抗甲状腺薬を内服しながら妊娠、出産しても子どもには問題は生じないか

抗甲状腺薬を内服しながら妊娠、出産しても子どもには問題は生じないか
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妊娠中に薬を服用することについては、多くの方が不安を感じておられるでしょう。抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパ
ジール)においては、胎児の甲状腺機能に対する影響と、抗甲状腺薬による奇形の発生リスクについて正しく知ってお
いていただくことが重要です。
1. 胎児の甲状腺機能に対する影響
バセドウ病は甲状腺の TSH レセプターに対して抗体ができ、それが甲状腺を刺激するために甲状腺ホルモンの分泌
が過剰になる病気です。TSH レセプター抗体は胎盤を通過し、その結果胎児の甲状腺もこの抗体に刺激されます。こ
の時、母体が抗甲状腺薬を内服していることは好都合で、その薬も胎盤を通過して胎児の甲状腺に働き、胎児が甲状
腺機能亢進症にならないように抑えてくれます。つまり、母体に対する治療が胎児の治療にもなっているということで、
心配ありません。この点については、メルカゾールとプロパジールで差はありません。
2. 抗甲状腺薬による奇形の発生について
病気のない妊婦にみられる一般的な先天奇形については、妊娠中に抗甲状腺薬を内服してもその頻度は健常妊婦と
さいちょうかんいざん
さいたい
へそ
差はありません。しかし、メルカゾールを妊娠初期に内服した方の子どもに臍腸管遺残や臍帯ヘルニアなどという、臍
に関連した異常と、頭の皮膚の一部分が欠損している異常(頭皮欠損)が報告されました(注釈 1)。妊娠がわかってす
ぐにメルカゾールをやめた妊婦さんやプロパジールを妊娠中に内服していた妊婦さんでは、これらの異常はみられま
せんでした。以上のことから、妊娠初期はメルカゾールの内服は避けたほうが無難であると考えられています。
注釈 1:メルカゾールに関連する奇形としては、後鼻孔閉鎖、食道閉鎖、臍帯ヘルニア、臍腸管遺残、頭皮欠損が報
告されているが、わが国では後鼻孔閉鎖、食道閉鎖の報告は少なく、ほとんどは後の 3 つに関するものである。
3. 治療方針
近い将来に妊娠を希望するバセドウ病の方
① これから治療を始める方
プロパジールで治療を開始します。3 か月以上経って、一定量のプロパジールで甲状腺機能が正常にコントロール
されていれば妊娠可能です。
② メルカゾールで治療を受けている方
プロパジールに変更します。変更後 3 か月間様子を見て、副作用もなくプロパジールの継続が可能で、甲状腺機能
が正常にコントロールされていれば妊娠可能です。
③ プロパジールが副作用で使用できず、メルカゾールしか使えない方
1 日 1 錠前後またはそれ以下のメルカゾールでコントロールできている方は、以下に説明するメルカゾールを休薬す
る方法で奇形のリスクを最小限にできます。しかし、薬の必要量が多い方は妊娠初期に休薬すると病状の悪化が予
想されますので、下記のような休薬の方法が可能かどうか、奇形のリスク(裏面)を理解した上でメルカゾールを続け
るのか、あるいは薬以外の治療法(手術、アイソトープ治療)に変更するのかどうかを担当医とよくご相談ください。
メルカゾールを休薬する方法についてですが、理論的には妊娠 4 週に入る前にメルカゾールを中止して、妊娠 10
週になって再開すれば頭皮欠損以外のメルカゾールと関連する奇形の心配はないとされています(注釈 2)。しかし、
月経が遅れた時点はすでに妊娠 4 週に入っている場合も多く、休薬のタイミングは簡単ではありません。甲状腺機
能のコントロールが良ければメルカゾールを中止して妊娠を計画することが理想的です。それが難しい場合で、月経
が規則正しい 28 日周期の方は、予想される月経の数日前に一時的にメルカゾールを中止し、月経があればメルカ
ゾールを再開し、妊娠していれば必要に応じてメルカゾールの代わりとなるヨード剤で甲状腺機能亢進症の悪化を
抑えます。月経周期が 28 日でない方や乱れる傾向のある方の場合は、基礎体温を付けていただき、排卵日を妊娠
2 週 0 日として、計算上の 4 週に入る前にメルカゾールを中止する方法も可能です。
注釈 2:頭皮欠損についても、妊娠 8 週までが重要な時期と考えられているが、妊娠 15 週くらいまではリスクがあ
るという報告がある。ただし、発生してもほとんどの場合は保存療法や移植で完治可能である。
抗甲状腺薬内服中に妊娠されたバセドウ病の方
① プロパジール内服中に妊娠した場合
そのままプロパジールで治療を続けます。
② メルカゾール内服中に妊娠された場合
メルカゾールと関連する奇形の頻度は 2%程度で、そのほとんどは手術によって良くなるものです。中絶そのものに
もリスクがありますので、中絶をこちらから勧めるということはありません。メルカゾールと奇形に関して、現在分かって
いるすべての情報をまとめましたので(裏面)、妊娠を継続するかどうかお考え下さい。妊娠を継続する場合は、妊娠
の判明が妊娠 10 週に入った後であれば、そのままメルカゾールを継続します。妊娠 10 週に入る前に妊娠が判明し
た場合は、甲状腺機能亢進症の程度とメルカゾールの必要量を考慮して、可能であればメルカゾールをいったん中
止し、必要に応じてヨード剤を投与します。そして、妊娠 10 週以降にメルカゾールの再開を検討します。
すみれ甲状腺グループ
現在分かっているメルカゾールと奇形に関する情報
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きかんしょくどうろう
さいたい
メルカゾールに関連する奇形としてこれまで報告されているのは、後鼻孔閉鎖、食道閉鎖、気管食道瘻、臍帯ヘルニ
さいちょうかんいざん
さ い ち ょ うか ん ろ う
ア、臍腸管遺残、臍腸管婁、頭皮欠損などです。奇形ごとに頻度は異なりますが、3 千~2 万人にひとりくらいしか見ら
れない稀な奇形が、メルカゾールを内服していた方の子どもに見られたということで、メルカゾールを内服していると頻
度が上がる可能性があるのではないかと考えられています。ただ、これらの特殊な奇形は、妊娠初期にメルカゾールを
6 錠以上服用していた 112 人を調べたある調査では 1 例も見られていませんので、メルカゾールが関係するとしてもそ
れだけでは起こらないと考えられています。どのくらいの頻度でこのような奇形が起こるのか、これまで分かっていませ
んでしたが、最近日本で大規模な調査が行われ、妊娠初期にメルカゾールを服用していた方の児の 1.8%にメルカゾ
ールに関連した奇形が見られたと報告されました(2012 年)。
下の図はこの報告をまとめたもので、妊娠初期にメルカゾールを服用した 1,231 名、プロパジール(チウラジール)を服
用した 1,399 名、抗甲状腺薬を内服していなかった 1,906 名のバセドウ病の方を対象に、児の奇形の頻度を調べた結
果です。病気の無い健常妊婦で一般的に見られる奇形(メルカゾールと関連しない奇形)の頻度は、薬を内服してい
なかった方で 2.1%、プロパジールを服用していた方は 1.9%、メルカゾールを服用していた方も 2.2%と差はなく、バセ
ドウ病以外の方を含めた 92,256 名を対象にした全国調査の結果の 2.1%と同等でした。一方、メルカゾールを内服し
ていた方では、メルカゾールに関連すると考えられている奇形が 1.8%に見られました。その内訳は、頭皮欠損 7 例、
臍帯ヘルニア 6 例、臍腸管異常 7 例、食道閉鎖 1 例、食道狭窄 1 例の合計 22 例でした。これらのメルカゾール関連
奇形は薬を内服していなかった方とプロパジールを内服していた方には見られませんでした。
バセドウ病母体の児における妊娠初期治療別の奇形頻度
健常妊婦でも見ら
れる一般奇形, 2.1
投薬なし
健常妊婦でも見ら
れる一般奇形, 1.9
プロパジール
メルカゾール関連
奇形, 1.8
健常妊婦でも見ら
れる一般奇形, 2.2
メルカゾール
0
1
2
頻度(%)
3
4
この報告とは別に、メルカゾールの服用と奇形の関連性について現在進行中の全国調査が行われており、すみれ甲
状腺グループもこの調査に参加しています。まだ途中経過ですが、メルカゾールを内服していた 95 人の妊婦のうち 5
人の児に、臍帯ヘルニア、臍腸管遺残、頭皮欠損が見つかっています。幸いなことに、それらはすべて手術で良くなる
ものばかりでした。
このように、メルカゾールを妊娠初期に服用していると、その児にメルカゾールに関連した奇形の生じる可能性はありま
へそ
すが、頻度は 2%程度で、そのほとんどが臍に関係する奇形か、頭皮の一部分が欠損するものです。そして、それらの
ほとんどは生後の手術で良くなるものであるということです。
すみれ甲状腺グループ