78.「君は社員を本気でしかれるか?」 (1)天皇家のご用邸があることで有名な所で、那須塩原の(株)第一不動産に1泊2日 の研修旅行に行った。新幹線の那須塩原駅の近くに新しい本社ビルを建てたばかり の39歳の小板橋博幸社長の話には勢いがあった。 一緒に聴いていた君はどうだったろうか。 私は、独立直後の自分の姿と比べな がら聴いていたので、感慨ひとしおだった。 「トップが熱くなければ、経営は成 り立たない」「お客様に損をさせる取引はしたくない」と思っている点などは、似 ているところが多いが、私よりこの社長の方が数段人間として優れている。 特に、社員に対する熱い思いが、凄い! った。 最初に採用した社員は、ツッパリだ 「ツッパリは素直だから、考えが合えば、本気で一緒に戦う社員になる」 と採用した、と。 「本当に一緒にやれる社員が一人いれば、組織は変わる」と、 その日から、毎日1時間は一緒に飲んで、自分の思いを語り、会社の未来を語り続 けた。 「明日から来なくて良いぞ!」と突き放して身の危険を感じた瞬間もあっ た」「お陰で、自分の娘からは『よその優しいおじさん』になってしまいました」 「社員に対して、言わなければならないことは、言わなければならない!」「自分 の子供に対するように、社員を叱っているか?」と自分に何時も問いかけました。 「社長という権力で無理矢理やらせるのではなく」「お前にとって、これをやる ことで、もっと奥深いものが身に付くのではないか」と語りかけました、と。 なるほど、そこには血みどろのやりとりがあったことでしょう。 のツッパリだったという佐川さんが営業部長です。 そして今、そ 懇親会の時、「娘がディズニ ーで働きたいと言っていますが、何とかなりませんか」と娘の心配をしている、良 いお父さんでした。 たが。 その目の奥に、ツッパリ特有の強く光るものも残っていまし 「士は、己を知る者の為に死す」そんな関係ができているようでした。 そして、専務は仮家里香子というとても賢く綺麗な女性でした。 「どうして女 性が専務ですか?」と聴いたら、「私の会社での女房です」との答え。 体の秘書役の女性」(奥様ではない)と言うことでした。 「一心同 ウーン、素晴らしい! (2)顧みて、私にこれだけの社員に対する熱い行動があったか、と思うと、胸が痛い。 もう10年前になるか、紹介者と一緒に一人の女性が面接に来た。 採用後、1年 ぐらいして、その妻子のある紹介者と男と女の関係があることが判った。 面に疎い私だが、どうしたものか考えた。 しかし、私は何もしなかった。 その方 3年 後、疲れ切った顔で、「郷里に帰ります」と言う彼女を、「それが良い」と賛成し た。 自分で自分の方向を見出したのだから、それはそれで良かったのかも知れな いが、本当は、もっと早く、「そんなこと辞めなさい!」「もっと自分を大事にし なさい!」と直言し、別れさせるべきだったろう。 に扱わなかったことを、思い出して後悔した。 その娘を自分の娘と同じよう 判っていながら、本人の自覚を待 つ、と言う、そんな曖昧な、臆病とも言える私の人間性のせいか、私には、「私の 会社での女房です」とまで言える女性秘書役はいない。 居るのに、私の弱さのせいで、そうなれていないだけだ。 -1- 本当はそうなりたい人は 一体、私は本気で社員 を叱っているだろうか? 営業のリーダーにしようとしている人間を、「休んでば かりいやがる!」と思いながら、「自分から気づいてくれるのを待っている自分」 が居る。 宅建試験に本気で挑戦しない社員を、本気で叱ったか? 男女関係でゴチャゴ チャしている社員を見て、本気で叱ったか?・・・・ウーン、本人の自覚を見守る と言うことで、叱ることから逃げていたことが多いのを認めるしかない。 翌朝6時に起きて、誰も居ない那須の紅葉しかかった露天風呂につかりながら、 自問自答した。 だ。 「63歳にもなって、俺はまだそんなところか? 恥ずかしい限り 今から社員を本気で叱る社長になろう」と心が定まった。 (3)また、小板橋社長の話の中に、「賃料を払えない学生」の話があった。 本人から事情を聴いてみたら、「お父さんがアル中で、娘の所にお金の無心に来 ている」ことが判った。 授業料も滞納していた。 そこで、大学にも相談したら、 とても成績も良い娘だったので、奨学金の申請をして、上手くそれを受けられるよ うになり、それで賃料と学費を払い、無事卒業できた。 の手伝いをする仕事をしています、と。 労した。 今は病後に仕事への復帰 この話を聞いて、私は涙を抑えるのに苦 そんな父親もいれば、そんな不動産業者も居るんだ。 素晴らしい! 振り返って、「私はそこまで、お客様の為に動いたか?」「お客様満足を企業理 念にしているが、そこまで動いたか?」「企業とは、利益を目的とする人間の集団 である」 しかし「社会に必要とされない企業は、いずれ社会から排除される」 「社 会とは、人間の集団である」だから「人間に必要とされる組織が最後に繁栄する」 と言うことは判っている。 そうです、小板橋さん、 「人に感謝される仕事こそが、 最終的には繁栄する企業」です。 貴方の考えに賛同します! そして、 経営者 として最高の姿「やって見せ、言って聞かせて、やらせて見せて、褒めてやらねば、 人は動かず」を実践している姿を見せて頂き、有り難うございました。 (4)それにしても、残念ながら、私には貴方の若さとラグビーをやっていたというエネ ルギーが無い。 どうしようか? 実は、それが昔からの私の課題なのです。 そこで、経営の神様松下幸之助さんを真似たいと思ってきました。 自分の体が 弱いから、自分の代わりに実行してくれる人を大事にしてきました。 何時も自分 より優れた人を探しています。 そして、私の思いを語り続け、書き続け、それを 判ってくれて、代わりに実現してくれる人にその実現を託してきました。 そして、激しく変化している今の日本で、この難しい時期に、創立後25年を経 てそろそろ企業の寿命が尽きそうな時期に、私の思いを一番受け取ってくれた息子 が出て来てくれました。 有難いことです。 貴方が「社員を自分の子供のように 叱る」と言うように、私は、息子に本当に思ったことを全部ぶつけています。 息子は大変でしょうね。企業のあるべき姿について、社長としてあるべき姿、お 客様に対してあるべき姿、社員に対してあるべき姿、幹部の育て方、お金の貯め方 と使い方等々生きていること全てが伝えたいことです。 何時も、激論しています。 そして、最近は私が負けることが多くなってきました。 若い人の伸びる力は凄 いもんです。 もう、いつ私が死んでも、我が社は何とかなるでしょう。 この「息 子への手紙」ももうじき必要なくなるでしょう。 -2- そうなったら、私は何をしよう か? ゴルフ三昧、絵を描来たくなるような所に旅行したい、その時妻の他に私に 友達が何人いるだろうか? うか? ・・・ウーン! 私の人生は、これで良かったのだろ 寂しい人生だった気もするし、結構やりたいことはやった気もするし、生 きていると言うことはこんなものでしょうか。 久しぶりに、若い経営者の素晴ら しい話と仕事場を見せてもらって、感じるところ多い1日だった。 息子よ、君はどんなところを見、何を聴いただろうか? 2004年 10月 -3- 20日 記 感謝します!
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