中央銀行の分散化戦略: 米ドルとユーロ偏重からのリバランス

中央銀行の分散化戦略:
米ドルとユーロ偏重からのリバランス
ワールド ゴールド カウンシルについて
目次
ワールド ゴールド カウンシルは、金市場の育成を目的とする組織です。
要約
01
伝統資産の分散化
分散化の兆候はすでに顕著
02
03
伝統的な準備資産と代替的な準備資産
03
投資、宝飾品、
テクノロジー、政府・中央銀行関連の分野において、
金に対する持続的な需要を喚起するためのリーダーシップ活動を
行っています。
ワールド ゴールド カウンシルは、金市場に関する真の洞察力を生かし、
金をベースにしたソリューションやサービス、市場の育成を行っています。
こうした活動を通じ、主要市場分野における金需要の構造的変化を
喚起しています。
ワールド ゴールド カウンシルは国債金市場に対する洞察を提供する
ことにより、富の保全や社会・環境面で金が果たせる役割についての
理解を深める活動を行っています。
ワールド ゴールド カウンシルは世界の主要鉱山会社をメンバーに持ち、
代替準備資産の役割
04
代替準備資産を組み入れたポートフォリオの最適化
分析手法、
データ、前提条件
06
07
ブルースカイ:分析に制約を加えない場合
08
代替準備資産のデメリット
市場規模と取引可能性
市場規模に応じて最適化分析を調整
「マーケット」シナリオの分析結果:市場規模を加味
英国本部のほかインド、極東、欧州、米国にオフィスを有しています。
他のリスク資産と正の相関関係にある代替資産
詳細情報
外国投資家の市場アクセスへの制限
人民元投資の課題
適格外国機関投資家(QFII)
香港のオフショア人民元市場
ガバメント・アフェアへご連絡ください。
Ashish Bhatia
[email protected]
+1 212 317 3850
Natalie Dempster
Director, Government Affairs
[email protected]
+44 20 7826 4707
中国自由化のシナリオ
15
金の妥当性の再認識
16
まとめ
19
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access our research app for investors
本レポートは、2013年2月に刊行した英語版レポート
「Central bank diversification strategies: Rebalancing from the dollar and euro」
を翻訳したものです。
本レポートと英語版レポートの内容に相違がある場合には、英語版レポートが優先されます。
英語版レポートは、http://www.gold.orgをご参照ください。
中央銀行の分散化戦略:米ドルとユーロ偏重からのリバランス
09
09
10
11
12
15
15
15
15
要約
代替資産への選好性が高まり、中央銀行が外貨準備の米ドル
およびユーロへの配分比率の引き下げに動き始めました。
ポートフォリオの最適化分析では、信用リスクがなく、市場に流動性と
厚みのある金が、
この分散化プロセスにおいて最も魅力の高い代替資産の
一つであると確認されています。従いまして、新しい代替資産の市場が
発展するには時間を要するうえ、金の配分比率がおおむね最適水準以下に
とどまっていることを考慮すると、新しい代替資産と併せて金準備を
積み上げることが戦略として最適です。
金融危機とそれに続いた債務危機を受け、外貨準備の運用担当者は特に
本分析では、中央銀行が準備資産の65%を米ドルとユーロで引き続き保有
米ドル資産やユーロ資産から離れて、分散化を進める必要性に注目するよ
すると仮定したうえで、残りの35%についての最適な資産構成を導き出しま
うになりました。また、米ドルは依然として世界主要通貨であることに変わ
す。ここでは日本円や英国ポンド、金などの伝統的資産について検討します。
りはありませんが、米ドルの長期的な優位性は確実ではありません。このた
これらはすべて、ほとんどの中央銀行がこの数十年間一貫して保有していた
め、中央銀行は外貨準備資産の分散化を積極的に求めるようになっており、
資産です。これらの伝統的資産に加えて、中央銀行が選好する代替的な準備
特に米ドルとユーロの配分比率を引き下げる方向にあります。
資産である中国やカナダ、
オーストラリア、
スイス、
デンマークの各通貨建て
世界経済における中国の台頭を受け、中央銀行は中国通貨のアベイラビリ
ティと交換性が限られているにもかかわらず、人民元建て資産を真剣に検
討せざるを得ない状況です。一方、信用が低下している時代にあって、
カナ
の質の高い資産も対象としました。これらの資産はここ数年、良好なリターン
を記録しており、健全な経済ファンダメンタルズに支えられています。
このような資産ポートフォリオの最適化分析に純粋に基づいた場合、人民元
ダやオーストラリア、スイスをはじめとする国々はいずれも信用格付けが
や金、
オーストラリアドル建て資産が分散化に最重要の資産として浮上しま
AAAであり、外貨準備の代替的な投資対象として際立っています。
した。
しかし、中国とオーストラリアの国債市場規模が限られているため、金
このような状況を背景として、本レポートでは、中央銀行が配分比率の微調
が分散化において優勢な資産となりその最適配分比率は約8%でした。
整にどう取り組むべきかについて理解を深めるため、準備資産が米ドルと
ユーロから離れて分散化に向かっている傾向を検証していきます。
01
伝統的資産の分散化
新興国市場の中央銀行は近年、記録的ペースで外貨準備を拡大していま
外貨準備の急増を背景に、新興国市場の中央銀行は多額に達した米ドルと
す。国際通貨基金(IMF)がまとめた世界統計、通称「COFER(公的外貨準
ユーロの保有高に対して徐々に疑問を投げかけるようになり、分散化の機
備の通貨構成)」のデータによると、世界の全中央銀行が保有する公的準備
会を模索し始めました。分散化の流れを加速させているのは、世界の歴史
は2000年の2兆米ドルからわずか12年後の2012年には、12兆米ドル以上
的低金利を背景とした外貨準備の保有コスト上昇と、米国および欧州にお
に拡大しました。公的準備資産は主として、米ドルとユーロ建て資産と金で
ける財政状況の先行きに対する不透明性です。さらに、新興国市場の中央
構成されています。これらよりは少なくなりますが、中央銀行は日本円や英
銀行は世界経済の成長において新興国市場の果たす役割が拡大している
国ポンド建ての伝統資産も準備資産として保有しています。図1に、準備資
ことも認識しており、今まで以上に世界で重要な役割を果たしているこのよ
産の規模と構成比が長期的にどう変化しているかを示しました。この全体
うな市場へ投資を移すことに関心を示すようになっています。
数値には新興国市場と先進国の中央銀行が保有する準備資産が含まれて
いますが、外貨準備高とその拡大幅のほとんどが新興国市場のものとなっ
ています1。
図1:公的部門の外貨準備高と金保有高
US$bn
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
2000
2001
Gold
USD
2002
EUR
2003
2004
JPY
GBP
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
Q2 2012
Other
Source: IMF COFER, IFS statistics, World Gold Council
1 外貨準備の構成比に関する新興国市場のデータはない。しかし、新興国市場は総準備資産の相当部分を占めており、全世界の中央銀行の全体的傾向が十分な指標となる。
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分散化の兆候はすでに顕著
伝統的な準備資産と代替的な準備資産
世界の中央銀行は2000年から2012年にかけて米ドル建て資産から距離
本レポートはこれから、資産や通貨を伝統的な準備資産と代替的な準備
を置くようになり、米ドルの総準備資産に対する構成比率は62%から54%
資産の2つのカテゴリーに分類します。伝統的な準備資産には米ドル、ユー
へ低下しました(図2a、2b)。このようなシフト、つまりリバランスの一部は
ロ、金、英国ポンド、日本円建て資産が含まれます。このような資産は世界
ユーロ建て資産に移り、
この期間中にユーロの構成比率が上昇しました。
し
の総準備資産においてこの10年間の構成比率がそれぞれ1%を超えてお
かし、欧州債務危機が外貨準備の運用担当者にユーロの構成比率引き下げ
り、いずれも長年の間、公的資産の中核を形成しているという点で他の通
を促したため、ユーロの構成比率は横ばいになっていることを示す個別の
貨/資産とは一線を画します。また、安全性や流動性、
リターンについて中央
銀行の運用担当者の要求条件に合致する質の高い特性を共有しています。
事例もみられます。
ユーロ構成比率の段階的な引き上げに対する選好性が低下し、中央銀行
は様々な他の資産を検討しています。IMFのデータがこの点を裏付けてお
さらに、
このような資産は一般的に、ほぼ全世界の中央銀行の投資ガイドラ
インですでに認められています。
り、準備資産の「その他」の通貨の構成比率が2008 年以降、絶対額で3 倍
伝統的な準備資産を、代替準備資産であるオーストラリアやカナダ、中国、
に増えました。新興国市場の中央銀行が徐々に投資しているのはカナダドル
デンマーク、スイス建て資産などと比較していきます。このような資産は構
(CAD)
やオーストラリアドル(AUD)、スイスフラン
(CHF)、デンマークク
成比率が1%に満たないか、あるいは中央銀行がそれほど一般的に保有し
ローネ
(DKK)、中国人民元(CNY)
などの通貨です 2。この流れを受け、IMF
ない資産であるためにIMFのCOFERデータで個別に分類されていません
は2013年からカナダドルとオーストラリアドルを定期的に報告することにな
でした。スイスフラン建て資産は歴史的には準備資産管理において一定の
りました 3。すなわち、
これらの通貨の準備資産としての役割が拡大している
存在感を示していましたが、1995年以降の構成比率は平均0.2%と、近年
ことを裏付けています 。このような分散化傾向に伴い、20年近く金を売り越
はほんのわずかにとどまっていたため、代替準備資産とみなしています。
4
していた中央銀行は2010年時点で金のネット購入側へと転じています。
図2a:総外貨準備の構成比(2000年時点)
図2b:総外貨準備の構成比(2012年時点)
Gold
USD
EUR
JPY
GBP
Other
Gold
USD
EUR
JPY
GBP
Other
13%
62%
16%
5%
2%
2%
13%
54%
22%
3%
3%
5%
Note: Totals may not equal 100% due to rounding.
Source: IMF COFER statistics, Q2 2012
Source: IMF COFER statistics, Q2 2012
トルコ、ハンガリー、ポーランド、
メキシコの中央銀行が公開している
2 準備資産の構成比率について、中国、ロシア、韓国、南アフリカ、マレーシア、香港、インド、
準備資産の管理データおよび出版物を詳しく分析した。
3 『IMF Mulling Inclusion of AUD, CAD in Official Forex Reserves 』、November 2012、Wall Street Journal.
4 COFERデータで現在、報告している通貨は米ドル、ユーロ、英国ポンド、日本円、スイスフランだけであり、これ以外は「その他」となっている。
02 _03
代替準備資産の役割
代替準備資産 5は、相対的な安全性と準備資産の分散化など、様々なメリッ
ています。一方、中国をはじめとする新興国市場の急成長により、投資家の
トを外貨準備の運用担当者にもたらします。信用の質が低下する時代に、
関心は利回りのより高い株式へ幅広く喚起されています。オーストラリア
カナダやオーストラリア、デンマーク、スイスといった国々はいずれも信用
とカナダでは、好調なコモディティ・セクターと健全な経済ファンダメンタル
格付けがAAAであり、その質の高さから、準備資産の強力な投資先候補と
ズが米国、欧州を大きく上回る利回りを支えています。また、通貨高でさら
して浮上します。こうした国々は長期にわたって最上位の格付けを有してお
にリターンが上昇します。すなわち代替準備資産の米ドル建てリターンは、
り、最近も有力格付け機関から最上位の格付けが再確認されています。
各通貨が対米ドルで上昇すると高くなります。図3に、
このような代替資産
代替準備資産を保有すると、米ドルとユーロ建て資産を上回るリターンの
可能性ももたらします。欧米の長期国債利回りはこの 5 年間で平均 3 % 未
満であり、公的準備資産の保有に伴うコストを割り込む可能性が高くなっ
のリターンを現地通貨建てと米ドル建てで示しました。ここから、
トータルリ
ターンを米ドル建てでみた場合に各通貨の上昇がプラスの影響を与えてい
ることが明らかです。
図3:代替準備資産の年間リターン
Return (%)
25
20
15
10
5
0
Canada
In local currency terms
Denmark
Switzerland
Australia
China
In US dollar terms
Note: Weekly data from January 2005 to October 2012.
Source: Barclays Aggregate treasury indices, Bloomberg, World Gold Council
5 カナダドル(CAD)、オーストラリアドル(AUD)、スイスフラン(CHF)、デンマーククローネ(DKK)、中国人民元(CNY)建て資産と定義する。
中央銀行の分散化戦略:米ドルとユーロ偏重からのリバランス
Gold
代替準備資産は、伝統的準備資産と相関関係が低いことでも注目を集めて
います。表1に、代替準備資産と伝統的な準備資産との相関関係をまとめま
した。このような「新しい」資産と伝統資産との間には強い相関関係がなく、
これが代替準備資産の分散化に対する強みとして加わります。このような資
産は伝統的準備資産に対して強く相関していないため、伝統的準備資産が下
落した場合でも安定性を保つことによって分散化効果をもたらすわけです。
表 1: 伝統的準備資産と代替準備資産の相関係数表 Traditional reserve assets
US
Treasuries
US Treasuries
Alternative reserve assets
US
Agencies
Germany
Gold
UK
Japan
Australia
Canada
China
0.91
0.30
0.04
0.29
0.56
-0.09
-0.01
0.07
0.31
0.34
0.36
0.07
0.34
0.52
0.05
0.15
0.08
0.36
0.36
0.63
0.39
0.54
0.50
0.21
0.98
0.78
0.30
0.17
0.38
0.38
0.17
0.40
0.42
0.47
0.44
0.11
0.62
0.51
-0.06
0.00
0.15
0.38
0.45
0.72
0.01
0.54
0.38
0.02
0.49
0.36
US Agencies
0.91
Germany
0.30
0.36
Gold
0.04
0.07
UK
0.29
0.34
0.63
0.30
Japan
0.56
0.52
0.39
0.17
0.21
Australia
-0.09
0.05
0.54
0.38
0.47
-0.06
Canada
0.43
0.43
0.21
-0.01
0.15
0.50
0.38
0.44
0.00
0.72
China
0.07
0.08
0.21
0.17
0.11
0.15
0.01
0.02
Denmark
0.31
0.36
0.98
0.40
0.62
0.38
0.54
0.49
0.21
Switzerland
0.34
0.36
0.78
0.42
0.51
0.45
0.38
0.36
0.14
Denmark Switzerland
0.21
0.14
0.76
0.76
Note: Based on weekly returns from January 2005 to October 2012.
Source: Barclays Aggregate treasury indices, LBMA
04 _05
代替準備資産を組み入れた
ポートフォリオの最適化
ワールド ゴールド カウンシルはこれまでにリサーチを実施し、新興国市場
ポートフォリオの65%を米ドルとユーロに振り向けなければならない(それ
の中央銀行にとって最適な伝統的資産の構成比を検討しました 6。本レポー
ぞれ47%と18%)8と仮定したうえで、本分析は準備資産の残り35%の最
トはこの分析をベースにポートフォリオの最適化を利用し、代替準備資産を
適資産比率を検討していきます。この35%に配分できる資産は残りの伝統
検討した場合の最適配分比率を導き出していきます。
本分析は、米ドルとユーロ建て資産が現在オーバーウェイトであると中央
銀行が自ら認識し、
これら資産の配分比率を引き下げる方向であるとの前
準備資産(金、英国ポンド、日本円建て資産)ならびに代替準備資産で構成
されます。このような前提条件に基づき、米ドルとユーロ以外の残りの資産
について検証していきます。
提に基づいています。前提条件として、中央銀行が米ドルとユーロの配分
比率の合計を現在の74%から65%へ引き下げると想定しています。図4で
は、米ドルとユーロの配分比率が2000年の78%から2012年に74%に低下
したことが示されています。この傾向が続くと仮定すると、新興国市場の中
央銀行は一般的に米ドルとユーロの配分比率の合計を今後65%まで引き
下げ 7、残り35%をその他の準備資産に配分するものと思われます。
図4:米ドルとユーロ建て準備資産の構成比率(ヒストリカルと予測)
Total reserves (%)
100
90
78%
80
74%
70
65%
60
50
40
30
20
10
0
2000
USD
2012
Estimated
EUR
Source: IMF COFER, World Gold Council
6 『RBS Reserve Management Trends 2012: Optimal gold allocation for emerging-market central banks, April 2012 』、RBSおよび
『 The importance of gold in reserve asset management 』、June 2010、World Gold Council。
7 米ドルとユーロの配分比率を引き下げる時期については、何ら言及されていない。本分析ではむしろ、この配分比率を長期的に引き下げたい意向が中央銀行にあるとのみ
想定している。
8 米ドルとユーロの配分比率は、IMFのCOFERデータの2012年における米ドルとユーロの配分に基づく。
中央銀行の分散化戦略:米ドルとユーロ偏重からのリバランス
分析手法、データ、前提条件
資産のボラティリティと相関係数: 本分析の前提として使用した資産のリ
最適化手法:このデータを分析するため、New Frontier Advisors
(NFA)
が特許を保有するポートフォリオ・オプティマイザーである、
リサンプリン
グ法を用いた効率的最適化手法を活用しました。ミショーの考案した「リ
サンプリング効率的フロンティア TM(Michaud Re-sampled Efficient
(MM最適化法)
は、近代的な最適ポートフォリオ選択理論の
Frontier TM)」
ターンとボラティリティを表2にまとめました。各準備資産のボラティリティ
と各資産間の相関係数を推定するため、Barclays Capital Aggregates
の2005年1月から2012年10月までの週次データを利用しました。代替準
備資産の最新の動きを織り込むため、より直近でかつ頻度の高いデータを
選択しています。
創始者であるハリー・マルコビッツによる従来型の平均分散最適化手法より
資産リターン: 金と債券市場の過去14年間のパフォーマンスは、先行きを
も有効かつ頑健な結果が得られる方法であると認められています 。特に、
見通すうえでは適切な尺度ではないでしょう
(例えば、米国債のこの間の
リサンプリング法を用いたポートフォリオ最適化の結果は頑健性において
リターンは5 . 2 %です)。このため本分析では代わりに、本分析を実施して
9
より優れており、前提となるリターンとボラティリティの精度に対する依存
いた2012年8月から10月の間のBarclays Capitalより計算した「最低リ
性が低くなります。
ターン」の平均を使用しました。前提となる金の期待リターンは、米連邦準
本分析に提示した結果は中レベルのリスク水準であり、
リサンプリング効率
的フロンティアのリスクが最も低いポートフォリオと最も高いポートフォリ
備制度理事会(FRB)
が想定している長期的なインフレ目標と少なくとも同
水準になるとの前提のもと、控えめに2%に抑えました。
オの中心値を表しています。ここでは、ボラティリティをリスクと定義してい
ます。
リサンプリングは、効率的フロンティアのシミュレーション1,000本に
基づいています。
表 2: 資産に適用した数値とヒストリカルなリターンおよびボラティリティ
Alternative assets
Model inputs
Canada
Projected returns
(Yield-to-Worst)
Volatility
Information ratio
Denmark Switzerland
Traditional reserve assets
Australia
China
US
US
Gold Treasuries Agencies
UK Germany Japan
1.6%
0.9%
0.4%
2.9%
3.3%
2.0%
0.9%
1.0%
1.7%
0.9%
0.6%
10.0%
10.5%
12.0%
13.6%
8.9%
20.0%
4.4%
2.7%
11.1%
10.3%
11.3%
0.2
0.1
0.0
0.2
0.4
0.1
0.2
0.4
0.2
0.1
0.1
Alternative assets
Historical returns
and volatility
Annualised average
return
Volatility
Information ratio
Canada
Denmark Switzerland
Traditional reserve assets
Australia
China
US
US
Gold Treasuries Agencies
UK Germany Japan
8.6%
5.6%
7.5%
11.4%
7.6%
20.0%
5.3%
4.8%
5.0%
5.2%
6.0%
10.0%
10.5%
12.0%
13.6%
2.3%
20.0%
4.4%
2.7%
11.1%
10.3%
11.3%
0.9
0.5
0.6
0.8
3.3
1.0
1.2
1.7
0.4
0.5
0.5
Note: This analysis has added 6.6 percentage points of volatility to Chinese treasury returns, which assumes the currency would have at least the same
volatility as a developed economy currency. This figure was chosen as it is the average increase in volatility for Traditional reserve assets when translating the
asset’s volatility from local terms to US dollar terms (See box on page 15 for more details). References to country name denote origin of reserve assets.
9 リチャード.O.ミショーによるハリー.M.マルコビッツのインタビューを参照:『Journal of investment management, Volume 9, No. 4, 2011, 1–9 』、
JOIM Conference Series San Diego, 6 March 2011, Conference Summaries.
06_07
ブルースカイ: 分析に制約を加えない場合
図5:「ブルースカイ」シナリオ:制約なしの状態での最適配分比率
初回の最適化分析の結果では、
オーストラリアと中国の資産ならびに金が、
新興国市場の中央銀行の最適ポートフォリオの残り35%において、最も際
立つ役割を果たすことが示されました。つまり、
リターンやボラティリティ、
共分散の入力データに基づくと、
このような資産を組み入れることが運用
担当者にとって最重要との結果が出たわけです。それぞれの配分比率は中
国資産が13%、
オーストラリア資産が6%、金が5%となりました。
この「ブルースカイ」シナリオで適用した唯一の制約は、米ドルとユーロの
配分比率をポートフォリオの合計65%に限定するというものであり、47%
を米ドルに固定し、18%をユーロに固定しました。この制約のもとでは、
ポー
Denmark
Switzerland
UK
Japan
Canada
Gold
Australia
China
US and Europe
1%
1%
2%
3%
4%
5%
6%
13%
65%
トフォリオ最適化の視点で見た場合、代替準備資産の重要性が他の準備資
産より突出して際立っていました。本分析で使用したリターンの前提条件
をみると、3 . 3 %と2 . 9 % の最も高いリターンを使用した中国とオーストラ
リアの資産の配分比率が予想通り最も高くなりました。重要なのは、金のリ
ターンを控え目な2% に、ボラティリティは高く
(20%)設定しているにも
10
かかわらず、
この最適化モデルでは金の強力な分散化効果により金の配分
比率がかなり高くなったことです。さらに、オーストラリアや中国、さらには
カナダの国債をはじめとする代替準備資産も、伝統的な準備資産である英
国債や日本国債より配分比率が高くなりました。最後に、デンマーククロー
ネとスイスフラン建ての代替準備資産は、最適ポートフォリオで配分比率が
最も小さくなりました。図5に、各資産クラスの配分比率を示しています。こ
の初めの分析では、代替資産には分散化という点で明確な役割があること
が明らかになりました。
10 詳細は、7ページの囲み記事を参照。
中央銀行の分散化戦略:米ドルとユーロ偏重からのリバランス
*米ドルとユーロの配分比率は65%とし、その内訳は米ドル建て資産が48%、
ユーロ建て資産が18%とする。
Note: Optimal allocations for median levels of risk given 65% allocation
to USD and EUR.
代替準備資産のデメリット
本分析ではここまで、代替的資産が準備資産において重要な役割を果たし
ずれも1兆5,000億米ドルを下回っています。さらに、その中で最大規模の
ていることを質的および量的の双方から示しました。一方で、
これらの資産
中国国債は、外国人にとってアクセスが難しい市場です。外国人投資家は
には多くの中央銀行が懸念を示すかもしれない2つの要素があります。
(A )
適格外国機関投資家(QFII)制度で認可を受けることが必要で、同制度で
市場の厚みと規模、
(B)
リスク資産とのプラスの相関関係であり、
これらに
現在認められているのは中央銀行とソブリン系の約13の機関です11。人民
元建て資産の取引可能性が限定されているため、QFIIの投資枠と香港の
関する点を本章で個別に検討します。
オフショア預金を加え、想定市場規模を1,800億米ドルに変更しました(詳
市場規模と取引可能性
細は、図6ならびに15ページの囲み記事を参照)。
中央銀行は多額の公的準備を運用しており、取引の段階で市場に多大な影
響を及ぼさないために大規模かつ厚みのある市場を必要とします。代替準
備資産と伝統的な準備資産それぞれについて、図6に市場規模を示しまし
た。これでわかる通り、代替準備資産はすべて市場規模がかなり小さく、い
図6:代替準備資産と金の市場規模
US$bn
3,500
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0
Switzerland
China
(QFII and offshore)
Australia
Denmark
(including covered)
Canada
China
Gold
Note: Gold stock is calculated as gold held by private investors and the official sector as estimated by Thomson Reuters GFMS (62,500 tonnes)
multiplied by the average 2012 London PM fix gold price (US$53.6mn per tonne).
Source: BIS, CSRA, HKMA, J.P. Morgan, World Gold Council
11 人民元資産のアベイラビリティが限定されている点について、詳細は15ページの囲み記事を参照。
08_09
市場規模に応じて最適化分析を調整
ルを準備資産に配分する必要があります。
しかし、
この数字はいずれも実際
前章では、初回の最適化分析でポートフォリオの65%を米ドルとユーロに
の市場規模である1兆5,000億米ドル、4,600億米ドルを上回っています。
配分することを前提として、伝統準備資産と代替準備資産の双方について
従いまして、次の最適化分析では市場規模を考慮し、市場の既存要素に基
最適配分比率を検討しました。この「ブルースカイ」シナリオをもとに実施し
づいた現実的な解を求めました。
た分析では、
これ以上の制約は適用しませんでした。これらの分析をさらに
進め、次の最適化分析では資産の取引可能性を勘案するため、それぞれの
市場規模に応じて代替準備資産に制約を課しました 12。
各資産に適用する制約の水準を算出するため、表3に示した通り、総外貨準
備高(12兆3,000億米ドル)
に対する各市場残高の比率をもとに各市場の
上限規模を推定しました。
前章の最適化分析の結果を全世界の中央銀行に適用するとすれば、中国と
オーストラリアの資産は合計でそれぞれ1兆6,000億米ドル、7,200億米ド
表 3: 市場規模と配分比率に課す制約 Assets
Market size (US$bn)
Cap
Switzerland
US$134
5%
Australia
US$460
5%
Denmark (including covered)
US$593
5%
US$1,134
10%
US$1,485 (US$180bn investable*)
5%
Non-traditional
Canada
China
Traditional
UK
US$1,524
15%
Gold
US$3,437
30%
Europe
US$9,314
100%
US
US$10,521
100%
Japan
US$12,143
100%
*中国の資産市場に関する詳細は、15ページの囲み記事を参照。
Source: BIS, China Securities Regulation Commission, Hong Kong Monetary Authority, J.P.Morgan, World Gold Council
12 本分析では引き続き、中央銀行が米ドルとユーロの持ち高を計74%から65%まで引き下げると想定している。
中央銀行の分散化戦略:米ドルとユーロ偏重からのリバランス
この 2 番目のポートフォリオ最適化分析では、市場規模を勘案した場合に
「マーケット」シナリオの分析結果:市場規模を加味
調整を加えたこの分析(以後、
「マーケット」シナリオと呼びます)の結果で
35%の資産配分で金が主流となり、分散化に向けた資産として金が果たす
は、代替資産に役割があることが確認され、分散化ポートフォリオである
重要な役割が確認されました。分散化ポートフォリオにおける金の配分比率
35%のうち、カナダ、中国、オーストラリアの資産にそれぞれ3〜5ポイントが
は日本国債とほぼ同等で、準備資産の8%近くに迫っています。このため、制
配分されました。
しかし、
このような資産の実際の市場での取引可能性を加
約を課した場合の最適化分析では、分散化プロセスで代替準備資産の果た
味したため、
この配分比率ははじめの分析結果を大幅に下回っています。代
す役割はあるものの、市場規模の制約によってその役割がかなり抑制され
替準備資産の規模の制約によって、実質的に、伝統的な準備資産が分散化で
ることが示されました。
したがって、金と伝統的な準備資産が運用担当者か
果たすべき役割が改めて浮き彫りとなりました。
「マーケット」シナリオの最
らもっと注目されてしかるべきであることが示される結果となりました。
適化では、
「ブルースカイ」シナリオよりも金や日本国債、英国債といった伝
統的な資産の配分比率が大きくなっています(図7)。実際、分散化のため金
が組み入れられ、その舞台中央に伝統的な準備資産が躍り出た格好です。
図7:「マーケット」シナリオ:市場規模に制約を課した場合の
最適配分比率
Switzerland
Denmark
Australia
China
Canada
UK
Japan
Gold
US and Europe
1%
1%
3%
4%
5%
6%
8%
8%
65%
Note: Optimal allocations given 65% allocation to USD and EUR.
Total may not equal 100% due to rounding.
10_11
他のリスク資産と正の相関関係にある代替資産
これらの代替準備資産について検討すべきもう一つのデメリットは、
リスク
資産と強い相関関係があることです。これら代替資産の強みの一部が経済
成長やコモディティ・セクターの強さと関連している点にあるとすれば、
これ
らの資産には景気循環とより幅広く関係するリスクもあります。景気循環と
同方向に動くという性質は、安全な避難先として機能し、反循環的とみなさ
れることが多い伝統的な準備資産とはまったく対照的です。
代替準備資産や伝統的な準備資産の、他のリスク資産に対する動きを検討
するために、本分析では原資産の通貨の長期リターンの相関関係を調査し
ました。通貨を調査したのは準備資産に比べて多くのデータ・ポイントが利
中央銀行の分散化戦略:米ドルとユーロ偏重からのリバランス
用できるためです。2000年1月から2012年10月の13年間、オーストラリ
アとカナダの通貨はMSCIワールド・インデックスと高い正の相関関係にあ
り、相関係数はそれぞれ0.64と0.58でした(図8a)。
一方、図8bが示す通り、伝統的準備通貨ではこの世界的な株式指数との間
に高い相関関係はありませんでした。また条件付きの相関関係を調べると、
リスク資産が極端にネガティブなイベントに遭遇した場合、代替的な準備通
貨はこれに連動する傾向があることがわかります。
図8a:MSCIワールド・インデックスと準備通貨の相関関係(2000年1月〜12年10月)
Against the USD
CNY
Gold
CHF
DKK
CAD
AUD
-1.0
-0.8
-0.6
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
Correlation
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
Correlation
Note: Calculations based on returns from weekly data.
Source: Bloomberg, World Gold Council
図8b:MSCIワールド・インデックスと準備通貨の相関関係(2000年1月〜12年10月)
Against the USD
USD index
JPY
Gold
EUR
GBP
-1.0
-0.8
-0.6
-0.4
Note: Calculations based on returns from weekly data.
-0.2
0
Source: Bloomberg, World Gold Council
12 _13
本分析においてMSCI ワールド・インデックスが2 標準偏差以上下落した
最後に、
オーストラリアとカナダの通貨はコモディティ・サイクルの影響も受
ケースを検討すると、MSCIワールド・インデックスと、
カナダドルとオースト
けやすくなっています。両通貨とS&P GSCIコモディティ・インデックスの
ラリアドルとの相関関係はそれぞれ0.58、0.80でした。
したがって、市場が
相関関係は約0.55で、金を含むその他の準備資産をすべて上回ります(金
急速に下落して中央銀行が準備資産の売却を迫られた場合、損失発生を見
自体もコモディティです)。実際、
ワールド ゴールド カウンシルが実施した
込まなければならないかもしれません。
しかし金はまさに正反対です。金の
調査レポートによると、金はテクニカルな意味ではコモディティですが、そ
相関関係がマイナス0.22であることからもわかるように、何らかの極端な
の金融資産としての特徴は他のほとんどのコモディティと大きく異なって
イベントが発生してMSCIワールド・インデックスが下落する場合、金は上昇
います13。
する傾向にあります(図9aおよび9b)。
図9a:MSCIワールド・インデックスが2標準偏差下落した場合の相関関係(2000年1月〜12年10月)
Against the USD
AUD
CAD
DKK
CHF
Gold
CNY
-1.0
-0.8
-0.6
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
Correlation
0.4
0.6
0.8
1.0
Correlation
Note: Calculations based on weekly data.
Source: Bloomberg, World Gold Council
図9b:MSCIワールド・インデックスが2標準偏差下落した場合の相関関係(2000年1月〜12年10月)
Against the USD
EUR
GBP
Gold
JPY
USD index
-1.0
-0.8
-0.6
-0.4
-0.2
Note: Calculations based on weekly data.
Source: Bloomberg, World Gold Council
13『Gold: a commodity like no other 』、April 2011、World Gold Councilを参照。
中央銀行の分散化戦略:米ドルとユーロ偏重からのリバランス
0
0.2
人民元投資の課題
世界経済の中で中国の役割が増大していることについて、疑問の余地はほ
とんどありません。
しかし、その為替政策については大きな不確実性が存在
します。第一に、人民元は2005年以降段階的に自由化されてきましたが、い
まだに厳しく管理されており、小幅な変動しか許されていません。
したがっ
て中国の固定的な為替政策は、人民元の見通しに不確実性をもたらします。
人民元への投資家は、中国がより柔軟な為替レート政策を進めた場合に、人
民元が大きく上昇または下落する可能性を考慮する必要があります。
このような政策を考慮に入れず過去のデータのみ検討すれば、準備資産の
運用担当者は人民元の資産について、ボラティリティが低く魅力的なもの
と考えるでしょう14。また、2005年以降の人民元の着実な上昇によって米ド
ルベースでのリターンが拡大し、魅力はさらに高まっています。
しかし為替
レート政策が柔軟化すれば、少なくとも中国資産のボラティリティに影響が
及びます。米ドル建ての中国国債のボラティリティは、伝統的準備資産の平
均8%に対して、2005年以降わずか2.3%です。より柔軟な為替政策が採用
された場合に、人民元建て資産のボラティリティが、伝統的な準備資産ある
ルまで引き上げると発表しました15。1機関投資家当たりの投資枠は、10億
米ドルに制限されています。中央銀行とソブリン系投資ファンドがQFII制度
に参加するためには、設立後2年以上経過し、運用資産が5億米ドルを超え
ていなければなりません。QFII投資家は、取引所で取引される株式、債券、
ワラント債、銀行間債券市場で取引される確定利付商品、そして証券投資
ファンド、株価指数先物、その他中国証券監督管理委員会(CSRC)が認め
る金融商品に投資することができます16。
香港のオフショア人民元市場
人民元建て資産の取得に関心がある投資家は、香港のオフショア人民元市
場を利用することもできます。香港はこれまで人民元国際化の最前線にあ
り、外国投資家が人民元資産にアクセスできる、完全に引き渡し可能なオフ
ショア人民元(CNH)市場を提供してきました。香港金融管理局によれば、
オフショア人民元の預金ベースは推計約1,000億米ドル(6,000億元)で、
急速に成長しています17。
中国自由化のシナリオ
いは新興国資産と同程度の15〜20%まで上昇するのかどうかという疑問
本レポートの分析は、中国市場が外国投資家にとってアクセスが向上する
が残ります。本分析では、中国国債リターンのボラティリティを6.6ポイント
シナリオも検討しています。このシナリオでは、国債 1兆5,000億米ドル分
高くしましたが、
これは人民元のボラティリティが少なくとも先進国通貨と
がすべてアクセス可能になるものとして、中国資産への配分に適用される
同じになることを前提にしています。この数字は、伝統的な準備資産のボラ
5%の上限を15%まで引き上げています。この最適化分析の結果、ボラティ
ティリティを現地通貨ベースから米ドルベースに変換した場合の、平均的な
リティの低さ、米ドルに対する上昇、そして伝統的な準備資産との低い相関
ボラティリティ上昇率に基づいて設定しています。
関係から、最適ポートフォリオにおいて中国国債が有力な資産になることが
外国投資家の市場アクセスへの制限
示されました。
(図10)。金の比率は依然として約7%と高く、本シナリオの
その他の資産をすべて上回っています。
不確実性をもたらす二つ目の原因は、中国準備資産市場へのアクセスの
難しさに関連しています。2012年9月時点で、中国国債の発行残高は1兆
図10:中国自由化のシナリオで資産を分散する場合の配分比率
3,000億米ドルで、中央銀行債は2億4,100万米ドルでした。本分析では、総
額約1兆3,000億米ドルの市場のうち、公的にアクセスできるのは1,800億
米ドル分のみ(適格外国機関投資家制度を通して取引できる800億米ドル
と、香港のオフショア預金の合計)
と想定しました。この結果、本レポートで
Switzerland
Denmark
Australia
Canada
UK
Japan
Gold
China
US and Europe
の最適化分析において、中国国債への配分比率は最大5%となりました。中
国政府が保有する国債残高は米国や日本と比べて少ないため、投資可能な
中国国債市場は小さいのですが、外国投資家に対する規制によって実質的
にさらに小さくなっています。
適格外国機関投資家( QFII )
中央銀行を含む外国投資家は、適格外国機関投資家(QFII)制度によって
1%
1%
2%
4%
4%
5%
7%
11%
65%
中国市場に直接参加することができます。2012年10月時点で、中央銀行と
ソブリン系の13の機関を含む192社/機関が同制度で認められています。
2012年4月、中国当局は外国機関の投資枠を300億米ドルから800億米ド
Note: Barclays Treasury Aggregates.
Source: World Gold Council
14 本分析の最適化調査によって確認。
15『QFII Investment quota to be increased by 50bn US Dollars 』、China Securities Regulatory Commission, April 2012. http://www.csrc.gov.cn/pub/
csrc_en/OpeningUp/RelatedPolices/QFII/201212/t20121210_217805.htmで閲覧可能。
16『 Provisions on issues concerning the implementation of the administrative measures for securities investment made in China 』、
中国証券監督管理委員会公告を参照。
17『Hong Kong: The Premier Offshore Renminbi Business Centre 』、March 2012、香港金融管理局を参照。
14 _15
金の妥当性の再認識
本分析は、中央銀行が米ドルとユーロ建て資産に偏重しているポートフォリ
金は、中央銀行の準備資産として長い歴史を有しています。金本位制の時
オの分散化に向け、代替投資対象を求めていると仮定しています。本レポー
代には、金は各国の法定不換紙幣を裏付ける準備資産でした。正統的な金
トはポートフォリオの分析を通じて、
これまでは限定的な役割しか果たして
本位制の末期から、それに続く金為替本位制以降も、金は中央銀行の準
いなかった代替準備資産が中央銀行の分散化プロセスの中で検討されて
備資産において重要な位置を占め続けています。しかし、1990 年代から
しかるべきであることを示しています。また、金をはじめとする幾つかの伝
2000年代にかけて欧米の利付国債が重要性を増すにつれ、選好性が粛然
統資産の妥当性も改めて示されました。
と低下してきました。さらに最近になっては、2010年時点で中央銀行が金
のネット購入者側に転じています(図11)。
図11:公的部門の金の純取引量
Tonnes
600
400
200
0
-200
-400
-600
-800
2002
2003
2004
2005
Source: Thomson Reuters GFMS, World Gold Council
中央銀行の分散化戦略:米ドルとユーロ偏重からのリバランス
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
本レポートは、中央銀行がなぜ準備資産の中で金に注目しているかの理由
本分析では、金の重要な幾つかの資質(信用リスクがないことや取引量で
に焦点を当ててきました。金には、伝統的準備資産と代替準備資産との間
判定できる流動性)
を織り込んでいません。準備資産は信用の質が高い一
に統計的に有意な相関関係がありません(図12)。このため、相当な多様性
方でソブリン債が含まれており、ある程度のデフォルトリスクを抱えていま
をポートフォリオにもたらしています。中央銀行が米ドルとユーロから分散
す。実際、中央銀行は投資に対して長期的視点に立っているため、徐々に生
化を進める場合に検討すべき最重要の資産の一つが金である主な理由も、
じるソブリン債のわずかなデフォルトリスクは中央銀行にとって重要です。
他方、金は銀行の特定保管口座に預けたり、現物の状態で中央銀行の金庫
ここにあります。
本レポートでは、金市場の規模が約3兆2,000億ドルと大きく、中央銀行は
大型投資においても金に十分にアクセスできることを示しました。
で保管したりすれば信用リスクがありません。このような特性は、
ここまで
示してきた量的モデルには織り込んでいません。
図12:金と準備資産の週次リターンにおける相関係数
Assets
Japan
Germany
UK
US Agencies
US Treasuries
-1.0
-0.8
-0.6
-0.4
-0.2
Note: Weekly return data measured in USD from January 2005 to October 2012.
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
Correlation
Source: World Gold Council
16_17
さらに、流動性に関して言えば、金の1日あたりの平均取引高はロンドン地金
流動性は、市場規模対比でみるとさらに高く、回転率は約7%と他の準備資
市場協会
(LBMA)
のディーラー調査で2,400億米ドルと推定されています18
産をいずれも凌いでいます(図 14 )。金の流動性の高さは、グローバル性
(図13)。他の大型資産や通貨と比較した場合、金は主要通貨ペアや米国債、
に加えて、通貨と資産の双方の役割を果たし、様々な用途に使われている
日本国債に次いで、最も頻繁に取引される資産の一つとなっています。金の
ためです。
図13:各資産の1日あたり平均取引高(米ドル)
Dow Jones (all stocks)
German Bunds
UK gilts
US agencies
S&P 500 stocks
EUR/JPY
Gold
USD/GBP
Japanese government
USD/JPY
US Treasuries
USD/EUR
0
200
400
600
800
1,000
1,200
US$bn
Source: BIS, German Finance Agency, Japanese MOF, SIFMA, Thomson Reuters GFMS, UK DMO, World Gold Council
図14:1日あたりの平均回転率(1日あたりの平均取引高÷市場規模)
Turnover (%)
8
7
6
5
4
3
2
1
0
China
Australia
German Bunds
UK gilts
US agencies
Source: Asian Development Bank, Department of Finance Canada, German Finance Agency,
Japanese MOF, SIFMA, Thomson Reuters GFMS, UK DMO, World Gold Council
18 LBMA, Loco London Liquidity Survey, April 2011.
中央銀行の分散化戦略:米ドルとユーロ偏重からのリバランス
Canada
JGBs
US Treasuries
Gold
まとめ
中央銀行が米ドルとユーロの保有高引き下げに向かっている中、
金をはじめとする伝統的準備資産は中国やカナダ、
オーストラリア、
スイス、デンマーク建て資産などの代替資産とともに重要な役割を
果たすことができます。
米ドルとユーロを除き、代替資産の最適化に焦点を合わせてポートフォリオ
プロセスにおいて最も魅力的な代替資産の一つであるとの結論となりまし
の最適化分析を実施したところ、分散化において重要な資産として中国の
た。代替資産の市場が発展するには時間を要するうえ、金の配分比率は最
資産や金、オーストラリア国債が浮上しました。
しかし、市場規模とアクセス
適水準をおおむね下回っているため、本分析の結果は、外貨準備の運用担
上の制約を加味すると、米ドルベースの金の最適配分比率の中央値が8%
当者にとり代替準備資産と金の保有を積み上げることが賢明であろうと、
と、分散資産として金が主流になりました。本分析により、金は信用リスクが
示唆しています。
ないこと、流動性が非常に高い市場であることを踏まえて、総体的に分散化
18_19
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日本語版発行: 2013 年 4 月