「不動産所得の取扱いと留意事項について~その1~」.

メディカル税務レポート
第26号
2014 年 7 月 1 日発行
■ 第 26 回 不動産所得の取扱いと留意事項について ∼その1∼
1. はじめに
今回のテーマは「不動産所得」です。個人の方の確定申告では、事業所得・給与所得等と合わせて
申告するケースが比較的多い所得です。その主な取扱いと留意したい事項について2回に分けて
説明します。
2. 不動産所得とその計算
不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機の貸付けによる所得
(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)とされ、地代・家賃のほか、不動産等の
貸付けの際に一時に受取る頭金・権利金・更新料・名義書換料なども収入金額に含まれます。
不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から、必要経費を控除した
金額になります。
総収入金額
−
必要経費
=
不動産所得の金額
3. 留意する事項
不動産所得を計算するにあたり、留意したい事項について、次ページより具体例をあげて説明します。
(1)
所得の帰属について
〔事例1〕
離れて住んでいる父親名義の土地を、近隣の方に月極め駐車場として貸付けています。
管理にはさほどの手間はかからず、月一回の集金は私が行い、その全てを我が家の家計費
として使用しています。
回答
⇒
所得の申告は、私がすべきでしょうか。
不動産所得における、所得の帰属に関する事例です。今回のケースが、青空駐車場の
ような簡易な土地の貸付に係るものであるときは、その所得は名義人(父親)に帰属
します。
所基通 12−1 では、所 12 条(実質所得者課税の原則)の解釈にあたり、「収益を享受す
【解説】
る」の意味についての例示として、
『貸家(この場合は貸地)の所有者(名義人)が、毎月の
家賃の全部を親族に自由に消費させているような場合であっても、第一次的には、その所有者
が収益を享受しているとみるべきものであって、その親族は単に二次的にその分配にあずか
っているにすぎないものと解すべきものである。
』とし、
「収益を享受する者」とは、その資産
の真実の所有者(名義人)であるとしています。
なお、その貸付けの実態において、あなたが単にその収益を消費しているというのではな
く、実質的にその貸付けに係る運営・管理等を行うことにより、その収益を受けるべき正当
な権利を有する場合には、あなたが経済的・実質的にも「収益を享受する者」にあたると
して、所 12 条(実質所得者課税の原則)の規定が適用され、実質的な所得者であるあなたが
申告することになります。
(2)
不動産所得の収入計上時期について
〔事例2〕
今年の11月から貸家の賃貸を始めます。前月末日を支払日とする月払の家賃契約を結び
ますが、この場合において、今年の収入金額として計上すべき月数は何ヶ月分となるのでし
ょうか。また、最初の2ヶ年分家賃は、契約時に一括して収受する(前受け)とした場合
における取扱いはどのようになるのでしょうか。
回答
⇒
前受賃貸料であっても、原則はその賃貸料の支払を受ける年分の収入金額として計上する
こととされていますので、前者の場合は 10
月末日∼12 月末日に受取った3ヶ月分が、
後者の場合では、契約時に受取る2ヶ年分(24 ヶ月分)が今年の収入金額となります。
しかし、継続記帳があるなどの一定の要件に該当する場合は、その年中の貸付期間に対応
する部分の賃貸料の額を、その年分の不動産所得の総収入金額とすることができますので、
前者の場合では 10
月末日(11 月分)∼11 月末日(12 月分)までの2ヶ月分を、後者の
場合でも2ヶ年分(24 ヶ月分)ではなく2ヶ月分を今年の収入金額とすることができます。
【解説】
不動産所得の総収入金額の計上すべき時期は、① 契約又は慣習により支払日が定められ
ているものについては、その支払日 ②支払日が定められていないものについては、その
支払を受けた日
③請求があったときに支払うべきものとされているものについては、その
請求の日とされています。今回のケースでは、契約により支払日が定められていますので、
その日の属する年分の収入金額として計上することが「原則」となります。
しかしながら、この「原則」については、不動産所得についてだけ所得税固有の計算方法
によらなければならないという必然性もないことから、通達により「一定要件」に該当する
ものについては、企業会計の方法による計算も認めることとされ、現在の取扱いに至って
います。ちなみに、通達のいう「一定要件」とは、次のとおりです。
(1)
不動産所得を生ずべき事業に係る取引について、帳簿書類を備えて継続的に記帳し、その記
帳に基づいて不動産所得の金額を計算していること。
(2)
不動産の賃貸料に係る収入金額全部について、継続してその年中の貸付期間に対応する金額
を、その年分の総収入金額に算入する方法により所得金額を計算し、かつ、帳簿上その賃貸料
に係る前受収益及び未収収益の経理を行っていること。
(3)
1年を超える期間に係る賃貸料収入については、その前受収益又は未収収益についての明細
【 昭 48.11.6 付
書を確定申告書に添付していること。
直所 2-78 】
不動産所得の収入計上時期については、現在の実務的な取扱いの多くは、 上記回答の後段に
よる方法(貸付期間対応)によっていますが、依然として「原則」は残っています。
継続記帳がないなどの「一定要件」に該当する事実がない場合には、
「原則」による取扱いと
なりますので注意が必要です。
なお、「原則」による後段のケースでの総収入金額に算入された賃貸料で、その翌年以後の
貸付期間に係る必要経費については、その翌年以後の各年において通常生ずると見込まれ
る費用の見積額を、その総収入金額に算入された年分の必要経費に算入することが
でき、その後に生じた見積額と実額費用との差額は、翌年以後の各年分の必要経費又は総収入
金額として調整することとなります。
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名南経営
加藤 尚孝
(執筆者 : 税理士 松尾 修司)
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