重防食塗装 -防食原理から設計・施工・維持管理まで- 鋼構造物塗装小委員会 (社)日本鋼構造協会 「重防食塗装」出版の経緯 ・1989年:「重防食塗装の実際」発刊 当時の最新知見による重防食塗装の定義 ライフサイクルコストの試算など ・2009年:改訂作業開始 20年間の重防食塗装の発展・普及を反映させる。 重防食塗装の定義,施工管理,維持管理などの 最新の情報を提供する。 ・2012年2月「重防食塗装」を発刊 鋼構造物塗装小委員会 (重防食塗装出版時) 委員長 守屋 進 幹事長 斉藤 誠 幹 事 市場幹之 笠原 潔 後藤正承 後藤宏明 中村宏之 山内健一郎 委 員 石田雅己 大桑 洋 江成孝文 鈴木靖庸 高埜真二 高柳敬志 中元雄治 船山嘉実 村瀬正次 目 次 はじめに 推薦のことば 第1章 第2章 第3章 第4章 第5章 第6章 第7章 鋼材の腐食と防食 重防食塗装 防食設計 施工および施工管理 重防食塗装の維持管理 重防食塗装の耐久性評価試験 重防食塗料の今後の展開 参考資料 第1章 鋼材の腐食と防食 1.1 鋼材の腐食 1.1.1 腐食 1.1.2 腐食の分類と形態 1.1.3 腐食と環境 1.2 鋼材の防食 1.2.1 鋼構造物の防食法 1.3 鋼構造物塗装 1.3.1 鋼構造物用防食塗料の変遷 1.3.2 塗装系の変遷 1.3.3 重防食塗装の適用 5 1.1 鋼材の腐食 1.1.1 腐食 腐食とは、金属材料が使用環境中の物質と化学反応(酸化 還元反応)あるいは電気化学反応によって、金属イオンまたは 非金属の化合物となって損耗していく現象。 図1.1.1 鋼材の表面で発生する局部電池の模式図 6 1.2 鋼材の防食 1.2.1 鋼構造物の防食法 (1)塗装 腐食因子(酸素、水)、腐食促進物質(塩化物イオン)などの 侵入を抑制 紫外線 酸素 塩化物 イオン 雨水 ふっ素樹脂塗料上塗塗膜 ふっ素樹脂塗料用中塗塗膜 エポキシ樹脂塗料下塗塗膜 厚膜形ジンクリッチペイント塗膜(防食下地) 鋼材 図1.2.2 重防食塗膜の防食機構の模式図 7 (2)厚膜被覆 ポリエチレン被覆など (3)溶融めっき 溶融亜鉛めっきなど (4)金属溶射 亜鉛-アルミニウム溶射など (5)耐食性金属被覆 1)耐食性金属板被覆(ステンレスシートなど) 2)クラッド鋼(ステンレス鋼など) 3)チタン箔シート (6)耐食性金属材料 ステンレス鋼材 (7)電気防食 (8)環境制御 乾燥空気など 8 1.3.1 鋼構造物用防食塗料の変遷 油性錆止め塗料→調合ペイント→合成樹脂塗料 1.3.2 塗装系の変遷 新設塗装系・塗替塗装系の変遷 塗装周辺技術の変遷 塗装基準の一覧(道路橋,鉄道施設,水門等) 1.3.3 重防食塗装の適用 口絵写真 他の防食法の適用例 第2章 重防食塗装 2.1 社会基盤ストックの現状と課題 2.2 重防食塗装の定義 2.2.1 重防食塗装の適用環境 2.2.2 重防食塗装の定義 2.3 重防食塗装の機能 2.3.1 2.3.2 2.3.3 2.3.4 重防食塗装の機能と構成 防食下地 中塗,下塗塗膜 上塗塗膜 2.4 重防食塗装系の耐久性と期待耐用年数 2.4.1 重防食塗装系の耐久性 2.4.2 重防食塗装系の期待耐用年数 2.5 塗料 2.5.1 プライマー 2.5.2 防食下地 2.5.4 下塗塗料 2.5.5 中塗塗料 2.5.7 弱溶剤形塗料 2.5.3 ミストコート 2.5.6 上塗塗料 2.1 社会基盤ストックの現状と課題 架設後50年以上の高齢橋が今後大幅に増加 図2.1.1 道路橋整備の経年分布(国土交通省資料による) 重防食塗装の定義 ① 無機ジンクリッチペイント、あるいは有機ジンクリッチペイント の防食下地を有すること。なお、金属溶射皮膜、溶融亜鉛めっき 層も防食下地と見なすことができる。 ② 腐食因子の遮断性に優れたエポキシ樹脂塗料、弱溶剤形エ ポキシ樹脂塗料、超厚膜形エポキシ樹脂塗料、ガラスフレーク含 有エポキシ樹脂塗料などを下塗塗料とすること。 ③ 耐候性に優れたポリウレタン樹脂塗料、ふっ素樹脂塗料など を上塗塗料とすること。 ④ 合計膜厚は250~1000μm程度であること。 ⑤ 新設塗装に期待する耐久性(防食性能と耐候性能)は、厳し い腐食環境で30年以上であること。 防食下地、遮断性に優れた下塗塗料、耐候性に優れた上塗 塗料、合計膜厚250~1000μm、厳しい腐食環境で30年以上の 耐久性 重防食塗装仕様 塗装工程 製鋼工 場 素地調整 プライマー 2次素地調整 橋梁製 作 工場 防食下地 ミストコート 下塗 中塗 上塗 塗料名 標準 使用 標準膜 塗装間隔 量 厚(μm) (g/m2) ブラスト処理 素地調整程度 ISO Sa 2 1/2 無機ジンクリッチプライマー 160 (15) ブラスト処理 素地調整程度 ISO Sa 2 1/2 無機ジンクリッチペイント エポキシ樹脂塗料下塗 エポキシ樹脂塗料下塗 ふっ素樹脂塗料用中塗 600 160 540 170 75 - 120 30 ふっ素樹脂塗料上塗 140 25 4時間以内 6ヶ月以内 4時間以内 2日~10日 1日~10日 1日~10日 1日~10日 2.3.1 重防食塗装の機能と構成 それぞれが異なる機能を有する塗料で構成 表2.3.1 重防食塗装の塗膜構成と役割 塗膜構成 上塗塗膜 中塗塗膜 下塗塗膜 防食下地 重防食塗装における役割 ・光沢と色相の保持による美観の保持 ・下層塗膜(防食下地~中塗塗膜)を紫外線から保護 ・下塗塗料と上塗塗料の付着性確保 ・色相調整で上塗塗料の隠蔽性確保 ・腐食因子(水,酸素)と腐食促進因子(塩化物など)の浸透抑制 ・犠牲防食作用,緻密層形成,アルカリ性保持 2.3.2 防食下地 (1)ジンクリッチペイント ①亜鉛の犠牲防食作用による鋼材の腐食抑制 ②亜鉛腐食生成物による腐食抑制作用 ③鋼材表面とその上層塗膜との付着性の確保 水分・塩分・酸素 下塗塗膜 ミストコート 防食下地 樹脂 (シリケート,エポキシ樹脂など) 亜鉛腐食生成物 (緻密化・保護性) 空隙 亜鉛粒子 アルカリ性保持 犠牲防食作用 鋼 材 図2.3.2 ジンクリッチペイントによる防食下地のモデル (2)溶融亜鉛めっき層 下塗塗料は亜鉛めっき用エポキシ樹脂塗料を使用 ふ っ 素 樹 脂 塗 料 上 塗 (2 5 μ m ) ふ っ 素 樹 脂 塗 料 用 中 塗 (3 0 μ m ) 亜 鉛 め っ き 用 エ ポ キ シ 樹 脂 塗 料 (下 塗 ) (4 0 μ m ) 防 食 下 地 : 2 溶 融 亜 鉛 め っ き 層 (6 0 0 g / m 以 上 ) 鋼 材 (合 金 層 ) (3)金属溶射皮膜 エポキシ樹脂塗料や無機系塗料などで封孔処理 ふ っ 素 樹 脂 塗 料 上 塗 (2 5 μ m ) ふ っ 素 樹 脂 塗 料 用 中 塗 (3 0 μ m ) エ ポ キ シ 樹 脂 塗 料 (下 塗 ) (1 2 0 μ m ) (封 孔 処 理 ) 防 食 下 地 : 金 属 溶 射 皮 膜 (1 0 0 μ m 以 上 ) 鋼 材 2.3.3 中塗、下塗塗膜 酸素,水,塩化物イオンなどの腐食性物質の高い浸透抑制効果 透湿度 項目 -2 酸素透過係数 -1 (g・m ・24h ) 3 -2 -1 -1 重防食塗装系 3以下 1以下 一般塗装系 8以下 100以下 2.3.4 上塗塗膜 下塗塗膜を紫外線から保護 塗膜劣化メカニズム -11 (cm ・cm・cm ・sec ・cmHg )×10 対応技術 下塗塗膜を紫外線から保護 紫外線による分解に強い樹脂・顔料の使用 紫外線による分解 顔料による紫外線の遮断 光安定剤、紫外線吸収剤の配合 水分による加水分解 加水分解しにくい樹脂の使用 塗料中の酸化チタン(白色顔料) 酸化チタン表面の高密度処理 の光触媒作用による分解 酸化チタンに強い樹脂・配合の改良 2.4 重防食塗装系の耐久性と期待耐用年数 2.4.1 重防食塗装系の耐久性 20年前後の耐久性を確認 表2.4.1 重防食塗装系の暴露試験/実構造物での耐久性調査結果 場所 暴露期間 上塗 耐久性の調査結果 腐食環境区分 海洋技術総合研究施設 (駿河湾大井川沖) 1985~2005年 U, F 20年の耐久性が確認された。さらに長期の耐久 性が期待される。 厳しい 沖縄暴露試験 1990~2010年 U, F 15年以上の耐久性が確認されている。 つくば暴露試験 1990~2010年 U, F 広島暴露試験 1987~2007年 U, F 20年の耐久性が確認され、さらに長期の耐久性 が期待される。 新両国橋 1974~1999年 U 25年以上の耐久性を確認し、塗替え実施。 因島大橋 1983~2004年 U 大鳴門橋 1985~2004年 U 20年程度の耐久性を確認し、中・上塗りの全面塗 り替え塗装を実施。 瀬戸大橋 1988~2010年 U 生月大橋 1991~2010年 F F:ふっ素樹脂塗料、U:ポリウレタン樹脂塗料 20年以上の耐久性を確認された。 腐食環境 一般腐食環境 厳しい 腐食環境 (1)防食性 (2)耐候性 ふっ素樹脂塗料上塗は20年経 過後も光沢保持率は良好 20年経過後も防食機能は ほぼ初期のまま保持 10 9 8 錆点数(点) 7 6 5 ジンクリッチペイント/ふっ素 樹脂 4 3 鉛系錆止め/長油性フタル酸 樹脂 2 1 0 0 2 4 6 8 10 12 暴露年数(年) 14 16 18 20 図2.4.1 海洋技術総合研究施設海上暴露20年の結果 2.4.2 重防食塗装系の期待耐用年数 ・実績より、ふっ素樹脂塗料の耐用年数は20年以上、塗膜 の消耗量から塗替えまでは35年と試算 ・厳しい腐食環境における20年暴露試験でも腐食劣化なし ・厳しい腐食環境での期待耐用年数は20年以上 2.5 塗料 2.5.1 プライマー ・一次防錆プライマーと呼ばれる。 ・無機ジンクリッチプライマー(15~25μm) ・原板ブラスト処理した直後から工場製作の間の鋼材の発錆を防 ぐ目的で塗付される。 2.5.2 防食下地 (1)無機ジンクリッチペイント ・金属亜鉛末とシリケートやけい酸塩を主成分 ・膜厚75μm程度 ・ブラスト処理した鋼材面に塗付 ・縮合重合反応で硬化するため相対湿度50%以下で塗付しない (2)有機ジンクリッチペイント(エポキシジンクリッチペイント) ・金属亜鉛末とエポキシ樹脂塗料を主成分 ・防錆性は、無機ジンクリッチペイントよりやや劣る ・密着性が良く、素地調整程度1種または2種で塗膜を除去し た塗替塗装に適用 2.5.3 ミストコート ・無機ジンクリッチペイント塗膜には空隙が多く、下塗塗料を直接 塗装すると泡やピンホールを生じる ・無機ジンクリッチペイント塗膜の上に塗る下塗塗料を30~60% 希釈した塗料(ミストコート)を塗装して、空隙の充填およびシ ールする ・ミストコート塗膜が乾燥不十分の場合、その上に塗装された 塗料の溶剤で溶けてしまうので16時間以上の塗装間隔が必要 2.5.4 下塗塗料 下塗塗料は、鋼材面,防食下地と密着して、水,酸素,塩化イオ ンなどの腐食因子の浸透を抑制する 2.5.5 中塗塗料 下塗塗膜の色を隠蔽と下塗塗膜と上塗塗料を密着させるため、 上塗塗料に近い色で密着性のよい中塗塗料を塗付する 2.5.6 上塗塗料 ・上塗塗料の機能は、着色や光沢など所要の外観を得ること、 水や酸素の塗膜内への浸透を抑制すること ・ふっ素樹脂塗料上塗は、非黄変性イソシアネートなどを硬化 剤とし、耐候性,耐水性,耐薬品性,耐熱性に優れている 第3章 防食設計 3.1 構造や環境が腐食に及ぼす影響 3.1.1 桁端部 3.1.2 道路線形や構造形式が腐食に及ぼす影響 3.2 構造設計 3.2.1 3.2.2 3.2.3 3.2.4 塗膜がつきにくい部位 水仕舞 作業空間 付属施設 3.3 重防食塗装仕様 3.3.1 新設鋼橋の塗装仕様 3.3.2 塗替鋼橋の塗装仕様 3.3.3 その他の鋼構造物の塗装仕様 3.4 重防食塗装のLCC 3.4.1 LCCの試算 3.4.2 LCC低減効果 3.1 構造や環境が腐食に及ぼす影響 同一構造物でも部位によって腐食性が異なる ・濡れ時間の長い部位、短い部位 ・飛来塩分が流されやすい部位、流されにくい部位 ・湿気がこもりやすい部位と風通しの良い部位 ・紫外線を強く受ける部位、受けない部位 3.1.1 桁端部 ・桁端部は、局部腐食を生じる代表的な部位である ・水分や土砂や塵が堆積しやすい部位が集中的に腐食する ・支点部の垂直補剛材に腐食がある場合は、少ない板厚減少で あっても耐荷力に大きく影響する 写真3.1.1 桁端部への土砂の堆積 写真3.1.2 桁端部の部分腐食 3.1.2 道路線形や構造形式の影響 ・トラス橋やアーチ橋では滞水に起因する腐食が生じる事例が見られる ・構造物の設計時に、水が溜まらない構造や水が抜けるような配慮が必要 ・山間部部の橋梁などで草や樹木に覆われて湿度が高い環境となる ・隣接する道路と高低差があり凍結防止剤の跳ね上げが懸念される 3.1.3 同一構造物内の腐食環境の違い 構造物全体が同一の環境にはならず、腐食環境が大きく異なる 場合がある。 ・河川上の径間は、濡れ時間が長くなり下フランジ全体にさびが生じている ・同一橋梁の陸上部は良好な状態 (b)河川上部分の塗膜劣化 (C)陸上部部分 ・日射を多く受ける部位に白亜化が見られる(ポリウレタン上塗) 南向き面 北向き面 図3.1.1 鈑桁橋の代表的な腐食原因と発生部位 図3.1.2 アーチ橋の代表的な腐食原因と発生部位 図3.1.3 トラス橋の代表的な腐食原因と発生部位 3.2 構造設計 構造物の設計にあたって、配慮が必要な事項 ・塗膜の点検や塗替作業を行うために必要な措置 ・塗膜の早期劣化をもたらす漏水や滞水への対策 ・塗膜厚不足が生じやすい部位の工夫 3.2.1 膜厚が付きにくい部位 ①部材角部は、専用加工機やグラインダーによる曲面仕上げを 行うとともに、その部分だけエアレススプレー塗装に先立ち、刷毛 で先行塗装を行う。 ②ブラストなどの素地調整作業及び塗装作業が容易に行える構 造とする。 ③溶接部でビード表面の不規則な凹凸などにより膜厚が確保しに くい場合には、溶接表面を仕上げるなどの適切な処置を行う。 ④スカラップ及び切欠きは50mm程度とする。 ⑤狭隘部をなくす。 ⑥高力ボルト接合継手のトルシアボルトのピンテール跡が鋭利な 形状することが多いので、グラインダーなどで平滑仕上げする。 ⑦無処理ボルトでは、付着しているミルスケール,錆,汚れ,油分 が素地調整で十分に除去できず、膜厚も確保し難いので、防錆処 理ボルトや防錆キャップを使用するとよい。 3.2.2 水仕舞い ①桁端部の風通しをよくする ②泥,塵埃の堆積及び滞水を防止する ③床版,伸縮装置,排水管からの漏水を防止する ④排水管は、排水枡から鉛直に下ろし、鋼部材最下端から の突出長を十分確保する ⑤横引き構造の排水処理とする場合は、十分な排水勾配を つけて大口径の管を使用し、管のジョイントからの漏水対策 を行う ⑥床版に水抜き孔を設ける場合は、ホースなどにより鋼桁に 直接排水がかからない位置まで確実に導水する ⑦非排水型伸縮装置を使用する ⑧桁端に設置されている伸縮装置からの漏水を防ぐため に、二重に止水工を施すなどして伸縮装置からの漏水を完 全に防ぐ ⑨箱桁継手部は、フランジ端面や添接板の隙間から箱桁内に侵 入するのでシール材で雨の侵入を防ぐ。桁端には、滞水を防ぐ ため集水用仕切板と排水孔を設ける。 写真3.2.2 集水用仕切板の例 工場塗装の留意点 ・沿岸部の製作工場・塗装工場や仮置きヤードや、付着塩分量を 50mg/m2以下に管理する。必要に応じて水洗を行う。 ・非常に厳しい腐食環境(海上橋の飛沫部)や塗替塗装が行えない 部位には、環境遮断性能が優れた超厚膜形エポキシ樹脂塗料や ガラスフレーク含有塗料(300~1000μm)を使用する。 ・工場塗装では、エアレススプレー塗装が適用されるが、現場連結 部や補修部分の塗装が刷毛やローラーの場合、上塗塗膜の外観 が若干異なって見れることがあるが、防食上の問題はない。 ・現場連結部の防食性能を確保するため、連結部の部材は製作時 に無機ジンクリッチペイントを塗布する。 ・摩擦接合継手の現場連結部には、部材製作時にすべり摩擦係数 0.4を確保するための無機ジンクリッチペイントが塗布される。 ①接触面片面あたりの最小乾燥膜厚 :30μm ②接触面の合計乾燥膜厚 :90~200μm ③乾燥膜厚中の亜鉛含有量 :80%以上 ④亜鉛末の粒径(50%平均粒径) :10μm程度以上 図3.3.1 塗膜劣化程度・変状深さによる局部補修塗装方法 ①局部補修塗装 (a) 点錆部、打痕傷からの錆部の素調整 (b) 点錆部、打痕傷からの錆部の塗装 (c)ボルト頭部の塗装 写真3.3.2 局部補修塗装の例 ②部分塗替塗装 図3.3.2 劣化部位に応じた塗装範囲の決定例 ③全面塗替塗装 写真3.3.3 全面塗替塗装における素地調整(3種,4種) 3.4 重防食塗装のLCC LCC = I+M+R LCC : 塗装のライフサイクルコスト I : 新設塗装のイニシャルコスト (工場塗装,現場補修,現場塗装を含む) M : 供用期間中に発生する塗装メンテナンスコストの合計 (塗膜点検,局部補修塗装,部分塗替塗装を含む。) R : 供用期間中に発生する全面塗替塗装コストの合計 3.4.2 100年間のLCC (1)各塗装系の積算単価と期待耐用年数 表3.4.10 各塗装系の積算単価と期待耐用年数 塗装系 積算単価 (円/ m2) 新設重防食塗装系 7,286 新設一般塗装系 3,169 塗替重防食塗装系 12,790 塗替重防食塗装系 5,625 塗替一般塗装系 期待耐用年数 (年) 一般環境 厳しい環境 一般環境 厳しい環境 一般環境 厳しい環境 一般環境 厳しい環境 50 30 10 ― 40 ― 50 30 一般環境 10 厳しい環境 ― 5,524 (3)LCCの低減効果 表3.4.11 LCCの比較(一般環境) 塗装系の変遷 塗装費種別 新設塗装費 (円/m2) 塗替塗装費 (塗替回数) (円/m2) 塗替塗装費 (塗替回数) (円/m2) 供用年数100年間 のLCC(円/m2) 供用年数100年間 のLCC指数(一般 塗装系を100とした 場合) 新設重防食塗装系 ↓ 塗替重防食塗装系 新設重防食塗装系 (期待耐用年数50年) 7,286 塗替重防食塗装系 (50年-1回) 5,625 新設一般塗装系 ↓ 塗替重防食塗装系 ↓ 塗替重防食塗装系 新設一般塗装系 (期待耐用年数10年) 3,169 塗替重防食塗装系 (40年-1回) 12,790 塗替重防食塗装系 (50年-1回) 5,625 新設一般塗装系 ↓ 塗替一般塗装系 新設一般塗装系 (期待耐用年数10年) 3,169 塗替一般塗装系 (10年毎-合計9回) 49,716 12,911 21,584 52,885 24.4 40.8 100.0 60,000 (円/㎡) 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 0 20 40 60 80 100 (年) 新設 一般塗装系 G-Ⅰ → 塗替 新設 一般塗装系 G-Ⅰ 一般塗装系 GR-Ⅴ → 塗替重防食塗装系 HR-Ⅰ → 塗替重防食塗装系 HR-Ⅳ 新設重防食塗装系 H-Ⅰ → 塗替重防食塗装系 HR-Ⅳ 図3.4.1 供用年数100年間のLCC比較(一般環境) 第4章 施工および施工管理 4.1 施工 4.1.1重防食塗装の塗装工程, 4.1.2素地調整法, 4.1.3塗装方法 4.2 施工管理 4.2.1施工管理項目, 4.2.2素地調整の管理, 4.2.3塗装の管理 4.3 塗膜変状(塗膜欠陥) 4.3.1塗装時または塗装直後に発生する塗膜変状 4.3.2塗装後比較的短期間に発生する塗膜変状 4.3.3塗膜の耐久性低下による塗膜変状, 4.3.4塗膜変状の事例 4.4 安全・衛生管理 4.4.1火気に関する注意 4.4.2有機溶剤の摂取や中毒に関する注意 4.4.3安全衛生管理に関わる法規制, 4.4.4重防食塗装に関わる廃棄物の分類と対応 4.4.5騒音規制, 4.4.6粉塵対策, 4.4.7臭気対策 4.1 施工 4.1.1 重防食塗装の塗装工程 現地 製作工場 製鋼工場 補修塗装 現場 継手部の塗 装 架 設 上塗 塗 装 中塗 塗装 下塗 塗装 ブラスト処理 (製 品ブラスト) 仮組 立 加 工 ・溶 接 切 断 一次 防錆 プライマー ブラスト処理 (原 板ブラスト) 鋼 板 図 4.1.1 新設鋼橋の塗装工程例(全工場塗装) 4.1.2 素地調整法 ◇素地調整方法の種類 (1)物理的素地調整法(ブラスト処理法・機械工具処理法) ⇒鋼構造物 (2)化学的素地調整法(酸洗処理など) ⇒自動車・家電製品など ◇鋼構造物塗装に用いる素地調整法 (1)ブラスト処理工法(重防食塗装系に用いる素地調整法) ・新設塗装:製鋼工場,製作工場 ・塗替え塗装:現場ブラスト処理 塗替え塗装に用いる (2)機械工具処理工法 (3)塗膜剥離剤工法 (3) 塗膜剥離剤工法 表4.1.9 主成分 塗膜への効果 皮膚刺激性 消防法 労働安全衛生法 PRTR法 環 境 特徴 毒性 生分解性 塗膜剥離剤の特徴 塩素系塗膜剥離剤 塩素系有機溶剤 溶解型 強い刺激がある 非該当 第2種有機溶剤 第1種指定化学物質 高級アルコール系塗膜剥離剤 アルコール系有機溶剤 浸透・軟化膨潤型 ほとんどない 第4類第3石油類 非該当 非該当 発ガン性物質 難分解性 ・放置時間は数十分 ・表層の塗膜のみ剥離 ・剥離塗膜の回収がしにくい 家庭用洗剤程度 約30日で水と炭酸ガスに分解 ・放置時間は24~48時間 ・多層塗膜を一度に剥離 ・剥離塗膜の回収が容易 塗替え塗装で有害物質(PCBなど) を含む旧塗膜の除去に有効 写真4.1.17 高級アルコール系塗膜剥離剤 による塗膜剥離状況 4.1.3 塗装方法 (1) 塗装方法の種類と特徴 表4.1.10 塗装方法の種類と特徴 塗装方式 特 徴 刷毛 平滑,均一に塗装する技能が必要。 ローラー 平面部に適する。施工効率がよい。泡や貫通孔 (ピンホール)が残留する可能性が高く,仕上がり 感が劣る。 圧送式刷毛,圧送式ローラー 連続的作業が可能,塗料ロスが多い。 エアースプレー スプレー エアレススプレー 静電(液体) 平滑で塗装面の仕上がりがよい。 スプレーミス トの飛散が多い。 作業能率がよい。厚膜に塗付できる。 スプレーミストの飛散が多い。 塗着効率が高い,スプレーミストの飛散が比較的 少ない。 4.2.1 施工管理項目 表4.2.1 施工管理項目 工 程 素地調整 管理項目 除錆度,表面粗さ 作業条件管理 塗装前検査 防食下地 塗料調合 塗膜厚 作業条件管理 塗装前検査 下塗・中塗・上塗塗装 最終検査 塗料調合 塗膜厚 作業条件管理 塗膜厚検査 塗膜外観検査 塗料使用量検査 管理方法 目視判定(除錆度,粗さ,清浄) 天候,温湿度,露点,作業時間, 戻り錆の有無 戻り錆の有無, 油脂,塵埃,付着塩分など 粘度,混合比,シンナー希釈率, 塗料温度,可使時間,熟成時間 ウエット膜厚 天候,温湿度,露点,作業時間 塗膜外観,硬化程度,塗装間隔 粘度,混合比,シンナー希釈率, 塗料温度,可使時間,熟成時間 ウエット膜厚 天候,温湿度,露点,作業時間 特記仕様書による 素地調整施工時の留意事項 ① ブラスト処理作業時の相対湿度80%以下 ② ブラスト作業条件の確認 所定の除錆度,表面粗さを確保するための作業条件の確認 ③ 固着物の除去 スパッタ,スラグなどの固着物の事前除去 ④ ブラスト処理後の塗装 ブラスト処理後、速やかに塗料を塗付(4時間以内に塗装) ⑤ ブラスト処理面の清掃 鋼砕,研削材の除去(エアーブロー・ワイヤーブラシ処理など) ⑥ 付着塩分量管理(塗装前素地調整) 海上輸送や海上橋に対する付着塩分量管理(50mg/㎡以下) 4.2.3 塗装の管理 (1) 塗料の準備 ◇施工条件チェックシートの活用 ◇準備作業に対する注意事項解説 1)缶の開口 2)撹拌 3)調合 4)希釈 5)可使時間(ポットライフ) (2)塗装施工 1)塗膜厚の管理,2)先行増塗り(エッジ部の塗膜厚確保) 3) 塗付量,4) 補修,手直し,5)塗装間隔,6)塗膜の養生 ・塗装後塗膜が硬化する過程で留意すべき事項 ①温湿度環境の急変を避ける ②水濡れに注意する(降雨,降雪,結露対策) ③塵埃,その他の飛来物の付着を防止する ④塗膜上の歩行作業を禁止する ・塗膜硬化の確認方法 ①触診で塗膜硬さを確かめる指触試験 ②溶剤を含ませた布を塗膜に圧着させた後、塗膜表面を こすり、剥がれや膨潤状態を評価するラビング試験 ③鉛筆硬度やバーコル硬度計による塗膜硬度の評価試験 (3)塗装環境 ◇塗装条件に対する留意事項を解説 1)温度 ・適性温度範囲での施工 ・低温施工時の対策(保温) 写真4.2.5 バンドヒー タによる保温例 2)湿度 ・高湿度,結露に対する注意(露点管理) 3)降雨,降雪,降霜に対する注意 4)風 ・風速 5m/sec 以上では塗装しない 5) 照度 ・十分な照度の確保 写真 4.2.6 冬季施工時 のジェットヒータでの保 温例 4.3 塗膜変状(塗膜欠陥) ◇塗料の変質 ・亜鉛末の変質,増粘,ゲル化,顔料の沈殿など 発生現象,推定原因,性能影響・処置 4.3.1 塗装時または塗装直後に発生する塗膜変状 ・硬化不良,スプレーダスト,流れ,たれ,リフテイングなど 発生現象,推定原因,性能影響・処置 4.3.2 塗装後比較的短期間に発生する塗膜変状 ・膨れ,割れ,剥がれなど 発生現象,推定原因,性能影響・処置 4.3.3 塗膜の耐久性低下による塗膜変状 ・塗膜の消耗,光沢低下,変退色など 発生現象,推定原因,性能影響・処置 ◇塗料の変質 塗膜変状につながる塗料の変質 (1)亜鉛末の変質 [ 塗料の変質事例 ] (2)増粘 (3)ゲル化 (4)顔料の沈殿 写真4.3.1 増粘 写真4.3.3 顔料の沈殿 写真4.3.2 ゲル化 第5章 重防食塗装の維持管理 5.1 維持管理の重要性 5.2 点検と調査 5.2.1 塗膜点検・調査の種類 5.2.2 点検方法と評価 5.3 重防食塗膜の塗替方式 5.3.1 局部補修塗装 5.3.2 部分塗替塗装 5.3.3 全面塗替塗装 5.4 点検結果のデータベース化 5.5 本州四国連絡橋における重防食塗膜の維持管理事例 5.5.1 5.5.2 5.5.3 5.5.4 5.5.5 塗替塗装の基本方針 塗膜点検 塗替塗装時期の判定 重防食塗装の塗替塗装方法 塗替塗装工事 5.1 維持管理の重要性 図5.1.1 高齢橋(50歳以上)の割合の推移 図5.1.2 塗替塗装の概念 適切な時期に塗替塗装を実施することで、重防食塗装系のほうが、 一般塗装系より鋼構造物の防食性能を長期間維持できる。 ・塗膜点検を定期的に実施し、塗替時期と塗替方法を決定する ・必要に応じて詳細調査で異状劣化の原因を究明する ・点検及び調査結果の記録は、データベース化する 5.2 点検と調査 5.2.1 塗膜点検・調査の種類 表5.2.1 塗膜点検・調査の内容と時期 点検・調査の種類 内容 時期 初期点検 輸送,架設時の塗膜損傷や施工不良・品質不良に起因 供用後2 する初期欠陥の有無および維持管理のための初期値を 年以内 測定する 定期点検 初期点検 防食機能,景観機能の劣化の進行状態から塗装系選定 後5年ご の良否判断と塗替塗装計画に対するデータ収集を行う と 詳細調査 補修,塗替えの必要性の判定や補修,塗替えの方法を 決定する際に、劣化原因や劣化程度をより詳細に把握す 必要時 るために調査を行う 定点調査 架設直後 塗膜の劣化メカニズムの解明や塗替時期の判定のため から5年 の耐久性評価(塗膜の消耗速度ほか)に関するデータ収 ごとに行 集と同一箇所で詳細調査を行う う 参考:国土交通省道路局 橋梁定期点検要領 5.2.2 点検方法と評価 (1)重防食塗膜の劣化形態 重防食塗膜は、防食機能の観点から防食下地のジンクリッチペイ ントが健全である間は、防食機能は維持されている。 ⇒ 防食機能から塗膜劣化を考慮する必要はなく、景観の観点か ら上塗塗膜の消耗や剥離及び中塗塗膜の消耗について考慮す る。 部分的な重防食塗膜変状の例 写真5.2.2 無機ジンクリッチペイ 写真5.2.1 上塗塗膜の剥離 (海上橋,ポリウレタン樹脂塗 ントの剥離(陸上橋,ポリウレタン 樹脂塗料上塗,供用後約20年) 料上塗,供用後約20年) 写真5.2.3 無機ジンクリッチペイ ントの剥離(陸上橋,ポリウレタン 樹脂塗料上塗,供用後約20年) 5.3 重防食塗膜の塗替方式 5.3.1 局部補修塗装 継手部,桁端部,漏水箇所,架設中の傷などで局部的な錆,剥がれ などの塗膜変状部位を対象 5.3.2 部分塗替塗装 特定の部位(たとえば、下フランジ)または部材の塗膜劣化が進ん でいる場合、その範囲 資料1:国土交通省道路局;鋼道路橋の部分塗替え塗装要領(案) 5.3.3 全面塗替塗装 鋼構造物の全体部位の塗替塗装 5.4 点検結果のデータベース化 ・塗膜点検及び調査結果は、適切な塗膜の維持管理のための重要 なデータである。⇒ 橋梁維持管理システムや道路構造物のアセット マネジメントに活用 ・データベースの基本的な項目 ①橋梁情報:構造物名,所在地,形式,竣工時期,外観写真,製作 会社 ②設置環境:飛来塩分量,架設場所の環境(年間平均気温,湿度, 降雨量,結露時間) ③塗装仕様:塗装系,塗替えの有無及び塗替時期,塗料製造会社 ④点検結果:目視調査(錆,割れ,剥がれ,膨れ,変退色),計器調 査記録 ⑤補修履歴:時期,素地調整程度,塗替塗装仕様,補修塗装箇所, 補修前後の記録写真,欠陥再発時の状況写真記録,原因調査資料 第6章 重防食塗装の耐久性評価試験 6.1 耐久性試験とその特徴 6.2 標準的な暴露試験 6.2.1暴露環境,6.2.2暴露試験の規格,6.2.3標準的な暴露試験 6.3 実環境における暴露試験 6.3.1大気環境における暴露試験,6.3.2海洋環境における暴露試験 6.3.3実構造物での塗装試験,6.3.4実構造物での塗膜実態調査 6.4 促進劣化試験 6.4.1促進耐候性試験,6.4.2促進腐食試験 6.4.3複合サイクル促進腐食試験 6.5 現地塗膜調査 6.5.1目視調査,6.5.2計器調査,6.5.3分析調査,6.5.4環境計測 6.6 塗膜の性能評価試験 6.6.1塗膜の機械的性質,6.6.2塗膜の化学的性質 6.6.3塗膜の長期耐久性,6.6.4塗装した鋼材の電気化学的測定 6.2.2 暴露試験の規格 大気暴露試験の規格 日本工業規格 JIS Z 2381:2001 「大気暴露試験方法通則」 JIS K 5600-7-6:2002 「塗料一般試験方法―第7部:塗膜の長期耐 久性―第6節:屋外暴露耐候性」 国際標準化機構ISO規格 ISO 2810-2004 「Paints and varnishes - Natural weathering of coatings - Exposure and assessment」 ISO 9223-1992 「Corrosion of metals and alloys - Corrosivity of atmosphrers - Classification」 米国材料試験協会ASTM規格 ASTM D1014-02 「Standard Practice for Conducting Exterior Exposure Tests of Paints and Coatings on Metal Substrates」 65 6.2.3 標準的な暴露試験場 標準的な暴露試験場 (公的試験機関) ・日本ウェザリングテストセンター (a) 銚子暴露試験場 標準的暴露場 (b) 宮古島暴露試験場 亜熱帯地域 (c) 宮古島海岸暴露場 亜熱帯・海岸地域 (d) 旭川暴露試験場 寒冷地域 ・日本塗料検査協会 (a) 御前崎暴露試験場 写真6.2.2 日本塗料検査協会:御前崎暴露試験場 66 日本ウエザリングテストセンター (a)銚子暴露試験場 (c)宮古島海岸暴露場 (b)宮古島暴露試験場 (d)旭川暴露試験場 写真6.2.1 日本ウエザリングテストセンターの暴露場 67 6.3 実環境における暴露試験 実環境における塗膜の耐久性評価 ① 実環境や実環境より厳しい環境(促進評価を目的)に暴露架 台を設置して、塗装した鋼板試験体を暴露する方法 ② 比較的大きな各種の塗装を施した鋼材(鋼管や形鋼が使用 される場合が多い)を実環境に設置・暴露する方法 ③ 実際の鋼構造物に試験塗装する方法 ④ 実際の鋼構造物の塗装を追跡調査する方法 68 6.3.1 大気環境における暴露試験 (1) 土木研究所 表6.3.1 土木研究所関連の実環境暴露試験場 環境 暴露場所 駿河湾 海洋技術総合研究施設 海上 沖ノ鳥島 阿字ヶ浦 漂砂観測桟橋 沖縄建設材料耐久性研究施設 海浜 北陸建設材料耐久性研究施設 建設材料研究施設 朝霧環境材料観測施設 内陸 東京建設材料研究施設 北海道 小利別暴露試験場 北海道 美々暴露試験場 環境条件などの詳細 温帯の海上・海中での暴露試験で、飛来塩分の多い 海上環境である。 熱帯で海の影響を強く受ける。 海上環境での暴露試験である。 亜熱帯の沿岸部に位置し、紫外線強度が強く、飛来塩 分の影響を強く受ける環境にある。 冬期に強い季節風が吹く沿岸部に位置し、飛来塩分 の影響を受ける。 比較的温暖な環境で、他の厳しい環境での試験との 比較対象となる。 高原に位置し、朝晩の気温低下が大きい環境にある (結露しやすい).飛来塩分のない山間部環境。 交通量の多い道路脇に位置し、降雨の影響を受けにく い場所にある。 日本有数の寒冷地における暴露試験である。 69 (1)土木研究所(海上) 1) 駿河湾大井川沖 海洋技術総合研究施設 2) 沖ノ鳥島 70 (1)土木研究所(海浜・内陸) 4) 沖縄建設材料耐久性研究施設 5) 北陸建設材料耐久性研究施設 6) つくば建設材料研究施設 8) 東京建設材料研究施設 7) 朝霧環境材料観測施設 9) 小利別暴露試験場 71 第7章 重防食塗料の今後の展開 7.1 7.2 7.3 7.4 7.5 7.6 7.7 水性塗料 無溶剤形塗料 低溶剤形塗料 無機系塗料 寒冷地用塗料 中塗上塗兼用・下塗上塗兼用塗料 新しいふっ素樹脂塗料 7.7.1 厚膜形ふっ素樹脂塗料 7.7.2 シロキサン架橋形ふっ素樹脂塗料 7.7.3 高耐久性ふっ素樹脂塗 7.8 省検査形膜厚制御塗料 7.9 その他 7.1 水性塗料 • 光化学スモッグの要因といわれるトルエン、キシレンなどのVOC 規制が強化 • 鋼構造物塗装では、トルエン、キシレンなどの強溶剤系塗料から ミネラルスピリット中心の弱溶剤系への移行が進行 • さらにVOC排出量削減のために無溶剤形塗料および水性塗料 へと転換が求められている • 土木研究所と塗料メーカー6社は、共同研究を行い水性塗装系 の実用性評価を実施 • 鋼道路橋塗装のVOC削減暫定水性塗装仕様を提案 7.2 無溶剤形塗料 ・大幅なVOC削減効果 ・実用化されている代表例 無溶剤形エポキシ樹脂塗料 無溶剤形変性エポキシ樹脂塗料 ・使用樹脂 ビスフェノールF型エポキシ樹脂、アルキルグリシジルエーテ ル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、キシレン 樹脂、低分子アミン樹脂など ・無溶剤形塗料は溶剤形塗料に比べて塗料や施工性に十分な 知識と管理が必要 7.3 低溶剤形塗料 ・VOC含有量を従来塗料に比べて低くした塗料 ・社団法人日本塗料工業会では、溶剤含有量30%(WT%)以下の 塗料を分類 ・実用化されているもの エポキシ樹脂塗料、変性エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂塗 料上塗など ・土木研究所と塗料メーカー5社は、共同研究で河川構造物の 現場塗替塗装に無溶剤形エポキシ樹脂塗料、低溶剤形エポ キシ樹脂塗料の適用検討を実施 ・河川構造物のVOC削減提案仕様と塗料品質規格案を作成 7.4 無機系塗料 ・シロキサン結合(Si-O-Si)を主体とした樹脂を使用した鋼構造物 用上塗塗料 ・シロキサン結合は化学結合エネルギーが高いために従来塗料 よりも高い耐候性が期待できる ・重防食塗料の上塗のふっ素樹脂塗料と同等以上の耐候性 図7.4.2 沖縄暴露試験での光沢保持率 7.5 寒冷地用塗料 ・低温時の施工性、乾燥性に優れた塗料 ・硬化機構 エポキシポリオール樹脂とイソシアネートの重合反応硬化 アクリル酸とアミンのマイケル付加反応樹脂末端にイソシア ネート基をもち大気中の水分で架橋 ・土木研究所と塗料製造会社で寒冷地用塗装系の施工性に関 する検討を実施中 ・供試した塗装系は、低温時の施工可能 7.6 中塗上塗兼用・下塗上塗兼用塗料 ・塗装のコストを削減するためには工程短縮が有効な手法 ・中塗上塗兼用塗料は、中塗と上塗の機能を併せ持つ塗料で あり、中塗と上塗の2工程を1工程で仕上げることが可能 ・下塗上塗兼用塗料は、下塗と上塗の機能を併せ持つ塗料 7.7.1 厚膜形ふっ素樹脂塗料 ・ふっ素樹脂塗料を厚膜で塗装することにより、防食下地をより 長期間にわたって健全な状態で維持 ・塗装工程の短縮が可能となり、塗装コストの削減、塗装のトー タルコストの低減が期待できる ・鋼橋・石油タンク、各種プラントなどの鋼構造物の上塗塗料で 使用 7.7.2 シロキサン架橋形ふっ素樹脂塗料 100 100 80 80 60°光沢保持率/% 60°光沢保持率/% ・シロキサン架橋形ふっ素樹脂塗料は、ふっ素含有量が15% 以下でも従来のふっ素樹脂塗料と同等の耐候性 60 40 シロキサン架橋形ふっ素樹脂塗料上塗 20 イソシアネート架橋形ふっ素樹脂塗料上塗 0 60 40 シロキサン架橋形ふっ素樹脂塗料上塗 20 イソシアネート架橋形ふっ素樹脂塗料上塗 0 0 6 12 18 24 0 1000 2000 3000 4000 5000 暴露期間 / months 暴露期間(月) 試験時間 / hours 試験時間(時) 図7.7.1 沖縄暴露2年 図7.7.2 促進耐候性(キセノン) 7.7.3 高耐久性ふっ素樹脂塗料 ・本州四国連絡橋の海峡部長大橋では自然景観との調和を図 るため橋の色は淡彩色が主体 ・白色顔料の酸化チタンを多量に使用しており、紫外線,水, 温度や塩分などの環境要因を受けやすく、光触媒作用によ り上塗塗膜の劣化が想定以上に早いことが課題 ・本州四国連絡高速道路株式会社では、屋外暴露耐候性試験 と実橋試験塗装により性能評価し、暫定規格を制定 7.8 省検査形膜厚制御塗料 ・塗装作業者や検査者が目視により規定膜厚が確認でき、膜 厚検査の省力化が図れる ・規定膜厚に達していない箇所を目視で確認でき、補修作業が 軽減され膜厚計による確認が不要 ・塗膜欠陥が少なくなり、結果として塗膜の期待耐用年数が延 びLCCの低減に繋がる 参考資料 1.鋼道路橋の部分塗替え塗装要領(案) 国土交通省道路局 平成21年9月 各地方整備局で試行中 2.道路橋の予防保全に向けた提言 道路橋の予防保全に向けた有識者会議 平成20年5月 3.参考文献 1988年以降の重防食塗装に関係する参考文献一覧 各章毎の文献,特定な構造物に関する文献,今後の課題に関する文献, 規格に関する文献,その他の文献
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