妊婦の保菌検査状況:23 施設(82%)
で実施。全 23 施設で保菌妊婦への IAP あり。投与方法
は多種多様。4)GBS 感染発症数:早発型 7 例、遅発型 0
例(血液培養 6 例、髄液培養 1 例)
。うち、死亡 2 例、
後遺症例 1 例。5)総 live birth 数(総出生数-総母体
搬送):66978 人。6)GBS 感染症の頻度:早発型で 0.10
(95% CI, 0.04-0.15)/1000 live births、遅発型で 0
(95% CI, 0-0.06)/1000 live births。7)IAP 実施 vs
未実施での分娩数で細分すると、早発型感染症発症数
は、各々0.11 (2/18087) vs 0.10 (5/48891)/1000 人と
相違はなかった。
【考察】早発型、遅発型 GBS 感染症の
頻度は共に諸外国と比較して極めて低値である。その
理由は、1)人種差、2)我が国の保菌の半分以上を占め
る VI 型、VIII 型 GBS で、その保菌妊婦の大半が各々の
型別特異抗体を高いレベルで保有するため元々垂直感
染を防御している、3)培養確定例に限定したため、実
際には疑い例中にも確定例が含まれている、4)多くの
施設で垂直感染予防策を導入済みであった、5)統計に
出現しない死産児の中に早発型感染症が含まれてい
る、等が考えられた。【結論】本結果は日本で初めての
GBS 感染症頻度の推定値である。諸外国と比較して早発
型も遅発型も低頻度であった。また、今後のわが国の
至適な垂直感染予防方法を考える上で、基礎的かつ重
要な情報をもたらすと思われる。
O-192
か
一
目的・対象 : 臍帯の組織診断、臍帯血中の C-reactive
protein (CRP), α1 - acid glycoprotein (α1 AG),
Haptoglobin(Hp)などの急性期反応蛋白質(APR)3種の
測定がなされた300症例について検討した。通常、
臍帯血中の APR が上昇することはないが、それらの APR
が上昇し急性期、亜急性期のパターンを示している場
合には臍帯炎(組織学的)が高率に認められることを
昨年の本学会において報告した。CRP, α1 AG, Hp の3
種とも上昇していた場合は95%(21例中20例)、
CRP, α1 AG の2種が上昇していた場合には80%(1
0例中8例)、 α1 AG, Hp の2種が上昇していた場合
には71%(17例中12例)に臍帯炎が認められた。
今回、臍帯炎が認められ、臍帯血中の APR の上昇が急
性期、亜急性期のパターンを示した48例について、
新生児の臨床症状、生後の APR の動向について検討し
た。結果:臍帯血の APR が急性期( CRP, α1 AG, Hp
の3種の上昇および CRP, α1 AG の2種の上昇)を示
した症例の90%(31例中28例)に胎便吸引症候
群(MAS)、仮死、感染、その他の呼吸・循環障害などの
異常が認められた。 その中に血液培養陽性の敗血症が
1例みられた。 APR が亜急性期( α1 AG, Hp の2種
の上昇)を示した症例では臍帯炎はなお高率に認めら
れたが、臨床的な異常を呈するものは少なく、胎便吸
引症候群1例、一過性多呼吸1例、極低出生体重児3
例が認められた。
260
Malassezia furfur 感染児における予後不
良因子の検討
社会保険船橋中央病院周産期母子医療センター新生児
科 1、鹿児島市立病院新生児科 2、宮崎大学医学部産婦
人科教室 3
○加藤 英二 1)、坂本 理恵 1)、後藤 俊二 1)、後藤 瑞
穂 1)、瀬戸 雄飛 1)、茨 聡 2)、池ノ上 克 3)
(目的)近年新生児医療の進歩により、超低出生体重
児の救命率は、大幅に改善してきた。一方真菌感染症
は、超低出生体重児の管理上、高加温加湿、長期の中
心静脈栄養により発症し易く、予後不良因子としてク
ローズアップされている。Malassezia furfur (以下
M.furfur)は、常在真菌の一つで、皮膚感染症、カテー
テル関連感染症の原因として重要である。M.furfur の
検出法については、好脂質性という特徴から、特殊な
培地が必要であり、治療法についても確立されたもの
もないため、診断、治療に難渋することが多い。今回、
M.furfur に感染した児について、その予後不良因子に
ついて検討を行った。(方法)平成 15 年 5 月から平成
18 年 12 月に当センターに入院した超低出生体重児で、
M.furfur に感染した 21 例について、生存群(14 例)、
死亡群(7 例)に分類し、背景因子、臨床所見、検査デー
タを比較検討した。M.furfur の診断は、オリーブ油を
添加した特殊培地で培養し、検鏡により認めたものと
した。(結果)M.furfur を検出した 21 例の平均出生体
重は 726±165g、平均在胎週数は 25±2wks、初回検出
日は 25±13 生日で、超低出生体重児の 21%に検出し
た。検出部位は、気管内分泌物 66%、便 57%、皮膚 33%、
腹水 5%であった。生存群と死亡群の比較において、背
景 因 子 で は IVH2 度 以 上 (71%vs7%) 、 壊 死 性 腸 炎
(42%vs0%)、カテーテル、チューブ留置数(2.5±0.4 本
vs3.4±0.8 本)、経腸栄養の確立(100%vs42%)
)で有意
差(p<0.05)を認めた。臨床所見、検査データでは全
身浮腫(14%vs100%)、血小板数(23.3±16.6 万/ulvs5.3
±1.5 万/ul)で有意差を認めた。真菌感染に関連する加
温加湿管理、脂肪製剤の使用、白血球数、CRP 値、血糖
値については、両群間に有意差は認めなかった。また
β-D-グルカンが測定可能であったものでは、生存群 52
±24pg/ml、死亡群 275±37pg/ml で、死亡群において
高値であった。
(考察)M.furfur に感染した児の予後不
良因子ついては、体内へのチューブ留置本数による感
染機会の増加と、経腸栄養未確立による腸管からの
Bacterial translocation が関与する可能性が示唆さ
れた。さらに血小板減少や血管透過性亢進に起因する
全身浮腫の存在は、状態のさらなる悪化に関与するこ
とが示唆された。また他真菌感染同様、β-D-グルカン
は鋭敏なマーカーであると考えられ、臨床症状と合わ
せた上、M.furfur の可能性も考慮し、診断、治療を行
う必要があると考えられた。
A群溶血性連鎖球菌、劇症分娩型を発症し
母児ともに救命しえた双胎症例
県西部浜松県西部浜松医療センター 産婦人科
○芹沢 麻里子、松井 浩之、浅野 仁、山下 美和、
前田 真
O-193
O-194
A群溶血性連鎖球菌の妊娠中の感染は劇症分娩型と呼
ばれ、母児ともに死亡率の高い疾患である。今回妊娠
34 週にGAS劇症分娩型に罹患するも、母児とも救命
しえた双胎症例を経験したので報告する。症例は 33 歳
の1経産婦で、第 1 子妊娠時、結節性動脈周囲炎によ
る多発性単神経炎から神経麻痺が出現、更に切迫早産
となり妊娠 29 週から入院となった。その後 39 週正常
分娩となったが神経麻痺が持続し約 2 年間ステロイド
の内服を必要とし麻痺は軽快した。第 1 子出産約 4 年
後、自然の 2 絨毛膜性双胎を妊娠した。今回妊娠経過
は順調で、妊娠 34 週 6 日双胎管理入院とした。入院数
日前から軽度の咽頭痛を訴えていたが入院時の白血球
7600、CRP0.27 と異常無かった。夜間より徐々に悪
寒が出現、翌日には 40 度を越す発熱となり、やがて右
足関節の腫脹と痛みが出現した。胎児心拍数は頻脈で
はあるものの reassuring でBPS10 点であった。その
後陣発したため慎重に分娩経過を観察していたが、V
Dが出現するようになり緊急帝王切開とし 2236g
(AP3/9)/1772g(AP5/9)の児を娩出した。子宮筋層の
一部がび慢性に黒く呈していたが止血に問題はなかっ
た。術後無尿となり血液検査上DICを呈し敗血症を
疑った。腫脹した足関節腔を穿刺した所、グラム陽性
球菌が検出されたためGASを疑い抗生剤の投与を開
始した。無尿に対しCHDF、血液浄化も開始。敗血
症性ショックの集中治療を続け全身状態がやや安定し
た術後 13 日目子宮全摘術を行った。この術後からは透
析に変更した。腹膜を始め子宮周囲の靭帯は脆く壊死
しかかった状態であり、閉腹後も腹腔内ドレーンから
持続的に出血した。2 日後透視下に原因となっている血
管を検索し塞栓した。出血のコントロールはつき徐々
に全身状態も改善、利尿もつき始めた。2 回目の手術後
10 日過ぎ頃から下痢が続くためCTを施行、小腸の広
範囲に出血壊死を疑わせる所見がみられ、ステロイド
のパルス療法を開始し下痢は軽快した。しかし 4 日後
突然呼吸困難となり肺水腫が疑われたため緊急で透析
を行ったが更に悪化しARDSへと進行し人工換気を
開始した。今までの経過より全身臓器にGASを鈍食
したマクロファージなどが存在しサイトカインを放
出、血管透過性を亢進させこの様な病態をひき起して
る考え血漿交換を 2 回行った。その後は呼吸状態も安
定し全身状態は改善、帝王切開術後 64 日目に母児とも
に退院となった。
261
新生児単純ヘルペス感染症のクリニカル
エビデンスについて
香川大学 医学部 小児科 1、香川大学医学部附属病院
総合周産期母子医療センター新生児部 2
○大久保 賢介 1)、小谷野 耕佑 1)、中村 信嗣 1)、阿
部 多恵 1)、伊地知 園子 1)、久保井 徹 1)、河田 興
2)
、日下 隆 2)、磯部 健一 1)、伊藤 進 1)
【目的】新生児単純ヘルペス感染症は、単純ヘルペス
ウイルスによる局所的もしくは全身の感染症であり、
適切な治療がなされないと致死的ないし後遺症を残す
ことの多い疾患である。有効な治療法であるアシクロ
ビルは国内薬剤添付文書に新生児への適応がない状況
である。現在、厚生労働省の「小児薬物療法根拠情報
収集事業」において「新生児単純ヘルペス感染症に対
する静注用アシクロビル」が選定され、新生児領域へ
の適応拡大へ向けた取り組みがなされている。今回、
この取り組みの一環として新生児単純ヘルペス感染症
に対する静注用アシクロビル療法についての国内外の
文献調査により投与量を中心に有効性・安全性を検討
したので報告する。
【対象及び方法】PubMed、Chochrane Library 及び医学
中央雑誌を用いて、新生児単純ヘルペス感染症やアシ
クロビルの項目において広く論文を抽出し、その中で
ランダム化比較試験や薬物動態試験の記載のある論文
を中心に検討した。
【結果】海外文献においてはランダム化比較試験がな
された主要 3 論文が抽出された。ビダラビンの有効性
と安全性の検討、ビダラビンとアシクロビルのランダ
ム化比較試験、高用量のアシクロビル投与の有効性と
安全性の検討がなされていた。国内の文献では症例報
告として 12 論文、12 症例が検索されたが、投与量、投
与期間がばらばらであり、高用量の検討はなされてい
なかった。また 1989 年の小児科学会雑誌では新生児単
純ヘルペス感染症の全国調査がなされており、出生 1
万人に対して 0.7 の発症頻度となっている。
【結論】国内の文献での投与量は、1回 10mg/kg を 1
日 3 回静注との報告が多い。一方、海外の文献では1
回 20mg/kg を 1 日 3 回静注と国内の倍量投与にて全身
型の予後を大きく改善するとの報告が多い。現在、未
熟児新生児学会の希少疾患サーベイランスに新生児単
純ヘルペス感染症を追加登録した。今後は国内での前
方視的調査を行っていく。
サイトメガロウイルス胎内感染症を疑う
べき新生児期臨床所見の検討
鹿児島市立病院周産期医療センター
○丸山 有子、茨 聡、向井 基、丸山 英樹、徳久
琢也、藤江 由夏、中澤 祐介
O-195
O-196
【目的】重症のサイトメガロウイルス(以下 CMV)胎内
感染症の予後はきわめて不良であるが、出生時に軽い
症状でも、後になって 10-15%に神経学的後遺症が現れ
てくると言われている。しかし、後遺症が明らかにな
ってからでは胎内感染の診断は困難であり、新生児期
に診断しておく必要がある。そのため、我々の施設で
は、新生児期に CMV 胎内感染に伴う臨床所見が一つで
もみられる児に対して、積極的に CMV の検索を行って
いる。今回は、これらの CMV 検索の現状を報告し、さ
らにどの臨床所見が有意に CMV 胎内感染の診断に役立
つのかについて検討を加えた。
【対象と方法】平成 7 年
から 16 年に当院で管理した新生児のうち、生後 2 週以
内に採取した尿を用いて CMV 分離を行い得た 229 例を
対象とした。検討した臨床所見は、母体の CMV 感染、
胎児水腫、IUGR、点状出血、血小板減少、皮疹、肝脾
腫、肝機能異常、腹水、胸水、脳室拡大、脳内石灰化、
小頭症、上衣下嚢胞であった。
【成績】229 例中、臨床
所見が認められたため CMV 検索を施行した児は 177 例
であり、残りの 52 例は、所見は認められないが CMV 検
索を行い得た例であった。所見(+)の 177 例中 14 例
(8%)に CMV は分離され、CMV 胎内感染と診断された。一
方、所見(-)の 52 例には CMV が分離された例は1例も
なかった。所見(+)の 177 例中、CMV が分離されなかっ
た例は 163 例であるが、そのうち、CMVが分離され
た 14 例に在胎週数を match させて抽出した 28 例を
control とし、合計 42 例でそれぞれの臨床所見がある
ときの CMV 分離が陽性となるオッズ比を求めた。結果
は、頭囲の小さい IUGR(OR=6.3, p<0.024)、出血斑
(OR=9.8, p<0.012)、肝脾腫(OR=15.0, p<0.019)、肝
機能異常(OR=7.2, p<0.032)、脳室拡大(OR=6.6, p<
0.009) 、 脳 内 石 灰 化 (OR=15.0, p < 0.019) 、 小 頭 症
(OR=4.5, p<0.049)が有意に高いオッズ比を示した【結
論】新生児期に上記のような臨床所見が一つでも認め
られたら、積極的に CMV 検索を進めることは、CMV 胎内
感染を診断するために有用であると考えられた。
262
羊水中エリスロポエチン、トロポニン-T
測定による Parvovirus B19 感染胎児の治
療評価
防衛医科大学校
○吉田 昌史、松田 秀雄、川上 裕一、芝崎 智子、
長谷川 ゆり、田中 雅子、吉永 洋輔、古谷 健一
新生児医療センターにおけるエコーウイ
ルス 18 型 (Echo 18) による集団感染の経
験
豊橋市民病院 小児科
○幸脇 正典、忍頂寺 毅史、谷田 寿志、岸本 恵
美子、清澤 秀輔、牧野 泰子、戸川 貴夫、杉浦 時
雄、安田 和志、小山 典久
【はじめに】Echo 18 感染症は、年長児では無菌性髄膜
炎、発疹症などの病因であり、わが国においては 1988
年、1998 年に全国的な流行を起こしている。2006 年に
も西日本を中心に分離が報告されたが、今回我々は、
当院新生児医療センター内において、Echo 18 の集団感
染を経験したので報告する。【経過】2006 年 5 月、新生
児センター入院中の状態が安定していた患児 1 名に突
然の無呼吸発作が見られた。感染症発症を疑い抗生剤
を投与したが、血液検査では CRP の上昇は見られず、
ウイルス感染症が疑われた。無呼吸発作は軽度で、時
間とともに自然軽快した。その後 4 日の間に、無呼吸
発作、哺乳力低下、発熱などの症状を呈した児が他に 6
名みられ、ウイルスの集団感染が疑われた。全例とも
に症状は軽症で、経過中皮疹や粘膜疹も認めず自然軽
快した。有症状期に採取した、咽頭・便からのウイル
ス分離にて 7 例中 5 例より Echo 18 が検出された。有
症状児の発生以後、当センターで通常行っている処置
前後での手洗い、使い捨て手袋の使用、直接・間接的
に患児に触れる可能性のある物品の個別化、必要に応
じたガウンテクニックなどの院内感染予防対策の徹底
と有症状児のコホート管理を行うことにより、以後症
状を呈した児は発生しなかった。
【考案】エコーウイル
スは、エンテロウイルス属に分類され、主として腸管
内で増殖し、長期間にわたり糞便中に排泄されるため、
しばしば院内感染症の原因となる。さまざまな新生児
期のエンテロウイルス属感染症で重篤例が報告されて
いるが、新生児の Echo 18 感染症の発症報告例はまれ
である。その意味では新生児における Echo18 感染症の
臨床像は不明な点が多い。検索し得た範囲では、これ
までに NICU 内での集団感染の報告が 2 報告あるが、報
告された症例はいずれも軽症で、自然軽快している。
今回経験した症例もいずれも自然軽快しており、新生
児における Echo18 感染症は重症化しにくい可能性もあ
る。ウイルスが分離されなかった 2 例は、発症以前に
γ-グロブリンを投与されており、γ-グロブリン投与
がウイルスの増殖に影響を与える可能性が考えられ
た。NICU へのウイルスの持ち込みを完全に防ぐことは
困難であるが、今回の集団感染では、その後の感染者
の拡大を防ぐことができており、当センターで行って
いる感染対策は有効であると考えられた。
O-197
O-198
【目的】妊娠中期に胎児が Parvobirus B19 に感染する
と、赤芽球系・心筋細胞のアポトーシスを来し、高度
の貧血に伴う心不全を誘発するとされている。今回
我々は胎内治療施行時に羊水中のエリスロポエチン
(Epo)と田トロポニン-T(TnT)を測定し、多角的に B19
感染胎児における胎児低酸素・心筋障害の状況を解析
した。【方法】妊娠中に母体 B19 感染症を呈した 8 症例
のうち、胎児水腫を来した症候性胎児 3 例、無症候だ
った 5 例の B19 感染胎児において、説明と選択の上羊
水を採取した。症候性胎児に対しては免疫グロブリン
(2g/kg)による胎児治療を施行し、治療前後に羊水採取
を行った。それぞれにおいて B19-DNA、Epo、TnT を測
定し、臨床経過との関連を後方視的に検討した。【成
績】(1)羊水中 B19-DNA copy 数は胎児の病態を反映し
ていた。(2)症候性胎児症例のうち 1 例は治療前に IUFD
となった(Epo:136.0mU/ml, TnT:200fg/ml)。(3)胎児治
療を行った 2 例の症候性胎児症例の羊水中 Epo 値は胎
内治療によって 87.4mU/ml から 34.6mU/ml, 44.2mU/ml
から 39.0mU/ml,に減少し、それとともに羊水中 TnT 値
も 200fg/ml から感度以下に減少した。(4)無症候 5 例
の羊水中 Epo 値は 9.4mU/ml、9.9mU/ml、19.5mU/ml、
17.9mU/ml、18.8mU/ml であり、羊水中 TnT も感度以下
であった。
【結論】羊水中 Epo、TnT は、B19-DNA copy
数より詳細な胎児病勢を得る上で有用な検査と考えら
れた。臨床症状に伴い鋭敏に変化することから、今後
の胎児治療の評価法としても有用性が期待される。
263
鳥取県における C 型肝炎母子感染防止事
業ー14 年間の経過とまとめー
鳥取大学医学部周産期・小児医学 1、津山中央病院 2、
聖路加看護大学大学院 3
○長田 郁夫 1)、村上 潤 1)、神崎 晋 1)、梶 俊策 2)、
白木 和夫 3)
【緒言】C 型肝炎ウイルス(HCV)の感染経路としては以
前は輸血関連が主であったが、献血者のスクリーニン
グシステムの確立により輸血後肝炎は激減した。HCV
母子感染の予防法はまだ確立されてないため現在も母
子感染例は発生が続いている。鳥取県における 14 年間
の C 型肝炎母子感染防止事業の前方視的疫学調査の結
果を報告する.
【対象・方法】1992 年 5 月から 2006 年
3 月までに鳥取県内で出産した妊婦のうち同意の得ら
れたのべ 41,856 例を第 2 世代 HCV 抗体(PHA 法)でス
クリーニングし,コア抗体で確認した.抗体陽性例に
おいては,HCVRNA アンプリコア法で定性し,陽性例に
ついては branched DNA assay(bDNA)ないし HCVRNA
アンプリコアモニター法で HCV RNA 量を定量した.出
生した児は定期的に HCV 抗体,HCV RNA を測定し、2
回以上 HCV RNA が陽性になった場合に母子感染が成立
したと判断した.
【結果】HCV 抗体スクリーニングよる
HCV 抗体陽性妊婦例は 202 例(0.48%)で,コア抗体陽
性妊婦は 179 例であった.このうち HCVRNA 陽性は 111
例で,双胎 1 例を含む出生児は 112 例であった.6 ヶ月
以上フォローできた児は 73 例で,うち母子感染例は 10
例であった.母子感染率は HCV 抗体陽性母からで 9.0%
(10/111 例)
,HCVRNA 陽性母からで 14%(10/73 例)で
あった.妊婦の抗体陽性率の年次推移では開始当初は
0.9%程度であったが、最近では 0.33-0.49%と低下傾向
であった。
【結論】妊婦の鳥取県は人口の移動が比較的
少なく追跡調査が行いやすいため,前方視的な研究と
して貴重な結果が得られた.追跡ができていない症例
もあるが、概算すると日本全国では年間 300 例以上の
HCV 母子感染例が発生していると考えられる。現時点で
は母子感染予防はできないが、HCV 感染例は幼児期以降
に適応となれば治療が可能であるため、充分にフォロ
ーすることが重要である。
O-199
O-200
先天性トキソプラズマ症児 9 例の検討
三井記念病院 産婦人科
○小島 俊行、花岡 正智
【目的】我が国で、先天性トキソプラズマ症児が出生
しているか否か、また出生しているとすればその予後
を後方視的に検討する。
【方法】前回妊娠中にはトキソ
プラズマ(以下 T と略す)抗体検査を受けず、今回初
めて T-IgM 抗体陽性と診断された妊婦 69 例と同妊婦か
ら既に出生している児 80 例(11 ヵ月~11 歳 6 ヵ月)
を対象とし、事前に妊婦とその配偶者よりインフォー
ムド・コンセントを得た。T-IgM 抗体陽性妊婦に対し
T-IgG 抗体のアビディティ(AI)を測定し、児は T-IgG
抗体を測定し、陽性例に T-IgM 抗体を測定し、さらに
小児科・眼科的診察と頭部 CT 撮影を行った。【成績】
(1)児 80 例中 9 例(11.3%)が T-IgG 抗体陽性(26~
360 IU/mL)で、T 感染が認められた。 (2)T-IgG 陽
性例 9 例(11 ヵ月~8 歳)の児の T-IgM 抗体は、判定
保留が 1 例、陰性が 8 例で、T-IgM 抗体陽性例を認めな
かった。 (3)T-IgG 陽性例 9 例はすべて、これまで
発育・発達異常を指摘されていなかった。頭部 CT 撮影
では、全例異常を認めなかった。2 例(5 歳 8 ヵ月と 8
歳)に瘢痕性網膜炎を認め先天感染と診断された。残
りの 7 例は不顕性感染であった。 (4)瘢痕性網膜炎
は、年長児 2 例のみに認められ、年長児に出現しやす
い傾向であった(p<0.1, Wilcoxon 検定)
。 (5)陽
性例 9 例の母体の T-IgG 抗体は高値
(106~1,330 IU/mL)
であったが、T-IgM 抗体は判定保留(0.8)が 1 例、軽
度~中等度陽性(1.3~2.4)が 6 例、高度陽性(3.2, 3.4)
が 2 例であった。 (6)母体の AI は、4.9~53.1%で
あった。9 例の児の年齢(月)(x)と母体の AI(%)(y)
とは y=18.9Ln(x)-35.5, r=0.89 と強い正の相関を
示し、初感染時期は児の妊娠中と推定され、9 例全例先
天感染が示唆された。【結論】1,985 年より、妊婦健診
スクリーニングからトキソプラズマ抗体検査を除外す
る産科施設が増加し、その間に先天感染例が出生して
いた。母児が無治療の場合、トキソプラズマの母子感
染率は最低でも 13%以上で、うち約 22%は軽症顕性感染
であることが示された。トキソプラズマ IgM 抗体陽性
妊婦の既に出生している児は先天感染を鑑別する必要
がある。さらに、トキソプラズマ IgM 抗体判定保留妊
婦からも先天感染が生じていたことを考慮すると、ト
キソプラズマ IgM 抗体の陽性・陰性にかかわらずトキ
ソプラズマ抗体陽性妊婦の既に出生している年長の児
は先天感染を鑑別する必要がある。
264
IgG avidity と Nested PCR 法を用いた先
天性トキソプラズマ感染の管理:前方視的
症例検討
NTT 東日本札幌病院 1、北海道大学 2、札幌東豊病院 3、
JR タワークリニック 4、札幌医科大学 5
俊
○西川 鑑 1)、山田 秀人 2)、菅原 正樹 3)、山田
2)
、神藤 已佳 4)、斎藤
豪 5)、水上 尚典 2)
【目的】北海道では妊婦の 3.6%がトキソプラズマ
(Toxo) PHA 抗体陽性で、IgM 陽性は全妊婦の約 1%に達
する。Toxo IgM 検査では非特異的陽性や持続陽性例な
どの問題のため、感染時期の判定がしばしば困難であ
った。我々は IgG 抗原結合力を表す Avidity index (AI)
および PCR 検査を全例に実施する管理方針を作成し、
前方視的臨床研究を行った。【方法】Toxo PHA 陽性かつ
IgM 陽性ないしグレーゾーンの 42 妊婦に対して、AI お
よび母体血 Toxo DNA (Nested PCR 法) を調べた。AI
低値で急性期感染が示唆される場合はアセチルスピラ
マイシンを投与した。同意が得られた症例では、羊水
穿刺により Toxo DNA を PCR 法で解析した。原則的に分
娩時に臍帯血と羊水を採取し PCR 検査を行った。新生
児感染の有無は、臍帯血や新生児血の IgM および PCR、
頭部 CT、眼底検査などにより診断した。Nested PCR 法
では、数ゲノムコピーの Toxo DNA 同定が可能であった。
【成績】Toxo 感染リスク因子として生肉摂取 12 人、ペ
ット 12 人、土いじり 5 人などの順であったが、12 人は
明らかなリスク因子を有していなかった。AI 値は 3-80%
を示し、3 例で母体血 PCR が陽性であった。これまでに
34 妊娠が帰結した。2 例で羊水 PCR が陽性であったが、
臍帯血 PCR 陽性例はいなかった。妊娠 28 週に母体血と
羊水で PCR 陽性、AI 23%であった 1 例で頭蓋内石灰化
が認められ、先天性トキソプラズマ症と診断された。
AI 高値で羊水 PCR 陽性例はいなかった。
【結論】AI 値
25%未満は、急性期感染が強く示唆された。妊婦スクリ
ーニングおいて IgG avidity と PCR 法を用いた管理は、
先天性トキソプラズマ症の診断ならびに治療方法の選
択などに有用であると考えられる。
O-201
O-202
RSV 流行年におけるパリビズマブ投与例
の検討
自治医科大学 小児科学
○菊池 由紀子、本間 洋子、小池
人、白石 裕比湖、桃井 真里子
泰敬、高橋
尚
背景;早産児、先天性心疾患児に対し RSV 重症化予防
のためにパリビズマブが投与されているが、2006‐07
年度冬季は RSV が大流行した。目的;RSV 感染で入院加
療を必要とした児の特徴を明らかにするとともに、パ
リビズマブ 投与児の RSV 感染について後方視的に検討
する。対象・方法;1)自治医大とちぎ子ども医療セン
ター小児科に RSV 感染症で入院した小児を対象に、基
礎疾患(CLD、心疾患、呼吸器疾患、免疫不全、遺伝子
異常)、リスクファクター(就学前同胞、多胎)の有無、
入院時月齢、人工呼吸(MV、酸素投与の有無およびそ
の日数)を検討し、2)同外来でパリビズマブを定期的
に投与された 34 週以下の早産児、心疾患児を対象に入
院の有無、気道症状の有無を検討した。結果;1) 今年
度は 9 月から1月までに 49 例入院、
入院期間は平均 9.3
±4.8(SD)日、最多月は 12 月で 34 例が入院、基礎疾患
があったのは 16 例(33%)(CLD4、心疾患2、気管支喘息
2、その他 8)、リスクファクターの同胞ありは 28 例
(57%)、多胎例はなく、パリビズマブ投与例は 6(早産児
4、心疾患 2)例であった。早産児は11 例(22%)で、CLD
4例はパリビズマブが投与されており、MV は不要、そ
の他 7 例は 35 週以上でパリビズマブは非投与例であっ
た。酸素投与例は 36 例(73%)、投与期間は 5.0±4.2 日。
MV 例は 4 例で 3 例は月齢2未満の乳児、1 例は月齢 16
の幼児であった。2)早産児のパリビズマブ投与は 34 週
以下で勧告通りの対象に、心疾患児は内服治療中の心
不全がある、またはチアノーゼ性先天性心疾患に対し
行った。投与 131(早産児 95、心疾患児 36)中 12 例が気
道感染で入院(9.2%)、早産児 6 例(RSV+/-;2/4)、心疾
患 6 例(RSV+/-;5/1)、RSV 陽性入院例は 1 例を除いてパ
リビズマブ投与回数が 2 回以下で酸素投与のみで軽快
した。入院例以外に 67 例で鼻汁・咳など気道症状が認
められたが入院を必要とせず、有気道症状児と同胞の
有無に関連はなかった(p=0.62)。結論;基礎疾患を有
する RSV 感染入院例中 38%はパリビズマブ投与対象の
CLD、心疾患児であったが、重症化することはなかった。
パリビズマブ投与児の入院例で RSV 陽性例は心疾患児
に多く、2 回以下の投与例が多かった。
265
日本人集団におけるサーファクタント蛋
白-D 遺伝子多型と重症 RS ウィルス感染症
の関連
さいたま市立病院 小児科
○杉山 隆輔、森 和広、潟山 亮平、草野 亮介、
市川 知則、大森 さゆ、白石 昌久、佐藤 清二、
前山 克博
【背景】サーファクタント蛋白-D(Sp-D)は生体の自然
免疫を担う液性因子であるコレクチンの一つである。
コレクチンは、インフルエンザA型ウイルス、エイズ
ウイルス、アデノウイルス、C型肝炎ウイルスなどに
対する感染防御機能を有することが知られている。
Sp-D は気道の広い範囲に分布し、呼吸器感染症に抵抗
すると考えられている。フィンランド人集団において、
単 一 ア ミ ノ 酸 置 換 を 伴 う Sp-D 遺 伝 子 多 型 の 一 部
(Met11Thr)は、重症 RS ウィルス感染と関連すると報
告された(Meri Lahti, et. al. Pediatr Res 51:696
-699, 2002)。この遺伝子多型は日本人集団において
もフィンランド人とほぼ同様の頻度で分布する。
【目的】日本人集団における単一アミノ酸置換を伴う
Sp-D 遺伝子多型(Met11Thr、Ala160Thr、Ser270Thr)
と、重症 RS ウィルス感染との関連を調べること。
【対象と方法】2005~2006 年冬季 RS ウィルス感染流行
期において、重症 RS ウィルス細気管支炎の診断でさい
たま市立病院に入院した乳幼児のうち保護者が文書に
て研究同意を表した 14 名を重症 RS ウィルス感染患者
群とした。同院周産期センターNICU 退院児のうち保護
者が文書にて研究同意を表した 32 名を対照群とした。
対 象 の SpD 遺 伝 子 多 型 、 Met11Thr ( rs721917 )、
Ala160Thr(rs2243639) 、 Ser270Thr(rs3088308) を
PCR-RFLP 法または直接シーケンシング法によって決定
し、各々の遺伝子多型の RS ウィルス感染重症化に対す
る寄与を検討した。本研究はさいたま市立病院倫理委
員会の承認を得て行われた。
【成績】Met11Thr におけるアレル頻度は、重症 RS ウィ
ルス感染患者群 11Met 0.529 / 11Thr 0.470、対照群
11Met 0.750 / 11Thr 0.250 、 オ ッ ズ 比 2.03
(1.24-3.01[95%CI], p<0.05)。Ala160Thr、Ser270Thr
遺伝子型と RS 感染重症化の関連は見出されなかった。
【結論】日本人集団において Sp-D 遺伝子多型 11Thr は
重症 RS ウィルス細気管支炎のリスク因子である。
O-203
O-204
当院 GCU で発生した RS ウィルス感染症の
流行
静岡県立こども病院 新生児科
○児玉 律子、臼倉 幸宏、五十嵐
宗像 俊
健康、湊
晃子、
【はじめに】RS ウィルス(RSV)は乳幼児に下気道感染
症を起こす重要な原因ウィルスである。近年 NICU 内で
の RSV 感染症の流行についての報告が散見されている
が、今シーズン当院 GCU で RSV 感染症が流行した。流
行から終息までの経緯、感染拡大への対策、今後への
課題について検討し報告する。
【経緯】平成 18 年 12 月
18 日、在胎 24 週 0 日、体重 548g で出生し、慢性肺疾
患に対し酸素吸入療法を導入、GCU でコット移床、経口
哺乳を行っていた日齢 192(体重 2140g)の児に咳嗽を
認めた。全身状態、経口哺乳ともに良好であったが、
鼻汁中 RSV 抗原迅速検査を行ったところ陽性を確認し
た。直ちにクベース収容し、GCU 内の多目的室へ隔離し
た。また周囲半径1m を飛沫感染の起こりうる範囲と
し、その対象の患者と症状の疑わしい患者に鼻汁中 RSV
抗原迅速検査を行ったが陽性者は認めなかった。陽性
者の半径1m 以内にいた患者と他の患者は区別してベ
ッドを配置し、今シーズンの対象者にはパリビズマブ
投与を第一の患者の発症日から3日以内に開始した。
最初の感染者の発症4日後に第二の感染者が出現し院
内感染が疑われた。最初の患者と同様の方法で隔離し
た。その後も発症する者はなく、前述の二名の患者の
症状消失、鼻汁中 RSV 抗原迅速検査陰性を二回認める
事を隔離解除の基準とし、流行は拡大せずに終息した。
【考察】当院では新生児病棟に面会する家族は、児の
父母、祖父母に限り、入室時にはマスク・キャップ・
ガウン着用を義務づけている。また、毎年インフルエ
ンザの流行に合わせ医療従事者のマスク着用を開始す
るが、今年はその流行が例年より遅かったこともあり、
最初の感染者の発生までマスクの着用を行っていなか
った。そのため感染源は多岐に渡り推測され特定でき
なかった。一方で多目的室は、通常カンガルーケアや
在宅へ向けての宿泊練習等のために利用する事を目的
として設計したため、GCU の中心部に位置する。そのた
め感染対策として患者を隔離し、注意深く観察するの
に適していた。
【結論】GCU で RSV 感染症の流行をみた
が、適切な対応により更なる拡大を防ぐ事が出来た。
多目的室の感染隔離としての利用法が、感染拡大防止
に一役買ったと言える。
266
事前情報が無いまま救急搬送された出血
性ショックの妊婦:既往帝切全前置胎盤の
一例
山形大学 医学部 産科婦人科
○堤 誠司、手塚 尚広、倉智 博久
P-001
P-002
前置胎盤症例の出血量に関する麻酔科的
検討
聖隷浜松病院 麻酔科 1、聖隷浜松病院 産科 2
○入駒 慎吾 1)、黒崎 亮 1)、三宅 法子 1)、小久保 荘
太郎 1)、神農 隆 2)、松下 充 2)、石井 桂介 2)、村越
毅 2)、成瀬 寛夫 2)、鳥居 裕一 2)
【緒言】我が国の妊産婦死亡は、人口 10 万に対して 4.4
(2004 年)と斬減してきているが、先進諸外国と比較
するとまだ改善の余地が残されている。妊産婦死亡の
原因の約 40%は出血に関するもので、頻度の高い順に
産後出血(20.4%)
、産科的塞栓(16.3%)、前置胎盤・
常位胎盤早期剥離(6.1%)となる。これらのうち前置
胎盤だけは術前に診断されており、出血への準備・対
応が可能な病態であると考えられる。昨今の周産期を
取り巻く情勢を鑑みても、当院の前置胎盤症例を後方
視的に検討する必要があると考えられる。
【目的】当院
の前置胎盤症例に関して、その出血量を予測できるか
どうか後方視的に検討し、今後の麻酔管理についても
言及する。
【方法】2004 年から 2006 年までの 3 年間に、
当院で帝王切開術を施行された前置胎盤症例 98 例を対
象とした。この 98 例に対し、臨床的患者背景、大出血
のリスクファクターや出血量を手術記録より調査し
た。大出血のリスクファクターとしては、胎盤の前壁
付着、既往帝王切開術、子宮内膜症をピックアップし
た。また、出血量は羊水を含み、単位は mL とした。【結
果】患者の年齢は 31.9±4.5(Mean±SD)歳、身長は
158.3±5.7cm、体重は 59.6±8.3kg、妊娠週数は 35.7
±2.6 週であった。緊急手術は 98 例中 30 例で 31.6%
であった。経産婦は 39 例(39.8%)で、うち 10 例
(10.2%)が既往帝王切開術であった。胎盤付着部位
は 19 例(19.4%)が前壁付着であった。子宮内膜症は
3 例で 3.1%であった。同種血輸血症例は 8 例(8.2%)
で、そのうち 6 例にリスクファクターがあった。1 例は
4000ml 以上の出血を来たし、1 例は術前からの貧血に
より輸血となった。
【結論】前置胎盤症例の出血量はあ
る程度は予測可能であると考えられる。しかし、リス
クファクターがないにも関わらず大出血を来す症例も
あり、注意を要する。実際、総合周産期母子医療セン
ターである当院においても、大出血の対応に難渋する
場合があった。すなわち、前置胎盤は生命的危機を引
き起こす可能性のあるハイリスク妊娠であり、診断と
ともに速やかに高次施設への紹介が必要であると考え
られる。したがって、周産期センターとしては前置胎
盤症例の紹介を速やかに受け入れ、麻酔科医としても
このような危険性を念頭に置いて対応してゆかねばな
らないと考えられた。
【緒言】前置胎盤は産科出血の代表的な疾患であり、
十分な輸血の準備など緊急手術に対応できる体制を整
えた上での妊娠・分娩管理が必要である。今回我々は、
事前情報が全くないまま、緊急搬送された帝切既往全
前置胎盤症例を経験したので報告するとともに、救急
搬送時の問題点について考察する。
【症例】30 歳女性。
2 妊産。第 2 子は骨盤位のため帝王切開。妊娠 28 週 3
日、自宅にて午後 10 時半頃、突然性器出血を認めたた
め、直接救急に通報した。夫は通院先の産科医院には
連絡せず、救急隊員が NICU を有する搬送先を探した。
しかし、当該地域にある 2 施設の NICU は満床のため受
入不可能であり、当院救急部への搬送依頼となった。
この時の情報は「他の 2 施設で搬送依頼を断られた。
妊婦。顔色が悪い」との内容であった。救急当直医師
が受入れに同意し、23 時 30 分に到着した。母子手帳と
帝切既往ありという患者情報しかなく、超音波検査に
て子宮後壁から前壁の前回帝切創にかかる全前置胎盤
と診断され、出血性ショックで意識不明であった。急
速補液を行いつつ応援医師を招集し、緊急帝王切開を
行い、午前 1 時 19 分、Apgar 5 点(1分)、9 点(5分)
の児を娩出した。胎盤は剥離可能であったが、前回帝
切瘢痕部の筋層は薄く、内腔が透見できる状態であっ
た。子宮体部の収縮は良好で、止血を確認した後閉腹
したが、血圧が上昇せず、腟鏡診にて子宮口から出血
が続くため再開腹し、子宮全摘を行った。子宮下節は
だるま状に膨大しており、瘢痕部の筋層菲薄化による
収縮不全と考えられた。子宮全摘後は血圧も安定し、
経過順調にて軽快退院となった。術中の出血は 4,573g、
要した輸血は赤血球 MAP12 単位、FFP12 単位であった。
児は娩出後挿管され、サーファクタントを投与された
が日齢 7 には抜管でき、経過順調である。
【考察】本症
例では産科当直医師に加え 4 名の応援医師が直ちに治
療に当たり、手術室が待機状態で輸血準備も十分であ
り、麻酔専門医 2 名、新生児専門医 2 名が対応可能で、
幸いにも母児共に救命しえた。もし搬送受入れが遅れ、
初期治療が遅れていたら、母体の生命にも関わる事態
になり得た症例であったと思われる。当県では周産期
患者搬送に関する一元的なネットワークが完成してお
らず、施設間の直接連絡のみで搬送依頼を行っている。
今回は患者による直接的な搬送依頼で例外的である
が、救急隊との連携も含めた情報伝達システムの構築
が急務であると思われた。
267
帝王切開術中に選択的動脈塞栓術を施行
した前置胎盤 2 症例
名古屋大学 医学部 産婦人科
○炭竈 誠二、真野 由紀雄、森光 明子、荒木 雅
子、早川 博生、吉川 史隆
周産期に発症した母体心筋症の二例
P-003
P-004
動脈塞栓は経膣分娩あるいは帝王切開後の大量性器
出血に対する保存的治療として 1980 年ころより用いら
れ 94.9%と高い成功率が報告されている。しかしなが
ら帝王切開術中に動脈塞栓を併用することは一般的で
はない。今回我々は以下 2 症例を経験し術中塞栓の適
応と有益性について考察したので報告する。 症例 1
は 38 歳の 1 経妊 0 経産婦。チョコレート嚢胞のため右
付属器摘出、癒着剥離術、左卵管摘出術の既往あり、
その後左卵巣と子宮頸部筋層内にチョコレート嚢胞を
指摘されていた。IVF―ET にて妊娠し 21 週 4 日に前置
胎盤のため当院へ紹介。性器出血を繰り返し、前置胎
盤によるものあるいは頸部筋層チョコレート嚢胞が原
因と考えられた。27 週 6 日に大量性器出血あり緊急帝
王切開。開腹するに腹腔内癒着高度であった。児娩出
後、胎盤は自然剥離したものの子宮収縮は不良で性器
出血持続した。子宮全摘を考慮したが高度癒着と凝固
機能低下のためリスクが高いと考え、そのまま手術室
にて動脈塞栓術を施行。止血に至ったため子宮全摘せ
ず手術終了した。総出血量は 8000ml、輸血量は濃厚
赤血球 22 単位、新鮮冷凍血漿 30 単位、血小板 30 単位。
術後再出血なし。 症例 2 は 34 歳の 2 経妊 2 経産婦。
2 回の帝王切開既往あり。妊娠 35 週 4 日、前置癒着胎
盤疑いのため当院に紹介。MRI 上、後壁主体の前置胎盤
であり後壁では子宮筋層との境界明瞭であったが膀胱
後面では不明瞭で、部分的な癒着胎盤を疑った。出血
のエピソードなく 36 週 4 日にて選択的帝王切開。開腹
するに膀胱から子宮前壁にかけて怒張した血管を多数
認め、胎盤癒着を強く疑い子宮全摘が必要と判断した。
出血を軽減させる目的で術中に動脈塞栓術を施行、そ
の後子宮全摘を行った。子宮前壁と膀胱後面が強固に
癒着していた。総出血量は 3523ml。塞栓術に要した
時間は 105 分、その間の出血量は約 650ml。輸血量は
自己血 300ml、濃厚赤血球 12 単位、新鮮冷凍血漿 5
単位。病理診断は穿通胎盤であった。 症例 1 のよう
に腹腔内癒着が高度で子宮全摘が困難な例では動脈塞
栓が有用な手段と考えられた。症例 2 において、塞栓
により子宮全摘時の出血を軽減させる効果はあったと
考えたが、手術時間が長くなることや塞栓中の出血の
リスクなどのデメリットを上回る効果があったかは疑
問が残った。
山梨県立中央病院 総合周産期母子医療センター 母
性科 1、山梨県立中央病院 産婦人科 2
○滝澤 基 1)、雨宮 厚仁 1)、河野 恵子 1)、小野 洋
子 1)、佐々木 重胤 2)、白石 眞貴 2)、寺本 勝寛 2)
周産期に発症した母体心筋症を二例経験したので報告
する。【症例 1】42 歳、0 経妊 0 経産、身長 140cm。既
往歴、家族歴に特記事項なし。妊娠 20 週まで産科受診
していなかった。20w4d、近医総合病院受診し以後同院
にて妊娠管理された。30w1d 低置胎盤出血、切迫早産に
て当院に母体搬送となった。切迫早産に対して塩酸リ
トドリン投与した。35w1d 硫酸マグネシウム点滴開始、
35w2d に ECG 施行したところ異常 T 指摘されたが循環
器内科受診し問題ないと診断された。37w1d に CPD の診
断にて選択的帝王切開施行した。新生児は、体重 3252g
Apgar 8/9 男児であった。術後 0 日の母体の経過は良好
で心不全徴候は認めなかった。産褥 1 日に呼吸苦あり、
SpO2 89 %まで低下した。酸素 60% 投与にても SpO2 が
90 台前半までしか上昇せず、起座呼吸、チアノーゼ出
現した。胸部レントゲンにて血管陰影の増強認めた。
心エコーにて 左室 ejection fraction (EF )39% と左
室機能低下認めた。肺梗塞は否定的であり、産褥性心
筋症による心不全の診断にて ICU 転科となった。ICU
にて、硝酸イソソルビドを 2 日間、カルペリチドを 7
日間投与し、EF が 70% まで回復した。産褥 5 日の採血
にて、hANP が 520 pg/ml、BNP が 591 pg/ml 、心室
筋ミオシン軽鎖 I が 5.8ng/ml であった。産褥 16 日心
臓カテーテル検査施行し動脈梗塞性病変は認められな
かった。経過良好にて産褥 20 日退院となった。
【症例
2】40 歳、3 経妊 1 経産、既往歴、家族歴に特記事項な
し。前回の妊娠は他院に管理され、骨盤位にて選択的
帝王切開施行されたが経過は良好であった。今回の妊
娠も同院にて管理されていた。妊娠中に GDM 認めたが
食事療法のみにて管理されていた。37w0d、胸部レント
ゲンにて異常指摘され、心エコーにて拡張型心筋症が
疑われ当院搬送となった。来院時 EF 20% と著明に低
下し心不全状態であった。母体の心負荷の軽減を図る
ため緊急帝王切開施行した。麻酔は脊椎麻酔にて行っ
た。児は 2590g Apgar 6/7 男児にて心不全徴候などは
認めなかった。母体は術後 ICU にて管理した。酸素吸
入、DOA、ARB、利尿剤にて治療行い次第に心不全の改
善を見た。BNP は 1710 pg/ml まで上昇していた。術後
9 日よりβブロッカーを開始した。諸治療にも関わらず
心機能の改善は遅滞したが、産褥 42 日には、EF 46% ま
で回復し、産褥 43 日退院となった。
268
早産児の帝王切開術時におけるニトログ
リセリンの有用性
聖隷浜松病院 麻酔科 1、聖隷浜松病院 産科 2
○三宅 法子 1)、入駒 慎吾 1)、黒崎 亮 1)、小久保 荘
太郎 1,2)、神農 隆 2)、松下 充 2)、石井 桂介 2)、村
越 毅 2)、成瀬 寛夫 2)、鳥居 裕一 2)
【目的】周産期医療の進歩により早産児の帝王切開術
を行う頻度が増加している。通常の満期産帝王切開術
と異なり早産の帝王切開術では妊娠週数が早いほど子
宮筋層が伸展しておらず厚いため、十分な子宮切開を
行ったにもかかわらず娩出困難となることがある。さ
らに、破水後は急激に子宮筋が収縮し児が圧迫を受け
て、子宮の逆 T 字切開や L 字切開などのより侵襲的な
手技を必要とする場合もある。今回我々は、早産の帝
王切開術において子宮筋弛緩のため nitroglycerin(以
下 NTG)を使用した症例について当院での成績を報告
し、後方視的に検討を行った。【方法】2006 年 1 月から
2006 年 12 月までの 12 ヶ月間に当院において 454 例の
帝王切開術が施行された。これらのうち児娩出時に緊
急子宮弛緩を施行した 37 症例(胎児異常症例は除外)
を対象とした。これらに対し、妊娠週数、児出生体重、
麻酔法、NTG 投与量、子宮切開法および副作用について
手術記録より抽出し、後方視的に検討した。NTG は子宮
切開の前後に麻酔科医の判断により投与し、執刀医が
子宮弛緩が得られたと判断するまで投与し続けた。出
血量は羊水を含み、mL で表した。血圧は収縮期血圧が
100mmHg 未満または入室時血圧の 20%以上の低下を低
血圧とし、塩酸エフェドリンの静脈内投与にて治療し
た。
【成績】平均妊娠週数は 27.8±2.9 週、平均出生体
重は 904±316g であった。麻酔法は子宮全摘時に全身
麻酔へ移行した 1 例を除き、すべて脊髄くも膜下硬膜
外併用麻酔であった。NTG 平均投与量は 0.5±0.28mg
であった。子宮切開法は子宮下部横切開 8 例、U 字切開
12 例、J 字切開 12 例、縦切開 3 例、逆 T 字切開 2 例で
あった。副作用としては、13 例に NTG 投与後の低血圧
を認めたが、塩酸エフェドリンの投与にて速やかに改
善した。平均出血量は 841mL で、低置癒着胎盤の 1 例
を除き弛緩出血は認めなかった。その他の有害事象は
認めなかった。
【結論】早産の帝王切開術において、NTG
の使用により子宮筋が弛緩し低侵襲な子宮切開方法で
児娩出が可能であった。さらに、NTG は遷延性の母体低
血圧や弛緩出血などの有害事象を引き起こさないた
め、母児双方にとって安全な周術期環境を提供できう
ると考えられた。麻酔科医として子宮筋のコントロー
ルの重要性を再認識した。
子宮捻転を来した子宮筋腫合併妊娠の 1
症例
市立奈良病院 産婦人科
○延原 一郎、原田 直哉
P-005
P-006
【緒言】子宮長軸を軸とする 45 度以上の子宮の捻転は
極めて稀な病態で、国内外を通じてもわずかな報告例
しかない。今回、90 度の反時計回りに子宮が捻転した
子宮筋腫合併妊娠を経験したので報告する。【症例】36
歳の初産婦。初診時より子宮体部前壁右側に直径 6cm
の漿膜下子宮筋腫を認めていた。妊娠 16 週 5 日に強い
下腹部痛が出現し時間外受診。子宮前壁左側に鵞卵大
の弾性硬な腫瘤を認め、筋腫核の移動が疑われた。腫
瘤に一致した圧痛を認めたものの、反跳痛や筋性防御
はなかった。超音波断層法で同部位に 13cm と 3cm 大 2
個の筋腫核を認めたため、有茎性漿膜下子宮筋腫茎捻
転の可能性も考慮しつつ、筋腫核の変性を疑い緊急入
院とした。発熱は認めなかったもの、WBC10790/mm3、
CRP2.89mg/dl と上昇していたため、抗生物質の投与開
始し、炎症反応は軽快した。また、入院時に Hb10.1g/dl、
LDH207IU/l であったが、8 日後にはそれぞれ 8.7g/dl、
224IU/l となり、出血を伴う変性が疑われた。子宮緊満
感に対しては子宮収縮抑制剤の点滴あるいは内服を行
い、疼痛に対してはアセトアミノフェンを処方した。
自他覚症状の改善した 19 週 0 日に退院し、以降、外来
で妊婦健診を行うも特記すべきことを認めなかった。
38 週 3 日の健診時に高度変動一過性徐脈を認め、子宮
頚管の熟化がなかったため、緊急帝王切開術をおこな
った。正中切開創部直下に左上方から右下方に子宮円
靭帯や怒張した卵巣動静脈を認め、骨盤腔左側の壁側
腹膜と癒着している 13cm と 6cm 大の漿膜下子宮筋腫を
認めた。筋腫核の癒着を剥離したところ、子宮が反時
計回りに 90 度捻転していたことが判明した。また、漿
膜下子宮筋腫だけが捻転または移動するような可動性
は認められなかった。整復後に子宮体部下部横切開で
2904gの児を Apgar score 9 点(1 分値)で娩出し、筋
層切開部縫合後に筋腫核出術をおこなった。術中の出
血量は羊水込みで 1420ml、摘出標本の病理組織診は広
汎な硝子化変性を伴う平滑筋腫であり、術後の母児の
経過は良好であった。【結語】妊娠中期に子宮の捻転や
変性、癒着が生じたと考えられた。開腹時に初めて捻
転していることに気がついたが、疾患の認識があれば
MRI やカラードップラーエコーにて診断が可能であっ
たかもしれない。
269
tocolysis により著明な肺水腫を来した
と考えられた 1 卵性双胎切迫早産・母体搬
送の 1 例
東京女子医科大学 東医療センター 産婦人科
○村岡 光恵、小林 藍子、真井 英臣、倉田 章子、
高木 耕一郎
肺水腫は多胎、妊娠高血圧症候群、塩酸リトドリン長
期投与、帝王切開術後などで発症頻度が増加すること
が知られている。我々は、陣痛抑制不能で、当院へ母
体搬送された妊娠 30 週の 1 絨毛膜 2 羊膜双胎例におい
て、搬送時に著明な肺水腫、胸腹水を認め、帝王切開
による妊娠の termination にて母児ともに良好な経過
を示した症例を経験した。
【症例】21 歳、G2P0、既往歴
に特記事項なし。今回妊娠は自然妊娠の1絨毛膜 2 羊
膜双胎(M-D twin)で、妊娠初期より前医にて経過観察。
妊娠 29 週 5 日、腹緊増加し、不正出血を認め、前医に
入院。血圧 140/90 mmHg と上昇。30 週 0 日、5 分周期
の腹緊を認め、塩酸リトドリン 200μg/min 投与、輸液
量 3000 ml/日、硬膜外麻酔併用するも陣痛増強、当院
へ母体搬送された。搬送時自覚的呼吸苦なし。非妊時
より 18 Kg の体重増加を認めた。腹囲 95 cm、子宮底長
33 cm、全身浮腫、血圧 152/72 mmHg、脈拍 90 /min、
尿蛋白 2+。帯下膿性、子宮口閉鎖、頸管長 25 mm。超
音波検査で 2 児とも頭位で、推定体重はそれぞれ 1630 g
と 1492 g、羊水ポケットも両児とも 2.4 cm。TTTS はな
し。Hb8.1 g/dl、Ht 23.7%、血小板 25.8 万 /mm3、Alb
2.4 g/dl CRP 2.01 mg/dl 尿酸値 7.0 mg/dl、凝固系
異常なし。胸部X線で CTR 拡大、肺野すりガラス様、
左肺に胸水を認めた。動脈血ガス pO269.5 Torr、pCO2
30.7 Torr、pH 7.430、SatO2 93.1%であった。塩酸リ
トドリンまたは妊娠高血圧腎症合併による肺水腫と診
断、塩酸リトドリンを中止後、硫酸マグネシウムで陣
痛抑制を試みるも抑制困難で、脊椎麻酔にて腹式深部
帝王切開施行。1498 g と 1400 g の男児を 5 分後 Apgar
各 8、9 で出産。術中大量の腹水認め、腸管は浮腫状。
腹水、羊水込みで出血量約 3010ml。術後 ICU 入室し Hb
7.1g/dl、Alb 2.3g/dl で MAP、FFP 投与。術後 12 時間
の輸液量 1095ml、尿量 1920 ml で水分バランスは-825
ml,その後、利尿剤投与のみで肺水腫は術後 3 日には改
善した。
【まとめ】本症例の肺水腫は、双胎の循環血液
量増加、血液希釈による貧血、リトドリンによる肺毛
細血管圧上昇、低蛋白血症による血漿膠質浸透圧の低
下、過剰輸液、子宮内感染などが複雑に関連しあって
発症したと考えられた。
P-007
P-008
当院で経験した子宮脱合併妊娠4例につ
いての検討
浦添総合病院
○島袋 史
産婦人科
【はじめに】子宮脱は高齢者に発症することが多く、
妊娠中に発症することはまれで、約 1 万分娩に 1 例と
いわれている。今回妊娠中の子宮脱、子宮下垂を4例
経験したので、報告する。
【症例】 2005 年 7 月から
2006 年 10 月までに当院にて出産した子宮脱・子宮下垂
合併妊娠の 4 例<症例1>36歳1経産 妊娠11週
初診時に子宮脱 1 度(Jeffcoate らの分類)認め補中益
気湯処方。妊娠16週頃まで補中益気湯内服していた
が軽快。その後妊娠中は子宮下垂を認めず。妊娠40
週0日出産。産後3日目より子宮脱 1 度を認めた。産
後5日目より補中益気湯内服開始し、7日間内服後に
軽快したため治療終了した。<症例2>32歳2経産
妊娠15週2日に子宮脱2度認め、ペッサリー70
mm(ウォーレスリングペッサリー)を挿入した。子宮頚
部延長型の子宮脱であり、ペッサリー挿入後も子宮腟
部膣外突出してきたため、妊娠15週5日にペッサリ
ー80mm に変更したが、その後も軽度の子宮腟部突出が
見られていた。妊娠17週5日より補中益気湯内服開
始。漢方内服開始後に子宮腟部の腟外突出はなくなっ
た。妊娠25週3日ペッサリーを抜去し、妊娠 27 週に
は漢方薬の内服も中止したが再発はなかった。妊娠経
過中に切迫早産や感染などの異常は認めなかった。妊
娠39週3日出産。産後3日目より子宮脱2度再発あ
り、補中益気湯内服開始。産後11日目ペッサリー80mm
挿入した。1ヶ月健診時ペッサリー抜去し、その後子
宮脱は認めなかったため補中益気湯も飲みきり中止と
した。<症例3>27歳 1 経産 妊娠34週0日性器
出血と子宮脱 2 度あり。子宮収縮の自覚も頻回のため、
塩酸リトドリン内服5日間。妊娠36週1日より子宮
膣部突出の増悪認めたが経過見たところ、妊娠 37 週 2
日経腟分娩。産後子宮脱は認めなかった。<症例4>
33歳 1 経産妊娠33週 5 日子宮脱2度あり。当帰芍
薬散と補中益気湯内服し入院管理。妊娠 34 週 1 日子宮
収縮認め、塩酸リトドリン点滴開始した。感染兆候は
なかった。妊娠 35 週 4 日塩酸リトドリン内服へ変更。
妊娠 34 週 6 日退院。塩酸リトドリンと当帰芍薬散を 35
週 6 日まで内服し、補中益気湯は継続して内服。妊娠
39 週 5 日分娩。産後子宮脱 2 度認めた。補中益気湯内
服続行。産後 3 週まで補中益気湯内服継続し、1 ヶ月後
には軽快した。
【まとめ】子宮脱合併妊娠はペッサリー
や漢方薬、子宮収縮抑制剤などの保存的治療が有効で、
いずれも分娩後 1 ヶ月までには回復した。
270
腟式広汎子宮頚部切断術(VRT)施行患者の
妊娠分娩管理における問題点について
札幌医科大学 医学部
○石岡 伸一、遠藤 俊明、林 卓宏、斉藤 豪
腹腔鏡下子宮筋腫核出後に発生した癒着
胎盤
石川県立中央病院 いしかわ総合母子医療センター
産婦人科
○平吹 信弥、高橋 仁、干場 勉、朝本 明弘
腹腔鏡下子宮筋腫核出術後、自然妊娠で 1 絨毛膜性 3
羊膜性品胎に至り、さらにその帝王切開時に癒着胎盤
を発生したまれな症例を経験したので報告する。【症
例】38 歳、0 妊 0 産。既往歴:8 歳よりてんかんにてア
レビアチン内服。36 歳(H17 年 3 月)他院にて多発性
子宮筋腫に対して腹腔鏡下子宮筋腫核出術。経過:H18
年 3 月自然妊娠での品胎、性器出血にて近医より紹介。
初診時妊娠 12 週、前医のエコー像から 1 絨毛膜 3 羊膜
性品胎と診断した。
妊娠 16 週で予防的頚管縫縮術施行。
妊娠 25 週より管理入院を行い、31 週 5 日予定帝王切開
を施行した。1220g、1233g、1235g の女児を娩出し、児
は当院 NICU で管理された。胎盤娩出の際、部分的に用
手剥離困難な部位があったが、胎盤は概ね娩出できて
おり子宮筋層縫合し閉腹に移った。術中の総出血量は
2800ml で、術後も再出血なく退院した。術後 27 日の時
点で未だ子宮内に高輝度エコーをみとめ胎盤の残存を
考えたが、性器出血はほぼ消失しており待機的管理と
した。しかし術後 34 日目、自宅で大量性器出血となり、
救急車で当院へ搬送され、骨盤 MR 検査で血流豊富な胎
盤遺残組織を確認した。本人、家人の子宮温存の希望
はなく子宮全摘術を施行した。摘出子宮の後壁には
5.3*2.9*2.2cm の癒着胎盤があり、病理学的に脱落膜が
欠如した placenta accreta vera が確認された。【考察】
癒着胎盤は過去 50 年間に 10 倍に増加したと言われて
いる。危険因子として前置胎盤、既往帝王切開が最も
重要視されているが、子宮筋腫核出術の既往も挙げら
れている。筋腫核出後の妊娠では、子宮破裂だけでは
なく癒着胎盤の注意も必要であり、このことは腹腔鏡
下子宮筋腫核出術でもあてはまる。
P-009
P-010
【目的】2003 年以降、当科において妊孕能温存を希望
する 5 例の子宮頚部初期浸潤癌患者に対して詳細な説
明と同意の後、腟式広汎子宮頚部切断術(VRT)+腹腔鏡
下骨盤リンパ節郭清術を施行し、2 例の妊娠分娩成功例
を得た。しかしながら、この 2 例とも前期破水により
早産に至っており依然改善を要する問題となってい
る。本研究では VRT の有用性と問題点につき、レーザ
ー円錐切除後妊娠との比較で検討した。【方法】2003
年以降当科で VRT 施行後妊娠に至った 2 例の妊娠分娩
経過を、症状、頚管長、炎症反応の点より同時期にレ
ーザー円錐切除後妊娠分娩に至った 5 例と比較した。
【成績】VRT 症例1は子宮頚部腺癌 Ib1 期にて VRT 施行
後 8 ヶ月で妊娠に至った。妊娠 17 週以降頚管長短縮、
腹緊増強にて入院。子宮収縮抑制剤及びウリナスタチ
ン投与にて継続的に治療したが、妊娠 32 週で前期破水
となり帝王切開で分娩となった。症例2は子宮頚部扁
平上皮癌 Ib1 期で、VRT 施行後 6 ヶ月で AIH により妊娠
に至った。妊娠 20 週に頚管長短縮にて入院、治療した
が妊娠 23 週 6 日で前期破水、帝王切開で分娩となった。
一方、レーザー円錐切除症例は2例が 36 週で早産にな
ったが、他3例は満期で分娩となっている。VRT、円錐
切除症例ともに妊娠経過とともに徐々に頚管長が短縮
する傾向にあったが、妊娠期間を通して明らかに円錐
切除症例が VRT 症例より頚管長が長い傾向にあった。
重症 CAM は円錐切除症例、VRT 症例1では認めず、VRT
症例2で認め、頚管短縮に伴う感染防御システムの破
綻が前期破水と引き続く早産に影響を及ぼすと考えら
れた。【結論】VRT は、従来子宮温存を望めなかった子
宮頚部初期浸潤癌患者にとって子供をつくることがで
きるという点で大きな福音となった。しかしながら、
VRT 後の妊娠では頚管長短縮に伴う切迫流早産、前期破
水のリスクが、子宮頸癌 0 期を対象としたレーザー円
錐切除症例に比べて高い。そのため、妊娠中の徹底し
た上行性感染の防止が早産克服に重要と考えられ、手
術広汎度を含む切除範囲の再検討、効果的な感染防御
法の確立が必要と考える。
271
合併症妊婦における大動脈 augmentation
index と cardio ankle vascular index
国立病院機構西埼玉中央病院 産婦人科 1、三重大学医
学部 産科婦人科 2
○吉田 純 1)、杉山 隆 2)、佐川 典正 2)
【目的】妊娠高血圧症候群においては脈波伝導速度(以
下 PWV)が上昇することが報告されているが、従来用い
られてきた上腕から足関節までの PWV(baPWV)は血圧に
依存して変化する可能性が指摘されている。血管壁性
状の指標として用いるためには血圧値変動の影響を取
り除くことが望ましいと考えられ、血圧に依存しない
脈波伝導速度の指標(cardio ankle vascular index、
以下 CAVI)が提唱されている。一方、大動脈圧波形にお
ける反射波成分による増大(augmentation index、以下
AIx)が血管性状を示す指標として有用であることが報
告されている。今回われわれは、高血圧性疾患合併妊
婦における CAVI と AIx の相関について検討したので報
告する。
【方法】対象は、非妊娠健常女性 16 名(A 群)、
正常血圧妊婦 42 名(B 群)、妊娠高血圧症候群妊婦 23
名(C 群)、慢性高血圧合併妊婦 9 名(D 群)である。被検
者を仰臥位とし、血圧脈波検査装置 VaSera VS-1000(フ
クダ電子)を用いて血圧、CAVI を計測した。CAVI の計
測に引き続き、SphygmoCor 装置(AtCor Medical)により
橈骨動脈血圧波形を記録し、変換関数により生成した
大動脈血圧波形における AIx を算出した。AIx は心拍数
の影響を受ける可能性があるため、心拍数 75bpm にお
ける補正値(AIx@75)にて評価した。CAVI は大動脈の収
縮期および拡張期血圧を用いて補正した値 (c-CAVI)
にて評価した。
【成績】C 群の c-CAVI は A、B 群よりは
高値であるものの D 群よりは有意に低値であった。
AIx@75 は C、D 群では A、B 群より有意に高値であった
が、C・D群間には有意差を認めなかった。A、B、C
群では c-CAVAI と AIx@75 の間に有意の正相関を認めた
が、D 群では c-CAVI と AIx@75 の間に相関を認めなかっ
た。
【結論】AIx@75 は動脈硬化性変化の他の要因によっ
ても上昇すると考えられている。妊娠高血圧症候群に
おいては AIx@75 の上昇とともに c-CAVI が高値になっ
ていたのに対し、慢性高血圧合併妊婦では AIx@75 の値
にかかわらず c-CAVI は高値であり、動脈壁の硬化性変
化を反映しているものと思われた。CAVI と AIx を観察
することにより、血管壁構造変化の有無を評価できる
可能性が示唆された。
妊娠中に手術・化学療法を施行し正期産に
至った乳癌合併妊娠の 1 例
市立堺病院 産婦人科
○原 知史
P-011
P-012
今回我々は乳癌診断時に妊娠が判明し、加療しながら
正期産に至った症例を経験した。症例は 37 歳 1 回経妊
1 回経産であり、既往歴・家族歴は特記すべきものなし。
右乳房腫瘤自覚し、近医より当院外科を紹介受診。触
診上 22×19mm 大で不整形の腫瘤を認め、組織診にて浸
潤性乳癌と診断される。乳癌診断直後、妊娠 5 週と診
断されるも、患者は妊娠継続を強く希望した為、妊娠
13 週 5 日乳癌根治術(右乳房切除術及び腋窩リンパ節
郭清)を施行。病理組織診断は、Invasive breast cancer
ER(-)PgR(+)HER2(3+)LN:5/14 であった。この為、術後
化学療法が必要と判断され、妊娠中の抗癌剤投与によ
るリスクに関しインフォームド・コンセントを得た後、
妊娠継続の上 FEC(5-FU+エピルビシン+シクロホスフ
ァミド)療法を妊娠 17 週~妊娠 27 週の期間に 4 コー
ス施行。化学療法開始後も妊娠経過に特記すべき異常
なく経過した。しかし、妊娠 37 週 5 日の時点で右前胸
部に 1cm の局所再発を認めた為外来手術予定としたと
ころ、陣痛発来し妊娠 38 週 5 日 2518g の男児を Apgar
score 9/9 にて経膣分娩した。産褥 1 日目局所再発部切
除術を施行。産褥・術後経過は良好であり、産褥 6 日
目に退院。授乳に関しては左乳房より施行していた。
産褥 5 日目に施行したエコー検査にて多発肝転移を認
めた為、産褥 15 日目より weekly パクリタキセル+ト
ラスツズマブによる化学療法を開始。3 ヶ月後の CT に
て縮小傾向(縮小率 58%)であり、産後 11 ヶ月の現在
も weekly パクリタキセル+トラスツズマブによる化学
療法継続し、増大傾向・新病変出現なく経過している。
児も特に問題なく経過している。妊娠経過中の乳癌治
療方針決定について文献的考察を加え報告する。
272
妊娠中に発症した抗 Musk 抗体陽性重症筋
無力症合併妊娠の一例。
広島市立広島市民病院 産婦人科
○伊藤 裕徳、辰本 幸子、香川 玲奈、早田 桂、
石田 理、野間 純、吉田 信隆
今回、抗 Musk 抗体陽性重症筋無力症合併妊娠の一例
を経験したので報告する。 症例は31歳の初妊婦。
近医にて妊婦健診を受けていたが妊娠4ヶ月頃より倦
怠感、のどの違和感が出現、5ヶ月になると言葉にろ
れつが回らなくなり、嚥下困難も出現した。近医脳外
科、耳鼻科受診するも脳 MRI など異常なく重症筋無力
症を疑われ、妊娠 20 週で当院神経内科紹介受診、テン
シロンテスト陽性であり重症筋無力症と診断、妊娠管
理目的にて当科紹介となった。初診時児の発育に特に
問題はなかった。その後神経内科へ管理目的にて入院、
プレドニゾロンの投与を開始、抗 AChR 抗体陰性、抗
Musk 抗体陽性であり抗 Musk 抗体陽性重症筋無力症と
診断した。状態落ち着いたため一旦退院、外来管理と
なった。妊婦健診は通常通り行い妊娠経過に特に異常
は認めなかったが妊娠9ヶ月になり症状の増悪を認め
る様になったため再度管理入院となった。分娩方法は
症状の悪化が懸念されたため、帝王切開分娩の予定と
し、その直前に状態改善の目的で血漿交換を行った。
妊娠37週で帝王切開術施行 2482g の女児を出産、出
生時の児の抗 Musk 抗体は陽性であった。児は一過性の
補乳力低下を認めたがその後改善、生後17日目で退
院となり現在までのところ発育は良好である。母体は、
手術後ステロイドパルス療法を3回行い退院、現在経
過観察中である。
妊 娠 中 に 発 症 し た Infective
Endocarditis の一症例
新潟市民病院
○田村 正毅、菖蒲川 紀久子、柳瀬 徹、倉林 工
P-013
P-014
【緒言】感染性心内膜炎(infective endocarditis;以
下 IE)は重篤な疾患で、診断がつかずに放置した場合に
死亡の報告も散見される。今回我々は妊娠中に不明熱
にて発症、
最終的には IE と診断し帝王切開術を行ない、
その後に心臓弁手術が必要となった症例を経験したの
でここに報告する。
【症例】2 妊 1 産(正常経膣分娩1
回)
。既往歴;特記すべきことはないが、歯周病を指摘
されていたが放置していた。現病歴;妊娠成立後、近
医にて妊婦健診施行。妊娠 28 週より 38℃の発熱を認
め、解熱剤等を処方された。症状改善なく近医内科に
て精査行なうも原因不明。切迫早産徴候を認め、同産
婦人科医院に入院し子宮収縮抑制剤を点滴した。血液
検査にて CRP 異常高値ならびに左背部(左腎臓の周囲)
痛も出現し抗生剤も点滴となった。症状の改善を認め
ないため当科に緊急母体搬送となった。入院後血液培
養や腹部エコーを初めとして精査したが発熱と CRP 異
常高値の原因は不明であった。子宮収縮も持続してい
たため、子宮収縮抑制剤と抗生剤を点滴し経過観察と
した。一時症状の軽快と CRP の低下を認めた。入院 2
週間目に左下肢痛が出現し、同部位の腫脹と発赤を認
め静脈血栓を疑い再度全身の診察を行なったところ心
雑音を認めた。心エコー検査にて心房内の疣贅とそれ
に伴う僧帽弁閉鎖不全を認め IE と診断。循環器内科、
心臓外科、新生児科等と相談し、ご本人の同意の元、
妊娠 30 週で全身麻酔下に帝王切開術施行し 1460g の男
児を出産、新生児は NICU 管理となった。4 日後に心臓
弁手術を施行。約 1.5 ヶ月後に無事退院となった。
【考
案】妊娠中に発症した感染性心内膜炎の症例を経験し
た。この疾患の場合には死亡例もあり早期発見と適切
な治療が必要となってくる。ただし確定診断のために
は心臓手術や動脈塞栓の組織学的および微生物学的検
査が必要となる。これに対して最近では心エコー所見
や臨床所見を元にした Duke 判定基準が診断として使用
されるようになってきている。原因不明の発熱時には
このような疾患も念頭においた心エコーや頻回の血液
培養などの精査が重要と思われた。
273
肺高血圧合併妊娠の重症度による予後の
違いに関する検討
国立循環器病センター 周産期科
○山中 薫、野澤 政代、時任 ゆり、上田 恵子、
根木 玲子、池田 智明
QT延長症候群を合併した妊婦とその児
の予後の検討
国立循環器病センター 周産期科 1、鹿児島大学病院
産婦人科 2、千葉大学病院 3、国立循環器病センター 小
児科 4
○時任 ゆり 1)、尾本 暁子 3)、山中 薫 1)、根木 玲
和弥 2)、
子 1)、野澤 政代 1)、上田 恵子 1)、川俣
渡辺 健 4)、池田 智明 1)
(目的)QT延長症候群(LQT)は、突然死の原因
として注目されているが、1 万人に 1 例という稀な疾患
のため、合併妊娠に関して、これまで、まとまった症
例検討はされていない。また、LQT の各タイプに対応し
た、遺伝子タイプが解明されており、児への伝播も明
らかにされている。今回、当センターで経験した 7 例、
15 妊娠を通じ、妊婦と児の予後を検討した。(方法)
1992 年から 14 年から当センターで経験したLQT7 例
による 15 妊娠を対象とした。LQTのタイプ、家族歴・
遺伝子タイプ、発症・診断年齢、投薬歴、妊娠経過、
児への遺伝、母児の予後を検討した。(結果)Type 1
(Romano-Ward 症候群)
:3 例、Type 2:1 例、不明:3
例であった。全例とも家族歴を持っていた。4 例が失神、
動悸で、比較的若年(平均 6 歳)に発症しており、2
例は家族歴を契機に、16 歳と 18 歳時に診断された。1
例を除いて全例に、抗不整脈剤が妊娠前から投与され
ていた(ベラパミル:3例、塩酸プロプラノロール:4
例、塩酸カルテオロール:1例)
。その内、妊娠中に抗
不整脈剤を増量した例は 4 例であった。心拍数 60bpm
で補正したQT時間は妊娠前または妊娠初期には 500
~650 msec(正常は 450 msec 未満)であったが、妊娠
により延長傾向が認められた (550~650 msec)。14
妊娠は、分娩週数(平均:38 週、範囲:34~40 週)
、
児体重(平均:2946g、範囲:1694g~3798g)、分娩方
法(経膣分娩 12 例、帝切分娩 3 例)であった。児が LQT
であったものは 10 例であり、67%の遺伝率であった。
3 例は、心磁図を用いることによって、胎児の QT 時間
を測定することに成功し、出生前診断が可能であった。
すべて生産であったが、1 例が 8 ヶ月で突然死した。母
体は妊娠前後で LQT の増悪はみとめなかった。
(結論)
LQT 合併妊娠は妊娠中に増悪する傾向が認められ、強い
遺伝歴から出生前診断および遺伝コンサルトが必要な
ハイリスク妊娠であることが明らかとなった。
P-015
P-016
【目的】肺高血圧症(PAH)は、一般に妊娠は禁忌とさ
れているが、軽症から重症まで幅広い病態が存在し、
重症度やその原因によっては、妊娠継続が可能な例が
含まれていると考えられる。【方法】今回過去 24 年間
に当センターで経験した 22 例の PAH 合併妊娠を検討
した。PAH は心カテーテル検査による平均肺動脈(PA)
圧が 25mmHg 以上とし、40mmHg 未満を軽症、それ以上を
重症とした。心臓超音波検査では、肺動脈の推定収縮
期 PA 圧が 30mmHg 以上とし、50mmHg 未満を軽症、それ
以上を重症とした。PAH の原因として 1999 年の Rich
分類を行い、妊娠・分娩経過、母児の予後について検
討した。
【成績】22 例の平均分娩週数は 33 週、平均出
生体重は 1828g、帝王切開 16 例、鉗子分娩6例であっ
た。原因別では、肺動脈性 PAH が 20 例であり、内訳は、
原発性 3 例、先天性心疾患合併 15 例(内 Eisenmenger 症
候群 4 例)
、膠原病 2 例であった。肺静脈性 PAH は僧帽
弁膜症 1 例、血栓塞栓性 PAH は 1 例であった。重症群
は 15 例(原発性と Eisenmenger 全例、先天性心疾患合
併 4 例、血栓塞栓性 PAH は 1 例)
、軽症群は 7 例であっ
た。心臓カテーテル検査もしくは心臓超音波検査によ
る PA 圧が比較できる 12 例(軽症群 3 例、重症群 9 例)
では、帝王切開は軽症群では 1 例だけであったが、重
症群では 7 例であった。平均分娩週数、平均出生体重
は軽症群 38 週、3011g、重症群 31 週、1529g であった。
軽症群では 3 例とも 37 週以降の分娩となったが、重症
群では全例早産(22 週―36 週)となった。肺動脈圧の
推移を見ると、軽症群ではほとんど上昇しなかったが、
重症群では 3 例を除き上昇した。ニューヨーク心臓協
会(NYHA)心機能分類は軽症群では全例が、妊娠
前は 1 度で、その後も 1 度のまま推移したのに対して、
重症群では妊娠前から 2 度以上を示し、妊娠経過と共
に更に悪化した。母体死亡例が重症例 1 例に起こった。
【結論】肺高血圧合併妊娠の中でも比較的予後の良い
症例があり、肺高血圧の程度、妊娠初期の NYHA 分類を
参考にして、患者に説明することが重要である。
274
P-017
拡張型心筋症合併妊娠
P-018
国立循環器病センター 周産期科
○尾本 暁子、時任 ゆり、山中 薫、根木 玲子、
池田 智明
【目的】拡張型心筋症は、左室拡大による収縮不全を
特徴とする疾患であり、その合併妊娠は母体死亡につ
ながるハイリスク妊娠である。我々は、12 例 24 妊娠を
経験し、その発症機転と予後について検討した。【方
法】1982 年 1 月から 2006 年 9 月までの約 25 年間に当
院で妊娠・分娩管理をした拡張型心筋症は、12 例(24
妊娠)であった。これらについて、年齢、経産回数、発
症機転、発症時の心機能検査、妊娠・分娩・産褥時の
心機能の変化、分娩週数、分娩方法および母児の予後
について検討した。
【成績】24 例中 12 例が妊娠中また
は前回妊娠後に拡張型心筋症と診断された症例(以後
妊娠時発症群)、12 例が妊娠前に拡張型心筋症と診断さ
れ妊娠した症例(以後、非妊娠時発症群)、であった。
このうち 4 例が、人工妊娠中絶となっている。分娩ま
でいたった症例のうち、両群の年齢、経産回数には有
意差はなかった。分娩週数は、妊娠時発症群が平均 33.5
週、非妊娠時発症群が 37.6 週と、有意に(p<0.01)前
者の方が医学的適応で早産になっていた。前者で 2 例
IUFD があったが、SFD の児はみられなかった。非妊娠
時発症群はすべて NYHA1 度、心機能は記録が残る範囲
内では LVDd <60mm、FS>30%であり、妊娠中の心機能
に大きな変化はなかった。妊娠時発症群は、非妊娠時
発症群に比べて妊娠中期の心機能が悪い傾向にあり(p
= 0.068) 、 特 に 分 娩 後 は 有 意 に 悪 化 し て い た (p <
0.01)。非妊娠時発症群 10 例中は、分娩後の予後は特
に変化なく経過している。妊娠時発症群 10 例中 1 例が
分娩時母体死亡、2 例が産後半年以内に死亡、また、現
在内科フォロー中の 3 例(産後 3 年、6 年、9 年)が、
心不全が悪化してきている。【結論】拡張型心筋症合併
妊娠でも、妊娠前にコントロール良好で心機能が保た
れている例であれば、満期までの妊娠の継続は可能で
あり、分娩後の経過も良好であった。一方、妊娠時発
症群は、心不全の悪化により早産になる例や分娩後の
予後が悪い症例が多く、より慎重に管理すべきである。
腸閉塞合併妊娠 3 症例の臨床的検討
新潟市民病院 産婦人科
○倉林 工、菖蒲川
紀久子、田村
正毅、柳瀬
徹
【はじめに】妊娠中の腸閉塞はまれで、診断が困難な
ため、母児に不幸な転機をもたらしうる。当科で最近 8
年間に経験した腸閉塞合併妊娠 3 症例の臨床経過をも
とに、早期診断方法と管理方針について検討する。
【症例1】37 才、2 妊 2 産。29 才時左卵巣嚢腫摘出術
の既往。妊娠 35 週、上腹部痛にて受診、胎盤早期剥離
は否定的で、切迫早産、急性胃腸炎疑いにて入院。リ
トドリン点滴し、臭化ブチルスコポラミン・ペンタゾ
シン各々2 回使用するも軽快せず。腹部 X 線上ガス像な
し。同日緊急帝王切開にて 2692 g 男児、Ap8/9 分娩。
左附属器と後腹膜間の索状物を軸に小腸捻転による壊
死状態となっており、小腸 150cm 切除した。術後経過
良好。
【症例2】37 才、1 妊 0 産。1 年前に筋腫核出術の既往、
体外受精にて妊娠。妊娠 33 週、嘔吐、上腹部痛にて 2
日前に前医入院したが軽快せず、腹部 X 線、CT にて腸
閉塞の診断で当科へ母体搬送。同日緊急帝王切開にて
1950g 男児、Ap7/8 分娩。癒着による索状物で小腸が絞
扼性腸閉塞になっていた。索状物を切断。術後経過良
好。
【症例3】31 才、0 妊 0 産。20 歳時境界悪性卵巣腫瘍
にて右附属器摘出術施行。妊娠 27 週、切迫早産にて入
院し、リトドリン点滴にて軽快。3 日後から上腹部痛、
嘔吐、下痢出現。腹部 X 線上二ボー出現したため、5
日間レビン管挿入し軽快。その後リトドリン、硫酸マ
グネシウムにて妊娠継続し、36 週にて一時退院した。
【考察】
(1)当院での腸閉塞合併妊娠の頻度は 3 件/4692
分娩=1/1564、文献的には 1/1500-66000。(2)3 症例と
もハイリスク因子として過去の手術既往が共通。(3)発
症時期は子宮の大きさの変動が激しい妊娠中~後期、
分娩直後に多い。(4)初発症状は腹痛、嘔気、嘔吐な
ど。(5) 典型的な腹部 X 線は二ボー像だが、絞扼性腸
閉塞では無ガス像もありうる。(6)腸管穿孔を起こすと
予後不良。
【結論】手術既往のある妊婦の腹痛症例では、腸閉塞
の可能性を十分念頭に置き、保存療法で効果ない場合
には迅速な対応が必要である。
275
P-019
妊娠中に発見された巨大肝腫瘤の一症例
HELLP 症候群と 膵頭十二指腸切除術後の
合併症との鑑別が困難であった1症例
愛知医科大学 産婦人科
○藤牧 愛、中野 英子、渡辺 員支、篠原
康一、
若槻 明彦
胃温存膵頭十二指腸切除術(PD)後に妊娠し、PD による
合併症か、HELLP 症候群か鑑別が困難であった症例を経
験したので報告する。患者は 28 歳初産婦、2 年前に膵
頭部腫瘍で PD の手術歴がある。妊娠 20 週頃から時折
消化器症状を呈していた。妊娠 40 週 3 日、39 度代の急
激な発熱と強い心窩部痛、胆汁性嘔吐を認め来院。血
液所見では WBC13000/μl Hb12.4g/dl Plt16 万/μl
GOT306U/l GPT108U/l で、胎児心拍数は 200bpm 以上を
呈し variability も減少していた。血小板の減少は認
めなかったが、臨床所見より HELLP 症候群も否定でき
ないため、緊急帝王切開術を施行した。児は 3364g の
男児で Apgar9/9 であった。
翌日の血液検査で Plt は 7.1
万/μl と減少し、肝酵素は GOT 449U/l、 GPT 143U/l
と上昇傾向を認め、さらに破砕赤血球の存在を認めた
ため、HELLP 症候群と確定した。術後 3 日目より肝酵素
の低下傾向と血小板の上昇を認め、7日目には全ての
パラメーターは正常化した。しかし術後 14 日目より、
嘔吐を伴う激しい上腹部痛と発熱を再度認めたため、
腹部 CT を施行した。CT では、肝内胆管結石を認め、内
科転科となった。本症例は、PD 術による消化管の解剖
学的変化や妊娠子宮の増大により胆汁うっ滞や胃への
逆流をきたしやすくなっていたと考えられた。また、
妊娠の進行に伴い、症状が頻回となりさらに胆石の増
大、かん頓をきたしたため、胆管炎による発熱、嘔吐
による脱水などが誘引となり、HELLP 症候群を発症した
と推測された。 本症例では、HELLP 症候群と PD 術後
合併症との鑑別が困難であったが、心窩部痛に代表さ
れる消化器症状や GOT・GPT の上昇がある場合には、
HELLP 症候群を念頭においた迅速な対応を要するが、他
の基礎疾患も念頭において診療にあたるべきであると
考えられた。
P-020
島根県立中央病院 総合周産期母子医療センター
○栗岡 裕子、上田 敏子、岸本 聡子、片桐 浩、
長谷川 明広
【はじめに】妊娠に肝腫瘤を合併することは稀であり、
原発性肝癌、転移性肝腫瘍、悪性リンパ腫、腺腫など
の報告が散見されるにすぎない。今回我々は不妊治療
後に妊娠成立した症例で、妊娠後期に巨大上腹部腫瘤
を認め、肝腫瘤と診断し、手術を行った症例を経験し
たので報告する。
【症例】症例は初診時 30 歳。原発性
不妊症のため他院にて HMG+HCG 療法施行後に妊娠が成
立し妊娠管理のため当科に紹介された。25 歳時に虚血
性大腸炎と大腸腺腫のため消化器内科にて入院治療を
受けたが、この時は肝臓に異常は認められなかった。
自覚的には妊娠 4 ヵ月頃から腫瘤を感じていたが妊娠
のためと思い放置していた。妊娠 34 週の妊婦健診にて
上腹部腫瘤に気付き、腹部超音波断層法、MRI 検査を施
行したところ、腫瘤は 15×13cm の肝左葉腫瘍と診断さ
れた。骨盤位妊娠であっため、分娩方式は帝王切開と
し、手術時にあわせてエコー下肝生検を予定した。37
週 4 日に破水したため緊急帝王切開術と肝生検を施行。
出生児は 2408g の女児、アプガースコア 9 点で異常は
認められなかった。生検で悪性間葉性腫瘍が疑われた
ため、帝王切開後 17 日目に肝拡大左葉切除術が施行さ
れた。摘出標本は 1840g の固有の肝組織とは明瞭な境
界を有する腫瘤で炎症性偽腫瘍と診断された。術後経
過良好で現在外科で外来観察中である。妊娠中に肝腫
瘤が合併することは稀であり、また産婦人科医は妊娠
中の骨盤内腫瘍には留意するものの、上腹部の理学的
所見をとることは不十分となりがちで、今回も妊娠後
期まで診断ができなかったものと推察された。今後は
妊娠中の腹部全体の十分な観察が必要であると思われ
た。またこの腫瘤は約 5 年前にはないことが確認され
ており、不妊治療や妊娠が与えた影響は不明であるが、
妊娠以前には自覚されていないことも考慮し、妊娠中
の生理的変化が腫瘤の増大を生じた可能性が示唆され
た。
276
術後に急性膵炎を発症した腸閉塞合併妊
娠の 1 例
山梨大学 医学部 産婦人科
○奥田 靖彦、須波 玲、小笠原 英理子、星 和彦
当センターにおける虫垂炎合併妊娠の臨
床的検討
埼玉医科大学総合医療センター 総合周産期母子医療
センター 母体胎児部門
○松村 英祥、村山 敬彦、小野 義久、海老根 真
由美、斉藤 正博、馬場 一憲、関 博之
[緒言]急性腹症を呈する疾患のうち、急性虫垂炎と
診断される症例は 6~20%といわれ、妊娠中に合併する
虫垂炎の頻度は 0.05~0.1%と決して多い合併症ではな
い。しかし妊娠中の診断は必ずしも容易でない場合も
多く、特に子宮が増大し虫垂が上方に移動した際、虫
垂炎が発症し穿孔をしても限局化されにくく母児の予
後を悪化させやすいと考えられる。そのため急性虫垂
炎が発症した場合、早期に診断し治療することが重要
と考えられる。今回、当院で経験した虫垂炎合併妊娠
の症例について診断及び加療後の母児について検討し
た。
[対象]平成 14 年 1 月から平成 18 年 12 月の 5 年
間に当センターで経験した急性虫垂炎合併妊娠 10 例に
ついて検討を行った。[結果]妊娠時期は、妊娠前期(0
~12 週)3 例、妊娠中期(13~28 週)6 例、妊娠後期(29
週以降)1例であった。初発症状は右下腹部痛が 6 例、
上腹部痛が 4 例、嘔気や嘔吐といった消化器症状は 4
例認め、上腹部痛で発症した症例のうち 3 例は右下腹
部へ限局する痛みが認められた。発症時の白血球数は
14,200±2,200/mm3、CRP2.83±2.55mg/dl であり、診断
方法は理学所見に加え、超音波検査も行っているが CT
まで施行した症例は一例のみであった。入院から診断、
治療までの期間は全て 0~1 日間で、重症度はカタル性
8 例、蜂窩織炎性2例であった。治療は7例が手術にて
虫垂切除を行い、3例は抗生剤による保存的治療のみ
で改善した。虫垂炎による母体合併症として腸閉塞を 2
例、肺水腫を 1 例認めたが治療により改善した。また 1
例は虫垂切術後に子宮収縮がコントロールできず妊娠
24 週 5 日に分娩となったが、その他の症例については
虫垂炎による影響は認めなかった。分娩後の児につい
ては、明らかな感染による敗血症や神経学的障害は認
めていない。[結語]当院で経験した急性虫垂炎合併症
例では、多くは予後良好であったが、診断が遅れたこ
とにより早産に至った症例も経験した。非典型症状で
は診断に苦慮することも多いが、妊娠中の急性腹症に
は急性虫垂炎も鑑別忘れてはならず、理学的所見に加
え、超音波検査や場合により CT 等の検査も行い迅速に
診断、治療する必要が重要であると考えられる。
P-021
P-022
今回我々は腸閉塞合併妊娠において早期に外科的治療
を施行し、母児ともに救命したものの、術後に急性膵
炎を発症し回復に長期間を要した症例を経験したので
報告する。症例は 36 才の初産婦で、虫垂炎および腸閉
塞解除術の既往歴があった。近医にて妊娠管理されて
いたが、妊娠 35 週 5 日 に嘔吐と腹痛を認め、絶食と
補液にても改善がみられないため、2 日後の妊娠 36 週
0 日に当院へ緊急搬送となった。吐物は胆汁様であり、
超音波検査にて拡張した小腸像、さらに腹部 X 線写真
にて Niveau 像を認めたため、腸閉塞合併妊娠と診断し
た。直ちに緊急帝王切開術を施行し、2454g の女児を
Apgar score 8,9 点にて娩出した。腸閉塞の原因は、
小腸間膜と上行結腸の間に索状物が形成され索状物の
下に小腸が走行していたが、増大した子宮により圧迫、
狭窄したためと推定された。索状物の切除のみで腸閉
塞は解除された。術後 3 日目に経口摂取を開始して経
過良好であったが、術後 10 日目に上腹部痛、膵酵素の
上昇および CT にて膵尾部の腫大を認め、急性膵炎と診
断した。絶飲食およびメシル酸ガベキサートの投与に
より軽快するものの、経口摂取の再開とともに増悪を
繰り返し、術後 37 日目に退院となった。腸閉塞合併妊
娠は母児の死亡例も報告されており、診断後早期の外
科的治療が推奨されている。早期の外科的治療により
母児の生命予後が期待できるものの、本症例のような
術後合併症にも留意すべきであると考えられた。
277
妊娠初期に甲状腺機能亢進症と診断され、
治療中の妊娠 22 週に胎児甲状腺腫を認め
た一例
地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪府立母子保
健総合医療センター 産科 1、地方独立行政法人大阪府
立病院機構 大阪府立母子保健総合医療センター 新
生児科 2、地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪府
立母子保健総合医療センター 消化器・内分泌科 3
○数見 久美子 1)、奥野 健太郎 1)、瀬戸 佐和子 1)、
木下 聡子 1)、福井 温 1)、濱中 拓郎 1)、白石 淳 2)、
北島 博之 2)、位田 忍 3)、末原 則幸 1)
甲状腺機能亢進症は、生殖適齢期の女性にみられる疾
患の一つである。今回、妊娠初期に甲状腺機能亢進症
と診断され抗甲状腺薬で治療中の妊娠 22 週に胎児甲状
腺腫大を認めた一例を経験した。症例は 30 歳 1 回経産
婦、既往歴・家族歴なし。自然妊娠にて妊娠成立。妊
娠 6 週 4 日発汗・動悸・眼球突出・fT4 高値・TSH 低値・
TRAb 陽性にて甲状腺機能亢進症と診断された。抗甲状
腺薬(PTU)投与による治療で母体の甲状腺機能は正常
値以下にコントロールされた。妊娠 22 週 0 日、胎児甲
状腺腫大を認めた。胎児発育・心拍数・羊水量は正常
範囲だった。妊娠 26 週 6 日胎児甲状腺機能の評価およ
び胎内治療目的に羊水穿刺・臍帯穿刺をおこない臍帯
血、羊水中の fT4 値(0.82、0.25ng/dl)
、TSH (16.83、
1.491μu/ml)にて重度の胎児甲状腺機能低下の可能性
は低いと判断、経過観察とし定期的な羊水穿刺による
間接的な胎児甲状腺機能評価をおこなった。母体は甲
状腺機能を通常妊娠中の目標とされる正常上限へのコ
ントロールと TRAb の抑制を図るため甲状腺薬と抗甲状
腺薬(PTU)の投与をおこなった。妊娠期間中、胎児は甲
状腺腫のサイズの変化は認めず、羊水による間接的な
胎児甲状腺機能評価で正常範囲内と判断し経過観察、
母体の甲状腺機能のコントロールのみを行った。妊娠
39 週 0 日 3790g男児を Ap8/8 で経腟分娩にいたる。児
は触診上甲状腺腫無し、エコーにて胎内と同様なサイ
ズで腫大みとめるも、甲状腺機能はほぼ正常範囲内で
あった。甲状腺機能亢進症合併妊娠時、TRAbと治療薬
の抗甲状腺薬は胎児へ影響を与え、fT4 は母児間の相関
関係があると考えられている。当院で胎児期に甲状腺
腫を認めた他の4症例を併せて検討し文献的考察を加
えて報告する。
P-023
P-024
2 症例の von Recklinghausen 病合併妊婦
より出生した Robin sequence 症例
富山大学大学院 医学薬学研究部 産科婦人科 1、富山
大学 附属病院 周産母子センター2
○伊奈 志帆美 1)、塩崎 有宏 1)、佐々木 泰 2)、岡田
俊則 2)、酒井 正利 2)、小川 次郎 2)、二谷 武 2)、斎
藤 滋 1)
von Recklinghausen 病(vRH)は神経線維腫症 1 型で、
妊娠中に流早産、妊娠高血圧症候群、子宮内胎児発育
不全を来たしやすい.一方、Robin sequence(Pierre
Robin 症候群、RS)は胎生早期での下顎領域の低形成に
より小顎症を来たすものである.今回我々は vRH を合
併した妊婦から出生した児が RS であった 2 例を経験し
たので報告する.
【症例 1】23 歳、0 経妊 0 経産. vRH
は 14 歳で発症した.
妊娠初期は異常を認めなかったが、
妊娠 28 週ごろより高血圧ならびに蛋白尿を認めはじめ
た.妊娠 33 週 2 日に突然、頭痛、嘔吐、心窩部痛が出
現したため HELLP 症候群を疑われて管理目的で当科母
体 搬 送 と な っ た . 血 圧 198/116mmHg 、 尿 蛋 白 3+ 、
variability の減少、acceleration の消失を認めたた
め、同日緊急帝切開を施行し、2070g の男児をアプガー
8-9 点で出産した.児は小顎症、軟口蓋裂を認め、RS
と診断された.舌根沈下を伴う陥没呼吸を認めたため、
NICU 入院管理となった.呼吸状態は安定せず、長期間
挿管管理を必要とした.
【症例 2】39 歳、3 経妊 0 経産.
vRH は 24 歳で診断されている.
不育症の検査にて Lupus
Anticoagulant 1.4 のため低用量アスピリン+ヘパリ
ン療法にて妊娠管理を行なった.妊娠 37 週に入り血圧
が上昇し始め、安静加療目的で妊娠 38 週に入院となっ
た.しかしながら安静にもかかわらず、血圧は
180/110mmHg まで上昇したため、緊急帝王切開術を施行
し、2426g の男児をアプガー8-9 点で出産した.児は小
顎症、軟口蓋裂、舌後退を認め、RS と診断された.舌
根沈下を伴う陥没呼吸を認めたため、NICU にて長期間
挿管管理となった.
【考案】我々の知る限り、現在まで
vRH と RS との関連性を示した論文はなく、本報告が世
界最初の報告と思われる.出生した RS 児 2 例とも長期
間の呼吸管理が必要としたことから、vRH 合併妊娠はま
れではあるが、RS 児の出生を念頭においた周産期管理
が望まれる.
278
胎児骨変形を契機に診断されたI 型骨形
成不全症合併妊娠の一例
東京慈恵会医科大学 医学部 産婦人科
○上出 泰山、杉浦 健太郎、内野 麻美子、川口 里
恵、和田 誠司、大浦 訓章、恩田 威一、田中 忠
夫
異なる経過をとった先天性骨形成不全症
合併妊娠の 3 症例
北里大学総合周産期母子医療センター1、北里大学医学
部小児科 2
○島岡 亨生 1)、池田 泰裕 1)、沼田 彩 1)、今村 庸
子 1)、天野 完 1)、海野 信也 1)、野渡 正彦 2)、高田
史男 2)
先天性骨形成不全症(Osteogenesis Imperfecta;OI)
は骨脆弱性による易骨折性、それに伴う骨変形を特徴
とする遺伝疾患である。歯牙形成不全、難聴、青色強
膜、軟部組織の異常を伴うものなど表現型は多様であ
る。重症度により 4 つの型に分ける Sillence の分類が
用いられる。今回われわれは、異なる経過をとった OI
合併妊娠の 3 症例を経験したので報告する。
症例1(4 型)
;27 歳 身長 145cm 体重(非妊時)38kg
幼少より骨折をくり返し他院にてフォローを受ける。
妊娠7週より当院外来でフォローした。妊娠 37 週 4 日
全身麻酔下にて帝王切開術となる。女児、2328g Ap.S
8/9 臍帯動脈 pH 7.29 児は外表上異常を認めず、現
在小児科フォロー中である。
症例 2(未定);25 歳(未婚)身長 100cm 体重(非妊
時)27kg 出生直後に OI と診断される。両下肢は骨折を
くり返し萎縮。5 歳時、歯牙を全抜去し口腔形成術を施
行。妊娠 16 週 0 日他院より紹介。超音波検査上胎児の
四肢は短縮しており、OI が強く疑われた。家族と充分
相談の上、妊娠 18 週 2 日全身麻酔下に子宮切開術によ
る人工妊娠中絶術を行った。男児、200g 児の両上下
肢は変型、短縮していた。
症例 3(4 型)
;36 歳 0 経妊 0 経産 身長 124cm 体重
(非妊時)27kg 出生直後に OI と診断される。両下肢は
骨折をくり返し両側大腿に髄内釘を挿入。妊娠 8 週 4
日他院より紹介。挙児希望が強く、妊娠継続の方針と
なる。妊娠経過は順調であったが、妊娠 33 週 6 日陣発
入院。脊髄くも膜下麻酔にて帝王切開術となる。男児、
1876g Ap.S 8/9 臍帯動脈 pH 7.38 児は外表上異常
を認めず、現在小児科フォロー中である。
OI は遺伝性疾患(常染色優性遺伝)であり、遺伝相談
による充分なカウンセリングが不可欠である。妊娠中
は切迫早産の管理、呼吸障害、循環障害、体重増加に
よる腰痛・膝痛などへの対応が必要となり、胎児評価
も重要である。分娩様式は、重度の骨盤変形のために
選択的帝王切開術が選ばれる。麻酔法は全身麻酔が選
択されることが多いが、悪性高熱、頚椎損傷などの合
併症の可能性もあり、手技的には困難ではあるが脊髄
くも膜下麻酔は利点も多い。OI 合併妊娠の管理には産
科、小児科、整形外科、麻酔科などによる緊密な連携
が必要である。
P-025
P-026
【緒言】骨形成不全症は I 型コラーゲンの生合成異常
を基盤として全身性の骨脆弱性を主徴とする結合組織
系の疾患である。骨形成不全症は骨系統疾患の中でも
最も頻度の高い疾患の一つであり、軽症型のI 型は常
染色体優性遺伝で 2 万 8500 人に1人の頻度である。今
回我々は胎児骨変形を契機に診断された、I 型骨形成
不全症合併妊娠の一例を経験したので報告する。【症
例】25 歳、0 経妊、身長 147cm。妊娠 34 週 1 日、当院
へ切迫早産にて母体搬送された。入院時、子宮口は 8cm、
児頭 sp=-1 で、胎胞を形成しており、切迫症状をコン
トロールすることは不可能な状態であった。胎児超音
波検査を施行したところ、胎児大腿骨の変形と短縮を
認めた。さらに母体の肋骨狭小、青色強膜を確認し、
さらに易骨折性の家族歴を問診することにより I 型骨
形成不全症と診断した。家族と協議し、帝王切開にて
児を娩出した。出生児は、34 週1日、♀、2000g、Ap9/9
で、骨折の痕跡を認めた。
【考察】骨形成不全症はコラ
ーゲンが減少しているために経腟分娩の際子宮破裂を
起こしやすく、帝王切開の迅速導入で全身麻酔を使う
ときに悪性高熱を併発しやすいなどのリスクがあると
され、母体の骨形成不全合併を事前に認識しておくこ
とは重要であり、児の分娩時における骨折を回避する
こともできる。胎児超音波検査において胎児骨の変形、
短縮を認めた時には、骨形成不全症も念頭にいれ、母
体既往歴・母体胸部X線検査などを施行することは大
切である。
279
当センターにおける Light for date 児の
検討
長野県立こども病院 総合周産期母子医療センター
産科 1、長野県立こども病院 総合周産期母子医療セン
ター 新生児科 2
○岩澤 有希 1)、小野 恭子 1)、宮地 恵子 1)、砂川 空
広 1)、高木 紀美代 1)、菊池 昭彦 1)、中村 友彦 2)
【目的】子宮内胎児発育遅延(IUGR)の原因のひとつと
して、胎盤機能低下がある。胎盤機能低下により胎内
で低栄養環境におかれた児は、生後に栄養状態が改善
された時にどのような catch up を遂げるかを検討し
た。胎盤機能の評価方法として、胎盤重量あたりの児
体重(出生体重/胎盤重量比、以下 BW/PW)を考案した。
【対象】2000 年 9 月 25 日から 2006 年 3 月 31 日の約 5
年間に当院で出生した Light for date 児(以下 LFD 児)
(-10%tile 以下)で、出生後も当院で定期的に成長が
経過観察されている 33 症例(母体合併症、多胎、TORCH
感染、染色体異常を除く)である。
【検討】胎盤重量と
児の出生体重の比を BW/PW とし、BW/PW と出生後の児の
発育について検討した。母体妊娠高血圧症候群(以下
PIH)の有無と、臍帯付着部異常(卵膜付着、辺縁付着)
の有無につき、それぞれの分娩週数、出生体重、出生
後 6 ヶ月・出生後 1 年の体重増加率(g/日)を統計学
的に検討した。
【結果】総分娩数は 933 件で LFD 児は
4.8%を占めていた.出生前から IUGR を指摘されていた
症例は 33 例中 29 例(87%)であった。対象の 33 症例の
うち PIH を合併していた症例は 21 例(64%)、臍帯付着
部異常を伴っていたものは 11 例(33%)であった。両者
を合併していた症例は 8 例(24%)で、明らかな原因を確
定できなかった症例は 9 例(27%)であった。全症例の分
娩時週数は 25 週 2 日~38 週 1 日、平均は 31 週 0 日(±
21 日)であった。出生体重は 460g~1932g、平均は 1060g
(±354g)であった。出生後 6 ヶ月及び 1 年の体重増
加率(g/日)は BW/PW と正の相関(相関係数:6 ヵ月後
0.37,1 年後 0.48)を示した。PIH の有無による分娩週
数、出生体重、出生後 6 ヶ月の体重増加率、出生後 1
年の体重増加率、BW/PW に差は認めなかった。また臍帯
付着部異常の有無でも分娩週数や出生体重、出生後 6
ヶ月の体重増加率、出生後 1 年の体重増加率、BW/PW
に差は認めなかった。 分娩様式は経腟分娩 2 例、帝王
切開術 31 例で、帝王切開術の適応は、non- reassuring
fetal status 24 例、PIH 増悪 10 例、骨盤位 1 例、前
回帝王切開術 2 例であった(重複あり)。
【考察】BW/PW
が小さいと出生後の体重増加率も低いことが判明し
た。PIH や臍帯付着部異常の有無と、出生後の体重増加
率には関連を認めなかった。
潜在性甲状腺機能低下症は周産期予後不
良と関連するか
筑波大学 産婦人科 総合周産期母子医療センター
○中村
佳子、小畠 真奈、竹島 絹子、八木 洋
也、安部 加奈子、漆川 邦、小倉 剛、藤木 豊、
濱田 洋実、吉川 裕之
P-027
P-028
【緒言】潜在性甲状腺機能低下症とは thyrotropin
(TSH)値上昇、free thyroxine (fT4)正常値で定義され
る状態である。無治療の場合、顕性の甲状腺機能低下
症に発展することが多いため、近年、スクリーニング
及び早期ホルモン補充療法の必要性が検討されてい
る。潜在性甲状腺機能低下症の妊婦では無治療の場合、
児の神経学的発達が不良となることが指摘されている
が、短期的な周産期予後に関するエビデンスはない。
また、甲状腺機能は妊娠による影響を受けるため、妊
娠中のホルモン補充療法開始基準や治療目標に関する
明確な指針はない。今回我々は、妊娠初期の甲状腺機
能検査から潜在性甲状腺機能低下症と診断された妊婦
の周産期予後を検討したので報告する。
【方法】2006 年の 1 年間で当院にて妊娠 9 週~16 週に
スクリーニングとして TSH、fT4 を測定し、当院にて分
娩した単胎妊娠 105 例の診療録からデータを抽出した。
妊娠前より甲状腺機能異常を指摘されすでに治療を受
けている妊婦は対象外とした。また、当院における TSH
の 正 常 値 は 0.38-4.31 μ U/ml 、 fT4 の 正 常 値 は
0.82-1.63ng/dl であった。
【結果】105 例の TSH 値の平均値は 1.29μU/ml、fT4
値の平均値は 1.17ng/dl であった。TSH>4.31μU/ml
の症例は 4 例であった。TSH 値 95 percentile 以上のも
の TSH 上昇とすると、潜在性甲状腺機能低下症は 5 症
例(4.8%)であり、これを症例群とし他 100 例を対照群
とした。fT4 異常値の症例は認められず、新たに甲状腺
機能亢進症あるいは甲状腺機能低下症と診断された症
例はなかった。出生児体重は症例群 2,869±516g、対照
群 2,887±379g (n.s.)であった。1 分後の Apgar score
は症例群 8.3±1.6、対照群 9.0±0.6 (n.s.)、5 分後は
症例群 9.4±0.8、対照 9.6±0.5 (n.s.)、臍帯血 pH は
症例群 7.28±0.97、対照群 7.29±0.05 (n.s.)であっ
た。5 症例の詳細については発表において検討する。
【結論】潜在性甲状腺機能低下症群と対照群では周産
期予後に有意差は認められなかった。
280
P-029
どのような子宮内胎児発育遅延症例に妊
娠高血圧症侯群が合併するのか?
広島市立広島市民病院 産婦人科
○香川 玲奈、辰本 幸子、早田
石田 理、野間 純、吉田 信隆
桂、伊藤
Mirror 症候群に起因すると考えられた
gestational transient hyperthyroidism
の一例
岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 産科婦人科 1、
姫路赤十字病院 産婦人科 2
○妹尾 絵美 1)、井上 誠司 1)、住田 由美 1)、瀬川 友
功 1)、高本 憲男 1)、野口 聡一 1)、増山 寿 1)、平松
祐司 1)、水谷 靖司 2)、赤松 信雄 2)
Mirror 症候群は胎児水腫や胎盤腫大に伴い,母体に浮
腫をきたす症候群であり,その発症のメカニズムにつ
いては不明な点が多いが,HCG が高値を示すことが多い
と報告されている.今回,我々は Mirror 症候群による
HCG の異常高値に起因すると考えられた gestational
transient hyperthyroidism の一例を経験したので報
告する.症例は 30 歳,1 経妊1経産.家族歴・既往歴に特
記事項なし.今回自然妊娠にて妊娠初期より近医にて
妊婦健診を受けていた.妊娠 21 週時に超音波検査にて
胎児水腫が疑われ,母体頻脈を認め TSH0.01μU/ml,FT4
2.26 pg/ml と甲状腺機能の亢進も認めたため当科紹介
となった。当科入院時,血圧 131/75,脈拍 126bpm,下肢
浮腫は著明であり,甲状腺の腫大は明らかではなかっ
た。超音波検査にて全身に 3~4cmの胎児皮下浮腫およ
び胸水を認め,胎盤も著明に肥厚していた.明らかな胎
児心奇形,不整脈は認めなかった.母体血液検査にて
Hgb 8.1g/dl,TP 5.0 g/dl,TSH 0.01μU/ml 以下,FT4
2.26pg/ml, FT3 7.60pg/ml と貧血,低蛋白血症,甲状腺
機能亢進状態を呈し, hCG は 1711256mIU/ml と異常高値
を示した.サイトメガロウイルス,パルボウイルスなど
の胎児水腫の原因となりうる感染症はすべて否定的で
あった.心電図にて洞性頻脈を認め,胸部 X 線写真では
肺うっ血の所見などは認めなかった.24 時間蓄尿にて
蛋白尿は 199.4mg/day であった.甲状腺自己抗体検査は
全て陰性であり,無機ヨード液で治療を開始し甲状腺
機能は正常化したが,浮腫は徐々に増悪し,上肢,顔面
にもおよぶようになった.以上より胎児水腫が原因と
なる Mirror 症候群で,hCG の著明な上昇による甲状腺
中毒症と考えられた.超音波所見より胎児の出生後の
予後は極めて悪いことが予想され,また母体の症状が
増悪する可能性もあり,本人,家族と相談の上人工妊娠
中絶手術を施行した.児は 1152g で性別不明,胎盤も著
明な浮腫を認めた.産後は頻脈や浮腫は徐々に軽減し,
血液検査上も改善していった.若干の文献的考察と胎
盤の免疫染色の結果と併せて報告する.
P-030
裕徳、
【目的】妊娠高血圧症侯群(PIH)に子宮内胎児発育遅
延(IUGR)が多い事はよく知られているが,PIH と診断
される以前に IUGR と診断され管理されている事が多
い。しかし,IUGR が先行する PIH の詳細は不明である。
そこで今回我々は,IUGR 症例の臨床経過について後方
視的に検討を行い,どのような IUGR が PIH を合併する
のか考察したので報告する。【方法】2006 年 1 月~2007
年 2 月までの当科における総分娩 1017 例のうち,染色
体異常・先天奇形を除外した単胎の IUGR 症例 50 例を
対象とした。これらを PIH の合併を認めた P(+)群:19
例,PIH の合併を認めなかった P(-)群:31 例として比較
検討した。
【成績】IUGR と診断された平均週数は P(+)
群:30.1 週,P(-)群:33.3 週で,有意に P(+)群のほうが
早期に IUGR と診断されていた(P=0.02)。分娩時週数/
分娩時体重は,P(+)群:35.4 週/1766g,P(-)群:37.1 週
/1985g であった。P(+)群の 5 例(26.3%),P(-)群の 5
例(16%)に胎児発育停止を認め,P(+)群のほうが発育
遅延の程度が重い傾向にあった。また分娩時頭囲は
P(+) 群 :29.8cm,P(-) 群 :31cm で P(+) 群 の 3 例
(15.8%),P(-)群の 3 例(9.7%)に頭囲発育障害を認
めた。P(+)群の 13 例(68%)で PIH と診断される前に蛋
白尿を認めたが,P(-)群では経過中に蛋白尿を認めた
のは 5 例(16%)のみであった。【結論】早期に IUGR を発
症し,経過中に尿蛋白の出現する IUGR 症例では PIH の
合併が高率であると考えられる為慎重な管理が必要で
あると考えられた。
281
P-031
子宮内胎児発育遅延 19 例の静脈管血流に
関する検討
大学院 医歯学総合研究科 産科婦人科学
妊婦のアレルギーと健康および食習慣の
関連-大都市近郊の実態調査より-
大阪大学大学院 医学系研究科 1、愛染橋病院 2
○土取 洋子 1)、村田 雄二 1,2)
P-032
新潟大学
教室
○高橋 泰洋、土谷 美和、笹原 淳、竹山 智、富
田 雅俊、菊池 朗、高桑 好一
【目的】超音波ドプラ法による胎児評価の導入後、胎
児予備力の低下所見として中大脳動脈、臍帯動脈など
の動脈系血流異常に関する報告がなされてきた。近年、
胎児静脈管の血流異常が注目されている。今回当科で
経験した子宮内発育遅延(IUGR)症例における静脈管
血流計測の有用性について検討した。なお、患者から
インフォームドコンセントを得た。
【方法】2003 年から 2007 年までに当科で経験した
IUGR19 例を対象とし、静脈管 Pulsatility Index(DVPI)
を経時的に計測し、妊娠帰結との相関を検討した。DVPI
の基準範囲については当科で作成した Normogram を用
いた。DVPI の上昇は termination 決定の判断材料とし
なかった。
【成績】19 例のうち、1 例が子宮内胎児死亡、18 例が
生産となった。生産となった 18 例のうち 3 例が自然経
腟分娩となり、15 例が帝王切開であった。15 例のうち
4 例が母体適応の帝王切開であった(既往帝王切開 2
例、妊娠高血圧症候群増悪 2 例)
。11 例が胎児適応の帝
王切開であった(胎児心拍異常 8 例、胎児発育停止 3
例)
。胎児適応で帝王切開を施行した 11 例のうち DVPI
が 2SD 以上であったのは 9 例、3SD 以上であったのは 6
例であり、DVPI が高値(3SD 以上、2SD 以上)であった
症例では、有意に胎児適応の帝王切開が多い傾向を認
めた(Fisher 検定 p=0.038, p=0.049)。DVPI が高値で
あり、胎児適応の帝王切開を施行した 9 例のうち経時
的な評価が可能であった 6 例では、胎児適応が発生す
る当日から 13 日前の間に DVPI の上昇を認めた。また、
子宮内胎児死亡となった 1 例では IUFD の前日に静脈管
血流波形で心房収縮期の逆流を認めた(DVPI=24.5SD)。
【結論】静脈管血流異常(DVPI 高値)は胎児の状態悪化
の有用な指標であることが示唆された。今後、さらに
症例を蓄積して IUGR 症例の管理における静脈管血流評
価の有用性を検討する価値があると考えられた。
【目的】大都市に居住する妊婦のアレルギーと健康お
よび食習慣の実態を明らかにした。
【方法】大阪市南部に所在するA病院産婦人科外来で、
自己記載型質問紙調査を行った。調査対象は、妊娠週
数 20 週未満の妊婦 295 人であった。本調査の説明に同
意してアンケートに回答した 295 人(回収率;100.0%)
のうち、多胎妊娠、不妊症治療による妊娠、内分泌お
よび消化器系の手術既往者で、調査時治療中の妊婦に
該当する 15 人を除外し、有効回答 280 人を分析対象と
した。データは、SPSS14.0 を用いて統計学的分析を行
った。
【結果】1)対象者のうち、19.9%の妊婦にアレルギー
性疾患の既往があったが、非妊娠時の体格(p=0.453)、
健康レベル(p=0.958)との間に有意な関連はなかった。
2)体重コントロールをあまりしていない妊婦が多か
ったが、49 人(19.3%)の妊婦は、妊娠以前の運動習慣が
あった。3)非妊娠時の妊婦の健康レベルは、
「健康」
62.3%、「ふつう」35.5%、「体調不良」2.2%であり、妊
娠前期では、「ふつう」43.5%、
「健康」38.8%、
「体調不
良」17.7%で、非妊娠時より、やや低下した。4)妊娠
5 ヶ月(16 週 0 日から 19 週 6 日)の妊婦 73 人の非妊
娠時からの体重増加量について、非妊娠時の体格別に
検討した。平均体重増加量は、非妊娠時の体格が「や
せ」
;2.34 ± 1.54kg 、
「ふつう」
;2.94 ± 2.82 kg、
「肥満」
;1.33 ± 3.91 kg であった。全対象者の体重
増加量について、非妊娠時の体格別増加量を散布図で
みると、「やせ」の妊婦は体重減少より増加傾向にあ
り、
「肥満」の場合は体重増加より減量傾向であった。
アレルギー性疾患の既往と体重増減に有意な傾向はみ
とめないが、既往がある場合、妊娠 5 ヵ月までの体重
の増加傾向が少なかった。5)妊婦の食習慣およびそ
の他の健康習慣とアレルギー性疾患既往との関連は、
食習慣の中で、
「1 日 1 回は植物油をとる」(p=0.022)
「動物性脂肪をひかえる」
(p=0.023)が有意であった。
妊娠中も喫煙や飲酒を続けている妊婦が比較的多かっ
たが、その他の健康習慣とともにアレルギー性疾患既
往と有意な関連はなかった。
【結論】対象者の 19.9%にアレルギー性疾患既往があ
り、既往の有無による食習慣の傾向に違いがあった。
さらに、体重増加との関連を検討する必要がある。
282
P-033
胎児子宮内発育に関する臨床的検討(1
報)母体体格について
マウス母獣摂餌制限モデルにおける分岐
鎖アミノ酸(BCAA)添加の胎仔発育に対す
る影響
京都大学 医学部 産婦人科 1、国立病院機構 大阪医
療センター 産婦人科 2、京都桂病院 産婦人科 3、三
重大学 医学部 産婦人科 4、国立病院機構 京都医療
センター 産婦人科 5
○最上 晴太 1)、由良 茂夫 1)、伊東 宏晃 2)、藤井 剛
1)
、川村 真 3)、佐川 典正 4)、藤井 信吾 5)
【目的】妊娠中の母体低栄養は子宮内胎児発育制限
(IUGR)を生じる事が知られている。一方、IUGR 児の
臍帯血では分岐鎖アミノ酸(BCAA)濃度が減少している
ことが報告されている。さらに、BCAA は同化シグナル
としての働きも知られており、血中 BCAA は胎児発育に
影響を及ぼす事が推測される。一方、胎児・胎盤の発
育には insulin-like growth factors(IGFs)が重要な
役割を果たしている。今回、摂餌制限を加えた妊娠マ
ウスの食餌に BCAA を添加し、胎仔発育に与える影響及
び IGFs の変化を検討した。【方法】施設内動物実験委
員会の承認を得て、妊娠マウスを普通食群(NN 群;対
照群)、摂餌制限群(UN 群;妊娠 10.5 日目より NN 群の
70%の摂取カロリー)、及び摂餌制限 BCAA 添加群
(BCAA-UN 群;UN 群と同カロリーで BCAA を食餌に添加)
の 3 群に分類した。妊娠 18.5 日に胎仔・胎盤重量を測
定し、胎仔肝臓・胎盤の IGF-I, -II 遺伝子発現量を定
量 PCR 法にて測定した。
【成績】胎仔重量は UN 群(872
±12mg)では NN 群(1030±16mg)に比し減少を認めた
が、BCAA-UN 群(912±12mg)では UN 群に比べ有意な改
善がみられた(n=32~50, P<0.05)。胎盤重量は UN
群(68±1mg)と BCAA-UN 群(73±2mg)は NN 群(83±2mg)
に比し有意に減少を認めたが、UN 群と BCAA-UN 群との
間に差はなかった(n=32~50, P<0.05)。胎仔肝臓で
の IGF-I, -II mRNA 量は NN 群と UN 群との間に差は認
めなかったが、BCAA-UN 群(1.35±0.13, 1.18±0.08
Arbitrary Unit: AU)が、UN 群(0.45±0.03, 0.52±
0.03 AU)に対して各々202%、128%と有意に高値を示
した(n=10~12, P<0.05)。胎盤での IGF-I, -II mRNA
量は NN, UN, 及び BCAA-UN 群の 3 群間に有意差はみら
れなかった。【結論】母獣の食餌に分岐鎖アミノ酸を添
加すると、摂餌制限による胎仔重量減少の改善がみら
れた。分岐鎖アミノ酸は胎仔肝臓での IGF-I, -II の遺
伝子発現量を増加させ、胎仔発育の改善に寄与する可
能性が示唆された。
P-034
昭和女子大学 生活科学科 1、順天堂大学静岡病院産
婦人科 2、順天堂大学静岡病院新生児センター3
○渡辺 麻衣 1)、田崎 愛子 1)、志賀 清悟 1)、輿石 太
郎 2)、幡 亮人 2)、三橋 直樹 2)、醍醐 政樹 3)、佐藤
洋明 3)、梅崎 光 3)
【目的】生活習慣病(メタボリック症候群)が著しく
増加している。その原因として生活習慣だけではなく、
胎児期または乳児期の低栄養または過栄養の環境が関
与しているとする成人病胎児期発症説が注目されてい
る。胎児発育は多くの因子により制御されているが、
大きくわけると母体環境、自然環境、社会的環境、胎
児自身の因子などがある。このうち最も胎児発育に対
する影響が大きいのは、母体環境である。胎児発育に
は母体からの栄養素の移送が直接関係し、母体の肥満、
やせなどが影響する。そこで今回われわれは子宮内胎
児発育と母体体格について検討したので報告する。
【対象および方法】2003 年から 2005 年までの 3 年間に、
順天堂大学静岡病院産婦人科にて、妊娠、分娩管理を
おこなった妊婦を対象とした。多胎妊娠は除外した。
今回は満期単胎生産妊婦について、非妊娠時体重、身
長および BMI(Body Mass Index)を求め、日本産科婦
人科学会の基準に基づき BMI<18 のやせ群、18~23 の
標準群、≧24 の肥満群にわけ検討した。分娩直前の体
重から妊娠中の体重増加量を求めた。出生児について
は、在胎週数、出生体重、身長および頭囲をもちいて、
light for dates、子宮内胎児発育不全児(IUGR)のタイ
プ等を判定した。その他子宮内胎児発育に影響をおよ
ぼす因子についても検討を加えた。
【結果】対象期間中の総分娩数は 1,702 であり、その
うち 37 週以上の満期産数は 1,465 であった。満期単胎
生産妊婦の非妊娠時 BMI は、やせ群 11%、標準群 75%、
肥満群 14%であった。BMI の平均および標準偏差値は、
21.15±3.38 であった。体重増加量の平均および標準偏
差値は、10.0±4.3 kg であった。児の出生体重の平均
および標準偏差値は、2951.2±415.5g であった。その
なかで IUGR と判定されたのは、14.3%であった。
【考察】今回の検討で母体の体重、BMI と出生体重に正
の相関がみられた。妊娠前の母体の体格、妊娠中の体
重増加が胎児発育ならびに児の出生体重に影響するこ
とが示された。次世代の生活習慣病(メタボリック症
候群)の発症を予防するためには、母体の妊娠前から
の栄養管理が重要と考えられた。また妊娠中の適正な
体重管理も重要と考えられた。今後は子宮内胎児発育
不全児の出生後の発育発達ならびに疾病発症について
検討する予定である。
283
P-035
正常新生児の便中 pH と分娩様式との関係
低出生体重児における便中 IgA 及び腸内
細菌叢の経時的変化についての検討
東邦大学 医学部 新生児学教室
○川瀬 泰浩、荒井 博子、小沢 愉理、宇賀 直樹
P-036
和歌山県立医科大学附属病院周産期医療センターNICU
○熊谷 健、平松 知佐子、杉本 卓也、奥谷 貴弘、
樋口 隆造、吉川 徳茂
【背景】新生児は無菌状態で出生し、その後次第に正
常な細菌叢を形成していく。その過程でブドウ球菌性
熱傷様皮膚症候群や敗血症などの感染症が発生する。
腸管では腸内環境が酸性に保たれることにより、病原
菌の増殖が抑制されている。母乳栄養児が人工栄養児
に比べ感染症が発生しにくい理由の一つに腸内環境が
酸性に偏りやすく、腸管への病原菌の侵入を阻害され
ていることが指摘されている。 帝王切開児は経膣出
生児に比べ、腸管感染症に罹患しやすいと報告されて
いる。【仮説】帝王切開と経膣で出生した児には便の p
Hに差がある。
【対象】2006 年 2 月~12 月に和歌山県
立医科大学附属病院周産期医療センター病棟新生児室
に入室した児のうち、在胎 36 週以降に出生し便検体を
採取できた 102 名。このうち母体に分娩前に抗生剤を
投与された例を除外し、在胎週数を合わせた帝王切開
および経膣出生児各 18 人を対象とした。
【方法】出生
後から自然排泄または肛門刺激で排泄した便を採取し
pHメーターで同一検体の異なる 3 箇所の pHを測定
し、平均値をその便の pHとした。尿が混合した検体は
除外し、出生日から日齢5まで毎日測定した。
【結果】
日齢5まで、帝切出生児は経膣出生児に比べ便 pHが高
かった。特に日齢1~3は有意に高値だった。便 pHに
与える因子を多変量解析で検討したところ、母乳量が
多いほど、また経膣出生であるほど便 pHが有意に低下
した。【考察】経膣出生であること、また早期から母乳
栄養を開始することが腸内環境を酸性に保ちやすくす
ると考えられた。児にとっては、より自然な分娩様式・
栄養が腸内環境にとって重要と考えられた。
目的:低出生体重児の栄養において母乳摂取及びその
後の人工乳摂取が、消化管機能の発達にいかなる影響
を及ぼすかを調べるため、便中の菌叢形成および IgA
の変化を中心に検討したので報告する。方法:東邦大
学医療センター大森病院に 2005 年 8 月より 2006 年 10
月までに入院となった低出生体重児のうち栄養開始後
8 週以上経時的に便を採取し検査可能であった 5 例を
対象とし、便中 IgA、便中ビフィズス菌量を経時的に測
定した。ビフィズス菌の測定には菌体 DNA を鋳型とし
たリアルタイム PCR 法を用いた。
具体的には QIAamp DNA
stool mini Kit (QIAGEN)を用いて便から菌体 DNA を
抽出し、ビフィズス菌に特異的なプライマーを用いて、
リアルタイム PCR により便中のビフィズス菌数を決定
した。便中の IgA 量は、凍結乾燥した便をリン酸緩衝
液に懸濁し、遠心上清中の IgA 量をヒト IgA 測定キッ
トを用いて測定した。それぞれの結果について、児の
抗生剤投与の有無、前日あるいは前週における母乳、
人工乳摂取量との関連を経時的に検討した。結果:検
討した 5 例全例出生後早期に抗生剤の投与が行われて
おり、抗生剤の投与直後から便中のビフィズス菌が消
失し、抗生剤中止後も 3~9 週の間、便中のビフィズス
菌数が検出限界以下の状態が続いた。便中の IgA 量に
ついては個々の症例ごとにばらつきが認められたが、
母乳摂取が多い児で、便中の IgA 量が高い傾向が認め
ら れ た 。 前 日 の 母 乳 摂 取 量 と 便 中 IgA の 相 関 を
Spearman の順位相関係数の検定を行ったところ相関係
数 0.663 と有意な相関を認め、前週 1 週間の母乳摂取
量との相関を同様に求めたところ相関係数 0.563 と有
意な相関を認めた。便中 IgA とビフィズス菌量には有
意な相関は認めなかった。考察およびまとめ:一般的
に、低出生体重児においてはビフィズス菌の増加が遅
く、成熟児における腸内へのビフィズス菌の定着が生
後 1 週くらいには最優勢菌となるのに対して最優勢菌
となるのに 3 週間程度要するとされているが、今回検
討した例においても生後 1-2 週におけるビフィズス菌
数の低値が示された。さらに、抗生剤投与により消失
したビフィズス菌が再び増加するのに 3-9 週間といっ
た長い時間を要し、母乳栄養のみであってもビフィズ
ス菌の増加は悪く、今後ビフィズス菌の積極的補充や
フラクトオリゴ糖、ヌクレオチドといったビフィズス
菌増殖因子の補充について検討が必要と考えられた。
284
強化母乳栄養児でもビタミン D 不足は存
在する 極低出生体重児での検討
京都府立医科大学周産期診療部 NICU1、はせがわ小児科
Oxy 吸着テストを用いた母乳の抗酸化力
の測定
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療セ
ンター新生児部門
○伊藤 智朗、江崎 勝一、松信 聡、星 礼一、高
山 千雅子、鈴木 啓二、田村 正徳
【ほじめに】これまでに我々は第 41 回日本周産期新生
児医学会、第 51 回日本未熟児新生児学会において、母
乳は人工乳に比較して抗酸化力の面で優れており、特
に産後早期の母体からの母乳であるほど抗酸化力が高
いことを報告した。これらの報告で抗酸化力の評価に
用いた BAP テストの原理は、検体が鉄を還元する力を
測定してこれを抗酸化力としたものであった。しかし
この方法では、鉄の含有量が比較的均一である血液検
体と違い、母乳や人工乳では鉄の含有量違いにより還
元力が影響をうける可能性や、抗酸化力のすべてを測
定できていない可能性があった。そこで今回、強力な
活性酸素である次亜塩素酸を母乳に添加し、それを消
去する能力を測定する Oxy 吸着テストで、人工乳及び
母乳の持つ全体的な抗酸化力(総抗酸化力)を検討し
たので報告する。
【方法】母乳検体は採取後 72 時間以内のものとし、母
乳から脱細胞脱脂乳を作成した。FREE(Free Radical
elective evaluator :Diacron,ウイスマー)を用いて、
母乳、人工乳を次亜塩素酸溶液に添加し、呈色させた
次亜塩素酸を脱色させる程度を吸光度で測定した。
【結果】
1、母乳と人工乳の比較
母乳を採取した産後日数は 34±30(平均±SD)日(範
囲;4~121 日)で、母乳の Oxy 吸着テスト値は人工乳
に比べて有意に高値を示した。(母乳 85.3±17.5,
n=16; 人工乳 58.3±9.2, n=4; P<0.01)
2、産後日数と母乳の母乳中の Oxy 吸着テスト値
母乳を採取した産後日数と母乳の Oxy 吸着テスト値
は負の相関関係をみとめた。(r2=0.372, p<0.02)
【考察】
母乳が生体内で働くときの状況により近いと考えられ
る、総抗酸化力を測定する Oxy 吸着テストでも、これ
までの BAP テストを用いた結果と同様に人工乳に比べ
母乳のほうが抗酸化力の点で優れていた。同様に産後
日数が経過した母体からの母乳ほど抗酸化力が低いこ
とが証明された。以上より Oxy 吸着テストでも母乳の、
特に産後日数が経過していない時期ほど、抗酸化力の
面での優位性が証明された。
(謝辞)今回 Oxy 吸着テストの測定にご協力いただきま
したウイスマー研究所の伊藤承正先生に深謝いたしま
す。
P-037
P-038
2
○小坂
喜太郎 1)、藤井 法子 1)、中島 久和 1)、徳
田 幸子 1)、長谷川 功 1,2)
未熟児くる病の治療指針は確立されつつあり、血清
ALP、手関節 X 線撮影、尿%TRP、尿 Ca/Cre によってお
おまかに、リン不足、Ca 不足、ビタミン D 不足(不応)
に分類され、それぞれの病因にあわせて治療が行われ
る。今回、日本においては保険適応外である 25-OH ビ
タミン D(25,VD)測定を極低出生体重児の血清で行っ
た。 対象は 2006 年度に当院 NICU に入院した極低出
生体重児で、上記の退院前検索が行えた 12 例。在胎週
数 27.0±2.8 週、出生時体重 829±259 g で出生、一般
検査では血清 ALP 1,514±462 IU/l、Ca 9.1±0.7 mg/dl、
IP 5.6±0.6 mg/dl、尿%TRP 94.7±2.9、Ca/Cre 比 0.46
±0.31 であった。これらの検索は入院中からも行われ、
3 例はすでに活性型ビタミン D による治療を受けてい
た 。 血 清 iPTH は 57.4 ± 45.9 pg/ml で 、
25-Hydroxyvitamin D 125I RIA KIT(日本シェーリン
グ)で測定した血清 25,VD は 9.4±7.2 ng/ml であった。
1 例は、ALP が 1,165 と 1,200 IU/l 未満であったにも
かかわらず、25,VD は 1.1 ng/ml と低値であり、退院後
もくる病発症に注意している。 ビタミン D は未熟児
くる病の主要な病因でないことは広く認識されてい
る。しかし、低出生体重児のビタミン D 保有量は在胎
週数や母体のビタミン D 保有量に影響される。今回
25,VD が低値であった例は、24 週、554 g で出生、日齢
6 に IP は 0.8 mg/dl まで低下し、その後リンの補充の
みで、ALP は 1,200 IU/l を越えることはなかった。強
化母乳で栄養し、退院前の検査では ALP 1,165 IU/l、
Ca 8.2 mg/dl、IP 5.2 mg/dl、尿%TRP 95.6、Ca/Cre
比 0.76 であった。血清 iPTH は 82 pg/ml と高値であっ
た。母乳中の 25,VD を同キットで測定したが、他の母
乳に比べ 25,VD の低値は認めず、ビタミン D の低下は
在胎週数などの影響と考えられた。25,VD 測定は保険適
応外であるが、この例では iPTH の高値を認め、25,VD
値は iPTH の値から予想できる可能性が示唆された。
285
人工乳首を使用した哺乳運動中の呼吸動
態の変化について 第2報
東京慈恵会医科大学 小児科学講座 1、ピジョン株式会
社 常総研究所 2
○岡野 恵里香 1)、斉藤 哲 2)、長島 達郎 1)、寺本 知
史 1)、小林 正久 1)、衞藤 義勝 1)
【背景と目的】新生児期において、哺乳運動が呼吸動
態に対して抑制的な影響を及ぼす可能性があることを
我々は報告してきた。この詳しいメカニズムについて
は不明な部分が残されており、今回、症例数を増やし
検討を重ねた。
【対象と方法】当院 NICU において、必
要哺乳量が全量経口摂取可能な児 9 名を対象とし、ビ
ン哺乳時の呼吸動態を測定した。呼吸測定に並行して
動脈血酸素飽和度(SPO2)の測定を行い、デジタルビデ
オハンディーカムによる顔側面の撮影によって下顎か
ら頚部にかけての動きを哺乳運動の指標として録画記
録した。呼吸測定は、Pro-Tech 社製の Airflow Sensor
を用いて鼻腔から記録し、呼吸曲線、SPO2 値の変化、
顔側面映像の3点を画像同期プロセッサーを通して同
期記録を行った。なお本研究は慈恵医大倫理委員会の
規定に基づき、保護者の同意を得た上で行った。【結
果】対象の平均在胎週数は 34.5 週、平均出生体重は
2105gであった。観察時平均日齢は日齢 25、観察時平
均修正週数 38.0 週、観察時平均体重 2548gであった。
哺乳と呼吸が同期された映像記録から定性的・定量的
に検討した結果、以下の特徴が確認された。1)哺乳中
の呼吸動態に関して以下の 3 つのパターンに分けられ
た。パターン A は、哺乳運動が連続するバースト期は
呼気・吸気が消失し、哺乳運動が一時停止するポーズ
期にのみ呼気・吸気の気流の動きがみられるパターン
とした。パターン B は、バースト期にも呼気・吸気が
連続するパターンで、最も安定した哺乳状態と考えら
れた。パターン C は、バースト期も、呼気・吸気が認
められるが断続的に発生するパターンとした。2)哺乳
状態が安定しているパターン B において、バースト期
の平均毎分呼吸回数は 66 回/分であり、安静時と比較
して呼吸回数の上昇がみられた。3)各パターンのポー
ズ期における平均毎分呼吸回数は、
(A)74 回/分、
(B)
66 回/分、(C)66 回/分であり、パターン A において
呼吸回数の上昇が顕著に観察された。【考察】哺乳中の
呼吸動態は児の在胎週数、呼吸疾患の有無等により異
なるパターンを示し、全体として哺乳運動は呼吸を抑
制していることが示唆された。今後さらに症例を増や
し検討する必要があると考えられた。
新生児における動脈脈波伝搬速度(PWV)と
高分子量アディポネクチンの関係
琉球大学 医学部付属病院 周産母子センター
○吉田 朝秀、安里 義秀、呉屋 英樹
P-039
P-040
【目的】脂肪組織由来内分泌因子であるアディポネク
チン(Ad)は多量体の形で存在し、糖代謝、脂質代謝
への関与の他、動脈壁の恒常性の維持という生理作用
をもつと考えられている。今回、我々は血管内皮機能
検査の一つであり、動脈壁硬化度の指標である Pulse
wave velocity(PWV)を計測し、多量体 Ad との関係を
検討したので報告する。
【方法】在胎 36 週以上の正常
群(n= 18, 在胎 37.9 ± 1.2 週、体重 2959 ± 382g)
と、在胎 35 週以下の早産群(n= 32, 在胎 31.9 ± 2.6
週、体重 1698 ± 466g)を比較した。上行大動脈と後
脛骨動脈の 二点で超音波ドプラー血流速度波形を描
出し、ECG の Q 波からの伝搬時間の差(ΔT)を算出し、
体表二点間の距離をΔT で除して PWV (cm/sec)とした。
全例動脈管閉鎖後に初回の PWV を計測し、早産群は理
論的な正期到達時(修正満期)(修正在胎 36.6 ± 1.1
週、体重 2090 ± 423g、日令 30 ± 22)に2回目の
PWV を測定した。初回の Ad(μg/ml)は全例臍帯血を
検体として用い、早産児の修正満期は児血清を用いて
測定した。Ad は ELISA 法(ヒト多量体 Ad 分別測定キッ
ト)で測定した。
【結果】修正満期に達した早産群の PWV
は正常群より高値だった (495 ± 47 vs. 594 ± 108,
p<0.001 )。臍帯血の Total-Ad(16.5±9.5 vs. 6.5
± 3.3, p<0.0001)と、高分子量(HMW)Ad(10.4 ±
6.3 vs. 2.8 ± 2.0, p<0.0001)
、および HMW と Total
の比(HMWR)(0.63 vs. 0.38,p<0.0001)は早産群が
低値で、修正満期に到達しても HMWR は正常群より低値
(0.63 vs. 0.52, p=0.0054)だった。早産群の修正満
期における PWV は HMW-Ad と負の相関関係を認めた
(r=-0.353, p=0.0475)。
【考察】PWV で表される動脈壁
硬化度は早産児が正常児よりも高く、血管内皮機能が
早産児と正常児では生後早期から異なる事を示してい
た。早産児は多量体 Ad の分画のうち、HMW-Ad が低い状
態で出生しそれが修正満期まで継続していた。血管性
状の変化には HMW-Ad が低値であることと、HMW-Ad が
Total-Ad に占める割合が関与すると考えられた。
286
P-041
新生児における GLP-2 の測定
各乳腺葉における乳汁生成の比較~第 1
報 たんぱく質濃度とクリマトクリット
の検討~
昭和大学病院小児科 1、公立昭和病院小児科 2、森永乳
業株式会社 栄養科学研究所 3
○村瀬 正彦 1)、桜井 基一郎 1)、三浦 文宏 1)、澤田
まどか 1)、西田 嘉子 1)、水谷 佳世 1)、水野 克己 1)、
板橋 家頭夫 1)、滝 元宏 2)、下野 智弘 3)
目的)乳汁生成3期以降はオートクリンコントロール
によって乳汁生成が規定される。つまり各乳腺葉によ
り乳汁生成が異なる可能性があるが、ヒトにおいては
まだ証明されていない。乳腺葉からは原則的に 1 本の
乳管を介して乳汁が排出されるので、各乳管の乳汁成
分を調べることで各乳腺葉における乳汁生成状態が推
測できる。我々は各乳管から乳汁を採取し、クリマト
クリット(以下 CrCt)
、蛋白質濃度の比較検討を行った。
対象)完全母乳栄養または母乳が主である混合栄養中
の13人の母親。方法)授乳前後で搾乳を行い、各乳管
から排出された乳汁を毛細管で採取した。採取時に各
乳管の乳汁が混合しないように注意した。検体は 15000
回転で5分間遠心分離し、CrCt を測定し、蛋白質濃度
は脱脂後に Bradford 法で測定した。第1報では 13 名
の授乳婦から 78 の乳管から得た乳汁の搾乳前後の
CrCt と蛋白質濃度、CrCt 変化率(授乳後/授乳前)の最
小値と最大値の差を比較した。結果)CrCt の各乳管の
差:搾乳前:左―4.6%、右―4.0%、搾乳後:左―4.9%、
右―4.0%であった。CrCt 変化率の各乳管の差、左―1.6
倍、右―1.3 倍であった。蛋白質濃度の各乳管の差:搾
乳 前 : 左 ― 0.18 (0.01-0.45) g/dl 、 右 ―
0.17(0.07-0.40) g/dl、搾乳後:左―0.16 (0.02-0.32)
g/dl、右―0.19(0.03-0.52) g/dl であった。各乳管か
ら得られた乳汁の CrCt と蛋白質濃度に相関は認めなか
った。考察)同一の乳房の乳腺葉での乳汁生成が均等に
調節されていれば、乳管毎に採取した乳汁成分の差は
認めない。しかしすべての項目が一致した検体は認め
ないことから、各乳腺葉で異なる調節下にある可能性
が示唆された。原因の一つとして、CrCt 値の変動が大
きいことから乳腺葉毎の乳汁排出量の違いも考えられ
る。乳管毎の CrCt 値とたんぱく質濃度に相関は認めら
れず、乳腺葉での、脂肪とたんぱく生成がそれぞれ別
の系統で規定されていることが考えられた。乳房全体
でのたんぱく質濃度には大きな変動がないことがわか
っており、各乳腺葉でのたんぱく合成は異なっても全
体としては一定となるように調節されていると推測さ
れる。
P-042
埼玉県立小児医療センター未熟児新生児科
○河野 淳子、川畑 建、藤沢 ますみ、長沢 真由
美、宮林 寛、清水 正樹、鬼本 博文、大野 勉
【背景】近年、Glucagon like peptide-2(GLP-2)は、
小腸発達因子として注目されており、食事により数分
で分泌されることが知られている。また GLP-2 は、在
胎週数や出生体重によらず日令にのみ変化すると報告
されている。GLP-2 はホルモン関連ペプタイドであ
るが日内変動や低出生体重児における母乳または人工
乳による変化は知られていない。
【目的】今回 GLP-2 の
新生児における基礎的検討として、検体採取法による
違いおよび動態について検討したので報告する。【対
象及び方法】当院 NICU に入院した在胎週数 35 週以上、
出生体重 1500g 以上の児を対象とした。動脈血、静脈
血、ヒールプリック血の各採血法における GLP-2 を測
定し比較検討した。血清 GLP-2 の測定には human GLP-2
EIA キット(矢内原研究所)を用い二重測定を行った。
【結果】症例数 6 例、在胎週数 37.2±2.3 週、出生体
重 2644±431g、日齢 0 から 14 の児を対象とした。動脈
血(11.9±5.9ng/ml)、静脈血(12.0±4.1ng/ml)、ヒー
ルプリック血(11.6±4.1ng/ml)における測定値にそれ
ぞれ有意差を認めなかった。【考察】新生児における採
血方法は、児の全身状態や採血量、測定する項目によ
り動脈血、静脈血、ヒールクリップ血が選択される。
今回の結果より、採血方法が異なっても GLP-2 の値に
影響しない事がわかった。GLP-2 は、膵臓から分泌され
るグルカゴンの前駆物質であるプログルカゴンから、
膵臓とは別のプロセッシングを受け、グリセンチン、
オキシトモジュリン、GLP-1 と共に生成され、出生後の
消化運動に依存し、小腸 L 細胞から血中に分泌される。
短腸症候群モデルの動物実験において、GLP-2 の投与に
より明らかな小腸の径と長さの増大、重量の増加を認
め、短腸症候群児の治療薬としての開発が進んでいる。
新生児、特に低出生体重児の腸管は発達途上にあるが、
新生児における GLP-2 の動態・意義について知られて
いない。そのため今後空腹時採血による日内変動の経
過、哺乳の種類またはその前後における GLP-2 の変化
等について検討する必要があると考えられた。
287
各乳腺葉における乳汁生成の比較~第 2
報:乳管径とクリマトクリットの検討~
昭和大学 医学部 小児科 1、ピジョン株式会社 2
○西田 嘉子 1)、水野 克己 1)、滝 元宏 1)、村瀬 正
彦 1)、板橋 家頭夫 1)、石丸 あき 2)、大貫 善一 2)
早産、正期産児における臍帯血アディポネ
クチン、レプチンの研究
鳥取大学医学部周産期小児医学 1、岡山大学附属病院小
児科 2、津山中央病院小児科 3
○三浦 真澄 1)、船田 裕明 2)、松下 博亮 3)、中川 ふ
み 1)、堂本 友恒 1)、美野 陽一 1)、長田 郁夫 1)、神
崎 晋 1)
【緒言】アディポネクチンとレプチンは、アディポサ
イトカインと称される脂肪細胞から合成・分泌される
生理活性物質である。新生児期における意義は未だ十
分に解明されておらず、子宮内での栄養状態とアディ
ポサイトカインの関係を明らかにするため検討を行っ
た。
【対象と方法】鳥取大学附属病院で出生した新生児
86 例(男児 44 例、女児 42 例)
、在胎 25 週 2 日~41 週
3 日、出生時体重 687 g~3660 g を対象とし、臍帯静脈
血において、総アディポネクチン(T-Ad)
、多量体アデ
ィポネクチン(HMW-Ad)、レプチン(Lep)をイムノア
ッセイキット(第一化学薬品)を用いて測定した。
【結
果】AGA 児の T-Ad 値 (mean±SD)は、a)超早産児群(2.20
±1.01μg/ml)
、b)早産児群(8.12±5.26μg/ml)
、c)
正期産児群(14.18±6.44μg/ml)で、週数が進むにつ
れ有意に上昇した(p<0.05)。HMW-Ad も同様に、a)0.20
±0.26μg/ml、b)3.73±3.50μg/ml、c)8.59±4.66
μg/ml と有意な上昇がみられた(p<0.05)。AGA 児と
SGA 児の比較では、在胎週数を一定にすると、体重の少
ない SGA 児群は AGA 児群に比して T-Ad、HMW-Ad、Lep
が低かった。一方出生時体重を一定にして比較した場
合、AGA 児群と SGA 児群で T-Ad、HMW-Ad、Lep に有意差
を認めなかった。
【考察】AGA 児群と SGA 児群を比較し
た結果から、在胎週数に伴う Ad の上昇は、在胎週数で
はなく、出生時体重に規定されていると思われた。ま
た出生時体重の影響を除外するための体重群別検討で
は、全項目で AGA 児群と SGA 児群の間に有意差を認め
なかった。SGA 児で出生した児の小児、成人期の T-Ad
は、AGA 児に比べ低値であるという報告があることか
ら、
出生時には SGA 児と AGA 児の T-Ad には差が無いが、
その後年齢が進むにつれ SGA 児では AGA 児に比べ低値
になるという経過をたどると推測される。このことは、
SGA 児とメタボリックシンドロームとの関連性の要因
に Ad が関与していると考えられる。(会員外協力者:
鳥取大学医学部周産期小児医学 長石純一)
P-043
P-044
【はじめに】乳汁生成 3 期には、乳房内の乳腺葉は独
立して乳汁生成をしている(オートクリンコントロー
ル)
。授乳中の乳管は射乳反射により拡張し、このとき
の最大乳管径は乳房全体からの乳汁分泌量と正の相関
があると報告されているが、乳管径とその乳管に乳汁
を分泌する乳腺葉の関係はわかっていない。第 2 報で
は、各乳管における授乳前の乳管径とその乳管から採
取された乳汁のクリマトクリット(CrCt)について検
討した。
【対象と方法】平成 18 年 12 月から平成 19 年 3
月まで当研究に参加し、母乳育児中の母親 8 名を対象
とし、各乳管からの母乳検体計 31 について検討した。
検体は、授乳前後に2名の検査者により、左右 1-3 本
の乳管から搾乳した乳汁を毛細管に採取した。検体を
遠心後(15000 回転、5 分間)、CrCt を測定した。乳管
径の測定は、授乳前の乳房超音波検査にて検体を採取
する乳管を確認し、その直径を測定した。各乳管にお
ける、乳管径と CrCt 前値、CrCt 後値、CrCt 前後差に
ついて単回帰分析にて検討を行った。【結果】値は平均
値±標準偏差で示す。児の平均月齢は 4.5±3.6(1-12
ヵ月)で全例正期産児。完全母乳栄養 6 例、混合栄養 2
例。1 日の授乳回数は 8.6±2.0 回、検査時体重は 6054
± 2088g で あ っ た 。 授 乳 前 の 乳 管 径 は 2.9 ± 1.3mm
(1.0-6.6mm)、授乳前 CrCt は 6.3±1.9%(3.0-9.6%)、
授乳後 CrCt は 13.0±6.9%(6.0-32.0%)
、CrCt の前後
差は 6.7±6.2%(1-23.9%)であった。乳管径と CrCt
前値・CrCt 後値・CrCt 前後差についての単回帰分析で
は、3 比較とも全て負の有意な相関を認めた。
【考察】
CrCt 前後差が大きいことはその乳管に注ぐ乳腺葉内の
乳汁蓄積の変化が大きいことを示す。よって、授乳前
の乳管径が細いほど、乳腺葉内の乳汁蓄積割合の変化
が大きいと考えられる。授乳前の乳管で CrCt が高いこ
とは、乳腺葉に蓄積している乳汁量が授乳前の段階で
も少ないことを意味しており、同時に測定した授乳量
は全例100ml 未満であったこと、特に指示されるこ
となく頻回に授乳していたことからも乳汁蓄積容量は
少ないと推測された。授乳前の乳管径を測定すること
で、乳汁蓄積容量を推測でき、さらにはその母親と子
どもに適した授乳回数・間隔を考える上で参考となる
と考えられた。
288
P-045
新生児期における肝性 VLDL 産生能につい
ての考察
医学部 小児科 1、日本大学 医学部 産婦
新生児ミルクアレルギーを疑った 23 例の
診断方法と臨床経過の検討
愛知医科大学 生殖・周産期母子医療センター1、愛知
県心身障害者コロニー中央病院 新生児科 2、静岡県立
こども病院 感染免疫アレルギー科 3、愛知医科大学
産婦人科 4
○武藤 大輔 1)、柴田 敦子 1)、二村 真秀 1)、山田 恭
聖 2)、木村 光明 3)、渡辺 員支 4)、篠原 康一 4)、若
槻 明彦 4)
【目的】新生児診療で、原因の特定できない消化器症
状や not doing well を多々経験し、一部はミルクアレ
ルギー(以下 MA)の関与を疑った。また、新生児MAは
増加傾向にあるが、新生児期は採血量および抗体産生
能の問題があり、抗体価による診断が困難である。今
回、血中好酸球、便潜血、SIF,便中好酸球に着目
し、検査の有用性について検討した。
【方法】消化器症状(血便、頻回嘔吐、腹部レ線異常像)、
または、血中好酸球数増多(800/mm3 以上)を認め、
2005.11.~2006.3.に愛知県心身障害者コロニー中央
病院NICU、2006.8.~2007.2.愛知医科大学生殖・
周産期母子医療センターに入院した、33 例の臨床経過
を観察し、同意を得て、低アレルゲン化調製乳、また
は合成アミノ酸調整乳に変更(抗原除去試験)し、症
状が改善した場合、もしくはミルクを変更せずに症状
が不変、または悪化した場合をMAと診断した。血中
好酸球陽性(800/mm3 以上)、便潜血陽性、SIF陽性,
便中好酸球陽性のそれぞれについてχ2検定を行い、
その有用性を比較した。
SIFは 14 例のみ施行のため、
この 14 例での検討とした。MA診断例の在胎週数、発
症日齢、ミルク 100ml/kg/day 達成日齢について検討し
た。
【結果】血中好酸球は陽性 25 例(MA:17 例)、陰性 8
例(MA:6 例)
、p>0.05。便潜血は陽性 19 例(MA:15
例)
、陰性 14 例(MA:8 例)
、p>0.05。SIFは 14
例施行し、陽性 10 例、陰性 4 例、14 例全てMA。便中
好酸球は陽性 25 例(MA:23 例)
、陰性 8 例(MA:0
例)
、p<0.05。MA診断例では、在胎週数が少ないほ
ど発症日齢が遅く、ミルク 100ml/kg/day 達成日齢が遅
いほど発症日齢が遅くなる傾向が認められた。
【考察】便中好酸球検査は、採血量も限られる新生児
期のMAの診断に、非常に有用と考えられた。SIF
は二回目の検査で陽性となった症例も有り、陰性でも
陽性化する可能性があると考えられた。また、cut off
値が乳児のものであり、早期産での cut off 値を考え
る必要があると思われた。また、特に早期産では急性
期後の全身状態が安定したころに発症する可能性があ
り、注意が必要である。
P-046
日本大学
人科 2
○藤田 英寿 1)、岡田 知雄 1)、稲見 育大 1)、木多村
知美 1)、嶋田 優美 1)、細野 茂春 1)、湊 通嘉 1)、高
橋 滋 1)、麦島 秀雄 1)、山本 樹生 2)
【目的】VLDL 合成について、妊娠末期から消化吸収の
始まる新生児期にかけてどのように変化をするかを考
察する。
【方法と対象】平成 16 年 9 月から 11 月までに
出生した正常新生児 65 例(男 38 例:女 27 例)
。在胎
週数 38.7±1.4 週。出生体重 3025±418g。臍帯血およ
び本人血を用い、HPLC にて各リポ蛋白、VLDL 粒子サイ
ズ、免疫比濁法にて Apo B を測定した。
【結果】1)大粒
子サイズ VLDL の絶対数は日齢 0 0.8±0.5、日齢 5 6.1
±4.0、日齢 30 3.2±1.6mg/dl といずれも有意差をも
って推移した。2)大粒子サイズ VLDL の全 VLDL 粒子中
に占める割合の推移はそれぞれ 7、7、9%と一定であっ
た。3)VLDL-TG 濃度は 10.6±6.6、85.6±57.3、34.4±
20.5 mg/dl とい ずれ も有 意差 をも って 推移 した 。
4)Apo-B 濃度は 19.7 ±10.8、32.3±14.4、32.7±14.1
mg/dl と推移し、日齢 5 で臍帯血と比べ有意に高く、そ
の後日齢 30 へは変化しなかった。【考察】臍帯血の
VLDL 産生は経腸栄養開始後と比べて極めて低く、コレ
ステロール転送としては、これまでの報告より母体側
由来の LDL-C、HDL-C が大きな役割を果たしていると推
測される。日齢 5 から ApoB の増加と VLDL-TG の増加よ
り VLDL 粒子はその粒子数を著しく増加させ、しかも
VLDL サイズは変化させずに対応すると考えられた。
【結論】生直後から VLDL 粒子は Switchover mechanism
により TG に対応する機構が完成すると考えられた。
289
P-047
低出生体重児のミルクアレルギーの 2 例
当院における超低出生体重児の栄養管理
と入院中の発育
昭和大学 医学部 小児科学教室
○櫻井 基一郎、三浦 文宏、澤田 まどか、水谷 佳
世、水野 克己、板橋 家頭夫
【背景・目的】超低出生体重児は、NICU 退院後も正期
産児に比較して体格的に小さい児が多数存在する。当
院では、生後早期の栄養管理の重要性から、胎児必要
量を供給することを目指して比較的積極的な栄養管理
を進める方針としてきた。今回、当院における栄養管
理と生後発育の現状について報告する。
【対象と方法】
対象は 2006 年当院で出生し生存退院した超低出生体重
児 10 名。先天異常、先天性心疾患、死亡退院、入院中
の児は除外した。入院診療録より、在胎週数、出生体
重、経腸栄養開始日齢、経腸栄養確立日齢
(100ml/kg/day 以上)、経静脈栄養開始日齢、経静脈栄
養終了日齢、出生体重復帰日齢、生後の体重変化、日々
の栄養所要量、SGA 有無、合併症の有無について後方視
的に検討した。
【結果】対象は、平均在胎週数 28.4±2.8
週、平均出生体重 772±118gであった。SGA 児は 5 名
含まれていた。全例、日齢 1 より minimum enteral
feeding、経静脈栄養が開始されており、経静脈栄養は
平均 12 日間行われていた。栄養摂取量は、はじめの 1
週間で蛋白 8.9g/kg/week 、カロリー346kcal/kg/week
であり、子宮内発育の目標値(蛋白 21g/kg/week 、カ
ロリー840kcal/kg/week)到達したのは生後 9~10 週で
あった。経腸栄養確立は平均日齢 12、出生体重復帰は
平均日齢 16 であった。体重増加は従来の超低出生体重
児の生後の発育曲線より良好な発育であった。予定日
前後で AGA 児は 5 名中 4 名が本来の胎児発育に達した
が、SGA 児は全例、胎児発育に到達しなかった。
【結論】
極低出生体重児の栄養管理法ガイドライン(2004 年
第 4 回新生児栄養フォーラム)に沿うことにより、生
後早期の蛋白異化を抑えるために必要な蛋白、カロリ
ーは投与できていた。しかし、蛋白、カロリーの累積
欠乏量は週数を追うにつれて増加しており、特に生後
早期の累積欠乏量を NICU 入院中にカバー出来ておら
ず、生後早期の蛋白、カロリー投与量、投与方法を再
考する必要があると思われた。
P-048
静岡県立こども病院 新生児科
○宗像 俊、臼倉 幸宏、五十嵐 健康、湊 晃子、
児玉 律子
【はじめに】近年、低出生体重児におけるミルクアレ
ルギーの報告が散見されている。今回、ミルクアレル
ギーと診断した低出生体重児を 2 例経験したので報告
する。【症例 1】在胎 30 週 0 日、出生体重 1136g、Apgar
score 1 分値 3 点、5 分値 9 点で出生した男児。出生直
後に新生児仮死、呼吸窮迫症候群のため人工呼吸管理
を行い、日令 1 から母乳で経腸栄養を開始した。日令 5
に抜管のため禁乳にし、日令 6 から経腸栄養を再開し
た。ミルクは母乳、人工乳で順調に増量できたが、腹
部 Xp 上腸管ガスが多かった。全身状態は良好で肉眼的
に便性は問題なく嘔吐もみられなかったが、Xp 上腸管
ガスの貯留が続いていたためミルクアレルギーを疑
い、日令 22 からミルクを MA-1 に変更したところ症状
は軽快した。血液検査で好酸球数は 5616/μl と高値で、
総 IgE の上昇はなかった。便潜血反応は陽性で、便中
好酸球は陰性であった。アレルゲン特異的リンパ球増
殖反応はαカゼイン、βラクトグロブリンが陽性であ
った。体重増加良好で日令 115 に体重 2762gで退院し
た。
【症例 2】在胎 29 週 5 日、出生体重 1546g、Apgar
score 1 分値 8 点、5 分値 9 点で出生した男児。日令 0
に呼吸窮迫症候群のため人工呼吸管理を行い、日令 1
から母乳で経腸栄養を開始した。日令 5 に抜管のため
禁乳にし、日令 6 から経腸栄養を再開した。ミルクは
母乳、人工乳で順調に増量できた。日令 60 頃から水様
便が時折みられるようになった。全身状態は良好で嘔
吐もなかったが、ミルクアレルギーを疑い日令 64 から
ミルクを MA-1 に変更したところ症状は改善した。血液
検査で好酸球数は 1044/μl とやや高値で、総 IgE の上
昇はなかった。便潜血反応、便中好酸球は陰性であっ
た。アレルゲン特異的リンパ球増殖反応はαカゼイン、
βラクトグロブリンが陽性であった。体重増加良好で
日令 80 に体重 2684gで退院した。【考察】低出生体重
児のミルクアレルギーは症状が非特異的であり、診断
に苦慮することが多い。低出生体重児になんらかの腹
部症状がみられた際にはミルクアレルギーの可能性も
考慮し、些細な症状にも注意深い観察が必要と思われ
た。
290
在胎 25 週 265 グラムで出生し生存退院し
た超低出生体重児の一例
慶應義塾大学病院 小児科 周産期母子医療センター
新生児部門
○本間 英和、有光 威志、三輪 雅之、倉辻 言、
北東 功、池田 一成
はじめに:我々は 1996 年 6 月に 289 グラムで出生し生
存退院した症例を経験し報告した(Euro Journal of
Pediatrics 1999、日本未熟児新生児学会 1999)。今回、
在胎 25 週 265 グラムで出生し生存退院した児を経験し
たので治療上の工夫、問題点等につき、前回症例と比
較し報告する。
症例:在胎 25 週 2 日に母体妊娠高血圧のため、帝王切
開で出生(体重 265 グラム、APGAR SCORE 1 分 1 点、5
分 3 点)。日齢 92 まで人工呼吸管理(HFO、CMV、
Nasal-DPAP) 、酸素投与(日齢 143 現在使用中)し、臍
動脈カテ-テル(日齢 0-11)、臍静脈カテ-テル(日齢
0-24、日齢 15 再挿入)を挿入し、高カロリ-輸液(日
齢 0-26)を行った。日齢 6 に母乳開始、日齢 35 にミル
ク量 100ml/kg/day となった。浮腫を認め体重減少は認
められなかった。日齢 0 から輸液でカルシウム(以下、
Ca)
、日齢 4 からリン(以下、P)補充を、輸液中止後は、
強化母乳、低出生体重児用ミルク、リン酸ナトリウム、
乳酸 Ca、総合ビタミン剤を投与した(Ca 120mg/kg/day、
P 60mg/kg/day、ビタミン D 250U/day)。日齢 87 に左大
腿 骨 骨 折 を 認 め 、 Ca 、 P 補 充 を 増 量 ( 最 大 Ca
200mg/kg/day、P 120mg/kg/day)した。日齢 123 の腎超
音波検査で腎石灰化などの異常を認めなかった。日齢
135 に骨折部位の仮骨形成はほぼ完成した。現在、日齢
143、体重は 2528g、新たな骨折は認めていない。
考案:200 グラム台の生存例は非常にまれ(Iowa 大学デ
-タベースで 8 例)である。前症例、本症例を含め全例、
女児であった。前回の症例同様、臍動静脈カテ-テル
を再挿入等により長期に使用した。また、患児は重度
の Small-for-dates infant( 以 下 、 SFD) で 、
Appropriate-for-dates infant の低出生体重児よりも
Ca、P を必要とすると推測。早期より Ca、P 投与を開始
したが、骨折を認めた。今後、著しい SFD による超低
出生体重児に対しての Ca、P、ビタミン D の投与開始時
期、投与量に関して更なる検討が必要と考えられた。
DEXA法による予定日周辺の極低出生
体重児の体構成に関する検討
昭和大学 小児科
○三浦 文宏、板橋 家頭夫、水野 克己
P-049
P-050
【背景】二重X線エネルギー吸収測定法(DEXA 法)は、
新生児の骨塩定量以外に脂肪量、徐脂肪量などの体構
成の評価にも利用することができる。しかし、新生児、
とくに早産児の DEXA 法による体構成の知見は乏しい。
【目的】本研究は、極低出生体重児の予定日周辺の体
構成の評価と、これに関連する要因を明らかにし、出
生後の栄養法を中心とした今後の新生児管理法に役立
てることを目的とした。
【対象と方法】対象は昭和大学
病院総合周産期母子医療センターNICU に入院し生存退
院した極低出生体重児のうち、予定日付近で DEXA 法を
施行し得た 30 名(AGA 児 11 名、SGA 児 19 名)である。
予定日周辺(修正 38 週から 42 週)で DEXA 法を施行し、
体構成(骨塩量 BMC、徐脂肪量 FFM、脂肪蓄積率%Fat)
を求め、これに関連する要因について重回帰分析を用
いて検討した。
【結果】1)AGA 児と SGA 児の二群間の比
較では、出生体重や BMC、FFM に差はなかったが、AGA
児は在胎週数が有意に短く、CLD の合併率は有意に多
く、人工換気期間や酸素投与日数が有意に長かった。
また、SGA 児に比して%Fat が有意に高値であった(25%
vs 19%, p=0.014)。さらに、検査時の体重は大きい傾
向にあった(p<0.10)。2)BMC と関連する有意な要因
は検査時の体重(β=0.759, p<0.001)であった(調
整済み R2=0.561, p<0.001)
。3)FFM と関連する有意
な要因は検査時の体重(β=0.849, p<0.001)であっ
た(調整済み R2=0.712, p<0.001)
。4)%Fat と関連
する有意な要因は検査時の体重(β=0.541, p=0.001)
と出生体重の SD スコア(β=0.309, p=0.041)であ
った(調整済み R2=0.451, p<0.001)
。【結論】極低出
生体重児の予定日付近の体構成は、おもに検査時体重
の体重によって影響を受けるが、%Fat はさらに出生体
重の SD スコアにも影響され、AGA 児では SGA 児より脂
肪蓄積率が高いことが明らかとなった。NICU 入院中の
SGA 児は AGA 児に比べ CLD 合併率が低く、比較的順調に
経過していることから、%Fat の差は子宮内におけるプ
ログラミングを反映しているものと推測された。一方、
AGA 児の%Fat の平均値は諸外国で報告されているより
高値であり、エネルギー摂取量に対する相対的な蛋白
質摂取不足が関与している可能性があると思われた。
291
P-051
新生児室における血糖測定例の検討
アシドーシス発作時の保存検体が早期診
断に有用であったケトン体代謝異常症の
一例
慶應義塾大学病院 小児科 周産期母子医療センター
新生児部門 1、慶應義塾大学病院 小児科 2、愛育病院
新生児科 3、岐阜大学大学院 医学研究科 小児病態学
P-052
聖マリアンナ医科大学 横浜市西部病院 周産期セン
ター 新生児部門
○吉馴 亮子、大西 奈月、西坂 まゆみ、大野 秀
子、石井 理文、笹本 優佳、瀧 正志
4
○有光 威志 1)、三輪 雅之 1)、倉辻 言 1)、本間 英
和 1)、北東 功 1)、池田 一成 1)、長谷川 奉延 2)、林
田 慎哉 3)、加部 一彦 3)、深尾 敏幸 4)
今回我々は、急性発作時の保存検体を用いた尿有機酸
分析および酵素活性検査からサクシニル CoA:3-ケト酸
CoA トランスフェラーゼ(以下 SCOT)との診断に至った
症例を経験した。
症例は 0 歳、男児。母体 34 歳、1 経妊 1 経産。自然
妊娠。母体の基礎疾患、妊娠合併症なし。妊娠 38 週 2
日に経膣分娩で出生。出生体重 2492 g。Apgar score
は 1 分値 9 点、5 分値 10 点。日齢 1 の経口哺乳は良好
であったが、日齢2に呼吸困難、哺乳不良が認められ、
他院 NICU に入院した。入院時、代謝性アシドーシス(pH
7.072、 PCO2 20.5 mmHg、 HCO3 - 5.8 mmol/L、乳酸
2.9mmol/L、アニオンギャップ 32.8mEq/L)から先天性
代謝異常症が疑われ、直ちに哺乳を中止、グルコース
と重炭酸ナトリウムの輸液を開始された。輸液開始後、
尿ケトン体陽性(定性 3+)が確認された。輸液開始 13
時間後、代謝性アシドーシスは軽快した。日齢 4、先天
性代謝異常症の精査目的で当院 NICU へ転院した。
当院入院時の尿ケトン体 1+であったが、呼吸困難、
代謝性アシドーシスを認めず、尿中有機酸分析ではケ
トン体代謝物増加以外に特徴的な所見を認めなかっ
た。グルコース輸液を続行したところ、日齢 5 以降尿
ケトン体は陰性化した。日齢 8 から哺乳を再開し蛋白
負荷量を漸増したが、代謝性アシドーシスを認めなか
った。その後、前院でのアシドーシス発作時の保存検
体(日齢 2)を取得し、尿中有機酸分析を行い、当院で
の検体(日齢 4)と同様に、ケトン体代謝物増加のみで
あることを確認した。特徴的な有機酸の蓄積を伴わな
いケトアシドーシスと判断し、SCOT 異常症を疑い、末
梢血リンパ球を用いた酵素診断により SCOT 酵素活性の
低下を確認した。日齢 26、哺乳 6 時間後の血中総ケト
ン体 805 μM を確認し、哺乳間隔を 6 時間以内に維持
することを両親に指導し、日齢 30 に退院した。生後 7
ヶ月の時点で、持続性ケトーシスを認めるものの、ア
シドーシス発作には至らず、成長・発達は良好である。
SCOT 異常症は稀な疾患であり、早期に診断し栄養管
理を導入することがアシドーシス発作予防のために肝
要である。本症例のような発症頻度の低い先天性代謝
異常症の児を早期に診断し予後の改善を図るには、急
性発作時の血液・尿検体を採取し保存することが重要
であると考える。(会員外協力者:慶應義塾大学病院
小児科 石井智弘)
【はじめに】新生児は生後数時間低血糖になりやすく
時に迅速な対応を要するが、統一された明確な基準は
なく対応が遅れると神経学的後遺症を引き起こしかね
ない。当院では母児同室による母乳育児をすすめ血糖
測定はルチーンとしていなかったが、無呼吸など症候
性低血糖を呈する児を経験することがあり、昨年より
新生児室での血糖測定を導入した。この結果を受け新
生児室における低血糖リスク児の管理を検討した。
【対象・方法】2006.1~12 月までに新生児室に入院し
た早産・低出生体重児(2500g 以下で SFD 児)、母体糖尿
病児、巨大児、双胎児で血糖測定を行った 52 例。哺乳
は出生直後のカンガルーケア中から児の吸啜があれば
直接授乳を行った。生後 2 時間で血漿血糖値を測定。
低血糖基準は 60mg/dl 以下なら生後 4 時間後に再検、
45mg/dl 以下なら人工乳を開始した。生後 4 時間後でも
45mg/dl 以下なら NICU にて点滴処置とした。【結果】生
後 2 時間後に低血糖を認め人工乳を追加した児は 4 例。
4 例中 2 例はクリステレル施行など分娩時にストレス
あり。人工乳により以後低血糖無く 3 例は退院までに
母乳栄養となった。NICU 入院は 6 例、全員無症状。糖
持続静注点滴にて速やかに血糖上昇を得られ日齢 4~6
に新生児室へ帰室できたが、5 例は人工乳が中心となっ
た。この 6 例中双胎・帝王切開が 4 例、母体糖尿病児
が1例いた。日齢 2~5 に低血糖を認め NICU へ入院し
た児は 6 例。この 6 例は早産児が 1 例、SFD 児が 3 例、
双胎が 2 例、緊急帝王切開やクリステル施行されるな
ど分娩時ストレスを受けた児は 3 例いた。また、この 6
例中無呼吸や低体温など低血糖と思われる症状を呈し
たのは 3 例。どの児も生後1~2 週程で退院でき、低血
糖が遷延する病態はなかった。その後 5 例は人工乳が
中心になった。
【考察】低血糖を来たしやすい児は SFD
児や母体糖尿病児、分娩時ストレスがあるなど従来か
らリスクとされる児にみられた。当院では一般的な低
血糖の基準よりは高めに設けたが、無症候性の間に人
工乳等で低血糖を予防することで母児同室を継続でき
た。人工乳追加の児はその後混合栄養になっているケ
ースが多いが、中には母乳栄養へと移行できており、
且つ、低血糖も予防でき安全に母乳育児をすすめてい
くためにもリスクのある児に対しては血糖測定を行う
ことは重要である。
292
高アンモニア血症に対する持続的血液濾
過透析と腹膜透析の透析効率の比較
愛知県心身障害者コロニー 中央病院 新生児科 1、愛
知県心身障害者コロニー 発達障害研究所 周生期学
部2
○邊見 勇人 1)、岸本 泰明 1)、齋藤 明子 1,2)、佐藤
義朗 1,2)、寺澤 かずみ 1)、山田 恭聖 1)
【はじめに】尿素サイクル異常による高アンモニア血
症は、ときに生後数日以内に発症し、急速に進行する
ため重篤な状態となることがある。また、中枢神経に
及ぼす影響も強く、発症後迅速かつ十分な治療が予後
に大きく影響する。これらの児に対しては現在腹膜透
析(以降 PD)や、持続的血液濾過透析(以降 CHDF)な
どが行われている。今回 PD、CHDF を行った新生児の経
験から PD と CHDF の透析効率などを比較し、より有効
な治療についての検討を行った。
【症例】在胎 39 週 6 日、出生体重 2624g、診断は CPS-1
欠損症の女児。日齢 1 の夜に発汗、活気がなく他院 NICU
へ入院。翌日の検査にてアンモニアが 500μg/dl 以上
のため PD、CHDF 目的で当院へ転院となった。入院時の
アンモニアは 811μg/dl だった。9 日間の CHDF(血液
流量 20ml/min、透析液量 1000~1500ml/h、濾過量 0~
100ml/h)と、CHDF と同時に PD(カテーテル 1 本によ
る間欠潅流、透析液注入量 1 回 50~100ml、40 分ごと)
を行った。
【結果】アンモニア濃度を比較したところ、それぞれ
のアンモニア濃度は、尿>血液>PD>CHDF の順であっ
た。しかしながら、CHDF の透析液量は PD の 10~20 倍
となる。それぞれのアンモニア濃度に排液量を乗じた 1
日あたりのアンモニア排出量で比べると、CHDF は尿の
約 89 倍、PD の約 8.8 倍の透析効率と大きく差があった。
さらに、PD の貯留時間、1 回あたりの透析液量を変え
て PD の透析効率について検討したがいずれの排出液の
アンモニア濃度に変化はなかった。
【まとめ】今回の検討では CHDF は濾過液のアンモニア
濃度は低いが、その量から、結果としてもっともアン
モニアを排出することができる事がわかった。新生児
における高アンモニア血症に対してはその速やかな改
善が予後に直結し、24 時間以内に正常域まで下げるこ
とを目標としている。このため、このような児に対し
てアンモニア排泄を目的とする場合には速やかに CHDF
を行うことがよりよい結果につながると考えられる。
また、アンモニアは分子量が非常に少ないため、PD に
おいても速やかに透析液中に移行し、ほぼ血中と同等
の濃度になる。このため、PD を行う場合では、CHDF と
同時に行う場合、CHDF を行えない場合でもより多くの
透析液を腹腔内に通すため透析液量や時間を調節する
ことが、より高い透析効率を得られることになると考
える。
P-053
P-054
molar tooth malformation の姉妹例
京都第一赤十字病院 小児科 総合周産期母子医療セ
ンター NICU
○光藤 伸人、徳弘 由美子、中内 昭平、中林 佳
信、中川 由美、木原 美奈子、木崎 善郎
【はじめに】小脳虫部低形成により中脳が大臼歯様に
見え,筋緊張低下,異常呼吸,発達遅滞,異常眼球運
動などを合併したものを,従来 Joubert 症候群と呼ん
でいた。しかし,同様の画像所見を呈する症例でも,
臨床症状は様々であることから,近年では頭部 MRI 軸
位撮影にて中脳が大臼歯様にみえる奇形を総称して
molar tooth malformation と呼んでいる。今回われわ
れは molar tooth malformation の姉妹例を経験したの
で報告する【症例】症例1:日齢 0,女児。39 週 5 日,
2,380g,頭位自然分娩にて出生。生後間もなく多呼吸
を認め入院,無呼吸発作が出現した。頭部エコー,脳
波に異常を認めず,症状が軽快したため日齢 51 に退院
となった。外来にて頭部 MRI を施行したところ第4脳
室の拡大を認め,Dandy-Walker variant の診断の元に
外来フォローされていた。その後,精神運動発達遅滞
が明瞭となり療育を行いながら通院していたが,小脳
失調,眼振などの症状を認めるため,3 歳 6 ヵ月に頭部
MRI を再検したところ,molar tooth malformation と
診断され,以後神経外来にてフォローとなった。4 歳 2
ヶ月の時点で発達指数 26%と著明な精神運動発達遅滞
を認め,企図振戦,眼球運動失行,筋緊張低下がみら
れる。症例2:日齢 5,女児,症例 1 の妹。在胎 41 週
1 日,3,325g,頭位自然分娩にて出生。頭部エコーで第
4 脳室が bad wing 様であったため NICU に入院となっ
た。頭部 MRI を施行したところ,姉と同様の所見を認
めた。その後眼振が出現したが,呼吸障害は認めず日
齢 7 に退院し,以後,神経外来にてフォローとなった。
生後 7 ヶ月で頚定不完全,寝返り不可で上下肢の振戦,
眼振を認めている。また,患児の母親,母方祖父,祖
父の兄弟に嚢胞腎を認めているが,現在のところ本症
例には認めていない。【考察】両症例の頭部 MRI 所見は
酷似しており,症例 1 の臨床症状からは Joubert 症候
群の範疇に入ると考えられる。しかし,症例 2 では本
症候群に特徴的な異常呼吸はみられず,症例間の症状
の多様性がみられた。両症例とも著明な精神運動発達
遅滞をはじめ,様々な症状が出現しており,長期にわ
たるフォローが必要である。
293
P-055
単純脳回型小頭症の 1 例
当院低出生体重児の小脳萎縮に関する検
討
岐阜県総合医療センター 新生児科
○山本 裕、河野 芳功、長澤 宏幸、内山 温、折
居 恒治、久保寺 訓子、山田 桂太郎
【はじめに】
近年、早産児、低出生体重児における小脳萎縮に関す
る報告が散見される。
当院では NICU 退院前に神経学的評価のため、出生体重
2000g 未満の児全例に対して、頭部 MRI を施行してい
る。
今回、小脳萎縮を認めた症例に関して詳細な検討を行
った。
【対象と方法】
平成 12 年 4 月から平成 19 年 2 月まで当院で入院加療
を行った出生体重 2000g 未満の低出生体重児。退院前、
頭部 MRI を 484 例の児に対して施行した。その内、小
脳萎縮を認めた 14 例(平均在胎週数 28.3±3.6、平均出
生体重 1036±310g)について周産期から NICU 退院後ま
での経過について詳細な検討を行った。
【結果】
AFD 児が 11 例、SFD 児が 3 例、小脳半球の symmetric
atrophy が 13 例、asymmetric atrophy が 1 例、PVL 合
併例が 1 例、3 度以上の IVH 合併例が 3 例、レーザー治
療を要した ROP 合併例が 8 例、1 歳まで経過を追えた
13 例中 12 例で脳性麻痺を認めた。
今回検討した中で、生後早期に循環不全に陥り交換輸
血を行った児は 6 例認めたが、その全例とも小脳萎縮
を認めた。
【結語】
早産児、低出生体重児における小脳萎縮発生に虚血の
関与が推測されているが、その全容は明らかとなって
いない。当院の症例における検討の結果、従来の報告
と同じく symmetric atrophy が大半を占め、退院後高
率に視機能障害、脳性麻痺を合併していた。
また当院での小脳萎縮合併例の特徴として交換輸血施
行例で高率に小脳萎縮を合併していた。当院では末梢
動静脈法を用いて交換輸血を施行しているが、交換輸
血に伴う循環動態の不安定性もしくは交換輸血に至る
までの循環不全が小脳萎縮に関与している可能性が示
唆された。
P-056
岐阜県総合医療センター 新生児科
○久保寺 訓子、長澤 宏幸、山田 桂太郎、山本 裕、
折居 恒治、内山 温、河野 芳功
【はじめに】単純脳回型小頭症(microcephaly with
simplified gyral pattern)及び microlissencephaly
は、出生時頭囲が-3SD 以下で、画像所見において脳回
が少なく脳溝が浅い事を特徴とする脳回形成異常であ
る。neuron と glia の増殖異常、アポトーシスの異常が
原因と言われおり、新生児期の臨床症状と画像所見に
よって 6 個のグループに分けられる。今回私たちは
gruop2 と思われる単純脳回型小頭症の 1 男児例を経験
したので報告する。
【症例】在胎 42 週 1 日、出生体重 2960g(-0.9SD)、頭
囲 29.0cm(-3.0SD)、アプガースコア 1 分 9 点/5 分 9
点、小頭症と哺乳不良のため日齢 1 に当院に新生児搬
送となった。家族歴に特記すべき事なく、姉 8 歳と兄 7
歳は正常発達である。身体所見では著明な後弓反張を
認めた。検査所見では血小板減少を認めたが、TORCH、
代謝スクリーニング、染色体検査では異常を認めなか
った。血小板は自然軽快し日齢 20 に正常値となった。
日齢 14 に施行した頭部 MRI では皮質の肥厚は無く、脳
回の異常と小脳・脳幹の低形成を認めた。呼吸循環状
態は安定していた。栄養は嚥下不能のため経口哺乳が
難しく経管栄養を主体とした。日齢 6 に強直性痙攣を
認めフェノバルビタールの内服を開始した。頭部 MRI
と新生児期の臨床症状から単純脳回型小頭症 group2 と
診断した。現在、生後 7 ヶ月になるが胃瘻での経管栄
養 を 継 続 し て お り 、 体 重 6050g( - 2.3SD) 、 頭 囲
35.5cm(-6.9SD)、定頸不能、寝返り不能、追視不能、
あやし笑い不能と重度の精神運動発達遅滞を認める。
脳波では occipital を中心とした positive spike を認
めるが、痙攣の重積は無くフェノバルビタール単剤で
コントロールしている。
【考察】単純脳回型小頭症・microlissencephally は中
東を中心に若干の症例報告はあるが、長期フォローア
ップのデータはなく、定義・分類・治療・予後に関し
現在も模索中の疾患と思われる。今回我々が経験した
症例は、入院時の血小板減少から胎児期における何ら
かの感染を疑ったが原因は特定できなかった。国内で
の同疾患の症例報告が無いため、今後の発達フォロー
アップが極めて重要であると同時に類似症例の蓄積が
必要と思われる。
294
MD 双胎一児死亡後、生存児に孔脳症を発
症した selective IUGR の一例
鳥取大学 医学部 産科婦人科
○月原 悟、荒田 和也、谷脇 加奈、渡邉 彩子、
庄司 孝子、光成 匡博、岩部 富夫、紀川 純三、
寺川 直樹
無呼吸様症状を契機に発見された硬膜下
出血の 6 症例
大阪府立母子保健総合医療センター 新生児科 1、大阪
府立母子保健総合医療センター 産科 2、大阪府立母子
保健総合医療センター 総長 3
○細川 真一 1)、西澤 和子 1)、南條 浩輝 1)、内田 俊
彦 1)、和田 芳郎 1)、濱中 拓郎 2)、平野 慎也 1)、北
島 博之 1)、末原 則幸 2)、藤村 正哲 3)
(はじめに)分娩外傷による中枢神経傷害は、程度に
よって脳外科的治療を要することもあり、新生児科医
にとってその判断は重要である。今回我々は、2006 年
6 月から 2007 年 2 月の 8 ヶ月間で、無呼吸様症状を主
訴に NICU 入院となり、頭部 CT で硬膜下出血を指摘さ
れた 6 症例を経験したので報告する。(対象と方法)上
記 6 症例について、妊娠・分娩経過、蘇生時の対応、
出生後の経過、検査結果を入院カルテより後方視的に
検討した。
(検討結果)全例が院内出生で、男女比は 2:
1(単胎 4 名、双胎 2 名)であった。在胎期間は中央値
39.2 週、平均アプガースコアは 1 分値 8.2 点/5 分値
8.8 点、出生体重の平均は 2850.0g であった。母の平均
年齢は 32.2 歳で、初産婦 4 名、経産婦 2 名であった(自
然妊娠 5 名(MD 双胎 2 例含む)、不妊治療による妊娠 1
名)
。誘発分娩の結果、吸引分娩となったのが 1 名、経
膣分娩となったのが 1 名で、他は緊急帝王切開 1 名、
骨盤位の予定帝王切開 2 名、自然経膣分娩 1 名であっ
た。分娩時には、酸素投与 1 名を除き特に蘇生処置を
必要としなかった。初発症状は啼泣・哺乳時のチアノ
ーゼで気づかれた症例が多く、中には刺激を要する呼
吸停止や全身硬直の見られた症例もあった。血液検査
では逸脱酵素上昇のあった 2 名を除いて特に異常を認
めなかった。但し、4 症例で AT 活性値低下が見られた。
全症例が頭部 CT で硬膜下出血を認めた。入院後の症状
改善まで酸素を投与した症例は 2 名だったが、経過観
察のみが 4 名であった。全症例で症状改善後の神経学
的異常はなかった。
(考察)今回の検討から、「正期産」
で「良いアプガースコア」の児でも「硬膜下出血」が
見られることが示された。過去 25 年間に当センター入
院の正期産児で、頭蓋内出血と無呼吸発作の合併症例
は 4 例のみであった。最近の短期間に症例が増えた要
因は、a)モニタリングでの早期発見、b)画像診断の
進歩、c)分娩数や方法の変化、d)多胎妊娠の増加、
等の影響が考えられた。正常分娩での硬膜下出血では
凝固異常に注意すべきだが、今回も 4 症例で AT 活性値
低下が見られた。AT 活性値のみが出血傾向の指標とな
るかは今後の検討課題である。今回の検討をさらに進
めて、胎児期からのモニタリング、蘇生時の適切な対
応、症状の悪化予防など、周産期管理をより良いもの
にしたいと考える。
P-057
P-058
【緒言】双胎間輸血症候群(TTTS)に対する胎盤吻合
血管レーザー凝固術が実施され、良好な成績が報告さ
れている。一方、selective IUGR は一絨毛膜二羊膜性
(MD)双胎の約 20%に発症し、一児が IUGR となる疾患
である。TTTS と同様に周産期予後は不良であるが、現
在のところ積極的な治療法は確立されていない。【症
例】25 歳、初産婦。妊娠 15 週、MD 双胎のため周産期
管理目的に当科紹介となった。妊娠 23 週、胎児推定体
重は I 児 426 g(-2.05 SD)/ II 児 558 g(-0.67 SD)、
羊水ポケットは I 児 24.8 mm / II 児 31.3 mm であり、
selective IUGR と診断し入院管理した。I 児は入院時
より臍帯動脈拡張期血流の途絶・逆流を認めていたが、
その後も羊水過多・過少を生じることはなかった。妊
娠 26 週 1 日で I 児が胎内死亡となった。生存児の中大
脳動脈最高血流速度(MCA-PSV)は 1.7MoM と急激に上昇
したが、数日後には正常化した.MD 双胎一児死亡にお
ける生存児の周産期予後や 26 週で早産した超低出生体
重児の予後について説明し、家族と十分な話し合いを
行った結果、そのまま胎内管理を継続する方針とした。
妊娠 28 週、超音波検査で生存児の脳実質に広範囲にわ
たる低エコー領域を認め、胎児 MRI 検査で脳梗塞と診
断された。妊娠 30 週 3 日に陣痛発来し、分娩した。出
生後、胎児 MRI 検査で脳梗塞と診断された部位に一致
して脳実質の欠損を認め、孔脳症と診断された。胎盤
所見では両児の臍帯付着部は隣接しており、同部位で
A-A 吻合を認めた。
【考察】MD 双胎一児死亡後、生存児
に孔脳症を発症した selective IUGR 症例を経験した。
生存児の MCA-PSV 中大脳動脈最高血流速度の推移から、
一 児 死 亡 直 後 に 急 激 な 圧 較 差 に よ る feto-fetal
hemorrhage が発症し、脳虚血から孔脳症に至ったもの
と推測された。
295
P-059
神経皮膚黒色症の2新生児例
葛飾赤十字産院
○長井 誠、島
小児科
義雄、中島
瑞恵、熊坂
P-060
胎児期に一過性脳室拡大を認めた1例
名古屋大学 医学部 産婦人科
○真野 由紀雄、早川 博生、森光 明子、荒木 雅
子、炭竈 誠二、吉川 史隆
【はじめに】胎児脳室拡大は、妊娠 1000 に対して 0.64
の頻度で認められ、原因は遺伝子疾患から環境障害に
至るまで多岐にわたる。今回我々は一過性に胎児脳室
拡大を認め、その後改善した症例を経験したので、若
干の文献的考察を加えて報告する。【症例】症例は 30
才の1経妊1経産、第1子は正常分娩で発育・発達に
異常を認めていない。自然妊娠成立後、他院で妊婦検
診を受けており、妊娠 26 週までは、特に異常を認めな
かった。妊娠29週時に超音波検査上、胎児脳室拡大
を指摘され、当院紹介受診となった。初診時の超音波
所見で、左右対称性に後角優位の脳室拡大を示してい
たが、他の合併奇形は認めなかった。サイトメガロウ
ィルスなどの胎内感染の原因検索も行ったが、異常は
認めなかった。詳細な評価のために胎児 MRI 検査を行
ったところ、側脳室が左右対称性に拡張していたが、
第四脳室以下の拡張は認めず、閉塞性水頭症の所見で
あった。妊娠 31 週の時点でも脳室の拡大所見は認めた
が水頭症の進行は認めず、画像診断上明らかな合併奇
形もなく、胎内感染も否定的で、突然の発症というこ
れまでの経過を考慮すると、脳出血後の水頭症の可能
性が高いと考えられた。脳神経外科との相談の上、経
過観察の方針とした。妊娠 32 週の時点で脳室拡大は消
失し、以後も認めなかった。妊娠 39 週 1 日に自然陣発
し,出生体重 2880g、Ap9/10 の女児を正常分娩した。
出生時の診察で外表奇形はなく、頭部超音波検査上、
左右対称性の両側脳室の軽度拡大と左脳室の辺縁不整
部分が指摘された。出生後に撮影した児の頭部 MRI 検
査では、脳室周囲白質に T2 強調画像で低信号、FRAIR
画像で高信号を呈する領域を認め、左側脳室の軽度拡
張を伴っていた。この病変は白質の壊死を示す所見で
あり、脳実質内に及んだ陳旧性の上衣下出血と考えら
れた。出生直後に行われた脳波検査は正常範囲内の所
見であった。出生後数日、呼吸が不安定になる症状が
みられたが、これも出血に伴う一症状と推測された。
今後、この病変による片麻痺または右優位の両麻痺が
懸念され、発達フォローが必要となる。1歳9ヶ月現
在までのところ、1 人歩きは可能だが、軽度の運動発達
遅延を認め、リハビリテーション依頼の予定である。
栄
緒言:神経皮膚黒色症は神経堤起源の母斑症で、皮膚
と同時に中枢神経にも母斑細胞の異常増殖をきたすま
れな疾患で、前者の病変はいわゆる獣皮様母斑として
知られている。後者病変は脳軟膜において母斑細胞が
異常増殖するため多彩な神経症状を示すことがあるだ
けでなく、悪性転化の報告もありその予後は楽観を許
さない。今回我々は、出生時の身体所見から獣皮様母
斑と判断した新生児の評価の過程で中枢神経病変を検
出した 2 症例を経験したので経過を含めて報告する。
症例1:39 週 3122g 正常産の男児で、出生時に腰仙部
に発毛を伴い融合して巨大な局面を形成する黒色母斑
と、同様の皮疹が全身に播種状に散在する所見を認め
た。その他の合併異常はなく、外来で経過観察中の生
後 2 ヶ月ころからシリーズを形成する欠失発作が頻発。
精査の結果、小脳萎縮とびまん性の脳軟膜肥厚を認め、
抗痙攣療法を開始している。症例2:37 週 2494g、反
復予定帝切で出生の男児。症例1と同様の皮膚所見が
観察されたため中枢神経系の精査を行った結果、画像
診断からやはり同一の診断を得ている。現在、明確な
神経症状の発現には至らず外来で経過を監視中にあ
る。考察:本疾患は次第に進行する多彩な神経症状の
ため最終予後は不良と考えられている。中枢神経病変
の合併は獣皮様母斑症全体から見ると 5%前後との報
告が見られるが、乳児期までに確定診断に至る症例は
必ずしも多くはない。外科、放射線療法を含めて効果
の定まった対処法が確立していないのが現実である
が、痙攣などによる二次的な神経障害への早期対応が
重要であり、いわゆる獣皮様母斑を示す新生児におい
ては、本疾患の可能性も考慮した中枢神経系の精査は
必須であると考える。
296
P-061
X 連鎖性遺伝性水頭症の 2 例
多胎で一児のみアテトーゼ型脳性麻痺を
呈した超低出生体重児の3例
兵庫県立こども病院 周産期医療センター 新生児科
○坂井
仁美、秋田 大輔、上田
雅章、柄川 剛、
吉形 真由美、溝渕 雅巳、芳本 誠司、中尾 秀人
【背景】一般的に早産児の脳性麻痺(CP)児の多くは
脳室周囲白質軟化症を主因とする痙性麻痺を呈す。近
年、超低出生体重児にみられるアテトーゼ型 CP の報告
が散見されるようになったが、その病態は明らかでは
ない。当院で出生した多胎児のうち一児のみがアテト
ーゼ型 CP を呈し、同胞が正常発達を示した超低出生体
重児について、同胞と臨床経過を比較し検討した。
【症
例 1】在胎 29 週 0 日、出生体重 504g、女児。自然妊娠
成立の一絨毛膜二羊膜双胎の第 2 子。体重差 48%の
smaller twin。母体妊娠高血圧症および本児の臍帯血
流途絶のため緊急帝王切開にて出生。生後早期より重
度の低血糖を呈し生後 3 週まで遷延。経過中著明な黄
疸は認めず。挿管管理 43 日間、酸素投与 68 日間要し、
無呼吸発作が修正 42 週まで遷延した。退院時 ABR は両
側無反応。退院時 MRI 上脳室拡大、2 歳時 MRI 上脳室拡
大を認めたが、基底核病変はなかった。
【症例 2】在胎
27 週 5 日、出生体重 998g、女児。自然妊娠成立の二
絨毛膜二羊膜双胎第 2 子。体重差なし。切迫早産、母
体重度摂食障害のため予定帝王切開で出生。日齢 2 に
PDA に伴う肺出血を来たした。生後 1 週まで TB>
10mg/dL,UB>0.8μg/dL、2-4 週においても総ビリルビ
ン>20mg/dL の高ビリルビン血症を呈した。挿管管理
41 日間、酸素投与 78 日間。日齢 68 に重度の貧血あり
輸血を施行。無呼吸発作は PCA40 週まで遷延した。退
院時 ABR は波形分離不良、MRI は異常なし。1 才時 MRIT2
強調像にて淡蒼球の信号増強を認めた。
【症例 3】在胎
28 週 1 日、出生体重 902g、女児。IVF-ET にて妊娠成
立した三絨毛膜三羊膜品胎の第 2 子。品胎中最軽量児。
母体肝機能障害および陣痛抑制困難にて緊急帝王切開
にて出生。RDS に対して 3 日間人工呼吸管理し、日齢
18 まで酸素投与、以後順調に経過した。生後 3 週の総
ビリルビン 18mg/dL と他児よりやや高値であった。退
院時 ABR、MRI 正常、1 才時 MRIT2 強調像にて淡蒼球の
信号増強を認めた。
【まとめ】症例 1 は重度の SFD 児に
伴う遷延する低血糖、症例 2 は慢性期におよぶ高ビリ
ルビン血症を同胞にはないリスク因子として認めた。
症例 3 のリスク因子は明らかでなかった。
【結論】超低
出生体重児のアテトーゼ型 CP の病因として、複数の病
態が存在すると考えられた。
P-062
新潟大学医歯学総合病院 周産母子センター
○臼田 東平、竹山 智、榊原 清一、佐藤 尚、松
永 雅道
【はじめに】 X連鎖性遺伝性水頭症は細胞接着因子
L1CAM遺伝子異常が原因で、1992 年、Rosen
thalらによってL1CAM遺伝子異常が報告され
てから現在まで、206 家系から 178 タイプのL1遺伝子
異常が報告されている。その臨床的特徴から、CRA
SH症候群(Corpus callosum hy
poplasia、Retardation、Add
ucted thumbs、Spastic par
aplegia、Hydrocephalus)と呼
ばれている。今回我々は遺伝子異常の同定された X 連
鎖性遺伝性水頭症の 2 症例を経験したので報告する。
【症例 1】妊娠 22 週に胎児の脳室拡大を指摘された。
頭囲拡大進行し、児頭骨盤不適合のため 38 週 0 日、帝
王切開で出生した。出生体重 2822g、頭囲 43.5cm、
拇指内転屈曲を認めた。9 生日に脳室腹腔シャント術を
施行した。DNA解析で、L1CAM遺伝子のExo
n8に 924C→Tの塩基置換を認め、それによりスプラ
イシング異常を生じたと考えられた。母はそのヘテロ
接合体であった。現在 3 歳で、発達は認めているが、
重度の精神運動発達遅滞と脳性まひを認めている。
【症例2】妊娠 29 週より胎児の頭囲拡大、脳室拡大を
指摘され、37 週 4 日、予定帝王切開で出生した。出生
体重 2544g、頭囲 35.5cm、両拇指内転屈曲を認めた。
頭部MRIで両側脳室拡大、視床融合、脳梁低形成を
認め、8 生日に脳室腹腔シャント術を施行した。DNA
解析で、L1CAM遺伝子のExon16にC2135→
Tのミスセンス変異(A712V)を認め、母はそのヘテ
ロ接合体であった。発達は 4 ヶ月で頸定、10 ヶ月でお
座りが可能となった。現在 1 歳 4 ヶ月ではつかまり立
ちができず、筋緊張の軽度低下を認めているが、痙性
対麻痺はなく、比較的良好な発達を示している。【考
案】本邦のX連鎖性遺伝性水頭症は重症例が多いとさ
れ、症例 1 は典型的なX連鎖性遺伝性水頭症の症状を
示し、重度の精神運動発達遅滞、脳性まひを残した。
症例2のL1CAM遺伝子の変異は本邦、海外での文
献報告はなく、本症例が比較的良好な発達を示してい
ることより、この変異での臨床像は軽症である可能性
が示唆された。
【謝辞】今回、遺伝子解析をしていただ
いた国立病院機構大阪医療センター臨床研究部の山崎
麻美先生、金村米博先生に深謝いたします。
297
在胎 23 週で出生し腎尿細管性アシドーシ
スを来した結節性硬化症の 1 例
愛仁会 千船病院 小児科
○高野 勉、横田 知之、岩本 公美子、高寺 明弘、
川本 久美、吉井 勝彦
【はじめに】結節性硬化症の超早産児の報告は数少な
い。また、合併症として腎尿細管性アシドーシスを来
した報告はさらに稀である。今回、在胎 23 週で出生し
生後早期に結節性硬化症と診断され、腎尿細管性アシ
ドーシスを合併した児を経験したので報告する。【症
例】在胎 23 週 6 日、体重 528g、Apgar score 6/8(1
分値/5 分値)で出生した男児。家族歴に特記事項無し。
出生時の心臓超音波検査で心室壁内に腫瘤状の高輝度
域を認め、日齢 30 の頭部超音波検査にて上衣下結節、
皮質結節を認めたため結節性硬化症と診断した。さら
に日齢 110 より腹部に葉状白斑、日齢 121 より網膜過
誤腫も出現した。経過中に痙攣は認めなかった。また、
日齢 20 よりアニオンギャップ正常の代謝性アシドーシ
スが認められた。アシドーシスの鑑別を進めたところ
尿中β2 ミクログロブリンなどの低分子蛋白が異常高
値であり、重曹投与中の重炭酸排泄率が 15%以上であ
ることなどから近位尿細管性アシドーシスと診断し
た。アシドーシスは重曹の投与にて改善し、退院前に
は重曹の投与も中止できた。現在までアシドーシスの
再燃は認めていない。未熟網膜症、くる病、貧血など
の管理を慎重に行っていたが超早産児としての経過は
概ね順調であり合計 73 日間の人工換気、129 日間の酸
素投与を行い日齢 167 に修正 47 週 6 日、体重 2828gで
退院した。
【考案】我々が検索し得た限り、在胎 23 週
での結節性硬化症の報告例は無かった。本症例では腎
尿細管性アシドーシスを認めたが、患児は汎アミノ酸
尿を呈しており、くる病の合併も認めたため、不完全
型の Fanconi 症候群の可能性を考慮しフォローアップ
している。以前より新生児期に一過性の Fanconi 症候
群を呈する症例報告があり、本症例の経過と合致する。
結節性硬化症に腎尿細管性アシドーシスを合併した報
告は極めて稀であり、これが結節性硬化症の一症状で
あるのか、本症例において偶然合併したものであるの
かは不明である。本症例は極めて多彩な症状を呈して
おり、今後、発育・発達のフォローアップに際し、新
生児科のみならず小児神経科、小児内分泌科、眼科な
ど他分野が綿密に連携し慎重な管理を行う必要があ
る。
特異的な脳実質内出血をきたした成熟児
の1例
北里大学 医学部 小児科
○秋山 和政、開田 美保、伊藤 尚志、狐崎 雅子、
釼持 学、長谷川 豪、野渡 正彦、石井 正浩
【はじめに】我々は、原因不明の両側広範囲の脳実質
内出血をきたした症例を経験した。頭蓋内病変は画像
所見より出血と診断したが、出生時に明らかな仮死の
指摘はなく鑑別として出血以外の原因を考慮する必要
があった。
【症例】在胎 40 週 2 日、
出生体重 2668g、Apgar
score 9/10。陣痛発来し近医産院を受診、遷延分娩の
ため陣痛促進を行い経膣分娩で出生した。出生時、全
身状態は良好であったが、日齢1より哺乳力の低下が
出現、無呼吸発作を認めるようになった。同日、両眼
球の出血に気づく。日齢2、強直性の痙攣が出現し当
院へ新生児搬送となった。来院時児の活気は不良、顔
面は全体的に浮腫状であり色調は暗紫色であった。ま
た両眼ともに著明な強膜出血、網膜下出血を認めた。
血液検査では Hbが 13.6mg/dl と軽度低下、PLT は 17.8
万/μl と正常、凝固系に異常はなかった。また CPK が
1798 IU/l と上昇していた。髄液は外観無色透明であっ
た。TORCH 鑑別のため諸検査行ったが異常所見はなかっ
た。頭部エコーでは左右脳実質にびまん性に広がる高
エコー域を認め、その後病変は低エコー域に変化した。
頭部 CT では左右大脳半球の白質に楔状の high density
area が散在、これもその後 low density となった。頭
部 MRI では出血を特異的に描出する Gradient echo(GE)
法で、無信号となる領域を認め、画像所見より頭蓋内
病変は出血であると診断した。脳浮腫に対しグリセオ
ールを投与、痙攣に対しフェノバルビタールの筋注を
開始した。入院後周期性呼吸、チアノーゼが出現し挿
管、人工呼吸管理としたが、脳浮腫は日齢とともに軽
快、挿管後は明らかな痙攣を認めず、体重増加は良好、
フェノバルビタールのみ継続投与とし退院となった。
【考察】出血の診断に MRI 検査(GE 法)が有用であっ
た。また出生時仮死は無く、出血の原因の特定には至
らなかったが、理学所見より分娩時のストレスが出血
の原因の一端を担っている可能性が高いと考えた。入
院加療でけいれんは消失、哺乳も順調であり良好な予
後が期待されたが、脳波では発作波が混在してきてお
り、頭部 CT では脳細胞の壊死を疑わせる low density
area を広範囲に認めることから、その予後は不良であ
ると考えた。
P-063
P-064
298
P-065
済生会
○山根
2006 年に当院で管理した重症新生児仮死
児の管理に関する検討
兵庫県病院 小児科
正之、狐塚 善樹
脳低温療法を施行した重症仮死児の臨床
像と短期予後
和歌山県立医科大学 総合周産期母子医療センター
NICU
○奥谷 貴弘、平松 知佐子、杉本 卓也、熊谷 健、
樋口 隆造、吉川 徳茂
【対象】2003 年から 2006 年の間に従来の治療法では重
度の後遺症を残す可能性が高いと判断された在胎 35 週
以上の重症新生児仮死児で生後 6 時間までに治療を開
始しえた 8 例.
【方法】Mac8 社の Medicool MC-2100 を用いて頭部冷却
を行った.33.5-34.5℃を目標にして 72 時間低温を続
けた後,1 日に 0.5℃ずつ復温した.原則として鎮静剤
や筋弛緩剤を用いた完全調節呼吸下で実施した.児の
状態に応じてカテコラミンや NO 吸入療法などを併用し
た.
【結果】対象の出生体重は 1779-3400g,在胎週数は 35
週 4 日から 41 週 1 日で,アプガースコア(1 分/5 分)
は 8 例中 4 例が 0/0 点,2 例が 1/1 点,4/4 点と 6/7 点
が各 1 例.入院時血液検査は pH:6.74±0.2,Base
Excess:-28±7 mmol/L,乳酸:173±54 mg/dL であっ
た(値はすべて mean±SD)
.
8 例のうち治療を中断したのは 2 例で,1 例は日齢 2
で死亡,もう 1 例は脳低温療法の副作用のため日齢 3
で中止した.治療を終えた 6 例のうち 1 例が死亡,3
例が重度の後遺症を残し,2 例が後遺症を残さずに退院
した.
【考察】脳低温療法は脳波がフラットとなった最重症
の仮死児には無効とされている.今回アプガースコア
が 0/0~1/1 点であった児 6 例のうち 5 例が死亡もしく
は重症心身障害となった.しかしアプガー0/0 点であっ
た 1 例は退院し,3 歳時にも発達に異常はない.
[副作用について]出血傾向・白血球減少などの副
作用で脳低温療法を中断した症例は出生体重が 1779g
の低出生体重児であった.もう 1 例 1994g の児も管理
中に異常な高血糖が続いた.出生体重 2000g 未満の低
出生体重児に脳低温療法を行うことは危険性が高いと
考えられる.日齢 4 に頭蓋内出血を起こした例もあり,
脳低温療法との関連性は否定できない.
[実施上の問題]脳を低温に保つには選択的脳低温
療法より全身低体温療法の方が実際的であるが,循環
管理に難渋することがあった.また脳低温療法開始前
にきちんとした脳波をとることが困難であった.
【まとめ】脳低温療法は実施方法を誤ればより不幸な
結果を招きうる治療法である.最高度の重症仮死児に
実施しても効果が少なかった.
「中等度の重症仮死児」
に有効性の高い治療法と考えられるので適応を再検討
する必要がある.
P-066
【はじめに】アンチトロンビン(以下 AT)の大量投与
により何らかの原因で障害された臓器の血管内皮細胞
を保護し臓器損傷を防止する効果が明らかにされてき
ている。昨年当院で管理した重症新生児仮死の児に対
し数例に AT 大量療法を試みたところ生後早期に AT を
投与できた症例は MRI で明らかな異常所見を認めなか
った。しかし現時点でまだ少数であるために退院前 MRI
で異常のあった児と無かった児とで児の背景を比較検
討してみた。【対象】2006 年の 1 月から 12 月までに済
生会兵庫県病院 NICU に入院した在胎 35 週以上、体重
2000g 以上 の児で 以下 の症 例を 対象 とし た。 Apgar
Score5 分値が 5 点未満、初回採血で pH が 7.10 未満、
痙攣や意識障害もしくは筋緊張の異常が認められる、
のうちいずれかを満たし入院時間が生後 6 時間以内で
人工呼吸管理を要した症例に関して検討を行った。
【方法】退院前 MRI で正常であった群(正常群)と異
常所見を認めた群(異常群)に分け、入院記録を基に
して在胎週数、出生体重、Apgar Score の 1 分及び 5
分値、入院時の血液ガスの pH と BE、白血球数や血小板
数、GOT、GPT、LDH、CPK や FDP の最高値、出生から入
院までの時間、意識障害や痙攣の有無、治療法(硫酸
マグネシウム(以下 MgSO4)投与、脳低温療法、血管拡張
剤、AT 大量療法の有無)に関して後方視的検討を行っ
た。なお、MgSO4 及び AT 投与に際しては両親からの同
意を得て行った。脳低温療法に関しては直腸温を 35℃
台に保つようにしたが脳温のモニターは出来ていな
い。
【結果】各群の背景として正常群(3 人)と異常群
(4 人)との間で有意差はなかった。しかし異常群では
入院時 BE が低い傾向で、入院時の WBC と GOT、GPT、LDH、
CPK の最高値が高い傾向にあった。正常群は FDP の最高
値が高い傾向で、AT 投与も多い傾向だった。【考察】正
常群と比べると異常群には血液生化学検査で分娩時ス
トレスを強く受けたことが有意差はないものの示唆さ
れる結果となり、MRI 異常所見はこれらの背景の違いに
よる所が大きいかもしれない。このため現時点では AT
大量療法が脳神経細胞保護に有効であったと言うのは
難しい。しかし児の神経学的予後に悪影響をもたらし
得る可能性は低いと考えられるため、今後も症例を積
み重ねて検討していきたい。
299
低体温療法が神経幹細胞に与える影響の
検討
大阪大学大学院医学系研究科・医学部 産科学婦人科
学教室
○金川 武司、冨松 拓治、味村 和哉、片山 美穂、
衣笠 友基子、Tskitishvili Ekaterine、木村 正
【目的】虚血性脳障害に対する治療としての低体温療
法は、成人のみならず新生児にも臨床応用されている。
一方で、神経幹細胞の増殖(neurogenesis)が盛んに起
こっている新生児脳において、neurogenesis に対する
低体温の影響はよく分かっていない。そこで、われわ
れは、新生児ラットを用いて、重度低体温が
neurogenesis に与える影響を検討した。
【方法】動物実
験モデルとしては、正期産に相当する日齢7日目の新
生児ラットを用いた。また、脳における neurogenesis
を検討する目的で、細胞分裂のマーカーである
Bromodeoxyuridine(BrdU)を用いた免疫組織染色を行
った。すなわち、重度低体温群(30 度:n=10)とコン
トロール群(37 度:n=10)に分け、各群新生仔をそれ
ぞ れ の 環 境 温 下 に 21 時 間 な じ ま せ た 後 、 各 群 に
BrdU(100mg/kg)を腹腔内投与し、24 時間後に屠殺。各
群における脳室下層 (SVZ)領域と 顆粒膜細胞近傍
(DGZ)領域における BrdU 陽性細胞数を定量化し、検討
した。また、同時に、各群において BrdU 投与 10 日後
に、抗 BrdU 抗体および抗ダブルコチン抗体(神経前駆
細胞のマーカー)による蛍光二重免疫組織染色を施行
した。【結果】SVZ における BrdU 陽性細胞数は、低体温
群およびコントロール群でそれぞれ 2,037、2,128/mm3
で、有意差を認めなかった。一方、DGZ においては、そ
れぞれ 219、 429/mm3 で低体温群において有意な減少
を認めた。また、蛍光二重免疫染色により、BrdU 陽性
細胞はダブルコチンにも二重に染色されており、神経
前駆細胞であることが分かった。
【まとめ】重度低体温
により、neurogenesis が抑制されることが示唆された。
このことは、新生児虚血性低酸素性脳障害に対する低
体温療法を臨床応用する際に、考慮すべき知見と思わ
れた。
新 生 児 低 酸素性 虚 血 性 脳障害 に お ける
CRP の役割
大阪大学 医学部 器管制御学科
○衣笠 友基子、味村 和哉、片山 美穂、エカテリ
ネ ツキティシビリ、金川 武司、冨松 拓治、木村
正
【目的】子宮内感染や新生児敗血症によって児の中枢
神経障害が増悪することがしられている。そのメカニ
ズムは少しずつ解明されているが、未知な部分も多く
存在する。C-reactive protein (CRP)は炎症が起こっ
たときに単球やマクロファージからサイトカインが放
出され、その刺激によって肝臓で生成される急性反応
蛋白であり、絨毛膜羊膜炎の際に臍帯血中に CRP が上
昇することが報告されている。一方、成人において CRP
そのものが心筋梗塞や脳梗塞を増悪させていることが
次々と報告されてきた。そこで、われわれは新生仔ラ
ットを用い、低酸素性虚血性脳障害において CRP その
ものがどのように影響を及ぼしているかを検討した。
【方法】生後 7 日目のラットに対し左総頚動脈を永久
結紮し 8%低酸素下に 40 分間暴露した新生児低酸素性
虚血性脳障害モデルを以下の 3 群に分けた。すなわち、
低酸素曝露直後、24 時間後、48 時間後に、1.ヒトアル
ブミンを投与する群、2.ヒト CRP を投与する群、3.Sham
として低酸素曝露を施行せずに tris buffered saline
を投与する群に分け、最終投与 24 時間後に脳を摘出。
Hematoxylin 染色のうえ、3 群間の脳障害の程度を面積
比で比較・検討した。【成績】CRP 群の左半球は肉眼的
にも大きく欠損を認め、左右の半球比はアルブミン投
与群、CRP 投与群、sham 群でそれぞれ 0.86±0.116、0.74
±0.083、1.03±0.085 で、CRP 投与群はアルブミン投
与群や sham 群に比して有意に脳障害の増悪を認めた
(p=0.03)。
【結論】 炎症に伴う CRP の上昇そのものが
脳障害を増悪させることが示唆された。そのことは、
感染症により脳障害を増悪させるメカニズムの一つと
考えられた。
P-067
P-068
300
新生児発作のモニタリングのための電極
数を減らした脳波記録の試み
順天堂大学 医学部 小児科 1、安城更生病院 2、順天
堂練馬病院 3
○齋藤 雅子 1)、奥村 彰久 1)、久保田 哲夫 2)、城所
博之 2)、東海林 宏道 1)、久田 研 1)、李 翼 1)、新島
新一 3)
【目的】新生児発作の診断に脳波検査は不可欠であり、
治療効果判定のためには可能なかぎり脳波モニタリン
グを行うことが望ましい。しかし、実際に多くの電極
を装着したまま長時間の記録を行うことは難しい。今
回より容易に少ない電極で脳波モニタリングを行うた
めにはどのような電極の配置、誘導を組むことが有効
かを検討した。
【対象および方法】通常の脳波記録で発作時期録が確
認されている修正 38-41 週の 6 例の脳波記録を対象と
し た 。 通 常 の 誘 導 と し て AF3-C3, C3-O1, AF4-C4,
C4-O2, AF3-T3, T3-O1, AF4-T4, T4-O2 の 8 誘導で判読
した。簡易的な誘導として前頭部から後頭部をそれぞ
れ左右に結んだ AF3-AF4, C3-C4, T3-T4, O1-O2, の単
一誘導、および左右のそれぞれの部位を前頭部と結ん
だ[AF3-O1, AF4-O2]、[AF3-C3, AF4-C4]、[AF3-T3,
AF4-T4]の二つの誘導のセットで発作時の記録が判読
可能か検討した。
【結果】発作の起始部は前頭部 1 例、中心部 3 例、側
頭部 3 例、後頭部 2 例(重複あり)であった。簡易的
な誘導で発作時の判読が可能であったのはそれぞれ 6
例中 AF3- AF4 が1例、C3-C4 が6例、 T3-T4 が5例、
O1-O2 が 1 例、および[AF3-O1, AF4-O2]が 6 例、
[AF3-C3, AF4-C4]が 5 例、
[AF3-T3, AF4-T4]が 5 例
であった。
【考察】各部位を左右に結んだ単一誘導では前頭部、
後頭部では判読は困難であったが、中心部、側頭部で
はほぼ全例が判読可能であった。前頭部と各部位を結
んだ電極ではほぼ全例が判読可能であった。電極装着
の簡便性も考慮すると前頭部と中心部あるいは側頭部
を結んだ誘導のみで発作のモニタリングは可能である
と思われた。通常の誘導での脳波記録と簡易的な誘導
でのモニタリングを組み合わせることは新生児けいれ
んの診断、治療に有用であると思われた。
新生児中枢病変の検出における MRI 拡散
強調画像(DWI)の有用性
安城更生病院 小児科 1、名古屋第一赤十字病院 小児科
P-069
P-070
2
○服部 哲夫 1)、伊藤 美春 1)、城所 博之 1)、久保田
哲夫 1)、丸山 幸一 2)、加藤 有一 1)、小川 昭正 1)
【はじめに】MRI 拡散強調画像(diffusion weighted
imaging 以下 DWI)は中枢神経の急性期病変の検出に優
れており、新生児領域においても病変の早期検出の一
手法として期待される。われわれは当院で経験した DWI
異常の 5 例を呈示し、DWI の有用性を考察する。
【症例 1】在胎 33 週 2 日、出生体重 1728g、女児。Apgar5
点/6 点(1 分/5 分)
。二絨毛膜二羊膜性双胎。長期切迫
早産管理の後、緊急帝王切開で出生。生後 2 日間人工
換気。日齢 5 の頭部 MRI で側脳室周囲の広範囲な DWI
高信号域を認めた。その後同部位は嚢胞変化を呈し
cystic PVL と診断。
【症例 2】32 週 2 日、1690g、女児。Apgar5/6。一絨毛
膜二羊膜性双胎。双胎間輸血症候群の急速な進行で一
子が胎児死亡し、緊急帝王切開。生後、全身炎症反応
症候群様の病態を呈した。日齢 10 の DWI で三角部周囲
白質、前頭葉皮質、脳梁膨大部に高信号を認めた。そ
の後著明な多嚢胞性脳軟化を呈した。
【症例 3】30 週 5 日、2200g、男児。Apgar3/5、経膣分
娩。生後 4 日間人工換気。頭部超音波検査で左右非対
称のハイエコー域を認め、日齢 6 に頭部 MRI を施行。
右半卵円を中心に点状に DWI 高信号域を認めた。対側
は DWI 異常信号なく、T1/T2 強調像で小嚢胞の集簇を認
めた。その後の経過より cystic PVL および点状脳出血
4 度と考えた。
【症例 4】39 週 2 日、2830g、女児。産科医院で経膣分
娩。日齢 2 に嘔吐、間代性痙攣を認め当院へ新生児搬
送。日齢 8 の DWI で脳梁膝部および膨大部に一過性の
DWI 異常高信号。軽度新生児仮死によるものと推察され
た。
【症例 5】40 週 1 日、3359g、女児。近隣総合病院で経
腟分娩。日齢 2 に左上下肢痙攣あり、CT で左前頭葉の
実質内出血を認め当院へ新生児搬送された。日齢 4 の
MRI で左前頭部実質内出血および右後頭蓋窩周囲の硬
膜下出血に加え、DWI で左内包前脚と脳梁膝部に高信号
域を認めた。特に左内包前脚は皮質脊髄路の神経線維
の走行に沿って高信号域を認めた。出血の原因は不明
であった。
【考察】DWI の異常信号は、虚血性変化をはじめとする
神経細胞の急性期変化を反映している。従来の検査で
は捉えきれない病変を高い感度で検出することで、DWI
は新生児中枢病変の早期診断および病態解明の有用な
手法になりうるであろう。
301
頭部 MRI 検査にて大脳深部灰白質に一過
性の異常を認めた症例の検討
東京女子医科大学 母子総合医療センター 新生児部
門
○柳 貴英、金子 孝之、田村 良佳、山崎 千佳、
小保内 俊雅、佐久間 泉、楠田 聡、仁志田 博司
【はじめに】低酸素性虚血性脳症(HIE)は新生児疾患
のなかでも重症度、頻度において特に重要な疾患であ
る。従って正確な診断法が要求される。今回われわれ
は臨床経過から軽度の HIE が疑われ、頭部 MRI 検査に
て大脳深部灰白質に類似した一過性の異常所見を認め
た 5 症例を経験した。この所見は周産期の軽度の低酸
素性虚血性の変化を表すと考えられるので報告する。
【症例】在胎週数、出生体重、アプガースコア 1 分値
/5 分値、分娩形式その他を示す。症例1、39 週 1 日
3874g 8/9 鉗子分娩 CK 9070 と高値であった。症例
2、40 週 5 日 3040g 2/10 臍帯脱出、NRFS のため
緊急帝王切開にて出生。症例 3、38 週 5 日 2908g 8/9
胎児頻拍を認めたため緊急帝王切開にて出生。症例4、
38 週 6 日 3028g 9/9 経膣分娩 日齢1より無呼吸
を認めた。症例5、38 週 2 日 2780g 9/9 経膣分娩
生後 2 時間より無呼吸を認めた。
【検査所見】5 症例と
も頭部 MRI で、T1 強調画像で大脳基底核および視床腹
側外側核に異常高信号域を認めたが、T2 強調画像で異
常所見を認めず、拡散強調画像でも異常を認めなかっ
た。これらの症例はすべてその後の経過は良好で、無
呼吸も数週のうちに消失した。症例1、2、3、4は
数ヵ月後に画像所見は正常化し、現在臨床的にも異常
は認めていない(症例 5 は MRI 再検査未実施)
。
【まと
め】大脳深部灰白質に T1 強調画像のみで一過性の高信
号を呈する所見は、軽度の低酸素性虚血性の病態が存
在したことを示唆する。通常はこのような軽度の変化
であれば神経学的予後は良好と考えられるが、長期フ
ォローアップが必要である。
新生児痙攣と低酸素性虚血性脳症におけ
る amplitude-integrated EEG の使用経験
岡崎市民病院 小児科 1、順天堂大学 小児科 2、名古
屋大学 医学部 周産母子センター3
○辻 健史 1)、鈴木 基正 1)、林 誠司 1)、加藤 徹 1)、
早川 文雄 1)、奥村 彰久 2)、早川 昌弘 3)
【目的】amplitude-integrated EEG(以下、aEEG と略す)
は欧米を中心に広く海外で使用されている新生児脳機
能モニタリングの方法である。今回、我々は新生児痙
攣 1 例と周産期低酸素性虚血性脳症 1 例において、aEEG
と通常脳波を同時に記録する機会を得たので報告す
る。
【方法】
VIASYS healthcare 社の NicoletOne Moniter
を使用し、aEEG と通常脳波を同時に記録した。aEEG は
両側中心部に 2 チャンネルの電極を設置し前額部を基
準電極として単極誘導で 6cm/時間で記録した。通常脳
波は両側の前頭・中心・後頭・側頭に 8 チャンネルの
電極を設置し双極誘導で 3cm/秒で記録した。2006 年 9
月から 10 月の間に aEEG を記録した 10 症例のうち、異
常所見を認めた 2 例の aEEG と通常脳波の所見を比較し
た。
【成績】症例 1 は 35 週 0 日、1770g で出生し、日齢
1 より痙攣群発を認めた女児である。aEEG 所見は’
saw-tooth pattern’と判読し、反復する痙攣性突発波
の存在が疑われた。通常脳波では、発作中に焦点が移
動する痙攣性突発波が反復して出現し、背景活動は高
度に抑制されていた。8 チャンネルの通常脳波において
のみ、発作焦点の移動が確認できた。症例 2 は 36 週 6
日、2014g で出生し、胎内受傷が推定された周産期低酸
素 性 虚 血 性 脳 症 の 男 児 で あ る 。 aEEG は
burst-suppression pattern と判読し、通常脳波の背景
活動も burst-suppression であり、両者の判定は一致
した。しかし、症例 2 の通常脳波では disorganized
pattern を認め、受傷機転から数日が経過したことが推
測されたが、aEEG で disorganized pattern の判読は不
可能であった。また、症例 2 の aEEG の band 幅は記録
時 間 に よ り 異 な っ た が 、 通 常 脳 波 で は
burst-suppression の程度は不変であり、アーチファク
トの影響もあると考えられた。
【結論】今回の 2 症例に
おいて aEEG で脳波異常を検出することは可能であっ
た 。 し か し 、 痙 攣 発 作 焦 点 の 同 定 や disorganized
pattern など背景活動の詳細な評価やアーチファクト
の評価のためには、多チャンネルの通常の新生児脳波
の判読も必須であり、aEEG と通常脳波は相補的に用い
るべきと考えられた。aEEG は同時に多チャンネル脳波
を記録できる機能を備えていることが望ましい。
P-071
P-072
302
特発性および潜因性の新生児痙攣の予後
予測における新生児脳波の意義
岡崎市民病院 小児科 1、安城更生病院 小児科 2、名
古屋第一赤十字病院 小児科 3、順天堂大学 小児科 4
○鈴木 基正 1)、辻 健史 1)、林 誠司 1)、加藤 徹 1)、
早川 文雄 1)、城所 博之 2)、久保田 哲夫 2)、丸山 幸
一 3)、奥村 彰久 3,4)
特異な MRI 所見を呈した重度低酸素性虚
血性脳症の 1 例:aEEG の経験も含めて
安城更生病院 小児科 1、岡崎市民病院 小児科 2、順天
堂大学 医学部 小児科 3、名古屋大学 医学部 周産
母子センター4
○久保田 哲夫 1)、服部 哲夫 1)、城所 博之 1)、加藤
有一 1)、小川 昭正 1)、鈴木 基正 2)、加藤 徹 2)、早
川 文雄 2)、奥村 彰久 3)、早川 昌弘 4)
【はじめに】今回我々は生後より全く自発呼吸や体動
を認めず、出生直後の MRI で脳室内出血を認めた重度
低酸素性虚血性脳症の 1 例を報告する。併せて欧米を
中心に新生児脳機能モニタリングとして広まりつつあ
る amplitude-integrated EEG(aEEG)の所見も提示す
る。
【脳波記録】aEEG は同時に通常の脳波記録が可能な
VIASYS healthcare 社の NicoletOne Monitor を使用し、
頭皮電極は名古屋大学新生児脳波記録様式と同様に両
側前頭・中心・後頭・側頭部に 8 電極を設置した。
【症例】在胎 41 週 3 日、出生体重 2660g(-1.4SD)の女
児。妊娠経過に異常なし。微弱陣痛のため誘発後、
variable deceleration を頻回に認めたが分娩は進行
した。出生直前に心拍 60-80/分の胎児徐脈が 10 分ほど
続き、鉗子分娩にて出生した。アプガースコアは 1 分 1
点、5 分 2 点で羊水混濁、頚部臍帯巻絡を認めた。心拍
は生後 1 分過ぎには 100/分以上に回復したが自発呼吸
はなく、Mask&Bagging にて生後 35 分に当院へ児搬送
された。当院搬送時、動脈血ガス pH7.244, BE-6.0,
Lac7.81 で AST/ALT/LDH/CK/ フ ェ リ チ ン は
546/298/4076/1338/4417 であった。意識レベルは昏睡
で重度の筋緊張低下を認め、上下肢の Re-coil・原始反
射・深部反射は全て消失していた。頭部エコーにて脈
絡叢・深部白質の高輝度を認め、また ACA、MCA flow
は描出不可能であった。緊急の頭部 MRI にて脳室内に
水平面を伴う intensity の相違を認め、陳旧性の脳室
内出血が疑われた。また大脳全体の皮質・皮質下白質
に DWI 高信号・ADC 低信号の細胞性浮腫と思われる異常
所見を認めた。ABR は波形同定不可能であった。aEEG
では経過中一度も sleep-wake cycling を認めず、生後
3 時間頃 Inactive/flat(FT)、生後 6 時間半頃には Low
voltage とやや改善したかに思えたが、その後また FT
pattern を呈した。生後半日過ぎに大量腹腔内出血を認
め、各種対症療法を施行したが日齢 22 に死亡した。剖
検ではテント上の著明な脳軟化および肝右葉に被膜下
出血,穿破箇所と思われる部分を認めた。
【 考 察 】 脳 幹 障 害 か ら 児 は お そ ら く 胎 内 で total
asphyxia に近い形で受傷し、その影響が出生時にも関
与したと考えた。aEEG は簡便で real time に脳機能を
反映しうる有用な機器であるが、その一方で NICU は
HFO をはじめ aEEG 測定への影響が及びやすい環境であ
る。モニターとしての限界を考慮し、正確な測定や
artifact の判断には通常脳波も同時にモニターするこ
とが必要と思われた。
P-073
P-074
【目的】新生児痙攣の原因は、周産期低酸素性虚血性
脳症や代謝性疾患など急性疾患の占める割合が高い
が、特発性や潜因性のてんかんが新生児期に発症する
症例も存在する。新生児期に身体所見や画像検査等で
異常を認めない場合、予後良好の特発性か、予後異常
のある潜因性かを推定することは困難である。そこで
我々は、脳波所見が、新生児期に痙攣の原因を特定で
きない新生児痙攣の症例の予後予測に有用かどうかを
検討した。
【方法】2000 年より 2006 年の間に岡崎市民
病院および安城更生病院の NICU に入院した症例で、新
生児痙攣を認め、急性疾患および新生児期に診断可能
であった症候性てんかんを除外した 8 例を対象とした。
脳波は、両側の前頭部・中心部・後頭部・側頭部に 8
チャンネルの電極を設置し、発作時を含む 40 分以上の
記録を行った。対象 11 例を、発達予後および発作予後
が良好であった特発性群と、予後不良であった潜因性
群の 2 群に分類し、臨床情報および脳波所見を比較検
討した。
【成績】症例の内訳は特発性群 5 例・潜因性群
3 例であった。潜因性群の 3 例は後に精神発達遅滞が明
らかとなった。全例が、妊娠分娩経過で特記すべきこ
となく、在胎週数・出生体重・アプガースコア・痙攣
発症日齢は両群で差を認めなかった。新生児期に痙攣
以外の神経学的異常所見を認めた症例はなかった。発
作症状は両群で明らかな差はなかった。発作時脳波の
所見は両群とも中心部起始の症例が多かった。発作間
欠時脳波は、特発性群 5 例で、連続性が保たれており
正常と判読されたのに対し、潜因性群の 3 例中 2 例で
非連続性の背景活動を認めた。この非連続性背景活動
は、低酸素性虚血性脳症などの急性期活動低下の所見
と異なり、脳波活動出現部分が高振幅であるのが特徴
であった。潜因性群の他 1 例では発作間欠時脳波は正
常と判読された。
【結論】急性疾患や明らかな症候性て
んかんを除外した新生児痙攣においては、臨床症状や
身体所見のみから新生児期に予後予測を行うことは困
難である。発作間欠時脳波所見が非連続的な場合に精
神発達予後不良の新生児痙攣の症例があることより、
背景脳波活動が予後予測にある程度は有用な可能性が
示唆された。
303
新生児頭部超音波検査における脳室周囲
嚢胞性病変の鑑別
石川県立中央病院 いしかわ総合母子医療センター
小児内科
○上野 康尚、黒田 文人、北野 裕之、西尾 夏人、
堀田 成紀、久保 実
【背景】新生児頭部超音波検査において脳室周囲に嚢
胞性病変を見いだすことがある.これまで,その用語
に混乱があり診断に苦慮するばかりでなく,その成因,
予後を議論するうえで不都合が生じていたと思われ
る.
【目的】2006 年に出版された総説(Epelman et al.
RadioGraphics 2006;26:173-196)を紹介し,用語の
統一を提案する.
【方法】2005 年 4 月から 2007 年 1 月
に当院 NICU に入院した新生児 344 名を対象とし,脳室
周囲嚢胞性病変をこの総説に基づいて,後方視的に再
診断した.また,その診断と成因,転帰との関連を検
討 し た . こ の 総 説 で は , connatal cyst ( CC ),
subependymal cyst(SC)
,Choroid Plexus Cyst(CPC),
Periventricular Leukomalacia(PVL),Porencephaly
(Pc)の 5 病変に分類されている.CC は normal variant
で,冠状断にて側脳室の superolateral angle 直下に位
置する.SC は脳室上衣下胚層のウイルス感染(先天型),
出血(多くは後天型)などに続発し,尾状核視床切痕
に好発することより傍矢状断で Monro 孔より後方に位
置することが多い.CPC は脈絡叢中にみられる嚢胞で,
染色体異常に合併することがあるが正常新生児にも認
められる.多くは自然に消退する.PVL は側脳室外角の
背側,外側に分布し,冠状断では superolateral angle
より上方に位置し CC との鑑別点となる.
【結果】調査
期間中に脳室周囲嚢胞性病変を 11 症例(全入院数の
3.2%)
,12 病変認めた.内訳は CC が 4 病変,SC が 7
病変,CPC が 1 病変で,PVL,Pc は認めなかった.CC
を認めた 4 症例では精神運動発達遅滞は認められなか
った.また経過中,嚢胞の縮小,消失を観察した.SC7
例中上衣下出血に続発したものが 6 例,内 3 例は超低
出生体重児であった.残り 1 例は先天性症候性 CMV 感
染症で生下時より左側脳室上衣下に嚢胞を認め,徐々
に増大した.CPC は air leak のため入院した低出生体
重児(37 週 6 日,2280g)1 例に認めたが自然に消失し
た.本例では SC も同時に認めたが,その他の合併奇形
は認めず,精神運動発達は正常であった.【考察】
Epelman らの総説に基づいて自験例を整然と診断し直
すことができた.CC は Caffey の教科書に記載されてい
る coarctation of the lateral ventricles と同義で,
従来使用されてきた frontal horn (thin walled) cysts
に 相 当 す る と 考 え ら れ る . 従 来 の subependymal
pseudocysts には CC,先天型の SC が混在していたと考
えられる.
当施設における脳室周囲白質軟化症発症
例の検討
帝京大学 医学部 小児科
○代田 道彦、内田 英夫、権東 雅宏、藤井 靖史、
星 順、柳川 幸重
P-075
P-076
【はじめに】脳室周囲白質軟化症(以下、PVL)は、
周産期医療において、児の予後に大きく影響を及ぼす
疾患のひとつである。当施設におけるPVL症例の臨
床像につき検討したので報告する。
【対象と方法】19
98年4月の開設から2006年12月までに当施設
に入院した計1750名のうち、2007年3月1日
の時点でPVLと診断された28症例を対象とした。
入院および外来カルテから、在胎週数、出生体重、単
胎・多胎、Apgar score、前期破水、呼吸
窮迫症候群、慢性肺疾患、無呼吸発作、動脈管開存症、
PVL診断の時期について後方視的に検討した。PV
Lの診断は、超音波検査またはMRI検査所見により
行った。【結果】在胎週数の中央値は29週6日(23
週6日~37週1日)、出生体重の中央値は1339g
(550g~2626g)、双胎9例・単胎19例、A
pgar scoreの中央値は1分値6点(1点~
9点)、5分値8点(1点~9点)、前期破水あり8例(2
8.6%)、RDS合併15例(53.6%)、CLD合
併10例(35.7%)、無呼吸発作合併14例(50.
0%)、PDA合併8例(28.6%)であった。診断時
期は、日齢0から修正3歳4ヶ月まで(入院中15例、
外来13例)であった。これらのうち、頭蓋内病変がP
VL単独であったのは23例であった。この23例で
は、在胎週数、出生体重、Apgar scoreの
中央値はそれぞれ29週6日、1292g、1分値6
点、5分値8点であった。在胎週数別にみると、PV
L発症率は、23週・25週・26週・28週がそれ
ぞれ17.7%・12.5%・8.70%・10.5%
と高かった。これらの予後は、明らかな異常なしが3
例、脳性麻痺のみが7例、精神発達遅滞のみが3例、
ともに認めるものが10例であった。33週未満では、
入院数に占める発症頻度は4.45%であった。【考
察】当施設におけるPVL発症頻度は、これまでの報
告とほぼ一致する結果であった。23症例の内訳では、
外来フォローアップ中に診断された例が13例と5
6.5%を占めた。在胎週数からはハイリスク群であ
っても、入院期間中の経過が順調である場合には診断
が遅れる症例があると考えられた。PVLの早期診断
と介入には、入院期間中の定期的な超音波検査のみな
らず、外来での長期に渡るフォローアップが重要であ
ると考えられた。
304
超低出生体重児の脳室内出血に対するイ
ンドメタシン予防投与の効果の検討
自治医科大学 小児科
○小池 泰敬、高橋 尚人、小宮山 真美、矢田 ゆ
かり、本間 洋子、桃井 真里子
母体の選択的セロトニン再取込み阻害剤
服用にて神経学的異常を認めた 1 例
札幌医科大学 医学部 産科周産期科 1、札幌医科大学
医学部 小児科 2
○菊地 成佳 1)、藤川 知子 1)、遠藤 俊明 1)、堤 裕
幸 2)、本間 真二郎 1)、鈴木 将史 2)
【はじめに】選択的セロトニン再取込み阻害剤(以下
SSRI)は新しい抗うつ剤として 1999 年より国内に導入
されて以来、パニック障害などへも適応が拡大したこ
とで、妊婦に使用される機会が増加している。妊娠中
の服用が胎児に及ぼす影響として、妊娠第 1 三半期に
SSRI を服用した母体から生まれた新生児では、心血管
系異常(心室または心房中隔欠損等)のリスクが増加
したとの報告があるが、催奇形性への関与は明らかに
されていない。また妊娠末期に母体が服用した場合は、
新生児に呼吸障害や易刺激性などの適応不全を認める
可能性が指摘されている。そのため、妊婦には有益性
投与とされてきた従来の SSRI の使用に関して、最近、
関心が高まっている。今回、妊娠 33 週より SSRI を服
用開始した母体から生まれた児において、日齢 3 より
易刺激性などが出現し、その後、数カ月に渡り神経学
的異常を認めた症例を経験したので報告する。
【症例】
在胎 40 週 0 日、出生体重 3183g、Apgar scare 8/8 点
で出生した男児。母体は 3 年前よりうつ病の治療を受
けていたが、妊娠直前に統合失調症と診断されクロナ
ゼパム、オランザピン等などの投薬が開始され、その
後、妊娠 33 週頃より神経症状増悪のためオランザピン
に換わり SSRI の服用が開始となった。在胎 39 週 6 日
時に前期破水のため入院管理となったが、微弱陣痛と
母体 CRP 上昇のため緊急帝王切開にて児は出生した。
生後 24 時間は新生児一過性多呼吸を認めた他に特記す
べき症状なく、日齢 2 には酸素投与を中止し経口哺乳
も可能だった。日齢 3 の朝から激しい啼泣や易刺激性
を認め始め、夕方には発熱、眼振、全身の反り返りと
高 CPK 血症、また口角よりミルクが溢れ出し哺乳も困
難となった。血液・画像検査で特異的な所見を認めな
かったため薬物離脱症状の可能性を考えフェノバルビ
タールの投与を開始し、生後 1 ヶ月頃より軽快傾向を
認めるようになった。しかし、易刺激性や反り返りな
どの神経学的異常は生後 3 ヶ月を過ぎても持続してい
た。
【考察】最近、妊娠後期に SSRI を服用した母体か
ら生まれた新生児において、易刺激性や痙攣様発作な
どの症状を認めることが指摘され注意が促されている
が、十分に病態は解明されていない。また、症状持続
期間や予後についても不明な点が多く、治療の指針と
なるものも少ないため、今後、症例の蓄積が重要と考
える。
P-077
P-078
(目的)静注用インドメタシンを出生後早期から低容
量で投与することにより、脳室内出血(IVH)発症が抑制
されることが報告され、本邦でも新生児臨床研究ネッ
トワーク(NRN)が行った多施設共同ランダム化二重盲
検比較試験でも有意な効果が示された。その結果を受
けて、当院 NICU でも、その治療を導入し、その効果を
検討した。
(方法)2006 年 9 月から、当院 NICU に入院
した在胎 26 週以下の超低出生体重児に対し、NRN 試験
に準じ、生後 6 時間以内に、インドメタシン 0.1mg/kg、
3 回投与を行った。検討項目は IVH、症候性 PDA、高 K
血症(6.5mEq/L 以上)、低血糖(40mg/dl 未満)、乏尿
(1ml/kg/hr 未満)の頻度。比較対照には、インドメタ
シン予防投与を行う以前の、2005 年 1 月から 2006 年 9
月に当院 NICU に入院した在胎 26 週以下の超低出生体
重児を用い、Fischer の直接法、χ二乗検定により統計
学的検討を行った。
(結果)インドメタシン早期投与を
行った児(投与群)は 9 例。平均在胎週数は投与群 24 週
2 日、非投与群 24 週 3 日。平均出生体重は投与群 726g、
非投与群 714g。IVH の発症は投与群で 0/9 例、非投与
群で 7/21 例。非投与群の IVH は 3 度以上 6 例。非投与
群において症候性 PDA の治療が必要であったのは
18/21 例。投与群においては 4/9 例。高 K 血症の発症は
投与群 3/9 例、非投与群 4/21 例。投与群において、低
血糖、乏尿などの副作用は認めなかった。二群間の IVH
発症頻度は Fischer の直接法で p=0.0710、χ二乗検定
では p=0.0479。
(考察)非投与群では重篤な IVH 例が多
く見られたが、投与群では IVH 発症がなくなった。そ
の効果に統計学的な有意差を得るには症例数の蓄積が
必要であるが、IVH の発症が抑制される可能性が高い。
副作用も見られておらず、今後もこの治療を継続した
いと考えている。
305
頭部超音波検査で右側脳腫脹と右中大脳
動脈過灌流を認めた新生児虚血性脳障害
の男児例
福岡大学病院総合周産期母子医療センター新生児部門
○瀬戸上 貴資、江田 真理子、藤原 千鶴、林 仁
美、太田 栄治、森 聡子、小川 厚、雪竹 浩、廣
瀬 伸一
【はじめに】新生児けいれんの原因疾患として脳梗塞
などの虚血性脳障害は新生児仮死に次いで多いと言わ
れている。今回、我々は日齢 2 に左片側性けいれん重
積で発症し、頭部超音波検査で右側の脳腫脹と右中大
脳動脈過灌流を認め、MRI 拡散強調画像で右中大脳動脈
灌流領域の高信号を呈した男児例を経験した。
【症例】日齢 2 の男児、主訴は左下肢間代性けいれん。
母体の抗核抗体陽性で流産予防目的でアスピリン投与
を受けていた。在胎 40 週 2 日、分娩遷延のため吸引分
娩で出生。アプガースコアは 1 分9点、5 分 10 点。出
生後哺乳良好であったが日齢 2 より活気なく哺乳緩慢
となり、左下肢を規則的に動かすけいれんがみられた
ため当院入院。来院時、けいれんは断続的に出現して
おり、刺激に対する反応性の低下、左半身の不全麻痺
を認めた。頭部超音波で右シルビウス裂の不明瞭化と
右中大脳動脈の血流増加を認めた。緊急に行った頭部
MRI 検査で右の島、前頭葉、頭頂葉から後頭葉の一部の
皮質~皮質下に拡散強調画像で高信号、ADC で低信号の
領域を認め近傍の脳溝は狭小化していた。MRA では右中
大脳動脈の拡張がみられた。グリセリン/果糖、フェ
ノバルビタール投与、輸液管理でけいれん、麻痺は消
失、全身状態良好となった。入院時の検査所見では血
糖、カルシウム値などを含め生化学検査に異常を認め
ない。血算、血液ガス正常。凝固・線溶系異常なし。
血中乳酸正常、尿 GC/MS 分析、ろ紙血タンデム質量分
析など代謝スクリーニング異常なし。
【考察】本症例では新生児虚血性脳障害の原因として
脳梗塞やけいれん重積後脳症、血液疾患に伴う虚血性
病変などを考えた。各種検査においてけいれん重積の
原因となり得る異常は認められず。特発性新生児脳梗
塞を考えている。今回、頭部超音波検査で右中大脳動
脈の血流増加がみられた原因は、虚血後の再灌流をと
らえたものと考えている。頭部超音波検査はベッドサ
イドで簡便かつ頻回に施行できる。新生児の片側性け
いれんをみた場合、新生児脳梗塞の存在を念頭に置き
超音波検査を行い、特徴的な画像所見が得られた場合、
頭部 MRI 検査に進む事が望ましい。
P-079
P-080
表在性実質性および軟髄膜出血の 2 例
奈良県立医科大学 新生児集中治療部門 1、奈良県立奈
良病院 新生児集中治療部門 2
○山田 佳世 1)、清水 宏明 1)、西久保 敏也 1)、安原
肇 2)、新居 育世 1)、釜本 智之 1)、高橋 幸博 1)
成熟新生児の頭蓋内出血は、硬膜下、くも膜下、脳室
内に多く、脳実質内出血は比較的まれとされている。
病因は、多くは分娩外傷や仮死、血液疾患、静脈奇形
などによるが、明らかな要因がなくても起こることが
ある。今回我々は明らかな要因なく表在性脳実質性と
軟髄膜に出血を認めた成熟児 2 例を経験したので報告
する。症例 1)日齢 1 の女児。在胎週数 40 週 0 日、出
生体重 3090gで、近医にて頭位経膣分娩で出生。Ap91。生後 29 時間後から約 20 秒程度の無呼吸発作を反
復するため、当院 NICU に搬送された。診察所見は左側
頭部の産瘤以外に異常はなかった。入院時に施行した
頭部エコー検査で左側頭部に High echo space がみら
れたため、頭部CTを施行したところ、左側頭葉の中
側頭回皮質付近からその表面のくも膜下腔にかけて、
少量の出血と小脳テント近傍で硬膜下血腫が認められ
た。日齢 22 の頭部MRIで血腫は硬膜下、くも膜下、
軟膜下の実質内に及んでおり、軟髄膜出血を伴ってい
た。経過は良好で日齢 23 に退院した。症例2)日齢1
の男児。在胎週数 40 週 4 日、出生体重 3336gで当院産
科にて頭位経膣分娩で出生。Ap9-1。生後 17 時間後か
ら顔面のチアノーゼが出現し、無呼吸発作を反復する
ため当院 NICU に入院した。診察所見は異常なく、頭部
エコーにても明らかな異常はなかった。血液検査にて
CRP 2.1mg/dl であったため感染を疑い、抗生剤投与を
行い、無呼吸発作に対してはアミノフィリン製剤を投
与し、腹臥位にて経過観察を行った。呼吸状態はその
後、改善したため、日齢 10 に頭部 MRI を施行した。左
中頭蓋下に硬膜下、くも膜下、軟膜下に及ぶ血腫があ
り軟髄膜出血を伴っていた。経過は良好で日齢 18 で退
院した。
【考察】2004 年に Huang らは成熟新生児の頭蓋
内出血の中に表在性実質性および軟髄膜に特異的に出
血 が み ら れ る も の を spontaneous superficial
parenchymal and leptomeningeal hemorrhage と呼称
した。自験例 2 例の臨床像や出血巣も彼らの報告に合
致した。同症の発症要因として出血巣が骨縫合近傍に
みられることから分娩に伴う縫合への負荷が出血の要
因と推定されている。病因解明には今後さらに症例の
集積が必要と思われる。
306
P-081
会長賞
極低出生体重児における痛み刺激前後の
脳血流の変化(第3報)
P-082
県立広島病院 新生児科 1、東京大学先端科学技術研究
センター2、広島大学院教育学研究科 3
○福原 里恵 1)、近藤 武夫 2)、利島 保 3)、藤原 信
1)
、木原 裕貴 1)、中田 久美子 1)、本田 茜 1)
【目的】第 41・42 回同学会で、痛み刺激後、啼泣や体
動が消失した後も脳血流は上昇しており、その変化に
は左右局在性を認めなかったと報告した。しかし、消
毒開始時より体動や啼泣が始まるため、脳血流の変化
が痛みの影響だけを反映しているかどうかについて判
別できなかった。脳血流の変化と痛みそのものの影響
および左右の局在性について検討した。【対象および
方法】2006 年 6~11 月に当院 NICU に入院した外表奇形、
心疾患など基礎疾患のない 1500g 未満児で、修正 35 週
以降に未熟児貧血に対し rEPO 投与を受けているものの
うち、保護者の同意が得られた 10 名(在胎 25~31 週)
を対象とした。浜松ホトニクス社製 NIRO200 を用いて、
皮下注射以外の一連の操作のみを行う「消毒刺激」と、
皮下注射を施行する「注射刺激」における刺激前後の
前頭部脳血流(測定部位:右・左)を測定した。一人
につき、刺激部位(右・左)×刺激種類(消毒刺激・
注射刺激)の組み合わせ 4 パターンの脳血流を測定し、
総数 40 回(検査時修正 35~39 週・検査時体重 1708~
3140g)の酸素化ヘモグロビン(以下 [HbO2])値を検
討した。
【結果】2(刺激種類)×2(測定部位)×2(刺
激前後)で分散分析を行った結果、刺激前後の主効果
が F(1,
19)=27.887,
p<0.0001 で、
刺激後[HbO2](mean
=0.628)が刺激前[HbO2](mean=0.063)よりも活性化
していた。刺激種類と刺激前後の交互作用が F(1,19)
=5.047,p=0.0367 で有意であった。下位検定の結果、
刺激前後における注射刺激が F(1,38)=28.311,p
<0.0001 で、注射刺激後[HbO2](mean=0.893)が消毒
刺激後[HbO2](mean=0.364)よりも活性化していた。
左右の局在性を見るために注射刺激後[HbO2]を 2(刺激
部位)×2(測定部位)で分散分析をしたが、有意差は
認められなかった。
【考察】皮下注射時の一連の刺激が
児の体動や啼泣という情動的行動を引き起こし、
[HbO2]の変化として現れた。 [HbO2]の差が注射刺激で
大きいという結果から、児の不快感と脳血流量に関係
があると考える。この情動的反応は前頭全体に現れて
おり、早産児における予定日ごろの時期では脳機能分
化が未発達であるため、局在性がないと考える。
小児における脳死判定基準を満たしなが
らも長期生存する1症例の臨床的検討
岐阜県総合医療センター 新生児科
○折居 恒治、内山 温、山田 桂太郎、久保寺
子、山本 裕、長澤 宏幸、河野 芳功
訓
【緒言】今回我々は、出生時の低酸素性脳症によって
脳死判定基準を満たす状態になりながらも 1 年以上長
期生存している症例に関して、患児の医学的状態に関
する考察を行い、また看取り医療の可能性について検
討したので報告する。
【症例】1 歳 2 ヶ月、女児、他院にて 40 週 0 日、出生
体重 3180g にて、心肺停止状態で出生、APGAR score 0/0
点。蘇生行い 30 分後に心拍再開し、当院 NICU 入院と
なった。以後、自発呼吸なく人工呼吸管理を継続、自
発運動・反射は見られず痛覚刺激にも反応せず小児の
脳死判定基準を満たしたが、完全経管栄養にて体重増
加、身長増大は見られていた。肺炎や尿路感染症を度々
繰り返し、生後 200 日の頭部 CT および MRI では大脳の
融解を認め、大脳の不可逆的変性が示唆された。生後 1
年での内分泌学的検査では下垂体系および副腎系ホル
モンは正常であった。
両親は外国人であるが毎週必ず来棟していた。親との
話の中で彼らの母国での子供の病気における死生観で
は、このまま回復の見込みがないのなら、生きている
事は本人にとっては苦しくかわいそうな事で、早く天
国に行って幸せに暮らしたほうが良い。また、このよ
うな状態になった場合には人工呼吸器を外すという医
療行為も選択できるようになっていると話された。在
宅医療の意志はなく、両親は人工呼吸器取り外しを希
望した。
「重篤な疾患を持つ新生児の家族と医療スタッフの話
し合いのガイドライン」を基に多職種から構成される
NICU スタッフと両親とで話し合いを重ねた後、当院倫
理委員会に両親からの希望について諮ったところ、現
段階では人工呼吸器の取り外しは日本の法律において
明確に殺人罪を免れる根拠が示されていないとの理由
で行わない、ということであった。
【考察】患児の医学的状態は小児の脳死判定基準に照
らすと脳死となるが、長期生存し、身体発育も見られ
ることから脳死とは異なった状態であり、脳死判定基
準を満たす場合においても長期生存する可能性が十分
ある事を示した症例と考えられた。小児の脳死判定に
おいては現行の判定基準が内分泌検査所見を加味して
いないことからみても、判定に際しては付加的検査を
行ってより慎重になされるべきであると思われた。
看取り医療を医療機関に普及させるのにあたってはハ
ードとしての法律的裏づけとソフトとしての医療従事
者間の認識の統一の両方を行っていくべきと思われ
た。
307
周波数帯域別聴力検査装置 CochleaScan
による新生児聴力精密検査の検討
倉敷成人病センター小児科
○御牧 信義、天野 るみ
P-083
P-084
新生児の血中 S100β値の検討
福岡市立こども病院 新生児科 1、新生児循環器科 2
○金城 陽子 1)、高畑 靖 1)、中山 英樹 1)、総崎 直
樹 2)
【目的】S100βは脳のグリア細胞などに存在する蛋白
で、脳障害の際に髄液や血液、尿で上昇することが報
告されている。正常新生児の血中 S100β値、および新
生児仮死例において血中 S100βが仮死の重症度を反映
するかどうかを検討する。
【対象】2006 年1月から 12
月の 1 年間に当院新生児科に入院した在胎 35 週以上、
出生体重 1500g 以上の症例のうち、0 生日に検体の得ら
れた 39 例。重症奇形、染色体異常合併例は除外した。
このうち 1 分 Apgar score7 点以下を新生児仮死(+)群
(以下 A 群:14 例)、8 点以上を新生児仮死(-)群(以下 B
群:25 例)に分けた。平均在胎週数は A 群 38.8±1.7 週、
B 群 38.0±2.0 週、出生体重は A 群 2974±487g、B 群
2727±602g と有意差なく、Apgar score は、1 分が A
群 3.5±2.5 点、B 群 8.7±0.6 点、5分が A 群 6.6±1.6
点、B 群 9.4±0.5 点といずれも有意差を認めた。人工
呼吸例は A 群 4 例、B 群 5 例。A 群のうち 2 例に痙攣、
3 例に脳波異常を認めた。A 群の 7 例にフェノバルビタ
ール投与および脳低温療法を施行した。B 群の診断は、
呼吸障害 9 例、感染症 2 例、低出生体重 9 例、その他 5
例であった。【方法】入院時(0 生日)に凍結保存した血
清で ELISA 法 (矢内原研究所のキット、感度 98~
6300pg/mL)を用いて S-100βを測定した。
【結果】(1)A
群(4084±2147pg/mL)は B 群(1661±988pg/mL)に比べて
0生日 S100βが有意に高値であった(p=0.01)。A 群の
うち1分 Apgar 3 点以下の群(8 例)と 4~7 点の群(6 例)
では0生日 S100βに有意差はなかった(2)全 39 例で 5
分 Apgar 7 点以下の 10 例(4715.8±1865.0pg/mL)は、8
点以上の 29 例(1777.8±1203.9pg/mL)に比べ0生日
S100βが有意に上昇していた(p<0.01)。(3)臍帯血 pH
7.15 未満の 3 例(5185.0±543.3pg/mL)では、臍帯血 pH
7.15 以上の 6 例(1656.8±459.2pg/mL)に比べて有意に
高値であった(p=0.01)。(4)0生日 S100βと同時点での
pH、HCO3、BE、LDH、CPK、AST、ALT には相関はなかっ
たが、乳酸値とのみ正の相関を認めた(相関係数 0.542、
p<0.01)。【考察】これまでの報告でも仮死児で S100
βは上昇するとされているが、私達の結果も同様であ
った。私たちは第 40 回本学会で 0 生日血中乳酸高値例
は予後不良であったと報告したが、今回の検討で 0 生
日乳酸高値例は 0 生日血中 S100βが高値であった。ま
た検体数は少ないが、臍帯血 pH 低値の症例は血中 S100
βが高値であり、胎内での脳への影響を示唆すると思
われた。
聴性脳幹反応 ABR は、小児期の聴力精密検査法として
欠かすことの出来ない検査である。しかし ABR は検査
時間が長く、周波数帯域別の検討が困難であった。こ
の 欠 点 を 勘 案 し 開 発 さ れ た Fishcer-Zoth 社 製
CochleaScan(CS と略す)は DPOAE を用いて短時間で
1.5、2、3、4、6kHz の 6 周波数帯域別閾値が自動測定
可能である。今回、我々は CS と ABR の検査成績を比較
し、小児期の聴力精密検査法としての CS の有用性につ
いて検討した。
【対象】純音聴力検査と CS 検査を行っ
た正常成人 8 例(A 群)
、聴力障害を疑われ CS 検査を行
なった小児 75 例(B 群)および 2006/3/2~2006/10/20
に倉敷成人病センター小児科外来を受診し難聴を疑わ
れた児および当院周産期センターで出生した先天難聴
のハイリスク児のうち CS 検査と ABR 検査を実施した 22
例 42 耳(男 14 例、女 8 例)(C 群)である。【方法】成
人からは本人の同意を基づき純音聴力検査と CS を同一
日に行い、1.5、2、3、4 kHz における閾値差を算出し
た。難聴精査の一環として CS を実施した B 群において
測定開始から結果表示までの検査時間をストップウォ
ッチで手動計時した。C 群に対しては、保護者から紙面
による同意を得て CS を実施し、かつ検査間隔 30 日以
内に ABR を行った。CS 結果の判定基準は測定可能な 5
周波数中 3 周波数で 40dB を超える閾値を示した場合を
異常とし、ABR も 40dB を越す閾値を異常と判定した。
【結果】1.A 群の成人 8 名に対する純音聴力検査と
CS のうち、1.5、2、3、4 kHz の各周波数における2検
査の閾値差は最大 9.4 dB であった。2.B 群の 75 例に
おける CS の検査時間は平均 311 秒であった。3.C 群
において CS と ABR の判定結果が一致したのは 42 耳中
39 耳、92.3%だった。ABR を至適検査とした場合の CS
の感度は 100%、特異度 89.7%、そして陽性反応適中度
は 81.3%と高い値を示した。【考察】純音聴力検査と CS
検査の閾値には大きな差異は認められなかった。ABR
検査と CS 検査の比較により、小児期のみならず、新生
児期においても短時間に周波数帯域別閾値を測定可能
な点で、ABR を補完しうる小児期の聴力精密検査機器と
しての可能性が示唆された。今後、多数例における検
討が望まれる。
308
P-085
ラット羊膜細胞を用いた神経再生の試み
胎児水腫を合併した先天生心疾患の後方
視的検討―胎内死亡例を含む検討―
日本赤十字社医療センター1、日本赤十字社医療センタ
ー 小児科 2、日本赤十字社医療センター 産婦人科 3、
葛飾赤十字産院 小児科 4
○与田 仁志 1)、矢代 健太郎 1)、山本 和歌子 1)、遠
藤 大一 1)、中島 やよひ 1)、川上 義 1)、土屋 恵司
2)
、杉本 充弘 3)、水書 教雄 4)
【はじめに】胎児水腫をきたす原因疾患は多岐にわた
る。頻度としては少ないものの心血管系異常もその一
つである。今回我々は,当院で胎児診断された心疾患
に起因する胎児水腫の症例について後方視的に検討し
た。
【方法】1992 年から 2005 年までの 13 年間当院で診
断した先天性心疾患に起因する胎児水腫例を対象と
し,胎内死亡・人工流産例も検討内容に含めた。対象
となったのは 16 例で,それらの胎内診断,周産期管理,
新生児管理,転帰について検討した。【結果】対象 16
例の心疾患の種類は Ebstein 類縁疾患 6 例が最も多く,
肺動脈閉鎖に房室弁逆流をともなう心疾患 3 例、心内
膜床欠損に房室弁逆流をともなう心疾患 1 例、早期動
脈管閉鎖1例(以上右心系疾患群:11 例)の他、大動
脈狭窄及び僧帽弁狭窄逆流1例,左心低形成・卵円孔
閉鎖1例(以上左心系疾患群:2 例)、さらに完全房室
ブロック1例,心房粗動1例、上室性頻拍1例(以上
不整脈群:3 例)であった。転帰は胎内死亡 7 例(うち
人工流産 3 例)
,出生後死亡 2 例,生存例 7 例であった。
人工流産の 3 例は診断週数が早く予後の観点から家族
との話し合いにて決定され,胎内死亡は積極的な早期
娩出を試みずに自然経過で胎内死亡に至った。出生後
死亡例は積極的な出生前後の治療を実施した例であっ
た。生存例 7 例は Ebstein 類縁疾患 3 例と早期動脈管
閉鎖 1 例、心内膜床欠損 1 例、頻拍性不整脈 2 例であ
った。出生後死亡の 2 例は大動脈狭窄・僧帽弁狭窄逆
流の 1 例(心不全)と肺動脈閉鎖の 1 例(敗血症)で、
胎内死亡・人工流産の 7 例は左心低形成、完全房室ブ
ロック、無脾症候群、肺動脈閉鎖・大血管転位の 1 例
と Ebstein の 3 例(1 例は頭蓋内出血合併)であった。
【結語】先天性心疾患に起因する胎児水腫例は出生前
後を通じて予後不良が存在する。生後の肺血管抵抗の
低下で心不全の軽快が期待される Ebstein 類縁疾患や、
異常な胎児環境から脱却できる早期動脈管閉鎖や頻脈
性不整脈例では、比較的早産であっても生命予後は比
較的良好であった。その他の症例は予後不良であり、
特に左心系の異常は未熟性が除去されても胎外血行動
態が確立せず救命できなかった。また、胎内死亡や人
工流産もあり慎重な医療面接が求められる。
P-086
筑波大学 大学院人間総合科学研究科 小児外科学分
野
○小室 広昭、瓜田 泰久、金子 道夫
【目的】胎児由来の組織である羊膜には、未分化な細
胞が含まれており、幹細胞として利用できる可能性が
ある。羊膜は、分娩後に廃棄されるため、使用に関し
て倫理的な問題も生じにくく、無侵襲で多量に採取が
可能である。しかも、出生直後より自己細胞としての
利用が可能であるばかりか、妊娠中に羊水より採取す
ることにより胎児治療への応用の可能性も考えられ
る。この羊膜の新たな幹細胞供給源として可能性を探
るべく、ラット羊膜細胞を用いて検討を行った。
【方法
および結果】妊娠 15 日目のラットの胎児から羊膜を採
取 し た 。 DMEM 中 で 細 切 し た 後 、 0.125%tripsin と
0.05%DNase で処理をし、フィルタリング後遠心して羊
膜上皮細胞を単離、培養した。1)培養した細胞から
RNA を抽出し、未分化マーカー遺伝子の発現について
RT-PCR を 用 い て 解 析 し た と こ ろ 、 Nestin お よ び
Vimentin の発現が認められた。2)そこで、神経系の
分化誘導培地を用いて培養を試みたところ、細胞の形
態は大きく変化し神経系細胞様の形態を示した。免疫
染色にて検討したところ、未熟神経細胞のマーカーで
あるβIII-tubulin 陽性の細胞が確認された。成熟神経
細胞、アストロサイト、オリゴデンドロサイトのマー
カーはいずれも陰性であった。3)分化誘導前後の羊
膜細胞から採取した RNA を用いて RT-PCR を行い、中枢
神経系と末梢神経系の各マーカーについて検討を行っ
た。その結果、中枢神経系のマーカーのみならず、末
梢神経系のマーカーについても発現が確認された。4)
ラットの脳虚血モデルを用いて、in vivo での検討を行
った。新生 7 日のラット右頚動脈を結紮し、1.5 時間低
酸素状態においた。虚血 24 時間後、細胞膜を蛍光標識
した羊膜細胞を側脳室周囲に移植し、2 週間後にと殺し
た。蛍光顕微鏡による観察から、標識された羊膜細胞
は確認されたが、移植後 2 週間では神経のような突起
は確認されなかった。【結語】本研究により、羊膜細胞
が神経系への分化傾向を示し、少なくとも未熟神経細
胞に分化誘導されることが示された。成人では神経幹
細胞は脳の特定部位にのみ存在が確認されており、実
際の採取には大きな侵襲がかかるため、非侵襲的に採
取 可 能 な 羊 膜 は 神 経 幹 細 胞 に 代 わ る 有 力 な Cell
source になりうるものと考えられた。
309
多発奇形に胸部大血管拡張・動脈瘤を合併
しTGFβ2R変異を認めた新生児の1
例
名古屋第一赤十字病院 総合周産期母子医療センター
新生児科 1、独立行政法人国立病院機構 名古屋医療セ
ンター 臨床研究センター2
○孫田 みゆき 1)、松沢 要 1)、伊東 真隆 1)、安田 彩
子 1)、鬼頭 修 1)、鈴木 千鶴子 1)、村松 友佳子 2)
【はじめに】
近年、マルファン症候群および類縁の動脈疾患におい
て TGFβR2遺伝子(transforming growth factor-β2
受容体をコードする遺伝子)など種々の遺伝子変異と
の関連が報告されている。今回我々は、出生時から多
発外表奇形、大動脈拡張・肺動脈瘤を含む重度の心血
管系異常を呈し、TGFβR2 遺伝子変異を認めた症例を経
験したので報告する。
【症例】
症例は在胎 41 週 3 日、出生体重 3,336g の男児。自然
分娩にて出生。家族歴・妊娠経過に特記すべきことな
し。外表奇形として小顎、口蓋裂、斜視、手指の変形、
内反足、鼠径ヘルニアを認めた。出生時の心エコーに
て、上行大動脈拡大、肺動脈拡大、肺動脈瘤形成、大
動脈および肺動脈の弁輪拡大、心室中隔欠損、心房中
隔欠損、動脈管開存を認めた。染色体検査は、46,XY
正常核型であった。肺血流増加に伴い心不全が進行し
たため、日齢 12 肺動脈絞扼術を施行した。その後、肺
動脈の拡張や肺動脈瘤の拡大が進行した。日齢 32 から
感染症罹患に伴い心不全の悪化を認め、また拡張した
血管の気道圧迫による呼吸障害の悪化も進行した。心
嚢水貯留、貧血も出現し、動脈瘤破裂の恐れもあった
ため、日齢 42 心室中隔欠損および心房中隔欠損欠損孔
閉鎖術、肺動脈瘤縫縮術を施行した。拡張した血管壁
は薄く、血管壁から血液が漏出しており、心嚢水は血
性であった。術後呼吸状態の改善を認めたが、日齢 68
から再び呼吸状態が悪化し陽圧換気を開始した。気管
支ファイバーにて気管支軟化症と診断した。日齢 75 に
は緊張性気胸を発症し、胸腔ドレナージを施行した。
今後も陽圧換気が必要であり、気管切開を行う予定で
ある。ご両親の同意を得て、マルファン症候群類縁動
脈疾患に関連する遺伝子について検索を行ったとこ
ろ、TGFβR2 遺伝子の【Met457Lys】変異を認めた。FBN1
遺伝子、FBN2 遺伝子、TGFβR1 遺伝子には原因と考え
られる変異は認めなかった。全身の血管病変の検索で
は、頭蓋内血管の拡張、蛇行がみられた。今後も全身
の血管病変の進行に注意してフォローする予定であ
る。
【まとめ】
今回我々は、新生児期から重度の胸部大血管拡張およ
び動脈瘤を認め TGFβR 遺伝子変異を示した症例を経験
した。TGFβR 遺伝子変異は進行性で広範な血管疾患(動
脈瘤や動脈解離など含む)との関連が分かってきてい
る。新生児期より発症している症例は希であり、文献
的考察を加えて報告する。
P-087
P-088
胎児 MRI で肺過膨張および腹水の改善を
認めていた、先天性上気道閉鎖症の 1 例
獨協医科大学 小児科 1、獨協医科大学 産婦人科 2
○渡部 功之 1)、栗林 良多 1)、山崎 弦 1)、新田 晃
久 1)、鈴村 宏 1)、渡辺 博 2)、有阪 治 1)
【はじめに】先天性上気道閉鎖症(congenital high
airway obstruction syndrome: CHAOS)は、近年、胎
児エコーおよび MR により出生前診断が可能となり、
EXIT(ex utero intrapartum treatment)での分娩報
告が増えてきている。今回我々は、2回目の胎児 MR で
肺過膨張および腹水の改善を認めていたため EXIT を選
択しなかったにもかかわらず、出生後は典型的な CHAOS
の経過を呈した 1 例を経験したので報告する。
【症例】
在胎 22 週時に羊水過多があり、胎児エコーで高輝度拡
張した胎児肺が見られ、胎児 MR においても高信号を伴
う肺の過膨張を認めたため CHAOS が疑われた。胎児腹
水も認められた。この時点で EXIT での分娩を計画した
が、その後エコーで羊水過多および胎児腹水の改善を
認め、在胎 36 週時での2回目の胎児 MR では肺の高信
号・過膨張所見および腹水は消失していた。そのため、
原因は不明だが気道閉塞が解除されつつあると判断
し、あえて EXIT は選択しなかった。ただし緊急気管切
開の準備を整えた上で、小児科医・耳鼻咽喉科医立ち
会いのもと、在胎 38 週 4 日で分娩誘発を行った。出生
時体重 2438g。 児は出生直後から高度の呼吸障害を呈
し、気管内挿管を試みたが径 2.0mm のチューブも挿入
不可能であったため、緊急気管切開を施行した。出生
後約 6 分で気管カニューレを挿入し、チアノ-ゼは改
善した。気管内から肺液は吸引されなかった。その後、
人工呼吸管理を行い、日齢 12 には人工呼吸器から離脱
した。心エコー検査では、VSD・ASD を認めた。胸部 CT
および気管支鏡検査の結果、声門直下に 4mm 厚の閉鎖
を認めたが、気管食道瘻の存在は確認できなかった。
現在、自発呼吸下で経口哺乳を行い、安定した状態を
維持している。
【考察】本例において、2回目の MR で
の改善の機序が不明であるが、気管食道瘻が存在して
いた可能性は否定できない。妊娠中期に CHAOS と胎児
診断した場合、胎児 MR 上は肺過膨張などの所見が改善
することがあっても、EXIT を含めた厳重な出生管理が
必要と考えられた。
310
気管気管支軟化症を併せ持つ ARC 症候群
の女児の一例
東京都立 清瀬小児病院 未熟児新生児科
○高村 恭子、新藤 潤、吉橋 博史、横山 哲夫
P-089
P-090
3 年以上生存している無顎症の 2 例
琉球大学 医学部附属病院 周産母子センター
NICU1、琉球大学 医学部附属病院 周産母子センター
産科 2
○安里 義秀 1)、吉田 朝秀 1)、佐久本 薫 2)
はじめに:無顎症は第一鰓弓の発生異常による下顎骨
の欠損と、全前脳症、内臓逆位などを合併する奇形で、
気道確保が困難であるためそれ自体が予後不良因子で
あるが、特異的な顔貌と種々の合併症の報告があるた
め積極的な新生児蘇生が避けられ、長期生存の報告が
極めて少ない疾患である。我々がこれまでに経験した
三例の無顎症のうち現在生存している二例について報
告する。症例1:血族結婚でない 33 歳の母親と 39 歳
の父親の第 3 子の男児で、両親の家族歴・既往歴に特
記すべきことはない。先天性食道閉鎖の疑いで経過観
察していたが、在胎 35 週、胎児仮死のため緊急帝王切
開で出生した。出生時啼泣認められず、ブレードを挿
入できないほどの小顎、小口を認めた。気管支ファイ
バーを使用し径 2.5mm の挿管チューブで気管内挿管し
た。アプガースコアーは 1 分値 3 点、5 分値 6 点、10
分値も 6 点であった。頭部レントゲン写真では下顎骨
の欠損を認めた。心臓逆位、内臓逆位以外の異常は認
めなかった。NICU 入室時呼吸不全、縦隔気腫を認めた
ため人工換気を 1 週間行った。生後 2 週目で気管切開
を行い、生後 2 ヶ月で胃瘻造設した。現在 7 歳で普通
小学校に通学している。聴力は右 35dB、左 40dB。新版
K 式発達検査は P-M 領域だけ行い DQ86 である。症例2:
血族結婚でない 37 歳の母親と 30 歳の父親の第二子。
自然流産歴二回。羊水過多のため在胎 28 週より当院産
婦人科でフォローされ、無顎症の胎児診断を受けてい
た。関連科で調整し娩出方法(帝王切開)
、蘇生の手順
を設定し待機とした。在胎 35 週 5 日陣発したため緊急
帝王切開で出生したが、著明な小口、小顎のため気管
内挿管ができず気管切開を行った。NICU 入室後両側気
胸を認め、脱気を行ったが呼吸状態は悪化し、体外式
膜型人工肺(ECMO)の導入となった。ECMO は 181 時間
で終了。日齢 4 日に胃瘻造設。日齢 47 日より日齢 60
まで母児同室。以降自宅近くの総合病院でのフォロー
のため転院となった。転院後の経過は良好。現在 3 歳
7ヶ月。療育施設に週2回通所訓練を行っている。聴
力は 50~60dB。発達は P-M 領域だけ行い DQ63 である。
考案:無顎症は生直後の気道の閉塞と気道確保困難な
うえに、全前脳胞症などの中枢神経系の重篤な合併症
があるため予後が極めて不良な疾患であるが、中枢神
経系の合併症が無い症例においては療育の工夫により
良好な発達が期待できる疾患であると思われる。
ARC 症 候 群 は 、 先 天 性 関 節 拘 縮
(arthrogryposis) 、 腎 尿 細 管 障 害 (renal tubular
dysfunction)、胆汁うっ滞(cholestasis)を主徴とする
症候群である。常染色体劣性遺伝疾患で、15q26.1 にあ
る VPS33B の変異が原因領域である。
今回私達は、
気管気管支軟化症を合併する ARC 症候群を経験した。
これまでの ARC 症候群に関する報告の中で、呼吸器合
併症を伴う例がなかったためここに報告する。
[症
例]在胎 37 週 4 日、
帝王切開にて出生。APGAR6/8。
出
生時体重 2666g(-0.8SD)、身長 46cm(-1.4SD)。出生
時に多関節拘縮(特に股関節・膝関節)、rocker-bottom
feet、魚鱗癬様の落屑性皮膚、筋緊張低下を認めた。
経過中蛋白尿、糖尿、汎アミノ酸尿、尿中βミクログ
ロブリン高値、10-20mEq/l と大量の HCO3 補充で改善
する代謝性アシドーシスを認めた。血清クレアチニン
値も 0.4-0.7mg/dl と高く、以上より腎尿細管性アシ
ドーシスを伴う腎機能障害と判断した。
また、3
-4mg/dl で推移する高直接ビリルビン血症を認めた。
超音波検査、内分泌学的検索より先天性胆道閉鎖症、
下垂体機能低下症は否定的であった。
低換気、
特に怒責や啼泣時にチアノーゼを生じるエピソードを
頻回に認め、人工呼吸管理を必要とした。日齢 127 に
行った気管支ファイバー検査で気管気管支軟化症と診
断した。
[考察]先天性の多関節拘縮、腎尿細管性
アシドーシスと診断できる腎尿細管障害、他の原因を
否定した胆汁うっ滞の 3 徴候より私達は ARC 症候群を
疑った。遺伝子解析により
VPS33B 変異が認められ
た為、確定診断に至った。本症例の呼吸不全の原因は
胸郭狭小、呼吸筋低形成などに起因する低換気のみで
は説明できず、気管気管支軟化症が大きく関与してい
ると考えた。私達の調べた範囲では気管気管支軟化症
を有する ARC 症候群の報告は過去に見当たらない。関
節拘縮をきたす疾患に気管気管支軟化症が合併すると
いう報告は認められる。気管気管支軟化症が本疾患の
一症状であるのか、偶然の合併であるのか明らかでは
ない。今後より多くの症例で検討が必要と考えられる。
[結語]ARC 症候群では、呼吸器合併症の検索も必要であ
る。
311
胎児期に一過性の尿瘤を認めた異形成腎
の一例
桐生厚生総合病院 小児科 1、桐生厚生総合病院 産婦
人科 2
○大津 義晃 1)、桑島 信 1)、浦野 博央 1)、渡邉 正
之 1)、針谷 晃 1)、亀田 高志 2)、深石 孝夫 2)
腹腔内空気注入・ステロイド投与を契機に
腹水の減少をみた先天性乳び腹水の1例
亀田総合病院 小児科 1、亀田総合病院 産科 2、亀田
総合病院 小児外科 3
○吉崎
加奈子 1)、渡井 有 3)、佐藤 弘之 1)、河村
有紀子 1)、鈴木 真 2)、杉林 里佳 2)、
誠次 1)、高橋
2)
幸子 2)
柳沼 由紀 、水谷 佳世 1)、清水
(はじめに)先天性乳び腹水の新生児においてステロ
イド投与・腹腔内空気注入を契機に腹水の軽快を認め
た一例を報告する。
(症例)在胎33週0日,出生体重
2578g,男児(経過)在胎22週に胎児腹水によ
り当院産科紹介受診,腹水増大傾向のため30週5日
に入院となった。入院日209ml,32週2日に4
27mlの胎児腹水除去を施行したが腹水増加傾向で
あった。除去腹水は黄色透明,細胞数850,リンパ
球が90%を占め乳び腹水と診断した。33週0日に
陣発し胎児腹水除去後に帝王切開にて娩出,アプガー
スコア1分1点,5分5点,挿管蘇生後 NICU 入室とな
った。腹腔ドレーン留置し腹水除去・補正を反復した。
日齢0に 60ml,日齢1に100ml,日齢2に100
ml排液した。日齢5に人工呼吸器中止後も腹囲増大
するためドレーン再留置し220ml排液,TPNを
開始した。日齢6より母乳,日齢8よりMCTミルク
を開始した。腹囲増大が続き呼吸障害,嘔吐認めるた
め日齢13腹水123ml除去したが改善なかった。
日齢 15腹水 200ml 排水後に空気50ml 注入し,日齢
16よりプレドニゾロン 2.3mg/kg/d 分2経口投与を開
始した。日齢18より体重増加はみられるが腹囲減
少・腹水貯留は改善傾向である。
(考案)今回,MCT
ミルク,TPNおよびドレーンによる反復腹水排液に
反応しなかったが腹腔内空気注入・ステロイド投与を
契機に腹水の減少をみた先天性乳び腹水を経験した。
腹水が除去された際に、腹腔内空気注入により腹腔内
圧を一定時期保ち、腹水際貯留をある程度防止できる
ものと思われた。空気による物理的圧迫の他に,開腹
で漏出部位を同定できなかった症例でも腹水が消失し
たという症例は35%との報告があることより空気に
より惹起された漏出部の組織変化またはリンパの化学
変化などが乳糜漏出を抑えた可能性がある。ステロイ
ド投与で乳糜胸・乳糜腹水が減少する報告は散見され,
リンパの分布変化,リンパ系細胞への直接的抑制作用
などが予想されている。ヌクトレオタイド投与の報告
もあるが血糖変化などの副作用があり,一般的に使い
慣れているステロイド投与の方がコントロール容易で
あると思われる。今回ステロイド投与と併用したが腹
腔内空気注入のみで軽快をみるのであれば乳び腹水保
存的治療のオプションの1つとして使用できる可能性
があると思われた。
P-091
P-092
【はじめに】尿瘤(urinoma)は一般に尿路閉塞に伴っ
て発症するとされているが、胎児に認められた場合の
発生機序、意義は確定していない。今回、在胎 29 週に
一過性に片側の尿瘤を認め、出生後に形態、腎機能を
評価し、異形成腎であった一例を経験したので、報告
する。
【症例】母体は 24 歳初産婦、24 週、胎児の右腎盂拡大
で近医より紹介され受診した。在胎 29 週 1 日、右腎周
囲に無エコーの液体貯留あり、対側腎は正常で、腹水
の貯留、膀胱の異常な拡大や壁肥厚は認められなかっ
た。在胎 29 週 6 日には無エコー域は縮小し、在胎 31
週には無エコー域消失した。この間、腎孟拡大の程度
は変化しなかった。在胎 38 週 5 日、頭位経腟分娩で出
生した。児は 3356g の男児で外表奇形を認めなかった。
出生後の腎エコーでは右腎は腎盂拡大、皮髄境界が不
明瞭で皮質下に数個の嚢胞を認めた。MAG3 シンチグラ
フィーで右は RI の集積を認めなかった。排尿時膀胱造
影では膀胱尿管逆流なく、後部尿道弁(PUV)も認めなか
った。腎 MRI では多数の皮質下嚢胞を伴い、皮髄境界
が不明確な異形成腎の所見だった
【考案】尿瘤は閉塞性尿路障害により腎盂・尿管の圧
が上昇し、尿が腎皮膜下にもれ出たものと考えられて
いる。胎児・新生児期の代表的な尿路閉塞である PUV
には、尿性腹水とともに尿瘤が認められることがある。
一方、胎児期に観察される尿管拡張を認めない、腎盂
尿管移行部狭窄(UPJO)に合併する尿瘤については、報
告例が少なかった。2006 年 Gorincour らは過去の報告
を集計し、23 例の尿性腹水を認めない胎児尿瘤の 80%
は出生後、無機能の異形成腎であったと報告している。
特に、UPJO の 14 例中、出生後無機能腎が 13 例であり、
一方 PUV では 7 例中 5 例に腎機能が認められたとして
いる。今回の例も報告に一致し、無機能腎で画像診断
からは異形成腎と考えられる。胎児期に観察される PUV
を合併しない尿瘤の場合には腎の機能予後はほとんど
期待できない。
312
ステロイド投与により胸水量が減少した
先天性乳び胸の 1 例
鳥取大学 医学部 周産期・小児医学分野
○堂本 友恒、美野 陽一、中川 ふみ、長田 郁夫、
神崎 晋
【緒言】先天性乳び胸は、しばしば肺低形成や非免疫
性胎児水腫などを伴い、その管理に難渋することも報
告されている。私たちは、昇圧効果を期待して使用し
たステロイドにより、胸水量の減少を認めた先天性乳
び胸の 1 例を経験した。
【症例】在胎 26 週頃より胎児
胸水に気づかれ、胎児胸水吸引を繰り返し妊娠が継続
されるも効果は乏しかった。胎児水腫進行のため、在
胎 34 週 4 日、緊急帝王切開にて出生。出生体重 2453g、
AS1/3 点。顔面および上半身に著明な浮腫が見られ、重
度の肺低形成による呼吸不全、肺高血圧による循環不
全(右心不全)を呈した。胸腔持続ドレナージや胸腔
穿刺にて、胸水を排液し、人工換気、サーファクタン
ト補充、カテコラミン投与、NO 吸入療法、十分な Volume
負荷にて呼吸・循環管理を行った。しかし、補充した
Volume の増加は胸水量の増加につながり、日齢 2 には
850ml もの胸水の排液を要した。血圧は上昇せず、無尿
が続いた。日齢 3 より昇圧効果を期待しステロイド(プ
レドニン 2mg/kg/day)を開始したところ、血圧が上昇
するなど循環の改善がみられるとともに、胸水量が
徐々に減少し、尿量も十分に確保できるようになった。
さらに、顔面や上肢の浮腫も軽快した。プレドニンは
漸減でき、日齢 10 で中止し、他の循環作動薬も漸減、
中止できた。日齢 13 に一旦持続ドレナージを中止でき
たが、日齢 15 から再び胸水が増加し、数日に 1 回胸腔
穿刺を要するようになった。プレドニンを日齢 25 に再
開したところ、日齢 28 を最後に胸腔穿刺の必要がなく
なり、プレドニンを漸減中止した。呼吸障害も徐々に
改善し、日齢 22 で抜管、日齢 49 に nasal-DPAP から
離脱できた。栄養は日齢 14 に MCT ミルクをはじめ、日
齢 41 にミルクに変更できた。大きな合併症は残さず、
日齢 75、修正 45 週 1 日に退院した。【考案】先天性乳
び胸の治療として、ステロイド投与の報告は過去にあ
るものの、数は少ない。その詳細な機序及び長期予後
に不明な点はあるものの、重症例や難治例においては
試みられてもよい治療法であると考えられた。更なる
症例の蓄積が望まれる。
出生直後から貧血症状を呈した Fanconi
貧血の 1 例
埼玉県立小児医療センター 未熟児新生児科
○宮林 寛、川畑 建、河野 淳子、藤澤 ますみ、
長澤 真由美、清水 正樹、鬼本 博文、大野 勉
【緒言】Fanconi 貧血は染色体脆弱性をもつ先天性の再
生不良性貧血であるが、貧血の発症は 4 歳以降が多く、
1 歳以下での発症は稀と報告されている。今回、我々は
日齢 0 に貧血と上肢の奇形で入院し、染色体の脆弱試
験が生後 3 ヶ月時に陽性化した症例を経験したので報
告する。
【症例】母親 23 歳経産婦、家族歴特記事項なし、同胞
は健常。妊娠 29 週から IUGR 傾向を認めていた。妊娠
36 週 6 日、CTG non-reactive のために帝王切開となり
出生した。出生体重 2070g、Apgar score 6 点(1 分)、
8 点(5 分)。
両側前腕の奇形を認め当院に搬送入院した。
入院時身体所見は、活気良好、全身色蒼白、両側前腕
の短縮と母指欠損を認めた。色素沈着は認めなかった。
レントゲン所見では、体幹の骨格の異常は認めず、両
側橈骨低形成、母指欠損を認めた。エコー所見では、
心奇形は認めず、右 L 型癒合腎を認めた(左腎は正位置
に認めない)。血液検査では、WBC 2800/μl(neu 1188/
μl)、RBC 122 万/μl、Hb 5.1g/dl、MCV 102.4fl、Plt9.5
万/μl と汎血球減少を認めた。各種ウイルス抗体価は
陰性であった。母親の HbF は 0.1%以下で、母児間輸血
なども否定的であった。日齢 4 に施行した染色体脆弱
試験では、MMC 添加で 65/100 の break gap を認めたが、
有意な上昇とは判断できなかった(対象 28/100)。濃厚
赤血球の輸血を行い、Hb は上昇したが、以後、WBC(neu)、
PLT の低下も認め、対症療法として、G-CSF 製剤投与、
濃厚血小板輸血、濃厚赤血球輸血を繰り返した。日齢
32 の濃厚血小板輸血を最後に、Plt は 6 万/μl を維持
出来るようになったために、日齢 44、2882gで NICU
を退院した。外来では血液腫瘍科と共にフォローを行
っている。生後 3 か月に施行した骨髄検査では、有核
細胞数 27500、巨核球数 0 と低形成であった。また、同
時に施行した染色体脆弱試験では、MMC 添加で 443/100
の break gap を認め、有意な増加と判断出来た(対象
18/100)。
【考察】本症例は出生時から汎血球減少を認め、橈骨
異常、母指欠損、腎奇形を認めた為に出生時から
Fanconi 貧血が強く疑われた。出生直後から貧血症状を
認めた症例は本邦では検索できず、海外で数例の報告
があるのみだった。治療は、新生児ということもあり、
蛋白同化ホルモンなどは使用せず、現在は対症療法の
みで経過を追っている。今後は骨髄移植に向けて行く
予定としている。
P-093
P-094
313
胎児腹水で発見され出生後腹水検査にて
TAM と診断された Down 症候群の1例
近畿大学 医学部 奈良病院 小児外科 1、近畿大学
医学部 奈良病院 小児科 2
○神山 雅史 1)、米倉 竹夫 1)、小角 卓也 1)、黒田 征
加 1)、山内 勝治 1)、北村 則子 2)、三崎 康志 2)
今回我々は著明な胎児腹水と羊水過少、肺低形成で発
見され、出生後の腹水検査で異常細胞を認め、
Transient abnormal Myelopoiesis (TAM) を合併した
Down 症候群と診断された症例を経験したので、若干の
文献的考察を加え報告する。【症例】在胎 32 週、胎児
超音波検査にて羊水過少、肺低形成、著明な胎児腹水
の貯溜、小量の胸水貯溜、後頚部の浮腫、脾腫を認め
た。また両側腎実質のエコー輝度は高く、膀胱は確認
できなかった。在胎 32 週 5 日、NST 上 viability の低
下、late deceleration を認めたため緊急帝王切開にて
出生した。出生時体重 1470g、男児。Apgar score 2/4。
生直後に蘇生施行。顔貌より Down 症候群が強く疑われ
た。出生時より高度の呼吸障害、腹水、凝固系の異常
(PT10%,以下、Fib 10.0mg/dl 以下、HP 5.0%以下)、貧
血(Hb 8.7g/dl, Ht 29.0%,)、血小板低下(4.6x104)、
無尿を認めた。生後1日に腹水穿刺を施行し漿液性の
腹水を回収した。無尿状態が続いたため、生後2日よ
り腹膜透析を導入した。その後、脳室拡大、脳室内出
血、肺出血を併発し、多臓器不全にて生後6日で死亡
した。染色体検査にて 21trisomy が確認された。また、
腹水の細胞診にて芽球様細胞が認められた。以上より
Transient abnormal Myelopoiesis (TAM)を合併したも
のと診断した。剖検では、膀胱は存在したが、肺低形
成 を 認 め た 。【 ま と め 】 Down 症 候 群 に 合 併 す る
Transient abnormal Myelopoiesis (TAM) の臨床像と
しては、肝脾腫、白血球数の増加、血液中の芽球の存
在などが挙げられる。胎児期に TAM を呈したと考えら
れた症例の報告は検索するかぎり 3 例しかない。胎児
腹水貯留を呈した症例は自験例のみであった。また、
胎児期より羊水過少が存在し、腎実質のエコー輝度が
高かったことより、腫瘍崩壊による腎不全が胎児期よ
り起こっていた可能性も示唆された。
P-095
P-096
全前脳胞症の一例
公立陶生病院 小児科
○井上 摂理、加藤 英子、家田
訓子
【はじめに】全前脳胞症は前脊索中胚葉の発生障害に
よる顔面中央部奇形と前脳分割不全を特徴とする先天
異常である。本症が稀で予後不良な疾患であることも
あり,経過を詳細に記した報告は少ない。我々は 6 ヶ
月間にわたり管理し難治性痙攣にて死亡した全前脳胞
症の一例を経験したので報告する。
【症例】母親は 31 歳,4 経妊 2 経産で,前回の妊娠は
四肢短縮症で人工流産となっていた。妊娠 26 週時に小
頭症,羊水過多のため近医より当院産科に紹介され,
全前脳胞症と出生前診断された。羊水染色体検査は正
常男性核型であった。在胎 36 週 4 日,経膣分娩にて出
生した。出生体重 1652g,身長 46.5cm,頭囲 25.8cm で,
Apgar score は 1 分 2 点,5 分 3 点,気管挿管後 6 分
で 8 点であった。眼間狭小,小眼,小鼻,単一鼻孔,
小口,小顎,猿頭を認めたが,口唇口蓋裂はなかった。
その他停留精巣を認めた。頭部 CT では大脳縦裂などわ
ずかに分葉を認め,semilober 型の全前脳胞症と診断し
た。急性期合併症として気胸,新生児遷延性肺高血圧
症を認めたが,人工換気療法およびミルリノン投与に
て軽快した。原病に伴う汎下垂体機能不全から,中枢
性尿崩症,甲状腺機能低下症が認められた。甲状線機
能低下症については feeding intolerance が認められ
ていたが,L-サイロキシンの経口胃管からの投与にて
改善した。中枢性尿崩症に対し,日齢 5 より AVP 持続
静注(1.4~2.0mU/kg/h)を行い,日齢 19 より DDAVP
(60μg/日)の注腸投与に変更した。腸管からの吸収
で血中濃度が安定していたため,日齢 38 より経口胃管
による胃内投与(80μg/日)への変更を試みたが,尿
崩症は良好にコントロールされた。のちに複雑性尿路
感染症を合併し,ST 合剤を予防内服した。出生時に予
測された予後より安定していたが,生後 5 ヵ月時に痙
攣が出現した。フェノバルビタールの内服を開始した
が薬疹のため中止しバルプロ酸に変更した。その後も
痙攣のコントロールがつかず,日齢 183 に痙攣重積を
おこしジアゼパム,ミダゾラムにても止まらず,フェ
ニトインにて痙攣は頓挫したが,徐脈となり蘇生に反
応せず永眠した。
【考察】今回我々は,出生前診断された全前脳胞症の
一例を経験した。本例が稀で予後不良な疾患であるこ
とから経過や治療法に関する報告も少なく,中枢性尿
崩症,痙攣が難治で治療に難渋した。周産期医療の進
歩に伴い,本例のような重症先天異常児が救命される
ようになり,長期管理経験の蓄積が望まれる。
314
P-097
頭蓋内外に増殖した上顎体の一例
当院 NICU における過去6年間の染色体異
常症例の検討
千葉県こども病院 新生児・未熟児科 1、千葉大学公衆
衛生学教室 2
○相澤 まどか 1)、内藤 幸恵 1)、石井
拓磨 2)
P-098
地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪府立母子保
健総合医療センター 産科 1、大阪府立母子保健総合医
療センター 検査科 2、大阪府立母子保健総合医療セン
ター 口腔外科 3
○奥野 健太郎 1)、濱中 拓郎 1)、数見 久美子 1)、木
下 聡子 1)、瀬戸 佐和子 1)、福井 温 1)、末原 則幸
1)
、中山 雅弘 2)
上顎体は口腔内、又は鼻腔内より発生する奇形腫と定
義される。新生児の奇形腫は約4000出生に1例と
報告されているが、上顎体は奇形腫全体の2~9%で
あり、35000~200000出生に1例と稀な疾
患である。今回、我々は妊娠23週時に超音波にて胎
児の口腔内より発生する径13cm大の腫瘍とそれに
よる嚥下困難の結果と思われる羊水過多を指摘され、
25週より胎児水腫、26週に子宮内胎児死亡に至っ
た症例を経験した。腫瘍は頭蓋内へも進展し、頭蓋内
部分は径7cm、頭蓋内の約2/3を占拠し、脳実質
は辺縁へと圧排されていた。子宮内胎児死亡確認後、
帝王切開を施行した。当院において病理解剖をおこな
ったところ、腫瘍が鼻中隔より発生し、頭蓋内の腫瘍
と連続していた事を確認し、病理診断は未熟奇形腫で
あった。本症例の臨床経過に加え、当院で経験した他
の4症例も併せて検討し、文献的考察を加えて報告す
る。
【目的】当院 NICU における染色体異常症例の状況を明
らかにし、問題点を考察する。
【対象と方法】2000 年 1
月 1 日より 2006 年 12 月 31 日までに、当院 NICU に入
院となった染色体異常症例を後方視的に検討した。
【結果】全入院数は 1165 例、そのうち染色体異常症例
は 77 例(6.6%)。在胎週数 37.5±2.5 週、出生体重 2934
±856g。症例の内訳は 21 トリソミー43 例(55.8%)
、
18 トリソミー8 例、13 トリソミー5 例、22q11.2 欠失
症 5 例、その他(5p―症候群など)16 例、死亡例は 8
例(10.3%)であった。症状別にみると(重複有)
、先
天性心疾患 51 例(66.2%)、鎖肛・消化管閉鎖などの
外科疾患・水腎症などの泌尿器疾患 18 例(23.3%)
、
口唇裂・口蓋裂・多指症などの形成外科疾患 5 例(6.5%)
であり、6 割が心疾患を有した。手術施行例は 20 例
(28.5%)
、心臓手術 15 例(動脈管結紮術 3 例、肺動
脈絞扼術 3 例、BT シャント術 3 例、心内修復術・根治
術 5 例)
、外科・泌尿器手術 9 例(十二指腸狭窄・閉鎖
2 例、食道閉鎖 1 例、鎖肛 3 例、臍帯ヘルニア 1 例、後
部尿道弁 1 例、腎瘻 1 例)
。手術施行例のうち、21 トリ
ソミーが 15 例(75%)であり最多であった。死亡症例
の内訳は 13 トリソミー3 例、18 トリソミー2 例、21 ト
リソミー2 例、その他 1 例であった。【考察】当院は新
生児外科疾患を扱える県内唯一の施設であり、合併症
を有する児が多く入院するため、染色体異常症例の割
合も高い。合併症、特に心疾患や外科疾患など緊急手
術が必要となる症例に対して、手術が可能であるか、
どの時点でどの程度の手術をするか判断に迷うことが
多い。そのために、染色体異常に関する正確な知識を
持つ必要があり、遺伝科医師と協力し個別の症例に応
じた適切な判断が求められる。
315
P-099
染色体異常症を伴う新生児医療について
P-100
会長賞
大津赤十字病院 小児外科 1、総合周産期母子医療セン
ター 新生児科 2、産婦人科 3
○岩崎 稔 1)、橋本 和廣 2)、西村 彩 1)、佐藤 昇子
2)
、池田 幸広 2)、中村 健治 2)、奈倉 道和 3)、廣瀬
雅哉 3)、小笹 宏 3)
【目的】出生前の羊水検査や出生後の血液検査にて判
明した染色体異常患児に対する治療方針と, 実際に施
行した治療内容の検討および家族からの要望に対する
医療従事者の葛藤について検討した内容を報告するこ
とである. 【対象と方法】対象は 1999 年より 2006 年
までの 8 年間に新生児病棟で入院加療した 41 名 (男
児:18 名;女児:23 名) であった. 診療録および染色
体異常患者登録記録簿をもとに資料の解析を行った.
患 児 の 平 均 在 胎 週 数 は , 37.7 ± 3.1 週 ( 範 囲 :
28.4~42.1 週; 中央値:38.0 週), 平均出生時体重は,
2252.7±704.0 g (範囲:680~3735 g;中央値:2242 g),
母体平均年齢は, 31.4±5.3 歳 (範囲:19~40 歳;中央
値:32 歳) であった. 【結果】染色体異常の詳細は,
trisomy 21 が 21 例, trisomy 18 が 5 例, trisomy 13
が 2 例, trisomy 9 が 1 例, その他の trisomy が 3 例,
monosomy が 2 例, tetorasomy 18p が 1 例等であった. そ
の内, 生存は 32 名で死亡は 9 名 (病理解剖:3 例) で
あった. Trisomy 18 は, 全例死亡であり, その内, 長
期生存後に 2 例が死亡された. 妊娠中に羊水検査を受
け染色体異常が判明した症例は 4 例であった (生存:1
例;死亡:3 例). また, 外科的治療を受けた患児は 12
名 (生存:9 例;死亡:3 例) であり, 積極的な救命処
置を拒否された症例は, 4 例 (生存:1 例;死亡:3 例)
であった. 【結論】Trisomy 18 と診断された時点で, 外
科的治療範囲が限定され, 縮小手術や非侵襲的加療が
主体となった. Trisomy 18 や trisomy 13 の場合, 死亡
原因は無呼吸発作による呼吸器障害のことが多く, 重
度臓器合併奇形を伴わない場合, 長期延命も可能であ
った. 一方, 家族の医療に対する考えも, 愛護的医療
のみの希望や積極的な治療介入の拒否が散見された.
急変時に対する医療行為の範囲も含めて, 医療関係者
に対する家族の希望との間には, 様々な確執が存在し
た. 染色体異常患者に対する医療では, 助産師や臨床
心理士をも交えた集学的医療体制での患者対応が重要
であると考える.
シルバーラッセル症候群および IUGR にお
ける第 7、11 番染色体のメチル化解析
国立成育医療センター研究所 小児思春期発育研究部
1
、慶應義塾大学 医学部 小児科 2
○山澤 一樹 1,2)、鏡 雅代 1)、和田 友香 1)
【背景】 近年、シルバーラッセル症候群(SRS)および
子宮内発育遅延(IUGR)患者において、第 7 番染色体の
母性片親性ダイソミーおよび第 11 番染色体 IGF2-H19
ドメインメチル化可変領域(H19-DMR)の低メチル化状
態が報告されている。今回我々は、SRS と IUGR の 75
例を対象としてこれらのメチル化異常について検討し
たので報告する。
【対象】 書面でインフォームド・コンセントを得た
SRS 患者 55 例および IUGR 患者 20 例である。
【第 7 番染色体メチル化解析】 亜硫酸塩処理した末
梢血白血球由来ゲノム DNA を用いて、第 7 番染色体上
の PEG1/MEST 遺伝子プロモーター領域に存在する DMR
を、メチル化アレルおよび非メチル化アレル特異的プ
ライマーを用いたメチル化特異的 PCR 法で解析した。
その結果、SRS の 3 例において父親由来の非メチル化ア
レルが検出されなかった。マイクロサテライト解析の
結果、3 例共に第 7 番染色体の母性片親性ダイソミーを
有することが判明した。
【第 11 番染色体メチル化解析】 亜硫酸塩処理ゲノム
DNA を用いて、第 11 番染色体上の H19 遺伝子プロモー
ター領域に存在する H19-DMR のメチル化パターンをメ
チル化感受性酵素切断法で解析した。その結果、SRS
の 15 例において H19-DMR の低メチル化状態が認められ
た。この低メチル化はサブクローニング後の直接シー
クエンス法で確認された。
【臨床データ】 インプリンティング異常症患者は、
高度の成長障害と正常血清 IGF2 値を示し、胎盤低形
成・羊水過小が高頻度に認められた。
【考察】 以上の成績は、インプリンティング遺伝子
発現異常が胎児と胎盤機能に悪影響をおよぼし、SRS
および IUGR の発症に強く関与していることを示唆す
る。なお生後の IGF2 値は正常であったが、肝臓におけ
る IGF2 遺伝子は生後では両アレルから発現しているこ
とが知られており、H19-DMR の低メチル化が隣接する
IGF2 遺伝子の発現低下を介して成長障害を生じるとさ
れることに矛盾しないと考えられる。
(会員外共同研究者) 国立成育医療センター研究所
小児思春期発育研究部 緒方勤
316
11p15 部 分 ト リ ソ ミ ー に よ る
Beckwith-Wiedemann syndrome の1例
新潟大学医歯学総合病院 産婦人科 1、新潟大学医歯学
総合病院 NICU2、聖隷浜松病院 産婦人科 3
○竹山 智 1)、高橋 泰洋 1)、笹原 淳 1)、富田 雅俊
1)
、菊池 朗 1)、高桑 好一 1)、石井 桂介 3)、佐藤 尚
2)
、松永 雅道 2)
[はじめに]Beckwith-Wiedemann syndrome(B-W-S)
は臍帯ヘルニア、巨舌、巨大児を主訴とする先天性奇
形症候群である。発症頻度は 1/13700 と稀な疾患であ
る。B-W-S の約 2%に 11p15 に切断点を持つ均衡型転座
や 11p15 の部分トリソミーなどの染色体異常を認める。
今回我々は出生後の染色体検査で B-W-S と診断した巨
大児の 1 例を経験したので報告する。[症例]27 才1妊
1産、既往歴特記すべきことなし。妊娠 27 週、羊水過
多と胎児推定体重が+5SD を超えるため精査目的に当
科紹介受診。超音波検査で推定体重 1930g(+5.2SD)及
び羊水過多(Ap9.9cm, AFI33.67cm)を認めた。75g OGTT
を施行したが GDM は認めず。妊娠 29 週、切迫早産にて
入院。入院後リトドリン点滴による tocolysis を開始
した。児の推定体重は+5SD 前後を推移した。臍帯ヘル
ニア、明らかな巨舌は指摘出来なかったが鑑別診断と
して B-W-S も考慮した。妊娠 37 週 4 日骨盤不均衡のた
め選択的帝王切開にて男児、4950g/57cm、Ap8/9 を分娩
した。児の外表所見として眼間解離、耳介低位、下顎
の後退、大きな口、乳頭間離開、13 対の肋骨、巨大児
が 認 め ら れ た 。 末 梢 血 染 色 体 検 査 ( G-band ) で は
46XY,add(16)(q24)であったが過剰部分の由来は不明。
そのため両親の染色体検査を勧めたが検査は希望され
な か っ た 。 児 の 16 番 染 色 体 の 高 精 度 分 染 お よ び
SKY-FISH を施行したところ、過剰部分は 11 番染色体由
来であった。過剰部分において 11p15.5-15.5 領域のシ
グナル及び 11 番サブテロメア領域のシグナルを認め
た 。 以 上 よ り 11p15 の 部 分 ト リ ソ ミ ー に よ る
Beckwith-Wiedemann syndrome と診断した。
[結語]今
回 我 々 は 11p15 領 域 の 部 分 ト リ ソ ミ ー に よ る
Beckwith-Wiedemann syndrome の 1 例を経験した。非常
に 稀 で は あ る が 染 色 体 検 査 で Beckwith-Wiedemann
syndrome を診断できることがあることを認識した。
進行性の腎不全により 1 歳 2 ヶ月で死亡し
た 2 番染色体長腕部分トリソミーの 1 例
加古川市民病院 小児科
○金澤 育子、伊東 利幸、樋上 敦紀、牟禮 岳男、
湊川 誠、住永 亮、村瀬 真紀、石田 明人
P-101
P-102
【はじめに】2 番染色体長腕部分トリソミーは,1968 年
Ricci らの報告以来,約 30 例が知られている。大動脈弓
の異常が比較的多く,外性器と腎臓の異常が見られる。
【症例】母 40 歳,5 経妊 1 自然流産。胎児エコーにて
-1.9SD の胎児発育遅延認めていたが他に内臓異常指摘
されず。切迫早産にて在胎 35 週 5 日,2220g,Apgar3/6
にて頭位経膣分娩にて出生の女児。生下時体動少なく
筋緊張低下,小頭,広い前頭,眼間解離,耳介低位,長い
人中,鞍鼻といった特異顔貌,皮膚低色素を呈してい
た。直ちに挿管し,7 日間人工呼吸器管理施行。日齢 1
腹部エコーで両側腎低形成,左側水腎症・巨大尿管と腎
奇形を認めた。外性器は異常なく,心エコーで VSD4 型
および Massive AR、PDA を認めた。染色体検査は,46,
XX女性型,2 番染色体長腕 q33-q37.3 の正位の重複を
認め 2 番染色体長腕部分トリソミーと診断した。抜管
翌日より,哺乳不良,筋緊張低下続き,日齢 12 TSH 86.47
μU/ml と甲状腺機能低下症認めたため l-T4 内服を開
始 。 腎 機 能 に 関 し て は 、 出 生 時 血 清
BUN8mg/dl,Cr0.6mg/dl で あ っ た が , 日 齢 1 に
BUN20mg/dl,Cr2.2mg/dl と上昇し,以後尿量確保されて
いたが,低下することはなく経過した。また、蛋白負荷
によると考えられる BUN(日齢 28:50mg/dl),K(日齢
50:6.8mEq/L)の上昇をきたしたため,日齢 59 人工乳を
低 カ リ ウ ム 乳 へ 変 更 , こ れ に て 一 旦 BUN20 ~
40mg/dl,Cr1~2mg/dl,K3~4mEq/L で安定した。くる
病,尿細管アシドーシス,腎性貧血も認め,Ca・VitD 製
剤,重炭酸ナトリウム,EPO 投与。日齢 95 のレノグラム
で RI の取り込みおよび排泄の高度の障害認め,腎機能
低下は進行性と考えられたが,家族の希望で腹膜透析
は施行しないこととした。しかし,1 歳 2 ヶ月時に
BUN75mg/dl,Cr3.6mg/dl と急上昇,約 3 週間後突然心不
全・呼吸不全を呈し,蘇生処置に反応なく永眠となっ
た。死亡直前 BUN166mg/dl,Cr3.8mg/dl で,尿毒症と考
えられた。
【まとめ】2 番染色体長腕部分トリソミーの
予後は様々であり,腎低形成を伴う報告は散見される
が,甲状腺機能低下を合併し,生下時から進行性腎不全
により死亡した報告はみられず,稀な 1 例と考えられ
た。
317
Complete 1q トリソミーの出生前診断の一
例
東京大学 医学部附属病院 女性診療科・産科 1、東京
大学 医学部附属病院 周産母子診療部 2、東京大学
医学部附属病院 小児科 3
○金高 友妃子 1)、亀井 良政 2)、吉田 志朗 1)、山下
隆博 1)、上妻 志郎 1)、五石 圭司 3)、土田 晋也 3)、
垣内 五月 3)、武谷 雄二 1)
【はじめに】1q トリソミーはまれな染色体異常で、文
献上これまで90例足らずの報告しか見られない。今
回我々は、1q トリソミーの中でもさらにまれで、過去
に 1 例の報告が認められるに過ぎない complete 1q ト
リソミーを経験したので、報告する。【症例】31 歳、2
回経妊 2 回経産。前回妊娠は双胎にて、一児は多発奇
形のため生後早期に死亡(詳細不明)。妊娠 32 週 4 日
に羊水過多ならびに胎児多発奇形の疑いにて精査目的
で当院紹介初診。胎児超音波検査上認められた所見は
以下のとおりである:子宮内胎児発育遅延、小脳虫部
低形成、完全脳梁欠損、軽度側脳室拡大、口唇狭小、
耳介低位、先天性横隔膜ヘルニア、心室中隔欠損、
overlapping fingers、club feet。これら所見よりト
リソミー18 を強く疑った。羊水過多症による腹満感の
寛解目的にて羊水除去術を施行し、あわせて羊水中細
胞の細胞遺伝学的検査を行った。その結果、胎児の核
型は 47, XY, +der(1)t(?Y;1)(q12;p12)であり、1 番染
色体長腕の complete トリソミーと判明した。妊娠 35
週 2 日、母体の羊水過多症のため、分娩誘発を行い、
1,887 gr の男児を Apgar1(1’), 1(5’)にて出生、児
は生後 30 分にて死亡した。両親は児の病理解剖も両親
の染色体検査も希望されなかった。児の外表所見より
得られた異常所見としては、眼裂狭小、眼裂斜下、耳
介低位、耳介形成異常、鼻根部平低、口蓋裂、小顎症、
右多指症、左第一指低形成、左母指球低形成、腹部平
坦、両側停留睾丸、左第三・四趾合趾症、背部多毛が
認められた。胎盤組織の細胞遺伝学的検査では培養不
能であった。【考察】complete 1q トリソミーの報告は
我々の知る限り、本症例が 2 例目である。本症例のよ
うな染色体異常は極めてまれではあるが、今後同様の
症例に遭遇した場合、遺伝カウンセリングの現場にお
いてより有用な情報を付与するために、両親の同意を
得て症例の提示をするものである。
14 番染色体父性片親ダイソミー(pUPD14)
3例の臨床像
神奈川県立こども医療センター 新生児科 1、神奈川県
立こども医療センター 遺伝科 2、神奈川県立こども
医療センター 産科 3、国立成育医療センター研究所
小児思春期発達研究部 4
○柴崎 淳 1)、星野 陸夫 1)、猪谷 泰史 1)、吉橋 博
史 2)、山中 美智子 3)、鏡 雅代 4)
目的:14 番染色体父性片親ダイソミ―(pUPD14)は、特
徴的な顔貌、胸郭低形成(胸部レントゲンで肋骨の coat
hanger appearance)、腹壁異常、羊水過多を特徴とす
る染色体異常である。当院で経験した pUPD14 の3症例
を対象に胎児期・出生後の臨床像を報告する。
遺伝子解析:3例とも染色体検査(G 分染法)は正常核
型。マイクロサテライト解析により症例1と症例2で
pUPD14 が見いだされた。症例3の 14 番染色体は両親由
来だったが、メチル化解析で3例とも過剰メチル化が
同定された。
臨床経過:症例1:自然妊娠。胎児期に羊水過多と胸
郭低形成、臍帯ヘルニアを指摘。26 週より計5回羊水
排液。32 週で破水、帝王切開。出生体重 2213g 女児。
Apgar score1分 4 点、5 分 6 点。胎盤重量 350g。長い
人中、翼状頸、臍帯ヘルニアを認めた。高度の呼吸障
害で生後すぐに気管内挿管。胸部レントゲン写真で
coat hanger appearance を認めた。喉頭軟化・気管気
管支軟化で5ヶ月に気管切開。1才4ヶ月に人工呼吸
器を離脱。1才7ヶ月で退院。4才1ヶ月でつかまり
立ち。6才で有意語あり。症例2:自然妊娠。羊水過
多、胸郭低形成で当院紹介。関節拘縮の所見もあり。
計4回羊水排液。35 週に破水、経膣分娩。出生体重
2505g。男児。Apgar Score 1 分 1 点、5分 4 点。胎盤
重量 630g。特徴的な顔貌、胸部レントゲン所見、腹直
筋離開を認めた。本例では両手指の関節拘縮、変形を
認めた。出生後すぐに挿管。喉頭軟化、胸郭低形成で
人工呼吸管理中、日齢 88 に壊死性腸炎を発症。栄養不
良、肝不全となり、生後5ヶ月で永眠された。症例3:
自然妊娠。妊娠 25 週に胎児頭頸部浮腫、胸水、腹水を
指摘。羊水過多、胸郭低形成、肝腎腫大も指摘された。
羊水穿刺排液を毎週施行。妊娠 35 週に破水、経腟分娩。
出生体重 2930g。女児。Apgar score 1 分1点、5分
4点。胎盤重量 560g。特徴的な顔貌と胸部レントゲン
所見、腹直筋離開を認めた。本例では全身浮腫、特に
後頸部浮腫が高度だった。生後すぐに挿管。現在、1
才2ヶ月で人工呼吸管理を継続中。追視、定頚あり。
寝返り可だが座位未。
考察:pUPD14 は出生後には特徴的な臨床像を示し診断
は比較的容易と思われる。胎児診断は難しいが羊水過
多と胸郭低形成が認められた場合には本症を疑うこと
が重要と考えられる。最後に、遺伝子解析を行って頂
いた成育医療センター緒方勤先生、鏡雅代先生、診断
について御助言頂いた西村玄先生に深謝いたします。
P-103
P-104
318
14 番染色体父性片親ダイソミー(pUPD14)
3例の呼吸障害について
神奈川県立こども医療センター 新生児科 1、国立成育
医療センター研究所 小児思春期発育研究部 2
○柴崎 淳 1)、星野 陸夫 1)、猪谷 泰史 1)、鏡 雅代
acampomelic campomelic dysplasia の症
例
藤枝市立総合病院小児科
○松浦 東吾、内坂 直樹、松岡 貴子、朝倉 功、
日比野 健一、伊東 充宏、池谷 健、香川 二郎
P-105
P-106
2)
目的:14 番染色体父性片親ダイソミ―(pUPD14)は、特
徴的な顔貌、胸郭低形成、腹壁異常、羊水過多を特徴
とする染色体異常である。出生直後より強い呼吸障害
を呈し、長期の人工呼吸管理となる症例が多く、呼吸
障害は発達遅滞とともに本症の臨床的な主問題であ
る。しかし本症の呼吸障害についての詳細な報告は少
ない。当院で経験した pUPD14 の3症例を対象に本症の
呼吸障害を検討する。
遺伝子解析:全例でメチル化解析で過剰メチル化が同
定された。マイクロサテライト解析で症例1,2は
pUPD14。
胸部レントゲン:全例で胸郭変形(ベル型胸郭・波打
つような肋骨)を認めた。
臨床経過:3例とも生直後より高度の呼吸障害で挿管、
人工呼吸管理を開始した。症例2,3は生後数日間、
HFO 管理を必要とした。症例1,3は気管切開を施行。
症例2も気管切開の予定だったが壊死性腸炎を発症し
中止した。症例1は 11 ヶ月まで PTV 管理、その後 CPAP
とし1才4ヶ月まで人工呼吸管理。症例2は死亡した
生後5ヶ月まで人工呼吸管理が必要だった。症例3は
現在1才2ヶ月で人工呼吸管理中。3例とも PTV が有
効で CMV では管理が困難だった。長期生存している症
例1では徐々に呼吸障害は改善し、6才で気管切開を
閉鎖できた。<気道軟化>全例で喉頭軟化を認めた。
症例1で気管支ファイバーにて高度の気管気管支軟化
を認めたが、症例2,3は認めなかった。<呼吸機能
検 査 > 症 例 1 : 静 肺 コ ン プ ラ イ ア ン ス (Cst)0.4 ~
0.9ml/cmH20/kg、気道抵抗 390~490cmH20/L/秒。症例
2 : Cst0.72 ~ 0.79 ml/cmH20/kg 、 気 道 抵 抗 299 ~
380cmH20/L/ 秒 。 Crying Vital Capacity(CVC)3.8 ~
5.5ml/kg。症例3:Cst0.56~0.98ml/cmH20/kg、気道
抵抗 299~441cmH20/L/秒。CVC8.5~13.6ml/kg。<透視
検査>症例2、3に胸郭運動の評価のため透視検査を
行った。吸気時に横隔膜が低下すると胸郭が内側に引
き込まれ、協調した呼吸運動が出来ず、有効に胸郭が
拡張しない所見だった。
考察:3例ともに長期の人工呼吸管理が必要だった。
気管気管支軟化は症例1では高度だったが、症例2,
3では認めなかった。呼吸機能検査で Cst の低下は軽
度で、肺低形成は呼吸障害の主因ではないと考えられ
た。気道抵抗の上昇も軽度。CVC は著明に低く、自発呼
吸での換気不足が呼吸障害の主因と考えられた。換気
不足の原因として、低い呼吸筋力に加え、透視検査の
所見から胸郭の変形による奇異性の胸郭運動も一因と
考えられた。
【はじめに】Campomelic dysplasia は彎曲した四肢の
ほか,全身の骨格系とその他の組織の異常を特徴とす
る致死性の小人症で軟骨分化・性腺分化に関与する SOX
9遺伝子異常により発症する。下肢の彎曲を主徴とし
全身の骨軟骨形成障害を伴う骨系統疾患であるが四肢
の 彎 曲 が 見 ら れ な い 例 ( acampomelic campomelic
dysplasia ) 例 も 存 在 す る 。 今 回 私 た ち は 出 生 後
acampomelic campomelic dysplasia と診断された一例
を経験した。
【症例】在胎36週1日,体重 2048g,Apgar score 4/8。
妊娠 27 週より羊水過多を指摘され母体 40 歳と高齢で
あったことから Down 症や消化管閉鎖症を疑われた。出
生時に臍帯巻絡と羊水混濁があり第一啼泣を認めず
mask&bag による蘇生を行った。その後も陥没呼吸は続
き,早産・低出生体重児・新生児仮死にて NICU 収容と
なった。四肢の彎曲は無く、口蓋裂、釣鐘状の胸郭、
頸 椎 の 後 彎 、 肩 甲 骨 の 低 形 成 を 認 め acampomelic
campomelic dysplasia と診断された。出生時より続く
陥没呼吸は喉頭気管軟化症のよるものと考えた。染色
体検査では 46,XX であり両親の同意を得た後に SOX9
遺伝子検査を施行中である。経過中,頭位の拡大と無
呼吸徐脈発作の増悪があり頭部 CT より水頭症の進行を
認めたためシャント手術を目的に三次病院転院となっ
た。VP シャント設置術が施行されたがその後気道確保
が困難となり気管切開行い人工呼吸管理が開始されて
いる。現在は当院にて在宅人工呼吸管理を目標に管理
を行っている。
【まとめ】出生後 acampomelic campomelic dysplasia
と診断された一例を経験した。本症例は多くは新生時
期から乳児期にかけて呼吸不全にて死亡する予後不良
の疾患である。急性期を過ぎても呼吸器感染症が致命
的となるケースも少なくないとされ自験例では水頭
症,喉頭気管軟化症の合併もあることから今後も厳重
な管理が必要である。
319
予後不良が予想される四肢短縮性小人症
への対応と今後の課題
日本大学小児科
○牧本 優美、木多村 知美、藤田 英寿、細野 茂
春、湊 通嘉、岡田 知雄、高橋 滋、麦島 秀雄
【はじめに】当院 NICU において過去 10 年間に7例の
予後不良が予想される四肢短縮性小人症を経験した。
本検討は、医療技術の進歩や社会情勢の変遷による予
後の変化から、今後の課題を考察することにある。【対
象】対象は 1997 年1月から 2006 年 12 月までに当院
NICU に入院し管理された予後不良が予想される四肢短
縮性小人症7例。男児4例女児3例で在胎週数は 34 週
~40 週。出生体重は 1810~3050g で1例は LFD 児、他
は AFD 児。7 例中 2 例は院外出生で、胎児診断で四肢短
縮症が疑われた児は院外出生2例中1例と院内出生 5
例中 4 例であった。診断名の内訳は、骨形成不全 type2、
乳児型低アルカリフォスファターゼ症、点状軟骨異形
成症、致死性骨異形成症 type2、致死性骨異形成症 type1
(2例)、脊椎骨端異形成症であった。【管理と予後】
胎児診断された致死性骨異形成症 type1 の1例は両親
との面談で延命治療は断念し入院当日死亡。点状軟骨
異形成症例は、酸素投与のみで呼吸管理可能であり日
齢 126 に在宅管理目的で小児病棟へ移床後退院。骨形
成不全 type2 は、HFO や CMV による呼吸管理 223 日の後
人工呼吸器から離脱し日齢 682 に自宅へ退院。乳児型
低アルカリフォスファターゼ症例は、難治性けいれん
や肺炎を併発し人工換気 172 日間で反復する肺炎後呼
吸不全で死亡。脊椎骨端異形成症例は、気管軟化症の
ため気管切開後に日齢 911 で在宅指導目的で小児病棟
へ移床したが2か月後に肺炎による呼吸不全により死
亡。致死性骨異形成 type11例(現在1歳7か月)と致
死性骨異形成症 type21例(現在2歳 10 か月)は、両
親からできる限りの治療を希望され現在気管切開後呼
吸管理を継続し入院中である。
【考察】予後不良が予想
される四肢短縮性小人症は胸郭骨格の形成不全やそれ
に伴う肺低形成によりほとんどが新生児期に死亡す
る。医療技術の進歩や社会情勢の変化に伴い治療によ
り致死的な症例が長期生存可能になってきた。しかし、
呼吸障害が重篤であり在宅支援を行うにも家族や介護
に関わるスタッフには高度な医療処置が要求される。
高度な医療設備と技術が求められる児の管理では、新
生児集中治療室の長期利用はやむをえないのが現状で
ある。難病の児もつ親の要求と医療提供が先行し後方
病床や社会支援が追随していないことが課題であり、
行政的な支援が必要である。
P-107
P-108
当院で経験した Costello 症候群の 2 症例
長崎大学 医学部・歯学部附属病院
○佐々木 瞳、江頭 昌典、田川 正人、国場 英雄、
森内 浩幸
【はじめに】Costello 症候群は精神運動発達遅延、特
異的顔貌、心血管系の異常、腫瘍多発症、皮膚の弛緩
症、カールした頭髪などを特徴とする稀な先天奇形症
候群であり、我々は昨年の本学会にて低血糖および上
室性頻拍の管理に難渋した本疾患症例を報告した。そ
の後新たな症例を経験したので、この 2 症例の表現型
の相違および遺伝子検査結果などについて報告する。
【症例 1】妊娠 24 週に原因不明の羊水過多の指摘あり。
胎児発育は LGA 傾向で、羊水による染色体検査は正常
核型であった。妊娠 36 週 4 日、体重 3120g、Apgar7/8
にて出生。羊水混濁、呼吸障害があり入院となった。
多血症・低血糖・上室性頻拍・経口摂取障害を認め、
特徴的な身体所見より Costello 症候群と診断した。日
令 91 に退院し以後外来フォロー中であるが、2 歳現在
も経口摂取障害は持続し、精神運動発達遅滞および軽
度の心筋肥大を認めている。現在遺伝子検査を検討中
である。
【症例 2】母体甲状腺機能低下症のためチラー
ヂン内服中。妊娠 29 週より原因不明の羊水過多あり。
妊娠 37 週 2 日、体重 4420g、 Apgar7/9、帝王切開にて
出生。生後、呼吸障害あり入院となった。羊水過多や
巨大児・特異的顔貌などの身体所見より Costello 症候
群が疑われた。日齢1より心房頻拍出現し、日齢 2 に
は呼吸不全あり日齢 37 に人工換気開始。また経口摂取
障害を認めた。日齢 56 の心エコーにて肥大型心筋症と
診断した。遺伝子検査にて HRAS に 34G→A の point
mutation が認められ診断が確定した。日齢 57 に退院し
たが、感染を契機に呼吸循環不全となり生後 3 ヶ月で
再入院となった。心房頻拍および心筋肥大の急激な増
悪を認めたため、β-blocker・利尿剤・ACE 阻害剤・人
工換気による治療を行い改善した。
【まとめ】Costello
症候群の 70~80%に何らかの心合併が認められるとされ
ており、心疾患のコントロールが予後を左右する重要
な因子の一つと考えられた。(会員外協力者:近藤達
郎)
320
P-109
Jacobsen 症候群の一例
胎児期に異常を認めた Denys-Drash 症候
群の 1 症例
国立病院機構 甲府病院 小児科
○田口 洋祐、齋藤 勝也、宗像 俊、鈴木 潤一、
加藤 麻衣子、稲見 育大、久富 幹則
P-110
京都第一赤十字病院 総合周産期母子医療センター
NICU
小児科
○木原 美奈子、徳弘 由美子、中林 佳信、中内 昭
平、中川 由美、光藤 伸人、木崎 善郎
【はじめに】Jacobsen 症候群(以下 JBS)は、1973 年
に Jacobsen がはじめて報告した 11 番染色体長腕の欠
失によるまれな疾患である。特徴的な臨床症状として
は、精神運動発達遅滞、三角頭蓋、特異顔貌(両眼間
解離、扁平な鼻根部など)
、先天性心疾患、四肢の異常、
血小板減少などがあげられる。日本では、1996 年に ono
らが 10 例を報告した以降、私たちが調べえた限りでは
報告されていない。今回私たちは新生児期に JBS と診
断し、三角頭蓋に対して生後 1 ヶ月に頭蓋形成術を行
った例を経験したので報告する。
【症例】日齢 4 の女児。母親は 27 歳で1妊1産、非定
型精神病にて olanzapin 内服中。35 歳の父親と 2 歳の
姉は健常。妊娠経過に特記すべきことなし。児は在胎
週数 38 週 5 日、出生体重 3130g、Apgar score 10 点
(1 分)
、頭位自然分娩で出生。出生時、特異顔貌、三
角頭蓋、直腸肛門奇形、皮膚の出血斑、単一臍帯動脈、
左足趾の異常を認め、直腸肛門奇形のブジー処置及び
多発奇形の精査のため NICU に入院となった。また、入
院後の血液検査で血小板減少(5.1 万)と、心エコーで
心房中隔欠損を認めた。血小板減少はその後進行し、
γグロブリンを投与したが無効だった。日齢 9 の染色
体検査で 46XX,del(11)(q23.3)という結果から JBS と
診断した。確定診断後、母親のみ染色体検査を施行し
得たが、正常女性核型だった。三角頭蓋に対しては、
CT、MRI を施行したところ、前頭縫合の完全閉鎖と、そ
れによる前頭葉の圧迫所見を認め、血小板の自然上昇
を待って、日齢 38 に頭蓋形成術を行った。手術中と手
術後に赤血球輸血を施行したが、大きな合併症なく経
過し、日齢 58 に退院した。現在、児は生後 7 ヶ月で、
頚定はしており、寝返りは可能だが、座位は未で、軽
度の関節拘縮を認め、理学療法にて経過観察中である。
【考察】児は臨床的な特徴から、典型的な JBS と考え
られる。JBS の約半数に三角頭蓋の合併が認められる
が、私たちが調べえた限りでは手術前後の詳細な経過
報告はなく、手術後の発達や画像変化の経過を今後注
意深く観察することによって、手術適応や手術時期が
妥当であったかどうかについて検討を続けていきたい
と考えている。また JBS は、多臓器疾患であり、他科
との連携を密にして合併症の管理を行い、児の QOL の
改善につとめていく予定である。
今回、胎児期にエコー所見で異常を認め、停留睾丸と
尿道下裂の性器異常と先天性ネフローゼ症候群から本
疾患と診断した1例を経験したので報告する。 母親
は 24 歳、1経妊 1 経産。胎児エコー上女児と考えられ、
陰核肥大、一過性の水子宮膣症が疑われ当院産科でフ
ォローされていた。在胎 38 週 3 日、出生時体重273
5g、Apgar score1 分8点、5 分 9 点で出生し、当院
NICU に精査加療目的で入院した。入院時、全身状態良
好。外精器は尿道下裂、停留睾丸を認めた。それ以外
に外表奇形は認めなかった。血液検査所見では、腎機
能、電解質を含め異常を認めなかった。心、頭部エコ
ーでも明らかな異常は認めなかった。胎児期に水子宮
膣症と思われた嚢胞は、生後も膀胱の背側に認められ
た。入院後に施行した染色体検査は 46XY であった。日
齢10から哺乳不良を認め、日齢11の血液検査では
Na 116 mEq/l、K 5.6 mEq/l、Cl 90 mEq/l、BUN 23 mg/dl、
Cr 1.5 mg/dl、TP 4.1g/dl、Alb 2.6 g/dl と低ナトリ
ウム、BUN、Cr の上昇、低蛋白を認めた。また、尿量が
1.3ml/kg/h に減少し、980mg/day の尿蛋白を認めた。
ネフローゼ症候群、腎不全と考え、水分制限、Na の補
正を行った。先天性ネフローゼ症候群、男性半陰陽か
ら Denys-Drash 症候群の診断を得た。日齢 15 には血液
検査所見上、電解質、BUN、Cr 値の改善を認めたが、Ccr
8.4 ml/min、FENa 4.4%、尿蛋白 746mg/day であった。
その後状態は安定したが、腎不全の進行、透析の必要
性を考慮し日齢15に転院した。 Denys-Drash 症候群
は 1967 年に Denys らが、1970 年に Drash らが報告した
疾患で、腎症、内・外性器異常、Wilms 腫瘍を三徴とす
る腎泌尿器系の系統的な形成異常である。性器異常は
非常に多彩で、男児例の多くの症例では女性型あるい
は性不明性器となる。本症例で認められた腹部の嚢胞
もおそらく性器異常のひとつの男性腟と考えられた。
腎症の発症は 3 か月以降が多いとされているが、本症
例のように生後早期から見られる症例も認められる。
文献的考察を含め報告する。
321
P-111
真性半陰陽の 1 例
P-112
近畿大学 医学部 奈良病院 小児外科 1、大阪府立母
子保健総合医療センター2、市立奈良病院 3
○小角 卓也 1)、米倉 竹夫 1)、黒田 征加 1)、山内 勝
治 1)、神山 雅史 1)、島田 憲次 2)、川口 千晴 3)
【はじめに】真性半陰陽の治療は患児をどのように養
育し、どの時期に手術を行うか非常に難しい問題が指
摘されている。我々は、外陰部異常で紹介された生後 0
日目の患児に対し新生児期に真性半陰陽の診断を行
い、早期に外陰部形成術と性腺摘出術を施行した症例
を経験したので報告する。
【症例】生後 0 日目の患児【現
病歴】生直後に外陰部の形態学的異常を認め本院紹介
となる。
【周産期経過】二卵性双生児で妊娠経過には問
題なし。36w5d に帝王切開にて第 2 子(出生体重 1866g、
A/P;8/ 9)として出生。第 1 子(出生体重 2600g の男
児)異常なし。母親にホルモン剤等の投薬なし。【入院
時現症】脈拍 130 回/分、血圧 60/30mmHg。外陰部は会
陰部尿道下裂、二分陰嚢様で陰嚢内には睾丸は認めら
れず、両鼠径部に腫瘤を認め両側の停留睾丸を疑った。
【来院時血液尿検査】特に異常所見はなし。【画像検
査】超音波検査にて膀胱の後面に嚢胞様の病変を認め、
左右の鼠径管内に約 1.2cm 大の腫瘤を認めた。排泄時
尿道造影では尿道球部の背側に合流する腟様の病変が
造影され、MRI 検査では明らかな子宮は認められなかっ
た。血中・尿中ホルモン検査では異常は認められず、
染色体検査では、100 細胞全て 46XX であった。以上に
より、真性半陰陽を疑い、生後 9 日目に腹腔鏡検査に
よる内性器の検査と両側鼠径部の性腺の生検を施行し
た。
【腹腔鏡下内性器の検査】臍部より 3mm30 度のカメ
ラを挿入し、気腹圧6mmHg で左側腹部に 3mm の鉗子を
挿入し腹腔内の検査を行った。明らかな子宮・卵管は
認めず、子宮は膜様を呈し、それに連続する索条物が
内鼠径輪につながっていた。腹膜鞘状突起は開存し、
明らかな輸精管はなく、非常に細い両側性腺動静脈を
認めた。
【鼠径管の性腺】鼠径管を開放し、性腺組織を
露出すると、精巣上体、精巣、卵巣が癒合し、両側の
性腺組織の一部の生検で卵精巣と診断した。【経過】家
族は女児として養育することに決定した。LH、FSH とテ
ストステロンが共に上昇してきたので、生後 58 日目に
外陰部形成術(女性化)
、両側精巣摘出術を施行した。
【女性化外陰部形成術】尿道口形成と会陰部の皮弁を
利用した腟口形成、陰核形成と陰核包皮を利用して小
陰唇形成術を行った。【術後】問題なく経過し術後 LH、
FSH は正常の上昇を認め、テストステロンは低下した。
現在術後 2 ヵ月であるが両親とも外陰部の外見に満足
し、また、女児として養育することに不安等はなく希
望を持っている。
先天性腎尿細管性アシドーシスの 1 例
愛仁会 高槻病院 小児科
○上村 裕保、李 容桂、南 宏尚、片山 義規、橋
本 直樹、三宅 理、西野 昌光、根岸 宏邦
【はじめに】腎尿細管性アシドーシスは様々な原因に
よる腎尿細管の異常により、anion gap が正常の高 Cl
血症性代謝性アシドーシスを呈する疾患で、先天性は
稀な疾患である。今回我々は新生時期より腎尿細管性
アシドーシスの病態を呈した症例を経験したので報告
する。【症例】在胎 32 週 1 日、2598g、Apgar Score8
点(1 分)
、8 点(5 分)、前期破水、骨盤位のため帝王
切開にて出生した女児。母体は糖尿病合併妊娠にてイ
ンスリン皮下注射を導入されていた。児は呼吸窮迫症
候群と診断され、サーファクタント投与、人工呼吸管
理を 1 日施行され安定。出生直後より胎便排泄遅延、
腹部膨満を認め、消化管閉鎖症疑いにて日齢 4 に当院
へ新生児搬送となった。消化管閉鎖症疑いにて当院小
児外科にて入院同日に開腹術を施行。閉鎖所見はなく
回腸ろう増設となった。術中所見、術後経過、病理検
査所見より新生児特発性腸閉塞の診断となった。術後、
ミルクは順調に増量でき full-feeding となり輸液を中
止したが、多尿(6-10ml/kg/h)のため体重減少
を認め、日齢 15 に輸液を再開した。血液検査にて anion
gap が正常の高 Cl 血症性代謝性アシドーシスを認め、
臨床経過、検査所見より腎尿細管性アシドーシスと腎
性尿崩症と判断した。腎尿細管性アシドーシスは重炭
酸イオンの再吸収障害と水素イオン分泌障害を併せ持
った混合型の病態を呈していた。血清浸透圧
279mosm/kg 時の ADH は 22pg/ml と上昇を認め、DDAVP
負荷試験にても尿濃縮は認めず、腎性尿崩症と診断し
た。アシドーシスに対してはクエン酸カリウム・ナト
リウム製剤の内服を開始しアシドーシスは改善した。
腎性尿崩症に対しては、250ml/kg/日の水分摂取量
にて体重増加良好となった。日齢 67 の腎エコー検査に
て微小な石灰化を認めた。
【考察】先天性腎尿細管性ア
シドーシスの 1 例を経験した。本症例は混合型の病態
を呈しているが、現在近位尿細管機能の未熟性が残存
している時期であり、今後の成長とともに病態が変化
していくものと考えている。今後の経過をふまえて慎
重な成長発達のフォローと遺伝子検査を考慮していく
予定である。
322
生後 2 週よりヒスチジン銅の皮下注射を
開始した Menkes 病の 1 男児例
倉敷中央病院 小児科
○西
恵理子、川口 敦、西田 吉伸、渡部 晋一、
馬場 清
妊娠 27 週に preterm PROM となった HIV
合併妊娠の 1 例
国立国際医療センター産婦人科 1、国立国際医療センタ
ー小児科 2
○水主川 純 1)、定月 みどり 1)、箕浦 茂樹 1)、国方
徹也 2)、松下 竹次 2)
【緒言】近年,HIV 感染妊娠は増加傾向にあるが,妊婦
HIV スクリーニング検査の普及,母体への抗ウイルス薬
投与,選択的帝王切開の施行, 抗ウイルス薬予防投与な
どにより,HIV 母子感染率は 2%以下に低下している.破
水は母子感染のリスクを高めるとされる.今回,われわ
れは妊娠 27 週に preterm PROM となるも,6 日間の妊娠
継続を図った後,分娩に至った症例を経験したので報
告する.【症例】33 歳,未産婦.平成 12 年 1 月,帯状疱疹
発症時に HIV 陽性判明し,当センター感染症科に定期受
診中であった.挙児希望あり,夫は HIV 陰性であったた
め,当科にて AIH を 9 回施行したが,妊娠成立しなかっ
た.平成 18 年 3 月,IVF-ET にて双胎妊娠成立し,分娩予
定日は平成 18 年 12 月 7 日と決定した.妊娠成立
時,HIV-RNA 量 1.0×104copy/ml,CD4 数 180/μl であっ
た.妊娠 8 週で 1 児が子宮内胎児死亡となったが, その
後の妊娠経過は順調であった.また,妊娠 16 週から母子
感染予防目的に AZT+3TC+NFV による多剤併用療法を
開始し, 妊娠 22 週時,HIV-RNA 量 2.0×102copy/ml で
あ り , ウ イ ル ス 量 も 順 調 に 低 下 し て い た .27 週 0
日,preterm PROM にて当科に緊急入院した.入院後,当
科,新生児科および感染症科で討議し,児の未熟性を考
慮し,まずは HIV に対する多剤併用療法を継続し,子宮
収縮抑制剤,抗生剤投与,出生前ステロイド投与を施行
し,妊娠継続を図る方針とした.27 週 6 日,子宮収縮抑
制不能になったため,母体に AZT 点滴投与を行い,緊急
帝王切開を施行し,1068g の女児,Apgar score 6/7 を娩
出した.児は,超早産児,極低出生体重児,HIV 感染予防
のため新生児科に入院した.母体は術後 2 日目に肺塞栓
症を発症したが,術後 15 日に軽快退院した.また,児へ
は母乳投与を行わず, AZT を投与し,日齢 65 日で軽快退
院となり,現在まで母子感染を認めていない.【考察】
HIV 合併妊娠おける preterm PROM 症例においては,破水
や子宮収縮による母子感染リスクと同時に児の未熟性
を考慮する必要があり,管理方針を苦慮する.予定帝王
切開前に破水をした場合,一般的には直ちに緊急帝王
切開を施行されるが,充分な母児感染を講じられる状
況であれば,妊娠継続を考慮できる可能性が示唆され
た.
P-113
P-114
はじめに:Menkes 病は出来るだけ早期よりの治療(非
経口銅補充療法)の開始が、その予後の改善によいの
ではないかといわれている。今回、われわれはその家
族歴から出生前より Menkes 病の可能性が考えられてお
り、生後 2 週間よりヒスチジン銅の皮下注射を開始で
きた Menkes 病の 1 男児例を経験した。現在 4 ヶ月にな
り、在宅治療導入の上、外来経過観察中でありその経
過を併せて報告する。症例:4 ヶ月男児。
〈家族歴〉兄
(昭和 58 年出生)Menkes 病、肺炎で 7 歳時に死亡。従
弟、母の姉の長男(昭和 54 年出生)Menkes 病。
〈経過〉
妊娠 18 週で当院産婦人科初診時に産科主治医よりその
家族歴より Menkes 病の可能性があること、出生前診断
は難しいこと、男児であれば Menkes 病である確立が
50%であること、患児であった場合には速やかに治療
開始の必要があることを母に説明されていた。34 週 5
日、2128g にて出生。As9/9 点。Kinky-hair あり。低体
温、新生児低血糖、新生児高ビリルビン血症を認めた。
表現型より Menkes 病が疑われ、血清銅 23 μg/dl、セ
ルロプラスミン 6 mg/dl、尿 HVA/VMA=7.278、培養皮
膚 線 維 芽 細 胞 銅 濃 度 ( 普 通 培 地 ) 126.882 ng/mg
protein、(銅添加培地)369.565 ng/mg protein より
Menkes 病と診断した。臨床遺伝専門医による遺伝カウ
ンセリング施行。日齢 14 より非経口銅補充療法を開始
した。治療開始時はなかなか血清銅が上昇せず、連日
投与を要したが、徐々に安定し、現在は在宅ヒスチジ
ン銅皮下注射を導入し、日齢 59 に退院、週 3 回の投与
で外来経過観察中である。体重増加も順調で 4 ヶ月で
5450g、ほぼ定頚を認めている。痙攣などの明らかな合
併症は認めていないが、日齢 25 に施行した、脳 MRA で
は血管の延長や蛇行を認めている。まとめ:家族歴よ
り Menkes 病の可能性が考えられており、生後 2 週より
ヒスチジン銅の皮下注射を開始できた。MRA の結果から
は早期からの結合織異常があることを示唆しており、
今後も他の合併症の発症についてなど慎重な経過観察
が必要と考える。
323
産後大量出血のため内腸骨動脈塞栓術を
受けた後の妊娠で癒着胎盤をきたした 1
症例
神戸大学 大学院 医学系研究科 女性医学分野
○牧原 夏子、北尾 敬祐、天野 真理子、芦谷 尚
子、出口
雅士、松岡 正造、森田 宏紀、山崎 峰
夫、丸尾 猛
【目的】癒着胎盤は脱落膜形成不全により発生すると
されるが、その原因には種々の病態がある。我々は初
回妊娠後に大量出血となり、両側内腸骨動脈塞栓術に
より子宮を温存し得たものの、次の妊娠で癒着胎盤の
ため子宮摘出に至った症例を経験した。その症例の後
方視的評価により、癒着胎盤のリスク要因を考察した
い。
【症例】患者は 30 歳、2 経妊 1 経産。27 歳時に妊
娠 37 週で胎児機能不全のため吸引分娩となった。生児
娩出直後に大量の凝血塊とともに胎盤が娩出され、続
く子宮収縮不全による大量出血のため、ショック状態
で当院へ搬送された。一時的に心肺停止となるも蘇生
し、両側内腸骨動脈塞栓術による止血と集中治療によ
り回復をみた。数ヶ月後に月経は再開したが、周期は
不規則で経血量は妊娠前より少なかった。初回妊娠終
了から約 3 年後に挙児希望にて来院し、排卵誘発療法
で妊娠が成立したが、排卵期の子宮内膜は 6mm と薄か
った。妊娠初期には特に異常はみられなかったが、妊
娠 20 週に子宮出血が出現し、入院にて子宮収縮抑制療
法を行った。また、妊娠 17 週以降、胎盤内部の子宮付
着部付近に不整な echo free space の集簇が観察され
た。胎児発育と羊水量は正常であった。前回の妊娠結
果を考慮して妊娠 39 週 5 日に陣痛誘発し、AFD 児正常
経膣分娩となった。しかし児娩出後、胎盤の自然娩出
がみられず、用手剥離を試みたが完全娩出は困難で出
血多量となったため、緊急両側内腸骨動脈塞栓術によ
り止血した。その後抗生物質と子宮収縮薬で保存的に
観察したが、感染徴候のため産褥 8 日目に子宮膣上部
切断術のやむなきに至った。術後病理組織診断は癒着
胎盤(嵌入胎盤)であった。
【考察】前回妊娠後の過少月
経や排卵期の不充分な子宮内膜肥厚化は、着床期から
胎盤形成期の脱落膜形成不全を介して癒着胎盤の成立
を引き起こしたと推察される。その原因として前回妊
娠時の常位胎盤早期剥離とそれに続く両側内腸骨動脈
塞栓術に伴う子宮内環境悪化の関与が疑われる。さら
に妊娠 17 週以降にみられた胎盤内不整エコー像は、癒
着胎盤に比較的特有の所見である可能性が高い。今後、
これらのリスク要因に注目することによって癒着胎盤
をより高い精度で予知できれば、迅速な放射線科的イ
ンターベンションの応用により出血量を軽減させ、感
染予防、ひいては子宮温存の可能性が高くなると考え
られる。
P-115
P-116
癒着胎盤の術前診断に関する検討
長崎大学 医学部 産婦人科
○吉田 敦、三浦 生子、三浦
中山 大介、増崎 英明
清徳、平木
宏一、
2000 年 1 月より 2007 年 2 月までに当院で分娩した
2,188 例のうち前置胎盤であった 55 例を対象として、
胎盤の位置、既往帝王切開、筋腫核出術の有無および
出血量を後方視的に検討した。子宮摘出を行い組織学
的に癒着胎盤と確認できた 4 症例について、術前の超
音波検査と MRI で得られた所見から、術前の評価が正
しく行われていたか否かについて検討した。次いで、
子宮温存は可能であったが、術中胎盤剥離面より多量
の出血のみられた例について、これらを術前の超音波
検査から予測可能か否かについて検討した。1. 子宮
を摘出し組織学的に癒着胎盤を確認できた 4 症例の検
討 子宮を摘出した 4 例の病理組織診断では、穿通胎
盤が 1 例および嵌入胎盤が 3 例であり、術前の超音波
診断と一致した。全例が前壁付着胎盤かつ既往帝切で
あった。出血量は平均 2,979ml(1,900~6,360ml)で、
3 例に輸血を行った(平均 1,136ml、0~4,000ml)。超
音波検査では、全例に胎盤内の形態不整な lacuna、胎
盤を覆う子宮筋層の菲薄化、胎盤後方の clear space の
消失、子宮奬膜と膀胱が接する部位の血流増加が見ら
れた。また、全例で MRI を施行したが、MRI で膀胱浸潤
が疑われた例でも容易に胎盤が剥離できた例もあり、
超音波検査以上の所見は得られなかった。2. 術前にハ
イリスク例を抽出可能か否かについての検討 子宮を
摘出した 4 例を除外した 51 例のうち、胎盤が前壁付着
のもの 10 例、既往帝切 11 例および筋腫核出術既往が 2
例あった。出血量は平均 2,035ml(600~6.360ml)で、
既往帝切例では出血が多かった(2,541ml)が、前壁付
着とそれ以外の間には出血量の差は見られなかった
(2,230ml vs. 1,953ml)。術前の超音波検査で癒着胎
盤が疑われていた 4 例は、出血量が有意に多量であっ
た(2,985ml vs. 1,940ml、P<0.05)
。結論 超音波検
査によって、嵌入胎盤ないし穿通胎盤の例は術前の予
測が可能であると考えられた。術前の超音波検査で癒
着胎盤を疑う所見が見られた場合、それらは出血のハ
イリスク群と思われた。また現時点では、癒着胎盤の
診断に MRI を行うメリットはないと考えられた。
324
P-117
癒着胎盤の合併が疑われた前置胎盤症例
への対応
千葉大学医学部附属病院婦人科周産期母性科
○加来 博志、鶴岡 信栄、井上 万里子、尾本
子、生水 真紀夫
総腸骨動脈 balloon occlusion 下に前置癒
着胎盤帝王切開術を施行した3症例の検
討
埼玉医科大学 総合周産期母子医療センター 母体胎
児部門
○村山 敬彦、岩田 睦、松村 英祥、上山 明美、
市川 美和、海老根 真由美、斉藤 正博、馬場 一
憲、関 博之、竹田 省
【緒言】前置癒着胎盤の帝王切開術に際して,出血量
の減少のために様々の方法が論じられてきた.当セン
ターで経験した 27 例の Cesarean hysterectomy (CH) に
おいて,帝切時胎盤を残置し 2 期的に子宮摘出を試み
たり,内腸骨動脈結紮を施行したりとして,術中出血
量低減を模索してきたが,いづれの方法も劇的な出血
量軽減に寄与しなかった.Jin-Chung Shih らは,総腸
骨動脈血流を Balloon で一時的に遮断することで,術
中出血量を軽減することが可能であったと報告してい
る.今回我々は,術前に超音波検査と MRI により前置
癒着胎盤を診断した 3 症例に対して,総腸骨動脈血流
遮断下に帝切を施行し,出血量の軽減と安全性に関し
て良好な結果が得られたので報告する.
【症例 1】
33 歳.
G4P2 回.前 2 回帝王切開分娩既往.35 週 5 日,総腸骨
動脈 occlusion balloon を術前に留置し,児娩出後約
30 分の血流遮断にて子宮摘出を施行した.術中総出血
量約 600ml.病理検査の結果広汎な Placenta previa
increta を診断した.【症例 2】38 歳.G6P2.前 2 回帝
王切開分娩既往.前回帝切時逆 T 字子宮切開が施行さ
れており,縦切開部位を中心に広汎に癒着胎盤を診断
した.33 週 1 日,総腸骨動脈 occlusion balloon を術
前に留置し,CH を施行した.児娩出後内子宮口におけ
る胎盤剥離強出血と子宮膀胱間の強固な癒着を認め,
約 60 分の血流遮断にて子宮摘出を施行した.術中総出
血量約 2,000ml で,MAP4 単位・FFP8 単位の他家血輸血
を必要とした.病理検査の結果広汎な Placenta previa
increta と parcreta を診断した.
【症例 3】36 歳.2 回
経妊 2 回経産.前回帝王切開分娩既往.36 週 4 日,総
腸骨動脈 occlusion balloon を術前に留置し,子宮体
部横切開にて児を娩出した.子宮表面にに癒着胎盤の
所見を認めず,血流遮断後胎盤剥離を施行し,癒着を
認めなかった.術中総出血量約 1,500ml で,他家血輸
血は不要であった.【結論】前置癒着胎盤症例に対し
て,総腸骨動脈血流遮断下に CH を施行することで術中
出血量を大幅に低減させることが可能と考えられた.
また,術中の胎盤試験剥離に際しても有用と考えられ
た.下肢の虚血による合併症は認めなかった.
P-118
暁
【はじめに】癒着胎盤は、分娩後にしばしば大量出血
を起こす。近年帝王切開率が上昇したことから癒着胎
盤症例が増えている。癒着胎盤を合併した前置胎盤で
は、大量出血から帝王切開術時に子宮摘出が必要とな
ることも多く、母体死亡をきたすこともある。今回わ
れわれは前置胎盤症例に対して、手術歴やMRI・超
音波・カラードプラ検査等を行い癒着胎盤の可能性が
ありうると判断し、術前に十分な術前準備を行ってか
ら手術に臨んだ 3 症例を経験したので報告する。【症
例】症例1:42 歳、3 経妊 0 経産。妊娠 22 週に全前置
胎盤の疑いで当院へ紹介された。カラードプラなどの
所見から胎盤の子宮頚管侵入が疑われた。MRIでも
癒着胎盤(ないし頚管胎盤)が疑われた。妊娠 33 週よ
り性器出血が増加し十分な輸血、子宮摘出の準備を行
い妊娠 34 週 3 日帝王切開とした胎盤は子宮と強く接着
し用手剥離は不能で出血量も多かったため、単純子宮
全摘出となった。症例2:40 歳、3 経妊 1 経産。
(既往
帝王切開)妊娠 24 週に全前置胎盤にて当院へ紹介され
た。経腟エコー、MRIでは明らかな癒着胎盤の所見
は認められなかったが既往帝王切開による癒着胎盤の
可能性も考え輸血等の準備を行って妊娠 35 週 3 日に帝
王切開術を施行した。術時、胎盤剥離は容易で癒着胎
盤の所見を認めなかった。症例 3:37 歳、6 経妊1経産
(既往帝王切開、D&C5回)
。妊娠 16 週の時に低位胎盤
の診断にて紹介された。既往帝切後の前壁全前置胎盤
と診断した。術前の超音波・MRIでは明らかな癒着
胎盤の所見は認められなかったものの癒着胎盤の可能
性も否定できないと判断した。癒着胎盤への対応策を
整えて妊娠 36 週 0 日に帝王切開術を施行した。胎盤剥
離は容易に剥離できた。
【考察】超音波検査やMRI検
査により、前置胎盤に合併した癒着胎盤を術前に診断
できた症例が報告されている。しかしながら、これら
の画像診断によっても診断の困難な症例が存在する。
したがって、帝王切開や子宮筋腫核出術後の創部への
胎盤付着症例などのハイリスク症例では、画像診断に
よって癒着胎盤の存在が推定されない場合であっても
十分な術前準備を行う必要がある。術前に癒着胎盤が
疑われる症例では、出血対策を整えておくこと、あら
かじめ輸血や子宮摘除などについてインフォームドコ
ンセント得ておくことが大切である。
325
P-119
当科における癒着胎盤 13 例の治療につい
て
経腟分娩後に初めて認識された常位付着
の癒着胎盤 2 症例
国立成育医療センター 周産期診療部
○高橋
宏典、渡辺 典芳、林 聡、筒井 淳奈、
三浦 裕美子、北川 道弘
【緒言】癒着胎盤は大量出血の原因となり、重篤な場
合には母体死亡の原因ともなりうる。癒着胎盤の危険
因子として前置胎盤が広く知られており、この場合は
分娩前に出血のハイリスクとして認識される。しかし
常位に癒着胎盤が発生することもまれではあるが存在
しこのようなケースでは通常ローリスク分娩として管
理され、癒着胎盤であることが判明した時点では大量
出血となる。今回我々は正常経腟分娩後に初めて認識
された癒着胎盤の 2 症例を経験したので報告する。
【症
例1】41 歳 0 経妊 0 経産 妊娠・分娩経過:顕微授
精にて単胎を妊娠。予定日超過のため妊娠 41 週 1 日に
分娩誘発を行い、微弱陣痛のため 3490gの男児を吸引
分娩。胎盤剥離徴候認められず出血も多量となったた
め、手術室で全身麻酔下での胎盤用手剥離を施行。強
固な癒着のため経腟的な胎盤娩出は困難と判断し開腹
術へ移行した。子宮温存の希望があったため、子宮頚
部横切開の後再度用手剥離を行い胎盤を娩出させた。
剥離面からの出血は子宮収縮を促しただけでコントロ
ール可能であった。分娩直後からの総出血量は 4300ml
であり、MAP19 単位と FFP14 単位の輸血を要した。病理
組織学的診断で Placenta Accreta であることが確認さ
れた。【症例 2】30 歳 0 経妊 0 経産 既往歴:27 歳時
子宮体部前壁の筋層内筋腫に子宮動脈塞栓術 妊娠・
分娩経過:自然妊娠。4cm 大の石灰化した筋層内筋腫が
子宮体部に認められ、胎盤は子宮筋腫の直下に認めら
れた。妊娠 34 週 0 日前期破水。その後自然陣痛発来し、
妊娠 34 週 2 日、1950g の女児を正常経腟分娩した。胎
盤娩出がみられず、分娩室で用手剥離を行うも娩出せ
ず出血多量となったため、手術室で全身麻酔下で再度
胎盤用手剥離を行った。胎盤娩出後の強出血が持続し
たため、開腹術に移行し子宮切開の後止血を試みるも
止血せず子宮腟上部切断術を施行した。総出血量は
4829ml であり、MAP24 単位と FFP18 単位の輸血を要し
た。病理組織検査の結果、Placenta Accreta であった
ことが確認された。
【結語】ローリスク分娩の中にも突
然の大量出血を起こしうる癒着胎盤が存在する。また
全身麻酔・大量輸血が必要となるため、胎盤娩出困難
な際には癒着胎盤の存在を疑う必要性を自験例を通じ
再認識させられた。
P-120
沖縄
○橋口 幹夫、奥平 忠寛、浜田 一志、三浦 耕子、
徳嶺 辰彦、金城 国仁、高橋 慶行
【はじめに】近年、癒着胎盤は、前回帝王切開創部に
前置胎盤が存在する場合、重篤な産後出血を来すこと
から、注目されている。また、その治療も癒着の程度、
部位によって用手剥離、子宮全摘術(TAH)から子
宮動脈塞栓術(UAE)と多岐にわたり、成績も様々
である。今回、当院で過去に経験した妊娠 24 週以降の
癒着胎盤 13 症例の治療について検討したので報告す
る。
【方法】1995 年 4 月以降から 2007 年 3 月末までに
当院に入院加療した癒着胎盤症例 13 例の診療録を後方
視的に検討した。また経腟的に用手剥離できた症例は、
今回、除外した。
【結果】13 例中、帝切分娩は 11 例、
経腟分娩は 2 例であった。前回帝王切開術に合併した
低置・前置癒着胎盤の症例は 10 例であった。13 例の治
療は、その適応、対応の方向性で 3 つに分類した。1
群:帝切直後に大量出血を来し、引き続きTAHを余
儀なくされたものは 4 例であった。その中で前置癒着
胎盤症例であった 2 例は、出血量が、7000gと 7800g
であり、それぞれ術中に出血軽減目的で内腸骨動脈結
紮術または、腹部大動脈一時結紮術を試みた。2 群:U
AEを施行し、止血コントロール後、待機的にTAH
を施行した症例が 3 例であった。帝切直後に子宮動脈
結紮止血を施行したのが 1 例であった。3 群:胎盤を剥
離せずに留置したまま治療した症例が 4 例であった。
メトトレキセートを投与したのが 3 例で、うち 1 例は
半年で遺残胎盤が消失した。遺残胎盤の感染及び剥離
のため、分娩後 1 ヶ月目に大量出血した 1 例が存在し
たが、残りは分娩時、TAH時の出血は、1000g以下
であり、概ね良好であった。【結論】癒着胎盤に対する
治療は、その部位、癒着の程度さらに分娩時の出血量
などで大まかに 3 群に分けられた。各々の治療には今
後、改善を要する問題が存在するが、個々の症例に応
じて治療を選択する必要性があると思われた。
326
当科で取り扱った前回帝王切開後、全前置
胎盤の症例
兵庫医科大学 産科婦人科学教室
○武信 尚史、田中 宏幸、原田 佳世子、小森 慎
二、香山 浩二
前置胎盤による出血のため、輸血を必要とする症例は
少なくない。前置胎盤の診断がついた際に、自己血貯
血を行うことがあるが、貧血のため充分量が採血でき
なかったり、貯血の前に出血を来たし、帝王切開を行
わざるを得ない場合もある。今回我々は、前回帝王切
開後の妊娠で前置胎盤と診断され更に侵入胎盤が疑わ
れた症例を経験したので報告する。症例は 30 歳代の 1
回経産婦で、4 年前に近医で分娩遷延の為帝王切開術を
受け、今回自然妊娠成立後、分娩管理目的で前医を受
診したところ、妊娠 18 週頃に前置胎盤を指摘された。
その後経過観察を行ったところ、超音波検査にて子宮
筋層前壁の菲薄化及び胎盤組織の膀胱側への突出が認
められ、癒着胎盤~侵入胎盤が疑われ、妊娠 21 週時当
科へ紹介受診となった。管理入院の時期を検討してい
たところ、25 週時に性器出血を主訴に受診し、安静目
的での入院となり塩酸リトドリンにより子宮収縮抑制
を開始した。NICU・麻酔科・放射線科・輸血部・泌尿
器科にそれぞれ緊急時の対応について相談した上で、
医局及び産科病棟内での対応についてカンファレンス
を行った。準備を進めていたところ、第4病日に子宮
収縮を伴う出血を認めた。塩酸リトドリンの増量を行
ったが、子宮収縮抑制は困難であり、採血所見とあわ
せて CAM による子宮収縮増悪と判断し、緊急帝王切開
を行った。子宮体部前壁には一部に怒張した血管が認
められ、癒着~侵入胎盤の可能性が考えられたため、
事前の打ち合わせどおり胎盤の剥離は行わず、閉創し
た。卵膜の一部は黄染しており肉眼上も CAM が疑われ
た。術中に子宮動脈の上行枝の結紮を行い、更に術後
に子宮動脈塞栓術を行い、胎盤への血流を遮断した。
抗生剤投与の上、子宮全摘の時期を検討していたとこ
ろ、38度台の発熱と白血球数及び CRP の上昇を認め、
帝王切開術後3日目で子宮全摘出術を行った。術中の
出血量は約 900g で術前からの貧血もあったため MAP 合
計 4 単位を輸血した。摘出した標本で癒着胎盤の所見
を認めた。子宮全摘術後 12 日目で軽快退院となった。
産科大量出血により妊娠子宮摘出を行っ
た 9 症例の臨床的検討
愛仁会 高槻病院 産婦人科
○中後 聡、増田 由起子、奥 真紀子、早川 陽子、
大石 哲也、辻本 大治
【目的】分娩時に制御不能な大量出血のため、余儀な
く子宮摘出を行う事態に遭遇することがある。今回、
当院における妊娠子宮摘出を行った症例について臨床
的に検討した。
【方法】平成 15 年 4 月から平成 19 年 3
月までに当院で分娩した症例を対象とし、妊娠子宮摘
出例における、産科合併疾患、分娩方式、出血量、輸
血量などを検討した。【成績】総分娩数 5748 件に対し
分娩時大量出血による妊娠子宮摘出例は、9 例(弛緩出
血 4 例、前置胎盤 4 例(癒着胎盤 2 例)
、常位胎盤早期
剥離 1 例)であった。平均出血量は 5411g±2309g で、
平均輸血量は MAP 12±8 単位、FFP 12±9 単位であった。
9 例中 1 例に血小板輸血が必要であった。分娩方法は帝
王切開が 6 例に対し経腟分娩が 3 例であった。分娩時
の大量出血が予測不可能であった症例は 9 例中 3 例認
められた。一方、分娩時に大量出血が予測されるハイ
リスク疾患の診断で他院より緊急母体搬送され、直ち
に分娩に至った症例は 9 例中 3 例であった。以上の 6
症例では緊急に大量の血液を準備する必要があった。
他方、当科で経過観察中のハイリスク症例は 9 例中 3
例存在したが、分娩に至った転機は早産期の警告出血
や前期破水であったため、自己血貯血を含め血液を準
備する充分な時間は得られなかった。今回子宮摘出に
至った 9 症例はいずれも母児ともに合併症を残さず退
院可能であった。
【結論】子宮摘出例の約 33%(1 例/分
娩約 2000 件)は予測不能であった。また、大量出血の
可能性が予測されたハイリスク症例においても、あら
かじめ必要な血液を準備しておくことは現実に困難で
あった。分娩時大量出血では、直ちに院外の血液セン
ターに連絡し血液を確保することが重要で、子宮摘出
が必要な症例では最低 10 単位以上の MAP 及び FFP の確
保が望ましい。さらに、迅速な血液供給と未使用血液
の速やかな返却を円滑に行うため、院内の血液担当部
門と地域の輸血センターとの密な連携が極めて重要と
考えられた。
P-121
P-122
327
P-123
当科における分娩時出血と輸血の現状
県立広島病院 産科
○向井 百合香、上田
克憲、山崎
浩史、占部
P-124
妊婦における自己血貯血の有用性の検討
帝京大学 医学部 産婦人科 1、帝京大学医学部附属病
院輸血部 2
○川田 龍太郎 1)、松本 由佳 1)、有泉 大輔 1)、田口
彰則 1)、松本 泰弘 1)、有村 賢一郎 1)、木戸 浩一郎
1)
、梁 栄治 1)、綾部 琢哉 1)、白藤 尚毅 2)
【目的】 妊婦の自己血輸血の有用性・適応・有害事
象については様々な報告があるが、適応に関して関連
学会のガイドライン・勧告は作成されるには至ってい
ない。今回、当センターで経験した自己血貯血・輸血
について臨床的に検討し、その適応・管理方針につい
て考察した。【方法】 2003 年~2006 年の間に当院で
自己血貯血を行った 37 例を対象とした。リスク因子、
貯血時期、有害事象の有無・程度、分娩管理について
後方視的に検討した。【成績】 適応は前置胎盤・低位
胎盤 19 例、子宮筋腫 18 例、希少血液型 1 例であった。
貯血は妊娠 31 週から 35 週にかけて行った。採血後に
自覚的な VVR などが出現したのは 37 症例 91 回の採血
中1回のみであった。採血中・採血直後に胎児心拍異
常が出現した例は 1 例であった。貧血により予定した
回数の採血が行えなかったのは 2 例であった。貯血前
後における血液検査所見では有意な変動は認められな
かった。分娩様式では帝王切開術 34 例、経腟分娩 3 例
であった。同種血輸血を必要とする可能性のある出血
量 1500ml 以上の例は 17 例(45.9%)あったが、結果
として同種血輸血を必要とした例はなかった。結果的
に返血を必要としなかった例は1例だった。【結論】妊
娠中の自己血貯血は母児にとって比較的安全に行いう
ると考えられた。自己血貯血・輸血は同種血輸血を回
避する上で有用性が高いと考えられた。返血を必要と
しなかった例も存在したが、分娩時の出血量の予見が
困難なため、貯血の適応を限定する有用な指標は現時
点では明らかにしえなかった。自己血貯血の必要性が
高いと思われる例と相対的にはそれほど高くないと思
われる例があるように思われたが、上記の予見困難性
のため現時点では自己血貯血についての説明と同意の
更なる徹底が望ましいと思われた。ダブルセットアッ
プの経腟分娩に際しても自己血貯血を許容する余地は
あると思われた。
武
【目的】産科出血は直接産科的死亡の過半数を占める
重要かつ重篤な病態であり、しかも突然発症し産科的
DIC に移行しやすいという特徴がある。一方、近年は自
己血輸血が推奨されており産科領域でも普及しつつあ
るが、どのような疾患が大量出血に関して真にハイリ
スクであり自己血準備を行うべきかについては一定の
見解がない。そこで、総合周産期母子医療センターで
ある当科における分娩時出血や輸血の実態を検討し
た。
【方法】2002 年から 2005 年までの 4 年間の分娩患
者 2,277 例を対象として、分娩時出血量、輸血の有無、
種類、量、基礎疾患などを検討した。帝王切開例では
羊水を含む出血量が記録された。
【成績】単胎分娩の平
均出血量は経膣分娩で 383.1ml、帝王切開で 582.1ml
であり、また多胎の帝王切開では 989.8ml で有意な増
加が認められたが、いずれも早産と正期産の間には差
がなかった(多胎の経膣分娩は例数が少なく検定不
能)
。分娩時出血量が 1,000ml 以上であった例は 101 例
(4.4%)、1,500ml 以上は 47 例(2.1%)、2,000ml 以上は
19 例(0.83%)であり、2000ml 以上であった症例の内訳
は、多胎帝王切開;6 例、前置(低置)胎盤(子宮全摘
例を含む)
;4 例、弛緩出血;3 例、双胎の前置胎盤;2
例、用手剥離を要した癒着胎盤;2 例、子宮内反症;1
例、羊水過多症(帝切)
;1 例であった。また、輸血を
要した症例は 31 例、1.4%で、前置胎盤が 22 例と 7 割
以上を占めていたが、うち 14 例は自己血輸血のみで対
応可能であった。ついで、妊娠高血圧/HELLP 症候群;4
例(うち 3 例は血小板+FFP のみの輸血)
、胎盤早期剥
離;3 例(いずれも搬送前に多量の出血があった例)、
弛緩出血;1 例、子宮内反症;1 例であった。なお、対
象期間中、出血に起因する母体死亡例や後遺症を示し
た例はなかった。
【結論】多胎(帝切)では単胎(帝切)
に比べ出血量が 2 倍近かったが、前置胎盤などの合併
がなければ輸血を必要とした例はなく、羊水の混入が
出血量の増加に大きく影響している可能が高い。弛緩
出血、子宮内反症、胎盤早期剥離は予測不可能である。
以上から、必ず自己血の準備を行うべき疾患として、
前置胎盤(あるいは癒着胎盤が予想される場合)に限
定することも可能であり、これにより同種血輸血を回
避できることが確認された。
328
P-125
当院における産科自己血貯血症例の検討
富山県立中央病院 周産期センター
○中島 正雄、谷村 悟、中野 隆
子宮動脈塞栓術を施行した産後出血の 5
症例(晩期産褥期出血を中心に)
大分大学 医学部 産科婦人科
○福田 淳一郎、吉松 淳、西田 正和、石井 照和、
弓削 彰利、後藤 清美、楢原 久司
【緒言】産後出血の殆どは経過観察により子宮復古、
内容物排出が進むと軽快する。しかし、胎盤ポリープ
や、産後仮性動脈瘤などの器質的な疾患の場合には、
分娩後しばらくしてから生命予後を左右するような予
期せぬ出血を招くことがあり留意が必要である。この
ような症例の保存的治療方法として子宮動脈塞栓術
(TAE)の有用性が報告されている。2006 年 1 月から
2007 年 3 月までに当科で経験した、子宮動脈塞栓術を
施行した晩期産褥出血 4 症例、癒着胎盤による出血 1
症例を報告する。
【症例 1】35 歳、0 経妊。分娩時出血 1,000g 超のため
当科紹介。頚管からの出血を認め、縫合止血し一旦退
院となった。産後も少量の出血が継続し、産後 30 日目
に超音波断層法で子宮内に血流を伴う 3cm の腫瘤を認
めたため、胎盤ポリープの診断で TAE を施行し、5 日後
に子宮鏡下腫瘤切除術を追加した。
【症例 2】34 歳、0 経妊。Non-reassuring fetal status
の診断で緊急帝王切開術施行。術後 10 日間 CRP が高値
で推移した。産後 25 日目に 1,000g 超の出血を認め、
緊急搬送。子宮頚部へのプロスタグランディン局注で
止血し、5 日間再出血なかったため外来管理としてい
た。産後 43 日目、再び大量出血し緊急搬送。骨盤血管
造影で右子宮動脈上行枝末梢の子宮筋層内にに仮性動
脈瘤を認め、選択的に動脈瘤を塞栓した。
【症例 3】32 歳、0 経妊、卵巣癌 1c 化学療法後。経腟
分娩時に自然胎盤剥離しなかったため用手剥離にて胎
盤娩出。弛緩出血のため分娩時出血量 1,350g と多量で
あった。産後も少量の出血が持続。産後 35 日目に超音
波断層法で胎盤ポリープと診断され、TAE 施行した。
【症例 4】27 歳、0 経妊、関節リウマチのためステロイ
ド内服中。preterm PROM(36 週 5 日)のためプロスタ
グランディンによる誘発で分娩。経過良好であったが
産後 17 日目に多量出血のため緊急搬送。骨盤血管造影
で左子宮動脈上行枝末梢の子宮筋層内に仮性動脈瘤を
認めたため、選択的に塞栓術を施行した。
【症例 5】38 歳、0 経妊、体外受精妊娠。児出産後、胎
盤の 3 分の 1 が剥離せず、子宮内に遺残。癒着胎盤の
診断で TAE 施行。現在、経過観察中。
【結論】いずれの症例においても TAE により出血をコ
ントロールすることができ、子宮を温存することがで
きた。TAE は産褥期、特に晩期産褥出血に対する有効な
治療法であることが確認できた。
P-126
産婦人科
輸血の可能性が予測される症例に対して、自己血貯血
の有用性が多く報告されるようになっている。当科に
おいても 2003 年より自己血の全血貯血をおこなってい
る。今回はこれらの症例を後方視的に検討し、自己血
貯血の妥当性に関して報告する。症例は 2003 年から
2006 年までの 4 年間で当院にて自己血貯血を行った 37
例である。適応は前置胎盤 28 例、低位胎盤 7 例、双胎
1 例、子宮筋腫合併妊娠 1 例であった。平均自己血貯血
量は 565ml(300-900ml)で術中出血量は 1,054ml(157
-2755ml)となった。全廃棄した症例はなく、部分廃
棄した例が 3 例あった。これまでのところ、自己血の
貯血や輸血の際に関連した副作用や合併症などは認め
られていない。ただ、前置胎盤症例については、予定
手術日よりも突然の性器出血により手術日程が繰り上
がってしまい、予定貯血量に達する前に緊急手術とな
ってしまう症例が 7 例あった。さらに、自己血貯血を
行わなかった症例に関しても検討をすすめ、その適応
及び採血時期などに関しても検討を進めていきたい。
329
P-127
STIC を用いた胎児心臓超音波スクリーニ
ングの基本手技の有用性
三宅医院
○宮木 康成、橋本
雅、三宅
測定方法の違いによる正常発育胎児の左
室 Tei index とその構成成分の測定値の比
較
独立行政法人 国立病院機構 岡山医療センター 産
婦人科 1、三宅医院 2
○多田 克彦 1)、高丸 永子 1)、塚原 紗耶 1)、片山 修
一 1)、熊澤 一真 1)、高田 雅代 1)、中西 美恵 1)、宮
木 康成 2)、三宅 馨 2)
【目的】超音波パルスドプラ法を用いた心機能評価法
である Tei index は、心室流入波形と心室流出波形を
別の時相で測定し計算するが(分離測定法:A 法)
、左
室では長軸断面において流入波形と流出波形を同時に
測定し計算する(同時測定法:B 法)ことが可能である。
今回我々は正常発育胎児を対象にして、A 法と B 法で得
られた左室 Tei index と、その構成成分である等容量
収縮時間(ICT)と等容量拡張時間(IRT)の和、なら
びに駆出時間(ET)を比較した。さらに B 法で測定し
た ICT と IRT の妊娠週数に伴う変化を検討した。
【対象
と方法】妊娠 18 週から 39 週の正常発育胎児 48 例を対
象として、A 法と B 法で連続して左室 Tei inedx を測定
した。Tei index は(ICT+IRT)/ET と定義されている。
A 法は、僧帽弁の閉鎖から解放までの時間 a と左室駆出
時間 b を別々に測定し、ICT+IRT=a-b の関係より(a
-b)/b の計算式より求めた。B 法では、ICT、IRT、ET
をそれぞれ同一時相で測定し計算した。統計解析には
共分散分析を用いた。【成績】左室 Tei index は A 法(y
、B 法(y=7.82×-3x+
=8.45×10-3x+0.15, r=0.69)
0.28, r=0.61)とも妊娠週数に伴い増加し、傾きに差
はなかったが B 法の y 切片が有意(p<0.0001)に高か
った。Tei index の構成成分である ICT+IRT は A 法(y
=1.34x+30.5, r=0.67)、B 法(y=1.10x+55.7, r
=0.55)とも妊娠週数に伴い増加し、傾きに差はなか
ったが B 法の y 切片が有意(p<0.0001)に高かった。
ET は A 法(y=-0.44x+190.0, r=-0.45)
、B 法(y
=-0.46x+187.0, r=-0.31)とも妊娠週数に伴い減
少し、傾きに差はなかったが B 法の y 切片が有意に(p
<0.05)
低かった。B 法で計測した ICT
(y=0.35x+26.0,
r=0.30)、IRT(y=0.75x+29.7, r=0.56)とも妊娠
週数に伴い漸増を示した。
【結果】同時測定法にて Tei
inex を測定することが可能であったが、分離測定法よ
り高い値を示した。同時測定法を用いることにより、
左室 ICT と IRT の妊娠週数に伴う基準値を設定するこ
とができた。
P-128
馨
【はじめに】約 1000 人の児あたり1人が先天性心奇形
で毎年死亡している。出生直後に緊急対応を要する心
奇形は、分娩施設の適切な選択判断が産科医に要求さ
れ胎児心スクリーニングはきわめて重要であるが必ず
し も 容 易 で は な い 。 Spatio-Temporal Image
Correlation (以下、STIC) とは胎児心臓を四次元超音
波データとしてコンピュータ内部で再構築し、三方向
軸回転と平行移動とを組み合わせて任意の直行三平面
での2次元断層画面の同時動画再生を示し、容易に高
い診断能力を獲得することができ、迅速に高精度の心
奇形診断が可能である。
【目的】胎児心スクリーニング
を技師ができれば、産科医にはより高度な診療に従事
できる余裕が得られる。このため STIC を用いた基本手
技を開発し、新人技師による胎児心スクリーニングの
有用性を調べる。
【方法】対象は平成 18 年 9 月 20 日か
ら 12 月末日までで当院外来を受診した妊婦(20-36 週)
のうち 106 名である。超音波診断装置は VOLUSON 730
EXPERT および VOLUSON E8(GE Healthcare 製)を用い
た。検査は我々が開発した STIC スクリーニング基本手
技を用いた。検者は新人の技師2名で、手技教育を平
成 18 年 9 月上旬に1週間で施した。約 10 秒間の記録
の後、様々な部位の描出率を解析した。
【結果】各部位
の描出率は、上行大動脈 93.4%、下行大動脈 100%、
three vessels 96.2%、右房流入路約 97%、右室流出
路 92.5%、左室流出路 84.9%、大動脈弓 85.8%などで
あった。我々の作成した基本手技方法による描出率は
92.4±5.7% (m±SD) だった。各部位の描出率の系時
変化をみると、スクリーニング開始第1月では描出率
が 73.9±16.6%だったが、第4月になれば 99.0±1.8%
となり、診断能力の向上が認められた。描出率の分散
は減少し検査精度が向上した (P<0.0001)。【考察】
我々の作成した基本手技スクリーニング法は短期間で
実用的となり STIC の標準手技となりうると思われた。
技師による STIC を用いた胎児心奇形検査の導入で,産
科医にはより高度な診療に従事できる余裕が得られ、
妊婦には高い診療レベルを提供でき、短時間検査なの
で検査数も増加できるという産科診療体制の改善が考
えられる。
330
当院における常位胎盤早期剥離症例の臨
床的検討
賛育会病院 産婦人科
○杉山 真理子、山田 美恵、鈴木 正明
当院における常位胎盤早期剥離について
の検討
長崎大学 医学部 産婦人科
○谷川 輝美、中山 大介、吉田 敦、三浦 清徳、
三浦 生子、嶋田 貴子、増崎 英明
【目的】常位胎盤早期剥離は緊急を要する妊娠合併症
の一つであるが、軽症から重症までその臨床像は様々
である。今回、当院で経験した常位胎盤早期剥離の症
例について臨床的検討を行った。
【方法】2002 年 1 月か
ら 2007 年 1 月までに、当科で分娩前後に常位胎盤早期
剥離と診断された 30 例を対象とした。診療録をもとに
後方視的に検討した。分娩前に子宮内胎児死亡と診断
されたのは 6 例であった。
【結果】平均年齢は 31±5 歳、
分娩週数は 35±2.9 週であった。初産婦が 15 例、経産
婦が 15 例であった。常位胎盤早期剥離の危険因子とし
て、子宮内胎児発育遅延が 6 例(20%)、妊娠高血圧症候
群が 5 例(17%)、
常位胎盤早期剥離の既往が2例(6.7%)、
喫煙が 1 例(3.3%)認められた。初発症状として、性器
出血が 22 例(73%)、下腹痛が 26 例(87%)、切迫早産が 3
例(7%)認められた。胎児生存例(n=24)において 23 例
(96%)に胎児心拍数図に異常所見(徐脈、一過性頻脈の
消失、基線細変動の消失)を認めた。23 例(77%)に超音
波検査で胎盤の肥厚や胎盤後血腫を認めた。血液検査
所見は、
ヘモグロビンは 9.8±2.2(g/dl)、
血小板は 19.0
± 5.7( × 104 / μ l) 、 フ ィ ブ リ ノ ー ゲ ン は 229 ±
122(mg/dl)、FDP は 98±136(μg/ml)、
PT は 100±23(%)、
APTT は 27±3.4(秒)であった。母体搬送例(n=23)の受
診から分娩までの平均時間は 78 分(最短 20 分、最長 178
分)であった。分娩様式は 28 例が帝王切開術、2 例が経
腟分娩であった。分娩時の出血量の平均は、1,586±
796g で、輸血が行われたのは 14 例(50%)であった。胎
児生存例の新生児所見は、出生体重の平均が 2,417±
727g、Apgar score の平均が 5±3(1 分後)、8±1(5 分
後)、臍帯動脈血ガス所見が pH7.09±0.20、BE-13±10
であった。15 例(63%)が早産ないし新生児仮死のため小
児科に入院した。
【考察】典型的な常位胎盤早期剥離の
症例から分娩前には診断が困難であった症例まで、そ
の臨床像は様々であった。ほとんどの例で胎児心拍数
図に異常を認めた。胎児心拍数図に異常を認める場合
は、その他に典型的な症状や所見がなくても常位胎盤
早期剥離を鑑別疾患の一つとして念頭におく必要があ
ると考えられた。
P-129
P-130
【目的】常位胎盤早期剥離<以下、早剥>は、正常位
置に付着している胎盤が、妊娠中または分娩経過中の
胎児娩出前に子宮壁から剥離する状態で、発症の予
測・予防は極めて困難であるうえに、発症すると児の
予後は不良で母体の生命をも脅かす重篤な疾患であ
る。したがって本症は、母体および新生児の予後を左
右するうえで早期診断、早期治療が重要となる。
【方法】今回我々は、2002 年 1 月から 2006 年 12 月ま
での 5 年間に当院で経験した早剥症例 57 例について、
Page らの早剥の重症度分類をもとに胎盤剥離面が 30%
以下をΙ群軽症例<42 例>、胎盤剥離面が 30%以上を
ΙΙ群中等症と重症例<15 例>とし、2 群間の母体年
齢、発症時妊娠週数、出生児体重、リスク要因などに
ついて後方視的に検討を行なった。
【結果】母体年齢分布は、Ι群の平均年齢は、31 歳、
ΙΙ群は 30 歳で、両群間に差は認めなかった。発症時
妊娠週数は、Ι群は 37 週~41 週が 29 例<69%>、Ι
Ι群は 32 週~36 週が 7 例<47%>と最多であった。Ι
Ι群においては 22 週~31 週で 5 例<33%>認め、Ι群
に比べ早期例を多く認めた。出生児体重は、両群とも
appropriate-for-dates<以下、AFD>が最多であるが、
ΙΙ群に関しては、small-for-dates<以下、SFD>も
高い割合で認めた。リスク要因は、pregnancy induced
hypertension<以下、PIH>合併はΙ群で 3 例<8%>
であったが、ΙΙ群では 3 例<21%>とやや高率に認
めた。切迫早産合併は、ΙΙ群で 9 例<64%>認め、
うち 2 例は切迫早産と早剥との鑑別が困難な症例であ
った。喫煙合併は、Ι群 5 例<13%>、ΙΙ群 3 例<
20%>であった。Ι群では、17 例<43%>に血性羊水
を認めた。
【考察】早剥の症状は、一般的に急激な下腹痛、子宮
壁の硬化<板状硬>、持続的な子宮収縮<さざ波様収
縮>、外出血などがあるが、胎盤の剥離部位や程度に
よって症状はさまざまであり、発症の予知や早期診断
は困難である。今回の検討で特に妊娠中期に早剥を発
症した場合、中等症~重症となる可能性が高く、超音
波検査、胎児心拍モニタリング、凝固機能検査を行い、
厳重な管理をする必要があると考えられた。
331
当院における常位胎盤早期剥離症例の検
討
愛媛県立中央病院 産婦人科
○立石 洋子、上松 和彦、小塚 良哲、三好 和生、
矢野 真理、近藤 裕司、越智 博、野田 清史
当院における常位胎盤早期剥離症例の検
討 -産科編―
横浜市立大学附属市民総合医療センター 母子医療セ
ンター1、横浜市立大学 医学部 産婦人科 2
○小川 幸 1)、斉藤 圭介 1)、野村 可之 1)、長谷川 哲
哉 1)、堀口 晴子 1)、奥田 美加 1)、関 和男 1)、高橋
恒男 1)、平原 史樹 2)
【目的】常位胎盤早期剥離(以下早剥)は様々な臨床
像を呈し,急激に子宮内胎児死亡(以下 IUFD)をきた
すものから,母児とも予後良好なものまで存在する.
当センターにおける早剥症例の新生児予後と,分娩ま
での臨床経過との関係を検討した.
【方法】2000 年 1 月から 2007 年 3 月までに,当センタ
ーにおいて早剥の診断で緊急帝王切開術にて分娩に至
った 87 例のうち,多胎 2 例,28 週未満の早産 9 例及び
新生児偶発合併症(18 トリソミー2 例,バルプロ酸症
候群 1 例)症例を除いた 73 例を対象とし,新生児予後
と臨床経過を後方視的に検討した.
【成績】73 例中 14 例で分娩前に IUFD が確認されてい
た.分娩中の児死亡及び新生児死亡となった症例はな
かった.分娩前に IUFD が確認されていた群(死産群,
N=14)と生産に至った群(生産群,N=59)を比較す
ると,死産群で発症から分娩までの時間が有意に長く
(413.44±69.08 分 vs.279.25±32.85 分,p<0.05)
,
分娩後に確認した胎盤剥離面の割合が有意に高かった
(78.75±9.15%vs.26.00±2.92%,p<0.001)
.また
母体の自覚症状では,出血をきたした割合が死産群で
有意に低かった(33.3%vs.76.8%,p<0.01)が,腹
痛の頻度には差はみられなかった.生産群のうち臍帯
動脈血 pH が測定可能であり,7.1 以上であった群(以
上群,N=37)と 7.1 未満であった群(未満群,N=18)
について比較検討すると,未満群で発症から分娩まで
の時間は有意に短く(196.67±30.41 分 vs.322.28±
46.56 分,p<0.05)
,胎盤剥離面の割合に有意差はな
かった.また術前胎児心拍モニター所見では,遅発一
過性徐脈,変動一過性徐脈及び基線細変動消失の出現
頻度に有意差は見られなかったが,遷延徐脈並びに徐
脈は未満群で有意に多くみられた(38.9%vs.8.1%,
p<0.05).発症時の自覚症状には差はみられなかっ
た.
【結論】外出血のない早剥では胎盤の剥離が進行しや
すく,新生児予後が悪くなることが示唆された.出血
を伴わなくとも常に早剥を疑い,早期対応することが
重要である.発症から分娩までの時間は,診断から分
娩までの時間に影響されるところも大きいが,急激に
進行したために児のアシドーシスが強い症例が多く存
在すると思われた.
P-131
P-132
【目的】常位胎盤早期剥離は、全妊娠の 0.44~0.96%
の発症頻度といわれ、常位胎盤早期剥離を起こした場
合の母体死亡率は 1~2%、児死亡率は 20~50%と報告
され、産科 DIC の原因の約 50%を占めるとされる。今
回、常位胎盤早期剥離の症例の母体、児の予後、母体
合併症について検討した。
【方法】2002 年 1 月~2005 年 12 月までの 4 年間で当
院において常位胎盤早期剥離を発症した、のべ 58 症例
について後方視的検討を行った。
【結果】患者背景は、平均母体年齢 29.3 才、初産 35
例、経産 23 例であった。発症平均週数 35.3 週、平均
出血量 1411.8ml、胎児生存 45 例、胎児死亡 13 例で、
全分娩数に対して 1.13%の発症頻度であった。児生存
例 45 例のうち経腟分娩となったのは 12 例、帝王切開
施行したものが 33 例であった。一方、児死亡例の場合
は、当科での管理方針として産科的禁忌がない限り経
腟分娩を基本としており、13 例のうち 11 例が経腟分
娩、2 例が帝王切開を選択していた。母体 DICscore は、
児生存例が 5.41±1.7、児死亡例が 9.08±2.0 であり、
有意に児死亡例において DICscore が高値で、8 点以上
となることが多かった。(p<0.0001) また、児生存例
においては、臍帯血 pH が 7.0 以下の症例で有意に母体
DICscore が 8 点以上となる症例が多かった。(p=
0.0024)児生存例 45 例において、児の臍帯血 pH が 7.0
以下であった症例は 11 例あり、そのうち児の 5 分後
Apgar score が 3 点以下であった症例が 4 症例であっ
た。この 4 症例のうち 1 例は、児に広範囲な脳虚血を
認め、脳軟化症、基底核壊死にて予後不良となってい
た。他の 3 例もすべて頭蓋内出血を起こし、1 例はまず
まず発育発達ともに順調であるが、2 例は、脳性麻痺、
精神遅滞、症候性てんかんとなり、現在も follow を必
要としている。また、リスク因子として、従来より、
妊娠高血圧症候群の高頻度な合併を報告されている
が、今回の検討では、妊娠高血圧症候群を合併した症
例は 9 例で全症例の 15%にあたり、常位胎盤早期剥離症
例の重症例である胎児死亡例には 1 例のみであった。
【考察】常位胎盤早期剥離は現在でも母児ともに予後
不良な周産期救急疾患であり、未だ有用な予知方法は
ない。今後も症例の後方視的検討により、本疾患の病
態の解明、リスク因子の抽出が必要と考える。
332
P-133
当院における常位胎盤早期剥離症例の検
討 -新生児編-
当科で最近経験した IUFD を伴った常位胎
盤早期剥離の2症例と分娩方法について
の検討
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 産科婦人科学教
室
○瀬川 友功、松本 由紀子、中務 日出輝、井上 誠
司、舛本 明生、洲脇 尚子、住田 由美、高本 憲
男、増山 寿、平松 祐司
【緒言】常位胎盤早期剥離は、産科DICの約50%
を占め、発症頻度は0.3~0.9%といわれている。
今回、我々は、本疾患を2症例経験したので、若干の
文献的考察を加えて報告する。
【症例1】37歳、2経
妊2経産。妊娠12週1日、当科にて子宮筋腫核出術
後、近医で妊婦健診を受けていた。妊娠21週5日、
常位胎盤早期剥離のため当科へ搬送となった。子宮は
硬、不規則な子宮収縮を認め、出血は中等量であった。
胎盤の大部分は剥離し、胎盤後血腫を認めたが、児心
拍は良好であった。産科DICスコア4点であった。
妊娠継続に対する強い希望があり、抗DIC療法下に
経過観察とした。翌日、IUFDとなり、陣痛誘発に
て経腟分娩となったが、DICとなることなく、分娩
後9日目に退院とした。
【症例2】30歳、0経妊。近
医にて妊婦健診を受けていた。妊娠34週4日、IU
FD、常位胎盤早期剥離のため、当科へ搬送となった。
子宮は板状硬、子宮収縮はさざ波状、出血は少量であ
った。胎盤は中等度に剥離し、胎盤後血腫を認めた。
産科DICスコア5点であった。抗DIC療法下に頸
管拡張を行い、同日、経腟分娩となったが、DICと
なることなく、分娩後8日目に退院とした。【考察】本
疾患はDICを併発する可能性が高く、抗DIC療法
の早期開始が予後を改善させる上で重要であると考え
られた。急速墜娩が必要であるが、分娩方法について
は一定ではない。
P-134
横浜市立大学附属市民総合医療センター 母子医療セ
ンター1、横浜市立大学医学部小児科 2
○堀口 晴子 1)、湯川 知秀 1)、小郷 寛史 1)、石田 史
彦 1)、安 ひろみ 1)、関 和男 1)、横田 俊平 2)、小川
幸 1)、奥田 美加 1)、高橋 恒男 1)
【目的】常位胎盤早期剥離は子宮内胎児死亡、母体 DIC、
重症新生児仮死などの原因となる産科異常で、迅速に
児の娩出をはかることが、母子の良好な予後につなが
る。当院で経験した常位胎盤早期剥離症例のうち、緊
急帝王切開術で出生した新生児の臨床像および予後に
ついて検討した。
【方法】平成 12 年 1 月から平成 19 年 3 月の間に当院
にて常位胎盤早期剥離の診断のもと全身麻酔下の緊急
帝王切開術で出生した新生児 57 例のうち、在胎 28 週
未満の超早産児、多胎児、染色体異常児を除いた 39 例
を対象として、臍帯動脈血 pH(UA-pH)
、新生児の臨床
経過について後方視的に比較検討をおこなった。
【結果】対象となった 39 例の在胎週数は 28~39 週(中
央値 34 週)
、出生体重は 802~3446g(中央値 1982g)
であった。出生時の蘇生で気管挿管による陽圧換気を
必要とした症例(A 群)は 8 例、マスクによる陽圧換気
を必要とした症例(B 群)は 11 例、酸素投与を必要と
した症例(C 群)は 11 例、蘇生を必要としなかった症
例(D 群)は 9 例であった。各群の UA-pH の平均は A
群:6.908±0.210、B 群:7.065±0.150、C 群:7.199
±0.102、D 群:7.213±0.147 であり、A 群、B 群では、
C 群、D 群に比べて有意に UA-pH が低かった(p<
0.001)。経過中、新生児けいれんが出現した症例は 5
例、頭蓋内出血を認めた症例は 3 例であった。入院中
に脳 MRI 検査を行った症例は 12 例で、このうち 2 例で
虚血による大脳基底核病変が疑われた。これらの神経
学的異常のいずれかを認めた症例はすべて出生時の蘇
生で陽圧換気を必要としており、かつ UA-pH が 7.0 以
下であった。
【考察】常位胎盤早期剥離症例では、胎児に加わる侵
襲が短時間の単一的な要素であるため、UA-pH と出生
時の新生児の症状とが比較的良く相関しているのでは
ないかと考えられた。出生時の蘇生に陽圧換気を必要
とし、UA-pH が 7.0 以下の症例では何らかの神経学的
異常を合併する可能性が高いため、注意深い経過観察
が必要であると思われた。
333
産後大量出血により心肺停止状態で搬送
され羊水塞栓が強く疑われた1症例
防衛医科大学 産婦人科
○吉永 洋輔、松田 秀雄、川上 裕一、芝崎 智子、
吉田 昌史、長谷川 ゆり、田中
雅子
羊水塞栓症疑い症例においてIL-8が
高値となった症例の解析
浜松医科大学 周産母子センター産科 1、浜松医科大学
産婦人科 2
○木村 聡 1)、平井 久也 1)、河村
隆一 1)、大井 豪
一 2)、西口 富三 1)、杉村 基 1)、金山 尚裕 2)
【目的】羊水塞栓症(以下AFE)は、周産期領域に
おいて妊産婦死亡を起こす重大な疾患であるが病因は
いまだ不明な点も多い。我々は全国から送られてきた
患者血清と臨床情報を元に、AFEの原因の究明およ
び有用な診断方法について検討している。
【方法】浜松
医大産婦人科教室では2003年8月より日本産婦人
科医会の委託を受けてAFE血清検査事業を行ってい
る。全国からAFEが疑われた症例の患者血清および
臨床経過の記入された登録用紙が送付されてきてお
り、現在までの我々の解析から、患者血清中のインタ
ーロイキン8(以下IL-8)の高い症例において母
体死亡症例が多いなど、予後が悪いことがわかってき
ている。今回我々は患者血清のIL-8が高い症例(2
0pg/ml以上)においてAFEの可能性、DICの
有無・出血量の解析を行った。
【結果】2003年8月
より2007年2月までの検体総数は190例(月平
均4.4件)そのうちIL-8を測定したものは14
4例あった。送付元の主治医が、臨床経過よりAFE
を最も疑ったものが85例(59%)。その他の疾患を
疑ったものの、AFEも否定できなかったものが59
例(41%)あった。144検体中IL-8高値が7
1例、正常値が73例。高値の71例中AFEと診断
されたものが54例(76%)
、AFE以外と診断され
たものが17例(24%)と、IL-8高値のものは
AFEと診断されたものが有意に高かった。またIL
-8が正常値を示した73例ではAFE疑いが31例
(42%)
、AFE以外が42例(58%)であった。
また、IL-8高値のうちDICを呈したものは51
例で(72%)正常値でDICを呈したもの35例(4
8%)に比し高い割合を示した。IL-8高値群59
例と正常値群57例(出血量不明28例除く)の平均
の出血量を比較するとIL-8高値群の平均出血量は
5368g(±5412g)
、正常値群は2628g(±
2297g)で、高値群において有意に出血の多い傾
向にあった。(p<0.05)【考察】羊水塞栓症を疑
われた症例のうちIL-8の高い症例は、そうでない
症例に比較し、よりAFEである可能性が高く、また
DICを併発し出血量も多くなる可能性の高いことが
示唆された。
P-135
P-136
<緒言>分娩時の母体死亡の原因はほとんどが分娩直
後の出血によるものであり、短時間に大量の出血をき
たし容易に出血性ショックに至ることが多い。自然分
娩では事前の準備が十分でない場合が多く、時に対応
の遅れから治療が難渋することもありうる。今回我々
は、他院にて分娩後突然の血圧低下、意識障害、弛緩
出血を認め当院に救急搬送された院着時心肺停止状態
の一例を経験したので報告する。<症例>44 歳女性、0
経妊 0 経産、自然妊娠、子宮腺筋症合併妊娠。妊娠初
期からの経過は特に問題なし。妊娠 29 週に転居のため
前医受診し妊婦検診を受けていた。10/17(37 週 6 日)
に自然陣痛発来にて前医入院。分娩経過中、児の遅発
一過性徐脈、過強陣痛認め緊急帝王切開術施行のため
手術室に入室するも経腟分娩となる。出生時児の Apgar
score 3/5 と新生児仮死のため新生児搬送。分娩直後
より母体の血圧低下、意識障害、弛緩出血認め当院当
科救急搬送となる。院着時瞳孔は散大、対光反射なし、
頸動脈触知できず、心電図上洞調律であったことから
PEA(pulseless electrical activity)と診断し、当院
救急部と協力し心肺蘇生を行った。到着後 14 分で心拍
再開するも 39 分後再び PEA。65 分後再度心拍再開し、
子宮からの出血に対し UAE(子宮動脈塞栓術)施行した
後 ICU に入室。重症 DIC に対し集中治療を継続した。
腹水貯留、貧血認めたため第3病日に子宮全摘術。そ
の後腹腔内出血認めたため第7病日に開腹止血術およ
び腹壁血腫除去術施行。入院後撮影した頭部 CT・MRI
にて明らかな脳萎縮、信号異常等みられていたが、第
24 病日に意識回復した。その後も大量の下痢の出現、
急性胆嚢炎に対し開腹胆嚢摘出術の施行、サイトメガ
ロウイルス感染症、真菌血症、Sheehan 症候群、悪性症
候群の合併等があった。現在リハビリテーション目的
のため転院準備中である。<結語>今回の症例では、
院着時心肺停止状態であったにもかかわらず、脳神経
学的後遺症を残さず救命し得た症例である。心肺停止
時間もかなり長時間であったがこの間の心肺蘇生が有
効であったと考えられる。病理検査で胎盤後血腫等み
られず常位胎盤早期剥離は考えにくい。院着時産科的
DIC スコアー33 点と高値で、臨床症状からも羊水塞栓
の存在も疑われた。
334
前期破水後、産科 DIC 及び羊水塞栓症を疑
われ産褥搬送された 1 症例についての検
討
浜松医科大学 周産母子センター
○望月 亜矢子、杉村 基、平井 久也、河村 隆一、
木村 聡、金山 尚裕
P-137
P-138
重症妊娠悪阻と深部静脈血栓症を発症し
たプロラクチノーマ合併妊娠の 1 例
国立病院機構 呉医療センター 産婦人科 1、中電病院
産婦人科 2
○花岡 美生 1)、水之江 知哉 1)、熊谷 正俊 1)、秋本
由美子 2)
【緒言】重症妊娠悪阻はしばしば日常臨床において遭
遇するトラブルであり、また妊娠中の静脈血栓症のリ
スク因子のひとつとして挙げられる。一方プロラクチ
ノーマは月経異常を来たす原因疾患のひとつであり、
妊娠可能年齢の女性に好発する疾患である。今回我々
は重症妊娠悪阻治療後に深部静脈血栓症(以下 DVT)を
発症し、抗血栓療法下に経腟分娩しえたプロラクチノ
ーマ合併妊娠の一例を経験したので報告する。
【症例】
28 歳 0 経妊 0 経産 27 歳時プロラクチノーマと診断さ
れたが手術適応なくカベルゴリン内服にてコントロー
ル良好となっていた。近医にて妊娠の診断を受け、妊
娠 5 週頃より悪阻にて輸液を受けていたが、症状増悪
し妊娠 8 週時当科紹介、妊娠 8 から 17 週にかけて入院
加療した。妊娠悪阻に伴い非妊時より体重は 10kg 減少
したが、妊娠 26 週頃より嘔吐はなくなり、体重も回復
した。妊娠 33 週時両下肢の浮腫、疼痛を訴え受診。左
下肢の浮腫、紅斑、Homan’s sign を認め、DVT 疑いに
て入院した。D ダイマー1.6 と明らかな上昇はなかった
が、超音波にて左下肢 DVT と診断した。弾性ストッキ
ング着用、ヘパリン持続静注を開始した。血栓性素因
については有意なものは認めなかった。理学所見は軽
快し、D ダイマーの上昇なく、超音波上血栓の描出でき
なくなったことから、IVC フィルター挿入は行わなかっ
た。妊娠 37 週 5 日に自然陣痛発来、ヘパリンを中止し
た。分娩経過に異常なく同日 2910g の男児を娩出した。
分娩時出血量は 194g と正常であり、分娩後 2 時間でヘ
パリンを再開した。ワーファリン内服を併用にて開始
し、産褥 10 日にて退院した。【考察】妊娠中の DVT の
発生リスクのひとつに妊娠悪阻による脱水がある。本
症例も重症妊娠悪阻の経過があるが、DVT の発症の時期
と異なっており、強い関連を示唆するものではない。
また一定の見解には至っていないが高プロラクチン血
症と血小板活性上昇の関連についての論文が散見さ
れ、本症例においてプロラクチノーマと DVT の関連の
可能性も考えられる。【結語】重症妊娠悪阻、DVT を発
症したプロラクチノーマ合併妊娠の一例を経験した
が、抗血栓療法、頻回の凝固系評価にて重篤な血栓症
を回避し経腟分娩し得た。重症妊娠悪阻があり脱水傾
向、長期臥床の経過がある場合は DVT のハイリスクと
して D ダイマー、下肢超音波などを行い管理をしてい
く必要があるのではないかと考えられた。
羊水塞栓症は、軽症例を除くと、急性期にアナフィ
ラキシー様ショックを来たし約半数が 1 時間以内に死
亡すると言われている。急性期死亡を免れた残りの半
数は DIC に移行し、高サイトカイン血症や SIRS の状態
となり、救命できるものと死亡または後遺症を残すも
のに分かれる。今回我々は、臨床経過より羊水塞栓症
が疑われ、早期診断・治療を行えた一例を経験したの
で報告する。 症例は 32 歳、0 経妊 0 経産。妊娠 40
週 3 日で破水し、ネオメトロ挿入後 15 分で胎児の持続
性徐脈が出現。全身麻酔下に緊急帝王切開術を施行し
た。徐脈出現から 25 分後に 3164g 男児娩出。Ap8/9。
術中出血量 630g。術後出血量 928g。術後血小板数が
減少、産科的 DIC スコア 8 点で、FFP・MAP・AT-3・ウ
リナスタチン投与され当科救急搬送となった。当科搬
送後の採血では、血小板 1.3 万/μl、AT-3 124%、
Fib93mg/dl。AFE スコアはスコア1が 4 点/6 点、スコ
ア2が 6 点/10 点であった。直ちに ICU 管理とし、引き
続き FFP、AT-3 による強力な抗 DIC 療法を施行。経過
良好のため術後 10 日目に前医転院となった。 浜松医
科大学産婦人科では、羊水塞栓症の血清検査事業とし
て、2003 年 8 月から全国の症例を集め、特に臨床的羊
水塞栓症の診断をより明確にするために、STN、Zn-CP1、
IL-8 などの血清学的な数値を含めてスコアリングした
診断基準を考案している。本症例は、この AFE スコア
と産科 DIC スコアから、産科 DIC を併発した羊水塞栓
症と診断した。 羊水塞栓症の治療としては、急性期
は適切な抗ショック療法と抗 DIC 療法が必要となり、
続いて高度救急医療病院での集中的な抗 DIC 療法及び
高サイトカイン血症の治療が必要となる。AFE スコアを
含め早期の診断治療は、羊水塞栓症の予後改善につな
がる可能性があると考えられる。
335
P-139
当科における妊娠末期の母体血液凝固線
溶系検査の検討
深部静脈血栓症既往・合併妊娠における一
時的下大静脈フィルター留置の適応の検
討
浜松医科大学
○猪爪 裕香、杉村 基、平井 久也、河村 隆一、
木村 聡、金山 尚裕
【目的】高齢妊娠ならびに帝王切開率の増加に伴い、
妊娠産褥期の深部静脈血栓症(DVT)肺血栓塞栓症(PTE)
の発症率が上昇しつつある。PTE をひとたび発症すると
致死的になることもありその予防は苦慮される。その
ため DVT に対し一時的下大静脈(IVC)フィルターを留
置し PTE の発症予防策が講じられているが合併症や副
作用も報告されており、その意義について十分な検討
がなされていない。
【方法】浜松医科大学周産母子セン
ターにおいて、1999 年4月から 2007 年2月までに血栓
性素因を有する妊婦もしくは DVT/PTE の既往を有する
妊婦計 20 例に対し、一時的 IVC フィルターを留置した
群と留置しなかった群について後方視的に周産期予後
ならびに合併症の有無について検討した。両群ともに
予防的抗凝固療法を行った。症例の内訳は、アンチト
ロンビン異常症 2 例、プロテインS異常症 3 例、APS6
例、原因不明(特発性)DVT/PTE 既往 8 例、血管腫(上
腕部)1例である。各症例については倫理上の配慮を
し、患者には了承を得ている。
【成績】全症例20例の
うち、IVC フィルターを留置した症例は6例であった。
留置群において、広汎に続発する血栓を形成した感染
例1例、Horner 症候群発症例 1 例を認めた。留置群、
非留置群において PTE 発症はなかった。フィルター挿
入に伴う合併症例を経験した。
【結論】DVT から続発す
る PTE を予防するために一時的 IVC フィルターは有用
な治療法であるが合併症も多い。適応として1)新た
な血栓形成が見られるもの2)浮遊血栓が存在してい
るもの3)ヘパリンなどの抗凝固療法の施行できない
症例のみに留置をおこなうのが適当と考えられる。
P-140
広島大学大学院医歯薬学総合研究科 産科婦人科学
○田中 教文、佐村 修、三好 博史、原 鐵晃、工
藤 美樹
【目的】妊娠末期は凝固能が亢進しており、産褥の深
部静脈血栓症(DVT)のリスクを念頭においた管理が必
要である。しかし、D-dimer 等の凝固線溶系検査の妊娠
時における確立された基準値はない。当科では凝固線
溶系異常の確認のため、同意が得られた妊婦に対して
妊娠末期に凝固線溶系検査(血小板数、PT 活性度、APTT、
FDP、D-dimer)を行っている。これらの検査の妊娠末
期における値を DVT の高リスク群と低リスク群におい
て比較・検討を行った。
【方法】2004 年 4 月から 2006
年 12 月に当科で分娩した妊婦 700 例中、抗凝固療法を
施行しておらず、妊娠末期(平均 36 週:29 週~40 週)
に血小板数、PT 活性度、APTT、FDP、D-dimer を測定し
ている妊婦 458 例を対象とした。対象を DVT の高リス
ク群 134 例(切迫早産 59 例、双胎 9 例、HELLP 症候群
6 例を含む PIH 37 例、単胎 IUGR 27 例、分娩前 BMI 30
以上の肥満 30 例:重複含む)
、これらのリスクを有し
ない低リスク群 324 例に分け、上記の測定値について
検討を行った。統計学的解析には Mann-Whitney の U 検
定を用い、p<0.05 を有意差ありとした。
【成績】低リ
スク群では血小板数:219±61×103/μl、PT 活性度:
114.4±13.5%、APTT:27.5±2.3 秒、FDP:5.3±3.6μ
g/ml、D-dimer:2.8±2.3μg/ml であった(±標準偏差)。
低リスク群に比し、肥満群の血小板数、および PIH、IUGR
群の PT 活性度は有意に高値であった。また、双胎群で
は血小板数が有意に低く、FDP、D-dimer は有意に高値
であった。今回の対象症例では DVT 発症を認めなかっ
た。
【結論】妊娠後期には FDP、D-dimer が低リスク群
においても非妊婦の基準値より高値を示したが、一方
で DVT の高リスク群でも凝固線溶系の検査値は低リス
ク群との間に有意差を認めないものも多かった。今後
は妊婦において新たに基準値を設定する必要性や超音
波診断等の画像診断による DVT の検索が必要と考えら
れた。
336
活性化プロテイン C 感受性試験による深
部静脈血栓・肺塞栓簡易スクリーニング法
の確立
浜松医科大学 周産母子センター
○平井 久也、杉村 基、望月 亜矢子、河村 隆一、
木村 聡、金山 尚裕
妊娠中の肺血栓塞栓症に対し血栓除去術
を施行した骨髄異形性症候群合併妊娠の
一例
弘前大学 産婦人科 1、青森県立中央病院総合周産母子
医療センター2
○山本 善光 1)、松倉 大輔 1)、田中 幹二 1)、尾崎 浩
士 1)、佐藤 秀平 2)
【緒言】肺血栓塞栓症(PTE)は深部静脈血栓症(DVT)
に引き続いて発症することが多く、妊産婦死亡の原因
となる。妊娠 22 週で PTE を発症し、血栓除去術を施行
した症例を経験したので文献的考察を加え報告する。
【症例】
35 歳、初産婦。17 歳から骨髄異形性症候群(MDS)
にて血液内科フォロー。平成 17 年 12 月7日、膝靱帯
損傷手術施行。最終月経を平成 18 年 1 月 18 日からと
して妊娠。妊娠 6 週頃から左膝裏痛、左下肢腫脹を認
め、妊娠 11 週には左下肢全体の腫脹、疼痛を認めたた
め、妊娠 13 週前医より当科紹介。USG にて左総大腿静
脈から膝下静脈に血栓を認め、皮下注用ヘパリン 15000
単位/日による抗凝固療法開始。症状に改善はみられた
が、血小板減少を生じたため、ヘパリンは中止し、前
医外来にてダナバロイドによる抗凝固療法継続。妊娠
22 週で突然の呼吸困難発症し、救急搬送。CT にて PTE
の診断。IVC フィルター留置し、集中治療部で経過みた
が血栓大きく、右心負荷も大きいため妊娠 22 週 5 日で
体外循環下血栓除去術施行。術後母児経過は良好で、
妊娠 24 週 1 日前医へ転院。しかし妊娠 26 週頃から、
右鼠径部、右下肢痛認め、妊娠 28 週 2 日で選択的帝王
切開術施行。児は 1210g 男児でアプガースコア 5/9。
NICU 入院となり、RDS にて治療行ったが経過良好。母
体術後経過も良好でワーファリン使用し、血液内科、
血管外科にてフォローアップ中である。
【考察】PTE は
発症してしまうと非常に重篤な経過をたどることが多
く、IVC フィルター挿入の適応を再考させられる症例で
ある。
P-141
P-142
【目的】妊娠産褥期は生理的に血液凝固能が亢進した
状態にある。また帝王切開例では手術侵襲や術後の安
静臥床などの要因により特に血栓症のリスクが高まる
と考えられている。しかし、従来より深部静脈血栓症
(DVT)、肺血栓塞栓症(PTE)のハイリスク群の抽出のた
めに有効な検査はなく、疫学的指標により予防措置が
なされているのが現状である。当講座では DVT・PTE の
ハイリスク群抽出の新規血液凝固マーカーとして、内
因性トロンビン産生能(ETP)を用いた活性化プロテイ
ン C(APC)感受性の測定を行っている。従来の測定法
では複数の煩雑な手順を要してきたが、簡易化をはか
り、リアルタイムに血栓症の危険度判定を行うことが
できるようになった。本研究ではこの簡易測定法を用
いて帝王切開症例における APC 感受性の推移を測定し、
同感受性試験の有用性について検討した。
【方法】2006
年 9 月から 2007 年 3 月まで当院にて帝王切開を施行し
た妊婦で、明らかな血栓性素因をもたない者のうち同
研究に同意を得られた 9 症例について、妊娠中と術後 1
日目の APC 感受性を測定し、比較検討した。オランダ
thrombinoscope 社製の蛍光リーダーとトロンビンに対
する蛍光基質を用いて ETP 測定を開始、マイクロプレ
ート側に APC をコーティングする手法を用いて、コン
ピュータ解析下 one-step で APC 感受性を算出した。
【成績】年齢は 27.9±4.4 才、手術適応は前回帝王切
開例 6 例、筋腫核出術後妊娠例 1 例、重症妊娠高血圧
症例 1 例、前置胎盤症例 1 例であった。手術前後の ETP
は 1810±244nM*min、1695±194 nM*min で有意差を認
めなかったが、APC 感受性は 1.86±0.707、2.71±0.923
(p=0.0448)と有意に感受性が低下した。
【結論】帝王
切開後には APC 感受性が低下し、血液凝固学的にも
DVT・PTE の発症リスクの高い時期であることが確認さ
れた。リアルタイム簡易測定法による APC 感受性試験
は DVT・PTE のハイリスク群抽出の新規血液凝固マーカ
ーとして有用であり、今後の幅広い臨床応用の可能性
が示唆された。
337
妊娠中のスクリーニングで発見されたア
ンチトロンビン欠乏症の 2 例
筑波大学 産婦人科 総合周産期母子医療センター
○小畠 真奈、竹島 絹子、中村 佳子、八木 洋也、
安部 加奈子、漆川 邦、小倉 剛、藤木 豊、濱田
洋実、吉川 裕之
【緒言】アンチトロンビンはヘパリンと協働して作用
する凝固反応抑制因子である。アンチトロンビン活性
低下は分娩前後の血栓症の risk factor となるため、
当科では妊娠 28-30 週においてアンチトロンビン活性
のスクリーニングを行っている。今回我々は、スクリ
ーニングを契機として発見されたアンチトロンビン欠
乏症の2例を経験したので報告する。
【症例 1】28 歳の初産婦。妊娠 28 週 0 日のアンチトロ
ンビン活性が 42%(基準値 80-120%)であった。妊娠 29
週より尿蛋白が出現、妊娠 30 週 0 日血圧 146/88mmHg、
尿蛋白 1175mg/dl のため妊娠高血圧症候群管理目的に
て入院。先天性アンチトロンビン欠乏症あるいは妊娠
高血圧症候群に伴うアンチトロンビン減少が考えら
れ、ヘパリンによる抗凝固療法を開始した。妊娠 30 週
4 日、常位胎盤早期剥離のため緊急帝王切開分娩となっ
た。児は 1,491g の女児で Apgar score 6 (1 分後)-9 (5
分後)、アンチトロンビン活性は 15%であった。また、
家系内検索を行ったところ、母及び兄がアンチトロン
ビン活性低値であった。分娩 2 カ月後のアンチトロン
ビン活性は 22%であった。
【症例 2】29 歳の初産婦。妊娠 30 週 1 日のアンチトロ
ンビン活性が 52%であった。先天性アンチトロンビン欠
乏症を疑い、3 週間毎にアンチトロンビン活性を測定、
45-50% で 推 移 し て い た 。 妊 娠 41 週 1 日 failed
induction を適応に帝王切開分娩となった。分娩前後の
抗凝固療法の必要性について説明したところ当初本人
は拒否していたが術後 1 日目にアンチトロンビン活性
が 32%と低下が見られ再度説明、本人の同意のもとにア
ンチトロンビン補充療法を行った。児は 3,715g の男児
で Apgar score 8 (1 分後)-9 (5 分後)、アンチトロン
ビン活性 57%で新生児としては正常範囲内と考えられ
た。家系内検索は本人、家族とも希望されなかった。
分娩 1 カ月後のアンチトロンビン活性は 46%であった。
【まとめ】スクリーニングによって 2 例のアンチトロ
ンビン活性低下症例を発見し、抗凝固療法を行った。
アンチトロンビン活性低下の原因は 2 例とも、250-500
人に 1 人の割合で認められる常染色体優性遺伝性のア
ンチトロンビン欠乏症と考えられた。本スクリーニン
グは分娩前後の血栓症の予防に有用であることが示唆
された。
妊娠中における protein S 低下に関する考
察
大阪市立大学 医学部 産婦人科
○松本 万紀子、橘 大介、中井 祐一郎、石河 修
P-143
P-144
【目的】妊娠中における線溶系、特に protein S(以下
PS)の推移や生理的意義に関しては未だ解明されてい
ない点が多くあり、また臨床上症状がない患者に異常
値が見出された場合、治療開始ポイントの基準がない
のも実状である。さらに、PS は線溶系以外にも作用を
持つことが注目されているものの、妊娠という負荷が
加わった状態での PS 動態やその背景因子に関しては、
我々の知りうる範囲ではほとんど解析されていない。
今回、我々は PS の妊娠中の推移を明らかにし、その胎
盤への沈着が認められることを示すとともに、PS の妊
娠中の生理的意義についても考察を加えたので報告す
る。
【方法】血漿中の PS 活性と PS 抗原量に関しては、
偶発合併症・産科合併症を認めず、また、胎児因子に
も子宮内胎児発育遅延などの異常を認めない単胎妊娠
例(正常妊娠例)を対象とし、健常非妊婦(CTL 群)と
比較した。また、中期胎盤と後期胎盤にて、PS の沈着
を免疫染色法にて確認、比較した。
【成績】CTL 群、10
週、20 週、30 週、40 週における PS 活性は各々、91±
14%、52±9%、51±14%、40±9%、39±8%であり、
妊娠初期より有意に低下した。Free PS 活性は各群にお
いて、72±11%、44±9%、45±11%、41±8%、41±
10%でありこれも初期より有意に低下していた。また、
各群における total PS 抗原は、83±8%、76±9%、68
±10%、59±9%、57±%8 であり、CTL 群に比較し 20
週から有意な低下を認めた。胎盤における PS の染色は
中期に比較し、後期で強く認めるけいこうがあり、ま
た、その染色部位は何らかの胎盤循環障害が疑われる
部位に強く認められた。
【結論】PS は血中で C4 binding
protein と 60%が結合して存在していることより、妊
娠中には免疫学的な制御が作用している可能性があ
る。また、Liu らは非妊娠ラットにおいて虚血・再還流
時の脳細胞保護作用についても報告している。本研究
で、胎盤が何らかの障害を受けたであろう部位に PS が
沈着することが明らかになった。妊娠中における PS の
低下原因は胎盤での消費であるか、あるいは免疫学的
制御によるものなのか今後さらなる検討が必要である
と考えられた。
338
分娩後3ヶ月に肝静脈血栓による
Budd-Chiari 症候群を発症したプロテイ
ンC欠乏症
国立病院機構大阪医療センター 産婦人科
○佐々木 浩呂江、伊東 宏晃、松本 久宣、高橋 秀
元、山田 成利、伴 千秋
P-145
P-146
急性肺損傷(ARDS)を呈した先天性サイト
メガロウイルス肺炎の 1 例
長野県立こども病院 総合周産期母子医療センター
新生児科
○三ツ橋 偉子、狐崎 雅子、横山 晃子、栗原 伸
芳、佐野 葉子、廣間 武彦、宮下 進、依田 達也、
中村 友彦
【はじめに】近年、妊婦の抗サイトメガロウイルス
(CMV)抗体保有率の低下に伴い、先天感染が増加傾向
である。先天性 CMV 感染でも全身感染の報告は多くみ
られるが、今回は肺炎という局所感染であったこと、
また、急性肺障害の呼吸不全を呈したので報告する。
【症例】近医で、在胎 40 週 3 日、3160g、Aps9 点(1 分)、
9 点(5 分)、経膣分娩にて出生。妊娠・分娩歴は特記
事項なし。生後 1 時間より努力性呼吸出現したため酸
素投与開始するも呼吸状態改善しなかったため、生後 5
時間より人工換気療法が開始され、胸部 Xp 上肺野は含
気ほとんど認められず瀰漫性に著明に透過性低下して
おり、急性肺損傷を疑わせた。換気不全に対して人工
肺サーファクタント投与施行し、入院後は HFO 管理と
し、日齢 1 には胸部 Xp 上、含気は改善し、以降、呼吸
器設定は徐々に軽減でき、日齢 7 に酸素投与中止でき
たが、入院時より WBC 上昇を伴わない CRP 上昇がみら
れ、気管内からは病原菌は検出されず、日齢 10 に気管
内分泌物で CMV-PCR 提出したところ陽性であることが
判明し、日齢 11 よりガンシクロビル(GCV)を 6 週間
投与した。GCV 投与開始後 CRP は陰性化した。経過中は
先天性 CMV 感染を強く示唆する血小板減少や肝機能障
害などの所見は認められなかった。日齢 10,19 の血清
CMV-IgM は共に 1.0mg/dl 未満で、児の血液・尿中
CMV-PCR は陰性であったが、母乳の CMV-PCR は陽性であ
った。治療終了後の ABR 検査では両耳とも異常所見は
認められなかった。
【考察】CMV の先天性肺炎で急性肺
損傷を呈した症例の報告はこれまでになく、GCV 投与に
より現在のところ合併症なく良好な経過をたどってい
る。原因不明の重症肺炎の場合に CMV も原因のひとつ
として考えることも重要であると思われた。
Budd-Chiari 症候群とは、肝静脈または肝部下大静脈の
閉塞により、肝静脈還流障害を生じ肝腫大、腹水、脾
腫、食道静脈瘤などをきたす比較的稀な疾患である。
妊娠、分娩はその発症のリスク因子とされている。今
回我々は分娩後 3 ヶ月に Budd-Chiari 症候群による大
量の腹水を発症したヘテロ体プロテイン C 欠損症の症
例を経験したので報告する。 症例は 29 歳の 1 回経産
婦。妊娠 35 週 3 日に 2172g の男児を Apgar score 9 点
で分娩した。1 ヶ月健診でも特に異常をみとめなかっ
た。産褥 90 日頃より著明な腹部膨満感を自覚するよう
になり、1 週間で 3kg の体重増加をみとめ、産褥 112
日に某医を受診し多量の腹水を指摘され、当院へ紹介
された。 初診時、腹部は著明に膨満し波動を認め、
自発痛や腹膜刺激症状はみられなかった。内診および
超音波では子宮、付属器はいずれも正常大であったが、
多量の腹水をみとめた。血液検査では軽度の肝機能障
害を認めたが、低タンパク血症、腎機能障害、炎症所
見等はみられなかった。 また、腹水穿刺では黄色透
明で漏出性であった。さらに、肝腫大を認めたため MR
angiography および造影 CT を施行し、中・左肝静脈の
血栓症による閉塞を認めたため Budd-Chiari 症候群に
よる腹水と診断された。さらに、血栓性素因について
精査を行ったところ、プロテイン C 活性 50%と低下を
認めヘテロ体プロテイン C 欠損症と考えられた。対症
的に利尿剤、抗凝固剤を使用したところ、腹水は著明
に減少したが、肝静脈の閉塞は未だ改善しておらず肝
腫大はさらに悪化している。さらなるカテーテル治療
や肝移植の必要性を視野にいれて慎重に外来にて経過
観察中である。
339
Leaky Lung Syndrome と考えられた超早産
児 3 例についての臨床的検討
兵庫県立こども病院 周産期医療センター 新生児科
○吉形 真由美、秋田 大輔、坂井 仁美、上田 雅
章、柄川 剛、溝渕 雅巳、芳本 誠司、中尾 秀人
【はじめに】leaky lung syndrome(LLS)は 1996 年にア
メリカの Swischuk により提唱された概念で、早期新生
児期以降の早産児における、肺の間質への液体の leak
を伴う、毛細血管透過性亢進による呼吸障害と定義さ
れている。今回、当センターで経験した、LLS と考えら
れる 3 例についての臨床的検討を行った。
【症例】2006 年に当センターで出生した超早産児のう
ち、臨床的に LLS と考えられた 3 例。在胎期間は 23 週
5 日~26 週 0 日、出生体重は 590~652g。2 例が男性、
1 例が双胎であった。2 例が絨毛膜羊膜炎を、1 例が臍
帯炎を合併していた。出生前ステロイド投与を受けて
いたのは 2 例であったが、1 例は不完全投与,1 例は投
与後 8 日目での出生であった。全例生直後に 3~4 度の
呼吸窮迫症候群に対しサーファクタント投与を行って
いたが、生後急性期にはステロイド全身投与はなされ
ていなかった。全例日齢 6 に、突然気管分泌物の著明
な増加と、胸部 Xp 上肺野透過性の低下を認め、臨床的
LLS と診断した。サーファクタント投与は有効ではあっ
たが効果は一時的であった。3 例中 2 例に対しステロイ
ド投与を行ったところ、LLS 症状は劇的に改善した。全
例に対し吸入ステロイド投与、HFO での呼吸管理を行っ
たが、全例慢性肺疾患を発症した。なお気管分泌物の
増加時期と気管内初回保菌確認時期は 3 例とも一致し
なかった。
【考察】LLS の発症機序には様々な仮説がある。LLS の
病態は肺浮腫であることより、その原因として炎症性
サイトカイン、肺うっ血、肺への容量負荷、圧負荷な
どによる肺胞上皮細胞の透過性破綻などの関与が考え
られているが、それら以外にもサーファクタント欠乏、
副腎機能不全が関与している可能性もあるとされてい
る。以上より、サーファクタントが欠乏している超早
産児の肺が、炎症性サイトカインの影響、呼吸管理に
よる容量負荷、圧負荷、さらに動脈管開存などによる
心不全や副腎機能不全の影響を受けることで LLS が発
症するのではないかと考えられる。
【結語】これまで超早産児において、気道系感染、も
しくはサーファクタント欠乏によると考えられてい
た、生後 1 週間前後に突然気管分泌物が著増する症例
の一部は LLS である可能性がある。今後、LLS と副腎機
能、慢性肺疾患との関連についてさらに検討していき
たい。
先天性肺リンパ管拡張症を反復した 1 症
例
住友別子病院 産婦人科
○松尾 環、多賀 茂樹
P-147
P-148
先天性肺リンパ管拡張症は、先天的に肺のリンパ管が
拡張してり、出生直後より重篤な呼吸障害を発症し、
致命的な経過をとることが多い予後不良な疾患であ
る。今回、稀な症例である先天性肺リンパ管拡張症を
経験し、また同じ母体から続けて 2 回とも生まれた児
がこの病気と診断された。
母体の年齢は、第 2 子分娩時 27 歳,第 3 子分娩時 29
歳。第 1 子は男児でとくに何も異常はなかった。母体
は心房中隔欠損症の既往があるが現在とくに検診を必
要としていない。家族歴は特記すべきことく血縁関係
もなし。
第 2 子妊娠時、他院にて妊婦健診うけており、陣痛発
来したためそのまま正常経膣分娩となった。在胎 39 週
0 日、女児、2698g、Apgar Score-18 で、出生後全身チ
アノーゼ出現し、陥没呼吸を認めたため当院新生児科
へ救急搬送された。その後も、チアノーゼを認め挿管
するも改善せず、他院へ搬送となり、あらゆる治療お
こなうも次第にアシドーシス進行し翌日死亡となっ
た。心奇形は否定的で、肺原性と考えられ、先天性肺
リンパ管拡張症と診断された。
第 3 子は他院にて妊婦健診をうけており、妊娠 25 週 0
日急に陣痛様の子宮収縮おこり前医にて塩酸リトドリ
ン静脈内投与するも収まらず当科母体搬送となりまし
た。塩酸リトドリン静脈内投与と硫酸マグネシウムを
併用し、妊娠 36 週 5 日、塩酸リトドリン静脈内投与を
中止し退院となった。妊娠 38 週 3 日に陣痛発来し、そ
のまま分娩順調に進行し、経膣分娩となった。児は、
女児で 2704g、Apgar Score-1/-58/8 で、啼泣も良く、
動きも良いが皮膚色は紅潮しなかった。小児科医に診
察依頼し、胸部 X-p にて前児と同様の疾患であると診
断され、挿管し呼吸管理するもそのまま呼吸状態改善
せず死亡した。
今回、先天性リンパ管拡張症が 2 回続くという稀な症
例を経験した。診断、治療ともに困難な疾患で、高度
のチアノーゼや呼吸不全、あらゆる呼吸管理に不応の
場合には鑑別すべき疾患の一つであるとおもわれた。
340
在宅酸素療法を目前に肺高血圧の急性増
悪により死亡した超低出生体重児の1例
愛仁会 千船病院 小児科
○川本 久美、横田 知之、高野 勉、岩本 公美子、
高寺 明彦、吉井 勝彦
【はじめに】今回私達は慢性肺疾患(CLD)の慢性期に急
性増悪した肺高血圧症(PH)に対して、一酸化窒素吸入
療法(NO)および血管拡張剤多剤併用療法を施行するも
死亡に至った超低出生体重児の 1 例を経験した。PH の
リスクの高い CLD 児に対する慢性期管理・評価につい
て、また近年新生児領域においてもその有効性が数多
く報告されている血管拡張剤療法等などの治療につい
ての考察を加えて報告する。【症例】在胎 24 週 3 日出
生体重 648g、骨盤位経膣分娩にて apgar score 0 点/3
点(1 分/5 分)で出生した男児。母体は性器出血と切迫
症状のため当院産婦人科へ母体搬送となった。入院時
は完全破水状態、膣より緑膿菌が検出されており感染
徴候を認めた。羊水混濁を認め、胎盤・臍帯は極めて
脆弱で汚染が著明、胎盤病理は未確認であるが臨床的
絨毛羊膜炎と診断した。生後早期より HFO 管理を導入
し、安定を得られていたが、日齢 9 よりレントゲン上
泡沫状陰影が出現し、CLD3 型と診断した。修正 33 週に
抜管、微量酸素投与にて酸素化は安定し体重増加も得
られ、中枢神経検査にて異常を認めなかった。在宅酸
素療法導入し退院を提案したが家族に受容されず入院
継続となった。修正 41 週頃より啼泣時などに酸素化低
迷 が 頻 回 と な り 、 PH の 増 悪 を 懸 念 し
PGI2(prostacyclin)内服を開始した。修正 44 週、発
熱と不機嫌、急激な酸素化不良から PHcrisis に至った
ため塩酸モルヒネにて鎮静下人工換気を再開、PDE3 阻
害剤(milrinone)を併用した。一旦は酸素化の安定が
得られたが、抗生剤に抵抗性の発熱と高度炎症所見が
持続し、PHcrisis を繰り返し、NO 吸入療法を導入した。
持続性炎症はステロイド投与にて若干改善したが、酸
素化改善は得られず、PGI2(epoprostenol)および PDE5
阻害剤(sildenafil citrate)を併用したが、高度の右
心不全を呈し修正 53 週永眠した。
【考察】急増悪した
PH に対して NO 吸入療法や血管拡張剤投与により、肺血
流の一時的改善を得ることは可能であった。しかし右
心不全の合併を来した場合、救命は極めて困難であり、
CLD の重症化、および PHcrisis の予防が重要であると
考えられた。本児は高二酸化炭素血症を呈しており、
肺血管攣縮を来たし易いなど酸素化そのものより重症
度の指標となると思われた。
健側肺の緊張性気胸により重度の遷延性
肺高血圧を呈した右肺低形成の1例
茨城県立こども病院 新生児科
○毛利 陽子、片山 暢子、新井 順一、宮本 泰行
P-149
P-150
はじめに)今回、胎児期から観察されていたが、確定
診断に至らず、健側の緊張性気胸による重度の呼吸障
害を合併した右肺低形成の症例を経験した。出生前診
断についての反省も含めて報告する。症例)21 週時の
胎児エコー所見で縦隔の右方偏位を指摘され、周産期
センターに紹介された。周産期センターではエコー所
見で横隔膜ヘルニアは否定され、縦隔偏位も軽度であ
ったため、経過観察されていた。在胎 40 週 4 日、頭位
経膣分娩で出生した。出生体重 2699g、アプガースコア
8 点/8 点であった。出生時から呼吸障害が認められ、
両側胸部とも呼吸音が減弱し、心音が右方偏位してい
たため気胸を疑い、生後 15 分に気管内挿管し NICU に
収容した。左の緊張性気胸が認められ、ミダゾラム、
ベクロニウムで鎮静し、胸腔ドレーンを挿入し、持続
吸引を開始した。左側の気胸改善後も、右肺の含気が
乏しく、縦隔の右方偏位が認められ、右肺低形成を疑
われた。酸素飽和度の上下肢差があり、エコー所見で、
動脈弓の順行性の血流が描出されず、動脈管レベルで
右→左シャント優位のため、大動脈縮窄を疑い、
lipo-PGE1 を投与した。生後 5 時間頃から急激に肺高血
圧が進行し、NO 吸入療法を開始した。日齢 3 以降肺高
血圧は徐々に改善し、日齢 9 に NO 吸入療法を中止した。
肺高血圧の改善に伴い、大動脈弓の順行性の血流が増
加し、動脈管の血流も左→右優位に変化した。大動脈
縮窄は否定され、lipo-PGE1 を中止した。気管支ファイ
バーで両側の気管支軟化症が認められたが、徐々に呼
吸状態は安定し、日齢50に人工呼吸管理を離脱した。
CT 所見では右主気管支の内腔は保たれているが、右肺
の容積は小さく、下葉と思われる部分にのみ含気が認
められ、右肺低形成と診断された。右肺動脈の低形成
も合併していた。考按)本症例では重度の右肺低形成、
右肺動脈低形成から換気はほぼ左肺に依存しており、
左側の緊張性気胸を合併することは、非常に危険であ
った。胎児診断されていたとしても、気胸を予防でき
なかった可能性はあるが、よりすみやかな初期対応が
可能であったと思われる。一過性、或いは軽度にせよ、
胎児期に縦隔偏位を呈する症例については、片側肺低
形成あるいは肺形成異常等を疑って、胎児 MRI 等を用
いて積極的に胎児診断をすすめることが必要と思われ
た。
341
バルーン拡張術が有効であった重症気管
狭窄の 1 乳児例
倉敷中央病院 総合周産期母子医療センター小児科
○川口 敦、西田 吉伸、渡部 晋一、馬場 清
先天性肺葉性肺気腫のため乳児期早期に
左肺全摘出術を要した1例
茨城県立こども病院新生児科
○藤山 聡、毛利 陽子、片山 暢子、新井 順一、
宮本 泰行
【はじめに】今回我々は、胎児期に胸腔内構造の異常
を指摘され、出生直後から呼吸障害が増悪した先天性
肺葉性肺気腫の男児例を経験した。左側上下葉に罹患
肺を認め、乳児期早期に二期的左片肺全摘出術を施行
し、呼吸状態は改善した。本症例の診断、管理に難渋
したため報告する。
【症例】患児は二絨毛膜性双胎第 2
子。在胎 19 週時に、心臓右方偏位と左胸腔内腫瘤を指
摘された。在胎 28 週時に左胸腔内腫瘤は消失した。在
胎 34 週時に心臓右方偏位改善し、胎児 MRI でも異常を
指摘されなかった。在胎 37 週 0 日、帝王切開術が施行
され、体重 2,595g、アプガールスコア 9 点/9 点で出生
した。徐々に陥没呼吸が増悪、血液ガスは呼吸性アシ
ドーシスを呈し、生後 1 時間に気管内挿管した。胸部
レントゲン写真では、左肺の過膨張、縦隔の右方偏位
を認めた。胸部 CT では、左上葉の気腫化と気管支閉塞
症に特徴的な粘液瘤を認めた。気管支鏡検査では異常
所見を認めなかった。左肺過膨張は進行し、右肺は圧
排された。呼吸状態の改善はなく、日齢 13 に左肺上葉
切除術を施行した。病理所見は先天性肺葉性肺気腫で
あった。しかし術後、残存した左下葉が過膨張し、胸
部 CT で気腫化を認めた。左肺全摘出術を考慮したが、
右肺低形成も否定できず、術中、術後の肺機能が問題
となった。肺換気血流シンチグラフィーにて、左下葉
は換気、血流の分布が減少し、ほぼ無機能肺と判断し
た。右肺は換気、血流の分布が一致し正常機能肺と判
断した。右片肺挿管により、右肺は圧排が解除され、
肺容量は増加した。右肺のみで換気が可能のため、日
齢 57 に左肺全摘出術を施行した。術後、右肺の著明な
過膨張を認めたが、肺換気血流シンチグラフィー、胸
部 CT より正常肺組織の代償性過膨張と判断した。呼吸
状態改善し、術後 46 日(日齢 103)に人口呼吸器から離
脱し、日齢 155 に在宅酸素を導入し退院した。【まとめ】
先天性肺葉性肺気腫での2葉以上の罹患は少なく、同
側の報告は稀である。本症例も当初、左上葉のみが罹
患肺と考えていたが、左同側2葉の罹患であった。治
療にあたり、肺機能の評価に肺換気血流シンチグラフ
ィー、片肺挿管が有用であった。
P-151
P-152
【緒言】先天性気管狭窄症は非常に予後不良で、他気
管支病変・心疾患を合併した場合はさらに救命が困難
となる。今回我々はファロー四徴に重症気管・気管支
狭窄症、気管支軟化症を合併した 1 乳児例を経験し、
気管バルーン拡張術により救命し得たので文献的考察
を加え報告する。
【症例】在胎 40 週 3 日、体重 2490g
で出生の男児。Apgar Score は 9(1 分)/10(5 分)。心雑
音、低位鎖肛、多指症を認め、心エコ-図でファロー
四徴の診断を受けた。日齢 2 に低位鎖肛に対して肛門
形成術を施行された。徐々に酸素化が悪化し、多呼吸
も出現したため、日齢 11 に当院 NICU に入院となった。
βblocker 内服などを開始したが、日齢 14 検査鎮静時
に重度の Anoxic Spell をきたした。同日他院で緊急 BT
シャント術を施行し、酸素化は改善された。しかし、
術後人工呼吸管理に難渋し、気管支ファイバーで肉芽
形成を疑われた。気管内チューブの固定位置により換
気条件が著しく変化するということを繰り返した。術
後 1 週間で当院へ再度搬送入院。気管ファイバー、3D
-CT で気管・両側気管支狭窄、重症軟化症と診断した。
その後 3 ヶ月間完全鎮静、highPEEP 療法、気管内 DEX
注入などで経過を見た。しかし、換気状態が徐々に悪
化、粘膜浮腫などから狭窄も徐々に進行してきたため、
生後 4 ヶ月時に、気管切開およびバルーンによる気管
拡張術を施行した。内径 3.0mm のチューブを気管分岐
部まで挿入。1 ヵ月後筋弛緩、鎮静を徐々に解除した。
自発呼吸も徐々に出現し、換気状態も安定した。途中
high PEEP、右室圧上昇の影響とも考えられる原因不明
の肝うっ血・障害をきたしたが、保存的治療で軽快し
た。その後の経過は順調で、9 ヶ月時に内径 3.5mm のチ
ューブへサイズ変更を実施している。【考案】先天性気
管・気管支狭窄はその解剖学的特徴から現在において
も致死率が非常に高い。しかし、本症例のような合併
疾患のある重症児においても、バルーン拡張術および
慎重な呼吸器管理を行うことにより充分救命し得るも
のと考える。
342
ステロイド治療を行った先天性乳糜胸の
3 例の検討
国立成育医療センター 周産期診療部 新生児科
○山口 解冬、斉藤 誠、藤田 正樹、高橋 重裕、
伊藤 直樹、塚本 佳子、中村 知夫、伊藤 裕司、
佐合 治彦
〔はじめに〕先天性乳糜胸は原因不明で治療に苦慮す
る場合も少なくない。今回我々は胎児治療(胸腔穿刺、
胸腔-羊水腔シャント術)
、禁乳、中鎖脂肪酸ミルク(以
下 MCT ミルク)
、酢酸オクトレオチドのいずれもが無効
であった難治性の乳糜胸に対してステロイド治療を行
った 3 例を経験したので報告する。
〔症例1〕在胎 30
週に胎児胸水を指摘され胸腔穿刺を施行された。在胎
31 週 5 日に児心音低下のため緊急帝王切開で出生し
た。 出生体重 1600g、Apgar score 4/7 であった。生
後胸腔ドレーン留置し、MCTミルク、酢酸オクトレ
オチドにおいても効果なく日齢 13 からプレドニゾロン
(以下 PSL)2mg/kg/day を開始した。翌日には胸水量
減少し、齢 17 にドレーン抜去、日齢 34 に PSL 漸減中
止としたが、その後も再貯留なく経過した。〔症例 2〕
在胎 32 週に胎児胸水を指摘され、在胎 34 週に胸腔穿
刺、胸腔-羊水腔シャント術を施行し胸水改善したが再
貯留し在胎 35 週 5 日に帝王切開で出生した。 出生体
重 2830g、Apgar score 3/5 であった。生後胸腔ドレー
ンを留置し、MCTミルク、酢酸オクトレオチドにお
いても効果なく、日齢 16 に PSL2mg/kg/day 開始した。
開始後から胸水の減少を認め、
日齢 24 にドレーン抜去、
日齢 34 に PSL 漸減中止としたが、その後も再貯留なく
経過した。
〔症例3〕在胎 26 週に胎児胸水を診断され、
在胎 29 週に胸腔穿刺、30 週に胸腔-羊水腔シャント術
を施行した。破水のため在胎 34 週 4 日に緊急帝王切開
で出生した。出生体重 1477g、Apgar score 7/8 であっ
た。生後胸腔ドレーン留置し、MCTミルク、酢酸オ
クトレオチドにおいても明らかな効果なく、一時禁乳
にしたところ胸水減少し日齢 26 にドレーン抜去した。
一般ミルク再開したところ胸水再発し MCT ミルクも効
果なく、日齢 100 から PSL2mg/kg/day で開始したが胸
水に変化なく、外科治療が考慮されている。〔考察〕2
例は臨床経過から PSL が有効であったと考えられた。1
例は効果は明らかでなかった。難治性の先天性乳糜胸
の治療においてステロイド治療の報告は非常に少な
く、今後症例の蓄積が必要と考えられる。
間質性肺気腫をきたした 3 症例:ステロイ
ドの投与法についての検討
関西医科大学附属枚方病院 小児科
○竹安 晶子、大橋
敦、北村 直行、黒柳 裕一、
木下 洋、金子 一成
P-153
P-154
【はじめに】間質性肺気腫(Pulmonary Interstitial
Emphysema : 以下 PIE)は、破裂した肺胞壁から血管周
囲や気管支周囲の間質に空気が流入し発症する。今回
演者らは新生児呼吸窮迫症候群の人工呼吸器管理中に
PIE を発症し、ステロイドを投与した超低出生体重児を
3 例経験した。3 症例の経過からステロイドの種類と投
与時期について考察する。
【症例】〔症例1〕在胎 28 週
4 日、Apgar score3 点(1 分)、5 点(5 分)
、出生体重
952g の女児。母体発熱あり(胎盤所見で絨毛膜羊膜炎
を認めた)
。日齢 17 から胸部X線で PIE の所見を認め
たため日齢 22 から Beclomethasone 吸入を行ったが効
果なく、日齢 29 から Dexamethasone 静注(0.2mg/kg/日
から開始し漸減しながら 9 日間投与)を行った。しかし
改善なく日齢 78 に左肺下葉切除術を行った。〔症例2〕
在胎 25 週 6 日、Apgar score3 点(1 分)、3 点(5 分)、
出生体重 858g の女児。他院で出生。母体の感染徴候な
し。日齢 12 から胸部X線で PIE の所見を認めたため日
齢 12 から Hydrocortisone の静注(7.5mg/kg/日から開
始し漸減しながら 9 日間投与)を行い改善を認めた。
しかし反対側の PIE 様変化を認めたため日齢 23 から再
度 Hydrocortisone の静注を行ったものの改善ないた
め、日齢 32 から Dexamethasone 静注(0.5mg/kg/日か
ら開始し漸減しながら 12 日間投与)を行い改善した。
〔症例3〕在胎 26 週 6 日、Apgar score6 点(1 分)
、9
点(5 分)
、出生体重 832g の女児。双胎の第 2 子。母体
の感染徴候なし。循環不全を認めたため日齢 4 から
Hydrocortisone の静注(3mg/kg/日から開始し漸減しな
がら 3 日間投与)を行っていたが、日齢 7 から胸部X
線 で PIE の 所 見 を 認 め た た め 、 日 齢 7 か ら
Dexamethasone 静注(0.5mg/kg/日から開始し斬減しな
がら 8 日間投与)を行い改善した。
【考察】PIE の3症例
に対し副腎皮質ステロイドの種類、投与量、投与開始
時期の異なる治療を行った。PIE による縦隔偏位を認め
るようになる前にステロイドの全身投与を行うべきで
あると思われた。そのさい抗炎症作用の強い
Dexamethasone が好ましいと思われた。
343
P-155
慢性肺障害の児に経口 PGI2 を使用した 1
例
北里大学 医学部 小児科
○釼持 学、中畑 弥生、伊藤 尚志、狐崎
長谷川 豪、野渡 正彦、石井 正浩
新生児慢性肺疾患に伴う肺高血圧症への
NO 吸入療法、beraprost 及び bosentan 使
用症例
山梨県立中央病院 総合周産期母子医療センター 新
生児科 1、山梨県立中央病院 総合周産期母子医療セン
ター 小児外科 2
○小泉 敬一 1)、根本 篤 1)、長嶺 健次郎 1)、内藤 敦
1)
、久保 雅子 2)
【はじめに】新生児慢性肺疾患(Chronic lung disease
以下 CLD)は、未熟肺が子宮外で成長する過程で様々な
損傷が加わることと、肺胞構造、肺血管床の成熟遅延
を生じることで起こるとされとおり、肺高血圧症を合
併する例が多い。肺高血圧症は、右心不全を生じ成長
を抑制するため、肺胞損傷の修復と肺血管床の発達を
遅延させる。今回、CLD に伴う肺高血圧症に、nasal DPAP
を用いた一酸化窒素(NO)吸入療法と PGI2(beraprost)、
エンドセリン受容体拮抗剤(bosentan)を使用し肺高
血圧治療を行った症例について組織所見を含めて報告
する。【症例】在胎 23 週 6 日、体重 582gで出生。日齢
105 に抜管したが、CLDIII による呼吸不全は進行し、
低酸素血症(PaO2 50-60mmHg)と高二酸化炭素血症
(PaCO2 70-90mmHg)、重度肺高血圧症が続いたため酸
素療法を行った。日齢 219(体重 1132g)から保育器内
で nasal DPAP(PEEP 4mmHg)を用いた酸素療法(酸素
40-60%)と NO 吸入療法(5-20ppm)で呼吸補助と肺高血
圧治療を行った。保育器内の排気を十分行うことで NO
ガス汚染は起きず、出血やメトヘモグロビン血症等の
副作用もなかった。さらに、日齢 235(体重 1306g)か
ら beraprost(2µg/kg/day)
、日齢 344(体重 1538g)
から bosentan の内服による肺高血圧治療を追加した。
bosentan は初期投与量 0.75mg/kg/day で開始し 2 週間
後に 1.5mg/kg/day に増量した。低体重児に bosentan
を使用したが、肝機能障害、貧血等の副作用はなく計
画通り増量できた。さらに 4 週間後に維持量
3mg/kg/day へ増量予定だったが、肺高血圧症、低酸素
血症は改善せず、bosentan 投与開始 5 週間目、日齢 382
(体重 1552g)に死亡した。【考察】CLD に伴う肺高血
圧症への積極的な血管拡張剤の使用の報告は少なく、
また早期産児への NO 吸入療法の安全性についても一定
の見解が得られていない。今回、CLD に伴う肺高血圧症、
低酸素血症に、nasal DPAP を用いた NO 吸入療法を行う
ことで、挿管による呼吸管理を回避できた。さらに、
肺高血圧症に対し、血管拡張剤である beraprost、
bosentan を使用したが副作用はなかった。今後、CLD
に伴う肺高血圧症への血管拡張剤の安全性と有用性に
ついてさらなる症例の蓄積が必要である。
P-156
雅子、
【はじめに】PGI2 は肺血管拡張作用を有し小児領域で
も原発性肺高血圧症の治療等に使用されている。今回、
超低出生体重児の慢性肺障害(CLD)のために肺高血圧
を合併した児に、経口 PGI2(Beraprost sodium)を投与
した。CLD に対する治療経験は少なく、経過順調であっ
たため、1 例のみであるが今後の治療に反映させるため
に経過をまとめ報告する。
【症例】在胎週数 24 週 3 日、
出生体重 666gにて出生した女児。前期破水、母体発熱
があり、子宮内感染を疑われ帝王切開にて出生した。
胎盤所見で羊膜絨毛膜炎と診断。臍帯血で IgM の上昇
がみられ、胸部レントゲン所見上、気腫状陰影が出現
し CLD3 型と診断した。人工呼吸管理を日齢 82(修正週
数 36 週 1 日)まで施行した。その後、酸素中止できず、
また、啼泣時にチアノーゼがみられ、心臓超音波にて
肺高血圧と診断、在宅酸素の適応と判断した。日齢 173
よ り 肺 高 血 圧 の 治 療 に Beraprost sodium を 2 μ
g/kg/day 分 3 投与を開始した。酸素投与は、ハイサン
ソ 0.5L/min とし、日齢 184 に退院した。外来では経過
順調であった。酸素量を増加することなく、また再入
院することもなく経過した。生後 8 ヶ月での心臓超音
波 で は 肺 高 血 圧 は 改 善 し て い た 。 生 後 10 ヶ 月 で
Beraprost sodium 中止した。現在、1 歳 0 ヶ月、酸素
は夜間のみの使用となっている。体重増加良好で、発
達も修正月齢相当である。
【考察】CLD の児に Beraprost
sodium を使用した。明らかな副作用はなく、経過順調
であった。1 症例のみの経験なので効果に関して明言は
できないが、今後、症例が増えれば CLD の治療選択肢
の1つとなる可能性がある。
344
P-157
DPAP施行中に発症したPIEの1例
インファントフローで改善無く、バブル
CPAP により呼吸困難が改善した2例
いわき市立総合磐城共立病院 未熟児新生児科
○本田 義信
P-158
北里大学病院 小児科
○横関 祐一郎、伊藤 尚志、狐崎 雅子、釼持 学、
長谷川 豪、野渡 正彦、石井 正浩
【はじめに】PIE(Pulmonary interstitial emphysema)
は主に間歇的陽圧呼吸を行っている児で発症するとさ
れている。今回我々は DPAP 管理中に PIE を発症した早
産児の一例を経験したので報告する。【症例】在胎 34
週 4 日、体重 1412g、Apgar score は 1 分値 6 点、5
分値 8 点、重度妊娠高血圧腎症のため緊急帝王切開で
出生した男児。出生直後より多呼吸と高 CO2 血症、胸部
レントゲンにて Bomsel 分類 2 度を認め、RDS の診断に
て DPAP による呼吸管理を受けていた
(PEEP は 6cmH2O)。
治療開始後、多呼吸や血液ガス所見は改善したものの、
日齢 3 の胸部レントゲンで右肺門部に嚢胞様の所見を
認めた。呼吸状態に変化は認められなかったが、日齢 5
には嚢胞様所見の増加増大と気胸を認めたため、DPAP
による管理を中止した。胸部 CT では複数の嚢胞所見と
気胸、嚢胞内には脈管構造を認め CCAM 等とは所見が異
なっていた。しかし DPAP 中止後も呼吸状態は安定し、
日齢7の胸部レントゲンでは嚢胞は消失しており、日
齢 15 の CT でも一部を残して嚢胞はほぼ消失していた
ため、経過より PIE と診断された。その後も呼吸状態
の悪化は認めず、胸部レントゲンで嚢胞・気胸を認め
ることなく日齢 66 にNICUを退院した。現在外来フ
ォロー中であるが、生後7ヶ月の時点では発育発達に
異常を認めておらず、7ヶ月時の胸部レントゲンでは
異常を認めていない。【考察】PIE は間歇的陽圧呼吸を
行っている児で発症すると思われているが、本症例で
は DPAP による管理であるにもかかわらず PIE を発症し
た。文献的に PIE は間欠的陽圧呼吸における PIP、PEEP
のほか、呻吟による PEEP 様効果、羊水などによる
Check-valbe、RDS 等による肺内の換気の不均衡によっ
ても起きるとされている。近年、軽度の RDS に対し DPAP
による呼吸管理が多く見られようになった一方で、
DPAP 施行中に発生した Air leak を経験することがあ
る。症例によっては呼吸努力や多呼吸の遷延を防ぐた
めに、挿管しサーファクタントを早期に投与し低い圧
での間歇的陽圧呼吸を行うほうが、PIE を予防できる可
能性もあると考えられる。本症例のように DPAP を施行
しても呼吸努力や多呼吸が続く場合には、DPAP 続行の
是非を再度検討する必要があると考えられた。
【始めに】バブル CPAP は有効性が報告され、日本でも
臨床使用できる様になった。しかし日本の NICU で広く
普及しているインファントフローによる nasal CPAP と
の優劣は不明である。私たちはインファントフローで
改善しなかった呼吸困難症状・高二酸化炭素血症が、
バブル CPAP の使用により軽快した2症例を経験したの
で報告する。
【症例1】在胎 36 週4日、出生体重 1690g、Ap9-9。NICU
入室後、直ちにインファントフローによる nasal CPAP
(FiO2 0.21CPAP4-6cmH20)で治療開始した。呻吟、多
呼吸、陥没呼吸が改善せず TcPco2 が50台前半(ヒー
ルカット 59.0mmHg)が続くため、生後5時間にバブル
CPAP
(CPAP6 cmH20,Flow 12)
に変更した。直後より TcPco2
は低下し 40 台前半となり、陥没呼吸・呻吟が消失した。
翌日には呼吸補助不要となり、X-P 所見から新生児一過
性多呼吸と診断した。
【症例2】在胎34週5日、出生体重 2450g、Ap9-10。
NICU 入室後、直ちにインファントフローによる nasal
CPAP(FiO2 0.4 CPAP4-6cmH20)で治療開始した。呻吟
強く TcPco2 が 65 前後続くため生後4時間にバブル
CPAP(CPAP6cmH20,Flow 12)に変更した。直後より TcPco2
が低下し 60 前後となリ陥没呼吸も軽減した。その後、
啼泣を契機に TcPco2 が 40 台まで低下し、酸素化も改善
し FiO20.21 まで下げられた。翌日には呼吸補助不要と
なり X-P 所見から新生児一過性多呼吸と診断した。
【まとめ】備品の経済性、腹臥位での管理が可能で安
静が保てることより、RDS が否定できる呼吸障害にはイ
ンファントフローによる nasal CPAP が第一選択の治療
に適していると私たちは考えている。しかしそれでも
呼吸困難症状・高二酸化炭素血症が改善しない場合の
第2の治療としてバブル CPAP は、気管挿管前に考慮す
べき治療の一つと考えられた。
345
バ ブ ル CPAP の ジ ェ ネ レ ー タ を 用 い た
nasal IMV により呼吸症状が改善した1例
いわき市立総合磐城共立病院 未熟児新生児科
○本田 義信
【始めに】インファントフロー、バブル CPAP で呼吸困
難症状の改善が無かった新生児一過性多呼吸の低出生
体重児にバブル CPAP のジェネレータを用いた nasal
IMV を使用し呼吸症状が改善した1例を報告する。
【症例】在胎 34 週5日、出生体重 2198g、Ap8-9。帝王
切開にて出生。NICU 入室時より陥没呼吸・鼻翼呼吸を
認め、直ちにインファントフローによる nasal CPAP
(CPAP 圧 6-8cmH20、FiO20.25)で治療開始した。1
時間後、高二酸化炭素血症(TcPco250 前後、ヒールカ
ット 59mmHg)を認め、陥没呼吸はやや軽減したが持続
した。生後4時間にバブル CPAP(CPAP6cmH20,Flow12)
に変更した。Flow を上げても高二酸化炭素血症の改善
無く、生後5時間にバブル CPAP のジェネレータを用い
た nasal IMV に変更した。プロングはバブル CPAP の純
正 品 を 人 工 呼 吸 器 は SLE2000 を 用 い 、 設 定 は
PIP/PEEP20/5,RATE40/m,i-time0.3s,FiO20.21 で 開 始
した。呼吸器に同調した胸郭の動きが観察され、直後
より TcPco2 は低下を始め 43 前後(ヒールカットで
53mmHg)となり、陥没呼吸も消失した。翌日には呼吸
補助を必要としなくなった。経過、X-P より新生児一過
性多呼吸と診断した。
【まとめ】インファントフロー・バブル CPAP で改善し
なかった呼吸困難症状・高二酸化炭素血症が、バブル
CPAP のジェネレータを用いた nasal IMV により改善し、
気管挿管を回避できた。nasal CPAP の使用により、挿
管管理を必要とする症例が減少したとの報告が多くな
されているが、RDS 以外でも挿管管理を必要とする症例
は少なくない。バブル CPAP のジェネレータを用いた
nasal IMV を治療の選択肢に加えることにより、気管挿
管の頻度をさらに減少させることができる可能性が示
唆された。
nasal IMV 時の鼻装着部位の方法による有
効性と問題点の比較検討
いわき市立総合磐城共立病院 未熟児新生児科
○本田 義信
【始めに】当科で使用している3種類の nasal IMV の
鼻装着法の無呼吸発作に対する有効性と問題点を検討
した。
(nasal IMV の適応)ネオフィリン、インファントフロ
ーによる nasal CPAP で治療しても、刺激回復を要する
無呼吸発作が8時間に 3 回以上ある場合
(効果判定)nasal IMV 開始前後8時間で刺激回復を要
する無呼吸発作が 50%未満に減少した場合を有効とし
た。適宜、CPAP に戻し有効性を確認した。
(使用期間)CPAP に戻し刺激で回復する無呼吸発作が
無くなるまで
(使用人工呼吸器)SLE2000
【結果】
(1)川口式 nasal CPAP:有効 6/12(50%)鼻
中 隔 発 赤 2/12(17%) 胸 郭 の IMV に 同 調 し た 動 き
2/12(17%)
(2)バブル CPAP のジェネレータに純正のプロングを装
着:有効 3/3(100%)鼻中隔発赤 3/3(100%)胸郭の IMV
に同調した動き 3/3(100%)
(3)バブル CPAP のジェネレータにインファントフロー
のマスクタイプのプロングを装着:有効 3/3(100%)鼻
中隔発赤 3/3(100%) 胸郭の IMV に同調した動き 3/3
(100%)
【まとめ】川口式を用いた場合、慢性肺疾患の重症な
児では呼吸困難症状が出現し従来の CPAP に戻る症例が
多かった。IMV に同調した胸郭の動きが観察される場合
もあり、明らかに有効なこともあるが有効率は低かっ
た。鼻中隔発赤は鼻孔の内側に認め、他の方法より少
なかった。バブル CPAP のジェネレータを用いた場合、
プロングに関わらず全例で IMV に同調した胸の動きが
観察され、有効率が高かった。鼻中隔発赤は、マスク
を使用した場合は鼻中隔下側に起こり、純正のプロン
グを用いた場合、鼻孔内の上側に見られ全例に認めた。
鼻中隔の損傷を避けるため1日おきに装着方法を変え
鼻中隔へのプロングの接触部位を変える必要があっ
た。S-IMV は数例で試みたが、いずれも感知不良だった。
有効例もプロングの装着のズレによる、一時的な無呼
吸発作の増加が見られ一定の効果を得ることが難しい
場合もあった。
【考察】それぞれの方法で症例毎の背景が異なり、純
粋な比較検討ではないが、それぞれの特徴を考慮し、
症例に応じての使い分けが必要である。また、今後は
Nasal IMV による肺損傷も検討する必要があると考え
られる。
P-159
P-160
346
P-161
在宅 nasal CPAP 療法により自宅で経過観
察し、自然軽快した喉頭軟化症の1例
N-DPAP にて保存的に管理できた気管・気
管支狭窄症を認めた超低出生体重児の 1
例
愛媛県立中央病院 総合周産期母子医療センター 新
生児科
○穐吉 眞之介、太田 雅明、長友 太郎、山口 朋
奈、横田 吾郎、隅 明美、梶原 眞人
新生児期に症状を呈する気管狭窄症の管理は難しく、
その予後も不良である。今回、気管狭窄症を合併した
超低出生体重児を経験したのでここに報告する。【症
例】在胎 28 週 5 日、778g、胎児心拍モニター異常にて
緊急帝王切開にて他院で出生。自発呼吸は確立してい
たため、呼吸補助は酸素投与のみで経過を診られてい
た。日齢 2 に無呼吸発作が頻発し人工呼吸管理開始さ
れた。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌による肺炎と無
気肺を併発、動脈管開存症(以下 PDA と略)に対して
はインドメタシンの投与を施行されるも効果無く、無
気肺は右全肺野にまで進行し、日齢 27 に PDA の加療目
的で当院へ転院。当科入院時、全身状態不良、胸郭に
左右差を認め、レントゲンでは左肺の過膨脹、右全肺
野の無気肺を認めた。PDA は症候化し、上腸間膜動脈、
前大脳動脈の拡張期血流は逆流波形を認めた。PDA 結紮
術は危険性が高く、無気肺が改善するまでは保存的に
経過を診ることとした。PDA に対しては日齢 40、42、
46、49 の計 4 回インドメタシンを投与し、日齢 50 には
閉鎖を確認、無気肺も徐々に改善し日齢 54 には完全に
改善した。以後全身状態の安定を待って、日齢 60(修
正 37w2d)
、76(修正 39w4d)
、99(修正 42w6d)
に計画抜管試みるも抜管直後から著明な吸気性の呼吸
障害が出現し再挿管となった。気管支ファイバーの所
見では、気管軟化症の所見を呈していた。日齢 110(修
正 44w3d)に 4 回目の計画抜管施行し、抜管後
N-DPAP(nasal directional positive airway pressure)
を装着し、吸気性の呼吸障害は管理できた。日齢 202
(修正 57w4d)に施行した胸部の Multidetector
Computed Tomography(MDCT)にて気管・両側気管支狭
窄を認めた。日齢 296(修正 71w)に再度 MDCT にて気
管病変の評価を行ない、前回よりも改善傾向を認め、
N-DPAP からの離脱と在宅管理へ向けて日齢 325(修正
75w1d)に出生病院へ転院となった。【結語】N-DPAP
にて保存的に気管・気管支狭窄症+気管軟化症を管理
できた。気道狭窄症状を呈する病態には試みてみる価
値のある呼吸補助手段であると考えられた。また、MDCT
が病状把握に有用であり、気管支ファイバーと合わせ
て病態・病状の評価には有効な診断手段であると考え
られた。
P-162
いわき市立総合磐城共立病院 未熟児新生児科 1、独立
行政法人国立病院機構福島病院 小児科 2
○本田 義信 1)、小笠原 啓 2)
【始めに】喉頭軟化は自然軽快するが、重症の場合に
は長期入院管理を要する上気道疾患である。私たちは
喉頭軟化症により呼吸不全を呈した児に、在宅 nasal
CPAP(以下 n-CPAP)を試み、外来で安全に管理するこ
とができたので報告する。
【症例】在胎 37 週5日、出生体重 2566g、Ap8-8。ダウ
ン症、ファロー四徴症合併。日齢2よりチアノーゼ・
陥没呼吸が出現し、インファントフローによる n-CPAP
で治療を開始した。陥没呼吸は改善したが、啼泣後に
チアノーゼとなり TcPco2 が時には 70 台まで上昇する
エピソードを一時、繰り返した。日齢9に n-CPAP を中
止したが、吸気性喘鳴が徐々に増悪し多呼吸・鼻翼呼
吸が再増悪し、冷汗・CTR の増大を認めた。喉頭ファイ
バー、MRI により喉頭軟化と診断し日齢22に n-CPAP
を再開し症状は改善し CTR も正常化した。啼泣時のチ
アノーゼ発作がありフェノバール内服とトリクロリー
ルの随時内服を行った。日齢 60 頃より啼泣時のエピソ
ードは消失し内服中止後も再発しなかった。日齢 62 よ
り川口式 n-CPAP に変更した。n-CPAP は徐々に中止時間
を延長し日齢 39、75に中止を試みた。翌日には呼吸
困難出現し、n-CPAP が再開された。n-CPAP からの完全
な離脱には時間を要すること、重度のチアノーゼ発作
が無いこと、n-CPAP を一時中止できる時間が長いこと
より、安全に在宅管理が可能と判断し日齢82に川口
式 CPAP を用いた在宅用 n-CPAP(ネオネイタルケア
2005vol18No9P86-90 に報告)に変更し、日齢 90 に退院
した。自宅では装着時間を徐々に短縮し、何度か中止
を試み生後6ヶ月で完全に n-CPAP より離脱することが
できた。
【まとめ】喉頭軟化は喉頭陥没を繰り返すことにより
自然軽快が遅れると考えられる。本症例は n-CPAP によ
り、呼吸困難症状を緩和し喉頭軟化の自然軽快を早め
た可能性もあると推測される。しかし、長期の入院は
児の情緒発達へ影響し両親の負担も大きい。本症例は
n-CPAP を嫌がり泣く時は一時中止し、安静時に再装着
することにより、児にストレスをかけずに長期管理が
可能であった。長期入院を要する喉頭軟化は n-CPAP で
管理可能な場合、条件が合えば在宅 n-CPAP 療法が良い
適応になると考えられた。
347
当院における先端水平カット気管内チュ
ーブの気道改善効果に関する検討
安城更生病院 小児科
○加藤 有一、伊藤 美春、服部 哲夫、城所 博之、
久保田 哲夫、小川 昭正
【緒言】本法の有効性については本学会を含めてこれ
までに示されてきた。今回は当院における臨床上の有
効性を気管支ファイバーを用いて検討したので報告す
る。
【対象】2004 年 4 月から 2006 年 3 月に当院 NICU にお
いて先端水平カット気管内チューブ(以下、先端カッ
トチューブ)を用いて呼吸管理を行った 18 例のうち、
チューブ交換前後に気管支ファイバー検査を施行した
全 14 例とした。
【方法】先端カットチューブへ交換する前後に、気管
支ファイバー検査を施行し、仰臥位右向きの体位にお
いてチューブ先端部の状況を 20 秒以上にわたり記録し
た。後日、盲目的に再生し評価した。評価は開口部の
物理的狭窄の程度につき 5 段階評定尺度(grade1~5)
により行った。また、臨床看護の視点から電子カルテ
上に記載された交換後の看護観察記録につき、同じく 5
段階評定尺度により評価した。
【結果】対象は、在胎期間 25 週 3 日[22 週 2 日~27 週
5 日]、出生体重 635g[520g~972g]。交換時は、日齢 14[8
~39]、
修正在胎期間 27 週 3 日[24 週 0 日~32 週 4 日]、
体重 742.5g[499g~1020g]であった(それぞれ中央値
[範囲])
。気管支ファイバー所見の改善は 13 例(93%)
に認められ、10 例(71%)において 2 段階以上の明ら
かな改善を認めた。ただし grade1 まで改善した症例は
2 例(14%)にとどまった。看護記録による評価では「著
明に改善」が 6 例(43%)
、「改善」が 6 例(43%)、「や
や改善」が 2 例(14%)と全例に改善を認めた。気管
支ファイバー所見にて 2 段階以上の改善を認めた症例
では、全例で「著明に改善」または「改善」と良好な
改善を認めた。なお全例において交換操作はスムーズ
に施行することができ、本操作に伴う明らかな合併症
は認めなかった。
【考察】チューブ先端の開口状況の改善、及びそれに
伴う看護記録上の改善を認めたことから、当院にても
先端カットチューブの有用性を示すことができた。今
後、本法が標準的慢性肺疾患予防策として確立するこ
とに期待したい。しかし、効果の乏しかった症例、フ
ァイバー所見の改善が得られなかった症例の存在か
ら、先端カットチューブが補正できる狭窄には限界が
あるとも考えられる。チューブ先端部の更に良好な気
道確保には「チューブと気管との軸角差」の改善がよ
り本質的な課題と考える。
中枢性呼吸機能検査にて短期間に大きな
変化を認めた特発性脳梗塞の 1 例
松戸市立病院 新生児科
○荻田 純子、喜田 善和、長谷川 久弥、坂井 美
穂、吉田 和司、鶴田 志緒、園田 結子
【はじめに】新生児、特に呼吸中枢の未熟な新生児で
は無呼吸発作は臨床上大きな問題となる。中枢性の呼
吸機能の評価方法としては反射性呼吸調節を評価する
気道閉塞法と化学性呼吸調節を評価する CO2responce
がある。以前、我々は肺機能の回復した未熟児におい
て抜管成功群と失敗群で、反射性呼吸調節機能を測定
し、%prolongation に有意差がみられ、両群間で%
prolongartion を調べることにより無呼吸発作の評価
が可能となることを報告した。今回、特発性脳梗塞に
伴い無呼吸発作が出現し、状態安定までの短期間に反
射性中枢性呼吸機能に大きな変化がみられた症例を経
験したので報告する。【症例】在胎 30 週 0 日 1462g
にて出生の男児。母体が破水し、発熱および CRP の上
昇があり同日緊急帝王切開にて出生。Apgar Score 1
分 5 点、5 分 8 点。自発呼吸が弱く生後 1 分で挿管。RDS
はなく、呼吸状態は速やかに改善し、日齢 1 に抜管。
抜管後、呼吸状態は安定していたが、日齢 6 に無呼吸
発作が頻回となり,人工呼吸の再開を要した。翌日、
頭部超音波検査および頭部 CT で脳梗塞が判明した。日
齢 12 の肺機能検査は異常を認めなかったが、気道閉塞
法による%prolongation -14.5%と、修正在胎週数の
標準値と比較して著明な低値を示した。状態が安定後、
日齢 27 の%prolongation +25.1%と大きく改善し、日
齢 28 に抜管に成功した。なお、日齢 24 の CO2response
は異常を認めなかった。
【考察】本症例は無呼吸発作か
ら特発性脳梗塞が判明した。修正在胎週数と比較し
て%prolongation は著しく低下していたが、症状の安
定とともに短期間に%prolongation も改善し、脳梗塞
に伴う中枢性呼吸機能の変化と考えられた。中枢性呼
吸機能が修正在胎週数と比較して著しく低値を示す場
合には脳梗塞を含めた頭蓋内病変も鑑別として考える
必要があると思われた。
P-163
P-164
348
正期産児の新生児期無呼吸発作に関する
検討
聖隷三方原病院 小児科
○神農 英雄、廣瀬 悦子、宮崎 直樹、岡田 眞人
甲状腺機能亢進症の母体から出生した先
天性十二指腸閉鎖症の一例
近畿大学医学部附属病院 NICU 小児科 1 小児外科 2
○藤田 真輔 1)、井上 智弘 1)、永田 多恵子 1)、池田
優 1)、和田 紀久 1)、岡田 満 1)、八木 誠 2)、竹村 司
P-165
P-166
1)
症例母体
20 歳 0 妊0 産
未婚 バセドウ
病でチアマゾール(MMI)を内服中に妊娠。 妊娠が
判明してから、妊娠 9 週でプロピルチオウラシル
(PTU)に変更した。妊娠経過 在胎 22 週より胎児エコ
ーにて羊水過多と胃十二指腸の異常拡張を指摘され、
十二指腸閉鎖症を疑われてい た。甲状腺機能のコント
ロールは良好であった。在胎 37 週 3 日自然分娩にて出
生。 体重 2608g Apgar score 9/10 出生 5 時間後
の腹部レントゲンにて double bubble sign を認め、十
二指腸閉鎖症と診断した。他の内臓や外表奇形を認め
なかった。考察抗甲状腺薬には、チアマゾール(MMI)、
プロピルチオウラシル(PTU)の 2 種類があり、コントロ
ールのしやすさと副作用の観点から通常は MMI が使用
されることが多い。しかし MMI の妊娠初期の内服が奇
形発生に関与しているのではないかという文献が多
い。多い奇形としては、頭皮欠損、後鼻孔閉鎖、気管
食道瘻 、食道閉鎖、臍腸管瘻などがある。まとめ十二
指腸閉鎖症は、一般(非 Down 症)の発生率が低いことを
考慮すれば、今回のケースは MMI が原因となった可能
性は否定できない。妊娠適令期の患者には、 MMI の妊
娠初期の内服は奇形発生に関与する可能性があるとい
うことを十分に伝えておく必要がある。
【はじめに】一般に正期産児に起こる無呼吸発作は早
産児に比して基礎疾患に伴うことが多く、また特発性
の無呼吸発作も経験する。正期産児の無呼吸発作の特
徴と予後について検討した。
【対象と方法】2001 年1月~2006 年 12 月までに無呼
吸発作が原因で当院 NICU に入院した正期産児 47 例。
無呼吸発作は 20 秒以上の呼吸停止または 20 秒未満で
もチアノーゼや徐脈を認めた場合と定義した。すべて
の児に基礎疾患検索のため、血液検査、胸腹部 X 線検
査、頭部、心臓、腹部超音波検査を施行し、無呼吸発
作が強いか、または長期に認めた症例には頭部 CT、MRI、
ABR、脳波検査などが施行された。数日以上無呼吸発作
を認めず全身状態が良好と判断された時点で退院と
し、外来で経過観察を行った。診療録をもとに臨床経
過を後方視的に検討した。
【結果】平均在胎週数 38.4±1.1 週、平均出生体重 2905
±407g(うち light for date6 例(12.8%))、5 分 Apgar
score 9.4±0.6 であり、帝王切開で出生した児は 5 例
(10.6%)、吸引または鉗子分娩で出生した児は 7 例
(14.9%)であった。無呼吸発作の平均発症日齢は 0.9±
1.2、平均消失日齢は 4.3±4.8、平均発症期間は 4.4±
4.5 日間であった。生後 24 時間以内の発症は 24 例
(51.1%)で全例が日齢 4 までに発症した。日齢 7 以降も
無呼吸発作を認めた児は 8 例(17.0%)であり、発作が 1
週間以上認められた例は 10 例(21.3%)であった。無呼
吸発作の原因の内訳は特発性 26 例(55.3%)、多血症 6
例(12.8%)、感染症 4 例(8.5%)、頭蓋内出血 2 例
(4.3%)、新生児痙攣 2 例、新生児一過性多呼吸 2 例、
低体温 2 例、脳梗塞 1 例(2.1%)、喉頭軟化症 1 例、GER1
例であった。全例が新生児期に NICU を退院しているが
退院後に無呼吸発作を呈した例は認められなかった。
退院後 1 歳の時点まで follow up された 24 例のうち、
22 例(91.7%)が正常の成長発達であり、軽度の片麻痺を
2 例(8.3%)に認めた。2 例の無呼吸発作の原因は脳梗塞
と頭蓋内出血であった。
【考察】正期産児の無呼吸発作の原因として症候性が
約半数であり、原因検索と経過観察のための入院管理
は必要である。また長期的な予後は概ね良好であった
が、発達障害を来たした例も存在したため、ある程度
の follow up が望ましいと考えられた。
349
母体ヨード過剰摂取が原因と思われた先
天性甲状腺機能低下症の一例
横浜南共済病院
○小林 梓、安部 咲帆
超低出生体重児および極低出生体重児に
対する甲状腺ホルモン補充療法
自治医科大学小児科
○小宮山 真美、高橋 尚人、矢田 ゆかり、小池 泰
敬、本間 洋子、桃井 真里子
【はじめに】超低出生体重児(ELBW)の腹部膨満や体重
増加不良に対する甲状腺ホルモン補充療法を第 39 回日
本新生児学会、第 50 回日本未熟児新生児学会で 7 例報
告した。その後も、同様の ELBW および極低出生体重児
(VLBW)の追加症例 11 例を経験した。症例増加により新
たな知見が得られたので報告する。
【対象と方法】2002 年 1 月~2006 年 12 月に自治医科
大学新生児集中治療部に入院した ELBW137 名、VLBW177
名 の う ち 、 腹 部 膨 満 や 体 重 増 加 不 良 を 呈 し free
thyroxin(fT4)値が 1.25ng/dl 未満を示したのは 18 例。
この対象にレボチロキシンナトリウム(T4-Na)を投与
し、その効果を検討した。効果判定は腹部単純 X 線写
真による消化管拡張像の改善、tolerate できたミルク
量の変化、体重増加量の変化で行った。
【結果】対象は平均在胎週数 27.8(22~35)週、平均出
生 体 重 837(436 ~ 1400)g 、 ELBW15 名 、 VLBW3 名 。
appropriate-for-dates 児 8 名、small-for-dates 児 10
名。腹部膨満の出現日齢は平均 1.8 日。T4-Na 投与前の
fT4 値 は ELBW 0.69(0.11 ~ 1.23) ng/dl 、 VLBW
0.87(0.63~1.13)ng/dl、TSH 値は ELBW 50.02(0.80~
481.35)μU/ml、VLBW 6.98(2.67~14.63)μU/ml。T4-Na
投与を開始し、全例で腹部膨満が改善し体重増加が得
られた。効果が得られた時の T4-Na 投与量は平均 6.7
μg/kg/日、その時の fT4 値は ELBW で平均 1.28ng/dl、
VLBW で平均 1.60ng/dl。症状改善日数は平均 29 日。18
例中 8 例が退院後の外来フォロー時点で T4-Na 投与を
中止できた。
【考察】消化管栄養が困難で体重増加不良を示す ELBW
および VLBW では甲状腺機能検査を行うべきである。fT4
が 1.25ng/dl 以下の場合は、甲状腺ホルモン補充を行
うことが症状の改善に有効と考えられた。前回の我々
の報告では、TSH の上昇が見られたのは 7 例中 1 例のみ
であったが、今回追加した 11 例中 6 例で TSH の上昇が
みられ、ELBW、VLBW での甲状腺ホルモン分泌低下にお
いて、その病態は、TSH 分泌を含め症例により異なって
いると考えられた。
P-167
P-168
【母体情報】第 1 子は正常分娩。2 回目の妊娠を 5 週相
当で稽留流産後、深部静脈血栓症となり外科的手術を
施行。術後 3 ヵ月で 3 回目の妊娠を確認した。血栓予
防には海藻由来のフコイダンが有効と聞き、妊娠 5 ヶ
月頃から分娩直前まで海藻類を多量に摂取していた。
【症例】在胎 39 週 4 日、3336g、正常経膣分娩で出生
の女児。マススクリーニングにて、TSH 157.5μU/ml、
fT4 0.48ng/dl であることが日齢 10 に判明。日齢 12
に精査入院となった。入院時は、おとなしく空腹時啼
泣をあまり認めず。皮膚黄染軽度。大理石紋様なく、
四肢末端の冷感なし。小泉門横径 3mm(正常 5mm 以下)、
舌の突出なく、甲状腺を触知せず。腹部膨満はないが、
臍 ヘ ル ニ ア を 軽 度 認 め た 。 TSH 256.8 μ U/ml 、 fT4
0.35ng/dl、甲状腺シンチグラムで両葉のびまん性腫大
を認め、甲状腺ホルモン合成障害による原発性甲状腺
機能低下症と診断した。妊娠後半における母体のヨー
ド 1 日摂取量が 43,835μg 以上と算出され、ヨード過
剰 が 背 景 と 推 測 し た 。 日 齢 13 よ り 合 成
l-thyroxine(l-T4)10μg/kg/day 分 3 の内服を開始し、
その後の成長・発達は正常である。機能低下は一過性
である可能性も考えられたため、生後 11 ヶ月より 1 ヶ
月間 l-T4 を休薬し、1 歳時に再度精査を行った。しか
し、TSH 330.1μU/ml、fT4 0.43ng/dl、甲状腺シンチ
グラムで両葉のびまん性腫大を認めた。l-T4 約 3μ
g/kg/day 分 1 の内服を再開し、1 歳 10 ヵ月の現在も TSH
を正常域に維持するため内服を継続している。
【考察】
母体のヨード過剰摂取が胎児・新生児の甲状腺に一過
性の機能低下を来たすことは報告されており、この場
合、乳児の甲状腺機能低下症は 1 年以内に正常化する
という(西山宗六氏私信)。本症例も母親のヨード過剰
摂取による甲状腺ホルモン合成障害が原因と推測した
が、1 年後の再精査でも同様の機能低下が認められ、永
続的である可能性もあると思われる。先天性甲状腺機
能低下症では病型診断よりも治療が優先され、小児内
分泌学会の指針では最終的な病型は 3 歳時に決定すれ
ばよいことが示されている。今後、本症例においても
合成障害の原因を検索するとともに、慎重に経過を見
ていく必要があると考えられた。
(会員外協力者:横浜
南共済病院 成相 昭吉)
350
低血糖に対するグルカゴン投与の効果と
副作用について
獨協医科大学病院 小児科
○山崎 弦、栗林 良太、渡部 功之、新田 晃久、
鈴村 宏、有阪 治
【はじめに】当センターに入院し、低血糖に対してグ
ルカゴンを投与した 12 症例について、その治療効果と
副作用について検討する。
【対象】在胎週数は 29 週か
ら 40 週、出生時体重 1207g から 3613g。基礎疾患とし
て子宮内胎児発育遅延が 7 例、13trisomy が 1 例、母体
糖尿病合併が1例であった。全例で低血糖時の血清イ
ンスリンが高値(6 から 77μU/ml)であった。
【グルカ
ゴン投与前の状況】投与前の輸液糖濃度は 1 例を除い
て 18 から 25%G であった(1 例は経皮的中心静脈カテー
テルが挿入困難であったため、12%G の末梢輸液ルート
が 最 高 濃 度 )。 糖 投 与 量 は 5.4mg/kg/min か ら
21.5mg/kg/min で、糖投与量が低いものは開始日齢が早
い症例であった。5例においてグルカゴン投与前にス
テロイド投与を行ったが、いずれも永続的な効果は得
られず、無効と判断した。
【投与量と効果】グルカゴン
開始は日齢 1 から 14 で、ほとんどの症例においてまず
静注で 0.1mg/kg を投与し、その後 0.2mg/kg/day、1 例
で 0.3mg/kg/day で持続投与を開始した。開始前の血糖
値は 22 から 54mg/dl、開始後 3 時間の血糖値は 47 から
183mg/dl であり、全症例で開始前に比べ上昇を認めた。
グルカゴン最大投与量は 0.2 から 0.5mg/kg/day で開始
時より投与量を増やしたのは4例であった。グルカゴ
ン投与期間は 4 から 34 日間(平均 14.8 日間)であった。
【副作用】低 Na 血症が2例、血小板減少が1例であっ
た。在胎 33 週 1244g の児において 0.2mg/kg/day で血
小板減少を、0.4mg/kg/day に増量で低 Na 血症をきたし
たが、グルカゴン減量によりいずれも改善した。また、
13-trisomy の 1 例では 0.2mg/kg/day で開始後に低 Na
血症を起こしたが、使用を継続しても Na は徐々に正常
化した。【考察】グルカゴン投与はその効果が高いこ
と、副作用の頻度が低いことから考えて、新生児低血
糖に対して非常に有効であると考えられた。ステロイ
ド投与の効果は不十分であり、高濃度糖液輸液でも低
血糖が遷延する症例においては、グルカゴン 0.2mg/kg/
日持続投与を治療の第一選択にしてよいと考えられ
た。ただし、血小板が低値の症例では、グルカゴン増
量には注意する必要がある。
治療に難渋した高インスリン性低血糖症
の1例
日本赤十字社和歌山医療センター 第一小児科
○阿部 純也、奥村 光祥、百井 亨
P-169
P-170
症例は在胎 40 週 6 日、3500g、Apgar9/10 の男児。日齢
2 より活気不良、哺乳不良となり、低血糖(35mg/dl)
が認められたため、当院 NICU に緊急搬送された。入院
時に低カルシウム血症(iCa 0.78mmol/l)と高アンモ
ニア血症(543μg/dl)も認め、痙攣が群発した。高ア
ンモニア血症は、絶食と輸液で次第に低下した。哺乳
再開後に一時的に 147μg/dl まで上昇を認めたが、以
降は 70μg/dl 程度で落ち着いた。一過性高アンモニア
血症の原因は不明であった。低血糖症は、日齢 3 に高
インスリン血症(インスリン/BS 比=23.5/10)を認め、
高インスリン性低血糖症と診断した。ブドウ糖静注、
ハイドロコルチゾン静注、中心静脈からの高カロリー
輸液(GIR:最高 16.8mg/kg/min)
、ジアゾキサイド内服
(最高 21.5mg/kg/day)でも血糖コントロールは不良で
あった。そのためジアゾキサイド治療を断念し、日齢
23 よりプレドニゾロン 2mg/kg/day を開始して徐々に
血糖コントロールが良好となった。輸液糖濃度、プレ
ドニゾロンを漸減しながら、日齢 37 に点滴終了、日齢
58 に退院となった。感染などの重篤なステロイドの副
作用を認めず、日齢 117 にプレドニゾロンを終了した。
日齢 30 頃から経口哺乳量が減少し、注入併用とした。
日齢 32 頃から右上下肢の部分発作、ミオクロニー発作
が出現し、フェノバルビタールを開始した。日齢 50 の
頭部 MRI では、脳全体に萎縮を認めた。高インスリン
性低血糖症は、小児期発症の低血糖症の中で最も神経
学的予後の悪いものである。治療の第一選択はジアゾ
キサイドであり、無効の場合はオクトレオチド、グル
カゴン、ステロイド、外科的治療などが考慮される。
近年、この分野の遺伝子解析が進み、遺伝子変異の種
類でジアゾキサイドが有効かも判断できるようになっ
たと報告されている。また Francis らは、平均 181 日
で自然軽快した 26 症例を報告しているように、高イン
スリン性低血糖症の中には自然軽快する症例も見られ
る。本症例はジアゾキサイドが無効であったため、次
に経口コントロールを念頭にプレドニゾロンを選択し
た結果、血糖コントロールが良好となった。その後漸
減中止できたため、自然軽快したものと考えられた。
しかし本症例は低血糖の期間が長く、神経学的予後は
不良である可能性が高いと思われた。
351
新生児痙攣にて発症した持続性高インス
リン血症性低血糖症の1例
独立行政法人国立病院機構 三重中央医療センター
小児科 1、独立行政法人国立病院機構 三重中央医療セ
ンター 臨床研究部 2
○大槻 祥一郎 1)、盆野 元紀 2)、馬路 智昭 1)、田中
滋己 1)、山本 初実 2)
【はじめに】持続性高インスリン血症性低血糖症
( persistent hyperinsulinemic hypoglycemia of
infancy:PHHI)は小児期に発症する低血糖症の中で最
も神経学的予後の悪い低血糖症で、現在でも約半数の
症例で何らかの神経学的後遺症を残すと報告されてい
る。今回われわれは新生児痙攣にて発症し、PHHI の診
断に至った1例を経験したので報告する。
【症例】家族
歴に特記事項はなし。母体は妊娠 37 週頃より軽度高血
圧、浮腫を認めていた。患児は在胎 38 週 6 日、体重 4054
g(+2.7SD)
、アプガースコア 1 分 8 点、5 分 10 点、
帝王切開で出生した。出生直後明らかな異常は認めら
れなかったが、日齢2より間代性痙攣、低血糖が出現
し当院 NICU に入院となった。入院時血液検査の結果、
血 糖値 33mg/dl と低 下し てお り、 血中 イン スリ ン
(immunoreactive insulin:IRI)は 19.3μU/ml と増
加(IRI/血糖比 0.59)
、血中ケトン体、遊離脂肪酸は低
値であった。代謝性疾患スクリーニング、内分泌学的
検査、画像検査(頭、腹部)を施行したが異常は認め
られなかった。ブドウ糖による点滴(glucose infusion
rate 最大値 16.4mg/kg/min)で低血糖は軽快し、哺乳
力・体重増加共に良好となり高インスリン血症は改善
した。以上の結果より、巨大児に伴う一過性高インス
リン血症と診断し、日齢 108 に退院した。しかし退院
翌日に四肢痙攣、低血糖を認め再入院となった。グル
カゴン負荷テスト、ロイシン負荷テストを施行したと
ころ、前者では血糖上昇が良好であり、後者では血糖
低下と共に痙攣が誘発された。以上の結果より、本症
例は持続性高インスリン血症性低血糖症と診断した。
治療としてロイシン除去ミルク、ジアゾキサイドを開
始した。ジアゾキサイドは 5mg/kg/day で開始したが、
12mg/kg/day に増量して低血糖は軽快し、後遺症なく退
院した。
【考察】近年 PHHI は、ブドウ糖に対するイン
スリン分泌調節機構の破綻が分子レベルで理解される
ようになってきた。本症例では高インスリン血症及び
低血糖が一時寛解していたため PHHI の診断・治療が遅
れた。PHHI の早期診断のためには遺伝子解析を含めた
精査が必要であると思われた。
先天性副腎皮質過形成症に尿崩症を合併
した超低出生体重児の一例
帝京大学医学部小児科
○権東 雅宏、代田 道彦、内田 英夫、藤井 靖史、
星 順、柳川 幸重
P-171
P-172
超低出生体重児においては生じる合併症により水分や
電解質を含めた全身管理に難渋することが少なくな
い。今回我々は先天性副腎皮質過形成症(CAH)と尿崩
症(DI)を合併した超低出生体重児の症例を経験した
ので報告する。
【症例】在胎 31 週 0 日 出生体重 748g
(SFD)性別不明妊娠分娩経過:原因不明の IUGR と羊
水過少のため当院産科に入院、胎児仮死徴候を認め緊
急帝王切開術となった。母体合併症なし。経過概要:
重症仮死で出生し気管内挿管により蘇生後 NICU に入
室。特徴的な外表所見として全身の皮膚の色素沈着と
外性器異常(陰核肥大と陰唇癒合)
、および四肢の拘縮
と手指の変形を認めた。著明な低血圧を認めたため外
表所見から CAH を疑いヒドロコルチゾンの静注を行っ
たところ速やかに血圧が上昇、急性期合併症
(RDS,PPHN,PDA など)からの離脱後経腸栄養の確立に
伴いヒドロコルチゾンと酢酸フルドロコルチゾンの内
服投与に移行した。生後1ヶ月時に併発した細菌感染
症を契機に顕著な多尿となり多量の水分投与を要する
ようになった。高浸透圧血症と低張尿を認め DDAVP 投
与後の尿浸透圧上昇を確認し中枢性尿崩症と診断、
DDAVP 投与による尿量の調節を開始した。
【管理上の問
題点】1.CAH:一般的に維持療法に移行後のステロイド
投与量は血漿 ACTH 濃度や血漿レニン活性を参考にして
調節するが超低出生体重児では採血量や採血手技の問
題があり本例ではおもに電解質(血清、尿)や血糖値、
血圧などを参考にせざるを得なかった。また内服薬の
量が微量であること、未熟な腸管の吸収能を考慮する
必要があることなどから適切な投与量や投与間隔の設
定が困難であった。2.DI:DDAVP 製剤の効果にばらつき
が見られ投与量の調節が困難であった。原因として手
技的な問題や鼻腔粘膜の炎症などによる吸収の問題が
考えられた。【本例の今後の課題】1.CAH の病型診断
2.DI の原因究明(CAH との関連は?)3.性別の確定(染
色体検査)4.一元的な疾患概念の検索(何らかの先天
異常症候群?)5.在宅管理の指導 など
352
当院における極低出生体重児の低 Na 血症
の臨床的検討:第3報 低 Na 血症と身体
発育
加古川市民病院 小児科
○牟禮 岳男、石田 明人、村瀬 真紀、伊東 利幸、
湊川 誠、住永 亮、金澤 育子、樋上 敦紀
P-173
P-174
当院での晩期循環不全に対するステロイ
ド治療
東京都立墨東病院 周産期センター 新生児科
○西村 力、高野
由紀子、岩瀬 真弓、近藤 雅
楽子、九島 令子、大森 意索、清水 光政、渡辺 と
よ子
【はじめに】当院では 2001 年より晩期循環不全の発症
例が認められ、その後発症率は増加傾向にある。ステ
ロイドが有効であるが、神経毒性を考慮し必要最低限
を目指している。ステロイド減量で再燃を繰り返し、
長期間投与せざるを得ない症例もある。最適な治療法
が不明であり、当院での治療状況をまとめた。
【対象と
方法】2001~2006 年の 6 年間当院 NICU に入院となり、
晩期循環不全の診断でステロイド治療を行った症例を
対象に、患者背景、治療について後方視的に検討した。
2004 年 半 ば ま で は dexamethasone 、 以 降 は
hydrocortisone を 使 用 し て お り 、 分 析 は
hydrocortisone に換算して行った。【結果】全発症者
67 名、年別では 2001 年 2 名、2002 年 4 名、2003 年 9
名、2004 年 10 名、2005 年 14 名、2006 年 28 名だった。
平均値±標準偏差(範囲)は、在胎週数 25.7±2.4(21.9
~30.9)週、出生体重 733.2±217.2(400~1280)g、
ステロイド総投与量 72.6±61.2(4~321.9)mg/kg、投
与日数 27.7±27.1(1~107)日間だった。在胎週数が
未熟なほど、出生体重が少ないほど投与量、投与日数
が多く有意な相関を認めた。2001~2004 年と 2005~
2006 年で、在胎週数を 25 週前後で分けて比較したとこ
ろ、ステロイド総投与量は 21~25 週では 83.8±
83.9mg/kg と 101.0±59.3mg/kg、26~30 週では 60.4±
35.5mg/kg と 50.3±50.44mg/kg で有意差を認めなかっ
た。投与日数は 21~25 週では 24.8±31.2 日間と 52.2
±27.4 日間、26~30 週では 6.7±5.3 日間と 21.9±17.7
日間とどちらも 2005~2006 年の方が有意に延長してい
た。
【考察】ステロイドの初期量を減量する傾向があっ
たが、漸減中の再燃により少量長期投与とせざるを得
ず、総投与量は変わっていなかった。最適な投与方法
が不明で、長期投与にて二次的に副腎抑制をきたして
いる可能性も危惧される。少量長期投与と大量短期投
与でどちらが神経学的予後への影響が強いのか不明で
あり、今後の発達フォローは必要である。施設によっ
てはこれほどの量、期間を必要とせず回復する例が多
いとも聞き、その違いについても多施設調査が必要と
考える。
【目的】低 Na 血症の新生児期の身体発育に与える影響
を検討すること。
【対象】2000 年 1 月 1 日~2002 年 12
月 31 日に当院 NICU に入院した極低出生体重児 168 例
の内、在胎 30 週未満の例を対象とし、過去のカルテか
ら後方視的に検討した。週数別に 3 つの群に分類し、
各在胎週数の内訳は 23~25 週(A 群) 24 例、26~27 週
(B 群) 22 例、28~29 週(C 群) 31 例とした。以前、我々
が報告したように各群で低 Na 血症の発症率が異なるた
め、A 群では 120mEq/l 未満の血清 Na 値が 15 日以上の
ものを L 群、それ以外を N 群、B 群では 120mEq/l 未満
の血清 Na 値が 1 日以上のものを L 群、それ以外を N 群、
C 群では 130mEq/l 未満の血清 Na 値が 15 日以上のもの
を L 群、それ以外を N 群として各群にて比較検討を行
った。【結果】栄養方法の比較では、10%NaCl 内服/MCT
オイル/強化母乳の使用状況は、A 群は 63%/50%/100%、
B 群は 32%/23%/86%、C 群は 7%/3%/55%であった。L 群/N
群で投与頻度に差を認めたのは B 群の 10%NaCl 内服の
みであり、75%/7%と差を認めた。各群でそれぞれ出生
体重復帰日齢を比較したところ、A 群では 43.4±10.0
日/39.0±11.0 日、B 群では 35.4±10.4 日/37.9±6.8
日、C 群では 27.8±7.4 日/29.9±6.0 日であり、各群
とも L 群/N 群間で有意差は認めなかった。ミルク量が
100ml/kg/day を超えた日齢では、A 群で 17.3±5.6 日
/16.2±2.5 日、B 群で 16.1±7.4 日/13.6±3.3 日、C
群で 12.1±2.4 日/13.0±2.6 日であり、やはり有意差
は認めなかった。また、頭囲の発育に関し、第 15 週ま
で 1 週毎に計測を行い、A~C 群で L 群/N 群の比較を行
うと、15 週間の増加は A 群で 7.0cm/8.1cm、B 群で
7.4cm/8.7cm、C 群で 7.0cm/7.9cm と L 群で低値となる
傾向を認めたが、各群とも有意差は認めなかった。
【考
案】早産児低 Na 血症の新生児期身体発育に関する当院
における検討では体重増加に関しては明らかな差は認
めなかったが、頭囲発育に関して低 Na 血症群で緩やか
となる傾向を認めた。
353
頭蓋内出血を合併した ELBW の晩期循環不
全に長期経口ステロイドが有効であった
2例
和歌山県立医科大学 総合周産期母子医療センター
NICU
○平松 知佐子、杉本 卓也、熊谷 健、奥谷 貴弘、
樋口 隆造、吉川 徳茂
【はじめに】2005 年~2006 年の 2 年間で生存退院した
超低出生体重児 32 人のうち 15 人が晩期循環不全を発
症した。いずれも hydrocortisone の静脈内投与で改善
を得られたが、その中で頭蓋内出血を合併し重篤な経
過をたどった超低出生体重児で晩期循環不全が長期化
し、経口 hydrocortisone の投与が有効であった症例を
2 例経験したので報告する。【症例】(症例 1)在胎 23 週
2 日切迫早産のため緊急母体搬送され、同日経膣分娩で
出生。出生体重 578g. Apgar score1/ 4 点. 動脈血
pH6.89 の著明なアシドーシスあり。出生時から左側脳
室内出血を認め、数時間後実質内に穿破した。敗血症、
DIC のため交換輸血を 3 回施行。日齢 26 に晩期循環不
全発症し、hydrocortisone(ソルコーテフ)の静注を
開始。日齢 36 に Ommaya リザーバーを留置した。循環
不全を繰り返したため、日齢 44 から hydrocortisone
(コートリル)の内服に変更。その後循環動態が安定
し、日齢 86 に漸減中止。
(内服期間 1~13mg/kg/day を
42 日間)以降、VP シャント術と未熟児網膜症に対する
レーザー治療時に hydrocortisone 静注を行い、循環不
全は発症しなかった。(症例 2)19 週頃より IUGR あり、
在胎 25 週 6 日児心音が低下したため緊急帝王切開で出
生。出生体重 416g.Apgar score1/4 点.出血傾向あり、
生後 16 時間、右側脳実質内出血を合併し、日齢 3 に大
量肺出血と NEC を併発した。交換輸血を 2 回施行。日
齢 17 に晩期循環不全を認め、hydrocortisone 静注にて
改善した。日齢 30 に再び晩期循環不全を発症し、日齢
37 から hydrocortisone の静脈内投与を開始。投与後数
時間で血圧上昇するも、翌日には尿量低下し、全身浮
腫が増悪するという状態を繰り返したため、日齢 50 よ
り hydrocortisone の内服に変更した。その後一定の尿
量が確保されたため、日齢 77 に漸減中止した。
(内服
期間 2~4mg/kg/day を 27 日間)その後、未熟児網膜症
に対するレーザー治療時に hydrocortisone 静注を行っ
た。
【考察】症例はどちらも脳実質内出血をはじめ重篤
な経過をたどり、晩期循環不全が長期化した。晩期循
環不全が長期化する場合は経口ステロイド薬の投与が
有効であると思われた。
循環不全に対しステロイド投与を行った
児と行わなかった児を含む一卵性多胎の
比較検討
国立病院機構 九州医療センター 小児科 1、国立病院
機構 九州医療センター 産婦人科 2
○久保 鋭治 1)、後藤 貴子 1)、財津 佳与子 1)、佐藤
和夫 1)、小川 昌宣 2)、久保 紀夫 2)
【目的】急性期離脱後循環不全の病態に関して様々な
議論がされているが今なお解明されていない。今回、
遺伝的背景が同一の一卵性多胎で一児のみ血圧と尿量
の低下をきたしステロイド投与を要した児を経験した
ため、二児間での経過を比較しこの病態のリスク因子
について検討する。
【対象】当院で 2005 年、2006 年出
生の(A)在胎 30 週 0 日一卵性双胎の 2 児(出生体重
1178g と 1096g*)(B)在胎 30 週 0 日二卵性品胎中の一
卵性の 2 児(1124g と 1098g*)(C)在胎 27 週 6 日一卵性
品胎の 3 児(1068g、793g*と 738g*)。いずれも胎盤病理
と児の臨床所見から TTTS がなかったと考えられたも
の。循環不全を発症しステロイド投与した児(*の児)
は、他に明らかな原因なく突然平均血圧がそれまでの
約 80%に低下したか、8 時間の尿量が半分以下に低下
した児とした。【方法】診療録をもとに(a)アプガース
コア(1 分値/5 分値)、(b)経腸栄養開始日齢、(c)人工
換気期間、(d)発症時の授乳量、(e)急性期の重症合併
症の有無について 3 組それぞれについて発症児(**)と
非発症児間で比較検討を行った。
【結果】(A)(a)7/8 と
8/8**(b)ともに日齢 3(c)4 日と 5 日**(d)126ml/kg/日と
109ml/kg/ 日 **(e) と も に 無 し 。 ( 日 齢 29 に 発
症)(B)(a)8/9 と 9/9**(b)日齢 1 と日齢 2**(c)ともに 0
日(d)142ml/kg/日と 92ml/kg/日**、(e)ともに無し。明
らかに眼底検査後に循環不全が起こった。
(日齢 13 に
発症)(C)(a)3/4 と 5/7**と 5/7**(b)ともに日齢 3(c)7
日、29 日**、24 日**(d)日齢 11:52ml/kg/日と 42ml/kg/
日**、日齢 16:85ml/kg/日と 19ml/kg/日**(日齢 11,16
に発症)(e)発症した 2 児はそれぞれ強い肺浮腫からの
換気不全、敗血症を合併した。また、ステロイド投与
を要した児は全て light-for-dates(LFD)児であった。
要しなかった児は(A)(C)は AFD 児、(B)は AFD に近い LFD
児であった。【考察】出生体重が小さくかつ生後の経過
が比較的順調でない児の方が発症する傾向にあった。
LFD 児は文献的にもコルチゾル産生能が低いことが指
摘されておりハイリスク因子である可能性が考えられ
た。より多くの症例での検討が望まれる。
P-175
P-176
354
出生直後より副腎不全が疑われ、退院まで
ステロイド持続投与を必要とした早産児
の1例
加古川市民病院 小児科
○樋上 敦紀、石田 明人、村瀬 真紀、伊東 利幸、
住永 亮、湊川 誠、牟禮 岳男、金澤 育子
P-177
P-178
摂食障害の母体と共に偽性バーター症候
群を呈した低出生体重児の 4 例
和歌山県立医科大学 総合周産期母子医療センター
NICU1、和歌山県立医科大学 総合周産期母子医療セン
ター 産科 2
○樋口 隆造 1)、杉本 卓也 1)、平松 知佐子 1)、熊谷
健 1)、奥谷 貴弘 1)、南 佐和子 2)、八木 重孝 2)
【緒言】新生児早期に代謝性アルカローシスに遭遇す
ることは珍しいが、和歌山県立医科大学総合周産期母
子医療センターNICU では 2005-2006 の 2 年間に 4 例(総
入院数の 1.6%)の低出生体重児で経験したので報告す
る .【 症 例 】 双 胎 が 1 組 あ り , そ の 1 人 が
AGA(32w/1459g),もう 1 人が SGA(32w/1107g)で, 残り
の 2 人が LGA(37w/1743g, 37w/2155g)であった.4 例と
もその 3 人の母体と同様に低 Na, 低 K, 低 Cl 血症を呈
したが,Bartter 症候群の既往歴や家族歴はなかった.
母体は 3 人とも妊娠中に嘔吐を主とする摂食障害があ
り,分娩前の体重が妊娠前より軽くなった.新生児の
哺乳不良と無呼吸は約 3 日間で消失し,電解質異常,
代謝性アルカローシス,血清クレアチニンと尿素窒素
の上昇はそれぞれ 5-8 日,3-5 日,3-8 日で正常化した.
母体が妊娠中に晒されたストレス要因として,症例 1
では結婚,職場の金銭盗難事件,夫婦不和,極低出生
体重,症例 2 では痩せ願望,里帰り分娩,症例 3,4 で
は 3 回の体外受精,双胎妊娠,頚管無力症などが挙げ
られ,分娩後に嘔吐は軽快した.新生児は 4 例とも尿
中 Cl/クレアチニン比 (mEq/mg)が 0.1 以下であり,母
体同様に血清 Mg に異常なかったので偽性 Bartter 症候
群と診断した.
【考案】哺乳不良と無呼吸は電解質異常
とアルカローシスが正常化する過程で改善し、それぞ
れ関連すると思われた。
【推論】女性の年代別痩せの頻
度が 20 歳台で最大の 23%となっている今日の日本社
会では,体重の増加する妊娠の過程でストレスが加わ
れば摂食障害へと進展する要因を孕んでいる.その場
合,母体の栄養障害へ進むと子宮内胎児発育遅延の原
因ともなりうる.
【はじめに】早産児の一過性副腎不全は、一般に生後
数週より発症し 2~4 週間で回復することが多い。今回
出生直後より副腎不全が疑われ、生後早期より NICU 入
院中全期間を通してステロイド投与が必要であった超
低出生体重児の一例を経験したので報告する。
【症例】
母親は 39 歳、初妊初産。妊娠高血圧症、子癇発作を認
め、緊急帝王切開術施行。児は在胎 25 週6日、850g、
Apgar score 1/6 にて出生の男児。生後直ちに人工呼吸
管理開始し、サーファクタント 120mg を気管内投与し
た。日齢 2 までGI療法を行い、高K血症、低 Na 血症
は認めなかったが、尿量確保できず、徐々に著明な体
重増加、低血圧傾向を示した。カテコラミンや容量負
荷に反応しないため、日齢 6 から hydorocortisone(H
DC)3.9mg/kg/日投与開始。以後尿量増加、低血圧も
改善し、体重減少を認めた。HDC斬減し日齢 18 に中
止したが、徐々に低 Na 血症を認め、日齢 21 から再び
尿量減少、著明な体重増加、低血圧を認め、HDC再
開。以後速やかに改善した。日齢 31 に人工呼吸器を離
脱し、日齢 35 に HDC内服に変更。HDC減量を試
みるが、その度副腎不全の再燃を認めたためHDC5~
6mg/kg/日内服で経過した。日齢 107 に low-dose ACTH
負荷試験(0.21μg/kg)を施行。負荷試験前の血漿コ
ルチゾール 1.8μg/dl、尿中 17-OHCS 0.8mg/日に
対し、負荷試験後 1 時間の血漿コルチゾール 2.1μ
g/dl、尿中 17-OHCS 0.7mg/日と反応なく、副腎機
能不全と診断した。HDC内服続行、CLDに対し酸
素投与を行い、在宅酸素使用で日齢 150 にNICU退
院となった。なお染色体検査にて 7 番染色体長腕部分
トリソミーと診断され、頭部エコーにて生下時より右
硬膜外血腫、日齢2に両側IVH 、日齢 41 に両側P
VLを認めた。
【まとめ】急性期離脱後の循環不全、副
腎不全の報告は多数認めるものの、副腎不全が生下時
より持続した症例はまれであり、相対的副腎不全のみ
が原因とは考えられない病態である。視床下部-下垂体
-副腎系の未熟性や染色体異常等様々な背景が原因と
なっていると考えられ、十分な検討が必要な症例であ
った。
355
Prostaglandin E1 治療中に高レニン・高
アルドステロン血症を合併した2例
京都大学 医学部 発生発達医学講座
○水本 洋、丹羽 房子、河井 昌彦、中畑 龍俊
Prostaglandin E1(以下 PGE1)治療中に低ナトリウム
血症・低カリウム血症・代謝性アルカローシスを認め、
高レニン・高アルドステロン血症が証明された 2 例を
経験したので報告する。(症例 1)食道閉鎖(Gross C
型)
、鎖肛、Fallot 四徴症、左多嚢胞性異形成腎を合併
した女児(VACTERL 連合)。肺血流が乏しいため、日齢
0 より PGE1-CD の投与を 50ng/kg/min で開始し、日齢 2
に 100ng/kg/min まで増量したところ、尿中排泄増加に
よる低カリウム血症と低ナトリウム血症、代謝性アル
カローシスを認め、大量の電解質補充を必要とした(ナ
トリウムは 9mEq/kg/日、カリウムは 3mEq/kg/日)。こ
の時に測定した血漿アルドステロン濃度(ALD)は
2,380pg/ml と著明に上昇していた。その後 PGE1-CD を
5ng/kg/min まで減量し、同時に電解質補充量も減らす
ことができた。日齢 9 の再検査では ALD は 287pg/ml ま
で低下していた。
(症例 2)先天性横隔膜ヘルニア、肺
動脈閉鎖、右多嚢胞性異形成腎を合併した男児。日齢 0
より PGE1-CD の投与を 50ng/kg/min で開始し、その後
25ng/kg/min で維持していたところ、日齢 49 に測定し
た血漿レニン活性(PRA)は 171.4ng/kg/hr、ALD は
2,990pg/ml と著明に上昇していた。その後 PGE1-CD を
5ng/kg/min ま で 減 量 し 、 日 齢 64 の 再 検 査 で は
PRA107.7ng/kg/hr、ALD312pg/ml と低下傾向であった。
その後肺血流低下のため PGE1-CD を 50ng/kg/min まで
再増量したが、増量してから 3 日後の日齢 85 に測定し
た ALD は 2,410pg/ml まで上昇していた。なお経過中、
観血的に測定した血圧には大きな変化は認められなか
った。(考察)PGE1 の副作用として発熱、無呼吸、下痢、
血圧低下に加えて、高率に電解質異常を起こすことが
知られている。これは腎血管拡張による尿量の増加や、
併用する利尿剤の影響と考えられることが多いが、レ
ニン・アンギオテンシン・アルドステロン系の活性化
による機序も考慮すべきである。
妊婦健診にて分離した B 群連鎖球菌(GBS)
株の薬剤感受性の検討
横浜南共済病院
○安部 咲帆、小林 梓
【はじめに】B 群連鎖球菌(Group B streptococcus :
GBS,S.agalactiae)は、母体からの垂直感染による新
生児 GBS 感染症(肺炎、髄膜炎、敗血症)の重要な原
因菌である。妊婦における GBS の分離頻度や分離 GBS
株の薬剤感受性成績の検討は、新生児 GBS 感染症対策
の疫学的情報となり得る。
【目的】当院産婦人科外来の
妊婦検診の際に実施された腟培養における GBS の分離
頻度、および分離された GBS 株における薬剤感受性成
績を検討し、垂直感染予防戦略について考察する。
【方
法】当院産婦人科外来において 2001 年 6 月から 2006
年 12 月までに、妊婦検診(28 週)の際に実施された腟
培養の分離成績を後方視的に調べ、各年度における GBS
の分離頻度と年齢別の分離頻度を検討した。また、分
離された GBS 株における ABPC、 PCG、CLDM、EM の薬剤
感受性は、微量液体希釈法により MIC を測定し、CLSI
の判定基準で判定した。
【結果】妊婦 4837 例における
GBS 陽性率は全体で 264 例、5.5%、各年度 3.7%~6.7%、
年齢別では 15-19 歳:0%、20-24 歳:3.2%、25-29 歳:
4.4%、30-34 歳:6.2%、35-39 歳:6.2%、40 歳以上:9.4%
であった。また、GBS 延べ分離株数は 305 株、連続して
2 回分離された妊婦 35 例、3 回分離された妊婦 3 例を
認めた。ABPC/PCG 耐性(各抗菌薬の MIC2μg/ml≦)株
は 2 株(0.7%)であった。また、EM 耐性株は 1 株(0.3%)、
CLDM 耐性株は 10 株(3.3%)であった。
【考察】当院産
婦人科では妊娠 28 週の妊婦検診で監視培養を行い、GBS
陽性者に AMPC を 750mg/日、
7 日~14 日を投与していた。
しかし,本来 GBS は常在菌で保菌は継続的または間歇
的であるため除菌できない場合が認められ、投与後 2
例で ABPC/PCG 耐性株が分離された。耐性株が誘導・選
択された可能性がある。GBS 耐性株の誘導・選択を招か
ず垂直感染をより効率良く抑止するために、CDC2002
ガイドラインに従った監視培養と分娩時予防的抗菌薬
投与を行うことが必要と思われた。
(会員外協力者:横
浜南共済病院小児科 成相昭吉)
P-179
P-180
356
Edwardsiella tarda による髄膜炎に脳膿
瘍を併発した1例
聖マリア病院 母子総合医療センター 新生児科
○中村 祐樹、小池 敬義、首藤 紳介、岡本 龍、
古川 亮、城戸 康宏、橋本 崇、原田 英明、橋本
武夫
新生児劇症型 A 群レンサ球菌感染症の 1
例
横浜市立大学附属市民総合医療センター 母子医療セ
ンター1、横浜市立大学医学部小児科 2
○谷 昌憲 1)、湯川 知秀 1)、小郷 寛史 1)、石田 史
彦 1)、安 ひろみ 1)、堀口 晴子 1)、関 和男 1)、横田
俊平 2)
【はじめに】劇症型 A 群レンサ球菌感染症は 1990 年代
に注目され、本邦でも成人を中心に報告されているが、
新生児での報告は稀である。今回我々は、妊娠中に GBS
垂直感染予防として抗菌薬を投与された母体より出生
した、新生児劇症型 A 群レンサ球菌感染症を経験した
ので報告する。
【症例】母親は妊娠 29 週の腟培養で GBS 陽性のため抗
菌薬を内服し、妊娠 36 週で陰性化を確認された。児は
在胎 40 週 0 日、出生体重 3228g、Apgar Score 9/10 点
(1/5 分)
、経腟分娩で出生した男児。生後 4 時間より
呼吸障害が出現し、次第に呼吸状態が悪化するため、
生後 9 時間で当院へ新生児搬送された。入院時、活気
は乏しく、発熱、頻脈、鼻翼呼吸、呻吟を認めた。血
液 検 査 で は WBC2800/ μ l 、 Plt18.6 × 104/ μ l 、
CRP1.3mg/dl であり、胸部レントゲン写真とあわせて先
天性肺炎を疑い、ABPC+AMK の投与を開始した。日齢 1
には約 20 分間の四肢の間代性けいれんがあったが、髄
液検査より髄膜炎は否定的であった。日齢 2 には末梢
循環不全、出血傾向も出現し、WBC17610/μl、Plt4.0
X104/μl 、D-dimer6.7μg/ml、CRP24.0mg/dl と増悪
を認めたためカテコラミン、γグロブリンの投与およ
び抗 DIC 療法を開始した。日齢 3 に入院時血液培養か
ら A 群レンサ球菌(GAS)が検出された。日齢 4 より CRP
は低下し始め、徐々に全身状態も改善し、日齢 13 に抗
菌薬を中止、日齢 17 に軽快退院した。経過中に発疹は
認めなかったが、日齢 14 に両手指先端の膜様落屑を認
めた。なお母親は、産褥 3 日目の悪露の培養は陰性で
あったが、産褥 8 日目に発熱し、翌日の悪露の培養よ
り GAS が検出された。
【考察】母子垂直感染と考えられる、新生児劇症型 A
群レンサ球菌感染症の 1 例を経験した。本症例は、発
症初期より適切な抗菌薬を使用されたにもかかわら
ず、その症状は次第に増悪したが、抗菌薬とγグロブ
リンの投与のみで軽快しえた。新生児の劇症型 A 群レ
ンサ球菌感染症は急激に重症化し、死に至ることも多
いため、早期診断と迅速な治療が重要であると考えら
れる。本症例では、妊娠中に GBS 保菌に対して抗菌薬
を内服し、その後に菌交代現象が起きたことも疑われ、
妊娠中に抗菌薬を投与されていた妊婦から出生した児
に対しては、このような稀な細菌による感染症も考慮
するべきであると考えられた。
P-181
P-182
【はじめに】Edwardsiella tarda(以下,E.tarda)はウ
ナギやヒラメなど多くの魚種の病原細菌として知られ
ており,自然界での主な棲息動物は爬虫類と淡水魚で
ある。ヒトへの感染は稀とされ,さらに熱帯・亜熱帯
地域以外での報告は稀有である.ヒトへの感染部位の
多くは腸管,軟部組織であり基礎疾患のある患者への
感染が多いことが知られている.E.tarda による新生児
髄膜炎の症例は,我々が調べた限り 1968 年の初報告以
来 3 例しかいない.今回我々は E.tarda による化膿性
髄膜炎に脳膿瘍を併発した希少な 1 例を経験したので
報告する.
【症例】在胎 38 週 6 日,2872g にて出生の
女児.母は妊娠 14 週 0 日,左卵巣腫瘍にて左卵巣摘出
術施行された.妊娠中ペットの飼育歴,生鮮食品の摂
取歴はなかった.陣痛発来時 38.5℃の発熱認めた.自
然経膣分娩にて出生しアプガースコア 9/9,悪臭ある緑
色の羊水混濁を認めた.出生後は前医産科にて管理さ
れていたが日齢 4,38.5℃の発熱認め当科新生児搬送と
な っ た . 入 院 時 , 末 梢 白 血 球 数 20560/ μ l , CRP
5.0mg/dl,髄液細胞数 3195/mm3 にて化膿性髄膜炎と診
断した.検鏡にてグラム陰性桿菌認め ABPC,CTX,γ-glb
および DEX の投与を開始,翌日より解熱認めた.後日,
髄液,臍,便培養より E.tarda が検出された.日齢 18
造影 MRI にて脳膿瘍認めたため計 8 週間の抗生剤投与
を行った.経過中徐々に脳室拡大進行し日齢 42 脳室ド
レナージ留置,日齢 60 ドレーンを抜去した.以後全身
状態良好であり日齢 91 に退院した.退院後再発無く外
来にて経過観察中である.
【考察】E.tarda の新生児脳
膿瘍の報告は 1 例しかなく,本症例が 2 例目の報告と
なる.報告症例の少なさから比するとかなり高い確率
で脳膿瘍が生じている.起因菌である E.tarda の病原
性が脳膿瘍の発生と関連している可能性も示唆され,
今後検討が必要である.今回我々は E.tarda による新
生児髄膜炎,脳膿瘍をきたした症例を経験したが本菌
による新生児髄膜炎は症例数が少なくその治療法や膿
瘍合併との関連性について不明な点が多い.今後,更
なる症例の蓄積が望まれる.
357
P-183
Campylobacter laridis の胎内感染による
CHDF 施行中の敗血症性ショックに対し
PMX-DHP を併用した低出生体重児の一例
社会保険船橋中央病院周産期母子医療センター新生児
科 1、鹿児島市立病院新生児科 2、宮崎大学医学部産婦
人科教室 3
○瀬戸 雄飛 1)、加藤 英二 1)、坂本 理恵 1)、後藤 俊
二 1)、後藤 瑞穂 1)、茨 聡 2)、池ノ上 克 3)
PMX-DHP は 、 抗 生 剤 、 昇 圧 剤 な ど の conventional
therapy に対して抵抗性である重症敗血症性ショック
に用いられ、敗血症治療の有効な治療法の1つとされ
ている。今回腎不全のため CFDF 施行中肺炎合併による
septic shock に対し、PMX-DHP を併用した低出生体重
児の1例を経験したので報告する。<症例>症例は、
在胎 34 週 5 日双胎間輸血症候群(MDtwin score 4 点)
のため緊急帝王切開にて出生した受血児。出生体重
2140g。Apgar score1 分値 6 点、5 分値 6 点。出生後よ
り多尿認め、その後腎不全のため乏尿となり、14 生日
renal indication にて CHDF 開始した。18 生日、全身
皮 膚 色 発 赤 、 血 圧 低 下 、 徐 脈 、 WBC13300/ μ l,
CRP14.8mg/dl と上昇、胸部レントゲン写真にて肺炎像、
気管分泌物より staphylococcus warneri を認め、肺炎
合併による septic shock と判断し、CHDF+PMX-DHP を施
行した。PMX-DHP は、CHDF 回路に直列に接続し、2 時間
total600ml 灌流した。血圧は、PMX 施行中から上昇し、
終了後 4 時間後には、sepsis 発症前の血圧、心拍数に
回復した。また心エコー検査では、EF, LA/Ao の改善を
認めた。酸素化については、PMX 施行前 AaDO2498,
Oxygenation index11.2 であったが、終了後 12 時間頃
より低下し、36 時間後 241, 9.6 まで低下した。炎症マ
ーカーである IL-6,IL-8(pg/ml)は、PMX 施行前 273, 286
であったが、終了直後 232, 85.4、48 時間後 99.8, 92.3
と低下した。CRP は、PMX 終了 48 時間後 4.11mg/dl ま
で低下した。エンドトキシンは PMX 施行前後で陰性で
あった。<結論>体外循環施行時の septic shock 発症
時、PMX-DHP を併用することにより、劇的な循環動態、
酸素化、炎症の改善が認められ、急速な全身状態の安
定化が可能となった。
P-184
腸炎の 1 早産児例
福岡大学病院 総合周産期母子医療センター 新生児
部門 1、産科部門 2、小児科 3
○太田 栄治 1)、瀬戸上 貴資 1)、藤原 千鶴 1)、小川
厚 1)、森 聡子 1)、安達 正武 2)、小濱 大嗣 2)、瓦林
達比古 2)、廣瀬 伸一 1,3)
【はじめに】Campylobacter(C)属による周産期感染
は,C. fetus と C. jejuni によるものが死産や流早産
の原因となり,新生児の敗血症や髄膜炎などの重症感
染を引き起こすことが広く知られている.一方, C.
laridis は,健常なヒトに腸炎を起こすものの,自然に
軽快することが多く,通常は易感染性宿主において問
題となる.新生児例の報告は過去にみられず,今回,
出生直後に下痢をきたした C. laridis 腸炎の 1 早産児
例を経験したので報告する. 【症例】症例は日齢 0 の
男児.母体はレバーや鳥肉,魚貝類を頻回に生食して
いたが妊娠中に明らかな消化器症状はなく,在胎 29 週
2 日に切迫早産の診断で当院産科に緊急母体搬送とな
った.入院時に母体発熱と悪臭のある帯下があり,胎
児ジストレスがみられたため,同日に緊急帝王切開で
出生した.Apgar score 3 点(1 分)
,6 点(5 分)
,体
重 1,142g.著明な羊水混濁があり,児は出生直後から
の大量の粘液便を排出した.出生直後に白血球 20,400/
μl,CRP 3.7mg/dl であったため,抗生物質(ABPC+CTX)
及び免疫グロブリン製剤の投与を開始した。経過中,
日齢 1 に胎便混じりの水様粘液便が数回みられたが,
再び水様粘液便のみとなった.日齢 4 には普通便とな
り,日齢 7 に CRP は陰性化した.入院時の児の便から
C. laridis が検出されたが,血液及び髄液からは検出
されず,また,抗生物質(PAPM/BP)投与後の検体であ
ったためか母体の培養検査(膣・便・母乳)でも菌を
検出することはできなかった.以降は順調に経過して
いたものの,日齢 52 から母乳の直接哺乳を開始後,日
齢 68 より水様便と軽度の血便がみられた.再び便から
C. laridis が検出されたが,抗生物質(FOM)内服によ
り数日で軽快した.児は後遺症を残すことなく,日齢
97 に退院し,その後の成長・発達も正常である.
【考察】
C. laridis による周産期感染例を経験した.本症例は,
帝王切開で出生し出生直後から下痢をきたしたこと,
胎盤の臨床所見で絨毛膜羊膜炎と診断されたことから
胎内感染と判断した. C. laridis の胎内感染は, C.
fetus や C. jejuni と同様に早産の原因となることが示
唆された.また,C. laridi による胎内感染においては,
C. fetus や C. jejuni と異なり敗血症や髄膜炎などの
重症感染ではなく,胎児に腸管感染を発症する可能性
があることが示唆された.
358
血液浄化により救命し得た肺炎球菌によ
る先天性敗血症の極低出生体重児例
倉敷中央病院 小児科 1、静岡県立こども病院 小児科
Enterobacter sakazakii による多発性脳
膿瘍をきたした極低出生体重児の 1 例
富山県立中央病院 小児科
○伊吹 圭二郎、畑崎 喜芳、五十嵐 登、市村 昇
悦、橋田 暢子
P-185
P-186
2
○徳増 裕宣 1)、川口 敦 2)、澤田 真理子 2)、西田 吉
伸 1)、渡部 晋一 1)、馬場 清 1)
出生時血液培養から肺炎球菌が検出された極低出生体
重児に対して、ポリミキシン B 固相化カラムと緩徐血
液濾過透析(CHDF)を施行した一例を経験した。在胎
30 週 3 日、出生時体重 1236g Apgar score 2/5/9(1
分/5 分/10 分)にて出生。直ちに気管内挿管し NICU に
入室。入院時、CRP 5.94 mg/dl、Hb 14.5 g/dl、WBC 1000
/μl、PLT 50000/μlとすでに敗血症(その後、児の
血液培養・母体羊水から肺炎球菌検出される)、DIC 認
めており直ちに抗生剤開始したものの状態が安定せ
ず、臍静脈からダブルルーメンカテーテルを挿入し、
PMX-DHP+CHDF を実施した。血圧低下著しく日齢 3 に
CHDF 断念。心拍数 30 台まで低下したため、ボスミン投
与するが改善乏しくご家族に報告。最期の看取りを考
慮していたところで心拍・血圧が回復したため、治療
再開・継続となった。治療再開後、3 度の脳室内出血を
認めた。日齢 19 に両側乳び胸水を認めたものの、絶食・
MCT ミルクにて完治した。日齢 25 出血後水頭症に対し
て、オンマイヤー留置術を施行した。その後、リザー
バー穿刺中止するも水頭症へ進行なく、VP シャントも
不要であった。日齢 66 に抜管し翌日には呼吸補助なし
で呼吸状態安定していた。日齢日齢 117、MCT ミルク中
止となるが胸水の増悪認めず、日齢 144 に退院となっ
た。なお経口哺乳良好であり、退院前の MRI では水頭
症・PVL ともに認めなかった。
【 は じ め に 】 2004 年 、 WHO に よ り 、 Enterobacter
sakazakii とサルモネラによる乳児用調整粉乳の汚染
が乳児の感染および疾患の原因になると報告された。
Enterobacter sakazakii は新生児の敗血症や髄膜炎の
稀な起炎菌であり、中枢神経への親和性が強いことか
ら重篤な後遺症を残すことが多いとされている。今回
我々は Enterobacter sakazakii による多発性脳膿瘍を
きたした極低出生体重児の 1 例を経験したので報告す
る。
【症例】在胎 27 週 2 日、1269g で出生した男児。日
齢 22 に無呼吸発作が頻回となり、
血液検査にて CRP 5.1
mg/dl、髄液細胞数 5600/3 /μl であったため細菌性髄
膜炎と診断した。Teicoplanin と Melopenem の 2 剤で治
療を開始し、速やかに臨床症状と炎症反応の改善を認
め た 。 血 液 培 養 と 髄 液 培 養 か ら Enterobacter
sakazakii が検出され、薬剤感受性は良好であったこと
から日齢 24 より Melopenem の 1 剤のみ継続とした。日
齢 30 の頭部 CT にて多発性で広範囲の低吸収領域を認
めたが、造影剤による増強効果は認めなかった。頭部
MRI 拡散強調像にて高信号領域を多発性に認めたため
多発性脳膿瘍と診断した。日齢 33 と 35 に膿瘍ドレナ
ージを施行したが、ドレナージ後も髄液細胞数が減少
してこないことから日齢 42 より抗生剤を増量した。そ
の後、頭部 CT で膿瘍は縮小傾向となり、髄液細胞数の
改善を認めた。頭部 MRI にて膿瘍の消失を確認したが、
前頭葉、頭頂葉から後頭葉にかけての広い範囲で空洞
病変となった。日齢 79 に抗生剤投与を中止し日齢 85
に NICU を 退 院 と な っ た 。【 考 察 】 海 外 で は
Enterobacter sakazakii による集団感染や個発例の報
告が散見されるが、今までに日本での本菌による感染
症は報告されていない。今回の症例が日本で初めての
症例報告であると思われる。本菌の感染源のほとんど
がミルクと調乳器具とされているが、本症例では感染
源を特定することができなかった。早産児、低出生体
重児などを扱う NICU において、ミルクが無菌ではない
ことを改めて認識し本菌を意識した衛生管理を行うこ
とが重要であると思われた。
359
P-187
新生児破傷風が疑われた 1 例
兵庫医科大学 小児科
○小川 智美、磯野 員倫、小幡
皆川 京子、谷澤 隆邦
岳、松井
P-188
生後数時間で死亡した先天性ウレアプラ
ズマ肺炎の 1 例
大学院 医学系研究科 成育医学講座 小
神戸大学
児科学
○藤林 洋美、粟野 宏之、佐藤 有美、榎本 真宏、
柴田 暁男、高寺 明弘、森岡 一朗、横山 直樹、
松尾 雅文
【緒言】ウレアプラズマ感染は、早産児においては早
産や絨毛膜羊膜炎・臍帯炎・慢性肺疾患の発症に関与
していることが多数報告されている。一方、正期産児
での感染では一般に病原性は低いと考えられている。
今回、我々は生後、急速に呼吸循環不全に陥り死亡し
た先天性肺炎の正期産児で、ウレアプラズマが起炎菌
と考えられた症例を経験したので報告する。【症例】在
胎 40 週 0 日、出生体重 3330g、アプガースコア 8/9 の
男児。妊娠 39 週 3 日で前期破水を認め、39 週 6 日より
感染徴候が出現したため、翌日誘発・吸引分娩にて前
医で出生となった。出生後、全身状態は良好で生後 2.5
時間より母児同室となった。生後 3.5 時間、母親の添
い寝中に、全身チアノーゼ・筋トーヌス消失の状態で
発見された。直ちに気管内挿管が行われ、生後約 5.5
時間で当院へ新生児搬送となった。入院時、用手換気
下で心拍数 180 回/分、SpO2 100%であったが、自発呼
吸・四肢運動・痛み刺激に対する反応みられず、原始
反射も消失していた。胸部 Xp で縦隔気腫を認め、著明
な混合性アシドーシス・逸脱酵素の上昇も認めた。直
ちに、人工呼吸管理・アルカリ療法・カテコラミン投
与を開始し治療開始するも、生後 7 時間より急速に呼
吸循環不全が悪化し、生後 9.5 時間で死亡に至った。
病理解剖所見で肺胞内に好中球が充満した著明な肺炎
像を認め、直接死因は先天性肺炎と診断した。死亡時
の起炎菌の検索では、血液・咽頭・外耳・胃液・気管
チューブ・PI カテーテルでの細菌・真菌培養はいずれ
も陰性であった。しかし、多種の原因病原体を確定で
きる Multiplex PCR 法より、ウレアプラズマが血液・
臍帯・胎盤から検出された。【考察】ウレアプラズマに
よる先天性肺炎の剖検例の報告が、過去に少数である
がみられている。いずれも、本症例と同様に急速に進
行する重症呼吸循環不全の経過を辿っている。したが
って、生後すぐに急激な経過を辿る原因不明の死亡例
ではウレアプラズマ関与の可能性があり、積極的に検
索を行うべきである。ウレアプラズマは一般の培養検
査では検出されないため、その同定において Multiplex
PCR 法が有用であった。
朝義、
【 は じ め に 】 破 傷 風 ( tetanus ) は 、 破 傷 風 菌
(Clostridium tetani )が産生する破傷風毒素により
強直性痙攣をひき起こす感染症である。新生児破傷風
は世界の新生児 の主要な死亡原因の一つとなってい
るが、日本では 1995 年の報告を最後に、報告されてい
ない。今回、新生児破傷風が疑われた 1 例を経験した
ので報告する。
【症例】日齢 5 男児母体は 3 回経妊、2 回経産。異常
分娩歴なし。出生時・助産院での経過には特記すべき
事なく、日齢 3 退院。翌日、啼泣消失・哺乳不良・顔
色不良出現。近隣の救急病院受診し、全身チアノーゼ
著明にて気管内挿管となった。感染に伴う肺出血疑い
という診断の下、日齢 5 当院 NICU に緊急新生児搬送入
院となった。
当院到着時、全身チアノーゼ・後弓反張著明で、痙
攣重責状態と判断し、フェノバルビタールの投与を行
った。これにより症状軽快認めたが、処置等の刺激に
て全身性硬直性の痙攣が誘発。痙攣剤を多剤使用し、
痙攣のコントロールに努めたが痙攣重責状態が持続し
た。TORCH 症候群や各種代謝疾患等の精査を行うも否定
的。入院時の後弓反張・前医での開口障害・難治性の
痙攣等より破傷風である可能性を考え、チアモラール
ナトリウム+臭化パンクロニウムによる治療を行っ
た。その後、抗痙攣薬の多剤内服に移行、しばらくは
間代性痙攣がみられることはあったが短時間であり、
その後痙攣は消失した。
吸綴・嚥下反射を認めず GER も著明であったため、
日齢 108 噴門形成術+胃ろう造設術を施行。日齢 149
より母児同室を行い、日齢 150 軽快退院となった。
【考察】新生児破傷風は、衛生管理が十分でない施設
での出産の際に、破傷風菌の芽胞で新生児の臍帯の切
断面が汚染されることにより発症することが多いが、
日本では 1995 年の報告を最後に、報告されていなかっ
た。
本症例は、入院時に呼吸困難・後弓反張を認めた。
一般的な新生児痙攣の鑑別診断・治療を開始したが著
効せず、特徴的な症状が複数みられていたため、入院
当日に抗破傷風人免疫グロブリンの投与を行ってい
た。しかし、十分な沈静を行うまでには十日程度を要
した。
本疾患は、可能な限り早期に抗破傷風人免疫グロブ
リンを投与することが望ましく、新生児における難治
性痙攣の際には、破傷風の可能性も考慮する必要があ
ると考えた。
360
重篤な皮膚症状を呈した皮膚カンジダ感
染症の ELBW の1例
埼玉県立小児医療センター 未熟児新生児科
○川畑 建、河野 淳子、藤澤 ますみ、長澤 真由
美、宮林 寛、清水 正樹、鬼本 博文、大野 勉
fluconazole 不応と考え micafungin を使
用した超早産児 4 例の検討
独立行政法人国立病院機構 三重中央医療センター
小児科 1、独立行政法人国立病院機構 2
○馬路 智昭 1)、大槻 祥一郎 1)、盆野 元紀 2)、田中
滋己 1)、山本 初実 2)
【はじめに】新生児のカンジダ感染症は遅発型新生児
敗血症の起炎菌として頻度が高く、全身感染に至ると
予後不良である。早期の抗真菌薬投与や、ハイリスク
児には fluconazole(FCZ)の予防投与が推奨されるが、
FCZ は non-albicans カンジダへの抗菌力が弱く耐性株
の報告もあり、早産・低出生体重児へより有効な治療
薬が望まれる。今回我々は、臨床的に FCZ 不応と考え
micafungin(MCFG)を使用した超早産児 4 例を経験し
たので、臨床経過を報告しその有用性と問題点を検討
する。【症例 1】帯下培養で C.grablata(C.G)を認め
た前期破水・羊水過少の母体から、25 週 3 日、頭位経
膣で出生。出生体重 554g。日齢 21 に敗血症を発症し
免疫グロブリンと抗生剤・FCZ 開始も奏効せず、血液培
養から C.G が検出され、MCFG 2mg/kg/日に変更し著効、
計 14 日間投与した。
【症例 2】帯下は C.albicans(C.A)
と Proteus 属。前期破水の管理中 23 週 6 日に頭位経膣
で出生、出生体重 574g。日齢 10 に敗血症を発症し免疫
グロブリンと抗生剤・FCZ 開始も奏効せず、血液培養か
ら C.A が検出された。FCZ 6mg/kg/日の連日投与後 3 日
目の血液培養も陽性で、FCZ 不応と判断し MCFG 1mg/kg/
日に変更し著効、計 14 日間投与した。【症例 3】カンジ
ダ膣炎の治療中、okisiconazole(OKCZ)膣錠とともに
頭位経膣で出生。27 週 6 日、出生体重 1176g。帯下は
C.G と C.A が陽性で、抗生剤と MCFG を日齢 2 まで投与
した。【症例 4】切迫早産の管理中、20 週より帯下多く、
培養は C.G が検出され、OKCZ 投与中、26 週 1 日に骨盤
位で出生。出生体重 831g。抗生剤と MCFG を日齢 4 まで
投与した。4 例とも退院まで副作用は認めなかった。
【考察】今回の症例すべて入院管理中の母体帯下から
カンジダが検出され子宮内感染が危惧されていた。
OKCZ の局所療法も症例 1.2 は臨床的 FCZ 耐性のカンジ
ダ血症を発症したため MCFG を使用、症例 3.4 は C.G が
検出されており、真菌感染症発症予防のため第 1 選択
で MCFG を使用した。免疫不全状態の超早産児には静菌
的に働く FCZ では効果は部分的に留まる可能性があり、
殺菌的に作用する MCFG の有効性が高いと考える。
P-189
P-190
【はじめに】近年、NICU ではカンジダ感染症が増加し
ているが、大部分が局所の皮膚症状を呈するのみであ
る。今回、我々は推定 22 週で出生し、全身の皮膚に広
がった重篤なカンジダ感染症の超低出生体重児を経験
したので臨床経過、皮膚ケアに関して報告する。【症
例】症例は推定 22 週、出生体重 553g の女児で経膣分
娩で出生。日齢 3 より下腹部の皮膚発赤を認め、培養
の結果、Candida albicans が陽性であった。皮膚所見
は発赤から、びらん、表皮剥離に進行し、全身に波及
した。消化管の通過障害を呈した日齢 10 の便培養でも
Candida albicans が確認された。日齢 21 には CRP が
29.8mg/dl まで上昇した。治療は抗真菌剤の静脈投与及
び皮膚ケアとしては WOC 認定看護師の協力のもと、生
理食塩水での洗浄、硫酸ゲンタマイシンと塩酸テルビ
ナフィンを混合して塗布し、非吸着性シリコンガーゼ
を貼布した。治療の継続により、皮膚症状、全身症状
は日齢 40 頃に改善した。退院時には皮膚は瘢痕治癒し
た。
【考察】超低出生体重児の全身カンジダ感染症は一
般的に致死率が高いが、本症例では抗真菌剤の投与お
よび皮膚ケアにて改善が得られた。局所的な皮膚症状
だけであれば抗真菌剤の塗布にて改善が見込まれる
が、表皮が剥離し、全身に進行する程の重篤な皮膚症
状を呈した場合の治療に関しては、消毒方法、外用用
法などの治療方針は確立されていない。抗真菌剤の投
与と並行して皮膚の再生を促す治療法として今回の方
法は有効であると考えられた。また治癒後の皮膚の瘢
痕に対しても治療法の確立が望まれる。本児において
は今後、形成的治療の必要性について経過を観察して
いる。
361
単純ヘルペスウィルス 2 型による新生児
ウィルス関連性血球貪食症候群(VAHS)の
1例
旭川厚生病院小児科
○高瀬 雅史、五十嵐 加弥乃、土田 悦司、小久保
雅代、梶野 真弓、白井 勝、坂田 宏、沖 潤一
【緒言】単純ヘルペスウィルス(HSV)2 型の垂直感染に
よる全身型新生児ヘルペスに合併した新生児ウィルス
関連性血球貪食症候群(VAHS)の 1 例を経験したのでそ
の経過を報告する。
【症例】在胎 38 週 0 日、出生体重 2810g の女児。自然
経膣頭位分娩で出生。Apgar score 8/9。母は 28 歳、1
経産で分娩前日より嘔吐、発熱を認めていた。臍帯血
および児の日齢 1 の血液検査では感染徴候を認めず母
児同室で経過観察していた。日齢 4 より哺乳が緩慢と
なり、日齢 5 38.3℃の発熱及び not doing well でNICU
入院。顔面に点状出血斑を認めた。CRP 上昇、肝機能障
害を認め抗生剤、アシクロビル、ガンマグロブリン投
与を開始。血小板減少、凝固異常もあり、抗 DIC 療法
も行った。日齢 7 右季肋下 2cm の肝腫大を認め WBC
3400、PLT 9000(/μl) と減少、AST/ALT 8470/1590、
LDH 25240(IU/l)、フェリチン 240668ng/ml と急上昇し
たため VAHS と診断し交換輸血、ガンマグロブリン大量
療法を施行。ステロイド、シクロスポリン、エトポシ
ドによる多剤併用化学療法を開始した。骨髄は低形成
で血球貪食像を認めた。NK 細胞活性 9%と低下、可溶性
IL-2 レ セ プ タ ー 4020U/ml と 高 値 で あ っ た 。 血 中
HSV-PCR 陽性、HSV IgG(+)、IgM(+)、咽頭ウィルス分離
で HSV 2 型が分離された。連日の輸血(血小板、濃赤、
FFP)を必要としたものの、治療には反応して軽快傾向
を示した。化学療法による骨髄抑制が著明で日齢 15 よ
り GCSF 投与。日齢 19 LDH 864、フェリチン 1829 まで
改善していたが、骨髄の回復とともに日齢 20 呼吸障害
を主症状に VAHS が再燃。再度ガンマグロブリン大量療
法、交換輸血を行ったが日齢 21 交換輸血中に呼吸不全
となり気管内挿管、人工換気を開始。著明な心筋肥厚
による循環不全、腎不全、敗血症を合併し日齢 27 永眠
された。経過中血中 HSV-PCR は陰性化せず日齢 27 の胸
水中の PCR も陽性であり、ウィルスの直接浸潤による
多臓器不全が示唆された。母は性器ヘルペスはなかっ
たが産褥 7 日目の血液検査で HSV IgG(-)、IgM(+)であ
り母体 HSV 初感染に伴う垂直感染と考えられた。
【考案】新生児 HSV2 型感染症は重篤で予後不良である
が、本例でも早期からの ACV 投与にもかかわらずウィ
ルス血症が持続し全身臓器へのウィルス浸潤が死亡原
因と考えられた。VAHS への化学療法はある程度有効で
あったことから本疾患を救命するためには原疾患への
さらなる治療法の改善が重要と考えられた。
P-191
P-192
TDM シミュレーションプログラムによる
VCM 投与法の検討
愛育病院 新生児科
○戸石 悟司、佐藤 智子、田中 里佳、森 裕美、
林田 慎哉、加部 一彦
[はじめに]MRSA 感染症は新生児領域において生命予後
を左右する重篤な疾患で、治療にはバンコマイシン(以
下 VCM)が用いられている。新生児に対する VCM 投与で
は、副作用、薬理作用のチェックを目的とした血中濃
度(以下 TDM)の測定が有用である事が知られているが、
必ずしも普及しているとはいえない。我々は、2006 年
度から VCM 投与症例に TDM シミュレーションを行い、
最適な投与方法の検討を行ったので報告する。[方
法]VCM 初期投与量は全例 15mg/kg とし、血清クレアチ
ン(以下 Cre)の値により投与間隔を決定した。目標ト
ラフ値 10、ピーク値 30 と設定した。VCM の TDM(アボ
ットジャパン社、蛍光偏光免疫測定法)と血清 Cre を
測定、TDM データ解析ソフトウェアシミュレーションプ
ログラム(塩野義)により投与量、投与間隔を検討し
た。必要があれば投与方法の変更を行った。[対象]対
象は 2006 年 4 月から 2007 年 3 月の間に NICU に入院し、
VCM を投与された 7 症例計 13 回のうち、TDM の測定が
なかった 1 例と 34 週以上の 1 症例を除く 5 症例計 11
回(このうち超低出生体重児 4 症例計 10 回)で、臨床
診断は MRSA 肺炎 8 例、NEC2 例、NTED1 例、対象患児の
平均在胎週数は 27w6d(25w1d~31w5d)
、平均出生体重
は 808g(294~1238g)
、平均発症時日齢は 27 日(7~98)
あった。[結果]TDM の結果、ほぼ全例で血中濃度は有効
範囲内であり、感染症はすべて治癒した。長期の VCM
投与中に CRP 値の下がりが悪く、トラフの低値が判明
し投与間隔の変更を要した例が 3 例あった。また、抗
生剤使用日数は平均 5.7±4.14 日で、長期治療の 3 例
を除くと平均投与期間は 3.8±1.31 日となり、投与期
間は比較的短期間であった。[考案]TDM のコントロール
が良好に行えたことにより、VCM 投与期間の短縮と不必
要な抗生剤の投与を減らす事が可能であった。また、
今回の結果は耐性菌の増加を防ぐ観点からも有意義で
あったと思われる。日々病態が変化する新生児にとっ
て、血清 Cre を指標とする VCM の血中濃度モニタリン
グシステムは適切な治療量を決定する上で有用であ
り、今回我々が用いた方法は、採血回数(1 回でも可)
・
採血量(血清で 50μl)が少ない点においても新生児臨
床に適していると思われるが、在胎週数別、出生体重
別の適切な投与法の検討のために、今後さらに症例の
蓄積が必要である。最後に、血中濃度解析にご協力下
さった薬剤科神下大佑先生に深謝します。
362
MRSA によると考えられた気管食道瘻の 2
症例
大阪府立母子保健総合医療センター 新生児科
○南條 浩輝、西澤 和子、高橋 伸方、望月 成隆、
佐野 博之、和田 芳郎、白石 淳、平野 慎也、北
島 博之、藤村 正哲
【症例1】在胎期間 31 週 1 日、出生体重 1652g、Apgar
Score 8/9 点 (1/5 分)。一絨毛膜二羊膜性双胎第 1 子
として緊急帝王切開で出生。気管内挿管、S-TA 投与の
上呼吸管理開始。喉頭展開時に異常なし。日齢 4 に CRP
上昇、下腹部の発疹がみられたが、感染の focus は不
明。同日の気管吸引液、尿、便、皮膚から MRSA を検出
し、抗生剤投与を行った。日齢 6 に抜管したが、日齢 7
より右無気肺がみられ、
日齢 11 に再挿管。
その後も SpO2
の低下を繰り返したため気道病変を疑った。日齢 19 の
気管ファイバーで気管内肉芽、喉頭軟化症を認めた。
日齢 26 に換気不全のため死亡。病理解剖所見では気管
中部に狭窄、食道気管瘻を認めた。
【症例 2】在胎期間 25 週 5 日、出生体重 552g、Apgar
Score 4/9 点 (1/5 分)。緊急帝王切開で出生。気管内
挿管、S-TA 投与の上呼吸管理開始。喉頭展開時に異常
なし。日齢 4 に CRP 上昇し、便、気管吸引液より MRSA
検出されたが、この時点では focus 不明。日齢 5 に壊
死性腸炎を発症し、内科的治療を行った。腹部所見は
改善したが CRP は陰性化せず。日齢 10 に気管チューブ
入れ替えの際、声門部に膿様白色分泌物が付着し、披
裂部粘膜が浮腫状であった。日齢 17 に再度気管チュー
ブ入れ替えの際、喉頭に白苔が付着していた。日齢 21
に腹部膨満が悪化。日齢 22 の気管ファイバーで気管食
道瘻を認めた。
日齢 23 には瘻孔は急激に拡大しており、
日齢 24 に換気不全のため死亡。病理解剖の同意は得ら
れず。
【考察】2 症例ではともに MRSA が気管分泌物から生後
早期に検出された。MRSA は、
コアグラーゼ II 型、
Entero
Toxin type C (+)、TSST-1 (+)、 Exfoliative Toxin (-)
という特徴を持っていた。また 2 症例とも気管病変を
認める前に focus 不明の CRP 上昇がみられた。
本邦での報告は 2 報告 3 症例のみであるが、3 症例とも
NTED 発症後に気道病変を起こしている。一方今回経験
した 2 症例では NTED を発症していないが、検出された
MRSA は原因毒素である TSST-1 が陽性であり、本毒素が
発症に関与している可能性が考えられた。また 2 症例
とも日齢 4 までに MRSA が検出されており、常在細菌叢
定着前の MRSA 感染は特に危険であると考えられた。
MRSA 感染症の臨床的検討 第 17 報 MRSA
キャリアアウトブレークと院内 ICT 介入
名古屋第一赤十字病院 総合周産期母子医療センター
新生児科
○鈴木 千鶴子、松沢 要、孫田 みゆき、伊東 真
隆、安田 彩子、鬼頭 修
当院 NICU では 1990 年 3 月から MRSA キャリアが出現し、
その後 16年間にわたり、各種の MRSA 感染対策を試行
錯誤してきた。今回は昨年迄の MRSA 感染、キャリアの
状況と、昨年のアウトブレーク時の院内 ICT(infection
control team)介入について報告する。
【結果】
1. MRSA 感染症の推移
1)前期(1990~1999)
90 年は MRSA 感染 9 名(重症 5 名)
、91 年は感染 10 名
(重症4名、その内 2 名死亡)であった。92~94 年に感
染はみられなかったが、95 年、96 年に感染症が各 1 例
発生した。97 年以降はみられなかった。
2)後期(2000~2006)
2000 年に感染症の発生はなかったが、01 年 4 名の感染
がみられ、内 1 例は死亡した。02、03 年は各 1 名入院
時から MRSA が陽性で、内1例は CHD で死亡した。04
年は0であったが、05 年に CHD1 例(術後敗血症)の感
染が発生した。06 年は 3 名で、CHD の 1 例は原疾患で
死亡した。
2. MRSA キャリアの推移
1)前期(1990~1999)
90 年は 4 月からキャリアは 47 名/354(13.3%)、91 年は
74 名/384(19.3%)とピークで、その後 92、93 年は8~
9%で変わらず、94 年 22 名/542(4.1%)と減少した。95
年に再び 67 名/482(13.9%)と急激な増加がみられ、そ
の 後 3 年 間 は ほ ぼ 同 率 で 推 移 し 、 99 年 に 34 名
/532(6.4%)と減少した。
2)後期(2000~2006)
2000 年 MRSA キャリア 56 名/523(10.7%)、01 年は 67 名
/552(12.1%)と再び増加したが、それ以降 02 年は 16 名
/580(2.8%)と最低となり、その後も 2~3%と,4年連続で
低く維持できた。しかし、06 年は 54 名/624(8.7%)と
急激に増加した。
3.2006年の総括
06年は 1 月から 4 月は MRSA キャリア 0~3 名であった
が、5 月 6 名、6 月 10 名、7 月 12 名と増加した。8 月
に 5 名とやや減少したが、9 月 11 名と再び増加した。
この2つのピークは、病床稼動と密接な関係がみられ、
根本的なマンパワー不足の改善が必須と考えられる。
キャリア増加時に今回初めて院内 ICT と改善策を協議
し、即乾式手指消毒剤の使用の徹底と、NICU に関わる
全員のマスク再着用を開始した。10 月以後はキャリア
0~2 名と低下した。
【まとめ】
06 年の MRSA 感染者、キャリアの発生の増加に対し、院
内 ICT の初介入により、改善策を実行し鎮静化した。
毎年春に多数のスタッフの勤務交代があり、基本の手
洗いを中心とした感染防止の意識をいかに維持してい
くかが重要と考える。
P-193
P-194
363
当施設の周産期病棟における MRSA 発生状
況
トヨタ記念病院 新生児科 1、トヨタ記念病院 小児科
2
、トヨタ記念病院 産婦人科 3
○藤巻 英彦 1)、岡田 純一 2)、多賀谷 満彦 2)、横塚
太郎 2)、関谷 龍一郎 3)、坂野 伸弥 3)、鈴木 史朗 3)、
秀紀 3)
岸上 靖幸 3)、小口
【目的】当院 NICU では 1998 年~2000 年にかけて NICU
で MRSA が蔓延し、院内対策マニュアルの徹底、共有器
材の管理・消毒の徹底、全例手袋使用および手洗い励
行をスタッフに課したことで一旦 2001 年 9 月に完全駆
逐に成功した。NICU 及び産科病棟が 2004 年 4 月に改築
移転したこともありしばらく MRSA 保菌者の発生を見な
かったが、同7月に院外出生児で保菌を認めて以降散
発的に保菌者の発生を見た。病棟移転後の産科病棟の
新生児および NICU 入院児の MRSA 保菌者の発生状況に
ついてまとめ、考察を加えた。
【結果】2004 年 4 月~
2006 年 12 月に院内出生した 2213 名(産科病棟のみ 1666
名、NICU 入院 547 名)と院外出生 188 名を対象とした。
同期間で MRSA 保菌者は産科病棟、NICU入院児がそれ
ぞれ 36 名(2.2%)、13 名(1.8%)だった。NICU での保
菌者 13 名の内訳は院内・院外出生がそれぞれ 6 名/7
名、在胎週数が 27~40 週、出生体重 976~3684g、入院
時疾患名は低出生体重児 4 名、新生児仮死 3 名、新生
児メレナ 2 名、初期嘔吐、口蓋裂、皮下膿瘍、成熟児
呼吸障害がそれぞれ 1 名であった。保菌者の発生時期
の分布を見ると産科病棟ではコンスタントに発生して
いるのに対し、NICU では 2005 年 12 月までは散発的だ
ったが同月に出生した重症新生児仮死児が保菌者にな
って以降、最大 4 人が保菌者の時期もあった。NICU 入
院保菌者 13 名中 6 名(46%)にムピロシン鼻腔内塗布
を施行したが陰性化を示したのは 3 名だった。陽性が
続く 3 名の内重症新生児仮死 2 名は現時点で入院中で
あり、(1 歳 3 ヶ月、7 ヶ月)ムピロシン投与を適宜行
っているが撲滅困難である。しかし保菌者の二次的な
拡大は抑えられている。
【結論】MRSA 保菌者は以前と比
べ大幅に低下したものの、産科病棟で毎年 1-3%の保菌
者を NICU 入院児の 1-4%でコンスタントに発生してい
る。NICU 内での MRSA 対策は以前より十分に行われて相
応の成果を上げてきたが、NICU 内の努力のみでは保菌
者の流入を完全に阻止するのは困難であることがわか
った。特に長期入院患者が MRSA 保菌者になると NICU
から MRSA を完全に排除することは困難である。今後も
手洗い励行と手袋着用を徹底して、彼らを起点とした
二次的な保菌拡大を抑制する方針が現実的な対応であ
る。
当 施 設 に お け る 新 生 児 TSS 様 発 疹 症
(NTED)の発症頻度についての検討
帝京大学 小児科
○内田 英夫、柳川 幸重、星 順、藤井 靖史、権
東 雅宏、代田 道彦
P-195
P-196
【目的】当施設における新生児 TSS 様発疹症(NTED)
の発症頻度を明らかにし、発症要因の検討を行った。
さらに、当施設で 2004 年より開始した水平感染防御対
策が NTED 発症に有効であったかを検討した。
【対象】
1998 年 4 月 1 日から 2006 年 12 月 31 日(8 年 9 ヶ月)
に当院 NICU に入院した 1744 名のうち NTED と診断され
たのは 57 名であった。そのうち、新生児搬送時に NTED
を発症していた 10 名を除いた 47 名を対象とした。平
均在胎週数は 38 週 0 日(29 週 1 日~40 週 2 日)
、平均
出生体重は 2224±558g、発症日齢の中央値は3(1~
9)であった。
【方法】年次別症例数と罹患率の推移を
求め、診療医師数、入院症例数(総数、極低出生体重
児(VLBW)数)との相関を検討した。さらに感染防御
対策を開始した 2004 年 3 月を基点として、対策前と対
策後の 2 群に分割し増減を検討した。統計は Pearson
の積率相関とχ二乗検定を用いp<0.05 を有意とし
た。感染防御対策は、すべての診療行為を手袋着用の
もとで行うことと、各患児ごとに使用するアルコール
綿・テープ・はさみ・トレイ等の物品の個別化とした。
【結果】年次別対象数と総入院数に占める罹患率はそ
れぞれ、1998 年 6 名(4.4%)
、1999 年 7 名(3.2%)
、
2000 年 8 名(3.3%)
、2001 年 4 名(2.0%)
、2002 年 8
名(5.2%)
、2003 年 5 名(2.4%)、2004 年 5 名(2.7%)、
2005 年 3 名(1.5%)
、2006 年 1 名(0.47%)であった。
各年次の医師数、入院数、入院 VLBW 数と NTED の発症
数に有意な相関は認めなかった(p=0.82、p=0.12、
p=0.32)
。また、感染対策前に比較して NTED 患児数は
対策後に有意に減少した。
(p=0.0048)【考察】NTED は
MRSA によるスーパー抗原病であるが、現在のところ
MRSA を病棟内より根絶することは困難と考えられる。
そのため出生直後から MRSA の常在菌化を遅らせること
で NTED の発症頻度を減少させる方策を行った。対策施
行後も長期入院患児では MRSA は検出されているが、
NTED 発症は対策後有意に減少した。
364
P-197
新生児 TSS 様発疹症後に重症合併症を呈
した極低出生体重児の 1 例
総合周産期センターを併設した一般小児
科部門における RS ウイルス感染症入院児
の検討
埼玉医科大学 総合医療センター 小児科
○内田 さつき、山口 文佳、田村 正徳
P-198
東京慈恵会医科大学 小児科学講座 1、たけうちこども
クリニック 2
○長島 達郎 1)、小林 正久 1)、寺本 知史 1)、菊池 健
二郎 1)、岡野 恵里香 1)、河野 淳子 1)、竹内 敏雄 1,2)、
衞藤 義勝 1)
新生児 TSS 様発疹症(neonatal toxic shock syndrome
like exanthematous disease,以下 NTED)後,呼吸器感
染症,骨髄炎,脳室周囲白質軟化症(periventricular
leukomalacia,以下 PVL)
,喉頭および声門下狭窄を合併
した極低出生体重児の 1 例を経験した.症例は在胎 26
週 6 日,出生体重 1055g,Apgar score 4(1 分後)/5
(5 分後)で出生した男児.日齢 5 より斑状発疹と血小
板減少が出現し,咽頭,気管吸引液,皮膚から Toxic
Shock Syndrome Toxin-1( 以 下 TSST-1) 産 性 の
methicillin-resistant Staphylococcus aureus(以下
MRSA)が検出され,NTED の診断で治療を行うが,その
後,呼吸器感染症,骨髄炎,PVL,喉頭および声門下狭
窄を合併した.NTED では MRSA の産生するスーパー抗原
毒素である TSST-1 と,それによる T 細胞の過剰活性化
により産生されるサイトカインによって,また,その
後全身感染症に進展した場合,MRSA 自体の増殖による
ものと,更なる毒素血症により組織破壊が引き起こさ
れる可能性がある.免疫機能の未熟な新生児にとって
無菌状態からの MRSA 感染は時に生命の危険につながる
ものであり,もしくは重症な合併症を起こす可能性が
ある.MRSA 感染は NICU での最も注意すべき事項の一つ
であり,今後更なる感染予防対策と治療に重点を置く
必要があると考えられた.
【目的】Respiratory Syncytial Virus(RSV)抗原
迅速検査の普及により、容易に診断されるようになっ
たこともあり、RSV 感染症患者報告数は、年々増加して
いる。当院総合周産期センターにおける在胎 36 週未満
児の入院は年間約 200 例で、当院発達外来では 2006 年
10 月から 3 月まで、慢性肺疾患、先天性心疾患を合わ
せ 172 例が Palivizumab 接種を受けた。当院では NICU
退院後入院を要する症例は、小児科病棟で受け入れて
いる。今回我々は、当院小児科病棟における RSV 感染
症の診療の実態を分析し、今後の課題を検討すること
を目的とした。
【方法】2006 年1年間に当院小児科に入院し、RSV 抗
原迅速検査にて RSV 感染症と診断された3歳未満児
114 例について、後方視的に検討した。
【結果】在胎 35 週以下 3 例、先天性心疾患児・慢性肺
疾患児0例であった。入院時 Palivizumab 適応児は 2
例であり、Palivizumab 接種歴があったが、最終接種は
それぞれ1ヶ月前と3日前であった。入院時月齢は平
均8ヶ月で、1ヶ月未満 12 例、1ヶ月以上1歳未満 67
例、1歳以上 35 例であった。気管内挿管による人工呼
吸管理を要したものは6例で、そのうち Palivizumab
適応児は 1 例であった。適応外児のうち 2 名は1ヶ月
未満であった。人工呼吸管理を受けた 6 例中、4 例が、
退院後も気道感染時に喘息症状を発症している。
入院期間は平均6日であった。月別入院数を見ると、
年間を通じて入院があったが、12 月が 67 例と年間入院
数の 59%を占めていた。12 月の RSV 感染症者の病床数
をみると、1日あたり平均 13 床(最高 17床)と RSV
感染症患者が病棟入院患者の3分の1を占めていた。
【まとめ】Palivizumab 適応児の入院は1%未満と少な
かった。非適応児でも重症例があった。2006 年 12 月の
流行期には、入院を要する症例も激増し、地域周辺医
療機関を含め病床確保が困難な時期があった。
【結語】Palivizumab の普及により、接種対象者の RSV
感染症の重症化は防止できているが、非対象者の RSV
感染症による入院は増加しており、人工呼吸管理ある
いはそれに準ずる集中管理を要するような重症例も多
かった。特に流行期には、入院を要する患者数が多く、
病棟運営上も流行期の重症化予防体制の確立が課題で
ある。
365
シナジス投与中にもかかわらず、細気管支
炎にて入院した 2 例の検討
三重県立総合医療センター 小児科
○杉山 謙二、太田 穂高
重症仮死に合併した新生児皮下脂肪壊死
症の1例
奈良県立奈良病院 新生児集中治療室 1、奈良県立奈良
病院 小児科 2
○坂東 由香 1)、久保 里美 1,2)、安原 肇 1)、内田 優
美子 1)、箕輪 秀樹 1)
【はじめに】新生児皮下脂肪壊死症は新生児または乳
児の頬部,肩甲部,臀部から大腿後面に好発する皮下
脂肪壊死と脂肪織炎からなる皮下結節を一過性にきた
す予後良好な疾患とされている。重症仮死に合併した
新生児皮下脂肪壊死症の一例を経験したので報告す
る。
【症例】母親 36 歳、経産婦、円板性エリテマトー
デス合併。在胎 39 週 6 日、2,338g、経膣分娩で出生し
た女児。Apger score 1 分値 1 点、5 分値 4 点。自発
呼吸無く、気管挿管後,NICU に入院した。DIC および
新生児仮死の診断で抗凝固療法、脳低温療法を施行し
た。日齢 6 に出血性脳梗塞を認めた。同日より脳低温
療法の復温開始し日齢 10 に脳低温療法を終了した。呼
吸状態が安定したため日齢 14 に抜管した。日齢 4 に敗
血症のため抗生剤とγグロブリンの投与を開始した。
日齢 7 に CRP 13.5mg/dl まで上昇したが、
日齢 12 に CRP
1.7mg/dl まで低下した。日齢 14 に CRP 3.9mg/dl まで
再上昇し、日齢 15 に点滴刺入部の右肘外側にφ2cm の
発赤と硬結を認め、点滴を入れ換えた。抗生剤変更後
も CRP は 2~3mg/dl 台で推移した。日齢 20 には左肘外
側、両側肩甲部、両側下腿部にも同様の皮下結節を認
めた。全身状態良好のため日齢 22 に抗生剤を中止した。
抗生剤中止後も CRP の増悪はみられないが、皮下結節
の発赤の増強がみられた。出生時の血小板減少、母親
の既往歴から自己免疫疾患を疑い、自己抗体を検索し
たが陰性であった。症状が改善しないため日齢 46 に皮
膚生検を施行した。病理組織で脂肪細胞の周囲に細胞
浸潤を認め、変性した脂肪細胞内に放射状に配列した
針状結晶を認め、新生児皮下脂肪壊死症と診断した。
生検後、皮下結節は徐々に退縮し、日齢 61 に CRP は陰
性化し、日齢 65 に皮下結節は完全に消失した。全身状
態安定していたため、経管栄養の併用で日齢 96 に退院
した。【考察】新生児皮下脂肪壊死症の成因として新生
児仮死、分娩時外傷、脂質代謝異常、寒冷刺激、母体
の糖代謝異常などが推測されている。本症例では新生
児仮死に加えて脳低温療法による寒冷刺激も誘因にな
ったと考えられた。
(学会員外協力者:県立奈良病院皮膚科 多田英之、
榎本美生)
P-199
P-200
(はじめに)RS ウイルス(RSV)は乳幼児気道感染症に
おける重要なウイルスで、特に早期産児や気管支肺異
形成症(BPD)を有する児、あるいは先天性心疾患を有
する児においては、RSV に罹患すると重症化することが
知られている。一方これらの患児に対してパリビズマ
ブ投与が行われ、入院を要するような重症の細気管支
炎の患児は著明に減少したとされている。今回当院に
てパリビズマブを投与したにもかかわらず、細気管支
炎にて入院した2例の患児につき、投与背景や入院時
における RSV の流行状況、気象条件等につき検討を加
え報告する。
(症例1) 生後 11 ヶ月、女児。在胎 38 週 0 日、出生体
重 2690g にて出生、特異な顔貌あり 21 トリソミーと診
断、心エコー検査にて単一房室弁を認めた。肺動脈咬
扼術が施行され、利尿剤、強心剤を使用しつつ外来に
てパリビズマブを投与開始したが、平成 17 年 11 月 15
日より呼吸困難をきたし緊急入院、人工呼吸管理とな
った。RSV 抗原検査(+)であり、これによる細気管支炎
と診断、ステロイド、キサンチン等の治療も施行した
が気管内挿管を離脱するのに 20 日間を要した。
(症例2) 生後 1 歳 10 ヶ月、女児。在胎 28 週 0 日、出
生体重 1144g、Ap4/7、経膣分娩にて出生。出生時より
腰仙部髄膜瘤を認め切除術施行。BPD3型の合併もあり
気管切開が施行され、現在在宅酸素療法中。平成 18 年
10 月よりパリビズマブが投与されていたが、平成 19
年 1 月 15 日頃より喘鳴出現、酸素増量、吸入療法等に
ても改善せず 1 月 16 日入院、入院時 RSV(+)であった。
輸液、吸入、ステロイド投与にて改善した。
(考察) 症例1の発症した平成 17 年度の当地方(三重県
四日市市)の 11~12 月の平均気温を見ると、平年に比
べ 2 度前後低く、当院における RSV 抗原検査でも例年
に比べ早期より RSV 陽性患者の出現が見られた。患児
はパリビズマブの 11 月分の投与直前に発症したことか
ら、特に初回と2回目の投与間隔に注意すべきである
と考えられた。一方症例 2 の発症した平成 18 年度の当
院における RSV 陽性患者数は、12 月~1 月では例年の 2
倍以上であり、RSV 感染症が流行した年であると考えら
れた。症例2は 1 月までに 3 回パリビズマブが行われ
ていたため、重度の BPD 児に対する RSV 感染症である
にもかかわらず、比較的早期に改善し得たものと考え
られた。
366
P-201
新生児ループスの一例
兵庫医科大学病院 小児科
○小幡 岳、磯野 員倫、小川
皆川 京子、谷澤 隆邦
智美、松井
多彩な症状を呈しステロイドが著効した
重症新生児ループスの一例
神奈川県立こども医療センター 周産期医療部 新生
児科 1、神奈川県立こども医療センター 感染免疫科 2、
神奈川県立こども医療センター 産婦人科 3
○松倉 崇 1)、川瀧 元良 1)、今井 香織 1)、小谷 牧
1)
、豊島 勝昭 1)、大山 牧子 1)、猪谷 泰史 1)、赤城
邦彦 2)、石川 浩史 3)、山中 美智子 3)
新生児ループス(以下 NLE)は母体由来の自己抗体(抗
SS-A/Ro 抗体など)が妊娠中胎児に移行し、後天性自己
免疫現象により胎児および新生児を障害する症候群と
される。多くは経過観察のみで改善し、治療を必要と
する症例は少ない。今回、我々は多彩な症状を呈して
治療を必要とし、ステロイドが著効した重症 NLE の一
例を経験したので報告する。
【症例】母体 24 歳、1 経妊 0 経産、自然妊娠。小学生
の頃より貧血があったが、精査はされていない。妊娠
26 週に羊水過少、子宮内発育遅延、胎児不整脈を認め、
当センター受診。胎児不整脈(1~2 度房室ブロック(以
下 AVB))、心拡大(CTAR0.44)、心筋肥厚、心嚢液貯留を
認め、心拡大は進行した。母体精査で特定の自己免疫
性疾患の診断基準は満たさなかったが、自己抗体陽性
(抗核抗体 320×、抗 DNA 抗体 320×、抗 SS-A/Ro 抗体
>500IU/ml、抗 SS-B/La 抗体 13.6IU/ml)のため、NLE
を疑った。35 週 1 日に羊水過少進行、胎児心拍低下の
ため、緊急帝王切開で出生。出生体重 1,470g、Apgar
score 1 分 8 点/5 分 8 点。著明な心不全(心拡大
(CTR0.8)、心筋壁肥厚、心筋エコー輝度上昇、心嚢液
貯留、心ポンプ機能低下、肝脾腫)、2 度 AVB、皮疹、
貧血(Hb 9.3g/dl)、血小板減少(1.5 万/μL)を認めた。
児血で抗 SS-A/Ro 抗体高値(ELISA 法>500IU/ml、オク
タロニ法 64×)を認め、臨床所見と合わせて NLE と診断
した。人工換気、免疫グロブリン大量投与(2g/kg)、濃
厚赤血球と血小板輸血、心不全に対しモルヒネ、ニト
ログリセリン、hANP を使用した。心筋障害が強く、日
齢 1 よりステロイド経静脈投与(プレドニン 2mg/kg/
日)を行ったところ著効、心嚢液が消失し貧血の進行や
血小板減少が改善し、日齢 11 より漸減・中止(計 31 日
間投与)した。また、抗体除去による症状の早期改善を
期待して日齢 6、7 に交換輸血(250ml/kg)を行ったが、
その前後で抗体 SS-A 抗体は高値のままだったため、抗
SS-A/Ro 抗体は非常に高値と考えられた。日齢 66 に心
筋保護目的で ACE 阻害剤内服を行い退院となったが、
抗 SS-A/Ro 抗体高値が続いており、拡張型心筋症など
に注意しながら慎重な経過観察が必要と考えられる。
P-202
朝義、
【はじめに】新生児ループスは母体の自己抗体が経胎
盤的に胎児に移行した結果生じたと考えられる先天性
心ブロックまたは亜急性皮膚ループス様皮疹を主症状
とする症候群である。今回我々は新生児ループスの一
例を経験した。
【症例】母体は 31 歳。2 経妊 0 経産。平
成 12 年より Sjogren、SLE、橋本病発症し近医にて内服
加療中。今回自然妊娠にて妊娠成立。母体感染症無し。
抗 SSA 抗体 500 倍以上抗 SSB 抗体陰性であった。妊娠
34 週に里帰り分娩の為に当院産科受診し、外来にて
IUGR 指摘されていた。妊娠 38 週 4 日の健診時に胎児仮
死徴候認め緊急帝王切開にて児娩出。出生体重 1984g、
Asymmetrical IUGR、APGAR Score 1 分 8 点 5 分 8
点。吸引刺激施行し皮膚色不良の為に酸素投与施行。
出生時より顔面に蝶形紅斑と円板状紅斑認めた。血液
検査上血小板低下認め精査加療目的にて当院 NICU 入
室。外表上紅斑以外に四肢に表皮剥離を認めたが他に
明らかな奇形を認め無かった。胸腹部レントゲン上に
異常所見なし。超音波検査上心臓、頭蓋内に異常所見
なし。血液検査上血小板低下、抗 SSA 抗体 500 倍以上、
抗 SSB 抗体 18.3 倍であった。心電図上完全房室ブロッ
クを認めなかった。血小板減少に対してγグロブリ
ン・血小板輸血・ステロイドパルス療法・ステロイド
内服療法にて血小板は徐々に回復。紅斑に対しては経
過観察にて症状増悪を認めなかった。【まとめ】今回新
生児ループスの一例を経験した。房室ブロックは認め
なかったが、血小板低下に対して加療が必要であった。
その後の入院経過中に明らかな血小板低下は認めず、
血小板輸注は 1 回限りであった。母体 SLE からの出生
児が典型的な皮膚症状を有する症例の経験が少ない
が、今回典型的な皮膚症状を認めた事で臨床診断は容
易であった。【考察】SLE 母体の出産では早期産児、低
出生体重児の頻度が高く出生前から内科医、産科医に
よる専門的管理が必要である。新生児ループスの発症
は約 12%と頻度は高くないが完全房室ブロックや血小
板減少にて重篤となる事があるために注意が必要であ
る。文献的考察をふまえ報告する。
367
P-203
乳児期早期に診断した伴性無ガンマグロ
ブリン血症の一例
第 1 子が前期破水の 2 絨毛膜双胎の肺低形
成評価に 3 次元超音波検査が有用であっ
た1例
神戸大学大学院医学系研究科女性医学分野
○芦谷 尚子、森田 宏紀、牧原 夏子、松岡 正造、
出口 雅士、北尾 敬祐、山崎 峰夫、丸尾 猛
【緒言】Preterm PROM(以下 pPROM)は、子宮内感染を
おこし fetal inflammatory response syndrome や脳室
周囲白質軟化症の原因となり、また慢性羊水過少によ
る新生児肺低形成および慢性肺疾患の原因となり新生
児の予後に深く関与している。今回我々は 2 絨毛膜双
胎の第 1 子 pPROM 例で、出生前の肺低形成の評価に 3
次元(以下 3D)超音波検査が有用であった症例を経験
したので報告する。
【症例】33 歳、G3P0、IVF-ET にて
妊娠が成立し、2 絨毛膜 2 羊膜双胎と診断された。妊娠
19 週に第 1 子の PROM となり前医で入院のうえ子宮収縮
抑制剤と抗生剤の投与にて妊娠継続が試みられた。持
続的な羊水の流出があり妊娠 25 週頃より第 1 子は羊水
過少であったが、子宮内感染徴候は認めなかった。妊
娠 26 週の時点腹部緊満が頻繁となったため当院に母体
搬送となった。搬送時、内診上黄色透明羊水の流出を
認めたが、熱発はなく検血にても子宮内感染徴候を認
めなかった。超音波検査では第 1 子の羊水ポケットを
ほとんど認めず、心胸郭断面積比(以下 CTAR)は 30.5%、
胸囲腹囲比は 0.95 と正常値を示したが、3D 超音波検査
で左、右肺体積はそれぞれ 7.4cm3、11.2cm3 であった。
一方、第 2 子の左、右肺体積はそれぞれ 13.3cm3、
21.6cm3 であった。産科と新生児科が協議のうえ、第 1
子の肺低形成を考慮し母体ステロイド療法を施行した
後、破水後長期にわたる妊娠継続による両児への影響
も考え、妊娠 27 週 1 日に選択的帝王切開術施行した。
第 1 子♀858g、Apgar Score 8/9 、第 2 子♀940g、
Apgar Score 8/9 出生となった。第 1 子は NICU へ入院
後 RDS と診断されサーファクタントが投与されたが、
呼吸状態は不安定で生後6時間で新生児遷延性肺高血
圧症と診断され、さらに生後 12 時間には心嚢気腫を発
症し死亡に至った。一方第 2 子はその後 2 か月の現在
に至るまで経過良好である。【考察】pPROM 症例の出生
前の肺低形成の検査として、CTAR や胸囲腹囲比に比べ
3D 超音波検査による肺体積測定が有用であった。pPROM
症例においては、従来の検査に加えて 3D 超音波検査に
よる肺体積の評価が、胎児予後を推察し termination
の時期を決定する上で有用であると考えられた。
P-204
姫路赤十字病院 新生児センター 小児科
○奥野 美佐子、大沼 健一、森川 悟、柄川 剛、
五百蔵 智明、久呉 真章
【はじめに】伴性無ガンマグロブリン血症は、骨髄に
おける B 細胞の分化障害のため末梢血 B 細胞が欠如し、
抗体産生不全をきたす疾患である。典型例では母親か
らの移行抗体が消失する生後半年頃から反復性の細菌
感染をはじめとする易感染性を示し、診断の端緒とな
るとされる。今回我々は、生後早期に呼吸障害を主訴
に入院となり、入院時血液検査およびその後の経過か
ら、新生児期に伴性無ガンマグロブリン血症の診断に
至った症例を経験したので報告する。【症例】在胎 40
週 3 日、3470g の男児。父方の従兄弟が心筋症のため、
新生児期に死亡している。近医にて特記すべき異常な
く頭位自然経膣分娩となり、Apgar score 9 点(1 分)、
9 点(5 分)にて出生した。出生後、全身状態・哺乳良
好であったが、日齢 3 より多呼吸・徐脈出現し、当院
へ紹介入院となった。入院時の血液検査所見では WBC
17300/μl、CRP 0.73mg/dl、IgG 1028mg/dl、IgA 0mg/dl、
IgM 0mg/dl、静脈血液ガス分析にて pH 7.325、pCO2
48.6mmHg、HCO3- 25.4mmol/l、BE -1mmol/l であった。
入院後、酸素・抗生剤投与にて加療開始とするも多呼
吸が増悪し、1 日間、人工呼吸管理を施行。抜管後も多
呼吸持続し、日齢 11 胸部 CT にて両側肺野にびまん性
の間質性陰影を認めた。軽度の多呼吸・低酸素血症に
対して酸素投与を継続し、日齢 28、酸素投与終了。そ
の後の血液検査にて低 IgM 血症および末梢血 B リンパ
球減少を認め、日齢 40、リンパ球サブセット・BTK 蛋
白解析を行い伴性無ガンマグロブリン血症と診断し
た。退院後、外来にて定期的に免疫グロブリン製剤の
投与を行っているが、生後6ヶ月の時点では特記すべ
き異常なく、経過順調である。
【まとめ】非典型的な経
過より乳児期早期に確定診断した伴性無ガンマグロブ
リン血症の一例を経験した。本疾患の病態と生後早期
の呼吸障害の関係は不明である。生後早期からの免疫
グロブリン値測定が一般的となりつつある現在、生後
早期から診断される先天性免疫不全症例は今後、増加
するかもしれない。更なる症例の蓄積が望まれるとと
もに、早期診断例に対する治療方針の確立が望まれる。
368
双胎一児無頭蓋、妊娠 23 週前期破水とな
った症例
北里大学病院総合周産母子医療センター
○沼田 彩、望月 純子、釼持 学、天野 完、海野
信也
当院における超早産 pPROM 児の臨床像の
検討
聖マリア病院 母子総合医療センター 新生児科
○首藤 紳介、中村 祐樹、小池 敬義、岡本 龍、
古川 亮、城戸 康宏、橋本 崇、原田 英明、橋本
武夫
【 は じ め に 】 満 期 以 前 の 破 水 ( preterm premature
rupture of membrane:pPROM)
,特に超早産の pPROM 症
例では分娩時期の決定において,早産による予後への
影響と長期破水による子宮内環境の悪化の risk-
benefit が問題となる.今回,当院に入院した在胎 28
週未満の超早産 pPROM 児の臨床像を検討したので報告
する.【目的】当院に入院した超早産 pPROM 症例につい
て,その周産期の臨床像を検討する.【対象と方法】
2003~2005 年の 3 年間に当センターに入院した在胎 28
週未満の症例で,生後 24 時間以内に入院した 76 症例
(多胎,染色体異常,先天性心疾患,常位胎盤早期剥
離,重篤な奇形児を除く)
.対象症例を pPROM 症例(P
群 n=38)と non-pPROM 症例(nP 群 n=38)の 2 群に分け
て後方視的に検討した.【結果】対象症例の在胎週数
(25.3±1.5w vs 25.6±1.9w),出生体重(758±227g vs
748±226g)
,性別は 2 群間で統計学的有意差はなかっ
た.児の Apgar Score,出生時血液検査所見に有意差は
なかった.母体年齢,羊水過少の頻度,出生前ステロ
イド投与率は P 群で有意に高かった.胎盤病理ではそ
の炎症所見に有意差を認めなかったが,胎盤提出率は P
群・nP 群ともに 63.1%と低く判断には注意が必要であ
る.呼吸器予後では修正 36 週での酸素依存率は P 群で
有意に高く(32.2% vs 8.3% p=0.0485)
,人工換気日
数は P 群で有意に長かった(48.2±32.4 日 vs 30.5±
21.9 p=0.0324).
【考察】今回,P 群で出生前ステロイ
ド投与率が高かったにも関わらず呼吸器予後がより悪
かった.従来,当院では切迫早産例はできる限り
tocolysis を行い在胎期間の延長を図ってきた.しかし
今回,前期破水による羊水過少や上行性感染など子宮
内環境の悪化が肺の成熟を妨げ P 群で呼吸器予後の悪
化につながった可能性が示唆された.現在,早産児の
慢性肺疾患と絨毛膜羊膜炎等の子宮内炎症の関連は既
にいわれており,当院でも前期破水や子宮内炎症が児
の予後に及ぼす影響を考慮し,児の娩出時期に関して
産科管理法の検討がなされ変化しつつある.今後は産
科と連携して,羊水中や臍帯血中のサイトカイン測定
などを行い,それにより子宮内炎症を予測する指標を
検討することで子宮内炎症の早期診断と適切な児の娩
出時期を決定していく必要がある.
P-205
P-206
双胎の一児が無頭蓋で、前期破水を伴い妊娠 24 週で早
産となった。日齢 27 で胸腔鏡下動脈管閉鎖術(VATS)
を行い救命し得た症例を経験したので報告する。症例
は 41 歳 1 経妊 1 経産 他院にてクロミフェンを内服
し、人工授精にて妊娠成立となった。二絨毛膜二羊膜
性双胎の診断にて妊娠 11 週 6 日当院紹介受診となっ
た。妊娠 12 週の経膣超音波検査にて一児の無頭蓋が判
明した。羊水染色体検査を行い、結果は無頭蓋児が
47XX+18、健児は 46XX であった。妊娠 23 週 4 日、健児
側が前期破水となり入院となった。発熱もなく炎症反
応の上昇も認めずに経過していたが、妊娠 24 週 0 日変
動一過性徐脈が頻発し、non reassuring fetal status
の診断で緊急帝王切開術となった。児は 500g の女児、
Apger Scor 6/7 点、臍帯動脈血液ガス pH 7.38 にて出
生し、NICU 入室となった。ただちに気管内挿管とし、
サーファクタントの投与を行い人工呼吸器管理となっ
た。日齢1動脈管が閉鎖せず、インダシンを 2 クール
投与するも改善せず、日齢8に肺出血を認めた。サー
ファクタントにて気管内を洗浄しノイアートを投与す
るも、日齢 10 に再度肺出血を認め著明な貧血となり輸
血を行った。動脈管に対してはインダシンを合計 3 ク
ール投与し体重増加を待ち、日齢 27 に児体重が 529g
となったところで VATS を行った。その後、呼吸状態は
改善し日齢 78 に抜管、日齢 91 酸素投与中止となった。
貧血、甲状腺機能低下、網膜症を合併するも軽快、日
齢 150 に退院となった。現在 1 歳 2 ヶ月が経過したが、
発育、発達ともに良好である。
369
P-207
28 週未満の PROM の検討
北里大学 総合周産期母子医療センター
○菊地 信三、庄田 隆、天野 完、海野
P-208
既往早産患者の早産再発についての検討
トヨタ記念病院 周産期母子医療センター 産科
○坂野 伸弥、関谷 龍一郎、鈴木 史朗、岸上 靖
幸、小口 秀紀
【目的】早産発生率は 4%前後とされている。早産の原
因は数々挙げられているが、原因によっては適切な母
児管理を行うことで早産の再発を予防することが期待
できる。そこで既往早産患者の周産期予後を改善する
ことを目的として、既往早産患者の早産の原因と次回
の妊娠での妊娠管理と予後がどのような関係にあるか
を検討した。【方法】2005 年 8 月より 2006 年 12 月まで
に当院で妊娠、分娩管理をした妊婦 1,158 人を対象に、
先行妊娠が 24 週 0 日から 34 週 6 日までの早産既往患
者を抽出し、早産の原因、治療、分娩様式について検
討した。また早産再発率を検討し、次回妊娠時の妊娠
管理、治療、分娩様式、分娩転帰について検討した。
【結
果】先行妊娠の早産数は 25 例であった。原因は前期破
水が 11 例(44%)
、切迫早産(陣痛開始)が 5 例(20%)
、
子宮内胎児死亡が 5 例(20%)
、fetal distress が 2
例(8%)
、常位胎盤早期剥離が 1 例(4%)
、妊娠高血圧
症候群 1 例(4%)であった。帝王切開率は 52%(13/25)
であった。次回分娩の早産再発は 2 例で、再発率は 8%
(2/25)であり、原因は前期破水1例、切迫早産1例あ
った。帝王切開率は 52%(13/25)で、VBAC が 3 例あっ
た。予防的頚管縫縮術を施行したのは 1 例(4%)であ
り正期産であった。また早産入院管理をしたのは 3 例
でありそのうち 2 例は正期産であった。
【考察】既往早
産患者に対し、予防的頚管縫縮術を行った症例は 1 例
(4%)で、ほとんどの症例で予防的頚管縫縮術は行わ
れなかった。また、予防的入院管理を行った症例は認
めなかったが 88%が正期産であった。早産患者の帝王切
開率は 52%であり、当院の帝王切開率 20.7%よりはるか
に高率であり、早産を予防することで帝王切開率が減
少させ得ることが示唆された。
信也
[目的] preterm PROM は母児の感染リスクが高いこと
に 加 え 、 羊 水 過 少 に 起 因 す る 肺 低 形 成 、 NRFS
(nonreassuring fetal status)、常位胎盤早期剥離、
臍帯脱出などの頻度が高いことが問題となる。また、
PROM の時期が早ければ早い程、児の未熟性が問題とな
り、妊娠継続、娩出時期の決定に難渋する。そこで今
回は、28 週未満の PROM の予後について検討した。[方
法] 2001~2005 年に頚管開大 3cm 以下で管理した 28
週未満の PROM(単胎、胎児奇形なし)28 例(初産 13、
経産 15)を後方視的に検討した。[成績] 4 例に早産
歴、妊娠初期に予防的頚管縫縮術をおこなった症例は 3
例、経過中頚管短縮や開大で破水前に頚管縫縮術を行
った症例は 5 例であった。破水後、抗菌薬を使用した
症例は 28 例(100%)
、子宮収縮抑制薬使用 19 例(68%)
、
ステロイド使用 13 例(46%)
、amnioinfusion 施行 3 例
(11%)であった。平均の破水-分娩時間は、4.8±3.9
(日)で 24 時間以内に分娩に至った症例は 5 例(18%)
、
48 時間以内では 10 例(36%)
、1 週間以内は 17 例(61%)
であった。分娩理由は、分娩不可避 18 例、子宮内感染
8 例、IUFD 2 例であった。帝切は 9 例 32%(前回帝切 4、
胎位異常 3、分娩中 NRFS 1、子宮内感染疑い 1 )であ
った。児の平均出生体重は 893g(482-1928)、死産 4
例、新生児死亡 3 例で、2006 年 9 月までに神経学的後
遺症(脳性麻痺)を認めたのは 2 例であった。IUFD を
除く 24 例のうち新生児に RDS を認めたのは 13 例、感
染徴候 9 例、CLD 8 例、NEC 2 例、IVH 1 例であった。
26 週以降の分娩例は予後良好であったが、それ以前の
分娩例では、予後不良症例が目立った。[結論] 28 週
以前の PROM では、子宮内環境を良好に保ちつつ 26 週
以降まで妊娠期間を延長することが予後の改善につな
がる。
370
プロテオグリカン(Proteoglycan)は切迫
早産治療薬になりうるか
弘前大学医学部附属病院周産母子センター1、弘前大学
医学部産科婦人科学教室 2
○田中 幹二 1,2)、松倉 大輔 1)、山本 善光 1)、尾崎
浩士 1,2)
【目的】早産の原因として絨毛羊膜炎(CAM)が極めて
重要である。また CAM の発症、子宮頚管熟化には、頚
管中、羊水中の種々な炎症性サイトカインが重要な働
きをしている。一方、プロテオグリカン(PG)は細胞
外基質の主要構成成分でありながら、これまでは単に
組織構造を維持する物質と考えられていた。ところが
近年の研究で細胞の機能発現に重大な影響を与える事
が知られるようになり、特に最近ではその抗炎症作用
が注目されている。そこで今回は、リポ多糖(LPS)に
より刺激した子宮頚管由来培養線維芽細胞に PG を添加
し、同細胞における PG の炎症性サイトカインへの影響
を調べる事により、PG の早産防止の新しい治療薬とし
ての可能性について検討した。
【方法】患者の同意を得
て手術時採取した子宮頚管組織片を培養し、得られた
線維芽細胞の培地に LPS を 1 μg/ml の濃度で添加し、
さらに PG 添加群、非添加群に分けて 48 時間まで培養
後、培地中の IL-1β、IL-6、IL-8、IL-10、TNF-αの産
生量を ELISA 法により定量し比較検討した。 【成績】
ヒト子宮頚管培養線維芽細胞の産生する培地中の IL-1
β量は LPS 添加後 12 時間後で 40.69±3.61 pg/ml とピ
ークに達した後漸減した。この LPS 添加による IL-1β
産生量は PG 添加により濃度依存的に減少し、PG 1.0
mg/ml 添加 12 時間後の培地中の IL-1β産生量は 16.81
±1.12 pg/ml と PG 非添加群に比較して約 58%の有意
な減少を示した。また IL-6、IL-8、TNF-αについても
PG 添加により同様に減少を認めた。一方 IL-10 につい
ては、LPS 1 μg/ml では産生が認められなかった為、
LPS を 2 μg/ml に増量して改めて同様の実験を行った。
その結果、同細胞の産生する IL-10 は LPS 添加後時間
と共に増加し、48 時間後には 3.485±1.045 pg/ml に達
した。LPS と同時に PG 1.0 mg/ml を添加することによ
り、control 群に比較して全ての時間で増加が認めら
れ、特に 24 時間後には 59%という著明な増加を示した
(p=0.007)。
【結論】PG は CAM の発症、頚管熟化に重
要な種々の炎症性サイトカインを著明に抑制し、抗炎
症作用を持つ IL-10 を増加させた。このことから、PG
が早産防止の新しい治療薬となり得る可能性が示唆さ
れた。
P-209
P-210
早期より早産した4例
福岡新水巻病院
○白川 嘉継
【はじめに】1986 年から、早期より早産した症例を 4
例経験した。2例は死亡し 2 例が生存退院した。家族
の強い希望により蘇生したが、その是非については倫
理的問題があると思われるので報告する。なお早期の
定義は 1991 年に在胎 24 週から 22 週に変更された。
【症
例 1】1986 年、在胎 22 週 5 日 468g 男児。頭位経腟分
娩。近医から依頼があり、立会分娩。分娩前に家族と
産科医から、蘇生を強く希望された。母体妊娠分娩歴:
第 1,3 子は早産により死亡。第 1 子 456g。今回第4子。
入院後経過:脳室内出血と貧血が進行し出生11時間
後死亡。
【症例 2】1990 年、在胎 22 週 3 日 590g 男児。
産科受診のタクシー内で頭囲分娩。来院後、挿管し蘇
生。前年に早産児を亡くし、両親の強い希望により治
療を継続。入院後経過:日齢 177 に人工呼吸器離脱。
未熟児網膜症で両眼失明。日齢 331 退院。退院後経過:
2 歳 0 か月まで在宅酸素療法施行。混合型四肢麻痺。有
意語無し。言語理解は日常生活がかろうじて送れる程
度。全介助が必要だが、全量経口摂取可能。活発で良
く動き、車椅子で、養護学校に通学。てんかん治療の
ため小児科に通院中。発作無し。
【症例 3】1991 年在胎
21 周 3 日 398g 女児。母体妊娠分娩歴:1987 年、在胎
17 週流産。1988 年、在胎 27 週 1100g 女児分娩、問題
無し。1989 年、在胎 22 週流産。分娩までの経過:在胎
14 週 2 日シロッカー術施行。在胎 20 週 6 日破水入院。
対応について両親と相談。生存の可能性がないことな
どを説明。流産を繰り返し、処置が受けられず、今回
は蘇生を強く希望。管理不能となり、全足位で娩出。
入院後経過:日齢 104 人工換気離脱。日齢 207 退院。
眼科処置不要。退院 3 か月後まで在宅酸素療法施行。
麻痺無く、15 歳 0 か月 WISC3 は言語性 IQ51、動作性
IQ58、全検査 IQ49。高等学院入学。【症例 4】1992 年在
胎 20 週 5 日 390g 男児。母親は子宮頸癌で、円錐切除
術施行。切迫流産で管理入院。母親は帝王切開を強く
希望したが、単殿位で経腟分娩。分娩は停止し、両大
腿部に指を駆け、折り曲げて娩出。全身うっ血が強く
Hb は 10.1g/dl。急速に 7.6g/dl まで低下。動脈管は閉
鎖せず、肺うっ血、脳室内出血、出血性ショックを発
症し、日齢 6 に死亡。2 年後、切迫早産による 10 週間
のベッド上安静の後、在胎 36 週 5 日で男児出産。
【お
わりに】早期より早産した症例に対する医療は行われ
るべきではないかもしれないが、生存例がある以上、
目を背けることができない問題である。
371
在胎 22~23 週の分娩様式-帝王切開は児
の転帰を改善するか-
獨協医科大学 総合周産期母子医療センター、産婦人
科 1、獨協医科大学 総合周産期母子医療センター、小
児科 2
○多田 和美 1)、渡辺 博 1)、村越 友紀 1)、岡崎 隆
之 1)、西川 正能 1)、大島 教子 1)、田所 望 1)、稲葉
憲之 1)、鈴村 宏 2)
目的:周産期医学の進歩により、超早産児の予後は著
しく改善しているが、在胎 22~23 週の児の転帰は依然
として厳しく、帝王切開による出産は躊躇されてきた。
しかし母体適応により帝王切開を実施せざるを得ない
事例も存在する。当院では 2003 年、在胎 22 週 0 日母
体適応による帝王切開で出生した児が軽快退院して以
来、24 週未満でも帝王切開を選択することが増加して
いる。今回当科における在胎 22~23 週の出生児につい
て、帝王切開が児の転帰を改善しているかどうかを検
討した。方法:1998 年 1 月 1 日より 2007 年 2 月 28 日
までの期間に当センターで出生した在胎 22~23 週の単
胎児 40 名(22 週:17 名、23 週:23 名)の分娩様式と
転帰を 2002 年まで(前期)と 2003 年以降(後期)に
分けて後方視的に検討した。死産ならびに生命予後不
良と判断された先天異常児は除外した。結果:前期で
出生した児は 18 名、後期は 22 名であった。経膣分娩
は 31 名(前期 17 名/後期 14 名,以下同様)で、頭位
分娩は 16 名(7 名/9 名)
、骨盤位分娩は 15 名(10 名
/5 名)であった。帝王切開は 9 名(1 名/8 名)に行
われ、帝切率は前期 5.6%、後期 36.4%であった。分娩
週数は前期では 22 週 5 名・23 週 13 名、後期では 22
週 12 名・23 週 10 名であった。NICU 入院中の児死亡は
前期 11 名(61.1%)
、後期 12 名(54.5%)であり、明
らかな改善は認められなかった。分娩様式別の児死亡
をみると、頭位分娩 12 名(75%)
、骨盤位分娩:7 名
(46.7%)
、帝王切開:4 名(44.4%)と骨盤位分娩と
帝王切開で低い傾向が見られたが、有意ではなかった。
前期では在胎 22 週の児 5 名全員が死亡したが、後期で
は9名
(75%)
であり、在胎 23 週の死亡率は前期 46.2%、
後期 30%と改善傾向がみられた。結論:現時点では在
胎 22~23 週における帝王切開は、必ずしも児の転帰を
改善しているとはいえない。
当院における妊娠24週未満早産の検討
ー産科編ー
横浜市立大学附属市民総合医療センター母子医療セン
ター1、横浜市立大学附属病院産婦人科 2
○斉藤 圭介 1)、安 ひろみ 1)、長谷川 哲哉 1)、野村
可之 1)、田野島 美城 1)、小川 幸 1)、奥田 美加 1)、
関 和男 1)、高橋 恒男 1)、平原 史樹 2)
P-211
P-212
<目的>当センターでの妊娠22,23週分娩及び新
生児予後の実態を把握する.<対象及び方法>200
1年1月から2006年12月までの7年間において
当センターで分娩となった妊娠22週及び23週の症
例を対象とした.当該診療録を参照し分娩週数,早産
の原因,分娩様式,生存の有無を後方視的に検討した.
後遺症に関しては新生児編で検討する.<結果>当該
期間に妊娠22,23週での分娩は35例あった.妊
娠22週のうち1例は予定日不確実であり以後の検討
から除く.分娩開始前に既に子宮内胎児死亡となって
いたもの及び分娩進行中に胎児死亡となったものが各
4例あった.妊娠22週生産は12例あり全て単胎で
あった.生存退院は4例であり,いずれも経膣分娩で
胎盤病理上絨毛羊膜炎2から3度を全症例で認めてい
る.死亡退院は8例であり,緊急帝王切開による分娩
が4例(適応は急性妊娠性脂肪肝,常位胎盤早期剥離,
SLE 増悪及び常位胎盤早期剥離,子癇が各1例)
,経膣
分娩が4例で推測される早産の原因は頚管無力症3
例,原因不明1例であった.妊娠23週生産は14例
あり単胎10例,双胎3例,品胎1例であった.単胎
10例のうち生存しているのは7例で緊急帝王切開分
娩は3例(NRFS2例,常位胎盤早期剥離1例)
,経膣分
娩は4例であり,推測される早産の原因は絨毛羊膜炎
5例,周郭胎盤1例,原因不明1例であった.単胎死
亡例は3例あり緊急帝王切開分娩2例(常位胎盤早期
剥離,横位各1例)経膣分娩1例で推測される早産の
原因は絨毛羊膜炎,頚管無力症,常位胎盤早期剥離各
1例であった.双胎は3例ありすべて経膣分娩で,推
測される早産の原因は絨毛羊膜炎2例,頚管無力症1
例,いずれも1児のみ生存している.品胎の1例は経
膣分娩で頚管無力症が原因と考えられ1児のみ生存し
ている.<結論>妊娠22週生産児は12人中4人
(33%)が,妊娠23週生産児は19人中10人(53%)
が生存している.頚管無力症,母体適応での中絶,多
胎妊娠例で生存率が低い傾向にある一方,生存例では
特に妊娠22週分娩で絨毛羊膜炎の合併が多い傾向に
あった.
372
当院における在胎 24 週未満の超早産児の
検討-新生児編公立大学法人 横浜市立大学 市民総合医療センター
母子医療センター1、公立大学法人 横浜市立大学附属
病院 小児科 2
○安 ひろみ 1)、湯川 知秀 1)、小郷 寛史 1)、石田 史
彦 1)、堀口 晴子 1)、関 和男 1)、横田 俊平 2)、斉藤
圭介 1)、奥田 美加 1)、高橋 恒男 1)
【目的】近年の新生児医療の進歩により、在胎 24 週未
満の超早産児も蘇生が可能となってきたが、救命しえ
た場合でも合併症も多く、精神運動発達の予後は不良
なことが多い。当院ではこれらの週数であっても、両
親と相談の上蘇生を行っているが、これらの児の短期
および長期予後を明らかにするために、当院開設以来 7
年間の在胎 22、23 週の超早産児について後方視的に検
討した。
【方法】2000 年 1 月 1 日の開院より 2006 年 12 月 31
日までの7年間に、当院で出生し NICU へ入院した在胎
22 週および 23 週の超早産児の短期および長期予後を、
診療録より後方視的に調査を行った。
【結果】この 7 年間の当院の入院総数は 1075 例で、そ
のうち在胎 22 週の児(22 週群)は計 12 例、在胎 23
週の児(23 週群)は計 17 例で計 29 例であった。生直
後に他院へ搬送された 2 例及び在胎週数不確実な 1 例
は除いた。
22 週群では 8 例が死亡(うち 1 例が出生当日死亡、生
後 1 週間以内の死亡が 2 例、生後 1 ヶ月以内が 3 例、
それ以降が 2 例)
、4 例が生存、23 週群では 7 例が死亡
(出生当日死亡が 4 例、生後 1 ヶ月以内が 2 例、それ
以降が 1 例)、8 例が生存退院、1 例転院、1 例は現在も
入院中となっていた。
出生当日に死亡した 5 例の死因は、肺低形成が 3 例、
重症仮死 1 例、先天感染 1 例であり、生後 1 週間以内
に死亡した 2 例の死因は壊死性腸炎(NEC)1 例、感染
+腎不全 1 例であり、生後1ヶ月以内に死亡した 5 例
の死因は NEC3 例、敗血症性ショック 2 例であり、それ
以降に死亡した 3 例の死因は NEC2 例、慢性肺疾患
(CLD)
+肺高血圧(PH)crisis1 例となっていた。
生存退院した 12 例の平均在院日数は 177 日であった。
3 年以上経過観察を行った 7 例では、脳性麻痺(CP)+
精神発達遅延(MR)+てんかん(Epi)が 2 例、CP+MR
+自閉症が 1 例、CP+MR が 1 例、MR+Epi が 1 例、Epi
が 1 例、正常発達が 1 例となっていた。
【結論】在胎 22、23 週の超早産児でも、約半数は救命
することができた。生産となったが、出生当日に死亡
した症例では、肺低形成によるものが多かった。それ
以降に死亡した症例では、NEC など感染に関連したもの
がほとんどであり、遠隔期の死亡には PH crisis もあ
った。救命しえた児の長期予後は精神運動発達遅延や
Epi を伴う例が高率にあった。このような超早産児の出
生に際しては、児の予後について両親に説明し、分娩
方法や蘇生について話し合っておくことが必要である
と思われた。
当院における妊娠 22・23 週の周産期管理
の検討
東京都立墨東病院 周産期センター 産科 1、東京都立
墨東病院 周産期センター 新生児科 2
○櫻庭 志乃 1)、永野 玲子 1)、星野 裕子 1)、林 瑞
成 1)、若麻績 佳樹 1)、大森 意索 2)、清水 光政 2)、
渡辺 とよ子 2)
P-213
P-214
【目的】現在、妊娠 24 週未満の周産期管理については
明確な指針がなく、施設間で異なっている。そこで当
院における妊娠 22・23 週の周産期管理に関し、後方視
的に検討し管理法に関し考察する。【方法】2002 年 1
月から 2006 年 12 月の 5 年間に、当院において周産期
管理を行った妊娠 22・23 週の分娩症例を検討した。検
定には、t 検定・χ二乗検定・ロジスティック回帰分析
を用いた。
【成績】妊娠 22・23 週で分娩に至った症例
は 37 例であった。分娩直後蘇生不能と診断されたもの
は 3 例、蘇生後頭蓋内出血などの合併症で死亡したも
のは 3 例で、生存率は 83.9%であった。経膣分娩は 19
例(生存 16 例・死亡 3 例・生存率 84.2%)
、帝王切開
術 18 例(生存 15 例・死亡 3 例・生存率 83.3%)で、
両者の生存率には差がなかった。経膣分娩群と帝王切
開群に分け、Apgar score・臍帯動脈 pH・新生児短期予
後について検討したが、有意な差はみられなかった。
切迫早産は 36 例とほぼ全例に認めており、原因は子宮
頸管無力症、絨毛膜羊膜炎が考えられた。新生児予後
不良例の産科的背景についても検討したが、絨毛膜羊
膜炎・多胎第 2 子以上・骨盤位の経膣分娩との関連が
示唆された。【考察】生存率が飛躍的に伸びる中、新生
児予後不良症例・死亡例も存在する。この改善策とし
て、高度子宮内炎症状態での妊娠継続の回避、骨盤位・
双胎においての帝王切開の選択などが考慮された。
【結論】当院での妊娠 22・23 週での分娩は年々増加し
ており、救命率も上昇している。患者のニーズも多様
化しており、児救命を目的とした周産期管理方法を見
直していく必要があると思われた。
373
P-215
当院における 23 週以前 pPROM 症例の検討
超早産(妊娠 22 週から 24 週)の臨床的検
討
愛媛県立中央病院
○上松 和彦、三好 和生、矢野 真理、小塚 良哲、
立石 洋子、近藤 裕司、越智 博、野田 清史
【目的】 当院で妊娠 22 週 0 日から 24 週 6 日の間に分
娩となった症例を、後方視的に検討する。【方法】 平
成 15 年から平成 18 年までの 4 年間に、妊娠 22 週 0 日
から 24 週 6 日までに分娩となった 36 症例を対象とす
る。なお、当院での基本的な分娩方法は、22 週は経膣
分娩、23 週は当院での新生児科での成績を患者へ説明
の上、分娩方法を選択して頂く。24 週以降は、頭位で
あれば経膣分娩、胎位異常があれば帝王切開となって
いる。【結果】 妊娠 22 週は 5 例、23 週は 16 例、24 週
は 15 例の計 36 例であり、うち 4 例が分娩中に胎児死
亡となっている。以後双胎及び特殊例を除いた 28 例を
対象に検討を行った。分娩方法をみると、妊娠 22 週は
4 例全てが経膣分娩、妊娠 23 週は 8 例が経膣で 5 例が
帝王切開で、妊娠 24 週は 4 例が経膣分娩で 7 例が帝王
切開となっており、帝王切開率は 22 週、23 週、24 週
でそれぞれ 0%、38.46%、63.64%であった。帝王切開
の適応は、胎位異常が 12 例、子宮内感染・微弱陣痛・
遷延分娩が 1 例であった。出生児 25 名のうち退院時に
Intact survival と判定されたものは 15 例、IVH 発症
は 2 例、入院中の症例は 2 例で、死亡退院は 6 例とな
っていた。入院時に胎胞脱出していたものは 16 例であ
った。破水についてはしていないものが 7 例、高位破
水が 14 例、完全破水が 7 例であった。出生児の Apgar
Score1 分値/5 分値の平均は、22 週、23 週、24 週でそ
れぞれ 1.75/3.50、3.27/5.91、3.70/5.60 であった。
死亡退院率は 22 週、23 週、24 週で 50.00%、20.00%、
22.22%であった。退院時 Intact survival 率は 22 週、
23 週、24 週で 25.00%、70.00%、77.78%であった。
分娩後の胎盤所見による絨毛羊膜炎(CAM)の割合は
85.71%と高値であった。Intact survival の例と予後
不良例とで比較すると、CAM の割合では両者に差はない
が、臍帯炎を併発している率は、それぞれ 40.00%と
62.50%で、予後不良例で臍帯炎を併発している率が高
かった。
【結語】 20 週台前半で分娩に至る原因として
CAM の存在が大きく、また新生児予後については臍帯炎
の存在との関連性が示唆された。
P-216
熊本市立 熊本市民病院 産婦人科
○上妻 友隆、河田 高伸、江口 敏博、石松 順嗣、
綱脇 現
【目的】妊娠 23 週以前に前期破水(以下 pPROM)とな
った症例において、その母体および出生児の経過を検
討し、考察する。
【方法】1997 年 1 月から 2006 年 12
月までに当院で経験した、妊娠 23 週以前に pPROM とな
り、児の奇形を認めない単胎例 21 症例について、母体
経過および出生児の経過を後方視的に検討する。【結
果】pPROM の妊娠週数は、20 週以前:4 例(17 週 1 例、
19週 1 例、20 週 2 例)
、21 週:2 例、22 週:8 例、23
週:7 例であった。当院入院時に腟培養を施行できたの
は 18 例で、ブドウ球菌:7 例、連鎖球菌:5 例、腟桿
菌:1例、腸球菌:1 例、大腸菌:1 例、緑膿菌:1例、
インフルエンザ桿菌:1例、培養陰性:1 例であった。
また、当院入院時に母体が臨床的絨毛膜羊膜炎を呈し
ていたのは 4 例であった。破水から分娩までの日数は、
0~1 日:5 例、2~3 日:2 例、4~5 日:3 例、6~7 日:
1 例、1~2 週:3 例、3~4 週:3 例、5 週以上:4 例で、
平均日数 17.0 日であった。分娩週数は、23 週以前:9
例、24 週:5 例、25 週:2 例、26 週:3 例、27 週:1
例、28 週以降:1 例であった。児の予後は、生存 10 例、
新生児死亡 9 例、乳児死亡 2 例で、分娩週数別にみた
児の生存数は 23 週以前:9 例中 2 例、24 週:5 例中 4
例、25 週:2例中 1 例、26 週:3 例中2例、27 週:1
例中 1 例、28 週以降:1 例中 0 例であった。胎盤の病
理組織診断は、21 例中 16 例が Blanc 分類における絨毛
膜羊膜炎 3 度であった。16 例中 8 例は先天性肺炎、3
例は先天性敗血症を合併した。また、病理組織診断で
絨毛膜羊膜炎 2 度以下の 5 例には、先天性感染症を認
めなかった。肺低形成を 3 例に認め、すべてが妊娠 20
週以前の pPROM で、かつ妊娠 24 週以降での分娩であっ
た。妊娠 24 週以降に分娩となり、死亡した 4 例は、2
例が肺低形成、2 例が先天性感染症を合併した。
【結論】
妊娠 23 週以前の pPROM で、23 週以前に分娩となった児
の予後は極めて不良であった。妊娠 24 週以降まで妊娠
が継続できても、妊娠 20 週以前に pPROM となった症例
においては、肺低形成や先天性感染症の合併率が高く、
児の予後は不良であり、分娩時期の選択が今後の問題
である。
374
P-217
会長賞
Ureaplasma 感染と早期産の関連および
Ureaplasma 由来リポ蛋白の作用の検討
兵庫医科大学 産科婦人科学教室
○原田 佳世子、田中 宏幸、武信
二、香山 浩二
尚史、小森
P-218
絨毛膜羊膜炎を治すことはできるか?
名古屋第一赤十字病院 総合周産期母子医療センター
産婦人科 1、名古屋第一赤十字病院 総合周産期母子医
療センター 新生児科 2
○宮崎 顕 1)、南 宏次郎 1)、吉田 加奈 1)、久野 尚
彦 1)、水野 公雄 1)、古橋 円 1)、石川 薫 1)、鈴木 千
鶴子 2)、鬼頭 修 2)
【背景】絨毛膜羊膜炎(CAM)は、早産の主要な原因の
1つであるが、臨床上の管理として、妊娠を継続すべ
きか終結すべきかについて一定の見解は未だ得られて
いない。我々は、羊水中顆粒球エラスターゼを測定す
ることで CAM を診断できることを報告してきた。
(Kidokoro et al. Acta Obstet Gynecol Scand
2006;85:669-674) 羊水中顆粒球エラスターゼは臨床的
CAM のパラメーターの一つである母体の白血球数より
感度・特異度ともに高く、0.15μg/ml 以上の場合に CAM
と診断する。【方法】当院に 2001 年 7 月~2006 年 3 月
に入院した妊娠 22 週から 28 週までの切迫早産症候群
の内、羊水中顆粒球エラスターゼの測定により CAM が
あると考えられた単胎 100 例について検討した。羊水
中顆粒球エラスターゼ値により 3 群(A:0.15≦ <1μ
g/ml、B:1≦ <10μg/ml、C:≧10μg/ml)に分類し、
母体 CRP の値で経過を追った。治療は子宮収縮抑制剤・
抗生物質投与を基本とし、
胎胞脱出例には Cerclage を、
破水症例には Amnioinfusion を追加した。1.臨床的 CAM
(次の 2 項目以上を認める場合:38℃以上の発熱、母体
白血球 15,000/mm3 以上、胎児頻脈、子宮の圧痛、膣分
泌物の悪臭)、2.FHR non-reassuring、3.胎児死亡、4.
分娩進行、5.子宮収縮抑制困難のいずれかの場合には
妊娠終結とした。各群における妊娠延長期間、母体・
児の合併症を検討し、分娩後には CAM・臍帯炎の有無・
程度を病理学的に調べた。
【結果】100 例の内訳は、A:38
人、B:34 人、C:28 人であった。妊娠延長期間(中央値)
は B(15 日),C(5.5 日)に比べ、A(35 日)で有意に
長かった(P=0.031, P<0.001)。分娩直前の母体 CRP
値が入院時よりも高値を示した例は、全体の 61%を占
めた。組織学的 CAM および臍帯炎は、それぞれ全症例
の 90.4%、65.5%に認め、各群間で検討すると A と C
の間で有意差を認めた(P<0.001, P=0.033)。4 例に子
宮内胎児死亡、10 例に新生児死亡を認め、児の合併症
としては気管支肺異形成が最も多くみられた。
【結論】
CAM を認める場合、抗生物質投与などにより妊娠期間を
延長することは可能だが、治癒せしめることは困難で
ある。また、羊水中顆粒球エラスターゼを測定するこ
とによりどのぐらい妊娠期間を延長させることができ
るかを推測することができる。
慎
【目的】ウレアプラズマは、成人女性に常在する病原
微生物のひとつであるが、縦毛膜羊膜炎や早産に関連
していることが報告されている。今回我々は、妊婦の
腟分泌物培養にて一般細菌とウレアプラズマの検出を
行い早産との関連を検討した。さらに、ウレアプラズ
マの細胞膜成分(リポ蛋白)を抽出し免疫細胞での免
疫応答への影響について検討した。 【方法】本施設
の倫理委員会の承認を得た上で、330 例の妊婦において
陣痛発来時に各々の培地を用いて腟分泌物培養を行
い、一般細菌およびウレアプラズマ感染の状態を解析
した。国立予防衛生研究所村山分室より分与されたウ
レアプラズマ株 sero type 3を培養し、TritonX-114
を用いてリポ蛋白(LP)を調整し、単球系細胞(THP-1)に
添加培養した。
Toll like receptor(TLR)-2 および TLR-4
の発現誘導を real time PCR にて検討した。また ELISA
法にて培養上清中の炎症性サイトカインも測定した。
【成績】妊婦 330 例中、正期産例 300 例、早産例 30 例
であった。ウレアプラズマは正期産例 30.0% 早産例
50.0%に検出され早産例に有意に高かった。一方、THP-1
細胞では、LP の刺激に対し、TLR-4 の発現誘導は認め
なかったが TLR-2 の発現誘導が認められた。LP 刺激に
より IL-8 の産生が誘導された。 【結論】妊娠中のウ
レアプラズマの感染が早産と関連していることが明ら
かになった。今回ウレアプラズマの LP が、THP-1 細胞
において TLR-2 の遺伝子発現を誘導し、さらに IL-8 を
産生させることが明らかとなった。
375
P-219
ABPC 耐性 GBS による子宮内感染症の1例
鹿児島市立病院 産婦人科
○川畑 宜代、池畑 奈美、三原
上塘 正人、波多江 正紀
慶子、前田
羊水中アネキシン A2 蛋白の検出と蛋白定
量化の試み
地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪府立母子保
健総合医療センター 研究所 免疫部門 1、独立行政法
人 国立病院機構 岡山医療センター 新生児科 2、地
方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪府立母子保
健総合医療センター 新生児科 3
○難波 文彦 1)、吉尾 博之 2)、藤村 正哲 3)、柳原 格
P-220
隆嗣、
1)
(緒言)GBS 感染症に対する予防的抗生剤投与により重
症新生児感染は減少している。今回我々は ABPC 耐性
GBS による子宮内感染症を経験したので報告する。(症
例)31 歳、4 経妊2経産。平成 13 年子宮頚部上皮内癌
にて子宮頚部円錐切除術を施行。同年、妊娠 24 週で前
期破水後経膣分娩。平成 15 年、妊娠 26 週で前期破水
後帝王切開を施行。平成 18 年 9 月、妊娠成立。前医へ
妊娠 15 週より入院。妊娠 22 週 0 日に当科転院となっ
た。入院時子宮頚管長 19mm と短縮していた。膣培養は
2週間に1回行ない入院時以外は常在菌のみの検出で
あった。子宮頸管エラスターゼ値が上昇していた為ウ
リナスタチン 5000 単位膣内投与を行なった。血液検査
にても特に異常は認めなかった。妊娠 26 週 5 日で前期
破水となり臨床的絨毛羊膜炎を認めずリンデロン投与
し、GBS 感染予防に ABPC 投与した。48 時間後に膣、直
腸の培養にて GBS 陰性であり投与中止し、感染徴候な
いため SBT/ABPC をさらに 4 日間投与した。採血にて炎
症所見なく1週間後の膣培養検査にても細菌を認めず
待機的管理を行なっていた。妊娠 28 週 3 日に熱発、子
宮収縮を認め陣痛発来と診断し児を帝王切開にて娩出
した。子宮内に悪臭はなく卵膜、臍帯の黄染も認めな
かった。児は 1322g の男児で APS4/9,臍帯動脈血 pH
7.269,RDS のため人工呼吸管理となったが出生当日に
IVH III 度、肺出血を認めた。臍帯血、咽頭、皮膚、便
の細菌培養にて ABPC 耐性 GBS を認め、重篤な sepsis
を発症していた。現在も厳重な管理を必要としている。
母体は術後7日目に熱発し創部培養にて Pseudomonas
を認めた。分娩2ヶ月後の膣培養、直腸培養にて GBS
を認めた。(考察)円錐切除後に3回連続して前期破水、
子宮内感染を発症した稀な症例であるが、GBS による今
回が最も重篤な結果となった。ABPC 耐性 GBS について
は増加傾向ではないと報告されるが抗生剤投与の機会
が増加することを考慮するとその存在の可能性には十
分に留意すべきである。
【はじめに】われわれは、早産児の高 IgM 認識蛋白質
としてアネキシン A2 を同定し、その IgM titer が絨毛
膜羊膜炎 Blanc 分類 3 度において有意に高値であるこ
とを報告した(Pediatr Res 2006; 60: 699-704.)。今
回、抗原暴露の場と考える子宮内の羊水を用いて、ア
ネキシン A2 蛋白の検出を試みた。また、アネキシン
A2 蛋白の定量を行なった。
【対象と方法】対象は岡山医
療センターにて出生した児の羊水 14 検体(早産児 12
検体、正期産児 2 検体)を用いた。羊水中のアネキシ
ン A2 の検出は Western blot で行った。一方、羊水中
のアネキシン A2 の定量方法を確立するために、組み換
えアネキシン A2 蛋白を用いてマウスを免疫し、得られ
た抗体を用いて sandwich ELISA を試みた。【結果】
Western blot の結果、羊水中にアネキシン A2 を検出し
た。また、sandwich ELISA により、アネキシン A2 蛋白
の定量が可能であった。
【結語】今後は、羊水中アネキ
シン A2 蛋白の定量と、絨毛膜羊膜炎の病態との関連に
ついての検討を行う。
376
経母体 betamethasone 投与後の胎児・胎盤
循環の変化の検討
独立行政法人国立病院機構岡山医療センター 産婦人
科
○熊澤 一真、多田 克彦、塚原 紗耶、高丸 永子、
片山 修一、高田 雅代、中西 美恵
【目的】早期産での出生が予想される症例において、
新生児予後の改善のために行われる母体へのステロイ
ド投与は広く認められた方法であるが、投与による胎
児・胎盤循環に及ぼす影響に関しては十分に解明され
ていないのが現状である。今回、胎児臓器成熟目的で
母体に betamethasone を投与した後の胎児・胎盤循環
のドプラ計測値の変化についての検討を行ったので報
告する。
【対象・方法】対象は 2004 年 5 月~2007 年 3
月までに当科で管理を行った症例のうち早期産が予想
され母体に betamethasone を投与し、その後ドプラ計
測が可能であった 12 例(うち、betamethasone 投与前
にドプラ計測で臍帯動脈の途絶・逆流(以下、AREDV)を
認めた例:5 例、投与前に AREDV が認められなかった
例:7 例)を対象とした。胎児・胎盤循環の測定は超音
波パルスドプラ法にて、臍帯動脈、胎児中大脳動脈、
母体左右子宮動脈の血流速度波形を投与前ならびに投
与 3、6、12 時間後と以後は 12 時間おきに最長で 96 時
間後まで測定した。
【結果】母体への betamethasone 投
与の平均週数は 28.9 週(26 週 0 日~30 週 3 日)、早期
産に至った原因は子宮内胎児発育遅延:6 例、前期破
水:1 例、双胎 1 児発育停止:1 例、母体高血圧:1 例、双
胎間輸血症候群:1 例であった。ドプラ計測では、
AREDV(+)群の 5 例は全例 betamethasone 投与後、一時
的に AREDV が消失し、臍帯動脈の resistance index(RI)
平均値が、投与後 12 時間以降 48 時間までは連続して
1.0 未満で投与前に比べ低下傾向を示したが、AREDV(+)
群の 5 例中 3 例で AREDV が再度出現した。 AREDV(-)群
7 例では betamethasone 投与前後での臍帯動脈 RI 値に
変化は認めず、また胎児中大脳動脈、母体左右子宮動
脈でも両群間で共に変化は示さなかった。【考察】
betamethasone 投与前に臍帯動脈に AREDV を認める症
例は、全例、投与後に一時的に AREDV が消失したが、
AREDV を認めない症例ではドプラ計測による明らかな
変化は認められなかった。胎児・胎盤循環に異常を認
める症例への経胎盤 betamethasone 投与が、胎児・胎
盤循環に何らかの影響を及ぼしている可能性が示唆さ
れた。
周産期における硫酸マグネシウム製剤使
用時の血中濃度に関する検討
埼玉医科大学病院 産婦人科
○田丸
俊輔、板倉 敦夫、三木 明徳、羽生 真
由子、高橋 幸子、加村 和雄、難波 聡、西林 学、
大澤 洋之、石原 理
【目的】昨年より、切迫早産治療薬として硫酸マグネ
シウム製剤が認可されたが、以前より塩酸リトドリン
で効果が得られない切迫早産や、子癇やその予防に幅
広く投与されていた経緯がある。しかし、その治療有
効域濃度は比較的狭く、高マグネシウム血症による重
篤な合併症が懸念される。そこで硫酸マグネシウム投
与時の血中濃度に影響を与える因子について検討を行
った。【方法】当科において 2005 年 1 月~2007 年 2 月
に切迫早産もしくは PIH、子癇発作に対して硫酸マグネ
シウム製剤を使用し、乏尿例を除いた 72 例 394 検体を
対象とした。血清総 Mg 濃度と血中イオン化 Mg 濃度の
相関関係を 23 検体で検討した。また硫酸マグネシウム
製剤の投与量、投与中の血清総 Mg 濃度、及び投与開始
前の血清 BUN、Cre.、Alb 値を測定し、その相関関係に
ついて検討した。
【成績】血清総 Mg 濃度と血中イオン
化 Mg 濃度は概ね比例関係にあり、理論値と実測値は近
似した。血清総 Mg 濃度は PIH 症例に比べ、切迫早産症
例において投与量によらず高値になる傾向を認めた。
血清総 Mg 濃度が高値(≧7.0mg/dL)となった例では、
投与開始時の血清 Cre は、0.5mg/dL 以上であった。し
かし、投与開始時の血清 BUN、Alb と血清総 Mg 濃度の
間には明らかな相関は認めなかった。また、同一投与
量で2週間以上投与した例では、70%に血清 Mg 濃度上
昇が認められた。
【結論】血清総 Mg 濃度は、血中イオ
ン化 Mg 濃度より概ね推定可能であると考えられる。切
迫早産では長期投与例が多く、Mg 濃度上昇の一因とな
る可能性が示唆される。長期に同一投与量で投与した
場合、Mg 濃度上昇を来たす例が散見されたこともこれ
を支持する。また、Mg 濃度上昇例では、投与前の血清
Cre が高値であった。長期投与、血清 Cre 高値が Mg 血
中濃度上昇の危険が高く、定期的な血中濃度測定(簡
便なイオン化 Mg 濃度測定を含む)と Mg 中毒症状の有
無の評価が重要であると思われる。
P-221
P-222
377
母体に硫酸マグネシウムが投与された児
の周産期予後:Mittendorf の報告との比
較
東京女子医科大学 産婦人科 1、東京女子医科大学 母
子総合医療センター2
○小林 藍子 1)、松田 義雄 1,2)、三谷 穣 1,2)、秋澤
叔香 1)、牧野 康男 1,2)、楠田 聡 2)、仁志田 博司 2)、
太田 博明 1)
【目的】出生前に母体に硫酸マグネシウム(Mg)が投与
された症例から出生した新生児の脳性麻痺が減るとい
う報告がある一方で, その効果は認められずむしろ新
生児死亡が増加するとする報告もみられ, その評価は
慎重に行われる必要がある. そこで今回, 当院におい
て Mg が投与された症例の短期予後を, 未投与例と比較
検討した.【対象と方法】2001 年からの 5 年間で出生し
た 34 週未満の 269 例を, Mg 投与例と未投与例に分け,
染色体異常や奇形例は除外した. Mg は切迫早産(PTL)
と妊娠高血圧症候群(PIH)に対して行われた(M 群).
PTL では塩酸リトドリンの最大投与量でも子宮収縮が
抑制されないときもしくは副作用出現時に, PIH では
血圧 160/110mmHg 以上あるいは頭痛や眼華閃発などの
臨床症状が出現したときに, Mg 4g を 30 分で loading
後, 血中濃度を測定しながら 1-2g/hr で持続投与した.
未投与例は週数をマッチさせた(C 群). 児の短期予後
について, 周産期死亡, 脳内出血(IVH), 脳室周囲白質
軟化症(PVL)の有無を中心に検討した. 【成績】(1) M
群は 122 例, C 群は 147 例となった. M 群では RDS III
度以上は 24 例(14.8%), IVH III 度以上と PVL はいず
れも 7 例(4.1%)にみられたが, これらの頻度は C 群と
の間で差は見られなかった. (2) Mittendorf らの報告
(Ob Gyn 2000, J Pediatr 2002; 22-33 週における IVH
の頻度 16.7%, 700-1249g における児の死亡率 14.2%)
と比較すると,前者の頻度は同等(16.4%)であったが,
後者の頻度は明らかに少なかった(2.9%). (3)多胎を除
外し,周産期死亡, III 度以上の IVH, PVL のいずれかが
みられた場合を児の予後不良(n=27)とすると, 多変
量解析の結果, Mg 投与の有無ではなく(odds ratio
(OR)0.67, 95% confidence interval (CI) 0.22-2.01) ,
分娩時の妊娠週数が予後に関与する因子となった(OR
0.83, 95%CI 0.69-0.99, 1 週増えるごとにリスクが
0.83 減). 【結論】今回の検討では, Mg の悪影響は認
められず, 更なる検討が必要と思われた.
P-223
P-224
愛和スコアによる頸管縫縮術の適応の更
なる適正化を図る為の試み
医療法人社団 愛和会 産科・婦人科
○吉武 英憲、小山 祐之介
愛和病院
我々が 1998 年に発表した「愛和スコア(早産予防スコ
ア)」は、これを応用する事により、早産が半減し、
Preterm PROM が激減する事は昨年の日本周産期・新生
児医学会において発表した。この愛和スコアにより抽
出された、頸管無力症もしくは頸管機能不全症に対す
る有効な治療法として頸管縫宿術がある。しかしなが
ら、この頸管縫宿術は感染による早産、分娩時の頸管
裂傷という副作用を有する事は周知の通りである。そ
こで我々は早産率を上昇させる事なく、頸管縫宿術の
適応の更なる適正化をはかる為に、以下の様な試みを
後方視的に検討したので報告する。2002 年 1 月~2006
年 12 月における当院における総分娩は 2243 例である。
これらより双胎 22 例を除外し、高次施設への搬送 6(初
産-3,経産-3)例を加えた単胎の分娩数は 2227(初産
-1031,経産-1196)例であった。そのうち当院にて頸管
縫宿術を施行したものは 113(初産-26,経産-87)例であ
った。当院における頸管縫宿術の適応は、1)愛和スコ
ア 8 点以上、2)癌胎児性フィブロネクチン陰性、3)早
発子宮収縮があまり見られない事、4)夫婦共に同意が
得られたもののすべてを満たすものとした。しかしな
がら、子宮口の funneling について今回深さ 5mm 以下
と 5mm 以上とに分けて 5mm 以下の症例を抽出を試みた。
その結果 35(初産-3,経産-32)例がこれに該当してい
た。即ち、113 例中 35 例が頸管縫宿術の適応とならな
い可能性が示唆された。
378
染色体異常無く、後頸部に余剰皮膚のみを
呈した著明な NT 肥厚の1例
自治医科大学附属病院 1、芳賀赤十字病院 2、大分県立
病院 3
○大丸 貴子 1)、大口 昭英 1)、軸丸 三枝子 3)、高橋
佳代 1)、桑田 知之 1)、薄井 里英 1)、泉 章夫 1)、渡
辺 尚 2)、松原 茂樹 1)、鈴木 光明 1)
【緒言】NT(nuchal translucency)は胎児後頸部の液体
貯留部で、超音波断層法でエコーフリー域として妊娠
11~13 週頃より検出される。NT は正常上限値 2.5mm~
3.0mm とされ、それ以上では厚さに比例して胎児の染色
体異常、心奇形、その他の先天奇形が出現する頻度が
高くなる。今回、NT 肥厚を認めたが染色体異常を認め
ず、後頸部に余剰皮膚のみを呈した症例を経験したの
で報告する。【症例】34 歳、初産婦、自然妊娠。合併症
なし。妊娠 14 週時点で NT 肥厚 11mm を認め当院へ紹介
された。15 週時に羊水穿刺にて染色体検査を施行し正
常核型であったため、以降外来にて経過観察とした。
妊娠 20 週及び妊娠 28 週時の胎児スクリーニングでは、
頸部浮腫以外の胎児異常を認めなかった。妊娠 38 週 0
日で自然陣発し同日経膣分娩。児は 2372g、Apgar
score 1 分/5分値は各々8 点/9 点であった。出生時
には頸部浮腫を認めず、後頸部に余剰皮膚を認める程
度であった。外表奇形は認めなかった。現在児は 1 歳
で、当院小児科でフォローアップされているが、特に
問題なく経過している。
【考察】一般的に NT が 3.0mm
以上では約 29%に染色体異常が認められ、胎児染色体検
査の適応となる。本症例では、著明な NT 肥厚を認めた
が染色体異常及び重篤な先天奇形を合併せず、経過中
に NT は徐々に消失し、出生時には後頸部に余剰皮膚を
認めるのみであった。著明な NT 肥厚(及び cystic
hygroma)は予後不良の印象があるが、染色体検査で異
常を認めない症例では予後良好例が相当数存在してい
るとの報告がある。
それ故、
NT 肥厚症例あるいは cystic
hygroma 症例の両親へのインフォームドコンセントに
置いては、予後良好例が相当数存在することを含めた
情報もきちんと提供するなどの慎重な対応が重要であ
る。
当院総合周産期母子医療センターにおけ
る Near Term Infant の現状
昭和大学 医学部 小児科
○水野 克己、澤田 まどか、水谷 佳世、三浦 文
宏、板橋 家頭夫
P-225
P-226
背景:北米においては在胎 34~36 週で出生する near
term infant(NT 児)への対応が注目されている。NT
児は黄疸・低血糖などのリスクも正期産児に比して高
く、哺乳障害などの問題も起こりやすいため NICU に入
室することも多いが、わが国での関心は低い。今回我々
は過去 5 年間に当院周産期母子センターで出生した NT
児の分娩様式や NICU への入院状況などを検討したので
報告する。方法:平成 14 年1月から平成 18 年 12 月ま
での 5 年間に当院総合周産期母子医療センターで分娩
となった near term infant について分娩台帳をもとに
後方視的に検討した。結果:平成 14-15-16-17-18
年の順に表す。1)早産児に占める NT 児の割合は、
45-56-58-63-57%であり、おおよそ 6 割を占めていた。
2 ) NICU の 総 入 院 数 に 占 め る NT 児 の 割 合 は 、
12.5-16.1-21.4-14.9-30.2%と年々高くなっていた。
3)産科病棟新生児室でケアを受けた NT 児の実数は、
20-32-19-30-31 人とほぼ一定であった。4)総分娩数に
対する Near term の割合は 4.8-6.5-7.1-6.6-8.9%と増
加傾向にあった。5)帝王切開による分娩(実数)は
33-31-31-36-61 例と増加しているが、緊急帝王切開は
12-21-23-17-19 と大きな変化はなく予定帝王切開が増
えていた。帝王切開の理由を平成 14 年と 18 年で比較
すると、FGR が 7 例から 21 例、MD 双胎が 8 例から 14
例と増加していた。考察:現時点で当院では NT 児の早
産児に占める割合は 5 年間で明らかな増加は示してい
ないが、NICU 入院数に占める割合は着実に増加してい
る。その理由の一つには、双胎・子宮内発育遅延・妊
娠高血圧症候群などのハイリスク妊娠が総合周産期セ
ンターに集まり、その管理の一環として妊娠 34-36 週
での妊娠継続の中止が決断され、予定帝王切開で分娩
に至っていると考えられる。我々の施設のような平均
的な規模の総合周産期母子医療センターでは NICU 入院
に占める NT 児の増加によって、より重症の児の受け入
れが困難となる可能性が高く、今後の対策を考慮しな
ければならないと考えられた。
379
初期スクリーニングエコーとしての
Nuchal translucency の意義についての検
討
新潟大学 医学部 産科婦人科学教室
○土谷 美和、菊池 朗、高橋 泰洋、竹山 智、笹
原 淳、富田 雅俊、高桑 好一
【目的】Nuchal translucency(NT)は妊娠初期に認め
られる後頚部浮腫であり、染色体異常や胎児異常との
関連が報告されている。NT の報告は海外のデーターが
多く、日本人のデーターが少ないのが現状である。そ
こで当科における NT3mm 以上の症例の転帰を後方視的
に検討した。【方法】2003 年 12 月から 2006 年 10 月の
期間に NT3mm 以上を示し当科で管理した 47 例を対象と
した。【成績】47 例の内訳は 3mm 以上 4mm 未満 16 例、
4mm 以上 5mm 未満 5 例、5mm 以上 6mm 未満 9 例、6mm 以
上 17 例であり、染色体検査を 25 例(53%)に施行した。
染色体異常例は出生前 6 例、出生後 3 例、
合計 9 例
(36%)
に認め、その内訳は 21 トリソミー4 例、18 トリソミー
3 例、45X 2 例であった。染色体検査施行例のうち 3mm
以上 4mm 未満(10 例)はすべて正常核型であった。4mm
以上 5mm 未満では 3 例中 2 例、5mm 以上 6mm 未満では 6
例中 5 例、6mm 以上では 3 例中 1 例に染色体異常を認め
た。羊水検査が未施行の症例は 27 例であり、その中に
多発奇形 4 例、胎児水腫 3 例、子宮内胎児死亡(IUFD)4
例を認めた。これらの症例はすべて NT4mm 以上であっ
た。NT 以外に超音波所見で異常を認めなかった 16 例中
8 例が人工妊娠中絶を選択した。
【結論】NT4mm 以上の
症例では染色体異常を合併するだけでなく胎児異常や
IUFD を来す例が多かった。
P-227
P-228
妊娠初期エコーで頸部異常を認め染色体
検査の後妊娠継続し生児を得た2症例
市立豊中病院 産婦人科
○和田 朋、大西
洋子、松本 有里、塩路 光徳、
徳平 厚
(緒言)胎児頸部透過像(Nuchal Translucency:NT)
は妊娠三半期前期に胎児の後頚部の皮下に見られる領
域で、肥厚や増大を認めた場合胎児の染色体異常の可
能性を示唆することが知られている。NT の肥厚や増大
を認めた場合、説明に苦慮することが多く、重大に受
け止めた患者が termination を希望する場面に遭遇す
ることもある。今回我々は、妊娠初期に NT の重度な増
大を認めたが、染色体検査の後の十分なカウンセリン
グと管理のもと、妊娠を継続し、生児を得た 2 症例を
経験したので報告する。
(症例 1)35 歳、3 回経妊 1 回
経産。
第 1 子正常分娩。
第 2 子妊娠時、
妊娠初期に Cystic
hygroma を疑う所見を認め、そのため妊娠 14 週に人工
死産を選択された。今回第 3 子妊娠にて当院初診。妊
娠 11 週の健診時に深度 10mm に達する強度の NT を認め
た。ご本人ご家族は termination したいとの希望であ
ったが、羊水検査を勧め、セカンドオピニオンも含め
大学病院へ紹介した。結果は正常核型であったが、そ
れが必ずしも正常な児の出生を意味するものではない
ことも十分に説明し、ご本人の意思で妊娠継続を決定
した。NT の肥厚は妊娠経過とともに自然消失したが、
その後もエコーによる詳細な精査の継続に努めた。妊
娠 40 週 4 日に 3976gの男児をアプガースコア 8-9 で
経腟分娩した。外表奇形はなく、その後の経過にも異
常を認めない。
(症例 2)30 歳、初産婦。自然妊娠の 1
絨毛膜性双胎妊娠にて当院に紹介された。妊娠 11 週に
それぞれ 3.7mm、6.4mm の NT の肥厚を認め、妊娠 15 週
に羊水検査を施行された。結果、
(47,XXX)であったが、
この核型の児の予後を説明したところ妊娠継続を希望
された。妊娠 28 週頃より1児子宮内胎児発育遅延
(IUGR)を認めたため入院管理となったが、その後特
別な異常を示唆する所見はなく、妊娠 34 週 4 日に1児
IUGR のため、帝王切開を施行した。児は 2312gと 1438
gのそれぞれ女児で、現在生後 5 ヶ月で小児科フォロ
ー中であるが、特に神経学的異常を認めていない。
(考
察及び結論)妊娠初期のエコー所見で頸部異常を認め
る場合には、十分なカウンセリングが重要と思われた。
また、妊娠継続する場合、厳重な管理と頻回なカウン
セリングを要すると思われた。
380
3D 超音波 volume data を用いた nuchal
translucency 計測の検討
大分大学 医学部 産婦人科
○後藤 清美、吉松 淳、福田 淳一郎、西田 正和、
吉良 尚子、石井 照和
【目的】胎児の nuchal translucency(NT)の計測は胎児
染色体異常のスクリーニングに有用であることが示さ
れている。NT の正確な計測はその有用性を高めるため
には必須であるが、胎児の姿勢や超音波の射入方向な
どの諸条件によって不正確になることが知られてい
る。近年普及した 3D 超音波では、胎児の外形を描出す
るために、断面イメージの蓄積データである volume
data が記録され画像として再構築されている。この
volume data は 0.46mm(Accuvix, Medison, Korea)刻
みの並行する断面像として記録される。今回、この記
録された 3D volume data を用いて NT の計測を行い、
2D 超音波での計測値と比較し、NT 計測における 3D 超
音波の有用性につき検討した。 【方法】当科を受診し
ている妊娠 10 週から 14 週の妊婦 37 症例を対象とした。
そのうち 6 例に羊水検査を行なった。全症例に経腹的
に 2D 超音波で胎児の mid-sagittal plane を描出し、
CRL、NT を計測した。同時に 3D 超音波を施行し、3D 超
音波計測で得られた volume data を表示し、最低限の
rotation を行い、最も正確に mid-sagittal plane を描
出していると思われる画面を抽出し、CRL、NT を計測し
た。次に各連続断面の胎児陰影の面積を計測し胎児体
積を算出した。同様の方法で NT の体積も算出した。2D、
3D 超音波におけるそれぞれの計測値、計算値につき検
討を行なった。
【成績】2D と 3D では CRL、NT を測定
する mid-sagittal plane を同じように描出すること
ができ、両者の測定値の誤差は軽微であったが、NT の
計測値では CRL に比べてよりばらつきが大きくなる傾
向が見られた。NT の計測値は 0.5mm 平行にずれるこ
とで最大値の平均 68.6% となり、軽度のずれが結果に
大きな影響を与える可能性が示唆された。また、NT の
体積はばらつきが大きく、NT 値を正確に反映しないこ
とが示された。【結論】今回の症例では多くが 3mm 未
満の症例で、全例正常核型を持った胎児であったこと
から染色体異常のマーカーとしての 3D による NT の
測定の有用性は判断できなかった。正確な NT の測定
ツールとして一定の評価を得るためには更なる検討を
要することが示唆された。
当院における羊水染色体検査 1568 例の検
討
広島大学病院 産婦人科
○佐村
修、兵頭 麻希、谷川 美穂、工藤 美樹
P-229
P-230
【目的】羊水染色体検査は侵襲的な出生前診断として
最も多く施行されている。当院での羊水染色体検査1
568例についての検討を行った。
【方法】1990年
から2006年までの過去17年間において当院で施
行した羊水染色体検査について年間検査数、適応、羊
水染色体検査結果、および羊水検査に伴う合併症に関
して、後方視的に検討を行った。
【成績】当院では19
99年までは産婦人科外来での遺伝を専門とする医師
の説明後に羊水検査を行っていたが、2000年から
は産婦人科の遺伝外来で遺伝カウンセリングを行った
後に施行していた。2003年の遺伝子診療部開設以
後はすべての症例で遺伝子診療部での遺伝カウンセリ
ングを受けた後に、基本的には妊娠15週から17週
の間に羊水検査を受けるシステムになっている。年間
の羊水検査数は1990年より徐々に増加し、200
0年以降は年間約110例前後で推移していた。羊水
検査の適応において最も多かったものは、高齢妊娠(3
5歳以上)によるものであり 1176 例(75%)を占めた。
胎児 Nuchal translucency(NT)の適応によるものに
よるものが 112 例(7.1%)
、染色体異常児分娩の既往
が 100 例(6.4%)、染色体異常の保因者が 32 例(2%)
、
胎児 Cystic hygroma が 19 例(1.2%)、血清マーカー
検査陽性のものが 16 例
(1%)
、
その他が 111 例(7.1%)
であった。最近5年間は胎児NTによる適応が約2
0%を占めていた。羊水検査によると思われる合併症
については、羊水検査後1ヶ月以内に流産となったの
は4例(0.26%)であった。母体に関しては羊水検査
による重篤な合併症は認めなかった。染色体異常を認
めた(正常変異をのぞく)頻度は、高齢妊娠が適応の
場合は 3.3%(39 例)
、胎児NT(3mm 以上)の適応で
は 13.4%(15 例)、染色体異常児分娩の既往は 3%(3
例)
、染色体異常の保因者は 9.4%(3 例)、胎児 Cystic
hygroma は 73.7%(14 例)であった。羊水染色体検査
でモザイクの結果を示したものが全体の中で 0.83%(13
例)であった。
【結論】当院における羊水検査では、母
体に関する重篤な合併症は認めなかったが、検査後1
ヶ月以内の流産を 0.26%に認めた。また、羊水染色体
検査の結果がモザイクであった症例もあり、結果の解
釈が難しい場合もあることも羊水検査前の遺伝カウン
セリングで十分に伝えておく必要があると考えられ
た。
381
先天性心疾患胎児の超音波ドップラー所
見と発育について
新潟大学 医学部 産科婦人科
○菊池 朗、土谷 美和、高橋 泰洋、笹原 淳、竹
山 智、富田 雅俊、高桑 好一
【目的】動脈血と静脈血の mixing がおこる先天心疾患
の胎児では頭部への血流の酸素化が低下するため脳血
管抵抗の低下、頭部の発育低下が起こる可能性が示唆
されている。今回我々は先天性心疾患胎児における頭
部及び全身の発育と血流計測に関して検討した。【方
法】当院で過去 3 年間に妊娠 27 週~35 週の間に超音波
検査を施行した染色体異常のない先天性心疾患 18 例
(Ebstein3 例, 単心室2例、ファロー4徴候2例、左
心低形成2例、右心低形成 1 例、大血管転移1例、両
大血管右室起始1例、肺動脈狭窄1例、三尖弁閉鎖 1
例、大動脈弓離断 1 例、心臓腫瘍 1 例、心室中隔欠損 1
例、心内膜床欠損 1 例)を対象とした。同時期に超音
波 検 査 を 施 行 し た 発 育 正 常 ( -1.5SD < 推 定 体 重 <
+1.5SD)かつ形態異常を認めない 255 例を対照群とし
て中大脳動脈 RI、臍帯動脈 RI、大横径、推定体重を比
較検討した。妊娠週数を補正するために大横径と推定
体重は妊娠週数の multiples of standard deviation
で比較した。また中大脳動脈 RI と臍帯動脈 RI はそれ
ぞれ妊娠週数の 10 パーセンタイル以下、90 パータイル
以上を異常とした。基準値は日本超音波学会の「超音
波胎児計測の標準化と日本人の基準値」を使用した。
【成績】大横径及び推定体重は先天性心疾患群と対照
群で有意差は認めなかった。中大脳動脈 RI 異常は対照
群 12%に比較して先天性心疾患群では 33%と有意に多
かった(p<0.05)。臍帯動脈 RI 異常は両群間で有意差
を認めなかった。先天性心疾患群を心室内での mixing
量に注目して心室中隔欠損合併(-)群 5 例、心室中隔欠
損合併(+)群 7 例、両大血管がひとつの心室から起始す
る(機能的単心室)群 6 例に分けて検討すると MCARI
異常を示す症例はそれぞれ 0%、29%、67%であり、心
室内での mixing の多い心疾患ほど MCARI 異常を示す傾
向が認められた。しかし各群の大横径はそれぞれ
-0.38SD, 0.30SD, 0.68SD であり,心室内 mixing が多い
群で頭部の発育が不良という結果は得られなかった。
【結論】胎児の頭部へ血流が酸素化不良の場合には代
償的に脳血管抵抗が低下する可能性が示唆されたが、
頭部の発育低下は認められなかった。
胎児中大脳動脈の最高収縮期血流速度計
測による胎児貧血の推定
慶應大学 医学部 産婦人科
○浅井 哲、田中 守、樋口 隆幸、峰岸 一宏、石
本 人士、吉村 泰典
【目的】胎児貧血の推定法として羊水のΔOD450
が使用されてきたが、羊水穿刺は侵襲的であり破水、
感染による副作用のリスクが避けられない。2000 年の
Mari らの報告で胎児中大脳動脈における最高収縮期血
流速度(以下 MCA-PSV)計測による非侵襲的な胎児貧血
推定が報告され、その有用性が認められてきている。
今回我々は正常胎児の MCA-PSV を計測し、Mari らの値
と比較することで MCA-PSV の正常値の人種間格差がな
いかどうか、さらに血液型不適合妊娠の胎児輸血症例
での MCA-PSV の値と胎児採血による胎児 Hb 値について
検討した。
【方法】正常単胎妊娠(妊娠 18 週から 40 週)
68 例および血液型不適合妊娠(D--)の患者を対象とし
た。測定機器には持田シーメンスメディカル社の
Acuson Antares を使用した。児頭横断面で Willis の動
脈輪を描出し、中大脳動脈起始部を測定部位とし、動
脈とビーム方向が可能な限り 0 度になるように計測し、
角度補正は行わなかった。血液型不適合妊娠症例では
妊娠 28 週・30 週・32 週に胎児採血を施行し、胎児 Hb
値を測定した。
【成績】正常単胎妊婦の MCA-PSV の中央
値(median)は 18 週~22 週:26.1cm/s 23 週~31 週:
41.5cm/s 32 週~38 週:54.6cm/s であった。これらの
値は Mari らの報告による 20 週:25.5cm/s 26~28 週:
33.6 ~36.9cm/s 34~36 週:48.7~53.5cm/s と一致
していた。また、血液型不適合妊娠症例では 28 週に
66.3cm/s(1.91MoM) に 臍 帯 穿 刺 を 施 行 し た と こ ろ
Hb9.8mg/dl と貧血を認め、その後、2 度胎児採血を施
行した。30 週に 72.4cm/s(2.09MoM)で Hb9.6mg/dl、32
週に MCA-PSV105.1cm/s(2.16MoM)で Hb6.5mg/dl であ
り、MCA-PSV 測定が貧血推定に有用であった。
【結論】
本邦における正常単胎妊娠の胎児 MCA-PSV はこれまで
報告された欧米の測定値に概ね合致するものであっ
た。また、胎児貧血症例においても MCA-PSV を用いる
ことで貧血を推定することができた。今後、本邦にお
いても胎児中大脳動脈の最高収縮期血流速度計測によ
る胎児貧血の推定が可能であると考えた。
P-231
P-232
382
出生前診断できた修正大血管転換
( isolated corrected TGA)の 1 例
徳島大学病院 周産母子センター
○加地
剛、中山 聡一朗、三谷 龍史、中川 竜
二、前田 和寿、西條 隆彦、安井 敏之、苛原 稔
修正大血管転換の出生前診断の報告は少なく、特に不
整脈や心内合併奇形を伴わない修正大血管転換
( isolated corrected TGA)の報告は非常に稀である。
今回我々は、通常の 3 vessels view および流出路の
描出が困難であることが契機となり出生前診断された
isolated corrected TGA の一例を経験したので報告す
る。症例は 32 歳、初妊婦。自然妊娠し近医にて妊婦健
診を受けていたが、25 週 3 日、健診時の超音波検査に
て心臓が 4chamber view では正常様であったが、3
vessels view および流出路の描出が困難であったため
25 週 5 日当科に紹介となった。胎児心臓超音波検査
(2D)にて心房は正位、心室は 4chamber view にて心室
の肉柱構造および房室弁の中隔付着部位から L loop
(右室が左)と診断した。大血管関係は大動脈が左前
方で, 右後の肺動脈とは交叉せずに走行(L parallel)
し て お り 区 分 診 断 は [S,L,LT] で あ っ た 。 ま た
Spatio-Temporal
Image
Correlation
(STIC)
tomographic ultrasound image(TUI)を用いることによ
り心室-大血管関係の異常を確認した。不整脈はなく、
心室中隔欠損や肺動脈狭窄などの合併奇形は認めず
isolated corrected TGA と診断した。心外奇形も認め
なかった。妊娠 41 週 0 日経腟分娩に至った。児は
3064g(-0.12SD)の女児、 Apgar8/9 であった。心臓超音
波検査にて isolated corrected TGA が確認された。児
は現在 10 ヵ月であるが、
三尖弁逆流を認めている。(ま
とめ)3 vessels view および流出路スクリーニングで
の 異 常 を 契 機 と し て 出 生 前 診 断 さ れ た isolated
corrected TGA の症例を経験した。3 vessels view お
よび流出路の描出がスクリーニングに非常に有用であ
ったが、4chamber view での心室位の確認の重要性を再
認識した。また STIC(TUI)は心室-大血管関係の理解を
容易にし診断に有用であった。
妊娠 25 週で発見し妊娠管理した胎児心臓
腫瘍合併妊娠の一例
日本大学 医学部 産婦人科
○久野
宗一郎、佐々木 重胤、宮川 康司、正岡
直樹、山本 樹生
【はじめに】妊娠 25 週から管理が可能だった胎児心臓
腫瘍で、出生後に結節性硬化症に合併した横紋筋腫と
診断した一例を経験したので報告する。
【症例】19 歳。
0 回経妊 0 回経産。家族歴既往歴に特記すべきことな
し。妊娠 25 週に他院で胎児心臓腫瘍を指摘され当院へ
紹介受診となる。胎児心エコーで右室体部から流出部
にかけての単発の心臓腫瘍であった。経過中、徐々に
増大したが流出路や流入路の障害、心機能低下、心不
全徴候を認めず、エコー上胎児に他の奇形などは認め
なかったため、妊娠 37 週まで妊娠管理をして選択的帝
王切開の方針とした。妊娠 37 週 4 日 帝王切開にて分
娩。児は男児で 3387g、アプガースコア 1 分後 8 点。母
体は術後経過順調で 7 日目に退院した。児は出生直後
から新生児科管理となったが、全身状態は安定してい
た。日齢 7 から期外収縮を認めるようになったが、腫
瘍は縮小傾向を認め流出路流入路狭窄のリスクが少な
いことを確認し、日齢 32 に退院した。
【まとめ】胎児
心臓腫瘍では横紋筋腫がもっとも多く、また横紋筋腫
は出生後縮小する傾向があり外科的治療を必要としな
い場合がある。よって、胎児心臓腫瘍を見つけた場合、
腫瘍の種類を診断し、妊娠中は胎児心機能を評価し、
分娩の時期などを小児科と協力して検討する必要があ
ると考えた。
P-233
P-234
383
2006 年 1 月より 2007 年 3 月までに出生前
診断した胎児心疾患に関する検討
愛媛県立中央病院 産婦人科
○越智 博、上松 和彦、立石 洋子、小塚 良哲、
矢野 真理、近藤 裕司、野田 清史
先天性心疾患は頻度も高く、動脈管依存性心疾患など
は出生後早期から重症化することも多い。その診断率
は水頭症や上部消化管閉鎖などに比較すると低率であ
るとされていたが、近年その診断率が向上している。
当院では以下の基本的断面を描出し、胎児期に心疾患
のスクリーニングを行って診断率の向上につとめてい
る。すなわち、胃(内臓)の位置・心臓の位置、心拡
大、心室中隔・心房中隔、四腔断面、流出路、心室と
大血管のつながり、大動脈弓・動脈管弓、肺静脈につ
いて検討している。今回、2006年1月から200
7年3月までに当院で出生前に超音波診断された先天
性心疾患14例について報告する。出生前診断された
先天性心疾患は、心室中隔欠損、心内膜床欠損、大動
脈狭窄、肺動脈狭窄、肺動脈閉鎖、総動脈管、エプシ
ュタイン奇形、三尖弁低形成、三尖弁狭窄、ファロー
四徴症などであった。切迫早産などの紹介例でも胎児
心疾患をともなったものが多くあった。胎児心疾患の
診断可能な時期に入った紹介症例のうち10例中7例
は紹介前に全く異常が描出されていなかった。また、
今回の検討では三尖弁異常が3例含まれていたが、2
例は胎児水腫、1例は16週ですでに著明な心拡大を
ともなっていた。したがって胎児期に診断される胎児
三尖弁異常は重篤であると考えられた。先天性心疾患
は基本断面の描出によって胎児期に多くが診断可能で
ある。三尖弁異常は胎児期から、動脈管依存性心疾患
は出生後早期から重症化することも多いことから、先
天性心疾患の出生前診断の意義は大きいと考えられ
た。
P-235
P-236
MRI が有用であった妊娠、産褥子癇の 3 例
岡山赤十字病院 産婦人科
○清水 美幸、菊池 由加子、江尻
孝平
【はじめに】子癇発作の原因として,血管攣縮による
一過性脳虚血,浮腫が推定されている.その診断には
MRI が 有 用 で あ り , reversible posterior
leukoencephalopathy(RPLS)の像を示すことが多いと
報告されている.今回我々は妊娠,産褥子癇 3 例を経
験し,発症から回復まで MRI で検討する機会を得たの
で報告する.【症例 1】31 歳初産婦.妊娠 33 週で下腿
浮腫,蛋白尿が出現,その後嘔吐,頭痛,強直性痙攣
を認め,緊急帝王切開術施行.術後 2 日目に再び痙攣
あり,MRI では,T2 強調画像(T2WI)
,FLAIR 画像,拡
散強調画像(DWI)で後頭葉,右前頭葉に高信号域を認
め,脳浮腫が疑われた.術後 6 日目の MRI では高信号
域の拡大を認めたが,9 日目では高信号域は縮小.同時
に臨床症状も改善.術後 44 日目には T2WI,FLAIR 画像
で同部位に極小範囲の病変を残すのみとなり,臨床的
異常もほぼ消失した. 【症例 2】27 歳初産婦.前医に
て妊娠 38 週時より蛋白尿,下腿浮腫が出現.妊娠 40
週にて自然陣痛発来し正常経腟分娩.分娩後頭痛,嘔
気,血圧上昇,その後強直性痙攣を認め当院に救急搬
送された.産後 1 日目に痙攣出現.MRI では T2WI,FLAIR
画像で大脳基底核を中心に多発する高信号域,DWI では
同部位に淡い高信号を認められ浮腫性病変が考えられ
た.産後 8 日目の MRI では,大脳基底核病変は一部残
存を認めるものほぼ消失し,臨床症状も寛解した.
【症
例 3】23 歳初産婦未妊健.自宅にて強直性痙攣あり当
院に救急搬送.来院時意識レベル低下,血圧上昇,全
身浮腫を認め,経腹超音波検査にて妊娠 28 週相当の胎
児を認めた.MRI では T2WI,FLAIR 画像で左基底核,両
後頭葉を中心とする高信号域,DWI は左頭頂葉の一部に
高信号域を認め浮腫性病変が考えられた.発作後 3 日
目に胎内環境の悪化を認めたため緊急帝王切開術施
行.術後症状は改善し,術後 7 日目の MRI では,T2WI,
FLAIR 画像で左頭頂葉に高信号を残すのみとなり,DWI
でも高信号域は消失した. 【まとめ】本症例では,MRI
で子癇の特徴的画像所見といわれている後頭葉,大脳
基底核を中心に異常信号が見られ,子癇発作による血
管性浮腫と考えすみやかに治療をすすめ臨床症状の寛
解に至った.また RPLS は臨床症状と前後して画像異常
も消失することから,今後はそれらの特徴を生かして,
発作後の管理の指標などにも有効に利用できると考え
られる.
384
妊娠中期の子宮動脈血流速度波形の用い
た妊娠高血圧腎症発症予知
自治医科大学 医学部 産婦人科
○高橋 佳代、大口 昭英、大丸 貴子、軸丸 三枝
子、薄井 里英、桑田 知之、泉 章夫、渡辺 尚、
松原 茂樹、鈴木 光明
【緒言】 妊娠中期の子宮動脈血流速度波形指標であ
る resistance index (RI)、pulsatility index (PI)
および notch depth index (NDI)は、各々妊娠高血圧腎
症の発症予知に有用だと報告されている。しかしこれ
ら 3 指標の優劣比較検討の報告は無い。当院周産期セ
ンターの過去 3 年間の妊娠コホートを対象に、この 3
指標の妊娠高血圧腎症発症予知能を比較検討した。
【方法】 妊娠 16-0 週から 23-6 週に、子宮動脈血流
速度波形を 1~2 回計測した。子宮動脈血流速度波形の
RI、PI、NDI の 3 つがすべて計測でき、かつ、妊娠転帰
の判明している 577 症例を研究対象とした。妊娠経過
が正常であった症例(妊娠高血圧腎症無し、かつ、妊
娠高血圧無し)での 3 指標を用いて、妊娠週数別の RI、
PI および NDI の 90%値を決定した。各週数の RI およ
び PI の分布は、各々正規分布および対数正規分布に最
も 近 か っ た た め 、 在 胎 週 数 と RI の 平 均 値 お よ び
log10PI の平均値との関連を表す近似曲線を作成した。
RI および log10PI の標準偏差(SD)の各在胎週数におけ
る偏りを認めなかったため、各在胎週数における RI お
よび log10PI の SD は一定と仮定し、平均値+1.28×SD
を各週数における 90th 値とした。NDI は連続分布しな
いため、各在胎週数における 90th 値を利用して、これ
らの値を最もよく近似する曲線を作成した。そして、
RI、PI および NDI の妊娠高血圧腎症発症予知能(感度、
特異度および陽性的中率)を求め、比較検討した。【成
績】RI の 90th 値は、0.899-0.014W+1.28×0.086,PI
の 90th は 10 (0.421―0.020W+1.28×0.120),NDI の
90th 値は 0.477-0.016W の一次曲線 (x は在胎週数)で
近似できた.これらの曲線より,各週数でのカットオ
フ値以上の値を陽性とし、PE 発症の有無によるそれぞ
れのインデックスの予知能を評価した。PE 発症におけ
る RI の sensitivity,specificity,PPV は各々58%,
84%,11%であり,PI は各々47%,84%,9%,NDI は各々
58%,84%,11%であった.【結論】妊娠高血圧腎症の
発症予知能は RI、PI および NDI でほぼ同程度であった
が、RI 及び NDI は、PI よりも少しだけ感度が優れてい
た。
産後に血栓性微小血管障害症(TMA)とな
った重症妊娠高血圧症候群の一例
昭和大学 産婦人科
○宮上 哲、松岡 隆、関沢 明彦、岡井 崇
P-237
P-238
血栓性微小血管障害症(TMA)とは細小動脈以下の血管
内皮障害により血小板を主とする血栓が形成し、種々
の臓器障害をひきおこす病態である。血栓性血小板減
少性紫斑病(TTP)や溶血性尿毒症症候群(HUS)などがこ
れに含まれ、HELLP 症候群も病態的に類縁疾患と言え
る。今回、重症妊娠高血圧症候群に分娩後 HELLP 症候
群を発症し、急性腎不全に引き続き血小板減少症を再
燃したためステロイド、交換血漿を行った症例を経験
したので報告する。【症例】35 才 1G1P 既往歴・家族
歴:特記すること無し。妊娠 26 週 1 日、血圧 190/110
mmHg 妊娠高血圧症候群(H-Eo)のため、当院へ母体搬
送となった。アプレゾリン内服、マグネゾール点滴に
て血圧コントロールしたが、尿蛋白が徐々に増加し
(8.3g/日)、腎機能悪化および視野障害が出現したた
め、妊娠 29 週 3 日、帝王切開術を施行した。963g の女
児、アプガールスコア1分値3点、5分値7点、新生
児仮死、極小未熟児の診断で NICU 管理となった。術後
血圧のコントロールは良好であったが、術後2日目、
創部に 10cm 大の血腫ができたため血腫除去術を施行し
た。術後に BP180/110mmHg、乏尿、肉眼的血尿(+)とな
り、検査値は血小板 8.4 万/μl、GOT 130IU/L、GPT
103IU/l であり HELLP 症候群、それによる急性腎不全
と診断し、抗凝固療法・人工透析・血漿交換を行った。
術後5日目、血小板は 15 万/μl まで回復したが、その
後再度減少し、術後8日目全身に紫斑が出現し血小板
は 5.4 万/μl に減少した。分娩により症状軽快傾向を
認めず、血小板減少の再燃、持続する腎障害の所見か
ら TMA と診断し抗凝固療法に加えて抗炎症治療(ステ
ロイド、アスピリン)を開始したところ、徐々に回復
し術後 14 日目血小板は 12 万/μl となった。術後 19
日目に人工透析離脱し、降圧剤内服を併用し術後 39 日
目、軽快退院となった。
【まとめ】HELLP 症候群軽快後、
血小板減少が再燃し治療に苦慮した症例を経験した。
妊娠高血圧症候群及び HELLP 症候群の病態は完全には
解明されておらず、本疾患はように分娩だけでは軽快
せず、さらに重症化する症例(TAM 類縁疾患)が存在す
ることがわかった。
385
抗リン脂質抗体陽性にて抗凝固療法を施
行したが妊娠高血圧症候群を発症した 2
症例
日本医科大学 産婦人科
○稲川 智子、桑原 慶充、里見 操緒、石川 源、
磯崎 太一、澤 倫太郎、明楽 重夫、竹下 俊行
[はじめに]抗リン脂質抗体症候群(以降 APS)は習慣流
産の 15~17%をしめ、生殖年齢女性の約 5%に何らか
の抗リン脂質抗体が認められる。よって現在対策とし
て、APS 合併妊娠に対し、アスピリン療法やヘパリン療
法を併用することで妊娠経過を順調に過ごし、分娩に
至る例が増えてきている。しかし、今回我々は、APS
合併妊娠に対し、アスピリン療法、ヘパリン療法を併
用していたのにも拘らず妊娠高血圧症候群を発症し、
緊急帝王切開に至った症例を経験したので報告する。
[症例]症例 1.41 歳、5 回経妊、1 回経産。既往歴は、
高血圧だが、特に内服はしていなかった。妊娠歴は 31
歳時、妊娠 40 週で妊娠高血圧症候群、羊水過少、子宮
内胎児発育遅延のため、緊急帝王切開となる。その後、
34 歳時人工流産、35、36、40 歳時、いずれも 8 週で流
産となっている。抗カルジオリピン抗体 IgG 陽性のた
め、今回は妊娠前より低用量アスピリン 81mg/day を開
始し、妊娠が確認できた段階で、ヘパリン在宅自己注
射療法(ヘパリンカルシウム 5000×2 単位)を開始し
た。その後、血圧は落ち着いていたが、妊娠 32 週より
140/81mmHg と上昇し始め、妊娠 34 週 5 日の時点で
152/98mmHg となったため、翌日入院。しかし、入院時
の血圧が 220/120mmHg と上昇したため、緊急帝王切開
とした。児は 2632g で、Ap8/9、臍帯動脈 PH は 7.241
であった。出血量は 1100g で、coulvelaire uterus を
呈していた。症例 2 は 31 歳、1 回経妊 1 回経産。既往
歴は特にないが、妊娠歴では 30 歳時、妊娠 24 週で子
宮内胎児死亡となっている。今回は、自然妊娠で
proteinS 活性の低下、抗 PS 抗体 IgM 陽性のため、低用
量アスピリン療法、ヘパリン療法を併用し、妊娠経過
をみていたころ、妊娠 34 週より血圧が 138/86mmHg と
上昇し始め、妊娠 36 週の妊健では 142/83mmHg と上昇
し、尿蛋白も 2+認めていた。NST の検査中に、急な右
下腹部痛を認め、同部位に胎盤の肥厚を認めた。また、
2~3 分毎の子宮収縮も認めた為、常位胎盤早期剥離の
診断にて緊急帝王切開となった。児は 2324gで Ap8/9
であった。出血量は 1200g で、胎盤の 1/5 程度に血腫
を認めた。[考察]今回、アスピリン療法、ヘパリン療
法を施行していたにもかかわらず、妊娠高血圧症候群
を発症した症例を経験した。抗凝固療法を施行してい
ても、十分な妊娠管理が必要であることが示唆される。
P-239
P-240
会長賞
Th1 型 PE と Th2 型 PE では臨床経過が異な
る
富山大学大学院 医学薬学研究部 産科婦人科
○塩崎 有宏、酒井 正利、田畑 実香、立松 美樹
子、佐々木 泰、岡田 俊則、斎藤 滋
【目的】T 細胞の Th1/Th2 バランスは正常妊婦では Th2
優位であるのに対し、妊娠高血圧腎症(PE)では Th1
優位に傾いていることが知られている.しかしながら、
妊娠の終了とともに劇的に改善する症例とそうでない
症例が混在していることが指摘されている.今回 PE 患
者における Th1/Th2 バランスと臨床経過につき検討を
行なった.
【方法】患者同意のもと採血しえた正常血圧
妊婦(正常群)44 例(24~42 週)
、PE 群 45 例を対象と
し た . 対 象 の 末 梢 血 か ら 単 核 球 を 分 離 し 、 flow
cytometry にて単核球中の Th1 細胞率、Th2 細胞率なら
びに Th1/Th2 比を測定した.さらに正常群の Th1/Th2
比の上位 1/4(7.1)をカットオフ値とし、7.1 以上の
PE 例を Th1/Th2 高値(Th1 型)PE 群(27 例)、7.1 未満
を Th1/Th2 低値(Th2 型)PE 群(18 例)に分け、臨床
症状ならびに検査結果を後方視的に検討した.
【成績】
1.Th1 型 PE 群と Th2 型 PE 群で初産率、BMI、妊娠中
体重増加、血圧、肝機能異常、血小板減少、出生時体
重、分娩時週数には有意な差を認めなかった.2.Th1
型 PE 群では IUGR 率が Th2 型 PE 群に比べ有意に高かっ
た(P=0.026)
.また Th1 型 PE 群では早発型が 63.0%と
Th2 型 PE 群(38.8%)に比し高率であった.3.Th2 型
PE 群では蛋白尿 3+あるいは 2g/日以上の率が 61.1%と
Th1 型 PE 群(29.6%)に比し高率であり(P=0.0551)
、1
ヶ月健診での尿蛋白 2+以上の率も Th2 型 PE 群で 22.2%
と Th1 型 PE 群 ( 7.4%) に比し 高い 傾向 にあ った
(P=0.1521).【結論】Th1 型 PE 群では早発型が多く
IUGR 率も高いが、分娩後早期に症状が軽快するのに対
し、Th2 型 PE 群では長期間にわたり蛋白尿が持続して
いることから、PE は Th1/Th2 比により Th1 型 PE と Th2
型 PE に分けて管理する必要があることが示唆された.
386
P-241
妊娠蛋白尿の周産期成績
妊娠高血圧症、子癇発作に伴う意識障害・
視力障害を起こした 2 症例の検討
金沢医科大学 生殖周産期医学
○富澤 英樹、篠倉 千早、広崎 奈津子、早稲田 智
夫、藤井 亮太、牧野田 知
P-242
防衛医科大学校病院 産婦人科
○長谷川 ゆり、松田 秀雄、芝崎 智子、川上 裕
一、吉田 昌史、田中 雅子、吉永 洋輔、古谷 健
一
【緒言】平成 17 年度に日本産科婦人科学会が診断基準
改訂を行ったことにより,
「妊娠中毒症」は「妊娠高血
圧症」と名称が変わり,新しい定義により妊娠蛋白尿
は妊娠高血圧症の病型分類には含まれなくなった.し
かしながら,妊娠中に見られる「高血圧を伴わない蛋
白尿」症例の中には, その後妊娠高血圧腎症を発症す
る例や,妊娠中に発症する腎疾患等が隠されている可
能性があり,尿検査の必要性を軽視することは危険で
あると考える.昨年我々は蛋白尿を呈した症例を報告
した.今回,症例を追加し再度検討したので報告する.
【対象および方法】2003 年 1 月 1 日から 2006 年 7 月
31 日までの間,当院で分娩した 1987 例を検討した.そ
のうち母体既往,母体合併症,多胎,新生児異常を認
めた症例 915 例を除く,1072 例を対象とした.1072 例
中,妊娠経過中に尿蛋白を呈さなかったか,20 週以降
に dipstick1+を 1 回のみ呈した 964 例をコントロール
群とした.妊娠 20 週以降に dipstick で尿蛋白 1+が 2
回以上を GP1+群,尿蛋白 2+以上を GP2+群に分類し,
分娩週数,出生体重,緊急帝王切開率について検討し
た.これらについての統計学的処理は分娩週数,出生
体重については Mann-Whitney 検定を用いた.緊急帝王
切開率についてはχ2 検定を,症例数の少ないものにつ
いては Fisher の直接確率計算法を用いた.p 値は 0.05
未満を有意とした.
【結果】GP1+群は 88 例であり,GP2+
群は 17 例であった.分娩週数,緊急帝王切開率では
GP1+群,GP2+群とも有意差を認めなかったが,GP2+群
の出生体重はコントロール群に比較し少ない傾向
(p=0.053)にあった.【考察】妊娠中に蛋白尿を呈す
る症例の中で,
「妊娠蛋白尿」の周産期予後はコントロ
ール群と比較し有意差はなく良好であるといえる.し
かし, 24 週未満の蛋白尿が早産の危険因子となる
(odds ratio=5.85)との報告もある.今回の検討では
分娩週数に有意差は認めなかったが,dipstick で 2+以
上の蛋白尿を呈した症例の出生体重が少ない傾向にあ
った.分娩週数に有意差がないことを考えると,高度
の蛋白尿を呈した場合,児が IUGR 傾向となる可能性が
示唆される.【結語】高度な蛋白尿を認めた場合,高血
圧の有無にかかわらず慎重な管理が必要であると考え
られた.
妊娠高血圧症候群に伴う子癇発作の機序は、未だ解明
されておらず、その発生機序には不明な点が多い。近
年、子癇発作における意識障害の診断に画像診断が行
われるようになってきている。今回我々は、子癇発作
に伴う視力障害および意識障害を発症した症例を経験
したので、若干の文献的考察を加え報告する。症例 1:
27 歳 1 経妊 1 経産、妊娠経過異常なく、妊娠 38 週 0
日陣痛発来にて近医受診し、正常分娩となった。分娩
時より血圧上昇あり収縮期血圧 200mmHg であったため、
nifedipine 内服し 130 台と落ち着いていた。翌日より
意識障害、視力障害を認め当院搬送となる。来院時 JCS
I-1、視力障害を認めていた。同日撮影された MRI で
は、後頭葉に low density area、edema を認めていた。
nicardipine、glycerin、nafamostat mesilate 使用し
順調に経過し follow up MRI にて後頭葉の病変の改善、
症状改善が認められた。経過良好にて 20 病日に退院と
なった。症例 2:36 歳 5 経妊 5 経産、妊娠初期に一度
病院を受診し、以後受診歴なし。トイレで転倒してい
るところを家人に発見され近医受診 JCS II-10 であっ
た。子癇発作と診断され当院搬送となる。来院時痙攣
な し 、 JCS I - 1 、 収 縮 期 血 圧 200mmHg で あ り 、
nicardipine、magnesium sulfate hydrate 投与を開始
した。術前に撮影された CT にて後頭葉に low density
area を認めていた。緊急帝王切開となり 862g の女児を
娩出となった。術後 1 病日より意識改善あり、follow up
CT にて後頭葉の病変の改善を認めた。経過良好にて 11
病日に退院となった。今回経験した症例では、1 症例目
では、後頭葉に low density、edema を認めており
glycerin を使用した。2 症例目では明らかな edema は
認めていなかった。両症例とも可逆性の変化をたどり、
後遺症を残さず経過良好であった。子癇発作の機序と
して、脳血管攣縮説、高血圧性脳症説が提唱されてい
るが、未だ不明な点も多い。画像診断では、MRI, MRA
が有用とされているが、疾患の緊急性からすべての症
例で施行することは困難である。子癇発作後の頭部病
変は一過性のことが多いが、中には脳出血を起こし、
不幸な転帰をとるものもあり、診断、治療には注意を
要する。
387
P-243
Bartter 症候群合併妊娠の 1 例
三重大学 医学部
○杉原 拓、杉山
産科婦人科
隆、梅川
孝、佐川
腎機能障害を呈する慢性腎炎合併妊娠の
2例
奈良県立医科大学 産科婦人科学教室 1、市立奈良病院
産婦人科 2
○佐道 俊幸 1)、吉田 昭三 1)、坂田 麻理子 1)、原田
直哉 2)、小林 浩 1)
【緒言】腎機能障害を呈する慢性腎炎合併妊娠では母
児の予後が不良となることがあり、一般的には妊娠継
続は勧められない。今回、健児を得ることができた腎
機能障害を呈する慢性腎炎合併妊娠の 2 例を経験した
ので報告する。
【症例 1】25 歳、未産婦。近医で健診を受けていたが、
尿タンパク(1+)、BUN26mg/dl、Cr2.6mg/dl のため、
妊娠 19 週 0 日に紹介入院となった。血圧 92/56mmHg、
CCr17.2ml/min、尿タンパク 350mg/日。安静と腎臓病食
(蛋白質 33g、塩分 5g)の摂取とし、腎機能や血圧は
ほぼ一定の値で推移した。児は妊娠 27 週頃より発育遅
延を認めたが、well-being は良好であった。妊娠 37
週 1 日に自然経腟分娩(女児、1936g、Ap9-1/10-5)とな
った。分娩後母体の腎機能の増悪は認めず、児の成長
発達も異常を認めていない。
【症例 2】21 歳、未産婦。近医で健診を受けていたが、
血圧 145/93mmHg、尿タンパク(4+)のため、妊娠 7
週 4 日に紹介受診。妊娠 10 週よりメチルドパ(500mg/
日)の内服を開始し、妊娠 18 週 0 日入院となった。血
圧 122/80mmHg 、 BUN13mg/dl 、 Cr1.4mg/dl 、
CCr26.3ml/min、尿タンパク 640mg/日。安静と腎臓病食
(蛋白質 33g、塩分 5g)の摂取とし、BUN、Cr は悪化し
なかったが、尿タンパクは 1.3~1.6g/日と増加した。
血圧は妊娠 35 週より上昇し、メチルドパの増量にてコ
ントロールした。妊娠 36 週 4 日骨盤位のため帝王切開
術施行(女児、2200g、Ap8-1/10-5)した。分娩後母体の
腎機能の増悪は認めず、児の成長発達も異常を認めて
いない。
【まとめ】腎機能障害を呈する慢性腎炎合併妊娠であ
っても、厳格な安静と食事療法、適切な血圧管理によ
り、母体の腎機能の増悪を認めず、健児を得ることが
できることもある。
P-244
典正
Bartter 症候群は、腎尿細管の Na+-K+共輸送体が機能
不全を起こし、代謝性アルカローシスや重度な低カリ
ウム(K)血症などを呈する症候群であり、妊娠時の合
併は極めて稀である。今回我々は、Bartter 症候群合併
妊娠を経験したので報告する。 症例は 39 歳、初妊婦。
前医で妊婦健診を受けていたが、妊娠 26 週頃より時々
手足のしびれ感を訴えるようになり、27 週時に当セン
ターを紹介された。妊娠前より K 補充療法(約 80mmol/
日)を受けており、血清カリウム濃度は 2.5mmol/L 以
上に維持されていたが、妊娠 28 週頃より血清カリウム
濃度が低下傾向を呈し、妊娠 30 週時には約 120mmol/
日の K 補充が必要となった。その後も血清 K 値は
2-2.5mmol/L で、しびれや全身倦怠感の頻度が増加し、
妊娠 32 週時に血清 K 値が 1.9mmol/L となったため入院
となった。入院後も血清 K 濃度が 2.5mmol/L 以上を保
つように K の補充量を増加したが、血清カリウム値は
時々低下し、K 補充量は 180-200mmol/日となった。一
方、児の発育は初診時より AGA であり、その後の発育
も-1.0~-1.5SD の間で推移し、羊水量の異常は認めら
れなかった。 妊娠 36 週 1 日、自然陣痛発来し、経腟
分娩となった。児は 2,156g で Apgar 値は 9/10 点。出
生後の児の血清カリウム値は 2.5mmol/L 以上を維持し、
母体への K 補充量は 120mmol/日とし、母児ともに経過
は良好であった。 妊娠中は循環血漿量が増加するが、
腎臓においては特に妊娠初期から中期にかけて腎血漿
流量が増加する特徴がある。したがって Bartter 症候
群合併妊娠の場合、妊娠経過中に K 補充量の増加が必
要となることが予想されるが、今回の症例では特に妊
娠末期において補充量増加を必要とした。このように
妊娠中の血清 K 濃度の維持を図るためには、K 補充療法
が一般的であるが、問題点として頻回の血液検査や投
与量の変更を要すること、さらに K 製剤の量が多いた
めに内服が困難な場合が多いことがあげられる。した
がって、投与が容易かつ血中 K 濃度の維持に有効であ
ると考えられる Na+-K+交換阻止剤などの妊娠中におけ
る安全性に関する今後の検討が期待される。
388
母児共に治療に苦慮した特発性血小板減
少性紫斑病合併妊娠の 1 例
和歌山県立医科大学 周産期部 1、和歌山県立医科大学
産科婦人科 2
○八木 重孝 1)、南 佐和子 1)、帽子 英二 2)、池島 美
和 2)
緒言)特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は明らかな原
因や基礎疾患がないにもかかわらず、抗血小板抗体を
介して血小板破壊亢進をきたし、血小板減少のため出
血症状を呈する後天性疾患である。若年女性に発症す
ることが多く妊娠に合併することも多く管理が重要と
なる。今回、重症の ITP 合併妊娠を経験したので報告
する。(症例)症例は 26 歳 2 経妊 0 経産婦。2 歳で ITP
の診断を受け不投薬にてフォローされていた。血小板
数は一万/μl 以下であった。前回の妊娠時も ITP 非寛
解状態にて妊娠中絶しており、今回も ITP は変わらな
かったが強く妊娠継続を希望し前医でステロイド処方
を受けた。PSL65mg/day で一過性に血小板は 5.8 万/μl
に上昇も、一週間後には 3 千/μl まで低下したために
当院に 16 週 4 日で紹介となる。入院後 PSL を減量し、
セファランチンの投与を行うが血小板数は 1 万/μl 以
下であった。歯肉出血のため血小板輸血を1度必要と
したがそれ以外出血傾向は認められなかった。妊娠 37
週 2 日より入院の上γ-グロブリン大量療法を施行し、
血小板数 10 万/μl まで増加したので分娩誘発を試み
るも有効陣痛なく血小板減少したことと産科的適応で
血小板輸血の後 38 週 5 日に帝王切開術施行し、2791g
の男児を分娩した。術後血小板輸血を行い異常出血は
認めなかった。児は血小板数が 4000/μl であったため
γ-グロブリン、PSL 投与、血小板輸血をおこなった。
日齢 35 日でようやく 10 万/μl を超えたために退院と
なった。児は臨床的な出血は認められなかった。(考
察)妊娠に合併した ITP ではステロイド投与が主とし
て行われているが今回の症例では効果が得られなかっ
た。しかし幸い慢性的な ITP で血小板数が 1 万/μl 以
下であったにもかかわらず出血傾向は認められなかっ
た。γ-グロブリンには反応がみられたが効果が非常に
短期間で分娩誘発への反応が悪く経腟分娩は困難であ
った。今回胎児採血は行わなかったが児は重度の血小
板数の減少をきたしており、治療にも日数を要した。
母体と胎児の状況は相関しないともいわれており臍帯
穿刺のリスクと有効性より今後の症例で行うかどうか
は課題である。今回の症例では母体の血小板数が低値
であり治療抵抗性であったが出血もなく管理できた
が、できれば避妊時に摘脾も考慮すべきではと考えら
れた。
妊娠後期に一過性大腿骨頭萎縮症を認め
た2例
市立貝塚病院 産婦人科
○橋本 洋之、石橋 さやか
P-245
P-246
<はじめに>一過性大腿骨頭萎縮症は 1959 年 Curtiss
が、妊婦に発症し、股関節に一過性の疼痛を伴い骨萎
縮を生じる症例を報告したのが最初とされ、明らかな
誘因なく急速にあるいは徐々に股関節痛と跛行を生じ
数ヶ月後自然に消失する。診断は MRI で大腿骨頭から
頸部、骨幹部にかけて、T1 強調像においてびまん性の
低信号、T2 強調像において同部位の高信号を呈し、ま
た、関節液の貯留を認める。<症例1>28 歳 3 経妊 1
経産 既往歴:前回の出産の 2 週間後に左の股関節痛
あり、ロキソニンにて疼痛は抑えられ、自然に軽快し
た。現妊娠経過:妊娠 22 週から左の股関節痛を認め、
妊娠 33 週では疼痛が強くなり歩行に杖が必要となっ
た。妊娠 35 週にて一過性大腿骨頭萎縮症が疑われ、妊
娠 37 週で選択的帝王切開術を施行した。術後 8 日目の
MRI で、左大腿骨頭から頸部、骨幹部にかけて、T1 強
調像においてびまん性の低信号、T2 強調像において同
部位の高信号を呈し、また、関節液の貯留も認めた。
出産後、症状は自然に軽快した。<症例2>37 歳 0
経妊 0 経産 既往歴:なし 現妊娠経過:妊娠 32 週 切
迫早産で入院 妊娠 30 週から右股関節痛を認め、妊娠
39 週にて疼痛が増強し、歩行に杖が必要となった。一
過性大腿骨頭萎縮症が疑われ、妊娠 39 週に選択的帝王
切開を施行した。術後7日目の MRI で右股関節に同様
の MRI 所見を認めた。また、臨床症状は出産とともに
軽快した。<まとめ>一過性大腿骨頭萎縮症は希な疾
患であるが、女性では妊娠後期に発症する事が多い。
一般的に妊娠の後期に股関節痛を訴える妊婦は多い
が、歩行な困難な程度の股関節痛を認めた場合は、細
菌性股関節炎や非細菌性の股関節炎を鑑別した後、当
疾患を考えるべきである。
389
母 体 を 救 命 し え た 劇 症 型 Group A
Streptococcus 感染症の一例
和歌山県立医科大学周産期部 1、和歌山県立医科大学産
科婦人科学教室 2
○南 佐和子 1)、池島 美和 2)、帽子 英二 2)、八木 重
孝 1)
妊婦の劇症型 Group A Streptococcus(GAS)感染症は、
急激に進行しかつ短時間で胎児のみならず母体死亡を
ももたらす重篤な病態である。常位胎盤早期剥離とよ
く似た症状を呈し、緊急帝王切開を施行することによ
り母体が死に至る症例が報告されている。今回、われ
われは母体を救命し得た妊娠 33 週の劇症型 GAS 感染症
の症例を経験したので報告する。症例は28歳の初妊
婦で、妊娠経過に問題はなかった。妊娠 33 週に急激な
高熱で発症し、12 時間後には嘔吐と下痢で意識消失を
来たし前医に搬送された。搬送時にはすでに子宮内胎
児死亡を認め、鼻出血および口腔内からの出血が診ら
れ播種性血管内凝固(DIC)の状態であった。DIC の治
療を行いつつ、ドクターヘリにて直ちに当院に搬送さ
れたが、到着時にはショック状態であり、多臓器不全
に陥った。重症感染症による DIC として治療を直ちに
開始した。入院時の腟分泌物より GAS が検出されたた
め、GAS による敗血症および多臓器不全と診断した。感
染症および DIC 治療を強力に行った結果、1週間後に
は臓器障害が改善傾向を示し DIC も軽快したため、帝
王切開に踏み切った。子宮筋層は黄色で感染を疑わせ
た。手術操作中に子宮壁に血腫を形成したが、子宮は
温存可能であった。術後の創部からの出血に難渋した
が、輸血および DIC 治療にて全身状態は改善していっ
た。子宮筋層の病理組織学的検査では筋層に至るまで
壊死が認められており、GAS の中心病巣であったことが
伺われた。術後35日目に退院し現在外来通院中であ
るが、月経も発来しており経過は良好である。今回の
症例では早期に GAS 感染症の可能性を診断し治療を行
ったうえで、病状の安定した時期に帝王切開を行い母
体を救命しえた。高次施設への救急搬送、および早期
の適切な治療が功を奏したと考えられた。
当科における 100kg 超妊婦の妊娠経過の
特徴
大分大学 医学部 産科婦人科
○石井 照和、福田 淳一郎、吉松 淳、津野 晃寿、
吉良 尚子、西田 正和、楢原 久司
P-247
P-248
【目的】過体重の妊婦で周産期合併症が増加すること
はよく知られている。最近経験した分娩時に 100kg を
超えていた妊婦の背景、食事療法への反応、妊娠、分
娩経過と周産期合併症について検討した。
【方法】当科で 2001 年から 2006 年までに分娩時に
100kg を超えていた妊婦 9 例を対象とした。非妊娠時体
重、非妊娠時 BMI、妊娠中の体重増加、受診履歴、GDM、
PIH、その他の周産期合併症、分娩時所見、新生児所見
について患者記録を基に後方視的に検討した。また、
分娩前に入院の上、栄養指導を行えた 3 例について治
療効果を評価した。
【結果】対象の平均年齢は 30.3 歳、4 例が初回妊娠で
あった。妊婦健診を定期的に受けていない症例が 3 例
あり、1 例は妊娠 30 週まで妊娠に気づいていなかった。
妊娠前の平均体重は 92.7kg、BMI は 38.0(kg/m2)、であ
った。妊娠中の体重変動は 10kg 以上増加した症例が 4
例、10kg 未満増加した症例が 4 例、分娩時に体重が非
妊娠時より 8kg 減少している症例が 1 例であった。GDM
を 2 例、妊娠高血圧症候群を 5 例に認めた。7 例が満期
産、1 例が 25 週の IUFD であり、1 例が 28 週の早産で
あった。満期産 7 例のうち、経腟分娩が 4 例(うち 2
例は吸引分娩)
、帝王切開分娩が 3 例(いずれも緊急)
であった。平均出血量は 792.3g と多く、出血量 500g
未満の症例は 1 例のみであった。巨大児は 1 例もなく、
IUFD と早産を除くと、新生児の Apgar score はいずれ
も良好であった。入院の上、1,800kcal での栄養管理が
できた症例では、入院後、速やかに体重は制限された
が、退院し自己管理となるとすぐに体重は再上昇し、
妊娠合併症を発症した。
【結語】分娩時に 100kg を超える妊婦は高率に妊娠合
併症を発症した。特に妊娠高血圧症候群は 9 例中 7 割
と高率であった。今回の対象となった症例は自己管理
を厳重に行うことができない妊婦が多く、受診不良症
例が半数を超えた。また、入院しての栄養管理にはよ
く反応したが自宅での自己管理は不良であった。肥満
妊婦は今後、さらに増加すると思われる。全妊娠期間
を通じた栄養管理が妊娠合併症の抑制につながると考
えられた。また、適切な分娩時期の決定も重要である
と考えられた。
390
山口県における妊婦の喫煙状況ならびに
タバコの影響についての知識に関する調
査
山口県立総合医療センター 総合周産期母子医療セン
ター
○佐世 正勝、田村 功、福永 真之介、長谷川 恵
子、河崎 正裕
【目的】妊婦の喫煙と早産や低出生体重児との関連や,
SIDS(乳幼児突然死症候群)との関連が報告されてい
る.そこで有効な禁煙対策を実施するために,妊婦の
喫煙状況ならびにタバコの影響に関する知識調査を行
った.【方法】山口県内の産婦人科標榜 70 施設の内,
分娩を取り扱っている 44 施設に,日本産婦人科医会山
口県支部を通じてアンケート調査を依頼した.調査期
間は,平成 18 年 10 月の 1 カ月間とし,前年度の分娩
取り扱い件数に応じて,アンケート調査紙を送付した.
調査紙は無記名とし,調査項目は,年齢,妊娠週数,
妊娠歴,喫煙状況,家族の喫煙状況とした.また,喫
煙経験があるか,家族に喫煙者がいる妊婦に対して,
タバコの影響に関する知識を質問した.結果の分析に
は,pair t-test およびχ2 乗検定を用い,危険率 5%
未満を有意差ありとした.
【成績】40 施設(90.9%)か
らアンケート結果の返送があった.アンケート返送件
数 2594 件,回収率は 86.5%であった.喫煙妊婦は
5.3%,妊娠中禁煙妊婦は 7.8%,喫煙既往妊婦は
23.9%,喫煙経験のない妊婦は 62.9%であった.喫煙
割合は,10 代が 8.9%,20 代前半が 6.9%,20 代後半
が 5.9%,30 代前半 4.1%,30 代後半が 5.2%,40 代
前半が 6.1%,40 代後半が 0%であった.経産婦(6.9%)
は,初産婦(4.3%)に比べ有意に喫煙率が高かった(p
<0.05)
.喫煙妊婦において妊娠前の喫煙本数(19.7±
7.5 本)に比べ,妊娠中の喫煙本数(9.5±5.7 本)は
有意に減少していた(p<0.001).喫煙妊婦の 89.1%,
妊娠中禁煙妊婦の 85.1%,喫煙既往妊婦の 62.2%,喫
煙経験のない妊婦の 46.8%に,喫煙している家族があ
った.喫煙妊婦および妊娠中禁煙妊婦は,喫煙既往妊
婦および喫煙経験のない妊婦に比べ,喫煙している家
族を持つ割合が有意に多かった.タバコの害について,
未熟児や低出生体重児の出生に関しては 92.1%の妊婦
が知っていたが,早産,SIDS,ニコチンの害,気管支
炎,発達障害,母乳中への影響,老化の各項目に関し
ては,それぞれ 82.2%,46.3%,35.0%,58.6%,48.4%,
48.8%,57.7%と知識が乏しかった.喫煙妊婦では,
タバコの害に関する知識が乏しい傾向があった.【結
論】依然,喫煙妊婦が多数存在していることが示され
た.しかし,妊娠を契機に禁煙や減煙する傾向があり,
妊娠や児に対するタバコの害に関する知識が関係して
いる可能性が示された.
P-249
P-250
カンデサルタン投与の母体より出生し低
血圧と腎不全を呈した新生児の 1 例
名古屋第一赤十字病院 総合周産期母子医療センター
新生児科
○松沢 要、孫田 みゆき、伊東 真隆、安田 彩子、
鬼頭 修、鈴木 千鶴子
【はじめに】
アンギオテンシン 2 受容体拮抗薬は催奇形性や胎児死
亡の報告があり、妊婦への使用は禁忌とされている。
また低血圧、羊水過少による肺低形成および腎不全の
報告もある。今回我々はアンギオテンシン 2 受容体拮
抗薬であるカンデサルタン(ブロプレス)を妊娠後期に
投与された母体から出生した新生児で、低血圧と腎不
全を呈した 1 例を経験したので報告する。
【妊娠歴】
母親 33 歳。2 経妊 1 経産。僧帽弁閉鎖不全症あり。妊
娠 32 週に他院にて BNP の上昇から心不全徴候を指摘さ
れ、カンデサルタンを投与されていた。妊娠 36 週に当
院に紹介され、ループ利尿薬のトラセミド(ルプラッ
ク)に変更された。なお妊娠中特別な異常は認めなかっ
た。
【現病歴】
在胎 36 週 3 日、出生体重 2,614g、Apgar score3 点(1
分)、6 点(5 分)、帝王切開で出生した。羊水混濁著明
で、胎便吸引症候群、両側気胸と診断した。羊水過少
は認められなかった。出生後呼吸障害のため人工呼吸
管理および胸腔ドレナージを行い、日齢 6 に呼吸器を
離脱した。出生時心機能の低下は認められなかったが、
低血圧(40/20mmHg)が持続し、無尿であった。容量負荷、
昇圧剤、ステロイド投与に反応不良であったが、日齢 4
から血圧は 60/40mmHg に上昇した。しかし無尿が続き、
日齢 5 には BUN 58mg/dl、Cre 6.82mg/dl と上昇し、急
性腎不全と診断、腹膜透析を開始した。日齢 13 には BUN
12mg/dl、Cre 4.13mg/dl まで低下するも、同日腹壁ト
ラブルのため腹膜透析を中止した。その後一日尿量
150ml を確保することはできるようになったが、それ以
上の尿量増加を認めず、日齢 20 には BUN 13mg/dl、Cre
6.83mg/dl、推定 GFR 3.2ml/min/1.7m2 と著明な腎機能
の低下を認めた。日齢 14 から経口ミルクを開始するも
嘔吐が続き、代謝性アルカローシスおよび超音波検査
から肥厚性幽門狭窄症と診断した。腎不全の管理と肥
厚性幽門狭窄症の手術目的に日齢 21 に他院へ転院とな
った。カンデサルタン代謝物の児の血中濃度は入院時
(母体服用中止後 3 日目)40.73ng/ml、透析導入前の日
齢 5(同 8 日目)では 18.35ng/ml といずれも成人トラフ
値よりそれぞれ 4 倍、2 倍と異常高値を示した。日齢
55 現在、腎機能は正常新生児の 10%であり、腹膜透析
を継続している。将来的には腎移植の可能性がある。
【まとめ】
現在まで母体へのカンデサルタン投与により発症した
一過性の急性腎不全の報告はあるが、本症例のように
長期化した例は稀であり、文献的な考察を含め報告す
る。
391
生後早期より血液透析を導入し救命でき
た早産児 Potter sequence の一例
兵庫医科大学小児科
○皆川 京子、小川 智美、松井 朝義、小幡 岳、
磯野 員倫、谷澤 隆邦
Potter Sequence と出生前診断されていた
両側低形成腎の一例
旭川厚生病院 小児科
○土田 悦司、五十嵐 加弥乃、大久保 淳、雨宮 聡、
小久保 雅代、梶野 真弓、高瀬 雅史、白井 勝、
坂田 宏、沖 潤一
【はじめに】我々は羊水過少があり、出生前の胎児超
音 波 お よ び 胎 児 MRI で 腎 臓 が 同 定 で き ず Potter
Sequence と診断を受けていた女児例を経験した。出生
後は人工呼吸管理を要さず、低形成ではあるが腎臓は
存在し生後 5 ヶ月になった。出生前の情報によっては、
積極的治療の適応外とされてしまうこともある本症の
診断について自験例を振り返り検討したので生後の経
過と合わせて報告する。
【症例】母親 26 歳、2 経妊 2
経産で基礎疾患なし。家族に腎疾患の既往なし。妊娠
28 週で羊水が少ないと指摘。32 週に AFI 6cm となり、
33 週には羊水を計測出来なくなり 34 週 1 日当院産婦人
科に紹介・入院となった。胎児超音波画像検査では羊
水はなく、両側腎臓は同定できず、膀胱容量もほとん
ど認めなかった。胎児 MRI でベル型の胸郭を呈してい
たものの、T2 強調画像で肺は high intensity であり、
また妊娠 20 週台では羊水量が比較的保たれていたため
致死的な肺低形成の存在は示唆されなかった。しかし
胎児 MRI でも両側の腎臓が同定されなかったため、
Potter Sequence と診断された。産科医より生存は望め
ないので出生後の積極的治療は行わないという方針を
提案されたが、Potter Sequence と出生前診断されてい
ても長期生存している症例の報告も散見するために、
小児科医立ち会いのもと、分娩を行う旨を御両親に説
明し同意を得た。36 週 6 日、頭位経膣分娩、Apgar 8/9
にて出生。出生直後より自発呼吸があり右気胸を呈し
たが明らかな肺低形成は認めず、酸素投与のみで人工
呼吸管理を必要としなかった。また出生後、超音波検
査で両側とも長軸 1.7cm 大の低形成腎の存在を確認し
た。十分な尿量は得られたが、腎機能としては不十分
なため高カリウム血症や血清 BUN,Cre 高値を認めた。
慢性腎不全に対して特殊ミルク哺乳、イオン交換樹脂
内服、炭酸水素ナトリウム内服、腹膜透析などの治療
を行った。現在は生後5ヶ月で月齢相当の発達を認め
ている。
【考察】胎児期に Potter Sequence と診断され
ていても、腎機能障害や肺低形成の程度が軽く救命で
きる症例の報告も少なくない。不用意な診断は両親や
医療者側の混乱を招く。羊水過少時の予後を左右する
肺低形成などの出生前の評価は重要であり、また出生
時には慎重な対応と管理を要すると思われた。
P-251
P-252
【症例】日齢 0 男児、母親は 36 歳 2 回経妊 2 回経産、
妊娠 25 週に前置胎盤と両側多嚢胞性腎を指摘されてい
たが妊娠 32 週 6 日切迫症状出現し当院産科入院管理と
なる。在胎 34 週 2 日、胎児一過性徐脈を頻回に認め緊
急帝王切開となった。体重 1868g、身長 44.5cm、頭囲
30cm、アプガースコア 4 点/6 点出生、生直後より呼吸
障害強く、気管挿管施行し NICU 入院となった。外表所
見上、Potter 顔貌、胸郭低形成で胸部 Xp 上気胸も認め
た。腹部超音波では、両側腎に嚢胞多数、左腎 32mm×
20mm、右腎 62mm×18mm で膀胱は不明であった。出生時
より利尿なく、日齢 2 全身浮腫著明で代謝性アシドー
シス進行、BP30/15mmHg と低血圧を認め持続的血液濾過
透析(CHDF)を開始した。CHDF のコンソールおよび設
定は PANFLO APF-01D(膜面積 0.1m2、充填量 12ml、PAN
膜、旭メディカル)を使用し、血流量(QB)
:3ml/min、
濾過流量(QF):100ml/hr、補液:サブラット B®、抗
凝固剤はフサン®、ヘパリンを適時使用し ACT150-250
を維持した。透析中血圧の変動が激しく、適宜 MAP、血
小板、FFP 等の輸血、カテコラミン投与を必要とした。
CHDF で 10~20ml/h 除水を行い、日齢 8 に PD カテーテ
ルを腹腔内に挿入し、初期は生理食塩水にて少量より
開始その後ダイアニールの貯留を開始した。貯留量の
増加を確認し、日齢 20 に CHDF 中止し、CAPD(腹膜透析)
のみで透析を施行した。その後除水の安定を確認し
APD(自動腹膜透析装置)を用いた。一回注液量 40ml、22
サイクル 24 時間で行い、除水量は 150~200ml を維持
できた。呼吸状態は除水コントロール可能となった日
齢 38 に鎮静を中止し、日齢 41 に抜管となった。入院
時から高カロリーを行い、母乳開始したが嘔吐、下痢
が頻回となり好酸球増多し、血清 IgE の上昇により、
ミルクアレルギーと考え、腹腔容量確保もかねてエレ
ンタール 24 時間持続注入施行した。現在は APD で管理
可能であるが腎移植可能な体重(8-10kg)までは除水
困難時は CHDF を併用し待機する予定である。【まとめ】
胎児期からの両側の多嚢胞腎が存在し、出生時より無
尿であることから Potter type2 と診断した症例を経
験した。生後早期よりの厳重な呼吸、循環管理に加え
て、臍帯静脈、末梢動脈を用いた CHDF により CAPD 可
能となり救命が可能であった。腎移植待機中であるが、
腹膜炎や高濃度透析による腹膜機能の低下、低栄養に
苦慮しており、今後より厳重な管理が必要となると思
われた。
392
小 児 血 液 浄化療 法 に お いてプ ラ ソ ート
iQ21・クリットラインモニターを用いた水
分管理
埼玉医科大学総合医療センター ME サービス部 1、埼
玉医科大学総合医療センター 総合周産期母子医療セ
ンター 新生児部門 2
○須賀 里香 1)、江崎 勝一 2)、鈴木 啓二 2)、田村 正
徳 2)
【背景】NICU における血液浄化療法は、バスキュラー
アクセスの確保、プライミングボリューム、抗凝固剤
の投与量など様々な工夫が必要となる。中でも体外循
環血液量が少ない小児において、補液や除水量のバラ
ンスをとることは非常に困難である。【目的】クリット
ラインモニター(CLT)は体外循環中の血液のヘマトク
リットを連続的に計測、表示することで血液量の変化
を見ることができるため、除水による急激な血圧の低
下を防ぎ、適正な除水を安全に行うことが可能である
か。血液透析装置プラソート iQ21(プラソート iQ)が、
小児における血液浄化療法において有用であるか検討
する。【対象・方法】急性肝不全及び急性腎不全となっ
た日齢 195、体重 3971 グラムの患者において、プラソ
ート iQ を用いた血漿交換、
持続血液浄化療法を行った。
治療中 CLT を用いて除水量設定を行った。
【結果】CLT
によって、輸液分の除水量でも血液量は低下し、血圧
も低下傾向にあることが分かった。クリットライン値
の変化を見ることにより血液量の変化がわかるため、
輸液量だけに頼らず、体液量の管理をするうえでの除
水量を設定する目安となった。また、プラソート iQ は
小児専用回路を用いることによって、プライミングボ
リュームを低容量で施行することが可能であった。
【考察】体外循環量の少ない小児の血液浄化療法にお
いて、除水量の設定は非常に細やかな管理を必要とす
る。プラソート iQ のポンプ流量は透析液、補液、除水
量の重量計によって制御されているため、精度が高か
った。CLT は連続的にヘマトクリット値を計測し表示す
ることで、スムーズな除水設定の見直しを図ることが
できるため、CLT を併用することにより、適正な設定を
維持する事が可能になり、厳密な体液管理ができるこ
とから、安全な治療を提供することができると考える。
【結語】プラソート iQ と CLT を用いることで、設定値
と実施値との誤差を最小限に抑えることができ、小児
の血液浄化療法においては有用であると考える。
P-253
P-254
胎児超音波検査で胸部腫瘤を認めた神経
腸管嚢胞の一例
埼玉医科大学病院 新生児未熟児科 1、埼玉医科大学病
院 小児外科 2
裕実 1)、本多 正和 1)、皆
○盛田
英司 1)、善利
1,2)
2)
、大野 康治 、宮路
太 1)
川 孝子
【はじめに】消化管重複症は稀な奇形であり、消化管
に隣接する嚢胞状もしくは管状の構造物を認める。同
じ前腸由来である脊椎管との間に連絡があり椎体の分
裂異常を伴う場合、神経腸管嚢胞と呼ばれる。今回我々
は胎児超音波にて診断した神経腸管嚢胞の症例を経験
したので報告する。
【症例】在胎 39 週 1 日、出生体重
3142g、男児。母体は 18 歳、初産婦。出生前より前医
胎児超音波検査にて気管支嚢胞を疑う所見を認めたた
め当院産科紹介され受診。妊娠経過観察されていた。
出生時より啼泣弱く全身チアノーゼ著明であった。
NICU 搬送後より SpO2 の変動が激しいため、気管内挿
管、人工呼吸器管理となった。人工呼吸器管理開始後
も SpO2 の変動は継続して認められた。胸部レントゲン
撮影では頚椎と胸椎の弯曲を認めた。また、腫瘤によ
ると思われる NG チューブの偏位を認めた。胸部造影
CT では椎体弯曲部と腫瘤との交通が認められた。腫瘤
は直系 32mm で、造影剤で増強されない内部均一な像を
呈した。日齢2 嚢腫圧迫による、閉塞性呼吸障害の
ため緊急開胸手術を施行した。嚢腫は後縦隔に気管支
分岐部~横隔膜に及ぶ範囲に存在した。嚢腫と気管支
及び肺との交通は認められず、また、食道との交通は
不明であった。食道や脊髄腔との交通画が否定できな
かったため、ドレナージ、嚢腫壁生検を施行し閉胸し
た。病理組織では腸管壁と類似した構造を呈していた。
以上より、神経腸管嚢胞と診断した。日齢 86 嚢腫
摘出術施行。病理組織では生検と同様の所見であった。
【考察】神経腸管嚢胞を含む消化管重複症の治療は外
科的切除とその欠損部位の管理とされている。本症例
においても出生早期より呼吸窮迫症状を呈し早期の外
科的処置による治療を要した。胎児超音波、MRI などの
画像評価を行い、的確な時期に外科的治療を行うこと
が重要であると思われた。
393
胎児期からの急速な肝腫大のため出生後
直ちに化学療法を行った神経芽腫4Sの
1例
九州厚生年金病院 小児科・新生児科 1、エンゼル病院
産婦人科 2
○山本 順子 1)、高橋 保彦 1)、下川 浩 2)
P-255
P-256
先天性胚細胞性脳腫瘍の1例
東京女子医科大学 八千代医療センター 新生児科 1、
同 病理診断科 2、同 母性胎児科 3
○栗嶋 クララ 1)、青柳 裕之 1)、和田 雅樹 1)、河上
牧夫 2)、坂井 昌人 3)、近藤 乾 1)
【はじめに】
先天性脳腫瘍は非常に稀な疾患で、その頻度は文献に
より差はあるものの小児脳腫瘍の 0.5-1.5%を占める
にすぎない。その中で奇形腫が最も多く、1/3 から 1
/2 を占める。奇形腫はその発生部位や腫瘍の種類によ
り予後が大きく異なる。今回、我々は、急速に増大し
た先天性胚細胞性脳腫瘍を経験したので報告する。
【症例】
母体は分娩目的で当院へ紹介され、在胎 27 週の胎児超
音波検査で頭蓋内に不均一なエコー輝度を呈する腫瘤
を認めた。MRI では、脳幹部から発生する 6cm 大の腫瘤、
圧排された右大脳半球、両側脳室の拡大を認めた。こ
れらの所見より先天性脳腫瘍が疑われたが、巨大なた
め発生部位を特定することができず、画像所見から組
織型を予測するのは困難であった。BPD の急速な増大、
midline shift を来したため、在胎 30 週 0 日に帝王切
開となった。出生児は女児で、Apgar score 7/8(1
分/5 分)であった。出生体重 2240g、頭囲 42cm と著
明な頭囲の拡大を認めた。呼吸不全のため出生後約 2
時間で死亡した。剖検により、頭蓋内に重量 330g の巨
大な腫瘍を認め、発生部位は松果体と考えられた。組
織型は気管鰓弓組織と未分化神経管上皮組織を主な成
分とする branchioneuroectodermal teratoma と診断さ
れた。また、出血性の硬膜下水腫を認めた。その他の
合併奇形は認めなかった。
【考察】
先天性脳腫瘍は、部位、大きさ、増大する速さなどに
より、母体への影響および児の予後が異なり、適切な
分娩時期を判断するのが困難である。奇形腫をはじめ
とする先天性脳腫瘍の予後は非常に不良であるが、脈
絡叢乳頭腫のような比較的生存率の高い腫瘍も稀に存
在する。しかし、出生前の諸検査でこれらの鑑別は必
ずしも容易ではない。本症例では超音波検査、MRI、経
時的変化を参考に、分娩時期、出生後の蘇生方法など
を家族と話し合い、決定した。出生前診断に伴う諸問
題について、種々の文献を加えて考察した。
【はじめに】神経芽腫 stage4S は一般に予後良好な腫
瘍とされているが中には新生児期死亡例の報告も散見
される。今回私たちは、胎児超音波検査で 2 週のあい
だに急激な肝腫大を来たしたため早期娩出、約 17 時間
後から化学療法を行い良好な経過を得られている症例
を経験したので報告する。
【症例】近医産科で定期健診時の胎児超音波スクリー
ニングで妊娠 34 週 6 日時には異常なかったが 2 週後の
36 週 6 日、胎児は著しい肝腫大と腹部膨満を呈した。
このため産科医、新生児科医の協議の上、早期娩出に
よる積極的治療が望ましいと考え 37 週 0 日、帝王切開
で出生。Apgar score1 分 2 点。児は腹部膨満が著しく
胸郭を強くおし上げ有効な換気が保てず気管内挿管、
人工呼吸管理を必要とした。超音波検査で著明な肝腫
大および右副腎の高輝度の所見と、CT で右腎上部の 2cm
大の腫瘤の描出から右副腎原発の神経芽腫(肝転移)
を疑った。呼吸不全、凝固異常があり早期の治療が必
要と判断し生後 17 時間より乳児神経芽腫治療プロトコ
ール RegimenC に基づき VCR+CPM+THP-ADR を減量した化
学療法を開始した。治療後数日内に肝腫は縮小傾向を
示し呼吸状態も安定した。治療後の骨髄抑制から一時
的に MRSA 感染症を発症したが VCM 投与により改善し 2
クールの化学療法を終了した。なお腫瘍マーカーは尿
中 VMA911.6μg/mgCre、HVA930.4μg/mgCre、NSE73ng/ml
と高値を示し、頭部~胸腹部MRIや骨・MIBG シンチ
グラム、骨髄穿刺から肝臓以外の転移はなく神経芽腫
Stage4S と診断した。また病理学的検索で胎盤への転移
巣はなかった。生後 4 週頃より肥厚性幽門狭窄症を発
症し Ramstedt 手術を施行、その際行った肝生検では腫
瘍組織はみられず N-myc の増幅もなかった。現在経過
観察中であるが、尿中 VMA、HVA は正常化し MIBG シン
チグラムでも異常集積像はみられていない。
【結語】妊娠後期に胎内で急速に増大する腫瘍を発見
した際どのように対処すべきか一定の治療指針はな
い。今回は家族の同意が得られたため早期娩出とし利
尿を確認後速やかに化学治療を実施した。これは急速
に増大する腫瘍が呼吸不全の要因となっており更に増
大すれば全身状態の悪化が懸念されたためである。従
来の報告から臨床的に神経芽腫と判断し治療レジメに
従い化学療法を開始し致命的な副作用もなく治療は奏
功した。もともと自然退縮もあり得る神経芽腫 4S では
あるが急速な増大を示す症例に対しては積極的な治療
介入が必要であると考えた。
394
Meningeal melanocytoma による頭部巨大
腫瘍の1例
国立成育医療センター 周産期診療部 新生児科 1、
国立成育医療センター 周産期診療部 胎児診療科 2、
国立成育医療センター 臨床検査部 病理検査室 3
○花井 彩江 1)、高橋 重裕 1)、伊藤 裕司 1)、中村 知
夫 1)、左合 治彦 2)、渡辺 紀子 3)
【はじめに】我々は胎児期から頭部巨大腫瘍を認め、
診断、治療に難渋し、剖検にて meningeal melanocytoma
と診断された早産児を経験したので報告する。
【症例】
在胎 21 週時に発生部位不明の腫瘍が羊水腔に認めら
れ、23 週 6 日に胎児 MRI にて後頭部腫瘍と確認された。
胎児期から心不全兆候の進行がみられた。28 週 5 日、
破水と母体の肺水腫のために緊急帝王切開術にて
Apgar score 1 点/3 点で出生した。後頭部から外側に
突出する大きさ約 13×8×12cm の巨大な腫瘍を含めた
出生体重は 3963g であった。出生直後から腫瘍からの
出血による貧血と血圧低下を認め、大量輸血と止血処
置を必要とし、人工呼吸管理及び循環管理を施行され
た。造影 CT 検査上は、奇形腫又は血管腫が疑われた。
巨大腫瘍による高拍出性心不全、持続感染に加え壊死
性腸炎、敗血症症状を呈し、日齢 51 に死亡した。剖検
にて腫瘍は重量 885g で、表面は黒色充実性で、皮膚と
全周性に連続しており、頭蓋骨欠損口(5×5cm)を通じ
て、頭蓋内にも連続していたが、脳実質とは分離して
いた。組織学的には、硬膜との接着部では、腫瘍は肥
厚した硬膜から連続して発生しているように見え、頭
蓋骨への浸潤は認めなかった。腫瘍内部は浮腫状また
は粘液様の基質を背景に、束状に密に増殖する部分や
散在性に存在する部分や、渦巻状に配列する部分が混
在し、腫瘍細胞は、紡錘形や小型、類円形や多角形で、
細胞質内にメラニン顆粒を持つものが混在していた。
免 疫 染 色 で は 、 S-100 が 陽 性 で あ っ た 。 meningeal
melanocytoma と診断された。【考察】胎児期及び新生児
期からの脳腫瘍は teratoma、astrocytoma などが主に
占める。今回診断された、meningeal melanocytoma は、
髄膜上に発生し、頭蓋内及び脊髄内に発育する稀な良
性腫瘍とされる。小児では非常に稀である。生後 5 か
月の頭蓋内腫瘍の症例報告はあるが、本症例は胎児期
から観察され頭蓋外に腫瘍を認めており、非常に稀少
な症例であった。文献的考察を加え報告する。
【謝辞】
本症例の治療及び診断にご尽力いただいた国立成育医
療センター脳神経外科 師田信人先生、病理検査室
中川温子先生に深謝いたします。
ショックバイタルで出生した胎便性腹膜
炎の 2 例
神戸市立中央市民病院 小児科 1、同外科 2、同産婦人
科3
○田場 隆介 1)、原田 明佳 1)、木下 大介 1)、辻 雅
弘 1)、宇佐美 郁哉 1)、山川 勝 1)、春田 恒和 1)、山
田 曜子 3)、山田 聡 3)、遠藤 耕介 2)
【背景】胎便性腹膜炎は原因や発症時期により心肺蘇
生を要する危急的病態となり得る。
【目的】回腸閉鎖と
腸回転異常非合併子宮内腸捻転による胎便性腹膜炎 2
例を報告し、その救命措置を検討すること。【症例 1】
在胎 40 週、3008 g 男児。妊娠 31 週より腸管拡張像指
摘、同 40 週 0 日より胎動減少自覚、同 2 日の健診で胎
児腹水、胎児心拍上昇と変動消失、緊急帝王切開、Apgar
1/1、腹部膨満著明、呼吸開始なく徐脈進行した。気管
内挿管後も腹部膨満のため換気困難で腹腔穿刺施行、
腹水は血性胆汁性で胎便性腹膜炎と診断、エコー上左
室腔虚脱を認め、ボーラス輸血後血行動態安定した。
生後 9 時間で開腹術施行、拡張した壊死腸管を認め、
回腸末端より口側 30cm まで腸管が萎縮、離断型回腸閉
鎖と診断、壊死腸管切除、回腸瘻造設、術後痙攣が遷
延した。術後 6 日経腸栄養開始、一過性直接ビリルビ
ン上昇をみたが術後 75 日回腸瘻閉鎖術時の生検で胆道
閉鎖症は否定、漸次正常化し日齢 98 退院、9 か月現在
発育発達良好である。【症例 2】在胎 35 週、2028 g 女
児。妊娠 34 週 6 日より胎動減少自覚、同 35 週 2 日の
健診で胎児腹水指摘、当院搬送、胎児 MRI 上高度胸腔
圧迫を認めた。遅発/変動一過性徐脈出現、緊急帝王切
開、Apgar 1/2、腹部膨満著明で、呼吸開始なく徐脈進
行した。直ちに気管内挿管、腹腔穿刺、サーファクタ
ント投与後 HFO 管理とした。胆汁性腹水約 480ml 排出、
同時に急速輸液を行い、30 分で循環動態改善と酸素化
を得たが混合性アシドーシス遷延のため、安定化後日
齢 1 に開腹術施行した。右上腹部に反時計方向 540°の
軸捻転認め、解除後壊死小腸を 46 cm 切除した。腸回
転異常認めず、腸回転異常非合併子宮内腸軸捻と診断、
端々吻合を行った。術後 7 日目経腸栄養開始、一過性
直接ビリルビン上昇をみたが正常化、日齢 40 退院、3
か月現在発育発達良好である。
【考察】症例 1 は内圧亢
進、症例 2 は捻転による急激な虚血に起因する腸管穿
孔に続発した胎便性腹膜炎で、肺拡張不全と循環血液
量減少のため致死的呼吸循環不全を呈した。出生前診
断、特に胸腔圧迫の評価には胎児 MRI が有用であった。
出生後は腹腔穿刺による拘束性換気障害解除と急速輸
液による循環血液量減少の補正が重要であると考えら
れた。
P-257
P-258
395
P-259
新生児仮死後に胆汁鬱滞性黄疸をきたし
胆道閉鎖症との鑑別に苦慮した一例
胎児期に巨大膀胱を認めた巨大膀胱・狭小
結腸・腸蠕動運動不全症候群(MMIHS)の
1例
福島県立医科大学 総合周産期母子医療センター 新
生児部門 1、福島県立医科大学 総合周産期母子医療セ
ンター 部長 2、福島県立医科大学 第一外科学講座 3
○金子 真利 1)、金井 祐二 1)、郷 勇人 1)、今村 孝
1)
、佐藤 章 2)、清水 裕史 3)、山下 方俊 3)、伊勢 一
哉 3)
【はじめに】巨大膀胱・狭小大腸・腸蠕動不全症候群
(MMIHS)はヒルシュスプルング病類縁疾患に分類され
る、比較的稀な疾患であり、その多くは新生児期に発
症する。今回われわれは、胎児期に巨大膀胱を認め、
出生後に腸回転異常による腸閉塞から MMIHS と診断し
た女児例を経験したので報告する。【症例】母親は 26
歳、0 妊 0 産。妊娠 26 週 6 日の胎児エコーにて巨大膀
胱を指摘され、妊娠 27 週 1 日に当院産科を受診した。
その際のエコーでは児の発育は正常であり、巨大膀胱
の他には水腎症や羊水過少などは認めなかった。児は
在胎 37 週 3 日、予定帝王切開にて出生。体重は 3082g、
Apgar score は 8/9 点であり、外表奇形はなかった。巨
大膀胱に関する精査を目的に NICU へ入院した。
【入院
後経過】入院時の腹部エコーにて巨大膀胱と両側水腎
症(右 SFU 分類 IV°、左 SFU 分類 III°)および水尿
管症を認め、腹部 CT で同様の所見を確認できた。導尿
により膀胱は縮小し、その後は自排尿がみられた。出
生後より腹部レントゲンで腸管ガス像の出現がなく、
腸洗浄でも胎便排泄がみられなかった。出生約 12 時間
後に授乳を開始したが、多量の胆汁様の残渣と嘔吐を
認めたため、腸軸回転異常症、小腸閉鎖症、ヒルシュ
スプルング病などを疑い、上部及び下部消化管造影検
査を施行した。その結果、全結腸にわたる狭小化と造
影剤の停滞を認めたが、確定診断には至らなかった。
その後も嘔吐、多量の胆汁性胃残渣が続くため、日齢 2
に緊急開腹手術を施行した。術中所見では腸回転異常
と全結腸の狭小化を認めた。また切除した小腸および
結腸の病理検索では筋層の Auerbach 神経叢、Meissner
神経叢が確認され、Ach レセプターも正常であった。以
上より、ヒルシュスプルング病は否定され、MMIHS と診
断した。
【考察】本症例は胎児期より巨大膀胱を認めた
ため、後部尿道弁などの先天性閉塞性尿路疾患との鑑
別が困難であったが、消化管造影検査、開腹手術、小
腸および結腸の病理検索等により MMIHS の診断に至っ
た。胎児期の巨大膀胱では本症を念頭に置く必要があ
るものと思われた。児は現在経管栄養と中心静脈栄養
を併せて行っているが、今後、治療に難渋することが
予想される。
P-260
聖マリアンナ医科大学 横浜市西部病院 周産期セン
ター 新生児部門
○大西 奈月、西坂 まゆみ、大野 秀子、吉馴 亮
子、石井 理文、笹本 優佳、瀧 正志
【はじめに】新生児期に胆汁鬱滞を示す疾患は多様で
あるが、早期手術の必要性から CBA の診断は重要であ
る。今回我々は新生児仮死後に胆汁鬱滞性黄疸をきた
した症例を経験したので報告する。
【症例】母 22 歳、
初産。在胎 40 週 0 日。出生体重 3128g、Aps1/4 で出生。
重症新生児仮死のため当院へ新生児搬送となり脳低体
温療法を施行した。施行中は日齢 8 まで塩酸モルヒネ
で鎮静した。日齢 14 より黄緑色便が灰白色便へ変化し
たため精査を行った。T-bil6.1mg/dl、D-bil3.9mg/dl、
GOT89IU/l、GPT42IU/l、γGTP101IU/l、TBA55μmol/l、
各種ウイルス抗体陰性、尿中アミノ酸分析とガスリー
検査は正常であった。エコー所見上は胆嚢が抽出でき、
胆嚢の壁肥厚を軽度認め、肝内胆管の拡張はなく、肝
門 部 の 胆 管 ま で 確 認 可 能 で あ っ た 。 日 齢 30
(T-bil8.0mg/dl・D-bil6.0mg/dl)での胆道シンチは
早期相・30 時間後の相ともに胆管や小腸へ排泄は認め
なかった。しかし絶食期間が長期間(日齢 0~8)であ
った影響や仮死後に胆汁鬱滞を発症する報告が数例あ
り、自然軽快することを期待し経過観察とした。日齢
28 で T-bil 9.7mg/dl、D-bil 6.9 mg/dl は最高点とな
り、それ以降低下傾向にあったため CBA は否定的と判
断 し 日 齢 37 よ り ウ ル ソ デ オ キ シ コ ー ル 酸 (UDCA)
(5mg/kg/day)を開始、日齢 43 より PB(5mg/kg/day)
を開始した。その後速やかに Bil 値は低下し、便色が
黄緑色に変化した。なお、日齢 41 には十二指腸液検査
を行ったが Bil の排泄確認、便中 Bil 排泄(±)、胆道
シ ン チ で 排 泄 は 正 常 で あ っ た 。 日 齢 52 に は
T-Bil3.5mg/dl 、 D-Bil2.7mg/dl 、 GOT121IU/l 、 GPT
76IU/l、γGTP389IU/l となったため、UDCA と PB 内服
継続のまま日齢 56 退院とした。
【考察】仮死後の胆汁
鬱滞性黄疸は本邦でも数例報告されているが臨床上
CBA との早期の鑑別が重要となる。本症例では月齢約1
ヶ月で黄疸の自然軽快を認め最終的には十二指腸液検
査で CBA を否定することができた。
396
心疾患を伴わない無脾症を合併した、腹部
内臓逆位、先天性十二指腸閉鎖症の一例
日本赤十字社医療センター 新生児科 1、日本赤十字社
医療センター 小児外科 2
○谷口 留美 1)、与田 仁志 1)、石田 和夫 2)、矢代 健
太郎 1)、山本 和歌子 1)、遠藤 大一 1)、中島 やよひ
1)
、川上 義 1)
[目的] 心疾患を合併しない無脾症の報告は極めて少な
い。今回我々は、心疾患を伴わない無脾症を合併した
腹部内臓逆位、先天性十二指腸閉鎖症の一例を経験し
たので報告する。[症例] 胎生 30 週より羊水過多、32
週の超音波検査で double bubble sign を認め、消化管
閉鎖症が疑われていた。他院にて在胎 34 週 3 日に自然
分娩にて出生、出生体重 2106g、Apger score 6/8、消
化管閉鎖症の疑いで日齢 0 に当院に搬送入院となった。
入院後施行した腹部単純写真では double bubble sign
を認め、腹部超音波検査、腹部造影 CT では肝臓は両側
右葉パターン、胆嚢は右側に存在、脾臓は同定できな
かった。以上より、先天性十二指腸閉鎖症と診断、腹
部内臓逆位、無脾症候群が疑われた。しかし、入院時
の心臓超音波検査では、動脈管開存以外の心疾患は認
めず、動脈管も日齢 3 には自然閉鎖した。日齢 4 に十
二指腸閉鎖症に対し十二指腸側々吻合術を施行した。
術中所見では、十二指腸は左側で離断、膵組織を挟ん
で右側に肛門側が存在した。術中には脾臓は同定でき
なかった。日齢 38、脾臓シンチグラフィーを施行し、
脾臓を認めなかったため、無脾症と診断した。feeding
も進んで、全身状態が安定したため、日齢 63、術後 59
日目、退院となった。[まとめ] 無脾症候群はほぼ 100%
心疾患を合併し、合併する心疾患が予後に大きく影響
を与えると言われている。この症例では、腹部臓器に
限局して bilateral right sidedness を呈し、心疾患
を認めなかった。心疾患を伴わない無脾症という稀な
症例であるため、文献的考察を含め報告する。
胎便関連性腸閉塞症をきたした超低出生
体重児の双胎例
日本赤十字社医療センター1、日本赤十字社医療センタ
ー 小児外科 2
○青木 良則 1)、佐藤 美紀 1)、矢代 健太郎 1)、与田
仁志 1)、中島 やよひ 1)、遠藤 大一 1)、山本 和歌子
1)
、川上 義 1)、石田 和夫 2)
【はじめに】胎便関連性腸閉塞症に対する治療として
はガストログラフィン注腸が一般的だが、近年上部消
化管からの「はさみうち療法」が有効であったという
報告もみられる。今回我々は、超低出生体重児で生後
早期より腸閉塞を呈し、1児は穿孔をきたして緊急手
術、2児は保存的治療で軽快したという対照的な経過
をたどった双胎例を経験したので報告する。【症例】DD
twin。在胎 20 週に 2 児間の体重差を指摘。28 週 0 日、
第 2 児の臍帯動脈血流の逆流を認め、緊急帝王切開で
出生。母体 MgSO4 投与はなかった。
【1児】体重 824g
の女児で Apgar 5 点(1 分)、挿管(5 分)。日齢1より腹
部膨満、レントゲンでの腸管拡張出現しグリセリン浣
腸開始したが、胎便排泄を認めず。日齢3ガストログ
ラフィン注腸したが拡張した腸管まで造影されず、翌
日透視下に注腸造影検査施行。回盲部から回腸の途中
まで造影されたが、その後腹腔内に造影剤の漏出認め、
腸管穿孔にて緊急手術となった。回腸末端より 13.7cm
に穿孔部を認め、胎便が充満した腸管が約 30cm 以上に
わたってみられたが、明らかな閉鎖や狭窄はなかった。
腸瘻造設し手術終了としたが、現在も腸瘻管理、感染
コントロールに難渋している。
【2児】体重 508g の男
児で Apgar 4 点(1 分)、挿管(5 分)。出生直後より腹部
膨満。日齢 1 よりグリセリン浣腸したが胎便排泄を認
めず、胃洗浄、胃内持続吸引を開始、日齢 2 より腸管
拡張出現、その後も胎便排泄なく、日齢 3 にベッドサ
イドでガストログラフィン注腸施行、横行結腸まで造
影されたが、有効な胎便排泄はえられず。その後も連
日注腸施行。日齢 8 より胃管からのガストログラフィ
ン注入開始。翌日レントゲンで造影剤の十二指腸以降
への流入が認められた。以降連日「はさみうち療法」
施行。日齢 10 のレントゲンでは造影剤が拡張腸管内に
到達した。その後胃管を進めたところ十二指腸まで到
達したのでそこに留置、以降これを使用して注入。日
齢 13、非常に粘調な胎便排泄あり。日齢 14 より注入栄
養を開始できた。
【考察】胎便関連性腸閉塞症の治療と
して、「はさみうち療法」は有効であり、十二指腸に留
置したチューブを使用しての減圧・注入がより有効と
考えられた。2児は排便まで2週間近く要し、手術も
考慮されたが、最終的には穿孔をきたすことなく保存
的治療で改善が見られた。文献的考察を含めて報告す
る。
P-261
P-262
397
P-263
メッケル憩室穿孔の1新生児例
NICU 入院児に発症した肥厚性幽門狭窄症
の4例
奈良県立医科大学附属病院 周産期医療センター 新
生児集中治療部門
○新居 育世、高橋 幸博、西久保 敏也、釜本 智
之
肥厚性幽門狭窄症(HPS)は、生後4週以内におこり、
その発症原因として遺伝的要因が推察されているが明
らかではない。当院 NICU で嚥下障害などの基礎疾患認
める長期入院患児において、胃チューブでの栄養管理
中に胃残さの多い児に HPS を認めることがある。また、
慢性肺疾患時に服用するエリスロマイシン(EM)が HPS
をひきおこすという報告も散見される。今回我々は、
さまざまな基礎疾患をもち HPS を発症した4例を経験
したので報告する。症例1:低酸素性虚血性脳症。在
胎 41 週1日 3185g で出生。重症新生児仮死のため、脳
低温療法、硫酸マグネシウム療法を施行。入院時から
嚥下障害や胃食道逆流がみられた。生後 1 か月頃から
胃残さが増加し、ED チューブ挿入時、腹部エコーを施
行したところ、幽門筋の肥厚を認めた。EM 内服なし。
症例2:早産、低出生体重児、喉頭軟化症、気管軟化
症、染色体異常。在胎 33 週5日 1946g で出生。呼吸障
害のため長期呼吸管理を要している。生後2か月頃に
突然胃残の増加、嘔吐を認めるようになり、腹部エコ
ーを施行したところ幽門筋の肥厚を認め、手術を行な
った。EM 内服あり。症例3:6 番染色体異常、嚥下障
害、ヒルシュスプリング病。在胎 39 週4日 2058g で出
生。PPHN のため、呼吸管理を要した。ヒルシュスプリ
ング病のため、直腸へのチューブ留置と洗腸を要し、
胃チューブの胃残は多く、体重増加不良を認めた。1
歳時に腹部エコーを施行したところ、幽門筋の肥厚を
認め手術を行なった。EM 内服あり。症例4:DD 双胎第
2子。極低出生体重児、気管食道瘻。在胎 37 週3日
1319g で出生。生後ミルクの消化は良好であったが、生
後2か月頃から喘鳴、嘔吐、胃チューブ挿入にて、胃
残の増加、胃内の空気の増加を認め、腹部エコーで幽
門筋の肥厚を認めた。硫酸アトロピンの内服を行ない
治癒した。EM 内服なし。考察:今回、当院 NICU 長期入
院例で HPS が多発した。HPS の病因は明らかではない
が、EM との関連が注目されている。当院では4例中2
例のみであった。生後早期の幽門筋の慢性的な刺激が
その発症要因と推察され、今後さらに症例を集め検討
する必要がある。また、長期入院患児の増加に伴い今
後同様の発症が予想される。HPS も念頭におき、積極的
に腹部エコーを施行し症例を集積していく予定であ
る。
P-264
聖隷浜松病院 総合周産期母子医療センター 新生児
部門
○加藤 晋、大木 茂、白井 憲司、道和 百合、菊
池 新、杉浦 弘、上田 晶代、西尾 公男
【はじめに】新生児の消化管穿孔には様々な原因があ
り、特に早産児では適切な診断と治療がなされない場
合重篤な経過をたどる事もある。今回我々は日齢 1 に
気腹を呈し、日齢 7 の開腹術でメッケル憩室の消化管
穿孔と診断した新生児例を経験したので報告する。
【症例】日齢 1 の男児。1 絨毛膜性 1 羊膜性双胎で母体
管理されていた。在胎 33 週 2 日、出生体重 1798g、Apgar
Score8/8、胎児適応の予定帝王切開で出生。呼吸障害
を認め気管挿管、胸部単純写真で Bomsel1 度の RDS を
認めサーファクタント 1V を気管内投与した。日齢 1 に
撮影した抜管後のレントゲン写真で気腹を認めたが、
全身状態が保たれていたため 24G 血管留置針で腹腔穿
刺、脱気、ドレナージを行った。以後、人工呼吸器管
理、胃内持続吸引(10cmH2O)、絶飲食として腹部症状
の経過を観察したが気腹が軽快しないため、日齢 7 に
開腹手術を行った。術中所見は、回盲部から 15cm ほど
口側にメッケル憩室を認め、先端部の穿孔とそれに伴
う内容物による腹腔内汚染、回腸の癒着、腹水貯留を
認めた。メッケル憩室切除術を行い、以後順調に経腸
栄養確立し、日齢 36 に退院した。【考察】Grosfeld は
新生児期の消化管穿孔について、壊死性腸炎が 41.9%、
特発性回腸穿孔が 21.8%で頻度が高いが、他の原因に
関してはまれと報告している。文献的にも新生児期に
メッケル憩室穿孔をきたしたという報告は非常に稀
で、症例報告が散見されるのみである。メッケル憩室
穿孔の原因は様々な要因が考えられる。病理学的には、
穿孔部位に炎症を伴っているとする報告があり、今回
の症例でも憩室の病理は回腸粘膜の急性炎症所見であ
った。異所性胃粘膜は 50-80%に合併し、潰瘍性炎症と
穿孔の関連も指摘されているが、本例では認められな
かった。血流因子も考えられるが、その場合は母体内
での低酸素エピソード時に、血流の再分布現象が起き
て腸間膜動脈血流が不足し、憩室の虚血から穿孔に至
ると考えられる。メッケル憩室は様々な症状を呈して
診断に苦慮することが多く、急性腹症の鑑別診断とし
て念頭に置く必要がある。また、憩室炎自体や穿孔が
新生児期では敗血症や大量出血、低容量性ショックか
ら致命的になりうるため注意が必要である。
398
経管栄養チューブ迷入が原因と考えられ
る縦隔気腫を合併した超低出生体重児の
一例
日本大学 医学部 付属板橋病院 小児科
○木多村 知美、藤田 英寿、岡橋 彩、嶋田 優美、
細野 茂春、湊 通嘉、岡田 知雄、麦島 秀雄、高
橋 滋、原田 研介
<はじめに>経管栄養チューブによる消化管穿孔の報
告は稀である。今回、我々は経管栄養チューブが縦隔
内に迷入し、縦隔気腫を合併した超低出生体重児の一
例を経験したので報告する。<症例>母体は 38 歳、3
回経妊 2 回経産。妊娠性高血圧症候群の為入院管理さ
れていた。患児は在胎 26 週 4 日、臍帯血流が乏しくな
り緊急帝王切開で出生した。出生体重 633g、Apgar
score 4/6 点。出生後 10 分で気管挿管し、サーファク
タントを投与し、高頻度人工換気法による呼吸管理を
行っていた。気管挿管後、3Fr のポリブタジエン性栄養
チューブを挿入した。日齢 10 に栄養チューブの交換後
の胸腹部エックス線写真で栄養チューブの走行異常と
縦隔気腫を認めた。栄養チューブが咽頭または食道を
穿孔し縦隔内に迷入したと考えた。栄養チューブを抜
去し再挿入し、その後の確認では栄養チューブの走行
異常は認めなかった。穿孔部位の直視可による検索は
行わず保存的治療を目的に、日齢 15 まで禁乳とした、
予防的に 5 日間抗生剤投与した。消化管への空気の流
入を減らす目的で日齢 18 まで鎮静を行い、高頻度人工
換気法による呼吸管理を継続した。縦隔気腫は日齢 19
に消失した。日齢 15 よりミルクを再開し経過を観察し
たが縦隔炎等の合併症は認めず、日齢 23 に人工換気か
ら離脱した。<考案>超低出生体重児における医原性
の栄養チューブの迷入は調べた限りでは5例の報告が
ある。報告例と合わせて診断方法や管理等を考察する。
P-265
P-266
会長賞
胎児行動評価を行った Arnold-Chiari 奇
形症例の転帰に関する検討
九州大学大学院 医学研究院 生殖病態生理学
○諸隈 誠一、福嶋 恒太郎、湯元 康夫、月森
巳、中野 仁雄
清
【目的】Arnold-Chiari 奇形は小脳と脳幹が下方に偏位
し,脊柱管内に下垂した状態である.予後の判定に関し
ては,合併する水頭症の有無と程度など形態診断を用
いて行われてきたが満足できるものではない.本研究
では Arnold-Chiari 奇形症例に胎児行動評価を用いた
脳機能診断を行い、後方視的にその有用性を検討した.
【方法】対象は 1999 年から 2003 年までに当施設で妊
娠分娩管理を行った Arnold-Chiari 奇形 6 例である. 本
研究に関して全ての妊婦から文書による同意を得た.
妊娠 35 週以降に超音波断層法により胎児行動の観察を
行った.評価に用いた指標は 1.四肢の運動,2.呼吸様運
動(BM),3.眼球運動(EM)期と無眼球運動(NEM)期の交代
性,4.急速眼球運動と緩速眼球運動の共存,5.NEM 期に
同期する規則的な口唇運動,の 5 項目である.形態評価
として大脳半球幅側脳室幅比(LVW/HW)を用いた.参照
する転帰として短期は Apgar スコアと脳室-腹腔(VP)シ
ャント術の有無を,長期は 2 歳以上での発達指数(DQ)を
検討項目とした.【成績】胎児行動評価において異常を
示した症例は 2 例であった.1 例は眼球運動が散発的で
指標 3,5 に異常を認め,1 例は指標 5 が認められなかっ
た. Apgar スコアの 5 分値は上記の、指標 3,5 に異常を
認めた症例が 6 点であったが,その他の症例はすべて 8
点以上であった.VP シャント術は 6 例中 4 例に施行さ
れ、このうち 2 例は胎児行動異常を認めた症例であっ
た.発達指数は 2 例が DQ10,DQ34 であった.一例は胎児
行動評価の指標 3,5 に異常を認めた症例で,他は指標に
異常が認められなかった.その他の症例では DQ100 以上
であった.LVW/HW が高い 2 例は胎児行動評価で異常で
あった症例と同様であった.【結論】Arnold-Chiari 症
例の脳機能診断と形態診断は一致率が高かった.しか
し,何れにおいても擬陰性・擬陽性の症例が存在した.
脳機能評価は介在する種々の要因を考慮したうえでの
さらなる検討に値する.
399
出生後の酸化的脳障害を抑制可能な経母
体的メラトニン投与時期の検討
愛知医科大学 医学部 産婦人科 1、高知大学 医学部
産科婦人科 2、高知県立幡多けんみん病院 産婦人科 3
○渡辺 員支 1)、篠原 康一 1)、若槻 明彦 1)、永井 立
平 2)、濱田 史昌 3)
【目的】胎児期に発生した酸化ストレスは、出生後の
脳障害と関連していることが注目されている。メラト
ニン(M)は、抗酸化作用を有し、胎盤通過性が良好なこ
とから、酸化ストレス発生前からの予防的経母体投与
が胎仔ラットの酸化的脳障害を予防することを報告し
てきた。しかし,臨床的には,酸化ストレス発生後に
治療を要することがほとんどであり,酸化ストレス発
生直後にメラトニンを投与することで、酸化的脳障害
を予防することも報告してきた。今回は,酸化ストレ
ス発生後何時間までにメラトニン投与すれば酸化的脳
障害を抑制可能かを検討した。
【方法】胎仔に酸化スト
レスを加えるため、妊娠 16 日ラットの子宮動静脈を 30
分虚血後、再灌流させた虚血・再灌流(R)群、虚血・再
灌流後、0,1,2,3,6,12,24 時間後に 10mg/kg の M
を腹腔内に注入後、妊娠期間中 20μg/ml の M 水を自由
飲水させた(M)群、sham ope の control(C)群の 3 群に
分別した。3 群において、出生後日齢 1 の新生仔ラット
を用い、(1)脳 Mitochondria(Mt)を採取し、Mt 機能の
指標である呼吸活性(RCI)を酸素電極法で測定した。
(2) 脳を摘出し、海馬 CA1、CA3 領域の組織学的検討を
おこなった。【成績】(1)RCI は、R 群では C 群に比較し
有意な低値を示したが、M 群では、虚血・再灌流後、0,
1 時間後は C 群と差を認めず、2,3,6,12,24 時間後
では有意な低下を示した。(2) R 群で認めた 脳海馬
CA1、CA3 領域の組織障害は M 群では、虚血・再灌流後、
0,1時間後では軽度であったが、2,3,6,12,24 時
間後では R 群と同様に組織障害を認めた。
【結論】酸化
ストレス発生後の経母体的 M 投与は、酸化ストレス発
生後1時間以内であれば、出生後の酸化的脳障害を抑
制できる可能性が示唆された。
胎児肺成熟度判定における MRI の有用性
に関する研究
金沢医科大学 生殖周産期医学教室
○篠倉 千早、藤田 智子、早稲田 智夫、渡邊 之
夫、富澤 英樹、牧野田 知
P-267
P-268
【目的】胎児肺の成熟は出生後の予後に大きく関係し
ている。サーファクタントの投与を行っても RDS が改
善されない新生児を時に認めるが,これは胎児の肺が
未熟でサーファクタントに反応できないことを意味し
ている。胎児の肺から分泌される肺液は肺の成熟に必
須であり,肺の水分含有量が少ないと肺の成熟は難し
い。そこで,胎児肺の成熟度を胎児の肺の水分量で推
定できないかと考え,MRI の T2 強調画像上で肺と肝臓
の信号強度比を検討した。
【方法】1998 年 1 月から 2006
年 12 月までの期間に、当科で妊娠 22 週以降に何らか
の理由で胎児の MRI 撮影を施行し,分娩に至った 45 児
47 症例を患者の同意を得て対象とした。胎児肺の形成
障害を引き起こすと考えられる染色体異常症例は除外
した。T2 強調画像において,胎児の肺と肝臓の信号強
度を同一画面上で比較し,信号強度比を算出した。肺
-肝臓信号強度比と出生後の呼吸障害の有無,また撮
影時の妊娠週数との関係について検討した。MRI 撮影は
half fourier single shot turbo spin echo (HASTE)
法で行ない,T2 強調画像において胎児肺と肝臓の信号
を測定し,肺-肝臓信号強度比を求めた。
【成績】出生
後呼吸障害を呈さなかった群の肺-肝臓信号強度比は
2.25±0.31(Mean±SD,以下同じ)であり,呼吸障害
を呈した群の 1.62±0.31 に比し有意に高かった。呼吸
正常群(37 児 39 症例)で相関関係を検定したところ,
回帰直線 y=0.05x+0.644,相関係数 0.53 であり有意な
相関関係を認めた(P<0.001)
。また,妊娠中2度 MRI
撮影を行った児は2例であった。27 週と 34 週で2度
MRI を施行した児では,肺-肝臓信号強度比が 1.63 か
ら 2.01 へと上昇した。また 28 週と 35 週で2度 MRI を
施行した児では 2.03 から 2.15 に増加した。
【結論】MRI
によって診断される胎児肺の成熟が出生後の予後因子
として重要であることが明らかにされた。
400
ART 後妊娠における胎児・胎盤発育:IUGR
と遺伝子発現
東邦大学 医療センター 大森病院 産婦人科 リプ
ロダクションセンター1、東邦大学 医療センター 大
森病院 産婦人科 2
○片桐 由起子 1)、青木 千津 2)、石原 優子 2)、中上
弘茂 2)、八尾 陽一郎 2)、前村 俊満 2)、竹下 直樹 2)、
間崎 和夫 2)、田中 政信 2)、森田 峰人 2)
【目的】1983 年に国内初の IVF 児が誕生して以来、現
在 国 内 で は 出 生 児 67 人 に 1 人 が 生 殖 補 助 技 術
(Assisted Reproductive Technology : ART)による
出生であると報告されるほどに ART は広く普及してい
る。しかし、近年遺伝子発現異常に関与した疾患が ART
による妊娠で高頻度に発症するという報告がなされ、
また遺伝子発現は特定の疾患のみならず、胎児・胎盤
発育に関与することも報告されている。そこで今回
我々は、出生児体重および胎盤重量に着目し検討を行
い、また胎児・胎盤発育に関与する遺伝子発現につい
ても検討を行った。
【方法】2004 年 1 月 1 日より 2006
年 3 月 31 日までに当院で分娩となった単胎、正期産
1,272 例を対象とし、ART 後妊娠群(ART 群)、自然妊娠
群(自然群)に分類し出生児体重、胎盤重量を後方視的
に検討した。対象のうち当大学倫理委員会倫理申請に
則りインフォームドコンセントの得られた 69 例の胎盤
に つ い て 、 イ ン プ リ ン ト 遺 伝 子
(IGF2,H19,KCNQ1OT1,CDKN1C)発現を分析した。【成績】
ART 後妊娠例は 69 例(5.4%)であった。ART 群と自然群
の比較において(ART 群 vs.自然群)、出生児体重は
2,905.1±471.9g vs.3,082.3±601.1g(p<0.034)、胎
盤重量は 582.3±118.5g vs.610.2±142.5g であった。
対象のうち ART 後妊娠の 1 例に特発性 IUGR を認め、胎
盤の遺伝子発現分析において H19 と CDKN1C において発
現抑制を認めた( p <0.001、 p <0.005)。【結論】ART
後妊娠において胎児・胎盤発育に問題はないと思われ
たが、統計学的に ART 後妊娠において出生児体重は有
意に小さかった。また、ART 後 IUGR 症例において胎盤
の遺伝子発現に変化を認めたことより IUGR に遺伝子発
現が関与している可能性が懸念され、周産期の観点か
ら ART の遺伝子発現への影響解析が重要であると思わ
れた。
胚移植による単胎はハイリスクではない
のか?
名古屋第一赤十字病院 総合周産期母子医療センター
産婦人科 1、名古屋第一赤十字病院 総合周産期母子医
療センター 新生児科 2
○南 宏次郎 1)、宮崎 顕 1)、吉田 加奈 1)、竹内 幹
人 1)、久野 尚彦 1)、水野 公雄 1)、古橋 円 1)、石川
薫 1)、鈴木 千鶴子 2)、鬼頭 修 2)
【目的】生殖医療の普及により平成 16 年の本邦におけ
る胚移植による出生児数は 18,168(日産婦学会報告
2006)で約 61 人に 1 人(1.6%)の赤ちゃんが胚移植
ベビーという時代になっている。先回第 42 回当学会で
当施設よりも「胚移植による双胎の周産期成績は?」
と報告したように、胚移植による多胎がハイリスクで
あり且つ周産期医療施設の桎梏とかしている現状は広
く認識され、最近では生殖医療サイドで選択的単一胚
移植などの努力が払われ始めている。今回は、それで
は『胚移植による単胎はハイリスクではないのか?』
分析・検討を加えてみた。
【対象】当施設の過去 5 年間
(2002.4~2007.2)の周産期データを分析した。単胎
総分娩件数は 4,338、帝切数は 903 で帝切率は 21%、
早期産数(妊娠 36 週未満)は 721 で早期産率は 17%、
母体搬送分娩件数は 1,040 で全体の 24%、周産期死亡
率(後期新生児死亡・乳児死亡を含む)は 18.6%であ
った。単胎総分娩件数 4,338 の内、胚移植による単胎
は 120(以下 A 群)で全体の 2.8%を占めていた。この A
群とそれ以外の単胎 4,218(以下 B 群)の帝切率、早期
産率、周産期死亡率などを比較・分析した。なお当施
設での胚移植の開始は 2005.9~で、対象の胚移植単胎
分娩 120 の内1のみが自施設施行例である。【成績】1.
帝切率;A 群 39%、B 群 20%であった。2.早期産率;
A 群 25%、B 群 16%であった。3.母体搬送分娩の占め
る頻度;A 群 37%、B 群 24%であった。4.周産期死亡
率;A 群 66.7‰、B 群 17.2‰であった。A 群の周産期死
亡 8 例の原因は胎児奇形 6 例、超早期産 2 例であった。
なお、単胎総妊娠 4,338 の内 4 例に母体死亡が認めら
れ、その 1 例は A 群の胚移植による妊娠・分娩であっ
た。
【結論】胚移植による単胎は、一般の単胎に比較し
て帝切率、早期産率、母体搬送の占める頻度はいずれ
も高い傾向にあり、周産期死亡率は約 4 倍でハイリス
クと推測された。
P-269
P-270
401
P-271
会長賞
胎生期低栄養マウスの心リモデリングに
おける局所 renin-angiotensin 系の関与
P-272
京都大学 産婦人科 1、独立行政法人国立病院機構大阪
医療センター2、三重大学 産婦人科 3、独立行政法人国
立病院機構京都医療センター4
○藤井 剛 1)、由良 茂夫 1)、最上 晴太 1)、川村 真
1)
、伊東 宏晃 2)、佐川 典正 3)、藤井 信吾 4)
【目的】胎生期低栄養は成人期の心血管障害(CVD)罹患
率を上げることが疫学的に報告されている。一方、CVD
発症には心臓局所での renin-angiotensin(R-A)系が重
要な役割を果たす。今回、母獣摂餌制限による胎仔発
育制限モデルを用いて、心臓における angiotensinogen
(Ang)の遺伝子発現の解析及び angiotensin II (AII)
の免疫染色を行い、さらに A II 受容体 AT1 拮抗薬であ
る candesartan (CAN)を投与し、CVD リスク因子である
心肥大や冠動脈周囲線維化を指標とする心臓リモデリ
ングの形成に対する影響を検討した。【方法】施設内動
物実験委員会承認のもと、妊娠マウスを自由摂餌(NN
群)ならびに摂餌制限(妊娠 10.5 日より対照群の 70%)
(UN 群)に調整した。(1)生後 16 週齢の左心室におけ
る Ang 遺伝子発現を定量 PCR 法にて検討し AII の免疫
染色を行った。(2)10 週齢より CAN、塩酸ヒドララジン
(HYD)、vehicle(VEH)の持続投与を行い、収縮期血圧
(SBP)の推移と 18 週齢での心重量/体重比(mg/g)の測定
および冠動脈周囲線維化の評価(線維化部分断面積/血
管断面積)を行った。【成績】(1)UN 群 Ang 遺伝子発現
は NN 群の 136%と有意な亢進を認め(p<0.05)
、心臓
AII 免疫染色も亢進傾向を認めた。(2)9~17 週齢の UN
群 SBP は、NN 群に比べ約 9-13mmHg の有意な上昇を示し
た(p<0.01)。UN-CAN 群 SBP は UN-VEH 群に比べ約 9mmHg
の有意な低下を認めた(p<0.01)。心重量/ 体重比は
NN-VEH 群 (4.30 ± 0.12) に 比 し て UN-VEH 群 (5.08 ±
0.16)は有意に高値を示した(p<0.01)が、UN-CAN 群
(4.13±0.10)では UN-VEH 群に対して有意に低下(p<
0.01)していた。冠動脈周囲線維化は NN-VEH 群(25.1
±0.77%)に比して UN-VEH 群(27.5±0.10)は有意に亢進
していた(p<0.05)が、UN-CAN 群(24.6±0.77)では
UN-VEH 群に対して有意に低下(p<0.05)していた。
UN-HYD 群では UN-VEH 群に対して有意な SBP 低下を認め
たが、心重量/ 体重比の低下はみられなかった。
【結論】
胎生期の低栄養に起因する成長後の心肥大および冠動
脈周囲線維化の亢進を指標とする心臓リモデリングの
亢進には血圧上昇以外に、局所 R-A 系が関与する可能
性が示唆された。
超低出生体重児(特に子宮内発育遅延児)
の長期予後
北海道立小児総合保健センター 新生児科 1、札幌東豊
病院 小児科(さっぽろとうほうびょういん しょう
にか)2
○新飯田 裕一 1)、石川 淑 1)、小林 正樹 1)、若松 章
夫 2)
【目的】超低出生体重児のなかで身長、体重ともに 10%
タイル以下の子宮内発育遅延(IUGR)児について発育お
よび発達予後について検討した。
【対象と方法】1992 年 1 月から 2003 年 12 月までに当
NICU に日齢 0 から入院した超低出生体重児は 149 例で
あった。このうち在胎週数別出生時体格基準値におい
て体重および身長が 10 パーセンタイル未満の児は 19
例(12%)であった。19 例中 2 例は、新生児期に死亡した。
内訳は、18 トリソミー1 例、他の 1 例は脳実質出血が
死因であった。自宅退院した 17 例中に多胎は含まれる
が重大な先天奇形は含まれていなかった。このうち 3
歳以上まで外来フォローが可能であった 15 例について
身体発育、運動発達、知的予後などについて診療録か
ら後方視的に調査した。発達検査を施行した 7 例は田
中・ビネー知能検査 5 例、新版 K 式発達検査 1 例、不
明1例であった。IUGR に関連したと思われた母体合併
症、胎盤所見および周産期の合併症についても補完的
に調査した。
【結果】対象 15 例の在胎週数は 30 週 0 日~37 週 3 日
(中央値:31 週 6 日)
、出生体重は 470g~995g(中
央値:836g)
。15 例中 8 例が単胎、7 例が多胎であっ
た。周産期合併症としては、胎児または新生児仮死 5/15
例、持続的な低血糖症 6/15 例などであった。発育につ
いては、身長が 3 歳の時点で-2SD 以内に到達した例が
11/15 例(73%)、頭囲が修正 2 歳までに-2SD 以内に到達
した例が 9/15 例(60%)であった。脳性麻痺およびてん
かん例はなかった。知的発達は、4~5 歳で発達検査を
施行した 7 例中、正常 5 例(IQ:85~109),境界領域 2 例
であった。その他の 8 例については、4 歳以上において
1 例は精神遅滞を認めたが残り 7 例は診療録上は良好
であった。知的予後と多胎または頭囲改善の有無に有
意な関連を見出せなかった。知的予後が不良であった
のは、双胎で他児との子宮内発育差が強かった児 2 例、
周産期合併症で胎児・新生児仮死と持続的低血糖症の
両者を合併した児3例であった。
【結語】超低出生体重(IUGR)児の生存率および運動発
達は良好であった。しかし知的予後については、重度
の遅滞は少ないものの境界領域および境界領域に近い
正常児が多い印象を受けた。よって長期的な追跡が必
要と思われた。
402
極低出生体重児における予定日までの摂
取エネルギーおよび体重増加と長期予後
との関連
大分県立病院 総合周産期母子医療センター 新生児
科
○古賀 寛史、松本 直子、高橋 瑞穂、飯田 浩一
【目的】極低出生体重児の予定日までの摂取エネルギ
ーと体重増加が長期予後に与える影響を明らかにす
る。
【対象】
1996 年 1 月から 2000 年 6 月までに当院 NICU
に入院し生存退院した極低出生体重児 218 例のうち、
先天異常や外科的疾患を除き、6 歳時に知能検査を行っ
た 125 例を対象とした。
【方法】診療録およびデータベ
ースを用いて後方視的に検討を行った。出生時の体格
に よ り 、 appropriate-for-dates ( AFD ) 児 、
small-for-dates(SFD)児、light-for-dates 児の 3
つに分けた。また、予定日の体重を標準体重と比較し、
-2S.D.以上の正常群と-2S.D.未満の発育不良群に分
けた。上記に従い、生後の発育経過によって対象を 6
群に分け、そのうち AFD 正常群 36 例、AFD 発育不良群
51 例、SFD 発育不良群 31 例の 3 群について在胎週数、
出生体重、入院中の摂取エネルギー、身体発育、知能
指数(intelligence quotient;IQ)を比較した。【結
果】出生時の在胎週数は AFD 正常群 29.8±1.8 週、AFD
発育不良群 27.6±2.3 週、SFD 発育不良群 31.2±4.9
週と各群間で差を認めた。出生体重は AFD 正常群 1293
±151g、AFD 発育不良群 991±216g、SFD 発育不良群
1115±284g と同じく各群間で差を認めた。AFD 発育不
良群の入院中の摂取エネルギーは日齢 7、14、28 のす
べての時点で他 2 群よりも有意に少なかった。SFD 発育
不良群の摂取エネルギーは AFD 正常群と同等以上であ
った。6 歳時体重は AFD 正常群が他 2 群と比較し有意に
大きかった。知能指数は全検査 IQ、言語性 IQ、動作性
IQ のいずれも AFD 正常群が他の 2 群より有意に高かっ
た。3 群全体の多変量解析では 6 歳時体重に影響する因
子が予定日体重(p<0.001)であり、6 歳時全検査 IQ
に影響する因子が予定日体重(p<0.01)と日齢 28 の
摂取エネルギー(p=0.04)であった。出生体重や在胎
週数との関連性は認められなかった。【結論】予定日ま
での体重増加が不良である極低出生体重児は 6 歳時の
身体発育、知的発達に関してハイリスクである。
P-273
P-274
新生児大動脈血管特性と胎盤循環機能と
の関連
東海大学付属病院 総合周産期センター
○東郷 敦子、森 晃、三塚 加奈子、近藤 朱音、
内田 能安、西方 準一郎、野村 雅寛
【目的】胎盤血管抵抗の増加は胎児右心後負荷の増加
に関連する。これまで胎児発育過程での大動脈血管特
性については報告されていない。今回我々は、胎盤機
能不全による右心後負荷増加を認め出生した新生児の
腹部大動脈血管の硬化度について検討した。【方法】調
査は十分なインフォームドコンセントのもと、正常発
育新生児(臍帯動脈ドップラー収縮期血流速度/拡張
期血流速度 A/B ratio 正常)65 例(うち早産児 32 例)、
A/B ratio 95 percentile 以上の血管抵抗増加を認め
る胎盤機能不全新生児 51 例を対象とし施行した。超音
波エコートラッキングシステム法を用いて、出生後 2
時間以内に新生児腹部大動脈血管径拍動波形と血圧か
ら動脈硬化指数 In(収縮期圧 Ps/拡張期圧 Pd)/{収
縮期径 Ds-拡張期径 Dd/Dd}から算出した。【成績】
正常群では、出生週数の進行により Ds と Dd 及び Ps と
Pd が増加し、In の増加を認めた。
(3.9±0.4、mean±
SD)胎盤機能不全群では、正常群と比較して Ps、Ds が
低値で、In が有意に増加していた。(5.4±1.0、p<
0.001、ANOVA) In が 95th percentile 以上を呈した
51 例中 31 例の児の臨床学的予後は、Non-reactive FHR
monitoring、低出生体重、呼吸障害、代謝障害などに
よる NICU 管理など有意な悪化を呈した。
【結論】胎盤
血管抵抗の増加による胎児右心後負荷増加は、腹部大
動脈の血管硬化度増加を引き起こし、新生児予後に関
連すると考えられた。
403
生後早期に白血球増多をきたした超低出
生体重児の臨床像と予後
倉敷中央病院周産期母子医療センターNICU
○西田 吉伸、川口 敦、西 恵理子、澤田 真理子、
渡部 晋一、馬場 清
2003 年出生の極低出生体重児の 3 歳時予
後
福岡大学病院 総合周産期母子医療センター 新生児
部門
○林 仁美、木下 竜太郎、太田 栄治、森 聡子、
小川 厚、雪竹 浩、廣瀬 伸一
極低出生体重児に対する総合周産期センターネットワ
ークの統一プロトコールによる外来フォローを当院で
も昨年より開始した。今回、当院での外来フォローの
現状を明らかにするとともに、2003 年に出生した極低
出生体重児の 3 歳時の予後について検討したので報告
する。
【対象と方法】
2003 年に当院で出生した出生体重 1500g
未満の児 51 名のうち転院した 4 名、死亡退院した 12
名を除く 35 名について、3 歳時予後について検討した。
【結果】35 名のうち退院後に 2 名が死亡していた。転
居や里帰りなどにより他院でフォローを受けた者が 4
名、drop out した者が 2 名、3 歳時に未受診が 2 名だ
った。最終的に当院での定期フォローを受けていたの
は 35 名中 25 名(71%)だった。25 例の出生体重は平
均 1002g(628~1467g)
、在胎週数は平均 28.6 週(23
~33 週)であった。施行した発達検査は新版K式 17
名、遠城寺式 6 名、検査不可能 2 名だった。
極低出生体重児の 3 歳検診時の身体発育については、
平均体重 12.2kg(8.3~16.4kg)
平均頭囲 48.7cm
(44.7
~51.7cm)であった。運動発達遅滞を認めた症例は 3
例でそのうち 2 例は脳性麻痺、1 例は脳性麻痺疑いであ
った。脳性麻痺のうち歩行不能例が 1 例、失調性歩行
が 1 例であった。行動評価に関しては多動 1 例、自閉
症疑い 1 例であった。発達検査を施行できた 23 名の全
検査DQの平均は 93.7 であった。
発達検査で異常があった症例は 6 例、そのうち 2 例が
MRI 異常(両側 PVL1例、脳室拡大1例)を伴っていた。
3 歳までにフォローアップMRIを施行できた 6 例中
異常所見を認めたのは 4 例で、うちわけは PVL 2 例、
cerebral atrophy1 例、脳室拡大 1 例であった。MRI
異常所見を認めた 4 例中、正常発達は 2 例、発達遅滞 1
例、発達境界 1 例であった。
【考察】新しい方法のフォローアップ体制への移行は
比較的順調だった。しかし新版K式が行えていない例
が 6 例あり、院内でのシステムの徹底が必要だった。
今回の検討では症例により発達検査方法が異なるた
め、現状把握にとどまり、比較検討はできなかった。
今後は症例を集積し、周産期因子などの分析を行い、
新生児医療にフィードバックすることが課題である。
P-275
P-276
【はじめに】極低出生体重児が新生児早期に著しい白
血球増多をきたすことは稀なことではない。また、こ
れらの例が慢性肺疾患の発症と関連するという報告も
みられる。今回、我々は、当院へ入院した児のうち生
後早期に白血球増多をきたした超低出生体重児につい
て臨床的検討を行った。
【対象・方法】2004 年から 2006
年までの 3 年間に当院 NICU に入院した出生体重 1000g
未満の超低出生体重児 78 例のうち、生後 1 週間以内に
末梢血白血球数増多がみられ、好中球数が 30000 以上
となった児を対象として、周産期因子、症状、予後に
ついて検討した。在胎週数、出生体重、Apgar score 、
呼吸窮迫症候群(RDS)、動脈管開存(PDA)、インドメ
サシン投与、脳室内出血(IVH)、慢性肺疾患(CLD)、
酸素投与期間、人工換気期間、出生前、出生後ステロ
イド使用、多胎、IgM 値、胎盤病理、母体感染症、PROM
等について検討した。【結果】生後早期に末梢血で好中
球数が 3 万以上に増加した児は 14 例(17.9%)あった。
平均在胎週数 24±1.6 週、平均出生体重は 676±107g
で あ っ た 。 分 娩 前 の 母 体 CRP は 全 例 陽 性 で 平 均
3.8mg/dL であった。出生前ステロイドは 5 例(36%)に
行われていた。全例ともに生後早期の日齢 3 までに最
高値をとっており、最高となった白血球数の平均値
54600±17105 で、最高値は 96000 であった。14 例のう
ち 4 例(28.6%)が経過中に敗血症などで死亡した。生
存退院した 10 例の人工換気日数はそれぞれ平均 51±
19 日であった。10 例とも慢性肺疾患と診断され、8 例
が CLD1型あるいは 3 型で、2 例が 2 型であった。1 例
で在宅酸素療法を導入した。PVL 発症例はなかった。今
回の対象症例に IgM 高値例はみられなかった。胎盤病
理が検索し得た 12 例のうち絨毛膜羊膜炎(CAM)は 10
例にみられた。CAM 症例のうち臍帯炎を合併しているも
のは 10 例中 3 例であった。2 例で胎盤病理に異常所見
は認められなかったが、このうち 1 例の児はカンジダ
感染症を発症した。
【考案】極低出生体重児の類白血病
反応については出生前からのサイトカンの関与がいわ
れている。今回の検討では、より未熟な週数で出生し
た児ほど白血球増多の傾向は強くみられた。IgM 高値例
がなかったことや、胎盤病理で必ずしも CAM が高度で
なかったことはこれまでより、早い経過で娩出に至っ
ている可能性が高いと思われた。これらが長期予後も
改善しているかどうかの検討が今後必要と思われた。
404
産科分娩施設を持たない新生児三次医療
施設における在胎 24 週未満児の臨床的検
討
静岡県立こども病院 新生児科
○臼倉 幸宏、五十嵐 健康、湊 晃子、児玉 律子、
宗像 俊
P-277
P-278
久留米大学病院 NICU における極低出生体
重児の管理成績および発達予後
久留米大学病院 総合周産期母子医療センター 新生
児部門 1、麻生飯塚病院 小児科 2、久留米大学病院 小
児科 3
○藤野 浩 1)、前野 泰樹 1)、岩谷 麻実 3)、神戸 太
郎 1)、廣瀬 彰子 1)、神田 洋 1)、原田 英明 2,3)、松
石 豊次郎 3)
【はじめに】近年の NICU は何れの施設においても非常
に治療成績が良く、多くの極低出生体重児が生存退院
している。ただ、施設間格差は依然として残っており、
その差を埋めるために各施設とも努力をしている。
我々の施設も、平成 10 年に NICU 認可病床が稼働し始
め、それまでよりも管理成績は向上しているものの、
他施設に比べ決して良いものでなく今後更なる努力が
必要と考えている。そこで、開設後8年が経過し、も
う一度原点に立ち返るためにこれまでの治療成績、及
び退院後の発達予後に関して、後方視的に検討したの
で報告する。【対象】平成10年12月1日、久留米大
学病院総合周産期母子医療センター新生児部門開設以
来、入院となった極低出生体重児 291 名を対象とした。
(染色体異常、奇形症候群も含む)
【結果】291 名中 38
名が死亡退院している。死亡のうち、10 名が染色体異
常や奇形症候群で、22 週が 4 名、23 週が 6 名である。
脳性麻痺、精神発達遅滞に関しては全員での検討が終
わっていないが、毎年 2 名程度発症しており、おおよ
そ 0.5%の発症率と考える。原因はほとんどが PVL と考
えている。発達予後であるが、1 歳 6 か月時に津守・稲
毛式発達検査、3 歳時に田中ビネー式発達検査、6 歳時
に WISC-3 を行っている。まず、1 歳 6 か月時の津守・
稲毛の結果であるが、発達指数 79.9±14.2(最低 50、
最高 100)であった。次に 3 歳時の田中ビネー式の結果
であるが、82.2±17.4(最低 47、最高 125)であった。
6 歳時の WISC-3 に関しては、現在、データの集積中で
ある。【考察】全てのデータの集積が終わっておらず、
未確定のデータであるが、他施設と比較して、決して
良いとは言えない数値である。まず、急性期管理に関
してもう一度、管理方法の検討を行う必要があると考
える。発達予後に関しては、今後、再検討し現在の日
本における平均的なものとの比較を行おうと考えてい
る。
【はじめに】当院は静岡県の新生児三次医療施設とし
て機能しているが、産科分娩施設を持たないため入院
患者は全例院外出生児で新生児専用救急車を駆使し搬
送している。一方平成 3 年1月から周産期の始期が在
胎 24 週から 22 週へ変更され、その対応に非常に苦慮
している。今回我々は、最近 10 年間における在胎 24
週未満児について検討したので報告する。【対象及び
方法】平成 9 年 1 月から 18 年 12 月までの 10 年間に、
当院 NICU に入院した在胎 24 週未満児 19 例について診
療録等に基づき後方視的に検討した。【結果】在胎 22
週の 6 例の平均体重は 491.5(444~550)g、紹介施設は
全例総合病院産婦人科で、分娩様式は 4 例が緊急帝王
切開、2 例が経膣分娩(頭位)であった。6 例全例が死亡
し、内 4 例が生後 24 時間以内に死亡していた。全例分
娩立会いがなされた。母体ステロイド投与例はなかっ
た。在胎 23 週の 13 例は平均出生体重 585.8(420~
706)g、1 例を除き総合病院産婦人科からの紹介例で、
分娩様式は帝王切開 8 例(緊急 7 例、予定 1 例)、経膣
分娩 5 例(頭位 3 例、骨盤位横位各 1 例)、分娩立会い
は 11 例で行われた。母体ステロイド投与例は 2 例であ
った。13 例中 11 例(85%)が生存退院した。生存退院(重
症心身障害者施設への転院 1 例を除く)10 例の入院経
過では CLD を 10 例に認め 7 例に HOT を要した。ROP に
対し光凝固術を 4 例に、PDA 結紮術を 2 例に、V-P シャ
ント術を 1 例に施行した。消化管穿孔と重度の難聴を
各 1 例に認めた。
【結論】我々は両親の挙児希望が明確
であれば在胎 24 週未満児に対し積極的に介入してき
た。しかし、産科分娩施設を持たないため充分な周産
期管理を受けられず極めて劣悪な状況下で患児を受け
入れている。今回の検討で在胎 22 週未満児の生存例が
無かったことは、周産期センターがなく新生児搬送し
か選択肢がない 30 年前の医療体制の限界であると思わ
れた。平成 16 年から 18 年の 3 年間に在胎 23 週児 1 例
しか入院がなかったが、我々の把握している限り在胎
24 週未満に 4 例の死産例があり大きな問題であると思
われた。当院は本年 6 月に産科が併設され周産期セン
ター化される。今後周産期専門医による適切な母体胎
児管理により予後の改善が望まれる。
405
P-279
脳破壊性病変を持たない在胎 28 週未満超
早産児の発達
国立成育医療センター
○洲鎌 盛一
極低出生体重児の生存曲線と死因―総合
周産期母子医療センター共通データベー
スから―
神奈川県立こども医療センター新生児科 1、厚生労働科
学研究―周産期医療ネットワーク班―2
○猪谷 泰史 1,2)、楠田 聡 2)、佐久間 泉 2)、加部 一
彦 2)、青谷 裕文 2)、市場 博幸 2)、松浪 桂 2)、藤村
正哲 2)
【目的】極低出生体重児における在胎週数別・出生体
重群別の生存曲線を作成し,死亡時期の違いや死因の
違いを明らかにする。
【対象】対象は全国の総合周産期母子医療センター50
施設に 2004 年 1 月から 2005 年 12 月に入院した出生体
重 1500g 以下の 4921 例のうち死亡の有無と在胎週数,
退院日齢が記載された 4614 例。
【成績】在胎週数別・出生体重群別の生存曲線を作成
した。在胎週数別では在胎 25 週以下で週毎に生存曲線
が低下し,特に 22 週で乖離が大きかった。出生体重群
別では 700g 未満で 100g 毎に生存曲線が低下し,特に
400g 未満で乖離が大きかった。在胎週数毎の死因を日
齢 0~2 と日齢 3~14,日齢 15 以上の3つの時期で検討
した。在胎 22~24 週の死亡例 168 例の死因では,日齢
0~2 ではその他が 36 例(78%)と多かった。日齢 3~
14 では敗血症が 27 例(40%),脳室内出血が 18 例(27%)
と多かった。在胎 25~28 週の死亡例 153 例では,日齢
15 以降で 68 例(44%)と慢性期の死亡例が多かった。日
齢 15 以降では敗血症が 18 例(26%),
NEC が 10 例(15%),
CLD が 10 例(15%)に見られた。在胎 29~33 週の死亡例
68 例中日齢 15 以降が 28 例(41%)を占めた。死因では,
先天異常が日齢 0~2 で 17 例(85%),日齢 3~14 で 10
例(50)%,日齢 15 以降で 13 例(46%)を占めた。在胎 34
~38 週の死亡例 25 例中日齢 15 以降は 14 例(56%)であ
った。死因は,先天異常が 22 例(88%)を占めた。在胎
週数と出生体重群別にブロックを作り,各ブロックの
生存率を検討した。生存率 90%以上のブロックは在胎
26 週で出生体重 700g が,生存率 80%以上は在胎 25 週
で出生体重 500g が目安となっていた。出生体重が大き
くても生存率は低下した。
【結論】多症例の極低出生体重児から生存曲線を作成
した。生存曲線からは在胎 22 週と 23 週の間に生存曲
線の大きな乖離があった。死因の検討から在胎 29 週未
満では敗血症による死亡が多く,29 週以降では先天異
常による死亡が多かった。本研究は厚生労働科学研究
費補助金(こども家庭総合研究事業)「周産期母子医療
センターネットワーク」の構築に関する研究によった。
P-280
総合診療部
【目的】早産児の脳発達は周産期の脳侵襲の他、子宮
外環境因子の影響を受けると考えられる。脳発達が最
も盛んに行われている在胎 22 週から 28 週未満の脳破
壊性病変を持たない超早産児の発達経過を検討した。
【対象および方法】過去4病院発達外来で経験した在
胎 28 週未満の超早産児を対象とした。出生後の経過お
よび症状より奇形症候群、先天性代謝異常症、神経筋
疾患が否定された 87 人について検討した。最小在胎週
数は 22 週で最長は在胎 27 週 5 日であった。全員が在
胎 38 週から 13 歳で 1 回以上脳 MRI が施行されている。
脳 MRI で脳室周囲白質軟化症、IVH 後の脳室拡大、脳実
質破壊などの脳破壊性病変を持つ者は 50 例で、明らか
な脳破壊性病変を持たない者は 37 例であった。【結果】
37 例中発達が正常範囲とされたものは 18 人であった。
18 人の年齢は生後 11 ヶ月から 13 歳であり、このうち
2 歳以上の評価で正常範囲とされているものは 9 人で
あった。9 人の IQ, DQ(遠城寺、田中ビネー、新版 K 式、
WISCIII)の分布は 77~84 であった。WISC が施行された
症例では下位項目のばらつきがみられた。発達が正常
範囲とされているものの、忘れ物が多い、集中の持続
ができない、行動が遅い、不器用などの問題がみられ
た。
【考察】今回の対象は全て発達外来を受診している
者に限っているので、超早産児の全体の発達傾向をあ
らわすものではない。在胎 22 週から 40 週の脳発達は
脳重量、灰白質・白質の容量が 5~8 倍に増加し、過剰
の神経細胞やシナプスが遺伝的に規定された刈り込み
現象によりアポプトーシスを起こす時期である。また
この時期には脆弱性の高いオリゴデンドロサイト前駆
細胞、軟膜下神経細胞が出現する。PVL, IVH、脳実質
内出血、梗塞等を起こしていないこれら 37 例は出生後
の様々な子宮外環境因子が脳発達に影響を与えたと考
えられる。従来早産児における認知障害は視覚認知障
害が主といわれているが、視覚認知以外の広汎な認知
および行動が影響を受けていることが推測される。
406
双胎の膜性別における発達予後の検討~
極低出生体重児について~
愛媛県立中央病院 総合周産期母子医療センター 新
生児科
○山口 朋奈、太田 雅明、長友 太郎、横田 吾郎、
穐吉 眞之介、隅 明美、梶原
眞人
新生児医療施設に長期入院中の超重症児
の実態調査と分析
大分大学 医学部 脳神経機能統御講座 小児科学 1、
大分県立病院総合周産期母子医療センター新生児科 2、
愛媛県立中央病院総合周産期母子医療センター3
○前田 知己 1)、飯田 浩一 2)、隅 明美 3)、梶原 眞
人 3)
【目的】障害者自立支援法の体制下で、重症児施設を
整備する資料として、新生児医療施設の長期入院児の
実態調査、新生児医療現場の超重症児療育介護の意向
調査を行った。
【方法】全国の新生児医療施設にアンケ
ート調査。平成 18 年 10 月時点の長期入院児の実態調
査を行った。【結果】アンケート送付 296 施設中 188 施
設より回答あり。新生児期より引き続き1年以上の長
期入院児は新生児病棟 163 例、それを含む病院施設内
に 216 例入院していた。新生児病床 100 床あたり(病
床比)新生児病棟 3.76、施設内 4.98 であった。施設規
模による病床比は変わらず約 5%であり、これより全国
の新生児医療施設内長期入院児数は 300~350 人と推計
された。長期入院児の存在による NICU 新規入院受け入
れは、70%が影響あり、20%の施設が非常に影響あり
と回答。長期入院児に対する今後の対応の意向は、地
域の療育センター・重症児施設に入所して医療管理を
継続することを希望するが最も多く、次いで在宅医療
であった。新生児医療施設側から重症児施設への要望
は、入所までの時間の短縮、呼吸器管理可能病床の増
設、乳児や新生児病床入院中の児の受け入れ、在宅支
援への協力などが挙がった。長期入院児 216 例は平均
入院期間 35 か月、最長 215 か月。退院の見通しあり
33%、その 57%が在宅管理であった。原因疾患は先天
異常、次いで低酸素性虚血性脳症であった。退院でき
ない理由は、施設転院先空床なし 40%、病状が不安定
32%、家族の事情 24%であった。長期入院児の 99%が
大島分類1、2の重症心身障害児であり、呼吸管理は
148 例で行われていた。重症度スコアは平均 28。25 点
以上の超重症児は 163 例であった。
【考案】新生児医療
施設の運営に長期入院児は大きな影響を与えている。
また、医療的介入を多く必要とする超重症児であって
も、重症児施設で療育、医療を継続することが望まし
いと新生児医療関係者は考えている。そのためには重
症児施設における、呼吸器管理などの医療行為が可能
な病床の増床、在宅へ移行できない重症児・乳幼児の
受け入れ可能な病床の増床、新生児医療施設との連携
強化が必要である。
本研究は厚生労働科学研究費補助金(障害保健福祉総
合研究事業)「障害者自立支援法下での重症心身障害
児等に対する施設サービスの効果的な在り方に関する
研究」(主任研究者 澤野邦彦)で行われた。
P-281
P-282
【目的】一絨毛膜二羊膜双胎(MD-twin)と二絨毛膜二
羊膜双胎(DD-twin)で発達予後にどのような差がある
のかを検討する.
【対象】2002 年 10 月から 2007 年 2
月までに、当院 NICU 入院した出生体重 1500g 未満の極
低出生体重児の双胎児は 63 名(MD-twin 26 名、DD-twin
37 名)であった.1.NICU 入院中に行った評価はこの 63
名を対象とした.2.発達予後として、修正 1 歳 6 ヶ月
前後に新版 K 式を行った双胎児 36 名(MD-twin16 名、
DD-twin20 名)を対象とした.
【結果】1.平均出生体重
は MD-twin が 1070±247g(457-1441g),DD-twin が 1043
±320g(497-1497g).平均在胎週数は MD-twin が 29.7
±2.6 週(25-36 週),
DD-twin が 28.5±3.3 週(22-34 週).
SGA(Small for Gestational Age)は MD-twin が 10 名
(38%),DD-twin が 9 名(24%).死亡は MD-twin が 1
名,DD-twin が 2 名.超音波もしくは MRI 診断での
cysticPVL の発症数は MD-twin が 1 名,DD-twin が 3 名.
頭蓋内出血の発症数は MD-twin が 3 名,DD-twin が 4
名.TTTS(双胎間輸血症候群)の児は MD-twin26 名中,
14 名(54%)であった。2.修正 1 歳 6 ヶ月の時点で新
版 K 式を行った双胎児のうち, 修正全領域の DQ(発達
指数)の平均は、MD-twin が 88.2(58-105),DD-twin
が 89.2(42-113)
.運動機能について,MD-twin のうち
正常が 11 名(69%),脳性まひが 1 名(6%),motor delay
が 4 名(25%)だった.DD-twin では正常が 14 名(70%),
脳性まひが 5 名(25%),motor delay が 1 名(5%)だっ
た.
【考察】今回の検討で,一羊膜絨毛膜性双胎と二羊
膜絨毛膜性双胎の発達予後に有意な差は認められなか
った.TTTS による脳性まひの割合が多いのではないか
と考えられたが,実際には明らかな運動機能の後遺症
に差は認められなかった.さらに追跡を行い,知的発
達についても検討する必要があると考えられた.
407
P-283
会長賞
NICU 内の環境の変化が早産児のストレス
に及ぼす影響
P-284
長野県立こども病院 リハビリテーション科 1、長野県
立こども病院 総合周産期母子医療センター 新生児
科2
○木原 秀樹 1)、廣間 武彦 2)、中村 友彦 2)
新生児病棟における終末医療について
大津赤十字病院 小児外科 1、大津赤十字病院 総合周
産期母子医療センター2、大津赤十字病院 産婦人科 3
○西村 彩 1)、岩崎 稔 1)、佐藤 昇子 2)、池田 幸広
2)
、中村 健治 2)、橋本 和廣 2)、奈倉 道和 3)、廣瀬
雅哉 3)、小笹 宏 3)
【目的】当院新生児病棟における終末医療の現況と医
療従事者の対応、家族への精神的配慮を向上させるた
め、診療録をもとに今後の終末医療への改善点をも含
めた対応を検討する。【対象と方法】2000 年 1 月より
2006 年 12 月末までの 7 年間に当院新生児病棟で入院加
療された患児は 1745 名で、年間平均入院患数は 249.3
±13.3 名(範囲:237~278;中央値:247)であった。
そのうち、終末医療対象患児は 79 名(男児:42 名、女
児:37 名)で、平均在胎週数は 31.7±6.5(範囲:22.9
~42.3;中央値 30.4)
、平均出生時体重は 1612±1030g
(範囲:374~4200;中央値:1218)であった。さらに
平均年間院内出生数(母体搬送を含む)は 173.9±18
件(範囲:146~194;中央値:172)、平均年間院外出
生数は 75.4±13.6 件(範囲:54~91;中央値:79)で
あった。なお、7 年間の院内出生数は 781 件(44.8%)、
母体搬送数は 436 件(25.0%)、院外出生数は 528 件
(30.2%)であった。
【結果】7 年間における終末医療対
象患児は 79 名で、当院新生児病棟入院患児の 4.5%であ
った。死亡時の平均日齢は 71.6±20.3 日(範囲:0~
1258 日;中央値:11)
、高度染色体異常を確認された患
児は 7 名、入院中に外科的治療を経験した患児は 13 名
(心臓外科手術 2 名を含む)であった。出生体重別死
亡率は超低出生体重児が 37 名(47.4%)、極低出生体重
児が 42 名(53.8%)、低出生体重児が 61 名(78.2%)、成
熟児が 17 名(21.8%)であった。出生場所別死亡率は院
内出生例が 24%、院外出生例が 46%、母体搬送例が 30%
であった。死亡原因は感染(12)
、頭蓋内出血(7)、先
天性心疾患(7)
、呼吸器系障害(6)等が挙げられ、特
に児の未熟性による原因が重視された。Trisomy13 や
18 などの染色体異常を伴う症例では積極的治療を望ま
ない場合も少なくなく、積極的治療中止症例は 9 例、
治療拒否を続け児童相談所の介入を行った症例が 1 例
み ら れ た 。【 結 論 】 医 学 的 な 意 思 決 定 (medical
decision making) は家族の信念を尊重し担当医、看護
師、助産師、臨床心理士等が熟慮し検討されるべきも
のである。制限的医療か緩和的医療かの選択は、患児
の状況により適宜選択されるが、看取りの医療への決
断は家族と医療従事者との信頼関係のもとに構築され
るものと考える。最近、誕生死という概念も普及され、
新生児病棟における終末医療のあり方を再検討する必
要があると考える。
【目的】近年、早産による低出生体重児の出産が増加
している。超・極低出生体重児の発達予後は正常体重
児の障害発生率に比し大きな差がある。その一因とし
て、NICU の治療環境から児が持続的にストレスを受け
ることが指摘されている。我々は NICU の光と音環境の
変化が早産児のストレスに与える影響について生理・
行動指標を用いて検討した。
【対象と方法】対象は当院 NICU に入院した早産児 8 名
(男児 1 名、女児7名)であった。出生時の在胎週数
は平均 26 週 1 日±14.2 日(平均±SD)
、体重は平均 866
±194g であった。児の両親には書面で同意を得た上で
研究を行った。対象児を修正 32~39 週まで 1 週間毎に
測定した。NICU 内の光と音環境を変化させた前後にお
いて心電図測定と行動観察を行った。光環境では低照
度(平均 31.5lux)と治療時の高照度(平均 761.8lux)
、
音環境では通常音(60.1dB)とモニターのアラーム音
(71.8dB)を設定し、各 100 秒間の連続した測定記録
を用いた。心電図記録から心拍数(HR)
、自律神経活動
割合(交感神経活動割合:LF/HF と副交換神経活動割
合:HF/ TP(HF+LF))を解析し、行動観察でのビデオ
記録から 1 秒間毎にストレス行動の種類(自律神経系・
運動系・状態系)を抽出し生理・行動指標とした。各
指標で環境の変化前を 1 とし変化後の対比値を算出し
た。各指標で週数毎に全対象児の対比値の中央値を算
出し経時的に検討した。また生理・行動の両指標の相
関係数と変動係数を算出した。
【結果】生理・行動指標の結果から、NICU 内の光や音
環境の変化はどの週数の早産児に対しても影響を与え
ていた。光環境では修正 36・37 週以降に変化に対する
抑制的制御が成熟してくる可能性が示唆された。音環
境では週数毎の一定した傾向は認められなかった。光
環境に比し音環境の方が各指標での変動係数は大き
く、反応の個人差が大きかったためと考えられた。ま
た生理・行動の両指標間で HR とストレス行動に相関関
係は見られたが、自律神経活動割合とストレス行動で
の強い相関関係は認められなかった。
【結論】どの週数でも早産児が NICU 内の光と音環境の
変化に対し影響を受けていることを確認した。反応の
個人差と発達の予後との関係やストレス行動は本当に
児のストレス指標であるのか更に検証していく必要が
ある。
本研究のご指導をいただきました信州大学大学院総合
工学研究科の上條正義先生に深謝いたします。
408
P-285
熊本県リトルエンジェル支援事業(極低出
生体重児支援事業)について
当院超低出生体重児未熟児網膜症の臨床
的検討(光凝固療法適応となる危険因子の
解析)
市立札幌病院 新生児科 1、市立札幌病院 眼科 2
○野呂 歩 1)、渡辺 麻衣子 1)、内田 雅也 1)、中島 健
夫 1)、服部 司 1)、竹田 宗泰 2)
P-286
熊本市民病院 総合周産期母子医療センター 新生児
科
○持永 將惠、横山 晃子、三木 裕子、川瀬 昭彦、
近藤 裕一
【はじめに】
熊本県における極低出生体重児の出生率は全国平均よ
りも高く、近年も増加傾向にある。これらの児は、状
態が不安定な上に出生直後から長期入院により母子分
離を余儀なくされることなどから、保護者の育児に対
する不安は大きく、よりきめ細かい育児支援が必要と
考えられる。そこで熊本県が主導となり、極低出生体
重児とその家族を対象とした育児支援事業が 2006 年
11 月に開始された。
【対象】
2006 年 11 月以降に出生した熊本県に住民票がある極
低出生体重児とその保護者。
【内容】
(1)専用の育児支援手帳である「リトルエンジェル手
帳」の交付:県内の NICU を有する 3 ヶ所の周産期母子
医療センターに入院された極低出生体重児の保護者に
手帳を交付。
(2)NICU における家族のこころのケア:NICU 内にお
いて臨床心理士が保護者へカウンセリングを実施。
(3)地域の保健師の NICU 訪問:主に退院前に、地域
の保健師が必要に応じて NICU を訪問し、保護者の悩み
や不安に対応する。
(4)地域における子育て支援:児が退院した後、保健
師が必要に応じて家庭訪問を実施する。
(5)保護者同士の情報交換支援:地域の各保健所にお
いて、極低出生体重児と保護者を対象とした「親と子
の交流教室」を開催し、保護者同士の情報交換や仲間
づくりについて支援し、また個別相談にも応じる。
その他、各症例のデータ集計や、修正 1 歳半や 3 歳時
のフォローアップ、関係機関のネットワーク構築など
も行って、就学時までの健康支援を行う予定である。
【まとめ】
まだ事業が始動して 1 年にも満たないため課題も山積
しているが、今後熊本県と各病院が協力しながら育児
支援事業を行っていき、さらに良い育児支援へとつな
げて行きたい。
【目的】超低出生体重児において、光凝固療法が必要
な未熟児網膜症を発症する危険因子を解析する。【対
象と方法】1998 年から 2006 年に当院入院した 208 人の
超低出生体重児で新生児死亡 5 人を除く 203 人の児を
対象とした。未熟児網膜症に対する光凝固療法(少な
くとも片眼)の有無別に、周産期因子、検査所見、臨
床経過を比較した。統計手段としては Mann-Whitney の
U 検定、χ二乗検定を使用し、p<0.05 を有意差あり、
p<0.1 を傾向ありとした。多変量解析としてロジステ
ィック解析を行った。【結果】光凝固療法(+)43 人
(21.2%)(うち 4 人は眼内手術も施行)、光凝固療法
(-)160 人。失明は4人(2.0%、全例光凝固療法例)であ
った。単変量解析では光凝固療法施行群で有意に在胎
週数が早く(中央値 25 vs26 週 p<0.0001)
、出生体重
が小さく(中央値 717 vs813g p=0.0268)、人工換気離
脱日齢が遅く(中央値 日齢 30vs 日齢 4 p<0.0001)、
日 齢 28 の 使 用 酸 素 濃 度 が 高 く ( 中 央 値 30vs27%
p=0.0157 )、 児 へ の ス テ ロ イ ド 使 用 例 が 多 く
(28/43vs65/151 p=0.0061)
、栄養開始日齢が遅く(中
央値 日齢 2vs 日齢 2 p=0.0089)
、栄養が 100ml/kg に達
する日齢が遅く(中央値 日齢 14vs 日齢 11 p<0.0001)、
光凝固療法前の輸血施行例が多かった(26/43vs38/152
p<0.0001)
。また、入院時の Hb 値(中央値 13.8vs14.4
p=0.0829)
、Ht 値(中央値 41.7vs44.2 p=0.0518)が低
く、体重減少率が少なく(中央値 14.5vs16% p=0.0835)、
日 齢 14 の WQ が 低 い ( 中 央 値 122 vs129ml/kg
p=0.0636)傾向があった。母体の破水、母体ステロイ
ド使用、絨毛羊膜炎の有無、性別、アプガールスコア、
臍帯動脈 pH、入院時 WBC、IgM、CRP 値、動脈管開存症
に対するインドメタシン使用の有無、カテコラミンや
容量負荷を必要とする循環不全の有無には差がなかっ
た。ロジスティック解析では輸血施行が、光凝固療法
の適応となる有意な危険因子として選択された。【結
論】当院の超低出生体重児では、より未熟で、呼吸状
態が不安定で、栄養がなかなか進められず、貧血の強
い児が光凝固療法の適応となるリスクがあると考えら
れた。
409
岐阜県における新生児聴覚検査事業(第二
報)-二年次事業の成果と今後の課題-
岐阜県総合医療センター 新生児科 1、岐阜県新生児聴
覚検査事業検討委員会 2
○河野 芳功 1,2)
【はじめに】岐阜県では県の事業として平成 17 年度よ
り自動聴性脳幹反応(AABR)を用いた新生児聴覚スク
リーニングを4医療機関で開始し、その概要は昨年の
本学会で報告した。今回、二年次における本事業の成
果と今後の課題をまとめたので報告する。
【二年次事業の概要】1)検査体制の確立と普及:平
成 18 年5月以降、順次委託検査機関を拡大し、12 月末
現在 38 医療機関で事業が実施されている。検査対象者
は委託医療機関で出生した児で、保護者が県内に住所
を有し、検査を希望し本事業の趣旨に同意したもので
ある。検査方法は AABR を入院中に実施し refer の場合
は確認検査を実施した。母子健康手帳交付時「きこえ
のチェックリスト」の配布、産婦人科医および保健師、
保育士を対象とした研修会の開催(年2回)を平行し
ておこなった。また、県広報誌や Web サイトを通じて
一般への周知を試みた。2)支援体制の確立:検査同
意書に『保護者の同意のもと、検査結果を保健所に通
知すること』を明記。結果票に保健所による支援の要
否を記入することとし、要精検児が地域の保健師のサ
ポートを得られる体制作りを目指した。
【二年次事業の成果】平成 19 年1月末の時点で、対象
となる新生児 8,712 名中、検査を希望し事業に同意し
た 8,514 名(97.8%)について AABR による聴覚スクリ
ー ニ ン グ を 実 施 し た 。 確 認 検 査 後 要 精 検 は 37 名
(0.43%)で、そのうち8名が療育を開始している。
【考察】昨年度の調査では AABR を保有する医療機関は
岐阜県内では 24 施設にとどまっていたが、今年度は
OAE からの乗り換えおよび新規に AABR を整備した医療
機関を合わせて 38 医療機関が事業に参加した。人口カ
バー率では 75%に達し、最終年度である三年次の目標
に既に到達した。初回検査の refer 率は 2.4%と全国平
均に比べるとやや高めであったが、確認検査の refer
率は 0.43%であり、検査は適切に行われていると考え
られた。要精検児の母親に対する心理的サポートは重
要な課題であり、保健師の訪問を想定していたが、実
際に保健師の訪問を受けたのは要精検児 37名中9名
のみであった。今年度のシステムでは医師が訪問を不
要と判断したのか、家族が不要と判断したのか区別で
きず、次年度以降の課題と思われた。
北九州市における全出生児に対する新生
児聴覚スクリーニング検査の経緯と現状
九州厚生年金病院小児科・新生児科
○高橋 保彦、山本 順子
P-287
P-288
【はじめに】新生児聴覚スクリーニングは 1970 年代の
クリブオグラムに始まり、80 年代になって ABR 検査が
幾つかの施設で導入された。しかし ABR 検査は煩雑で
その解釈に専門的な知識を要することから一般に普及
することはなかった。98 年に厚生省(当時)は5年後
を目途に国内で出生する全新生児に対する聴覚検査の
実施を計画し、国内数カ所でモデル事業としてスター
トし、北九州市もそれに加わった。北九州市およびそ
の周辺で地域で出生する新生児はおよそ1万名で、こ
の数年大きな変動はない。北九州市医師会を介し、経
年的に地域の産婦人科施設での新生児スクリーニング
検査の実施状況を調査した。【結果】北九州市内および
その周辺地域の産科施設での新生児聴覚スクリーニン
グ実施状況は、2000 年に 4,000 名、2002 年には 6,500
名とすでにこの時期で全出生児の半数以上が聴覚スク
リーニングを受けていた。しかし、当時は分娩数の多
い開業産科施設での実施数が多いのに比し、総合病院
産科で出生した新生児のほとんどが検査を受けていな
い事実が判明した。さらにこのスクリーニングを拡大
し全出生児に対するスクリーニングとするためには、
医師会と行政の協力が不可欠となるため、2002 年に「北
九州市聴覚検査運営委員会」が組織された。さらに行
政として、2004 年からはこの検査に要する費用の半額
を補助する事業が開始された。このための各種帳票の
整備や医師会を介する事務手続きの一連の流れも整備
された。一方で聴覚スクリーニングで refer となった
新生児への精密検査の実施方法なども市内各地に整備
された。最終的に聴覚障害と診断された乳児とその家
族へのケアーについても、基幹病院や療育施設、また
地域保健師や聾学校間での定期的な協議が行われるよ
うになった。【考察】北九州市内およびその周辺地域で
の全出生児のうち、この5年間に把握できているだけ
でおよそ 95%近くの新生児に対し、聴覚スクリーニン
グが実施できている。このうち最終的に聴覚障害と診
断された乳児は 0.1%で、その精度は概ね良好と言える。
北九州市では医師会・行政・医療施設の協力のもとに、
短期間で全出生児に対する聴覚検査体制が確立され、
現在まで円滑に運営されている。費用対効果の高いス
クリーニングシステムであり、全国的なモデルのひと
つとなりうると考えた。
410
EXIT(Ex utero intrapartum treatment)
にて娩出した上顎体の一例
旭川医科大学病院 周産母子センター 小児科・新生
児科 1、旭川医科大学病院 周産母子センター 産科 2、
旭川医科大学 小児外科 3
○長屋 建 1)、岡本 年男 1)、中村 英記 1)、林 時仲
1)
、田熊 直之 2)、日高 康弘 2)、宮本 和俊 3)、藤枝
憲二 1)
EXIT とは帝王切開時に胎児胎盤循環を維持しながら胎
児の気道を確保する胎児治療である。我々は巨大上顎
体のために EXIT にて娩出した女児を経験したので報告
する。
患児は前医にて在胎 23 週に巨大口腔内腫瘍を指摘され
当院産科に母体搬送された。胎児 MRI 検査にて上顎体
と診断し、在胎 32 週での EXIT 分娩を計画した。しか
し羊水過多に伴い在胎 30 週 6 日に前期破水し、緊急帝
王切開で出生した。経口挿管困難であったため EXIT に
より気管切開を施行し良好な蘇生ができた。その後日
令 37 に人工呼吸器から離脱し、日齢 100 に気管切開の
状態で退院した。
腫瘍は成熟奇形腫であったが、口蓋裂を介して鼻腔か
ら口腔、上顎洞にわたる腫瘍であり全摘術は困難であ
った。腫瘍は生後も増大傾向を認め、減量術をこれま
でに計 3 回繰り返している。
現在修正 8 ヶ月で良好な発達をしているが、閉口障害
や摂食障害などの問題点も認め、今後も多科にわたる
フォローアップが必要である。
EXIT にて救命し得た先天性喉頭閉鎖の一
例
山口県立総合医療センター1、山口県立総合医療センタ
ー 産科 2、山口県立総合医療センター 小児外科 3
○長谷川 恵子 1)、福永 真之介 1)、佐世 正勝 2)
P-289
P-290
症例)0生日、男児。妊娠歴)母歳、G2P1。妊娠分娩
歴)母 34 歳、G2P1、妊娠 26 週0日、羊水過多、切迫
早産のため当院へ紹介され入院。胎児エコーにて肺実
質が高輝度であり、気管が盲端となっていたため、喉
頭閉鎖、気管支閉鎖等の上気道閉鎖が疑われていた。
胎児 MRI 所見より気管構造明瞭に確認できたため喉頭
閉鎖を疑い、以後胎児発育をはかるため切迫早産に対
し tocolysis を行い入院管理を行った。EXIT 下に気管
切開を行うため、母体・胎児麻酔を行い、児娩出を行
った。小児外科医・耳鼻科医にて気管切開を行い気道
確保し tube & bag を行い蘇生。在胎週数 36 週1日、
出生体重 2680g、Apgar score 2/1 分、3/5 分、5/15 分。
入院児所見)外表奇形(―)。検査所見)喉頭ファイバ
ーにて声門閉鎖を確認。染色体異常(―)。エコー上心
内奇形(―)経過)NICU 入院後、人工換気を行い徐々に
weaning し 20 生日人工呼吸器離脱。喉頭閉鎖のため誤
嚥のリスクは低いと考え、経口哺乳を行ったが特に問
題なく体重増加も良好であった。生後 7 ヵ月で体重は
5Kg となり、追視・あやし笑い、頸定・寝返りみられ精
神運動発達も良好。今後は発育発達のフォローアップ
が必要となるが、喉頭閉鎖に対する根治方法について
は確立されておらず今後の課題といえる。
411
生後急速に増大し呼吸障害を呈した頸部
食道重複症の一例
旭川医科大学病院 周産母子センター1、JA北海道厚
生連遠軽厚生病院 小児科 2、旭川医科大学 第一外科
臍 帯 ヘ ル ニ ア に 対 す る
Traction-compression-closure の経験
福岡大学病院 総合周産期母子医療センター 外科部
門 1、福岡大学 医学部 外科学講座呼吸器・乳腺内分
泌・小児外科 2、福岡大学病院 総合周産期母子医療セ
ンター 新生児部門 3、福岡大学病院 総合周産期母子
医療センター 産科部門 4
○淺部 浩史 1,2)、岡 陽一郎 1,2)、白日 高歩 2)、雪
竹 浩 3)、小川 厚 3)、森 聡子 3)、太田 栄治 3)、吉
里 俊幸 4)、小濱 大嗣 4)、瓦林 達比古 4)
【はじめに】臍帯ヘルニアは、出生直後より集中管理、
緊急手術が必要な腹壁異常とされているが、近年
Bianchi らは非破裂性の巨大臍帯ヘルニアに対してベ
ッ ト サ イ ド で 行 う こ と が 可 能 な
Traction-compression-closure (TCC)の有効性を報告
している。今回われわれは、EMG 症候群を呈する臍帯ヘ
ルニアに対して TCC を試みたので若干の文献的考察を
加えて報告する。
【症例】在胎 16 週、胎児超音波検査
で胎児下腹部に腫瘤が認められたため、当院産婦人科
に紹介され、胎児臍帯ヘルニアと診断された。在胎 24
週、羊水過多による切迫早産のため入院。その後羊水
過多に対して 2 度の羊水穿刺(羊水量 1200ml と 1600ml)
を行ったが、子宮収縮抑制のコントロールが不良であ
った。在胎 33 週、破水したため、緊急帝王切開で出生
した。出生体重 3072gと large for date baby であり、
Apgar score は 1 分 8 点、5 分 8 点であった。ヘルニア
嚢の大きさが 20×5×6cm の臍帯ヘルニアと巨舌を認め
EMG 症候群と診断した。また両停留精巣も見られた。
NICU 入室後臍帯ヘルニアに対して TCC を行った。臍帯
および羊膜をサイロ法に準じて不潔にならないように
吊り上げた。ヘルニア内容は腸管のみであり、その後
無麻酔で出生当日に用手的に腹腔内に還納し、臍帯根
部を結紮した。羊膜の著明な浮腫の改善を待って 2 生
日臍帯および羊膜を無麻酔下で切除した。【まとめ】
TCC は術後の腹圧上昇が少ない、無麻酔下でベットサイ
ドで行える、臍の形成がより自然である等の利点があ
り、非破裂性臍帯ヘルニアに対しては有効な治療法で
ある。
P-291
P-292
3
○吉田 陽一郎 1)、岡本 年男 1)、中村 英記 1)、長屋
建 1)、林 時仲 1)、藤枝 憲二 1)、石岡 透 2)、宮本 和
俊 3)
【はじめに】消化管重複症の中でも頸部食道に発生す
るものは極めて稀である。我々は生後急速に増大し日
齢3に呼吸障害(陥没呼吸、吸気性喘鳴)を呈した頸
部食道重複症の一例を経験したので報告する。
【症例】
日齢3男児。在胎期間38週2日、出生体重 3452g。頭
位経膣分娩で出生し生後1分のアプガースコアは9点
であった。胎児超音波検査では異常所見を指摘されて
いなかった。経口哺乳は良好で日齢1から哺乳を開始
し、日齢2には一回あたり30ml程度飲めていた。
日齢3になり左顎下部から鎖骨窩に及ぶ頸部の腫脹が
出現し、ほぼ同時期から陥没呼吸が認められるように
なり次第に増悪、吸気性喘鳴を伴うようになった。頸
部、胸部単純写では、立位で左頸部を中心に air-fluid
level を伴う大きな腫瘤を認め、頸部 CT でも左顎下部
から上縦隔にかけて内部にガスと液体を入れる cystic
mass を認め、これが気道を圧排していた。緊急に外科
的処置が必要と判断され、当院に転院した。転院後エ
コーガイド下に cyst の穿刺を行い、大量の air と乳
汁様の液体が吸引され、即時に呼吸障害が改善した。
食道造影、cyst 造影で頸部食道と cyst の間に交通を
認め食道重複症と診断した。日齢8に重複食道摘出術
が行われ、約4cm×3cmの摘出標本が得られた。
組織学的には重層扁平上皮で被覆され筋層を含む食道
組織であり、一部に甲状腺組織が分布していた。【考
察】頸部食道重複症は消化管重複症の中で最も稀であ
り、報告例は10例に満たない。しかし、致死的な呼
吸障害を来すことが知られており迅速な診断、治療が
必要とされる。本症例でも哺乳開始に伴って重複食道
内部に乳汁及び air が貯留し急速に増大、気道の圧排、
狭窄を引き起こしたと考えられる。稀ではあるが新生
児の頸部腫瘤、呼吸障害の鑑別診断において念頭に置
く必要がある。
412
臍帯ヘルニアと染色体異常に関する治療
指針の検討
大津赤十字病院 総合周産期母子医療センター 新生
児科 1、大津赤十字病院 小児外科 2、大津赤十字病院
産婦人科 3
○佐藤 昇子 1)、岩崎 稔 2)、池田 幸広 1)、中村 健
治 1)、橋本 和廣 1)、奈倉 道和 3)、廣瀬 雅哉 3)、小
笹 宏 3)
【はじめに】臍帯ヘルニアの発生率は出産数 6000 に対
し 1 人であり、一般に皮膚の欠損径が 6cm 以上、肝臓
が嵌入しているものを巨大臍帯ヘルニアと称してい
る。我が国の新生児外科における臍帯ヘルニアの死亡
率は 17.1%で、消化管穿孔(31.6%)、先天性横隔膜ヘル
ニア(25.4%)に次いで 3 位である。臍帯ヘルニア患児の
死亡原因は術後合併症ではなく高度染色体異常や臓器
の重症合併奇形など基礎疾患によると考えられてい
る。当院の高度染色体異常、重症合併奇形を伴った本
症の症例をもとに周産期管理や出生後の治療方針の検
討内容を報告する。
【対象と方法】2001 年 1 月より 2006
年 12 月までの 6 年間に, 当院で臍帯ヘルニアの治療を
した 6 例(男児:5 例、女児:1 例)の診療記録および染色
体異常患者登録記録簿を参考にして, 周産期管理(羊
水検査の有無、娩出時期、分娩様式)
、手術方法、転帰
について後方視的に資料の分析を行った.【結果】羊水
検査を行った症例は 1 例、fetal distress のため緊急
帝王切開施行が 1 例、予定帝王切開術が 2 例であった。
高度染色体異常に重度合併奇形を呈した 3 例(trisomy
13:1 例,trisomy 18:2 例)は一期的根治術施行後に基礎
疾患に起因する病態が原因で死亡した。 非破裂型巨大
臍帯ヘルニアは 1 例で, 中條法による二期的根治術に
て救命でき, 他の 2 例は一期的根治術にて術後経過良
好である。
【結論】周産期管理について、妊娠中期以降
に本症と診断後は 2~4 週毎に腹部超音波検査で胎児発
育の観察を行い、妊娠末期の胎児モニタリングを慎重
にし娩出時期を決定している。また、巨大臍帯ヘルニ
アの場合は帝王切開術の適応となる。出生後の外科治
療に関して、染色体異常・重症合併奇形を伴う症例で
は疾患の生命予後を考慮し、小手術や縮小手術を行う
ことが望ましいと考える。本症は妊娠早期に診断され
ることが多く、染色体異常を伴うこともあり、助産師・
臨床心理士も含めた医療従事者の家族への精神的配慮
が重要となる。また、周産期母体管理を担う産婦人科
医、出生直後からの新生児管理を担う新生児科医、さ
らに、手術時期・術式の決定を行う小児外科医が互い
に協力し合い、総合的な医療が必要とされる疾患であ
る。
出生前に口腔内腫瘤で発見された口腔底
リンパ管腫の 1 治験例
大阪大学 大学院医学系研究科 小児成育外科 1、大阪
大学 大学院医学系研究科 産婦人科 2
○谷 岳人 1)、臼井 規朗 1)、大植 孝治 1)、澤井 利
夫 1)、清水 義之 1)、鎌田 振吉 1)、福澤 正洋 1)、金
川 武司 2)、荻田 和秀 2)、木村 正 2)
P-293
P-294
われわれは出生前に口腔内腫瘤で発見され、胎児期よ
り周産期管理を行うとともに出生時から呼吸管理およ
び腫瘍の治療を行った口腔底リンパ管腫の1例を経験
し良好な結果を得たので文献的考察を加えて報告す
る。 症例は胎齢 31 週の女児。在胎 26 週に他院にて
羊水過多および口腔外に突出する口腔内腫瘤を指摘さ
れ、EXIT の適応を検討する目的で当院産科に紹介され
た。胎児超音波検査にて口腔外に突出する腫瘤は巨大
な舌と判明し、正常な舌運動や嚥下運動が観察された
ためその後経過観察を行っていた。在胎 33 週頃より舌
根部から口腔底にかけて数個の嚢胞性病変が認められ
るようになったため口腔底のリンパ管腫による舌の突
出・肥大の可能性が最も高いと診断した。羊水過多が
改善するとともに、胎児呼吸様運動による鼻腔の羊水
の流れがとらえられたため、EXIT の適応はないと判断
したが、出生後の呼吸困難に備えて挿管ならびに気管
切開をスタンバイして在胎 40 週に誘発分娩にて出生し
た。出生時体重 2970g、Apgar score は 8/9 点で、出生
時の自発呼吸は可能であった。舌が口腔外に大きく突
出しており、顎下部に隆起を認めた。超音波検査およ
び CT では口腔底に多嚢胞性病変が認められたため同部
のリンパ管腫と診断した。喉頭および気管の周囲には
嚢胞性病変は認められなかった。呼吸状態および哺乳
は良好であったため生後6日目に一旦退院したが、生
後 14 日目に哺乳不良となり再入院となった。CT にて嚢
胞性病変の増大を認めたため、生後 25 日目に全麻下に
OK-432 の局所注入を施行した。術直後は挿管のままと
したが、術後 2 日目には経鼻エアウェイでも自発呼吸
可能であったため、そのまま管理を継続した。舌およ
び口腔底は一時的に腫脹が増大したがその後縮小した
ため、術後 11 日目に経鼻エアウェイを抜去し、術後 27
日目に退院した。外来にて経過観察後、生後2ヶ月に
再度 OK-432 の局所注入を施行した。現在腫瘍は縮小傾
向にあり経過は良好である。
413
先天性横隔膜ヘルニアの胎児 MRI におけ
る%健側肺体積と出生後治療との関係
名古屋大学 医学部附属病院 周産母子センター1、名
古屋大学大学院医学系研究科 小児科学 2
○竹本 康二 1)、斉藤 明子 2)、中山 淳 2)、佐藤 義
朗 2)、長谷川 正幸 1)、早川 昌弘 1)
【目的】先天性横隔膜ヘルニア(CDH)の予後不良
の原因として肺低形成があり、その程度の出生前評価
は治療戦略に重要である。以前我々は胎児 MRI におけ
る%健側肺体積と生存率に有意な関係が認められたこ
とを報告した。今回、CDH における肺低形成の重症度予
測因子として、%健側肺体積の有用性をさらに評価す
るため、生存例において%健側肺体積と出生後の治療
内容との関係を検討した。
【方法】1999 年 4 月~2006 年 5 月に CDH の診断で当院
NICU に入院し、1)胎児 MRI を施行、2)在胎 37 週以降
の娩出、3)重症合併奇形がない、4)生存退院、の条
件を満たした 12 例を対象とした。
胎児 MRI における健側肺体積を予測肺体積(=0.003×
在胎週数 2.707)で除した%健側肺体積と、一酸化窒素
(NO)吸入、体外式膜型人工肺(ECMO)
、横隔膜修復術時
の人工膜使用、人工換気日数、酸素投与日数との関係
を検討した。
【成績】対象の平均在胎期間は 38.0 週、平均出生体重
は 2821g、帝王切開例は 9 例、患側は全例が左であった。
CDH の平均診断時期は在胎 30.9 週、胎児 MRI の平均施
行時期は在胎 34.9 週であった。
治療内容は HFO を 83%、NO 吸入療法を 50%、ECMO の
使用を 33%、横隔膜修復術時の人工膜の使用を 33%の
症例で施行し、平均人口換気日数は 21.8 日、平均酸素
投与日数は 30.3 日であった。
平均%健側肺体積は NO 吸入療法、ECMO で治療介入群:
非介入群がそれぞれ 44.9:56.9、44.2:53.6 で、治療
介入群で%健側肺体積が有意に低かった(それぞれ p
=0.004、p=0.037)。横隔膜修復時の人工膜使用は治
療介入の有無で%健側肺体積に有意な差を認めなかっ
たが、治療介入群で低い傾向にあり、平均%健側肺体
積は治療介入群が 48.0、非介入群が 51.7 であった。人
工換気日数と%健側肺体積には負の相関が認められた
が、
相関係数絶対値は 0.29 で有意な相関ではなかった。
酸素投与日数と%健側肺体積は相関係数絶対値が 0.58
で、有意な負の相関が認められた。
【結論】胎児 MRI を用いた%健側肺体積と生存退院し
た CDH 症例の治療内容との関係を検討し、NO 吸入療法、
ECMO 使用、酸素投与日数と有意な関係を認め、%健側
肺体積は出生前における肺低形成の重症度予測因子と
して有用であると考えられた。
P-295
P-296
胎児両側先天性横隔膜ヘルニアの一例
東京慈恵会医科大学 産婦人科
○和田 誠司、内野 麻美子、上出 泰山、川口 里
恵、杉浦 健太郎、大浦 訓章、恩田 威一、田中 忠
夫
両側先天性横隔膜ヘルニアは先天性横隔膜ヘルニア
の中でも 0.9%と非常にまれな疾患であるが、肺低形成
の程度が強いことや合併奇形の頻度が高いため予後不
良の疾患である。我々はその一例を経験したので報告
する。 症例は 35 歳、1 経妊 1 経産。妊娠 28 週 0 日に
他院より切迫早産のため当院へ母体搬送された。初診
時、超音波検査所見で左胸腔内に胃、腸、肝などの腹
腔内臓器の脱出を認めたため左横隔膜ヘルニアと診断
し、さらに羊水過多(AFI 29)
、心奇形(単心室、肺動
脈閉鎖の疑い)の合併を認めた。MRI でも同様の所見で
あり、妊娠 28 週 1 日に羊水除去術と同時に羊水染色体
検査を施行し、結果は 46, XY、正常核型であった。以
後、切迫早産の治療として塩酸リトドリンの点滴と 2
度の羊水除去を行った。妊娠 30 週より房室弁逆流がみ
られ、32 週より胸水が少量出現した。肺低形成の程度
も強く、さらに重症心奇形を認めるため早期に娩出を
しても予後不良と考えられたため妊娠 36 週を目標に待
機の方針とした。しかし、妊娠 34 週4日に子宮内胎児
死亡を認めたため翌日に児を娩出した。児は 2480g で
肉眼所見は外性器異常以外の異常所見は認めなかっ
た。両親の同意が得られたため、病理解剖を施行した
ところ両側横隔膜ヘルニア(左側の脱出臓器は肝左葉、
脾臓、胃、膵臓、小腸、横行結腸、下行結腸、右側の
脱出臓器は肝右葉)、複雑心奇形(単心室、単心房、総
動脈管)
、両側肺低形成、外性器異常(陰茎形成不全、
尿道下裂)を認めた。
414
横隔膜ヘルニアに合併した胸部腎の 1 新
生児例
聖隷浜松病院 総合周産期母子医療センター 新生児
部門 1、聖隷浜松病院 小児科 2
○上田 晶代 1)、藤田 直也 2)、大木 茂 1)、西尾 公
男 1)、杉浦 弘 1)、菊池 新 1)、道和 百合 1)、白井 憲
司 1)、廣瀬 悦子 1)、栗田 大輔 1)
【はじめに】横隔膜ヘルニアは日常診療において比較
的よく経験する疾患であり、他の疾患を合併している
報告例もみられる。今回我々は、左横隔膜ヘルニアの
術後に発見された胸部腎の新生児例を経験したので報
告する。
【症例】
症例は、変動一過性徐脈を認めたため吸引分娩にて他
院で出生した女児。在胎 40 週 3 日、体重 2912g、Apgar
score 2 点(1 分)/6 点(5 分)であった。生後より呼吸障
害を認め酸素投与が行われたが、生後 12 時間後も症状
の改善がみられず当院に搬送入院となった。初診時よ
り左肺の呼吸音が減弱しており入院時胸部レントゲン
写真にて左肺野に腸管ガス像を認め、左横隔膜ヘルニ
アと診断した。入院時のエコー検査では左腎臓は確認
できなかった。根治術は日齢1に行った。術中所見と
してはヘルニアは有嚢性で内容は小腸と横行結腸の一
部であった。術後経過は呼吸状態を含め良好で日齢 3
に抜管し日齢 5 には経口哺乳を開始できた。術後の胸
部レントゲン写真で、左下肺野の透過性の低下が認め
られた。当初は症状は明らかでなかったが無気肺など
の術後合併症の可能性も考え呼吸理学療法を施行し
た。しかし、その後も透過性の改善がみられなかった
ため精査目的で日齢 9 に胸部 CT、日齢 12 に胸部 MRI
を行ったところ、異常陰影の部位と一致して、左腎が
存在することが明らかとなり、左胸部腎の診断を得た。
現在に至るまで胸部腎による臨床症状は認めていな
い。
【考察】
異所性腎のうち、上方への偏位は比較的まれである。
腎臓は後腹膜臓器であり、胸部腎は合併症がなければ
無症状である。そのため胸部腎は剖検時などに偶然発
見されていることがあるが、横隔膜ヘルニアなどに合
併し発見されている症例もみられる。文献的考察を加
え報告する。
P-297
P-298
先天性横隔膜ヘルニアの臨床的検討
名古屋大学 医学部 産婦人科
○荒木 雅子、真野 由紀雄、森光
二、早川 博生、吉川 史隆
明子、炭竈
誠
【目的】先天性横隔膜ヘルニア(CDH)の予後は肺低形成
の程度に左右される。出生前評価として超音波検査や
胎児 MRI が行われ、予後の推測に有用であるとされて
いる。出生前診断した CDH の出生前所見と予後につい
て、後方視的に検討した。
【方法】1999 年から 2006 年
の 8 年間に他院より紹介され、当院で精査し分娩に至
った CDH25 例を対象とした。超音波検査と胎児 MRI の
指標には、肺胸郭比(L/T 比)
、肺頭部比(LHR)
、肝脱
出の有無、羊水過多の有無、肺底部の有無、健側肺体
積を用いた。また、剖検が行われた 6 例について、肺
重量による肺低形成の程度と病理組織学的所見を分析
した。【成績】症例は 25 例(生存群 15 例/死亡群 10
例)で、診断週数(22~37 週/19~33 週)
、L/T 比(mean
±S.D.)(0.21±0.06/0.10±0.08)、LHR(mean±S.D.)
(1.9±0.90/1.11±0.72)
、肝脱出あり(4 例 27%/9
例 90%)、羊水過多あり(2 例 13%/6 例 60%)
、肺底部あ
り(11 例 73%/5 例 45%)であった。35 週前後での健側
、死亡群(7.35
肺体積(cm3)は、生存群(22.25±5.39)
±5.92)であった。 剖検例は、全例、肺は低形成で、
病理組織学的に肺硝子膜症を呈し、肺機能の未熟性に
よる界面活性物質の不足が示唆された。患側肺の発育
は、健側肺に比べて未熟であった。
【結論】胎児 MRI で
の肺体積、肺底部の有無、肝脱出の有無は新生児予後
予測に有用な指標と考えられた。剖検例の肺は、全例
低形成で、肺の機能的未熟性が示唆された。
415
先天性横隔膜ヘルニア治療戦略の変遷:プ
ロトコール化治療導入と心臓超音波の有
用性
順天堂大学 医学部 小児外科・小児泌尿生殖器外科
○岡和田 学、岡崎 任晴、小林 弘幸、山高 篤行
P-299
P-300
先天性横隔膜ヘルニア術後に観血的動脈
管閉鎖術を必要とした 2 例
大阪府立母子保健センター 小児外科 1、大阪府立母子
保健センター 小児循環器科 2
○上野 豪久 1)、窪田 昭男 1)、稲村 昇 2)、川原 央
好 1)、長谷川 利路 1)、奥山 宏臣 1)
[目的]先天性横隔膜ヘルニアの周術期管理において肺
高血圧症と心不全の管理は重要な課題である。当院で
は左心不全の防止のため動脈管開存目的に術後プロス
タグランジン E1 の投与を行ってきたが、術後動脈管の
自然閉鎖を認めず外科的閉鎖を必要とした 2 例を経験
したので報告する。[症例1] 胎児診断にて横隔膜ヘ
ルニアと診断され母胎管理されていた。胎児超音波検
査による LT 比は 0.025 であった。36 週 6 日帝王切開に
て出生、生下時体重は 2270g。出生後単純 XP にて先天
性横隔膜ヘルニアと診断。直ちに気管内挿管し呼吸器
管理を行った。出生後より肺高血圧に対し一酸化窒素
(NO),フローラン投与開始。また、右心室の後負荷を減
らすためパルクス投与を開始し、生後 1 日目にゴアテ
ックスパッチを用いて Bochdalek 孔ヘルニア修復術を
施行した。脱出臓器は肝臓、胃、脾臓、結腸、小腸で
あった。術直後の PDA は 6.7mm 左右シャントであった。
パルクスは生後 5 日目に中止し、その後 NO、フローラ
ン中止した。PDA は左右シャントとなったが、自然閉鎖
せず、インダシンを2クール投与するも閉鎖を認めな
かったため生後 46 日目に観血的 PDA 閉鎖術を施行し
た。[症例2] 胎児診断にて先天性横隔膜ヘルニアと
診断され出生前のLT比は 0.13-0.06 であった。37 週
3 日帝王切開にて出生、生下時体重は 2554g。出生児よ
りNO、フローラン、パルクスが投与され、生後 4 日
目に Bochdalek 孔ヘルニア修復術を施行した。生後 6
日目にパルクス、フローランが中止された、22 日目に
NOが中止された。インダシンを投与したものの動脈
管自然閉鎖を認めずに生後69日目に観血的動脈管閉
鎖術を施行した。[考察] 当院の先天性横隔膜ヘルニ
アの周術期管理において、肺動脈血管抵抗の上昇によ
る右心不全の防止のために、プロスタグランジン投与
を行ってきた。肺動脈圧が高い時期においては胎児循
環遺残は有効であったが、動脈管が自然閉鎖しない症
例を2例経験した。術後の動脈管の閉鎖のためには、
プロスタグランジン投与量・投与期間の再検討が必要
であると考えられる。また、動脈管開存が遷延した場
合には積極的に観血的当脈管閉鎖術を検討されるべき
である。
目的:先天性横隔膜ヘルニア(以下 CDH)治療のプロト
コール化<高頻度振動換気法(HFOV)及び一酸化窒素
(NO)治療基準の設定、心臓超音波(EC)による肺高血圧
の評価等>の有用性を検討した。方法: 1979 年から
2007 年までに生後 24 時間以内に発症、または出生前診
断され、当院で治療を行った CDH 症例 79 症例を対象。
PD の有無、プロトコール治療の有無により以下の 1~4
群に分類し、後方視的に検討した。
(1)非 PD プロトコ
ール導入前-CDH 群、
(2)非 PD プロトコール導入後-CDH
群、
(3)PD プロトコール導入前-CDH 群、(4)PD プロト
コール導入後-CDH 群。結果: 79 例中、生存例は 50 例
(63.3%)。PD 有り CDH 生存率は 20/39 例(51.2%)で、PD
無し CDH 生存率 30/40 例(75.0%)に比し有意に低かった
(p=0.0033)。プロトコール導入前後で生存率を比較す
ると、導入前生存率 33/55 例(60.0%)、導入後生存率
17/24 例(70.8%)でプロトコール導入により有意に生存
率に改善が認められた(p<.005)。また、EC にて肺高血
圧の改善が経時的に観察可能であった 14 例は全例生存
した。結語:CDH 治療をプロトコール化することで、治
療戦略が統一化され、治療成績の改善につながると考
えられた。特に EC は肺高血圧の観察と手術時期、予後
判定に極めて有用であった。
416
P-301
マウス胎児肺における IGF,IGFR の発現と
IGF 投与効果に関する検討
ポリウレタンフィルム・ドレッシング材を
用いた腹壁閉鎖法を行った腹壁破裂の 2
例
愛知県心身障害者コロニー中央病院 小児外科
○水本 知博、飯尾 賢治、加藤 純爾、新美 教弘、
田中 修一、野村 純子
【はじめに】ポリウレタンフィルム・ドレッシング材
を 用 い た 縫 合 を 行 わ な い 腹 壁 閉 鎖 法 ( Plastic
Sutureless Abdominal Wall Closure、以下本法)を 2
例の腹壁破裂に行ったので報告する。【症例】
(症例 1)
在胎 39 週 6 日、2496g で頭位鉗子分娩にて出生した女
児。脱出臓器は胃、小腸、大腸、膀胱、両側卵巣で、
欠損口は 2.5×4cm であった。出生後約 4 時間で手術室
にて本法を施行した。吸入麻酔下に脱出臓器を腹腔内
へ還納し、臍帯で腹壁破裂部を覆い、ポリウレタンフ
ィルム・ドレッシング材(IV3000;Smith & Nepnew、以
下 IV3000)を貼付した。手術時間は約 10 分であった。
術後 8 日目に腹壁破裂部の自然閉鎖を確認し、13 日目
に IV3000 を除去した。術後 8 日目より経口摂取を開始
した。創は全く認めないが臍ヘルニアを認めたため、
日齢 59 より臍ヘルニアの保存的療法を開始し、現在継
続中である。(症例 2)在胎 36 週 0 日、1510g で帝王切
開にて出生した男児。脱出臓器は胃、小腸、大腸、膀
胱で、欠損口は 2×3cm であった。出生後約 4 時間で手
術室にて吸入麻酔下に脱出臓器の還納を試みたが、下
肢の酸素飽和度の低下を認めたため、二期的手術を行
う こ と と し 、 ま ず Applied AlexisTM(AWR Applied
Medical,XS サイズ)を用いてサイロを作製した。臍は後
日、本法を行うために付着させたまま乾燥しないよう
に滅菌袋に収めた。脱出臓器の浮腫が軽快した日齢 3
に手術室にて吸入麻酔下にサイロを除去し、脱出臓器
を腹腔内に還納した。臍帯で腹壁破裂部を覆った後、
IV3000 を貼付した。手術時間は約 10 分であった。全て
の手技で縫合を用いなかった。閉鎖術後 13 日目に腹壁
破裂部の自然閉鎖を確認し、22 日目に IV3000 を除去し
た。経口摂取は術後 5 日目(日齢 8)より開始した。臍ヘ
ルニアを認め、日齢 51 より保存的療法を継続施行中で
ある。【まとめ】2 例とも本法に関連する合併症を認め
なかった。2 例とも術後、臍ヘルニアの状態となったが、
臍は本来の位置にあり、また縫合創が無く、整容性に
優れていた。1 例では一期的腹壁閉鎖が不可能であった
が、サイロを工夫することで脱出臓器が全還納した時
点で本法を行うことが可能であった。本法は簡便であ
り、また整容性が高く、安全に施行しうる方法である
と考えられる。
P-302
九州大学 大学院医学研究院 小児外科分野
○永田 公二、増本 幸二、田口 智章
【背景と目的】新生児外科領域で先天性横隔膜ヘルニ
アは,集学的治療の発展をもってしても予後不良な疾
患である。その背景にある肺低形成を出生前より改善
させるべく様々な胎児治療が行われているが,未だ有
用な治療法が確立されていない。一方,肺発生過程に
は、FGF や PDGF といった種々の増殖因子の関与が判明
している。これら増殖因子の肺発生における時間的空
間的分布や作用機序を解明することが肺低形成の胎児
治療へとつながると考えられる。そこで,IGF と IGF
receptor(IGFR)に注目し、マウス胎児肺発生過程にお
ける発現について検討した。
【方法】マウスの胎齢 11 日目から 18 日目までの肺を
摘出し, real-time RT PCR 法を用いて各時期の胎児肺
における IGF 1,IGF 2,IGF R1,IGF R2 の発現につい
て定量化を行った。その後,胎齢 17 日目に摘出した胎
児肺に対して 48 時間の組織培養を行い,IGF 1,IGF 2
投 与 群 と 非 投 与 群 に つ い て , PCNA 染 色 , α
SMA,TTF-1,pro Sp-C を用いた免疫染色による IGF 投与
後の形態学的変化について比較検討を行った。
【結果】RT-PCR の結果では,IGF R1 において管状期か
ら嚢状期に m-RNA の発現の強い上昇を認めた。また,
組織培養後の PCNA 染色では,IGF 1,IGF 2 投与群は,
非投与群と比較して肺胞上皮細胞の細胞数において有
意な増加を認めた。また,αSMA,TTF-1,SP-C 免疫染
色においても,IGF 1,IGF 2 投与群において、陽性細
胞の増加をみた。
【考察および結論】IGFR1 は、肺発生過程の管状期から
嚢状期に強く発現し,成獣になると発現は低下する。
肺発生の上皮間質相互作用において IGF 1,IGF 2 は,
IGF R1 を介して肺胞上皮の成熟を促進する可能性が示
唆された。この結果,胎児期の母体への IGF 投与は,
低形成肺の成熟を促進できる可能性があるものと考え
られた。
417
超低出生体重児における消化管穿孔につ
いての検討
都立墨東病院周産期センター新生児科
○大森 意索、渡辺 とよ子、清水 光政、西村 力、
近藤 雅楽子、岩瀬 真弓
緊急気管切開術を必要とした超低出生体
重児の 1 例
淀川キリスト教病院 小児外科 1、淀川キリスト教病院
小児科 2
○春本 研 1)、塩川 智司 1)、船戸 正久 2)、玉井 普
2)
、和田
浩 2)、西原 正人 2)
われわれは気管内挿管による声門下の肉芽形成にて
再挿管困難となり、緊急気管切開術を必要とした超低
出生体重児の 1 例を経験した。本症例は超低出生体重
児であることによる管理の困難性があり、その対応策
を含めて報告する。 患児は生後 49 日目の男児。出生
体重 574g、在胎週数 27 週 0 日の超低出生体重児。Apgar
score は 4 点 8 点であった。出生後呼吸補助を必要と
し、
気管内挿管下に RDS に対し surfactant を 2 回投与。
また CLD に対しては 生日より 6 日間ステロイド投与
を行った。その後 HFO 管理下に呼吸状態に改善がみら
れ、そろそろ抜管可能かと検討していた 49 生日に事故
抜管となった。自発呼吸下では酸素化、換気が不良で
あったため再挿管を試みたが声門下の気管内腔は肉芽
性変化により pin hole の状態であり、気管チューブの
挿入は不可能であった。Nasal DPAP にて換気補助行う
も Pco2 の著明な蓄積あり。陥没呼吸が高度で徐脈とな
ることもあり、緊急で気管切開を行うこととなった。
マスク換気を行いつつ局所麻酔下に前頚部に横切開を
置き、気管内に内径 3.0 の気管チューブを留置した。
切開部の気管内腔は肉芽形成なく、気管チューブは抵
抗なく挿入留置することができた。術後は事故抜去の
予防のため塩酸モルヒネと筋弛緩剤を持続投与した。
しかし気管切開時 1072g であったため既製の気切チュ
ーブでは長く、どうしてもチューブが深くなり換気不
全を来すことが多かった。深さの確認のため、2mm の気
管支ファイバーを用い、スペイサーなどを用いて深さ
の調節を行ったが、適切な深さでの固定に難渋した。
その後適切なチューブを選択すべく試行錯誤を重ねた
上で特注の気切チューブを作成、使用した。 今回わ
れわれは超低出生体重児で、体重が 1072g の時点で気
管肉芽により緊急気管切開術を必要とした 1 例を経験
した。気管肉芽形成の要因としては気管チューブの刺
激のみならず、患児の未熟性、および MRSA キャリアで
あったことが影響していると思われた。気管切開術施
行例としては極めて低体重でかつ未熟性があり、報告
例も少ない。そのためチューブの選択や固定における
様々な問題点に直面し、工夫が必要であった。
P-303
P-304
はじめに)超低出生体重児における消化管穿孔が最近
注目されているが、当院 NICU においてもここ数年消化
管穿孔が急増している(1999-2003 年:3 例、2004-2006
年:8 例)
。今回過去 3 年間の超低出生体重児における
消化管穿孔例を中心に、その原因と対応について検討
した。対象と方法)2004 年から 2006 年に当院NICU
に入院した超低出生体重児 110 例のうち、消化管穿孔
を起こした 8 例および消化管穿孔前に腸瘻術を行った
1 例を加えた 9 例について後方視的に検討した。各症例
について消化管穿孔の原因と考えられる壊死性腸炎
(以下 NEC)、限局性腸管穿孔(FIP)
、メコニウム関連
性イレウス(MRI)のいずれが原因かを検討し、その発
症時期、要因、手術時期、予後について検討した。結
果)年次毎の発症数は 2004 年 1 例、2005 年 4 例、2006
年 4 例であった。9 例の在胎週数は 21 週 6 日-26 週 5
日、出生体重は 508-964g であった。9 例のうち日齢 25
に死亡し剖検できなかった症例と、MRI で穿孔前に手術
を行った症例を除く 7 例の穿孔部位は、胃 1 例、回腸 6
例であった。また生存例 8 例のうち、NEC は 1 例のみで
FIP が 3 例、MRI が 3 例、胃破裂 1 例であった。穿孔の
リスクの検討では、在胎週数 23 週以下が 5 例(56%)
と半数以上を占め、未熟性が強い児での発症が疑われ
た。また NEC 以外の 8 例全例でインダシンの予防投与
が行われ、このうち治療としてのインダシン再投与は 5
例、さらにインダシン投与前後でステロイド使用が 3
例であり、これらが穿孔のリスクであることが推察さ
れた。予後に関しては、死亡は穿孔後急速に状態が悪
化した 1 例のみで、他の 8 例は回腸瘻造設後、順調に
栄養がすすみ退院できていた。また、今回の検討症例
では 7 例が診断当日か翌日に回腸瘻造設され、穿孔時
に待機的ドレナージを行ったのは 1 例のみであった。
考案)当院における消化管穿孔の背景には 23 週以下の
児の急増があげられる。これらの児では、動脈管閉鎖
不良のためインダシンの再投与を必要としたり、慢性
肺疾患や晩期循環不全のためステロイド投与を行う必
要があり、腸管の未熟性に加えさらに穿孔の危険性が
高まると考えられた。今後 23 週以下の未熟な児での治
療にあたっては消化管穿孔の危険性も考慮しながら慎
重に治療を行う必要があると思われる。
418
P-305
北里大学
NICU 内で施行した新生児手術症例の検討
医学部
外科 1、北里大学
潔 1)、野渡
正彦 2)、剱持
医学部
出生体重 500g以下の超低出生体重時に
合併した Gross C 型食道閉鎖症の 1 例
東京慈恵会医科大学 小児外科 1、東京慈恵会医科大学
小児科 2
○芦塚 修一 1)、寺本 知史 2)、長島 達郎 2)、岡野 恵
里香 2)、小林 正久 2)、衛藤 義勝 2)
【はじめに】食道閉鎖症の治療は、一期手術が主流と
なっており超低出生体重児での治療報告もみられるよ
うになった。当院で、出生体重 471g の超低出生体重児
に合併した Gross C 型食道閉鎖症の 1 例を経験したの
で報告する。【症例】症例は、日齢 0 日の女児。単一臍
帯動脈・IUGR の診断にて 28 週 0 日に帝王切開で出生し
た。出生体重 471g、アプガースコア 5/7、出生直後に
気管内挿管をおこない NICU に入室となった。胃管チュ
ーブが挿入を試みるも食道内で抵抗あり、胸部単純レ
ントゲン写真にてチューブの coil up と腹腔内のガス
像を認め Gross C型食道閉鎖症が疑われ、当科紹介と
なった。身体所見では、左手の多指症以外には外表奇
形は認められなかったが出生後時間の経過とともに腹
部膨満が徐々に進行した。胸部レントゲンでは肺炎は
認めなかったが腹部ではガス像の増加がみられた。全
身状態は安定していたが、体重が 500g 以下であるため
に NICU 内で手術を行うこととした。【手術】開胸手術
は術中の全身管理が不可能と思われたために術式は、
腹部食道の banding と胃瘻造設を行うこととした。上
腹部横切開で開腹した。banding を最初に行う予定であ
ったが、肝腫大がある上に人工呼吸器にて挿気するご
とに胃が拡張し噴門部が展開できなかったために、最
初に胃瘻を作成し減圧をすることとした。胃体下部に
4-0 バイクリルで2重にタバコ縫合をかけて 10Fr.マレ
コッとチューブを胃内に挿入し固定した。胃瘻作成後
に胃からの排気が可能になり腹部食道に幅 3mm の血管
テープをかけた。少し弛めに banding を行い、やや換
気圧を上げた状態で胃内にガスが入らないことを確認
し、食道を巻いたテープ同士を 5-0 ナイロンで2か所
固定し banding を終了した。最後にマレコットチュー
ブを体外に出し閉腹した。
【術後経過】術後胃瘻は、乳
首を使って腹壁に固定し気管内への胃内容の逆流防止
のために 15cm の吊上げとし胃内圧が過度に高くならな
いようにし、術後 3 日目より母乳の注入を開始した。
術後の呼吸器合併症もなく、その後注入量を徐々に増
量し、術後2カ月で体重は 800gを超え順調に増加し経
過良好である。
【考察】本邦では、体重 500g 以下の食
道閉鎖の手術症例の報告はなく、本症例は、腹部食道
banding と胃瘻造設にて救命できた。今後、根治術の時
期と banding 部分の狭窄についてどのように治療を進
めていくかが課題である。
P-306
小児科
2
○田中
学 2)
【はじめに】外科疾患を有する新生児の中で、搬送中
の低体温などが危惧される低出生体重児や NICU での集
中管理を中断できない重症新生児においては、NICU 内
での手術が推奨されている.しかし、NICU 内手術の抱
える問題点も存在する.
【方法】2004 年以降に北里大学
外科において NICU 内で手術を施行した9例(緊急手術
5例、予定手術4例;平日日勤帯での手術 5 例、休日
あるいは夜間帯の手術 4 例)を対象とし、NICU 内での
手術における問題点を検討した.症例は超低出生体重
児における消化管穿孔3例、超低出生体重児の鎖肛合
併 prune belly 症候群に対する stoma 造設1例、重症
呼吸循環不全により HFO 管理、NO 吸入、各種循環作動
薬使用中の5例(ファロー四徴症合併消化管穿孔 1 例、
腸回転異常症を伴わない小腸軸捻転症 1 例、先天性横
隔膜ヘルニア 3 例)である.【結果】prune belly 症候
群の 1 例、横隔膜ヘルニア 2 例を失ったが、他の6例
は生存中である.NICU における手術スペース:出生前
診断された横隔膜ヘルニアでは、出生前より、NICU で
の手術を想定して児のスペースを確保し、NO の配管を
延長させた.しかし、緊急手術例では狭いスペースで
の手術を余儀なくされる例もあった.麻酔科、手術室
看護師:夜間の緊急手術であっても NICU での管理処置
に当たった.ただし、手術開始時刻を遅らせることの
ない様手術前半の器械出しを外科医が行うこともあっ
た.感染:手術室と比較して不潔環境であるがそれに
伴うと思われる感染は経験しなかった.体温管理:手
術室より室温が低いが、ラジアントウォーマーをはず
さず head light を用いること、ドレープで腹部を覆う
こと、消毒薬・生理食塩水は加温庫から必要時取り出
すなどの対策をとった.腹水や洗浄水に起因する低体
温に陥る例もあり、更なる注意が必要である.手術器
械、物品:手術室での手術と同様の器械、物品が準備
されるようなシステムが構築されており、不自由はな
かったが、術前より必要物品の充分な確認が必要と考
えられた.
【結論】NICU においても手術室とほぼ同様の
術中管理が可能であった.そのためには、日ごろから
他科、コメディカルとの密な連携が必須である.
419
P-307
臍帯潰瘍を合併した先天性十二指腸閉鎖
症の 1 例
Apple peel 型腸閉鎖症の発生要因につい
ての一考察-発生母地としての腸固定異
常-
山梨県立中央病院 小児外科
○久保 雅子、岩下 公江
P-308
大阪府立母子保健総合医療センター 小児外科 1、同産
科 2、同新生児科 3
○阪 龍太 1)、窪田 昭男 1)、木下 聡子 2)、細川 真
央好 1)、奥山 宏臣 1)、
一 3)、長谷川 利路 1)、川原
上野 豪久 1)、北島 博之 3)、末原 則幸 2)
臍帯潰瘍からの大量出血により胎児ジストレスをきた
し、緊急帝王切開にて分娩後急性腎不全をきたした十
二指腸閉鎖症を報告する。【症例】在胎 11 週 6 日に
DD-twin と診断、27 週 6 日に 1 児に double bubble sign
を認めた。30 週 0 日子宮収縮を認めたため入院、
tocolysis 開始した。33 週 0 日羊水過多を認めたため
羊水除去を 3 回施行。37 週 1 日 NST にて non-reactive
pattern となり、BPS 不良のため緊急帝王切開施行。第
二児に異常を認めなかったが、第一児の羊水は血性で
あり、臍帯根部から動脈性の出血を認めた。出生体重
=2474g、Apgar Score=3/8(1 分/5 分)であった。体動
を認めず、貧血様であった。貧血(Hb=8g/dl)を認めた。
出血性の pre-shock 状態と判断し、酸素投与、輸血を
行った。亡尿を認め、利尿(1ml/kg/時)が得られるのに
約 32 時 間 を 要 し た 。 急 性 腎 不 全 を き た し 、 血 中
creatinine は第 9 生日の 4.5mg/dl まで上昇を続けた。
生後 1 時間の腹部単純X線写真で十二指腸閉鎖症と診
断した。急性腎不全が利尿期に移行したことを確認し
て、第 12 生日に根治術を行った。Post-papillary 型の
離断型十二指腸閉鎖と Non-rotation 型の malrotation
を認めた。遠位側盲端近くに2カ所の膜様閉鎖と棍棒
状の拡張を認めたので、この部分を切除して、十二指
腸十二指腸端側吻合を行った。長期間の絶食と静脈栄
養および Post-papillary 型の十二指腸閉鎖のために術
後、肝内胆汁うっ滞を来したが、Trans-anastomotic
tube からの経腸栄養の開始と共に軽快した。【考察】胎
児臍帯潰瘍は稀な疾患であるが、先天性十二指腸閉鎖
症に合併し易いとされ、今日までに 10 数例の報告があ
る。病因病態は十分解明されてはいないが、十二指腸
閉鎖に伴う嘔吐で、trypsin 等の膵外分泌酵素が羊水中
に放出され、これが臍帯の Wharton ジェリーを溶解す
ることによって起こると推測されている。出生前に本
症を診断し、予防あるいは治療することは困難であり、
周産期における死亡率は高い。頻回の胎児モニタリン
グと精密な超音波検査が唯一本症の救命率を上げる方
法だと考えられている。自験例は羊水過多の管理中に
胎児ジストレスを早期に発見したために、緊急帝王切
開を行い救命し得た。
【はじめに】先天性腸閉鎖症の成因は胎生期の腸重積
や腸管の捻転による血流障害であるとされ、実際に
我々も手術中に腸重積の痕跡をみることがある。しか
し、すでに完成された腸閉鎖症では捻転の痕跡をみる
ことは稀である。最近我々は空腸狭窄症で血流障害の
ない広範な小腸軸捻転を合併し、Apple Peel 型前駆状
態とでもいうべき症例を経験した。症例を呈示し、
Apple peel 型腸閉鎖症の成因について検討を加え報告
する。
【症例】日令1、男児。2880g, 36 週で出生。羊水過多
を指摘されていた。生後 17 時間目に嘔吐で発症。空腸
閉鎖症の診断で開腹した。手術所見は Treitz 靱帯より
30cm までの空腸が著明に拡張し、それより肛側の全小
腸が時計方向に 720°捻転し細くなっていた。結腸は捻
転には巻き込まれていなかった。捻転腸管は壊死に陥
ることなく、捻転解除により下部小腸にも順次腸内容
が移行し全腸管は温存された。腸回転異常はなかった
が、Treitz 靱帯から右下腹部にかけての小腸間膜の付
着部が極めて狭小で、小腸軸捻転を起こしやすい状態
と考えられた。手術は小腸間膜の巾を拡げるべく間膜
線維組織を剥離し、チューブ空腸瘻を造設した。術後
経過は良好であった。
【考察】高位空腸閉鎖に Apple peel 型下部小腸を伴う
腸閉鎖症は頻度は高くないが、ある一定の比率で発生
している。このことから本疾患には基盤に、ある共通
の解剖学的要因が存在すると推測される。今回我々が
経験した空腸閉鎖において、空腸と下部捻転腸管の間
に断裂がおこれば離断型腸閉鎖となる。その際捻転腸
管のうち血流の悪い部分は壊死し、比較的血流の良好
な部位は生き残るであろうし、小血栓を生じた箇所の
腸管は小壊死をおこし、多発腸閉鎖を生じるであろう。
血流の比較的良好な部位とは右結腸動脈からの血流が
回結腸動脈との吻合部に流入する回腸末端ではないだ
ろうか。ここに空腸部で離断し、腸間膜を大きく欠如
し回腸終末部が残存した、Apple peel 型の腸閉鎖症が
成立する。従って原因は小腸の広範な軸捻転と考えら
れ、その解剖学的な異常として、本症例にみられたよ
うに、Treitz 靱帯から回盲部にかけての腸間膜付着部
が短いことが挙げられる。発生機序としては腸回転終
了後の盲腸の下行不全の状態であり、後腹膜固定が不
完全である。小腸間膜根部の後腹膜固定部位は正常に
くらべてはるかに短く、腸固定異常または腸固定不全
の病態が基盤にあると考えられた。
420
胎児超音波検査にて異常を認めた新生児
腸管重複症の一例
鹿児島大学病院 小児病態制御学分野
○鳥飼 源史、高松 英夫、田原 博幸、加治 建、
下野 隆一、林田 良啓
出生前診断された新生児腎腫瘍3例の検
討
昭和大学病院 小児外科 1、昭和大学 藤が丘病院 外
科 2、昭和大学横浜市北部病院 こどもセンター 小児
外科 3
○タナカ 早恵 1)、土岐 彰 1)、八塚 正四 1)、鈴木 淳
一 1)、鈴木 孝明 1)、菅沼 理江 1)、内藤 美智子 1)、
真田 裕 2)、五味 明 3)
【目的】出生前超音波検査で発見された新生児腎腫瘍
3例を経験したので報告する。
【症例】症例1:在胎 31
週より羊水過多と胎児右腎腫瘍を指摘されていた女
児。在胎 38 週に胎児仮死兆候を認め、帝王切開で出生
した。出生体重 2,820g。入院時血圧は 104/30 で、収縮
期圧は常に 100~130mmHg を示した。右腹部に手拳大の
表面平滑、弾性硬、可動性不良な腫瘤を触知した。日
齢 2、無呼吸発作からショック状態となったため、腫瘍
内出血を疑い緊急手術を行った。腫瘍は 8×6×6cm で、
副腎、周囲リンパ節への転移はなかった。病理診断で
核分裂像や幼弱細胞などの悪性所見はなく、先天性間
葉芽腎腫、線維腫型と診断された。症例2:羊水過多
と胎児腹部腫瘤を指摘されていた男児。
在胎 34 週 6 日、
経腟分娩で出生した。出生体重 2,492g。右腹部に正中
を超える、表面平滑、弾性硬、可動性不良な腫瘤を触
知した。入院時収縮期圧は 100mmHg 以上で、レニン活
性 30.1ng を認めた。血圧のコントロールが困難で、ま
た出生後に腫瘤の増大を認めたため、呼吸循環系への
影響を考慮して日齢 3 に手術となった。摘出腫瘍は 9
×6×5cm であった。術前は先天性間葉芽腎腫と考えて
いたが、病理診断は腎芽腫、腎芽型、小巣亜型であっ
た。腫瘍全摘出、転移(-)、favorable histology よ
り、追加治療なしに経過観察とした。症例3:在胎 29
週より羊水過多と左腹部腫瘤を指摘され、出生前超音
波検査、MRI 検査より胎児先天性間葉芽腎腫と診断され
ていた男児。在胎 34 週、前期破水のため帝王切開で出
生した。出生体重 2,759g。生下時、全身浮腫著明で、
血圧 82/47 とやや高値を示した。レニン活性 78.1ng で
あった。左腹部に触診上、表面平滑、弾性硬、CT・MRI
で境界明瞭な腫瘤を認めた。日齢 6 に腫瘍摘出術を施
行した。摘出腫瘍は 8.5×8.0×6.7cm で、病理診断は
先天性間葉芽腎腫、線維腫型であった。
【結語】出生前
超音波検査により発見された新生児腎腫瘍を 3 例経験
した。うち2例は先天性間葉芽腎腫であり、1 例は腎芽
腫であった。いずれも予後良好であり、文献的考察を
加え報告する。
P-309
P-310
症例は在胎 37 週 5 日、出生体重 2745g、帝王切開にて
出生した 0 生日の男児。妊娠 36 週時に胎児超音波検査
にて腹腔内嚢胞を認めたため、出生後当科へ紹介され
た。入院時全身状態は良好で、右側腹部に可動性良好
な腫瘤を触知した。腹部エコーにて肝下面に直径 4cm
の嚢胞を認め、当初は胆道拡張症が疑われた。しかし
胆道シンチでは胆汁排泄能に異常なく、その後経口摂
取不良と腹部膨満が出現したため、CT を施行し、腸管
重複症が疑われた。その後嘔吐も出現したため、腸閉
塞の診断にて緊急開腹手術を施行した。回盲部より口
側 10cm の回腸に嚢胞性腫瘤が存在し、この部分を含め
て約 10cm の小腸切除端々吻合術を施行した。病理所見
では、腫瘤は直径 4cm で正常腸管との交通を認めず、
また外縦走筋の一部を共有していた。また十二指腸粘
膜上皮類似の多列円柱上皮を有しており、非交通性球
状腸管重複症と診断された。その後の経過は良好で、
術後 12 日目に退院した。
1988 年から 2006 年までの 19 年間に、当科で経験した
腸管重複症は本症を含めて 15 例あり、部位別では食道
3 例、胃 1 例、小腸 5 例、回盲部 4 例、結腸 2 例であっ
た。そのうち胎児エコーにて異常を指摘された症例は
本症を含めて 3 例あったが、いずれも腸管重複症と診
断されたのは出生後あるいは手術時であった。またこ
のうちの 1 例は腹腔内嚢胞の経過観察中に腸閉塞を起
こし緊急手術となった。
胎児超音波検査における嚢胞性病変の診断率は向上し
つつあるが、腸管重複症の頻度は高くはなく、確定診
断も容易ではない。しかし腸閉塞などの重篤な合併症
が発生する危険性を考慮し、常に本疾患を念頭に置き
ながら出生後速やかに鑑別診断を進めるべきである。
421
当院における新生児卵巣嚢腫に対する治
療指針の検討
静岡県立こども病院
○光永 眞貴、漆原 直人、宮崎 栄治、谷 守通、
福本 弘二、松岡 尚則、福沢 宏明、長谷川 史郎
[目的と対象]近年、超音波による出生前診断の進歩に
より、胎児期に卵巣嚢胞が発見される症例が増えてい
る。胎児卵巣嚢胞は母体のエストロゲンなどによる刺
激により発生すると考えられており、多くは分娩後に
ホルモン刺激の減少により自然消退すると言われてい
るが、捻転例も多くみられる。そこで当院における新
生児の卵巣嚢胞 29 例(全例胎児診断あり)の経過から
治療指針につき検討した。[結 果] 14 例(48%)は経
過観察にて嚢胞の自然消退を確認したが、15 例(52%)
では経過観察中に手術を施行した。1) 自然消退 14 例:
経過観察で嚢胞の消失を確認した時期は生後 6 ヶ月ま
で 8 例、1 才まで 2 例、1 歳以上 2 例で、6 ヶ月までに
62%の症例で嚢胞の消失を確認した。1例は現在も経
過観察中である。これら全てで生後早期から嚢胞の縮
小傾向が認められた。2) 手術 15 例:経過観察中、<1
>嚢胞内に debris・石灰化を認める例<2>腸管重複症
などの他疾患と鑑別が困難な例<3>両側発生例<4>
嚢胞径の縮小が認められない例で手術が施行された。
手術例 15 例中、9 例(60%)と高頻度で卵巣の茎捻転
を認めた。その多くは胎児期にすでに捻転をきたして
いるものと考えられた。病理所見の得られた 14 例全て
が単純性嚢胞であった。[考 察] 本症では、高頻度
で卵巣茎捻転がみられ注意が必要である。生後は嚢胞
のサイズ・内容の性状を頻回にチェックし、生後早期
に縮小傾向が見られるものは間隔をあけて引き続き経
過観察する。しかし経過中に壁の石灰化・debris 貯留
などを認める場合はすでに卵巣が捻転・壊死している
可能性が高い。したがって新生児期に縮小傾向がない
場合や、サイズの大きなものでは捻転の危険性が高く、
早期の小切開あるいは腹腔鏡での開窓術を十分に考慮
する必要がある。その際には、妊孕性を確保するため
に対側卵巣の観察も十分に行う必要がある。
当院における妊娠期からの小児虐待防止
のとりくみ
市立豊中病院 産婦人科 1、市立豊中病院 小児科 2
○大西 洋子 1)、和田 朋 1)、松本 有里 1)、塩路 光
徳 1)、徳永 康行 2)、松岡 太郎 2)、徳平 厚 1)
【緒言】近年の小児虐待事例の増加に伴い、各自治体
や児童相談所における虐待対策ネットワークが整備さ
れ様々な試みがなされている。しかし、その多くが起
きてしまった小児虐待の早期発見と再発防止を主体と
している。ほとんどのケースが家庭環境や両親の成育
環境、あるいは早産多胎など児の出生時の状況に端を
発していることを鑑みると、ハイリスク環境をピック
アップし予防対策や家庭のサポートをしていくことこ
そ必要と考えられる。一方、産科診療は妊娠期から産
褥 1 ヶ月までの母親とその家族に密接にかかわるため、
児の家庭環境の観察が比較的容易である。そのため当
院では 2004 年 4 月に小児虐待対策委員会を発足し、小
児科・救急科に産科が加わってそれぞれ情報を交換・
共有し対応策をとっている。とりくみと現状について、
特に産科的視野から評価検討し報告する。【対象と方
法】2004 年~2006 年の当院における年間分娩数は 1105
件~1272 件で、豊中市の出生数の約 1/3 を占めている。
当院で分娩した妊産婦のうち、妊婦健診時の助産師外
来で虐待の既往・精神疾患・若年・双胎妊娠などの項
目に該当するもの及び、分娩後のエジンバラ産後うつ
病自己評価スケールでハイリスクと判断された妊産婦
をピックアップしている。病棟のカンファレンスで退
院後のフォローが必要と判断された妊産婦に関して
は、月1回の小児虐待対策委員会で報告する。委員会
は、当院小児科・救急科・産科の医師および看護師で
構成されている。また、2 ヶ月毎に大阪府豊中保健所と
豊中市健康づくり推進課よりそれぞれ保健師数名が参
加する合同カンファランスを行い、問題症例の退院後
の家庭訪問やフォローアップにつなげている。個人情
報の保護には細心の注意が払われ、当日配布された資
料のうち個人を特定できるものは当日のうちに回収し
処分している。2006 年度に虐待ハイリスクとしてピッ
クアップされ地域スタッフに申し送られた症例は 53 例
であった。出産年齢別では 35 才から 40 才未満が 28%
と最も多かった。要因別では精神疾患が 32%を占め、
パニック症候群とうつの率が高かった。
【考察と結語】
当院における小児虐待防止の試みについて報告した。
発足よりまだ期間が短いことより、現段階では実際の
効果についての評価は困難であるが、今後もこの試み
を継続しシステムをさらに改善させる努力をしていき
たいと考える。
P-311
P-312
422
沖縄県立中部病院における 10 代の妊娠出
産の検討
沖縄県立中部病院 総合周産期母子医療センター 新
生児科 1、沖縄県立中部病院 総合周産期母子医療セン
ター 産科 2
○小濱 守安 1)、源川 隆一 1)、木里 頼子 1)、真喜屋
智子 1)、橋口 幹夫 2)、金城 国仁 2)、徳嶺 辰彦 2)、
浜田 一志 2)、梅田 さおり 1)
【はじめに】最近 10 代の妊娠が増加しつつあるといわ
れている.10 代妊娠は経済的,社会的な問題や,家族
基盤の弱さより多くの問題を抱えている.今回当院に
おける 10 代妊娠の現状を把握することを目的に,調査
検討を行いその結果を報告する.【方法】調査期間は
2000 年 1 月 1 日から 2006 年 12 月 31 日までの 7 年間で
ある.対象は期間中に当院を受診し,分娩時に 20 歳未
満であった母親及びその児である.後方視的に入院及
び外来診療録を検討した.調査項目は母および配偶者
の年齢,既往妊娠,家族環境,母及び配偶者の職業,
入籍の有無,児の転帰である.
【結果】期間中の 7 年間
に分娩数は 5692 例であり,10 代妊娠は 178 例(3.1%)
であった.男児 78 例,女児 101 例であった.NICU 入院
は 61 例であった.未受診分娩は 29 例であった.母親
の年齢は 17.3±1.2 歳,配偶者は 19.7±3.2 歳である.
初診時週数は 25.9±9.9 週,分娩時週数は 37.2±3.7
週,出生体重は 2609.1±716.9g であった.既往妊娠で
は流産 32 回,既往分娩 19 例であった.出産時に入籍
済群が 93 例,入籍予定無群が 46 件,入籍予定群が 37
例であった.入籍済み群が母 17.7 歳,父 20.5 歳,入
籍無群が母 16.8 歳,父 19.2 歳であった.出生した児
の在胎週数も入籍有群が 37.4 週,出生体重 2691.0gと
最も成熟していた.家庭環境では 178 例中 50 例が母子
家庭,15 例が父子家庭であった.出産時の母の職業と
しては主婦が 59 例と最多であるが,高校生 22 例,中
学生7例であった .父親の職業は土木建築業関連業種
が最多であり,高校生は 11 例,中学生1例であった.
【結論】10 代妊娠は NICU 入院率が高く,また十分な妊
娠管理を受けていない.婚姻状況でも出産時点で入籍
できたのは 52%であり,25%は入籍の予定がなく,子育
ての環境は厳しい.家庭状況では片親家庭が多く,高
校生以下の出産が 16%もあった.対策として 10 代母親
の家庭支援や高校生以下で出産した母親への学業,育
児支援,また出産に伴う配偶者(男性側)の子育てへの
責任履行を含めた教育が必要である.
P-313
P-314
当院周産期センターでの出生前訪問
福岡大学病院 総合周産期母子医療センター 新生児
部門 1、福岡大学病院 総合周産期センター 産科部門
2
○森 聡子 1)、中村 公紀 1)、太田 栄治 1)、木下 竜
太郎 1)、堤 信 1)、雪竹 浩 1)、小濱 大嗣 2)、吉里 俊
幸 2)、瓦林 達比古 2)、廣瀬 伸一 1)
1998 年3月より当センターでは出生前訪問を行ってき
たが、ハイリスク症例の搬送の増加に伴い面談も変化
してきた。
そこで前期・後期に分けて症例の変化や問題点につい
て考察したので報告する。
【対象と方法】1998 年から 2007 年までに当院産科部門
に入院し、出生前訪問を受けた 298 例。そのうち前半
(1998 年3月~2002 年)と後半(2003 年~2007 年)に分
けて、入院診療録などから後方視的に検討した。
【結果と考察】1.症例数の変化
前期は 73 例に対し後期は 225 例と著増した。これは出
生前訪問がスタッフの間で浸透してきた事により産科
での導入がよりスムーズになっているためと思われ
た。
2.面談の実際
前期は産科、新生児部門(以下 NICU)のスタッフがそ
ろって面談を行う形を多くとったが、後期には NICU 医
師と助産師で行うことが多かった。出生前より NICU の
受け持ち看護師を決定することは続けており、NICU 見
学の際に紹介することで児の受け入れ体制が準備され
ていることを知ってもらった。これは母親の児に対す
る不安の軽減に役立っていた。
3.母体診断(重複あり)
全期間を通じて大きな変化はみられず、切迫早産が最
も多かった(前期 80%、後期 72%)。その他には多胎(前
期 35%、後期 24%)、子宮内胎児発育遅延を含む胎児異
常(前期 22%、後期 29%)
、前置胎盤などを含めた母体
疾患合併妊娠(前期 19%、後期 24%)だった。
4.同席者と NICU の見学
前期のパートナーの同席率は25%と低く、アンケー
トでのパートナーの同席を希望する声も多かったため
後半はできるだけ同席での面談を行えるよう依頼し
た。しかし、後期も同席率は65%と満足いくもので
はなかった。一方 NICU の見学は前期では36%のみだ
ったが、後期はパートナーのみの見学も含めて93%
が行っていた。パートナーの同席を得ていくことは今
後の課題となると思われた。
【まとめ】施設により出生前訪問の形はさまざまだが、
新生児科医ができる妊婦ケアとして出生前訪問は有用
と思われた。しかし、周産期における心のケアの必要
性は高まっているにも関わらず、当院でも周産期セン
ター専任の心理士は確保できておらず、今後も家族の
必要とする出生前訪問の形を探って行きたい。
423
NICU退院後の母親に与える精神的疲
労と支援の重要性
東海大学 医学部 専門診療学系 小児科 1、東海大学
付属八王子病院 2
○野村 雅寛 1)、西方 準一郎 1)、平井 康太 1)、廣井
愛子 2)
P-315
P-316
生 殖 補 助 医 療 の 現 状 に つ い て
北里大学病院で出生した新生児の検討
医学部 小児科 1、北里大学 医学部 産婦
北里大学
人科 2
○野渡 正彦 1)、伊藤 尚志 1)、狐崎 雅子 1)、釼持 学
1)
、長谷川 豪 1)、高田 史男 1)、石井 正浩 1)、天野
完 2)、海野 信也 2)
【はじめに】生殖補助医療の進歩は目覚しいものがあ
り、結果として多くの新生児が誕生している。しかし、
その頻度が増加する一方で、多くの問題点も指摘され
ている。不妊治療後に、北里大学病院で出生した新生
児の現状を報告する。
【対象・方法】2004 年 4 月より 2007 年 3 月までの約 3
年間、北里大学病院で出生した新生児の中で、不妊治
療後に出生した児について後方視的に検討した。
【結果】
検討期間中に院内で出生した新生児は 3502 人、
不妊外来通院後の出生は 453 人で 12.9%であった。体
外受精 172 人、人工授精 140 人、排卵誘発のみ 87 人、
その他(内容不明、タイミング法など)54 人であった。
その他を除外した 399 人(11.4%)を不妊治療群として
検討した。不妊治療群中、多胎は、双胎 80 組 160 人
(40.1%)、品胎 3 組 9 例(2.3%)であった。低出生体重
児(2500g未満)は 188 人(47.1%)、早産児(37 週未満)
は 137 人(34.3%)であった。呼吸管理または輸液管理
を必要とする NICU 入院は、118 人(29.6%)であった。
一方、不妊治療群以外で同時期に出生した新生児 3103
人中、NICU 入院は 582 人(18.6%)であった。NICU 入院
118 人中、多胎は 82 人(69.5%)、低出生体重児は 101
人(85.6%)、早産児は 91 人(77.1%)であった。その他
の NICU 入院には、18 トリソミーなどの染色体異常 2
例、原因不明の胎児水腫 2 例、胎便性腹膜炎、心室中
隔欠損、低血糖、新生児仮死などが各 1 例あった。
【考察】不妊治療後に出生する新生児は当院において
大きな割合を占めていた。双胎などを含むハイリスク
妊娠が集中する大学病院の特殊性、より安全なお産を
求める不妊後の家族のニーズなどによるものと考えら
れる。多胎を含む低出生体重児の頻度が高く、NICU 入
院は約 3 割に及び、自然妊娠に比較して高頻度であっ
た。先天奇形なども認めたが、特に偏りはなく、不妊
治療との因果関係は明らかではなかった。
【はじめに】 新生児医療の進歩に伴い救命される児
が増加しているが、近年虐待例も増加しており、問題
提起されてきた。しかし、児への虐待ではなく家庭内
環境の悪化、母親の精神的疲労による問題も増加傾向
が認められる。今回は、家庭環境がどのように変化し
たのかにつき考察したので報告させていただくことと
した。【目的】NICU入院後、外来継続診療とした児
の中で、家庭環境の変化が生じた家庭につき、誘因、
生じた事由、結果につき考察することを目的とする。
【方法】平成元年4月より平成 18 年4月までに当院N
ICU入院、外来継続診療とした児より、調査に協力
された家庭に対し、A母親より聞き取り調査、B父親、
祖父母よりアンケート調査を実施し、ABともに回収
できた41組、A或いはBのみ可能であった53組に
つき考察を試みた。
【結果】上記計94組のうち、離婚
17名、自殺5名、精神病院入院歴13名、投薬治療
29名、医療訴訟2名、訴訟考慮11名、計77組に
憂慮すべき状態が生じていた。94組中、保健師、ソ
ーシャルワーカーなど相談できていた家庭は31組、
医師に相談できていた家庭は28組であり、誰にも相
談しなかった家庭も35組認めていた。憂慮すべき状
態に至らなかった17組に関しては、全例がいずれか
に相談できており、離婚、自殺、精神病院入院歴とな
った35名中、相談できたのは8名のみであった。【考
察】多胎児保育環境、未熟児虐待と過去多くの問題提
起がなされ、周囲の支援環境の不備が指摘されてきた。
NICU入院中においては医師、看護師を中心に献身
的医療・看護がなされることにより両親は、24時間
病院に依存する部分も多く満たされていることも多
い。実際に退院した後は、相談・依存できる場所、人
は限られたものになるためだ。今回の家庭環境の変化
については、他人、行政が立ち入りにくい面が多々あ
るため、どのようにしていくのがよいのかの早急なる
結論は困難であるが、早急に考えていかねばならない。
いま必要なのは、いかなる退院後のフォロー体制が必
要であり、あたたかさなのだろうか。
424
重 度 の 貧 血を呈 し た 双 胎間輸 血 症 候群
(TTTS)受血児の 1 例
九州厚生年金病院 小児科 1、九州厚生年金病院 産婦
人科 2
○三島 祐美子 1)、山本 順子 1)、高橋 保彦 1)、川上
剛史 2)
【はじめに】一般的に、TTTS 供血児は慢性的な血液の
供給により、貧血、尿量減少、羊水過少、胎児発育不
全を主症状とし、受血児は慢性的な容量負荷により、
多血、尿量増加、羊水過多、心不全、胎児水腫を主症
状とする。今回、胎内で羊水過多を認めた TTTS 受血児
でありながら出生時に Hb3.2g/dl・Ht10.1%と重度の貧
血を呈した症例を経験したので報告する。
【症例】母親 31 歳、経妊1回、経産1回、自然妊娠に
て妊娠成立。前医で MDtwin と診断され経過を見られて
いた。前医での最終健診時(25 週 4 日)1 児 650g、2 児
1000g と体重差を指摘されていた。27 週 2 日、里帰り
分娩目的に当院産科を受診時、1 児 IUFD(stuck twin)
、
生存児は羊水過多(最大羊水深度 8~9cm)
・心筋肥大・
皮下浮腫を認め、TTTS stage5の診断で同日緊急帝王
切開術にて出生。出生時啼泣なく全身蒼白、吸引刺激
にわずかに反応する程度で、挿管し S-TA 投与後 NICU
に入院した。出生体重 1300g、全身の浮腫が著明であっ
た。重度の貧血に対し直ちに部分交換輸血 100ml を行
い、Hb9.3g/dl まで回復した。両室心筋の著明な肥厚・
多尿といった TTTS 受血児に特徴的な病態を認め、心不
全に対し DoA+DoB の投与を開始した。更に心機能が悪
化し僧帽弁逆流が増大したため日齢1より後負荷軽減
目的にクロルプロマジンを併用し、日齢3に心機能は
改善、日齢6より心筋肥厚の改善傾向が見られた。な
お、入院時 BNP1288pg/mL、hANP740pg/mL と著しい高値
を示していた。出生直後から 10~20ml/kg/hr の多尿が
あり、血圧や心エコーなどをモニターしながらボリュ
ームコントロールを行った結果、日齢 8 現在、循環・
呼吸状態は安定しており、DoA・DoB・クロルプロマジ
ンの投与は中止でき、頭部エコー上も出血は認めず PVE
2°認めるものの増悪なく経過している。
【結語】TTTS 受血児では通常多血傾向にあるが、本症
例のように他児が IUFD となった際はそのポンプ機能が
失われるために吻合血管を介しての血流逆転が起こる
と言われている。TTTS で IUFD を認めた場合は同病態を
考慮し早急な児の娩出が必要と考えられた。また、重
度貧血に対し心負荷を考慮し交換輸血を選択したこと
で全身状態を悪化させることなく救命できたと考え
る。
P-317
P-318
急性型双胎間輸血症候群の一例
横浜市立大学 市民総合医療センター 母子医療セン
ター1、横浜市立大学付属病院産婦人科 2
○野村 可之 1)、長谷川 哲哉 1)、斉藤 圭介 1)、小川
幸 1)、奥田 美加 1)、高橋 恒男 1)、平原 史樹 2)
【緒言】双胎間輸血症候群(twin-twin transfusion
syndrome、以下 TTTS)は一絨毛膜二羊膜性双胎(MD 双
胎)において、胎盤での吻合血管を介して引き起こさ
れる重篤な疾患である。重症例では受血児の心不全・
胎児水腫、供血児の腎不全・循環不全を認める。MD 双
胎の5~10%に合併するといわれ、超音波所見として
一児の多尿による羊水過多と二児の乏尿による羊水過
少が特徴である。今回我々は妊娠 32 週まで TTTS 所見
を認めず、妊娠 33 週に NRFS のため緊急帝切した後に、
急性型 TTTS と診断された症例を経験したため報告す
る。
【症例】39 歳、2回経妊0回経産。自然妊娠し妊娠
初期に MD 双胎と診断した。外来妊婦健診は順調に経過
し、妊娠 28 週 5 日から 32 週 2 日まで双胎管理入院。
胎児発育は週数相当、羊水量正常に経過。退院時の推
定胎児体重 1904g/2069g、羊水ポケット 3.5cm/ 2.5cm。
その後、急速な子宮の増大を自覚したが、受診せず。
妊娠 33 週 4 日、外来定期健診時、退院時体重より 5.9kg
の体重増加あり、また胎児心拍モニターで第2児の
late deceleration を認め、緊急帝切を施行した。第一
児(受血児)男児、2130g(AFD)、Apgar score 8点/
9点、UAPH 7.318、Hb 23.9mg/dl、Ht 71%。第二児(供
血児)男児、1564g(light-for-date)
、Apgar score 6
点/8 点、UAPH 7.187、Hb 3.9mg/dl Ht 13%。生後 3
ヶ月現在、受血児は経過良好であるが、供血児は両耳
ABR で refer にて現在精査中である。胎盤は肉眼的にう
っ血様と虚血様に二分され、血管吻合は径2mm の A-V
吻合が2本認められた。
【考察】今回の症例は、胎盤の
うっ血、虚血の所見と両児間のヘモグロビン値に著明
な差を認め、急速に進行した TTTS に特徴的であった。
急性型 TTTS の報告例は少なく、その原因は不均衡な子
宮収縮や両児間の胎児の高低に伴う胎盤からの血液移
動によると考えられているがいまだ不明な点が多い。
また、急性型 TTTS の予知は困難であり、MD 双胎におい
ては経過順調でも、慎重な経過観察とともに妊婦本人
に対し、急激な子宮の増大や体重増加などの自覚症状
に特に注意を促す必要がある。
425
当院における過去 12 年間の双胎間輸血症
候群の臨床的検討
沖縄県立中部病院 総合周産期母子医療センター 新
生児科 1、沖縄県立中部病院 総合周産期母子医療セン
ター 産科 2
○梅田 さおり 1)、真喜屋 智子 1)、木里 頼子 1)、源
川 隆一 1)、小濱 守安 1)、橋口 幹夫 2)
【目的】双胎間輸血症候群(以下 TTTS)は一絨毛膜二
羊膜性双胎の 10~15%に発生し、重症例では周産期死
亡・神経学的合併症を有することもある予後不良の疾
患である。当院で管理された TTTS の臨床経過について
検討した。
【方法】1994 年 1 月~2006 年 12 月までの 12
年間に当センターで一絨毛膜二羊膜双胎として入院し
TTTS と診断した 25 症例について診療録を後方視的に
検討した。また、2001 年 10 月の周産期センター開設前
後に分けて、児の予後についても検討した。【結果】在
胎 24 週未満の流産・死産は 8 組あり TTTS を発症した
双胎の約 3 分の 1 を占め、診断時期は在胎 16~20 週と
早かった。生産となった 17 組の平均在胎週数は 31.0
±3.8 週(24 週 6 日~37 週 5 日)で診断時期は在胎
21~34 週だった。出生後死亡は 4 例(12.5%)で在胎
24~27 週の児に集中しており死因は腎不全 2 例・心不
全 1 例・壊死性腸炎 1 例であった。ヘモグロビン差は
平均 4.4g/dl、体重差は平均 21%だった。stucktwin、
胎児心不全徴候(胎児水腫・腹水)での帝王切開例は
特に循環・呼吸管理に難渋した。供血児に比べて受血
児で輸血・強心剤・抗痙攣薬の治療を多く必要とした。
在胎 34 週以降は全例生存・全例発達良好だった。在胎
34 週未満は 25%が死亡、37.5%が発達良好、28%が後
遺症(脳性麻痺・精神発達遅滞)を認めた。特に在胎
28 週未満は全例死亡あるいは神経学的後遺症を認め
た。周産期センター開設後の新生児死亡例はなく、早
期より周産期センターで管理することでこれまでと比
較し予後が改善していた。しかし、在胎 20 週以前から
TTTS を発症した早期発症例は全例在胎 20~23 週で
流・死産していた。
【結論】単胎で予後が改善してきた
24~27 週も TTTS では予後が悪かった。分娩時期の検討
と早期発症例に対する胎盤吻合血管レーザー凝固術が
今後の予後を改善する可能性があると考えられ、地理
的条件の悪い当院での今後の課題である。
双胎間輸血症候群受血児に合併した右室
流出路弁膜下狭窄の 1 例
国立成育医療センター 総合診療部 1、昭和大学小児科
P-319
P-320
2
○池田 次郎 1)、宮沢 篤生 2)、村瀬 正彦 2)、三浦 文
宏 2)、水谷 佳世 2)、水野 克巳 2)、板橋 家頭夫 2)
【はじめに】双胎間輸血症候群(以下 TTTS)受血児は
循環血液量の不均衡から多血、心拡大、心不全、胎児
水腫、羊水過多などをきたすことが知られている。し
か し な が ら 、 弁 膜 下 の 右 室 流 出 路 狭 窄 ( right
ventricular outflow tract obstraction; RVOTO)を
報告した症例は少ない。今回我々は TTTS 受血児に右室
流出路弁膜下狭窄の合併を経験したので報告する。
【症例】症例は、在胎 27 週 1 日、出生体重 953g、TTTS
stage1、loss of variability のため緊急帝王切開で出
生した MD 双胎第 1 子。第 2 子の出生体重は 699g で
Discordant rate は 27%だった。NICU 入院後から DOA、
DOB による循環管理を行っていたが、日齢 1 より左室壁
運動の低下を認め、日齢 2 より後負荷軽減を期待して
ミルリノンを開始した。日齢 3 に左室壁運動の改善を
認めた。動脈管に対して日齢 0 よりインドメサシン(以
下 IND)の予防投与を開始したが閉鎖せず、日齢 3、4
に治療量で IND を投与し動脈管の閉鎖を確認した。日
齢 6 より新たに 3LSB に Levine2/6 の汎収縮期雑音を認
め、心エコー上、右室流出路径 2.0mm、流速 3.6m/sec
と右室流出路の弁膜下狭窄を認めた。血圧を含めバイ
タルは安定していたため、RVOTO に対しては特に治療を
行わなかった。RVOTO は日齢 31 に自然軽快した。
【考
察】TTTS 受血児は胎内での容量負荷により、心合併症
として心室肥大、心拡大、三尖弁閉鎖不全症、心不全、
心嚢液貯留などが報告されている。本症例では経過中
に RVOTO を呈したが、出生直後は生理的肺高血圧や動
脈管での左右シャントによる肺血流の増加などにより
右心系が比較的高圧系を保っていたため RVOTO は目立
たなかったと思われる。その後、体血管抵抗、生理的
肺高血圧の改善、動脈管の閉鎖を契機に右心系の圧が
低下し、RVOTO が発症したと思われる。RVOTO の原因は
胎内での循環血液量の不均衡が病態と考えられ、TTTS
を呈している MD 双胎では注意すべき所見と思われる。
426
Caudal duplication syndrome と考えられ
た 1 児子宮内胎児死亡後の一絨毛膜双胎
女児例
島根県立中央病院 小児科 1、島根県立中央病院 新生
児科 2、島根県立中央病院 産婦人科 3
○矢野 潤 1)、加藤 文英 2)、横山 淳史 1)、津村 久
美 1)、菊池 清 1)、片桐 浩 3)、岸本 聡子 3)、上田 敏
子 3)、栗岡 裕子 3)、長谷川 明広 3)
【はじめに】Caudal duplication syndrome は胎児の総
排泄腔と脊索に由来する諸器官が様々な程度に重複す
る稀な疾患群であり、病因として一卵性双胎の不完全
な分離も含まれる。今回我々は、妊娠 12 週に一児が子
宮内胎児死亡(IUFD)となった一絨毛膜(MD)双胎児
で、臍帯ヘルニアと鎖肛、腸管・泌尿生殖器系の重複
など多発奇形を認め、Caudal duplication syndrome
と診断した 1 女児例を経験したので報告する。
【症例】
母体 27 歳、0 経妊 0 経産。MD 双胎の 1 児は妊娠 12 週
に IUFD。生存児に臍帯ヘルニアを認め、在胎 38 週 4
日に選択的帝王切開分娩。Apgar score 1 分値 6 点/5
分値 9 点、2556g で出生した。臍帯ヘルニアの被膜は薄
く、鎖肛を認めたことから、直ちに腹壁閉鎖・人工肛
門造設術を施行。回腸(30cm 程度)および虫垂に腸管
重複を認めた。結腸は上行部で 3 重に重複し尿間膜と
膀胱に癒着して盲端となっていた。膀胱は双角であっ
た。重複小腸と虫垂を切除し、結腸の盲端に人工肛門
を造設し腹壁を閉鎖した。術後経過は良好で日齢 7 よ
り経管栄養を開始した。経口哺乳も良好となり日齢 30
には補液終了、日齢 43 に退院(3730g)
。胸部は右第 2-3
肋骨癒合以外異常なく、先天性心疾患も認めなかった。
MRI 検査では頭部・脊椎に異常なし。両腎に異常はなか
ったが、左右に 2 分した膀胱と重複子宮を認めた。逆
行性膀胱造影では外尿道口と膣腔が共通しており、膣
腔にカテーテルを挿入して造影剤を注入、重複膀胱と
尿道の重複を確認した。排尿時にごく軽度の膀胱尿管
逆流を認めた。膣腔へのゾンデ挿入で膀胱への到達を
確認できた。IVP では左右 1 対の尿管と左右膀胱への到
達を確認した。染色体検査に異常なし。2 ヶ月時の体重
4205g、経過は順調で鎖肛根治術待機中である。【まと
め】本例は 1 児 IUFD の MD 双胎に認めた腸管・泌尿生
殖器系の重複を含む多発奇形であり、双胎の不完全な
分離に伴う Caudal duplication syndrome と考えられ
た。報告の多い、脊椎の重複や外性器の重複、恥骨離
開などは認めなかった。Caudal duplication syndrome
は病因や発生過程の異常の程度により、重複の程度や
合併奇形など多様な病態が現れると考えられ、今後更
なる症例の蓄積・分析が望まれる。
先天性小腸閉鎖症をおこした一絨毛膜二
羊膜性双胎の妊娠中期一児胎内死亡の 1
症例
高松赤十字病院 産婦人科
○保野 由紀子、松本 美奈子、野々垣 多加史
P-321
P-322
[はじめに]一絨毛膜性双胎では周産期死亡率が高く、
双胎間輸血症候群や胎児一児死亡、羊水過多など様々
な合併症を起こす危険性が高い。一児死亡が起こると
残存児の約 30%が胎内死亡もしくは新生児死亡し、生児
において神経学的後遺症は約 30%に起こると報告され
ている。今回我々は、一絨毛膜二羊膜性双胎で妊娠中
期に一児が胎内死亡後、妊娠継続をし、先天性小腸閉
鎖症を合併した一症例を提示する。
[症例]33 歳。1 経
妊 1 経産。家族歴に父に糖尿病を認める。既往歴に特
記事項なし。前医にて一絨毛膜二羊膜性双胎妊娠と診
断された。妊娠 17 週 3 日、羊水検査にて正常核型を確
認された。 妊娠 20 週 4 日の妊婦健診時、一児子宮内
胎児死亡を認め、妊娠 22 週 0 日、当科を紹介受診とな
った。外来で慎重に経過観察中、妊娠 36 週 0 日の妊婦
健診時、胎児の腸管拡張と羊水過多を認め、小腸閉鎖
もしくは狭窄を疑った。その後羊水過多の増悪傾向を
認めたため、妊娠 37 週 6 日、分娩誘発にて、2912g の
男児を頭位にて経膣分娩された。 Apgar score は 8 点
(1 分)、9 点(5 分)。その後、浸軟した 70g の児を胎盤
とともに死産された。子宮内胎児死亡児の臍帯過捻転
を認め、病理所見にて第二子の臍帯は血栓形成により
閉塞していた。また、二児の臍帯の間に静脈-静脈吻合
と思われる所見を認めた。新生児は NG tube 挿入にて
306ml の胆汁様の液体を吸引でき、消化管閉鎖の診断
で、翌日手術を施行となった。術中所見は、トライツ
靭帯から肛門側に約 26cm に途絶、閉鎖しており、約 2cm
の小腸欠損部を認め、閉鎖部位の切除と端々吻合術を
施行となった。
[考察]本症例は、羊水穿刺後の一絨毛
膜性双胎に一児子宮内胎児死亡をきたした症例であ
り、羊水穿刺が胎内死亡を誘発し、血管吻合から一児
胎内死亡後、腸管への血栓による腸閉塞をきたした可
能性も否定できないと思われた。適応のない羊水穿刺
は自重すべきであり、一絨毛膜二羊膜性双胎の一児胎
内死亡後は、脳障害、腎障害以外にも多臓器障害を引
き起こす可能性を考慮し、慎重に経過観察する必要が
あると思われた。
427
Chromosomal discrepancy を認めた一絨毛
膜性双胎の一例
徳島大学病院周産母子センター
○三谷 龍史、中山 聡一朗、加地 剛、中川 竜二、
前田 和寿、西條 隆彦、安井 敏之、苛原 稔
ART 妊娠による一絨毛膜二羊膜性双胎で
双胎キメラ症を認めた 1 症例
東京女子医科大学 東医療センター 産婦人科 1、東京
女子医科大学 東医療センター 周産期新生児診療部
P-323
P-324
2
○倉田 章子 1)、佐藤 真之介 1)、村岡 光恵 1)、高木
もと子 2)、和田 恵美子 2)
耕一郎 1)、都
近年生殖補助医療(ART)による出生数は増加している
が, 母児のリスク, 特に児の異常のリスクが問題とな
っている. 今回我々は, 顕微授精により妊娠し, 超音
波検査にて一絨毛膜二羊膜性双胎と診断されていたも
のの, 妊娠中期に性別が異なることが判明し, 出生後,
双胎キメラ症と診断された症例を経験したので報告す
る.
症例は 30 歳の初産婦で, 男性不妊のため顕微授精後,
胚盤胞移植にて妊娠. 当科へ紹介され, 超音波検査に
て一絨毛膜二羊膜性双胎と診断した. 妊娠 26 週頃より
血圧上昇傾向を認め管理入院. 妊娠 28 週より子宮収縮
を認め, 切迫早産に対して塩酸リトドリン投与し, 妊
娠 31 週より硫酸マグネシウムも併用した. 胎児の
Well-being は良好で, 超音波検査上, 児の体重差, 羊
水量の差も認めなかったが, 胎児の性別が異なると診
断された. 妊娠 33 週 0 日, 子宮収縮の増加, 胎児先進
部の下降, および AT III の低下を認め, 帝王切開にて
分娩となった. 児は第 1 児 1792gの女児と第 2 児 1712g
の男児で, ともに AGA, 体重差は 4.7%で, 外性器はそ
れぞれ正常女性形, 正常男性形であった. 2 児とも出生
時に貧血(Hb 12.4g/dl, Hb 12.2g/dl)を認めたが, 出
生後大きな問題なく経過し, 日齢 64 に退院した.
一絨毛膜二羊膜性とされた膜性診断と外性器表現形に
矛盾が生じたため, 両親の同意を得て, 日齢 130 に末
梢血リンパ球と, 口腔頬粘膜を用いて染色体検査を施
行した. 末梢血リンパ球では, 第 1 児は XX が 56%, XY
が 44%, 第 2 児は XY が 60%, XX が 40%とキメラであ
ったが, 口腔頬粘膜では, 第 1 児は XX, 第 2 児は XY
であり, 外性器に相当する正常核型を認めた.
以上の所見より 2 児とも XX/XY の血液キメラであると
考えられた.
本症例は ART(顕微授精, 胚盤胞移植)による妊娠であ
るが, これまでの報告でもほとんどが何らかの ART 後
の妊娠である. 本症例の提示とともに, 文献的考察も
あわせ報告する.
【緒言】一絨毛膜性双胎(MD twin)は通常一卵性双胎
であり、染色体も一致する。今回われわれは MD twin
の一児に cystic hygroma を認め、羊水染色体検査で両
児間の解離を認めた一症例を経験したので報告する。
【症例】29 歳の 1 回経産婦。前回の妊娠経過は特に異
常なし。既往歴、家族歴に特記すべき異常なし。最終
月経:平成 18 年 4 月 13 日にて自然妊娠。前医にて MD
twin と診断され、里帰り分娩目的にて妊娠 14 週に当科
初診となった。初診時超音波検査で第 2 子に cystic
hygroma を認めた。本人、家族に現状、染色体異常の可
能性を説明のした上で、妊娠 17 週に両児の羊水染色体
検査を施行した。FISH 法では、両児とも no evidence of
numerical abnormality for chromosomes(13,18,21,X
and Y)、性染色体は男性型という結果であった。しか
し G-banding の結果は第 1 子:46XY、第 2 子:45X であ
った。再度、第 2 子の培養細胞にて FISH 法を再度施行
したが、結果は 45X と同様であった。この時点で第 2
子は重度の胎児水腫であり、予後不良であることが予
想された。MD twin であり、体内死亡に至った場合の生
児への影響の可能性も説明した上で本人希望により妊
娠継続とした。第 2 子は妊娠 22 週に IUFD を確認した。
その後は超音波、胎児 MRI にて経過観察していたが、
生存児の中枢神経系に明らかな異常所見は認めなかっ
た。35 週 3 日高位破水にて入院、同日早産に至った。
生児は,2178g,(-0.66SD)の男児、Ap8/9 であった。早
産児、低出生体重児のため、当院 GCU に入院となった
が、現在まで明らかな神経学的異常は認めていない。
なお、
第 2 子は 133g の女児で高度浸軟児であった。
【ま
とめ】羊水染色体検査において MD twin の染色体の解
離を認めた一例を経験した。妊娠 22 週に第 2 子が胎内
死亡に至ったため、最終的結果は不明だが、第二子は
羊水染色体検査の FISH 法で Y 染色体の存在も示唆され
ており、体細胞分裂時の Y 染色体の不分離を伴った
46XY/45X の可能性が推測された。
428
P-325
当院における双胎妊娠の検討
TTTS に対する FLP 後の胎児小腸閉鎖を出
生前診断し得た 1 例
北海道大学 大学院 医学研究科 産科・生殖医学分
野 1、国立成育医療センター 周産期診療部 2、国立成
育医療センター 特殊診療部 3
○森川 守 1)、左合 治彦 2)、山田 俊 1)、林 聡 2)、
長 和俊 1)、山田 秀人 1)、千葉 敏雄 3)、北川 道弘
2)
、水上 尚典 1)
【緒言】胎児小腸閉鎖は発症頻度が 1/3000 妊娠で、そ
れに伴う胎便性腹膜炎は 1/35000 妊娠と非常に稀な胎
児異常である。今回、われわれは双胎間輸血症候群
(TTTS)に対する胎児鏡下吻合血管凝固術(FLP)後の胎
児小腸閉鎖を出生前診断し得た 1 例を経験したので若
干の文献的考察を加えて報告する。
【症例】32 歳の妊娠
18 週の 1 回経産婦を TTTS(StageII)と診断した。妊娠
19 週に TTTS(StageIII)に対し FLP を施行した。
その際、
羊水染色体核型分析が行われ 46XX の正常核型と判明し
た。FLP 後は、合併症の発症もなく TTTS も改善し両児
とも成長は順調であった。妊娠 27 週には切迫早産のた
めベッド上安静と塩酸リトドリン投与が必要になっ
た。妊娠 28 週に超音波断層法と MRI 断層法にて受血児
に胎児腹水ならびに胃と十二指腸の拡張像を認めた。
超音波断層法にて胎児中大脳動脈の拡張期最大流速か
ら貧血がないことを推測し、胎児腹水が FLP 後の
anemia-polythythemia に起因していないと考え、原因
は胎児小腸閉鎖に伴う胎便性腹膜炎と判断した。供血
児には異常を認めなかった。妊娠 30 週に母体に重症浮
腫を認めたため、帝王切開術を施行し両児を娩出した。
通色素検索では胎盤には明らかな残存吻合血管は認め
なかった。受血児は出生体重 1802g で、離断型小腸閉
鎖に伴う胎便性腹膜炎を認めた。腸瘻造設を行ったが、
腹膜炎が遷延し日齢 63 に死亡された。供血児は出生体
重 1542g で、敗血症に続発した頭蓋内出血と出血性肺
浮腫のため、日齢 11 に死亡された。
【考察】近年、TTTS
に対する FLP は積極的に行われるようになり症例数の
蓄積に伴い合併症発症の報告が散見されるようになっ
てきた。われわれの検索では同様の症例の報告はこれ
までに 3 例のみであるが、全て出生後に発症し診断さ
れている。この全例で FLP 後に供血児が子宮内胎児死
亡に至っていた。本症例は出生前診断し得た症例であ
り、また供血児は IUFD に至らず出生したことから非常
に稀な症例といえる。発症機序に関してはあくまで仮
説の域に過ぎないが、子宮収縮や分娩などの胎盤への
加重が胎盤からの微小血栓の遊離を引き起こし小腸閉
鎖が発症した可能性が考えられる。
【結論】TTTS に対す
る FLP では稀ではあるが合併症が発症することに留意
しなければならない。
P-326
東邦大学 医学部 医療センター 佐倉病院 産婦人
科 1、東邦大学 医学部 医療センター 佐倉病院 小
児科 2
○川島 秀明 1)、安田 豊 1)、高島 明子 1)、深谷 暁
1)
、矢野 ともね 1)、木下 俊彦 1)、沢田 健 2)
【目的】新生児医療の進歩に伴い未熟児管理が向上し
ているが、母体合併症や早産、未熟児の出生が増える
双胎妊娠ではその周産期管理に苦慮することも多い。
当院における双胎例を対象に、妊娠方法、膜性、母体
年齢、分娩週数、早産率、出生体重、NICU 入院の有無
等について検討し双胎妊娠管理の現状を知ることを目
的とした。
【方法】平成 3 年から平成 18 年 12 月までに
当院で妊娠 22 週以降に分娩となった双胎妊娠 226 例を
対象とした。二絨毛膜二羊膜双胎(以下 DD)と一絨毛膜
二羊膜双胎(以下 MD)で早産率、出生体重、NICU 入院の
有無、形態異常の有無について診療録記載を元に後方
視的に検討した。膜性は分娩後の病理組織学的診断を
基に判定した。
【成績】対象期間中の総分娩件数は 7080
例で、そのうち双胎分娩数は 3.19%であった。DD 156
例、MD69 例、一絨毛膜一羊膜双胎(MM)1 例であった。
妊娠経過:自然妊娠で双胎となったのは 110 例、一般
不妊治療による妊娠が 54 例、ART による妊娠が 62 例で
あった。膜性別にみると DD では自然妊娠 50 例、一般
不妊治療 45 例、ART61 例、MD では自然妊娠 58 例、一
般治療 9 例、ART1 例であった。母体年齢:DD31.0±4.5
歳と MD29.4±4.1 歳であった。分娩週数:DD36.8±2.4
週、MD34.6±4.2 週であった。分娩方法:DD(経腟 49
例、帝切 107 例)、MD(経腟 25 例、帝切 44 例)。出生平
均体重:DD1 児 2335.6±475g、2 児 2259±436g、MD1
児 1934±666g、2 児 1834±759g であった。死産は DD
で 2 例(0.64%)、MD で 14 例(11.1%)で、32 週未満の早
産率は DD4.4%、MD15.6%であった。極低出生体重児は
DD4.5%、MD20.2%で、NICU 入院率は DD21.3%、MD45.3%
であった。新生児死亡率は DD0.97%、MD6.45%であった。
児の奇形率では DD と MD で差を認めなかったが、DD で
は不妊治療例で多く認める傾向があった。
【考察】 双
胎妊娠では早産率が高く、NICU 入院管理を要する例が
多い。DD は不妊治療後のことが多く、母体年齢も高い
が、MD は自然妊娠が多く、母体年齢は低かった。MD で
は死産、早産率、新生児死亡率、NICU 入院率が高い。
DD では奇形率が高い傾向がみられた。双胎妊娠はいま
だリスクは高いといえる。
429
P-327
Reversal of pre TTTS に伴う双胎両児死
亡を来した selective IUGR の一例
TTTS の胎児鏡下レーザー凝固術後、胎児
水腫の消退とともに Mirror 症候群が軽快
した 1 例
山口大学大学院 医学系研究科 産科婦人科学 1、山口
大学 医学部附属病院 周産母子センター2
○松原 正和 1)、中田 雅彦 2)、村田 晋 1)、三輪 一
知郎 2)、住江 正大 2)、杉野 法広 1)
【緒言】Mirror 症候群は,胎児水腫に伴い母体に肺水
腫・浮腫・低蛋白血症や貧血などをきたす症候群であ
る.その病態は不明で胎児水腫の改善により母体も軽
快するが,改善が得られない場合は妊娠の中断を余儀
なくされる.これまで,TTTS stage IV に合併した Mirror
症候群で,良好な予後を得た報告はない.今回,胎児
水腫の消退とともに母体症状の軽快を認め,両児生存
を得た症例を経験したので報告する.【症例】患者は 33
歳の初産婦。妊娠 21 週 3 日に TTTS stage IV の診断に
て聖マリア病院より紹介入院となった。受血児は心拡
大、うっ血性心不全を示す血流異常、胎児水腫(皮下
浮腫・腹水貯留・心嚢液貯留)を認め、また胎盤の肥
厚を認めた。母体は下肢浮腫が著明で急激な体重増加
( 4kg/ 週 ) を 認 め た 。 , と 低 蛋 白 血 症 (TP=5.5
g/dl,Alb=2.3g/dl)と貧血 (Hb=8.6g/dl)を認め、血中
hCG 値は 330,000mIU/ml であった。胸部単純 X 線写真で
は肺水腫は認めなかった。同日, FLP を実施した。母
体は、術後1日目より尿量低下、浮腫の増悪と体重増
加を認め、TP=5.0g/dl, Alb=2.0g/dl,Hb=7.9g/dl と低
蛋白血症と貧血の進行を認めた。術後 4 日目には,肺
水腫による低酸素血症を合併し、酸素,アルブミン製
剤、利尿剤の投与を必要とした.この時点で受血児の
胎児水腫は改善しておらず、臨床経過より Mirror 症候
群と診断した。受血児は術後 5 日目より胎児水腫の改
善傾向を示し、同時期から母体の利尿の増加と呼吸状
態の改善傾向を認め,胎児水腫がほぼ消失した 10 日目
には,母体の肺水腫や浮腫は改善し,検査所見も改善
した。血中 hCG は術後 11 日目に 190,000mIU/ml、17 日
目に 59,000mIU/ml と低下した。しかし,術後 12 日目
に,日和見感染として報告されている Acinetobacter
属による肺炎・敗血症を合併し、DIC を併発した集中治
療を必要と下が術後 26 日目(妊娠 25 週 1 日)に軽快
し転院した。患者は、前医にて妊娠 37 週 0 日に選択的
帝王切開術で 1936g と 2126g の女児を出産した。
【考
察】本症例は,FLP に伴う手術侵襲ストレスにより
Mirror 症候群が顕在化したと思われたが,FLP による
胎児水腫の消退とともに,母体症状が軽快した。今回,
血中 hCG 上昇と治療による著明な低下を認めた事は、
同症候群への hCG の関与を推察させるものである。尚,
肺水腫軽快後の重症感染症の合併は,日和見感染への
注意を喚起させられるものである.
P-328
独立行政法人 国立病院機構 長良医療センター 産
科
○岩垣 重紀、高橋 雄一郎、塚本 有佳子、川鰭 市
郎
はじめに:Reversal of TTTS は TTTS ので、供血児と受
血児の関係が入れ替わる病態と定義され、未だにその
報告は少なく正確な発生率は不明である。しかし、そ
の多くは予後不良であると報告されており、正確な診
断と早急な対応が必要とされる。今回我々は羊水量の
較差を認めるものの TTTS の基準を満たさない pre TTTS
+selective IUGR の症例において、超音波上明らかな
血流バランスの逆転を認め、急激な状態悪化のすえ両
児死亡を来した症例を経験したので報告する。症例:
2経産、産科歴に異常を認めず。妊娠 16 週に初めて MD
双胎疑われ当科紹介。初診時羊水量の較差(羊水ポケ
ッ ト : 3cm/7 c m )、 胎 児 の 発 育 較 差 ( 腹 囲 :
-1.7SD/+0.4SD)、また小さな児の臍動脈拡張期末期血
流の逆流(UAREDV)を認めた。妊娠 17 週 0 日 selective
IUGR、pre TTTS の診断にて入院管理となった。入院時
頻回の子宮収縮を認め、安静および子宮収縮抑制剤点
滴投与による保存的治療を開始した。その後羊水量の
較差は徐々に無くなり、妊娠 20 週 0 日の時点では羊水
ポケット:4.4cm/5.6cm とほとんど羊水量の較差は無
く、ドップラー所見も増悪を認めず、TTTS への進行は
回避できると判断した。しかし妊娠 20 週 5 日、羊水ポ
ケット:9.5cm/5.7cm と羊水量の逆転が起こり、小さな
児の血流所見の悪化(UAREDV の悪化、静脈管の拡張期
逆流、pre-load index の上昇)を認め、妊娠 21 週 0
日、両児の子宮内死亡を確認した。娩出後の胎盤の検
討では明らかな表在性の血管吻合は存在しなかった。
まとめ: 本症例では、当初崩れかけた両児の血流バラ
ンスが、保存的治療開始後安定し、このまま安定軌道
をたどるかと思った矢先、シャント血流の逆転が起こ
り reversal of TTTS に陥ったと考えられる。しかも
reversal と診断してから両児の胎内死亡を確認するま
でにわずか 2 日という急速な転帰であった。これまで
の reversal of TTTS の報告でも、これほど急激な経過
をたどった症例の報告はない。本症例が非常に急激な
転帰を辿った原因として、予備力が乏しい IUGR 児が急
激な血流の増加に対応できなかったことが推察され
た。多くの MD 双胎両児死亡の中に、このような症例が
存在している可能性があると考えられ、Selective IUGR
を伴った MD 双胎の管理方法を再考する必要を痛感させ
られる一例であった。
430
胎児鏡下レーザー治療後に中大脳動脈収
縮期最高血流速度の上昇を認めた受血児
の予後
聖隷浜松病院 総合周産期母子医療センター 周産期
科
○石井 桂介、村越 毅、神農 隆、松下 充、成瀬
寛夫、鳥居 裕一
双胎間輸血症候群に対する胎児鏡下レー
ザー凝固術施行後 42 組の短期予後と頭部
MRI
国立成育医療センター 周産期診療部 新生児科 1、国
立成育医療センター 周産期診療部 胎児診療科 2、国
立成育医療センター 周産期診療部 産科 3、国立成育
医療センター 特殊診療部 4
○難波 由喜子 1)、中村 知夫 1)、伊藤 裕司 1)、林 聡
2)
、左合 治彦 2)、北川 道弘 3)、千葉 敏雄 4)
【目的】胎児鏡下レーザー治療(FLP)により双胎間輸血
症候群(TTTS)の予後の改善が期待されている。今回、
当センターで施行された FLP 後の新生児の予後を頭部
MRI で検討した。
【方法】平成 15 年 5 月から平成 19 年
2月までに出生した TTTS-FLP 後の 42 組 84 児を対象と
した。FLP は倫理委員会の承認の元、両親に説明し治療
を希望された Quintero 分類 stageII 以上の TTTS に施
行された。
出生した児には NICU 収容時に頭部エコーを、
また退院前に頭部 MRI での評価を行った。【結果】42
組 84 児 の う ち FLP 後 子 宮 内 胎 児 死 亡 (IUFD) は
21/84(25%)、出生後死亡は 5/84(6%)であり、生存率
58/84(69%)だった。1 児生存の 1 児死亡は 10 組(24%)
にあり、うち 7 組(70%)が FLP 施行時の両児の推定体
重差が 40%以上(体重差≧40%)だった。頭部 MRI は生存
58 児中 57 児で撮影した。正常画像は 43/57(75%)、予
後に関係しないと考えられる軽微な異常は 8/57 であ
り、51/57(89%)が少なくとも運動予後良好と推測され
た。残りの画像異常を呈した児 6/57(11%) はすべて出
生週数 31 週以下であり、32 週以上で出生した児の予後
は良い傾向があった。画像異常 6 児の内訳は、受血児
では多発性梗塞(体重差≧40%, 供血児 IUFD)、脳室周
囲 白 質 軟 化 症 (PVL)2 児 、 供 血 児 で は 各 1 児 づ つ
polymicrogyria、前頭葉萎縮(TTTS 再発後、30 週,
-2.1SD の SFD 出生)
、 髄鞘化遅延(26 週, -2.8SD の SFD
出生)だった。PVL 児のうち 1 名では出生時のエコー上
脳室周囲に強い高輝度を認め胎児期の受傷が考えられ
た。PVL 受傷範囲は 2 名とも歩行可能型だった。脳萎縮
と髄鞘化遅延を来した 2 児は、強い SFD に基づく影響
が一因と考えられた。polymicrogyria 児は FLP を 22w5d
で行っており、それ以前の受傷の可能性があった。体
重差≧40%は 15 組あり、うち両児あるいは 1 児死亡は
10 組、
予後に関連する MRI 異常とあわせ 13/15 組(87%)
に問題が生じていた。【考察】運動予後良好と考えられ
る MRI 所見は 89%の児に認められ FLP 後の予後改善が
伺えた。体重差の強い児は、それ以外の FLP 児より予
後が悪かった。また、FLP 施行前に受傷した可能性のあ
る児も存在した。TTTS の血行動態が胎児脳に悪影響を
及ぼす可能性があり、TTTS の早期発見と適切な時期で
の FLP の施行が望まれる。
P-329
P-330
【目的】胎児の中大脳動脈収縮期最高血流速度
(MCA-PSV)は胎児貧血の予測に有用である。TTTS に対し
て胎児鏡下レーザー治療(FLP)を施行した後に、受血児
の中大脳動脈収縮期最高血流速度(MCA-PSV)の上昇を
認めた複数の症例を経験した。これらの症例の予後を
検討する。
【方法】当院にて FLP を施行した TTTS 症例
で、術後 24 時間以内に両胎児が死亡した症例を除き、
術直前と術後 3、7、14 日目に超音波 Doppler 法にて
MCA-PSV を計測し得た 26 例を対象とした。術後に
MCA-PSV が 1.55Mom 以上(Mari G)の高値を 1 回以上呈
した MCA-PSV 高値群と、いずれの計測でも 1.55Mom 未
満であった MCA-PSV 正常群に関して、受血児の短期予
後を検討した。本研究の施行に際して、施設倫理委員
会の承認を得て、かつ患者からは文書同意を得た。
【成
績】いずれの児でも術前の MCA-PSV は 1.55Mom 未満で
あった。受血児に関して、2例が術後 14 日以降の子宮
内胎児死亡(IUFD)となり、24 例は生存出生に至ったが、
そのうち 1 例が新生児死亡となった。MCA-PSV 高値群は
7例(26.9%)、また MCA-PSV 正常群は 19 例(73.1%)であ
った。両群間における周術期の臨床的背景(手術時妊
娠週数、Quintero 分類、供血児推定体重、受血児推定
体重、術前 MCA-PSV、最大羊水深度、手術時間、胎盤の
位置、吻合血管数、動脈動脈吻合の有無、Sequential
法の有無)には差を認めなかった。MCA-PSV 高値群のう
ち6例では、術後4週以内に 1.55Mom 未満となり、ま
た出生児には貧血を認めなかった。一方他の 1 例では
供血児の IUFD に続いて受血児の MCA-PSV が急激に上昇
して IUFD となった。なお術後の転帰(IUFD の頻度、供
血児の胎児水腫の有無、分娩時妊娠週数、新生児貧血
の有無、児の退院時における神経学的後遺症の有無)
には両群間で差を認めなかった。
【結論】FLP 後には受
血児の約 27%で MCA-PSV の高値を示したが、多くは一
過性であり予後良好であった。
431
臍帯付着部が近い TTTS に対する FLP の適
応について ~コチルドン共有型と非共
有型~
国立病院機構 長良医療センター 産科
○高橋 雄一郎、岩垣 重紀、塚本 有佳子、川鰭 市
郎、中島 豊
Persistent TTTS に対して 2 度の胎児鏡下
レーザー凝固術を施行した 1 症例
P-331
P-332
【目的】2002 年より本邦でも現行の胎児鏡下胎盤吻合
血管レーザー凝固術(FLP)が施行されるようになり、
TTTS の治療の第一選択として広まりつつある。Japan
fetoscopic group はその適応と要約をまとめ報告して
いるが、その禁忌には含まれないが、技術的に施行不
可能な場合も存在する。そのひとつが、
「両臍帯の付着
部が非常に近い場合」である。我々は TTTS の超音波検
査で付着部間距離が狭く FLP を施行しなかった TTTS の
二例を経験したので胎盤の特徴とともに報告する。
【コチルドン共有型の一例】35 歳の一経産婦。妊娠 21
週の TTTS。体重差を認める stage III の TTTS であり、
donor の intermittent UAREDV を認めていた。臍帯付着
部間距離が非常に短いため FLP が施行できない旨を伝
えたところ、せめて胎児鏡による確認をして欲しい、
という希望が強く、FLP の準備をしつつ胎児鏡による観
察をおこなった。やはり FLP は施行できなかったため、
羊水除去術を施行した。産後の胎盤では「手のひらを
重ねるように」両児の血管が存在しており、完全に FLP
は施行できない症例であった。【コチルドン非共有型
の一例】39 歳の一経産婦。MM 双胎。体重差を認め羊水
過多が進み両児の血流異常も認めはじめたために妊娠
24 週、管理目的にて入院となった。一児は心拡大、巨
大膀胱で尿産生が亢進し、一児は IUGR で尿産生が確認
されず, intermittent UAREDV を認めはじめたため、非
典型例ではあるが TTTS と診断した。FLP 施行も考えら
れたが、超音波にて臍帯付着部間距離が狭かったため
に施行せず羊水除去術のみ施行した。 産後の胎盤で
は、
「蝶の羽のように手のひらをあわせる」ように両児
の血管が存在しており、お互いに重なる事は無かった
ために、理論的には FLP が施行可能な症例であった。
【結論】臍帯付着部が非常に近い場合には FLP が施行
できないケースと施行できるケースが存在する。超音
波での診断には限りがあるため、早い週数などであれ
ば、胎児鏡による観察を行い、可能ならばそのまま FLP
を施行する方法が考えられた。
山口大学 医学部附属病院 周産母子センター1、山口
大学 大学院 医学系研究科 産科婦人科学 2
○三輪 一知郎 1)、中田 雅彦 1)、村田 晋 1)、住江 正
大 1)、松原 正和 2)、杉野 法広 2)
【はじめに】TTTS に対する胎児鏡下レーザー凝固術
(FLP)による吻合血管の同定は、吻合を形成する動静
脈が、“胎盤表面で nose-to-nose に接している”とい
うことを前提にしている。しかし、この前提に該当し
ない形態の吻合血管が存在すれば、吻合血管の遺残と
いう問題が生じる。今回、FLP 後に TTTS の改善を認め
ず、従来の認識とは異なる吻合血管の遺残のため、再
度 FLP を行った症例を経験したので報告する。
【症例】
34 歳、経産婦。妊娠 24 週 1 日に切迫早産のため某市民
病院へ母体搬送となり、TTTS と診断され、妊娠 24 週 3
日に当院へ転院となった。羊水深度(MVP)は受血児が
13.5cm、供血児が 0cm、供血児の膀胱を認めず、TTTS
stage II の診断にて、インフォームドコンセントを得
た上で同日 FLP を行った。計 13 本の吻合血管を同定し
た後にレーザー凝固し、再確認後に羊水除去を行い終
了した。しかし、術後も羊水過多/過少は改善せず、
逆に進行し、術後 8 日目の MVP は受血児が 11.1cm、供
血児が 1.7cm と TTTS の増悪を認めた。臨床経過より両
児 間 の 吻 合 血 管 の 遺 残 や 再 疎 通 に よ る persistent
TTTS を強く疑い、ビデオ記録の検討を行った。当初、
供血児・受血児それぞれに属し、動静脈各 1 本ずつが
流入する 2 つの独立した胎盤小葉間をバイパスする表
在性の吻合血管が存在すると判断し、レーザー凝固し
た部位の検討で、1)それぞれの胎盤小葉は表面のみで
なく、深部でも吻合を形成している、2)そのため、両
児由来の動静脈計 4 本すべてが吻合の形成に関わって
いる、3)nose-to-nose で接していないため同定できな
かった。4)依然として吻合血管は存在している、とい
う結論に至った。患者・家族の同意のもと、同日に胎
児鏡による直視下の確認と遺残あるいは再疎通した吻
合血管を凝固するため、再度 FLP を行った。吻合血管
の遺残や再疎通を疑う部位はなく、予想した 4 本の動
静脈による吻合血管の形成が強く疑われたため、同部
位をレーザー凝固し終了した。再手術後、羊水過多/
過少は改善し、妊娠 26 週 4 日(再手術後 7 日目)に血
流不均衡は是正されたと判断した。現在、前医にて経
過観察中である。
【考察】従来の認識とは異なり、両児
からそれぞれ動静脈が流入する“4-vessel cotyledon”
の存在に注意する必要があることを痛感した。
432
双胎間輸血症候群に対する胎児鏡下レー
ザー凝固術の治療成績と合併症
国立成育医療センター 周産期診療部 1、国立成育医
療センター 特殊診療部 2、国立成育医療センター 副
院長 3
○林 聡 1)、左合 治彦 1)、湯元 康夫 1)、種元 智洋
1)
、中村 知夫 1)、伊藤 裕司 1)、千葉 敏雄 2)、北川
道弘 1)、名取 道也 3)
【目的】予後不良な 26 週未満発症の双胎間輸血症候群
(TTTS)に対する胎児鏡下レーザー凝固術(FLP)の治
療成績は良好であることが示され,治療法の第一選択
として考えられるようになってきた.しかし術後合併
症もみられためその対策が今後の課題である.
【方法】
当センターで平成 15 年 2 月から平成 19 年 2 月末現在
までの期間に 67 例の TTTS に対して FLP を行った.こ
の期間内の分娩例 60 例を対象として治療成績と FLP の
合併症について検討した.
【成績】FLP 時の妊娠週数は
20 週 4 日(中央値)で,分娩時在胎週数は 33 週 1 日(中
央値)であった.分娩例 60 例の Quintero 分類(St)
は St1が 2 例,St2 が 7 例,St3 が 21 例,St3a が 22
例,St4 が 8 例で,治療成績は 2 児生存が 36 例(60%),
1 児生存が 15 例(25%)
,0 児生存が 9 例(15%)であ
った.術後の合併症は,羊膜剥離 5 例,術後 28 日以内
の破水 5 例,腹腔内羊水漏出 2 例,胎児心負荷所見増
強 2 例,Mirror 症候群 1 例,常位胎盤早期剥離 1 例,
TTTS 再発 1 例,Twin anemia-polycythemia sequence
(TAPS)1 例であった.分娩時在胎週数別にみると,32
週未満の分娩は 22 例でそのうち 26 週未満の分娩は 7
例で,内訳は術後早期 2 児 IUFD3 例と Mirror 症候群,
常位胎盤早期剥離,子宮収縮増強,前期破水が各1例
であった.また 26 週未満の分娩例 7 例のうち術後 1 週
間以内の分娩例が 5 例(70%)であった.妊娠 32 週未
満で分娩となった症例のうち術後 28 日以降に分娩とな
った症例の多くは陣痛発来 4 例、前期破水 4 例であっ
たが,胎児心負荷所見増強が 2 例,TTTS 再発が 1 例,
TAPS が 1 例であった.合併症を認めた症例は Quintero
分類 St3,4 に多く,FLP 時の妊娠週数との関連は,
Mirror 症候群,常位胎盤早期剥離など重症母体合併症
は妊娠 23 週以降の施行例に多い傾向を認めた.
【結論】
FLP の合併症は,重症例又は妊娠 23 週以降に多い傾向
を認め,FLP の合併症を予防するためには TTTS の早期
発見と治療が重要と考えられた.また術後後期(術後
28 日以降)に発症する合併症には陣痛発来や前期破水
が多いが,TTTS 再発や TAPS もあり術後管理を行なう上
で留意する必要がある.
P-333
P-334
双胎妊娠における高年初産の検討
葛飾赤十字産院 産婦人科
○五十嵐 美和、三宅 秀彦、大内
渡邉 秀樹、鈴木 俊治
望、永山
千晶、
【目的】日本産科婦人科学会編用語解説集によると,
35 歳以上の初産婦は高年初産婦と定義されている.高
年妊娠は,35 歳未満の妊婦と比較して,妊娠・分娩異
常が高率に発生することからハイリスクであると認識
されている.今回,双胎妊娠高年初産婦のリスクに関
して検討を行った.
【方法】対象は,当院で 2002~2006
年に妊娠・分娩管理を行った 35 歳以上の二絨毛膜双胎
初産婦 60 例で,20~34 歳の同 181 例をコントロール群
とした.不妊治療歴,妊娠高血圧症候群罹患率,早産
率,分娩様式,分娩時出血量,新生児所見について比
較検討を行った.今回,流産率に関する検討は出来な
かった.
【成績】不妊治療歴は高年初産群の 47%にあり,
コントロール群(31%)に比較して有意に高率であった.
また,コントロール群の 34%は経腟分娩を行っていた
が,高年初産群は 18%と有意に低率であった.一方,妊
娠高血圧症候罹患率,早産率,平均出生児体重,また,
分娩時異常出血,新生児仮死や新生児入院率等におい
て,両群間に有意差は認められなかった.
【結論】双胎
妊娠はハイリスク妊娠であるが,今回の検討において,
高年によるリスクの上昇は認められなかった.
433
当科において過去 10 年間に経験した品胎
妊娠症例の臨床的検討
新潟大学 医学部 産婦人科
○笹原 淳、菊池 朗、土谷 美和、高橋 泰洋、富
田 雅俊、高桑 好一
保存的治療で改善した胎便関連性腸閉塞
症の品胎例
聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 周産期センタ
ー 新生児部門
○西坂 まゆみ、大西 奈月、大野 秀子、吉馴 亮
子、石井 理文、笹本 優佳、瀧
正志
【はじめに】低出生体重児において、胎便排泄遅延に
よる腹部膨満、経腸栄養の遅れ、更には腸管穿孔によ
る開腹手術にいたる症例を見る事がある。しかし、保
存的治療によりハイリスクである開腹手術を避けるこ
とができれば児の予後の改善につながる。
今回、極低出生体重児の品胎例において、3児ともに
胎便関連性腸閉塞症をきたし、上部消化管からの造影
剤の注入、注腸、胃管挿入による持続吸引の内科的治
療を施行した。その結果、3児いずれも有効な胎便排
泄を認め腹部膨満の改善が得られ、経腸栄養が進めら
れた症例を経験した。
【症例】母体は38歳。8経妊5経産。妊娠22週2
日より切迫早産で当院に入院。ウテメリンを妊娠18
週より投与。児は在胎30週2日、帝王切開にて出生。
第1子:出生体重1040g(-1.5SD)、Apgar
9/10で出生。出生数時間後より、腹満・蛇行を認
め、洗腸と浣腸を施行するも改善なし。腹部 X-P 上、
拡張した小腸ガスを認め、日齢1に造影剤(ガストロ
グラフィン)を胃内へ注入。日齢2に注腸を施行。大
腸部の胎便栓が確認された。減圧を目的として胃管を
挿入し持続吸引(-10cmH2O)を開始。日齢7までに
注腸計3回、胃内への注入を計3回施行。その後、有
効な排便を認め、拡張腸管も軽減。造影剤が下部消化
管まで到達。日齢8より搾乳の注入を開始。経腸栄養
が進められた。
第2子:出生体重1148g(-1.3SD)、Apgar
8/9で出生。経腸栄養を早期より開始し、浣腸と洗
腸にて排便を認めていたが、日齢4に軽度の腹満を認
め、注腸にて大腸内の胎便栓を認めた。その後、多量
の排便があり腹満は改善し経腸栄養の増量が可能であ
った。
第3子:出生体重1276g(-1SD)、Apgar9/
9で出生。日齢1に腹満・蛇行を認め、洗腸と浣腸を
施行するが効果がなく、日齢2に胃管を挿入し持続吸
引を開始。同日、注腸にて小腸から大腸にかけて胎便
栓を多数認めた。排便が認められたが腹満は軽快せず、
日齢7に造影剤の胃内への注入を行った。その後、有
効な胎便の排出が得られ改善した。
【考察】長期間にわたる母体への子宮収縮抑制剤投与
と子宮内発育遅延に起因した胎便関連性腸閉塞症をき
たした品胎例を経験した。治療として、注腸と胃内へ
の造影剤を注入するはさみうち療法に加えて、胃管を
挿入し持続吸引による減圧が有効と考えられた。
P-335
P-336
【緒言】品胎妊娠は早産や妊娠高血圧症候群などの母
体周産期合併症の管理に難渋する場合が多い。また品
胎妊娠では、そのほとんどが早産に至ることで、児の
未熟性に起因する神経学的予後不良例も散見される。
今回、過去 10 年間に当科で管理した品胎症例の臨床的
検討を行った。
【対象と方法】過去 10 年間に当科で分
娩まで管理した品胎 20 症例で、母体臨床的背景、周術
期合併症、新生児予後などを検討した。
【結果】母体年
齢は 30±3.8 歳、分娩週数は 34.3±2.6 週であった。
分娩方法は 3 児中 2 児が IUFD となった 2 症例(結合体
1 症例)を除いて全て帝王切開であり、分娩時出血量は
915±655g、同種血輸血を必要とした症例は 1 例のみで
あった。自己血貯血は 14 症例で行ったが、4 症例では
返血を行わなかった。妊娠高血圧症候群は 3 症例に認
め、切迫早産やその他の理由により 16 例で管理入院を
必要とした。ART にて妊娠成立した症例は 16 症例であ
り、その内訳は排卵誘発+timing 法 3 例、人工授精 5
例、体外受精+胚移植 8 例であった。膜性は 3 絨毛膜 3
羊膜(Tri-Tri)13 症例、2 絨毛膜 3 羊膜(Di-Tri)5 症例、
1 絨毛膜 2 羊膜(Mono-Di)1 症例、1 絨毛膜 3 羊膜
(Mono-Tri)1 症例であった。妊娠予後・新生児予後は、
IUFD が 5 症例(Di-Tri3 例、Mono-Tri2 例)、新生児死亡
が 1 例(左心低形成症候群)、自閉症・精神遅滞が 1 例、
下肢痙性麻痺が 2 例であった。【結論】当科で管理した
品胎症例の 80%は ART 後の妊娠であった。Tri-Tri 以外
の膜性品胎では、胎盤を共有する双児に IUFD 例が散見
され、注意深い観察が必要と考えられた。神経学的予
後不良例では、品胎であること自体が high-risk であ
ることが示唆された。
434
体外受精による多胎妊娠の周産期医療に
及ぼす影響
獨協医科大学産科婦人科学教室
○野口 崇夫、渡辺 博、村越 友紀、多田 和美、
西川 正能、田所 望、稲葉 憲之
既往卵管間質部妊娠の菲薄筋層内へ発育
したが生児を得た Discordant twin の1例
岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 産科婦人科 1、
岡山大学大学院 保健学研究科 2
○井上 誠司 1)、野口 聡一 1)、松本 由紀子 1)、安達
美和 1)、佐々木 愛子 1)、清水 恵子 1)、鎌田 泰彦 1)、
平松 祐司 1)、中塚 幹也 2)
体外受精・肺移植(IVF-ET)による子宮外妊娠発生率
は 1-2%とされるが,自然妊娠に比較して卵管間質部妊
娠は高率に発生することが知られている.今回,私達
は, IVF-ET により卵管間質部付近に着床したが生児を
得た二絨毛膜二羊膜性(DD)双胎の1例を経験したの
で報告する.症例:30 歳.既往歴:Basedow 病のため甲
状腺手術を施行,内服治療中.子宮内膜症のため 2 回の
腹腔鏡下手術.妊娠歴:2 妊 0 産. 前回妊娠は,当院で
IVF-ET を施行,DD 双胎であったが,1児が右卵管間質
部内で発育したため,妊娠 11 週,超音波検査下に胎嚢
に KCL+MTX を局注,さらに MTX の全身投与により保存
的治療を施行した.現病歴:IVF-ET を施行し妊娠を確
認,抗リン脂質抗体陽性のためヘパリンとアスピリン
による抗凝固療法を開始した.子宮内腔中央部と菲薄
化した右卵管間質部付近に 2 つの胎嚢が確認されたが,
右卵管間質部付近の胎嚢の径は小さく,胎児心拍の確
認も約 1 週間遅れた.卵管間質部付近はやや膨隆して
いたが筋層は約 5mm であり,本人,家族の強い希望も
あり厳重な観察下に妊娠継続となった.妊娠 16 週より
安静と子宮収縮抑制剤の点滴を開始した.妊娠初期よ
り胎児発育には約 1 週間の差異があり,子宮中央の胎
児は AFD であったが,卵管間質部付近に胎盤を形成した
胎児の発育は緩やかであり-3SD の asymmetrical IUGR
を呈し、羊水過少や頭周囲長発育の停止は見られなか
ったが discordancy は拡大した.妊娠 31 週,右上腹部
に違和感を訴えたため,超音波検査を施行,胎盤の存
在する菲薄化した筋層は 3.5mm となっていた.子宮収
縮の抑制が困難となってきたこと,今後,卵管間質部
付近の胎児の発育停止も予測されたこともあり,妊娠
31 週 6 日に NICU 担当医待機の上,選択的帝王切開術を
施行した.第1児は 1,620g の正常男児,第 2 児は 926g
で Apgar Score7/8 の女児であった.胎児と第 1 児の胎
盤娩出後,右卵管起始部は鵞卵大に突出し,超音波検査
上,第 2 児の胎盤の剥離徴候は見られなかった.子宮
内腔からの胎盤娩出は困難であり大量出血も予測され
たため,菲薄化した筋層とともに胎盤を摘出し子宮を
整復した.
P-337
P-338
目的:近年、ハイリスク妊婦の増加や分娩を取り扱う
施設の減少などにより周産期医療の現場は危機的な状
況である。とりわけ多胎妊娠は不妊治療の普及ととも
に増加し、切迫早産による長期入院や帝王切開、早産
分娩など周産期医療に及ぼす影響は極めて大きい。そ
のため今回われわれは IVF-ET による多胎妊娠の周産期
医療に及ぼす影響を検討した。対象・方法:2002 年か
ら 2006 年の 5 年間に当院で分娩した 4207 例(4527 児:
双胎 298 例・品胎 11 例)のうち、IVF-ET で妊娠した
147 例(222 児:双胎 65 例・品胎 5 例)を対象とし、
多胎発生率、入院期間、出産週数、NICU 入院率につい
て検討した。結果:全分娩 4207 例のうち単胎 3887 例
(92.4%)双胎 298 例(7.1%)品胎 11 例(0.3%)で
あった。IVF-ET147 例のうち単胎 77 例(52.4%)双胎
65 例(44.2%)品胎 5 例(3.4%)であり、各胎児数に
おける IVF 妊娠の割合は単胎 77/3887(2.0%)双胎
65/298(21.8%)品胎 5/11(45.5%)であった。分娩ま
での入院期間はそれぞれ 10.7±26.8 日、39.7±35.8
日、49.3±32.8 日であった。出産週数は 37.6±2.77
週、35.5±3.18 週、28.9±4.4 週であり、NICU 入院率
は 21/77(27.3%)
、66/130(50.8%)、15/15(100%)
であった。考察:胎児数の増加に伴い IVF-ET による妊
娠の割合が増加した。さらに、双胎になることで約 1
ヶ月の入院期間の延長が認められた。IVF-ET は ET 数が
コントロール可能であることから、うまく活用するこ
とで多胎の減少に有効な方法となる可能性がある。最
近極めて厳しくなった周産期施設のベッドを有効に活
用するためにも多胎妊娠を極力避けるさらなる努力が
必要であり、特に自施設で分娩を取り扱わない不妊治
療施設ではこのような認識が薄れるためより強い自主
規制を望みたい。
435
帝王切開術後に仮性子宮動脈瘤を生じた
一症例
広島大学 産婦人科
○信実 孝洋、佐村 修、坂下 知久、三好 博史、
原 鐵晃、工藤 美樹
【はじめに】分娩後 24 時間以上経った遅発性出血の多
くは胎盤の遺残などであるが、仮性動脈瘤による出血
が時に報告されている。真性動脈瘤は動脈の 3 層構造
に覆われているのに対し、仮性動脈瘤はその層構造を
持たず、損傷血管周囲の組織や血腫などで覆われる動
脈瘤であり、多くは手術操作の際に血管損傷を来たし
て生じた医原性変化である。今回帝王切開 4 日後の出
血から仮性子宮動脈瘤を認めた一例を経験したので報
告する。
【症例】24 歳、2 経妊 1 経産、前医で児頭骨盤
不均衡と診断され帝王切開術により 3940g の女児を分
娩した。分娩後 4 日目に 400g の性器出血を認め、止血
剤や子宮収縮剤により加療された。分娩後 7 日目の診
察時、子宮下部左側に拍動性血流を伴う低エコー像を
認め当科搬送となった。来院時の性器出血は少量で、
超音波で前医同様 4cm 大の腫瘤を帝王切開創部付近に
認め、骨盤血管造影検査から左子宮動脈上行枝の仮性
動脈瘤と診断された。瘤が大きいため、金属コイルを
用いた恒久的な左子宮動脈塞栓術を行い、右側から吻
合血管を介した血流も認めたため、ゼラチンスポンジ
を用いて右子宮動脈の一時的な塞栓術を行った。術後
は瘤の破裂など後出血もなく経過良好で、子宮温存が
可能であった。
【まとめ】仮性動脈瘤の診断には超音波
検査が有用で、拍動性血流を内部に持つ低エコー像を
認める。仮性動脈瘤は子宮に加わるいかなる手術手技
でも生じる場合があり、そこにキュレットなどの子宮
内操作が加わると大出血を引き起こすことになり、そ
の存在には注意が必要である。動脈塞栓術が有効な治
療であり子宮温存が期待できるが、塞栓術後の妊孕性
に関しては現時点では不明であり、今後の検討を要す
る。
P-339
P-340
妊娠中に脳内出血を発症した 1 例
呉医療センター 産婦人科
○熊谷 正俊、秋本 由美子、花岡 美生、水之江 知
哉
【緒言】妊婦に合併する頭蓋内出血は妊婦 10000 例に
対して 1~5 例と稀であるが,非常に重篤な合併症のひ
とつで,母体と児の救命が求められ集学的治療を必要
とする.今回,妊娠中期に脳内出血を発症した症例を
経験したので報告する.【症例】症例は 26 歳女性,1
経産(3 年前に正常経腟分娩)
,既往歴なし.発症まで
の妊娠経過に異常なく,妊娠 20 週 4 日に突然の頭痛と
意識レベルの低下のため救急車にて当院救急外来に搬
入された.来院時の意識レベルは JCS III-100 で刺激
にわずかに反応する程度であった.血圧は正常であっ
たが,瞳孔径に左右差認めることから脳血管障害が疑
われた.
経腹超音波にて 19 週相当の胎児の生存を確認.
頭部 CT 検査にて右前頭葉に high density area 認め脳
出血と診断した.出血は脳室内に穿破しており,更に
側脳室の拡大を認め水頭症を生じていた.全身麻酔下
に緊急開頭手術を施行.脳動静脈奇形による脳内出血
と診断し血腫除去術を施行したが,母体の意識は改善
しなかった.妊娠期間を通じて、医療スタッフ(脳外
科医,産科医,小児科医,看護師)と家族が頻回に合
い病状説明と治療方針の確認を行った.母体優先の治
療を行いながら妊娠を継続し,胎児発育,血流,BPS,
頸管長に問題なく順調に経過したが,下肢の開排制限
が出現したため経腟分娩は困難と判断した.37 週 6 日
に選択的帝王切開を施行し,2584gの女児をアプガー
スコア 9 点で分娩.児に外表奇形や母体疾患および治
療薬の影響を認めなかった.術後経過は良好であった
が,意識障害が改善されることなく,遷延性意識障害
のままリハビリ目的に術後 113 日目に転院した.【考
察】妊娠 20 週に脳動静脈奇形破裂による脳内出血を発
症し,搬送時 JCS III-100 と重い意識障害をきたして
いた症例を経験した.妊娠全期間を通じて母体優先の
検査・治療を行ったが,出生児に母体疾患、母体投与
薬剤の影響を認めなかった.妊娠中の頭蓋内出血に対
しては,妊娠時期にかかわらず母体救命のため積極的
に造影検査も含めた検索を行い,母体優先の治療を行
うことが重要である.
436
P-341
産褥期脳内出血の 1 症例
産褥期に多発性脳梗塞を呈した肺動静脈
瘻合併妊娠の 1 例
獨協医科大学越谷病院 救急医療科
○岩下 寛子
肺動静脈瘻は稀な肺血管異常で,多くは無症状だが右
左シャントによる呼吸不全や脳卒中や脳膿瘍を含めた
様々な中枢神経症状を呈す.妊娠は循環血液量,心拍
出量の増大による肺血流量の増加やホルモンの影響に
よりシャントが増大し症状が悪化するとされる.今回
我々は第 2 子妊娠・分娩を契機に数回の痙攣・てんか
ん様発作ののち,多発脳梗塞による意識障害を来たし
た症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報
告する.
【症例】21 歳 2 経妊 2 経産.14 歳時中学校の
学校検診にて多血症を指摘され,肺動静脈瘻と診断.
数回のコイル塞栓術を施行され経過観察されていた.
家族歴の特記事項なし.20 歳時第 1 子妊娠・分娩した
が経過中異常は認めなかった.今回第 2 子妊娠 6 ヶ月
ごろより情緒不安定,呼吸苦を認めていた.満期にて
正常分娩.産褥 2 週間ごろより発作性に手足の痙攣や
脱力,欠神発作を繰り返すようになったため,近医受
診.CT 等行うも確定診断得られず,精神疾患を疑われ
て近医精神科に入院となった.入院中突然意識消失し
たため当院救急搬送となった.来院時意識レベル GCS
E2V2M4,瞳孔径 6.0/6.0mm 対光反射‐/‐,左方共同
偏視・左片麻痺を認めた.BP 98/64mmHg,HR 128/min,
呼吸数 14 回/分,SpO2 94%(O210L リザーバーマス
ク)PaO2 82.4mmHg,PaCO2 41.4mmHgと酸素化不良
であった.頭部 CT にて多発性脳梗塞を認め明らかな
AVM はなかった.
【考察】肺動静脈瘻に伴う妊娠では,
血胸や血痰,シャントの増悪,脳梗塞などの合併が報
告されており,肺出血や脳梗塞による死亡例もある.
また 43%に肺動静脈瘻の増悪を認めたという報告もあ
る.胎児への影響は子宮内胎児発育遅延や不妊,流産
が関連するという報告があり,その治療法は経カテー
テル的塞栓術が一般的であるが,妊娠中では被爆によ
る胎児への影響が懸念される.しかしその被曝量は胎
児異常を引き起こすしきい値と比較して十分に小さく
安全に行えると報告されている.肺動静脈瘻患者で妊
娠の希望がある,可能性がある場合には妊娠前の肺動
静脈瘻の十分な評価と治療が望ましいと考えられ,妊
娠中でも症状の増悪が認められるようであれば,積極
的な血管造影検査,経カテーテル的塞栓術の適応を考
慮すべきである.
P-342
住友別子病院
○多賀 茂樹、松尾 環
妊娠中、産褥期に痙攣・意識障害を認めた場合、まず
子癇発作が疑われるが、頭蓋内出血を始めとする脳血
管障害の鑑別が重要である。今回われわれは産褥期に
脳内出血を発症し、緊急開頭術を行なった症例を経験
したので報告する。症例 1 は 31 歳。0 妊 0 産。近医で
健診を受けていた。妊娠 35 週より浮腫が見られ妊娠 40
週で尿蛋白(++)であった。血圧は正常であった。妊娠
40 週 1 日で自然陣痛があり入院となった。翌日メトロ
イリンテル挿入し、妊娠 40 週 3 日で 3500gの男児を
Apgar score8/10 点で経膣分娩した。分娩 1 時間 28 分
後、子癇発作と思われる痙攣発作があり、嘔吐および
鼻出血がみられた。ジアゼパム 10mg筋注、硫酸マグ
ネシウム 10ml/h持続点滴を施行したが、約 1 時間た
ってもおさまらないため、当院に搬送となった。入院
時の血圧 150/71mmHg,脈拍 71/分,体温 39.0℃、SPO2
98%で、自発呼吸はあるが呼びかけに反応なく対光反
射もみられなかった。気管内挿管し、胃管を挿入した
ところ、多量の air と暗赤色の排液があった。頭部 CT
を施行したところ 3×6cm大の右脳内出血がみられ、
右前頭葉出血の診断で開頭手術を行なった。脳表より 3
cmのところに血腫がありその前頭葉側に易出血性の
組織塊を認め、焼灼後に摘出し、病理組織検査で脳動
静脈奇形の破裂と診断した。術後のリハビリで状態は
改善し、会話は普通にでき、右手で歯磨きなどできる
が、左片まひは残存し、左手は拘縮があり、歩行は T
字杖が必要であり、入浴、排泄は要介助の状態である。
437
妊娠中に後大脳動脈解離による脳梗塞を
発症した一例
鹿児島大学 医学部 産科婦人科 1、国立循環器病セン
ター 周産期科 2
○川俣 和弥 1)、山中 薫 2)、根木 玲子 2)、池田 智
明 2)
【目的】後大脳動脈解離はまれではあるが、若年者の
脳梗塞の原因として重要な疾患である。今回、後大脳
動脈解離を妊娠中に発症した症例を経験したので報告
する。【症例】22 歳の初産婦、既往歴特記事項無し。妊
娠経過は特に異常を認めていなかった。妊娠 29 週、入
浴後に右後頭部痛と左上下肢のしびれが出現。右同名
半盲、左不全麻痺のため、当院神経内科を受診する。
頭部 MRI により、右後頭葉に high intensity area を
認め、angiography を行い、後大脳動脈解離による脳梗
塞と診断された。脳梗塞発症後は抗凝固療法は行わず、
輸液のみで経過観察とした。発症後 6 日目に頭痛は軽
快。左半身のしびれはあるものの、麻痺は次第に軽快
した。その後の妊娠経過は異常を認めず、胎児発育も
異常なし。
妊娠 38 週で硬膜外麻酔下に分娩誘発を行い、
2721g の女児を鉗子分娩にて娩出した。分娩後も抗凝固
療法などは行わず、経過観察中である。
【結論】妊娠中
に発症する脳の虚血性病変は、そのほとんどが心臓由
来の血栓、凝固異常、頸動脈解離によるものであり、
孤発性の大脳動脈解離はまれである。このような脳血
管障害を正確に診断し、適切な治療を行うことは母児
救命には不可欠であり、妊娠中であっても脳血管造影
を含めた侵襲的な検査が重要であると考えられる。
P-343
P-344
生児を得た帝王切開創部妊娠の一例
広島大学大学院医歯薬総合研究科産科婦人科
○坂下 知久、信實 孝洋、江川 真希子、田中 教
文、中前 里香子、谷川 美穂、兵頭 麻希、佐村 修、
三好 博史、工藤 美樹
【はじめに】帝王切開創部妊娠はまれな疾患である。
早期に診断されれば子宮温存も可能であるが、診断が
遅れれば多量出血や子宮破裂を来たし子宮温存は困難
となる。これまで妊娠初期に診断されたが、妊娠継続
し生児を得た報告は極めて稀である。今回われわれは
妊娠 29 週で帝王切開を行い生児を得た帝王切開創部妊
娠の一例を経験したので報告する。
【症例】34 歳 6 経
妊 3 経産(3 回帝王切開) 特記すべき既往歴・合併症・
家族歴なし。最終月経から 4 週 6 日に前医受診した。
この時の経腟超音波検査で子宮体下部前壁の筋層内に
胎嚢を認め帝王切開創部妊娠と診断された。5 週 6 日に
再診し胎嚢の増大と卵黄嚢、胎芽エコーを認めた。こ
のとき、妊娠継続は困難であることを説明されたが、
その後受診が途絶え、妊娠 13 週 1 日にセカンドオピニ
オンを求めて当科初診した。子宮峡部前壁に胎盤が付
着し、同部筋層は薄く膀胱側に膨隆していた。羊水腔
は体下部に広がっていたが底部には達していなかっ
た。経過中の子宮破裂による致死的な出血の可能性に
ついて繰り返し説明したが、妊娠中絶を希望されず待
機的な管理を行う方針とした。胎児発育は良好で、切
迫早産兆候も認めなかったが、胎盤位置は子宮体下部
右半から内子宮口を覆っていた。妊娠 25 週から自己血
採血を開始し、妊娠 27 週 2 日から入院管理とした。妊
娠後期における子宮破裂の可能性を考慮し、妊娠 29 週
0 日、開腹手術を行った。子宮体下部は膨隆し胎盤が漿
膜面から透見できた。体部従切開による帝王切開に引
き続き逆行性子宮全摘を行った。術中出血量は 1680ml
(羊水含む)で輸血は行わず、術後経過良好で術後 10
日目に退院した。児は 1116gの男児で修正 37 週現在、
特記すべき異常を認めていない。摘出子宮の体下部前
壁は菲薄化し一部筋層は欠如していた。同部の胎盤付
着部は絨毛組織が筋層内へ著しく浸潤し、一部漿膜面
に達していた。また、全前置胎盤の所見でもあった。
【まとめ】帝王切開創部妊娠に対しては早期に中絶を
勧めるのが一般的である。しかし、本症例では子宮温
存可能な時期を過ぎており、子宮破裂のリスクはある
ものの妊娠を継続した。児の予後も考慮し、妊娠 29 週
に予定帝王切開とし良好な結果を得た。
438
臍帯血バンクに必要な臍帯血採取量と採
取量に影響する因子の検討
広島市立広島市民病院 周産期母子医療センター 新
生児科
○林谷 道子、野村 真二、中田 裕生、早川 誠一、
新田 哲也
【目的】臍帯血移植はドナーに負担がなく供給が迅速
で、HLA 不適合に対し寛容であるなどの長所を持つ。確
実な生着のためには有核細胞数の多い臍帯血の保存が
重要である。バンクに必要な採取量とそれに影響する
因子を検討した。
【対象と方法】2000 年 8 月から 2006
年 12 月までに採取した臍帯血 469 例について 1)年度毎
の採取状況 2)保存不適理由 3)採取量と有核細胞数、
CD34 陽性細胞数との相関 3)採取量に影響すると思われ
る胎盤・臍帯因子、母児の因子、採取方法(胎盤娩出
前採取と娩出後採取)について検討を行った。
【結果】
1) 2006 年が 121 例と最も多くの採取が行われ、胎盤娩
出前採取が 284 例(60%)、娩出後採取が 185 例(40%)
であった。2) 採取された 469 例のうち 257 例で保存の
ための調製が行われ、最終的に 198 例(42%)が保存され
た。最も多い保存不適理由は量不足(有核細胞数が基準
以下)で 206 例(44%)であった。3)採取量は 57.7±
23.3ml、調製前有核細胞数は 7.2±3.5×108 個で、両者
間に有意な相関を認めた(相関係数 0.80、p<0.0001)。
257 例の調製後有核細胞数は 7.0±2.4×108 個で、採取
量、調製前有核細胞数との間に有意な相関を認めた(相
関係数 0.58、0.95、p<0.0001)。調製後 CD34 陽性細胞
数は 2.2±1.5×106 個で、採取量、調製前有核細胞数、
調製前 CD34 陽性細胞数との相関係数は 0.31、0.43、
0.86 (p<0.0001)で、調製前有核細胞数と CD34 陽性細
胞数との間に有意な相関を認めた。3)採取量から調製
可否を従属変数とし、母年齢、身長、体重、初産経産、
採取方法、在胎週数、出生体重、児の性別、胎盤重量、
臍帯長と太さを独立変数として多変量解析を行った結
果、胎盤重量、臍帯長(p<0.0001)、臍帯の太さ(p<
0.05)で有意差を認めた。【結語】有核細胞数と採取量
との間には有意な相関があり、現在の調製開始基準(採
取時有核細胞総数が 7×108 個以上)を満たすには、採
取量 56ml 以上 (採取バックの重量を含め 110g以上)
の血液の採取が必要である。採取量は胎盤重量、臍帯
の長さや太さで規定され、当科では採取時に臍帯のミ
ルキングを行っているが、今後十分な採取量を確保す
る有用な手段の検討が望まれる。
経腟分娩後に汎腹膜炎を発症した急性虫
垂炎の一例
滋賀医科大学 産婦人科
○望月 昭彦、四方 寛子、喜多 伸幸、高橋 健太
郎、野田 洋一
P-345
P-346
妊娠中に発症する急性虫垂炎は、妊婦の急性腹症の
中でも頻度の高いものであり、かつ診断に苦慮するこ
とが多い。今回我々は、妊娠 32 週時に急性虫垂炎を強
く疑うも症状軽快し、妊娠 40 週で経腟分娩した後、汎
腹膜炎を発症した症例を経験したので報告する。 症
例は 40 歳初産婦。IVF-ET にて妊娠が成立した。妊娠
32 週 4 日に頻回の子宮収縮の自覚と右下腹部痛を主訴
に入院となった。入院時の血液検査では WBC14600、
CRP10.9mg/dl と 著 明 な 炎 症 所 見 を 認 め た が 体 温 は
36.0℃であったため、リトドリン点滴と抗生剤投与を
開始し経過観察をした。その数時間後より右下腹痛が
増強し、急性虫垂炎を疑い造影 CT 検査を施行した。CT
所見では右卵巣付近の腸間膜脂肪組織の density の上
昇は認めたが、腸管の壁肥厚なく、虫垂も腫大してい
なかったため虫垂炎の診断には至らなかった。その後
徐々に症状が軽快し炎症反応も低下したため経過観察
となった。しかし妊娠 33 週 1 日に再度子宮収縮が頻回
となり、これ以上の妊娠の継続は困難と判断し、リト
ドリン点滴を中止、ベタメタゾン 12mg 筋注を二回施行
し経腟分娩に備えた。ところがその後徐々に子宮収縮
は 減 弱 し 腹 痛 も 消 失 。 妊 娠 34 週 0 日 に は
WBC6500,CRP0.79mg/dl と低下し自覚症状も消失したた
め一旦退院となった。 妊娠 40 週 0 日に陣痛発来し男
児 3472g Apgar score 9/9 にて頭位経腟分娩となった。
産褥二日目に急激な右下腹部痛が出現し体温が 39.1℃
に上昇、WBC31400,CRP12.2mg/dl と著明な炎症反応を認
めた。造影 CT 施行したところ、圧痛部位と一致する子
宮底右側に周囲脂肪組織の濃度上昇を伴う膿瘍と思わ
れる嚢胞性病変を認めた。消化器外科転科となり、同
日虫垂切除術施行された。 今回の症例は症状の増悪
と軽快を繰り返した後、産褥期に再度増悪した急性虫
垂炎と考えられた。若干の文献的考察を加えて報告す
る。
439
生児を得ることができた胎児共存奇胎の
二例
豊橋市民病院 産婦人科 1、大垣市民病院 産婦人科 2、
豊橋市民病院 新生児医療センター3
○若原 靖典 1)、伊藤 充彰 2)、河井 通泰 1)、柿原 正
樹 1)、岡田 真由美 1)、幸脇 正典 3)、小山 典久 3)
胎児共存奇胎は 2 万から 10 万妊娠に一例と極めて稀な
疾患である。近年、排卵誘発剤の使用や体外受精の普
及により、多胎妊娠が増加し、それに伴って、胎児共
存奇胎の報告が多くなされるようになってきている。
今回、我々は、クロミッド・hMG 療法後に妊娠し、分娩
時に胎児共存奇胎の診断が得られ、生児を得ることが
できた一例及び自然妊娠にて、妊娠初期に胎児共存奇
胎の診断が得られ、妊娠継続し、生児を得ることがで
きた一例を経験したので文献的考察を含めて報告す
る。症例 1 は、25 歳女性、0経妊0経産、他院にて排
卵障害のため、クロミッド・hMG 療法を受け妊娠に至っ
た。その後、前医で妊婦健診を受けていた。妊娠 25 週
1 日、茶褐色の帯下が続くとの訴えで前医を受診した。
頚管の開大が認められ、当院に母体搬送となった。来
院時、子宮口は 4cm 開大し、胎胞が膣内に突出してお
り、妊娠継続は困難と判断した。骨盤位であるため、
緊急帝王切開術を施行した。728g の男児(Apgar score 2
点、3 点)を出産したが、胎盤と共に、多量の嚢胞を娩
出しため、胎児共存奇胎と診断した。分娩後7週より
HCG 値が再上昇し、MRI にて子宮筋層内に病変を認めた
ため、臨床的侵入奇胎と診断した。化学療法を6コー
ス施行し、寛解に至った。症例 2 は、25 歳女性、2 経
妊 2 流産、他院にて、胎児共存奇胎の診断のもと、妊
婦健診を受けていた。羊水検査についての説明もなさ
れていたが、御本人の同意が得られず、施行されてい
なかった。周産期管理の目的で妊娠 22 週 2 日、当院に
紹介となった。超音波検査及び MRI では、嚢胞状部分
が内子宮口を覆っていた。HCG 値は 134,000mIU/ml で
あった。妊娠 28 週 2 日 出血があり、入院となった。
塩酸リトドリンの持続点滴を行うも、妊娠 29 週 0 日、
出血が多量となり、妊娠継続は困難と判断し、緊急帝
王切開術を施行した。1082g の女児(Apgar score 7 点、
8 点)を出産した。いずれの児も出生後の発育は良好で
あり、全胞状奇胎と正常妊娠の二卵性双胎と考えられ
た。胎児共存奇胎の妊娠継続については、文献的には、
全胞状奇胎と正常妊娠の二卵性双胎であれば可能との
報告が多いが、早産や妊娠高血圧症候群の発症頻度が
高く、児の長期予後に関しても明らかではなく、十分
なコンセンサスは得られていない。
Fetal thrombotic vasculopathy により多
彩な症状を呈したと考えられた一例
新潟大学大学院 医歯学総合研究科 小児科学分野
○佐藤
尚、臼田 東平、辺見 伸英、榊原 清一、
松永 雅道
P-347
P-348
【はじめに】出生直後から多彩な症状を認め、その原
因が fetal thrombotic vasculopathy(以下 FTV)にあ
ると思われた一例を経験したので報告する。【症例】二
絨毛膜二羊膜性双胎の第 1 児。予定帝王切開にて在胎
37 週 0 日に出生。体重 1976g、Apgar8(1 分)、9(5 分)
であった。出生直後から点状出血斑が出現し、急速に
全身に広がった。血小板減少、フィブリノーゲンの低
値、FDP, D-dimer の高値を認め、DIC と判断した。胸
部レントゲン上、心拡大を認めたが、構造異常は認め
なかった。頭部エコーにて脳室周囲白質の輝度上昇と、
両側の脳室上衣下嚢胞を認めた。血小板と新鮮凍結血
漿の輸注、メシル酸ナファモスタットにて治療し、DIC
は速やかに改善した。全身状態は良好で経過し、心拡
大も数日で改善した。11 生日に撮影した頭部 MRI では、
白質の異常信号を認め、白質脳症が疑われた。当初は
先天性ウイルス感染を疑ったが、各種ウイルス学的検
査は全て陰性であった。胎盤病理検査にて、胎児面表
面に近い複数の太い血管に、広範囲な壁在性の血栓と、
それによる血管内腔の狭小化、血管壁の変性を認めた。
また、基絨毛内の血管に広範囲にわたる閉塞を認め、
その周囲の多数の末端絨毛に血管腔の消失と石灰化を
認めた。末端絨毛の同様の変化は異なる複数の切片に
おいても認められた。他児は特に異常なく経過し、胎
盤病理でも異常所見を認めなかった。母の自己抗体、
血液凝固系検査に特に異常を認めなかった。【考察】
FTV とは、胎盤表面の臍帯動脈及び臍帯静脈の分岐や、
比較的太い幹絨毛血管の閉塞性あるいは壁在性血栓
と、それによって生じた、その末梢組織の変化を総称
した概念である。本症例の胎盤病理は、FTV に合致する
所見と思われた。IUGR、血小板減少、新生児脳症など
との関連が海外においていくつか報告されているが、
本邦からの報告は殆どなく、まだ認知度の低い病態で
ある。新生児の様々な病態と関わっている可能性も考
えられ、系統だった検討が必要と思われる。また FTV
の原因はまだ不明な点が多いとされるが、本症例では
二絨毛膜二羊膜性双胎の一方の児のみにみられてお
り、発症原因についても示唆に富む症例と思われる。
440
出生時に臍帯静脈全長にわたり血栓を認
めた胎児ジストレスの1例
富山県立中央病院母子医療センター 産婦人科
○谷村 悟、中島 正雄、中野 隆
妊娠 35 週以降のルーチンワークで見つか
った臍帯下垂・脱の4例
島根大学 医学部 産科婦人科
○原田 崇、青木 昭和、山上 育子、折出 亜希、
石橋 雅子、真鍋 敦、宮崎 康二
臍帯下垂・脱は破水後に、児に対して危機的なリスク
を生じうる。我々は妊娠 35 週以降のルーチンワークで
見つけた臍帯下垂・脱を最近 3 年間で4例経験したの
で考察を加え報告する。
【症例 1】1 経妊 1 経産婦。里
帰り分娩目的で妊娠 34 週 0 日当科初診。
第1骨盤位(複
殿位)であり、経腟エコーにて胎児の腰・臀部と子宮
壁の間に臍帯を確認した。妊娠 35 週 6 日自宅で破水し
30分後に来院。内診上子宮口は 4 cm 開大し僅かに柔
らかな索状物を触れ、カラードプラにて臍帯を確認し
た。緊急帝王切開となり 2596 g の男児を Apgar 9/9、
臍帯動脈血 pH7.25 で娩出した。
【症例 2】初産婦。里帰
り分娩目的で妊娠 35 週 4 日当科紹介初診。この時異常
は認めなかった。妊娠 36 週 6 日妊婦健診時、児は頭位
で頚部に臍帯巻絡を認めた。経腟エコーにて先進児頭
の先に臍帯が下垂しているのが認められた。胎児心拍
に異常は認めなかったが、同日帝王切開を施行し 2502
g の男児を Apgar 9/9、臍帯動脈血 pH7.39 で娩出した。
【症例 3】初産婦。当科で妊婦健診を受けていた。妊娠
32 週から骨盤位(複殿位)であり、妊娠 36 週の健診で
は異常を認めず、妊娠 37 週の健診で経腟エコーにて先
進した臀部・足底の先に臍帯を認めた。胎児心拍に異
常は認めなかった。3 日後に帝王切開を施行し 2776 g
の男児を Apgar 9/9 で娩出した。
【症例 4】初産婦。里
帰り分娩目的で妊娠 35 週 2 日当科初診。妊娠 38 週 2
日健診時に経腹エコーで一過性の徐脈を認めたが、そ
の他徐脈の原因となる異常はなかった。経腟エコーに
て先進した児頭の下に臍帯を確認し、すぐに胎児心拍
モニターを付けたがそれ以降胎児心拍に異常は認め
ず、経腟エコーを再検査したが臍帯下垂は認めなかっ
た。その後 CPD の適応で帝王切開となり 2974 g の男児
を Apgar 9/9、臍帯動脈血 pH7.28 で娩出。
【考察】妊娠
35 週以降の妊婦健診時ルーチンに施行した経腟エコー
で計4例の臍帯下垂・脱を発見し全例児の予後は良好
であった。他にも臍帯が前額部や耳介より先進し、児
頭が浮遊した場合の急な臍帯下垂が想定される例も経
験した。以上より胎位が固定しやすく破水も生じやす
くなる妊娠 35 週以降に経腟エコーでの臍帯下垂のスク
リーニングを行うことは、児のリスクを減らす上でも
重要と思われた。
P-349
P-350
【はじめに】 臍帯静脈全長にわたり血栓が形成され、
血流低下による胎児ジストレスを呈した症例を経験し
たので報告する。
【症例】妊娠37週の初産で既往歴や
妊娠経過に特に異常はなかった。当日朝より胎動の減
少を自覚し、前医での通常検診時に胎児徐脈を指摘さ
れ、母体搬送となった。当院受診時NST上、遅発性
一過性徐脈があり緊急帝王切開を行った。児は 2450g
Ap9/10 で外表奇形はなかった。臍帯静脈全長にわた
り錆色の変化があり、2本の動脈からは採血可能であ
ったが、静脈に針を刺しても血液は得られなかった。
臍帯に児への巻絡や結節などは認めなかった。術後の
病理検査により臍帯に炎症はなく、フィブリンが沈着
しており、静脈血栓と診断した。
【結語】臍帯静脈血栓
症は原因不明の子宮内胎児死亡例に含まれている可能
性があり、臍帯の病理検査が重要である。
441
P-351
会長賞
臍帯過捻転症例におけるハイリスク群の
抽出に関する検討
昭和大学 産婦人科
○御子柴 尚郎、松岡 隆、長谷川 潤一、大森
澄、小谷 美帆子、仲村 将光、市塚 清健、関沢
彦、岡井 崇
P-352
臍帯卵膜付着から急性重症 NRFS を発症し
た2症例
聖マリアンナ医科大学 産婦人科 1、聖マリアンナ医科
大学 横浜市西部病院 産婦人科 2
○細沼 信示 1)、井槌 慎一郎 1)、杉下 陽堂 1)、五十
嵐 豪 1)、奥津 由記 1)、中村 千春 2)、中村 真 1)、
斉藤 寿一郎 2)、石塚 文平 1)
臍帯は、胎児にとってのライフラインであり、その
異常は、直接・間接的に胎児に影響し、胎児のさまざ
まな異常と深く関わっていることが知られている。臍
帯卵膜付着は、前分娩の1%前後に認められる臍帯の
胎盤付着異常であり、早産・IUGR・CTG 異常・NRFS や
胎盤早期剥離・IUFD との関連も報告されているが、そ
の出生前診断は、必ずしも容易ではない。 今回我々
は、臍帯卵膜付着症例で、2例の急性重症 NRFS 発症症
例を相次いで経験した。 【症例1】37 才 0G0P、IVF-ET
にて妊娠。妊娠 11 週から 14 週にかけて、絨毛膜下血
腫・切迫流産で入院加療を行ったが、その後特に異常
なく経過していた。妊娠 39 週 3 日の外来健診時、ドッ
プラー心音聴取にて 90bpm の胎児徐脈を認めたため、
緊急入院とし double set up としつつ CTG 施行。準備
を す す め て い た 時 に 、 再 び severe variable
deceleration を認めたため、緊急帝王切開術をおこな
い、2596g 男児をアプガースコア 9/10、臍帯動脈 pH:
7.257 で出産。胎盤検索で卵膜付着を認めた。 【症例
2】31 才 0G0P、子宮筋腫合併妊娠。妊娠 17 週から 20
週まで子宮筋腫の感染にて入院加療。その後、筋腫の
液状変性を認めていたが、切迫徴候等の異常は認めて
いなかった。妊娠 39 週 5 日早朝、前期破水で入院。 子
宮口 3cm 開大、入院時 CTG は異常なく、午前 10 時 30
分より CTG 下にオキシトシン点滴での陣痛促進を開始。
1 時間後3~4分間歇の子宮収縮を認めていた時、突然
急激な prolong deceleration (60~70bpm)を認め、酸
素投与・体位変換・人工羊水注入等行ったが無効で、
緊急帝王切開術施行し、胎児徐脈から 29 分後に胎児娩
出。2984g 女児、Ap.s.:0/1、臍帯動脈 pH:7.191。出
生児の Hb.は 5.8g/dl であり、蘇生・抗ショック療法・
交換輸血等行ったが、出生から 32 時間後に死亡に至っ
た。胎盤検索にて、卵膜付着および、卵膜上を走行す
る臍帯動脈の破綻部位を認め、失血性ショックによる
急性重症 NRFS と考えられた症例であった。当院におけ
る卵膜付着症例は、昨年1月からの1年2ヶ月で今回
報告する2例以外に4例あったが(6/788:0.8%)
、そ
れらの経過、ならびに文献的考察を含め報告する。
明
明
【目的】臍帯過捻転(HCC)は、血流障害によって FGR
や突然の IUFD などの原因となることが知られている
が、HCC 全症例が異常症例となるわけではなく、HCC 症
例の管理方針には未だ一定の見解がない。そこで今回
我々は、HCC の中から IUFD となる可能性のあるハイリ
スク群を抽出することを目的として以下の検討を行っ
た。
【方法】1)後方視的調査として、2001-2005 年の
妊娠 12 週以降の分娩 14728 例の中の 65 例の IUFD 症例
の主たる原因を調べた。2)前方視的調査として、妊
娠 30 週での HCC 36 例で、free loop の臍帯の直径
(cord-d)、臍輪の直径(um-d)、free loop での臍帯静脈
の流速(cord-v)、臍輪での臍帯静脈の流速(um-v)を計
測し、IUFD に至った HCC 例の特徴を検討した。
【結果】
1)IUFD の原因別頻度は臍帯因子 45%(HCC 19 例、臍帯
巻絡 6 例、卵膜付着 2 例、臍帯捻転なし 1 例、臍帯断
裂 1 例)、胎児奇形 23%(15 例)、常位胎盤早期剥離 14%(9
例)、TTTS 3%(2 例)、炎症 2%(1 例)、その他 13%(8 例)
で、臍帯因子が最も多かった。娩出後の臍帯の検索か
ら HCC による IUFD の多くは臍輪部での狭窄による血流
途絶が原因と考えられた。2)前方視的研究における
IUFD 2 症例の um-d/cord-d 比は 0.48±0.06 であり、生
存例の 0.78±0.16 と比較し、臍輪部が著しく狭小化し
ていた。um-v/cord-v 比は 6.72±4.2 と生存例の 1.73
±0.8 と比べ著しく上昇いた。
【結論】IUFD の原因の中
に HCC の占める割合は多く、その管理指針確立の必要
性が示された。また、HCC では臍輪部直径および臍輪部
での臍帯静脈血流速度計測により、IUFD のハイリスク
群を抽出できる可能性が示唆され、妊娠中の超音波ス
クリーニングで HCC を診断し精査することは意義があ
ると考えられた。
442
羊水過少症例における分娩中の一過性徐
脈出現に関する検討
昭和大学 産婦人科
○仲村 将光、長谷川 潤一、松岡 隆、大森 明澄、
小谷 美帆子、市塚 清健、関沢 明彦、岡井 崇
分娩中胎児突然死に至った2例の分娩監
視記録の検討
泉大津市立病院 産婦人科 1、大阪市立大学大学院 医
学研究科 生殖発生発育病態学 2、大阪市立大学大学院
医学研究科 女性病態医学 3、西本産婦人科 4
○月岡 美穂 1)、中井 祐一郎 2,3)、橘 大介 2)、西尾
順子 1)、西本 関男 4)、松本 万紀子 3)、石河 修 3)
子宮内胎児死亡については、妊娠末期においても、一
定の確率で発生すると考えられている。しかしながら、
特にロー・リスク例においては、管理方法も含めてそ
の予防方法は確立していない。一方、このような胎児
突然死については、そもそもその回避が可能なのか否
かについても明らかであるとはいえない。今回、我々
は分娩中に発生したロー・リスクと考えられる 2 例の
子宮内胎児死亡例について、その分娩監視記録を検討
したので報告する。症例 1 は、初産婦で妊娠経過中に
特記すべきことはなかった。妊娠 40 週において施行し
た胎児心拍数図には異常なく、羊水量・胎児発育など
にも異常はなかった。妊娠41週2日、陣痛発来にて
入院。同日21時頃より陣痛微弱となり、子宮頚管3
cm 開大のまま経過し、断続的胎児監視を行うも異常は
なかった。翌妊娠41週3日3時~3時55分からの
胎児心拍数図にも異常はなく、母体安静のため分娩監
視を中止した。3時以降には陣痛頻度、強度に変化な
し、3~7時まで母体は傾眠状態であった。母の覚醒
を待って、8 時の時点で胎児死亡が確認された。娩出さ
れた児は、女児 2845gであり、羊水の混濁を認めたが
量は正常と考えられた。臍帯巻絡は認められなかった。
症例 2 は、初産婦で妊娠経過中に特記すべきことはな
かった。妊娠41週3日、前期破水(高位破水)にて
来院。入院後直ちに分娩監視装置を装着したところ、
約 20 分間には有意と考えられる一過性徐脈はなかった
が、突然児心拍数の急激な低下が出現、45 秒後には聴
取不能になった。臍帯脱出はなく、児頭の挙上等にも
反応なかった。胎児心拍下降開始から 7 分後には、超
音波断層法により胎児死亡が確認された。2時37分
ごろ:胎児死亡確認。娩出された児は、女児 2888gで
あり、羊水量は正常と考えられ、混濁はなかった。ま
た、臍帯巻絡や胎盤早期剥離所見なかった。胎盤・臍
帯の病理検査に特変は認められなかった。一般に、胎
児死亡例では、一定の経過の中で胎児の状態が悪化す
ると想定することにより、胎児死亡回避の可能性が検
討されるが、特に症例 2 にみられたように、急激な徐
脈発生から直ちに死に至る例もあると考えられる。換
言すれば、現状では、所謂突然死例においては、死に
至る経過において選択的に介入できる余地がない場合
があると考えられる。
P-353
P-354
【目的】羊水過少症例における、分娩中の一過性徐脈
のパターンを分析し、その特徴を捉え発生機序を考察
すること。
【方法】当院で妊娠 34-41 週に頭位、単胎
での経腟分娩した症例を検討対象とした。分娩直前の
超音波検査によって、羊水ポケットが 20mm 未満の場合
に羊水過少と診断した。羊水過少 24 症例の、分娩時の
一過性徐脈の出現頻度を無作為抽出した対照群 470 症
例と比較した。CTG 記録を後方視的に解読し、分娩第1
期最後の子宮収縮 15~30 回及び第 2 期の全子宮収縮の
回数あたりの一過性徐脈(早発: ED、遅発: LD、遷延: PD、
変動: VD)の数を求めた。
【成績】1) 分娩第 1 期にお
いて、対照群、羊水過少群の ED の出現頻度は、2.0±
0.3%、5.4±3.0%(p=0.021)、LD の出現頻度は、0.4±
0.1%、0.0%、VD の出現頻度は、12.2±0.8%、17.6±
4.2%、PD の出現頻度は、0.8±0.1%、1.8±0.8%であ
った。分娩第 2 期において、対照群、羊水過少群の ED
の出現頻度は、1.5±0.3% 、5.1±2.2%(p=0.008)、LD
の出現頻度は、1.0±0.2%、0.5±0.3%、VD の出現頻度
は、43.9±1.4%、30.1±4.5%(p=0.023)、PD の出現頻
度は、12.6±1.0%、29.3±6.8%(p<0.001)であった。
2) 1 分・5 分後のアプガースコアは、
対照群で 8.7±0.0、
9.4±0.0 に対し、羊水過少群で 8.2±0.3(p<0.01)
、
9.2±0.1 であった。また、鉗子・吸引分娩率は、対照
群 8.3%に対し、
羊水過少群で 16.7%であった。
【結論】
羊水過少群では対象群と比べ、分娩第 1 期より ED の出
現頻度が高く、分娩の早い時期より児頭圧迫が起きて
いる可能性が示唆された。さらに分娩第 2 期では、PD
の出現頻度が高くなることが分かった。特に PD の出現
頻度は VD よりも高く、分娩第 2 期において急激に増悪
することが示唆された。
443
当院における初産婦の分娩様式に関する
検討
聖路加国際病院 女性総合診療科
○齊藤 理恵、藤田 聡子、酒見 智子、塩田 恭子、
栗下 昌弘、佐藤 孝道
【目的】当院では母体年齢にかかわらず、内科的また
は産科的異常がなければ基本的に自然分娩を待機して
いる。このような方針の施設での初産婦の分娩様式に
関わる要因を検討するために本研究を行った。
【方法】
2003 年 8 月から 2007 年 1 月の間に当院で正期産となっ
た初産婦から、多胎、骨盤位、選択的帝王切開例(前
置胎盤、子宮筋腫核出後など)を除外した 1902 例の分
娩を対象とし、分娩記録を中心としたチャートレビュ
ーによる後方視的検討を行なった。分娩経過中の硬膜
外麻酔と陣痛促進の併用を分娩中の医療介入の一つの
視標とし、分娩様式と母体年齢との関係を検討した。
今回、年齢分布は 10 台と 45 歳以上を一区切りにして 5
歳毎の 7 つに分類した。
【成績】1)母体年齢の分布は
A.20 歳未満 2 例(0.1%)、B.20 歳以上 25 歳未満 45
例(2.4%)
、C.25 歳以上 30 歳未満 380 例(19.9%)、
D.30 歳以上 35 歳未満 769 例(40.4%)
、E.35 歳以上
40 歳未満 569 例(29.9%)
、F.40 歳以上 45 歳未満 131
例(7%)、G.45 歳以上 6 例(0.3%)であった。2)
年齢別の帝王切開率は A.0/2 例(0%)、B.1/45 例
(2.2%)
、C.25/380 例(6.6%)
、D.63/769 例(8.2%)、
E.86/569 例(15%)
、F.37/131 例(28.2%)、G.3/6 例
(50%)であった。3)分娩経過中に介入行なった例は
A.0/2 例(0%)、B.4/45 例(8.9%)
、C.46/380 例(12%)、
D.101/769 例(13%)
、E.105/569 例(18.5%)、F.10/131
例(7.7%)、G.3/6 例(50%)であり、この群での帝王
切 開 率 は A. と B. は 0 % で あ っ た が 、 C.16/46 例
(34.7%)
、D.35/101 例(34.6%)
、E.62/105 例(59%)、
F.7/10 例(70%)、G.2/2 例(100%)と明らかに高く
なった。4)介入を除外した場合の経腟分娩の割合は
A.2/2 例(100%)、B.40/41 例(97.6%)、C.326/335
例(97.3%)、D.640/668 例(95.8%)、E.440/464 例
(94.8%)
、F.91/121 例(75.2%)、G.3/4 例(75%)
であった。
【結論】当院の初産婦の年齢分布は全国平均
より高く、合併症がなくても年齢に伴って帝王切開率
は明らかに上昇し、医療介入の機会も増加している様
に見える。しかし、医療介入の有無から見ると分娩経
過中に積極的な医療介入を必要としなければ高年初産
婦でも普通分娩を期待することはできるのではないか
と思われた。
Non reassuring fetal status と診断され
急速遂娩した症例についての検討
広島市立広島市民病院 産婦人科
○早田 桂、辰 幸子、香川 玲奈、伊藤 裕徳、石
田 理、野間 純、吉田 信隆
【目的】産科の臨床現場において突如 Non reassuring
fetal status(NRFS)と診断され急速遂娩を要す事は
しばしば経験するが、実際に重症新生児仮死となる症
例は一部である。そこで今回我々は NRFS と診断された
症例の臨床経過について検討し、どのような症例が重
症新生児仮死となり得たかを考察したので報告する。
【方法】当科における平成15年から平成18年まで
の総分娩数3590症例の中で、NRFS と診断された3
15症例について比較検討を行った。【成績】315症
例中、緊急母体搬送は131症例(42%)であり、
当科管理中は184症例(58%)であった。それぞ
れの分娩時アプガールスコアー(AS)は7点以上:8
8例(68%)/149例(81%)、AS4から6点:
19例(14%)/23例(10%)、AS3点以下:
24例(18%)/12例(6%)でAS3点以下は有
意に緊急母体搬送症例に多かった。315症例中緊急
帝王切開術施行となったのは211症例(67%)で
あり、この件に関しても緊急母体搬送症例(81.6%、
107/131)に多かった。NICU への入院管理を必要
とした症例は152症例(48%)であった。AS7点
以上の症例は、臍帯因子165例(69.6%)、PI
H 2 5 例 ( 1 0 . 5 % )、 常 位 胎 盤 早 期 剥 離 1 8 例
(7%)
、回旋異常、HFD 等その他29例(12.2%)
であった。AS4から6点の症例では臍帯因子30例
(71.4%)
、PIH0例(0%)
、常位胎盤早期剥離
5例(11.9%)、その他7例(16.6%)であった。
AS3点以下の症例では臍帯因子2例(5%)
、PIH
7例(19.4%)
、)、その他3例(8%)だが、新たに
臍帯脱出が6例(16.6%)あり、常位胎盤早期剥離
に限ると18例(50%)もあった。【結論】NRFS と診
断され急速遂娩となった症例の多くは経過良好であっ
たが、一部の症例で重症新生児仮死を認めた。それら
は緊急母体搬送時に多く、原因として常位胎盤早期剥
離や臍帯脱出等であった。予め予測困難で発症した場
合は一刻を争う状況へ陥る疾患ではあるが、重症新生
児仮死症例を1例でも減少させるためにより一層の努
力をしていく次第である。
P-355
P-356
444
子宮頸管延長及び嵌頓子宮の帝王切開術
について
埼玉医科大学 総合医療センター 産婦人科 1、埼玉医
科大学 総合母子周産期センター2
○松永 茂剛 1)、村山 敬彦 2)、上山 明美 2)、市川 美
真由実 2)、斉藤
正博 2)、林
直
和 1)、臼井
1)
2)
2)
、関 博之
樹 、馬場 一憲
頚部筋腫や嵌頓子宮などを合併した妊娠において、稀
ではあるが極度に子宮頸管の延長や子宮内腔の変形を
認めることがある。今回我々は、子宮頸管の延長を認
め帝王切開が困難であった4症例を経験したので報告
する。[症例1]31才1G1P。子宮筋腫合併妊娠(頚
部筋腫)にて当科紹介。帝王切開の方針とし、今回妊
娠38週5日帝王切開術施行。下節と思われる部分を
横切開したところ頸管を切断しており、体部筋腫を伴
った嵌頓子宮である事が判明。体部横切開にて子宮切
開施行し児を娩出した。出血量は2000ml。MAP6単
位輸血を必要とした。[症例2]29才0G0P。巨大子
宮筋腫合併妊娠にて妊娠20週に当科紹介入院。巨大
筋腫による尿路圧迫により水腎症、排尿障害が出現し、
妊娠31週1日腎盂腎炎、敗血症にて緊急帝王切開施
行。体部の子宮筋腫と子宮後壁、ダグラス窩の癒着に
より異常な変型が起きた。子宮下部横切開にて頸管を
切断してしまい、子宮体部後壁を切開して子宮内に到
達するかたちとなった。手術時間4時間2分。出血量
1700ml。[症例3]35才0G0P。妊娠30週4日
前置胎盤の疑いで当科紹介。妊娠36週5日予定帝王
切開術施行。下腹部正中切開にて開腹し、子宮下部横
切開したが、結果的には子宮頸管を切断していた。子
宮筋層後壁に付着した胎盤を貫くような形で子宮内に
侵入した。子宮体部に子宮腺筋症、ダグラス窩に子宮
内膜症を認めた。手術時間は1時間20分。出血量2
300ml。自己血900ml 使用した。[症例4]33才
0G0P。前医にて妊娠18週4日シロッカー頸管縫縮
術施行。妊娠19週0日子宮筋腫合併妊娠に当科紹介。
初診時11cm 大の子宮底部の漿膜下筋腫と嵌頓子宮を
認めた。妊娠24週4日 MRI 検査施行。子宮頸管の延
長を認め、嵌頓子宮と診断。妊娠37週2日骨盤位、
嵌頓子宮の適応にて予定帝王切開を施行。下腹部正中
切開にて開腹。子宮頸管は延長。通常の峡部のいちが
頸管であった。児の臀部を指標に横切開を加え娩出し
た。出血量1400ml。
[結語]頚部筋腫で頸管が延長
している症例や嵌頓子宮の帝王切開では頸管を切断す
る可能性があり、このような症例では術前に子宮頸管、
体部および子宮筋腫の位置関係を超音波検査や MRI で
十分に把握し、子宮切開創の位置を検討しておく必要
があると思われた。嵌頓子宮や頸管延長時の帝王切開
術の術式や管理法につき考察する。
P-357
P-358
肩甲難産は予知できるか?
JA 広島総合病院
内藤 博之、向井
啓司、○坂手
慎太郎
【目的】肩甲難産は巨大児、とくに糖尿病合併妊娠に
多いと言われている。そこで今回、分娩前の最後の検
診で推定体重が 3500g 以上と推定される分娩の母児の
周産期事象と分娩予後について検討し、さらに肩甲難
産が予知できるかどうか考察した。
【方法】平成 17 年 4
月から平成 18 年 12 月までに当院で分娩した産婦のう
ち、分娩前の最後の検診で推定体重が 3500g 以上と推
定された 49 例の周産期事象と分娩予後を検討した。
【成績】分娩 49 例のうち、1 例が肩甲難産であった。
母児の周産期事象を検討すると、分娩時の母体年齢が
35 歳以上の高齢出産が 32.7%を占めた。これは経産婦
が 55.1%と多くを占めていることが影響しており、その
内 3 人目以上の経産婦が 25.9%であった。母親の身長が
150cm 未満の低身長例が 3 例にみられたが、いずれも経
膣分娩に至った。DM合併妊娠例は 1 例のみであった。
経産婦のうち 4000g以上の巨大児出産の既往例は
14.8%であった。分娩週数は全例とも 37 週から 41 週
までの正期産であり、過期産例はなかった。超音波検
査で推定体重が 4000g 以上の予想例は 2 例あり、その
うち出生体重が 4000g以上であったのは 1 例であっ
た。出生体重が 4000g以上の 7 例のうち、推定体重が
4000g を超えていたのは、1 例(14.3%)のみであった。
分娩時間について、分娩第 1 期の遷延例はなかった。
分娩 2 期が 60 分を超えたのは、4 例のみであった。分
娩様式は経膣分娩例 41 例、うち吸引分娩例が 1 例、帝
王切開例が 8 例(16.3%)であった。帝切 8 例のうち、
前回帝切 1 例、CPD(予定帝王切開)4 例、緊急帝王切
開 3 例であった。アプガースコア 1 分値は肩甲難産と
なった 1 例のみ 2 点と 2 度の仮死を示したが、その他
の例は正常であった。アプガースコア 5 分値は全例正
常であった。【結論】超音波検査で 4000g以上の巨大児
を推定することは困難であり、肩甲難産は予知不能で
避けがたい疾患である。
445
院内助産院併設を目指しての妊婦のリス
ク分類
島根県立中央病院 総合周産期母子医療センター 産
科
○岸本 聡子、片桐 浩、上田 敏子、栗岡 裕子、
長谷川 明広
【緒言】全国的に産科医師不足が問題となり医師の集
約化が叫ばれているが、医師の集約化の前にすでに患
者の集約化が先行し、産科医療スタッフの大きな負担
になっている。当院は一次から三次までの産科医療を
担う基幹病院であり、今回我々は、院内助産院の併設
を目指し、医師・助産師の業務分担がどれくらい可能
か検討を行った。
【対象・方法】対象は 2006 年 1 月 1
日から 12 月 31 日までに当院で分娩となった 1093 例で、
分娩前には日本助産師会より発行された助助産所業務
ガイドラインに従い A 群(助産師のみで分娩が可能な
群)
、B 群(医師と助産師との共同管理が必要な群)、C
群(医師が管理すべき群)の 3 群に分類し、分娩後は
医師の関与度から分類した。【結果】分娩前の分類で
は、A 群 481 例(44.0%)、B 群 110 例(10.0%)、C 群 502
例(46.0%)であった。一方、分娩後の分類では、A 群 278
例(25.4%)
、B 群 356 例(32.0%:分娩誘発 145 例 13.3%、
医師の説明が必要 211 例 19.3%)
、C 群 459 例(42.0%:
手術 273 例 25.3%、吸引分娩 50 例 4.6%、クリステレル
41 例 3.8%、前記以外の経膣分娩の流早産 45 例 4.2%、
産褥異常 50 例 4.6%)であった。院内助産院で管理が可
能な症例は、後方視的には最大で A+B 群の 634 例(58%)
であった。しかし、助産師主体で経膣分娩(流早産、
急速遂娩を除く)した 406 例中、156 例(38.4%)の症
例で CTG 上 NRFS と診断し、
臍帯動脈 pH は 12.8%で 7.20
未満であった。
【考察】分娩前の分類では最大で A+B 群
の 591 例(54%)が院内助産院で妊娠・分娩管理が可能
であった。一方、分娩後の医師の関与度からの分類で
は最大で 634 例(58%)が助産師主体で分娩管理が可能
と推測され、分娩前後では大きな差はなかった。ただ
し、分娩可能症例の中にも急速遂娩が必要となる pH
7.20 未満の症例は少なからず含まれているため、妊娠
中のリスクさらには分娩時のリスクも予想しながら、
院内助産院への適応症例を検討し、準備を進める必要
がある。
当院における GBS 産道感染予防の問題点
について
順天堂大学 医学部付属 順天堂浦安病院 産婦人科
○田嶋 敦、山本 祐華、野島 美知夫、吉田 幸洋
P-359
P-360
【目的】B 群溶連菌(group B streptococcus 以下 GBS)
による経産道感染については、米国 CDC のガイドライ
ンで妊娠中のスクリーニング検査陽性例に対する抗生
剤の分娩時予防投与が推奨されているが、この方法に
よっても頻度は低いものの新生児 GBS 感染症が認めら
れる。今回、当院における GBS のスクリーニング検査
による産道感染予防の状況と問題点について検討した
ので報告する。
【方法】2002 年 1 月から 2006 年 12 月ま
での 5 年間に当院で妊娠、分娩管理を行い、妊娠 36 週
以降で経腟分娩となった患者を対象とした。2002 年の
米国 CDC ガイドラインをもとに当院では、妊娠 22 週前
後と妊娠 36週前後に腟分泌物培養を行い、いずれかで
GBS を認めた場合は分娩時に ABPC 点滴静注を行なうこ
ととした。児は出生時に全例で咽頭吸引物培養を行い、
吸引物より GBS が陽性となった場合は ABPC を投与し
た。
【成績】妊娠中の 2 回の腟分泌物培養のいずれかで
GBS が陽性となった妊婦は 125 例であり、咽頭吸引物培
養で GBS 陽性となった児は 25 例であった。このうち 10
例は 2 回の腟分泌物培養で共に GBS 陰性の患者から出
生となった。妊娠中に培養陽性で ABPC 点滴静注を行な
われた妊婦から出生した児の中で、点滴開始から分娩
まで 4 時間以内であった例は 70 例あり、このうち児の
咽頭吸引物培養が陽性例は 12 例(17.1%)であった。
一方、点滴開始から分娩まで 4 時間以上であった例は
55 例で、児の咽頭吸引物培養が陽性例は 3 例(5.4%)
と有意に少なかった。GBS 陽性であった児の中で敗血症
等の重症感染症を発症した例はなかった。
【結論】2002
年に米国 CDC ガイドラインがスクリーニング検査をも
とにした垂直感染予防を推奨したが、抗生剤投与開始
から 4 時間以内の場合予防効果が低いことが指摘され
ている。今回の我々の検討でも、点滴開始から分娩ま
での時間が短い方が児に移行しやすいという結果にな
った。また、スクリーニング検査で 2 回とも陰性であ
ったが児吸引物培養より GBS を認めた例が 10 例あり、
今後、抗生剤予防投与の時期と GBS のスクリーニング
方法について更に検討が必要だと思われた。
446
P-361
高知県における妊娠リスクスコアリング
COX 阻害薬,EP4 アンタゴニストの満期前
母胎投与による出生後の動脈管収縮遅延
作用
東京女子医科大学 循環器小児科 1、神奈川県立こども
医療センター 新生児科 2、東京女子医科大学 国際統
合医科学インスティテュート(IREIIMS)3
○豊島 勝昭 1,2)、門間 和夫 1)、中西 敏雄 1,3)
【背景】胎児動脈管はプロスタグランジン E(PGE)と一
酸化窒素(NO)が協調的に作用して拡張している。PGE
合成にはシクロオキシゲナーゼ(COX)が関与している。
COX には COX-1 と COX-2 の 2 つのアイソザイムがある。
非選択的 COX 阻害薬、COX-1 選択的阻害薬、COX-2 選
択的阻害薬、PGE 受容体の 1 つである EP4 に対するアン
タゴニスト(EP4 アンタゴニスト)、NO 合成阻害薬には
胎仔動脈管収縮作用がある。
満期前の妊娠ラットへ非選択的 COX 阻害薬であるイ
ンドメサシンを投与すると胎仔動脈管は収縮するが時
間経過とともに再拡張する。再拡張後に出生した新生
仔ラットは生後の動脈管収縮経過は遅延する。
【目的】インドメサシン以外の COX 阻害薬や EP4 アン
タゴニスト、NO 阻害薬の満期前投与で胎仔動脈管の収
縮と再拡張後に出生した新生仔ラットでも生後の動脈
管収縮経過は遅延するかを調べる。
【方法】非選択的 COX 阻害薬(インドメサシン,イブプ
ロフェン,アスピリン)、COX-1 選択的阻害薬(SC560),
COX-2 選択的阻害薬(ロフェコキシブ)、EP4 アンタゴニ
スト(ONO-AE3-208)、NO 阻害薬(L-NAME)を検討した。妊
娠 19,20 日にインドメサシン 10mg/kg、イブプロフェ
ン 100mg/kg, アスピリン 100mg/kg,SC560 10mg/kg, ロ
フ ェ コ キ シ ブ
10mg/kg, ONO-AE3-208
10mg/kg ,L-NAME40mg/kg を 2 日連続して母胎投与して、
動脈管の収縮と再拡張を 2 回繰り返した。妊娠 21 日に
帝王切開にて娩出した新生仔を環境温 33℃で飼育し
た。
生後 0,15,30,60,120 分に全身急速凍結法で固定し、
動脈管内径(DA)を計測した。各種薬剤投与後と無投薬
の 動 脈 管 収 縮 経 過 曲 線 の area under the ductus
diameter curve の 比 を Ductus Arteriosus Closure
Index(DACI)として、新生仔の生後の動脈管収縮速度の
指標とした。
【結果】無投薬の新生児ラットの DACI は1.0 である。
各薬剤の満期前母胎投与による DACI は、インドメサシ
ン :5.9, イ ブ プ ロ フ ェ ン :2.9, ア ス ピ リ ン :2.2 、
SC560:1.8,
ロ
フ
ェ
コ
キ
シ
ブ:2.6,ONO-AE3-208:2.3,L-NAME:1.0 であった。
【結論】非選択的 COX 阻害薬、COX-1 阻害薬、COX-2 阻
害薬、EP4 アンタゴニストの満期前母胎投与により新生
仔の生後の動脈管収縮経過は遅延する。NO 阻害薬の満
期前母胎投与は新生仔の生後の動脈管収縮経過に影響
はない。満期前に PGE の合成や PGE の受容体への結合
を阻害された動脈管は、生後に閉鎖しづらい。PGE は胎
児の動脈管拡張維持のみならず、新生児の生後の動脈
管閉鎖にも必要である。
P-362
高知大学 医学部 産科婦人科 1、高知県立幡多けんみ
ん病院 産科婦人科 2
○永井 立平 1)、濱田 史昌 2)、京谷 琢治 2)、西森 左
和 1)、池上 信夫 1)、林 和俊 1)、深谷 孝夫 1)
【目的】ここ数年、産科医の減少に伴い全国規模で分
娩施設が姿を消すようになった。高知県でも同様に産
科医は減少し、分娩施設も減少している。その対策と
して「産科医・分娩施設の集約化」、「妊娠リスクスコ
アによる妊婦の自己評価」、「リスクに応じた妊婦の分
散」といった現実的な方策が重要になってきている。
高知県では人口の集中に応じて分娩施設は高知市周辺
に集中しており、産科医・分娩施設の集約化は既にな
されているが、東西に長い県土の割に交通事情が悪く、
地域での妊娠、分娩管理が困難な現状にある。そこで
今回我々は妊娠リスクスコアによる妊婦の自己評価と
それに応じた妊婦の分散が重要であると考え、中林(愛
育病院院長)
・久保(国立成育医療センター)らにより
提唱された妊娠リスクスコアリング(以下スコアリン
グ)と高知における妊娠・分娩予後との関連性を検討
した。【方法】対象は 2005 年高知大学で分娩となった
88 症例と幡多けんみん病院で分娩となった 338 例であ
り、妊娠初期スコア(18 項目)と妊娠中期スコア(11
項目)を後方視的に検討した。
【結果】帝王切開率、早
産率、1 リットル以上の出血の起こる率、低出生体重児
率において初期スコアでは有意な差を認めなかった
が、中期スコアを用いた場合 4 点以上で高率であるこ
とが確認された。
【考察】今回は 2 施設という限られた
施設のみの検討であったため十分なデータではない
が、スコアリングの高い症例が実際の妊娠・分娩予後
からハイリスク症例であったことが確認された。スコ
アリングの高い症例に対して早期より一般病院と周産
期センターあるいは周産期高度機能病院との連携が必
要であることが分かった。今後スコアリングの低い症
例も含めより多くの施設で妊娠・分娩のリスク評価を
行い、高知県の実情にあったスコアリングを作成する
必要がある。スコアリングをより多くの妊婦に啓蒙し、
それをもとに妊婦自身によるリスク評価が行われるよ
うになれば産科医へのリスク・負担も分散され、高知
県においてより安全な分娩を行うための重要なツール
となり得るのではないかと考える。
447
ファロー四徴症を合併した超低出生体重
児の2例
静岡県立こども病院 新生児科
○児玉 律子、臼倉 幸宏、五十嵐 健康、湊 晃子、
宗像 俊
Discordant MD 双胎の低体重児に大動脈縮
窄症を合併した4例
国立成育医療センター 周産期診療部 新生児科
○齋藤 誠、高橋 重裕、大石 芳久、伊藤 直樹、
難波 由喜子、藤永 英志、塚本 桂子、中村 知夫、
伊藤 裕司
<はじめに>大動脈縮窄症(以下 CoA)は、出生後動脈管
の閉鎖とともに心不全や ductal shock を発症する重篤
な疾患である。またこれまで一絨毛膜二羊膜性双胎(以
下 MD 双胎)との関連はほとんど報告されていない。今
回我々は、Discordant MD 双胎の低体重児に大動脈縮窄
症を合併した4例を経験したので報告する。
<症例1>在胎 31 週4日、1354g(他児 1974g)で出生
した。妊娠中双胎間輸血症候群(以下 TTTS)は否定的で、
27 週時に心室中隔欠損症(以下 VSD、膜様周囲部欠損)・
CoA と診断した。出生後 PGE1 と低酸素療法を施行し、
日齢 56 に CoA 修復術と動脈管結紮術を施行した。
<症例 2>在胎 36 週 3 日、1766g(他児 2350g)で出生
した。妊娠経過中心奇形は指摘されず、21 週時に TTTS
に対し胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術を施行し
た。日齢 1 に下肢の血圧・SpO2 測定できなくなり、
VSD(肉柱部欠損)・CoA と診断した。診断後 PGE1 を開始
し、日齢 18 に CoA 修復術と動脈管結紮術を施行した。
<症例 3>在胎 36 週 4 日、1864g(他児 2783g)で出生
した。妊娠中 TTTS は否定的で、心奇形も指摘されなか
った。日齢 1 になっても排尿を認めず、CoA と診断した。
診断後 PGE1 を開始し、日齢 9 に CoA 修復術を施行した。
<症例 4>在胎 27 週 4 日、646g(他児 934g)で出生し
た。妊娠中 TTTS は否定的で、心奇形も指摘されなかっ
た。日齢 1 に CoA が疑われ、動脈管開存に対してイン
ドメタシン使用後に CoA と診断した。診断後 PGE1 を開
始し、体重増加をはかっている。
<考察>CoA の成因については動脈管組織の大動脈へ
の迷入説と胎児期における上行大動脈への血流量減少
説の 2 つがいわれている。今回経験した 4 例は全例が
TTTS を発症しているわけではないが Discordant MD 双
胎の低体重児であり、胎児期の血流異常が CoA の発症
に関与していると考えられた。また一般的に CoA は胎
児診断が難しく出生後も動脈管との関係から診断に苦
慮することも多く、今回の症例も 1 例を除き出生後に
初めて診断することができた。
<結語>MD 双胎の低体重児では CoA を合併している可
能性があり、出生後早期は CoA に留意した管理が必要
と思われた。
P-363
P-364
【はじめに】ファロー四徴症(TOF)に対し、心臓外科
手術は救命・根治の為に必要不可欠であるが、低体重
であるほどリスクは高く、その手段を選択出来ない場
合もある。TOF を合併した超低出生体重児で、充分な体
重増加が得られずに緊急手術(右室流出路形成術)を
行った症例を2例経験した。その臨床経過と TOF に対
する外科的介入の時期などについて検討したので報告
する。【症例1】常位胎盤早期剥離、胎児仮死徴候のた
め緊急帝王切開を施行され、在胎 28 週 6 日、体重 944g、
Apgar score5/5 点で出生した。母親は 21 歳、未婚で定
期的な妊婦健診を受けておらず、産科情報がほとんど
なかった。入院後に TOF、右大動脈弓、先天性食道閉鎖
(Gross C 型)と診断した。日齢 0 に一期的食道閉鎖根
治術を施行し、その後長期の人工呼吸管理を要した。
経管栄養は慎重に行い、複数回の輸血、循環血漿量維
持、βブロッカー投与などを行い管理した。低酸素発
作を繰り返したが、対症療法で改善が得られ、日齢 128
体重 2186g で当院循環器科に転科・転棟した。更なる
体重増加を期待したが、日齢 140(修正 6 ヶ月)体重
2230g 低酸素発作を起こし、内科的治療で改善せず、緊
急手術が施行された。【症例2】母親は 31 歳初産、IUGR
を認めた為、妊娠 30 週 2 日に当院胎児超音波外来を受
診し TOF を指摘されていた。同日胎児仮死徴候を認め
緊急帝王切開を施行し、体重 988g、Apgar score5/7 点
で出生した。人工呼吸管理は短期で離脱できたが、経
管栄養が順調に進まなかった。また洞機能不全も合併
し、βブロッカーによる除脈の増悪や、感染症、胃食
道逆流症、ミルクアレルギーなどの管理に難渋した。
さらに 1 ヶ月以上にわたり体重増加不良、多呼吸、多
汗を認めた中で低酸素発作を起こし、内科的治療で改
善が得られず、日齢 162(修正 7 ヶ月)体重 1840g で緊
急手術に踏み切った。【まとめ】今回経験した2例は、
低酸素発作に対する対症療法の限界から、緊急手術へ
の決断がなされた。外科的介入の時期が緊急かつハイ
リスクな状況下で訪れたことになるが、新生児科的見
地から、体重増加不良を認める状態を内科的治療の限
界と考え、緊急性が出現する以前に計画的に姑息術を
行うことも治療戦略として挙げられるのではないか、
と考えられた。
448
左室流出路を占拠し、心原性ショックに至
った横紋筋腫の新生児例
国立病院機構香川小児病院小児科
○太田 明、寺田 一也、小林 鐘子、中野 彰子
P-365
P-366
重複大動脈弓の 1 例
静岡県立こども病院 新生児科
○宗像 俊、臼倉 幸宏、五十嵐 健康、湊 晃子、
児玉 律子
【はじめに】先天性気管狭窄は血管輪による圧迫に起
因するものがある。気道抵抗の増加は吸気困難を生じ、
狭窄が高度の場合や人工呼吸管理による陽圧呼吸を行
っている場合には呼出不良を引き起こす。今回、人工
呼吸管理下で高炭酸ガス血症の改善がなく当院へ紹介
入院し、重複大動脈弓と診断した 1 例を経験したので
報告する。
【症例】日令 2、男児。母親は 22 歳、0 経妊
0 経産、妊娠経過中は特に異常を指摘されていなかっ
た。妊娠 41 週 0 日に破水し、予定日超過のため開業産
科で誘発分娩となった。在胎 41 週 1 日、出生体重 3340
g、Apgar score 1 分値 8 点、5 分値 9 点であった。出
生後陥没呼吸が出現し、総合病院小児科へ搬送入院し
た。人工呼吸管理を開始し、サーファクタントを投与
された。日令 1 に経皮モニターで TcPCO2 が 100mmHg 以
上となった。日令 3 に血液ガス検査上改善がなく、新
生児遷延性肺高血圧症の診断で当院当科へ入院依頼と
なった。マニュアルバギングで胸の上がりは良好、聴
診上は喘鳴を聴取した。足底採血による血液ガス検査
でpH 7.313,pCO2 70.9mmHg,HCO3- 35.1mmol/L,
BE 6.2mmol/L と高炭酸ガス血症を認めた。胸部 Xp
上は明らかな異常所見はなかった。自発呼吸がなけれ
ば pCO2 の低下を認めたため鎮静し、HFO 管理を開始し
た。SpO2 の低下はないが pCO2 は 50~70mmHg 前後で経過
した。気管・気管支軟化症等を疑い、挿管チューブを
気管分岐部直上に固定したところ、高炭酸ガス血症は
改善した。気管支鏡検査で門歯から 8.5cmの部位に扁
平化した気管狭窄が確認できた。胸部造影 CT で声門下
から気管分岐部までの気管口径が細く、上行大動脈か
ら大動脈弓が二股に分岐して気管を前方から圧迫して
いるのが確認できた。日令 18 に当院心臓血管外科によ
り左大動脈弓離断、下行大動脈吊り上げ術を施行され
た。術後経過順調で日令 34 に退院となった。
【考察】
人工呼吸管理下で改善しない高炭酸ガス血症で当院へ
紹介入院し、気管支狭窄、重複大動脈弓と診断し得た。
呼吸状態と解離して血液ガス所見の増悪や強力な人工
呼吸管理が必要である場合には、気管狭窄や気管軟化
といった気道病変を疑い、治療方針決定のために原因
検索に努めるのが肝要であると思われた。
【はじめに】結節性硬化症(TSC)に伴う心臓横紋筋腫
の特徴は多発性で左室と心室中隔に多く生じる。非閉
塞性の腫瘤がほとんどで、閉塞性は 14%にすぎない。腫
瘤はアポトシスにより 2 歳までにほとんど自然退縮す
る。しかし、閉塞障害と致死的不整脈の 10%は手術が必
要となる。今回、出生後4時間後、急速に心原性ショ
ックに至った左室流出路を占拠した心臓腫瘍の1例を
経験した。搬送を含めた初期対応およびと術後管理に
ついて報告する。
【症例】 母親 26 歳の初産で、家族歴に問題なし。妊
娠経過中に胎児心エコーの検査なし。妊娠 36 週で児心
音の低下を認め、緊急帝切で院外出生となった。出生
体重 2832g、APGAR スコア 8/10 点。生後4時間後、急
速に心原性ショックに至った。腫瘤は左室流出路を占
拠し、低拍出状態であったため、PGE1 により動脈管を
開存させ、体血流を維持しながら、新生児搬送を行っ
た。全身状態の進行性悪化のため、電話連絡をとりな
がら、心臓外科医と麻酔科医の待機、および輸血用血
液の確保、心エコーの準備、人工心肺の用意等を指示
した。直接、手術室に搬入となった。心エコーのみで、
人工心肺下に大動脈弁上で斜切開し、腫瘤を摘出した。
しかし、術前に続き、術後も非持続性の心室頻拍が断
続した。腫瘤は病理診断で横紋筋腫であった。左室流
出路以外に右室にも腫瘍を多発性に認めるため、結節
性硬化症の合併を疑っている。
【考察】 胎児心エコーで左室流出路にある心臓腫瘍
は心原性ショックに進展するため、心臓外科医と循環
器科医のいる施設に母体搬送が望まれる。体循環を維
持するため PGE1 で動脈管を開存させる必要がある。腫
瘤の部分切除で閉塞が解除できれば、ショックから離
脱でき、遺残した腫瘤はアポトーシスにより退縮が期
待できる。胎児・新生児期に心臓腫瘍をみた時、結節
性硬化症を念頭においたフォロー・アップが必要であ
る。
449
胎児診断し周産期管理を行った片側肺静
脈に重症狭窄を伴う無脾症候群の 2 症例
久留米大学病院 総合周産期母子医療センター 新生
児部門 1、久留米大学病院 総合周産期母子医療センタ
ー 産科部門 2
○廣瀬 彰子 1)、神戸 太郎 1)、神田 洋 1)、藤野 浩
1)
、前野 泰樹 1)、蔵本 昭孝 2)、堀 大蔵 2)、嘉村 敏
治 2)、松石 豊次郎 1)
胎児心奇形(三尖弁異形成)により胎児水
腫・胎児死亡を 3 回繰り返した一例
地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪府立母子保
健総合医療センター産科 1、地方独立行政法人大阪府立
病院機構 大阪府立母子保健総合医療センター小児循
環器科 2、地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪府
立母子保健総合医療センター検査科 3
○濱中 拓郎 1)、奥野 健太郎 1)、数見 久美子 1)、木
下 聡子 1)、瀬戸 佐和子 1)、福井 温 1)、末原 則幸
1)
、稲村 昇 2)、中山 雅弘 3)
今回、当センターで胎児心奇形(三尖弁異形性)によ
り胎児水腫・胎児死亡を 3 回繰り返した一例を経験し
たので報告する。症例は 28 歳の経産婦で、既往に卵巣
嚢腫(良性)摘出術のみ、家族歴は特記すべきことな
し。母体に合併症・TORCH・自己抗体などは認めない。
妊娠歴は G4P4 で、第 1 子は妊娠 40 週 2600g の女児で
発育・発達は正常である。その後 3 回心原性の胎児水
腫による子宮内胎児死亡(IUFD)となっている。第 2
子は、妊娠 25 週に胎児水腫出現し胎児心エコーにて重
度の三尖弁逆流を認め、妊娠 30 週に IUFD となり、妊
娠 31 週に男児を死産、病理解剖で三尖弁異形成と診断
された。第 3 子は、妊娠 25 週に胎児水腫出現し胎児心
エコーにて重度の三尖弁逆流を認め、妊娠 32 週に IUFD
となり、妊娠 32 週に女児を死産、病理解剖で三尖弁異
形成と診断、胎盤絨毛による染色体は培養できず。第 4
子は、妊娠初期より当センターで follow していたが、
妊娠 19 週に重度の三尖弁逆流を認め、妊娠 20 週に心
嚢腋出現、妊娠 22 週に胎児水腫・IUFD となり、妊娠
23 週に女児を死産、病理解剖で三尖弁異形成と診断さ
れている。今回のケースのような、先天性三尖弁異形
性の兄弟発生の報告は現在のところあまりない。
P-367
P-368
【背景】先天性心疾患の出生前診断では、形態学的な
診断を行うとともに、出生後の血行動態および予後の
予測を行うことがその後の周産期管理、治療方針の決
定に重要である。
【目的】今回われわれは、出生前に予
後不良と思われる片側肺静脈の重症狭窄を伴った無脾
症候群と診断し、出生前から出生後および在宅管理ま
での経過を追うことができた 2 症例を経験したので報
告する。
【症例 1】在胎 36 週 3 日、three vessel view
の異常を主訴に前医より紹介された。胎児心エコーよ
り単心室、共通房室弁、肺動脈閉鎖、主要肺体側副動
脈、総肺静脈還流異常と診断。ドプラーエコーより右
の肺静脈狭窄が疑われ、出生後の根治術は困難である
ことが予想された。そのため、両親へは予後不良疾患
であることを説明した。在胎 39 週 5 日、3188g の女児。
経膣分娩にて出生。多呼吸を認めるものの全身状態は
比較的安定していた。出生後の心エコーでも出生前診
断と同様で、右側肺静脈狭窄を認めることより現時点
での外科的治療は不可能と判断。再度予後不良である
ことを説明したのち、母子同室を経て在宅管理とした。
現在、生後 5 ヶ月で、体重増加不良を認めるものの発
達は比較的順調で、外来での経過観察を行っている。
【症例 2】在胎 35 週 3 日、4 chamber 異常を主訴に前
医より紹介された。胎児心エコーより単心房、単心室、
共通房室弁、房室弁逆流、重症肺動脈狭窄、右肺静脈
狭窄と診断。動脈管依存性であり、出生後は PGE1 製剤
による管理を必要とすると判断した。しかし、右側の
肺静脈狭窄によっては外科的治療が困難であることが
予測され、両親へ予後不良の可能性があることを説明
した。在胎 38 週 5 日、2652g の男児。経膣分娩にて出
生。出生前に危惧していた右側肺静脈狭窄、房室弁逆
流を認め、現時点での外科的治療は困難と判断。肺血
流は動脈管依存性であったため、出生後早期は PGE1 製
剤を投与していたが、投与量を漸減し動脈管の閉鎖が
ないことを確認し 34 生日に中止した。その後両親と十
分な話し合いを行ったうえで、外泊を繰り返し、外来
での経過観察とした。【考察】肺静脈狭窄を伴った無脾
症候群は予後不良疾患である。今回経験した 2 症例は
胎児期より肺静脈狭窄を診断することができ、治療方
針、予後を予測することが可能であった。また、出生
前より家族との十分な話し合いを行いサポートするこ
とにより、予後不良である児を家族がスムースに受け
入れることができたと考えられた。
450
遷延する酸素飽和度の低下が発見の契機
となった左上大静脈左房還流症の新生児
例
川口市立医療センター 新生児集中治療科 1、川口市立
医療センター 小児科 2
○島田 衣里子 1)、奥 起久子 1)、箕面嵜 至宏 1)、滝
敦子 1)、西岡 正人 2)
【はじめに】左上大静脈遺残は大静脈奇形のうちでは
最も多く見られるものであるが、多くは冠静脈洞から
右房に還流する。左上大静脈が左房へ直接還流する場
合、初期は無症状で軽度の酸素飽和度の低下を認める
のみであることから、10 代以降に労作時の呼吸困難な
どを主訴に偶然発見されることが多い。今回、遷延す
る酸素飽和度の低下を契機に新生児期に発見された左
上大静脈左房還流症の稀な一例を経験したので報告す
る。
【症例】在胎 39 週 1 日 3104g 頭位経膣分娩にて出生。
出生直後から呻吟と酸素飽和度の低下を認めたため、
他院で酸素投与にて経過観察されていたが、日齢 1 に
なっても改善しないため、当科紹介入院となった。入
院時、心エコーで左上大静脈を認めたが還流先は確認
できず、その他に心内奇形も認めなかったため、新生
児一過性多呼吸として経過観察していた。しかし、そ
の後も軽度の酸素飽和度の低下が遷延するため、日齢 7
に胸部造影 CT をおこなったところ、左上大静脈が左房
に還流していることが判明した。その後、コントラス
トエコーでも左心房・左心室にコントラストが出現し
たことから左上大静脈が左房に還流していることを確
認、心房中隔欠損症を伴った左上大静脈左房還流症と
診断した。
【考案】左上大静脈は、大静脈奇形の中では最も多い
もので、正常者では 0.3%、先天性心疾患を伴った場合
には 2-4.4%に認められるといわれているが、多くは冠
静脈洞から右房に還流し、左房に還流することは稀で
ある。今回、画像診断(3DCT)や心エコーの再検が診
断の手がかりとなり、循環動態の確認にはコントラス
トエコーが有用であった。
【結語】心房中隔欠損を伴う左上大静脈左房還流症の
稀な一例を経験した。新生児期に酸素飽和度の軽度低
下が遷延する場合の鑑別のひとつとして、稀ではある
が本疾患も考慮し、精査を行う必要があると考えられ
た。
P-369
P-370
新生児一過性多呼吸における循環動態の
評価
愛知県心身障害者コロニー中央病院 新生児科 1、愛知
県心身障害者コロニー発達障害研究所 周生期学部 2
○岸本 泰明 1)、山田 恭聖 1)、邊見 勇人 1)、佐藤 義
朗 2)、齋藤 明子 2)、寺澤 かずみ 1)
【目的】新生児一過性多呼吸(TTN)が重症化したり遷延
化すると、肺出血や二次性呼吸窮迫症候群を合併する
ことを臨床上経験する。この原因の一つに循環不全が
影響している可能性があると考えた。今回我々は TTN
児の循環動態の検討のため、TTN で入院した児と呼吸障
害の無い児に、経時的な心機能の評価を施行したため
に報告する。
【対象】期間は 2006 年 6 月~2007 年 2 月の 9 ヶ月間。
在胎 35 週以上であり、出生より 6 時間以内に当院 NICU
へ入院した児のうち、同一検者により心臓超音波検査
の行えた 37 例について検討した。呼吸数が毎分 60 回
以上であり、呼吸窮迫症候群や胎便吸引症候群など他
の呼吸障害の起きうる原因が否定的で、複数の新生児
科医が TTN と診断したものを TTN 群とし、呼吸障害の
ない症例を nonTTN 群とした。
心機能を評価するために、
循環作動薬を使用したものは検討から除外した。TTN
群は 16 例であり、nonTTN 群は 21 例であった。
【方法】心臓超音波は入院時、生後 6、12、24、48、72
時間後に行い、バイタルサインとともに検討を行った。
心機能評価の項目は左室駆出率(LVEF)、左室内径短縮
率(FS)、収縮末期左室壁応力(ESWS)、心拍補正左室平
均円周短縮速度(mVcfc)を、バイタルサインは血圧、心
拍、呼吸数を使用した。心臓超音波測定機器には
HEWLETT PACKARD 社の SONOS 4500 を、検定には t 検定
を使用し、P<0.05 を有意とした。
【結果】二群を比較し、患者背景である在胎週数、性
別、分娩様式、入院時血液検査上の pH、CK には有意差
を認めなかったが、出生体重は nonTTN 群が少なかった
(P<0.01)。バイタルサインにおいては、呼吸数は TTN
群に有意に多かった(生後 24 時間まで:P<0.01、48 時
間:P=0.09、72 時間:P=0.03)。心機能の評価においては、
TTN 群の ESWS は 6、12 時間が有意に高かったが(P<
0.01)、LVEF、FS、mVcfc には、いずれの生後時間にお
いても有意な差を認めなかった。また、出生体重を調
節したロジスティック回帰分析も同様の結果となっ
た。
【考察】TTN の時には、心臓の仕事量としては増加して
いるもの、心機能は保たれていると考えられる。また、
ESWS の高値は後負荷の増強を示唆していると考えら
れ、afterload-mismach による肺出血や leaky lung の
リスクになりえると言われている。ESWS の上昇は原因
か結果かは判断できないが、TTN においては呼吸障害だ
けでなく、循環障害を合併している可能性があり、注
意が必要である。
451
経時的に肺血流を評価した高度肺低形成
を伴った先天性横隔膜ヘルニアの一例
埼玉医科大学 総合医療センター 総合周産期母子医
療センター 新生児部門 1、埼玉医科大学 総合医療セ
ンター 総合周産期母子医療センター 麻酔科 2、埼玉
医科大学 総合医療センター 総合周産期母子医療セ
ンター 母体・胎児部門 3、埼玉医科大学 総合医療セ
ンター 小児外科 4
○星 礼一 1)、鈴木 啓ニ 1)、松信 聡 1)、伊藤 智朗
1)
、高山 千雅子 1)、江崎 勝一 1)、田村 正徳 2)、馬
場 正憲 2)、照井 克生 3)、小高 明雄 4)
【はじめに】肺の低形成を伴った先天性横隔膜ヘルニ
ア(CDH)は出生後 PPHN を伴い易く治療に難渋する疾
患である。我々は胎児エコーにて肺低形成が高度であ
る症例に対し田村のプロトコールに従い周産期処置を
行っている。プロトコールは分娩時に患児を十分に鎮
静することにより出生後の PPHN を回避すること、
fighting 等による気胸を防止すること、空気嚥下によ
る消化管の拡張を防止することを目的としている。
我々は高度の肺低形成を伴う CDH 例においてエコー検
査による肺血流の評価を経時的に行い興味ある知見を
得たので報告する。
【NICU 入室前の処置】1)出生前に母
体に塩酸モルヒネ(ないしフェンタニール)を静注、2)
出生後臍帯結紮前に臍静脈に塩酸モルヒネ(ないしフ
ェンタニール)とパンクロニウムを静注し、マスク換気
を 行 わ ず 気 管 挿 管 、 3)HFO に よ る 人 工 呼 吸 管 理 、
4)pre-ductal と post-ductal の SpO2 を同時モニター、
5)セイラムサンプチューブを用いた胃内持続吸引、6)
臍静脈カテーテルからの鎮静剤・筋弛緩剤・強心剤・
血管拡張剤の投与を開始し、7)臍動脈カテーテルでの
血圧モニター、8)以上の処置を続けながら NICU に搬送
する。【症例経過】在胎 38 週 5 日、出生体重 3336g の
男児。左 CDH に伴う高度肺低形成を認めた。上記プロ
トコールに引き続き出生時より NO 吸入療法およびミル
リノン静注を開始し、日齢 8 に根治術を施行した。そ
の後 NO を漸減するとともに、日齢 12 より LipoPGE1 開
始した。日齢 25 よりブロプラスト、日齢 35 よりボセ
ンタン内服開始した。日齢 37 でミルリノン静注を中止
し た 。 全 呼 吸 シ ス テ ム コ ン プ ラ イ ア ン ス ( Crs,
mL/cmH2O/kg)は日齢 1(術前)0.19、日齢 8(術後)
0.17、日齢 22 0.22、日齢 53 0.57 であった。心臓超
音波検査により推定した肺動脈流量(mL/min/kg)は日
齢 4(術前)43.3、 日齢 8(術後)42.1、日齢 13 245.9、
日齢 29 338.9、日齢 63 385.5 であった。
【まとめ】1)
田村のプロトコールを用いて高度な肺低形成の症例を
救命することができた。2)臨床的に critical PPHN の
時期を過ぎたと思われた手術直後においてもなお肺血
流量は低いままであった。3)術後の経時的な肺コンプ
ラインスの改善は緩徐であったが、それに先行して肺
血流量の顕著な改善がみられた。
胎児母体間輸血により失血性ショックを
きたした症例
岩手医科大学 医学部 小児科
○松本 敦、戸津 五月、佐々木 智子、葛西 健郎、
千田 勝一
P-371
P-372
胎児母体間輸血は血液が胎盤を介して胎児から母体へ
移行するもので、量が多いと胎児や新生児は貧血やシ
ョックを起こす。
【症例】在胎 39 週に胎児機能不全の
ため、緊急帝王切開により 2,764 g で出生した。Apgar
スコア 1 分 3 点、5 分 3 点。全身蒼白で呼吸が弱く、挿
管して搬送となった。Hb は 3.7 g/dl で、代謝性アシド
ーシスと循環障害を示した。失血性ショック、新生児
遷延性肺高血圧症の診断で、輸血等を行い改善した。
母体血中の HbF は 6.9%であった。【結論】通常、妊婦血
液中の HbF は 1%未満である。HbF の上昇は、母児間に
ABO 不適合がなければ数週持続し、胎児母体間輸血を示
すものである。受託臨床検査施設で測定可能なため、
胎動減少や新生児貧血がある場合には本症を疑い、HbF
の検査が必要と考える。
452
母体硫酸マグネシウム投与による心収縮
力低下、QT 延長を呈した極低出生体重児
双胎例
筑波大学 小児内科
○中尾 厚、宮園 弥生
硫酸マグネシウムは安全な子宮収縮抑制
剤か?-動脈管閉鎖からの検討-
P-373
P-374
【はじめに】硫酸マグネシウムは切迫早産における子
宮収縮抑制剤として使用されている。一方、その副作
用として心機能障害や不整脈の可能性が指摘されてい
る。
【症例】一絨毛膜二羊膜双胎。母体は切迫早産に対
し在胎 25 週 2 日から 29 週 6 日まで硫酸マグネシウム
が使用されていたが自然陣発のため中止された。児は
在胎 29 週 6 日、
経腟分娩で出生。
第1子は出生体重 1333
g、Apgar score 7/8、第2子は出生体重 1433g、Apgar
score 5/6 であり、NICU に入院し人工呼吸管理を開始
した。呼吸窮迫症候群に対し人工サーファクタントを
投与し、第1子は日齢1に、第2子は日齢2に抜管し
た。しかし循環状態としては第1子が FS 20%(日齢 1)、
QTc 0.53(日齢1)、第2子が FS 17%(日齢0)、QTc 0.44
以上(T 波が好発の P 波に重なる、日齢1)と両児とも
心収縮力障害、QT 延長症候群が認められた。また出生
時は正常範囲であった血清 Ca が第 1 子 6.6mg/dl(日齢
1)
、第2子 6.2mg/dl(日齢1)と低カルシウム血症を
呈した。カルチコール静注とドーパミン、PDE3 阻害剤
持続静注により収縮力は徐々に改善したが、QT 延長は
日齢 61 の退院時にも認められた。突然死等の家族歴は
なく、QT 延長は月齢4には両児とも正常化した。分娩
3 日前の母体の血清 Mg 濃度は 5.4mg/dl と治療域であ
り、児の Mg 濃度は日齢 4 の時点でも第1子が 3.8mg/dl
と高値でありその後正常化した。
【まとめ】両児の循環
障害は、母体硫酸マグネシウム投与に由来する、児の
高マグネシウム血症の直接作用ならびに二次性低カル
シウム血症が原因と考えられた。硫酸マグネシウムは
切迫早産の治療に必要不可欠であるが、出生後の循環
状態が重要と思われる。また原因のはっきりしない早
産児の心機能障害例において高マグネシウム血症も鑑
別すべきである。
神戸市立中央市民病院 小児科
○原田 明佳、木下 大介、田場 隆介、辻 雅弘、
宇佐美 郁哉、山川 勝、春田 恒和
【背景】2006 年に「切迫早産における子宮収縮抑制」
の適応承認を受け、マグセント注®が発売された。当院
では承認以前から早産予防に MgSO4[Mg]と塩酸リトド
リンを併用してきた。妊婦に対する Mg 投与は母子共に
安全であるとの報告が多いが、従来から Mg 投与母体の
超低出生体重児においてインドメサシン[Ind]投与を
要する未熟児動脈管開存[PDA]が多い印象があった。そ
のため 2005 年 10 月以降当院における Mg の使用は妊娠
24 週までに限り、妊娠 25 週から漸減中止の方針として
いる。【目的】Mg 投与母体の超低出生体重児において、
PDA に対する Ind 投与状況を後方視的に検討する。
【対
象】2001 年 12 月~2006 年 12 月の間の当院出生超低出
生体重児 55 例中、在胎 22、23 週出生例、染色体異常、
IUGR 例(出生体重<-2SD)を除いた 39 例。
【方法】母体
Mg 投与群と非投与群に分け、PDA に対する Ind の投与
状況を比較した。さらに Mg 投与プロトコールの変更に
基づき 1 期:2001 年 12 月~2005 年 9 月、2 期:2005
年 10 月~2006 年 12 月に分類し同様に検討した。
【結
果】Mg 投与群 23 例:平均在胎週数 26.6±1.8 週、平
均出生体重 741.6±136g。Mg 非投与群 16 例:平均在胎
週数 26.1±1.2 週、平均出生体重 834.7±98.3g。Mg2+
血中濃度を測定できたものは 5 例で、母体平均血中濃
度 3.1±0.9mmol/l、児は 3.0±0.8mmol/l であった。Ind
を要した例は Mg 投与群 16 例(69.6%)、Mg 非投与群 4
例(25.0%)で P=0.006 で Mg 投与群に多かった。期間別
の Ind 投与状況は 1 期 24 例:投与群 9/15(60%)、非投
与群 4/9(44.4%)。2 期 15 例:投与群 4/4(100%)、非投
与群(11)では Ind 投与を要した例は無かった。Mg 投与
プロトコール変更前後での Ind 使用状況に有意な差は
みられなかった(P=0.124)。
【結論】母体 Mg 投与群では、
PDA に対し Ind の投与を要する例が多い。Mg 投与の制
限によっても改善はみられなかった。胎盤通過性の高
い Ca2+channel blocker となり得る Mg のより安全な使
用法が望まれる。
453
新生児期に心エコー検査を行うことの意
義についての検討
木沢記念病院 小児科
○増江 道哉
極低出生体重児における SVC flow と脳室
内出血の関連性
国立成育医療センター 周産期診療部 新生児科
○高橋 重裕、大石 芳久、伊藤 直樹、藤永 英志、
難波 由喜子、塚本 桂子、中村 知夫、伊藤 裕司
【はじめに】心エコーによる上大静脈血流量(SVC flow)
は新生児において、心拍出量の指標として有用である
ことが示されており、SVC flow の低値(Low SVC flow)
は脳室内出血(IVH)に関連するとの報告もある。今回
我々は、32 週未満の極低出生体重児(VLBWI)における生
後早期の SVC flow の経時的変化及び svc flow と脳室
内出血との関連について検討したので報告する。
【目的】
1.生後 72 時間以内の VLBWI における SVC flow の経時
的変化を検討する
2.Low SVC flow と脳室内出血との関連性を検討する
【対象と方法】2006 年 8 月~2007 年 2 月に当院で出生
し NICU に入院した 32 週未満、出生体重 1500g 未満の
極低出生体重児 25 例のうち、SVC flow を測定した 23
例を対象とした。SVC flow は心臓超音波検査にて生後
0-6 時間、6-24 時間、24-48 時間、48-72 時間で測
定し、測定方法は Evans らの報告にならった。また同
時に頭部超音波検査にて脳室内出血の有無を確認し
た。
【結果】対象 23 例は在胎週数(中央値)28 週 5 日(23w3d
-31w6d)、平均出生体重 963g(366-1462g)、Apgar
Score 5min ( 中 央 値 ) 6 ( 2 - 10 ) で あ っ た 。 SVC
flow(ml/kg/min)は生後 0-6 時間:83±43、6-24 時
間:73±47、24-48 時間:93±37、48-72 時間:100
±24、0-72 時間:87±40 であった。IVH は 23 例中 3
例にみられた。生後 0-72 時間の SVC flow は IVH 群:
71±47ml/kg/min、非 IVH 群:89±38ml/kg/min と IVH
群で低い傾向が見られたが有意差は認められなかっ
た。また、Low SVC flow を 47ml/kg/min 未満(生後 0
-72 時間における SVC flow の-1SD)と定義すると、IVH
群では生後 6-24 時間で全例、生後 24-48 時間で 1 例
が Low SVC flow をみとめた。
【考察】32 週未満の VLBWI における生後 72 時間未満の
SVC flow は平均で 87ml/kg/min であった。SVC flow の
経時的な変化では生後 6-24 時間で減少し、以後増加
する傾向がみられた。IVH 群では非 IVH 群と比較して生
後 72 時間未満の SVC flow は低値を示す傾向がみられ
たが、有意差は認められなかった。IVH 群では生後 6-
24 時間で全例が Low SVC flow を認めており、過去の報
告と同様、この時期の組織低還流状態が後の IVH 発症
に関与する可能性が示唆された。
P-375
P-376
【目的】新生児心疾患を早期発見するために、心エコ
ー検査は非侵襲的で有用な検査であることは、異論の
ないことである。しかし新生児全例で心エコースクリ
ーニングを行うことは、多大な労力を要するため、一
般の病院では困難なことである。当院では、心雑音ま
たは酸素投与で改善しないチアノーゼを認める新生児
に対し、心エコー検査を行っている。今回我々は、検
査で発見された心疾患の予後を検討し、新生児心エコ
ー検査の意義について検討した。
【方法】2000 年 1 月か
ら 2006 年 12 月までの当院出生児を対象に、心雑音の
症例と酸素投与で改善しないチアノーゼの認められた
症例の合計 186 例に対して心エコー検査を施行した。
初回検査は全て新生児室入院中にベッドサイドで行
い、退院後も経過をフォローした。
【成績】検査を施行
した内の 14%(26 例:心雑音 22 例、チアノーゼ 4 例)
にフォローが必要と考えられた心疾患を認めた。心雑
音のみでフォローしたものの内 64%(14 例:筋性部心
室中隔欠損 8 例、末梢性肺動脈狭窄 5 例、膜様部心室
中隔欠損 1 例)は自然軽快し、生後 2~4 ヵ月でフォロ
ー中止となった。5 例(肺動脈狭窄 2 例、膜様部心室中
隔欠損 2 例、ファロー四徴症 1 例)は現在フォロー中
である。3 例(動脈管開存 1 例、漏斗部心室中隔欠損 1
例、ファロー四徴症 1 例)は手術を行ったが新生児期
に手術したものはなく、動脈管開存は生後 5 ヵ月、漏
斗部心室中隔欠損は生後 30 ヵ月、ファロー四徴症は生
後 38 ヵ月で手術を行った。チアノーゼで見つかった 4
例(新生児遷延性肺高血圧 2 例、両大血管右室起始症 1
例、単心室 1 例)はいずれも新生児期に治療が必要で
あった。母体合併症では、IDM から動脈管開存 1 例(心
雑音)と単心室 1 例(チアノーゼ)が発見され、羊水
過多から両大血管右室起始症 1 例(チアノーゼ)
、羊水
過少からファロー四徴症 1 例(心雑音)が発見された。
【結論】心雑音のみの正常新生児は、1ヵ月検診まで
経過観察してもよいが、チアノーゼのある症例はただ
ちに心エコー検査を行うべきであると考えられた。ま
た、心雑音のみであっても、ハイリスクとなる IDM、羊
水過多、羊水過少の症例では積極的に早期からの心エ
コー検査を行った方がよいと考えられた。
454
新生児の循環管理における末梢皮膚温測
定の意義 -Capillary refilling time と
の相関大垣市民病院 第2小児科
○山本 ひかる、大城 誠、細野 治樹、田内 宣生
P-377
会長賞
P-378
出生時における ANP,BNP 値の臨床的意義
の検討
市立四日市病院 小児科
○谷口 弘晃、一木 沙耶香、渡津 めぐみ、中瀬古
春奈、小出 若登、伊藤 桂、牧 兼正、坂 京子
【目的】Na 利尿ペプチドである ANP,BNP は,心機能障
害を反映する因子として,小児でも広く用いられるよ
うになりつつある。今回我々は,出生時に ANP,BNP を
測定し,児の周産期因子や出生後の循環動態について
後方視的に検討を行った。
【対象と方法】2005 年 4 月か
ら 2007 年 1 月までに当院 NICU 入院となり,ANP,BNP
を測定できた 110 例を対象とした。そのうち超低出生
体重児は 7 例,極低出生体重児は 22 例,先天性心疾患
児は 4 例,SFD 児は 32 例,多胎児は 42 例であったが,
TTTS 症例は認めなかった。在胎週数は 34.0±4.0 週
(23.0~41.3 週)
,出生体重は 2004±747g(561~4756g)
であった。採血方法は,おもに分娩時に臍帯静脈より
検体採取を行い,困難な場合は入院時に児より静脈穿
刺にて検体採取を行った。ANP は RIA 法にて,BNP は EIA
法にて測定した。当院では迅速診断キットは導入され
ていないため,今回は経時的な測定は行わなかった。
【結果】ANP 値は 138±181pg/ml,BNP 値は 212±
482pg/ml であった。出生体重,在胎週数との関連では,
成熟児において BNP 値がより高値であった。SFD,多胎
の有無では有意差を認めず,またアプガースコア,血
液ガス所見,乳酸値,血清 CK 値,胎児仮死の有無など
でも有意差を認めなかった。入院時の心エコー所見
(EF/FS,LVDd)や血圧,心拍数,尿量についても検討
を行ったが,いずれも有意差を認めなかった。退院前
の頭部 MRI 所見でも有意差を認めなかった。今回 BNP
値が 1000pg/ml 以上のものは 5 例認めており,それぞ
れ要因として妊娠高血圧症候群,胎児・新生児仮死,
先天性心疾患が考えられた。【考察】今回の検討では出
生体重,在胎週数以外に明らかな差を認めなかった。
また血清 CK が著増しているような重症仮死例において
も,ANP,BNP の上昇を認めない例を多数認めた。この
理由としては ANP,BNP 値は胎内での慢性的な心機能障
害が影響していると考えられ,単純な比較検討が難し
いためと考えられた。胎児心機能や胎盤機能,臍帯血
流の経時的な評価などについても,今後引き続き症例
を積み重ね検討していく必要があると考えられた。
【はじめに】新生児の末梢循環を評価する方法はいく
つかの報告がある。侵襲が少なく、簡便な方法として
視診、触診があるが、その評価は主観的である。今回
我々は末梢皮膚温と末梢循環の指標とされる
Capillary refilling time(以下 CRT)との相関を検討し
た。
【対象と方法】対象は平成 19 年 2 月から 3 月に当
院で出生した正常新生児 6 例で、在胎週数、出生体重、
Apgar score 1 分値、5 分値はそれぞれ中央値(範囲)
で 39.1(36.9~40.1)週、2913(2505~3580)g、9(8~9)、
9(9~9) であった。生後 3,6,24 時間後に前額部、前胸
部、両側足底の皮膚温と同部位の CRT、直腸温を測定し
た。皮膚温は皮膚赤外線体温計 商品名サーモフォー
カス(TECNIMED 社、イタリア)を用いて測定した。環
境温はほぼ一定とし、哺乳中を避けて安静時に測定を
行った。CRT は 1 人の検者が 2 回計測し、その平均値を
用いて検討した。統計学的処理は Spearman の順位相関
を用い、P<0.05 を有意差ありとした。【結果】前胸部
の皮膚温と CRT の生後 3 時間の中央値(範囲)は
36.2(35.3~36.6)度と 2.1(1.7~2.6)秒、生後 6 時間は
35.8(35.0~36.5)度と 2.1(1.9~2.7)秒、生後 24 時間
は 35.6(35.5~37.1)度と 2.3(1.9~2.8)秒であり、す
べての前胸部皮膚温と CRT を合わせて検討したところ、
両者は有意に逆相関した(P=0.03)。また足底の皮膚温
と CRT も生後 3 時間は 33.4(32.5~35.4)度と 3.0(1.9
~5.1)、生後 6 時間は 32.8(31.1~34.5)度と 3.9(2.8
~ 5.4) 秒 、 生 後 24 時 間 は 33.7(30.8 ~ 35.0) 度 と
3.2(2.2~4.9)秒であり、すべての足底皮膚温と CRT を
合わせて検討したところ、両者は有意に逆相関した
(P=0.04)。
【考察】皮膚赤外線体温計を用いた末梢皮膚
温測定は、新生児への侵襲がなく、簡便に行うことが
できる。従来から末梢循環の評価の指標とされている
CRT と相関を認めたことや、ばらつきの少ない客観的な
測定が可能なことから、循環管理への応用の可能性が
示唆された。
455
胎盤ステロイドホルモンは脱落膜由来I
GFBP-1を修飾しIGFの作用を調
節する
杏林大学 医学部 産婦人科
○松本 浩範、酒井 啓治、岩下 光利
臍帯血流遮断・再還流時における MCI-186
投与の影響~羊胎仔脳組織 GLUT 発現とそ
の変化
日本大学 医学部 産婦人科
○渡邉 征雄、正岡 直樹、中島 義之、大亀 幸子、
早川 康仁、永石 匡司、山本 樹生
【目的】虚血・低酸素は脳におけるエネルギー代謝、
グルコース消費に大きな変化を惹起する。今回、羊胎
仔実験モデルにおいて脳組織中で存在が報告されてい
る GLUT(glucose transporter)1(血管内皮細胞)
、3(ニ
ューロン)、5(microglia)の臍帯血流遮断・再還流に
よる経時的変化、さらに脳梗塞治療薬として臨床で繁
用されている Edaravone 投与の影響について検討した。
【方法】14 頭の羊胎仔実験モデルを作製し、術後 2 日
目に 3 頭は 10 分間の臍帯血流遮断終了後 30 分に胎仔
脳を摘出(A 群)
、4 頭は 10 分間の臍帯血流遮断後 3 日
目に(B 群)、別の 4 頭は 10 分の臍帯血流遮断終了直前
より Edaravone 60mg を母獣に投与した後 3 日目に胎仔
脳を摘出した(C 群)
。他の 3 頭は sham operation 群(D
群)として術後 5 日目に胎仔脳を摘出した。胎仔脳に
GLUT1、3、5 の免疫染色を施行し、2 人の病理医が各々
の処置法を知ることなく評価を行った。
【結果】1)A 群
と B 群の比較では全ての部位において GLUT1、3 の発現
が増加しており、とくに脳室周囲、海馬において有意
(GLUT1: <0.05、GLUT3: <0.01)であった。2)B 群と
C 群を検討すると GLUT1、3、5 の発現は B 群において有
意に増加していた。3)C 群と D 群においては GLUT1、3、
5 にとくに有意差は認められなかった。
【考察】虚血・
低酸素・再還流負荷によって GLUT とくに GLUT3 が明ら
かに誘導されることが証明された。さらに Edaravone
投与例においては、これらの現象が認められず、その
脳保護作用が示唆された。
P-379
P-380
会長賞
< 目 的 > Insulin-like growth factor (IGF) と IGF
binding protein-1 (IGFBP-1)は胎児、胎盤の発育に重
要な役割を果たしているが知られている。今回、我々
はエストロゲン(E)およびプロゲステロン(P)が
IGF-IGFBP-1 系にどのように作用するかを検討したの
で報告する.<方法>絨毛脱落膜組織は妊娠 8‐9 週に、
社会的適応により人工妊娠中絶を施行した患者からイ
ンフォームドコンセントを得た上で採取し、絨毛細胞
および脱落膜細胞を分離し培養した。Zymography はゼ
ラチンまたは IGFBP-1 を器質とし Rawdanowicz らの方
法で行った。IGFBP-1 のリン酸化は nondenaturing PAGE
で分離し Western blot にて同定した。
重合した IGFBP-1
は SDS PAGE にて分離し Western blot にて同定した。
<結果>P (10-6 M)の添加により脱落膜細胞から分泌
される IGFBP-1 はリン酸化、非リン酸化ともに増加し
た。しかし、E (10-8M)の添加では非リン酸化 IGFBP-1
のみ増加しリン酸化の比率は減少した。また、E は脱落
膜細胞の matrix metalloproteinases (MMP)-9 の活性
を増強したが、この MMP-9 は羊水より分離した IGFBP-1
を分解した。絨毛細胞培養液に IGFBP-1 を添加し培養
すると、IGFBP-1 は 30kDa の monomer IGFBP-1 以外に
60kDa(dimer)、90kDa(trimer)のバンドとして SDS PAGE
にて同定された。これらの重合した IGFBP-1 のバンド
は 125I-IGF-I を用いた ligand blot では IGF-I と結合
し な か っ た 。 絨 毛 細 胞 培 養 液 に 抗 type2
transglutaminase 抗体を添加した後に IGFBP-1 を添加
すると IGFBP-1 の重合は認められなかった。E または P
を添加し、同様の実験を行うと、E の添加では IGFBP-1
の重合に変化は見られなかったが、P の添加により
90kDa バ ン ド の 増 加 が 認 め ら れ 、 ま た 、 type2
transglutaminase の増加を認めた。<結論> E は脱落
膜において非リン酸化 IGFBP-1 を増加し、また、MMP-9
活 性 を 上 昇 さ せ た 。 ま た 、 絨 毛 細 胞 表 面 の type2
transglutaminase により IGFBP-1 は重合し、IGF-I と
の結合が減少したが、この IGFBP-1 の重合は P により
増 強 し た 。 こ の こ と よ り 、 E は IGFBP-1 の
phosphorylation および proteolysis により IGF の作用
を増強し、P は type2 transglutaminase を増加させる
ことにより IGFBP-1 の polymerization を促進し、IGF
の作用を増強することが示唆された。
456
The tumor-associated RCAS1 protein:妊
娠高血圧腎症における新しい知見?
大阪大学大学院医学系研究科・医学部 産科学婦人科
学教室 1、川崎医科大学 産科学婦人科学教室 2
○Tskitishvili Ekaterine1)、味村 和哉 1)、衣笠 友
基子 1)、金川 武司 1)、冨松 拓治 1)、木村 正 1)、宋
美玄 2)、下屋 浩一郎 2)
【Objective】 The main goal of our study was to
investigate the expression of the tumor-associated
RCAS1 protein in the placentas and to assess and
compare its concentration in amniotic fluid,
maternal and cord blood sera in pregnancies
complicated by pre-eclampsia. 【 Study Design 】
Samples were obtained from women with pre-eclampsia
(n=9), pre-eclampsia with IUGR (n=4), normotensive
IUGR (n=7) and healthy term controls (n=25) after
delivery. Placentas were studied by real-time
(RT)-PCR. For assessment of RCAS1 concentrations in
biological fluids, ELISA was performed. 【Results】
The RCAS1 protein mRNA expression in the placentas
of pre-eclamptic patients was significantly lower
than that in the controls (p=0.0098). The maternal
blood serum RCAS1 protein concentration of the
pre-eclampsia cases was also significantly lower
than that in the controls: (p=0.0207). The other
study groups did not differ significantly.
【 Conclusions 】 This study reveals the RCAS1
protein ’ s possible role in the development of
pre-eclampsia through an immunological pathway.
P-381
P-382
早産由来臍帯血造血幹細胞の機能解析
葛飾赤十字産院 小児科 1、日本医科大学付属病院 小
児科 2
○中島 瑞恵 1,2)、植田 高弘 2)、島
義雄 1)、熊坂
栄 1)、水書 教雄 1)、大上 友紀 2)、右田 真 2)
[緒言]
造血幹細胞は多分化能と自己複製能を有することから
造血幹細胞移植に臨床応用されているが、近年その細
胞資源として臍帯血の利用される機会が増加してい
る。これまで早産の臍帯血は臨床応用されていない。
今回我々は、造血幹細胞上の CD34 抗原の発現に着目し、
細胞表面抗原分析に基づいた在胎週数の相違による臍
帯血細胞構成内容評価と、マウスに対する移植生着状
況に関する実験を行い、早産由来臍帯血造血幹細胞の
機能検討を行った。
[対象と方法]
分娩後に臍帯血採取が可能であった 45 例を早産(P)
群 21 例(31.9±2.4 週、1739.2±460g)と正期産(T)群
24 例(38.4±1.5 週、2849±405.9g)に分け、以下に関
する比較を行った。
1)フローサイトメトリーにより、臍帯血 CD34 陽性細胞
のうち未分化な CD34+/CD38-細胞と、骨髄に生着するた
めに必要な受容体を有した CD34+/CXCR4+細胞のそれぞ
れ発現頻度。
2)コロニーアッセイ法による造血前駆細胞の評価。
3)放射線全身照射した免疫不全マウス(NOD/SCID マウ
ス)に対して経静脈的に移植した臍帯血由来 CD34 陽性
細胞のマウス骨髄における生着率。
[結果]
1)[P 群:T 群]の順に、CD34 陽性細胞は[2.7±1.8%:0.9
±0.4%]と P 群に有意に高率で、さらに CD34+/CD38-細
胞 [17.9 ± 10.5% : 9.0 ± 5.6%] も 同 様 で あ っ た が 、
CD34+/CXCR4+細胞は[18.5±14.9%:40.1±25.6%]と反
対に T 群で有意に高値を示した。
2)コロニーアッセイでは T 群で P 群より多くのコロニ
ーが形成された。
3)移植生着率は P 群 46.7%、T 群 78.6%と有意ではない
がT群で生着しやすい傾向を認めた。生着したマウス
に対してのヒト血球細胞の割合には両群間で有意差は
認めなかった。
なお、臍帯血採取量は両群間で有意差を認めなかった。
[考察]
今回の検討で早産由来の臍帯血造血幹細胞にはより未
分化な細胞が多く含まれることが示された。一方、造
血幹細胞移植において、生着という動態の制御が重要
となるが、その生着能力は在胎週数経過につれて増大
する可能性が示唆された。
457
時間周波数解析法(Wavelet 解析)による
胎児自律神経系の発達に関する検討
東京女子医科大学 乳児行動発達学講座 1、東京女子医
科大学産婦人科学教室 2、東京女子医科大学東医療セン
ター3
○牧野 郁子 1)、松田 義雄 2)、牧野 康男 2)、高木 耕
一郎 3)、太田 博明 2)、小西 行郎 1)
(目的)胎児の自律神経系の発達は胎児心拍陣痛図に
おける胎児心拍基線細変動により観察可能である.し
かし,パワースペクトル法などによる従来の解析は観
測時間内での状態が一定であることが必要であり,胎
児心拍のように心拍変動に非定常性が高い場合の解析
には適当ではないと考えられてきた.そこで今回我々
は,非定常である胎児心拍について,一過性の変化や
微小な不連続性が検出可能である時間周波数解析法で
ある wavelet 法を用いて,胎児の心拍解析に同法が適
するかについて検討した.
(方法)東京女子医科大学で
周産期管理をしている投薬や合併症のない妊婦の胎児
で,奇形や染色体異常を認めず,発育も正常範囲であ
る 12 例を対象とした.妊娠 30 週と 36 週に胎児心拍計
測を施行し,胎児心拍陣痛図上の胎児静止期にについ
て検討した.解析に必要であるマザーウェーブレット
を各種検討後,胎児心拍の解析にて適すると考えられ
る Haar ウエーブレットを用いて解析し,比較検討し
た.
(結果)胎児 12 例における妊娠 30 週と 36 週の比
較に関して,全ての胎児心拍は妊娠週数の進行に伴い,
胎児心拍の低周波成分は増大するとともに時間的な変
動の大きさを認めた.(結語)従来法のパワースペクト
ル法を用いての胎児の自律神経発達に伴う低周波成分
の増大についての報告がある。今回の方法においても
同様の結果が得られたことから,胎児の自律神経の発
達の検討においてウエーブレット法は有効な手段の一
つであると考える.今回,非定常性である胎児心拍の
解析が時間領域で可能であることが確認されたことよ
り,今後は病態や子宮内環境と胎児自律神経系の発達
との関連について,今後検討するための有効な手段と
なりうると考える.
P-383
P-384
正常妊婦および妊娠高血圧症候群におけ
る血清中メタスチン濃度の検討
医学部 生体分子構造機能制御講座 産科
大分大学
婦人科学
○西田 正和、吉松
楢原 久司
淳、福田
淳一郎、吉良
尚子、
【目的】Metastin はがん転移抑制遺伝子 KiSS-1 によっ
て産生されるペプチドでオーファン受容体の一つであ
る OT7T175 受容体のリガンドペプチドである。メタス
チンは syncitiotrophoblast で産生され、絨毛細胞の
浸潤の制御(抑制)に関与していることが示唆されて
いる。血清中のメタスチン濃度の妊娠に伴った変化は
まだほとんど報告が無い。妊娠高血圧症候群では絨毛
が産生する増殖、浸潤に関与する様々な因子が変化す
ることが知られている。しかし、その結果はまちまち
で必ずしも増殖の促進、抑制のどちらかのみを示唆す
るわけではない。今回、妊娠各時期の血清中メタスチ
ンを測定し、胎盤における局在を免疫組織化学的に検
討した。また妊娠高血圧症候群における血清中のメタ
スチン濃度を測定し正常妊婦と比較したので報告す
る。
【方法】正常妊婦 120 人を対象とした。血清中メタ
スチン濃度を EIA で測定した。また、正常妊娠妊娠各
期の絨毛組織を用いて免疫組織化学的に局在を検討し
た。重症妊娠高血圧症候群 20 例の血清中メタスチン濃
度を測定し、年齢、経妊、妊娠週数をコントロールし
た正常群と比較した。【結果】妊娠各期におけるメタス
チン濃度は 1st trimester で 49.6±8.1fmol/mL(median
±SEM)、2nd trimester では 55.8±7.3fmol/mL、3rd
trimester では 137.7±11.9fmol/mL であった。母体血
清中のメタスチン濃度は妊娠末期に向けて増加するこ
と が わ か っ た 。 免 疫 組 織 化 学 的 に は
syncitiotrophoblast のみにメタスチンの局在が示さ
れた。妊娠高血圧症候群ではメタスチンは 44.8±
10.7fmol/mL コントロール群では 116.4±10.9fmol/mL
と有意に低値であった。
【考察】メタスチンは in vitro
で cancer cell line の増殖、浸潤を抑制することが報
告されている。メタスチンが絨毛細胞の浸潤が活発で
ある妊娠初期に低値を示し増殖が低下する末期に向か
って増加することはメタスチンが胎盤においてもその
増殖をコントロールする因子のひとつであることを示
唆すると思われた。Farina らは妊娠高血圧症候群での
Kiss-1mRNA の発現が低下することを報告している。今
回の検討で蛋白レベルでもこのことが確認された。
458
P-385
巨大羊膜下血腫を合併した 2 症例
巨大絨毛膜板下血腫(Breus'mole)の周産
期予後
北里大学 総合周産期母子医療センター
○今村 庸子、腰塚 加奈子、菊地 信三、金井 雄
二、庄田 隆、天野 完、海野 信也
P-386
葛飾赤十字産院 新生児科 1、葛飾赤十字産院 産婦人
科2
○熊坂 栄 1)、中島 瑞恵 1)、水書 教雄 1)、長井 誠
1)
、島 義雄 1)、大内 望 2)、鈴木 俊治 2)
【はじめに】羊膜下血腫は、胎児血管の破綻により胎
盤羊膜と絨毛膜板の間に形成される血腫であり、子宮
内発育遅延や子宮内胎児死亡の原因となることが報告
されている。我々は、巨大羊膜下血腫を合併した新生
児の 2 例を経験したので報告する。
【症例 1】24 歳、0 経妊 0 経産、家族歴、既往歴に特記
すべきことはない。妊娠 27 週 4 日、血圧上昇と、超音
波検査にて IUGR(-3.0SD)
、臍帯血流の途絶を認めた
ため当院へ母体搬送された。入院時、血圧は
160/108mmHg で、尿蛋白は陰性であった。超音波検査で
は、胎盤の胎児側に径 48mm の嚢胞を認めた。母児双方
の適応で、緊急帝王切開術を施行した。児は、678g、
Apgar Score 5/9 で出生、人工呼吸管理を要したが、そ
の後の経過は順調で、特記すべき合併症なく、日齢 118
に体重 2342g で退院した。胎盤は石灰沈着が強く、大
きさは 13.0×12.5×3.5cm、重量は 394g、胎児面の羊
膜が大きく剥離し、内容は凝血塊であった。
【症例 2】27 歳、0 経妊 0 経産、家族歴、既往歴に特記
すべきことはない。妊娠 27 週頃より超音波検査にて臍
帯嚢胞の存在が疑われた。前期破水のため当院入院、
妊娠 34 週 5 日に陣痛発来し経膣分娩。児は、2536g、
Apgar Score 8/9 で出生、胎盤は 13.5×12×3.5cm、重
量 585g で胎盤病理検査にて中等度の急性絨毛膜炎の所
見を認めた。臍帯付着部に接して 5.5×5.5×2.5cm の
羊膜下血腫を認めた。
【考察】羊膜下血腫の発生頻度、発生時期については
記載により種々であるが、妊娠中・後期に発生した場
合、子宮内胎児発育遅延や胎児仮死、子宮内胎児死亡、
早期新生児死亡などを伴うことが報告されている。
我々は、妊娠中期に発生したと思われる羊膜下血腫を
合併した 2 症例を経験した。いずれも超音波検査で所
見を得たのはほぼ同時期と考えられたが、その後は異
なる周産期経過を示した。羊膜下血腫による児の予後
は、その形成に関わる複合的な要因により規定される
と考えられる。
Breus`mole は胎盤胎児側の絨毛膜下に生じる巨大血腫
であり、胎児胎盤循環が損なわれ子宮内胎児発育遅延
(IUGR)や子宮内胎児死亡をきたすため、児は予後不
良であることが多い。今回 Breus`mole と診断し生児を
得ることができた6症例を報告する。症例 1;35 歳 1
経産 妊娠 26 週で IUGR を指摘。
妊娠 31 週から高血圧、
蛋白尿が出現し約 3 週間の発育停止を認めたため妊娠
32 週 5 日帝王切開術施行。男児:916g(-4.0SD) Ap.S
8/9 臍帯動脈血(UA)pH 7.25 で出生。症例 2;23 歳 0
経産 妊娠 30 週で IUGR、羊水過少を指摘。NST は non
reactive、臍帯動脈血管抵抗指数と中大脳動脈血管抵
抗指数の逆転を認め、BPS は6point、nonreassuring
fetal status(NRFS)の診断で妊娠 30 週 3 日帝王切開
術施行。男児:766g(-3.8SD)Ap.S 8/9 UApH 7.30 で
出生。症例 3;24 歳 0 経産 妊娠 27 週で IUGR を指摘。
羊水過少、高度変動一過性徐脈を認め妊娠 28 週 3 日
NRFS の診断で帝王切開術施行。男児:484g(-4.4SD)
Ap.S7/8 UApH 7.30 で出生。症例 4;26 歳 0 経産 妊
娠 27 週で二絨毛膜二羊膜性双胎の一児が IUGR を指摘。
BPS は 6~8 点、IUGR ながらも児は発育をつづけ、妊娠
36 週 3 日経膣分娩となった。男児:1252g(-4.3SD)
Ap.S 8/8 UApH 7.28 で出生。尿道下裂、停留睾丸、水
腎症、心奇形合併を認めた。症例 5;41 歳 0 経産 顕
微授精で妊娠成立。妊娠 27 週 2 日切迫早産、IUGR を認
め入院。母体のヘモグロビン濃度 7.7g/dl と重症貧血
を認めたため濃厚赤血球 4 単位を輸血。妊娠 29 週 4 日
胎児の心臓拡大と心嚢液貯留を認め NRFS の診断にて帝
王切開術施行。男児:706g(-3.6SD) Ap.S 4/6 UApH 7.27
で出生。症例 6;28 歳 1 経産 妊娠 20 週に胎盤血腫、
IUGR を指摘。妊娠 27 週に胎動感消失で入院。BPS は
8point、妊娠 29 週の推定体重は 446g(5.1SD)で、現在
約 2 週間の発育停滞を認めている。Breus`mole では胎
児発育は著しく遅延し、厳重な胎児モニタリングが必
要となるが、適切な時期に分娩を考慮すれば予後は期
待できる。
459
妊娠初期から観察し得た羊膜(下)嚢胞の
2例
綜合病院 山口赤十字病院 産婦人科
○高橋 弘幸、辰村 正人
出生前診断され胎児心不全徴候を認めた
巨大胎盤血管腫の1例
兵庫県立こども病院周産期医療センター 産科
○喜吉 賢二、船越 徹、上田 大介、斎木 美恵、
石原 尚徳、佐本 崇、大橋 正伸
緒言:胎盤血管腫は胎盤腫瘍の中で最も頻度が高く、
妊娠中に判明する腫瘍径の大きなものでは、母体に羊
水過多、早産、妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離、
胎児に貧血、血小板減少、心不全、胎児水腫、子宮内
胎 児 発 育 遅 延 、 子 宮 内 胎 児 死 亡 、 出 生 後 の PVL
(periventicular leukomalacia)などの重篤な合併症
が報告されている。今回われわれは出生前に超音波断
層法、MRI により巨大胎盤血管腫と診断し、母児ともに
良好な経過であった症例を経験したので報告する。症
例:31 歳 初産婦 自然妊娠。妊娠 35 週 2 日、前医よ
り胎盤超音波像の異常のため紹介され当院を受診し
た。超音波断層法にて子宮右前壁に付着する胎盤のほ
ぼ中央に 55.5×52.1×32.4mmの内部不均一、低輝度
で、カラードプラ法にて血流の豊富な腫瘍像を認めた。
また MRI で同部位に T1 強調画像で低信号、TRUE FISP
法で円形の高信号像を認めた。以上より胎盤血管腫と
診断した。この時点で胎児推定体重 2,198g(-0.8SD)
、
AFI 12.4、CTAR 34%、臍帯動脈 RI 0.51、中大脳動
脈 RI 0.92、中大脳動脈最大血流速度 49.0cm/sec、
下大静脈 PLI 0.33 であった。妊娠 36 週 1 日 CTAR
38%と拡大、下大静脈 PLI 0.57 と上昇、心嚢液、腹
水貯留を少量認めたため胎児心不全徴候出現と診断し
て、インフォームドコンセント、インフォームドチョ
イスにより妊娠 36 週 3 日選択的帝王切開術を施行し
た。児は 2,676g(-0.5SD)の女児 Apgar score 8/9、
臍帯動脈血 pH 7.302、臍帯血 Hb 14.3g/dl、血小板
数 14.6 万/μl であった。児は新生児科に入院するも異
常所見認めず術後6日目に母児ともに退院した。胎盤
は重量 550g、ほぼ中央に 6×6×3cm 大のやや白色の腫
瘍像を認め、病理検査所見では Chorioangioma であっ
た。結語:胎盤血管腫は血流が多い腫瘍であり、妊娠
中、分娩に際し母児に種々の合併症を引き起こす。妊
娠中に診断された胎盤血管腫は慎重にフォローアップ
することで適切な分娩時期を逃さないことが母児の良
好な転帰のために肝要である。
P-387
P-388
【緒言】胎盤に大きな嚢胞を認めることはまれで、原
因も不明な点が多い。今回われわれは妊娠初期から観
察し得た羊膜(下)嚢胞の 2 例を経験したので報告す
る。
【症例 1】36 才、主婦、妊娠歴:5 経妊・4 経産、
前回の妊娠は妊娠高血圧症候群重症のため、妊娠 31 週
に緊急帝王切開で 922gの女児を娩出した。今回の妊娠
経過:11 週、胎盤表面に小さい嚢胞性腫瘤を認め、嚢
胞内部に胎盤辺縁静脈洞様の低流速の流れを確認し
た。13 週、前回の妊娠既往歴から低用量アスピリン療
法を開始した。この時点では前述の流れは確認できな
かった。27 週、嚢胞はドーム状に緊満するような形状
に変化しており、29 週になって嚢胞内に高輝度エコー
像(debris)の出現をみた。そのまま分娩まで縮小す
ることなく、40 週 4 日 VBAC で 3354gの女児を出産し
た。
【症例 2】35 才、主婦、妊娠歴:1 経妊・1 経産、
今回の妊娠経過:hMG-hCG で妊娠。8 週より絨毛の一部
に突出する高輝度部分を認めていたが、13 週では小さ
い嚢胞状に変化した。21 週より、嚢胞はドーム状に緊
満するような形状に変化し、急速に増大した。31 週よ
り内部の高輝度部分(debris)がよりはっきりしてき
た。33 週現在、胎児は推定体重 2087gで特に異常無く
妊娠継続中である。
【考察】羊膜(下)嚢胞の原因とし
て羊膜下出血があることは知られているがその形成機
序については不明な点が多い。本 2 症例の経過からは
出血があったとしてもそれほど大きなものではなく、
出血は嚢胞形成における最初の起点にすぎず、そこに
次第に液体が貯留してきて嚢胞が増大したものと考え
られた。
460
Fetal-to-maternal hemorrhage の 3 例-
SHR と予後との関連について-
順天堂大学 産婦人科
○武者 由佳、齋藤 知見、宮川 美帆、西原 沙織、
牧野 真太郎、薪田 も恵、田中 利隆、米本 寿志、
伊藤 茂、竹田 省
【 緒 言 】 母 児 間 輸 血 症 候 群 ( Fetal-to-maternal
hemorrhage、以下 FMH)は、何らかの原因により胎児血
が母体血中に移行し児に貧血と低酸素血症を引き起こ
す稀な疾患である。今回我々は 3 例の FMH を経験した
ので文献的考察を加えて報告する。
【症例】症例 1:28
歳 1 経妊 0 経産。妊娠 29 週時に IUGR、切迫早産のため
当院へ母体搬送入院。入院時より NST で sinusoidal
heart rate pattern(SHR) を 認 め 、 次 第 に variable
deceleration も出現するようになったため、NRFS の診
断で 30 週 4 日帝王切開術施行。児は 848g、Apgar
score8/9。Hb 5.6g/dl と貧血を認め、母体の AFP は
4635ng/ml、HbF は 3.4%と高値で FMH と考えられた。
児の予後は良好であった。症例 2:33 歳 2 経妊 1 経産。
妊娠 37 週 1 日、胎動の減少を自覚。翌日の妊婦健診時
NST で variability の消失と late deceleration を認
め、原因不明の NRFS の診断で緊急帝王切開となった。
児は 2272g、Ap3/5、Hb 2.5g/dl と重症貧血を認めた。
母体の AFP は 7623ng/ml、HbF は 4.9%と高値で FMH と
考えられた。児は出生後脳波異常を認め、発達障害の
可能性が危惧される。症例 3:31 歳 0 経妊 0 経産。妊
娠 41 週予定日超過のため分娩誘発目的に前医入院。誘
発 開 始 時 の NST で variability の 消 失 と late
deceleration を認め当院に母体搬送となった。US 上胎
児の腹水貯留と腸管の拡張を認め、胎便性腹膜炎を疑
い帝王切開術施行。児は 2968g、Ap2/7、Hb 2.9g/dl、
母体 AFP は 1882ng/ml と上昇しており、FMH による貧血
のための腹水貯留と考えられた。
【結語】本疾患は徴候
なく発症することが多く、発症の予測が非常に困難な
疾患である。今回、SHR を呈するうちに分娩に至った症
例は、late deceleration を呈した症例と比べ児の貧血
は軽症で予後は良好であった。一般的に胎児貧血では
SHR が特徴とされているが、SHR は貧血に伴うアシドー
シスがあまり進行していない状態の時に出現している
可能性があり、胎動減少等に伴う SHR を認めた場合は
FMH も念頭に入れた原因の検索と早急な対応が必要と
考えられた。
P-389
P-390
当科における子宮破裂の検討
飯田市立病院 産婦人科
○松原 直樹、山崎 輝行
今回、2000 年 4 月から 2006 年 12 月までの間に当科に
おいて経験した子宮破裂 5 例を検討した。症例は自施
設が 3 例、他施設で発症後に当科に搬送された 2 例で
ある。
患者年齢は 29 歳から 35 歳、いずれも単胎妊娠であっ
た。既往歴として帝王切開術が 3 例、筋腫核出術が 1
例、子宮手術歴なしが 1 例であった。発症時期である
が、4 例は分娩経過中であり 39 週から 41 週の間に起こ
っていた。また 1 例は切迫早産のため入院中に突然の
腹痛と胎児徐脈により発症した。分娩様式は経腟分娩
が 3 例、帝王切開術が 2 例であった。子宮の破裂部位
は、既往切開創にとどまるものが 2 例、既往切開創か
ら正常筋層にいたるものが 2 例、無関係に発症したも
のが 1 例であった。経腟分娩の内、2 例において陣痛促
進剤の使用と吸引分娩が施行されており、出血性ショ
ックを併発し、1 例は子宮全摘術となっている。ほかの
4 例は子宮温存が可能であった。出血量は 1200ml から
5268ml であり、2 例で輸血を行っている。児について
は、生下時体重 1949g から 3036g であった。ApgarScore
は 1 分値で 0 点から 8 点、5 分値で 1 点から 9 点と開き
があり、1 例では生後 49 日目に永眠となった。4 例で
は後遺症なく順調な経過をたどっている。
子宮破裂は既往手術のある症例、巨大児や回旋異常時
の分娩、陣痛促進剤の使用時にそのリスクが高くなる
とされているが、今回われわれの症例においても帝王
切開術後や筋腫核出術後、陣痛促進剤の使用時に発症
している。しかし、発症にいたる背景や経過、その後
の予後は異なっている。当院においても帝王切開数が
増加してきており、今後も潜在的な子宮破裂のリスク
が増えていくことが予想され、適切な診察と対処が必
要であると考えられる。
461
光線療法時の治療開始・中止マーカーとし
てのアンバウンドビリルビンの有用性
JA 北海道厚生連 網走厚生病院小児科
○立花 幸晃、鳥海 尚久
【はじめに】新生児高ビリルビン血症に対する光線療
法の際に、中村らによる基準は血清総ビリルビン濃度
(以下、T.Bil)
、血清アンバウンドビリルビン濃度(以
下、UB)による評価を推奨しているが、各日齢の T.Bil
による村田、井村の基準が頻用されている。今回、当
科で光線療法を実施した正期産児の治療開始時、中止
時の T.Bil、UB を後方視的に調査し、UB の治療開始時
および中止時のマーカーとしての有用性を検討したの
で報告する。【対象】2003 年 4 月から 2006 年 3 月まで
の期間、光線療法にて当科入院となった出生体重 2500g
以上の正期産児 116 例(男:女=58:58)を対象とした。
【方法】光線療法は村田、井村の基準または中村らの
基準に従って実施し、開始時、中止時、中止翌日の
T.Bil、UB を集計した。尚、T.Bil、UB 測定は酵素法に
て測定した。【結果】治療開始時の平均 UB は 0.75±
0.17μg/dl、中止時の平均 UB は 0.47±0.11μg/dl で
あった。治療開始前日に UB が基準を超えたのは 24 例
で、日齢 4 開始群で 12/47 例、日齢 5 開始群で 12/28
例であった。平均 UB は日齢 4 開始群で開始前:0.72±
0.10μg/dl、開始時:0.85±0.22μg/dl、日齢 5 開始
群で開始前:0.77±0.10μg/dl、開始時:0.89±0.09
μg/dl であった。中止時に UB≧0.6μg/dl であったの
は 18 例(平均 UB:0.66±0.04μg/dl、リバウンド平均
UB:0.59±0.12μg/dl)で再治療を要したのは 1 例で
あった。
【考案】今回の検討では、光線療法開始時の平
均 UB は 0.75±0.17μg/dl であった。治療前日に T.Bil
は開始基準に到達しなかったが UB が開始基準を超えて
いた 24 例は翌日には光線療法実施となった。従って、
UB は T.Bil よりも鋭敏な治療開始マーカーである可能
性が示唆された。中止時の平均 UB は 0.47±0.11μg/dl
で、中村らの開始基準を下回ったものの中止時の UB が
0.6μg/dl 以上の 18 例は T.Bil の有意な上昇がみられ
ず、再治療となったのは 1 例であった。この結果、今
回の検討では UB 単独で治療中止マーカーとした場合、
治療期間が延長する可能性があり T.Bil と併せての判
断が必要かと思われた。
母乳不足により交換輸血を必要とする重
症黄疸を発症した成熟新生児の 1 例
新潟市民病院 新生児医療センタ○山崎 肇、山崎 明、永山 善久
【はじめに】母乳性黄疸は一般に後遺症のない予後良
好な黄疸とされているが、血清 T-bil.の異常高値のた
め交換輸血を必要とした基礎疾患のない完全母乳栄養
の成熟新生児を経験した。母乳性黄疸といえども緊急
に治療的介入が必要な場合があると考える。【症例】13
生日の男児。近医で在胎 38 週 6 日に正常経腟分娩で出
生した。出生体重 3315g、Apgar score8 点(1 分)
、9
点(5 分)であった。4 生日に血清 T-bil.17.9mg/dL
と上昇し光線療法を 24 時間施行され、5 生日に 12.4mg
/dL と低下し産院を退院した。13 生日に血清 T-bil.
の異常高値と体重増加不良を指摘され、当院新生児医
療センタ-に紹介入院した。問診から母乳不足が示唆さ
れた。入院時、血清 T-bil.35.1mg/dL と異常高値で、
産院退院から当院入院までの 8 日間の体重増加は 6.5g
/日と不良であった。児の全身状態は良好であったが、
腹部膨満をきたし腹部単純撮影像でも腸管ガスの拡張
を認めた。血液検査では溶血性貧血、感染および甲状
腺機能低下症などの基礎疾患は認めなかったが、血清
T-bil.の異常高値のため直ちに交換輸血を施行し、
16.0mg/dL まで低下した。以後、血清 T-bil.値の再上
昇を認めなかった。また、母乳不足のため混合栄養を
併用した結果、体重増加は良好であった。神経学的評
価では、聴性脳幹反応、脳波および頭部 MRI の所見に
異常を認めなかった。現在、外来で発達をフォロ-アッ
プしている。【考察】母乳不足により腸管蠕動が低下し
その結果ビリルビンの腸肝循環が異常亢進し、重症黄
疸をきたしたと考えた。わが国では母乳性黄疸により
核黄疸を発症したとの報告はないが、基礎疾患のない
完全母乳栄養の成熟新生児であっても、母乳不足によ
り体重増加不良をきたした場合は血清 T-bil.が時に異
常高値になる可能性があると考える。
P-391
P-392
462
In vitro でのグリーン LED を用いたビリ
ルビン光異性体の推移の検討
香川大学 医学部 小児科
○岩瀬 孝志、小谷野 薫、岩城 拓磨、西庄 佐恵、
黒見 徹郎、西田 智子、今井 正、磯部 健一、伊
藤 進
HPA-3a 抗体による新生児同種免疫性血小
板減少症の同胞例
東京都立大塚病院 新生児科 1、東京都 多摩がん検診
センター2
○岩村 美佳 1)、菅 御也子 1)、岡田 真衣子 1)、大橋
祥子 1)、藤中 義史 1)、増永 健 1)、瀧川 逸朗 1)、井
村 総一 2)
新生児同種免疫性血小板減少症(以下、NAIT)は母
児間の血小板抗原の不適合により、母体の産生した抗
血小板抗体が胎盤を通過し、胎児・新生児の血小板減
少を来す疾患である。今回、第 1 子が抗 HPA-3a 抗体に
よる NAIT を発症し、妊娠中より第 2 子の管理をおこな
った同胞例を経験したので報告する。 【家族歴】母は
第1子妊娠前に胞状奇胎で1回流産、その後子宮筋腫
の手術歴がある。SLE や ITP の既往はない。 【第1子
経過】在胎 38 週 5 日、出生体重 2786g、Apgar Score 9
点(1 分)
。予定帝王切開にて出生した女児。日齢1よ
り広範囲な皮下点状出血と血小板減少を認め、当院に
新生児搬送された。入院時の血液検査では血小板数が
1000/μl と極めて低値であり直ちに免疫グロブリンを
静注し濃厚血小板を輸血した。感染症、DIC は否定的で
あり、日齢 10 に抗 HPA-3a 抗体が陽性であることが判
明したため、NAIT と診断し、以降は HPA-3 抗原の適合
した血小板を輸血した。日齢 36 に血小板数が正常化、
日齢 40 に軽快退院した。経過中、頭蓋内出血は認めな
かった。両親の HPA-3 抗原を調べたところ、母が b/b、
父が a/a であるため、児は必ず a/b となり、次の妊娠
でも児が NAIT を発症する可能性が指摘された。 【第
2子経過】NAIT を発症することが予想されたため、妊
娠中は超音波検査により慎重に経過観察した上で、経
膣分娩では頭蓋内出血の危険性が高まるため、帝王切
開で出生した。当院輸血科と連携し出生前より HPA-3
抗原の適合した濃厚血小板を準備した。
在胎 37 週 4 日、
出生体重 2608g、Apgar Score8 点(1 分)/9 点(5 分)。
全身状態は良好であったが、四肢に点状出血斑を認め
た。出生時の血小板数は 5、000/μl と低値であった。
免疫グロブリン投与および血小板輸血を行い、良好な
経過を得た。【考案】HPA(human Platelet Antigens)の
中で HPA-3a による NAIT とりわけ第1子より第2子で
は重症化しやすいといわれており、今回のように妊娠
中から慎重な経過観察と出生後の血小板減少に迅速に
対応できる準備が重要であると考えられた。また、新
生児の血小板減少を認めた場合 NAIT の存在を考えて、
早めに HPA などの抗血小板抗体の検索を行うことが重
要である。
P-393
P-394
【目的】LED(light emitted diode)は新しい光療法
の光源の一つとして使用されてきている。以前、矢口
らが、純緑色発光ダイオード(LED)を開発し、発表(未
熟児新生児誌 1997、9、17-26)している。しかし ピ
ーク波長が 525nm で光療法の最も効果を有する波長域
とはずれが生じており、cyclobilirubin(cycloBR)の
生成率も低値であった。今回、新しいグリーン LED(ベ
ッド型)
(トーイツ)
(ピーク波長を約 500 nm)が、開
発されており、それに関し、in vitro の検討を行った。
さらに以前の発表データ(未熟児新生児誌 1997、9、
17-26)に基づいて、他の光源と比較を行った。
【方法】
ビリルビン(東京化成)と HAS(Sigma)を用いて複合
体 溶 液 ( HAS 2g/dl 、 ビ リ ル ビ ン 10mg/dl 、 0.1M
phosphate buffer pH 7.4)を作成し、1ml ずつ 10ml
パイレックス管に入れ、グリーン LED 光照射面上に水
平に静置し、0、5、15、20、30 分間光照射した後、高
速液体クロマトグラフィー(HPLC)にてビリルビンお
よびその光異性体を測定した。そして CycloBR((EZ)
-cyclobilirubin と(EE)-cyclobilirubin の合計))の
生成量と(ZE)-bilirubin/(ZZ)-bilirubin 比を経時的
に求めた。【成績】Minolta Fluoro-LiteMeter 451
での光エネルギーの測定値は 60μW/cm2/nm であり、
CycloBR の初期生成量は約 0.30mg/dl/min であった。
(ZE)-bilirubin/(ZZ)-bilirubin は 0.15 前後であっ
た。
【結論】グリーン LED の CycloBR の初期生成量は
BiliBlanket Plus と比べると低い値を示したが、
(ZE)
-bilirubin/(ZZ)-bilirubin は、510nm 前後をピークと
するグリーンライトと同様の値を示していた。グリー
ン LED は、DNA 鎖切断、細胞の生存率低下が指摘されて
いる紫外線や 400~450nm の光が含まれなく、さらに、
光療法の最も効果を有する波長域にピークを示してい
るため、今後さらに、光源との距離、光照射の面積を
考慮し、再度 in vitro で検討し、臨床の場に応用して
いくことを予定している。
463
新生児鉄貯積症と血球貪食症候群の鑑別
が困難だった MD 双胎の第 1 子例
昭和大学 小児科
○澤田 まどか、中村 俊紀、櫻井 基一郎、西田 嘉
子、水谷 佳世、水野 克己、板橋 家頭夫
新生児鉄貯積症は原因不明の劇症型肝疾患で胎児期発
症の同種免疾患と推測されている。肝不全と血球二系
統減少で発症し新生児鉄貯積症と血球貪食症候群の鑑
別が困難だった MD 双胎の第 1 子例を経験した。
【現病
歴】父はスコットランド人。叔父 2 人が成人ヘモクロ
マトーシス。母は 0 妊 0 産。27 週 3 日に第 1 子心音低
下と双胎間輸血症候群の増悪で緊急帝王切開となっ
た。第 1 子は 1130g、Apgar score 1 点/7 点。第 2 子は
1205g、Apgar score 2 点/5 点。胎盤は 800g で血管吻
合がみられたが discordancy はなかった。
【第 1 子入院
時所見】活動性不良、心音:整・170 回/分、人工換気
中、肝臓 2cm、末梢冷感あり【第 1 子入院時血液検査】
WBC11400/μl、RBC422×104/μl、Hb15.7g/dl、Plt12.1
× 104/μl、 Alb2.7g/dl 、Cr0.6mg/dl、 AST496IU/l、
ALT61IU/l、LDH1435IU/dl、IgM<4mg/dl、CRP0.01mg/dl、
BS36mg/dl【第 1 子経過】呼吸窮迫症候群と診断しサー
ファクタント補充を行った。輸液開始後も血糖値が安
定せず糖輸液速度を増加した。高値であった AST と ALT
は更に上昇し、日齢 2 に白血球と血小板の減少、凝固
異常がみられ DIC と診断した。血清フェリチンは異常
高値だった。抗 DIC 療法を行うも日齢 4 に肺出血し、
日齢 5 に呼吸不全により永眠された。病理解剖では肝
細胞の広範な壊死と壊死巣への鉄を含んだ組織球侵潤
が多数見られたが、残存正常肝組織には鉄沈着がなか
った。膵臓・脾臓・消化管に鉄沈着や組織球侵潤は無
く、腎臓には少数の鉄を含んだ組織球が存在した。骨
髄では比較的多くの血球貪食像が見られたが、肝臓で
の組織球活性の状況を考えると妥当であるとの見解で
あった。
【第 2 子経過】呼吸窮迫症候群・新生児遷延性
肺高血圧症の診断で、サーファクタント補充と NO 吸入
療法を行い、日齢 9 に人工呼吸器より離脱した。経過
中、血算・肝逸脱酵素・凝固・血清鉄・フェリチン・
AFP の異常はなく腹部 MRI も正常だった。
【考案】新生
児鉄蓄積症は肝臓、心臓、膵臓、内分泌臓器への鉄沈
着が見られる。第 1 子では肝壊死巣に多数の鉄貪食後
の組織球が存在したが、正常肝細胞や他の部位への明
らかな鉄沈着が確認できなかった。また骨髄では血球
貪食像が見られ、末梢血では二系統の減少を来たした。
胎内または出生前後の高サイトカイン血症による病態
を考えたが、その診断は困難だった。また、第 2 子に
異常所見は無かったが、新生児鉄蓄積症の推測される
発症機序より今後も注意が必要だと思われる。
TAM を合併した Down 症候群の超低出生体
重児に、特異的な肝病理所見を認めた一例
埼玉県立小児医療センター未熟児新生児科
○河野 淳子、川畑 建、藤沢 ますみ、長沢 真由
美、宮林 寛、清水 正樹、鬼本 博文、大野 勉
【はじめに】 一過性骨髄増殖症(TAM)は Down 症(DS)の
約 10%に合併し、通常予後良好な一過性病変と認識され
ている。近年、重篤な肝繊維症を合併し、予後不良で
あった症例の報告を散見する。今回、DS の ELBWI に TAM
を合併し、重篤な肝不全で死亡した症例において、こ
れまでの報告と異なった特異的な肝病理所見を認めた
ため報告する。
【症例】母体 43 歳 2 経妊 2 経産、妊娠
経過に異常なし。胎児心拍モニターにて異常を認めた
ため緊急帝王切開施行。在胎 30 週 4 日、出生体重 617g、
アプガースコア 1 分値 4 点、5 分値 8 点。出生時より呼
吸障害認め、人工呼吸管理施行。特異的顔貌認め、染
色体検査より DS と診断された。
入院時の検査所見では、
白血球 11300/μl、芽球 54.0%で以後の臨床経過より
TAM と診断された。先天性心疾患なく、鎖肛が認められ、
日令1にストマ増設術施行。日齢 4 抜管。その後全身
状安定したが、貧血が出現し、頻回の輸血を要した。
直接、間接クームスは陰性。日齢 12 頃より、白色便認
めるもシュミット陽性であった。腹部エコー所見上胆
道系に明らかな異常なく、また触診上肝腫大なし。し
かし、肝逸脱酵素の上昇、D-bil が上昇し、皮膚色黄染
著明であった。尿中アミノ酸分析では異常なし。芽球
は日齢 60 に陰性となった。日齢61 より呼吸状態が悪
化し、日齢 64 に再挿管となった。また腹部エコーにて
明らかな腹水を認め、その後急激に増加し、それに伴
い循環不全も進行し、日齢 87 死亡した。肝病理所見で
は肝繊維症とその他の特異的所見を認めた。【考察】
TAM の重症化の有無やその病態は現在不明な点が多い
とされている。本症例では、今までの報告にある著明
な肝の繊維化のみでなくその他の特異的な所見を認め
たため、文献的考察を加え報告する。
P-395
P-396
464
多臓器にわたる線維化を認めた TAM 併発
21 トリソミーの一例
富山大学附属病院周産母子センター1、富山市立富山市
民病院小児科 2
○小川 次郎 1)、二谷 武 1)、伊奈 志帆美 1)、宮脇 利
男 1)、金田 尚 2)、三浦 正義 2)
【はじめに】一過性骨髄異常増殖症(TAM)は末梢血液中
の巨核球系幼若細胞の出現を特徴とし、21 トリソミー
の約 10%に合併するとされる。多くは生後 2~3 ヶ月で
自然軽快するが、なかには進行性の肝障害などにより
致死的経過を示す例も存在する。重症例に対して生後
早期の Ara-C 投与も試みられているが、その予後改善
効果は明らかではない。今回、我々は出生時より遷延
性肺高血圧症(PPHN)、無尿を呈し、早期からの Ara-C
投与を行うも救命し得なかった TAM 併発 21 トリソミー
の症例を経験した。剖検では肝臓のみならず、肺、膵
などにも線維化が認められた。線維化組織においては
血小板由来成長因子(PDGF)の発現も強く認められ、TAM
における線維化の要因として PDGF の関与も示唆され
た。
【症例】37 週、2430g にて出生の男児。チアノーゼ、
陥没呼吸が認められ搬送入院となった。顔貌より 21 ト
リソミーが疑われた。FiO2 1.0、HFO での呼吸管理施行
下での SpO2 は 70%台と低く、心臓超音波検査にて PPHN
と診断された。血液検査にて白血球数 20 万/μL と異常
増加を認め、55%が芽球であった。表面マーカーでは
CD41 陽性であり TAM と診断した。後に GATA-1 遺伝子変
異が確認された。交換輸血を施行し、HFO による呼吸管
理、一酸化窒素、血管拡張剤投与を行い、無尿に対し
CAPD を施行した。日齢 2 より Ara-C 投与を開始するも
臨床所見の改善は得られなかった。線維化マーカーで
あるヒアルロン酸、P-III-P、4 型コラーゲン 7S はいず
れも異常高値を示した。PPHN、腎不全の改善は得られ
ず、さらに、直接ビリルビン値の上昇、DIC が進行し、
日齢 36 に肝不全で死亡した。剖検にて肝、肺、膵など
に広範な線維化が認められ、それら組織において PDGF
の発現が強く認められた。
【まとめ】早期からの Ara-C
投与にもかかわらず、PPHN、腎不全、肝不全の進行に
より死亡した TAM 併発 21 トリソミーの一例を経験し
た。肝のみならず、肺などの線維化も著明であり、PDGF
の発現も強く認められたことより、線維化への PDGF の
関連が示唆された。重症 TAM を救命するには臓器線維
化の進行を防止する新たな治療戦略の確立が必要であ
ると考えられた。
電撃性紫斑病様の経過をとった非免疫性
胎児水腫の同胞例
兵庫県立こども病院 周産期医療センター 新生児科
○秋田 大輔、坂井 仁美、上田 雅章、柄川 剛、
吉形 真由美、溝渕 雅巳、芳本 誠司、中尾 秀人
P-397
P-398
【はじめに】非免疫性胎児水腫の同胞例についての報
告は少ない.今回胎児水腫の同胞例で,両児とも出生
後に皮下出血斑の増強を認めた症例を経験したので報
告する.
【症例 1】在胎 32 週 4 日,
出生体重 3026g,
Apgar
score 3/7( 1 分/5 分)で出生した女児母体は血液型 O
型,Rh 陽性.経妊 0 回・経産 0 回.在胎 32 週 1 日,胎
児水腫を指摘され,32 週 4 日右胸水吸引術施行後帝王
切開にて出生.出生時,胸水及び全身の著明な浮腫・
点状出血斑を認め,循環管理にカテコラミン,ステロ
イド,濃厚赤血球等の各種血液製剤を要した.日齢 2
に利尿はつき始めたが,全身浮腫・著明な紫斑が進行.
重症黄疸に対して交換輸血を 2 回施行するも日齢 6,重
篤な皮下出血に伴う多臓器不全で死亡.
【症例 2】在胎
36 週 2 日,出生体重 2566g,Apgar score 7/8( 1 分/5
分)で出生した女児. 在胎 24 週 2 日,胎児水腫を指
摘された.羊水染色体検査 46XX.27 週より母体へのジ
ゴキシン投与開始.33 週時胎児胸水は消失,35 週時に
は皮下浮腫も改善を認めた.在胎 36 週 2 日,予定帝王
切開にて出生.出生時,皮下浮腫は顔面及び下肢に強
く認めた.胸水は認めず.胎児水腫に伴う呼吸障害に
対し日齢 0 より挿管管理開始.利尿乏しく,循環動態
維持の為カテコラミン,FFP,ハイドロコルチゾン等の
投与を要した.皮下出血は日齢 0 には顔面に軽度認め
る程度であったが,日齢 1 に下肢に点状出血斑が出現.
日齢 4 にかけ下肢,体幹へと増強した.血液検査上,
貧血の進行と線溶系の著明な亢進(日齢 4:D-dimer44.5
μg/ml FDP66.5μg/ml)を認め,濃厚赤血球輸血及び
FOY 持続点滴を施行した.以降は皮下出血斑の増強は認
めずも,線溶系の亢進及び下腿の浮腫は遷延した.出
血傾向・線溶系亢進の原因として第 13 凝固因子欠乏症
や proteinC,ptoteinS 欠乏症等を疑った.日齢 4 では
proteinC 活性 51% 抗原量 66%と低下は軽度であった
が,日齢 10 には活性は 27%に低下し,以後も活性・抗
原量とも 30%前後で経過した.両親の proteinC 活性/
抗原量は正常値であった.
【考察】第1子において電撃
性紫斑病様の経過を辿り,第 2 子でも同様に経過中の
皮下出血斑の増強を認めたことから,proteinC 欠乏症
を疑った.同胞に胎児水腫をきたした原因として,遺
伝性凝固線溶異常の関与を推測した.
465
P-399
当科における高年初産の検討
当院における高年出産の統計ー初産と経
産にわけてー
日本大学 医学部 産婦人科
○永石 匡司、渡辺 征雄、中島 義之、正岡 直樹、
山本 樹生
【目的】女性の社会進出などによる晩婚化、少子化に
伴って高年出産は増加傾向にある。初産年齢の上昇に
伴い、経産年齢の上昇でも産科的有害事象の増加が危
惧される。今回は当院における 35 歳以上の高年初産と
40 歳以上の高年経産について検討した。【方法】1987
年 1 月から 2000 年 3 月までに分娩した日本人 9634 例
で、初産を 35 歳で経産を 40 歳 でわけて母体背景、産
科合併症、偶発合併症、児の出生時現症、合併症、付
属物異常などにつき後方視的に検討した。
【成績】高年
出産の割合は 1987 年の 14.3%から 1999 年の 20.4%ま
で増加していた。日本人 9634 例中初産は 5925 例
(61.5%)で、経産は 3709 例(38.5%)であった。初
産で 35 歳未満は 5186 例(88.2%)
、35 歳以上は 695
例(11.8%)であった。このうち SGA 児はそれぞれ 244
例(4.7%)
、58 例(8.4%)
、早産は 566 例(11.2%)
、
114 例(16.8%)で高年初産に有意に多かった(p<
0.001)。経産で 40 歳未満は 3581 例(97.1%)
、40 歳以
上は 107 例(2.9%)であった。このうち SGA 児はそれ
ぞれ 193 例(5.4%)、9 例(8.4%)、早産は 461 例
(13.1%)
、21 例(19.8%)で高年経産に有意に多かっ
た(p<0.05)。高年初産の背景は肥満、常勤職 、不妊
症治療後が多かった。偶発合併症では心血管系異常、
本態性高血圧、甲状腺機能亢進症、その他の甲状腺機
能異常、子宮筋腫が多く、産科合併症では妊娠糖尿病、
妊娠高血圧症候群、多胎、前置胎盤、羊水過多が多か
った。分娩時異常は non-reassuring fetal status、胎
位異常、軟産道強靱、CPD が多く、分娩方法は帝王切開
が予定、緊急ともに多かった。新生児異常は SGA 児、
奇形、チアノーゼが多かった。高年経産の背景は前置
胎盤や出血多量の既往、骨盤位の既往、偶発合併症で
はその他の甲状腺機能異常、子宮筋腫が多く、産科合
併症では妊娠高血圧症候群が多かった。分娩方法は帝
王切開が予定、緊急ともに多かった。【結論】当院でも
高年出産は増加傾向にあり、背景に生活習慣病に類す
る疾患が多かった。分娩方法は帝王切開が予定、緊急
ともに多かった。新生児異常は早産児、SGA 児、奇形が
多く、実際に新生児管理を要する症例が多かった。
P-400
香川大学 医学部 周産期学婦人科学
○花岡 有為子、柳原 敏宏、犬走 英介、金西 賢
治、山城 千珠、田中 宏和、秦 利之
【目的】近年の女性の社会進出に伴う晩婚化や不妊治
療の進歩により妊産婦の高年齢化が進んでいる。高齢
妊娠の増加に伴い、高年初産も増加の傾向にある。今
回我々は、当院にて取り扱った分娩時 35 歳以上の高年
初産症例において、妊娠および分娩予後についての検
討を行ったので報告する。
【方法】対象は 2002 年 1 月
から 2006 年 12 月までの 5 年間に当院で 22 週以降に分
娩となった単胎 637 症例とした。このうち 37 週以降で
分娩となった正期産の 571 症例について、分娩時の年
齢が 35 歳未満の群と 35 歳以上の高年初産群に分けて
比較検討した。統計学的検討には t 検定とχ2 検定を行
【成績】637 例のう
い、p<0.05 で有意差ありとした。
ち、分娩時の年齢が 35 歳未満は 573 例、35 歳以上が
64 例であった。分娩時週数が 37 週未満であった早産率
はそれぞれ 12.5%と 10.1%で有意差がなかった。正期産
の 571 症例において 35 歳未満の群 515 例と 35 歳以上
の高年初産群 56 例とで妊婦貧血、入院加療必要な切迫
早産、異常分娩(鉗子・吸引分娩、帝王切開)
、軟産道
強靱、分娩停止、胎児ジストレスの有無について比較
検討した。このうち妊婦貧血と異常分娩については p
=0.0051、p=0.001 で、高年初産群で有意に高率にみ
られた。妊娠中の体重増加については両群で有意差は
なかった。また、分娩予後に関して 35 歳未満の群と 35
歳以上の高年初産群でそれぞれ比較したところ、新生
児 体重は 3010.3 ± 416.5g と 3088.4 ±449.5g( p =
0.044)で高年初産群で有意に出生体重が重たかった
が、Apgar score1分値は 7.6±1.5 と 7.2±1.7(p=
0.025)、UApH は 7.254±0.537 と 7.156±0.933(p=
0.008)、分娩時出血量は 528±402g と 695±545g(p=
0.016)となり、いずれも高年初産群のほうが成績が悪
かった。
【結論】高年初産における妊娠・分娩には周産
期異常の出現が高くなる。今回の検討により明らかと
なった高年初産におけるハイリスク事象を十分認識し
たうえで、妊娠・分娩管理を行ってゆく必要がある。
466
当科における産科セミオープンシステム
の現況
独立行政法人 国立病院機構 呉医療センター・中国
がんセンター 産婦人科
○水之江 知哉、熊谷 正俊、花岡 美生、秋本 由
美子
【目的】産科オープン・セミオープンシステムについ
ては、地域医療のレベルの向上、医療事故防止、周産
期医療の安全性の観点から各地域で導入がすすめられ
ていくと考えられるが、当院ではこの 10 年間でいわゆ
る産科セミオープンシステムに徐々に移行してきたの
で現況を報告する。
【方法】平成 9 年、平成 13 年、平
成 18 年に当科で分娩となった 1,511 例を対象として紹
介患者の割合や母体搬送数の比較と、平成 18 年の分娩
例について里帰り分娩(里帰り群)
、当医療圏からの紹
介分娩(セミオープン群)
、当院で当初から経過をみた
分娩(院内群)の 3 者について帝切率、分娩時多量出
血率、早産率,低出生体重児率、新生児仮死率を比較し
た。
【成績】平成 9 年の分娩数は 410 例で、紹介数は 137
例(33.4%)、当医療圏からの紹介(セミオープン群)
は 18 例(4.4%)であった、平成 13 年の分娩数は 502
例で、紹介数は 256 例(51.0%)、セミオープン群は 94
例(18.4%)であった。平成 18 年の分娩数は 599 例で、
紹介数は 459 例(76.6%)、セミオープン群は 269 例
(44.9%)であった。平成 9 年と平成 18 年を比較する
とセミオープン群の割合が約 10 倍に増加していた。一
方、母体搬送数は平成 9 年の 33 例(8.0%)から平成 13
年 22 例(4.4%)、平成 18 年 9 例(1.5%)に減少してい
た。平成 18 年の分娩に関して帝切率は里帰り群 24.2%、
セミオープン群 23.4%、院内群 27.9%、分娩時多量出血
率は里帰り群 4.7%、セミオープン群 4.0%、院内群 1.4%、
早産率は里帰り群 6.8%、セミオープン群 5.6%、院内群
3.6%、低出生体重児率は里帰り群 13.3%、セミオープン
群 11.8%、院内群 11.4%、新生児仮死率は里帰り群 2.1%、
セミオープン群 2.2%、院内群 0%であった。いずれの比
較においても 3 群間に有意差を認めなかった。
【結論】
当科の分娩はいわゆるセミオープンシステムでの分娩
が 10 年前と比較し明らかに増加しているが、里帰り分
娩や当初から院内で健診を行い分娩にいたったものと
比較して周産期予後に大きな差はなかった。リスクが
高いと思われる症例も分娩時当科で管理されており、
当地域における病診連携が有効になされていると考え
られた。
当院における産科オープンシステムの検
討―新生児を中心に
大阪厚生年金病院小児科 1、大阪厚生年金病院産婦人科
P-401
P-402
2
○高田
慶応 1)
【背景】周産期医療体制が社会問題となる中、産科オ
ープンシステム(以下オープンシステム)が注目され
ている。当院では周産期医療による地域貢献を目的に
2004 年6月よりオープンシステムを開始した。開始に
あたっては分娩室の整備とともに新生児の治療を行う
ための新生児センター(NICU+GCU 計 8 床)を整備し、
病的新生児にも対応できる体制を強化した。当院のオ
ープンシステムは予め登録した開業産婦人科医師や開
業助産師が利用する形をとっている。現在、登録施設
数は産婦人科医院 25 施設、助産院 28 施設である。【目
的】今回、当院でのオープンシステムについて新生児
診療の状況を中心に検討したので報告する。方法およ
び対象 2004 年6月より 2006 年 12 月の間に本システ
ムを利用し、当院で出生した児の状況を分娩台帳、カ
ルテより後方視的に検討した。
【結果】オープンシステ
ムで 168 人(うち双胎7組)が出生した(2004 年 6 月
~12 月 26 人、2005 年 69 人、2006 年 73 人)。同時期の
当院の出生数は 1168 人(2004 年 6 月~12 月 231 人、
2005 年 438 人、2006 年 499 人)で、院内出生数に対す
る比率は 14%であった。利用者の内訳は産婦人科医院
16 施設から 110 人(内双胎 7 組)
、助産院 10 施設から
58 人であった。出生時の在胎週数は 39.2±2 週(mean
±SD)(31 週6日~42 週3日)
、出生体重 2975±471g
(1640~3968g)
、経膣分娩 129 人(うち双胎4組)
、
帝王切開 39 人(うち双胎 3 組)であった(帝王切開率
28.8%)
。アプガースコアは1分値 8.3±0.8 点
(3~10)、
5分値 9.1±0.6 点(7~10)であった。出生後、小児
科管理(光線療法や一時的な輸液などを除く)を必要
とし、新生児センターに入院した児は 21 人(12.5%)
あった。うち 2 例(食道閉鎖症、脊髄髄膜瘤)が治療
のため他院に転院、他は生存退院した。
【考察】産科オ
ープンシステムを利用し、当院で出生した児の中に重
症例は少なかったが、12%の児が小児科による入院治
療を必要としていた。産科オープンシステムの運用に
は産科だけでなく、新生児医療を提供できる小児科の
充実が必要であると考えられた。
【結語】産科オープン
システムの効果的な運用には小児科の関与が必須であ
る。
467
P-403
地方における集約化の現状
名寄市立総合病院
○宮川 博栄、北村
晋一、川村
旭川厚生病院における周産期医療の地域
化と今後の問題点
旭川厚生病院 小児科
○白井 勝、五十嵐 加弥乃、土田 悦司、大久保 淳、
雨宮 聡、小久保 雅代、梶野 真弓、高瀬 雅史、
坂田 宏、沖 潤一
【目的】旭川厚生病院 NICU は北海道の道北地域の新生
児医療の中核をなし、新生児・母体搬送の受入れを積
極的に行って来た。過去の搬送依頼地域の総面積は2
1,400平方 Km(東京都の10倍)に及び、搬送距離
は片道200Km を越える。昭和63年4月の病院移転
から新生児救急車が導入され、当初 NICU 総病床数は2
0床であった。平成7年6月に NICU 施設基準承認病床
6床、平成8年3月には9床の認定を受け、増改築後
の平成18年4月からは NICU12床と GCU16床の合
計28床となった。今回は平成 1 年から18年までの
入院患者、特に超低出生体重児の入院様式と死亡率を
まとめ、今後の問題点を検討した。
【結果】年間平均入
院数は前期(平成 1~6年)183名/中期(平成7~
12年)197名/後期(平成13~18年)211
名で、院内出生率は44/48/64%であった。超低
出生体重児の平均入院数は11/11/13名で、院
内出生率は72/87/86%、死亡率は30.9/1
2.5/16.7%であった。後期前半平成13~1
5年/後半16~18年では、平均入院数は12/1
4名、院内出生率92/78%、死亡率8.1/24.
4%であった。
【考察および結語】入院数は増加し、院
内出生も50%を越えた。超低出生体重児の入院も後期
に増加し、後期前半では院内出生率が92%に達し、
死亡率も8.1%となった。しかし、後期後半には院
内出生が減少し、死亡率が増加した。後期前半0であ
った出産まで産科未受診が後半3例いた。北海道道北
地区の周産期システムは地域化が進み、周産期センタ
ー的役割を担う施設への母体搬送、院内出生が増加し
死亡率も低下して来た。しかし、新たな妊娠母体胎児
管理の問題として経済的理由による妊婦検診の劣悪な
受診状況が、未熟児の生存に大きくかかわって来てい
る可能性が考えられた。平成18年の北海道の失業率
は全国5位、旭川市の生活保護率(全国平均11.6‰)
は31.9‰(うち母子世帯受給18.1%)で年々
増加して来ている。当院は助産施設であるが、シング
ルマザーの出産はここ10年で3倍(4.8%)にな
った。市内の児童虐待も増加しており、胎児虐待とも
考えられる劣悪な妊婦検診受診状況を改善することは
急務であり、経済的な貧困が胎児・新生児に悪影響を
及ぼすことのない社会構造の構築が必要である。
P-404
光弘
【はじめに】産科医の減少ともない産科医師の過酷な
勤務状況の改善や良質な医療を提供するために分娩場
所の再編成がすすめられてきた。旭川以北の道北地域
において 2004 年から 2006 年にかけて分娩取り扱いを
休止または制限した施設は 3 施設であり、そのため当
院の医師数は 3 人から 4 人(2004 年度のみ 5 人)へと増
員された。再構成により産科医師の勤務状況の改善お
よび良質な医療を提供が進んだかを検討する。
【方法】当院で 2003 年から 2006 年まで分娩したもの
を対象とし、通院圏の変化、分娩時救急搬送になった
妊婦の分析および当院産婦人科医の一人あたりの分娩
取り扱い数、時間外に取り扱った分娩数に関して考察
する。
【結果】当院の 2003 年の分娩数は 450 人 そのうち時
間内の分娩数は 231 人、時間外が 219 人であった。医
師一人あたりの分娩取り扱い数は 150 人、時間外は 73
人であった。一方 2006 年の分娩数は 598 人、時間内の
分娩数は 313 人で時間外は 285 人、医師一人あたりの
分娩取り扱い数は時間内で 149.5 人、時間外は 71.3 人
でほとんど変化がなく一人あたりの分娩件数で考える
と勤務状態の改善はみとめられなかった。通院に 2 時
間以上要した妊産婦は 2003 年が約 17%であったのに
対し 2006 年は 19%であった。さらに 2 時間 30 分以上
要した妊婦は 2003 年が約 0.4%であったのに対し 2006
年は約 3%であった。分娩にともなう救急車による市外
からの搬送は 2003 年には 1 人だったが 2005 年には 5
人であった。2005 年には常位胎盤早期剥離を発症後す
ぐに行動をおこしたとおもわれるが、当院到着まで約
3時間要し母体は救命できたが、胎児は死亡した症例
があった。
【結論】当科においては産婦人科医師一人当たりの仕
事量は減少していないとおもわれ、勤務状態の改善は
みとめられなかった。また妊産婦の通院圏は拡大し負
担を要しているだけでなく、遠方のためのリスクを抱
えることを余儀なくさせている状態である。現段階で
は集約化の目的を達成できているとはいえない状況で
ある。
468
愛知県東三河地域における周産期医療集
約化の現状と問題点
豊橋市民病院 小児科
○杉浦 時雄、谷田 寿志、忍頂寺 毅史、岸本 恵
美子、清澤 秀輔、牧野 泰子、戸川 貴夫、安田 和
志、幸脇 正典、小山 典久
【はじめに】東三河は愛知県の東に位置し、東は静岡
県、北は長野県に隣接する地域である。豊橋市民病院
新生児医療センターは東三河全域を医療圏とし、愛知
県周産期医療システムのなかで、地域周産期母子医療
センターと位置づけられる地域唯一の新生児三次医療
施設である。病床数は NICU 12 床、GCU 23 床の計 35
床で、年間入院数 450 例前後、超低出生体重児 20 例前
後を含む極低出生体重児は 50 例前後である。東三河に
おける周産期医療集約化の現状を報告し、今後の問題
点を考察する。【現状】1. 東三河において新生児を
管理できる病床が減少している。年間約 100 例の新生
児入院があった近隣の 4 病院が産科・小児科の縮小・
閉鎖に伴って新生児室が閉鎖され、新生児を管理でき
る病院が相次いで消失した。これにより東三河の新生
児病床が 64 床より 48 床に減少した。また、極低出生
体重児に対応可能であった近隣の市民病院も産科・小
児科の医師減少から新生児病棟の縮小を余儀なくされ
ている。一方、集約化され患者が集まる当院の病床数
は 35 床のままである。当地域の出生数は減少傾向にあ
るが、低出生体重児の出生数は減っておらず、極低出
生体重児・超低出生体重児の入院数も減少していない。
2. 当院において長期入院症例が増加している。先天
奇形、重症仮死等のため、長期人工呼吸器管理を必要
とする児が常時数名入院しており、その数は増加傾向
にある。医療的ケアが必要であること、転院施設の不
足などにより退院が困難な状況にある。また、超低出
生体重児の救命率も向上し、これらの長期入院児の増
加が病床数を圧迫し、新たな緊急性の高い新生児搬
送・母体搬送の受け入れに影響を及ぼしている。【考
察】周産期医療の集約化は避けられない流れである。
実際東三河では、産科・小児科医不足から集約化が否
応なしに進んでしまっている。周産期医療の集約化は
マンパワーのみでなく、センター病院の増床などハー
ド面においても集約化されないと成り立たない。規模
が縮小する病院のみでなく、拡大する病院にもサポー
トが必要である。また、在宅医療を進めるにあたって
は、ショートステイ、レスパイト、訪問看護、緊急時
の対応、経済的援助など、家族の負担を減らすべく支
援体制の整備が必要である。周産期医療体制・在宅医
療支援体制は地域だけでなく、県や国の対策として重
要な問題である。
周産期母子医療センターネットワークの
データベースからみた熊本の周産期医療
熊本市立熊本市民病院 総合周産期母子医療センター
新生児科
○山口 宗影、持永 將惠、三木 裕子、川瀬 昭彦、
近藤 裕一、横山 晃子
【目的】
「周産期母子医療センターネットワーク」の構
築に関する研究班(主任研究者 藤村正哲、分担研究
者 楠田聡)は、1500g以下の児についてのデータベ
ース化を行なっている。治療結果を比較すると、救命
率が施設によって 78%から 100%と格差があることが明
らかになった。当施設は、補正なしの施設別死亡率は
ワースト1であった。熊本県における周産期医療の背
景や高い死亡率の原因を検索し、予後の向上の方策を
探った。
【方法】全国主要周産期母子医療センターに入
院した 2003 年出生の極低出生体重児(出生体重 1500
g以下)の共通データベースより、後方視的に解析し
た。
【成績】初年度の 2003 年は、全国 37 施設から同年
出生児の 25.6%である 2145 例が集計された。当施設は、
37 施設中 5 位の 85 例を登録した。施設別死亡率はワー
スト 1 だったが、補正死亡率は 5 位であった。全国と
比較して出生体重で 500g台は 16.3%(全国:6.0%)
、
在胎週数では 22 週と 23 週がそれぞれ 7.0%と 9.3%(全
国:1.6%と 4.3%)と有意に高かった。新生児の入院経
路で、院外出生は 10%で全国平均 14%よりは少なかっ
たが、院内出生に占める緊急母体搬送が、全国平均の
57%に比し 94%と多かった。分娩様式では、経腟分娩
の占める割合が 43%と 37 施設中 4 位であった。母体ス
テロイド投与および多胎、糖尿病、妊娠高血圧、前期
破水の妊娠合併症の頻度は全国平均であるにも関わら
ず、臨床的および組織学的絨毛膜羊膜炎が全国 2 位で
あった。慢性肺疾患の病型別頻度で、子宮内感染が先
行する型が 52%と全国の 23%に比し大変多かった。
【結論】熊本県において、児の死亡率、より未熟な児
の出生、子宮内の感染、緊急母体搬送、経腟分娩の割
合が全国に比して高かった。当施設への母体搬送のタ
イミングや切迫早産の予防、管理が要因の1つである
と考えられた。ベンチマーク手法を用いた施設間比
較・要因分析は、地域の周産期医療の特徴を把握し、
改善に向けての行動の道筋を示してくれる。
P-405
P-406
469
流産、死産、新生児死で子どもを亡くした
親への対応-医療者の立場から
神奈川県立こども医療センター 母子相談室 1、With
ゆう 2
○古屋 眞弓 1)、小川 伊津子 2)
流産・死産・新生児死で子どもを亡くした当事者は、
怒りや絶望、大きな悲嘆に陥るが、医療者の対応によ
る対応が当事者の心の回復に大きく影響していると当
事者の自助活動の中で感じている。医療者がどんなこ
とを感じながら対応しているのか、当事者の立場から
調査したので報告する。
【方法】
対象は周産期死亡で子どもを亡くした親(以下当事者
とする)に対応する医療従事者。当事者の対応に心がけ
ていること、どのような気持ちで対応しているかなど 4
項目について当事者が運営する当事者のためのウェブ
サイト及び交流会にて、無記名の記述式質問紙調査を
行った。
【結果】
平成15年7月から平成18年11月までの間、総数
39の回答を得た。回答数として多くはないが、どの
回答も長文で回答者の真摯な思いがこめられた内容で
あり、医療者からの癒される結果となった。当事者に
対応するときの医療者の気持ちについては、「できる
だけ当事者に寄り添いたい」「助けてあげられなくて
申し訳ない思い」と当事者の気持ちに配慮しつつも、
実際は「どうしてよいかわからない」「無力感におそわ
れる」という戸惑いや、
「泣いてはいけない」と自分の
中に湧き上がる自然な感情を無理に抑制しようとする
回答もあった。実際の対応では「当事者の意思を確認
しつつケアを行うこと」「傾聴すること」「時間を惜し
みなく提供すること」など、多忙な医療現場のなかで
当事者に配慮した対応が行われていることがわかっ
た。
【考察】
「周産期の死」は医療者にとっても心理的葛藤や負担
を生み出しており、それを当事者の前で自らの自然な
感情を表出してよいか、戸惑いを感じていることが今
回の調査で明らかになった。医療者の「泣いてはいけ
ないと思い、涙を隠した」
「対応方法が分からない」こ
とを、当事者は「見捨てられた」
「腫れ物に触るような
対応」と感じ、孤独感を増強させているとも考えた。
今回の調査への協力は、医療者が当事者のサイトを検
索してアクセスすることに始まり、そこから当事者に
対しての個人的な感情を回答するといういくつもの心
的負担を伴うことを考えると、これら回答すべては、
医療者から当事者へ対して癒しとなっている。こうし
た医療者からの真摯な思いを当事者は素直に受け止め
て、当事者同士および当事者と医療者との連携を強化
していきたいと考えた。
【協力者】佐藤由佳、山本弥生、近藤真理、西村英代、
猪股幸、徳田礼枝、岡永真由美
流産、死産、新生児死亡で子どもを亡くし
た親が医療者へ求めること
With ゆう 1、神奈川県立こども医療センター2
○小川 伊津子 1)、古屋 眞弓 2)
P-407
P-408
流産・死産・新生児死で子どもを亡くす事は、予期せ
ぬ出来事であり、当事者は怒りや絶望、大きな悲嘆に
陥るが、自助グループ活動を通して医療者による対応
が心の回復に大きく影響していると感じた。そこで、
当事者がどのような対応を望むのか調査を行ったので
報告する。
【方法】
対象は周産期死亡で子どもを亡くした親(以下当事者
とする)。心のケアの有無、病院内での対応で良かった
事・悪かった事等について我々が運営する当事者のウ
ェブサイト及び交流会にて、記述式質問紙による調査
を行った。個人等が特定されぬよう倫理的配慮を行い、
結果の公開についての同意も得た。
【結果】
平成15年7月から平成18年11月までの間、総数
350回答が得られた。心のケアを受けていないが約
70%、受けたが約10%。他は、部屋や新生児の存
在等施設内での配慮不足の問題、臍の緒や手足形等形
見が欲しかったという意見が多かった。さらに「亡く
なった子どもを紙袋に入れ、物のように扱われた」
「今
回はデキソコナイ」等わが子を人間として扱ってもら
えない例もあった。反対に「名前を呼び生きているよ
うに接してくれた」
「手を握り一緒に泣いてくれた」等
の回答も複数あった。医療者の「泣いてはいけないと
思い、涙を隠した」
「対応方法が分からない」事が「見
捨てられた」「腫れ物に触るような対応」と受け取ら
れ、当事者を孤独にさせていた事も多かった。
【考察】
病院内で妊産婦と完全に切り離すことは難しいが、会
う機会を少なくする等の配慮は必要である。亡くなっ
た赤ちゃんを人間として対応しない事も多く、母子と
もに人間として尊重し配慮する事、健康なお産であっ
た子どもと同じ様に思い出の品を残す事が、心の回復
や次の妊娠に対する勇気や可能性を大きくするのでは
ないかと考えた。さまざまな説明の際には、専門用語
ではなく平易な言葉でゆっくり話すことで、医療者の
対応が親切だと感じる事が多いことがわかった。退院
後も身体だけではなく話をする機会等のフォローが必
要であり、医師がフォローを終了するなら心療内科の
紹介や当事者のケアに対応できる専門家をおく等の対
応が望ましいと考えた。この結果が全てではないが、
当事者の想いを受け止め、医療者に伝える活動を通し
て、周産期医療の環境がよりよいものとなるよう自助
グループ活動の継続に努力したい。
【協力】佐藤由佳、山本弥生、近藤真理、西村英代、
猪股幸、徳田礼枝、岡永真由美
470
当施設における新生児搬送の現状と今後
の課題
国立病院機構
○小形 勉、岩永 学、松尾 幸司、高柳 俊光
【緒言】当施設は佐賀中部医療圏に位置し、久留米(筑
後)医療圏に属する県東部を除く佐賀県の周産期医療
の中核的役割を担っている。年間入院数は約 300 例/年
で、そのうちの約 1/4 が院外出生児である。当科では
1999 年 11 月より医師同乗による新生児搬送業務を開
始した。搬送依頼は原則として全て受け入れ、当施設
で対応可能な場合は当施設で受け入れるが、当施設が
満床もしくは外科的適応を有する症例は佐賀大学や県
立病院に三角搬送を行っている。今回、当科の過去 8
年間の新生児搬送の現状と今後の課題について検討し
た。
【対象】1999 年 11 月~2006 年 12 月に当院に搬送
依頼のあったうち、三角搬送や Backtransfer 症例を除
く 576 例。
【検討項目】(1)紹介元施設の分類と地理、
(2)経年的に見た早産症例(28 週未満、35 週未満)と
重篤な新生児仮死症例の推移【結果】(1)一次産科施設
からの紹介は 495 例 85.9%、二次病院からの紹介は 81
例 14.1 % で 、 呼 吸 管 理 が 必 要 な 症 例 は 各 々 54 例
10.9%、24 例 29.6%と、二次施設からの搬送症例は重
症度が高い傾向にあった。紹介元は地域別に中部 297
例 51.6%、南部 151 例 26.2%、西部 81 例 14.1%、北
部 19 例 3.3%、東部 15 例 2.6%、県外 9 例 1.6%、自
宅・車中分娩 4 例 0.7%で、中部と南部が多数を占めた。
(2)2000 年から 2006 年まで各年の症例数は 28 週未満
(1、3、1、0、0、0、0)、35 週未満(7、16、7、8、6、2、
6)、気管内挿管を要した新生児仮死 24 例中、予後の評
価ができた 23 例の各年の症例数と予後(正常、重度後
遺症、死亡)は、2000 年 1 例(0、0、1)、2001 年 3 例(1、
0、2)、2002 年 2 例(1、0、1)、2003 年 2 例(0、2、0)、
2004 年 5 例(2、3、0)、2005 年 6 例(3、3、0)、2006
年 4 例(3、1、0)、正常 10 例 43.4%、重度後遺症 9 例
39.1%、死亡 4 例 17.4%で半数以上が予後不良であった。
【考案】新生児搬送開始後、一旦は増加した早産の症
例、特に 28 週未満の症例は 2001 年をピークに減少し
ており当県でも母体搬送が定着したことをうかがわせ
た。一方、新生児仮死症例は予後の改善が得られてお
らず、その対策として新生児蘇生講習会を昨年より開
催しておりその効果について今後検討していく予定で
ある。
当院 NICU に入院となった新生児搬送症例
の検討
市立豊中病院 小児科
○徳永 康行、松岡 太郎
【背景】当院は大阪府北西部の豊能医療圏に位置し、
NICU6 床、GCU10 床を有する。大阪府新生児診療相互援
助システム(以下 NMCS)に参加する1施設として地域
の周産期、新生児医療の一翼を担っている。ドクター
カーを所有しておらず、自院での搬送は行っていない
ため、新生児搬送症例は、出生した病医院から自治体
の救急車などにより直接当院に搬送される症例(以下
一次搬送)と、出生した病医院から NMCS 基幹病院に入
った搬送依頼に基づき、基幹病院のドクターカーによ
って当院に搬送される症例(以下二次搬送)に大別さ
れる。
今回、当院 NICU に新生児搬送入院となった児につい
て、搬送次別に、搬送となった地域や搬送理由につい
て検討した。
【対象】2000 年から 2006 年の 7 年間に当院 NICU に新
生児搬送となった 306 例。一次搬送 249 例、二次搬送
57 例。同一期間内の総入院数は 2085 例であり、新生児
搬送症例は入院総数の 14.7%であった。
【結果】一次搬送症例の紹介元施設は、豊中市内が約
60%、豊中市を含む豊能地区全体で 90%を占めていた。
それに対し、二次搬送では、豊能地区からの搬送は約
50%に過ぎず、大阪市内やその他の大阪府内から搬送さ
れており、より広域化していた。
搬送理由に関しては、新生児搬送症例全体では、多
い順に、呼吸障害、黄疸、感染、早産・低出生体重児
であった。搬送次別でみると、一次搬送では、黄疸、
呼吸障害、感染の順に多く、これら 3 者で半数を占め
た。二次搬送では、黄疸、感染の症例は認めず、呼吸
障害が過半数を占め、以下、早期産・低出生体重児、
無呼吸発作と続いた。搬送理由別の最終診断をみると、
呼吸障害では、新生児一過性多呼吸、air leak、胎便
吸引症候群の順に多かった。また、無呼吸発作で搬送
された児の約半数にくも膜下出血を認めた。
【まとめ】
当院 NICU に入院となった新生児搬送症例は、
一次、二次別で比較すると、搬送地域、搬送の理由は
大きく異なっていた。これまで当院 NICU では、新生児
搬送の要請にはほとんど応需できており地域での一定
の役割は果たせていると考えられた。しかし、昨年来、
母体搬送を積極的に受け入れる方針としてから、NICU
満床を理由に新生児搬送依頼を受諾できない状況も出
現してきており、今後の課題である。
P-409
P-410
471
わが国の新生児心肺蘇生の現状分析.第 4
報 新生児専門施設の現状.
東京女子医科大学 八千代医療センター 新生児科 1、
厚生労働科学研究 周産期医療ネットワーク班 2
○和田 雅樹 1,2)、田村 正徳 2)、近藤 乾 1,2)
【目的】わが国の新生児専門施設での新生児心肺蘇生、
および新生児仮死の実態を調査し、その問題点を明ら
かにする。
【方法と対象】日本周産期新生児医学会・周
産期(新生児)専門医研修施設(2005 年 12 月時点の暫
定基幹・指定施設。以下、専門施設)の新生児医療担
当者に対し、新生児心肺蘇生の体制、医療設備、準備
薬剤、低アプガースコア児と胎便吸引症候群の発症頻
度、蘇生の教育法などに関して郵送によるアンケート
調査を行った。
【結果】専門施設 265 施設中 208 施設(回
収率 79.7%)から回答を得た。全ての施設が蘇生時に保
温しており、ほとんどが開放式保育器を使用していた。
蘇生の場に吸引、酸素投与装置は常備されているもの
の、ブレンダーは 48%の施設に備えられているのみであ
った。また、バルブシリンジは 1.6%の施設でしか使用
されていなかった。蘇生バッグ、顔マスク、喉頭鏡は
全ての施設に備えられていたが、蘇生用薬剤が蘇生の
場に常備されていない施設もあった(16%)。蘇生のスタ
ッフとしては、ハイリスク分娩にのみ蘇生担当医が立
ち会う施設がほとんどであった(92%)。半数以上の施設
では心肺蘇生の研修体制は決まっておらず、そのマニ
ュアルも約半数の施設にはなかった。わが国の現状に
即した新生児心肺蘇生法のガイドラインは 87%の施設
が必要と考え、作成された場合には 99.5%の施設が配布
を希望した。低アプガースコア(1 分 6 点以下)となった
正期・過期産児の頻度は院内出生で 10.0%、院外出生
で 11.6%、胎便吸引症候群は同様に 2.4%、5.9%であっ
た。また、蘇生の合併症を院内出生で 0.7%、院外出生
で 2.1%に認めた。【考察】わが国の新生児専門施設にお
いては、蘇生に関する設備は整っているものの、薬剤
をすぐに使用できる体制にない施設もあった。心肺蘇
生の研修体制、マニュアルは専門施設においても整っ
ていない場合が多く、さらに、全分娩に蘇生担当医が
立ち会う体制にはなっていないことなど、ソフト、人
員面での改善が必要であると思われた。また、低アプ
ガースコア児、胎便吸引症候群の発症頻度は、専門施
設以外の施設に比較して約 10 倍の頻度であること、蘇
生における合併症の発症頻度は院外出生児が院内出生
児の 3 倍であることが明らかとなった。
わが国の新生児心肺蘇生の現状分析.第 5
報 産婦人科医院の現状.
東京女子医科大学 八千代医療センター 新生児科 1、
厚生労働科学研究 周産期医療ネットワーク班 2
○和田 雅樹 1,2)、田村 正徳 2)、近藤 乾 1,2)
【目的】わが国の一般産婦人科での新生児心肺蘇生お
よび新生児仮死の実態を調査し、その問題点を明らか
にする。
【方法と対象】日本産婦人科医会定点施設に対
し、新生児心肺蘇生の体制、医療設備、準備薬剤、低
アプガースコア児と胎便吸引症候群の発症頻度、心肺
蘇生の教育法などに関して郵送によるアンケート調査
を行った。定点施設のうち日本周産期新生児医学会・
周産期(新生児)専門医研修施設(暫定基幹・指定施
設)を除いた施設を対象とし、病院に相当する A、B 施
設(一般病院)と、医院に相当する C 施設(一般医院)
との結果を比較検討した。
【結果】定点施設 736 施設中、
372 施設(回答率 50.4%)から回答を得た。そのうち一般
病院は 144 施設、一般医院は 132 施設であった。ほと
んどの施設では蘇生時に積極的に保温が行われてい
た。保温においては 80%以上の施設で開放式保育器が
使用され、閉鎖式保育器も 40%前後の施設で使用されて
いた。一般病院では吸引や酸素の配管設備が整ってい
る施設が多いが、一般医院では半数の施設が酸素ボン
ベを使用し、吸引装置ではポータブル型や口で吸うデ
ィスポーザブル型の使用頻度が高くなっていた。蘇生
用のマスクはほとんどの施設で常備されていたが、一
般医院では新生児用喉頭鏡が蘇生の場に準備されてい
ない施設が 15%の割合であった。約 20%の施設では蘇生
担当者をあらかじめ決めておらず、その傾向は一般医
院の方が高くなっていた。多くの施設が新生児心肺蘇
生の実技講習会への参加を希望しており、ガイドライ
ンの配布を希望していた。また、低アプガースコア(1
分時 6 点以下)となった正期・過期産児の頻度は、一般
病院で 1.0%、一般医院で 0.8%と差は認めなかった。胎
便吸引症候群を合併した児もそれぞれ 0.3%、0.2%であ
った。【考察】わが国の産科施設では保温や気道開通に
対する意識は高く、設備も整っていた。しかし、10%
前後の施設が喉頭鏡や蘇生用薬剤が常備されておら
ず、また、蘇生担当者を決めていない場合が多く、迅
速な心肺蘇生の障害になると考えられた。低アプガー
スコア児、胎便吸引症候群の発症頻度は一般病院と一
般医院では差を認めず、産科の管理法の進歩や搬送シ
ステムの整備がその原因と考えられた。また、新生児
心肺蘇生のマニュアルや研修システムは整備されてお
らず、その確立に対する要望が強かった。
P-411
P-412
472
当院産科新生児室発症の新生児急変例 7
例の臨床的検討
大崎市民病院 新生児科
○工藤 充哉
妊娠、分娩時経過良好だったが、その後産科新生児室
にて心停止、呼吸停止で発症し、その後死亡、あるい
は重度後遺症を呈した新生児 7 例について臨床的に検
討したので報告する。1993 年から 2007 年の 14 年間に
大崎市民病院(旧古川市立病院)産婦人科で妊娠、分
娩時管理し、若干のリスクをかかえながらも経過良好
でその後出生、そして産科新生児室で管理中、心停止、
呼吸停止、急な高度徐脈で発症、同小児科新生児室に
移動後加療するも死亡、あるいは重度後遺症を呈した
新生児 7 例について、再度妊娠、分娩歴の検討、出生
時の状況、症例の経過、剖検の有無、警察との関わり
あい(異常死の届け)などについて検討した。母体疾
患としては、Basedow病、妊娠糖尿病、軽度妊
娠中毒症、前置胎盤、各 1 例づつ、双胎例が 3 例、低
出生体重児 3 例、成熟児 4 例、帝切 6 例、自然分娩 1
例、日齢 0 急変が 3 例、日齢 1 が 2 例、日齢 2 が 1 例、
日齢 3 急変が 1 例で、保育器内発症が 4 例、コットで
発症 1 例、母子同室発症 2 例、6 例に蘇生時気管内挿管、
その後人工換気を要し、2 例がその後他院へ搬送し、死
亡 6 例、1 例は重度後遺症を残した。剖検は 4 例、内 3
例は当科要請による病理解剖で 2 例はSIDS、1 例は
右室低形成の心臓奇形と診断され、もう 1 例は当院よ
り地元警察へ異常死として届け出て、当初当科の要請
では家族より解剖の了解は得られなかったが、警察よ
り司法解剖の請求があり、これには家族も了解し、そ
の結果、心房中隔欠損症、動脈管開存症の心臓大動脈
奇形ありと診断された。early neonata
l sudden death(ENSD)や胎児、
新生児期には不明な心奇形、不整脈異常、代謝異常そ
の他での急変例は、実は一定の頻度で発症し、おそら
く最初に発見される場所は成熟新生児しかいないはず
の産科新生児室であろう。我々は救命、診断に全力を
つくすことはもちろんだが、これらの症例が残念なが
ら急な不幸な転帰をとった時、剖検の了解を取りにく
い背景の中で、どのように家族に納得してもらうか、
異常死の届け出他警察との関わりあいなどこれまでの
対応の仕方を変える必要を感じ、臨床的に検討したの
で報告する。
当院新生児センターにおける過去 5 年間
の死亡退院症例の検討
姫路赤十字病院 新生児センター 小児科
○五百蔵 智明、久呉 真章、奥野 美佐子、柄川 剛
【目的】当院新生児センターにおける過去 5 年間の死
亡症例について解析し,今後の課題を模索する.
【対象と方法】2002 年 1 月から 2006 年 12 月までの 5
年間に当院新生児センターに入院し死亡退院となった
症例を対象とし,その臨床像について解析を行った.
【結果】期間中に当院新生児センターに入院した 2598
例中,死亡退院となった症例は 40 例(1.5%)であった.
症例数は(02,03,04,05,06)年度の順に(7,12,
13,4,4)例であった.内訳は基礎疾患のない超低出
生体重児が 14 例(ELBW 群)
,染色体異常症(染色体群)
が 8 例,重症仮死(仮死群)
,双胎間輸血症候群,新生
児遷延性肺高血圧症(PPHN 群)が各々3 例,先天性筋
強直性ジストロフィー,Potter シークエンス,その他
の多発奇形(奇形群)が各々2 例,代謝異常症,人魚体
シークエンス,先天性横隔膜ヘルニアが各々1 例であっ
た.ELBW 群を在胎週数別にみると 22-23 週:7 例(死
亡率 50%)
,24-25 週:4 例(同 17%)
,26-27 週:3 例(同
9%)であり,出生体重別では 500g 未満:8 例(同 89%),
500-749g:3 例(同 13%)
,750-999g:2 例(同 7%)で
あった.生存期間の中央値は 2.9 日で,6 例(43%)は
生後 24 時間以内に死亡していた.年度別では(5,3,
3,2,0)例と年々,減少傾向にあった.染色体群は 18
トリソミ-4 例,21 トリソミ-2 例,13 トリソミ-1
例,その他 1 例の計 8 例であった.生存期間の中央値
は 6.5 日であったが,100 日間以上の症例も 2 例存在し
た.仮死群では脳低温療法を導入した 2005 年以降は死
亡例はなかった.PPHN 群は 3 例とも 06 年度の症例で全
例院外出生児であった.3 例とも入院時から非常に重篤
な低酸素血症と肺高血圧症を認め,NO 吸入療法の効果
は乏しかった.剖検施行例は 40 例中 1 例(2.5%)のみ
(PPHN 群)であり,特に奇形群や PPHN 群において原因
疾患を確定診断できなかった症例が少なからず存在し
た.
【考察】周産期医療の進歩に伴い ELBW や重症仮死児の
生命予後は改善していると実感するが,一方で染色体
群や奇形群,PPHN 群においては未解決の問題が多いと
改めて感じた.染色体群や奇形群には致死的な疾患も
多く含まれるが,今後は長期生存例に対しては可能な
限り在宅医療への移行を積極的に行いたいと考えてい
る.また奇形群や PPHN 群において診断に至らず死亡退
院となった症例を振り返ると,患児やその家族のため
にも,最終的には剖検を施行する形であっても,疾患
を診断することは肝要と思われた.
P-413
P-414
473
国際医療協力の人材育成のための熱帯感
染症、HIV・AIDS 等の研修プログラムの考
察
埼玉医科大学総合医療センター総合周産母子医療セン
ター新生児部門
○伊藤 智朗、星 礼一、松信 聡、高山 千雅子、
江崎 勝一、鈴木 啓二、田村 正徳
【背景】経済的先進国である日本は人道的、政治的意
味で途上国援助を行わなければならない。国際医療協
力も必要な分野のひとつであり、医療の分野で国際協
力を行うことは日本の国策とも合致している。特に途
上国における新生児死亡率を下げることは国際的に急
務であり、新生児医療においてトップクラスである日
本の貢献は期待されている。それらのニーズに伴い国
際医療協力に関心を抱く、医師が増えているのも事実
である。ただ、国際医療協力で必要とされる能力は多
岐にわたり、日本での臨床経験のみでは不十分で、そ
れらを補うための人材育成の研修が必要である。
【方法】今回 2004 年~2007 年の間、日本での一般小児
科、NICU 勤務を継続しながら比較的短期の研修コース
である「長崎大学熱帯医学研修課程」、国際厚生事業団
の「新興再興感染症研修コース」
、「疫学/HIV・AIDS コ
ース」を修了したのでこれらの研修に関して研修内容
を評価し、国際医療協力における人材育成の効果を考
察する。
【結果】それぞれののコースの特徴として以下の事項
があげられる。1.長崎大学熱帯医学研修課程1)熱帯
医学全般の非常に幅広い内容2)基礎研究分野中心3)
国内での研修で現場の経験は不可。2.新興再興感染症
研修コース1)途上国の中でも比較的経済状態の悪い
バングラデッシュでの研修2)熱帯地域の感染症、著
しい低栄養児など日本でできない症例の経験が可能
3)貧困国での限られた医療資源における対応が学べ
る。3.疫学/HIV・AIDS コース1)途上国中比較的経済
力があり、HIV 罹患率の著しい減少に成功したタイでの
研修2)HIV に関する全般的知識の習得3)タイでの
HIV の対策は学べるが、アフリカなどのより貧困が進
み、HIV が蔓延している国への対策は学べない。
【考察】いずれの研修も研修修了のみでは現場で有効
に働ける人材を育てることは難しいと考えられ、さら
に現場で実際に働きながら学ぶ研修システムが必要と
考えられる。また、これらの研修修了の資格上の有用
性もあいまいであること、また修了後に具体的に国際
医療協力の仕事を実際に行う機会が与えられるシステ
ムの構築が出来ていないことが問題と考えられる。
P-415
P-416
タブレット PC を用いた新たな NICU 部門シ
ステム開発の試み
青森県立中央病院 総合周産期母子医療センター
生児集中治療管理部
○網塚 貴介、笹島 知大、池田 智文
新
1) はじめに
当院では昨年秋より電子カルテが導入された。しかし
既存のシステムでは NICU 特有の細かい指示内容やその
伝達、経過表の記録などへの対応が極めて困難であっ
た。一方、既存の部門システムは予算上、導入が不可
能であったため、当院独自の部門システムの開発を試
みた。
2) 方法
部門システム構築の目標として(1)医師-看護師間の意
思がリアルタイムに伝達されること、(2)いかなる内容
の指示も従来の紙運用同様に伝達できること、(3)栄
養・点滴・処方・計測等の全ての指示を一つの画面で
一覧できること、(4)院内どこでも指示・閲覧が可能で
あること、(5)リスクマネージメント上、母乳や点滴等
の処置に対して患者認証を行うこと、(6)経過表の入力
は極力省力化すること等、従来の診療業務に支障なく
データを電子化した上で、電子化のメリットを最大限
活用すること目標とした。一方、医事会計・物流シス
テムとの連携、生体モニタリング情報の取り込みに関
しては予算上の制約から断念した。
3) 結果
(1)指示簿:指示内容は各項目が時系列に並ぶ形式とし
た。これを即時性と一覧性を同時に確保するため、NICU
では無線 LAN 経由で病床毎に配置された縦型タブレッ
ト PC に表示させ、画面は数分毎の自動更新とした。ま
た同じタブレット PC を点滴台にも設置して転記を防止
し、更にラベル発行→バーコード認証の手順により患
者認証も可能とした。また既存システムでは対応困難
な細かな指示(静注後のフラッシュの指示や一時的な
流速変更、フィルター・遮光有無等)へも対応可能と
した。
(2)経過表:入力の手間を省くために前回値を default
で表示させ、その値からの変化分のみを入力すれば良
い方式とした。無呼吸時の SpO2・心拍数の低下は、自
力回復・刺激回復を分けて、1 時間毎の積算値が表示さ
れるようにした。
4) 考察
予算上、医事会計・物流システムとの連携は実現でき
なかったが、これらを切り離したことにより結果的に
自由度が増し、現場としては非常に使いやすいシステ
ムとなった。既存の電子カルテシステムは元々、レセ
コンから派生しており、それを非常に未完成な状態で
無理矢理、医療現場に導入されている実情がある。し
かしリスクマネジメント上からは現場のユーザーイン
ターフェースを最優先し、使いやすさを担保した上で
医事会計・物流システムとの連携をどうするかと言う
視点が必要なのではないかと考えられた。
474
胎児輸血を要した重症血液型不適合溶血
性貧血で異なる管理を行った 2 例
大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学小児科学 1、
大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学産科学婦
人科学 2
○荒堀 仁美 1)、和田 和子 1)、兼清 貴久 1)、谷口 英
俊 1)、田村 有広 1)、金川 武司 2)、峯川 亮子 2)、荻
田 和秀 2)、木村 正 2)
【緒言】Rh(D)血液型不適合妊娠による胎児の溶血性貧
血は抗 D グロブリン投与により発生頻度が低くなった
が、なんらかの原因で感作された場合や抗 c 抗体や抗 E
抗体による溶血性貧血の場合、胎児は重症貧血になる
可能性があり、その胎児管理は慎重に行う必要がある。
今回われわれは、頻回の胎児輸血を要した重症血液型
不適合溶血性貧血の 2 例を経験し、その胎児管理につ
いては前演題で発表した。本演題では、新生児期の管
理について報告する。
【症例1】母 32 歳 2 経妊 1 経産。前回妊娠時にグロブ
リンを投与されず、抗 D 抗体が 32 倍まで上昇した。今
回、自然妊娠で在胎 6 週に抗 D 抗体 16 倍であったが、
27 週には 512 倍、胎児 Hb7.2g/dl となり、5 回の胎児
輸血を受け、反復帝王切開にて出生した。36 週 0 日
2540g、Apgar score 9/9 で出生時に蘇生を要さず。日
齢 0 に Hb9.2g/dl で、γグロブリン 1.8g/kg 投与およ
び濃厚赤血球(以下 MAP)28ml/kg 輸血し、その後、光
線療法 120 時間施行して、日齢 17 に退院したが、貧血
と黄疸のため日齢 35 で再入院(Hb 6.6g/dl)し、
MAP33ml/kg 輸血とγグロブリン投与 1.3g/kg 投与して
改善した。
【症例2】母 31 歳 3 経妊 2 経産。前回、原因不明の死
産。在胎 30 週 1 日で胎児腹水を認めたため当院紹介受
診時、抗 c、E 抗体 512 倍、胎児 Hb4g/dl で、4 回の胎
児輸血を受け、36 週 1 日に誘発分娩で出生した。体重
2540g、Apgar score8/9 で蘇生を要さず。出生時、
Hb12.8g/dl で、日齢 1 に交換輸血(120ml/kg)を施行
し、光線療法を 26 時間施行後、徐々に貧血が進行して
きたため日齢 14 よりエリスロポイエチンを投与し、日
齢 29 に MAP23ml/kg 輸血後、γグロブリンを 1.5g/kg
投与して、日齢 32 に退院した。
【考案】新生児期の溶血性貧血とそれによる黄疸の管
理において、光線療法、γグロブリン投与、輸血、交
換輸血などの選択基準、開始基準において、明確な治
療ガイドラインがない。上記2例は異なる対照的な管
理を行ったことにより、交換輸血の適応についての考
察を得たので、よりよい管理法について過去の報告も
ふまえて報告する。
胎児輸血を行った Rh 型(D--)不適合妊娠
の 1 例(母体経過)
慶應義塾大学 医学部 産婦人科学教室 1、慶應義塾大
学病院 周産期母子医療センター 新生児部門 2
○樋口 隆幸 1)、浅井 哲 1)、峰岸 一宏 1)、石本 人
士 1)、田中 守 1)、吉村 泰典 1)、倉辻 言 2)、北東 功
2)
、池田 一成 2)
P-417
P-418
【緒言】Rh 式血液型において C-c 系,E-e 系因子をす
べて欠損した,D--型妊婦の血液型不適合妊娠に対し,
胎児輸血を施行した 1 例を経験したので報告する.
【症例】患者は 8 経妊 4 経産.血液型は AB 型,Rh-hr
式は D--である.第 1 子の新生児経過は良好であった
が,第 2 子は妊娠 36 週で子宮内胎児死亡となり,第 3
子,第 4 子はそれぞれ妊娠 38 週と妊娠 29 週(胎児水
腫発症)で出生後,溶血性黄疸を発症し交換輸血を受
けている.妊娠 10 週,当院での周産期管理を希望され
初診.初診時,不規則抗体である抗 Rh17 抗体の抗体価
はすでに 512 倍と高値であり,以後も 512 倍で推移し
た.超音波検査にて胎児水腫の発症は認められなかっ
た.妊娠 18 週以降は超音波検査にて中大脳動脈最高血
流速度(MCA-PSV)を測定して胎児貧血の程度を評価し
ていった.MCA-PSV は当初正常範囲内を推移していた
が,徐々に上昇し,妊娠 26 週には 1.5 MoM 値以上の高
値を示したため,妊娠 28 週 1 日に臍帯穿刺による胎児
採血を施行した.その結果,直接クームステストは強
陽性であり,末梢血液検査でヘマトクリットが 29.3%
と胎児貧血が確認されたため,D--型の解凍赤血球濃厚
液による胎児輸血を施行した.妊娠 29 週以降,抗 Rh17
抗体価は 4096 倍に上昇し,胎児水腫の発症が予想され
た.MCA-PSV も続けて高値を示したため,妊娠 30 週 0
日に 2 回目,妊娠 32 週 0 日に 3 回目の胎児輸血を施行
した.3 回目の胎児輸血の際,輸血前の MCA-PSV は
2.5MoM 値に迫る異常高値となっていたが,胎児採血で
もヘマトクリットが 19.9%と著しく低下しており,胎児
貧血の急激な進行が認められた.妊娠 33 週 0 日,帝王
切開による人工早産を選択した.
【考察】本症例では,D--型の血液型不適合妊娠に対し
て 3 回の胎児輸血を施行することにより,胎児水腫に
至ることなく妊娠期間を延長させることができた.本
邦の報告例によると,D--型の血液型不適合妊娠では胎
児溶血性貧血の重症化の指標として,不規則抗体価の
急上昇に注意すべきとされているが,胎児超音波検査
により MCA-PSV を経時的に計測することで,より鋭敏
に溶血性貧血の重症度を評価することができると考え
られた.
475
P-419
胎児輸血を行った Rh 型(D--)不適合妊娠
の 1 例(新生児経過)
ヒトパルボウイルス B19 感染による胎児
水腫に対して胎児輸血を行い健児を得た
1例
熊本市立熊本市民病院
○河田 高伸、上妻 友隆、江口 博敏、石松 順嗣、
綱脇 現
P-420
慶應義塾大学病院 周産期母子医療センター 新生児
部門 1、慶應義塾大学病院 周産期母子医療センター
産科部門 2
○倉辻 言 1)、有光 威志 1)、三輪 雅之 1)、本間 英
和 1)、北東 功 1)、池田 一成 1)、樋口 隆幸 2)、峰岸
一宏 2)、田中 守 2)
【緒言】-D-は Rh 抗原のうち D 抗原のみを有する稀な
血液型である。母親がこの血液型である場合、欠如抗
原に対する抗体(抗 Rh17 抗体など)が産生される。それ
が経胎盤的に胎児へ移行することにより、胎児が溶血
性疾患を発症する可能性がある。
【症例】在胎 33 週 0 日、1957 g で出生した女児。母体
は AB 型(D--)。妊娠分娩歴は 8 経妊 4 経産で、第 4 子・
第 6 子が溶血性黄疸に対し交換輸血を受けた。
中大脳動脈最高血流速度(MCA-PSV)を胎児貧血の指
標として、在胎 28 週、30 週、32 週時の計 3 回解凍赤
血球濃厚液(D--)による胎児輸血を行った。在胎 15 週
ごろから 512 倍であった抗 Rh17 抗体価が在胎 30 週以
降 4096 倍へ上昇した。胎児輸血後 2 週間で胎児 Hb が
13.3(30 週)→6.5 g/dl(32 週)と低下した。胎児水腫の
合併はなかったが胎児溶血性貧血の進行が疑われたた
め、在胎 33 週 0 日選択的帝王切開で出生した。出生直
後から予防的に光線療法 4 方向を行った。T.bil は日齢
2 に 10.6 mg/dl まで上昇したが、その後漸減した。光
線療法は 2 日毎に 1 方向ずつ減らし、日齢 8 に中止し
た。出生時患児血液で直接 Coombs は陰性であり、抗
Rh17 抗体価は 512 倍であった。出生時 Hb 10.9 g/dl
であり、今後の低下が予測されたため解凍赤血球濃厚
液(D--)を 1 回輸血した。Hb は日齢 29 に 7.0 g/dl まで
低下したが、鉄剤とエリスロポイエチン投与のみで改
善傾向となった。日齢 38 に退院し、生後 4 ヶ月の時点
で成長・発達は問題なく、患児末梢血中抗 Rh17 抗体価
は陰性化した。
【考察】本邦の報告では、D--母体から出生した新生児
は早期新生児死亡や生存児でも出生後に交換輸血など
の集中治療が必要となった報告が多い。本疾患に対し
て胎児輸血を行った報告では、胎児輸血を 1 回行った
が出生後に交換輸血を必要とした症例であった。本症
例は出生後黄疸の程度は軽度で交換輸血など集中治療
を必要としなかった。計 3 回合計 146 ml の輸血量は胎
児胎盤血液量(275 ml)の約半分に相当する。出生時の
患児直接 Coombs が陰性であったことから患児血が一時
的に D--型に置換された可能性が示唆され、胎児輸血が
出生後交換輸血など集中治療の回避につながった可能
性がある。
【緒言】伝染性紅班の原因ウイルスであるヒトパルボ
ウイルス B19(以下 B19)は産科的には流産、胎児死亡、
非免疫性胎児水腫を引き起こすウイルスとして重要で
ある。今回我々は B19 感染による胎児水腫に対して胎
児腹腔内輸血を行い、健児を得た 1 例を経験したので
報告する。
【症例】36 歳、2 経妊 2 経産。妊娠 10 週頃
に子供が伝染性紅班に罹患し、本人は妊娠 12 週 3 日に
顔面に紅班が出現した。
妊娠 12 週 1 日の抗 B19 抗体 IgM
は 9.34、妊娠 14 週 1 日の抗 B19 抗体 IgM は 7.19 であ
った。妊娠 19 週 5 日に胎児腹水が出現し、妊娠 21 週 6
日に当院に紹介となった。初診時の超音波検査で胎児
腹水、胸水、皮下浮腫を認め、MCA-PSV は 60.1cm/s で
胎児貧血が考えられた。
羊水ポケットは 19mm であった。
胎児治療目的のため同日に入院となる。胎児採血及び、
臍帯静脈への輸血は臍帯穿刺が手技的に困難と判断
し、腹水を 10cc 吸引し、O 型 Rh(-)の濃厚赤血球 20cc
を胎児腹腔内へ輸血した。妊娠 22 週 1 日の MCA-PSV は
58.4cm/s であった。妊娠 24 週 4 日の MCV-PSV は
45.7cm/s と軽度低下したが、羊水ポケットは 22mm で、
胎児水腫に変化がみられなかったため、再度腹水を
20cc 吸引し O 型 Rh(-)の濃厚赤血球を 30cc を胎児
腹腔内へ輸血した。妊娠 25 週 5 日の MCA-PSV は
34.0cm/s で羊水ポケットは 28mm、妊娠 26 週 6 日の
MCA-PSV は 40.7cm/s で羊水ポケットは 33mm であった。
妊娠 27 週 5 日の MCA-PSV は 28.4cm/s と低下し、羊水
ポケットは 36mm へ増加し、胸水は減少し、肺が見える
ようになった。妊娠 28 週 6 日の MCA-PSV は 32.7cm/s
で羊水ポケットは 40mm で胸水はほぼ消失し、腹水も減
少した。その後腹水は徐々に減少し、妊娠 34 週 6 日に
ほぼ消失した。妊娠 38 週 0 日に既往帝王切開後妊娠の
ため選択的帝王切開術を施行し、1746g、AS8/9 の女児
を娩出した。非常に弛緩した腹部以外に明らかな異常
所見は認めず、臍帯血 B19IgM(-)であった。生後 33
生日に退院し、8 ヶ月の健診では異常を認めていない。
【結語】B19 感染による胎児水腫に対して、臍帯穿刺が
困難なため胎児腹腔内輸血を行うことにより胎児水腫
が消失したと思われる症例を経験した。胎児貧血の指
標として MCV-PSV が有用であると思われた。
476
胎児中大脳動脈最大流速(MCV-PSV)による
胎児輸血管理が有用であった2症例
大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学産科学婦
人科学 1、大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学小
児科学 2
○峯川 亮子 1)、味村 和哉 1)、金川 武司 1)、荻田 和
秀 1)、荒堀 仁美 2)、田村 有広 2)、和田 和子 2)、木
村 正 1)
【緒言】血液型不適合妊娠は、抗D免疫グロブリンが
普及した現在でも、投与前の感作成立や、C/c抗原、
E/e 抗原などによる血液型不適合は起こりえるため、こ
れによる胎児貧血の診断および管理は周産期医療の重
要な位置を占める。従来胎児貧血では、羊水吸光度に
よる Liley 曲線を用いて胎児輸血開始を決定し、PUBS
により採取した臍帯血 Hb 値から貧血の進行を予測して
繰り返し輸血を行う方法が一般的である。今回われわ
れは、胎児貧血の診断として確立している胎児中大脳
動脈最大流速(MCV-PSV)測定により、非侵襲的に輸血
時期を決定し、胎児貧血管理を行った2症例を経験し
たので報告する。
【症例1】32 歳 2 経妊 1 経産。前回妊娠時、妊娠 36
週で抗 D 抗体上昇し、グロブリンは投与されず。今回
妊娠 25 週抗 D 抗体 128 倍と上昇を認め、27 週の羊水吸
光度分析で Liley 予測図ゾーン3であったため、O 型 R
h(-)CMV(-)濃厚赤血球液を用いた臍帯血管内輸血
を開始した。以後は MCA-PSV 測定により≧+1.5MoM を指
標として輸血を計 5 回施行、最終 33 週と輸血間隔の延
長を徐々に認めた。妊娠 36 週反復帝王切開術施行し、
2540g の女児を Apgar score 9/9 で出産した。
【症例 2】31 歳 3 経妊 2 経産。第 1 子は正常分娩であ
ったが、第 2 子は妊娠 36 週死産(原因不明)。今回近
医にて妊娠 30 週の健診時に胎児腹水を指摘され当科紹
介。MCA-PSV 値 93cm/s (+6.0MoM)と著明な上昇を認め、
母体抗c抗体、抗 E 抗体陽性より、これらによる胎児
貧血と診断した。PUBS での臍帯血 Hb 値 4.0g/dl と高度
貧血があり、O 型 Rh(-)CMV(-)濃厚赤血球液を用い
た臍帯血管内輸血を開始した。30 週 2 日、31 週 0 日、
31 週 4 日の3回の輸血を行った直後に胎児腹水の消失
を認め、以後 MCA-PSV 測定により≧+1.5MoM を指標と
し、34 週まで輸血間隔の延長を認めた。妊娠 36 週誘発
分娩施行し、2540g の男児を Apgar score 8/9 で出産し
た。
【考察】O 型 Rh(-)濃厚赤血球液輸血を反復するこ
とにより、胎児臍帯血管内の赤血球全体に占める Rh
(+)赤血球の割合は徐々に減少すると考えられる。
このため、PUBS で得られる Hb 値から予測される貧血の
進行よりも、Hb 値低下は緩徐になっていくと考えられ
る。このことより、胎児超音波検査による MCV-PSV 測
定は、非侵襲的に次回輸血時期を決定することができ
る有用な方法であると考えられた。
P-421
P-422
嚢胞性病変を伴った左腎低・無形成の3例
島根大学 医学部 産科婦人科
○青木 昭和、石橋 雅子、山上 育子、折出
原田 崇、真鍋 敦、宮崎 康二
亜希、
【症例1】21 歳。妊娠 31 週のエコー検査にて胎児左下
腹部に 3 x 3 cm の cyst を認め、また左腎臓は不明瞭
であった。性別は女児であったため cyst は卵巣嚢腫を
考えた。妊娠 34 週、cyst の縮小を認めた。妊娠 35 週
の MRI でも左腎臓を認めなかった。妊娠 37 週に胎児心
エコーで VSD の疑いを認めた。妊娠 39 週、正常経腟分
娩にて 2928 g の女児を Apgar score 7 / 9、臍帯動脈
血 pH 7.20 で出生した。出生当日の腹部エコー検査に
て左腎無・低形成を認めたが嚢胞は認めなかった。心
エコーで膜性周囲部 VSD ( 3.8 mm )と診断。さらに生
後 28 日目の MRI と MRU にて左腎臓は無形成と診断。ま
た心エコーで肺動脈弁上狭窄を認めた。月齢 11 に FISH
法にて 22q11.2 欠失症候群と判明。VSD はその後狭小化
し、腎機能異常なく現在経過観察中である。【症例2】
21 歳。妊娠 20 週に右・側脳室三角部から後角の拡大を
認めた(LVR 0.59 )。さらに妊娠 21 週に左腹部に 5 mm
大の嚢胞を認め左腎臓は不明瞭であった。以降、左腎
臓がは認められず、カラードプラ上も左腎動脈は不明
瞭であった。また、脳室拡大は目立たなくなり、妊娠
38 週にて骨盤位のため帝王切開にて出産。児は 2576 g、
男児で Apgar score 9 / 10、臍帯動脈血 pH 7.26 であ
った。日齢 0 の腹部エコー検査にて左腎無形成を認め
た。日齢2の MRI にて左腎低・無形成、左副腎腫瘍の
疑い、骨盤内嚢胞(膀胱左上方)と診断された。日齢
57 の RI 検査で左腎への perfusion がなく無形成と診断
された。染色体検査は行っていない。その後、副腎腫
瘍は否定され、嚢胞は左精巣嚢胞か左盲端尿管と診断
され、経過観察中である。
【症例3】26 歳。妊娠32週
2日で当科初診。骨盤位以外、異常は認めなかった。
初産・骨盤位のため妊娠 38 週 5 日帝王切開にて 2726g
の女児を Apgar 9/9、臍帯動脈血 pH7.33 で出産。出生
後の腹部エコーにて左腎を認めず、また啼泣時の膣前
庭部に大豆大の膨隆性病変を認めた。その後 CT-scan
の精査にて左腎低形成、ガートナー管嚢胞、左尿管の
膣内開口を認めた。持続的尿失禁予防のため腹腔鏡下
左腎摘出術を施行し現在経過良好。【まとめ】片側腎
低・無形成は出生 500 から 1300 例に 1 例といわれ無症
状が多い。しかし精巣嚢胞や子宮・腟の異常も多いと
される。今回の 3 例はすべて嚢胞性病変を伴っており、
1例は染色体異常であった。片側腎低・無形成の場合、
精密な検査に基づいた治療が必要と思われた。
477
P-423
出生前診断された総排泄腔遺残の一例
兵庫県立こども病院産婦人科
○斎木 美恵、上田 大介、喜吉 賢二、石原
佐本 崇、船越 徹、大橋 正伸
胎児超音波にて特徴的な腸管内高輝度エ
コー像を呈し、高位鎖肛を疑った 1 例
独立行政法人国立病院機構岡山医療センター 産婦人
科
○片山 修一、多田 克彦、塚原 紗耶、高丸 永子、
熊澤 一真、高田 雅代、中西 美恵
症例は 2 経妊1経産の女性。第1子は特に問題なし。
第2子は妊娠 20 週で頭部、四肢の骨変形を指摘され、
致死性骨異形成症との臨床診断で、人工妊娠中絶施行
された。今回の妊娠も近医で経過をみていた。妊娠 34
週で脳室拡大を指摘され、当科に紹介となった。初診
時エコーにて、両側脳室拡大、二部脊椎、髄膜瘤、羊
水過少、単一臍帯動脈、そして特徴的な腸管内高輝度
エコー像を認めた。腸管内に粟粒状の hyperechoic な
mass を多数認め、それらは長軸方向に往来していた。
以上の所見より高位鎖肛を疑った。その後の妊娠経過
は特に変化なし。骨盤位であったため、妊娠 38 週で帝
王切開を行った。体重 2956g の男児で Apgar score は
5/8 点。出生後、二部脊椎、髄膜瘤、鎖肛と診断し、生
後1日目に脊髄披裂修復術、人工肛門造設術を行い、
術後の頭囲拡大に対し、生後 22 日で脳室腹腔シャント
術を行った。また、術後の逆行性尿道造影にて中間位
鎖肛と診断した。排便機能障害が予想されるため、今
後の鎖肛根治術は予定されていない。
鎖肛の出生前診断は数十例ほど報告があるが、日本で
の報告はない。特徴的な腸管内高輝度エコー像が特徴
的であり、瘻孔を通して腸管内に流れた尿が胎便と混
ざり合うことによって生じるとの報告もあり、実際に
手術時、腸管内から計 3mm 程度の石灰化を伴った黄色
調の胎便が無数に出てきた。
今回我々は特徴的腸管内高輝度エコー像および付随
病変から出生前に鎖肛を診断し得たので、ここに報告
する。
P-424
尚徳、
【諸語】総排泄腔遺残は胎生期の尿路直腸隔壁の下降
不全により発生する。出生約 5 万例に 1 例に起こる稀
な疾患であるが、出生前診断されることは少ない。今
回、MRI を含む画像診断により胎内診断できた症例を経
験したので文献的考察を交えて報告する。【症例】32
歳、2 経産、第二子出産時頚管裂傷の既往があるため、
前医で妊娠 16 週、予防的頚管縫縮術を施行された。経
過中、胎児および羊水量の異常は認めなかった。妊娠
34 週、胎児腹部腫瘤を指摘され当科外来紹介となった。
超音波・MRI では膀胱背側頭側に直径 4cm 大の左右対称
の嚢胞が 2 個あり、双頚双角子宮の腟子宮瘤水腫症が
疑われた。また、両側に高度の水腎水尿管を認めた。
総排泄腔遺残を疑い当科外来フォローとした。胎児発
育は順調で、AFI は 20 前後で経過した。妊娠 36 週 1
日、陣痛発来。同日、自然経腟分娩となり 2948g の女
児、Apgar score 8 点(1 分値)、9 点(5 分値)で娩出し
た。児の外陰部の開口は一カ所で内視鏡にて総排泄腔
への膀胱、両側子宮、消化管の開口を確認した。同部
より排尿を認めた。排便なく日齢 2 で人工肛門増設術
を受けた。尿道カテーテル留置後、水腎症の改善を認
め日齢 37 で退院、外来フォローとなった。【結語】総
排泄腔遺残は出生後早期に人工肛門増設術などの処置
を要する可能性が高い。また、分娩後の形態評価には
泌尿器科との連携も必要と考えられる。超音波検査の
みでは腟・子宮病変の診断は困難であったが MRI を施
行することで可能となった。妊娠・分娩に際しては産
科、小児外科、泌尿器科との連携がとれる病院が望ま
しく出生前診断は有用であった。
478
胎児期に胸腔内嚢胞で発見された食道重
複症(前腸奇形 foregut malformation)
の1例
神奈川県立こども医療センター 産婦人科 1、神奈川県
立こども医療センター 新生児未熟児科 2
○永田 智子 1)、丸山 康世 1)、長瀬 寛美 1)、鈴木 理
絵 1)、石川 浩史 1)、山中 美智子 1)、松倉 崇 2)、猪
谷 泰史 2)
P-425
P-426
出生前に胎便性腹膜炎との関連が疑われ
た腹部巨大嚢胞性病変の 1 例
日本大学 医学部 外科学講座 小児外科部門 1、日本
大学 医学部 産婦人科学講座 2、日本大学 医学部
小児科学講座 3
従道 1)、杉藤 公信 1)、池
○星野 真由美 1)、越永
田 太郎 1)、草深 竹志 1)、中島 義之 2)、正岡 直樹
2)
、山本 樹生 2,3)、藤田 英寿 3)、岡田 知雄 3)
【症例】在胎 28 週胎児.
【母体妊娠分娩歴】母体 2 回
経妊 1 回経産.在胎 28 週に胎児超音波検査にて胎児の
腹腔内に嚢胞性病変を認め当院総合周産期母子医療セ
ンターに紹介となった.その後在胎 30 週に行った胎児
MRI 検査においても胎児の腹腔内に径 5×6cm の嚢胞性
病変を認めたが,消化管の拡張や胎児腹水は認めなか
った.在胎 31 週より胎児超音波検査にて羊水過多を指
摘され,在胎 33 週の胎児 MRI 検査では嚢胞状病変が消
失し,羊水過多と胎児腸管の拡張を認めた.以上より
先天性小腸閉鎖症が疑われ,在胎 35 週 1 日に予定帝王
切開にて出生した.【出生後経過】出生体重 2131g,
Apgar score 1 分 8 点 5 分 9 点.生後より腹部膨満強く,
腹部単純 X 線写真にて腸管の著名な拡張と米粒大の石
灰化を認めた。以上より胎便性腹膜炎と先天性小腸閉
鎖症と診断した.
【術中所見】日齢 0 に開腹手術を施行
した.拡張腸管を検索すると小腸に離断型閉鎖を認め
た.その口側盲端を中心として腹腔内全体の癒着は強
固であり,腹腔内全体を確認できなかった。拡張腸管
を一部切除し、単孔式の腸瘻を造設した.閉鎖部の口
側盲端周囲に嚢胞性病変は認めなかった.日齢 41 に腸
瘻閉鎖術および小腸小腸端々吻合術を行ったが,閉鎖
腸管の肛門側盲端周囲の癒着も強固であり,卵巣およ
び卵管が付着していたが温存することができた.嚢胞
性病変は認めなかった.この部位の病理組織学的所見
では卵管や卵巣組織はなく,消化管組織のみであった.
本症例は胎児期に小腸閉鎖が原因と考えられる穿孔の
ため巨大嚢胞状胎便性腹膜炎を来たしたが,短期間に
自然消退したものと考えられた.
【緒言】消化管重複症とは,正常の本来の腸管以外に
異常な腸管(重複腸管)が存在する先天性的疾患であ
る.胎生期の前腸(foregut)を発生由来とすることか
ら,前腸嚢胞(foregut cyst)または前腸奇形(foregut
malformation)とも呼ばれている.胎児期に胸腔から
腹腔に至る巨大嚢胞を認め,出生後食道重複症(前腸
奇形 foregut malformation)と診断された 1 例につい
て報告する.【症例】34 歳 2 経妊 2 経産 既往歴特に
なし.妊娠歴・家族歴に特記すべきことなし.前医で
の 24 週健診時,胎児胸腔内に嚢胞性病変 6×2.5×
2.5cm 大を認め,妊娠 25 週 0 日精査目的にて当院へ紹
介受診となった.胎児超音波では,胸腔内から腹腔内
に続く 6×3×3cm 単房性の大きな嚢胞性病変を認め,
心臓,大動脈,気管は圧排され,偏位していた.他の
超音波異常所見は認めず,胎児 MRI でも右後縦隔を占
める単房性の巨大嚢胞性病変を確認した.食道重複症
などの foregut cyst,リンパ嚢胞,meningocele(髄膜
瘤)などの神経系疾患の可能性が考えられ,巨大占拠性
病変による循環障害や,出生後の呼吸障害などが懸念
された.妊娠 39 週時には 8.6×3.5×3.5cm と増大傾向
を認めたが,児の well-being は一貫して良好と考えら
れ,その他の妊娠経過は順調であった.妊娠 40 週 0 日
自然陣痛発来し,3386g の女児を Ap8/8(1 分後 5 分後)
にて経腟分娩した.危惧されていた呼吸障害もなく,
出生後の全身状態は良好であった.画像検査所見では,
嚢胞壁は腸粘膜層として矛盾ない所見であったため,
食道重複症を含む前腸奇形(foregut malformation)
と診断した.造影検査では正常食道と病変の交通がな
いことを確認し,日齢 3 より経口哺乳も開始した.病
変にともなう臨床症状は認めず全身状態が安定してい
たため,日齢 13 に退院となった.今後は症状が出現し
なければ経過観察,何らかの症状が出現した場合は手
術等の処置も検討する方針として外来にて経過観察中
である. 【結語】出生前に巨大胸腔内嚢胞を認め,前
腸奇形(foregut malformation)が疑われた例を経験
した.出生後も病変による臨床症状は認めず,現在も
保存的に経過を診ているが,今後も慎重な経過観察が
必要であると考えられた.
479
出生前に胎便性腹膜炎と診断された症例
における NST 所見の検討
鹿児島市立病院産婦人科
○上田 英梨子、三原 慶子、前田 隆嗣、上塘 正
人、波多江 正紀
P-427
P-428
臍帯ヘルニアの出生前診断と遺伝相談
東邦大学 医療センター 大森病院 産婦人科
○石原 優子、竹下 直樹、片桐 由起子、大路 斐
子、青木 千津、八尾 陽一郎、前村 俊満、間崎 和
夫、田中 政信、森田 峰人
【はじめに】先天性胎児腹壁異常の中で臍帯ヘルニア
は代表的疾患であり、その死亡率は 30%との報告もあ
る。予後は、染色体核型、合併奇形の有無が大きく左
右する。また、精密な超音波機器の進歩により、臍帯
ヘルニア、巨舌症、巨人症を 3 主徴とする
Beckwith-Wiedemann 症候群(BWS)といった、特殊な症
候群も診断可能になった。今回、当院で分娩に至った
臍帯ヘルニア 6 例について、出生前診断、遺伝相談も
含め臨床検討したので報告する。【対象および方法】
1988 年、1 月から 2007 年 3 月現在で、当院で分娩とな
った臍帯ヘルニア 6 例について、カルテおよびサマリ
ーなどの資料を用い後方視的検討を行った。【成績】母
体の平均年齢は 34.8 歳。初産婦 2 例、経産婦 4 例で全
て自然妊娠であった。出生前に染色体核型検査は 4 例
に行われ、1 例は FISH 法も施行した。出生後の染色体
検査も含め、全例正常核型であった。超音波による画
像診断では、出生前には明らかな合併奇形を認めたも
のは無かったが、1 例は、妊娠 29 週の超音波で、舌の
突出、羊水過多、胎児の過成長が認められ、BWS を強く
疑った。BWS の症例に対しては、新生時期の、巨舌によ
る呼吸障害、哺乳障害、低血糖発作による痙攣などの
症状および、新生児期の管理について、両親に複数回
にわたり詳細に説明し、出来る限り分娩前の不安を取
り除くように努めた。出生後合併奇形が認められたも
のは 2 例で、横隔膜ヘルニアと心奇形であり、いずれ
も新生児時期に死亡となった。【考察】臍帯ヘルニア
は、13、18 トリソミーなど染色体異常の合併が高率で
あるが、今回の 6 例のように数的、構造変化を認めな
いケースもある。この場合は特に、画像検査で BWS な
どの特殊症候群も含め十分な検索を行う必要がある。
そしてその情報を基に、新生児科、新生児外科、ある
いは助産師らとともに話し合いを持つ事は妊娠中の母
体の精神的不安の軽減することに繋がると考えられ
る。また、分娩後の治療計画を両親に説明する上でも
極めて重要である。染色体の数的、構造的変化を正確
に同定する事、BWS ような症候群を出生前に把握する事
は、その後の遺伝相談において、両親により十分な情
報を提供することが出来ると考えられる。
目的:胎便性腹膜炎における NST 所見の変化について
検討すること 対象:2002年からの4年間に4症例
経験した。症例1、2はそれぞれ妊娠28週、29週
に妊婦検診の超音波検査にて胎児腹水、胎児腸管の拡
張を認め、胎便性腹膜炎と診断された。症例3は妊娠
30週で胎動減少と variability の低下を認め backup
の超音波を行った際に胎便性腹膜炎と診断された。い
ずれの症例も他に periodic change を認めず厳重に経
過観察を行いながら妊娠継続を行った。症例1は妊娠
38週、症例3は36週に自然経膣分娩、症例2は羊
水過多による母体の呼吸困難のため33週に帝王切開
施行となった。いずれの症例も出生後、小腸閉鎖と診
断され小腸部分切除施行となったが、術後の経過は良
好であった。症例4は妊娠30週に胎動減少と NST に
て loss of variability, persistent late
deceleration を認めた為、母体搬送され、超音波上胎
便 性 腹 膜 炎 と 診 断 さ れ た 。 こ の 症 例 は 同 日 に non
reassuring fetal status の診断で緊急帝王切開となっ
た。児は中腸軸捻転の診断で1生日に回腸部分切除術
施行となったが術後の経過は良好であった。考察:胎
便性腹膜炎は胎生期の腸管破裂によって化学性の腹膜
炎を来すもので、原因としては腸管の閉鎖、軸捻転、
腸重積、虚血などが考えられている。胎内診断がつい
た場合、一般に予後良好であるとされているが、胎内
死亡例もある。特に胎生期の中腸軸捻転は頻度は少な
いものの予後が悪く、半数近くが子宮内胎児死亡を来
したと報告されている。 今回経験した4症例の NST
所見についての検討してみると、variability の減少は
全症例に共通してみられる所見であり、3例では妊娠
継続が可能であったことから、これのみでは予後不良
因子とはなり得ず妊娠中断の適応とはならないと考え
られた。一方 persistent late deceleration は広汎な
腸の虚血による acidemia を反映している可能性がある
と考えられ、今回、persistent late deceleration を
来した症例も、中腸軸捻転を来しており、胎内死亡の
リスクが高い症例であったと考えられた。以上から胎
便性腹膜炎症例において、子宮内胎児死亡を予防し、
児娩出のタイミングを決定するために NST が重要な役
割を果たすと考えられた。
480
P-429
胎児腹水を呈した 61 症例の検討
胎 児 水 腫 を合併 し た 妊 娠梅毒 に 対 して
AMPC 投与が奏効した自験例
兵庫県立こども病院周産期医療センター 産科
○上田 大介、石原 尚徳、齋木 美恵、喜吉 賢二、
佐本 崇、船越 徹、大橋 正伸
P-430
神奈川県立こども医療センター 産婦人科 1、神奈川県
立こども医療センター 新生児科 2
○丸山 康世 1)、永田 智子 1)、長瀬 寛美 1)、鈴木 理
絵 1)、石川 浩史 1)、山中 美智子 1)、猪谷 泰史 2)
【緒言】胎児腹水を来す原因は多岐にわたり,またそ
の所見も変化することが多く,その原因診断に苦慮す
ることも多い。当科で胎児に腹水を認めた症例の原因,
転帰について後方視的に検討した。
【対象と方法】当科において 1993 年から 2006 年まで
に,妊娠経過中に胎児腹水を呈した 61 症例を対象とし
た.
【結果】1.原疾患として,心疾患 5 例,胎便性腹膜炎
5 例,
泌尿生殖器系疾患 4 例
(総排泄腔症遺残を含む),
乳糜胸による腹水 5 例,パルボウィルス感染 4 例,
呼吸器系疾患 3 例,乳糜腹水 3 例,21 トリソミー 3
例,代謝性疾患 2 例,卵巣腫瘍 1 例,また原因不明
26 例(子宮内胎児死亡 6 例,人工妊娠中絶 4 例を含
む)が挙げられた.これらの中には,胎便性腹膜炎や
総排泄腔遺残症のように当初は腹水のみの所見であっ
たものが,次第の超音波所見が変化して出生前の診断
に至れた例もある。
2.転帰については,出生後に原疾患の治療を要した症
例が 22 例,子宮内胎児死亡に至った症例が 12 例,自
然消失し正常新生児の経過を辿った症例が 12 例,人工
妊娠中絶が 5 例,早期新生児死亡が 7 例,転帰不明が 2
例,現在妊娠継続中が 1 例であった.
【結語】妊娠経過中に腹水が増大,胎児水腫に至って
予後が不良である例がある一方で,約 2 割では妊娠経
過中に腹水が自然消失し,原因不明ながら出生時の転
帰は良好であることが多かった.胎児腹水を認めた時
には,原因疾患を念頭に置きながら,その所見の変化
を観察していく必要があると考えられた。
【はじめに】梅毒は感染症法の五類感染症に属し、届
け出の義務が必要な性行為感染症である。母子感染予
防のため、全妊婦に対し梅毒血清反応検査が妊娠初期
に実施されている。最近では妊娠 9 週、10 週の胎児感
染例も報告されているため妊婦が梅毒と診断された場
合、妊娠時期を問わず胎児感染を生じうるものとして
対処する必要がある。今回、妊娠 25 週で梅毒感染を指
摘され母児共に良好な転帰を得た症例を経験したので
報告する。 【症例】29 歳初産婦、妊婦検診未受診に
て近医を受診し推定妊娠 25 週と診断され、また母体梅
毒血清反応陽性と胎児腹水を指摘され当院紹介受診と
なった。当院初診時に母体に梅毒特有の身体所見、症
状はなかったが、梅毒血清反応(RPR 法:抗体価 32 倍、
TPHA 法:抗体価 10240 倍)陽性であり、AMPC 投与開始
した。また超音波所見上、胎児水腫(後頭皮下浮腫
7.7mm、胸部浮腫 7.1mm、腹水貯留)を認めた。AMPC は
8 週間投与し経過中、母体梅毒症状は認めず、また妊娠
34 週に胎児腹水は認めたが、(後頭皮下浮腫 3.6mm、胸
部浮腫 3.3mm)となり、胎児水腫も徐々に軽快した。妊
娠 35 週に陣痛発来し体重 2802g、アプガースコア:8/9、
男児を出産した。児は腹水を認めたが、先天梅毒の特
徴的な身体所見はなく、児の梅毒血清反応は RPR 法:
陽性、TPHA 法:陽性、FTA-ABS IgM:陰性であり先天梅
毒は否定された。児は ABPC の予防的投与を 7 日間受け
たが、腹水も自然軽快し日齢 25 退院となった。 【結
語】妊婦梅毒では胎児も同時に治療するので胎盤通過
性がよく胎児に害のないペニシリン(AMPC 等)が選ば
れる。今回の症例は、重症な先天梅毒の児を分娩する
と想定した症例であったが、母体に AMPC を投与する事
により胎児期に加療され軽快したと考えられる。
481
P-431
当院における胎児水腫 8 例の検討
当科で経験した抗 c 抗体による免疫性胎
児水腫の 1 症例
兵庫医科大学 産科婦人科
○田中 宏幸、原田 佳世子、武信 尚史、小森 慎
二、香山 浩二
免疫性胎児水腫は、胎児水腫の約 10%以下の頻度で
あり、非免疫性胎児水腫に比し、報告例は少ない。抗 c
抗体は、新生児の溶血性疾患の 12.5~14%にみられ、軽
症例の報告も多いが、少数ながら胎児水腫を含む重症
例の報告もある。今回我々は、妊娠後期に胎児水腫と
なり、精査にて抗 c 抗体による免疫性胎児水腫と診断
した 1 症例を経験したので報告する。 症例は、30 歳
代の 1 回経妊 1 回経産婦で、前回妊娠分娩経過に特記
すべき事なし。妊娠 34 週に前医にて腹部超音波検査で
胎児腹部に直径 3.6 X 5.4 cm の echo free space を認
めたため精査を希望し、妊娠 34 週 5 日に当科に初診と
なった。初診時腹部超音波検査にて、少量の胸水およ
び多量の腹水を認めた。胎児水腫と診断し、非免疫性
および免疫性胎児水腫について、血液検査、MRI 検査を
施行した。MRI 検査では、胎児胸腹水、肝左葉がやや腫
大、右葉の intensity の低下を認めた。血液検査では、
不規則抗体として抗 c 抗体が認められ、抗体価は 2048
倍と上昇していた。入院時 NST にて variability の消
失、late deceleration を認めため、妊娠 35 週 3 日緊
急帝王切開術を施行し、
2954g の男児を Apgar score 1/3
にて娩出した。出生時、児は全身浮腫、著明な腹部膨
満、全身皮膚色蒼白であり、直ちに気管内挿管を行っ
た後、当院 NICU に入院となった。NICU 入院時、検査所
見にて Hb 2.1g/dl、LDH 3476 IU/ml と高度の溶血性貧
血を認め、抗 c 抗体 256 倍、クームス陽性で解剖学的
な奇形は認めず、免疫性胎児水腫と診断した。急速輸
血、交換輸血、γ-globulin 投与を行ったが、腹水の穿
刺吸引は行わなかった。その後、利尿剤、血液製剤の
投与にて管理を行なった。経過中、MRI、脳波、ABR な
どでも有意な異常はなく、神経学的異常所見も認めず、
日齢 58 日に退院となった。文献的考察を加えて報告す
る。
P-432
福島県立医科大学総合周産期母子医療センター 新生
児部門
○今村 孝、佐藤 真紀、郷 勇人、金子 真利
【目的】胎児水腫は、母体、胎盤、胎児に起こる種々
の原因により胎児が皮下浮腫と腔水症をきたす疾患で
あり、原因が除去されない限り進行性の病態をたどる。
今回、当センターで経験した非免疫性胎児水腫 8 症例
について、周産期経過を検討した。【対象】2002 年 4
月から 2007 年 3 月までの 5 年間に当センターに入院し
た 8 症例。男児 6 例、女児 2 例。在胎週数は 31 週 5 日
から 39 週 3 日、出生体重は 1078g から 4152g。診療録
をもとに後方視的に検討した。胎内死亡例および出生
前の一過性皮下浮腫や腔水症例は除外した。【結果】生
存 6 例。死亡 2 例。生存例のうち 5 例は胎児水腫の診
断時期が在胎 32 週以降であり、診断後 4 週間以内に児
を娩出し、子宮外治療を開始した。死亡例は、2 例とも
胎児水腫の診断時期が在胎 32 週未満であり、うち 1 例
は児の娩出時期が診断後 5 週間以上経過しており、重
度の肺低形成により生後数時間で死亡した。原因疾患
は、血液・リンパ系異常が 5 例、心血管系異常、染色
体異常、特発性がそれぞれ 1 例ずつであった。全例と
も母体に明らかな感染症歴を認めなかった。胎児水腫
の診断時期は在胎 28 週から在胎 39 週で、全例に胸水
貯留および皮下浮腫を認め、そのうち 4 例は腹水を伴
っていた。羊水過多は 7 例に認められ、その全例に対
して胎児胸腔穿刺を施行した。出生後は、全例が人工
呼吸管理を必要とし、6 例に胸腔穿刺を施行したが、5
例が乳び胸であり、うち 4 例に対して MCT ミルクを投
与した。その後、ミノマイシン、ソマトスタチンによ
る胸膜癒着療法をそれぞれ 2 例に対して行い、いずれ
も軽快した。4 例が肺低形成を伴っていたが、うち 3
例は比較的早期の抜管が可能であった。全例で複雑心
奇形は認めなかった。【結語】胎児水腫は早期診断が重
要であり、診断後早期の胎内治療あるいは娩出による
新生児治療への移行も含め、個々の症例における病態
の変化に応じた周産期管理を必要とする。
482
出生前に先天性嚢胞性腺腫様奇形(CCAM)
と診断された8症例の検討
千葉大学 医学部附属病院 周産期母性科
○井上 万里子、加来 博志、鶴岡 信栄、尾本 暁
子、生水 真紀夫
【目的】超音波検査の普及により、先天性嚢胞性腺腫
様 肺 奇 形 ( Congenital cystic adenomatoid
malformation: CCAM)の出生前診断は増加している。
胎児 MRI 検査を併用することは、横隔膜ヘルニアや肺
分画症との鑑別に有用である。今回、我々は超音波検
査、胎児 MRI 検査により CCAM と出生前診断された症例
における妊娠中の経過、児の予後について検討した。
【方法】1997 年 4 月から 2007 年 3 月までの 10 年間に
おいて、当科で CCAM と出生前診断された8症例につい
て、後方視的に妊娠中の経過・児の予後について検討
した。
【結果】母体年齢は平均 29 歳(26 歳-35 歳)で、初産
婦4例、経産婦4例であった。8 症例はすべて紹介例で
あり、紹介理由は CCAM 疑い3例、胸腔内占拠性病変3
例、横隔膜ヘルニア疑い2例、紹介時期は平均 27 週(妊
娠 19 週-34 週)であった。出生前診断は超音波検査と
MRI 検査(7例で施行)により行った。
妊娠中より胎児水腫を指摘されていた2例は、それぞ
れ妊娠 33 週(CCAM,type2)と 21 週(CCAM,type3)で
子宮内胎児死亡となった。
診断後の経過観察中に胸腔内腫瘤の増大を認めた1例
は、肺低形成が予測されたため妊娠 36 週 NICU のある
施設に転院となった。
妊娠中に胸腔内腫瘤像の大きさが変化しなかった3例
では、児の出生直後の呼吸障害は軽度であった。生後
7-10 ヶ月で腫瘍摘出術が施行され、術後診断は、胸腺
嚢腫、CCAM,type2、CCAM,type3 が各 1 例であった。
妊娠中に超音波検査にて自然消失例と判断された1例
では、妊娠中の MRI 検査でも左右肺の intensity に違
いがみられたものの、明かな SOL は指摘できなかった。
出生後の CT 検査では、右肺中葉に無気肺や小嚢胞の混
在したような像が認められ、CCAM の退縮像と考えられ
た。現在、在宅酸素療法を行いながら小児科、小児外
科にて経過観察中である。
のこり1例は、妊娠 34 週までの観察では大きさは不変
で、現在妊娠を継続している。
【まとめ】超音波検査、MRI 検査にて出生前に CCAM と
診断した 8 例のうち、5 例では病理検査による最終診断
が得られたが、5 例中 4 例が CCAM の診断であった。ま
た、妊娠経過中に CCAM 消失と考えられた症例であって
も、出生後、改めて評価する必要があることが改めて
示された。
胎児治療をおこなった Axillary cystic
lymphangioma(ACL)の一症例
名古屋市立大学 産科婦人科学
○服部 幸雄、鈴森 伸宏、金子 さおり、野沢 恭
子、種村 光代、鈴木 佳克、杉浦 真弓
胎児リンパ管腫は、約 80%が児の頚部に発生する
cystic hygroma で、多くは染色体異常との関連が認め
られる。一方、頚部以外のリンパ管腫は、約 70%が児の
上 腕 と 胸 部 の 間 に 発 生 す る Axillary cystic
lymphangioma(ACL)であり、染色体異常の合併はきわめ
て稀で、生命および神経学的予後は比較的良好である。
本症に対し、出生前に診断されるも胎児治療を施行さ
れた報告はほとんどない。当科で超音波・MRI 検査にて
ACL と診断後に、増大傾向認めたため、OK-432 を用い
た胎児治療が施行され、生児を得た症例を報告する。
症例は 32 歳の初産婦で、他院で妊婦健診を受け、妊娠
20 週に胎児の側腹部に腫瘤を指摘された。その後増大
傾向を認め、妊娠 25 週時に当科紹介受診された。妊娠
26 週時の超音波検査では胎児右腋窩から側腹部かけて
10 cm 大の多房性の巣状腫瘤を認め、妊娠 27 週時には
12cm 大へと増大傾向を認めたため、妊娠 27 週 4 日より
管理入院された。入院時の MRI 検査で ACL と診断され
た。腫瘤が大きく増大傾向を認めたため、本人および
夫にインフォームドコンセントの上で、妊娠 29 週 0 日
に腫瘤の穿刺吸引および OK-432 注入療法が施行され
た。21G の PEIT 針を用いて各嚢胞を穿刺吸引し、10 倍
希釈した OK-432 を 1~2ml(0.1~0.2KE)注入した。計 5
カ所の嚢胞に対して施行され、吸引された内容液は計
103ml で、
注入された OK-432 は計 8ml(0.8KE)であった。
穿刺後の腫瘤は 10cm 大となり、各嚢胞が縮小する様子
が観察された。治療当日に NST で 150~180bpm と軽度
の頻脈を認めたが翌日には正常化し、以後児の発育は
良好であった。母体に合併症はみられなかった。腫瘤
径の更なる縮小が認められず、妊娠 32 週 0 日に 2 回目
の嚢胞穿刺吸引および OK-432 注入療法が施行された。
内容液は計 85ml 吸引され、OK-432 は計 0.85KE 注入さ
れた。以後、腫瘤径はやや縮小傾向となった。経膣分
娩時の腫瘤部位の損傷や娩出困難などが懸念されたた
め、妊娠 36 週 1 日に選択的帝王切開術が施行された。
児は 2978g の女児で Apgar score 9 点/9 点(1 分/5 分)
で、NICU で入院管理となった。腫瘤は右腋窩部に 9cm
大に認められ、右上肢は常に挙上していたが可動性良
好であった。呼吸障害は認めず全身状態は良好で、合
併奇形は認められなかった。CT および MRI 検査後に日
齢 18 に NICU 退院。日齢 53 に OK-432 による初回硬化
療法を施行された。以後の児の発達に異常認めず、今
後は児の経過により切除術が考慮されている。
P-433
P-434
483
P-435
全身に散在するリンパ管腫、片側肥大にて
出生前に疑われた Proteus 症候群の一例
胎 児 期 CT 検 査 に よ り 同 胞 発 生 の
Antlay-Bixler syndrome を疑うに至った
一例
国立成育医療センター 周産期診療部
○湯元 康夫、渡辺 典芳、藤永 英志、加藤 有美、
北川 道弘
近年、診断技術の発達により CT 検査による出生前診断
の報告が散見されるようになってきた。先天奇形症候
群を疑うも超音波断層法、MRI 検査では診断にいたら
ず、CT 検査により診断の手がかりをつかむことができ
た症例を経験したため報告する。36 歳、1経妊 0 経産。
家族歴に特記事項なし。前回妊娠時妊娠 17 週に重症子
宮内発育遅延、小頭症(BPD13 週相当)、両手関節屈曲拘
縮を認め先天奇形症候群を疑われた。人工妊娠中絶に
より妊娠を帰結、染色体検査(46XY:正常核型)なら
びに死産児解剖検査を行ったが確定診断には至らなか
った。今回妊娠後前医で妊婦健診を施行、妊娠 26 週 2
日に重度の子宮内発育遅延を指摘され精査目的に当セ
ンター紹介受診となった。初診時超音波断層法で、
BPD30mm(15 週相当)、FL 30mm(19 週 5 日相当)、推定体
重 175g(-5.8SD)と児は小さく、形態的には小頭症、胸
郭低形成、手関節屈曲拘縮および両下肢進展拘縮と前
児と全く同様の所見が認められた。胎児 MRI 検査では
超音波検査と同様の所見が確認された。羊水染色体検
査は 46XX で正常核型であった。遺伝性の骨系統疾患が
強く疑われたが、妊娠経過における観察でも疾患を推
察する新たな情報を得ることはできなかった。再現性
のある胎児疾患であることから、夫婦が診断確定さら
には原因究明を強く希望したため妊娠 35 週 0 日に胎児
骨の詳細検索のため同意を得た上で CT 検査を施行し
た。胎児全身骨の 3D 構築画像をもとに、1.両側橈尺骨
癒合、2.頭蓋縫合早期癒合、3.肋骨骨化不良の所見を
得て、致死性の Antlay-Bixler syndrome が疑われた。
妊娠 38 週 2 日自然陣痛発来し、経腟分娩により児を娩
出。児は 655g の女児でアプガー値 1/1、重度の呼吸障
害を認めるも両親が積極的な蘇生を希望されず生後 46
分に早期新生児死亡となった。解剖検査で頭蓋骨癒合、
耳介低位、肺低形成、手・肘・股関節屈曲拘縮を確認
した。心臓および腹腔内臓器に肉眼的異常を認めなか
った。Antlay-Bixler syndrome を手がかりに臍帯血か
ら遺伝子検索を予定している。反復する胎児骨系統疾
患に対し胎児期の CT 検査により診断の手がかりを得る
ことができた症例を経験した。CT 検査は被爆の点から
安易な使用はさけるべきではあるが、診断に苦慮する
ことの多い骨系統疾患においては診断の一助となり得
る検査法である。
P-436
名古屋市立大学 産科婦人科
○金子 さおり、服部 幸雄、鈴森 伸宏、種村 光
代、鈴木 佳克、杉浦 真弓
Proteus 症候群は指趾の部分的肥大、色素性母斑、半側
肥大、皮下腫瘍などを伴う過誤腫様疾患で、1983 年に
Wiedemann らがギリシャ神話の「変幻自在な姿を有する
海神 Proteus」から命名した。原因として体細胞モザイ
クの可能性が指摘されている。その発症頻度は非常に
稀で現在までに約 80 例の報告がある。1歳以降に診断
されることが多く、新生児期までに診断されることは
稀である。今回胎児腹水ならびに臀部の小リンパ嚢胞
を契機とし紹介され、出生後に Proteus 症候群と診断
された症例を経験したので報告する。【症例】症例の母
は 35 歳、0 妊 0 産。妊娠 20 週 0 日、近医にて少量の胎
児腹水を指摘され、市民病院を 3 日後に紹介受診した
ところ、胎児臀部に多発する小嚢胞が認められ、妊娠
20 週 4 日当科紹介。当科初診時、胎児腹水は認めなか
ったが、右臀部から右大腿にかけて外側に 10-15mm 未
満の多発する小嚢胞があり、大腿の太さの左右差を認
め、リンパ管腫を疑った。羊水染色体検査では 46,XX
と正常であった。その後の経過で右臀部や下腿以外に
も胎児の腋窩・腹部・側頭部などの皮下に散在する小
リンパ嚢胞を確認したが、嚢胞は健診で確認する度に
大きさや場所が少しずつ変化していた。胎児 MRI でも
同様に全身に散在する不均一な皮下肥厚を認めリンパ
管腫や血管腫などが疑われた。特に児頭が大きく、
75gOGTT では妊娠糖尿病は否定されたため、過成長を伴
う症候群を疑った。妊娠 36 週より胎児前頭部から側頭
部の皮下浮腫、右側脳室拡大が目立つようになり、わ
ずかに胸水も認めたため妊娠 36 週 5 日管理入院とな
り、妊娠 37 週 3 日自然陣痛発来し経膣分娩、2970g 女
児 Ap9。出生後の精査にて半側肥大(左足趾肥大、右巨
脳症、右耳介肥大)
、体幹のポートワイン母斑、右大腿
のリンパ管腫や全身に散在する皮下腫瘍の存在によ
り、Proteus 症候群と診断された。日令 10 で退院とな
った。【結語】本症例のような小嚢胞や不均一な皮下肥
厚は見過ごされやすく、また本症候群は周知されてい
ないため診断が遅れることも少なくない。出生前より
注意して観察することにより児の確定診断ならびに各
科の迅速な対応が可能であった。
484
出生前から頭蓋骨外胚葉異形成を疑われ
た2例
神奈川県立こども医療センター産婦人科 1、神奈川県立
こども医療センター新生児科 2
○鈴木 理絵 1)、永田 智子 1)、丸山 康世 1)、長瀬 寛
美 1)、石川 浩史 1)、山中 美智子 1)、猪谷 泰文 2)
胎内で疑診された Harlequin ichthyosis
の一例
奈良県立医科大学 産科婦人科学教室 1、奈良県立医科
大学付属病院周産期医療センター新生児集中治療部門
P-437
P-438
2
○吉田 昭三 1)、坂田 麻理子 1)、佐道 俊幸 1)、釜本
智之 2)、西久保 敏也 2)、高橋 幸博 2)、小林 浩 1)
Harlequin ichthyosis は重症型先天性魚鱗癬のうちで
最も重篤な疾患であり、新生児死亡率が高い疾患であ
ったが、近年では出生後の薬物治療により長期予後が
飛躍的に改善してきている。出生児は特徴的な外観を
有するが、超音波診断技術の進歩により胎内診断され
る例も散見されている。今回、先行する第一子が
Harlequin ichthyosis で、第二子妊娠中に胎児エコー
で Harlequin ichthyosis を疑診、出生後に確定診断し
周産期管理を行った一例を経験したので、若干の文献
的考察を加えて報告する。
症例:28 歳、1 回経妊 1 回経産。2 年前の前回の妊娠で
は妊娠 33 週 3 日に早産しており、児は 1876g の男児で
Harlequin ichthyosis であった。既往歴は特記事項無
し。家族歴では第一子以外に類症はなく、他に特記事
項なし。無月経を主訴に当科を初診し、妊娠 7 週と診
断、以降は当科にて妊婦健診を受診していた。第一子
が Harlequin ichthyosis であったことより、今回の妊
娠で絨毛採取による出生前診断を考慮していたが、最
終的には検査を希望されなかった。妊娠経過中に経腹
エコーで胎児の形態異常の有無を追跡していたとこ
ろ、妊娠 28 週 1 日のエコーで胎児の口唇の肥厚と、口
が絶えず開いている、等の所見を認めた。妊娠 29 週 4
日のエコーでは上述の所見の他に、眼瞼の異常、足底
の 拘 縮 等 を 認 め 、 胎 児 の 形 態 か ら Harlequin
ichthyosis を強く疑って経過を追跡していた。同時期
より子宮収縮を認めるようになり、妊娠 31 週 6 日から
切迫早産のため入院管理したが、その後に子宮収縮が
抑制不能となり、妊娠 33 週 1 日に 1902g の男児を早産
経腟分娩した。出生児は Harlequin ichthyosis であり、
直ちに新生児集中治療部門へ収容となった。
【 緒 言 】 頭 蓋 骨 外 胚 葉 異 形 成 (cranioectodermal
dysplasia:以下 CED)は,頭蓋縫合早期癒合,胸郭低形
成,四肢短縮および,外胚葉異形成を特徴とする常染
色体劣性の疾患である. 同胞発症例の報告は散見され
るが,特徴的な頭蓋骨の変形は妊娠後半期に出現する
とされ,本疾患の早期の出生前診断は難しいとされて
いる.当センターでは,第 1 子が CED で,第 2 子も胎
児超音波で同疾患を疑われ,出生後診断に至った 2 症
例を経験した.
【症例1】27 歳2経妊1経産.第1子が
CED と診断されている.近医で妊娠 27 週から子宮内胎
児発育遅延を疑われ,妊娠30週に頭蓋骨変形,脳室
拡大,胸郭低形成,四肢短縮を認めたため,当科を紹
介され,初診となった.胎児超音波上,長頭,脳室拡
大,大腿骨長の短縮,胸郭低形成が認められ,CED を疑
った.小児科管理も可能で自宅から近い前医で分娩す
ることとなり,前医で妊娠管理となる.妊娠 40 週,分
娩停止のため帝王切開分娩となった.児は 3834g の男
児で AP 3/8(1 分後/5 分後)で出生となったが,胸郭
低形成による呼吸不全が高度なため,日齢1で死亡と
なった.
【症例2】31 歳1経妊1経産.第1子が,頭蓋
縫合早期癒合症のため当センター脳神経外科で follow
されていたが,今回の妊娠中に, 遺伝科の診察により
CED の 診 断 に 至 っ た . 妊 娠 初 期 に 近 医 で Nuchal
translucency(6.6mm),妊娠糖尿病あり,他院を紹介さ
れた.同院で NT に関する情報提供がなされ,精査とな
った.羊水染色体検査では正常核型であり,超音波上,
胎児の形態異常も認めないため,妊娠継続の方針とな
った.自宅に近い当科での分娩を希望され,妊娠27
週当科初診となる.このときの胎児超音波で頭蓋骨変
形を認め,頭蓋縫合早期癒合症を疑った.また胸郭の
低形成も疑われ,前児の情報より CED を疑い,新生児
科・遺伝科とともに,ご夫婦に前児の確定診断を含め
てお話をした.現在,外来にて妊娠管理中である.【結
語】出生前から CED が疑われた 2 症例を経験した.同
胞間でも表現型は異なり,出生前検査所見から予後の
予測を行うことは困難であった.また疾患の症状が多
岐にわたる場合,チーム医療が非常に重要であり,特
に症例 2 の経過からは,その重要性が再認識された.
485
免疫グロブリンで胎児治療した先天性サ
イトメガロウイルス感染症
岩手医科大学 小児科 1、岩手医科大学 産婦人科 2、
東北大学 産婦人科 3
○戸津 五月 1)、葛西 健郎 1)、松本 敦 1)、佐々木 智
子 1)、千田 勝一 1)、福島 明宗 2)、杉山 徹 2)、室月
淳 3)
先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染症の症候性胎
児に、CMV 高力価免疫グロブリンの投与を試みた症例を
報告する。
【症例】4 か月の女児。家族歴に特記すべき
ことはない。在胎 22 週に子宮内発育遅延、羊水過少、
両側脳室拡大が指摘された。在胎 27 週に脳室周囲に石
灰化が認められ、母体の CMV-IgM と羊水の real-time
PCR 結果から先天性 CMV 感染症と診断された。胎児に腹
水と肝脾腫が生じたため入院し、両親に説明と同意を
得て、在胎 29 週と 30 週に胎児腹腔内へ CMV 高力価免
(免疫
疫グロブリン(サングロポール®、ZLB Behring)
グロブリン)を投与した。退院後、腹水は消失したが、
子宮内発育はゆるやかであった。在胎 37 週に遅発一過
性徐脈が出現し、帝王切開で分娩となった。出生体重
は 1,914 g。児の CMV-IgM と PCR は陽性、CMV の活動性
を反映するとされる CMVpp65 抗原は陰性であった。出
生翌日からガンシクロビル(GCV)と、3 日目から 3 日
間免疫グロブリンを投与した。6 日目に好中球と血小板
が減少したため GCV を一時中止し、9 日目から減量して
再開した。この頃から徐々に活気がみられるようにな
った。28 日目の ABR で両側性の高度難聴が認められ、
42 日目に PCR は陽性のままであったが治療を終了し
た。現在、4 か月半となり、体長 60.3 cm(-1.5 SD)、
体重 5.7 kg(-1.5 SD)
、頭囲 38.5 cm(-2.0 S.D)で、
あやしても笑わず、追視も定頸もみられない。
【考察】
出生時に症候を示す先天性 CMV 感染症は、4~30%が死
亡し、生存例の 90%に知的障害や運動障害、けいれん、
難聴、視力障害を起こす。しかし、その治療法は出生
前も出生後も確立されたものがない。今回、症候が出
現して出生前診断された先天性 CMV 感染症の胎児に、
わが国で報告された免疫グロブリン療法を試みた。そ
の結果、腹水は消失したが、発達の遅れと難聴がみら
れている。神経学的障害を軽減する治療時期としては、
もっと早期に行う必要があると考えられた。
P-439
P-440
臍帯静脈途絶をきたした 1 症例
関西医科大学附属枚方病院 産婦人科 1、関西医科大学
附属枚方病院 小児科 2
○笠松 敦 1)、山口
昌美 1)、依岡 寛和 1)、椹木 晋
1)
、神崎 秀陽 1)、大橋 敦 2)、竹安 晶子 2)
【はじめに】pulsation は臍帯静脈異常の一つであると
考えられ、胎児 asphyxia と関連する所見の一つと考え
られるが、臍帯静脈途絶においては現在その報告が少
なく、臨床的意義は不明である。今回、演者らは臍帯
静脈血流途絶をきたした症例を経験したので報告す
る。
【症例】30 歳女性。1経妊 0 経産。妊娠 40 週 1 日
に前期破水し前医に入院した。その後、acceleration
を認めないために当院に搬送となった。分娩経過中の
CTG にて、既に non reassuring fetal status の状態で
あり胎児超音波を施行したところ、3回以上の臍帯頸
部巻絡と臍帯静脈血流の途絶を認めており、直ちに緊
急帝王切開術を施行し出生体重 2,840gの女児を娩出
した。Apgar score は 9 点(1分)、10 点(5 分)であ
った。頸部に臍帯巻絡を4回認めており、臍帯動脈血
の pH は 7.30 であった。その後も母児共に異常を認め
ず 、 軽 快 退 院 と な っ た 。【 考 察 】 臍 帯 過 捻 転 や
IUGR(severe)において臍帯静脈の pulsation が胎児の
asphyxia に関連するとの報告はあるが、今回我々が経
験した臍帯途絶は報告が少なく、臨床的意義について
は今後検討が必要であると考える。
486
妊娠 31 週まで妊娠継続可能であった胎児
共存奇胎の 1 例
国立病院機構 福山医療センター 産婦人科
○山本 暖、延本 悦子
胎児乳糜胸水に対するシャント留置術の
有用性
鳥取大学 医学部 産科婦人科
○荒田 和也、谷脇 加奈、渡邉 彩子、庄司 孝子、
月原 悟、光成 匡博、岩部 富夫、紀川 純三、寺
川 直樹
【緒言】胎児胸水は胎児水腫や肺低形成、早産を来た
し、周産期死亡率が 40-70%と予後不良の疾患である。
特に妊娠 27 週以前に発症した胎児胸水では肺低形成が
より重症化しやすいとされている。今回、異なる治療
経過をたどった胎児乳糜胸水の 2 例を経験したので報
告する。
【症例 1】母体は 29 歳、未経妊未経産、体重
95.0kg(非妊時 85kg)、BMI=37.1 であり、妊娠 26 週 5
日に両側胎児胸水を認め、近医より紹介となった。初
診時の超音波検査では胎児に皮下浮腫は認めなかっ
た。胎児胸水穿刺を行い、リンパ球が 94%であることか
ら乳糜胸水と診断した。その際、左右で計 34ml の胸水
を除去したが、翌日には穿刺前と同程度の胸水を認め
た。母体肥満のため胎児胸腔-羊水腔シャント留置術は
技術的に困難と考え、胸水穿刺を繰り返した。胸水穿
刺施行も難渋し、十分な治療効果が得られず、妊娠 28
週頃より胎児皮下浮腫が増強した。妊娠 34 週 4 日、母
体の浮腫が急激に進行し、Mirror 症候群の診断で帝王
切開術を施行した。2453g、Apgar Score 1/3 の女児を
娩出した。児は顔面から上腹部に著明な浮腫を認め、
重度の肺低形成、遷延性肺高血圧を伴っていた。日齢
20 で抜管、日齢 52 で nasal DPAP から離脱可能となり、
日齢 75 に退院となった。
【症例 2】母体は 29 歳、1 経
妊 1 経産、体重 63.4kg(非妊時 55.0kg)
、BMI=27.1 で
あり、妊娠 30 週 0 日に両側胎児胸水を認め、近医より
紹介となった。初診時の超音波検査で、胎児の頭部か
ら胸部にかけて皮下浮腫を認めた。胸水はリンパ球が
96%であり乳糜胸水と診断した。穿刺翌日に再貯留を認
めたため、妊娠 31 週 4 日、胎児胸腔-羊水腔シャント
留置術を施行した。胸水減少及び皮下浮腫の軽減を認
めた。約 2 週間後、胸水の増加を認めシャント閉塞が
疑われた。妊娠 35 週 0 日、破水したため帝王切開術を
施行した。1756g、Apgar Score 1/5 の女児を娩出した。
児は浮腫もなく、肺低形成や著明な循環障害も認めな
かった。日齢 24 に抜管、日齢 50 に退院となり、経過
は良好である。
【考察】胎児胸水の発症時期が早く、母
体肥満のため胎児治療に難渋した症例 1 では、胎児水
腫を合併し肺低形成を来たした。胎児乳糜胸水に対す
る胎児胸腔-羊水腔シャント留置術の有用性が改めて
確認された。
P-441
P-442
胞状奇胎は絨毛癌の先行妊娠になることが知られて
おり、人工妊娠中絶を選択することも多い。正常妊娠
に胞状奇胎が合併した症例では対処に苦慮することが
多い。今回、妊娠 31 週に前期破水のため早産し、産後
に転移性絨毛癌で化学療法を行った症例を経験したの
で、報告する。 症例は 30 歳の初産婦で、前医から妊
娠 16 週に胞状奇胎合併妊娠のため当科に紹介となっ
た。胎児共存奇胎のリスクを説明したが、妊娠継続を
希望され、外来で検診を行った。妊娠 17 週に妊娠高血
圧症候群にて入院管理となり、切迫流産治療および降
圧目的で硫酸マグネシウムを投与し、当分の間は十分
な子宮収縮抑制と降圧が得られた。エコーでは胞状奇
胎病変は子宮底部にみられ、妊娠週数が進むにつれ、
急速に増大してきた。妊娠 31 週 4 日に前期破水をきた
し、変動性一過性徐脈が頻発したので、緊急帝王切開
を施行した。児は 1260g の女児で、当院 NICU にて管理
し、経過良好であった。胎盤娩出時に胞状奇胎を用手
的に完全に排出した。その際、強く嘔吐し、呼吸困難
が発現し、嚥下性肺炎と診断し、ICU にて加療した。そ
の後は順調に回復し、術後 10 日目に退院となった。そ
の後、当科外来でフォロウした。分娩後 2 ヶ月は血中
HCG は順調に低下したが、その後低下が緩徐となり、産
後 4 ヶ月で血中 HCG は 572 IU/L を示し、存続絨毛症
と診断し、MTX 単剤投与を行った。血中 HCG は当初は低
下したが、効果不十分で、画像検査で肺転移が判明し
たので、EMA-CO 療法に変更し、化学療法を行った。血
中 HCG もカットオフ値以下に低下し、肺転移巣は画像
上縮小し、完全完解した。
487
P-443
当院で経験した胎児胸水の 9 例
母体抗 SS-A 抗体陽性妊娠でみられた胎児
心筋病変の 3 例
埼玉医科大学 小児心臓科 1、埼玉医科大学 産婦人科
P-444
独立行政法人 国立病院機構 長良医療センター 小
児科 1、独立行政法人 国立病院機構 長良医療センタ
ー 産科 2
○松隈 英治 1)、内田 靖 1)、青木 雄介 1)、坂井 敦
子 1)、塚本 有佳子 2)、中島 豊 2)、岩垣 重紀 2)、高
橋 誠一郎 2)、川鰭 市郎 2)
【はじめに】胎児水腫は胎児期に全身性浮腫と腔水症
(腹水、胸水、心嚢水)を伴う一症候群であるがその
原因に関わらず未だに予後不良な疾患群である。今回
我々は 2005 年 5 月から 2007 年 2 月までに胎児胸水を
指摘され、当センターで出生した新生児 9 例について
原因、治療経過などを検討したので報告する。
【症例】
9 症例中、8 症例は胎児期の 22 週 6 日から 33 週 6 日ま
での間に胸腔-羊水腔シャントを施行された。症例 1-5
は生下時胸水の再貯留を認め,両側胸腔持続ドレナー
ジを必要とした。人工呼吸管理を行ないながら乳び胸
に関しては絶食、経静脈栄養など保存的治療で経過観
察したところ症例 1-3 は改善が認められないため生後
17 日から生後 50 日の間にソマトスタチンアナログを
投与した。10μg/kg/hr まで増量するも胸水流出に対す
る抑制効果を認めなかったため生後 28 日から生後 100
日の間に OK-432 の胸腔内投与を行なったところ胸水は
消失しドレナージを中止できた。1 例(症例 4)は保存
的治療のみで生後 14 日目以降胸水流出を認めなくなり
胸腔ドレナージを中止し,自然軽快した。症例 5 は循
環不全が強く、あらゆる蘇生に反応せず生後 1 時間 45
分で死亡した。胎児期に胸水が減少傾向であった症例
6-9 は生下時には再貯留認めず、その後の経過において
も呼吸循環障害認めなかったため,通常のミルクを開
始し,良好な経過で退院となった。そのうち 1 例(症例
9)は出生後染色体検査にてダウン症候群と診断され
た。【結果】胎児期に胸水を指摘され,胸腔-羊水腔シ
ャント術を施行された症例において、生下時に再貯留
を認めた 5 症例は全例人工呼吸管理を必要とし,その後
の経過においても厳重な呼吸循環管理を要した。保存
的治療によって、1 例は胸水の自然消失が認められたも
のの、多くは胸膜癒着療法を必要とする症例であり、
生後数時間での死亡例も認めた。生下時胸水の再貯留
を認めなかった症例の経過は良好であった。【考察】先
天性胸水では文献によっては約 1 ヶ月の保存的観察期
間が必要とされる。しかしその間児は不安定な呼吸循
環動態に暴露されることとなるため、予後などを考え
ると保存的治療の観察期間,自然消失しない場合の治
療法の選択などにおいてさらなる検討が必要と考えら
れる。
2
○竹田津 未生 1)、難波 聡 2)、西林
之 2)、三木 明徳 2)、板倉 敦夫 2)
学 2)、大沢
洋
母体抗 SS-A 抗体陽性妊娠においては胎児房室ブロック
発生のリスクがよく知られている。これら、胎児期よ
り発症した完全房室ブロックでは、ペースメーカー埋
め込みの有無にかかわらず、時に出生後重度の心不全
をきたし、予後に影響することは経験的に知られてい
る。近年、これらの心不全の原因として母体より移行
した抗 SS-A 抗体による心筋障害が注目されるようにな
り、加えて房室ブロックを伴わない心内膜繊維弾性症
(EFE)などの心筋病変による乳児期以降の死亡につい
ても報告されるようになってきている。母体抗 SS-A 抗
体陽性妊娠に伴う胎児心筋病変を疑わせる 3 例を経験
したため、治療と臨床経過について報告する。【症例
1】在胎 21 週より完全房室ブロック(CAVB)、31 週心嚢
水出現のため紹介。受診時心室心拍(HR)49、心筋肥厚、
全周性心嚢水あり。母体リトドリン投与により HR60 台
で経過。生後、プロプラノロール投与下 HR は 60 台で
あったが、心収縮低下と動脈管開存に伴う心不全のた
め日齢 5、動脈管結紮術、ペースメーカ挿入術を施行。
日齢 72、BNP 150、心収縮不良のためチモペンタン内服
にて退院。10 ヶ月時にも心機能の改善はなく、エナラ
プリルも開始された。【症例2】在胎 24 週に前児(症
例 1)が CAVB のため紹介。27 週より心嚢水が出現し母
体ベタメサゾン 4mg 投与開始、29 週より全周性の心嚢
水となり、心筋肥厚、心室中隔の心内膜輝度の上昇が
順次出現、これらの病変は 31 週より軽減。出生時、心
室中隔の心内膜輝度上昇と収縮軽度低下、BNP 115、CK
1736 であったが、数日の経過で正常化。生後、低血糖、
哺乳力低下のためステロイド補充療法を要した。【症
例3】在胎 22 週より 2:1 AV block、23 週よりベタメ
サゾン 4mg 投与が開始されたが CAVB に進行、34 週当院
紹介。HR90-100、心嚢水、心筋肥厚、左室心内膜輝度
上昇が見られた。35 週より心筋肥厚は軽減。出生時心
室中隔収縮低下、心内膜輝度上昇、BNP 1215。出生後 1
週間で心収縮、心内膜輝度が順に正常化。出生後低血
糖、哺乳力低下のためステロイド補充療法を要した。
【考察】母体抗 SS-A 抗体合併妊娠では、報告されてい
るような EFE などよりも軽度の心筋病変が存在すると
思われる。母体へのステロイド投与が有効な可能性が
あるが、出生後にステロイド離脱症状を呈する場合が
あり、治療量、期間について検討を要すと考えられた。
488
P-445
胎児完全房室ブロック 13 例の周産期経過
持効型インスリンアナログを使用した 1
型糖尿病合併妊娠に発症した、胎児肉腫の
1例
鹿児島市立病院産婦人科
○三原 慶子、上塘 正人、池畑 奈美、前田 隆嗣、
茨 聡、波多江 正紀
P-446
東京女子医科大学 産婦人科 1、東京女子医科大学 母
子総合医療センター2、東京女子医科大学 循環器小児
科3
○川道 弥生 1)、松田 義雄 1,2)、小林 藍子 1)、秋澤
叔香 1)、松下 恵里奈 1)、三谷 穣 1,2)、牧野 康男 1,2)、
楠田 聡 2)、仁志田 博司 2)、太田 博明 1)
【目的】胎児房室ブロックは、2 万出生に対し 1 人の割
合で発症する疾患であり、時に心不全から子宮内胎児
死亡や新生児死亡を引き起こす重篤な疾患である。主
な原因として、母体膠原病や胎児心奇形に合併するこ
とが報告されている。両者ではブロックの発症機序が
異なるため、周産期経過や児の予後に相違が見られる。
今回我々は、当センターで経験した胎児房室ブロック
について、各々の背景と予後について検討した。【方
法】1985-2005 年の 20 年間に当センター経験した胎児
房室ブロック 13 例について、心奇形の有無、母体合併
症、児の予後について検討した。
【結果】13 例のうち、
心奇形を伴う症例は 6 例、いずれの症例も複雑心奇形
を認め、5 例は多脾症候群に合併していた。心奇形のな
い 7 例のうち、抗 SS-A 抗体陽性は 6 例、抗 SS-A 抗体・
抗 SS-B 抗体両者陽性は 2 例であり、母体が SLE 診断さ
れていたものは 3 例であった。胎児心奇形がなく、母
体の自己抗体陰性例は 1 例のみであった。なお、出生
後の治療として、心奇形を伴う 6 例のうち、3 例にペー
スメーカーの挿入を行い、心奇形を伴わない 7 例につ
いては 6 例にペースメーカーの挿入を行っている。な
お、ペースメーカーの挿入時期については、5 例は生後
7 日以内に行っているが、5 歳時にはじめて治療を開始
した症例も見られた。予後について、心奇形を伴う症
例では 5 例が死亡し、4 例は早期新生児死亡、1 例は生
後 9 ヶ月に死亡している。心奇形を伴わない症例では
全例生存している。なお、心奇形合併症例と合併しな
い症例の各群について、母体年齢、分娩時週数、出生
時体重に有意な差は見られなかった。【結論】心奇形を
合併する胎児房室ブロックの症例は、ペースメーカー
治療の有無にかかわらず予後不良であった。これは、
不整脈管理に加えて心奇形特有の循環動態を考慮した
管理が必要であり、治療が困難であることが考えられ
た。一方心奇形を伴わない症例では比較的予後は良好
で、過去の報告と同様に母体自己抗体との関与が強く
示唆された。
今回我々は、妊娠 29 週時に胎児水腫を認め、胎児の背
部悪性腫瘍の診断に至った、持続型インスリンアナロ
ググラルギンを長期投与していた 1 型糖尿病合併妊娠
の 1 例を経験した。現病歴:糖尿病合併。1 経妊 0 経産。
前々医にて妊娠診断。前医にて妊婦健診を受けていた。
特に問題なく経過していたが、29 週 0 日胎動減少にて
前医受診。超音波上胎児胸水と少量の胎児腹水認め、
29 週 1 日当院受診、入院となる。入院時超音波にて、
著明な胎児水腫と胎児胸腹水、背部の腫瘍(径6cm 大)
を認める。同日、Non Reassuring Fetal Status にて緊
急帝王切開。1425g の女児出生。Apgar Score 4-6。臍
帯動脈血 pH 7.266 であった。その後、母体経過良好。
児の経過;新生児センターに入院し、腫瘍の精査施行。
胸水細胞診、腫瘍の生検より Rhabdomyosarcoma の診断。
急激な腫瘍の増大に対し、Vincristine(Oncovin)
Predonisolone(Predonin) Etoposide(VP16)による治療
開始するも、治療効果なく、75 生日目に永眠。考察;
昨今、従来のインスリン治療により血糖コントロール
困難な糖尿病患者に対し、インスリンアナログを用い
た治療が著効する例がしばしば見られるようになって
いるが、妊婦に対するその安全性や催奇性に関しては
未 だ 確 立 さ れ て い な い も の も あ る 。 long acting
insulin(Glargine) は human insulin と 比 較 し て
mitogenic potency が 高 く ( 約 8 倍 )、 human
osteosarcoma cell の刺激実験にて human insulin と比
較して顕著な増殖を認めたという報告がある。直接の
因果関係は不明であるが、今回の症例では、
Rhabdomyosarcoma と長期 Glargine 投与との関与が示
唆された。
489
英国における出生前診断のあり方と患者
のサポート体制
東海大学 医学部 専門診療学系 産婦人科 1、東海大
学 医学部 専門診療学系 小児科 2
○近藤 朱音 1)、三塚 加奈子 1)、西方 準一郎 2)、東
郷 敦子 1)、内田 能安 1)、野村 雅寛 2)、森 晃 1,2)
[背景]出生前診断には、画像診断(超音波,MRI 等)
、
胎児由来細胞の検査(羊水,絨毛,臍帯血)、母体血を
用いての検査、胎児鏡、着床前診断と大きく分けて 5
つの方法があるが、わが国においてはダウン症候群を
初めとする胎児異常についての検査を慎重に取り扱っ
ている。しかし英国では胎児の出生前診断が一般的に
行われており、おおよそ 80%の妊婦が血清マーカー(ト
リプルマーカー等)の検査をスクリーニングテストと
して受けて、これにより羊水検査、超音波胎児ドック
などを受ける対象を決定している。そのため助産師が
多くの場面において患者のサポートに関わっている。
[目的]出生前診断には多くの倫理的、社会的問題が含
まれることがあるため他の検査と異なり、検査を受け
る患者の精神的負担も大きくサポート体制は重要であ
る。日本においても助産師の心理的サポートなどの重
要性が少しずつ認められつつあるが、出生前診断を広
く行っている英国においては各施設での助産師による
患者サポート体制が充実しており、そのシステムには
学ぶところも多い。今回は調査した英国の出生前診断
について参考にすべき点および問題点について検討し
た。[方法]英国内のいくつかの大学病院の胎児診断部
門にて担当医、助産師らにインタビューを行い、主に
検査の流れ、助産師の教育システム、患者サポートへ
の取り組みについて調査した。また出生前診断におい
ては産婦人科、新生児科、遺伝診療部なども重要な分
野であるため同部門との連携についても検討した。[結
論]出生前診断が始まったのは 20 年程前のことである
が、様々な分野での技術発達に伴って詳細な検査も出
来るようになり、現在では世界で広く行われている。
しかし出生前診断の捉えられ方は各国で異なってお
り、積極に行う場合も慎重に行う場合もある。英国で
は出生前診断がスクリーニングとして認識されている
ため助産師に対する教育が充実しており、特に患者の
精神面でのサポートは優れている。倫理的にも社会的
にも依然として多くの問題を抱えていると考えられる
出生前・着床前診断ではあるが、実際に受検者数は増
加しており、その対応について考慮する必要性がある
と思われた。
P-447
490