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講演
Seminar Report
呼吸器領域における 320 列面検出器型 CTの臨床応用
─ Full IR・Perfusion 技術を用いた画像診断─
大野
2
良治
神戸大学大学院 医学研究科 先端生体医用画像研究センター /
内科系講座 放射線医学分野 機能・画像診断学部門
000 年以降に多列検出器型 C T
肺結節,間質性肺炎や慢性閉塞性肺疾
いる部分を有する手法もあり,画像化さ
(MDCT)が臨床応用されており,
患などの疾患を対象に,ADCT の臨床
れる過程でフィルタ補正逆投影がなされ
その検 出 器の列 数は数 年 単 位で 4 列,
的有用性に関して種々の論文が国内多
るため,再構成関数の特徴を残した画
16 列,64 列と 4 の倍数で進歩を遂げて
施設共同研究として示されてきた 1)〜 3)。
像となり,ノイズ低減効果はあるものの,
きた。そして,2007 年以降は,それま
そして,現時点では ADCT の臨床的
各社によってその程度は差が認められる。
での MDCT の概念を覆す 320 列面検出
有用性は,胸部領域を中心とした体幹
本手法は,東芝メディカルシステムズ社
器型 CT(ADCT)の臨床応用が,世界
部領域においては不動のものとなりつつ
では“Adaptive Iterative Dose Reduc-
で初めて東芝メディカルシステムズ社によ
ある。今後は ACTIve Study を参考に,
t ion us ing 3 D Pr ocess ing(AIDR
る「Aquilion ONE」によってなされた
胸部以外の体幹部における他領域でも
3 D)
”として臨床応用されており,われ
ことで,MDCT の概念は大きく変容した
タイムリーに日本発の研究でエビデンス
われの報告では標準線量 CT と比して胸
と言っても過言ではない。本 ADCT 装置
の確立が進むことを期待したい。
部 CT 所見を同等に評価するには,FBP
は,160 mm の高精細ボリュームデータ
を 0 . 5 秒以下の 1 回転で取得することが
可能であり,従来のヘリカル CT による
関しては,投影データか
であった。
ら画像を生成する逆投影
当初は東芝メディカルシステムズ社のみ
と,画像から投影データ
の臨 床 応 用であったが,今回の J R C
を生成する順投影を繰り
2015 において他社製 ADCT が市場に
返し行うことにより画像
投入されたことを鑑みても,東芝メディカ
再構成を行う完全な I R
ルシステムズ社および Aquilion ONE の
法に基づく Model-based
開発に携わったさまざまな先人たちの先
IR 法と,IR 法を応用して
見性には改めて敬意を表したいと考える。
種々の投影データ側での
本稿においては,ADCT を用いた呼吸
前処理や画像データ側で
器領域の最新臨床研究および臨床応用を
の後処理に統計学的なモ
解説する。
デルを利用して画像再構
ADCT の臨床応用の開始時点で,高
成を行う Hybrid type IR
法に大別される(図 2)。
1 回転で取得できることにおける臨床的
法で行われる投影データ
有用性に関しては,中枢神経領域や心
側の前処理と画像化後の
臓領域においては臨床導入開始直後か
後処理の中に統計学的な
ら示唆されてきたが,体幹部における臨
処理を加えていると考え
床応用のエビデンスの確立には至ってい
られ,それを各メーカー
なかった。そのような状況下で,日本の
がどのように加えていくか
胸部放射線科医で ADCT を臨床導入し
を工夫することで,より
た主要な大学および病院が中心となり,
高速・簡便に I R 法を臨
(図 1)が開始され,
(ACTIve Study)
”
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INNERVISION (30・7) 2015
床応用したものと考えら
ことにより約 1 / 7 レベルの被ばく線量で
ACTIve Study メンバーの集合写真
ACTIve Study には当初,大阪大学,神戸大学,滋賀医科大学,
仙台厚生病院(現在は研究者が大原総合病院に異動し,大原総合
病院がメンバーとなっている),天理よろず相談所,琉球大学が初
期参加施設であったが,現在は大阪医科大学,岡山大学,埼玉医
科大学が加わって共同研究を行っている。
Radiation Dose Reduction on CT
Method
IR 法に関しては,Filtered
Back Projection(FBP)
t i o n o f T h or a c i c Disea ses S t ud y
図1
一般に,Hybrid type
精細なボリュームデータが 0 . 5 秒以下の
“Area Detector CT for the Investiga-
するのに対して,AIDR 3 D を使用する
Iterative Reconstruction(IR)法に
MDCT の概念を根底から変える CT 装置
ADCT の臨床応用における
ACTIve Study の位置づけ
法が約 1 / 3 レベルの被ばく線量を必要と
被ばく低減技術の進歩
Model-based
Iterative
Reconstruction
(IR)
Company
Veo
GE
Iterative Model Reconstruction(IMR)
Philips
Forward Projected Model-Based Iterative
Reconstruction Solution(FIRST)
東芝
Adaptive Statistical Iterative Reconstruction
(ASiR)
GE
Iterative Reconstruction in Image Space(IRIS) Siemens
Hybrid type
Iterative
Reconstruction
(IR)
Sinogram Affirmed Iterative Reconstruction
(SAFIRE)
Siemens
Adaptive Iterative Dose Reduction using 3 D
Processing(AIDR 3 D)
東芝
4 th-Generation Iterative Reconstruction
(iDose 4)
Philips
Intelli Iterative Processing(Inteli IP)
日立メディコ
れる。本手法は,FBP 法 図 2 ‌各社における Hybrid type IR 法および Model-based IR
をベースに画像化されて
法の一覧
インナビネット ▶▶ http://www.innervision.co.jp/ad/suite/toshiba
図3
FIRST の原理図
FIRST では,初めに収集した投影データから FBP 法で初期画像を作成
し,次いで光学系モデルや統計モデルなどのモデルを考慮し,Forward
projection により投影データを作成し,収集データと比較して差分を
初期画像にフィードバックし,画像を更新して,アーチファクトのない
シャープな画像へと更新する。併せて,初期画像を Anatomical model
をベースに,よりノイズの少ない画像へと更新する。以上の「投影デー
タ処理での更新情報」と「画像データ処理での更新情報」を総合的に判
断して最適な画像へと更新し,これらの処理を繰り返して収束した段
階で最終的な画像を作成することで,よりノイズ低減を可能にした低
線量 CT 画像を作成することが可能である。
Seminar Report
図4
67 歳,男性,part-solid nodule
右下葉に part-solid nodule を認める。FBP 法にて再構成した 270 mA
の画像と比して,FBP 法および AIDR 3 D にて再構成した 10 mA の超
低線量 CT 画像と比較して,FIRST にて再構成した 10 mA の超低線
量 CT 画像はノイズも少なく,すりガラス結節の描出能も 270 mA の画
像と同等であり,さらなる低線量化の可能性を示唆していると考えら
れる。
(図 5)
れてきた 7),8)
。
また,2 0 0 8 年 の D y n a m i c C T,
Dynamic MRI および PETなどの meta
analysisによる結果で,これらの手法にお
同等に診断可能であることも示唆され,
再構成時間も短いことから,日常臨床
における被ばく線量低減に直接役立つこ
とが示唆されている 4)。
Dynamic ContrastEnhanced Perfusion
ADCT の臨床応用
ける良・悪性結節鑑別診断法には有意
差がないことが示唆されたが 9),2002 年
以 降 既 報 告の D y n a m i c c o n t r a s t enhanced MRI with ultra-short TE に
また,東芝メディカルシステムズ社で
ADCT の臨床応用として,ほかのヘリ
よる肺結節の灌流パラメータの半定量解
は,Model-based IR 法に関しても“For-
カルスキャン方式を採用している MDCT
析では,肺結節診断において Dynamic
ward Projected Model-Based Itera-
との絶対的な差別化は,寝台移動を伴
CT や PET/CT と比して正診率が同等
tive Reconstruction Solution(以下,
わず,0 . 5 秒以下の回転で 160 mm の高
あるいは高いことが知られていた 10)〜 12)。
FIRST)
”の臨床応用が開始されている。
精細ボリュームデータを用いた血行動態
しかし,Dynamic CE-perfusion ADCT
本手法は,初期画像から Forward pro-
評価が可能であり,真の造影灌流 CT 検
を用いることにより,Dynamic MRI
jection により作成した投影データと実
査(CE-perfusion CT)を,低被ばくで
with ultra-short TE および PET/CT に
際に収集した真の投影データとを比較し,
中枢神経領域や心臓領域において施行
比して,より診断能高く肺結節を診断
差異を Back projection する処理を繰り
することが可能になった 5),6)。同様に,
することが可能であるということも知ら
返すことで画像を作成する。この時,光
胸部領域においても 160 mm の高精細ボ
れている 13)。したがって,Dynamic CE-
学モデルや統計学的ノイズモデルなどを
リュームデータの取得は,肺結節の血行
perfusion ADCT において各種血流パラ
考慮することで,空間分解能向上やアー
動態解析においては十分臨床応用可能
メータマップを計算する際の数式が結果
チファクト低減を実施し,併せて Ana-
な撮影手法であり,本手法は Dynamic
に対して影響を有しているので,どのよ
tomical model を用いてノイズの少ない
造影灌流面検出器型 C T(D y n a m i c
うな手法を用いるのかに関しては注意が
画像へと更新する。
「投影データ処理で
CE-perfusion ADCT)として,肺結節
必要である。
の更新情報」と「画像データ処理での更
の良・悪性鑑別診断法として臨床応用
新情報」について,繰り返し処理を行い,
が 2011 年以降から継続的に進められて
最適値へ収束した段階で最終画像を作
きた。 本 手 法 を 用 いることにより,
胸部領域における
Aquilion ONE の
新たな臨床応用の可能性
成する。これにより,画質を向上させた
PET/CT に比してより正診率高く良・
低線量 CT 画像を作成することが可能と
悪性鑑別診断が可能であることが明らか
現在,Dual Energy CT を用いた
なる(図 3,4)。本手法は,AIDR 3 D に
にされるのみならず,Single-Input Max-
X e no n C T に対する臨床的有用性が
比してさらなる低線量 CT の臨床応用を
imum Slope 法,Single-Input Patlak
Dual Source CT を中心に指摘されてい
可能にすると考えられ,今後の研究成果
Plot 法や Dual-Input Maximum Slope
るものの 14)〜 16),Aquilion ONE におい
に期待したい。
法などのさまざまな血行動態解析モデル
ても 2 回転方式における Dual Energy
が診断精度に影響することも明らかにさ
CT が可能である。しかし,われわれは
INNERVISION (30・7) 2015
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Seminar Report
図5
67 歳,女性,肺がん症例
上段は左から右にかけて,胸部 CT 肺野条件,Single-Input Maximum Slope 法による Perfusion map,Single-Input Patlak Plot 法による Blood volume map および Extraction fraction
map を示す。下段は Dual-Input Maximum Slope 法による Pulmonary perfusion map,Systemic perfusion map,Total perfusion map および FDG-PET/CT を示す。Dynamic CEperfusion ADCT において,各種血流パラメータマップを計算する際の数式が結果に対して影
響を有しているので,どのような手法を用いるのかに関しては注意が必要である。
(参考文献 8)より引用転載)
Dynamic CE-perfusion ADCT におい
て,既開発の非線形位置合わせを応用
することによる差分画像での Xenon CT
が可能である。今後は,本手法と Dual
Energy CT との臨床応用の簡便さや,
Xenon CT の呼吸器領域の臨床的有用
性を明らかにすることが重要であると考
える。さらに,吸気 - 呼気 CT による肺
内の CT 値変化を評価し,慢性閉塞性
肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)の気道病変と
肺 野 病 変 を 評 価 し,C O P D の
phenotype の評価を行うことも提唱され
ており 17),Xenon CT と併せて用いるこ
とにより,新たな ADCT の可能性も示
唆することが可能であろうと期待できる。
結 語
本稿においては,ADCT を用いた呼
吸器領域の最新臨床研究および臨床応
用を解説した。ADCT は,当初は東芝
メディカルシステムズ社が臨床応用した
面検出器型 CT のみであったが,現在で
は他社からも臨床応用されるとともに,
多くの研究者によってその臨床的有用
性が示唆されている。今後,ADCT は
低線量 CT 技術や肺結節などの血行動
態評価および新たな肺機能 CT の臨床応
用の可能性も示唆されている。
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INNERVISION (30・7) 2015
〈謝辞〉
稿を終えるに当たり,画像提供および技術説明
などでご協力いただきました東芝メディカルシス
テムズ・杉原直樹氏,藤澤恭子氏ならびに猪川
弘康氏に深謝いたします。
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大野
良治
Ohno Yoshiharu
1993年 神戸大学医学部卒業。
1998年 同大学院医学研究科内
科学系放射線医学修了。2000年
同 大 学 医 学 部 附 属 病 院 助 手。
Pennsylvania大 学 放 射 線 科
Pulmonary functional imaging
research, Research fellow,
Harvard Medical School Beth
Israel Deaconess Medical Center(文部科学省在外研究動
向調査員として派遣)などを経て,2009年より神戸大学大
学院医学系研究科生体情報医学講座放射線医学分野機能・
画像診断学部門 部門長/特命准教授,同大学医学部附属病
院放射線部部長(併任)
。2012年より同大学院医学研究科
先端生体医用画像研究センター センター長(併任)
。