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代理懐胎

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代理懐胎
―日本における代理懐胎の法整備について―
荒津史佳
아라즈 후미카
<요지>
최근 일본에서는 불임의 증가에 따른 생식보조의료의 발달이 눈에 띤다. 그 한
형태로 대리임신이 있으며, 그 이용을 원하는 불임부부가 존재한다.
현재 일본에서 대리임신에 관한 입법은 존재하지 않으며, 입법안은 대리임신금지의
방향에 있다.또 판례로는 대리임신을 공서양속( 公 序 良 俗 ) 위반이라고 하며,
모자관계에 관해서도 종래처럼 출산한 여성을 모친이라고 한다. 대리임신의 금지
혹은 공서양속 위반이라고 재판소가 판단한 중요한 이유는 대리임신이 「 인 간 을
오로지 생식의 수단으로서 취급한다」는 것이기 때문이다.
그러나, 대리임신이 불임부부에게 있어서는 최후의 희소식으로, 또 「생식의 권리」
라는 법적 관점에서 비춰보면, 대리임신을 전면적으로 금지하는 대응에는 의문이
남는다. 덧붙여 조건부이기는 하지만, 미국에서는 대리임신이 이미 승인되어 있다는
것을 잊어서는 안 된다.
일본에서 우선 실시해야 할 것은, 미국의 예를 참고하면서 일본의 현상을 고려하여
「 인 간 을 생식 수단으로서 취급하지 않는다」는 법을 정비를 하는 것이다. 그러기
위해서는 주로 대리모의 권리 보호, 금전수수의 유무, 태어나는 아이와의 친자관계,
재판소의 개입이 중요한 의미를 가진다. 이것들을 해결하여 국민의 동의를 얻는다면,
일본에서도 대리임신의 실시는 가능하다고 필자는 생각한다.
주제어:대리임신(Surrogate pregnant), 생식보조의료(Medical treatment of
eating something raw), 미국(USA), 생식수단(A means of eating something
raw)
1. はじめに
近年、日本では不妊の増加と少子化の問題が深刻である。このような状況の中、
科学技術の発達により、生殖補助医療が注目を浴びている。特に体外受精の成功は、
生殖補助医療の多様化を生み、そのおかげで不妊夫婦にとって最後の福音である代
理懐胎が技術的に可能になった。代理懐胎とは女性の子宮が使用できない場合に施
される生殖補助医療の一形態である。本稿の目的は、代理懐胎の我国における司法

西南学院大学大学院法律学専攻、博士後期課程1年次
- 105 -
状況を整理し、代理懐胎を必要とする親の生殖の権利にふれ、代理懐胎が禁止され、
公序良俗違反とされている根拠をクリアし日本でも代理懐胎を条件付きで実施する
ことはできないかをアメリカの例を参考に検討し、家族のあり方の多様性を認めて
行くことを提案することである。
2. 代理懐胎の種類
代理懐胎についての呼称はその態様に合わせて様々である。36 頁の代理懐胎の態
様の表を参照していただきたい。①について、妻が卵巣で子宮を摘出した等により、
妻の卵子が使用できず、かつ妻が妊娠できない場合に、夫の精子を妻以外の第三者
の子宮に医学的な方法で注入して妻の代わりに妊娠・出産してもらう代理懐胎であ
る。①の代理懐胎をサロゲートマザー(surrogate mother)あるいは(非配偶者間)人
工授精型代理懐胎あるいは卵子提供型代理懐胎という。この態様は側室に子を産ま
せる等、昔から行われた形態とも言われている。②について、夫婦の精子と卵子は
使用できるが、子宮摘出等により妻が妊娠できない場合に、夫の精子と妻の卵子を
体外受精して得た胚を妻以外の第三者の子宮入れて、妻の代わりに妊娠・出産して
もらう代理懐胎である。②の形態をホストマザー(host mother)、(配偶者間)体外受
精型代理懐胎、借り腹1と表現する。当初はサロゲートマザーだけであったが、体外
受精の成功率の上昇ともにホストマザーが行われるようになった。日本では、代理
懐胎といった場合に、この 2 つが代表的な代理懐胎の態様である2。
近年、アメリカにおいて surrogate mother や host mother という呼び方には否定
的な意味合いがあるとし、依頼者夫婦のどちらかと遺伝学的につながっている子を
産む代理懐胎の態様を gestational surrogate と表現しているようである3。すなわ
1
2
3
「借り腹」という言葉は、前近代の男尊女卑の実父長制下において、「嫁の腹は、借り腹」
などと、妻の身体を夫側の血統をつぐ子を出産するための道具であるとみなすような、差
別的表現として用いられた経緯があり、最近、使用しない学者も増えてきている。
後で述べる厚生科学審議会生殖補助医療部会「
『精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医
療制度の整備に関する報告書』について」
、法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会「精
子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の特
例に関する要綱中間試案」にも、この 2 つの種類の代理懐胎の形態を前提として法整備を
進めている。
フロリダ州(州法)は surrogate mother を gestational surrogate と表現し、依頼者の少な
くとも一方が子と遺伝学的につながりがあるという定義をしている。
- 106 -
ち、表の①~④が gestational surrogate ということになろう。また、⑤の態様に
ついては、技術的に可能ではあるが、養子との違いが明確ではないため、日本の議
論としては代理懐胎態様の中に分類していないものもあり4、⑤の態様を前提として
議論しているもの自体少ないように思われる。しかし、アメリカではこの態様の代
理懐胎も行われている5。筆者も、養子との違いを明確にするため、①~④の形態、
すなわち、依頼者夫婦の少なくともどちらか一方と遺伝学的なつながりがある代理
懐胎を前提に議論を進めることにしたい。
「代理懐胎の態様」
卵子提供者
精子提供者
妊娠・分娩
補足
他の女性
卵子提供者と
妻 他の女性 夫 他の男性
人工授精 ①
○
○
妊娠・分娩した者が同一
体外受精 ② ○
③
○
○
他の女性
○
他の女性
卵子提供者と
妊娠・分娩した者が異なる場合
④○
⑤
○
○
他の女性
○
他の女性
可能性はあるが、
今の所、この態様は議論が少ない
3. 日本における代理懐胎の実情
現在、代理懐胎は日本産科婦人科学会の会告により禁止されている6。日本産婦人
科学会は禁止理由を 4 つ挙げている。
「生まれてくる子の福祉を最優先するべきであ
4
5
6
人見康子「人工生殖と代理母」法学教室 125 号 23 頁(1991 年)等参照。
2000 年に、アメリカにおいて、親子関係に関するモデル州法案として、新しい統一親子関
係法(案)(Uniform Parentage Act)が作られた。その法案では代理懐胎を用語上不適切で否
定的意味合いがある surrogate mother から gestational mother に変更し、その定義を「依
頼者の少なくとも一方が子と遺伝学的につながりがあるという制限を廃止している。
」中村
恵『アメリカの新統一親子関係法―生殖補助技術によって生まれた子の法的親子関係を中
心として-』比較法研究 64 巻 114 頁(2002 年)。
日本産科婦人科学会会告『代理懐胎に関する見解』(平成 15 年)
日本産婦人科学会ホームページ http://www.jsog.or.jp/kaiin/html/H15_4.html。
- 107 -
る」こと、「代理懐胎は身体的危険性・精神的負担を伴う」こと、「家族関係を複雑
にする」こと、
「代理懐胎契約は倫理的に社会全体が許容していると認められない」
ことである。もっとも、これは、あくまで紳士協定として相互信頼関係の上に成り
立つ約束とされており、十分な拘束力を持つものではない。実際、日本国内におい
ても、2001 年 5 月には妻の妹による代理懐胎(長野県)7が行われ、2003 年 3 月には
夫の義姉による代理懐胎(長野県)8が諏訪マタニティークリニックの根津八紘医師
によって行われている。根津八紘医師はこの事件がきっかけで、日本産婦人科学会
を一度、除名されたものの、医師免許剥奪されず、後日、代理懐胎施術をしない旨
の誓約書を書かされた上で除名を取り消されている。このように、代理懐胎は日本
国内では実施しにくい状況にある。そのため、不妊の日本人夫婦は一部の国やアメ
リカの一部の州では代理懐胎が合法的なもとして承認されている国に赴き、代理懐
胎で子を得、日本に帰国するケースが増えているのが現状である。日本にあるアメ
リカでの代理懐胎窓口の一つである「卵子提供・代理母出産情報センター9」の鷲見
ゆき代表によれば、日本人のアメリカでの代理懐胎の仲介を少なくとも 25 組の日本
人夫婦に行っており、計 34 人の子が生まれているとのことである10。
このように何ら法整備もないまま、代理懐胎が行われている事実が一人歩きし、
ついには、日本国内においても、その親子関係が争点となる訴訟が起こされている
にも関わらず、依然として、立法的対応は遅れている。
3.1 立法的対応
1998 年 10 月 21 日に、厚生労働省内の厚生科学審議会先端医療技術評価部会の下
に、「生殖補助医療技術に関する専門委員会」(以下「専門委員会」という)が設置
され、生殖補助医療問題を幅広く専門的立場から集中的に検討することとされた。
医療規制の準備作業として、医療行為規制の方向から、2000 年 12 月 28 日に専門委
7
2001 年 5 月 19 日 朝日新聞。
2003 年 3 月 6 日 朝日新聞。
9
1991 年、
「代理母出産情報センター」として設立され、2001 年 1 月「卵子提供・代理母出
産情報センター」に改名。
10
内訳は①夫の精子を代理母に人工授精する方法で 3 人(夫婦 3 組)②夫婦の精子と卵子を体
外受精し、代理母の子宮に入れる“借り腹”の方法で 13 人(夫婦 11 組)③夫の精子と卵子
ドナーの卵子を体外受精し代理母の子宮で育てる方法で 18 人(夫婦 11 組)の赤ちゃんが誕
生した。(1998 年 1 月 7 日 毎日新聞)
8
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員会が「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方についての報告書11」
(以下「専門委員会報告書」)をまとめている。その後、精子・卵子・胚の提供等に
よる生殖補助医療のあり方の具体化に関する更なる検討を指摘した上記報告を踏ま
え、2001 年 6 月 11 日に専門委員会報告の内容に基づく制度整備の具体化のための
検討を行うことを目的として厚生科学審議会の下に生殖補助医療部会(以下「生殖補
助医療部会」)が設置された。そして、同部会は 2003 年 4 月 28 日に「精子・卵子・
胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書12」(以下「生殖補助医療
部会報告書」)を出している。この二つの報告書はいずれも、代理懐胎については禁
止の方向である。しかし、ここに来て、法案は足踏み状態にあり、2005 年の通常国
会にも提出されない結果となってしまった13。
また、これを受け、精子や卵子の提供によって出生した子の法的親子関係につい
て検討するため、2001 年に法務省内に法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会(以
下「法制審議会」)が立ち上げられ、2003 年 7 月 16 日に「精子・卵子・胚の提供等
による生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する中間
試案14」(以下「中間試案」)が公表されている。
以下、生殖補助医療部会「生殖補助医療部会報告書」と法制審議会「中間試案」
の代理懐胎に関する部分を概観する15。
3.1.1 厚生科学審議会生殖補助医療部会「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助
医療制度の整備に関する報告書」
専門委員会の「専門委員会報告書16」によると、専門委員会は生殖補助医療に関し、
11
12
13
14
15
16
厚生科学審議会先端医療技術評価部会生殖補助医療技術に関する専門委員会「『精子・卵
子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方についての報告書』及び各委員のコメント」
」
ジュリスト 1204 号ジュリ 96 頁-123 頁(2001 年)。
厚生科学審議会生殖補助医療部会「『精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整
備に関する報告書』について」厚生労働省ホームページ http://www.mhlw.go.jp。
平成 16 年 12 月 19 日、朝日新聞。
法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療
により出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する要綱中間試案」
法務省ホームページ http://www.moj.go.jp。
立法提案としては、その他に日本弁護士連合会「生殖医療技術の利用に対する法的規制に
関する提言」2000 年 3 月、総合研究開発機構・川井健共編『生命倫理法案-生殖医療・親
子関係・クローンをめぐって-』(商事法務、2005 年)等がある。
厚生科学審議会先端医療技術評価部会生殖補助医療技術に関する専門委員会・前掲注(11)
ジュリ 96 頁-123 頁。
- 109 -
意見集約のための 6 つの基本的な考え方をかかげている。その考え方とは、
「生まれ
てくる子の福祉を優先する」「人を専ら生殖の手段として扱ってはならない」「安全
性に十分配慮する」
「優生思想を排除する」
「商業主義を排除する」
「人間の尊厳を守
る」である。この基本的な考え方を統一的な認識として生殖補助医療部会は「生殖
補助医療部会報告書17」にも採用している。
この考え方に照らし、生殖補助医療部会は代理懐胎禁止理由を 3 つあげている。
第 1 に、
「(代理懐胎は)第三者の人体そのものを妊娠・出産のための道具として利用
するものであり、
『人を専ら生殖の手段として扱ってはならない』という基本的な考
え方に真っ向から反するものである」点、第 2 に、
「生命の危険さえも及ぼす可能性
がある妊娠・出産による多大なリスクを、妊娠・出産を代理する第三者に、子が胎
内に存在する約 10 か月もの間、受容させ続ける代理懐胎は、
『安全性に十分配慮す
る』という基本的な考え方に照らしても容認できるものではない」点、第3に、
「代
理懐胎を行う人は、精子・卵子・胚を提供する人とは異なり、自己の胎内において
約 10 か月もの間、子を育むこととなるから、その子との間で、通常の母親が持つの
と同様の母性をはぐくむことが十分考えられるところであり、そうした場合には現
に一部の州で代理懐胎を認めているアメリカにおいてそうした実例が見られるよう
に、代理懐胎を依頼した夫婦と代理懐胎を行った者との間で生まれた子を巡る深刻
な争いが起こることが想定され、
『生まれてくる子の福祉を優先する』という基本的
な考え方に照らしても望ましいものとは言えない」点である。また、代理懐胎のた
めの施術・施術の斡旋に関しては罰則を伴う法律によって規制すべきであるとして
いる。
3.1.2
法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会「精子・卵子・胚の提供等によ
る生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する中間試
案」
法制審議会も生殖補助医療部会の見解を受け、
「このような規制に反して代理懐胎
を依頼する夫婦及び代理母の間で懐胎及び出産した子の引渡し等を内容とする代理
懐胎契約が締結された場合、この契約の私法上の効力について何らかの規律をすべ
きかが問題になる。外国法制の中には,代理懐胎契約を私法上無効と規定するもの
(フランス民法第 16-7 条)がある。本試案は、この点について特段の法的規律をし
17
厚生科学審議会生殖補助医療部会「『精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整
備に関する報告書』について」厚生労働省ホームページ http://www.mhlw.go.jp。
- 110 -
ないこととしている。その理由は、代理懐胎については、前述のとおり、人を専ら
生殖の手段として扱い、代理母の身体に多大な危険性を負わせるもので、後に子の
引渡しをめぐる紛争が生じ、子の福祉に反する事態を生ずるおそれがあることから、
その有償あっせん等の行為が罰則を伴う法律により規制される方向であり、代理懐
胎契約については、特にこれを無効とする規律を置かなくても、民法上、公序良俗
に違反して無効(第 90 条)となると考えられるからである18」とした。また、現実に
代理懐胎契約が締結され、子が出生した場合の母子関係については、
「本試案第 1 の
規律が適用されることになり、父子関係については現行民法の解釈にゆだねられる
ことになると考えられる」とし、本試案第 1 の規律によれば「女性が自己以外の女
性の卵子(その卵子に由来する胚を含む)を用いた生殖補助医療により子を懐胎し、
出産したときは、その出産した女性を子の母とするものとする」とされている。し
たがって、分娩した女性が生まれた子の母であるとする最高裁昭和 37 年判決19を維
持した20。
18
19
20
法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会「精
子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の特
例に関する要綱中間試案」法務省ホームページ http://www.moj.go.jp 参照。
最判昭和 37 年 4 月 27 日民集 16 巻 7 号 1247 頁。
精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の
特例に関する要綱中間試案補足説明」
7 頁-8 頁、
法務省ホームページ http://www.moj.go.jp
によれば、分娩した女性を一律母とする理由として、4 つの理由を列挙している。第 1 に、
「母子関係の発生を出産という外形的事実にかからせることによって,母子間の法律関係
を客観的な基準により明確に決することができる。」第 2 に、「この考え方によれば,自
然懐胎の事例における母子関係と同様の要件により母子関係を決することができるため,
母子関係の決定において,生殖補助医療により出生した子と自然懐胎による子とをできる
だけ同様に取り扱うことが可能になる。」第 3 に、「女性が子を懐胎し出産する過程にお
いて、女性が出生してくる子に対する母性を育むことが指摘されており、子の福祉の観点
からみて、出産した女性を母とすることに合理性がある。」第 4 に、「本試案が主として
想定する卵子提供型の生殖補助医療においては、当該医療を受けた女性は生まれた子を育
てる意思を持っており、卵子を提供する女性にはそのような意思はないから、出産した女
性が母として子を監護することが適切である。」また、中間試案第 1 の適用範囲について、
人工授精型代理母の場合は、子の血縁上のつながりがある女性と出産した女性が異ならず、
自然懐胎と変わらないため、「母子関係の決定に関する現行民法の解釈に影響を与えるも
のではない。」とし、他方借り腹型代理母の場合は、「生殖補助医療部会報告書によれば、
(代理懐胎は)人を専ら生殖の手段として扱い、また、第三者に多大な危険性を負わせる等
の理由から、禁止される方向であるところ、親子関係の規律において依頼者である女性を
実母と定めることは、上記の医療(代理懐胎のことを示す)を容認するに等しい例外を定め
ることとなり、相当でない」とし、その妥当性を説明している。
- 111 -
3.2 裁判例
このような立法的対応が検討される中、代理懐胎における親子関係が争点された
訴訟が提起されている。本来ならば、判決文そのものを参照しなければならないが、
当該訴訟は非公開であったため、判決文は公開されておらず、入手ができなかった21。
よって、以下の記述は新聞の記事に基づいてまとめたものである。また、新聞記事
の内容は新聞記者の当事者に対するインタビューによりまとめられたものであるこ
とを断っておく22。
3.2.1 事件の概要
日本人夫婦は国内で不妊治療を数回試みた後、米国カリフォルニア州での代理懐
胎を選び、夫の精子と中国系米国人女性の卵子を体外受精させた受精卵を別の米国
人女性の子宮に移植し、2002 年、双子の男の子が生まれた。米国カリフォルニア州
の判例では代理懐胎を引き受けただけの女性は母とされず、代理懐胎を依頼した女
性(この場合、日本人夫婦の妻)が母とされるため、(アメリカで発行される)出生証
明書は日本人夫婦を父母として発行された。ところが、出産を行った女性を生まれ
た子の法律上の母とする日本においては、この事件の場合、代理懐胎によって生ま
れた子の親は父も母も日本人ではない(つまり、代理母が子の母、代理母が結婚して
いれば子の父親は代理母の夫ということになる)ため、生まれた子は日本国籍の取得
すら困難であった。日本国籍の取得が不可能な場合、生まれた子が日本で生活する
上で、不都合が生じるため、
「子の保護に著しく欠ける」、
「産まれて来た子に罪はな
い」等の非難の声もあがっていた23。これを受け法務省は「胎児のうちに日本人であ
る夫が認知していたとみなすことができる」と夫婦のなした代理懐胎契約に胎児認
知24の効力を持たせ、父子関係を認めることで生まれた子に日本国籍を与える新しい
解釈を示した。子の保護を重視し、踏み込んだ判断であり、一歩前進したといえる。
21
22
23
24
判決文は全て第一審裁判所に保管されるというこであったので、本件の第一審裁判所であ
る神戸家裁明石支部に問い合わせを行ったところ、当事者のプライバシー、その他の理由
で閲覧も断られた。
朝日新聞本社に記事の内容に関し、問い合わせを行ったところ、記者の当事者に対するイ
ンタビュー、記者会見によって記事はまとめられたものであるとの回答をいただいた。
2003 年 11 月 11 日、2003 年 11 月 24 日 朝日新聞参照。
民法 783 条 1 項は、
「父は胎内に在る子でも、これを認知することができる。この場合には、
母の承諾を得なければならない。
」としている。
- 112 -
ところが、母子関係については厳格に産んだ女性が母であるという考えを貫き、
「父
は夫、母は実際に出産した米国人女性」とする出生届を提出すれば戸籍も作ること
ができるとした25。
しかし、2004 年 1 月、日本人夫婦は「(産まれた子の)父は(日本人夫婦の)夫、母
は(日本人夫婦の)妻」とする出生届を自治体に提出した。しかし、自治体は、(日本
人夫婦の)妻が双子を出産しておらず、母と認められないとして出生届不受理とした
26
。これに対し、出生届を出した日本人夫婦が不受理とした自治体の処分取消を求め
た。
3.2.2 裁判所の判断
神戸家裁明石支部は、申し立てを却下した27。裁判官は「妻は双子の卵子提供者で
も分娩者でもなく、法律上の母子関係は認められない」と判断した。また、
「法律上
の母子関係は、基準としての客観性・明確性の観点から、分娩者と子との間に認め
るべきだ」とし「このような事態は養子制度によって対処するべき問題」と指摘し
た。さらに審判申し立てで夫婦は「米国で夫婦を両親とする出生証明書が発行され
ている」
「国内でも代理懐胎の事実を伏せた場合の出生届は受理されている28」など
と主張したが、裁判官は「国内法で判断されるべきもの」
「主張のような実態がある
としても、法律上の母子関係が認められないことが明らかな出生届を受理すべきで
はない」として退けた。
これを不服とした夫婦は大阪高裁に即時抗告を行った。大阪高裁は「母子関係は
認められない」として夫婦の申し立てを却下した神戸家裁の判断を支持し、抗告を
棄却した29。裁判官は「法律上の母子関係を、分娩した者と子との間に認めるべきだ
とする基準は今なお相当」として家裁決定を支持。医療の発展があっても「(分娩し
25
26
27
28
29
2003 年 11 月 24 日 朝日新聞参照。
2004 年 8 月 14 日 朝日新聞参照。
2004 年 8 月 14 日 朝日新聞。
(新聞記事には 8 月 14 日までに判決したとあるので判決日不明)
海外で代理懐胎を行い、日本に帰国して、代理懐胎を行ったことを黙ったまま役場に出生
届を出すケースがほとんどであるようだ。(1998 年 1 月 17 日 毎日新聞)この場合、子を
実子(嫡出子)として届出をすることは犯罪も構成する。(公正証書原本不実記載:刑法 157
条)ところがこの事件の場合、日本人夫婦の妻が 50 歳以上であったため、役場の調査が行
われ、代理懐胎であったことが発覚したのである。(出産者が 50 歳以上の場合、調査され
ることになっている。
「50 歳以上の者を母とする子の出生届の受理について」昭和 36 年九
月五日民事甲第二〇〇八号民事局通達。)
2005 年 5 月 24 日 朝日新聞(判決日は 2005 年 5 月 20 日)
。
- 113 -
た女性を母とすることに)例外を認めるべきではない」とした。さらに代理懐胎につ
いて「人をもっぱら生殖の手段として扱い、第三者に懐胎、分娩による危険を負わ
せるもので、人道上問題がある」と指摘し、公序良俗違反との結論を導いた。
夫婦は「子を持ち、幸福を追求する権利が侵害された」として最高裁に特別抗告
を行った。最高裁第一小法廷は、母子関係について「所論の点に関する原審の判断
は是認することができる。論旨は採用することができない。
」とし抗告を棄却30。こ
れにより、神戸家裁明石支部の判断が確定した。すなわち、代理懐胎により生まれ
た子と日本人夫婦の妻との母子関係は認められず、
「母とその非嫡出子との間の親子
関係は、原則として母の認知を俟たず、分娩の事実により当然に発生する」とする
最高裁昭和 37 年判決31の維持を最高裁は法務省と同様、はかったと考えられる。
このように、代理懐胎は様々な法律的、社会的、倫理的問題をはらむことは確か
である。従って全面的に代理懐胎を容認することは難しい。しかし、子を産む・産
まないという選択権(生殖の権利)が個人に認められているにもかかわらず、産むと
いう選択の手段である代理懐胎を公序良俗に反するものとし、全面的に禁止する点
に疑問が残る。
3.3 生殖の権利
生殖の権利に関して日本国憲法は、幸福追求権(13 条)の一部を構成する権利とし
て、
「個人は、一定の私的事柄について、公権力から干渉されることなく、自ら決定
することができる権利を有する32」と定めており、このような自己決定権の対象とし
てリプロダクション(生殖活動)にかかわる事項が含まれる、という見解が憲法学者
の間では有力である。芦部信喜教授は「わが国でも、リプロダクションにかかわる
事項は個人の人格的生存に不可欠な重要事項であることには変わりない」として、
生殖の権利が憲法 13 条の保障した自己決定権の内容をなす、との見解をとっている
33
。また、国際人権法上も生殖の権利が保障されている。例えば、カイロでの国際人
口会議の「行動計画」では「すべてのカップルと個人が自分たちの子どもの数と出
産間隔、ならびに出産時期を自由にかつ責任をもって決め、そのための情報と手段
30
31
32
33
2005 年 11 月 25 日 朝日新聞(判決日は 2005 年 11 月 24 日)
。
最判昭和 37 年 4 月 27 日民集 16 巻 7 号 1247 頁。
佐藤幸治『憲法〔第三版〕
』318 頁(青山書院 1995 年)。
芦部信喜『憲法学Ⅱ人権総論』394-395 頁(有斐閣 1994 年)。
- 114 -
を持つ基本的権利、ならびに最高度のセクシュアル・ヘルスならびにリプロダクテ
ィブ・ヘルスを享受する権利」(リプロダクティブ・ライツ)を国際的に認められた
人権の一部であるとしている。そして、95 年 9 月、北京で開かれた第 4 回国連世界
女性会議で採択された行動要領にもこの内容は受け継がれている。
3.4 生殖の権利の制約
では、生殖の権利は全く制約を受けないのであろうか。筆者はそうでないと考え
る。生殖の権利を拡大していった場合、衝突し、調整が必要になってくる人権とは
何か。それは第 1 に生まれてくる子の権利である。生まれてくる子は権利享有主体
になっていないが、民法の胎児の権利能力を擬制する場合34と同様、生殖補助医療の
場面においても、
「生まれてくる子どもの人権享有主体性を擬制し、子どもと親との
権利調整を図る必要がある35」とする見解には同感である。子の福祉の具体的な内容
に関して言えば、
「代理懐胎を依頼した夫婦と代理懐胎を行った者との間で生まれた
子を巡る深刻な争いが起こり、子の福祉に反する36」点が前述した生殖補助医療部会
における代理懐胎禁止の理由の 1 つとして挙げられていた。その背景には、代理懐
胎によって生まれた子の親子関係について争ったアメリカの事件があるようである。
確かに、生まれてくる子の福祉を無視することは公序良俗に反するであろう37。しか
し、アメリカで 2000 年に行われた代理懐胎の内、親子関係が問題になったのは 8 件
だったというデータもある38。比較として挙げるならば、親子関係が問題とされた
AID 児の判例が日本には 2 件ある39。これらを多いと考えるか少ないと考えるかは難
34
35
36
37
38
39
例えば民法の相続(886 条)・遺贈(965 条)・損害賠償請求(721 条)。
総合研究開発機構 藤川忠宏『NIRA チャレンジ・ブックス 生殖革命と法―生命科学の発
展と倫理』235 頁(2002 年、日本経済評論社)。
厚生科学審議会生殖補助医療部会「『精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整
備に関する報告書』について」厚生労働省ホームページ http://www.mhlw.go.jp。
樋口 範雄「代理母の親子関係」判例タイムズ 747 号 185 頁(1991 年)。
イリノイ州の代理出産サポート非営利グループのシャーリー・ゼガー代表によれば 2000 年
中にアメリカで実施された代理懐胎は 20000 件あるが、その中で代理懐胎を依頼した夫婦
が子を引き取らない、あるいは代理母が子を引き渡さないという争いが生じたのはわずか
8例にすぎないそうである。
小野幸ニ「代理母―その是非」戸籍時報 549 号 37 頁-42 頁(2002 年)。
夫に無断で行われたAIDにより生まれた子につき,夫の嫡出否認の訴えを認容した大阪
地判平 10 年 12 月 18 日判タ 1017 号 213 頁,親権者指定の審判において夫の同意を得たA
IDにより生まれた子との間の父子関係が存在しない旨の主張が許されないとした東京高
- 115 -
しい問題だが、少なくとも、代理懐胎を行った場合に、代理母が生まれた子の親権
を主張し、争うといった問題が必ず起こっているとはいえない40。したがって、子の
福祉に反する可能性を根拠に代理懐胎を全面的に禁止し、代理懐胎全てを公序良俗
違反とするのには疑問が残る。自然出産で生まれた子の場合に、親からの虐待に会
う可能性があれば国は産むことを禁じ公序良俗違反とはしないはずである。
第 2 に、生殖の権利の制約する権利としては生殖補助医療に直接関わる代理母の
権利が考えられる。代理母の権利が侵害される場合として具体的には、前述した生
殖補助医療部会が代理懐胎禁止理由として、法制審議会、判例が公序良俗違反とし
て指摘する「代理懐胎は第三者の人体そのものをもっぱら妊娠・出産のための道具
として扱41」う点と、「代理懐胎は生命の危険さえも及ぼす可能性がある妊娠・出産
による多大なリスクを、妊娠・出産を代理する第三者に、子が胎内に存在する約 10
か月もの間、受容させ続け42」る点が考えられる。医学的見地からは、自然出産を含
めた出産に伴う、リスクは今後、医療の発達により減るものと考えられる。実際、
アメリカでは相当数の代理懐胎が行われており、その実施方法も参考になる43。した
がって、重要な問題は、代理懐胎契約の全てが、人をもっぱら生殖の手段のように
扱っているかという点である。この点は、後述の通り、代理懐胎の法整備の仕方に
よって、生殖の手段として扱わない取り扱いが可能のように思われる。
3.5 公序良俗と時代の変遷
また、民法 90 条は法律の全体系を支配する公序良俗という理念を明示したもので
あり、契約の自由もその枠内でのみ許される。そして公序良俗違反の成否の判断は
時代の変遷、社会的環境の変化に応じて変わるものであり、また、そこにこそ、こ
40
41
42
43
決 10 年 9 月 16 日判タ 1014 号 245 頁。
「現実には代理母が出産後子の引渡しを拒否するというケースはほんの一部にすぎない」
との評価を行っているのは、金城清子『生殖革命と人権 産むことに自由はあるのか』68
頁(中公新書 1996 年)等がある。
厚生科学審議会生殖補助医療部会「『精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整
備に関する報告書』について」厚生労働省ホームページ http://www.mhlw.go.jp。
厚生科学審議会生殖補助医療部会「『精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整
備に関する報告書』について」厚生労働省ホームページ http://www.mhlw.go.jp。
アメリカにおける代理懐胎の実施方法については、例えば、菰田 麻紀子『代理母出産』
133 頁-196 頁(近代映画社、1995)
La Baby 社ホームページ http://www.lababy.us/html/surrogacy.html 等がある。
- 116 -
の判断の生命が見いだされるとされている。時代も社会の環境も、我々が作って行
くものである。だとすれば、生命の誕生にかかわる重大な事柄を決めるためには、
国民のコンセンサスは無視することはできない。では、代理懐胎についてはどれ程
の国民のコンセンサスが得られているのだろうか。
3.6 社会の意識について(統計)
それには、厚生科学研究費補助金厚生科学特別研究「生殖補助医療技術に関する
医師及び国民の意識に関する研究班」(以下「研究班」)が 1999 年と 2003 年に行っ
た意識調査が判断材料の 1 つとなるであろう。
本節で述べる「代理母」は代理懐胎表①のケース(代理懐胎表 36 頁参照)であり、
「借り腹」は代理懐胎表②のケース(代理懐胎表 36 頁参照)のことである。
3.6.1 1999 年の意識調査
3.6.1.1 代理懐胎を利用するか否か。
厚生科学研究費補助金厚生科学特別研究「生殖補助医療技術に関する医師及び国
民の意識に関する研究班」が 1999 年 2 月、3 月に行った「生殖補助医療技術につい
ての意識調査」44によると、
「あなたが子を望んでいるのになかなか子に恵まれない
としたら、あなたはこの技術を利用しようと思いますか。」という設問に対し、一般
国民は代理母に関しては 82.4%が「配偶者が望んでも利用しない」と回答、「配偶
者が賛成したら利用したい」と「利用したい」が合わせて 17.7%(「配偶者が賛成
したら利用したい」が 15.4%、
「利用したい」が 2.3%)であった。これに対し、借
り腹に関しては、
「配偶者が望んでも利用しない」が 68.8%、
「配偶者が賛成したら
利用したい」と「利用したい」が合わせて 31.2%(「配偶者が賛成したら利用した
い」が 26.1%、
「利用したい」が 5.1%)であり(57 頁、表 1 参照)、代理母よりも
借り腹の方が許容範囲と考える一般国民が多いことが見て取れる。
「配偶者が望んでも利用しない」とする理由は、
「家族(親子)関係が不自然になる
44
第 5 回厚生科学審議会先端医療技術評価部会・生殖補助医療技術に関する専門委員会の概
要「生殖補助医療技術についての意識調査」全国から無作為に抽出した一般国民(4,000 名)
日本産科婦人科学会体外受精登録医療機関の産婦人科医(402 名)日本産科婦人科学会体外
受精登録医療機関を受診している患者(804 名)その他の産婦人科医(400 名)小児科医(400
名)、合計 6,006 名を対象にした調査である。
厚生労働省ホームペ-ジ http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1105/h0506-1_18.html 参照。
- 117 -
から」
「妊娠はあくまで自然になされるべきだと思うから」が 6 割以上となっており、
また、
「親権や遺産相続などでいろいろなトラブルが生じる可能性があるから」が 3
割前後となっている。
3.6.1.2 代理懐胎は社会的に認めるべきか否か。
また、
「一般論としてお聞きします。このような技術を社会的に認めるべきだと思
いますか。」という設問に対し、代理母に関して、36%が「認められない」と回答、
「条件付で認めてよい」あるいは「認めてよい」と回答した国民が合計、43.7%(「条
件付で認めてよい」36.7%、
「認めてよい」が 7%)にのぼり(57 頁、表 2 参照)、
「認
められない」と回答した者を上回っている。借り腹に関しては「認められない」と
回答した国民が、29.7%「条件付で認めてよい」あるいは「認めてよい」と回答し
た国民が合計 52.8%(「条件付で認めてよい」が 43.6%、
「認めてよい」が 9.2%)
に及んだ。借り腹に関しては特に「条件付で認めてよい」と「認めてよい」の合計
が「認められない」を大きく上回り、しかも 50%を超えている。
以上から、国民は自分自身が代理懐胎を利用するかに関しては否定的と言えるが、
他人が利用することに関しては否定的とまでは言えないのではないだろうか。
3.6.2 2003 年の意識調査
3.6.2.1 代理懐胎を利用するか否か
また、同じ調査が 2003 年 1 月45に行われている。
「あなたが子を望んでいるのにな
かなか子に恵まれないとしたら、あなたはこの技術を利用しようと思いますか。」と
いう設問に対し、一般国民は代理母に関しては 75.2%が「配偶者が望んでも利用し
ない」と回答、
「配偶者が賛成したら利用したい」と「利用したい」が合わせて 24.
8%(「配偶者が賛成したら利用したい」が 21.5%「利用したい」が 3.3%)であった。
1999 年と比較すると 7%程、
「配偶者が賛成したら利用したい」と「利用したい」が
増加したことが分かる。一方、借り腹に関しては、
「配偶者が望んでも利用しない」
が 56.7%、
「配偶者が賛成したら利用したい」と「利用したい」が合わせて 43.3%(「配
偶者が賛成したら利用したい」が 34.7%、
「利用したい」が 8.6%)にのぼり(57 頁、
表 3 参照)、こちらも 1999 年と比較すると 10%増加している。
45
「平成 14 年度厚生労働科学研究費補助金構成労働科学特別研究『生殖補助医療技術に対す
る国民の意識に関する研究』報告書」
。
全国から無作為に抽出した男女 8000 名を対象に行われている。2003 年は生殖補助医療に
ついて理解してもらうために対象者の半分(4000 名)にリーフレットも配布している。
厚生労働省ホームページ http:/www.mhlw.go.jp/wp/kenkyu/db/tokubetu02/index.html 参照。
- 118 -
3.6.2.2 代理懐胎は社会的に認めるべきか否か
また、
「一般論として各技術を認めてもよいと思うか?」という設問に対し、2003
年は代理母に関し、
「認められない」が 32.1%、
「条件付で認めてよい」が 31.3%の
結果になっている。
「認められない」は 1999 年と比較して 4%減少、一方、
「条件付
で認めてよい」も 5%減少している。また、借り腹に関しては、
「認められない」が
22%、
「条件付で認めてよい」が 46%で、1999 年と比較すると、
「認められない」が
約 8%減少、
「条件付で認めてよい」が 3%増加している。(57 頁、表 4 参照)ただし、
2003 年の調査では「認めてよい(条件なしで)」が選択肢に入ってないため、単純な
比較はできない。「条件付で認めてよい」が大幅に増えているわけではないが、「認
められない」や「利用しない」が減少している。そして、1999 年、同様、代理母よ
りも借り腹の方が、国民は受け入れやすいようである。
借り腹を認めてよい理由は「病気などで子宮を摘出した人が子をもてる」が 85%
を超え、
「病気などで子を産めない人が子をもてる」が 80%を超え、
「依頼者と代理
懐胎をする双方が承諾したから」が 40%を超えている。一方、借り腹が認められな
い理由は「妊娠は自然になされるべき」が半数を超え、
「親子関係が不自然」
、
「商業
的に利用されると思うから」、
「人を生殖の手段として用いるから」が 40%前後を占
めている。
このように 1990 年においても、2003 年においても、国民の意識の中には代理母
よりは借り腹の方が受け入れやすく、自分自身が利用することには否定的だが、他
人が利用することには否定的とまでは言えないと考えられる。また、1999 年と 2003
年を比較すると、代理母についても借り腹についても、
「配偶者が賛成したら利用し
たい」と「利用したい」が増加し、一般論として認められるかに関しては、
「認めら
れない」も、「認めてよい(条件なしで)」と「条件付で認めてよい」も減少し、「わ
からない」が増加している。したがって、少なくとも借り腹については、国民のコ
ンセンサスが得られつつあるように思われる。
4. 検討
これまでみてきたように代理懐胎がさまざまな問題をはらんでいることは確かで
ある。しかし生殖補助医療部会のように一律に代理懐胎を禁止すれば、この方法が
唯一のオプションであるような不妊夫婦の生殖の権利を侵害することになる。また、
- 119 -
代理母になろうとする女性も、自らの身体を自らの意思によって使用する権利をも
っている。不妊の夫婦への同情から、ボランティア精神によって無償で代理母を引
き受けたいという場合がこれにあたる。このような場合にまで、代理懐胎は人をも
っぱら生殖の手段として扱い、第三者に多大な危険性を負わせるものであり、生ま
れてくる子の福祉の観点からも望ましいものとは言えないとして、一律に代理母と
なる道を閉ざすことは「女性の生殖に関する自己決定権を否定するパターナリズム
であろう46。」
したがって、不妊夫婦の生殖の権利と代理母の自己決定権を認める形での法整備
が重要であると考えられる。以下、この問題について法整備の進んでいるアメリカ
各州の代理懐胎に対する対応が参考にしながら日本におけるこの問題について法整
備について検討したい47。
4.1 日本におけるこれからの法整備の検討(立法的検討、法的検討)
4.1.1 代理懐胎契約を条件付きで容認する場合
検討に入る前に若干、前提となる条件について以下に述べることとする。
4.1.1.1 代理懐胎を利用するにあたって
代理懐胎を利用できる者の範囲は不妊の夫婦に限られると考える。なぜなら、第
1 に、便宜のための代理懐胎の利用は妊娠・出産という過程を軽視し、ビジネス化
へつながる畏れがあるからである。したがって、代理懐胎を不妊治療、すなわち医
療と位置づけ、その利用は不妊治療の範囲に限られるべきである48。第2に、民法の
家族法が特別養子縁組の養親となる者の要件として、配偶者のある者でなければな
らないとしていること、また、生殖補助医療部会が前述の「生殖補助医療部会報告
書」において、代理懐胎以外の生殖補助医療の利用について「精子あるいは卵子の
提供を受けなければ妊娠できない夫婦」としていることから、代理懐胎だけがその
46
47
48
金城清子『生命誕生をめぐるバイオエシックス-生命倫理と法』163 頁
(日本評論社、1998 年)。
アメリカの状況は Radhika Rao ,Surrogacy Law in the United States:The Outcome of
Abivalance, Surrogate Motherhood:International perspectives (United Kingdom,Hart
Publishing,2003)によくまとまっている。
ヴァージニア州、ニューハンプシャー州、フロリダ州についても、代理懐胎の利用は不妊
の場合に限るとしている。
FLA.STAT.ANN.§742.15(2);N.H.REV.STAT.ANN.§168-B:17;VA.CODE ANN.§20-160B(8).
- 120 -
枠を超えて不妊の夫婦以外にも認められることは考えられないからである。
そして、後述するが、代理母も子の母となる可能性がある。したがって、子の福
祉の要請から、代理懐胎を利用できる者の範囲を配偶者のある者に限る以上、代理
母も配偶者のある者であることが必要である。そして、妊娠・出産というリスクは
初産の場合には 2 回目の出産よりも高い。したがって、リスク回避の点から代理母
は一度、無事に出産をした経験がある者に限られると考える。
その他の条件に関しても、民法の家族法、その他の生殖補助医療の規制の枠内で
検討されるべき問題である49。したがって、その枠組みが広がった場合には再度、代
理懐胎においても検討をすべきものと考える。
4.1.1.2 代理懐胎契約の法整備
代理母になることを自らの選択によって行った場合には、代理母の自己決定権と
して尊重されなければならないことは上述した。そして、最も重要なことは代理母
となった女性に対して契約の内容が過度の拘束や抑圧ではない、代理母の権利が守
られるような法整備のあり方を考えることである。そのためには、代理懐胎契約を
代理母に強制できないとするべきである。具体的には、第1に生まれた子の引渡し
を代理母に強制してはならない。第 2 に代理母自身と胎児の健康に関わる決定権は、
代理母に留保し50、何人もその履行を強制してはならないことがあげられる。
4.1.1.2.1 生まれた子の引渡しを代理母に強制してはならない。
生まれた子の引渡しを代理母に強制してはならない。確かに代理母は妊娠・出産
前に子を引き渡すことがどういうことなのか説明を受け、理解し、子を引き渡すこ
とに契約で同意しているだろう。しかし、母と子の絆は妊娠・出産という 10 ヶ月の
間に形成される。したがって、この過程を軽視することはできない。また、この同
意は妊娠・出産を経験していない段階の同意であるから、出産後に改めて、代理母
が一定期間内に子を依頼者夫婦に引き渡すかどうかを決定できなければならない51。
フロリダ州、ニューハンプシャー州、ヴァージニア州では代理母に親となる機会を
保障している52。
さらに、一度、代理母を生まれた子の法律上の母とすべきである。なぜなら、子
の保護のために、生まれてすぐに法律上の母が確定することが望ましく、分娩とい
49
50
51
52
子の出自を知る権利をどの範囲で認めるかなどが考えられよう。
USCACA§6.
ニューハンプシャーはこのような制度をとっている。N.H.REV.STAT.ANN.§168-B:25.
FLA.STAT.ANN.§742.16;N.H.REV.STAT.ANN.§168-B:25;VA.CODE ANN.§20-162.
- 121 -
う基準はその確定に最も合理性をもつからである53。例えば、代理懐胎契約締結後、
出産まで少なくとも 10 ヶ月もの期間があるため、その間、依頼者夫婦の妻は、
「子
の出産のときに生存しているとは限らないし、生存していても不在であるかもしれ
ない。出産の母は生まれた子の傍らに存在するのである54。」
したがって、代理母が子の母となる機会を契約の中で強制的な条項として設ける
べきである。ただし、代理母が子の母となれば、代理母の夫は子の父となるので、
契約当事者には代理母の夫も含まれなければならい。この点も子の福祉の観点から
強制的な条項として契約に設けるべきである。
4.1.1.2.2 代理母自身と胎児の健康に関わる決定権は、代理母に留保し、その履行
を強制してはならない。
フロリダ州、ニューハンプシャー州、ヴァージニア州は代理母自身と胎児の健康
に関わる決定権は、代理母に留保し、その履行を強制してはならないとしている55。
例えば、胎児を母体外に排出しなければ母体に危険がある場合に、依頼者夫婦がそ
の履行を強制することが挙げられる。代理母自身と胎児の健康に関わる決定権を依
頼者夫婦に委ね、強制することは、代理母の人間としての尊厳を著しく侵害し、生
殖補助医療部会が代理懐胎禁止の理由としてあげた「人をもっぱら生殖の手段とし
て扱い」、「第三者に多大な危険性を負わせるものである」こととなる。
したがって、代理母自身と胎児の健康に関わる決定権は、代理母に留保し、その
履行を強制してはならないとする文言を強制的な条項として契約の中に設けるべき
であると考える。
4.1.1.2.3 金銭の授受を伴う代理懐胎契約の禁止
生まれた子の母となる機会を代理母に保障し、代理母自身と胎児の健康に関わる
決定権を代理母に留保するためには、金銭の授受を伴う代理懐胎契約の禁止も同時
に行わなければ、その実行性を確保することは難しい。フロリダ州、ニューハンプ
シャー州、ヴァージニア州では代理懐胎にかかった実費以外の支払いを禁止してい
る56。仮に金銭の授受を伴う代理懐胎契約が適法とされると、代理母の権利が侵害さ
れることを防ぐために法によって前述のような保護を行ったとしても、代理母が金
銭目的であれば、自らの身体への危険を冒し、その意思に反して契約を履行するこ
53
54
55
56
穂積重遠『親族法大意』100 頁(岩波書店、昭和 2 年)にも、その指摘がある。当然発生説
の主要な根拠となっている。
金城・前掲注(46)生命誕生 164 頁。
FLA.STAT.ANN.§742.15(3);VA.CODE ANN.§20-162C;N.H.REV.STAT.ANN.§168-B:27.
FLA.STAT.ANN.§742.15(4);VA.CODE ANN.§20-160B;N.H.REV.STAT.ANN.§168-B:25(Ⅴ).
- 122 -
とを法は防ぎようがない。このような代理懐胎契約は形式的には公平な債権債務関
係を保った契約かもしれないが、実質的には強制労働に他ならない。自己の労力を
貸す契約(雇用)は有効であるが、強制労働契約は無効である。また、金銭の授受が
伴う代理懐胎契約が適法とされれば、代理母に生まれた子の母となる機会を保障し
ても、金銭目的ために、子を依頼者夫婦に引き渡せば、人身売買に他ならない。自
己所有の財産を貸す契約(賃貸借)は有効だが、人身売買は無効である。さらに、経
済的理由から、金銭目的で代理母となることを引き受けることとなれば、真の同意
を得ることは困難であろう。最後に、金銭の授受が伴う代理懐胎契約は、需要と供
給の関係がある限り、営利目的の代理母斡旋業者の利益を得る機会を提供すること
となり、第 3 世界の女性への搾取が懸念される。したがって、基本的に無償性を確
保しなければならない。
子宮を借りた依頼者夫婦は使用に伴って発生した実費については支払わなければ
ならない。すなわち、代理母が子を産むためにかかった治療費、病院に通う交通費
などである。形式的には治療費となっているが、実質的には代理母への報酬となっ
ているような場合、前述した問題が起きる可能性がある。したがって、強制的な条
項により、具体的に何に対する費用に対して支払われるべきかをできるだけ明記す
る必要がある。すなわち、実費以外の支払いは禁止する文言を明記する必要がある
であろう。この実費について補足すれば、支払い方法への工夫も考えられる。
そして、金銭の授受を伴う代理懐胎契約の禁止は当然に営利目的の代理懐胎斡
旋・仲介も禁止という結論を導く事は言うまでもない。
4.1.1.2.4 裁判所の事前承認
ニューハンプシャー州、ヴァージニア州ではこのような契約の公正さを担保する
ために裁判所の事前承認の制度を認めている57。日本においても、契約の公正さを担
保し、子の福祉に適合する代理懐胎契約とするために何らかの裁判所の関与を認め
ることが要件として考えられよう58。
代理懐胎契約は依頼者夫婦と代理懐胎によって生まれて来きた子との間に親子関
係を形成することを目的とする。したがって、日本においては家庭裁判所が妥当の
57
58
VA.CODE ANN.§20-160;N.H.REV.STAT.ANN.§168-B:22.
三菱化学生命科学研究所の米本昌和・社会生命科学研究室長は、根津医師の代理懐胎事件
の問題提起を重要な課題として受け止め、議論していくべきだ、とつぎのように提言する。
「個人的には代理出産は原則的に禁止すべきと思う。ただ、例外的に個々の事例について
は、家裁など公的機関が是非を判断すればよいのではないか。これが一番ソフトランディ
ングだと思う」というのである。(平成 13 年 7 月 19 日、朝日新聞)
- 123 -
ように思われる。未成年養子縁組に対する家庭裁判所の許可、特別養子縁組におけ
る家庭裁判所の審判と同様、子の福祉の観点から、将来、親となる可能性のある者
の審査をする必要があるからである。このような家庭裁判所介入の実効性への懸念
があるかもしれない。しかし、例えば、未成年養子縁組に対する家庭裁判所の許可
は子の福祉に適合しない養親縁組を阻止するため、戦後の民法改正によって設けら
れたものである。その点を考慮すれば、その実効性はあると筆者は考える59。
審査は契約書の形式的要件具備が中心になると考えられる。具体的には、強制的
な条項として、契約書に「契約当事者は依頼者夫婦と代理母、その夫の 4 人」であ
り「代理母に子の親となる機会を保障しているか」、「代理母自身と胎児の健康に関
わる決定権は、代理母に留保しているか」を含んでいるか。また、
「金銭の授受の取
り決めが行われていないか」、「関係者への制裁条項が含まれていないか」である。
そして、子の福祉の観点から依頼者夫婦と代理母とその夫の家庭環境の調査などが
行われるべきである。その理由は家庭裁判所の審判のところで詳しく述べることと
する。
4.1.1.2.5 依頼者夫婦と代理懐胎契約によって生まれた子の親子関係
フロリダ州、ニューハンプシャー州、ヴァージニア州では、養子縁組との違いを
設けるため、代理懐胎によって生まれてくる子には依頼者夫婦の少なくとも一方と
血縁関係があることを要求している60。
日本では実親子関係は血縁を基本とする一方で、意思を媒介とする養子制度を認
めてきた。さらに特別養子制度の導入は血縁主義からの離脱という側面をもつ。ま
た、法制審議会によれば、AIDについて、妻がAIDを行うことへの夫の同意を
得て、妻が子を懐胎した場合には子の父はその夫とすることとなっている61。このよ
うに、特別養子制度のように血縁のない親子関係でさえ認め、代理懐胎の逆パター
ンであるAIDについても施術前に夫の同意を得ることを要件として父子関係を認
めている。このことからすれば、代理懐胎においても、以下のような要件が満たさ
れれば、依頼者夫婦との親子関係が認められてよいはずである。第1に代理懐胎に
59
60
61
米倉 明
「法律行為(18)―公序良俗違反の法律行為」
法学教室 61 号 120 頁-125 頁(1985 年)、
浦本 寛雄 『家族法』173 頁(法律文化社 2000 年)、我妻栄「判例より見たる『公の秩
序善良の風俗』
」
『民法研究Ⅱ』137 頁以下(有斐閣、昭和 43 年)。
FLA.STAT.ANN.§742.16(6); N.H.REV.STAT.ANN.§168-B:17;VA.CODE ANN.§20-160B(9).
法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会「精
子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の特
例に関する要綱中間試案」法務省ホームページ http://www.moj.go.jp 参照。
- 124 -
よって生まれた子と依頼者夫婦との間に少なくとも一方と血縁があること、第2に
代理懐胎を実施する前に代理懐胎契約によって代理母とその夫と依頼者夫婦の同意
があること、第 3 に代理母が子を出産後、生まれた子の母となること希望しないこ
とである62。
4.1.1.2.6 家庭裁判所の審判
子が出生した後、裁判所の審判を必要としているのは、フロリダ州とヴァージニ
ア州である63。代理母に子の母となる機会を保障する以上、子の出生後は代理母が子
の母である。したがって、代理母と親族関係を断絶し、依頼者夫婦との間に実親子
関係を創設することが必要となる。この点について、特別養子縁組における家庭裁
判所の審判が参考になると思われる。特別養子縁組における家庭裁判所の審判の性
質は、実方の血族との親族関係を断絶し、養親との間に実親子関係と同様の親子関
係を創設することにあるからである。特別養子縁組における家庭裁判所の審判では、
成立要件の具備の他、養親となる者の監護能力や養親としての適性が判断するため
に、試験養育期間の監護状況の考慮(民法 817 条の 8 第 1 項)が必要となっている。
代理懐胎の場合も、依頼者夫婦には養父・母となる場合と同様の資格が必要となる
ため、これに代わる制度が必要となる。子の養育にふさわしいかどうかを判断する
ために依頼者夫婦の家庭環境に関する調査などが考えられる。ただし、このような
調査は子が生まれた後では意味がない。したがって、依頼者夫婦の監護能力や親と
しての適性についての調査は代理懐胎契約前に行い、裁判所の事前承認を得ている
ことが望ましい。その際、代理母とその夫も、代理懐胎によって生まれてくる子と
の親子関係を形成する可能性がある以上、監護能力や親としての適性については必
要とされるだろう。ただし、子の出自を知る権利との関係から、親子関係について
の戸籍の記載に関しては別途検討を要する。筆者は依頼者夫婦の実子として戸籍上、
記載されることとなって良いのではないかと考える。なぜなら、AIDにおいては
実子の届出がなされているからである。
62
63
小林忠正「体外受精児と人工授精子-その誕生をめぐる親子関係」
『現代の法律問題-時の
法を探る-〔改定版〕
』77-78 頁(1987 年)において人工生殖の親子関係は現代的親子関係理
念と相反するものではないと論じられている。
FLA.STAT.ANN.§742.16;VA.CODE ANN.§20-160D.
- 125 -
4.2 むすびにかえて
平成 17 年 11 月 24 日の最高裁判決は、代理懐胎契約は、
「人をもっぱら生殖の手
段として扱い、第三者に懐胎、分娩による危険を負わせるもので、人道上問題があ
る」とし、公序良俗に反するとの判断をくだした。医学的見地からは、自然出産を
含めた出産に伴う、リスクは今後、医療の発達により減るものと考えられる。重要
な問題は、代理懐胎契約の全てが、人をもっぱら生殖の手段のように扱っているか
という点である。以上の問題点を考慮しつつ代理懐胎を認めるとすれば、契約に際
して、以下の要件が必要となる。第 1 に代理母に子の親となる機会を保障すること、
第 2 に代理母自身と胎児の健康に関わる決定権は、代理母に留保すること、第3に
実費以外の金銭授受の取り決めが行われていないこと、そして、代理母も生まれて
くる子の親となる可能性があることから、代理母の夫も契約当事者であること、し
たがって契約当事者は依頼者夫婦と代理母、その夫の 4 人であることとすべきこと、
などである。これに対して、これらの要件が盛り込まれていない契約、例えば、代
理懐胎にかかる医療費とは別に金銭の支払いを義務付ける代理懐胎契約は、生まれ
た子を売買の対象とみなしており(人身売買)、生殖を商品化したものであり、公序
良俗に反し、無効であると考えられる。代理懐胎契約を認めるためのなによりも重
要なことは、代理母が単なる子を産む受動的な手段ではないことを強制的な条項と
して契約に明記させることである。このようにして、代理母が子を産む単なる手段
でなく、人間の尊厳を有する 1 人の母親であることを明らかに出来れば、代理懐胎
を法的に容認することができるのではないかと考える。
前述した日本産科婦人科学会も現在は代理懐胎を禁止はしているものの、
「代理懐
胎を容認する方向で社会的合意が得られる状況となった場合は、医学的見地から代
理懐胎を絶対禁止とするには忍びないと思われるごく例外的な場合について,本会
は必要に応じて再検討を行う」とし、同じく生殖補助医療部会も第 27 回厚生科学審
議会生殖補助医療部会において「将来、代理懐胎について再度検討するべきだとす
る意見もあった」ことを報告書に明示するよう提案している。このことは将来にお
いては、日本産婦人科学会も、生殖補助医療部会も、代理懐胎容認の方向にあるこ
とを示唆していると考えられる。
以上の結果を踏まえ、私は、結論として、代理懐胎の問題点およびそれに対する
国民のコンセンサスをクリアできれば、妻の卵子が使用できず、かつ妻が妊娠でき
ない場合や妻の卵子は使用できるが妻が妊娠できない場合に限り、上記の条件を付
- 126 -
した代理懐胎を認めるべきであると考える。
最後に、代理懐胎は今や国際的な問題であることを指摘したい。なぜなら、日本
で禁止しても、他国に赴き、代理懐胎の技術によって子を設けることはできるから
である。重要なことは価値観が多様化する中、代理懐胎によって産まれた子を持つ
家族も一つの家族のあり方であることを認めていくことである。そして、この問題
について最も重要なことは、我々が家族のあり方について、政府の法整備に決定を
委ねるのではなく、国境線を越えた一個人として熟議すべきことではないかと筆者
は考えている。
追記
この論文を執筆中、2006 年 9 月 28 日、代理懐胎に関する画期的な判決が東京高裁で出され
た。東京高裁は、ネバダ州ワショー郡管轄ネバダ州第二司法地方裁判所家事部(以下「ネバ
ダ州裁判所」とする)が出した「出生証明書及びその他に記録に対する申立人の氏名の記録に
ついての取り決め及び命令」(以下「本件裁判」という)を民事訴訟法 118 条のいう「外国裁
判所の確定判決に該当するというべき」とし、本件裁判の議論における公序良俗について、
法的親子関係の確定の観点から民法 90 条の公序良俗の問題とはせず、
「当該議論における公
序良俗とは、法例 33 条又は民事訴訟法 118 条 3 号にいう公序良俗を指すものと解される」と
した。さらに、本件裁判が民事訴訟法 118 条 3 号にいう公序良俗に反するかどうかついて、
前述の生殖補助医療部会が代理懐胎を禁止している理由を個別的かつ具体的に検討をし「本
件裁判を承認することは実質的に公序良俗に反しないと認めることができる」との判決を行
った。その具体的な検討内容は①依頼者夫婦と生まれた子の間に血縁関係があること、②夫
婦が他に子を持つ手段がなかったこと、③代理母はボランティアであり、その手数料は子の
対価でないことが認められること、④代理懐胎契約上、妊娠・出産中の代理母の生命及び身
体の安全が最優先されていること、⑤代理母が胎児を中絶する権利及び中絶しない権利を有
しこれに反するなんらの強制もできないこと、等である。
この事件の代理懐胎を利用した夫婦の妻である向井亜紀氏は子宮を摘出後、子を欲しいと
いう願いを強く持ち、アメリカのネバダ州に赴き、自身と夫である高田延彦氏との間の人工
受精卵を使用し代理懐胎を利用、そして双子の男児が無事生まれていた。しかし、向井氏と
高田氏を親とする出生届は日本では受理されず、さらにその処分取消を求めた家裁の決定に
おいても 2 人の主張は認められず、東京高裁に即時抗告を行っていたものである。

東京高判 平成 18 年 9 月 29 日 平成 18 年(ラ)第 27 号。
2006 年 9 月 30 日(西日本新聞、讀賣新聞)参照。
- 127 -
(設問)「あなたが子を望んでいるのになかなか子に恵まれないとしたら、あなたはこの技術を利用しようと思いますか。」
表1
(設問)「一般論としてお聞きします。このような技術を社会的に認めるべきだと思いますか。」
表2
第 5 回厚生科学審議会先端医療技術評価部会・生殖補助医療技術に関する専門委員会の概要「生殖補助医療技術調
査」厚生労働についての意識 省ホームページ http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1105/h0506-1_18.html より。
表3
3
表4
「平成14 年度厚生労働科学研究費補助金構成労働科学特別研究『生殖補助医療技術に対する国民の意識に関する研究』
報告書」厚生労働省ホームページ http:/www.mhlw.go.jp/wp/kenkyu/db/tokubetu02/index.html より。
- 128 -
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『精子・
卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方についての報告書』及び各委員のコメント」ジ
ュリスト 1204 号、pp.96-123。
· 小林忠正(1987)「体外受精児と人工授精子-その誕生をめぐる親子関係」
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時の法を探る-〔改定版〕
』pp.77-78。
· 佐藤幸治(1995)『憲法〔第三版〕
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· 人見康子(1991)「人工生殖と代理母」
、法学教室 125 号、pp.23 · 総合研究開発機構・川井健
共編(2005)『生命倫理法案-生殖医療・親子関係・クローンをめぐって-』商事法務。
· 総合研究開発機構 藤川忠宏(2002)『NIRA チャレンジ・ブックス 生殖革命と法―生命科学
の発展と倫理』日本経済評論社、pp.235。
· 中村 恵(2002)『アメリカの新統一親子関係法―生殖補助技術によって生まれた子の法的親
子関係を中心として-』比較法研究 64 巻、pp.114。
· 菰田麻紀子(1995)『代理母出産』、近代映画社、pp.133-196 樋口範雄(1991)「代理母の親子
関係」
、判例タイムズ 747 号、pp.185 · 穂積重遠(昭和 2)『親族法大意』岩波書店、pp.100。
· 米倉明(1985)「法律行為(18)―公序良俗違反の法律行為」法学教室 61 号、pp.120-125。
· 我妻栄(昭和 43)「判例より見たる『公の秩序善良の風俗』
」『民法研究Ⅱ』有斐閣、pp.137。
· Radhika Rao(2003)「Surrogacy Law in the United States」『The Outcome of Ambivalance,
Surrogate Motherhood International perspectives』United Kingdom, Hart Publishing、
pp.23-34。
荒津史佳 (Aratsu, Fumika)
: 西南学院大博士後期課程一年次
住 所 : 福岡県糟屋郡久山町久原 3376-32
TEL
: 092-976-2209
E-mail : [email protected]
접 수 일 : 2006 년 12 월 28 일 / 심사개시 : 2007 년 1 월
심사완료 : 2007 년
6일
1 월 28 일 / 게재결정 : 2007 년 2 월 15 일
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