病理組織学的診断 - 真菌症フォーラム

第 2 章 深在性真菌症の疫学、診断法および治療戦略
3
病理組織学的診断
④ 真菌か非真菌か、感染か保菌(腐生)かを見極める。
1 はじめに
⑤ 原因真菌について、少なくとも「属」のレベルま
で推定または同定する。
病理組織学的診断(病理診断)や臨床検査を取り巻
病理形態的診断の記載は簡潔を旨とし、組織(炎症)
く環境はこの 10 年で大幅に変革を遂げた。電子カル
反応の態様と推定される原因真菌の特徴が明瞭になる
テシステムの普及、放射線画像を中心とした医用画像
ように配慮する。また、真菌症について専門的知識の
総合管理システムの導入が推進され、病理診断に際し
乏しい臨床医に対しては教育的なコメントを追記する
て患者情報へのアクセスや病態の把握が容易になった。
ことが望ましい。予期せぬ深在性真菌症に遭遇した場
深在性真菌症の病理診断は、治療方針の決定に直接反
合には、微生物学的な検査や補助的な血清診断法の実
映されるため常に質の高い診断情報の提供を期する必
施を促すことも大切である。菌種の微生物学的な同定
要がある。本ガイドラインの改訂に際して、従来のよ
まで診断に反映できればベスト・プラクティスである。
うに深在性真菌症の病理組織学的特徴を提示すること
病理診断の精度管理として、診断後に培養や血清学
に加えて、生検や外科手術材料での深在性真菌症の病
的検査の結果が判明した場合は、病理診断の修正や追
理組織学的検査に必要な注意事項について総論として
加情報の記載を行うよう心がける。
最初に触れた後に、各論として主要な深在性真菌症の
感染症の病理診断では、抗酸菌を含む細菌、ウイル
病理像を紹介する。すべての深在性真菌症の病理を網
ス、リケッチア、原虫、寄生虫感染などについて幅広
羅することは困難であり、輸入真菌症(あるいは地域
い知識と病理組織学的な特徴にも熟知する必要がある。
流行性真菌症ともいう)、放線菌類感染症(アクチノ
日和見感染では複合感染( polymicrobial infection )
ミセス症、ノカルジア症)については他の真菌症との
のことが多く、複数の真菌や抗酸菌の感染、さらには
病理組織学的な鑑別の要点のみを述べるにとどめた。
サイトメガロウイルス感染の合併も念頭に置く。
2 深在性真菌症の病理診断総論
2.病理検査材料の適切な取り扱い
病理検査ではホルマリン固定された状態の臓器や組
1.病理医に求められる深在性真菌症の診断手順
深在性真菌症の病理診断に際しては、以下の手順に
1-6 )
沿って検査を進める
。
① 患者の病態や背景(既往、過去の入院歴、渡航歴)
を調べる。
② 感染組織の炎症反応の質的評価と組織変容の程
度を評価する。
(例:化膿性炎症、肉芽腫性炎症、壊疽性炎症、
出血性梗塞、無反応性病変)
③ 適切な染色法を選択し、組織内菌要素の可視化
と菌形態の詳細を把握する。
72
織が診断に供される。しかし、生検、手術材料を問わ
ず感染症を疑う場合には、微生物学的な培養の実施を
優先させる。適切な検体の取り扱いについて、臨床医、
検査技師、病理医の間で事前検査の手順を決めておく
ことが望ましい。
① 未固定状態での検体の保存や検査室への搬送が
可能かどうかを問う。
② 膿瘍、壊死組織、空洞性病変の場合には、手術
室で切り出しを行わない。
③ 術中迅速診断では、病理検査に先行して培養試
料を採取する。
④ 壊死性病変、肉芽腫性病変と判断したときは、
第
2
章
診断︱ .病理組織学的診断
[2]
3
図 1 陳旧性結核空洞に発生した慢
性空洞性肺アスペルギルス症
手術例
a
a)固定前の新鮮割面。腐肉様の菌球が
空洞内に充満している。b)固定後の切
り出し割面。臓器水洗の過程で菌球成
分は容易に洗い流されるため、別途標
本を作製する
b
表 1 病理組織学的な真菌の証明に用いられる染色法
染色法
Periodic acid-Schiff
(PAS)
染色時間
染色特性
30 分
真菌の細胞壁の糖鎖を染色(赤紫色)
。近接水酸基を過ヨウ素酸酸化し Schiff 試薬と反応させることで
菌要素が陽性に染まる
Grocott
90 分
細胞壁の糖鎖構造を染色(黒色)
。メテナミン銀液ではなくアンモニウム銀液を用いる
Alcian blue-PAS
45 分
塩基性色素の Alcian blue は pH 2.5 で糖鎖のカルボニル基
(-COOH)に結合し、クリプトコックスの莢
膜を陽性に染色する(青色)
。PAS 染色で細胞壁を染色して重染色で行う
Mucicarmine
20 分
クリプトコックスの細胞壁および莢膜を陽性に染色(赤橙色)
Fontana-Masson
FungifloraY
Tissue Gram
120 分
通常メラニン色素の証明や嗜銀性顆粒(神経内分泌顆粒)に用いられる染色法である。クリプトコック
スの laccase 活性による細胞壁のメラニン様色素の存在を証明することができる(暗褐色)
5 分以内
細胞診や組織切片に含まれる真菌が陽性になる。迅速簡便なスクリーニングのための蛍光色素染色法。
ただし、蛍光顕微鏡の常備が必要
20∼30 分
真菌はグラム陽性であり、組織内菌体の染色に応用可能であるが、染色感度は不安定で他の染色法には劣
る
抗酸菌感染を考慮し一部を遺伝子 PCR 検査用や
緊密にし、常に培養を優先させるための最適な検体の
凍結保存検体とする。
取り扱いに配慮する。
臓器の取り扱いは慎重であるべきで、慢性空洞性肺
アスペルギルス症などで不用意に病変部に割を入れら
れ、診断に不可欠な菌球内容が廃棄されることがある。
3.組織内菌要素の染色法
HE 染色のみで菌形態を把握できることもあるが、
菌球、壊死物質、膿性滲出液には多数の菌要素が含ま
正確な真菌形態の把握や組織侵襲の有無を判断するに
れる可能性があるため、臓器の取り扱いには細心の注
は Grocott 染色、PAS 染色を中心とした特殊染色の
意が必要である(図 1 )。また、環境中の汚染菌の混
併用が欠かせない
入を避けるため、清浄な状態に臓器や組織を保つよう
した。染色法の実際については常備の染色法マニュア
に心がける。
ルなどを参照する。剖検材料などで得たパラフィンブ
2、
3)
7)
。各種染色の特性を表 1 に記載
培養による原因真菌の分離は、新興感染や稀少感染
ロックを陽性対照として適宜使用し、染色の品質管理
の発見に欠かせない。また、治療方針の決定には酵母、
を行うことが推奨される。特に汎用される Grocott 染
糸状菌を問わず真菌の感受性検査を実施することも必
色は、目的とする菌の種類に応じて染色時間の微調整
要になる。微生物検査室との情報共有や技術的連携を
が必要である。例えばムーコル症ではアンモニウム銀
73
第 2 章 深在性真菌症の疫学、診断法および治療戦略
a
b
c
d
図 2 粘膜カンジダ症
a)
、b)AIDS 患者の口腔カンジダ症。粘膜表層の錯角化の亢進した部位に偽菌糸発育を示すカンジダ感染を認める。PAS
染色。c)
、d)食道カンジダ症。内視鏡像と真性菌糸発育を示すカンジダ。Grocott 染色
液での鍍銀反応の時間(通常は 60 ℃、45∼60 分)を
は、検査報告書の備考欄に技術的なインシデントとし
長めに設定するなど至適な方法を検体毎に工夫する。
てその旨を記載し、標本も保全することが望ましい。
生検組織は微小検体であり、再薄切が困難な場合も
ある。TBLB や消化管の生検では、予め数枚の未染
3 酵母および酵母状真菌感染の病理各論
色切片を準備し必要に応じて特殊染色や免疫組織化学
的染色に対応できるように心がける。
4.偽真菌(false mycosis)について
組織内の真菌類似構造を菌要素として誤認すること
病原性酵母真菌は担子菌系酵母(クリプトコックス、
トリコスポロン)
、子嚢菌系酵母(カンジダ属、ニュー
モシスチス)に分類される。この項では病理検査の対
象となるカンジダ、クリプトコックス、トリコスポロ
がある。組織内石灰小体、類澱粉小体、変性赤血球、
ンを取り上げる。組織内で酵母様菌形態を示す真菌は、
縫合糸、食物残渣(植物成分)などが酵母として誤認
上記に加えて温度感受性二形性菌( temperature-sen-
されやすい。Grocott 染色では組織成分である膠原線
sitive dimorphic fungi )の多くが含まれる。ヒストプ
維、フィブリン網、血球成分が過染して糸状菌や酵母
ラスマ、ブラストミセスのような輸入真菌症原因菌や、
と紛らわしいこともある。至適な染色条件での観察が
深在性皮膚真菌症の原因であるスポロトリクスや黒色
6)
求められる 。
長期間保存している染色液やインク壜などに環境内
真菌(主に糸状菌)が繁殖して組織切片を汚染するこ
とがある。定期的に染色液や組織着色用マーカーの容
器の浄化や溶液の交換を行う必要がある。細胞診では
喀痰中に環境中の糸状菌が混入することがある。
上記のような偽真菌や汚染菌の混入があった場合に
74
真菌など医学的に重要な病原性真菌が鑑別の対象にな
3、
5)
る
。
1.カンジダ症
主な原因真菌と病態:
、
、
、
a )粘膜カンジダ症:口腔・咽頭カンジダ症、食道カ
第
2
章
診断︱ .病理組織学的診断
[2]
3
a
図 3 白血病患者の播
種性カンジダ症
b
a)腎臓、b)肝臓、c)胃
粘膜の播種性病変
c
a
b
c
d
図 4 カンジダ症の細胞診所見
a)腟カンジダ症。扁平上皮細胞の串刺し像(ThinPrep 法、Papanicolaou 染色)
。b)
による腟カンジダ症。
®
ThinPrep 法、Papanicolaou 染色。c)腟カンジダ症の蛍光色素ファンギフローラ Y 染色による証明。d)カンジダ尿症の
細胞診。Papanicolaou 染色
ンジダ症、外陰・腟カンジダ症(図 2 )
。
b )尿路カンジダ症:カンジダ尿症。
。
c )カンジダ血症(図 3 )
d )慢性粘膜皮膚カンジダ症。
病理検査の対象となるのでは上記 a )、b )であり、
特に細胞診断では日常的に遭遇する真菌症である。細
75
第 2 章 深在性真菌症の疫学、診断法および治療戦略
胞診では通常の Papanicolaou 染色によるスクリーニ
b )クリプトコックス脳髄膜炎
ングで酵母ないし偽菌糸発育する真菌を同定できる。
c )播種性クリプトコックス症
®
ファンギフローラ Y 染色などの蛍光染色も簡便な検
担子菌系酵母を代表するに病原性酵母真菌であり、
5)
。
査として利用価値が高い(図 4 )
菌学的な命名法が大きく変遷してきた 。旧血清型分
発症要因:カンジダ属真菌は皮膚、口腔、腟などの常
類を含めて以下のように整理できる。
在菌であり、糖尿病、抗菌薬の濫用、口腔衛生の低下、
妊娠などが契機となって、菌交代現象により菌量に変
化を生ずる。細胞診では感染か定着(コロナイゼーシ
(以前の
var.
、血清型 A、
D、A/D )
ョン)かの判断が難しい例が多い。特に喀痰細胞診で
観察される酵母様真菌は、口腔内常在真菌の混入とみ
(以前の
var.
、血清型 B、C )
日本を含む温帯地域では少数の例外を除き、
なされることが多い。
カンジダ血症は依然として致死率の高い真菌症であ
が原因真菌のほとんどを占める。
る。口腔や下部消化管の粘膜からのトランスロケーシ
は亜熱帯、熱帯地域、特にオーストラリア、中南米な
ョンや、中心静脈ルートからの菌の侵入が発症に関係
どに偏在する風土病的感染であった。しかし、近年カ
8)
している 。細胞診でのカンジダの証明は、発症リス
ナダのブリティッシュコロンビア州バンクーバー島で
クの評価のための監視培養と同等の価値を有する。
の集団感染事例が発生し 、それを契機に日本でも
9)
病理診断の要点:カンジダは組織内で二形性発育を示
す。侵襲性感染では酵母形発育よりも偽菌糸または真
5、
6)
性菌糸発育が優勢である
ンジダは
。真性菌糸形成を示すカ
、
などに限られる。
による脳髄膜炎の患者が確認されている。原因
真菌の分離同定の意義が以前にも増して重要である。
病理組織学的には
と
の感染を
区別することはできない。
例外的に血行性感染として分離培養される機会の多い
発症要因:胸髄膜炎も含めて経気道感染により肺に初
による感染では、組織内でも純酵母形発
感染巣(肉芽腫性感染巣)が形成される。健常者での
育を示す。
発症も少なくないが、自然免疫能の低下により肺炎や
血行性感染に移行する。播種性感染例では、圧倒的に
◉「カンジダ肺炎」についての疑義
剖検輯報などに、カンジダ肺炎と記載された事例がある。
ステロイド長期連用や骨髄抑制を背景にした患者が多
実際にはカンジダを主たる原因真菌とする肺炎は皆無とい
い。細胞性免疫力低下での発症は、AIDS 患者や臓器
ってよい。嚥下性肺炎で死亡した例で、気管支内に誤嚥物
移植後の免疫抑制薬の長期使用によるものが多い
や炎症性細胞浸潤に混在してカンジダを認めた場合は、口
病理診断の要点:病原因子である莢膜形成能と、宿主
10 )
腔・咽頭内の常在菌の誤嚥によるものと解釈するのが妥当
。
の自然免疫、細胞性免疫の恒常性により病変は修飾さ
である。カンジダによる肺病変の大半はカンジダ血症の部
れる。莢膜形成の乏しい小型の菌体は肉芽腫性感染巣
分症として認識される。このため、カンジダ症における肺
病変は、広く「肺炎」として理解されている病変(病原真菌
を形成し、莢膜産生が豊富な大型の菌体では粘液嚢胞
が経気道的侵入により成立する病変)とは明らかに異なり、
様感染を生ずる傾向がある(図 5 )。播種性感染で死
概ね均等な散布性病変が形成されることが一般的である。
亡した例では、胸膜下に多数の菌が集簇しクリプトコ
このような観点から、作成委員らはカンジダ血症で肺に血
。
ッコーマを形成することがある(図 6 )
行性播種した侵襲性感染をカンジダ肺炎と称するべきでは
組織内菌形態はほぼ例外なく酵母形である。最大の
ないと考えている。
特徴は細胞壁外に存在する酸性多糖体の莢膜( capsule )である。莢膜欠損株も知られているが、感染例
2.クリプトコックス症
主な原因真菌と病態:
のほとんどで量の多寡を問わず莢膜が証明される(図
、
7a )。莢膜はマンノース鎖を骨格にグルクロン酸とキ
シロース残基を側鎖に有する特異な多糖体であり
a )肺クリプトコックス症(クリプトコックス肉芽腫、
クリプトコックス肺炎)
76
glucuronoxylomannan( GXM )として知られている。
組織化学的には酸性ムコ物質を染める Alcian blue
第
2
章
診断︱ .病理組織学的診断
[2]
3
図 5 肺クリプトコックス症
a
a)限局性肉芽腫性感染の手術例。Grocott-HE 染
色。b)播種性感染例の嚢胞様感染。剖検例、Alcian
blue-PAS 染色
b
図 6 肺クリプトコックス症(剖検)
胸膜直下の結節性病変。いわゆるクリプトコッコーマ
図 7 肺クリプトコックス症
a
a)壊死性感染巣中の莢膜の乏しい小型の
分芽酵母と厚い莢膜を有する大型菌体の
共存。Grocott-HE 染色。b)肉芽腫性感染
例の巨細胞化したマクロファージに貪食
されたメラニン様色素産生を示す酵母菌
体の証明。Fontana-Masson 染色
b
( pH 2.5)
-PAS 染色で莢膜成分が陽性となり、ヒスト
5、
10、
11)
プラスマやブラストミセスなどとの鑑別に役立つ
(図 5b )
。ムチカルミン染色も同様な意義を有するが、
特異性はやや劣る。莢膜物質 GXM はクリプトコック
スの抗原性を担う成分としても重要である。また、莢
膜形成の乏しい小型の菌体でも細胞壁にメラニン様色
77
第 2 章 深在性真菌症の疫学、診断法および治療戦略
素を有するためメラニン染色( Fontana-Masson 染
色)により菌体が陽性になり、補助診断として有効で
12 )
。
ある (図 7b )
血清、髄液、BALF、尿中のクリプトコックス
GXM 抗原検査は陽性であれば診断に有効であるが、
限局性肺肉芽腫性感染では陰性のことが多い。
◉髄液検査でのクリプトコックスの証明
旧来より CSF の墨汁法が菌体の証明に好んで利用されて
いる。実際にはパーカーインクなどで代用されることが多
い。この方法は菌体の数が豊富で莢膜産生の活発な菌の存
在を証明するには有効である。しかし、菌量が少ない場合
は同定に至らない場合もある。髄液細胞診検査も診断には
図 8 クリプトコックス髄膜炎の髄液細胞診
有用であるが、熟練した技師でも原因真菌の同定は容易で
写真中央の白血球に接して胞子連鎖を示す酵母細胞を認める。
Papanicolaou 染色
ない(図 8 )
。
3.トリコスポロン症
主な原因真菌と病態:
、
、
a )播種性トリコスポロン症
b )夏型過敏性肺臓炎
c )白色砂毛( white piedra )
担子菌系酵母であるトリコスポロン属による感染で
ある。日和見感染として発症する播種性トリコスポロ
ン症の診断が病理学的には重要である。原因真菌のほ
とんどは
である。トリコスポロンは夏型過
敏性肺臓炎のアレルゲンとしても重要であるが、生検
図 9 肺癌剖検例の播種性トリコスポロン症
二形性真菌であり、肺病変内で菌糸形発育を示す部分に分節型胞子
形成を認める。Grocott 染色
などで肺炎の局所に真菌要素が証明されることはない。
発症要因:血液・造血器系疾患の治療に伴う免疫抑制、
好中球減少を起因として発症する。カテーテル関連血
流感染にも注意しなければならない。
4 糸状菌感染の病理各論
病理診断の要点:尿路感染など細胞診で遭遇する機会
もあるが、病理解剖例で経験するのは播種性感染例が
本項では、病理診断で遭遇する機会の多いアスペル
ほとんどである。典型的な組織内二形性を示す真菌で
ギル症とムーコル症を取り上げる。新興感染やブレイ
あり、カンジダ、アスペルギルスとの鑑別に苦慮する
クスルー感染としてスケドスポリウム属、フサリウム
ことが多い。詳細な観察により、菌糸形の一部に分節
属による侵襲性感染の報告が増加しているが
型分生子( arthroconidium )の形成を確認できればト
理所見の詳細は省略した。
。
リコスポロンの可能性が高い(図 9 )
トリコスポロンの細胞壁には、クリプトコックス莢
膜成分である GXM 抗原を有するため、市販のポリク
ローナルの抗クリプトコックス抗体による免疫組織化
学的染色で陽性に反応する糸状菌を観察した場合には、
5、
10 )
トリコスポロン症と考えてよい
78
。
13、
14)
、病
1.アスペルギルスとアスペルギルス症
主な原因真菌と病態:
、
、
、
、
a )副鼻腔アスペルギルス症( Sinonasal aspergillosis )
第
2
章
表 2 慢性肺アスペルギルス症の病理所見
・肺病変を修飾する以下の疾患に起因する変化を記載する
・陳旧性結核、非結核性抗酸菌症、COPD、気管支拡張、蜂窩肺(間質肺炎、サルコイドーシスに伴う)
、その他気腫性
肺嚢胞
肉眼所見
肺実質末梢の空洞形成病変、空洞内の菌球形成、直近の胸膜の線維性肥厚、周囲肺実質の器質性線維化、周辺の気管支
の二次性拡張
[2]
病理組織学的所見
分葉化した菌球(層状化した菌糸塊)の存在、空洞壁の気道上皮の潰瘍化、炎症性肉芽組織の増生、空洞周縁の線維化、
閉塞気管支の柵状肉芽腫性炎症、周辺気管支の拡張、胸膜や周囲肺胞域の器質性線維化
3
除外所見
・血管侵襲性病変や融解壊死を伴う感染病変は除外する
・抗酸菌感染に伴う乾酪壊死や類上皮肉芽腫性病変は病変の一部としない
図 10 侵襲性肺アスペルギルス症
a
a)肺線維症に合併した慢性壊死性肺ア
ス ペ ル ギ ル ス 症 。 b )別 の 肺 線 維 症
(NSIP)患者に認められた
による侵襲感染。黒色色素産生を
示す分生子頭形成が見られた。Grocott
染色
b
b )慢性肺アスペルギルス症( Chronic pulmonary aspergillosis )
よる感染では、菌球の成分としてシュウ酸カルシウム
結晶が沈着する例が多く、偏光顕微鏡での観察が参考
c )血管侵襲性アスペルギルス症( Angioinvasive as-
13 )
になる
。
b)慢性肺アスペルギルス症
pergillosis )
d )アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(Allergic
慢性咳嗽、喀痰、繰り返す喀血を機に、区域性ない
し葉切除される例が増加している。病態の背景と病理
bronchopulmonary aspergillosis )
病原性糸状菌を代表する感染であり、病理検査の対
象となるのは副鼻腔真菌症と慢性肺アスペルギルス症
学的特徴を表 2 にまとめた。
空洞形成の基盤には陳旧性結核や気管支拡張があり、
である。日和見感染としての血管侵襲性アスペルギル
菌球の成長に伴う気道粘膜の破綻を生じ、修復機転に
ス症の頻度は依然として高いが、剖検例での診断が中
伴って出現する炎症性肉芽の増生、周囲の気管支・肺
心である。アレルギー性気管支肺アスペルギルス症の
胞の器質性線維化、気管支肺胞構造の改変や胸膜線維
診断は、TBLB でのアレルギー性粘液や粘液栓( mu-
化が認められる
coid impaction )の証明を求められる。
死や柵状肉芽腫反応を示することが多い。原則として
病理診断の要点
肺実質への菌糸の侵襲は生じないが、免疫抑制状態を
a)副鼻腔アスペルギルス症
背景に、慢性空洞性肺アスペルギルス症(図 1 )から
通常、上顎洞から篩骨洞に形成された菌球が検査に
提出される。Grocott 染色での菌球の確認と、糸状菌
形態に基づく原因真菌の推定がなされる。
15 )
。空洞壁や拡張した気道粘膜の壊
血管侵襲性アスペルギルス症に進展することがある
。
(図 10a )
に
79
診断︱ .病理組織学的診断
基礎疾患
第 2 章 深在性真菌症の疫学、診断法および治療戦略
a
b
c
d
図 11 血管侵襲性アスペルギルス症
a)ネフローゼ患者の血管侵襲性アスペルギルス症。CT の halo sign に相当する部位。b)同感染部位の血管侵襲像。c)感
染初期の微小菌球核と放射状菌糸発育。d)中隔形成を伴い 45°
に分岐する菌糸形態。b-d、Grocott 染色
表 3 アスペルギルスとムーコルの組織内菌形態の鑑別
アスペルギルス症
ムーコル症
菌糸の太さ
3∼6μm
(繊細で太さは一定)
5∼20μm
(太さは不定で空胞化あり)
菌糸の発育パターン
層状の放射状菌球形成
(中心部は菌糸錯綜、周縁は放射状伸長)
基本的に無秩序で方向性に乏しく、組織内では
短く分断された菌糸片にみえる
(菌球形成傾向は乏しい)
菌糸の捻じれ
ほぼ直線的で捻じれなし
菌糸の分岐
45°
に分岐
菌糸中隔
高頻度
稀に出現
栄養体形成
稀に分生子頭形成あり
表在性感染を除けば胞子嚢形成は皆無に
シュウ酸カルシウム沈着
Splendore-Hoeppli 現象
折れ曲がりや捻じれあり
基本は 90°
に分岐
(一定の傾向なし)
などで出現(診断に有用な所見)
沈着なし
菌球周縁に薄く付着
c)血管侵襲性アスペルギルス症
く稀に分生子頭( conidial head )形成が観察され、菌
好中球減少や免疫抑制状態を背景に発症する。局所
種の推定に役立つ場合もある(図 10b )
。特殊な事例
の血管や気道を閉塞し、壊死や出血性梗塞を生ずる。
として、X 染色体劣性遺伝病である慢性肉芽腫症
CT 像で認められる halo sign に一致して、融解壊死
( CGD )でのアスペルギルス肉芽腫を例示した(図
や周囲の出血が肉眼的に確認できる(図 11a )
。組織
12 )。巨細胞に貪食された菌糸の証明には、免疫組織
内菌形態の特徴をムーコル感染と対比させながら表 3
化学染色が有効であった。
6、
13、
14 )
に提示し
、組織像を提示した(図 11b、c、d )
。
空洞性病変では、病巣内の死腔や拡張気管支腔内にご
80
典型的な菌形態を認め、血清学的にアスペルギルス
GM 抗原検査が「陽性」の場合、診断は容易である。
第
2
章
診断︱ .病理組織学的診断
[2]
3
図 12 X 染色体劣性 CGD 患者の傍脊椎性アス
ペルギルス膿瘍の生検例
a
a)巨細胞性肉芽腫感染。HE 染色。b)同部位の抗ア
スペルギルス抗体を用いた免疫染色による菌体の
証明。Immunoperoxidase 法
b
しかし、抗原検査が陰性の場合は他の糸状菌感染との
鑑別に苦慮する場合もある。近年増加しているスケド
スポリウム症、フサリウム症について短く触れる。
スケドスポリウム属、フサリウム属は水系環境や土
2.ムーコル症(接合菌症)
接合菌については菌学的な分類の見直しが提案され
ており、接合菌類という名称がなくなり、ムーコル目
18 )
。分
壌由来の糸状菌であり、これらの菌種による侵襲性感
Mucorales の真菌に包括されようとしている
染例は、病理組織学的にアスペルギルスとの鑑別が困
類学的議論の過渡期にあたり、病理診断として接合菌
13)
難である 。一般的に非アスペルギルス糸状菌は、抗
症とムーコル症のいずれを使用すべきか結論が得られ
真菌薬感受性の低い菌が多く、いわゆる b r e a k -
ていない。病理学の領域では旧来よりムーコル症の名
through infection としてムーコル症とともに予後不
称が好んで用いられてきた経緯があり、本項ではムー
良な日和見感染となる。
コル症の呼称に統一した。
d)アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
病態と主な原因真菌:
アスペルギルスを感作源とするⅠ+Ⅲ型過敏症であ
る。病態としてはアレルギー性肺真菌症、アレルギー
a )副鼻腔・眼窩・脳ムーコル症( Rhino-orbitocerebral mucormycosis )
性副鼻腔真菌症が知られる。アスペルギルス以外に、
b )肺侵襲性ムーコル症( Pulmonary mucormycosis )
真正担子菌であるスエヒロタケ(
c )播種性ムーコル症(Disseminated mucormycosis)
)がアレルゲンとして分離される例が増加
している。
d )皮膚ムーコル症( Cutaneous mucormycosis )
環境中に偏在する糸状菌であり、ケカビ、クモノス
喘息症状や好酸球増多、中心性気管支拡張など病態
カビと俗称される環境中の複数の真菌(リゾプス属、
の把握が重要である。TBLB では mucoid impaction
Lichtheimia、ムーコル属)が代表的な原因真菌であ
として粘稠な粘液が採取される。脱顆粒した好酸球や
るが、臨床例から分離される新たな菌種の数は増加の
Charcot-Leyden crystal の存在がヒントになり、
一途をたどっている。ヒトの病原性真菌として報告さ
Grocott 染色でアレルギー性粘液中の糸状菌が描出さ
れている菌種を提示した(表 4
れる。
発症要因:無性生殖環で形成される胞子嚢(sporangi-
副鼻腔にも再発を繰り返す難治性のアレルギー性真
17 )
菌性鼻副鼻腔炎( AFRS )が発生する
。アスペルギ
19 )
)
。
um )由来の胞子嚢胞子( sporangiospore )の経気道
感染が発症の契機になる。上記病態のうち、副鼻腔・
ルス以外に、黒色真菌やスエヒロタケが分離同定され
脳ムーコル症は重症糖尿病患者での発症リスクが高く、
。
る例も増加している(図 13 )
一方、侵襲性肺ムーコル症や播種性ムーコル症のほと
81
第 2 章 深在性真菌症の疫学、診断法および治療戦略
図 13 アレルギー性副鼻腔真菌症
a
a)アレルギー性ムチンと好酸球集簇
(HE 染色)
。b)疎に分布する糸状菌の
断片。培養では真正担子菌である
(スエヒロタ
ケ)が分離された。Grocott 染色
b
表 4 ヒト病原性ムーコル目の真菌(order Mucorales)
Mucoraceae
spp.、
spp.、
菌の同定を行う。血栓形成が必然であり、血栓に埋没
spp.、
spp.
Cunninghamellaceae
Lichtheimiaceae
(図 14a、b )
、動静脈を問わず血管侵襲性を示す糸状
。組織内菌形態の
した菌形態を観察する(図 14c、d )
2、
6、
13 )
特徴は表 3 に要約した
(former
)
Thamnidiaceae
Saksenaeaceae
complex
。具体的な特徴を要約す
ると、① 菌球形成や放射状の菌糸発育は稀である。
② 菌糸は他の糸状菌より太く、しばしば捻じれや屈
曲を示す。③ 菌糸の発育方向は無秩序である。④ 菌糸
の分岐角度は一定しない。⑤ 放射状菌球形成を示すこ
とはない。⑥ 中隔形成は、よく探せばみつかる。典型
んどは好中球減少や白血病の治療過程での骨髄抑制が
20 )
原因で発症する日和見感染である
。医療用テープ
例ではアスペルギルスとの鑑別は容易だが、菌種の同
定は病理組織学的には不可能である。
類に腐生したムーコル属真菌による皮膚や透析シャン
ト部位感染も報告が増加している。
5 その他の鑑別上重要な真菌症
骨髄移植や白血病治療を無菌室治療で行うようにな
り、一時的に侵襲性ムーコル症は減少したが、長期生
存例の増加やアゾール系薬による真菌症治療の長期化
1.ニューモシスチス感染症
によりアゾール低感受性のムーコル症の増加が指摘さ
古くは原虫による感染に含まれたが、18S rRNA の
れている。透析患者や鉄過剰患者に投与される鉄キレ
塩基配列などから真菌として扱われるようになった。
ート剤( desferoxamine )は、ムーコル症の発症リス
AIDS に伴って細胞性免疫不全を背景に発症する例が
クを高める。
増加し、カリニ肺炎として記載されてきた。長年親し
病理診断の要点:副鼻腔・脳ムーコル症、侵襲性肺ム
まれてきたカリニ肺炎という用語は分類学の改定に伴
ーコル症、下部消化管ムーコル症に遭遇する機会があ
いヒトを特異的宿主とする菌種名として
る。重篤な日和見感染のため外科的治療の対象とはな
る例は稀であったが、L-AMB による抗真菌薬による
治療後の根治性を高めるために、肺切除など感染組織
の切除が行われる例も増加している。
出血性梗塞や膿瘍を背景にした壊死性感染であり
82
と命名されたことでニューモシスチス肺炎
( PCP )に呼称が変わった。
病理学的には、BALF の細胞診(直接鏡検)や
TBLB 検体を用いた組織診断での確定診断を求められ
る場合が多い。この場合、細胞壁を黒褐色に染め出す
第
2
章
診断︱ .病理組織学的診断
[2]
3
a
b
c
d
図 14 侵襲性ムーコル症(接合菌)
a)大脳基底核・視床の出血性梗塞 b)a)の患者の腎臓の感染巣。無秩序な方向に増殖し、捻じれや屈曲を示す太い菌糸
形態。Grocott 染色 c)肺ムーコル症 血栓性閉塞した肺動脈の感染巣 Victoria blue-HE 染色。d)c)と同一部位の
Grocott 染色による菌糸増殖像
(症例 a、
b は藤田保健衛生大学 安倍雅人博士のご厚意による)
図 15 赤芽球癆を伴う再
発性胸腺腫患者に
合併した PCP(剖
検)
a)肺胞腔内のフィブリン析
出と肺胞 壁の線 維 性 肥 厚。
H E 染 色 b )同 部 位 の
Grocott 染色。不規則な酵母
形態を示す菌体
a
(信州大学医学部 小林基弘博
士のご厚意による)
b
Grocott 染色で肺胞腔の泡状滲出液中に浮遊する酵母
6)
例のように菌数が少ない症例では、より慎重な観察が
。
状真菌の集簇を証明することが有効である (図 15 )
求められる。確定診断のためには単クローン抗体を用
しかし、肺組織内における
いた免疫組織化学染色や、遺伝子( PCR )検査による
の 90 %以上
21)
が栄養体( trophic form )であることから 、非 HIV
菌種の同定が参考になる。
83
第 2 章 深在性真菌症の疫学、診断法および治療戦略
a
図 16 深在性黒色真菌症の剖検
例
a)
、b)脳表および脳実質内に多発す
る黒色斑状病変。c)分離菌株の形態
から
属による感染が示唆
される
b
c
(信州大学 発地雅夫名誉教授のご厚意に
よる)
図 17 黒色真菌感染症による皮
膚 深 在 性 ク ロ モ( ブ ラ ス
ト)ミコーシスの病理組織
所見
a
b
2.黒色真菌感染症
a)巨細胞に貪食された褐色の sclerotic cells
b)同部位の微小膿瘍中の黒色酵母様
菌体。HE 染色
クロモ(ブラスト)ミコーシス:
、
黒色真菌は、深在性皮膚真菌症であるクロモ(ブラ
フェオヒフォミコーシス:
スト)ミコーシスおよびフェオヒフォミコーシスの原
。
、
。
、
因真菌として知られているが、内臓真菌症(深在性真
深在性真菌症に進展した場合も、病理組織学的特徴
菌症)の原因真菌としても重要である。特に中枢神経
は共通している。褐色調の酵母様菌体の同定では、
親和性を示すことから髄膜炎や脳炎を起こす真菌症と
HE 染色での観察が特に重要であり、化膿性肉芽腫を
して注意が必要である(図 16 )
。
背景に、黒褐色の酵母菌体が組織球や巨細胞に貪食さ
深在性皮膚真菌症との関連で、代表的な菌種をあげ
る。
84
1、
2)
れた状態で観察される (図 17 )。侵襲性感染では、
褐色の菌糸性増殖が認められる。
第
2
章
表 5 主な輸入真菌症(地域流行性深在性真菌症)の病理組織学的特徴
区分
酵母様
大きさ
組織内菌形態の特徴
2∼5 mm
小型球形ないし卵円形、出芽酵母でマクロファージに多数の
菌が貪食された状態、または壊死巣に分散した状態
8∼15 mm
比較的大型の酵母。細胞壁は屈折性で二重にみえる。単細胞
出芽で、母細胞との境界が広基性
[2]
10∼25 mm
巨大酵母の周囲に操舵輪に似た小径酵母が多数発芽した状
態
3
2∼5 mm
小型球形ないし卵円形の酵母。分裂酵母に類似し長円形菌
体の酵母の中央で分裂環を形成する
30∼60 mm
球状体の大きさは様々で、内腔に多数の内生胞子(2∼
5 mm)を容れるもの、球状体の破裂した状態、空の球状体の
ものなど多彩。内生胞子自体は出芽しない
a
b
c
d
診断︱ .病理組織学的診断
球状体
菌種
図 18 輸入真菌症
a)
、b)コクシジオイデス症のリンパ節病変。多数の球状体の大きさは様々で、多数の球状体を貪食した巨細胞化したマク
ロファージの出現(a)
。同肉芽腫性感染部位に、球状体から放出された内生胞子から徐々に大型の球状体への成長過程が
観察される。Grocott 染色。c)パラコクシジオイデス症。大型の酵母の周囲に複数の発芽胞子の形成がみられる(steering
wheel pattern)
。Grocott 染色。d)播種性ヒストプラスマ症。肺胞マクロファージに貪食された微小酵母状菌体。PAS 染色
3.輸入真菌症(地域流行性真菌感染症)
日本は島しょ国として海外と地理的に隔絶している
ば、病理診断のみで確定診断を下すことが可能であ
2、
5、
11 )
る
。
以下、病理診断の参考となる事項を表 5
22 )
に提示し、
ため輸入真菌症という呼称が好んで用いられる。実際
具体的な病理組織所見を付図にして示した(図 18 、
は特定地域の風土病的真菌症であり地域流行性真菌感
19 )。いずれの菌種も健常者に対する病原性が強く、
染症という表現も望ましい。これらの真菌感染は、患
検査室内感染のリスクもあるので原因真菌が分離され
者背景、渡航歴との関連、臨床病態などを参考にすれ
た場合の取り扱いや同定のための他施設への菌株の搬
85
第 2 章 深在性真菌症の疫学、診断法および治療戦略
図 19 播種性マルネッフェイ型
ペニシリウム症の剖検例
a
a)ヒストプラスマに類似した微小酵
母菌体の増殖。b)詳細な観察により
酵母の中央で分裂環を形成する分裂
酵母の形態が認められる。Grocott 染
色
b
a
b
c
d
図 20 放線菌類による深在性感染
a)骨粗鬆症の治療に用いられるビスフォフォネート服用に伴う顎骨壊死(Bisphophonate-related osteonecrosis of the
jaw, BRONJ)
。壊死骨の周囲の炎症と糸状細菌の集簇。HE 染色。b)同部位のアクチノミセス菌塊の可視化。Grocott 染
色。c)慢性肺膿瘍から縦隔炎、皮膚瘻に発展したノカルジア症。肺膿瘍中の菌塊。HE 染色。d)同病変中の糸屑状の糸状
細菌。Grocott 染色
送には格段の注意が必要である。
4.放線菌類による感染症
偏性嫌気性菌であるアクチノミセス属の細菌や、グ
86
ラム陽性好気性土壌細菌であるノカルジア属の細菌に
よる感染は、旧来より足菌腫( madura foot )や内臓
菌腫症( mycetoma )の原因細菌として知られている。
いずれも組織内で糸状菌類似の繊細な細菌集塊を形成
第
し、菌形態が Grocott 染色で陽性になることから深在
1)
性真菌症との鑑別を要する例が多い 。
アクチノミセス症(放線菌症)の原因菌であるアク
チノミセスは、口腔内嫌気環境の常在菌であるため、
して病理学的に証明される例が多い。最近では骨粗鬆
症治療薬であるビスフォスフォネートの長期服用に関
連する顎骨壊死の増加が問題視されている(図 20a、
b )。また、子宮内留置避妊リングの使用者では、ア
クチノミセス菌塊による子宮膿留症や骨盤腔腹膜炎を
合併しやすい。
ノカルジアによる内臓感染症の多くは、経気道感染
に基づく慢性肺化膿症である。免疫抑制を背景に血行
性に中枢神経など他臓器に播種する例がある。膿瘍中
の菌体の検出には抗酸菌染色より Grocott 染色が有効
1、
2)
なことが多い
。繊細な糸屑状ないしクモの足状の
。
長桿菌が病巣中に見出される(図 20c、d )
◉ 参考文献
1)奥平雅彦,発地雅夫編:真菌症カラーアトラス.文光堂,東京,
1994
2)Chandler FW, Kaplan W, Ajello L: A colour atlas and textbook of the histopathology of mycotic diseases. Wolfe Medical
Publishings, London, 1980
3)Schwarz J: The diagnosis of deep mycoses by morphologic
methods.
13: 519-533, 1982
4)Guarner J, Brandt ME: Histopathologic diagnosis of fungal infections in the 21st century.
24: 247-280,
2011
5)伊藤 誠:酵母状真菌感染症の病理診断と病態.渋谷和俊,久
米 光(編・著)
,深在性真菌症:病理診断アップデートレビュ
ー , pp. 33-54, 協和企画,東京,2012
6)若 山 恵 , 篠 崎 稔 , 渋 谷 和 俊 : 教 育 シ リ ー ズ( B a s i c
Mycology)病理診断.
54: 27-37, 2013
7)井出 忠,篠崎 稔,高橋りえ,ほか:診断の助けになる染色
法.渋谷和俊,久米 光(編・著)
,深在性真菌症:病理診断アッ
プデートレビュー , pp. 73-85, 協和企画,東京,2012
87
章
[2]
診断︱ .病理組織学的診断
顎骨壊死や顎骨骨髄炎の際に腐生菌または原因細菌と
8)Filler SG, Kullberg BJ: Deep-seated candidal infections. In:
Calderone RA(ed.)
,
and Candiasis, pp. 341-348, ASM
Press, Washington DC, 2002
9)Kidd SE, Hagen F, Tscharke RL,
.: A rare genotype of
caused the cryptococcosis outbreak on
Vancouver Island(British Columbia, Canada)
.
101: 17258-17263, 2004
10)伊藤 誠,発地雅夫:クリプトコックス症の病理.病理と臨床
9: 1288-1295, 1991
11)伊藤 誠:深在性真菌症の病理組織学的診断.臨床検査 43:
149-156, 1999
12)Kwon-Chung KJ, Bennett JE: New, special stain for histopathological diagnosis of cryptococcosis.
13:
383-387, 1981
13)木村雅友:糸状菌感染症を中心とした病理診断と病態.渋谷和
俊,久米 光(編・著)
,深在性真菌症:病理診断アップデート
レビュー , pp. 55-64, 協和企画,東京,2012
14)Tadros TS, Workowski KA, Siegel RJ,
.: Pathology of hyalohyphomycosis caused by
(
)
: an emerging mycosis.
29: 1266-1272, 1998
15)安藤常浩,若山 恵,武村民子,ほか:肺真菌症.病理と臨床
23: 484-490, 2005
16)安藤常浩:肺アスペルギルス症の臨床像と病理.渋谷和俊,久
米 光(編・著)
,深在性真菌症:病理診断アップデートレビュー,
pp. 23-32, 協和企画,東京,2012
17)Katzenstein AL, Sale SR, Greeberger PA: Pathologic findings
in allergic
sinusitis: a newly recognized form of sinusitis.
7: 439-443, 1983.
18)Kwon-Chung KJ: Taxonomy of fungi causing mucormycosis
and entomophthoramycosis(zygomycosis)and nomenclature
of the disease: molecular mycologic perspectives.
54(Suppl. 1)
: S8-S15, 2012
19)Ref. Gomes MZR, Lewis RE, Kontoyiannis DP. Mucormycosis
caused by unusual Mucormycetes, non,,
and
species.
24: 411-445, 2011
20)Marchevsky AM, Bottone EJ, Geller SA,
.: The changing
spectrum of disease, etiology, and diagnosis of mucormycosis.
11: 457-464, 1980
21)Chabé M, Aliouat-Denis CM, Delhaes L,
.:
:
from a doubtful unique entity to a group of highly diversified
fungal species.
11: 2-17, 2011
22)Roberts GD, Goodman NL. The diagnostic mycology laboratory. In: Sarosi GA, Davies SF(eds.)
, Fungal diseases of the
lung. Grune & Stratton Inc., pp. 34-40, 1986
2
3