電気的性質の劣化

プラスチ・ 材料砂寄動特性の
誠駿法と評価緒果
’ /
〈17〉
安田 武夫*
表面が電解質等で汚損された状態ではきわめて低い電
2.プラスチックの各種試験法(続き)
圧でも放電発生を起こして劣化する。
2−9.電気的性質
プラスチックは無機絶縁材料に比ベコロナに弱いの
2−9−1、電気的性質の試験評価法
で,高電圧では,使用には注意が必要である。
(4)電気的性質の劣化
表1にコロナによる破壊時間の比較を示した。これ
は,図2’による電極配置で得られたデータである。コ
①耐アーク性
耐電圧が高いプラスチックでも,高電圧で長時間使
ロナ劣化の機構ははっきりわかっていないが,コロナ
用していると部分放電による劣化が起こる。この放電
劣化は,プラスチックの高電圧分野への進出により急
中のイオン,電子の衝撃による蒸発または分解,コロ
ナ放電作用によってできたオゾン,硝酸などによる浸
激に注目されだしたもので,積極的に研究がすすめら
食,局部的な温度上昇が考えられる。
れている。
したがって,劣化を防止するためにはボイドができ
交流電圧を加えたときの電気的性質の劣化は,図1
ないようにすること,電極端部の電界を低めて表面コ
のように電極と絶縁物表面の間の局部放電(表面コロ
ロナの発生を防ぐことが有効である。電気的劣化のそ
ナ)や絶縁物内部の隙間(ポイド)中での放電(ボイ
の他の形態として,トラッキング(tracking),トリー
ドコロナ)等によって絶縁物が浸食されるためである。
電極
‡Takeo YASUDA,安囲ポリマーリサーチ研究所所長
〒168−0082東京都杉並区久我山4−24−7
表1コロナによるシート試料の破壊時間の比較刊
摘 要
厚さ
電界
(mi1)
(V/min)
破壊時間(h)
平均
53
標準偏差
20
ポリエチレン
4.4
600
ポリエチレンテレフタレート(マイラ〕
8.4
600
27.2
ポリエステル
5.0
600
74
ナイロン
5.0
600
36
シリコン樹脂
6.5
615
74
46
不飽和ポリエステル
5−O
583
33
12
三ふっ化塩化エチレン樹脂(K亨1F)
5.O
600
7.1
四ふっ化エチレン樹脂(テフロン)
5−O
600
5.7
マイカペーパA
マイカペーパB
マイカペーパC
5.2
577
5.2
577
109
40
6.O
510
1,218
383
はがしマイカ片
1.O
1,OOO
1,500
はがしマイカ片
1.O
2,OOO
572
1ユ2
4,100
8
22
図1表面コロナとボイド
7
2.3
試料
4.3
750
■
519
図2耐コロナ
試験電極配置図 接地電極
プラスチックス
タングステン電極
ゴ。\、、、1ひ。、〃
351ム涼<一141・・
mm
単位
11ぴ
。5.
35
写
電極
\
試験片
単位1mm
4 試料
図3 アーク性の試験片と電極配置
イング(treeing)と呼ばれる現象が
ある。
トラッキングとは,絶縁体表面の
気中に生じたアーク放電によって表
面が熱的に劣化され,絶縁物表面に
沿って炭化した導電路ができること
である。プラスチック材料のうち,
アミノ樹脂,ポリアミド樹脂のよう
に炭素主鎖の途中にN,O等が結合
している材料は炭化しにくく,一般
に耐アーク性がよい。逆にフェノー
ル樹脂やPBTのように分子内に芳
香族環のある材料は,耐アーク性が
フェノール樹脂(含充填材〕
0(トラック〕
ユ リ ア 樹 脂
[二ニコ80∼150
メ ラ ミ ン 樹 脂
[===========] 100∼145
ポリエステル
[==]135
ジアリルフタレート樹脂
[=コ125∼190
シリコーン樹脂
[======三115以上
エポキシ樹脂
[=コ45∼120
硬質塩化ビニル樹脂
[=コ30∼80
軟質塩化ビニル樹脂
[コ60∼80
A S 樹 脂
[======]l06㌔150
A B S 樹 脂
[=]50∼85
メタクリル酸メチル樹脂
0(トラック〕
ポ リ ス チ レ ン
20∼I35
悪い。
耐アーク性試験は,図3に示すよ
ポ リ エ チ レ ン
110∼235
ポリ四ふっ化エチレン
>360
うに,2本のタングステン電極を試
ポリプロピレン
験片の上に対向して置き,これに高
ポリ三ふっ化塩化エチレン
電圧,微小電流のアーク(12,500V,
10∼40mA)をとばして,試料表面が
炭化して絶縁性がなくなる瞬間を測
定する。耐アーク性は秒単位で示す。
[==コ13ト185
[==}>200
[] 130∼140
ポ リ ア ミ ド
ポリアセタール
口129
ポリカーボネート
10∼120
ァセチルセルロース(酢酸綿〕
耐アーク性の通電条件は,JIS K
69iユでは,ユ分経過するごとに次第
サ ー リ ン A
35㌔43
P P 0
[二二ニコ20∼75
に条件を過酷にしていき,4分以後
熱可塑性ポリエステルFRP
[=コgO∼110
50∼310
は連続通電を行うこととなってい
300
る。したがって,試験結果を判定す
るときはそのことを十分考慮する必
耐アーク性(s)
要カミあるη。
図5各種プラスチックの耐アーク性
耐アーク性試験では絶縁物の表面
が清浄な状態で,高電圧,微小電流のアークが発生す
al Wet法,Dip Track法等多くの試験法がある。
る条件下での試料の絶縁破壊を調べるのに対して,耐
これらのうち,もっとも一般的な方法はIEC法で,
トラッキング性は,絶縁物の表面に塵や電解質等の汚
学会標準法と呼ばれている。しかし,この方法も測定
染物質が付着した状態におけるアーク劣化を測定する、
に時問がかかる,実用結果と相関関係が少ない,結果
試験である。
のバラツキが大きい,測定可能な電圧が低い(600Vま
耐トラッキング性試験法には,IEC法,DIN法,Dust
で)等の欠点がある。一方,DipTrack法は,測定可
能な電圧も高く(3,000V),実用結果との相関性が高
Fog法,高電圧微小電流耐アーク試験法,Differenti一
Vol.52,No.6
113
い方法とされている。
試料表面では,高圧電極が液面に触れたときに放電
IEC法は,図4に示すように絶縁物の表面に電極を
配置し,電解液(0.1%NH・C1水溶液)を30秒に1回
の割合で滴下し,試料が絶縁破壊を起こした電解液の
が起こり,液面より離れてときにはシンチレーション
滴下数を求める。つぎに種々の電圧について測定し,
電圧で示される6〕。
得られた結果から滴下数と電圧の関係図を作成し,頭
上から壷解液が50滴に相当する印加電圧を求め,これ
なお,代表的プラスチックの耐アーク性を図5に,
を絶縁物の比較トラッキング指数(CTI)と呼び,耐ト
ラッキング性の尺度としている。
が起こってトラッキング現象が起こる。耐トラッキン
グ性は5個の試料が10∼50回の浸漬で破壊を起こす
耐トラッキング性の値を表2に示す。
トリーイングは比較的肉厚の状態で交流電圧を加
え,長時問経過すると,部分放電による全面侵食に続
Dip Track法では,試料表面に直径1−02mmのニ
いて放電の集中が起こり,その部分だけ樹木の枝状の
クロム線電極を45由の角度で取付け,これを高圧電極
模様ができる。これがトリーイングでプラスチック中
とする。低圧側の電極としては電解液(0.1%NH.C1
のボイドあるい’は異物により発達したものと考えられ
水溶液に少量の界面活性剤を添加)を利用する。電極
ている。
間に所定の電圧を加え,高圧電極(試料)を駆動装置
②酸化,吸湿,温度上昇による劣化
により電解液中に1分問4回の割合で浸漬する。この
時の試験片の上下運動距離は,高圧電極の先端が液面
プラスチックは大気中で,酸索,熱,光,水分など
より1.6mm沈んだ点を最下点とし,液面より25.4
断が起こり,カルボニル基(C=O)やCOOHなどの
mm引き上げられた点を最上点とする。
極性基を生じ,これがプラスチックの誘電特性を劣化
の影響を受けて劣化する。酸化によって炭素結合の切
させていく。無極性のポリエチレンが熱劣化や天然暴
露をうけて劣化し,極性が増した場合の例を図6,表3
表2各種プラスチック材料の耐トラッキング性
(三菱電機(株)〕
耐トラッキンク性
プラスチック材料
DipTrack法 IEC法
(kV〕
CTI引
ポリカーボネート
ポリスチレン
塩化ビニル樹脂
ポリエチレン
ポリプロピレン
ポリアセタール
ボリテトラフルオロエチレン
ポリイミド
フェノール樹脂(紙基材〕
けい素樹脂(ガラス基材)
不飽和ボリエステル(プリミックス)
メラミン樹脂(紙基材)
エポキシ樹脂
180
250
O.7
1.5
〉600
〉600
>600
>600
〉600
0.7
1.5
〉3.0
〉3.0
>3.0
135
130
0.6
1.O
〉600
>600
>600
2.0
2.4
>3.0
(ビスA系酸無水物硬化〕
〉600
2.9
}1・r^冊h0“o^wo rrf0’1パ[付Tn■ovθr冊皇=只n芽歯の葡芋宙理覇宙
杣.Comparat1ve Trackmg Indexの略一50滴の電解液
に示す。
プラスチックのうち,有極プラスチックは,表3の
ように無極性のものに比べ,吸水性が大きい。水分子
は大きな双極子モーメントをもっているので,これが
プラスチックの中に入ると誘電特性に大きな影響を与
える。一般に吸湿により誘電正接は増大する。その大
きな原因はイオン伝導の増大であるので周波数の低い
ときほどその影響は強く現れる。」般に劣化による誘
電特性の変化は非常に複雑であるが,劣化前の特性を
あらかじめ測定しておき,劣化後の特性と比較すると
劣化の程度を知ることに利用することもできる。この
ほか,絶縁特性,誘電特性などはいずれも使用時の温
度に左右され,温度が高いほど劣化は著しくなる。
(5)帯電性
滴下でトラッキングを起こす電圧をもって表示する。
プラスチジクは電気絶縁抵抗が高く,絶縁材料とし
表3市販低密度ポリエチレンの天然暴鰍こよる電気特性の劣化
o
測定項目
×
廻
*
聾
鯉
瀧
口]ル温度:16℃,測定周波数:10kHz
図6高密度ボリェチレンの誘電損失角に
及ぽす素練り時間の影響
114
B
C
D
1.6∼1.5MHz 12月
6月
2.34
2.32
2.35
2.34
2.37
2.44
2.33
2.35
2.34
○月
O.0004
O,O004
O.OO04
O,0004
6月
O.0006’
0.OO06,
O.0006
0.0006
0.OO09
0.0009
0.0009
0.O009
誘電正接
1.6∼ユ.5MHz
温 度(℃〕
A
2.35
2.35
2.35
誘 電 率
l0 30 50 70 90 110
時間
○月
12月
絶縁抵抗
{Ω・Cm)
P月
600V,20℃
12月
6月
■
■
47x1O17
E
’
1.1×1O”
■
1.O×101f
27×10m
1.1×10I一
〔狂〕
〔注〕ポリエチレンEは,カーボンブラック混和物である。一は絶縁抵抗が測定でき
ないほど大きかったもの
プラスチックス
表4帯電列表
SiIsbee
試料
Lehmicke
Banou
Hersh,
M㎝tgomery
Rose,Ward
深田,
取付金具
ドラム
Fowler
アスベスト ガ ラ ス 羊 毛 羊 毛 エチルセルロース 雲 母
ガ ラ ス ナイロン ナイロン ナイロン カゼイン ボリメタクリ
絹
雲 母 羊 毛
ビスコース エボナイト ル酸メチル
絹
酢酸セルロース こ は く
綿
羊 毛
ビスコース
絹
猫 毛 皮 ビスコース 人 皮
ガ ラ ス ポリスチレン
鉛
綿
ガラス繊維 アセテート 金 属 ポリエチレン
絹
アルミニウム
紙
綿
プロープ
発生電荷測定 ノ摩擦物
一轟重で引張る\固定
静電気発生
テフロン
’紙
綿
ポリスチレン
鋼
ガ ラ ス
ポリエチレン
図7ロータリスタティック
一アフロン
」テスタによる測定図
ボバール
ダクロン
硬質ゴム ダクロン オーロン
オーロン ク ロ ム ダイネル
サ ラ ン オーロン ベ ロ ン
硝酸セルロース
封 ろ う
エボナイト ポリエチレン ポリエチレン ポリエチレン
黄 銅
イ オ ウ
白 金
インドゴム
は一般に抵抗が大きく,帯電現象も大
きく現れる。プラスチックのうち重合
テフロン
形のものは一般に抵抗が高く,縮合形
のものは分子中に親水基が残存した
り,脱水縮合のさいに十分水が逃げき
れないので抵抗はあまり高くない。し
て非常に優れている。その反面,摩擦や接触により帯
たがって,重合形のポリオレフィン,
電しやすく,空気中のごみを吸引して製品を汚染した
ポリ塩化ビニル,ボリスチレンなどの帯電現象はフェ
り,場合によっては火花放電を起こし,粉塵爆発,溶
ノール樹脂などの縮合形に比べ大きく現れる。
剤引火などの災害を起こすことさえある。
プラスチックの分子中・に親水性のTOH,一
プラスチックの使用量が増加するにつれ,帯電現象
の解明と防止方法について各国で鋭意検討が進められ
COOH,一NH。などがあると絶縁性は低下し,’耐水性,
ているI〕。
①プラスチックと帯電しやすさ
灘水性の一CH。,一C6H。があると帯電現象もこれに比
例する。これは前述の電気の逃げやすさにある。’湿っ
た空気中では漏電が速やかに起こるので帯電量は少な
帯電発生機構としては定説がなく,ヘルムホルツの
くなる。たとえば,あるポリスチレンが乾燥空気中で
接触電位差説,イオン説,摩擦帯電,剥離帯電などが
4.6x1O1lΩの表面抵抗を示した場合でも,湿度が92%
考えられている。
RHになると抵抗は2.0×109Ωに低下する。表面抵抗
プラスチックの帯電性は,2物体の接触,分離,剥離,
摩擦などにより電荷の移動することから生じる。この
も帯電のしやすさの指標となり,特に帯電防止剤の影
響を鋭敏に示すのでその効果を判定するのによく使わ
場合,±いずれの電荷に帯電するかについては古くか
れる。帯電のしやすさとこれらの抵抗値はほぼ一致し
ら多くの研究があり,帯電列と呼ばれるものが多数報
た傾向を示し,抵抗値の高いものほど集塵汚損の程度
告されている(表4)。これらの帯電烈は物質固有の性
が高い。だいたいの目安として10i5Ω以上の抵抗のも
質によるものと考えられ,誘電率の大きなものが十側,
のではきわめて汚損されやすく,1010Ω以下では余り
極性基の電子受容性の強いものが一側に帯電するよう
汚染は起きない。
である。金属のような導体では電子が自由に動きまわ
②帯電現象の測定方法
れるので,電気が通りやすいが,プラスチックは規則
定量的な測定方法としては,以下の三つの測定法が
的に巨大な共有結合で結ばれた分子でできているた
め,白由に動きまわれる電子がきわめて少ないので電
気が伝わりにくい。したがって,帯電してもその電気
代表的である。
が放出されにくい。
抗を測定する。
電気絶縁性の大きいプラスチックは,乾燥雰囲気中
(ii)帯電減衰速度の測定
では比較的強く帯電しており,電気絶縁性の小さいプ
プラスチック表面に,一定の電圧を加え,その後,
ラスチックは速やかに電気がもれるためその帯電量は
時間的にその帯電圧を測定し,帯電圧の減衰曲線の形
きわめてわずかになる。帯電しやすさの一つの指標と
や減衰の半減期などにより測定する方法で,放電現象
して体積固有抵抗が上げられる。この値の大きいもの
を測定できる特徴がある。
Vo1,52,No.6
(i)表面抵抗の測定
プラスチックの表面に電極をおき,電極間の表面抵
115
(iii)表面摩擦発生電圧の測定
放電式は極性に無関係で除電できる利点があり,広く
測定器は、京大化研式のロータリスタティックテス
タを用いる。.この原理は図7に示すように回転輪の表
利用されている。ラジオアイソトープから放出される
α線,β線により空気をイオン化して除電する装置(ラ
面にプラスチックシートを取り付け,これを回転しな
ジオアイソトープ除電器)もあるが,放射線牽用いる
がら別の適当な物質(ステンレス板,綿布,ナイロン
ので取扱いに注意が必要である。
布など)との間で摩擦させて,一定時間経過後に試料
(ii)表面処理法
に生じた電荷をプローブ内に収容した感応電子管に捕
物体の表面が電導性をもっていれぱ,表面に発生し
らえ,これを交流増幅し測定する。
もっとも実際的な測定方法であるが,回転速度,摩
た静電気は蓄積されずに帯電防止ができる。この考え
方からプラスチックの表面に親水性官能基を化学的に
擦物の種類,資料表面の粗密の程度によりデータが大
導入し永久的な帯電防止層を作る方法が試みられた。
きく左右されるので,十分制御する必要がある。
導入する官能基としてたとえぱ一SO・H,一COOH,一
定性的な判定方法としては灰試験法がある。これは
NH・などがあげられるが導入の困難さから実用例は
少ない。一般には帯電防止剤を表面に浸漬,噴霧・塗
タバコの灰を吸着するまでの距離で帯電の強さをみる
験の代表的なものとして,ダートチャンバ試験がある
布などで付着させて帯電防止を行うのが大部分であ
る。この方法では,洗浄,摩擦などで剥離して防止機
(図8)。プラスチックの包装材料の汚れやすさを調べ
能を失いやすい欠点がある。
る方法として用いられているもので,原理的には乾燥
(iii)内部改質法
した空気にトルエンの不完全燃焼によるすすを混入
し,この空気を強制循環させて,プヲスチック包装体
内部練り込み法といわれる方法で,帯電防止剤をプ
ラスチック原料に添加して混練成形する。水洗,摩擦
方法で,もっとも簡便な判別方法である1〕。実用的な試
に付着する汚れの状態を観測する方法である。
で失われる帯電防止性もプラスチック内部よりの帯電
防止剤のにじみ出しによって回復する利点がある。帯
③帯電防止の方法
プラスチックの帯電を防止するには,発生電荷を少
なくし,一方,発生した電荷を速やかに消失させれぱ
電防止剤として現在便用されているものは,ほとんど
よい。しかし,電荷の発生を完全に防止することは実
水基と疎水基が存在し,通常疎水基は炭化水素,親水
際には非常に難しいので,電荷の消失を速くして帯電
基はOH,COOH,スルホン基,アミン,第4級アンモ
が界面活性剤である。界面活性剤は一つの分子中に親
防止を行うのが普通である。その対策にはつぎの三つ
ニウム塩,ポリオキシエチレンなどの種類がある。親
の方法が代表的なものである。
水性の種類によりアニオン性,カチオン性,両性,ノ
(i)除電器の使用や室内の空気の湿度を高めてプ
ラスチックの表面電導性をよくする方法
ニオン性などの4種類に分類される。しかし,この方
法も長時問経過すると界面活性剤とプラスチックの相
(ii)表面処理法
溶性が良好でない場合には,界面活性剤の含有量が減
(iii)内部改質法
少し,帯電防止効果が減少する場合がある。
以下のこの3方法について概説する。
(i)除電器の使用
除電器としては通常のコロナ放電式が用レ)られる。
直流または交流のコロナ放電を行い,反対イオンでプ
ラスチックの表面の電荷を中和する方法である。交流
最近,界面活性剤のほかに親水性のポリマー(たと
えばある種のポリアミドエラストマーで飽和吸水量が
自重と同等程度のもの)を添加した永久帯電防止グレ
ードがABS樹脂などで開発されている。このような
グレードの開発のポイントは,高吸水率の改質剤とべ
一スボリマーとのなじみをいかによくするかである。
(6)電磁波シールド
出口
〆こ
/)ン
すす入口
試料室
スクリーンf
↓雌κ二烙ノブ
1凹 燃焼室
フノ ∼ }
図8ダートチャンバ
116
電気絶縁性の項で少し述べたが,重要な項目なので
再度触れることとしたい。最近多くの機器で重要な問
題となっている電磁波シールドについて簡単に記す。
多くの電子機器が世の中にあふれ,そこから発生す
る電磁波障害が問題になっており,ときとしてはその
影響による機器の誤作動で災害が発生する場合もあ
る。プラスチックは,多くの電子機器のハウジングな
どの外郭材として多く使用されている。ところが,プ
プラスチックス
ラスチックは,電磁波をよく透過するため電磁波が機
<参考文献〉
器から漏れて電磁波障害を起こすおそれがある。その
対策としては,機器の外郭をある程度以下の体積固有
1〕廣恵章利,本吉正信,「成形加工技術者のためのプラスチック
抵抗のもので遮蔽する必要がある。
物性入門(第3版〕」,日刊工業新聞社,1996隼1月3ユ日発行
2)「エンプラの本」,工業用熱可塑性樹脂技術連絡会発行
そのための方法としては,
3)JIS K69111雪95(熱硬化性プラスチックー般試験方法)
①外郭などを適当な導電性のあるプラスチックで成
4)桜内雄二郎,「新版プラスチック材料読本」,工業調査会,1993
形する方法
年4月ユ日,新版4刷発行
②外郭などに導電性塗料を塗布する方法
5)「プラスチック・データブック」p.84旭化成アミダス㈱/「プ
③機器を金属などでカバーする方法、
がある。
ラスチックス」編集部共編,㈱工業調査会1999年12月ユ日
初版第ユ刷発行
6)「プラスチック成形加エデータブック」,㈱日本塑性加工学会
プラスチック材料に関連する方法ぽ①の方法で,一
編,日刊工業新聞社,昭和63年3月25日初版1刷発行
時期電磁波シールド対策グレードの開発が盛んに行わ
7)「プラスチック読本」p,339大阪市立工業研究所,プラスチッ
れた。しかし,その効果が十分とはいえないζとが多
かったので,②,③の方法が主に採用されている。
Vol.52,No.6
ク読本編集委員会,プラスチック技術協会編集プラスチッ
クスエージ杜1992年8月!5日改定第18版発行
117