留学体験記 ~ Report of my experiences in Uchida Lab at Harvard University ~ 京都大学医学科2回生(留学当時は1回生) 向平 妃沙 1.はじめに 私は 2013 年 2 月 14 日から 2013 年 3 月 31 日までの期間、ハーバード大学の内田直滋教授の研究室に 留学しました。内田教授の研究室は、Department of Molecular and Cellular Biology と Center for Brain Science を構成する研究室の一つで、アメリカのボストンの隣町のケンブリッジに位置しています。 (研究室のウェブサイト:https://www.mcb.harvard.edu/mcb/faculty/profile/nao-uchida/) 2.留学した理由 私が留学をしたいと思った理由は、そのころオックスフォード大学とコペンハーゲン大学の研究室へ の留学生を募集していたことに刺激されたからです。そこで、当時所属していた生体情報科学講座の渡 邉大先生に留学したいという意思を伝え、留学先を探していただきました。それが内田教授の研究室で した。 3.留学の準備 留学先が決まったあと、先方の教授・秘書の方たちとメールでやり取りをして、留学のための手続き を進めました。その中で、CV(履歴書)をはじめとする書類を提出するように要求されました。また、 アメリカ入国の際に必要な J-1 ビザの申請のための書類を送ってくださるようだったのですが、準備期 間も短く、またちょうど大雪のせいもあり間に合わず、ビザではなく、ESTA という、主に 90 日以内で 観光目的で入国するのに必要なシステムで入国しました。 ちなみに、私と同じ時期にピッツバーグ大学の研究室に留学していた同回生の話を聞くと、彼女も ESTA 申請だけでアメリカに入国したそうです。 (本来研究目的でアメリカに入国する際には ESTA の申請ではだめなのですが、なぜ ESTA での入国を はじめから許されたのかなどの詳しいことは彼女に詳しく聞いていないのでわかりません。ESTA につ いてはこちらの米国大使館のウェブサイトを参照してください↓ http://japanese.japan.usembassy.gov/j/visa/tvisaj-esta2008.html ) 4.ボストン、ケンブリッジについて [ 位置・概要 ] アメリカ合衆国マサチューセッツ州の北東部に位置し、ボストンはニューイングランドの中で最大の 都市で、ケンブリッジはその隣の都市です。多くの総合・単科大学があり、高等教育・研究活動の中心 地で、ハーバード大学の他に MIT(マサチューセッツ工科大学) ・ボストン大学・タフツ大学などがあり ます。 (写真は MIT) [ 時差 ] 米国東部標準時間にあたり、日本とはほぼ昼夜逆転という感じです。 夏時間中の時差 : 13 時間 (3 月第 2 週目の日曜日~11 月最終土曜日) 冬時間中の時差 : 14 時間 (11 月最終日曜日~3 月第 1 週目の土曜日) [ 気候 ] 私が留学していた 2・3 月はちょうど真冬の時期で、とても寒く、風は強いうえに雪が多い気候です。 厚手のコートは必須で、下はジーンズ、靴は歩いても滑らないような靴をはいていました。冬は雪が積 もり、ボストンの中心を流れるチャールズ川も凍ってしまうので、観光には適していません。 (写真はハーバードヤード、リスが走っているのをよく見かける) (写真はハーバードヤードにあるハーバードの銅像) [ 交通 ] ボストン・ケンブリッジの最寄りの空港はローガン国際空港です。私は伊丹から成田、成田からワシ ントン、ワシントンからローガン空港へと ANA の便を使って何回か乗り継ぎして行きました。(ローガ ン空港への直行便は成田からの JAL の便くらいしかないはずです。現在も同じ状況なのかわからないの で、ボストンに行く際は各自で確認してください。)ボストン近辺は地下鉄やバスなどの公共交通機関が 発達していて、この公共交通機関を利用して色々なところに行くことができます。ボストンのローガン 国際空港に到着すると、空港からはシルバーラインというバスを無料で利用できます。また、地下鉄に ついてですが、時刻表はなく、時々土日の朝に車両点検のためにバスでの振替輸送をしているときがあ ります。知らないとびっくりするので注意しないといけないポイントだと思いました。 [ 治安 ] 私がボストンを発ってしばらくしてボストンマラソン爆発事件が起こりましたが、アメリカ国内で最 も治安のよい安全な都市の一つとされています。私自身もボストンは安全だと思います。ただ、あまり 夜遅くに一人で出歩かない、犯罪が起こりやすいと言われているボストン南部には近づかない、など気 をつけている点はありました。 [ 食文化 ] クラムチャウダーやフィッシュアンドチップスやロブスターが有名で、私もよく食べていましたが、 地区ごとに異なった料理が食べられます。たとえば、チャイナタウンなら中華、ノースエンド地区では イタリアン、など。もちろん日本料理店もあり、ラーメン店も多いです。 [ スポーツ ] ボストンはいくつかのスポーツチームの本拠地となっており、とてもスポーツが盛んなところです。 有名なのは、最近優勝したレッドソックスですが、その他にアイスホッケーのブルーインズ、バスケッ トボールのセルティックス、アメリカンフットボールのペイトリオッツなどのチームがあります。 [ 芸術 ] 市内にはボストン・オペラハウスなどの劇場がいくつかあり、有名な芸術集団としてはボストン交響 楽団、ボストンバレエなどがあります。また、ボストン美術館(Museum of Fine Arts)やイザベラ・ス チュワート・ガードナー美術館は有名ですし、時間があれば実際に見に行くべきだと思います。 芸術とは少し違いますが、ボストンには多くの博物館があります。ハーバード自然史博物館(Harvard Museum of Natural History)には多くの鉱物の標本や剥製などが展示されていますが、中でもガラスで 精巧に作られた植物は一見の価値ありです。大人の入館料は 12 ドルですが、ハーバードの ID を持って いればタダで見学できます。 5.内田ラボについて 内田ラボは地下鉄レッドラインの Harvard square 駅から徒歩 10 分くらいのところにありました。駅 からはハーバードヤードというハーバード大学内の広い庭を通り抜けていきます。冬はこのハーバード ヤードに雪が積もりすごくきれいな景色を見ることができます。 内田先生は京大理学部竹市研究室(発生学、分子細胞生物学)出身で神経のシナプスにおけるカドヘ リンの研究をされた後、東大医学部森憲作先生の研究室で電気生理学を学び、Cold Spring Harbour 研 究所の Mainen 博士のもとへ留学し、ハーバード大で意思決定に関する脳機能の研究を開始されました。 脳研究に必要な分子生物学、電気生理学、行動学すべてに詳しく、また意思決定や記憶学習に関わるド ーパミン神経細胞の研究で世界的に注目されています。 平日の昼ごはんはラボの周りに3つほどある大学のカフェテリアや、ラボの建物の前にやってくるフ ードトラックで買って食べていました。土日は、カフェテリアは休みでフードトラックもやってこない ので、ハーバードスクエアまで行って食べるか、ラボに行く前に買って持っていっていました。 ラボミーティングは毎週 1 回、午後 4 時半から行われていました。 (写真は内田ラボが入っている建物) 6.実験について 内田先生の奥様で、research associate をしていらっしゃる光子さんに実験の指導をしていただき、大 脳基底核に関係する行動における Medium spiny neurons の役割の理解などを目的とした実験を行いま した。 具体的な実験内容としては、1、マウスの腹側線条体の D1 receptor(ドーパミン受容体の一種)に蛍 光タンパクを発現させる、2、同マウスの背側線条体と思われる場所めがけて電極を挿入する、3、同 マウスに、それぞれ報酬(この場合は水)と罰(この場合は軽い空気砲)に対応する4種のにおいをか がせ、学習させた後、電極からの神経活動を記録・分析する、4、同マウスの脳を固定し、蛍光タンパ クの発現位置・電極の到達位置を調べる、という方法をとりました。 (ただし、ハーバードでは生きた動 物を殺したり手術したりするのに許可をとらなければならず、私の期間内ではその許可をとることがで きなかったので、3以外の部分のほとんどは他のラボメンバーが行いました。) 3で記録したスパイクを分析することによって、複数のタイプの神経が存在していることが明らかに なりました。しかし、4の histology の結果、この実験で記録していた神経活動は目的としていた背側線 条体からのものではなかったことが判明しました。 ちなみに、マウスを使った学習実験なので、土日も休まずに毎日ラボに通って実験を行っていました。 (グラフは3で神経活動を分析した結果の一つ、これは報酬に対応するにおいに反応する expectation neuron であり罰に対しても興奮する) (写真は4の histology の結果の一部、GFP の発現が見てとれる) (上図は大脳基底核回路を表している) 7.おわりに 今回の実験では目的としていたものを得られず納得がいかない部分もありましたが、それよりも今ま でに学んだことのない実験手法を学ぶことができ、またハーバードという恵まれた環境に留学でき、本 当に貴重な体験をさせていただいたと思っています。自分の見聞を広めるためにもこのような機会は大 変重要だと感じました。海外で最先端の研究をしておられる方とお会いでき、これから研究を続けてい くモチベーションが上がりました。最後になりましたが、快く留学に送り出していただいた渡邉先生や、 現地でお世話になった方々に深く感謝申し上げます。
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