■第2回研究会の概要 日 時:平成 28 年 7 月 31 日(日)14 時~16 時 30 分 場 所:中村学園大学西 4 号館 2F 会議室 出席者数:8 名(うち会員 7 名) 第1報告 発表者:片山富弘氏 発表者:片山富弘氏( 片山富弘氏(中村学園大学教授) 演 題:「アイランド・マーケティング 「アイランド・マーケティング~佐賀県唐津市の事例~ アイランド・マーケティング~佐賀県唐津市の事例~」 ~佐賀県唐津市の事例~」 ■報告要旨 1.問題意識 今回は、アイランド・マーケティングという新しいマーケティング・スタイルを提案し たいと考えている。マネジリアル・マーケティングのアイランド版といえるものである。 従来、私は観光マーケティングの試みを論文(注 1)で展開してきた。また、地域活性化に関 する論文(注 2)も展開してきた。その流れの中に、今回は位置しているものである。 本論文は、佐賀県呼子町にある高島の活性化へのアンケート調査を通じて、マーケティ ングからの考察を行い、アイランド・マーケティングを論じている。なお、ここでのアイ ランドは観光化された地域のアイランドではなく、むしろ、観光化されていないルーラル・ アイランドともいえる島を対象としている。 図表 1-1-1 アイランド・マーケティングの類型化 アーバン(近代化) 非日常的(観光客が多い) <① ルーラル(田舎風) アーバン・非日常 <② 型> ルーラル・非日常 型> 沖縄、石垣島、宮古島、ハワ 能古島、パラオなど イなど 日常的(観光客が少ない) <③ アーバン・日常型 <④ > ルーラル・日常型 > 五島列島、奄美諸島など 佐賀県 7 つの島(高島、加唐 島、小川島など) (筆者作成) アイランド・マーケティングの類型化として、2 つの軸が考えられる。1 つは、島が近代 化されているか・否かによるアーバン(Urban)とルーラル(Rural)である。2 つめは、非日 常的か・否かによる区分であり、非日常的とは島への観光客が多いことであり、日常的と は島への観光客が少ないことを意味している。この 2 つの軸を掛け合わせたのが、アイラ ンド・マーケティングの類型化(図表 1-1-1)である。この 4 類型はルーラルからアーバンに 変化の途中段階にあるものもあり、4 類型に悩ましいところもあるが、総じて 4 類型が可 1 能であると考える。4 類型のそれぞれに良いところとデメリットを抱えているのが現状で ある。本論文はルーラル・日常型を対象とし、その 1 例として高島の事例を考えている。 <高島の現状> 佐賀県の本土から 2.2km の玄界灘に浮かぶ 0.62km2 に満たない小さな漁業の島である。 宝当神社は 1580 年ころ、島に移り住み海賊から高島を守ったと伝えられる戦国時代の武 将・野崎隠岐守綱吉が 1581 年に建立した島の氏神様・塩屋神社の境内神社。島の氏名の 約 90%が野崎姓であるが、野崎隠岐守綱吉にあやかったといわれている。神社のお祭りは、 2 月には「祈年祭(百手祭)」8 月には「夏越祭」、10 月には「例大祭(高島くんち)」が行わ れている。また、人々の恋愛模様など口伝えで歌い継がれてきた大衆文化の「口説き」が ある。産業としては、のりの養殖や漁業が基幹産業であるが、宝当神社の関連グッズであ る「宝当袋」が人気がある。 現在、約 270 人の人口、唐津港から定期船で約 10 分、宝くじの当選祈願を初め、観光 客の釣りを楽しむ人が多い。島内には、天ぷら屋や宝くじ関係のお店はあるが、朝市や専 門食品スーパーはなく、唐津の町中まで買い出しに出かけている。(以上、唐津市島づくり 事業実行委員会のパンフレットより抜粋) 2.高島のアンケート調査結果及び考察 2-1 高島に対するアンケート調査 佐賀県高島に対する実態を明らかにすべくアンケート調査を実施した。調査日は 2015 年 6 月 6 日(土)及び 7 日(日)の 2 日間で佐賀県唐津市唐津駅の 2 か所で実施した。アンケ ート回収は 179 件で、面接による調査方法のため、有効回答は 100%であった。調査内容 は、加唐島に対するイメージ、来島頻度、来島目的、満足度、フェイスシートなどである。 2-2 高島のアンケート調査結果 1)イメージの項目の中で平均値が高いのは、 「宝当神社で有名である(3.1)」でその他は大 きな数値となっていない。逆に「インターネットが充実(0.7)」、 「口説きが有名である(0.7)」 が低い数値となっている。 2)高島のイメージに対する因子分析の結果はつぎのとおりである(図表 2-2-1)。 図表 2-2-1 高島の因子分析結果 項目 因子 1 因子 2 因子 3 因子 4 寄与率 0.098 0.142 0.258 0.144 宝当神社で有名である -0.091 -0.101 0.319 宝当袋が有名である -0.116 -0.231 宝当グッズが多い -0.158 -0.191 2 共通度 残差分散 0.679 0.581 0.419 0.162 0.933 0.963 0.037 0.200 0.787 0.721 0.279 独特のお祭りがある -0.116 -0.801 0.269 0.155 0.751 0.249 口説きが有名である 0.288 0.750 0.240 0.111 0.726 0.274 伝説が多い -0.181 -0.704 0.212 0.265 0.643 0.357 見どころが多い -0.037 -0.518 0.520 0.363 0.672 0.328 漁師町である -0.182 -0.282 0.649 0.223 0.584 0.416 人情味がある -0.298 -0.365 0.550 0.314 0.623 0.377 ネコで有名である -0.291 -0.244 0.388 0.357 0.423 0.577 釣りが楽しめる -0.196 -0.167 0.727 0.263 0.664 0.336 お食事がおいしい -0.228 -0.209 0.688 0.025 0.569 0.431 のんびりできる -0.109 -0.131 0.739 0.260 0.643 0.357 老人ばかりである -0.162 -0.305 0.632 0.210 0.562 0.438 景色がきれい -0.231 -0.185 0.744 0.243 0.701 0.299 歴史を感じさせる -0.350 -0.253 0.673 0.140 0.659 0.341 福岡からのアクセスがよい -0.278 -0.158 0.472 0.277 0.402 0.598 1 泊するのに手頃である 0.120 0.217 0.513 0.127 0.510 0.400 島への案内が充実している -0.791 -0.151 0.405 0.153 0.836 0.164 インターネットが充実している -0.629 -0.345 0.273 0.182 0.622 0.378 (筆者作成) 因子 1 は「島への案内が充実」(△0.791)、「インターネットが充実」(△0.629)の数値が高 いことから、「観光案内不充分」とネーミングした。 因子 2 は「独特のお祭りがある」(△0.801)、 「口説きが有名である」(0.750)、 「伝説が多い」 (△0.704)の数値が高いことから、「イベント不充分」とした。 因子 3 は「景色がきれい」(0.744)、 「のんびりできる」(0.739)、 「釣りが楽しめる」(0.727)、 の数値が高いことから「一般的な島」とした。 因子 4 は「宝当袋が有名である」 (0.933)、 「宝当グッズが多い」 (0.787)、 「宝当神社で有 名である」(0.679)の数値が高いことから「宝当関係重視」とした。 以上、4 つの因子の存在を確認した。 3)高島への来島頻度は「その他」が最も多く 159 件で、その次に「半年に 1 回」が 18 件 と多い。 4)高島への目的は「その他」が最も多く 115 件で、 「当選」29 件、 「観光」27 件となって いる。 5)高島の満足度は「満足」6 件、 「やや満足」10 件、 「普通」38 件、 「やや不満」3 件、 「不 満」3 件、「わからない」119 件、となっており、「満足」と「やや満足」を足した満足 度は全体の 8.9%で、「わからない」を除いた満足度は 26.7%となっている。 3 6)高島への推奨度は「はい」37 件で全体の 20.7%である。 7)島で思い出すのは、 「能古島」83 件、 「壱岐」38 件、 「対馬」25 件、 「五島」14 件、 「高 島」6 件、その他 13 件となっている。「高島」の全体に占める割合は 3.4%である。 3.高島に対する考察 高島におけるアンケート調査結果を踏まえて考察を行う。 1)高島のリピーターアップ対策を考えなければならない。 高島への推奨度判別分析における「はい-いいえ」の結果から、推奨できるのは「宝当袋」 である。この商品だけでなく、関連グッズの開発やこの島での特産品開発が必要である。 また、来島満足度が低いことから、高島に来ても、宝塔神社以外には関心がないことが考 えられるので、島内の滞留時間を長くすることで、高島の魅力を知ってもらう仕掛けが必 要である。 2)高島のイメージに対する 4 つの因子に対する対策を考えなければならない。 4 つの因子は「観光案内不充分」、 「イベント不充分」、 「一般的な島」、 「宝当関係重視」 である。 「観光案内不充分」は、パンフレットやホームページでの紹介などは充実してい るが、島についてからの案内情報の提供が必要である。また、渡船場での案内や高島の 到着後の案内場も必要である。次に、 「イベント不充分」は百手祭、夏越祭、高島くんち があるので、このお祭りについてメデイアを通じての PR が必要である。島の認知度を 上げるチャンスである。また、 「一般的な島」を意識した観光客には、時を忘れさせる空 間ともてなしが必要である。その意味では、民宿や民泊ができる施設が望まれる。さら に、 「宝当関係重視」は、宝くじでの当選者を PR するとともに、関連グッズはもちろん のこと、家内安全といった宝くじ以外のご利益も展開することが大切である。 3)来島満足度を高めるために重回帰分析結果を実施したが、決定係数が低いことから重 回帰式の説明が弱いことがわかった。 4.アイランド・マーケティングについて 以上のことを踏まえて、アイランド・マーケティングについてのフレームワークとドメ インについて述べる。 1)フレームワーク アイランド・マーケティングに関する事例は多数見受けられる(注 3)が、そのフレームワ ークを記載しているものはない。そこで、アイランド・マーケティングのフレームワーク を論じることにする。アイランド・マーケティングは、次の 4 つのタイプのマーケティン グが関係しているが、その根幹にあるのは、いずれも、マネジリアル・マーケティングで あることに変わりはない。 アイランド・マーケティング=観光マーケティング(注 4)(アイランド・ツーリズムを含 4 む)×ルーラル・マーケティング(田舎の活性化)×サービス・マーケティング(ホテル・旅館 など)×リレーションシップ・マーケティング(島の住民や観光客との関係など) アイランド・マーケティングは、この 4 つのマーケティングが係り合うことで、島とい うプレイスを対象に展開することになる。その際に、重要なのは、島の住民と島を訪れる 観光客の両方をターゲットにしたマーケティングであるということである。従来のアイラ ンド・ツーリズムは、島を訪問する観光客をターゲットにしたインバウンドのマーケティ ングがメインであったが、ダブルターゲットともいえる島の住民と観光客の両方の満足度 向上に向けたマーケティング展開、すなわち、アイランド・マーケティングなのである(注 5)。 本研究はアイランド・マーケティングの類型化の 4 類型の 1 つである高島を対象として 考察している。高島は、④ルーラル・日常型であり、その戦略は、1)案:そのままであ るべきか、2)案:ルーラル・非日常型の方向を目指すのか、3)案:アーバン・日常型を 目指すのか、の 3 つの戦略が考えられる。次のドメインをどのように設定するのかによっ て、戦略の方向性がみえてくることになる。 2)アイランド・マーケティングのドメイン 島を対象とした観光客のドメイン、島の住民が考えるドメイン、行政の考える島のドメ イン、の 3 つのドメインがかさなるような仕掛けが必要である。3 つのそれぞれが異なる 展開をしていたのでは、ドメインが形成されない。3 つの方向からのドメイン形成に向け て、摺合せが必要である。その際に、正解はなく、参加者の最も共感されるドメインを選 択することが望まれる。選択するドメインによっては、島民が大きな決断を強いられるこ とになるかもしれない。それだけこのドメインは大きな意味合いをもつのである。 注) 1) 「マネジリアル・マーケティングの観光への展開~観光マーケティングの考え方を中心 に~」 『流通科学研究』Vol.4 No.2 平成 17 年 3 月 13-35 頁をはじめ、筆者が監修と 執筆を行った『九州観光マスター検定 1・2・3 級公式テキストブック』福岡商工会議所 や編者『地域活性化の試論~地域ブランドの視点~』五絃舎などがある。 2)「地域ブランド形成プロセスを考える~壱岐焼酎の実態調査から~」『流通科学研究』 Vol.8 No.2 平成 21 年 3 月 21-30 頁をじはじめ、 「沖縄県農産物のブランド化~マン ゴーとゴーヤを対象に~」『中村学園大学・短期大学部研究紀要』第 47 号、67-75 頁な ど。 3)安田亘宏、中村忠司、吉口克利、小畑綾乃『島旅宣言~アイランド・ツーリズムの実 態と展望~』教育評論社、2009 年に日本全国を対象とした多くの島の事例が掲載されて いる。 4)マウチンホの観光マーケティングとは、観光組織が観光客の最適的な満足の達成と組 5 織目標の最大化のために、観光商品をつくり、適合させるように、局地的・地域的・国 家的ならびに国際的なレベルで観光客のニーズ・欲望および動機を確かめ、それに影響 を与える、顕在的・潜在的な観光客を選定し、観光客に伝達するマネジメント・プロセ ス で あ る 。 S.F.Witt & L.Moutinho eds, Tourism Marketing and Management Handbook, Prentice Hall, 1989, p259. 5)片山富弘編『地域活性化の試論~地域ブランドの視点~』五絃舎、2014 年、15~21 ページに地域活性化の構図に関する 4 つのマーケティング・スタイルが記述されている。 ■質疑応答 ・離島の活性化で成功している島はありますか。(男澤会員) →福岡県の能古島や愛媛県の直島(アートミュージアム)などがある。島の活性化につい ては島民の協力体制が必要である。(片山氏) ・北海道夕張市のような財政問題がある地域、島のコンセンサスづくりが重要であるかと 思うが。(山田会員) →強いリーダーシップを持った方がいることが重要である。(片山氏) ・高島には歴史的に見るものはないのですか。(堀川会員) →宝当神社か、高島バーガー(アジフライ)ぐらいしかない。高島バーガーを商品化しよ うとしたが、トラブルがあり中止となった。(片山氏) (報告要旨は報告者が、質疑応答は事務局にて作成した) 第2報告 発表者:山田啓一氏 発表者:山田啓一氏( 山田啓一氏(中村学園大学教授) 演 題:「東南アジアにおける貧困問題とマイクロファイナンス 「東南アジアにおける貧困問題とマイクロファイナンス」 東南アジアにおける貧困問題とマイクロファイナンス」 ■報告要旨 1. はじめに 1976 年にバングラデシュでユヌス博士により創始されたマイクロファイナンスは、貧困 者の自立支援策としてその有効性が認められ、現在では世界各国に普及しつつある(日本 にはまだない)。本報告では、2014 年 8 月および 2016 年3月にフィリピンで行った現地 調査の結果を踏まえて、フィリピンにおける貧困支援策としてのマイクロファイナンスに ついて報告を行った。 2. マイクロファイナンスとは何か マイクロファイナンスは、貧困者および低所得者の家庭および小規模事業に対する、貯 蓄、貸付、支払、送金、および保険を含む幅広い範囲の金融サービスの提供である(アジ ア開発銀行 2000)。 6 マイクロファイナンスサービスは、①農村銀行および協同組合のような公式機関、②非 政府組織(NGO)のような準公式機関、③高利貸しおよび商店主のような非公式ソース、 の3つのタイプのソースにより提供されるが、制度的なマイクロファイナンスは、公式お よび準公式の組織により提供されるマイクロファイナンスサービスを含むものと定義され る(アジア開発銀行 2000)。 3. マイクロファイナンスの歴史 マイクロファイナンスは、1976 年、ムハマド・ユヌス博士がバングラデシュのジョブラ 村で 42 世帯に 27 ドルを貸したところから、マイクロファイナンスを行うグラミン銀行と して始まった。1993 年、世界銀行開催の世界飢饉会議でユヌス博士が講演し、グラミン銀 行とマイクロファイナンスの活動が世界に知れるようになった。1997 年、マイクロクレジ ット・サミットが開かれ、2005 年までに 1 億世帯にマイクロクレジットが普及させるた めの世界的なキャンペーンが提案された。その後、マイクロファイナンスが世界中に普及 して現在に至っている(Yunus 1997)。 4. マイクロファイナンスの運営機関 Ledgerwood (1999)は、マイクロファイナンスの運営機関を公式機関、準公式機関、非 公式プロバイダーとしたうえで、公式機関として、公的開発銀行、私的開発銀行、貯蓄銀 行と郵便貯金銀行、商業銀行、ノンバンク金融媒介、半公式機関として、信用組合、多目 的協同組合、非政府組織(NGO)、自助グループ、非公式プロバイダーとして、金貸し、 金貸しとしての商人・家主等、自助グループ、無尽、家族と友人、をそれぞれあげている。 5. レモン問題と逆選択、モラルハザード マイクロファイナンスを考える際にまず検討されるべきは、レモン問題(逆選択)とモ ラルハザードについてであろう。レモン問題は Akerlof (1970)によって提起された問題で、 取引の売り手と買い手との情報の非対称性から生じる「逆選択」の問題であり、 「財・サー ビスや取引の内容に関する情報が買い手によく知られていないため、不良品や欠陥商品だ けが市場で取引され、結局市場が成り立たなくなる問題(菅 2009)」である。 また、モラルハザードは、 「代理人が、依頼人のためにある仕事をするときに生じる問題 であり、依頼人が代理人の行動を完全には監視できない場合、代理人は、依頼人が望まし いと考えるほど努力しない傾向がある」というものである(Mankiw 2009)。 マイクロファイナンスの市場では、逆選択は「契約前に借り手が返済意思のないことを 貸し手に隠して取引を行うなど『隠された情報』によって引き起こされる現象」を指し、 モラルハザードは「契約後に借り手がいったん融資を受けてから個人破産をすればよいと して返済しないなど「隠された行動」により引き起こされる現象」とされる(菅 2009)。 7 6. マイクロファイナンスのサービス Ledgerwood (1999)は、統合アプローチとして、金融媒介、社会媒介、企業開発サービ ス、社会サービスの4つをマイクロファイナンスの対象としている。金融媒介としては、 運転資本、固定資産ローン、貯蓄、保険を、社会媒介として、グループづくり、リーダー シップのトレーニング、共同学習を、企業開発サービスとしては、マーケティング、ビジ ネス・トレーニング、生産トレーニング、サブセクター分析を、社会サービスとして教育、 健康と滋養、読み書きのトレーニングを、それぞれあげている。 このようにマイクロファイナンスは一般的に金融機関が専ら金融媒介としての機能に留 まるのとは異なり、社会媒介、企業開発サービス、社会サービスを含む総合的な活動を行 うことにより、貧困者を支援するものである。 7. フィリピンにおけるマイクロファイナンス フィリピンにおけるマイクロファイナンス産業は、銀行(農村銀行、貯蓄銀行、協同組 合銀行)、協同組合、非政府組織(NGO)の3つのタイプのマイクロファイナンス機関(リ テール機関)が顧客に対して金融業務を行っているが、これらのマイクロファイナンス機 関に対して政府系金融機関および民間金融機関がホールセール金融を行うという構造にな っている(関屋・伊藤 2002)。 フィリピンでは、1989 年、農業省の農業金融政策評議会(ACPC)がグラミン銀行への スタディツアーを実施、27 の NGO の関係者が参加した。1996 年には、主要なマイクロ ファイナンスの NGO が米国国際開発庁(USAID)の支援を受けて共同で業績標準を策定 した。1997 年、全国金融評議会(NCC: National Credit Council)が全国マイクロファイ ナンス発展戦略を策定、マイクロファイナンスを公式に認知し、1998 年、農村銀行協会 (Rural Bankers Association)が零細企業向けの金融サービス戦略を打ち出し、80 を超 える農村銀行がマイクロファイナンスに参入するようになった。 2000 年には NCC の主導により、マイクロファイナンス評議会(Microfinance Council of the Phlippines)が結成された。また同年に銀行法(General Banking Law)が改正さ れ、フィリピンの中央銀行がマイクロファイナンス業務の規制と指導にかかわるための法 的基礎がつくられた。なお、協同組合は、1990 年施行の協同組合法により、土地の購入、 組合員の預金受け入れ、貸付ができるようになった。 8. 事例1 CARD MRI 2016 年 3 月 21 日午前 9 時、サンパブロシティ(San Pablo City)にある CARD MRI 本部を訪問し、MRI グループの創設者で最高幹部であるアリップ博士(Dr. Jaime Aristotle B. Alip ) と 広 報 担 当 デ ィ レ ク タ ー で あ る フ ィ ギ ュ ラ シ オ ン さ ん ( Ms. Cleofe M. Fuguracion)と面談を行った。 8 CARD MRI は、1986 年に非営利法人として政府に登録された Center for Agriculture and Rural Development, Inc. (CARD)を中核組織として発展した。当初、CARD は農村の 土地なし住民を組織化し、農業指導や貸付等によってその生活向上を図る NGO として活 動を開始し、1990 年頃より、マイクロクレジット事業を開始した。 その後、NGO としてマイクロファイナンス事業を拡大しつつ、別途マイクロクレジッ ト専門の CARD Bank という銀行、マイクロ保険を扱う共済組合の CARD MBA を設立し、 現在では、中小企業専門銀行、経営開発財団、保険代理店、リース会社、薬局チェーンを 含む 11 の組織からなるソーシャル・ビジネス集団に成長している。 CARD MRI は、2008 年にアジアのノーベル賞といわれるラモン・マグサイサイ賞(社 会奉仕部門)を受賞している。 ニューズアップデート 2 月号によれば 2016 年1月現在における CARD MRI の総会員 数(口座数)は 3,156,323 人、スタッフおよびパートナーは 12,088 人、事務所は 2,114 か所となっている。 CARD グループの事業概要は図表のとおりである(関屋・伊藤 2002 に筆者が加筆・修 正)。 機関名 CARD Inc. CARD Bank Inc. 設立 1986 1997 CARD Mutual Benefit Association Responsible Investments for Solidarity & Empowerment (RIZE) Financing Company Inc. CARD MRI Development Institute CARD MRI Insurance Agency 1999 2000 CARD SME Bank CARD Business Development Services Foundation Inc. CARD MRI Information Technology Inc. BotiCARD Inc. Rizal Bank Inc. 2007 2008 概要 マイクロファイナンス NGO フィリピンで NGO が開設したマイクロファイナンス の農村銀行の第 1 号 マイクロ保険サービス 貧困者の連帯と社会進出(エンパワーメント)のため のファイナンシャルニーズに応えるための投資および 貸付を行う スタッフ、顧客、外部への研修 保険会社と提携し様々な保険ニーズに対応(非会員も 対象) マイクロファイナンス卒業生の金融ニーズに対応 会員向け BDS サービス 2010 グループのデータベース管理 2011 2013 CARD Leasing and Finance Corp 2013 CARD Pioneer Microfinance Inc. 2013 安価で良質な薬の販売 1996 年に創設されたマイクロファイナンス志向の農 村銀行、2013 年に CARD MRI 傘下に併合された リースとファイナンスを行う。顧客は CARD MRI に とどまらず一般の顧客も対象とする Pioneer Life Inc.と合弁で作ったマイクロ保険会社 9. 事例 2 2006 2007 PRRM PRRM は Philippine Rural Reconstruction Movement の頭文字をとったもので、 「フィ リピン農村再建運動」と訳されている。大手の非政府組織(NGO)の一つであり、1952 年から活動を行ってきた。2016 年3月 14 日、ケソン市にある PRRM 本部を訪問し、副 代表の Beckie Malay さん、Dondon さんと面談を行った。 9 PRRM の現在の活動は、ルソン島、ヴィサヤ地区、ミンダナオ島にかけて広範な地域に わたっている。PRRM の主要な活動は、持続可能な地域総合開発プログラム(SRDDP: Sustainable Rural District Development Programme)に基づいて実施されてきた。これ は、①エコシステム(生態系)の考慮、②ある程度の規模、③地域からの開発、④貧しい 人びと自身の開発、⑤社会インフラの創設、⑥持続可能な開発、という特徴をもつ(北沢 1998)。 具体的なプログラムの内容は、①持続可能な農業開発(「緑の革命 」から有機農法への 転換、傾斜地農業技術、資源再生プログラム等)、②地域レベルの小規模加工業開発(持続 可能な農業を支える小規模な工業の発展、付加価値の高い製品の開発と雇用機会の拡大)、 ③オルタナティブな流通・マーケティング開発、④オルタナティブな金融システム開発(マ イクロファイナンス)、⑤コミュニティレベルの天然資源管理開発、⑥コミュニティレベル の社会サービス部門開発(女性組織・コミュニティ組織等による自立、自助の原則に立っ た基本的な保険サービス、生涯教育、廃棄物管理、災害対策等)、となっている。 PRRM は農村の再建を農村の人びとの自助努力で行うための総合的な支援を行ってい る。マイクロファイナンスはその中で経済的な支援を行う活動として実施されている。 PRRM のマイクロファイナンス事業(マイクロファイナンスおよび関連事業)は、PRRM によって設立された PRRM Microfinance Inc.によって行われている。同社は、2010 年に 証券取引委員会(SEC)に登録され、営業を開始した。 PRRM Microfinance Inc.の業務内容はつぎのとおりである。 ①PRRM のパートナーもしくは協力機関に限定されないマイクロファイナンスとその 他のサービスの提供 ②PRRM の活動を持続させるための PRRM 自体のファンドのプールの開発 ③PRRM 自体の人的資源のプールの開発 ④第一線で活動する人たちの能力開発のための内部のトレーニングセンターの開発 ⑤PRRM Microfinance Inc.は、貧困者の人びとの生活改善のツールとしての社会起業 (ソーシャルアントレプレナーシップ)の原理に従うべきものであること、すなわち収益 性、特定のセクターもしくはコミュニティへの貢献、環境の持続性の3つの成果の達成を 行おうとする極小規模もしくは小規模の起業家の開発を支援すること 10. フィリピンにおける現地調査 Morduch ら(2009)は、貧困者の生活実態と財政状況を調査するために、ファイナン シャル・ダイアリーという手法を使って、インド、バングラデシュ、南アフリカの3か国 において継続的な調査を行った。その結果、貧困者の収入特性として、①少額、②不定期、 ③予測不可能という特性が発見された。そして、必要な資金のやりくりを行う際に、さま ざまな手段を組み合わせて行っていること(ポートフォリオ)が判明した。 10 われわれの現地調査は、この Morduch らの研究成果をもとに、①貧困家庭では多様な 金融ツール(手段)を組み合わせて資金のやりくりをしている、②日常生活においては資 金のやりくりが何とかできるが、ひとたび事故や病気、災害等が起きると資金繰りに窮し てしまう、③このとき、マイクロファイナンスやマイクロインシュランスが有効である、 という3つの仮説を立て、それを実証するという形で行われた。この実態調査は 2014 年 8 月 22 日~23 日にかけて、フィリピンのマニラ首都圏カロオカン市にあるバゴングシラン グという場所にて、20 名のお母さんたちに対するインタビューおよび 104 家庭を対象と するアンケート調査という形で実施された。調査結果、わかったことはつぎのとおりであ る。 対象となった家族では、2/3の家庭が日常生活においては必要な収入を得ていると答 えているが(1/4の家庭では足りないと答えている)、収入が足りないときには、約 7 割の家庭が借金をすると答えている。その手段としては親戚やご近所が約6割を占め、マ イクロファイナンスは約2割であった。その理由として、まずマイクロファイナンスが約 半分の家庭では認知されておらず、認知している 4 割の家庭においても利用しているのは 3 割強にすぎないことが示された。その理由として、信用できる、借入条件が明確である、 低利であるというメリットはあるものの、借入審査が厳しい、返済に融通性がない、使用 目的が自由でないというデメリットがあることが判明した。 また、資金繰りを圧迫する重要な要因として、重傷および重病が 6 割弱、自然災害が 2 割強を占め、事故や病気、災害などのリスクファイナンスが重要であることが示された。 さらに入院費の支払いにマイクロファイナンスやマイクロインシュランスの利用ニーズが ともに 6 割弱を占めることも判明した。 マイクロファイナンスおよびマイクロインシュランスはまだ認知度が高くないものの、 今後は緊急時の資金切りや費用の充当等に有効であり、利用が拡大していくものと考えら れる。 11. マイクロファイナンスの課題 マイクロファイナンスの課題について最後に提示することにしたい。 ①継続事業体(ゴーイングコンサーン)として機能するために、返済見込みの小さい最底 辺の貧困者が取り残されてしまうこと(彼らこそが経済的支援が必要であるにも関わらず)。 ②返済期間が短く、金額も少なく、金利が高いこと(起業資金としては必ずしも適当では ない) ③融資条件および審査が厳しく利用しづらいこと(連帯保証など。例えばグラミン銀行で は女性 5 人がグループとなり、1 人ずつ順番で借入ができるようになっているが、前の人 が返済しないと次の人は借りることができない等) ④用途制限があり、利用しづらいこと 11 12. おわりに 貧困問題の解決は、貧困者自らが発起して(内発的)、自助努力をしながら(自力更生)、 成長していくことが前提である。貧困者の支援を行う各種機関においても、それを前提と して援助や協力を行っていくことが大切である。貧困者が自立していくプロセス(生存→ 社会参加→自立)の中で、必要となる資源を経済的に支援する方策の一つとしてマイクロ ファイナンスおよびマイクロインシュランスは有効であり、急速に広まっている。これは、 貧困者個人のレベルにとどまらず、コミュニティレベルにおいても有効である。地域づく りを通して地域の活性化を図り、そこで暮らす人びとの生活を豊かなものにすることによ り、地域として貧困状態から脱却することが可能になるからである。 参考文献 Akerlof, George A. “The Market for “lemons”: Quality Uncertainty and the Market Mechanism,” The Quarter Journal of Economics, Vol. 84, No.3., pp.488-500, 1970. Asian Development Bank. (2000). Finance for the Poor: Microfinance Development Strategy, Asian Development Bank. Ledgerwood, Joanna. (1999). Microfinance Handbook: An Institutional and Financial Perspective, the World Bank. Mankiw, N. Gregory. (2004). Principles of Economics, Third Edition, South-Western, a division of Thomson Learning. (足立英之・石川城太・小川英治・地主敏樹・柳川隆訳 『マンキュー経済学第 2 版Ⅰミクロ編』東洋経済新報社、2005 年) Morduch, Jonathan, Stuart Rutherford, Daryl Collins, and Orlanda Ruthven. (2009). Portfolio of the Poor: How the World’s Poor Live on $2 a Day, Princeton, NJ., Princeton University Press.(野上裕生監修・大川修二訳『最底辺のポートフォリオ-1日2ドルで 暮らすということ』みすず書房、2011 年) Yunus, Muhammad with Alan Jolis. (1997). Vers un Nonde Sans Pauvete, Editions, Jean-Claude Lattes.(猪熊弘子訳『ムハマド・ユヌス自伝―貧困なき世界をめざす銀行家』 早川書房 1998 年) 菅正広(2009)『マイクロファイナンス―貧困と闘う「驚異の金融」』中央公論社 北沢洋子(1998) 『開発は人びとの手で―NGO の挑戦:フィリピン農村再建運動(PRRM)』 アジア太平洋資料センター 関屋宏彦・伊藤友見(2012)「マイクロファイナンス産業の新たなビジネスモデル展開に ついての調査」日経研月報、2012 年 8 月、研究員リポート 山田啓一(2015)「アジアビジネスに関する研究―フィリピンマニラ首都圏カロオカン市 における BOP 層の生活実態に関する現地調査結果について」中村学園大学『流通科学研 究』第 14 巻 2 号、pp.169-175 12 ■質疑応答 ・マイクロファイナンスの審査基準はあるのですか。(片山会員) →担当者の綿密な付き合いのなかで決定している。申込者は女性が多く、グラミン銀行で は 9 割以上が期限内に返済されている。(山田氏) ・マイクロファイナンスとインシュランスは分けて考えたほうがよい。また、CARD MRI の財源は何ですか。(甲斐会員) →当初はマイクロクレジットがあり、この時は事業支援であった。その後、マイクロファ イナンス、インシュランスへ移行していった。金利は高いし、ビジネスは簡単には成立 しない。CARD MRI の財源は、政府系金融機関と民間金融機関の投資による。 (山田氏) ・保険料はどのくらいですか。(片山会員) →金額はわからないが、保険料は安い。逆に医療費が高く、入院しても支払いができない 人もいる。(山田氏) ・20 人の母親にインタビューされているが、マイクロファイナンスを借りた人は 2 割です ね。また、その用途(目的)、金利などわかりますか。(中野会長) →インド人がやっている高利貸しは使い勝手がよく利用されている。マイクロファイナン スは用途が限定的であり使い勝手が悪い。いずれにしても仕事がないことが大きい。農 村の活性化対策が重要である。用途や金利などは今後、調べることにする。(山田氏) (報告要旨は報告者が、質疑応答は事務局にて作成した) 第3報告 発表者:甲斐諭氏 発表者:甲斐諭氏( 甲斐諭氏(中村学園大学教授) 演 題:「アジアの高齢化と医療費削減への取組み~筑前町の住民アンケート調査からの 「アジアの高齢化と医療費削減への取組み~筑前町の住民アンケート調査からの 示唆~」 示唆~」 ■報告要旨 1.研究の背景と 1.研究の背景と目的 背景と目的 日本人の平成 27 年の平均寿命は、厚生労働省の「平成 27 年簡易生命表」によれば男性 が 80.79 歳、女性が 87.05 歳となり、それぞれ前年より延伸し、我が国の高齢化(65 歳以 表1 世界の高齢化(65歳以上人口比率)の見通し (単位:%) 齢化の現状をみると、2010 年が 7.6%であり、2050 年でも 16.0% 2010 2050 世界平均 7.6 16.0 に過ぎないが、我が国では急速に高齢化が進み、同期間に 23.0%か 日本 23.0 38.8 高速 韓国 11.1 35.1 ら 38.8%になると見通されている。同様に韓国は 11.1%から 35.1% 高齢化国 タイ 8.9 30.1 に、タイでは 8.9%から 30.1%に高速スピードで高齢化が進んでい インドネシア 4.9 14.0 低速 インド 5.1 13.7 高齢化国 る。一方、インドネシア、インド、フィリピンでの高齢化は比較的 フィリピン 4.2 9.7 資料:総務省統計局HPより作成。 低速スピードである。 上人口比率)が一段と進んでいることが分かる。表1から世界の高 国立社会保障・人口問題研究所「平成 24 年度社会保障費用統計」によれば、我が国の 13 社会保障給付費(年金・医療・福祉その他を合わせた額)は平成 24 年度の 108 兆 5,568 億円と過去最高水準となり、国民所得に占める割合は昭和 45 年の 5.8%から 30.9%に上昇 している。特に、社会保障給付費のうち、高齢者関係給付費は 68.3%の 74 兆 1,004 億円 となり、国民所得に占める割合は 21.1%になっている。 アジアの各国で高齢化が進めば、高齢化に起因した医療費が嵩み、官民とも経済発展の ためのインフラ整備や教育再生のための投資の財源が不足し、長期的にみると国力の劣化 に繋がる。 本研究では、アジアの進展する高齢化の現状を踏まえ、医療費の増嵩を抑えながら経済 発展するためには国民の各個人はどのように健康を維持し、健康寿命の延伸(健康に過ご せると期待される平均的な年数)のためには何をすべきか、福岡県朝倉郡筑前町における 住民アンケート調査を通して考察するのが目的である。 2.研究の方法 福岡県朝倉郡筑前町では高齢者医療費が近年増加し、その解決のためには高齢者の健康 寿命の延伸が町の大きな課題の一つになっていた。ちなみに、同町の平成 26 年 12 月末日 現在の人口 29,643 人(男性 14,126 人,女性 15,517 人)であり、 65 歳以上の高齢者は 7,770 人(男性 3,256 人,女性 4,514 人)で、全人口の 26.2%(男性 23.0%,女性 29.1%) を占めており、同年の日本全国の高齢化率(25.9%)とほぼ近似していた。 高齢者の健康寿命の延伸には、食と健康と運動と社会性の4つのポイントが重要と考え、 詳細なアンケート票を作成し、同町の全面的協力を受けて、同町在住の高齢者を対象にア ンケート調査を平成 26 年 10 月から 11 月にかけて実施した。アンケート調査の対象は、 老人クラブに属する高齢者(アンケート票を 145 部配布、102 部回収、回収率 70%)と地 域サロンに集う高齢者(54 部配布、54 部回収、回収率 100%)である。199 部配布し、 156 部回収した。回収率は 78.4%であった。 有効回答(一部欠損値を含む)は 131(男性 44、女性 87)部(有効回答率は 66%)で あり、さらに女性の有効回答 87 名を健康と不健康の2つのグループに分割した。その分 類の方法は、アンケート票の問(「現在のあなたの健康状態は、いかがですか?」)に対す る回答で、 「よくない」、 「あまりよくない」を不健康グループとし、 「ふつう」、 「まあよい」、 「よい」を健康グループとした。その結果、健康が 66 名、不健康が 19 名であった。 本研究では男女別と女性の健康不健康別の有意差検定を行ったが、紙幅の関係で女性の 分析結果のみを表示する。分析には IBM 製 SPSS(versin.22)を用いてt検定とχ2 検定 を行った。 3.福岡県筑前町の住民アンケート調査を用いた女性の健康不健康別分析の結果と考察 (1)分析対象者の健康の状況 14 健康の状況をみると不健康な人は「よくない」が 15.8%で、 「あまりよくない」が 84.2% である。不健康な人は、健康な人に比較して糖尿病、脂質異常症、高血圧症、動脈硬化症、 腰痛症、ひざの痛み、骨粗しょう症、目の病気などが多い。健康状態と体型の関連性につ いて分析を行ったところ有意であった(χ2=20.663, df=4, p<0.001)。不健康な人は「や せている」と思っている人が多い。 健康状態と排便状況の関連性について分析を行ったところ有意であった(χ2=14.860, df=4, p=0.005)。不健康な人は排便に問題がある人が多いと推察される。 (2)分析対象者の食生活の状況 健康状態と食事をおいしく食べているかの関連性について分析したところ、有意であっ た(χ2=11.403, df=3, p=0.01)。不健康な人は食事をおいしく食べていない人が多いと推 察される。 表2に種実類(ピーナツ、ゴマなど)を 1 週間に食べる頻度と健康状態を示す。両者の 関連性について分析を行ったところ有意であった(χ2=16.612, df=3, p=0.001)。不健康 な人は種実類を食べない人が多いと推察される。表3の嗜好飲料(緑茶、無糖コーヒーな ど)を 1 週間に飲む頻度と健康状態を分析したところ有意であった(χ2=12.314, df=3, p =0.006)。不健康な人は嗜好飲料を飲まない人が多いと推察される。 表2 表3 (3)分析対象者の運動の状況 健康状態と無理なく気持ちよく体を動かすことができるかの関連性について分析したと ころ有意であった(χ2=29.690, df=3, p<0.001)。表4の健康状態と 1 日 30 分以上運動を しているかの関連性について分析したところ有意であった(χ2=10.922, df=5, p<0.053)。 不健康な人は 1 日 30 分以上運動をしていない人が多いと推察される。 表5の健康状態と気分転換として趣味を楽しむことができるかの関連性について分析し たところ有意であった(χ2=14.996, df=3, p<0.002)。不健康な人は気分転換として趣味 を楽しむことができる人が少ないと推察される。 15 表4 表5 (4)分析対象者の社会性の状況 表6の健康状態と不満、悩み、苦労、ストレスを処理できると思うかの関連性について 分析したところ有意であった(χ2=9.594, df=3, p=0.022)。不健康な人は不満、悩み、苦 労、ストレスを処理できると思う人が少ないと推察される。表7の健康状態と大きな悩み との関連性について分析したところ有意であった(χ2=10.030, df=4, p=0.040)。不健康 な人は体や病気のことに悩んでいる人が多いと推察される。 表8の健康状態と地域活動の参加状況との関連性について分析したところ有意であった (χ2=11.544, df=3, p=0.009)。不健康な人は地域活動に参加していない人が多いと推察 される。 表44 表6 不満、悩み、苦労、ストレスを処理できると思うか (女性回答者) (単位:人、%) 健康 不健康 人数 割合 人数 割合 全く処理できていない 1 1.5 2 10.5 あまりできていない 6 9.1 4 21.1 何とか処理できている 36 54.5 12 63.2 十分できている 22 33.3 1 5.3 無回答 1 1.5 0 0.0 計 66 100.0 19 100.0 表7 表45 大きな悩みは何か (女性回答者) (単位:人、%) 健康 不健康 人数 割合 人数 割合 経済的なこと 3 4.5 0 0.0 体や病気のこと 9 13.6 7 36.8 家族のこと 15 22.7 5 26.3 近所付き合いのこと 2 3.0 2 10.5 特に悩みはない 34 51.5 4 21.1 その他 0 0.0 0 0.0 無回答 3 4.5 1 5.3 計 66 100.0 19 100.0 表49 地域活動に参加しているか (女性回答者) 表8 健康 人数 していない どちらかといえば、していない どちらかとえいば、している している 無回答 計 1 2 15 46 2 66 割合 1.5 3.0 22.7 69.7 3.0 100.0 (単位:人、%) 不健康 人数 割合 4 21.1 0 0.0 6 31.6 9 47.4 0 0.0 19 100.0 4.研究の要約と結論 我が国は超高齢化時代となり、国民の長命化により日常生活に制限のある不健康な期間 が長くなる傾向にある。それにより個人的には医療費が嵩み、行政は保険料支払いよる財 政の圧迫に苦しむ事態になっている。そのためいま我が国では健康寿命の延伸が大きな社 会的課題の一つになっている。 16 高齢者の健康寿命の延伸には、食と健康と運動と社会性の4つのポイントが重要と考え、 アンケート票を作成し、筑前町の全面的協力を受けて、同町在住の高齢者を対象にアンケ ート調査を実施した。得られた 131 名分の有効回答について男女別分析と女性の健康不健 康別分析を行ったが、紙幅の都合上、女性の健康不健康別分析結果のみを表示した。 ここでは男女別分析も含めて分析から得られた結果を要約する。 (1)分析対象者の健康の状況 病気については男女ともに高血圧症が最も多く、第 2 位は男性が糖尿病、女性ではひざ の痛みであり、第 3 は男女とも目の病気であった。特に女性のうち不健康な人は、健康な 人に比較して糖尿病、脂質異常症、高血圧症、動脈硬化症、腰痛症、ひざの痛み、骨粗し ょう症、目の病気などが多い。 男女別分析では、男性と女性には健康の状況について特に有意差は認められなかったが、 女性の健康不健康別別分析では、健康な人は不健康な人に比較して次の点に有意差がある ことが明らかになった。 ①「やせている」と思っている人が少ない。②排便に問題がある人が少ない。 (2)分析対象者の食生活の状況 男女別分析では、女性は男性に比較して次の点に有意差があることが明らかになった。 ①間食が多く、②食事や栄養についての関心が強い。③1週間に食べる大豆、牛乳・乳製 品、緑黄色野菜、他の野菜、きのこ類、果物類、種実類、油脂類、菓子類、漬物類の頻度 が高い。④食事を作る頻度が高く、食事を作る補助者がいない。 女性の健康不健康別別分析では、健康な人は不健康な人に比較して次の点に有意差があ ることが明らかになった。①食事をおいしく食べている人が多い。②1 週間に食べる種実 類(ピーナツ、ゴマなど)の頻度が高い。③1 週間に飲む嗜好飲料(緑茶、無糖コーヒー など)の頻度が高い。 (3)分析対象者の運動の状況 男女別分析では、女性は男性に比較して次の点に有意差があることが明らかになった。 ①ロコモティブシンドロームを知っている人が多い。②気分転換として趣味を楽しむこと ができる人が多い。 女性の健康不健康別別分析では、健康な人は不健康な人に比較して次の点に有意差があ ることが明らかになった。①無理なく気持ちよく体を動かすことができる。②腰痛や膝痛 により外出に支障がある人が少ない。③1 日 30 分以上運動をしている人が多い。④ロコモ ティブシンドロームを知っている人が多い。⑤気分転換として趣味を楽しむことができる 人が多い。 17 (4)分析対象者の社会性の状況 男女別分析では、女性と男性には社会性について特に有意差は認められなかったが、女 性の健康不健康別別分析では、健康な人は不健康な人に比較して次の点に有意差があるこ とが明らかになった。①不満、悩み、苦労、ストレスを処理できると思う人が多い。②体 や病気のことに悩んでいる人が少ない。③地域活動に参加している人が多い。 以上の筑前町におけるアンケート調査の分析結果を通して、アジアにおける高齢化時代 の医療費削減には以下のことが必要であることが明らかになった。 ①高齢者を対象に主に高血圧と糖尿病の解決に向けた料理講習会などを開催し、カリウ ムやカルシウム、マグネシウムなどのミネラルを多く含む食品をより多く摂取するととも に、逆にカロリー(エネルギー)を必要以上には摂取しないことの重要性について更に啓 発する。 ②高齢者を対象に運動講習会を開催し、ロコモティブシンドロームの解消のために身体 運動に関わる骨、筋肉、関節、神経などの運動器の老化防止対策として、1 日 30 分以上の 運動を励行し、加えて気分転換することの必要性を認識する機会を作る。 ③高齢者を対象にしたサークル活動を活発にし、またイベントなども数多く開催して、 高齢者がより多くの人と交わり、不満、悩み、苦労、ストレスを解消できる機会を提供す ることが重要である。 超高齢社会に入った我が国はじめアジアの各国においては、健康寿命の延伸により医療 費を削減する取り組みがますます重要な政策課題になっていると言えよう。 参考文献 〔1〕甲斐諭「筑前町における食と健康に関する調査~男女別分析~」 『筑前町“食をテー マに”まちづくり平成26年度事業』2015年3月、PP.5-21. 〔2〕甲斐諭「筑前町における食と健康に関する調査~女性の健康不健康別分析~」 『前掲 書』PP.23-39. 〔3〕大和孝子「筑前町における食と健康に関する調査~食生活分析~」『前掲書』PP. 41-64. 〔4〕音成陽子「筑前町における食と健康に関する調査~運動習慣と休養の実態分析~」 『前掲書』PP.65-92. 〔5〕本間学「筑前町における食と健康に関する調査~社会参加、口腔、飲酒・禁煙、健 康管理分析~」『前掲書』PP.93-106. 〔6〕音成陽子「筑前町高齢者における運動習慣の実態」 『流通科学研究』15巻1号、2 015年9月、PP.1-12. <追記> 本研究は、筑前町の全面的な協力を得て、本学流通科学部音成陽子准教授、栄養科学部 18 大和孝子准教授、本間学准教授と実施した共同研究における筆者の分担部分の成果である。 筑前町と上記3名の同僚に感謝の意を表する。 ■質疑応答 ・筑前町の平均寿命と健康寿命はありますか。(片山会員) →筑前町のデータはない。(甲斐氏) ・今後は野菜を食べる運動をしたい。(甲斐氏) ・今回のアンケート調査では、結果と原因が整理されているのですか。(片山会員) →今回は 200 項目について、男女別、健康、不健康、中間といったカテゴリー別に結果と 原因を調査・分析している。(甲斐氏) (報告要旨は報告者が、質疑応答は事務局にて作成した) 19
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