「こんなふうに見えています」 児童編 京都府立盲学校 視援教育相談室 あなたへ あなたの眼はどんなふうに見えているの でしょう。 自分の見え方を知っておくことはとても 大切なことです。 これからいくつかの質問をします。 それに答えながら、どんなときに見えに くくて困るのかをお父さんお母さんといっ しょに考えてみましょう。 あなたの眼はどんなふうに見えているの かな? -1- まえがき -弱視の見え方を理解するために- 成人の弱視者でも自分がどんなふうに見えているかを他人に説明することは、 非常にむずかしいことであり、また、とても面倒なことでもあります。特に、生 まれてから一度もはっきりとものを見たことがない人が、自分の見え方を説明す ることは不可能に近いと言われています。 ましてや子どもたちにとってはとても難しいことのようです。 弱 視 の 子 ど も た ち が 、「 見 え る か ? 」 と 聞 か れ た 時 に 、「 は い 」 と 答 え て し ま うのも無理のない話です。本人なりに「見えている」のですから。 多くの弱視児は生活に必要なある程度の視力を持っています。生活に必要な視 力とは、何回もの経験によって裏付けられ、はっきり見えていなくても慣れた生 活空間(自分の家や教室など)ではほとんど晴眼者と同じように行動できる視力 です。 ところが、無理なく学習するのに必要な視力は不十分な場合がほとんどです。 初 め て 出 て く る 漢 字 の 細 か い と こ ろ ( 点 、 画 、 は ね の 有 無 な ど )、 温 度 計 や 定 規 などの目盛りや小さな昆虫などは、見えていないケースが多いと思います。 見 え に く い 眼 で 見 た こ と の な い 人( お 父 さ ん も お 母 さ ん も 学 校 の 先 生 も で す 。) は 、 弱 視 児 の 生 活 上 で の 視 力 を 見 る と 、「 そ れ な り に 見 え て い る よ う だ 。」 と 思 ってしまうものです。そして、学習するのに必要な視力のことを忘れ、教材・教 具 に つ い て も 「 こ れ ぐ ら い な ら よ く 見 え て い る だ ろ う 。」 と い う こ と に な り 、 弱 視児へのサポートを落としてしまうのです。 そ こ で 、「 こ ん な ふ う に 見 え て い ま す 」 児 童 編 を 作 っ て み ま し た 。 お父さん、お母さんへ 「お子さんがどんなふうに見えているか」を想像するヒントになるような質問 項目を整理してみました。お子さんに質問をして、一緒に考えてみてください。 なお、全ての質問には複数回答をしてもらってかまいません。また、答えたく ない質問があれば答えなくてもかまいません。 そして、この冊子を学校の先生に見ていただきましょう。 弱視の子供たちを担当される先生方へ 弱視の見え方は理解しにくいものです。ちょっとした配慮や知識があれば対応 できることなのに、それを知らずに子供の心を傷つけてしまうこともあります。 この冊子は、弱視の子供たちと接する上で、まず最初に知っておいていただき たい必要最小限の項目についてまとめたものです。 この冊子を見ていただき、少しでも弱視児の見え方を理解、想像し、創造力豊 かに日々の教育活動に生かして下さい。弱視の子供たちから、できないことや悔 しい思いはなかなか口にだせるものではありません。弱視教育はちょっとした工 夫、配慮でできることが多く、ほんの少しのことで、子供たちの力が発揮できた りするものです。 各節の最後に【ひとこと】がありますが、これはこの冊子の作者(弱視者)の これまでの経験などからのコメントです。参考にしていただければ幸いです。 -2- な ま え Ⅰ 記 入 日 月 日 眼の様子について。 1 私の裸眼視力(めがねやコンタクトを使用しないとき)は、 左 ア 右 イ で、 矯正視力(めがねやコンタクトを使用したとき)は、 左 2 年 右 です。 矯正できません。 も の の 色 の 区 別 は 、( 色 覚 に つ い て ) ア 普通にできます。 イ だいたいはできますが、よく似た色はできません。 特にわかりにくい色は、 ウ です。 ほとんどできません。 3 真 夏 の お 昼 の よ う に と て も 明 る い と こ ろ は 、( 羞 明 (し ゅ う め い )に つ い て ) ア 何ともありません。 イ 目の痛みはありませんが、見えにくくなります。 ウ まぶしくて目が痛み、見えにくくなります。 エ 見やすくなります。 4 街 灯 の な い 夜 道 な ど の 暗 い と こ ろ は 、( 夜 盲 に つ い て ) ア 何ともありません。 イ 少し見えにくく、苦手です。 ウ ほとんど見えません。 エ 見やすくなります。 5 明るさが急に変わったとき (1) 明 る い 所 か ら 暗 い 所 に 行 っ た と き 、( 暗 順 応 に つ い て ) ア 何ともありません。 イ 普通の人よりは慣れるまでの時間がかかりますが、 見えるようになります。 ウ 時間がたつと少しは見えるようになりますが、ほとんど見えません。 -3- (2) 暗 い 所 か ら 明 る い 所 へ 行 っ た と き 、( 明 順 応 に つ い て ) ア 何ともありません。 イ 普通の人よりは慣れるまでの時間がかかりますが、 見えるようになります。 ウ 時間がたつと少しは見えるようになりますが、ほとんど見えません。 6 真正面を見たときに見えにくいところがありますか(視野欠損について) (1) 左 眼 は 、 ア 視野は欠けていないと思います。 イ 視野の中心部が見えませんが、周辺部は見えます。 ウ 視野の中心部は見えますが、周辺部は見えません。 エ 視野の中に不規則に見えにくいところがあります。 オ 視野の右半分が見えません。 カ 視野の左半分が見えません。 キ 視野の上半分が見えません。 ク 視野の下半分が見えません。 ケ 全く見えません。 コ よくわかりません。 (2) 右 眼 は 、 ア 視野は欠けていないと思います。 イ 視野の中心部が見えませんが、周辺部は見えます。 ウ 視野の中心部は見えますが、周辺部は見えません。 エ 視野の中に不規則に見えにくいところがあります。 オ 視野の右半分が見えません。 カ 視野の左半分が見えません。 キ 視野の上半分が見えません。 ク 視野の下半分が見えません。 ケ 全く見えません。 コ よくわかりません。 【ひとこと】 学校の保健室で5mの距離から測る視力を遠距離視力といいま す。これは少し離れた物を見るときに、どのくらい見えているかを推測する指 標となります。でも、字を読むときは自分の一番見やすい距離(顔を紙にくっ つきそうなぐらいに近づけて見るときが最も見えやすい場合もあります)で見 ますので、その時にどれくらい見えているかということが大切になります。 視野の中心部が見えにくかったり、不規則に見えにくいところがある場合に は、見たい物から視線をそらす方が見えやすい(そうしないと見えない)こと が あ り ま す 。こ の よ う な 理 由 で 、人 と 話 を す る と き に 視 線 を 合 わ さ な か っ た り 、 物をしっかり見ようとするときに首を傾けたりする場合があります。 また、たとえば上半分の視野が見えにくい場合には、教材の提示は視線より 下にするなどその児童の見えやすい場所を知っておくことが大切になります。 自分の視野についてまだよくわからないような場合には、その児童の書いた自 由 帳 や 描 画 を 見 る と 、ど の あ た り が 見 え や す い の か 推 測 で き る 場 合 も あ り ま す 。 -4- Ⅱ 7 文字の読み書きについて。 普段使っている視覚補助具は、 ア 普通のめがねまたはコンタクトレンズ イ ルーペ(拡大鏡、虫めがね) ウ 単 眼 鏡( 双 眼 鏡 で は な く 、1 本 の 望 遠 鏡 の 手 の ひ ら サ イ ズ の 小 さ い も の ) エ 拡大読書器(ビデオカメラとテレビをセットしたもの) オ 弱視眼鏡(ルーペを眼鏡に組み込んだもの) カ パソコンの画面拡大装置や音声装置 キ 遮光眼鏡(サングラスなど) ク 8 その他 ルーペなしで読めるもっとも小さな文字は、 (1) 教 科 書 体 ( 教 科 書 で 使 用 さ れ て い る 字 体 ) で 、 ア 5 ポ イ ン ト の 字 が見 え る イ 7ポイントの字が見える ウ 10ポイントの字が見える エ 14ポイントの字が見える オ 20ポイントの字が見える カ 30ポイントの字が見え キ 50ポイント の字が見える 80 ポイ ントの字 ク ケ この見本の字ではどれも読めません。 上の例で、ルーペを使うと、 ア イ ウ エ オ カ キ ク -5- まで読めます。 (2) 明朝体(新聞雑誌など多くの書籍、文書で使用されている字体、 縦線に比べて横線がやや細い)で、 ア イ ウ 7ポイントの字が見える エ 14ポイントの字が見える オ 20ポイントの字が見える カ 30ポイントの字が見え キ ク ケ 5 ポ イ ン ト の 字が 見 え る 10ポイントの字が見える 50ポイント の字が見える 80 ポイ ントの字 この見本の字ではどれも読めません。 上の例で、ルーペを使うと、 ア イ ウ エ オ カ キ ク まで読めます。 -6- (3) ゴシック体(線の太さが均一の字体、一般に弱視者に読みやすいと されている)で、 ア イ ウ 7ポイントの字が見える エ 14ポイントの字が見える オ 20ポイントの字が見える カ 30ポイントの字が見え キ ク ケ 5 ポイ ン ト の 字 が 見え る 10ポイントの字が見える 50ポイント の字が見える 80 ポイ ントの字 この見本の字ではどれも読めません。 上の例で、ルーペを使うと、 ア イ ウ エ オ カ キ ク まで読めます。 ですから、 地 図 帳 、 辞 書 な ど (か な り 小 さ い 文 字 )は 、 教 科 書 な ど (や や 小 さ い 文 字 )は 、 ア イ ウ エ ルーペなしで読めます。 ルーペを使えば読めます。 拡大読書器を使えば読めます。 どうしても読めません。 -7- 9 テストやドリルなどの配付されるプリントは、 ア 教科書体 イ 明朝体 ウ ゴシック体 で、 ポイント位で作成していただけると読みやすいと思います。 10 ノ ー ト や テ ス ト の 答 案 用 紙 に 文 字 を 書 く と き は 、 ア 普通の鉛筆で大丈夫です。 イ 太めの濃い鉛筆を使います。 ウ 太字のサインペンを使います。 エ 太いマジックを使います。 オ 墨字は書けません。 11 ノ ー ト は 、 ア 普通のものを使います。 イ 普通のものに1行おきに太い線を書いて使います。 ウ 行の間が広くて太い横線のものを使います。 エ 太い線で大きいます目の原稿用紙を使います。 【ひとこと】 クラスメートの中で自分一人だけが、単眼鏡や遮光眼鏡(サン グラスなど)を使用するのは勇気のいることです。近所の友達やクラスの仲間 のみなさんにこれを使うと見えやすくなるということを説明し、必要な補助具 であることが理解されるようにすることが大切です。 羞明(しゅうめい)のある弱視児は、まぶしいのが苦手です。白い部分は 反射する光をとても強く感じて見えにくくなるからです。このような場合は、 白 地 に 黒 の 文 字 で は な く 、黒 地 に 白 の 文 字 の 方 が 見 や す く な る こ と が あ り ま す 。 ( こ の よ う な ノ ー ト が 市 販 さ れ て い ま す 。) 視野の中のどのあたりが見えにくいかによって、縦書きと横書きとで読みや すさが変わる場合があります。常に読みやすい方向の文章にする必要はないと 思いますが、文書量が非常に多い場合などにはできる範囲で配慮することが望 まれます。 世の中には、縦書きの文章も横書きの文章もあり、どちらで書かれた文章も ある程度の速度で読めることが望まれます。 文字の大きさを変える他に見えやすくする工夫が必要です。地図が苦手な弱 視児が多いと言われています。通常1枚の地図には多くの情報が記載されてい ますが、これが見えにくくさせている要因の一つです。川の学習をするときに は川だけがのっている地図を、鉄道の学習をするときは鉄道だけがのっている 地図を用意していただけるとわかりやすくなります。また、色の違いがわかり にくい場合には、コントラストをはっきりさせたり、領域と領域の境目に境界 線を引いていただくだけでかなり見えやすくなります。 -8- 8の例示の文字から読みやすい文字のポイントをある程度推測することがで きると思います。弱視児が希望する字体で、希望するポイント数およびその前 後のポイント数の教材をいくつか作成し、実際に読ませて時間を計っていただ けると児童本人も納得できてよいと思います。 また、多くの盲学校などには、MNREAD-JKという読書するのに最適 な文字の大きさを求めることができるひらがなのみで作られた読書チャートが あります。教育相談などの機会に測定してもらうのも良いでしょう。 ただし、新出漢字は「はね」や「はらい」がきちんとわかるように、教科書 体がよいと思います。 拡大コピーは文字だけでなく文字間、行間までもが大きく(広く)なってし まいます。特に視野の中心しか見えていない児童にとっては、拡大すると一度 に読める文字数が減って、かえって読みにくくなることがあります。 できる範囲内で、文字間、行間は普通のままに作成することが望まれます。 配布する文書全てを読みやすい文字にすることは物理的に無理ですし、ルー ペを用いての読みの練習も必要です。文書量の非常に多いものは読みやすい文 字に作りかえる配慮が望まれます。 書いているペン先を見るためにどうしても姿勢が前屈みになることがありま す。斜面机(製図用机や美術用のデッサン机など)という天板の角度を自由に 変えられる机があり、弱視児に有効に活用できます。 日本点字図書館(℡03-3209-0751)や、筑波大学付属盲学校 ( ℡ 0 3 - 3 9 4 3 - 5 4 2 1 )で 、弱 視 者 用 の ノ ー ト を 通 信 販 売 し て い ま す 。 また、株式会社大活字(℡03-5282-4362)が、弱視者用ルーズ リーフ(縦書き横書き、罫の太さ、罫と罫の幅などが数種類ある)を通信販売 しています。 テストなどの空欄や解答欄は、カッコ( )ではなく、囲み欄 の方が見やすいです。将来、マークシート方式のテストを受験したり銀行口座 を開いたり宅急便を送ったりするときなど、比較的狭い限られたスペースに文 字などを記入する機会に出合うと思います。文字を書くことが苦手なために自 分 の 行 動 範 囲 を 狭 め る よ う な こ と が あ っ て は な り ま せ ん 。「 見 え に く い 目 で 見 ているのだから仕方がない」ではなく、晴眼児と同じようにその子の癖などを 見つけてアドバイスすることが望まれます。 テストなど限られた時間内で書かなければならないような場面ではなく、宿 題のノートの添削などの時に丁寧に書くことの指導が必要です。 -9- Ⅲ 学校生活(校内)について。 12 特 別 教 室 や ト イ レ な ど へ の 移 動 は 、 ア 常 に 手 引 き を し て ほ し い で す 。( 私 が あ な た の 肘 を 持 ち ま す 。) イ 困っているようであれば、声をかけてください。 ウ 手引きをしてほしい時は、私からお願いします。 エ 基本的に手引きの必要はありません。 13 窓 か ら 教 室 に 差 し 込 む 日 光 は 、 ア 気になりません。 イ 私の机に日光が当たるようであれば、カーテンを閉めてください。 ウ 黒板に日光が当たるようであれば、カーテンを閉めてください。 エ 外が明るいときには、常にカーテンを閉めてください。 14 教 室 内 で の 座 席 の 位 置 は 、 前 後 で い う と 、 ア 前 イ 真ん中 ウ 後 が、見やすいです。 15 黒 板 に チ ョ ー ク で 書 い た 文 字 や 図 は 、 1 4 の 座 席 で あ れ ば 、 ア 普通に見えます。 イ 少し大きめに書いてもらえると見えます。 ウ 単眼鏡を使えば見えます。 エ はっきりとは見えませんが、書く手の動きでだいたい想像できます。 オ どうしても見えません。 【ひとこと】 視覚障害者を誘導することを一般に「手引き」と言います。手 引きとは言いますが、実際に視覚障害者の手を引くわけではなく、視覚障害者 が誘導者の肘を持ち、横に並ぶあるいは斜め後ろを歩くか、道幅が狭いところ などでは後ろを歩きます。 校内での移動については、最初に校内の位置関係をじっくりと時間をかけ、 指導を行い、それが正しく頭にイメージできるようになれば、晴眼児よりも時 間はかかりますけれども自分一人でできるようになります。 でも、はっきりと見えるようになるのではありませんから、何かの都合でロ ッカーの位置を普段と変えたり、机、花びん、ゴミ箱や消火器などを動かした りしたときは、必ずそのことを事前に伝えてください。 視力や視野欠損の状況により、教室の真ん中の前の席が常に見やすいとは限 り ま せ ん 。実 際 に そ れ ぞ れ の 席 に 座 っ て 、黒 板 に 書 か れ た 文 字 や 図 形 を 見 せ て 、 決めさせてあげてください。 - 10 - 黒板のチョークの色は、白、黄色が見えやすく、赤、青、茶色が見えにくい という弱視児が多いようです。白と黄色の区別ができにくい場合もあります。 ホワイトボードでは、黒、青、赤が見えやすいようです。実際に書いたものを 見せて確かめてください。また、黒板および黒板消しをきれいにしていただく と、書かれた文字がはっきりして見えやすくなります。 板書をする前に、これから書く内容を言って板書すること、また、板書した 内容を復唱してあげることが大切です。 先生が会釈してくださったり、友達が少し離れたところから手を振ってくれ たりしても、はっきり見えず気がつかないことがあります。また、同じ場所で も、明るさやコントラストなどによって、見えるときと見えないときがありま す。声をかけてもらうと「ほっ」とすることがよくあります。 掲示物は、顔の高さにあると読みやすいです。ガラスの扉のついた奥行きの ある掲示板や陳列棚で、ガラスから掲示物までの距離のある場合は見えにくい ときがあります。 少 し 離 れ た 物 や 場 所 を 指 し 示 す と き な ど に は 、「 こ れ 、 そ こ 、 あ れ 」 で は な く 、「 あ な た の 左 足 の 3 0 セ ン チ 前 」「 理 科 室 の 向 か い 」「 1 番 前 の 窓 の 下 」 な どと基準となる物からの方向、距離などで教えてください。 給食の時間に汁物をお椀に注いだり、コップに水を入れたりすることは、晴 眼児であれば、他人がしているのを見て、それのまねをしながらできるように なっていきます。 「見よう見まね」が不得意な弱視児は、自分で経験して失敗しながらできる ようになっていきます。時間の許すかぎりで経験させてあげてください。その 際 、「 意 図 的 に 場 面 を 設 定 し て 教 え な い と で き る よ う に な ら な い こ と 」 と 「 ほ っておいてもできるようになること」があることに留意してください。 パソコンを用いた授業では、パソコン自体が持っている拡大機能、コントラ スト設定機能や画面拡大用のソフトが役立つことが多いものです。また、ホー ムページやメールを読み上げるソフトなどもあります。 眼に衝撃を与えないようにという指示を受けている弱視児も多くいます。接 触プレーのある競技などでは、部分的にでも特別ルールを考えて参加するなど の配慮が必要になると思います。視覚イメージが不十分な弱視児ですので、イ メージがわくような言葉での説明が重要となります。 また、体育や運動会でトラックを走るときは、最もインコースの内側の白線 が見えやすいコースが走りやすいと思います。ゴールインするときに胸の高さ あたりに張られたテープは見えにくいので注意が必要です。 ただ、どうしてもおもいきり走る、おもいきり投げる、おもいきり飛ぶとい う経験が不足しがちです。水泳、ジョギングなどは取り組みやすい運動だと思 います。これら以外の種目もルールを工夫するなどして、安全面での環境を整 備し、身体を動かして汗びっしょりになるような時間を作ってあげて下さい。 - 11 - Ⅳ 登 下 校 、社 会 見 学 な ど 校 外 で の 生 活 に つ い て 。 16 階 段 や 段 差 は 、 ア ほとんどの場合、わかります。 イ コントラストの悪いときなどは、わかりにくいです。 ウ ほとんどわかりません。 17 歩 い て い て ぶ つ か っ た り 、 見 づ ら く て こ わ い も の は 、 ア 通行人、子供 イ 放置自転車 ウ 無灯火の自転車 エ 駐車自動車 オ 車止めのくいやくさり カ 路上の看板 キ ガラス製の扉やしきり壁 ク 頭の高さにせり出した看板やテントの支え棒や植木の枝 ケ 歩道にせり出した商品棚、プランター コ 歩道の街路樹、バス停 サ 歩道の低い植木、花壇、ゴミ箱 シ 踏切 ス 道路標識柱 セ 電信柱、電信柱を支えているワイヤー ソ 雨の日の傘 タ その他 18 飛 ん で い る ホ タ ル 、 蜂 、 ス ズ メ 、 ツ バ メ な ど は 、 ア 眼で追えます。 イ 近くをゆっくり飛べば眼で追えます。 ウ 眼で追うことはできません。 19 次 の も の は 、眼 で 観 察 、見 学 で き ま す 。 (視覚補助具を用いる場合もある) ア 写真、絵画 イ 水槽の中を泳ぐ魚類 ウ 檻の中の動物 エ 花火 オ お星様(星座) カ お月様(満月、三日月、半月) キ 車窓や景色 ク その他 - 12 - 20 次 の 画 像 等 は 、 眼 で 楽 し む こ と が で き ま す 。 ア テレビ イ 映画館での映画 ウ コンピュータゲーム(テレビ画面で) エ コンピュータゲーム(手元の液晶で) オ 単行本になったマンガ カ コロコロコミック、少年ジャンプなどのマンガ雑誌 キ ポケモン、遊戯王などのカード 21 ト ラ ン プ 、 カ ル タ な ど は 、 ア ふつうのものでできます。 イ 弱視者用の少し大きめのものを使います。 ウ 盲人用を使います。 【ひとこと】 弱視者にとって一番怖いのは上下方向の移動です。日常生活で は階段です。階段の水平部分と垂直部分の色がよく似ていたり、水平部分と廊 下の色がよく似ていると段の位置が分からず、とても怖くて足をすらすように しか踏み出せません。 階 段 の 前 後 に は 点 字 ブ ロ ッ ク を 設 置 し 、階 段 の 角( 滑 り 止 め な ど を 張 る 部 分 ) にコントラストがはっきりするように、違う色で塗ってもらえるとわかりやす くなります。また、階段に塗る色を各階ごとに変えれば、たとえば、校内にあ る階段の1階は赤、2階は青とすればより分かりやすくなります。 また、廊下と壁の色が似ていると壁に気がつかないことがあります。廊下の 中央に廊下とちがう色で線を引いてもらうと歩きやすくなることがあります。 点字ブロックは、全盲の人のためだけにあるように思われがちですが、弱視 者も頼りにすることが多いものです。特に駅のプラットホームの点字ブロック は弱視者の命を守るためにも非常に役立つものです。点字ブロックの上に物を 置かない習慣を身につけてください。 一般に上りよりも下りの方が見えにくくて怖いものです。階段では、石段や 山道のように不規則なものやらせん階段のように幅の広さが変化するものなど がわかりにくいものです。スロープでは、石畳風やレンガ模様などはわかりに くく、また、ホテルのロビーなどじゅうたん地の広いフロアーで急に段差があ るときなどにつまずくことがあります。 生活や理科の観察では、植物などの動かないものは近づけばルーペなどを用 いて観ることができます。しかし、昆虫や動物など動くものは、見えにくいこ とが多いものです。晴眼児なら誰も知っているバッタやカマキリを知らなかっ たりもします。一番いいのは、実物を取ってきて見せてあげることですが、大 きい動物はそういうわけにはいきません。その場合は、模型や剥製などがある と便利です。盲学校などには剥製があります。一度触りにいってみてはどうで しょうか。 また、動物、植物の観察のための学習ソフトが市販されていますので、これ らを活用することも有効だと思います。 - 13 - 博物館、美術館、動物園などでは、事前に弱視児が見学に行くことを伝えて おけば、特別に触らせてくれたり、近づいて見せてくれたりすることもありま す。 日本点字図書館(℡03-3209-0751)で、視覚障害者用のトラン プやオセロや鈴入りボールなどの遊具類を通信販売しています。 22 その他、知っておいてほしいことがありましたら、書いてください。 【 ひ と こ と 】 「 百 聞 は 一 見 に 如 か ず 」「 一 目 瞭 然 」と い う 言 葉 が あ り ま す が 、 弱視者の「一見」や「一目」にはあまり多くの情報が入ってきません。 ですから、周りの皆さんの説明が、イメージや想像のための大切な情報源で す 。「 一 見 に 勝 る 表 現 」、「 一 聞 瞭 然 」 の 説 明 を 是 非 と も お 願 い し ま す 。 ま た 、「 目 は 口 ほ ど に も の を 言 う 」 と 言 い ま す が 、 私 た ち 弱 視 者 の 眼 は 視 線 があわせにくいなど、自分の意に反した表情をすることがあります。 弱視の子どもたちは、見えにくいことから調理実習や習字などがうまくでき にくいことがありますが、音楽や粘土などでは優れた聴覚、触覚を生かしすば らしい作品を作ることがしばしばあります。晴眼児と同様に秘めたる可能性は 無限にあるのです。得意分野を見つけだし、それをどんどん伸ばし、自信に結 びつけてあげてください。大きな一歩につながると思います。 どうか、この「こんなふうに見えています」児童編から弱視児の眼の見え方 をご理解、ご想像していただき、毎日の指導に生かしてくださるようお願いし ます。 - 14 - あとがき 弱視児は眼からの情報が不十分なため、手、足の触覚や耳の聴覚、経験、知識 などで補って行動しています。最初に時間をかけて正しくイメージできれば、た いていのことはできるようになりますが、初めてのところや、まわりの状況が急 に 変 わ っ た と き な ど は 、普 段 と 同 じ よ う に 行 動 で き な く な る こ と が あ り ま す 。 (ゴ ミ 箱 の 場 所 が 少 し 変 わ っ た だ け で も ぶ つ か っ て し ま う も の で す 。) また、大好きなもの、興味のあることなどで慣れ親しんでいることは、はっき り 見 え て い る か の よ う に 行 動 で き る 場 合 が 多 い も の で す 。 で も 、「 日 常 生 活 上 で の見る力」と「学習上での見る力」は違うのです。見たいときだけ見えるような 眼はありません。実ははっきりとは見えていないのです。 信 頼 関 係 が で き る ま で は 、「 見 え て い る ふ り 」 と 「 見 て い な い ふ り 」 を つ い つ いしてしまうもので、初めて出会った人たちに、この冊子に書いてあることを全 て説明していくストレスの大きさも並大抵ではありません。このあたりの弱視児 の苦労を理解してあげてください。 家族での旅行、理科の実験、校外学習などでは、周囲の景色や状況、変化の様 子などを弱視児にイメージがわくように言葉で説明をしてあげないと「経験が経 験になっていない」という状態がおきてしまいます。 言 葉 は 知 っ て い て も そ の も の を 知 ら な い と い う こ と が 多 い 弱 視 児 で す 。「 視 経 験を増やす」ことにご配慮をお願いしたいと思います。 お父さん、お母さんへ お忙しい毎日だと思いますが、たまにはお子さんのために買い物の機会などを 作ってあげてください。スーパーでキャベツやレタス、鯖や秋刀魚に触ったり単 眼鏡で見たり、デパートで様々な商品をゆっくりと見て歩いたりしてあげてくだ さい。ご自宅の近くを一緒に散歩して、郵便ポストや自動販売機がどこにあるの かを探したり、本屋さんに入って、漫画本がどのあたりにおいてあるのかなどを 探 し た り す る の も 楽 し い こ と で し ょ う 。ま た 、な る べ く 自 家 用 車 は 使 用 し な い で 、 電車やバスをつかって移動の経験をさせてあげてください。切符の買い方など、 視経験の不足から意外に知らないことがあるものです。 ご担当の先生方へ 様々な児童が多数在籍する通常の学校では、非常にお忙しい毎日の中、弱視児 になかなか十分な時間がかけられない現状があると思いますが、ちょっとした配 慮がはっきりと見えていない者にはとってもうれしくて、元気になることが多い よ う に 思 い ま す 。「 先 生 が 私 の た め に 、 工 夫 を し て く だ さ っ て い る 」 と 感 じ る こ とが、弱視児からすると本当にうれしいことです。 先生方が時間をかけて作成してくださった見えやすい教材教具が、弱視児の眼 の前におかれた段階で、はじめて晴眼児と同じスタートラインに立てるのです。 この冊子を基に子供の学校生活を見てあげてください。 視覚に障害のある子供たちが、楽しく豊かな学校生活を送れるようできる限り のサポートをよろしくお願いいたします。 平成15年4月20日 京都府立盲学校 視援教育相談室 藤井 則之(弱視) - 15 - チェック一覧表 (先生の記入用) 氏名 記入日 年 月 日 記入者( Ⅰ 1 ) 眼の様子について。 裸眼視力(遠距離視力) 左 右 矯正視力(遠距離視力) 左 右 2 ものの色の区別 3 羞明(しゅうめい) 4 夜盲 5 (暗順応)明所から暗所 (明順応)暗所から明所 6 視野(左眼) 視野(右眼) Ⅱ 文字の読み書きについて。 7 視覚補助具 8 最小可読文字ポイント ルーペなし 教科書体 明朝体 ゴシック体 9 希望文字体、ポイント数 10 11 使用筆記用具、ノート - 16 - ルーペあり Ⅲ 学校生活(校内)について。 12 特別教室などへの移動 13 窓から差し込む日光 14 教 室 内 で の 希 望 の 座 席 の 15 位 置 。 そ の 座 席 で チ ョ ー ク で書いた文字が可読か。 Ⅳ 登下校、社会見学など校外での生活について。 16 階段や段差 17 歩いていてこわいもの 18 飛んでいるホタル、蜂 19 眼で観察、見学できる 20 眼で楽しめる画像等 21 トランプ、カルタ 22 その他 - 17 -
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