群馬県地域新エネルギー詳細ビジョン

地域新エネルギー・省エネルギービジョン策定等事業
群馬県地域新エネルギー詳細ビジョン
「マイクロ水力発電」及び「バイオマスエネルギー利用」の詳細検討
平成21年2月
群 馬 県
群馬県地域新エネルギー詳細ビジョン
目
次
第1章 ビジョン策定の背景と目的、ビジョンの概要
第1節 ビジョン策定の背景と目的 ···················································· 1-1
1 日本のエネルギー事情 ·························································· 1-1
2 日本のエネルギー政策 ·························································· 1-4
3 ビジョン策定の目的 ···························································· 1-5
第2節 ビジョンの概要 ······························································ 1-6
1 実施期間 ······································································ 1-6
2 ビジョンの概要 ································································ 1-6
第2章 マイクロ水力発電の導入促進
第1節 マイクロ水力発電導入の現状 ·················································· 2-1
1 マイクロ水力発電導入の意義・効果 ·············································· 2-1
2 県内におけるマイクロ水力発電導入の現状 ········································ 2-2
第2節 マイクロ水力発電導入マニュアル ·············································· 2-4
1 マイクロ水力発電の概要 ························································ 2-5
2 マイクロ水力発電導入の検討手順 ················································ 2-13
3 導入地点の選定 ································································ 2-15
4 導入目的の明確化 ······························································ 2-20
5 電力需要計画の策定 ···························································· 2-22
6 発電計画の策定 ································································ 2-24
7 主要設備の概略設計・概算工事費の算出 ·········································· 2-33
8 事業化評価 ···································································· 2-38
9 維持管理 ······································································ 2-42
10 許認可手続き ·································································· 2-45
11 助成制度 ······································································ 2-50
12 マイクロ水力発電の事例 ························································ 2-61
13 付属資料 ······································································ 2-77
14 参考資料 許認可窓口・関係機関 ················································ 2-92
第3節 モデル地区におけるマイクロ水力発電の導入検討 ································ 2-94
1 農業用水利用 ·································································· 2-94
2 河川水利用 ···································································· 2-113
第4節 マイクロ水力発電の導入目標 ·················································· 2-120
1 県内のマイクロ水力発電の導入状況 ·············································· 2-120
2 導入目標 ······································································ 2-120
3 導入推進方策 ·································································· 2-120
第3章 畜産バイオマスエネルギー利用の促進
第1節 家畜排せつ物利用及び畜産バイオマスエネルギー利用の現状······················· 3-1
1 畜産バイオマスエネルギー利用の意義・効果 ······································ 3-1
2 県内における家畜排せつ物利用及び畜産バイオマスエネルギー利用の現状············· 3-3
第2節 家畜排せつ物の低温ガス化・高効率エネルギー変換技術の概要と特徴··············· 3-13
1 バイオマスからのエネルギー変換技術(従来技術) ·································· 3-13
2 家畜排せつ物の低温ガス化・高効率エネルギー変換技術(現在群馬県内で研究開発している技術) ·· 3-15
第3節 家畜排せつ物の低温ガス化・高効率エネルギー変換技術の畜産農家への導入モデルの検討·· 3-26
1 モデル地区の選定 ······························································ 3-26
2 モデル地区における事業化の検討 ················································ 3-30
3 総括 ·········································································· 3-82
4 事業化に向けての課題 ·························································· 3-83
第4節 畜産バイオマスエネルギー利用の目標 ·········································· 3-85
1 県内の畜産バイオマスエネルギー利用状況 ········································ 3-85
2 目標 ·········································································· 3-85
3 導入推進方策 ·································································· 3-86
第5節 参考資料 ···································································· 3-87
1 助成制度 ······································································ 3-87
第4章 バイオディーゼル燃料製造・利用の促進
第1節 廃食用油の回収及びバイオディーゼル燃料製造・利用の現状······················· 4-1
1 廃食用油の回収及びバイオディーゼル燃料製造・利用の意義・効果··················· 4-1
2 市町村による廃食用油の回収及び県内におけるバイオディーゼル燃料製造・利用の現状· 4-3
第2節 廃食用油の回収及びバイオディーゼル燃料製造・利用システムの概要··············· 4-12
1 廃食用油の回収及びバイオディーゼル燃料製造・利用システムの構成················· 4-12
2 廃食用油の回収システム ························································ 4-16
3 バイオディーゼル燃料の製造システム ············································ 4-24
4 バイオディーゼル燃料の利用システム ············································ 4-30
5 事業化における留意点等 ························································ 4-39
第3節 市町村におけるバイオディーゼル燃料製造施設新設モデルの検討··················· 4-41
1 バイオディーゼル燃料製造施設の新設モデル計画 ·································· 4-41
第4節 バイオディーゼル燃料製造・利用の目標 ········································ 4-63
1 県内の廃食用油の回収及びバイオディーゼル燃料製造・利用の状況··················· 4-63
2 目標 ·········································································· 4-63
3 導入推進方策 ·································································· 4-64
第5節 参考資料 ···································································· 4-66
1 先進事例 ······································································ 4-66
第5章 木質バイオマスエネルギー利用促進の参考資料
第1節 「赤城山南面地域における木質バイオマス利活用事業化に係る調査」結果の概要····· 5-1
1 調査の背景 ···································································· 5-1
2 調査の目的と概要 ······························································ 5-3
3 調査結果のまとめ ······························································ 5-3
4 未利用木質バイオマス供給推進方策検討 ·········································· 5-5
5 本調査の位置づけと意義 ························································ 5-6
6 未利用木質バイオマス利活用事業化スケジュール検討 ······························ 5-7
資料編
1 群馬県地域新エネルギー詳細ビジョン策定委員会開催結果··························· 6-1
2 先進地調査結果 ································································ 6-2
本調査は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の平成 20 年度「地域新エネルギー・省エネルギービジョン策
定等事業」の補助により実施しました。
第1章 ビジョン策定の背景と目的、ビジョンの概要
第1節 ビジョン策定の背景と目的
1 日本のエネルギー事情
私たちの社会や生活は、大量のエネルギーを消費することにより成り立っている。エネルギーを
生み出すための資源は、石油、石炭、天然ガスなどの化石資源や、原子力発電の燃料としてのウラ
ンなどで、こうしたエネルギー資源を一次エネルギーという。日本で供給される一次エネルギーの
約96%を海外から輸入している。一次エネルギーは石油事業者や電力・ガス事業者などによりガソ
リンや灯油、電気、都市ガス等の使い易い二次エネルギーへと転換されて消費者のもとへ届けられ、
使用されている。
日本に供給される一次エネルギーのうち、約44%を石油が占めており、昭和48年(1973)の約76
%をピークとしてその割合は低下してきているものの、他のエネルギー資源と比べ依然として最大
の割合を占めている。また、石油の用途は他のエネルギー資源に比べ広い範囲にわたり、私たちの
生活や社会にとって石油は必要不可欠なエネルギー資源である。
日本の高度経済成長をエネルギー面で支えたのは、それ以前の石炭に代わって大量に安価で供給
されるようになった石油である。日本は安価な石油を大量に輸入し、昭和48年(1973)にはエネル
ギー供給の約76%(国内供給ベース)を石油に頼っていた。
昭和48年(1973)の第一次石油ショックによって、原油価格の高騰と石油供給途絶の脅威を経験
した日本は、省エネルギーを推進するとともにエネルギー供給を安定化させるため、石油依存度を
低減させ、石油に代わるエネルギーとして原子力や天然ガスなどを導入した。再び原油価格が大幅
に高騰した昭和54年(1979)の第二次石油ショックは、原子力や天然ガスの導入、新エネルギーの
開発を加速させた。
現在の石油依存度は、国内供給ベースで約44%(LPGを含む)と引き続き高率だが、第一次石
油ショック当時の約76%に比べると、かなり低減している。石油の代わりに原子力(約12%)と天然
ガス(約17%)が増加しており、エネルギー源の多様化が図られている。
※「総合エネルギー統計」は、1990年度以降の数値について算出方法が変更されている
図 1.1-1 一次エネルギー国内供給の推移
出典:「エネルギー白書2008年版」経済産業省(H20.9)
原典:「総合エネルギー統計」資源エネルギー庁
1‐1
日本はかつての国産石炭や水力などの国内天然資源エネルギーの活用により、昭和35年(1960)に
は約6割のエネルギー自給率を達成していた。しかし、その後の高度経済成長の下で安価な石油が
大量に供給され、石炭から石油への燃料転換が進み、石油が大量に輸入されるとともに、石炭も輸
入中心へと移行したこと等から、エネルギー自給率は大幅に低下した。
更に石油ショック以降に導入された天然ガスや原子力の燃料となるウランについてもほぼ全量が
海外から輸入されているため、平成17年(2005)のエネルギー自給率は水力等わずか4%である。
これは、諸外国と比較して低い水準となっている。
このように、国内に資源が乏しく、エネルギーの大部分を石油をはじめとする海外の化石燃料に
依存している日本は、将来の世界のエネルギー情勢の変化に大きく影響される可能性がある。
※自給率は水力、地熱、国産石炭・天然ガスなどの比率であり、( )内は供給安定性に優れた原子力を含んだ値
図 1.1-2 日本のエネルギー総供給構成及び自給率の動向
出典:「エネルギー白書2008年版」経済産業省(H20.9)
原典:IEA、「Energy Balances of OECD Countries 2004-2005」
2030年には世界のエネルギー消費量は現在の1.6倍に達する見込みであり、
その増加分の約半分は
発展途上のアジア諸国によるものとされている。特に中国、インドなどでは、今後の経済成長に伴
い石油や石炭、天然ガスといった化石燃料の需要がますます大きくなると予想されている。
他方、世界のエネルギー供給可能量(可採年数)は現在の消費ペースを前提として石炭は147年分、
石油は40.5年分、天然ガスは63.3年分と見込まれている。
アジアを中心とするエネルギー需要の急増などの国際エネルギー市場の構造変化は、短期的には
解決されないと見込まれており、日本のエネルギーの安定供給を図るためには、グローバルかつ長
期的な視点に立って、様々な対策を講じていく必要がある。
1‐2
図 1.1-3 世界の石油需要の見通し
出典:「エネルギー白書2008年版」経済産業省(H20.9)
原典:IEA,「World Energy Outlook 2007」
(年)
200
147.0
150
100
50
63.3
40.5
0
石油
天然ガス
石炭
図 1.1-4 世界のエネルギー資源の推定可採年数
出典:「世界エネルギー統計 2007(BP統計)」
また、世界的に深刻な環境問題の一つに、地球温暖化問題がある。将来の地球規模での気温上昇
や海面上昇などにより、食料供給や居住環境などに重大な影響を及ぼす恐れがあると予測されてい
る。このため、世界各国が協力して温室効果ガスの排出を抑えようと、平成9年(1997)に京都議
定書が採択され、平成17年(2005)2月に発効した。その中で日本は、温室効果ガス全体を平成20
年(2008)から平成24年(2012)の平均値で、平成2年(1990)に比べ6%削減することとされて
いる。
1‐3
2 日本のエネルギー政策
日本におけるエネルギー政策の基本的な方針を定めたのが、平成14年(2002)6月に制定された
エネルギー政策基本法である。この法律では、「安定供給の確保」、「環境への適合」及びこれら
を十分に考慮した上での「市場原理の活用」というエネルギー政策の基本的な方針が示された。同
法に基づき策定された「エネルギー基本計画」(平成15年(2003)10月策定、平成19年(2007)3
月改定)では、国のエネルギー政策における新エネルギーの位置付けを次のように定めている。
新エネルギーは、エネルギーの自給率の向上や地球温暖化対策に資するほか、分散型エネルギー
システムとしてのメリットも期待できる貴重なエネルギーである。また、燃料電池を始めとして、
大きな技術的ポテンシャルを有する分野であり、その積極的な技術開発を進めることは経済活性化
にも資する。さらに、風力発電や太陽光発電等は、国民一人一人がエネルギー供給に参加する機会
を与えるものであり、非営利組織の活動等を通じて、地域の創意工夫を活かすことができるもので
もある。これまで我が国は、例えば太陽光発電の導入量が世界最高水準になるなど、一定の実績を
あげてきた。他方、現時点では、エネルギー変換効率や設備利用率も上がらないなど競合するエネ
ルギーと比較してコストが高く、出力の不安定性や電力品質の確保など事業性確保に向け未だ多く
の課題を抱えていることも事実であり、一次エネルギー供給の2%程度を占めるに止まっている。
これらの課題の克服には、更なる技術開発等の進展が必要である。
したがって、当面は補完的なエネルギーとして位置付けつつも、安全の確保に留意しつつ、コス
ト低減や系統安定化、性能向上等のための技術開発等について、産学官等関係者が協力して戦略的
に取り組むことにより、長期的にはエネルギー源の一翼を担うことを目指し、施策を推進する。
現在では、一次エネルギー供給に占める新エネルギーの割合(水力・地熱を除く)は約2%(2005)
にとどまっているが、平成22年度(2010)には3%程度にまで向上させる目標を国が設定している。
このため、国では、新エネルギーを導入する自治体、事業者、NPO(民間非営利組織)等に対す
る支援を積極的に行っている。また、中長期的な観点で新エネルギーが更に普及するよう、更なる
技術開発にも積極的に取り組んでくこととしている。
表1.2-1 新エネルギー導入目標
35万kℓ
(142万kW)
44万kℓ
(108万kW)
252万kℓ
(201万kW)
2010年度
対策下限ケース
73万kℓ
(298万kW)
101万kℓ
(225万kW)
449万kℓ
(345万kW)
142万kℓ
282万kℓ
687万kℓ
1,160万kℓ
(2.0%)
655万kℓ
1,560万kℓ
(2.7%)
2005年度
太陽光発電
風力発電
廃棄物発電 +
バイオマス発電
バイオマス熱利用
その他(※2)
総合計
第1次エネルギー総供給比
2010年度
対策上限ケース
118万kℓ
(482万kW)
134万kℓ
(300万kW)
586万kℓ
(450万kW)
308万kℓ
(※1)
764万kℓ
1,910万kℓ
(3.0%程度)
※表中の値は原油換算値。( )内は設備容量の導入目標値。
発電分野及び熱利用分野の各内訳は、目標達成にあたっての目安である。
※1:輸送用燃料におけるバイオ燃料(50万kℓ )を含む。
※2:「その他」には、「太陽熱利用」、「廃棄物熱利用」、「未利用エネルギー」、「黒液・廃材等」が含まれる
黒液・廃材等はバイオマスの1つであり、発電として利用される分を一部含む。黒液・廃材等の導入量は、エネル
ギーモデルにおける紙パルプの生産水準に依存するため、モデルで内生的に試算。
出典:「エネルギー白書2008年版」経済産業省(H20.9)
1‐4
3 ビジョン策定の目的
群馬県では平成12年3月に群馬県地域新エネルギービジョンを策定し、群馬県における新エネル
ギー導入の基本的な方向性を示すとともに、県を始め市町村、企業、県民等への新エネルギー導入
促進のガイドラインと位置付けて、新エネルギーの理解増進や導入促進を図ってきた。
また、平成18年3月に「群馬県環境基本計画2006-2015」及び「第2次群馬県地球温暖化対策推進
計画」を策定し、新エネルギーの導入促進等により二酸化炭素排出削減を目指している。さらに、
平成17年3月には「群馬県バイオマス総合利活用マスタープラン」を策定してバイオマス利活用の
促進を図っているとともに、平成19年度には赤城山南面地域に存在する未利用の木質バイオマスを
搬出し有効活用に結びつけることを目的に「赤城山南面地域における木質バイオマス利活用事業化
に係る調査」を実施している。
近年、石油代替エネルギーの必要性や、地球温暖化対策への関心が高まっていることから、新エ
ネルギー導入の必要性が一層増加しており、本県の地域特性に適合した新エネルギーの導入を具体
的・重点的に促進する必要がある。
本県は、山地から平野まで変化に富んだ地形を有しており、利根川を始めとする大小多数の河川
が流れ、首都圏の水源であるとともに、古くから水力発電が盛んな地域である。また、畜産農業産
出額が全国で第7位と畜産業が盛んであり、
畜産バイオマスの有効利用について研究を進めている。
さらに、県内各地で廃食用油回収の取り組みが始まっており、バイオディーゼル燃料の製造や利用
が進められているが、廃食用油回収量の不足やバイオディーゼル燃料の品質が一定しない等の課題
がある。
このように、地域の特性に適合した新エネルギーとしてマイクロ水力発電や畜産バイオマスエネ
ルギー利用、バイオディーゼル燃料製造・利用について調査・検討を実施し、これらを県内に導入
する方策を具体的に示すことにより、導入を促進していく。
なお、本県は全国でも有数の森林県で県土の3分の2が森林で占められており、木質バイオマス
エネルギー利用も地域特性に適合した新エネルギーである。木質バイオマスの有効活用に向けて、
「赤城山南面地域における木質バイオマス利活用事業化に係る調査」
を既に実施していることから、
導入促進の参考資料として調査結果の概要を示す。
化石燃料枯渇や地球温暖化問題等に対応するため、将来的には原油などの化石資源に頼らず、新
エネルギーなどの再生可能エネルギー等を利用して生活する社会がやってくると考えられるが、大
量のエネルギー消費によって成り立っている現在の社会構造のままでは、必要とされるエネルギー
のすべてを化石資源に頼らずにまかなうことはできない。そこで、エネルギー消費量を削減できる
よう社会構造を変えていくことが必要になると想定される。このためには、消費エネルギー削減や
環境負荷低減等について県民一人ひとりが考え取り組んでいく必要がある。また、持続可能な社会
づくりを考えることも私たちの務めである。このような「考え、取り組むこと」を促進するために
も、新エネルギー導入は重要な役割を果たすと考える。
1‐5
第2節 ビジョンの概要
1
実施期間
本ビジョンに基づき取り組みを行う期間は、平成21年度~25年度の5年間とする。
2 ビジョンの概要
本ビジョンでは、マイクロ水力発電の導入、畜産バイオマスエネルギー利用、バイオディーゼル
燃料製造・利用の3項目について具体的・重点的に促進するため、次のとおり調査・検討しその結
果をとりまとめた。
また、平成19年度に実施した「赤城山南面地域における木質バイオマス利活用事業化に係る調査」
の結果概要を、木質バイオマスエネルギー利用促進の参考資料として掲載した。
(1) マイクロ水力発電の導入促進
マイクロ水力発電の導入を促進するため、費用や規模等の面から市町村や団体等で導入しや
すいマイクロ水力発電以下(100kW以下)の小規模なものを対象とし、導入地点の選定、発電可
能量の把握、エネルギー利用方法、事業の採算性、関係法令や水利権による規制等について整
理し、市町村等がマイクロ水力発電を導入するためのマニュアルとしてまとめた。
また、本マニュアルに基づく具体的な導入検討例として、モデル地区での導入検討結果を掲
載した。
(2) 畜産バイオマスエネルギー利用の促進
畜産バイオマスエネルギーの利用を促進するため、家畜排せつ物の利用可能量等について把
握するとともに、群馬県地域結集型研究開発プログラムで研究開発している「家畜排せつ物の
低温ガス化・高効率エネルギー変換技術」について、畜産農家への導入モデルを検討した。
導入モデルに基づいて、
本技術を畜産農家に導入するための対策を今後さらに検討していく。
(3) バイオディーゼル燃料製造・利用の促進
バイオディーゼル燃料の製造・利用を促進するため、廃食用油の利用可能量等について把握
するとともに、廃食用油回収やバイオディーゼル燃料製造・利用の事例や課題を整理した。
また、廃食用油回収量増加に対応するため、市町村におけるバイオディーゼル燃料製造施設
新設モデルについて検討した。
1‐6
第2章 マイクロ水力発電の導入促進
マイクロ水力発電の導入を促進するため、費用や規模等の面から地方公共団体やNPO等で導入
しやすいマイクロ水力発電以下(100kW 以下)の小規模なものを対象とし、発電方法、エネルギー
利用方法、事業の採算性、関係法令や水利権による規制等の課題を整理し、地方公共団体等がマイ
クロ水力発電を導入するためのマニュアルとしてまとめた。
また、本マニュアルに基づく具体的な導入検討例として、モデル地区での導入検討結果を掲載し
た。
第1節 マイクロ水力発電導入の現状
1 マイクロ水力発電導入の意義・効果
水力発電は、二酸化炭素を排出しないクリーンな再生可能エネルギーであり、電力の安定供給の
確保、地球温暖化問題への対応等の観点から、重要な自然エネルギーである。
水力発電は、発電出力の規模によって分類され、出力100kW以下のものを「マイクロ水力発電」と
いう。マイクロ水力発電は、規模が小さいため、発電設備を設置する際の地形改変が小さく、使用
水量も少ないことから、河川流量や周辺生態系に及ぼす影響が小さい。
なお、「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法施行令の一部を改正する政令」(平成20
年4月1日施行)において、新エネルギー利用等に、「未利用水力を利用する水力発電(1,000kW
以下で、下記の条文に定めるものに限る)」が追加された。
【新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法施行令の一部を改正する政令】(平成20年4月1日施行)
(新エネルギー利用等)
第一条 新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法第二条の政令で定めるものは、次のとおりと
する。
九 水力を発電(かんがい、利水、砂防その他の発電以外の用途に供される工作物に設置される出
力が千キロワット以下である発電設備を利用する発電に限る。)に利用すること。
【マイクロ水力発電導入の意義・効果】
マイクロ水力発電導入の意義・効果は、以下のとおりである。
① 石油代替エネルギーとして石油依存度の低減
水力発電は、クリーンで再生可能な純国産の石油代替エネルギーである。マイクロ水力発電
は、発電電力量が小さいものの、石油使用量の節減につながる。
② クリーンエネルギーとして地球温暖化防止への貢献
水力発電は、運転中に窒素酸化物や硫黄酸化物を排出せず、石油や石炭等による発電と比べ
て二酸化炭素の排出量が極めて小さいクリーンエネルギーであり、
地球温暖化防止に貢献する。
2‐1
③ ローカルエネルギー・非常用電源としての役割
マイクロ水力発電は小規模であり、山間地など点在的に設置することができ、地域での電力
需要に対応した電源や自然災害など非常時の電源として期待できる。
④ 地域住民の環境保全意識醸成への貢献
身近な場所で水力発電施設を整備することにより、子どもを含む地域住民に対して、エネル
ギーや環境に関する学習の場を提供することができ、新エネルギー普及や省エネルギー活動の
促進に向けた環境保全意識の醸成に貢献する。
⑤ 地域振興・活性化への寄与
水力発電による電気を地域振興のための各種事業に使用すれば、地域振興と自然エネルギー
の利用という相乗作用によって、経済的・社会的な波及効果を与えることができ、町づくりや
地域の活性化に寄与する。
2 県内におけるマイクロ水力発電導入の現状
わが国の最初の水力発電は、明治21年(1888)、仙台市の三居沢にあった宮城紡績会社が、紡績機
用の水車を利用して電灯を点灯させたものである。電気事業用としては、明治24年(1891)に稼動を
開始した京都市の蹴上水力発電所が最初であり、琵琶湖疎水事業に伴い設置された。
群馬県では、明治27年(1894)に、植野発電所(総社発電所)が電気事業用として全国で5番目に
設置された。前橋市内で50kWの発電を行い、市内の電灯用の電力として利用されていた。
県内には、地形条件を活かし、県企業局及び電力会社等により、多くの水力発電所が設置されて
いる。公営電気事業において、群馬県は認可出力(218MW)で全国第2位、発電電力量(H19年度:
811,279MWh)で全国第1位と、水力発電(30箇所)が盛んな地域である。1)
【群馬県内のマイクロ水力発電所】
県内において、マイクロ水力発電所は、以下のとおり7箇所で設置されている。
利平茶屋小水力発電所
1)
若田発電所
電力会社等を含めると、群馬県は全国で第8位の発電出力の規模である。
2‐2
中之条ダム発電所
(51kW,群馬県)
温川発電所
(37kW,民間会社)
沼田市浄水場発電所
(35kW,沼田市)
狩宿第二発電所
(61kW,群馬県)
利平茶屋小水力発電所
(22kW,桐生市)
若田発電所(高崎市若田浄
水場内)(78kW,民間会社)
まるへい水力発電所
(24kW,民間会社)
図 1.2-1 県内のマイクロ水力発電所(出力 100kW 以下)
表1.2-1 県内のマイクロ水力発電所(出力100kW以下)
発電所
沼田市浄水場
所在地
運転開始
年月
事業主体
最大出力
(kW)
備 考
沼田市下久屋町
S62. 3
沼田市
35
上水道利用
中之条町大字
H10. 7
群馬県
51
河川水利用
発電所
中之条ダム発電所
折田
利平茶屋小水力
桐生市黒保根町
発電所
利平茶屋公園内
狩宿第二発電所
長野原町
温川発電所
東吾妻町厚田
(ダム式)
H16. 4
桐生市
22
治山堰堤利用
(旧黒保根村)
H16. 6
群馬県
61
河川水利用
H17. 1
民間会社
37
水力発電所の放水
大字大桑字狩宿
(水路式)
路利用
若田発電所
高崎市若田町
H19.11
民間会社
78
若田浄水場内
まるへい水力発電
下仁田町
所
大字下仁田
上水道利用※
(浄水前)
H20. 9
民間会社
24
河川水利用
(水路式)
※若田発電所は、浄水場内での発電であるため上水道利用に区分しているが、浄水前の河川水を利用した発電である。
2‐3
第2節 マイクロ水力発電導入マニュアル
1.マイクロ水力発電の概要 ------------------------------------------ 2- 5
2.マイクロ水力発電導入の検討手順 ---------------------------------- 2-13
3.導入地点の選定 -------------------------------------------------- 2-15
4.導入目的の明確化 ------------------------------------------------ 2-20
5.電力需要計画の策定 ---------------------------------------------- 2-22
6.発電計画の策定 -------------------------------------------------- 2-24
7.主要設備の概略設計・概算工事費の算出 ---------------------------- 2-33
8.事業化評価 ------------------------------------------------------ 2-38
9.維持管理 -------------------------------------------------------- 2-42
10.許認可手続き ---------------------------------------------------- 2-45
11.助成制度 -------------------------------------------------------- 2-50
12.マイクロ水力発電の事例 ------------------------------------------ 2-61
13.付属資料 -------------------------------------------------------- 2-77
14.参考資料 許可窓口・関係機関 ------------------------------------ 2-92
2‐4
1.マイクロ水力発電の概要
(1) 水力発電の概要
水力発電は、水が高いところから低いところに向かって流れ落ちるエネルギーを水車によって
機械エネルギーに変換し、発電機によって電気エネルギーを作るものである。高い位置にある河
川等の水を低い位置にある水車に導き、この高低差(落差)を利用して水車で発電機を回し、電
気を発生させるものである。落差が大きいほど、また水量が多いほど、大きな電力を取り出せる。
※水車タイプによって落差の取り方は異なる。
図 2.1-1 水力発電のしくみ
図 2.1-2 水力発電システム例
2‐5
(2) マイクロ水力発電の特徴
ア マイクロ水力発電の規模
水力発電は、その出力の規模によって次のように分類されている。
表 2.1-1 水力発電の出力分類
分 類
出 力
大
水
力
100,000kW以上
中
水
力
10,000kW ~ 100,000kW
小
水
力
1,000kW ~
10,000kW
ミ ニ 水 力
100kW ~
1,000kW
マイクロ水力
100kW以下
本マニュアルでは、出力100kW以下のものを「マイクロ水力発電」とし、その導入手続きにつ
いて示す。
なお、電気事業法において、水力発電設備は電気工作物とされ、出力10kW未満のものは「一
般用電気工作物」1)、10kW以上のものは「事業用電気工作物」に区分されており、10kW以上の
事業用電気工作物については、電気事業法により保安等の規制があるため、規制がかからず比
較的導入が容易な出力10kW未満のマイクロ水力発電を主に対象とする。
また、「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法施行令の一部を改正する政令」(平
成20年4月1日施行)において、新エネルギー利用等に、「未利用水力を利用する水力発電」が
追加され、マイクロ水力発電(かんがい、利水、砂防その他の発電以外の用途に供される工作
物に設置される出力1,000kW以下の発電に限る)
は新エネルギー利用等に該当することとなった。
電気事業の用
に供する電気
工作物
電気事業者
・一般電気事業者(電力会社)
・卸電気事業者
・特定電気事業者
・特定規模電気事業者
事業用電気工作物
電気工作物
自家用電気
工作物
一般用電気工作物
卸供給事業者
・公営卸供給事業者
・その他卸供給事業者
出力 10kW 未満の
水力発電設備
(ダムを伴うものを除く)
図 2.1-3 電気工作物の区分と事業者の関係
1)
発電に係る電気を600V以下の電圧で他の者がその構内において受電するための電線路以外の電線路により構内以外の場所にあ
る電気工作物と電気的に接続されていないもの。
2‐6
イ 発電方式(水利用タイプ)
マイクロ水力発電は、既存施設を利用し、簡易な発電設備を設置することにより水力エネル
ギーを回収する場合が多く、流れ込み式で水路式の発電方式が一般的である。水利用から分類
される発電方式には以下のタイプがある。
(ア) 河川水利用
河川から取水し、沈砂池・導水路・水槽・水圧管路により発電所まで導水し、発電後に再び
河川等に放流する方式であり、下図の2タイプに大きく区分される。
取水方法は、経済性及び自然環境保全の観点から、既設の堰・砂防ダム、河川に形成された
淵等を利用することが望ましい。
既設ダムから放流される河川維持流量を利用する方式もある。
水槽
導水路
水槽
水圧管路
水圧管路
水車・発電機
水車・発電機
図 2.1-4 河川水利用①
図 2.1-5 河川水利用②
【河川水利用①】
開渠を山腹沿いに設置し、導水路下流端に
設置した水槽から発電所までの落差(水位の
標高差)を利用して発電するものであり、山
腹傾斜が比較的緩い地点に適している。
【河川水利用②】
取水地点の沈砂池から導水路を省略し、河
川沿いに水圧管路を敷設する方式であり、山
腹斜面が急な場合や地形的に水路を水平に
設置することが困難な場合に適している。
(イ) 農業用水利用
農業用水路においては、以下のタイプがある。
a 導水タイプ
急な地形勾配を流れるところでは、河川
水利用と同様に、農業用水路から導水して
水槽
落差工
水圧管路
水圧管路を敷設して水力発電を設置する
方式である。
水車・発電機
【農業用水利用①】
連続した落差工あるいは急流工等、水路
の途中に大きな落差が得られる場合に、落
差工をバイパスする形で取水し、発電後、
既設水路に再び放流する方式である。
図 2.1-6 農業用水利用①
2‐7
b 落差工タイプ
農業用水路の落差工部に、下図のような簡易な発電設備を設置する方式である。
【農業用水利用②】
既設水路の流量が比較
的大きく、安定している
場合に、水中式発電機一
体型水車または投げ込み
式発電機一体型水車を設
置する方式である。
水中式発電機一体型水車の例
出典:「新エネルギー大事典」工業調査会(H14.2)
投げ込み式発電機一体型水車の例
図 2.1-7 農業用水利用②
■空き容量の利用
落差を有する農業用水路において、期別のかんがい用水量が変動する場合、水路の空き容
量(=最大用水量-期別かんがい用水量)を発電用水量として取水し、水力発電に利用する
ことができる。この場合には、導水路や水圧管路等の施設費の削減が可能となる。
〔農業用水路の空き容量利用の例〕
〔m31.2
/s〕
(水路通水能力=最大用水量)
1.0
農業用水路
発電用水
0.8
かんがい
用水
0.6
かんがい用水
水車・発電機
0.4
0.2
0.0
1 2
図 2.1-8 農業用水利用③
3 4
5 6
7 8
9 10 11 12 〔月〕
c 流量利用タイプ
落差は小さいが、流量が比較的安定している場合に設置する方式である。
流量が安定している小河川においても設置は可能である。
【農業用水利用④】
既設水路の流量が比
較的安定している場合
に、開放型下掛け水車を
設置する方式である。
図 2.1-9 農業用水利用④
2‐8
d 余剰圧力等利用タイプ
農業用水路においては、高低落差による自然流下、またはポンプにより農地へ用水を配水
している。送配水システムによっては、水圧が場所により所要水圧より大きく、減圧弁等を
設けて余剰圧力を減圧している箇所がある。このような余剰圧力や遊休圧力を有効利用し、
水力発電を設置する方式である。
上部水槽あるいは取水設備
調整水槽等
減圧弁等
下流域へ用水の配水
水車・発電機
図 2.1-10 農業用水利用⑤
(ウ) 湧水利用
敷地内の湧水、道路・鉄道等のトンネル
湧水を利用するもので、発電方式は水路の
落差を利用する方式が一般的である。実験
的にはトンネル湧水の水流を利用した発電
の事例もある。
図 2.1-11 湧水利用
(エ) 上下水道利用
a 上水道・工業用水道利用
上水道・工業用水道を利用する発電は、
原水取水箇所から浄水場、または浄水場
から配水場までの間で得られる落差を利
用する方式である。これらの送水過程で
は、通常、管路末端部において保有する
水圧を減圧するための減圧用バルブ等が
設置されており、この減圧される水圧を
水力発電に有効利用することができる。
具体的にはバルブ等に並列する形で水
車・発電機を設置し、発電するとともに
水車による水量調整も行う方式である。
2‐9
図 2.1-12 上水道利用
b 下水道利用
下水道を利用する発電は、基本的には、
最終処理施設からの排水を河川や海域へ
放水する際の落差を有効利用しようとす
る発電である。得られる落差は数m程度
と小さい場合が多い。レイアウトによっ
ては、上水道と同様に下水処理後の送水
途中、減圧用バルブ部において得られる
落差にて発電する事例がある。
図 2.1-13 下水道利用
c その他利用
工場等からの排水を敷地内または河川・海域等へ放水する際の落差を利用して発電するタ
イプである。また、工場内やビル内の循環水の循環過程で得られる落差を利用した発電の事
例がある。
ウ 水利用に係る許可(水利権に関する詳細は、「10.許認可手続き」参照)
水力発電は、利用する水によって水利使用の許可が必要である。水利使用の許可は、河川法
に基づくもので、一般に水利権と称されており、一級河川、二級河川及び準用河川が適用河川
である。水利権は、流水を特定の目的のために、排他的、独占的に、また継続的に占用する権
利であり、河川の流水を支配の対象として成立する物権的性格を有する公法上の権利で、河川
管理者の許可によって成立するものをいい、水力発電のために利用する場合は国土交通大臣等
の河川管理者の許可が必要である。
発電のための水利使用は「特定水利使用」と呼ばれ、出力の大小に係らず水利権の取得が必
要となる。法定外河川である普通河川は、国土交通省所管国有財産取扱規則または地方公共団
体条例によって管理されており、河川法の適用は受けないが、特定水利使用を行う場合には、
新たに河川指定を受けるよう行政指導されている。
また、かんがい用水等の水利権を既に取得済みの場合でも、発電用に利用する場合には、水
利使用の目的が異なるため、新たに水利権の取得が必要となる。
(ア) 水利用許可が不要な発電方式
湧水、浄水後の上水道水・工業用水、下水道処理水、工場・ビル内の循環水、工場内等での
利用後の排水、
農業用水の農地での利用後の落水などは、
水利使用許可が基本的に不要である。
ただし、湧水利用は、河川の流水とみなされる場合には水利権を取得する必要があることか
ら、事前に河川管理者と協議を行う。また、許可不要の湧水、普通河川であっても当該水が存
する地方自治体に財産管理規程がある場合や国有林野内に存する場合は各規程に従った許可が
必要である。
(イ) 水利用許可が必要な発電方式
河川法で「河川」に指定されている河川または準用河川から取水される水の利用(河川水利
用、農業用水利用)は、水利使用許可が必要である。
2‐10
エ マイクロ水力発電の特徴
マイクロ水力発電の特徴は、以下のとおりである。
(ア) クリーンエネルギー
水力発電は運転中に窒素酸化物や硫黄酸化物を排出せず、石油や石炭などによる発電と比べ
て二酸化炭素の排出量が極めて小さいクリーンエネルギーであり、
地球温暖化防止に貢献する。
原子力については、現在計画中の使用燃料国内再処理・プルサーマル利用(1回リサイクルを前提)・高レベル放
射性廃棄物処理等を含めて算出。
図 2.1-14 各種電源別の CO2 排出量
出典:電力中央研究所「ライフサイクルCO2排出量による原子力発電技術の評価」(平成13年8月)
電力中央研究所「ライフサイクルCO2排出量による発電技術の評価」(平成12年3月)
(イ) 環境調和型エネルギー
小規模であるため、
発電設備を設置する際の地形改変が小さく、
使用水量も少ないことから、
河川水質や周辺生態系に及ぼす影響が小さく、自然にやさしい環境調和型エネルギーである。
(ウ) 安定的な再生可能エネルギー
年間を通じて使用可能な水量データをもとに計画されており、太陽光発電や風力発電等の他
の自然エネルギーに比較して電力供給の安定性に優れている。
(エ) 既存施設の活用による低コスト化
既存の農業用水利施設や上水道施設等の利用が可能であり、発生電力により施設の維持・管
理費の軽減に寄与する。
また、
比較的簡易な設備であることから短期間での建設が可能であり、
維持管理も容易に行える。
(オ) 地域住民の環境保全意識醸成への貢献
身近な場所で水力発電施設を整備することにより、子どもを含む地域住民に対して、エネル
ギーや環境に関する学習の場を提供することができ、新エネルギー普及や省エネルギー活動の
促進に向けた環境意識の醸成に貢献する。
2‐11
(カ) 地域振興・活性化への寄与
水力発電による電気を地域振興のための各種事業に使用すれば、地域振興と自然エネルギー
の利用という相乗作用によって、経済的・社会的な波及効果を与えることができ、まちづくり
や地域の活性化に寄与する。
2‐12
2.マイクロ水力発電導入の検討手順
マイクロ水力発電の導入にあたってのフローを以下に示す。
【導入概略検討】
① 導入地点の選定
② 導入目的の明確化
③-1 電力需要計画の検討
④-1 発電計画の検討
④-2 需給バランス・発電規模の検討、系統連系の選択
③-2 電力需要計画の策定、④-3 発電計画の策定
⑤ 主要設備の概略設計
⑥ 助成制度活用の検討
⑦ 概算工事費の算出
⑧ 事業実施・管理運営体制の検討
⑨ 事業化評価
⑩ 資金計画の検討
許認可事前説明
電力会社事前協議
事業実施の決定
【実施設計】
資金調達の検討
【工事】
⑪ 実施設計・工事費積算
許認可申請
電力会社協議
地権者交渉
河川法等許可
電力会社契約
用 地 取 得
工事発注
工事施工
運転開始
図 2.2-1 マイクロ水力発電導入の検討手順例
2‐13
表 2.2-1 マイクロ水力発電導入の検討内容
項
目
① 導入地点の選定
検 討 内 容
・水力発電は落差が大きく、流量が多い程、発電電力量
が大きくなることをふまえ、
ある程度の安定的な流量
本マニュアルの章
3.導入地点の選定
(P.2-15~19)
とともに、落差を確保できる地点を選定する。
・併せて、発電した電気を利用する需要施設及び導入目
的について検討する。
② 導入目的の明確化
・マイクロ水力発電の導入候補地においては、周辺の需
要施設や環境をふまえ、
導入目的及び発電電力の活用
4.導入目的の明確化
(P.2-20~21)
方法を明確にする。
③-1 電力需要計画の検討
③-2 電力需要計画の策定
・電力需要計画は、水力発電所で発電した電気の使用施
設及び使用量について策定する。
5.電力需要計画の策定
(P.2-22~23)
・策定に当たっては、需要施設の選定、施設の電気容量
等を調査・整理し、需要の平準化を図りながら供給と
のバランスを検討する。
④-1 発電計画の検討
④-2 需給バランス・発電
規模の検討、系統連
系の選択
④-3 発電計画の策定
・発電計画では、水路ルート等の設定のもとに、最大使
用水量、有効落差、発電出力、発電電力量を決定する。
6.発電計画の策定
(P.2-24~32)
・発電規模は、異なる複数案について、電力需要計画の
検討後、需給バランスを検討し、決定する。
・系統連系は、電力需要施設の特性、経済性を勘案し、
系統連系または単独系統を選択する。
⑤ 主要設備の概略設計
⑥ 助成制度活用の検討
・発電計画に基づき、土木構造物(取水設備、導水設備、 7.主要設備の概略設計・概算工
発電所、放水路・放水口)、電気等設備(水車、発電
事費の算出
機、電気機器)、送配電線の概略設計を行う。
(P.2-33~37)
・発電計画の経済性を検討するにあたり、各種助成制度
の活用を検討する。
⑦ 概算工事費の算出
(P.2-50~60)
・主要構造物の概略設計に基づき、各工事に関する概略
数量を算出し、概算工事費を積算する。
⑧ 事業実施・管理運営体
制の検討
⑨ 事業化評価
・発電事業の実施体制(事業主体)及び管理運営体制(管
理主体)を検討する。
・経済性評価、施工性、用地取得及び関係法令の許認可
等から、事業化について総合的に評価する。
⑩ 資金計画の検討
11.助成制度
7.主要設備の概略設計・概算工
事費の算出(P.2-33~37)
9.維持管理
(P.2-42~44)
8.事業化評価(P.2-38~41)
10.許認可手続き(P.2-45~49)
・事業化が可能な場合には、事業主体及び管理主体によ
る資金計画について検討し、事業実施を決定する。
⑪ 実施設計・工事費積算
・水路・発電所等の施設設置場所については測量及び土
質調査等を行い、実施設計及び施工計画を行う。
・実施設計及び施工計画に基づき、工事費を積算し、工
事予定価格を設定する。
2‐14
13.付属資料
(P.2-77~91)
3.導入地点の選定
(1) 導入候補地点の条件と調査方法
水力発電は、落差が大きく、流量が多い程、発電電力量が大きくなる。このため、導入候補地
は、ある程度の安定的な流量とともに落差を確保できる地点が条件となる。また、経済性の観点
から、発電した電気を利用する需要施設と併設または近距離であることが望まれる。
導入候補地については、地形図や流量データ等の既存資料(表 2.3-2 参照)を有効に活用する
とともに、必要に応じて現地調査を行い、総合的な評価により、有望地点を選定する。導入候補
地点の条件及び調査方法を表 2.3-1 に示す。
表 2.3-1 導入候補地点の条件・調査方法
項 目
① 落差
条 件 等
調査方法
・落差が大きい程、経済性が高く導入に適
・取水候補地点と放水候補地点の標高差を
する
地形図・構造図等から読み取り
(現在の水車の技術から 2m以上必要)
② 流量
・流量が多い程、経済性が高い
・現地にて測定
・既存の流量データまたは流量測定により
「流量」を把握
③ 需要施設
・発電所に併設または近距離に需要施設が
ある
・「需要施設の位置・用途等」を地形図か
らの読み取り、現地調査、聞き取り調査
により把握
④ 周辺環境
・十分な工事仮設スペース、管理スペース
が確保できること
周辺環境(既設道路、家屋等の状況)の
・管理用道路があることが望ましい
・自然環境及び周辺の景観への影響が問題
ないこと
⑤ 電力会社の配
電線状況
⑥ 権利関係
・需要施設の近くに送配電線があること
・系統連系が可能なこと
・必要に応じて、自然環境・景観調査、条
・現地調査、電力会社への聞き取り調査か
ら需要施設と配電線との距離等の把握
・発電設備の設置及び工事に際して、用地
は用地取得が可能等)
・整備範囲を基に、公図等により導入候補
地点の土地所有者の確認
・権利関係(土地権利、水利権、漁業権等)
・権利関係の許諾・調整が可能なこと
・法規制がないこと、または法規制に対応
可能なこと
⑧ 開発計画
把握
例及び住民意向等の把握
の確保が可能であること(公共用地また
⑦ 法規制
・地形図からの読み取り、現地調査により
の把握
・河川法、自然公園法等の対象地域の場合
には法律の規制等の把握
・各種開発計画がないこと、または水利用
等において調整が可能なこと
・市町村及び県内の宅地開発、道路計画、
河川整備計画、観光開発計画等の各種開
発計画の把握
2‐15
表 2.3-2 導入地点選定に必要な資料
水の利用形態
河川水の利用
必要な資料
・地形図:国土地理院発行 1/25,000、地方公共団体所有の地形図 1/2,500、1/5,000
・河川流量:国土交通省河川局編日本河川協会「流量年表」
経済産業省資源エネルギー庁編「流量要覧」
・需要先の電力利用形態と負荷(消費)パターン
農業用水の利用
・地形図:国土地理院発行 1/25,000、地方公共団体所有の地形図 1/2,500、1/5,000
・水路等施設図:施設管理者の施設図
・取水量データ:施設管理者の観測データ
・需要先の電力利用形態と負荷(消費)パターン
上下水道、工場内水の
利用
・水路等施設図:施設管理者の施設図
・流 量 デ ー タ :施設管理者の観測データ
・需要先の電力利用形態と負荷(消費)パターン
砂防堰堤の利用
・地形図:国土地理院発行 1/25,000、地方公共団体所有の地形図 1/2,500、1/5,000
・河川流量:国土交通省河川局編日本河川協会「流量年表」
経済産業省資源エネルギー庁編「流量要覧」
・砂防堰堤構造図:施設管理者の施設図、設計図書
・需要先の電力利用形態と負荷(消費)パターン
① 落差
落差は、取水口水面と発電所放水口水面の水位の差から求めるものであり、以下の方法によ
り把握する。
・地形図からの概略的な標高の読み取り
・測量(水準測量またはハンドレベルによる簡易測量)
【ハンドレベルによる簡易測量】
ハンドレベル(高低差を測る器械で、簡易に高低差を求める場合に使用)と測量用スタッ
フ(標尺)により高低差を測定する。
② 流量
流量は、利用する河川や水路等の流量資料がある場合は、それらを使用または活用する。流
量データは日単位で 10 年間分必要である。
流量資料がない場合は、
以下の方法により把握する。
・河川における取水地点近傍の流量資料の活用(「13.付属資料(3)ア」参照)
・河川や水路等における流量測定(量水せき法、浮子法、流速計法)
農業用水は、かんがい期と非かんがい期の流量が大きく異なる場合があるため、留意する。
【量水せき法(渓流・水路)】
渓流や水路に流れをせき止める板を置き、
板上部の切欠きから流出させるものを「せき」
という。せきによる上流の水面と、せき上縁
の高さ(せきのヘッド)H を測定し、越流公式
図 2.3-1 量水せき法
を用いて流量を求める。これは、日本工業規
2
流量=流出係数 × × b × 2gH
3
格(JIS B 8302)に規定されている。
※流出係数:通常 0.6
g:重力加速度 9.8
2‐16
【浮子法】
河川や水路で浮子(浮き等)を用いて流速を測定し、平均流速を求め、それに断面積を乗じて
流量を算出する方法である。
助走区間
① あらかじめ計測区間を設定後、浮きを投入し、計測区間
計測区間(L)
における通過時間を計測する。
② 計測区間における浮きの通過時間t(m)と計測区間の距
離L(m)から、流速V(m/s)を算出する。
流速(V)
③ 数回計測を行い、平均流速を算出する。
④ 流量は下式により求める。
流量Q(m3/s)=流速V(m/s)×通水断面積A(㎡)
計測終了地点
計測開始地点
浮き投入地点
通水断面積A
《留意事項》
・測定区間は、できるだけ直線で、水面幅、水深、勾配が
一定の場所を選定する。
・浮きが底につかないように、また、まっすぐ流れるよう
に留意する。
・計測区間及び助走区間は、測定場所(直線区間距離、水路
図 2.3-2 浮子法
幅、流速等)に応じて設定する。
※国土交通省河川砂防技術基準(案)調査編(1997)では、計測区
間を原則として50mとしている。
【流速計法】
流速計を用い平均流速を計測し、断面積を乗じ流量を算出する。流速計には、プライス電気
式、プロペラ電気式、プロペラ計数式、電波式、超音波式、電磁式などがある。
※流量調査の規程として、「水位及び流量調査作業規程準則(総理府令第75号)」があるため、導
入時には参考とする。
③ 需要施設
需要施設が発電所に併設してあること、または近距離にあることが望ましい。地形図からの
読み取り、現地調査及び聞き取り調査により、導入候補地の周辺における需要施設について、
導入候補地点からの距離、施設用途等を把握する。距離については、配電線を考慮し、道路距
離等を測定する。
④ 周辺環境
導入候補地点の周辺環境については、地形図からの読み取り及び現地調査により以下の事項
を把握する。
・建設時における仮設スペース・工事用道路の確保、自然環境への影響
・維持管理時の十分な管理スペース、管理用道路の確保
⑤ 電力会社の配電線状況
系統連系の選択(本章の「(2)系統連系」参照)及び経済性を検討するうえで、電力会社の
配電線状況について、現地調査及び電力会社への聞き取り調査により把握する。
・配電線の位置:導入候補地点から配電線までの距離
・配電線の種類:単相2線式 100V、単相3線式 100V/200V、三相3線式 200V など
・逆潮流の制限:連系する配電用変電所のバンク 1)において逆潮流が発生しないこと
1)
配電用変電所に設置される変圧器における一変圧器により供給される設備の範囲。
2‐17
⑥ 権利関係
発電設備の設置及び工事に際して、以下の権利関係について把握する。
・土地所有権:用地の確保の可能性について、整備範囲をふまえ、公図及び聞き取り調査に
よる土地所有状況(買収・借地を要する場合は地権者と協議)
・水 利 権:河川・水路等においては水利権の設定状況(電力会社による水力発電に係る
水利権など)
・漁 業 権:河川においては漁業権の設定状況(漁業権者と協議)
⑦ 法規制
水力発電の導入において関係する法規制は「10.許認可手続き」に示すとおりであり、法
規制がないこと、または法規制への対応性について把握する。
(2) 系統連系
ア 系統連系と単独系統
需要施設の種類によって電力会社の商用電力系統への連系の必要性が異なるため、導入地点
の選定においては、既設の電力系統を調査し、系統連系の可能性の有無を確認する。
水力発電設備を電力会社の商用電力系統に連系する場合は、「電力品質確保に係る系統連系
技術要件ガイドライン」(平成16年10月1日、経済産業省資源エネルギー庁、以下「系統連系
技術要件ガイドライン」という。)の技術要件に従う。また、連系するための技術要件、余剰
電力の売電料金等に関して事前に電力会社と協議する。
表 2.3-3 系統連系・単独系統の特徴
概
特
要
徴
系統連系
単独系統(独立電源)
・需要設備が商用電力系統に接続された状態
・需要設備が商用電力系統に接続されていな
にあり、水力発電設備をこの系統に連系す
い状態にあり、需要設備に直接水力発電を
ることにより、発電電力の全部または一部
配電線で接続し、発電電力の全部または一
を需要設備に供給する発電システム
部を需要設備に供給する発電システム
・消費電力が水力発電の発電電力より大きい
・需要設備の近傍に電力会社の配電線がな
場合は不足分を商用電力から買電し、逆の
く、無電化の状況にある場合に、水力発電
場合には余剰電力を電力会社に売電できる
により電力を供給する
=
余剰電力の売電あり(電力会社との交渉による)
(逆潮流あり)
マイクロ水力
発電設備
マイクロ水力
発電設備
配電盤
配電盤
=
(逆潮流なし)
余剰電力の売電なし
系統
(電力会社)
需要設備
需要設備
図 2.3-3 系統連系の模式図
図 2.3-4 単独系統の模式図
2‐18
・低圧連系:出力 50kW 以下のマイクロ水力発電は可能である。ただし、原則として交流発電設備
により余剰電力を電力会社の配電線に流すことはできない(逆潮流なし)1)。
・高圧連系:出力 50kW 以上の場合は、高圧配電線(600V を超え、7,000V 以下)への連系となる。
逆潮流することができ、余剰電力を電力会社へ売電することは可能である。
【電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン】
発電設備等の系統連系は、系統運用者である一般電気事業者の送配電部門と発電設備等設置者
の両者間で、その条件について個別に協議を行い設定されるものである。しかし、連系に係る協
議が円滑に行われ、系統連系に係る情報の透明性及び公平性が確保されることが必要なため、本
ガイドラインは、系統に連系することを可能とするために必要となる要件のうち、電圧、周波数
等の電力品質を確保していくための事項及び連絡体制等について考え方を整理したものである。
一般電気事業者がその供給区域内で設置する発電設備等以外の発電設備等を系統と連系する場
合に適用するものである。系統連系に必要な技術要件は、「13.付属資料(1)」参照。
ガイドラインを補足・補完する民間の自主的な技術指針として、「系統連系規程」(社)日本電
気協会がある。
イ 電力会社との事前協議
系統連系する場合には、電力会社と以下の協議を行う。電力会社との系統連系等の契約申し
込み前に、事前系統連系協議を行う。契約申し込み後には、系統連系運用等の運用申合書締結
のための協議を行う。
表 2.3-4 系統連系の協議
協 議 項 目
事前系統連系協議
実施時期
・系統連系に必要な需要者設備に関する協議
系統連系等の契約申し込み前
・系統連系に必要な工事費負担金に関する協議
に実施
・電力会社の設備対策に関する検討
系統連系協議
・事前系統連系協議結果の確認
系統連系等の契約申し込みか
・電力会社の設備対策に関する検討結果の確認
ら運用申合書の締結間に実施
・運用申合書締結のための検討
・系統連系の承諾のための検討等
(3) 発電可能量の把握
水力発電の導入目的及び需要施設を検討するにあたり、概ねの発生電力を下式より算出する。
P=9.8×Q×He×η
ただし、P :発生電力(kW)
Q :流量(m3/s)
He:有効落差(m)
η :水車と発電機の総合効率(概略の場合は 0.6~0.7)
1)
合資会社嵐山保勝会水力発電においては、電力会社との協議により「低圧連系・逆潮流あり」により余剰電力を売電している。
(「12.マイクロ水力発電の事例」参照)
2‐19
4.導入目的の明確化
マイクロ水力発電の導入にあたっては、導入地点周辺の需要施設等の状況をふまえ、導入目的及
び発電電力・発電所の活用方法を明確にする。事業主体は、導入地点の場所・周辺環境、発電規模・
発生電力量、発電期間等を勘案するとともに、地域住民の意向等をふまえて、導入目的を決定する。
マイクロ水力発電は、小規模であるため、経済的効果は小さいことから、導入においては「地球
温暖化防止等の環境保全への貢献」を含め、導入目的を明確にすることが重要である。導入目的に
は、下記のものが考えられる。
表 2.4-1 導入目的の例
導入目的
需要施設例
導入条件等
① 需要施設の電気料金低減
・公共施設(公民館、学校、福
・水力発電施設に近接して電力需要施
祉施設等)
設がある場合
・独立電源利用の場合(商用電力の配
電線が離れている場合など)
② 産業振興のための利用
・かんがい排水施設、畜産施設、 ・水力発電施設に近接して農林漁業施
主 目 的
農産物栽培施設、水産施設、
農林産加工施設等
・獣害防止電気柵
③ 防災施設用電源としての利用
・地滑り観測用施設
設がある場合
・独立電源利用の場合(商用電力の配
電線が離れている場合など)
・商用電力の配電線が離れている場合
(独立電源利用)
④ 観光等地域振興のための利用
・観光施設・レクリエーション
・観光客・利用者の多い観光施設、公
施設(管理所含む)等(トイ
共施設等
レ、街灯、イルミネーション)
(各種施設の照明(イルミネーショ
ン等)による景観づくりの場合)
付随目的
⑤ 非常用電源としての利用
・学校等の避難施設
・災害時に電気の使用が必要な施設等
の場合
⑥ 環境学習の場としての利用
・①~④の目的と併せて、環境
学習の場として利用
・水力発電施設に近接して小学校や公
園等の公共施設がある場合
※独立電源利用
電力需要施設を商用電力の配電線に接続しない場合には独立電源利用となり、配電線の設置
費用及び接続する場合に支払う電気料金(基本料金と電力量料金)が導入効果となる。
2‐20
【導入事例】(詳細は、「12.マイクロ水力発電の事例」参照)
観光・地域振興、環境学習の場として利用
■合資会社嵐山保勝会水力発電所
・桂川(一級河川)に架かる渡月橋の照明灯電源
(LED照明灯60基、計1kW)、余剰電力は売電
・発電出力:5.5kW(最大)、4.3kW(常時)
観光・地域振興、環境学習の場として利用
■三分一湧水公園小水力発電所
・発電所内に設置した展示物(模型電車、照明)
・発電所近くの橋の照明灯電源
・発電出力:1.0kW
三分一湧水公園の照明灯
京都嵐山渡月橋照明灯
観光振興・電力需要施設の電気料金低減
産業振興・養魚場の電気料金低減
■遠山郷小水力発電所
・養魚場のブロア装置
・発電出力:2.5kW(常時)
■赤岳鉱泉水力発電所
・山小屋の照明灯・合併浄化槽電源
・発電出力:9.0kW(最大)
オーレン小屋(山小屋)
養魚場
災害対策・電力需要施設の電気料金低減
産業振興・電力需要施設の電気料金低減
■長野県小谷村大平地区水力発電所
・地滑り観測システム用電源
・発電出力:150W(最大)
■長野県中川村水力発電所
・獣害防止電気柵・山間集落の常夜灯電源
・発電出力:300W(最大)、150W(常時)
監視局(北安曇地方事務所)
大平地すべり観測局
電話回線
地下水
集水枡
電力
№2集水井戸
(径3.5m 深さ25m)
電気柵
落差 約15m
地滑り観測所
獣害防止電気柵
水力発電機
2‐21
5.電力需要計画の策定
電力需要計画は、水力発電所で発電した電気を使用する施設及び使用量を定めるものである。発
電電力を可能な限り有効に利用することが、経済的となるとともに、産業振興など地域への貢献度
が高くなる。
電力需要計画の策定に当たっては、需要施設の特性を把握するとともに、需要の平準化を図りな
がら供給とのバランスを検討する(需給バランスの検討方法は、
「13.付属資料(3)オ」参照)。
【需要施設の選定】
需用施設の選定においては、水力発電導入地点の周辺に存在する需要施設(公共施設、街灯等)
をリストアップし、施設毎に需要設備の内容、設備容量、電気の利用形態(動力、電熱、電灯、
制御用)、負荷変動(需要パターン)等を調査し、整理する。
リストアップした需要施設について、選定条件をふまえ、概略選定する。
表 2.5-1 需要施設に関する調査内容及び選定条件
項 目
① 需要施設の用途
調査内容
選定条件
・公共施設、農林水産業施設、観光・
・需要施設の用途及び電気設備が導入目的に合
レクリエーション施設等
致すること
・観光等地域振興を目的の場合は、地域のシン
ボル的施設であるなど、地域特性を活かした
導入となること
② 電力の利用形態
・利用形態(動力、電灯、電熱、制御
用等)
・送電が停止した場合や供給電力が一定でない
場合に問題となる電気機器がないことが望
ましい(ある場合には系統連系を選択する)
③ 設備容量
(需要規模)
・需要施設の容量(消費電力)
・需要施設の需要(負荷)パターン
・導入地点の選定における概略発電出力以下で
あること
・最適発電規模の検討において、需給バランス
の良い規模であること
④ 発電所からの距離
・発電所から需要施設までの距離
・送電線の費用※は経済性に大きく影響を与え
ることから、できるだけ短距離が望ましい
※送電線の概算費用は、「7.主要設備の概略設計・概算工事費の算出」参照。
※水力発電機により発電された電力は、交流電力として取り出され、一般に交流電力のまま利用
される。直流で利用する場合として、獣害防止電気柵、蓄電池(バッテリー)等があるが、こ
の場合は交流直流変換器が必要となる。
2‐22
【需要施設別の調査方法・選定留意点】
表 2.5-2 需要施設別の調査方法・留意点
需要施設
公共施設
需要規模・需要パターンの調査方法
選定にあたっての留意点
・照明、冷暖房機器、給湯装置、街 ・蛍光灯等は始動時電力が消費電
灯、浄化槽等の消費電力と設置数
力より大きいため留意する
導入効果
・環境学習機会提
供効果
及び稼動時間帯を現地調査・聞き
取り調査により把握する
街灯・防犯灯
・電球類等の消費電力と設置数及び
・防犯灯においては、防犯上から
・設置場所によっ
使用時間帯を現地調査・聞き取り
送電の停止及び供給電力が一
ては環境学習機
調査により把握する
定でない場合の対策として蓄
会提供効果
電池の設置または系統連系を
選択する
・水銀灯は始動時電力が消費電力
より大きいため留意する
農林水産業施設
・ポンプ、ブロワ、照明、換気装置
・揚水・排水ポンプ等の利水及び
(揚水・排水ポン
等の電気機器の出力・消費電力と
安全上から、送電の停止及び供
プ、施設園芸の照
設置数及び稼動時間帯を現地調
給電力が一定でない場合の対
ては環境学習機
明、獣害防止電気
査・聞き取り調査により把握する
策として蓄電池の設置または
会提供効果
柵、養魚場のばっ
気装置、水循環装
置等)
・産業振興効果
・設置場所によっ
系統連系を選択する
※獣害防止電気柵の稼働時間は一
・ポンプ等の動力機器は始動時電
般的に24時間
力が消費電力より大きいため
留意する
農林産加工施設
・照明、空調、乾燥施設等の電気機 ・製造機械等の動力機器は始動時
器の出力・消費電力と設置数及び
電力が消費電力より大きいた
稼動時間帯を現地調査・聞き取り
め留意する
調査により把握する
観光・レクリエー
・産業振興効果
・設置場所によっ
ては環境学習機
会提供効果
・街灯・イルミネーション等の消費
・街灯に防犯灯の役割があり、防
ション施設
電力と設置数及び稼動時間帯を
犯上から送電の停止及び供給
(街灯・イルミネー
現地調査・聞き取り調査により把
電力が一定でない場合の対策
・設置場所によっ
ション、管理所の
握する
として蓄電池の設置または系
ては環境学習機
統連系を選択する
会提供効果
照明、トイレの照
明・処理設備等)
・水銀灯は始動時電力が消費電力
より大きいため留意する
その他
・地滑り観測システム等の機器の消 ・防災上の役割から送電の停止及
(地滑り観測用施
費電力(24時間稼動)と設置数を
び供給電力が一定でない場合
設等)
現地調査・聞き取り調査により把
の対策として蓄電池の設置ま
握する
たは系統連系を選択する
2‐23
・観光等地域振興
効果
6.発電計画の策定
発電計画は、電力需要計画における需要施設での自家消費をふまえ、需給バランス及び最適発電
規模の検討のもと、水路ルート等の発電設備の配置・形式及び発電規模を決定する。
(1) 水路ルート・主要構造物の配置検討
河川・農業用水路等を利用する場合には、取水口、導水路、水槽、水圧管路、発電所、放水口
等の構造物の位置は、既存資料及び現地調査により設定する。地形条件によっては、水路ルート
を2~3案選定する。
取水口と放水口の位置は、最短で標高差が大きいほど、経済的となり望まれる。構造物の位置
は、コスト縮減の観点から既存施設を最大限利用するとともに、用地条件、施工性及び経済性等
を検討し、決定する。
【取水口地点の選定時の留意点】
河川が蛇行しているような場合は、左図のよ
A点
うにショートカット(A点からのルート)により、
短い水路長で同程度あるいはそれを上廻る落差
が得られる場合がある。
しかし、ショートカットにより落差が大きく
なっても取水流量が小さくなる場合(B点からの
ルートと比較して)もあり、留意が必要である。
B点
図 2.6-1 水路ルートの選定例
(2) 最大使用水量の設定
最大使用水量は、発電所で使用する最大の水量(流量)であり、想定する需要に対して自家用
発電設備として電力供給する場合の需給バランスを検討する中で決定される。また、最適発電規
模の検討において発電規模とともに最大使用水量が決定される。発電所の最大出力は、最大使用
水量によって定まる。
最大使用水量は、流量データを基に設定するが、電気事業法(出力10kW以上の場合)及び河川
法によると、原則的に取水計画地点における最近10か年の流量資料が必要である。農業用水利用
の場合には、流量資料として水文(水収支計算等)資料を利用することもできる。
最大使用水量の設定方法は、「13.付属資料(3)ア」参照。
(3) 有効落差の算出
主要構造物のレイアウトから取水位・放水位を設定し、総落差を把握する。
ア 取水位・放水位
河川や水路等における取水位及び放水位は、次のとおり設定する。
2‐24
・取水位:取水堰の高さを考慮した標高(堰頂高等)とし、地形図等から読み取る。
・放水位:放水地点の河川における平水時の標高とする。
イ 有効落差
有効落差は、水車に有効に働く落差であり、次式で表される。
有効落差=(総落差)-(損失落差)
※総 落 差:取水位と放水位の高低差
損失落差:水が流下する場合に消耗する速度水頭、位置水頭、圧力水頭等の和を高さ
で表したもの(「13.付属資料(3)イ」参照)
ウ 上下水道・工場内水利用、農業用水利用
上下水道・工場内水利用、農業用水利用においては、既存設備の施設図等により、取水位置
と放水位置の落差を把握する。また、減圧バルブの代替に水車発電機を設置する場合には、減
圧バルブの入口側圧力と出口側圧力の差が落差となる。
(4) 発電出力の算出
ア 理論水力(包蔵水力)
理論水力は下式により算出し、河川法に基づく水利使用料の計算に用いる。
理論最大水力及び理論常時水力の算出式は、「13.付属資料(3)ウ」参照。
理論水力(kW) = 9.8(重力加速度) × 使用水量(m3/s) × 有効落差(m)
イ 発電出力
水力発電では、水力エネルギーを発電機の軸を回す動力に換える水車や軸動力を電力に換え
る発電機で損失が生じる。発電出力は理論出力に水車発電機の効率を乗じたものであり、理論
出力より小さいものになる。
使用水量が変動する場合には、
発電出力も変動するため留意する。
発電出力P(kW) = 9.8(重力加速度) × 使用水量(m3/s) × 有効落差(m)
× 水車効率 × 発電機効率
ただし、水車効率
:0.75~0.90
発電機効率 :0.82~0.93
ウ 発電電力量の算出
発電電力量は下式により算出する。
発電電力量(kWh) = 発電出力(kW) × 発電時間(hr)
発電電力量には、年間可能発電電力量と年間発電電力量があり、発電原価(発電所の発電量
1kWh当たり単価)を算定する場合には後者の年間発電電力量を用いる。
2‐25
(ア) 年間可能発電電力量
年間可能発電電力量は、発電所が年間を通じて事故停止せず、点検・維持・補修による停止
をしないものと仮定した場合に、
1か年に発生が可能な電力量をいう。
年間可能発電電力量は、
年間累積値であり、発電出力は年間を通して変動するため、それを変数pとすると、下式で算
出される。発電出力を最大発電電力として計算するなど、年間可能発電電力量を過大に算出す
ると、収支計算に大きく影響することから、留意して算出する。
流況図から概略の年間可能発電電力量を算出する方法は、「13.付属資料(3)エ」参照。
年間可能発電電力量(kWh) = Σ 発電出力p(kW) × 24hr/日 × 365 日
年間を通じて出力が一定の場合は、以下のとおりである。
年間可能発電電力量(kWh) = 発電出力(kW) × 24hr/日 × 365 日
(イ) 年間発電電力量
年間発電電力量は、発電所の停止により発電できない分を差し引いた電力量であり、次式に
より算出する。
年間発電電力量(kWh) = 年間可能発電電力量(kWh) × 利用率(一般に 0.95)
※利用率は、理想的な仮定で計算された年間可能発電電力量のうち、実際に発電量として
期待できる割合をいう。発電所の停止には、事故停止のほか、計画的な点検停止・補修
停止等がある。
エ 水車等の選定
(ア) 水車
水車は、型式別の最大使用水量及び有効落差の適用範囲をふまえ、維持管理性、経済性等を
総合的に検討して、最適な型式を選定する。
ペルトン水車
衝動水車
クロスフロー水車
ターゴインパルス水車
フランシス水車
反動水車
水車の種類
カプラン水車
プロペラ水車
斜流(デリア)水車
チューブラ水車(S形、立軸、パッケージ式)
ストレートフロー水車(ランナローター体形、水中ポンプ形)
上掛水車
重力水車
下掛水車
※クロスフロー水車は、反動水車の特性も合わせ持つため
反動・衝動水車に区分されることもある。
らせん水車
図 2.6-2 水車の種類
2‐26
衝動水車:圧力水頭を持つ水をノズルから噴出させて、すべて速度水頭にかえ、噴出水の衝突
によりランナを回転させる構造の水車
反動水車:圧力水頭を持つ流水の水圧をランナに作用させる構造の水車
重力水車:水の質量(重さ)によって回転する水車、通称開放形という
マイクロ水力発電(100kW 以下)に採用可能な水車形式の特徴を以下に示す。
汎用品は有効落差2m以上が適用範囲であり、有効落差2m未満は特注品となる。
【ペルトン水車】
ニードル
・ノズルから噴射する水をバケットに衝突させる機
構の衝動水車
・高落差に適し、大型機から小型機まで導入実績が
多い
・流量調整できる機構(ニードル)を備え、流量調
整が最優先される場合にも使用できる
・出力:0.1~4,000kW 程度
・落差:15~500m 程度
・流量:0.01~2m3/s
【クロスフロー水車】
・水流が円筒形のランナに軸と直角方向より流入し
ランナ内を貫通して流出する衝動水車であり、流
量調整できる機構(ガイドベーン)を備えている
・外側のカバーを外すだけでランナを点検すること
ができ、容易に除塵できる
・出力:10~1,000kW 程度
・落差:5~200m 程度
・流量:0.1~8m3/s
【フランシス水車】
・水はランナの全周から中心に向かって流入し、水
圧によりランナを回転させつつ、ランナ内で軸方
向に向きを変えて流出する
・流量調整できる機構(ガイドベーン)を備え、水
道等の流量調整が最優先される場合にも使用で
きる
・出力:1~4,000kW 程度
・落差:10~300m 程度
・流量:0.01~10m3/s
【チューブラ水車(プロペラ水車)】
・円筒形(チューブラ)のプロペラ水車のことをい
い、低落差に使用される
・水流の流入、流出とも軸方向であり、配管直線部
に挿入する機器配置が可能
・ランナの羽根は小容量では固定式が多く、大容量
では可動式となる
・中小水力発電用にはS形、立軸、バルブ等がある
<プロペラ水車>
・出力:1~200kW 程度
・落差:2~150m 程度
・流量:0.01~3m3/s
2‐27
【水中ポンプ形;ポンプ逆転水車】
・一般的なポンプ(渦巻ポンプ、軸流ポンプ)に水
を逆に流し、ポンプを逆方向に回転させることで
発電に使用する水車
・ランナの羽根形状以外はポンプと同じ部品が使え
るため安価であるが、効率は他の水車よりも低い
・出力:1~200kW 程度
・落差:6~80m 程度
・流量:0.02~1m3/s
【水中ポンプ形;水中式発電機一体型水車】
・ポンプと電動機が一体となっている水中ポンプに
水を逆に流し、ポンプを逆方向に回転させること
で発電に使用する水車
・ランナの羽根形状以外はポンプと同じ部品が使え
るため安価であるが、効率は他の水車よりも低い
・水槽底部や配管内に設置するため、点検や部品交
換が可能なように据付けることが必要
・出力:1~200kW 程度
・落差:1.5~7m 程度
・流量:0.1~4m3/s
【重力水車;上掛け水車・下掛け水車】
・落差が小さく、少流量でも利用可能であるが、発
電効率が低い水車
・構造が簡単でメンテナンスが容易であるため、モ
ニュメントとして設置されている例もある
出典:マイクロ水力発電導入ガイドブック(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO),2003)
2‐28
水車の適用範囲を図 2.6-3 に示す。
※グラフの見方
注:ポンプ逆転水車、水中式発電機一体型水車は、水中ポンプ水車ともいう。
横軸固定羽根機プロペラ水車は、チューブラ水車の一種である。
使用水量0.1m3/s、落差4mの場合には、
横軸固定羽根機プロペラ水車が適用可
能。出力は1~3kWが見込まれる。
図 2.6-3 水車の適用範囲
出典:マイクロ水力発電導入ガイドブック(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO),2003)
(イ) 発電機
発電機には、同期発電機と誘導発電機があり、電力系統との連系の有無及び経済性を考慮し
て選定する。電力会社からの買電の場合には、経済性及び保守の面から誘導発電機が有利であ
る。単独系統の場合には、同期発電機を採用する。
表 2.6-1 誘導発電機と同期発電機の特徴
項
目
誘導発電機
同期発電機
保
守
構造が簡単で励磁装置もなく保守が容易
界磁巻線や励磁装置等の保守点検を要す
価
格
安価であるが低速機は割高
誘導発電機と比べて高価
通常できない
常に可能
単 独 運 転
2‐29
(5) 需給バランスの検討及び運転方式の選定
水力発電の導入においては、需給バランスを考慮した運転方式を検討する。
需要と供給(発電量)の関係は、①需要に対して供給が下回る場合と、②需要に対して供給が上
回る場合の2ケースに大別され、需給バランスにおいて、需要あるいは供給のいずれか一方を縮
小できる状態か否かによって運転方式を選定する。需給バランスの検討方法は、「13.付属資
料(3)オ」参照。
需要規模の縮小が可能
単独運転
需要規模の縮小が困難
系統との並列運転に
よるバックアップ
①需要に対して供給
が下回る場合
系統以外のバック
アップシステムの導入
需給バランス
②需要に対して供給
が上回る場合
供給規模を縮小
単独運転
系統との並列運転に
よる売電
熱変換(温水含む)
図 2.6-4 需給バランスと運転方式
【バックアップシステム】
学校や福祉施設など電力供給を長時間停止すると支障が発生する需要施設については、発電設
備または配電設備の事故が長時間にわたる場合や渇水などにより著しく発電力が低下する場合を
考慮し、バックアップによる電力供給を検討しておく。
現時点では、ディーゼルエンジンや自然エネルギーを利用した発電設備は、商用電源に比べて
高価であり、定期的な保守点検が必要なため経済的に不利となることが多い。このため、バック
アップシステムとしては「電力会社からの買電」が望ましい。
(6) 系統連系の選択
以下の場合には、系統連系を採用する。
・需要規模が発電規模より大きい場合
(需要施設が発電電力により稼動できない規模の場合)
・需要施設が常に一定規模以上の電力が必要な場合
(需要施設が災害時の避難場所など、電力の不足・停止が問題となる場合)
・需要施設が発電所から離れており、単独系統が非経済的な場合
(7) 最適発電規模の決定
ア 最適発電規模の検討
最適発電規模は、各需要パターンについて発電原価により経済性評価を行い、経済的なケー
スを採用する。
水力発電導入規模別の比較検討表例を表 2.6-2 に示す。
2‐30
表 2.6-2 水力発電導入規模別の比較検討表例
項
目
単位
ケース 1
ケース 2
ケース 3
備 考
m3/s
最大使用水量
最大出力
kW
電力量
発電経費
①供給電力量(年間発電電力量)
kWh
②需要電力量
kWh
③余剰電力
kWh
=①-②
④買電電力量(停止時)
kWh
=②×0.05
⑤買電電力量(不足時)
kWh
⑥工事費
千円
⑦送電費
千円
⑧工事費の計
千円
⑨経費率
⑩年経費※2
千円
バックアップ
⑪基本料金
千円
経費※1
⑫契約月数
千円
⑭バックアップ年経費
千円
⑮売電単価
=⑪+⑬
円/kWh
収入
⑯売電収入
千円
経済性評価
⑰発電所建設による電気料金効果※3
千円
有効使用率
=⑧×⑨
月
⑬電力量料金
売電考慮時の
=⑥+⑦
%
=③×⑮
⑱建設単価(受電端単価)
円/kWh
=⑧/①
⑲発電原価
円/kWh
=⑩/①
⑳合成発電原価※4
円/kWh
=(⑩+⑭)/②
21 合成発電原価(売電考慮)
○
円/kWh
=(⑩+⑭-⑯)/②
22 合成発電収支
○
円/kWh
23 有効使用率
○
%
=(⑰/①)-⑲
=②/①
総合評価
※1:バックアップ経費は、系統連系による電力会社からの買電の場合は電気料金とする
※2:年経費は、表 2.6-3 を参考に資本費や直接費等の積み上げを基本とする(経費率については、「ハイドロバレー計画ガイドブック
(2005.3)」経済産業省資源エネルギー庁 財団法人新エネルギー財団を参照)
※3:発電所建設による電気料金効果=建設前(需要施設の支払い電気料金)+建設後(余剰電力の売電収入-不足電力の購入支出)
※4:合成発電原価は、年経費にバックアップ経費を加えた経費による発電原価
イ 発電原価
発電原価は、発電施設の建設・維持管理により発生する年経費(資本費+直接費+間接費)
を当該発電所の年間発電電力量で除した値である。
発電原価(円/kWh)=
年経費(円)
年間発電電力量(kWh)
【年経費】
年経費は、水力発電所の管理運営の年間経費である(表 2.6-3 参照)。
発電設備が簡易的なものである場合などは、地域住民や団体のなかで機械電気設備等に知
識がある人が維持管理等を行うことで、人件費及び修繕費を低減させることが望まれる。
2‐31
表 2.6-3 水力発電所の年経費
項
資本費
目
減価償却費
説
明
諸条件等
・固定資産の取得原価を費用とし、各利用年度に合理的
かつ計画的に配分する会計上の手続きをいう。固定資
減価償却法:定額償却
耐 用 年 数:返済期間と同値
産として投入した資本を耐用年数間に合理的に配分し
て回収するために計上する費用
借入金返済額
・建設借入金の返済額
固定資産税
・地方税法に基づく、土地、家屋、償却資産を課税物件
として、その所有者に課せられる地方税
直接費
人件費
・発電所の保守・運用に必要な経費
修繕費
・発電設備の維持管理のための修繕費
その他経費
・委託費、固定資産除去費、補償費、水利使用料※、そ
一般管理費
・発電所の運転に関連する経費
の他費用
間接費
固定資産税、人件費、修繕費、その他経費の合計額に
一般管理費率を乗じて算定
※一級河川の水を水力発電に使用する場合には、流水占用料(水利使用料)を県に支払う必要がある。また、準用河川や普通河川
の水を使用する場合には、流水占用料について市町村に確認する必要がある。
【農業用水を利用する場合の使用料】
土地改良区以外の者(地方公共団体、民間会社等)が、農業用水路を水力発電に使用する場合
には、土地改良区に施設使用料を支払う。施設使用料については、土地改良区との協議による。
国庫補助で整備された農業用水路を水力発電に使用する場合には、発電事業者(土地改良区含
む)が国に他目的使用料を支払う。
表 2.6-4 減価償却資産の耐用年数(減価償却資産の耐用年数等に関する省令;H20.4.30)
種類
建 物
構築物
設 備
構造又は用途
鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造のもの
金属造のもの(骨格材の肉厚が 3 ㎜以下のものに限る)
木造又は合成樹脂のもの
木造モルタル造のもの
発電用又は送配電用のもの
細 目
発電所用
発電所用
発電所用
発電所用
小水力発電のもの※
その他の水力発電用のもの
送電用のもの
地中電線路
塔,柱,碍子,送電線,地線等
配電用のもの
鉄塔及び鉄柱
鉄筋コンクリート柱
配電線
引込線
添架電話線
地中電線路
電気業用水力発電設備
その他の水力発電設備
電気業用設備
注:※は農山漁村電気導入促進法に基づき建設したものに限る
2‐32
耐用年数(年)
34
19
17
15
30
57
25
36
50
42
30
20
30
25
22
20
7.主要設備の概略設計・概算工事費の算出
発電計画をふまえ、土木構造物(取水設備、導水設備、発電所、放水路・放水口等)、電気等設
備(水車、発電機等)、配電線などの概略設計を行う。概略設計に基づき、各工事の数量及び概算
工事費を算出する。
(1) 土木構造物の概略設計の留意点
発電タイプ別の土木構造物の概略設計における留意点は、以下のとおりである。
ア 河川水利用
(ア) 取水設備
取水設備は、河川の水を水路に流入するための設備であり、マイクロ水力発電においては新
規のダム等の施設は設けないことから、取水口及び付属設備からなる。取水口に関する留意点
を以下に示す。
・取水口の位置は、極端な水流の激突や土砂の堆積を防止するため、一般に河川の流れが直
線的な箇所とする。土砂や漂流物が流入しないよう、河川に直角またはやや上流向きに設
ける。また、背後に沈砂池を設けることができる位置を選定する。
・取水口入口は幅を広くし、流速が 0.3~1.0m/s 程度となるよう設計する。
・取水口前面には、バー間隔 5~15 ㎝程度のスクリーンを設ける。
・水路への接続部には、必要に応じて、取水量の調整や水路の点検、補修時の閉塞のための
制水門を設ける。
(イ) 導水設備
導水設備は、取水口より下流の水車までの設備であり、水路式発電所の場合、沈砂池-導水
路-ヘッドタンク-水圧管路からなる。ダム水路式発電所の場合、導水路-サージタンク-水
圧管路からなる。
a 沈砂池
・水路式の場合には、浮遊土砂を水路に流入すると水路内への堆砂、水圧鉄管や水車の磨耗
の原因となるため、取水口に近い所に沈砂池を設け、流入土砂を沈殿させ、排除する。
・沈砂の原理は、流速を減じながら流れの乱れを小さくし、土砂粒子の自重により沈降させ
るものであり、一般に沈砂池内の流速は 0.3m/s 以下がとられる。沈砂池内に沈殿した土
砂は、水のエネルギーで容易に排除できるよう池底に下り勾配をつけて1箇所に集め、土
砂吐き門を設けて排出する。小規模な場合には、定期的に人力等により土砂上げを行う。
b 導水路
導水路は、取水口からヘッドタンク、サージタンクまでの水路工作物であり、形式には開
水路と圧力水路がある。
水路は、損失落差を考慮し、経済的な断面及び勾配を設定する。
(ウ) 発電所
発電所は、水車、発電機、開閉装置、配電盤、付属機器等を収容する建屋である。
2‐33
a 発電所位置の選定
発電所の位置は、次の事項に留意して決定する。
・基礎地盤が良い所
・洪水により被害を受けない所
・山崩れ等の自然災害を受けない所
・屋外開閉所、送電線設置に取り合わせの良い所
b 発電所の形式
発電所は、地上式と地下式があり、地上式は建物形式から屋内式、半屋外式、屋外式に分
類される。マイクロ水力発電においては、屋内式、屋外式が多い。
屋内式は、発電所の一般的形式であり、水車・発電機は建物内に納められ、その組立・分
解は天井クレーン等により行う。屋外式は、発電機床面を地表面に設け、発電機を風雨から
防護するための保護カバーを設ける。
(エ) 放水路・放水口
放水路は、水車から放出された水を河川・水路に導く水路であり、放水庭、放水路、放水口
からなる。設計における留意点は、以下のとおりである。
・放水口の位置は、河川の土砂の堆積により出口が閉塞される恐れがないこと、洪水時に水
面が著しく上昇せず、また洪水による河床変動がなく、被害の恐れがないこと、などに留
意して選定する。
・放水口は、河川への出口部になるため、河川の流水や流砂により破損しないよう周囲の地
形に応じて保護工事を行う。
イ 農業用水利用
(ア) 導水タイプ
農業用水路の水を引き込んで水圧管路等で導水して発電する場合には、「ア 河川水利用
(ア)取水設備」と同様の点に留意する。
また、農業用水の本来の機能に支障がないよう留意して、取水設備及び放水口を設置する。
(イ) 落差工部タイプ
落差工部を利用して、水中式発電機一体型水車等を設置する場合には、取水口の前面にバー
間隔 5~15 ㎝程度のスクリーンを設ける。
(ウ) 余剰圧力等利用タイプ
減圧弁等の遊休落差を利用する発電においては、圧力変動(流量変動)を考慮するとともに、
下流域の農業用水の利用に支障がない(必要な圧力を有する)ように計画する。
(2) 電気等設備の概略設計の留意点
電気等設備は、水車、発電機、配電盤・開閉装置等からなる。
電気機器は、制御盤、保護継電器盤、主回路盤、所内盤、水位計等から構成される。ただし、
2‐34
マイクロ水力発電においては、制御盤や保護継電器盤等を一体型とすることによるコスト縮減を
検討する。
系統連系の場合は「電力品質に係る系統連系技術要件ガイドライン」(経済産業省資源エネル
ギー庁、平成16年10月1日)に準拠し、系統連系を可能とするための要件を検討し、電圧変動、短
絡容量等の電力品質を確保するための装置を必要に応じて設置する。また、電力会社に発電電力
の一部(余剰電力)を送電する場合(逆潮流)は、原則として高圧(6,600V) または特別高圧
(22,000V)での連系とし、変圧器を設置するとともに、制御装置への機能付加を行う。
【電気機器】
・制
御
盤:水車、発電機を運転制御するための装置
・保護継電器盤:機器や系統の故障を検出する装置
・主 回 路 盤 :発電機と需要施設や送配電線に接続するためのメイン回路の装置
・所
内
盤:発電所を運転するために必要な機器への分電盤
※需要施設の使用電流が直流の場合(獣害防止電気柵等)や蓄電池設置時は、交流直流変換器が必要となる。
(3) 送配電線
発電所と需要施設が離れている場合には、発電所で発電した電気を需要施設へ送るための送電
線を架空または地中埋設により敷設する。
(4) 蓄電池(バッテリー)の設置
蓄電池は、定期的な点検と交換が必要なことを踏まえ、以下の場合について、設置を検討する。
【マイクロ水力発電設備の制御用電源】
系統停止時等の緊急時におけるマイクロ水力発電設備の制御用電源として蓄電池
(バッテリー)
を設置する。
【需要施設への電力の安定供給】
需要施設へ電力を安定的に供給する目的で設置する。
① 系統連系:系統連系しない場合
② 需要施設:常に一定の電力を要する需要施設、学校や福祉施設など電力供給を長時間停
止すると支障が発生する需要施設の場合
③ 流量・落差等:流量・落差等が安定しないで、一定の出力を発電できない場合
④ 設置場所:発電設備が道路から離れて、維持管理が容易でないところに設置する場合
2‐35
(5) 概算工事費の算出
水力発電設備の概算工事費は、構造物概略設計に基づき、下表の工事項目から適宜、取捨選択
して算出する。算出にあたっては、過去に建設された発電所の実績を参考とするとともに、「ハ
イドロバレー計画ガイドブック」
(経済産業省資源エネルギー庁(H17.3))の概算工事費の積算基準
等を活用する。
表 2.7-1 水力発電所建設工事に関する工事項目
用
項
目
地 土
地
無 形 固 定 資 産
建
物
主 要 建 物 工 事
土
木
主 要 土 木 工 事
取
水
口
沈
砂
池
導
水
路
水
槽
水 圧 鉄 管
余
水
路
発 電 所 基 礎
発電所敷地造成
放
水
路
放
水
口
そ
の
他
水
車
発
電
機
主 要 変 圧 器
配電盤・開閉装置
諸 機 械 装 置
機
械
基
礎
電
気
工
事
土 木 工 事 他
仮
設
工
事
機 械 設 備
諸
設
備
仮
設
備
摘
要
立木伐採補償を含む
水利願出願費、漁業補償費、電話加入権等
公共補償(建設に伴う自治体への補償)、一般補償(関係者への実害補償)
発電所の建屋工事(発電機床より上部)
建物の付帯設備(換気、給排水等)
構造物別にそれを設置する土木工事費の計上(仮設備費含む)
スクリーン、ゲート等含む
スクリーン、ゲート等含む
グラウト工事、横坑閉塞工事含む
スクリーン、ゲート等含む
地下埋設の場合はグラウト工事含む
基礎杭、基礎グラウト等含む
ゲート等含む、トンネルの場合はグラウト工事含む
角落し、ゲート等含む
残土処理のための土捨場工事、緑化対策費含む
天井クレーン等
電気関係(通信、電灯、電力設備)
土木関係(専用道路・管理道路、橋梁等)その他雑設備
工事用道路、土留等
過去に建設された発電所の実績から、設備諸元をパラメータにとり、各項目の概算工事費を概略
的に算出する方法がある。ただし、適用範囲等に留意する必要があるため、算出が困難な項目につ
いてはメーカーに確認する等、別途検討する必要がある。
最大出力をパラメータとする発電所建屋工事費及び延長をパラメータとする配電線の設備費の算
出例を以下に示す。
2‐36
ア 発電所建屋工事費
100
半地下式
工事費〔百万円〕
地上式
10
1
1
10
100
最大出力〔kW〕
図 2.7-1 発電所建屋工事費
注:「ハイドロバレー計画ガイドブック」経済産業省資源エネルギー庁(H17.3)より作成
イ 配電線
架空 3.3~6.6kV 級: 8 百万円/㎞
地中 3.3~6.6kV 級:18 百万円/㎞
※適用範囲:延長 500m以上(適用範囲に満たない場合は、別途積算する必要がある)
2‐37
8.事業化評価
マイクロ水力発電の事業化については、導入による二酸化炭素削減効果(地球温暖化防止効果)、
環境学習機会提供効果及び観光等地域振興効果とともに、経済性評価、施工性、用地取得及び関係
法令等の許認可等から総合的に評価し、事業実施を決定する。
(1) 二酸化炭素削減効果
水力発電は再生可能エネルギーであり、発電方法の中で二酸化炭素の発生がほとんどないこと
が特徴である。この二酸化炭素削減効果は、下式により算出される。
二酸化炭素削減効果 = 発電電力量 × 電力量当たり二酸化炭素削減量
ここでは、
電力量当たり二酸化炭素削減量:0.000555(t-CO2/kWh)
「特定排出者の事業活動に伴う温室効果ガスの排出量の算定に
関する省令」(平成18年経済産業省・環境省令3号)
(2) 環境学習機会提供効果
マイクロ水力発電は小規模であることから、身近
でかつ発電過程が分かりやすい発電施設であり、エ
ネルギー・環境学習の場として利用する機会を提供
する効果がある。また、施設により住民等の環境保
全意識が醸成されることが期待される。
【小学生による水力発電の見学】
河川や農業用水路等を利用した水
力発電は、エネルギー・環境学習の場
所として利用することが可能である。
(3) 観光等地域振興効果
発電による電気を施設のイルミネーションや街灯に利用することで、環境に配慮した取り組み
をアピールでき、イメージアップや観光等地域振興に寄与する効果が期待される。
例えば、LEDを利用した、橋梁や歴史的建造物などの景観照明などにより、夜の景観を創出
することが考えられる。
(4) 経済性評価
経済性の評価には、以下の方法がある。
ア 合成発電収支
合成発電収支は、「発電所建設による電気料金効果金額」を「年間発電電力量」で割った値
から「発電原価」を引いたものである。ここで、「発電所建設による電気料金効果金額」は、
需要施設の電力需要をすべて電力会社からの買電で賄った場合に電力会社に支払う電気料金
2‐38
(収入)に、余剰電力を電力会社に売電した収入を加えたものから、バックアップ用年経費(支
出)を引いた収支である。
合成発電収支(円/kWh)=
発電所建設による電気料金効果(円)
年間発電電力量(kWh)
-発電原価(円/kWh)
この指数がマイナスの場合には、発電所を建設しても赤字の発電所であることを意味し、プ
ラスで大きいものほど、経済的であると評価できる。
算出方法の詳細は、「6.発電計画の策定 (7) 最適発電規模の決定」参照。
イ 建設単価法(計画段階における概略検討)
建設単価法は、計画段階において経済性を概略的に評価する指標で、発電所の出力(kW)当た
りの建設費、発電電力量(kWh)当たりの建設費により算定する方法である。
近年の発電電力量当たりの建設費の水準としては、
250~300 円/kWh 程度が経済性をみる一つ
の指標である。算定式は、以下のとおりである。
出力(kW)当たりの建設費(円/kW)=
建設費(円)
最大出力(kW)
発電電力量(kWh)当たりの建設費(円/kWh)=
建設費(円)
年間可能発電電力量(kWh)
ウ 投資回収年(導入段階における概略検討)
水力発電の導入可否の評価方法として、投資回収年による方法がある。
回収年は、収入を年間電気料金節約額、支出を発電所の運営管理の経費として、収支の累計
額が、初期投資額(建設事業費)を上回るのに要する年数とする。
事業化の一つの指標は、事業者が設定する回収年(例えば、発電設備の総合耐用年数)で収
支累計額が初期投資額を上回ることである。
表 2.8-1 投資回収年検討における収支計算表
項 目
初期投資額
細
目
建設工事費
説
明
(補助金活用の場合には、初期投資の削減が可能)
電気料金節約額
収
入
①自家消費電力料金
自家消費電力量(kWh)×買電従量料金(円/kWh)
②余剰電力売電料金
余剰電力量(kWh)×余剰電力取引料金(円/kWh)
小 計
①+②
経費
支
出
③人件費
発電設備の維持管理のための人件費
④借入金返済額
借入返済、起債償還に対する利息を見込んだ返済額
⑤修繕費
発電設備の維持管理のための修繕費
⑥諸費等
水利使用料、固定資産税、消耗品・光熱費等
小 計
収
支
③+④+⑤+⑥
収入-支出
※単独系統の場合は、①自家消費電力料金において、基本料金(需要施設の契約により異なる)を収入として加算
2‐39
投資回収年は、
N年間の収支累計 ≧ 初期投資額(建設工事費)
となるNの値である。
エ 収支計算〔キャッシュフロー〕(導入段階における詳細検討)
キャッシュフローは、ある一定の会計期間における現金の収入と支出の関係を計算して財務
評価を行うものである。事業主体は、投資資金の回収年、耐用年数期間の収支バランス等につ
いて把握する。算出方法の詳細は、「13.付属資料 (5) 事業化評価に関する事項」参照。
(ア) 発電所建設の収支
発電所建設の財源計画は、補助対象工事とそれ以外の区分、補助金額の算出、起債額と市町
村費等から算出する。工事が複数年にわたる場合には、補助金、起債、市町村費等の支出の年
度別計画を行う。
(イ) 発電所建設後の収支
発電所建設後の収支計画は、各年度の発電所建設による電気料金効果額を収入、発電所の運
転管理に必要な維持管理費を支出として算出し、毎年度累計する。
a 電気料金効果額
・自家消費電力料金:発電電力を自家消費することで買電していた電気料金を節約できる。
・余剰電力売電料金:余剰電力を電力会社に売電することで得られる。
b 維持管理費
維持管理費は、「6.発電計画の策定」における年経費を基に算出する。一般に減価償却
費は損益勘定では費用として計上するが、キャッシュフロー計算には含めない。
【グリーン電力証書制度】
グリーン電力証書とは、風力や太陽光、バイオマスなどの再生可能なエネルギーから得られ
た電気を、電気そのものと環境負荷価値(化石燃料削減、二酸化炭素排出量削減など)とに切
り離し、環境負荷価値を証書(グリーン電力証書)の形で電力需要家が保有することで、グリ
ーンエネルギーによる電力(グリーン電力)とみなすものである。
グリーン電力証書制度は、電力需要家が使用電力量に応じて電力証書を購入し、その資金が
グリーン電力発電事業者に提供されることにより、再生可能エネルギーの普及拡大を支援する
仕組みである。主な需要家は、企業や各種団体、自治体等であり、購入動機は、イメージアッ
プ、商品の付加価値への活用、CSR(企業の社会的責任)の一環などである。
マイクロ水力発電により発電された電力のグリーン価値部分がグリーン電力証書として発行
される場合には、その販売額を収入として計上することができる。
2‐40
環境負荷価値の取引
グリーン
電力証書
グリーン
電力証書
認証機関
発電設備認定
発電量認証
発電実績報告
グリーン電力証書発行
電力需要家
証書代金
グリーンエネルギー
を使ったと
みなされる
通常の
電力取引
グリーン電力
仲介団体
証書発行事業者
電力会社A
発電委託・資金
電力会社B
発電事業者
通常の
電力取引
通常の電力の取引
図 2.8-1 電力証書制度
(5) 導入目的別の効果の把握方法
導入目的別の効果については、以下の方法が考えられる。
表 2.8-2 導入目的別の効果の把握方法例
効果項目
効果の把握方法
二酸化炭素削減効果
・代替法として、二酸化炭素排出権取引単価を乗じて算出する方法が考えられる。
非常用電源としての利用効果
・代替法として、水力発電の代替電源として同規模のディーゼルエンジンを導入
した場合の費用を代替効果として算出する方法が考えられる。
環境学習機会提供効果
・環境学習の場に利用する小中学生や地域住民等の人数を推定し、環境学習の教
材としての価値、環境保全意識を醸成する効果を定性的に把握する。
・経済効果は、CVM1)(仮想市場評価法)により算出する方法が考えられる。
観光等地域振興効果
(まちおこし、観光振興等)
・各種施設の照明やイルミネーションへの利用により、観光客等が増加する人数
を推定し、観光振興等の効果を把握する。また、水力発電導入を契機として、
景観づくり等のまちづくりが期待できる場合には、それらを波及効果として把
握する。
・経済効果は、CVM(仮想市場評価法)により算出する方法が考えられる。
1)
CVM:効果算定手法の一つで、事業を実施する場合に、市場の価格として直接評価できない項目を貨幣に換算して評価する手
法である。例えば、導入目的をもつ水力発電事業に対し、どのくらいの寄付金や負担金を払っても良いかを住民にアン
ケート形式で聞くことにより、事業の便益を算出する。
2‐41
9.維持管理
(1) 水力発電設備の維持管理
ア 土木構造物
水力発電設備の取水口・水路・放流工等の土木構造物は、風雨及び地震等の自然現象に起因
する被害を受けやすく、地域社会に及ぼす影響も大きいことから、定期的な維持管理を行うと
ともに、出水時などの非常時には臨時点検を行うなど施設の保全に留意する。
表 2.9-1 水路等土木構造物の定期巡視・定期点検の頻度・内容
頻 度
内 容
① 定期巡視
月に2~3回
異常の有無の監視
② 定期点検
6ヶ月または1年に1回
詳細な外部点検
2~5年に1回
抜水して内部点検
注:②定期点検の内部点検の頻度は、自然条件・経年変化・工作物構造を考慮して設定
抜水して水路の内部点検を実施する場合には、作業の安全確保のため、事前に作業計画を立案し、作業中には絶対に水路
に水を流入させないなど、関係機関と密接な連絡調整を図る。
(ア) 定期巡視
・施設内の流入土砂・塵芥の除去(落葉・ごみによるスクリーンの目詰まり、水路周辺の土砂
崩壊による土砂混入等に留意)
・水圧管路からの漏水等の異常の有無
(イ) 定期点検
・土木構造物は、定期点検において下表について確認し、必要に応じて補修等を行う。
表 2.9-2 土木構造物の定期点検の内容
工作物
定期点検の内容
取水口・放水口
・本体・水路:損傷、変形、ひびわれ、凍害、磨耗、堆砂、洗掘等の異常
導水路・水圧管路・放水路
・周辺地山 :崩壊、地すべり、湧水等の異常の有無等
調圧水槽
スクリーン
・損傷、変形、取付ボルトのゆるみ、塗膜の劣化等
ゲート
・戸当りの損傷・変形等
・扉体・巻上機の損傷、変形、磨耗、給油、塗膜の劣化等
・操作盤・各機器の異常
沈砂池
・池内の堆砂状況等
管理用道路
・路面状況、擁壁・橋梁等構造物の異常の有無等
(ウ) 臨時点検
・地震・大雨などの後は、臨時点検を行い、損傷、変形、土砂流入の有無などを確認し、必要
に応じて速やかに処置を講じる。
2‐42
イ 電気設備
マイクロ水力発電では、発電所を常時は無人とするのがほとんどであり、電気設備について
は定期的な維持管理とともに、事故発生時の臨時点検を行う。
表 2.9-3 電気設備の定期巡視・定期点検の頻度・内容
頻 度
内 容
① 定期巡視
月に2回
異常の有無の監視
② 定期点検
1~3年に1回
抜水して水車内外及び電気機器の詳細点検
③ 細密点検
5~10 年に1回
発電設備のオーバーホール
(ア) 定期巡視
・水車・発電機:音響、回転、過熱、異臭、給油状況、同期発電機のカーボンブラシの状態
・制御装置・保護装置・主回路盤:裏面配線の塵埃汚損・損傷・過熱・緩み・断線の有無、計
器・表示札・表示灯の異常、操作・切換スイッチの異常
(イ) 定期点検
・電気設備は、定期点検において下表について確認し、必要に応じて補修等を行う。
表 2.9-4 電気設備の定期点検の内容
工作物
定期点検の内容
・異音、異臭、振動の有無
水車・発電機
・各部の汚損・緩み・損傷、動力伝達装置、通風部の異常有無
・カーボンブラシの残量測定(必要により交換)
・発電機の絶縁抵抗・接地抵抗の測定
制御装置
保護装置
主回路盤
・各部の損傷・過熱・緩み・断線・接続脱落・端子配線符号脱落の有無
・主回路盤の絶縁抵抗・接地抵抗の測定
・制御装置・保護装置の接地抵抗の測定
・計器較正(電圧計、電流計等の計器の表示の調整)
・保護継電器試験による保護継電器単体の特性の健全性の確認
保護継電器
(保護継電器は機器保護のための故障検出装置であり、保護継電器に電流・
電圧の入力を模擬して確認)
機器全般
・運転・停止シーケンス試験(機器の運転・停止を決められた手順通りに実行)
(制御装置の指令により、機器が実際に正しい順序で動作することを確認)
(ウ) 細密点検
水車・発電機を分解し、パッキン、ライナなどの消耗品交換、損傷の補修、流水による壊食
や土砂磨耗等による著しい損傷のランナ(羽根車)の交換を行う。細密点検は、基本的にはメー
カーに委託して実施する。
ウ 送配電設備
送配電設備には架空式と地中式があり、維持管理内容は異なるが、定期的な巡回及び点検と
ともに、異常事態発生時には臨時点検を行う。
2‐43
・架空式:台風等による損害・塩害・地すべり・土砂崩壊・雪崩による倒壊・落雷による被害・
山間部での雑草の繁茂や風による被害
・地中式:地すべりや土砂崩壊などによる被害、小動物などによる被害
【定期的な巡視・点検】
① 定期巡視:月に2回、異常の有無の監視
② 定期点検:1~3年に1回
地中式の場合は絶縁抵抗の測定などによる状況確認
※電気設備及び送配電設備に関する点検は、基本的に主任技術者が行う。主任技術者がやむを
得ない事情により不在となる場合の代理者は、保安規程により定める。
エ 農業用水利用の水力発電における交付金活用
農業用水利用の水力発電の場合は、当該地域において「農地・水・環境保全向上対策」の交付
金を受けることにより、
その交付金の一部を水力発電の維持管理に利用することが可能である。
【農地・水・環境保全向上対策(農林水産省)】
我が国の農地・農業用水等の資源の適切な保全管理が高齢化や混住化等により困難になっ
てきていること、ゆとりや安らぎといった国民の価値観の変化への対応が必要なこと、我が
国農業生産全体の在り方を環境保全を重視したものに転換していくことが求められているこ
とから、地域ぐるみでの効果の高い共同活動と、農業者ぐるみでの先進的な営農活動を支援
する事業である。
活動組織に対して、共同活動を支援する助成金が交付される。
・基礎支援:水田 4,400 円/10a、畑 2,800 円/10a、草地 400 円/10a
・取組の水準に応じて一定額の支援(1地区当たり)
一定水準以上の高度な資源の保全活動、一定水準以上の質の高い農村環境保全活動、
活動組織のNPO法人化:1地区当たり20万円又は40万円
(2) 維持管理体制
マイクロ水力発電は、発電規模が10kW未満の場合は、電気事業法において、保安規程の作成及
び主任技術者の配置は不要である。しかし、水力発電設備を経済的に管理運営するためには、保
安規程に準じる維持管理規程を作成し、それに基づいて定期巡回・点検・記録を行うことが望ま
れる。
■10kW以上の場合の電気工作物の維持及び運用は、電気事業法に定められた保安規程の提出や発電
所ごとの主任技術者の選任などが義務付けられている。保安規程は、下記の事項について定める
必要がある。
・電気工作物の工事、維持または運用に関する義務を管理する者の職務及び組織に関すること
・電気工作物の工事、維持または運用に従事する者に対する保安教育に関すること
・電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安のための巡視、点検及び検査に関すること
・電気工作物の運転または操作に関すること
・発電所の運転を相当期間停止する場合における保安の方法に関すること
・災害その他非常の場合に採るべき措置に関すること
・電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安についての記録に関すること
・その他電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安に関し必要な事項
2‐44
10.許認可手続き
マイクロ水力発電を導入する場合には、下記の許認可手続きを行う。
環境影響評価の法的手続きは不要であるが、マイクロ水力発電施設の環境への影響が大きいと考
えられる場合には、自主的に環境影響調査を行い、適切な時点で地域住民等に内容を説明し、十分
な理解を得ることが望ましい。
表 2.10-1 関係法令及び許認可手続き
関係法令等
(1)電気事業法
(2)河川法
許認可手続き
関係機関
発電出力10kW以上の場合には、電気事業法に基づき各種届
経済産業省原子力安全保安院
出等を行う(10kW未満の場合は不要)
電力安全課
河川及び農業用水利用の場合には、河川法に基づき水利権
河川管理者(表2.10-4参照)
を取得する
適用河川:一級河川、二級河川、準用河川
※河川法適用河川から取水して、水力発電に使
用した流水を河川に還元される以前に再度
使用する場合も水利権の対象
(3)その他の法令
発電設備設置に伴い関係する法令に基づき許可・届出等を
表2.10-5参照
行う
自然公園法、自然環境保全法、鳥獣の保護及び狩猟の適正
化に関する法律、文化財保護法、土地収用法、農地法、農
業振興地域の整備に関する法律、森林法、国有林野の管理
経営に関する法律、水産資源保護法、国土利用計画法、国
有財産法、砂防法、地すべり等防止法
(4)電力会社協議
系統連系の場合には、電力会社との系統連系に関する協
東京電力株式会社
議・契約締結を行う
(5)漁業権
漁業権が設定されている河川の水を利用する場合は、漁業
権者と協議し同意を得る
2‐45
漁業権者
(1) 電気事業法
電気事業法は、「電気事業の運営を適正かつ合理的ならしめることによって、電気の使用者の
利益を保護し、及び電気事業の健全な発達を図るとともに、電気工作物の工事、維持及び運用を
規制することによって、公共の安全を確保し、及び環境の保全を図ること」を目的としている。
電気事業法では、出力10kW以上のものを「事業用電気工作物」として、事業用電気工作物の維
持、保安規程、主任技術者、工事計画の事前届出に関して規定している。
表 2.10-2 一般用電気工作物と事業用電気工作物に係る規程
項 目
①事業用電気
一般用電気工作物(10kW未満)
規定なし
事業者は技術基準に適合するよう、電気工作物を正
工作物の維持
②保安規程
事業用電気工作物(10kW以上)
常な状態に維持しなければならない
規定なし
事業者は電気工作物の工事、維持及び運用に関する
(保安規程の作成・届出は必要なし)
保安確保のため、保安規程を作成し届出なければな
らない
③主任技術者
規定なし
事業者は電気工作物の工事、維持及び運用に関する
(主任技術者の選任は必要なし)
保安の監督をさせる主任技術者を選任しなければな
らない
※自家用電気工作物の設置者は経済産業大臣の許可
を受けて主任技術者免状 1)の交付を受けていない
者を主任技術者として選任することができる
※出力1000kW未満の発電所(原発除く)
保安の監督に関する業務を指定法人に委託契約
し、主任技術者の不選任承認申請の承認を受けた
場合は選任しなくてよい
④工事計画の
事前届出
規定なし
電気工作物の設置または変更の工事を行うものは工
(工事計画の事前届出は必要なし)
事計画を届出なければならない
(2) 河川法
河川法は、「河川について、洪水、高潮等による災害の発生が防止され、河川が適正に利用さ
れ、流水の正常な機能が維持され、及び河川環境の整備と保全がされるようにこれを総合的に管
理することにより、国土の保全と開発に寄与し、もつて公共の安全を保持し、かつ、公共の福祉
を増進すること」を目的としている。適用される河川は、一級河川、二級河川、準用河川である。
水力発電施設を導入しようとする者は、河川法に基づき水利権の取得を行う。水利権は、流水
を特定の目的のため、排他的にまた継続的に占有する権利であり、河川法第 23 条(流水の占用の
許可)により、河川管理者が事業主体に許可を与えるものである。農業用水の使用の場合で、か
んがい用水等の水利権が取得済みの場合にも、新たに発電用利用の水利権を取得する。
1)
第一種電気主任技術者免状、第二種電気主任技術者免状、第三種電気主任技術者免状、第一種ダム水路主任技術者免状、第二種
ダム水路主任技術者免状、第一種ボイラー・タービン主任技術者免状、第二種ボイラー・タービン主任技術者免状
2‐46
表 2.10-3 河川法関連内容
河川法
内
容
法第23条 流水の占用の許可
河川の流水を占用しようとする者
法第24条 土地の占用の許可
河川区域内の土地を占用しようとする者
法第25条 土石等の採取の許可
河川区域内の土地において土石を採取しようとする者
法第26条 工作物の新築等の許可
河川区域内の土地において工作物を新築し、改築し、又は除去しようとする者
法第27条 土地の掘削等の許可
河川区域内の土地において土地の掘削、盛土若しくは切土その他土地の形状を
変更する行為又は竹木の栽植若しくは伐採をしょうとする者
法第55条 河川保全区域におけ
る行為の制限
法第57条 河川予定地における
行為の制限
河川保全区域内において土地の掘削、盛土又は切土その他土地の形状を変更す
る行為若しくは工作物を新築し、改築しようとする者
河川予定地において土地の掘削、盛土又は切土その他土地の形状を変更する行
為若しくは工作物を新築し、改築しようとする者
表 2.10-4 河川種別の河川管理者
河川の種類
河川管理者
一級河川
国土交通大臣を原則、指定区間を定めて県知事に管理の一部を委任
二級河川
県知事(群馬県内には二級河川はない)
準用河川
当該河川が存する市町村長
普通河川
(管理は当該地方公共団体の条例)
注)普通河川:河川法の適用される河川として指定されていない河川(河川法ではなく、条例の許可)
一級河川における発電特定水利権については、指定区間に係らず国土交通大臣の許可が必要となる。
【水利権】
水利使用の許可は、電気事業法以外の法令に基づく許認可の根幹をなすもので、一般に「水
利権」と称されている。水利権とは、流水を特定の目的のために、排他的、独占的に、また継
続的に占有する権利であり、河川の流水を支配の対象として成立する物権的性格を有する公法
上の権利で、河川管理者の特許によって成立するものをいう。
水力発電に係る水利権の内容(標準水利使用規則)は、目的、取水口等の位置、取水量及び
使用水量、落差、貯水量の最高限度及び水位の最高限度、取水の方法、責任放流量、取水又は
貯留等の条件、存続期間(水力発電は原則として 20 年※、ただし、原則に当てはまらない(許
可期間を短縮する)ものは別途類型化されている)からなっている。
また、他の水利使用に従属する水利使用(既設ダムの河川維持用水、水道水、工業用水及び農
業用水等における未利用落差の利用)の場合は、既得水利権の範囲内であれば、許可手続きに必
要な添付図書(河川法施行規則第 11 条第2項)の一部省略など、手続きの簡素化が図られてい
る。
※「「河川法の施行について」の一部改正について」(平成20年8月12日国河政第51号河川局長通達)
平成21年4月1日以降に新たに許可し、または許可更新する、一級河川における発電水利使用の許可
期間は、これまでの、原則として30年から、原則として20年(当初許可から100年を経過したものは10
年)とし、10年目に必要な報告を求められるよう変更となっている。
2‐47
【流水占用料】
一級河川の水を水力発電に使用する場合には、流水占用料(水利使用料)を県に支払う必要
がある。また、準用河川や普通河川の水を使用する場合には、流水占用料について市町村に確
認する必要がある。
【普通河川における水力発電導入】
普通河川で水力発電を行う場合、当該普通河川を河川法の適用を受ける河川(一級河川、二
級河川、準用河川)に指定し、河川法に基づく管理がなされることが必要となる場合がある。
その場合には、河川管理者は普通河川を河川法適用河川へ指定するための手続き(河川指定手
続き)を行い、その後に設置者が河川法第 23 条(流水の占用)等の許可申請を行う。
【許認可までの標準的な期間】
・既水利権に従属する水利使用許可の場合:事前協議終了後、申請から約半年を目安
・新規の水利使用許可の場合
:事前協議終了後、申請から約1年を目安
(一級河川)
(準用河川)
申請者
申請者
地方事務所
関東地方整備局
国土交通大臣
経済産業
大臣
協議
意見の
徴収
市 町 村
群馬県
知事
許可
許可
図 2.10-1 特定水利権許可申請手続きの流れ
※県内に二級河川はないため、二級河川に関する手続きの流れは掲載していない。
2‐48
(3) その他の法令
マイクロ水力発電の導入に伴う、その他の関係法令には、以下のものがある。
表 2.10-5 その他関係法令許認可等の一覧表
法令
自然公園法
自然環境保全法
鳥獣の保護及び狩
猟の適正化に関す
る法律
文化財保護法
土地収用法
農地法
農業振興地域の
整備に関する法律
森林法
国有林野の管理経
営に関する法律
水産資源保護法
国土利用計画法
国有財産法
砂防法
地すべり等防止法
条項
第13条3項
第14条3項
第26条
第17条
第25条4項
第28条
第29条7項
許認可等の内容
(国立・国定公園)
・特別地域
工作物新築、木竹伐採
・特別保護地区
土地形状変更等
・普通地域
・原生自然環境保全地域内行為許可
・自然環境保全地域(特別地区)内行為許可
・
〃
(普通地区)内行為届出
・特別保護地区内行為許可
第92条
第93条
第96条
第125条
第11条
第16条
第47条の2
第4条
・埋蔵文化財発掘届出
・埋蔵文化財包蔵地内土木工事事前届出
・遺跡の発見に関する届出
・史跡、名勝、天然記念物現状変更許可
・事業準備のための立入許可
・事業の認定
・収用又は使用の裁決
・農地転用許可
第15条の2
・農用地区域内における開発行為の許可
第10条の2
第27条
第34条1項
第34条2項
第10条の8
第7条
第7条
第7条
第18条1項
・林地開発行為許可
・保安林解除
・保安林伐採許可
・保安林内行為許可
・立木伐採届
・国有林野伐採許可
・国有林野売払申請
・国有林野貸付申請
・工事の制限等に係る許可
第14条
第23条
第20条
第4条
第18条1項
・土地に関する利権の移転等の許可
・
〃
の届出
・国有財産の処分等
・砂防指定地内行為許可
・地すべり防止区域内行為許可
許認可権者
国立公園の場合:環境大臣
国定公園の場合:県知事
環境大臣
〃
〃
国指定特別保護地区:環境大臣
県指定特別保護地区:県知事
文化庁長官
〃
〃
〃
県知事
国土交通大臣または県知事
収用委員会
4ha超 農林水産大臣
4ha以下 県知事
県知事
県知事
農林水産大臣または県知事
県知事
〃
市町村長
農林水産大臣
〃
〃
県知事
2県以上の場合:農林水産大臣
県知事
〃
財務大臣
県知事
県知事
(4) 電力会社協議
系統連系の場合には、電力会社との系統連系に関する協議及び契約締結を行う。「3.導入地
点の選定(2)系統連系」参照。
(5) 漁業権に関する協議
漁業権が設定されている河川の水をマイクロ水力発電に利用する場合は、漁業権者と協議し同
意を得る。
2‐49
11.助成制度
マイクロ水力発電所の整備に関する助成制度は、以下のとおりである。
表 2.11-1 マイクロ水力発電所整備に関する助成制度
事業名等
(1)地域新エネルギー等
導入促進事業
助成対象者等
補助率等
地方公共団体等
関係省庁
発電出力1,000kW以下:1/2以内
経済産業省
発電出力1,000kW以下:1/3以内
経済産業省
地方公共団体
発電出力1,000kW以下:1/2
環 境 省
地方公共団体の施設へシェアー
(地方公共団体の事業の補助下限額
ド・エスコを用いて省エネ化を
:600万円)
特定非営利活動法人、公益法人
等の営利を目的としない事業を
行う法人格を有する民間団体
(2)新エネルギー等事業
水力発電に関する新エネルギー
者支援対策事業
利用等の設備導入事業を行う民
間事業者等
(3)地方公共団体対策技
術率先導入補助事業
行う民間団体等
(4)地域協議会民生用機
器導入促進事業
民間団体(地域協議会の構成員) 発電出力1,000kW以下:1/3
環 境 省
の二酸化炭素の排出量削減に役
立つ省エネ機器、代エネ機器を
地域にまとめて導入する事業
(5)地域用水環境整備事
業
施設整備:
施設整備:
都道府県、市町村、土地改良
農業用水利施設を活用した小水
区(市町村、土地改良区の場
力発電施設の新設・更新 50%
合は地域用水環境整備総合補
助事業として実施)
農林水産省
導入支援:
発電施設設置にかかる経済性検
導入支援:
討 50%(都道府県のみ)
都道府県
(6)農山漁村電気導入促
農業協同組合、同連合会、土地
進法による助成
改良区、同連合会、生産森林組
(株)日本政策金融公庫からの資
合、森林組合、同連合会、水産
金貸付(事業費の80%)
2,000kW以下
農林水産省
業協同組合またはこれらの法人
が90%以上出資している法人
(7)水道事業等における
小水力発電の推進
(8)グリーン電力基金
水道事業及び工業用水道事業の
地方債措置:充当率100%
総 務 省
普及目的用
(財)広域関東
付帯事業(売電)
発電設備を新たに設置するプロ
ジェクト
1kW当たり20万円(上限1,000万円)
環境教育目的用
圏産業活性化
センター
GIACが助成対象と認める発電設備 (GIAC)
設置工事費の85%(上限200万円)
(9)農業農村整備事業に
おける工種の一つ
地域用水環境整備事業では、水
力発電の単独整備が可能
2‐50
1/2、2/3
農林水産省
表 2.11-2 水力発電所整備に関する助成制度の適用
事業名等
(1)地域新エネルギー等
設置目的
需要施設
河川・水流の種類
新エネルギー導入
規定なし
規定なし
新エネルギー導入
規定なし
規定なし
先進的かつ先導的な代エネ・省
規定なし
規定なし
規定なし
規定なし
土地改良施設の維持管理費の
土地改良施設、発電施設、農業
農業水利施設
節減、CO2排出削減による低炭素
農村振興に資する公的施設、そ
社会づくりの促進
の他の土地改良区が管理する
導入促進事業
(2)新エネルギー等事業
者支援対策事業
(3) 地方公共団体対策
技術率先導入補助
エネ設備の効果的な導入
事業
(4)地域協議会民生用機
器導入促進事業
(5)地域用水環境整備事
業
二酸化炭素の排出量削減に役
立つこと
施設
(6)農山漁村電気導入促
農林漁業の生産力増大と農山
進法による助成
漁家の生活文化の向上を図る
規定なし
規定なし
上水道・工業用水道
上水道・工業用水道施
こと
(7)水道事業等における
小水力発電の推進
(8)グリーン電力基金
上水道・工業用水道での水力発
電の導入
設
普及目的、地域協働プロジェク
規定なし
規定なし
かんがい排水事業
かんがい排水事業
ト目的、環境教育目的
(9)農業農村整備事業に
おける工種の一つ
かんがい排水事業
農業水利施設の整備と一体
的に、土地改良施設に電力を
供給する施設を整備
受益地内の土地改良施設
その他事業
農林水産省助成対象の農業
その他事業
施設等、公共施設等
農林水産省助成対象の農業
施設等、市町村が整備した公
共施設等への電力供給
2‐51
当該事業の対象の
農業用水路
その他事業
河川または農業用
水路
(1) 地域新エネルギー等導入促進事業
補助対象事業者
地方公共団体等(普通地方公共団体(都道府県及び市町村)及び特別地方公共団体(特別区、
地方公共団体の組合、財産区及び地方開発事業団))
特定非営利活動法人、公益法人等の営利を目的としない事業を行う法人格を有する民間団体
補助対象事業
地方公共団体等:地域の取り組みとしての先進性等がある新エネルギー等の設備導入事業
特定非営利活動法人、公益法人等の営利を目的としない事業を行う法人格を有する民間団体:
営利を目的とせずに新エネルギー等の設備を導入する事業を実施する場合
発電出力:1,000kW以下
補
助
率
地方公共団体が行う新エネルギー等導入事業:1/2以内
地方公共団体の出資に係る法人(第3セクター)が行う新エネルギー等導入事業:
出資比率が50%超である場合の補助率は1/2以内。25%以上50%以下の場合は1/3以内
※当補助金における地方公共団体の出資に係る法人とは、商法(有限会社法を含む)の規定に
基づいて設立された株式会社、合名会社、合資会社若しくは有限会社又は民法の規定に基づ
いて設立された社団法人若しくは財団法人であって、地方公共団体の出資比率が25%以上で
あるものをいう。
事
業
期
間
補助対象経費
最大4年間
設計費、機械装置等購入費(土地の取得及び賃借料は対象外)、工事費、諸経費(電力負担金、
管理費等)
交 付 申 請 先
NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
手
【平成20年度の場合】
続
き
等
①NEDOへ交付申請書類の提出(3/31~5/9) →NEDOにて申請内容審査し、交付決定
②交付決定通知書受領(7月中旬)
③水力発電建設事業実施(7月下旬~2月末)
④実績報告書提出(事業完了後30日以内或いは2月末のいずれか早い日)
→NEDOにて確定検査、確定通知
⑤確定通知受領、精算払請求書提出 →NEDOにて精算払請求書受領、補助金精算払
⑥補助金受領
⑦設備等の運転・利用状況の報告(原則、本格稼動後最低4年度間、毎年5月末提出)
2‐52
(2) 新エネルギー等事業者支援対策事業
補助対象事業者
バイオマス発電、バイオマス熱利用、バイオマス燃料製造、水力発電、地熱発電に関する新エ
ネルギー利用等の設備導入事業を行う民間事業者等
補助対象事業
先進的な新エネルギー等利用設備であって、交付要件・規模要件等を満たす設備を導入する事業
発電出力:1,000kW以下
補
助
率
補助対象経費の1/3以内
1件当たりの年間の補助金額の上限額は、10億円
事
業
期
間
最大4年間
補助対象経費
設計費、設備費(土地の取得及び賃借料は対象外)、工事費、諸経費(工事負担金、管理費等)
交 付 申 請 先
NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
手
【平成20年度の場合】
続
き
等
①NEDOへ交付申請書類の提出(3/31~5/9) →NEDOにて申請内容審査し、交付決定
②交付決定通知書受領(7月上旬)
③水力発電建設事業実施(7月中旬~2月末)
④実績報告書提出(事業完了後30日以内或いは2月末のいずれか早い日)
→NEDOにて確定検査、確定通知
⑤確定通知受領、精算払請求書提出 →NEDOにて精算払請求書受領、補助金精算払
⑥補助金受領
⑦設備等の運転・利用状況の報告(原則、本格稼動後最低4年度間、毎年5月末提出)
(3) 地方公共団体対策技術率先導入補助事業
補助対象事業者
地方公共団体、地方公共団体の施設へシェアード・エスコを用いて省エネ化を行う民間団体等
補助対象事業
1)地方公共団体
地方公共団体が所有する業務用施設に、地球温暖化対策の推進に関する法律に基づき策定
した実行計画に基づき、代エネ・省エネ設備導入を行う事業
小水力発電:発電出力1,000kW以下
普及啓発効果やCO2削減量などを明記したCO2削減計画を策定
2)地方公共団体の施設へシェアード・エスコを用いて省エネ化を行う民間団体等
地方公共団体がシェアード・セイビングス・エスコ事業により、自らの施設の高いレベル
での省エネ化を行う場合に、事業を行う民間事業者に対して、省エネ設備の導入等に必要な
費用の一部を支援
補
助
率
総事業費の1/2(地方公共団体の事業:補助下限額600万円)
申
請
先
環境省地球環境局地球温暖化対策課
2‐53
(4) 地域協議会民生用機器導入促進事業
補助対象事業者
民間団体(地域協議会の構成員)
補助対象事業
地域において住民や事業者等の日常生活における温暖化対策への取組を推進する「地球温暖化
対策地域協議会」を活用し、二酸化炭素の排出量削減に役立つ省エネ機器、代エネ機器を地域
にまとめて導入する事業
小水力発電システム:1,000kW以下
※地球温暖化対策地域協議会(地域協議会)とは
民生部門における温室効果ガスの排出量を削減するため、地球温暖化対策の推進に関する法律
第26条第1項の規定に基づき、地方公共団体、都道府県地球温暖化防止活動推進センター、地
球温暖化防止活動推進員、事業者、住民等の各界各層が構成員となり、連携して日常生活に関
する温室効果ガスの排出の抑制等に関し必要となるべき措置について協議する場として組織す
るもの。一業種や少人数での設立は適当ではなく、また日常生活での対策が中心であることか
ら住民が参加していることが望まれる。
補
助
率
総事業費の1/3
申
請
先
環境省地球環境局地球温暖化対策課
(5) 地域用水環境整備事業
補助対象事業者
施設整備:都道府県、市町村、土地改良区
導入支援:都道府県
補助対象事業
施設整備:農業用水利施設を活用した小水力発電施設の新設、更新
電力供給対象施設
土地改良施設、発電施設、農業農村振興に資する公的施設(事業主体が都道府県、
市町村の場合のみ)、その他の土地改良区が管理する施設(事業主体が土地改良
区のみ)
導入支援:発電施設設置にかかる経済性検討
補
助
率
施設整備:50%
導入支援:50%
申
請
先
農林水産省地方農政局長
(担当:農林水産省農村振興局整備部水資源課)
2‐54
(6) 農山漁村電気導入促進法による助成
補助対象事業者
当該農山漁村にある農業、林業または漁業を営む者が組織する営利を目的としない法人
農業協同組合、同連合会、土地改良区、同連合会、生産森林組合、森林組合、同連合会、水産
業協同組合またはこれらの法人が90%以上出資している法人
補助対象事業
2,000kW以下の水力発電施設の設置を行う事業
(土地改良事業により造成され、または管理されているかんがい排水路から取水する場合は、
農林水産大臣が指定する出力以下とすることができる)
※農山漁村電気導入計画の提出
農林漁業団体が電気導入事業を行う際は、申請書に電気導入計画書、概要図、電気供給見込
書、外線工事費明細書、配電線路実測平面図等を添えて都道府県知事に提出する。
都道府県知事は、事業により電気の導入がされることになる地域を管轄する市町村長の意見
を聞いて、電気導入計画を定め、これを農林水産大臣に提出する。
農林水産大臣は、経済産業大臣と協議の上、全国農山漁村導入計画を定め、導入計画に組み
込まれた旨を農林漁業団体に通知する。
※事業計画書の提出
農林漁業団体は、電気の導入方法、施設の建設計画、施設の利用計画、事業実施者、受益範
囲、電気の供給または託送、売買、年間収支予想等を記載した事業計画書を農林水産大臣に
提出する。
補
助
率
株式会社日本政策金融公庫からの資金貸付:事業費の80%以内
(発電、送電、配電、受電設備の改良、造成、復旧または取得に必要な資金、電気事業者に対
して負担する工事負担金)
申
請
先
都道府県
(7) 水道事業等における小水力発電の推進
水道事業及び工業用水道事業の付帯事業(売電)としても小水力発電を積極的に展開するため
に地方債措置を講じるものである。充当率は 100%である。
(8)グリーン電力基金
自然エネルギー普及のための応援基金である。CO2の排出抑制など環境保全への貢献の希望者の
寄付金と、東京電力からの寄付金を、財団法人広域関東圏産業活性化センター(GIAC)が受け入
れ、太陽光発電や風力発電等の自然エネルギー発電設備へ助成金として配分するものである。
2‐55
【平成20年度の募集要項(普及目的用)】
助
成
対
象
プロジェクト
発電設備を新たに設置するプロジェクトであって、次の全ての条件を満たすもの
①東京電力株式会社の電力供給区域内
②太陽光・風力・水力・バイオマスによる発電設備であること
③設置主体が地方公共団体等の公益的団体(学校法人、NPO法人等を含む)
※NPO法人等にはPTAを含み、
また上記の設置主体が協力して共同で設置する場合も可。
④平成20年4月1日以降に設置工事が開始され、
平成22年3月31日までに完了し発電開始すること
⑤発電される電力が公共性を有する施設(GIACが公共性を有するとみなす場合を含む)で
主として利用されること
※公共性を有する施設:道路、鉄道、公園、水道等の公共施設。庁舎等の公用施設。教育文
化施設、医療施設、社会福祉施設等の公益的施設
主として利用:原則として自家消費比率50%以上の利用をいう。
⑥発電電力量を発電方式別に計測かつ報告できること
⑦事業計画(助成が決定した場合の資金計画等)に実現性があること
⑧発電設備の適正な維持・管理ができること
⑨グリーン電力基金による環境教育目的用助成プログラムに応募していないこと
⑩プロジェクトがグリーン電力基金の趣旨に合致していること
助
成
金
1プロジェクトあたりの助成金の額は、「発電設備の定格出力」と「インバータ容量」のいず
れか小さい方(小数点以下第3位を四捨五入)について1kWあたり原則として20万円を乗じて算
定した額とし,1,000万円を助成の上限とする。
助
成
枠
助成する助成金の総額は,原則として,別に定める平成20年度グリーン電力基金助成募集要綱
〔地域協働プロジェクト用(ヨコハマプロジェクト用も含む)〕により助成する助成金とあわ
せて2億円
交 付 申 請 先
財団法人広域関東圏産業活性化センター
手
【平成20年度の場合】
続
き
等
①助成申込書の提出(~H20.9.1)→GIACにて審査し、助成の対象の決定、応募者に通知
②助成契約の締結
③助成対象設備の設置工事開始後、工事着工届の提出
④助成対象設備の設置・発電開始(~H22.3.31)
⑤助成対象設備の設置完了・設置費用の支払い完了日から30日以内に完了報告書の提出
→GIACにて審査し、助成金額を確定し、助成対象者に通知後に助成金の支払い
⑥原則として助成対象設備の発電開始の日から2年間、各年度の発電電力量記録を作成し、毎
年4月末日までにGIACに提出
2‐56
【平成20年度の募集要項(地域協働プロジェクト用)】
助
成
対
象
自然エネルギーの普及・啓発において実績があり、今後もこれらの活動を積極的に推進すると
プロジェクト
ともに、GIACが運営するグリーン電力基金事業における自然エネルギー普及拡大活動への
協力を強く期待できる団体等が、新たに発電設備を設置するプロジェクトであって、次の全て
の条件を満たすもの
①東京電力株式会社の電力供給区域内
②太陽光・風力・水力・バイオマスによる発電設備であること
③設置主体が公益的団体(地方公共団体・学校法人・社会福祉法人は除き、NPO法人等を含
む)であること
※NPO法人等にはPTAを含み、また上記の設置主体が協力して共同で設置する場合も可。
④発電される電力が,公共性を有する施設(GIACが公共性を有するとみなす場合を含む)
で主として利用されること
※公共性を有する施設:道路、鉄道、公園、水道等の公共施設。教育文化施設、医療施設、
社会福祉施設等の公益的施設
主として利用:原則として自家消費比率50%以上の利用をいう。
⑤発電設備の出力が2kWを超え、20kW未満であること
⑥助成決定後に設置工事が開始され、平成22年3月31日までに完了し、発電開始すること
⑦発電設備に対して他の補助制度(除く融資)を利用しないこと。
⑧発電される電力量を発電方式(太陽光・風力・水力・バイオマス)別に計測かつ報告できること
⑨研修会等の自然エネルギー理解活動での活用実績をGIACに報告できること
⑩事業計画(助成が決定した場合の資金計画等)に実現性があること
⑪発電設備の適正な維持・管理ができること
⑫グリーン電力基金による環境教育目的用助成プログラムに応募していないこと
⑬プロジェクトがグリーン電力基金の趣旨に合致していること
助
成
金
1プロジェクトあたりの助成金の額は、GIACが助成対象と認める発電設備設置工事費の
85%とし、700万円を助成の上限とする。
助
成
枠
助成する助成金の総額は、原則として、平成20年度グリーン電力基金助成募集要綱(普及目的
用及びヨコハマ・プロジェクト用)により助成する助成金とあわせて2億円。
交 付 申 請 先
財団法人広域関東圏産業活性化センター
手
【平成20年度の場合】
続
き
等
①助成申込書の提出(~H20.8.1) →GIACにて審査し、助成の対象の決定、応募者に通知
②助成契約の締結
③助成対象設備の設置工事開始後、工事着工届の提出
④助成対象設備の設置・発電開始(~H22.3.31)
⑤助成対象設備の設置完了・設置費用の支払い完了日から30日以内に完了報告書の提出
→GIACにて審査し、助成金額を確定し、助成対象者に通知後に助成金の支払い
⑥原則として助成対象設備の発電開始の日から4年間、各年度の発電電力量記録を作成し、毎
年4月末日までにGIACに提出
2‐57
【平成20年度の募集要項(環境教育目的用)】
助
成
対
象
プロジェクト
小・中・高等学校の環境教育授業等に活用する発電設備を新たに設置するプロジェクトであっ
て、次の全ての条件を満たすもの
①東京電力株式会社の電力供給区域内
②太陽光・風力・水力・バイオマスによる発電設備であること
③設置主体が地方公共団体等の公益的団体(学校法人、NPO法人等を含む)
※NPO法人等にはPTAを含み、
また上記の設置主体が協力して共同で設置する場合も可。
④助成決定後に設置工事が開始され、平成22年3月31日までに完了し、発電開始すること
⑤発電設備に対して他の補助制度(除く融資)を利用しないこと
⑥発電状態(kW)が確認できる表示装置を設置すること
⑦授業等での活用実績をGIACに報告できること
⑧事業計画(助成が決定した場合の資金計画等)に実現性があること
⑨発電設備の適正な維持・管理ができること
⑩グリーン電力基金による普及目的用及び、地域協働プロジェクト用助成プログラムに応募し
ていないこと
⑪プロジェクトがグリーン電力基金の趣旨に合致していること
助
成
金
1プロジェクトあたりの助成金の額は、GIACが助成対象と認める発電設備設置工事費の
85%とし、200万円を助成の上限とする。
助
成
枠
助成する助成金の総額は,原則として4,000万円
交 付 申 請 先
財団法人広域関東圏産業活性化センター
手
【平成20年度の場合】
続
き
等
①助成申込書の提出(~H20.9.1) →GIACにて審査し、助成の対象の決定、応募者に通知
②助成契約の締結
③助成対象設備の設置工事開始後、工事着工届の提出
④助成対象設備の設置・発電開始(~H22.3.31)
⑤助成対象設備の設置完了・設置費用の支払い完了日から30日以内に完了報告書の提出
→GIACにて審査し、助成金額を確定し、助成対象者に通知後に助成金の支払い
⑥原則として助成対象設備の発電開始の日から4年間、各年度の発電電力量記録を作成し、毎
年4月末日までにGIACに提出
2‐58
(9) 農業農村整備事業における工種の一つ
農林水産省の農業農村整備事業では、マイクロ水力発電施設のみを単独で設置する事業制度は
なく、発電施設を設置する場合は、国営・県営・団体営事業として実施するかんがい排水事業、
農村振興総合整備事業、中山間地域総合整備事業などの事業の一つの工種として整備する。
表 2.11-3 水力発電施設整備が可能な農業農村整備事業
事業種類
助成等の対象者
助成の内容・条件
備 考
かんがい排水事業等
の土地改良事業
かんがい排水事業等の
事業主体(主に国、都
道府県)
発電施設の単独
整備は不可
農村振興総合整備事
業
農村振興総合整備事業
の事業主体(主に都道
府県)
中山間地域総合整備
事業
中山間地域総合整備事
業の事業主体(主に都
道府県)
村づくり交付金
村づくり交付金の事業
主体(市町村等)
農山漁村活性化プロ
ジェクト支援交付金
都道府県、市町村、農
協、土地改良区等
・農業水利施設の整備と一体的に、土地改
良施設に電力を供給する発電施設を整備
・発電規模は受益地内の土地改良施設の電
力需要量により制限(余剰電力に伴う収
益については国庫納付する規定あり)
・各事業の国庫負担率・補助率
国営事業 2/3、県営事業 1/2
・農林水産省の助成対象の農業施設等、市
町村が整備した公共施設等に電力を供給
する発電施設を整備
・農村振興基本計画が作成されていること
・国庫補助率 1/2(内地の場合)
・農林水産省の助成対象の農業施設等、市
町村が整備した公共施設等に電力を供給
する発電施設を整備
・農村振興基本計画が作成されていること
・国庫補助率 55/100(内地の場合)
・農林水産省の助成対象の農業施設等、市
町村が整備した公共施設等に電力を供給
する発電施設を整備
・村づくり計画が作成されていること
・国庫補助率 1/2(内地の場合)
・水力、風力、太陽光、バイオマス、廃棄
物等の自然エネルギー供給施設等の整備
を支援
・対象地域は五法指定地域等
・補助率 1/2
発電施設の単独
整備は不可
発電施設の単独
整備は不可
発電施設の単独
整備は不可
活性化計画への
位置付けが必要
(10) RPS法
RPS法(電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法)は、電気事業者に新
エネルギー等から発電される電気を一定割合以上利用することを義務付け、新エネルギー等の一
層の普及を図るものである。新エネルギー等には、太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、小
水力発電(1,000kW 以下)、地熱発電が含まれる。
マイクロ水力発電は、余剰電力を電気事業者に売電する際にRPS法制度を適用することがで
きる。余剰電力は電気事業者に「電気」として販売すると同時に「新エネ等電気相当量」として
経済産業省が管理する「電子口座」に保管しておくことができる。ここで1年間の新エネルギー
等電気の利用量が基準利用量に満たない電気事業者は、基準利用量を達成するため、「新エネ等
電気相当量」を他から購入する必要がある。新エネルギー等発電事業者は「電子口座」に保有し
ておいた「新エネ等電気相当量」を電気事業者に販売することができる。これにより、「新エネ
等電気相当量」の市場価格が上昇している場合には、メリットが発生する場合もある。
2‐59
また、新エネルギー等発電事業者は、余剰電力を「電気」と「新エネ等電気相当量」を一体と
した料金で電気事業者に売ることもできる。この場合、「新エネ等電気相当量」は「電子口座」
に保管することはできない。
【新エネルギー等電気の利用の目標量に関する事項】(経済産業省告示第百六号)
表 2.11-4 新エネルギー等電気の利用の目標量
年度
(平成)
目標量
(億kWh)
19年度
20年度
21年度
22年度
23年度
24年度
25年度
26年度
86.7
92.7
103.3
122.0
131.5
141.0
150.5
160.0
【RPS法下における新エネルギー等電気等に係る取引価格調査結果について】
(資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部 H20.7.31(H20.8.22修正))
・「RPS相当量のみ」は、5円前後で推移している。
※ただし、現状では「RPS相当量のみ」の取引事例はほとんどなく、「発電電力+RP
S相当量」のセットで電力会社と協議することが一般的である。
表 2.11-5 加重平均価格の推移
(単位:円/kWh)
H15年度
H16年度
H17年度
H18年度
H19年度
水 力 発 電
8.1
8.5
8.4
8.4
7.2
RPS相当量のみ
5.2
4.8
5.1
4.9
4.9
2‐60
12.マイクロ水力発電の事例
表 2.12-1 マイクロ水力発電の事例一覧
発電方式
(1) 河川水利用
名 称
オーレン小屋発電所
所在地
発電出力
有効落差/使用水量
長野県茅野市豊平東
最大 9.15kW
23m
八ヶ岳夏沢峠
常時 4~9kW
最大 0.058m3/s
長野県飯田市
最大 2.5kW
12m
(旧南信濃村)
常時 2.5kW
最大 0.033m3/s
合資会社嵐山保勝会
京都府京都市右京区桂
最大 5.5kW
1.74m
水力発電所
川左岸
桐生市 利平茶屋水
群馬県桐生市黒保根町
力発電所
利平茶屋森林公園内
都留市家中川市民発
山梨県都留市上谷
最大 20kW
2.0m
電所
都留市役所敷地内
常時 8.8kW
最大 2.0m3/s
まるへい水力発電所
群馬県甘楽郡下仁田
最大 24kW
6.58m
遠山郷小水力発電所
常時 4.3kW 程度
最大 22kW
常時 5~22kW
最大 0.55m3/s
6.7m
最大 0.0456m3/s
最大 0.557m3/s
町大字下仁田字川久
保 43
(2) 農業用水利用
百村第一・第二発電
栃木県黒磯市百村地
所
先
第一:最大 30kW
第一:2.0m
最大 2.40m3/s
常時 25kW 程度
第二:最大 90kW
第二:2.0m
最大 2.40m3/s
常時 75kW 程度
(3) 湧水利用
長坂町三分一湧水公
山梨県長坂町
園水力発電所
三分一湧水公園内
小谷村大平地区水力
長野県小谷村
発電所
高森湧水トンネル公
熊本県高森町
最大 1.0kW
7.0m
最大 0.03m3/s
最大 0.15kW
15.8m
常時 0.15kW
最大 0.002m3/s
22W
落差なし
園水力発電
(4) 上下水道利用
若田発電所
群馬県高崎市若田町
最大 78kW
20.0m
高崎市水道局若田浄
常時 68kW
最大 0.516m3/s
水場内
矢倉沢浄水場小水力
神奈川県南足柄市矢
発電
倉沢浄水場
森ヶ崎水再生センタ
東京都大田区大森南
ー小水力発電
森ヶ崎水再生センター内
最大 14.1kW
11m
最大 0.179m3/s
東施設放流渠
最大 177.0kW
東施設放流渠
4.22m
(最大 93kW×1、最
最大 2.8m3/s
大 84kW×1)
4.10m
西施設放流渠
最大 9.9kW
最大 2.6m3/s
西施設放流渠
3.76m
最大 0.34m3/s
(5) その他
(工場排水利用)
(空調水利用)
株式会社デンソー西
愛知県西尾市デンソ
最大 3.5kW
16m
尾製作所内発電所
ー西尾製作所
常時 3.5kW
最大 0.04m3/s
ビルの空調用冷却水
埼玉県さいたま市
最大 4.8kW
50m
利用水力発電
富士ゼロックス㈱
常時 4.8kW
最大 0.017m3/s
2‐61
(1) 河川水利用
【オーレン小屋発電所】
所 在 地
長野県茅野市豊平東 八ヶ岳夏沢峠
事業主体
オーレン小屋(山小屋)
管理主体
オーレン小屋(山小屋)
発電方式
流れ込み式(河川水利用:夏沢川)
発電出力
最大9.0kW、常時4~9kW
有効落差
23m
使用水量
最大0.058m3/s
水
横軸フランシス水車(イームル工業製;日本)
車
発 電 機
三相同期発電機(3相220V、10VA、60Hz、AC-EX内蔵)
需要施設
オーレン小屋の照明、トイレ浄化槽電源(発電所から1.2㎞離れた所)
事 業 費
2,200万円
運転開始
平成14年4月
特記事項
・山岳トイレによる環境汚染対策として、浄化槽・バイオトイレを設置し、電源に水力発電を
採用(当初はディーゼル発電、太陽光発電を検討したが、環境にやさしい安定電源を採用)
・行政の協力を得て、国定公園内に小水力発電を導入
・保守点検は、地元の農協に委託して実施
・発電設備は、景観及び小動物による被害等を考慮して設置
取水口:堰は造らず岩石で囲い小さな淵を造作、蛇篭石詰で導水管を固定、スクリーンなし
導水管:ポリエチレン管φ400×15m、埋設配管
水圧管:ポリエチレン管φ200×135m、山中を数箇所勾配調節用の架台で固定、露出敷設
発電所:木造建、スレート葺屋根
制御盤:負荷変動対応の自動電圧調整器、自動負荷調整器を装備
送電線:需要地点までケーブル(60㎜2)を自然林根元に這わせた転がし配線(コルゲートパイプ)
取水口
沈砂槽
発電所建屋
導水管
水車発電機
2‐62
【遠山郷小水力発電所】
所 在 地
長野県飯田市(旧南信濃村)
事業主体
長野県旧南信濃村自治振興センター(現飯田市)
管理主体
飯田市
発電方式
流れ込み式(河川水利用:一級河川天竜川水系梶谷川)
発電出力
最大2.5kW、常時2.5kW
有効落差
12m
使用水量
最大0.033m3/s
水
横軸渦巻ポンプ逆転水車(鶴見製作所製;日本)
車
発 電 機
三相同期発電機
需要施設
養魚場のブロワ(飯田市(旧南信濃村)所有、南信濃村淡水魚生産組合運営の養魚場)
運転開始
平成17年4月
特記事項
・河川協議(河川法23条、24条、26条、55条第1項)
・旧南信濃村が水利権を有し、養魚利用のため流量データがあったが、許可までに1年要した
・系統連系及び電気事業法に係る協議は、鶴見製作所が対応
発電所建屋
水車発電機
養魚場
水利使用許可標識
2‐63
【合資会社嵐山保勝会水力発電所】
所 在 地
京都府京都市右京区嵯峨天龍寺造路町 桂川左岸
事業主体
合資会社嵐山保勝会水力発電所
管理主体
合資会社嵐山保勝会水力発電所
発電方式
流れ込み式・サイフォン取水式(河川水利用:一級河川桂川)
発電出力
最大5.5kW、常時4.3kW程度
落
有効落差1.74m、常時1.34m程度
差
使用水量
最大0.55m3/s
水
サイフォン式プロペラ水車(マーベル社製;チェコ共和国)
車
発 電 機
三相誘導発電機
需要施設
桂川に架かる渡月橋の照明灯の電源(LED照明60基、1kW)
余剰電力は系統連系により関西電力㈱に売電
事 業 費
4,000万円(保勝会会員の負担、市内の企業の寄付、NEDOの中小水力開発費補助金)
運転開始
平成17年12月
特記事項
・景観重視で照明が設置されていなかったが、嵐山保勝会は事故防止や防犯面からの地元要
請のもと照明申請を行い、自然エネルギー利用(小水力発電)により設置許可が下り実現
・一級河川の発電用水利権の取得を国土交通省が許可
・「低圧連系・逆潮流あり」を逆変換なしで関西電力㈱が承認
・土地改良区が所有する堰へ発電設備を設置することに協力
・京都市、メーカー、企業、全国小水力利用推進協議会等が強力に支援
京都嵐山渡月橋照明灯
水力発電所
2‐64
【桐生市 利平茶屋水力発電所】
所 在 地
群馬県桐生市黒保根町 利平茶屋森林公園内
事業主体
群馬県旧黒保根村(現桐生市)
管理主体
群馬県桐生市
発電方式
流れ込み式(河川水利用:渡良瀬川支流鳥居川の治山堰堤)
発電出力
最大22kW、常時5~22kW (年間発電電力量110,000kWh)
有効落差
67.66m
使用水量
最大0.0456m3/s
水
縦軸4射ペルトン水車(ググラー社製;オーストリア)
車
発 電 機
三相同期発電機(3相400V)
需要施設
キャンプ場内の電源(バンガローの照明・トイレブロワ、管理棟の照明・暖房、テントサイト
の管理人宿泊室の照明・電気コタツ):10,000kWh/年利用
(余剰電力:東京電力へ売電)
事 業 費
約2,000万円(うち、水車発電機器一式:600万円)
運転開始
平成14年4月
特記事項
・国有林野における自然エネルギー発電推進のための共同研究の実証の場として計画
・国有林内の治山堰堤から取水し、下流のキャンプ場隣地に水力発電所を設置
・森林公園は国有林であり、キャンプ場・発電設備用地は林野庁から有償借用
・治山堰堤は普通河川であり、事業主体の旧黒保根村が管理者であり、河川協議はなし
・児童・生徒の環境学習の教材として利用
・水圧管に曲げ率の高い高密度ポリエチレン管を採用し、樹木の伐採なしで施工
・パワーコンディショナは太陽光発電に使用されている機器を採用し、コスト縮減
・プーリやベルトへのグリースアップは2週間に1度実施、電気主任技術者による定期点検
は電気保安協会に委託
取水口
水圧管路
取水口(治山堰堤右岸から取水)
発電所建屋
水車
発電システム概要
2‐65
発電機
【都留市家中川市民発電所】
所 在 地
山梨県都留市上谷1丁目1番1号 都留市役所敷地内
事業主体
山梨県都留市
管理主体
山梨県都留市
発電方式
流れ込み式(相模川水系桂川 準用河川 家中川)
発電出力
最大20kW 常時8.8kW (年間発電電力量約120,000kWh)
有効落差
2.0m
使用水量
最大2.0m3/s、常時0.77m3/s
水
開放型下掛け水車(直径6m,幅2m,出力23kW,回転速度4.3rpm)(ハイドロワット社;ドイツ)
車
発 電 機
永久磁石式三相同期発電機(3相200V、1200rpm)
需要施設
都留市役所の高圧受電設備に連系し、所内電源として利用
休日、夜間の余剰電力は、東京電力㈱に売電(RPS法の適用)
事 業 費
4,337万円(NEDO地域新エネルギー等導入促進事業 補助金:1,517万円、市民参加型ミニ公
募債:1,700万円、都留市一般財源:1,120万円)
運転開始
平成18年4月
特記事項
・都留市制50周年記念、水のまち都留市のシンボルとして、また本市で最も期待される小水
力発電の普及・啓発を図ることを目的に、市民参加型の水力発電所を建設
・除塵機には都留市発の新開発の逆洗浄式除塵装置を採用
《つるのおんがえし債》
目
的:地球環境に対する都留(つる)市民の感謝の念を込めて、自然エネルギーに
よる環境負荷の軽減に資するため。
購入対象者:20歳以上で都留市に住民票のある方(平成17年10月24日現在)
購入限度額:1人当たり10万円以上50万円まで(10万円単位)
発 行 価 格:額面100円につき100円
利
率:販売直前の5年利付国債の利率に0.1%上乗せ、平成17年12月の5年利付国債
0.8%、0.8%+0.1%=0.9%(税引き前)
資金の使途:家中川小水力市民発電所建設費用(平成17年度執行分)
開放型水車(市役所前に設置)
開放型水車と操作盤
案内板
2‐66
【まるへい水力発電所】
所 在 地
群馬県甘楽郡下仁田町大字下仁田字川久保43
事業主体
株式会社荻野商店
管理主体
株式会社荻野商店
発電方式
水路式 (一級河川利根川水系鏑川)
発電出力
最大24kW (年間可能発電電力量204,480kWh/年)
有効落差
総落差8.0m 有効落差6.58m
使用水量
最大0.557m3/s
水
クロスフロー水車
車
発 電 機
誘導発電機
需要施設
自家消費:乾燥機ファン500kW、製粉機400kW、バグフィルター250kW
事 業 費
8,100万円(NEDO地域新エネルギー等導入促進事業 補助金:2,200万円)
運転開始
平成20年9月
特記事項
・鏑川の水を利用した水車を、こんにゃく製粉工場の動力源としていた
・昭和60年以降、設備の自動化を進めたため、水車は利用しなくなったが、水利使用料は毎
年支払っていた。まるへい水力発電所は、この水利権水量を利用したものであるが、水利
権は取水量等を新たに申請し許可を得た
・計画区域は上州漁業協同組合が漁業権を設定していたが、協議により事前に同意を得た
・流量データは近隣の八千代橋測水所における観測データを活用した(平成6~16年)
・電気主任技術者は、保安協会に委託している
取水口(一級河川利根川水系鏑川)
水力発電所建屋
水車・発電機
案内板
2‐67
(2) 農業用水路利用
【百村第一・第二発電所】
所 在 地
栃木県黒磯市百村地先
事業主体
那須野ヶ原土地改良区
管理主体
那須野ヶ原土地改良区
発電方式
流れ込み式(農業用水路利用:上段幹線用水路)
発電出力
第一:最大30kW 常時25kW程度
第二:最大90kW 常時75kW程度
有効落差
第一:2.0m
第二:2.0m
使用水量
第一:最大2.40m3/s(非かんがい期 1.29m3/s)
第二:最大2.40m3/s(非かんがい期 1.29m3/s)
水
車
立軸カプラン水車
発 電 機
三相誘導発電機
需要施設
地区内の土地改良施設
運転開始
平成18年4月(実証試験:平成16年4月~平成17年9月)
特記事項
・既設水路の落差工部に、直接機器を設置
設置前
水車発電機設置
開水路落差工用発電システム 構造概念図
水車発電機設置後
(資料:農林水産省、電源開発㈱)
2‐68
(3) 湧水利用
【長坂町 三分一湧水公園 水力発電所】
所 在 地
山梨県長坂町三分一湧水公園内
事業主体
山梨県長坂町
管理主体
長坂町 三分一湧水公園管理事務所
発電方式
流れ込み式(湧水利用)
発電出力
最大1.0kW
落
7.0m
差
使用水量
最大0.03m3/s
水
クロスフロー水車(流量調整なし)(シンク社製;チェコ共和国)
車
発 電 機
単相同期発電機(1相120V、1kVA、50Hz)
需要施設
発電所建屋(照明30W×1、100W×4、展示模型)、吊橋(照明200W×1)
事 業 費
約600万円
運転開始
平成16年5月
特記事項
・八ヶ岳の麓から湧き出る湧水は古くから地元住民が農業用水として利用
・三分一湧水は下流の6か村が均等に分水し水利権を有している
・三分一湧水の周辺は民有地であったが、近年公共用地として買収し、水源涵養地として地
域住民・水利用者が一体となった保全活動を行っている
・秋期から冬期にかけては水量が少ないため発電は行っていないが、秋期は落葉によるごみ
詰まり防止のための水量、冬期は水路が凍らない程度の水量を流している
発電所建屋と吊橋(写真左)
取水口
水車・発電機
放水口
2‐69
【小谷村大平地区 水力発電所】
所 在 地
長野県小谷村
事業主体
長野県北安曇地方事務所
管理主体
長野県北安曇地方事務所
発電方式
流れ込み式(地下水利用)
発電出力
最大0.15kW、常時0.15kW
有効落差
15.8m
使用水量
最大0.002m3/s
水
ターゴランナ水車
車
発 電 機
単相同期発電機
需要施設
地滑り観測システム用電源(独立電源)
運転開始
平成17年4月
特記事項
・小谷村は、糸魚川静岡構造線の真上にあり地滑り地帯である。毎年対策工事が実施されて
いるとともに、常時動態監視が行われている。大平地区では地滑り動態、地下水位、気象
等が計測され、携帯電話回線により事務所まで自動伝送される。以前は太陽光発電により
電源を確保していたが、悪天候、冬期積雪時、夜間などにデータ欠測が生じていた。
・地滑り原因となる地下水を集水井戸に集め排水していたものを水力発電に利用している。
・地下水に水利権はなく、防災目的で集水した水のため、権利上の障害はない。
・冬期は4m超の積雪があるため、ヘッドタンクや発電機収納部は土中に埋設した。
ヘッドタンク
水車発電機
監視局(北安曇地方事務所)
大平地すべり観測局
電話回線
地下水
集水枡
電力
№2集水井戸
(径3.5m 深さ25m)
落差 約15m
地滑り観測所
水力発電機
2‐70
【高森湧水トンネル公園 水力発電(実証試験)】
所 在 地
熊本県高森町
事業主体
崇城大学と西田鉄工㈱との共同研究(実証試験)
管理主体
高森町(高森町に無償譲渡)
発電方式
流れ込み式
発電出力
22W
有効落差
なし(上下流の水位差:0.05m程度)
使用水量
流速 0.35~0.4m/s
水
開放型下掛け水車(直径2.5m,幅0.55m,回転速度5~6rpm)
車
需要施設
説明看板の照明(10W×2)、イルミネーション
運転開始
平成15年12月
特記事項
・崇城大学工学部応用電気情報工学科(逸見次郎教授)と西田鉄工㈱の共同研究
・水路管理者の高森町に使用許可申請し、実証試験を実施
水車
水車と照明
発電機と増速装置
案内看板
2‐71
(4) 上下水道利用
【若田発電所】
所 在 地
群馬県高崎市若田町309 高崎市水道局若田浄水場内
事業主体
高崎市、東京発電株式会社
管理主体
東京発電株式会社
発電方式
流れ込み式(利根川水系一級河川烏川)
発電出力
最大78kW 常時68kW (年間発電電力量約570,000kWh/年)
有効落差
20.0m
使用水量
最大0.516m3/s
水
クロスフロー水車
車
発 電 機
誘導発電機
需要施設
全量売電
運転開始
平成19年11月
特記事項
・若田発電所は、経済産業省資源エネルギー庁のハイドロバレー計画開発促進調査で選定さ
れた地点
・利根川水系一級河川烏川の春日堰頭首工(神山取水口)から取水した水を、約6.5kmの管
路で導水し浄水場の入口に水車を設置し発電
・高崎市と東京発電株式会社が20年間の発電事業契約を結び、発電した電力は東京電力株式
会社に売電し、収入を高崎市と東京発電株式会社で分配
・平成19年6月5日付けで、水道用水利権に完全従属する発電用水利権を取得
・発電所の管理は、東京発電株式会社が実施(電気主任技術の資格を保有)
春日堰頭首工(神山取水口)
若田浄水場
水力発電所
水車(クロスフロー)
(資料:高崎市、東京発電㈱)
2‐72
【矢倉沢浄水場小水力発電】
所 在 地
神奈川県南足柄市矢倉沢浄水場
事業主体
南足柄市
管理主体
南足柄市
発電方式
流れ込み式(上水道利用)
発電出力
最大14.1kW 常時14~17kW(年間発電電力量:約120,000kWh)
有効落差
11m
使用水量
最大0.179m3/s
水
インライン型水車(㈱クボタ社製;日本)
車
発 電 機
三相交流誘導発電機
需要施設
浄水場の電気設備(年間使用電力量:95,000kWh)
余剰電力は東京電力㈱に売電
事 業 費
4,672万円(NEDO 地域新エネルギー等導入促進事業(補助金)を利用)
運転開始
平成20年8月
特記事項
・環境学習の一環として利用
・表流水を水源としているため、枝や葉の流入がある。
水車
需要施設(矢倉沢浄水場)
環境学習会開催の様子
制御盤
2‐73
【森ヶ崎水再生センター 小水力発電】
所 在 地
東京都大田区大森南5-2-25 森ヶ崎水再生センター内
事業主体
東京都
管理主体
東京都森ヶ崎水再生センター
発電方式
流れ込み式・サイフォン取水方式(下水道利用)
発電出力
有効落差
東施設放流渠
最大93kW×1、84kW×1
最大9.9kW×1
(年間発電電力量:約770,000kWh)
(年間発電電力量:約50,000kWh)
4.22m、4.10m
3.76m
3
3
使用水量
最大2.80m /s、2.62m /s
水
マイクロチューブラ型水車
車
西施設放流渠
最大0.34m3/s
発 電 機
三相誘導発電機(東施設:110kW×2、西施設:11kW×1)
需要施設
森ヶ崎水再生センター施設
運転開始
平成17年6月
特記事項
・下水道事業における地球温暖化防止計画「アースプラン2004」の取組として実施
・サイフォン取水方式は既存施設の改造なしでの設置により建設コストの低減化
・東京湾の潮位変動による落差変動及び時間による流量変動に対応するため、流量調節機能を
持つチューブラ(プロペラ)水車を採用(羽根角度の3段階の制御による使用流量の調節)
・CO2削減量:東西施設合わせて300t-CO2/年
導水管
発電システム
西施設小水力発電
導水管
(資料:東京都)
東施設小水力発電
2‐74
(5) その他
【株式会社デンソー西尾製作所】
所 在 地
愛知県西尾市下羽角町住崎1 西尾製作所
事業主体
株式会社デンソー 西尾製作所
管理主体
株式会社デンソー 西尾製作所
発電方式
流れ込み式(工業用水排水利用)
発電出力
最大3.5kW、常時3.5kW
有効落差
16m
使用水量
最大0.0423m3/s
水
横軸フランシス水車
車
発 電 機
SCオルタネータ(4kW、DC24V、直流出力)
※SC:セグメントコンダクタ方式(高密度巻線)
オルタネータ:発電機の一種で回転動力によって電力を発生。自動車等で使用。
需要施設
昼間:工場内のリサイクルセンター天井照明・換気扇(2.3kW)
夜間:構内通勤路・駐車場の照明(1.4kW)
運転開始
平成14年9月
特記事項
・環境学習の教材として利用(学校の社会科見学)
・春と秋に取水堰の取水口のフィルターが枯葉で詰まってきたら定期巡回時に取り除く。
・水車は年に1回程度分解清掃(水車内部の枯葉除去)、バッテリーは能力が低下した時点
で交換。
取水堰の水圧管取付部
水車外観
水車発電機
2‐75
【ビルの空調用冷却水利用の水力発電】
所 在 地
埼玉県さいたま市岩槻区府内3-7-1
事業主体
富士ゼロックス株式会社 岩槻事業所
管理主体
富士ゼロックス株式会社 岩槻事業所
発電方式
流れ込み式(ビルの空調用冷却水利用)
発電出力
最大4.8kW、常時4.8kW
有効落差
50m
使用水量
最大0.017m3/s
水
車
フランシス水車+同期発電機の一体型×2台
制
御
発電機出力(AC)をコントローラ(コンバータ)でDC変換し、更にインバータでAC変換し系統連系
需要施設
事業所の構内電源設備に連系(逆潮流なし)(年間70万円の電気料金の節減)
運転開始
平成14年9月
特記事項
・省エネ・資源保護活動において、機器や運用による改善の次のステップとして自然エネル
ギー利用の検討を行い、冷却循環系統の未利用エネルギーによる小水力発電を導入
水車発電機
空調用冷却配管に2台直列設置
トイレ照明
水車発電機(拡大)
制御盤
通路照明
需要施設
機器構成図
2‐76
13.付属資料
マイクロ水力発電を実際に導入する際に必要となる専門的・技術的事項について、付属資料とし
て掲載する。
(1) 系統連系に関する事項
系統連系(高圧連系)に必要な技術要件の概要は、以下のとおりである。
ア 力率
高圧配電線との連系のうち、逆潮流がない場合の受電点の力率は、標準的な力率に準拠して
85%以上とし、かつ系統側からみて進み力率とはならないこととする。逆潮流がある場合の受
電点の力率は、適正なものとして原則85%以上とするとともに、電圧上昇を防止するために系
統側から見て進み力率(発電設備等側から見て遅れ力率)とならないようにする。
イ 自動負荷制限
発電設備等の脱落時等に連系された配電線路や配電用変圧器等が過負荷となるおそれがある
ときは、発電設備等設置者において自動的に負荷を制限する対策を行うものとする。
ウ 逆潮流の制限
配電用変電所におけるバンク単位で逆潮流が発生すると、系統運用者において系統側の電圧
管理面での問題が生ずるおそれがあることから、逆潮流のある発電設備等の設置によって、当
該発電設備等を連系する配電用変電所のバンクにおいて、常に逆潮流が生じないようにするこ
とが必要である。
エ 電圧変動
(ア) 常時電圧変動対策
発電設備等を一般配電線に連系する場合においては、低圧需要家の電圧を標準電圧100Vに
対しては101±6V、標準電圧200Vに対しては202±20V以内に維持する必要がある。
しかし、発電設備等が連系された場合には、解列による電圧低下等により系統側の電圧が適
正値を維持できなくなる場合も考えられる。また、逆潮流有りの発電設備等が連系された場合
には、系統側の電圧が上昇し適正値を維持できない場合も考えられる。
電圧変動の程度は、負荷の状況、系統構成、系統運用、発電設備等の設置点や出力等により
異なるため、個別に検討することが適切であるが、需要家への電気の安定供給を維持していく
ため、電圧変動対策が必要な場合には、電圧変動対策のための装置を発電設備等設置者が設置
するものとし、これにより対応できない場合には、配電線新設による負荷分割等の配電線増強
を行うか、又は専用線による連系を行う。
(イ) 瞬時電圧変動対策
発電設備等の連系時の検討においては、低圧の場合と同様、発電設備等の並解列時の瞬時電
圧低下は常時電圧の10%以内とし、瞬時電圧低下対策を適用する時間は2秒程度までとするこ
とが適当であることを前提として対策を行うものとする。
2‐77
オ 不要解列の防止
連系された系統以外の短絡事故等により系統側で瞬時電圧低下等が生ずることがあるが、連
系された系統以外の事故時には、発電設備等は解列されないようにするとともに、連系された
系統から発電設備等が解列される場合には、逆電力継電器、不足電力継電器等による解列を自
動再閉路時間より短い時限、かつ、過渡的な電力変動による当該発電設備等の不要な遮断を回
避できる時限で行うものとする。
カ 連絡体制
発電設備等設置者の構内事故及び系統側の事故等により、連系用遮断器が動作した場合等に
は、一般電気事業者と発電設備等設置者との間で迅速かつ的確な情報連絡を行い、速やかに必
要な措置を講ずることが必要である。このため、系統側電気事業者の営業所等と発電設備等設
置者の技術員駐在箇所等との間には、保安通信用電話設備を設置するものとする。
(2) 電力需要計画に関する事項
ア 電力の利用形態と負荷変化
需用設備によって固有の負荷特性を有しており、日または季節により変化する負荷パターン
を把握する。また、需要設備(電気機器)によっては、始動時に必要電力が消費電力の2~4
倍必要なものがあるため、留意する(表 2.13-2 参照)。
表 2.13-1 電力の利用形態別の特徴
利用形態
動 力
需要設備(電気機器)
特
徴
・駆動する機械の種類や自動制御される機械等により負荷変
・空調機・換気扇
化の度合いが異なる。
・ポンプ
・ブロワ・ばっ気装置
・起動時には非常に大きな電力を必要とする。
・工場等の動力設備 など
・動力の使用は工場等で多く、昼間に負荷が集中し、休日等
は負荷が激減する。
電 灯
・点灯中は常に一定負荷で安定しており、変動が生じること
・屋内灯
・屋外灯(街路、公園等)
・夜間に使用が集中し、天気や日照時間の差により使用時間
・温室の電灯
・イルミネーション など
電 熱
は少ない。
が変化する。
・暖房設備(家屋、ハウス等)
・ヒーターによる加温・保温・乾燥が主なものである。
・加温機・保温機・乾燥機・加湿器
・設定温度に対応させて、オン-オフ運転する場合が多い。
・冷凍庫・冷蔵庫
・外気温により室内温度が変化するため、季節や昼夜等によ
り稼動状況が異なる。
制 御
・各種制御盤・制御機器
・電力量から見ると非常に小量であるが、最も安定した質の
高い電気が要求される。
・微小電流・電圧の変化の検出による制御等があり、利用にあ
たっては保護装置やバックアップシステムが必要である。
その他
・通信設備
・獣害防止電気柵は、使用中常に一定負荷で安定しており、
・獣害防止電気柵 など
変動が生じることは少ない。
表 2.13-2 需要設備(電気機器)の必要電力
始動時
白熱灯・テレビ
蛍光灯・水銀灯
水中ポンプ・コンプレッサ等
1倍
2~3 倍
3~5 倍
2‐78
イ 需要の平準化
(ア) 需要の平準化
電力需要計画は、供給の日変化・年変化の特性を考慮し、需要施設の組み合わせにより、需
要の平準化を図ることが望まれる。
a 需要の日変化対応
昼・夜間が同一程度の負荷状態の需要施設の組合せにより、需要の変化に対する平準化を
図る。余剰電力が発生するときは、これに対応し易い需要施設の導入を検討する。
b 需要の年変化対応
先ず通年一定の負荷で日変化が小さい施設を選定し、次に稼動状況に季節性を有する施設
を規模や時期により選択し、順次組合せを行い、発電電力の期別変動等に対応する需要施設
を検討する。
(イ) 需要パターン・需要規模の調査
選定した需要施設については、電力の需要パターンを調査し、把握する。需要パターンは、
図 2.13-1 に示すとおり、日間で変化することが一般的であり、年間でも変化する。
需要パターンは、毎月の電力会社の検針票
または請求書に記載してある1ヶ月分の電
気使用量(kWh)と最大使用電力(kW)を1年間
分集計し、作成する。
日需要の変動は、受電変電設備の電力計
(kW)計を毎正時に読み取り、右図のようなグ
ラフを作成することにより把握できる。
図 2.13-1 需要施設の日需要パターンの例
(3) 発電計画策定に関する事項
ア 最大使用水量の設定
(ア) 流量資料の整理
取水計画地点における流量資料がない場合には、取水計画地点で流量観測を少なくとも1か
年以上実施し、他地点の流量資料との相関により計画地点における流量資料を整理する。
ここでは、近傍の測水所(流量観測所)からの流域面積比により流量資料を整理する方法を
以下に示す。
【近傍の測水所(流量観測所)からの流域面積比により流量資料の整理】
① 取水計画地点の流域面積A(㎞2)を求める(国土地理院の地形図等の利用)
② 同一河川あるいは近傍河川の測水所の流域面積B(㎞2)との流域比C(=A/B)を測水所の
流量に乗じたものを取水地点の流量とする。流域比は0.5~1.5の範囲とされている。
(取水計画地点流量)=(測水所流量データ)×(流域比)
2‐79
(イ) 流況曲線・流況表の作成
発電計画において、最大使用水量の設定及び発電規模の検討を行うため、流量資料を基に、
取水計画地点における流況曲線図を作成する。流況曲線図は、縦軸に流量、横軸に日数をとり、
図2.13-2のとおり、1年間の日流量データを大きな流量から順番に並び替えしたものである。
流況表は、流量の特性を把握するものであり、流況曲線を基に、最大流量、豊水流量、平水
流量、低水流量、渇水流量、最小流量、平均流量を表したものである。
最大流量:1年中の最大流量
35日流量:1年を通じ35日はこれより下らない流量
豊水流量:1年を通じ95日はこれより下らない流量
平水流量:1年を通じ185日はこれより下らない流量
低水流量:1年を通じ275日はこれより下らない流量
渇水流量:1年を通じ355日はこれより下らない流量
最小流量:1年中の最小流量
年平均流量:日平均流量の1年の総計を当年日数で除し
た流量 ٛٛٛٛٛٛٛٛٛٛٛٛٛٛٛٛٛٛٛٛٛٛ
図 2.13-2 流況曲線図
表 2.13-3 流況表
年
最大流量
35日流量
豊水流量
(95日)
平水流量
(185日)
低水流量
(275日)
渇水流量
(355日)
最小流量
年平均流量
平均
【河川維持流量の確保】
水力発電を設置することにより取水地点下流
で減水区間が生じる場合には、河川環境保全の目
的で減水区間の河川流量を確保するため、取水計
画地点より下流に河川維持流量分を放流する必
要がある。かんがい用水等の取水がある場合は、
これら必要水量の放流も必要である。これらの放
流は発電計画に大きく影響するため、あらかじめ
差し引いて流況曲線図を作成する。
図 2.13-3 河川維持流量と発電使用流量の関係
(ウ) 最大使用水量の設定方法(河川等利用の場合)
①
流れ込み式の場合の一般的な設備利用率
(45~60%程度)となるように、最大使用
水量を数案設定する。
※設備利用率:発電設備が年間を通じてフ
ル(100%)に運転できたとした場合の可
能発電電力量に対する実際の可能発電電
力量の割合を示すものである。
図 2.13-4 最大使用水量の設定
設備利用率=可能発電電力量(kWh)÷(最大出力(kW)×8,760時間)
2‐80
【上下水道・工場内水利用の最大使用水量の場合】
上下水道・工場内水利用において、従来、減
圧用バルブ等で流量調節を行っていた場所に水
車を併設して設置し、エネルギー回収する場合
には、発電所の取水量は上下水道・工場内水の
需給から決定され、最大使用水量は設備の最大
流量となる。
図 2.13-5 上下水道・工場内水利用のシステム
② 各案について、工事費、発電電力量及び発電コストを算出し、発電電力量(kWh)当たり建設
費が最小となる案を採用する。
(例;設備利用率が45%、50%、60%となるように、最大使用水量を3案設定し、最も経
済的な案となる最大使用水量を採用する)
(エ) 設備利用率の計算方法
最大使用水量の設定にあたっての設備利用率の計算方法は、以下のとおりである。
① 流況値の欄(A欄)に、流況表における平均流況値を転記する。
② B欄(当該流況から一つ前の流況を引いたもの)を計算する。
③ C欄(当該流況の日数と一つ前の流況の日数の平均)を計算する。
④ D欄(B欄にC欄を乗じたもの)を計算する。D=B×C
⑤ 使用可能量(E欄)を計算する。D欄の流量を順次累計したもの。
⑥ G欄(A欄に 365 を乗じたもの)を計算する。
⑦ 流量設備利用率(H欄;E欄をG欄で除したもの)を計算する。
表 2.13-4 設備利用率の計算表例
流況値
日数
使用可能量
A
B
C
D
Ai
Ai-A(i-1)
Ai の日数+A(i-1)の日数
B×C
(m3/s)
(m3/s)
2
(m3/s-day)
i
Q365
365
2
Q355
360
3
Q275
315
4
Q185
230
5
Q95
140
6
Q35
65
7
Q1
18
n
∑D
i =1
3
(m /s)
(日)
1
E
2‐81
流量設備利用率
G
H
Ai×365
E/G
(m3/s)
(%)
イ 損失落差の算出方法
有効落差を算出するにあたっての損失落差の算出方法は、以下のとおりである。
(ア) 最大使用水量時の損失落差:HLmax
・流れ込み式計画では、水路勾配を1/1,000とし、導水路の損失落差はこの勾配に水路長;
L1(m)を乗じ、L1/1,000(m)とする。
・取水口、沈砂池、水路流入口及び流出口等の合計損失は、約0.05mを見込む。
水槽水位は、下式のとおりとする。
水槽水位=取水位-(0.05+L1/1,000)
・水圧管路の損失は、水圧管路延長;L2(m)の1/200とする。
・放水路の損失落差は、導水路と同様に、放水路延長;L3(m)の1/1,000とする。
・その他、水車入口のバルブ等のロスは一般的に0.6m程度を見込む。
(イ) 常時使用水量時の損失落差:HLf
・常時使用水量時の損失落差HLfは、以下のとおり算出する。また、有効落差を算出する際
は、最大使用水量時の水槽水位と放水位の差を総落差として計算する。
2
L3
⎛ L2
⎞ ⎛ Q ⎞
+ 0.6 ⎟ × ⎜⎜ f ⎟⎟ +
HLf = ⎜
⎝ 200
⎠ ⎝ Q max ⎠ 1,000
ここで、HLf :常時使用水量時の損失落差
Qmax:最大使用水量
Qf :常時使用水量
ウ 発電出力の算出
(ア) 理論水力
理論水力は下式のとおりであり、河川法に基づく水利使用料の計算に用いる。
Pemax=9.8×Qmax×Hemax
Pef =9.8×Qf×Hef
ここで、Pemax:理論最大水力(kW)
Pef :理論常時水力(kW)
Qmax :最大使用水量(m3/s)
Qf :常時使用水量(m3/s)
Hemax:最大使用水量時の有効落差(m)
Hef :常時使用水量時の有効落差(m)
※上式中の定数「9.8」は、重力加速度で単位は(m/s2)である。
常時使用水量は、1年を通して355日使用し得る水量である。
2‐82
(イ) 発電出力
発電出力は、理論水力に水車及び発電機の効率(ηt、ηg)を乗じたもので、理論水力より
小さいものになる。
Pmax=Pemax×ηt(max)×ηg(max)
=9.8×Qmax×Hemax×η(max)
Pf =Pef×ηt(f)×ηg(f)
=9.8×Qf×Hef×η(f)
ここで、Pmax
:最大発電出力(kW)
Pf
:常時発電出力(kW)
ηt
:水車効率(0.75~0.90)
ηg
:発電機効率(0.82~0.93)
η
:合成効率(=ηt×ηg)
η(max):最大出力時の合成効率(比速度nsに基づいて算出)
η(f) :常時使用水量時の合成効率で、(Qf×Hef)/(Qmax×Hemax)を入力負荷率
として算出される相対合成効率をη(max)に乗じたもの
※比速度ns、η(max)、η(f)の算出方法は、「(ウ)水車・発電機の合成効率の算出方法」参照
任意の水量Q(m3/s)における発電出力
発電出力:P=9.8×Q×He×η
ここで、P :任意の水量Q(m3/s)における発電出力(kW)
He:任意の使用水量時の有効落差(m)
η :η(f)の算定に準じる
(ウ) 水車・発電機の合成効率の算出方法
a 比速度
比速度とは、ランナの形状を幾何学的に相似な状態で小さくして、1mの落差で1kWの出力を
発生する水車を作った場合の回転速度である。
P
ns = n × 5/4
He
n=
5/4
e
n・H
s
P
ここで、ns :比速度(m-kW)
n :定格回転速度(r/min)
He:有効落差(m)
P :有効落差Hにおける最大出力(kW)
n と ns は比例し、ns を大きくすれば n を高くでき、水車、発電機とも小型、軽量化でき
る。ns を大きくすると、キャビテーションが発生しやすくなるため、水車の型式、落差によ
り、採り得る ns の上限は、経験的に水車型式毎に定められている。
2‐83
b η(max)の求め方
一般に水車・発電機は、全負荷またはそれよりいくぶん低い負荷で最高効率を発揮できる
ように設計されており、その他の負荷では効率が低下する。その低下状況は、水車の種類、
比速度及びQmax×Hemax の値により異なる。η(max)は、各水車型式の最高合成効率曲線から
読み取る。
c η(f)の算出
常時使用水量時(有効落差が最大使用水量時と同じ場合)の合成効率は、流量比(Qf/Qmax)
により、各水車型式の相対効率曲線図から水車の相対効率、発電機部分負荷効率(目安値)
から発電機の相対効率をそれぞれ読み取り、以下の式より算出する。
常時使用水量時の合成効率=(水車効率×流量比に対する水車の相対効率)×
(発電機効率×流量比に対する発電機の相対効率)
※各水車型式の相対効率曲線図、発電機部分負荷効率(目安値)は、「ハイドロバレー計画ガイドブック」(経済産業省
資源エネルギー庁,財団法人新エネルギー財団)H17 参照。
各水車型式の最高効率曲線図は、「中小水力発電ガイドブック(新訂5版)」(財団法人新エネルギー財団)H16 参照。
エ 年間可能発電電力量の算出方法
(ア) 平均電水比法(目算法)
電水比とは、発電出力(kW)と使用水量(m3/s)の比をいい、以下のとおり表される。
最大発電出力
最大電水比 =
最大使用水量
常時発電出力
常時電水比 =
平均電水比 =
=
常時使用水量
1
2
(kW/m3/s)
(kW/m3/s)
〔(最大電水比)+(常時電水比)〕
1
最大発電出力
2
最大使用水量
+
常時発電出力
常時使用水量
電水比は、使用水量1m3/s 当たりの発電出力(kW)で表すものであるから、使用水量にこれを
乗じると、それによる発電出力が得られることになり、ある計画での年間合計使用水量:ΣQ
(m3/s-day)がわかれば、年間可能発電電力量は以下のとおり求められる。
E=ΣQ(m3/s-day)×平均電水比(kW/m3/s)×24(hr)
(イ) 流況~効率法(概算法)
水車、発電機の合成効率は、使用水量の変化に対し、山形の曲率をもって変化する。
平均電水比を効率曲線で示すと、最大出力時の合成効率と常時出力時のそれの単純平均値と
なり、使用水量が変化しても一定な η=const.の直線となる。これによる可能発電電力量は文
字通り目算的なものとなる。より精度を上げるため、相互に曲率をもつ流況曲線と合成効率曲
2‐84
線を組合せ、代表流況で発電電力量を算定する。
【計算手順】
① 最大使用水量及び有効落差を記入する。
② 最大頭切日順は、最大使用水量の取水可能日数を記入する。
例:最大使用水量0.60m3/s、95日流量0.61m3/sの場合には、最大頭切日数は94日とする。
最大使用水量0.30m3/s、185日流量0.31m3/sの場合には、最大頭切日数は184日とする。
(この場合、95日の列は不要となる)
③ 日数は、計算段と直上段の日順の差である。
例では、便宜的に流況代表日数を採ったが、精度を望む場合はさらに細分する。
④ 縦列に、最大使用水量で頭切した日順の流量を使用水量として記入する。最大頭切日順
以下の流量は、表 2.13-3 流況表より平均値を転記する。
⑤ 縦列に、負荷率(=使用水量/最大使用水量)を計算して記入する。
⑥ 縦列に、⑤の負荷率を用いて合成効率を計算する。
⑦ 負荷率毎の発電出力P(=9.8×④使用水量×①有効落差×⑥合成効率)を計算する。
⑧ 計算段と直上段の発電出力の平均値を求める。
⑨ 計算日数間の発電電力量は⑧×③×24 で、その合計⑩が年間可能発電電力量となる。
表 2.13-5 概算法による年間可能発電電力量の計算要領
3
①最大使用水量:
②
m /s、有効落差:
③
日順
日数
④
使用水量
(m3/s)
m
⑤負荷率(%)
使 用 水 量
最大使用水量
⑥
合成効率
(%)
⑦
発電出力
(kW)
⑧
平均発電出力
(kW)
⑨
発電電力量
(kWh)
最大頭
切日順
95-
95
185
275
355
365
計
185-95
90
275-185
90
355-275
80
365-355
10
⑩
365
オ 需給バランスの検討
マイクロ水力発電においては、発生電力の供給と需要の組み合わせにより、過不足が小さく
なるよう、有効使用率の向上を図ることが望ましい。水力発電の規模は、需要と供給のバラン
スから検討し、導入効果の高いものを最適規模とする。
なお、単独系統においては、需要規模が供給を上回ることがないように設定する。一方、需
要施設の電力の一部を水力発電により供給する場合には、需給バランスの検討は不要である。
2‐85
(ア) 系統連系の場合
マイクロ水力発電においては、発生電
力の供給と需要の組み合わせにより、過
不足が小さくなるよう、有効使用率の向
上を図ることが望ましい。
電力会社から買電していた電力の全部
または一部を水力発電により賄い、電気
料金節減効果が大きくなるように、発電
規模を設定する。
図 2.13-6 需給バランスの検討例(系統連系)
(イ) 単独系統の場合
単独系統においては、電力系統からの
バックアップがないことから、常に発電
電力が需要を上回るように発電規模を設
定する。
発電出力が小さい場合には、需要側の
最大需要を発電出力以下にすることが可
能か検討する。
図 2.13-7 需給バランスの検討例(単独系統)
【需給バランスの設定方法の例】
需給バランスの設定は、月単位で年間を通じて行う。マッチング作業を通じて得られた結果か
ら、運転方式を選定し、最適発電規模の決定を行う。
① 選定した需要施設の優先順位を設定し、年間の需要電力量を想定する。
(供給電力にはL5出力1)、供給電力量には有効電力量を使用)
② 推定した供給規模のうちから1ケースを選定する。
③ 供給の年間変動パターンを基に、需要施設の中から優先順に供給不足にならないように需
要項目を順次選定する。1日24時間を需要項目の変動パターンに合わせて昼間と夜間に大
別し、それぞれの項目について負荷率を考慮しない需要値を設定する。
④ 年間を通じて需要が供給を上回る段階になれば、②の供給規模に対するマッチングを終了
し、他の供給規模を選定し、③と同じ作業を進め、順次ケーススタディを行う。
⑤ マッチングを複数ケース行った後、需要項目それぞれ固有の負荷率を基に使用電力量を
昼・夜間別に求め、これらを合計して年間使用電力量(D)を求める。
⑥ あらかじめ求めた供給規模別の年間発電電力量(S)と⑤の年間使用電力量から、有効使
用率(D/S)をケース毎に算定する。
⑦ 需要と供給の規模に大きな差があり、
有効使用率がどのケースとも極めて小さい場合には、
発電計画地点や需要施設規模及び電力量消費量の再検討を行い、妥当と思われる需給バラ
ンスが得られるまで、①~⑥の作業を繰返す。
1)
L5出力:当該発電所における10か年の流量資料を基に計算した、各月の最低5日平均日出力の平均値から、停止出力を差し引い
た出力(約95%)の年間平均値である。
2‐86
(4) 系統連系等の類型別の留意事項
ア 系統連系の有無により特に留意する事項
水車に関しては、系統連系の有無により、特に留意する事項はない。
表 2.13-6 系統連系の有無により特に留意する事項
項 目
系統連系有りの場合
系統連系なしの場合
発 電 機
なし
単独運転が可能な同期発電機とする
電気機器
系統連系技術要件ガイドラインに準拠し、系統連
なし
系を可能とするための要件を検討し、電圧変動、
短絡容量等の電力品質を確保するための装置を
必要に応じて設置する
送配電線
電力会社の系統電力と接続する配電線は、電力会
発電所と需要施設を接続する配電線は、架空
社が工事を行い、その費用を事業主体が負担する
または地中埋設により敷設する
イ 河川や水流等の発電方式別により特に留意する事項
発電機に関しては、河川や水流の種別により、特に留意する事項はない。
表 2.13-7 河川や水流等の発電方式別により特に留意する事項
項 目
水
車
電気機器
農業用水(余剰落差等利用タイ
河川・農業用水(導水タイプ)
農業用水(落差工部タイプ)
水中式発電機一体型水車以外
水中式発電機一体型水車や重
発電後に必要水圧を確保する
を流量・落差から選択する
力式水車を選択する
ため、反動水車を選択する
ヘッドタンクを設ける場合に
なし
なし
プ)・上下水道利用
は、水位計等の水槽水位を検出
するための装置を設置する
ウ 流量や落差により特に留意する事項
発電機、電気機器、送配電線に関しては、流量や落差の種別により、特に留意する事項はな
い。水車に関しては、流量と落差に応じて、水車型式を選択する。
2‐87
(5) 事業化評価に関する事項
【キャッシュフロー計算】
ア 市町村の場合
(年経費)
直接費
(キャッシュフローにおける維持管理費)
人 件 費
人 件 費
修 繕 費
修 繕 費
その他経費
間接費
その他経費
※項目の調整なし
一般管理費
一般管理費
収入相当額 = 発電所建設による電気料金効果額 - 年経費
(単位:千円)
発電所建設の収支計画
財源内訳
年度
建設費
の総額
①
一般財源内訳
市町村費
国
補助金額
②=①× %
起債
市町村費
③× %
③× %
実質一般
一般財源必要額
③=①× %
庫
建設時
起 債
の財源
償還額
④
⑤
計
交付税
実質一般
財源差額
算入額
財源差額
の累計
⑦
⑧=⑥-⑦
Σ⑧
⑥=④+⑤
1
2
3
4
5
・・・
建設費のうち、上段
は補助、下段は補助
対象外を記入
起債しない場合、
必要なし
起債しない場合、
必要なし
起債しない場合、交付税算
入がない場合、必要なし
発電所建設後の収支計画
発電所建設
年度
による電気
料金効果額
⑨
実質年間
維持管理費
年経費
⑩
収入相当額
同左の累計
総経費
⑪=⑨-⑩
Σ⑪
⑧-⑪
発電所建設
費回収年数
備 考
計算
Σ⑧-Σ⑪
建設期間
発電所運転開始後 経過年数
1
2
3
4
5
発電所総合耐用年数
・・・
維持管理費として
は年経費と同じ
収入相当額の累計が実質一般財
源差額の累計を上回った時点が
発電所建設費を回収した年
2‐88
発電所建設による電気料金効果
発電所を建設しない場合
発電所を建設した場合
(現状)
(自家発電により施設電力供給)
発電所建設による
購入電気料金
購入電気料金
売電料金
電気料金差額
A
B
C
D=C-B
電気料金効果
A+D
イ 市町村以外(団体等)の場合
(年経費)
(キャッシュフローにおける維持管理費)
減価償却費
資本費
金
直接費
利
固定資産税
固定資産税
人 件 費
人 件 費
修 繕 費
修 繕 費
その他経費
間接費
一般管理費
その他経費
※項目の調整が必要
一般管理費
収入相当額 = 発電所建設による電気料金効果額 - 年経費 + 減価償却費 + 金利
(単位:千円)
発電所建設の収支計画
財源内訳
年度
建設費
の総額
①
国
庫
団体費
補助金額
②=①× %
③=①× %
一般財源内訳
一般財源必要額
建設時
返済額
の財源
(金利込み)
④
⑤
1
2
3
4
5
・・・
建設費のうち、上段
は補助、下段は補助
対象外を記入
2‐89
実質一般
実質一般
財源差額の
計
財源差額
累計
⑥=④+⑤
⑦=⑥
Σ⑦
発電所建設後の収支計画
発電所建
維持管理費
設による
年度
電気料金
年経費
効果額
⑧
減 価
償却費
⑨
⑩
収 入
同左の
金利
相当額
累計
⑪
⑫=⑧-(⑨
-⑩-⑪)
Σ⑫
実質年間
総経費
⑦-⑫
発電所建設
費回収年数
備 考
計算
Σ⑦-Σ⑫
建設期間
発電所運転開始後
1
経過年数
2
3
4
5
発電所総合耐用年数
・・・
減価償却費は、実際は現金支出を
伴わないことからキャッシュフローには含
めないため、年経費として控除し
た分を加え直す
金利は発電所建設の収支計画のう
ち返済額(金利込み)に含まれてお
り、重複を避けるため、年経費と
して控除した分を加え直す
収入相当額の累計が実質一般財
源差額の累計を上回った時点が
発電所建設費を回収した年
発電所建設による電気料金効果
発電所を建設しない場合
発電所を建設した場合
(現状)
(自家発電により施設電力供給)
発電所建設による
購入電気料金
購入電気料金
売電料金
電気料金差額
A
B
C
D=C-B
電気料金効果
A+D
(6) 実施設計・工事費積算
ア 実施設計
導入検討段階の総合検討において、導入が決定した場合には、詳細検討として、発電計画の
最終確認、土木工事、建築工事及び電気機械工事に関する設計図面、構造計算等の設計図書を
作成する。また、工事発注のための資料として、工事仕様書の作成、工事費積算を行う。設計
項目は、表2.13-8に示すとおりである。
・設 計 図 面 :全体計画平面図(取水設備から放流設備まで)、縦断面図、取水設備・導水
路・水圧管路・発電所・放流設備等の構造図、発電所の電気設備図等
・水 理 計 算 :有効落差の算定(損失水頭計算等)等
・構 造 計 算 :各種工作物の基礎の安定計算、導水管・水圧管路の構造計算
・系統連系資料:系統連系申込書等(単線結線図、運転計画等)
・工 程 計 画 :着工から竣工までの工程計画
・工事費積算書:工事発注用の積算書
2‐90
イ 工事費積算
水力発電所の工事費は、一般的には表2.13-8に示す工事項目について、数量を算出し、工程
及び施工方法を考慮した単価を乗じて積算する。
積算は、工事の予定価格となることから、以下の積算基準に基づいて算出する。また、電気
設備等の製品については、見積により積算する。
【積算基準】
・土木工事積算基準(国土交通省)
・土地改良工事標準積算基準(農林水産省)
・公共建築工事積算基準(国土交通省大臣官房官庁営繕部監修)
表 2.13-8 水力発電所建設工事に関する工事項目
項
用
地
目
摘
土
地
無 形 固 定 資 産
要
立木伐採補償を含む
水利願出願費、漁業補償費、電話加入権等
公共補償(建設に伴う自治体への補償)、一般補償(関係者への実害補償)
建
物
主 要 建 物 工 事
発電所の建屋工事(発電機床より上部)
建物の付帯設備(換気、給排水等)
土
木
主 要 土 木 工 事
構造物別にそれを設置する土木工事費の計上(仮設備費含む)
取 水 口
スクリーン、ゲート等含む
沈 砂 池
スクリーン、ゲート等含む
導 水 路
グラウト工事、横坑閉塞工事含む
水
スクリーン、ゲート等含む
槽
水圧鉄管
地下埋設の場合はグラウト工事含む
余 水 路
発電所基礎
基礎杭、基礎グラウト等含む
発電所敷地造成
機 械 設 備
放 水 路
ゲート等含む、トンネルの場合はグラウト工事含む
放 水 口
角落し、ゲート等含む
そ の 他
残土処理のための土捨場工事、緑化対策費含む
水
車
発
電
機
主 要 変 圧 器
配電盤・開閉装置
諸 機 械 装 置
諸
設
備
機
械
基
礎
電
気
工
事
土 木 工 事 他
仮
設
備
仮
設
工
天井クレーン等
電気関係(通信、電灯、電力設備)
土木関係(専用道路・管理道路、橋梁等)その他雑設備
事
2‐91
14.参考資料 許認可窓口・関係機関
□水力発電調査関係機関
経済産業省 資源エネルギー庁 電力・ガス事業部 電力基盤整備課
〒100-8901 東京都千代田区霞ヶ関1-3-1
TEL:03-3501-1511(代表)
経済産業省 関東経済産業局 資源エネルギー環境部 電力事業課 電力技術室
〒330-9715 埼玉県さいたま市中央区新都心1-1 さいたま新都心合同庁舎1号館
TEL:048-601-1200(代表)
□電気事業法関係機関
経済産業省 原子力安全・保安院 電力安全課
〒100-8986 東京都千代田区霞ヶ関1-3-1
TEL:03-3501-1511(代表)
経済産業省 原子力安全・保安院 関東東北産業保安監督部 電力安全課
〒330-9715 埼玉県さいたま市中央区新都心1-1 さいたま新都心合同庁舎1号館
TEL:048-600-0385
□河川法関係機関
国土交通省 河川局 水政課
〒100-8918 東京都千代田区霞ヶ関2-1-3 中央合同庁舎第3号館 TEL:03-5253-8111(代表)
国土交通省 関東地方整備局 水政課
〒330-9724 埼玉県さいたま市中央区新都心2-1 さいたま新都心合同庁舎2号館
TEL:048-601-3151(代表)
国土交通省 関東地方整備局 高崎河川国道事務所 河川管理課
〒370-0841 群馬県高崎市栄町6-41 TEL:027-345-6000
国土交通省 関東地方整備局 利根川上流河川事務所 占用調整課
〒349-1198 埼玉県北葛飾郡栗橋町北2-19-1 TEL:0480-52-3960
国土交通省 関東地方整備局 渡良瀬川河川事務所 管理課
〒326-0822 栃木県足利市田中町661-3 TEL:0284-73-5557
2‐92
参考文献
・「小水力発電導入手引書」(平成19年3月) 財団法人広域関東圏産業活性化センター
・「ハイドロバレー計画ガイドブック」(平成17年3月) 経済産業省資源エネルギー庁
・「小水力発電事業化へのQ&A(改訂版)-クリーンエネルギーとしての検討-」(平成17年3月)
クリーンエネルギー普及検討会(社団法人農業土木機械化協会)
・「中小水力発電ガイドブック(新訂5版)」(平成16年5月) 財団法人新エネルギー財団
・「マイクロ水力発電導入ガイドブック」(平成15年3月) 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合
開発機構
2‐93
第3節 モデル地区におけるマイクロ水力発電の導入検討
マイクロ水力発電導入マニュアルに基づく具体的な導入検討例として、モデル地区での導入検討
を行い、課題を整理した。
1 農業用水利用
本モデル地区は、農業用水路の急流工を利用してマイクロ水力発電を設置し、発電した電気を水
路沿いの散策道の防犯灯に利用するとともに、水力発電による環境学習及び小学生等の農業用施設
に関する社会学習の場として利用することを想定して、検討したものである。
(1) マイクロ水力発電の導入地点
ここでは、農業用水路において、ある程度の落差と流量を有する地点をモデル地区として選
定し、マイクロ水力発電の導入について検討した。導入地点の概要は、下表のとおりである。
表3.1-1 マイクロ水力発電の導入地点の概要
項 目
① 落差
概 要
備 考
・総落差:6.4m
・農業用水路に設けられた急流工を利用
する
② 流量
・かんがい期(6/1~9/25)
3
・流量データは揃っておらず、かんがい
期及び非かんがい期の取水量が推計
:9.614m /s
・非かんがい期(9/26~5/31)
できるのみである
3
:2.44m /s
③ 需要施設との
関連
④ 周辺環境
・電力を必要とする土地改良施設は近
隣にはない
・本検討では、散策路への防犯灯設置を
想定し、余剰電力は売電する
・周辺は住宅地である
・水圧管路は散策道に埋設するレイアウ
・用水路の左岸は、散策道が整備され
トとなる
ている
⑤ 電力会社の送配
電線の状況
⑥ 用地条件
・マイクロ水力発電所設置予定地の近
隣に送配電線が配置されている
・用水路両岸は、土地改良区の管理用
地である
⑥ 法規制
・河川法
⑦ 開発計画
・現段階はない
・第23条「流水の占用許可」
2‐94
新設配電柱
既設配電柱
配電線
平面図
取水地点
約 10m
水圧管路
散策道
既設配電柱
発電所設置場所
階段
農業用水路
放水地点
流量
かんがい期 :9.614m3/s
非かんがい期:2.44m3/s
縦断図
総落差 6.4m
図 3.1-1 マイクロ水力発電所の設置場所
(2) 導入目的
本地点は、農業用水路沿いに散策道が整備され、小学生の社会学習のコースの一部となって
いる。このことから、新設するマイクロ水力発電施設については、環境学習の場として利用等、
住民への普及啓発に活用できるものとする。
水路沿いの散策道には街灯がないことから、発電した電力は住民が日常的に利用する散策道
の防犯灯の電力として利用する。また、流量及び落差の条件から、50kW以上の水力発電施設と
なることが想定されるが、周辺には電力の需要施設として考えられる土地改良施設や公共施設
等の需要施設がないことから、余剰電力は電力会社へ売電する。
2‐95
(3) 電力需要計画の策定
本地点では散策道への防犯灯設置を想定し、発電した電力は防犯灯の電源として利用すると
ともに、余剰電力については電力会社へ売電する。水力発電施設の点検等により稼動が停止す
る場合は、電力を電力会社から購入する。
本地点は民家が隣接しているため、防犯灯は高い位置から照らすタイプではなく、足元を照
らすタイプを想定する。設置区間は散策道の始点から終点までの約700mとし、散策道の片側に
設置間隔20m程度で設置すると想定した。
表3.1-2 防犯灯諸元
照明タイプ
LED照明
設置台数
35基
消費電力
約600W
点灯時間
18時~6時(12時間)
用水路
散策道
図 3.1-2 防犯灯設置イメージ
(4) 発電計画の策定
本発電所は、導入地点の急流工の落差及び流量を利用することにより発電を行うもので、農
業用水の取水計画に従属した水力発電所である。
ア 発電計画の諸元
本地点における発電計画諸元を以下に示す。
表3.1-3 発電計画諸元
項 目
諸 元
利用用水
農業用水利用
発電方式
流れ込み式
取水方式
水路式
取水口底高
126.82m
放水口底高
120.42m
総落差
6.4m
有効落差
5.1m
最大使用水量(m3/s)
2.44m3/s
導水管延長
取水口~水車:35m、水車~放水口:7m
最大出力
93kW
年間可能発電電力量
773,946kWh/年
利用率
95%
水車形式
横軸固定羽機プロペラ水車(インライン型)
発電機形式
誘導発電機
2‐96
イ 水圧管路のルート設定
急流工の上流で取水し、水圧管路を地下埋設し導水する。水圧管路のルートは農業用水路
沿いとし、散策道下で導水し、落差後に設置した発電施設で利用する。
図 3.1-3 水圧管路のルートイメージ
ウ 取水口地点流量
取水口地点における日流量データは計測していないため、既知の流量データから推測した。
土地改良区への聞き取り調査により、導入検討地点上流における取水状況を把握し、本地
点における流量を、かんがい期9.614m3/s、非かんがい期2.44m3/sとした。
※かんがい期:6月1日~9月25日、非かんがい期:9月26日~5月31日
A用水
か ん が い 期:0.7m3/s
非かんがい期:0.44m3/s
B用水
か ん が い 期:0.786m3/s
非かんがい期:0.22m3/s
かんがい期
:11.1m3/s
非かんがい期
:3.1m3/s
検討
地点
か ん が い 期:9.614m3/s
非かんがい期:2.44m3/s
図 3.1-4 概略用水系統図
2‐97
エ 最大使用水量の設定
かんがい期流量を採用した場合、出力及び年間発電電力量は非かんがい期流量を採用した
場合と比較して大きくなる。しかし、流量が大きいため水圧管路の口径がφ2300となり、本
地点では設置スペースの確保が困難である。
よって最大使用水量は、年間を通じて運転可能で安定的に電力を供給できる非かんがい期
流量の2.44m3/sを採用する。
表3.1-4 最大使用水量の検討
3
流量(m /s)
稼働日数(日)
9.614
117
①かんがい期
(32%)
内
容
・発電効率を考慮しない想定発電出力は481kW
で、②より大きい。
9.8×5.1×9.614=481kW
・年間発電電力量は93万kWhである。
481kW×117日×24hr=1,350,648kWh
・水圧管路の口径がφ2300※と大きくなり工事
費が嵩むとともに、設置スペースの確保が困
難である。
※許容流速2.5m/sの場合
②非かんがい期
2.44
365
(100%)
・発電効率を考慮しない想定発電出力は122kW
である 9.8×5.1×2.44=122kW
・年間発電電力量は約75万kWhである。
122kW×365日×24hr=1,068,720kWh
・水圧管路の口径はφ1200である。
・年間を通じて運転が可能であるため、安定的
に電力を供給できる。
オ 水圧管路
水圧管路の管種は、FRPM管とし、管径は許容流速2.5m/s※を超えないこととし、下
式よりφ1200とする。
D=2
Q
V⋅π
ここで、D:管径(m)
Q:流量(m3/s)
V:流速 2.5m/s(土地改良事業計画設計基準・設計「パイプライン」p.167より、自
然圧式管路の許容平均流速を参考に設定)
D=2×√(2.44÷(2.5×3.14))
=1.12(m) ⇒ φ1200
2‐98
カ 総落差及び有効落差
(ア) 総落差
総落差は、取入口水位-吐出口水位の差で求められる。
(127.33m-120.93m)
。
取水口水位及び吐出口水位の算出結果より、
総落差は6.4mとする
a 取水口水位
取水口には水槽を設け、一度貯水した水を水圧管路により導水するため、取水口水位は水
槽内の水位となる。水槽内の水位は、本線の等流水深と等しいものとし、非かんがい期流量
における、本線の等流水深より127.33mとする。
取水口水位=水路底高+等流水深=126.82+0.51=127.33m
5890
表 3.1-5 水理諸元
WL=127.33
1890
水深:0.51m
1:0
.5
項目
GL=126.82
4000
値
3
流量
2.44m /s
水路勾配
1/1,000
粗度係数
0.016
流速
1.13m/s
水深
0.51m
図 3.1-5 上流水路断面図
b 吐出口水位
吐出口水位は、急流工下流側の等流水深0.51mより120.93mとする。
吐出口水位=水路底高+等流水深
=120.42+0.51=120.93m
FRPMφ1200
WL=120.93
0.51m
GL=120.42
3950
3300
WL=120.93
FRPM
φ1200
GL=118.84
GL=118.84
0.3m
図 3.1-7 下流水路断面図
図 3.1-6 吐出口断面図
2‐99
(イ) 有効落差
有効落差は、総落差-損失落差で求められる。
損失落差は、水が流下する際に消耗する速度水頭、位置水頭、圧力水頭等の和を高さで表
したものであり、本地点では下記に示す損失落差を計上する。
損失落差は1.22mであることから、有効落差は5.1mとする。
有効落差=総落差-損失落差
=6.4m-1.22m
=5.18m ⇒ 5.1m
①除塵機
②取水口、沈砂池
水路流入・流出口
③水圧管路
⑥バルブ等
⑤放水路
④屈折
図 3.1-8 損失落差
表3.1-6 損失落差
項
目
①除塵機による損失
②取水口、沈砂池、水路流入口及び流出口
等の合計損失
③水圧管路の損失
④屈折による損失
損失落差
0.30
考
手掻き除塵
0.05
0.21
0.05
⑤放水路の損失
0.01
⑥その他、水車入口のバルブ等の損失
0.60
損失落差計
備
(m)
L/200=42/200=0.21
fbe(屈折損失係数)×V2/2g×2箇所
=0.1×2.162/(2×9.8)×2=0.05
L/1,000=8/1,000≒0.01
1.22
※除塵機による損失は、手掻き除塵機を想定(土地改良事業計画設計基準・設計「ポンプ場」p.277)、屈折による損失は、
損失係数0.1と想定し管内流速V=2.16m/sより算定(同基準p.103)
2‐100
キ 水車及び発電機の選定
(ア) 水車
有効落差h=5.1m及び最大使用水量Q=2.44m3/sであることから、水車選定図より横軸固
定羽機プロペラ水車または水中式発電機一体型水車の適用が可能である。
本地点では、少ない設置スペースで機器据付が可能となる「横軸固定羽機プロペラ水車(イ
ンライン型)」を選定する。
5.1
2.44
図 3.1-9 水車選定図
【横軸固定羽根機プロペラ水車(インライン型)】
■配管の途中に設置できるため、少ない設置スペースで据付が可能である。
■可動ガイドベーンなどの可動部を持たないため、消耗品が少なくメンテナンスが容易。
■運転効率が高く、発電機内蔵型のため騒音が低減される。
インライン水車
2‐101
(イ) 発電機
発電機形式は、同期発電機と比較して安価であり、安定した電力系統と接続することから
「誘導発電機」とする。
表3.1-7 発電機の概要
発電機内容
発電機種類
備 考
誘導発電機
電圧(Ⅴ)
50Hz
440,220
回転速度(r/min)
1,000
極数
6極
ク 発電出力及び需給バランスの検討
(ア) 発電出力
算定条件を下記のとおりとした場合、発電出力は下式より93kWとなる。
【算定条件】
・年間を通じて確保できる有効落差は5.1mとする。
・最大使用水量は、非かんがい期流量とし2.44m3/sとする。
・水車効率は、83.9%(最高効率)と想定する(メーカー聞き取り)。
・発電機効率は、90.5%と想定する(メーカー聞き取り)。
【発電出力】
発電出力=9.8×有効落差×最大使用水量×水車効率×発電機効率
=9.8×5.1×2.44×0.839×0.905≒93kW
(イ) 発電電力量
年間発電電力量は、下式より約76万kWhである。
年間発電電力量=発電出力×8,760hr×利用率(0.95)
=93×8,760×0.95=773,946kWh
(ウ) 需給バランス
発電電力は、防犯灯35基(600W)への利用の他は、全て電力会社に売電する。
(kW)
発電電力量:2,120kWh/日(93kW×24hr×0.95)
91.0
余剰電力として売電:2,113kWh/日
(2,120kWh/日-7.2kWh/日)
自家消費:7.2kWh/日(0.6kW×12hr)
0.6
0時
6時
12 時
時間
図 3.1-10 需給バランス
2‐102
18 時
24 時
ケ 系統連系の選択(系統連系の有無)
本地点は、需要施設として街路灯を想定するが、余剰電力量が多く、また道路沿いに高圧
電線が配線されていることから、系統連系(高圧連系・逆潮流あり)により、発電した電力
を電力会社に売電する。
電力会社との系統連系協議に必要な資料は現地状況等により異なるが、発電計画、主要設
備の構造、図面を作成し、事前協議を行う必要がある。
表3.1-8 協議内容
協議
事前系統連系協議
協議内容
・系統連系を行う発電設備に関する協議
・系統連系に必要な計器関連の工事費負担に関する協議
・電力会社の設備対策に関する検討
系統連系協議
・事前系統連系協議結果の確認
・電力会社の設備対策に関する検討結果の確認
・運用申合書締結のための検討
・系統連系の承諾のための検討等
※本地点における系統連系協議に必要と考えられる主な資料
高圧配電線への連系協議依頼票、高調波発生機器からの高調波流出電流計算書、発電設備の運転計画及び
負荷曲線、単線結線図(保護継電器、計器変成器、遮断器等の受電設備構成)、系統連系用保護装置の仕
様、付属機器の仕様、連絡体制、試験成績書
(5) 主要設備の概略設計
本地点は、上流側にゲートを設け取水設備に貯水し、水圧鉄管によって導水した水で発電を
行うものである。
主要設備の仕様は表3.1-9、概略図は図3.1-11のとおりである。
表3.1-9 主要設備の仕様
種 別
項 目
仕
取水設備
取水ゲート
B5000×H1500
除塵機
B2000(目幅30mm程度)
導水設備
取水ボックス
沈砂池
W3000×B3000×H4500
貯水池
W3000×B5000×H4500
水圧鉄管
様
FRPMφ1200(水車周辺は鋼管)
L=42m(うち、鋼管7m)
発電所
水車
横軸固定羽機プロペラ水車
有効落差:5.1m
使用流量:2.44m3/s
定格出力:93kW
ランナー径:φ760
発電機仕様
誘導発電機
発電機ボックス
鉄筋コンクリート造
W3000×B12000×H4500
付属機器
制御盤、保護継電器盤、主回路盤、所内盤、
水位計
2‐103
2‐104
図 3.1-11 主要構造物概略図
(6) 概算工事費
ア 水力発電設備
水力発電設備導入に係る建設工事費は下表のとおり、120,880千円と想定される。
表3.1-10 建設工事費
項
目
単位
金額(千円)
①
調査・設計費(②~⑨の計の5%)
1式
5,800
②
水車
1台
30,000
③
発電機
1台
2,000
④
付帯設備(弁、配管等)
1式
23,500
⑤
電気設備(連系等)
1面
8,000
⑥
据付工事(水車関連)
1式
5,000
⑦
配電線架線費[10m×8千円/m]
1式
80
⑧
土木工事(取入水槽、水圧鉄管、水車ピット、仮設
水路等)
1式
36,500
⑨
設備工事(ゲート、スクリーン)
1式
10,000
合 計
120,880
※建設工事費は、メーカー聞き取り
イ その他
防犯灯は、材料工事共で6万円/基とする(メーカー聞き取り)。
(7) 事業化評価
ア 二酸化炭素削減効果
マイクロ水力発電の導入により、430t-CO2/年の二酸化炭素削減効果が得られる。
二酸化炭素削減量=発電電力量×電力量あたり二酸化炭素削減量
=773,946kWh/年×0.000555t-CO2/kWh
=430t-CO2/年
イ 環境学習機会提供効果
マイクロ水力発電の導入地点の農業用水路沿いは、小学生の社会学習に利用されているこ
とから、マイクロ水力発電の導入により、今後は農業用水路の役割や歴史とともに、自然エ
ネルギーの利用を間近で体感できる。
このことから、マイクロ水力発電は、環境学習機会を提供することとなり、小学生だけで
なく住民の環境保全意識を醸成する効果があるものと考えられる。
ウ 観光等地域振興効果
マイクロ水力発電施設の導入は、環境にやさしい取り組みとして県内外にPRでき、視察
や観光客等の来訪者増加による地域振興効果が大きいと考えられる。
2‐105
エ 経済性評価
(ア) 算出条件
a 事業実施主体
事業実施主体及び管理運営主体は、地方公共団体を想定する。
b 初期投資
初期投資額は、調査・設計費及び施設、設備にかかる建設工事費を計上する。
助成制度(補助金)は、「地域新エネルギー等導入促進事業(経済産業省)」の補助金(補
助率:事業費の50%)の活用を想定する。
c 収入
発電電力は防犯灯へ利用し、余剰電力は電力会社に売電する。
売電価格はマイクロ水力発電設備を導入する事業者と電力会社との協議により決定される
が、
本地点では設置するマイクロ水力発電設備がRPS法に係る設備認定を受けるものとし、
「新エネルギー等に係る付加価値(環境価値)」と「電気そのものの価値」を合わせた7.2
円/kWh※1と仮定する。防犯灯の自家消費電力料金は、買電従量料金を12.42円/kWh※2とする
※1:資源エネルギー庁の「RPS法下における新エネルギー等電気等に係る取引価格調査結果について」
より、平成19年度に電気事業者が購入した水力発電からの電力(RPS相当量+電気)の加重平均価格
※2:東京電力低圧電力量単価(夏季13.2円/kWh、その他12.16円/kWh)の加重平均
d 支出
・人件費は、地方公共団体職員を想定し計上しない。
・借入金の利子率は2%、設備の耐用年数は20年※とする。
※減価償却資産の耐用年数等に関する省令(別表第二 機械及び装置の耐用年数)
・保守点検・維持管理費は、水力発電設備の耐用年数20年間に発生する分解点検、オーバ
ーホール等の経費を計上する。
・諸経費は、水利使用料、委託費、補償費、その他費用を計上する。
(イ) 保守点検・維持管理費
マイクロ水力発電設備の耐用年数20年間の保守点検・維持管理費は、下表のとおり26,000
千円を想定する。
表3.1-11 保守点検・維持管理費
項 目
分解点検
内 容
部品交換
試運転・調整
部品交換
試運転・調整
普通点検
オーバーホール
単独運転検出装置
金 額(千円)
13,800
4,600
4,000
精密点検
合
3,600
計
26,000
※導入事例より同規模水車にかかる保守点検・維持管理費を計上
2‐106
備 考
3年に1回
=2,300千円×6回
10年に1回
=4,600千円×1回
3年に1回
=1,000千円×4回
6年に1回
=1,200千円×3回
(ウ) 経済性評価
経済性評価は、建設工事費回収年及び合成発電収支により行う。
a 建設工事費回収年
建設工事費回収年は、収支の累計額が初期投資額(建設工事費)を上回るのに要する年
数とする。モデル地区における年間収支は下表のとおり24万5千円のプラスである。収支
はプラスであるが、20年間では初期投資額を回収できない。
表3.1-12 マイクロ水力発電導入による年間収支
項 目
細 目
金 額
初期投資
①建設工事費
収
②自家消費電力料金
33千円/年
③余剰電力売電料金
5,553千円/年
④小計(=②+③)
5,586千円/年
支
入
出
⑤人件費
0千円/年
⑥借入金返済額
3,699千円/年
⑦保守点検
維持管理費
1,300千円/年
⑧諸経費等
⑨小計(=⑤+⑥+⑦+⑧)
収
支
60,480千円
⑩収入-支出
342千円/年
算出式・算出条件
=(120,880-80)千円×1/2+80千円
※1/2補助あり、配電線架線費は補助対象外
=2,628kWh/年×12.42円/kWh
=(773,946kWh/年-2,628kWh/年)×7.2円/kWh
地方公共団体職員を想定して計上しない
=①×0.02/(1-(1/(1+0.02)20))
利子率2%、返済期間20年
=26,000千円÷20年
耐用年数(20年)で均等割
水利使用料、固定資産税、委託費、補償費、そ
の他費用
5,341千円/年
245千円/年
※水力発電設備のみの建設工事費回収年数を検討するため、防犯灯の導入費は計上していない
□水利使用料
水利使用料は以下の算式により196千円/年である。
水利使用料=1,976円/kW×理論常時水力+436円×(理論最大水力-理論常時水力)
=1,976円/kW×122kW+436円×(122kW-122kW)
=241,072円/年
※算定式は、「中小水力発電ガイドブック(新エネルギー財団)p322」より
理論最大水力及び理論常時水力は、9.8×流量(2.44m3/s)×有効落差(5.1m)より、いずれも122kW
□固定資産税
事業主体が地方公共団体であるため計上しない。
□その他経費
その他経費の主なものは、委託費、固定資産除去費、補償費、その他費用で、以下の算式
により算出する。毎年のその他経費は、20年間の均等割分とし101千円/年とした。
初年度:建設費×0.0015
2年目以降:建設費×0.0015×(1+a)n
a:物価上昇率(1%とした)
n:経過年数
※算定式は、「キャッシュフローによる水力の経済性評価(新エネルギー財団)」より
2‐107
b 合成発電収支
合成発電収支は、「発電所建設による電気料金効果金額」を「年間発電電力量」で割っ
た値から「発電原価」を引いたものである。ここで、「発電所建設による電気料金効果金
額」は、需要施設の電力需要をすべて電力会社からの買電で賄った場合に電力会社に支払
う電気料金(収入)に、余剰電力を電力会社に売電した収入を加えたものから、バックア
ップ用年経費(支出)を引いた収支である。
モデル地区における合成発電収支は0.12円/kWhであり、マイナスではないが建設工事費
は回収できない。
表3.1-13 合成発電収支の算出
項 目
項 目
3
最大使用水量
m /s
最大出力
電力量(a)
発電経費(b)
kW
売電考慮時の収入(d)
経済性評価
有効使用率
数 値
2.44
93
①供給電力量(年間発電電力量)
kWh/年
773,946
②需用電力量
kWh/年
2,628
③余剰電力[=①-②]
kWh/年
771,318
④買電電力量(停止時)[=②×0.05]
kWh/年
131
⑤買電電力量(不足時)
kWh/年
0
⑥工事費
千円
60,400
⑦送電費
千円
80
⑧工事費の計[=⑥+⑦]
千円
60,480
⑨経費率
バックアップ経費(c)
単 位
%
-
⑩年経費[積み上げにより算出]
千円/年
5,538
⑪基本料金
千円/年
13
⑫契約月数
月
12
⑬電力量料金
千円/年
2
⑭バックアップ年経費[=⑪+⑬]
千円/年
15
⑮売電単価
円/kWh
7.2
⑯売電収入[=③×⑮]
千円/年
5,553
⑰発電所建設による電気料金効果(e)
千円/年
5,584
⑱建設単価(受電端単価)[=⑧÷①]
円/kWh
78.1
⑲発電原価[=⑩÷①]
円/kWh
7.16
⑳合成発電原価[=(⑩+⑭)÷②]
円/kWh
2,113
21 合成発電原価(売電考慮)[=(⑩+⑭-⑯)÷②]
○
円/kWh
0.00
22 合成発電収支[=(⑰÷①)-⑲]
○
円/kWh
0.05
%
0.34%
23 有効使用率[=②÷①]
○
2‐108
(a) 電力量
電力量の算出根拠は、下表のとおりである。
表3.1-14 電力量の算出
項 目
年間自家発有効電力量
需要施設年間消費電力量
自家発電消費電力量
購入電力量
余剰電力量
売電電力量
単 位
kWh/年
kWh/年
kWh/年
kWh/年
kWh/年
kWh/年
数 値
773,946
2,628
2,628
0
771,318
771,318
備 考
=93kW×24hr×365日×0.95(利用率)
=0.6kW×24hr×365日
発電電力で全て賄う
=(773,946-2,628)kWh/年
余剰電力は全て売電
(b) 発電経費
発電経費の算出根拠は、下表のとおりである。
表3.1-15 発電経費の算出
項 目
資本費
直接費
間接費
単 位
数 値
備 考
減価償却費
千円/年
0
借入金返済額
千円/年
3,699
実施主体が地方公共団体のため計上しない
=60,480千円×0.02/(1-(1/(1+0.02)20))
利子率2%、返済期間20年
固定資産税
千円/年
0
実施主体が地方公共団体のため計上しない
人件費
千円/年
0
修繕費
千円/年
1,300
地方公共団体職員を想定して計上しない
=26,000千円÷20年
耐用年数(20年)で均等割
その他経費
千円/年
342
一般管理費
千円/年
197
千円/年
5,538
合 計
水利使用料、委託費、補償費、その他費用
固定資産税、人件費、修繕費、その他経費の
合計の12%
※建設工事費は、表3.1-12より60,480千円となる。
(c) バックアップ経費
バックアップ経費の算出根拠は、下表のとおりである。
表3.1-16 バックアップ経費の算出
項 目
基本料金
電力量料金
単 位
数 値
備 考
最大契約電力
kW
1
契約月数
月
12
業務用単価
円/kWh
1,071
金額
千円/年
13
購入電力量
kWh/年
131
電気料金
円/kWh
12.42
金額
千円/年
2
千円/年
15
購入電気料金
2‐109
防犯灯の電力0.6kWより、契約電力は1kW
東京電力「低圧電力」料金単価より
=1,071円/kWh×12ヶ月÷1,000
マイクロ水力発電所が停止したときに不足す
る電力量
東京電力「低圧電力」料金単価より(夏季13.2
円/kWh、その他季12.16円/kWhの加重平均)
=2,628円/kWh×0.05×12.42円/kWh÷1,000
=(13+2)千円/年
(d) 売電考慮時の収入
売電考慮時の収入の算出根拠は、下表のとおりである。
表3.1-17 売電考慮時の収入の算出
項 目
単 位
数 値
備 考
売電電力量
kWh/年
771,318
売電単価
円/kWh
7.2
売電収入
千円/年
5,553
=771,318kWh/年×7.2円/kWh÷1,000
(e) 発電所建設による電気料金効果額
発電所建設による電気料金効果額の算出根拠は、下表のとおりである。
表3.1-18 発電所建設による電気料金効果額の算出
項 目
単 位
数 値
備 考
発電所を建設しない場合
施設年間支払電気料金
千円/年
46
マイクロ水力発電所がない場合の購入電気料
購入電気料金
千円/年
15
マイクロ水力発電所がある場合の購入電気料
売電収入
千円/年
5,553
余剰電力の売電分
千円/年
5,538
売電収入-購入電気料金
千円/年
5,584
=(46+5,538)千円/年
発電所を建設した場合
電気料金差額
発電所建設による電気料金
効果額
(f) 発電所を建設しない場合の施設年間支払電気料金
発電所を建設しない場合の施設年間支払電気料金の算出根拠は、下表のとおりである。
表3.1-19 発電所を建設しない場合の施設年間支払電気料金の算出
項 目
基本料金
電力量料金
単 位
数 値
備 考
最大契約電力
kW
1
契約月数
月
12
防犯灯の電力0.6kWより、契約電力は1kW
業務用単価
円/kWh
1,071
金額
千円/年
13
購入電力量
kWh/年
2,628
電気料金
円/kWh
12.42
金額
千円/年
33
=2,628円/kWh×12.42円/kWh÷1,000
千円/年
46
=(13+33)千円/年
購入電気料金
2‐110
東京電力「低圧電力」料金単価より
=1,071円/kWh×12ヶ月÷1,000
マイクロ水力発電所がない場合に購入する必
要がある電力量
東京電力「低圧電力」料金単価より(夏季13.2
円/kWh、その他季12.16円/kWhの加重平均)
(7) 事業化に向けての課題
ア 用地の確保及び周辺住民の理解と協力
本地点は、民家が隣接しているため、水力発電所の配置計画の際には、用地界に留意した
施工が必要であるとともに、工事中には騒音・振動等が考えられるため、周辺住民の理解及
び協力を得る必要がある。また、本検討では、需要施設として散策道への防犯灯導入を想定
したが、導入にあたっては、地元の要望を聞き取り、他の需要施設への利用の可能性を検討
する必要がある。
イ 最適取水量の検討
本地点では、流量観測データがないため、非かんがい期の流量を最大使用水量として検討
を行った。しかし、事業化にあたっては、発電電力量あたりの建設費が最小となる最適取水
量を決定した上で詳細設計を行い、経済性を確保する必要がある。
ウ 経済性の確保
マイクロ水力発電導入の経済性は、合成発電収支がマイナスでないものの、建設工事費の
回収はできない。本地点では、土木工事費が3割近くを占めるため、経済性をさらに向上さ
せるためには、最大使用水量の低減による水圧管路の小口径化やレイアウトの再考による他
設置案の検討を行う必要がある。
エ レイアウトの検討
取水場所、水圧管路のルート、水力発電施設の設置場所は、現地の条件により数案考えら
れることがある。
本地点では、水圧鉄管を散策道に埋設し導水する案としたが、地形条件等によっては、他
の工法または他の設置案を検討する。
表3.1-20 他の設置案の例
設置案
プールタイプ
内 容
・プールを設け、貯水した水の落差を利用して発電する。
・余剰水は越流する構造であるため、落水による騒音が生じる可能性がある。
・用水路の本線上にプールを設けるため、工事中の仮廻し方法を検討する必要がある。
用水路下埋設
・農業用水路から取水した後、導水管を用水路の下に埋設し、導水するレイアウト。
タイプ
・既設用水路の取壊し、再設置が必要となる。
・擁壁が隣接するため、工事中の安定を確保する必要がある。
・工事中の仮廻し方法を検討する必要がある。
マイクロ水車
タイプ
・「2 河川水利用」で検討した「小型水力発電」を実験的に導入し、まずは住民への普及
啓発を図る。
2‐111
図 3.1-12 プールタイプ案
オ 水利使用許可申請
本モデル地区は、農業用水路の落差を利用した発電であり、水利使用許可申請を行う必要
がある。また、土地改良区以外が農業用水路を水力発電に利用する場合には、土地改良区に
施設使用料を支払う必要があるため、協議を行う必要がある。
※国庫補助で整備された農業用水路を水力発電に利用する場合には、発電事業者(土地改良区含む)が国
に他目的使用料を支払う。
カ 電気事業法に関する対応
本モデル地区は、出力10kW以上であることから、電気事業法では事業用電気工作物に区分
され、以下の事項を遵守する必要がある。
・電気用電気工作物の維持:技術基準に適合するよう、電気工作物の正常な状態の維持
・保安規程:保安規程の作成・届出
・主任技術者:水力発電設備の工事、維持及び運用に関する保安監督の主任技術者の選任
(保安協会等の指定法人へ委託契約し、主任技術者の不選任承認申請の承認
を受けた場合は、選任しなくてよい)
・工事計画の事前届出:水力発電設備設置の工事計画の届出
キ 電力会社協議
本モデル地区は、系統連系により発電した電力を売電することから、電力会社との系統連
系及び売電に関する協議、契約締結を行う必要があり、系統連系協議、売電協議等にかかる
日程を十分に確保する必要がある。
ク 普及啓発
住民への普及啓発を図るため、積極的にPRし、来訪者を誘客するとともに、環境学習の
場として施設を利用することを検討する。
・発電電力の表示盤の設置
・普及啓発用の案内板の設置
・発電所近隣での電力需要施設の確保
2‐112
2 河川水利用
本モデル地区は、河川の急流工を利用してマイクロ水力発電を設置し、発電した電気を河川沿い
におけるイルミネーションや普及啓発用案内板等に利用するとともに、水力発電による環境学習の
場として利用することを想定して、
検討したものである。
急流工の落差は0.85mと小さいことから、
水車は汎用タイプではなく、研究開発中の小型水力発電としている。
(1) マイクロ水力発電の導入地点
ここでは、河川において、ある程度の落差と流量を有する地点をモデル地区として選定し、
マイクロ水力発電の導入について検討した。導入地点の概要は、下表のとおりである。
表3.2-1 マイクロ水力発電の導入地点の概要
項 目
概 要
① 落差
備 考
・総落差:0.85m
・急流工
・現在汎用化されている水車が必要と
する落差2.0mを確保できない。
3
② 流量
・流量観測データより
・最小流量:0m /s
3
・概ね6月14日~9月25日に10m3/s
・最大流量:15.5m /s
以上取水
③ 需要施設との関連
・イルミネーション用電灯の電源
・非常用電源
④ 周辺環境
・河川沿いに散策道、植栽帯が整備されて
おり、公共施設及び宅地が隣接している
⑤ 電力会社の送配電
・道路沿いに送配電線が整備されている
・本検討では系統連系は行わない
線の状況
⑥ 用地条件
・地方公共団体の管理用地である(公有地)
⑦ 法規制
・河川法
⑧ 開発計画
・現段階はない
・第23条「流水の占用許可」
※流量観測データは、土地改良区より入手
平面図
水車設置場所
道路
散策道
河川
急流工
散策道
植栽帯
縦断図
総落差 85cm
図 3.2-1 マイクロ水力発電所の設置場所
2‐113
(2) 導入目的
導入地点は、「ある程度の落差が確保できない」、「水車の設置スペースが確保できない」
ことから、既存水車の導入が困難であると考えられる。しかし、本河川沿いには散策道がある
ことから来訪者も多く、本地点へ水力発電を導入することは、地球温暖化防止等の環境保全に
関する意識の醸成効果が得られると考えられる。このため、最近開発が進んでいる低落差・低
流速に対応したマイクロ水力発電施設の実験的導入を検討する。
本地点では、実証試験として発電状況等のデータ収集を行い、今後のマイクロ水力導入にあ
たっての基礎資料とするとともに、住民への普及啓発を主目的とし、発電した電力は観光等の
地域振興につながる利用及び環境学習等へ利用する。また、バッテリーを併設し、災害時等の
非常用電源としても利用する。
(3) 電力需要計画の策定
発電した電力は、イベント等のイルミネーション用電源及び普及啓発用の案内板等の電源と
して利用する。また、イベントを実施しない時期や昼間の電力需要がない時は、電気をバッテ
リーに充電し、災害時等の非常用電源として確保する。
表3.2-2 需要施設
需要施設
①イルミネーション用の電源
・イルミネーション用電源として利用
②普及啓発用案内板の電源
・普及啓発用に設置する案内板の電源として利用
③非常用電源
・バッテリーに蓄電した電気を非常用電源として利用
ア イルミネーション
市販のLEDランプは、180球で消費電力12Wであり、本地点で想定される発電量を200Wとした
場合、約3,000球のLEDライトが導入可能であると考えられる。
イ 普及啓発用案内板
子供達や住民、来訪者に対する普及啓発を図るた
めに、案内板や電力表示板等を設置し、これらに必
要な電力は、水力発電により発電した電力を利用す
る。
ウ 非常用電源
昼間に発電した電力については、バッテリーへ蓄電し非常用電源として利用する。
発電出力200W、バッテリー電圧12V、バッテリー充電時の損失を考慮しない場合、24時間で
約400Ahの充電が可能である。
電力量=200W×24hr÷12V
=400Ah
2‐114
(4) 発電計画の策定
本発電所は、河川の急流工の落差及び流量を利用することにより発電を行うものである。
ア 水車設置位置
本地点では、散策道に水車設置スペースを確保することは困難である。また、河川内に分
水路を設け、開放型水車を設置することも困難である。よって、水路護岸に支柱を設置し、
空中から河川内に水車を吊り下げる形式とする。
イ 流量及び水車設置高さ
本河川の流量観測データは、定期的に記録されておらず、観測日数も年間に50~60日程度
であるが、概ね6月中旬(14日頃)~9月下旬(25日頃)の10m3/s以上とそれ以外の時期
の10m3/s以下に分けられる。
本地点で検討する水車は、水車位置を固定するため、流量及び水位変動への対応が困難で
ある。よって、6月中旬(14日頃)~9月下旬(25日頃)とそれ以外の時期に分けて設置高
さを調節し、最大出力が得られるよう設置高さを検討する。
表3.2-3 河川流量データ
資料:土地改良区
2‐115
ウ 水車の選定
本地点における落差は85cmと低落差であるため、信州大学で研究開発中の「小型水力発電」
の導入を想定する。
信州大学では、導水管等の付帯設備を必要としない小型水力発電システムの開発に取り組
んでおり、現在は河川に水没させ利用するタイプや急峻河川用、滝用などの試作機により実
証試験を実施している。
本地点は、急流工への設置であり、急峻河川用水車に分類される。
都留市家中川(谷村工業高校脇)
小型水力発電イメージ図
表3.2-4 小型水力発電設置事例
設置場所
長野県須坂市
河川名
北の沢
水車形式
滝用水車
用水路
諸元等
流量:0.1m3/s
水車の大きさ
直径×幅
需要施設
40cm×50cm
獣害防止電気柵
50cm×100cm
ルビー結晶育成、
落差:1.2m
(水車まで90cm)
出力:100W
長野県小諸市
松井川
滝用水車
流量:0.1m3/s
落差:1.0m
LED照明
出力:120W
山梨県都留市
家中川
急峻河川用水車
流速:3.0m/s程度
40cm×70cm
出力:250W
屋根散水、照明、
ルビー結晶育成
サボニウス水車
出力:40W
20cm×50cm
研究
サボニウス水車
出力:100W
36cm×80cm
研究、照明
下掛け水車
出力:100W
100cm×75cm
研究、照明
2‐116
【汎用タイプの水車導入について】
対象河川は、平坦地を流下するなか、落差約85cmの急流工があるが、下記の理由より現在汎
用化されている水車の導入は困難である。
□落差の確保
本地点の急流工は、落差85cm程度であり、現在汎用化されている水車で必要とされる落差
2m以上の確保は困難である。また、急流工の上流で取水し、2mの落差を確保できる地点
まで導水路を設置することも考えられるが、河床勾配が1/300であるため、急流工の落差を
利用した場合でも導水路延長が必要となり、損失落差を考慮した場合、さらに導水管路の延
長が長くなり工事費が大きくなる。
□水車設置スペースの確保
本河川の両岸には、
幅2~3mの散策道が整備され、
隣接する植栽帯を挟んで車道が通り、
車道沿いには宅地が隣接するため、
両岸ともに水車を設置するスペースの確保が困難である。
エ 導入イメージ
本地点における導入イメージは、以下のとおりである。
400
700
図 3.2-2 設置イメージ
オ 系統連系の選択
本地点におけるマイクロ水力発電は実験的導入を想定しており、安定した電力供給が見込め
ない。このため、イベント等への利用など一時的な電力利用を想定し、電力会社との系統連系
は行わず単独系統とする。
カ 発電量
本地点で想定している水車は、信州大学で実証試験中であり、流量や落差等の諸元から発電
量を算定する手法が確立されていない。本地点では、山梨県都留市家中川に設置されている急
峻河川用水車と同様の水車の導入を想定しており、信州大学への聞取りより、常時200W程度の
出力が見込めると考えられる。
2‐117
(5) 概算工事費
マイクロ水力発電の概算工事費は、520万円である。
表3.2-5 概算工事費
項
目
金 額(千円)
機械設備
水車+発電機
1,000
土木工事
仮設、基礎、鋼材等
3,000
その他
普及啓発案内板等
1,000
バッテリー
200
合 計
5,200
(6) 事業実施主体
事業実施主体及び管理運営主体は、地方公共団体またはNPOを想定する。
(7) 維持管理
水車にごみが絡まった場合は撤去のために水車を引き上げる必要がある。また、ごみの衝突
によって軸受けを交換した事例があるため、ごみの流入が課題である。ただし、枯葉等の流入
による影響はほとんどない。
(8) 導入にあたっての課題
ア 水車設置方法
水車の設置は、片持ち梁に固定する形式を想定しているが、水車が受水する際に流水方向
へ力が働くため、構造計算により基礎、梁等の形状を決定する必要がある。また、これまで
実験されてきた水車は橋梁等へ固定する方式であるが、本地点は流量の変化が大きいため、
流量変化にある程度対応できるように、可動式の設置方法も検討する必要がある。
イ 景観との調和への配慮
マイクロ水力発電を導入する場合、水車の設置場所や規模によっては、景観を損ねる場合
もあるため、地域住民の意見等を踏まえ、周辺景観との調和に配慮したマイクロ水力発電の
導入を検討する必要がある。
ウ 地方公共団体の協力
河川管理者である地方公共団体の協力を得て、手続きの簡素化やマニュアル化などの事例
をつくり、今後のマイクロ水力発電導入促進の基礎資料とする。
2‐118
エ その他の需要施設の確保
イルミネーションの点灯を期間限定とする場合、または水車を増設する場合は、地域振興
につながる他の需要施設の確保を検討する。
表3.2-6 その他の需要施設案
需要施設
内 容
防犯用カメラ
・安全確保のための防犯用カメラの設置を検討し、これらの電源とする。
電気自転車の充電
・群馬県一世帯当たりの自動車保有台数は全国2位と多く、運輸に係るエネルギー
消費量も県全体の25%を占めている(群馬県地域新エネルギービジョン)。
・交通手段の転換により、県内の消費エネルギー削減が考えられ、その一つとして
電気自転車の導入促進が考えられる。
・電気自転車の屋外充電拠点の設置を検討し、この電源として水力発電施設により
発電した電力を利用することが考えられる。
散水装置
・地方公共団体のPRを目的とし、散策道への「水遣り」などを検討し、この散水
装置の動力源として利用する。
2‐119
第4節 マイクロ水力発電の導入目標
1 県内のマイクロ水力発電の導入状況
県内におけるマイクロ水力発電の導入は、実証試験を含めて7箇所である。
表4.1-1 県内のマイクロ水力発電所
発電所
沼田市浄水場
所在地
沼田市下久屋町
運転開始
年月
S62. 3
事業主体
沼田市
最大出力 有効落差
最大使用水量
(kW)
(m)
(m3/s)
35
46.2
0.14
発電所
備 考
上水道利用
横軸クロスフロー水車
中之条ダム発電所
中之条町大字
H10. 7
群馬県
51
27.8
0.26
ダム式
H16. 4
桐生市
22
67.7
0.0456
砂防ダム利用
折田
利平茶屋小水力
桐生市黒保根町
発電所
利平茶屋公園内
狩宿第二発電所
長野原町大字
温川発電所
東吾妻町厚田
ペルトン水車
(旧黒保根村)
H16. 6
群馬県
61
7.6
1.03
狩宿発電所導水路途
H17. 1
民間会社
37
4.5
1.1
既設厚田発電所の放
大桑字狩宿
中の落差工利用
水路利用
若田発電所
高崎市若田町
H19.11
民間会社
78
20.0
0.516
若田浄水場内
まるへい水力発電
下仁田町
所
大字下仁田
河川水利用(浄水前)
クロスフロー水車
H20. 9
民間会社
24
6.6
0.557
河川水利用
クロスフロー水車
2 導入目標
群馬県では、明治27年(1894)に、全国で5番目に水力発電が導入されて以来、地形条件を活かし
て多くの水力発電所が設置されている。
県内では、出力100kW以下のマイクロ水力発電が、最近5か年で5箇所に導入されている。
このような背景をふまえ、平成25年度までの5年間に、実証試験を含めて、出力100kW以下のマイ
クロ水力発電を今後10箇所に導入することを目標とする。
3 導入推進方策
マイクロ水力発電導入の推進方策には、以下のものが考えられる。
① 地方公共団体・土地改良区・事業者等への情報提供
マイクロ水力発電の事業主体として考えられる、地方公共団体、土地改良区、事業者等に対
2‐120
して、導入条件、導入方法、助成制度等に関する情報提供を推進する。
また、小中学生等を含む住民が、水力発電所を環境学習の場として利用することを推進し、
水力発電・新エネルギー等の重要性や環境保全の意識醸成を図り、水力発電導入に対する理解
を高める。
② 住民参加型水力発電の導入推進
事業主体が地方公共団体やNPO法人等の場合においては、住民参加型(寄付、企業支援、
公募債等)の導入方法の検討を推進する。
【合資会社嵐山保勝会水力発電所:住民・企業の寄付】
一級河川桂川に、住民・企業の寄付等の協力により設置した水力発電所
発電した電気は、渡月橋の照明に利用
【駒沢・川上ミニ水力発電所:NPO地域づくり工房】
農業用水路を利用した市民団体による水力発電所(2箇所)
発電した電気は、花卉ハウスに利用
2008年:Panasonic NPOサポート ファンドの助成
(環境問題に取り組むNPOの組織基盤強化に資する事業;1団体上限150万円)
【都留市家中川水力発電所:つるのおんがえし債(山梨県都留市)】
種
類:住民参加型ミニ公募債
目
的:地球環境に対する都留(つる)市民の感謝の念を込めて、自然エネルギーに
よる環境負荷の軽減に資するため。
購入対象者:20歳以上で都留市に住民票のある方
購入限度額:1人当たり10万円以上50万円まで(10万円単位)
発 行 価 格:額面100円につき100円
利
率:販売直前の5年利付国債の利率に0.1%上乗せ
平成17年12月の5年利付国債0.8% 0.8%+0.1%=0.9%(税引き前)
満 期 日:平成23年1月31日(5年満期一括償還)
発 行 総 額:17,000,000円
資金の使途:家中川小水力市民発電所建設費用
応募人数等:応募人数161人、当選人数40人
2‐121
第3章 畜産バイオマスエネルギー利用の促進
畜産バイオマスエネルギーの利用を促進するため、家畜排せつ物の利用可能量等について把握す
るとともに、群馬県地域結集型研究開発プログラムで研究開発している「家畜排せつ物の低温ガス
化・高効率エネルギー変換技術」について、畜産農家への導入モデルを検討した。
導入モデルに基づいて、本技術を畜産農家に導入するための対策を今後さらに検討していく。
第1節
家畜排せつ物利用及び畜産バイオマスエネルギー利用
の現状
1 畜産バイオマスエネルギー利用の意義・効果
本県におけるバイオマスの賦存量は、湿潤重量で501万t/年となっており、種類別では家畜排せ
つ物が最も多く68%を占めている。家畜排せつ物については、
「家畜排せつ物の管理の適正化及び利
用の促進に関する法律」
(平成16年11月1日本格施行)により、適正な管理及び資源としての有効利
用の促進が求められている。
現在、群馬県では、自然環境と高度に調和した新しい畜産業の創出を目指し、群馬県、群馬大学、
企業等が共同で群馬県地域結集型研究開発プログラム
「環境に調和した地域産業創出プロジェクト」
に取り組み、家畜排せつ物の利用及び畜産環境改善に関する新技術開発を行っている。その技術の
ひとつとして、畜産バイオマスエネルギー利用技術である『家畜排せつ物の低温ガス化・高効率エ
ネルギー変換技術』がある。
なお、家畜排せつ物を利用した『低温ガス化・高効率エネルギー変換技術』は、
「新エネルギー利
用等の促進に関する特別措置法施行令の一部を改正する政令」
(平成14年1月25日施行)において、
新エネルギー利用等に追加された、
「バイオマス発電」に該当する。
【賦存量:約 501 万t/年(湿潤重量)】
農業資源 6.2%
畜産排せつ物
67.6%
食品資源
8.1%
排水資源
14.8%
木質資源 3.4%
0%
20%
40%
60%
農業資源:わら類・もみがら・条桑育残さ・収穫残さ・剪定枝
木質資源:林地残材・製材残材・建設発生木材
食品資源:動植物性残さ・事業系生ごみ・家庭系生ごみ
排水資源:下水汚泥・し尿・浄化槽汚泥・農業集落排水汚泥
図 1.1-1 バイオマス資源の賦存量割合〔群馬県〕
出典:
「群馬県バイオマス総合利活用マスタープラン」群馬県(H17.3)
3‐1
80%
100%
【畜産バイオマスエネルギー利用の意義・効果】
畜産バイオマスエネルギー利用の意義・効果は、以下のとおりである。
① 家畜排せつ物の適正処理
家畜排せつ物をバイオマスエネルギーとして有効活用することは、家畜排せつ物の適正処理
につながるとともに、余剰コンポストの発生抑制につながる。
② 地球温暖化防止への貢献
畜産バイオマスは、化石燃料とは異なり生物由来の原料であることから、二酸化炭素の新た
な排出がないクリーンエネルギーであり、地球温暖化防止に貢献する。
③ 循環型社会形成への寄与
地域資源である家畜排せつ物を活用し、バイオマスエネルギーとして有効利用することによ
り、循環型社会の形成に寄与する。
④ 農業振興・地域活性化への寄与
「低温ガス化技術」は、新技術として実証実験段階にあり、家畜排せつ物の適正処理と併せ
て、新たなビジネスモデルの創出が期待され、新規市場や雇用の創出に寄与する。
また、家畜排せつ物は畜産業から排出される資源であり、これら地域資源の有効活用及び耕
種農家と連携した畜産バイオマスエネルギー利用は、地域農業の振興及び活性化に寄与する。
⑤ エネルギー安定供給の確保
家畜排せつ物は、季節による発生量の変動が少なく、年間を通じてほぼ同量が毎日発生し、
一定のエネルギーを供給可能であることから、石油代替エネルギーとして化石燃料の節約効果
があるとともに、安定したエネルギー供給源となる。
【家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律】
本法は、畜産業を営む者による家畜排せつ物の管理に関し必要な事項を定めるとともに、家畜
排せつ物の処理の高度化を図るための施設の整備を計画的に促進する措置を講ずることにより、
家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進を図り、もって畜産業の健全な発展に資することを
目的として、平成11年11月に制定され、平成16年11月に本格施行となったものである。
《目的》
□生活環境に対する汚染の防止
→地下水の汚染防止、悪臭・害虫の発生防止(堆肥・尿の不適正処理「野積み・素堀投棄」の防止)
□耕種農家との連携による(堆肥利用による)化学肥料の減量などの環境負荷軽減
□有機質資源の有効活用による資源循環型農業による農業の永続性の確保
3‐2
2 県内における家畜排せつ物利用及び畜産バイオマスエネルギー利用の現状
(1) 家畜排せつ物利用の現状
ア 家畜排せつ物の発生量
市町村別の家畜排せつ物発生量は、平成18年度に群馬県が実施した「家畜ふん尿処理・利
用等のアンケート※」における飼養頭数をもとに推計した。
家畜排せつ物の原単位は、農林水産省畜産局中央畜産研修会資料「家畜ふん尿の特性と処
理利用の基礎知識」を用いた。
表 1.2-1 家畜排せつ物の原単位
畜 種
原単位(kg/頭(羽)/日)
月齢等
乳用牛
肉用牛
養豚
採卵鶏
ブロイラー
ふん
尿
搾乳牛
45.5
13.4
乾乳・未経産
29.7
6.1
育成牛
17.9
6.7
2歳未満
17.8
6.5
2歳以上
20.0
6.7
乳用種(・交雑種)
18.0
7.2
肥育豚(・子豚)
2.1
3.8
繁殖豚
3.3
7.0
成鶏
0.136
-
雛
0.059
-
-
0.130
-
出典:
「家畜ふん尿の特性と処理利用の基礎知識」農林水産省畜産局中央畜産研修会資料(H9年度)
※「家畜ふん尿処理・利用等のアンケート」
群馬県では、今後の畜産環境対策のあり方を検討すべく、可能な限り、現場の家畜排せつ
物処理利用状況を把握し、併せて、
「群馬県地域結集型研究開発プログラム」で開発される技
術が、どの程度浸透するかを把握する目的で、県内の全畜産農家を対象に実施したものであ
る。アンケートの回収状況を下表に示す。
表 1.2-2 アンケート回収状況
全体
酪農
肉牛
養豚
採卵鶏
ブロイラー
調査対象
2,023戸
850戸
637戸
395戸
100戸
41戸
回収件数
1,505戸
663戸
460戸
280戸
63戸
39戸
74.4%
78.0%
72.2%
70.9%
63.0%
95.1%
回収率
3‐3
県全体の家畜排せつ物発生量は、約310万t/年と推計され、中部地域に偏在している。
市町村別の家畜排せつ物発生量は、前橋市が約69万t/年で最も多く、次いで桐生市が約33
万t/年、渋川市が約30万t/年である。
畜種別では養豚からの排出量が約138万t/年で最も多く、次いで乳用牛が約81万t/年で
ある。
桐生市
渋川市
桐生市
高崎市
前橋市
太田市
(t/年 )
600,000
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
図 1.2-1 家畜排せつ物の発生量
群馬県家畜排せつ物発生量:310 万t/年
採卵鶏
8.6%
乳牛
26.0%
肉牛
19.5%
豚
44.4%
ブロイラー
1.5%
0%
20%
40%
60%
図 1.2-2 畜種別家畜排せつ物の発生割合
3‐4
80%
100%
表 1.2-3 家畜排せつ物の発生量
市町村名
前橋市
乳用牛
肉用牛
養豚
〔単位:t/年〕
採卵鶏
ブロイラー
合 計
中部地域
西部地域
153,066
136,364
340,624
58,636
4,202
692,892
伊勢崎市
60,476
41,606
63,696
4,730
876
171,382
渋川市
30,391
50,856
167,485
38,570
9,817
297,119
富士見村
51,944
16,980
89,451
22,437
935
181,747
玉村町
6,305
4,002
6,048
170
-
16,525
榛東村
5,962
24,211
8,702
4,912
2,697
46,483
吉岡町
5,643
26,099
19,495
-
1,685
52,922
高崎市
63,234
26,941
87,897
39,810
19,307
237,190
藤岡市
14,406
7,621
19,431
573
42,031
富岡市
21,556
481
16,281
218
1,154
39,690
安中市
20,496
25,976
67,145
-
1,921
115,538
吉井町
13,973
1,595
10,302
-
-
25,871
上野村
-
-
30
-
-
30
神流町
-
-
-
-
-
0
10,423
920
23
397
-
11,762
南牧村
-
-
527
-
-
527
甘楽町
下仁田町
吾妻地域
利根地域
14,916
2,789
5,101
50
-
22,856
中之条町
6,558
2,281
21,017
794
-
30,650
長野原町
56,734
2,548
-
422
-
59,703
嬬恋村
11,845
22,719
-
-
-
34,564
草津町
-
-
-
-
-
0
六合村
5,899
283
-
-
-
6,181
高山村
5,829
284
759
5,957
-
12,828
東吾妻町
10,180
6,779
99,176
52,619
870
169,624
沼田市
23,872
9,717
11,567
553
-
45,708
片品村
-
282
513
-
-
795
川場村
9,886
466
0
-
-
10,351
昭和村
42,102
24,679
2,051
-
-
68,832
9,824
7,882
2,277
5,361
-
25,344
太田市
61,085
88,366
46,276
19,530
581
215,839
桐生市
33,909
27,089
255,283
9,321
-
325,602
館林市
22,511
14,194
618
298
-
37,620
みどり市
19,949
9,918
5,788
839
253
36,747
板倉町
-
1,323
7,611
-
-
8,934
明和町
-
28
8,352
-
-
8,380
3,420
9,431
1,614
-
-
14,465
大泉町
771
289
-
-
-
1,059
邑楽町
8,314
11,180
12,564
-
742
32,800
合 計
805,474
606,177
1,377,701
265,625
45,612
3,100,590
みなかみ町
東部地域
千代田町
※四捨五入のため合計値が合わないことがある
出典:
「家畜ふん尿処理・利用等のアンケート」群馬県(H18年度)
3‐5
イ 家畜排せつ物の利用状況
県内の家畜排せつ物は、生利用、堆肥利用、液肥利用の有機質肥料としての利用が約64%
であり、そのうちコンポスト化利用は約半分である。
渋川市
前橋市
太田市
(t /年 )
350,000
250,000
150,000
50,000
図 1.2-3 家畜排せつ物の有機質肥料としての利用状況
群馬県家畜排せつ物発生量:310 万t/年
液肥利用
3.8%
生利用
11.1%
0%
10%
堆肥利用
49.4%
20%
30%
40%
廃棄,浄化処理,その他処理等
35.7%
50%
60%
70%
図 1.2-4 家畜排せつ物の利用状況
3‐6
80%
90%
100%
表 1.2-4 家畜排せつ物の利用量
市町村名
〔単位:t/年〕
有機質肥料としての利用量
発生量
生利用
堆肥利用
液肥利用
中部地域
西部地域
前橋市
692,892
465,355 (67.2%)
56,988
364,436
43,931
伊勢崎市
171,382
128,811 (75.2%)
17,493
100,553
10,766
渋川市
297,119
166,157 (55.9%)
49,328
115,526
1,303
富士見村
181,747
98,966 (54.5%)
25,902
68,580
4,484
玉村町
16,525
10,897 (65.9%)
424
10,391
82
榛東村
46,483
34,655 (74.6%)
5,587
28,549
519
吉岡町
52,922
36,547 (69.1%)
2,922
32,145
1,480
高崎市
237,190
143,595 (60.5%)
31,001
102,670
9,923
藤岡市
42,031
38,033 (90.5%)
4,535
19,321
14,177
富岡市
39,690
26,226 (66.1%)
8,042
15,153
3,031
安中市
115,538
62,547 (54.1%)
6,116
55,676
755
吉井町
25,871
18,420 (71.2%)
1,708
13,444
3,267
上野村
30
30 ( 100%)
0
30
0
神流町
0
-
0
0
0
11,762
10,794 (91.8%)
1,974
8,288
533
南牧村
527
466 (88.5%)
0
466
0
甘楽町
22,856
21,381 (93.5%)
2,808
16,327
2,246
中之条町
30,650
18,075 (59.0%)
307
17,419
349
長野原町
59,703
54,837 (91.8%)
13,749
39,124
1,964
嬬恋村
34,564
32,177 (93.1%)
9,808
21,902
467
草津町
0
-
0
0
0
六合村
6,181
5,612 (90.8%)
471
5,142
0
高山村
12,828
6,302 (49.1%)
1,014
4,491
798
下仁田町
吾妻地域
東吾妻町
0
0
利根地域
東部地域
169,624
77,212 (45.5%)
19,273
56,266
1,673
沼田市
45,708
35,111 (76.8%)
10,376
23,954
781
片品村
795
715 (90.0%)
69
647
0
川場村
10,351
9,359 (90.4%)
0
9,132
227
昭和村
68,832
61,295 (89.1%)
5,755
55,333
208
みなかみ町
25,344
18,874 (74.5%)
5,047
12,616
1,211
太田市
215,839
156,876 (72.7%)
37,660
116,538
2,678
桐生市
325,602
133,332 (40.9%)
9,975
120,172
3,184
館林市
37,620
33,966 (90.3%)
5,591
26,751
1,624
みどり市
36,747
31,336 (85.3%)
4,424
23,797
3,115
板倉町
8,934
7,186 (80.4%)
565
3,121
3,501
明和町
8,380
8,377 ( 100%)
0
8,377
0
14,465
12,287 (84.9%)
3,069
9,218
0
大泉町
1,059
983 (92.8%)
0
983
0
邑楽町
32,800
25,372 (77.4%)
646
23,838
888
合 計
3,100,590
1,992,163 (64.3%)
342,628
1,530,372
119,164
千代田町
※四捨五入のため合計値が合わないことがある
出典:
「家畜ふん尿処理・利用等のアンケート」群馬県(H18年度)
3‐7
ウ 家畜排せつ物の利用可能量
(ア) 堆肥の需給バランス
群馬県内における堆肥需要量を推計し、堆肥投入量からみた現在の堆肥利用量との収支バ
ランスを以下に示す。
a 堆肥の県内利用量
「家畜ふん尿処理・利用等のアンケート」によると、有機質肥料として利用されている
家畜排せつ物の利用先は、自己経営内利用41%、同一市町村内利用33%、県内他市町村利
用9%、県外利用1%、農協等へ販売4%、肥料業者等へ販売5%、不明7%である。堆
肥のみについても同様の割合と仮定すると、県内で利用されている堆肥は82.9%で約127
万t/年と推計される。
■堆肥の県内利用量=(0.408+0.332+0.089)×1,530,372t/年
= 1,268,678t/年
県外
0.6%
自己利用
40.8%
県内
他市町村
8.9%
同一市町村
33.2%
10%
20%
30%
40%
50%
不明
7.6%
農協等
3.5%
県内利用:82.9%
0%
肥料業者等
5.3%
60%
70%
80%
90%
100%
図 1.2-5 有機質肥料としての利用先割合
b 県内の堆肥需要量
県内の堆肥需要量を「作物別施肥基準及び土壌診断基準(平成16年3月)群馬県」で示
された施肥基準を目安に推計する。平成18年度の作付面積より、作物ごとの堆肥施肥量を
算定すると、群馬県内の堆肥需要量は約99万t/年と推計される(表1.2-5)
。
c 堆肥の需給バランス
群馬県内の農地における堆肥需要量99万t/年に対し、
現在の利用量は127万t/年である
ことから、約28万t/年の堆肥が削減可能であると推測される。
■家畜排せつ物の窒素ベースでみた収支バランス
群馬県有機性資源循環利用マスタープランでは、作物に必要な窒素需要量と供給する堆肥に
含まれる窒素量から、県内における収支バランスを検討している。
県内全域の農地における窒素受け入れ可能量 14,407tに対し、堆肥による農地還元量は
18,229tであり、3,822t(約 27%)の過剰であると推計している。
3‐8
表 1.2-5 施肥基準より推計される堆肥需要量
作付面積
(ha)
18,800
48
7,610
355
1,250
354
473
235
180
49
368
3,510
3,170
86
606
2,200
10a当り施肥量
(t/10a)
1.0
1.0
1.3
1.3
1.3
2.0
1.3
1.0
2.0
1.0
1.0
3.0
3.0
3.0
2.0
0.3
堆肥需要量
(t/年)
188,000
480
95,125
4,438
15,625
7,080
5,913
2,350
3,600
490
3,680
105,300
95,100
2,580
12,120
6,600
2
60
1,110
92
773
383
723
3,390
2,080
2,020
1,140
240
1,040
595
383
23
450
251
1,280
144
124
75
21
9
14
12
0.0
0.0
2.0
2.0
2.0
2.0
2.0
2.0
1.0
3.0
2.0
2.0
2.0
2.0
2.0
1.0
2.0
2.0
2.0
2.0
2.0
2.5
3.5
2.0
1.0
1.0
0
0
22,200
1,840
15,460
7,660
14,460
67,800
20,800
60,600
22,800
4,800
20,800
11,900
7,660
230
9,000
5,020
25,600
2,880
2,480
1,885
718
187
135
124
その他
17,372
0.64
111,180
合計
73,100
-
986,698
水稲
陸稲
小麦
六条大麦
二条大麦
かんしょ
大豆
小豆
いんげん
らっかせい
そば
牧草
青刈とうもろこし
ソルゴー
青刈えん麦
こんにゃくいも
葉たばこ
茶
だいこん
にんじん
ばれいしょ
さといも
はくさい
キャベツ
ほうれんそう
レタス
ねぎ
たまねぎ
きゅうり
なす
トマト
ピーマン
りんご
日本なし
うめ
ぶどう
キウィフルーツ
きく
バラ
トルコギキョウ
シクラメン
花壇用苗物
備 考
施肥量1.0t/10aと仮定
施肥量1.0t/10aと仮定
施肥量3.0t/10aと仮定
施肥量0t/10aと仮定
施肥量0t/10aと仮定
施肥量1.0t/10aと仮定
施肥量2.0t/10aと仮定
施肥量1.0t/10aと仮定
施肥量1.0t/10aと仮定
施肥量は、上記作物の加重
平均0.64t/10aと仮定
2,703t/日
出典:作付け面積;平成18年(度)作物統計調査、野菜は「平成18年野菜生産出荷統計」
、果樹は「平成18年果樹生産出荷統計」
、
花きは「平成18年花き生産出荷統計」
堆肥施肥量;
「作物別施肥基準及び土壌診断基準」群馬県(H16.3)
3‐9
(イ) 家畜排せつ物の利用可能量
家畜排せつ物の利用可能量は、
「家畜ふん尿処理・利用等のアンケート」より、生利用・堆
肥利用・液肥利用で利用されている分及び減量化される分を除く、廃棄量・浄化量・その他
処理量とした。また、今後堆肥の適正利用を図るものとし、県内で削減可能であると想定さ
れる約28万t/年の家畜排せつ物も利用可能量に含むものとした。
県全体の利用可能量は、約95万t/年と推計され、家畜排せつ物発生量と同じく中部地域に
偏在しており、利用可能量は、前橋市が約20万t/年で最も多く、次いで桐生市が約17万t/
年である。
桐生市
桐生市
前橋市
160,000
120,000
80,000
40,000
20,000
図 1.2-6 家畜排せつ物の利用可能量
【堆肥処理に関する県内の現状】
畜産農家への聴き取り調査から、堆肥の利用先に苦慮している状況が伺える。
・堆肥は休耕畑に還元しているが、生ふんを散布することもある。
〔酪農〕
・堆肥は処理費を払い中間処理業者に引き取ってもらっている。周辺耕種農家における高齢化、
担い手等の動向を考えると、今後、3割程度の余剰堆肥が発生すると思われる。
〔養豚〕
・堆肥は知り合いの農家に無料で引き取ってもらっている。年々、野菜農家が減少しており、今
後は余剰堆肥が発生することが予想される。
〔養豚〕
・良質堆肥の製造に努め、現在では全量販売でき、リピーターも確保できている。
〔養豚〕
・堆肥は JA への販売、農家への譲渡(農地散布まで)を行っているが、利用先が確保できず、常
に堆肥舎に溜まっている状況である。堆肥の処理方法が喫緊の課題である。
〔養豚〕
・堆肥は全て販売しているが、堆肥のみの収支では常に赤字であるため、対応策を早急に考えた
い。
〔採卵鶏〕
・堆肥は全て販売できており、今後も同じ販路で販売できると思われる。堆肥の販売先の確保よ
りも、堆肥化にかかる労力、費用が問題である。
〔採卵鶏〕
3‐10
表 1.2-6 家畜排せつ物の利用可能量
市町村名
前橋市
廃棄量
浄化量
その他処理
〔単位:t/年〕
削減可能分
合 計
中部地域
西部地域
1,039
120,370
10,364
66,700
198,473
伊勢崎市
0
23,044
0
18,386
41,430
渋川市
0
73,412
12,430
21,299
107,141
富士見村
0
52,291
579
12,540
65,410
玉村町
0
3,927
0
1,900
5,827
榛東村
573
3,449
1,004
5,220
10,246
吉岡町
0
10,156
0
5,899
16,055
高崎市
0
38,485
0
18,774
57,259
藤岡市
0
0
0
3,533
3,533
富岡市
0
9,454
0
2,771
12,225
安中市
0
41,138
0
9,910
51,048
吉井町
0
4,906
0
2,458
7,364
上野村
0
0
0
0
0
神流町
0
0
0
0
0
下仁田町
0
0
0
1,794
1,794
南牧村
0
0
0
85
85
吾妻地域
利根地域
甘楽町
0
0
0
1,494
1,494
中之条町
0
8,703
0
3,185
11,888
長野原町
0
0
0
7,154
7,154
嬬恋村
0
0
0
4,005
4,005
草津町
0
0
0
0
0
六合村
0
0
0
940
940
高山村
0
0
0
821
821
東吾妻町
0
38,156
19,826
10,288
68,270
沼田市
0
5,805
1,733
4,380
11,917
片品村
0
0
0
118
118
川場村
0
0
0
1,585
1,585
昭和村
0
1,332
0
10,118
11,450
みなかみ町
0
1,380
0
1,592
2,972
太田市
0
27,995
0
21,252
49,247
桐生市
0
151,390
0
21,974
173,364
東部地域
館林市
0
370
0
10,656
11,026
みどり市
0
1,611
0
4,351
5,962
板倉町
0
824
0
571
1,395
明和町
0
0
0
5
5
千代田町
0
1,048
0
1,685
2,733
大泉町
0
0
0
180
180
邑楽町
0
3,588
0
4,359
7,947
合 計
1,612
622,832
45,936
281,982
952,363
※過剰供給分は、県全体の281,982t/年を各市町村の堆肥利用量で按分、四捨五入のため合計値が合わないことがある
出典:
「家畜ふん尿処理・利用等のアンケート」群馬県(H18年度)
3‐11
(2) 畜産バイオマスエネルギー利用の現状
県内では、
畜産農家3箇所において、
畜産バイオマスエネルギー利用施設が導入されている。
なお、このうち前橋市における2箇所については、独立行政法人新エネルギー・産業技術総
合開発機構(NEDO)及び社団法人畜産環境整備機構の実証試験として導入された施設であり、
実証試験終了に伴い畜産農家に移管されたものである。
表 1.2-7 県内の畜産バイオマスエネルギー利用施設
所在地
運転
開始
事業主体
前橋市鼻毛石町
H16
養豚農家
バイオガス
製造量
原 料
豚ふん尿・おがこ・
汚水:2.6t/日
前橋市柏倉町
H13
養豚農家
多野郡吉井町
H11
養鶏農家
豚ふん:2.1t/日
鶏ふん・生ごみ
:7kg/日
80m3/日
3
110m /日
0.5m3/日
バイオガス利用設備
プラント用電源、豚舎及び消化
液発酵堆肥システムの電力
自家消費(畜舎等の電力)
自家消費(調理用ガスコンロ等
のガス)
前橋市鼻毛石町
養豚畜舎
メタン発酵槽
ガスホルダー
ガスエンジン発電機
前橋市柏倉町
養豚畜舎
ばっ気槽、発酵槽、ガスホルダー
マイクロガスタービン
多野郡吉井町
調理用ガスとして利用
養鶏畜舎
発酵槽
液肥溜
3‐12
第2節 家畜排せつ物の低温ガス化・高効率エネルギー変換技術
の概要と特徴
1 バイオマスからのエネルギー変換技術(従来技術)
バイオマスからのエネルギー変換技術は、
「燃焼」
、
「熱化学的変換」
、
「生物学的変換」の3種類に
大きく区分される。
「燃焼」は、バイオマスを加熱し発生する熱エネルギーの直接利用や、電気エネルギーなどへ変
換し利用する技術で、古くから用いられている技術である。
「熱化学的変換」は、バイオマスにさまざまな条件下で熱をかけて反応を進行させてガス化や液
化等によるエネルギー変換を行う技術で、代表的なエネルギー変換技術としてガス化があり、後述
する『低温ガス化・高効率エネルギー変換技術』はこれに含まれる。
「生物学的変換」は、微生物の作用によりバイオマスを化学的に変化させる技術で、代表的なエ
ネルギー変換技術としてメタン発酵がある。
燃 焼
直接燃焼
バ イ オ マ ス エ ネ ル ギ ー 変 換 技 術
混 焼
固形燃料化
熱化学的変換
ガス化
溶融ガス化
部分酸化ガス化
低温流動層ガス化
超臨界水ガス化
生物学的変換
液 化
急速熱分解
炭 化
スラリー燃料化
エステル化
バイオディーゼル
メタン発酵
湿式メタン発酵
二段発酵
乾式メタン発酵
エタノール発酵
図 2.1-1 バイオマスエネルギー変換技術
3‐13
低温ガス化・高効率
エネルギー変換技術
「燃焼」
、
「熱化学的変換」
、
「生物学的変換」の3種類のそれぞれ代表的なバイオマスエネルギー
変換技術の概要は下表のとおりである。
表 2.1-1 主なバイオマスエネルギー変換技術の概要
エネルギー
主な対象
実用化
変換技術
バイオマス
レベル
木質系廃材、未
実用化
利用材、家畜排
段階
直接燃焼
せつ物
技術の概要
・直接燃焼して熱として利用する、あるいは、ボイラー発
電を行う技術。
・木質系廃材・未利用材、サトウキビの搾り粕のバガス、
燃 焼
家畜排せつ物を用いて既に実用化レベルにある。
・既設設備の多くは、エネルギーの自家消費用であり、必
要最低限のエネルギー利用を目的としているため、エネ
ルギー効率が低いものが多い。
・プラント規模にもよるが、電力への変換効率は10~20%
程度。
熱化学的変換
低温流動層
木質系廃材、未
実証
ガス化
利用材、農作物
段階
・バイオマスを低温(600℃程度)でガス化する技術で、そ
のガスを用いて発電や熱利用を行う。
非食部、家畜排
・原料となるバイオマスの前処理をほとんど要しない。
せつ物
・発生するタールが安定連続運転を阻害するため、タール
の吸着・分解が大きな課題である。
※低温ガス化・高効率エネルギー変換技術は、低温流動層
ガス化により発生するタールの分解率を高めた新技術
である。
生物学的変換
湿式メタン
家畜排せつ物、
実用化
発酵
食品廃棄物、下
段階
水汚泥
・家畜排せつ物や食品廃棄物を、嫌気性発酵させることに
よりメタンガスを発生させる技術である。
・含水性バイオマスを利用する技術としては、最も実用化
されている技術である。
・実用化段階にあるが発酵に長時間を要することや処理廃
液(消化液)が排出されるためその処理が大きな課題と
なっている。
3‐14
2 家畜排せつ物の低温ガス化・高効率エネルギー変換技術
(現在群馬県内で研究開発している技術)
(1) 概要
群馬県は全国有数の畜産県であることから、地域資源である家畜排せつ物の有効活用を目的
として「群馬県地域結集型研究開発プログラム」で新技術開発に取り組んでいる。
現在、本プロジェクトで、群馬県、群馬大学、企業等が共同で研究開発に取り組んでいる技
術のひとつに『家畜排せつ物の低温ガス化・高効率エネルギー変換技術』
(以下、低温ガス化技
術という)がある。
家畜排せつ物は、一般的に他のバイオマス資源と比較して発熱量が小さいため、高温でガス
化した場合、得られるエネルギーが極めて小さくなる。このため低温でガス化を行うことによ
って効率よくエネルギー変換する必要があるが、この場合タール分が多く発生し、タールによ
る配管の詰まりなどを生じることから、効率的なシステム利用が困難になるという課題があっ
た。
「低温ガス化技術」では、タール分解触媒を利用することで、低温流動床ガス化炉において
タール分の分解率を高めることに成功し、家畜排せつ物を原料とするガス化において、高効率
エネルギー変換を実現している。
表 2.2-1 低温ガス化技術の特徴及び課題
特 徴
課 題
・ガス化効率を高めるために、世界で最も低い温
・実証実験段階であるため、実用機での検証が必
度でガス化を行う技術である。
要である。
・メタン発酵と比較して、エネルギー回収効率が
よい。
・家畜排せつ物を利用する場合は、燃焼効率を高
めるために、原料の水分調整が望ましい(水分
・低温でガス化する際に発生するタールを分解す
るためにタール分解触媒を利用する。このた
率20~30%)
。
・副産物の利用先を確保する必要がある。
め、タールによる配管詰まり等のトラブルが、 ・将来的には、普及により設備費の低減が必要で
従来のガス化技術と比較して少ない。
ある。
・タール分解触媒にはニッケル坦持褐炭を利用
し、タール分解後は副産物としてニッケル金属
が得られるため、ニッケル金属を再利用するこ
とが可能である。
【群馬県地域結集型研究開発プログラム】
■群馬県は、首都圏の水瓶と呼ばれる「水源県」であるとともに、全国有数の「畜産県」
であり、環境保全と畜産振興との両立が課題となっている。
■「群馬県地域結集型研究開発プログラム」では、大学・高専・企業・試験研究機関・県
との協働により課題解決を図るとともに、下記の研究開発成果を実用化・企業化し、国
内外へ普及することを目指している。
〈研究テーマ〉
①家畜排せつ物の低温ガス化・高効率エネルギー変換技術の開発
②畜産環境改善技術の開発
3‐15
(2) 設備内容及びシステムフロー
低温ガス化技術の設備内容及びシステムフローは、以下のとおりである。
表 2.2-2 設備内容及び機能
設 備
機能等
①受入・前処理
設備
・夾雑物除去を行った後、フィーダで原料を受入れ、
低温ガス化炉に自動供給する。
・原料の水分率は20~30%程度が望ましい。
・触媒(ニッケル担持褐炭)を調製し、ガス化炉に投
入する。
②低温ガス化炉
・家畜排せつ物及び触媒(ニッケル担持褐炭)を加熱
(流動床方式)
し、過熱水蒸気及び窒素または空気を供給し、家
畜排せつ物のガス化を行う(触媒により、タール
が分解される)
。
・発生したガスをガス精製装置に送り込む。
・ガス化後の焼却灰を回収する。
・触媒として利用したニッケル担持褐炭の一部をニ
低温ガス化の実証実験装置
ッケル金属として回収する。
・ガス化に伴い発生する熱を、需要施設へ供給する。
③ガス精製装置
・発生するガスに含まれるダスト(腐食性のある硫
黄化合物やハロゲン化物)を取り除き、ガスの精
製を行う。
④ガスホルダー
・生成後の混合ガス(水素、一酸化炭素、二酸化炭
素、メタン等)を貯蔵する。
⑤ガスエンジン
発電機
・精製ガスを燃料とし、発電を行う。
・コージェネレーションシステムにより熱の利用を
図る。
ٛٛ
原料の受入
ガス化
ガス精製 ガス貯蔵
図 2.2-1 低温ガス化技術システムフロー
3‐16
発電
(3) ガス発生量等
ア ガス発生量
低温ガス化技術により得られるガス発生量及びガス成分割合を、実証実験で得られたデー
タより推定する。
ガス発生量は、原料となるコンポストの発生源(畜種)によって異なる。ここでは、豚ふ
ん及び鶏ふんコンポストを原料とする場合のガス発生量を下表に示す。
表 2.2-3 ガス発生量及び成分割合
豚ふんコンポスト
ガス発生量
鶏ふんコンポスト
3
450Nm3/t
1,000Nm /t
H2
50.1%
53.6%
CO
14.4%
14.9%
CH4
6.1%
0.5%
CO2
26.9%
29.2%
C2+
0.1%
0.1%
N2
約2.0%
約2.0%
イ 発電量
実証実験で得られたデータより、豚ふん及び鶏ふんコンポストを原料とした場合に得られ
る混合ガスによって、ガスエンジンにより発電した場合の発電量は下表のとおりである。
表 2.2-4 ガス発生量及び発電量
コンポストの発熱量
※
発電量
豚ふんコンポスト
鶏ふんコンポスト
13,650MJ/t
8,790MJ/t
912kWh/t
587kWh/t
※発電量=コンポスト発熱量MJ×冷ガス効率×発電効率×0.2778
冷ガス効率65%、発電効率37%(理論値)と仮定。1MJ=0.2778kWhとした。
ウ 熱回収量
低温ガス化施設では、低温ガス化炉及び発電機から熱を回収することが可能である。
実証実験で得られたデータより、豚ふん及び鶏ふんコンポストを原料とした場合の熱回収
量は下表のとおりである。
表 2.2-5 熱回収量
豚ふんコンポスト
鶏ふんコンポスト
コンポストの発熱量
13,650MJ/t
8,790MJ/t
外部からの供給熱量
1,365MJ/t
879MJ/t
11,730MJ/t
7,560MJ/t
熱回収量
3‐17
(ア) 低温ガス化炉における熱回収量
低温ガス化では、コンポスト及び触媒を加熱するために、投入原料の持つ熱量の約1割に
相当する熱量を外部より供給する必要がある。
低温ガス化炉における熱回収量は下式のとおりである。
低温ガス化炉における熱回収量
=コンポスト発熱量MJ×(1-冷ガス効率)+外部からの供給熱MJ
(イ) 発電機における熱回収量
発電機における熱回収量は下式のとおりである。
発電機における熱回収量
=コンポスト発熱量MJ×冷ガス効率×(1-発電効率)
※豚ふんコンポスト発熱量13,650MJ/t、鶏ふんコンポスト発熱量8,790MJ/t、冷ガス効率65%、
発電効率37%(理論値)と仮定。
参考:メタン発酵による試算
養豚農家より発生するふん尿分離後の家畜排せつ物5t/日をメタン発酵施設でメ
タン発酵させ、バイオガスを生成した場合、発電量及び熱回収量は概算で約850kWh/
日(170kWh/t)及び約5GJ/日(1.0GJ/t)と試算される。
※メタンガス発生量(メタン濃度60%)は、下式で算定される
メタンガス発生量(メタン濃度60%)〔Nm3/日〕
={原料投入量〔t/日〕×TS×VS}×有機物分解率〔%〕×メタンガス発生単位
(0.5)〔Nm3-CH4/VS分解量〕÷(60/100)
表 2.2-6 メタン発酵による発電量及び熱回収量の試算例
項 目
算定値
原料投入量〔t/日〕
5.0
水分率〔%〕
75.0
※1
27.0
※2
84.5
TS〔%〕
VS〔%〕
有機物分解率〔%〕
50.0
3
440.0(88Nm3/t)
メタンガス発生量〔Nm /日〕
発生熱量〔GJ/日〕
10.0(2.0GJ/t)
発電量〔kWh/日〕
846.0(170kWh/t)
熱回収量〔GJ/日〕
5.0(1.0GJ/t)
※1:TS〔%〕
:固形物濃度(Total Solid)・・・試料の水分を蒸発させたときに残る物質の割合
※2:VS〔%〕
:強熱減量(Volatile Solid)・・・TSに含まれる有機物の割合
3‐18
(4) 副産物
低温ガス化システムでは、副産物として焼却灰及びニッケル金属が生成される。
それぞれの発生量、利用先等は以下のとおりである。
ア 焼却灰
表 2.2-7 焼却灰の概要
項 目
発生量
内 容
□豚ふんコンポスト量の12~15%
□鶏ふんコンポスト量の約32%
成分
□実証実験施設で、今後分析予定である。
利用先の可能性
□現段階では成分が不明であるため、利用先は確定できないが、今後下記の
利用先の可能性が考えられる。
・土壌改良剤
・水質浄化材
・原料の水分調整剤
・セメント混和材
備考
□焼却灰に有害性の重金属類(鉛、亜鉛、クロム、カドミウム等)が含まれ
る場合、溶融固化により安定化して埋め立てられるのが一般的である。
□宮崎県川南町(みやざきバイオマスリサイクル株式会社)に平成15年に設
置された鶏糞焼却ボイラー施設では、近年のリン鉱石の高騰もあり、焼却
灰をリン分の多い肥料として肥料工場に10,000円/tで販売している。
イ ニッケル金属
表 2.2-8 ニッケル金属の概要
項 目
内 容
発生量
□コンポスト1tあたり10kg
利用先の可能性
□現段階では利用先は確定できないが、今後下記の利用先の可能性が考えら
れる。
・鉄鋼原料として鉄鋼会社に販売
・機能性微粒子として新素材メーカーに販売
備考
□ニッケル金属は、フェライト、磁気カード、ガラス着色の副原料として利
用されている。
※ニッケル価格相場:1,694円/kg(中部大阪商品取引所:2008.10)
3‐19
(5) マテリアルフロー
ア 豚ふんの場合(コンポスト1tあたり)
豚ふんコンポストを原料とした低温ガス化のマテリアルフローは、以下のとおりである。
図 2.2-2 豚ふんを原料とした場合の低温ガス化技術のマテリアルフロー
イ 鶏ふんの場合(コンポスト1tあたり)
鶏ふんコンポストを原料とした低温ガス化のマテリアルフローは、以下のとおりである。
図 2.2-3 鶏ふんを原料とした場合の低温ガス化技術のマテリアルフロー
3‐20
(6) エネルギーフロー
ア 豚ふんの場合(コンポスト1tあたり)
豚ふんコンポストによる低温ガス化のエネルギーフローは、以下のとおりである。
熱供給
1.365GJ/t
豚ふん
コンポスト
13.65GJ/t
電力供給
(冷水ポンプ動力)
低温ガス化
(タール除去)
ガス
精製
ガス
ホルダ
熱回収
6.14GJ/t
ガスエンジン
発電機
熱回収
5.59GJ/t
電力供給
912kWh/t
・豚ふんコンポスト1tあたりの発熱量を約13.65GJ/tとした場合、過熱水蒸気をガス
化炉へ供給するために原料発熱量の約1割の熱(約1.365GJ/t)を外部より供給する。
ガス化炉の運転には冷水ポンプの動力分の電力を供給する(ポンプの規模により変
動)。ガス化によりガス化炉からは約6.14GJ/tの熱が回収される。
・発生した混合ガスを、ガスエンジン発電機で発電することにより、約912kWh/tの電力
と5.59GJ/tの熱が回収される。
イ 鶏ふんの場合(コンポスト1tあたり)
鶏ふんコンポストによる低温ガス化のエネルギーフローは、以下のとおりである。
熱供給
0.879GJ/t
鶏ふん
コンポスト
8.79GJ/t
電力供給
(冷水ポンプ動力)
低温ガス化
(タール除去)
ガス
精製
熱回収
3.96GJ/t
ガス
ホルダ
ガスエンジン
発電機
熱回収
3.60GJ/t
電力供給
587kWh/t
・鶏ふんコンポスト1tあたりの発熱量を約8.79GJ/tとした場合、過熱水蒸気をガス化
炉へ供給するために原料発熱量の約1割(約0.879GJ/t)の熱を外部より供給する。ガ
ス化炉の運転には冷水ポンプの動力分の電力を供給する(ポンプの規模により変動)。
ガス化によりガス化炉からは約3.96GJ/tの熱が回収される。
・発生した混合ガスを、ガスエンジン発電機で発電することにより、約587kWh/tの電力
と3.60GJ/tの熱が回収される。
3‐21
(7) 法規制への対応
低温ガス化施設の導入にあたっては、各種関連法の許可申請を行うとともに、事前協議規程
に基づく廃棄物処理施設設置等実施計画書を提出し、県の承認を得る必要がある。
低温ガス化施設を導入するにあたって関連する主な法律は、以下のとおりである。
表2.2-9 関連法規制(1/2)
関連法規制
土地利用に
都市計画法
関する法律
概 要
・コンポストの処理施設は産業廃棄物処理施設にあたり、
施設設置位置については県知事の許可が必要。
関係機関
群馬県
市町村
・また、市町村の都市計画上の支障の有無について、各市
町村と協議を行う必要がある。
農業振興地域の整
備に関する法律
・農用地区域内に低温ガス化施設を設置する場合は、県知
群馬県
事の許可が必要。
・ただし、市町村が定める農業振興地域整備計画に沿った
施設については許可の必要はない。
環境関係
家畜排せつ物の管
・低温ガス化施設の原料は、適正処理後のコンポストであ
理の適正化及び利
るが、将来的に、家畜排せつ物(生ふん)を原料とし、
用の促進に関する
家畜の頭羽数が一定以上となる場合には、都道府県知事
法律
への届出が必要である。
廃棄物の処理及び
清掃に関する法律
・コンポストの運搬及び処理施設の設置には、都道府県知
群馬県
群馬県
事の許可が必要となる。
・焼却灰は廃棄物に該当する可能性があるため、その販売
や処理を行う場合には、必要な手続きについて事前に県
に確認する必要がある。
肥料取締法
・焼却灰を肥料として利用する際には、肥料取締法に基づ
群馬県
き県への届出及び登録が必要である(肥料販売業務につ
いての届出、普通肥料の生産業務についての届出)
。
振動規制法
・県知事が定める指定区域内に低温度ガス化施設を設置し、 群馬県
圧縮機、送風機などの定格量が7.5kW以上となる場合は、 市町村
事前に市町村長へ申請する必要がある。
・現段階では、低温ガス化施設は実証試験段階で小規模で
あるため、著しい振動は発生しないと考えられる。
騒音規制法
・県知事が定める指定区域内に低温度ガス化施設を設置し、 群馬県
圧縮機、送風機などの定格量が7.5kW以上となる場合は、 市町村
事前に市町村長へ申請する必要がある。
・現段階では、低温ガス化施設は実証試験段階で小規模で
あるため、著しい騒音は発生しないと考えられる。
水質汚濁防止法
・排水処理を行う場合は、排出基準規制を遵守する必要が
群馬県
ある。
建築関係
建築基準法
・建築基準法に基づく施設とする必要がある。
群馬県
電気関係
電気事業法
・電気主任技術者の選任が必要。ただし、低温ガス化施設
関東経済産
は実証試験段階であり、自家用で出力が1,000kW未満にな
ると想定されるため、電気保安協会または電気管理技術
者協会に委託することが可能である。
・保安規程の提出、工事計画の届出等が必要である。
3‐22
業局
表2.2-10 関連法規制(2/2)
関連法規制
概 要
関係機関
消防関係
消防法
・発電設備としての設置届出が必要となる
消防署
その他
高圧ガス保安法
・高圧もしくは液化するガスの処理量が100m3/日(温度
群馬県
0℃、圧力0Paの状態に換算)以上の場合、高圧ガス製
造許可申請を都道府県知事に届ける必要がある。
(8) 立地場所の選定
低温ガス化施設の原料はコンポストであり、産業廃棄物処理施設にあたるため、立地場所の
選定には地域住民との合意形成を図る必要がある。
候補地選定にあたっての留意事項を以下に示す。
表2.2-11 設置場所選定にあたっての留意事項及び候補地の状況
分類
評価項目
基本条件
留意事項
自然的状況
位置
・各農家からの運搬距離ができる限り短くなること
関係法規制
・関係法規制がクリアできること
面積確保
・施設規模に適した敷地面積が確保できること
地盤
・軟弱地盤等でないこと
地形・地質
・できる限り造成を伴わないこと
生態系の状況
・貴重種等の生息地域でないこと
社会的状況
地域環境
景観の状況
・周辺景観を損なわない場所であること
土地利用状況
・新たな用地取得をできる限り行わない
住宅の配置
・一般住宅地が近隣にないこと
道路の配置
・各農家からのアクセスが容易であること
交通量
・渋滞等のないルートが確保できること
環境保全の配慮
・公共施設との距離を十分に確保するとともに
が必要な施設の
・小学生等の通学路を考慮した運搬ルートが確保できること
配置
住民意向
周辺住民の理解
・周辺住民の理解が得られること
と協力
(9) 防疫対策
養豚は感染症の問題が大きく取り上げられているため、複数農家が共同でコンポストを持ち
込む場合には、防疫対策を徹底する必要があり、運搬車両消毒を徹底する必要がある。
車両消毒の状況
車輪消毒用の消毒槽
図 2.2-4 防疫対策(例)
3‐23
(10) 導入にかかる経費等
ア 建設費
低温ガス化システム導入にかかる建設費は、下記の項目について計上する。
表2.2-12 建設費の項目と内容
項 目
建設費
内 容
・低温ガス化施設は、フィーダ、低温ガス化炉、ガス精製装置、ガスホルダ
ー、ガスエンジン、建屋にかかる費用を計上する。
・低温ガス化施設の概算建設費は、メーカー聞き取りより現段階では投入資
源コンポスト1t/日当り1億円である。
土地代
・用地取得が必要な場合は計上する。
場内整備費
・場内舗装、外柵、外灯等を必要に応じて計上する。
イ 管理運営費
低温ガス化システム導入にかかる管理運営費は、下記の項目について計上する。
(ア) 収入
表2.2-13 収入
項 目
内 容
売電収入
・余剰電力が生じた場合、電力会社への販売額を計上する。
熱販売収入
・余剰熱量が生じた場合は、余剰熱の販売を検討するが、現段階ではインフラ
整備等が困難であるため、計上しない。
コンポスト処理収入
・畜産農家から処理費を徴収した場合、コンポスト処理量に処理単価を乗じた
額を計上する。
焼却灰販売収入
・焼却灰を肥料等として販売できる場合、焼却灰発生量に販売単価を乗じた額
を計上する。
ニッケル金属販売収入
・ニッケル金属の販売ルートが確立された場合、ニッケル金属販売量に販売単
価を乗じた額を計上する。
(イ) 支出
表2.2-14 支出の項目と内容(1/2)
項 目
内 容
触媒等調達費
・ニッケル担持褐炭の利用量に購入単価を乗じた額を計上する。
コンポスト購入費
・畜産農家からコンポストを有償で引き取る場合、コンポスト購入量に購入
単価を乗じた額を計上する。
焼却灰処理費
・焼却灰を最終処分場で処理する場合、焼却灰発生量に処理単価を乗じた額
を計上する。
運搬費
・各畜産農家から低温ガス化施設へコンポストを運搬する際にかかる運搬費
を計上する。
3‐24
表2.2-15 支出の項目と内容(2/2)
項 目
メンテナンス費
内 容
・低温ガス化施設のメンテナンス及びオーバーホール(設備の分解点検修理)
にかかる費用を計上する。
人件費
・専従者を置く場合には人件費を計上する。
減価償却費
・低温ガス化施設の耐用年数を15年とし、減価償却費を計上する。
・減価償却費は、実際は現金支出を伴わないことから、経済性の検討でキャ
ッシュフロー計算をする場合は、支出で控除した分を加え直す。
借入金返済額
・借入金がある場合は、返済期間、金利等から借入金返済額を計上する。
租税公課
・土地、償却資産の固定資産税相当額を計上する。
一般管理費
・一般管理費を計上する。
ウ 既存施設の電力・熱量削減費
低温ガス化施設で発電した電力及び熱量を既存施設で利用する場合には、これまで利用し
ていた電力及び熱量の削減分料金を削減費として計上する。
表2.2-16 既存施設の電力・熱量削減費
項 目
電力削減費
内 容
・低温ガス化施設で発電した電力を既存施設で利用する場合、これまで支出
していた電力料金が削減されるため、電力削減費として計上する。
熱量削減費
・低温ガス化施設で回収した熱を既存施設で利用する場合、これまで支出し
ていた燃料代が削減されるため、熱量削減費として計上する。
(11) 助成制度
低温ガス化施設の整備に当たっては、各種助成制度の活用を検討する。
家畜排せつ物利用の低温ガス化施設は、バイオマスをエネルギーに変換する施設であり、助
成制度は「第5節 参考資料 1 助成制度」に示すとおりである。
3‐25
第3節 家畜排せつ物の低温ガス化・高効率エネルギー変換技術
の畜産農家への導入モデルの検討
1 モデル地区の選定
群馬県・群馬大学・民間企業等により研究開発中の「低温ガス化技術」は、現在小規模装置での
実証実験段階であるが、畜産農家に導入可能な施設としていくために、今後、畜産農家での実証試
験を実施していく必要がある。そこで、実証試験を効果的に行うために、畜産農家への導入モデル
を検討し、経済性や課題を整理することにより、導入可能性を確認する。
以下に示す3タイプの事業化モデルについて検討を行った。
タイプ①:大規模畜産農家に導入する場合
タイプ②:中規模畜産農家数戸が共同で導入する場合
タイプ③:中規模畜産農家と施設園芸農家が共同で導入する場合
モデル地区は、家畜排せつ物の発生量及び利用可能量調査より、下記のとおり設定した。
表3.1-1 モデル地区の選定
タイプ
タイプ①
大規模畜産農家に
導入する場合
モデル地区の選定
・大規模畜産農家が位置する、中部地域(4戸)、西部地域(1戸)、吾妻地
域(3戸)、東部地域(4戸)から選定(参考1参照)
。
・平成18年度に群馬県が実施した「家畜ふん尿処理・利用等のアンケート」
において低温ガス化施設の導入意向があった中部地域の採卵鶏農家を1
戸選定。
タイプ②
中規模畜産農家数
戸が共同で導入す
タイプ③
・中規模畜産農家の多い前橋市から、畜産農家が団地化されている地域を
選定。
る場合
・家畜排せつ物2t/日程度の養豚農家から4戸を選定。
中規模畜産農家と
・中規模畜産農家が多く、施設園芸の盛んな前橋市から、畜産農家及び施
施設園芸農家が共
同で導入する場合
設園芸団地を選定(参考1及び参考2参照)
。
・畜産農家は、選定された施設園芸団地に近く、家畜排せつ物10t/日程度
の養鶏農家を1戸選定。
・施設園芸団地は、前橋市で最も多い花き類の栽培団地を選定。
3‐26
〔参考1〕家畜排せつ物の発生量別農家数の状況
県内において家畜排せつ物の発生量が2t/日を超える農家は半数以上を占める。2t/日
以上の農家は中部地域に集中しており、前橋市が最も多い。また、家畜排せつ物の発生量が
50t/日以上の大規模畜産農家は、中部地域3戸、西部地域1戸、吾妻地域3戸、東部地域4
戸の計11戸である。
群馬県家畜排せつ物発生量:310 万t/年
0.5~1.0t/日
9.0%
1.0~1.5t/日
11.0%
2.0~2.5t/日
10.0%
0.5t/日以下
16.0%
2.5~5.0t/日
20.0%
5.0~10.0t/日
22.0%
10.0t/日以上
0.0%
1.5~2.0t/日
11.0%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
図 3.1-1 家畜排せつ物発生量別農家数割合
渋川市
高崎市
前橋市
(戸 )
200
150
100
50
10
図 3.1-2 家畜排せつ物量2t/日以上の畜産農家数の分布状況(n=761 戸)
3‐27
100%
〔参考2〕県内における施設園芸の状況
タイプ③の選定にあたって、県内における施設園芸の状況を整理した。
県全体のハウス設置面積は、2005年農林業センサスより約1,750haと推計され、東部地域及び中
部地域に多い。
野菜のハウス設置面積は太田市が最も多く約400ha、次いで伊勢崎市が約320haである。また、
花きのハウス設置面積は前橋市が最も多く約20ha、次いで富岡市が約10haである。
みどり市
前橋市
伊勢崎市
太田市
館林市
板倉町
(ha)
400
300
200
100
図 3.1-3 ハウス設置面積の分布状況
前橋市
伊勢崎市 太田市
(ha)
300
200
100
50
図 3.1-4 野菜ハウス設置面積の分布状況
富岡市
図 3.1-5 花きハウス設置面積の分布状況
3‐28
(ha)
20
15
10
5
表3.1-2 ハウス設置面積
市町村名
野 菜
花 き
〔単位:ha〕
種 苗
その他
合 計
中部地域
西部地域
前橋市
105
21
1
0
127
伊勢崎市
321
8
2
1
332
渋川市
36
2
0
0
38
富士見村
19
1
0
0
20
玉村町
15
0
0
0
15
榛東村
4
0
0
0
4
吉岡町
6
0
0
0
6
高崎市
75
4
1
0
80
藤岡市
34
8
0
0
42
富岡市
35
11
0
0
46
安中市
2
2
0
0
4
吉井町
11
2
0
1
14
上野村
0
0
0
0
0
神流町
0
0
0
0
0
下仁田町
0
0
0
0
0
南牧村
0
0
0
0
0
甘楽町
吾妻地域
22
2
0
0
24
中之条町
3
3
0
0
6
長野原町
1
0
0
0
1
嬬恋村
0
0
0
0
0
草津町
0
0
0
0
0
六合村
0
0
0
0
0
高山村
利根地域
2
0
0
0
2
東吾妻町
13
8
0
0
21
沼田市
40
5
0
1
46
片品村
16
2
0
0
18
川場村
4
0
0
0
4
昭和村
27
0
1
0
28
みなかみ町
東部地域
8
0
0
0
8
太田市
398
7
5
0
410
桐生市
38
1
0
0
39
館林市
103
4
0
0
107
みどり市
138
0
0
0
138
板倉町
154
8
0
0
162
明和町
15
0
0
0
15
千代田町
0
0
0
0
0
大泉町
0
0
0
0
0
邑楽町
5
0
0
0
5
合 計
1,650
99
10
3
1,762
出典:2005年農林業センサスデータをもとに市町村合併を考慮して集計
3‐29
2 モデル地区における事業化の検討
(1) タイプ①:大規模畜産農家に導入する場合
ア モデル地区の概要
モデル地区は、家畜排せつ物50t/日以上排出する大規模畜産農家のうち、平成18年度に群
馬県が実施した「家畜ふん尿処理・利用等のアンケート」において低温ガス化施設の導入意
向を有する採卵鶏農家をとした。
■選定農家は県内でも有数の大規模採卵鶏農家で、県外にも農場を複数所有している。
■このうち、A農場では約42万羽を飼養し、約40t/日の鶏ふんを約1.8km離れたコンポ
スト化施設で堆肥化している。
イ バイオマス資源
(ア) 発生量
バイオマス資源は、A農場から排出される鶏ふんコンポストとする。A農場から発生する
家畜排せつ物(40t/日)からは10t/日のコンポストが製造され、水分率は20%程度である。
表3.2-1 対象畜産農家及び利用バイオマスの諸元
全 体
うちA農場
鶏
鶏
1,500,000羽
420,000羽
家畜排せつ物発生量
150t/日
40t/日
コンポスト発生量
約40t/日
10t/日
コンポスト水分率
20%
20%
畜種
飼養羽数
※家畜排せつ物発生量、コンポスト発生量は、聞き取り調査より。
(イ) 利用可能量
A農場から発生する家畜排せつ物は、全量コンポスト化(3,650t/年)しており、そのう
ち50%をホームセンターに販売し50%を農地還元している。しかし、コンポスト製造販売に
関する収支はマイナスであるため、新たな処理方法が望まれている。
ここでは、A農場から排出される家畜排せつ物から製造されたコンポストを全て受入れる
こととし、利用可能量は10t/日とする。
表3.2-2 家畜排せつ物の処理状況及び利用可能量
A農場
家畜排せつ物の処理状況
全量コンポスト化
コンポストの発生量
3,650t/年
コンポストの利用状況
ホームセンターへ販売(50%)
農地還元(50%)
その他
コンポスト製造に関する収支はマイナスであり、新たな処理
方法が望まれている。
3‐30
ウ 施設規模
施設規模は、A農場から発生する鶏ふんコンポストが10t/日であるため、処理能力10t/
日の施設規模とした。
設備設置に必要な面積は約700m2(35m×20m)であり、作業等のスペースを考慮し、必
要敷地面積は約2,000m2とした。
施設候補地
2,000m2
A 農場
100m
図 3.2-1 施設設置候補地
エ 発電量及び熱回収量
利用可能量10t/日の鶏ふんコンポストを原料とし、低温ガス化施設でガス化した場合に
推定される発電量及び熱回収量は、以下のとおりである。
(ア) ガス発生量
モデル地区で利用するバイオマスは、鶏ふんを原料とするコンポスト10t/日である。水
分率は20%であるため、投入時に水分調整は不要である。
低温ガス化施設により発生する混合ガスは、下式より4,500Nm3/日である。
混合ガス発生量=450Nm3/t×鶏ふんコンポスト量10t/日
=4,500Nm3/日=1,642,500Nm3/年
(イ) 発電量
発生する混合ガスで発電した場合の発電量は、下式より5,873kWh/日である。
発電量=鶏ふんコンポスト発熱量MJ×冷ガス効率×発電効率×0.2778
=(8,790MJ/t×10t/日)×0.65×0.37×0.2778kWh/MJ
=5,873kWh/日=2,143,645kWh/年
※鶏ふんコンポスト発熱量8,790MJ/t、冷ガス効率65%、発電効率37%(理論値)と仮定した。
また、1MJ=0.2778kWhとした。
3‐31
(ウ) 熱回収量
a 低温ガス化炉における熱回収量
低温ガス化では、鶏ふんコンポスト及び触媒を加熱するために、投入原料の持つ熱量の
約1割に相当する熱量を外部より供給する必要がある。鶏ふんコンポストの発熱量を
8,790MJ/tとすると、10t/日の鶏ふんコンポストを加熱するために外部より供給する熱
量は、8,790MJ/日である。
低温ガス化炉における熱回収量は下式より、約4万MJ/日である。
低温ガス化炉における熱回収量
=鶏ふんコンポスト発熱量MJ×(1-冷ガス効率)+外部からの供給熱MJ
=(8,790MJ/t×10t/日)×(1-0.65)+8,790MJ/日
=39,555MJ/日=14,437,575MJ/年
b 発電機における熱回収量
発電機における熱回収量は下式より、約3万6千MJ/日である。
発電機における熱回収量
=鶏ふんコンポスト発熱量MJ×冷ガス効率×(1-発電効率)
=(8,790MJ/t×10t/日)×0.65×(1-0.37)
=35,995MJ/日=13,138,175MJ/年
以上より、
低温ガス化施設全体から回収される熱量は75.55GJ/日(27,576GJ/年)と推計され
る。
熱回収量=39.555GJ/日+35.995GJ/日
=75.55GJ/日=27,576GJ/年
オ 収集方法
(ア) 運搬ルート及び経費
A農場から発生する家畜排せつ物は、約1.8km離れた施設でコンポスト化され、コンポスト
はダンプトラックにより、低温ガス化施設まで運搬する。
コンポストは、低温ガス化施設へ通年ほぼ同量を、毎日運搬するものとする。
運搬ルート及び運搬にかかる経費を表3.2-3に示す。
コンポスト化
施設
コンポスト
家畜排せつ物
1,800m
低温ガス化
施設
図 3.2-2 運搬ルート
3‐32
A農場
表3.2-3 運搬に係る経費
運搬経費
①運搬回数
3回/日
②運搬距離(片道)
1,800m
③燃費
4.5km/ℓ
④年間軽油消費量
876ℓ
⑤軽油単価
110.0円/ℓ
⑥燃料代(④×⑤)
96,360円/年
※④=①×②×2(往復)×365(日)÷(4.5km/ℓ×1,000)
※軽油単価:群馬県12/8(財団法人日本エネルギー経済研究所石油情報センター)
(イ) 臭気・防疫対策
A農場とコンポスト化施設の間は林道で、これまでも家畜排せつ物運搬に利用されてきた
ルートであり、コンポスト運搬において臭気・防疫等の問題は発生していないことから、臭
気・防疫対策は特に行わないものとする。
(ウ) ストックヤードの確保
運搬したコンポストの仮置き場所としてストックヤードを確保する必要がある。
本施設では、運搬してすぐに低温ガス化施設で処理するため、コンポスト10t/日を仮置き
できる面積を確保する。低温ガス化施設の故障時には、現在所有するコンポスト化施設を活
用するものとする。
a コンポストの体積
コンポストの単位体積重量を約0.4t/m3※とすると、コンポスト10tの体積は25m3であ
る。
コンポスト体積=10t÷0.4t/m3
=25m3
※堆肥化施設設計マニュアル(中央畜産会)p.114表4-21より
b ストックヤードの必要面積
コンポストは一時的な仮置きであるため、水分変動等による余裕率は考慮せずに必要面
積を算出する。
堆積高さを2mとした場合、ストックヤードの必要面積は約40m2となる。
必要面積=3×25m3÷堆積高さ2m=37.5m2
≒40m2
2m
40m2
※体積=1/3×底面×高さ
必要面積=3×体積÷高さ
3‐33
カ エネルギー利用方法
(ア) エネルギー需要施設
低温ガス化施設で回収した電力及び熱は、低温ガス化施設の動力及びA農場内での利用を
想定する。
表3.2-4 エネルギー需要施設
エネルギー需要施設
利用用途
低温ガス化施設
A農場
・冷水ポンプの動力
コンポスト化
・コンポスト化に関する電力
農場
・その他、農場で必要となる電源
(イ) エネルギー需給バランス
低温ガス化施設から発生するエネルギーは、低温ガス化施設の動力及びA農場内施設の電
力等として利用する。余剰エネルギーは電力会社等へ販売する。
a 電力
低温ガス化施設での発電量は、約214万kWh/年である。電力需要量は、低温ガス化施設
及びA農場施設の約125万kWh/年であり、毎月余剰電力が生じ、年間余剰電力量は約89万
kWh/年である。
表3.2-5 算出方法
項 目
電力供給量
算出方法
「エ 発電量及び熱回収量」で算定した1日当たりの発電量
5,873kWh/日に、各月の日数を乗じて算出
電力需要量
低温ガス化
冷水ポンプの動力は出力11kWと仮定し、1日1時間運転した場合の
施設
電力量に、各月の日数を乗じて算出
A農場
A農場におけるH19の電力使用量実績より
月別の電力需給バランスは次頁のとおりである。
3‐34
表3.2-6 電力需給バランス
需給バランス
電力需要量
電力供給量
①
〔単位:kWh〕
⑤=①-④
低温ガス化
A農場
計
施設②
③
④=②+③
余 剰
不 足
1月
182,063
341
77,858
78,199
103,864
-
2月
164,444
308
71,712
72,020
92,424
-
3月
182,063
341
70,076
70,417
111,646
-
4月
176,190
330
85,554
85,884
90,306
-
5月
182,063
341
83,704
84,045
98,018
-
6月
176,190
330
92,580
92,910
83,280
-
7月
182,063
341
101,904
102,245
79,818
-
8月
182,063
341
114,010
114,351
67,712
-
9月
176,190
330
151,301
151,631
24,559
-
10月
182,063
341
170,053
170,394
11,669
-
11月
176,190
330
134,110
134,440
41,750
-
12月
182,063
341
96,084
96,425
85,638
合計
2,143,645
4,015
1,248,946
1,252,961
890,684
0
※四捨五入のため合計値は合わないことがある。
供給量:2,143,645kWh/年
需要量:1,252,961kWh/年
単位:kWh
200,000
150,000
182,063
182,063
182,063
182,063176,190182,063
182,063
182,063 176,190
176,190
176,190
170,394
164,444
151,631
134,440
100,000
78,199 72,020
70,417
85,884 84,045
92,910
114,351
102,245
96,425
供給量
需要量
50,000
0
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
図 3.2-3 電力需給バランス
b 熱
低温ガス化施設より得られる熱量は、約2万8千GJ/年である。熱需要量は、低温ガス
化施設の約3千GJ/年であり、年間余剰熱量は約2万4千GJ/年である。
3‐35
表3.2-7 算出方法
項 目
算出方法
熱供給量
「エ 発電量及び熱回収量」で算定した1日当たりの熱回収量75.55GJ/日
に、各月の日数を乗じて算出
熱需要量
低温ガス化
鶏ふんコンポストの発熱量8.79GJ/tの1割とし、8.79GJ/t×0.1×10t/日
施設
=8.79GJ/日に各月の日数を乗じて算出
A農場
A農場における熱需要量は見込まない
月別の熱需給バランスは、以下のとおりである。
表3.2-8 熱需給バランス
〔単位:GJ〕
需給バランス
熱需要量
熱供給量
①
⑤=①-④
低温ガス化
A農場
計
施設②
③
④=②+③
余 剰
不 足
1月
2,342
273
0
273
2,070
-
2月
2,115
246
0
246
1,869
-
3月
2,342
273
0
273
2,070
-
4月
2,267
264
0
264
2,003
-
5月
2,342
273
0
273
2,070
-
6月
2,267
264
0
264
2,003
-
7月
2,342
273
0
273
2,070
-
8月
2,342
273
0
273
2,070
-
9月
2,267
264
0
264
2,003
-
10月
2,342
273
0
273
2,070
-
11月
2,267
264
0
264
2,003
-
12月
2,342
273
0
273
2,070
合計
27,576
3,208
0
3,208
24,367
0
※四捨五入のため合計値は合わないことがある。
供給量:27,576GJ/年
需要量: 3,208GJ/年
単位:GJ
3,000
2,342
2,342
2,115
2,267 2,342
2,342
2,2672,342
2,267
2,342
2,267 2,342
2,000
供給量
需要量
1,000
273
246
273
264
273
273
264
273
264
273
264
273
10月
11月
12月
0
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
図 3.2-4 熱需給バランス
3‐36
9月
(ウ) その他の利用方法
余剰電力は、電力会社への売電を想定するが、低温ガス化施設設置候補地の近隣に種鶏の
育成場があるため、将来的には育成場における電力利用の検討も考えられる。
(エ) エネルギーフロー
鶏ふんコンポスト10t/日を原料とした低温ガス化施設のエネルギーフローは、
以下のとお
りである。
低温ガス化施設
施設での利用
4,015kWh/年
鶏ふん
コンポスト
低温ガス化
(タール除去)
32,084GJ/年
(8.79GJ/t×10t/日×365 日)
ガス
精製
ガス
ホルダ
ガスエンジン
発電機
施設での利用
3,208GJ/年
熱
14,438GJ/年
A畜産農家
熱
13,138GJ/年
余剰熱量
・コンポスト化施設
・その他
1,248,946kWh/年
・販売等
24,367GJ/年
電力
2,143,645kWh/年
余剰電力
・売電
890,684kWh/年
図 3.2-5 低温ガス化施設のエネルギーフロー
キ 副産物の利用・処理
(ア) 副産物発生量
鶏ふんコンポスト10t/日を処理する際に低温ガス化施設から発生する副産物(焼却灰、ニ
ッケル金属)の発生量は以下のとおりである。
a 焼却灰
焼却灰は原料の約32%発生することから、その発生量は3.2t/日と推計される。
焼却灰発生量=10t/日×0.32=3.2t/日
=1,168t/年
b ニッケル金属
触媒として原料の約1割にあたる1.0t/日のニッケル担持褐炭を投入し、このうち約
10%の100kg/日のニッケル金属が低温ガス化後に回収される。
ニッケル金属回収量=1.0t/日×0.1=0.1t/日
=36.5t/年
3‐37
(イ) 副産物の利用及び処理
a 焼却灰
焼却灰の成分は、現在調査研究段階であるため利用先は確定できないが、将来的には、
肥料、土壌改良材、水分調整剤、セメント原料等の需要が考えられる。
b ニッケル金属
ニッケル金属は、鉄鋼原料として鉄鋼会社へ販売することが可能であるが、現段階では
販売ルートが確立されていない。
(ウ) マテリアルフロー
鶏ふんコンポスト10t/日を原料とした低温ガス化施設のマテリアルフローは、
以下のとお
りである。
低温ガス化施設
水
339t/年
鶏ふん
コンポスト
3,650t/年
ニッケル担持褐炭
365t/年
(10t/日×0.1×365 日)
低温ガス化
(タール除去)
ガス
精製
ガス
ホルダ
ガスエンジン
発電機
(10t/日×365 日)
焼却灰
1,168t/年
ニッケル金属
36.5t/年
図 3.2-6 低温ガス化施設のマテリアルフロー
※水の投入量
低温ガス化では、ガス化炉に過熱水蒸気を供給することで原料をガス化する技術であるため加水
が必要となる。
鶏ふんコンポストに含まれる炭素成分を31%、S/C(水蒸気/原料炭素mol比)=0.3と仮定する
と、鶏ふんコンポスト1tあたりに必要な水量は0.093m3/tである。よって年間必要水量は339t/
年と推計される。
年間必要水量=0.093m3/t×10t/日×365日
=339t/年
3‐38
ク 事業実施体制
(ア) 事業主体
畜産農家が事業主体として低温ガス化施設を導入し、管理運営するものとする。
(イ) 事業実施体制
事業実施体制は、以下のとおりとする。
群 馬 県 地 域 結 集 型 研 究 開 発 プログラム
行 政
群馬県・JST・(財)群馬県産業支援機構等
大学・高専・研究機関
企 業
群馬大学・前橋工科大学・筑波大学
群馬工業高等専門学校等・(独)日本原子力研
究開発機構等
公設試験研究機関
データ提供
育成舎
支援
電力供給
熱供給
売電
電力会社
A畜産農家
近隣農家
(発生電力・熱は場内利用)
焼却灰販売
補助
借入
国庫補助
ニッケル
金属販売
返済
銀 行
図 3.2-7 事業実施体制
3‐39
鉄鋼会社等
ケ 経済性の検討
経済性については、
「ケースA:現段階で想定されるケース」
、
「ケースB:将来的に考えら
れるケース」の2ケースで検討した。
経済性評価は、現在のコンポスト販売収入と、低温ガス化施設を導入した場合の収入の比
較により行った。低温ガス化施設の投入資源はコンポストであり、現在と同様にコンポスト
化に経費はかかるため、コンポスト化にかかる経費は計上せずに収支を算出し、現在のコン
ポスト販売による収入との比較を行う。
A農家は、現在鶏ふんをコンポストにして販売しており、コンポストの販売収入は約1,000
万円/年である。
経済性評価の結果、ケースAの場合は、収支がマイナスであるため、低温ガス化施設の導
入効果は得られないが、
ケースBの場合は、
現在のコンポスト販売額を上回る収入が得られ、
15年間で約6千万円の経費節減が見込まれる。
(ア) 建設費等の設定条件
建設費及び補助の設定条件は、下表のとおりとした。
表3.2-9 建設費等の設定条件
建設費
ケースA
現段階で想定されるケース
・メーカー聞き取りより100,000千円/t
補助金
・補助は見込まない
用地費
・私有地を利用するため用地取得費は計上
しない
・場内砂利舗装を500円/m2(2,000m2)、
諸経費60%とする
場内舗装
ケースB
将来的に考えられるケース
・技術革新により、1/2で建設が可能にな
ると想定(50,000千円/t)
・「新エネルギー等事業者支援対策事業」
(経済産業省)
:補助率1/3
・同左
・同左
※設備の耐用年数を15年と想定した
(イ) 管理運営費の設定条件
a 収入
収入の設定条件は、下表のとおりとした。
表3.2-10 収入の設定条件(1/2)
売電収入
熱販売収入
コンポスト処理収入
ケースA
現段階で想定されるケース
・余剰電力量に売電単価を乗じて推計
・売電単価は、RPS法における取引価格を
想定(H19の「RPS相当量+電気」の加重平
均価格7.8円/kWh)
・余剰熱の販売は、インフラ整備等が困難
であるため想定しない
・A畜産農家自ら処理するため、処理収入
は想定しない
3‐40
ケースB
将来的に考えられるケース
・余剰電力量に売電単価を乗じて推計
・売電単価は、RPS法における取引価格を
想定(H19の「RPS相当量+電気」の最高価
格13.5円/kWh)
・送配電線等の整備を行い、余剰電力を全
て近隣施設に供給することで節減され
る電気料金を収入として計上すること
も考えられる
・同左
・同左
表3.2-11 収入の設定条件(2/2)
焼却灰販売収入
ケースA
現段階で想定されるケース
・現段階では最終処分場で処分するものと
し、「焼却灰処理費」で処理費を計上す
る
ニッケル金属
販売収入
・現段階では販売ルートが確立されていな
いため想定しない
ケースB
将来的に考えられるケース
・焼却灰発生量に単価を乗じて推計
・リン分の多い肥料として販売できる可能
性が高いため、販売額は先進事例を参考
に10,000円/tと想定
・ニッケル金属発生量に単価を乗じて推計
・鉄鋼会社への販売を想定し、100万円/t
とする
b 支出
支出の設定条件は、下表のとおりとした。
表3.2-12 支出の設定条件
触媒等調達費
コンポスト購入費
焼却灰処理費
運搬費
メンテナンス費
人件費
減価償却費
ケースA
現段階で想定されるケース
・ニッケル担持褐炭の購入量に単価を乗じ
て推計
・単価は5,000円/tと想定
・A畜産農家自ら処理するため、購入費は
想定しない
・焼却灰発生量に処理単価を乗じて推計
・近隣県の最終処分場における燃え殻の処
分費を参考に18,000円/tと想定
・コンポスト化施設から低温ガス化施設ま
での運搬燃料費
・表3.2-3より96千円/年と想定
・メンテナンス費を建設費の2~3%(毎
年)、オーバーホール費を建設費の5~
7%(数年に1度)とし、平均して建設費の
5%と想定
・専従者を一人置き、5百万円/年を想定
ケースB
将来的に考えられるケース
・同左
・同左
・将来的には販売できるものとし、「焼却
灰販売収入」で計上する
・同左
・同左
・現在の従業員で賄えるものとし、追加人
員は想定しない
・同左
借入金返済額
・償却期間を15年とし、建設費(助成を受
けた場合はそれを見込んだ実質的な値)
を償却期間で割る
・支払金利は2%を想定
・全額借入を想定
・返済期間を15年とし、元利均等払いを想
定
租税公課
・償却資産及び用地の固定資産税相当額を
・補助金相当額を控除した償却資産及び用
地の固定資産税相当額を推計
推計(未償却残高×1.4%)
・同左
・「農林漁業有機物資源のバイオ燃料の原
材料としての利用の促進に関する法律」
に基づき申請し、バイオ燃料製造施設に
係る固定資産税が3年間1/2になると想
定
一般管理費
・人件費の10%を想定
・同左
3‐41
(ウ) 低温ガス化施設導入による既存施設の電力・熱量削減費の設定条件
既存施設の電力・熱量削減費の設定条件は、下表のとおりとした。
表3.2-13 既存施設の電力・熱量削減費の設定条件
電力削減費
ケースA
ケースB
現段階で想定されるケース
将来的に考えられるケース
・低温ガス化施設で発電した電力をA農場
・同左
の需要施設で利用するものとし、これに
より削減できる電気料金
・削減費は、平成19年度にA農場でかかっ
た電気料1,800万円と想定
熱量削減費
・熱需要施設がないため想定しない
・同左
(エ) 経済性評価の方法
経済性評価は、現在のコンポスト販売収入と、低温ガス化施設を導入した場合の収入の比
較により行った。ケースBの場合は、現在のコンポスト販売額を上回る収入が得られ、15年
間で約6千万円の経費節減が見込まれる。
表3.2-14 経済性評価の設定条件
ケースA・B共通
収入計①
・売電収入、熱販売収入、コンポスト処理収入、焼却灰販売収入、ニッケル
金属販売収入の合計
削減費計②
・電力削減費及び熱量削減費の合計
支出計③
・触媒等調達費、コンポスト購入費、焼却灰処理費、運搬費、メンテナンス
費、人件費、借入金返済額、租税公課、一般管理費の合計
収支④
・年間収支=収入+削減費-支出-場内舗装費(=①+②-③-場内舗装費)
減価償却費⑤
・減価償却は、実際は現金支出を伴わないことから、キャッシュフローには
含めないため、支出として控除した分を加え直す
毎年のキャッシュフロー⑥
・毎年のキャッシュフロー=収支+減価償却費(=④+⑤)
キャッシュの累計⑦
・年間キャッシュの累計(=Σ⑥)
回収率⑧
・キャッシュの累計⑦が建設費(助成を受けた場合はそれを見込んだ実質的
な値)の何%に相当するかを回収率として試算
・回収率が初めて100%を上回った年が、設備投資回収が可能となる年
表3.2-15 現在のコンポスト販売収入と低温ガス化導入による収入の比較
ケースA
(15年間)
現在のコンポスト販売収入(10,000千円/年)①
〔千円/15年間〕
ケースB
(15年間)
150,000
150,000
低温ガス化施設導入による収入②
-2,221,190
209,981
収入の差③(=②-①)
-2,371,190
59,981
3‐42
3‐43
表 3.2-16 経済性の検討(ケースA)
3‐44
表 3.2-17 経済性の検討(ケースB)
コ 二酸化炭素排出削減効果
低温ガス化施設による発電・熱回収は、畜産バイオマスを原料としているため、二酸化炭
素の新たな排出がない。そこで、低温ガス化施設で得られた電力や熱を他の施設において利
用する場合には、その分は化石燃料の使用量が減るため、二酸化炭素排出量を削減できる。
なお、低温ガス化施設の導入により「コンポストの運搬」が新たに必要となるため、これに
係る二酸化炭素排出量は増加する。
低温ガス化施設の導入による二酸化炭素排出削減量は2,574t-CO2/年となる。
表3.2-18 二酸化炭素排出量の算定
消費電力量
消費熱量
-
-
-
-
-
-
(ウ) 低温ガス化施設以外
での電力利用時
-2,139,630kWh/年
-
-
-1,187t-CO2/年
(エ) 低温ガス化施設以外
での熱利用時
-
-24,368GJ/年
-
-1,389t-CO2/年
合 計
-2,139,630kWh/年
-24,368GJ/年
(ア) コンポスト運搬時
(イ) 低温ガス化時
軽油消費量
二酸化炭素排出量
2t-CO2/年
876ℓ/年
876ℓ/年
-2,574t-CO2/年
※軽油の二酸化炭素排出係数は、環境庁「総排出量算定方法ガイドライン」より2.6444kg-CO2/ℓ
電力の二酸化炭素排出係数は、
「特定排出者の事業活動に伴う温室効果ガスの排出量の算定に関する省令」
(平成18年経済産業省・環境省令3号)より0.555kg-CO2/kWh
熱の二酸化炭素排出係数は、環境庁「総排出量算定方法ガイドライン」より0.057kg-CO2/MJ
表3.2-19 二酸化炭素排出量の算定条件
条 件
(ア) コンポスト運搬時
・A農場から低温ガス化施設までコンポストをダンプトラックで運搬する時の二酸
化炭素排出量を、ダンプトラックの軽油消費量(876ℓ/年※)から推計する。
※軽油消費量の算定は「オ 収集方法」参照
(イ) 低温ガス化時
・低温ガス化施設の消費電力量は4,015kWh/年※である。これらはすべて低温ガス化
施設で発電した電力で賄うため二酸化炭素排出量はゼロである。
・低温ガス化施設の消費熱量は3,208GJ/年※である。これらは低温ガス化施設で回
収した熱でまかなうため二酸化炭素排出量はゼロである。
※消費電力量及び消費熱量は「カ エネルギー利用方法」を参照
(ウ) 低温ガス化施設以
外での電力利用時
・低温ガス化施設以外での消費電力量は2,139,630kWh/年※であり、この電力利用分
だけ二酸化炭素排出量が削減できるものとした。
※低温ガス化施設以外での消費電力量は「カ エネルギー利用方法」を参照
(エ) 低温ガス化施設以
外での熱利用時
・低温ガス化施設以外での消費熱量は24,367GJ/年※であり、この熱利用分だけ二酸
化炭素排出量を削減できるものとした。
※低温ガス化施設以外での消費熱量は「カ エネルギー利用方法」を参照
3‐45
(2) タイプ②:中規模畜産農家数戸が共同で導入する場合
ア モデル地区の概要
モデル地区は、中規模畜産農家の多い前橋市から、畜産農家が団地化されている地域を選
定し、対象畜産農家は、家畜排せつ物2t/日程度の養豚農家4戸とした。
■モデル地区は、養豚及び乳・肉牛農家が団地化されている平坦地で、周辺は水田及び畑
が混在している。
■地区内を東西に一般道が通り、平行するように農業用水路が流下している。また、南
北に一級河川が流下している。
■畜産農家は一般道沿いに多く、B養豚農家を中心とし、半径400m圏内に飼養頭数30
頭~10,000頭の養豚農家10件、飼養頭数約10頭~90頭の乳・肉牛農家9件がある。
■公共施設として、小学校及び公民館が半径400m圏内にある。
イ バイオマス資源
(ア) 発生量
利用バイオマスは、下表に示す4戸の養豚農家から排出されるコンポストとする。コンポ
スト発生量は9.2t/日、水分率は28%程度である。
表3.2-20 対象畜産農家及び利用バイオマスの諸元
B
畜種
C
D
E
合 計
豚
豚
豚
豚
-
肥育豚
900頭
700頭
6,600頭
3,000頭
-
繁殖豚
150頭
100頭
1,100頭
500頭
-
子豚
600頭
400頭
4,400頭
2,000頭
-
家畜排せつ物発生量
3.6t/日
2.4t/日
26.7t/日
12.2t/日
-
コンポスト発生量
0.7t/日
0.3t/日
5.0t/日
3.2t/日
9.2t/日
コンポスト水分率
30%
30~40%
25~28%
30%
28%
飼養頭数
※家畜排せつ物発生量は、原単位から算出した量。コンポスト発生量は、聞き取り調査により把握した実際に排出さ
れるコンポストの発生量。
(イ) 利用可能量
各畜産農家における家畜排せつ物の処理状況を次頁に示す。
聞き取り調査によると、ほとんどの畜産農家は、現在のコンポスト受け入れ先は確定して
おり全量処理できているが、需要先である耕種農家の減少により、将来的に受け入れ量が減
少することが懸念されている。しかし、1戸の畜産農家では、コンポストの処理先が確保で
きずコンポスト舎に山積みされている。
モデル地区では、安定的なコンポスト供給先の確保を目的とし、各畜産農家から排出され
るコンポストを全量低温ガス化施設で受入れることとする。また、将来的な増頭の見込みは
ないため、利用可能量は現在4戸の畜産農家から排出される9.2t/日とする。
3‐46
表3.2-21 家畜排せつ物の処理状況及び利用可能量
ふん処理状況
B
C
D
E
全量コンポスト化
全量コンポスト化
全量コンポスト化
全量コンポスト化
コンポスト発生量
240t/年
110t/年
1,825t/年
1,168t/年
コンポストの利用
全量業者が引き取っ
近隣農地へ散布して
コンポスト業者等へ
状況
ている
いる
販売している
コンポストの余剰
全量処理できている
全量処理できている
全量処理できている
JAへ一部譲渡
年間を通じて余って
いる
コンポスト販売料
-150,000円/年
※有償で引き取って
もらっている
0円/年
1,825,000円/年
0円/年
※無料で引き取って
もらっている
(2,000円/2t)
※有償で販売してい
る
※無料で引き取って
もらっている
ウ 施設規模
施設規模は、4畜産農家から回収可能なコンポストが9.2t/日であるため、処理能力9.2
t/日の施設規模とした。
設備設置に必要な面積は約700m2(35m×20m)であり、作業等のスペースを考慮し、必
要敷地面積は約2,000m2とした。
エ 発電量及び熱回収量
利用可能量9.2t/日のコンポストを原料とし、低温ガス化施設でガス化した場合に推定さ
れる発電量及び熱回収量は、以下のとおりである。
(ア) ガス発生量
モデル地区で利用するバイオマスは、豚ふんを原料とするコンポスト9.2t/日である。水
分率は28%であるため、投入時の水分調整は不要である。
低温ガス化施設より発生する混合ガスは、下式より9,200Nm3/日である。
混合ガス発生量=1,000Nm3/t×豚ふんコンポスト量9.2t/日
=9,200Nm3/日=3,358,000Nm3/年
(イ) 発電量
発生する混合ガスで発電した場合の発電量は、下式より8,390kWh/日である。
発電量=豚ふんコンポスト発熱量MJ×冷ガス効率×発電効率×0.2778
=(13,650MJ/t×9.2t/日)×0.65×0.37×0.2778kWh/MJ
=8,390kWh/日=3,062,350kWh/年
※豚ふんコンポスト発熱量13,650MJ/t、冷ガス効率65%、発電効率37%(理論値)と仮定した。
また、1MJ=0.2778kWhとした。
3‐47
(ウ) 熱回収量
a 低温ガス化炉における熱回収量
低温ガス化では、豚ふんコンポスト及び触媒を加熱するために、投入原料の持つ熱量の
約1割に相当する熱量を外部より供給する必要がある。豚ふんコンポストの発熱量を
13,650MJ/tとすると、9.2t/日の豚ふんコンポストを加熱するために外部より供給する
熱量は、12,558MJである。
低温ガス化炉における熱回収量は下式より、約5万7千MJ/日である。
低温ガス化炉における熱回収量
=豚ふんコンポスト発熱量MJ×(1-冷ガス効率)+外部からの供給熱MJ
=(13,650MJ/t×9.2t/日)×(1-0.65)+12,558MJ/日
=56,511MJ/日=20,626,515MJ/年
b 発電機における熱回収量
発電機における熱回収量は下式より、約4万MJ/日である。
発電機における熱回収量
=豚ふんコンポスト発熱量MJ×冷ガス効率×(1-発電効率)
=(13,650MJ/t×9.2t/日)×0.65×(1-0.37)
=51,425MJ/日=18,770,125MJ/年
以上より低温ガス化施設全体から回収される熱量は107.936GJ/日(39,397GJ/年)と推計
される。
熱回収量=56.511GJ/日+51.425GJ/日
=107.936GJ/日=39,397GJ/年
オ 収集方法
(ア) 運搬方法
群馬県では、
「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」の施行以降、法
適用対象畜産農家のほぼ全てにおいて、家畜排せつ物はコンポスト化等により適正処理され
ている。
モデル地区畜産農家のコンポスト状況は、自然乾燥によるコンポスト化が1戸、縦型撹拌
発酵施設によるコンポスト化が2戸、
ロータリー式撹拌機によるコンポスト化が1戸であり、
製造されたコンポストの水分率は25~40%である。水分率25~40%のコンポストはダンプト
ラックでの運搬が可能であるため、各畜産農家で所有するダンプトラックを利用し、各畜産
農家が低温ガス化施設まで運搬するものとする。
コンポスト舎で保管されるコンポストの状況
コンポスト運搬用のダンプトラック
3‐48
(イ) 運搬ルート及び経費
収集拠点は、D畜産農家の近隣の低温ガス化施設設置位置であり、各畜産農家は一般道を
主なルートとして運搬すると考えられる。
コンポストは、各畜産農家とも通年ほぼ同量を、毎日運搬するものとする。
各畜産農家の運搬ルート及び運搬にかかる経費を以下に示す。
低温ガス化施設
Ⓓ
480m Ⓔ
570m
1,100m
Ⓑ
Ⓒ
図 3.2-8 運搬ルート
表3.2-22 運搬に係る経費
①運搬車両
B
C
D
E
ダンプトラック
ダンプトラック
-
ダンプトラック
570m
1,100m
-
480m
4.5km/ℓ
4.5km/ℓ
-
4.5km/ℓ
92.5ℓ
178.4ℓ
-
77.9ℓ
110.0円/ℓ
110.0円/ℓ
-
110.0円/ℓ
10,200円/年
19,600円/年
-
8,600円/年
②運搬距離(片道)
③燃費
④年間軽油消費量
⑤軽油単価
⑥燃料代
※④=②×2(往復)×365(日)÷(4.5km/ℓ×1,000)
※軽油単価:群馬県12/8(財団法人日本エネルギー経済研究所石油情報センター)
(ウ) 臭気・防疫対策
収集拠点と各畜産農家との距離は、最も遠くて約1kmであり、ほとんどが一般道を通行する
ルートとなる。モデル地区の一般道沿いには畜産農家が多く、普段からコンポスト運搬車が通
行していることや一般道沿いに一般住宅が少ないこと等から、運搬に対する住民への理解は得
られやすいと考えられる。しかし、臭気及びコンポストの落ちこぼれ防止対策は可能な限り実
施することが望ましく、密閉度の高い運搬車両の利用や現在所有する車両にトラックシートを
張る等の対策を検討する必要がある。
また、養豚は感染症の問題が大きく取り上げられているため、各車両がストックヤードまで
コンポストを運搬する際には、敷地に進入する前での車輪消毒を検討する。
トラックシート
3‐49
(エ) ストックヤードの確保
収集したコンポストの一時保管場所としてストックヤードを確保する必要がある。ストッ
クヤードの必要面積は、低温ガス化施設の故障等を考慮して、各畜産農家から収集するコン
ポスト9.2t/日を5日間程度(約50t/日)保管できる面積を確保する。
※聞き取り調査によると、各畜産農家が所有するコンポスト舎の耐用年数はまだ過ぎていない
ため、緊急時には各畜産農家でコンポストをストックするものとする。
a ストックヤードの必要容積
コンポストの単位体積重量を約0.4t/m3とすると、コンポスト50tの体積は125m3であ
る。
コンポスト体積=50t÷0.4t/m3
=125m3
※堆肥化施設設計マニュアル(中央畜産会)p.114表4-21より
b ストックヤードの必要面積
ストックヤードの規模の算定にあたっては、コンポスト中の水分の変動及び立地・気象
条件等を検討し、余裕率を用いる必要がある。「堆肥化施設設計マニュアル(中央畜産
会)p.118」より、水分の変動10%及び群馬県(中間地域)における余裕率10%を見込みスト
ックヤードの必要面積を算出する。コンポストの堆積高さを2mとした場合、ストックヤ
ードの必要面積は225m2となる。
必要面積=3×125m3÷コンポスト堆積高さ2m×1.2
=225m2
表 3.2-23 余裕率
水分の
地域
変動
係数
温暖地域
10%
0%
10%
中間地域
10%
10%
20%
10%
20%
30%
計
寒冷・積雪地域
中間地域
寒冷・積雪
地域
温暖地域
図 3.2-9 地帯区分
2m
資料:堆肥化施設設計マニュアル(中央畜産会)
225m2
※体積=1/3×底面×高さ
必要面積=3×体積÷高さ
3‐50
カ エネルギー利用方法
(ア) エネルギー需要施設
低温ガス化施設で回収した電力及び熱量は、低温ガス化施設の動力とし、余剰分は低温ガ
ス化施設を設置するD畜産農家の施設で利用することを想定する。
表3.2-24 エネルギー需要施設
エネルギー需要施設
利用用途
低温ガス化施設
D畜産農家
・冷水ポンプの動力
発酵槽
・ロータリー式撹拌装置の動力
尿浄化処理施設
・浄化処理に関する動力
豚舎暖房
・子豚用暖房
(イ) エネルギー需給バランス
低温ガス化施設から発生するエネルギーは、
低温ガス化施設の動力及びD畜産農家の電力等
として利用する。余剰エネルギーは電力会社等へ販売する。
a 電力
低温ガス化施設での発電量は、約300万kWh/年である。電力需要量は、低温ガス化施設
の約3千kWh/年、D畜産農家の約40万2千kWh/年の計40万5千kWh/年であり、毎月約20万
kWh/月の余剰電力が生じ、年間余剰電力量は約266万kWh/年である。
表3.2-25 算出方法
項 目
電力供給量
算出方法
「エ 発電量及び熱回収量」で算定した1日当たりの発電量
8,390kWh/日に、各月の日数を乗じて算出
電力需要量
低温ガス化
冷水ポンプにかかる必要電力を7.5kWと仮定し、1日1時間運転した
施設
場合の電力量に、各月の日数を乗じて算出
D畜産農家
D畜産農家におけるH19の電力使用量実績より
月別の電力需給バランスを次頁に示す。
3‐51
表3.2-26 電力需給バランス
需給バランス
電力需要量
電力供給量
①
〔単位:kWh〕
⑤=①-④
低温ガス化
D畜産農家
計
施設②
③
④=②+③
余 剰
不 足
1月
260,090
233
34,133
34,366
225,724
-
2月
234,920
210
30,830
31,040
203,880
-
3月
260,090
233
34,133
34,366
225,724
-
4月
251,700
225
33,032
33,257
218,443
-
5月
260,090
233
34,133
34,366
225,724
-
6月
251,700
225
33,032
33,257
218,443
-
7月
260,090
233
34,133
34,366
225,724
-
8月
260,090
233
34,133
34,366
225,724
-
9月
251,700
225
33,032
33,257
218,443
-
10月
260,090
233
34,133
34,366
225,724
-
11月
251,700
225
33,032
33,257
218,443
-
12月
260,090
233
34,133
34,366
225,724
合計
3,062,350
2,738
401,893
404,631
2,657,719
0
※四捨五入のため合計値は合わないことがある。
供給量:3,062,350kWh/年
需要量: 404,631kWh/年
単位:kWh
300,000
260,090
251,700
260,090
260,090
260,090251,700260,090
260,090
251,700
251,700
234,920
260,090
250,000
200,000
150,000
供給量
需要量
100,000
50,000
34,366
34,366
33,257
31,040
34,366
33,257
34,366
33,257
34,366
34,366
33,257
34,366
0
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
図 3.2-10 電力需給バランス
b 熱
低温ガス化施設より得られる熱量は、3万9千GJ/年である。熱需要量は、低温ガス化施
設の4千6百GJ/年及びD畜産農家の3千4百GJ/年であり、年間余剰熱量は約3万1千
GJ/年である。
3‐52
表3.2-27 算出方法
項 目
算出方法
熱供給量
熱需要量
「エ 発電量及び熱回収量」で算定した1日当たりの熱回収量
107.936GJ/日に、各月の日数を乗じて算出
低温ガス化
施設
豚ふんコンポストの発熱量13.65GJ/tの1割とし、13.65GJ/t×
0.1×9.2t/日=12.558GJ/日に各月の日数を乗じて算出
D畜産農家
D畜産農家におけるH19の熱量使用実績(子豚暖房)より
月別の熱需給バランスを以下に示す。
表3.2-28 熱需給バランス
〔単位:GJ〕
需給バランス
熱需要量
熱供給量①
⑤=①-④
低温ガス化
D畜産農家
計
施設②
③
④=②+③
余 剰
不 足
1月
3,346
389
585
974
2,372
-
2月
3,022
352
528
880
2,143
-
3月
3,346
389
585
974
2,372
-
4月
3,238
377
566
943
2,295
-
5月
3,346
389
0
389
2,957
-
6月
3,238
377
0
377
2,861
-
7月
3,346
389
0
389
2,957
-
8月
3,346
389
0
389
2,957
-
9月
3,238
377
0
377
2,861
-
10月
3,346
389
0
389
2,957
-
11月
3,238
377
566
943
2,295
-
12月
3,346
389
585
974
2,372
合計
39,397
4,584
3,415
7,999
31,398
0
※四捨五入のため合計値は合わないことがある。
供給量:39,397GJ/年
需要量: 7,999GJ/年
単位:GJ
4,000
3,346
3,346
3,022
3,238 3,346
3,346
3,2383,346
3,238
3,346
3,238 3,346
3,000
2,000
1,000
974
880
974
943
389
389
377
389
377
943
974
11月
12月
389
0
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
図 3.2-11 熱需給バランス
3‐53
9月
10月
供給量
需要量
(ウ) その他の利用方法
電力及び熱量は、年間を通じて需要量に対して供給量が多いため、売電及び新たな需要先
を検討することが考えられる。
(エ) エネルギーフロー
豚ふんコンポスト9.2t/日を原料とした低温ガス化施設のエネルギーフローは、以下のと
おりである。
低温ガス化施設
豚ふん
コンポスト
45,837GJ/年
(13.65GJ/t×9.2t/日×365 日)
施設での利用
2,738kWh/年
低温ガス化
(タール除去)
ガス
精製
ガス
ホルダ
施設での利用
4,584GJ/年
熱
18,770GJ/年
熱
20,627GJ/年
D畜産農家
・子豚保温機
3,415GJ/年
ガスエンジン
発電機
・撹拌発酵施設
・浄化処理施設
401,893kWh/年
電力
3,062,350kWh/年
余剰熱量
余剰電力
・販売等
31,398GJ/年
・売電等
2,657,719kWh/年
※11~4月
図 3.2-12 低温ガス化施設のエネルギーフロー
キ 副産物の利用・処理
(ア) 副産物発生量
豚ふんコンポスト9.2t/日を処理する際に低温ガス化施設から発生する副産物の発生量は
以下のとおりである。
a 焼却灰
焼却灰は原料の12~15%発生することから、その発生量は1.1~1.4t/日と推計される。
焼却灰発生量=9.2t/日×(0.12~0.15)=1.1~1.4t/日
=約450t/年
b ニッケル金属
触媒として原料の約1割にあたる0.92t/日のニッケル担持褐炭を投入し、このうち約
10%の92kg/日のニッケル金属が低温ガス化後に回収される。
ニッケル金属回収量=0.92t/日×0.1=0.092t/日
≒33.6t/年
3‐54
(イ) 副産物の利用及び処理
a 焼却灰
焼却灰の成分は、現在調査研究段階であるため利用先は確定できないが、将来的には、
肥料、土壌改良材、水分調整剤、セメント原料等の需要が考えられる。
b ニッケル金属
ニッケル金属は、鉄鋼原料として鉄鋼会社へ販売することが可能であるが、現段階では
販売ルートが確立されていない。
(ウ) マテリアルフロー
豚ふんコンポスト9.2t/日を原料とした低温ガス化施設のマテリアルフローは、以下のと
おりである。
低温ガス化施設
水
470t/年
ニッケル担持褐炭
335.8t/年
(9.2t/日×0.1×365 日)
豚ふん
コンポスト
3,358t/年
低温ガス化
(タール除去)
ガス
精製
ガス
ホルダ
ガスエンジン
発電機
(9.2t/日×365 日)
焼却灰
約 450t/年
ニッケル金属
33.6t/年
図 3.2-13 低温ガス化施設のマテリアルフロー
※水の投入量
低温ガス化では、ガス化炉に過熱水蒸気を供給することで原料をガス化する技術であるため加水
が必要となる。
豚ふんコンポストに含まれる炭素成分を47%、S/C(水蒸気/原料炭素mol比)=0.3と仮定する
と、豚ふんコンポスト1tあたりに必要な水量は0.14m3/tである。よって年間必要水量は470t/
年と推計される。
年間必要水量=0.14m3/t×9.2t/日×365日
=470t/年
3‐55
ク 事業実施体制
(ア) 事業主体
モデル地区では、関係畜産農家が出資する協同組合を事業主体とする。
組合員である畜産農家から収集したコンポストを原料とし、低温ガス化施設で発電した電
力は基本的に施設に隣接するD畜産農家で場内利用する。将来的にコンポストの需要先が縮
小した場合に、コンポストの安定的な処理先の確保として各畜産農家のメリットがあると考
えられる。しかし、施設の共同利用については、機械の故障時などの責任の所在等、運営時
の利害に関する課題もあるため、十分に協議した上で各畜産農家との合意形成を図る必要が
ある。
(イ) 事業実施体制
事業実施体制は、以下のとおりとする。
畜産農家
出資
コンポスト
群馬県地域結集型
研究開発プログラム
近隣農家
D畜産農家
電力供給
熱供給
出資
コンポスト
データ提供
売電
支援
ニッケル
金属販売
焼却灰販売
出資者
電力会社
協同組合
出資
補助
借入
国庫補助
返済
銀 行
図 3.2-14 事業実施体制
3‐56
鉄鋼会社等
ケ 経済性の検討
経済性については、
「ケースA:現段階で想定されるケース」
、
「ケースB:将来的に考えら
れるケース」の2ケースで検討した。
経済性評価は、現在のコンポスト販売収入と、低温ガス化施設を導入した場合の収入の比
較により行った。
モデル地区における農家は、現在豚ふんをコンポストにして自家消費及び販売しており、
コンポストの販売収入は920万円/年と推測される。
経済性評価の結果、ケースAの場合は、収支がマイナスであるため、低温ガス化施設の導
入効果は得られないが、
ケースBの場合は、
現在のコンポスト販売額を上回る収入が得られ、
15年間で約2億円の経費節減が見込まれる。また、15年間で初期投資額を回収できると推計
される。
(ア) 建設費等の設定条件
建設費及び補助の設定条件は、下表のとおりとした。
表3.2-29 建設費等の設定条件
建設費
ケースA
現段階で想定されるケース
・メーカー聞き取りより100,000千円/t
補助金
・補助は見込まない
用地費
・私有地を利用するため用地取得費は計上し
ない
・場内砂利舗装を500円/m2(2,000m2)
、諸
経費60%とする
場内舗装
ケースB
将来的に考えられるケース
・技術革新により、1/2で建設が可能にな
ると想定(50,000千円/t)
・「新エネルギー等事業者支援対策事業」
(経済産業省)
:補助率1/3
・同左
・同左
※設備の耐用年数を15年と想定した
(イ) 管理運営費の設定条件
a 収入
収入の設定条件は、下表のとおりとした。
表3.2-30 収入の設定条件
売電収入
熱販売収入
コンポスト処理収
入
ケースA
現段階で想定されるケース
・余剰電力量に売電単価を乗じて推計
・売電単価は、RPS法における取引価格を想
定(H19の「RPS相当量+電気」の加重平均
価格7.8円/kWh)
・余剰熱の販売は、インフラ整備等が困難
であるため想定しない
・販売等により収入を得ている畜産農家も
いることから、無償引き取りと想定する
3‐57
ケースB
将来的に考えられるケース
・余剰電力量に売電単価を乗じて推計
・売電単価は、RPS法における取引価格を想
定(H19の「RPS相当量+電気」の最高価格
13.5円/kWh)
・将来的には、送配電線等の整備を行い、余
剰電力を全て近隣施設に供給することで
節減される電気料金を収入として計上す
ることも考えられる
・同左
・コンポスト処理量に処理単価を乗じて推計
・聞き取りにより、処理量4.2t/日、処理単
価630円/tと想定する(表3.2-32参照)
表3.2-31 収入の設定条件
焼却灰販売収入
ニッケル金属
販売収入
ケースA
現段階で想定されるケース
・現段階では最終処分場で処分するものと
し、
「焼却灰処理費」で処理費を計上する
・現段階では販売ルートが確立されていな
いため想定しない
ケースB
将来的に考えられるケース
・焼却灰発生量に単価を乗じて推計
・リン分の多い肥料として販売できる可能性
が高いため、販売額は先進事例を参考に
10,000円/tと想定
・ニッケル金属発生量に単価を乗じて推計
・鉄鋼会社への販売を想定し、100万円/tと
する
○コンポストの処理手数料
モデル地区では、コンポストを販売している畜産農家が1戸、無償で引き取ってもらってい
る畜産農家が2戸、有償で処理してもらっている畜産農家が1戸である。
低温ガス化施設へのコンポスト処理手数料の上限を聞き取ったところ、B畜産農家は現状の
処理料金と同等の630円/t、C畜産農家はトラック1台あたり5,000円程度(約660円/t)、E畜
産農家は金額の設定を自らはできないが、コンポストが余っている状況なので処理料金を払っ
てでも処理したいという意向であった。
D畜産農家は販売ルートが確立されリピーターも確保していることから、D畜産農家のコン
ポスト5.0t/日を除く、4.2t/日について630円/tの収入を見込む。
表3.2-32 コンポスト処理手数料
現状
年間処理料金
コンポスト1t当
り処理料金
コンポスト処理手
将来
数料の上限
B
C
D
E
150,000円/年
0円/年
有償で販売
0円/年
630円/t
0円/t
-
0円/t
150,000円/年
180,000円/年
0円/年
めることである。
・金額にもよるが処理料
コンポスト1t当
630円/t
り処理料金
・金額は施設導入側で決
660円/t
0円/t
を払っても処理して欲
しい
【参考】
メタン発酵施設を導入している先進地区における、家畜排せつ物の処理価格を下表に示す。
ふんの性状が異なるため単純比較はできないが、400 円/t~2,000 円/tを処理価格としている。
表 3.2-33 メタン発酵施設に投入する家畜排せつ物の処理手数料
市町名
手数料
条件
大分県日田市
600 円/t
豚ふん(スラリー系)、運搬費 700 円/t
京都府南丹市
423 円/t
成豚、畜産農家による持ち込み(水分率の指定無)
熊本県山鹿市
400 円/t
豚ふん(スラリー系)、運搬費 200 円/t
宮崎県小林市
2,000 円/t
山梨県富士河口湖町
920 円/t
豚ふん、運搬費平均 1,500 円/t
豚ふん(スラリー系)、畜産農家による持ち込み
3‐58
b 支出
支出の設定条件は、下表のとおりとした。
表3.2-34 支出の設定条件
触媒等調達費
ケースA
ケースB
現段階で想定されるケース
将来的に考えられるケース
・ニッケル担持褐炭の購入量に単価を乗じ
・同左
て推計
・単価は5,000円/tと想定
コンポスト購入費
・畜産農家からの購入費は想定しない
・同左
焼却灰処理費
・焼却灰発生量に処理単価を乗じて推計
・将来的には販売できるものとし、「焼却
・近隣県の最終処分場における燃え殻の処
灰販売収入」で計上する
分費を参考に18,000円/tと想定
運搬費
・各農家から低温ガス化施設までの運搬燃
・同左
料費
・表3.2-22より38千円/年と想定
メンテナンス費
・メンテナンス費を建設費の2~3%(毎
・同左
年)、オーバーホール費を建設費の5~
7%(数年に1度)とし、平均して建設費の
5%と想定
人件費
・専従者を一人置き、5百万円/年を想定
・同左
減価償却費
・償却期間を15年とし、建設費(助成を受
けた場合はそれを見込んだ実質的な値)
を償却期間で割る
・同左
借入金返済額
・支払金利は2%を想定
・同左
・全額借入を想定
・返済期間を15年とし、元利均等払いを想
定
租税公課
・償却資産及び用地の固定資産税相当額を
推計(未償却残高×1.4%)
・補助金相当額を控除した償却資産及び用
地の固定資産税相当額を推計
・「農林漁業有機物資源のバイオ燃料の原
材料としての利用の促進に関する法律」
に基づき申請し、バイオ燃料製造施設に
係る固定資産税が3年間1/2になると想
定
一般管理費
・人件費の10%を想定
・同左
3‐59
(ウ) 低温ガス化施設導入による既存施設の電力・熱量削減費の設定条件
既存施設の電力・熱量削減費の設定条件は、下表のとおりである。
表3.2-35 既存施設の電力・熱量削減費の設定条件
電力削減費
ケースA
ケースB
現段階で想定されるケース
将来的に考えられるケース
・低温ガス化施設で発電した電力をD畜産
・同左
農家の需要施設で利用するものとし、こ
れにより削減できる電気料金
・削減費は、平成19年度にD畜産農家でか
かった電気代500万円と想定
熱量削減費
・低温ガス化施設で発電した熱量をD畜産
・同左
農家の需要施設で利用するものとし、こ
れにより削減できる燃料代
・削減費は、平成19年度にD農場でかかっ
た燃料代200万円と想定
(エ) 経済性評価の方法
経済性評価は、現在のコンポスト販売収入と、低温ガス化施設を導入した場合の収入の比
較により行った。ケースBの場合は、現在のコンポスト販売額を上回る収入が得られ、15年
間で約2億円の経費節減が見込まれる。
表3.2-36 経済性評価の設定条件
ケースA・B共通
収入①
・売電収入、熱販売収入、コンポスト処理収入、焼却灰販売収入、ニッケル
金属販売収入の合計
削減費②
・電力削減費及び熱量削減費の合計
支出③
・触媒等調達費、コンポスト購入費、焼却灰処理費、運搬費、メンテナンス
収支④
・年間収支=収入+削減費-支出-場内舗装費(=①+②-③-場内舗装費)
減価償却費⑤
・減価償却は、実際は現金支出を伴わないことから、キャッシュフローには
費、人件費、借入金返済額、租税公課、一般管理費の合計
含めないため、支出として控除した分を加え直す
毎年のキャッシュフロー⑥
・毎年のキャッシュフロー=収支+減価償却費(=④+⑤)
キャッシュの累計⑦
・年間キャッシュの累計(=Σ⑥)
回収率⑧
・キャッシュの累計⑦が建設費(助成を受けた場合はそれを見込んだ実質的
な値)の何%に相当するかを回収率として試算
・回収率が初めて100%を上回った年が、設備投資回収が可能となる年
表3.2-37 現在のコンポスト販売収入と低温ガス化導入による収入の比較
現在のコンポスト販売収入(9,200千円/年)①
〔千円/15年間〕
ケースA
ケースB
(15年間)
(15年間)
138,000
138,000
低温ガス化施設導入による収入②
-1,820,175
329,960
収入の差③(=②-①)
-1,958,175
191,960
※各農家におけるコンポストの処理に関するコンポスト販売収入は、A畜産農家のコンポスト販売収入より推計した。A畜産農
家のコンポスト販売収入は10t/日で1千万円/年であるため、コンポスト9.2t/日で920万円/年(15年間で約1億4千万円)
とした。
3‐60
3‐61
表 3.2-38 経済性の検討(ケースA)
3‐62
表 3.2-39 経済性の検討(ケースB)
コ 二酸化炭素排出削減効果
低温ガス化施設による発電・熱回収は、畜産バイオマスを原料としているため、二酸化炭
素の新たな排出がない。そこで、低温ガス化施設で得られた電力や熱を他の施設において利
用する場合には、その分は化石燃料の使用量が減るため、二酸化炭素排出量を削減できる。
なお、低温ガス化施設の導入により「コンポストの運搬」が新たに必要となるため、これに
係る二酸化炭素排出量は増加する。
低温ガス化施設の導入による二酸化炭素排出削減量は3,681t-CO2/年となる。
表3.2-40 二酸化炭素排出量の算定
消費電力量
消費熱量
-
-
-
-
-
-
(ウ) 低温ガス化施設以
外での電力利用時
-3,059,612kWh/年
-
-
-1,698t-CO2/年
(エ) 低温ガス化施設以
外での熱利用時
-
-34,813GJ/年
-
-1,984t-CO2/年
合 計
-3,059,612kWh/年
-34,813GJ/年
(ア) コンポスト運搬時
(イ) 低温ガス化時
軽油消費量
二酸化炭素排出量
1t-CO2/年
349ℓ/年
349ℓ/年
-3,681t-CO2/年
※軽油の二酸化炭素排出係数は、環境庁「総排出量算定方法ガイドライン」より2.6444kg-CO2/ℓ
電力の二酸化炭素排出係数は、
「特定排出者の事業活動に伴う温室効果ガスの排出量の算定に関する省令」
(平成18年経済産業省・環境省令3号)より0.555kg-CO2/kWh
熱の二酸化炭素排出係数は、環境庁「総排出量算定方法ガイドライン」より0.057kg-CO2/MJ
表3.2-41 二酸化炭素排出量の算定条件
条 件
(ア) コンポスト運搬時
・各畜産農家から低温ガス化施設までコンポストをダンプトラックで運搬する時
の二酸化炭素排出量を、ダンプトラックの軽油消費量(349ℓ/年※)から推計す
る。
※軽油消費量の算定は「オ 収集方法」参照
(イ) 低温ガス化時
・低温ガス化施設の消費電力量は2,738kWh/年※である。これらはすべて低温ガス
化施設で発電した電力で賄うため二酸化炭素排出量はゼロである。
・低温ガス化施設の消費熱量は4,584GJ/年※である。これらは低温ガス化施設で回
収した熱でまかなうため二酸化炭素排出量はゼロである。
※消費電力量及び消費熱量は「カ エネルギー利用方法」を参照
(ウ) 低温ガス化施設以外
での電力利用時
・低温ガス化施設以外での消費電力量は3,059,612kWh/年※であり、この電力利用
分だけ二酸化炭素排出量が削減できるものとした。
※低温ガス化施設以外での消費電力量は「カ エネルギー利用方法」を参照
(エ) 低温ガス化施設以外
での熱利用時
・低温ガス化施設以外での消費熱量は34,813GJ/年※であり、この熱利用分だけ二
酸化炭素排出量を削減できるものとした。
※低温ガス化施設以外での消費熱量は「カ エネルギー利用方法」を参照
3‐63
(3) タイプ③:中規模畜産農家と施設園芸農家が共同で導入する場合
ア モデル地区の概要
モデル地区は、中規模畜産農家が多く、施設園芸の盛んな前橋市から、畜産農家及び施設
園芸団地を選定した。施設園芸団地は、前橋市で最も多い花き類の栽培団地、畜産農家は、
選定した施設園芸団地に近く、家畜排せつ物10t/日程度の養鶏農家を1戸選定した。
■モデル地区周辺は、水田、畑及び桑畑が広がる平坦地である。
■モデル地区を囲うように主要地方道が通り、地区内には河川及び農業用水路が流下し
ている。
■畜産農家は県道沿いに多く、飼養頭数250頭~2,200頭の養豚農家6戸、飼養頭数約15
頭~250頭の乳・肉牛農家7戸、飼養羽数約800羽、11万5千羽の養鶏農家2戸がある。
■モデル地区内には、小学校、福祉施設、病院、住宅団地がある。
イ バイオマス資源
(ア) 発生量
バイオマス資源は、下表に示す1戸の養鶏農家から排出されるコンポストとする。コンポ
スト発生量は4.0t/日、水分率は20%程度である。
表3.2-42 対象畜産農家及び利用バイオマスの諸元
F畜産農家
畜種
飼養羽数
鶏
採卵鶏
95,000羽
雛
20,000羽
家畜排せつ物発生量
14.1t/日
コンポスト発生量
4.0t/日
コンポスト水分率
20%
※家畜排せつ物発生量は、原単位から算出した量。コンポスト発生量は、聞き取り調査により把握した実
際に排出されるコンポストの発生量。
(イ) 利用可能量
畜産農家の家畜排せつ物の処理状況を下表に示す。
聞き取り調査によると、畜産農家は、現在のコンポスト受け入れ先は確定しており全量販
売しているが、コンポスト製造販売に関する収支はマイナスの状況である。
ここでは、畜産農家から排出されるコンポストを全量受入れることとし、利用可能量は4.0
t/日とする。
表3.2-43 家畜排せつ物の処理状況及び利用可能量
F畜産農家
①ふん処理状況
全量コンポスト化
②コンポスト発生量
1,460t/年
③コンポストの利用状況
コンポスト業者等へ販売している。
④コンポスト販売料
4,380,000円/年(3,000円/t)
※有償で販売している
3‐64
ウ 施設規模
施設規模は、F畜産農家から回収可能なコンポストが4.0t/日であるため、処理能力4.0
t/日の施設規模とした。
設備設置に必要な面積は約700m2(35m×20m)であり、作業等のスペースを考慮し、必
要敷地面積は約2,000m2とした。
エ 発電量及び熱回収量
利用可能量4.0t/日のコンポストを原料とし、低温ガス化施設でガス化した場合に推定さ
れる発電量及び熱回収量は、以下のとおりである。
(ア) ガス発生量
モデル地区で利用するバイオマスは、鶏ふんを原料とするコンポスト4.0t/日である。水
分率は20%であるため、投入時の水分調整は不要である。
混合ガス発生量=450Nm3/t×鶏ふんコンポスト量4.0t/日
=1,800Nm3/日=657,000Nm3/年
(イ) 発電量
発生する混合ガスで発電した場合の発電量は、下式より2,349kWh/日である。
発電量=鶏ふんコンポスト発熱量MJ×冷ガス効率×発電効率×0.2778
=(8,790MJ/t×4.0t/日)×0.65×0.37×0.2778kWh/MJ
=2,349kWh/日=857,385kWh/年
※鶏ふんコンポスト発熱量8,790MJ/t、冷ガス効率65%、発電効率37%(理論値)と仮定した。
また、1MJ=0.2778kWhとした。
(ウ) 熱回収量
a 低温ガス化炉における熱回収量
低温ガス化では、鶏ふんコンポスト及び触媒を加熱するために、投入原料の持つ熱量の
約1割に相当する熱量を外部より供給する必要がある。鶏ふんコンポストの発熱量を
8,790MJ/tとすると、4.0t/日の鶏ふんコンポストを加熱するために外部より供給する熱
量は、3,516MJである。
低温ガス化炉における熱回収量は下式より、約1万6千MJ/日である。
低温ガス化炉における熱回収量
=鶏ふんコンポスト発熱量MJ×(1-冷ガス効率)+外部からの供給熱MJ
=(8,790MJ/t×4.0t/日)×(1-0.65)+3,516MJ/日
=15,822MJ/日=5,775,030MJ/年
3‐65
b 発電機における熱回収量
発電機における熱回収量は下式より、約1万4千MJ/日である。
発電機における熱回収量
=鶏ふんコンポスト発熱量MJ×冷ガス効率×(1-発電効率)
=(8,790MJ/t×4.0t/日)×0.65×(1-0.37)
=14,398MJ/日=5,255,270MJ/年
以上より低温ガス化施設全体から回収される熱量は30.22GJ/日(11,030GJ/年)と推計さ
れる。
熱回収量=15.822GJ/日+14.398GJ/日
=30.22GJ/日=11,030GJ/年
オ 収集方法
(ア) 運搬方法
群馬県では、
「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」の施行以降、法
適用対象畜産農家のほぼ全てにおいて、家畜排せつ物はコンポスト化等により適正処理され
ている。
モデル地区において発生するコンポストは、ロータリー式撹拌機によって製造され、水分
率は約20%である。水分率20%のコンポストはダンプトラックでの運搬が可能であるため、
F畜産農家で所有するダンプトラックを利用し、低温ガス化施設まで運搬するものとする。
(イ) 運搬ルート及び経費
運搬先は、施設園芸団地近隣に設置する低温ガス化施設であり、対象畜産農家の運搬ルー
トとして下記の2ルートが考えられる。いずれのルートも一般住民も利用する道路であるた
め、コンポスト運搬にあたっては地域住民の理解を得る必要がある。
ルートAは、一般車両の通行が多い道路を利用するため、農道を利用するルートBによる
運搬が望ましいと考えられる。ルートBは交通量が比較的少ない農道であるが、住宅団地に
近づくため、コンポストの落ちこぼれ対策を徹底する必要がある。
低温ガス化施設の設置場所への運搬ルート及び運搬にかかる経費を以下に示す。
施設園芸団地
ルートA
1,400m
ルートB
1,400m
Ⓕ
図 3.2-15 運搬経路
3‐66
表3.2-44 運搬に係る経費
ルートB
①運搬車両
ダンプトラック
②運搬距離(片道)
1,400m
③燃費
4.5km/ℓ
④年間軽油消費量
227.1ℓ
⑤軽油単価
110.0円/ℓ
⑥燃料代
25,000円/年
※④=②×2(往復)×365(日)÷(4.5km/ℓ×1,000)
※軽油単価:群馬県12/8(財団法人日本エネルギー経済研究所石油情報センター)
(ウ) 臭気・防疫対策
運搬先と畜産農家との距離は、いずれのルートでも約1.4kmであり、一般住民も利用する道
路である。このため、コンポスト運搬にあたっては住民との合意形成を図り、運搬に対する
住民の理解を得ることが必要である。臭気及びコンポストの落ちこぼれ対策としては、F畜
産農家が所有する運搬車両にゴムシートを張る等の対策が考えられる。
モデル地区では、養鶏農家一戸からのコンポスト利用であるため、感染症等の影響は少な
いと考えられる。しかし、養鶏農家の敷地外へのコンポスト運搬であるため、搬出時には可
能な限り車両の消毒を実施することが望まれる。
(エ) ストックヤードの確保
収集したコンポストの一時保管場所としてストックヤードを確保する必要がある。ストッ
クヤードの必要面積は、低温ガス化施設の故障等を考慮して、畜産農家から収集するコンポ
スト4.0t/日を5日間程度(約20t/日)保管できる面積を確保する。
a ストックヤードの必要容積
コンポストの単位体積重量を約0.4t/m3とすると、コンポスト20tの体積は50m3であ
る。
コンポスト体積=20t÷0.4t/m3
=50m3
※堆肥化施設設計マニュアル(中央畜産会)p.114表4-21より
b ストックヤードの必要面積
ストックヤードの規模の算定にあたっては、コンポスト中の水分の変動及び立地・気象
条件等を検討し、余裕率を用いる必要がある。密閉型発酵槽により製造されたコンポスト
については余裕率を考慮する必要はないが、モデル地区では、自然乾燥によってコンポス
ト化を行っていることから、
「堆肥化施設設計マニュアル(中央畜産会)p.118」より、水分
の変動10%及び群馬県(中間地域)における余裕率10%を見込みストックヤードの必要面
積を算出する。コンポストの堆積高さを2mとした場合、ストックヤードの必要面積は90
m2となる。
必要面積=3×50m3÷コンポスト堆積高さ2m×1.2
=90m2
3‐67
表 3.2-45 余裕率
寒冷・積雪地域
中間地域
水分の
地域
変動
係数
温暖地域
10%
0%
10%
中間地域
10%
10%
20%
10%
20%
30%
寒冷・積雪
地域
計
温暖地域
2m
図 3.2-16 地帯区分
90m2
資料:堆肥化施設設計マニュアル(中央畜産会)
※体積=1/3×底面×高さ
必要面積=3×体積÷高さ
カ エネルギー利用方法
(ア)エネルギー需要施設
低温ガス化施設で発生した電力及び熱は、低温ガス化施設及び施設園芸団地の動力を想定
する。
表3.2-46 エネルギー需要施設
エネルギー需要施設
用 途
低温ガス化施設
・冷水ポンプの動力
施設園芸
事務所・共同設備
・電灯類、冷暖房、保冷庫、予冷庫
団地
ポンプ設備
・送水に関する動力
ボイラー設備
・運転動力
・循環水加温燃料
ハウス設備
・換気扇、天窓開閉装置、自動消毒機、制御盤
(イ) エネルギー需給バランス
低温ガス化施設から発生するエネルギーは、低温ガス化施設の動力及び施設園芸団地の電
力等として用する。余剰エネルギーは電力会社等へ販売する。
3‐68
a 電力
低温ガス化施設での発電量は、約86万kWh/年である。電力需要量は、低温ガス化施設約
2千kWh/年、施設園芸団地施設約18万kWh/年であり、毎月5~6万kWhの余剰電力が生じ、
年間余剰電力量は約67万kWh/年である。
表3.2-47 算出方法
項 目
算出方法
電力供給量
「 エ 発 電 量及 び 熱 回 収 量 」 で 算 定 し た 1 日 当 た り の 発 電 量
2,349kWh/日に、各月の日数を乗じて算出
電力需要量
低温ガス化
冷水ポンプにかかる必要電力を5.5kWと仮定し、1日1時間運転し
施設
た場合の電力量に、各月の日数を乗じて算出
施設園芸団地
施設園芸団地におけるH19の電力使用量実績より
月別の電力需給バランスは以下に示すとおりである。
表3.2-48 電力需給バランス
電力
供給量
①
〔単位:kWh〕
需給バランス
電力需要量
④=①-④
低温ガス化
施設園芸団地
計
施設②
③
④=②+③
余剰
不足
1月
72,819
171
18,606
18,777
54,043
-
2月
65,772
154
18,606
18,760
47,012
-
3月
72,819
171
18,606
18,777
54,043
-
4月
70,470
165
18,606
18,771
51,699
-
5月
72,819
171
10,301
10,472
62,348
-
6月
70,470
165
10,301
10,466
60,004
-
7月
72,819
171
10,301
10,472
62,348
-
8月
72,819
171
10,301
10,472
62,348
-
9月
70,470
165
10,301
10,466
60,004
-
10月
72,819
171
18,606
18,777
54,043
-
11月
70,470
165
18,606
18,771
51,699
-
12月
72,819
171
18,606
18,777
54,043
合計
857,385
2,008
181,747
183,755
673,631
※四捨五入のため合計値は合わないことがある。
3‐69
0
供給量:857,385kWh/年
需要量:183,755kWh/年
単位:kWh
80,000
72,819
65,772
72,819 70,470 72,819 70,470 72,819 72,819 70,47072,819 70,470 72,819
60,000
40,000
18,777 18,760 18,777 18,771
20,000
18,777 18,771 18,777
供給量
需要量
10,472 10,466 10,472 10,472 10,466
0
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
図 3.2-17 電力需給バランス
b 熱
低温ガス化施設より得られる熱量は、約1万1千GJ/年である。熱需要量は、低温ガス化
施設約1千GJ/年及び施設園芸団地約2万3千GJ/年であり、需給バランスは、10月~4月
に不足、5月~9月に余剰が生じ、年間余剰熱量は約3千GJ/年、年間不足熱量は約1万
7千GJ/年である。
表3.2-49 算出方法
項 目
熱供給量
算出方法
「エ 発電量及び熱回収量」で算定した1日当たりの熱回収量
30.22GJ/日に、各月の日数を乗じて算出
熱需要量
低温ガス化
鶏ふんコンポストの発熱量8.79GJ/tの1割とし、8.79GJ/t×0.1×
施設
4.0t/日=3.516GJ/日に各月の日数を乗じて算出
施設園芸団地
施設園芸団地におけるH19の熱量使用実績より
月別の熱需給バランスは、次頁に示すとおりである。
3‐70
表3.2-50 熱需給バランス
〔単位:GJ〕
需給バランス
需要量
供給量①
備 考
⑤=①-④
低温ガス化
施設園芸団地
計
施設②
③
④=②+③
余剰
施設園芸団地
不足
での利用量
1月
937
109
3,519
3,628
-
-2,691
828
2月
846
98
3,519
3,617
-
-2,771
748
3月
937
109
2,815
2,924
-
-1,987
828
4月
907
106
2,815
2,921
-
-2,014
801
5月
937
109
704
813
124
-
704
6月
907
106
0
106
801
-
0
7月
937
109
0
109
828
-
0
8月
937
109
0
109
828
-
0
9月
907
106
0
106
801
-
0
10月
937
109
2,111
2,220
-
-1,284
828
11月
907
106
3,519
3,625
-
-2,718
801
-
12月
937
109
4,145
4,254
合計
11,030
1,283
23,147
24,431
3,382
-3,317
828
-16,782
6,366
※四捨五入のため合計値は合わないことがある。
供給量:11,030GJ/年
需要量:24,431GJ/年
単位:GJ
5,000
4,254
4,000
3,625
3,628 3,617
2,924
3,000
2,921
2,220
2,000
1,000
937
846
937
907
937
907
813
937
106
109
937
109
907
937
907
937
106
0
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
図 3.2-18 熱需給バランス
(ウ) その他の利用方法
暖房用の熱量が大きく不足する冬期の循環水加温に利用することも考えられる。
3‐71
供給量
需要量
(エ) エネルギーフロー
鶏ふんコンポスト4.0t/日を原料とした低温ガス化施設におけるエネルギーフローは以下
のとおりである。
低温ガス化施設
施設での利用
2,008kWh/年
鶏ふん
低温ガス化
(タール除去)
コンポスト
12,833GJ/年
ガス
精製
ガス
ホルダ
ガスエンジン
発電機
(8.79GJ/t×4.0t/日×365 日) 施設での利用
1,283GJ/年
熱
5,775GJ/年
熱
5,255GJ/年
施設園芸団地
電力
857,385kWh/年
余剰電力
・ボイラー
6,366GJ/年
・余剰熱量(5 月~9 月)
3,382GJ/年
・不足熱量(10 月~4 月)
▲16,782GJ/年
・事務所・共同設備
・ポンプ設備
・ボイラー設備
・ハウス設備
181,747kWh/年
・売電等
673,631kWh/年
図 3.2-19 低温ガス化施設のエネルギーフロー
キ 副産物の利用・処理
(ア) 副産物発生量
鶏ふんコンポスト4.0t/日を処理する際に低温ガス化施設から発生する副産物の発生量を
以下に示す。
a 焼却灰
焼却灰は原料の約32%発生することから、発生量は1.28t/日と推定される。
焼却灰発生量=4.0t/日×0.32=1.28t/日
=467.2t/年
b ニッケル金属
触媒として原料の約1割にあたる0.4t/日のニッケル担持褐炭を投入する。このうち約
10%にあたる40kg/日のニッケル金属が低温ガス化後に回収される。
ニッケル金属回収量=0.4t/日×0.1=0.04t/日
=14.6t/年
3‐72
(イ) 副産物の利用及び処理
a 焼却灰
焼却灰の成分は、現在調査研究段階であるため利用先は確定できないが、将来的には、
肥料、土壌改良材、水分調整剤、セメント原料等の需要が考えられる。
b ニッケル金属
ニッケル金属は、鉄鋼原料として鉄鋼会社へ販売することが可能であるが、現段階では
販売ルートが確立されていない。
(ウ) マテリアルフロー
鶏ふんコンポスト4.0t/日を原料とした低温ガス化施設におけるマテリアルフローは以下
のとおりである。
低温ガス化施設
水
137t/年
ニッケル担持褐炭
146t/年
(4.0t/日×0.1×365 日)
鶏ふん
コンポスト
1,460t/年
低温ガス化
(タール除去)
ガス
精製
ガス
ホルダ
ガスエンジン
発電機
(4.0t/日×365 日)
焼却灰
467.2t/年
ニッケル金属
14.6t/年
図 3.2-20 マテリアルフロー
※水の投入量
低温ガス化では、ガス化炉に過熱水蒸気を供給することで原料をガス化する技術であるため加水
が必要となる。
鶏ふんコンポストに含まれる炭素成分を31%、S/C(水蒸気/原料炭素mol比)=0.3と仮定する
と、鶏ふんコンポスト1tあたりに必要な水量は0.093m3/tである。よって年間必要水量は137t/
年と推計される。
年間必要水量=0.093m3/t×4.0t/日×365日
=137t/年
3‐73
ク 事業実施体制
(ア) 事業主体
モデル地区では、施設園芸農家とF畜産農家が出資する協同組合を実施主体とした低温ガ
ス化施設の導入を検討する。
低温ガス化施設から発生する熱量は、施設園芸団地で利用する熱量の約3割であるが、冬
期の余剰電力を循環水加温に利用することでさらなる燃料費削減が考えられる。F畜産農家
については、将来的にコンポストの需要先が縮小した場合に、コンポストの安定的な処理先
の確保としてのメリットがあると考えられる。
(イ) 事業実施体制
事業実施体制は以下のとおりである。
群馬県地域結集型
データ
提供
F畜産農家
研究開発プログラム
支援
出資
コンポスト
出資
施設園芸農家
売電
電力・熱供給
近隣農家
協同組合
焼却灰販売
出資者
ニッケル
金属販売
出資
補助
借入
国庫補助
返済
銀 行
図 3.2-21 事業実施体制
3‐74
電力会社
鉄鋼会社等
ケ 経済性の検討
経済性については、
「ケースA:現段階で想定されるケース」と「ケースB:将来的に考えら
れるケース」の2ケースで検討した。
経済性評価は、現在のコンポスト販売収入と、低温ガス化施設を導入した場合の収入の比
較により行った。
F農家は、現在鶏ふんをコンポスト化して販売しており、コンポストの販売収入は400万円
/年と推測される。
経済性評価の結果、ケースAの場合は、収支がマイナスであるため、低温ガス化施設の導
入効果は得られないが、
ケースBの場合は、
現在のコンポスト販売額を上回る収入が得られ、
15年間で約1億5千万円の経費節減が見込まれる。また、10年間で初期投資額を回収できる
と推計される。
(ア) 建設費等の設定条件
建設費及び補助の設定条件は、下表のとおりとした。
表3.2-51 建設費等の設定条件
建設費
ケースA
現段階で想定されるケース
・メーカー聞き取りより100,000千円/t
補助金
・補助は見込まない
用地費
・私有地を利用するため用地取得費は計上
しない
・場内砂利舗装を500円/m2(2,000m2)、
諸経費60%とする
場内舗装
ケースB
将来的に考えられるケース
・技術革新により、1/2で建設が可能にな
ると想定(50,000千円/t)
・「新エネルギー等事業者支援対策事業」
(経済産業省)
、補助率1/3
・同左
・同左
※設備の耐用年数を15年と想定した
(イ) 管理運営費の設定条件
a 収入
収入の設定条件は、下表のとおりとした。
表3.2-52 収入の設定条件(1/2)
売電収入
熱販売収入
コンポスト処理収入
ケースA
現段階で想定されるケース
・余剰電力量に売電単価を乗じて推計
・売電単価は、RPS法における取引価格を想
定(H19の「RPS相当量+電気」の加重平均価
格7.8円/kWh)
・余剰熱の販売は、インフラ整備等が困難で
あるため想定しない
・コンポスト処理量に処理単価を乗じて推計
・F畜産農家はコンポストの販売を行ってお
り、収入源となっている。このため、
「コ
ンポスト購入費」として計上する
3‐75
ケースB
将来的に考えられるケース
・余剰電力量に売電単価を乗じて推計
・売電単価は、RPS法における取引価格を
想定(H19の「RPS相当量+電気」の最高価
格13.5円/kWh)
・将来的には、送配電線等の整備を行い、
余剰電力を全て近隣施設に供給するこ
とで節減される電気料金を収入として
計上することも考えられる
・同左
・同左
表3.2-53 収入の設定条件(2/2)
焼却灰販売収入
ケースA
ケースB
現段階で想定されるケース
将来的に考えられるケース
・現段階では最終処分場で処分するものと
し、
「焼却灰処理費」で処理費を計上する
・焼却灰発生量に単価を乗じて推計
・リン分の多い肥料として販売できる可能
性が高いため、販売額は先進事例を参考
に10,000円/tと想定
ニッケル金属
販売収入
・現段階では販売ルートが確立されていない
ため想定しない
・ニッケル金属発生量に単価を乗じて推計
・鉄鋼会社への販売を想定し、100万円/t
とする
b 支出
支出の設定条件は、下表のとおりとした。
表3.2-54 支出の設定条件
触媒等調達費
ケースA
ケースB
現段階で想定されるケース
将来的に考えられるケース
・ニッケル担持褐炭の購入量に単価を乗じて
・同左
推計
・単価は5,000円/tと想定
コンポスト購入費
・コンポスト処理量に購入単価を乗じて推計 ・F畜産農家の供給先がなくなった場合
・コンポストは現在のF畜産農家の販売価格
を想定するが、現在は販売等により収
である3,000円/tで買い取るものとする
入を得ているため、無償引き取りと想
定する
焼却灰処理費
・焼却灰発生量に処理単価を乗じて推計
・近隣県の最終処分場における燃え殻の処分
・将来的には販売できるものとし、
「焼
却灰販売収入」で計上する
費を参考に18,000円/tと想定
運搬費
・コンポスト化施設から低温ガス化施設まで
・同左
の運搬燃料費
・表3.2-44より25千円/年と想定
メンテナンス費
・メンテナンス費を建設費の2~3%(毎年)、
・同左
オーバーホール費を建設費の5~7%(数年
に1度)とし、平均して建設費の5%と想定
人件費
・専従者を一人置き、5百万円/年を想定
・同左
減価償却費
・償却期間を15年とし、建設費(助成を受け
た場合はそれを見込んだ実質的な値) を
償却期間で割る
・同左
借入金返済額
・支払金利は2%を想定
・同左
・全額借入を想定
・返済期間を15年とし、元利金等払いを想定
租税公課
・償却資産及び用地の固定資産税相当額を推 ・補助金相当額を控除した償却資産及び
計(未償却残高×1.4%)
用地の固定資産税相当額を推計
・
「農林漁業有機物資源のバイオ燃料の
原材料としての利用の促進に関する
法律」に基づき申請し、バイオ燃料製
造施設に係る固定資産税が3年間1/2
になると想定
一般管理費
・人件費の10%を想定
・同左
3‐76
(ウ) 低温ガス化施設導入による既存施設の電力・熱量削減費の設定条件
既存施設の電力・熱量削減費の設定条件は、下表のとおりとした。
表3.2-55 既存施設の電力・熱量削減費の設定条件
電力削減費
ケースA
ケースB
現段階で想定されるケース
将来的に考えられるケース
・低温ガス化施設で発電した電力を施設園
・同左
芸団地の需要施設で利用するものとし、
これにより削減できる電気料金
・削減費は、平成19年度に施設園芸団地で
かかった電気料580万円と想定
熱量削減費
・低温ガス化施設で発電した熱量を施設園
・同左
芸団地の需要施設で利用するものとし、
これにより削減できる燃料代1,134万円
(表3.2-56参照)
○熱量削減費
低温ガス化施設で発生した熱量を施設園芸団地の需要施設で利用するものとし、これにより
削減できる燃料費を熱量削減費として収入に見込む。燃料削減費は約1,134万円である。
表3.2-56 燃料削減費
供給量①
〔GJ〕
需要量〔GJ〕
熱削減量
低温ガス
施設園芸
化施設②
団地③
A重油換算
※1
※2
④=①-②
④÷39.1
〔GJ〕
〔kℓ〕
A重油
価格
〔円/ℓ〕
燃料削減費
〔千円〕
1月
937
109
3,519
828
21
65.6
1,378
2月
846
98
3,519
748
19
63.8
1,212
3月
937
109
2,815
828
21
63.9
1,342
4月
907
106
2,815
801
20
65.4
1,308
5月
937
109
704
704
18
67.9
1,222
6月
907
106
0
0
0
69.2
0
7月
937
109
0
0
0
70.3
0
8月
937
109
0
0
0
71.2
0
9月
907
106
0
0
0
70.9
0
10月
937
109
2,111
828
21
72.7
1,527
11月
907
106
3,519
801
20
78.9
1,578
12月
937
109
4,145
828
21
84.2
1,768
合計
11,030
1,283
23,147
6,366
164
11,335
※1:熱削減量は、供給量から低温ガス化施設で利用する熱量を引いた、施設園芸団地で利用可能な熱量
※2:A重油換算は、1ℓ=39.1MJ
A重油価格は、(財)日本エネルギー経済研究所石油情報センターのA重油(小型ローリー)納入価格調査より。関東局に
おける平成19年度の月別実績
3‐77
(エ) 経済性評価の方法
経済性評価は、現在のコンポスト販売収入と、低温ガス化施設を導入した場合の収入の比
較により行った。ケースBの場合は、現在のコンポスト販売額を上回る収入が得られ、15年
間で約1億5千万円の経費節減が見込まれる。
表3.2-57 経済性評価の設定条件
ケースA・B共通
収入①
・売電収入、熱販売収入、コンポスト処理収入、焼却灰販売収入、ニッケル
金属販売収入の合計
削減費②
・電力削減費及び熱量削減費の合計
支出③
・触媒等調達費、コンポスト購入費、焼却灰処理費、運搬費、メンテナンス
収支④
・年間収支=収入+削減費-支出-場内舗装費(=①+②-③-場内舗装費)
減価償却費⑤
・減価償却は、実際は現金支出を伴わないことから、キャッシュフローには
費、人件費、借入金返済額、租税公課、一般管理費の合計
含めないため、支出として控除した分を加え直す
毎年のキャッシュフロー⑥
・毎年のキャッシュフロー=収支+減価償却費(=④+⑤)
キャッシュの累計⑦
・年間キャッシュの累計(=Σ⑥)
回収率⑧
・キャッシュの累計⑦が建設費(助成を受けた場合はそれを見込んだ実質的
な値)の何%に相当するかを回収率として試算
・回収率が初めて100%を上回った年が、設備投資回収が可能となる年
表3.2-58 現在のコンポスト販売収入と低温ガス化導入による収入の比較
現在のコンポスト販売収入(4,000千円/年)①
〔千円/15年間〕
ケースA
ケースB
(15年間)
(15年間)
60,000
60,000
低温ガス化施設導入による収入②
-904,855
213,849
収入の差③(=②-①)
-964,855
153,849
※F農家におけるコンポストの処理に関するコンポスト販売収入は、A畜産農家のコンポスト販売収入より推計した。A畜産農
家のコンポスト販売収入は10t/日で1千万円/年であるため、コンポスト4.2t/日で400万円/年(15年間で約6千万円)とし
た。
3‐78
3‐79
表 3.2-59 経済性の検討(ケースA)
3‐80
表 3.2-60 経済性の検討(ケースB)
コ 二酸化炭素排出削減効果
低温ガス化施設による発電・熱回収は、畜産バイオマスを原料としているため、二酸化炭
素の新たな排出がない。そこで、低温ガス化施設で得られた電力や熱を他の施設において利
用する場合には、その分は化石燃料の使用量が減るため、二酸化炭素排出量を削減できる。
なお、低温ガス化施設の導入により「コンポストの運搬」が新たに必要となるため、これに
係る二酸化炭素排出量は増加する。
低温ガス化施設の導入による二酸化炭素排出削減量は1,030t-CO2/年となる。
表3.2-61 二酸化炭素排出量の算定
(ア) コンポスト運搬時
(イ) 低温ガス化時
(ウ) 低温ガス化施設以
外での電力利用時
(エ) 低温ガス化施設以
外での熱利用時
合 計
消費電力量
消費熱量
-
-
-
-
-
-
-
-
-475t-CO2/年
-
-556t-CO2/年
-855,377kWh/年
-
-855,377kWh/年
軽油消費量
-9,747GJ/年
-9,747GJ/年
227ℓ/年
227ℓ/年
二酸化炭素排出量
1t-CO2/年
-1,030t-CO2/年
※軽油の二酸化炭素排出係数は、環境庁「総排出量算定方法ガイドライン」より2.6444kg-CO2/ℓ
電力の二酸化炭素排出係数は、
「特定排出者の事業活動に伴う温室効果ガスの排出量の算定に関する省令」
(平成18年経済産業省・環境省令3号)より0.555kg-CO2/kWh
熱の二酸化炭素排出係数は、環境庁「総排出量算定方法ガイドライン」より0.057kg-CO2/MJ
表3.2-62 二酸化炭素排出量の算定条件
条 件
・畜産農家から低温ガス化施設までコンポストをダンプトラックで運搬する時の
二酸化炭素排出量を、ダンプトラックの軽油消費量(227ℓ/年※)から推計する。
※軽油消費量の算定は「オ 収集方法」参照
(イ) 低温ガス化時
・低温ガス化施設の消費電力量は2,008kWh/年※である。これらはすべて低温ガス
化施設で発電した電力で賄うため二酸化炭素排出量はゼロである。
・低温ガス化施設の消費熱量は1,283GJ/年※である。これらは低温ガス化施設で回
収した熱でまかなうため二酸化炭素排出量はゼロである。
※消費電力量及び消費熱量は「カ エネルギー利用方法」を参照
(ウ) 低温ガス化施設以外 ・低温ガス化施設以外での消費電力量は855,377kWh/年※であり、この電力利用分
での電力利用時
だけ二酸化炭素排出量が削減できるものとした。
※低温ガス化施設以外での消費電力量は「カ エネルギー利用方法」を参照
(エ) 低温ガス化施設以外 ・低温ガス化施設以外での消費熱量は9,747GJ/年※であり、この熱利用分だけ二酸
での熱利用時
化炭素排出量を削減できるものとした。
※低温ガス化施設以外での消費熱量は「カ エネルギー利用方法」を参照
(ア) コンポスト運搬時
3‐81
3 総括
各タイプにおける導入モデルの検討結果を下表に整理した。
低温ガス化施設を導入した場合のキャッシュフローと現状のコンポスト販売に関するキャッシュ
フローを比較した場合、ケースA(現段階で想定されるケース)では導入効果が得られないものの、
ケースB(将来的に考えられるケース:導入コストの低減等)ではいずれのタイプにおいても大幅
な経費節減が見込まれる。
しかし、タイプ①では、低温ガス化施設導入の投資額を15年間で回収できないため、経済性を改
善する方策を検討することが必要である。経済性を改善する方策として、例えば次のようなことが
考えられる。
□低温ガス化の技術向上により、コンポスト化前の家畜排せつ物を原料として利用可能とするこ
とで、コンポスト化にかかる経費を削減する。
□副産物であるニッケル金属及び焼却灰から販売収入を得ることで、
経済性は大きく改善される。
特にニッケル金属は、将来的に機能性微粒子として新素材メーカーへの販売の可能性が考えら
れる。
表3.3-1 畜産農家への導入モデルの検討結果の総括
バイオマス資源
タイプ①
タイプ②
タイプ③
大規模畜産農家
中規模畜産農家共同
中規模畜産+施設園芸農家
鶏ふんコンポスト
豚ふんコンポスト
鶏ふんコンポスト
バイオマス資源量(t/日)
発電電力量(kWh/年)
10.0
9.2
4.0
2,143,645
3,062,350
857,385
27,576
39,397
11,030
余剰電力量(kWh/年)
890,684
2,657,719
673,631
不足電力量(kWh/年)
0
0
0
余剰熱量(GJ/年)
24,367
31,398
3,382
不足熱量(GJ/年)
二酸化炭素排出削減量
(t-CO2/年)
0
0
16,782
2,574
3,681
1,030
熱回収量(GJ/年)
需給バランス
ケースA
実質建設費①(千円)
場内舗装②(千円)
(収入+削減費)の累計
(15年間)③(千円)
支出の累計(15年間)
④(千円)
減価償却費の累計(15年間)
⑤(千円)
キャッシュの累計(15年間)
⑥(=③-④+⑤-②)(千円)
15年目の投資回収率(%)
ケースB
ケースA
ケースB
ケースA
ケースB
1,000,000
335,000
920,000
308,200
400,000
134,000
1,600
1,600
1,600
1,600
1,600
1,600
374,205
1,173,060
415,950
1,229,175
335,835
682,515
3,593,800
1,296,474
3,154,520
1,205,820
1,639,095
601,061
1,000,000
335,000
920,000
308,200
400,000
134,000
-2,221,190
209,981
-1,820,175
329,960
-904,855
213,849
-222
63
-198
107
-226
160
※タイプ①は、1t当りの発電量が小さい鶏ふんコンポストを原料としているため、豚ふんコンポストを原料とするタイプ②と比
較してバイオマス資源量は多いが発電電力量及び熱回収量が小さく、経済性は低い。
注:四捨五入のためキャッシュの累計は合わないことがある。
3‐82
4 事業化に向けての課題
(1) 経済性の確保
ア 低温ガス化の技術向上
本検討における投入原料は、コンポストであり低温ガス化施設に適した水分率の原料であ
ると想定した。今後、低温ガス化の技術向上により、コンポスト化前の家畜排せつ物を原料
として利用可能とすることで、各農家のコンポスト化にかかる経費が削減される。
イ 副産物の販売ルートの確保
本システムは、副産物であるニッケル金属及び焼却灰から販売収入を得ることで、経済性
は大きく改善されるため、これらの販売ルートを確保する必要がある。ニッケル金属は、将
来的に機能性微粒子として新素材メーカーへの販売の可能性が考えられるため、民間企業と
の連携による事業実施体制の構築を検討する。また、焼却灰は廃棄物に該当する可能性があ
るため、その販売や処理を行う場合には、必要な手続きについて事前に県に確認する必要が
ある。
ウ 二酸化炭素の排出量取引制度の活用
低温ガス化施設で発電した電力及び熱による二酸化炭素削減量については、将来的には二
酸化炭素の排出量取引制度による販売を検討する。
(2) 畜産農家の連携
中規模畜産農家タイプでは、複数の畜産農家が連携し共同で施設を運営する必要があるが、
施設の共同利用については、伝染病等の課題や機械の故障時などの責任の所在等、運営時の利
害に関する課題もあるため、十分に協議した上で各畜産農家との合意形成を図る必要がある。
(3) 低温ガス化施設の設置に対する地域住民の合意形成
低温ガス化施設は、県内で発生するバイオマス資源を利活用することで、資源循環型社会の
形成を図る施設として位置づけられる。低温ガス化施設の導入にあたっては、意義、効果につ
いて情報を広く公開し、地域住民との合意形成を図る必要がある。
(4) 許可申請
低温ガス化施設の導入にあたっては、各種関連法の許可申請を行うとともに、廃棄物処理法
については、廃棄物処理施設の事前協議規程に基づく手続を行うなど、県との協議を行う必要
がある。
【二酸化炭素の排出量取引制度】
二酸化炭素の削減目標を達成するため、各国家や各企業ごとに二酸化炭素の排出枠を定め、排出枠が余っ
た国や企業と、排出枠を超えて二酸化炭素を排出した国や企業との間で取引する制度。京都議定書の第17
条に規定されており、温室効果ガスの削減を補完する京都メカニズムの一つで、我が国では2008年から試行
的実施がはじまった。
3‐83
【参考】
大規模畜産農家、中規模畜産農家、中規模畜産農家+施設園芸農家の3タイプについて、各農
家から発生する家畜排せつ物を原料として、メタン発酵施設を導入した場合の収支(15年間)に
ついて概略検討した。
メタン発酵施設は、水処理施設にかかる建設費が全体の約4割を占めており、消化液の処理方
法が課題となっている。
表3.4-1 メタン発酵施設を導入した場合の収支《補助なし》
項 目
大規模
収 入
売電
中規模
〔単位:千円〕
中規模+施設園芸
支 出
63,000
324,000
22,500
家畜排せつ物処理
123,000
138,000
43,500
(収入計)
186,000
462,000
66,000
概算建設費(耐用年数15年)
-2,079,000
-2,360,000
-991,000
維持管理費(15年間)
-1,341,000
-1,645,000
-582,000
(支出計)
-3,420,000
-4,005,000
-1,573,000
収 支
-3,234,000
-3,543,000
-1,507,000
低温ガス化施設の収支
-2,221,190
-1,820,175
-904,855
表3.4-2 メタン発酵施設を導入した場合の収支《補助あり:1/3補助》
〔単位:千円〕
項 目
大規模
収 入
売電
中規模
中規模+施設園芸
支 出
63,000
324,000
22,500
家畜排せつ物処理
123,000
138,000
43,500
[収入計]
186,000
462,000
66,000
概算建設費(耐用年数15年)
-1,386,000
-1,573,000
-660,000
維持管理費(15年間)
-1,341,000
-1,645,000
-582,000
[支出計]
-2,727,000
-3,218,000
-1,242,000
収 支
-2,541,000
-2,756,000
-1,176,000
低温ガス化施設の収支
-1,799,000
-1,431,752
-734,683
※低温ガス化施設の収支は、ケースAの条件で1/3補助ありの場合を試算した
〔メタン発酵施設の算定条件〕
・投入するバイオマス資源は、コンポスト処理前の家畜排せつ物とした(大規模畜産農家:40
t/日、中規模畜産農家:44.9t/日、中規模畜産農家+施設園芸農家:14.1t/日)。
・発電した電力は全て売電すると仮定した。
・畜産農家から家畜排せつ物処理収入が得られると仮定した。
・概算建設費は、先進事例を参考にバイオガス化施設、水処理施設(一次処理、二次処理、高
度処理)
、シロキサン除去施設を計上した。
・維持管理費には、人件費(1名)、バイオガス化施設にかかる電気代、燃料代、シロキサン
除去費、脱臭処理費、メンテナンス費及び水処理施設にかかる電気代、燃料代、薬品代、メ
ンテナンス費を計上した。
3‐84
第4節 畜産バイオマスエネルギー利用の目標
1 県内の畜産バイオマスエネルギー利用状況
県内では、畜産農家3戸において、畜産バイオマスエネルギー利用施設が導入されている。
表 4.1-1 県内の畜産バイオマスエネルギー利用施設
所在地
運転
開始
事業主体
原料
バイオマス
利用量
前橋市鼻毛石町
H16
養豚農家
豚ふん尿・おがこ・
汚水
2.6t/日
前橋市柏倉町
H13
養豚農家
豚ふん
2.1t/日
多野郡吉井町
H11
養鶏農家
鶏ふん・生ごみ
7kg/日
バイオガス利用設備
プラント用電源、豚舎及び消化
液発酵コンポストシステムの
電力
自家消費(畜舎等の電力)
自家消費(調理用ガスコンロ等
のガス)
2 目標
畜産バイオマスエネルギー利用は、現在本県で実用化に向けて取り組んでいる群馬県地域結集型
研究開発プログラム「環境に調和した地域産業創出プロジェクト」の低温ガス化施設の導入により
推進を図るものとする。
この低温ガス化施設は初期投資額が高額であることから、まずは大規模畜産農家等への導入を図
る。また、赤城山南面地域(前橋市及び桐生市)は畜産農家の団地化が多数見られ家畜排せつ物発
生量が多いことから、当該地域への導入を優先して推進する。
当該地域の大規模畜産農家から発生する家畜排せつ物量は、下表のとおり662t/日であり、コンポ
ストの利用可能量は86t/日となる。
表 4.2-1 赤城山南面地域の大規模畜産農家から発生するコンポスト量 〔単位:t/日〕
家畜排せつ物の発生量
コンポストの利用可能量
662
86
※コンポストの利用可能量:コンポストの利用可能量は、赤城山南面地域(前橋市及び桐生市)の大規模畜産
農家が現在製造しているコンポスト量とした
そこで、畜産バイオマスエネルギー利用の目標は、畜産農家への低温ガス化施設導入を促進し、
平成25年度までにコンポスト90t/日をエネルギーに変換して有効利用することとする。
3‐85
3 導入推進方策
家畜排せつ物の低温ガス化・高効率エネルギー変換技術の導入推進方策には以下のものが考えら
れる。
(1) 大規模畜産農家への試験的導入
低温ガス化施設から得られる発電量は、従来技術と比較して大きく、原料が多いほどその導
入効果が大きくなる。また、畜産農家1戸から多くの原料を収集することで、運搬等にかかる
経費も削減できるため、まずは大規模畜産農家への試験的導入を促進する。本技術は小規模プ
ラントでの実験段階であるため、大規模プラントにおける運転データ収集をし、技術を確立し
た上で、その他の大規模畜産農家への導入拡大を図る。
(2) 畜産農家への情報提供
群馬県では、
「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」の施行以降、法適
用対象畜産農家の全てにおいて、家畜排せつ物はコンポスト化等により適正処理されている。
しかし、県内のコンポスト利用状況から、コンポストの過剰供給や過剰利用が推測される他、
畜産農家への聞き取り調査よりコンポストの処理先に困っている現状が伺える。このため、群
馬県地域結集型研究開発プログラム「環境に調和した地域産業創出プロジェクト」の取り組み
や、本システムに関する情報提供を積極的に行い、畜産農家の本プロジェクトへの参加協力を
促す。
(3) 副産物の販売ルート確保
本システムで発生する焼却灰及びニッケル金属は需要があり収入として見込める可能性があ
るため、販売ルートの確保により経済性を確保することで導入が推進される。なお、焼却灰を
販売するためには、含有成分を調査する必要がある。また、ニッケル金属は機能性微粒子とし
て将来的には新素材メーカーへの販売も検討する。
(4) 低温ガス化システム及びその他の新技術の開発と普及
群馬県地域結集型研究開発プログラム「環境に調和した地域産業創出プロジェクト」の推進
を図り、産・学・官の連携により、積極的に技術開発を進める。
3‐86
第5節 参考資料
1 助成制度
バイオマスエネルギーに関する助成制度は、以下のとおりである(次章のバイオディーゼル燃
料製造・利用に関する助成制度も含む)
。
表 5.1-1 バイオマスエネルギーに関する助成制度
事業名等
(1) 地 域 新エネ ル ギー
等導入促進事業
助成対象者等
地方公共団体等
補助率等
関係省庁
1/2以内
経済産業省
1/3以内
経済産業省
1/2
環 境 省
特定非営利活動法人、公益法人等の営利を
目的としない事業を行う法人格を有する民
間団体
(2) 新 エ ネルギ ー 等事
新エネルギー利用等の設備導入事業を行う
業者支援対策事業
民間事業者等
(3) 地 方 公共団 体 対策
地方公共団体
技術率先導入補助
地方公共団体の施設へシェアード・エスコ
(地方公共団体の事業の
事業
を用いて省エネ化を行う民間団体等
補助下限額:600万円)
(4) 地 域 バイオ マ ス利
活用交付金
<地域モデル実証タイプ>
1/2以内
市町村、公社、PFI事業者、共同事業体、
(民間事業者は
第3セクター、消費生活協同組合、事業協
1/3以内)
農林水産省
同組合、農林漁業者の組織する団体、民間
事業者
地域における効果的なバイオマス利活用を
図るために必要なバイオマス変換施設及び
バイオマス発生施設・利用施設等の一体的
な整備
(5) バ イ オ燃料 地 域利
民間企業、農林漁業者の組織する団体、公
用モデル実証事業
社、第3セクター、消費生活協同組合、事
1/2以内
農林水産省
-
財団法人畜産
業協同組合、地域協議会等
(6) 畜 産 環境整 備 リー
ス事業
畜産農業者(個人)
、二人以上で貸付機械を
共同利用する集団、養畜の事業を行う農業
協同組合及び農業協同組合連合会、農事組
合法人(養畜の事業に係る共同利用施設の
設置又は養畜に係る農作業の共同化に関す
る事業、養畜の事業の経営、これらの付帯
事業の全部又は一部を行うもの)
、養畜の事
業を行う生産森林組合、養畜の事業を行う
会社等
3‐87
環境整備機構
(1) 地域新エネルギー等導入促進事業
補助対象事業者
地方公共団体等(普通地方公共団体(都道府県及び市町村)及び特別地方公共団体(特別区、
地方公共団体の組合、財産区及び地方開発事業団)
)
特定非営利活動法人、公益法人等の営利を目的としない事業を行う法人格を有する民間団体
補 助 対 象 事 業
地方公共団体等:地域の取り組みとしての先進性等がある新エネルギー等の設備導入事業
特定非営利活動法人、公益法人等の営利を目的としない事業を行う法人格を有する民間団体:
営利を目的とせずに新エネルギー等の設備を導入する事業を実施する場合
【規模要件】
1)地方公共団体等の場合
<バイオマス発電>
・バイオマス依存率:60%以上
①蒸気タービン方式
・発電効率10%以上
②その他の発電方式
・発電効率20%以上
・発電出力10kW以上
<バイオマス燃料製造>
①メタン発酵方式
・ガス製造量:300Nm3/日以上
・発熱量:18.84MJ/Nm3(4,500kcal/Nm3)以上
②メタン発酵方式以外
・バイオマス依存度:60%以上
・エネルギー回収率:50%以上
・発熱量:固形化12.56MJ/kg(3,000kcal/kg)以上
液化16.75MJ/kg(4,000kcal/kg)以上
ガス化4.19MJ/Nm3(1,000kcal/Nm3)以上
2)非営利民間団体の場合
<バイオマス発電>
・バイオマス依存率:60%以上
①蒸気タービン方式
・規模、効率要件なし
②その他の発電方式
・規模、効率要件なし
<バイオマス燃料製造>
①メタン発酵方式
・規模、効率要件なし
②メタン発酵方式以外
・バイオマス依存度:60%以上
・エネルギー回収率:50%以上
補
助
率
地方公共団体が行う新エネルギー等導入事業:1/2以内
地方公共団体の出資に係る法人(第3セクター)が行う新エネルギー等導入事業:
出資比率が50%超である場合の補助率は1/2以内。25%以上50%以下の場合は1/3以内
※当補助金における地方公共団体の出資に係る法人とは、商法(有限会社法を含む)の規定に
基づいて設立された株式会社、合名会社、合資会社若しくは有限会社又は民法の規定に基づ
いて設立された社団法人若しくは財団法人であって、地方公共団体の出資比率が25%以上で
3‐88
あるものをいう。
事
業
期
間
補 助 対 象 経 費
最大4年間
設計費、機械装置等購入費(土地の取得及び賃借料は対象外)
、工事費、諸経費(電力負担金、
管理費等)
交 付 申 請 先
NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
手
【平成20年度の場合】
続
き
等
①NEDOへ交付申請書類の提出(3/31~5/9) →NEDOにて申請内容審査し、交付決定
②交付決定通知書受領(7月中旬)
③事業実施
④実績報告書提出(事業完了後30日以内或いは2月末のいずれか早い日)
→NEDOにて確定検査、確定通知
⑤確定通知受領、精算払請求書提出 →NEDOにて精算払請求書受領、補助金精算払
⑥補助金受領
⑦設備等の運転・利用状況の報告(原則、本格稼動後最低4年度間、毎年5月末提出)
3‐89
(2) 新エネルギー等事業者支援対策事業
補助対象事業者
バイオマス発電、バイオマス熱利用、バイオマス燃料製造、水力発電、地熱発電に関する新エ
ネルギー利用等の設備導入事業を行う民間事業者等
補 助 対 象 事 業
先進的な新エネルギー等利用設備であって、交付要件・規模要件等を満たす設備を導入する事業
<バイオマス発電>
①バイオマス依存率:60%以上
②発電効率等
・蒸気タービン方式
発電出力1万kW以上:発電効率20%以上
発電出力1万kW未満:発電効率10%以上
・その他発電方式
発電効率:25%以上
発電出力:50kW以上
<バイオマス燃料製造>
①メタン発酵方式
・ガス製造量:300Nm3/日以上
・発熱量:18.84MJ/Nm3(4,500kcal/Nm3)以上
②メタン発酵方式以外
・バイオマス依存率:60%以上
・エネルギー回収率:50%以上
・発熱量:固形化12.56MJ/kg(3,000kcal/kg)以上
液 化16.75MJ/kg(4,000kcal/kg)以上
ガス化 4.19MJ/Nm3(1,000kcal/Nm3)以上
補
助
率
補助対象経費の1/3以内
1件当たりの年間の補助金額の上限額は、10億円
事
業
期
間
最大4年間
補 助 対 象 経 費
設計費、設備費(土地の取得及び賃借料は対象外)
、工事費、諸経費(工事負担金、管理費等)
交 付 申 請 先
NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
手
【平成20年度の場合】
続
き
等
①NEDOへ交付申請書類の提出(3/31~5/9) →NEDOにて申請内容審査し、交付決定
②交付決定通知書受領(7月上旬)
③事業実施
④実績報告書提出(事業完了後30日以内あるいは2月末のいずれか早い日)
→NEDOにて確定検査、確定通知
⑤確定通知受領、精算払請求書提出 →NEDOにて精算払請求書受領、補助金精算払
⑥補助金受領
⑦設備等の運転・利用状況の報告(原則、本格稼動後最低4年度間、毎年5月末提出)
3‐90
(3) 地方公共団体対策技術率先導入補助事業
補助対象事業者
地方公共団体、地方公共団体の施設へシェアード・エスコを用いて省エネ化を行う民間団体等
補助対象事業
1)地方公共団体
地方公共団体が所有する業務用施設に、地球温暖化対策の推進に関する法律に基づき策定
した実行計画により、代エネ・省エネ設備導入を行う事業。普及啓発効果やCO2削減量などを
明記したCO2削減計画の策定が必要。
・バイオマス熱利用:バイオマス利用率が80%以上(低位発熱量基準)で、かつCO2削減率が
15%以上
・バイオマス燃料製造:バイオマス利用率が80%以上(低位発熱量基準)で、かつエネルギー
回収率が50%以上
2)地方公共団体の施設へシェアード・エスコを用いて省エネ化を行う民間団体等
地方公共団体がシェアード・セイビングス・エスコ事業により、自らの施設の高いレベル
での省エネ化を行う場合に、事業を行う民間事業者に対して、省エネ設備の導入等に必要な
費用の一部を支援
補
助
率
総事業費の1/2(地方公共団体の事業:補助下限額600万円)
申
請
先
環境省地球環境局地球温暖化対策課
(4) 地域バイオマス利活用交付金
補助対象事業者
①地域モデル実証タイプ
市町村、公社、PFI事業者、共同事業体、第3セクター、消費生活協同組合、事業協同
組合、農林漁業者の組織する団体、民間事業者
②新技術等実証タイプ
都道府県、市町村、公社、PFI事業者、共同事業体、第3セクター、消費生活協同組合、
事業協同組合、農林漁業者の組織する団体、食品事業者、食品廃棄物リサイクル事業者
補助対象事業
①地域モデル実証タイプ
地域における効果的なバイオマス利活用を図るために必要なバイオマス変換施設及びバイ
オマス発生施設・利用施設等の一体的な整備
②新技術等実証タイプ
新技術等を活用したバイオマス変換施設のモデル的な整備
<対象工種>
・バイオマス変換施設(メタン発酵施設、炭化施設等)
・バイオマス発生施設、バイオマス利用施設(農産物集出荷貯蔵施設、共同育苗施設等)
〔※地
域モデル実証タイプに限る〕
・その他(地域が提案する事業を含む)
採
択
要
件
・バイオマスタウン構想、または、それに準ずる計画(バイオマス利活用の中期的方針が策定
されたもの)を策定
①地域モデル実証タイプ:地域で発生し、利用可能なバイオマスのうち1種類以上のバイオマ
スについて、所定割合以上の利活用を実現
②新技術等実証タイプ:バイオマスの利活用を推進する新技術等を有する施設整備
交
付
先
①地域モデル実証タイプ:市町村〔※市町村直接交付か都道府県経由か選択可能〕
②新技術等実証タイプ:市町村、都道府県
補
実
申
助
施
期
請
率
1/2以内(但し、民間事業者は原則として1/3以内)
間
平成17年度~平成23年度
先
農林水産省大臣官房環境バイオマス政策課バイオマス推進室
3‐91
(5) バイオ燃料地域利用モデル実証事業
補助対象事業者
農村の地域資源等を活用して、国民生活の向上と農村の振興を図るとともに国産バイオマス
輸送用燃料の実用化の可能性を示す取り組みを行う者
民間企業、農林漁業者の組織する団体、公社、第3セクター、消費生活協同組合、事業協同
組合、地域協議会、農村振興局長が適当と認める者
補 助 対 象 事 業
地域の関係者からなる地域協議会を設立した上で、バイオ燃料の地域利用モデルの整備に対
するハード・ソフト両面での支援を行う。
①バイオエタノール混合ガソリン事業
施設整備(バイオエタノール製造施設、バイオ燃料混合施設、バイオ燃料供給施設、その
他一体的に必要となる施設)
、地域協議会の運営(定額)、技術実証(定額)
②バイオディーゼル燃料事業
施設整備(バイオディーゼル燃料製造施設、バイオ燃料混合施設、バイオ燃料供給施設、
その他一体的に必要となる施設)
、地域協議会の運営(定額)
補
助
率
①バイオエタノール混合ガソリン事業
②バイオディーゼル燃料事業
事
業
期
間
補 助 対 象 経 費
1/2以内
1/2以内
平成19年度~平成23年度
・施設整備:工事費、測量及び試験費、機械器具費
・地域協議会の運営:人件費、報償費、旅費、機械・備品費、消耗品費、光熱水料費、燃料
費、役務費、委託料、使用料及び賃借料
・技術実証 人件費、報償費、旅費、機械・備品費、消耗品費、光熱水料費、燃料費、役務
費、委託料、使用料及び賃借料、研究機材費、機械賃料
交 付 申 請 先
農林水産省農村振興局
3‐92
(6) 畜産環境整備リース事業
事業概要
畜産経営に起因する環境汚染等を防止し、健全な経営の存続を図るために、財団法人畜産環
境整備機構が畜産農業者等に必要な機械・装置を貸し付ける事業
借受者
畜産農業者(個人)
、2人以上で貸付機械を共同利用する集団、養畜の事業を行う農業協同
組合及び農業協同組合連合会、農事組合法人(養畜の事業に係る共同利用施設の設置又は養
畜に係る農作業の共同化に関する事業、養畜の事業の経営、これらの付帯事業の全部又は一
部を行うもの)
、養畜の事業を行う生産森林組合、養畜の事業を行う会社等
貸付機械・装置の
貸付機械・装置の内容は以下のとおりであり、利用者が経営の規模やスペースなど経営状況
種類と貸付期間
に合った機種や能力を選ぶことができる。貸付期間は貸付機械・装置の種類によって異なる。
・家畜ふん尿処理及び悪臭防止に必要な機械・装置
・コンプリートフィーディング用飼料混合機等機械・装置
・特認機械(畜産経営の環境整備のために必要な機械・装置)
貸付機械・装置の種類
貸付期間
堆肥舎、堆肥化装置(堆肥盤)
、発酵槽、浄化処理槽、貯留槽、サイロ(コ
12年
ンクリート製)など
トラクター、バーンクリーナー、自走式飼料収穫調製機械、サイロ(FR
7年
P製)
、貯留槽(FRP製)など
汚水処理用の機械装置(バッキレーター等)
、大型脱臭装置など
6年
飼料作物収穫調製機械(モアー、ハーベスター、ラッピング機械等)
、栽培
5年
管理用機械(マニュアスプレッダー等)
、ふん尿処理利用機械(乾燥機、発
酵機、処理利用機、撒布機等)
、家畜飼養管理用機械(給餌機、給水機、送
風機、畜舎清掃機、薬剤スプレー、電牧器等)
、飼料混合機、トラック、シ
ョベルローダー、悪臭防止機(脱臭装置、換気扇等)など
運搬用機具(トレーラー、フォークリフト、フロントローダー、ワゴン等)
、
4年
軽四輪車(排気量0.66ℓ以下のもの)
、ダンプ、バキュームカー(2tをこ
えるもの)など
バキュームカー(2t以下のもの)など
3年
なお、利用者は貸付期間終了時に、機械・装置の購入価格の10%を支払えば機械・装置は自
らの所有になる。
リース料
リース料は、基本貸付料(元本に相当)と附加貸付料(金利に相当)と消費税の合計額。そ
貸付申請先
畜産農家の申請先:農業共同組合連合会、農業協同組合、配合飼料基金協会
の他、保証保険、損害保険、固定資産税等の費用負担が生じる。
申請期間は設けられていないため必要となった時にいつでも申請可能
3‐93
第4章 バイオディーゼル燃料製造・利用の促進
バイオディーゼル燃料の製造・利用を促進するため、廃食用油の利用可能量等について把握する
とともに、廃食用油回収やバイオディーゼル燃料製造・利用の事例や課題を整理した。
また、廃食用油回収量増加に対応するため、市町村におけるバイオディーゼル燃料製造施設新設
モデルについて検討した。
第1節 廃食用油の回収及びバイオディーゼル燃料製造・利用
の現状
1 廃食用油の回収及びバイオディーゼル燃料製造・利用の意義・効果
「廃食用油」は、てんぷら油など食用油を使用した後の油(古くなった油も含む)のことをいう。
現在家庭から排出される廃食用油の多くは、可燃ごみとして廃棄されている状況にある。また、廃
食用油を公共用水域や下水道処理場などの生活排水処理施設に排出すると、水質汚濁、水処理の負
荷増大等の問題がある。
廃食用油は、植物由来のバイオマスで、バイオマス資源として有効活用できる可能性があり、資
源の有効活用及び水質保全の観点から、廃食用油を回収し、飼料、塗料、石けん等の原料として有
「バ
効利用されている。また、最近では、廃食用油(植物油)をメチルエステル化1)することにより、
イオディーゼル燃料」
(軽油代替燃料)として利用する取り組みが全国的に広がっている。
なお、バイオディーゼル燃料の製造は、
「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法施行令の
一部を改正する政令」
(平成14年1月25日施行)において、新エネルギー利用等に追加された、
「バ
イオマス燃料製造」に該当する。
【廃食用油の回収及びバイオディーゼル燃料製造・利用の意義・効果】
廃食用油の回収及びバイオディーゼル燃料製造・利用の意義・効果は、以下のとおりである。
ただし、取り組みにあたっては、廃食用油回収・バイオディーゼル燃料製造にかかるエネルギ
ーや二酸化炭素排出量を考慮するとともに、バイオディーゼル燃料の利用方法等について、あら
かじめ検討しておく必要がある。
① 資源の有効活用及び循環型社会の形成への寄与
これまで未利用または廃棄していた廃食用油を、バイオディーゼル燃料として利用すること
により、資源の有効活用が図れるとともに、循環型社会の形成に寄与する。
1)
植物油にメタノールとアルカリ触媒を加えると、メタノールと粘度の高いグリセリンが入れ替わり、メチルエステル(ディーゼ
ル燃料)とグリセリンが生成される。
4‐1
② 石油代替エネルギーとして石油依存度の低減
バイオディーゼル燃料は、化石燃料の代替として、自動車、トラック、トラクター等の農業
機械などに利用することにより、石油使用量の節減につながる。
③ クリーンエネルギーとして地球温暖化防止への貢献
バイオディーゼル燃料は、バイオマス由来であることから、化石燃料の代替として利用する
場合にはカーボンニュートラル2)と見なされるため、燃焼時の二酸化炭素排出量がカウントさ
れず、地球温暖化防止に貢献する。また、排気ガス中に含まれる窒素酸化物の量が少なく、二
酸化炭素や黒煙も軽油など化石燃料と比べて少ないことから、環境への負荷が小さい。
なお、廃食用油の回収においては化石燃料の使用により二酸化炭素を排出するため、環境へ
の負荷を小さくするための効率的な回収が必要である。
④ 県民等の環境保全意識の醸成への貢献
廃食用油の回収及びバイオディーゼル燃料製造・利用の取り組みには、県民や事業者の参加・
協力が不可欠である。また、子どもを含む県民に対して、エネルギーや環境に関する学習の場
を提供することができ、これらを通じて環境保全意識の醸成が期待される。
⑤ 地域づくりへの寄与
廃食用油の回収及びバイオディーゼル燃料製造・利用は、地方公共団体等において、
「環境に
やさしいまちづくり」
、
「循環型のまちづくり」など、地域づくりに寄与する取り組みである。
⑥ 公共用水域の水質保全等への貢献
家庭や事業所等から排出される廃食用油を回収し、バイオディーゼル燃料として利用するこ
とは、公共用水域の水質及び環境保全に貢献する。
⑦ 新たな産業・雇用の場の創出への寄与
廃食用油の回収及びバイオディーゼル燃料の製造・流通・利用の各過程において、地域の事
業者等が関与することになり、新たな産業及び雇用の場の創出につながる。
2)
ライフサイクルの中で、二酸化炭素の排出と吸収がプラスマイナスゼロのことをいう。例えば、植物の成長過程における光合成
による二酸化炭素の吸収量と、植物の焼却による二酸化炭素の排出量が相殺され、実際に大気中の二酸化炭素の増減に影響を与
えないことが考えられる。化石燃料の代替のバイオマスエネルギー利用はカーボン・ニュートラルだと考えられ、二酸化炭素の
発生と固定が同量となるため、地球上の二酸化炭素を一定量に保つことができる。
4‐2
2 市町村による廃食用油の回収及び県内におけるバイオディーゼル燃料製造・利用
の現状
(1) 廃食用油の発生・処理状況
ア 廃食用油発生量の推計
(ア) 廃食用油の発生量
群馬県における廃食用油の発生量について、一般家庭、事業所、公共施設(学校給食)に
区分し、それぞれの原単位に世帯数等を乗じて推計した。
県全体の廃食用油発生量は約6,800kℓ/年であり、一般家庭からは43.8%(2,977kℓ/年)
、事
業所からは54.6%(3,713kℓ/年)
、公共施設(学校給食)からは1.7%(113kℓ/年)である。
表 1.2-1 群馬県における廃食用油発生量の推計
区 分
①一般家庭
②事業所
(飲食店、宿泊業)
③学校給食
合計
原単位※4
世帯数等
発生量
(kℓ/年)
割 合
(%)
726,203 世帯※1
4.1 ℓ/世帯・年
2,977
43.8
12,440 事業所※2
298.5 ℓ/ヶ所・年
3,713
54.6
191,693 人※3
0.59 ℓ/人・年
113
1.7
6,804
100.0
-
-
出典:※1.世 帯 数;
「平成18年国勢調査」
※2.事業所数;
「平成18年度事業所・企業統計調査(飲食店・宿泊業)
」
※3.学校給食;
「H20年度学校基本調査」の小学校児童数・中学校生徒数・小中学校教職員数の合計
(県内全ての小中学校で学校給食を実施)
※4.原単位は各種調査データから推定(P.4-5、4-6参照)
4‐3
表 1.2-2 市町村別の廃食用油発生量の推計
市町村名
一般家庭
世帯数
発生量
(戸)
(ℓ/年)
事業所
事業所数
発生量
(ヶ所)
(ℓ/年)
小中学校
児童・生徒数
発生量
(人)
(ℓ/年)
合 計
(ℓ/年)
前 橋 市
120,193
492,791
2,032
606,552
29,283
17,248
1,116,591
高 崎 市
129,177
529,626
2,039
608,642
32,010
18,854
1,157,122
桐 生 市
46,647
191,253
859
256,412
10,997
6,477
454,142
伊勢崎市
71,370
292,617
974
290,739
20,603
12,135
595,491
太 田 市
77,740
318,734
1,324
395,214
21,183
12,477
726,425
沼 田 市
18,922
77,580
476
142,086
5,182
3,052
222,718
館 林 市
28,903
118,502
579
172,832
7,530
4,435
295,769
渋 川 市
29,257
119,954
593
177,011
7,760
4,571
301,536
藤 岡 市
23,590
96,719
307
91,640
6,641
3,912
192,271
富 岡 市
18,026
73,907
313
93,431
4,986
2,937
170,275
安 中 市
21,907
89,819
256
76,416
6,428
3,786
170,021
みどり市
17,510
71,791
260
77,610
5,072
2,987
152,388
富士見村
6,986
28,643
90
26,865
2,294
1,351
56,859
榛 東 村
4,375
17,938
31
9,254
1,508
888
28,080
吉 岡 町
5,530
22,673
75
22,388
2,009
1,183
46,244
吉 井 町
8,174
33,513
78
23,283
2,312
1,362
58,158
上 野 村
687
2,817
17
5,075
115
68
7,960
神 流 町
1,128
4,625
21
6,269
113
67
10,961
下仁田町
3,487
14,297
50
14,925
697
411
29,633
南 牧 村
1,226
5,027
11
3,284
120
71
8,382
甘 楽 町
4,310
17,671
50
14,925
1,380
813
33,409
中之条町
6,115
25,072
187
55,820
1,466
863
81,755
長野原町
2,411
9,885
88
26,268
648
382
36,535
嬬 恋 村
3,752
15,383
196
58,506
1,002
590
74,479
草 津 町
3,679
15,084
289
86,267
580
342
101,693
六 合 村
667
2,735
18
5,373
193
114
8,222
高 山 村
1,160
4,756
13
3,881
405
239
8,876
東吾妻町
5,581
22,882
61
18,209
1,443
850
41,941
片 品 村
1,716
7,036
263
78,506
561
330
85,872
川 場 村
948
3,887
21
6,269
356
210
10,366
昭 和 村
2,268
9,299
4
1,194
737
434
10,927
みなかみ町
8,021
32,886
380
113,430
2,050
1,207
147,523
玉 村 町
13,459
55,182
92
27,462
4,242
2,499
85,143
板 倉 町
4,795
19,660
41
12,239
1,457
858
32,757
明 和 町
3,523
14,444
27
8,060
966
569
23,073
千代田町
3,575
14,658
27
8,060
1,094
644
23,362
大 泉 町
16,575
67,958
202
60,297
3,714
2,188
130,443
邑 楽 町
8,813
36,133
96
28,656
2,556
1,505
66,294
726,203
2,977,437
12,440
3,713,350
191,693
112,909
6,803,696
合 計
出典:世 帯 数 ;H18年度国勢調査
事 業 所 数;H18年度事業所・企業統計調査(飲食店・宿泊業の合計)
児童生徒数 ;H20年度学校基本調査
4‐4
(イ) 原単位
廃食用油の発生量の推計に用いた原単位を以下に示す。
a 一般家庭
県内の市町村で策定されている地域新エネルギービジョンのなかで、アンケート調査結
果から算出された一般家庭の廃食用油排出量から推定した。
表 1.2-3 一般家庭の廃食用油排出量の原単位
市町村名
原単位
備 考
(ℓ/世帯・年)
前 橋 市
5.00
概ね年間4~6ℓ/世帯より年間5ℓ/世帯と推定
桐 生 市
3.59
アンケート調査結果の0.299ℓ/世帯・月より
・年間1.744ℓ/人(1.57kg/人・年※)
〔廃食用油比重:0.9kg/ℓ〕
太 田 市
※H16千葉県モデル・バイオマスタウン設計業務調査報告書
4.78
・1世帯あたり人員2.74人(H17国勢調査太田市)より、4.78ℓ/
世帯・年
富士見村
3.30
アンケート調査結果の0.275ℓ/世帯・月より
上 野 村
3.68
アンケート調査結果の0.307ℓ/世帯・月より
昭 和 村
4.96
アンケート調査結果の0.413ℓ/世帯・月より
みなかみ町
3.12
アンケート調査結果(旧水上町)の0.260ℓ/世帯・月より
推 定 値
4.10
7市町村の平均(3.12~5.00ℓ/世帯・年)
出典:各市町村の地域新エネルギービジョン
〔参考〕
他県及び文献等に示されている廃食用油排出量の原単位を下表に示す。
表 1.2-4 一般家庭の廃食用油排出量の原単位(参考)
引用文献等
京都大学工学部
学術論文
千葉県モデル・バイ
オマスタウン
廃棄物処理・リサイ
クル事典
バイオディーゼル・
ハンドブック
NPO法人
北大阪エコネット
参考値
原単位
換算値※
1.943kg/人・年
5.51ℓ/世帯・年
1.57kg/人・年
4.45ℓ/世帯・年
0.95kg/人・年
2.69ℓ/世帯・年
0.48ℓ/世帯・月
5.76ℓ/世帯・年
0.20ℓ/世帯・月
2.40ℓ/世帯・年
-
2.40~5.76ℓ/世帯・年
備 考
「京都市における廃食用油排出
分布の推定」寺川卓志
千葉県モデル・バイオマスタウ
ン設計業務調査報告書(H16)
「廃棄物処理・リサイクル事典」
産業調査会出版センター
「バイオディーゼル・ハンドブ
ック」池上詢
廃食用油の家庭での廃棄状況ア
ンケート調査結果
※1 世帯あたり人員 2.55 人(H17 年国勢調査全国値)
、廃食用油比重 0.9kg/ℓとして換算
4‐5
-
b 事業所
県内の市町村で策定されている地域新エネルギービジョンのなかで、アンケート調査結
果から算出された事業所の廃食用油排出量から推定した。
表 1.2-5 事業所の廃食用油排出量の原単位
市町村名
原単位
備
(ℓ/ヶ所・年)
考
桐 生 市
180.0
アンケート調査結果の15.0ℓ/ヶ所・月より
富士見村
531.6
アンケート調査結果の44.3ℓ/ヶ所・月より
上 野 村
242.4
アンケート調査結果の20.2ℓ/ヶ所・月より
みなかみ町
240.0
アンケート調査結果(旧水上町)の20.0ℓ/ヶ所・月より
推 定 値
298.5
4市町村の平均(180.0~531.6ℓ/ヶ所・年)
出典:各市町村の地域新エネルギービジョン
c 学校給食
学校給食の廃食用油排出量の原単位は、
「千葉県モデル・バイオマスタウン設計業務調査
報告書」を参考とした。
表 1.2-6 学校給食における廃食用油の原単位
学校給食
原単位
換算値
0.53kg/人・年
0.59ℓ/人・年
出典:千葉県モデル・バイオマスタウン設計業務調査報告書(H16)
4‐6
備 考
廃食用油比重0.9kg/ℓとして換算
イ 廃食用油の処理状況
一般家庭からの廃食用油は、一部が石けんやバイオディーゼル燃料などにリサイクルされ
ているが、古新聞等に染込ませる、凝固剤で固めるなどして可燃ごみとして廃棄されている
場合が多い。
事業所・公共施設からの廃食用油は、産業廃棄物収集運搬業者を介して中間処理施設に輸
送され、調整・精製が行われた後、用途別に原料として出荷される。再生された廃食用油は、
主に飼料用として利用され、その他には、工業用、燃料用等に使われている。再生不可能な
ものは産業廃棄物として廃棄されている。
群馬県における処理状況は、概ね図1.2-1に示すとおりであると推計され、家庭からの廃
食用油のほとんどが有効活用されていないことが考えられる。
一般家庭の廃食用油
2,977kℓ
廃棄
2,440~2,710kℓ(81.8~90.9%)
リサイクル
140~270kℓ(4.6~9.1%)
事業所・公共施設の
廃食用油
3,826kℓ
廃棄
720~1,030kℓ(18.9~27.0%)
バイオディーゼル燃料
石けん、ろうそく 等
140~270kℓ(4.6~9.1%)
飼料用
(配合飼料添加)
2,280~2,480kℓ(59.5~64.9%)
リサイクル
(中間処理施設)
2,590~3,000kℓ(67.6~78.4%)
注:全国油脂事業協同組合連合会資料(H18年度)の、廃食用油の発生状況
及び処理割合から、県内の処理状況を推計
図 1.2-1 廃食用油の処理状況
事業系廃食用油
リサイクルフロー
図 1.2-2 事業系廃食用油の処理フロー
出典:全国油脂事業共同組合連合会
4‐7
工業用
(塗料、インキ等)
210~310kℓ(5.4~8.1%)
燃料用及び輸出
(ボイラー燃料、
バイオディーゼル燃料)
100~210kℓ(2.7~5.4%)
(2) 市町村による廃食用油の回収及び県内におけるバイオディーゼル燃料製造・利用の状況
県内市町村で廃食用油を回収しているのは19市町村である。バイオディーゼル燃料製造のた
めに廃食用油を回収しているのは、主に当該市町村とNPO法人環境リサイクルサポートであ
り、平成19年度の回収量は約182kℓ/年※である。このうち、約147kℓ/年※をNPO法人環境リサ
イクルサポートが買い取りバイオディーゼル燃料化している。残り約35kℓ/年については、他機
関によるバイオディーゼル燃料化及び石けん製造等のリサイクルがなされていると推測される。
また、県内でバイオディーゼル燃料を主に製造しているのはNPO法人環境リサイクルサポ
ートであり、平成19年度の製造量は約129kℓ/年である。
※廃食用油の回収実績のある市町村及びNPO法人環境リサイクルサポートへの聞き取り調査結果より
ア 市町村の状況
平成20年5月に群馬県が実施した「平成20年度新エネルギーの導入状況等に関する調査」
結果等より、県内の市町村における廃食用油回収及びバイオディーゼル燃料製造・利用の意
向状況を以下に示す。
(ア) 廃食用油の回収状況
廃食用油の回収は、平成19年度に19市町村(50.0%)が実施している。回収方法としては、
市役所や公民館等への持ち込みや、環境イベント時における回収等が行われている。
(イ) 今後の廃食用油の回収意向
廃食用油を回収している19市町村のうち、回収量の増加意向があるのは9市町村、現状
維持が8市町村である(無回答2)
。
現在廃食用油を回収していない市町村のうち2町村が、今後廃食用油の回収を始める予
定であり、3市村が今後廃食用油の回収を始めることを検討している。
(ウ) バイオディーゼル燃料製造の意向
バイオディーゼル燃料製造装置を導入し、製造している市町村は県内にない。しかし、2
市村が現在製造を検討しており、2市村が今後製造について検討したいとしている。
(エ) バイオディーゼル燃料の利用状況
8市町村が、バイオディーゼル燃料を主に公用車の軽油代替燃料として利用している。
(オ) 今後のバイオディーゼル燃料の利用
バイオディーゼル燃料を利用している8市町村のうち、4市が利用量の増加を検討してい
る。現在利用していない6市町村が、今後バイオディーゼル燃料の利用を検討している。
イ 県内におけるバイオディーゼル燃料製造の状況
県内におけるバイオディーゼル燃料の製造は、主にNPO法人環境リサイクルサポートが
行っている。
本法人は平成17年に設立され、県内の市町村等から廃食用油を回収し、平成19年度は約
129kℓ/年のバイオディーゼル燃料を製造している。
4‐8
表 1.2-7 NPO法人環境リサイクルサポートの概要
項 目
業務概要
内 容
・契約市町村等からの廃食用油の回収(廃食用油は買い取り)
・廃食用油を原料としたバイオディーゼル燃料の製造
・契約市町村等へのバイオディーゼル燃料の販売(販売価格は運搬費込み)
廃食用油回収
・市町村等が一般家庭や事業者等から回収し集めた廃食用油を、回収拠点
を巡回して回収している。また事業者等から直接回収している。
・147,441ℓ/年(H19年度実績)
(13市町村より回収及び事業者等から直接回収)
・1日当たりの巡回場所は10~15ヶ所
・回収容器は、ペットボトルを基本とし、回収用の専用容器に移し替えて
いる所もある。
・廃食用油は、有価物として5~10円/ℓで買い取り
バイオディーゼル燃料販売量
・129,252ℓ/年(10市町等へ販売)
(H19年度実績)
・主に市町村の公用車、トラックや重機(建設会社)、フォークリフトの
燃料として利用
・バイオディーゼル燃料の販売価格:126円/ℓ(平成19年度実績)
バイオディーゼル燃料製造装置
・製造方法:アルカリ触媒法(湿式)
・操作方法:半自動(廃水、グリセリン除去等は手動で操作する)
・処理能力:1,600ℓ/日(1バッチ200ℓ)
・処理時間:8時間(反応槽を4槽設け、並行作業を行う。
)
・処理量:800~1,000ℓ/日(平成19年実績)
・製 造 率:98%(廃食用油100ℓに対しバイオディーゼル燃料98ℓ製造)
※バイオディーゼル燃料製造装置は自作で、回収量に合わせて増設
廃食用油回収用車両等
・回収用トラック1台(最大積載荷重1.5t)
・燃料運搬用ミニタンクローリー(容量800ℓ)
廃水、グリセリン処理
・廃水は凝集処理を行い、フロックを回収し放流(フロックは将来的に燃
料としての利用の可能性があるが、現在は廃棄処分)
・グリセリンは、約100ℓ/日発生(現在、A重油と混合しボイラー燃料と
しての利用試験中)
4‐9
廃食用油投入
沈殿槽へ
フィルター
【廃食用油回収】
ラード等
水分
【前処理】
【貯留槽】
【脱水槽】
夾雑物等除去
冷水を循環させて廃食用油を
冷却することでラード等を沈
殿させる
メタノール 2 2hr
時間
水酸化カリウム 撹拌
2 2hr
時間
脱水槽から
洗浄水
22hr
時間
撹拌
洗浄水
自然流下
BDF原料
エステル
沈殿物
グリセリン
撹拌
自然流下
エステル
洗浄水
グリセリン
洗浄水
グリセリン
エステル
グリセリン
【反応槽④】
・電気ヒータで
加温
・脱水
図 1.2-3 バイオディーゼル燃料製造フロー
回収用のトラック
ペットボトルでの回収
廃食用油の回収専用容器
反応槽①
脱水槽
反応槽②
貯留槽
沈殿タンク
反応槽③
前処理
反応槽④
4‐10
沈殿タンクへ
・洗浄
・電気ヒータで
加温
沈殿タンクへ
【反応槽③】
排水
沈殿タンクへ
【反応槽②】
・洗浄
・電気ヒータで
加温
2 2hr
時間
撹拌
自然流下
排水
【反応槽①】
・エタノール及
び水酸化カリ
ウムを添加し
撹拌
エステル
沈殿タンクへ
【沈殿槽】
排水
BDF原料
沈殿タンクへ
BDF原料
BDF原料
ペットボトル等
(3) 廃食用油の利用可能量
群馬県における廃食用油の利用可能量は、約 255kℓ/年と推計される。
廃食用油の利用可能量は、
「平成20年度新エネルギーの導入状況等に関する調査」
(群馬県平
成20年5月実施)及び追加アンケート調査※における市町村の回答の『現在の回収量』と『今後
の回収量増加見込み量』から推計した。
※追加アンケート調査:
「平成20年度新エネルギーの導入状況等に関する調査」において、廃食用油の回収に
ついて「現在、回収している」
「今後、回収をはじめたい」と回答した市町村を対象
に、平成20年9月に実施した。
表 1.2-8 廃食用油の利用可能量
市町村
市町村数
現在の回収量
①
(ℓ/年)
今後の回収量
増加見込み量
②
(ℓ/年)
19
61,581
19,960
81,541
2
0
2,366
2,367
3
0
2,344
2,344
24
61,581
24,670
86,252
-
120,399
48,160
168,559
-
181,980
72,830
254,811
現在回収している市町村※1
今後回収予定の市町村※2
※3
今後回収をはじめたい市町村
小計
NPO法人環境リサイクルサポート※4
合 計
利用可能量
①+②
(ℓ/年)
※1:
「現在の回収量」及び「今後の回収量増加見込み量」は、
「平成20年度新エネルギーの導入状況等に関する調査」及
び「追加アンケート調査」の結果による。ただし、2市については、今後の回収量増加見込み量について回答がな
かったため、回答のあった市町村の値から推計した。
※2:
「今後の回収量増加見込み量」は、現在回収している市町村のうち、アンケートに回答のあった17市町村における今
後の回収率の平均値3.13%を該当市町村の「廃食用油の発生量」に乗じて推計した。
今後回収予定2市町村の「今後の回収量増加見込み量」
= 今後回収予定2市町村の廃食用油発生量合計(75,605ℓ/年)×現在回収している市町村の今後の回収率の平
均(3.13%)
= 2,366ℓ/年
※3:
「今後の回収量増加見込み量」は「追加アンケート調査」の結果による。
※4:
「今後の回収量増加見込み量」は、市町村の回収量増加見込み量と同様の増加傾向であると想定して、市町村の今後
の増加見込み率40%〔今後の回収量増加見込み量/現在の回収量 = (24,670ℓ/年)/(61,581ℓ/年)
〕を「現在の回
収量」に乗じて推定した。
NPO法人環境リサイクルサポートの「今後の回収量増加見込み量」
= NPO法人環境リサイクルサポート現在の回収量(120,399ℓ/年)×市町村の増加見込み率(40%)
= 48,160ℓ/年
4‐11
第2節 廃食用油の回収及びバイオディーゼル燃料製造・利用
システムの概要
1 廃食用油の回収及びバイオディーゼル燃料製造・利用システムの構成
廃食用油回収及びバイオディーゼル燃料製造・利用システムは、
「①廃食用油の回収」
、
「②バイオ
ディーゼル燃料の製造」
、
「③バイオディーゼル燃料の利用」から構成される。
➊ 廃食用油の回収
一般家庭、事業所、公共施設から廃食用油(植物油)を回収する。
事業を進める際には、回収場所・回数、回収方法、収集・運搬方法、労働力の確保について
検討し、多くの人に協力していただけるような回収システムを構築していくことが必要である。
➋ バイオディーゼル燃料の製造
バイオディーゼル燃料は、廃食用油とメタノールのアルカリ反応によって製造され、廃食用
油 100 に対して約 95 のバイオディーゼル燃料が製造される。副生成物としてグリセリンが発生
し、製造方法によってはアルカリ廃液が発生する。
事業を進める際には、バイオディーゼル燃料製造装置の導入・維持管理、設置場所の確保、
グリセリンの処理先を確保について検討することが必要である。
➌ バイオディーゼル燃料の利用
バイオディーゼル燃料は、軽油の代替燃料として利用でき、現在、公用車などに利用される
事例が多い。バイオディーゼル燃料の製造、販売、利用にあたっては、
「揮発油等の品質の確保
に関する法律」に準拠した品質を確保する必要がある。
事業を進める際には、利用先、利用量、販売価格について検討し、継続的な利用システムを
構築していくことが必要である。
公用車
バス
一般家庭
【運搬】
バイオディーゼル燃料製造
ゴミ収集車
【運搬】
トラック
事業所
フォークリフト
学校給食
➊ 廃食用油の回収
➋ バイオディーゼル燃料製造
➌ バイオディーゼル燃料利用
図 2.1-1 廃食用油の回収・バイオディーゼル燃料製造・利用システム
4‐12
【バイオディーゼル燃料に関する動向】
わが国では、京都議定書目標達成計画(平成17年4月閣議決定)において、輸送用燃料における
バイオ燃料の50万kℓ(原油換算)導入を位置づけ、各府省において、その導入に向けた取り組みを
実施している。
バイオディーゼル燃料は、地域バイオマス資源の活用やカーボンニュートラルによる二酸化炭素
削減など地球温暖化対策等の観点から重要とされている一方、バイオディーゼル燃料の効率的な製
造・流通、エンジン等への影響など、燃料としての規格化や技術的解決が求められている。
経済産業省においては、バイオディーゼル燃料混合ガソリン・軽油の適正な品質の確保を目的と
して、
「揮発油等の品質の確保に関する法律」
(以下、
「品確法」という。
)の改正(平成20年5月改
正、平成21年2月完全施行)を行った(下記参照)。
廃食用油から製造するバイオディーゼル燃料の利用混合率は、現在、B100燃料(バイオディーゼ
ル燃料100%:ニート)が大半を占めている1)。
しかし、経済産業省では、バイオディーゼル燃料について以下の方針を示しており、今後はB5
燃料(バイオディーゼル燃料の混合率5%の軽油)による利用が推奨される。
○バイオディーゼル燃料と軽油を混合して自動車の燃料として使用する場合は、改正品確法施行
後、自家消費の場合も含め、強制規格※にある混合率5%(B5)以内での販売・消費が不可欠
となる。このため、現在、自家消費で5%を超える高濃度のバイオディーゼル燃料を利用して
いる事業者は、施行日までに強制規格に対応することが求められる。
○施行日までにおいても、既に国土交通省が高濃度(B5以上)等で廃食用油由来のバイオディ
ーゼル燃料を用いる場合の注意喚起を出しており、これを踏まえた対応が必要である。
○B100燃料(バイオディーゼル燃料100%:ニート)での利用ではなく、軽油と混合してB5燃料
で用いることが望ましいが、それが困難であり、事業者の自己責任においてB100燃料を利用す
る場合には、国土交通省が経済産業省と協力して定めた「バイオディーゼル燃料の使用に関す
るガイドライン」を遵守することが必要である。
※強制規格:軽油にバイオディーゼル燃料を5質量%以内で混合した場合に、分析の結果が必ず適合して
いなければならない規格のことで、9項目(①脂肪酸メチルエステル、②硫黄分、③セタン
指数、④蒸留性状、⑤トリグリセライド、⑥メタノール、⑦酸価、⑧ぎ酸・酢酸・プロピオン
酸の合計、⑨酸価の増加)について基準が定められている(混合率が0.1質量%以内の場合は、
①~⑤の5項目)。
■「揮発油等の品質の確保に関する法律」の改正内容
(廃食用油から製造したバイオディーゼル燃料は「脂肪酸メチルエステル(FAME)」という)
① 法改正の背景
○バイオディーゼル燃料の品質管理の必要性
わが国においては、安全性及び排ガス性状への影響の観点から、品確法において、軽油
に脂肪酸メチルエステル(FAME)を5重量%まで混合することが認められている。
1)
全国バイオディーゼル燃料利用推進協議会のバイオディーゼル燃料取組実態調査結果(平成19年度)では、利用混合率別の割合
はB100が95.7%、B5が7.1%である(回答者数70、1事業者で複数混合利用あり)
。
4‐13
また、FAME混合比率にかかわらず、トリグリセリド含有量の基準0.01質量%を満た
す必要があるとともに、特にFAMEを0.1%超5%以内まで混合する場合には、メタノ
ール含有量、酸価、酸化安定性等についても一定の基準を満たさなければならない。
○5%を超えるFAMEの混合による自動車の不具合の発生
FAMEの混合率が高くなると、自動車の燃料ホースなどから燃料にじみが発生する、
また窒素酸化物や粒子状物質の排出量が増加するおそれもある。さらに、トリグリセリド
の含有量が多くなると酸化劣化してスラッジになりやすく、燃料フィルターのつまり、部
品のしゅう動不良を起こす、などの不具合が発生する事例がある。
② 法改正のポイント
○軽油にバイオディーゼル燃料を混合する事業(特定加工)を行う者に対し、登録の義務が
課せられる。
(登録要件:特定加工を適切かつ確実に実施するに足りる能力(設備)を有していること、
申請書等に不備がないこと、過去2年間本法に違反していないこと、等)
○軽油にバイオディーゼル燃料を混合する事業(特定加工)を行う者に対し、当該混合後の
燃料を自動車の燃料として販売又は消費しようとするときに、バイオ燃料混合軽油の品質
が強制規格(表2.1-1)に適合することについての確認の義務が課せられる。
表 2.1-1 混合率 5%(B5)の FAME 混合軽油の強制規格
項 目
満たすべき基準
分 類
硫黄分
0.001質量%以下
環境(大気汚染防止)
セタン指数
45以上
環境(大気汚染防止)
蒸留性状(90%留出温度)
360℃以下
環境(大気汚染防止)
トリグリセリド
0.01質量%以下
エンジントラブル防止
脂肪酸メチルエステル
0.1質量%以下
※5質量%以下
エンジントラブル防止
※メタノール
0.01質量%以下
エンジントラブル防止
※酸価
0.13㎎KOH/g以下
エンジントラブル防止
※ぎ酸、酢酸及びプロピオン酸
0.003質量%以下
エンジントラブル防止
※酸価の増加
0.12㎎KOH/g以下
エンジントラブル防止
注:脂肪酸メチルエステルが0.1%を超え、5%以下の場合は「※」の酸化安定性等の項目も満たす必要がある。
③ 試験研究における強制規格外のバイオディーゼル燃料の取扱に関する特例措置
○試験研究における特例の考え方
品確法は、公道を走行する自動車の燃料の品質確保を目的としたものであり、例えば研
究所内でのみ走行する試験研究用の自動車に対して強制規格外の燃料を供給する場合に
ついては、法の対象外となる。
他方、公道で走行する自動車については法の対象となることから、例えば公道での走行
試験を行う場合に強制規格外の燃料を供給することはできないこととなる。しかし、自動
車技術や燃料技術の改善を図るためには、こうした公道で自動車を走行させて各種の試験
を行うために強制規格外の燃料を供給することを、一定の範囲で認めることが必要である。
このため、公道で自動車を走行させて行う試験研究用に強制規格外の燃料を併給するこ
とについて、自動車の安全性等を確保することを前提として、特例措置を講ずることが必
4‐14
要である。
具体的には、特定加工業者・試験研究実施者が「試験研究計画」を作成し、当該計画に
ついて、経済産業大臣が試験硫究の目的、実施体制、自動車の安全性等に関する一定の要
件を満たしたものであることを認定した場合には、認定を受けた特定加工業者は、試験研
究用に強制規格外の燃料を供給することを可能とする特例措置を講ずる。
なお、当然のことながら強制規格外のものを用いることとなるため、その燃料品質が試
験研究に用いる自動車の安全性を担保できると証明されたものであることを品質確認(全
ロット)することが必要となる。
○特例措置の内容
■「試験研究計画」の具体的な内容
「試験研究計画」においては、試験研究の実施者、試験研究の内容、試験研究用に供
給する燃料の性状、使用する自動車等を確認することが必要である。あわせて、試験研
究に用いる自動車の安全性を確保するために必要な基準を経済産業大臣が指定するこ
ととし、この基準を遵守するための管理体制が整備されているかを確認することが必要
である。
■「試験研究計画」の認定の要件
・試験研究が自動車技術や燃料技術の発展に資するものであること。
・試験研究を行う者の、経済産業大臣が指定する基準を遵守するための管理体制が、試
験研究を安全に行うために適当なものであると認められること。
・試験研究を行う者が、経済産業大臣が指定する基準を遵守するための管理体制を継続
的に確保するための経理的基礎及び技術的基礎を有していること。
※「揮発油等の品質の確保に関する法律」は、揮発油にバイオ燃料を混合した場合の品質を定め
ている。
「揮発油」とは、炭化水素油であって、経済産業省令で定める蒸留性状の試験方法に
よる減失量加算90%留出温度が180℃を超えない範囲内で経済産業省令が定める温度以下のも
のをいい、B100は揮発油にはあたらない。このため、B100は本法律の適用外となっている。
■「バイオディーゼル燃料の製造・利用に係るガイドライン」
(平成20年5月30日)
全国バイオディーゼル燃料利用推進協議会では、バイオディーゼル燃料を軽油代替燃料とし
て自動車等へ利用する場合、事故やトラブル等を未然に防ぐ観点から、バイオディーゼル燃料
の適切かつ安全な製造・利用に努めるためのガイドラインを作成している。
本ガイドラインは、バイオディーゼル燃料に取り組む本協議会会員において、一定の管理下
にある自動車等へのみバイオディーゼル燃料を使用するといった前提に作成したものであり、
一定の管理下にない一般利用は適用除外としている。
また、バイオディーゼル燃料をそのままニート(B100)もしくは高濃度(B5以上)で自動車
等の燃料として利用する場合は、車両等の燃料系統にトラブル等を起こすリスクが高くなるこ
とを十分に理解した上で、自己責任において利用を図ることとしている。
4‐15
2 廃食用油の回収システム
(1) 廃用油の種類
廃食用油は、
「植物油」と「動物油」に分けられる。一般的に、バイオディーゼル燃料の原料
には、粘性度がなく常温で固まりにくい「植物油」が適しているといわれているが、植物油の
中でもパーム油、ヤシ油など常温で固体となるものもあるため注意が必要である。近年、飲食
店等では、香味がよくなる、価格が安いという理由でパーム油をブレンドして利用するケース
が増えている。そのため、回収にあたっては、廃食用油の回収基準を明確にし、排出者と事前
確認を行うことが重要である。
表 2.2-1 廃食用油の種類
分 類
状 態
油脂の種類
原料としての適性
常温で液体
ひまわり油、べにばな油、カノーラ油、
コーン油、オリーブ油等
常温で固体
やし油、パーム油等
常温で液体
魚油等
原料として利用不可
常温で固体
牛脂、豚脂等
原料として利用不可
植物油
原料として利用可能
原料に不向き
動物油
(2) 廃食用油の受入基準
廃食用油の品質は、精製されるバイオディーゼル燃料の品質に影響する。そのため、回収し
た廃食用油の劣化程度を示す「酸価」の測定が行われており、酸価が大きいほど劣化が進んで
いることを示す。酸価に加えてヨウ素価、飽和脂肪酸組成、水分・夾雑物を測定・管理するこ
とで、より安定した品質を確保することができる。
表 2.2-2 廃食用油受入基準
項 目
酸価
指 標
遊離脂肪酸の含有量
(劣化の指標)
基 準
5.0mg-KOH/g以下
ヨウ素価
熱安定性
120以下
飽和脂肪酸組成
低温流動性
15wt%以下
水分・夾雑物
エステル交換
の阻害要因
2.0wt%以下
測定方法
基準油脂分析試験法
2.3.1
基準油脂分析試験法
2.3.4.1
基準油脂分析試験法
2.4.2.2
基準油脂分析試験法
2.1.3.1、2.1.5
出典:
「バイオディーゼル燃料の製造・利用に係わるガイドライン」(社)日本有機資源協会(H20.5.30)
4‐16
(3) 回収方法
廃食用油の回収方法は、排出者の負担にならず、継続して協力を得られる方法を設定するこ
とが必要である。そのため、一般家庭や事業者の要望を考慮して回収方法を設定することが望
まれる。廃食用油の回収には、下表のとおり多様な方法がある。
表 2.2-3 全国の廃食用油の回収事例
市町村名
京都府京都市
回収対象
回収方法
家庭
・家庭からの廃食用油は、各地域単位に設立された「地
域ごみ減量推進会議」(市民、事業者、行政で構成)
等が主体となって回収
佐賀県佐賀市
家庭
・スーパーや市の施設の回収ボックスに持ち込まれ、
市が委託した収集業者が回収
鳥取県出雲市
家庭、給食センター、事業所
・市民が公民館の収集容器に持ち込み、市が回収
三重県いなべ市
家庭、小・中学校11校
・一般家庭(旧藤原町)各戸に4ℓポリタンクを配置
(旧藤原町)
飲食店20軒
(旧平田市)
し、リサイクルごみステーションで回収
・小・中学校、飲食店回収
三重県紀伊長島町
家庭、公共施設
・資源ごみステーション(78箇所)にポリ容器を設置
する。ステーションからの回収作業はシルバー人材
センターへ委託
岡山県玉野市
学校給食センター2箇所
・車両により回収
岡山県大佐町
給食センター、障害者施設
・給食センター、障害者施設、老人ホーム:巡回によ
老人ホーム、家庭
る回収
・一般家庭:ごみステーション6箇所にプラスチック
タンクを設置
熊本県本渡市
給食センター、家庭
・一般家庭:家庭からポリタンク等で資源物ステーシ
ョンに搬入
・学校給食センター:自ら車両で搬入
鹿児島県国分市ほか
家庭
・ごみステーション(公民館毎)にて回収し、各自治
体委託車両が収集・運搬
愛知県一色町
家庭、給食センター
・資源ゴミステーションで回収
佐賀県伊万里市
老人ホーム、飲食店等事業所、
・老人ホーム:自らが車両で搬入
家庭
・飲食店等事業所:自らが搬入と回収
・一般家庭:回収
出典:
「一般廃棄物に係る新基準策定調査報告書」環境省(H18.3)
4‐17
ア 回収方法
廃食用油の回収方法には、①直接搬入、②拠点回収、③戸別回収がある。群馬県の市町村
においては、一般家庭からは②拠点回収が多く、事業者・公共施設からは②拠点回収と③戸
別回収が多い。
①直接搬入:排出量、対象者が少ない場合、排出者が製造施設に直接持ち込む。
②拠点回収:排出者が回収拠点へ廃食用油を持ち込み、事業主体やバイオディーゼル燃料
製造業者が巡回し、回収する。回収対象者が多数の場合は、戸別回収よりも
効率的である。
③戸別回収:回収対象範囲が狭い、排出者が特定される場合、事業主体もしくはバイオデ
ィーゼル燃料製造業者が排出場所を巡回して回収する。
(ア) 一般家庭からの回収方法
一般家庭からの回収の場合、排出箇所数が多く、1箇所から排出される量が少ないため、
拠点を設け回収する方法が効率的である。拠点回収を行う場合、①廃食用油専用拠点での回
収と②ゴミの日に回収する方法が考えられる。下表にそれぞれの特徴を示す。
表 2.2-4 一般家庭からの拠点回収方法の特徴
①廃食用油専用拠点での回収
②ゴミの日回収
・ゴミの日に、他のゴミとあわせて各家庭から
・地域内に廃食用油専
廃食用油を出してもらう方法
用の回収容器、ボッ
クス等を設置し、各
家庭にそこへ廃食用
概
要
油を持って来てもら
う方法
ゴミの日回収
(伊勢崎市)
廃食用油専用回収拠点
(高崎市)
場
所
出 し 方
回
収
ル ー ト
回収回数
・公共施設(市役所等)
・ゴミステーション
・民間(スーパー、ガソリンスタンド等)
・ペットボトル等の容器に入れて出す
・専用容器に移し変える
各家庭
↓
回収拠点
↓
製造者が回収
(NPO、企業等)
各家庭
↓
ゴミステーション
↓
市町村または市町村が委託した業者が回収
↓
製造者
〔家庭⇒拠点〕常設のためいつでも可
〔拠点⇒製造場所〕月1~3回程度
所
・資源ごみと併せて回収している市町村が多い
(月1回程度)
・都合がよい時にいつでも出しにいける
長
・ペットボトル等の容器に入れて出す
・新たな回収拠点を設ける必要がない
・公共施設、スーパー等に設置することで安全 ・普段利用している場所であり協力が得やすい
性が確保され、点検・掃除等の管理ができる。
短
所
・回収場所の周知が必要
・回収回数が少ない
・油汚れ、臭い等に注意する必要がある
・油汚れ、臭い等に注意する必要がある
・引火性があるため、安全確保が必要である
・引火性があるため、安全確保が必要である
4‐18
(イ) 事業者・公共施設から排出される油の回収方法
事業者、公共施設からの回収は、排出者が特定されており、排出者数が少ない場合には「戸
別回収」が効率的である。排出者が特定されていても、排出者数が多い場合は、
「拠点回収」
が効率的である。
表 2.2-5 事業者・公共施設からの回収方法の特徴
概
①戸別回収
②拠点回収
・各事業所に廃食用油を取りに行く方法
・地域内に廃食用油専用の回収容器、ボ
要
ックス等を設置し、各事業所から廃食
用油を持って来てもらう方法
場
所
・公共施設(清掃センター等)
・事業所
・民間(ガソリンスタンド等)
出 し 方
・容器のまま(一斗缶等)
・容器のまま(一斗缶等)
容
器
回
収
・廃食用油専用容器を常備
事業所・公共施設(学校給食等)
↓
製造者が収集
(NPO、企業等)
・廃食用油専用容器を常備
主に事業所
↓
回収拠点
↓
製造者が回収
(NPO、企業等)
ル ー ト
・排出量に応じて検討する
〔事業所⇒拠点〕
・常設のためいつでも可
回収回数
〔拠点⇒製造場所〕
・月3~4回程度
・廃食用油を運ぶ手間がないので、事業
長
所
者の協力が得やすい
・公共施設、ガソリンスタンド等に設置
することにより、安全性が確保され、
点検・掃除等の管理ができる。
・保管スペースの確保が必要である
・回収場所の周知が必要
・油汚れ、臭い等に注意する必要がある。 ・回収拠点に持っていく手間がかかる
短
所
・引火性があるため、安全確保が必要で
・油汚れ、臭い等に注意する必要がある。
・引火性があるため、安全確保が必要で
ある
ある
事業者による回収状況
(福島県須賀川市)
ガソリンスタンドでの回収
(新潟県十日町市)
4‐19
公共施設での回収
(群馬県桐生市)
イ 回収場所
回収場所は、用地及び安全性を確保することが重要である。また、家庭や事業者が出しや
すいような場所を検討する必要がある。
表 2.2-6 廃食用油の回収場所の特徴
①公共施設
回収場所
②民間施設
③ゴミステーション
・市町村庁舎、清掃セン ・スーパー、ガソリンス ・ゴミステーション
ター、公民館等
④事業所内
・事業所
タンド、NPOの事務所等
・平日は常時人がいるた ・ガソリンスタンドで ・新たな回収場所を設置 ・廃食用油を運ぶ手間が
長
所
め安全性が確保され
は、取り扱いに慣れて
る。
いるため安全性が確保 ・普段利用している場所
・子供たちからの回収が
できる。
する必要がない。
ないので、排出者の協
力が得やすい
であり、協力が得やす
期待でき、普及啓発に
い
効果的である。
・拠点数が少ない
・ガソリンスタンド以外 ・安全性の確保が必要
・排出者が持ち込む手間
がかかる。
短
の場所では、安全性の ・油汚れ、臭い等がある
確保が必要
ので協力が得られない
・油汚れ、臭い等がある
所
・安全性の確保が必要
場合がある
ので協力が得られない
場合がある
・排出者が持ち込む手間
がかかる
回収対象
・一般家庭
・一般家庭
・事業者
・事業者
・公共施設
・公共施設
・一般家庭
スーパーでの回収
(青森県八戸市)
市役所での回収
(北海道石狩市)
ゴミステーションでの回収
(山形県東根市外二市一町共立衛生処理組合)
4‐20
・事業者
ウ 回収容器
回収容器は、排出者が廃食用油の移し替えがしやすく作業負担が少ない、また排出者が手
に入れやすく、リサイクルが可能な容器を選定する必要がある。
表2.2-7 廃食用油の回収容器の特徴
廃食用油
の出し方
①ペットボトル
②専用容器
③一斗缶
(容量0.5~2ℓ)
(容量3~18ℓ)
(容量18ℓ)
・廃食用油をペットボトル
・廃食用油を容器に入れ ・業務用食用油の容器を廃
等の容器にいれて回収ボ
て、回収場所の専用容器
食用油の回収にも利用す
ックスへ持っていく
に移し替える
る
・廃食用油を移し替える手 ・専用容器は繰り返し使え ・廃食用油を移し替える手
間がない
長
所
るので、ゴミが出ない
・容器のまま回収するた ・ひとつの容器で大量の廃
め、汚れにくい
食用油を運搬でき、効率
・容器に費用がかからない
が良い
・容器の処理が必要(リサ ・専用容器を購入する必要
イクル等)
短
所
がある。
間がない
・容器のまま回収するた
め、汚れにくい
・容器に費用がかからない
・容器の処理が必要(リサ
イクル等)
・容器がかさばるため、運 ・廃食用油を移し替える手
搬効率が悪い
間がかかる。
・その作業によって周りが
汚れやすい
・一般家庭
回収対象
・一般家庭
・事業者
・事業者
・公共施設
・公共施設
廃食用油専用容器
ペットボトル用回収ボックス
ペットボトル
専用容器
4‐21
一斗缶
(4) 回収システムの構築と啓発
廃食用油を一定量、継続的に確保する仕組みを構築するためには、市民、事業者、行政の連
携が重要である。
このため、
廃食用油の回収に取り組むことよって、
「二酸化炭素排出量の削減」
、
「廃食用油の処理費の削減」
、
「企業イメージの向上」などの効果があることを積極的に普及啓
発していくことが重要である。
◆ 宮城県塩竃市における回収システム構築の事例 ◆
水産練り製品の生産量が日本一の塩竃市では、平成15年度に「塩竃市地域新エネルギービジョ
ン」を策定し、環境に配慮した新エネルギーの導入を図っている。同ビジョンにおいて、市内の
水産加工工場等を中心に排出される廃食用油が年間約100万ℓと推計されたことから、事業を具体
的に検討するため平成16年度に「塩竃市地域新エネルギー詳細ビジョン」を策定した。
このような背景のもと、塩竃市団地水産加工業協同組合は、資源の有効活用と地球環境保全を
目的にバイオディーゼル燃料の製造プラントを平成19年3月に建設した。同プラントの処理能力
は、年間約50万ℓ(ドラム缶2,500本分)で同種のプラントとしては県内最大級である。市内水産加
工場等約30箇所から廃食用油を回収し、製造したバイオディーゼル燃料はB100でディーゼル車
等の燃料として、会員登録制で販売している(同市及び同組合員による登録台数は平成19年4月
時点で約70台)。販売価格は、市の公用車105円/ℓ、団地組合員100円/ℓであり、プラント施設内
で給油している。
また、バイオディーゼル燃料製造事業のサポート団体として、平成17年10月に行政機関、市民
団体、水産加工業者等の官民で構成する任意団体「グローバル・エコシティ塩竃推進協議会」が
設立され、普及広報の一環としてバイオディーゼル燃料のPR及び水産加工品へ添付する専用ラ
ベルの作成等、地域一帯となる取り組みを推進している。官民で地域一帯となった取り組みを推
進することで、バイオディーゼル燃料の普及とともに地球環境保全の意識の高揚が図られる。ま
た、バイオディーゼル燃料の利用によって同市加工工場で製造した商品のイメージアップが期待
されている。
■廃食用油排出者,バイオディーゼル燃料利用者
加工団地組合
蒲鉾連合協同組合
その他水産加工工場
〔トラック、フォークリフト等へ利用〕
・廃食用油
・バイオディーゼル燃料代金
・廃食用油代金
・バイオディーゼル燃料
■バイオディーゼル燃料製造事業主体
塩竃市団地水産加工業協同組合
〔廃食用油回収、バイオディーゼル燃料製造・販売〕
・バイオディーゼル燃料代金
塩竃市
■環境啓発等のソフト事業主体
グローバル・エコシティ
塩竃推進協議会
〔市民,企業,行政〕
連携
・バイオディーゼル燃料
清掃業者
〔公用車へ利用〕 〔回収車へ利用〕
バス会社
〔バスへ利用〕
業務委託
支援
■バイオディーゼル燃料利用者
参考:東北農政局HP
4‐22
(5) 運搬に関する法規制(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)
廃食用油が廃棄物に該当するかどうかで、運搬等に関する法的規制が大きく変わる。
「廃棄物
の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)」
の解釈では、
「廃棄物とは、
占有者が自ら利用し、
又は他人に有償で売却することができないために不要となったものをいい、廃棄物に該当する
か否かは、①その物の性状、②排出の状況、③通常の取扱い形態、④取引価値の有無、⑤占有
者の意志などを勘案して総合的に判断する。
」としている。
廃食用油については、一部でリサイクルが行われているものの、性状として何らかの生活環
境保全上の支障を生じる可能性を有しており、通常の取扱い形態としても、まだ商品としての
市場が形成されていない状況から、廃棄物に該当する可能性もある。したがって、バイオディ
ーゼル燃料製造業者(民間企業、NPO等)が廃食用油を排出者から引き取る場合には、有償、
無償に関わらず、事前に県、市町村の担当者との協議が必要である。
4‐23
3 バイオディーゼル燃料の製造システム
(1) バイオディーゼル燃料の製造方法
廃食用油は粘度が高い等の物性を持っており、そのまま軽油の代替燃料として利用すること
はできないため、化学処理により、脂肪酸メチルエステル(FAME)と呼ばれる軽油に近い物
性に変換する必要がある。脂肪酸メチルエステル(FAME)は、廃食用油とメタノールの化学
反応(エステル交換)によって製造されるもので、化学反応を促進するためにアルカリ触媒を用
いる(アルカリ触媒法)。副生成物としてグリセリンが生じる。
メタノール
脂肪酸
メタノール
脂肪酸
メタノール
脂肪酸
メタノール
脂肪酸
メタノール
脂肪酸
メタノール
廃食用油
(植物油等)
水酸化カリウム
水酸化ナトリウム
(アルカリ触媒)
脂肪酸メチルエステル
(FAME)
メタノール
グリセリン
グリセリン
脂肪酸
グリセリン
バイオディーゼル燃料
図 2.3-1 バイオディーゼル燃料製造の概念図
(2) バイオディーゼル燃料製造装置
バイオディーゼル燃料の製造方法は、エステル交換後に残るグリセリンと未反応の触媒(水
酸化カリウムまたは水酸化ナトリウム)の除去に洗浄水を使用するかどうかで、大きく「湿式」
と「乾式」に分類される。湿式洗浄方式の場合、アルカリ性の洗浄廃液が生じるため、適切な
処理が必要である。
表 2.3-1 バイオディーゼル製造方法(洗浄方法)の分類
分 類
特
徴
・粗メチルエステルを温水洗浄することによって不純物を除去する。
湿式洗浄方式
・洗浄廃液及びグリセリン廃液を適切に処理・利用する必要がある。
・装置は安価であるが、地域によっては廃水処理コストが高額となる可能性がある。
・実績が多く、不純物除去の点では安定性・確実性がある。
・ろ過や遠心分離によってグリセリン、未反応触媒を除去する。
(洗浄水不要)
乾式洗浄方式
・ろ剤や遠心分離性能に十分留意しないと、不純物除去が不十分となる可能性がある。
・装置が比較的高価であり、遠心分離機を稼動させるため電気代が高額となるが、廃
水処理コストが不要。
4‐24
【バイオディーゼル燃料製造装置の例】
バイオディーゼル燃料製造装置の例を以下に示す。その他の主なメーカーについては、p4-49
表 3.1-5 に示す。
■株式会社 セベック
製造方法
洗浄方法
処理時間
排水処理設備
グリセリン処理
本体寸法
H×D×W(m)
本体価格※
アルカリ触媒法
湿式洗浄
約 6~8 時間
必要
必要
100ℓ①:1.47×0.75×0.75(手動運転)
100ℓ②:1.80×0.95×0.95(自動運転)
200ℓ :2.00×1.20×1.30(自動運転)
500ℓ :2.26×1.50×3.67(自動運転)
100ℓ①: 350 万円
100ℓ②: 750 万円
200ℓ : 980 万円
500ℓ :2,480 万円
製造能力:100ℓ(手動運転)
※付帯設備費は別途必要
■バイオマス・ジャパン株式会社
製造方法
アルカリ触媒法
洗浄方法
処理時間
排水処理設備
グリセリン処理
本体寸法
H×D×W(m)
本体価格※2
湿式洗浄
約 4~5 時間
必要
必要
50ℓ:1.30×0.51×0.55
100ℓ:1.60×0.80×0.80
200ℓ:1.65×0.80×0.80
400ℓ:2.05×1.00×1.30
50ℓ: 58 万円
100ℓ:190 万円
200ℓ:390 万円
400ℓ:590 万円
乾式洗浄
(フィルター除去※1)
約 4~5 時間
不要
必要
50ℓ:1.55×0.51×0.55
100ℓ:1.80×0.80×0.80
200ℓ:1.85×0.80×0.80
400ℓ:2.25×1.00×1.30
50ℓ:190 万円
100ℓ:420 万円
200ℓ:600 万円
400ℓ:980 万円
製造能力:100ℓ
※1:1×10-3mm の仕上げフィルターでろ過することにより不純物を除去する方法
※2:付帯設備費は別途必要
■株式会社 南光
製造方法
洗浄方法
処理時間
排水処理設備
グリセリン処理
本体寸法
H×D×W(m)
本体価格※2
アルカリ触媒法
乾式洗浄(解乳化※1)
約 48 時間
不要
必要
40ℓ:1.77×0.95×1.75
100ℓ:2.30×1.15×2.08
200ℓ:2.38×1.51×2.01
40ℓ: 520 万円
100ℓ: 740 万円
200ℓ:1,050 万円
製造能力:100ℓ
※1:少量の水を加え加熱攪拌し、不純物が解けた水を取り除くことで不純物を除去する方法。廃液は少量であることか
ら廃棄物処理する。
※2:付帯設備費は別途必要
4‐25
(3) 撹拌装置
脂肪酸メチルエステル(FAME)の軽油への混合率の上限は、品確法の強制規格において
5%と定められている。これは、5%以上混合した場合、光化学スモッグの原因となる窒素酸
化物の排出量が規制値を超えるおそれや、スラッジが発生し燃料フィルターが目詰まりを起こ
すこと等により自動車の不具合が発生するおそれがあるためである。
このようなトラブルを防ぐために、軽油と脂肪酸メチルエステル(FAME)が均一に混和
されること、混合比率が脂肪酸メチルエステル5質量%以下に適合するように保たれることが
必要とされる。
この規格を満たすために、軽油に脂肪酸メチルエステル(FAME)を混合する場合には、
ラインミキサーや撹拌機等の設備を別途設ける必要がある。
「バイオ燃料の品質確保に関する小委員会報告書(改正揮発油等品質確保法の技術的基準に
ついて)
(案)
」
(平成20年10月)
《基準案》
①脂肪酸メチルエステルと軽油とが均一に混和できるものであること
②脂肪酸メチルエステルと軽油との混合比率が、脂肪酸メチルエステル5質量%以下の混合
率に適合するように保たれること
現在使用されている設備又は将来使用されることが見込まれる設備としては、以下が挙げ
られる。
□ラインミキサー(内部に邪魔板(バッフル)を有する配管)並びに流量計及び流量制御装置
流速が遅いとバッフルによる撹拌が少なくなるおそれがあるため、流速に応じたバッフ
ルの必要枚数を設定することが必要
□撹拌機及び計量器
人力では撹拌が安定せず、品質も安定しないおそれがあるため、電力等により撹拌を行
うことが必要
《ラインミキサー及び撹拌機の例》
B燃料ライン入口
A燃料ライン入口
ラインミキサー(混合装置)
流量制御装置
混合比率を正確に制御する
ブレンド燃料出口
撹拌機
4‐26
(4) グリセリン廃液の処理
バイオディーゼル燃料の製造工程で発生するグリセリン廃液は主成分が有機物であり、適正
な処理が行なわれなかった場合、水質汚染や土壌汚染を招く恐れが強いことから、適正に処理
する必要がある。アルカリ触媒法によりバイオディーゼル燃料を精製する場合、廃食用油100ℓ
に対してグリセリン廃液が約20ℓ発生する。グリセリン廃液は、グリセリンの他に未反応のエタ
ノールや触媒等多くの不純物が含まれていることから、リサイクルが難しい。香川県小豆島町
の事例では、排水基準を満足させるために、約半年間の試行錯誤を余儀なくされている。
グリセリンを廃棄物処理している所は多いが、エネルギー源として有効活用している事例も
ある。茨城県日立市では、グリセリン廃液を市のごみ処理施設に投入し、助燃剤として利用し
ている。また、グリセリンを小型温水ボイラーの燃料として利用し、バイオディーゼル燃料製
造時の熱源として利用するシステムを構築している企業もある。その他、メタン発酵施設での
エネルギー回収、肥料化、木質ペレットを製造する際の接合材等としての利用が考えられる。
このような処理方法は、グリセリン廃液を適正に処理し、さらに、処理費用も削減できるこ
とから、今後研究・検討していくことが望ましい。
バイオディーゼル燃料
グリセリン廃液
静置による分離
廃液の採り抜き作業
(5) 洗浄廃液の処理(湿式洗浄方式の場合)
アルカリ触媒法(湿式洗浄方式)によりバイオディーゼル燃料を製造する場合には、アルカ
リ性の廃水が生じる。廃水はグリセリン廃液と同様に、水質汚染や土壌汚染を招く恐れが強い
ことから、適正に処理する必要がある。アルカリ触媒法(湿式洗浄方式)の場合は、廃油100ℓ
に対して廃水が約80ℓ発生する。廃水中のBODは80,000~130,000mg/ℓと極めて高く、活性汚
泥法などの生物処理だけでは処理が困難であると考えられる。市町村単位で定められている下
水排除基準を確認し、処理方法を検討する必要がある。
また、廃水処理が困難な場合には、焼却施設で燃焼させるか、メタン発酵施設での希釈水等
として利用することが望ましい。
表2.3-2 市町村で定めた下水排除基準の例
項
特定事業場1
5を超え9未満
600mg/ℓ未満(5日間)
600mg/ℓ未満
5mg/ℓ以下
目
水素イオン濃度(pH)
生物化学的酸素要量(BOD)
浮遊物質量(SS)
ノルマヘキサン抽出
鉱油
物質含有量
動植物油脂
窒素含有量
リン含有量
30mg/ℓ以下
240mg/ℓ未満
32mg/ℓ未満
注:1.特定事業場:特定施設2を設置している工場または事業場。ここからの排水は、排水基準に適合しな
ければならない。
(下水道法第12条の2第1項)
2.特定施設:排水の水質の規制が必要な施設として法令によって特別に指定された施設。
(下水道法第
11 条の 2)バイオディーゼル燃料製造施設は、水質汚濁防止法に規定する特定施設の 11-1 動植物油
脂製造業の用に供する施設に該当する。
4‐27
(6) 保管に関する法規制(消防法、市町村火災予防条例)
消防法では、危険物の貯蔵・保管量に応じて規制を設けている。バイオディーゼル燃料の製
造においては、廃食用油(第4類動植物油類)、メタノール(第4類アルコール類)、バイオディ
ーゼル燃料(第4類第3石油類(非水溶性))、グリセリン(第4類第3石油類(水溶性))が危険物
に該当する。そのため、保管容器には「品名」
、
「危険等級」
、
「注意事項」等を記載することが
義務付けられ、火災の発生を未然に防ぐよう対策が必要である。保管を行う場合は、消防法に
基づく許可又は市町村の火災予防条例に基づく届出が必要になるので留意する。
危険物の貯蔵及び取扱い量の表示
表2.3-3 保管に関する法規制
貯蔵・保管量
廃食用油
(第4類動植物油類)
メタノール
(第4類アルコール類)
バイオディーゼル燃料
(第4類第3石油類
:非水溶性)
グリセリン
(第4類第3石油類
:水溶性)
消防法、市町村火災予防条例の規制内容
2,000ℓ未満
市町村条例により技術上の基準が適用される
2,000ℓ以上
10,000ℓ未満
少量危険物貯蔵・取扱所の設置届出が必要
10,000ℓ以上
危険物の貯蔵所、取扱所の設置許可が必要
80ℓ未満
市町村条例により技術上の基準が適用される
80ℓ以上
400ℓ未満
少量危険物貯蔵・取扱所の設置届出が必要
400ℓ以上
危険物の貯蔵所、取扱所の設置許可が必要
400ℓ未満
市町村条例により技術上の基準が適用される
400ℓ以上
2,000ℓ未満
少量危険物貯蔵・取扱所の設置届出が必要
2,000ℓ以上
危険物の貯蔵所、取扱所の設置許可が必要
800ℓ未満
市町村条例により技術上の基準が適用される
800ℓ以上
4,000ℓ未満
少量危険物貯蔵・取扱所の設置届出が必要
4,000ℓ以上
危険物の貯蔵所、取扱所の設置許可が必要
4‐28
(7)廃棄物処理業の許可申請
廃食用油が廃棄物に該当するか否かは、その性状や排出の状況、取引価格の有無などにより判
断される。廃棄物に該当する廃食用油を原料としてバイオディーゼル燃料を製造する場合には、
廃棄物処理法に基づく手続が必要となるので、県との協議を行う必要がある。
□申請者に係る要件
・申請者あるいは使用人(営業者、事業場の所長等)が、環境大臣認定の講習を修了すること。
・事業を的確にかつ継続して行うに足りる経理的基礎を有すること。
・欠格事項に該当していないこと〔廃棄物処理法第7条第5項第4号、廃棄物処理法第 14 条第
5項第2号〕
。
□施設に係る要件
・運搬する廃棄物が飛散し、流出し、悪臭が漏れるおそれのない運搬車両、運搬容器等の運搬
施設が必要である。また、運搬車を適正に管理できる車庫が必要である。
・積替または保管する場合には、産業廃棄物が飛散、流出し、地下に浸透し、悪臭が発散しな
いよう必要な措置を講じた詰替保管施設が必要である。
4‐29
4 バイオディーゼル燃料の利用システム
バイオディーゼル燃料は軽油の代替燃料として利用できるが、酸化しやすい、低温で固まりやす
いなどの課題もある。そのため、バイオディーゼル燃料の特徴や留意点等を十分に理解して利用す
る必要がある。
(1) バイオディーゼル燃料の利用方法
バイオディーゼル燃料は、自動車や農耕用トラクター等のディーゼルエンジンの燃料として
利用することができる。群馬県内では、公用車を中心にダンプトラックやバス、ゴミ収集車な
どに使われており、全国的にも同様の傾向が見られる。
表 2.4-1 群馬県内での利用方法
市町村名
沼 田 市
渋 川 市
館 林 市
利用方法
農業用トラクター
製材機械の燃料
ダンプトラック、パッカー車、スクールバス
給食配送車、幼稚園送迎バス
ダンプトラック
フォークリフト
伊勢崎市
紙ゴミ収集車
玉 村 町
乗り合いタクシー
幼稚園の送迎バス(渋川市)
ダンプトラック(館林市)
◆コモンレール方式でのバイオディーゼル燃料の利用◆
ディーゼル自動車排出ガスの新長期規制などの新しい排出ガス規制に対応して新型ディー
ゼル車ではコモンレール方式のエンジンが搭載されている。コモンレール方式のエンジンは、
コンピューター制御により、高圧でエンジンに燃料を送るシステムが導入されている。高圧、
高温環境下で酸化劣化するバイオディーゼル燃料は、コモンレール方式には適していないた
め、利用を控えた方がよい。
現在、バイオディーゼル燃料を使用したことによる不具合については、自動車メーカーの保
障は適用されないため、
バイオディーゼル燃料100%(B100燃料)での使用が車両に影響を及ぼ
す可能性があることを十分理解する必要がある。
4‐30
(2) バイオディーゼル燃料利用時の点検整備事項
社団法人日本有機資源協会が設立した、
全国バイオディーゼル燃料利用推進協議会において、
「バイオディーゼル燃料の製造・利用に係るガイドライン」
(平成 20 年5月 30 日)を定め、バ
イオディーゼル燃料を利用する際の注意事項を取りまとめ、点検整備については、下記項目に
留意し整備することとしている。
ア バイオディーゼル燃料導入開始時
表2.4-2 バイオディーゼル燃料導入開始時の点検整備事項
整備内容
車載の燃料タンクが軽油仕
整備手法
・既存の軽油を排出する。
様のため、バイオディーゼル ・洗浄液は、軽油にバイオディーゼル燃料を混合させた混合燃料を利用する。
燃料の利用を開始する前に、 ・混合燃料の割合は、B5~B20の範囲で行う。
燃料タンク内の洗浄を行う
・使用済み混合軽油、廃棄軽油は環境に配慮し廃棄処分する。
燃料タンク洗浄と同時に、混
・混合燃料でエンジンを始動させ、燃料系統の洗浄をする。
合軽油による燃料系統の洗
・その際に、リターン燃料を別容器に受けリターン燃料状況を確認する。
浄も実施する
・洗浄時間は装置により異なるが、エンジン水温が安定するまで行う。
・取扱時は、バイオディーゼル燃料は塗装を剥がす為、付着した場合は直ぐ
に拭き取る。
混合燃料による洗浄後は、新
・燃料エレメント交換時期、走行距離を必ず記録にとどめておく。
品燃料エレメントに交換す
・燃料エレメントは通常フィルターケースに覆われおり内部を目視観察でき
る
ないが、一部製品にフィルターケースの透明な容器があり、交換するか追
加装着が望ましい。
・冬季対策用燃料エレメント(ケース含み)に交換することも望ましい。
・使用開始時は、燃料エレメントの目詰まりが早期に起こる可能性があり短
期間のサイクルでエレメントを交換する(目安は週1回)。
車両の点検整備
・使用開始前に、法令定期点検相当の点検整備を実施する。
・近年は、エンジンがコンピュータ制御のためコンピュータ内のトラブル情
報等の過去のデータを削除する。
・エンジンオイル、エンジンオイルエレメントを新品に交換する。
・燃料エレメントを新品に交換する。
・燃料ホースを布巻ホースに交換する。
・燃料配管等の燃料漏れの無い事を確認する。
・燃料タンクキャップを新品に交換する。特にキャップ内側のOリングは新
品に交換、もしくはフッ素系の材質に交換する。
出典:
「バイオディーゼル燃料の製造・利用に係るガイドライン」社団法人日本有機資源協会(平成20年5月30日)
イ バイオディーゼル燃料利用時
(ア) 車両点検は、基本的には道路運送車両法で定められた事項を行うが、バイオディーゼル
燃料を使用する場合は、燃料特性を考慮した点検を行う。
4‐31
(イ) 点検内容
a 短期点検(日常点検)
① 燃料補給時は、累積走行距離(オドメーター)及び補給量を確認する。
② 燃料キャップ、各燃料ホース及びつなぎ目、エンジンルーム内の燃料装置におけるオイル
漏れ及び燃料漏れを目視または手感にて確認する。
③ 排気ガスの色及び臭いの状況を確認する。
④ 透明な燃料エレメントケースを利用した場合は、
ケース内の沈殿物の有無を目視にて確認
する。
⑤ 上記点検項目をチェックシートに記録する。
b 中長期点検(3ヵ月毎、6ヶ月毎)
表2.4-3 中長期点検内容
点検時期
3ヶ月毎
点検箇所
点検内容
点検方法
燃料エレメント
ろ過紙の夾雑物の付着状態
目視点検
燃料ホース
燃料タンクから噴射ポンプ間のホ
目視点検
ース類の燃料漏れ
噴射ポンプ装置
エンジン周辺の噴射ポンプ関連装
目視点検
置からの燃料漏れ
エンジンコンピュ
バイオディーゼル燃料使用期間中
電子テスター
ータ
のエンジンのトラブル発生状況
エンジン冷却水
ラジエター内部の燃料の混入状況
目視点検
排出ガス性状
排出ガスの色及び臭い
目視点検、臭気確認、黒煙
テスターで確認
6ヶ月毎
燃料タンク
タンク底の異物
貯蔵タンク
燃料タンクより燃料を完
全に抜き取り、目視により
点検
貯蔵タンク
貯蔵タンク内の各層別の燃料性状
サンプル抽出し、赤外分光
法で比重と密度を測定
※貯蔵タンクの比重、密度を確認する場合は、上層、中層、下層に分けて各々の燃料をサンプリングし、比重差を見る。
基準的には、差が0.0006以上変わらなければ適切と判断できる。
c エンジン出力不足が発生した場合の点検
エンジン出力不足(加速不足、エンジン回転不安定、エンジン回転上昇不足)など走行に
支障が発生した場合は、燃料噴射系トラブルに起因する可能性があるため、整備工場へ入庫
し、下記を中心に点検する。
① 噴射ノズルの噴霧状態、噴射圧、後だれの点検
② 噴射ポンプ関係の装置点検
③ エンジン圧縮圧の測定
④ 燃料タンク内の沈殿物の確認
⑤ 燃料エレメントの目詰まり、ろ紙の分析
⑥ リターン燃料の戻り量
⑦ コンピュータ診断によるエンジン状態の確認
4‐32
(3) 寒冷地での注意点
バイオディーゼル燃料は、軽油と比べて低温で固化しやすいという性状がある。これを改善
するために添加剤を用いて流動性を高めるような対応を図る場合もあるが、外気温が氷点下に
なるような条件下では、
添加剤を使用してもバイオディーゼル燃料の固化を防ぐことは難しい。
そのため、最低気温が氷点下になるような寒冷地帯では、バイオディーゼル燃料の利用を控え
るか、バイオディーゼル燃料の混合率を下げる必要がある。
表 2.4-4 温度特性の実験結果
バイオディーゼル燃料の種類
廃食用油から製造したバイオディーゼル燃料
の場合
バイオディーゼル燃料に市販の添加剤(流動
降下剤)を加えた場合
バイオディーゼル燃料を軽油(特3号)に5%
混合した場合
曇り点
目詰まり点
-4℃
-5℃
-7℃
-9℃
-20℃
-37.5℃
注:廃食用油の特性により、曇り点、目詰まり点は変わる。
出典:「北海道バイオディーゼル燃料導入マニュアル」北海道(H19.10)
◆ バイオディーゼル燃料の低温特性 ◆
【測定指標】
■曇り点(JIS K2269)
:試料溶液に固形物が析出し曇り出す温度
■目詰まり点(JIS K2288)
:試料溶液を 200mmAq 減圧しながら 45μm の金網を通して 20mℓ
吸引した時に 1 分以上かかる温度
■流動点(JIS K2269)
:試料溶液が傾けて 5 秒間動かない濃度(凝固点)の 2.5℃高い温度
【低温特性イメージ図】
初期
状態
曇った
状態
固形物析出
(雲り点)
常温
凝固
状態
フィルターに目詰
まりする程度に結
晶が成長
(目詰まり点)
車両での使用下限温度
流動点
凝固点
低温
※凝固点と目詰まり点、雲り点の温度が近いと後者2つより流動点の方が高くなる場合もある。
4‐33
(4) 品質規格
バイオディーゼル燃料をディーゼル車等で安全・安心に利用するためには、品質確保が重要
である。現在、国内で定められているバイオディーゼル燃料の規格は、軽油と混合して利用す
るか、B100 燃料(バイオディーゼル燃料 100%;ニート)で利用するかによって適用すべき規
格が異なっている。
バイオディーゼル燃料混合率5%以内の軽油(B5燃料)を製造する場合、平成 21 年 2 月
に施行される「改正 揮発油等の品質の確保等に関する法律(改正品確法)
」により「①軽油強
制規格」を満たすことが義務化される。同法律ではB5燃料の品質規格を定めるとともに、B
5燃料の原料である軽油及び脂肪酸メチルエステル(FAME)の品質確認をJIS規格で行
うこととしている。FAME(軽油との混合前)の「②JIS規格」は、軽油との混合率5%(B
5)以下を前提としており、全 25 項目の基準値を満たす必要がある。しかし、1試料あたりの
分析費用は約 50 万円と高価であることから、製造者の負担が懸念される。
B100燃料で利用する場合、バイオディーゼル燃料の品質にばらつきがあり、規格を満足す
ることが難しい。そのため、全国バイオディーゼル燃料推進協議会が定めた「バイオディーゼ
ル燃料の製造・利用に係るガイドライン」では、バイオディーゼル燃料を使う車両を限定する
など一定の管理下で使用することを前提に、最低限遵守すべき5項目を「③強制規格」として
いる。改正品確法の施行以降は、国土交通省が経済産業省と協力して定めた「バイオディーゼ
ル燃料の使用に関するガイドライン」を遵守する必要がある。
表 2.4-5 バイオディーゼル燃料の品質規格
種
類
バイオディーゼル燃料と軽油の混合
燃料(B5燃料)
軽油
適用法・規格
①軽油強制規格
JIS K2204
備
考
・改正品確法 H21.2施行
・FAME混合率5%以内の軽油を対象
・改正品確法 H21.2施行
(FAMEとの混合前)
FAME
(軽油との混合前)
②JIS K2390
(JASO 規格※)
バイオディーゼル燃料(B100燃料) ③バイオディーゼル燃料
の製造・利用に係るガ
(ニートFAME)
イドライン(H20.5.30)
における「強制規格」
・改正品確法 H21.2施行
・軽油に対して5%を超えない範囲で混
合に用いるFAMEを対象
・全国バイオディーゼル燃料推進協議会
・一定の管理下にある自動車等への利用
を前提
・FAMEのJIS規格から最低限遵守
すべき5項目を選定
※JASO規格:JASOは社団法人自動車技術会のことで、同協会が定めたJASO M360をJASO規格と呼んでいる。
JASO規格は、品質の目安としては“最低限の品質基準”であることに留意する必要がある。B5燃料
を前提とした混合用FAME品質のJIS規格は、JASO規格を基に制定されている。
4‐34
表2.4-6 品質規格値
③ガイドライン
「強制規格」
混合率5%(B5)以下で利 B100燃料で利用するこ
混 合 率 5 % (B5) 以 内 の
用することを前提とし とを前提としたニートFAME
FAME混合軽油の強制規格
たニートFAMEの任意規格
の強制規格
0.1 以下
96.5 以上
※ 5.0 以下
0.860 以上
0.900 以下
3.50 以上
3.50 以上
5.00 以下
5.00 以下
①軽油強制規格
②JIS/JASO規格
項 目
単 位
脂肪酸メチルエステ
ル含有量
質量%
密度(15℃)
g/ml
動粘度(40℃)
mm2/s
引火点 (PMCC)
℃
-
120 以上
-
硫黄分
質量%
0.001 以下
0.001 以下
-
残留炭素分(10%残油)
質量%
-
0.3 以下
-
45 以上
51 以上
-
℃
360 以下
-
-
質量%
-
0.02 以下
-
水分
ppm
-
500 以下
500 以下
固形不純物
ppm
-
24 以下
-
銅板腐食, 3hrs@50℃
-
-
酸化安定度
-
1 以下
受渡当事者間の
合意による
セタン指数
蒸留性状 90%留出温度
硫酸灰分
酸価
ギ酸、酢酸、プロピオ
ン酸含有量
酸価の増加
16hrs×115℃
-
mgKOH/g
※ 0.13 以下
0.50 以下
-
質量%
※ 計 0.003 以下
-
-
mgKOH/g
※ 0.12 以下
-
-
ヨウ素価
gI/100g
-
120 以下
-
リノレン酸ME
質量%
-
12.0 以下
-
メタノール
質量%
※ 0.01 以下
0.20 以下
0.20 以下
モノグリセライド
質量%
-
0.80 以下
-
ジグリセライド
質量%
-
0.20 以下
0.20 以下
トリグリセライド
質量%
0.01 以下
0.20 以下
0.20 以下
遊離グリセリン
質量%
-
0.02 以下
-
全グリセリン
質量%
-
0.25 以下
-
金属 (Na + K)
ppm
-
5.0 以下
-
金属 (Ca + Mg)
ppm
-
5.0 以下
-
リン
流動点,目詰まり点
(CFPP)
ppm
-
-
℃
-
10.0 以下
受渡当事者間の
合意による
-
注:脂肪酸メチルエステル含有量が0.1%を超える場合(5%以下)は、
「※」の酸化安定性等の項目も満たす必要がある。
4‐35
(5) 軽油引取税
バイオディーゼル燃料に軽油を混合した場合、その混合物は課税対象なる。そのため、事前
に軽油引取税を取り扱っている県税務事務所で製造等に関する申請をしなければならない。申
請によって承認が得られれば、
バイオディーゼル燃料分のみに課税される
(32.1円/ℓ)
。
しかし、
承認を受けないで使用すると軽油分を含めた全量に課税され、罰則が適用される場合もあるの
で、留意が必要である。
表2.4-7 軽油引取税の対象
規制対象者
軽油の引取りを行う者
規制対象事業
軽油の利用
規制の内容
温度15℃において比重が0.8017~0.8762の炭化水素油に課税(32,100円/kℓ)される。
ただし、政令で定める以下のものは非課税となる。
・90%流出温度が267℃未満か400℃を超えるもの
・残留炭素分が0.2%を超えるもの
・引火点が130℃を超えるもの(バイオディーゼル燃料の引火点は約178℃で、この項
目に該当するため、非課税となっている)
【地方税法(軽油引取税)】
軽油引取税は、道路を使用する車両の燃料である軽油の引き取り(購入)に課せられる税であ
り、その税収は県内の道路の建設、補修など道路整備に要する費用に充てられる目的税で、元売
業者・特約業者※から現実の納入を伴う軽油の引き取り(購入)を行った者が、元売業者・特約業
者を通じて県に納めるものである。ただし、この税金は軽油の代金に含まれており、最終的には
軽油の消費者が負担することとなる。
バイオディーゼル燃料を軽油と混合する場合には、原則として軽油引取税が課せられるため、
事前に燃料の使用量等について、県税事務所の承認を得る必要がある。ただし、次の用途に軽油
を使用する場合で、申請により県税事務所から免税軽油使用者証の交付を受けた場合には免税と
なる(道路を走行する機械・車両等については、免税軽油は使用できない)。
① 鉄道・軌道事業等を営む者が、鉄道・軌道用車輌の動力源に使用する場合
② 農業・林業等を営む者が、動力耕うん機等の動力源に使用する場合
③ 鉱物等の採掘事業を営む者が、鉱物等の採掘用機械の動力源に使用する場合 など
※元売業者とは、軽油の製造業者、輸入業者、販売業者で総務大臣が指定した者、特約業
者とは元売業者と契約して、軽油その他の石油製品を販売するもので、県条例により指
定された者
(6) 道路運送車両法
バイオディーゼル燃料を自動車燃料として使用する場合、道路輸送車両法の「自動車検査業
務等実施要領(昭和36年11月25日自車第880号)
」に基づき、自動車検査証(車検証)の備考欄
に「廃食用油燃料併用」などと記載しなげればならない。
車検証の記載事項変更は車両の持ち込みの必要はなく、申請手数料は無料で用紙代と印鑑を
準備するだけで手続きは可能である。
4‐36
(7) 利用による事故等
バイオディーゼル燃料を利用した車両の中には、以下のようなトラブルが発生している。バ
イオディーゼル燃料は、このようなトラブルが発生する可能性があることを十分理解した上で
導入時及び利用時の点検整備を行うことが重要である。
表 2.4-8 バイオディーゼル燃料利用による事故等
事 故
故障状況
原 因
■気温低下による流
・寒波が例年より早く到来
・バイオディーゼル燃料の曇
・流動点降下剤の添加
した結果、流動降下剤を
り点(-4℃)よりも外気温
・軽油と混合して利用
未添加の状態であった
が低かったため
動性の低下
改善策の例
バイオディーゼル燃料
が白化した
■ゴムの劣化・膨張
・燃料供給系ホース等の内
・NBR(ニトリルブチルゴ
面にミクロクラックが
ム)ではなく、フッ素系ゴ
発生した
ム、布巻きゴムを採用
・ゴムが膨張した
■フィルターの目詰
まり
・グリセリン等により燃料
・バイオディーゼル燃料中の
フィルターが目詰まり
残っていた未反応物(メタ
をおこした
ノール、触媒)が給油後に
・広島県北広島町では、微細
燃料タンク中で反応し、グ
な不純物も除去できる処
リセリンが生成されフィ
理機の導入により被害の
ルターを詰まらせたため
軽減に成功
・燃料フィルターをこまめに
交換
表 2.4-9 福島県の県有ディーゼル車輌における故障発生状況
故障事例1
故障発生日
故障車輌
主な症状
故障事例2
・平成19年8月30日
・平成19年11月19日
・いわき建設事務所の道路補修車
・いわき建設事務所の道路補修車
・坂道で加速ができなくなり、排気ガスが白っ
・エンジンの不調
ぽくなった
・燃料フィルターの交換
・燃料噴射ポンプの交換
修理概要
・燃料タンクの脱着・清掃
・燃料噴射ノズルの分解・調整
・燃料タンク内で分離した燃料の「かす」や「お
故障の原因
り」が燃料ポンプや燃料噴射ノズルに詰まっ
・燃料に含まれる水分などが燃料フィルターに
溜まったためと考えられる。
たことによるものと考えられる
・バイオディーゼル燃料を使用し始めて、約1
備考
万8千km走行後(約11ヶ月後)に不具合が発
生
・修理費用約14万円
出典:福島県HP
4‐37
・修理費用約7千円
◆燃料フィルターの目詰まり◆
H19年10月から、東京都では二酸化炭素排出量削減のため、FAMEを5%混合した軽油(B5燃
料)を都バス65台で利用している。使用開始から約2ヶ月後、給油機及び都バスの燃料フィルターに
目詰まりが生じた。
〔品質規格〕
品確法で規定するバイオディーゼル燃料混合軽油の強制規格及び標準規格に適合
〔不具合事例〕
○給油機の燃料フィルター目詰まりに起因する給油不良
○都バスの燃料フィルター目詰まりに起因するアイドリング不良
〔フィルターの目詰まり状況とその原因〕
目詰まりした燃料フィルターには、のり状で半透明な物質
が付着しており、付着物は分析の結果、パルミチン酸モノグ
ライドであると判明した。パルミチン酸モノグライドは、モ
ノグリセライドの一種であり、融点が高く、常温では固まっ
ている。FAME製造時に未反応物としてFAME中に残存
したものであると想定される。モノグリセライドはFAME
パルチミン酸
給油機の
グリセライド
のJIS規格では0.8質量%を上限として規格化されている
燃料フィルター
が、品確法では規格として定められていなかった。
燃料フィルターの目詰まり状況
〔応急的改善策〕
①モノグリセライドのゲル化を抑制するために、B5燃料にイソプロピルアルコール等を添加する
②B5燃料を自然冷却し、液温が10~15℃を下回ったことを確認してからゲル化及び結晶化したパ
ルミチン酸モノグライドを1μmのフィルターでろ過してから出荷する。
〔改善効果〕
一定の効果は見られたが、アルコール添加やろ過が徹底されていなかったため、再び目詰まりが
生じた。新たな改善策の検討が必要である。
出典:都バスへのバイオディーゼル燃料導入事業 中間報告
◆バイオ燃料品質向上、農機具のトラブル解消◆
菜の花を育てて菜種油を作り、回収した廃食油をバイオディーゼル燃料に再生する「菜の花プロジ
ェクト」に取り組む北広島町大朝のNPO法人「INE OASA(い~ね!おおあさ)
」が、バイ
オディーゼル燃料の品質向上のため、精製時に微細な不純物も取り除ける処理機を導入した。農機具
などに使用時のトラブルが減り、好評という。理事長の保田哲博さんは「環境配慮型エネルギーの地
産地消という目標に、少し前進した」と手応えを感じている。
これまでは集めた廃食油は、ざるを通して油かすなどを取り除いていた。9月に導入した処理機は
遠心分離器を備え、細かな不純物も排除できる。保田さんは「以前はエンジンのフィルターが目詰ま
りしやすいなど問題があったが、ほぼ解消された」と言う。
同法人は旧大朝町時代の平成13年設立。年間約1万ℓのバイオディーゼル燃料を精製し、地元農家
の農機具やスクールバスの燃料などに使われている。品質向上のため処理機の購入を検討していた
が、約500万円の購入費負担が課題だった。行政の補助金に加えて、地元有志から100万円の募金が集
まった。
「過疎に沈む中山間地を元気にしたい」という夢を追って始めた取り組みだけに、地元の応
援は励みだ。
(以下略)
出典:毎日新聞 2008年11月5日 広島県版 (平成21年1月20日に毎日新聞社の承諾を得て掲載した)
4‐38
5 事業化における留意点等
廃食用油の回収・バイオディーゼル燃料製造・利用システムの事業化における留意点等は、以下
のとおりである。
(1) 廃食用油の回収
ア 一般家庭からの回収
・バイオディーゼル燃料の製造には適さない、動物性油や水分が廃食用油に混入しないよう
徹底する必要がある。
・一定量が確保できるような市民からの協力が、継続的に確保できる仕組みづくりが必要で
ある。
・回収場所での廃食用油の流出やよごれを防止するために管理体制を検討する必要がある。
イ 事業者、公共施設からの回収
・事業者、
公共施設が以前から委託していた廃食用油の処理業者との棲み分けが必要である。
・複数の油を混合している場合もあるので、事前に利用している油の種類を確認する必要が
ある。
(2) バイオディーゼル燃料の製造
ア 製造コスト
・バイオディーゼル燃料の製造コストはプラントの規模によるが、軽油価格より高くなる傾
向にあり、回収にかかる経費の節減や副成物の有効活用等を検討する必要がある。
イ バイオディーゼル燃料製造装置
・バイオディーゼル燃料製造装置の設置においては、危険物の規制に関する政令により設置
位置、構造、設備に関する基準が定められており、既存施設を利用する場合には基準を満
たすように施設の改造を要する場合がある。
・アルカリ触媒法湿式の場合、バイオディーゼル燃料製造過程で発生するアルカリ廃液を適
正に処理する必要がある。
ウ 副生成物の処理
・グリセリン廃液は、助燃剤や肥料の原料として有効活用できるが引き取り先を確保するの
が難しいため、廃棄物として処理する必要がある。ただし、グリセリン廃液の有効活用に
ついては、行政や研究機関等と連携し研究・検討していくことが望ましい。
・洗浄廃液(湿式洗浄方式の場合)は高アルカリであるため下水道排除基準に適合した廃水
処理方法を検討する必要がある。廃水処理が困難な場合は、焼却施設での燃焼やメタン発
酵施設での希釈水等の利用について検討することが望ましい。
エ 品質
・廃食用油の物性によりバイオディーゼル燃料の品質にばらつきがあるため、回収時に物性
を確認する必要がある。
4‐39
(3) バイオディーゼル燃料の利用
ア 長期保管
・長期保管(3ヶ月以上)すると、酸化劣化し、品質が低下する。
〔対応策〕
・酸化防止剤を添加する。
・屋外での保管はさけ、なるべく冷暗な場所を選ぶ。
イ 寒冷地対策
・寒冷地では冬季にバイオディーゼル燃料の粘性が低下し、B100燃料では利用ができない。
〔対応策〕
・流動点降下剤を添加する。
・軽油を混合して利用する(この場合軽油引取税が課税される)
。
ウ 税制度
・軽油と混ぜて利用すると軽油引取税が課税される。
エ 車両トラブル
・バイオディーゼル燃料を利用した車両で、燃料フィルターの目詰まり、ゴムパッキンの劣
化等によるトラブルが発生している。こまめに定期点検、部品交換を行うことでこれらの
トラブルを未然に防ぐことができる。
(4) 助成制度
バイオディーゼル燃料製造施設の整備に当たっては、各種助成制度の活用を検討する。
バイオディーゼル燃料製造施設はバイオマス燃料製造施設であり、助成制度は「第3章 畜
産バイオマスエネルギー利用の促進 第5節 参考資料 1 助成制度」
に示すとおりである。
4‐40
第3節 市町村におけるバイオディーゼル燃料製造施設新設
モデルの検討
1 バイオディーゼル燃料製造施設の新設モデル計画
市町村におけるバイオディーゼル燃料製造施設の新設モデルの検討では、廃食用油回収システム
及びバイオディーゼル燃料製造・利用システムについて検討し、課題を整理した。
ここでは、廃食用油回収及びバイオディーゼル燃料利用を行っているA市をモデル地区とした。
バイオディーゼル燃料製造施設の新設モデルの検討フローは下図のとおりである。
【バイオディーゼル燃料製造装置の新設モデル計画】
(1) 廃食用油回収システム
の検討
(2) バイオディーゼル燃料
製造システムの検討
(3) バイオディーゼル燃料
利用システムの検討
・現状の廃食用油回収システムを踏まえ、回収量の設定、
回収拠点、方法、回数等を検討する。より多くの市民・
事業者から協力が得られる回収システムを構築する。
・廃食用油回収量に適した施設規模、副産物の利用・処
理等について検討し、概算工事費を算定する。また、
消防法や市町村の火災予防条例についての留意事項を
整理する。
・B5燃料での利用を前提とし、利用対象車両、混合・
給油場所等の検討を行う。また、改正品確法について
の留意事項を整理する。
(4) 経済性評価
・モデル計画全体の概算事業費を算定し、経済性の評価
を行う。
(5) 二酸化炭素排出量の
・バイオディーゼル燃料の利用により削減可能な軽油消
費量から二酸化炭排出削減量を算定する。
削減効果
(6) 課題の整理
・バイオディーゼル燃料製造装置の導入における課題を
整理する。
図 3.1-1 モデル計画の検討フロー
4‐41
現
状
A 市
A 市
B団体
スクールバス
一般家庭及び事業者は、回収拠点に廃
食用油を持ち込み、廃食用油回収・製
造業者が回収。
学校給食
各校の廃食用油を
廃食用油回収・製造
業者が回収。
【運搬】
バイオディーゼル
燃料製造装置
回収廃食用油は、廃食
用油回収・製造業者が
全量バイオディーゼル
燃料化。
回収量:1,200ℓ/月
廃食用油回収
バイオディーゼル燃料製造
B団体 (廃食用油回収・製造業者)
事業者
B団体 (廃食用油回収・製造業者)
一般家庭
【回収】
給食配送車
廃食用油回収・製造業者
からバイオディーゼル
燃料を購入し、スクール
バス、給食配送車等の公
用車に利用。
利用量:1,000ℓ/月
(B100 燃料)
バイオディーゼル燃料利用
モデル計画
A市及び
市民・事業者等
A 市
A 市
事業者
公用車
【回収】
A市
一般家庭
【給油】 廃食用油
回収車
一般家庭及び事業者は、回収拠点に廃
食用油を持ち込み、A市が回収。
バイオディーゼル
燃料製造装置
市民・事業者
ディーゼル車
撹拌機
各校の廃食用油を
A市が回収。
学校給食
回収量:1,600ℓ/月
廃食用油回収
A市でバイオディーゼル
燃料製造装置を導入し、
全量バイオディーゼル燃
料化。
バイオディーゼル燃料
は、軽油と混合しB5燃
料を製造。
バイオディーゼル燃料製造
製造したバイオディー
ゼル燃料を、公用車、廃
食用油回収車及び市
民・事業者・近隣市町村
のディーゼル車で利用
利用量:28,800ℓ/月
(B5燃料)
バイオディーゼル燃料利用
図 3.1-2 廃食用油回収・バイオディーゼル燃料製造・利用の取り組み
4‐42
(1) 廃食用油回収システムの検討
A市では既に廃食用油の回収を行っており、廃食用油の出し方等は、市民や事業者等に定着
しているものとする。また、市報やホームページでの広報活動により、廃食用油の回収量は増
加傾向にあるものとした。
モデル計画における廃食用油回収システムは、現状を踏まえ以下のとおりとした。
表3.1-1 廃食用油回収システムの概要
項 目
ア 回収量
・1,200ℓ/月
イ 回収対象
・一般家庭
ウ 回収拠点
モデル計画における
廃食用油回収システム
現状の廃食用油回収システム
・1,600ℓ/月
・小中学校
・事業者
(学校給食)
・10箇所
・市内の小中学校
(市役所(本庁、
支所)、ガソリン
・同左
・同左
3校
・給食センター
スタンド)
エ 回収方法
《一般家庭》
・各学校及び給食
・ペットボトルに
センターで専用
詰めて回収拠点
容器に移して回
に持ち込み
収
・同左
・未使用の油はそ
の容器のまま持
ち込み
《事業者》
・専用容器で回収
オ 回収・運搬
・廃食用油回収業者が、各拠点から回収
し、製造施設まで運搬
・A市職員が、各拠点から回収し、製造
施設まで運搬
・各回収拠点から月2~3回(1日当り ・各回収拠点から月4~5回(1日当り
1~2箇所の頻度で回収)
2~3箇所の頻度で回収)
カ 販売収入
・廃食用油回収業者に5円/ℓで販売
キ 回収・運搬車両
・廃食用油回収業者の所有車両
ク 回収コスト
・廃食用油回収業者が、各拠点から回収 ・回収にかかる人件費は、バイオディー
・販売収入は72,000円/年
し、製造施設まで運搬するため、経費
はかからないものとし0円
・A市が自ら回収し利用するため、販売
収入は0円
・A市所有の利用可能な車両
ゼル燃料製造システムにて計上
・回収車両の維持管理費として150,000/
年計上
ケ 収支
・プラス72,000円/年
・マイナス150,000円/年
(=72,000円/年-0円/年)
4‐43
(=0円/年-150,000円/年)
ア 回収量
現状の廃食用油回収量は年間14,400ℓで、月平均1,200ℓである。
A市では、市報やホームページによる広報活動やイベント開催時における普及啓発活動に
より、回収量は増加傾向にある。
モデル計画では、3割程度回収量が増加すると見込み、回収量は月平均1,600ℓに設定する。
現状の回収量
増量
モデル計画における回収量
1,200ℓ/月
1,600ℓ/月
図 3.1-3 回収量の設定
【留意事項】
・廃食用油回収量は、バイオディーゼル燃料製造装置の規模を決定する際の基本条件となる。
・群馬県内の各市町村の廃食用油回収量は、ばらつきがあるものの、平均すると廃食用油発
生量に対して約3%程度であり、これを参考とする。
・環境基本計画等で廃食用油回収の目標値を設定している場合には、各計画との整合を図る
必要がある。
・廃食用油が計画値より多く集まった場合は、需要先も検討しておくことが望まれる。
・廃食用油の品質は、バイオディーゼル燃料の品質にかかわるため、回収にあたっては受入
基準等を設けることが望ましい。ただし、厳しい基準は回収量の低下につながるため、で
きる限り劣化の少ない廃食用油を排出するよう市民へ呼びかける等の普及啓発を行うこ
とが望ましい。
※京都市では、酸価、ヨウ素価、飽和脂肪酸組成、水分・夾雑物に基準を設けているが、
簡易指標として、酸価:5.0mg-KOH/g 以下、ヨウ素価 120 以下の2つを挙げている。
イ 回収拠点
現状の回収拠点数は、公共施設8箇所と民間施設2箇所の計10箇所である。また、小中学
校は、自校給食方式の3校及び給食センターから回収している。
A市では、廃食用油回収量が増加傾向にあり、現状の回収拠点への持ち込みが市民に定着
しているという想定のもとに、モデル計画では回収拠点を現状と同じく10箇所とした。小学
校は、自校給食方式校の増減はないものとし、現状と同じく3校からの回収とした。また、
給食センターも、継続して回収することとし1箇所からの回収とした。
現状の回収拠点
モデル計画における回収拠点
【公共施設8箇所】
本庁、支所等
【民間施設2箇所】
ガソリンスタンド
【小中学校】
3校
【給食センター】
1箇所
【公共施設8箇所】
本庁、支所等
【民間施設2箇所】
ガソリンスタンド
【小中学校】
3校
【給食センター】
1箇所
変更なし
図 3.1-4 回収拠点の設定
4‐44
【留意事項】
・モデル計画では、回収量の増加に対して、回収拠点は増やさずに回収頻度を増やすことで
対応することとした。回収頻度を増やすことが困難である場合には、新たな回収拠点の設
置を検討する。
・新たな回収拠点の設置にあたっては、地域住民の理解と協力が必要であるため、ワークシ
ョップの開催等により、合意形成を図ることが望ましい(施錠が可能な回収ボックスの設
置による安全性確保、廃食用油の出し方のルールづくり等)
。
ウ 回収方法
現状の廃食用油回収方法は、市民から排出される廃食用油は、使用済みの廃食用油をペッ
トボトルに詰め替え、未使用の油は、その容器に入れたまま回収拠点(10箇所)に持ち込む
方法としている。事業者は専用容器を持ち込む方法としている。また、小中学校及び給食セ
ンターから排出される廃食用油は、専用容器に移し替えて各学校及び給食センターで保管す
る方法としている。
モデル計画では、回収量が増加傾向にあり、現状の回収方法が市民・事業者及び小中学校
に定着していると考えられることから、回収方法は現状と同様の方法とした。
現状の回収方法
モデル計画における回収方法
【市民】
ペットボトル
未使用の油はその容器のまま
【事業者】
専用容器
【小中学校・給食センター】
専用容器
【市民】
ペットボトル
未使用の油はその容器のまま
【事業者】
専用容器
【小中学校・給食センター】
専用容器
変更なし
図 3.1-5 回収方法の設定
【留意事項】
・廃食用油の回収方法には、回収拠点で大きなポリタンクに移し替える方法なども考えられ
るため、市民・事業者からの意見を踏まえ、効率的な回収方法を検討する。
エ 回収・運搬
現状の廃食用油回収・運搬は廃食用油回収業者が行っており、各拠点を毎月2~3回の頻
度で巡回し、回収した廃食用油を製造場所まで運搬している。
各拠点に集まった廃食用油の回収・運搬には、
「回収・運搬を業者へ委託」と「自治体職員
が回収・運搬」が考えられるが、モデル計画では、回収拠点数が10箇所程度と少ないことか
ら、「A市職員(1名)が回収・運搬」を行うこととした。また、回収量が現状の2倍となる
ため、回収・運搬回数を月4~5回に頻度を増加することにより、対応することとした。
現状の回収・運搬
【回収・運搬者】
回収業者
【回収・運搬回数】
月2~3回
モデル計画における回収・運搬
増加
【回収・運搬者】
自治体職員(1名)
【回収・運搬回数】
月4~5回
図 3.1-6 回収・運搬回数の設定
4‐45
【留意事項】
・廃食用油の回収・運搬をNPO法人やボランティア等が行う場合には、
「廃棄物の処理及
び清掃に関する法律」に基づき、収集運搬に関して市町村長の許可を得る必要がある。
・市の委託により収集運搬を行う場合には市町村長の許可は必要としないが、廃食用油が廃
棄物に該当するかどうかの判断は難しいため、事前に県の担当者との協議が必要である。
オ 販売収入
現状では、市民・事業者、小中学校及び給食センターから回収した廃食用油は、バイオデ
ィーゼル燃料回収業者に5円/ℓで販売しており、A市の収入源となっている。
モデル計画では、廃食用油をA市自らが回収し、バイオディーゼル燃料製造を行うため、
廃食用油による収入は0円とする。
現状の
廃食用油販売収入
モデル計画における
廃食用油販売収入
【廃食用油販売単価】
5円/ℓ
【廃食用油販売収入】
72,000円/年(14,400ℓ/年×5円/ℓ)
【廃食用油販売収入】
0円/年
図 3.1-7 廃食用油販売収入の設定
カ 回収・運搬車両
現状では、廃食用油回収業者が各拠点を廻り回収しており、A市において運搬車両の経費
はかかっていない。
モデル計画では、A市所有の車両を利用して回収するものとした。
現状の
回収・運搬車両
モデル計画における
回収・運搬車両
【回収・運搬車両】
廃食用油回収業者所有の車両
であるため、A市には運搬車両
経費はかからない
【回収・運搬車両】
A市所有の車両を利用する
(車両購入費及び減価償却費
はここでは見込まない)
図 3.1-8 回収・運搬車両の設定
【留意事項】
・廃食用油の回収を、ごみ収集場所等に設定した場合、1箇所あたりの回収量が少なくなる
ため、収集コストが課題となる。回収・運搬車両をごみ収集車とすることで、車両購入費
が削減できるとともに、効率的な廃食用油回収システムが構築できる。
・新規に車両を購入する場合は、最大積載量1.5t、ディーゼル車で約250万円かかる。耐用
年数を減価償却資産の耐用年数等に関する省令より、大型乗用車の5年とすると、減価償
却費は50万円/年となる。
4‐46
キ 回収コスト
現状では、廃食用油回収業者が各拠点を廻り回収しており、A市において運搬車両の経費
はかかっていない。
モデル計画では、管理運営にかかる人件費は、バイオディーゼル燃料製造システムの管理
費で計上するものとした。回収運搬車両が消費する燃料は、製造したB5燃料を利用するも
のとし、維持管理費は、車検費用、自動車税、保険料として15万円/年を計上することとした。
現状の
管理運営
モデル計画における
管理運営
【人件費】
廃食用油回収業者が回収・運搬
を行っているため、A市では管
理運営費はかからない
【回収にかかる燃料費】
廃食用油回収業者が回収・運搬
を行っているため、A市では燃
料費はかからない
【車両の維持管理費】
廃食用油回収業者が回収・運搬
を行っているため、A市では車
両の維持管理費はかからない
【人件費】
バイオディーゼル燃料製造と
兼任するものとする
人件費はバイオディーゼル燃
料製造システムで計上する
【回収にかかる燃料費】
製造したB5燃料を利用する
ため燃料代は計上しない
【車両の維持管理費】
車検費用、自動車税、保険料と
して15万円/年を計上する
図 3.1-9 管理運営の設定
ク 収支
ア~キの条件をふまえて、廃食用油回収システムの収支を以下のとおり試算した。
現状では収支がプラス72,000円/年であるが、モデル計画においてはマイナス150,000円/
年である。
表3.1-2 廃食用油回収システムの収支(試算)
項 目
現 状
モデル計画
〔単位:千円/年〕
備 考
【収入】
廃食用油販売収入
72
0
72
0
購入費
0
0
減価償却費
0
0
0
0
0
0
0
150
支出計
0
150
収 支
72
-150
収入計
【支出】
廃食用油回収・運搬車両
管理運営
人件費
燃料費
維持管理費
4‐47
バイオディーゼル燃料製造の管理費
で計上
製造したバイオディーゼル燃料を利
用するため計上しない
車検費用、自動車税等
(2) バイオディーゼル燃料製造システムの検討
A市では、現在バイオディーゼル燃料製造装置は所有しておらず、回収した廃食用油は全て
バイオディーゼル燃料製造業者に販売しているものとする。
モデル計画では、A市においてバイオディーゼル燃料製造装置を導入し、バイオディーゼル
燃料の製造及びバイオディーゼル燃料5%混合軽油(B5燃料)の製造・貯蔵を、自ら行うも
のとした。
バイオディーゼル燃料製造システムは、以下のとおりとした。
表3.1-3 バイオディーゼル燃料製造システムの概要
項 目
ア 製造装置の規模
現状の
バイオディーゼル燃料製造システム
モデル計画における
バイオディーゼル燃料製造システム
・バイオディーゼル燃料製造装置を ・製造能力:100ℓ/日
所有していない
・本体価格:600万円
・設置費等:150万円
・耐用年数:8年
イ 製造装置設置場所
廃食用油等保管場所
・現状の廃食用油回収拠点であるA市の庁
-
舎周辺
ウ 製造方法
・アルカリ触媒法(乾式洗浄方式)
・バイオディーゼル燃料は、軽油と混合し
-
B5燃料を製造
・撹拌装置:650万円
エ 製造作業者
・自治体職員(廃食用油の回収と兼任)
-
・人件費:作業日数20日/月、7,000円/日
とし、約1,680千円
オ バイオディーゼル
《バイオディーゼル燃料製造量》
・ニートFAME: 17,280ℓ/年( 5%)
燃料製造
・軽
油:328,320ℓ/年( 95%)
・B 5 燃 料:345,600ℓ/年
《薬品代等》
・部品交換費:80千円/年
-
・電気代:約39千円/年
(廃食用油1ℓあたり2.0円)
・メタノール代:約269千円/年
(廃食用油1ℓあたり14.0円)
・触媒(水酸化カリウム)費:約77千円/年
(廃食用油1ℓあたり4.0円)
カ グリセリン処理
・廃棄処分
-
・廃棄処分費:約156千円
(廃食用油1ℓあたり8.1円)
キ 廃水処理
ク 収支
・必要なし
-
・マイナス4,051,000円/年
-
(=0円/年-4,051,000円/年)
4‐48
ア 製造装置の規模
バイオディーゼル燃料製造装置の規模は、バイオディーゼル燃料製造装置の稼働日数をも
とに選定するものとし、国内メーカーで取り扱いの多い、製造能力40ℓ/日、100ℓ/日、200ℓ/
日の3タイプで検討した。
その結果、モデル計画のバイオディーゼル燃料製造装置の規模は、稼働率が高い「製造能
力100ℓ/日」のタイプとした。
※平日の20日間/月を稼働日数とした場合、1日当たりの処理量は80ℓとなる。
メーカー聞き取りより、製造能力100ℓ/日の装置価格は600万円、設置・据付費は150万円。
表3.1-4 バイオディーゼル燃料製造装置の規模別稼動日数
製造能力
1ヶ月当たりの稼働日数
(廃食用油1,600ℓ/月)
40ℓ/日
40日
100ℓ/日
16日
200ℓ/日
8日
備 考
製造能力40ℓ/日の場合、稼動日数が40日/月となり、回収した廃
食用油を全量バイオディーゼル燃料化することができない。
200ℓ/日と比較して稼働日数が多く、平日内での稼動が可能。
【留意事項】
・廃食用油が安定して回収できる場合には、製造能力の異なる装置を複数台組み合わせて、効率
化を図ることも考えられる。製造装置を選定する際には、複数のメーカーに特徴、価格等の聞
き取りを行うことが望ましい。下表に、主なメーカーの公式サイトを示す。
表 3.1-5 国内の主なバイオディーゼル燃料製造装置取扱メーカー
メーカー名
商品名
株式会社
エムエスデー
有限会社
エルフ
木村化工機
株式会社
株式会社
セベック
BDK
株式会社BDF
(染谷商店)
エステル
ボーイ
エルフ
-
EOSYS
製造方式
触媒
精製法
アルカリ
湿式
(NaOH)
乾式
アルカリ
湿式
(KOH)
アルカリ
湿式
(KOH)
アルカリ
湿式
(KOH,NaOH)
アルカリ
(KOH,NaOH)
株式会社
D・OiL
アルカリ
ダイキアクシス
(KOH)
株式会社
ME・X・チェ アルカリ
南光
ンジャー
(KOH)
バイオマス・ジャ MAX
アルカリ
パン株式会社
(KOH)
湿式
乾式
乾式
湿式
製造能力
公式サイト
10ℓ/4時間、100ℓ/3.5時間、200ℓ/3.5時間 http://www.e100ℓ/9時間、200ℓ/9時間
msd.co.jp/
100ℓ/日、250ℓ/日
http://www.el
f-web.biz/
連続方式
http://www.kc
中規模装置
pc.co.jp/
http://www.se
100ℓ/約6時間(1バッチ)
bec.co.jp/
100ℓ/約8時間(50ℓ×2バッチ)
200ℓ/約8時間(100ℓ×2バッチ)
500ℓ/約8時間
100ℓ/日、200ℓ/日、400ℓ/日、800ℓ/日
http://bdf.sa
kura.ne.jp/bd
f.html
50ℓ/バッチ、100ℓ/バッチ
http://www.daik
200ℓ/バッチ、400ℓ/バッチ
i-axis.com/
40ℓ/日、100ℓ/日、200ℓ/日
http://www.nank
400ℓ/日、600ℓ/日、800ℓ/日
oh.jp/pc/
50ℓ/約4~6時間、100ℓ/約4~5時間
http://www.bio
200ℓ/約4~5時間、400ℓ/約4~5時
massjapan.jp/
4‐49
イ 製造装置設置場所・廃食用油等保管場所
製造装置の設置場所は、廃食用油の回収効率及び市民への普及啓発効果等を考慮して選定
する。モデル計画では、現状の廃食用油回収拠点である庁舎周辺と想定した。
バイオディーゼル燃料製造及びB5燃料の製造・貯蔵は、可燃性燃料を取り扱うため、製
造装置の設置場所及び廃食用油等の保管場所では、安全性を確保することが必要である。モ
デル計画では、50m2程度の設置スペースが確保できる未利用の市所有施設を利用し、消防法
に適用した施設整備を行うものと想定した。ただし、下表に示す危険物の貯蔵・取り扱い指
定量を超えるため、施設は鉄筋鉄骨コンクリート造であることとした。
表3.1-6 危険物の貯蔵・取り扱い指定量
モデル計画における
取り扱い量(B5燃料)
80ℓ
品 名
廃食用油
第4類動植物油類
第4類第3石油類
(非水溶性)※
第4類アルコール類
第4類第3石油類
(水溶性)
第4類第2石油類
第4類第2石油類
バイオディーゼル燃料
メタノール
グリセリン
軽油
B5燃料
指定数量
10,000ℓ
72ℓ
2,000ℓ
14ℓ
400ℓ
14ℓ
4,000ℓ
1,520ℓ
1,600ℓ
1,000ℓ
1,000ℓ
※バイオディーゼル燃料は、原料、製造の状況により引火点が異なり、第2石油類に分類されることもあるため、
性状を確認する必要がある。
【留意事項】
・モデル計画における稼働日数を月20日間とした場合、廃食用油の平均処理量は80ℓ/日であ
る。製造したバイオディーゼル燃料をB5燃料で利用する場合、約20倍の軽油が必要とな
り、軽油及びB5燃料が貯蔵・取り扱い指定量を超えるため、製造装置導入にあたっては
管轄消防署への許可申請及び施設の完成検査が必要である。
使用開始
完成検査
工 事
許 可
許可申請
図 3.1-10 許可申請から使用開始までの流れ
・バイオディーゼル燃料製造施設については、消防法第10条における「位置・構造・設備の技
術上の基準」が適用される。所轄する消防署により異なるが、耐火構造、防爆設備、防油
堤の設置等の対応が必要となるため、モデル計画においても、対応可能な施設を選定する
ことが必要である。
耐火構造のスイッチ
防爆対応の蛍光灯
4‐50
防油堤
ウ 製造方法
モデル計画におけるバイオディーゼル燃料の製造方法は、国内メーカーが取り扱う「アル
カリ触媒法」で、水洗工程を行わず廃水が発生しない「乾式洗浄方式」とした。また、バイ
オディーゼル燃料と軽油を混合してB5燃料を製造するための撹拌装置は、電動撹拌機とし
た。
※電動撹拌機の価格は、メーカー聞き取りより、650万円。
【留意事項】
・バイオディーゼル燃料製造装置を導入する際には、既存の廃水処理設備利用の可能性及び
改修・増強を含めて、湿式洗浄方式と乾式洗浄方式について経済性の検討を行うことが望
ましい。
・湿式洗浄方式の場合、バイオディーゼル燃料製造装置が水質汚濁防止法の特定施設に該当
する場合があるため、市町村の関係部署及び関係機関に確認する必要がある。
・また、発生した廃水を公共下水道や地域下水道に排出する場合には、各市町村で定める下
水排除基準以下に浄化する施設の設置が必要である。
・B5燃料の製造にあたっては、人力では撹拌が安定せず、品質も安定しないおそれがある
ため、ラインミキサーまたは、撹拌機を導入する。
エ 製造作業者
バイオディーゼル燃料の製造における作業は、廃食用油の計量、タンクへの投入、触媒の
投入、製造したバイオディーゼル燃料の貯留槽への投入であり、全工程の実作業時間は3時
間程度である。
モデル計画では、バイオディーゼル燃料製造の作業者はA市職員1名とし、廃食用油の回
収・運搬を兼任することとした。
【留意事項】
・危険物の取扱いについては、取り扱い量に関わらず危険物取扱の資格保有者が扱うか、資
格を有していない者が取扱う場合には資格保有者の立会いが必要となる。
・モデル計画では、軽油及びB5燃料の取り扱い量が指定数量以上となるため、作業者は消
防法に定められている危険物取扱者甲種または危険物取扱者乙種第4類の資格を保有し
ていることが望ましい。
オ バイオディーゼル燃料製造
(ア) 製造量
現状のバイオディーゼル燃料の製造量(ニートFAME※)は、廃食用油回収量9,600ℓ/年
の約9割にあたる8,640ℓ/年であり、軽油との混合は行わずB100燃料で利用している。
モデル計画におけるバイオディーゼル燃料(ニートFAME)製造量は、廃食用油の回収
量が19,200ℓ/年であることから、精製時のロス等を考慮し約9割にあたる17,280ℓ/年とした。
また、B5燃料の製造量は、ニートFAMEの20倍にあたる345,600ℓ/年であり、混合に用い
る軽油量は、328,320ℓ/年である。
※ここでは、バイオディーゼル燃料製造装置で製造したバイオディーゼル燃料を「ニートFAME」と呼ぶ
4‐51
表3.1-7 B5燃料の製造量
種 類
製造量
①ニートFAME( 5%)
②軽
油(95%)
③B5燃料
備 考
17,280ℓ/年
年間廃食用油回数量(1,600ℓ/月×12ヶ月)×0.9
328,320ℓ/年
17,280ℓ/年×(95/5)
345,600ℓ/年
③ = ① + ②
【バイオディーゼル燃料の混合割合】
・利用者が自己責任
において品質管理
を行う必要がある
ニートFAME 100%
B100 燃料
B5燃料
・燃料製造者は、改
正品確法に基づき
燃料の品質管理を
行う義務がある
軽油 95%
ニートFAME 5%
(イ) 薬品代等
バイオディーゼル燃料の製造に必要な薬品は、
廃食用油1ℓ当りメタノール0.175ℓ、
触媒(水
酸化カリウム)0.0125kgとした。メタノールは廃食用油1ℓ当り14円(メタノール1ℓ当り約80
円)
、触媒は廃食用油1ℓ当り4円(触媒1kg当り約320円)とした。
また、廃食用油1ℓを処理するのにかかる電気代はメーカー聞き取りより約2.0円とし、廃
食用油回収量19,200ℓ/年を処理するのにかかる電気代は38,400円/年とした。
フィルターの目
詰まり防止のための部品交換費は、メーカー聞き取りより約8万円/年とした。
表3.1-8 薬品代等
メタノール
触媒(水酸化カリウム)
電気代
部品交換費
廃食用油1ℓ当り
の使用量
0.175ℓ
0.0125kg
-
年間使用量※
3,360ℓ/年
240kg/年
-
-
単 価
金 額
80円/ℓ
320円/kg
-
268,800円/年
76,800円/年
38,400円/年
-
80,000円/年
-
※年間使用量は、廃食用油1ℓ当りの使用量×廃食用油回収量19,200ℓ/年
カ グリセリンの処理
バイオディーゼル燃料製造後に分離して発生するグリセリンは、研究材料として引き取っ
ている研究機関等があるものの、現段階では導入先進地においても処理方法が確立されてい
ない。
モデル計画では、グリセリンは廃棄物処理を行うものとした。グリセリンは、廃食用油1ℓ
当り0.175ℓ排出されると想定し、処理単価は先進地の事例より、廃食用油1ℓ当り8.1円(グ
リセリン1ℓ当り約46円)とした。
【留意事項】
・グリセリンの有効活用のための研究材料として引き取りを行っているメーカーや研究機関
等があるため、事前に確認することで廃棄物処理費の軽減が図られる。
4‐52
キ 廃水処理
モデル計画では、製造方法として乾式アルカリ触媒法を設定していることから、廃水処理
は不要である。
【参考】
・湿式洗浄方式の場合は、廃水処理が必要となるが、下水排水基準を満たした上で下水道放
流する方法やごみ焼却施設が隣接している場合には焼却処分することも考えられる。
ク 収支
ア~キの条件をふまえて、バイオディーゼル燃料製造施設導入にかかる収支を以下のとお
り試算した。
モデル計画では、マイナス4,051千円/年である。
表3.1-9 バイオディーゼル燃料製造施設の収支(試算)
項
目
現 状
〔単位:千円/年〕
モデル計画
備 考
【収入】
収入計①
0
0
バイオディーゼル燃料製造装置本体
0
6,000
製造装置の設置据付・運搬費※1
0
1,500
メーカー聞き取り
撹拌装置(電動撹拌機)
0
6,500
メーカー聞き取り
小 計 ②
0
14,000
1年当たり整備費(③=②÷耐用年数)
0
1,750
人件費
0
1,680
メタノール代
0
269
14.0円/ℓ
触媒費(水酸化カリウム)
0
77
4.0円/ℓ
電気代
0
39
2.0円/ℓ
交換部品費(フィルター)
0
80
グリセリン処理費※2
0
156
小 計 ④
0
2,301
支出計(年経費)
(⑤=③+④)
0
4,051
【支出】
1.バイオディーゼル燃料製造装置整備費
耐用年数:8年
メーカー聞き取り
2.管理運営費(年間)
稼動日数:20日/月
7,000円/日
8.1円/ℓ
※1:設置据付・運搬費には、運搬費、設置工事費、調整費、諸経費等が含まれる。
※2:グリセリン処理費は、滋賀県竜王町の実績。
注:電気代、メタノール代、触媒費、グリセリン処理単価は、廃食用油1ℓ当たりの単価。
装置に不具合が出た場合は、プラント保守点検費として別途20万円程度必要。
4‐53
(3) バイオディーゼル燃料利用システムの検討
A市では、既に公用車、ごみ収集車等でバイオディーゼル燃料をB100燃料で利用しているも
のとした。
モデル計画におけるバイオディーゼル燃料は、平成21年2月に施行される改正品確法で推奨
される「B5燃料」とし、事前登録及び品質確認を行うこととを想定した。
利用方法は、現在利用している公用車、廃食用油回収車とし、余剰のバイオディーゼル燃料
は、B5燃料の場合、品質が確保されれば軽油と同等に利用できると考えられるため、一般車
両への利用促進を図り、販売することを想定した。
バイオディーゼル燃料利用システムは、以下のとおりとした。
表3.1-10 バイオディーゼル燃料利用システムの概要
項 目
現状の
バイオディーゼル燃料利用システム
ア 利用量・利用方法 ・公用車:12,000ℓ/年〔B100燃料〕
(給食配送車、スクールバス、塵芥車、
モデル計画における
バイオディーゼル燃料利用システム
・現在バイオディーゼル燃料を利用してい
る公用車:12,000ℓ/年(3.5%)
粗大ごみ用トラック、給食残飯運搬車 ・廃食用油回収車:1,224ℓ/年(0.4%)
等)
・市民・事業者及び近隣市町村のディーゼ
ル車(バス会社、運送業者等)
:332,376ℓ/年( 96.2%)
・合 計:345,600ℓ/年(100.0%)〔B5燃料〕
イ バイオディーゼ ・バイオディーゼル燃料製造業者から126 ・ニートFAMEの購入費は、A市で製造
ル燃料購入費
円/ℓで購入
したバイオディーゼル燃料を利用すると
・12,000ℓ/年×126円/ℓ=1,512千円/年
想定し見込まない
・B5燃料を製造するため、ニートFAM
Eに混合する軽油の購入費を計上
328,320ℓ/年×110円/ℓ=36,115千円/年
ウ バイオディーゼ ・A市ではバイオディーゼル燃料販売は ・市民・事業者及び近隣市町村で利用する
ル燃料販売費
行っていない
332,376ℓ/年を販売(B5燃料:113.1円/ℓ)
・332,376ℓ/年×113.1円/ℓ=37,592千円/年
エ 軽油購入削減費
・公用車で利用する12,000ℓ/年の軽油購 ・公用車で利用する12,000ℓ/年の軽油購入
入費が削減される
費が削減される
・12,000ℓ/年×110円/ℓ=1,320千円/年
・12,000ℓ/年×110円/ℓ=1,320千円/年
オ 混合前のニート ・バイオディーゼル燃料製造業者が研究 ・A市で実施
FAMEと軽油
の品質確認
カ 収支
機関と共同で実施
・施設導入時:1,025千円
・A市において経費はかからない
・年間分析費:1,916千円/年
・マイナス192千円/年
・マイナス144千円/年
(=1,320千円/年- 1,512千円/年)
(=37,592千円/年-36,115千円/年+1,320
千円/年-1,025千円/年-1,916千円)
4‐54
ア 利用量・利用方法
A市では、現在回収した廃食用油9,600ℓ/年を上回る、12,000ℓ/年のバイオディーゼル燃料
を公用車に利用している。しかし、B100燃料での利用であるため、B5燃料とした場合、約
20倍の利用先を確保する必要がある。
B5燃料の場合、品質が確保されれば軽油と同様に利用できると考えられるため、モデル
計画では、市民・事業者及び近隣市町村のディーゼル車での利用促進を図り、販売すること
を想定した。また、現在バイオディーゼル燃料(B100燃料)を利用している公用車(13台)
及び廃食用油の回収車(1台)でB5燃料を利用するものとした。
公用車(13台)でのB5燃料の消費量は、H19年度のB100燃料消費量実績値と同程度とし、
12,000ℓ/年とした。また、バイオディーゼル燃料製造装置を庁舎への設置を想定し、廃食用
油回収車(1台)の走行距離から、B5燃料の消費量を推定した。よって、製造量から公用
車及び廃食用油回収車のB5燃料消費量13,224ℓ/年を除いた332,376ℓ/年は、市民・事業者及
び近隣市町村等で利用するものと想定した。
表3.1-11 バイオディーゼル燃料の利用量
利用方法
公用車での利用
廃食用油の回収車での利用
市民・事業者、近隣自治体等
※
での利用
合計
現状
モデル計画
(B100燃料で利用)
(B5燃料で利用)
12,000
-
〔単位:ℓ/年〕
備 考
12,000 ・H19年度実績消費量
1,224 ・表3.1-12参照
-
332,376
12,000
345,600
・B5燃料の製造量は表3.1-7
参照
※市民・事業者、近隣自治体等での利用は、B5燃料製造量-公用車での利用量-廃食用油回収車での利用量で算出
【参考】
・市民・事業者、近隣自治体等での利用を想定した332,376ℓ/年は、中型トラック(車両総重量7超~8t、
燃費5.2km/ℓ※1)の走行距離173万kmに相当する。路線バス(75~77人乗り、燃費4.7 km/ℓ※2)では走行
距離156万kmに相当する。
※1:H19年度エコドライブ等実施状況調査結果(神奈川県)における中型トラック(車両総重量7超~8t、軽油車)
3,999台の平均燃費5.18km/ℓとした。
※2:メーカー資料を参考とした(燃費は実測により代表的な標準車型に置き換えてシミュレーションにより算出し
た国土交通省審査値)
。
4‐55
表 3.1-12 廃食用油回収車のB5燃料消費量
運搬距離
往復(km)
①
本庁
年間走行
距離(km)
②=①×5回×12ヶ月
0.0
第二庁舎
消費燃料
(ℓ/年)
③=②÷6.1km/ℓ※
0
0.0
1.0
60
9.8
A支所
17.2
1,032
169.2
B支所
8.0
480
78.7
C支所
14.6
876
143.6
D支所
13.4
804
131.8
E支所
22.6
1,356
222.3
事務所
4.6
276
45.2
ガソリンスタンド①
3.6
216
35.4
ガソリンスタンド②
4.2
252
41.3
小学校①
13.0
780
127.9
小学校②
6.0
360
59.0
15.0
900
147.5
1.2
72
11.8
124.4
7,464
1,223.5
中学校
給食センター
合 計
※各拠点とも月5回回収すると想定した。
※H19年度エコドライブ等実施状況調査結果(神奈川県)における小型トラック(車両総重量4超~7t、軽油車)
4,566台の平均燃費6.1km/ℓを採用した
【留意事項】
・B5燃料では需要先が確保できない場合があるため、品質を十分に確保したB100 燃料で
の利用についても検討することが望ましい。その際には、「バイオディーゼル燃料の使用
に関するガイドライン」(国土交通省が経済産業省と協力して策定)を遵守する必要があ
る。
・バイオディーゼル燃料をB100 で使用する場合には、自己責任において利用することとな
るため、メンテナンス頻度を高めるとともに、品質確保を徹底する必要がある。
イ バイオディーゼル燃料購入費
A市では、B団体からバイオディーゼル燃料を126円/ℓで購入しているものとした。購入量
は12,000ℓ/年であり、バイオディーゼル燃料(B100燃料)購入費は1,512千円/年とした。
モデル計画では、B5燃料での利用を想定し、バイオディーゼル燃料(ニートFAME)
と混合する軽油を購入する。
表3.1-13 バイオディーゼル燃料購入費
現 状
バイオディーゼル燃料
軽 油
合 計
モデル計画
備 考
1,512
0
0
36,115
1,512
36,115
4‐56
〔単位:千円/年〕
・12,000ℓ/年×126円/ℓ
・軽油購入量は、表3.1-7より
328,320ℓ/年
・328,320ℓ/年×110円/ℓ
ウ バイオディーゼル燃料販売費
バイオディーゼル燃料(ニートFAME)の販売単価は、バイオディーゼル燃料製造量(ニ
ートFAME)1ℓ当りの管理運営費(人件費、薬品代、部品交換代、グリセリン処理費)か
ら139.8円/ℓとした。B5燃料で利用する場合は、軽油引取税が全量に課税されるため、32.1
円/ℓを加算し、バイオディーゼル燃料(ニートFAME)販売単価は171.9円/ℓとした。
また、B5燃料の販売価格は、FAMEと軽油の混合比率より、113.1円/ℓとする。
市民・事業者の理解のもと、B5燃料の利用促進を図り、市民・事業者、近隣自治体等で
の利用分332,376ℓ/年は113.1円/ℓで販売するものとし、バイオディーゼル燃料販売収入は、
年間約37,600千円とした。
なお、軽油およびニートFAMEの消費税および軽油引取税分は後述する「カ 収支」にお
いて別途支出として計上する。
バイオディーゼル燃料(ニートFAME)販売単価
=管理運営費÷バイオディーゼル燃料製造量(ニートFAME)×消費税
+軽油引取税
=2,301,000円÷17,280ℓ/年×1.05+32.1円/ℓ
=171.9円/ℓ
表3.1-14 B5燃料の販売価格
販売価格①
比率②
①×②
ニートFAME
171.9円/ℓ
0.05
8.6円/ℓ
軽 油
110.0円/ℓ
0.95
104.5円/ℓ
合計(B5燃料販売価格)
113.1円/ℓ
エ 軽油購入削減費
現状では、公用車に利用している12,000ℓ/年の軽油購入費が削減され、削減費は1,320千円
/年とした。
モデル計画では、現状と同様に公用車に利用している12,000ℓ/年の軽油購入費1,320千円/
年が削減されるものとした。
オ 混合前のバイオディーゼル燃料(ニートFAME)と軽油の品質確認
改正品確法では、加工業者が作成する軽油特定加工品質確認計画※(有効期間1年)に基づ
き品質確認を行うことが義務化される。品質確認は、混合前のバイオディーゼル燃料(ニー
トFAME)と軽油が混合後に「強制規格」を満足する品質であること及びそれらが継続的
に生産され、供給されることが要件となっている。混合前のニートFAMEと軽油がそれぞ
れJIS規格に適合していれば、B5燃料の品質は「強制規格」を満たすことから、JIS
規格による品質分析を行う必要がある。
※軽油特定加工品質確認計画
混合前のニートFAMEと軽油の品質が混合後に強制規格に適合するものであり、ニートFAMEと軽
油の品質が継続的に保たれ、加工業者に供給されることを確認する計画。本計画が経済産業省で認定され
れば、原則ロットごとに行う品質確認頻度を3ヶ月に1回(年4回)に減らすことができる。
4‐57
表3.1-15 品質分析費用
分析対象
1回当りの
分析費用※
①
ニートFAME
(JIS K2390)
軽油
(JIS K2204)
提出回数 ②
利用期間中
計画申請時
(1年間)
2回
4回
479,000円 (申請前2ヶ月以内の
(3ヶ月に1回)
別ロット2回分)
供給経路が一定で
あり、他社からの購
67,000円
1回
入がないと証明す
る書類を添付
費用③=①×②
利用期間中
計画申請時
(1年間)
合計
958,000円
1,916,000円
67,000円
1,025,000円
-
1,916,000円
※(財)新日本検定協会における分析料金である。ニートFAME(JIS K2390)の分析価格は、JIS規格の全27試験項目のう
ち、多価不飽和脂肪酸メチルエステル試験を除く26項目の料金である。
カ 収支
ア~オの条件をふまえて、バイオディーゼル燃料利用システムにかかる収支を以下のとお
り試算した。
収支は、現状はマイナス192千円/年、モデル計画はマイナス814千円/年である。
表3.1-16 バイオディーゼル燃料利用システムの収支(試算)
項 目
現 状
モデル計画
〔単位:千円/年〕
備 考
【収入】
軽油燃料購入削減費
1,320
1,320
0
37,592
バイオディーゼル燃料(B5燃
料)販売費
・公用車利用分の12,000ℓ/年
・市民・事業者、近隣自治体等での
利用分332,376ℓ/年
・B5燃料単価:113.1円/ℓ
収入計
1,320
38,912
1,512
0
【支出】
バイオディーゼル燃料(B100燃
料)購入費
軽油購入費
・B5燃料を製造するために必要な軽
0
36,115
油328,320ℓ/年
・軽油単価:110円/年※
※消費税および軽油引取税を含む
バイオディーゼル燃料(ニートF
AME)軽油引取税等
・
(消費税+軽油引取)×ニートFAM
0
670
E製造量
=(6.7円/ℓ+32.1円/ℓ)×17,280ℓ/年
=670,464円/年
品質分析費(計画申請時)
0
1,025
品質分析費(利用期間中)
0
1,916
支出計
1,512
39,726
収 支
-192
-814
4‐58
・計画申請時のみ
(4) 廃食用油回収・バイオディーゼル燃料製造システムの経済性評価
モデル計画における廃食用油回収・バイオディーゼル燃料製造システムの概算事業費は、下
表のとおりである。
品質分析費が概算事業費の約4割を占めており、補助なし、補助ありのいずれにおいても収
支はマイナスとなる。2年目以降は、計画申請時に必要な品質分析費がかからないものの、補
助ありの場合においても収支は約140万円のマイナスとなる。
表3.1-17 廃食用油回収・バイオディーゼル燃料製造システムの概算事業費
項
目
金額(千円/年)
〔単位:千円/年〕
備 考
施設整備費
バイオディーゼル燃料製造装置
7,500
撹拌装置
6,500
小計 ①
付属品,設置費等含む
14,000
◇1年当たり施設整備費
・補助金なし②=①÷耐用年数
1,750
・補助金あり③=①×1/2÷耐用年数
875
品質分析費 ④
耐用年数8年
補助率1/2
1,025
管理運営費(年間)
車両維持管理
150
人件費
0
バイオディーゼル燃料製造費
621
品質分析費
燃料代含まず
A市職員のため計上しない
薬品代,電気代等含む
1,916
小計 ⑤
2,687
合計
・補助金なし ⑥=②+④+⑤
5,462
・補助金あり ⑦=③+④+⑤
4,587
表3.1-18 廃食用油回収・バイオディーゼル燃料製造システムの経済性評価(試算) 〔単位:千円/年〕
収 入
項
目
公用車燃料費削減額
金 額
2,127
支 出
収 支
バイオディーゼル燃料製造経費
(補助無)
バイオディーゼル燃料製造経費
(補助有)
バイオディーゼル燃料製造
(補助無)
バイオディーゼル燃料製造
(補助有)
5,462
4,587
▲3,335
▲2,460
4‐59
備 考
(軽油燃料購入削減費+バイオディー
ゼル燃料販売費)-(軽油購入費+FAME
軽油引取税等)
2年目以降
4,437千円/年
2年目以降
3,562千円/年
2年目以降
▲2,310千円/年
2年目以降
▲1,435千円/年
(5) 二酸化炭素排出量
モデル計画の廃食用油回収時、バイオディーゼル燃料製造時、バイオディーゼル燃料利用時
の3段階における二酸化炭素排出量を推計した。
バイオディーゼル燃料製造・利用システムの導入による二酸化炭素排出量は、マイナス
16,880kg-CO2/年である。
表3.1-19 二酸化炭素排出量の算定
B5燃料利用量
軽 油
ア 廃食用油回収時
合 計
二酸化炭素排出量
61ℓ/年
-
3,075kg-CO2/年
-
-
46,088kWh/年
25,579kg-CO2/年
327,157ℓ/年
17,219ℓ/年
-
-45,534kg-CO2/年
328,320ℓ/年
17,280ℓ/年
46,088kWh/年
-16,880kg-CO2/年
燃料製造時
燃料利用時
消費電力量
1,163ℓ/年
イ バイオディーゼル
ウ バイオディーゼル
ニートFAME
※軽油の二酸化炭素排出係数は、環境庁「総排出量算定方法ガイドライン」より2.6444kg-CO2/ℓ
電力の二酸化炭素排出係数は、
「特定排出者の事業活動に伴う温室効果ガスの排出量の算定に関する省令」(平成18年経
済産業省・環境省令3号)より0.555kg-CO2/kWh
回収
拠点
回収
拠点
回収
拠点
《廃食用油回収時》
二酸化炭素排出量
3,075kg-CO2/年
A市及び
市民・事業者等
《燃料利用時》
二酸化炭素排出量
-45,534kg-CO2/年
B5燃料のうち、軽油分の
二酸化炭素排出量
B5 燃料
利用
バイオディーゼル
燃料製造
《燃料製造時》
二酸化炭素排出量
25,579kg-CO2/年
燃料製造及び混合時の消
費電力による二酸化炭素
排出量
B5 燃料
利用
B5 燃料
利用
ニートFAMEを軽油代
替燃料として利用した分
の二酸化炭素削減量
注:各家庭等から回収拠点への持ち込みは、主に徒歩や給油の際の持ち込み等で
あると想定し、二酸化炭素排出量は計上していない。
図 3.1-11 二酸化炭素排出量
4‐60
表3.1-20 二酸化炭素排出量算定条件
条 件
ア 廃食用油回収時
・廃食用油回収車に利用する燃料は、B5燃料。
・B5燃料のうち、軽油分から排出される二酸化炭素量を推計。
・廃食用油の回収に必要となるB5燃料は年間1,224ℓ※であり、このうち軽
油は1,163ℓ/年(95%)、ニートFAMEは61ℓ/年(5%)。
※廃食用油の回収に必要な消費燃料の算定は表3.1-12参照。
イ バイオディーゼル
《バイオディーゼル燃料装置》
・バイオディーゼル燃料製造時に必要な消費電力量から、二酸化炭素排出
量を推計。
・製造能力100ℓ/日、出力8kW、稼働時間24hr/日のバイオディーゼル燃料
製造装置を利用した場合、バイオディーゼル燃料製造にかかる消費電力
量は192kWh/日。
《電動撹拌機》
・軽油とバイオディーゼル燃料を混合してB5燃料を製造する際に使用す
る撹拌機の消費電力量から、二酸化炭素排出量を推計。
・処理能力100ℓ/h、出力35W、稼働時間1hr/日の電動撹拌機を利用した場
合、消費電力量は0.035kWh/日。
《バイオディーゼル燃料製造時の消費電力量》
=(バイオディーゼル燃料装置の消費電力量 + 電動撹拌機の消費電力量)
×1ヶ月あたりの稼動日数×12ヶ月
=(192kWh/日+0.035kWh/日)×20日×12ヶ月=46,088kWh/年
燃料製造時
ウ バイオディーゼル
燃料利用時
・B5燃料をディーゼル車で利用した場合、ニートFAME分はカーボン
ニュートラルであるため、二酸化炭素排出量が削減できるものとした。
・ニートFAMEの製造量17,280ℓ/年※より、バイオディーゼル燃料利用時の
ニートFAME利用量は、廃食用油回収車で利用した61ℓ/年を除く
17,219ℓ/年。
※ニートFAME製造量の算定は表3.1-7参照。
【参考】
・「輸送用燃料のWell-to-Wheel評価 日本における輸送用燃料製造(Well-to-Tank)を中心とした
温室効果ガス排出量に関する研究報告書(2004)」トヨタ自動車㈱、みずほ情報総研㈱では、温
室効果ガスの排出量を各種輸送用燃料について比較している。ガソリンの温室効果ガス排出量
を100%とした場合、廃食用油を原料とするバイオディーゼル燃料は、温室効果ガス排出量を
0%と試算している。
表3.1-21 温室効果ガス排出量
ガソリン
菜種を原料とするバイオ
ディーゼル燃料
廃食用油を原料とするバ
イオディーゼル燃料
軽油
Well-to-Tank
原料を採掘してから
燃料タンクに入るまで
Tank-to-Wheel
燃料を入れて
車両を動かすまで
Well-to-Wheel
原料を採掘してから
車両を動かすまで
+15%
+85%
+100%
-40%
+70%
+30%
-70%
+70%
0%
+5%
+70%
+75%
出典:
「バイオディーゼル その意義と活用」㈱鹿児島TLO
原典:
「輸送用燃料のWell-to-Wheel評価 日本における輸送用燃料製造(Well-to-Tank)を中心とした温室効果ガス排出
量に関する研究報告書」(H16.11)トヨタ自動車㈱、みずほ情報総研㈱
4‐61
(6) 課題の整理
ア 経済性の確保
補助金ありの場合においても、収支はマイナスとなるため、経済性を改善する方策を検討
する必要がある。
(ア) 廃食用油回収収入の確保
外食産業やホテル、大手スーパー等の商業施設から廃食用油を受入れることで、処理費
収入を得ることを検討する。この場合、バイオディーゼル燃料製造装置の容量確保、作業員
の確保等、受入れた廃食用油を確実に処理する体制を構築する必要がある。
(イ) バイオディーゼル燃料のB100燃料での利用
バイオディーゼル燃料をB100燃料で利用することで、
軽油引取税が課税されないため経済
的にメリットを得られる。ただし、B100燃料で利用する場合は、管理及びトラブル対応を行
う必要があるため、できる限り事業主体(地方公共団体)所有の車両において利用すること
が望ましい。
イ 廃食用油の回収
(ア) 安定した回収量の確保
廃食用油の回収には、市民の協力が必要不可欠である。このため、バイオディーゼル燃料
製造・利用を行う意義について、ホームページ、広報誌、シンポジウム等を通じて継続的に
啓発することが必要である。また、回収した廃食用油の量、バイオディーゼル燃料の製造量
及び利用量等のデータを公開するとともに、回収時の問題点、バイオディーゼル燃料利用時
のトラブル発生状況等の情報提供を行うことで、市民の関心が高まり、安定的な廃食用油回
収システムが構築される。
(イ) 品質の確保
バイオディーゼル燃料の品質は、原料となる廃食用油の品質に左右されるため、廃食用油
の受入基準を設ける等により、車両へのトラブル発生を防ぐことが必要である。
(ウ) 効率的な回収
モデル計画では、既設の回収拠点を廃食用油専用車で巡回し廃食用油を回収すると想定し
たが、
回収拠点をごみステーションとしてごみ収集車で他のごみと一緒に回収する等により、
回収段階における二酸化炭素排出量の削減が図れるため、
市民・事業者との合意形成を図り、
効率的な回収方法を検討することが必要である。
4‐62
第4節 バイオディーゼル燃料製造・利用の目標
1 県内の廃食用油の回収及びバイオディーゼル燃料製造・利用の状況
群馬県全体の廃食用油の発生量、バイオディーゼル燃料の製造・利用状況は、以下のとおりであ
る。製造についてはNPO法人環境リサイクルサポートが主となっており、県内14市町村等で利用
されている。また、廃食用油の回収量は年々増加傾向にある。
表 4.1-1 群馬県の廃食用油の発生量及びバイオディーゼル燃料の製造・利用状況
項 目
廃食用油の発生量
数量等
備
680万ℓ/年
一般家庭:298万ℓ
(推定値)
考
事業所:371万ℓ
小中学校:11万ℓ
バイオディーゼル燃料の製造
12.9万ℓ/年
NPO法人環境リサイクルサポート(玉村町に設置)
(H19年度)
廃食用油の回収量 :14.7万ℓ/年(H19年度)
バイオディーゼル燃料の利用
県内14市町村等で利用
2 目標
群馬県では、廃食用油の回収量が増加傾向にある。廃食用油によるバイオディーゼル燃料の製造
については、県内ではNPO法人環境リサイクルサポートが主であるが、製造装置の処理能力に余
裕があること、また製造設備の導入検討中・将来検討希望の市町村があることから、製造量は増加
することが期待される。また、バイオディーゼル燃料の利用についても、環境保全意識の高まり及
び新エネルギー利用の推進等から増加傾向にある。
このような背景をふまえ、平成25年度のバイオディーゼル燃料の製造及び利用の目標値を以下の
とおりとする。
■バイオディーゼル燃料(FAME)の製造量(目標)
:20万ℓ/年(H19年度の1.5倍)
■バイオディーゼル燃料の利用団体数(目標)
:20市町村等
※廃食用油から製造されるバイオディーゼル燃料の量は約9割であるため、バイオディーゼル燃料の製造量
目標に必要な廃食用油の回収量は約22万ℓ/年となる。
4‐63
3 導入推進方策
バイオディーゼル燃料製造・利用の推進には、廃食用油の回収量の増大及びバイオディーゼル燃
料の利用量の増大が必要であり、併せてバイオディーゼル燃料の製造体制を確立することが望まれ
る。推進方策には、以下のものが考えられる。
① 市町村・一般家庭・事業者等への情報提供・普及啓発
廃食用油の回収、バイオディーゼル燃料の製造・利用に関して、取り組みの実態や取り組み
方法、助成制度等の情報提供を積極的に推進し、普及啓発に努める。
② 一般家庭・関連機関・事業者との連携・協働
各市町村において公用車等でのバイオディーゼル燃料の利用が進むなか、利用量を増大して
いくためには、地域からの廃食用油の安定的な回収量の確保が必要である。一般家庭からの回
収は、行政との連携のもとに住民協力が継続的に得られるシステム構築を検討する。また、廃
食用油の回収量が多い観光・宿泊施設に関しては、観光協会等の関係機関や事業者の協力を得
られるような体制づくりや仕組みづくりを検討する。
③ 菜の花等栽培・搾油システムとの連携
群馬県では、資源循環型社会の構築の一環として「菜の花エコプロジェクト推進モデル事業」
を推進している。このことから、バイオディーゼル燃料の製造・利用の増大にあたっては、菜
の花等栽培・搾油システム(菜の花プロジェクト)と連携して推進する。
廃食用油回収及び
バイオディーゼル燃料製造・利用システム
菜の花等栽培・搾油システム
公用車、トラクター等での
バイオディーゼル燃料の利用
菜の花の栽培
菜の花の収穫
廃食用油の運搬
バイオディーゼル燃料製造
菜種の搾油
廃食用油の運搬
廃食用油の回収
一般家庭・学校給食・ホテル・
旅館等での菜種油の利用
図 4.3-1 菜の花エコプロジェクトイメージ
4‐64
菜種油
【菜の花エコプロジェクト推進モデル事業】
事業目的:資源循環型社会の構築を目指し、菜の花エコプロジェクトに取り組むモデル地域を支援
事業主体:市町村、農業協同組合、地域営農集団、NPO法人、その他知事が認める団体等
実施基準:①概ね1ha以上の油糧作物を集団栽培すること
②収穫した油糧作物から搾油すること
③実施地域における廃食用油を回収し、再利用を行うこと
補助対象:①資源循環システムの構築に必要な油糧作物の回収及び利用に要する経費
②システムの構築に必要な機械のリース
③少額機械等の購入に要する経費
補 助 率:補助対象となる経費の2分の1以内(1団体あたり補助金額400千円上限)
事業実施期間:平成17年度~平成20年度
表4.3-1 菜の花エコプロジェクト活動団体
年度開始年度
平成17年度
事業主体
渋川市(子持地区)
NPO法人
鼻高町をきれいにする会
(高崎市)
菜の花プロジェクトin甘楽
(甘楽町)
中之条町
平成18年度
太田地球環境を守る会
(太田市)
猿ヶ京ネットワーク
(みなかみ町)
平成19年度
榛東村第12区長寿会
(榛東村)
平成20年度
南橘地区地域づくり推進協
議会
(前橋市)
栽培面積(H20年度)
事業概要
131a
・菜の花の栽培、収穫、搾油
・廃食用油の回収(1,100ℓ/月)
・公用車(給食配送車等)でのBDF利用
110a
・菜の花の栽培、収穫、搾油、菜の花祭開催
・廃食用油の回収(市民・給食センター等から回収)
・リサイクル洗剤、BDF利用
195a
・菜の花の栽培、収穫、搾油、菜の花祭開催
・廃食用油の回収(町民等から回収)
・リサイクル石鹸、BDF利用
100a
・菜の花の栽培、収穫、搾油
・廃食用油の回収(NPO・職員が回収)
・リサイクル石鹸
40a
・菜の花の栽培、収穫、搾油、菜の花祭開催
・廃食用油の回収(市民等から回収)
・リサイクル石鹸
219a
・菜の花の栽培、収穫、搾油、菜の花祭開催
・廃食用油の回収(旅館等から回収)
・BDF利用(旅館マイクロバス利用)
110a
・菜の花の栽培、収穫、搾油
・廃食用油の回収(公民館にボックス設置)
・リサイクル石鹸
40a
・菜の花の栽培、収穫、搾油、菜の花祭開催
・廃食用油の回収(各種イベント等で回収)
・リサイクル石鹸
猿ヶ京ネットワーク
渋 川 市
中 之 条 町
みなかみ町
南橘地区地域づくり推進協議会
中之条町
渋川市
榛東村第 12 区長寿会
榛東村
高崎市
NPO 法人 鼻高をきれいにする会
前橋市
太田市
菜の花プロジェクト in 甘楽
甘楽町
図 4.3-2 菜の花エコプロジェクト活動団体
4‐65
太田地球環境を守る会
第5節 参考資料
1 先進事例
【民間事業者】
■事業主体
株式会社アドバン
■所在地
埼玉県熊谷市
■取り組み状況
グループ企業の㈱武蔵野物流への軽油燃料供給業務に携わっており、平成18年9月
からバイオディーゼル燃料製造に取り組み始めた。
■廃食用油回収
[回収先]
・家庭、学校給食センター、食品加工工場、飲食店、スーパー、ホテル、ゴルフ場、
NPO法人、精製会社からの購入など。
・回収先は事業者が多く、豆腐屋、スーパー、惣菜屋等をまわっている。
・一般家庭等から排出される廃食用油は、自社回収を行っており、今後も拡大する
予定であるが、現段階では精製会社から購入する量のほうが多い。
[回収方法]
・回収容器は、ペットボトル、一斗缶、ドラム缶等。
(ペットボトルはリサイクル業者に洗浄なしで引き取ってもらっている。)
・2tトラック2台で回収。
・有価物として回収している。
[廃食用油の品質]
・回収した廃食油の酸価値は2~3。動物性油の多少の混入はあってもBDF製造
上問題はない。
■バイオディーゼル
燃料製造
・平成18年9月に製造装置を導入。システムはメーカー既製品(日本エコシステム
ズ)
・処理能力:10,400ℓ/日(アルカリ触媒法)
・設置場所:廃食用油は一般的に廃棄物として位置づけられため、廃棄物処理業の
許可の取得できる妻沼西部工業団地の土地を埼玉県企業局の紹介で購
入した。
・グリセリンは、フィルターにより除去している(乾式)
。
(水洗いなし⇒廃水なし)
・未反応メタノールとバイオディーゼル燃料は静置により分離。
・現在は水洗いを行っていないが、水洗いによりグリセリン、メタノールが今以上
に除去され、品質向上につながることから導入を検討中。
・廃食用油(10)⇒BDF(9)+グリセリン等(1)
・バイオディーゼル燃料製造は、廃食用油投入から製造まで24時間かかり、その後
グリセリン分離のために24時間静置するため、およそ2日間かかる(10t/日、24
時間稼動)
。
・危険物取扱の資格者は社員2名(作業員は所有していない)
。
4‐66
■バイオディーゼル
燃料製造
・グリセリンは、セメント工場(太平洋セメント)の補助燃料、たい肥促進剤とし
て利用されている。販売価格は10円/ℓ。
ランニングコスト:140円/ℓ(メタノール15.3円/ℓ、触媒(水酸化カリウム)3.5円、電気代10.8
円/ℓ、強制分離機フィルター25,000~26,000円(2年に1回交換))
製造作業:危険物取扱い有資格者と現場作業員の2人で従事
・BDF等利用普及研究会を設立し、品質性能向上のためのプロセス改善、廃食用油の
収集システムの調査等、埼玉県、埼玉大学、早稲田大学と共同研究を行っている。
■バイオディーゼル
燃料利用
・バイオディーゼル燃料は軽油と混合せずBDF100%で利用している。
・㈱武蔵野物流のトラック約100台、バイオディーゼル燃料製造施設内のフォークリ
フトの燃料に利用している。
・トラックの燃料フィルターを1ヶ月で交換した実績がある。
4‐67
【愛知県田原市】
■人口
66,390人(H17国勢調査)
■各種計画
「田原市エコエネルギービジョン」策定(H19.2)
「たはらエコ・ガーデンシティ構想」策定(H16.3)
(菜の花エコプロジェクトをは
じめ7つのプロジェクトを推進)
■取り組み状況
H15.9:田原菜の花エコ推進協議会設立、H15年度から遊休農地対策として実施
H18.4:NPO法人田原菜の花エコネットワーク設立(大規模な菜の花栽培や菜種油の
特産品開発、食育環境教育、廃食用油燃料化事業の推進)
H19.4:営農支援センター設立(農地の健全化、農村景観形成の向上、観光資源など
菜の花をキーワードとした資源循環型社会をめざした事業推進)
行政主導・民間支援型(回収:行政・民間、燃料製造・利用:行政)
■廃食用油回収
一般家庭からごみステーションにて回収
給食センターや飲食店等から回収(持ち込み)
■バイオディーゼル
燃料製造
平成15年度に製造装置を導入(事業費:420万円)
処理能力:40ℓ/日(廃食用油40ℓ、メタノール7ℓ、水酸化カリウム500g)
設置場所:市役所の車庫
ランニングコスト:19円/ℓ(メタノール14円、触媒(水酸化カリウム)4円、電気代1円)
グリセリン:産業廃棄物として有料処理
製造装置設置場所(市庁舎敷地内)
製造装置
■バイオディーゼル
燃料利用
■菜の花栽培
公用車3台(乗用車2台、スクールバス1台)
農耕機(イベント時)
<H19年度>
市内全域の栽培面積:約25ha(1500万本)
①菜の花エコプロジェクト(NPO法人・個人等)
:観賞用8.1ha、菜種3.8ha
②渥美半島菜の花まつり(田原市観光協会)
:観賞用13ha
③花壇等:観賞用0.4ha
4‐68
【愛知県一色町】
■人口
24,068人(H17国勢調査)
■各種計画
新エネルギービジョン等の策定なし
■取り組み状況
H13年度:町で取り組み、H13.10燃料製造装置稼動
■廃食用油回収
資源ごみステーション(94箇所)にて月2回回収、保育所・
小学校から回収(事業導入当初は、広報に毎回掲載、広
報車で回収日の宣伝等を頻繁に実施)
持ち込んだ廃油を備付ポリタンクに移し変える、または、
ペットボトルで持ち込む。4割の町民が協力している。
H15年度収集量11,391ℓ
収集タンクの設置・回収はシルバー人材センターに委託(125万円)
■バイオディーゼル
燃料製造
平成13年度に製造装置を導入(21百万円;建物改修含む)
処理能力:200ℓ/日(洗浄工程なし、アルカリ廃水なし)
設置場所:消防署隣(以前は車庫)
ランニングコスト:140円/ℓ(メタノール15.3円/ℓ、触媒(水酸化カリウム)3.5円、
電気代:10.8円/ℓ、強制分離機フィルター25,000~26,000円(2年に1回交換))
製造作業:危険物取扱い有資格者と現場作業員の2人で従事
廃食用油投入から製造まで24時間
製造装置
■バイオディーゼル
燃料利用
製造装置設置場所(消防署隣)
給油量11,067ℓ(年間稼動日数:60日)
公用車7台(ディーゼル車)
重機3台(不燃物最終処理場)
ボイラー(老人福祉センターの風呂用、庁舎の暖房用)
4‐69
第5章 木質バイオマスエネルギー利用促進の参考資料
群馬県では、平成19年度に、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の「平成19年度
地域新エネルギー・省エネルギービジョン策定等事業」の補助により、「赤城山南面地域における
木質バイオマス利活用事業化に係る調査」を実施している。本県の地域特性に適合した新エネルギ
ーの1つとして木質バイオマスエネルギーの利用も挙げられることから、導入促進の参考資料とし
て当該調査結果の概要をここに掲載する。
第1節 「赤城山南面地域における木質バイオマス利活用事業化
に係る調査」結果の概要
1 調査の背景
群馬県内では、
減少傾向にあった松くい虫被害が近年増加に転じ、
平成18年度の被害材積は15,000
m3となっている。赤城山南面地域(前橋市、富士見村、渋川市(旧赤城村、旧北橘村)、桐生市(旧
新里村))に被害が集中しており、平成18年度の被害発生量は、1位:前橋市(3,810m3)、2位:富
士見村(2,942m3)、3位:渋川市(2,000m3)などとなっている。しかしながら、こうした県内の松
くい虫被害材のうち伐倒駆除されているものは4,000m3にすぎない。
また、群馬県内の素材生産量は約19万m3(平成18年度)であるが、森林の多面的機能の発揮のため
に積極的に間伐を行う国の政策もあり、素材生産量は増加傾向である。ただし、間伐された材のう
ち、搬出・利用されるものは半分以下であり、残りは搬出作業のコストが材の価格と比較して採算
が合わないため、林内に放置されるという「伐り捨て間伐」の状態となっている。
一方で、赤城山南面地域には天然の広葉樹林も広がっている。しいたけ原木などに一部伐採され
ているものの、その大半は未利用のまま放置されており、場所によっては篠・笹類の繁茂により低
質化する状況も見られる。
こうした未利用の①松くい虫被害材、②スギ・ヒノキ等の間伐後に発生する林地残材、③未利用
の広葉樹材などが川下に流通する仕組みを構築することが求められている。
近年は、作業の能率化とコスト低減を図るため、全国的に高性能林業機械による伐倒・造材・集
材作業が普及しつつある。その結果、枝葉がついたままの全木集材を行った後にプロセッサで造材
するケースなどでは、土場残材が林道脇に集中して発生するようになっている。素材生産作業の支
障となり、また洪水や土砂災害の影響を助長しかねない土場残材を林外へ搬出し木質エネルギーと
して活用することは、森林保全の観点からも林業活性化の観点からも対策の一つとして有効と考え
られている。赤城山南面地域においては導入事例は殆ど見られないものの、緩傾斜の林地が多く、
車両系高性能林業機械を用いた能率的な集材作業が期待される場所である。集材能率を向上させる
ための林道・作業道の整備とともに、今後の高性能林業機械の普及拡大が期待されている。
5‐1
図 1.1-1 松くい虫被害と対策費
出典:「赤城山南面地域における木質バイオマス利活用事業化に係る調査報告書」群馬県(H20.2)
一方、赤城山南面地域ではビニールハウスを用いた施設園芸農業が盛んに行われている。赤
城山南面地域における野菜類の年間生産額117億円弱のうち、
約5割にあたる55億円が冬春野菜
である。
作目の内訳としては、トマト(生産農家数162戸、温室面積合計20.6ha)、キュウリ(333戸、
78ha強)、イチゴ(54戸、12ha強)、バラ(26戸、7ha強)などが挙げられる。しかし、施設園芸
等の暖房用燃料として使用されているA重油の価格は、平成元年~16年までは1ℓ 当たり45円
前後で推移していたものの、平成17年には58円/ℓ 、18年には70円/ℓ 、19年には80円/ℓ 近くま
で上昇するなど、この3年間で2倍近くにまで値上がりした。施設園芸における光熱動力費は、
栽培作物によっては経営費のうち15%以上を占める場合もあり、このほとんどがボイラー関係
費用であることから、重油価格が経営に及ぼす影響が大きくなっている。これと同様に、赤城
山南面地域に点在する温泉施設においても、A重油価格の高騰によって年間支出が急増してい
る状態にあり、早急な対策が望まれている。
5‐2
2 調査の目的と概要
本調査の目的は、赤城山南面地域に存在する未利用の木質バイオマスを搬出し、有効活用に結び
つけることである。木質バイオマスのエネルギー利用用途としては、発電や大規模な地域熱供給等
も考えられるが、これらは設備規模が大きくなり、技術的にも開発段階のものが多く、設備投資が
極めて高額になるという点がネックになっているのが現状である。これに対して、チップやペレッ
トといった木質バイオマスの直接燃焼による個別施設への熱供給であれば豊富な導入実績が国内に
も存在し、初期投資費用もある程度抑えることができる。そこで、より高い実現性を目指すため、
本調査においては赤城山南面地域に存在する松材や広葉樹等の現在利用されていない木質バイオマ
スを、チップやペレットといった加工を行うことで、農業施設や温泉施設等地場産業への熱源利用
の可能性を検討する。
・放置
・燃料費の高騰
・森林整備の遅れ
バイオマス利用システムの構築
・松くい虫
森
・生産・利用コスト
の削減要請
林
安定した既存技術の活用
熱利用施設
図 1.2-1 本調査の意図(イメージ図)
3 調査結果のまとめ
未利用木質バイオマスの供給可能性及び熱源利用可能性の検討結果について整理し、地域内の木
質バイオマスエネルギー利活用可能性について考察する。
(1) 木質バイオマスの賦存量・利用可能量について
山に存在する木質バイオマスの量を、大まかに推計すると以下のようになる。
ア 賦存量:理論上は利用可能な全ての木質バイオマス量
○マツの蓄積→118万m3(56万WB33%生重量t)
○スギ・ヒノキの要間伐林分の、間伐木を対象とした蓄積→5.7万m3 (4.0万WB50%生重量t)
○未利用広葉樹の蓄積→54万m3 (54万WB50%生重量t)
イ 利用可能量:賦存量のうち、現実的に考えて利用が容易であると想定される量(地域内道路
から20m以内の林分の成長量分について、半量のエネルギー利用を行うと仮定した場合)
3
○目標とするコストに対応した利用可能量の合計→年間に約3,500m(2,600WB33%生重量t)
5‐3
(2) 木質バイオマスの供給コストについて
林内に未利用のまま放置されている木質バイオマスの収集・燃料化を行い、チップもしくは
ペレットとして供給する際のコストについて、下記の通り推計した。
ア チップ供給コスト
チップ供給コスト
合計:23,200円/t
1,000円/t
11,400円/t
※ア+イ+ウで6,000(円/t)となるが、
これは今回の想定で
4,000(円/原木m3)に相当。
オ:燃料輸送コスト
(1,000円/t)
エ:燃料化コスト
(10,000円/t)
2,900円/t
A重油価格
79円/L相当
10,300円/t
2,700円/t
A:現状コスト(ヒアリング)
(伐倒コストまで考慮)
チップ供給コスト
合計:28,300円/t
A重油換算 96円/L 相当
0円/t
ウ:原木輸送コスト
(1,000円/t)
イ:集材コスト
(4,000円/t)
ア:購入コスト
(1,000円/t)
2,800円/t
1,000円/t
0円/t
0円/t
B:将来の目標コスト
(本調査での検討結果)
C:最小コスト
(国内事例・研究文献等)
チップ供給コスト
合計:17,000円/t
A重油換算58円/L相当
チップ供給コスト
合計:3,800円/t
A重油換算 13円/L相当
図 1.3-1 チップ供給コスト
出典:「赤城山南面地域における木質バイオマス利活用事業化に係る調査報告書」群馬県(H20.2)
イ ペレット供給コスト
現状コスト:87円/kg
目標コスト:40円/kg
最小コスト:25円/kg
(3) 温浴施設・大規模温室への導入可能性
○ 本調査の候補施設7箇所の中では、温泉施設として粕川温泉元気ランド、大規模温室とし
てぐんまフラワーパークの2箇所が導入可能性が高いと推定される。
○ 粕川温泉元気ランドは、初期投資費用を考慮した場合(国からの補助率50%を想定)で
も、今回想定したチップ供給コスト17円/kgにおいて黒字となる。このことから、粕川温泉
元気ランドへのチップボイラー導入の可能性は高いと考えられる。ただし実際の導入にあ
たっては、既存設備の配管や熱供給システムが複雑であり、敷地面積にも限りがあること
から実際の設備投資費用が今回の推定(5,000万円弱+配管等の特殊工事費)より高くなる
可能性が大きいことには留意する必要がある。
○ ぐんまフラワーパークは、
チップ供給コスト17円/kgの場合で初期投資費用を考慮しなけ
れば黒字であるが、初期投資費用を勘案した場合(補助率50%の場合)に赤字となる。し
かし、
ぐんまフラワーパークへのチップボイラー導入の初期投資費用は工事費込みで4,000
万円弱と見込まれ、粕川温泉元気ランドより負担が軽い。なお、チップ消費量も262t/年
と見込まれ、市内の製材業者から発生する端材のみでもまかなうことが可能な量である。
○ こうした木質チップが地域内で流通・消費されることにより、従来は製材工場内で処理
5‐4
に手間取っていた端材や林道脇に放置されていた残材の有効な利用先が生み出され、また
その販売を行うことにより収益が生み出される。この収益増加分によって、従来は搬出コ
ストに対しての売価が見合わないため林内に放置されていた柱材となる丸太も搬出可能と
なり、群馬県内における木材利用の好循環が始まることも期待される。
(4) 農業用ビニールハウスへの導入可能性
○ 本調査の主対象としたトマト、キュウリ、イチゴの3作目は、いずれの作目においても
ペレットボイラーを導入する場合は既存の化石燃料ボイラーを継続使用する場合に比べ採
算性が低い。
○ 化石燃料の木質ペレット代替による二酸化炭素削減効果の観点から考えると、ペレット
ボイラー導入に50%助成を行う場合、キュウリの場合に1kgの二酸化炭素を削減するのに
要する費用が10.9円となり、トマト(11.7円)、イチゴ(14.4円)に比べて効果的に二酸
化炭素を削減できることが分かった。
○ 農家へのペレットボイラー導入については設備費用(初期投資費用)の課題が大きく、
また未利用の木材を原料とするペレットの想定価格が化石燃料に比べて高い状態であるこ
と、化石燃料ボイラーに比べてペレットボイラーは作業の手間が増えるため抵抗を感じる
農家も少なくないことから、現状のままでは農業用ビニールハウスへの導入可能性は低い
といえる。
○ 今後の方向性としては、農業試験機関での実証試験等によってデータ収集に努めるとと
もに、モデル的に導入を行い、ペレットボイラーに対する農家の理解を深めたうえで、県
内での安価なペレット生産を検討していく必要があると考える。
(5) 木質バイマスエネルギーを取り巻く環境
○ 未利用系の木質バイオマスは、主として収集段階で経費を要することが多く、採算性の
面から、実際の利用に向けて動き出すことはこれまで容易ではなかった。しかし、本調査
において検証したように、適用するケースを慎重に選定することにより、重油価格と木質
チップ価格が、また灯油価格と木質ペレット価格が、それぞれ拮抗する状態にまで至るよ
うになってきている。
○ 特に原油価格は直接的な影響が大きく、長期的視野に立ってその動向に注目していく必
要がある。
○ また、化石エネルギーを木質バイオマスの置き換えることが環境に与える影響の社会的
価値をどのように評価し、行政の支援や民間の参画のあり方などをどう位置づけるかなど
についても検討していかなければならない。
4 未利用木質バイオマス供給推進方策検討
未利用木質バイオマスの林地からの搬出・エネルギー消費施設での利活用を安定かつ永続的に行
うためには、供給推進方策について検討することが必要である。特に、対象となる松くい虫被害林
地の多くは民有林が占めることから、山主の了承をいかに得て被害木の伐倒・搬出につなげるかが
課題となるが、この点についても有識者の意見を採り入れながら検討を行う必要がある。
5‐5
(1) 現状における課題
供給コストを構成する因子のうち、中でも「集材コスト」をいかにして低減できるかという
点が、木質バイマスの利用可能量を拡大するための最も重要な課題である。
また、供給量の安定確保という点にも課題が存在する。赤城山南面地域において、現段階で
は間伐の仕事量が急増しており、人員が不足している状態にあることが篠原木材有限会社及び
群馬県森林組合連合会からのヒアリングより分かった。篠原木材有限会社へのヒアリング結果
では「現状での余力は年間数百~千数百m3程度」、群馬県森林組合連合会でも木材の搬出は常
時人手不足の状態にある、ということを踏まえると、新たな事業者の参入等がなければ、業者
による林地残材等の収集可能量は、今後1~2年間は1,000m3~2,000m3/年(700t~1,400WB33
%生重量t)程度が上限になると推定される。
(2) 課題への対策
集材コストの低減、供給量の安定確保の方策としては以下の手段が考えられる。
○ 高性能林業機械による作業の普及を促進するための、機械のリース・レンタルの取り組
みの実施
○ 集材作業、原木の破砕作業が実施可能な業者への新規参入支援
○ 伐倒~造材~集材~搬出~破砕の過程を一貫して行える、事業体・組合の構築
○ 木質バイオマスの利活用に関する適切な助成・融資制度の整備
○ 小規模山主の、自発的な出材(森林ボランティア等)への取り組み支援
○ ボイラー導入者への、木質バイオマスエネルギー消費量(熱需要量)に応じた助成
○ 薪ストーブ、ペレットストーブの導入補助等を通じた木質バイオマスエネルギーの普及
啓発事業実施
5 本調査の位置づけと意義
近年、国産材の需要量は増加傾向にある。県内においても藤岡市における「群馬県産材センター」
の本格稼働開始や、地球温暖化対策による間伐施業面積の拡大などが追い風になり、森林の伐採量
は大幅に増大している。
そのような状況の下においても、マツ材、広葉樹材等の利用や、スギ、カラマツ等でも、建築材
として利用可能な形状を有しているにも関わらず搬出コストに対しての売価が見合わない材や、建
築用途に向かない低級材の利用には進展が見られず、林内に未利用のまま放置されるものも少なく
ないことは、本書において繰り返し述べてきたとおりである。
それら未利用材の利用拡大が、何らかの方法で一部においてでも進むことになれば、伐出等の森
林施業経費が補填されることとなり、森林施業が経済的に成立し得る面積も拡大する。それが木材
業・製材業そして森林所有者へ還元されていく好循環が期待され、県土の3分の2を占める本県森
林の健全な発展や、二酸化炭素排出抑制などの地球温暖化抑制にも役割を果たしていくことができ
る。
また、一方においては、重油等の化石燃料価格が高騰し、本調査において検討した木質バイオマ
ス燃料価格とも、経済的にかなり拮抗する状況が生じつつある。木質バイオマスの利用により経費
削減などの経済的効果が期待できるようになれば、地域固有の資源である森林が地場産業の振興に
も一役買うことになる。
5‐6
本調査においては、特に赤城山南面地域を限定してケーススタディを実施したものであるが、現
状において県内の森林が抱える普遍的な課題への検討とも位置づけられることから、本調査の成果
を踏まえ、県内各地において「木質バイオマス」の利用拡大に向けた取り組みが進展することを期
待したい。
6 未利用木質バイオマス利活用事業化スケジュール検討
これらの利活用の事業化スケジュールについて、短期・中期・長期といった3つの時期に分けて
計画を立案すると、以下のようになる。
【事業化スケジュール】
木質バイオマスエネルギー導入の事業化モデルについて、本調査の結果をもとに妥当と思われ
る導入スケジュールについて述べる。
○温浴施設または大温室へのチップボイラー導入
⇒初期投資費用を負担(補助率50%)してもA重油使用時より経済性ありと見込まれ、導入
に向けた検討が有効と判断される。
○施設園芸農家へのペレットボイラー導入
⇒現状ではランニングコストのみを考えてもA重油より経済的に見合わないことから、税制
面の補助や技術開発の動向等を踏まえ、長期的な視野に立って導入を考える必要がある。
○一般家庭への薪ストーブ導入促進
⇒群馬県内において薪ストーブの一般家庭における導入事例が増加中であり、木質バイオマ
スエネルギーの普及啓発という観点からもこの流れを後押しすることが望ましい。
○一般家庭へのペレットストーブ導入促進
⇒平成19年度現在、群馬県内にはペレット工場が存在せず、経済的にもA重油に比較して見
合わないと考えられることから、各地域の状況を見据えて公共施設等でのモデル的導入か
ら開始し、後に一般家庭へ普及させていくことが望ましい。
表1.6-1 事業化スケジュール
短期
温浴施設または大温室へのチップボイラー導入
(ぐんまフラワーパーク及び粕川温泉元気ランド)
施設園芸農家へのペレットボイラー導入
一般家庭への薪ストーブ導入促進
一般家庭へのペレットストーブ導入促進
5‐7
中期
長期
資料編
1 群馬県地域新エネルギー詳細ビジョン策定委員会開催結果
(1)策定委員会名簿(敬称略)
□策定委員会委員
氏 名
所属・職名
1
岩田 吉光
広瀬桃木両用水土地改良区事務局長
2
大崎 初美
有限会社大崎スワインビジネス代表取締役
3
大澤 憲一
前橋バラ組合組合長・群馬県園芸協会副会長
4
尾崎 幸男
財団法人電力中央研究所赤城試験センター所長
5
小俣 輝芳
藤岡市市民環境部環境課長
6
川原
ヨシモトポール株式会社技術開発部技術顧問
7
木村 俊昭
内閣官房地域活性化統合事務局
内閣府地域再生事業推進室企画官
8
草場 史子
菜の花くらぶ代表
9
須藤 浩之
特定非営利活動法人環境リサイクルサポート理事長
10
宝田 恭之
群馬大学大学院工学研究科長・工学部長
11
関根 長之
前橋市生活環境部環境課長
12
平田 郁美
共愛学園前橋国際大学学長
13
水口
剛
高崎経済大学経済学部経営学科教授
14
宮内
実
川場村むらづくり振興課長
晃
備 考
□オブザーバー
1 渋谷 幸弘
2 秋山 愛子
経済産業省関東経済産業局資源エネルギー環境部
エネルギー対策課 新エネルギー対策官
(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構
エネルギー対策推進部
□事務局
1 上石 洋一
群馬県企画部企画課科学技術振興室長
2 設樂 修一
群馬県企画部企画課科学技術振興室科学技術振興係長
3 阿部
正
〃
主任
6‐1
委員長
(2)策定委員会開催記録
開催日等
議事等
第1回策定委員会
・群馬県地域新エネルギー詳細ビジョン策定委員会につ
平成20年7月17日(木)
いて
・群馬県地域新エネルギー詳細ビジョンの策定について
第2回策定委員会及び先進地調査
平成20年9月12日(金)
・ビジョン策定に向けた調査の実施について
・ビジョン策定内容の検討
・先進地調査について
・今後の策定スケジュールについて
・㈱アドバン(熊谷市)のバイオディーゼル燃料製造施
設及びヨシモトポール㈱(藤岡市)のマイクロ水力発
電を視察
第3回策定委員会
・ビジョン素案の検討
平成20年11月7日(金)
・今後の策定スケジュールについて
第4回策定委員会
・パブリックコメントの結果について
平成21年1月13日(火)
・ビジョン原案の検討
・ビジョン概要版の検討
2 先進地調査結果
調査日時:平成20年9月12日(金)
13:30~14:30
㈱アドバン
バイオディーゼル燃料製造施設
15:30~16:30
ヨシモトポール㈱
マイクロ水力発電
参加者
策定委員会委員
岩田委員、大崎委員、尾崎委員、川原委員、草場委員、
須藤委員、関根委員、平田委員、水口委員
事務局
上石、設樂、阿部
※庁内検討会構成員のうち参加希望があった4名も参加
6‐2
(1)㈱アドバン
バイオディーゼル燃料製造施設
所在地:熊谷市妻沼西
平成18年9月から稼動。
危険物取扱製造所としての許可を得ている。
15万ℓ/月のバイオディーゼル燃料を製造。(製造能力:30万ℓ/月)
乾式処理(水洗いなし)
24時間稼動している。
設備投資回収には10年くらいかかると見ている。
バイオディーゼル燃料はグループ企業の㈱武蔵野物流が所有するディーゼル車約120台で使
用。物流コストを抑えている。
バイオディーゼル燃料100%で使用しているが、使用開始後1ヶ月で燃料フィルターを交換し
た後は、車検ごとの交換で問題ない。
トラクターやフォークリフトにも使える。フォークリフトでは現に使っている。
回収油の酸化度は2~3。
自治体、スーパー、豆腐屋等から回収している。事業系が多い。
動物性油脂が少々混じっても品質に問題ない。
2t車で2人で回収している。
施設増強には廃食用油回収量増加が課題。
バイオディーゼル燃料製造について、現在は乾式処理であるが、バイオディーゼル燃料の品
質向上のために湿式処理とすることを検討している。
グリセリンは全体の1割程度発生し、セメント工場の補助燃料として利用している。
㈱アドバン、早稲田大学、埼玉大学、埼玉県で産学官共同研究を実施。
平成17~19年度は、バイオディーゼル燃料製造装置の稼働や自家消費について問題解決に取
り組んだ。
平成20年度はFS事業として外販事業化に向け
た問題解決に取り組んでいる。
特にB5の流通について法的なハードルがある。
廃食用油を集めバイオディーゼル燃料を製造し販
売するスキームづくりをしていきたい。
広域モデルとして地域に根ざせるようにしたい。
バイオディーゼル燃料製造装置が安くなり導入
事業者が増えてきた。
環境活動としてバイオディーゼル燃料を使いた
いという会社もあり、技術協力している。
6‐3
原料貯蔵タンク
(2)ヨシモトポール㈱
マイクロ水力発電
所在地:藤岡市中栗須
垂直軸直線翼風車の原理を応用した水車の実験施設を設置している。
水の流れがゆっくりだと普通の水車はゆっくりしか回らず発電ができないが、本水車は川の
流れが遅くても水量があれば力で発電機を回せる。
また、ごみが引っかかりにくい。
課題としては発電機の開発が不十分なため
増速により回転数を上げており、増速による
エネルギー伝達ロスがある。
また、試験段階であり、安全性、耐久性、
メンテナンス性、維持管理方法の課題が解決
されていない。
天狗岩用水と広瀬桃木両用水で経済産業省
の補助金を活用して発電実験を実施した。
垂直軸直線翼水車の実験装置
また、ヨシモトポール㈱群馬工場敷地内の河川に水
車を設置している。
手前が落差を利用した下掛水車。
振り子のようにぶら下げてあり、増水時には引き上
げることができる。
発電出力は約50W。
発電した電気は工場内で電灯を点けたり水を循環さ
せるポンプを回したりすることに利用している。
奥は落差を必要としない下掛け水車。
藤岡市西部都市下水路にはこのタイプが設置されて
いる。
発電出力は約20W。
ヨシモトポール㈱群馬工場敷地内の
河川に設置された水車
6‐4
群馬県地域新エネルギー詳細ビジョン
「マイクロ水力発電」及び「バイオマスエネルギー利用」の詳細検討
平成21年2月
群馬県企画部企画課科学技術振興室
〒371-8570 群馬県前橋市大手町 1-1-1
TEL 027-226-2321
FAX 027-223-4371