BG:EU の労災事故 - NPO安全工学研究所

国際機械安全関連情報
No.6-03/2006.01/Ni-Ka
BG:EU の労災事故
Eurostat (EU 委員会統計局)は、1994 年から労災データのまとめに関する基準・方法を統一し、EU 全体と
しての比較可能な労災データを収集、データバンクを構築している。[1] ただし、要求度の高い目標である
ため、部分的にしか達成されていない。[2,3] つまり、EU には、他と比較するような労働損害保険システム
が存在せず、実際の加盟国における統計調査方法は異なり調整修正されるため、統計が実際に有効であるか
という問題も指摘される。詳細については以下の通り。
1.
Eurostat について
Eurostat は、2004 年に統計上の蓄積データ「EU における労働・健康に関する報告書」[4]を発行し、各年度
末には、2 年遡った EU での労災事故数を、Internet 上で公開している。[5] 報告義務のある重度な労災事故は、
serious accident at work(英)
、 ernsthafter Arbeitsunfall(独)
、accident du travail grave(仏)と訳され、3 日以上休業す
るに至ったものを指す。[6] また、Eurostat は、加盟国間の産業部門などの規模が異なる場合、規格化された
労働者 10 万人当りの発生件数で見積・調整・標準化し、その結果、具体的な労災事故動向を指数で示す。
2.
労災事故動向
1996〜2001 年の EU-15 と各加盟国における重度・死亡労災事故の動向を構造指標指数で表すと、加盟国の
順位は、死亡労災事故動向は、重度の労災事故より約 4 倍で、大きく異なる。ドイツではこの二つの動向は
ほぼ同様であり、EU-15 平均より良く、5 大加盟国(ドイツ・英国・フランス・イタリア・スペイン)では
最も好ましく、また、ポルトガル、アイルランド、ベルギー、オランダも良い動向である。イタリア、デン
マーク、オーストリアは平均的で、フランスは平均以下である。また、スェーデン、ギリシア、フィンラン
ド、スペイン、英国、ルクセンブルクでは、二つの動向は著しく異なる。統計上の訂正・保険条件変更時に
は断片的になる可能性があるため、Eurostat は、該当加盟国での異質の原因解明をすべきである。
3.
労災事故状況
2001 年の労災事故状況に関しては、EU-15 平均を基にした労働者 10 万人当りの発生件数が使用され、そ
れによる加盟国の順位付けは、
通勤労災は重度な労災事故には含まれるが死亡労災事故には含まれないため、
重度と死亡労災事故では異なる。保険データに基づく報告システムのない全ての加盟国は、1996 年同様に
EU-15 平均より低く、その他の加盟国は EU-15 平均より非常に高い。ドイツは、重度・死亡労災事故で 1996
年より 2 ランク改善され、
重度な労災事故では EU-15 平均を上回り、
死亡労災事故では EU-15 平均を下回る。
死亡労災事故では、-5 ランクのフィンランド、-3 ランクのオーストリア、重度労災事故では、+3 ランクの
ギリシアが著しく変化した。また、ルクセンブルクは激しい変動のため、2000・2001 年の平均値が使用され、
ポルトガルは 2001 年データが欠如している。保険データに基づく報告システムのある加盟国を考察すると、
ドイツは重度労災事故では中間、
死亡労災事故では最高ランクであり、
死亡労災事故ではスェーデン、
英国、
オランダ、デンマークと共に EU-15 平均より低い。一方、フィンランド、アイルランド、ギリシア、イタリ
ア、フランスは中間で、ベルギー、ルクセンブルク、スペイン、オーストリア、ポルトガルは EU-15 平均を
上回る。労災事故数のまとめは加盟国の多くが要求を満たすデータ区分が出来ず難しく、加盟国における統
計上の基準・方法の変更は僅かしか出来ず、訂正が必要な場合が多かった。そのため、必要とされる加盟国
の統計上の調査方法の統一化へとは至らない。保険データに基づく報告システムがない加盟国は、労働事故
状況より、動向ではランク付が均一化されており、事故予防結果評価に反映される。
4.
様々な事故の種類の比較
重度労災事故と死亡労災事故の労働者 10 万人当りの発生件数を比較すると、アイルランド、オーストリ
ア、ポルトガルは非常に高く、ドイツ、オランダは非常に低い。残りの加盟国は間に広く分散している。ほ
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ぼ同じ経済機構・労災損害保険システムである場合、全加盟国における重度から死亡労災事故までの労働者
10 万人当りの発生件数は同じと言えるが、加盟国間の安全基準には相違がある。既存の相違が、安全基準
の相違によるものだけではなく、異なる労災事故統計によっても生じることは明らかである。特に、Eurostat
から重度労災事故数について報告された数から全体の数値を算出する報告率が批判されている。Eurostat[7]
によると、1998 年の報告率は以下の通り 17〜100%である。
4.1 保険データに基づく報告システムのない加盟国
オランダ:17%, アイルランド:38%, 英国:43%, デンマーク:46%, スェーデン:52%であり、重度労災事故の報
告に関しては不完全なため、Eurostat による数値予測がされている。
4.2 保険データに基づく報告システムのある加盟国
ギリシア:39%, オーストリア:80%, イタリア:90%, ポルトガル:93%, ベルギー,ドイツ,スペイン,フィンラン
ド,フランス,ルクセンブルク:100%であり、重度労災事故の報告が不完全であるギリシアは Eurostat による数
値予測であるが、その他は社会保険などの公的保険機関や私的保険機関がデータ元である。不完全なデータ
は、EU における重度労災事故のデータの差異を示しているが、死亡労災事故では、データ調査は完全であ
る。ただし、 [1]に従い、死亡事故には定義の差異があり、オランダでは 24 時間以内、ドイツでは 30 日間
以内、デンマーク,フィンランド,アイルランド,ポルトガル,英国では 1 年以内、スペインでは 18 ヶ月以内、
オーストリア,ベルギー,フランス,ギリシア,イタリア,ルクセンブルク,スェーデンでは事故後の不特定な死亡
となる。EU-15 と加盟国に対する通勤時の死亡事故の労働者 10 万人当りの発生件数による住民 100 万人当た
りの件数は、Internet[8]上参照出来る。どの加盟国にも様々な生活領域で有効に働く安全意識があり、通勤時
の行動と作業場の安全行動には関連性がある。つまり、通勤領域での事故予防キャンペーンにより、通勤時
の事故だけではなく労災事故も減少されるべきである。
5.
構造の相違
Eurostat[1] は、17 の産業部門から 9 部門の労災事故を報告している。ドイツにおける重度から死亡労災事
故までの労働者 10 万人当りの発生件数は、他の加盟国より大きい。通勤時の事故の減少に関して、ドイツ
は EU-15 平均により近い。3 大加盟国の短時間労働率と就業率の構造指標について、労災事故を対比してい
る。重度な労災事故に関しては、スペインが最高、ドイツは中間、英国は最低な労働者 10 万人当りの発生
件数である。Eurostat から報告された労働者 10 万人当りの発生件数は、全日制従業者ではなく、就業者数を
対象にしているため、EU の労働力調査では従業者と短時間労働従業者は就業者扱いとなるので、結果が著
しくなる場合がある。結果として、短時間労働従業率が高い加盟国にとっては、短時間労働従業率が低い加
盟国と比較して、労働者 10 万人当りの発生件数が低くなる。
6.
文献
[1] Europaeische Statistik ueber Arbeitsunfaelle (ESAW)、2001 年版、出版:EU 委員会の社会・雇用中央委員会。2002 年 EU 共同体官報(ルクセンブルク)
[2] W.Coenen、K.Meffert 著:Arbeitsschutz in der Europaeischen Union Teil 1: Arbeitsunfaelle、雑誌Die BG (2000) 9 号514〜517 頁
[3] A.Horst 著:Anforderungen an europaeische Statistiken fuer Sicherheit und Gesundheitsschutz bei der Arbeit aus deutscher Sichet、雑誌Die BG(2002 )7 号、340〜344 頁
[4] Work and health in the EU – A statistical portrait、出版:EU 委員会の社会・雇用中央委員会。2004 年EU 共同体官報(ルクセンブルク)
[5] 2004 年Eurostat 指標: http://europa.eu.int/comm/eurostat/newcronos/queen/
[6] N.Schlechter、R.Stamm 著:Deutschland im Lichte Europaeischen Benchmarkings in der Praevention. Eine Machbarkeitsstudie / Teil1: Arbeitsunfaelle、雑誌Die BG(2004)3 号 145〜
151 頁
[7] D.Dupre 著:Arbeitsunfaelle in der EU 1998-1999. Statistik kurz gefasst, Bevoelkerung und soziale Bedingungen, Thema 3-16/2001, Europaeische Gemainschaften, 2001
[8] 2004 年 EU 委員会: http://europa.eu.int/
参考:
雑誌「Die BG」2004 年 8 号別刷、出版社:Erich Schmidt Verlag, Berlin
著者:Dr. Guenter Kloss (E-mail: [email protected]) 、Dr. Karlheinz Meffert(E-mail: [email protected])
ドイツ職業保険組合・労働安全研究所(BGIA)
本件問合せは SCHMERSAL 迄。
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