アート集積地域の特性と創造環境整備に関する研究

アート集積地域の特性と創造環境整備に関する研究
茨城県取手市、東京都墨田区向島・京島地区を対象として
200411024
都市計画専攻
中嶋 裕
渡辺 俊
1 目的
ィスト、プロデュース的な役割を担っている人、NPO 団体等
1-1.研究の背景
を対象とする。ヒアリングにより得られた情報をもとに、集
海外ではアーティストが集積することによって地域が再
生するという事例が多数起きている。自然発生的に起こるも
積地の特性・集積のきっかけと定着・地域へのアーティスト
集積の効果について分析・考察を行なう。
のや、行政が積極的に関与し政策として進めているものなど
様々である。近年日本でも、文化芸術の持つ創造性に注目し
文化芸術によるまちづくりに取り組む自治体が増えている。
日本では、アートを日常的に楽しみ、理解する人口が少な
いこと、日本特有の貸しギャラリーというシステムではアー
ティストが育ちにくいという問題があり、アートを取り巻く
状況は海外とは違っている。海外と同じようなアート政策を
日本で行なうことが果たして日本の今の状況において適切
なのだろうか。
1-2.先行研究
先行研究として次のようなものがある。
①芸術によるまちづくりには、芸術家の参画が不可欠である
として、全国の芸術家の分布の地理的傾向や芸術家が多い
地域の環境特性について明らかにした研究(1998 住田ら)
②全国の芸術家にアンケートを行い、どのように居住地を選
図 1 研究のフロー
ヒアリングの概要
択しているのか、居住継続の可能性について明らかにした
対象地域:茨城県取手市、東京都墨田区向島・京島
研究(2003 栫ら)
対象者:
③芸術家の地域への影響として、定住作家と住民の交流のコ
ミュニティへの有効性に関する研究(2001 竹田ら)
1-3.先行研究の問題点
住田、栫の研究では、対象とする芸術家を美術年鑑に記載
東京芸術大学院生9名、助手1名
アートプロジェクトに参加しているアーティスト(取手)
アーティストの分布を把握する人物(向島)
プロデューサー的立場にある人・団体(取手、向島・京島)
されている芸術家としている。近年のアートプロジェクト等
で行なわれている「インスタレーション*」という現代美術
の手法を用いているアーティストは含まれていない。また、
全国的なアーティストの分布、環境特性を見るのではなく、
アーティストが集まっている地域について集積の特性を把
握し、どのような効果をもたらしているのかを把握する方が
実践的と言える。
1-4.本研究の目的
本研究ではアートプロジェクトが行われ、アーティストの
集積が起きているとされている地域において、現在のアーテ
ィストの集積を把握し、定着の度合い、集積が地域に与える
効果を見る。両地域においての集積の要因を分析し、集積を
図るためにはどのような創造環境を作り出して行く必要が
あるのかを考察する。
3 結果と考察
3-1.望ましいアトリエ
アトリエの第1の条件は安いこと、次に汚しても良いという
ことが選ぶ際の基準となっている。彫刻、絵画、鋳金では大
きな作品にスペースを必要とするため、制作・保存ともに広
い場所が求められる。
3-2.仲介役の重要性
アトリエとなる建物があるだけでは、アーティストの集積
は起こらない。アーティストと物件を結ぶ仲介役が存在する
ことが多いということが明らかになった。取手では「芸大物
件」を扱う不動産屋が存在、アーティスト間での譲り渡しが
起きている。
向島では知人から空いている物件を紹介されるケース、
NPO のメーリングリストによる物件情報により見つけるケー
2 方法
調査方法は主にヒアリング調査とし、地域で活動するアーテ
スがある。
3-3.集積のきっかけ広がり
取手では、芸大が出来る前から工芸系のアーティストの集
積があった。初期の芸大関係者の集積は、取手駅周辺から東
表 3 取手型(シェア・アトリエ型)
京芸大への道沿いにだいたいの集積が起きている。2007 年に
は芸大関係者以外も集まってきており、集積が郊外にも広が
っている。
向島では 2000 年にアートプロジェクトの会場として使わ
れた地域から集積が始まった。2007 年には、中心となってい
た2カ所以外の地域にも広がっている。
3-4.定着の違い
調査から、地域に入ってくる時期によって、アーティストの
表 4 向島・京島(ライフスタイル型)
性質、定着度合いに違いがあることが分かった。
3-6.集積の地域への効果
アーティストの集積による地域への影響を、直接的効果、
2次的効果に分類したもの・現在起きている問題点をまとめ
たものが次の表5。
表5地域への効果と問題点
図3定住年数(向島・京島)
表1向島・京島地区での定着率(2年区切り)
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取手でも同様にアーティストの性質、背景によって定着度合
いに違いがあることが言える。まとめたものが次の表2。
表2定着度合い
参考文献
栫 恵利香、吉武 哲信、出口 近士(2003), 芸術家の居住地
選択および居住環境評価に関する基礎調査, 都市計画論文
集 2003.10 No.38-3,79-84
住田 和則、渡邊 貴介、村田 尚生(1998),現代日本におけ
る美術家の居住地分布の特性に関する研究, 日本都市計画
学会学術研究論文集 1998,421-426
竹田 浩二、吉武 哲信、出口 近士, 定住作家と住民との交
流によるコミュニティ活性化のための交流マネージメント
3-5.集積の型
2地域の集積の型をシェア・アトリエ型とライフスタイル
の有効性,日本都市計画学会学術研究論文 2001,481-486
補注
型とした。前者は建物をアトリエとして使用しないため、ア
*インスタレーション:1970 年代から盛んになった現代美術の手法
ーティスト間での譲り渡しが起きている。一方、後者はアト
のひとつ。室内や屋外空間にオブジェ等を置くなどして空間全体を
リエとしての用途に限定された使い方をしていないため、ア
変化させる芸術。空間の場所性、地形、地域の歴史等を読み込むの
ーティストが利用した後に住居として使われることがある。
で地域と関係性のある作品となる。