201 免疫1 難治性C型肝炎に対する3剤併用療法中の HCV-RNA 測定の臨床的有用性について ○伊藤 葉子(国立病院機構九州医療センター 臨床検査部)、 藤野 達也(国立病院機構長崎医療センター 統括診療部臨床検査科) 【はじめに】 我々はC型慢性肝炎患者に対するPegIFN た結果、著効群は非著効群に比し、HCV-RNA量が速や α2b+Ribavirin併用療法(2剤併用療法)中のHCV -RNA かに低下する傾向があった。 ②治療法別にHCV-RNA量 測定の有用性を報告してきた。2011年11月より、2剤併用 の推移を比較検討したところ、3剤併用療法は2剤併用療 療にテラプレビル(TVR)を加えた3剤併用療法が開始され 法に比し、HCV-RNA量は治療開始早期より速やかに低 治療効果判定が可能となってきている。そこで今回、3剤併 下した。 ③治療法別に著効率を比較したところ、2剤併用 用療法におけるHCV-RNA測定の有用性および2剤併用 療法の49%に比し、3剤併用療法は76%であり、有意に高 療法との相違点について検討した。 かった(P<0.01)。 ④治療開始4週目におけるHCV-RNA 【対象及び方法】 当院において2007年1月から2009年12 の陰性化率および著効率を検討したところ、2剤併用療法 月までに2剤併用療法を開始したC型慢性肝炎患者71例 では陰性化症例9例(13%)全例で著効、3剤併用療法では および2011年12月から2012年4月までに3剤併用療法を 陰性化症例28例(76%)中25例が著効であった。3剤併用 開 始 した C型 慢 性肝 炎 患者 38 例 を対象 と した 。全例 、 療法では4週目において2剤併用療法より高率に治療効果 Genotype1b、治療前のHCV-RNA量5logIU/mL以上の 予測が可能であった。 難治例であった。HCV-RNAの測定はコバスTaqManオー 【考察】 3剤併用療法は2剤併用療法に比し、治療開始早 トを使用して行った。併用療法の治療効果は、併用療法終 期より速やかにHCV-RNA量が低下し、有意に高い著効率 了6ヶ月後においてHCV -RNA陰性化例を著効、それ以 が得られる治療法であった。3剤併用療法において治療4 外を非著効とした。 週の時点にてHCV-RNAを測定することは、治療効果を予 【結果】 ①3剤併用療法中のHCV-RNA量の推移を検討 測する上で重要であると考えられた。 した結果、治療12週目において全例が陰性化した。治療 連絡先) 092-852-0700(内線 1101) 効果別に治療12週目までのHCV-RNA量の推移を検討し 202 免疫1 HTLV-1 抗体陽性患者の経過観察と血清 LD 値の変動 ○笹田 景子、山本 紀子、木下 知子、池田 勝義、大林 光念、安東 由喜雄 (熊本大学医学部附属病院 中央検査部) 【目的】 無症候性HTLV-1キャリアは全国に108万人いる 球が観察された。抗体陽性77例の2013年6月までの目視 と推測されているが、キャリアに対するフォローアップ方法と 検査依頼率は29例(37.7%)であり、機器のIPメッセージな 対策は確立していない。そこで、キャリアの検査データの特 しで異常リンパ球を認めたものが8例(29.6%)であった。経 徴を明確にする目的で当院のHTLV-1キャリアにおける血 過観察中に、異常リンパ球の出現例が8例あり、異常リンパ 液像、LD値との関連性について検討した。 球出現前のLD値と比較して1.13~1.83倍の値の上昇が 【方法】 対象は2012年6月~12月の期間中HTLV-1抗体 認められ、2例は正常値から異常値への上昇であった。 検査を行った1、516例中、陽性77例について、自動血球 【結論】 ATL症例を含む悪性リンパ腫においては血球数 分析装置XE2100(Sysmex)でのIPメッセージおよび目視 に異常がなく、また出現する異常リンパ球が小型であるた 検査を実施した際の異常リンパ球の出現について解析した。 め自動血球分析装置でのIPメッセージが出現せず、目視 また、経時的に変動がみられた症例については血清LD値 を実施しない場合は異常細胞が見落とされてきた。当院に の変動を解析した。 おいては、血液内科以外の他の診療科では目視検査依頼 【結果】 HTLV-1抗体陽性77例の抗体検査依頼時の診療 が未実施の状況である。今回、HTLV-1抗体陽性者の経 科は血液内科13例(ATL4例、キャリア5例)、その他13診 過観察の際には、目視検査と併せてLDの変動を監視する 療 科 64 例 で あ っ た 。 機 器 の IP メ ッ セ ー ジ 出 現 ( Abn ことが、ATL発症を含めたキャリアの経過観察に有用であ Lympho/L-Blast、AtyLy)は7例(9.1%)で内訳はATL2 ると考えられた。 例、その他4例であり、目視検査にて全症例に異常リンパ 連絡先) 096-373-5702 203 免疫1 HTLV-1 感染者にみられる甲状腺機能異常と末梢血異常細胞数ならびに 血小板減少:サイトカイン受容体血中濃度との関係についての考察 ○藤崎 恵、武本 重毅、大野 剛史、宮本 望、濱口 絵実、永田 雅博、橋本 龍之 (国立病院機構熊本医療センター 臨床検査科)、東 輝一朗(同 糖尿病・内分泌内科) 【はじめに】 HTLV-1キャリアがシェーグレン症候群などの られステロイド療法により血小板数の回復を認めたが、これ 自己免疫疾患を発症することが知られている。そして自己 に伴い両可溶性サイトカイン受容体値は低下した。またバ 免疫疾患患者血清中では可溶性サイトカイン受容体濃度 セドウ病と診断された慢性型ATL患者(症例2)では、甲状 が高い値を示すことが報告されている。今回、甲状腺機能 腺機能亢進時にみられた末梢血中異常細胞が、治療によ 異常を合併したHTLV-1感染者血清中の可溶性インターロ る甲状腺機能改善に伴い減少した。さらに血清中の可溶性 イ キ ン 2 受 容 体 ( sIL-2R ) 濃 度 な ら び に 可 溶 性 CD30 サイトカイン受容体値も低下した。 (sCD30)濃度を定期的に測定し、血小板数と末梢血中の 【考察・まとめ】 HTLV-1感染と甲状腺機能異常との関係 異常細胞数(あるいは異型細胞数)との関係ならびに可溶 について検討した。症例1は血中可溶性サイトカイン受容 性サイトカイン受容体濃度と甲状腺機能について調べた。 体(sCD30とsIL-2R)濃度上昇と血小板減少に、症例2は 【対象】 2005年10月から2010年9月の間に当院を受診し 血中甲状腺ホルモン値と可溶性サイトカイン受容体濃度、 たHTLV-1キャリア25例中、4例に甲状腺疾患(甲状腺機 末梢血中ATL腫瘍細胞数の3者にそれぞれ関連性が認め 能低下症2例、慢性甲状腺炎、甲状腺腫)を認めた。その られた。最近我々は、HTLV-1感染者でこれらの血清中可 中の1例、およびバセドウ病と診断された慢性型成人T細胞 溶性サイトカイン受容体濃度の上昇とATL発症・進展との 白血病・リンパ腫(ATL)患者1例について検討を行った。 関係を調べており、HTLV-1キャリアの甲状腺機能異常と 【結果】 甲状腺機能低下症患者(症例1)は橋本病と診断 ATL発症についても考察する。 され、内服治療を受けたが、1例は血小板減少を合併して おり、他のHTLV-1キャリアと比較して高い血清sCD30値を 連絡先) 096-353-6501(内線3305) 示した。特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の合併が考え 204 免疫2 抗 ds-DNA 抗体の avidity 測定に関する検討 ○長島 美紀、光本 尚美、山下 昭一郎、池田 勝義、大林 光念 (熊本大学医学部附属病院 中央検査部)、大田 俊行(飯塚病院膠原病リウマチセンター) 安東 由喜雄(熊本大学大学院生命科学研究部神経内科学分野) 【目的】 現状、各種自己抗体の検出法としては、その存在 CH50値との関係を検討したところ、CH50低値群(CH50 の有無を確認する定性検査が主流であるが、麻疹ウイルス ≦ 30U/ml ) に 比 べ 同 高 値 群 ( CH50 ≧ 49U/ml ) で 抗 に対する抗体など、一部の抗体検査においては、抗体の質 ds-DNA抗体のavidityが弱い傾向にあった。CRP高値群 的分析法として結合力の測定が実用化されている。今回 ( CRP>0.3mg/dl ) と非 高値 群 ( CRP ≦0.3 mg/dl )で は 我々は、全身性エリテマトーデス(SLE)の疾患標識抗体で CRP高値群で抗ds-DNA抗体のavidityが高い傾向にあっ ある抗ds-DNA抗体について、その結合力(avidity)、およ た。一方、血沈の高値群(1時間値>15、2時間値>40)と非 びavidityとSLEの病態との関連性を追求することを目的と 高値群(1時間値≦15、2時間値≦40)では、抗ds-DNA抗 して検討をおこなった。 体のavidityに有意差を認めなかった。 【対象】 当院を受診したSLE患者74名。 (2) 臨床所見の詳細と抗ds-DNA抗体のavidityとの関連 【方法】 全例について、 (1) MESACUP DNA-Ⅱテスト について検討したところ、特にループス腎炎群において抗 「ds」(MBL)を用い、従来の手順で血清抗ds-DNA抗体を ds-DNA抗体のavidityが63.2%と高かった。 定量するとともに、0.05 mmol/l のNaClを添加し、イオン 【結論】 (1) 反応緩衝液のイオン強度を変化させることで、 強度を調整した反応緩衝液を用いた方法においても抗 抗ds-DNA抗体のavidityを確認できた。 ds-DNA抗体を定量し、前者に対する後者の%比率を抗 (2) 抗ds-DNA抗体のavidityはCH50値と逆相関、CRP ds-DNA抗体のavidityとして求めた。さらに、 (2) SLE と相関する傾向にあり、特にループス腎炎との親和性が高 の疾患活動性の指標とされるCH50や、CRP、血沈値を測 いことが判明した。 定し、同値や臨床所見の詳細と抗ds-DNA抗体のavidity との関連性について検討した。 連絡先)096-373-5711 【 結果】 (1) 今回算出した抗ds-DNA抗 体のavidityと 205 免疫2 シトルリン化抗原に対する抗体測定試薬ステイシア MEBLux テスト CCP の検討 ○森 絵莉子、竹中 美実、杉本 勝哉、水永 正一、宮子 博(大分大学医学部附属病院 医療技術部臨床検査部門)、高橋 尚彦(大分大学医学部附属病院 検査部) 【はじめに】 関節リウマチ(RA)は、関節滑膜が増殖し炎症 法とも2.7%となった。 ②日差再現性:両濃度の検体をノン 性サイトカインによって軟骨・骨の破壊が進行する慢性の全 キャリブレーションで15日間連続測定した結果、CVは低濃 身性炎症性自己免疫疾患である。シトルリン化抗原に対す 度4.0%、中濃度3.0%であった。 ③相関:0.6~300U/mL る自己抗体(抗CCP抗体)はRA発症早期から検出されるた の検体では回帰式1.2578x-0.4031、相関係数r=0.9499 め、早期診断に有用である。現行法はELISA法を原理とし であった。このうち乖離検体が4検体認められた。 ④判定 た方法であり測定時間に約3時間を要している。これに対し 一致率:陽性一致率は90.6%、陰性一致率は100%であっ 測 定 時 間 が 19 分 と 短 い CLEIA 法 を 用 い た ス テ イ シ ア た。 MEBLuxテストCCPを検討したので報告する。 【考察・まとめ】 検討結果より、同時再現性、日差再現性、 【対象および方法】 現行法は免疫検査装置Quad-MACS 判定一致率いずれも良好な結果が得られた。乖離が認め にてMESACUP-2テストCCP(株式会社医学生物学研究 られた4検体を精査した結果、現行法:陽性/新規法:陰性 所)用い、新規法は全自動臨床検査システムSTACIAにて の2検体は非特異反応による偽陽性の可能性が示唆され ステイシアMEBLuxテストCCP(三菱化学メディエンス株式 た。現行法、新規法ともに陽性で値が乖離した2検体は測 会社)を用いた。新規法において ①同時再現性、 ②日 定法の違いによる乖離と考えられたが、現在精査中である。 差再現性、 ③実検体(平成24年10月から平成25年6月に 新規法は現行法と同等の結果が得られ、かつ測定時間が 測定された54件)における現行法と新規法の相関、 ④判 短縮される。早期診断、早期治療介入が重要とされる関節 定一致率について比較した。 リウマチ診療において貢献度が大きいと期待される。 【結果】 ① 同 時 再 現 性 : 低 濃 度 ( 30U/mL ) と 中 濃 度 連絡先)097-586-6047 (185U/mL)の検体を連続20回測定した結果、CVは両方 206 免疫3 HISCL-2000i を用いた NT-proBNP 測定試薬の基礎的検討 ○小田 秀晴、高橋 由華、曽我 いずみ、中島 頼恵、伊﨑 精一 (社会保険稲築病院 検査部) 【目的】 NT-proBNPはBNPと共に心不全マーカーとして その診断や病態把握に有用性が認められている。 NT-proBNPは血清測定が可能であり、BNPと比べて検 体安定性が高いとされている。今回我々は、シスメックス社 のHISCL用NTproBNP測定試薬を使用する機会を得、 若干の知見を得たので報告する。 【方法】 当院外来患者および入院患者を対象として、 NTproBNP、BNP、推算糸球体濾過率(eGFR)、心エコ ー を 実 施 し た 。 分 析 機 器 ・ 試 薬 と し て 、 HISCL-2000i 「HISCL NTproBNP」(シスメックス社)、E170「エクルー シ ス 試 薬 NTproBNPⅡ 」 ( ロ シ ュ 社 ) 、 Dimension Vista1500「フレックスカートリッジBNP V」(シーメンス HCD 社 ) を 用 い た 。 再 現 性 に は バ イ オ ・ ラ ッ ド 社 の Liquichek Cardiac Markers Plus Control LTを用い た。 【結果】 1) 基礎的検討:同時再現性のCVは1.77~ 2.79%、日差再現性は1.70~3.05%であった。直線性は標 準液の希釈で実施し、検量線の傾きに沿った直線性を確 認することができた。検体の安定性について3日間実施し、 変動率4.7%以内と良好な安定性が得られた。 2) 相関:エクルーシスNT-proBNPⅡ試薬との相関は y=0.991x+29.80 R=0.9961であった。BNP測定試薬との 相関はy=10.479x-118.62 R=0.9006であった。 3 ) eGFR お よ び 心 エ コ ー と の 関 連 性 : eGFR60ml/min/1.73m2未満の群において、BNPと比較 し て NT-proBNP の 著 明 な 増 加 が 認 め ら れ た 。 eGFR60ml/min/1.73m2以上の群での心エコーについて は、左室駆出率の相関係数が0.6965と有意な相関を示し た。また僧房弁・三尖弁逆流の重症度評価(半定量)にも NT-proBNPは相関を示し、臨床症状を反映していると考 えられる。 【まとめ】 HISCL-2000iによるNT-proBNP測定では基礎 的な性能およびBNP、心エコーとの相関関係において良 好な成績が得られた。さらに測定時間17分と短時間で結 果を得ることができ、検査業務の効率化および患者サービ スの向上に有用な測定法であると考えられる。 連絡先) 0948-42-1110(内線144) 207 免疫3 ノロウイルス検査(イムノクロマト法と RT-PCR 法)結果不一致に関する報告(第2報) ~クイックナビノロ2(イムノクロマト法)の検討~ ○大山 佳宏、佐藤 清八、志賀 美佐子、衛藤 文子、河野 大吾、大塚 美里、 江藤 美幸(湯布院厚生年金病院 中央検査室) 【はじめに】 昨年本学会において、ノロウイルス迅速診断 キット;クイックナビノロとRT-PCR法との結果不一致を報告 した。その後デンカ生研と共同で、原因究明の詳細分析を 行ったので報告する。 【目的】 第1報で嚥下補助食品の影響により偽陽性となっ た事が考えられる為、嚥下補助食品摂食者の便検体を対 象として特異性の確認を行う。 【方法】 嚥下補助食品摂食者の便検体を対象として①従 来品クイックナビノロ(以後ナビノロ)、②改良型クイックナビ ノロ2(以後ナビノロ2)、③RT-PCR法の検査を実施した。 凍結保存した検体をデンカ生研にて①②③にて検査を実 施し、当院でも同時提出された便で①②の検査を実施し た。 【結果】 検査数28、平均年齢77.8歳。ナビノロ:陽性1件、 ナビノロ2:陽性0件、RT-PCR:陽性0件となり、RT-PCR法 との特異性はナビノロで96.4%、ナビノロ2は100%であっ た。 【考察】 今回の検討において、ナビノロより改良型ナビノロ 2では嚥下補助食品の影響は受けにくい事が示唆され、臨 床に活用できるものと思われる。ただし嚥下補助食品の全 てを対象としたわけではないので、その事を念頭に検査を 実施する必要がある。 【まとめ】 ナビノロの検査結果が陽性となった検体を、確認 の為RTPCR法を行ったところ全てで陰性となった。この事 がきっかけとなり、原因究明の詳細分析等が行われその結 果検査キットの改良にも繋がった。今後も患者背景に注意 を払いながら、検査実施・判定していくことが重要と思われ る。 連絡先) 0977-84-3171 内線183 208 免疫3 高感度トロポニンT測定の検討 ○平川 綾那、坂元 美智、黒木 恵美、清 真由美、野口 裕史、花牟禮 富美雄 (社会保険宮崎江南病院 検査部) 【はじめに】 急性心筋梗塞は非典型的な症状を示す症例 性 : ≦0.021ng/mL 、 微 小 心 筋 障 害 の 疑 い : 0.021 ~ があることが知られている。心電図においても特徴的なST 0.100ng/mL、陽性:0.100ng/mL≦に判定すると、高感度 上昇を示さない症例(非ST上昇型)もみられることより、心 トロポニンT(陽性)・トロップT(陽性)10件、高感度トロポニ 筋バイオマーカーとの併用が有用であるとされている。当院 ンT(微小心筋障害の疑い)・トロップT(陽性)1件、高感度ト ではトロポニンT定性試薬を目視判定で用いているが、今 ロポニンT(微小心筋障害の疑い)・トロップT(陰性)7件、高 回、高感度トロポニンT定量試薬による比較検討を行う機会 感度トロポニンT(陰性)・トロップT(陰性)16件で、一致率 を得たので報告する。 は76.5%(26/34)であった。高感度トロポニンTにて微小心 【対象と方法】 筋障害の疑いであった8件(8症例)は、心電図などの詳細 2011年8月から2012年2月の間に、トロポニンT定性試 な検討が今後必要な症例と思われた。高感度トロポニンT 薬トロップTセンシティブ(ロシュ・ダイアグノスティックス社 が高値であった2症例において、4.155 ng/mLの症例は前 製)が依頼された32症例・34件を対象とした。測定には同 壁から側壁に心筋梗塞を認め、7.246 ng/mLの症例は心 時に採取された血清を凍結したものを用いて、後日、化学 筋梗塞のため発症後二日目に死亡された。 発光酵素免疫分析装置スフィアライトワコー(和光純薬工業 【まとめ】 高感度トロポニン T は目視による判定を必要とせ 社製)と高感度トロポニンT定量試薬スフィアライト トロポニ ず、高感度の定量が可能である。微小心筋障害~高度の ンT(三洋化成工業社製)にて測定を実施した。 心筋障害を捉える可能性が示唆されたが、虚血性心疾患 【結果】 高 感 度 ト ロ ポ ニ ン T 測 定 値 は 0.000 ~ 7.246 以外の心不全や腎不全などを考慮した詳細な検討が必要 ng/mLであった。 高感度トロポニンT測定の結果を、陰 と思われた。 211 血液1 静脈血栓塞栓症 screening の為のプロテイン S 比活性測定の意義と問題点 ○古野 かおる、山本 梨恵、池田 佳会、松田 一之、上平 憲 (長崎市立市民病院 検査部) 【はじめに】 プロテインSは、肝臓や血管内皮細胞などで 産生されるビタミンK依存性血漿蛋白であり、活性化プロテ インC(APC)による活性第V因子および活性第Ⅷ因子の 分解、失活化反応を促進する凝固制御因子である。長崎 国際大学濱﨑教授らの研究により、プロテインS遺伝子変 異による活性低下(質的異常)は、静脈血栓塞栓症(深部 静脈血栓症/肺塞栓症)の血栓性素因であると明らかにさ れた。また、プロテインSの活性値(μg/ml当量)と抗原量 (μg/ml)の関係から変異を予測できる可能性が示唆されて いる。そこで今回、その検証を試みた。 【対象・方法】 2012年12月~2013年6月の間、当院受診 患者の中で凝固検査または超音波検査の依頼のあった患 者92例(男:女=59:33)、年齢31~86歳(平均66.3歳)を 対象とした。総プロテインS活性値と総抗原量を測定し、総 活性値を総抗原量で除した比活性を求めることにより比較 した。 【結果・まとめ】 92例の内、ワーファリン服用患者が23例、 アスピリン服用患者が10例含まれていた。ワーファリン服用 患者の活性値低下は軽度であったが、抗原量は有意に低 下しており、比活性は高くなる傾向があった。アスピリン服 用患者にはその傾向は見られなかった。このことより、比活 性はワーファリン服用患者のscreeningには用いることが出 来ないと考えられた。 ワーファリン服用患者を除いた69例(男:女=46:23)、 年齢31~88歳(平均年齢65.4)の比活性を求めた。濱﨑 教授らによると男0.79、女0.76までが基準範囲とされている。 今回の測定からはそれに近い0.80をカットオフ値とできる 結果が得られた。0.80以下の症例は9例(13%)存在し、抗 原量に対し、より抗原の活性が低い質的異常が疑われる集 団となった。プロテインS比活性が静脈血栓塞栓症の血栓 性素因のscreeningに用いることができると推測された。今 後、この9例の遺伝子変異を解析予定である。 連絡先) 095-822-3251(内線2371) 212 血液1 エンドトキシン(LPS)刺激末梢血単核球からの組織因子(血液凝固第Ⅲ因子)発現量の 定量的解析に関する研究(第2報) ○岡本 早織、呉屋 江合奈(熊本保健科学大学 医学検査学科4年生)、 河田 仁、菊池 亮(熊本保健科学大学 医学検査学科) 【はじめに】 好中球顆粒内のエラスターゼ(NE)はフィブリ FCM(BD社 FACSVerse)で解析した。 ン塊を分解することが知られており、分解産物はe-XDPと 【結果】 無刺激でのTFmRNA発現量を1.0としたときの相 呼ばれ、感染症DIC患者血清中のe-XDPは高値であった 対発現量(2名の平均値)は、LPS刺激で48.2倍、NE刺激 例が報告されている。昨年は、末梢血単核球をエンドトキシ で2.4倍、LPS+NE刺激では51.1倍と、LPS刺激に反応し ン ( LPS ) と NE で 刺 激 し て TF と 炎 症 性 サ イ ト カ イ ン の てTFmRNAへの転写量は約50倍増加したが、LPS+NE mRNA量をRT-PCR法で、単球表面のTF蛋白量を蛍光 刺激ではLPS刺激と有意な差はなく、LPSとNEとの相乗 抗体法で定性的に解析したところ、LPS刺激、NE刺激より 作用はみられなかった。単球表面上にTF蛋白を発現して もLPSとNEの共培養(LPS+NE刺激)でTFと好中球遊走 いる細胞の割合は、無刺激で3.9%、LPS刺激で73.0%、 因子(IL-8)の発現が増強される傾向がみられたことを報告 NE 刺 激 で 5.5% 、 LPS+NE 刺 激 で は 66.9% で あ り 、 した。そこで今年は、TFm RNA発現量をリアルタイムPCR TFmRNAの結果と同様にLPS+NEの相乗効果は確認さ 法で、単球表面のTF蛋白陽性率をフローサイトメトリー れなかった。 (FCM)法で定量的に解析し、昨年の実験を再確認するこ 【考察】 炎症・感染症では感染菌由来のLPSで単球/マ とを目的とした。 クロファージが刺激されるとTF産生が高まり、凝固線溶反 【方法】 演者2名の末梢血から単核球(MNC)を分離し、 応が亢進する。他方、活性化好中球による内皮細胞障害 RPMI1640培養液に浮遊した。細胞培養皿に単核球2×10 は好中球が放出するプロテアーゼ、中でもNEによって起こ 6 個、LPS終濃度1μg/mL、NE 5μg/mLを添加し、5%炭酸 ると考えられている。今回の検討ではLPSとNEのTF産生 ガス培養器内で4時間と24時間培養した。4時間培養の単 への相乗作用は明らかではなかった。IL-8mRNAのリアル 核球でTFmRNA発現量(Roche社 Light Cycler Nano) タイムPCRは現在解析中である。 を測定、24時間培養では単球分画のTF発現細胞率を 連絡先) 096-275-2137 213 血液1 簡易プロトロンビン時間測定器コアグチェックの精度管理に用いる被検血漿に関する研究 ○菊池 真生子、北原 美加(熊本保健科学大学 医学検査学科4年生)、 河田 仁、菊池 亮(熊本保健科学大学 医学検査学科) 【目的】 近年、プロトロンビン時間(PT)測定用POCT機器 た。③:①と②の検討で得た最適条件でのPT-INRの同時 であるコアグチェック(エーディア社)が普及しているが、コ 再現性を求めた。④:硫酸バリウム吸着血漿でPT-INRを アグチェックは指頭血(抗凝固剤無添加全血)を検体とし、 測定した。 クエン酸血漿は測定不可とされている。我々は、クエン酸 【結果】 CP2000で測定したPT-INRは、健常プール血漿 血漿に塩化カルシウム(CaCl2)液を添加することによって は0.99、サイトロールは1.01、コアグピアは1.02であった。 コアグチェックでPTを測定できることを見出した。そこで、ク 検討①では、CaCl2(12.5mMに固定)でのクエン酸血漿と エン酸血漿とCaCl 2液の混合比やCaCl 2 の最適濃度など CaCl 2 液 の 混 合 比 が 1:1 の と き の 健 常 プ ー ル 血 漿 の を求め、PT-INRの再現性等を検討した。また、正常硫酸 PT-INRは1.0、サイトロールとコアグピアは1.2であったが、 バリウム吸着血漿(第Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ因子が減少)を作製し、 他の混合比では1.2~1.4であった。検討②クエン酸血漿と ワ ル フ ァ リ ン 服 用 模 擬 血 漿 と し た 。 コ ア プ レ ス タ 2000 CaCl 2 液の混合比を1:1にした時のCaCl 2 の終濃度は (CP2000、積水)のPT-INRと比較し、本機器のクエン酸 7.5mMが最も良好で、健常プール血漿は1.0、サイトロー 血漿を用いた精度管理への応用を検討した。 ルとコアグピアは1.1であった。①と②で求めた最適条件 【試料・方法】 被検血漿は健常クエン酸プール血漿、市販 (15mM CaCl2:血漿=1:1)での10回測定の同時再現性 コントロール血漿2種(サイトロール、コアグピアコントロー は平均値1.01、SD0.33、CV=3.13%と良好であった。④ ル)を用いた。①:CaCl2液の終濃度を12.5mMに一定にし、 の硫酸バリウム吸着血漿はPT-INR 8.0まで測定可能であ クエン酸血漿とCaCl2液の混合比を3:1、2:1、1:1、1:2、1:3 った。 と変えた検体。②:クエン酸血漿とCaCl2液の混合比を1:1 【考察】 健常プール血漿や市販コントロール血漿でもコア に 固 定 し 、 CaCl 2 の 終 濃 度 を 2.5 、 5 、 7.5 、 10 、 12.5 、 グチェックの精度管理が可能と思われる。 15mMと変えた検体で、CaCl2の最適濃度と混合比を求め 214 血液2 治療経過中に cup-like 核形態異常が出現した AML-M1 の一例 ○真藤 和弘、黒田 優子、宇留島 里依、古賀 眞理、原田 哲太、渡辺 恵子(高木病院 検査室)、桑原 伸夫(同 血液内科)、福島 伯泰(国際医療福祉大学 医学検査学科) 【はじめに】 AML cup-likeとは、カップ様の核陥入が核径 の25%以上を占める核形態異常を芽球の5%以上に認め たものと定義されている。今回当院で治療経過中に cup-like核形態異常を伴う芽球が出現したAMLを経験し たので報告する。 【症例】 77歳男性。近医にて糖尿病などを加療中に貧血 と白血球減少を指摘、骨髄穿刺にて急性骨髄性白血病と 診断され、当院入院となった。 入院時の末梢血はWBC 2030 /μl、Hb 8.7 g/dl、骨髄 芽球6%、骨髄では骨髄芽球はNECの90%でありAuer小 体をもち、MPOは陽性であった為、FAB分類AML-M1と 診断した。FCMにてCD13、33陽性、CD34、HLA-DR陰 性であった。染色体分析は正常核型を示し、白血病マル チキメラスクリーニング検査では特異的な融合遺伝子を認 めなかった。強力な化学療法を望まれなかったため Azacitidine(AZA) 130mg /body×4日間を計4コース行 った。AZA 療法3コース後、発症3.5ヶ月後の骨髄穿刺で は骨髄芽球はNECの81%と初診時と同様で、末梢血は芽 球が15%程度とむしろ増加傾向であった。発症4.5ヶ月後 にはWBCが4万/μlまで増加し、末梢血にcup-like核形態 異常を伴う芽球の増加を認めた。緩和治療の方針となり、 発症の約5.5ヶ月後に死亡した。 【考察】 治療経過中にcup-like核形態異常を伴う芽球が 出現したAMLを経験した。cup-like-AMLはCD34陰性、 HLA-DR 陰 性 の 細 胞 表現 型 を示 し、 FLT3/ITD 変 異 、 NPM1遺伝子を持つ割合が高いと報告されており、形態 診断で遺伝子異常を推測できる。本症例では初診時には cup-like核形態異常は指摘されておらず、治療後に出現 した点が興味深い点と思われた。cup-like核形態異常は 骨髄より末梢血で認識されやすく、日常業務において仔細 な形態異常を見逃さないことが重要である。 連絡先) 0944-87-9495(検査室直通) 215 血液2 播種性血管内凝固症候群(DIC)、Leukoerythroblastosis に高度の好酸球増多を伴い、 骨髄穿刺を契機に診断に至った骨髄癌腫症およびスキルス胃癌の一症例 ○日高 大輔、杉尾 勝代、磯野 奈々、桑岡 勲(飯塚病院 中央検査部) 【はじめに】 癌のびまん性骨髄転移(骨髄癌腫症)は、比 136mEq/l、K 4.1mEq/l、Cl 104mEq/l、Ca 8.6mg/dl、 較的若年者に多く、転移しやすい癌として消化器癌、特に Glu 105mg/dl、Amy 54U/L、TP5.8 g/dl、Alb 2.8g/dl、 胃癌に多い。一般に貧血、血小板減少による出血傾向およ CRP 2.22 mg/dl びLeukoerythroblastosisを呈することが知られている。急 【経過】 輸液にて経過中に貧血が進行。出血源である子 激な経過の中で診断に難渋する場合もあり予後不良である。 宮の摘出術を施行するも凝固異常の改善なし。血液疾患 今回DIC、Leukoerythroblastosisに高度の好酸球増多 鑑別目的で骨髄穿刺施行。異常細胞の集族を認め骨髄癌 を伴い、骨髄穿刺を契機に診断に至った骨髄癌腫症およ 腫症の診断となる。追加検査した腫瘍マーカーの結果およ びスキルス胃癌の一例を経験したので報告する。 びCT上、腹部リンパ節腫脹が著名なことより肝臓内科およ 【症例】 (患者):40歳代、女性 (主訴):不正出血、左頚 び消化器内科紹介。内視鏡検査にてスキルス胃癌の診断 部リンパ節腫大 (既往歴):子宮内膜症 (現病歴):平 となる。 成24年1月より不正出血あり。粘膜下筋腫疑いにて当院婦 【考察】 一般に高度の好酸球増多は白血病、好酸球増多 人科を紹介受診。 症(HES)などの存在を示唆するとされる。また腫瘤形成に 【 入 院時 検査 所見 】 (血 液 学) : WBC 11020/μl( Neu 乏しい癌の場合、画像検査では捕らえにくく本症例は多発 48.1%、Lym 13.9%、Eos 32.7%)、RBC 268×10^6/μl、 性リンパ節腫脹、DIC、Leukoerythroblasto -sisに加え高 Hb 7.5g/dl、Ht 23.3%、Plt 21.1×10^4/μl、 (凝固):PT 度の好酸球増多を認め、血液疾患鑑別目的に骨髄穿刺を 検 査 不 能 、 APTT 31.9sec 、 Fib <70.0mg/dl 、 ATⅢ 施行した。癌細胞が孤立性にみられる場合は細胞の同定 68.0%、FDP 68.6μg/ml、DD 23.7μg/ml、 (生化学): が難しい場合もあり、骨髄鏡検に際して非造血器腫瘍細胞 AST 30U/L、ALT 23U/L、LDH 250U/L、CK 69U/L、 の骨髄浸潤も十分に考慮する必要があると考えられる。 T-Bil 0.3mg/dl 、 BUN 12mg/dl 、 Cre0.6 mg/dl 、 Na 連絡先) 0948-22-3800(内線5253) 216 血液2 末梢血中に異常細胞を認めた血管内大細胞型 B 細胞性リンパ腫の一症例 ○日高 里美、有吉 知子、高見 早矢加、迫村 竜巳、河村 大輔、松木 康真 (大手町病院 臨床検査部)、萬納寺 正清(萬納寺医院) 【はじめに】 血 管 内 悪 性 リ ン パ 腫 症 ( intravascular lymphoma 以下IVL)は、B-cell typeのlymphoma cell が血管内腔を閉塞し、多彩な臨床症状を呈する疾患であ るが、末梢血中に腫瘍細胞を認めることはまれで、診断が 困難であることが多い。今回我々は、末梢血中に異型細胞 を認め、IVLと診断に至った一例を経験したので報告す る。 【症例】 82才 女性。発熱、血尿あり。尿路感染症の診断 で抗生剤投与するも、発熱改善せず当院紹介入院となる。 脳梗塞後遺症 関節リウマチ 認知症あり。 【入院時検査】 WBC6000/μl RBC309 万 /μl Hb 9.3g/μl HCT 28.4% MCV92.1fl PLT17.4 万 /μl (Neu75.3% Lym9.4% Mon4.0% Eos3.8% Bas 1.1% Luc6.5% ) LDH457U/l BUN70mg/dl CRE 2.36 mg/dl CRP 9.66mg/dl PT-INR1.10 APTT 36.4秒 D-D0.9 ng/ml 尿蛋白(1+) 尿糖(±) 尿潜血(3+) 【経過】 末梢血標本中、大型で核形不整 核小体を認め る異型細胞が出現。臨床は、ウイルス感染によるものと疑っ ていたが、細胞形態から感染による細胞とは考えにくい旨 を伝え、併せて追加検査を実施した。同細胞は、MPO(-) CD20(+) CD3(-) AE1/AE3(-)を示し、B細胞由来のリ ンパ球と診断した。異型細胞の出現はあるが、明らかなリン パ節の腫大は無く、前胸部に毛細血管の拡張があり、可溶 性IL-2レセプターが 3598IU/mlと高値であった事より、 IVLを疑い皮膚生検を実施し、毛細血管内に異型リンパ球 の出現を認めた。 【まとめ】 今症例は末梢血中の異型リンパ球の出現が契機 となり、IVLと診断できた貴重な症例であった。検査室と臨 床が情報交換を行い最終診断に至った症例で、臨床との 情報交換の重要性を感じた。今後は、リンパ節腫大が無く ても、LDHと可溶性IL-2レセプターが高値である不明熱で は、IVLも考慮すべきであると考える。 連絡先) 093-592-5511 内線3517 217 血液2 末梢血液像の異常細胞の検出を契機に診断された神経芽腫の一例 ○広瀬 亮介、山口 大輔、飯田 嘉昭、松永 洋、安部 淳一、吉河 康二 (国立病院機構別府医療センター 臨床検査部)、後藤 真希子(同 小児科)、 河野 克也(大分県立病院 臨床検査技術部) 【はじめに】 15歳未満の小児腫瘍の約一割を占める神経 芽腫おいては、フローサイトメトリー法やPCR法では末梢血 から腫瘍細胞を検出できると言われているが、末梢血液像 検査で異常細胞が発見されることは稀ではある。今回我々 は末梢血液像で少数の異常細胞を検出することが神経芽 腫診断の契機となった症例を経験したので報告する。 【症例】 男性、3歳4ヶ月。主訴:一ヶ月以上持続する腹痛。 既往歴及び家族歴:特筆すべき事項なし 【入院時検査所見】 血算 WBC 5720/μl、RBC 385万/μl、Hb 10.5g/dl、MCV 81.6fl、MCH 27.3pg、MCHC 33.4%、PLT 11.5万/μl、 Seg 57.0%、Stab 3.0%、Lym 29.5%、Mono 8.0%、Eos 1.0%、Baso 0.5%、後骨髄球 0.5%、芽球様細胞 0.5%。 芽球様細胞の形態:細胞径は大小不同を有し、核/細胞質 比は中~大、核クロマチンは増量し細顆粒状、核形は類円 形、一部に著明なくびれや切れ込み様の核不整を認め、 細胞質は塩基性に富み、空胞も数個有していた。PO染色 (-) 生化学・免疫 TP 7.4g/dl、T-bil 4.5g/dl、LD 5420IU/l、 AST 113IU/l、ALT 7IU/l、CK 417IU/l、Cr 0.29 mg/dl、 Fe 24μg/dl、フェリチン 351ng/ml、CRP 2.60 mg/dl 凝固・線溶 PT 13.9秒、PT-INR 1.18、APTT 33.6秒、 FIB 299mg/dl 、 ATⅢ 101 % 、 D-D 19.6μg/dl 、 FDP 31.7μg/dl 【入院後経過】 CT検査を施行したところ腹部大動脈周囲 に巨大な腫瘤形成を認めCT所見からも悪性が疑われた。 その後確定診断と治療目的のために転院し、神経芽腫と 診断された。 【考察】 末梢血液像で異常細胞に遭遇した場合、神経芽 腫も鑑別診断として考慮すべきと思われた興味深い症例を 経験した。今回検出した異常細胞の特徴が他疾患と鑑別 できるかは症例を重ね検討する必要があると考えられた。 連絡先) 0977-67-1111(内線336) 218 血液3 診断に苦慮したウイルス関連血球貪食症候群の一症例 ○佐藤 和宗、古庄 紗己、籾井 美里、今村 綾、井田 博之、松本 恵美子、西浦 明彦 (国立病院機構九州医療センター 臨床検査部) 【はじめに】 EBウイルスはヘルペスウイルス科に属するウ 【骨髄検査】 有核細胞数12×103/μL 巨核球数10/μL骨 イルスで、日本では乳幼児期に感染し、大部分が不顕性感 髄所見:中型~大型で、核型不整を伴い、核網は粗荒状 染である。思春期以降に感染した場合には、伝染性単核球 ~繊細と多様性(単球類似型、形質細胞型、芽球型)の異 症を発症することがある。またBurkittリンパ腫、上咽頭癌 型リンパ球様細胞を23.2%認めた。また、明らかな血球貪 などの原因ウイルスとしても知られており、感染症から癌ま 食像が認められたため、骨髄像から血球貪食症候群が疑 で様々な疾患に関与している。今回我々はEBウイルスがT われた。その後の精査にてEBV DNAサザンブロット法から 細胞に感染しモノクローナルな増生を示した血球貪食症候 感染細胞のモノクローナルな増生が確認された。細胞表面 群を経験したので報告する マーカー:CD2+、CD3+、CD5+、CD7+、CD8+ 【症例】 24 歳 男 性 。2012 年 6 月 上 旬に 腹 痛 、腰 痛 、 【臨床経過】 EBウイルス関連血球貪食症候群に対して、 39.0℃台の発熱で近医受診。食中毒を疑われ、抗生剤を HLH-2004プロトコール(エトポシド+デキサメタゾン+シクロ 処方されたが、症状は改善されなかった。検査にて白血球 スポリン)にて加療開始。同種臍帯血移植後、生着不全で と血小板の著明な低下を認め、血液疾患が疑われたため、 あったが、EBV-DNA定量が感度以下であったため、現在 当院へ緊急入院となった。 外来にて経過観察中である。 【入院時検査】 WBC0.3×10 3 /μL ( Ly82% 、 Mo6% 、 【結語】 本症例はWHO分類では小児全身性EBV陽性T Myelo2% 、 異 型 Ly10% ) 、 RBC4.14×10 6 /μL 、 Hb12.1 細胞性リンパ増殖症に分類されるが、ウイルス関連血球貪 g/dL、Plt30×10 3 /μL、PT-INR1.06、APTT52.2秒、Fib 食症候群との鑑別が非常に困難であり、改めて異型リンパ 279mg/dl、FDP810μg/mL、Dダイマー90.7 μg/mL、TP 球の判定の難しさを痛感した症例であった。 6.8g/dL 、 Alb3.4g/dL 、 AST485IU/L 、 ALT184IU/L 、 連絡先) 092-852-0700(内線2069) LDH3943IU/L、CRP21.26mg/dL 219 血液3 末梢血ギムザ染色標本にて菌体を認めた敗血症三例 ○飯塚 伸一郎、栗山 由貴子、坂本 悦子、田中 隆一、芳賀 由美、廣永 道隆、 奥薗 学(九州厚生年金病院 中央検査室) 【はじめに】 敗血症は、細菌感染が全身に波及したもので、 となるも、再度心肺停止となり死亡が確認された。血液像で 臨床的に重篤な症状を呈する。治療が遅れると急速に病 は好中球に空砲が認められ、好塩基性の双球菌様のもの 態が悪化し、ショック、DIC、多臓器不全などから死に至る。 が見られた。髄液細胞数検査においても細菌様のものが 今回我々は、末梢血ギムザ染色標本中に、菌体を認めた 見られた。後日、血液培養から肺炎球菌が検出された。 敗血症を3例経験したので報告する。 【症例3】 60歳代女性。2011年4月に多発性骨髄腫と診断 【症例1】 50歳代男性。2009年に肝機能障害を指摘され され経過観察中であった。2013年4月11日に発熱、悪寒、 ていた。2011年2月9日より発熱、倦怠感および両下肢痛 呼吸苦を認め当院受診となった。血液像では双球菌様の が出現し、当院緊急搬送となった。血液像では好中球に空 ものが少数見られた。末梢血グラム染色で肺炎球菌を強く 胞、中毒顆粒を認め、好塩基性の細長い桿菌様のものが 疑うグラム陽性球菌が認められ、抗菌薬の投与などが実施 見られた。末梢血グラム染色でグラム陰性桿菌が認められ されたが、同日中に永眠となった。後日、血液培養から肺 たため、抗菌薬投与、血液透析、輸血などの治療が実施さ 炎球菌が検出された。 れ た 。 後 日 、 血 液 培 養 か ら Capnocy -tophaga 【結語】 敗血症は死亡率が高い病態だが、早期に積極的 canimorsusが検出され、episodeとしてネコによる掻傷が な治療を開始することで救命できる場合もある。今回の症 あったため、本菌による感染症として治療が開始された。治 例は、基礎疾患はあるが日常生活に支障のなかった人の 療開始51日目に軽快退院となった。 発症だった。免疫低下時には短期間で劇症型感染症に陥 【症例2】 60歳代女性。2011年11月に肺癌に対し左下葉 る場合があるため、日常の血液像をより注意深く観察し、好 切除を行い、当院外来にて補助化学療法施行中であった。 中球の感染症の所見など見落とさず、迅速な判断・行動が 2012年5月31日に発熱、悪寒、呼吸苦、関節痛が出現し とれるように努めなければならないと痛感した。 たため近医を受診、解熱剤を投与されていたが、心肺停止 連絡先) 093-641-9264 状態となり当院緊急搬送となった。1度は頸動脈触知可能 220 血液3 当院にて経験したマラリアの一症例 ○樋口 美紀、安武 由美、小田 新太郎、花岡 栄治 (済生会八幡総合病院 中央検査部) 【はじめに】 マラリアはエイズ、結核と並んで世界の三大感 マラリア精査・加療のため、久留米大学病院 感染症外来 染症にあげられる。ヒトに感染するマラリアには、熱帯熱マラ に紹介。迅速キットにて熱帯熱マラリア以外のマラリアにバ リア、三日熱マラリア、卵型マラリア、および四日熱マラリア ン ド 陽 性 を認 め る 。 末 梢 血 よ り 抽 出 した DNA を用 い て の4種があるほか、稀にサルを宿主とするサルマラリアの感 nested PCRにて三日熱マラリア陽性。 染が報告されている。今回、我々は当院で検出されたマラ 【臨床経過】 抗マラリア薬であるメフロキンを処方された。 リア症例を経験したので報告する。 帰国後、根治療法としてプリマキン投与される。 【症例】 17歳 男性 スーダンからの留学生。平成25年2 【まとめ】 マラリアは四類感染症に位置づけられる輸入感 月6日、高熱のためインフルエンザ疑いにて当院救急を受 染症の一つである。なかでも熱帯熱マラリア原虫はその症 診した。マラリア罹患歴があり、マラリア再発の可能性も考え 状の重篤さから他のマラリア原虫と鑑別することが最も重要 翌日内科受診となった。 であり、血液塗抹標本にて迅速に原虫を証明しなければな 【検査所見】 CTでは、肺野・縦隔に異常所見はなく、腹部 らない。当院は近隣に国際大学があり、外国人患者の受診 では肝脾腫が認められた。WBC 5130/μl、RBC 495万/μl、 も少なくない。今回の希少な経験を生かし、今後も臨床との HGB 13.1g/dl、PLT 14万/μl、ALT 20 IU/l、 ST 15 IU/l、 情報交換を緊密に迅速な診断に努めたい。 連 絡 先 ) LD 191 IU/l、ALP 363IU/l、T-Bil 1.3 mg/dl、D-Bil 0.6 093-643-2930 mg/dl、BUN17mg/dl、CRP 8.06mg/dl、インフルエンザA [email protected] (-) B(-)。末梢血塗抹標本にてマラリア原虫を認めた。 251 血液4 分類不能 B 細胞リンパ腫(DLBCL/BL 中間型)および DLBCL の MYC 再構成陽性例の形質に関する比較検討 ○佐藤 悦子、髙井良 美智代、梶原 希哉、岡田 賢太郎、荒木 信子、馬場﨑 千穂 (聖マリア病院 中央臨床検査センター)、木村 芳三(同 病理科)、今村 豊(同 血液内科) WHO分類(第4版)のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (DLBCL)とバーキットリンパ腫(BL)の中間型特徴を有する 分類不能B細胞リンパ腫(DLBCL/BL中間型;以下、中間 型)は、BLとDLBCLの両者の病理学的組織像と遺伝子学 的特徴を併せ持つ不均一な疾患単位である。抗体薬治療効 果が乏しいとされるMYC再構成とBCL2転座を同時に認める double hit lymphoma(DHL)も中間型に含まれる。中間型 及びDLBCLではMYC陰性例に比べて陽性例では予後不 良であることから、当検査室ではMYC再構成の有無をFISH 法により実施している。今回、染色体分析が可能でFISH法 によりMYC再構成を示した中間型を含めた高侵襲性リンパ 腫について形質および臨床経過について比較検討をおこな ったので報告する。 【対象および方法】 当検査室にてMYC再構成のFISH法 を開始した2004年9月から2013年5月までの9年間で病理組 織像、染色体分析結果より高侵襲性リンパ腫を疑い、転座を 含めMYC再構成の確認が必要だった35症例を対象とした。 プ ロ ー ブ は LSI IGH/MYC 、 CEP8 Set 、 LSI MYC (VYSIS社)を用いた。 【結果】 MYC再構成陽性は35例中11例で、MYC増幅の みは12例であった。病理組織像、遺伝子学的特徴、免疫染 色 よ り BL と 確 定 診 断 し 得 た の は 4 例 、 t ( 14;18 ) 転 座 と t (8;14)転座を同時に認めMIB1陽性、BCL2陽性は3例、 3q27転座(BCL6陽性)とt(8;14)転座は1例、i(18q)とt (8;14)転座は1例であった。t(8;14)転座でMIB1陽性率が 低く、組織像としてはDLBCLが1例(+18付加)、濾胞性リン パ腫(FL)1例であった。11例全てにMYC再構成を確認し、 染色体分析も全て複雑核型であった。 【考察】 MYC再構成陽性の高侵襲性リンパ腫ではBLに 限らず化学療法不応や再燃を繰り返す予後不良症例を経験 した。MYC再構成を認めた 11例のうち、i(18q)、+18、t (14;18) 転座の結果、BCL2が6例陽性であったことも予後 不良因子に加味されると考えられた。BLは高侵襲性リンパ腫 としての治療が初発時より選別可能であるが、中間型および DLBCLのMYC再構成陽性例では、標準的なR-CHOP療 法以外に強力な高用量化学療法も選択肢に入ることから、簡 便なFISH法を用いて迅速にMYC再構成を確認することは 病理学的診断、治療方針を決定するうえで重要であると考え られた。 連絡先) [email protected] 252 血液4 MYC 転座と BCL2 転座を有する Double-hit lymphoma の一例 ○築地 秀典、本山 千恵、堤 陽子、平野 敬之、出 美規子、藤丸 政義、明石 道昭、 森 大輔(佐賀県医療センター好生館 研究検査科) 【はじめに】 Double-hit lymphoma(以下、DHL)は、全 B細胞性リンパ腫瘍の約2%を占め、Double-hit染色体異 常の多くがMYC転座とBCL2転座の共存パターンを示す。 【症例】 64歳、女性。約2年前より左耳後部の痛みを自覚 していた。1年間で約10kgの体重減少あり、2週間前より全 身倦怠感、腰背部痛が出現し、近医受診したところ、白血 球増多と腹部超音波検査、CTにて左鎖骨上部、両腋窩、 腹腔内リンパ節の腫大を認めたため、悪性リンパ腫疑いに て当院血液内科に紹介となった。 【 検 査 所 見 】 〈 血 算 〉 WBC 22,400/μl ( Abnormal cell 54.0%)、Hb 12.3g/dl、PLT 19.9万/μl、 〈生化学〉LD 963U/l、CRP 3.99mg/dl、sIL-2R 6,450 U/l 〈免疫〉 HTLV-1Ab(-) 〈骨髄〉NCC 22.9万/μl、異常リンパ球 (85.6%)の増加に伴い、正常造血の抑制あり。 〈形態所 見〉細胞は中型で、N/C比は極めて大きく、一部に核形不 整を伴い、核網は細顆粒状繊細~粗剛状、核小体を有す る細胞も認めた。 〈末梢血FCM〉CD10+、19+、20+、 38+、HLA-DR+、cyκ+ 〈染色体〉t(8;14)(q24;q32)およ びt(14;18)(q32;q21)を含む複雑核型。〈骨髄病理〉軽度 の異型を伴う中型リンパ球をびまん性に認める。免疫染色 では、CD20(focal+)、CD7(focal+)、CD10(+)、bcl-2 (+)、CD3(-)、CD5(-)、CD23(-)、cyclinD1(-)、TdT(-)、 MIB-1 index:80%より、B細胞性リンパ腫の骨髄浸潤と診 断された。 【診断】 高悪性度B細胞リンパ腫、double-hit lymphoma (IgH/BCL-2 &IgH/MYC) 【経過】 症状は急速で、一度も寛解することもなく、徐々に 化学療法抵抗性となり、最終的には血球回復せず、敗血 症も併発し、約6ヶ月後に永眠された。 【 ま と め 】 DHL は WHO 分 類 2008 に お け る B-cell lymphoma, unclassifiable, with features intermediate between diffuse large B-cell lymphoma and Burkitt lymphomaの多くに認められ、臨床的には、 通常の化学療法に対する反応性は不良で予後も極めて悪 いことが報告されている。また形態学的には、定まった特徴 はなく病理診断も様々であるため、染色体検査やFISH法 の役割は極めて大きいといえる。本症例も臨床経過を含め て従来の報告と一致するものであった。 連絡先) 0952-24-2171 253 血液4 t(11;17)(q23;q21) を認めた急性骨髄性白血病の二症例 ○福田 勝、森 千奈美、波野 真伍、櫛田 千晴、山下 正治、牟田 正一、上野 真 (国立病院機構鹿児島医療センター 研究検査科) 【はじめに】 t(11;17)(q23;q21)は非定型RARA遺伝子 WBC21460/uL(Stab1%、Seg3%、Ly7%、Mono88%、 転座を有する急性白血病の一種で、APLの遺伝子構造の Baso 1 % ) 、 Hb11.1g/dL 、 PLT12 万 /uL 、 LDH279U/L 亜型として採り上げられており、RARA遺伝子の転座相手 骨 髄 : 有 核 細 胞 数 15.2 万 /uL 、 巨 核 球 数 90/uL 、 は11q23に位置するZBYB16(PLZF)である。今回我々は、 Monoblast9.2%、Promono14%、Mono 41.2% 染色体 AML ( M2 ) と AML ( M5b ) の 形 態 像 を呈 した t ( 11;17 ) 検査:46、XX、t(11;17)(q23;q21)より治療関連variant (q23;q21)を認めた急性骨髄性白血病の2症例を経験した MLL translocations in AML(M5b)と診断された。 ので報告する。 【考察】 1症例目はtypeⅠ芽球が主体の中に微細な顆粒 【症例1】 58歳男性 倦怠感主訴に近医受診 汎血球減 を有するtypeⅡ芽球の混在がみられ、APLの遺伝子亜型 少、芽球出現を認めたため当院入院。検査所見:WBC として矛盾しない形態像を呈しており、非定型RARA遺伝 1060/uL(Seg3%、Ly81%、Blastoid16%)、Hb7.0g/dL、 子転座が白血化に関与したものと思われた。2症例目は PLT1万/uL、LDH426U/L 骨髄:有核細胞数0.3万/uL、 AML(M5b)の形態像を呈し、11q23のMLL遺伝子が白 巨核球数<15/uL、Blastoid35%(核類円形、微細な顆粒、 血化に関与したものと思われた。同じ染色体異常であって Aure小体陰性 MPO弱陽性~陽性)、Ly44% FCM: も形態像の違いから白血化の原因遺伝子が異なることが推 CD13、33、HLA‐DR陽性 染色体検査:46、XY、t(11; 測され、白血病発症機序の多様性が示唆された。 17)(q23;q21)ZBTB16/RARAよりAML with a variant 【まとめ】 造血器腫瘍の確定診断には形態所見、染色体・ RARA translocationと診断された。 遺伝子分析などを多角的に解析することの重要性が改め 【症例2】 80歳女性 シェーグレン症候群、DLBCLを主訴 て感じられた貴重な症例であった。 にDLBCL治療のため当院受診。治療中、末梢血に単球 連絡先) [email protected] の増加を認め、骨髄穿刺施行となった。検査所見: 254 血液5 当院における血液疾患および肝硬変の幼若血小板比率(IPF)の検討 ○倉野 珠実、鬼塚 千明、前田 美保子、安藤 陽一郎、石本 哲人、久保田 緑 (国立病院機構福岡東医療センター 臨床検査科) 【はじめに】 幼若血小板比率(IPF:Immature Platelet 22.2%(平均7.8%)、肝硬変1.1~7.3%(平均3.4%)でITP Fraction)は、多項目自動血球分析装置XEシリーズ(シス 患者群では、ほとんどの症例で健常人より優位に高値であ メックス社)で測定できる項目である。末梢血に出現する幼 り、血小板数と逆相関が認められた。MDS患者群では、 若血小板は、骨髄における血小板産生能を反映し、血小 IPF低値と高値の症例があり血小板との逆相関は明瞭では 板減少を伴う疾患の鑑別や経過観察に有用と考えられて なかった。肝硬変患者群では、血小板数が低値であるにも いる。今回、我々はXE-5000の導入に伴い、当院における かかわらず、IPF高値はみられなかった。経時的にみると、 血液疾患および肝硬変のIPFとの関係について検討した ITP患者では発症初期に血小板数低値、IPF高値であり、 ので報告する。 治癒にともなってIPFは低下、血小板数は増加していく経 【対象と方法】 健常人526名、特発性血小板減少性紫斑 過をたどった。またMDS患者では、血小板数・IPFの増減 病(ITP)9名、骨髄異形成症候群(MDS)13名、肝硬変患 を繰り返し、IPFが増加し始めたのち血小板数の増加が認 者 15 名 を 対 象 に 、 XE-5000 を 用 い て 血 小 板 数 お よ び められた。 IPF%を測定した。またITP、MDS症例で経過を追って測 【考察】 血小板減少患者において、IPFの上昇を認めたの 定し、血小板数や疾患との関係を検討した。 ちに血小板数が回復することが確認された。IPFは骨髄に 【結果】 血小板数は、健常人11.3万/μL~45.3万/μL(平 おける血小板産生能を反映していることが示唆され、血小 均24.3万/μL)に対し、ITPは0.4万/μL~7.3万/μL(平均 板減少性疾患の鑑別診断及びモニタリングに有用な検査 2.4万/μL)、MDSは1.0万 /μL~41.5万/μL(平均6.7万 項目であるといえる。 /μL)、肝硬変は3.2万/μL~12.1万/μL(平均8.1万/μL)で あり、優位に低値であった。またIPFは、健常人0.3~9.9% 連絡先) 092-943-2331(内線367) (平均1.7%)、ITP 4.6~43.8%(平均16.6%)、MDS 2.0~ 255 血液5 撹拌による血小板数復元の有用性についての検証 ○中邑 理沙、貴戸 良幸、山田 欣宏、廣滋 和美、島添 瑞世、川淵 靖司 (九州労災病院 中央検査部門) 【はじめに】 2011年の日本検査血液学会学術集会で した。全自動血球計数機はシスメックス社のXE-2100を使 EDTA依存性血小板減少症および、採血に時間を要して 用した。 血小板が凝集した例にボルテックスミキサーを使用して血 【結果】 EDTA依存性血小板減少症に関して、ヘパリン採 小板数が復元できる発表があった。その後、研修会等で賛 血とボルテックスミキサー撹拌後の血小板数は、ほぼ同等 否が論じられている。今回我々はボルテックスミキサーによ もしくは高値を示した。また採血に時間を要し血小板凝集 る血小板数の復元がどれぐらい有用であるかを検証したの が考えらえる症例については、ほぼ全例血小板数の増加 で報告する。 を認めた。白血球数、赤血球数、MCHCに関してはボルッ 【対象】 当院受診者でEDTA依存性血小板減少症と考え テクスミキサーによる細胞破壊等の影響を認めなかった。 られる8例および、採血に時間を要して血小板凝集が認め 血液像においてもボルテックスミキサーによる影響をほとん られた30例について検討を行った。 ど認めなかった。 【方法】 EDTA依存性血小板減少症はEDTA採血、ヘパ 【考察】 撹拌後のスキャッター等は改善しておりMCHCに リン採血、ボルテックスミキサー撹拌後(EDTA採血)の、そ 変化を認めない。よってボルテックスミキサーによる撹拌は れぞれについて血小板数、白血球数、赤血球数、MCHC、 非常に有用なものであると考える。血液像に変化をきたす スキャッターグラフ、血液像を比較検討した。採血時間を要 という発表等があったが、血球の脆弱さが進行している症 して血小板が凝集したと考えられる症例についてはEDTA 例については撹拌前に血液像を作成しておけば良い。血 採血、ボルテックスミキサー撹拌後(EDTA採血)の、それ 小板凝集が考えられる症例においてボルテックスミキサー ぞれについて血小板数、白血球数、赤血球数、MCHC、 を使用すれば再採血やヘパリン等の追加採血を回避でき スキャッターグラフ、血液像を比較検討した。ボルテックスミ るので患者サービスの向上につながると考えられる。 キサーはTAITEC SE-08を使用し、レベル5で2分間撹拌 256 血液5 キレート作用の抗凝固剤添加血では好中球アルカリホスファターゼスコアは偽低値となる ~塩化マグネシウム添加によるスコア回復に関する検討(第2報)~ ○大林 遥加、小山 和恵(熊本保健科学大学 医学検査学科4年生)、 河田 仁、菊池 亮(熊本保健科学大学 医学検査学科) 【はじめに】 アルカリホスファターゼ(ALP)の活性発現に 例、20%低値が2例であった。クエン酸血では無添加血と はMgイオンを必要とするため、キレート作用の抗凝固剤添 同等が7例、10%低値が1例、15%低値が1例であり、クエン 加血では好中球アルカリホスファターゼ(NAP)スコアは偽 酸血の方が偽低値の程度は軽度であった。NAPスコアが 低値となる。よって、NAPスコアは耳朶血などの抗凝固剤 低めの例で抗凝固剤の影響が大きい傾向がみられた。採 無添加血で測定することが推奨されているが、EDTA血で 血10分後に15%以上偽低値となった例では採血30分以後 測定している施設も少なくない。昨年の本学会ではEDTA も偽低値率に大きな変化はみられなかった。15%以上偽低 血では20%程度低下し、EDTAよりもキレート作用の弱い 値となった抗凝固血にMgCl2を添加するとNAPスコアは EGTA(GEDTA)血では10%程度低下することなどを報告 10%程度の偽低値に回復したが、40mM添加においても した。本年度はキレート作用の弱いクエン酸血でも検討した。 回復率に有意な差はみられなかった。 さらに、EDTA血とクエン酸血に塩化マグネシウム(MgCl2) 【考察】 抗凝固血は採血後10分以内に塗抹・固定すれば、 を終濃度10~40mM添加してNAPスコアの回復の有無を 多くの例では10%以下の偽低値であるが、20%近い偽低 観察した。 値を示す例もあり注意を要する。抗凝固剤添加血0.9mLに 【試料・方法】 採血同意が得られた本学学生と教員の計9 100~400mM MgCl2 /0.6%食塩液を0.1mL添加すると、 名からシリンジ採血し、直ちに塗抹(無添加血)した。残りを NAPスコアは10%程度の偽低値に回復することを確認した。 EDTA・2K真空採血管と3.2%クエン酸Na真空採血管(積 臨床応用への可能性を探るため、NAPスコア低値を示す 水)に分注し、10分後に塗抹、30分以内に固定した。一部 CMLやPNH、高値を示す真性多血症や類白血病反応な の検体では採血後30分後と60分後に塗抹し、抗凝固剤曝 どの患者血液で検討を試みたい。 露時間の影響を比較した。 連絡先) 096-275-2137 【結果】 EDTA血は無添加血と同等が6例、10%低値が1 [email protected] 257 免疫4 COBAS6000 を使用した第3世代 TSH レセプター抗体測定試薬の基礎的検討 ○前田 幸子、猪俣 啓子、安藤 朋子、崎村 文香(やましたクリニック 臨床検査科)、 橘 正剛(同 内科)、山下 弘幸(同 外科) 【はじめに】 TSHレセプター抗体(TRAb)は、バセドウ病 の病因であり、TRAb値はバセドウ病の診断、治療効果の評 価に有用な指標である。TRAbの測定試薬は、TSH結合阻 害率を検出する第1世代、第2世代試薬を経て、現在では抗 体量そのものを測定する第3世代試薬が主流となっている。 今回、私たちは免疫自動分析装置を用いた第3世代試薬の 性能評価を行ったので報告する。 【対象・試薬】 対象は当院受診のバセドウ病57例、バセド ウ病眼症7例であった。検討に用いた機器および測定試薬 は、「COBAS6000」および「エクルーシス試薬TRAb」(いず れもロシュ・ダイアグノスティックス社製)であった。 【方法および結果】 1)同時再現性:同時再現性は3濃度 の患者血清をそれぞれ10回反復測定し求め、CV=1.1%~ 6.9%であった。2)日差再現性:日差再現性は、測定試薬の 保存条件(①メーカー推奨保存条件、②迅速検査対応保存 条件)を変えて、3濃度のコントロール血清を5日間2重測定し 求 め 、 ① の 条 件 下 で CV=2.9 ~ 4.6 % 、 ② の 条 件 下 で CV=1.8~6.2%であった。3)溶血の影響:健常者赤血球に て溶血ヘモグロビン液を作成し、3濃度の患者血清にそれぞ れヘモグロビン濃度50・200・400 mg/dlになるよう添加し、 TRAb値を測定したところ、ヘモグロビン溶液添加による正誤 差が確認された。TRAb値の上昇率は50mg/dlで103.7~ 107.8%、200㎎/dlで105.4~111.9%、400㎎/dlで104.3~ 110.6%であった。4)機器間差・セ ル間差の確認:従来測定 機器(外部委託)と当院測定機器でのTRAb値の相関を確認 し、相関係数r=0.99、回帰直線y = 0.9614x + 0.5356であ った。5)TSHレセプター刺激型抗体(TSAb)との相関:バセ ドウ病眼症7例についてTSAbとの相関を確認したところ、7 症例中5症例(71%)は非常に良好な相関(r=0.990)を示し たが、2症例は回帰直線から大きく外れた。 【まとめ】 今回、TRAb測定の院内移行を目的に測定試薬 の検討を行った。基礎的検討の結果は概ね良好であったが、 溶血により測定値に正誤差が生じることが確認され、溶血検 体の測定には注意が必要である。また、TSAbとの相関検討 では、一部症例で乖離がみられ、TRAb測定ではTSHレセ プター阻害型抗体など、TSAb以外の抗体も測定されている ことが推測された。 連絡先) 092(281)1300 内線203 258 免疫4 ECLIA 法を用いたエクルーシス Anti-HCVⅡの基礎的検討 ○立石 萌、山田 昌博、田渕 真吾(佐世保市立総合病院 中央検査室) 【目的】 C 型肝炎ウイルス(HCV)は、フラビウイルス科の (Abbott 社) へパシウイルス属に属する RNA ウイルスで、C 型肝炎の原 【結果】 因となる。C 型肝炎は他の急性肝炎と同様、無症状の者も 1、同時再現性:CV1.2~2.9% 多く自然治癒する例もあるが、多くは持続感染したキャリア 2、干渉物質の影響:干渉チェック A プラスを用い、ビリルビ となり、年数を経るとともに慢性肝炎・肝硬変、さらに肝癌へ ン F19.1mg/dl 、 ビ リ ル ビ ン C21.0mg/dl 、 溶 血 と進むケースが多い。このような背景より HCV 感染の早期 504mg/dl、乳ビ 1620FIU における影響はなかった。 診断・早期治療には抗体スクリーニング検査が重要である。 3、定性判定一致率:96.0% 今回、「エクルーシス試薬 Anti-HCVⅡ」を用い基礎的検 【考察】 今回我々は「エクルーシス試薬 Anti-HCVⅡ」の 討を行ったので報告する。 基礎的検討を行い、試薬間の差はみられずほぼ同等の結 【対象および方法】 果が得られた。また、エクルーシス Anti-HCVⅡは測定時 対象:患者検体 175 例(陽性 87 例、陰性 88 例) 間(18 分)が短く、迅速に HCV 抗体スクリーニング検査が 測定機器:モジュラーアナリティクス E170(Roche 社)、ア 可能であると考えられた。結果に乖離が認められた検体に ーキテクトアナライザーi2000(Abbott 社) ついては、現在詳細を検討中で当日報告する。 検討試薬:エクルーシス試薬 Anti-HCVⅡ(Roche 社)、 連絡先) 0956-24-1515(内線 6235) 対象試薬:C 型肝炎ウイルス抗体キット アーキテクト・HCV kensa@hospital.sasebo.nagasaki.jp 259 免疫4 全自動化学発光免疫測定装置 ADVIA Centaur XP による腫瘍マーカーの検討 ○金子 優、有田 昇平、星子 文香、津嶋 かおり、松下 久美子、磯崎 将博、平井 義彦 (天草郡市医師会立天草地域医療センター 検査部)、磯崎 可能子(木山・中村クリニック) 【はじめに】 近年、技術進歩により多くの免疫測定法が開 釈直線性>各項目について異なる2濃度の患者血清を用 発された。それらの測定法の一つである化学発光免疫測定 い、専用希釈液で段階希釈系列を調製して希釈直線性を (CLIA)法は、反応時間が短いこと、測定レンジが広いこと、 評価した。高・低、いずれの検体についても希釈率と測定 測定感度が高いこと等の特長を有している。今回われわれ 値との間に良好な直線性が確認された。 <共存物質の影 は、CLIA法を原理とする全自動化学発光免疫測定装置 響>患者血清によって作成された2種のプール血清に対し ADVIA Centaur XP(SIEMENS)で腫瘍マーカーの基 て干渉チェック・Aプラス(シスメックス)を用いて共存物質の 礎的検討を行なったので報告する。 影響を検討した。結果は、全ての検討項目について、無添 【検討方法と対象】 ADVIA Centaur XPおよび専用試薬 加プール血清に対し変化率はそれぞれ±10%以内であり特 を用いてCEA、AFP、CA19-9、PSAの4項目について基 に影響は認められなかった。<比較対照法との相関>本 礎検討を行なった。患者残余血清を用いた相関の比較対 法(y)と比較対照法(x)との回帰式および相関係数は以下 照法として、当院で使用している化学発光酵素免疫測定 の通りであった。 (CLEIA)法を原理とするルミパルスG1200(富士レビオ)を ◎CEA y = 0.99x - 3.39 r = 0.981 n = 93 用いた。 ◎AFP y = 0.90x - 4.29 r = 0.999 n = 41 【結果】 <同時再現性>10重連続測定での同時再現性 ◎CA19-9 y = 0.95x + 38.40 r = 0.969 n = 74 の CV は 、 CEA 2.24 ~ 2.25% 、 AFP 2.04 ~ 3.99% 、 ◎PSA y = 1.01x - 0.22 r = 0.999 n = 92 CA19-9 2.75~5.61%、PSA 1.65~2.72%と良好であった。 【結語】 ADVIA Centaur XPの腫瘍マーカー測定用試は、 <日差再現性>10日間にわたって測定した日差再現性の 基礎的検討において十分満足できるものであった。 CVは、CEA 3.99~4.19%、AFP 3.31~3.85%、CA19-9 連絡先) 0969-24-4111(内線164) 3.06~5.39%、PSA 6.47~7.13%と良好であった。 <希 260 免疫4 電気化学発光免疫測定法を用いた血中 hGH 測定試薬「エクルーシス試薬 hGH」の基礎的検討 ○緒方 良一、菅 文恵、猪崎 みさき、藤川 恵子、守田 政宣、梅木 一美 (宮崎大学医学部附属病院 検査部) 【はじめに】 ヒト成長ホルモン(以下hGH)は脳下垂体前葉 希釈したところ約50ng/mLまで原点を通る良好な直線性が で産生分泌されるペプチドホルモンである。hGH分泌異常 得られた。 ③相関:対照試薬(x)と検討試薬(y)の相関は、 は種々の下垂体性疾患や、代謝異常疾患などの原因とな 回帰式y=1.36x+0.17、相関係数r=0.994であった。 ④先 ることが知られており、血中hGH測定はhGH分泌異常症 端巨大症の診断や治療の有効性評価に用いられる の診断や治療方針決定に必要である。今回、我々は電気 75gOGTTの結果は対照試薬に比べて高値傾向を示し、 化学発光免疫測定法(ECLIA法)を用いた血中hGH測定 先端巨大症患者の診断基準であるカットオフ値1.0ng/mL 試薬「エクルーシス試薬hGH」の基礎的検討を行ったので の判定が容易となった。 報告する。 【考察】 今回、電気化学発光免疫測定法を原理とした「エ 【対象および方法】 対象は、2012年4月~6月の間、当院 クルーシス試薬hGH」の基礎的検討を行った。同時再現性、 にhGH検査の目的で提出された患者血清を用いた。測定 日差再現性および直線性は良好であり、短時間(18分)で 機器:cobas e411(Roche)。検討試薬:エクルーシス試薬 測定できるキットであることから、検査の迅速化にも貢献で hGH(Roche)。対照試薬:アクセスGH(CLEIA法;ベック きると思われた。相関における傾きの差は、成長科学協会 マン・コールタ―)。 検討内容: ①精密さ(同時再現性、 の 報 告 に も あ る よ う に 対 照 試 薬 に お い て WHO 標 品 日差再現性)、 ②希釈直線性、 ③相関(n=117)、④75g (98/754)による標準品の値付けがズレているために、対照 経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)におけるhGHの推移 試薬の測定値は低い値を示している可能性が示唆された。 の比較。 今後、本法がGH関連疾患を診断するために適用可能か 【結果】 ①精密さ:2濃度のコントロールを用いた同時再現 を確認するため、負荷試験の検体数を増やし報告する予 性(n=10)のCV(%)は1.06~2.56%であった。同様に、日 定である。 差再現性(n=15、25日間)のCV(%)は1.47~1.52%であ 連絡先) 0985-85-1870 った。 ②希釈直線性:高値検体を生理食塩水にて10段階 261 化学1 血液ガス分析装置 ABL800 FLEX837 バージョンでのクレアチニン測定に関する基本性能の報告 ○浦塚 祐希、中村 嘉代子、太郎浦 直子、植山 聖子(小倉記念病院 検査技師部) 【はじめに】 血清クレアチニン測定は、一般的な生化学検 つ い て 、 ガ ス 分 析 装 置 ABL800FLEX837 バ ー ジョ ン と 査として多くの医療機関の院内ルーチン検査として比較的 BM6070(酵素法、和光純薬)で測定を行った。 短時間に実施されている。しかし近年、血液ガス分析装置 2) 同時再現性:濃度の異なる3つの全血検体を用いて連 を用いたより迅速な血清クレアチニン測定の有用性が指摘 続10回測定で評価を行った。 されている。急性期の症例では速やかに病態を把握し、治 3) 日差再現性:濃度の異なる3つのコントロール検体を用 療方針を決定する必要性がある。特に冠動脈系疾患、心 いて17日間測定をして評価を行った。 脳血管系疾患の急性期の場合、検体検査などに加えて迅 【結果】 1) 相関性:酵素法との相関は、回帰式y=0.963x 速な画像所見の評価やカテーテル治療の介入が求められ -0.007、相関係数r=0.9985(n=200)となり良好な相関が るが、その造影の際に投与される検査試薬により発生する 得られた。 造影剤腎症は臨床において大きな課題となっている。この 2) 同時再現性:低濃度CV=2.27%、中濃度CV =1.42%、 ような背景から急性期症例での緊急造影検査前に迅速に 高濃度CV=1.17%と良好であった。 血清クレアチニンを測定する必要性が高まっている。今回、 3) 日差再現性:低濃度CV=1.19%、中濃度CV =1.25%、 ガス分析装置ABL800FLEX837バージョンを用いた血清 高濃度CV=1.33%と良好であった。 クレアチニン測定の基本的性能評価を検討する機会を得 【まとめ】 たので報告する。 基本性能(相関性、同時再現性、日差再現性)は良好で 【対象・方法】 1) 相関性:血液ガス分析装置の依頼があ あり、迅速性・簡便性においても緊急検査やPOC(ポイン った動脈全血検体と同時または3時間以内に血清クレアチ ト・オブ・ケア)での運用に有用であると考えられた。 ニン測定の依頼があった同一患者の静脈血検体200例に 連絡先) 093-511-2000 262 化学1 自動分析装置用免疫グロブリン試薬を利用して同定した酵素結合性免疫グロブリンの二症例 ○大島 綾花、池田 弘典、川崎 誠司、東谷 孝徳、末岡 榮三朗 (佐賀大学医学部附属病院 検査部) 【背景】 酵素結合性免疫グロブリン(Ig)は、血中の酵素が 活性値のみ約24%低値を示した。これより、IgA結合型 Igと複合体を形成し、多くの場合、酵素活性値の異常を示 ALPであると判定した。症例②:69歳女性。1年前の健診に す。この異常値は関連項目との乖離や臨床症状と合致しな て高AST血症を指摘されていた。受診時のデータはAST いこともあり、その原因解明が重要となる。これまで検査に 124U/L、ALT 13U/L、LD 166U/L、CK 60U/Lであった。 は電気泳動法を基本原理とする様々な方法が用いられて 免疫沈降法による結果はIgG除去後のAST活性値のみ約 いたが、操作が煩雑で分析時間も長く、特別な機器や染色 94%低値を示した。これより、IgG結合型ASTであると判定 試薬が必要なことから日常検査には不向きであった。今回 した。 われわれは、免疫沈降法を自動分析装置用Ig試薬に応用 【考察】 本法は、1件につき約0.4mlの各Ig試薬が必要、 し、酵素結合性Igの2症例を同定できたので報告する。 酵素活性が低い場合の判定が困難などの問題点もあるが、 【方法】 ①被検血清1容とIg試薬(抗IgG、IgA、IgM)4容 約30分で結果が判明、日常検査でIgを測定している施設 を混和し、室温で5~10分間反応。②10、000rpm、5分間 であれば新たな試薬購入が不要などの利点も多い。酵素 遠心後、上清の酵素活性を測定。③対照は被検血清1容と 結合性Igの検出法として、簡便な本法が日常検査レベル 生理食塩液4容とし、同様に測定。④Ig試薬中の酵素活性 で普及すれば、従来見過ごされていた症例にも適用され、 値は被検血清値より減じた。⑤陽性判定は、対照に比べ酵 従来の報告より高頻度に検出される可能性もある。検査技 素活性減少率10%以上とした。 師は酵素結合性Igに関する情報を医師と共有し、不必要 【症例および結果】 症例①:71歳女性、B型。3ヶ月前から な検査や治療が行われないようにサポートすることが必要と ALP高値を指摘されていた。受診時のデータは、 ALP 思われる。 745U/L、γ-GT 7U/Lであった。アイソザイム分析(外注)で はALP5の陽極側にバンドを認め、「Extra Band」として報 連絡先) 0952-31-3251 告されていた。免疫沈降法による結果はIgA除去後のALP 263 化学1 FRET 法などによるヒトアディポネクチン遺伝子の SNP 検出法について ○泊 宏和(ファルコバイオ西日本ラボラトリー)、高永 恵(国立病院機構熊本医療センター 臨床検査科)、 田中 希穂、川迫 由希子、尾形 美奈、山口 美幸、楢原 真二(熊本保健科学大学 医学検査学科) 【はじめに】 消 化 器 系 の が ん と rs1063537 及 び 測定については、本人の同意と金子病院及び薩摩郡医師 rs2082940 部位 adiponectin 遺伝子変異との関係性が報 会倫理委員会の承認を得ている。 告されている。また、アディポネクチンはインスリン感受性の 【結果】 PCR 法では PCR 産物は設計した位置に band が 亢進、動脈硬化抑制、抗炎症、心筋肥大抑制など多彩な 認められ、得られた PCR 産物を精製してシーケンスを行っ 作用があり、血中アディポネクチン濃度の低下が癌の発生 た結果、2 箇所の変異部位(rs1063537 と rs2082940)に の危険因子であることが示唆されている。今回、がん患者 おいて、rs1063537 部位が野生型では、rs2082940 部位 の 血 液 を 用 い て adiponectin 遺 伝 子 rs1063537 、 は変異型であり、逆に rs1063537 部位が変異型では、 rs2082940 変異部位の解析法開発と関連性について検討 rs2082940 部 位 は 野 生 型 の 結 果 を 得 た 。 さ ら に した。 rs1063537 部位がヘテロタイプでは rs2082940 部位では 【材料・方法】 材料:薩摩郡医師会病院及び金子病院で ヘテロタイプの規則性のある結果が得られた。AS-PCR 法 採取された消化器系がん患者及び健常者の末梢血を試料 については、反応条件を変更しても PCR 産物を確認するこ として用いた。方法:DNA 抽出:末梢血よりスピンカラム法 とができず、検出法の確立はできなかった。ライトサイクラー で DNA を抽出し、以降の実験に用いた。PCR 法:プライマ の FLET 現象を用いた方法では、rs1063537 部位及び ー作成ソフト primer3 にて設計し、増幅産物を電気泳動で rs2082940 部位変異検出法を確立した。 確認した。シーケンサー法:PCR 産物を用いて諸条件を検 【まとめ】 今回行った Adiponectin 遺伝子変異解析では、 討し、rs1063537 及び rs2082940 部位の塩基配を検討し 例数が少ないが rs1063537 と rs2082940 に規則性が見ら た AS-PCR 法:プライマーを作製し、反応条件を検討した。 れた。検出法については FRET 法については確立したが、 ライトサイクラーによる方法:FLET 現象による変異解析法 AS-PCR 法については難しいものと思われる。 について検討を行った。尚、患者及び健常人試料の解析・ 連絡先) 096-275-2163 264 化学2 福岡市特定健康診査の実施状況と検査値の統計的考察 ~福岡市医師会臨床検査センター受託分において~ ○西尾 美紀子、今駒 憲裕、大塚 英樹(福岡市医師会臨床検査センター) 【はじめに】 平成20年4月に始まった特定健診も今年で丸5年を迎え た。当検査センターでは、福岡市より特定健診の検査を受 託している。今回、平成20年度から平成24年度5年間の特 定健診・特定保健指導の実施状況と検査値を分析したの で報告する。 【対象と分析内容】 対象は40歳以上75歳未満の国民健康保険の医療保険 者(福岡市)で、分析内容は以下の内容である。 ① 福岡市特定健診受診率 ② 性年齢別特定健診受診者数 ③ 特定健診依頼件数月別推移 ④ 特定健診保健指導階層化結果及び特定健診保健指 導実施数 ⑤ 性年齢階級別検査値の平均値(AST、ALT、γ-GT、 LDL、HDL、中性脂肪、尿酸、クレアチニン、HbA1c、 空腹時血糖、BMI、腹囲、収縮期血圧、拡張期血圧) ⑥ 検査項目別保健指導対象者割合 ⑦ 検査値の全国平均との比較 【結果およびまとめ】 福岡市の特定健診受診率は目標としている見込者数を 大きく下回っており、低い受診率となっている。年齢別では 男女とも若いほど受診率が低く、男女別では男性の受診率 が低かった。動機付け支援・積極的支援の終了評価を受 けたのはそれぞれ約30%・約10%であり、これも当初目標 をかなり下回っている。性年齢階級別検査値の平均値に ついては、年度による検査データ変化はほとんどの項目で 見られず、検査値の全国平均データとの比較に関しても福 岡市はほぼ全国平均並みであった。 連絡先) 092-852-1506(内線2675) 265 化学2 ラテックス比濁法を原理とした CK-MB 測定試薬「LタイプワコーCK-MB mass」の基礎的検討 ○門司 宜久、山中 基子、松本 信也、小野 美由紀、堀田 多恵子、康 東天 (九州大学病院 検査部) 【はじめに】 CKのアイソザイムの一つであるCK-MBは心 ③ 干渉物質の影響はシスメックス社の干渉チェックAプラ 筋マーカーとして臨床検査に用いられており、現在わが国 スを遊離型ビリルビン、抱合型ビリルビン、乳び、ヘモグロビ では生化学自動分析装置において免疫阻害法を原理とし ンの評価に用い、その他にアスコルビン酸、患者血球溶血 た活性測定試薬が主流となっている。しかし、免疫阻害法 液を用いて5段階の濃度で評価を行ったがいずれも測定値 ではその測定原理のためCK-BBやマクロCK等により正誤 への影響は認めなかった。 差を受ける可能性があり、失活による影響も受けてしまう。 ④ 対照試薬との相関(n=52)では、測定しているものが蛋 今回これらの問題を回避できるラテックス比濁法を原理とし、 白量(ng/mL)と活性値(U/L)と異なるが凡そ同等の測定 直接CK-MB蛋白を測定できる生化学自動分析装置用 値が得られた。2法の測定値が5以上乖離した13検体につ CK-MB測定試薬「Lタイプワコー CK-MB mass」の検討 いて電気泳動法によりアイソザイム分離を行ったところ、4検 を行ったので報告する。 体においてCK-BBや免疫グロブリン結合型CKが認められ 【方法】 検討試薬:Lタイプワコー CK-MB mass(ラテック た 。これ ら 4検 体 を除 いた場 合 ( n=48 )の相 関 式はy = ス比濁法:和光純薬工業株式会社)、対照試薬:シグナスオ 0.932x-1.666 ( y : 検 討 試 薬 、 x : 対 照 試 薬 ) 相 関 係 数 ートCK‐MB MtO(免疫阻害法:シノテスト)、測定装置:日 r=0.996であった。 立7700 310S Pモジュールを用いて、①再現性②希釈直 【結論】 今回検討した試薬は良好な基礎性能を有している 線性③干渉物質の影響④対照試薬との相関を検討した。 ことが確認できた。本試薬はCK-MB蛋白を直接測ることに 【結果】 ① 同時再現性は3濃度の試料についてn=20で測 より、免疫阻害法での偽高値の原因となるCK-BBやマクロ 定し、CVは0.7~2.2%で、日差再現性は2濃度の試料に CKなどによる影響を回避できるため、正確なCK-MB測定 ついてn=8でCVは2.2%と2.1%であった。 が期待できる。 ② 希釈直線性は約200ng/mLまでの直線性を確認するこ 連絡先) 092-641-1151(内線5756) とができた。 266 化学2 薬物血中濃度と肝・腎機能を反映した検査値との相関性の試み ○津波 勇二、今駒 憲裕、大塚 英樹(福岡市医師会臨床検査センター) 【はじめに】 TDM(Therapeutic Drug Monitoring)は薬 r=0.007、CRE r=0.007であった。カルバマゼピン:AST 物血中濃度に基づいて行うことが基本である。また薬物は、 r=0.002、ALT r=0.069、UN r=0.034、CRE r=0.032で 主に肝臓での代謝と腎臓での排泄によって体内から消失す あった。バルプロ酸Na:AST r<0.001、ALT r=0.008、 るので、肝・腎機能を反映した検査値もTDMには不可欠な UN r<0.001、CREr=0.003であった。ジゴキシン:AST 指標である。当検査センターでも薬物血中濃度を測定して r=0.007、ALT r=0.004、UN r=0.067、CRE r=0.028で おり、その測定値が異常低値または異常高値の結果である あった。テオフィリン:AST r=0.012、ALT r=0.005、UN 場合に再検査(再測定)をしている。再検査率(再測定率) r=0.004、CRE r=0.029であった。 の軽減に伴う試薬コストの削減を目的に、薬物血中濃度と 【考察】 AST・ALTが高値でれば肝機能が低下している、 肝・腎機能を反映した検査値との相関性を検討したので報 またはUN・CREが高値であれば腎機能が低下していると 告する。 仮説を立てて、薬物の代謝と排泄が不十分つまり薬物血中 【方法】 2013年4月に当検査センターにフェニトイン・カル 濃度が高値傾向になるのではないか、などを期待して相関 バマゼピン・バルプロ酸Na・ジゴキシン・テオフィリンの依頼 性を検討したがいずれも良好な結果とはならなった。今回 があった443検体を対象に、それぞれAST・ALT・UN・ の検討はさらに継続するが、薬物血中濃度と肝・腎機能を CREを測定した。測定機器はコバスインテグラ400プラスと 反映した検査値のみに限らず、高コストな再測定をせずとも 日立ラボスペクト008を使用した。 比較的低コストな検査項目で相関性を確認し、報告に至る 【結果】 ような形式を構築できればと考える。 フ ェ ニ ト イ ン : AST r=0.087 、 ALT r=0.036 、 UN 連絡先) 092-852-1506(内線2675) 301 画像1 超音波像にて高輝度を呈する腎充実性腫瘤の比較検討 ○宮本 亜由美、倉重 康彦(古賀病院 21 臨床検査部) 【目的】 腎実質の上皮性腫瘍の約 80%は腎細胞癌(以下 RCC)と報告されている.その中でも約 30%は高輝度エコー を特徴とすると報告されており、良性間葉系腫瘍の血管筋脂 肪腫(以下 AML)との鑑別が重要になってくる.今回我々は、 AML と高輝度を呈する RCC の超音波像について比較検討 した. 【対象】 2003 年 1 月から 2013 年 6 月までの 10 年間で超音波検査にて描出した高輝度を呈する腎充実性 腫瘤のうち、CT または MRI 検査のどちらかで診断または組 織学的に確定診断が得られた AML34 例と高輝度を呈した RCC16 例の計 50 例を対象とした. 【方法】 超音波像の 検討項目は、サイズ、形状、境界・輪郭、辺縁低エコー帯(以 下 halo)、輝度、均一性、嚢胞変性、後方エコー、腎実質か らの突出像(以下 hump)、血流パターンである. 【結果】 年齢、男女比、超音波像について表に示す.AML と高輝度 RCC の超音波像にてエコー輝度、halo の項目に有意傾向 を認めた. 【考察】 AML はやや不明瞭で不整、CEC よ り高輝度を呈し、halo や嚢胞変性は認めず、血流シグナル は認めても僅かであると報告されている.また RCC は明瞭で 整、CEC と同等~低輝度を呈し、halo や嚢胞変性を伴う事 が多く、血流シグナルは RCC の約 80%を占める淡明細胞 型に豊富に認めると報告されている.今回の検討で、報告と 同様の所見を呈していた. 【結語】 AML と高輝度 RCC の鑑別として、CEC とのエコー 輝度の比較および halo の有無が有用な所見として考えられ る. 連絡先) 0942-38-2745 AML (n=34) RCC (n=16) 58±11 65±14 1:4 4:1 21±11 29±14 70% 類円形 73% 80% 58% 不明瞭 36% 20% 69% 不整 9% 20% 3% * なし 36% * 40% 高(97%) * やや低(3%) 同等(69%) * やや低(3%) (n=33) (n=1) (n=11) (n=1) 25mm未満 (92%) 均一 不均一 不均一 (82%) 不均一 (80%) 内部 均一性 25mm以上 (69%) 性状 不均一 なし あり (27%) 嚢胞変性 なし あり (40%) 不変 (79%) 不変 (64%) 付加 後方エコー 不変 不変 (60%) 55% 91% 所見 hump あり 80% 辺縁または内部に点状・線状 辺縁に囲み状または腫瘤全体 血流パターン (15%) (82%) (60%) * p≦0.08 年齢 性別(男:女) サイズ(mm) 形状(類円形) 境界 不明瞭 輪郭 不整 辺縁低エコー帯 輝度 (CECと比較) 302 画像1 当院で経験した腎盂癌の一症例 ○小宮 由美子、鵤 茂、中野 明子、貞末 信幸(小倉記念病院 検査技師部) 【はじめに】 血腫を疑う。腫瘍の指摘は困難。膀胱内にも高吸収域が認 今回、我々が経験した腎盂癌の症例を報告する。 められ、血腫を疑う。 【症例】 71歳男性 2012年12月 血尿を主訴に泌尿器科 <MR所見 5月17日> 受診超音波検査(US)にて水腎を認める。腫瘤性病変や尿 右腎中極~下極の腎実質~一部腎盂内に突出するや 管拡張なし。静脈腎盂尿管造影検査で尿管狭窄を指摘。 や分葉状で不整形の腫瘤を認める。腫瘤辺縁に被膜構造 尿管カテーテル尿における細胞診検査で尿管癌疑い(Pap 指摘できず。右腎に明らかな水腎なし。浸潤性腎盂癌疑 ClassⅢ)と診断され以後定期観察となる。 い。 2013年5月 尿管癌定期観察の為のUS施行 <病理組織診断> <US所見 5月2日> 右腎盂の尿路上皮癌。 右腎は水腎。 前回より増悪。 拡張した腎盂内に低エコ 【考察】 ー不均一な内部エコーを認める。一部に血流信号を疑う。 超音波検査にて腎実質の腫瘍は腎盂癌と同定できたが、 また、下極に44mm程の境界やや不明瞭で、血流信号を 腎盂内の血腫は腫瘍との鑑別が困難であった。 伴わない等エコー腫瘤を認める。尿管は7mmに拡張し、び 【まとめ】 まん性に壁肥厚を認める。左腎、膀胱に明らかな異常なし。 20万人に1人といわれる腎盂癌のうちの約85%は乳頭型 右腎盂及び尿管、腎実質内に広がる浸潤性の腎盂癌を疑 で腎盂腔を埋めるように乳頭型に腫瘍が増殖していく。今 う。 回の症例は非乳頭型で腎盂腔側への突出が少なく、腎実 <単純CT所見 5月7日> 質に深く浸潤していく珍しいものであった。 右腎盂、右尿管は拡張し、内部に高吸収な軟部陰影。 連絡先) 093-511-2000 内線2080 303 画像2 体外式超音波検査にて肝浸潤を認めた胃肝様腺癌の一例 ○松本 慎吾、塘 由香、多久島 新、藤丸 政義、明石 道昭、森 大輔 (佐賀県医療センター好生館 研究検査科) 【はじめに】 胃癌における壁外評価はCTにて診断されること 【CT】 胃前庭部に壁の肥厚を認め、周囲の脂肪織の混濁も が多いと思われる。今回、我々は腹部超音波検査(以下 あり漿膜外浸潤は疑われたが、肝浸潤の有無は評価できず。 AUS)でのみ肝浸潤を指摘し病理所見にて胃肝様腺癌と診 【病理組織所見】 胃角部~十二指腸球部にかけてⅢ型の 断された症例を経験したので、文献的考察も含めて報告する。 隆起性病変を認める。組織学的には背景に著明な壊死と線 【症例】 70歳代女性 【現病歴】 他院にて貧血を認め、精 維化を伴って、粗造なクロマチン増生を伴い大小不同を有す 査加療目的にて当院紹介受診 【血液データ】 Hb 6.8g る異型核と淡明~好酸性胞体を有する細胞が幅広い索状構 /dl 、 Fe 234μg/dl 、 TP 5.8g/dl 、 Alb 2.6g/dl 、 CEA 造を呈し、浸潤・増生していた。また免疫染色にてAFP・ 1.6ng/ml、CA19-9 2.1U/ml 【AUS】 胃前庭部~十二 Glypican3が散在性に陽性を認めAFP産生成分を伴った肝 指腸球部に潰瘍を伴う全周性の壁肥厚があり、層構造は消 様腺癌と診断された。最深部では漿膜外への露出が見られ 失し壁外性発育を認めた。肝臓との境界は不明瞭であった 一部肝への浸潤と高度な静脈侵襲も認めた。 が呼吸による可動性がなかった事より肝への直接浸潤も疑っ 【考察】 肝様腺癌は胃癌全体の約0.2%にしか認められな た。また周囲の静脈に内部エコーを認め、静脈浸潤も示唆さ い極めて稀で予後不良な高悪性度胃癌の一つと考えられて れた。 おり、脈管侵襲も高頻度に認められると報告されている。 【GIS】 胃前庭部大彎に亜全周性に周堤を伴う不整な隆起 AUSではリアルタイムに評価ができることより、肝浸潤や静脈 性病変を認めところどころ潰瘍もありⅢ型胃癌を疑う。 【胃 浸潤有無の評価は可能だと思われる。術前に組織型の評価 透視所見】 胃は幽門狭窄の状態に近く軽度の拡張を認め は困難であるが、今後高度な静脈浸潤などを認めた場合、 る。胃角から十二指腸球部まで大きな腫瘍性病変を認め内 肝様腺癌の可能性も念頭に置き検査することは必要である。 部に不整な陥没を有する。 連絡先) 0952-24-2171 304 画像2 肺転移を伴った肝類上皮血管内皮腫の一例 ○堀 史子、山本 武利、上野 幸雄、田中 直幸、右田 忍(新小倉病院 検査科) 【はじめに】 肝類上皮血管内皮腫は、稀な血管内皮系腫 MRI検査では、肝S5の結節は、T2強調でやや高信号、脂 瘍 で あ る 。 比 較 的 緩 除 に 発 育 す る 為 、 intermediate 肪抑制T1強調像で辺縁部が高信号、拡散強調像で高信 malignancyの腫瘍と考えられている。確定診断には病理 号、肝細胞相で低信号であった。鑑別疾患として転移性腫 組織診断が必須である。予後に関しては不明な点も多く、 瘍、肝膿瘍、肝細胞癌等が挙げられたが、確定診断に至ら 治療法も確立されていない。今回、肺転移を伴った肝類上 ず生検が行われた。 皮血管内皮腫の1例を経験したのでここに呈示する。 HE染色では、紡錘形の内皮細胞が索状に増殖し、細胞 【症例】 30歳代男性。中学時に肝障害を指摘された事が 質内の一部に血管腔様の空隙を有しているのが見られた。 ある。2012年7月に腹痛、下痢を主訴に当院を受診した際、 免疫染色はCD31、CD34、FactorⅧ、p53が陽性となり、 肝腫瘍を指摘され精査となった。 肝類上皮血管内皮腫と診断された。 血液検査では肝胆道系酵素が上昇していたが、HCV・ 治療として肝切除と開腹ラジオ波焼灼術を予定していた HBVは陰性であり腫瘍マーカーは全て正常であった。消 が、術前の胸部CTで、肺両葉に周囲にすりガラス影を伴っ 化管内視鏡検査では、胃、十二指腸、大腸には明らかな異 た多数の小結節を認めた。1ヶ月後もサイズ等の変化が見 常は認められなかった。 られず、診断確定の為、胸腔鏡下肺切除による生検を行っ 腹部超音波検査では肝臓は脂肪肝で、S5に径1.3cmの た。病理の結果では、結節の線維化の中に異型円形細胞 内部がやや高エコーの類円形低エコー結節を認め、両葉 を認め、類上皮血管内皮腫の転移と診断された。 にも小さな低エコー結節が見られた。造影超音波検査では、 【結語】 本症例は腫瘍の最大径が2cm以下でありながら、 S5の結節は早期相で周囲実質と共に徐々に染影し、後期 肺への転移が確認された。類上皮血管内皮腫の自然史を 相では、全ての結節は明瞭な欠損像として描出された。 考える上で貴重な1例と考える。 305 画像2 超音波組織弾性イメージングを用いた肝線維化評価の肝左葉での試み ○森内 拓治、海端 悟、上原 由莉、馬場 みなみ(長崎大学病院 検査部)、 加茂 泰広、田浦 直太、中尾 一彦(同 消化器内科)、栁原 克紀(同 検査部) 【背景・目的】 近年、超音波を用いた肝組織弾性診断法診 央値は、血小板数18.0万/μl、ALT 27.8IU/l、Ⅳ型コラーゲ 断装置が開発、臨床応用されているも、そのほとんどが肝右 ン155.0ng/ml、ヒアルロン酸56.5ng/mlである。各検査値と 葉のみの計測で、組織弾性診断法による肝右葉と左葉の相 の肝組織との相関係数は、VTTQ r=0.305(p=0.020)、血 違はあまり知られていない。本研究では、肝両葉における超 小板数r=-0.194 (p=0.144)、ALT値r=0.245(p=0.064)、 音波組織弾性イメージング検査を行い、肝両葉における組 Ⅳ型コラーゲンr=0.518(p=0.013)、ヒアルロン酸r=0.180 織弾性の相違、病理組織診断との相関性について検討し (p=0.423)で、VTTQは、肝組織と有意な正の相関を示し た。 た。VTTQ計測を肝両葉で施行している患者(22名)で、右 【対象】 2012年1月~12月の期間に長崎大学病院消化器 葉 と 左 葉 を 比 較 し た と こ ろ 、 肝 右 葉 Mean= 1.55 内科を受診し、肝生検と超音波組織弾性イメージング検査 (SD=0.83)、肝左葉Mean=1.78(SD=0.76)と左葉で高い を施行した者58名(男32名、女26名)。 傾 向 が み ら れ た 。 さ ら に 、 両 葉 の 相 関 係 数 は r=0.682 【方法】 超音波組織弾性イメージング検査には超音波診 (p<0.001)で、VTTQ左葉は、VTTQ右葉と強い正の相関 断 装 置 ( SIEMENS ACUSON2000 ) を 用 い て Virtual を認めた。 Touch Tissue Quantification(以下VTTQ)を肝左葉・右 【考察・まとめ】 VTTQを用いて肝両葉の肝繊維化を比較 葉で5回ずつ計測し平均値を算出した。新犬山分類を用い した結果、左葉では、VTTQの結果が高くなる傾向があるも、 た肝繊維化の精度との関連を検討した。 右葉と正の相関がみられ、左葉においても肝繊維化の評価 【結果】 対象の背景肝疾患はHBV 8例、HCV 12例、 が可能であると考えられた。 NASH 8例、肝移植後 14例、その他16例。各種検査の中 連絡先) [email protected] 306 画像3 頚部血管エコー検査により内頚動脈の血栓の変化を確認し得た プロテイン C 欠乏症による脳梗塞の一例 ○山崎 澄枝、濱松 文美、坂本 恵子(小倉記念病院 検査技師部) 【はじめに】 比較的若年者の血栓症の素因として先天性 下していることがわかった。発症後第9病日の頚部血管エコ 凝固因子異常症が知られている。今回、頚部血管エコー検 ー検査ではプラークの変化はなかったが、19病日の検査 査で内頚動脈の血栓の変化を確認し得たプロテインC欠乏 ではBULBのプラークに加え、前回なかった内頚動脈起始 症による脳梗塞の一例を経験したので報告する。 部にarea40%の血栓様構造物を認めた。数日前より、ヘパ 【症例】 48歳女性 起床時に呂律不良、左上肢麻痺をき リン投与が中止されており、そのため血栓が増えたと考えら たし近医に救急搬送。MRIで右中大脳動脈領域に梗塞巣 れため、ヘパリン投与が再開された。28病日の検査では増 を認め、MRAで右中大脳動脈起始部閉塞所見があり、急 加していた血栓様プラークは消え、発症直後と同程度にな 性期脳梗塞と診断され、加療目的にて当院紹介となった。 った。血栓形成の足場となるプラークの治療としてステント 緊急で血管造影検査を行い、ヘパリン、ラジカットが投与さ 留置術が施行された。 れ、血管造影検査中に右中大脳動脈起始部の閉塞は開 【結語】 今回の症例は右内頚動脈起始部のプラークを足 通した。また、右内頚動脈起始部に内腔に突出する棍棒状 場にプロテインC欠乏症による血栓形成傾向が相まって、 のプラークを認めた。塞栓源検索のため、頚部血管エコー 血栓を形成、塞栓症を来したと考えられる珍しい症例であ 検査、経食道エコー、下肢静脈エコーを実施し、合わせて る。退院するまで合計8回の頚部血管エコー検査を行い、 若年者であるため、凝固因子の異常がないかを調べた。結 右内頚動脈起始部のプラークの変化をとらえ、塞栓源と推 果は経食道エコー、下肢静脈エコーは問題なし、頚部血管 察できた。エコー検査によりリアルタイムにプラークの性状 エコーでは右BULBにのみプラークを認めた。プラークは の変化をとらえることができ、診断・治療に有用であった。 最大2.5mm、area42%程度であったが、表面が不規則で 低エコーであり、表面に血栓の存在が疑われ、塞栓源と考 連絡先) [email protected] えられた。また血液検査でプロテインC活性が40%台に低 307 画像3 当院で経験した腋窩動脈狭窄症の一症例 ○村上 博美、寺﨑 裕子、髙田 純子、今村 優子、浦 孝徳、原田 哲太、渡辺 恵子 (高木病院 検査室)、野田 征宏(同 心臓血管外科) 【はじめに】 上肢血圧の左右差を起こす原因として一般的 にモザイクフロー及びPSV:305cm/sと上昇を認めた。深部 には鎖骨下動脈狭窄によく遭遇するが、今回初めて腋窩 のため血管内腔は描出不良であり詳細は不明であったが 動脈狭窄が原因である症例を経験したので報告する。 パルスドプラ法、カラードプラ法の所見より、左腋窩動脈狭 【症例】 70歳代 女性 窄が疑われた。 【主訴・現病歴】 2012年初旬からの慢性経過で、左上肢に 【カテーテル検査・CT検査】 諸検査において左腋窩動脈 安静時冷感、労作後易疲労感を自覚した為、近医を受診。 狭窄を認めた。 左橈骨動脈触知不良などで2012年10月当院を紹介受 【経過】 有症状のため手術の方針となった。手術は腋窩動 診。 脈の狭窄部位に対して内膜摘除を行い、大伏在静脈によ 【ABI検査】 右上腕血圧159/85、左上腕血圧137/70と両 るパッチ形成を行った。病理所見は、内膜の内弾性板の変 上肢の血圧差を認めた。 性断裂、中膜の肥厚を認め粥状硬化性の変化として矛盾 【 上 肢 血 管 エコ ー 】 上腕 動 脈 の収 縮 期 最大 血流 速 度 しなかった。術後は自覚症状の改善を認め、橈骨動脈の触 (PSV)は、右上腕動脈:81cm/s、左上腕動脈:24cm/sと左 知は良好となった。ABIでの血圧差はなくなり、エコーでは 上腕動脈の低下を認め、またacceleration time(AT)は右 上腕動脈のPSVの改善、またATの短縮を認め左右差はな 上腕動脈:78msec、左上腕動脈:150msecと左上腕動脈で くなった。 延長を認めた。パルスドプラ法にて両椎骨動脈の血流波形 【まとめ】 今回我々は初めて腋窩動脈狭窄に遭遇した。エ を測定したが両椎骨動脈の血流波形には有意な差は認め コー検査を行うに当たり、血管の性状を観察するだけでなく られなかったため、椎骨動脈分岐部より中枢の鎖骨下動脈 パルスドプラ法の波形から得られる情報の重要性を再認識 狭窄は否定的であると推測された。左鎖骨下動脈を椎骨動 出来た。 脈分岐部より末梢側へ血管を観察したところ、左腋窩動脈 連絡先) 0944-87-0001(内線1321) 308 画像3 頸動脈ステント留置後ステント内に血栓を疑われた三症例 ○濱松 文美、山崎 澄枝、坂本 恵子(小倉記念病院 検査技師部) 【目的】 頸動脈ステント留置後ステント内に血栓を疑われ ト内に一部欠損を疑われ、ステント留置6日後エコー検査で た症例を経験したので報告する。 は前回認めていた潰瘍部分のスペースはなくなっており、 【症例1】 70歳代女性、MR検査で右大脳半球の梗塞、右 同部内腔がなだらかに盛り上がっている所見であった。ス 内頸動脈(ICA)右中大脳動脈(MCA)の描出消失が認め テント留置8日後エコー検査で血栓様隆起の厚みが減少し られ加療目的で当院転院。3日後に緊急血行再建頸動脈 ており、経過観察中である。 ステント留置術実施し、右ICA右MCAの描出は改善した。 【症例3】 70歳代男性、左脳梗塞、左ICA高度狭窄病変に ステント留置2日後のエコー検査でステント内血栓を疑う所 対し加療目的にて当院紹介。ステント留置術施行し、翌日 見があった。ステント留置9日後のエコー検査ではステント エコー検査でステント内に異常はなかった。フォローのエコ 内血栓が不整形で可動性を認めたため、再ステント術施行 ー検査の1ヶ月後3ヶ月後でもステント内に異常はなく、6ヶ となった。フォローのエコー検査でステント内に異常なく、経 月後のエコー検査でステント内に血栓を疑う所見があった。 過良好で転院加療となった。 さらに血管造影検査では血栓の可動性も疑われたため、再 【症例2】 70歳代男性、右一過性黒内症で当院紹介。エコ ステント術が施行されたその後フォローのエコー検査ではス ー、脳血管造影、MR検査等で右ICAにいびつな多発潰 テント内に異常なく、経過観察中である。 瘍病変を伴う高度狭窄と右頭頂葉に亜急性期の脳梗塞を 【結語】 ステント留置術施行後ステント内には血栓やプラ 認めた。不安定プラークのため内服加療1ヶ月後ステント留 ークの突出また再狭窄など経過観察が不可欠である。超音 置術施行した。翌日のエコー検査ではステント内にプラー 波検査は非侵襲性で繰返し検査ができ、経過観察に適し クの突出や血栓はないがステントの外側に一部潰瘍部分の ている。 スペースを認めた。ステント留置5日後3DCT検査でステン 連絡先) [email protected] 311 生理1 運動負荷検査によって多彩な心電図変化が引き起こされた労作性狭心症の一症例 ○橋爪 勇次、伊藤 葉子、伊藤 美智子、山尾 香織、安達 知子、畠 伸策、 山下 祐一、西浦 明彦(国立病院機構九州医療センター 臨床検査部) 【はじめに】 右冠動脈(以下RCA)は刺激伝導系を栄養して MobitzⅡ型の房室ブロック、20秒頃からは2:1の房室ブロ おり、虚血状態になった場合伝導障害が引き起こされると ックが出現した。負荷30秒頃からは高度房室ブロック、1分 言われているが、虚血になってからの心電図変化の過程を 頃からは完全房室ブロックに変化した。負荷後3分にミオコ 捉えるのは極めて困難である。今回我々は運動負荷心電 ールを舌下投与され、4分には洞調律に回復した。 図検査にて、徐々に進行していく伝導障害を引き起こした 【心臓カテーテル検査】 RCAseg1末梢からseg2基部に 労作性狭心症を経験したので報告する。 99%狭窄、LCXseg13に90%狭窄の二枝病変を認めた。 【症例】 50代男性 【考察】 カテーテル検査の結果から、STの降下はRCA、 【主訴】 労作時の胸の圧迫感と動悸、眼前暗黒感 LCXの狭窄によるものであると考えられた。ニトロ投与後進 【現病歴】2013年3月ウォーキング中50m程度の歩行で胸の 行する伝導障害が軽快したことから、RCAseg1-2の高度狭 圧迫感と動悸、眼前暗黒感を自覚したが、安静にしたところ 窄により房室結節が虚血状態となり、その時間が続いたこと 10分程度で軽快。最近になって頻回に症状が出現するた により伝導障害が誘発されたと考えられた。また今回、洞停 め精査目的で循環器内科受診となった。 止や洞房ブロックが誘発されなかったのは、洞結節を栄養 【検査所見】 安静時心電図:正常洞調律、心拍数毎分 する洞結節動脈がRCAの入口部に極めて近いところから 83/min、不完全右脚ブロック。運動負荷前心エコー:明ら 出ていることにより、虚血状態に至らなかったためと思われ かな壁運動異常 なし。運動負荷所 見:ト レッドミル検 査 た。 Bruce法2分頃からⅡ、Ⅲ、aVfでup slope型、V5、V6で 【結語】 RCA病変が重症な場合、今回のような心電図変 horizontal型のST降下を認めた。患者が息苦しさを訴えた 化を起こし得ることを念頭に置き、我々検査技師は検査に ためBruce法3分にて負荷終了となった。負荷後11秒で 携わらなければならない。 312 生理1 心筋運動障害改善後の脳死下臓器提供の一例 ○上原 由莉、坂口 能理子、森永 芳智(長崎大学病院 検査部)、平尾 朋仁(同 救命救急センター)、 恒任 章、深江 学芸(同 循環器内科)、永田 泉(同 脳神経外科)、栁原 克紀(同 検査部) 【背景】 2010年7月の改正臓器移植法施行により、本人の 呼吸循環管理がなされた。第5病日、蘇生後低酸素脳症か 拒否の意思がない場合に限り、書面による意思表示がなく らの脳死とされうる状態と診断された。第7病日、家族より脳 ても家族の承諾における脳死下臓器提供が可能となった。 死下臓器提供の希望あり、再度心機能を評価すると、心エ 施行後3年で脳死下臓器提供数は施行前の約4倍に増加し、 コー図では左室壁運動障害が改善しており心電図も正常 当院でもこれまでに3例を経験した。ドナーの原疾患で最も 範囲内であった。第9・10病日に法的脳死判定を実施し、そ 多いとされるくも膜下出血は、しばしば心筋運動障害を呈す の後移植医によるドナー評価でも心臓は移植可能であると る事が知られているが、今回我々は、その状況下で心筋運 判断され、第11病日に脳死下臓器摘出術が施行された。摘 動障害改善後に脳死下臓器提供に至った症例を経験した 出後の心臓はレシピエントに移植され、現在経過良好とのこ ので報告する。 とである。 【症例】 40歳代男性。2012年12月、心肺停止にて救急要 【結語】 くも膜下出血後に心筋運動障害を合併したが、改 請、搬送途中に心拍再開するも当院到着時は深昏睡状態 善後に脳死下臓器摘出・心臓提供が可能であった1例を経 で自発呼吸なく血圧不安定、精査にてくも膜下出血と診断 験した。くも膜下出血後などの重篤な状態では心筋運動障 された。初診時の心エコー図では、冠動脈支配領域と一致 害が一過性に生じている可能性も念頭においた上で、当初 しない左室中部の全周性壁運動障害を認めた。心電図は は移植不適合と思われる心臓でも適切な管理によって移植 洞性頻脈でⅡ、Ⅲ、aVF誘導に心筋伝導障害によると思わ 可能となり得る事を認識させられた症例であった。 れるS波を認めた。 連絡先) [email protected] 【経過】 カテコラミン・バソプレシン投与と人工呼吸器による 313 生理1 電子カルテ導入に伴う心電図ビューワーの構築 ○橋本 剛志、橋本 恵美、西村 実紗、上野 真 (国立病院機構鹿児島医療センター 研究検査科) 【はじめに】 当院では平成24年7月の電子カルテ導入に伴 を可能とした。また他施設へ心電図を提供する場合は、媒 い、部門システムの構築を行った。今回、部門システムの中 体(CD-R)に心電図ビューワーを付加し前述した機能を使 でも心電図ビューワーのシステム構築をベンダーと当院臨 用出来ることとした。 床検査科が行った。地域連携医療の観点からも需要がある 【結果】 共通規格を使用するため異なるメーカーの心電計 と思われる心電図ビューワーを構築したので報告する。 を使用した場合でも同様に波形データを表示でき、各社の 【方法】 心電図の標準化規約である医用波形標準化記述 システムを介さず心電図が閲覧可能となった。利用者と開 規約Medical waveform Format Encoding Rules(以下 発者が共同制作することで、病院の特色に合う心電図ビュ MFER)で定義されている表示可能な波形や情報につい ーワーが構築できた。 て習得した。MFERの長所は高精度で良質なデータであり、 【まとめ】 離島を抱える県では地域連携が課題であり医療 医用波形に特化した単純かつ安価な規格ということである。 情報システムの普及が急がれる。このようなMFERを利用し そのためシステムの拡張性が向上し、連携医療や電子カル た心電図ビューワーが普及することで、電子的な情報交換 テへの応用が可能となる。単純な規格である故に患者属性 が可能となり遠隔地の患者状態を把握することできる。今後 などの医用波形以外の情報は原則として記述しない点が は病院・ベンダー・心電計メーカーが協力しMFERの有用 短所である。 性をさらに高め、業務効率の向上・地域連携に努める必要 今回の構築した心電図ビューワーは、感度・記録速度・ がある。 フィルターなど基本条件の変更も可能となり様々な場面に 対応できるものとなった。計測数値や解析結果も波形と同 連絡先) 099-223-1151(内線7112) 一画面に表示させ、不要な操作を減らし迅速な診療・検査 314 画像4 一日で溶解した左室内血栓症例 ○奈良 友香里、高倉 彩、坂井 綾子、三城 真由美、西原 幸治、三角 郁夫 (国立病院機構熊本再春荘病院 臨床検査科) 【はじめに】 【経胸壁心エコー】 今回、心不全で入院し経胸壁心エコーにて左室内血栓 左 室 拡 大 と 壁 運 動 低 下 を 認 め た 。 ( LVDd 58mm 、 を認め、ヘパリン開始後一日で溶解した症例を経験した。 LVDs 48mm、EF 35%)ドプラエコーでは三尖弁逆流推 【症例】 定圧較差40mmHgで僧帽弁逆流を認めた。 48才女性。最近息苦しいことがあり、頻脈もあるため当科 【入院経過】 を受診した。 心不全治療後再度心エコーをおこなったところ、左室壁 【身体所見】 運動は改善したが、心尖部に可動性の血栓を認めた。血 血圧141/92 mmHg、脈拍130/分、肺野:清、心音:Ⅲ音 栓はTissue velocity imagingおよび、3Dエコーでも確認 とⅣ音を聴取。下肢浮腫なし。 できた。ヘパリン1万単位/日の持続点滴を行ったところ、翌 【血液検査】 日の心エコーで血栓は消失していた。 BNP高値(443.2 pg/mL) 【総括】 【胸部X線】 本症例は柔らかい血栓であったためヘパリン投与により CTR57%で肺うっ血あり 一日で溶解できたと考えられた。 【心電図】 連絡先) 096-242-1000(内線315) ⅡⅢaVF V5V6で平低T波 洞性頻脈 315 画像4 妊娠中に発症したと思われる心膜炎の一例 ○髙永 恵、鹿島 星林、富園 正朋、橋本 龍之 (国立病院機構熊本医療センター 臨床検査科) 【はじめに】 今回われわれは、妊娠16週で発症したと思わ あり他検査での評価が難しく心エコー検査にて心機能や れる心膜炎の1例を経験したので報告する。 PE貯留量、心電図検査で経過観察となった。入院後は軽 【症例】 36歳、女性 度の呼吸苦、洞性頻脈、血圧低下はあるがバイタルは安定。 主訴 :動悸、息切れ、嘔吐、四肢冷感 PE貯留を認めたが妊娠中を考慮して穿刺ドレナージは行 既往歴 :経産2回 わず抗生剤投与と利尿剤での対処となった。入院第23病 現病歴:2011年10月中旬、昼食後より動悸と嘔吐が出現。 日目、全身状態改善し退院となった。外来2ヶ月後のfollow 前医を受診し白血球とCRPの上昇認めた。症状が改善 upで、PE貯留量増加は認めず経過観察となった。 せず翌日、当院紹介となり心機能評価目的で経胸壁心 【まとめ】 今回、妊娠中にコクサッキーウイルスに感染した エコー検査の運びとなった。 と思われる心膜炎の1例を経験した。心エコー所見からは、 【入院時現症】 心膜炎が考えられ、症状や検査所見を考慮すると心筋炎も 検 査 所 見 : WBC16,000/μ l 、 AST32IU/l 、 ALT28IU/l 、 合併していたと思われる。心筋炎は、確定診断が難しい心 LD203IU/l、CK138IU/l、CRP6.2mg/dl 膜炎、心筋炎は重症化すると稀に突然死の原因となる。今 心電図 :洞調律、心拍数147/min、洞性頻拍、PQ短、 回の症例は、心電図でWPW症候群を示し致死的不整脈 デルタ波、QRS延長、WPW症候群 を起こす危険性があり、またPEの急激な貯留による心タン 心エコー:左室壁運動異常なし。PE全周性貯留。 ポナーデや心機能の低下など重症化することも考えられ、 【経過】 入院翌日の検査所見で肝機能や心筋逸脱酵素、 心エコー検査や心電図検査が経過観察に有用であった。 コクサッキーB群ウイルス抗体価の上昇。心エコー検査で、 PE貯留の軽度上昇を認め心膜炎と診断された。妊娠中で 連絡先) 096-353-6501(内線3313) 316 画像4 精巣腫瘍摘出後に転移巣の増大を認め、心臓超音波検査にて検出された心臓腫瘍の一症例 ○阿部 真弓、上山 由香理、椛田 智子、椎原 理恵子、恒光 千恵、古賀 紳也、 佐野 成雄、宮子 博(大分大学医学部附属病院 医療技術部臨床検査部門) 【患者】 49歳男性 増大しており、右下肺静脈に腫瘍が充満し、左房入口レベ 【現病歴】 ルから左房内に腫瘍と連続する40mm長の細長い造影不 2012年8月、右陰嚢腫大を主訴に他院受診。右精巣腫 良域を認めた。原疾患の状況より総合的に判断し、外科的 瘍(リンパ節転移、肺転移、右水腎症)の診断で高位精巣 手術は適応外であり、化学療法(BEP療法)が開始された。 摘出術、右尿管ステント留置施行。 約2ヶ月後には、左房から左室内へ伸びたmassは収縮期 病理診断はGerm cell tumor(pT3N3M1aS3、StageⅢ) に大動脈弁を越えて大動脈内に突出するようになった。約 であった。同年10月より食思不振、倦怠感が出現し、CT検 3ヶ月後には徐々に索状massの幅が細くなってきているよ 査で転移巣の増大を認めたため、精査加療目的で2013年 うに観察された。 1月、当院泌尿器科に紹介入院となった。 【まとめ】 【経過】 精巣腫瘍の遠隔転移による転移性心臓腫瘍の1例を経験 入院時心エコーにて左房内の心房中隔に付着し、内部 した。massの急速な増大と、化学療法による縮小が確認で 不均一、不整形で可動性のある索状のmassを認め、mass きた。massの存在、部位、心機能評価において経時的な は心周期に伴って左室内へ移動していた。壁運動異常や 心エコー検査が有用であった。 有意な弁逆流は認めなかった。CT検査では多発肺転移が 連絡先) 097-586-6033 317 画像5 心エコー図検査が有用であった stuck valve の一症例 ○山尾 香織、宮﨑 明信、白水 利依、伊藤 葉子、伊藤 美智子、安達 知子、 畠 伸策、山下 祐一(国立病院機構九州医療センター 臨床検査部) 【はじめに】 人工弁機能不全(stuck valve)とは、血栓もし くはパンヌスにより弁葉の解放が妨げられ、狭窄や経弁逆 流が生じてしまう状態である。 【症例】 60代女性。 【既往歴】 20歳頃初めて心雑音を指摘され、27歳時に慢性 心不全、29歳時に僧帽弁狭窄症(MS)と診断された。その 後内服加療されていたが、1996年より慢性心房細動(af)と なりMSに対して手術を勧められ、静脈的僧帽弁交連切開 術 ( PTMC ) 予 定 と な った が 、 入 院 中 に 一 過 性 脳 虚 血 (TIA)を発症。PTMCは行わず、僧帽弁置換術(MVR)が 行われた。その後2010年、2011年に脳梗塞を発症。 【現病歴】 視野異常の訴えで当院救急外来受診し、急性脳 梗塞疑いで入院。MRI検査で急性期脳梗塞の所見なく、 頭部MRA、頸動脈エコーでは明らかな主幹頸動脈狭窄や 不安定プラークは認めなかった。af、MVR術後であり、af に関しては、PT-INR 2.80と治療域であったが、心原性を 含めた塞栓性機序のTIAが疑がわれ、塞栓原検索で心エ コー図検査が行われた。 【心エコー所見】 人工弁機能評価で、連続波ドプラ法による 最高血流速2.1m/sec、平均圧較差は8.9mmHg、PHTは 152msecと中等度MSの所見であり、二葉弁のうち一枚は 可 動 性 が 見 られ ず 、血 栓 も しく はパ ン ヌ スに よ る stuck valveが疑われた。その他、心内に明らかな塞栓源は指摘 できなかった。 【経過】 心臓外科紹介となり、弁単純撮影が行われ、stuck valveと診断された。心臓カテーテル検査では、僧帽弁口 面積0.67cm2、平均圧較差7.8mmHgとMSの所見であっ た。冠動脈に異常なし。左心室造影では僧帽弁逆流 (MR)は軽度であった。 【手術所見】 挿入されている機械弁はEdwards TEKNA 25mmで、術者側からみて左側の弁葉がパンヌスと血栓で ほぼ閉鎖位でstuckしており、表面には血栓が付着してい た。左房側から除去できる血栓を取り除いたが、弁の可動 性は改善せず、弁下組織により弁の可動性を抑制している ことが判り、再弁置換となった。 【まとめ】 stuck valveの診断にはドプラ法による指標が有 用である。今回、ドプラ指標に異常値を認めたことをきっか けに、stuck valveを疑い、早期診断に至った症例を経験 したので報告する。 318 画像5 経胸壁心エコーで大動脈置換弁機能不全を示唆した一例 ○小島 真由美、福本 健太、佐方 里美、梶原 俊一(福岡市民病院 検査部) 【症例】 87 歳女性 0.95 で経過していることから、血栓による弁機能不全と判断 【主訴】 平成 25 年 8 月、他院にて維持透析中に胸部圧迫 された。ヘパリンとワーファリンによる抗凝固治療を開始し、 感出現、心電図で ST 低下(Ⅱ、Ⅲ、aVf、V3-6)を認め、不 10 日目の心エコー検査では弁口面積の狭小化は改善傾 安定狭心症疑いで当院に救急搬送された。 向にあった。また X 線透視では両二葉弁が動いていること 【現病歴】 平成 16 年に大動脈弁狭窄症に対し、九州大学 を確認、16 日目の心エコー検査では、大動脈弁の血流速 心臓外科にて大動脈弁置換術(機械弁 SJM HP#19)を 度は正常範囲まで戻っていた。不安定狭心症の除外のた 施行、平成 23 年より維持透析を開始されている。 め血管造影検査も施行したが、冠動脈には有意狭窄はみ 【入院時血液所見】 WBC;49 (10^2)/μl HGB;10.2g/dl とめなかった。 CRE;3.56mg/dl LDH;998IU/l CPK;71IU/l PT INR; 【考察】 血栓弁の症例。一年近くワーファリンの効果がなく、 0.95 APTT;30.3sec 一年以内に弁機能不全をきたし大動脈弁狭窄による胸痛 【UCG 所見】 AoD 27mm、LAD 48mm、LVDd 47mm、 が出現したものと思われた。抗凝固療法により弁機能は改 LVDs 34mm、IVS 12mm、LVPW12mm、EF(biplane) 善し、脳梗塞などの血栓症を合併することなく退院すること 48%、大動脈弁口血流速度;5.6m/s、弁口面積(連続の ができた。PT-INR 2.0~2.5 を目標にワーファリン投与量を 式);0.65cm2、diffusehypokinesis、Mr1 度、Ar1 度、Tr1 調整するとともに定期的な心エコー検査でのフォローも必 度(TRPG;37mmHg) 要と思われた。 【経過】 搬送時は胸部症状と心電図所見から不安定狭心 【結語】 心エコー検査で大動脈置換弁通過血流の流速亢 症を疑っていたが、心エコー検査にて重度の大動脈弁狭 進から置換弁不全を疑い、早期に抗凝固治療を開始した 窄症を認めた。一年前の心エコーと比較し弁口面積が急激 症例に遭遇した。また抗凝固治療効果の推測にも心エコー に狭小化しており、X 線透視下で置換弁の二葉のうち一葉 の役割は重大であると思われた。 が動いてないことを確認した。血液凝固検査から PT-INR 連絡先) 092-632-1206 319 画像5 ファロー四徴症修復術後心不全を来した一症例 ○織田 廣子(福岡市民病院 検査部) 【はじめに】 ファロー四徴症とは①心室中隔欠損②右室流 出路狭窄③大動脈騎乗④右室肥大の4つからなる。先天性 疾患の約 10%を占め、修復術後の生存率・QOL は良好で あるが、遠隔期にはさまざまな問題が生じることがわかってい る。そこで、術後長期にわたるフォローが必要であるとされて いる。 【症例】 39 歳・男性 【既往歴】 4 歳の時に、他 院にてファロー四徴症に対して修復術施行。肺動脈弁は二 尖よりなり癒合していたため、切開術施行。その際、三尖弁 前尖の乳頭筋の一部を切除。心室中隔は膜様部欠損 (KirklinⅡ型)であり、パッチにて閉鎖。肺動脈にも心外膜 にてパッチを当て終了。 【現病歴】 中学卒業後は特にフ ォローされていなかったが、2011 年 5 月頃より呼吸困難感を 自覚。同年 6 月、息苦しくて寝つけず、近医受診。同日、当 院紹介となり精査加療目的にて入院となった。 【入院時現 症】 体温:35.5℃、血圧:129/89mmHg、脈:81/分不整、 SpO2 :97% 【心 電図 】 Af、LAD 、CRBBB 【胸 写】 CTR = 0.89 、 肺 う っ 血 は 軽 度 【心エコー所見】 AoD/LAD=32/44 、 LVDd/s= 57/53 、 EF=0.15 、 IVST/LVPWT=9/9 、 IVC=17-29 、 Mr : 2 、 TR : 4 (PG=35mmHg)、Pr(-)①心室中隔閉鎖術後のパッチ確 認。VSD フロー(-)②右室流出路狭窄(-)、拡大(-)③ 大動脈騎乗(-)④右室肥大(+)、右房拡大(+) 【右心 カテ】 右房圧:17mmHg、肺動脈楔入圧:16mmHG ともに 高値であったが、収縮性心外膜炎を積極的に示唆する所見 はなかった。右室と肺動脈圧間に圧較差なく、肺動脈圧の上 昇も 35/16(21)mmHg と比較的軽度であった。熱希釈法に て求めた心拍出量は 6.1(3.66)L/min と良好であったが、酸 素飽和度から計算した心拍出量は 2.72(1.63)L/min と低値 であった。右心房および右心室レベルに有意な O2 ステップ アップは認められず、左右シャントの残存も否定的であった。 【考察】 以上より、ファロー四徴症は根治されていたが、静 脈圧の上昇にかかわらず、心拍出量は低下していたことより、 心エコーの所見と合わせると、三尖弁閉鎖不全の重症化に 伴い心拡大を来し、心房細動を契機に心不全を発症したと 考えられた。 【まとめ】 ファロー四徴症は、修復術後の生存率・QOL は良 好であるが、長期的なフォローを行っていくうえで、エコー検 査は重要な意義をもつことがわかった。 連絡先) 092-632-1206 320 画像5 当院における診療データ統合管理システム STELLAR の使用経験と今後の展望 ~心血管エコー検査室を中心に~ ○竹内 保統、佐々木 道太郎、大山 愛子、古賀 万紗美、佃 孝治、上野 真 (国立病院機構鹿児島医療センター 研究検査科) 当 院 で は これ ま で フルオ ー ダ リ ン グ システ ム と 他 社 の PACSを導入していたが、平成24年7月の電子カルテ導入を 前にPACSを含めた部門システムの見直しを行った。導入当 初のコンセプトとして当院の3本柱である循環器、脳卒中、癌 の診療科がストレスなく診療できること、また、各検査部門間 をまたいで横断的に使用するのに使い勝手が良いことなど が挙げられていた。今回、導入されたアストロステージ社の診 療データ統合管理システムSTELLARは、放射線科システ ム、PACS、RIS、生理検査システム、検体検査システム、レ ポーティングシステム、スキャンシステム、内視鏡顕微鏡シス テム、カテシステム、デジカメ画像システムなどを全て統合し 一元化でき、各部門での情報共有が可能となり病院内のど の端末からも容易に患者情報の把握ができるようになった。 超音波検査に関しては心血管エコー室内のみならず院内 全ての超音波機器を直接アストロステージのサーバに接続 す る こ と で 動 画 静 止 画 を 問 わ ず PACS に 保 存 で き Nazcaview と い う ビ ュ ー ア で 閲 覧 可 能 と な っ た 。 ま た 、 Nazcaviewでは超音波画像、CT画像、シネ画像、ポリグラ フ、心筋シンチ画像などの複数画像を同一ビューア内で同 時再生可能なことで、検査側にも診療側にもおおいに役立 っている。 検査の際にはMWM患者認証システムを用いることで患者 誤認を防止でき、レポート作成においてはDICOM SRの活 用により数値データを自動でレポートに転記することで時間 の省力化や記載ミスの減少につながった。 今後の展望として更なる時間の省力化や効率アップを目指 し、超音波機器にて行っている全ての計測をNazcaviewの ビューア上で行えるように開発依頼中である。また、 STELLARは検査結果のほぼ全ての数値データを同時に携 帯でき集約できる特徴がある。この機能を拡充し多種多様な 検査データの収集統計を行うことが可能となれば臨床診断 及び研究などにおおいに役立つツールになるのではないか と期待している。 連絡先) 099-223-1151(内線7415) 351 細胞1 膣壁原発の無色素性黒色腫(Amelanotic melanoma)の一例 ○古屋 優加(国立病院機構九州医療センター 臨床検査部)、桃崎 征也(同 病理部)、中峰 ともみ、 加藤 裕一、松下 義照、西浦 明彦、中山 吉福(同 臨床検査部)、蓮尾 泰之(同 産婦人科) 悪性黒色腫はメラノサイト由来の悪性腫瘍であり、予後 った。 不良とされる腫瘍のひとつである。女性性器に発生する悪 【組織像】 大型で核小体明瞭な細胞がリンパ球浸潤を伴 性黒色腫は1~4%程度とされ、膣部に発生するものは1% ってみられ、切除された膣壁のほぼ半分の深さに浸潤を認 未満と極めて稀な腫瘍である。今回、膣壁原発の無色素性 めた。免疫染色結果S‐100(+)、HMB45(+)、Melan‐A 黒色腫(Amelanotic melanoma)を経験したので報告す ( + ) 、 AE1/AE3 ( - ) 。 Malignant melanoma of the る。 vaginaの診断。手術材料標本中にもメラニン顆粒を認める 【症例】 89歳女性 性器出血を主訴に受診。内診にて膣 細胞はみられなかった。 上部付近に2.5cm程の易出血性の不整な腫瘤性病変あり。 【考察】 膣壁原発の悪性黒色腫は頻度的に稀なうえ、細 子宮頚癌疑いにて生検施行され、Malignant melanoma 胞学的特徴のひとつである「メラニン顆粒」を欠いた今回の の診断。全身検索にて皮膚等他に特記すべき病変なく、 無色素性黒色腫は、細胞診での判定が極めて困難であっ PET-CTにて遠隔転移やリンパ節転移なし。手術適応とな た。しかしながらメラニン顆粒を欠くという点以外、細胞像や り腹式単純子宮全摘術+膣壁切除施行。 出現形態は一般的に言われる悪性黒色腫の細胞像とほぼ 【細胞像】 背景やや汚く、リンパ球を多数認める。やや核 一致しており、稀ではあるがAmelanoticなtypeを含め悪性 偏在傾向で大型のAbnormal cellが、多くは孤在性に、一 黒色腫に遭遇する可能性及びその細胞学的特徴を念頭に 部上皮性結合様の集蔟を成して出現。大型で明瞭な核小 おき鏡検することで、組織型を推定し得る可能性があったと 体を1~複数個有し、クロマチンは粗顆粒状。細胞質は豊 学んだ症例であった。 連絡先) 092-852-0700 富なものから、裸核様のものまで様々で、メラニン顆粒を認 (内線2306) める細胞はみられなかった。鑑別として低分化な扁平上皮 [email protected] 癌や未分化癌、Lymphoepithelial carcinomaなどが挙が 352 細胞1 30 歳女性に発生した縦隔原発絨毛癌の一例 ~細胞・組織学的検討を中心に~ ○白石 幸恵、永田 栄二(国立病院機構嬉野医療センター 臨床検査科)、 岩永 浩輔、田場 充、内藤 愼二(同 病理診断科)、副島 佳文(同 呼吸器内科) 【はじめに】 縦隔原発の絨毛癌は、多くは20歳代男性に 報告した。 発生する悪性度の高い稀な腫瘍で、女性に発生するのは 【病理所見】 出血・壊死を背景に核小体の目立つ大型の きわめて稀である。今回我々は30歳女性の前縦隔に発生 核と淡明な胞体から成る異型細胞が充実性に増殖し、一部 した絨毛癌の1例を経験したので細胞像を中心に病理・免 には好酸性の胞体を有する細胞や多核の細胞も認められ 疫組織化学の結果を合わせて報告する。 た。異型細胞は免疫組織化学にて、keratin(+)、CK7(+)、 【症例】 30歳女性。咳嗽と右上前胸部痛にて近医を受診。 CK20(partially+)、vimentin(-)、CEA(-)、CD30(-)、 胸部X線検査で左第1弓レベルの腫瘤影と両肺野の多発 p53(+)、Ki-67(++)で、さらに好酸性の細胞はhCG(+)、 結節影を指摘され、胸部CTにて前縦隔に6cm大の腫瘤が EMA(+)であった。以上より、淡明な細胞は細胞性栄養膜 認められたため当院呼吸器内科紹介、エコーガイド下生検、 細胞、好酸性の細胞は合胞体栄養膜細胞と考えられ絨毛 捺印細胞診が施行された。 癌と診断した。 【検査所見】 血清hCG 14000mIU/mL、血清hCGβサブ 【考察・まとめ】 30歳女性の前縦隔に発生したきわめてま ユニット 44.13ng/mL、AFP 0.61ng/mL以下。 れな絨毛癌の1例を報告した。縦隔絨毛癌の細胞像は報 【細胞所見】 血性背景に、紡錘形、多稜形の異型細胞が 告も少なく、細胞所見のみでの診断は困難であるが、特徴 孤在性に出現していた。細胞質は淡明で、核は大小不同、 的二種類の細胞像を確認し画像や血中β-hCGなどの検査 一部は多核を示し、好酸性大型の核小体が認められた。ク 情報を十分考慮することによりその推定はある程度可能と ロマチンは粗顆粒状で濃縮していた。以上より、胚細胞腫、 思われる。 間葉系腫瘍、未分化癌、転移性腫瘍などを鑑別に考えるも、 由来や良悪の判断が困難な細胞であり、Class Ⅲと診断、 連絡先) [email protected] 353 細胞1 子宮頸部細胞診を契機に発見された腹膜原発漿液性腺癌の一例 ○佐藤 啓司、山下 広光、宮﨑 恵、宮澤 由記子、米増 博俊 (大分赤十字病院 検査部) 【はじめに】 腹膜原発漿液性腺癌は、卵巣の漿液性乳頭 腹術が施行された。 腺癌に類似した組織像を示すものの、卵巣やその他の臓 【細胞所見】 腫瘍細胞は乳頭状集塊で出現し、N/C比の 器には原発巣を認めず、あっても病変が卵巣表面のみに 上昇、核型不整、クロマチン増量、核小体腫大が認められ、 とどまるものとされている。腹膜表面に播種性腫瘤を形成し、 卵巣あるいは子宮体部の漿液性腺癌を疑った。 癌性腹膜炎の状態で発見されることが多く、診断に苦慮す 【病理組織所見】 大網および腹膜に、乳頭状に増殖する る疾患である。今回我々は、子宮頸部細胞診に異型細胞 異型細胞が線維性間質を伴いながら浸潤する像が認めら が出現した腹膜原発漿液性乳頭状腺癌の1例を経験した れた。周囲には砂粒体様の石灰化も存在し、卵巣漿液性乳 ので報告する。 頭状腺癌に酷似した所見を呈していた。子宮、両側附属器、 【症例】 60歳代女性、3妊2産、56歳閉経、既往歴無し。近 両卵管采に特記すべき異常所見はなかったため、最終的 医における検診で子宮頸部細胞診にて異常細胞を指摘さ に腹膜原発漿液性乳頭状腺癌と診断した。 れ、精査のため当院紹介受診。細胞診検査は陽性(腺癌) 【まとめ】 腹膜原発漿液性腺癌は癌性腹膜炎の状態で発 であったが、頸部、内膜組織診にて陰性。また画像検査で 見されることが多く、無症状のまま子宮頸部細胞診に腫瘍 は子宮や卵巣、骨盤内、膵、両腎、肝などに特記すべき異 細胞が出現することはまれである。しかし、画像上または組 常所見は認められず、血液検査ではCA125とCA72-4が高 織検査にて異常が認められず、卵巣あるいは子宮内膜の漿 値、CA19-9ならびにCEAは正常範囲内であった。 液性腺癌に類似した異型細胞が出現した場合には、本症も 以上より子宮体部あるいは卵巣原発の腺癌が疑われ開 念頭に置く必要があると考えられた。 354 細胞2 超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)が診断に有用であった 腎癌術後に発生した転移性胃癌(粘膜下腫瘍)の一例 ○本多 雅樹(国立病院機構九州医療センター 臨床検査部)、桃崎 征也(同 病理部)、古屋 優加、 中峰 ともみ、加藤 裕一、松下 義照、西浦 明彦(同 臨床検査部)、麻生 暁(同 消化器科) 【はじめに】 腎細胞癌は、血行性転移を来しやすく、肺、肝、 像も見られた。以上の所見から、胃原発の低分化腺癌の可 骨、脳等に多いとされているが、胃への転移は極めて稀で 能性を考えたが、既往の腎癌の組織標本と比較検討したと ある。今回、我々は胃粘膜下腫瘍に対して超音波内視鏡 ころ、類似した細胞像であったことから、腎癌の転移も鑑別 下穿刺吸引法(以下、EUS-FNA)を施行し、腎癌の胃転 に挙がった。 移と診断された1症例を経験したので報告する。 【病理組織所見】 好酸性顆粒状の細胞質をもち、核クロマ 【症例】 61歳、男性。検診にて左腎腫瘤を指摘され、腎細 チン増量した上皮性の異型細胞が認められた。免疫組織 胞癌との診断後、腹腔鏡下根治的腎摘除術が施行された。 化学的検査では、EMA、Vimentin、CD10が陽性を示し、 病理結果は、好酸性顆粒状の細胞質を有する細胞が一部 CK7、CK20が陰性であった。以上の所見から、腎癌の胃 認められた淡明細胞型腎細胞癌であった。5か月後に、食 転移と診断された。 欲低下、倦怠感、体重減少、発熱を主訴に近医を受診し、 【まとめ】 EUS-FNAは、従来の内視鏡下生検では採取困 血液生化学検査にて、貧血、CRPの上昇、US、CTにて胃 難とされる粘膜下腫瘍の組織採取が可能な手法であり、本 壁の肥厚を認めたため、精査目的で当院紹介となった。上 症例の診断確定に非常に有用であった。腎癌の胃転移は 部消化管内視鏡検査にて、幽門前庭部から胃角部の大弯 稀であり、本症例では細胞診のみで腎癌の転移を鑑別に 側にかけて45mm大の粘膜下腫瘍を認め、EUS-FNAが 挙げることは困難であったが、過去の組織標本との比較検 施行された。 討により鑑別に挙げることが可能となった。臨床情報や、過 【細胞所見】 少量の壊死物を認める背景に、N/C比が高 去の診断情報などを合わせて総合的に判断することの重 く、著しい核形不整を伴った異型細胞が、多くは孤在性に、 要性を再認識することができた。 一部緩い結合性をもって出現していた。核は偏在傾向のも 連絡先) 092-852-0700(内線2306) のが多く、大型で明瞭な核小体を有しており、また核分裂 [email protected] 355 細胞2 Xp11.2 転座腎細胞癌の一例 ○中村 朱、橋本 教経、馬渡 聖子、柴木 政美、藤丸 政義、森 大輔、明石 道昭 (佐賀県医療センター好生館 研究検査科) 【はじめに】 染色体Xp11.2に転写因子TFE3がコードされ 膜に覆われていた。組織では、淡明な細胞質を有する腫瘍 ており、相互転座によって異常な融合遺伝子が形成され、 細胞が、線維血管の間質を軸として、乳頭状から一部管状、 小児ないし若年者に好発する腫瘍であるXp11.2転座腎細 胞巣状に増殖していた。壊死が一部でみられ、好酸性顆粒 胞 癌 は 、 2004 年 の WHO 分 類 に renal carcinoma 状の細胞質を呈するものや、やや細胞質の豊富な細胞も associated with Xp11.2 translocation /TFE3 gene 認めた。コレステリンの沈着、泡沫状細胞の浸潤をみる中、 fusionsのカテゴリーとして新たに加えられた。今回、我々 間質には硝子結節や砂粒体も認めた。免疫細胞化学的検 は、Xp11.2転座腎細胞癌の1例を経験したので報告する。 討では、AMACR、RCCMa、CD10、CathepsinKに瀰漫 【症例】 20歳代、女性。他疾患にて他院経過観察中に、 性に陽性、Melanosome、MelanA、cytokeratin7で陰性 右腎腫瘍を指摘され、紹介受診となった。画像検査で腎細 となった。また、TFE3には瀰漫性に3+の核の陽性像を呈 胞癌が疑われ、部分切除術を施行された。腫瘍割面より捺 した。 印細胞診を行った。 【まとめ】 今回、捺印細胞診での硝子結節の存在は本疾 【細胞所見】 多数の組織球を背景に、異型細胞を孤在性 患を疑う有意義な所見となった。本疾患における成人症例 から重積性または腺腔様集塊として認めた。細胞質は顆粒 では、高率にリンパ節転移をきたし、予後不良であり、他の 状で淡染し、粘液様空胞を有し、N/C比は中~大、クロマ 腎細胞癌との区別が重要となる。今後、若年性腎細胞癌に チンの増量と著明な核小体がみられ、腺腔様集塊の中心 対しては、常にXp11.2転座腎細胞癌も念頭におくことが必 部にはライトグリーン好染でギムザ染色ではメタクロマジー 要と思われた。 を呈す硝子結節を認めた。 連絡先) 0952-24-2171(内線1682) 【組織所見】 約15mm大の境界明瞭な腫瘍で、線維性被 356 細胞2 超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診(EUS-FNA)による消化管粘膜下腫瘍診断の検討 ○佐藤 圭、岩永 彩、木左木 智仁、澤田 吉人、黒濱 大和、伊東 正博 (国立病院機構長崎医療センター 統括診療部臨床検査科) 【 はじめに 】 近 年 、超音 波内 視鏡 下穿 刺吸 引細 胞診 胞診標本に細胞が認められず判定不能であった。 (EUSFNA)の普及に伴い、消化管粘膜下腫瘍に対しても 【考察】 今回検討した症例では、細胞が採取されておらず、 積極的に施行されるようになってきた。今回、我々は 細胞診・組織診ともに診断が行えなかったものが2例、組織 EUS-FNAを施行した消化管粘膜下腫瘍について、その 診のみ診断可能であったものが1例あり、適正検体採取率 有用性と細胞像を検討したので報告する。 は82%(14/17)であった。オンサイトで細胞診判定が可 【症例】 2011年9月~2013年7月までにEUS-FNAを施 能であった14例は組織診での診断が全て可能であり、オン 行した消化管粘膜下腫瘍 17例を対象とした。採取部位は サイトでの細胞確認は有用と思われた。細胞所見として、 食道 1例、胃 11例、十二指腸 1例、直腸 2例、腹腔内 平滑筋肉腫は異型細胞の塗抹細胞量が多く、悪性の診断 腫瘤 2例。組織型は消化管間葉腫瘍(GIST)13例、神経 は比較的容易であった。神経鞘腫では塗抹細胞量が少な 鞘腫 1例、平滑筋腫 1例、平滑筋肉腫 1例、異所性膵 1 かったため、悪性との鑑別が困難であった。GISTについて 例であった。摘出術施行(12/17)。剖検施行(1/17)。 は紡錘形、多稜形、類円形と多様な細胞を認め、オンサイ 生検のみ(4/17)。 トで間葉系腫瘍を疑うことは可能であった。オンサイトを含 【細胞像】 GISTでは①紡錘形核の細胞を主体とした細胞 めた細胞診断と組織診断で免疫染色を行うことにより、高 像、②円形~楕円形核を有した紡錘形細胞主体の細胞像、 い正診率が得られた。術前にGISTであるかどうかを診断 ③円形~楕円形核を有した多稜形、類円形細胞主体の細 することは治療決定上重要であり、EUS-FNAを施行する 胞像で認められた。平滑筋肉腫、神経鞘腫各1例では核異 ことは有用と思われた。今後、さらに症例を重ね、正確かつ 型の強い細胞を認めた。異所性膵では、腺房細胞が多数 迅速に診断を行えるように取り組んでいきたい。 認められた。GIST 2例及び、平滑筋腫 1例については細 連絡先) 0957-52-3121(内線5131) 357 細胞3 胆汁・胆管ブラシ細胞診により転移性腫瘍が示唆された一例 ○上原 俊貴、川嶋 大輔、下代 清香、井上 佳奈子、桑岡 勲(飯塚病院 中央検査部)、 伏見 文良、大屋 正文(同 病理科)、武谷 憲二(同 外科) 【はじめに】 乳癌の十二指腸への転移は比較的稀であり、 さらに胆汁・胆管擦過細胞診に乳癌細胞が出現することは 予測しがたい。我々は閉塞性黄疸を契機にERCPが施行さ れ、細胞診により転移性腫瘍が考えられ、病歴も含め乳癌 の転移が示唆された1症例を経験したので報告する。 【病歴】 66歳、女性。2007年にECD領域に及ぶ左乳腺 腫瘤に対し乳房全切除術施行され、浸潤性乳管癌 papillotubular+scirrhous type(ER・PgR(‐)、HER2 (3+))と確定診断された。2013年に嘔吐・下痢・肝胆道系 酵素の上昇がみられ、十二指腸乳頭部に腫瘤が認められ たため、ERCPが施行された。 【細胞像】 採取された胆汁細胞診標本には、小型でN/C 比が高く、クロマチン増量した異型細胞が散在性~小集塊 として少数出現していた。胆管ブラシ擦過細胞診標本には、 胆汁標本と比較して大型の異型細胞が多数出現し、集塊も 大きい傾向にあった。周囲に出現していた上皮細胞には悪 性を疑う所見はみられず、異型細胞との連続性も確認でき なかったため、乳頭部癌などの原発性腫瘍よりも転移性腫 瘍を疑い、病歴と合わせて乳癌の転移を考えた。 【組織像】 同時に十二指腸乳頭部生検が行われており、 拡張したリンパ管内に2007年の乳癌切除標本と類似した 異型細胞巣がみられ、免疫染色結果も同様(ER・PgR(‐)、 HER2(3+)、GCDFP-15(+))であったことより、乳癌の転 移と診断された。 【結論】 今回、胆汁・胆管ブラシ擦過細胞診において乳癌 の転移が示唆された比較的稀な1症例を経験した。胆汁・ 胆管擦過細胞診において、悪性と判定するような異型細胞 が出現した場合には、周囲の上皮細胞との類似性や病歴 を確認し、転移性腫瘍の可能性も考慮する必要がある。 連絡先) 0948-22-3800(内線2515) 358 細胞3 当院で経験した膵 Solid-pseudopapillary neoplasm の一例 ○中峰 ともみ、松下 義照、加藤 裕一、西浦 明彦、中山 吉福(国立病院機構九州医療センター 臨床検査部)、桃崎 征也(同 病理部)、藤森 尚、河邉 顕(同 消化器科) 【はじめに】 膵Solid-pseudopapillary neoplasm(SPN) 【組織所見】 出血性背景に好酸性の細胞質を有する細胞 は若年女性に好発する比較的稀な腫瘍である。一般に発 の偽乳頭状構造を認めた。核は類円~円形で大小不同や 育は緩慢であるが、malignant potentialを有する腫瘍で、 不整があり、周囲には泡沫細胞の集簇や硝子様変化がみ 適切な病理診断が治療方針決定に重要である。今回、超 られた。免疫組織化学的検討ではAE1+AE3、Vimentin、 音波内視鏡下穿刺吸引細胞診(EUS-FNA)にて比較的 CD10、PgR、α1-AT、α1-ACT、β-catenin、NSE、が陽性 高齢女性に発症したSPNの一例を経験したので報告す を示し、CK7、ER、Synaptophysinが陰性でSPNと診断 る。 された。 【症例】 61歳、女性。腹痛、体重減少の精査目的に施行さ 【まとめ】 当院はEUS-FNA導入から間もなく、細胞診や れたCT検査にて膵頭部腫瘤を指摘され、当院紹介受診。 検体処理においてまだまだ未熟である。膵腫瘍に対する EUSにて膵頭部に15mm大の低エコー充実性腫瘤を認め、 EUS-FNAの臨床的有用性は非常に高く、今後益々の普 内部に小嚢胞構造や点状石灰化を伴っていた。通常型膵 及が予想される。診断精度向上にむけ手技的な面も含め 癌よりはSPNなどの特殊型腫瘍を疑う所見であり、診断目 た更なる改良を行う必要がある。当院で導入後初めてSPN 的にEUSFNAが施行された。 の症例を経験し、細胞診では積極的にSPNとするには至 【細胞所見】 細胞質の淡い細胞が散在性、小集塊状で出 らなかったが、本症例の細胞所見は今後の診断に有用と 現し、血管性間質を軸とした乳頭様配列も認めた。核は比 考えられる。 較的小型で類円~楕円形、切れ込みや皺等の不整を伴い、 大小不同がみられた。小型の核小体を有しクロマチンは細 連絡先) 092-852-0700(内線2306) 顆粒状~顆粒状であった。 [email protected] 359 細胞3 心嚢液細胞診にて診断しえた B-cell lymphoma の一症例 ○樋口 千穂、園田 美穂、安河内 達郎、成田 妙子、山口 沙由莉、原田 哲太 (高木病院 検査室)、山﨑 文朗(同 病理部) 【はじめに】 心嚢液に悪性リンパ腫細胞が見られるのは悪 性リンパ腫の2次的浸潤か原発性滲出液リンパ腫(PEL) が考えられる。本例は偶然に心嚢液のみに悪性リンパ腫細 胞を認めB-cell lymphomaと診断した症例を経験したので 考察をふまえて報告する。 【症例】 77歳、男性。X年7月より倦怠感・浮腫があり、当院 受診。心拡大・心嚢液貯留を認め、治療目的のため循環 器内科に入院し、心不全に対する治療を行ったが心嚢液 に著変なく、心嚢ドレナージが施行された。細胞診検査に てB-cell lymphomaの診断となった。 【入院時血液検査所見】 WBC 7,050 /μl、Hb 12.6g /dl、 PLT 25.2万 /μl、LDH 219 IU/l、BUN 14 mg/dl、CRE 0.86 ng/ml、S-IL-2R 291U/ml 【 心 嚢液 一般 検査 所見 】 LDH 16,210 IU/l 、細 胞数 12,950 /μl 【胸部X線・胸腹部CT検査】 心嚢液、両側胸水貯留を認 めた。明らかな腫瘤性病変やリンパ腫を疑う所見は認めな かった。 【細胞診検査】 出血性背景に成熟リンパ球の2~3倍大 N/C比が非常に高い異型細胞を孤在性に多数認めた。異 型細胞は核型不整、核クロマチンの不均等分布、核小体 などを認め、ごく一部には分裂像も見られた。異型細胞は 結合性がなく、免疫組織染色にてLCA、CD20、CD79a陽 性となり、B-cell lymphomaと診断した。 【考察】 本症例では、心嚢液から悪性リンパ腫を推定し、B 細胞系マーカー陽性となり、診断に至った。その後の全身 検索でも明らかな腫瘤性病変は認めず、細胞診断のみの 結果ではあったが、R-CHOP療法2コース施行後、心嚢 液・胸水貯留がほぼ消失し、今回の診断は治療方針決定 に有益であったと考える。鑑別にあがるPELはWHOの定 義ではHHV-8の検出は必須であり、免疫不全に関連して 発症する例が大半であるが本症例はどちらとも該当せず PELの確定には至らなかった。 【まとめ】 今回、当院では初めてPELを推定しうる症例を 経験した。体腔液貯留の原因精査においてはPELの可能 性も念頭において診断業務を行うことが重要だと実感し た。 360 細胞3 細胞診断に苦慮した肺大細胞神経内分泌癌の一例 ○豊岡 辰明、松本 聡美、久保田 緑(国立病院機構福岡東医療センター 臨床検査科)、 古賀 孝臣、居石 克夫(同 病理診断科)、永田 旭克夫(同 呼吸器外科) 【はじめに】 肺 大 細 胞 神 経 内 分 泌 癌 ( large cell 状で増量し、一部、粗顆粒状であった。好酸性の核小体を neuroendocrine carcinoma;以下LCNEC)は神経内分泌 複数個認めた。以上の所見より悪性と報告し、組織型は低 分化を示唆する組織学的特徴をもつ大細胞癌であると定義 分化腺癌を疑った。 されている。今回、我々は肺の穿刺吸引細胞診で診断に苦 【組織像】 腫瘍細胞は大型で、シート状、索状の増生と壊 慮したLCNECの一例を経験したので、細胞像を中心に報 死巣を認めた。豊富な細胞質を有し、核クロマチンは粗く、 告する。 目立つ核小体を認めた。核分裂像も多くみられた。免疫組 【症例】 58歳、男性。健康診断で胸部異常陰影を指摘さ 織化学にて腫瘍細胞は、Synaptophysinが陽性、CK7が れ 、 当 院 呼 吸 器 内 科 紹 介 と な る 。 胸 部 CT で 右 肺 S2 に 一部陽性、Chromogranin Aが陰性であった。以上より 16×11㎜大の結節影が認められた。気管支鏡検査は陰性 LCNECと診断した。 であったが、臨床的に悪性を疑い、術中肺穿刺吸引細胞診 【考察・まとめ】 LCNECは生物学的特徴や予後、治療で 及び胸腔鏡下右肺上葉切除術が行われた。 小細胞癌と類似しており、正確な診断が重要である。核縁 【細胞像】 壊死物質を背景に大型の腫瘍細胞が大小の集 が薄く、粗顆粒状の核クロマチン、好酸性の核小体を複数 塊で出現し、裸核や散在性の細胞は少数であった。細胞質 個認める場合、細胞診では鑑別診断として本腫瘍を念頭に は比較的豊富でライトグリーンに淡染し、核は類円形で濃染 おくことが重要である。 性、偏在傾向を認めた。核縁は薄く、核クロマチンは細顆粒 連絡先) 092-943-2331(内線364) 401 循環1 血圧・脈波検査装置の比較検討(ABI・baPWV・CAVI) ○佐方 里美、福本 健太、塩津 幸恵、小島 真由美、梶原 俊一 (福岡市民病院 検査部) 【目的】 現在、当院での動脈の硬さや詰りの指標として、 0.83、男女混合で0.66であった。 ABI・baPWV(formⅢBP-203RPⅢ)測定を行なっている。 【結論】 両機器での同時測定において、ABIに関しては良 心 電 計 の 新 規 導 入 に あ た り ABI ・ CAVI ( Vasera い相関を得ることができた。baPWVとCAVIの回帰分析に VS-1500A)も測定可能となり、当院で両機器を用いたABI 関して、男女混合域間でバラツキがあり、単に比較し同様の 及びbaPWV・CAVIの比較する機会を得たので報告する。 結果を得ることはできなかった。ただ、男性に比べ女性のみ 【方法】 平成25年5月~6月の当院外来入院患者でABI・ では比較的信頼の高い結果が得られたことは興味深いこと baPWVの依頼があり、同意が得られた患者合計73名に対 であった。CAVIは主に血管内膜の粥状硬化をみていると し、ABI・CAVIの同時測定を行なった。両機器での相関分 いわれており、推定による血管年齢を表記することができる。 析、baPWVとCAVIに関してはデータを標準化した上で回 これからCAVIは内科や循環器でのスクリーニングや治療効 帰分析を行なった。 果などには有効で解りやすい検査になり得ると思われる。こ 【結果】 両機器間で、ABIに関して相関係数は0.76と良好 であった。baPWVとCAVI(疑似PWV)に関しては、バラツ キがみられ、回帰分析の寄与率(R2)は男性0.62、女性 れを第一報とし、さらに今後n数を増やし検討を加え、動脈 硬化の指標として診療の一助としていきたい。 連絡先) 092-632-1206 402 循環1 持続陽圧呼吸療法により改善を認めた 重症閉塞性睡眠時無呼吸症候群に伴う高度房室ブロックの一症例 ○藤田 寿之、田中 佳織、利光 彩加、進 史津江、芝原 修一 (国立病院機構福岡病院 臨床検査科) 【はじめに】 閉塞性無呼吸症候群(OSAS)は無呼吸及び CPAP下でのホルター心電図では夜間の房室ブロックによ 低酸素血症に起因する自律神経の機能失調を引き起こし、 る脱落QRSの数はMobitzⅡ型22回、2:1房室ブロック23回、 不整脈の原因になるといわれている。今回、我々は、高度 Ⅲ°房室ブロック19回と減少していたが、max R-R間隔は 房室ブロックを伴う重症OSASに持続陽圧呼吸療法 6.2秒と改善していなかった。そのため他院にて心精査が行 (CPAP)を継続することで高度房室ブロックが改善された症 われたが、徐脈の原因となる有意な所見は認められなかっ 例を経験したので報告する。 た。その後、約10ヶ月後に再度CPAP下でのPSG及びホル 【症例】 37歳、男性。身長168cm、体重131kg、BMI46.4、 ター心電図が施行され、結果はAHI 3.4回/時間とCPAPに 血圧152/120 mmHg。いびきは小児期からあり、3~4年前 よる治療効果は良好で、房室ブロックの数はMobitzⅡ型が から家族より就寝中の無呼吸を指摘されている。日中の眠 4回のみで、max R-R間隔は2.5秒と改善傾向を示した。 気も自覚しており仕事中や運転中など眠くなることが多い 【結論】 重症OSASに伴う高度房室ブロック症例で、房室 (エプワース眠気スコア 18点)。心電図や心エコー検査に ブロックはCPAP導入後に改善傾向を認め、さらに治療を長 特筆すべき所見は認めなかった。 期継続することで著明な改善を認めた。このことから、睡眠 【結果】 睡眠ポリグラフ(PSG)で無呼吸低呼吸指数 中の房室ブロックの出現はOSASと関連があったことが示唆 (AHI)が117.3回/時間の重症OSASと診断され、同時に記 される。特に夜間に限局して房室ブロックを認める場合、 録した心電図においてREM睡眠中の無呼吸に伴って房室 OSASの合併の可能性を考慮する必要があると思われる。 ブロックが認められた。脱落したQRSの数はMobitzⅡ型47 【謝辞】 本検討に際し、ご指導賜りました中野博先生に深 回、2:1房室ブロック13回、Ⅲ°房室ブロック180回でmax 謝致します。 R-R間隔は5.1秒であった。その後の3か月間のCPAP治療 連絡先) 092-565-5534(内線333) によりAHI2.6回/時間と著明な改善を認めた。同時に行った 403 循環1 ACS における aVR 誘導の意義 ○濱本 将司、古賀 秀信、鈴木 尚子、伏貫 菜穂子、瀬尾 修一、藤上 祐子、 田中 倫子、桑岡 勲(飯塚病院 中央検査部) 【目的】 12誘導心電図においてaVR誘導(以下aVR)はあ まり着目されない。今回我々はACS患者のST部分を中心 としたaVRに着目し、その有用性を検討したので報告す る。 【方法】 対象は2012年10月~2013年6月までに当院に ACS疑いで緊急搬送され緊急カテーテル検査・治療を施 し、病変が確定している症例で責任病変が3rd branchで ある場合や左脚ブロック例、OMI、冠動脈バイパス術既往 例 を 除 外 し た 80 例 ( 男 性 40 例 、 女 性 40 例 、 平 均 年 齢 69.7±11.8歳)。aVRのST部分に基づきST上昇群(1mm 以上上昇)、ST非上昇群の2群に分け以下の項目を検討 した。①aVRと他の誘導との関連 ②aVRと冠動脈病変(1 枝病変or多枝病変)との関連 ③aVRとLVEF、CPK、 MBとの関連 ④在院日数を目的変数、aVR、年齢、発症 してからの時間、冠動脈病変、LVEF、CPKからのリスク因 子の探索 【結果】 80例の内訳はST上昇群30例、非上昇群50例で 左前下行枝41例、右冠動脈25例、左回旋枝12例、左冠動 脈主幹部病変2例で、1枝病変46例、多枝病変34例であっ た。①aVRと最も相関を示した誘導はⅡ誘導(r=-0.797)で あり、これは1枝病変(r=-0.857)、多枝病変(r=-0.675)で 層別しても同様であった。②aVRと冠動脈病変との関連は 多枝病変でaVR上昇群が有意に多かった(p=0.0132)。 ③冠動脈病変で層別した場合、多枝病変を有するST上昇 群でEFは有意に低い傾向にあった(p=0.0596)。他の項 目や1枝病変では何れの項目にも有意差を認めなかった。 ④重回帰分析を用いた結果、aVR(推定値4.90)と冠動脈 病変(推定値9.54)は在院日数に対して有意な説明変数 であった。 【考察】 aVRは心臓の長軸方向からみた左右心室内腔の 電気現象を反映した誘導であり心筋層の心内膜側に広範 囲な虚血が生じた場合にそのST部分が上昇すると考えら れている。そのためaVRと対側誘導の位置関係に相当す るⅡ誘導で最も高い相関を示したものと考えられる。また多 枝病変においては心内膜側に受ける障害も広範囲となる ためST上昇する例が多く必然的にLVEFも低下傾向を示 したと思われる。また回帰分析よりaVRでのST上昇はアウト カムを反映すると思われた。 【結語】 aVRから多くの情報を得ることができる可能性が 示唆された。 連絡先) 0948-22-3800(内線5261) 404 循環2 Vp supression 機能を DDD に設定変更後、症状改善した一症例 ○谷川 由美子、才野 慶子、加留部 貴子、丸山 古都美、髙木 春菜、上尾 有美、 後藤 富士子(小倉記念病院 検査技師部) 【はじめに】 右室ペーシングは、心不全、心房細動の発生 86177拍、基本調律は洞調律、心室ペーシングは372拍、 が高くなるとの報告がある。その為、右室ペーシングを控え Max HRは123bpm、Min HRは41bpm、Max RRは3:1 る為に考えられた Vp suppression機能を持ったペースメ 伝導高度房室ブロックによる2.7秒が記録された。モードス ーカ(以下PM)が発売されている。今回、失神、立ちくらみ イッチにより35回のPauseが見られた。このときのPMの設 の症状のある患者が、Vp supression機能でモードスイッ 定は、モードADI⇔DDD、Lower HR 50ppm、UpperHR チ時にPauseを認め、DDDにモードの設定変更を行うこと 130bpm AVdelay(Pace /Sence;250ms/220ms)であっ で、症状の改善が認められた症例を報告する。 た。 【症例】 患者は80歳代、女性。 【経過】 14日に外来受診時にPMチェックを行ったが、問 【既往歴】 糖尿病、狭心症、SSS、発作性心房細動(カテ 題はなかった。今回、ホルター心電図でモードスイッチ時に ーテルアブレーション施行)。2011年夏頃から、ふらつきが 35回のPauseが認めた為、PM設定をDDDに変更した。そ 認められた。ホルター心電図を行い、高度房室ブロックによ の後、6月末までに二回外来受診したが、経過は良好であ り最大9.96秒のpauseが認められた為、2011年12月22日 る。 PM(BIOTRONIK社製 Evia DR-T)植え込みとなった。 【まとめ】 今回の患者の失神は神経調整性失神も考えられ、 【現病歴】 一ヶ月前に入浴中失神し、その後、時折立ちく Vp supressionによるものかは、肯定できるものではない。 らみが認められる為、2013年3月13日当院外来受診となっ しかし、さまざまな付加価値のあるPM機能を理解し、PMが た。 埋め込まれた患者のホルター心電図解析を行うことは、こ 【検査所見】 13日の12誘導心電図では洞調律、心拍数は れらかの患者のQOLの向上につながると考えられる。 58bpm、PR時間は166msであった。ホルター心電図は13 日より装着した。装着時間は23時間17分、総心拍数は 405 循環2 心電図モニタリングにより発見できたペースメーカ機能不全の一症例 ○鶴本 真理、古川 百合子、内野 絵里子、木村 賢司、師岡 紗代、高木 祐里、 (新古賀病院 臨床検査部)、倉重 康彦(古賀病院 21 臨床検査部) 【はじめに】 当院では、2008年1月より心電図モニタ装着 2013年6月右慢性硬膜下血腫にて入院。来院時の心電図 者を対象に、心電図波形を生理機能室で監視、電子カル は心拍数50、ペースメーカ調律。入院直後よりモニタ装着 テ上に保存する取り組みを開始した。今回、心電図モニタリ し、心室undersensingとfusion beatを認め、ペースメーカ ングにより発見できたペースメーカ機能不全の症例を報告 機能チェックを施行した。その際、心室波高値低下と心房 する。 閾値上昇を認めたため、心室感度と心房出力を設定変更 【システム概要】 フクダ電子社製、統合型モニタ管理シス した。 テムダイナベース(CVW-7000)を採用。特徴として ①全 【考察】 心電図業務に携わっている検査技師がモニタリン 病棟のモニタ波形を収集 ②電子カルテと連携 ③病院内 グすることで、ペースメーカ機能不全を迅速に発見でき、早 の全ての電子カルテで閲覧可能 ④2週間分の全波形を 期に対処可能であった。心電図モニタリングを導入すること 保持⑤保存波形は退床後も閲覧可能ということが挙げられ で、生理機能室や電子カルテ上で閲覧可能になり、病棟モ る。検査技師の業務内容として、心電図波形を確認し、基 ニタで見逃されていた可能性のある不整脈やペースメーカ 本調律や不整脈(心室頻拍、洞停止、房室ブロックなど)を 機能不全を早期発見できると考えられる。 保存している。 【結語】 今回、心電図モニタリングにより早期に発見できた 【症例】 83歳、男性。 ペースメーカ機能不全の症例を報告した。検査技師による 2002年2月 洞機能不全にて恒久的ペースメーカ植え込み 心電図モニタリングは、心電図異常の早期発見に有用であ 術施行(Boston社製)。 る。 連絡先) 0942-38-2276 2008年7月に電池交換(Boston社製)。 406 循環2 家族歴を有する Brugada 症候群の二例 ○白石 亜季(長崎大学病院 検査部)、深江 学芸、池田 聡司、柴田 理也子(同 循環器内科)、 森内 拓治、森永 芳智(同 検査部)、前村 浩二(同 循環器内科)、栁原 克紀(同 検査部) Brugada症候群は右側胸部誘導のST上昇を特徴とし、心 室細動により突然死を来す可能性があり、日本を含めた東洋 人の中年男性に罹患率が高い。原因としてNaチャネル遺伝 子であるSCN5A異常も報告されている。今回、家族歴を有 するBrugada症候群の2症例を経験したので報告する。 【症例1】 41歳男性。2007年5月、就寝中突然うなり声をあ げ、3分ほど呼名反応示さず、眼球上転し硬直状態であっ た。意識回復後、病院受診はしなかった。翌々日、昼食後、 座位の状態から倒れこむように突然失神していた。すぐに CPRを行い、救急車到着時は心肺停止状態で、モニター ではVfを示していた。現場にて200JでDC行い、救急車搬 入後、洞調律に回復している。心電図右側胸部誘導にて coved typeのST上昇を認め、Brugada症候群が疑われた。 フレカイニド100mg負荷でV1~V4のcoved typeのST所 見は更に上昇を認めた。Brugada型心電図を呈し、Vfの 既往もあることよりICD適応のClassⅠに値し、ICD埋込み を行った。その後、時折ICDの作動を認めている。 【症例2(症例1の叔母)】 77歳女性。2003年、駅で立って いた時に嘔気とめまいを自覚したが、しばらくして症状は消 失した。2008年、近医にて心電図でQT延長、胸部誘導ST 上昇、一肋間あげるとV2でsaddleback typeのST上昇を 認めた。当院にて、フレカイニド負荷でV1、V2でSTがやや 上 昇 、 イ ソ プ ロ テ レ ノ ー ル 負 荷 で ST は 改 善 し た た め 、 Brugada型心電図と診断した。Naチャネルブロッカーであ るメキシレチン内服でQTは短縮し、ST上昇が顕著となった。 Brugada型心電図変化やQT延長症候群(LQT3)はNaチ ャネル異常で生じうることから、Overlap症候群と考えられ た。突然死の家族歴が多く、甥(症例1)はBrugada症候群 と診断されている。失神歴もあることから、ICD埋込みの相 対的適応と診断され、ICD埋込み術を施行した。 今回、残念ながら遺伝子検査の承諾を得ることはできな かったが、家族歴を有するBrugada症候群を経験した。心 電図異常を伴う血縁者の突然死リスクは高いと考えられる ため、今後は無症状の血縁者に対しても外来にて厳重に 経過観察を行う必要があると考えられた。 連絡先) [email protected] 407 病理 神経組織染色法の基礎的研究 ~カハール染色のガラス貼り付け法の試みと染色条件の検討~ ○山本 賢也(大牟田市役所)、瀬口 聡史(藍野病院)、西田 駿祐(九州厚生年金病院)、中村 洋平 (九州ブロック血液センター)、津留崎 舞(北九州市立八幡病院)、田中 未来(くまもと森都総合病院)、 森 美穂(佐世保市立総合病院)、北野 正文(熊本保健科学大学) 【はじめに】 カハール染色は脳の炎症、循環障害、腫瘍な 【染色結果】 発表時に呈示する。 どの診断や病変観察に重要な意義を持っているが、その染 【まとめ】 ① ブロム・ホルマリン固定の凍結切片では、銀 色術式は一般的な染色法とは異なっている。すなわち固定 液を加温するより室温で反応させるほうが神経膠細胞の突 液はブロム・ホルマリンが推奨され、組織片はスライドガラス 起を明瞭に染めるのに有効であった。 に貼り付けず、染色は凍結切片をシャーレの中で行うなど ② 15%中性ホルマリン固定では凍結切片、パラフィン切 比較的煩雑なものとなっている。今回、我々はカハール染 片の両方で、銀液を加温するより室温で反応させるほうが 色の浮かし鍍銀法の代替染色法として、ガラス貼り付け鍍 神経細胞やグリア細胞を良好に染めるのに有効であった。 銀法を試み、併せてブロム・ホルマリンを 15%中性ホルマリ ③凍結切片にて銀液を室温で反応させた場合は、ブロム・ ンに、凍結切片をパラフィン切片に、シャーレを染色壺に換 ホルマリン固定と 15%中性ホルマリン固定の染色態度が類 え、更にビリジン・アンモニア銀の温度条件や神経細胞や 似した。 星状膠細胞などを明瞭に染め出すための染色条件などを ④ブロム・ホルマリン固定の組織では、加温あるいは室温で 検討した。 銀液を反応させても、パラフィン切片より凍結切片のほうが 【材料】 ウサギ間脳のブロム・ホルマリン固定および 15% 良好に染まった。 中性ホルマリン固定の凍結・パラフィン切片を用いた。なお、 切片の厚さは 18 ㎛に統一した。 408 病理 気管支鏡検体に見られたスエヒロタケ(Schizophyllum commune)による アレルギー性気管支肺真菌症の一例 ○竹山 朋希、峯松 伊久穂、松尾 祐一、古野 浩 (国立病院機構大分医療センター 研究検査科) 【はじめに】 アレルギー性気管支肺真菌症(ABPM)の原因 真菌として最も頻度が高いのは Aspergillus 属で、その他に カンジダ症などあるが近年、胆子菌類(キノコ類) Schizophyllum commune(S.commune スエヒロタケ)によ る報告が増加している。しかし、その認知度は低い。今回、 S.commune による ABPM 患者を経験し気管支鏡による病 理生検、洗浄細胞診が実施されたので報告する。 【症例】 患者:47 歳女性 既往歴:ABPM(2009 年) 椎間板ヘルニア 病名:ABPM 再発疑い 症状経過:イトリゾール内服治療とス テロイド吸入。夏ごろから IgE 上昇を指摘。11 月になって軽 い咳が続き前医受診し舌区の mucoid impaction を認め ABPM 再発を疑われ気管支鏡による診断を目的に当院紹 介。 (紹介時検査結果) CBC:WBC10270/μl Neu65.7% Lym17.8 % Mo6.5 % Baso0.4% Eo9.6% RBC403×104/μl Hb11.8g/dl PLT 26.6×104/μl 生化学: TP7.8g/dl AST19U/L ALT17 U/L BUN13.5mg/dl Cr0.63mg/dl Na142mEq/l K5.3 mEq/l Cl105mEq/l CRP6.65mg/dl IgE3706IU/ml (気管支鏡検査結果) 組織診所見:粘液栓、粘液性背景の 中に好中球の集簇、微量の真菌成分を認める。 細胞診所 見:好酸球とその変性細胞を背景に微量の真菌成分を認め る。 培養:白色綿状コロニー かすがい連結 遺伝子解析 (99%一致) 【まとめ】 本症例では病理検体・細胞診検体 の所見では胆子菌類の特徴とされる菌糸側壁の棘状突起や かすがい連結などは見られず原因菌の同定・推定は困難で あった。しかし①過去に S.commune による ABPM と確定さ れていること。②末梢血好酸球増多や血清総 IgE の上昇が 見られたこと。③集落や菌糸の形態が S.commune の特徴と 一致していたこと。④遺伝子解析により 99%の一致が確認さ れたこと。以上より S.commune による再発 ABPM と診断さ れた。 【考察】 S.commune は形態学的にはアスペルギルスやムコ ールなどとの鑑別は困難であることが多い。また、本症は気 管支拡張症という器質的変化も伴う疾患であり、早期の診断 と治療によって組織破壊による不可逆的変化を防止すること が重要である。過去の報告では同定不能とされた臨床分離 真菌に関して詳細な検討を行ったところ、その 12.8%が S.commune であったとの報告もあることより ABPM を疑う患 者に対して原因真菌が同定されない場合には積極的に疑う ことも必要と考える。 411 画像6 自己免疫性膵炎と考えられた膵腫瘤性病変の一例 ○上田 将史、濱田 倫子、坂井 恭子、藤山 章子、井上 知美、井手 めぐみ、 池上 新一(聖マリア病院 中央臨床検査センター) 【はじめに】 自己免疫性膵炎の中でも、限局性に腫瘤を形 からは膵癌を疑う必要があった。 PET-CT:膵体部~尾部 成する例は比較的稀であり、画像上膵癌との鑑別に困難を および前立腺、骨髄リンパ節、胸膜、縦隔リンパ節において 要する場合も多い。今回、限局性腫瘤を形成した自己免疫 異常集積が認められた。CT、MRIの形態から自己免疫性 性膵炎と考えられた一例を経験したので報告する。 膵炎が疑われていたが、膵外病変もあわせ、それに合う所 【症例】 58歳男性。主訴・既往歴なし。2012年4月、人間ド 見であった。 ックの腹部超音波検査にて膵腫瘤を指摘され、当院受診と 血液検査:膵癌の腫瘍マーカーは陰性を示し、IgGおよび なった。 IgG4は異常高値であった。これらは自己免疫性膵炎の検 【検査所見および診断】 腹部超音波検査:膵体部~尾部 査所見として相違ないものであった。 にかけて60×25mmの腫瘤性病変が認められた。腫瘤の境 【結語】 限局型の自己免疫性膵炎は稀な疾患であり、私 界は比較的明瞭で、内部エコーは低エコーを示し、微細な 自身の知識が乏しかったことから、最初に行った超音波検 高エコーが不均一に認められた。また、腫瘤内に明らかな 査では病変の鑑別に苦慮した。診断後に画像を見直して 血流は認められなかった。病変部以外の膵実質に明らかな みると、低エコー像の内部に高エコースポットの散在が均一 異常所見は認められず、主膵管の拡張も認められなかった。 に認められており、自己免疫性膵炎に特徴的な所見が本 超音波上、膵癌などの悪性疾患の可能性は否定できず、 症例でも認められていたことがわかった。疾患に対する知 CT等、精査が行われた。 識があれば、より迅速な診断・治療につなげることができた CT:腫瘤内の血管狭窄が少ない点や周囲の被膜構造様 ものと思われる。本症例が今後の検査を行っていく上での 所見から腫瘤形成性膵炎や自己免疫性膵炎が最も疑われ 参考となればと考え、今回報告を行った。 た。 MRI:膵腫瘤内の主膵管は途絶して見え、その所見 連絡先) 0942-35-3322(内線2106) 412 画像6 超音波検査で経験した IgG4 関連自己免疫性膵炎の四症例 ○田中 祐子、森 俊明、坂本 純子、犬丸 絵美、松尾 晃子、太田 絢子、 八尋 美保子、桑岡 勲(飯塚病院 中央検査部) 【はじめに】 IgG4関連疾患は、血清IgG4高値と羅患臓器へ 果IgG4関連自己免疫性膵炎と診断され、ステロイド投与によ の著明なIgG4陽性形質細胞浸潤を特徴とする全身性の慢 り腫瘤は縮小した。 【症例4】 72才男性。IgA腎症にて通 性炎症性疾患である。今回我々は超音波検査において 院中閉塞性黄疸が出現。超音波検査では、膵はび慢性に腫 IgG4関連の自己免疫性膵炎を4例経験したので報告する。 大しエコーレベルの低下が見られ、特に膵頭部は著明に腫 【症例1】 60才男性。血液検査で閉塞性黄疸が疑われ受診。 大し約4.3×4.0cmの腫瘤様に見えた。膵管は径4mmと軽度 超 音 波 検 査 で は 、 膵 頭 部 に 限 局 し た 腫 大 を 認 め 約 3.1 拡張し、腫瘤形成性膵炎もしくは膵癌を疑った。EUS下生検 ×3.8cmの腫瘤様に見えた。膵管の拡張はなく膵頭部へ貫通 では悪性所見を認めず、血清IgG4値が高値を呈した為、自 して見えた為腫瘤形成性膵炎を疑った。他画像検査では膵 己免疫性膵炎と診断された。ステロイド投与により膵腫大は 癌が疑われたが、精査の結果自己免疫性膵炎と診断された。 軽減した。 ステロイド投与により腫瘤は縮小した。 【症例2】 56才女 【考察・まとめ】 自己免疫性膵炎は膵の腫大や腫瘤形成に 性。胆石症で定期的に超音波検査を施行していたところ、膵 加えしばしば閉塞性黄疸も伴う為、膵癌や胆管癌との鑑別が 体部、その後膵頭部にも腫瘤が出現。膵管の拡張はなく腫 困難な場合がある。今回の症例の中にも、膵癌との鑑別に苦 瘤の性状からIPMNを疑った。また、唾液腺の腫脹も出現し、 慮したものがあった。従って、膵管の状態、周囲脈管侵襲の 小唾液腺生検でIgG4陽性細胞の著明な浸潤を認めた為、 有無などの所見を超音波で慎重に観察し、超音波検査で強 膵病変も含めIgG4関連疾患と考えられた。ステロイド投与に く自己免疫性膵炎が疑われた場合は、血液検査データなど より膵の腫瘤は消失した。 【症例3】 48才女性。左背部~ 総合的に判断する必要がある為、血清IgGやIgG4の追加検 上腹部痛を自覚し受診。超音波検査では膵体~尾部にかけ 査を臨床側に伝えることも、技師の重要な役割ではないかと て 広 範 囲 に 内 部 不 均 一 な 充 実 性 腫 瘤 、 膵 鉤 部 に も 径 思われた。 18×18mmの腫瘤が見られ膵癌を疑った。EUS下生検の結 連絡先) 0948-22-3800(内線5259) 413 画像6 膵癌との鑑別を要した自己免疫性膵炎の二症例 ○森口 真帆、澤砥 かすみ、宮里 尚美、粟國 徳幸、手登根 稔 (浦添総合病院 臨床検査部) 【はじめに】 自己免疫性膵炎(以下AIP)はその発症に自己 免疫機序の関与が疑われる膵炎であり、IgG4関連疾患の膵 病変といわれている。今回我々は、膵癌との鑑別を要した AIPの二症例を経験したので報告する。 【症例】 ①50歳代、男性。他院にて2型糖尿病で通院中、心 窩部痛を認め、CTで総胆管に全周性の壁肥厚および閉塞 が見られたため当院紹介受診。超音波検査で膵臓はびまん 性に腫大、エコーレベル低下、辺縁不整を呈していた。頭部 に44×29mm大の低エコー腫瘤を認めたが、膵管の拡張は 認めず。また総胆管の壁肥厚を認め、膵頭部付近で内腔の 狭小化を認めた。腫瘤形成性膵炎もしくは膵癌が疑われた。 血液検査では、肝胆道系酵素の上昇は認めなかったが、 IgG 2,783mg/dl、IgG4 946mg/dlと高値を示していた。腫 瘍マーカーは全て正常範囲内であった。CTで膵臓はソーセ ージ様に腫大し、辺縁にcapsule like rimを思わせる低信号 域 が 見 ら れ た が 、 腫 瘤 像 は 認 め ず AIP が 疑 わ れ た 。 EUS-FNAにおいても悪性所見は認められず、ステロイド治 療後、膵腫大は改善、膵腫瘤は消失した。②60歳代、男性。 膵頭部癌疑いにて他院より紹介受診。超音波検査で膵臓の 腫大はなく、頭部に形状不整で内部不均一な28×17mm大 の低エコー腫瘤を認めたが、膵管の拡張は認めず。CTで膵 頭部に20×24×20mm大の腫瘤を認め、膵頭部癌が疑われ た。来院時の血液検査でP-AMY、DUPAN-2、トリプシン、 IgG4の上昇を認めた。EUSでも膵頭部に腫瘤を認めた。生 検にて悪性所見が見られず、同様にステロイド治療後、膵腫 瘤は消失した。 【考察】 二症例とも膵頭部に腫瘤形成を認めたため、当初 は膵癌が疑われた。AIPとは中高年の男性に多く、膵のびま ん性腫大、エコーレベル低下、辺縁不整、多くに膵腫瘤を認 め、膵管の拡張や周囲の血管浸潤がないことが特徴的であり、 症例①ではこれらの所見が当てはまっていたため、AIPも鑑 別に挙げるべきであった。しかし症例②のように、超音波検 査、CTおよびEUSでびまん性の膵腫大はなく、膵腫瘤を認 めたため、膵癌の疑いが強く最後まで鑑別が困難な例もある ため注意を要すると考えられる。 【まとめ】 膵癌とAIPでは 治療方法が全く異なるため、疾患の概念や血液学的な特徴 を理解した上で、注意深く観察することが重要であると示唆さ れた。 連絡先) 098-878-0231(内線1152) 414 画像7 乳腺基質産生癌の一例 ○新美 貴子(新古賀クリニック 健康管理センター)、倉重 佳子、大西 希江 (新古賀病院 臨床検査部) 【はじめに】 乳 腺 基 質 産 生 癌 ( matrix-producing carcinoma:MPC)は、乳癌取扱い規約第16版で特殊型の 一つとして新たに分類された特殊型乳癌であり、全乳癌の 0.03~0.2%と稀な組織型である。病理組織学的には軟骨 基質ないし骨基質を産生することを特徴としている。今回、 我々は、乳腺基質産生癌の1例を経験したので報告する。 【症例】 91歳女性 【現病歴】 右変形性股関節症にて近医で加療中。今年の 2月より右下腹部~大腿部の痛みが出現し、歩行も困難と なり、当院整形外科へ紹介受診した。骨盤MRIで多発骨 転移、造影CTで右乳房に30㎜大の腫瘤を指摘され、当院 の乳腺外科へと紹介になった。 【家族歴】 特記事項なし 【乳腺超音波検査】 右C領域に27×21㎜の形状やや不整 形で、境界明瞭粗ぞうな内部不均一の低~やや等エコー 腫瘤を認めた。後方エコー増強、前方境界線断裂あり。カ テゴリ-4とした。同日に超音波ガイド下で乳腺組織生検施 行し病理診断で浸潤性乳管癌と診断された。 【マンモグラフィ】右乳腺に比較的な辺縁境界明瞭な円形の 腫瘤影あり、石灰化なし。カテゴリ-3~4。 【PET】 右乳房に高集積あり。腋窩、傍胸骨リンパ節への 異常集積なし。骨転移を多数認めた。 【手術】 右乳房円状部分切除施行 【病理組織】 基質産生癌と診断 【考察】 乳腺基質産生癌の特徴的な画像所見は、造影CT やガドリニウム強調MRIで、腫瘤辺縁がリング状に造影され ることであり、超音波検査では特徴的な所見は乏しい。今 回、病理組織像と超音波像との対比を行った。病理組織像 で癌細胞の増殖している腫瘤辺縁が、超音波像では低エ コーに、病理組織像で癌細胞が存在せず軟骨基質や膠原 線維の硝子様化変性を示した腫瘤中央部は、超音波像で は等~やや高エコーに観察された。腫瘤の内部構造を詳 細に描出できるのは、空間分解能の高い超音波像であり、 本症例の診断の一助や手掛かりとなる可能性が示唆され た。 【結語】 稀な乳腺基質産生癌を経験したので報告した。 連絡先) 0942-38-2276(内線3146) 415 画像7 乳腺に認めた低エコー域の二例 ○富園 正朋、鹿島 星林、中川 麻里、福田 生恵、垂水 綾、髙永 恵、橋本 龍之 (国立病院機構熊本医療センター 臨床検査科) 【はじめに】 近年、超音波画像の解像度が向上し乳腺組 部リンパ節腫脹を認め再発を確認し寛解。しかし年1回の 織が明瞭に描出されるようになったが、非腫瘤性病変のな PET-CTにて左乳腺に集積を認めたため精査目的にて乳 かで低エコー域は、実際に診断するうえで迷うことがあり診 腺超音波施行となった 超音波所見:左乳腺AC領域に、 断に困る例も少なくない。今回我々は、診断に苦慮した乳 限局した低エコー域を認め乳管拡張の集簇像を認めた。 腺内低エコー域を認めた2例を経験したので報告する。 拡張した乳管内に充実性腫瘤や石灰化病変なし。 単純 【症例1】 61歳女性。 既往歴:糖尿病 現病歴:全身倦怠 MRI:左乳腺A領域に8.0×12.0 mmの高信号域.乳癌の 感、食欲不振を自覚し他院にてCT施行。右乳腺腫瘤疑い、 可能性あり。 組織学的所見:大型の異型リンパ球がびまん 傍大動脈リンパ節腫大、腸間膜リンパ節腫大を認めたため 性に増殖していた。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診 紹介となった。 超音波所見:右乳腺ED領域に最大径 断された。 34.8mmの一部境界不明瞭な低エコー域。辺縁不整、後 【まとめ】 乳腺悪性リンパ腫はまれな疾患であり、画像診断 方エコー増強を認めた。 単純MRI:右乳腺ED領域に で特徴的な所見はないとされる。今回経験した2例も異なっ 40.0×16.0×25.0mmの腫瘤を認める。 組織学的所見:大 た形態を示しており診断に苦慮した症例であった。乳腺内 型の異型リンパ球がびまん性に増殖していた。びまん性大 低エコー域を診断するにあたり、腫瘤に比べ病変を認識し 細胞型B細胞リンパ腫と診断された。 にくい。画像所見だけでなく、疾患の理解・患者背景などを 【症例2】 68歳女性。 既往歴:喘息 現病歴:頸部リンパ 含めた総合的な診断を行ない、疑わしい病変を的確に指 節腫脹のため当院紹介。US、生検にて悪性リンパ腫の診 摘しないといけないと考えられた。 断となり化学療法施行し、外来にてfollowされていたが、頸 連絡先) 096-353-6501(内線3313) 416 生理2 手関節エコー検査と MRI 検査との比較 ○松尾 晃子、森 俊明、坂本 純子、田中 祐子、犬丸 絵美、太田 絢子、 八尋 美保子(飯塚病院 中央検査部) 【はじめに】 関節リウマチの治療・経過観察における検査の ( ①+②+③ ) 、 A28 例 ( 66.7% ) 、 B28 例 ( 66.7% ) 、C24 例 一つとして関節エコー検査が用いられている。今回、当院で (55.2%)、D23例(54.8%)。エコー検査とMRI検査の所見が 同時期に施行された関節リウマチ精査目的の手関節エコー 一致しなかったのは(④+⑤+⑥)、A14例(33.3%)、B14例 検査とMRI検査の結果について比較したので報告する。 (33.3%)、C18例(42.8%)、D19例(45.2%)であった。(結果 【方法】 対象は手関節エコー検査とMRI検査が同時期(1週 は表形式で当日スライドにて供覧する) 間以内)に施行された42例(年齢37~86歳:平均65.2歳、男 【考察】 滑膜肥厚および腱鞘滑膜肥厚は、指摘部位の差も 性11名、女性31名)超音波検査機器はGE社 LOGIQ7、 見られたが、エコー検査とMRI検査で最も所見の一致が得ら LOGIQ S8を用いた。比較項目は滑膜肥厚、腱鞘滑膜肥厚、 れた項目であった。骨びらんは、エコー検査では十分に検出 骨びらん、液貯留で、その所見の有無について比較した。 できていない症例があると思われた。その原因として、当院で 【結果】 ①エコー・MRI検査ともに所見なし:A滑膜肥厚3例 の手関節エコー検査の観察部位は背側の手関節、背側 (7.1%)、B腱鞘滑膜肥厚28例(66.7%)、C骨びらん18例 MCP、掌側PIPであり、MRI検査に比べ観察範囲が狭いた (42.9%)、D液貯留22例(52.4%)。②ともに同一部位にあり: めではないかと考えられた。液貯留は、少量の場合はエコー A8例(19.1%)、B0例、C2例(4.8%)、D1例(2.4%)。③一部 検査のほうが検出されやすいのではないかと考えられた。 同一部位にあり:A17例(40.5%)、B0例、C4例(9.6%)、D0 【まとめ】 MRI検査は広範囲な観察が可能で、エコー検査よ 例。④別部位指摘:A5例(11.9%)、B0例、C1例(2.4%)、 り骨びらんの検出に優れていることが示唆された。エコー検 D0例。⑤エコーのみあり:A6例(14.3%)、B3例(7.1%)、C1 査は観察できる範囲は限局されるが、検査中リアルタイムに 例(2.4%)、D18例(42.8%)。⑥MRIのみあり:A3例(7.1%)、 画像を拡大できるため、関節滑膜のわずかな肥厚の検出な B11例(26.2%)、C16例(37.9%)、D1例(2.4%)であった。 ど関節腔のより詳細な観察が可能であると考えられる。 エコー検査とMRI検査の所見が一致~一部一致したのは 連絡先) 0948-22-3800(内線5259) 417 生理2 生理検査室における医療安全管理 ~事例から学ぶこと~ ○丸田 千春、廣川 博子、久家 治、丸田 秀夫(佐世保中央病院 臨床検査技術部) 【はじめに】 生理検査では患者への直接的な医療行為が 正処理を行い、その処置の有効性の評価も行い業務改善 主体となるため、アクシデント等の事例発生により患者への に活用している。 身体的影響を及ぼす場合がある。今回我々は、生理検査 【事例紹介】 負荷心電図(マスター負荷)施行のために、 室における事例の再発防止に対する取り組みについて報 呼び出した患者が足に点滴をしていた。主治医確認の後、 告する。 看護師より点滴抜針を行い負荷を開始したが、1往復した 【当院の安全管理概要】 当院では病院全体の医療安全を 時に出血があることに気づき検査を中止した。患者は抗凝 管理する専従の職員が配置された医療安全管理部と、各 固剤投与中であった。看護部門との連携を図り、事例共有 部門の代表者から組織された医療安全管理対策委員会が を行い再発防止を防ぐように対策を立てることにした。立案 あり、両者が連携を取り医療安全の推進に取り組んでいる。 日より2か月後評価にて同様の事例発生はなかった。 部門における医療安全の管理には委員会へ参画している 【まとめ】 患者の安全を確保するためには、我々医療従事 委員が中心となって活動を行い、事例が起きた場合は、事 者の個々の意識づけが重要であり、誰でも起こすことがミス 例のレベル分けを行い、そのレベルに応じマニュアルに則 であり、速やかに報告できる風土作りが肝要であると考える。 った対応を行う。事例当事者もしくは発見者が報告書の作 また関連する職員、部署間での事例共有も重要であり、組 成を行い、安全管理者の承認を持って処理完了となる。こ 織全体で取り組まなければならない。 の際、レベルが高い事例については、根本原因の追究、是 418 呼吸1 高度貧血を契機に PSG 検査により睡眠障害と診断し得た一症例 ○西島 いづみ、加藤 康男、三宅 孝恵、姥ケ崎 文子、宗像 幹男 (福岡赤十字病院 検査部)、澤山 泰典(同 総合診療科部長) 【はじめに】 今回、高度貧血による低酸素血症から意識消 う意識消失発作により再入院となった。2回目入院後CTや 失発作を発来して睡眠障害を併発したと思われる症例を経 MRI、脳波などの脳神経学的検査を行ったが特に問題が 験した。精査にて貧血の存在が明らかになったが貧血の改 なく簡易及び精密PSG検査を施行した。なお、耳鼻科的異 善に も関わ らず 、意 識消失 発作が 継続 した ため CPAP 常所見はなかった。 (Continuous Positive Airway Pressure)療法により症 【検査結果】 簡易PSG及び精密PSG検査結果より以下の 状を軽減し得た一例を報告する。 ように診断された。#SAS(Sleep ApneaSyndrome)睡眠 【症例】 63 歳 男 性 、身 長 170cm 体 重 70kg BMI24.1 時 無 呼 吸 症 候 群 、 そ こ で CPAP 療 法 の 適 応 と な った 。 主訴:夜間意識消失発作 現病歴:平成23年11月3日22 CPAP療法を行い睡眠時無呼吸症候群の症状は著明に改 時頃、食事後にトイレに行った際に大きな音がして倒れて 善しAHIも40.9回/時から1.9回/時となった。 いるのを妻に発見され救急搬送となった。救急外来来院時 【まとめ】 高度貧血症例の意識消失発作を伴う睡眠時無 には意識消失は回復し、神経学的な異常所見も認めず、 呼吸症候群の一例を経験した。CPAP療法により睡眠時無 全身状態もほぼ問題なかった。しかし発作などの記憶は消 呼吸症候群は著明に改善した。その後、意識消失発作で 失していた。そこで、意識消失などの精査目的により一回 の救急外来来院はなくなった。今回、簡易PSG検査では 目入院となった。 AHI17.8回/時と低値で精密PSG検査の適応範囲外であ 【入院後の経過】 1回目入院時、消化管出血疑いによる高 ったが、精密検査を行うことによりSASと診断できた症例で 度な貧血(Hb5.0)を改善するために輸血を行い貧血が改 あった。 善したため退院となったが、およそ3ヶ月後に睡眠障害を伴 419 呼吸1 CPAP 管理におけるデバイス AHI の有用性の検討 ~デバイス AHI を過信しない~ ○森槌 康貴、村岡 奈々美(霧ヶ丘つだ病院 睡眠呼吸センター検査科) 1998年のCPAP健康保険適応以降CPAP導入数は増 ト レ ー シ ョ ン 時 の AHI と デ バ イ ス AHI は 感 知 不 良 群 で 加しており、北九州地区においてもCPAPユーザーは約 4.9±4.6、6.9±10.7、圧暴走群で2.1±1.1、12.6±6.5であり、 4000人(当院1280人)となっている。その管理は睡眠学会 それに応じたマニュアル介入が必要であった。 認定施設だけでなく様々な施設で行われ、各診療所独自 【考察】 患者の一部にAuto機能のエラーが確認された。 の方法で管理されている。一般的なCPAP管理としては、 デバイスAHIが低い場合も感知不良の可能性も考えタイト 定期受診時の問診とCPAPデバイスより抽出されるコンプラ レーションにて確認の上、下限圧を上げるなど調整が必要 イアンスデータが用いられることが多い。また機器レポート であり、逆に高い場合でも圧暴走を考慮し上限圧を上げ過 に表示されるAHI(デバイスAHI)を治療の参考にしている ぎないようにすることが必要と思われる。デバイスデータは 施設も多い。今回、デバイスAHIをCPAP管理に用いて良 タイトレーションにより適正圧等が確認できた患者に、使用 いか検討した。 状況を客観的に評価するためのサポートツールとして重要 【対象と方法】 2012年1月~12月に当院にてAutoCPAP と思われる。さらに、外来にてCPAP機器内部のフロー波形 タイトレーションを施行した患者36人(年齢51.3±15.3歳、 が表示できる機種が増えていけば、質の高いCPAP管理に BMI28.9±5.4、AHI48.8±27.3)に対し、タイトレーション当 繋がると考えられる。 日に得られたPSG上のAHIとデバイス上AHIについて検 連絡先) 093-921-0493(直通) 討した。 [email protected] 【結果】 タイトレーション時にAuto機能のエラーが48.4% ホームページ:http://www.k-you.or.jp/ に認められた(呼吸感知不良29.4%、圧暴走17.6%)。タイ 420 呼吸1 ACS 入院患者を対象とした PSG 検査と CPAP 療法の現状 ○毎熊 礼衣、鈴田 朱美、松瀬 陽子、奈良谷 俊、谷口 明子、松田 一之、 上平 憲(長崎市立市民病院 検査部)、中嶋 寛(同 循環器内科) 【はじめに】 睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、高血圧症、 名(29.8%)、女性37名(35.6%)、15~30未満は男性108 糖尿病、冠動脈疾患、脳血管疾患等との合併が多く、その 名 ( 29.3% ) 、 女 性 30 名 ( 28.8% ) 、 30 以 上 は 男 性 73 名 発症リスクおよび増悪因子となっている。特にACS(急性冠 (19.8%)、女性13名(12.5%)で男女の重症度に大きな差 症候群)においては57%の高率で合併していると報告され はなかった 。AHI≧15の無 呼吸 種類 は、閉 塞型 177 名 ている。 (78.0%)、中枢型48名(21.1%)、混合型2名(0.9%)であっ 当院では、ACSで入院した患者を対象に退院前にPSG た。AHI≧20の患者167名中93名(55.7%)にCPAP療法 を 施 行 し 、 AHI≧20 の 閉 塞 性 睡 眠 時 無 呼 吸 症 候 群 を開始した。2013年7月現在のCPAP継続率は46.1%であ (OSAS)合併例にCPAP療法を積極的に導入しているの った。 で、その現状を報告する。 【考察】 ACS入院患者にPSG検査を実施し、AHI≧15の 【対象・方法】 2003年6月より2013年5月までに当院循環 SAS 合 併 率 は 47.4% で 他 の 報 告 と 同 等 で あ っ た 。 器内科にACSで入院した患者684名中、PSG検査を施行 AHI≧20のACS患者に対し積極的にCPAP療法を導入し した473名(69.2%)を対象に、無呼吸種類とSAS重症度を ているものの、高齢でもありSASの自覚症状を伴わない症 調べた。また、AHI≧20のOSAS患者に対してのCPAP導 例では導入および継続が困難な事が多い。CPAP導入お 入率と継続率等を検証した。 よび導入後の管理は、生理検査室の技師が中心に行って 【結果】 PSG検査施行者は、男性369名(78.0%)、女性 いるが、当院は睡眠専門外来を有せず、専任の技師も不 104名(22.0%)であった。平均年齢は男性64.6歳(22~91 在のため継続率が46%と低くなっていると考えられる。今後 歳)で、女性73.9歳(47~93歳)と、女性の方が有意に高か もACS診療においてSAS診療は不可欠であり、改善が必 った。平均AHIは男性18.4、女性15.5で、AHI<5は男性 要と思われた。 78名(21.1%)、女性24名(23.1%)、5~15未満は男性110 連絡先) 095-822-3251(内2374) 451 神経1 神経伝導検査と体性感覚誘発電位により経過を観察することができた 軸索障害型慢性多発性神経炎の一症例 ○坂本 恵子、山崎 澄枝、濱松 文美(小倉記念病院 検査技師部) 【 はじめ に 】 今 回 、神経 伝 導 検査 ( nerve conduction 症状悪化時に複合筋活動電位(CMAP)の振幅の軽度低 -study : NCS ) と 体 性 感 覚 誘 発 電 位 ( somatosensory 下を認めた。尺骨神経では伝導速度の低下も見られた。下 evoked potential:SEP)により経過を観察することができた 肢では腓腹神経において、初診時と10日後では異常を認 軸索障害型の慢性多発性神経炎の1症例を経験したので めなかったが、24日後以降、症状が改善しても誘発されて 報告する。 いない。脛骨神経、腓骨神経において、症状悪化時に伝 【症例】 60代女性、1ヶ月前より左踵の痺れと感覚鈍麻が 導速度は軽度低下し、CMAPの振幅は顕著に低下してい あり、痺れが増強、両側下腿前面まで拡がり、歩行困難とな た。H波は初診時より現在まで誘発困難のままである。 り当院受診。閉眼片足立ち拙劣、下肢腱反射低下、両下 【SEP(P38)の結果】 初診時より潜時の延長が見られ、症 肢遠位部及び左上肢遠位部の温痛覚低下を認めた。髄液 状悪化でさらに延長、その後改善傾向を呈している。 検査にて蛋白細胞解離は認めなかった。腓腹神経生検に 【考察・結語】 本症例は伝導速度の変化に比較すると、 て免疫異常による障害が考えられたため、γ-グロブリン療法 CMAPの振幅の変化が高度であることや腓腹神経生検の が行われ、症状の改善を見たが、再び症状が増悪。その後 結果からも、感覚神経優位、軸索障害型の慢性多発性神 パルス療法、免疫吸着療法が行われた。治療開始2ヵ月後、 経炎と考えられた。NCS、SEPの検査は診断の補助、臨床 自立歩行可能となり、予後良好であった。 評価の指標として有用であった。 【NCSの結果】 上肢では正中神経、尺骨神経において、 連絡先) [email protected] 452 神経1 非けいれん性てんかん重積状態後に脳波検査で PLEDs を呈した二症例 ○本田 由美子、池田 和美、荒谷 清、木村 聡、平田 信太郎、原田 大 (産業医科大学病院 病理・臨床検査・輸血部) 【はじめに】 てんかん重積状態とは短時間に何回も続けて 【症例2】 71歳、男性、左利き 既往歴:胸部中部食道癌5月 てんかん発作を起こすか、短い発作でも反復し意識の回復 5日:食道癌術前化学療法目的で第1外科に入院。 5月8 しない状態である。またPeriodic lateralized epileptic 日:意味不明な発語発生。口唇をもごもごさせる痙攣を2分 discharge(以下PLEDs)は、器質性脳病変が存在する側 間認め、従命が取れず。その後 口唇の痙攣発作、右眼球 に半球性、または焦点性に出現し、血管障害、腫瘍、脳炎、 の偏位、右握力の低下を認めた。 5月9日の脳波検査で 特にヘルペス脳炎などで出現することが知られている。今 EEG seizureを認め、EEG status epilepticusと診断され 回 非けいれん性てんかん重積状態後に意識が回復する た。 5月10日の脳波検査で両側性PLEDs、翌日の脳波検 にもかかわらずPLEDsを呈した2症例を経験したので報告 査ではno epileptiform activitiesとなった。 する。 【考察及びまとめ】 2症例とも非けいれん性てんかん重積 【症例1】 71歳、男性、右利き、既往歴:大腸癌、認知症 状態を発症し脳波検査でEEG status epilepticusとなり症 3月21日:右上肢のぴくつき、顔面けいれん、眼球偏位、痙 状の改善とともに、PLEDsを認めた。今回認めたPLEDs 攣重積状態にて当院神経内科に緊急入院となった。緊急 はてんかん重積状態と関連して出現した。非痙攣性てんか 入 院後処 置により痙攣 消失 。脳波検 査はEEG status ん重積状態ではPLEDsの可能性を念頭に置き脳波検査 epilepticus。Sharp waves、regional left frontal。 3月 を行なう事が必要と思われた。 22日:Sharp waves、lateralized to the left hemisphere。 【謝辞】 ご指導していただいた産業医科大学神経内科准 3月23日:Periodic lateralized epileptiform discharges、 教授 赤松直樹先生に深謝いたします。 left hemisphere(PLEDs)。3月29日:Spikes、regional left temporal and parieto-occipitalと移行した。 連絡先) 093-601-16110(7454) 453 神経1 Fusion mapping of MEG and nTMS ○八木 和広、野地 七恵、松﨑 崇史、高橋 貴行 (潤和会記念病院 脳神経センター検査室) 【はじめに】 いくつかの脳機能計測が実用化されている。 我々は、脳内の神経活動に伴って発生する磁場信号を記録 するMEG(magnetoencephalography)と、非侵襲的に正 確 に 脳 を 刺 激 す る こ と が 出 来 る nTMS ( navigation transcranialmagnetic stimulation)による運動野マッピン グの検討を行った。 【方法】 nTMSとMEGのマッピングはそれぞれの結果を参 照せずに独立して実施した。nTMS(Nexstim社)は光学式 トラッキングシステムを使用し、単相性パルスの八の字コイル (Magstim社)を用いて右手の短拇指外転筋のHot spotを マッピングした。Hot spotは、刺激閾値の強度で右手の短拇 指外転筋から導出されるMEP(motor evoked potential)が 最 大 と な る 所 と し た 。 MEG 装 置 は 306ch (Elekta-Neuromag社)を用いた。MEGの計測は右手の第 1指に加速度センサーを装着し、第1指の屈曲伸展運動中の 脳磁場測定を行った。解析は、脳磁場と加速度センサーの Cross‐correlogram 処 理 を行 い 、対 側 半 球 の RMS( root mean square)の最大振幅でDipoleを求めた。また、GOF ( Goodness of fit ) は 80% 以 上 と し た 。 MEG と nTMS の fusionはMRIに表示したDipoleをDICOM出力し、NifTIフ ォーマットを介してナビゲーションシステムに読み込ませた後 にnTMSでマッピングした座標を重ね合わせた。【結果】 nTMSでのマッピングはM1に良好に推定された。MEGでの Dipoleは、M1に良好に推定され後頭方向であった。MEGと nTMSのマッピングは概ね一致したが、2例で多少の誤差が 認められた。しかし、中心溝より後方に推定されなかった。 MEGは脳溝に、TMSは脳回に多くがマッピングされた。 【考察】 MEGでの計測は運動に関する複数のプロセスが 関与しているのに対して、nTMSではM1のみを刺激し錐体 下降路を賦活させている。MEGとnTMSは全く同じ状態を比 較していないので多少の誤差は正当であると考える。nTMS マッピングの深さ方向の位置は不明であるが、局所的な刺激 が可能である。MEGは逆問題の計算が必要であるが、運動 に関与する複数の脳領域を評価する事が可能である。それ ぞれのプロセスを分離して評価する事が出来るMEGと、正 確に標的部位を刺激することが出来るnTMSのfusionは、複 雑な脳活動の解析や磁気刺激治療の刺激部位の決定に大 きく貢献すると考える。 連絡先) [email protected] 454 神経1 脳梗塞患者において PLMS を認めた一症例 ○野地 七恵、八木 和広、松﨑 崇史、高橋 貴行 (潤和会記念病院 脳神経センター検査室) 【はじめに】 睡 眠 時 周 期 性 四 肢 運 動 ( periodic limb 施行し3%ODI:16.03であったため、睡眠時無呼吸症候群 movements of sleep:PLMS)とは、睡眠時に生じる四肢 (sleep apnea syndrome:SAS)が疑われ、当院に紹介と の片側あるいは両側性の周期的な運動である。発現機序 なった。3月にPSGを施行し、SASと診断され経鼻的持続 に関しては諸説があり、鉄欠乏、ドパミン神経伝達、A11、 陽圧呼吸(continuous positive pressure:CPAP)を導入 遺伝的要因などの関与が考えられている。今回、我々は脳 し、1ヶ月後にCPAPタイトレーションPSGを施行した。 梗 塞 に よ る 右 片 麻 痺 の 患 者 に 睡 眠 ポ リ グ ラ フ 検 査 【結果】 (polysomnography:PSG)を施行し、PLMSを認めた症 ① PSG結果:Apnea Hypopnea Index(AHI):47.7回/ 例を経験したので報告する。 時間。PLMs(periodic limb movements):97.0回/時間。 【症例】 72歳、男性。BMI:22.0。10年前より鼾と無呼吸を ② CPAPタイトレーションPSG結果:AHI:0.8回/時間。 指摘されていた。X-1年3月~11月、くも膜下出血のため当 PLMs:111.1回/時間。初回PSGおよびCPAPタイトレーシ 科脳神経外科・リハビリテーション科へ入院していた。MRI ョンPSGで、PLMsが多く認められた。また、麻痺側である 画像では、左前頭葉や側頭葉の脳挫傷を認め、その他に 右脚においても頻回にPLMsがみられた。 も両基底核から放線冠や橋に陳旧性梗塞が認められる。 【考察】 現在、PLMSの起源については明らかにされてい 運動麻痺の程度を示すBrunnstrom stageでは上肢Ⅱ、 ない部分も多い。本症例のPLMSの発症機序としてA11ド 手指Ⅰ、下肢Ⅱであり、重度の右片麻痺である。退院後は パミン系の関与も否定できないが、皮質起源は考えづらく、 他院にて通所リハビリをしていたが、夜間の喀痰排泄があり、 脳幹網様体がジェネレーターと考えられる。 無呼吸もひどくなってきた。X年2月、パルスオキシメトリー 連絡先) [email protected] 455 呼吸2 当院におけるモストグラフの運用 ~病態理解と診断精度向上への活用~ ○村岡 奈々美、森槌 康貴(霧ヶ丘つだ病院 睡眠呼吸センター検査科) 【はじめに】 COPDや喘息等の早期発見、管理には呼吸 名(66.7%)が呼吸抵抗値(R5)では正常値を示し、呼気抵 機能検査が重要である。近年、国産の強制オシレーション 抗値(ExR5)では1名(16.6%)が正常値となり1秒率との乖 法による呼吸機能検査としてモストグラフ(チェスト社、東 離が認められた。 京)が開発され、各周波数の呼吸抵抗の解析が短時間で 【結語】 モストグラフでは1秒率の変化が出にくいような軽 可能となり臨床で普及してきている。今回、モストグラフの臨 症でも、呼吸抵抗値の変化を鋭敏に感知できた。さらに、 床的運用の位置付けについて自験例を基に考察した。 呼吸周期依存性を値と3Dカラーグラッフィックス表示で確 【方法】 2012年1月~2012年12月31日に咳を主訴に来 認できるため診断の精度と患者への病態理解の向上にも 院され同日にスパイロメトリーとモストグラフを施行した109 有効と思われる。原理上、気種化が進行した状況(重症 例(平均年齢51.8歳、男性49人、女性60人)を対象とし検 COPD等)では呼吸周期依存が現れなくなることもあり、ス 討した。 パイロメトリーと組み合わせることが重要である。今後増加が 【結果】 スパイロメトリーで1秒率70%未満者(閉塞性換気 予想されるCOPD等の早期発見のために、気道閉塞を鋭 障害)は17名(15.6%)であり、10名(9.2%)がCOPDと診 敏に反映し、手技的にも簡便なモストグラフは有用と思われ 断された。(GOLDの病期分類1:0名、2:4名、3:4名、4:2 る。 名 ) 。 モ ス ト グ ラ フ で 呼 吸 抵 抗 値 ( R5 ) 3 以 上 が 46 名 連絡先) 093-921-0493(直通) ( 42.2 % ) で あ っ た 。 咳 喘 息 と 診 断 さ れ た 34 名 中 3 名 [email protected] (8.8%)が1秒率に異常を認め、14名(41.2%)が呼吸抵抗 ホームページ:http://www.k-you.or.jp/ 値に異常を示した。重症COPD(病期分類3、4)の6名中4 456 呼吸2 気管支喘息における呼吸抵抗検査 MostGraph-01 の有用性について ○中願寺 実可子、水時 奈美、冨安 修(長田病院 検査科) 外山 貴之(同 呼吸器内科)、木下 正治(同 院長) 【はじめに】 平 成 24 年 6 月 に 当 院 に 導 入 さ れ た MostGraph-01は、気道の呼吸抵抗値や弾性値などを得 ることができ、気道炎症の度合いや気道反応性などを示す 指標となりうる。今回、MostGraph-01を用いて気管支喘 息患者と健常者における呼吸抵抗の特徴の差異について 検討したので報告する。 【方法】 気管支喘息症状ありの患者150名、症状なしの患 者142名、健常者20名を対象にMostGraph-01を用いて* 呼吸抵抗および*X5、Fresなどの各パラメーターを測定し た。 *呼吸抵抗:呼吸器全体の抵抗をR5、上気道から中 気道の抵抗をR20、周波数依存性の指標をR5-R20。それ ぞれ3.0以上で高値。*X5、Fres:弾性や収縮の指標。X5 は-0.15以下で異常値、Fres・ALXは収縮に抵抗があるほ ど高値。 【結果】 得られた結果を別に表に示す。呼吸抵抗値の平 均値は、症状ありの患者が症状なしの患者と健常者に比べ て有意に上昇した。また、症状なしの患者と健常者の値は ほぼ変わらなかった。X5は喘息患者で異常値を示し、より 症状ありの患者が有意に異常値を示した。またFres、ALX についても同様であった。 【考察とまとめ】 呼吸抵抗値では気管支喘息の症状がある とき、つまり呼吸抵抗が上昇している時に高値となる。X5、 Fresは症状ありの患者が著明に異常値を示したが、症状 なしの患者も健常者と比較して有意に差が出た。今回の検 討からMostGraph-01は、気道炎症の現状を示唆しており、 気管支喘息の管理に有用性が高いといえる。 (症状あり) n=150 気管支 喘息者 (症状なし) n=142 健常者 n=20 平均 SD 平均 SD 平均 SD R5 R20 4.79 1.48 2.04 1.19 2.36 0.67 3.58 0.82 1.84 0.90 2.09 0.47 R5 -R20 X5 Fres ALX 1.21 -1.18 14.74 14.41 1.16 1.66 5.97 14.54 0.20 -0.64 9.16 4.03 0.52 1.31 3.35 5.08 0.28 -0.10 6.58 1.84 0.60 0.37 2.63 3.90 457 呼吸2 MostGraph-01 を用いた気管支喘息患者における気流制限の評価 ○宇木 望、石隈 麻邪、西村 忠隆、田辺 一郎、東谷 孝徳、太田 昭一郎、 末岡 榮三朗(佐賀大学医学部附属病院 検査部)、田中 千鳥(同 呼吸器内科) 【はじめに】 オシレーション法による呼吸抵抗測定は、被検 【結果】 各群の変化率(%)はそれぞれ以下の通りであった。 者の呼吸努力をほとんど要せず呼吸抵抗を測定できる簡 1秒量 R5 R20 便な検査であり、閉塞性換気障害の早期診断に有用である ①群 3.05±0.92 49.70±11.12 45.86±7.44 と期待されている。今回、呼吸抵抗測定装置 ②群 24.52±5.77 144.30±39.85 56.99±2.56 MostGraph-01を用いた気管支喘息患者における気流制 ③群 2.73±0.98 54.11±28.90 37.00±21.54 限の評価の有用性について、スパイログラムと比較検討を ①群は全例で1秒量の変化はなく、R5、R20で変化がみら 行った。 れた。②群は1秒量、R5、R20いずれも負の変化がみられた。 【対象】 2012年4月から2013年6月の間に、同日にFVCと呼 ③群は全例で1秒量の変化はなかったが、R5、R20の変化 吸抵抗を測定した気管支喘息患者のうち、複数回の検査歴 には症例によりばらつきが大きかった。 があった12名(平均49±6歳、男性4名、女性8名)で、検査間 【考察】 呼吸抵抗値の変化は、臨床症状や治療等の経過 の臨床症状や治療等をもとに①軽快群(6名)、②増悪群(2 とおおむね一致した。1秒量で変化が捉えられない例でも 名)、③変化なし群(4名)の3群に分類した。 呼吸抵抗値では大きな変化がみられ、気道収縮の状態を 【方法】 FVCはFUDAC-77(フクダ電子)、呼吸抵抗は 鋭敏に捉えることが示唆された。また、これまでフローボリュ MostGraph-01(チェスト)を用い、秒量、全気道抵抗(R5)、 ーム測定が困難だった被検者でも今後は気流制限の評価 中枢気道抵抗(R20)を測定し、それぞれ検査間の変化率 が可能になると思われる。 *) を算出した。1秒量は喘息発作寛解期の気道可逆性試験 五味ヒサ子 他:健常人の呼吸抵抗測定におけるIOSとMost の改善率10%以上、5、20は五味ら*)の同時再現性の報告 Graphの比較について、医学検査 2012;61:773-777 を参考に変化率10%以上の変化があったものを“変化あり” 連絡先) [email protected] とした。また、変化率は絶対値で比較評価した。 458 呼吸2 筋萎縮性側索硬化症患者の経時的な肺機能検査の意義について ○本多 史美、野村 友香、安田 正代、本郷 剛、佐々木 康雄(国立病院機構熊本南病院 研究検査科)、阪本 徹郎、栗﨑 玲一、山下 太郎、植川 和利(同 神経内科) 【はじめに】 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、依然原因不 【結果】 非球麻痺型では、測定毎の座位と仰臥位との 明で根本的な治療法がない進行性の神経難病である.一 %FVC値の差は平均5.61±4.39(n=5)と変動は小さい傾向 般的に発症後3~5年で呼吸不全のため死亡するか、人工 にあり、%FVC値はALSFRS-Rに連動して経時的に低下し 呼吸器の装着を必要とする。進行する呼吸機能の低下に ていた。球麻痺先行型では、座位と仰臥位の 対して、非侵襲的陽圧換気(NPPV)療法や侵襲的な呼吸 %FVC値の差は平均8.61±8.14(n=10)と変動が顕著な症 補助(TPPV)をいつどのようなタイミングで導入するかは臨 例が多く、測定機会ごとの値の変動も多くみられる傾向が 床上の大きな課題である。経時的な肺機能検査は治療方 強かった。%FVC値が急激に低下した症例では、1ヵ月程 針決定のため重要であり、座位のみならず仰臥位での測定 度ごとの頻回測定によりNPPV導入のタイミングを逸するこ についても近年その重要性が指摘されてきた。今回ALS患 となく導入することができた。またNPPV導入した一症例で 者の臨床情報と%努力性肺活量(%FVC)測定値について は、導入後%FVC値の低下速度は緩徐になり%FVC値の の検討を行い、若干の知見を得たので報告する。 座位・仰臥位の差は小さくなった(導入前平均: 【対象】 2010年4月より2013年4月までの3年1ヵ月の間に 7.98±4.45 %、導入後平均:1.83±1.91 %)。 6ヵ月以上継続して当院で座位と仰臥位の肺機能検査を行 【考察】 各種ALS治療ガイドラインには、少なくとも3ヵ月ご っていたALS患者15名(球麻痺先行型10名、非球麻痺型 との呼吸機能評価を行うように示されている。今回の検討か 5名)。 ら、当院のように1ヵ月程度ごとの頻回測定により%FVC値 【方法】 各対象症例において、経時的な座位と仰臥位で の座位と仰臥位の差の変動の程度を把握・検討することが、 の%FVC値およびALS機能評価スケール(ALSFRS -R)、 ALS患者における呼吸機能の評価、またNPPVの適時導 治療経過との関連性についての検討を行った。 入と治療効果観察にも有用であることが示唆された。 459 総合1 生殖補助医療における胚培養士の役割 ○石川 陽子、舛田 昭三、三ケ尻 ゆかり、太田 りか(浜の町病院 臨床検査部) 【はじめに】 生 殖 補 助 医 療 ( Assisted reproductive 授精(卵細胞質内に1個の精子を注入する)を行う。(4)培 technology:ART)とは、体外に取り出した卵子と精子を受 養1日目、受精判定を行う。(5)培養2~5日目、胚の発育 精させ、数日間培養した受精卵(胚)を女性の子宮に移植 状況を確認し医師へ報告、移植日が決定される。(6)移植 する高度生殖治療である。当院では、臨床検査技師2名が 当日、最もグレードの良い胚を選別、チューブに吸入して 胚培養士の資格を取得し、ART業務に携わっている。具体 医師に渡し、患者の子宮内へ移植する。その後、胚の状態 的なARTには、①体外受精、②顕微授精、③凍結融解胚 について患者に説明を行う。また、余剰胚は妊娠しなかっ 移植などがあり、当院では平成3年から①を、平成17年から た場合の次回移植に備えて凍結保存する。(7)数週間後、 ②・③を実施している。今回ART治療の流れや胚培養士の 臨床的妊娠の有無が確認された時点で医師から帰結シー 主な業務内容について紹介する。 トが提出される。 【業務の流れ】 (1)治療周期開始時に医師から症例のエ 【実績】 過去3年間(2010年1月1日~2012年12月31日) ントリーシートが提出される。(2)採卵2~3日前、医師から における治療成績は、患者総数99人、平均治療年齢37.2 採卵日決定の連絡が入る。また、看護師から患者情報記載 歳、治療周期総数269周期、体外受精119周期、顕微授精 の申し送り書が提出される。(3)採卵当日、先に精液処理 50周期、凍結胚移植104周期、移植回数189回、妊娠数 を行い運動良好精子を回収しておく。採卵は医師が経膣 34人、移植あたりの妊娠率18.0%であった。 超音波ガイド下で卵巣中の卵胞を穿刺し、卵胞液とともに 【まとめ】 胚培養士は、受精や胚発育において最適な培養 卵子を吸引する。この液を受け取り、採取された卵子を顕 環境を作り上げ、常に胚の状態を把握し、医師や患者へ伝 微鏡で確認、洗浄操作を行い培養液へ移し替える。数時 えるという重要な役割を担っている。ARTチームの一員とし 間後、媒精(卵子に一定濃度の精子をかける)または顕微 て、今後更なるスキルアップを目指していきたい。 460 総合1 中央採血室での業務を中心とした検査部の取り組み ○木下 まり、岡田 梢、平岡 政代、道永 尚始、松本 翔太、寺園 広太、小林 敏郎 (健康保険熊本総合病院 検査部) 【はじめに】 当院検査部は、診療への貢献を目的に常時 パニック値や溶血検体等については診療科へ直接連絡を 中央採血室(採血室)に臨床検査技師(技師)を配置し、採 行う。 ⑤午後の業務としては、外来採血を行いながら翌日 血業務等に積極的に関わっている。今回はその取り組みに の病棟採血管の準備も行っている。病棟での採血が円滑 ついて採血現場への具体的なサポート例や効果を報告す に行えるように条件つきの特殊採血や時間採血にはコメン る。 ト等を添えている。 ⑥システム面での改善としては、2階採 【取り組み】 2013年2月の病院新築移転にともないこれま 血室の端末に輸血メニューを取り込んだことで2階外来で で隣接していた採血室と検査部が階を隔てて2階と4階に の輸血用血液製剤の払い出しが可能となり看護師の負担 分かれた。これまで以上に採血業務が円滑に行えるように、 減につながった。また、検体ラベル記載情報の見直しを行 CS委員会の「患者様の声シート」や看護部からの意見を参 い、検査漏れや検体採取・処理条件の見落としを防ぐよう 考に随時改善を行っている。現在採血室での採血は、正午 工夫した。 までは看護師が中心に行いその後は技師が行っている。1 【今後の課題】 採血室での採血業務向上のため日々努め、 日平均の採血件数は約200件である。以下の取り組みを実 看護部との連携もかなりとれるようになってきた。しかしなが 施。 ①外来採血開始時間に対応し技師2名が早出を行う。 ら受付・採血時の対応や待ち時間等でクレームをいただく ②外来診療のために検査結果報告の短縮に努めているが、 こともある。今後も問題点を明確にし、看護部との意見・情 特に大至急依頼や迅速検査、血液ガス等の検体搬送につ 報交換を行いながら安全で患者様に安心していただける いてはPHSなどを用い確実な連絡を行っている。 ③採血 医療サービスの提供ができるように検査部として取り組んで 管の取り違えなどを防ぐためダブルチェックを行う。依頼項 いきたい。 目の追加には、再採血をできるだけ少なくするように、技師 連絡先) 0965-32-7111(内線372) が検体の確認を行い患者様の負担減に努めている。 ④ 461 総合2 地域コミュニティへの出張、院外健康教室 ~予防医学への臨床検査技師の関わりによる効果~ ○池田 悠悟、福嶋 裕子、石浜 純徳、福留 三保、内田 泰彦 (三愛健康リハビリテーション内田病院) 【はじめに】 「健康が実感できる場、コミュニケーションが促 作ってみた」「検査を受けてきた」など、当教室で得た情報 進できる場」として市民のために開放され各種地域サーク により生活習慣、特に食事や運動の見直し、検査受診を行 ルの集う公共の無料スペースを利用し、毎月2回、医師、管 ったという声が聞かれた。健康教室参加者のニーズにあっ 理栄養士、健康運動指導士、臨床検査技師でチームを組 た情報の提供は健康への意識を高め、さらには健診や検 み、それぞれ、病気の話題、栄養のおはなし、運動のコツ、 診の受診を促すことができると考えられた。 検査のススメと豆知識、というテーマで90分の健康教室イ 【まとめ】 健康診断などの定期的な検査を受けることは、食 ベントを開催した。 生活への気配り、運動習慣とならび健康維持のために必要 これまでの実施回数は18回、参加人数はのべ721人、男 であり、自分自身の体の状態を把握するために検査内容や 女比1:9、参加者年齢は72±14才であった。参加者にアン 検査結果は重要な情報である。臨床検査技師が健康教室 ケート調査を行い健康に関する意識調査と健康教室の効 などのイベントへ参加し検査と疾患の関係、検査の意味と 果について検討した。 必要性を広く周知させ、理解を促すことにより、早期発見・ 【結果】 参加者の6割は「健康に気を使っている」と答えた 早期治療の意識を高め健康寿命の延長を目的とした予防 が、「生活習慣病とは何か」「どのような検査が必要か」を知 医学へ貢献できると考える。 っている参加者は1割程度であった。教室参加後、「簡単に 連絡先) 0948-20-7777 できる運動を取り入れてみた」「実際に紹介されたレシピを 462 総合2 肝炎患者を中心とした臨床への診療サポートについて ~主に生化・免疫検査室のサポート体制構築~ ○今田 龍市、岡崎 佑美、浦本 裕介、彌永 和宏(くまもと森都総合病院 臨床検査科) 【はじめに】 当院の診療科の柱でもある肝臓消化器内科が 画、PCT)の2項目を採用。その他の診療サポートとしては 開設され約10年を迎えようとしている。開設当初は、専門性 肝臓病教室をはじめ糖尿病教室、リウマチ膠原病教室、新 の高い検査項目の殆どが外注検査で対応していた。しかし、 人看護師教育、CP、NST活動などが挙げられる。 最近では患者のニーズにもよるが、迅速検査は勿論のこと 【考察・結語】 主に肝炎関連の検査項目を充実させたこと 専門病院としての特色を生かし、数々の外注検査を徐々に により、院内検査での、肝炎の詳細な病態把握を可能とし ではあるが院内実施化に向け取り組んできた。今回、その た 。 AFP L3 分 画 は 特 に 生 物 学 的 悪 性 度 の 判 定 、 他の診療サポートも含め、今日まで行なってきたサポートシ PIVKAⅡはAFPの上昇しない肝がんの発見。KL-6は呼 ステムの構築について若干の考察を含め報告する。 吸器科のみならずインターフェロンによる副作用の間質性 【診療サ ポートへの取り組み】 2007.9よ りアーキ テクト 肺炎のモニターにも重要。HBV-DNA は核酸アナログ製 i2000の更改機としてルミパルスレストⅡ(富士レビオ)を導 剤の治療効果判定のみならず、悪性リンパ腫のR-CHOP 入 し た 。 測 定 項 目 は ( HBs-Ag 、 HCV-Ab 、 HBe-Ag 、 療法や関節リウマチの生物学的製剤の使用時におけるDe HBe-Ab、AFP、CEA、CA19-9、PSA、TSH、FT3、FT4) novo肝炎の予防にも役立つ。HCV-RNAはインターフェロ に始まり、2007.10にPIVKAⅡの採用を試みたがデータの ン治療の効果判定に用いられている。当初、肝炎関連で採 バラツキにより検討扱いとなった。2008.2よりPIVKAⅡを採 用した項目が複数科よりオーダがあり相乗効果をもたらした。 用。2008.6にKL-6、2011.7にBNP、2012.7にHBcAbを 最後に、教室関係も含め臨床および患者に対し十分満足 採用。また、2010.4にTaq Man PCR(ロシュ)を導入し、測 いく診療サポート体制が構築された。 定 項 目 ( HBV-DNA 、 HCV-RNA ) の 2 項 目 を 採 用 。 連絡先) 096-364-6000(PHS-5146) 2011.8にはμTAS(和光)を導入し、測定項目(AFP-L3分 463 輸血3 当院における CART 使用によるアルブミン製剤削減への取り組み ○下川 里美、林 秀幸、永田 雅博、川内 直、中田 成紀、杉 和洋、橋本 龍之、 武本 重毅(国立病院機構熊本医療センター 臨床検査科) 【はじめに】 CART(腹水濾過濃縮再静注法)とは、難治性 化センターにてCARTを実施した72症例、計151回を対象 腹水の患者に対し、ドレナージで抜いた腹水を濾過・濃縮 とした。疾患別の件数は、肝硬変23件、肝細胞がん5件、 して余分な細胞や水分を取り除き、得られた蛋白(アルブミ 肝性腹水3件、肝障害2件、癌性腹膜炎12件、卵巣癌11件、 ン、グロブリン)を点滴静注で体の中に戻す方法である。従 胃癌5件、その他の癌10件、その他1件であった。 来の腹水ドレナージに比べ、腹部膨満感や呼吸困難など 【結果】 151件の平均腹水処理量は4289mL、平均濃縮 の症状が速やかに和らぎ、アルブミン・グロブリンの補給、 量は518mLであった。Alb値の平均は処理前が1.24g/dL、 循環血漿量の増量など腹水ドレナージの欠点を解消する 処理後が5.35g/dLであった。また、消化器内科のアルブミ 手技として注目されている。 ン製剤使用量は2008年では7183単位、2009年では4333 また、厚生労働省は医療機関におけるアルブミン製剤の 単位であったのに対し、CARTが開始された2010年 は 適正使用を推進し、その普及により使用量は減少傾向では 2913単位、2011年は3650単位、2012年は3221単位であ あるが、国際的に比較すると日本のアルブミン製剤の使用 った。 量はいまだ多い。国内における使用量も地域格差があるこ 【考察】 CART使用そのものだけでは、アルブミン製剤使 とから、今日でも使用適正化のさらなる推進は必要と考えら 用量の大幅な削減には至らなかったが、消化器内科のア れている。 ルブミン製剤使用量は減少している。これは、CARTの導 今回我々は、消化器内科におけるCART使用によるア 入をきっかけに、アルブミン製剤の削減に目を向け、意識を ルブミン製剤削減への取り組みについて報告する。 変えることができたのではないかと推測された。 【対象】 2010年2月4日から2013年7月9日までに血液浄 連絡先) 096-353-6501(内線3310) 464 輸血3 臓器移植におけるチーム医療の役割 ~臓器移植との臨床検査の関わり~ ○金本 人美、橋口 裕樹、野原 圭子、西中 優子、宗像 幹男 (福岡赤十字病院 検査部)、本山 健太郎、山本 恵美(同 移植外科) 【はじめに】 当院では、生体腎移植をはじめとする脳死・献 を行う。 腎時の移植も行い、それらの検査は、日本臓器移植ネット 【経過】 ラウンドを開始して、移植外科以外の部門にも移 ワークの特定移植検査センターである当検査課が担当して 植検査の内容に興味・関心を持ってもらうことができ、検査 いる。移植にはドナー(臓器提供者)、レシピエント(移植患 結果の解析方法や、HLA抗体保有のレシピエントの脱感 者)、その家族だけでなく、医療従事者も多くの人が関わり 作療法、免疫抑制剤のコントロール、検査データの評価等 同じ目標に向かっていく。より良い医療を患者へ提供する の質問が増えた。また面識ができたことにより移植チームと ためには、あらゆる分野から多くの情報を取り入れ、その中 してのコミュニケーションを構築することができた。レシピエ から最善の策を選択することが重要となる。当院では2013 ントと対面する機会も以前より増え、術前後の経過を目で見 年2月より、腎移植チームによるラウンドを開始したのでその て感じとることもできるようになった 報告をする。 【まとめ】 今後、益々医療の高度化が進むにつれ治療等も 【取り組み】 週一回、移植医、腎臓内科医、移植コーディ 複雑化してくる。質の高い、より良い医療へのニーズに応え ネーター、薬剤師、栄養士、検査技師の約10名が集まり、 るには、情報や意見の交換、共有化が不可欠となり、それ ドナー、レシピエントの状態、治療方針、追加検査の必要 らがチーム医療の基盤に繋がる。今後も学会、研究会等の 性等、ディスカッションを行う。その後、病室へ赴き、投薬、 参加、あるいは演題発表を積極的に行い、知り得た知識や 処置、検査の説明を行う。移植前にはオペ室、ICU/CCU、 技術を移植ラウンドで提供し、最終的に患者に還元できる 病棟看護師も加えての移植合同カンファレンスを行い、ダ よう努力していきたいと考える。 イレクトクロスマッチ、HLA抗体、ABO血液型抗体価等を 連絡先) 092-521-1211(内線2345) 検査技師が説明、また輸血の有無など、最終的なチェック [email protected] 465 輸血4 日赤輸血検査実技研修会を開催して ~2011 年度、2012 年度~ ○小田 秀隆、柳内 大輝(福岡県赤十字血液センタ-)、江頭 弘一(久留米大学病院 臨床検査部)、天本 貴広(久留米大学医療センター 臨床検査室) 【はじめに】 輸血検査は十分な知識と経験が必要であり、 ABO血液型では正常13件、不規則抗体では、陰性9件、 2011年度より輸血検査技術向上を目的とし(社)福岡県臨 自己抗体76件、DATのみ陽性7件であった。 床衛生検査技師会(以下 福臨技)との双方協力により輸 【課題】 近年の輸血検査は自動機器導入により効率化は 血検査実技研修会を開催してきた。今回、実技研修会開 図れるものの、医療機関における試験管法の未実施率は 催後の依頼検査の現状について報告する。 高く、部門ローテーションにより輸血検査担当者の専従・専 【対象】 福岡県内の医療機関より依頼された検査のうち 任率も低い。今後は、医療機関・血液センター・受託臨床 ABO血液型・不規則抗体について、実技研修会開催前後 衛生検査所における指導者・後継者の育成も必要である。 の依頼検査数および検査結果について集計・解析を行っ 【まとめ】 輸血療法における輸血検査担当者の責務は、正 た。また、今後の課題についても検討した。 確な検査手技と検査結果の解釈、それに基づく輸血用血 【結果】 2010年度の依頼検査総数は297件(89施設)であ 液製剤の選択である。近年は自動機器の導入により医療 り、その割合は九州全体の44.5%を占め、うちABO血液型 機関での輸血全般における差異を認めるが、使用試薬・機 66件(9.9%)、不規則抗体215件(32.2%)であった。赤血 器の特性を十分に理解し検査を実施することで安全な輸血 球製剤供給単位数別の依頼施設は1、000単位未満が90 療法に繋がると考えられる。基本的に輸血検査は自施設完 件(50施設)と最も多かった。ABO血液型では、正常と判定 結型が望ましく、輸血検査技術の向上を支援するためにも されたものが38件(57.6%)と半数以上を占め、また不規則 本研修会の継続的な開催が必要であり、今後も福臨技と連 抗体では、陰性31件(14.4%)、自己抗体76件(35.3%)、 携し情報共有化と協力体制の構築に努めたい。 DATのみ陽性39件(18.1%)であった。研修会開催後の 連絡先) 092-921-1498 2012年度の依頼検査総数は、158件(70施設)と減少した。 466 輸血4 抗凝固剤の違いによる血小板活性化マーカー(CD62P 陽性率)と血小板凝集能に関する研究 ○金城 朋子、中村 浩哉(熊本保健科学大学 医学検査学科4年生)、 河田 仁、菊池 亮(熊本保健科学大学 医学検査学科) 【目的】 我々は以前より血小板濃厚液(PC)の長期保存に 平均値1.39%、2SD 2.16%であった。EDTA血の平均値は 関する研究を行っており、血小板機能の評価には血小板 12.04%、2SD 20.18%であり、EDTA血はクエン酸血の10 活性化マーカーであるP-セレクチン(CD62P)と血小板凝 ~35倍高値であった。EGTA(GEDTA)血7例は平均値 集能を用いている。他方、動脈血栓症発症の予知マーカ 1.96%、2SD 1.01%であり、クエン酸血に近似した値であっ ーとしてCD62P陽性血小板が注目されつつある。血小板 た。血小板凝集能を3例で比較したところ、クエン酸血では 凝集能やCD62P陽性率(CD62P値)はクエン酸血での測 3例とも60%以上の凝集率であったのに対し、EDTA血で 定が推奨されているが、EDTA血で基準値を設定し、動脈 は3例すべて0%であり、血小板凝集はみられなかった。こ 血栓症の予知の有用性を報告している例もみられる。そこ の3例のクエン酸血PRPをEDTA・2K採血管に入れて(ク で 、 ク エ ン 酸 血 と EDTA 血 の 多 血 小 板 血 漿 ( PRP ) の エン酸+EDTA)10分間静置してから血小板凝集率を測 CD62P陽性率(CD62P値)と血小板凝集率を比較した。 定したところ、3例とも5%以下に下がった。CD62P陽性率 【試料及び方法】 本学学生および教職員から採血同意書 は、クエン酸血PRPは1%、EDTA血PRPは23~31%、ク を取得してシリンジ採血した。採血血液を3.2%クエン酸Na エン酸+EDTA血PRPは5%以下であった。EGTA血では 入りとEDTA・2K入りの真空採血管(積水メディカル)に分 十分量のPRPが採取できず凝集率は測定できなかった。 注し、約45分静置後にPRPを採取した。CD62P陽性率は 【考察】 キレート作用の強弱が影響しているものと推測され フローサイトメトリー法(FACS Verse)で、血小板凝集能 るが、EDTA血では血小板凝集能が消失すること、CD62 ( 吸 光 度 法 ) は ADP10μM ( 終 濃 度 ) で 刺 激 し た 。 一 部 陽性率はクエン酸血よりも最大35倍も高値となることなどか EDTAよりキレート作用の弱いEGTA(GEDTA)血も測定 ら、CD62Pはクエン酸血での測定が望ましいと思われる。 した。 連絡先) 096-275-2137 【結果】 21例におけるCD62P陽性率は、クエン酸血では [email protected] 467 輸血4 輸血による急性B型肝炎の一例 ○仲宗根 雅司、嶺間 有紀子、村田 茉由、呉屋 一政、安里 光宏、小田口 尚幸(総合病院中頭病院 中央臨床検査部)、井上 新吾(沖縄県立中部病院 検査科)、大城 正己(沖縄県赤十字血液センター) 【はじめに】 日本赤十字社では輸血による肝炎予防の目 的で、2012年8月より免疫血清学的スクリーニング検査に お け る 献 血 血 液 を 「 不 適 」 と す る 判 定 基 準 「 HBc 抗 体 (C.O.I)12.0以上かつHBs抗体価200mIU/ml未満」を 「HBc抗体(C.O.I)1.0以上かつHBs抗体価200mIU /ml 未満」へと改定した。今回、判定基準改定後に輸血による 急性B型肝炎を発症した症例を経験したので報告する。 【症例】 患者は62歳、男性。糖尿病性腎症による腎不全、 転移性肝癌と診断され、当院で維持透析、赤血球製剤を 合計36単位輸血。2013年2月、近医受診し、検査結果 AST 810IU/L、ALT 682IU/Lと著明に高値を示し急性肝 炎、肝性脳症と診断され入院。感染症検査で、HBs抗原 (+)、HBc抗体(+)の為、急性B型肝炎と診断され、エン テカビル開始(1回/週)した。近医退院後、当院の透析時 感染症検査結果もHBs抗原(+)、HBc抗体(+)を確認。 輸血によるHBV感染を疑い、 輸血前保存検体でHBs抗 原(-)HBc抗体(-)HBV-DNA検査(検出せず)を確認 し、沖縄県赤十字血液センターへ副作用報告を行い、感 染症調査を依頼した。 【調査結果】 輸血前保存検体でHBs抗原の陽転化が確 認された以降の被疑血液製剤は18本中12本あり、個別 NAT検査の結果、2012年8月29日に輸血された血液製剤 1本が陽性となった。この陽性製剤と患者検体中のHBV塩 基配列は、完全一致の為、本症例は、輸血によるHBV感 染と確定した。 【考察】 当院は、輸血実施約3ヶ月後に感染症検査を推奨。 本症例では透析患者の為、半年毎に感染症検査を予定し ていたが、肝炎発症を来してしまった為、輸血後感染症検 査の遵守の必要性を感じた。臨床側へ輸血後感染症検査 を依頼するシステムの検討を行っていきたい。また、本症例 では、ウィンドウ期の献血血液製剤であった為、判定基準 改定後であったが「適」となったので、個別NAT検査の必 要性を感じた。 連絡先) [email protected] 501 微生物1 脳膿瘍から検出された黒色真菌の一例 ○大神 敬子、筒井 智奈美、黒川 明日香、牧野 裕太、淋 茜、吉田 徳秀、 川淵 靖司(九州労災病院 検査科) 【はじめに】 黒色真菌症は、主に熱帯または亜熱帯地域に 週間で黒色色調を呈するコロニー形成を認め、コロニーを おいては免疫能正常な健常者を侵す皮膚感染であり、中 一部釣菌し、PDA培地にて35℃、好気培養、10日間程で 枢神経系の真菌感染症は、血液疾患における抗生物質長 黒灰色調、ビロード状を呈するコロニーを形成した。ラクトフ 期投与、あるいは免疫抑制剤投与中など、特殊な条件下 ェノールコットンブルー染色ならびに無染色では、比較的 に起きるとされている。今回、免疫不全のない高齢者で明ら 長い菌糸に、ほぼ直角に分枝し、 Cladosporium 型のみ かな皮膚病変を認めず、脳膿瘍から Cladophialophora 分生子形成を認めた。コロニー、菌糸形態から bantiana を検出した症例を経験したので報告する。 Cladophialophora bantiana を疑ったが、当院にて確定 【症例】 70歳代 男性。約20年前に胃悪性リンパ腫に対し 診断できず、千葉大学真菌医学研究センターにコンサルテ て胃全摘術が施行されていた。11月初旬から時折発語困 ーションならびに遺伝子解析を依頼し、Cladophialophora 難を自覚していた。数日後交通事故により当院に救急搬送 bantiana と同定された。 され、頭部CTにて左前頭葉に腫瘤性病変を指摘され、当 【考察】 諸外国の報告では、菌糸形成を認める黒色真菌 院脳神経外科紹介となった。脳膿瘍を疑うも転移性腫瘍も で、免疫正常者におこる中枢神経黒色真菌症の原因真菌 否定できず、開頭腫瘤摘出術が施行された。提出された脳 はCladophialophora bantiana が最も多いと報告されて 膿瘍内容物は、黄色淡緑色、粘稠性膿汁を認め、直接鏡 いる。本症例は、海外渡航歴などもなく、皮膚症状もなく、 検結果により塗抹・培養検査が施行された。 感染経路は不明であった。当初黒色真菌を強く疑う症例で 【真菌学的検索】 膿瘍内容物の生標本の鏡検から、菌糸 はなかったが病理科との連携により培養同定を行う事が可 型真菌を認めた。真菌検索を含め、BTB寒天培地、チョコ 能であった。 レート寒天培地、TSAヒツジ血液寒天培地、GAM寒天培 地、簡易カンジダ属鑑別培地を用いて培養を行った。約2 連絡先) 093-471-1121(内4106) 502 微生物1 介護施設における洗口剤(LISTERINE)使用後の口腔内分離推移 ○山口 憲二(西諫早病院 検査部検査科) 【はじめに】 急速な高齢化社会を迎えて高齢者の肺炎が 効果は11人中6名に減少が見られた。逆に5名は菌量が増 増加傾向を示している。特に介護を必要とする高齢者は口 加した。C groupの症例6名は、日常の動作が全く出来ない 腔内細菌を不顕性に誤燕することで生じる誤燕性肺炎が主 グループである。食事形態も2名が胃婁による経管摂取であ なものである。今回我々は要介護別による口腔内細菌の分 る。口腔内菌量は全症例ともに108CFU/ml以上と菌量が多 離状況と洗口剤(リステリン液)を用いて口腔内の洗浄効果 く、経管摂取を行っている症例では、口腔内に黄色ブドウ球 を検討したので報告する。 菌・禄膿菌・セラチア属・ S.agalactiaなど、いずれの菌種も 【実験方法】 老人介護施設に入所している30名を対象に 107個以上の細菌叢を形成し、長期間に渡り継続的に存在 要介護レベルⅠ・Ⅱ13名(A group)Ⅲ・Ⅳ11名(B group) した。口腔ケア後の除菌率は6症例中4例であったが、経管 Ⅴ6名(C group)の3グループに分けた。口腔内採取期間 摂取2名は菌量が増加した。 は初日・3日目の口腔内細菌量を平均量とし、洗口剤の除 【考察】 要介護度がⅠ・Ⅱ・Ⅲの要介護者は経口摂取する 菌効果を検討した。 ことで唾液の分泌を促進し、口腔内を清潔に保っている。要 【結果】 A groupは自主的に歯磨きができる症例13名を対 介護度がⅣ・Ⅴの要介護者の口腔内は菌量が多く、肺炎を 象 に し た 。 洗 口 剤 使 用 前 の 口 腔 内 菌 量 は 10 7 ~ 10 8 引き起こす可能性が高い菌種が大量に生息していた。全身 CFU/mlである。歯磨後に洗口剤を使用すると、12症例は 状態が悪化すると大量に肺胞内に嚥下する危険因子にな 106~107CFU/mlに菌量が減少した。B groupは移動の動 っている。口腔内ケアを日常の業務に取り入れていくかが重 作が自立できず、また排泄や理解の低下がみられるグルー 要であり、今後の呼吸器感染症の予防防止になると推察さ プである。11名のうち、要介護Ⅲクラス3名は口腔菌量10 7 れる ~108CFU/mlの菌量であった。要介護Ⅳクラス8名は、3名 連絡先) 0957-25-1150 に10 8 CFU/mlを超える大量の細菌が付着していた。除菌 503 微生物1 過去5年間に当院で分離された ESBL 産生 E.coli の解析 ○山口 将太、木下 和久、吉田 美幸、片山 靖之、松田 一之、上平 憲 (長崎市立市民病院 検査部) 【はじめに】 近年、耐性菌分離頻度の増加が問題となって 検体について検討した結果、どちらも増加傾向であった。ま いる。当院でもESBL産生E.coli の増加が問題となってい た、入院患者検体で持ち込みと考えられた症例も少なから る。今回、過去5年間に当院で分離されたESBL産生E.coli ず認められた。より詳細な検討では、ESBL産生かつキノロ を調査・解析した。 ン耐性E.coli の増加も認められ、2008年は0%であったが、 【対象と方法】 2008年1月から2012年12月までの抗菌薬 2012年にはESBL産生 E.coli の50%程度がキノロン耐性 使用量と臨床材料から分離されたE.coli 1579株を対象とし 株であった。 た。抗菌薬使用量に関しては、AUD値(DDD/100 bed 【考察】 当院では抗菌薬に耐性のE.coli が増加傾向であ days)を用いて検討した。薬剤感受性検査は2011年までは ったが、カルバペネム系抗菌薬使用量が減少傾向にあった WalkAway(シーメンス)を用い、2012年からはPhoenix 事は、ICT活動や抗菌薬届出許可制による抗菌薬の適正 (日本BD)を使用し、ESBL産生E.coliと同定した。 使用がはかられたことが考えられる。また、当院でのキノロン 【結果】 過去5年間の抗菌薬使用量は、ペニシリン系薬が 系薬剤使用量は減少傾向にあるのに対し、耐性株の増加 2008年22.6から2012年83.1まで増加し、カルバペネム系 が認められたことより、キノロン系耐性保菌者の入院が要因 薬が2008年21.3から2012年14.4と減少していた。またキノ として考えられた。 ロン系薬も2008年4.4から2012年3.8と減少していた。過去 【まとめ】 今後も様々な耐性菌の増加が予想され、院内感 5年間のESBL産生 E.coli 分離株数は1579株中128株 染対策を行う上でESBL産生菌だけではなく色々な耐性菌 (8.1%)で、各年のESBL産生E.coli 検出率は2008年0%、 が検出された時、微生物検査室から臨床へ迅速かつ、正確 2009年5.9%、2010年8.5%、2011年9.1%、2012年17.1% で価値ある情報提供が今後さらに重要であると考えた。 と年々増加傾向であった。さらに入院患者検体と外来患者 連絡先) 095-822-3251(内線2376) 504 微生物2 当院で分離された GBS の薬剤感受性 ○栗山 由貴子、芳賀 由美、廣永 道隆、奥薗 学(九州厚生年金病院 中央検査室) 【目的】 Group B Streptococcus (GBS)は垂直感染によ 者の年齢は54~89歳で、うち9名は65歳以上の高齢者であ る新生児敗血症、髄膜炎の起因菌として重要である。また った。またPRGBSでは、PCG感受性株に比べてLVFX耐 成人でも、特に基礎疾患を持つ患者において侵襲性の感 性率が有意に高かった(p<0.05)。その他の薬剤では、 染症を起こすことも知られている。これまで、GBSはすべてβ CAM耐性株(MIC≧1μg/ml)は71株(18%)、CLDM耐性 ラクタム系薬に感受性であるとされてきたが、近年ペニシリン 株 ( MIC≧1μg/ml ) は 38 株 ( 9.8 % ) 、 LVFX 耐 性 株 低感受性の株が報告され、問題となっている。今回、当院で (MIC≧4μg/ml)は89株(23%)みられた。またこの3薬剤に 分離されたGBSの薬剤感受性と、分離された材料、患者の ついては、膣とそれ以外の材料由来の間で、耐性率に有意 年齢について調査したので報告する。 な差はなかった。経年的な変化も認めなかった。ただし 【対象と方法】 2010~2012年の3年間に当院で分離され、 LVFX耐性率は、65歳以上において有意に耐性率が高い 薬剤感受性検査を実施した388株を対象とした。薬剤感受 ことが示された(p<0.05)。 性検査はCLSIに準じた微量液体希釈法にて行った。 【考察】 今回の調査では、PRGBSが2.8%存在したが、膣 【結果】 対 象 と し た 388 株 の う ち 、 PCG 低 感 受 性 株 由来株や侵襲性感染症と思われる症例からの分離はなか ( MIC≧0.25μg/ml 、 Group B streptococcus with った。しかし膣由来のPRGBSも報告されてきているため、 reduced penicillin susceptibility :以下PRGBSと表記) 今後もGBSの感受性の動向には注意する必要があると考え は11株 (2.8 %) 存在 し、うち 4 株はABPCにも低 感受 性 る。 (MIC≧0.5μg/ml)を示した。PRGBSの検査材料の内訳は 喀痰8株、尿、便、腹水が各1株で、膣、また膣由来と考えら 連絡先) 093-641-5111(内線2531) れる新生児からの分離株はなかった。分離された11名の患 505 微生物2 肺炎球菌及びインフルエンザ菌に対する 経口セフェム系薬剤(セフジトレンピボキシル)の抗菌力 ○塚本 千絵、赤松 紀彦、山田 舞子、川元 康嗣、川良 洋城、山川 壽美、松田 淳一 (長崎大学病院 検査部) 【はじめに】 セフジトレン ピボキシル(CDTR-PI)は、成人 【 結 果 ・ 考 察 】 肺 炎 球 菌 50 株 に お け る MIC90 は 及び小児の呼吸器、耳鼻科領域の感染症に対して広く用 CDTR-PI : 1μg/mL 、 CFTMPI : 4μg/mL 、 CFPN-PI : いられている。近年、肺炎の主要原因菌である肺炎球菌や 1μg/mL で あ っ た 。 耐 性 率 は CDTRPI : 4.0 % ( 2 株 ) 、 インフルエンザ菌の薬剤耐性化が問題となっている。そこで CFTM-PI:34.0%(17株)、CFPN-PI:34.0%(17株)であ 今回、CDTRPI、セフテラム(CFTM-PI)及びセフカペン り、ペニシリン耐性菌15株では、CDTRPI:13.3%(2株)、 (CFPN-PI)の肺炎球菌及びインフルエンザ菌に対する抗 CFTM-PI:86.7%(13株)、CFPN-PI:86.7%(13株)であ 菌力について比較検討した。 っ た 。 イ ン フ ル エ ン ザ 菌 50 株 に お け る MIC90 は 、 【対象・方法】 長崎大学病院において2009年1月から CDTR-PI : 0.5μg/mL 、 CFTM-PI : 1μg/mL 、 CFPNPI : 2012年8月までに呼吸器検体から分離された肺炎球菌50 4μg/mLであった。また、耐性率はCDTR-PI:0%(0株)、 株 及 び イ ン フ ル エ ン ザ 菌 50 株 を 用 い 、 CDTR-PI 、 CFTM-PI:44.0%(22株)、CFPN-PI:68.0%(34株)であ CFTM-PI及びCFPN-PIについて薬剤感受性試験を行っ り、アンピシリン耐性菌29株では、CDTR-PI:0%(0株)、 た。なお、各薬剤の耐性率は、日本化学療法学会の肺炎の CFTM-PI:58.6%(17株)、CFPN-PI:93.1%(27株)であ ブレイクポイント(CDTR-PI:S ≦1μg/mL、CFTM-PI:S っ た 。 以 上 の こ と か ら 、 CDTR-PI は 、 CFTM-PI 及 び ≦0.5μg/mL、CFPN-PI:S ≦0.5μg/mL)を基準として算 CFPN-PIと比較して、良好な抗菌力を示し、耐性菌感染症 出した。 にも有効であることが示唆された。 506 微生物3 感染性腸炎患者の糞便から分離された Salmonella miyazaki の一症例 ○佐藤 由季、山下 美幸、横井 伸子、山口 奈保子、河村 綾乃、斉藤 正光、 藤重 晴久、沖 茂彦(国立病院機構大牟田病院 研究検査科) 【はじめに】 Salmonella miyazaki ( 以 下 S. かった。入院後は抗生剤が投与され、その後症状消失。炎 miyazaki )は、1955年、福田・笹原らにより宮崎市内に発 症反応も改善した。 生した食中毒患者より分離されたサルモネラである。国立感 【微生物学的検査】 入院時の糞便検体の一般細菌検査を 染研究所の調査では、2011年3件、2010年4件、2009年2 実施。SS寒天培地(日水製薬)にて硫化水素産生が認めら 件で、細菌性食中毒の原因菌の中でも上位を占める割合 れたコロニーについてVITEK2(シスメックス)にて同定検査 のサルモネラで極めて稀な症例であるといえる。今回、我々 を行った結果、Salmonella group と同定された。サルモネ は感染性腸炎患者の糞便から分離され、同定に苦慮した ラ免疫血清「生研」(デンカ生研)を用いて血清型別試験を S.miyazaki の症例を経験したので報告する。 実施し、菌体抗原O9群、鞭毛抗原H-Lに凝集が認められ 【症例】 79才男性。糖尿病2型、無症候性心筋虚血、高血 た。当院に抗血清がなかったため国立病院機構佐賀病院 圧、脂質異常症にて当院加療中。また、認知症にて他院通 に依頼し、最終的にS.miyazaki と同定された。 院中。2013年5月下旬、嘔吐、水様性下痢、38度台の発熱 【考察】 今回、非常に稀なS.miyazaki の症例を経験した あ り 、 近 医 受 診 後 、 当 院 を 受 診 さ れ た 。 受 診 時 CRP ので報告した。抗血清は高価であり、全てを揃える事は困 9.05mg/dl、WBC 6300/μl、ノロウイルス抗原陰性、便潜血 難であると考える。今回の症例では、他施設との連携と情報 陰性、感染性腸炎の診断にて入院となった。問診より明らか の 共 有 に よ り 、 菌 種 の 同 定 が 出 来 た 症 例 で あ っ た 。 な生食はなく、家族にも嘔吐下痢の症状は認められていな 連絡先) 0944-58-1122 507 微生物3 Photobacterium damsela による食中毒と考えられた一症例 ○菅 良子、入村 健児、東原 悦子(国立病院機構佐賀病院 研究検査科) 【はじめに】 Photobacterium ( Vibrio ) .damsela は、 【同定結果】 VITEK2による同定結果はP.damsela 95% 一般的には魚類(ブリ・クロダイ)の類結節症の原因菌として であった。この同定菌は、上記生化学的性状をほぼ満たす 知られている。ヒトへの感染は外傷からの壊死性筋膜炎など ので、VITEK2による同定結果は正しいと思われたが、当 の報告が主で、腸炎は稀である。今回この菌が食中毒の原 院ではこれまでこの菌種を分離・同定したことがなかったの 因になったと考えられる症例を経験したので報告する。 で、国立感染症研究所に同定を依頼した。結果は同じで 【症例】 64才女性。平成23年10月12日の昼食に鯛の刺 P.damsela であった。 身を食した。18時頃より突然心窩部痛が出現し、市販の胃 【まとめ】 P.damsela は創傷感染の原因菌として分離され 腸薬を内服した。23時頃に心窩部痛が増悪し、嘔気が出現 ることが主であり、腸炎は稀である。国立感染症研究所によ した。翌朝6時頃、症状がさらに増悪し、当院救急外来を受 るとやはり腸炎は稀で、また、P.damsela の病原因子はよく 診した。CT検査にて大腸から遠位小腸にかけて腸液貯留 わかっていないとのことであった。今回の症例は、鯛の刺身 を認め、急性腸炎と診断。検査目的にて入院した。入院時 を多く食べたこと、その後、明らかな急性腸炎を発症したこと、 の便(水様~泥状)培養より、P.damselaを検出した。 入院時に採取した便培養からP.damsela が分離されたこと、 【培養結果】 便培養では、羊血液寒天培地でβ溶血を示す 当院ではこれまでに便培養から P.damsela を分離した事 コロニーが発育した。TCBS寒天培地は、無色(緑色)のコロ 例がなく、常在菌として分離される可能性は非常に低いと考 ニーが少数発育した。ドリガルスキー寒天培地、DHL寒天 えられ、鯛付着菌であった可能性が高いことから、この患者 培地は未発育であった。 はP.damselaによる食中毒と考えられた。 【生化学的性状】 オキシダーゼ(+) 乳糖(+) 白糖 (-) 尿素(-) リジン(+) VP(+) NaClペプトン水で 連絡先) 0952-30-7141(内線1145) は、1%~4%の濃度において発育がみられた。 508 微生物3 PCR を用いた下痢原性大腸菌検査の有用性について ○星子 文香、有田 昇平、津嶋 かおり、金子 優、松下 久美子、磯崎 将博、 平井 義彦(天草郡市医師会立天草地域医療センター 検査部) 【はじめに】 従来の下痢原性大腸菌検査は、主に血清型 OUT株が5株(30%)存在していた。血清型別試験で最も多 別試験により行なわれてきた。しかし特定のO群のみが対象 く検出された血清型はO18で16株、次いでO1が14株、O25 となっていたため、病原性があるにも拘らず、検査対象外の が13株であった。しかし、抗血清に凝集を示した70株の内、 O群であるため報告されなかったものや、逆に、特定のO群 病原因子を保有していたのは12株(17%)と低い保有数で として報告されたものの中には、実際には病原因子をもたな あった。 いものも含まれていたなどの問題がある。これらの問題を踏 【考察とまとめ】 これまで血清型別試験で下痢原性大腸菌 まえ、2012年1月に下痢原性大腸菌のカテゴリー分類の見 と判定されたもの(特にO1やO18)の中には既知の病原因 直しが行なわれた。それに合わせ当院では昨年 5月より 子を持たないものが多いと報告されているが、我々の検討 PCR法を用いた下痢原性大腸菌検査を開始した。そこでこ においても同様の結果となった。従来の検査法は煩雑で、 れまでに行なったPCRによる結果と従来法の結果とを比較 効率も悪く、精度にも問題があることから、推奨できる検査 検討したので報告する。 法ではない。一方、PCRは迅速、正確かつ簡便に下痢原 【対象と方法】 2012年5月から12月までの8ヶ月間に下痢 性大腸菌を鑑別することができ、さらにOUT株にも対応可 症患者より分離された大腸菌を対象とした。PCR法は国立 能な非常に優れた検査法である。保険点数の問題などいく 感染症研究所の推奨法に準拠し、VT、LT、ST、invE、 つか乗り越えなければならない課題もあるが、これまでの血 eae、hlyA、astA、bfpA、aggRを標的遺伝子(病原因子)と 清型別を前提とした下痢原性大腸菌の検索から、そろそろ した。 PCRなどの病原因子を直接検出する方法へと切り替えてい 【結果】 血清型別試験にて抗血清に凝集したものが70株 く必要がある。 であった。一方、PCRにて単独または複数の病原因子を保 連絡先) 0969-24-4111(内線164) 有していたものは17株であった。さらにこの17株の中に 511 一般 腎移植患者の尿沈渣中に見られた尿道原発扁平上皮癌の一例 ○小田 新太郎、安武 由美、樋口 美紀、石井 久喜、笠原 稿、吉田 昌史、 花岡 栄治、原武 讓二(済生会八幡総合病院 中央検査部) 【はじめに】 尿沈渣で異型細胞を検出することは重要であ の特徴を持つ異型細胞の出現があり、病理部と連携して主 る。尿沈渣に出現する上皮性悪性腫瘍は、尿路上皮癌が 治医に尿細胞診の精査依頼をした。尿細胞診の結果は 最も多く、まれに腺癌や扁平上皮癌、また小細胞癌なども出 Class Ⅴの扁平上皮癌疑いで、病理組織所見にて扁平上 現することがある。今回、腎移植患者の尿沈渣中に、尿道 皮癌(コンジローマ様癌)と診断された。 原発扁平上皮癌が認められたので報告する。 【まとめ】 本症例は、異型細胞のスクリーニングとして尿沈 【症例】 62歳男性。[主訴]血尿、排尿障害。[既往歴]昭和 渣の有用性を改めて認識させられる症例であった。当院で 51年4月:血液透析導入。昭和52年4月:生体腎移植(ドナ は腎移植を行っている為、免疫抑制剤を服用している患者 ーは母親)。[現病歴]腎移植後から現在まで免疫抑制剤を が多い。中でも本症例は、腎移植後35年もの長期間にわた 服用中。 り免疫抑制剤を服用していた。そのためHPV感染が長期化 【検査所見】 平成24年11月の検査結果。 し、扁平上皮癌(コンジローマ様癌)へと移行したのではな [生化学] BUN:36mg/dl、CRN:1.82mg/dl、eGFR: いかと考えられる。今後も病理部との連携をさらに深めること 30.8ml/min。 により、尿沈渣での異型細胞検出の精度を高め、悪性腫瘍 [尿定性・尿沈渣] 潜血(±)、蛋白(±)、糖(-)、赤血球5 の 早 期 発 見 に 努 め て い き た い 。 連絡先) ~ 9/HPF 、 白 血 球 10 ~ 19/HPF 、 尿 細 管 上 皮 細 胞 1 ~ 093-671-2930 4/HPF、扁平・尿路上皮細胞5~9/HPF、細菌(+)。尿沈 [email protected] 渣にて、クロマチン増量や核形の不整、N/C比の増大など 512 一般 尿化学分析装置クリニテックノーバスの尿中微量アルブミン検出能について ○嶋村 啓太、山本 紀子、上村 弘子、西村 仁志、池田 勝義、大林 光念、 安東 由喜雄(熊本大学医学部附属病院 中央検査部) 【はじめに】 近年、尿中微量アルブミンは糖尿病の早期診 【結果】 ① クリニテックノーバスで分類された4濃度群にお 断指標としてのみならず、高血圧症や脳血管障害、心筋梗 けるALB-TIA N「生研」による尿中アルブミン実測値の平 塞、さらには慢性腎臓病(CKD)のリスク評価、あるいは治 均 ±SD は、 それ ぞ れ 8.5±6.1 mg/L 、 34.8±14.4 mg/L 、 療効果判定の指標としてもその有用性が注目されてきてい 109.3±39.4 mg/L、および763.1±454.0 mg/Lであった。 る。この尿中アルブミンを高感度、かつ半定量的に検出しう ②クリニテックノーバスにより、尿中微量アルブミンを呈する る尿化学分析装置として新たに開発されたのがクリニテック と考えられる150mg/gCrでのALB-TIA N「生研」による尿 ノーバス(シーメンス社)である。 中アルブミン実測値をみていくと、その一致率は81%であっ 【目的】 尿中アルブミン測定に関するクリニテックノーバス た。 の性能について検討すること。 【まとめ】 本研究の結果からは、クリニテックノーバスによっ 【対象】 2012年6月、および2013年1月に当院検査部に て微量アルブミン尿(30 - 300 mg/日)を呈すると考えられる 検査目的で提出された随時尿590検体。 患者をスクリーニングしうる確率は概ね81%であった。しかし 【方法】 ① 各検体の尿中アルブミンをクリニテックノーバス 現状、尿中微量アルブミンの定量は保険上3ヶ月に一度し で半定量的に測定し、4濃度群(10 mg/L 群、30mg/L 群、 か認められていないこと、さらには診療で要求される迅速性 80 mg/L 群、および 150 mg/L 群)に分類した。 ② 各 の側面を考えると、本装置が提供する検査結果の臨床的意 濃度群から26検体ずつ(150 mg/L 群のみ 15検体)をピッ 義は大きいと思われる。 クアップし、各々における尿中アルブミン値をALB-TIA N 「生研」で定量、クリニテックノーバスによる半定量値との一 連絡先) 096-373-5702 致率を見た。 [email protected] 513 一般 尿沈渣が診断の端緒になった膀胱穿孔の一例 ○松岡 拓也、松本 直子、佐古 志保、近藤 妙子、吉村 美香、中川 美弥、 田上 圭二、神尾 多喜浩(済生会熊本病院 中央検査センター) 【はじめに】 中皮細胞は胸腔や腹腔を覆う一層の細胞であ は小 集 塊 状 に 出 現 して い た 。ま た 、細 胞 の つ なぎ 目 は り、体腔穿刺液ではしばしば認めるが、通常尿沈渣で認め window様であった。核は単核からときに多核で、核小体を ることはない。今回われわれは、尿沈渣が診断の端緒にな 認めたが、核クロマチンの増量はみられなかった。ギムザ染 った膀胱穿孔の1例を経験したので報告する。 色や細胞診でも同様の所見であった。これらの所見より中 【症例】 80代、女性。 皮細胞を推定し、臨床医に腹腔と尿路の交通はないか尋ね、 【既往歴】 子宮(頸?)癌(放射線治療)、糖尿病、腎不 さらなる精査をお願いした。 全。 【経過】 その後腹水が著明に貯留し、血清BUNとCREが 【現病歴】 糖尿病性腎症で他院に通院中であり、腎不全 さらに上昇した。また、画像上は約150mLの膀胱容積なの のため入院歴もあった。腎不全の際に認めていた背部痛が に対して、導尿で約2,500mLの尿が排泄され、貯留してい 出現したため、当院救急外来を受診された。受診時の採血 た腹水は消失した。その後の造影CTでは穿孔部位を特定 では、KとBUN、CREが高値であったので、加療目的のた できなかったが、膀胱鏡で穿孔部位が確認された。数日後、 め当院入院となった。画像上、腹水はほとんどみられなかっ 腎機能は正常化した。 た。 【まとめ】 自験例は穿孔部位を画像検査で発見できず、尿 【入院時検査結果】 生 化 学 : K 7.12mEq/L 、 BUN 沈渣が診断の端緒になった点で教訓的な症例といえる。穿 64.7mg/dL、CRE 4.22mg/dLと腎不全の症候を認めた。 孔の原因として、放射線治療の影響が推察された。当院で 尿検査:蛋白(2+)、糖(1+)、尿TP/尿CRE 14.75g/g・Crと は一般検査と病理検査が同一部門にあり、細胞診などで日 多量の蛋白尿を認めた。尿沈渣:赤血球、白血球、円柱な 常的に中皮細胞を観察していることが、自験例に活かされ どは少数であった。そのなかに類円形の細胞が散在性また たと考える。 514 一般 尿蛋白/クレアチニン比と尿蛋白試験紙法との乖離症例における尿沈渣所見の意義に関する検討 ○飯田 嘉昭、山口 大輔、広瀬 亮介、兒玉 暢也、安部 淳一、吉河 康二 (国立病院機構別府医療センター 臨床検査部) 【背景と目的】 尿中の蛋白排泄量を把握することは腎疾患 285例に分けて尿試験紙法の成績と比較し、乖離症例を抽 の重症度や活動性を判断する上で重要である。尿蛋白検 出した。また以下の尿沈渣所見について検討した。 ①赤血 査は、慢性腎臓病(CKD)診療ガイドによると、尿蛋白/クレ 球5個/HPF以上 ②硝子円柱1/LPF以上 ③病的円柱の アチニン比(以下P/C比)を算出して評価することとしている。 出現 ⑤円柱(-)かつ赤血球5個/HPF以上 今回我々は、随時尿におけるP/C比と試験紙法の成績を比 【結果と考察】 P/C比0.5g/g・cr未満の陰性群では、尿試 較し、乖離症例を抽出し、その沈渣所見について検討した 験紙法で乖離したのは1+(57例)、2+(14例)であった。 ので報告する。 沈査所見では、71例中30例が後日、蛋白陽性を維持し、病 【対象と方法】 対象は、2012年1月~12月までに同一検 的円柱を8例、硝子円柱の出現かつ赤血球5個/HPF以上 体として提出された随時尿生化学と尿一般検査の依頼のあ を8例認めた。陽性群では、陰性を示した12例中11例で低 った入院及び外来患者309名(20~94歳、男性139名、女 比重であり、希釈検体と考えられた。後日、蛋白陽性を示し 性 170 名 ) の べ 864 件 と し た 。 生 化 学 自 動 分 析 装 置 た症例はなく、病的円柱も1例のみ認めたが1/WFであった。 (TBAC16000:東芝、BM9130:日本電子)にて尿蛋白定 P/C比は随時尿から尿蛋白の出現を推察する有用性の高 量と尿クレアチニンを測定し、P/C比を算出した。また尿試 い判断ツールと考えられたが、P/C比が低値でも病的円柱 験紙法は全自動分析・尿分取装置UA・ROBO -1000AD: や硝子円柱と赤血球の量的異常を認める場合、尿沈渣は テクノメディカとマルティスティックスSG-L:SIEMENSを用 持続的な尿蛋白出現が疑われる有用性の高い検査と考え いた。尿沈査はU-SCANNERⅡ:TOYOBO、目視鏡検法 られた。 にて行った。P/C比はCKD診療ガイドでの腎生検の適応で 連絡先) 0977-67-1111(内線336) ある0.5g/g・crをカットオフ値とし、陽性群579例と陰性群 515 輸血1 IgG カードによる新生児直接・間接クームス試験の対応 ○松尾 恵里、石井 宏二、小鶴 達郎、山川 徹、園田 敏雅、横溝 勝(国立病院機構長崎医療センター 統括診療部臨床検査科)、諸隈 博(九州医学技術専門学校) 【はじめに】 当院は総合周産期母子医療センターに認定 た。一方、酸解離で検査を行った274例では、DAT陽性は されており、年間約300例の新生児の入院患者を受け入れ 19例(7.0%)、検体量不足は1例(0.4%)であった。 ている。2011年6月より抗体解離試験の方法をDT解離から また、O型の母親から生まれたA型の新生児の血漿中と 酸解離へと変更し、IgGカードでの判定を開始した。今回、 血球解離液に母親由来の抗A抗体が検出されたためO型 解離試験法変更前後での検査結果の比較を行ったので報 洗浄赤血球を用いた部分交換輸血が施行された症例を経 告する。 験した。この症例では数回にわたり部分交換輸血が施行さ 【対象】 2009年4月から2013年7月の期間に未熟児およ れ、その際に提出された交差試験用検体(約400μl)をIgG び小児科から直接・間接クームス試験(DAT・IAT)の依頼 カードにて交差適合試験と並行してDAT(解離試験)・IAT があった483例を対象とした。483例のうち、2009年4月より を実施し抗体の有無を交差適合試験の結果と合わせて報 2011年6月までDT解離にて実施した例は209例、2011年7 告し抗A抗体消失後にA型の製剤に切り変わった。 月より現在まで酸解離にて実施した例は274例である。 【考察】 解離試験の方法をDT解離から酸解離に変更する 【方法】 IATはマイクロタイピングシステムIgGカードを用い ことでIgGカードを用いた判定が可能となり、熟練した技術 て行った。抗体解離試験はDT解離液を用い、試験管法に がなくても容易に結果の判定ができるようになった。また、 て1~2種類の血球を選択して行った。酸解離は酸解離試 200~250μlの採血量で対応でき、以前より多くの検査結果 薬DiaCidelを用い、IATと同様にマイクロタイピングシステ を臨床へ報告できるようになった。このことから、新生児の ムIgGカードにて3~4種類の血球を使用し行った。 DAT・IATをIgGカードで行うことは有用であると考えられ 【結果】 DT解離で検査を行った209例中、DAT陽性とな る。 ったのは10例(4.8%)、検体量不足は22例(10.5%)であっ 連絡先) 0957-52-3121(内線5251) 516 輸血1 母児間輸血症候群が疑われた新生児重症貧血の一例 ○吉田 雅弥、川口 謙一、北里 浩(熊本赤十字病院 検査部) 【はじめに】 胎児の血液が母体の血液中に流入する現象 高値を示した。 は少量のものも含めると妊娠のほぼ全例で発生している。こ 【 経 過 】 ABO 不 適 合 妊 娠 に よ る 新 生 児 溶 血 性 疾 患 れを母児間輸血症候群(FMT)と呼ぶ。今回われわれは、 (HDN)の可能性を考慮し、輸血と同時に光線療法も開始 FMTが疑われた新生児重症貧血の1例を経験したので報 した。輸血により翌日のHbは8.6g/dlまで改善した。その後 告する。 Hbは徐々に低下したが、日齢7日に退院し、外来フォロー 【症例】 出生後、間もない男児。主訴は貧血。顔面蒼白、 となった。日齢43日にHbは5.7g/dlまで低下していたが、そ 多呼吸、陥没呼吸を認めた。 の後は輸血することなく貧血は改善に向かった。T-Bliもや 【検査結果】 出生直後のHbは5.4g/dl。A型RhD陽性、A や上昇したが、日齢3日に9.9mg/dlを最高値とした後は 型RhD陽性のRCCとクロスマッチを行なったが不適合となり、 徐々に低下し、HDNの可能性は低いと思われ、日齢4日で 母体由来のIgG性抗体を疑った。直接クームス試験及びO 光線療法を中止した。 型RhD陽性の血球試薬による間接クームス試験(IAT)は 【考察】 母体のAFPが異常高値であったのは新生児の 陰性であったが、成人A型RhD陽性の血球によるIATは陽 AFPが非常に高値(数万~数十万ng/ml)であることから患 性のために母体由来の抗Aを疑った。O型RhD陽性のRCC 児の血液が母体内に流入した可能性が高いと考えられた。 とクロスマッチを行なったところ、適合となったため投与した。 他に患児が貧血となる疾患がないためにFMTを疑った。 患児の抗体価はIgG性の抗Aが8倍、抗Bが16倍という結果 FMTは妊娠のほぼ全例で発症しているが、まれに極度の を示した。母体はO型RhD陽性、不規則抗体なし、IgG性 貧血が起こることを改めて考えさせられる症例であった。 の抗 Aが512倍 、抗Bが 64 倍で あ り、α-フェト プロテイン 連絡先) 096-384-2111(内線6371) (AFP)が6781ng/ml(妊婦正常値300~800ng/ml)と異常 517 輸血1 当院における輸血副作用発生状況 ○紺屋 仁、松永 弘美(今村病院 臨床検査室) 【はじめに】 当院での輸血副作用報告は、副作用のチェッ 痒感、発熱、の順に多かった。副作用発生率を比べると クとしてパスを作成し副作用チェックを行っている。看護師 2011年は7.8%、2012年は5.5%全製剤数からみると副作 は輸血パスを使用し主な副作用の確認と確認者によるばら 用 発 生 率 は 下 が っ て い た 。 製 剤 別 に み る と 2011 年 つきをなくすように運用している。副作用が発生した場合、 Ir-RCC-LR : 2.3% 、 Ir-PC : 16.8% 、 FFP-LR : 14.7% 、 副作用発生報告書を記載し検査科に提出しその後、輸血 2012年Ir-RCC:LR:1.6%、Ir-PC:15.4%、FFP-LR:6.4% 療法委員会にて検討を行っている。今回は輸血パス運用後 【まとめ】 今回副作用の種類は、蕁麻疹、膨瘤疹、掻痒感 の輸血作用発生について検討したので報告する。 が多く、製剤別ではPC製剤が多かった。輸血副作用発生 【方法】 は輸血パス運用前後2年間では2%~3%ぐらい発生率が上 2011年4月より2013年3月についての2年間(製剤はbagと がっていた。看護師による観察指標としての標準化はできて し以下省略) いるのではないかと考えられる。輸血副作用が発生した場 2011 年 Ir-RCC-LR : 1148 、 Ir-PC : 629 、 FFP-LR : 88 、 合、患者の状態を確認し対応、対策について検討していく 2012年Ir-RCC-LR:1452、Ir-PC:557、FFP-LR:139 ことが今後の課題となる。 【結果】 2011年と2012年の副作用の種類は、蕁麻疹、膨瘤疹、掻 連絡先) 099-226-2601 518 輸血2 全自動輸血分析装置“echo”2台体制による輸血検査のリスク軽減の検討 ○橋口 裕樹、金本 人美、山本 翔太、宗像 幹男(福岡赤十字病院 検査部) 【 はじめ に 】 当 院 は、 2010 年に 全 自 動 輸血 分 析装 置 2台目の導入により、機器毎に時間をずらし、本当の意味で “echo”(イムコア)を導入し、ルーチン、夜勤に関係なく、ま の24時間検査可能とした。機器トラブル対応時も、すぐにも た担当者に左右されず、精度の保証された輸血検査が可 う一方の機器に挿入すれば、機器トラブルの影響を全く受 能となった。今回、同機種を追加導入し、更に輸血検査のリ けず検査可能となった。元来、“echo”は、トラブルの少ない スク軽減に成功したので報告を行う。 機種であるが、2台体制を構築した事で、更に機器トラブル 【施設概要】 35診療科、511床、2次救急指定病院。手術 のリスクは軽減された。また機器導入に併せて人員効率化 件数4142件/年、救急車搬送数5488台/年。血液型検査数 の為、輸血システム“QPS”のモニタにタッチモニタ増設も行 8476件/年、不規則抗体4465件/年。血液製剤使用数、 い、遠隔操作を可能とした。これによりクライアントがない部 RCC 2720本/年、FFP 679本/年、PC 256本/年。 屋からの依頼確認、結果確定を行えるようになり、クライアン 【経過】 病院新築、血液内科新設、救急体制再整備に伴 ト増設の費用を考えると、モニタ数万円の投資での費用対 い、輸血に関わる件数が増加した事を契機に、輸血体制の 効果は大きかった。 見直しとなった。①機器トラブル対応、②検査時間短縮、③ 【結語】 今回、“echo”の2台体制の運用を行い、血液型、 業務効率化を考え、同機種を追加、2台体制とした。機器は 不規則抗体、交叉適合試験は24時間検査可能に加え、迅 コンパクトな為、設置場所は容易に確保、検討は既存機器 速な結果報告、機器トラブル時の対応が容易になり、輸血 との相関を確認しデータの乖離は認めなかった。操作も新 検査全体のリスク軽減に貢献したと考えられる。 たに教育する手間等もなく運用開始までの時間は短く、ハ ードルは低かった。“echo”は1日1回のメンテナンス(3分間)、 連絡先) 092-521-1211(内線8193) 精度管理検体(30分間)と、月1回メンテナンス(45分間)は [email protected] 必須である。この時間は検査停止を余儀なくされていたが、 519 輸血2 全自動輸血検査機器にて抗Dが強陽性と判定された weakD の一例 ○藤好 麻衣、江頭 弘一、塩塚 成美、柳場 澄子、川野 洋之、橋本 好司、中島 収 (久留米大学病院 臨床検査部) 【はじめに】 当院では、全自動輸血検査機器(Auto Vue; ころ、直後判定ではポリクローナルブレンドのみ(1+)、間接 オーソ社)にて抗Dとの反応が(4+)以外は、全て試験管法 抗グロブリン法ではRh-Control以外の全てにおいて(3+) にて精査を行っている。今回、Auto Vueにて初回検査時は ~(2+)という結果が得られた。さらに初回提出された検体 O型Rh(+)、その後提出された検体で抗Dが(MF)と判定さ で試験管法にて再検査を行ったところ、今回と同様の結果 れた症例を経験したので報告する。 が得られ、その日のAuto Vueの画像を再度目視確認したと 【症例】 78歳、男性。2012年9月11日転倒し近医へ緊急 ころ、抗Dにて部分凝集を確認することができた。また、被凝 搬送。その際、肝細胞癌が疑われたため、11月13日手術 集価は32倍(対照:O型R1R2にて1024倍)であった。以上 目的で当院へ入院となった。 の結果からweak Dと判定した。 【経過】 2012年11月13日、入院時に血液型、不規則抗体 【まとめ】 今回、全自動輸血検査機器にてO型Rh(+)と判 スクリーニング検査の依頼があり、Auto VueにてO型Rh 定されたが、その後の検体にてweak Dと判定した症例を経 (+)(抗D(4)、Control(0))、不規則抗体スクリーニング(-) 験した。全自動輸血検査機器では本症例のような若干のフ と判定。その後、11月20日に手術目的でT&Sが提出され、 リーセルでは判定できない場合もあることから、今後は全自 Auto Vueにて検査を行ったところ抗D(MF)、Control(0) 動輸血検査機器で正常に判定した場合でも、画像の目視 で判定保留になったため、精査を行った。試験管法にて市 確認を考慮する必要性があると考えられる。 販の抗D試薬3種(モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、 連絡先) 0942-31-7650 ポリクローナルブレンド)、Rh-Controlとの反応を確認したと 520 輸血2 自己抗体(温式+冷式)により適合血選択に苦慮した一例 ○林 秀幸、下川 里美、永田 雅博、橋本 龍之 (国立病院機構熊本医療センター 臨床検査科) 【はじめに】 自己免疫性溶血性貧血(AIHA)とは、赤血球 囲(3+)、抗IgG(3+)、C3b/C3d(1+)で陽性であった。不規 膜上の抗原と反応する自己抗体が産生され抗原抗体反応 則抗体検査では、生理食塩水法、間接クームス法にて自己 の結果、赤血球が傷害を受け赤血球寿命が著しく短縮(溶 対照を含む全ての血球に凝集が見られ、冷式自己抗体、温 血)し貧血を来す疾患である。慢性リンパ性白血病の5~ 式自己抗体を疑い、PEG吸着法による自己抗体吸収を試 10%、悪性リンパ腫の約2%、血管免疫芽球性T細胞リンパ みたが吸収できなかった。入院8日後、Hb値が4.6g/dlにま 腫の40~50%で直接クームス試験陽性が観察され、しばし で低下したためにIr-RCC-LR2単位がオーダーされた。 ば活動性溶血を来しAIHAを合併する。今回、我々は血管 【経過】 ABO、Rh血液型は、37度で温めた生理食塩水 免疫芽球性T細胞リンパ腫に伴うAIHAの症例に遭遇し、輸 (温生食水)で洗浄した赤血球をEDTA-グリシン酸処理し 血検査で適合血の選択に苦慮した例を経験したので報告 実施した。不規則抗体検査と交差適合試験は、ZZAP処理 する。 自己血球を用いた自己抗体吸着法にて実施した。B型、Rh 【症例】 57才、男性。12月中旬より頸部リンパ節腫脹に気 (D)陽性Ir-RCC-LR2単位が輸血され、Hb値が5.6g/dlに 付き、同月25日に呼吸困難、倦怠感を訴え、近医を受診し 回復し、その後はステロイド剤の継続的投与により改善し た。胸部レントゲンにて異常陰影を認め精査目的のため当 た。 院紹介となった。来院時検査所見はLD 715IU/l、T-Bil 【まとめ】 今回の症例は、ステロイド剤の治療効果により幸 2.4mg/dl、K 5.0mEq/l、RBC 272×104、Hb 8.6g/dl、Ht いにもIr-RCC-LR2単位の輸血にて改善したが自己抗体の 25.7%、NRBC 10/100WBCから溶血と貧血を認めた。 存在により交差適合試験で非特異的凝集がみられ、適合血 ABO、Rh血液型で抗A(w+)、抗B(4+)、A1血球(4+)、B の選択に苦慮した。自己抗体の吸着法には、PEG吸着法と 血球(2+)、抗D(4+)、Rhコントロール(2+)のオモテウラ不 ZZAPを用いた自己抗体吸着法があるが、吸着が不十分な 一致、Rh(D)判定保留を示した。直接クームス試験は広範 場合は他法を検討することも有用だと考えられる。 551 微生物4 VCM の TDM 実施率向上と VCM 適正使用推進の試み ○中村 佳織、松本 哲也、江角 誠(国立病院機構長崎川棚医療センター 臨床検査科)、 本田 章子(同 感染症内科)、山領 豪(同 呼吸器内科)、松本 みゆき(同 看護部)、 大久保 嘉則、草葉 一友(同 薬剤科) 【はじめに】 バンコマイシン(以下VCM)の適正使用には、 対して理由を確認した。 血中濃度モニタリング(以下TDM)が重要とされているが、 【結果】 VCMのTDM実施数は2012年4月に感染症内科 当院ではVCMのTDM実施率が低かった。2012年8月に 医が就任後倍増していたが、届出制に変更後、更に増加し TDMガイドラインが出され、血中濃度測定のタイミングや適 た。院内測定へ切り替え前後で、TDM実施率(4日以上継 正な血中濃度指標が明確に打ち出され、これを機に周囲の 続して使用する場合の測定率)は、62.1%から84.8%(6/28 理解を得やすい環境となった。そこで長崎川棚医療センタ までの暫定値)へ増加した。院内測定開始後、TDMによっ ー(以下当院)でのVCMのTDM実施とVCM適正使用を推 て投与量の調節を行ったのは9件であった。VCMを院内測 進する試みを行ったので報告する。 定することで薬剤科とシステムリンクし、外注検査であった頃 【方法】 ①2012年8月からVCMなど抗MRSA薬の使用届 に比べて結果報告を迅速に行えるようになったことで、臨床 出制を開始した。 ②同年10月よりVCMの血中濃度測定を 側へ速やかに推奨投与計算値を提供できるようになった。 外注から院内測定へ切り替えた。 ③従来の血中濃度測定 【まとめ・考察】 今回我々は、他職種でVCMのTDM実施 申込書を中止し、使用届出で代替した。 ④使用届出を受 率改善に取り組み、適正使用を推進することができた。この 理後速やかに初期投与量の推測値を計算し診療録へ記載 ような多職種での取り組みは、現場のニーズに近づけること し提供した。 ⑤血中濃度測定後、速やかに推奨投与計算 ができ、迅速に有効な治療を提供でき、医療の質向上に有 値を提供した。 ⑥TDMの実施率とVCMの適正使用状況 用であると思われた。 を調査した。 ⑦TDMや推奨投与計画を実施しない医師に 連絡先) 0956-82-3121(内線1040) 552 微生物4 多剤耐性緑膿菌の迅速・簡便な遺伝子タイピング法の構築 ~多剤耐性菌の遺伝子タイピング~ ○赤松 紀彦、山田 舞子、塚本 千絵、川元 康嗣、松田 淳一 (長崎大学病院 検査部) 【目的】 多剤耐性緑膿菌は院内感染対策上重要な菌であ マイド染色を行い、UVトランスイルミネーターを用いてバン り、アウトブレイクが疑われる際には、分子疫学解析によって ドパターンを解析した。一方、PFGEはGenePath system 菌株の同一性を調べるのが一般的である。分子疫学解析 (BIO-RAD)を用いてプロトコールに従い行った。 法としてよく知られているパルスフィールドゲル電気泳動 【結果および考察】 多剤耐性緑膿菌8株において本法は6 (PFGE)法は分離・識別能は高いものの、手技が煩雑で時 パターンにPFGE法は7パターンにタイピングされた。また、 間がかかる。そこで、今回我々はERIC-PCR法による迅速 メタロβ-ラクタマーゼ産生緑膿菌10株において本法は5パタ かつ簡便な遺伝子タイピング法を構築した。 ーンにPFGE法は6パターンにタイピングされた。一方、アウ 【対象および方法】 供試菌株には多剤耐性緑膿菌8株お トブレイク4株においては本法およびPFGE法のいずれも完 よびアウトブレイク株を含むメタロβ-ラクタマーゼ産生緑膿菌 全に同じバンドパターンを示した。以上のことから本法は分 10株の計18株を用いた。DNAの抽出はDneasy Blood & 離・識別能においては若干PFGE法に劣るが、アウトブレイ Tissue Kit(QIAGEN)を用いたスピンカラム法で行った。 ク株の識別においては十分に有用な方法であることが明ら プライマーは腸内細菌科に共通して存在する繰り返し配列 かとなった。さらに本法は簡便かつDNA抽出後約5時間で (Enterobacterial Repetitive Intergenic Consensus : 結果が得られることから、感染管理の重要なツールになり得 ERIC)領域に設定した。ERIC-PCR後、アガロースゲルに ると思われる。 て増幅産物の電気泳動を行った。その後、エチジウムブロ 連絡先) [email protected] 553 微生物4 有病率と院内発生密度率による耐性菌検出サーベイランス ○溝上 幸洋、甲斐 美里、飛野 幸子、村中 裕之(済生会熊本病院 TQM 部感染管理室)、田崎 賀子、古田 幸子(同 中央検査部) 【はじめに】 当院での耐性菌サーベイランスとして、これま 【結果】 2011年10月以降の発生密度率の平均値は0.36 でMRSAについては発生密度率および有病率の推移をモ (/1000patient-days)で緩やかな増加傾向を示していた。 ニタリングしてきた。これには時間と一定の判断力を求めら 有病率の平均値は0.99(/1000 patient-days)で、2012年 れるので、CNICの主要な業務の1つになっていた。一方、 1月以降、2011年10~12月よりも平均値で約2.5倍の上昇 MRSA以外の多剤耐性菌、特にESBL産生菌は近年分離 を認め、院内伝播のリスクが上昇していると考えられた。 増加が著しく、分離数の推移のみを追うだけでは院内感染 【考察】 有病率、すなわち保菌圧を求めることで、耐性菌 対策の情報としても限界になりつつある。 の伝播が起こりやすく、より接触予防策に力を入れるべき場 当院では2011年10月より電子カルテを導入し、カルテ調 所(病棟)を評価することが出来る。院内発生密度率と併せ 査が比較的容易になった。そこで今回我々は、主にESBL て評価することで、有病率の上昇に伴う院内伝播の評価を 産生菌についてMRSAと同様、率計算によりリスク評価を行 することも出来る。病院機能評価、JCIなど外部評価を受け い、若干の知見を得たので報告する。 るにあたり、病院感染のリスクをアセスメントする指標を明確 【対象と方法】 2011年10月以降を集計対象期間とした。 にすることが求められている。JANIS、KCMN(熊本臨床微 院内獲得か持込かの判断には、SHEA/HICPACで推奨さ 生物ネットワーク研究会)などの全国、地域レベルのサーベ れている基準を適用した。求める率として、①月ごとの新た イランスでも多剤耐性グラム陰性桿菌の動向調査がなされ に判明したESBL産生菌発生密度率、②月ごとのESBL産 ており、引き続き注目すべき指標であると考える。 生菌の感染+保菌症例の有病率を計算した。 連絡先) 096-351-8000(内線8247) 554 微生物5 当院における侵襲性感染症起因肺炎球菌の細菌学的検討 ○永汐 華、有馬 純徳、松尾 裕也(北九州総合病院 臨床検査部) 【背景および目的】 肺炎球菌はときに敗血症を伴う重症肺 型に分類された。最も多かったのはST3111莢膜血清19A 炎や髄膜炎を引き起こし、近年これらを予防する目的で、ワ の6株14.6%であった。莢膜血清型より、ワクチンのカバー クチンが上市された。我々は国立感染研究所が実施した小 率 を 検 討 し た と こ ろ 、 PCV7 で は 58.5 % 、 PPV23 で は 児を対象とした侵襲性肺炎球菌感染症に関する共同研究 90.2%であった。 に参加する機会を得たので、当施設の結果を報告する。 【考察】 本研究において肺炎球菌は2010年に21株分離さ 【材料および方法】 2009年12月~2013年6月の間に当院 れたが、その後10株以下であり、減少傾向にある。ワクチン 小児科患者で、血液および髄液から分離された肺炎球菌 接種との関係は調べていないが、PCV7の上市時期と一致 41株を対象とした。菌株は国立感染症研究所に送付し、莢 している。また、n数は少ないものの2012年以降PCV7に含 膜血清型、薬剤感受性試験、MLST型について解析した。 まれていない莢膜血清型の株が大半を占めるようになり、ワ 【結果】 41株のうち40株は血液由来、1株は髄液由来株で クチン接種の効果の反面あらたな問題と考えられた。 あった。分離年別菌株数は、2009年は12月のみで1株、 【謝辞】 本報告に当たり、菌株の解析データを提供いただ 2010年21株、2011年5株、2012年7株、2013年6月までで いた国立感染研究所細菌第1部 常彬先生、和田昭仁先生、 5株であった。PCGの感受性は、CLSIM100 -S23の基準 またご指導いただきましたキューリン検査部 村谷哲郎先生 で は 全 株 感 受 性 、 以 前 の M100-S19 の 基 準 で は 、 に深謝いたします。 PSSP61%、PISP29.3%、PRSP9.8%であった。エリスロ マイシンは全株耐性、クリンダマイシンは61%が耐性を示し 連絡先) 093-921-0560(内線2252) た。莢膜血清型別は13の型に分類され、MLST型は21の 555 微生物5 Pasteurella multocida 感染による右示骨骨髄炎の一例 ○宮本 直樹、田代 尚崇、堀田 吏乃、棚町 千代子、橋本 好司、中島 収 (久留米大学病院 臨床検査部) Pasteurella multocida (以下 P. multocida )は人を除く哺乳動物の口腔内常在菌であり、 【はじめに】 特に犬猫の保有率は高く、ペットが関連する人畜共通感染 症として重要な菌である。今回、我々は掻爬された骨からP. multocida を検出した症例を経験したので報告を行う。 【症例】 患者は60代男性。2013年3月末に漬物石を右第2 指に落とし負傷。20日後の同年4月上旬、患部の疼痛と排 膿を訴え、近医を受診。骨髄炎が疑われ、翌日当院整形外 科紹介となった。単純X線で中節骨と基節骨の骨溶解像を 認めた為、緊急手術となった。手術は骨髄炎に対し、病巣 掻爬術およびVCM混入セメントスペーサー留置術を施行し た。また、手術前の血液検査から、血糖値 355mg/dL、 HbA1c 10.2%で患者は未治療の糖尿病であったことが判 明した。術後8週目にセメントスペーサー抜去と骨欠損部に 左腸骨を移植しPIP関節固定術を施行した。その後2週間 で軽快退院となった。 【微生物学的検査】 術中に採取された骨掻爬検体を5%羊 血液寒天培地(日本BD)、DHL寒天培地(日本BD)、 TGC培地(日研生物医学研究所)を用い35℃で好気培養 を実施した。培養1日目に血液寒天培地上に暗い灰白色の コロニーが認められ、TGCには混濁が認められた。DHL寒 天培地には発育は認められなかった。血液寒天培地上のコ ロニーはグラム陰性短桿菌であった。また、TGCから継代培 養し発育したコロニーも同様であった。IDテスト・HN-20ラピ ッド「ニッスイ」(日水製薬)によりP. multocida と同定した。 【考察】 P. multocida 感染では肝炎や糖尿病などの基礎 疾患が存在する場合重症化し、脳炎、敗血症、骨髄炎とな り死に至ることがある。今回の症例では患者は患部を負傷し た際に猫との接触があったことが担当医への確認で明らか になった。糖尿病を患っていた為、易感染状態にあったと考 えられ、負傷後P. multocida に感染したものと思われる。 基礎疾患がある場合の犬猫との接触は注意せねばならない と考えさせる一例であった。 【謝辞】 本症例の発表に際し、御指導いただきました久留 米大学病院整形外科仲摩憲次郎先生に深謝いたします。 連絡先) 0942-35-3311(内線5445) 556 微生物5 クロモアガーMDRP スクリーン培地の基礎的検討 ○植田 佳央理、伊藤 有紀、田中 沙希恵、堀田 飛香、西浦 明彦 (国立病院機構九州医療センター 臨床検査部) 【はじめに】 緑膿菌は自然環境や生活環境に広く生息して 【 結果 】 臨床分離 株では、本培地への 発育陽性率 は いる菌種である。その中でも多剤耐性緑膿菌(MDRP)は感 MDRP株で100%、2系統薬耐性緑膿菌株で50%、薬剤耐 染対策上注意すべき耐性菌であり、アウトブレイクを防ぐた 性を示すブドウ糖非発酵菌株で56%であった。臨床検体で めにも早期に発見することは重要である。今回我々は、クロ 本培地に発育を認めた耐性菌の内訳は、MDRPは1株、 モアガーMDRPスクリーン培地(関東化学)の有用性につ ESBLは6株であった。MDRPのコロニーは青緑色を呈し、 いて、臨床分離株と臨床検体を用いた基礎的検討を行った ESBLのコロニーはその色調にMDRPと相違があり、また一 ので報告する。 部にCandida spp.の発育も認めたが、MDRPに比べ微小 【対象・方法】 臨床分離株として、2006年8月から2012年 コロニーであった。 11 月 ま で に 各 種 検 体 か ら 分 離 さ れ た MDRP16 株 、 【考察】 今回臨床分離株を用いた検討では、MDRPはす Imipenem ( IPM ) 、 Amikacin ( AMK ) 、 Ciprofloxacin べて検出され、2系統薬耐性緑膿菌も検出された株があっ (CPFX)のうち2系統薬に耐性を示す緑膿菌8株、その他、 た。また、臨床検体を用いた検討では、MDRPはその特徴 同様の薬剤耐性を示すブドウ糖非発酵菌( Pseudomonas 的なコロニーの色調から他の菌との鑑別が可能であった。 putida、Achromobacter xylosoxidan -s)16株の計40株 以上より、本培地の使用はMDRPの早期発見、治療、また を対象とした。また、臨床検体として2013年4月から2013年 感染制御のためのアクティブサーベイランスにも有用と考え 6月までに提出された便検体64件を対象とした。方法は、本 られる。 培地に塗布後35℃で培養を行い、24時間後に発育の有無 を確認した。 連絡先) 092-852-0700(内線2309) 557 微生物5 非溶血性の形態を示した Streptococcus dysgalactiae による劇症型溶連菌感染症 ○西田 紗央里、大隈 雅紀、山本 景一、田中 洋子、池田 勝義(熊本大学医学部附属病院 中央検査部)、大林 光念、安東 由喜雄(熊本大学大学院生命科学研究部神経内科学分野) 【はじめに】 Streptococcus dysgalactiae は、ランスフィ コレート寒天培地上には、白色で小さく溶血環の全く認めら ールドの分類においてCまたはG群に分類され、血液寒天 れないコロニーが分離され、Api ID32strepto(シスメック 培地にて大きなβ溶血を示す菌である。本菌は、人の鼻腔、 ス ・ ビ オ メ リ ュ ー ) に よ る 同 定 の 結 果 、 Streptococcus 咽頭、皮膚および会陰部などに常在するが、時に壊死性筋 dysgalactiae subsp. Equisimilis (プロファイルコード: 膜炎、敗血症などの重篤な感染症を引き起こす。今回我々 15122041010、99.5%)であることが確認された。ストレプト は、非溶血性の Streptococcus dysgalactiae を原因とす LA「生研」(デンカ生研)を用いてランスフィールド分類を実 る劇症型溶連菌感染症の一例を経験したので報告する。 施すると G群に分類され 、質量分析装置の 【症例】 46歳、男性。平成23年より肝硬変を指摘されてい MALDI-Biotyper(BRUKER)、VITEK MS(シスメック たが、放置。平成24年○月○日、鼻出血を主訴に市中病院 ス ・ ビ オ メ リ ュ ー ) の 両 者 で 同 定 を 行 う と 、 前 者 で は に入院。自己免疫性の肝障害、腎障害、および高度の貧血 Streptococcus dysgalactiae 、 さ ら に 後 者 で は を認めることから、当院へ紹介された。当院入院2日目には、 Streptococcus dysgalactiae subsp. Equisimilis との結 呼吸器不全を含む多臓器不全状態となった。血液培養の 果が得られた。 結果Streptococcus dysgalactiae が検出され、同菌が原 【まとめ】 本症例のように、常在菌である Streptococcus 因と考えられる敗血症性ショックのため入院3日目に死亡し dysgalactiae subsp. Equisimilis が劇症型溶連菌感染 た。 症を引き起こす例もあることから、敗血症の診断の際には十 【細菌学的所見の詳細】 入院時に提出された血液培養2 分な注意が必要である。 セット(4本)すべてが陽性所見を呈し、鏡検するとグラム染 連絡先) 096-373-5696 色陽性の球菌を認めた。培養した血液寒天培地およびチョ 558 微生物6 本邦で初めて導入した LabPro-MBT システムの運用に関する検証 ○橋本 優佑(佐賀大学医学部附属病院 検査部)、永沢 善三(国際医療福祉大学)、福富 由美子、 於保 恵、草場 耕二、東谷 孝徳、太田 昭一郎、末岡 榮三朗(佐賀大学医学部附属病院 検査部) 【目的】 LabPro-MBTシステム(以下、LabPro-MBT)は、 性結果の統合およびLabPro Alert機能の整合性のチェッ 質量分析装置であるMALDIバイオタイパーでの同定結果、 ク機構により得られた結果の正確性について検討した。な およびマイクロスキャンWalkAwayによる薬剤感受性結果 お、各機器の測定および前処理方法はマニュアルに従い の一元管理を目的に開発された細菌検査の統合システム 実施した。 である。今回、我々は本邦で初めてLabPro-MBTを導入し、 【結果】 ワンズチップによるセルスメア法の検証では、従来 細菌検査の運用面での正確性を検証したので報告する。 用いる爪楊枝法と同様の結果が得られた。また 【検証方法】 対象菌株はATCC株および臨床分離株を含 LabPro-MBTの使用により、同定および薬剤感受性結果 むグラム陽性球菌30株、グラム陰性桿菌30株の合計60株と の統合および耐性菌判定など、整合性のとれた正確な結果 した。同定検査はMALDIバイオタイパーを使用し、従来使 が微生物検査システムICS(A&T)に送信されたことを確認 用していた爪楊枝およびマイクロスキャンの集落釣菌に用 した。 いるワンズチップを用いてターゲットプレートに直接塗布す 【まとめ】 ワンズチップを用いたセルスメア法は、少量の集 るセルスメア法で実施した。薬剤感受性検査はマイクロスキ 落より検査可能なことや同定および薬剤感受性試験に同一 ャンWalkAway 96 plusを使用し、Pos MIC 3.3Jおよび 株を使用できるなどの利点があり、今回の検証で利用可能 Neg MIC 1Jを用いた。検証方法は、菌調製法としてワンズ な こ と が 示 唆 さ れ た 。 ワ ー ク フ ロ ー の 構 築 な ら び に チップが従来使用される爪楊枝と同様に利用可能かを検証 LabPro-MBTによる同定および薬剤感受性結果を一元管 す る と 共 に 、 当 院 の 微 生 物 検 査 シ ス テ ム ICS ( A&T ) と 理することは標準化の観点から極めて重要である。さらに LabPro-MBT、MALDIバイオタイパー間のそれぞれのオ LabPro-MBTは、耐性菌情報などを正確に提供することが ーダーおよび結果情報の双方向通信を考慮した運用の正 可 能 で あ り 、 臨 床 検 査 領 域 へ の 普 及 が 期 待 さ れ る 。 確性を検証し、さらにLabPro-MBTによる同定・薬剤感受 連絡先) 0952-34-3256 559 微生物6 熊本再春荘病院における血液培養検査実施状況 ○作元 志穂、大島 悦子、西原 幸治(国立病院機構熊本再春荘病院 臨床検査科) 【はじめに】 血液培養は敗血症が疑われる患者の診断・治 5.7%、7.4%、6.5%、16.0%と増加していた。検出菌は4年 療にとって重要な検査である。検出感度を上げるため、2セ 間を通して腸内細菌が最も多く、次いでコアグラーゼ陰性ブ ット以上の採取が望ましいとされているが、当院では徹底さ ドウ球菌であった。 れていないのが実情であった。しかし一昨年以降ICTの啓 【まとめ】 血液培養の2セット採取が院内で普及すると同時 蒙活動により、2セット以上の採取が増加してきた。そこで今 に、今までは血液培養検査を殆ど実施していなかった診療 回血液培養の検査実施状況及び菌検出状況が2セット増加 科からの検査も徐々に増加している。また2セット採取率や によりどのように変化したかを分析したので報告する。 検査件数の増加が検出率の増加にも繋がっていた。今回 【対象】 2009年4月より2013年3月までに提出された血液 培養1705件(1患者1件として) 【結果】 2009年度、2010年度、2011年度、2012年度の件 の分析結果を院内にフィードバックし、ICT活動の一環とし て血液培養検査の重要性への理解を院内で深めていきた いと考えている。 数は350件、403件、446件、506件と徐々に増加していた。 また2セット提出率も42.0%、37.2%、58.6%、78.3%と増加 していた。陽性率も件数及び2セット提出率の増加に伴い 連絡先) 096-242-1000(内線313) 560 微生物6 MALDI Biotyper による血液培養陽性ボトルからの直接同定法の検討 ○武田 展幸、佐伯 裕二、加来 恵、山本 智美、梅木 一美、岡山 昭彦 (宮崎大学医学部附属病院 検査部) 【はじめに】 血液培養は血流感染症を確認する上で重要 【結果】 血液培養陽性を示した34検体において、翌日に な検査であり、培養陽性時に菌を迅速かつ正確に特定する 得られた純培養コロニーのMALDI Biotyper同定結果に ことが、適切な治療を行うために必要である。しかしながら従 対して抽出キット法および試験管回収法の同定結果の比較 来の生化学的性状による同定は、培養陽性から結果が得ら を行った。その結果、抽出キット法で88%、試験管回収法で れるまで約2日の時間を要していた。質量分析法(MALDI 71 % の 一 致 率 を 示 し た 。 ま た 、 直 接 同 定 で の MALDI Biotyper:BRUKER社)による同定は純培養菌から直接同 Biotyperスコア値2.000未満を示すもので1番目の候補に 定できるため約1日短縮できるが、さらに迅速な結果報告が 上がった菌種が純培養コロニー同定菌種と一致した例も含 求められる。今回、MALDI Biotyperを用いて血液培養陽 めると、抽出キット法で100%、試験管回収法で97%の一致 性検体から直接菌種同定を試み有意な結果が得られたの 率となった。 で報告する。 【まとめ】 今回、抽出キットを用いた血液培養陽性ボトルか 【対象・方法】 血 液 培 養 ボ ト ル は Plus Aerobic/F ・ らのMALDI Biotyperによる直接同定法は、高い精度を有 Anaerobic/F Culture vialsを用いてBACTEC FXで培養 していた。また、試験管回収法は同定一致率が抽出キット し、陽性と判定された34検体を対象とした。陽性判定時の 法に比べてやや低かったが、作業時間が短く、低コストであ 培養液から、①血液培養抽出キット(Sepsityperkit 50: った。従来は、血液培養の陽性判定から同定結果が得られ BRUKER社)を用いる方法(抽出キット法)と②分離剤入り るまで時間を要していたが、血液培養陽性ボトルからの直接 試験管を用いて遠心を行い菌の回収をする方法(試験管回 同定法は即日結果が得られるため、診療科への迅速な菌 収法)で得られた菌液をサンプルとしてMALDI Biotyper 種報告に有用であると考える。 による菌種同定を行った。 連絡先) 0985-85-9401 561 微生物7 皮下膿瘍より検出された非定型抗酸菌症の一症例 ○高橋 みち子、中原 利昭、四元 良弘(協同医学研究所 細菌検査課) 【はじめに】 Atypical Mycobacteria症(AM症)の原因菌 認。チールネルゼン染色を実施した結果、3+(G9号)の抗 の一つであるMycobacterium marinum は、皮膚病変を 酸菌が確認された。抗酸菌培養では2%ビット培地、工藤培 形成することが以前より知られていた。特に漁業関係者や 地に2週間で200コロニーの発育を認めた。遺伝子検査で 熱帯魚の養殖等の従事者に頻発するといわれているがその はTB/PCR(-)、MAC/PCR(-)でありDDH法の抗酸菌 症状は様々で、皮膚の腫瘍や小結節の形成および痒み程 種同定検査によってMycobacterium marinum と同定さ 度の症状で経過することが多いため、重症化することが少な れた。 く、見逃されることも多い。今回私達は、グラム染色標本の 【考察】 今回、抗酸菌の同定まで辿りつくことができたのは、 鏡検で、ゴーストマイコバクテリアを疑い、検査を進めた結果、 3+(G9号)の抗酸菌が存在していた事と、検体が喀痰とは 膿瘍より Mycobacterium marinum を検出した一症例を 違い膿であるため、グラム染色像の背景が見やすかったこと 報告する。 もあるが、やはりグラム染色による鏡検を注意深く行った事も 【症例】 患者は72歳の男性、職業は漁業従事者。2012年 重要な点と考えられる。今後も、患者の症状や職業等を念 12月13日 左手の背中央部に皮下膿瘍を認め受診。皮下 頭におき、検査に携わり患者の利益、主治医の治療方針に 穿刺を行い、採取された膿でグラム染色および培養検査を 貢献できる検査報告ができるよう日々努力していきたい。 実施した。 【謝辞】 今回発表するにあたり患者情報を心よくご提供頂 【結果】 培養結果は好気培養、嫌気培養ともに陰性。グラ きました、姫島村国民健康保険診療所 匹田貴雅先生に、 ム染色ではグラム陽性菌、グラム陰性菌は認められず、白 この場をお借りして深謝いたします。 血球は(4+)と非常に多く、またグラム染色像に染色されず に透けた部分が確認され、ゴーストマイコバクテリアを疑い、 連絡先) 092-622-1732 軽く加温したグラム染色を行った結果、グラム陽性桿菌を確 562 微生物7 当院の過去5年間における抗酸菌検出状況 ○田尻 三咲子、石橋 和重、磯田 美和子、吉野 誠二、田代 善二、田代 恵理、 山本 茂子(聖マリア病院 中央臨床検査センター) 【目的】 日本の結核罹患率は年々減少傾向にあるとはい 本BD)を用いて結核菌群あるいは非結核性抗酸菌の鑑別 え依然「中蔓延国」であり、逆に非結核性抗酸菌症は増加し を行った。 てきている。今回我々は当院における過去5年間の抗酸菌 【結果】 2008年から1年ごとに、抗酸菌塗抹の陽性率は 検出状況について検討を行ったので報告する。 1.8%、1.6%、1.5%、2.1%、1.5%。抗酸菌培養の陽性率は 【対象および検査方法】 2008~2012年の5年間に抗酸菌 4.1%、5.6%、5.8%、4.9%、5.8%。塗抹と培養の一致率は 検査を依頼された5663検体および抗酸菌PCR検査を依頼 94.5%、93.1%、90.5%、94.7%、96.4%。培地溶解による された775検体(ともに重複除く)を対象とした。検査は、 培養判定保留率は2.6%、2.1%、3.3%、1.4%、0.4%。PCR 2012年5月13日以前は直接標本を作製後、チール・ネー の陽性率は18.8%、17.5%、17.3%、17.3%、10.4%。PCR ルゼン法にて鏡検、4%NaOHまたは4%硫酸処理後、3% と培養の一致率は88.9%、97.4%、90.5%、91.7%、92.9% 小川培地(日水)にて8週間培養を行った。2012年5月14日 であった。 以降はCC-E液”ニチビー”(日本BCG)で集菌後、蛍光法 【考察】 2012年に集菌法を導入したことによって、培地融 (改良オーラミンO染色キット:スギヤマゲン)にて鏡検、3% 解による培養判定保留率は減少し、塗抹と培養の一致率が 小川培地および工藤PD培地(日本BCG)にて8週間培養を 若干向上した。PCRと培養の一致率も高水準を保っており 行った。PCR検査は、2010年7月以前はコバスアンプリコア 集菌法の有用性がうかがえた。今後も引き続き抗酸菌検出 (ロシュ)、2010年8月以降はコバスTaq Man(ロシュ)にて の動向を監視していく必要があると思われる。 行った。PCR依頼がなく培養陽性のものはキャピリアTB(日 連絡先) 0942-35-3322(内線2736) 563 微生物8 当院における PURE-LAMP 法による結核菌群核酸検出検査の成績 ○豊嶋 美妃、城野 智、柄澤 鈴子、田口 尚(長崎市立病院成人病センター 検査部) 【はじめに】 2011 年 10 月 よ り 喀 痰 を 対 象 と し た 染色で抗酸菌陽性は207検体中32検体(15.5%)、内23検 Loopmediated isothermal amplification(以下LAMP) 体(71.9%)がPURE-LAPM法陽性、20検体に結核菌の発 法による結核菌群核酸検出検査が保険適用となった。 育が認められた。培養陰性の3検体中2例は治療中の患者 Procedure for Ultra Rapid Extraction(以下PURE)法 の検体であり、1例は別の日の検体で培養陽性となった。 により抽出したDNAを、LAMP法で増幅する事により約1時 PURE-LAMP法陰性の9検体は、全例非結核性抗酸菌の 間で結果が報告できる。当院ではPURE-LAMP法による 発育を認めた。 結核菌群核酸検出検査を2012年6月18日より院内で実施 培養との一致率は喀痰145検体で93.1%(135/145)で喀 している。 痰 以 外の62 検体 では PURE-LAMP 法96.8% (60/62 ) 、 【対象】 2012年6月18日から2013年2月28日に結核菌群 PCR91.9% ( 57/62 )で あった 。培 養と PURE-LAMP 法 、 核酸検出検査の依頼があった207検体(痰:145、BAL:33、 PCRの不一致は14例あり、喀痰での不一致は145検体中9 胸水:21、腹水:3、胃液:1、膿:2、髄液:1、尿:1)を対象にチ 例(6.2%)、喀痰以外の検体での不一致は62検体中5例 ールネルゼン染色、小川培地による培養、PURE-LAMP (8.1%)であった。 法、リアルタイムPCR(外注)の結果について集計を行った。 【考察】 今回の集計においてPURE-LAMP法はPCRと同 PCRは喀痰以外の検体のみ実施した。 等の検査成績が得られた。喀痰以外の62検体においても 【結果】 PURE-LAMP法を実施した207検体中陽性は30 良好な結果が得られており今後の保険適応が望まれる。 検体、陽性率は14.5%であった。判定所要時間は最短11 連絡先) 095-861-1111(内線250) 分12秒(ガフキー5号)、最長28分54秒(ガフキー1号)、平 [email protected] 均17分56秒であった。 564 微生物8 結核菌遺伝子検査 PURE-LAMP 法と TaqMan 法の比較検討 ○野村 友香、本多 史美、安田 正代、本郷 剛、佐々木 康雄(国立病院機構熊本南病院 研究検査科)、鈴村 智子、坂本 理、山中 徹(同 呼吸器科) 【はじめに】 抗酸菌遺伝子検査TaqMan法(以下TM法)は、 ったのが2件、塗抹(-)でLAMP法・TM法TB・培養(+)が2 検体提出から結果報告までに5時間程度要するが、LAMP 件、LAMP法・TM法TB (+)で培養(-)が2件、LAMP法の 法は1時間程度で結果報告が可能であり、救急外来等で緊 み(+)が1件、塗抹のみ(+)が1件であった。 【考察】 急検査としての役割が期待されている。今回LAMP法、TM LAMP法とTM法TBの一致率は98.5%(65/66件)と良好で 法 、 塗 抹 、 培 養 の 結 果 を 比 較 検 討 し た の で 報 告 す る 。 あった。LAMP法(+)で培養(+)は85.7%(12/14件)で、培 【対象】 2012年10月から2013年4月の7ヵ月間にLAMP法、 養(-)であった2件についてはLAMP法を優先して行ったた 塗抹、培養の依頼があった66件を対象とした。 【方法】 め、残りの喀痰中の菌量がごく微量であった可能性や死菌で 未処理の喀痰からまずLAMP法に用いる60μlを採取。残り あった可能性等が考えられた。今回検討した検体の中でTM の喀痰で塗抹(蛍光染色)を実施し、NALC処理後液体培地 法(+)、LAMP法(-)がなかったことから、LAMP法で増幅の (MGIT)・小川培地に培養、TM法を実施した。 阻害はなかった可能性が高いと考えられた。 【結果】 LAMP法・TM法の M.tuberclosis complex (以 【まとめ】 従来、抗酸菌の緊急検査は塗抹検査が主流であ 下TB)の結果において、LAMP法・TM法ともに(+)21.2% るが、施設によって直接法か集菌法か異なり、検査技師の経 (14/66件)、LAMP法のみ(+)1.5%(1/66件)、TM法のみ 験等によっても結果が異なることがある。また塗抹検査では (+)0%(0/66件)、LAMP法・TM法ともに(-)77.3%(51/66 鏡検に長時間拘束されることが多いが、LAMP法では測定 件)となった。培養結果で液体培地、小川培地での不一致は 前の操作に15分程度必要であるが測定中は拘束されない。 なかった。塗抹・LAMP法・TM法TB・培養の全て(+)は LAMP法は手技が簡便で迅速性に優れTM法との一致率も 15.2%(10/66件)、全て(-)は72.7%(48/66件)、いずれか 高いことから、結核菌の迅速検査として有用であると思われ の結果が不一致であったのは12.1%(8/66件)。不一致の内 た。 容は、LAMP法(-)でTM法にて M.intracellulare (+)とな 連絡先) 0964-32-0826(内線321) 565 微生物8 LAMP 法により迅速診断に至った結核性頸部リンパ節炎の一例 ○八木 沙織、荒殿 悦子、田邉 誠喜、清山 和昭、南嶋 洋一 (古賀総合病院 中央検査室) 【はじめに】 LAMP法とは、標的遺伝子の配列から6つの 像が観察され、抗酸菌塗抹培養検査の依頼となった。リン 領域を選んで組み合わせた4種類のプライマーを用いて、 パ節組織と膿疱の塗抹検査では、数視野に数個程度の抗 鎖置換反応を利用して増幅させる遺伝子増幅法である。今 酸菌が検出された。LAMP法の結果はリンパ節細胞浮遊液 回、膿瘍とリンパ節組織を検体としLAMP法を用い迅速診 と膿疱が結核菌陽性、リンパ節組織は陰性であった。また、 断が可能であった結核性頸部リンパ節炎の一例を経験した リンパ節病理組織診断においても壊死物が確認された。以 ので報告する。 上の検査結果より結核性頸部リンパ節炎と診断された。本 【症例】 患者:59歳男性。 症例は肺結核を疑ったが、喀痰と胃液の抗酸菌塗抹培養 臨床経過:慢性腎不全で他院にて通院中であったが、意識 検査およびLAMP法は陰性で、肺外結核であった。 レベルの低下と鼻出血で当院に救急搬送された。その後、 【まとめ】 今回、常用される喀痰以外のリンパ節細胞浮遊 原因不明の右頸部リンパ節腫脹が確認され、摘出手術が施 液と膿疱内容物を検体として、LAMP法により結核菌の感 行された。 染を確認した。リンパ節組織の場合、測定時の熱処理操作 材料および方法:膿疱の内容穿刺液、リンパ節組織およびリ に伴う蛋白凝固により結核菌の反応液への露出を妨げられ ンパ節細胞浮遊液、併せて喀痰および胃液を検体とした。リ たことが、疑陰性の要因と考えられた。従って組織では、測 ンパ節細胞浮遊液としては、リンパ節を滅菌生食水(1ml) 定前の検体処理の工夫が必要である。今後、確実な検体処 に 入 れ 磨 り 潰 し た 後 に 組 織 片 を 取 り 出 し 、 遠 心 理方法を確立し、このような症例を集積することで喀痰以外 (3000rpm-10分)後に上清を捨てた沈渣物の浮遊液を用 の検体で保険適応への道を拓くことを目差したい。 いた。 連絡先) 0985-39-8930 【結果】 リンパ節細胞診において壊死物を中心とする細胞 [email protected]
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