海外の空港の周辺地域における公共施設等に対する国の支援の事例について

海外調査依頼内容
1
回答日:平成 26 年3月 19 日
2
依頼者名:総務省
3
調査依頼事項:海外の空港の周辺地域における公共施設等に対する国の支援の事例に
ついて
4
調査対象国又は対象地域等:アメリカ、イギリス、フランス、オーストラリア
5
調査の趣旨(調査結果の利用目的・時期を含め具体的に):
当課で所管している「成田国際空港周辺整備のための国の財政上の特別措置に関する
法律」
(成田財特法)は、成田空港周辺の公共施設整備のため、国が財政上の特別措置
(補助率かさ上げ)を講じるもので、昭和45年の制定以来、延長を重ねて現在に至っ
ているが、今年度末で現行法の期限が切れるため、今国会にその期限を5年間延長する
法案を提出しているところ(別添資料参照)であり、海外における関連制度の状況を調
査したい。
6
調査内容
(1)空港の周辺地域の公共インフラ(道路、下水道等)の整備について、国が財政
支援している事例はあるか。事例がある場合、以下の点についてご教示いただ
きたい。空港名、法的根拠の有無とその財政支援制度の概要、対象地域、地域
計画の有無、計画の策定主体、対象となる公共インフラの種類、通常の制度と
の比較での国と地方自治体の施設別での費用負担の割合
(2)空港建設について、国がどのように関わっているか。
(整備主体は誰か、費用を
国、地元自治体、空港管理者に負担してもらっているか等)
(3)その他、空港整備に関する最近の動きなど
CLAIR ニューヨーク事務所
海外の空港の周辺地域における公共施設等に対する国の支援の事例について
平成 26 年 3 月 1 日
米国における空港整備制度について
2014年3月1日現在
自治体国際化協会ニューヨーク事務所
1
空港周辺の公共インフラ整備に対する連邦政府の財政支援について
後述のとおり、連邦政府による空港整備の補助金が存在するが、補助対象事業は
空港区域内に限られており、空港周辺地域の公共インフラ整備は補助対象外とされ
ている。
2
空港建設への連邦政府の関与について
(1)整備主体
米国の民生用空港は、そのほとんどを地方政府が所有しており、空港整備主体も
同様であると考えられる。
(出典:「空港プロジェクトのファイナンス手法-アメリカのレベニュー債を中心に-」)
(2)連邦政府の補助制度
米国においては、連邦政府がNPIAS(National Plan of Integrated Airport
System:国家空港整備計画)という5ヵ年計画を定めており、当該計画にリスト
アップされた空港は、AIP(Airport Improvement Program:空港改善プログ
ラム)という連邦政府の補助制度の助成対象となる。
AIPの総額は、年額約33億ドル(約3300億円)であり、助成対象事業は、
空港整備の計画策定費から用地取得費、用地造成費、空港本体整備費(滑走路、エ
プロン等)、空港施設整備費(照明施設、安全施設、気象施設等)、騒音対策事業
などである。
CLAIR ニューヨーク事務所
海外の空港の周辺地域における公共施設等に対する国の支援の事例について
平成 26 年 3 月 1 日
AIPには補助率という概念はなく、連邦政府の裁量に基づき交付額が決定され
る。1件当たりの交付額の上限は7千万ドル(約70億円)、2012年度の1件
当たり平均交付額は約17百万ドル(約17億円)である。
AIPの財源は、AATF(Airport and Airway Trust Fund:空港・航空路信
託基金)という信託基金であり、AATFはチケット税を核とする利用者税等を歳
入としている。AIPの配分は、大規模空港より小規模空港にウェイトが置かれて
おり、AATF及びAIPの仕組みは、日本の空港整備特別会計と同様に、大規模
空港から得た収入を小規模空港の財源として再配分する仕組みであると評価され
ている。
3
空港整備に関する最近の動向
特になし
CLAIR ロンドン事務所
海外の空港の周辺地域における公共施設等に対する国の支援の事例について
平成 26 年 3 月 11 日
英国の空港整備と最近の動向
2014 年 3 月 11 日
クレア・ロンドン事務所
(羽生作成)
1
サッチャー政権以降の空港経営の大きな流れ
1979 年から 1990 年に英国の構造改革を徹底して押し進めた保守党のサッチャー政
権は、空港のあり方にも大きな変革をもたらしている。1986 年に制定された空港法は、
それまで国有であったヒースロー、ガトウィック、スタンステッド、サウサンプトン、
アバディーン、エディンバラ、グラスゴー、グラスゴー・プレストウィックの各空港を
民営化した。
また、同法は自治体所有であった空港についても、商業的な観点で運営させる目的か
ら自治体が所有する企業によって経営する改革を進めた。
現在、地方空港に自治体自らが運営しているケースは限られるが、次のとおり自治体
が民間企業と共に株式の一部を保有する形態や、委託方式により運営されている。
マンチェスター空港グループ(マンチェスター、イースト・ミッドランド、スタ
ンステッド及びボーンマスの各空港) グレーター・マンチェスター地域の自治
体が株式の 64.5%を所有
バーミンガム空港 ウェスト・ミッドランド地域の自治体が株式の 49%を所有
ニューカッスル空港 タイン・アンド・ウェア地域の自治体が株式の 51%を所
有
ノリッジ空港 ノリッジ及びノーフォーク地域の自治体が株式の 19.9%を所有
ダーハム・ティーズ・バレー ティーズ・バレー地域の自治体が株式の 11%を
所有
ルートン(地元自治体が所有、運営は私企業が委託契約に基づき行う)
こうした流れの中で、93 年のサウスエンド空港や 2007 年のリーズ・ブラッドフォー
ド空港のように、最終的には自治体が保有株式を売却した例もある。
2
空港整備に関する地方自治体の関与について
お問い合わせの事項についての回答は次のとおりとなる。
(1)成田財特法と同様、空港の周辺地域の公共インフラ(道路、下水道等)の整備
について、国が支援している事例はあるか。
ない。
(2)空港建設について、国がどのように関わっているか。
(そもそも全額国費か、一部地元自治体に負担してもらっているか等)
・ 空港建設及び拡張工事等に中央政府又は自治体が財政的に関与する制度は現在は存
CLAIR ロンドン事務所
海外の空港の周辺地域における公共施設等に対する国の支援の事例について
平成 26 年 3 月 11 日
在しない(今後必要に応じ、法制度とともに整備される可能性はある。)
。
・ またこれを行うことは EU の規制(後述〔参考〕参照)に違反することになるおそ
れもある。
(3)その他、空港整備に関する最近の動きなど
(ロンドン周辺の空港需要増大への対応)
・ 南東部の空港は現在利用が多い上、需要は拡大を続けており、機能が需要に追いつ
かない形になっている。
・ 2003 年に政府が示した航空白書は(拡充が困難である南東部の空港以外の)地域空
港の充実により地域経済の振興と南東部の需要緩和を目指す考えを示したが、航空
業界はこれを支持せず、南東部の空港容量の拡大を目指している。
・ 選択肢はロンドン・ヒースロー空港の拡張か、ロンドンの郊外(東部)のテムズ川
河口に新たなハブ空港を作ることであるが、政治的にも両方の考え方があり大きな
課題となっている。
・ 経済・環境の両面を満たした選択肢はどちらになるか、独立の第三者委員会が 2015
年の次期総選挙後の同年夏に考え方を示すこととなっている。
(地域空港)
・ ブレア・労働党政権時代(1997 年-2007 年)に地方議会・地方政府が作られ分権化
されたスコットランド及びウェールズでは、経営状況が悪い空港(グラスゴー・プ
レストウィック空港・カーディフ空港)を地域政府による運営に移行している。
・ イングランドのプリマスやイプスウィッチでは地元自治体が地方空港を閉鎖する決
断をしている。
・ 一方、ロビンフッド・ドンカスター・シェフィールド空港やロンドン・サウスエン
ド空港のように、完全な民間資本によるローコストキャリア向けの新たな空港も誕
生している。
・ 80 年代以降の民営化が基本的に成功していることもあり、英国では空港は公ができ
るだけ関与すべきでないという考え方が強まっている。
・ 政府や地元シェフィールド市も深く関与する形で 98 年に開港し、経営不振により
2008 年に閉鎖を余儀なくされたシェフィールド・シティ空港の失敗などもこうした
考えを結果として強めていると思われる。
CLAIR ロンドン事務所
海外の空港の周辺地域における公共施設等に対する国の支援の事例について
平成 26 年 3 月 11 日
〔参考〕EU の空港支援規制
以下は、欧州委員会の記者発表資料の大要を日本語にしたものである。
(http://europa.eu/rapid/press-release_IP-14-172_en.htm)
・ 欧州委員会(European Commission, EU の執行機関)は、近年のローコストキャ
リアの増加等に伴う航空業界の競争激化等を踏まえ、
(EU 域内の)単一市場におけ
る競争条件に歪みを与えずに地域間の結節やヨーロッパ市民の移動を確かなものに
すべく規制を設けてきており、2014 年 2 月 20 日に新たなガイドラインを設けた。
・ このガイドラインは EU が取り組む各国・地方自治体の関係する公的補助金の近代
化の一部を形成するものである。公的補助金を効率的に用いることは単一市場にお
ける経済成長に資するものであり、このため欧州委員会は競争に大きな影響を与え
るような案件については精査を行うものである。
新たなガイドラインの特徴は以下の3つである。
・ 空港建設における公的補助金の投入は、真に交通需要があり、地域のアクセシビリ
ティのために公的支援が必要な場合に限られるべきである。新たなガイドラインで
は、許容される補助金は空港の規模により決められるべきであり、公的支援と民間
支援の正しいバランスの上に成り立つべきである。したがって、補助が認められる
場合は大規模空港よりは小規模空港の方が可能性が高い。
・ 地域空港への運営支援(年間利用者数 300 万人未満の空港)は 10 年間に限り認め
られる。年間利用者数 70 万人未満の空港は、5年ごとの再評価に基づきより重点
的な支援が認められるべきである。
・ 新規参入路線に関する航空会社への支援は期間を限り認められる。
新たなガイドラインの考え方の概要は次のサイトで解説されている。
http://ec.europa.eu/competition/publications/cpb/2014/002_en.pdf
これによると、空港インフラへの補助に対する新たな規制の大要は次のとおりである。
・ ルールを明確化し、2005 年作成のガイドラインでは補足しきれなかった過大
投資やインフラの重複といった問題を解消する。
・ 十分な見込みが無かったり、需要が重なってしまい既存の空港の利用を減少さ
せるような場合、さらには既に高速鉄道が整備されているような地域の場合に
は、貴重な税金が使われないようにすることを明確にし、補助金が無い限り実
現しない真の交通需要がある場合にのみ補助金が認められることとする。
・ 新たな投資ルールの下では、補助金の上限は次のとおり制限される。
空港の規模
補助金の上限
300 万人-500 万人/年
投資金額の 25%以内
100 万人-300 万人/年
投資金額の 50%以内
100 万人未満/年
投資金額の 75%以内
新たなガイドラインは次のサイトに掲載されている。
http://ec.europa.eu/competition/state_aid/modernisation/aviation_guidelines_en.pdf
(注)
・ 本報告は、当事務所アンドリュー・スティーブンズ主任調査員の調査に基づき、羽
生が執筆したものである。
CLAIR パリ事務所
海外の空港の周辺地域における公共施設等に対する国の支援の事例について
平成 26 年 3 月 11 日
平成 26 年(2014 年)2 月
財団法人自治体国際化協会パリ事務所
フランスにおける空港整備の制度と最近の動き
○2002年までの空港整備に係る役割分担
・当時、空港・飛行場は国内に372所在。そのうち183空港は国の所管。
・国が所管する183の空港のうち、
約1/3は国の外郭団体による直営 régie directe
約1/3は公的主体への委託 délégation de service public(大半は商工会議所へ委託)
約1/3は合意により地方自治体に移管 transfert de compétences(所有は国のまま)
・残る189の空港・飛行場は、民生用のごく小規模な空港・飛行場であるが、それらは
地方自治体、商工会議所、民間航空会社(とりわけビジネス・レジャー便分野)等が所管
(所有)
。
○2002年~2005年の制度改革
【国所管空港のうち、地方レベルの用に供されるもの
⇒
国から地方自治体へ全面的に移管】
2002年1月22日付コルス法により、2003年にコルス(コルシカ島)の4商業
空港がコルス自治体に移管され、さらに、2004年8月13日付地方自治体の自由と責
任に関する法律により、地方レベルの用に供される150空港が地方自治体に移管された
(2007年完了)
。
【国所管空港のうち、全国的・国際的な拠点空港 ⇒
段階的に私法上の会社に移管】
(1)イルドフランス州(首都圏)内の14の民生用空港(シャルルドゴール空港、オル
リー空港、ブールジェ空港を含む)
2005年4月20日付空港法により、パリ空港株式会社 Aéroports de Paris S.A.に移
管。2006年、民間の資本参加も可能となった(ただし少数株主としてのみ参加可能)。
(2)地方部の大型拠点空港(ニース、リヨン、トゥールーズ、ボルドー等)
空港運営のための私法上の特定目的の株式会社への段階的な移管が進められており、2
014年時点で依然として公的主体である商工会議所により運営されている地方の大型拠
点空港はマルセイユとストラスブールのみ。
CLAIR パリ事務所
海外の空港の周辺地域における公共施設等に対する国の支援の事例について
平成 26 年 3 月 11 日
(1)
(2)のいずれの場合も、当分の間、国が多数株主の地位を維持すべきものとされ
ている(国の持ち分は54.5%~60%)
。
○空港及び周辺整備における国の役割
・地域開発に関する国の政策は、複数の関係省庁と、地方長官庁をはじめとする国の出先
機関とが密接に連携することで各地域の特殊性を反映した形で策定作業が進められ、事業
の実施は、国と関係自治体とが財政負担割合等について結んだ合意に基づいて行われる。
・この合意の代表的枠組みが「国・州計画契約 contrat de plan État-région」
。国・州の合
意により、事業実施のスケジューリング、主要事業の複数年財政計画等が定められる。そ
の際、州内の地方自治体(コミューンやその広域連合組織、県)も国・州計画契約に参加
可能だが、関連事業への財政負担が求められる。
・この計画契約に位置づけることで、国は空港整備および周辺の関連インフラ(とりわけ
道路網)の整備に財政的にも参加することになるが、空港周辺整備事業への国の補助金や
その嵩上げ制度は存在しない。
例えば、県道であれば県が整備費用を負担するのが原則であり、国からの個別補助金は
存在しない。あくまでも国・州計画契約策定等の合意形成過程において、国や各種地方自
治体の役割分担を協議するなかで、財政負担についても取り決めがなされることになり、
その結果として県道等の整備促進につながる国の財政負担が行われることはあり得るが、
個別補助金およびその補助率嵩上げ等が制度化されているということは無い。
○最近の動き~グランド・ウェスト空港整備計画~
・ナント市北部に予定されている新国際空港、グランド・ウェスト(大西部)空港は20
14年着工予定とされているが、賛成派・反対派の間で紛争・暴動が頻発。現在のナント・
アトランティック空港(ナント市南部)が飽和状態かつ拡張不可であるため、それに代替
する空港として2017年に開港する方針は変わっていないが先行きは不透明。
・グランド・ウェスト空港の総工費およびその財源構成(2010年想定)は下記の通り:
総工費
5億5600万ユーロ(公租公課除く、以下同じ)
(内訳)
空港本体
4億4600万ユーロ
空港関連設備(管制塔等)
3700万ユーロ
アクセス道路
7300万ユーロ
(財源)
CLAIR パリ事務所
海外の空港の周辺地域における公共施設等に対する国の支援の事例について
平成 26 年 3 月 11 日
事業者負担(VINCI※1) 3億1500万ユーロ(56.6%)
国
1億2550万ユーロ(22.6%)
地方自治体 ※2
1億1550万ユーロ(20.8%)
ペイ・ドゥ・ラ・ロワール州
4040万ユーロ
ブルターニュ州
2890万ユーロ
ロワール・アトランティック県
2310万ユーロ
ナント大都市共同体
1790万ユーロ
ナゼール河口都市圏共同体
290万ユーロ
キャップ・アトランティック都市圏共同体
200万ユーロ
※1 VINCI(ヴァンシ社)
:建設大手。空港の管理運営にも当たる予定。
※2 初期投資に財政参加する地方自治体に対しては、一定以上の開発利益が生じた
場合の払い戻しが予定されている。
以
上
CLAIR パリ事務所
海外の空港の周辺地域における公共施設等に対する国の支援の事例について
平成 26 年 3 月 11 日
(参考記事)
Le Figaro 2014-02-24
ナント新空港建設問題:エロー首相とデュフロ住宅相(EELV)が対立
エロー首相は 2 月 23 日、地方紙ウェスト・フランスに対する談話の中で、連立与党に参加
する環境政党 EELV(欧州エコロジー・緑の党)に対して、ナント新空港建設計画に関する
態度を明確化するよう迫った。首相は、22 日にナント市で行われた建設反対デモが暴動に
発展したことを挙げつつ、反対運動を EELV が支持しているのはおかしいと批判した。
エロー首相は長年に渡りナント市の市長を務め、新空港の建設を後押ししている。これに
対して、EELV 所属のデュフロ住宅相は、デモが行われる前の時点で行われたルモンド紙と
のインタビューの中で、ナント新空港の建設計画を強く批判、閣僚でなかったらデモに参
加していたなどと述べて、反対運動を支持していた。エロー首相はそうしたデュフロ住宅
相の発言を公に批判、連立与党内の亀裂が改めて表沙汰になった。EELV のコス全国書記は
23 日、暴力行為について党は既に糾弾しているとエロー首相に反論、計画には反対するが、
暴力行為は糾弾するという EELV の立場に曖昧さはないと説明した。
暴動を率いたのは、
「ブラック・ブロック」と呼ばれる過激派グループ。デモには県庁発表
で 2 万人が参加したが、その中に 1000 人ほどの暴徒が紛れ込んでいたと見られている。
Les Echos 2012-11-16
ナント新空港の建設反対デモ、EELV などが参加して 17 日に実施へ
ナント新空港(グランド・ウェスト空港)の建設計画に反対する勢力が 11 月 17 日に、地
元のノートルダムデランド市で建設予定地占拠のデモを行う。ナントはエロー首相の地元
で、建設プロジェクトは首相の後押しを受けて進んでいるが、社会党政権に協力する欧州
エコロジー・緑の党(EELV)は、デュラン全国書記やプラセ上院 EELV 議員団団長らを含
めてデモに合流することを決定。左翼戦線のメランション氏らも参加を決めており、反対
運動の機運は高まりつつある。政府が財政困難を理由に大規模プロジェクトを軒並み見直
している中で、ナント新空港のプロジェクトは順調に推進されている点が、特に政権の矛
盾を象徴する案件として、広く受け取られるようになりつつあり、エロー首相は微妙な立
場に置かれている。特に、1 ヵ月前に政府が反対派の強制排除に治安部隊を投入してからは、
政府がこの件で横暴に振舞っているという印象が一部の国民の間で強まった。今回のデモ
後に政府がどのような反応を見せるかが注目されている。
ナント新空港の整備事業の総額規模は 5 億 6000 万ユーロ(本体の整備が 4 億 4600 万ユー
ロ、道路整備が 8100 万ユーロ、管制塔の建設が 3400 万ユーロ)に上る。空港を管理運営
する建設大手のバンシ社は投資額のうち 3 億 1500 万ユーロを負担、国が 1 億 2550 万ユー
ロ、自治体が 1 億 1550 万ユーロをそれぞれ負担する。
CLAIR シドニー事務所
海外の空港の周辺地域における国今日施設等に対する国の支援の事例について
平成 26 年 2 月 25 日
オーストラリアでの空港周辺地域における公共施設整備について
(財)自治体国際化協会シドニー事務所
文責:迫田明巳所長補佐
(1)空港政策と各政府機関の関与について(概観)1
オーストラリアの主要空港2は、従前は連邦空港公社によって管理運営がされてい
たが、1996 年空港法(以下、空港法)によってその管理下にあった 22 空港3全てが、
50 年間長期リース権(最大で 99 年間まで延長可能)の売却という形態で、2003
年までに民営化された。
空港法では民営化された空港に対し、策定時から 20 年間の開発計画の概略を示
したマスタープラン(以下、MP)の策定を求めており、連邦政府担当大臣の認可
を得なければならず、5年おきの改定も義務付けられている。空港法の規定により、
空港の土地は連邦政府の所有地とされたため、当初は MP の策定等に州政府や地方
自治体が関わることが困難であった4上、空港運営会社が周辺地域の整備をおろそか
にすることで、増大する交通量へ対応等が不十分になるのではと州や地方自治体は
懸念を持っていた。その解決を図るため、連邦政府は 2009 年の連邦航空政策白書
において MP 策定時の州政府や地方自治体の関与について触れ、2010 年には MP
に以下の内容を含めるようにする空港法の改正を行い、2011 年には MP への関与
に関するガイドライン5が策定された。
・空港施設と周辺道路及び公共交通機関の接続(策定時から5年間の道路交通
網及び公共交通機関における州政府及び地方自治体との役割分担を必須とす
る)
・非空港関係開発における土地利用計画
・州及び周辺地方自治体の都市計画法との整合性
・雇用創出予測、交通量予測及び周辺経済への波及予測
・州都地域の空港については、連邦政府、州及び地方自治体を含む関係機関で
構成する調整会議の設置
[参考]Australian Government Productivity Commission, Economic Regulation of Airport Services
(14,December 2011)
2 地方部の空港は地方自治体等によって管理運営がされており、その数は約 300 に上る。
(出展:The Australian Airports Association)
3 その後、Hoxton Park Airport(NSW 州)が廃港となったため、現在は 21 となっている。
4 オーストラリアでは、連邦政府の所有地においては連邦法が地方政府の法律・規定よりも優越するとい
う原則があるため、州政府や地方自治体による計画・建築関連の法規制が及ばない。
5 Planning Coordination Forums Guidelines
1
1
CLAIR シドニー事務所
海外の空港の周辺地域における国今日施設等に対する国の支援の事例について
平成 26 年 2 月 25 日
(2)空港政策における財政負担の役割について6
MP への州や地方自治体の関与が認められた後には、新たなインフラ整備やサー
ビスの実施をどの行政機関が担うのかという問題が生じた。一般的には、州及び地
方自治体が道路網や公共交通機関の整備を行うものと解されているが7、表1に示す
とおり連邦政府に全くの財政負担責任が無いわけではなく、場合によっては連邦政
府も Infrastructure Australia や Nation Building Program などの財政支援手段を
通じて財政支援を行うとしており、表2に示すように実際に支援した事例も存在す
る。しかし、これは空港周辺のインフラ整備に特化した財政支援ではなく、国家的
な優先度や重要度などを考慮し、州や地方自治体のインフラ整備全般に対して行わ
れるものであり、日本の成田財特法8などとは意を異にするものと考えられる。
表1 交通インフラに関する財政負担について
※Cost が事業費総額、Cwlth contribution が連邦政府の負担を指す。
表2 連邦政府が負担した空港周辺道路
[参考]Australian Government Productivity Commission, Economic Regulation of Airport Services
(14,December 2011) なお、表1及び表2についても同資料が出典。
7 憲法上、連邦政府の権限は専属的権限と州との共管的権限に分けて明記されており、交通に関する権限
は州政府に属する。地方自治体は州の法律で設けられた州の創造物であるとされ、古くから3R(Rate,
Road, Rubbish)と呼ばれる業務を行ってきている。
8 成田国際空港周辺整備のための国の財政上の特別措置に関する法律
6
2
CLAIR シドニー事務所
海外の空港の周辺地域における国今日施設等に対する国の支援の事例について
平成 26 年 2 月 25 日
また、「空港施設外の整備についても空港運営会社が責任を持って行うべき、又
は何らかの費用負担を行うべきである」という声が、州や地方自治体を中心にあげ
られていたが、空港施設内の施設管理や関連サービスはもとより、空港敷地内にお
けるインフラ整備等(ターミナルの拡張や施設内道路、電気、水道にかかる設備等)
も空港運営会社が行っていること、地方自治体の区域内にあり資産税相当の金額を
任意9で地方自治体に支払っていながら本来は地方自治体が行うべきサービス10 で
さえも空港運営会社で行っていること、州や地方自治体も空港があることによって
経済的にも恩恵を受けていることなどの理由から、これ以上の負担には難色を示し
ている。
しかし、実際には空港施設外の道路整備等に費用負担を行っているケースが多く、
州や地方自治体との交渉によってケース・バイ・ケースで決められている。連邦政
府生産性委員会では「州や地方自治体の不満が無い訳ではないが、それなりに上手
くいっている。しかし、今後は何らかの立法措置が必要になってくるだろう」とし
ている。
(3)NSW 州シドニー空港周辺地域について
オーストラリア最大のシドニー空港の場合を見てみると、上述のとおり空港の土
地は連邦政府の所有となっており、施設管理や関連サービスを含めて空港全体の管
理運営は民間企業である Sydney Airport Corporation Limited(以下、Sydney
Airport)が行っている。2010 年以降 Sydney Airport は NSW 州、空港関係自治体
及びその他関係機関と、空港に関する諸問題について議論する会議を定期的に設け
ており(シドニー空港計画調整会議)
、MP の策定にあたっても意見聴取や、州及び
地方自治体の環境計画との整合性を図るなどしている。2014 年 2 月に承認された
シドニー空港 MP では、シドニー空港の発展だけではなく、シドニー周辺地域はも
とより NSW 州やオーストラリア全体の経済発展・地域活性化についても述べられ
ており、そのための地域関係機関との関わりやインフラ整備、環境問題への対応な
どが盛り込まれている。
空港周辺の公共インフラ整備について、上述の MP においては基本的に交通イン
フラ(公共交通及び道路)整備は、州政府と連携して整備に取り組んでいくことと
しており、高速道路整備のような大規模事業については連邦政府の協力も得ること
があるとしているが資金の負担については明示していない。
また、連邦政府生産性委員会の空港サービスに関するレポート11によれば、NSW
州が Sydney Airport に対して空港周辺インフラの維持管理に係る費用を求めたの
9
空港が立地する土地は連邦政府の土地であるため地方自治体への資産税(Rate)は非課税。
水道事業やごみ処理事業などは一般的に地方自治体の業務にあたる。
11 Australian Government Productivity Commission, Economic Regulation of Airport Services (14,
December 2011)
10
3
CLAIR シドニー事務所
海外の空港の周辺地域における国今日施設等に対する国の支援の事例について
平成 26 年 2 月 25 日
に対し、Sydney Airport は「NSW 州も様々な恩恵を受けている」として、空港施
設外のインフラに対する負担を拒否しているとしている。一方で、Sydney Airport
では地域コミュニティやスポーツクラブ、学校への基金プログラムの実施、NSW
州及びシドニーで行われる観光関係イベントのスポンサーになるなど、インフラ整
備以外での周辺地域に対する財政支援は行っている。
基本的に道路の維持管理は州及び地方自治体の業務とされ、シドニー空港周辺の
主要道路は州の管轄となり、その維持管理は州政府が行っている。しかし、国家的
に優先度や重要度が高いプロジェクト
については連邦政府も財政支援をして
おり、NSW 州政府によって現在計画さ
れている空港周辺の高速道路整備
(WestConnex:空港周辺の渋滞緩和
が整備目的の1つとされている)につ
い て は 連 邦 政 府 も Nation Building
Program を通じて財政支援を行ってい
図1
る。
WestConnex 計画図
(既存のオレンジ以外の部分を段階的に整備)
その他に地方自治体の道路行政に関する財政支援として、州政府による地方道総
合整備交付金(Block Grant12)や地方道改良修繕交付金(REPAIR13)が存在する。
これは、地方自治体が管轄する道路である Regional Road は、小規模な町を繋ぐな
どして州が管轄する道路(State Road)の役割を補完し、州の道路網にとって重要
な役割を果たしていることから設けられている交付金である。
そのうち REPAIR には、交付率のかさ上げの制度がある(ただし、空港周辺整備
に特化したインフラ整備交付金ではない)。これは、地方自治体の申請に基づき交
付される交付金で、所定機関の審査を要する。経済開発、地域の一貫性、効率的な
道路網、地方部への観光、道路の安全に関する5分野のうち、少なくとも1つの分
野に該当しなければならず、シドニー空港が位置する都市部においては、観光客向
け道路の維持及び整備が特に重要視されている。基本的に、地方自治体は対象経費
の 50%まで交付金を要求できるが、①当該地方自治体の納税者に対する利益が限定
される場合(Limited benefits to local ratepayers)、②州にとって大きな利益が見
込まれる場合(Significant State benefits)、③大規模事業の場合(Size and scale
indivisible projects)に、地方自治体は追加の補助を求めることができ、空港周辺
地域の道路整備に対してかさ上げが適用される場合もあることが推量される。
なお、NSW 州自治体連合が州の貨物・港湾計画案に対して提出した意見書14によ
れば、貨物車両などの重量車両が通行するような道路は、重量車両の道路使用によ
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The Regional Road Block Grant Program
The REPair And Improvement of Regional Roads (REPAIR) Program
Local Government NSW, Submission to the Draft NSW Freight and Ports Strategy (March 2013)
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CLAIR シドニー事務所
海外の空港の周辺地域における国今日施設等に対する国の支援の事例について
平成 26 年 2 月 25 日
る道路損傷によって維持管理費がかさむことになるが、それに対しての財源が確立
されていないとし、既存の交付金制度とは別枠で(かさ上げなどの方法ではなく)
新たな交付金制度を求めているといった事情もある。
シドニー空港が位置する NSW 州における水道事業(上水道及び下水道)は、大
別して都市部においては州公社(シドニー空港圏域は、シドニー水道公社)が、地
方部においては主に地方自治体が水道事業を行っており、シドニー空港関係自治体
(Botany Bay 市、Marrickville 市、Rockdale 市)の区域は全てシドニー水道公社
の管轄区域である。シドニー空港敷地内の下水道施設については Sydney Airport
が管理をしている(しかし、最終的にはシドニー水道公社の下水道施設に繋がる)
ほか、排水リサイクル装置を整備15することで空港施設の水道需要の4分の1程度
をまかなっている(残り4分の3はシドニー水道公社による)。
連邦政府の水道事業に対する関与は基本的に無く、渇水対策としての雨水利用な
ど全国規模での課題に対する補助金などがある程度である。2012/2013 年度16の年
次報告書によれば、連邦政府からシドニー水道公社に対する補助金はあるものの、
年間 19,000 ドル(約 171 万円)程度の少額なものであり、シドニー空港の設置に
対しての補助的な要素とは考えられない。
(4)空港建設における国の関わりについて
民営化以前の主要空港((1)参照)の建設については、空港が連邦政府の所管
であったことから、基本的に連邦政府の財政負担によって建設されたものと考えら
れる。州政府の負担については不明であるが、オーストラリアの行政構造や事務の
配分上、地方自治体の負担は考えられない。
(5)その他、空港整備に関する最近の動きについて
~シドニー第二空港建設の動きについて~
シドニー第二空港建設についての議論は 1946 年に初めて起こり、1990 年代後半
までに 19 の候補地が挙げられ、52 の調査報告書が出されている。これはシドニー
空港が先進国の主要空港の中で最小の敷地面積であり、これ以上の航空需要に耐え
切れなくなるということに端を発している。そういった動きの中でシドニー中心部
から西に約 60km の Badgerys Creek(現在のシドニー空港はシドニー中心部から
南に9km の場所に位置している)が最有力候補となり、連邦政府によって 1986
年から 1991 年にかけて空港建設地の取得が行われたが、2014 年2月時点で、第二
空港建設計画及びその建設地の最終決定には至っていない。
最近では、2014 年2月 13 日に連邦財務相が最終候補地の明言は避けながらもシ
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NSW 州の補助金を受けて整備したもの。
オーストラリアの行政機関の会計年度は 7 月 1 日から 6 月 30 日まで。
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平成 26 年 2 月 25 日
ドニー第二空港は必要であると名言したほか、今後 20 年間で空港利用者を現在の
3,800 万人から 7,400 万人とするシドニー空港の MP が2月 17 日に連邦政府に承
認された際にも、インフラ地方開発相が「その利用者予測は楽観的と言わざるを得
ない。第二空港建設地は遅くとも今年中に決定され、Badgerys Creek が有力だ。」
と発言するなど、連邦政府の閣僚内にも第二空港建設の早期決定を求める動きが多
い。
しかし、NSW 州政府は第二空港建設によって生じる多額の交通インフラ整備経
費などに大きな懸念を持っているほか、建設候補地周辺自治体も空港周辺のインフ
ラ計画が明確になっていないことや、交通量及び騒音の増大などに対して大きな懸
念を持っており、また、Sydney Airport が既存のシドニー空港から 100km 以内に
おける空港事業の独占権を保有していることから、Badgerys Creek への第二空港
建設には Sydney Airport の同意も必要であるなど、第二空港建設が今後どのよう
に進展するかは不透明な状況となっている。
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