平成17年度 海外研修報告書 平成17年度 海外研修報告書

平
成
17
年
度
海
外
研
修
報
告
書
平成17年度
海外研修報告書
財
団
法
人
大
阪
府
市
町
村
振
興
協
会
お
お
さ
か
市
町
村
職
員
研
修
研
究
セ
ン
タ
ー
財団法人 大阪府市町村振興協会
おおさか市町村職員研修研究センター
団長あいさつ
平成17年度市町村職員海外研修
団 長
上 浦 善 信
地方分権が実践の段階にはいり、各自治体では自主・自立のための改革が求められ
ています。またその一方で国際化の進展は目覚しいものがあり、国際的視野にたった
行政感覚が求められています。
本協会では、海外派遣研修を昭和63年度より実施しており、その大きな目的のひと
つは、海外事例を研究することにより、市町村の政策に対して新規提案や改善提案す
ることであり、ふたつめは、海外の地方自治に直接ふれることにより国際的な視野に
たった行政感覚をもった職員を養成することです。また、それに加えて、府内市町村
職員のネットワークの構築や団体行動におけるコミュニケーション能力の向上も二次
的な目的にあげられます。
海外の事例に学ぶ方法には、文献や資料など間接的な情報を参考にする方法と実際
に現地に赴き、担当者の話を聞き、また、その地域の人々の暮らしぶりを観察し、地
域の空気に触れて五感で体験する方法がありますが、その両方を実施することは、非
常に意義があることです。
今回のテーマは、「地震を中心とした災害対策 ∼コミュニティの自主性と安全・
安心∼」であり、カリフォルニア工科大学地震研究所をはじめ、各市の危機管理局や
消防署、アメリカ赤十字ロサンゼルス広域事務所などを訪れました。研修生からは、
事前に十分な準備をしたうえで、現地ヒアリングしたことによって、文化的、歴史的
条件の違いや社会的な認識を肌で感じることができ、文献その他、間接的な資料から
は、得られない情報を知ることができたとの感想をきくことができました。
研修生におかれましては、海外事例に触れたことにより培った発想の幅の広がりや
府内市町村とのネットワークを活かし、職場のキーパーソンとなって活躍されること
を期待いたします。
最後に、事前研修において、数多くのアドバイスをいただいた渥美公秀先生(大阪
大学大学院人間科学研究科教授)、現地研修で、熱心に説明いただいた方々、長期に
わたる現地研修にこころよく送り出していただきました職場の皆様に厚くお礼申し上
げましてご挨拶といたします。
ありがとうございました。
目 次
現地調査の概要
1
現地調査報告
9
地震を中心とした災害対策
∼コミュニティの自主性と安全・安心∼
A 班 ……………………………12
B 班 ……………………………26
自主研修報告
43
事前研修基調講演会と現地研修講演会
83
基調講演会 地震を中心とした災害対策
∼コミュニティの自主性と安全・安心∼ ………85
研修講演会 リアルタイム地震防災
−地震の被害とその対策について …………110
参考資料
135
現地調査の概要
1
現地調査の概要
A 班
訪
問
日
平成17年10月13日(木)
訪
問
国
アメリカ合衆国
現 地 調 査 先
ロサンゼルス市危機管理局(「City of Los Angeles Emergency
Preparedness Department」以下EPD)
2
現地調査先の概要
調
査
概
要
(1)研 修 テ ー マ
ロサンゼルス市は人口約382万人、面積1,222.68㎞ の大都市であるが、
その地盤は砂地で弱く、サンアンドレアス断層の上にある。
EPDの役割と災害に対する取り組みについて (地震を中心に)
(2)調 査 目 的
EPDの危機管理システムとその体制の調査
(3)調 査 先 の 背 景
1994年1月17日に起こったノースリッジ地震に対する迅速な対応
(4)調 査 先 の 施 策
(5)施 策 の 効 果
(6)今 後 の 問 題
緊急対策本部(EOC)の活動
関係機関、民間企業等との緊密な連携
被害状況の把握と被害軽減
人命及び財産の保護、保全
ハードの老朽化と通信システムの更新
災害対応訓練の強化
3
訪
問
日
平成17年10月14日(金)
訪
問
国
アメリカ合衆国
現 地 調 査 先
アメリカ赤十字社 ロサンゼルス広域事務所
アメリカ赤十字社太平洋地域カリフォルニア支部に属し、郡の約半分
にあたるロサンゼルス市を含む36市を管轄している。備蓄倉庫は2階
現地調査先の概要
建てで7,000平方フィートあり現在ハリケーン「カトリーナ」の被災
者のファミリーサポ―トセンターの一部となっているが、トレーニン
グ資材、簡易ベッド、毛布、洗面具等の備蓄をしている。
自然災害発生時における救済活動
調
査
概
要
「支援から協働へ」…行政が住民に対して行う一方的支援では限界が
(1)研 修 テ ー マ
あるため、住民、ボランティア団体等と目的を共有し、協力しあって
災害に対処できる仕組みを研究する。
災害時に対応したアメリカ赤十字社の各種活動(啓発活動、避難所、
(2)調 査 目 的
備蓄倉庫)について調査し、「備え」「対応」「復興」の取り組みや、
被災者との関わり方、行政と他団体との協働の方法について学ぶ。
(3)調 査 先 の 背 景
ノースリッジ地震の体験や、最近ではハリケーン「カトリーナ」によ
る被災家族への援助を行っている。
・ロサンゼルス市をはじめ各市EOC(危機管理センター)への参加
(4)調 査 先 の 施 策
・行政との密接な連絡関係の維持
・自らの組織と地域社会に向けた防災教育
・被災者のニーズに応えた対策・支援
行政との協働を実践し、行政からの信頼と期待を得ることに成功して
(5)施 策 の 効 果
いる。被災者支援に対してニーズを的確にとらえ柔軟に対応しており
定評を得ている。
(6)今 後 の 問 題
4
赤十字社の活動内容を人々にもっと認識・理解をしてもらい、積極的
な活用を促すため広報に努める。
訪
問
日
平成17年10月17日(月)
訪
問
国
アメリカ合衆国
現 地 調 査 先
バークレー市危機管理局
バークレー市は、サンフランシスコと湾を隔てた対岸にあり、面積約
2
27㎞ 、人口約10万5,000人。冬は暖かく夏は涼しいという温和な気候
に恵まれている。
現地調査先の概要
19世紀後半のゴールドラッシュに始まり、町は大きく成長し、カリフ
ォルニア大学が移転し、種々の研究所の存在はバークレー市を世界の
学問の中心としている。
大規模な地震災害としては、1906年サンフランシスコ大地震、1989年
ロマプリエタ地震がある。
調
査
概
要
(1)研 修 テ ー マ
“災害に強く安全で、総合的なまちづくり・ひとづくりについて”
(2)調 査 目 的
住民と行政の協働による災害に強いまちづくりについて
(3)調 査 先 の 背 景
1989年 ロマプリエタ大地震以降の教訓
(4)調 査 先 の 施 策
災害に強いまちづくりを推進するための耐震化の促進
地域コミュニティを支えるための支援策
市域内における住宅の40%∼60%が耐震化を実施
(5)施 策 の 効 果
地域ごとに災害用緊急設備を設置(8箇所)
市民の防災意識の向上
耐震化をより確実なものとするための基準の明確化
(6)今 後 の 問 題
地域コミュニティの充実と災害用緊急設備の増設
市民の災害に対する意識の持続性の確保
水道管の耐震化
5
B 班
訪
問
日
平成17年10月13日(木)
訪
問
国
アメリカ合衆国
現 地 調 査 先
カリフォルニア州知事室緊急業務部(南部地域広域事務所)
カリフォルニア州は全米屈指の農業・工業地域で世界有数の経済力を
現地調査先の概要
持っている。同時に自然災害が多い地域であり、特に山火事、そして
地震の広域かつ大規模な災害対策に先進的に取り組んでいる。
調
査
概
要
(1)研 修 テ ー マ
(2)調 査 目 的
カリフォルニア州における地震を中心とした自然災害への緊急対策シ
ステムを学び長所を生かす
自然災害の多いカリフォルニア州が組織として州全体でどのような対
応をしているのか調査することで、日本の防災施策の参考とする。
カリフォルニア州は、1989年にロマ・プリータ地震、1994年にノース
(3)調 査 先 の 背 景
リッジ地震と大きな地震を経験している。その中で組織として対応す
るシステムを整備し、被害の軽減に努めている。
・州・郡・市町村との連携システム
(4)調 査 先 の 施 策
・EOCでの関係機関・NPO・民間企業との連携システム
・災害時のEOCの具体的な対応
行政、企業、ボランティア等のあらゆる組織を包括した災害対策がな
(5)施 策 の 効 果
されており、指揮系統が明確で、EOC(緊急時オペレーションセン
ター)を設置し、合理的かつ実践的なシステムを実現している。
形骸化しないように危機管理意識を常に持ち続けること。
どんな完成されたシステムも関わる人たちの思い込みなどで連絡調整
(6)今 後 の 問 題
ができないことがあり、最近のミシシッピ州でのハリケーンカトリー
ナでも対応の遅れが生じている。そのことから人的なミスも含めて情
報をいかに正確に伝えるか、また、それをシステム化していくかが今
後の問題である。
6
訪
問
日
平成17年10月14日(金)
訪
問
国
アメリカ合衆国(ロサンゼルス市)
現 地 調 査 先
CERT
(地域緊急対応チーム)本部(ロサンゼルス市消防署88)
CERTは1985年に発足した非政府団体で、ロサンゼルス市消防局など
と積極的に情報交換しあい、協力体制をとっている。アメリカの地域
現地調査先の概要
防災において、もともとは地域防災や簡単な救急活動を主な役割を担
う日本の消防団組織の有効性を理解して、日本の自主防災の取組みを
参考に発展させたものがCERTである。
調
査
概
要
(1)研 修 テ ー マ
(2)調 査 目 的
自主防災活動のリーダーの育成と教育プログラムについて
CERT活動や取組みについて学び、教育プログラムの実践状況を知る。
CERTは日本の消防団を参考に発展させたもので、アメリカではとな
り近所や地縁による組織の設立が困難である。その中、CERTでは、
(3)調 査 先 の 背 景
災害ボランティアリーダーの育成を目指し、災害時に対応できるトレ
ーニングを実施している。現在全米50州6カ国がCERTのプログラム
を実践している。
ロサンゼルス市の災害ボランティアリーダーの育成
(4)調 査 先 の 施 策
レベル① 災害の一般知識について
② アメリカンレッドクロスと連携した救済活動
③ アメリカンレッドクロスの高度な応急医療等
災害直後において、CERTの教育プログラムを終了したボランティア
(5)施 策 の 効 果
がリーダーとなり、緊急的に地域の救護活動を始める。この活動は、
たくさんの人命を救い、またインフラの被害を著しく軽減し、市民か
らの評価も高く、全世界から注目されている。
災害発生後は、市民の災害に対する意欲や意識は高く、CERTの受講
(6)今 後 の 問 題
者も多いが、ロサンゼルスにおいても、ここ10年間、都市部で大きな
災害は発生していないため、意識が薄れている。市民が継続的に災害
に備え、災害を意識する取組みが課題である。
7
訪
問
日
平成17年10月17日(月)
訪
問
国
アメリカ合衆国
現 地 調 査 先
カリフォルニア州オークランド市危機管理事務所
オークランド市はプロジェクトインパクトに指定された7つの地域の
現地調査先の概要
1つで、このプロジェクトのパイオニア的存在である。(プロジェク
トインパクト:アメリカの災害政策を変革する国家的取り組み)
調
査
概
要
(1)研 修 テ ー マ
(2)調 査 目 的
オークランド市が取り組んでいる地域住民による住宅の耐震補強活動
などであるSAFEプロジェクトの調査。
オークランド市が実施している企業や市民による災害に強い住宅など
への取組みであるSAFEプロジェクトを調査し、今後の施策に生かす。
1998年に米連邦緊急事態管理庁(FEMA)からプロジェクトインパ
(3)調 査 先 の 背 景
クトの実施市としてオークランド市が指定され、オークランド市は企
業や市民による災害に強い住宅への取り組みをSAFEプロジェクトと
して実施した。
SAFEプロジェクトは、災害対策を行政だけの責任対応とせず、行政
は機材・道具を提供し、地域住民は自らの手で、住宅等の耐震補強を
(4)調 査 先 の 施 策
行うと同時に防災意識を涵養している。火に強い植物の植栽、震度計
の設置、道具の貸出し、企業によるパンフレットの印刷、災害マップ
の作成など。
企業の参加をも促し、実際の耐震補強には地域の高校生などをボラン
(5)施 策 の 効 果
ティアとして巻き込んで、高齢者等の住宅の耐震補強を行っているた
め、比較的低いコストで防災効果を上げるとともに、地域住民の防災
意識を常に高く維持している。
(6)今 後 の 問 題
8
耐震資材、道具などを提供するためには、ある程度の資金が必要。
現地調査報告
9
現地調査報告
地震を中心とした災害対策
∼コミュニティの自主性と安全・安心∼
A 班
12
B 班
26
11
A
班
海
外
研
修
地震を中心とした災害対策
∼コミュニティの自主性と安全・安心∼
A 班
【プロローグ】
1994年のノースリッジ大地震、その1年後の阪
態における行政システムの「公助」について、ア
メリカ赤十字社ではボランティアによる「共助」
神・淡路大震災の発生から、はや10年が経過した
を、そして、住民協働による地域コミュニティの
今、どのように防災に対する意識を持ち続けたと
育成に努めているバークレーでは「自助」を、主
しても、年々その意識や記憶が色褪せてきてしま
眼として研修をするために選定しました。
います。みなさんは、どうでしょうか。
地震大国・日本に住んでいる私たちには、毎日
研修を終え、様々な取組みに対して、日本とア
メリカの社会ができてきた経過の違いを感じなが
のようにテレビの画面からテロップで地震速報が
ら、アメリカが抱えている災害に対する考え方が、
目に飛び込んできます。また、東南海・南海地震
地震や台風等の天災だけでなく、テロや暴動とい
の発生の確率や被害想定等についてテレビ・新聞
う大きな社会問題をも含めた視点に立っているも
等のマスメディアを通して頻繁に報道されていま
のであると、肌で感じました。このような視点の
す。このように情報は、外国に比べても多彩にあ
幅広さが、想定をしていなかった場合においても、
ふれている様に見えます。
臨機応変な対応につながるものではないかと考え
これは常に地震に対する意識を持ち続ける要因
ます。
として有効と考えることもできますが、反面、そ
事前研修から本視察までの間、渥美先生はもと
の多彩な情報により、危機に対する感覚が麻痺し
より事務局の方々、ご講演いただきましたカリフ
たり、情報があるためにそれだけで災害に対する
ォルニア工科大学の山田真澄先生をはじめ、訪問
準備ができているような錯覚に陥ってはいないで
先で対応していただいた関係者や通訳の皆様方に
しょうか。
A班一同、心より感謝いたします。
それでは、ここで身近な問題として皆さんのご
今回のテーマにどこまで迫ることができたの
家族を想定してみてください。もし大地震が発生
か、悩みながら視察中またその後も班全員で話し
した際に、家族みんなの安全を確保し、連絡が確
合ってきました。私たちが視察させていただきま
実に取れるという自信を持っている方は、どのく
した内容について、訪問先の概要、活動内容、取
らいおられるでしょうか。
組みなどの詳細を、以下のとおり訪問先ごとに報
私たちは事前研修で渥美公秀先生(大阪大学コ
告書としてまとめました。
ミュニケーションデザイン・センター助教授、大
阪大学大学院人間科学研究科)から表題の基調講
演を受けました。その内容は実体験としての阪
神・淡路大震災をはじめとした災害ボランティア
活動と本当の意味での被災者の立場に立ったコミ
ュニティの創造等についてでした。
現在、防災に対する役割は「公助」「共助」「自
助」の組合せと言われています。今回の訪問先に
ついては、ロサンゼルス市危機管理局では非常事
12
【日程等】
■ロサンゼルス市危機管理局
平成17年10月13日(木)
■アメリカ赤十字社ロサンゼルス広域事務所
赤十字備蓄倉庫
平成17年10月14日(金)
■バークレー市危機管理局
平成17年10月17日(月)
A
班
海
外
研
修
ゴールデンゲートブリッジ
バークレー市役所
グレンデール市役所
カリフォルニア工科大学
アメリカ赤十字社
ロサンゼルス市役所
13
るフリーウェイが縦横に走っている。この為、公
A
班
海
外
研
修
大震災に備えて
共交通機関はあまり発達していない。1940年代か
∼ロサンゼルス市危機管理局∼
で庭付き一戸建住宅が立ち並ぶ大規模な宅地開発
訪問日 2005年10月13日(快晴)
訪問先 ロサンゼルス市危機管理局
説明者 マーク・デービス
通 訳 ケイコ・タジール
ら50年代にかけては、サンフェルナンドバレー等
が進められたが、60年代からは地価高騰によって
住宅不足が生じ、集合住宅の建設が多くなった。
現在のロサンゼルス市は多人種社会で、白人、
アフリカ系アメリカ人の他、英語を母国語としな
いメキシコ系、アジア系アメリカ人等が多数居住
している。
1.はじめに
阪神・淡路大震災は、我が国の震災対策の根本
的な見直しを教えた。この経験を踏まえ、各自治
体は、直下型地震、それに今後30年以内に50%∼
60%の確立で発生すると言われている東南海・南
海地震に備え、様々な取り組みを行っているとこ
ろである。ロサンゼルス市は、奇しくも阪神・淡
路大震災のちょうど1年前の1994年1月17日にマ
グネチュード6.8の大地震に見舞われた。震源地
の名を取って「ノースリッジ地震」と名付けられ
たこの地震は、61人の死者、9,348人の重軽傷者
を出した。死者6,434人、負傷者41,527人を出した
ロサンゼルス市庁舎
阪神・淡路大震災と単純に比較することはできな
いが、その対応については大きな隔たりがあると
感じるのは否めない。その原因は何か。ロサンゼ
ルス市の地震等の危機事象に対する取り組みを検
証したいという思いで訪問した。
2.ロサンゼルス市概要
カリフォルニア州南西部、太平洋岸の大都市で、
ニューヨーク市に次いで全米第2位の人口(約
2
382万人)と面積(1,222.68㎞ )を擁する。
また、金融、航空宇宙産業、電子機器・機械等
の製造、海運等の重要な拠点として、カリフォル
ニア州の経済に大きな影響力を持っている。
市街地は主に平地にあるが、北部と東部には丘
陵地がある。ロサンゼルス市の生活を特徴づけて
いるものは、徹底した自動車文明である。自家用
車での移動が前提となっており、片側5車線もあ
14
カリフォルニア州の主な地震と損害額
発生年
地 震 名
規模
損害額
1906
サンフランシスコ地震
8.3
374
1933
ロングビーチ地震
6.3
40
1952
カーン郡地震
7.7
60
1971
サンフェルナンド地震
6.6
553
1979
インペリアルバレー地震
6.8
30
1983
コーリンガ地震
6.7
31
1987
ウィッチャー地震
5.9
358
1989
ロマ・プリエタ地震
7.1
7,000
1992
南カリフォルニア地震
7.4
92
1992
北カリフォルニア地震
6.9
66
1994
ノースリッジ地震
6.7
15,500
(百万ドル)
3.ロサンゼルス市危機管理局
ここでは、災害発生時の対策だけでなく防災に
ロサンゼルス市危機管理局(以下「EPD」とい
関してのプログラムも充実させており、防災面か
う。)は、従来からあった危機対策、復旧活動支
らみた都市整備計画へのアドバイスを関係各所に
援、避難者コントロールなど市の個別部門で扱っ
行ったり、防災関連の予算について積極的に発言
ていた組織を改め、ひとつの部署で救助活動、避
を行ったりしている。また市民には緊急時の避難
難者支援、復興対策などのあらゆる災害、人災に
マニュアルの作成交付、各種イベントで避難訓練
対する問題を全て取り仕切る部署として発足した。
の主催などを通じて、災害対策への意識の向上を
組織内の壁のない部署として災害発生時には、
A
班
海
外
研
修
図っている。
全ての緊急事態に対応する中心的な機関で、市当
局内の調整のみならず、連邦機関、州、自治体、
民間組織、医療、ライフライン整備など各組織を
取り仕切るリーダーの役目を負っている。火災、
水道管の破裂、危険物災害、電気・ガス・電話な
どの公共事業の障害などにもその機能を発揮する
ことができるようになっている。
また、常に非常事態に備え、緊急事態に効果的
に対応する即応体制を整えている。尚、平素の任
務は、緊急事態発生時後に必要となる情報の開発、
収集、管理である。緊急事態対応計画、応援計画、
ロサンゼルスEPD内でのレクチャー風景
作業計画、使用可能な資機材・人員情報、人口分
布GIS等をEPDスタッフにより開発・管理されて
いる。
4.ロサンゼルス市危機管理局の取り組み姿勢
(1)情報収集
ロサンゼルス市がノースリッジ地震を克服でき
4.ロサンゼルス市危機管理局の活動内容
EPDの活動における主要なものとして、①オペ
た理由の一つは、卓越した情報収集活動に基づく
迅速な対応であった。
レーション部門、②プランニング部門、③トレー
通常の電話回線に加えてバックアップの電話回
ニング部門がある。オペレーション部門には、後
線があり、緊急時には優先使用となる。また、
述するEOC(Emergency Operation Center)が
OASISという衛星を使用できるシステム。携帯電
あり災害発生時には様々な組織と連携をとりその
話も優先使用となり増幅器をいれて信号を強くす
対応に当たる。プランニング部門は、ロサンゼル
る。ロサンゼルス地域外の例えば東海岸などの離
ス市のマスタープランと市の各部門が各種の緊急
れた場所のダイヤルトーンが得られるテレコミュ
事態においてその業務を継続して遂行するために
ニケーションカード。数百人の市職員に所持を義
部門ごとに必要となる緊急対策プランの策定を担
務付けている無線システムなど、情報を伝え、得
っている。
るための手段は多様で、的確な判断をくだすため
プランを実行するに当たっての訓練を担当する
のがトレーニング部門である。EOCを稼動させ、
テロや地震などの緊急事態に対応するものから市
民の防災教育をも含めたトレーニングを行ってい
る。
に、いち速く正確な情報を集め、伝達するという
真剣な姿勢が見られた。
(2)トレーニング
「プラン(計画)があってもそれを実行できな
ければ意味がない。」とEPDのコーディネーター
15
は語った。EPDの訓練は市の内部機関だけではな
く、FBI、他の政府機関、赤十字社、民間企業、
A
班
海
外
研
修
5.施設見学
EOCは市庁舎の地下4階にあり、厚いコンクリ
NPOも参加する訓練も行っている。また、その
ートと頑丈そうな鋼鉄製のドアと厳しいセキュリ
頻度、参加団体の種類、シナリオについても地震
ティに守られていた。
やテロ等を想定したもので、木目細かな徹底した
冷戦時には核攻撃から、現在はテロ等の武力攻
ものである。近々にロサンゼルス空港において、
撃や化学兵器や細菌兵器、生物兵器などにも対応
あくまでも現実に近い状況のもとでテロ対策に伴
出来るように空気浄化装置までも備え、7日間も
う訓練を計画しているとのことである。(リアル
そこで活動出来うるような装備を備え、日本人の
感を演出するためにハリウッドのメーキャップア
危機意識とは根本的に違う次元の施設がそこに存
ーティストの参加も依頼しており、流石にアメリ
在していた。
カだなと感心した。我々の感覚では少しついてい
けない部分もあるが、それだけ本気だとも言える。)
(3)危機対応の手法
EOCは約400㎡の広さで長方形になっていて、
部屋の前方の壁には何面もの画像モニターがあ
り、各地から送られてくる映像や情報などを表示
米国では各組織においては「危機」という現象
するようになっていて、その手前には各機関から
をあらゆる方面から総合的にとらえ危機の原因が
集められた情報を分析し対応策を決定するスタッ
何であろうと、その危機から発生した甚大な被害、
フのデスクがあり、後方には学校区、赤十字社、
損失を一刻も早くコントロールし、被害を最小限
水道、電力などの各機関の代表者のデスクが70余
にすることに重点をおいた事案対処を図ろうとし
り並んでいる。代表者の机の上にはコンピュータ
ており、言わば、結果管理という手法を用いてい
ーの端末が置かれ、コンピューターを通じて情報
る。日本のように危機の原因によって担当が異な
収集が行われ、その情報をもとに対応策が決定さ
る原因管理の危機管理体制とは全く異なるもので
れ実行されることになっている。またこのEOC管
ある。
制室を囲むように各関係機関のオペレーションブ
現在のEOCは、既に10年以上も今の場所で運営
ースがあって、そこでも各機関のスタッフが配置
しているので、2008年の年末には10倍の規模と処
され、情報交換やEOCの支援を行うとのことであ
理能力を持った施設やシステムを多額の予算をか
った。
けて改修を実施するということである。危機管
このEOCでは、全ての市の機関や州・連邦機関
理・防災のためには多大な予算をかけて当然とい
などとオンラインで繋がっていて、瞬時に情報交
った考え方なのである。
換や情報提供等が出来るようになっている。従っ
て、あまり人の手を介さずに直接各機関の代表者
へ情報の提供がなされ、決定された情報は各機関
へ迅速にフィードバックされ、情報処理や危機対
応が迅速・確実に実施できることになっていると
いう。
この施設を見学して、コンピューターを縦横に
駆使して対応していくというシステムには学ぶべ
きことが多かったように感じた。情報が何人かの
人の手を介さずに直接ストレートに各機関の長に
送られ処理されて行くプロセスは、迅速性と確実
ロサンゼルスEOC
16
性を要求される防災対策には最適であるように思
えた。組織レベルの違いはあると思うが、何度も
が大きすぎ、特にハード面で多額の投資が必要と
人の手を介して情報処理に時間を要し情報の変色
なり、肝心の人の心に訴え続けるには時間も経費
の恐れがあるようなマニュアル方式は早急に改め
もかかる。しかも、受け手の側でも自分には関わ
なければないと感じた。
り合いがないという気持ちと、危機管理意識が風
化する傾向と戦わなくてはならないし、到達点も
6.おわりに
見つからない。しかし、地震国日本は、いつどこ
EPDにあっては、赤十字社を初めとする非政府
機関、NPOなどの優れた取り組みを行う団体と
で地震災害が発生してもおかしくない状況であ
る。地震対策は地道に続けなければならない。
市との強い協力関係が見られた。市とこれらの団
対策は行政だけの問題ではなく、また、行政だ
体の協働が大災害においては強い力を発揮する。
けでは解決できないことは阪神・淡路大震災以
また、災害発生時の緊急対応においては、情報
降、住民にも一定の理解はあろうが、「自助」「共
の収集と的確な判断、指揮系統の一元化とすばや
助」とは言えども、その流れをリードするのは、
い情報の伝達が求められ、これらがうまく機能し
やはり行政なのである。
たときに被害が軽減されるものと思われる。
EPDの活動においてその情報収集能力は目を見
阪神・淡路大震災以降10年、一時的に盛り上が
張るものがあった。しかし、迅速な対応をなしえ
った防災への取り組みや危機管理意識の高揚に
たのは、その情報を駆使し的確な判断を下したリ
も、風化現象の進行は否めない現状にある。最近、
ーダーの存在である。いかに情報を集めようとも、
国内外で、台風や豪雨等による水害、高潮、地震
その情報を使えなくては意味がない。最後に、防
災害等の大規模災害が多発し、その時々は危機管
災行政に携わる者としての心構えについて問うた
理、防災の意識が高まるが、喉もとすぎればの如
時、担当者のデービス氏が語った言葉が忘れられ
く、高い意識を継続して保ちつづけるのは至難の
ない。「防災に携わる者は、常にボジティブな考
業である。しかし、地震はまだ予知されることな
えを持ち、関係機関との調整を心がけ、柔軟な思
く、高い確率で突然にやってくる。そのための準
考で施策に取り組んでいくことだ」と。なぜなら、
備は怠りなく行っていかなくてはならない。
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「防災というものは行政の責任なのだから」と。
大震災対策を推進するのには困難が伴う。問題
ロサンゼルス市庁舎前にて
17
を行うことを目的に生まれた。1864年に制定され
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「支援から協働へ」
たジュネーブ条約が赤十字活動の根本となってお
り、現在世界で182カ国に赤十字社がある。「主に
∼アメリカ赤十字社の活動から学ぶ∼
訪問日 2005年10月14日(快晴)
訪問先 アメリカ赤十字社
ロサンゼルス広域事務所
説明者 キース・ガルシア(危機管理)
ニック・サムニエル(広報)
ボブ・リッジ(国際)
通 訳 ケイコ・タジール
戦争での被害に援助を提供する」国際赤十字委員
会と、「各国赤十字が加盟し、主に自然災害時に
おける救済を提供する」国際赤十字連合がある。
全ての赤十字社が同じサービスを提供するので
はなく、公平・中立という立場を保ちながら医療
に力を入れたり、高齢者対策を充実させるなど各
国で特色のある独自の対応を行っている。
アメリカ赤十字社は1881年クララ・バートンと
いう女性により発足し、1905年に議会で憲章の認
はじめに
可を得て設立した。本部はワシントンDCにあり、
近年、数多くの自然災害が世界各地に襲いかか
アメリカを8地域のサービスエリアに分割し、そ
り、過去1年間を振り返るだけでもインドネシア
の下には800の支部がある。私たちが訪れたロサ
の大津波をはじめ、ハリケーンカトリーナ、パキ
ンゼルス広域事務所は郡の約半分にあたる、ロサ
スタン地震と、甚大な被害をもたらしている。被
ンゼルス市を含む36市を管轄している。
災地から送られる瓦礫の中のテント生活や、身内
赤十字社は政府機関ではないが、人道の原則の
を失い途方にくれる人々の映像は、薄れつつある
もと「被災者に対する救援を行う」任務がある。
「阪神淡路大震災」の記憶を多くの人によみがえ
その活動は地震やハリケーンのような大規模災害
らせたに違いない。
そのような近況と経験をもとに、近未来に襲い
から一般家屋の火災まで広範囲にのぼる。また活
動に必要な人的、物的資源は各事務所から支部、
かかろうとする東南海、南海地震など自然災害へ
サービスエリア、そして本部へと供給依頼をする
の対策は各方面で急速に進められており、その中
ことで確保されるシステムとなっている。
で注目されているのが「共助」への期待と関心で
ある。尊い命をはじめ多くのものを失った震災で
アメリカ赤十字社の活動と体制
はあるが、同時に生まれたのがボランティア精神
災害活動の主体になるのはボランティアチーム
で、共助の土壌は構築されつつあり、今後は具体
で、赤十字社の社員がそれをサポートするように
的な発展と活動が課題となっている。
なっている。災害発生時には、そのチームが、ま
そこで今回私たちは、その活動が国民、さらに
ず現地に赴き災害の程度を調査する。援助活動と
行政からも期待と信頼を得ているアメリカ赤十字
しては、一般的な災害で、食料、衣服、寝泊りす
社に、地震を中心とした災害に対する『備え』
るところを提供することからはじまり、次に相談
『対応』
『復興』の取り組みや被災者への支援方法、
員により今後の住まいについて話を進めていく。
行政との協働を学ぼうと訪れた。
大規模災害の場合は、避難所を開設する。通常中
学校や高校の施設を使用することが多い。
アメリカ赤十字社(American red cross)
の概要
赤十字の考えは、1859年スイスのアンリー・デ
ュナンにより戦時中の被害者に対して人道的救済
18
また、アメリカ赤十字社には「DSHR」といわ
れる人材活用のシステムがあり、特に大規模災害
時における人的サービスの管理や分担行動の基本
となっている。
そもそも赤十字社は被災者へのケア等の直接援
市に援助の提供を依頼することとなる。もし郡で
助や情報提供などを行うクライアントサービスが
対処できないなら州に援助を募ることとなり、そ
中心になるが、他にも
のあとは州から連邦政府のFEMA(USA緊急事
・避難所や配給を行うコミュニティサービス
態管理庁)に頼ることとなるが、どこが災害対応
・災害情報の入手・提供に関するインフォメーシ
しようとも赤十字社との連携は常に図られている。
ョンサポート
赤十字社の活動は「公助」の行政を「共助」の
・備蓄倉庫、物資運送のマティリアルサポート
立場で補完しつつ、お互いに連携は深くあるもの
・ボランティアや専門職の訓練や人員配置を行う
の、各々の役割分担を理解し、活動の効率性は保
スタッフサービス
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たれている。
・災害救済を行うとき行政、民間と連携して作業
を行うパートナーサービス
に分担されている。
信頼できる情報提供
広報活動についても行政との連携は重要であ
る。赤十字社が持つ情報を行政、メディアは要求
行政との連携・信頼
してくるが、災害直後にはほとんど情報はないし、
赤十字社が救済活動を行うときは、決して単独
混乱した情報も飛び交うこととなる。赤十字社と
ではなく、行政や他のコミュニティーと連携し行
しては情報提供の前に何を行って、今何をし、今
うこととなる。現地に入った赤十字社のスタッフ
後何を行う必要があるのかを十分把握した上で初
は、消防、警察が現在何を行っているかを把握し、
めて伝えている。赤十字社と行政は、ともに正し
避難状況、被害状況など被災地の情報を赤十字社
い情報を共有し、伝えていかなければいけない。
のEOC(危機管理センター)に正しく伝え、これ
を行政の指令者(ロサンゼルスの場合、指令者は
市および郡の消防局長)に報告するようになって
いる。
また、赤十字社の代表者が市及び郡のEOCの一
員となっており、例えば避難所の設営等について
の情報など、EOC内部の情報の連絡も行うことで
情報の共有化が図られている。
このように赤十字社が行政と関わって行動する
ときは、行政の一部となってお互いを理解した上
備蓄倉庫前の駐車場で
で協力しあっている。他の訪問先であるロサンゼ
ルス市のEPD(危機管理局)、グレンデール、バ
ークレー市の危機管理局においても、担当者は口
アメリカ赤十字社独自の施策について
をそろえて赤十字社を絶賛している。
①人づくり(教育・訓練)
行政は赤十字社に対して、避難所の運営や被災
赤十字社が充実した活動を遂行するためには、
者の応急手当、ケアについて大きな期待を持って
人材育成が不可欠であり、その取り組みの一例を
おり、災害時における各市EOCへの積極的な参加
紹介する。
も赤十字社への信頼を保っているものと思われ
災害現場では医者が必要なのはもとより、彼ら
る。また、赤十字社と連携する各市EOCは災害の
をサポートする看護師が多数要求されるが、その
規模に応じて、市から郡に援助を求め、郡は他の
ほとんどがボランティアに頼るためかなり不足す
19
ることから、赤十字社では「ナースアシスタント」
の育成に努めている。これは州と協力して、酸素
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i i )災害に応じた復興支援(ファミリーサポート
センター)
吸入の仕方や病原菌の対応など医療作業ができる
避難者は住む場所や就職先を求めて、赤十字社
ように講習し、資格の取得を援助して看護師不足
のファミリーサポートセンターに集まってくる。
を補っている。
私たちがここを訪問した日にもハリケーンカト
また、赤十字社は、各家庭でも災害に対して準
リーナでこの地区に避難してきた人々が訪れてお
備ができるように、防災教育を地域社会へ広げて
り、写真撮影は認められなかったが、カウンセリ
いる。「セーフコア」と呼ばれる政府が助成金を
ングを受けている様子を視察することができた。
拠出するプログラムに基づき、学校区と連携して、
被災者の被害状況や要望などの情報をもとに、仮
幼稚園から小学6年生までを対象にして「Masters
設住宅を必要期間提供するとともに、州の雇用担
of Disaster」という赤十字社の教材を使って子ど
当者が毎日訪れ、被災者に就職の斡旋を行い、多
もたちの防災意識のレベルアップに努めている。
くの人が仕事につくことができている。
iii )柔軟な復興支援
大災害が起こったとき、通常の支援だけではな
く、より柔軟に対応することもある。
例えば、カトリーナの際には、直接被害を受け
たルイジアナ州周辺だけでなく、他の都市への避
難者が非常に多かった。ロサンゼルス全域にも約
3,000家族の人々が避難してきたが、赤十字社で
は通常の援助ができなかった。
そのため、FEMAからの援助金が得られるまで
のつなぎ金として、家族数に応じ一括で360ドル
赤十字社の教材「Masters Of Disaster」
∼1,700ドルの範囲で援助金の支給を行い、また、
大きな避難所は開設せず、宿泊場所としてホテ
②被災者のニーズに応えるために
i )災害時要援護者のスペシャルニーズ
ル・モーテルなどを提供している。
こうした災害に応じた被災者のニーズに、いか
赤十字社では災害時に高齢者や障害者、妊婦な
に応えるかを考え、実践していく赤十字社の姿勢
ど特別な配慮を要する人のニーズをスペシャルニ
は、行政においても必要なことであると改めて認
ーズと称し、必要に応じたサポートができるよう
識した。
努力をしている。例えば、
・大型避難所を避け、避難者がストレスなどでそ
の避難所が適さないと判明すれば即時に移動さ
せる。
・透析を受けている人の診察処置、糖尿病の人へ
のインシュリン等の医療物資の提供を病院や医
師から無料で受ける。
・その他医療的に特別な物資が必要な場合には郡
の衛生局から援助を受ける。
というようなものがある。
20
③備蓄倉庫
備蓄倉庫には、被災者が文化的な生活を確保す
るための簡易ベッドや工具、洗面具や食料などの
物資や避難所管理用の事務用品、防災教育の教材
などが保管されていた。
その中には、多様な被災者のニーズに応えるた
め準備されたものがある。
まず非常食であるが、日本でも対策が図られて
いる食品アレルギーの人への配慮はもちろんのこ
と、文化的、宗教的にも考慮して食料が備えられ
か、そしてどのように家族を守るのかなど、正し
ていた。
い知識を持って行動しなければならない。それら
また、避難所生活は、健常な大人でも過剰なス
トレスが溜まるものであるが、子どもにとっては
耐え難いものであり、そのためにおもちゃが備え
の知識を住民に伝え、意識づけることが今後の行
政の大きな役割であると考える。
個人の防災意識の高まりが、地域や勤務先での
られている。教会などが避難所を開設したときに、
コミュニティの形成に広がり、また既にあるコミ
ボランティアの人が子どもたちと一緒に遊ぶ時に
ュニティの深まりにつながることで、災害に対し
それを活用し、彼らのストレスを和らげる。さら
必要以上の恐怖を抱くことはなくなる。何故なら
に、高齢者や障害者などへの配慮として、車椅子
自分で自分を守る努力をするし、加えて身近な周
が備えられており、被災者への対応の幅は非常に
りの人が助けを差し伸べてくれるからである。こ
広い。
の安心感が災害時に冷静に行動するための原動力
物資の資金は、ほとんどが寄付や企業からの資
となるに違いない。
金提供で賄われており、これらの輸送手段である
アメリカ赤十字社が行っている救済活動は、日
トレーラーについても、運送会社から古くなった
本においてはほとんど行政が行うこととなる。こ
ものの寄付を受けている。万一、輸送車両が不足
れは、緊急時の限界に拍車をかけるものと思われ
したときは、事前に協定を結んでいる運送会社が、
る。私たちがこれからの災害に対し、被害を軽減
ボランティアで物資搬送を行っている。
していくためには、行政と住民、ボランティア団
また、日本の自動車メーカーからキッチントレ
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体やNPO等とが日頃から協力して準備を進め、
ーラーが寄付されており、温かい食事の供給に一
自助・共助・公助のバランスを確認し、すべての
役かっていると喜ばれていた。
人々がそれぞれの役割を果たし災害に対処してい
くことが重要である。
これまで紹介したようにアメリカ赤十字社は、
行政ができない被災者一人ひとりのニーズに応え
た支援を行っている。行政としては、多数の幸せ
を考えるべきであるが、少数の人の幸せにも配慮
すべきところはあり、「他団体との協働」につい
ての仕組みづくりに今後の課題が残されている。
備蓄倉庫にて
おわりに
これから行政が行う防災対策は、過去の災害を
風化させることなく教訓とし、ハード面・ソフト
面の充実に取り組むことである。しかし、いざと
いうとき行政の職員も被災者の一員であり、行政
だけでは災害時の対応に限界がある。
住民一人ひとりが自らを守るために何をすべき
LA広域事務所の前で
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究所の存在は、バークレー市を世界の学問の中心
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災害に強く安全な
まちづくり・ひとづくりについて
訪問日 2005年10月17日(快晴)
訪問先 バークレー市危機管理局
説明者 デイビット・オース
通 訳 白鳥朋子
地としている。
19世紀の後半には、ゴールドラッシュにより町
は大きく成長し、1906年のサンフランシスコ大地
震により、多くの人々がバークレー市に移住して
きたため、1900年には13,000人であった人口が
1910年には40,000人まで増加した。
1989年10月17日、午後5時4分に再びサンフラ
ンシスコ周辺で大地震が発生した(ロマプリエタ
地震(M6.9))。この地震でベイブリッジの1区
はじめに
間が崩壊、橋は1ヶ月間使えなくなり、また、2
近年、阪神淡路大震災をはじめ、新潟県中越地
層のフリーウエイでは、上層が崩壊したために下
震、スマトラ沖地震、ハリケーンカトリーナなど
層を走行中の車が押し潰されたり、ビルが倒壊し
の発生により、今、世界的にも災害に対する危機
火災が発生するなど、多くの犠牲者を出す結果と
管理は大きな課題となっている。
なった。
大規模な災害が発生すると、人々は肉親や住む
この地震は、サンフランシスコを縦断するサン
家を失い、また、飲み水や食料も不足し避難生活
アンドレアス断層によるものであったが、バーク
を余儀なくされる。このような状況の中、被害を
レー市の真下には、それと並走して長さ約70㎞の
最小限に抑えるためには、行政だけではなく、個
ヘイワード断層があり、この断層は、今後30年の
人や地域、ボランティアの協力が必要不可欠であ
間に活動する確立は32%と予測され、湾岸地域で
り、今後、災害予防・災害対応について、どのよ
は最も危険な断層とされている。
うにして『自助・共助・公助』の仕組みを確立さ
せていくのか。
バークレー市が、これまでに経験した大地震を
教訓にして、どのような対策を講じ、また、今後
どのように災害に向き合っていこうとしているの
か、限られた時間ではあったが学んできたことを
もとに考察を深めることとする。
バークレー市の概要
バークレー市はアメリカ合衆国の西海岸カリフ
図1.サンアンドレアス断層・ヘイワード断層
ォルニア州アラメダ郡に属し、サンフランシスコ
湾にはアルカトラズ島、また、その西方にはゴー
ルデンゲートブリッジ、南西にはサンフランシス
地震等の大規模災害が発生したときには、
コとの架け橋であるベイブリッジを望む人口10万
100%被害をなくすことは不可能である。しかし、
2
5,000人、面積約27 ㎞ の温和な気候に恵まれた都
その被害をできるだけ小さくする(「減災する」)
市である。
ことは可能である。また火災などの2次的な災害
また、カリフォルニア州立大学バークレー校が
あり、太平洋地震工学研究センターなど種々の研
22
災害に強いまちづくりを推進するために…
や、その後の人命救助、復興作業についても同様
である。
地震時又はその後の被害拡大を最小限に食い止
めるためには、常日頃からの災害に対する継続的
(2)バークレー市の取り組み
バークレー市はパイロット地域に指定される以
な備えと持続的な意識啓発が重要である。しかし、
前から、地域安全活動に長くかかわっており、こ
言葉で述べるのはたやすいことではあるが、実行
れまで多くの地震、山火事等の災害に見舞われて
に移さなければ何の有効性もない。
きたが、その都度、市民はその悲しみを乗り越え、
災害に強いまちづくりを推進するためには、ハ
自らが来るべき災害に備え、意欲的にその対策に
ードとソフトの両面からの考察が重要であるが、
ついて提案してきた。そういった活動に対し、行
ソフト面からのまちづくりは後述し、このトピッ
政も積極的に支援しており、より良いパートナー
クスでは主にハード面からのまちづくりについて
シップが築かれている。
述べることとする。
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そればかりではなく、カリフォルニア州立大学
災害に強いまちづくりを進めるにあたって、忘
バークレー校も住民、行政とともに防災の研究を
れてはならないことがある。近年の日本の財政状
推進している。同校の地震安全プログラム、施設
況、特に地方公共団体の状況は非常に厳しいもの
強化・改造のための地震実行プランによって、建
がある。
築物の安全性の向上に取り組んだ。また、防災訓
それゆえ、行政主導の一方的な整備は現実的で
練やリスク・安全情報の共有においても、地域の
はない。そこでバークレー市の整備手法を考察す
企業とも連携を深めている。まさに民・産・学・
ることとする。
官の連携が図られている。
(1)緊急事態管理庁(FEMA)の取り組み
米国では、「被害の大きい予測不能な災害に対
し、国家としてどう備えるか」という問題につい
て、州の救急隊とともにFEMAが先導役を務めた。
議論の中で浮かび上がった共通のテーマは、「緊
急時の対応対策と共に事前の被害防止と危険軽減
対策を講じることが、最も費用効率が高くて倹約
できる方法だ」というものである。このような経
過をもとに、1997年にFEMAのプロジェクトイン
パクトが誕生した。
FEMAは州の救急隊と共に、被害軽減投資を地
図2.カリフォルニア州立バークレー校の図書館棟と
大学のシンボル、セイザータワー
方戦略に集中させ、各市の状況に見合った災害対
策の育成を図った。
カリフォルニアにおけるパイロット地域は、
バークレー市民は政治や政策への参画意識が非
常に強く、大学や行政の専門的支援を受けながら、
1998年はオークランド市、1999年はバークレー市
災害に強いまちづくりに取り組んだ。驚くべきこ
とナパ市が指定された。
とに市民から、公立学校、消防署等の公共建築物
プロジェクトインパクトは、地域が災害への取
を耐震化するためや、また公共安全ビルや緊急オ
り組み方を対応型から予防型へと転換させ、災害
ペレーションセンターの州事務所を新たに建設す
対策を実施するのに必要な地域での大々的な話し
るために、税金を上げることを提案している。
合いを当たり前のこととした。
地域の子供たちの生命、公共の財産を守ること
に税金を惜しまなかったのである。
23
また、家屋購入時や移転時に耐震化をすれば半
額の助成金がでる。この財源としては、移転時に
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地域コミュニティを支えるために…
地震発生後の被害を最小限に抑えるためには、
発生する税金がプールされており、省エネ化に対
個人の対処・予防や地域の果たす役割も非常に大
しても助成される。その結果、バークレー市の
きい。これは、阪神・淡路大震災の時に実証され
40%∼60%の建築物が既に耐震化され、これはサ
ており、バークレー市でも、これまでの大地震や
ンフランシスコ湾岸地域で最も高い改良率であ
大火災の教訓から、個人及び地域コミュニティの
る。
育成・指導に努めている。
加えて、地域ごとにより効率的に災害に対応で
先の訪問先であるロサンゼルス市では、災害発
きるように、発電機や衣類、医薬品、ラジオ、テ
生後72時間は自己責任を呼びかけており、ここバ
ントなどの緊急時に利用できる設備を市内8箇所
ークレー市では更に厳しく5日∼1週間は自己の
(1箇所当たり1万5千ドル)に設置し、一部の
責任で飲料水など自らが生活できる備えを行うよ
地域では、自ら装置を購入しているところもあり、
今後も増設に向け取り組むこととしている。
う指導している。
その背景には、例えば、災害発生後、多くの市
市消防局としても、できる限り地域がスムーズ
民には暫くの間辛抱すれば直ぐに「誰かが(行政
に連携をとることが出来るように、火災用ホース
やボランティアなど)何とかしてくれる」といっ
を消火栓に繋ぐなどの訓練を地域ごとに実施して
た思いがある。しかしながら、現実にはそうでは
いる。
なく、まず、避難所そのものの安全性の確認、と
現に、オークランドヒルズ・バークレーの大火
同時に赤十字社などと連携し、食料や飲料水、ベ
災の際には、消防士の数が足らなくなり、市民の
ッド等の確保など労力と一定の時間を要するから
方々が消火活動を行なった結果、火災の拡大を防
であり、そういった実状についても、市民の方と
ぐことが出来たそうである。
の意見交換の場で伝えている。
図4.教育・訓練用資料など
図3.大火災時に消火活動を行う市民
また、市民や地域に災害時にどのような対処、
バークレー市ではハード面からのまちづくりに
ついても、行政主導ではなく、住民との協働の取
め、CERT訓練(コミュニティ緊急事態対応訓練)
り組みを基礎とした整備を推進しており、また、
を取り入れ、
「災害予防」や「消火」、
「応急医療」、
住民への意識啓発と訓練等を含めた、ソフト面で
のまちづくりと連動した取組が功を奏している。
24
予防の体制を取らせるかという課題に対応するた
「捜索・救助活動」などの研修・訓練プログラム
を提供している。こういった研修の申し込みは、
ここ暫く下降気味であったが、ハリケーン「カト
まで強調されるのか、正直のところ非常に疑問に
リーナ」の災害発生以来、上昇傾向にある。
思った。しかし、米国には日本のような町内会と
次の世代を担う子供たちへの防災教育プログラ
いった枠組みはなく、そういった受け皿としての
ムも用意されており、こういった取り組みは、こ
コミュニティは、地域内で同じ思いを持つ方々の
こバークレー市にとどまらず、西海岸の様々な地
自主性から形成されるもので、そういった状況を
域で行われており、また、赤十字社などのボラン
作り出すために、市は多くの時間と労力を注がれ
ティア団体でも取り組まれている。これらの教育
た結果の賜物であることがわかった。
を受けた子供たちは20年∼30年後には、地域のリ
今、世界的に多くの自然災害が発生し、多くの
ーダー的存在となり、地域の防災力強化のために
犠牲者と壊滅的なまちの状況が生み出されてい
大きく貢献することとなる。また、子供たちの研
る。
修機会を通して、親の意識啓発にも繋がっており、
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我々の暮らす地域では、南海トラフ沿いで東海
先の訪問先であるグレンデール市では、子供対象
地震、東南海地震、南海地震の3つの震源域が並
のプログラムの成果がここ数年顕著に現れている
び、内陸部では中央構造線断層帯などの活断層を
とのことであった。
抱え、また、国内各地では地震が頻繁に起こって
高齢化がますます進む中、次代を担う子供たち
いる状況の中、わが国においては、他国にもまし
への取り組みは、非常に有意義なものであり、幼
て関係機関が結集し、一刻も早く『自助・共助・
い頃からの意識付けの重要性を再認識させられた。
公助』の仕組みを確立する必要がある。
地震予知が未だ困難な状況の中、我々自身もそ
おわりに
うではあるが、災害に向き合うための最も重要な
災害に強いまちづくりをより効率的・意欲的に
ことは、それぞれが災害の恐さを十分理解し、ま
進めていくためには、ハード面においては、行
た、それに対する予防と対処について、如何に意
政・民間企業・住民(地域)が十分に連携し、そ
識を持ち続け、各々の役割を如何に行動に移すか、
れぞれの役割と責任のもとにまちの耐震化に向け
その結果によって被害の状況は大きく軽減するこ
取り組んでいくとともに、各家庭においても住宅
とができる。
の耐震化、家具の固定化など自分たちでできる
「備え」を整えていかなければならない。
また、ソフト面においても、時間の経過ととも
に「危機意識」が希薄になりがちな状況を打開す
るために、行政としては、子どもからお年寄りま
で、それぞれのニーズにあったより良い教育・訓
練プログラムを取り入れるとともに、地域へのア
クションとして、例えば、地域ごとの災害対策へ
の取組を比較し、あわせて表彰制度を設けるなど
により競争意識を高め、個人の防災意識の高揚と
地域力の強化を図っていかなければならない。
バークレー市のこれまでの活動で、もっとも効
果が実証されたものの1つに災害用緊急設備につ
図5.訪問研修を終えて
いて強調し説明された。地域の備蓄倉庫の設置は、
我々どこの市でも実施していることで、何故そこ
25
B
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地震を中心とした防災対策
∼コミュニティの自主性と安全・安心∼
B 班
地震はいつどこで発生するかわからない自然現
象でいまだ不明な点はたくさんある。地下のプレ
ートのずれにより、地表に大きな振れを起こす、
に未曾有の大惨事あった。このことは一生消せな
い記憶となった。
今回、大地震災害から復興し、ボランティア活
これが地震である。大地震による被害は他の自然
動に先進的なアメリカの事例を実地研修し、直接
災害と違って被害規模が極めて大きく、私たちの
現地の実情を相手から聞くことができた。そこで
社会基盤から生活基盤まであらゆるものを破壊
得た知識や経験は私たちの大きな糧となった。具
し、大切な生命や希望までも奪い去る。日頃から
体的には、アメリカの緊急事態の体制組織や、災
もっとも備えなければならない自然現象である。
害時のボランティアリーダーの育成などたくさん
日本人は、昔から、大地震を経験している。江
のことを学んできた。今後、研修で学んできたこ
戸時代の安政の江戸地震(1854)、関東大震災
とを、それぞれの場で生かしていくことが大きな
(1923)東南海地震(1944)…そして阪神大震災
課題であり使命でもある。私たちが研修で得たこ
(1997)と続く。たくさんの地震災害を経験して、
とについては、以下の通り研修先ごとに報告書と
対策を講じてきた。関東大震災では10万人もの人
してまとめた。
が命を落とした。地震の大きさにもよるが、人が
最後に、事前研修から本研修までの間、指導助
密集して住んでいるところほど被害は大きくなっ
言いただいた渥美先生、私たちを暖かく支援いた
ている。つまり、大都市ほど防災力は弱いと考え
だいたマッセOSAKAのスタッフの皆様にB班一
られる。私たちが生活している大阪府もまったく
同深く感謝しております。ありがとうございまし
地震とは縁のない地域ではない。府内には地殻変
た。
動を繰り返す活断層も存在し、上町断層や中央構
造線は良く知られているが、ほんの10年前までは
地震の恐怖を無意識に忘れていた。関東や東海地
日 程
訪問先、日程は次のとおり。
方の問題と勝手にかたづけていた。分岐点となっ
たのが1997年1月17日早朝に発生した兵庫県南部
■カリフォルニア州知事室緊急業務部
地震である。そのときの放送は今でも鮮明に記憶
平成17年10月13日(木)
している。テレビのアナウンサーが「今まで体験
したことがない揺れです。」を何度も連呼してい
た。高速道路は倒壊し、駅舎は崩れ落ち、ビルは
横倒し…それから火災…映し出される映像はまさ
26
■CERT
平成17年10月14日(金)
■オークランド市危機管理事務所
平成17年10月17日(月)
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班
海
外
研
修
27
と、シリコンバレーに代表される世界最先端の電
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班
海
外
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修
災害に打ち勝つ!
∼縦横の連携と合理的なシステム∼
訪問日 2005年10月13日(木)(快晴)
訪問先 カリフォルニア州知事室緊急業務部
説明者 マーク・ジャクソン
通 訳 ハタ サトコ
子工業及び航空宇宙関連産業を中心とする工業に
よって、高い水準で支えられている。
他方で、カリフォルニア州は、全米でも災害が
多いことで知られている。乾燥した南部を中心に
山間部では山火事が多発している。また、地上に
見える巨大なサンアンドレアス断層をはじめ、ヘ
イワード断層など数々の断層が縦横に走り、阪神
淡路大震災の一年前、1994年に発生したノースリ
ッジ地震など、地震の多発地域でもある。
1.はじめに
巨大地震が今後30年の内に南カリフォルニアに
ご存知のように、アメリカ合衆国は50の州が集
発生する確率は50%以上で、都市部で巨大地震が
まった連邦政府である。州は独立した行政機関を
発生した場合には壊滅的な被害になると想定され
持ち、いわば一つの国のようなものである。この
ている。
州の中に郡(county)があり、郡の中に市町村が
ある。合衆国の市町村は、住民が自治体を作り、
州政府がそれを認証した場合にのみ成立するた
め、人を基本とした集合体であり、土地の集合体
ではない。したがって、郡だけに属して、市町村
には属さない土地が存在する。
私たちははじめに、合衆国における全体的な防
災体制の流れを調べるため、日本でいえば国家にあ
たる、州を調査することにし、カリフォルニア州知
事室緊急業務部(California Governor’
s Office of
カリフォルニア州知事室緊急業務部の地域区分図
Emergency Services : OES)の現地視察を行った。
3.カリフォルニア州知事室緊急業務部(OES)
2.カリフォルニア州の概要
カリフォルニア州はアメリカ合衆国の太平洋岸
に位置し、南北に長く西海岸の大部分を占めてい
る。州土は、内陸山地、中央平野、太平洋側海岸
私たちが、訪問をしたのは、カリフォルニア州
の知事室緊急業務部、通称OESと呼ばれる組織の
中で南部地域を統括する事務所である。
このOESは、効率的に緊急対応をしていくため、
部、南部乾燥地帯に区分され、変化に富んだ地形
州を内陸地域、沿岸地域、南部地域の大きく3つ
から形成されている。面積は約42万平方キロメー
の地域区分に分け、それぞれ統括する事務所をも
トルで全米第3位、人口は約3,500万人で全米第
っている。本部は、内陸地域の州都サクラメント
1位の州であり、人種は白人約5割、ヒスパニッ
に置かれている。これらの事務所の州全体の職員
ク系約3割、アジア系約1割などと、非常に多様
総数は約560名、各事務所での対応職員として配
である。州都はサクラメント市、最大市はロサン
置されている。
ゼルス市で、ニューヨークに続き第2位の規模を
誇る。カリフォルニア州の経済は、温暖な気候と
肥沃な土地、そして灌漑設備にささえられた農業
28
4.OESの歴史について
OESは、1950年に州知事部局の一部として創設
され、1956年には自然災害に対応する業務を加え
が用意されており、緊急時にはいつでも起動でき
た組織となり、組織名をCalifornia Disaster Office
るようになっている。天上からは、各機関の名称
としている。その後、1970年、現在のOESとして
の札が掛けられており、座席には、常に着用する
いる。
ジャケットが、緊急時の各人の役割機能を一目で
OESは、自然災害、人為的災害などの復旧業務
として行われる州の各種の業務遂行を確実なもの
判別できるよう赤、黄、緑、黒と4色に色分けさ
れている。
とする責務を担っており、大規模災害では、郡市
EOCには、運営部門(オペレーション)、企画
への支援業務において州全体の省庁の調整を行う
部門(プラニング)、資源管理・確保部門(ロジ
役目を担っている他、都市での災害に対する準備、
スティック)、財務部門(ファイナンス)の4つ
応急対応、復旧への取り組みへの支援の業務を行
の部門がおかれている。運営部門は、災害時に
う組織である。
EOCが起動した後のこの機関の運営、州や連邦政
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修
府との調整を任されており、企画部門は、災害の
分析・評価を行い、計画書や報告書を作成する。
資源管理部門は、防災に対処する食料・物資など
諸々の資源を調査するとともにその確保を行う部
門で、財務部門は、費用の積算、及び支出を行っ
ていく部門である。
このような4つ部門と共に、公共、公益、民間
企業、福祉・衛生、NPO、マスメディアといっ
たすべての部門が一箇所に集まり、効率的・効果
EOC(Emergency Operating Center)内部の様子
的に災害時の対応をしていくようシステム化され
たのが、EOCである。
5.EOCの災害時対応システムについて
また、情報についても、GIS(地図情報システ
州のOESには、各3地域にそれぞれ災害時に緊
ム)を共通にもっており、カリフォルニア工科大
急対応していく日本でいう災害対策本部のような
学の地震研究所やその他の研究機関、前に述べた
役割を担うセンターが設けられている。これが、
さまざまな機関のパソコンから入力された情報が
EOC(Emergency Operating Center)である。
同時に確認でき、早期に統一した情報が共有でき
災害時であるという判断をEOCのディレクター
るようになっている。
がすると、このEOCに災害に関連するさまざまな
このEOCにおいては、自家発電システムを備え
部門の意思決定権をもった代表者が集まることに
るとともに、水、食料などを備蓄している。職員
なる。
は、この場所での宿泊も可能でベットなども備え
警察、消防はもちろん、医療・衛生関係、電
ているが、長期間に及ぶ災害対応に継続して取組
気・水道など公益事業関係、民間の建設関係、避
めるよう12時間交替で勤務にあたることとしてい
難所を担当する赤十字などのNPO。これらが一
る。このように中長期的な状況を考えた拠点機能
同に集まった中に情報が一括集中され、共通の情
を備えているのである。
報のもと協議され、判断が下されていく。これが
カリフォルニアでの災害対応のEOCのシステムで
ある。上の写真は、EOCの事務所の一室であるが、
平常時から、それぞれの機関の座席及びパソコン
6.EOCにおける、連邦・州・郡・市の連携
州のEOCと同じように、郡には郡のEOC、市
には市のEOCがある。
29
災害時、まず、市単位などの地方自治体のEOC
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7.個人の準備などの重要性
が対応するが、その中で対応が不可能であるとき、
このようにシステム化して災害対応をしている
郡のEOCに支援を求め、郡のEOCが起動する。
のがEOCであるが、災害に対する準備というのは、
郡での対応が限界と判断すると州への支援を求
まず、個人の準備が一番大切であると強調してい
め、州のEOCが起動する。ただし、州の中には、
る。州のホームページでも個人・家庭での備えを
6つの相互支援地域(Mutual Aid)が設けられ
記述し、災害時に際してどういう準備が必要か、
ており、一つの郡で災害対応が不可能なときには、
災害時での集合場所など家族間で話し合っておく
州の支援以前にこの相互支援地域内の他の郡に支
ことなど詳細に記載されている。災害時の初期段
援を要請することになる。
階で個人の混乱を防ぐことが全体の混乱を防ぐこ
また、州の部分で対応できない時は、連邦政府
に支援を依頼することとなり、連邦政府のFEMA
(連邦緊急事態管理庁)が現地事務所を置き、指
揮をとる。
とになるため、個人の準備が最も重要だとしてい
る。
2番目は、ビジネス、民間企業の対応である。
民間企業は、カリフォルニアの災害時に対応す
る資源の8割以上をもっていることが2番目に挙
げることの理由だという。
3番目が、公共と民間のパートナーシップ、4
番目以降に大切なのが、市・郡などの地方行政、
そして州などの対応であるという。
公の自治体が一番ではなく、個人、民間、民間
とのパートナーシップを重要なものとして強調
し、位置づけているのである。公共の限界を認識
し、非常時においてできる限り混乱を防ぎ、民間
やNPOなど協力可能な組織にはすべて役割分担
州・郡・市のEOCのディレクターには、災害の
をして対応する。非常時にどうあるべきか、合理
緊急時であることを宣言できる権限が与えられて
的に考えシステム化を図っているのが、カリフォ
おり、この宣言をすることで、市民への避難命令
ルニア州の仕組みである。
や外出禁止命令を出したり、民間企業や店舗の営
業を禁止したりすることができる。このEOCのデ
ィレクターは、必ずしも市長や知事といったトッ
ここまで、カリフォルニア州におけるEOCの仕
プではなく自治体により消防長であったり、警察
組みを述べたが、次に日本がおかれている自然災
署長であったりし、それは各自治体の条例におい
害の状況とその防災対策の現状を考察したいと思
て定められている。
う。
緊急状態であることを宣言したディレクター
日本は、地震発生周期の活動期に入ったため地
は、宣言後、後の議会でその宣言について承認を
震災害、そして地球温暖化による大雨・台風の多
得ることが必要となる。
発に伴う風水害など自然災害が多発し、今後もこ
各EOC内の機関ごとの連携が横の連携とする
と、この連邦・州・郡・市の連携は縦の連携であ
り、この縦の連携も綿密で、役割分担も明確にさ
れている。
30
8.日本の現状及び問題点
の基調は続くと考えられる。
また、日本はカリフォルニア州より自然災害の
規模が大きく、頻度も高い。
このため、日本は、自然災害の発生に伴う被害
と混乱を軽減するため、本来カリフォルニア州を
防災関係機関間の連携と情報の共有化、迅速な意
上回る防災対策を講じておく必要がある。
思決定や対応などは、日本において取り組みが遅
確かに日本も近年では、大学などの研究機関に
れている案件であり、日本の市町村においてもそ
対して多くの国家予算を投入し研究が進んでお
のノウハウを取り入れ、具現化するべきであると
り、その成果を国民に多数公表している。また、
思われる。しかし日本は既に、国・地方とも巨額
地震対策では、震度計や地震計を国内各地に設置
の財政赤字を背負い、財政投資による防災対策の
して地震監視と迅速な発表体制を構築し、風水害
質・量の拡充を進めることは極めて困難な状況に
対策では、気象監視・周知体制の強化と浸水・土
置かれている。
砂災害危険箇所の国民への周知など、かなり高度
な対策を進めている。
そのため、今後日本では、今まで以上により効
率的・効果的な防災対策を構築していく必要があ
また、マスメディアも地震災害・風水害に対す
り、そのひとつの手法として、海外の先進事例を
る防災知識の普及、防災意識の啓発のため、取り
貪欲に吸収し、日本独自の特徴や制約を加味しな
上げることが多くなっている。
がら対策を構築することが望ましい。
しかし、災害の現場対応を担う市町村の準備、
今回の視察で感じたのは、カリフォルニア州の
すなわち市民に減災の知識を広め具体的な方法を
基本的な発想が「災害に伴い生じる被害や混乱を
普及させることや、必要施設や設備・資機材等の
緻密に分析し、その災害に打ち勝つにはどうすれ
整備など、大規模自然災害発生時に円滑かつ迅速
ばよいのかを合理的に思考し、その対策を明確に
な対応をするのに必要な準備が不十分である。
構築する」ということである。日本でも、日本に
特に日本の市町村は、防災関係機関間の「必要
適した形でこの発想を元に具体的な取り組みがで
情報の共有化」、「迅速な意思決定や対応」、「戦略
きると、これまでにない優れた施策を打ち出すこ
的な対応」、「中長期的な拠点機能の整備と備え」
とができるのではないかと思われる。
など、いわば、「災害に打ち勝つ」ための具体的
日本は自らが得意とする「地域での減災・防災
な手法や備えが不十分である。そのため、災害が
の組織づくり」を通じ、その組織を突破口として
発生した場合、防災関係機関間の連携がとれない
「市民への減災・防災施策」を推進するとともに、
まま素早い対応ができず、被害と混乱が拡大する
カリフォルニア州での視察により学習した「災害
恐れがある。その結果、更に復旧・復興に膨大な
に打ち勝つ手法の構築」を加味し、これら三つの
時間と労力、そして費用が必要になると思われる。
キーワードを軸に、被害を最小限に食い止められ
しかし一方で、日本では防災対策をはじめ、
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るよう、また、被害に伴う混乱を早期に解消でき
様々な施策の地域への浸透を図る場合、行政課題
るよう、我々自らが分析・考察し、実践的かつ具
ごとに地域をブロックに分けそれぞれ地域に住民
体的な減災・防災対策を構築していくべきであ
の役員を配置するなど、地域での組織づくりは得
る。
意であると思われるので、このシステムを活用し
広く防災対策を推進することも忘れてはならない。
9.まとめ
もちろん、日本とカリフォルニア州の防災対策
の取り組みについて、相互に優れた部分があり、
総合的な観点では優劣をつけることはできない
が、少なくとも先に記載したように、EOCによる
31
以下、CERTのロサンゼルス市本部で取材をも
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修
「自主防災活動の実現と
教育プログラムについて」
とにCERTのプログラムについて報告する。
∼Community Emergency
Response Team(CERT)∼
CERT本部
訪問日 2005年10月14日(金)(快晴)
訪問先 ロサンゼルス市消防署CERT本部
説明者 ジェームズ・ホーキンス
ジョン・ルーリー
通 訳 ハタ サトコ
1.はじめに
1995年1月に発生した阪神・淡路大震災は、想
定外の大惨事に直面した。日常機能が全て停止し
た中では、行政側ができる仕事はほとんどなく、
被災地の中で、いちばん活躍したのは、実は地域
の住民であったことがこの震災で得た教訓だと思
う。日本では近年、自主防災組織づくりの必要性
がよく問われ、市町村の地域防災計画への位置付
けとその行動がいま求められている。災害初期の
救出活動の大半は、地域住民であった事実がある。
まさしく、今回我々が取材したロサンゼルス市
32
2.CERTの概要
CERTプログラムは、緊急事態の初期段階で、自
1985年メキシコシティの地震でボランティアグ
助、共助の考え方に基づき、被災市民自らが行う
ループが800人以上の人命救助を行った。しかし、
ボランティア活動として位置付けされている。ア
訓練されていないため、100人以上のボランティ
メリカのカリフォルニア州は、地震防災について、
アを15日間の救援活動の間に失っている。このよ
日本と同じ課題を持っており、ロサンゼルスの
うなことが二度と起こらないようにするために
CERTは、府内の各市町村が市民にどのように自
は、市民の救助はその市民がすることが唯一の方
主防災の重要性を市民へ普及していくのか、また、
法であるという結論に至った。
地域で自主防災組織づくりをすすめていくために
同年にロサンゼルス市CERTの講師であるジェ
はどのような手法をとるべきなのか、ということ
ームズ・ホーキンス氏の上司が、東京の市民団体
について参考になる事例がある。CERTの教育プ
の防災訓練へ視察に訪れたときに、これをロサン
ログラムを受けた市民は、地区また隣近所の自主
ゼルス市で実践するためにと考え始めたものが、
防災組織としての災害発生時初期活動や消防・警
今日のCERTの結成につながったもので、東京の
察の救援ついての取り組みも教育している。また、
場合は、地区住民(ご近所)での助け合いを基本
CERT活動のリーダーの考え方なども今回の取材
として消防、医療などのスペシャリストも参加し
を通してわかった。
たなかで組織づくりをしていたが、地縁や土着性
のない市民の多いロサンゼルス市では、このよう
Lesson1
災害に対する個人の備えについて
な地区住民の同士のチームワークが進まなかった
Lesson2
火事の抑制、危険物の感知について
ため、以下に紹介するプログラムによるトレーニ
Lesson3、lesson4
防災と医療について
ただし、応急手当はアメリカ赤十字の
ング方法を生み出していった。
2001年の9.11グランドテロ以降 ホームランド
仕事として、ここでは、どのような医
セキュリティで全米NO.1のプログラムと連邦政
療が必要かとトリアージについての知
府から評価を受けており、現在、全米50州3つの
識習得が主となる。
領域と6カ国以上でCERTのトレーニングが取り
Lesson5
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捜索・救援活動について 市民(受講者)に災害時の建物の構造、
入れられている。
不安定性を理解していただく。
Lesson6
指揮・命令(コマンド)、心理学につ
いて CERTを学習した者が、現場で
指揮できるように訓練する。
Lesson7
扇動的なメディアに対してどのように
対処するのか、情報を与えるのか(パ
ブリックスピーカー)について、また、
テロリストに対しての認識を学ぶ。
CERTの活動を紹介する機関誌
3.CERTにおける教育プログラム
CERTの教育プログラムの概要については、
ジェームズ・ホーキンス氏
Los Angeles Fire Department(LAFD)内
CERTホームページ上に記載されているので、こ
の報告書においては、今回の取材により講師のホ
以上が「レベル1」の内容であり、1週間に1
ーキンス氏が説明されたこと、私たちが彼らに質
回2時間30分のクラスを7回、合計17時間半でプ
問したことを中心に、ホームページ上では記載さ
ログラムを修了し、CERTのメンバーの一員にな
れていない彼らのCERTプログラムに対する考え
ることができる非常に効率的な教育プログラムで
を報告したいと思う。
ある。
初期の教育プログラムについては、自分自身の
彼らCERTの運営サイドは、ボランティアには、
準備を想定したプログラムで、「レベル1」とし
通常のプログラムだけでなく、趣向を凝らした
ての内容で次のとおりである。
様々なコンテストを実施しながら、ボランティア
33
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が参加して楽しめる企画を考えているようであ
グを受ける。(これには150ドルの受講料がかか
る。チェーンソーを使用したりすることもプログ
る。)
ラムにあるが、ボランティアの技量には限界があ
CERTでは、現在までに45,000人(ロス市での
るので、高いレベルのハザードは、CERTは考え
受講者)のうち実際には5人程度が問題になった
ていない。つまり、教育プログラムで高度技術を
だけであり、今のところ、このプログラムそのも
教えた場合、CERTにも責任があるからで、危険
のに欠点はない様である。また、ボランティアは
かつ高度な活動は本来のスペシャリストが担当す
自分自身で救済活動の動機付けが必要になるから
るためである。
だとホーキンス氏は説いている。
修了者には、CERTのグリーンのジャケットと
ヘルメットが授与され、災害時にリーダーとして、
4.ロサンゼルス市CERT
これらを着用する。全米ではジャケットの色につ
ノースリッジ地震の場合、消防や警察などが被
いては、現在、統一性はないが、だんだんジャケ
災現場に到着するまでに48時間かかっており、そ
ットも統一されてきているとのことであった。
の間、5人のCERT修了者が、5か所の火災の消
火活動に関与した。このことで、CERTプログラ
ムの有効性が認められ、CERT自体の評価はもち
ろん、行政全般に対しても高い評価を得た。市民
には、3日間連絡が途絶えても生活できるよう準
備の必要性を教育している。
また、教育の機会については、CERTは、18歳
以上を対象としているので、学校の教育カリキュ
ラムにはない。これは、災害ボランティア活動は、
ロス市が契約している保険の対象外となることも
関係している。これとは別に、地域と調整しなが
ら組織づくりするティーンCERTプログラムがあ
り、ジョン・ルーリー氏はCERTの予備軍として
期待している。
プログラム受講者に与えられるバッチ
「レベル2」は、アメリカ赤十字の協力のもと
避難所でのケアと医療について12時間のプログラ
ムを実施し、修了すれば新しいバッチを与える。
(ただし、バッチは有償。)
「レベル3」では、アメリカ赤十字の高度な医
療と関連した応急処置について50時間トレーニン
34
CERTパンフレットより
CERT活動をすることへの保障は、CERTはラ
イセンスではないが、カリフォルニア州のグッド
場合は、無理せずボランティアが手を引くように
指導している。
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サマリタン法(良き市民であるという法律)の適
用内で保護されている。法では災害時の医師、看
護師の救助活動での責任を問わないことになって
おり、積極的なボランティア活動を推進している。
米国は訴訟社会で、ボランティアであっても賠償
請求される可能性はある。ロサンゼルス市でも活
動に対して保険によるサポート体制が確立されて
おり、5,000ドルまでカバーしている。しかし、
これはリストアップ(登録)された者で、個人の
ボランティア保険でカバーできない部分について
適用することになる。また、州の知事が、災害宣
言すれば、州政府の労働災害として対応できる。
CERTの活動を促進していくことは、行政に対
して前向きな認識をもってもらうことにつなが
り、CERTは、無償でこのプログラムを提供し、
広報活動などを通じてCERTの存在を市民に普及
する必要がある。ロサンゼルス市のCERTにおい
ては、現在も年間2,500人程度の受講者があり、
毎回定員オーバーになっている。CERT事務局は、
8名で運営し、運営費については、市から5万ド
ルの予算と連邦政府からの助成金3万ドルをもっ
て運営している。
CERTの講習
CERTと行政の救援活動の区分であるが、CERT
は、災害発生直後から消防や警察の救援が来るま
でに活動するプログラムであり、救助が来たら行
政活動を支援する。行政活動に、提案型のボラン
ティア活動をする。行政機関と連携に支障がある
CERTの講習
35
CERTの参加者は、家族や近所のためにトレー
ニングを受ける人が多いようで、CERT活動は、
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班
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修
ボランティア活動である以上、市民の意識の程度
に大きく関係する。災害が発生しないと関心が薄
れ、ボランティアの受講者は減少傾向になり、ハ
リケーンカトリーナなど被災状況をコマーシャラ
イズして、市民に災害の予防の大切さについて呼
びかけを行っている。災害意識を継続させるため
にも、ロサンゼルス市では、年2回のドリルを実
施している。具体的には、災害想定のシナリオを
作って、実生活を通したトレーニングをしていく
ことになる。
ロサンゼルスの市民は、通勤に平均1時間程か
災害に有効に行動できるように考えられたプログ
かる。つまり、働いているところと住んでいると
ラムで、その時どきの地域社会に適合していく必
ころが違うということであり、これは、犯罪以外
要性があると考えられている。
のすべての緊急出動に対応する消防署の考え方と
同様なのだが、職場、家庭、通勤中などいろいろ
36
5.おわりに
なケースを想定し、どこでも使えるようなプログ
後日、オークランド市を取材した際には、Citizens
ラムをつくることの方が効率的なプログラムであ
of Oakland Respond to Emergencies(CORE)
るとロサンゼルス市では考えられている。職場と
というグループがあり、これは、ロサンゼルス市
居住空間が接近していて、地縁で組織することが
でいうCERTのプログラムと類似している自主防
比較的容易なわが国と違い、CERTプログラムは、
災組織であるが、COREは、避難所単位の自分た
CERT修了者が、災害に遭遇した場所での様々な
ちの地区を守るという役割を果たすプログラムで
あり、CERTのようにメンバー個々がその場その
る。特にそのような住宅地に居住すれば、職場と
場で自主防災のリーダーとして活躍することを教
家庭とだけであり、地域との接点がなく行動する
育しているプログラムと少しコンセプトが違い、
ので、自主防災組織をつくり上げていく前に地域
わが国が想定している自主防災組織づくりに近い
コミュニティを復活させなければならないような
ものがある。
ところもあると考えなければならない。
今回、ロサンゼルス市で取材してきたCERTの
この点からも、CERTプログラムのような自主
プログラムとわが国における自主防災組織の考え
防災組織づくりがマッチしていることが潜在して
方を比較し検証してみると、ご近所(地区単位)
おり、自主防災組織の育成を各市で考える場合、
で活動できる組織(自治会)がわが国にはたくさ
今回紹介したロサンゼルス市CERTによる自主防
ん存在するかのように思えるが、近年の都市的な
災のあり方など参考にすれば、大阪のような都市
生活を進めて行った地域や団地では、ロサンゼル
型生活に応じたわが国でも先進的な組織づくりが
ス市と同様で、ご近所(地区)の連帯性と地域参
できるものと考える。
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加が失われていることは推測できるところであ
37
りサンフランシスコと連絡している。
Earthquakes Happen? !
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∼オークランド市のSAFEプロジェクト∼
訪問日 2005年10月17日(月)(快晴)
訪問先 オークランド市危機管理事務所
説明者 コーリン・ベル
通 訳 シバタ クニコ
歴史的には大陸横断鉄道開通から栄えたが、
1906年のサンフランシスコ大地震後被災者が流入
し、大幅に人口を増やした。本市は鉄道ターミナ
ルと連動したコンテナ輸送基地として世界的に有
名で、市の中心には湖(レイクメリット)があり、
湖の西側にはオフィス街、ビルやチャイナタウン
などが広がっている。
アメリカ合衆国統計局によると、市の総面積は
1.はじめに
有史以来21世紀を迎えた今日まで、日本におい
ては、各地で地震が多発している。今後30年以内
2
2
2
202.4㎞ で、このうち145.2㎞ が陸地で57.2㎞ が水地
域である。総面積の28.28%を水地域が占めてい
る。
に60%の確率で東南海・南海地震が発生する可能
性があるといわれており、国及び各自治体の地震
に対する対応策の取り組みが重要な課題となって
いる。
防災(減災)対策は、国や都道府県、市町村の
防災関係機関が大きな責任を負うのは当然である
が、地域住民一人ひとりの防災に対する関心が薄
れてきていることから、その回復も必要となって
いる。
オークランド市の町並み
今回、我々は、行政を中心にコミュニティ、民
間企業、地元財界などがパートナーシップを取っ
て連携し、地震や火災などの災害に対応するため
にプロジェクトを実施したアメリカ合衆国カリフ
ォルニア州のオークランド市を訪れる機会を得
た。
3.オークランド市のプロジェクトインパクト
(1)背景
アメリカはこれまでにも地震など自然災害によ
り多数の死傷者、多額の被害が発生し連邦政府の
災害対策・復旧基金から数百億ドルを拠出する事
2.市の概要
38
態に何度も見舞われている。
オークランド市は、アメリカ合衆国カリフォル
今回の訪問先であるオークランド市があるサン
ニア州アラメダ郡にあるサンフランシスコ湾に面
フランシスコの湾岸地域は1,000㎞にも及ぶサン
した港湾都市で、食品工業や機械産業が盛んであ
アンドレアス断層が海岸に沿って走っており、ア
る。人口は402,777人(2002年7月1日現在)で、
メリカの中でも地震による災害が特に多いところ
アラメダ郡の郡庁所在地でもある。
である。サンフランシスコ湾北東部のサンパブロ
本市はカリフォルニア州の中でもとりわけ人種
フの北からアラメダ郡とサンタクララ郡境まで伸
が多く、アフリカ系、アジア系、白人、メキシコ
びているヘイワード断層は、マグニチュード7以
系などである。
上の地震を発生させる可能性があるといわれてい
サンフランシスコの対岸(東岸)に位置し、サ
る。この断層地域は特に都市化が進んでおり、連
ンフランシスコ・オークランドベイブリッジによ
邦政府、州政府はこの地域で大地震が発生した場
合、この都市化の脆弱さが被害を甚大なものにす
ると想定している。
B
班
海
外
研
修
この地域においては1989年のロマ・プリータ地
震、1994年のノースリッジ地震をきっかけに、大
都市に地震が発生した場合の災害規模、住民の受
ける影響などを検討し、その対策の試みが連邦政
府、州政府などで始まった。
多くの大学、研究機関、非政府組織、また地域
社会の人々もこの議論に加わり、この議論の中か
ら共通のテーマが浮かび上がってきた。
報道用演台に立つコーリン・ベル氏
それは、緊急時の対応対策とともに、事前の被
害防止と危険軽減対策を講じることが、最も費用
効果が高いということであった。
(2)プロジェクトインパクト
ついて伺うと、「当市は以前から防災対策に特に
力を入れていたからである(1988年以来オークラ
自然災害の増加とそれがもたらす被害の大きさ
ンド市では、CORE:Citizens of Oakland Respond
は、連邦政府に地震、火災、洪水、竜巻、ハリケ
to Emergenciesと呼ばれる緊急時に対応する市民
ーンなどがもたらす危険と被害を軽減する何らか
グループが積極的に活動していた)」とのことで
の対策の必要を迫った。
あった。
このような中、1997年に連邦緊急事態管理庁
オークランド市はFEMAから1998年に指定を受
(FEMA)のプロジェクトインパクトが誕生し、
け2003年までの5年間のプロジェクトを実施して
災害対策への新たな取り組みが始まった。このプ
きた。このプロジェクトは公共の安全を最優先課
ログラムは連邦政府の政策を調整して地方政府が
題としたものでSafety And Future Empowerment
直接実行できるようにしたもので、FEMAはプロ
の頭文字をとってSAFEプロジェクトと呼ばれて
グラムを試験的に実施するために、全国から7つ
いる。オークランド市の災害対策は市行政だけで
の地域を選び各地域に対し、その地域特有の危険
なく、市民、企業などをパートナーとして協働・
条件を自らで解決する方法として、その地域内の
連携をすることがより重要であると考え、ベル氏
住民にプログラムに積極的に参加するよう求め、
によると、そのパートナーを得るため一軒一軒先
カリフォルニアにおけるパイロット地域として、
方に電話をかけたり直接出向いたりして、パート
1998年のオークランド市を初めに、1999年はバー
ナーとなるよう協力を求めた。パートナーとして
クレー市、ナパ市などが選ばれた。
持てる力を災害対策に有効に活かせないかという
(3)オークランド市のプロジェクトインパクト
:SAFEプロジェクト(Safety And Future
Empowerment)
ことで、話し合いを経て協力を得るとともに信頼
関係を築いていったそうである。企業にとっても
災害による損失は経営に大きな影響をもたらすも
オークランド市は7つの地域の1つに選ばれ
のであり、企業自体も災害に対する強化を図る必
た、いわばプロジェクトインパクトのパイオニア
要性があったことも協力を得られた理由と考えら
的存在であり、今回のオークランド市危機管理事
れる。
務所を案内してくれたコーリン・ベル氏(エマー
このようにして、SAFEプロジェクトにはシェ
ジェンシィ・プランニング・コーディネーター)
ブロンオイル、EQEインターナショナル、ワシン
に、なぜオークランド市が選ばれたかその理由に
トン相互銀行などの有力企業や、アメリカ赤十字
39
社、オークランド商業会議所、CARD(18のオー
クランド市にある組織を代表している非営利団
B
班
海
外
研
修
体)、非政府組織など多数の参加があった。連携
したグループはオークランドの危険分析、リスク
アセスメントを実施し、その結果から家庭及び企
業の強化プログラムを作成し、厳しい気象条件
(地震、火災、洪水、竜巻、ハリケーンなど)の
もとでの道路・ライフラインなどの弱点を知るた
め、公共施設とインフラの点検を行った。さらに
SAFEプロジェクトの参加メンバーは自分たちの
施設をもっと危険に耐えうるものにし、同時に社
員への非常訓練を実施するなどの支援も行った。
このプログラムは、家庭や企業の施設に対し安
全改良を実施し、施設に関する構造上、非構造上
の危険軽減戦略を立て、具体的な施策としては家
屋の耐災害性向上のため、改善ガイドブック(参
考:写真右「Earthquakes Happen」)の作成をし
住宅改修パンフレットの表紙
た。
このガイドブックは、チームの中の建築の専門
知識をもつメンバーが担当し、持ち家所有者向け
しを行っている。
に便利な改善ガイドブックとしての作成したもの
また、高齢者の住宅については、ボランティア
で、一般の住民が自分の家の耐災害性を高めよう
チームなどが地域の高校生といっしょに、その高
とするときに必要とする情報を網羅しており、掲
齢者の家を訪問し地震時に倒れるなど危険が予見
載されている技術資料の幅広さの点でも非常に有
される家具を、ボルトで床や壁に留め固定させる
益なものである。
ような耐震作業を実施した。これらの地域の活動
市では、住宅を補強しようと考える人へ貸し出
は、人々の意識を徐々に変えていくこととなった。
すための大工道具をメンバーの企業から半分の価
また種々のパンフレットの印刷物を引き受けて
格で提供を受け、市内の図書館に備えつけ、貸出
くれる企業もあり、結果的にはFEMAから当初
120万ドルの補助から始まったプロジェクトの規
模が、企業や市民などから現物、サービスの提供
など様々な形で膨らみ、最終600万ドルの規模に
なった。
このように、連邦政府の資金が非常に限られて
いるにもかかわらず、豊かで柔軟な発想と地道な
努力で、プロジェクトインパクトは、地域の災害
への取り組み方を対応型から予防型へと転換し、
連邦政府への依存を減らし、さらに災害対策を実
施するのに必要な地域での活動を行わせる契機と
もなり、市民の防災意識を高揚させている。
40
4.おわりに
中に、コミュニティというパートナーを引き入れ
最後に、今回オークランド市(危機管理事務所)
るという視点をもっており、ただ被災者となるで
を訪問した所感を述べる。まずひとつは企業、市
はなく、防(減)災に関わり何かをしなければと
民などが行政と同じパートナーの一員として協働
いう気持ちを見逃さず後押し、市民などはそれに
して災害に立ち向かっているということである。
応えた。
一見パートナーシップが自然に形成されているよ
オークランド市のこれらの取り組みは、今わた
うに見えるが、当然一朝一夕にできたものではな
したちの市や町で取り組まなければならない災害
く、幾度かの災害に見舞われた苦い経験の上に立
対策の中で目指している方向と基本的には同じく
ち、行政、地域コミュニティ(市民など)が災害
するものであるが、日常の活動を通じて住民にど
は日常生活のなかで当然の起こりうるものとして
れだけ防災意識を涵養できるのかが大きな鍵にな
一人ひとりがしっかりと受け止め、自覚している
ると思えた。
B
班
海
外
研
修
ように思える。もうひとつは行政が自身の役割の
オークランド市危機管理事務所玄関前集合写真
41
自主研修報告
43
自主研修報告
A 班
地震と危機管理の考え方 ∼日米の差はどこから∼
太 子 町
斧 田 秀 明 …… 46
より効果的な地震対策のために
堺 市
殕
岡 崎
アメリカに学ぶ災害に対する備え方 ∼減災をめざして∼
池 田 市
横 井 良 子 …… 50
尚 喜 …… 48
「減災にどう挑むのか」∼アメリカ・カリフォルニア州での事例を踏まえて∼
茨 木 市
鎌 谷 博 人 …… 52
災害発生時、減災するための「備え」について
守 口 市
小 浜 利 彦 …… 54
災害に強いまちづくりは行政の危機管理意識から
河内長野市
村 上 敬 輔 …… 56
子どもたちの命を救え ∼小さな体に秘める大きな力∼
松 原 市
丸 山 佳 孝 …… 58
コミュニティと防災 ∼防災意識を高めるために∼
泉大津市
田 村 健二郎 …… 60
サスティナブル(持続可能)な未来をもたらすまちづくりについて
岸和田市
越 智 正 則 …… 62
アメリカの地震対策 ∼決して行政だけではできない∼
泉佐野市
橋 吉 郎 …… 64
CERTに学ぶ ∼明確化と割り切り∼
豊 能 町
木 田 正 裕 …… 66
B 班
カリフォルニア州の自然災害への対応体制 ∼日本が学ぶべきこと∼
枚 方 市
上 田 陽 介 …… 68
アメリカ的合理主義での防災システム
八 尾 市
平 尾 克 之 …… 70
自助、共助の育成による減災対策!
富田林市
山 中 清 隆 …… 72
市民主体の危機管理 ∼コミュニティの育成とともに∼
柏 原 市
中 田 有 紀 …… 74
緊急事態に強いまちづくりを目指して
阪 南 市
藤 原 健 史 …… 76
地域住民における被害軽減策 ∼防災意識とその役割∼
忠 岡 町
南 智 樹 …… 78
敵を知り、自らを知る ∼東南海・南海地震への備え∼
熊 取 町
中 尾 清 彦 …… 80
45
発生した場合は、連邦政府のFEMAが機能するシ
自
主
研
修
報
告
地震と危機管理の考え方
ステムとなっている。
また、平野部が少ない日本に対して、広いロサ
ンゼルス周辺との比較では、都市部における住宅
∼日米の差はどこから∼
の密集度の差が、「阪神・淡路大震災」と「ノー
スリッジ地震」との被害の差となった要因の一つ
である。
太子町 斧 田 秀 明
ロサンゼルスは元々砂漠地帯であったことか
ら、高層ビルが建設できるところは、ダウンタウ
ン周辺等の地盤の固いところだけであり、高層ビ
はじめに
テーマについて、地震という一つの事象に対す
る日本とアメリカにおける考え方の違いを検証し
ルが集中している。
このように国土の違いが、地震に対する対策や
まちづくりの差となった。
ていきたい。
私たちが住む日本列島付近は、環太平洋地震帯
に位置し、ユーラシアプレート、北米プレート、
太平洋プレート及びフィリピン海プレートの4枚
のプレートがお互いに作用している、世界中でも
有数の地震発生地帯である。マグニチュード7ク
ラスは年1回、マグニチュード8クラスは約10年
に1回の割合で発生している。毎日のように日本
のどこかで地震が発生していることは、テレビの
地震速報が私たちの目に飛び込んでくることでわ
かる。
そこで、日本とアメリカの地震に対する相違点
を、次の三つの視点から考察する。
地球の歴史を伝えるグランドキャニオン
一点は国土による差異、二点目はボランティア、
そして三点目は「公助」「共助」「自助」とする。
ボランティア
日本では阪神・淡路大震災をきっかけとして、
国土による差異
日本では、全国どこでも地震が発生する要素を
われた。これまでは、「ボランティアに対する照
もっているため、世界のどの国でも地震は発生し
れ」により、周囲を意識して自分が自らの行動を
ているような錯覚に陥る。
起こせなかった部分が強かったと考えられるが、
しかし、アメリカでは環太平洋地震帯に面した
ストレートな表現ができるようになったのである。
西海岸沿い以外は地震が全く起こらないところが
これに対して、アメリカ社会ではボランティア
ほとんどである。この違いが、地震対策に取り組
が定着しており、これは子どもの頃から学校の授
む主体の違いとして現れている。
業として、カリキュラム化がされていることが、
日本は国家単位であるが、アメリカでは州や研
究機関が中心に取り組んでいる。
46
ボランティアが活躍して、ボランティア元年と言
自然とボランティアが身に付くシステムにつなが
っている。
また、アメリカは広い国土を有するため、それ
日本では、ボランティアはあくまでも自発的な
ぞれの州により危機管理の対象が異なるのも当然
取組みで全て自己責任であるとの認識の下、社会
である。地震をはじめハリケーン、山林火災等の
制度としてボランティア休暇等整備されつつある
自然災害や非常事態(化学災害やテロ等)である。
が、その制度利用が定着しているとは言えない。
ただし、州及び地方政府の対処しきれない災害が
今後、高齢化社会を迎え、ますますボランティア
が求められる。ボランティア意識の定着を図るた
(地域コミュニティー)である自治会や消防団を
めには、若年時における取組みが必要であり、義
はじめ、子ども会・PTA・老人会その他の各種
務教育における実技を伴うカリキュラム化が必要
団体等が、全国でそれぞれの活動している実態が
である。
ある。そして、それぞれの団体活動の中で、地震
学習会や地域での危険箇所点検等の取組みを呼び
かけ、実施している実例もある。このように既存
の地域活動を単体でなく、有機的なつながりを持
自
主
研
修
報
告
たせて、ネットワーク化を図ることが、地域コミ
ュニティーの充実につながる。
おわりに
今回の研修では、日本とアメリカの文化の違い
を肌身で感じることができた。
そして、視察先の説明の中で日本の事例を参考
にしているという内容を何回聞くことがあった。
その内容は、地域コミュニティへの取組みであり、
日本では年々そのつながりが希薄になってきてい
るという課題がある。
特に今の日本の社会問題となっている青少年を
狙った事件が後を絶たない状況は、まさしく地域
のつながりが希薄になってきたことの象徴と考え
られる。
グランデール市役所
「公助」「共助」「自助」
少し昔、日本では「向こう三軒両隣」という運
命共同体的関係が存在していた。これは、日常か
らお互いに困っているときは助け合うという「自
「公助」における日米の差は、訪問したロサン
助」や「共助」が自然とできていたコミュニティ
ゼルス・バークレー・グレンデールと市の規模の
である。これはコミュニティという言葉が一般的で
差はあっても、EOC(危機管理センター)が専任
なかった時代に、既に実践されていたことである。
職員とともに配備されていることである。また、
今、失いつつある古き良き日本の文化を再発見
EOCは行政内部だけでなく、赤十字・NPO・民
し、その大切さを改めて知り、今無くされようと
間企業等が何時でも召集・対応できる体制がとら
している地域コミュニティを守り、今後、時代に
れていることである。そして、その責任者には大
即した新しい地域コミュニティを創造していくこ
きな権限(決定権)が与えられていることである。
とが私たちに課せられた使命である。
初動体制の速さが、復旧への近道である。
「共助」と「自助」について、大規模災害は発
生から72時間(3日間)以内の救助が生死を分け
ると言われている。最低3日間は、個人として自
分たちが生き伸びるだけの、水と食料を常に備え
ておくことが必要である。バークレーでは、5∼
7日間の蓄えを推奨している。
また、今回訪問した3都市のEOCも住民への啓
発を課題としており、地域のリーダーづくりを手
がけている例もあった。
現在の日本では、既存の地域に根付いた組織
ロサンゼルス市警察署玄関にて
47
ロサンゼルス市危機管理局では局内にトレーニ
自
主
研
修
報
告
より効果的な
ングを担当する部門があり、ここが行うトレーニ
ングは災害対策の実施計画を実行あるものとする
ために、市内部の機関だけではなく、FBI、赤十
地震対策のために
字社、民間企業も参加して行われている。また、
トレーニング終了後、うまくいったこと、うまく
堺市 岡 尚 喜
いかなかったことを詳細なレベルでレポートとし
てまとめ、うまくいかなかったことについては、
その担当部門、課、時には個人レベルで再度トレ
ーニングを行うという徹底ぶりである。日本にお
はじめに
行政は、市民の生命、身体及び財産を守らなけ
いても避難訓練や災害図上訓練が行なわれている
が、その場限りのものになっていないだろうか。
ればならない。しかし、地震などの大きな災害が
計画があっても「いざ」というときにそれが実行
起こった場合には、行政だけの力でそれをなし得
できなければ意味がない。ロサンゼルス市の徹底
ないことは、阪神・淡路大震災で実証されている。
したトレーニングには学ぶところがある。
地震対策に完全といったものはないだろうが、少
しでも効果的な方法を考えてく必要がある。
アメリカにおいて、トレーニングとして考えら
れているものには、住民(地域)に対する教育も
災害対策には、①いかに「非常事態を防ぐか」
含まれる。特筆すべきは学校と連携して子どもた
という「リスク・マネジメント(Risk Management)
」
ちの防災教育に力を入れている点である。グレン
と、②「非常事態が発生した際に、いかに被害を
デール市では消防局を中心にカリキュラムが組ま
少なくするか」という「クライシス・マネジメン
れ、消防士が学校に出向いている。子どもだけに
ト(Crisis Management)」が必要である。そし
教育をするのではなく、親といっしょにする宿題
て、平時にはリスク・マネジメントに対応した
を出すなど、子どもを通して家庭もまき込んだ防
「予防(Mitigation)」と、クライシス・マネジメ
災教育を行っている。防災についての啓発手段と
ントに対応した「備え(Preparedness)」を用意
しては非常に有効なものと思われる。
することが重要である。また、実際に災害が発生
した場合は、③救助、消火といった緊急の対応
(Response)が必要となり、その後は、④平時に
戻す復興(Recovery)が重要となる。
グレンデール市での取組み
グレンデール市では、緊急災害時の方針として、
「遠くに住んでいるから等という理由で市役所に
災害によって大きな損害を被ってしまえば、そ
参集できない場合は最寄りの政府機関に参加しそ
の復興には多大な時間と費用がかかることは言う
の一員として自分ができる仕事をそこでしなけれ
までもない。神戸市が震災前の人口を取り戻すの
ばならない。」といったものがある。また、職員
に10年を要している。いかに被害を防ぎ、あるい
と職員の家族の災害予防対策がきちんとなされて
は被害を最小限にくい止めるかが、そのポイント
いることが重要視されていた。市民の模範となる
となる。
率先実行という意味だけではなく、職員は災害時
そこで、予防、備え及び緊急の対応についての
でも公共のサービスを提供する役割があり、災害
ロサンゼルス市、グレンデール市、バークレー市
予防対策をきちんとしておれば、家と家族を置い
で見聞した取組みについて、紹介したい。
て仕事に来ることができ、その役割を果たすこと
ができるといった考え方である。しかし、職員の
トレーニング
48
家が崩壊したときやダメージを受けたときは、家
地震対策として、視察したどの市もトレーニン
族を仕事場に連れてきてもケアーできる体制が整
グ(日本でいう実地訓練など)を重視していた。
えられており、市が行う食糧等の備蓄は主に職員
を対象としたものであった。
ていく必要がある。
災害発生時の公務員としての厳しい姿勢を改め
て認識させられたと同時に職員も被災者であるこ
とを意識した取組みに合理性を感じた。日本では、
情報の収集と共有
3市ともEOC(「緊急対策センター」、日本でい
防災関係の部署あるいは緊急時対応のための職員
う災害対策本部)に参集するメンバーは市の機関
確保として専用住宅等を設けている自治体はある
の者だけではなく、赤十字社、警察、病院、交通
が、職場参集にあたって、職員の家族のことまで
関係等の外部機関の代表者も入っており、様々な
考えて体制整備をしている自治体はないだろう。
情報を集めて情報に基づく判断を行っている。ア
阪神・淡路大震災では、消防士はほとんど食べず
メリカでは日本のように震度は意識されていな
に活動したとも聞く。グレンデール市の考え方は、
い。震度よりも被災地区での被害状況等の現場の
災害発災時の職員の参集・活動において、職員の
情報を重視している。そして、情報を共有化し、
責任感をその支えとする日本の防災体制へのひと
機関ごとに対応にぶれがない様に対策が立てられ
つの提案のように思えた。
ている。また、メディアを巻き込んで、各機関が
自
主
研
修
報
告
どのような対応をしたか、今後どういった活動を
するのかを市民にフィードバックする広報活動に
も力を入れていた。災害時に、情報が錯綜し、そ
の対処が不的確であれば、被害は大きくなってい
く。EOCに参加する者が権限と責任をもって、そ
の状況に応じた判断を下し、市の段階で対応しき
れないときは、郡(County)、州に必要なリソー
スを求めていくのである。
おわりに
グレンデール市EOCでのレクチャー
日本とアメリカでは国の社会的なしくみ、文化
や宗教、民族、習慣など様々な土壌の違いがある。
災害対応の分担
視察してきた取組みを単純に日本にあてはめて行
アメリカでは、各自治体は、避難所の運営をア
くことはできないが、上述した徹底したトレーニ
メリカ赤十字社と共同で行う。避難場所の選定は
ングとその検証、家庭をまき込んだ学校現場での
自治体で行うが、運営にあたって、物資や労力等
啓発活動及び災害発災時に情報を自治体内の組織
は赤十字社が提供する。赤十字社自体も物資の搬
だけでなく、民間やNPO、ボランティア組織も
送をFedEx(運送会社)に委託している。災害発
含めて共有しようとする姿勢は見習うべきものが
生時の混乱状態において、必要な事項を分担して
あり、地震対策としても有効である。
そのノウハウを持つプロに任せることは、より効
大地震は行政だけでは対応しきれない。行政が
率的であり、そこに割かれる力を他に向けること
どこまで関与できるか。さらに住民がいかに「自
ができる。
助」「共助」に取り組んでいくのか。そのために
災害時には市町村であれ、都道府県であれ、国
は災害に関する情報を徹底して公開して行く必要
であれ、求められるすべてのリソース(Resource)
がある。行政は行政が保有する知識・技能を伝え
を提供することはできない。アメリカ赤十字社に
たうえで、住民や民間企業等とともに役割分担を
代わるような団体は日本にはないが、物資搬送、
考えて行かなければならない。
食糧供給、医薬品の供給など民間の活力を活用し
49
の近くに住まわせて活動することが認められている。
自
主
研
修
報
告
アメリカに学ぶ災害に対する備え方
∼減災をめざして∼
池田市 横 井 良 子
はじめに
備蓄品一例(日本の即席ラーメン)
アメリカでは過去数年間で様々な大規模災害に
見舞われている。つい先日発生したハリケーン
2.ソフト面(人づくり)
「カトリーナ」「リタ」、2001年の9.11ニューヨー
①子どもと大人の防災教育
ク同時多発テロなどにより行政における災害対
LA地域の小学校では災害後72時間分の備蓄の
策・危機管理について多くの教訓と課題を残した。
啓発・災害時の対応の仕方・防災器具の使用法・
今回の視察先であるカリフォルニア地方において
避難ルートの確保などを子供を通して学校教育
も、頻発する地震や森林地帯で毎年発生する山火
し、親用のパンフレットを持ち帰らせて家族に通
事または大雨による洪水などに対する脅威にさら
知教育する。また、指導者の教育にも熱心である
されており、できる限りの被害軽減をめざして日
(フルタイムで公私立の学校教育の仕事をする消
頃から準備を進めている。災害大国アメリカの対
策事例を元に、日本で最も頻発する災害である地
震を中心とした災害対策について検証してみたい。
防士がいる)。
またLA市では行政でできる対応の限界を市民
に示して権限を譲与することで自立を促してい
る。警察と消防が第一線で教育・啓蒙活動してい
アメリカにおける災害対策の具体例
き個々が安全に自給自足できるようにトレーニン
1.ハード面(建物・設備)
グを行っている。
①耐震化とメンテナンス
②自主防災組織の高めあい
災害に対して「適切な建物・設備を適切なメン
テナンスで」維持する必要性を周知徹底している。
クレー市では、消防署のプログラムでそれぞれ
例えば避難が円滑にできるよう建物内の経路や
15,000ドルを投入し各自主防災組織にホース等設
外の一般道路において避難の選択肢を増やし維持
備を揃え、地域毎でプログラム受講を競争させ表
しておくことなどである。
彰式を行っている。地域毎の防災意識が高まり、
②緊急地震速報システムを利用した電気・ガスの
実際大火災で消防団が足りない時に大活躍した。
オートマティック化
③リアル体験型訓練
ガス・電気などのオートマティック制御や災害
LA市・FBI・民間などが参加してロス空港を
時要援護者が集まる施設・病院などで呼吸器など
閉鎖しテロを想定して訓練し、けがの様子もハリウ
の医療器具が止まらないように制御するシステム
ッドのメークアップアーティストが行い、被災状況
を検討している。
をリアルに体験する。訓練後評価を行い特に失敗
③行政職員のあり方
したことに対して強化を行い、再度訓練しなおす。
市民に防災指導する際、まず市職員とその家族
50
住民が政治に関心を持っているといわれるバー
④災害時要援護者(高齢者・障害者・出産を控え
が防災意識を持って「例えば耐震設計の家に住む
た方等)のスペシャルニーズに応えるために
等」準備ができていることが重要であると考えられ
グレンデール市では災害時要援護者のニーズ対
ている。市職員の家が倒壊した場合、家族を役所
応と避難プランの強化を行っており、現在特別な
ニーズのあるコミュニティに出向いてプランを作
について言葉で説明するかわりに簡単な絵で示
ることを課題としている。ハリケーンカトリーナ
し、その絵を色塗り遊びしているうちに自然と身
発生後にその必要性の認識が高まっている。
につくように工夫されたものである。
バークレー市では防災教育の一環として高齢者
向けのアパートに出向き、有事の際どうするべき
か説明を行うという教育活動をしている。
②行政の配布物に工夫を!
例えばLA市のEPD(危機管理局)では防災の
資料を持ち帰るBAGに家庭用防災備蓄チェック
リストがプリントされていた。住民が自然とそれ
日本に置換導入するなら
日本では財政上ハード面の整備にかける費用は
自
主
研
修
報
告
に目を通すことによって、「教育」というほど堅
苦しくなく、うまく周知が図られている。
限られる上に、自然災害に対して完全に被害を防
このように各自治体の封筒に家庭での災害対策
ぐことは難しい。そのため人間が自身の努力で回
を載せておいたり、防災マップを発展させた防災
避行動をとることが根本的な被害軽減(減災)に
カレンダー(毎月、季節毎に起こりやすい災害を
つながる。つまりハード面よりもソフト面、具体的
テーマに対策を図解し自然に覚えてもらう)など
には、災害情報の的確な伝達、住民への啓発活動
を作成し学校の教育として取上げ話をする機会を
や教育、高齢者や障害者などの災害時要援護者へ
作るのも良い工夫であると考える。
の支援などの充実が重要となってくると考えられる。
③自主防災組織の意識高揚
前項で紹介したとおりアメリカと日本は国事情
①に記述した子どもの防災教育によって、まず
や制度が異なるため、研修で学んだ施策をそのま
若者の意識を高める。そして、ソフト面(人づく
ま日本に置換導入することは難しいと感じること
り)の項で記載したバークレー市のように自主防
もあった。しかしその中で、むしろ簡単に明日か
災毎に設備を導入し運動会のような自然で楽しい
らでも日本で取り入れることができるような施策
訓練を行い、うまく競争をさせ互いの組織を高め
も学ぶことができたため、それらについて紹介し
合ったり情報交換を行う。こういったことが地域
考察していきたいと思う。
の活性化ともリンクした、活きた防災活動である
と考える。
おわりに
アメリカにおいてこのような様々なことを学ん
できたがその中で一番心に残ったフレーズがあ
る。それは「人というリンクは強くもあるが弱く
もあるため一番のトレーニング事項である」とい
うことである。今まで述べてきたように災害時の
被害を軽減するには一番に人々の連携や知識の伝
幼児用の防災教育教材
達が欠かせない。そのためには語彙や専門用語の
標準化や多言語に対する配慮、高齢者や障害者に
①子ども向けの自然に楽しく覚えられる防災教育と
具体例
向けた伝達手段自体の選択肢の充実などが必要と
なってくる。
アメリカでは「10年20年後に活躍する世代であ
日本においても情報を受け取っても災害用語や
る子どもの教育こそ未来への防災として重要であ
避難勧告自体の意味がよく理解できずに逃げ遅れ
る」と考え力を入れている。子どもが楽しく自然
たという例がある。人の力を強めるためには人に
に防災に触れられるように工夫がなされている。
やさしく分かりやすい情報の伝達が必要不可欠で
例えばグレンデール市の消防局において幼児用
あり、アメリカのように日々工夫を重ねることで
の防災教育の教材を拝見することができた。これ
この先の災害において被害軽減に必ず成功するこ
は災害が起こった場合まずどうするべきか、など
とを目標とし努めていくべきである。
51
達する前にその情報をユーザーに伝え、避難や準
自
主
研
修
報
告
「減災にどう挑むのか」
備の対策に役立てるというものである。これが実
用化されると津波への警告、防潮堤の遮断、建物
の制震装置の起動など機械的システムの制御に非
∼アメリカ・カリフォルニア州での事例を踏まえて∼
常に有効とのことである。ただ一般市民にとって
数十秒の予知がどう生かされるかは考えどころで
はあるが、家庭においても機械的な地震感知シス
茨木市 鎌 谷 博 人
テムを導入することで有効な防災手段として活用
できる可能性がある。
i i )建物の耐震化、整然としたまちづくり
はじめに
地震被害の多くは建物の倒壊によるものであ
自然災害の脅威はとどまることがなく、地域を
り、建物の耐震化は震災被害軽減に特に有効と考
選ぶこともなく世界中の人々に襲いかかってい
えられる。ロサンゼルス市においても建築基準が
る。しかし、これらの自然災害は私たち人間の力
きびしくなり、市庁舎の補強など対策を行ったと
では防ぐことができない現象である。では人間は
のことであったが、バークレー市では40%∼60%
完全に無力かというとそうではない。私たちは防
の家屋で耐震改良がなされているようである。そ
災力を高めることが可能であり、自然災害という
こには耐震化することに対し、助成金を出すなど
外力に対してかなり抵抗することができる。つま
の行政の施策が見られた。日本では、先日の厚生
り抵抗することでその被害を最小限に抑えること
労働省の調査で災害医療の拠点となる病院の耐震
ができるというのである。このことをいつの日か
基準達成が全国でまだ36%ということで報道され
らか「減災」と言うようになり、防災を追求する
ていたが、バークレー市の住民は消防署の新築、
ものにとって目指すところとなっている。
耐震化のため税金を上げることを認めたという。
では私たちは、自然災害に対してどのような抵
また、ロサンゼルス市ではフリーウェイが整備
抗をすることができるのか。ここでは対応する時
され、道路も広く(舗装はコンクリート舗装で、
期に分け、行政の立場から「減災」を考えること
雨の日は事故が多いとのこと)街並も整然として
とする。幸い今回機会を得て、アメリカ合衆国・
いた。電柱が木柱なのに驚いたが、ほとんどの電
カリフォルニア州を訪れることができ、訪問させ
線類は地中埋設になっている。地盤の関係で高層
ていただいた各機関での防災対策を事例として、
ビルはダウンタウンの一部だけであり、自然に防
私なりの「減災」への考察としたい。
災に適したまちになっているようである。
「減災」に挑む時期とその施策
①事前準備・防災施策
i )地震予知と緊急地震速報システム
地震予知は現在研究が進み、例えば地震が30年
以内にこの地域で起こる確率は何%以上という長
期評価の精度はかなり上がってきている。しかし、
3日以内に起こる確率というような短期予知はま
だまだ警報が出せるような精度ではなく、誤報に
対する損害を理解してもらえるような社会的下地
上空から見たロサンゼルス市の住宅街
もできていない。ロサンゼルスにあるカリフォル
ニア工科大学では、光通信を利用した緊急地震速
52
iii )防災教育
報システム(ナウキャスト)を試験実施している
防災意識の高揚に欠かせない防災教育は、訪れ
段階である。これは地震発生後、地震の揺れが到
たどの機関においてもその重要性を口にされた。
グレンデ―ル市の例を挙げると、学校教育の中で
仕組みづくりが求められる重要な部門である。
小学5年生を対象に災害時の緊急対応の仕方、家
③復興活動の迅速化
庭でできることは何か(ガスを止めるなど)、避
i )避難所における被災者の支援
難ルートはどこかなど理解できる内容を教え、家
大きな災害の場合、避難所はいろんな人々であ
庭へ持って帰り、親とともに知識を習得させる。
ふれることとなる。アメリカ赤十字社ではハリケ
3∼5日は自給できる教育も行っており、高校生
ーンカトリーナで避難した人をロサンゼルスの備
でのプログラムも小5の知識を強化する意味で検
蓄倉庫の一部をサポートセンターとし、食事を与
討しているとのことであった。一方、職員の防災
え住むところや働き口の相談を州の職員とともに
意識の重要性も考えられており、いざという時そ
行っていた。被災者は災害により心身ともに傷つ
の家族を職場でケアする手段もある。またバーク
いており、心のケアが重要である。その一役を担
レー市での地域ごとに競争意識を持たせたプログ
うのがボランティアであり、彼らの活動を支援し
ラム受講なども参考になる教育、啓発の方法である。
たり、避難所運営を指揮できる人材育成もこれか
②応急対応・緊急体制
らの行政の大切な役割である。
i )EOC(危機管理センター)の存在
i i )生活支援から生活復興へ
ロサンゼルス市、グレンデール市など行政の緊
ハリケーンカトリーナにおいて行政の対応の遅
急対策本部の中に赤十字社(避難所を管轄する公
れが指摘され、連邦と州との連携のまずさや
園管理課の席が隣同士)、水道、電気、ガス等の
FEMAの内部事情、州兵のイラク派遣等アメリカ
ライフライン関係者、病院や学校区などが一同に
らしからぬ事態を目の当たりにしたが、一刻も早
会し、緊急時の対応にあたる組織(警察、消防は
い被災者の生活復興が望まれる。減災は単に死傷
市の組織である。)としてのEOCがいかにも有効
者の数を減らすだけでなく、人々が苦痛に思う時
である。一分一秒を争うときに対応の遅れが被害
間を少しでも早く減らすことでもあると思う。
自
主
研
修
報
告
を増大させることとなるため、私たちも緊急時の
効率的な組織づくりを研究する必要がある。
おわりに
私たちが訪れたアメリカ・カリフォルニア州で
は、先に述べたとおり様々な施策が実施されてい
るが、どこの機関も重要なのは住民の防災意識で
あると言う。まず、私たち一人ひとりが防災の知
識を正しく知り、それをこれからの時代を担う子
どもたちに伝え、将来必ず起こるであろう地震を
はじめとする大規模な自然災害に落ち着いて対処
できるよう、日頃から準備をしておくことが「減
災」への第一歩と考える。一方、いつ起こるかわ
ロサンゼルス市EOC内の赤十字社、公園管理課の席
からないのも自然災害であり、その対策に予算を
かけて無駄にならないのかという議論にもなる。
i i )連携体制の充実とボランティアの活用
減災を目指すには、耐震化・通信整備等のハー
事前準備の内容でもあるが、アメリカ赤十字社
ド面とともに行政・住民が協働して防災へ取り組
は常に関係機関、企業と連携、提携を結び緊急時
む意識づくり、仕組みづくりをすることが効率
の対応を円滑に運べる準備をしている。物資の運
的・経済的であり、今後も進めていくべきである。
搬、避難所の設営場所等システム化され、行政か
この研修に参加するまで私の防災意識はかなり
らもその活動を信頼され任されている。また自ら
低いレベルでしかなかった。地震への関心があり、
ボランティアの教育、活用を行うとともに他の
地域住民の助け合いは大切だと思うが、その備え
NPOとも連携し被災者支援を行っている。日本
はまったくない状態である。私自身は、少しずつ
ではこの分野は行政の範疇であり、今後の組織・
身の回りの防災から始めてみようと思う。
53
せるような内容の答えであった。
自
主
研
修
報
告
災害発生時、減災する
時の経過とともに、「危機意識」が希薄になっ
ていく現状は米国でも同様であり、また一方では
「自分たちの地域は大丈夫」といった意識が災害
ための「備え」について
対策を進める上で最大の課題ではないだろうか。
3.事前の「備え」とは…
守口市 小 浜 利 彦
①「自分たちの暮らしは自分たちで守る」
自己の「備え」については、班別報告書の中で
も取り上げたが、我々の市でも、防災計画の中で、
1.はじめに
地震、津波、ハリケーンなど自然災害の猛威に
一定期間の備蓄をお願いしている。これが持つ意味
は一体何か。市民の方々は理解しているのだろうか。
対し、社会の無力さを痛感するような甚大な被害
阪神淡路大震災の被災者の言葉に、「発生直後
が、ここ数年来、世界各地で起きている。このよ
はパニック状態、ただ単に呆然と立ち尽くし、そ
うな災害に対し、どのように対策を講じていくの
の後、事態の把握ができ、周りの状況も気にせず
かを考える場合、大きく分けて「事前の備え」と
動き回り、気がつけば足の裏はガラスの破片など
「事後の対応」に分類できる。
で傷だらけ」という貴重な体験談を聞いた。
わが国では、阪神淡路大震災、新潟県中越地震
大規模な地震が発生した場合、恐らく職員も被
など多数の死者・行方不明者が出た際にも、主に
災者であることは間違いなく、そういった状況か
情報として流れてくるのは被害の状況で、その原因
らすると、果たして計画通り冷静に物事を判断し、
と対策についての情報を記憶に留め、また、実践
かつ迅速に行動に移せるのか。また、行政の初期
に移されている方はどのくらいおられるでしょうか。
対応にも一定の時間は要するのである。他市との
これまでの対策については、主に「事後の対応」
広域連携についても、大半の市で取り組まれてい
に目を向けがちであったが、東南海・南海地震の
るが、発生直後の即時対応という点では不安は隠
発生が危ぶまれている状況の中で、今、被害を最
せない。
小限に抑える(「減災する」)ための「事前の備え」
つまり、災害対策の基本は「自分たちの暮らし
が如何に重要であるかが改めて論じられている。
は自分たちで守る」ということである。そのこと
この度の研修先であるロサンゼルス市、サンフ
について市民の何%の方が理解し、実行に移され
ランシスコ市での取り組みを参考に「事前の備え」
ているか。前述したアメリカンジョークは、この
について、行政・企業・市民がどう取り組んでい
実情を顕著に物語っていたと考えるが、今一度、
くべきかを私なりに考察する。
私なりに「減災」するための「事前の備え」につ
いて、いくつかの項目に分類し述べたいと思う。
2.災害に対する市民意識の現状
渡米後、最初の研修先であるカリフォルニア工
科大学の山田真澄先生の講演を受けた後、昼食を
ご一緒させていただく機会に恵まれた。その際、
「ロサンゼルス市民の危機意識」について尋ねて
みると、「日本の方が危機意識が高い」といった、
私たち研修生にとっては意外な答えが返ってきた。
ロサンゼルス市やバークレー市の危機管理局で
も、「市民の危機意識の高揚策として最も有効な
ものは何か」と尋ねると、「災害が起きること」
というような、一見アメリカンジョークとも思わ
54
1.デイビット・オース氏に質問をする私
②家庭・企業における個人の「備え」
阪神淡路大震災では犠牲者の約90%の方が、発
生後15分以内の即死状態で、その約50%にあたる
治組織があるがゆえに、結成優先で進んできたと
方が家屋破壊による圧迫死であった。ロサンゼル
いう経過もある。今後高齢化が一層進む中、行政
ス市などと同様にわが国においても、住居などの
と地域がさらに連携を深め、災害時に適正に対応
耐震化を進めるため、建築基準法などの改正を行
できる組織力の確保と実行力を備えていかなけれ
うとともに、耐震化の実施率をより高めるための
ばならない。
助成制度などを行っている。
④ボランティア組織との連携
現在の社会情勢下では、いつ起こるかわからな
ロサンゼルス市では、ノースリッジ大地震の際、
い災害に対する「事前の備え」より、間近な問題
ボランティア団体の救援・救護活動の重複など非
に投資するという現状は一定やむを得ないとも思
効率性が問題になり、この問題を検討する中で、
うが、例えば、家具の倒れ防止や荷物の落下防止
ENLAという調整機関が発足した。この機関は、
を行うとか、できることから始めることも大切な
災害救援活動に直接加わることはなく、ボランテ
ことではないか。災害が起きた場合の大切な家族
ィア組織間の横のつながりをコーディネートする
の生命や住居の復旧に費やす負担の大半は、個人
とともに、連邦政府や地方自治体との調整を行う。
にかかってくる現状について、市民・企業も十分
わが国の過去の大地震の際にも同様の問題が生じ
に認識する必要がある。
ており、災害時のボランティア活動の役割がます
自
主
研
修
報
告
ます大きくなる状況のもと、わが国においても、
この貴重な活動をより効率的に進めていくための
仕組みについて早急に構築していく必要がある。
4.おわりに
今、社会全体が情報化の時代を迎え、新聞やテ
レビ、インターネットなど多くの媒体を通じ、容
易に災害に対する情報を入手できる。しかし、こ
2.サンフランシスコのダウンタウン
また、新潟県中越地震での某企業の巨額損失に
ういった一方通行の情報だけでは、危機感までは
なかなか伝えきれないという情報の限界がある。
災害に対する危機感を相手に伝えるには、まず、
ついては記憶に新しいところであるが、わが国は
我々職員自身が自然災害について、如何に危機意
国土が狭いため、建物の全壊・火災焼失の拡大に
識を持ち、市民や地域、企業に対し粘り強く伝え、
伴う経済被害の広がりは非常に受けやすいという
接するかではないだろうか。
ことも忘れてはならない。
③適正かつ迅速に行動するための「備え」
地震発生時に適性かつ迅速に行動するために、
我々の住む地域は、東南海・南海地震防災対策
推進地域に指定されており、内閣府の発表による
と、この地震は今世紀前半にも発生する恐れがある。
各市とも創意工夫を凝らし、より実効性を高める
地震などの発生を予知し未然に防ぐ方法はない
ための研修や訓練を取り入れ、また、地域内の活
ものかと思うが、現時点での専門家の検討結果か
動などにも参加しながら、行政・企業・市民が連携
らすると難しいといわざるを得ない。
した実践的な対応力の強化に取り組んでいる。
このような状況のもと、「減災」という視点で
特に、生命の危険性が最も高いのは、発生後
災害と向き合い、「日頃からどのように備え」ま
100時間とされており、その際の安否確認をはじ
た、「如何に素早く行動し、被害を最小限に止め
め、救命救助活動や2次災害防止活動には、自主
ることができるか」ということについて、過去の
防災組織など地域の果たす役割は非常に大きい。
大災害の教訓を風化させることなく、行政・企
阪神淡路大震災以降、自主防災組織の必要性が
業・市民が共に考え、また責任を果たすことで、
再認識され、各地でその結成促進に取り組んだ。
誰もが安心して暮らせる街づくりが築きあげられ
わが国の場合、そもそも自治会・町会といった自
るのではないだろうか。
55
市民の生命を守る責任が明確化されているために
自
主
研
修
報
告
災害に強いまちづくりは
それに関わる権限が与えられていることを示唆し
ているものだと感じた。日本の市町村を例に考え
てみると、多くの自治体では危機管理の担当部門
行政の危機管理意識から
といわれるものは総務課、防災課、市民生活安全
課など様々な課に置かれて防災対応に当たってお
河内長野市 村 上 敬 輔
り、危機管理や防災の専門家は不在で組織の形態
も統一されず、その責任の所在も権限も曖昧なま
まにその任にあたっているのが実情なのではない
だろうか。
1.はじめに
災害対策とは災害に対する被害軽減対策、事前
対策、発生時の応急対策、災害後の復旧対策の4
項目が基本と考えられ、特に、今回の視察先の米
国においては、これらの項目を独自のシステムと
して行政主導のもとに地域コミュニティも積極的
に参加しプラクティカルな対応を図り効果を上げ
ている。今回の海外研修のテーマは「地震を中心
とした災害対策」であり、その米国の災害対策を
調査・視察する機会を得たことにより、現在、我
が国において防災対策の分野において、様々な場
グレンデ−ル市EOCにおいて
面で使われている「住民参加」「官民協働」とい
うものについて考察、検討することとした。
尚、視察先個々の事業内容や社会的役割などに
3.米国の防災計画
視察先各市の防災計画をみると、各市ともに官
ついては、A班の報告を参照願うこととするが、
民を含めた各自の責任を明確化する姿勢が伺え
特に以下では、米国における自然災害に対する危
た。例えば、ロサンゼルス市は「危機管理対策計
機管理及び災害対応の現状について、視察全体を
画」を策定し、以来、海外の地震や災害、さらに
通して学んだこと感じたことを述べることとす
は暴動等の調査・検証を踏まえ、毎年見直しを実
る。
施している。さらに、事前に市再建・復興計画な
ども策定しているとのことである。このような再
2.米国の危機管理体制
56
建・復興計画をも行政側が危機感を持って用意す
今回、視察の機会を得たロサンゼルス市、グレ
ることで、官民の役割分担を明確化し、震災後に
ンデール市、バークレー市は人口や組織規模の違
余分な時間を費やすことを避けようとしている。
いこそあるものの、危機管理についての基本的な
また、グレンデール市においてはマスメディア
システムには共通しているものがあると感じた。
等を使って、あらゆる機会を捉えて住民に対して
各市の危機管理部門には、市幹部を補佐する危
防災関係の情報提供を徹底し、住民に防災知識と
機管理の専門職を配し、情報処理や危機対応につ
防災意識の高揚を図っているとのことで、住民に
いて責任を持って迅速・確実に実施し、その下部
パブリックコメントを求めていくなど公開度を高
組織が効率よく運用されるような明確な体制を作
め、住民に対して防災計画等の信頼と理解と責任
り上げていた。このことは、米国では、地方自治
を求めているとのことである。
体の責任と役割が明確化されており、それに伴っ
さらに「プロジェクトインパクト」で自治体と
た権限を有し、自然災害に対して、地方自治体は
市民が強固なパートナーシップを持って災害対策
を実施し効果を上げた、バークレー市の危機管理
を真似る必要もないが自分だけは災害に遭わない
担当者によれば「市の責任というものは、災害に
だろう、起きて困る事は起きない、起こる筈がな
どのように対応し、いかに市民の防災ニーズに対
いと自分の都合の良い考え方や嫌な事実から目を
応するかであると。」つまり、米国では、行政の
反らしてしまうような消極的な発想ではなく、い
責任が市民の命を守ることである以上、行政は積
つ自分も災害に遭うかも知れない、だからこそ、
極的に市民を災害から守るための施策や周到な計
起こりうるあらゆるケースを想定した計画を策定
画を事前に用意し、常に危機(防災)対応に当た
し、実行に移しておくというような積極的な発想
っているのだということを感じた。
に転換を図り、国をあげて防災対策というものに
しかしながら、ここまでも行政側が官民の責任
の所在を明確にしなければならない背景には、米
自
主
研
修
報
告
もっと時間を注ぎ込まなければならない時期に我
が国はきているのではないかと考える。
国の他民族社会の問題点というものも浮き彫りに
防災知識というものは防災意識を触発する根源
なっているのだということをも併せて実感した。
であることから、まず、行政は、広く住民へ防災
知識を普及・啓発し、防災知識に基づく防災意識
4.米国の防災担当者から学んだこと
を養い、防災意識に触発されて地域への防災活動
今回の視察にあたって、対応していただいたす
ができるような住民の防災行動力を育成するよう
べての防災担当者は、災害対策というものを行政
にしなければならない。国民保護法といわれる
が住民へ提供する最大のサービスだと考え、また
「武力攻撃事態等における国民の保護のための措
緊急時の対応対策と共に被害防止と危険軽減対策
置に関する法律」が施行され、いよいよ災害とは
を事前に地域社会に講じておけば、一旦、災害が
違った有事への対応をも行政は視野に入れなくて
発生したときの対応費用と復旧費用を大幅に減ら
はならない社会になってきているのだ。
せることを知っている行政のエキスパートであっ
9 . 11同時多発テロから世界は変わり、21世紀は
た。米国においては、このようなポジティブな考
テロの時代と言われかねない状況であることから
えをもつ防災担当者が災害に対して官民がそれぞ
も、我々行政に携わるものは、来るべき日に備え、
れの責任を全うすることが出来る社会のしくみづ
危機管理意識をもう一度見直し、どのような原因
くりのための施策を日々展開している。
による危機にも対応できるように我が国の社会風
こういった防災に対する行政の積極的な姿勢こ
土に適した危機管理体制の構築と地域の防災行動
そが、我が国が目指す官民が協働しての災害に強
力の充実・強化を早急に整えなければならないの
いまちづくりの基本になるのではないだろうか。
である。
5.おわりに
研修先のカリフォルニア工科大学の米国人担当
者は地図で日本を指差し「世界で発生する地震の
約1割が日本で起こり、また日本という国は世界
で起きるあらゆるタイプの災害が起こることで有
名な災害多発国である。」と言った。地球温暖化
に伴い、自然災害の発生確率が高くなってきてい
ること、そして、想定外と言われた、福岡県西方
沖地震は、国内で災害に無縁の場所などないこと
を我々に知らしめた。そのようなことから考える
と米国との比較論でもないし、また米国にすべて
カリフォルニア工科大学でのレクチャー
57
グレンデール市訪問
自
主
研
修
報
告
子どもたちの命を救え
[熱血青年ジムとの出会い]
ロサンゼルス近郊の都市グレンデール市危機管
理局に訪問した。こちらでは危機管理において市
∼小さな体に秘める大きな力∼
長直下の危機管理長が対応してくれた。また、私
は現在消防本部から市長部局の防災部署に派遣さ
松原市 丸 山 佳 孝
れているが、私とまったく同じ立場で危機管理局
に勤務するジムも出迎えてくれた。彼も消防士で
あるが、現在はこちらに派遣されているそうだ。
アメリカにおいても危機管理部署には消防士が出
プロローグ
[阪神淡路大震災]
向しているようだ。今回ジムから防災対策につい
て熱いメッセージを受けることになる。
神戸を中心に震度7の大地震が襲いかかってか
らはや10年が過ぎたが、その爪あとは今もなお被
災者の心に残されている。私の脳裏にも震災直後
の神戸が今でも鮮明に焼きついている。
私が救助隊として大阪を出発して見たものは、
瓦礫の山と街を包む黒煙。そして被災現場で私が
手にしたものは、瓦礫を掻き分け掻き分けようや
くたどりついた、冷たくなった幼い女の子の遺体。
なぜ。どうしてこんな小さな命が無くならなけれ
ばならなかったのか。彼女を抱き上げた瞬間、災
害現場での消防士である自分の無力さを痛感し
た。
太平洋をまたぎ防災対策の健闘を誓い合う
左:丸山 右:ジム
高度な技術も局地災害では対応できるが、突発
的、広域的な大規模地震災害においては無に等し
[未来の防災戦士の育成]
い。しかし災害が起こる前に、すべての人へ少し
こちらでは、子どもたちへの防災教育を熱心に
ずつでも手助けができればみんなの命が助かるか
取り組んでいる。それは危機管理局が単独で行う
もしれない。
のではなく、学校等の教育施設と連携し、教育カ
リキュラムに組み込み継続的に行われている。防
[現状と課題]
30年以内に東南海、南海地震がこの日本に襲い
災の話を、子どもたちが馴染みやすいようにぬり
えにして、地震が起これば自分がどうするべきか、
かかろうとしている。それに向け行政は「東南
自助の重要性を訴え、未来の防災の担い手を育ん
海・南海地震防災対策推進計画」を作成するなど
でいる。
急速に対策を図っている。しかし、その被害は住
民がどれだけ意識を持つかで格段に違うといわ
「災害は忘れた頃に訪れるのではなく、世代が
変わる頃に再び襲いかかるもの。」
れ、減災に最も期待されるのはやはり自主防災で
震災の経験が無い人々の、防災意識が希薄なと
ある。「自分の身は自分で守る」という自助意識
ころに問題があるというのが、私の持論である。
をすべての人に持ってもらうことができれば、多
映像や写真のみならず、あらゆる工夫を凝らし、
くの命が救えるはずである。
災害を知らない子どもたちの心に、防災の灯りを
その手がかりを探すべくアメリカを訪問した。
ともし続ければ、どれだけ時代が変わろうとも災
害に立ち向かえるはずである。
58
[子どもたちに秘める大きな力]
∼大人への防災啓発∼
団体の席がもうけられていたこと。赤十字社に訪
問し備蓄倉庫を見学したときには、そこに被災し
これには続きがあり、子どもたちにぬりえを持
た子どもたちのためにオモチャが準備されていた
ち帰らせ、それぞれの家族へと防災の話をするよ
こと。さらに、非常食にしても宗教的配慮してい
うに促している。子どもたちの心に防災の灯をと
るところなど多民族国家らしさを感じた。また、
もし、その灯りを大人たちへ広げていくのが最大
バークレー市では住民が税金を上げてでもここに
の目的である。子どもたちに、防災について家族
消防署を建てて欲しいと要望し、建築された庁舎
会議を開いてもらうのだ。
に訪問したときには本当の話かなと疑いたくなる
「子どもたちには、大人を動かす大きな力を持
っている。」
自
主
研
修
報
告
ほどだった。
さらに、最も文化的な違いを痛感したのは、国
そうジムは子どもたちの秘めた力に期待しなが
民一人ひとりの自衛意識である。現在日本社会で
ら力をこめる。私も消防本部で勤務していたとき
は子どもたちの命が狙われ、防犯対策に子どもた
に防火ぬりえを作成したが、これにアメリカで学
ちへのアメリカ式自衛教育に注目しているが、こ
んだ地震災害を吸収し、ジムの熱いハートを日本
ちらでは護身用に銃を持ち、自分の身は自分で守
の子どもたち、また大人たちへと伝えたいと夢が
る、自衛の文化が出来上がっている。しかし、こ
膨らんだ。
の自衛の文化は防災においても無縁でなく、これ
こそが、自主的な安心ができる防災コミュニティ
[子どもたちの命を救え]
∼防災対策の第1歩∼
を育成するのではないだろうか。
文化は一朝一夕に出来上がるものではないが、
10年前の神戸では多くの幼い命が失われた。彼
地道に、住民一人ひとりが防災を、自然に、いや
等に自分の命を守るすべはなかったのか。私は子
望んでしたくなるような社会を構築していきた
どもたちの命は親たちの防災意識の差に大きく左
い。
右されると考える。それゆえ、親の防災意識を高
めれば、自分の命を守れるのではないだろうか。
夜は2階、また家具から離して寝かせてもらうだ
けで大きく違う。
「パパ。ママ。僕たち、私たちの命を守ってね。」
というメッセージを送り続けることが、自分の命
を守る手段の一つであることを子どもたちに伝え
たい。さらにそれは、大人たちの防災意識を高め、
家族から地域へと広がり、みんなが助け合う自主
防災組織へと発展し、みんなの命が助かるように
なるのではないだろか。小さな子どもたちへの防
災教育は防災対策を図る大きな第1歩である。
あとがき
[自衛の文化づくり]
カルチャーショック!アメリカに訪問してから
幾度となく感じた。ロサンゼルスの危機管理局に
訪問したときには、災害対策本部に堂々とNPO
松原市防火ぬりえとグランデール市防災ぬりえ
59
は3∼4㎞/秒の速さで進み、最初に伝わるP波
自
主
研
修
報
告
コミュニティと防災
を地震計がキャッチして、揺れの大きいS波が到
達するまでの時間と大きさを伝達するものであ
る。このシステムは震源から遠いほど、通報があ
∼防災意識を高めるために∼
ってから揺れが来るまでに時間の余裕があり、又、
地震計の数が多いほど、正確に震度と時間を伝達
泉大津市 田 村 健二郎
できる。では、日本ではどうであろうか、日本で
も同じ原理で地震の発生を事前に知らせる事の出
来る、『ナウキャスト地震情報』というシステム
が、試験段階でモニターテスト中であり、自治体
はじめに
が申し込めばモニターになれるという、また、地
自然災害の猛威は時には何千人、何万人と言う
震計に関してはロサンゼルスのそれとは比べ物に
死傷者を出してしまうほどの大災害をもたらして
ならないほど、多数設置されているという。もし
しまう。とくに地震災害に関しては、予測が難し
南海地震が大阪から200㎞離れたところで発生し
く日本やアメリカだけでなく全世界の人々にとっ
たならば、20秒から1分程度前に地震がくるのが
て直面している自然災害のなかで最も脅威的な災
分かるという。1分あれば危険な所にいる人は非
害といえる。アメリカロサンゼルスでは、1994年
難できるし、ガス、水道、電気などのライフライ
1月17日ノースリッジ地震(マグネチュード6.7)
ンの制御、医療機関の地震への準備、新幹線等の
が発生し、死者61名、重軽傷者は約9,348人にの
交通機関の制御、地震対策への有効性は計り知れ
ぼり、高速道路が倒壊するなどアメリカ史上最も
ない。しかし、今のままでは、地震が来るのが分
経済的被害の大きい地震となった。この時日本で
かるのは、一部の機関だけであり、一般市民にま
は、この規模の地震では高速道路の倒壊はありえ
で情報が伝わらない。では、なぜ日本では未だ実
ないとされていた。しかし、このちょうど1年後
用化されていないのであろうか。世界的にも地震
の同じ日に、この考え方が根底からくつがえされ
工学の研究で有名なカリフォルニア工科大学で研
る大きな地震が起こってしまった。阪神淡路大震
究されている山田真澄先生に話を伺うと、誤報で
災である。マグネチュード7.3死者6,434名、重軽
あった場合の保証問題や、責任の所在の難しさが、
傷者43,792名という最悪な被害をもたらした。日
大きな要因の一つになっているという。(写真1)
本と同じような大災害を経験し、いろんな人種が
住みいろんな考え方のある大国アメリカでどのよ
うにコミュニティをまとめ、どのように危機管理
に対しての理解を深めていっているのか、又、今
後30年の間に60%の確立で起こるであろう南海地
震に備えて行政として何をしておかなければなら
ないかを考察した。
リアルタイム地震速報システム
ロサンゼルスでは、『CUBEシステム』と言っ
て、地震発生時に即座に震度、震源をポケットベ
ルやユーザーのパソコンの地図上に表示したり、
写真1 カリフォルニア工科大学 山田先生
地震が発生する数秒から数十秒前に知らせるシス
60
テムが運用されている。地震発生時にはP波
それは突き詰めていくと、国民一人一人の地震
(primary)とS波(secondary)の2種類の波が
に対する意識の低さにあると考えられる。地震の
発生する。P波は岩盤中では5∼7㎞/秒、S波
怖さを理解し、誤報であっても、揺れなくてよか
ったと思える意識つくり、行政の力が限られてい
また、グランデール市では、消防局員が幼稚園
る中で、誰の責任でもなく、自分の身は自分で守
や小学校で防災教育を行い、子供を通して家族も
らなければならないという意識づくりが今後、行
一緒になって地震に対して関心を深めている。こ
政とコミュニティとの重要な課題の一つとなるで
こで、問題になってくるのは、10代後半∼20代後
あろう。ではカリフォルニアでは、どのように意
半の世代である。この一番体力のある世代にいか
識づくりをしているのか次に述べたい。
に防災に対して関心を持ってもらうかが、重要で
コミュニティの防災意識の向上
あると考えられる。幸い大阪府は、どの地域も祭
大阪市が、平成17年度に行った防災に関するア
りが盛んで、その年代も集まる機会が多い、その
ンケート調査では、『家屋の耐震補強を施工した』
場を利用して防災意識を高めては、どうであろう
というのは全体の6.6%しかなく、バークレー市
か。訓練を行ったり、避難用の備蓄品の点検を行
の40%∼60%に比べて非常に低い結果となってい
ったり、また、震災後の役割分担を決めておけば、
る。これは、バークレー市が耐震に関する改造工
スムーズに行動できるし、意識も高まるのではな
事の半額を補助していることもあるが、それに伴
いであろうか。バークレー市のように、活動に応
って、税金を上げることに賛同した市民の意識の
じて表彰するのもいいであろう。また、何処を訪
高さに要因があると考えられる。また、『地震へ
問しても必ず言われているのが、地震発生後、最
の備えは何もしていない』が43.4%、『食料や飲
低3日∼7日分の食料や生活用品は、各家庭に備
料水の持ち出し品の準備をしていない』が、
えておく必要があるということである。被災して
64.8%と、大阪市のアンケートでは、自主防災に
も救援物資が届いたり、ボランティア団体が活動
関して、意識がかなり低い結果となっている。で
し始められるまでには、ある程度の時間を要する
は、住民の意識を高めるにはどうしたらよいだろ
からである。そういう意味でも、自分達の身は、
うか。
自分達で守るという日頃からの意識づくりは、緊
まず、いかに危険な所に住んでいるか、という
ことを知ってもらう必要がある。バークレー市で
自
主
研
修
報
告
急時においても重要であるといえよう。
おわりに
は、火災が起こった場合、水不足で延焼が広がり
海外研修に参加して強く感じたことは、リアル
そうな地域や、揺れが大きな地域についても公表
タイム地震情報システムや水道管等、ライフライ
している。(写真2)
ンの耐震化の技術面においては、日本の方がかな
り進んでいる。しかし、いくら技術が進んでいて
も、利用する側の意識が低ければ、それを有効に
利用することは出来ない。住民の意識を向上させ
る手法は、カリフォルニアのそれを見習うべきと
ころが多々あると思う。例えば、赤十字を訪問し
た際に頂いたバッジを付けているだけで、ホテル
のロビーで見知らぬ人物から「赤十字の方ですか」
と声をかけられるほどボランティアへの関心は高
い。ロサンゼルス危機管理局を訪問した際には、
写真2 水不足により延焼が広がると予想される地域
警報ベルが鳴っていたので、全員避難していて誰
も対応してくれなかった。おそらく日本では、警
次に、地域ごとに防災訓練を定期的に行い、防
報ベルが鳴っても「誤報であろう」と、煙の匂い
災に対する関心を持ち続けることが大切である。
がしてくるか、放送があるまで、誰も避難しない
そうすることにより、万が一被災したとしても、
であろう。今の日本人にとって大切なのは、まさ
避難所では顔見知りが多くなり、すぐに協力関係
に、危険なことを、本当に危険と感じられる意識
が結べるばかりか、精神的にも非常に安心である。
を持つ事だと、痛感した。
61
性に違いはあるものの、その取り組み方針やその
自
主
研
修
報
告
サスティナブル(持続可能)な未
理念については参考になる部分が多い。また研修
全体を通して、目で見て、肌で感じた、まちづく
りの重要な要素を紹介したい。
来をもたらすまちづくりについて
(1)協働・連携という考え方
∼「任せる」ということ∼
岸和田市 越 智 正 則
カリフォルニア工科大学の山田真澄先生からご
講演いただいた中で、カリフォルニア州の地震対
策は国ではなく、州や研究機関が主体となって、
お互いの過不足を補い、産学官の連携により取り
はじめに
組まれていることを教わった。また地震発生時に
近年、世界各国で地震などの大災害、地球温暖
はあえて「震度」の公表は行なわず(専門家のみ
化による異常気象、民族・国家の争いが頻発して
が把握)、どの地域にどれほどの被害があったか
いる。地球規模で社会・経済システムが疲弊して
を公表することに重点がおかれている。これは当
いる状況にある。
局側ではなく、市民の側に立った考え方である。
これまでの華々しい高度成長期の大量生産・大
ロサンゼルス危機管理局やグレンデール市にお
量消費の時代から、個性を尊重した価値観の多様
いては、EOC(Emergency Operation Center)
性、Quantity(量)よりQuality(質)が求めら
に、行政部局の他、アメリカ赤十字社(American
れる時代にある。まさに「ひとはパンのみで生き
Red Cross)等のボランティア団体や交通関係者、
るにあらず」である。
ライフライン関係者等の席が用意されていた。ま
景気がよくなることだけが、私たちに幸福な未
さに災害発生時には協働・連携して人命救助や復
来をもたらしてくれるのだろうか。もちろん景気
旧活動に当たるという姿勢を明確にしている。ま
がよくなることで、まちづくりの選択肢が大きく
た当初から、避難所の運営と応急手当などはRed
広がることは事実である。しかし景気の良し悪し
Crossに「任せる」という考え方が一般的で、そ
に左右されない、着実な地道なまちづくりを目指
のRed Crossでさえ救援物資の運搬等は、運送会
すことこそ最も重要なテーマであるといえる。
社のFedEx等と契約している。
日本各地の地方自治体の財政状況が逼迫してい
またロサンゼルス消防局においては、警察の役
る今日、それを嘆いてまちづくりに失望するので
割をケアすること、個人・地域消火活動やCPR
はなく、むしろこういう時代だからこそ、無理な
(蘇生)の手伝いなど、市民に権限を譲与したこ
く、肩肘張らずに、しかし着実に生活の質を高め
とをひとつの功績としてあげている。
続けることのできるまちづくりを推進することが
こうした「任せる」という姿勢と明確な役割分
求められている。それは私たちが安心・安全な社
担が、無理のない臨機応変で効率的な復興活動に
会を後世に継承することにつながる。
つながり、行政への過度な負担が軽減されている。
今回の海外研修を通して、サスティナブル(持
バークレー市においては、市民の政治的関心が非
続可能)な未来をもたらすまちづくりのためのヒ
常に高く、市民提案による協働の安全・安心なま
ントを考察したい。
ちづくりが推進されている。
(2)ひとづくり
まちづくりに不可欠なもの
62
∼将来のリーダー育成∼
地震多発地帯であるアメリカ合衆国西海岸カリ
ロサンゼルス危機管理局やグレンデール市、そ
フォルニア州の中で、大地震などの対策に先進的
してRed Crossにおいては、地域への防災啓蒙活
なロサンゼルス(LA)とサンフランシスコ(SF)
動を積極的に行なっている。特に幼児・小学生へ
を訪問した。わが国日本と比べてその歴史や国民
の防災教育に力を注いでいる。これは大人を直接
研修するよりもさらに効果的であるらしい。事実、
ている。オーガニックや環境保全型農法で製造さ
グレンデール市においては、小学5年生を対象と
れたワインによりその地位を高めつつある。また、
した防災教育が、その親をも教育することにつな
辺り一面に広がる美しい葡萄畑は訪れる者の心を
がり、被害の軽減に大きな成果をあげている。今
和ませてくれる。
後、高校生へのクラスも計画中である。
このようにカリフォルニア州は、アメリカ第2
このように将来の地域リーダーの卵である子ど
の都市LAや世界の観光都市SFに代表される大都
もたちを育てることは、防災のみならず、まちづ
市の顔とともに、農業大国でもあり、非常に高い農
くり全般において有効な担保・貯蓄となる。
作物の自給率を誇っている。それに比べ、わが国日
(3)GeneralistかSpecialistか?
自
主
研
修
報
告
本は先進都市の中で農作物の自給率が極めて低い。
ロサンゼルス市警を訪問したとき、オペレーシ
ョンセンターで多くの女性専門職員が勤務してい
た。他民族が居住するロサンゼルスならではであ
るが、多言語に対応するための勤務形態である。
またRed Crossにおいても、非常に組織的で各
職員に専門性を持たせた役割分担を行い、効率化
を図っている。特に避難民への対応を考えたとき
に、物事を過度に情緒的に捉える危険性を回避す
るシステムにもつながっているのであろうか。
この職員の専門性ということに関しては、さま
ナパバレーに広がる葡萄畑
ざまな考え方はあるが、いずれにせよ職員一人ひ
とりが、自分の職務に自信とゆとりをもって専念
している姿が印象に残った。
(4)環境にやさしく自立したまちづくり
おわりに
まちづくりにおいて、役割分担を明確にし、各
高度成長の代表とされるモータリゼーションの
専門分野を「任せる」ことが重要である。全てを
到来により我々の生活様式が一変した。便利さの
行政が担うことは不可能であり、特に災害時など
代償として、公害等の生活環境の悪化、地球温暖
の緊急を要する場合には効率的ではない。
化による異常気象等の世界規模の問題を引き起こ
している。
次に、少子高齢化の時代、まちづくりの主役を
子どもにシフトする必要がある。次代を担う子ど
グランドキャニオンを訪れたが、大型バスで現
もたちはまちづくり全般において、あらゆる可能
地まで向かうことができた。大自然の荒々しさの
性を秘めている。様々な取り組みにおいて子ども
真只中に交通渋滞があった。やはり周辺の動植物
たちを大切にしたまちづくりが必要である。
に少なからず影響を及ぼしているようで、今後ク
また、人にとって欠かせないものは衣・食・住
リーンな代替交通手段を検討しているようだ。最
である。車ではなく人中心の住みよい環境と美し
近は石油の高騰も影響し、低燃費の日本車が人気
い景観、そして日本人として食文化(農)を大切
のようで納車までかなりの期間を要するらしい。
にした自立したまちづくりを推進する必要があ
バークレー市においては、住民と行政の連携・
る。農作物の自給率の低い国は、本当の意味で先
協働での地震対策の取り組みを前述したが、建築
進国とはいえない。無秩序な都市化を抑制し、農
物の耐震化と同時に省エネ化にも力を注いでいる。
の景観を保全していく必要がある。
最後に訪れたナパバレーは、有数の地震発生地
何か大きな方向転換をするのではなく、現在あ
であるとともに、その地形の表情の豊かさからカ
る資源を活かしながら、ツボを押さえた、できる
リフォルニアワインの生産地としても有名であ
ところからの地道かつ柔軟な取り組みが求められ
り、近年量よりも品質にこだわった製造に着手し
ているのではないだろうか。
63
リアルタイム地震防災の研究
自
主
研
修
報
告
アメリカの地震対策
アメリカの地震の発生はカリフォルニアに限定
される。これは、カリフォルニア州を縦断するサ
ンアンドレアス断層が活発に活動しているからで
∼決して行政だけではできない∼
ある。今日地震の発生メカニズムや放出エネルギ
ーは科学的に解明され、たくさんの機関で地震予
泉佐野市 橋 吉 郎
知・防災の研究が進められているが、いまだ不明
なことが数多く存在する。カルテック(カリフォ
ルニア工科大学)でたくさんの情報を集め、事前
に地震を予知できる可能性は20%程度まで進んで
はじめに
いると説明を受けた。現在カリフォルニアの主要
地震はいつどこで発生するかわからない自然現
な地区にたくさんの地震計を設置して、地震の震
象でいまだ不明な点はたくさんある。地震による
源や振れの強さを瞬時にコンピューターで解析
被害はあまりにも大きく、一瞬のうちに、私たち
し、危険地域に情報を光速(インターネットやテ
が大切にしているものを奪う。もっとも警戒しな
レビやラジオ)で知らせる防災情報伝達システム
ければならない自然現象である。今回の海外実地
の開発に力を注いでいる。これは、カルテックと
研修において、アメリカで直接見聞きした地震対
USGSが共同で進めるCUBE(CALTECH/USGS
策について報告する。
Broadcast of Earthquakes)システムとしてよく
知られている。この研究を応用して走行中の列車
アメリカの災害対策
を速やかに停止させたり、工場に送電を停止して
アメリカの大都市の社会基盤は1930年代にほぼ
危険を回避したり、病院の電源を自家発電に切り
終わっており、今さら災害に備えて社会基盤を強
替えたりする災害軽減策の実用化に向けて研究さ
化することは、経済的におおきな負坦である。そ
れている。
のため、アメリカでは、災害を抑止することよりも、
災害は発生するものだと覚悟して被害を軽減させ
ることに重点をおいた対策がとられている。たと
えば、エマジェンシーレスポンダーと呼ばれる防
災担当の専門家を養成し、市民に対して防災プロ
グラムを提供することで災害に備えている。この
取り組みが、やがて全米で評価の高いCERT教育
プログラムやプロジェクトインパクトにつながっ
た。また、緊急事態管理システムも州・郡・市の
それぞれの行政レベルで、すでに構築されており、
関連する法律や条例の整備も着実に進んでいる。
アナログ地震計
64
カルテックでの講義
オークランド市の防災プログラム
サンフランシスコの湾岸地域は比較的自然災害
の多いところではあるが、なかでも最も深刻なの
ために、スタッフ自ら市民にPRするイベントの
企画や企業を訪問など、資金の確保に献身的な努
力を続けている。
が局地的な大地震の発生の脅威がある点である。
緊急時の対応策とともに事前の被害防止と危険軽
減策を講じることは、最も費用効率が高く倹約で
きる方法だとする考えがある。オークランド市で
自
主
研
修
報
告
は、1988年からCOREシステムと呼ばれる防災プ
ログラムがある。このプログラムは、隣近所の助
け合いの精神を促進し、緊急時の備えや災害発生
時に対応する方法を市民に提供するもので、すで
に16,000人を超える市民がトレーニングを終え
た。このシステムは
1.家庭や家族での備え
2.隣近所で準備や対応
3.災害時の実践的な対応技術
の3つのマニュアルで構成されている。このマニ
ュアルは多民族が集まっているカリフォルニアら
オークランド市役所を臨む
しく英語、中国語、スペイン語で書かれており、
その他の外国語の翻訳作業も進めている。また、
オークランド市は、プロジェクトインパクトにも
おわりに
積極的に取り組んでいる。市、企業、住民の連携
私たちは、過去の経験から地震の強度を分析し
から始まったSAFEプロジェクトは公共施設やイ
て防災対策を考えてきた。どんな大きな地震が発
ンフラの安全確保を最優先事項と考えられてい
生しても耐える構造のもの、崩れない工事を懸命
る。SAFEプロジェクトの主な取り組みは、地域
に進めてきた。誰も、社会基盤が崩れるとは想定
に潜む危険の分析やリスクアセスメントの実施、
していなかった。ところが、阪神大震災では、都
家庭や企業の強化プログラムの作成、あらゆるタ
市基盤が破壊され、行政組織はまったく機能でき
イプの施設における危険軽減ガイドの作成および
ない状況に陥った。その中、初期救助で大きな力
参画グループから技術援助を受けて持ち家所有者
を奮ったのが、地域社会の活動であり、地域住民
に便利な改善ガイドブックを作成に取り組んでい
の結束の強さが初期の人命救助や震災後の復興に
る。その結果、住民は地震に対する備えができる
大きな役割を果たした。この教訓を生かし、行政
ようになり、住民は何が起こってもうまく対応で
と地域が連帯して災害に備える体制を整備するこ
きるようになった。自助努力を啓発するイベント
とが課題であると、研修を通して確信することが
(活動や運動)が地域住民の生活ぶりにも変化を
できた。そして、災害対策は決して行政だけでは
もたらした。しかし、このようなプロジェクトに
できないと理解した。今後、住民と対話すること
もいろいろな課題がある。実際、オークランド市
が大切な時代なりつつある。住民も行政に頼りき
は、さまざまな企業やCBOなどとパートナーシッ
りでは、良いパートナーシップは築けない。個人
プを結んでいるが、運営資金が不安定で決して潤
レベルで「自分たちのことは自分たちで守る」と
沢な予算はない。継続的に安定した活動を続ける
いう意識を持つことも大切である。
65
分野を専門的に訓練した人に比べ技量は落ちて
自
主
研
修
報
告
CERTに学ぶ
も、防災に関する必要なことすべてを広く浅く知
る市民(ジェネラリスト)を大規模に育てるプロ
グラムが有効であるとCERTを創出した。
∼明確化と割り切り∼
CERTプログラムは、入門のレベル1から上級
のレベル3まであり、レベル1は7つのレッスン
豊能町 木 田 正 裕
からなり、週1回2.5時間、7週17.5時間で構成さ
れている。その中で日本にはない視点の特徴的な
ものをいくつか挙げる。
1.はじめに
地方自治体は、それぞれ「地域防災計画」を策
定し、これを基に防災(減災)を進めているが、
現実には計画は各セクションの取り組みをまとめ
たものに止まっており、災害に強いまちを実現す
るには至っていない。それは「目標を実現するた
めの対策の実行という流れが形成されていないた
めである」と指摘されている。厳しい財政状況の
中で、今後到来すると予測されている地震に効率
的に対応する必要があるが、相矛盾する困難な課
まずレッスン3・4の防災と医療についてから
題を打開する視点の一つを、今回視察したロサン
であるが、我々は医療と聞けば、すぐに応急手当
ゼ ル ス 市 の CERT( Community Emergency
を思い浮かべるが、そうではなく、ここでは応急
Response Team:地域緊急対応チーム)プログ
手当は赤十字の仕事なので教えない。それよりは
ラムの取り組みに見ることができたので、これを
大勢の負傷者が発生した場合に、医療に慣れてい
記して研修報告とする。
ない人は出血の多いところなど一番目につくとこ
ろから手当・治療を始めてしまい、負傷者にとっ
2.CERTプログラム
CERTプログラムを考案し創出した救命救急医
で、治療の優先順位を判断し決定するトリアージ
であり指導員のジェームス・ホーキンス氏の講義
(triage)が必要であるため、そのトレーニング
は非常に新鮮であった。CERTプログラムの目的
をする。
は、メキシコシティ地震被災後のボランティアに
レッスン5の救援活動についてでは、安全性の
よる救助活動の犠牲等の教訓を踏まえ、現実的に
確認。建物の構造の不安定等を理解した上で、実
唯一できる対策は、市民自身をトレーニングする
際に家屋内入っても安全か否かを自分自身で見極
ことであると結論し、日本での市民団体の防災訓
められるようにトレーニングをする。
練の状況を調査することとなった。氏の上司であ
レッスン6の心理と指揮についてでは、心理学
る消防署長の報告から、ロサンゼルス市の特質を
的なものを使って患者を治療するのではなく、被
考えた場合、日本の防災訓練はデモンストレーシ
災後に自分自身に心的な外傷(ポスト・シンドラ
ョン的な傾向がある上に、近所の人達が集まって、
ム)が起きているか否かを認識するためのもので、
消防、救助、医療などの分野に特化して専門的に
緊急対応で慣れた環境から離れ、予備知識のない
訓練を行っているが、1ヶ所に長く定住しない
不慣れなところで活動をすると、後ほど心理的な
(平均7年間で移動)国民性や文化の相違などか
ストレスが心的外傷の形で自分自身の体に現れて
らそのままの形で取り入れることはできない、各
66
て真に必要とする医療に気づかないことがあるの
くるのでそれを把握するものである。
3.ホーキンス氏の姿勢
である。例えば、市民が行政は即時対応できずこ
氏は「初めは、このCERTプログラムは、近所
れだけの時間が必要であるということを前もって
の人達が集まって一つのチームを作り協力して救
知っており、それまでの間、自分が何をしなけれ
助することを考えていたが、実際にノースリッジ
ばならないのかが分かっている場合は、行政に対
の地震の際に、それは私の考え違いであったと気
する不満が無くなる。行政に対する不満が無いこ
がついた。CERTのトレーニングを受けた者は、
とが、私にとっては重要なのである」と言っていた。
自然に自分達が住んでいるところのリーダーとな
自
主
研
修
報
告
り、周りの人達を集めてボランティアとして救援
を行い簡単な医療を行った。このことから私は、
トレーニングをするに当たり、チームの概念から
個人個人をリーダーとして、行政の助けなしで自
主的に救助・救援ができる、そういう人達を作り
上げ育成するという概念に考えを移した。
というのは、ノースリッジの地震の際に火災が
発生したが、5人のCERTの人間が5つの異なっ
た建屋内の火災を消火した。このことは消防署の
仕事を軽減してくれたと同時に、それが大火災に
至ることを未然に防いだわけで、CERTの人達が
一つひとつ問題を処理してくれることによって、
ジェームス・ホーキンス氏(中央)と
通訳のハタ・サトコさん
4.終わりに
ジェームス・ホーキンス氏のこれらの言葉は確
行政の仕事は一つひとつ減っていく。過去の経験
信と自信に満ち、CERTプログラムは災害に遭遇
からCERT修了者に問題があったかという質問で
するたびに、現在もその分析を踏まえて書き換え
あるが、確かに何人かに問題はあった。けれども
られている。
それは、今まで約45,000人をトレーニングしたそ
消防研究所理事長 宮崎益輝氏は「阪神・淡路
の中のわずか5人、片手で数えられる者が、問題
大震災で、家屋の下敷きになった8割の人が家族
を引き起こしたぐらいである。素晴らしいことを
や隣近所の人に救出されたという事実をみても明
成し遂げるプログラムをこのような少人数のために
らかなように、大規模な災害での救助などの緊急
諦めてしまうのか、それともこういう人達は、ま
対応においては地域しか頼りになるものがないと
ぁ、しようがないと無視するかである。私は、市
いう峻厳な事実を確認するだけで十分である。公
民に災害が起きた時は、行政と連絡が途絶え救援
的な消防や警察などの公的な防災力は、様々な障
がなくても、少なくとも3日間は自身で生活でき
害や制約があって、すぐには助けにきてくれない。
るよう指導している。カリフォルニア州の州民に
それだけに、みずからの地域はみずからで守るし
はそのように教えている。ノースリッジ地震の際
かないのである」と述べている。
も、行政の実際の救援活動の開始は48時間後であ
大規模災害が発生した場合の行政の対応には、
ったが、私達に対する市民の印象は非常に良好な
時間的にも物質的にも限界があることは明らかで
ものであった。しかしながら、トルコの地震の場
ある。行政は住民に説明する努力を怠っており、
合は、行政が市民に対して救援が届くまでの待ち
このため住民の側も漠然と防災は行政の責任と思
時間に関してのトレーニングをしていなかったた
い込み防災意識が薄弱となっている。CERTプロ
めに、トルコ政府は48時間後には対応したにも関
グラムにより示された、地域を構成している一人
わらず、市民は災害発生即行政の救援と考えたた
ひとりをジェネラリストに変えていくことは地域の
めに、48時間後に救援が届いた時には、印象が悪
防災力を確実に高めていく。行政の責任は回避で
くなっていた。トレーニングのポイントは、市民に
きないが、行政の限界を説明し続けることと個人
現実的に行政に何が期待できるかを教え込むこと
を変えていく日本版CERTは有効であると思われる。
67
ステム」及び「同センター」などを構築・実施し
自
主
研
修
報
告
カリフォルニア州の
自然災害への対応体制
∼日本が学ぶべきこと∼
枚方市 上 田 陽 介
軽減対策を具体化しており、この「システム」と
「センター」について考察する。
「緊急事態管理システム」は、市域内で発生す
る自然災害に対し、各防災関係機関(市、消防、
警察、ライフライン企業、災害ボランティア、赤
十字など)が個別に災害対応を行うのではなく、
各機関の責任者が「緊急事態管理センター」に一
同に会し、横断的な連携を採り、組織横断的な対
応の合意形成・対応の実行が迅速に行えるシステ
1.はじめに
ムである。結果的に、各防災関係機関間の情報の
日本列島は、地震発生周期の活動期に入り、活
共有化、迅速な対応の実行に伴う混乱の軽減など、
断層型及びプレートのずれに伴う地震災害、また、
災害発生後の応急対策が円滑に行える仕組みにな
地球温暖化に伴う大雨・台風の多発に伴う風水害
っている。
など、国民の身体・生命・財産等を脅かす自然災
また、センター内で迅速な調整作業ができるよ
害が多発しており、今後もこの基調は続くと考え
うに各機関と各人の役割をベストに色分け・役割
られている。
の表記により、誰もが一目見てその人の役割が理
この日本列島に住む我々は、その被害や混乱を
少しでも少なくするため、その対策を進める必要
がある。
解できるようにしている。
更に対応内容決定の迅速化のため、必要予算の
予算執行をその場で迅速に許可する「財務担当」
そこで、自然災害への対策の向上という共通の
課題を持つカリフォルニア州内の自治体が取り組む
対策を考察し、本市防災対策の向上に役立つこと
があれば参考にするため自己研修のテーマとした。
が配置され、組織の壁を横断する予算執行の権限
を与えられている。
また、出席する各機関が情報を共有しやすいよ
うな設備・映像・パソコン・通信機器を配備する
とともに、案件ごとに各機関による個別に対応協
議や意思決定できる部屋を整備し、迅速な対応が
できるようになっている。しかも、コンピュータ
のサーバを同一災害による被害から免れるように
遠方にも設置している。
更に、非常電源とコンセント・通信インフラ・
仮眠室・飲料水・食糧など、長期に亘り緊急事態
への対応ができるよう想定できる限りの整備が行
われている。
緊急対応センター(EOC)正面写真
2.カリフォルニア州内の自治体の体制
今回カリフォルニア州内の各自治体などの視察
をしたが、そのうち、オークランド市は人口規模
が本市とほぼ同じ40万人であるため参考とする。
オークランド市においても、活断層型地震、小
水害、山火事などの自然災害が発生している。
これに対しオークランド市では、災害の被害と
混乱の軽減という観点から、被害の軽減対策、そ
して、混乱の軽減対策として、「緊急事態管理シ
68
緊急対応センター(EOC)配席写真
3.日本の自治体の体制の現状とその比較
日本は、カリフォルニア州より、風水害・地震
災害などの発生程度・頻度ともにはるかに大きい。
自
主
研
修
報
告
このため日本は、これらの自然災害に伴う被害
と混乱を軽減するため、もっと多くの対策を施し
ておく必要がある。
近年大学などの研究機関においては多くの国家
予算が投入され、かなり進んだ知識や技術の集約、
観測機器の整備、メディアを通じた国民に対する
災害発生情報の伝達などを行うことができるよう
になってきた。
しかし、災害に対する減災対策や災害に伴う被
害や混乱などへの現場対応を担う市町村による市
民の減災への具体的な実践方法の普及、知識の集
約や対応方法の向上、必要施設や設備・資機材等
緊急対応センター(EOC)個室写真
しかし、今回視察した「緊急事態管理システム」
と「同センター」は、防災関係機関間における
「必要情報の共有」、「迅速な意思決定や対応」、
「戦略的な対応」「中長期的な拠点機能の備え」な
ど学ぶべき点は多い。
カリフォルニア州において発生する自然災害は、
の整備、職員の災害に対する危機意識の維持など、
日本と比較すると発生頻度が低いうえ小規模であ
大規模災害発生時に円滑かつ迅速な対応に必要な
り、また、国土が広いことからゆとりのある土地の
準備が不十分である。
使用が可能なため、被害が連鎖するリスクは少な
但し、現在の日本の財政状況を踏まえると、財
い。結果的に被害は少なく済むため、被害の個別案
政出動による大幅な質的・量的な充実を図ること
件に人・物・時間をかけることができると思われる。
は困難であるが、可能な限り予算の重点配分と効
しかし日本の現状では、同程度の災害でも、産
率的な手法の導入などにより、最大限の防災対応
業、人口、財産が狭い場所に集中しているためよ
力の向上を図る必要がある。
り多くの被害・混乱が発生するとともに、各防災
また、日本は他国における自然災害に対する実
関係機関の合意形成や意思決定に多大な労力と時
践的な対応や体制の手法や方法を学び、予算面で
間を費やす必要があり、対応が遅れ被害が更によ
の制約はあるが、現状より少しでも災害対応力を
り拡大すると思われる。
効率的に高める必要がある。
これに対し、カリフォルニア州では、必要に応
枚方市をはじめ日本の市町村は、市町村内組織
じて合理的に各防災関係機関が協力し災害に伴う
を「災害対策本部」の名称で市町村長の指揮下の
人命・財産などへの被害を最小限に食い止め、ま
もと各種災害対応を行うが、市町村以外の防災関
た、社会の混乱が少なく済むように合理的に仕組
係機関(国・府・警察・消防・ライフライン企
みを考えそれを具現化している点は、予算の制約
業・自主防災組織・災害ボランティアなど)とは、
はあるが日本も学び取り入れるべきである。
組織横断的な共同の組織を立ち上げるには至って
おらず、通信手段を用いた情報の収集や伝達によ
る連携にとどまっている。
5.おわりに
今後日本は、自然災害の多発に伴う被害・混乱
また、センターの設置や、災害に伴う必要物資
の多発、更には国・地方等の巨額の財政赤字の返
の確保が困難となる状況に対する供えなど、中長
還、高齢少子化に伴う社会保障費の肥大化や経済
期的対応に必要な手段を兼ね備えていない。
活動の縮小、移民の大量受入の必要性の増大とそ
れに伴う社会の混乱など今後大混乱期に直面する。
4.カリフォルニア州より日本が学ぶべきこと
カリフォルニア州と日本の各市町村の対策は、
そこで、我々行政職員は、今後様々な課題に直
面するが、限られた少ない人員・資源により、効
個々の対策では双方とも長短があり総合的にどち
率的な災害対応体制を構築し、災害に備える対策
らが優れているのかを評価することは困難である。
を執ることが必要である。
69
▲
アメリカ的合理主義での
自
主
研
修
報
告
日本とアメリカの防災体制の比較
私たちの班は、州のEOC(緊急指令センター)、
郡のEOC、市のEOC、という州・郡・市の違い
があれ、同じような仕組みのシステムと、それに
防災システム
加えてCERT(自主防災組織のようなもの)の4
ヶ所を視察した。それら全体の視察を通して、改
八尾市 平 尾 克 之
めて、日本とアメリカで防災について、どのよう
な違いがあるのか考えてみたい。
今回の研修を期に、八尾市の防災計画を読み返
してみた。
▲
はじめに
地震災害を想定して、八尾市防災計画では、震
私自身、アメリカに渡るのは、2度目であった。
度4以上の地震が市内で発生すると自動的に災害
初めてアメリカに渡ったのは、学生の頃、20年
警戒対策本部が設置、震度5強以上の地震が発生
ぐらい前に5ヶ月程、生活をしている。
すると災害対策本部が設置される。
最初の40日は、アメリカ各地の時間割のない学
地震災害においては、市役所のすべての部署が
校と言われているフリースクール(オールタナテ
自動的に対応にあたり、大阪府や関係機関との連
ィブスクール)を視察し、後の約3ヵ月は、ニュ
携の下、着々と対応していく。
ーメキシコ州のフリースクールに滞在した。
記載内容については、詳細で関係機関との連携
この時は、大学を4年で卒業するのでなく違っ
をとっている。防災計画策定にあったては、市だ
た文化に触れる中で自分の世界を広げたいという
けでなく、府、警察、鉄道事業、電気、ガスさま
ことが目的であった。そして、今回は、地方自治
ざまな関係機関で構成する防災会議で計画が策定
体の職員として、防災という観点からアメリカの
されており、この計画が実行されれば混乱なく災
実情を調査したわけである。
害対応ができるように思われる。
皆さんも、ご存知のようにアメリカ合衆国は、
18世紀に多くの移民が集まって独立戦争を経て設
しかし、アメリカのEOCと比較すると、EOC
の優れた部分がいくつか浮かびあがってくる。
立された新しい国である。そんな中で国民一人ひ
とりの気質として、自分たちで国をつくる、誰か
が決めるではなく自分たちでルールを決め、自分
たちが判断して政府をつくっていかなければなら
ないという文化を持っている。それに反して、日
本は、古くから政府(お上)が決めたことに従っ
てきたことから、自分たちで政府をつくるという
意識は薄く、そのことが現在でも行政依存の文化
として残っている。
そんな国民の気質的なものは前回でも感じてい
たが、今回の研修で強く印象に残っているのは、
アメリカの合理的なシステムを構築していく考え
方であった。現状認識の中でどのようなシステム
が必要であるか、合理的に捉え、それを現実の
ものとして構築しているアメリカ人の発想の気
質的なものを複数の視察先の説明から感じたので
あった。
70
各座席にパソコンが並べられたオークランド市のEOC
▲
災害対応システムでの優れた部分
EOCでは、一つの場所に、市、警察、消防など
自
主
研
修
報
告
公共機関、電気、水道など公益事業機関、建設、
医療、福祉、衛生など民間関係機関、NPOなど
の決定権をもったメンバーが一つの場に集まり、
災害対応を協議するのに対して、八尾市防災対策
本部では、市の関係部署が集まるが、他の機関と
は、防災無線や電話で連絡調整を行う。
また、情報収集について、EOCは、ネットワーク
で繋がれているGIS(地図情報システム)に各関係
機関が入力してくる情報を共通認識できるようにな
っており、そのことを踏まえた迅速な対応ができる。
1994年カリフォルニア州ノースリッジ地震で寸断され
たフリーウェイ(カリフォルニア州知事室緊急業務部ホ
ームページより)
災害時において、初期の混乱状態を想像すると
▲
防災無線や電話で連絡し、情報も取り合っていく
おわりに
ことがどの程度可能であるのか、特に大規模災害
最初に述べたが、アメリカは国民自身が政府を
になればなるほど混乱状態は大きく、意思疎通を
つくり、日本のように行政依存でない文化をもっ
行うことが困難となる。
た国である。特に今回訪問したカリフォルニアは、
EOCは、その混乱状態をあらかじめ想定した中
経済的に裕福なアメリカの中でも上位の経済力を
で対応していくため、一つのところに決定権のも
もつ豊かな州であり、NPOも日本との規模の違
ったものが顔をあわせ、同一情報の下、協議する
いなど、さまざまな日本との状況の違いがあり、
場を設定している。八尾市の災害対策本部と比較
今回の視察を考える上で、そのことは念頭におい
した場合、おそらく初期の災害対応のスピードは、
ておく必要があるが、その違いを踏まえたとして
格段と変わってくるであろう。
も、合理的な発想の中で、システムを機能的に整
そして、EOCに集まる構成も、公共機関、民間
備していることには驚かされるところであった。
企業、NPOを含めてすべての関係者が1箇所に
日本が形式的な対応になりがちな反面、アメリカ
集まることをあらかじめ決めている。
の実用的で実践的な対応策には大きな違いを感じ
専従者がほとんど不在の日本のNPOと違いア
たところである。
メリカのNPOは、いわば一つの企業といった規
今回、7日間という短い期間で、一つひとつの
模のものが多く存在し、日本との状況は著しく違
視察先は、2、3時間しか滞在できなかったこと
うものの防災対応していく指揮系統組織にその構
から、これまで述べてきたシステムが実際上どう
成員として、NPOも取り込んでいるのである。
のように具体的に動き、どのような課題をもって
班の報告でも記載したが、災害での対応で民間が、
いるのかなどの踏み込んだ話は聞けなかったが、
その対応できる資源の8割を持っていることから
目的に対して、システムを整備していくアメリカ
災害対応の2番目の重要な(1番目は個人の対応)
的合理主義の考え方の一面を身近に感じることが
ものとして民間での対応をあげているが、このこ
できた。
とから分かるのは、アメリカでは行政での対応の
これらの考え方を参考としながら、防災だけに
限界を正確に認識し、その中で民間セクターも含
とどまらない幅広いまちづくりの中で今後も活か
めた最も合理的に必要な組織を設置し、総合的に
していきたい。
迅速な対応を図っているのである。
71
2.自助・共助の有効性について
自
主
研
修
報
告
自助、共助の育成による
災害弱者という言葉は、災害が発生するたびに
高齢者や身体障害者が犠牲となっていたため、昭
和60年代初めに生まれた言葉であるといわれてい
減災対策!
る。しかし、道路の寸断や渋滞、堤防の決壊など
によって発生する災害弱者の存在もクローズアッ
富田林市 山 中 清 隆
プされてきており、いつ誰が弱者になるかも知れ
ない状況となっている。
そこで今回の訪問先であるロサンゼルス市で重
要視したのが、行政や地域の自主防災が組織され
1.はじめに
る前の住民による自助、共助活動で、このことは
地域の消防団や自主防災などを中心とした組織
先の阪神淡路大震災の統計でも実証されており、
は、地区の統制や合意を得る上で歴史的な強みが
救助された状況の内、「自力で」が35%、「家族」
あり容易で、「火事や風水害は任せておけば」、と
が32%、「友人・隣人」が28%、「通行人」が
の住民意識が芽生え、その信頼は厚く、防災組織
2.6%、「救助隊」が1.7%となっている。このよう
もその期待に応えるべく経験と知識を代々伝えて
に、家族や友人・隣人に60%の人が救助されてお
きた。反面、一般住民の防災に対する意識の低下
り、自助、共助を目的とする地域コミュニティの
が進み、特に大阪府は台風などによる被害も少な
重要性を再認識させられる統計となっている。
く近隣での災害の発生時にも「対岸の火事」的に
捉えてしまいがちである。
そこで、これらの人が捜索や救助方法などの知
識を持つことにより、自身の安全と多くの家族や
しかしこのような地域の組織や行政に頼る防災
隣人の生命を救出できると考えられたのが米国ロ
にも限界があり、体制が整うまでの間、「自分の
サンゼルス市のCERT(Community Emergency
身は自分で守らなければならない」との観点から、
Respones Team:地域緊急対応チーム)のプロ
個々の防災に対する意識の持続が最大の減災効果
グラムである。プログラムは効率的に構成され、
を生み、災害弱者を少なくすることにつながると
全米で最も優れたものであるという評価がされて
考える。本市でも取り組める先進的な対策を今回
いる。
の研修に求め、我が町の防災対策のヒントを見つ
けてみたいと思う。
ただ、CERT事務局では、「火事や地震などの
災害した直後は申込者数が定員を超えるが、そう
でない安定期にはCERTプログラム開催の案内を
しても、住民の防災意識が薄れ希望者が減る」と
のことであった。これは阪神・淡路大震災の直後、
どこの家庭でも準備された避難用品が、10年経過
した今、非常食は期限が切れ、リュックサックも
納戸に入り、「防災月間」や「ボランティアの日」
など年に数回新聞やテレビなどで報道されるとき
に思い出す程度になってしまっている。
このように、いかに住民が危機意識を持ち続け
ることができる施策を確立することが、住民の生
命や財産を守る近道であると思う。
CERTの訓練(ホームページより)
3.災害避難所の比較について
災害避難所は各自治体の地域防災計画にのっと
72
り公共施設を中心に設置しているが、オークラン
ド市での避難所や誘導看板のあり方を取材したと
自
主
研
修
報
告
ころ、「事前に避難所への誘導看板や避難所であ
る表示看板の設置はしていない」との回答で、理
由を聞くと「何処でどのような災害が発生するか
わからない。また地域に新しく住民となった人や、
外国人など地位の地理に不慣れな人にしては、そ
の誘導看板だけを頼りに避難をした場合、逆に危
険な場所へ誘導することにもなりかねないことか
ら、事前に表示することをせず、災害の発生場所
や規模などの災害の発生状況を早急に把握し、そ
の時々に最も適切な避難所を選定し、最も安全な
避難路に誘導を行う」とのことであった。
我が国では、避難所、避難地を防災計画の中で
標記し、また町中に案内誘導看板を設置し、施設
カリフォルニア工科大学地震研究所のエレベーター
には避難所である旨の看板までも設置してあり、
これは、一見先行した対策に思えるが、実は非常
り高い位置に「火災・地震時の避難には使用しな
に危険な賭けかも知れないということを指摘され
いでください。」と漢字とひらかなだけで表示さ
たように思う。
れており、「漢字が読めない」、「言葉が話せない」
避難所や避難地の選考に当たっては、地震や風
などの文字や言葉に関する災害弱者に不親切であ
水害、がけ崩れなど災害の種類や規模により細分
ると反省することの一つでもあったように思う。
化した選考を行う必要があるが、事前に住民に知
こうした表示はすぐにでも改良することができ、
らせていく上では、ややこしく理解を得にくい面
実施することにより施設側と来場者の、災害発生
もあり、その方法の模索を今後の課題として再考
を前提としたコミュニケーションが図れ、非常時の
していく必要があると考える。
防災体制がうまく機能するのではないかと考える。
我が国独特の消防団や自主防災組織を核にしな
4.おわりに
最後に、簡単なハード面で気になったことは、
がら、すべての家族・隣人・友人が災害発生時に
は有力なボランティアとして活動できるように、
現地研修の初日、講師のカリフォルニア工科大学
誰でも参加できる防災講演会などのプログラムを
地震研究所の山田真澄氏を訪問したとき、施設内
作成し、生活環境上での災害弱者を無くすことが
のエレベーター乗り場の押しボタンのところに、
大規模災害の発生時における最も重要で有効な減
火災発生時にはエレベーターを使用しないで階段
災対策である。
を利用するように促すため、文字とイラストで示
した表示があった。これは私のようにその国の文
字の解らない外国人にとっても理解できるように
考えられており、施設内のエレベーター乗り場す
べてに統一された絵で表示されていた。しかし、
宿泊したホテルやその他の施設ではイラストなど
を見かけることはなく、防災対策よりも全体の意
匠が優先されていた。
このことは、我が国でも同様で、私の勤務する
建物では、エレベーターの中で私の目線からかな
CERTの活動資金源の一部として販売されているストラップ
73
はなく起きる前にいかに被害を減らすかという視
自
主
研
修
報
告
市民主体の危機管理
点から、減災、被害軽減対策を中心とした、災害
に強い街づくりの作戦である。
オークランド市は、プロジェクトインパクトを
∼コミュニティの育成とともに∼
受け、SAFE(Safety and Future Empowerment)
プロジェクトを立ち上げた。SAFEプロジェクト
柏原市 中 田 有 紀
は、市、企業、住民などのすべてが主体となった
計画である。まず、市に共存する住民、企業、公
共事業、ライフライン、ボランティア団体・市民
団体、行政機関、教育機関、医療機関等がパート
1.はじめに
ナーシップを結び、次に災害に弱い点を洗い出し、
阪神・淡路大震災における救助活動は、自助が
対策が必要な事に対して優先順位を付け、その中
7割、共助が2割、公助が1割であったと言われ
でパートナーシップメンバーは自分の得意分野に
ている。大規模な災害が起こった場合、市をはじ
おいて協力できることや提供できる資源を特定
め、消防、警察、自衛隊など防災関係機関が、す
し、市を守るため長期的な計画を立て実行する。
ぐに駆けつけることはできない。そのような教訓
また、緊急時に地域で救助活動にあたるための無
から重要視され、今盛んに結成を叫ばれているの
料の訓練計画、CORE(Citizens of Oakland
が自主防災組織である。
Respond to Emergencies)を実施し、地域ぐる
同時に、阪神・淡路大震災の発生した1995年は
みの災害対策をしている。FEMAはオークランド
日本における「ボランティア元年」といわれてい
市に120万ドル補助を出したところ、オークラン
る。震災直後の救出活動からその後の復興支援に
ド市においてはパートナーの現物及びサービス提
いたるまで、様々な人たちがボランティアに参加
供などにより600万ドルの規模の事業になった。
し、活動が爆発的に広がったためである。
この自主防災とボランティアは、これからの危
住民自治意識の高い、市民社会の成熟した国ら
しい取り組みである。ちなみに合衆国の市町村は、
機管理に欠かせない要素である。今回我々が視察
住民がこれを作り、州政府が認証してはじめて市
する機会を得たアメリカ合衆国は、その広大な国
町村という自治体ができる。住民自治意識が高い
土の影響か、災害が発生することはやむをえない
ので、市はコミュニティの集合体、と表現する方
ものとして、被害軽減を目指すソフト災害対策が
が我々の感覚になじみやすいかもしれない。
充実しており、非常に合理的で、行政と民間
「産・官・学・民」すべてを巻き込んだ柔軟な災
害対策システムが構築されていた。
3.ボランティアとの協働
減災は、非常に身近なことから始まる。棚など
現在日本は、国・地方とも巨額の財政赤字を背
の家具をボルトやL字金具などで固定したり、テ
負い、財政投資による災害対策は一朝一夕には進
レビやパソコンをベルトで固定したりする。それ
められない状態にある。そういった点からも、ア
だけで地震における被害は格段に減るのである。
メリカ合衆国における災害対策は、限られた資金
オークランド市は、市民に住宅補強を勧めるガイ
で有効な施策を講じるアイディアの宝庫である。
ドブックをパートナーシップの中で建築の専門知
識を持ったメンバーに作成してもらい、さらにそ
2.コミュニティ主体の危機管理
今回視察させていただいたオークランド市は、
74
の印刷もパートナーシップのメンバーに委託し
た。そして住宅補強に必要な大工道具を、メンバ
「プロジェクトインパクト」というFEMA主導の
ーの企業から半額で提供を受け、図書館で貸し出
プログラムを試験的に実施した市である。「プロ
しをしている。高齢で、自分で家の補強ができな
ジェクトインパクト」とは、災害が起きてからで
い方には、市がボランティアを募集した。また、
合衆国では高校の単位としてボランティアという
の意識の持ち方に頼るところが大きい。市民へ働
授業が必修であり、ボランティアチームが地元の
きかけ、啓発や広報活動を重ね、地域の危機管理
高校生と高齢者の家を訪問し、家具を固定させる
意識を高めてもらうことが、災害に強いまちを作
試みもあった。
ることになる。
また一方で、実際に災害が発生した時のボラン
ティアの活動も目覚しい。
防災計画において「できること」は書かれてい
るが「できないこと」は書かれていない。しかし、
ロサンゼルス郡のEOC(災害対策本部)を訪問
この「できないこと」を検証することが何よりの
したのだが、そこでは、行政のみならず、警察、
災害対策になる。「できないこと」を住民に知ら
消防、医療関係、電気・水道など公益事業関係、
せ、その補完を、ここまで考察してきたアメリカ
民間の建設関係、そしてNPOが一同に集まり一
の事例のように、コミュミティの育成も視野に入
丸となって災害時に対応をする準備がなされてい
れ、地域の人々とボランティアに働きかけてはど
た。そこで「ボランティアとの提携はどうしてい
うだろうか。これは同時に地域の人々にとってみ
るのか」と質問すると、「ENLA(Emergency
れば、自分で危機を乗り越えよ、と行政から言わ
Network Los Angeles)に任せる」という答えが
れているに等しい。ならば、行政は何をするのか。
あった。ENLAはボランティア組織のコーディネ
「市役所は災害時にはお役に立てません。でも、
ーターであり、1994年のノースリッジ地震時に、
災害が発生するまでは、何でもできます。一緒に
行政やボランティア間の救援活動が重複し、無駄
考えましょう。」そのくらいのスタンスで、住民
が生じていた状態を改善するため設立され、情報
を主体とした防災計画を立てることが望ましいの
の共有、行政との関係調整、ボランティア間の調
ではないだろうか。
自
主
研
修
報
告
整などを行う組織である。そのENLAが行政側か
らも重視され、現実に災害対策の一翼を担ってい
5.おわりに
るということを事実として知り、合衆国でボラン
最後に、州知事夫人からのメッセージを紹介し
ティアがいかに活躍しているかを現実のものとし
ようと思う。「あなたは(災害に対して)準備を
て感じた。
する必要があります。あなたの準備が整ったなら、
カリフォルニアもそうです!あなたが役割を果た
4.日本における課題
わが国において、平成12年、地方分権法が施行
され、その目的は、国に集中している権限や財源
してくれることに感謝します。」個人の備えは州
の備え。危機管理は市民一人ひとりにはじまるの
である。
を都道府県や市町村に移し、住民と自治体が協力
して、住民の意見や地域の実情を反映しながら、
地域のことは地域で決め、より細かな政策を進め
ることにあった。しかし、未だ住民や地域と地方
自治体との関係は分権以前と変わらず、住民が参
画した施策など、ほとんど見られないような状態
が続いている。
市民との協働、住民参画のまちづくりは、今盛
んに必要性を増してきている課題であるが、災害
対策においても例外ではない。冒頭で、阪神・淡
路大震災時の救助活動は、自助が7割、共助が2
割、公助が1割であったと記述したが、日本にお
いては危機管理意識が非常に低く、公助7割、自
助1割と考える人が多い。減災は市民一人ひとり
州知事夫人のメッセージ
75
び情報・戦略担当)、Logistics(リソースの調達
自
主
研
修
報
告
緊急事態に強いまち
担当)、Finance/administration(資金管理担当)
に分けた構成を標準的なスタイルとしており、カ
リフォルニア州においては、このシステムを使用
づくりを目指して□
することを制度化しているものである。
LCOA局長には、EOCの起動や郡行政の最上位
阪南市 藤 原 健 史
機関としての決定権限、郡リソースの50%までの
使用権限などが条例により与えられている。他に
も山火事などにも対応するためEOCの部分的な起
動も可能にし、全ての緊急事態に迅速に対応でき
1.はじめに
るようなシステム整備をしている。また、施設は
ロサンゼルス市内の地下鉄の工事現場で作業員
リアルタイム地震情報システムや全てのインフラ
の蒸気による事故死が発生し、危機管理局
供給ルートが把握できる地図情報システムの導
(OEM)局長マイク・ロークは現場で不可解な現
入、24時間稼動可能なように100人程度が1週間
象に遭遇する。この件を調査し始めた地震学者が、
生活できる備蓄量と設備を整え、建物はマグニチ
火山活動がロサンゼルス市の地下まで来ているこ
ュード8.3にも耐えられる免震構造、サーバーを
とを突き止めたが、遂に溶岩がロサンゼルス市内
デンバーとニューヨークに配置し、LCOA内は
に噴き出し始めていた。そのとき、マイクは現場
WEB端末としているなど施設としても万全の危
からOEMの指揮をし、行政の各セクションでは
機管理体制が整備されていた。
懸命な防災活動をする姿があった。これはトミー
リージョーンズ主演の映画「VOLCANO」での
話で、現実では彼はEOC局長という役でありまし
た。では、映画の舞台ともなったロサンゼルス郡
(以下「ロス郡」とする。
)EOC(LCOA)を例に、
緊急事態のときに行政はどのように事態を収拾し
ていくシステムを構築しているのか、そのとき市
民はどのように行動すべきなのか、防災システム
として全米でも先進的なロサンゼルスにおける手
法と比較して、今後、府内市町村で取り組むべき
ことについて考えてみたいと思う。
彼らLCOAには、「一人の命もお金を惜しんで
失わすことはできない。」という人命救助に対す
るスピリットがあり、たぶん、EOCにおいては、
2.郡・市行政におけるEOCの存在と機能
ロス郡EOC(LCOA)の仕事は、郡行政の回復、
76
ファイナンス担当が意見する場合は限定的なので
あろう。このSEMSに基づけば、原則、ロス郡か
88市のリカバリー、72の学校区、143のボランテ
ら州政府へリソース要請をしない限り、ハリケー
ィア団体を緊急事態に統括しており、それらの災
ンカトリーナのときと同じくFEMAは起動しない
害情報を集約し、リソース要求の調整、緊急対応
システムとなっており、この点をみてもSEMSは、
の実施を判断していく地域防災の中枢機能という
システマティックすぎ、ヒューマンエラーが発生
ところである。ここLCOAにおける権限や業務内
した場合のことも想定しておくことが課題である
容についてもカリフォルニア州SEMSに基づいて
ように思える。
条例を制定している。SEMSとは、Manager(意
ロス郡では、災害宣言をここ20ヶ月で4回して
思決定者)の指揮下に、Operations(関係機関と
いた。災害などの緊急事態が発生すれば、市民に
の調整担当)、Planning/intelligence(計画担当及
は、ロスでは3日間、メディア情報を通して行政
の支援が来るまでの間、自衛手段を講じるように
将来には、遂行能力や効率性を考慮した地域(3
教育していた。ここに今回取材したCERTの活躍
∼4市町村まとまった)単位のあらゆる緊急事態
の場がある。また、ボランティア団体は、EOC内
の対応組織としてEOCの設立があってもよいと思
に席を設けて、EOCと同時進行作業していく。
う。
9.11グランドテロ以降は、信用度の問題があるの
②自主防災組織づくりの手法として
で、ボランティアは誰でもがLCOAの施設に入れ
直下型地震やテロなどの緊急事態のとき、行政
なくなり、アメリカ赤十字、救世軍、ENLAだけ
の支援活動を非常時に求めることは少なくとも3
が詰めかけ、他のNPOは、アメリカ赤十字や
日間はできないという認識を全ての市民にもって
ENLAをとおして活動することとなった。ENLA
いただきたくように教育する必要がある。そのた
は、災害時に協力できる地域NPOのネットワー
めには、行政側は、広報だけでなく、自主防災組
ク組織で、復興支援が長期化する社会的弱者にと
織づくりをプロデュースしていくことがベースに
って重要な支援を提供できる可能性があり、ここ
あると考えてはどうか。
ロス郡においては、現在ENLAの機能を試行中で
あった。
自
主
研
修
報
告
今日の社会生活、慣習を鑑みると、必ずしも災
害発生初期において地区コミュニティが機能する
とは限りません。この点からも、従来の自治会単
3.今後の市町村における防災行政へ(提案)
位の組織づくりより今回取材したCERTプログラ
私は、今回の研修を通して、行政側の指揮系統
ムのような市民公募型ボランティアとしての自主
づくりと市民の防災活動の支援策という観点から
防災組織づくりが合っていることがすでに潜在し
次のようなことを提案したいと思う。
ている。行政の仕事としては、防災に必要な知識
①緊急事態に強い防災行政の中枢機能として
教育の内容や教育後の定期的な実施演習、メンバ
市町村での一般的な災害対策本部とEOCを比較
ー登録、保険制度の確立などこの活動をサポート
すると、消防、警察、電力・ガス供給会社、ボラ
する内容策定をしていくことが必要と考える。ボ
ンティア団体の本部員参加や分野ごとのコーディ
ランティアは自己責任で行動するものであるが、
ネーターの設置、執行限度額の条例化で執行権限
少なくとも緊急事態に行政が彼らに協力要請した
を市の防災部局や災害対策本部に与えることが必
活動で、怪我・事故など発生すれば、保険など活
要と考えられる。また、情報収集能力がなければ
用し補償できるシステムをつくることが必要であ
EOCは機能しないので、リアルタイムな災害情報
り、活動を保障すれば、ボランティア活動の動機
の共有や地図情報システムを駆使したソフト開発
付けにもなると思われる。地域での自主防災活動
を推進していく必要もある。加えて、災対本部長
の登録メンバーが増えるほど防災行政として、人
を中心としたピラミッド型でなく、蜘蛛の巣型の
命救助や初期消火活動、減災対策などができ、正
指揮系統システムを構築することがヒューマンエ
しく市民のための防災施策として市民評価が高い
ラーや指示ミスを防ぐことになる。市行政として
ものにも繋がると考えられるため、是非、実施で
自然災害だけでなく、国民保護法を意識したあら
きるようにしていくことを提案する。
ゆる危機管理を考えていくならば、ここカリフォ
ルニア州で機能しているSEMSを参考にした防災
システムの見直しを検討してはどうか。
EOCは、施設整備でなく業務遂行能力のあるシ
ステムが重要である。OES南部地方管轄のように
仮設事務所の一室でも開設でき、我が市のように
行政規模が比較的小さな市の場合は、先に述べた
指揮系統や組織の執行権限をより具体的に条例化
していくことを先行する方がよいでしょう。近い
77
今回、行政・企業・コミュニティ等がパートナ
自
主
研
修
報
告
地域住民における被害軽減策
ーシップを持って連携を図るアメリカの緊急事態
に対応すべく設置された「FEMA」のプロジェク
トをもとにオークランド市の取り組みやコミュニ
∼防災意識とその役割∼
忠岡町 南 智 樹
ティが主体の自主防災組織について考察した。
FEMA(連邦緊急事態管理庁)とは
FEMAは、災害時の緊急対応や災害情報などを
一元管理し、災害における防災計画や被害軽減計
画の策定支援及び大災害が発生した場合の救援活
はじめに
近年、我が国は、少子高齢化の進行、経済成長
の鈍化、ITの急激な進展など社会情勢の著しい変
化が起こっており、障害者や高齢者などの災害弱
動や被害者支援などの対応にあたり、連邦の支援
プログラムの管理などを任務とし、1979年に設立
された政府機関で、本部はワシントンDCにある。
FEMAでは、地震災害において、事前準備対
者が増加し災害時に援護を必要とする者が増え、
策・被害軽減対策・緊急時対応対策・復旧対策が
助け手となる世代が減少する傾向にある。
構築され地震災害時に備えている。
地震対策においては、戦後、大都市直下を襲っ
また、災害対策として、FEMAが運営し国の支
た初めての大規模な地震災害である阪神・淡路大
援を得て行政任せではなく、地域ぐるみでボラン
震災の教訓を踏まえ、行政、企業、コミュニティ
ティアを育てたり、防災設備の整備を行ったり各
の各分野において様々な地震防災対策の充実強化
地域のコミュニティにおいて、自発的に防災にお
が図られてきている。国や各自治体では防災計画
ける考え方やアイデアを持ち寄り計画し、民間企
などの策定はされているが、実効性が十分に機能
業、あるいは地元の財界等とパートナーシップを
するかどうかが懸念されている。また、災害時の
持って提携することにより、災害などの問題に対
実践的なマニュアル、情報収集、伝達体制や被災
応できるような体制をとるプロジェクトの取り組
者に供される医療施設、社会福祉施設や避難所と
みとして「プロジェクト・インパクト」というも
して開放される学校等の公共施設の耐震化もまだ
のがある。
まだ進んでいないのも現状である。一方、地域社
会の中でも、大規模な地震災害は極めてまれにし
オークランド市の取り組み「被害軽減策・
か発生しないため、阪神・淡路大震災後、10年余
SAFEプロジェクト」
りが経過した今日では、震災後に高まった防災へ
州のプロジェクト・インパクトは、試験的プロ
の関心も次第に風化しつつあり、「公助」のみな
グラムとして7つの都市においてスタートした
らず「自助」「共助」も含めた地域コミュニティ
中、オークランド市は、1998年にイニシアティブ
の危機管理能力を高めることも必要であるといえ
のために選ばれ災害に強いコミュニティをつくる
る。
ため、災害の経費と結果を減らす目的を抱え、市、
地震災害による被害は必ず地域住民や企業を含
めたコミュニティレベルに被害をもたらすことか
トは、公共の安全を最優先させたことを約束し、
ら、行政指導に依存するだけでなく地域レベルで
オークランドのグループを代表する非政府組織で
の平常時から事前準備対策や被害軽減対策を構築
災害対策協力機関等が参画している。
するなど行政の協力のもとコミュニティに共存し
FEMAが120万ドルの初期支援をしたのに対し、
ている住民や企業において連携を保ち震災に強い
これらの機関やグループは全体でサービス提供と
地域づくりの形成のために防災への積極的な参画
いう形で600万ドルの追加投資をおこなった。
もいうまでもない。
78
企業、住民の連携から始まったSAFEプロジェク
プロジェクト参加団体は、コミュニティにおけ
る被害軽減強化プログラムを作成し、専門機関か
るものの、着実に成果をあげている一方で、阪
らの技術援助を受け、公共施設や住宅等の耐震補
神・淡路大震災で、老朽木造密集市街地に被害が
強に重点的に取り組み、一般市民へ耐災害性を高
集中したことなど長期的な視点から取り組まなけ
めようとするときに必要とする情報を網羅したガ
ればいけない個人住宅等の耐震化を中心とする減
イドブックや防災パンフレット等を作成するなど
災施策については、多くの課題を残しているとい
の普及啓発もおこなっている。
える。
自
主
研
修
報
告
自主防災組織の育成と役割
カリフォルニア州ロサンゼルスで「CERT」と
いう消防局と積極的に情報交換や連携を密にとり
ながら、自分たちの手でコミュニティを守るとい
う自助・共助を実現するために地域住民が段階的
にプログラムの訓練を受講し育成され組織された
もので、災害時の初期段階において各地域で活動
している。我々の自治体においても、地震等の災
害が発生した場合、被害を最小限にとどめるよう、
防災関係機関は総力をあげて防災活動に取組むの
はいうまでもないが、道路の寸断や通信手段の混
乱等から充分に対処できないことが予想されるこ
とから、現在、自治会や校区毎の地域において結
成されている地域住民が自主的・積極的に連携を
オークランド市危機管理事務所玄関の絵画
図りつつ防災活動を行う自主防災組織の活動が災
害時においての被害軽減に重要な役割を果たすも
防災から減災へ
のと考える。
アメリカにおいて、1994年のノースリッジ地震
発生後、復旧段階で効率的に減災対策を計画する
おわりに
ことが出来ず本当の意味での減災対策を行うこと
アメリカにおける被害軽減策「プロジェクト・
が出来なかったことから、プロジェクト・インパ
インパクト」のプログラムは、国および地方公共
クトを通じ地域とのパートナーシップを促進する
団体の行政はもとより、防災関係機関、地域住民、
目的で行った施策がベースとなり2000年に連邦で
民間企業、ボランティア等とのパートナーシップ
スタフォード法の一部が改正され減災法が成立し
の連携を図り、コミュニティが災害への取組み方
た。州政府の減災計画は3年ごとの見直し、自治
を対応型から予防型へと転換し、「自分たちのコ
体においては5年ごとに見直さなければならない
ミュニティは、自分たちで守る」という地域レベ
ことになっているなかで実際には減災計画につい
ルでの自助・共助の防災に対する危機管理への意
ては策定していない自治体が大半であるのが現状
識高揚に努めた。
である。
「地震大国」日本においても、今世紀前半にも
減災とは「災害をいかに防ぐかではなく、災害
大規模な東南海・南海地震が発生する可能性が高
時における被害をいかにして最小限に食い止める
いといわれている今日、行政と地域住民等が一体
か」である。日本においても国、地方公共団体な
となった防災体制の確立や防災関係機関相互の連
ども減災対策が実施されてきている今、道路をは
携をより一層強化し、被害軽減に取組めば災害を
じめとする社会基盤施設、役所や学校等の公共施
未然に防ぐことはできなくとも、被害を最小限に
設の耐震強化などについては地域による格差はあ
抑えることができるのではないか。
79
溝型地震の発生が懸念されており、特に東南海・
自
主
研
修
報
告
敵を知り、自らを知る
南海地震ではH17 . 1 . 1 時点以後30年以内の発生確
率が50∼60%と推定されている。
兵庫県南部地震と予測されている東南海・南海地
∼東南海・南海地震への備え∼
震を比較する。
発生メカニズムにおいて東南海・南海地震と兵
熊取町 中 尾 清 彦
庫県南部地震とは異なる。
兵庫県南部地震は活断層で発生する地震である
のに対し東南海・南海地震は海溝付近のプレート
で発生する海溝型地震である。この発生場所の違
1.はじめに
いによって、もたらされる被害の状況が大きく変
海外研修出発を目前にひかえ、巨大ハリケーン、
カトリーナとリタが相次いで米国南部を襲った。
わってくる。
海溝型地震である東南海・南海地震の特徴とし
テレビのニュースで送られてくる映像は台風に慣
ては(活断層型地震と比較して)、影響が広範囲
れているはずの日本でも信じがたい光景に人々の
であるということ(21府県に及ぶ)、揺れが長期
目が釘付けになった。一夜にして水没するニュー
間継続(数分間)するということ、被害が極めて
オーリンズの町、屋根のはがされたスタジアム、
甚大(被災地人口3,700万人)であるということ、
数百万人の避難する車で渋滞するフリーウェイ。
さらには津波の発生する可能性があり、その発生
被災総額は14兆円を超すともいわれている。超大
周期が短期(114年)であるということである。
国アメリカをもってしても防ぐことのできない自
然災害の脅威と都市の脆さ、防災の難しさを改め
て思い知らされた。
3.自ら(の弱点)を知る。
兵庫県南部地震は人的、経済的被害をもたらし
阪神淡路大震災から10年が過ぎ、近い将来発生
するといわれている東南海・南海地震、そのとき
が刻一刻と近づいている。
社会全体に大きな衝撃を与えた。
一方で大震災から多くのことをわれわれは学ん
だ。
被害軽減に大きく関係する主なものを二つあげ
2.敵(東南海・南海地震)を知る
1995年1月17日午前5時46分に発生した兵庫県
れば、一つは「層破壊」(木造住宅などにおいて
一階部分が押しつぶされる状態)の問題である。
南部地震から10年が過ぎた。このころから、西日
地震による死因では建物の倒壊によるものが最も
本は都市型直下型地震の多発期に入ったといわれ
多かった。
ている。
これを抑えるためには、費用の問題はあるが建
今後、太平洋岸地域は東海・東南海・南海の海
物に耐震補強を施すのが最も有効である。また寝
室は出来る限り2階にとり、ベッドの周りには大
表1.地震比較表
発生時期
きな家具を置かない、出来ない場合は固定するな
兵庫県南部地震
東南海・南海地震
(同時発生と推定)
どが極めて重要であるということ。二つ目は「発
1995.1.17
20××.×.×
下敷になった多くの人々を救助したのは被災地の
規
模
M7.3
M8.5
死
者
6,433人
17,800人
経
済
13兆円
57兆円
種
類
活断層型
海溝型
生後72時間が生死の分かれ目となる状況では被災
場
所
六甲・淡路島断層帯
南海トラフ
現場にいる住民の活動が大きな役割を果たすとい
(中央防災会議東海地震に関する専門調査会等資料)
80
生後の72時間」の問題である。倒壊家屋の現場で
人々であったということ、特に大規模な災害にな
ればなるほど救援隊の手が回らなくなり、災害発
うことである。
4.米国カリフォルニア州を訪問して
(1)∼ロサンゼルス市∼
CERT(Community Emergency Response
Team 地域緊急対応チーム)は、ロサンゼルス市
しているところは、行政は防災における住民の存
在を大きなものとして意識しており、活動の場で
は行政と住民が互いに役割を果たしているところ
である。
が市民、ボランティアを防災における知識、技術
習得できるように作成された訓練プログラムであ
5.結びに
り、18歳以上の市民であれば誰でもグループで申
地震はいつどこで発生するかわからない、近付
込みをすれば無料で消防署員が講師となって訓練
いていても気配がなく、不意を衝く。このような
を受けることが出来る。市民は自身や家族を災害
敵ではあるが、現在では多くの研究者が敵の輪郭
から守るといった思いから参加する、あるいはボ
をつかむアプローチを試みている。
ランティア活動を参加するために技術を習得する
対策としてはまず敵をよく知ることであり、そ
といったケースなど様々である。訓練を終了した
のうえで自らの弱点を小さくすることが重要であ
人々の活躍の場は大規模な災害だけではなく日常
る。つまり科学的、歴史的データの分析等により
的な火災や事故など犯罪以外であり、大災害に対
地震のメカニズム、規模、発生場所、危険情報等
しても延長線上として捉える。また、その場合救
を出来るかぎり理解することであり、自分の置か
援隊が到着するまでで、72時間を目途に救援活動
れている状況での危険度の客観的把握が必要であ
に携わるのが基本である。
る。研究機関、行政等関係機関の理解に留めるの
自
主
研
修
報
告
ではなく広く住民への周知が行政の最も重要な責
務ではないだろうか。とりわけ東南海・南海地震
発生時に大きな役割を担うであろう若い年代の人
達に関心を持たせる継続的な働きかけが明暗を分
けるのではないだろうか。
最後にカリフォルニア工科大学でいただいた資
料の中に興味深い文章があったので記しておく。
「Your Handbook for Living in Southern
California」という冊子の冒頭部分の行、In
Southern California, every day is“earthquake
CERT職員により説明を受ける
season.”Just like sunny days can come at
anytime, so can earthquakes.
(2)∼オークランド市危機管理事務所(サンフラ
ンシスコ市の東部)∼
日本では、“天災は忘れた頃にやって来る。”だ
ろうか。
オークランド市では地域(コミュニティ)にお
いてプロジェクトを住民とともに計画し、行政、
企業、民間がパートナーシップをもち連携するこ
となどにより災害等の課題に取り組んでいた。そ
れぞれが出来ることをやる。例えば災害に備えて
住宅の補強をする場合、簡易で利便性の高い冊子
をメンバーである専門家の手によって作成した
り、ボランティアと学生が一緒に高齢者宅を訪問
し耐震のための改造、家具の固定を行うなどの活
動を行っている。
2つの市の防災への取り組みは異なるが、共通
オークランド市危機管理事務所内オペレーションセンター
81
事前研修基調講演会
と
現地研修講演会
83
事前研修基調講演会
演 題
地震を中心とした災害対策
∼コミュニティの自主性と安全・安心∼
講 師 渥 美 公 秀 さん
大阪大学大学院人間科学研究科助教授
(特)日本災害救援ボランティアネットワーク理事
講演日:2005年6月7日(火)
事
前
研
修
基
調
講
演
会
Ⅰ.はじめに
1.話の流れ
今日は話を三つぐらいに分けてお話ししようと思っています。第1のパートは「災害ボランティア活動
の経緯と現状」ということで、具体例を中心に中越(新潟県中越地震)のお話をさせていただきます。
NPOやボランティアサイドからの話が多いと思いますが、今や市町村という自治体において、災害時の
ボランティア、NPOのことを考えておかないといけない時代が来ています。必ずNPOもボランティアの
人も駆けつけてきます。それを拒否したか受け入れたかによって、随分運命が変わってきます。そのデー
タも見ていただきます。ボランティアと一緒にやったところはうまくいっているケースが多いです。しか
し、「わけの分からない人は困る」という期間が何日か続くと、困ったことになっています。うまく連携
すれば、きちんと役割分担してできるのが災害ボランティアだと思います。その災害ボランティアや災害
NPOという人は一体何をしているのかという現状をお話しするのが最初です。
その次に、「防災ボランティア活動のアイデア」ということです。もちろん各市町村では防災訓練をさ
れていると思いますが、それにプラスして、ちょっとした工夫で子供たちにも楽しんでもらえるような防
災のやり方があるということを、写真を中心にお話しします。
最後に、今回は海外研修の事前研修も兼ねていますので、アメリカの事例も入れながら、今こういうこ
とは日本全国で起こっているし、日本各地に災害NPOがあり、そのネットワークがあるということをお
話ししたいと思います。これは新聞などに出てくる話ですので、常にウォッチされていて、もう知ってい
るとおっしゃる方は最後のほうはご休憩いただいたらいいのかもしれませんが、中越地震は現在進行形で
すので、できるだけ新鮮な話題を出すことができればと思います。
なぜ救援のほうから先に言うかというと、考えてみると自分が災害に遭う確率は結構低いからです。こ
れは我々がどうしても感じてしまうバイアス(偏見)ですが、飛行機に乗る前には怖いという感覚を持つ
人は多いですが、車に乗る時にはあまり怖いと思っておられません。しかし、交通事故で亡くなる人の数
のほうがよほど多いのです。飛行機が落ちることは滅多にありません。それでもやはり飛行機が落ちた時
のほうが激しく報道されますし、全員死亡などと言われてしまうと、そのこと自体がショッキングで目立
ちますから、そのほうが怖いように思いますが、実際は車の交通事故のほうがよほど多いのです。
あるいは、中越の地震で亡くなられた方は四十数人です。中越の今年の雪で亡くなられた方(雪害)も
四十数人で、一緒ぐらいなのです。この1年で自殺された方は3万人です。人数で比べていいものではあ
りませんが、災害というのはなかなか自分が遭うことはないので、ついついおろそかになってしまうので
すが、少し視野を広げると、日本中の、あるいは世界中の誰かは、今日、今でも災害に遭っているかもし
85
れません。今も実際に新潟に行けば災害の影響で苦しんでいる方はいらっしゃるし、神戸に行けばまだ災
事
前
研
修
基
調
講
演
会
害の苦しみを持った方もたくさんいるわけです。ですから、自分が災害に遭うことはあまりないけれども、
救援に行くということはかなりある話なのです。
自治体によってはそんなことはないとおっしゃるかもしれませんが、中越の小千谷市に地震の翌日に行
きましたら、各地の自治体から救援の方々が来られていました。もちろん、その時は近いところの方々が
大半でしたが、遠くは奈良県や和歌山県のナンバーの車も見かけました。それぞれの自治体間の協定も進
んでいるとお伺いしていますので、救援に行くという場合もあり、もちろん自分のところが被害を受ける
場合もあるわけです。
そこで、今日のお話は、前半では災害現場で災害ボランティアが何をやっているのかということ、それ
から、もし自分のところがボランティアに来てもらうような災害に遭ったときに、どのようなことを災害
ボランティアがするのかという、救援モードの時の話をします。中盤あたりは防災の話、最後はいろいろ
なネットワークがあるというお話をしたいと思います。
今日のテーマは「地震を中心とした災害対策」ですが、ボランティアやNPOに焦点を当ててお話しし
たいと思っています。タイトルからは、地震が起こったらどう逃げるかとか、日頃ご覧になっている防災
計画をどう運用するか、あるいは、自主防災組織をどのように活気づけるかというお話を期待されていた
かもしれません。しかし、それは釈迦に説法で、皆さんのほうが余程ご存じの話が多いでしょう。ですか
ら、今日はそういうところにあまり書いていない、あるいは防災計画にはこの頃は必ずボランティアと書
いてありますが、連携するといってもどの人と連携するのか分からないという声をよく聞きますので、私
たちがやってきた研究や活動を通じてボランティア、NPOのサイドからお話ししたいと思っています。
2.ボランティアとNPO
ボランティアとNPOの違いはもうお分かりでしょうか。ボランティアは個人で、NPOは組織です。そ
れがまず大きな違いです。NPOというのは非営利組織ですが、例え話として、子供さんが「うちのお父
さんはNPOに勤めているけど、ボーナスが出たから自転車を買ってもらった」と言っていたとしたら、
その会話はOKです。NPOに勤めるということ、そしてそこでボーナスが出るということはありえます。
あるいは、あるNPOで、年間に動いているお金が2億円ということも十分ありえます。
では、株式会社とどう違うのかというと、お金の流れが一方向だという点です。株式会社(大会社)の
場合は、自分が株を買い、会社が儲けたお金が配当金として戻ってきます。会社の人にすれば、業績を上
げて株主に配当をしなければなりません。株を買ってくれなかったら、資本が集まりませんから、もちろ
んお客様は神様ということでやっていますが、お金を出してくれた人にどれだけ返せるかというところが
経営の勝負になってきます。
しかし、NPOの場合は違って、寄付してくださるわけです。私がいる日本災害救援ボランティアネッ
トワークだと、寄付していただいたお金は被災者に流れていき、寄付してくれた人に100万円くれたから
120万円にして返しますということは絶対にありません。その100万円が被災者に行くという流れです。当
たり前ですが、経費は差し引き、給料もあればボーナスもあります。だから、心清き人たちが何も食べず
に被災者のことを思って涙しながら活動しているということは絶対にありません。内はものすごく事務的
です。
私は災害救援に出かける時、大学を休んで行ったりしますが、そのときは出張伺を日本災害救援ボラン
ティアネットワークに出しているわけです。経費の一番安いところを通ったかはチェックされるし、ホテ
86
ルの領収書を持っていって、その分お金をもらって一つの出張が終わりです。つまり、皆さんと一緒なの
です。それがNPOであり、まさに組織です。したがって、災害救援の場合、これからお話しするような
場づくりをするのがNPOで、そこに実際に来て救援活動をしてくれる人はボランティアです。私も混同
して呼んでしまうかもしれませんが、NPOは組織、ボランティアは個人と思ってください。
私の大学には、ボランティア人間科学講座があり、国際救援(国際協力)もやっています。学生さんた
ちが、今イラクには入っていませんが、アフガニスタンにはよく行っています。それから、ケニアなどの
アフリカ諸国、アジア・インドネシア、南米・ペルーなど、いろいろな国に行って活動するという、
事
前
研
修
基
調
講
演
会
JICAやODAという言葉とくっつけて考えていただいたらいいような国際協力活動、これは大変人気があ
ります。この分野と福祉の分野と私の分野です。
大阪大学に通っても、福祉の資格は何も取れません。ただ、介護保険という制度はいいのかとか、歴史
的にどうか、ドイツの介護保険制度はどうなっているのかとか、デンマークがいいというけれども、なぜ
いいのかというようなこと、政治の仕組みなどを考えていくということをやっています。福祉の技術や資
格が得られるわけではないけれども、福祉政策を勉強しているということです。教授の一人に元社会保険
庁の長官をお迎えしていて、国際協力のほうはJICAから来ていただいており、非常に実践的で、実務的
なことも勉強できます。私は、大学の先生と災害NPOの両方をやっていますから、災害救援ということ
でさせていただいています。
3.自己紹介
①神戸大学文学部
私自身は、1961年に池田市に生まれ、小学校低学年から交野市に住んでいます。途中、アメリカに行っ
たりしましたが、現在も交野に住んでいて、自分の住んでいるところが大変好きです。学校が吹田ですか
ら、もう少し北摂に住んでもよかったのですが、やはり育った町、交野がいいということと、両親も健在
ですので、今も大変満足して住んでいます。
ただ、この震災のあった時だけは西宮に住んでいました。1993年秋に留学を終え、神戸大学に職がある
と言っていただいたので何とか帰ってこられました。当時、私は32歳で、大学院に行った者にとっては標
準的かもしれませんが、世間よりは10年遅れているのではないかという就職で、初めてお給料を頂けるよ
うになったものですから、大喜びで通っていました。神戸大学は、JR六甲道駅の北側の山沿いにあって、
窓を開ければ100万ドルの夜景が見られる素晴らしいところにある、素晴らしい大学です。家は交野の星
田ですが、まだ東西線がなかったため、時間がかかるので西宮に官舎を借りて住んでおりました。
②あの日
1995年1月17日、あの日が来てしまいます。初めての教え子が17日に修士論文を出すという日でした。
教師出身の方はよく覚えておられるかもしれませんが、最初の年に教えた子はすごく印象に残るとよく聞
きます。大学でもそうで、大変印象に残っています。前の日も振替休日でお休みでしたから、普通は家で
寝ていたらいいのですが、初めての教え子が出すわけですから、学校に行って手伝ったりしていました。
まとまった文章を提出する時、性格にもよるでしょうが、ページ数が合っているかとか、目次や表紙がき
ちんとできているか、気になりだしたら切りがありません。1月16日、夜の12時を過ぎても終わりそうも
なく、これではあんまりだということで、女子学生は下宿へ帰らせて、男子学生は大学の私の部屋に泊め
ておいて、私は車で西宮の家に帰りました。17日になれば、彼・彼女は論文を提出し、私たちは打ち上げ
87
をして楽しい日が来るだろうと思っていました。帰る途中、大変満月がきれいだったことを覚えています。
事
前
研
修
基
調
講
演
会
帰宅して、少し風邪気味だったので早く(2時ごろ)寝ました。その朝、ものすごく揺れたのでびっく
りしました。私は大体朝が弱くて、起こされてもなかなか起きられないほうなのですが、こんなに揺らし
て起こさなくてもいいではないかと思うぐらいムッとした覚えがあります。寝ていられないぐらいです。
震度7の地域でした。
私たちが寝ていた部屋は官舎ですからかなり狭く、一緒に寝ていた子供の上にタンスが倒れかかったり
しているのですが、こちらは寝ぼけ眼で、何が起こっているのかさっぱり分からない状態の中で、これは
地震だということがスローモーションで分かってきました。もちろん、揺れている間は震度7とかという
ことは思いもよらないし、何が起こったのだろうという感じです。揺れが収まってみると、足の踏み場も
ないぐらい食器が割れて、冷蔵庫が動いて、電話が切れて、テレビが落ちるという状況でした。でも、
「これでは静岡は大変だな」という思いを当時持ったのを覚えています。それだけ自分のところが揺れて
いても、まさか神戸にという気がしていました。
幸い家族は全員無事でした。集合住宅でしたので、上の階でもドアをたたいて「大丈夫か」と言ってい
る声も聞こえてきましたし、私たちも何とか外に出て見回すと、木造家屋はほとんど全壊していました。
宿舎は西宮の仁川にあったのですが、お向かいの方なども出ていました。
そのような状況の中で、これは一体何なんだということがまず分からないけれども、ラジオをつけると
六甲道の駅が落ちていると言っていました。しかし、駅が落ちるということがピンと来なくて、イメージ
できません。でも、今さっき帰らせた女子学生の下宿はその駅の近くだと聞いていましたし、大学自体も、
結果的には大丈夫だったのですが、裏山の斜面が崩れ落ちているかもしれないということで、いてもたっ
てもいられないので、ある程度の家の片付けを済ませ、すぐに飛び出しました。
本当は歩いていけばよかったのですが、車で行ったものですから、近所を一周するぐらいの距離で6時
間ぐらいかかって、結局車を置きに帰りました。途中で見た風景は、どこかで見たことのあるものが地面
に落ちているという感じでした。枕木とか、枕木の近所に置いてある石などで、なぜだろうと思うと上か
ら新幹線が落ちているという状況でした。火事もありました。また、西宮で火事があった時、昼ごろ私た
ちが車を運転していると、天王寺区と書いた消防自動車が走っていて、大阪からも助けに来てくれている
んだと半分は思い、あとの半分は、そんなひどい火事になっているのかと思いました。
家に帰って、今度は自転車で神戸大学へ行こうとしましたが、ガラスが落ちたあとですから、途中すぐ
パンクしたので捨てて、結局は歩いて神戸大学まで行きました。幸い、帰らせた子も泊まらせていた学生
も両方とも命があったことが確認できましたので、そこから線路伝いにまた歩いて帰ってくることになり
ます。神戸大学が無事建っているということが分かっているものですから、住民の方々はどんどん山へ避
難してこられます。神戸大学は避難者で一杯になっていました。頭から血を流した人や口の中に壁土が入
った人など、いろいろな人が来られているという状況でした。
我々は線路を歩いて帰ったのですが、遠くを見ると線路が続いていなかったりするのです。何だろうと
思ったらマンションが倒れていたり、遺体が寝かせてあったり、そのようなとんでもない風景の中を歩い
て帰りました。戦争を知らない私たちにとっては、道端に遺体があるというのは驚きの風景でした。
とりあえず交野に帰り、家にいて安否確認をしていくわけですが、そのころは命があったらそれで十分
ということでしたので、背骨にひびが入ったという子もいたのですが、生きているのならよしということ
で、次の安否確認に走るという興奮した状態が続きました。
しかし、我に返る瞬間というのはあるもので、1∼2日たつと、何かできるのではないかと思いました。
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道端でおじさんが泣いていたというようなことを見ていますので、こんなすごいことになっているのに私
は交野の親の家で、のほほんとしていていいのかという気がしてきたわけです。たまたま家族全員無事で
したし、それで、ボランティアに行ってみようと思ったのが最初です。
③世界の平和・家庭の不和
ボランティアというのはあまり好きではありませんでした。皆さんの中にもボランティアについて首を
かしげておられる方がいらっしゃるのではないでしょうか。自分たちは仕事でこんなに苦労してやってい
事
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る、したい仕事かどうか分からない、たまたま人事異動でこれをやっているのに、あいつらはボランティ
アとかといって寄付金をもらってやっている、それは許せないとおっしゃる方もいらっしゃるかもしれま
せんし、何かうさんくさいものを感じられる方もいらっしゃるかもしれません。
ボランティアの業界にも、世界の平和・家庭の不和という言葉があります。世界の平和を考えているの
はいいけれども、自分の家庭をどうするのかということが、ボランティアではよく言われることです。あ
るいは、そこまで言わなくても、一生懸命自分の町で奉仕活動をし、入浴サービスなどをしている。でも
自分の親が隣町で寝ているのだったらそちらに行ったほうがいいのではないかと言われたときに、それが
本当にいいことかどうかは、考えは分かれるでしょう。
環境ボランティアもそうです。オゾン層がどうしたとか、京都議定書がどうなったという議論を一生懸
命しているけれども、自分の部屋がものすごく汚れているということではいけないわけです。まず自分の
ことができてからやりなさいと言われています。
ところが、そんなことを誰もができるか、そこも考えたくなります。私もそう思って言っていなかった
のですが、ではこのとき自分の家はどうだったかというと、むちゃくちゃです。家にも入れませんでした。
隣の家の水道棟が倒れてきてうちの家が立ち入り禁止になったので、2か月家に帰れなかったのです。だ
から、「自分の家は」と聞かれるとむちゃくちゃです。でも、今ここで悲しんでいる人がいるのだという
ことも言えるわけです。
だから、ボランティアをやりだしてから初めて実感をもって分かるのは、自分のことと他人さまにする
こととを、簡単に比べてはいけないということです。自分の子供、他人の子供、両方やれたらそれはいい
ではないかと考えて、今の時期はたまたま他人のことばかりやっている、あるいは、今の時期は自分のこ
とを一生懸命しなければならない時期だけれども、長い時間で考えれば両方あってもいいだろうというく
らいの気持ちでやらないと、ボランティアなど誰もできないという気がします。
④西宮ボランティアネットワーク
西宮ボランティアネットワークは、西宮YMCA、関西学院大学、ボーイスカウト西宮支部など、西宮
市で集まった13団体のボランティアに西宮市も入ったネットワークで、西宮市自身もネットワークの一員
になって活動しました。西宮方式と当時いわれたのは、ボランティアと行政が完全に連携するということ
です。「西宮方式」とGoogleやYahooで調べていただくと、出てくると思います。そんなことは当たり前
だとおっしゃるかもしれませんが、当時は珍しいことでした。
具体的にどんなところがよかったかというと、防災計画適用となると、西宮市の例では税務課の方が救
援物資担当と書いてあるので、それは仕方がないから行きますよね。救援物資担当といわれると、市の職
員は、受け入れたもの、出していくものについて帳簿を作ってきちんと記録を残さなければいけないとお
っしゃいます。しかし、西宮市は23万個の物資をゆうパックでもらったのですが、それを全部帳簿につけ
89
るだけで中身は腐ってしまいます。2∼3人の職員でそんなことをしていられません。その周りにはボラ
事
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会
ンティアが100人いるとなったら、ボランティアがしたらいいではないかという話です。西宮市の場合は、
救援物資の係をボランティアに任せ、職員さんは同じように手伝いながら、朝と晩、大体どんなものがあ
ったか、日誌のようなものをつけるだけでいいという感じがしました。
反対に、分担してはいけないところもあります。罹災証明に判を押す人は職員でなければいけません。
しかし、並んで待っているところで「ここが最後です」というようなことはボランティアでできますから、
そんなところに職員に入ってもらう必要はないわけです。また、市役所庁内の倒れた棚を起こしていくよ
うなことはボランティアでできます。しかし、中の書類を点検するのは職員でないとできません。それか
ら、市役所のトイレ掃除の職員さんもいらっしゃいますが、これはボランティアでもできます。それはボ
ランティアにやってもらう。そのように、ボランティアが市役所の庁内に入って活動できたのが西宮です。
⑤西宮市がしてくれた三つのこと
そういうことができたのはなぜかということをお話ししておきますと、西宮市がやったことは三つあり
ますが、今言えることは二つです。言えないことは何かというと、ボランティアに傷害保険をかけてくれ
たことです。今はさすがにボランティアに行く人は、自分で保険に入っていきます。ボランティア保険が
結構広がっています。あるいは、これからお話しする災害ボランティアセンターに行きますとその場で入
れますから、もはや自治体がボランティア保険に入る必要はないと思います。でも、当時はなかったため、
加入してくれたのです。これにはボランティアの間で歓声が上がりました。見ず知らずのところに来て、
被災している市が我々に保険までかけてくれるのかと、そう受け取ったわけです。管理者側からすると、
危なっかしい一般市民に働いてもらって、けがをしたらどうしようということだったのかもしれませんが、
ボランティアとしては感激したわけです。
そして、何がよかったかというと、認知と周知です。認知というのは、ボランティアが来ていることを、
西宮市が正式に認めたということです。市長さんもおっしゃいましたが、西宮市役所の震災当日の出勤率
は50%を切りました。さぼったわけではなく、来られないのです。特に東海道線は速いので、遠くから通
われている方がたくさんいて来られない、それから家族を亡くされているとかということで、無理だった
のです。そのような中で、いざ西宮市が再建しようと思うと、ボランティアの手を借りるしかない。これ
はトップである市長さんの英断でした。これが認知です。自治体でそれぞれのトップが認知してくれるか
どうかというのは大きな話です。
次に、周知というのは、ナンバーツーの位置にある人(市によって部局名は違うかもしれませんが、西
宮市の場合は企画局長)の名前で、「西宮市は、西宮ボランティアネットワークと一緒に救援に当たりま
す」と書いた書類が、全職員に回されたということです。そうすると、すべての職員がそのことを知って
いる前提ですから、どこでも、その場で決定したらいいことはもう決定してくれという話になります。先
ほどの救援物資にしても、体育館2∼3か所分ありましたから全部をやることは無理なので、ボランティ
アがやると言っているのだったらボランティアにやってもらおうということです。ボランティアといって
も、倉庫の組合などからも来てくれているわけです。プロが来てくださるなら任せようという話がローカ
ルにたくさんできてきます。庁内ではロッカーを元に戻すとか、いろいろな細かな話も含めたことが、そ
の場、その場でできたのはなぜかというと、トップが認め、その次に周知をしたということです。これに
はコストは何もかかっていません。この二つが大事だったのです。
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⑥ボランティアがしたこと
ボランティアは何をしたかというと、政治運動をしないということです。市会議員さんがよく訪ねてき
ますが、どの議員さんにも等しく接するということです。「おれのことを知らないのか」と口汚くおっし
ゃった議員さんもいたのですが、よそから来たボランティアは、その市の市会議員なんて知らないわけで
す。市会議員の方々もそれぞれの思いをもって救援されるのですが、特定の議員さんに何かするというこ
とはないということです。
それから、宗教の布教もしないということです。もちろん、クリスチャンの方も仏教徒の方も、宗教団
事
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体からも来られていますが、布教活動はしないということです。
それから、「非営利活動です。お金は要りません」ということを一生懸命言っていって、決め言葉は
「行政も被災者でしょう」ということです。この協力体制でうまくいったわけです。
今来る災害NPOは、大体みなさんそう言います。うそはありません。そこで儲けようと思っている人
もいませんし、変な例ばかりが放送されますが、100万人も行くボランティアの中の1人、2人がそうだ
ったという話であって、全体が危なっかしいわけではありません。そのような形でネットワークを立ち上
げて、それが日本最大級のボランティアネットワークになっていったということです。
4.私が参加した災害ボランティア活動
私は一応学者なので、いろいろな活動のときに、どの災害で何万人来たというようなグラフをお見せす
ればいいのですが、私たちのスタイルは自分が現地に行って自分も活動するものですので、自分が行った
ものだけを書いてあります。阪神・淡路大震災、インドネシアの地震、重油流出事故等です。
重油流出事故が、災害ボランティアを普及させた一番の災害だったと思います。なぜなら、活動が単純
だからです。地震などの場合には、心のケアが必要な人もいれば、けがをしている人もいれば、家の借金
のことで悩んでいる人がいるというように、さまざまですが、重油災害はとにかく人が行って重油をすく
えば何とかなるということで、多くの人が参加しやすかったのです。楽だったわけではなく、かなり辛か
ったのですが、我々の団体はこの辺から、ボランティアのコーディネートに一生懸命になっていきました。
台湾の大地震が1999年にありましたが、これは我々の団体のある意味での絶頂期だったかもしれません。
台湾で地震が起きた当初、日本政府から救援が出るかどうか、国交がないので分からなかったのです。そ
こで、民間が行かなければいけないというので、ちょうど留守にしていた家族に書き置きを残して、その
日のうちに台湾へ向かい、結局1週間行ったままでした。朝の1時の地震でしたが、その日の夕方の4時
には台湾へ行きました。
そこまでする必要があったかは、結果的には大いに疑問のあるところではあります。というのは、台湾
はものすごくボランティア活動の盛んな地域で、震災の当日に3交代で制服を着てボランティア活動を始
めていたのです。2交代目の人に何をしているのか聞いたら、「私は救援している人に夜食を出すのが仕
事です」と、もう分担が決まっていて、このような地域なのかと思って、私は台北から、日本からのボラ
ンティアは来なくていいという発信をしました。そして、自分たちはもう少し奥地に入って救援活動を個
別にしました。日本政府も北京との打ち合わせをしたと思いますが、政府の救援隊を組織して、がれきを
どける人や犬などを、たくさん送り込むことができました。
他にもいろいろなところへ行きましたが、最近の、今日話題に出てくるものだけ言っておくと、2003年
の宮城北部地震。このときには五つの町村が災害救助法の適用を受けました。そして、そのうちの三つが
ボランティアセンターを作り、二つが作りませんでした。三つのうちの二つが災害NPOとべったりくっ
91
ついて作って、あと一つは個人的にやったというものです。要するにボランティアと連携した自治体と、
事
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会
しなかった自治体とがあったのです。
イラン南東部地震は、今日の話にはあまり出てこないと思います。しかし、これも人口の3分の1が亡
くなるというような地震でした。皆さんの町でお考えになってください。それぞれの町の人口のうち3分
の1が亡くなるというと、道行く人が皆遺族です。雰囲気たるや何ともいえない状況でした。今もここの
救援を続けています。我々のほうへかなりのご寄付を頂きましたので、向こうが必要とするもの、子供の
応援をしているので、遊び場や体育館を作るといったことも、物価が違うからできますので、私も時々イ
ランへ行っているという状態です。
地域ができること、市町村ができることが、どんな地震でもあります。例えば、これは教育委員会の方
がいらっしゃるところでお話ししたほうがいいことなのですが、兵庫県猪名川町の白金小学校の2年生が、
4月から総合学習で「外国って何」というような勉強をしていて、地球儀を見たり、いろいろな風俗を知
ったりしていました。そして、12月にこの地震が起こったので先生が機転を利かせて、イランのお友達に
絵を描いてみようという話になりました。そして、描いたけれどもどうするかということで、うちの団体
に電話があり、「イランに行きますか」と言われて、ちょうど私が行くときだったので持っていきますと
いうことで、2年生の子供たちの絵を現地に持っていきました。現地ではすごく喜んでもらえて、また現
地の子が描いた絵を持って帰ってきました。そして、それを神戸で展示しましたら、たくさんの人が見に
来てくださいました。イランの子供たちの手紙もあって、日本で地震があったら助けに行くからねと分か
らない字で書いてあるのです。また、その小学校は、中越地震の際には6年生がマフラーを手編みで編ん
でくれました。
被災地にある小学校として、どうしていったらいいのかということをある先生が真剣に考えていかれた
時に、このような交流が生まれ、そのあとNPOなどが絡んで交流しているのです。別にイランで大きな
地震が起ころうが、あしたの私の生活に変わりはないのです。しかし、それをきっかけに町興しになって
いったり、小学校の活性化になっていったりする可能性があるので、単に地震が起こって救援部隊が行っ
たというだけの話で終わらせてはいけないと思っています。
そして、これからお話しする新潟県中越地震です。
Ⅱ.(特)日本災害救援ボランティアネットワーク(NVNAD)
1.組織紹介
私たちの組織は日本災害救援ボランティアネットワークといって、震災の情報を伝えるということを理
念としてやっています。名前は大きいですが、年間約2000万の予算で動いています。そこから推して知る
べしで、給料を払えている職員は2人です。社会保障等をつけなければいけませんので、手取りはものす
ごく安いです。そのほかは、ボランティアで来てくれている人、アルバイトの人などでやっています。
収入は、会員になっていただいた300∼400人の皆さんからの会費(1人3000円)によって支えられてい
るほか、各市町村や各都道府県から委託をいただいています。災害救援コーディネーター講座など、和歌
山県では何ヶ所かで高校生と一緒に防災を考えるセミナーを企画せよといわれて、100万単位のお金が委
託料で入っているはずです。私たちが行って高校生と一緒に防災について考えるセミナーをやったりする
わけです。群馬県、富山県、長野県、千葉県、大分県、宮崎県などから、講座を例えば5回シリーズでや
りませんかと言っていただき、競争入札で他のNPOも出します。交通費を安く見積もっているところや
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講師の数、謝金が安いところとかいろいろ競争があって、うちが落札するとお金が入ります。それから、
こういうことをやりますといって財団から助成金をもらってくるというようなことで動いています。
私たちが今大事にしているのは、やはり行政や企業と連携した防災活動をすることで、これが一つ大事
な点だと思っています。それぞれの市町村ときちんと連携するほうが絶対に被災者のためにいい。私たち
がいいとか筋が通るという問題ではなく、被災者にとっていいかどうかの問題だということで、西宮方式
でやってきました。被災者の方々を恒久的にケアをしていくのはもちろん地方自治体です。しかし、自治
体であればこそ公平でなければいけないので、個人に何かするのは自治体として無理というときに、ボラ
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ンティアさえ知っていれば、ボランティアの人はそこでやり方を決めなくていいわけですから、ボランテ
ィアが濃淡をつけて救援をする、行政のほうは平らに救援する、これでうまくいくケースが結構あると思
ったのです。それで行政と連携します。企業も同じ理屈です。また、社会福祉協議会との連携の大事さに
ついても、後ほどお話ししたいと思っています。
2.NVNADの活動
具体的には、次のような活動をします。緊急時には国内の場合は災害ボランティアセンターを作るため
に動いてもらっています。国外の場合は2∼3人しかいないような団体が行っても困りますので、神戸の
団体でネットワークを組んで「From Kobe」ということでみんなが頑張っていくということで、イラン
へは神戸のいろいろな団体と一緒に行かせていただきました。
平常時は三つの柱でやっています。一つは災害救援コーディネーター養成講座です。今日は2時間座っ
ていただいていますが、眠くなってしまうので、2コマ目には出てきていただいて、テーブルでワークシ
ョップをやったり、地図を広げて逃げ道を考えたり、そんなワークショップを入れながら3∼4日間のコ
ースを作ってやっていきます。私は心理学者ですが、心のケアをやるのではなく、グループのほうですの
で、必要であれば心のケアの専門家を呼んできて話をしてもらう手配をしたりと、いろいろやっています。
このコーディネーター養成講座は黒字です。
2番目に、地域における防災活動です。これは子供たちと行う活動で、収支はトントンです。100万円
の助成金をもらったら100万円の活動をしているだけで、儲けはありません。
最後に、災害ボランティアのネットワーク化。この週末も名古屋であるのですが、全国各地に結構災害
NPOがあり、この人たちがネットワークづくりをしているのですが、これは赤字です。なぜなら、その
ネットワークのためには誰もお金を出してくれないからです。今回の名古屋の出張費は自分で出さなけれ
ばいけません。
そのように、黒字とトントンと赤字で何とかやっている感じです。
Ⅲ.中越地震救援活動から
1.改めて、はじめに
まず、災害が起こります。これは、自分の町が災害に遭ったら、このように人が来てくれてこのように
するのだなと聞いていただいてもいいし、例えば静岡で大きな災害があったら、うちの町からどう派遣す
るかということを考えていただいても結構です。緊急時の活動ということでお話しします。
阪神・淡路大震災(1995年)の時には、100万人以上のボランティアが来てくれたということで、メデ
ィアはこぞってボランティア元年といっておりました。学者ぶったことを言いますと、元年でも何でもな
93
く、関東大震災(1923年)の時もたくさんのボランティアが活躍しています。それから、忘れてはいけな
事
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いのは、島原で雲仙普賢岳が噴火した時にも、ボランティアはたくさん行っているわけです。ただ、神戸
という日本で住みたい場所としていつもランクが上の、みんなが知っている町、あの美しい神戸等々、い
ろいろ形容できますが、そこに100万もの、しかも若者を中心とした人たちが集まったということでボラ
ンティア元年と言われているわけです。ボランティアがなかった国ではありません。でも、その集中の度
合いが大きかったのです。
あれから10年経ち、災害救援活動にボランティアが参加することは、もはや当たり前になってきました。
当たり前ではないという意見ももちろんあるかもしれません。住民の側にもあります。何のために税金を
払っているのかという住民もよくいますし、税金で防災を頼んでいるのだから、なぜ私が防災しなければ
いけないのか、行政でやってくれというタイプの人もいるかもしれません。でも、大まかに見れば、まず
ボランティアの人たちを交えて救援活動をすることは、それほど変なことではなく見えると思います。
2.災害ボランティアの10年
災害ボランティアの周辺で起こったことをまとめてみると、1995年は、助ける−助けられることの反転
があった時期でした。多くの方がボランティアに行って、助けているつもりが助けられたと思って帰って
きたわけです。人間の温かさを知った、頑張れると思った等々、被災者に教えられた人はたくさんいます。
だから、ボランティアは一方的に助ける側ではありません。助けるつもりで行っているのに、教えてもら
うことはたくさんあって、それが学生などにとってはすごくいいことだと思っています。
1997年の重油流出事故では、たくさんの人がボランティア活動に行くようになり、活動が大衆化しまし
た。そして1998年、1999年には特定非営利活動促進法ができ、特定非営利活動法人といわれるようになり
ました。うちの団体は、実は兵庫県での第1号認証です。このような法律ができて、法人にしてくれるの
だったら1番を取ろうというので前日から並んだのです。これは裏を返せば、絶対つぶれたら困ると、私
たちや私たちを支えてくれている人は思ったのです。第1号のNPO法人が兵庫県でつぶれてはいけない
だろうということで、絶対にここは1番になっておいて、このような組織が大事だということを言ってい
かなければいけないと思って並んだのです。
そうこうするうちに現場のほうも変わってきて、ボランティアが来て混乱するということはだんだんな
くなってきました。1998年には東北で水害があって、私たちも行きました。これも家族に迷惑をかけてい
ますが、大学に行って仕事をしていると、今だったら携帯に連絡が入って、「どこそこで水害発生」と来
るのです。私たちはすぐ行っても何の役にも立たないのですが、やはりすぐ行こうということになります。
そうしたら、家に今日は帰れないと話をして、そこから夜行バスに乗って東北に行ってしまうわけです。
このときは栃木県まで行って、ボランティアセンターを作ることをやったのですが、この頃からたくさ
んのボランティアさんが来てくれるのが当たり前になりました。そうすると、受付がしっかりしていない
と混乱しますので、そのためにボランティアセンターを作るわけです。ここでは、お決まりのしなければ
いけないことがあります。保険に入らなければいけないとか、住所や電話番号をきちっと聞いておかなけ
れば、救援に行ったまま帰っていないということもありますから、きちんと家に帰ったのかどうか、全部
フォローしているわけです。また、注意事項を皆さんに言わなければいけないということで、ボランティ
アセンターを必ず作るということがこの辺からできてきました。
災害NPOのネットワークは、5年経ってやっとできてきました。そして、現在は、内閣府と災害NPO
との懇談会が連続して開かれており、私もその委員として出席しています。本職の方で出ますから学識者
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といわれますが、半分NPOの人間ですから、災害NPOとしても呼んでいただいて、国の委員会なので
NPOと国とが丁丁発止の論争が繰り広げられています。
国のほうとしても災害の多発で、台風23号による災害が各地で起きた時には、瞬間的な統計ですが、全
国で56か所でしたか、災害ボランティアセンターが設置されました。そうなってくると、政府も黙っては
いられません。兵庫、新潟、福井など、各県で災害ボランティアセンターが立ち上がっていて、どうしよ
うと言っていたら、10月23日には中越地震が起こって、さらに立ち上がって…、ということになりました
ので、国としてもどのような対策を打つかということを検討しているわけです。
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この辺には私どもが納得できないロジックもあって、こういうときには国から幾ら出すとか、こういう
保障をするという法律を決めてくれるのはありがたいけれども、我々としては神戸で起こったことをもう
一回見つめ直し、一つ一つが触れ合った温かさを取り戻さなければいけないのではないかと思っているの
です。しかし、国の流れとしては、ボランティアを保障する制度を作っていこうとしていますから、ます
ますボランティアは組み込まれていくと思います。
3.阪神・神戸であったこと
神戸の震災では、来てくれて当たり前の消防車が来てくれない、救急車が足りないなど、まず既存シス
テムが崩壊しました。行政も被災者だというのはそのとおりで、通常の事務ができない中で仕事をされた
わけです。
それから、偶有性の感得というのは、自分が死んでいたかもしれない、偶然自分だったかもしれないと
思うということです。これは、普通では感じないことですが、JR西日本の事故の時、あの線路を毎日通っ
ておられる方の中には、感じた方がいらっしゃるのではないでしょうか。阪神大震災もまさにそうでした。
自分の上にたまたま柱が落ちてこなかっただけで、隣の家は落ちてきたからあの人が死んだというのがあ
ちこちであるわけです。自分かもしれないということが思い浮かぶ、これがかなり大きなことです。
4.中越地震救援の特徴
中越のことをなぜこんなに言うかというと、今も進行中だからということもありますが、考えてみると、
この10年で初めてのパターンの災害だからです。
支援が複雑で、しかも長期にわたる災害は、これまであまりありませんでした。重油流出事故などはす
くうという単純作業ですし、たくさんでやればやるほど短期で済みます。水害も基本的には泥を出して片
付けるということが中心になりますから、ある程度単純に早く終わっていきます。本当はそれが終わって
からの被災者復興支援が大事なのですが、普通ボランティアが出てくる場面は単純で短期です。
しかし、複雑で長期にわたるというのは、例えば三宅島の噴火がそうです。ようやく島民が三宅島に帰
ることができるようになりました。帰るのはいいのですが、家族がついてきてくれない、東京で進学する
など、個別の複雑な問題が絡んでいます。しかも長期、5年以上たってやっと家に帰っているわけですか
ら、5年、10年というスパンです。
中越も全く同様で、山古志村が全村避難をされたことは記憶に新しいと思います。あの山古志村の方々
はこれから何年経ったら帰れるのか、そもそも帰れるのかという問題があります。何年かかるか分からな
い、長期であり、そして支援は複雑です。なぜなら山古志村の方々は、本当は帰りたいのかどうか分から
ないからです。多くの人は帰りたいというのですが、この際、都会に住もうかという声も聞こえてこない
ことはありません。
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それから、コイを飼っておられますが、どこでコイを仕入れるのか、幾らで取り引きされているのかな
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ど、複雑すぎて分かりませんので、下手に第三者がレポートしても、全然中身に通じた発言にならないの
です。このように、複雑で長期にわたるというのは、珍しい災害なのです。
5.救援活動の特徴
私たちは、中越でも災害ボランティアセンターの設立を行いました。災害NPOは設立から10年経って
いましたから、その間のいろいろな知恵を持って、大抵の町では社会福祉協議会に行って、そこに災害ボ
ランティアセンターを作りました。長岡市、小千谷市、川口町を中心にお話しします。災害NPOの中に
は、災害ボランティアセンターから独立した活動を展開していたところも幾つかあります。私たちは
「KOBEから応援する会」というものを作っていきました。私たちの団体はずっと長岡市にいて、長岡市
に避難されてきた山古志村の方々などと接しています。
6.災害NPOとの連携
宮城県では、五つの町が被災しました。そのうちの一つ、南郷町はNPOとの連携が非常にうまくいっ
たところです。裏話として町長さんが海外出張中だったということもあったのですが、発災翌日には災害
NPOが社会福祉協議会と連携するということが公に決まって動き出しました。1970人のボランティアが
やってきて、ボランティア活動者数が2261人ということは、ここに行けば1人1回以上何か仕事があった
のです。つまり、ボランティアがうまく回転していたということです。ところが、矢本町は724人のボラ
ンティアさんが駆けつけてくれたのに、266人しか動いていない。500人は何もできなくてボランティアセ
ンターでじっとしていたわけです。ではニーズは少なかったかというと、人が欲しいという依頼は227件
来ています。724人もいるのだったら、それをどんどん出したらよかったのですが、うまく回らなかった
わけです。
ニーズとはどのようなものかというと、ブロック塀を起こしてくれといわれて行ってみると、大きな家
におじいちゃんとおばあちゃんが2人でお住まいで、ブロック塀が倒れて車が入らない。でも、ブロック
を一個一個直すなんておじいちゃん・おばあちゃんはできません。そこで、体の強い人が行ってブロック
塀を片付けて帰る、それで1件です。
南郷町では、そんな活動が303件あって、2261人が派遣できました。矢本町、河南町はどちらも人数が
余ってしまいました。コーディネートがうまくできなかったわけです。この2町には、ボランティアセン
ターが常設されていました。センターといってもヘルパーさんなどがいる福祉のボランティアセンターで
す。だから、発災時にはそれではいけないわけです。交野市にもボランティアセンターがあって、ものす
ごく活発に活動しておられます。それはそれで平常時はいいのですが、災害時は災害のボランティアセン
ターを別口で作らないと大変なことになるということです。
鳴瀬町は、災害NPOの方が入ってしっかり取り組まれたのですが、組織の名前を出すと町が受け入れ
てくれないので個人の資格で入ってくれと言われて、個人で入っていろいろと指導されたようです。ここ
も280人(受付数)と489人(活動者数)とうまくいっています。
鹿島台町は私も行って大変困ったところですが、トップの方が「自分のところには日ごろから介護など
をやっているボランティアセンターがある」とおっしゃって、頑として譲らないのです。「デイサービス
などを近所のお母さんにやってもらっている既存のボランティアセンターでいける、災害ボランティアセ
ンターなんて要らない」とおっしゃるので、「違う」と言ったのですが、「イメージがわかない」とおっし
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ゃって、1日、2日と過ぎていき、何とか説得してやったものですから、センターを作るのが1週間遅れ
たのです。ですから、南郷町と鹿島台町と被害の程度は一緒なのですが、けたが違います。動き出してか
らのことを書いてあるので、受付数が317人で活動者数340人と、1人1回以上活動できていていいのです
が、ニーズが32件と規模が小さすぎました。
半年後に、「大阪大学の人間ですがインタビューさせてください」と電話をしたところ、ある町は「ど
うぞ来てください、うちは視察ラッシュで対応する職員もつけています」とおっしゃいました。行ったら
新聞社も来ていて、「みんなでどうやったら連携できるのか、取材も受けています」と言って自分のとこ
事
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ろのパンフレットなどを出して手慣れたものです。ところが、別のあるところは、「今度からきちんとや
りますから、頼みますから取材はやめてください」というような対応でした。同じような被害を受けて、
同じように行政組織があって、同じように社会福祉協議会があり、同じNPOが行っているわけです。で
も、対応が少し違うだけでこんなに活動に差ができてしまったということです。何も私たちが活動できた
らハッピーなわけではなくて、被災者にとってどうかということです。32件の家のブロック塀を起こすこ
とも大事かもしれません。しかし、うまくやれば三百何軒片付いたかもしれないのです。
インタビューに行って、なるほどその通りだと思ったのは、南郷町はうまくやったとみんなから言われ
て鼻高々で、そうなると町民の方々の意識が上がっていたのです。今まで町内会の連合会のようなものが
たくさん町の中にあって、地区別会などをやっていらっしゃったのですが、それに災害のことを入れて、
地区の祭りなどに災害のことを入れたりして、自主防災組織を自分たちで活性化するようになったのです。
宮城県は99%地震に襲われると言われています。今いちばん来る確率が高いのは宮城県です。私たちも
これは練習になるといって出動したのですが、この宮城県の中で、それぞれが自分の家を点検して、もう
一回地震があった時には二千何人もお世話にならなくて済むようにきちんとやろうと頑張っていらっしゃ
るわけです。他の町ではそういう話は聞いたことがありません。このように、ボランティアと連携したこ
とによって、後々までよかったというデータだと思います。
7.救援活動の事例
日本災害救援ボランティアネットワーク
中越の話に戻します。私たちは、中越地震の翌日、10月24日に飛行機で現地に入りました。そして、長
岡市で災害ボランティアセンターを作り、山古志班を作って、福島県のNPOと連携して活動していくこ
とになりました。そして、1か月後ぐらいからは「KOBEから応援する会」を作って中越復興市民会議を
行っています。
災害ボランティアセンターは、1ヶ月経てば解散すべきです。ずっと持っている必要はありません。た
だ、最初の大変な時、1週間なり、2週間なり、当座は持っておいていただくと、後がスムーズにいきま
す。長岡の場合も、1か月経てば解散するだろうと思いましたので、私たちは別口の「KOBEから応援す
る会」を作ったわけです。
①緊急期(地震翌日∼)
福祉センターは、どこの町にもあります。10月24日に行って、社会福祉協議会の方と協議してここを使
おうということになり、ここにボランティア受付を設けました。これが10月25日の話です。行政にボラン
ティア受付カウンターは全然必要ありません。ボランティアが放っておいても作ってくれます。受付のテ
ーブルと後ろで座るイスぐらいは用意してあげてください。そこで何を書いているかというと、受付票を
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書いているのです。私たちが持参するコンピュータの中には、ボランティア受付票やニーズ調査票などが
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入っていますので、それをプリントしてもらってコピーすればすぐできます。今後はダウンロードできる
ようにホームページに上げていくことも計画していますが、このような書類は、NPOが持ってきてくれ
る場合が多いです。受付をしている人は行政の人ではなく、ボランティアの人です。ボランティアがボラ
ンティアを受け付けるということでいいわけです。
ボランティアの方は、ボランティアと書いた「たすき」のようなものをつけます。名札などはたくさん
用意する必要はありません。蛍光色のガムテープなどを私たちは使っていました。ガムテープに名前を書
いて切って張ればよいだけですので、マジックを用意していただく程度で大丈夫です。
センターの壁に、「何々町何丁目の方がブロック塀を片付けてほしいと言っています」とか、「周辺の物
を片付けてくれ」とか、「家の中の片付けを手伝ってくれ」といった情報を張り出します。職安のような
ものです。「私たちは3人で来たのですが、力仕事だったらできます」という人に、「力仕事3人必要」と
いうところに行ってもらうというような、マッチングをするわけです。
受付で書いてもらうのは、住所・氏名・連絡先・携帯番号、それから例えば英会話など自分のできるこ
とや、4輪駆動車に乗っているとか、8人乗りに乗っているというような自分の特徴です。医者や看護師
と書かれた方には別の動きをしてもらいますが、その時々に必要な専門が出てきますから、専門と、いつ
までいられるかを書いてもらいます。また、その人自身に保険が掛けてあるかということを聞いていきま
す。掛けていなければ、その場で500円払えば掛けられます。そのようなことを準備していくのが我々の
仕事です。
なぜボランティアをこんなにきっちりするのかというと、被災者の身になって考えれば、家にボランテ
ィアの人たちが「片付けましょうか」とやってきたときに、「あんただれや」と思うでしょう。ですから、
ボランティアに行く人には、「この方はボランティアセンターで登録された何々という方です。何か疑い
のある場合はボランティアセンター何番へ電話ください」と書いた刷り物を渡します。疑いを持たれた場
合には電話がかかってきますから、「本物ですよ」という話をするわけです。
ボランティアさんが帰ってくると、どのような活動をしたか、報告を書きます。1日で終わるはずが2
日かかり、自分は帰らなければいけないということであれば、また明日の募集のところに張っておきます。
このような単純なことです。ただ、それを誰がするかが問題なだけなのです。まず、場所を貸してあげ
ていただきたい。それから、ちょっとした机やイス、文房具を貸していただければあとは流れます。
組織でいうと、普通トップは社会福祉協議会の事務局長さんです。なぜなら、この人は災害対策本部に
も出入りをしますから、災対本部のようすがよく分かります。そして、現場のトップは地元のNPOの人
にやってもらいます。ですから、皆さんの場合であれば、自分の町にはどんなNPOがあるか考えていた
だいて、それは災害NPOでなくとも、まちづくり団体や園芸の会など、何でもいいのですが、日ごろか
らコミュニケーションがあって行政の職員さんから見て付き合いやすいNPOの方がいらっしゃれば、そ
の方に中に入ってもらえばよいわけです。そうすれば行政の言うことも聞きますし、地元のNPOだとい
えば、よそから来た我々NPOは絶対に文句は言いません。地元の人がやっているのだったらそれでいい
ではないかという姿勢だからです。そして、その次の実質の中間管理職は、社協の若手のやり手です。大
体1人ぐらいはいるはずです。その下で私たちは動くわけです。私たちは毎夕のミーティングで、今日の
活動はどうだったかという話をするのですが、ここに社協の局長さんが来られます。行政の方々もここに
来てお話をされたらいいのではないでしょうか。
これは何がよかったか悪かったか、大まじめに反省しているところで、外部から行っている我々も意見
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を求められれば言います。しかし、大抵はよそ者が発言してもあまり意味がないので、悩んでいるようだ
ったらやり手の事務局員を呼んできて「あなたはどう思う」という話を横でそっとしたりするのが、私た
ちのように外から来た災害NPOの役割です。私たちは決して表には出ないという形で、地元の人中心に
やっていただきます。だから、あまりもめ事もなくいくわけです。
ボランティアが派遣された先は、避難所、救援物資の集積場、ボランティアセンターでの炊き出しです。
ボランティアの人たちも食べ物がありませんので、炊き出しなどの寄付をいただいてやっていました。
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②1か月後∼ KOBEから応援する会
私たちは、当初から、デイサービスなどに支障をきたしますから、福祉センター内にある長岡市の災害
ボランティアセンターは、1ヶ月もすれば閉めるだろうと考えていました。そうなると、ボランティアの
拠点がなくなります。かといって、私たちが長岡と名乗るわけにはいきません。そこで「KOBEから応援
する会」というものを作り、仮設住宅のすぐ横のビルを借りました。家賃が15万円かかるのですが、あり
がたいことに私たちの団体は、震災直後に寄付金をお願いしたところ、支援金を得ることができました。
義援金というのは被災者に行きますが、支援金というのは「我々の活動を支援してください」と言って集
めますから、我々が頂くことになります。FM802とかいろいろなところで言っていただいて、300万円も
のお金を皆様から頂きました。お1人1000円ぐらいなのですが、「自分は行けないけれども頑張ってね」
という方々のお気持ちが集まって、三百五十何万円になりました。それは大学生たちが現地に行くことに
主に使わせていただき、交通費などの一部をカバーしたのですが、現地ではこのような事務所を借り、い
ろいろ活動することにしました。私たちがまずしたことは、「こういう事務所がありますので、どうぞよ
ろしかったら来てください」と救援物資のタオルを持って、仮設住宅を一軒一軒回ることです。それに応
じて、皆さんが余った救援物資を仮設住宅からもらいに来てくれています。
また、「KOBEから応援する会」に芦屋のお金持ちの方が150万円の寄付をしてくださって、ルミナリエ
にできるだけ多くの人をご招待したいというので、我々現地にいた者は越後交通にバスをチャーターしに
行って、1台神戸へ行くのに幾らかかるのか、乗るのは被災者なので何とかまけてくれませんかというよ
うな話をして、仮設住宅にチラシを配って回り、新潟から送り出しました。神戸のほうでは、大阪大学の
学生たちがずらっと並んで待っていて、そこでルミナリエをみんなで見るということをさせていただきま
した。60人で1泊していただいて、ちょうど150万円です。
また、事務所にはイスなどの備品が何もなかったのですが、それをご覧になったある企業の社長さんが
突然やって来られて、「こんな殺風景なところで活動していてはいけない」と、全部その社長さん個人の
寄付で、早速ソファーなどの調度品を買い揃え、電話も一本引いてくださいました。
また、UCC(上島珈琲)さんは、神戸が本店ですから、厚かましく電話しましたら、コーヒーを文字ど
おり無限に寄付してくださいました。毎日、点検試飲で飲んだ分のレギュラーコーヒーをいつまでもくれ
るということです。仮設から、多い時ですと何十人という方が来られてそのコーヒーを飲みながら、ソフ
ァーに腰掛けてお話しされます。嫁の悪口、うちの漬物の作り方に始まり、来年の作付けはどうだとか、
いろんな話をお年寄りのみなさんがしている。私や学生は横で話を聞いているだけです。「おいしいコー
ヒー入りました」と張り紙をして、そういう場所を演出しているわけです。
それから、学生が行っているバレンタイン企画というのがあって、チョコレートを配っています。これ
もまた、芦屋のアンリ・シャルパンティエという洋菓子屋さんに電話をしたら、おいしいお菓子を500人
分送ってくださったのです。学生は一枚一枚手紙を書き、それを添えて配りました。だから、学生も苦労
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をしているのですが、そのように交流をしていきました。
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また、白金小学校というイランの地震のときに絵を書いてくれた小学校の6年生が、マフラーを作って
くれました。でも、掛けてみると短いのです。犬のマフラーぐらいにしかならないのではないかというも
のだったのですが、中に手紙が入っていました。寒さは防げないけれども、気持ちだということでそれを
壁に張ったところ、被災された方が来られて手に取って眺めて涙ぐんだりしておられました。そのような
空間を演出することは、私たちボランティアができることではないかと思ってやっていました。
③5か月後∼ 中越復興市民会議
もう雪は解けていますが、できるだけ市民の方のやり方にしたがってということで、中越復興市民会議
というものが3月22日から動いています。小千谷市や川口町の行政と連携するという大前提のもとで、被
災者の声を届けたいということで、住宅の問題、農地の問題、子供の問題、そして復興の問題を扱ってい
る会議です。これが一つのNPOとして立ち上がってきました。
8.今後の応援
①被災者中心
NPOは、まずはやはり被災者中心でなければいけないと思っています。道路の敷設、インフラ整備、
学校の建設等々、行政にしかできないことは数多くあります。それはやはり行政にしっかりやっていただ
きたい。ボランティアには学校は建てられないし、道路は造れないし、水道も引けません。その辺は行政
の仕事です。しかし、被災者を中心に1人の人にこだわって何かできるかというと、行政には無理が出て
くるところがあるでしょうから、そういった点については私たちNPOが被災者中心で見ていきます。
②外部からの応援であることの自覚
よく山古志村は日本の原風景とか、素晴らしい田舎だといわれます。ついつい私たちも「あの日本の風
景を取り戻したい」と言ってしまうのですが、それはある意味では大きな間違いです。なぜなら、今、山
古志村の方々にとっては、次の作付けはいつできるのかということのほうがよほど問題だからです。要す
るに、原風景を戻したいなどとは思っていないのです。まずは自分たちが食べるものが植えられるのかど
うか、私の家に幾ら保障が出るのか、そのことのほうがよほど大きな話なのです。だから、外部から行っ
た者が、素晴らしい町だから残しましょうなどとは、まだ言えたものではないのです。
これは行政の方々も私たちもお互いに反省しなければいけないのですが、家の復興のための給付金制度
や、年間何万円未満の収入がある場合でどうだと、固い言葉で要件が並んでいます。そういうものが幾つ
もあり、難しい本みたいになっていて、どれを使ったらいいか見てくださいと言われても、お年寄りの方
には分かりません。
その時に、「おばあちゃんの家だったらこれじゃない?」と言ってあげる人が1人いるだけでどれだけ
ありがたいか。おばあちゃんの話をいろいろ聞いて、「それならこの制度で幾ら」という話をしてあげれ
ばよいのです。行政としては、制度を作ってやっているではないかと言うのだけれども、見ているほうは
分からないというときのつなぎ役を、私たちができるのではないかということです。
③忘却への抵抗
道路ができて、山もきれいになった、田んぼも80%回復した、だから復興は終わりというような支配的
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な物語に入ったのでは困ります。困っている人はずっと困っているのです。最後の1人まできちんと対応
できるかというのがボランティアの世界です。
Ⅳ.防災に努めるボランティア∼地域防災活動に工夫を!
1.防災ボランティア活動
防災については、よく「自分の身は自分で守る」といわれ、「防災をするのは市民の義務」とみんな言
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います。本当でしょうか。それから、防災の講演会をいろいろな町でさせていただくと、「いい話を聞き
ました。家に帰って呼びかけます」と言って帰られる人がいます。でも、家に帰って隣にお住まいの方に
「防災しなければいけない」と言っている人はいないと思います。そんなことを急に言われても、隣の人
も困ります。だから、防災というのは、あまりまじめに考えているだけではいけないのではないかという
のが私たちの発想です。
まず、「自分の身は自分で守る」。その通りなのですが、例えば障害をお持ちの方はどうですか。この言
い方をすることによって、障害をお持ちの方には大変つらい思いをされるかもしれません。新しくお住ま
いになった方、あるいは外国語を母語とされている方などなど、多くの方と同じような住み方をすること
が困難だという段階にある方もいらっしゃるわけです。そういうときに、自分の身は自分で守ったらいい
というのは、格好いいけれども難しい。
それから、自分の身は自分で守るが正しいのだったら、阪神大震災の時、6000人も死んでいません。自
分の身を自分で守れなかったから亡くなったわけです。だから、へ理屈ですが、「自分たちの身は自分た
ちで守る」くらいにせめて変えておかないと、個人のことにしてしまってはいけないというのが私たちの
一つの考えです。これは言い過ぎかもしれません。最後の最後、生きるか死ぬかといったら自分ではない
かとおっしゃるかもしれませんが、気概としては自分の身を自分で守ると言い切っておしまいにしないよ
うにということです。自分の身は自分で守るというけれども無理ですよね、だから自分たちで守りましょ
うねというぐらいの幅を持ったものでないと無理ではないかと思います。
それから、「防災するのは市民の義務」。それはそうかもしれませんが、だからといって押しつけている
だけの行政も能がありません。義務だから何でもやれというような簡単な説得はありません。義務だけど
できないという人がたくさんいる、その人たちにどうしていくかということのほうがよほど大事ではない
かと思っています。
ただ、実際には自分たちの身は自分たちで守っているのです。阪神・淡路大震災で埋まった人のうち、
6∼7割の人が近所の人に助けられています。消防隊や自衛隊が助けた人は2∼3割にすぎません。とい
うことは、やはり近所の人同士が助け合っているわけで、これは捨てたものではありません。JR尼崎駅の
事故でも、やはり周囲の人が出ていって助けてくださいました。そのこと自体の善し悪しは別として、現
状としてとにかく近所の人が飛び出して助けるということがまだできる国なので、むしろ施策としてはそ
ういうことがもっと起こるようにやるほうがよく、自分の身は自分で守るべきだというだけでは頼りない
のではないでしょうか。
そう言いつつも、「防災は大事ですか」と聞くと、恐らくここにいる皆さんは「大事です」と100%おっ
しゃると思うのですが、「ではご自身のお家を防災されていますか」と聞くと、言葉に詰まる人もいるの
ではないでしょうか。非常持ち出し袋はありますか。お風呂に水をためて寝ているでしょうか。ペットボ
トルの水を買っているでしょうか。備蓄を考えた量の缶詰が置いてあるでしょうか。あるいは、家族との
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間でもし地震が起こったらどこに集まるかということを打ち合わせておられますか。遠くに家族がいると
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いう場合もあるでしょう。阪神・淡路大震災は午前5時46分に起こりましたから大体皆一緒にいましたが、
昼間に震災が起こりますと皆バラバラですから、どこで落ち合うかというようなことを日ごろから打ち合
わせておく必要があるわけです。
普通であれば、こんなことをやってくださいねと言うのが研修かもしれませんが、そんなことはできな
いのが普通ではないかと私は思います。では、それも踏まえた上で何かうまく防災をしてもらえる方法が
ないだろうかと考えたのが、次にお話しするワークショップなのですが、その背後には私の小学校の避難
所での体験があります。
2.避難所でのボランティア活動
私は西宮市立安井小学校でボランティアをやったのですが、お風呂を焚くという活動を1月22日ぐらい
から約1ヶ月、泊まり込んだりしながら続けました。グラウンドにブロックを置いて、その上にドラム缶
を置いて水を入れて、下でまきを燃やす。そのお湯をユニットバスまでバケツリレーで持っていって水で
うめて適温にして入ってもらう。そこでたき火をして暖を取ってもらうということの繰り返しです。
市役所に近い都会の真ん中のどこに木があったのか。私たちの仕事は、チェーンソーを渡されて壊れた
家に行って柱を切ってくることです。もちろん許可はもらいます。うちの家を切っていいよというおじさ
んがいれば、何丁目ですかと聞いて、そこに行って木を切り、それをリヤカーに積んで帰ってきて燃やす。
この繰り返しです。私はチェーンソーなど使うのも初めてで、下手くそでしたが、木を切っていると下か
ら三輪車が出てきたり、目も当てられない風景はいっぱいありました。でも、燃やさないとお風呂に入れ
ませんから、1ヶ月それをやりました。
この避難所には1200人の避難者がいて大変でしたが、問題事も起こらずうまくいったのは、地元の体育
振興会が頑張ってくれたからです。自主防災組織ではなく、老人会でも婦人会でも何でもなく、体育振興
会です。ここはすこぶる体育振興が盛んなところで、運動会や盆踊りなどを体育振興会主催でやってこら
れたのです。体育振興会の人は、野球やソフトボールが好きとか、子供が好きということでやっていらし
て防災組織ではありませんが、日頃からやってきて地域のことをよく知っているので、避難所となったと
きに見事に対応できたのです。
このことから学んだのは、平常時から防災、防災と言って消火器を持って訓練している人だけが防災を
やっているわけではなく、地域でいろいろなことに頑張っている人たちみんなを防災の範疇に入れて考え
なければいけないということです。
3.地域における防災活動∼わが街再発見ワークショップ
わが街再発見ワークショップのキーワードは、「防災と言わない防災」です。我々のこの活動に目をつ
けてくださって、損保協会ではビデオを作ってくださいました。また、朝日新聞と一緒になって、全国マ
ップコンクールを開いています。町に通達が行っていますでしょうか。朝日新聞には告知が出ましたが、
それぞれの小学校単位でワークショップをし、アウトプットはわが街の地図なのです。この地図の全国コ
ンクールを去年行い、1月17日震災の日に文部科学大臣賞や朝日新聞社長賞を差し上げました。小学校の
ために頑張っていただきたいと思ってやっているのですが、私たちはそのアイデアだけを出しました。お
金を出してくださったのが損害保険協会と朝日新聞です。
1997年に、須磨で少年が首を切るという不幸な事件があって、そこの子供たちがおびえて外で遊ばなく
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て困るという話がありました。その気持ちはよく分かるということで、町の安心や安全を高めるための活
動をいろいろされていて、我々もそこに呼んでいただきました。私たちは、1999年から阪神・淡路ルネッ
サンスファンドという助成金を50万円ほど頂いて、日曜日の朝に活動しています。土曜日までの間に我々
NPOや大学の人間、須磨区役所、須磨の消防署、警察、PTA、子供会などに集まっていただいて、どこ
に消火栓があるのか、どこに防火水槽があるのか、どこが危ないのか、防災の勉強をしておきます。そし
て、日曜日の朝になると子供たちがやってきます。おじさんがボランティアで1人入って、「みんないつ
もどこで遊んでるの?」と聞くと、子供たちは「何々公園で遊んでる」と答えてくれます。そこで、わが
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街再発見ですから、「今日、おじさんと一緒に探検隊になってくれないか」と話をするわけです。私たち
NPOで、大発見シールとか、突撃インタビューシートとか、デジカメとかいろいろなものを用意し、こ
れをだんだん与えていって、子供たちが街の探検隊になります。おじさんは何も知らないことになってい
ますから、おじさんを連れて回って一緒に探検しようかというふうになっていくわけです。このように探
検隊に仕立てていきます。
子供たちがいつも遊んでいる公園に連れてきてくれればしめしめで、普通なら見過ごす防火水槽を彼ら
は今日は発見します。「大発見!」とか言うと「何、何」と寄ってきて、「ちゃんとメモを取っておきや」
と言います。大発見シートにスケッチを描かなければいけないわけです。子供たちはそれを描いて熱心に
勉強しています。私たちが「防火水槽って何や?」と聞くと「知らん」と言います。そう言ったときに、
後ろに消防のおじさんが通りかかります。このおじさんに聞いてみようかということになります。おじさ
んは当然よく知っていて、「よく知っているなあ」という話になって、防火水槽だということが分かって
きます。
このときに、この消防隊員の方に固い話をされたら困るのです。「皆さんがお立ちになっている足元に
何万トンの水量を誇るものが埋蔵されております」では、子供は「はあ?」という感じです。だから、こ
のおじさんにもいろいろ言っておいて、「今みんなが立っている下はプールみたいになってるんやで」と
言うわけです。「うそ、だれが泳ぐん?」とみんな聞いてきます。そこで、「泳ぐんちゃうがな。もしこの
辺で火事があったらどうする?ここの水を使うんや」と、子供はそのようなノリで勉強していきますから、
それを消防の方にも教えていただきます。
消火栓を発見したら開けてみたりもしますし、子供110番などのステッカーも発見できます。これも傑
作です。「子供110番って何や?」と聞いたら、低学年の子が真顔で答えてくれましたが、「あのな、私、
子供やろ、だから110番をかけたら忙しいからお巡りさんが来てくれへん。ここのおばちゃんが来てくれ
る」、だから子供110番だというのです。「うちのお父ちゃんが110番したらちゃんと警察が来てくれる」と
いう解釈をしているわけです。これは大きな間違いです。だから、きちんと連れて行って、そのときに突
撃インタビューです。ピンポーンと押したら、おばちゃんにはきちんと言ってありますから、子供110番
のおばちゃんが出てきて、それは違うと教えてくれます。
地域でしたら、消防団にも出てもらってはっぴを着て待っていてもらいます。その場を通るように誘導
していきますから、「あれ、こんな人たちがおるの?」というのも発見です。そのようなことをしながら、
街の様子を発見していくわけです。
そして昼ご飯を食べて、この写真を使って地図を作っていきます。地図づくりでできたものを言います
と、向かって左の地図はタイトルは「さざえぼん」となっています。これは小さなマスコット人形の名前
です。この中の1人がその人形を持って来たので、ボランティアさんのアイデアで、必ずさざえぼんと一
緒に写真を撮ったのです。だから、この地図はさざえぼんの大冒険になっています。誰が見ても消火栓の
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ところにばかり行っているので防災マップなのですが、さざえぼんの大冒険ということで、防災というこ
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とはそんなに言っていないけれども、防災のことが分かる地図になっています。
また、別のグループでは、子供が得意げな顔をしています。これは分かったのですね、「災害防止マッ
プ」と書いてあります。この子らは小学6年生だと思いますが、子供だましにはあわないよという感じで、
これは災害地図だ、災害防止は任せておけ、みたいな話をきちんとしてくれます。
このように発表したあと、子供会の人が「みんなよく頑張ったね、災害というのはね」という話を少し
したり、消防の方に消防車に乗せてもらったりして1日楽しみます。我々NPOは関西電力にご協力をお
願いして、わが家の防災手帳を作ってもらったので、たくさんもらってきて、「お母さんに渡してね」と
言って子供たちに配りました。そうすると、家に帰っても話をしてくれるかなという感じです。
子供たちに向かって、自分の身は自分で守らなければいけないと言って、防火水槽はこういう仕組みに
なっているということを黒板で教えていたのでは、なかなかこうはいきません。ただ防災のことを教える
のではなく、子供たち自身が楽しんで防災のことを身につけていく、これを防災と言わない防災と呼んで
います。
これは防災ばかりではなく、環境が大変な街だったら環境と言わない環境をやってみたらどうでしょう
か。川の縁に落ちている空き缶拾いを、空き缶清掃奉仕などという言い方をするのではなくて、空き缶探
検隊とか何かにして、どんな缶が落ちているか、珍しい缶を集めてきた人に何とか賞とか、いちばん大き
な缶を持ってきた人に何とか賞をあげるようなコンテストをやってみればよいのです。そして、みんなが
集めてきた缶で同じものがいっぱいになったとします。そこで、なぜこんなにたくさん缶が落ちているの
だろうということを話せば、環境のことを勉強してくれると思います。ほかにも、人権と言わない人権、
平和と言わない平和などなど、分かっているけれどもなかなかできない時にこういう手が使えますよとい
うことです。
これは行政がやるには少し難しいかもしれません。なぜなら、消防の人もおっしゃっていたように、防
災教育にはちゃんとマニュアルがあって、これをやるのが消防署による防災教育であり、救急救命講習で
あり、それ以外のことをやっている余裕はないというのです。我々がこれをやるときも大変でした。防災
課に行ってくれと言われて行ったら、子供が出てくるのだったら教育委員会に行ってくれと言われ、次は
土日で地域でやるのだったら地域振興課に行ってくれと言われて、一体どこと一緒にやったらいいのか、
なかなか分からなかったのです。そこで、こちらで場所と時間を決めて、行政の関係しそうな部署の方が
来てください、そのほうが出てこられるべき方が出てこられるでしょうという形でやりました。
このように、防災ということに限定してしまうとなかなかやる気が起こらない活動も、楽しくやってい
くことでうまく進められるのではないか、一つの工夫だという話です。
Ⅴ.全国ネットワークの構築
災害NPOということで自分のところの宣伝ばかりしていましたが、他の日本各地域や世界はどうなっ
ているのでしょうか。市町村職員海外研修にご参加いただく皆様は、ここが一つのイントロになります。
全米災害救援ボランティアネットワークのボランティア機構とJ−Net、智恵のひろばの三つについてお話
しします。
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1.アメリカの災害救援事情
アメリカというのは、遠い国だし、関係ないと思われるかもしれませんが、日本が学ぶことはたくさん
あります。私は1993年に博士号を取ってアメリカから帰ってきたのですが、その時はもうアメリカから学
ぶことはないという気持ちが随分ありました。日本で、自分の国で自分のやりたい研究をしたいという気
がしていました。ところが、1995年に震災に遭って、初めてのことばかりだったので学ばなければいけな
いということで、ちょっと調べてみると、アメリカは結構やっているということが分かりました。
そこで思ったのは、学ぶべきものはまだまだあるということです。アメリカで学んでおしまいではない。
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昨今のアメリカの動きを見ていると必ずしも賛成することばかりではありませんが、災害救援に関しては
大いに賛成するところがあります。9・11のテロのあと、災害救援の部門を政府側はテロ対策ということ
と一括してしまい、見えない敵を追いかけろというムードになっています。あれだけの攻撃を受けたとい
うことで分からないではありませんが、このようなことを発表する会議に行ってもテロのことばかりやっ
ています。
そこで、アメリカの災害救援事情を少しお話しし、NVOAD(全米災害救援ボランティア機構)の概要
や我々との関係をお話ししていきます。
まず、アメリカは、ボランティアによって成立した国とまで言われることがあります。そこで生まれ育
って先祖代々1000年以上住んでいるというような人はあまりいないわけで、ネイティブ・アメリカン以外、
ほぼ全員が移民です。その人たちがまずボランタリーに入っていって、ボランティアによって成立してい
る国なのです。
それから、NPOの支援体制が成立しています。政府との連携は緊密です。注意していただきたいのは、
政府のイメージが随分違うということです。例えば東京大学の法学部に行って霞ヶ関の官僚になる、これ
はいいことなのだ、偉いやつだと思っている人が結構いると思いますが、アメリカではそのようには決し
て思っていません。ワシントンの政府で働いている人がすごく偉いとは思っていないわけです。
誰がいちばん偉いかというと、市町村の職員です。地元で接しているからこの人たちがいちばん偉いの
ではないか、遠いワシントンの話はいいというのが向こうのムードなので、そこをまず分かってもらわな
ければだめです。市町村の権力や裁量範囲がどれぐらいあるかというのはそれこそ研修していただいたほ
うがいいと思いますが、社会のムード、市民のムードとしては、国から誰か来るといってもそんな人の話
を聞くより地域の市町村の職員に話を聞くというのが第一です。つまり、ボトムアップなのです。ワシン
トンでインタビューしても、カリフォルニアだったらロサンゼルス市がこう言っているから自分たちもそ
うするというように、まず市が言っていることが第一です。日本だと霞ヶ関が言っていることが下りてき
ますが、そうではありません。特に緊急時は市が言っていることが最初です。
それから、政府に行く人が偉いというイメージはほとんどないということ、また市町村の職員にも、去
年までNPOで働いていたから、ここ2∼3年はずっとロサンゼルスの市役所で働こうと思っている、ど
こか給料がいいところがあったら企業に行こうかと思っているという人がいっぱいいます。ずっと市役所
に勤めるというムードが全くありません。このようなことも大事です。
ですから、比べても意味がない面もあります。そのかわり、災害であれば防災課に勤めます。防災課に
自分の仕事があり、防災課に5年いますというような人がいるのです。日本のようにジェネラリストを育
てるという方式ではありません。ですから、自分は大学で災害のことを研究してきたから防災をやりたい
となると、カリフォルニア州では年収1500万だけれど、ロサンゼルス市だったら地震が起こったので2000
万、それならロサンゼルスに行こうかということになります。そして、そのキャリアを使って企業でもっ
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と儲けようかという感じです。だから、行政自体がものすごく流動的なのです。そのような中での連携だ
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と思っています。
一方で、ボランティア活動への参加者が減っています。ソーシャルキャピタルという話を聞かれたこと
があると思います。社会的資本などと言われていますが、アメリカの中では、日ごろ一般市民がやってい
る人気のあるスポーツの一つにボウリングがあります。今まで、ボウリングリーグを作ってチームを作っ
ていくのが多かったのです。でも、この頃ボウリング場に行くとみんな1人でやっています。地域でまと
まって何かするということがものすごく減ってきていることに加えて、宗教への思いも減ってきているこ
ともあって、ボランティア活動に参加する人も減ったと言われています。
国や文化の成り立ちの違うところではありますが、災害救援といえばボランティアが活動するのが当然
です。その中で出てくる団体としては、まず赤十字があります。日本の赤十字は病院を持っていて血液の
管理をしたりいろいろしますが、アメリカの赤十字は病院を持っていません。災害が起これば必ず駆けつ
けるのが赤十字です。災害といっても大きなものだけではなく、どこかの町で火事があったらすぐ行き、
焼け出された人にサンドイッチを配ったりします。また、救世軍(Salvation Army)はキリスト教会で
すが、ここも徹底的に災害救援に予算を使っています。大きなトラックなどを持って行って、水を瞬時に
たくさん用意して配るのが得意です。FEMA(連邦危機管理庁)は政府の役所ですが、ここだけは縦割り
ではなく横向きです。この役所が稼働するときは、どの省庁から誰を引っ張ってきて繋いでもいいのです。
横向きに全部連携するという組織です。
このような多くのボランティア団体が活動していますので、当然活動の重複もあります。これは日本に
も見られることです。地震が起きたときに「毛布が必要だ」などと下手にラジオなどで言ってしまうと、
みんな毛布を持って現地に駆けつけて、余ってしまうということが起こります。そんなことがアメリカで
も起こっています。そこで、それを調整しようとしたのがNVOAD(全米災害救援ボランティア機構)で
す。
2.NVOADの概要(現状・使命・活動・課題)
NVOADでは読めないので、VとOを逆転させてノーバッドと読んだり、ナショナルボアドと読んだり
しています。これはネットワークであって、このネットワークとして救援に当たるわけではありません。
アメリカで災害が起こった時に、NVOADという帽子をかぶっている人は一人もいません。赤十字とかバ
プティスト協会、アマチュア無線連盟等々、いろいろな団体の帽子をかぶっています。しかし、その人た
ちはみんなNVOADのメンバーであるという形になっています。
全米で33の全国的な組織があり、州単位でも組織があります。大阪に例をとって言うと、まず全日本災
害救援ボランティア機構というのがあったとします。そうすると、そこには我々の団体がきっと入ってい
るでしょう。そして今度は大阪府災害救援ボランティア機構、その次に例えば北河内災害救援ボランティ
ア機構を作り、そして交野市災害救援ボランティア機構を作るという感じです。そして、その一つ一つは
何かというと、災害NPOの代表と行政です。行政が入っていないところもありますが、災害NPOの代表
が集まっています。
いろいろな団体があります。例えばバプティスト協会、それから赤十字、セカンド・ハーベスト。セカ
ンド・ハーベストというのはなかなか面白い団体で、日本にもあったらと思ったのですが、この周辺には
たくさんのレストランがあって、昼の定食などをやっています。でも、日替わり定食をやっていると、明
日は同じものを出せないわけです。ということは、お昼の定食だとすれば、夕方にはもうその材料が余っ
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ているかもしれません。明日は同じものを出しにくいという店、あるいは明日休みのスーパーで賞味期限
が明日切れるというところは今日売れなかったらもう売れないわけです。あちこちにあるそのようなもの
を全部集めてしまう団体です。集めてきて大きな倉庫に全部入れて、そこでボランティアが分けます。そ
して、今度は栄養士のボランティアがいて、これで1食作るには、ここと、ここと、ここをセットにして
袋に入れたらいいと言うのです。そして袋詰めし、外ではホームレスを支援している団体がずらっと並ん
でいて、その人たちに、うちは今日、ホームレスが5人いると言われれば5人分、20人と言われれば20人
分と渡していきます。私はそこでボランティアしたのですが、なかなか面白かったです。無駄にしないで
事
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使っていこうとする精神もいいし、誰も損をしません。昼の定食を企画した社員は余らせたことを怒られ
るかもしれませんが、セカンド・ハーベストは全米でそのような活動しています。また、NOVA
(National Organization for Victim Assistance)というのは、今、日本でもいわれていますが、災害や犯
罪に遭われた被災者の方々を支えるネットワークです。アマチュア無線連盟もありますし、その他いろい
ろあります。
NVOADは災害救援ボランティア機構の連合体であり、連合体として救援するわけではありませんが、
協働、共有、調整、協力といった、みんなでやろうという能力を醸し出しながら全米でネットワークを作
っています。
活動としては、年次大会をやったり、教育・訓練をやったり、普及活動、出版、そして大事なのは恐ら
く市町村の皆さん方、行政との連携をきちんとやっているということです。例えば、枚方市なら枚方市で
防災計画を立てられる、これは法的に決まったことですのでOKなのですが、やはり市民のための防災マ
ニュアルを市役所が作られたら、災害NPOと一緒に検討していただいて、その表紙には左に枚方市のマ
ーク、右に災害NPOのマークが入っていると市民に近づいている感じがすると思います。そのようなこ
とをやっているのです。国レベルの救援物資マニュアルなどを作るのですが、表紙にはFEMAという連邦
政府のマークとこのボランティア団体のマークが入っているわけです。このように共同で出版物を出して
いくということをやっています。
当面は、ノースリッジ(ロサンゼルス)の地震を経験して、どうもこれではうまくいかない面もあった
ので、地域ごとにきちんと救援しなければいけないということになりました。ロサンゼルスは移民の多い
ところで、サンドイッチばかり配っていても、メキシコ系の方々は豆を食べたりしますので、メキシコ料
理を配ってくれというように、地域に密着しているかというと、先ほどのように大きな話だと小回りが利
かなかった。そこで、ロサンゼルスは独特のシステムを編み出していったということです。今年の海外研
修はロサンゼルスに行かれるということなので、その方にはまた詳しくお話し申し上げます。
我々の団体はこの年次大会に毎年行っており、今年は6月17日からデンバーに行って研修をすることに
なっています。
3.J−Netへ
最後に、このようなことを学んできた我々は日本でどうしているかということをお話しして、終わりに
したいと思います。
日本ではJ−Netというものを作っていますが、日本の中には災害NPOのネットワークが二つあります。
一つは「震災がつなぐ全国ネットワーク」(震つな)、それからJ−Net(全国災害救援ボランティアネット
ワーク)です。これらはセリーグとパリーグが交流試合をやっているのと同じで、私たちもそれぞれでや
っています。できた経緯が違っただけで、大会もやっています。
107
アメリカのものを勉強した結果、ネットワークを作るとしたらどうしたらいいかとか、行政や企業とど
事
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う連携するのか、地域とどう連携していくのか、年次大会の開き方をどうするのか、平常時はどうするの
か、事務局の在り方をどうするかというようなことをJ−Netに持ち帰って話をしていきました。
J−Netに加入している災害NPOは、47都道府県全部にあるわけではありません。勘違いしないでいただ
きたいのですが、北海道の有珠山が噴火した時に、青森方面隊が出動したのですかと聞いてくる人がいま
す。しかし、それは自衛隊の話であって、我々はそんなことはありません。ハートネットふくしま、宮城
災害救援ボランティアセンター、上越災害救援、東京災害ボランティアネットワーク、天理教などいろい
ろありますが、有珠山が噴火したとき、この中でそこに行ったのは島原です。なぜ島原の人が行くのかと
いうと、噴火の時のつらさはよく分かるからです。それがNPOのつながりなのです。自衛隊だとそんな
遠いところまで行ったらもったいないわけで、青森方面隊に出動してもらった方がいいのですが、NPO
ですから、気持ちのこもったところが出ていくということから始めて、我々の神戸の事務局へ、それぞれ
がここが行ったという連絡をくだされば全体の調整は徐々にしていきます。このようなネットワークを今
作っています。
調子よくやってきて、普通ならここで終われたのですが、最近、東海地震、東南海地震などの話がされ
てきて、たった25ぐらいのNPOが全国にあってもだめだろうということになっています。三つが同時に
起こる可能性もあるといわれており、富士山も噴火するかもしれません。「東海地震だ」といって来るわ
けではありませんから、揺れ方で分かってもらわなければいけませんが、酔うぐらい大きく揺れるという
ことです。これが来たときにはビルの上に2時間でも3時間でも上っていてください。津波が大阪に来ま
す。枚方も被害想定が出ています。淀川が逆流すると言われているからです。
4.智恵のひろば
そのようなことが言われる中で、NPOが頑張っていますではだめだろうということで、
「智恵のひろば」
というものを作りました。局所大規模災害から大規模同時多発災害、例えば神戸だけ、中越だけの大規模
な災害だったのが、今後、同時多発の大災害になってきます。そうすると、全国規模のネットワークが二
つありますが、震災以後10年間の智恵が偏在していて、災害NPOだけがやっているだけでは困るという
ことで、災害NPO有志が集まって作ったものです。
遊び心も添えてやっているのですが、智恵ツリーというデータベースを作っています。また、知恵袋と
いって先ほどのボランティア受付票、災害ボランティアマニュアルなどが入った災害時の救急箱みたいな
ものを社会福祉協議会に配ろうと思っています。また、智恵ブリディ(智恵・エブリディ)といって、毎
日みんなの智恵を1人200字ずつ、数珠つなぎにしていっています。
5.「気になる言葉」集
今日は、どれもポイントといえばポイントだし、聞き流せばそれまでというお話だったと思います。最
後に気になる言葉をご紹介します。
「○○と言わない○○」は言いました。「防災とは言わない防災」、ここに「人権」とか「環境」などを
入れてくださいということでした。
次の「マクドナルドのイス」というのは、これから施策をされる時にマクドナルドのイスみたいなやり
方もあるということです。マクドナルドのイスは、けっこう硬いのです。なぜなら、早く帰ってほしいか
らです。もし、入り口に「このマクドナルド店は20分に限ります」と書いてあったら誰も来ません。でも、
108
イスが硬いことによって長居はしない、こういうところをうまく使うということです。
「土手の花見」というのもそういうことです。川の土手に桜がいっぱい植えてあります。なぜかという
と、雪解けのときに土手が緩みますから、土手を固めなければいけないので村人を動員してやれと言って
もやりません。でも、桜を植えておいたら勝手に花見をしてくれる、そうすれば固まるわけです。だから
桜を植えます。
「稲むらの火」もそうです。庄屋さんがすごく心温かい方で、遠くから津波が来るのを知って村人たち
を丘の上に引き上げるためにわらに火をつけて灯したと言われています。これはそうかもしれませんが、
事
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実は庄屋の家が燃えていると言ったらみんなやじ馬で上がりますから、それでみんな丘の上に登ったので
はないかという話もあります。
そのように、こうしたいああしたいということをモロに出すのではなく、そうしたくなるような仕組み
を作っておかなければいけないというので、防災と言わない防災もその仕組みの一つだということです。
「被災地より」というのは、「炊き出しをするというのは、よほどおなかが減っている人がいるのです
ね」というようなことを言われてびっくりすることがありますが、それは違います。ボランティア団体が
炊き出しをしているのは、コミュニケーションの手段としてなのです。とん汁を出して「みそ、ちょっと
からい?」と聞いたら、おばあちゃんが「そんなことない」と言い、また「おばあちゃんいつもどんなみ
そで食べてるの?」という話をするためにとん汁を配っているのです。足湯マッサージなどもまさにそう
です。毎日しなければ生きて行けない人はいません。でも、足湯マッサージをすることで、1対1でお話
を聞くことができます。足が気持ちよくなってくると「気持ちええわ、毎日来てくれてありがとう」とい
う話になって、「思い返せば壊れた家にアルバムがあって」という話になったら、おばあちゃんはきっと
アルバムを取ってきてほしいわけです。それを聞き出すきっかけになっています。だから、何かをすると
きにあまり単純に考えないようにしなければなりません。「散髪は髪?」というのも同じことです。そう
いうことを被災地で一生懸命やっているということが何とか伝わらないかなと思っていました。
コミュニケーションというのも、単に大きい声で言えばいいとか、聞いてくれればいいということより
も、今何の話をしているのかが通じなければいけないということです。例えば、お母さんが子供をしかる
ときに「もうあんたの好きなようにしなさい」という場合がありますが、子供が「分かりました、好きに
します」と言ったらお母さんはもっと怒ると思います。言っていることは「好きにしなさい」ですが、伝
えたいことは「好きにするな」ということです。だから、広報に書いてあるから見ているはずだというよ
うなことではいけません。そこから何が伝わっているのか、何が伝わっていないのかをじっくり検討して
いかないとだめではないかと思います。とりわけ防災という話になると、防災専門の方は「きちんと防災
のことを広報しているじゃないか」と言われますが、読んでいる方は全くちんぷんかんぷんという場合が
あるということです。
今日申し上げたいろいろなお話で何かピンとくるものが一つでもあれば、それを使っていただければと
思います。なお、ボランティアネットワークのほうはホームページをごらんいただいて、何かありました
ら取り上げていただければと思います。ご清聴ありがとうございました。
109
現 地 研 修 講 演 会
演 題
現
地
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修
講
演
会
リアルタイム地震防災
−地震の被害とその対策について
講 師 山 田 真 澄 さん
(カリフォルニア工科大学)
1.はじめに
カリフォルニア工科大学土木学科博士課程に所属しています山田真澄と申します。私は土木学科に在籍
しているのですが、わたしの先生のTom Heaton先生は、土木学科と地震学科の先生なので、今は、大地
震のためのリアルタイム地震防災に関する研究をしています。そこで、本日は「リアルタイム地震防災−
地震の被害とその対策について」ということでお話をさせていただきます。(以下スライド併用)
(128ページ以降にスライド拡大図を掲載)
今日のトピックスですが、最初に、地震のときに建物がどのような被害を
①
受けるか、また、そのような被害に備えてどういう対策を取ったらいいのか
ということについてお話しします。これは私の京都大学時代の研究や調査を
もとにしています。
二つ目に、緊急地震速報システムとはどういうものなのか。今、日本、あるいは台湾やメキシコなどで
も、ナウキャストと呼ばれる緊急地震速報システムが実際に運用されています。このシステムの仕組みに
ついてお話しします。
三つ目に、カリフォルニアにおける地震ネットワークと緊急時の対応ということで、来るべき大地震に
備えて、カリフォルニアではどのような取り組みをしているのか、どのような準備や対策をしているのか
ということについてお話しします。
2.地震時における建築物の被害
②
この写真は、芸予地震のときの被害の写真です。このように屋根の被害が
起こったところにブルーのビニールシートがかかっていて、これを調査のと
きの被害の目安にしています。
③
日本における過去の大地震について見ていきます。
まず、記憶に新しいのは、1995年の兵庫県南部地震です。ここでは死者は
6400名余り、全半壊した建物は20万戸にも及びました。このときのマグニチ
ュードは7.3、最大記録震度は7でした。
マグニチュードと震度は混同されやすいのですが、マグニチュードは地震
110
そのものの大きさです。そして、地震の揺れは距離が遠くなるに従って、だんだんと小さくなっていきま
すが、各地での揺れの大きさを震度といっています。ですから、震度は一つの地震においていろいろあり
ますが、マグニチュードは一つの地震に一つの値しかありません。
マグニチュード7.3の鳥取県西部沖地震では、被害が神戸に比べて少なく、死者はゼロ、全半壊した建
物は3500余りでした。これは、神戸は大都市で建物の数が多かったという違いもありますが、鳥取県西部
地震で建てられている住宅は非常に強度が高かったので、兵庫に比べると被害が少なかったという研究も
報告されています。
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2001年には、広島県で芸予地震が起こりました。そして、2003年には十勝沖地震と宮城県北部地震が発
生し、このように日本全国で地震は発生しています。また、2004年には新潟県中越地震が発生し、死者48
名、倒壊した建物は1万6000戸に及ぶ非常に大きな被害が発生しました。ここでの最大記録震度は7です
が、震度が7を超えると非常に大きな被害が発生し始めることが分かります。また、震度が5を超えると
小さな被害が順々に発生し始めるので、自治体や消防など防災関係では震度5を出動の目安にしていると
ころもあります。
では、地震時に建物にはどのような被害が起こるのかということについて説明します。
建物は、構造材、非構造材、室内家具に分けられます。
まず構造材の被害ですが、構造材は建物を支えているので、もし構造材に被害が起こった場合は、建物
が倒壊してしまいます。そこで、建築基準法などでは、100年に1回の大地震でも建物が倒壊しない、被
害が生じても倒壊しないだけの強度を持つように造らなければならないと定められています。構造材には、
柱、梁、基礎や土台などが含まれています。
構造材以外の非構造材は、建物の強度にはそれほど大きな影響は及ぼしませんが、非構造材が壊れます
と、けがの原因になったり、避難を困難にしたりするので、同じく対策が必要です。これらの中には、内
装材、外壁、屋根瓦などが含まれています。
そのほかに、室内家具の地震対策も非常に重要となっています。
京都大学防災研究所の鈴木研究室では、木造の建物がどれぐらい変形したときに、どれぐらいの被害が
発生し始めるのかということについて、振動台実験を用いて研究を行いました。
木造建物は、大体100分の1変形すると損傷が発生し始めます。100分の1変形とは、100㎝の建物の上
部が1㎝傾くことをいい、これは小さな被害、損傷が発生し始める「損傷限界」の目安となっています。
また、100㎝の建物の上部が3㎝傾く30分の1変形を「安全限界」といい、建物に倒壊の危険性があると
言われています。
私たちは、防災研究所において合板を張った軸組や土壁を張った軸組など、いろいろな軸組を用いて振
動台実験を行いました。そこで分かったことは、大体変形が100分の1を超えますと、小さな被害が発生
し始めます。例えば合板の試験体では、合板を止めつけているくぎがだんだんと浮き始め、強度が弱くな
ってきます。また、土壁などでは、しっくいの角にひびが入ったり、細かい土が落ちてくるなど被害が発
生します。
さらに変形がどんどん進み、30分の1変形を超えますと、合板などの軸組では、合板の釘が完全に抜け
落ちたり、折れてしまい、合板がはがれてしまいます。また、土壁などでは、細かいひび割れがどんどん
大きくなってきて、土壁が外にめくれ上がってしまったり、隅のところが激しく崩落してくるというよう
な被害が現れました。
ここで、私たちが行った振動台実験のビデオをお見せしたいと思います。これは木造2階建ての土壁を
111
塗った住宅を加振したビデオです。ここで加振した地震波は、エルセントロ波と呼ばれるアメリカでいち
ばん最初に記録された大きな地震の波形です。ガルは揺れの加速度の単位で、800ガルは大体神戸の地震
現
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演
会
の揺れの大きさに相当します。
***ビデオ上映***
このように、建物が地震に合わせてゆっくり揺れていることが分かります。また、土壁が面内で動いて
いて、隅の部分がどんどん崩れて土が落ち始めているのがよく分かると思います。
建物がゆっくり揺れることを、私たちは「周期が長い」といい、それは地震学においては非常に重要な
特徴となります。逆に、このように細かく揺れることを「周期が短い」と呼んでいます。
実際に地震の調査に行ったときの被害状況についてお話ししたいと思います。
④
まず、比較的小さな地震でも起こる被害についてです。この写真では、屋
根瓦の落下が発生しています。ここは屋根瓦だけでなく、中の盛り土も崩れ
落ち、樋も外れています。このような屋根瓦の落下は、非常に小さな地震で
も発生しやすい被害です。屋根瓦の被害が発生したときに、このようにビニ
ールシートを敷き、これ以上屋根瓦が落下しないように、また雨漏りを防ぐなどの役割を果たしています。
こちらも比較的発生しやすい被害で、ブロック塀が倒壊しています。この
⑤
ブロック塀は、ブロックを積んでセメントで固めただけだと思われますので、
非常に倒壊しやすくなっています。中に鉄筋などを入れておくと、強度が上
がって倒壊を防ぐことができます。
こちらは、外壁のモルタルが全部はがれ落ちてしまった例です。はがれ落
⑥
ちた部分は、下地の木が外に現れています。それから、外壁などにクラック
が入ってしまうこともよくあります。
こちらは木造の建物ではなくコンクリートの建物ですが、コンクリートの
⑦
柱にひび割れが発生しています。コンクリートの柱は構造材に当たりますの
で、柱の被害はできるだけ避けるべきで、十分な強度を柱に持たせなければ
いけません。特に窓のところは非常に強度が低く、地震は横向きに揺れます
ので、横向きの力が発生し、X字型の「せん断ひび割れ」と呼ばれるひび割
れが発生しています。
⑧
さらに地震が大きくなりますと建物は耐えられなくなり、これは鳥取県西
部地震の調査ですが、このような大きな変形を及ぼしてしまったり、さらに
新潟県中越地震の写真のように建物が倒壊してしまうこともあります。この
ような倒壊や大変形を防ぐために、建物には十分な強度を持たせる必要があ
ります。
では、建物は新しければ新しいほど強いのか、古ければ古いほど弱いのかということについての研究を
紹介します。
112
こちらは兵庫県南部地震の調査結果なのですが、この場合は建物の年度が
⑨
古ければ古いほど、建物が倒壊する限界の割合はどんどん上がっていきます。
これは、地震の建築基準法はある一定の年度ごとに変更していきますので、
その年ごとにどんどん強度が上がっていき、そのあとに建てられた建物はそ
れ以上の強度を持っているということが一つの原因にあります。また、メン
テナンスをしっかりしていないと、建物は老朽化して悪くなってきますので、腐朽やシロアリの被害など
が発生してくることも一つの理由として挙げられます。
現
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修
講
演
会
一方、鳥取県西部地震の調査結果を見ますと、建物が古くなっても全壊する割合はそれほど大きく変わ
っていません。この違いは一体どこからくるのでしょうか。
防災研究所では鳥取県に調査に行き、実際に建物がどのように建てられて
⑩
いるかを調査しました。その結果、鳥取県の住宅は非常に大きな断面の柱や
梁を使っていることが分かりました。また、大工の仕事が非常に丁寧で、複
雑な仕口や継ぎ手を使って建物の強度を上げていることが分かりました。こ
のように丁寧で複雑な仕口などがあったおかげで、このような大変形はして
も倒壊は免れているという結果になったのだと思われます。
次に、蟻害や腐朽の影響です。兵庫県南部地震の調査結果では、蟻害や腐朽がある建物は、ないものに
比べて全壊の割合が非常に高くなっていたことが分かります。特に蟻害や腐朽は柱に大きな影響を及ぼし
ますので、もし柱にこのような被害があった場合、倒壊など大きな被害を招く主な原因となります。
これは、どれぐらいの地震で建物に被害が発生し始めるのかについて表し
⑪
たグラフです。例えば震度5の地震が発生した場合、半分の食器は落下し、
1割ほどのたんすは転倒する危険性があることが分かります。また、例えば
震度が6ぐらいですと、ほとんどの食器は落下し、たんすは半分ぐらいが転
倒します。震度6で被害が発生し始める建物の割合は、大体2割ぐらいとい
うことが分かります。
建物の被害が発生し始めるよりもずっと小さな揺れで、食器やたんすなどの室内家具の被害が発生し始
めますので、室内家具の対策は非常に重要だと考えられます。
⑫
これは実際の被害の例ですが、このようにたくさんの物が落ちて散乱し、
まさに足の踏み場もないような状態になっています。例えばドアの前にたん
すが倒れたりすると、ドアから逃げることができず、避難の妨げにもなりま
す。そして、たくさんの物が散らばっていますと、避難生活を続けるうえで
も非常に大きな支障があることが分かります。
⑬
家具の地震対策ですが、よく見かけるような金具などで固定することが非
常に有効な対策になってきます。この写真では、固定した棚はちゃんと立っ
ているにもかかわらず、固定のない棚は転倒しています。このように身近な対
策を取ることが、室内被害の軽減につながっていくということが分かります。
最初のセクションのまとめとして、まず被害の軽減には、平時からの対策
が非常に重要であることが挙げられます。
構造材の被害は、建物の倒壊を招き、非常に危険ですので、建物の構造材に腐朽やさびなどの老朽化が
ないか、普段からチェックし、手入れを怠らないことが重要です。
113
また、兵庫県南部地震と鳥取県西部地震の被害の違いで見たように、構法の違いや腐朽・蟻害の有無に
より建物の耐震性は大きく変わっていくということが挙げられます。
現
地
研
修
講
演
会
そして、家具の転倒はけがや人命の被害につながり、また、避難路をふさぎ、救出を難しくするので、
固定など普段から対策を取ることで被害を軽減できるということを挙げたいと思います。
ここまでで何か質問などはございますか。
(研修生)
転倒防止のつっぱりでたんすに思い切りテンションをかけると、1階にも荷重がかかるよう
な気がするのですが、影響はないのですか。
(山田)
多分たんすのつっぱりにかかっている荷重に比べて、1階の床にかかっている荷重は、比べる
と非常に小さいものだと思います。例えば本棚などが荷重としていちばん重いのですが、それに比べると
つっぱりで起こる荷重は小さなものだと考えられます。
(研修生)
(山田)
(研修生)
(山田)
新潟と神戸の倒壊率の比較はされていますか。
その研究は今行っているところです。
なぜあんな構造になったかというのは、雪の影響ではないのですか。
それはあると思います。積雪の地域の建物は、雪に対しては丈夫にできています。ただ、雪は
上からの荷重ですが、地震は横からの荷重なので、その部分で違いがあるということもあります。
(研修生)
構造材の違いは致命的と書かれてあり、また、転倒したものも危ないという話だったのです
が、神戸の6400人は家が崩れたから亡くなったといわれています。しかし、軽い落下物で死んだ人はどれ
だけいるかという数字は分かっているのでしょうか。
(山田)
(研修生)
(山田)
今すぐには思いつかないですが、亡くなった方の死因が統計データとして発表されています。
2×4(ツーバイフォー)がいちばん強いというのですが、やはりそうなのですか。
2×4も、確かにいろいろな研究がされてきて十分な強度があるということは発表されている
のですが、何がいちばん強いというよりも、それをどのようにメンテナンスしていくか、いかに適切な方
法で建てるかということが非常に大きな違いとなってくると思います。ですから、2×4以外の建物でも、
ちゃんとメンテナンスをして、きちんとした方法で建てれば十分な強度を持っているといえます。
(研修生)
(山田)
それは、2×4よりも昔ながらの日本の建て方のほうが強いという結論でしょうか。
ほかのいろいろな要素がかかわってきます。例えば地面と建物の関係などもあります。私は昔
ながらの建物を研究していたので、ぜひそちらをお勧めしたいのですが(笑)。
114
(研修生)
木造で※ラーメン構造のようなものはできるのですか。
(※建築用語で、柱とはりが強固に接合されて連続的に作られた骨組のこと。高層ビルの建
築の主体構造になっている。)
(山田)
(研修生)
(山田)
日本の建物はすでに柱・梁なので、いわゆるラーメン構造のようなものです。
でも、剛結にならないといけないのですよね。
現
地
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修
講
演
会
日本の建物は、柱と梁があって、そこをピンで留めているという感じで、非常にフレキシブル
なのです。それは、揺れやすいからといって壊れやすいのではなく、粘り強い特性を持っています。それ
に比べると2×4などは、逆に壁で支えていますので、できるだけ硬くして、フレキシブルなところをで
きるだけ抑えようようとしています。仕組みが全く違うので、両方を一緒にしてしまうと、いいところを
抑えてしまうときもありますので、その辺は注意したほうがいいと思います。
(研修生)
日本も、アメリカのカリフォルニア州も、地震がたくさん起こるところだと思いますが、日
本は木造建築の家が多く、アメリカではコンクリートや石を組んである家が多いように思いました。それ
は耐震性を意識して、住宅が造られているのでしょうか。また、家具の転倒防止対策は取っているのでし
ょうか。
(山田)
私の感じでは、日本とアメリカでは地震に対する意識が全然違うと思います。まず、日本では
どこでも必ず起こりうるという状況ですが、アメリカでは起こるところが決まっていて、そこで起こった
からといって、次は自分のところで起こるかもしれないという意識は、日本に比べるとかなり低いと思い
ます。
耐震に関する意識も日本ほどは高くありません。特に耐震対策をしろということで、政府が推奨したり、
補助金を出したりすることも非常に少ないので、そういう意味で意識のレベルが日本に比べると低いとい
うことは言えると思います。
(研修生)
(山田)
(研修生)
(山田)
建物自体は、耐震性を考えた構造はできているのですか。
日本に比べると、この建物は危険だなと感じることはあります。
それでは、家具類の転倒防止対策なども普及していないのでしょうか。
そこまで普及しないというのは、実感としてあります。例えば学校などですと、本棚などに金
具などがしっかり取り付けられていますが、実際の家庭のことは分かりません。
(研修生)
日本の古い家だと、在来の軸組構法で、冠婚葬祭が家でもできるように、壁がなくて梁と柱
だけで建っているような家があると思います。そういった建物は、素人目で見ると地震に弱そうな気もす
るのですが。
115
(山田)
実際の木造の建物の強度は、壁がどのくらい多いか、壁がどれくらい均等に配置されているか
ということで決めていますので、壁の有無は非常に大きな要因になってくると思います。
現
地
研
修
講
演
会
日本でも耐震構造の家が増えてきて、特に最近は免震などの構造もできてきているようです
(研修生)
が、95年の被害があったときには、在来の物は、比較的地上から上の物が重くて、瓦など屋根の部分の重
い物を振る感じなので、余計に被害が大きく、プレハブなどは地上の構造が軽かったから、加速度を受け
る割合が低かったのではないかといわれましたが、事実はどうなのですか。
(山田)
物理的に見て、そういうことは実際にあると思います。それでも、柱などそれ以外の部分に強
度を持たせておくのが在来の軸組のやり方で、プレハブなどですと荷重が低いけれども、強度もその分低
くなります。日本の軸組は、荷重が重いので、その分強度も強くしているというのが今までの建物の仕組
みでした。
(研修生)
先生が先ほどおっしゃったのは、いろいろな構法がありますが、何の構法を取るにせよ、そ
れがルールどおりにきちんと施工されているかどうかでかなり左右されるということですね。
(山田)
(研修生)
はい、違ってきます。
私は林業の仕事をしていたことがあります。昔は山の木を軸組みして家を造っていたのです
が、今は大工仕事で昔のような継ぎ手をしていく技術がなくなってきている状態だと思います。先生のい
われる木造というのは、日本の軸組構法が主となっていると思いますが、プレハブにかなり押されている
部分がありますので、例えば免震性・耐震性の高い軸組構法を再度日本に普及させていく方法として、そ
ちらに市民が目を向けるようなアドバイスは何かないでしょうか。
(山田)
そういう軸組の伝統的な方法がだんだんすたれているというのは、まず一つにお金がかかるこ
とが非常に大きな要因だと思います。やはり2×4の建売住宅などは、大工の仕事に比べると安くできる
ことが挙げられると思います。実際は軸組の旧来からのやり方でも、このように十分な耐震性があるのだ
ということを一般の方々に分かっていただければ、それも一つの方法として、メリットを強調することに
よって見直されてくるのではないかと私は考えています。
3.緊急地震速報システム(ナウキャスト・システム)
私たちが地震被害を軽減するためにどのようなことをすればよいかというと、まず一つには、先ほどお
話ししたように、建物を強くして耐震性を向上させれば被害を減らすことができます。他にも、例えば地
震がいつ来るか予測できれば、それで避難などの対応を取ることができ、損害を減らすことができると考
えられます。
現在、いろいろな地震の予知の研究がなされています。例えば、地震が来る前に断層から出る電磁波を、
なまずに感知させて地震予知をするというような研究もなされています。しかし、日本などですと、例え
ば地震が30年以内にこの地域で起こる確率は何%以上という長期評価の精度はだいぶ上がってきているの
116
ですが、3日以内に東京で地震が起こるというような短期的な地震予知については、まだまだ十分な精度
があるとはいえない状態です。特に最近は社会システムが非常に複雑になってきており、社会の活動を止
めることで非常に大きな損害を生みますが、その損害を超えるだけの地震予知の精度は上がっていないと
いうのが現状です。
もし地震が台風のようにゆっくり来てくれるならば、その前に私たちは警報を出して、安全な地域に避
難することが可能となります。しかし、台風は例えば毎秒6mで進んできますが、地震は毎秒7㎞という
音速以上の速さで進んできます。
現
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講
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会
最初の小さな縦揺れ(P波)の速度は毎秒7㎞、次に来る主要動である大きな横揺れ(S波)は、その
半分の毎秒4㎞で進んできます。私たちが地震より速く動ければいいのですが、地震より速く動くことは
できません。しかし、もし何か速く動けるものがあるのであれば、私たちに警報を出すことができます。
そこで出てくるのが光です。光は毎秒30万㎞で進みますので、光通信を使えば地震よりも早く警報を出
すことが可能となります。この仕組みを使っているのが、緊急地震速報システム(ナウキャスト)です。
地震がどこで起こったか、地震がどれぐらいの大きさであるかということは、非常に複雑な判断が必要
となります。特に人間は目で見て、いろいろな情報を総合的に判断して、地震の大きさや場所を決めるこ
とができますが、パソコンはイエスかノーかの選択でしか判断できません。しかし、パソコンは24時間ず
っと動き続けることが可能だというメリットもあります。そこで、人間の複雑な判断能力をプログラム化
してパソコンに載せ、パソコンが24時間、いつ地震が起こったのか、どれぐらいの大きさで起こったのか
をモニターさせ、そして警報を出させるというものが、緊急地震速報システムです。
緊急地震速報システムとは何かということをまとめますと、地震が発生したあと、地震の揺れがある地
点に到達する前に、どこで、どれぐらいの大きさの地震が起こったかをコンピュータが算出し、その地震
の情報をユーザーに伝え、そしてユーザーが避難や準備などの対策に役立てるというシステムです。
緊急地震速報システムが、実際に地震が起こったときにどのように動いていくかということについて説
明します。
まず、地震が起こった場合、地震の波は四方八方に広がっていきます。そして、いちばん近い地震の観
測点が地震波をキャッチします。この観測点は、その地震の揺れのデータを中央処理センターに送ります。
さらに時間がたちますと、どんどん地震波は進んでいき、2番めに近い観測点が地震波をキャッチし、そ
のデータを中央処理センターに送ります。
このシステムでは、この観測点の密度が十分高いことが非常に重要になってきます。観測点の密度が低
いと、長い時間が経つまで地震情報は得られません。
ある程度のデータが集まってきますと、中央処理センターではプログラムに従って震源決定を行い、そ
の情報を各ユーザーに伝達し、ユーザーは各自それぞれの対策を取り、その数秒後にS波が到達します。
この震源決定にかかる時間は2∼3秒といわれています。
観測点の密度が高いことが非常に重要であると言いましたが、幸いなことに日本では、国が中心となっ
て全国に一様に観測点が散らばっています。また、国が中心となっていますので、データや地震計のフォ
ーマットが統一されていて、データが一つの場所にまとめて置いてあり、それを自由に使えるということ
が一つのメリットとなっています。
それに比べて、カリフォルニアの観測点は一様ではなく、主にサンフランシスコとロサンゼルスの周辺
に密集しています。ですから、もし地震が内陸部で起こった場合、緊急地震速報システムは十分に機能し
ないという可能性が考えられます。カリフォルニアでは、州や各研究機関が中心となって地震対策を行っ
117
ていますので、このネットワークも各大学や研究機関が運営しています。それが日本とは大きく異なる点
です。
現
地
研
修
講
演
会
次に、地震の震源地と大きさはどのように決定しているのかというアルゴリズムについてお話しします。
まず、第1の観測点である揺れを観測した場合、その揺れが大きければ、大きい地震がすぐ近くで起こ
った、あるいは大きい地震が比較的遠いところで起こった、あるいは小さい地震が観測点のすぐ近くで起
こったという可能性が考えられます。
もしある観測点の揺れが小さければ、小さい地震がどこか遠くのほうで起こったということで、特に警
報の必要はありません。
いつ警報が必要かというと、まず大きい地震が観測点の近くで起こったとき、これは絶対に警報が必要
です。また、大きい地震が震源から遠くで起こった場合は、その観測点の周りには警報は必要ありません
が、地震の震源の近くでは警報が必要ですので、この情報も伝達する必要があります。つまり、私たちは、
その地震が大きい地震であるか、あるいは小さい地震であるかということを、最初の数秒間で判断しなけ
ればいけません。
これをどのように判断するのかということを、カリフォルニア工科大学の
⑭
金森先生とWu先生が開発されました。これは、先ほどお話しした周期に大
きな関係があり、マグニチュード(地震の大きさ)が大きくなれば大きくな
るほど周期は長くなり、小さい地震ほど周期の短い地震になるという特徴が
あります。
この関係は大体比例しているので、この計算式を使えば、最初の数秒間の
⑮
地震の波の周期を計算することによって、全体のマグニチュードの大きさが
どれぐらいなのかを判断することができます。私たちは地震の大きさを判断
するために、この関係を使っています。
地震の警報時間は、震源からの距離に大きくかかわっています。例えば震
源からの距離が20㎞の場合は、最初の縦揺れであるP波が来る時間と、次の主要動であるS波が来る時間
の間、最低3秒が警報時間として与えられます。もしこれが震源からある程度遠く、例えば70㎞であるな
らば、P波の到達する時間とS波の到達する時間の差は約10秒となり、最低
⑯
10秒の警報時間が得られることになります。このように、震源から遠くなれ
ば遠くなるほど警報時間は長いのですが、同時に揺れは小さくなりますので、
その兼ね合いが非常に重要になってきます。
警報時間がどれくらい与えられるのかについて、いろいろな大きさの地震
をシミュレーションした結果をお見せします。これは、カリフォルニア工科
⑰
大学のHeaton先生の研究結果です。0.2g以上というのは加速度の単位でし
て、この揺れの大きさは、日本でいうと震度5、被害が起こり始める揺れに
相当します。この揺れが0.2g以上の地域の50%は5秒以上の警報時間を得
られ、30%の地域で10秒以上、15%の地域が20秒以上の警報時間を得ること
ができます。
もしこの揺れがもっと大きく、例えば0.5g(震度7相当)以上の大きな被害が発生する非常に強い揺れ
の場合には、60%の地域が10秒以上の警報時間、40%が30秒以上の警報時間を得ることができます。
このように、地震が大きくなるほど警報時間は長くなりますので、マグニチュード7以上では警報時間
118
は10秒以上、マグニチュード6.5の地震では10秒以下であるという研究成果が発表されています。
実際に2005年8月16日に宮城県沖地震が発生したときに、この緊急地震速
⑱
報システムが稼動しました。その仕組みをここで紹介したいと思います。
まず、震源で地震が起こったあと、いちばん最初に地震波をキャッチした
のは、最も近い観測点である志津川の観測点と考えられます。ここは震源か
らの距離は91㎞で、予想P波到達時刻(震源からの距離÷P波速度)は14秒
でした。次に、大都市の仙台は、震源から125㎞離れており、P波到達時刻は19秒、S波到達時刻は地震
現
地
研
修
講
演
会
発生の32秒後と予想されています。また、東京は震源から355㎞離れており、P波到達時刻は55秒後、S
波到達時刻は90秒後と予想されています。
今の出来事をそれぞれ時間軸で見ていきますと、まず0秒のところで地震
⑲
が発生し、いちばん最初の志津川の観測点が14秒後に地震波をキャッチしま
した。その後、データを中央センターに送り、データの解析などに2∼3秒
ほど必要となってきます。その後、仙台にP波が到達し、約30秒後にS波が
到達しました。そして、55秒後に東京にP波が到達し、さらに90秒後にS波
が到達しました。
そこで、私たちはどれぐらいの警報時間が取れるかということですが、大都市である仙台に主要動(大
きな揺れ)が到達する30秒から、地震波を観測してからデータを解析し、地震のマグニチュード、ロケー
ションを決める時間を引いた15秒ほどが、私たちに与えられた警報時間ということになります。
実際にどのような警報が発せられたのかということですが、これは朝日新
⑳
聞の抜粋です。「気象庁の緊急地震速報システムが16日の宮城県沖の地震で
稼動し、仙台市内では大きな揺れが来る14秒前に震度情報が届いていたこと
が分かった。震度5強の揺れがあった同市内の同大学院などには、揺れが来
る14秒前に『予測震度5弱程度以上』との情報が送られていた」。
では、この緊急地震速報システムはどのような応用ができるのでしょうか。
まず一つには、津波の警報や避難、防潮堤の遮断ということが挙げられます。津波は、地震が海側で起
こったときに発生し、その大きさは地震の大きさに対応していますので、地震が大きければ大きいほど津
波は大きくなります。そして、津波は地震に比べるとゆっくり進んでいきますので、地震よりも十分長い
警報時間を取ることができます。
これは実際に現在、JRの新幹線で使われている「UrEDAS」というシス
21
○
テムですが、電車やバスなどを制御するにも緊急地震速報システムは有効で
す。
こちらは新潟県中越地震のときのメカニズムですが、最初に地震が起こっ
てから、「UrEDAS」の観測点が2か所にあり、1か所では地震発生2.6秒後
にP波をキャッチし、その1秒後の3.6秒後に新幹線に対して警報を出しています。そして、もう一つの
観測点でも、3.5秒後にP波を検出し、その1秒後の4.5秒後に警報を出しています。電車には、その警報
を出してすぐに自動的にブレーキをかけ、停止させるシステムがあるのですが、そのシステムがちゃんと
働いたにもかかわらず、「とき325号」は速い速度で走っていたために、後ろのほうで脱輪を起こしていま
す。
そのほかの活用例ですが、大きな建物の制震装置の制御にも有効です。高層の建物には、地震の揺れを
119
制御する制震装置や免震装置が使われていますので、そのスイッチを押したり、ある値を変えることによ
って建物の揺れをできるだけ少なくするというシステムがあります。このシステムに地震が来るという情
現
地
研
修
講
演
会
報を与えることによって、その地震に対応して建物を変えていくことなどが活用例として有効です。
そのほかにも、今年、東京で起こった地震ではたくさんのエレベーターの被害がありました。エレベー
ターは、一つの箱が長いロープでつながっているので、大きな地震が起こりますと、そのロープが揺れて
エレベーターが周りの壁に当たって、すぐに被害が発生し始めます。そこで、もし地震が来る数秒前にそ
れが分かっていれば、エレベーターを固定してそのような被害を防ぐことができます。
そのほかに、交通信号や道路交通の制御、学校や商業施設での避難、発電所・工場・プラントの防災シ
ステムなどが活用例として挙げられます。特に原子力発電所など危険な物を扱っている工場では、地震に
よって被害が発生すると非常に被害が大きくなりますので、そのようなものを事前にストップさせること
にも利用できると思います。また、医療関係者・防災現場関係者への情報伝達によって、例えば手術中の
方に事前に地震が来ることを伝えることができれば、被害を最小限に抑えることもできます。
また、マスメディアによって一般市民に警告を出すことは、いちばん有効なことだと思うのですが、同
時にいろいろな混乱を招く危険性もあるので、現在は非常に難しいこととされています。しかし、実際に
一般の方々に情報を伝えて、皆さん自身がそれぞれ判断して地震に対して備えることが、このシステムと
していちばん有効な活用例ではないかと考えています。
ただ、緊急地震速報システムといえども、地震の大きさや場所などは100%確実な結果ではないので、
不確実な時点でできるだけ多くの警報を出してしまえば、誤報が増えます。また、絶対に確実な場合のみ
警報を出すと決めてしまうと、重大な地震を見落としてしまう危険性もあり、非常に難しいところでもあ
ります。一般市民の方々が、そういった誤報や見落としに対して十分な知識を持ち、理解を示すことが非
常に重要なことであると考えられます。
このセクションのまとめですが、緊急地震速報システムは地震の被害の軽減に非常に有効であることが
分かりました。また、効果的な警報のためには、観測点密度が高いことやデータの転送速度が速いことが
重要で、この点では日本の観測点網は非常に優れていることがわかりました。地震の規模が大きいほど警
報時間が長くなり、警報を出せる地域も増えるということも分かりました。そして、いちばん重要なこと
ですが、実際的な利用のためには、誤報や見落としに対する利用者の理解が必要であり、利用者への教育
も重要であるということが挙げられます。
このセクションで、分かりにくかったことやご質問はございますか。
(研修生)
CUBE(Caltech USGS Broadcast of Earthquake:地質調査所地震放送)やバークレー通報
システムなども一緒の原理なのですか。
(山田)
(研修生)
それについては次のセクションで説明します。
日本にこれだけたくさんの観測地点があるのにまだ普及していないのは、誤報があったとき
の補償問題などがあるからですか。
(山田)
それもありますが、今は試験段階なので、各研究機関などに端末が置いてあって、研究機関や
気象庁などでは使われています。
120
(研修生)
以前、テレビで、モニターがあってそこでやっているというようなことを放映していました
が、例えば市役所レベルとか、どういった目安で普及するのでしょうか。
(山田)
今、お願いすればモニターをそれぞれの研究機関、あるいは市役所レベルにも貸し出しを行っ
ているらしいので、気象庁や防災科学技術研究所に問い合わせれば貸してくれると思います。今、インタ
ーネットで実際にモニターを募集している段階ですので、実際に使えると思います。
現
地
研
修
講
演
会
4.カリフォルニアにおける地震ネットワークと緊急時の対応
カリフォルニアでは、「カリフォルニア地震総合ネットワーク(CISN)」
22
○
を運営しています。歴史的には、カリフォルニアは、北カリフォルニアと南
カリフォルニアでそれぞれネットワークを運営していたのですが、これが数
年前に統合されて、「カリフォルニア総合地震ネットワーク」という名称に
変わりました。
北ではサンフランシスコのカリフォルニア大学バークレー校、USGS(U.S.Geological Survey:内務省
アメリカ地質調査所)、サクラメントにありますOES(Office of Emergency Service:緊急事業部)、CGS
(California Geological Survey:カリフォルニア地質調査所)を中心に運営していたのですが、南では
Caltech(カリフォルニア工科大学)とUSGSを中心にネットワークを運営していました。これらが現在、
CISNの主要メンバーとなっています。
この写真は、カリフォルニア工科大学の前の道路ですが、地震が起こった
23
○
ときには、ここのサイスモ・ラボ(Seismological Laboratory:地震研究所)
で記者会見が行われ、地震の規模や被害の大きさをマスメディアに発表しま
す。これは、地震が起こったあとにマスメディアの車が駆けつけている写真
です。
この研究所の中にメディアセンターがあり、そこには大きなスクリーンや
24
○
各テレビ局の端末がすでにセットアップされており、地震が起こったときに
すぐにテレビ局の方が来て、こちらの先生方が記者会見で地震情報を発表で
きるようになっています。こちらはUSGSにいらっしゃる地震学者のLucy
Jones先生です。
カリフォルニア総合地震ネットワークには、現在、カリフォルニア全体で観測点が1563点ほどあります。
特にカリフォルニアは、サンフランシスコ周辺とロサンゼルス周辺に観測点が密集しています。そのうち
南カリフォルニアでは、約250がデジタルの地震計、約100がアナログの地震計となっています。アナログ
の地震計とは、紙にインクで記録しているような地震計で、緊急地震速報システムに使えるのはデジタル
地震計のほうです。
このような観測点で集められたデータは、電話回線、インターネット回線、衛星回線を通じ、中継基地
のアンテナを通じ、Caltechのサイスモ・ラボのコンピュータ室に送られてきます。
そのほか、各防災関係者や研究者にはポケットベルが渡されており、地震発生2∼3分後に地震のマグ
ニチュードが送られてくることになっています。このように、24時間いつでも緊急事態に対応できるよう
になっています。
121
CISNの取り組みとしては、CISNディスプレイと呼ばれるマグニチュードや地震がどこで起こったかを
表示するディスプレイを開発したり、震度の分布マップ(Shake Map)と呼ばれるもので各地の震度がど
現
地
研
修
講
演
会
れぐらいかを表示したり、地域震度マップ(Did you feel it?)というそれぞれの地域ごとに住民アンケー
トを取り、住民の体感震度がどれぐらいであったかを表示したマップを作ったりしています。それから、
アメリカの連邦政府の機関であるFEMAが開発したHAZUSといわれる被害測定ソフトウエアとCISN
ディスプレイを組み合わせて、被害推定をリアルタイムで行うことについても取り組んでいます。
アメリカと日本の大きな違いは、アメリカは地震が起こったときに、特に震度は発表されませんので、
このような震度マップは非常に重要な役割を果たしています。
25
○
これがCISNディスプレイの表示例です。例えば主要場面には、世界地図
やアメリカの地図など、いろいろな地図を表示することができ、ここには各
断層のデータとそれぞれの地震のデータがあります。四角の大きさがマグニ
チュードの大きさを表し、地震が3日後に起こったとか、1週間後に起こっ
たとか、古くなれば古くなるほど色が濃くなっていきます。黄色は、本日あ
るいは1日前に起こった地震になります。
小さな画面には、それぞれ地震がいつ起こったか、マグニチュードがどれぐらいであったかが時間軸で
並んでいます。この一つ一つの四角をクリックすると、いつ、どこで、どれぐらいのマグニチュードで、
どれぐらいの深さで起こったかといった、地震の詳細情報が小さなウィンドウで現れます。
26
○
もし地震が海側で起こった場合は、津波警報の小さなウィンドウが現れ、
津波の起こる可能性や津波の高さを表示することができます。
こちらは震度の分布マップです。各地の観測点で観測した揺れの加速度の大きさをもとに、震度がどれ
ぐらいであったかをマップに落としています。
27
○
黄色いところは震度6ぐらいですが、日本とアメリカでは震度スケールが
違いまして、震度10が日本でいう震度6ぐらいの大きさですので、ここの震
度6はそこまで大きな地震ではありません。
Shake MapをCISNディスプレイに落とし込むことも可能です。そうする
と、地図上でどのあたりに非常に強い揺れが起こったのかが分かりますので、
28
○
被害が大きかった地域をすぐに判断することが可能となります。
こちらは地域震度マップ(Did you feel it ?)です。これは、郵便番号ごと
に地域を分け、その地域の方にインターネットで、例えばどれぐらいの揺れ
を観測したかといったアンケートを取り、それを計算式に当てはめて震度を
細かい地域ごとに地図に落としたものです。
この1∼10のスケールは、「USA Today」の天気予報図のスケールと同じ色になっているそうです。
「Did you feel it ?」の細かいアンケートの内容ですが、市民がインターネットにより地震の体感をリポ
ートするということで、郵便番号でどの地域にいたか、地震時にどこにいたか、揺れの強さはどれぐらい
だったか、家具は動いたり滑ったりしたかなど、たくさんのアンケート項目があり、そのアンケートに答
えていくことによって、体感震度を計算しています。
122
HAZUSは、連邦政府の機関であるFEMA開発したソフトウエアで、地震、ハリケーン、洪水の被害を
シミュレーションすることが可能です。これとCISNディスプレイを組み合わせることによって、リアル
タイムで地震の被害を推定することができます。
カリフォルニアで行われている地震の対策には、次のようなものがあります。アメリカでは、地震対策
は国ではなく州や研究機関が行っていますので、特にカリフォルニアなど地震の多い地域では、それだけ
の地震対策がなされています。
カリフォルニアでは、CISNディスプレイによって、地震発生2∼3分後にマグニチュード、震源地、
現
地
研
修
講
演
会
震度分布、津波の危険性などをリポートし、即時に対応できるように取り組みがなされています。また、
防災関係者にはポケットベルを渡し、それによってすぐに24時間いつでも対応できるよう地震情報を伝達
しています。
地域震度マップは、アンケート形式で郵便番号ごとに各地の震度を推定します。また、被害推定ソフト
ウエアHAZUSとCISNディスプレイを組み合わせることで、リアルタイムでの被害の推定が可能となりま
す。
以上ですが、ここまでのところで何か質問等はございますか。
(研修生)
南海地震は震源などが想定できると思うのですが、大阪の中央部で初期微動と主要動の間は
どれぐらいあるのですか。
(山田)
南海地震は、大阪からどれぐらい離れているのでしょうか。和歌山のいちばん南でどれぐらい
離れていますか。
(研修生)
(山田)
200㎞ぐらいだと思います。
200㎞ぐらいですと、20秒程度と考えられます。実際にそれは計算式に当てはめてみれば分かり
ます。
(研修生)
(山田)
直下型での対応はできますか。
そうですね。海溝型の地震は警報を出しやすいのですが、直下型のときに特に被害が大きいで
すので、その辺の対策がこれから重要になってきます。
(研修生)
先ほどのナウキャストは分かりませんが、日本は気象庁が主導してやっています。こちらで
は大学という形でされていますが、日本は国がやっているということで、地震計も多くつけられて、かな
りのデータを取れるというお話でしたが、実際のところ、システムを運用していくのに、大学と国とでメ
リットとデメリットがあれば教えてください。
(山田)
メリットがあるからこういう形態になったというわけではなく、アメリカでは地震が全く起こ
らないところがほとんどで、ある一部のところだけで起こるという大きな差があり、連邦などが全部やっ
てしまうと偏ったことになります。それよりも、各地域の方がそれぞれにいちばん合った対策を取るとい
123
うのがこちらのシステムです。特にこちらでは連邦政府よりも州政府の政治力が強いので、そのようなシ
ステムになっていきました。
現
地
研
修
講
演
会
日本は、全国どこでも地震が起こるということで、統一したシステムを作るほうが機能しやすいのです。
また、広さの問題もあって、日本はアメリカに比べると狭いので、国で全体的に統括しやすいことも挙げ
られると思います。
(研修生)
日本では建築基準法を改正し、新しい建物についてはかなり厳しい規制をかけていますが、
問題は既存の建物なのです。それについては、アメリカではどうなっていますか。
(山田)
既存の建物についても、それまでの強度がしっかり考えられているかどうか分からないので、
そういう研究もされていますし、大きな問題として取り上げられています。
(研修生)
公共施設は、日本では昭和40年代の建物には免震が全然されていません。アメリカでの規制
はどうなっていますか。
(山田)
(研修生)
(山田)
(研修生)
一般の建物に比べると、公共の施設のほうが厳しいと思います。
それは法的な規制ですか。
そこまでは具体的には分かりません。
緊急速報システムの利用方法は、今お聞きしていると日本はかなり進んでいるように思いま
すが、アメリカのほうが進んでいるところはありますか。例えばFEMAと連携した被害推定ソフトウエア
のようなものは日本にはないと思いますが、それ以外に例えば人材でも、何かヒントになるようなことが
あれば教えてください。
(山田)
難しい質問ですね。すぐには思いつかないので、ちょっと考えておきます。大体同じような研
究をどちらもしているので、同じような対策をしていますし、それぞれ別の地域でやっているというのが
私の印象です。
(研修生)
震度はこちらではあまり発表されないということでしたが、それは何か理由があるのですか。
震度計がないということですか。
(山田)
震度計は十分あるのですが、それを特に一般の方に伝えるということがあまり一般的ではない
のです。そういうものは専門家を対象としていて、一般の方はどちらかというとビデオなどで被害の大き
さを感じます。日本ではテロップなどが流れますが、こちらではああいうものも全くありません。
(研修生)
124
警報時間を一般の方にお知らせすることもほとんどないのですか。
(山田)
現在はまだ試験段階で、そこまではやっていません。
知らせる手段としてマスメディアがいちばん大きいと思いますが、それ以外には何か方法は
(研修生)
あるでしょうか。
(山田)
例えばそれ専門の24時間動くようなラジオのようなものを、各家庭に配布して警報を出したり、
それから携帯電話なども徐々に考えられています。
現
地
研
修
講
演
会
実際にはまだされてはいないのですか。
(研修生)
まだ実用段階ではありませんが、いろいろな手段は考えられているところです。実用問題のほ
(山田)
かに、制度などクリアしなければならない問題がたくさんあります。
日本でもそうですが、地震や台風があった場合、携帯電話がつながりにくくなります。そう
(研修生)
なったときに、先ほどのポケットベルなども専用回線を利用することが必要になってくると思うのですが、
それが必ず確保できる保証がない中で、それ以外に何か方法はあるでしょうか。発信側はいろいろな方法
があるでしょうが、受け手側の一般の方はどうでしょうか。
(山田)
それも一つの課題で、まだその前の段階です。
(研修生)
この前、テレビで、1週間以内ぐらいの地震なら20%ぐらいの確率で当てられるけれども、
それぐらいの確率ではあまり表に出せないだけだという大学の先生のお話がありましたが、山田様のご意
見はいかがですか。
(山田)
実際に地震予知の研究はいろいろなところでされていて、大きな地震が起きる前には小さな地
震が幾つか起こるので、その前震を統計的にしっかりとらえることができれば、一応大きな地震がいつ来
るかが分かるといわれています。避難にはコストがかかりますし、生活がありますので、今の研究ではそ
れぐらいの予知はできるとは思いますが、20%の精度では地震予知を実際に運用する段階ではないと思い
ます。
(研修生)
緊急地震速報システムの地震計ですが、確か兵庫県南部地震の後、割と早い時期に全国に設
置されたのですね。
(山田)
(研修生)
(山田)
今のたくさんの地震計は、全部兵庫県南部地震の後についたものです。
それがまだ試験段階ということは、何が問題なのでしょうか。
やはり誤報や見落としがあったときに、だれが責任をとるのかといったことがいちばん問題と
なっていると思います。例えば警報を出して機械を止めたとすると、機械を再開するまでの損害であると
125
か、そういうものを一体だれが負うのか。例えばそれが問題になったときに、政府は国民全員に対して負
うことはできません。そういうことがまだクリアされていないということです。一般の中で、こういうシ
現
地
研
修
講
演
会
ステムへの理解がまだ十分深まっていないということがあると思います。
精度としてはそれなりに上がっているわけですか。
(研修生)
(山田)
今の試験段階で研究機関の方はそうおっしゃっています。
P波とS波の間の警報時間で対策を取ればいいということだと思いますが、直下型地震のと
(研修生)
きはそれが短くなってしまうので、その限られた時間に具体的に一般の人が対策を取るとすれば、どうい
ったことが考えられますか。
それも重要な問題で、実際に人間が緊急時に後3秒あると言われたときに、すぐに行動が取れ
(山田)
るかどうかというのは大きな問題です。どうしても呆然としてしまう方がほとんどで、すぐに適切な対応
は取れないと思います。ですから、有効な使用法としては、ガスを閉めるといったことは機械で自動化し
てしまって、警報が来たらすぐスイッチを入れるというように自動化していかないと、人間がすぐに行動
を取るのはかなり難しいと思います。
(研修生)
地震の対策というと、こういったシステムをハードでやることと、それをどう運用するか、
リンクしていくかといったソフト面もあるかと思います。地震が起こる前の対策としての意識の高まりと
か、予防対策として知識の習得や啓発活動とか、それから誤報に対するリアクションなどもすごく重要に
なってくると思います。そういった意味で、こちらでは一般の方々に対する普段からの地震に対する啓発
活動はどのようにされているのでしょうか。
(山田)
日本のほうが、政府がそういうことに対して取り組みをしようという姿勢が強いですし、また、
研究や地震計などに対してたくさんのお金を使うことに、一般の方が必要性を認めていますが、どちらか
というと、カリフォルニアのほうではまだそこまでの意識がないというように感じます。
(研修生)
地震に対する恐怖に関しては、逆にカリフォルニアのほうが分かりやすいと思いますので、
身近に感じられるようなやり方で市民の方々に対する指針を出すとか、例えばバークレーでは自分たちの
町を守るための意識を高めていく市民活動とか、そういった関わり方もあると思います。ある意味では、
カリフォリニアのほうが積極的なところがあるような気もするのですが。
(山田)
このCaltechでは、月に1回パブリックレクチャーといって、一般の方に地震に関する研究成果
のレクチャーを開催しており、興味のある方は無料で参加できて、最先端の研究成果を勉強することがで
きます。
(研修生)
ますか。
126
山田先生がカリフォルニアに来られて、実際に有感地震を感じられたことはどれぐらいあり
(山田)
実際にすごく大きな地震が1回だけ起こったのですが、そのとき私はここにいませんでした。
この2年間で有感地震は多分その1回だけだと思います。たとえカリフォルニアであっても、日本に比べ
ると少ないと思います。
(研修生)
日本では、海溝型で起こる可能性が50∼60%なので、津波関係がかなり進んできていて、水
門があればまず大丈夫だろう、それが機能しなかったらこれだけ浸かるだろうというハザードマップもで
きています。こちらでも海溝型はあると思いますが、その辺の取り組みはされているのでしょうか。
(山田)
(研修生)
(山田)
現
地
研
修
講
演
会
こちらの地震はほとんどが内陸型なのです。
では、あまり想定されていないのですか。
断層が内陸の浅いところにあるので、そちらが中心になっています。北に行くとまた違うので
すが、この辺では特にそうです。
(研修生)
先生は、日本の古い家屋や歴史的な建築物を研究されているということですが、アメリカで
も歴史的な景観建築物があると思います。耐震と歴史的なものとで結構ジレンマがあるかと思いますが、
それ対する対策、政策についてお伺いしたいと思います。
(山田)
こちらの歴史は200年程度ですので、日本と比べて、まず歴史的な建物が少ないのです。日本の
ほうが、そういうものを保全したり、そのままで残そうという意識が非常に強いと思いますので、保存と
耐震性というのは非常に大きな問題です。
(研修生)
ソフト面でお聞きしたいのですが、こういった情報システムを災害時の要援護者、高齢者や
障害者など避難が困難な方に対して適用しようということはありますか。
(山田)
実際にその方々がすぐに行動するというよりも、その方がいらっしゃる建物、ホームや病院な
どに対して使用していくのが非常に有効ではないかと思います。例えば緊急発電システムに情報を伝えて、
すぐそれが稼動できるようにすると、呼吸器などをつけているかたも、電気が切れることなく使うことが
できます。人間はすぐには動けないので、機械などで自動的にそういうシステムを作っていくというのが
一つの有効な利用法ではないかと思います。
また個別に質問があれば、どうぞお気軽にお尋ねください。わたしの今日の説明は以上で終わります。
127
現
地
研
修
講
演
会
128
①
②
③
④
⑤
⑥
⑧
⑨
⑩
⑭
⑮
⑯
現
地
研
修
講
演
会
129
現
地
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修
講
演
会
130
⑰
⑲
⑳
22
○
23
○
24
○
25
○
26
○
27
○
28
○
現
地
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修
講
演
会
131
現
地
研
修
講
演
会
⑦
⑪
132
⑫
現
地
研
修
講
演
会
⑬
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現
地
研
修
講
演
会
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21
○
134
参 考 資 料
135
財団法人 大 阪 府 市 町 村 振 興 協 会
平成17年度市町村職員海外研修実施要領
1.目 的
諸外国の先進事例等について調査研究することにより施策反映の一助とするとともに、21
世紀にふさわしい国際的視野と識見を持った人材を養成する。
2.研修生の資格要件
研修の目的を達成するに足りる能力を有する者として、市町村長から推薦された者で50歳
未満の職員とする。
推薦は、1市町村1名とする。
3.研修生推薦市町村
研修生の推薦は各市町村2年に1回とし、平成17年度は、別紙「市町村職員海外研修ブロ
ック別研修生参加市町村」によるものとする。
4.研修テーマ
(1)研修テーマは「地震を中心とした災害対策∼コミュニティの自主性と安全・安心∼」と
する。
(2)現地調査(公式訪問)については、班毎に(1)の研修テーマに合致した調査研究の内
容・テーマを決定する。
(3)自主研修に関するテーマは、班別事前研修の中で研修生自身が設定し、調査研究を実施
する。
5.研修生の班編成等
(1)研修生を2班に分けて(2班編成)、班単位で現地調査(公式訪問)を実施する。
(2)班分けは、参加市町村の研修生が決定後、当協会で行う。
(3)自主研修についても、原則として班単位で実施する。
6.調査先及び滞在都市
(1)調査先は、アメリカ合衆国(カリフォルニア州)1か国とする。
(2)滞在は2都市(ロサンゼルス・サンフランシスコ)を拠点とし、現地調査、自主研修を
行うものとする。
(3)現地調査(公式訪問)は、調査内容に応じた訪問先(都市等)を、当協会が選定する。
(4)自主研修先は、調査内容に応じた訪問先(都市等)を研修生が選定する。
137
7.研修内容
(1)事前研修
研修効果を高めるため、研修先の情報収集・研修の予備知識を得ることを目的として行
う。
(2)班別研修
研修テーマの理解を深め、あわせて現地調査先への質問事項の検討及び自主研修の調査
事項の検討を行う。
(3)現地研修
調査事項についてそれぞれ役割を分担し、主体的に行動する。
(4)事後研修
現地調査及び自主研修テーマについて報告書を作成する。
(5)報 告 会
現地調査事項についての調査結果を報告する。
(6)そ の 他
研修にあたっては、可能な限り大学教員等の指導助言を受けて進める。
8.研修期間
(1)事前研修 平成17年5月∼9月の間で、全体で2∼3回、班別で3∼4回
(2)現地研修 平成17年10月11日(火)
∼19日
(水)
の9日間
(3)事後研修 平成17年10月∼平成18年2月の間で全体で3回、班別で3∼5回
(4)報 告 会 平成18年2月20日
(月)
ただし、事前・事後研修及び班別研修については、追加実施する場合がある。
(5)旅 費
現地研修の旅費は、関西国際空港を起点とし、振興協会の規定により支給する。
138
市町村職員海外研修ブロック別研修生参加市町村
ブ ロ ッ ク 名
北
河
摂
北
ブ
ロ
ブ
ロ
ッ
ッ
ク
ク
平 成 17 年 度
平 成 18 年 度
池
田
市
豊
中
市
吹
田
市
高
槻
市
茨
木
市
摂
津
市
箕
面
市
守
口
市
大
東
市
枚
方
市
門
真
市
市
四
寝
屋
川
條
交
中
部
ブ
ロ
ッ
ク
泉
北
南
ブ
ロ
ブ
ロ
ッ
ッ
ク
ク
北 摂 ( 北 部 )
南
河
内 ( 東 部 )
野
市
市
市
羽
曳
野
市
市
藤
井
寺
市
河 内 長 野 市
東
大
阪
市
松
原
市
大 阪 狭 山 市
柏
原
市
八
富
泉
畷
尾
田
林
堺
市
和
泉
市
泉
大
津
市
高
石
市
岸
和
田
市
貝
塚
市
泉
佐
野
市
泉
南
市
島
本
町
能
勢
町
河
南
町
阪
南
市
豊
能
町
太
子
町
千 早 赤 阪 村
阪 南 ( 南 部 )
計
忠
岡
町
田
熊
取
町
岬
21市町
尻
町
町
21市町村
139
平成17年度市町村職員海外研修 研修日程
研 修 会
日 時
第1回事前研修
第1回班別研修
班
別 研 修
及 び
第2回事前研修
(8月11日)
6月7日(火)
(14時∼17時)
・自己紹介
・研修の進め方等の説明
・班編成
・報告書原稿作成要領の説明
・基調講義及び調査指導
(指導助言者である渥美公秀先生から本研修のテ
ーマについてのセミナーを実施。その後海外研修
を行うにあたり、最新の情報の提供を受けるとと
もに、調査のポイントや調査内容についての指導
を受ける。)
・6月28日(火)は、(財)神戸都市問題研究所 大
島氏より神戸市における最新の防災対策等につい
て特別講義を受ける。
6月28日(火)∼
・7月8日(金)及び8月11日(木)は渥美先生か
8月11日(木) ら質問状作成について指導を受ける。
・その他の班別研修では、各班で現地調査先への質
問事項の検討・作成及び自主研修の研究を行う。
※各班5回実施
第3回事前研修
9月8日(木)
(14時∼17時)
・現地調査等について(研修ビデオ)
・現地講演会についての説明
・現地調査先への記念品について
・研修生名簿の校正
第4回事前研修
10月4日(火)
(14時∼17時)
・出発当日の説明
・基本会話と海外でのマナー
・渡航中の注意事項
現
地
研
修
第1回事後研修
班
別
研
修
第2回事後研修
10月11日(火)∼
・現地調査へ(アメリカ・カリフォルニア州…ロサ
10月19日(水) ンゼルス・サンフランシスコ)
10月27日(木)
(14時∼17時)
・班別研修の日程調整
・報告書原稿作成要領の確認
・アンケートの提出
・報告書の作成
11月2日(水)∼
・現地調査についての総括と反省
11月25日(金)
※各班4∼5回実施
11月25日(金)
(15時∼17時)
・研修生から渥美先生への現地調査報告
・報告書作成にあたっての諸注意及び指導
報告書編集部会
12月上旬∼
・各班から選出された編集委員による報告書の編集
1月下旬
並びに校正の作業(2∼3回実施)
第3回事後研修
平成18年
1月16日(月)
(15時∼17時)
プレゼンテーション研修
2月8日(水)
・報告会の準備に伴う研修
(9時30分∼17時)
報
140
平成17年
5月30日(月)
(13時∼17時)
内 容
告
会
2月20日(月)
(13時∼17時)
・報告書の校正
・報告会の内容及び実施方法の検討
・現地調査報告(班別)
平成17年度市町村職員海外研修 事前・事後研修報告書
A 班
第1回事前研修
平成17年5月30日(月)
午後1時∼午後5時
① 自己紹介(研修生・事務局)
② 研修の進め方等の説明(実施要領・研修日程・役割分担・提出書類等)
③ 班編成(班長等の役割分担)
④ 報告書原稿作成要領の説明
第1回班別事前研修
平成17年6月7日(火)
午後2時∼午後5時
① 基調講義
「地震を中心とした災害対策∼コミュニティーの自主性と安全・安心∼」
大阪大学コミュニケーションデザイン・センター助教授
大阪大学大学院人間科学研究科
渥美公秀先生(指導助言者)
② 調査指導
今後、研修を行うにあたり、渥美公秀先生から最新の情報の提供を受けるととも
に、調査のポイントや調査内容についての指導を受ける。
③ 調査地の選定
現地視察先の検討(ロサンゼルス2箇所、サンフランシスコ1箇所)
全体研修・第2回班別事前研修 平成17年6月28日(火)
午後2時∼午後5時
① 特別講義(全体研修)
講師 (財)神戸都市問題研究所 大島博文氏
演題 「神戸市における最新の防災対策等について」
② 調査地の選定(第2回班別事前研修)
現地視察先の優先順位を決定
第3回班別事前研修
平成17年7月6日(水)
午後2時∼午後5時
① 調査項目の検討
調査地ごとに調査の視点を決め、調査項目を検討する。
第4回班別事前研修
平成17年7月8日(金)
午後2時∼午後5時
① 指導助言者からの助言
渥美先生から質問状作成について指導を受ける。
② 調査項目の検討
現地視察先への質問事項の検討・作成
第5回班別事前研修
平成17年7月11日(月)午後2時∼午後5時
現地視察先への質問事項の検討・作成
141
第6回班別事前研修
平成17年7月19日(火)
午後2時∼午後5時
現地視察先への質問事項の作成完了
第2回事前研修
平成17年8月11日(木)
午後2時∼午後5時
① 指導助言者からの助言
渥美先生から質問内容について指導・助言を受ける。
② 現地調査地の精査
自主研修の検討、現地調査地での調査内容の確認。
第3回事前研修
平成17年9月8日(木)
午後2時∼午後5時
① 現地調査等について(研修ビデオ)
② 現地講演会についての説明
③ 現地調査先への記念品について
④ 研修生名簿の校正
第4回事前研修
平成17年10月4日(火)
午後2時∼午後5時
① 出発当日の説明
② 基本会話と海外でのマナー
③ 渡航中の注意事項
第1回事後研修
平成17年10月27日(木)
午後2時∼午後5時
① 班別研修の日程調整
② 報告書原稿作成要領の確認
③ アンケートの提出
第1回班別事後研修
平成17年11月2日(水)
午後2時∼午後5時
① バークレー市危機管理局の現地報告書の検討、作成
第2回班別事後研修
平成17年11月4日(金)
午前10時∼午後5時
① アメリカ赤十字社の現地報告書の検討、作成
② ロサンゼルス危機管理局の現地報告書の検討、作成
第3回班別事後研修
平成17年11月9日(水)
午後2時∼午後5時
① バークレー市危機管理局の現地報告書の検討、作成
② アメリカ赤十字社の現地報告書の検討、作成
③ ロサンゼルス危機管理局の現地報告書の検討、作成
142
第4回班別事後研修
平成17年11月16日(水)
午前10時∼午後5時
① バークレー市危機管理局の現地報告書の検討、作成
② アメリカ赤十字社の現地報告書の検討、作成
③ ロサンゼルス危機管理局の現地報告書の検討、作成
第5回班別事後研修
平成17年11月24日(木)
午後1時∼午後5時
① バークレー市危機管理局の現地報告書の検討、作成
② アメリカ赤十字社の現地報告書の検討、作成
③ ロサンゼルス危機管理局の現地報告書の検討、作成
第2回事後研修
平成17年11月25日(金)
午後3時∼午後5時
① 研修生から渥美先生への現地調査報告
② 報告書作成にあたっての諸注意及び指導
第1回報告書編集部会
平成17年12月5日(月)
午後2時∼午後5時
編集委員による報告書の編集並びに校正の作業
第2回報告書編集部会
平成17年12月21日(水)
午前10時∼午後5時
編集委員による報告書の編集並びに校正の作業
第3回事後研修
平成18年1月16日(月)
午後3時∼午後5時
① 報告書の校正
② 報告会の内容及び実施方法の検討
報 告 会
平成18年2月20日(月)
午後3時∼午後5時
・現地調査報告(班別)
143
平成17年度市町村職員海外研修 事前・事後研修報告書
B 班
第1回事前研修
平成17年5月30日(月)
午後1時∼午後5時
・自己紹介
・研修の進め方、日程等の説明
・班別の役割分担調整
・報告書原稿作成要領の説明
第1回班別事前研修
平成17年6月7日(火)
午後2時∼午後5時
・基調講義
「地震を中心とした災害対策」について講演を聴く。
コミュニティの組織の重要性やボランティア活動の状況について
大阪大学大学院人間科学研究室
渥美公秀先生
・調査指導
海外研修にあたり、アメリカの防災対策とボランティアの役割について指導を受
ける。
・調査地の選定
現地研修先の検討をする。
全体研修・第2回班別事前研修 平成17年6月28日(火)
午後2時∼午後5時
・特別講義
講師 (財)神戸都市問題研究所 大島博文 氏
演題 神戸市における最新の防災対策等について
神戸市職員としての震災経験したことやそこで得たものを中心に講演
・調査地の選定
現地視察地の概要を調査し、候補地の絞込み作業
第3回班別事前研修
平成17年7月5日(火)
午後1時30分∼午後5時
・候補地ごとに、その地域の特色や業務内容を調査し、班のなかで質問内容について
意見の調整をする。
第4回班別事前研修
平成17年7月8日(金)
午後2時∼午後5時
・指導助言
渥美先生から、候補地宛の質問事項作成について、アドバイスを受ける。また、
先生に候補先の実情を質問して、率直な意見を求める。
第5回班別事前研修
平成17年7月13日(水)
午後1時30分∼午後5時
現地視察先への質問内容について、意見交換をする。
144
第6回班別事前研修
平成17年7月21日(木)
午後1時30分∼午後5時
現地調査先への質問事項の作成作業を行う。
第2回事前研修
平成17年8月11日(木)
午後2時∼午後5時
質問事項の校正作業を完了する。
第3回事前研修
平成17年9月8日(木)
午後2時∼午後5時
・現地調査の進め方
過去の研修ビデオの視聴と注意点について
・現地講演会に対する説明
カリフォルニア工科大学の地震防災について
・研修者名簿の確認
第4回事前研修
平成17年10月4日(火)
午後2時∼午後5時
・アメリカの基本的マナーについて
・アメリカ研修中の注意事項の確認
第1回事後研修
平成17年10月27日(木)
午後2時∼午後5時
・団長からの海外研修の報告
・事後研修の進め方と注意点
・研修のアンケートの提出
第1回班別事後研修
平成17年10月27日(木)
午前10時∼午後2時
・現地報告書の作成の段取りと研修内容について意見の交換
・自主研修のテーマについて
第2回班別事後研修
平成17年11月10日(木)
午前10時∼午後5時
・現地先の資料整理と報告書作成の素案づくり
第3回班別事後研修
平成17年11月17日(木)
午前10時∼午後5時
・カリフォルニア州知事室緊急業務部の報告書の校正作業
・CERTの報告書の校正作業
・オークランド市の報告書の校正作業
145
第4回班別事後研修
平成17年11月25日(金)
午前10時∼午後3時
・カリフォルニア州知事室緊急業務部の報告書の提出
・CERTの報告書の提出
・オークランド市の報告書の提出
・自主研修の校正と意見交換
第2回事後研修
平成17年11月25日(金)
午後3時∼午後5時
・現地研修報告
渥美先生に、事前に提出していた現地研修の報告書を読んでいただき、かつ口頭
の報告をし、報告書作成についてアドバイスを受ける。
第1回編集部会
平成17年12月5日(月)
午後2時∼午後5時
・報告書原稿及びデーターを印刷業者に説明
・報告書レイアウト検討
第2回編集部会
平成17年12月21日(水)
午前10時∼午後5時
・報告書初稿校正
・報告書レイアウト決定
第3回事後研修
平成18年1月16日(月)
午後3時∼午後5時
・報告書2校校正
・報告会の役割分担検討
第5回班別事後研修
平成18年1月24日(火)
午前10時∼午後5時
平成18年1月25日(水)
午前10時∼午後5時
・報告会準備
第6回班別事後研修
・報告会準備
プレゼンテーション研修 平成18年2月8日(水)
午前9時∼午後5時
・プレゼンテーションの基礎研修
・報告会に向けてのグループワーク
報告会
平成18年2月20日(月)
午後1時30分∼午後5時
・現地調査報告
「地震を中心とした災害対策∼コミュニティの自主性と安全・安心∼」
146
行 程
図
平成17年10月11日(火)∼10月19日(水)9日間
研修日程概要
日程
1
月日(曜)
都 市 発 着
10月11日
(火) 関
西
空
港
発
ロサンゼルス着
2
10月12日
(水) ロ サ ン ゼ ル ス
3
10月13日
(木) ロ サ ン ゼ ル ス
4
10月14日
(金) ロ サ ン ゼ ル ス
5
10月15日
(土) ロ サ ン ゼ ル ス
6
10月16日
(日) ロ サ ン ゼ ル ス 発
サンフランシスコ
ロサンゼルス
サンフランシスコ着
7
10月17日
(月) サ ン フ ラ ン シ ス コ
8
10月18日
(火) サンフランシスコ発
ロサンゼルス着
ロサンゼルス発
9
10月19日
(水) 関
西
空
港
着
公式訪問先
日 時
訪 問 先
A班 ロサンゼルス市危機管理局(EPD)・グレンデール救急消防署
10月13日
(木) ロ サ ン ゼ ル ス
B班 カリフォルニア州知事室緊急業務部・ロサンゼルス郡危機管理事務所
A班 アメリカ赤十字社 ロサンゼルス広域事務所
10月14日
(金) ロ サ ン ゼ ル ス
B班 CERT
A班 バークレー市
10月17日
(月) サンフランシスコ
B班 オークランド市
147
PROMOTION ASSOCIATION OF MUNICIPALITIES IN OSAKA PREFECTURE
OSAKA PREFECTURE NEW ANNEX SOUTH BLD. 6F 3−1−43 OHTEMAE CHUOH - KU, OSAKA CITY. 540−0008, JAPAN
TEL.06−6920−4567 FAX.06−6920−4561
A Group
A 班
148
Sub - Leader & Group Leader
Subgroup Leader
副団長兼班長
副班長
Hideki Onoda
Taishi - Town
太
子
町
教育委員会教育総務課課長
Naoki Okazaki
Sakai - City
堺
市
教育委員会事務局総務部総務課課長代理
Ryoko Yokoi
Ikeda - City
池
田
市
議 会 事 務 局 総 務 課
斧 田 秀 明
岡 尚 喜
横 井 良 子
Hiroto Kamatani
Ibaraki - City
茨
木
市
建設部道路交通課工務一係係長
Toshihiko Kohama
Moriguchi - City
守
口
市
財政危機対策室主任
Keisuke Murakami
Kawachinagano - City
河
内
長
野
市
消防署警備第3課課長補佐
鎌 谷 博 人
小 浜 利 彦
村 上 敬 輔
Yoshitaka Maruyama
Matsubara - City
松
原
市
総務部総務課市民安全係主査
Kenjiro Tamura
Izumiotsu - City
泉
大
津
市
上下水道局水道工務課工務係主査
Masanori Ochi
Kishiwada - City
岸
和
田
市
都市整備部都市計画課まちづくり支援担当
丸 山 佳 孝
田 村 健二郎
越 智 正 則
PROMOTION ASSOCIATION OF MUNICIPALITIES IN OSAKA PREFECTURE
OSAKA PREFECTURE NEW ANNEX SOUTH BLD. 6F 3−1−43 OHTEMAE CHUOH - KU, OSAKA CITY. 540−0008, JAPAN
TEL.06−6920−4567 FAX.06−6920−4561
B Group
B 班
Group Leader
Subgroup Leader
班 長
副班長
Yoshiro Takahashi
Izumisano - City
泉
佐
野
市
生活産業部農林水産課主査
Masahiro Kida
Toyono - Town
豊
能
町
生活福祉部子育て健康福祉課課長
Yosuke Ueda
Hirakata - City
枚
方
市
市民生活部危機管理室
橋 吉 郎
木 田 正 裕
上 田 陽 介
八
尾
市
教 育 委 員 会 事 務 局
教育総務部教育総務課課長補佐
Kiyotaka Yamanaka
Tondabayashi - City
富
田
林
市
消防本部消防総務課主幹兼消防団係長
Yuki Nakata
Kashiwara - City
柏
原
市
市 長 公 室 秘 書 課
平 尾 克 之
山 中 清 隆
中 田 有 紀
Takeshi Fujiwara
Hannan - City
阪
南
市
事業部都市整備課主査
Tomoki Minami
Tadaoka - Town
忠
岡
町
福祉部介護保険課係長
Kiyohiko Nakao
Kumatori - Town
熊
取
町
総 務 部 税 務 課 課 長
藤 原 健 史
南 智 樹
中 尾 清 彦
Katsuyuki Hirano
Yao - City
149
PROMOTION ASSOCIATION OF MUNICIPALITIES IN OSAKA PREFECTURE
OSAKA PREFECTURE NEW ANNEX SOUTH BLD. 6F 3−1−43 OHTEMAE CHUOH - KU, OSAKA CITY. 540−0008, JAPAN
TEL.06−6920−4567 FAX.06−6920−4561
Secretary
事 務 局
Leader
団 長
Yoshinobu Ueura
財団法人大阪府市町村振興協会
研
究
課
課
長
上 浦 善 信
150
Yasuko Tomoya
Kazuyuki Iwami
財団法人大阪府市町村振興協会
研
修
課
主
幹
財団法人大阪府市町村振興協会
研
修
課
主
査
友 谷 靖 子
岩 見 和 行
A Group
A班
Taishi - Town
Hideaki Onoda
Sakai - City
Naoki Okazaki
Ikeda - City
Ryoko Yokoi
Ibaraki - City
Hiroto Kamatani
Moriguchi - City
Toshihiko Kohama
Kawachinagano - City
Keisuke Murakami
Matsubara - City
Yoshitaka Maruyama
Izumiotsu - City
Kenjiro Tamura
Kishiwada - City
Masanori Ochi
SECRETARIAT TO THE BOARD OF EDUCATION
General Affairs Division
SECRETARIAT TO THE BOARD OF EDUCATION
GENERAL AFFAIRS DEPARTMENT
General Affairs Divison
SECRETARIAT TO THE ASSEMBLY
General Affairs Division
DEPARTMENT OF CONSTRUCTION
Road Traffic Division
Financial Crisis Management Room
Director
FIREFIGHTING HEADQUARTERS
Fire Department Guard Division3
DEPARTMENT OF GENERAL AFFAIRS
General Affairs Division
DEPARTMENT OF WATER AND SEWAGE
Waterworks Engineerings Division
DEPARTMENT OF CITY MAINTENANCE
City Planning Division
Deputy Director
Assistant Manager
Staff
Chief
Manager
Senior Staff
Senior Staff
Staff
B Group
B班
Izumisano - City
Yoshiro Takahashi
Toyono - Town
Masahiro Kida
Hirakata - City
Yosuke Ueda
Yao - City
Katsuyuki Hirano
Tondabayashi - City
Kiyotaka Yamanaka
Kashiwara - City
Yuki Nakata
Hannan - City
Takeshi Fujiwara
Tadaoka - Town
Tomoki Minami
Kumatori - Town
Kiyohiko Nakao
DEPARMENT OF CIVIC AFFAIRS AND INDUSTRY
Agriculture, Forestry And Fisheries Division
DEPARTMENT OF SOCIAL WELFARE
Life Health And Child Welfare Division
DEPARTNET OF CIVIC LIFE
Crisis Control Room
SECRETARIAT TO THE BOARD OF EDUCATION
DEPARTMENT OF GENERAL AFFAIRS
Education General Affairs Division
FIREFIGHTING HEADQUARTERS
Firefighting General Affairs Division
DEPARTMENT OF OFFICE OF THE MAYOR
Secretariat Division
DEPARTMENT OF CITY DEVELOPMENT
City Planning Division
DEPARTMENT OF WELFARE
Nursing-Care Insurance Division
DEPARTMENT OF GENERAL AFFAIRS
Tax Administration Division
Senior Staff
Research Division
Staff Training Division
Staff Training Division
Director
Excutive Staff
Senior Staff
Director
Staff
Deputy Director
Executive Staff and Chief
Staff
Senior Staff
Chief
Director
Secretary
事 務 局
Yoshinobu Ueura
Yasuko Tomoya
Kazuyuki Iwami
151
平成17年度 市町村職員海外研修名簿
所属市町村等
氏 名
上 浦 善 信 (財)大阪府市町村振興協会
団
長
副
団
長
斧 田 秀 明
(兼A班班長)
橋 吉 郎
B 班 班 長
太
泉
子
佐
野
所 属 課 等
究
課
課
研
長
町
教 育 委 員 会 教 育 総 務 課
市
生 活 産 業 部 農 林 水 産 課
A班
氏 名
斧 田 秀 明
岡 尚 喜
横 井 良 子
鎌 谷 博 人
小 浜 利 彦
村 上 敬 輔
丸 山 佳 孝
田 村 健二郎
越 智 正 則
太
堺
池
茨
守
河
松
泉
岸
所属市町村
子
内
大
和
田
木
口
長
原
野
津
田
町
市
市
市
市
市
市
市
市
所 属 課
教 育 委 員 会 教 育 総 務 課
教育委員会事務局総務部総務課
議 会 事 務 局 総 務 課
建 設 部 道 路 交 通 課
財 政 危 機 対 策 室
消 防 署 警 備 第 3 課
総
務
部
総
務
課
上 下 水 道 局 水 道 工 務 課
都 市 整 備 部 都 市 計 画 課
職場電話番号
0721−98−0300
072−233−1101
072−752−1111
072−620−1651
06−6992−1221
0721−62−0115
072−334−1550
0725−33−1131
0724−23−9629
市
町
市
市
市
市
市
町
町
所 属 課
生 活 産 業 部 農 林 水 産 課
生活福祉部子育て健康福祉課
市 民 生 活 部 危 機 管 理 室
教育委員会事務局教育総務課
消 防 本 部 消 防 総 務 課
市 長 公 室 秘 書 課
事 業 部 都 市 整 備 課
福 祉 部 介 護 保 険 課
総
務
部
税
務
課
職場電話番号
0724−63−1212
072−739−3420
072−841−1221
0729−24−3888
0721−25−1122
0729−72−1501
0724−71−5678
0725−22−1122
0724−52−1001
B班
氏 名
橋 吉 郎
木 田 正 裕
上 田 陽 介
平 尾 克 之
山 中 清 隆
中 田 有 紀
藤 原 健 史
南 智 樹
中 尾 清 彦
泉
豊
枚
八
富
柏
阪
忠
熊
所属市町村
佐
野
能
方
尾
田
林
原
南
岡
取
指導助言者
渥
氏 名
美 公 秀
所 属
大阪大学大学院人間科学研究科
役 職 名
助 教 授
事務局
氏 名
所 属
上 浦 善 信 (財)大阪府市町村振興協会
友 谷 靖 子 (財)大阪府市町村振興協会
岩 見 和 行 (財)大阪府市町村振興協会
152
研
研
研
役 職 名
究
課
課
修
課
主
修
課
主
長
幹
査
職場電話番号
06−6920−4565
06−6920−4567
06−6920−4567