ハイブリッド・カー普及に向けたビジネスプランの提案

丹沢安治ゼミナール
2006 年度卒業論文
ハイブリッド・カー普及に向けたビジネスプランの提案
~攻めの CSR の実現~
中央大学 総合政策学部 政策科学科
03w1101002H
廣川 祐貴
アブストラクト
自動車市場において,ハイブリッド・カーが出現したのは 1997 年のことである.自動車によ
る環境汚染が叫ばれていた中,環境負荷の小さいハイブリッド・カーは市場での競争はもち
ろんのこと,社会との協調をも実現できると期待された.しかし,今日においてもハイブリッ
ド・カーは広く普及されているとは言い難い.その本質的な原因を本論において考察し,さ
らには解決に向けたビジネスプランを理論的根拠に基づいて提案していく.
キーワード
ハイブリッド・カー,攻めの CSR,2009 年問題,割り高,価格差と回収期間
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Ⅰ, 序論
1, CSRについて
(1)CSR の定義
(2)私の考える CSR
2, 研究の概要
(1) 自動車業界と CSR
(2) CSR 経営としてのハイブリッド・カー
(3) ハイブリッド・カー普及への問題点と改善策
3, 研究テーマとその意義
Ⅱ, 本論
1, ハイブリッド・カー普及策の現状
2, 理論的枠組み-5 つの競争要因分析(Five Forces理論)の解説
(1)「競合者同士の市場内競争」
(2)「新規参入の脅威」
(3)「代替製品・代替サービスの脅威」
(4)「買い手の交渉力」
(5)「売り手(サプライヤ)の交渉力」
3, 理論的フレームワークの事例への当てはめ
(1) 自動車業界を理論的に分析
(2), ハイブリッド・カーとその他のエコ・カーの比較
(a),ハイブリッド・カー
(b), ディーゼル自動車
(c), バイオエタノール車
(d), 軽自動車
4 政策提言
(1)ハイブリッド・カーの課題とその分析
(a)ハイブリッド・カーは割高
(b)「割高」についての分析
(c)政策提言の方向性
(2), 課題から見えた解決策
(3), 政策提言への懸念
Ⅲ, 結論
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Ⅰ, 序論
1, CSR について
(1)CSR の定義
2003 年,企業行動を行う上での新しい概念が
従業員
生まれた.それは企業の社会的責任,CSR で
ある.これは Corporate Social Responsibility の
消費者
環境
略であり,「企業が単に経済活動だけでなく,今
企業
までの株主,消費者に加えて,従業員や環境とい
った更に広いステークホルダーにも配慮をし,
持続可能な企業活動をしていこうとする考え方,
株主
行動指針」のことである.
地域
取引先
(2)私の考える CSR
思い返せば,この CSR という新しい考え方に,深く感動
図 1 ( CSR の概念図)
を覚えたことが丹沢ゼミへ入室した理由でもあった.そして 3 年次,様々な文献,ホームペー
ジから,私なりにつかめたことは CSR には主に二つのタイプがある,ということである.私
の考える二つの CSR とは「守りの CSR」と「攻めの CSR」である.「守りの CSR」とは,
例えば松下電器産業が,多大なコストをかけて事故を起こした自社製品を回収したり,ユニ
クロが国の定めの下,身体障害者を積極的に採用したり,といった例があげられる.もちろん
このような企業行動は社会的な責任を果たしているものであり,賞賛されるべきことでは
ある.しかし,私から言わせれば「企業市民として当然」という域を出ない.むしろ,今後重要
視されるべきは,CSR という概念を一種の経営ツールとして捉え,本業を通じて社会により
良い活動,価値を提供すること.更にはそのような活動を通して,しっかりと収益を得ていく
ことではないか.これこそが私の考える二つ目の CSR,「攻めの CSR」である.「攻め」なら
ば,収益を得る分,持続可能性をより強めることにも繋がるはずである.そこで,私の研究で
は,決して俗論に収まらない「攻めの CSR」という概念にこだわりたい.
2, 研究の概要
では,ここで私の本論文の概要を以下に記す.研究では,「攻めの CSR」という概念を念頭
に入れながら自動車業界に目を向けたい.
(1) 自動車業界と CSR
なぜ,自動車業界に着目するのか.それは,自動車業界は CSR を考える上で非常におもし
ろい業界だからである.というのも,自動車は,相反する二つの顔,私たちに大きな富を提供
するプラスの面と,大きな損害をも与えかねないマイナスの側面,を持つからである.今日に
-3-
おいて,自動車は私たちの生活になくてはならないものである.移動手段,運搬手段として必
要不可欠な存在であることは言うまでもない.その意味で自動車メーカーの社会的な役割
は非常に大きい.しかし,一方では自動車から出る排出ガスが環境汚染に繋がり,また,時に
は人をも殺す装置にもなりかねない.このような一種の凶器を生産する自動車メーカーは,
こういったマイナスの面にも配慮した,責任ある企業行動を実現させなければならない.つ
まり,自動車メーカーは,消費者や株主だけでなく,地域の安全や環境にも配慮した企業行動,
つまりは CSR が強く求められるのである.しかし,CSR という言葉に囚われすぎてもいけ
ない.企業である以上,しっかりと収益を出していく必要がある.つまり,「攻めの CSR」が求
められるのである.そのような社会の流れの中で,自動車業界に現れたのが,エコ・カーであ
り,特に注目すべきはハイブリッド・カーである.
(2) CSR 経営としてのハイブリッド・カー
ハイブリッド・カーとは,一言で言えばガソリン車と電気自動車を組み合わせたものであ
る.つまり,ガソリンと電気モーターの二つを動力源としているのである.まず,この利点と
して挙げられるのが,通常のガソリン車と比べて燃費がよいことである.ガソリンとモータ
ーを効率よく使い分けることで,燃費の良さを実現している.また,ガソリンを燃やすことで
発生する二酸化炭素の排出削減にもつながり,環境への配慮も実現している.近年騒がれて
いる 2009 年問題 1 にもハイブリッド・カーは対応しており,時代の流れともマッチしてい
るといえる.まさに,ハイブリッド・カーは先ほど述べた自動車メーカーのマイナスの側面
を補う存在であると言える.
(3) ハイブリッド・カー普及への問題点と改善策
しかし,一見非の打ち所の無さそうなハイブリッド・カーではあるが,ただ一つ弱点があ
り,それゆえに売れ行き好調とは言えない.唯一の弱点,それは「値段が高い」ということで
ある.この点については,本論において細かい分析を行うが,私が着目するのは「値段が高い
が故に売れない」という構図である.もし,ハイブリッド・カーの値段を下げること,広義で
言えば所有するコストをさげることに成功すれば,ハイブリッド・カーは売れるはずである.
この論文における一番のポイントは「いかにして,ハイブリッド・カー所有のコストをさげ
るか」である.これがそのまま,本論文の政策提言の目的にあたる.政策提言が達成された場
合,ハイブリッド・カーは普及し,自動車メーカーは収益を得ると同時に,環境へ与える負担
を今まで以上に削減できる.まさに,「市場での競争」と「社会との協調」を実現できるわ
けである.
3, 研究テーマとその意義
私が掲げる研究テーマは「ハイブリッド・カーを所有するコストを下げるためのビジネ
スプランの提案」である.この研究の意義は大きく 3 つある.ハイブリッド・カーを普及さ
せることで,
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(1)環境や地域といったステークホルダーにも配慮した企業行動の実践を通じて,2009 年問
題に対応する
(2)自動車作りという本業を通じたビジネスで攻めの CSR を実現する
(3)得た収益を更なる活動の軍資金とし,持続可能性を生み出す,といった社会における一企
業市民としての行動実現に繋がる点である.以上 3 点の意義の元に,本論文を展開する.
Ⅱ, 本論
1, ハイブリッド・カー普及策の現状
導入として,今現在実施されているハイブリッド・カーの普及促進策について簡単に触れ
ておく.主に二つの切り口で普及が促進されている.それは「新技術革新」と「コスト削減」
である.具体的な新技術としては,より燃費を向上させ,さらなるクリーン化を実現した新型
パワートレーンやトラスミッション,家庭用のコンセントから充電・給電が可能な「プラグ
インハイブリッドカー」の開発などが挙げられる.しかし,これらはどうしても技術的,理系
的な話に終始しがちである.文系学部で企業戦略を学んだ私であるから「技術」ではなく,
前述通りやはり「コスト」に着目していきたい.
さて,「コスト」についてだが最近になって,ハイブリッド・カー購入の際の補助金につ
いて大きな変化あった.
「プリウス補助」と呼ばれる電気モーターとガソリンエンジンを組み合わせ
たハイブリッド乗用車購入への補助金制度が来年度から打ち切られること
が,30日分かった.燃費性能が高く,地球温暖化の一因となる二酸化炭
素の排出が少ない環境対策車の普及を目的に政府が購入資金の一部をバック
アップしてきたが,メーカーのコスト削減も進んできたことから,役割を
終えることになる. (フジサンケイ
ビジネスアイ) - 10 月 31 日
この記事の通り,ハイブリッド・カー購入者への補助金が撤廃されることになった.経済
産業省の説明では,既にコスト削減が達成されたからとの説明だが,果たして本当だろうか.
事実,このような補助金制度があったにも関わらず,ハイブリッド・カーの普及はなされな
かった.更には,トヨタ自動車広報部の説明によると,実際に優遇処置を利用して,ハイブリ
ッド・カーを購入していく人は少なかったそうだ.ハイブリッド・カー普及のため,購入者
への援助として,設けた補助金制度であったが,当初の目的であったハイブリッド・カー普
及には直結しなかったため,補助金制度を廃止させてしまったとも考えられないだろうか.
いずれにしても,やはりなんらのかの形で,ハイブリッド・カー所有にかかるコストを下げ,
かつそれが購入者にダイレクトに伝わる政策提言を掲げるべきであると考える.
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2, 理論的枠組み-5 つの競争要因分析(Five Forces 理論)の解説
ここでは,政策提言を行うために市場を分析する際の理論を紹介する.ここで扱うのは,
マイケル・E・ポーターが提唱した「5 つの競争要因分析」である.この経済理論の基本
は,“なぜ,競争環境ができるのか”が原点にあり,業界環境を中心とした外部環境の分析
である.ポーターは競争環境をつくる要因には 5 つの要因があると指摘している.それは,
(1)「競合者同士の市場内競争」
(2)「新規参入の脅威」
(3)「代替製品・代替サービスの脅威」
(4)「買い手の交渉力」
(5)「売り手(サプライヤ)の交渉力」の 5 つである.この 5 つの要因が競争環境を強くも
し,弱くもするのである. 以下に 5 つ要因分析の切り口を記す.
(1)「競合者同士の市場内競争」
競争者が多い環境では,競合者間でのコスト,品質,納期などの差別化が強化され,厳しい
競合関係が作られる.この競合関係は,競合環境としての結果として生じるもので,この環境
を創り上げる要因が他に存在する.これらの要因が他の4つの要因にある.
(2)「新規参入の脅威」-自社の現在の業界に新しく企業が参入し,市場のシェアを奪って
いく脅威.
すなわち,参入企業が増える程,より競合関係が厳しくなる.参入企業が増える脅威は「参
入障壁」の高さに依存する.参入障壁とは,この業界に参入する度合いの困難さであり,「規
模の経済性」「製品の差別化」「乗換コスト」等がある.
(a)「規模の経済性」-業界の市場が規模の大きさによって左右される障壁
薄利多売による広い市場を確保しなければ成り立たない業界では,運用要員,設備,
広告宣伝等の運用資金は多大になる.これがそのまま参入障壁にもなりうる.
(b)「製品の差別化」-製品の技術や品質に関わる困難さの障壁
例えば,新製品,新技術を矢継ぎ早に適用しているデジタルカメラ,携帯電話,モバイ
ル PC 等の業界は,そのような差別化技術を開発できる要員を有していないと参入が
困難となる.
(c)「乗換コスト」-現在購入している製品や設備,サービスを他の製品・設備・
サービスに換えるときの困難さの度合い で,そのコストの高さによる障壁
例えば,情報システムとしてある規格を採用し,成功していた場合,他の規格に変更
することは,これまで蓄積してきたノウハウ,人材等を再構築しなければならず,現場
での生産性の低下は否めない.業務フローを変更し,従業員に対する教育等も考えれば,
なおさらである.
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(3)「代替製品・代替サービスの脅威」-現在の市場で競合関係にある商品,サービスとま
ったく違う商品やサービスで同様の機能を果す代替の商品,サービスが出現する脅威
例えば,JR の貨物輸送は代替サービスであるクロネコヤマトの宅配便の普及によって大
幅に貨物予想の市場を奪われてしまった.また,デジタルカメラは,従来のカメラやフイル
ム産業を大幅に侵食している.このようにまったく異なるサービス形態や技術から生まれ
る商品は,まったく違った分野からの競争者を増やすことになり,競争激化の要因となる.
(4)「買い手の交渉力」-自社と,買い手(顧客)との関係
顧客が強い業界,すなわち供給者過剰の業界であれば,顧客が主導権の下で販売価格が値
引き等により低く押さえられてしまう.また,利益が上がらず,競争するには厳しい環境とな
る.このような買い手に対する販売の主導権の可否が,競合激化の要因となる.
(5)「売り手(サプライヤ)の交渉力」-自社と売り手 (サプライヤ)との関係
供給者が強い業界,例えば,メーカーから商品を仕入れる場合に,仕切り値がメーカー主
導で決定される環境,すなわちメーカーの力が強く,販売店がメーカーの仕切り値をそのま
ま受け入れざるを得ない状況にある販売店側の業界の環境である.供給者に対する仕入の
主導権の可否が競合激化の要因となる.
ポーターはこの 5 つの競争要因のいずれかを凌駕した企業が,業界を制することができる
といっている.競争要因を凌駕するためには,他企業と差別化した「差別化戦略」,高品質低
価格による「コストリーダーシップ戦略」,特定分野や特定市場を狙った「集中戦略」を採
ることが必要となる.
3, 理論的フレームワークの事例への当てはめ
(1) 自動車業界を理論的に分析
以下,自動車業界を five-forces で分析をする.市場内競争を中央におき,他の 4 要因のそれ
ぞれが市場内競争とリンクするように,概念図を図 2 のように記す.
参入の心配少ない
<参入>
サプライヤー
(小糸製作所など)
<売り手の力>
一般大衆車市場
(トヨタ、日産、ホンダ)
<市場内競争>
バス、電車
図 2 (5 つの競争要因分析の枠組み)
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消費者
<買い手の力>
(a)市場内競争
まず,中央の市場内競争を一般大衆車市場とする.例を挙げれば TOYOTA,HONDA,
日産自動車などが上げられる.ここでは,軽自動車を省くためダイハツやズスキといった軽
自動車メーカーは考えない.
(b)新規参入の脅威
もともと自動車業界は参入の心配が少ないといえる.なぜなら,工場建設費など莫大な建
設がかかるからである.また,多くのサプライヤと契約を結び,取引関係を構築していかなけ
ればならない.また,例えそれが十分に準備できたとしても,自動車という商品には安全性,
快適性が強く求められる,ある意味で他と大きく差別化された商品であるため,何かの事業
をやっていたから,そのノウハウを活かし,といったことがとても難しいといえる.よって,
新規参入の心配は極端に小さいと言える.
(c)売り手の交渉力
小糸製作所やデンソーといった,いわゆるサプライヤが挙げられる.結論から言えば,売り
手の交渉力は強いと言える.CSR が叫ばれ始めた頃から「CSR 調達」が重視された.これは,
健全な企業としか取引をしないという考え方である.社会的責任を果たしていない企業と
取引をすることは,取引をするサプライヤ自身の信頼生も失うことになってしまうからだ.
故に,自動車メーカーが良い製品をサプライヤから提供してもらうには,メーカーは CSR に
配慮した自動車を生産する必要がある.
(d)買い手の交渉力
買い手とは,私たち消費者が挙げられる.近年,ガソリン価格が高騰したことにより,燃費
の良い自動車が求められている.また,環境配慮が叫ばれている昨今,
LOHAS 2 と呼ばれるタイプの人間も現れている.この点から,消費者も少しずつ環境に良い
自動車へ意識が向いているといえる.
(e)政府・社会の力
また,five-forces の 5 つの力には含まれないが,ここでは「政府・社会」の力にも目を向
けたい.2009 年問題が叫ばれているが,2009 年までには,生産される自動車の排出量を 97 年
度比で 1km 当り,25%削減されなければならない.そのため,自動車メーカーは環境に配慮
した何らかの手を打たなければならない.
以上,市場内競争,新規参入の脅威,売り手の力,買い手の力,政府の力を分析した結果,他社と
取引することを踏まえた上での高品質さ,環境配慮としての燃費向上,2009 年問題にも対応
した自動車が求められていることが分かる.以上,five-forces 理論での分析の結果,自動車業
界において,地球に優しい環境に配慮した自動車,「エコ・カー」の重要性は増していると
いえる.
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(2), ハイブリッド・カーとその他のエコ・カーの比較
さて,それではいくつかあるエコ・カーのうち本当にハイブリッド・カーが日本に適して
いるのだろうか.ハイブリッド・カーとは,そもそもどのような自動車なのかといった点も
含めて,他のエコ・カーとの比較をしながらその重要性を証明したい.一般的にエコ・カー
と呼ばれるものは,ハイブリッド・カー,ディーゼル自動車,バイオエタノール車,そして軽自
動車が挙げられる.これらの特徴を踏まえた上で,ハイブリッド・カーの有効性を説いてい
く.
(a),ハイブリッド・カー
ハイブリッド・カーとは,ガソリンエンジンと電気モーターの二つを動力源とすることで
燃費改善をした自動車である.エンジンと電気モーターが並列に配置され,それぞれの動力
が駆動に用いられる方式が一般的である. エンジンは強力だが低回転域では効率が低下す
るという短所があることから,発進時には電気モーターで,加速時にはエンジンを使用,と
いった動的な出力配分でエネルギー消費を最適化することができる.また,減速時に改正ブ
レーキを用いて運動エネルギーを電気として回収し,停止時や減速時などにはエンジンを
停止してしまうことでアイドリングによる燃料消費をなくすなどといった点でも通常のガ
ソリン車に比べて有利である.
(b), ディーゼル自動車
ディーゼル自動車とは,ディーゼル機関を動力とする自動車である.主にトラックやバス
などの大型車への適用が多いが,乗用車もある.ガソリン車との比較では,そのエンジン構造
や燃料の違いから一般的に燃費が良いという利点がある.しかし,排気ガス中に窒素酸化物
などの有害物質が多く含まれるという欠点もある.ちなみにヨーロッパではその低い燃費
から「環境に優しい車」として,ディーゼル自動車は一般的な乗用車にまで広まっている.
元々,ディーゼル自動車は低燃費な代わりに硫黄酸化物がガソリンエンジンより多い点が,
日本において普及しきれない原因なのだが,ヨーロッパでは,自動車メーカーなどが自主的
に技術革新を進めることにより硫黄酸化物の排出量を少なくしている.また,ヨーロッパに
おいては,北海の油田から取れる硫黄分の少ない軽油・重油がディーゼルエンジンに使える
のに対し,日本では中東地域から取れる硫黄分の高い軽油・重油に頼らざるを得ないため,
脱硫させるコストがかさむといった事情も日本では普及しきれない原因の一つである.
(c), バイオエタノール車
バイオエタノール車とは,サトウキビやトウモロコシなど植物から作った燃料で動く自
動車のことである.植物の生育過程で地球温暖化の一因である二酸化炭素を吸収するため,
バイオエタノールは二酸化炭素を排出しないと見なされ,政府は温暖化対策の決め手とし
て期待を寄せる.しかし,普及までには,実に
多くの課題も残されている.まず,普及した場
合に必要とされる分のバイオ燃料の生産のメドが立っていない.また,ガソリンが製油所出
荷時 66 円/ℓに対し,バイオエタノールは 90 円/ℓとコスト的に見ても高い.更には,バイオ燃
料を供給するインフラサービスの整備にも莫大なコストがかかることが予想される.
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(d), 軽自動車
軽自動車の現在の規格は,長さ 3.40m 以下,幅 1.48m 以下,高さ 2.00m 以下,排気量 660cc
以下の自動車を指し,このどれか一項目でも値を上回れば普通乗用車となる.厳密に言えば,
軽自動車はエコ・カーではないが,ガソリン車に比べ燃費という面では優れている.実際
に,2009 年の環境基準にもクリアした車種もあるようだが,軽自動車を普及させるのは難し
いと考える.まず,サイズが制限されるが故に,デザイン面での幅が狭い.また,企業にとって
も普通乗用車に比べ,利益率が低い点も力を注ぎきれない部分であると考える.
やはり,他のエコ・カーと比較しても,ハイブリッド・カーを普及させていくことが最も
有力な「現実解」であると考える.また,ハイブリッド・カーの特徴である,発信,加速時には
電気モーターとエンジンを使いわけ,ブレーキ時には,その摩擦を運動エネルギーとして回
収できるといった点が,日本の地理的要因にも適していると考える.欧米などに比べ,日本は,
狭いエリアの中に多くの道路や信号,他の自動車がひしめき合う特殊な環境である.そのた
め,必然的に発信,加速,減速を頻繁に繰り返す.このような,特殊な道路環境,交通環境が,ハイ
ブリッド・カーの持つ特性にはより適していると考えられる.
4, 政策提言
(1)ハイブリッド・カーの課題とその分析
(a)ハイブリッド・カーは割高
さて,ハイブリッド・カ
ーを普及させる重要性を
所有コスト
ガソリン車
理解した上で,その唯一
の弱点である「値段が高
析する.正確には「値段が
高い」ではなく,ガソリン
車に比べて「値段が割高」
なのである.図 3 を見て
いただきたい.横軸に自
動車所有年数,縦軸に
ハイブリッドカー
価格差=
い」という点について分
40万
0
X
年数
図 3 (ハイブリッド・カーとガソリン車,所有とコストの関係)
所有にかかるコストを
とる.年数が 0 というのは,買うときの値段である.ガソリン車に比べてハイブリッド・カー
の方が高いため,初年度はハイブリッド・カーの方がコストは高くなる.その差は平均して,
約 40 万円といわれる.しかし,ハイブリッド・カーは,電気モーターも動力源としているため,
燃費が良い.つまり,ガソリン車に比べてガソリン代は抑えられるのである.故に,購入後の
ガソリン代(変動費)は抑えられるので,ガソリン車に比べてハイブリッド・カーの方が傾き
は小さくなる.ここから言えることは,ある程度の年数,ハイブリッド・カーを所有すれば,初
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年度のガソリン車との価格差約 40 万円を回収できるのである.つまり,左図で言えば,x 年以
上所有するのであれば,ガソリン車より,実はハイブリッド・カーの方が安いのである.
(b)「割高」についての分析
では,どれほどの年数,所有すれば,価格差回収期間を達成できるのであろうか.実際の自
動車を例にとり,分析する.ここでは,ガソリン代を 130 円/ℓ,年間の走行距離を 1 万 km と仮
定した.比較対象に挙げる自動車を,ハイブリッド・カーはその代名詞的存在「プリウス」,
ガソリン車を「プリウス」と同グレードの「アリオン」とする.両車の燃費は,カタログに
掲載されているものでなく,e 燃費というホームページ・サイトを参照したものである.カタ
ログ燃費は一般的に,最もガソリン効率の良い時速 80km で,平坦な道を走った場合のデー
タである.従って,あまり現実味がなく参考にならない.
アリオン
プリウス
分析の方法は以下のとおり
である.まず,それぞれの自
動車を 1 万 km 走らせるた
めに,必要なガソリン量を
価格
燃費
182万
226万(+44万)
9,8km/L
価格差回収期間
18,8km/ L
計算する(1 万÷燃費).次に
そのガソリン量を買うため
のコストを掛け算で計算す
る(ガソリン量×130 円/ℓ).
6,9年
こうして出した両車の
ガソリン価格130円/L, 年間走行距離1万kmで計算
差額を,車体価格の差で割
図 4 (アリオンとプリウスの比較と価格差回収期間)
ると,回収期間が出せる.結果は図 4 の通りである.アリオンとプリウスの場合では価格差回
収期間が 6,9 年と約 7 年もかかってしまうのである.自動車を買う時に,何年乗るかも分から
ないのに,約 40 万も高いハイブリッド・カーを買う気には,一般的な消費者の心理的に難し
いといえるのでないだろうか.まさにこの点が,ハイブリッド・カーが「割高」といわれる
所以であり,普及しきれない原因だと私は考える.
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(c)政策提言の方向性
所有コスト
所有コスト
ガソリン車
価格差=
ガソリン車
ハイブリッドカー
価格差
< 40万
ハイブリッドカー
40万
0
価格差回収期間長い
X
0
年数
X
年数
価格差回収
期間短い
図 5 (価格差と回収期間の関係)
それでは,図 5 のようにハイブリッド・カーの価格を下げることが出来たらどうだろうか.
図 5 左の通り,ガソリン車との価格差を縮めることができれば,価格差回収期間を短くする
ことができる.つまりそれは,ガソリン車を買うよりハイブリッド・カーを買った方が中長
期的に見てお得だということである.やはり,ハイブリッド・カーを普及させるためには,何
らかの形でコストを下げ,価格を下げることが必須だと私は考える.そこで,その策を講じる
前に,一体現状からいくら下げるべきかを以下に考察する.
ハイブリッドカーの購買意欲調査
120
100
80
%
購入したい
購入したくない
60
40
20
0
5万
10万
20万
30万
ガソリン車との価格差
40万
50万
日経マーケットアクセス、ハイブリッドカーに関する自動車購買意欲調査
図 6 (ハイブリッド・カーの購買意欲調査)
図 6 のグラフは,どの程度安くなれば,つまりガソリン車と価格差がどれほどまで縮まれ
ば,ハイブリッド・カーの購入を,消費者が検討するかを調査したものである.前述した通り,
現時点での価格差は 40 万円である.購入したいと考える消費者は約 10%といったところだ
ろうか.それに比べて,購入したくないと回答した者は 60%近くにも上る.このデータが,正
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に現時点ではハイブリッド・カーが普及仕切れていない現状を物語っている.グラフより,
価格差が 30 万円強のところで,購入したくない人が購入したい人を上回ってしまう.
このデータより,少なくとも価格差 30 万円まではハイブリッド・カーを安く売る必要があ
りそうである.そこで,更に多くの消費者を囲いこむ意味で,ガソリン車との価格差を 25 万
円まで下げることを目標値とする.現時点で価格差が約 40 万円なので,差を 25 万円まで縮
めるには,現在のハイブリッド・カーの価格から約 15 万円,消費者にかかるコストを下げる
必要がある.ちなみに,15 万円分コストを下げることができれば,先ほどのハイブリッド・カ
ー・プリウスであれば,価格差回収期間は 4,1 年,よりグレードの高い車種であるハリアー・
ハイブリッドであっても,5,2 年で価格差を回収できる.よって,私の政策提言の着地点は「ハ
イブリッド・カーの所有コストを現状から約 15 万円下げ,その普及を目指す」ことである.
(2), 課題から見えた解決策
では,どのようにしてハイブリッド・カー所有コストを 15 万円下げるか.ここで私は自動
車そのものの値下げでなく,自動車を買う際に必ず必要となる自動車保険に着目する.たと
えば東京海上日動火災保険株式会社の自動車保険「total assist」では自動車の車種,ドライ
バーの取得免許によって図 7 の上段のように設定されている.
これを踏まえ,私が掲げたい政策提言は自動車メーカーと保険会社の共同プロジェクト
である.それは「ハイブリッド・カー購入
者に保険料半額キャンペーン」である.
マークⅡ
ゴールド免許
ブルー免許
これをすることで,図 7 下段のように,例
サニー
93,420円
60,240円
101,320円
65,440円
えばマークⅡ,ブルー免許取得者の場合 1
年当たり 50,660 円,サニーでゴールド免
許取得者の場合だと 30,210 円分一年間
当たりの保険料が安くなる.更に,ハイブ
(東京海上日動、トータル・アシスト、30歳以上年間保険料)
リッド・カーを 5 年間所有した場合には,
そ れ ぞ れ 25,3300 円 (50,660 円 ×
マークⅡ
ゴールド免許
46,140円
サニー
5)151,050 円(30,210 円×5)分だけ保
険料を安くできる.ハイブリッド・カーユ
30,210円
ーザーに対して,保険料を半額にするこ
ブルー免許
50,660円
の政策提言により,ハイブリッド・カー所
32,770円
(東京海上日動、トータル・アシスト、30歳以上
年間保険料を半額にした場合)
有にかかるコストを 15 万円以上,値下げ
させることができるのである.
図 7 (トータルアシストの料金目安とそれを半額にした場合)
(3), 政策提言への懸念
しかし,この政策提言について一つの懸念が生まれる.ハイブリッド・カー所有者に保険
料を半額させることで,確かに 15 万円以上の所有に関わるコストを下げることができる.
しかし,半額とすることで損害保険会社の収益は圧迫されないだろうか.保険会社の収入が
減ることになってしまった場合に,この政策の持続可能性は少ないものとなってしまう.そ
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こで,こういった事態を防ぐため,私はここで更に 3 つの解決策及び経済理論を掲げる.
(a)事前契約の元に,自動車メーカーの売り上げ伸び幅を保険会社に一部還元してもらう.
ハイブリッド・カーの売り上げを伸ばすことで,自動車メーカーの客単価が上がり,同時
に収益が上がると考えられる.その利益増加分の一部を,事前契約の元で保険会社に還元し
てもらうことで,保険会社の収益圧迫を防ぐ.
(b)保険会社のリスクコンサルティング力を安全な自動車作りに活かし,保険金支払い額
を減少させる.
保険会社は事故を客観的に調査し,適正な形でお客様に保険金を支払うことを重要な業
務の一環としている.そのため,自動車に関わる事故についてあらゆるデータ,知識を所有し
ている.つまり,事故防止策,ロス・プリベンションのエキスパートなのである.このような,
データ,知識,事故防止のノウハウを自動車メーカーにも転用することで,より安全性の高い
自動車作りに生かしてもらうことができるのではないか.安全な自動車作りは結果として,
事故が減ることに繋がり,それは保険会社としても,事故時の保険金支払いが少なくなり,収
益の圧迫を防ぐことに繋がるのである.
(c)ハイブリッド・カーの販売向上のため,ハイブリッド・カー保険の売り上げ数増加を
期待できる.
ハイブリッド・カー
という,より便益優位
コスト&価格
D
D“
の高い商品を提供する
ことで需要をかきたて
P“
ることができる.図 8
P
で説明すれば、D の需
要曲線から D”の需要
曲線への移動に相当す
AC
AC“
AC“(Q)
AC(Q)
Q
Q“
生産量
る.これにより,より多
くの商品を生産する必
要があり規模の経済が
発生する.よって,商品
一個当たりにかかるコ
ストは,AC から AC”に
図 8 (便益優位とコスト優位を同時に達成する)
下げることができる.また,便
益優位を達成している分,価格は P から P”へと,新たな需要曲線を超えない範囲で,上がる.
つまり,便益優位を達成しながらも,規模の経済を達成させることができ,コスト減と価格増
を同時に達成させることができると考えられる.この理論によって,ハイブリッド・カーは
今まで以上に売れ,同時にハイブリッド・カー保険も半額の値段設定ではあるが,今まで以
上に売れると考えられる.
以上,(a),(b),(c)の施策,考え方でハイブリッド・カー普及を促すことができ,自動車メーカ
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ー,保険会社ともに現状より収益をあげることが期待できるのである.
Ⅲ, 結論
このプランにより,ハイブリッド・カー普及という結果を得られると考えられる.しかも,
それに至るプロセスが自動車メーカー,保険会社共に,自動車メーカーならば自動車を生産
する,保険会社ならば保険商品を開発し販売するといったように,それぞれがあくまで本業
を通じて実践しているのである.しかも,しっかりと収益アップを期待できるものなので,決
して単発的なものでなく長期的な持続可能性を持った政策提言といえる.このようにして,
ハイブリッド・カー普及に自動車メーカー,保険会社が一役買うことで,市場での競争力と
社会と協調力を培えるといえるのではないか.あくまで,本業を通じて,収益を得ながら持続
可能性を帯びたビジネスを実践し,それを通して社会に貢献し,責任を果たしていく.これこ
そが私の考える「攻めの CSR」の姿である.
) 本論,3,理論的枠組みへの事例の当てはめ,(e)政府・社会の力,において簡単に記す
) LOHAS(ロハス,ローハス)とはLifestyles Of Health And Sustainability (健康と地
球の持続可能性を志向するライフスタイル)の略.健康や環境問題に関心の高い人々のライ
フスタイルとされる
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参考文献
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・ 日経 CSR プロジェクト編『CSR 企業価値をどう高めるか』, 日本経済新聞社, 2004
年
・ 中央青山監査法人編,『CSR 実践ガイド 内部統制から報告書作成まで』(株)中央経済
社, 2004 年』
・ GP 企画センター 『最新エンジン・ハイブリッド・燃料電池の動向』,グランプリ出
版 2003 年
・『日経ビジネス』
2006.2.13 吉野家,危機にめげない経営
・『週間東洋経済』
2006.4.22 保険力 徹底比較!!
・日本経済新聞 12 月 5 日 車の燃費 2 割改善業務
・日本経済新聞 11 月 27 日 ディーゼルハイブリッド 共同開発視野に
・ ハイブリッド車の新車は結局オトク? ハイブリッド車の燃費
http://www.nenpi.jp/blogid_2.html
・Response-e 燃費ランキング http://response.jp/e-nenpi/rank.html
・ITCサンシャイン・ブレインズ 5フォース分析(5 つの競争要因)
http://www.itc-sb.com/05_column/sub01.html
・トヨタの“モア・パワー型”ハイブリッドはイケるのか?ビジネスデータで読む IT 市
場 http://it.nikkei.co.jp/business/column/data.aspx?n=MMITab083003092005
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・日経マーケットアクセス-ハイブリッド・カーに関する購買意欲調査
http://ma.nikkeibp.co.jp/MA/guests/SR_archive/SR_archive_hybrid0504.html
・東京海上日動-なるほど保険ガイド
ttp://www.tokiomarine-nichido.co.jp/guide/index.html
・Yahoo News フジサンケイビジネスアイ ハイブリッド乗車補助金廃止
headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061031-00000008-fsi-bus_all
・ウィキペディア-ハイブリッド・カー
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%AA%E3
%83%83%E3%83%89%E3%82%AB%E3%83%BC
・ウィキペディア-ディーゼル車
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%82%BC%E3
%83%AB%E8%87%AA%E5%8B%95%E8%BB%8A
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