平成29年度 甲方式B日程 小論文

平成 29 年度琉球大学法科大学院
B日程(甲方式) 未修者コース 入試問題
小
論
文
平成28年10月23日(日曜日)
11時15分~12時15分(60 分)
注意事項
試験開始の合図があるまでに,次の注意をよく読んで,間違い
のないように受験してください。
1
この試験では,問題冊子1部,解答用紙1枚,下書用紙1枚を配布します。
試験開始の合図があるまで,問題冊子を開いてはいけません。
2
この試験の解答として提出された小論文は,面接の際の資料として用いられます。
小論文に対する評価は,面接試験の得点の中で評価されます。
3
試験開始後,問題の部分に印刷不鮮明,汚損等があれば直ちに申し出てください。
4
解答は,必ず解答用紙に記入して下さい。解答に用いたすべての解答用紙の所定欄に,
受験番号と氏名を記入してください。
5
黒色または青色であれば筆記用具は問いません。ただし,鉛筆書きの場合は文字が
薄くならないように十分注意してください。
6
試験開始後は,途中退席できません。用便を希望する際は手をあげてください。
7
試験終了後,解答用紙を回収するので,指示があるまで席を立たないでください。
配布した解答用紙は,書き損じや未使用のものも含めて,すべて回収します。
問題冊子と下書用紙は持ち帰ってください。
8
その他は,すべて監督者の指示に従ってください。
-1-
問題
次の1~3の文章は,いずれも本林靖久氏(宗教人類学者・僧侶)による「『国民
総幸福(GNH)』にみる「足るを知る」と経済成長-仏教的な生き方と社会の持続
的発展をめぐって-」と題する著述からの抜粋である(なお,誤植と思われる文字
を一部修正してある)。各文章を読んで,〔設問〕に答えなさい。
※ GNH=Gross
National
Happiness
【文章】
1.ブータンには,『ヘレヘレじいさん』という一見すれば「不利な交換」の民話が
伝わっている。
むかし,ある村にヘレヘレじいさんというおもしろいおじいさんがいた。村の
人気者で,ここ数年はあまり働いていなかったが,村人達が面倒をみてくれてい
た。
そのヘレヘレじいさんがそば畑で働いていると切り株に当たった。それを掘り
出すと大きなトルコ石を見つけた。喜んだヘレヘレじいさんは,これを売れば金
持ちになれると思い,すぐに市場へ向かった。しかし,その途中で次々と村人に
出会い,持っていたトルコ石を自ら交換してしまった。
四度目の交換の後,ヘレヘレじいさんは,男が楽しそうに心の思いを歌に唄い
ながらやってくるのに出会った。その男がどこへ行くのかを尋ねると,ヘレヘレ
じいさんは,嬉しそうに語った。
「聞いておくれよ。畑で切り株を掘り起こしたら,トルコ石が出てきたんだ
よ。それが立派な馬になり,その馬が老牛となり,その牛が羊になり,そして,
羊が鶏になったんだよ。そこで,あんたの歌をこの鶏と交換してくれないかい。」
そう言うと,ヘレヘレじいさんは驚いている男に鶏を渡し,自分は幸せな心の
うちを歌にした男の歌詞を口ずさみながら遠ざかっていった。しかし,その途中
で,石に蹴つまずいて転んで歌も忘れてしまったという。
〔中略〕
2.その後,ブータンでは 2003 年から携帯電話のサービスが始まった。携帯電話
はまたたく間にブータン国内に広がり,ポブジカの村も通話エリアとなった。〔中
略〕有線の電話さえ普及していなかったこの村に,一気に携帯電話を持つ人が増
え,村を超えて情報の流入が始まった。
-2-
ポブジカの村はジャガイモ栽培が盛んであるが,それまでは国内の限られた販
売ルートで,ほぼ一定の低い価格で売買されていた。しかし,携帯電話を持った
ことで,インドの生産地との駆け引きのなかで,どの時期に,どの市場で,ジャ
ガイモを出荷すれば高く売れるかを村人は判断していくことになった。そのこと
によって村人の経済主体が自由競争のもとに経済活動を行う市場経済の中に完全
に取り込まれていった。
その後,電気が制限なく利用できるようになると,電化製品が買い求められる
ようになった。どの家も最初に購入するのは電気炊飯器である。2~3台の大型
炊飯器があり,一度に家族十数名分のご飯を炊くのである。かまどの炊飯から電
気炊飯器に変わったことで,朝・昼・夕方と一日中ご飯を炊いていた女性(主
婦)の家事労働力の軽減になると共に,農業労働力に振り向けることができ,農
業生産量の向上にも繋がった。こうした市場経済のなかで得られる現金収入は,
他の電化製品である洗濯機,テレビ,ビデオデッキ,CD/DVD プレイヤー,デジ
タルカメラ,ノートパソコン,プリンター,冷蔵庫,電子レンジ,掃除機などの
購入費に充てられるのである。そこには物質的な欲望を求めて,それを手に入れ
ることで幸せを実感する姿が見えなくもない。
先代国王はかつて「欲望は人間が受け取る情報量と比例して増大する」と語っ
たと言われているが,確かに西欧の近代化の産物である大量の工業製品,物質的
な豊かさをシャワーのごとく目にしたとき,ブータン人の欲望は増大するであろ
う。
〔中略〕
3.その後,僧侶は私に,「本来は『ヘレヘレ(じいさん)』のように,他人の幸福
のために自分の幸福をまわすことが幸福の道なのですが,それは今のブータン人
にとっても難しいでしょうね。」と語った。
西欧では,幸福の公式として,幸せ=財/欲望が提示される。つまり,増大す
る欲望を,財を増やすことで幸福を得ようとする。一方,仏教の考えでは,欲望
を抑えて,わずかな財で幸せに暮らそうとする。つまり,
「少欲知足」が説かれ,
幸せ=知足/少欲となる。
したがって,ブータンでは僧侶が経済の話になると,「少欲と知足」,「自利と利
他」,そして「中道」が語られる。しかし,この十数年で,一気に大量の情報が流
れ込んできたブータン人にとって,欲望は確実に増大しており,僧侶の言動や行
動によって,あるいは日々の宗教生活の中で欲望を抑え,他者への施しの精神を
どこまで持続していけるのか,その見通しは決して明るくない。
-3-
社会学者の M・ウェーバーは,人間の幸福や充足感には,「来世の安心」という
「救済財(精神)」を獲得するための「宗教的エートス(エートス=個人を動かす
駆動力)」と,「現世の安心」を確保するために「経済財(資産)」を獲得しようと
する「経済的エートス」とのバランスが重要と指摘しているが,ブータンにおいて
も仏教的な生き方と経済活動のバランスの中で,どのように GNH の方針に基づ
いて国家の持続的発展を維持していけるのか,その模索が続いている。
(出典:日本 GNH 学会編集『GNH 研究③
GNH 研究の最前線』2016 年
芙蓉書房出版)
〔設問〕
「人間の幸福や充足感」はどのようにして達成できると考えるか,あなたの考え
を述べなさい。なお,その際,上記著述の筆者は,①どのような「生き方」をブー
タン王国における「仏教的な生き方」と説明し,②何が,その「生き方」を維持又
は阻害すると説明しているか,について必ずふれること。
以
-4-
上