肉用子牛の発育性向上のための飼料給与方法の検討(H17~19)

肉用子牛の
肉用子牛の発育性向上のための
発育性向上のための飼料給与方法
のための飼料給与方法の
飼料給与方法の検討
も り ゆ う す け
森
要
な か じ ま の ぶ き
や ま も と こ う じ
まつのぶよしひろ
祐介・中島伸樹・山本幸司*・松延義弘**
旨
近年、子牛の育成について、第1胃の発達の面で、育成前期には濃厚飼料(スターター)の役割が重要である
ことが示され、子牛の哺育育成において、この結果に基づいた新たな飼料給与方法が取り入れられつつある。
そこで、黒毛和種の子牛育成において、この考え方を応用した新飼料給与方法による発育性を比較検討した結
果、去勢雄子牛、雌子牛ともに良好な発育を示した。また、飼料費が低減されるとともに、枝肉成績において
も良好な成績であった。
このことから、哺乳期には粗飼料を給与せずスターターを積極的に給与し、育成期には濃厚飼料を制限して
粗飼料を飽食とする新飼料給与方法は有効であると考えられる。
Ⅰ
緒 言
子牛の発育性、商品性の向上に努めるため、平成10
年7月から、県畜産関係機関のプロジェクトチームに
よる子牛市場調査を実施し、出荷牛全頭について、デ
Ⅱ
材料及び
材料及び方法
1
試験期間及び供試牛
(1)試験期間
平成17年4月1日~平成19年3月31日
(2)供試牛
ータの収集・分析と還元を行っている。しかし、依然
当部内で生産された黒毛和種子牛13頭で、その内訳
として黒毛和種標準発育値と比較して平均を下回る子
は去勢雄子牛3頭(試験区2頭、対照区1頭)、雌子牛10
牛が20~40%出荷されており、更なる改善が必要であ
頭(試験区5頭、対照区5頭)を用いた(表1)。
る(図1)。
図1
表1
年度別上場子牛の発育ランク
供試牛及び生時体重
(3)給与飼料
スターターはCPの異なる2種類を使用し、28日齢ま
近年、子牛の育成について、胃の発達及び十分な栄
養摂取の観点 1) から、育成前期には濃厚飼料(スター
ター)、中・後期には粗飼料(乾草)の役割が重要であ
るということが示されている2)3)。
そこで、これらの報告を踏まえ、子牛の発育を改善
するために、発育時期に応じた飼料給与方法について
検討した。
*
現畜産振興課
**
現長門農林事務所畜産部
ではCP25.0%、以降91日齢まではCP20.0%のものを使用
した。
表2
給与飼料
2
毛和種正常発育曲線5) 上にプロットして比較した。
試験方法
(1)飼養管理
0~112日齢(哺乳期)の間は、母子分離が可能な牛房
表3
発育モデル
(分娩房)を使用し、試験区については朝夕2回の制限
哺乳を行った。また、112~252日齢(育成期)の間は、
試験区、対照区ともそれぞれ群飼育とした。
飼料給与方法については、図2に示すとおり、試験
区は濃厚飼料としてスターター及び育成用飼料を試験
開始(0日齢)から離乳時(112日齢)まで飽食とし、以降
試験終了時(252日齢)までは、育成用飼料を日齢に応
じて増量しながら上限を4.0kgとして給与した。粗飼
③飼料摂取量
料は90日齢まで無給与とし、以降試験終了時まで飽食
毎日の飼料給与量から残飼量を差し引いて算出し
とした。なお、スターターの早期摂取を促すため、強
た。また飼料費は、各飼料の摂取量と購入単価により
制的な経口給与による餌付けや生菌剤等の嗜好性のよ
算出した。
い添加剤の添加を行った。
④便の性状
対照区は「和牛『繁殖・子牛育成』飼養管理マニュ
福島らの報告6) を参考として、便の性状の違いによ
アル(全農山口、平成5年版)」4) の飼料給与方法に準
り5段階にスコア化し、表4に示す下痢スコアで評価し
じ、14日齢から濃厚飼料と粗飼料を日齢に応じて漸増
た。
させながら給与した。なお、育成用飼料及び粗飼料の
表4
下痢スコア表
給与量の上限をそれぞれ5.0kg及び3.5kgとした。
⑤枝肉成績
新飼料給与方法が枝肉成績に及ぼす影響を調査する
ために、試験区の2頭(雌)を肥育し、大阪市中央卸売
市場南港市場に出荷して、枝肉重量、ロース芯面積、
バラの厚さ、皮下脂肪厚、BMS №の5項目について調
査した。
図2
飼料給与体系
Ⅲ
結 果
(2)調査項目及び方法
①発育調査
生時から離乳時までは体重、体高、胸囲、腹囲の4
1
発育状況
(1)去勢雄子牛
項目、離乳後試験終了時までは体重、体高、十字部高、
体高については、試験区と対照区の両区において実
体長、胸深、胸幅、尻長、腰角幅、かん幅、坐骨幅、
測値が予測値を上回って推移しているが、試験終了時
胸囲、腹囲の12項目の測定及び栄養度の判定を行った。
の実測値と予測値の差は、試験区8.3cm、対照区2.5cm
②発育性の比較
であり、試験区の方が大きい傾向を示した。また、試
7日齢時の体重及び体高の実測値を基準として、表3
に示すとおり、体高はBrodyの発育モデル及び体重はG
omp-ertzの発育モデルにより、その後の発育値を予測
し、実測値とともに(社)全国和牛登録協会の定める黒
験区の体高は試験開始時には平均値以下を示したが、
終了時には上限を超えた(図3)。
体重についても、両区において実測値が予測値を上
回って推移しているが、試験終了時の実測値と予測値
の差は、試験区111.1kg、対照区90.0kgであり、試験
区の方が増体量が大きい傾向を示した。また、両区に
おいて試験開始時の体重は下限値以下であったが、終
了時には、試験区において上限を超えた(図4)。
図5
図3
雌子牛の体高における発育性
去勢雄子牛の体高における発育性
図6
2
雌子牛の体重における発育性
飼料摂取状況
(1)去勢雄子牛
図4
去勢雄子牛の体重における発育性
スターターの摂取量は試験区61.5kg、対照区114.5k
gと、試験区が対照区に比べ少なかったが、離乳後の
(2)雌子牛
体高については、対照区において試験開始時の体格
育成用飼料の摂取量は急激に増加し、4.0kg摂取到達
時の日齢は、試験区135日齢、対照区162日齢と試験区
が大きかったこともあり良好な発育を示したが、実測
の方が早かった。期間を通しての育成用飼料摂取量に
値と予測値の比較では、試験区は常に実測値が予測値
ついては、試験区を4.0kgに制限したため、試験区533.
を上回って推移しているのに対し、対照区は試験終了
6kg、対照区588.6kgと試験区の方が少なかった。
時には予測値を下回った。試験終了時の実測値と予測
粗飼料摂取量については、哺乳期には試験区におい
値の差は、試験区1.4cm、対照区-2.4cmであり、試験
て制限したため、試験区3.8kg、対照区28.0kgと試験
区の方が発育が良好な傾向を示した(図5)。
区の方が少なかった。育成期については離乳直後は少
体重については、体高と同様に対照区の方が良好な
なかったが、その後は急激に増加し、試験終了時には
傾向を示したが、日齢が進むとともに実測値と予測値
対照区を上回った。育成期間中の総摂取量は、試験区
の差は試験区の方が大きくなり、試験終了時には、そ
366.4kg、対照区333.3kgと試験区の方が多い傾向がみ
の差は試験区33.2kg、対照区が26.2kgとなった(図
られた(図7、表5)。
6)
また、試験期間中の飼料費は、試験区48,820円、対
照区54,847円であり、試験区の方が安価な傾向がみら
れた(表5)。
また、試験期間中の飼料費は、試験区50,037円、対
照区51,433円であり、試験区の方が安価であった(表
5)。
3
試験開始時及び終了時の発育ランク
(1)去勢雄子牛
表6に示すとおり、両区とも試験開始時の発育ラン
クが終了時には向上したが、特に試験区で大幅にラン
クが向上した。
図7
去勢雄子牛の飼料摂取量の推移
(2)雌子牛
試験区において、ランク5及び4の2頭については4及
び3に下がったが、ランク2のものについては3に向上
(2)雌子牛
スターター摂取量は試験区85.4kg、対照区69.5kgと
試験区の方が多く、離乳後の育成用飼料の摂取状況も
した。対照区は、試験開始時のランクが平均4.4と高
く、終了時までランクは変わらず推移した。
安定して推移し、4.0kg摂取時の日齢は去勢雄子牛と
表6
同様、試験区135日齢、対照区164日齢と試験区の方が
試験開始時及び終了時の発育ランク
早かった。また、期間を通しての育成用飼料摂取量に
ついては、試験区を上限4.0kgに制限したため、試験
区539.1kg、対照区585.1kgと試験区の方が少なかった。
粗飼料摂取量については、哺乳期では去勢雄子牛と
同様、試験区4.5kg、対照区12.7kgと試験区の方が少
なかったが、育成期については離乳直後は少なかった
ものの、その後は急激に増加し、試験終了時には対照
区を上回った。育成期間中の総摂取量は、試験区349.
4kg、対照区
354.0kgであり、試験区の方が少なかった(図8、表5)。
4
試験終了時の栄養度
(1)去勢雄子牛
試験区平均5.5、対照区6.0であり、両区に差はなく、
適正範囲内であった(表7)。
(2)雌子牛
試験区平均5.5、対照区平均5.6であり、両区に差は
なく、適正範囲内であった(表7)。
図8
雌子牛の飼料摂取量の推移
表7
表5
飼料摂取量と飼料費
252日齢時の栄養度
5
便の性状
Ⅳ
考察
去勢雄子牛、雌子牛ともに、両区において、スコア2
以上の下痢を呈した個体が15~91日齢の間に散見され
たが、差は認められなかった(図9、10)。
今回、第4胃が主体的な役割を果たしている哺乳期
に、粗飼料を給与せず、スターターを積極的に摂取さ
せ、育成期には逆に育成用飼料の給与量を抑えて粗飼
料を飽食とすることで、発育性が向上する傾向が認め
られた。
ペンシルベニア州立大学では、母乳と粗飼料のみで
は第1胃の絨毛が育たず、絨毛を発達させるためには、
濃厚飼料の給与によって生産されるプロピオン酸や酪
酸の役割が大きいことを報告している 2)。本試験にお
いても、哺乳初期からスターターを積極的に摂取させ
ることで離乳後の濃厚飼料及び粗飼料の摂取量が順調
に増加するとともに、154日齢以降、濃厚飼料を制限
図9
哺乳期間中における便の性状(去勢雄子牛)
し、粗飼料を主体とした給与に切り替えた後も順調に
発育することを確認しており、本給与方法によって第
Ⅰ胃内の絨毛の発達が促され、このことが、飼料の利
用性を高め、発育性の向上につながったと考えられた。
また、哺育期に粗飼料給与の必要がないことから、ス
ターター給与に専念でき、飼養管理の省力化にもつな
がる方法であると考えられる。
さらに、本試験に供試した雌子牛2頭の枝肉成績を
調査した結果、特に問題は認められなかった。肥育素
牛の育成において、7~9か月齢の育成後期は腹腔内脂
図10
哺乳期間中における便の性状(雌子牛)
肪や筋間脂肪が付着する時期であり、この時期の濃厚
飼料多給は好ましくないとされており、その観点から
6
枝肉成績
も育成後期に育成用飼料の給与量を制限し、粗飼料給
肥育が終了した試験区2頭(雌子牛)を調査した結果、
2
平均枝肉重量433.8kg、ロース芯面積53.5cm 、バラの
与を主体とする本方法は肉用子牛の育成方法として望
ましい方法であると考えられる。
厚さ8.6cm、皮下脂肪厚3.2cm、BMS №7.0であった。
今後は、試験を継続して去勢雄子牛についての例数
平成17~18年に山口県から出荷された牛の平均枝肉
を重ねるとともに農家での実証試験も併せて行い、試
2
重量388.9kg、ロース芯面積50.6cm 、バラの厚さ7.0c
験成果に基づいた子牛育成技術の普及を図ることで、
m、皮下脂肪厚2.8cm、BMS №5.0と比較すると、皮下
繁殖農家の経営改善に寄与するものと考えられる。
脂肪厚以外の項目でこれを上回る成績を示した(表8)。
表8
枝肉成績
参 考 文 献
1)北海道天北農業試験場:ぺれにある、№28,(1999)
2)The Pennsylvania State University:Feeding t
he Newborn Dairy Calf(2003),http://www.extensio
n.org/pages/Feeding_the_Newborn_Dairy_Calf
3)岡本光司(NOSAIそお 中部診療所):出生子牛の管
理、特に哺育期の給与飼料について,家畜診療,51巻7
号,Page.413-418,(2004)
4)JAグループ山口:和牛『繁殖・子牛育成』飼養
管理マニュアル,Page.15-20,30,(1993)
5)黒毛和種正常発育曲線(2004年版):社団法人全国
和牛登録協会,Page.2,3,13,27,29
6)福島護之・野田昌伸(兵庫県立北部農業技術セン
ター・畜産部):中山間地域における肉用繁殖牛の省
力・軽作業型効率的新技術システムの開発,平成8年
度近畿中国地域畜産試験研究成績概要集,Page.107-1
08,(1996)