医療機関向け資料 MCI スクリーニング検査の結果評価のために 判定結果をご覧になる前に必ずお読みください 本検査は、血液中の特定のタンパク質を調べることにより、アルツハイマー型認知 症(アルツハイマー病)の前段階である軽度認知障害(MCI)の状態にあるかどうか を、統計学的に判定するものです。 早期に発見するためのスクリーニング検査ですので、本検査の判定結果で診断が確 定するものではありません。 目次 MCI リスク判定基準とその評価 ................................................................................................ 2 測定項目についての解説 ........................................................................................................... 2 MCI リスク判定の算出方法 .......................................................................................................... 3 MCI リスク判定の基準値について............................................................................................ 4 MMSE 検査を行った方.............................................................................................................. 4 MMSE 検査を行わなかった方 ............................................................................................... 5 MMSE について ................................................................................................................................ 6 APOE 遺伝子検査について ......................................................................................................... 7 認知症の予防法について ............................................................................................................... 8 予防法1.運動 .............................................................................................................................. 8 予防法2.食事 .............................................................................................................................. 9 予防法3.頭と体を使うこと ............................................................................................... 11 血液検査についての解説 ............................................................................................................ 12 リスクに関する解説 ...................................................................................................................... 13 文献 ....................................................................................................................................................... 16 1 MCI リスク判定基準とその評価 当検査はアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)の原因物質である「アミロイドベータ(Aβ) ペプチドを脳内から排出」する働きや、「そのシナプス毒性に対して防御」する働きのある 3 種類のタ ンパク質(apoA1、C3、TTR)の血液中の量を調べています。これらのタンパク質は軽度認知障害 (MCI)やアルツハイマー病で低下していることが知られています。 判定は Aβ によるシナプス障害を直接反映しているものではなく、これらのシナプス障害を防ぐタン パク質の働きが低いことを示します。シナプス障害を防ぐタンパク質の働きが低いと、Aβ がたまりや すくなったり、シナプス毒性を防ぎきれなかったりすることで、Aβ 毒性に対する抵抗力が弱って、そ の結果シナプス障害を引き起こし、MCI やアルツハイマー病のリスクが高まると考えられます。 測定項目についての解説 アポリポタンパク質 A1 (ApoA1) アポリポタンパク質の apoA1 は、Aβ ペプチドと結合してその凝集や毒性を防ぐといわれています(文 献 1-3)。ApoA1 は 一般に「善玉コレステロール」と呼ばれる高比重リポタンパク(HDL)の主要な 成分です。ApoA1 は抗酸化特性を有し、神経細胞が引き起こす炎症を和らげることが出来るといわれ ます。それ故に、apoA1 の量の減少は、神経の炎症を悪化させるかも知れないと考えられています。 補体第 3 成分 (C3) 補体には中枢神経系における免疫担当細胞とも呼ばれるミクログリアを活性化する働きがあります。 ミクログリアは神経の損傷に応答して、活発に動き回って死んだ細胞を貪食したり、修復を促進するた めの因子を遊離したりして、神経細胞を維持する働きがあります。Aβ ペプチドはシナプス毒性がある ため、脳内ではミクログリアによって貪食されて排除されます。この過程には補体 C3、C4 の働きが 必要です(文献 4, 5) 。 トランスサイレチン (TTR) トランスサイレチン(TTR)は、4 量体を形成しており、プレアルブミンとも呼ばれています。TTR は Aβ ペプチドと結合して、そのシナプス毒性を抑制します(文献 6) 。アルツハイマー病の他にも、 うつ病や統合失調症などの精神疾患においてその量が減少することが報告されています。 2 MCI リスク判定の算出方法 本検査はアルツハイマー病と MCI で血液濃度が変化する前述の 3 つのマーカーの測定値をもとに統 計的手法で認知機能障害のリスクを推定するものです。専門医によって厳密に臨床診断が行われた検体 (教師モデル)を用いた統計解析によって作成した判別式に、検査受診者様の apoA1、C3、TTR の タンパク質の測定値を代入することにより MCI のリスクを算出しております。 健常高齢者と MCI、アルツハイマー病の各群について、統計的手法により MCI リスク算出した結果 を図1に示します。 図1 MCI リスクの分布 統計的手法によって求められた MCI リスクの値をもとに、健常高齢者と MCI の 2 群間で ROC 解析 を行った結果を図 2 に示します。 MMSE を加味しない手法で AUC = 0.7(Sensitivity 79、Specificity 68) 、MMSE を加味すると AUC = 0.9(Sensitivity 87、Specificity 82)となります。 図2 ROC 解析 ROC 解析で求められたカットオフ値を基準として、専門医によって慎重に臨床診断が行われた複数 のコホートから得られた検体の臨床診断をもとに、A~D までの MCI リスク判定を行っています。 3 MCI リスク判定の基準値について 以下の基準で判定結果を示しています。判定結果は MMSE 検査を行った方と MMSE 検査を行って いない方でカットオフ値が異なります。それぞれ以下のように分類されます。 MMSE 検査を行った方 健常群と疾患(MCI、アルツハイマー病)群のカットオフ値は 0.5 です。カットオフ値から±0.1 の 範囲を境界領域としてリスク判定を行っています。 MCI の方の分布を示すグラフ カットオフ値:0.5 A B C D MCI リスクの判定値を示します。最小値 0~最大値 1.2 とし、0.1 刻みで メモリを入れています。検査結果の▲の位置は MCI リスクを示します。 判定評価 MCI リスク判定 基準値 A 0.4 未満 B 0.4 以上 0.5 未満 C 0.5 以上 0.6 未満 D 0.6 以上 評価 健常です。 今後も健康的な生活を心がけましょう。 軽度認知障害(MCI)のリスクは低めです。健康的 な生活を意識的に習慣づけることで MCI のリスク を抑えることができます。予防の効果は早いほど高 いので、生活習慣を改善し予防に取り組みましょ う。 軽度認知障害(MCI)のリスクは中程度です。今後 の生活習慣によっては MCI のリスクが高まりま す。食事や運動などの生活習慣を見直し、ただちに 予防に取り組みましょう。また、心配な方は専門医 による早期の検査・診断を受けられることをおすす めします。 軽度認知障害(MCI)のリスクは高めです。MCI の段階でも予防により認知症の発症を防ぐ・遅らせ ることが可能です。すぐに予防を始めるとともに、 専門医による詳細な検査・診断を受けられることを おすすめします。 予防の効果は判定結果にも表れます。ご自身の状況を把握するためにも、年に一度など定期的に検査 を受けられることをおすすめします。 4 MMSE 検査を行わなかった方 健常群と疾患(MCI、アルツハイマー病)群のカットオフ値は 0.72 です。検査報告書では、カット オフ値から±0.1 の範囲を境界領域としてリスク判定を行っています。 MCI の方の分布を示すグラフ カットオフ値:0.72 A B C D MCI リスクの判定値を示します。最小値 0~最大値 1.2 とし、0.1 刻みで メモリを入れています。検査結果の▲の位置は MCI リスクを示します。 判定評価 MCI リスク判定 基準値 評価 A 0.62 未満 健常です。今後も健康的な生活を心がけましょう。 B 0.62 以上 0.72 未満 C 0.72 以上 0.82 未満 D 0.82 以上 軽度認知障害(MCI)のリスクは低めです。健康的 な生活を意識的に習慣づけることで MCI のリスクを 抑えることができます。予防の効果は早いほど高い ので、生活習慣を改善し予防に取り組みましょう。 軽度認知障害(MCI)のリスクは中程度です。今後 の生活習慣によっては MCI のリスクが高まります。 食事や運動などの生活習慣を見直し、ただちに予防 に取り組みましょう。また、心配な方は専門医によ る早期の検査・診断を受けられることをおすすめし ます。 軽度認知障害(MCI)のリスクは高めです。MCI の 段階でも予防により認知症の発症を防ぐ・遅らせる ことが可能です。すぐに予防を始めるとともに、専 門医による詳細な検査・診断を受けられることをお すすめします。 予防の効果は判定結果にも表れます。ご自身の状況を把握するためにも、年に一度など定期的に検査 を受けられることをおすすめします。 5 MMSE について MMSE(ミニメンタルステート検査、Mini Mental State Examination)は 1975 年にフォルスタ イン夫妻の開発した精神現在症(Mental State)の臨床評価の簡略版です。認知障害を見つけたり、 認知障害の重症度を測ったり、経過を追って患者の認知機能の変化を追跡したりするために使用され、 認知症の分野では国際的な基準テストとなっています。 見当識、記憶力、計算力、言語的能力、図形的能力などを調べる検査であり、質問は 11 項目。30 点満点で、一般的には 24 点以上で健常とされます。米国 ADNI 研究においては早期アルツハイマー病 の MMSE 得点の基準を 20 点~26 点としています。 軽度認知障害(MCI)は正常加齢と認知症の境界領域であり、MMSE のみでの判別は困難です。米国 ADNI 研究において健常ならびに MCI の MMSE 得点の基準は 24 点~30 点であり、MMSE のみで健 常と MCI の判別は困難であることを示しています。 MMSE得点は、次のとおり評価されます。 MMSE 得点 27~30 点 24~26 点 20~23 点 評価 健常です。 (MCI であることを否定するものではありません) 境界域です。 (健常、MCI、早期アルツハイマー病いずれかの可能性あり) 早期アルツハイマー病の疑いがあります。 6 APOE 遺伝子検査について アポリポタンパク質のうち apoE タンパク質は、その遺伝子型がアルツハイマー病の発症に関係して いるといわれています(文献 7, 8)。ε2、ε3、ε4 の3つのアイソフォームがあります(APOE2, APOE3, APOE4 )。ε4 アレルを持たないものと比較してε4 アレルを1つ持つものは、アルツハイ マー病の発症のリスクが2~3倍、ε4 アレルを2つ持つものは発症のリスクが 12 倍と言われていま す(文献 9, 10)。 アルツハイマー病のリスクに対する APOE アイソフォームの主な効果は、Aβ凝集および排除の影響 によるものです。 APOE 遺伝子検査結果は、次のとおり評価されます。 APOE 頻度 遺伝子型 [日本人] ε2/ε4 , ε3/ε4 10% 評価 APOE 遺伝子型には ε2、ε3、ε4 の 3 つの遺伝子型があります。遺伝子型にε4 を もつとアルツハイマー病のリスクが高まる といわれていますが、必ずしも発症するわけ ε4/ε4 2% ではありません。生活習慣の改善でリスクを 低減することができます。専門医に相談して ください。 ε2/ε2 , ε2/ε3 , ε3/ε3 ε4 を持たない遺伝子型です。 7 認知症の予防法について 最近では、認知症は生活習慣病のひとつと考えられるようになりました。生活習慣病は、生活習 慣の改善や早い段階での介入によって、その発症を防ぐことや症状の進行を遅らせることができま す。以下では認知症や軽度認知障害(MCI)を予防する有効な方法をご紹介します。 予防法1.運動 運動することで全身の血液循環が活発になり、脳の血流量が増加します。それにより記憶や認知 機能を司る海馬を刺激し、新たな神経細胞を生み出す助けになると言われています。特に有酸素運 動は認知機能の低下を防ぐのに有効です。 運動量の目安は、汗をかく程度の軽めの運動。最低でも 20 分程度、週に 3~4 日行うのが効果 的です。はじめのうちは短時間でも良いので、まずは運動を習慣化しましょう。 【例】ウォーキング、ランニング、エアロビクス、サイクリング、スポーツ(テニス、バレー ボール、ゴルフ、水泳など) 、ダンス(ジャズ、社交ダンス、バレエなど) また、運動の習慣がない方は日常的に体を動かすことでも予防効果は期待できます。いつもより 歩くスピードを速める、休日はなるべく外出する、雑巾がけやお風呂掃除などの家事を素早く行う など、生活の中で活動量をアップすることもできます。 8 予防法2.食事 脳に十分な栄養を送るために、食事はとても重要です。基本的には主菜、副菜、主食をバランス 良く取り入れた一汁三菜の献立が理想的です。ひとつの食品や調理法に偏らず、いろいろな食品を バランス良く食べることが予防に繋がります。 中でも予防効果が高く注目されているのが、オリーブオイル・魚介類・野菜・ワインを多く摂る 地中海料理や、野菜・豆類・青魚が中心の和食のメニューです。 認知症予防に効果的な食品 ・ビタミン、ミネラルが豊富な新鮮な野菜や果物 ・オメガ3系脂肪酸を含む青魚やシソ油、亜麻仁油など ・大豆食品(豆腐、納豆、豆乳、味噌など) ・適度な飲酒(日本酒だと 1 日 1 合程度) 9 特に認知症の予防に有効だと言われている成分はポリフェノールです。ポリフェノールは抗酸化 作用があり、認知症の原因物質の蓄積を抑制する働きがあります。ポリフェノールが含まれている 食品は、赤ワイン、ブドウ、ベリー、クルミ、春ウコン、秋ウコン、そば、緑茶、紅茶など。多く の果物や野菜類に含まれているため、様々な食品を摂ることが予防につながります。 一方、摂取しない方が良いのはトランス脂肪酸。マーガリンやショートニングに含まれているト ランス脂肪酸は、中性脂肪やコレステロールを増加させ、肥満や動脈硬化、脳梗塞などを引き起こ す原因になります。また、現代人が過剰摂取傾向にあるべにばな油やコーン油、ゴマ油などのオメ ガ 6 系脂肪酸も控えた方が良いでしょう。これらの油は市販のパンやクッキー、菓子類などに多量 に含まれている場合もあります。脂質は必要な栄養素ですが、過剰摂取とならないように気を付け る必要があります。 食習慣について 食品だけでなく食習慣の改善も予防につながります。 【守ること】 よく咀嚼すること、腹八分目、規則正しい食事時間、こまめな水分摂取 【控えること】早食い、大食い、好きなものしか食べない、濃い味付けを好む、 菓子や嗜好飲料などの間食 10 予防法3.頭と体を使うこと 認知機能を高めることに効果のある趣味をご紹介します。これらの他にも、楽しく継続して行え るものがあれば積極的に生活に取り入れることをお勧めします。 【例】料理、旅行、園芸・ガーデニング、スポーツ・運動、絵画、陶芸、音楽 (楽器、歌、ダンス) 、パソコン、ゲーム(麻雀・囲碁・将棋など)、 文章を書くこと(日記・手紙・ブログなど) 、新しいことに挑戦すること 認知症の発症リスクを高める生活習慣について 前述の予防法1~3の習慣がまったくなく、以下の生活習慣に当てはまる方は認知症の発症リス クが高いと言えます。認知症以外の生活習慣病の恐れもあるためアドバイスが必要です。 【生活習慣のチェック】 ① 運動不足 ② 栄養不足またはカロリーの過剰摂取 ③ 家に閉じこもる・人との交流が無いなど変化のない生活 ④ 喫煙 ⑤ 過度なアルコール摂取 ⑥ ストレスを強く感じる・溜めやすい 11 血液検査についての解説 アルツハイマー病等のリスク要因として高血糖に起因する糖尿病や、脂質代謝異常に起因する動脈硬 化などが知られています。この他にも運動不足、飲酒、喫煙といった生活習慣や、遺伝子などのさまざ まな因子が直接あるいは間接的に作用して認知症を引き起こすと言われています。 Kivipelto M, Solomon A. Alzheimer's disease - the ways of prevention. J Nutr Health Aging. 2008 Jan;12(1):89S-94S. より改変 ヘモグロビン A1c(HbA1c) 平均血糖値の指標(HbA1c)です。ヘモグロビンは赤血球の中に大量に存在するタンパク質で、身体 の隅々まで酸素を運搬する役割を担っています。赤血球の寿命はおよそ 120 日と言われており、この 間体内を巡って、血中のブドウ糖と結びつきます。血液中のブドウ糖が多いほど HbA1c も多くなりま す。血液中の HbA1c 値は、赤血球の寿命の半分くらいにあたる時期の血糖値の平均を反映します。す なわち外来で血液検査をすると、その日から1~2ヶ月前の血糖の状態を推定できることになり、血糖 値よりも正確な血糖状態を知ることができます。 血糖(BS) 血糖コントロールの状態を知る重要な指標です。検査時の血中のブドウ糖の濃度(BS)を示します。 ※血糖は採血時が食前か食後かで数値が変動します。 HDL コレステロール(HDL) 脂質代謝の状態を知る重要な指標です。HDL コレステロールは「善玉コレステロール」と呼ばれ、動 脈硬化を防ぐ作用があります。異常を示すと、脂質代謝異常症などによる動脈硬化の危険性が高くなり ます。動脈硬化は認知症発症のリスク上昇に関与すると言われています。 12 リスクに関する解説 ―リスクとはなんでしょうか?― みなさんは「リスク」と聞いてなにを思いますか。一般的には「危険性」と「その危険性が起る確率」 の二つの意味で使用され、いろいろな分野で使われています。ある行動に伴って(あるいは行動しない ことによって)、危険に遭う可能性を意味する概念です。経済学や工学上で用いられるリスクの定義と 医学で用いられている定義とは異なりますので、ここでは「病気のリスク」、すなわち「ある因子が加 わることによる病気のリスクの変化」について考えてみましょう。 「喫煙によって肺がんになるリスクは(喫煙していない人に比べて)高くなるのでしょうか?」 「APOE4 の遺伝子型を持っていると(持っていない人と比べて)アルツハイマー病になるリスクが 高いのでしょうか?」 これをどのようにして証明するのでしょうか。2 つの方法があります。コホート研究とケース・コン トロール研究です。それぞれリスクの算出の仕方が異なります。コホート研究は前向き研究で、ある時 点をスタートとしてある因子への暴露の有無と病気への影響を長期間観察して、そのリスク(因果関係) を明らかにする方法です。相対危険度(Relative Risk)でリスクを表します。 ケース・コントロール研究は、疾患群(病気の方)と健常者(病気でない方)を対象に、調査開始時 点からさかのぼって、暴露の有無を調べて、そのリスク(因果関係)を明らかにする方法です。オッズ 比(Odds Ratio)でリスクを表します。 コホート研究は長期間の調査を行うため費用や、研究の継続性など実施するのが大変ですが、リスク を知る最も確かな方法(疫学手法)です。調査開始時をベースラインとして、5 年、10 年と継続する 研究ですから、一人の研究者がその研究人生の多くの時間をかけてやっと結果がでるものです。ケー ス・コントロール研究は、過去のデータを使えますが、過去に戻ってデータを訂正することはできませ んので、質の高い症例を集める必要があります。ケース・コントロール研究で得られるオッズ比は、相 対危険度を近似します。 いずれの研究においても、最初の論文や発表の後、複数の研究によって再現性が得られることが必要 です。それらの研究を併せてリスクを算出するメタアナリシスも重要です。 13 【コホート研究 相対危険度:Relative Risk (RR)】 暴露群と非暴露群における疾病の頻度を比で表現したものです。 相対危険度は暴露群の発生率を非暴露群の発生率で割ることによりリスクを求めることができ、暴露 因子と疾病発生との関連の強さを示す指標になります。このリスクが統計学的に有意であるかについ ては 95%信頼区間(CI: Confidence interval)で示します。 疾病と暴露の比較 疾病あり 疾病なし 計 暴露あり A B A+B 暴露なし C D C+D 計 A+C B+D T 暴露群の発生率= A (例:たばこを吸う人の何%が肺がんになったか?) A+B 非暴露群の発生率= C C+D relative risk(RR)= (例:たばこを吸わない人の何%が肺がんになったか?) 暴露群の発生率 非暴露群の発生率 = A A+B C C+D 95%信頼区間(CI: Confidence interval)が1を含まなければ「暴露群と非暴露群に差がある」と いうことができます。 【ケース・コントロール研究 オッズ比:Odds Ratio(OR) 】 危険因子があると病気が起きやすくなるかどうかを調べる方法です。有る状態(出来事)が他の状態 (出来事)に比べておこりやすい事を示します。 疾病あり 疾病なし 計 暴露あり A B A+B 暴露なし C D C+D 計 A+C B+D T 症例のオッズ比=A/C (例:肺がんになった人がどの位たばこを吸っていたか?) 対照のオッズ比=B/D (例:肺がんじゃない人がどの位たばこを吸っていたか?) Odds ratio (OR)= 症例のオッズ比 対照のオッズ比 = AD BC 95%信頼区間(CI: Confidence interval)が1を含まなければ「暴露群と非暴露群に差がある」と いうことができます。 14 APOE4 遺伝子型はアルツハイマー病のリスクになるか? オッズ比で示していることが多いです。ケース・コントロール研究ではアルツハイマー病患者に APOE4 遺伝型を持つ人、持たない人、認知機能健常の人の中で APOE4 遺伝型を持つ人、持たない 人を調べます。日本神経学会の認知症疾患治療ガイドライン 2010(第 4 章経過と治療計画 A.予防) には、ε3/ε3 の遺伝子型に対して、ε4 を持っている遺伝子型のリスクをオッズ比で示してありま す(文献 11) 。注意書きとして「将来の(アルツハイマー病発症の)予測としての APOE (遺伝子 型)テストは無意味である」とありますが、オッズ比で示すリスクは予測ではありませんので当然で す。カッコ部分は分かりにくいため補足したのですが、遺伝子型で病気になることを「予測」するこ とはできません。 表. APOEε4,ε3,ε2 によるアルツハイマー病発症への影響 遺伝子型 オッズ比 ε3/ε3 1.0 Single ε4 3.2 (2.9~3.5) ε4/ε4 11.6 (8.9~15.4) ε2/ε3 0.6 (0.5~0.8) Hsiung, G.Y., Sadovnick, A.D. Alzheimers Dement 2007, 3: 418 より一部改変(文献 12) APOE 遺伝子型とアルツハイマー病の関係は、他の遺伝子型と疾患との関係の中でも最も高いもの です。最近では全ゲノム関連解析(GWAS: genome-wide association Study)で、数多くの疾患 リスク遺伝子型が Nature Genetics など一流雑誌に報告されていますが、その多くはオッズ比で 2 倍までであることを考えると、APOE はきわめて疾患と関連の高い遺伝子型といえます。環境因子で ある喫煙の肺がんにおけるリスクと比べてみましょう。1 日当たりの喫煙本数、喫煙年数、喫煙指数 が増すほど肺がんリスクが高くなります。たとえば、40 年以上の喫煙歴ですと男性 6 倍、女性9倍 で、肺がんの組織型別では、扁平上皮がんですとこのリスクが男性 30 倍、女性 40 倍という報告が あります(文献 13) 。 相対危険度については、国立がんセンターによると、日本の研究をもとにしたメタアナリシスでは、 肺がんの相対危険度は、男性で 4.4 倍、女性で 2.8 倍(たばこを吸っている人のたばこを吸ったこと がない人に対するリスク)です。肺がんの組織型別では、扁平上皮がんのたばこを吸っている人のた ばこを吸ったことがない人に対する相対危険度が男性 11.7 倍、女性 11.3 倍で、腺がんについては 男性 2.3 倍、女性 1.4 倍です(文献 14) 。 15 文献 1. Ghiso, J., et al., (1993) The cerebrospinal-fluid soluble form of Alzheimer's amyloid beta is complexed to SP-40,40 (apolipoprotein J), an inhibitor of the complement membrane-attack complex. Biochem. J.: 293 (27–30) 2. Koldamova, R. P., et al( 2001) Apolipoprotein A-I Directly Interacts with Amyloid Precursor Protein and Inhibits Aβ Aggregation and Toxicity. Biochemistry: 40 (12), pp 3553–3560 3. Paula-Lima, A. C., et al.,(2009) Human apolipoprotein A–I binds amyloid-β and prevents Aβ-induced neurotoxicity., The International Journal of Biochemistry & Cell Biology : 41, 1361–1370 4. Emmerling, M. R., et al., (2000) The role of complement in Alzheimer’s disease pathology. Biochimica et Biophysica Acta : 1502, 158–171. 5. Wyss-Coray, T. W., et al., (2002) Prominent neurodegeneration and increased plaque formation in complement-inhibited Alzheimer's mice. PNAS : August 6, 2002 no. 16 vol. 99 10837–10842 6. Buxbaum, J. N., et al., (2008) Transthyretin protects Alzheimer's mice from the behavioral and biochemical effects of Aβ toxicity. Proc. Natl. Acad. Sci. USA : Vol. 105 no. 7 2681–2686 7. Corder, E. H., et al., (1993) Gene dose of apolipoprotein E type 4 allele and the risk of Alzheimer's disease in late onset families. Science :Vol., 261 8. Strittmatter, W. J., et al.,(1993) Apolipoprotein E: high-avidity binding to beta-amyloid and increased frequency of type 4 allele in late-onset familial Alzheimer disease. Proc. Natl. Acad. Sci. USA : Vol. 90, pp. 1977-1981 9. Bertram, L., et al.,(2007) Systematic meta-analyses of Alzheimer disease genetic association studies: the AlzGene database. Nature Genetics : 39, 17 – 23 16 10. Roses, A. D., et al., (1996) Apolipoprotein E alleles as riskfactors in Alzheimer’s disease. Annu. Rev. Med.: 47:387–400 11. 認知症疾患治療ガイドライン 2010 日本神経学会 http://www.neurology-jp.org/guidelinem/nintisyo.html 12. Hsiung, G. Y., and Sadovnick, A. D. (2007) Genetics and dementia: risk factors, diagnosis, and management. Alzheimer's & dementia: 3, 418-427 13. 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