クトゥルフ神話TRPGシナリオ「落としもの」 「落としもの」 主人公探索者の夢 夢を見ています。夕暮れの、懐かしい感じのする街角に 立っています。道には幾人かの人影がありますが、みな、 影絵のようで立体感がありません。ふと、「おかしいなあ」と いう男の声が聞こえてきます。 足元、地面も見えない闇に向かって、男の人がうずくまり、 はじめに なにかを探しているのか手を闇の中に伸ばしています。 「おかしいなあ。ないなあ」 シナリオの舞台:現代日本/冬(変更可) 使用ルール:基本ルール及び「マレウス・モンストロ ルム」(㈱エンターブレイン 2008) 探索者数:1∼2人を想定 特別設定: キーパーはプレイヤーと相談して探索者のひとりを主人 尋ねれば彼はこう答えます。 「お土産をね、落としてしまったみたいなんですよ」 探索者が闇の中に手を入れると、すぐに箱のようなもの が手に触れます。 男の人を見ると、「ないなあ。欲しがってたのになあ。わ 公としてください。主人公は早くに父親と死別している設定 るいなあ」と呟きつつ、歩き去っていくところでした。その行 とします。主人公探索者が狂気に陥った場合、その内容は く方向は暗く、姿はすぐに闇の中に消えます。呼びかけて 「ティアラ(後述)への執着」となります。 も聞こえず、追い付くこともできません。 落としもの シナリオの概要(キーパー用) 探索者が見つけた箱は、主人公探索者が子供のころに 欲しかった玩具です。キーパーはプレイヤーと相談して玩 具を決めてください。なお、探索者にはこの玩具を持って 主人公探索者は子供のころに欲しかった玩具とそれを いた記憶はありません。 探す男の人の夢を見ます。翌日その玩具を手にしたこの 世ならぬ存在である美女と遭遇します。彼女はシベリカ・ト このシナリオでは美少女戦士の「ティアラ」として記述し ます。 リルキルティ、最奥の門の傍らで古きものに列座する魔女 です。その座に縛られつつ、故郷に帰ることを願うシベリカ 赤ん坊にも老人にも は、主人公探索者と玩具の繋がりに『可能性』を見ました。 そこで主人公探索者を自分と交替させようとします。 シベリカについては「シベリカ・トリルキルティ」の項目及 び【資料③】を参照してください。 男の姿が見えなくなると探索者の手から玩具の箱がなに かに引っ張られ、取り上げられます。箱は宙を飛んで、ま ばゆい光を放つようになった街灯へ、その光の中へ消えて いきます。 このシナリオの事件は彼女の執着、狂気が引き起こした その光に照らし出されて、道を歩いていた人たちの姿が ものです。結果を知っていながら、やらずにいられない試 見えてきます。彼らは立ち止り・・・、いや停止しています。 みなのです。探索者たちは、彼女の企みに流されるままで ぴくりとも動きません。その姿は赤ん坊に見え、また、老人 いても、無事に(正気度は別にして)帰還することができま にも見えてきます。さらには消え失せたり、腐肉の張りつい す。ただし、彼女の住まう最奥の門は究極の存在がいます。 た骸骨にも、墓場に立つ卒塔婆にも見え始めます。正気 下手に暴れればそれと遭遇することになるでしょう。シベリ 度ロール[1/1D6]。〔成功で1ポイント、失敗で 1D6 ポイン カの企みが失敗に終わると確信を持ってクライマックスに トの喪失、以下同様に表記します〕 臨めるかどうかが分岐点になるでしょう。 この光景を目撃した後、探索者は目を覚まします。 -1- クトゥルフ神話TRPGシナリオ「落としもの」 彩夏の抵抗 「時の妖精」 現在、探索者たちは学校帰りの彩夏を尾行してショッピ ングモールに来ています。(探索者たち全員が集まるよう 素行調査 にしてください) 彩夏は占い師たちときっぱりと縁を切るために来ていま 探偵の探索者がいれば依頼で、いなければ友人からの 頼みで、探索者たちは女子高校生、土田彩夏の素行調査 をしています。 様子がおかしく、家からお金を持ち出している形跡もあ る、それとなく様子を探ってほしいと彩夏の父親から頼まれ ました。探索者が探偵なら、危険からの保護も依頼に含ま れています。 す。探索者たちが様子を伺っていると、彼らの方から「お 金」「ない」「もう止める」と彩夏の声が断片的に聞こえてき ます。すると、その態度に腹を立てた女子高生グループが 彩夏を小突き始め、トイレの方へ連れて行こうとします。占 い師は我関せずの態度を取っていますが、探索者は男が グループのリーダー格の子と目を交わすのを目撃します。 男を問い詰めると、知らない、女の子たちの間の問題だ 探索者たちはすぐに、彩夏がショッピングモールに店を 出す占い師の元に通っていることを突き止めます。 としらばっくれ、最後には屋上駐車場へと逃げだします。 スロットマシーンのように 屋上駐車場は雪に覆われています。人気もなく、車も少 なく、雪原のようにも見えます。その中に占い師が呆然と立 っています。視線の先にいたのは、妖精でした。 金色の髪は雪よりも艶やかに輝き、肌は雪よりも白く、青 い瞳は深く静かに澄み、整った、感情を浮かべない顔立ち は西洋人形を思わせます。青いシンプルなドレスを纏って 雪の中に佇むその姿からは、この現実のものではないよう な、儚く脆い妖精のような印象を受けます。また、彼女の手 の中には、「ティアラ」の箱があります。 占い師が言葉を漏らし、彼女に手を伸ばします。 「おねーちゃん。めっちゃキレーじゃん」 男の手が彼女に触れると、男の姿が変わります。老人に、 インチキ占い師 その占い師は、二月ほど前からここの一角に店を出して います。30 代後半の男で、白とピンクの和風の派手な衣 装と、目の下まで隠れるぼさぼさの白髪のかつらを着けて います。多面体のガラスの塊のようなものを使って未来を 見ると称しています。 そして次の瞬間には赤ん坊に、子どもに、骸骨に、また老 人に。スロットマシーンの絵柄のようにコロコロと移り変わり、 やがて、ひとつの姿で固定され、止まります。哀れに干から びたミイラのようになった死体の姿で。正気度ロール[1/ 1D6]。 妖精のような美女はそれを一顧もせず、人公探索者の 方へ歩み寄り、「ティアラ」を差し出します。 男の占いはインチキで、実態は〈言いくるめ−95〉です。 カモと見定めた客からチップやお守り代や祈祷料などをせ 時の妖精 しめています。 今この男の周囲には女子高生のグループができており、 男のところにカモ(知り合いの小中高生で気の弱い子)を 妖精に何か尋ねても、何も答えません。〈心理学〉に成 功すれば、感情のない表情の奥に微かに「期待」があるこ とを感じます。 連れて来て分け前をもらっています。 キーパーは適当な技能(探索者が得意とするもの)で判 定させて、以上のようなことを調べていたことにしてください。 探索者が「ティアラ」を掴むと、その「ティアラ」に引っ張ら れ、どこか、それも暗く恐ろしいところに吸い込まれそうに なります。 また占い師の男は犠牲者要員です。探索者たちが後ろめ 「ティアラ」を離そうとしても主人公探索者自身が離そうと たくならないよう、なるべくゲスに演出してください。 -2- クトゥルフ神話TRPGシナリオ「落としもの」 しません。手がそれを離そうとしないのです。「ティアラ」を 「すべての時、無限の結果」 離すには、探索者自身のPOWとの精神力対抗ロール(つ まり 50%)に成功しなければなりません。 手を離さない限り、引っ張られ続けます。抵抗するには、 消える彩夏 STR15 との筋力対抗ロールに成功する必要があります。 他の探索者がSTRを合わせることもできます。 いずれにせよ、この美しい妖精の背後に恐ろしい空間を 感じた探索者たちは正気度ロール[0/1]を行います。 探索者たちと土田彩夏、女子高生グループは警察署で、 占い師の死亡について事情聴取を受けます。疑われること はありませんが、事件の内容が内容だけに時間がかかり、 夜(午後9時ごろ)まで待たされることになります。 妖精の力を振り払うか、または引き込まれそうになった時、 土田彩夏が屋上に現れます。彼女は屋上の様子を見て悲 鳴を上げます。それを聞いた妖精は彩夏を見て、続いて 焦ったように上を、暗く黒い雪雲が渦巻く空を見上げます。 彩夏は椅子にもたれてうとうとと眠りはじめますが、突然、 時間が止まったかのようにピタリと動かなくなり、体が透け はじめて、やがて何も残さず消えていきます。正気度ロー ル[0/1]。 探索者が同じところを見ても何も見えません。 妖精はくるりと身を翻すと、そのまま舞い散る雪に溶け込 むかのように消えていきます。「ティアラ」も同じように消えま す。 その一瞬後、廊下の少し離れたところで悲鳴が上がりま す。見れば彩夏が廊下に倒れています。消滅した場所と 時間から見ても、移動できる距離ではありません。彼女は パニック状態に陥っているのか、悲鳴を上げながら転がる ように駆け出して警察署を飛び出していきます。 彩夏の背後にはさっきの青いドレスの妖精の姿がありま 「欲しかった」 したが、すぐにかき消すように消えてしまいます。 探索者たちが彩夏を追って外に出たときにはその姿は もらえなかった記憶 闇と雪の中に消えています。 主人公探索者は「ティアラ」のことを思い出します。 踏切の交錯 子供の頃、欲しい欲しいと言っていて、結局もらえなか ったものでした。子供のころの、父親がいたころのささやか な出来事、今の今まで思い出すこともなかった小さな記憶 です。 キーパーは主人公探索者のプレイヤーと相談して、回 想シーンを演出してください。 回想シーン例 主人公探索者に、父親に対してねだらせます。(〈言いく るめ〉の 1/4) 父親の「どうしても必要なのか?」に対して答えさせます。 (〈説得〉の 1/4) 父親とにらみ合う。(父親の POW14 との対抗ロール) ひとつでも成功すれば、「うーん」と父親は唸り、困らせ てしまいます。ただ買ってもらったという記憶はありません。 全部に失敗すれば、玩具をすべて取り上げられます。 このシーンでは、飛び出して行った彩夏を追いかけて保 護しつつ大きな事故を防ぐ判定を行います。彩夏を追い かけなかった場合、彼女はその事故に巻き込まれて死亡 します。正気度ロール[1/1D3]。また、事故現場で魔女 シベリカと再会するイベントも省略されます。 またこのシーンは、判定を行って盛り上げるためのシー ンです。必要なければ省略、簡略化してもかまいません。 彩夏を見失った探索者たちは、降り続く雪のために走る 車も絶えた道路の向かい側に、金色の髪と青いドレス姿を 見つけます。その姿はすぐに路地に消えますが、追跡する ことは判定の必要なく可能です。追いつこうとする場合はD EX12 との敏捷力対抗ロールを行います。成功した探索者 は彼女が歩いているにもかかわらず走っている自分が追 い付けないことに気が付きます。正気度ロール[0/1]。 追跡を続けるとやがて、路地を抜けて踏切に出ます。そ こで走ってくる観光バスの前に立ち尽くす彩夏の姿と、居 眠りから目覚めて驚愕するバスの運転手を目撃します。 彩夏を助けて、事故を防ぐ行動は【資料①】『「踏切の交 錯」フローチャート』に従って進めてください。 -3- クトゥルフ神話TRPGシナリオ「落としもの」 もうひとつの結果 彼女は「シベリカ。シベリカ・トリルキルティ」と名乗ったと 事故の判定が終われば、事故現場の踏切に青いドレス 彩夏は言います。助けてくれる理由を尋ねたら、「帰れな 姿が現れます。魔女シベリカには、事故が防がれた結果と いのは辛いから。私も、帰るの・・・」と答えたそうです。彩夏 大惨事となった結果、両方が同時に見え、聞こえています。 にはその意味は分かりませんでした。 彼女にとっては落ち着かない場所であり、彩夏の無事を確 認すればすぐに立ち去るつもりでいます。 探索者が声をかければ、聞き取りにくそうにしつつも次 のように答えます。 「何ものなのか」という問いに対して「すべての時、無限 の結果を見るもの」。 土田彩夏はそこまで話すと、不自然に言葉を切ります。 そして脈絡なく「帰ってきてたんです」と言います。〈心理 学〉〈精神分析〉〈医学〉に成功すれば、彼女の心理的な防 衛機能のためか、記憶の欠落が起きていることが分かりま す。また、この記憶の欠落は数時間をかけて〈精神分析〉 に成功すれば回復できるだろうと判断できます。 「事故を起こしたのはお前なのか」という問いに対して 土田彩夏は、その時シベリカの背後に「古きもの」の姿を 「何もしていない。でも結果は同じ。あなたたちは生きてい 見て狂気に陥りました。その記憶が消えています。この記 て、そして死んでいる」。 憶が回復すれば彩夏は正気度ロール[1D20/1D100]を 「目的は何か」という問いに対しては主人公探索者に「テ 行うことになります。 ィアラ」を見せ、「これは道しるべ、あなたに時を超えさせた 道標。あなたなら私の願いをかなえられるかもしれない」。 時間がかかれば、彼女は「あなたたちの声は聞き取れな 「魔女の伝説」 い。赤子の泣き声、断末魔の呻き、無数のお喋り」と言って 〈入れ替え〉を用いて「もうひとつの結果」を見せます。 彼女が手を振ると、あたりの光景が一変し、現実が先ほ 図書館 どの事故処理の結果と異なる結果へとすり替わります。正 図書館、またはインターネットで「シベリカ・トリルキルテ 気度ロール[1D3/1D6]。もしすり替えた方が犠牲の少な ィ」について調べることができます。インターネットで調べる いいい結果ならばそのままに、悪い結果ならば魔女は再 場合、まず〈コンピュータ〉に成功すれば、続く〈図書館〉に 度元の結果に〈入れ替え〉をして戻します。 +30%の補正が得られるものとします。 「あなたたちがいる結果とはほんの少しずれた別の結果。 私にとっては同じ」魔女はそう言って姿を消します。 判定に成功するごとに、以下の情報を得ることができま す。判定に必要な時間はキーパーが決定してください。 (1)『西洋に言い伝えられる魔女にシベリカと呼ばれる 夢見る少女の恐怖 このシーンの間、土田彩夏はうずくまって震えています。 1D6 時間経過するか、〈精神分析〉に成功すれば、落ち着 きを取り戻して話ができるようになります。 魔女がいる。老婆とも美女とも言われる。人を攫い、子供を 老人に、老人を子供に変える』 (2)『ロシアの小説に『時の中の魔女』というものがある。 (1)の情報はそれが元らしい』 彼女は警察署で眠りこんで夢を見ました。不思議な世界 (3)『ロシアに伝わる魔女伝説に、時の果てに住まい、 の壮大な神殿を訪れる夢です。その神殿の中には六角形 時の中を自在に行き来するシベリカという永遠の美女がい の台座があり、そこにはローブを着てフードを深くかぶった る。子供を老人に、老人を子供に変えるという。この伝説の 人が座っていました。ここがどこか尋ねようとした時、あのき 出典は「『時の中の魔女』アリョーシャ・ニコライヴィッチ著 れいな妖精のような人に肩を掴まれて引きとめられたと、彩 1886 ロシア」である』(〈英語〉〈ロシア語〉のどちらかに成 夏は言います。その人の悲しそうな表情を見た時、彩夏は 功すれば、+30%の補正) ここが夢ではなく実在する恐ろしい場所であることを悟りま した。 妖精のような人は「すぐに帰してあげる」と言いましたが、 (4)『(3)の小説の邦訳版』((3)の情報を得ている場合、 +30%の補正) 『明治外国文学翻訳集』(明治 37 年)のロシア文学編に パニックに陥った彩夏は「いったいここはなんなの?あなた 「時間間隙に嵌りし麗人」と題する一遍があります。内容は、 は誰なの?」と叫び、それに対してその人は、「ここはどこ 永遠の美を求めて時の狭間に落ち込んだ魔女の物語で、 でもない。すぐに忘れて」と言いました。 永遠の時に辿り着いてみれば、そこは時の流れから、元の 世界から外れた場所だった、彼女は後悔し元の世界に帰 -4- クトゥルフ神話TRPGシナリオ「落としもの」 ろうとしたが、帰ることはできなかった、というものです。翻 「永遠に哀れなる娘」 訳者の解説文中に、「この一篇、作者『最奥の門より来る預 言』といふ古文書を参考にせりとすが、愚生未見」と書かれ ています。 シベリカの誘い (5)『「時の中の魔女」(アリョーシャ・ニコライヴィッチ著) ロシア語版』((4)の原本。読むには〈ロシア語〉に成功する シベリカが主人公探索者の前に姿を現し、「ティアラ」を 差し出します。 必要がある。内容は(4)と同じ) 「最奥の門より来る預言」という言葉を入手後、〈オカル ト〉に成功すれば、『古の最奥の門からの伝言』という書物 が存在することが分かります。 『古の最奥の門からの伝言』 主人公探索者が受け入れるならそのまま、抵抗するなら 強制的に攫います。その場面は戦闘として処理することも できますが、すぐに終了するでしょう。シベリカが主人公に タッチ(命中 100%)して「神殿」へと転移するからです。こ の転移には他の探索者も巻き込まれます。 この本はロシア語で書かれていて原本は日本にはありま 最奥の門の神殿 せん。しかし、あちこちのオカルト本、魔術研究書に引用 やこれを原典とした記述があり、それを繋ぎ合わせることで 概略を知ることができます。 〈オカルト〉、〈図書館〉、〈英語〉または〈ロシア語〉、にそ 一瞬、それでも十分に長く恐ろしい一瞬[正気度−1]の 後、探索者たちは壮大な神殿の内部に現れます。シベリカ に導かれて果てしなく長い廊下や、広い部屋をいくつも抜 けていきます。 れぞれ成功して引用文などを集め、〈アイデア〉および〈知 識〉に成功してそれらを統合すれば、シベリカに関する記 述を再構成できます。判定に必要な時間はキーパーが決 めてください。 この作業は神話知識の断片も読み込まざるを得ないた め、〈クトゥルフ神話〉に+3%し、正気度ロール[1/1D6] 時の止ったこの場所では、シベリカには探索者たちの姿 や声はそのままに見え、聞こえています。ここではシベリカ は探索者たちと噛み合った会話ができます。(ただし彼女 はその理由は説明しません。ここでは〈タッチ〉や〈最良の 結果〉使えず、無敵ではないからです。攻撃されれば、〈転 移〉で逃げることしかできません) を行います。 窓から外を見れば、そこには昼でもあり夜でもある空の 下、岩でもあり砂でもある大地が広がっています。それを見 た探索者は正気度ロール[0/1D3]。 台座に座るもの 途中一際大きな空間を通ります。そこには六角形に近 い形の台座があり、そこにはローブを纏いフードを深くか ぶった何者かうずくまっています。時が止まっているかのよ うに、ぴくりとも動きませんが、探索者にはそれが眠って夢 を見ていることが分かります。 探索者がそのフードの中を覗き込むと、そこに古きもの を目撃してしまいます。正気度ロール[1D20/1D100]。 キーパーは警告してください。 記述の内容については【資料②】『魔女との対話』を参 照してください。 ここから探索者が自力で抜け出すことはできません。探 索者たちがシベリカを無視して、脱出にこだわったなら、キ ーパーは警告したのち、古きものに探索者たちを追い払わ せてください。シナリオは終了します。 -5- クトゥルフ神話TRPGシナリオ「落としもの」 永遠に哀れな娘 「今度こそ、今度こそきっとできる」とシベリカは呟き、手 を大きく広げ、宙を仰ぎ、心の底から、想いを込めて、叫び ます。 「我が同朋、六角の台座にいます古きものたちよ。門の 守護者にして導くもの、タウィル・アト=ウルムよ。我が任を 解きこの者に代わらせよ。我が願いを聞き届けたまえ」 数秒、数十秒と待っても変化はありません。 シベリカはその場に座り込み、床に手をつきます。きれ いな金髪が彼女の顔を隠します。彼女は小さく何かを呟き ます。 「家に帰りたい。もう帰してよ」 そして突然、この部屋の扉が開き、六角形の台座にいた ローブ姿の存在が現れます。 白い靄の彼方 突如出現した何者かがその姿を見せる前に、探索者た シベリカの賭け シベリカは六角の台座の部屋を通り過ぎ、床に魔法陣 のような文様の描かれた部屋に入ります。 魔法陣の中心には椅子があり、シベリカはそこに「ティア ラ」を置いて部屋の片隅に下がり、微かに何かを期待する ような雰囲気で主人公探索者を見つめます。 彼女自身のことや目的を尋ねられたら、こう話します。 「お父さん、お母さん、ふたりのお兄ちゃん、妹がいた。 みんな、死んじゃった。お父さんとお母さんは病気。お兄 ちゃんは怪我から病気になって。もうひとりのお兄ちゃんは 殺された。妹は、おなかを空かせて、死んだ」 「私は近くの領主様に拾われた。お嬢様の遊び相手に。 そこで字を習った、本も読んだ。ある時領民たちが押し掛 けてきて、領主様とお嬢様は殺された」 「死なんてないところに行きたかった。みんなが死ぬ前 に戻りたかった」 主人公探索者が「ティアラ」を手に取る場合、「永遠に哀 れな娘」から「白い靄の彼方」の順に進めてください。 「ティアラ」を拒否するか、誰かが妨害した場合、STR20 の見えない力で強制的に椅子に座らせようとします。 抵抗に失敗すれば、「永遠に哀れな娘」から「古ぶるしき もの」の順に進めてください。 抵抗に成功するか、シベリカを攻撃した場合、シベリカ は諦めて「転移」、姿を消します。直後「古きもの」が出現し ます。直接「古ぶるしきもの」に進んでください。 ちの視界に白い靄がかかり、視界を邪魔します。しかしそ れが巨大で大量で長大で膨大な畏怖すべき宇宙の真の 姿であることは感じます。正気度ロール[1D6/1D10]。 靄はさらに濃くなり、すべてが白く染まり、シベリカや恐る べき宮殿の姿が消えていきます。真っ白な世界はしばらく 続き、やがて白い靄の中から「おかしいなあ」という男の声 が聞こえてきます。声とともに靄が薄れ、夕暮れのどこか懐 かしい街角が見えてきます。主人公探索者の夢と同じ場所 です。夢と違って人通りはありません。 「おかしいなあ。ないなあ」と男の人が足元を探していま す。主人公探索者の手には「ティアラ」があります。 「ティアラ」を渡せば、「ああ、これだ、これだ。探してたん です。ありがとう」と探索者の方をろくに見もせずに受け取 って礼を言います。「子供が欲しがっていまして。よかった。 見つかって」男の人は何度も礼を言って夜道に消えていき ます。 渡す、渡さないにかかわらず、すぐに探索者たちの視界 が暗くなり、気がつくとシベリカに攫われた場所に戻ってい ます。 探索者が時間について尋ねたら、〈アイデア〉をさせてく ださい。成功すれば時間がまったく経っていないことに気 が付きます。正気度ロール[1/1D3]。 「ティアラ」を渡した主人公探索者は、ふと思い出します。 子供の頃父親に「ティアラ」をもらったことを。(家に帰って みたら、残っていたということにしてもかまいません) -6- クトゥルフ神話TRPGシナリオ「落としもの」 古ぶるしきもの 正気度の獲得 突如出現したローブの者たちは、フードを外しその姿を 究極の門の宮殿から無事に帰還した探索者は、1D10 見せます。人の精神が耐えることのできない、受け入れる の正気度を獲得します。「白い靄の彼方」を経由した探索 にはあまりに大きく、大量で、長く、膨大な、恐怖、畏怖す 者はさらに 1D3、主人公が「ティアラ」を男の人に渡してい るしかない、その姿を。 れば、主人公のみ追加で 1D6 の正気度を獲得します。 門の導き手にして守護者、古ぶるしきもの、タウィル・アト =ウルム。別の姿で現れた時はこう呼ばれます。すべてに してひとつのもの、ヨグ=ソトース。正気度ロール[1D20/ シベリカ・トリルキルティ 1D100]。 シベリカ・トリルキルティは時間の外、究極の門に至った 魔女です。 古のものに列座するものとして彼女は時の始まりの前か らその終わりの後まで、すべての時を見ています。無数の 選択から広がる無限の結果のすべてを見ているのです。 彼女の目には、時間の中のものは前後百年ぐらいが重 ね映しに見えます。人間なら、赤ん坊から老人、そして死 体の姿までが重なって見えています。前後だけでなく、幅、 別の結果も見えています。4、5日前から分岐した別の結 果、その姿、声が同時に見えるのです。 彼女は何かを望む時には、すでにその結果が見えてい ます。彼女は「かもしれない」「きっと」という言葉は使いませ ん。結果を知っているなら意味がないからです。 彼女は、自分が古きものの座から永遠に逃れられないこ ともすでに知っています。そこから逃れようとする努力の全 てが失敗すること、彼女の故郷に彼女の帰る場所もないこ とを知っています。この座にいる彼女は時間から外れた存 在であり、その中に戻ることはできません。 シベリカには人に対する好意も敵意もありません。わざ わざ誰かを攻撃することはありません。彼女にはすべての 神はその腕を振るい、探索者たちをこの究極の門の宮 殿から吹き飛ばします。探索者たちは現実世界に帰還しま すが、どの時間に吹き飛ばされたかはそれぞれ以下の表 によって決定します。帰還する場所はどこでもかまいませ 人の結果、つまり死がその人の上に見えています。死者を 攻撃する理由はないのです。しかし、自分と同じ境遇の者 には同情し、この時の狭間のような空間に落ち込んだ者を 助けることがあります。自分が引きこんだ者も含めて。 ん。また時間を超える体験をしたことにより、表の通りの正 気度を失います。 あとがき このシナリオは、稲川淳二氏の怪談集の一編を基にして います。ただ、その話のタイトルも掲載書籍の名称も失念し てしまい、出典を記載することができません。申し訳ありま せん。とてもいい話だったと記憶だけが残っています。 では。おヒマつぶしの役に立ちますように。(H26.5.25) -7- クトゥルフ神話TRPGシナリオ「落としもの」 資料 ①「踏切の交錯」フローチャート ②魔女との対話 -8- クトゥルフ神話TRPGシナリオ「落としもの」 ③シベリカ・トリルキルティ -9-
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