魅力的な誌面作りのための一提案

魅力的な誌面作りのための一提案
JAえひめ南 企画統制室 総合企画課
清水 純(広報担当)
2011 年5月 20 日(金)
日本農業新聞通信員及びJA広報担当者等
情報発信研修会
1、現場をコントロールしよう
2、ドラマを探そう
3、広報の仕事
4、様々な媒体から学ぼう
5、広報誌の発行体制など
1、「現場をコントロールしよう」
―ここでは、とくに写真撮影のコツについて。経験や撮影技術ではない
端的に言って、良い写真を撮るには現場を「コントロール」すること(一概に何が良い写
真かを定義するのは難しいが、ここでは使用目的や制作サイド及び読者ニーズに符合する
写真を良い写真ということにしたい)。撮ろうとしている対象・被写体にしっかりと声をか
けながらポーズをつけよう(※)。これは写真の構図を作ることであると同時に、誌面のレ
イアウト作りでもある。
※ もちろん、現物撮りで対象静物に声をかける必要は全くない。しかし現物撮りの場合で
も、例えば農産物や料理のおいしそうに見える角度、光の色や量などを探る過程は、被写
体とコミュニケーションを図っているように見えなくもないだろう。
被写体(人物)には常に具体的な指示出しを心がけよう。被写体がどのように撮られるべ
きかは、カメラマンだけが知ることであって被写体自身には分からない。おどおどした態
度に出るカメラマンの自信のなさは被写体を不安にさせ、表情を曇らせる。しっかりと声
を出そう。遠慮しないこと。広報誌の編集長である広報担当者は、カメラマンであり記者
であり、ディレクターでありデザイナーとして総合力を発揮しよう。
「笑ってください」と言って笑う人は少ない。撮影者も笑顔を見せよう。臨機応変に現場
を和ませる冗談も交えたい。ここで大切なことは、たとえば「ココに、このように手を置
き、自然な笑顔で、この辺を見つめるようにしていてください」などといった具体的な指
示だ。こう撮りたいのだという撮影者側の意向をハッキリと被写体に伝えたい(コンセプ
トまで伝えられればベター)。
誌面・レイアウト制作に必要な素材写真を作成する作業は、現場で既に始まっている。写
真は撮影した瞬間に、右に置くか左に置くか、レイアウト位置がほぼ決まっている(右あ
るいは左に置くべき写真を無理に配置すると読みづらく違和感ある誌面になる)
。(※)
※ 撮り終えた写真を何度も見なおして、使いたいその写真が、誌面のどこに配置されるべき
写真かを見極めよう。誌面レイアウトの自由度の高さも新聞紙面との大きな違いだ。
撮影枚数1~2枚であきらめないこと(※)。初めに「何枚か撮りますね。一番良い表情で
お願いしますよ」などと断わっておくこと。構図・ポーズを変え、必要な素材写真が撮れ
るまで、納得いくまで撮らせてもらおう。話しかけながら相手の緊張をほぐす。取材時に
被写体の知り合いを同行させるのもよい。撮れば撮るほど緊張する相手に対しては撮影を
早めに切り上げる。
※ 掲載する1枚のために少なくとも 50~100 枚撮りたい。
WB や ISO バランス、ストロボ発光の設定を、その場で即座に切り替えながら撮ろう。
もたもたしているうちにシャッターチャンスを逃し、相手の表情も曇り始める。
自分が使う機材くらいは、ちゃんとマニュアルを読み、すばやく操作できるように練習しておきたい。
現場では交渉・かけひきの能力も試される。「写真は勘弁してくれ。1枚でいいだろう、さ
っさと撮れ」と照れくさがる相手を説得する作業も必要になる。担当者はデスクワーカー
であるとともに、現場最前線の営業マン・渉外担当者でもあることを肝に銘じたい。
声をかけない遠くからの「隠し撮り」はやめよう。いま現に作業している被写体を遠巻き、
遠慮がちに俯瞰(ふかん)で撮影した写真は、よほど周囲の景観に特徴(ニュース性)が
なければ使えない。
遠慮した遠巻きの「隠し撮り」写真(左)では何も伝わらない。相手に声をかけながら構図とポーズを決めて表情をねらおう。写真
の上手さは、経験年数による慣れやテクニックの習熟、機材の構造などに対する理解ではない。写真がうまい人は、トイカメラや
使い捨てカメラを使ってもうまい。技巧的な撮影技術を磨くより、取材対象と向きあい相手との会話を弾ませる方が「良い写真」を
撮る近道だろう。
2、「ドラマを探そう」
―広報誌原稿の執筆スタンスについて
ひと口に誌面における「農畜産物の紹介」といっても、その手法・切り口は一つではない
(※)。ここ十数年来いわれ、とくに求められているのは「顔の見える商品」だが、単に商
品を陳列するだけでは誰も魅力を感じない。消費者が求めるのは商品だが、商品の背景に
ある生産者のストーリーが商品価値を高めている。商品の「付加価値」というとき、生産
者の努力や苦労、工夫点、高品質な商品作りにかける熱意は、商品そのものに内在する価
値を高め、そこにある価値そのものを形づくる重要な要素になる(付加価値といって、た
だしPRされる対象が独善的な後付けの価値観であっては誰も魅力や値打ちを認めないだ
ろう)。人間が織りなす生のドラマを正しく(適切な方法やプロセスで)紹介することが「顔
の見える商品」を作る。
※ 「正解がない」というより、「たくさんの正解がある」といえるのが写真や記事、誌面作りの
おもしろさでもある。様々な手法を試した上で自分自身が納得する誌面を読者に提案しよう。
身勝手な価値観の押しつけや自己満足が目的の編集はいただけないが、複数の価値観の
寄せ集めだけを基準とする編集方針は、間を取った妥協や折衷案だけが全面に出るばかりで
見る影もないものになりがちである。現場のプロである広報担当者は同時に編集長であるこ
とを自覚し、誌面を導く強力なリーダーシップを発揮しよう。
現場には常に人間のドラマがある。広報誌面記事の大きな特徴でありメリットは、新聞記
事とは異なる角度から対象に切り込み、報道写真とは異なる写真、事実説明にとどまらな
い分析と解釈を含む文章によって人々の魅力を抽出し描き出すことができる点にある(※)。
基本的な新聞のルールでは「余剰」ともいえる一見無関係な周辺事実・内容にこそ、人間
味あふれる人物像と、彼らが作る農畜産物の魅力を物語る要素があるといえる。
農畜産物の背景には生産者たちのドラマがある。新聞記事と広報記事は別物。とくに広報誌面では、新聞記事で描き切れなか
った、生産者たちのサイドストーリーを紹介したい。新聞記事として出稿できないトピックスも、広報誌面では大特集できるかも?
読者のお便りなどから顧客(読者)ニーズを読み解きながら、新たな顧客価値を企画提案していこう。
※ 5W2H(when/who/where/what/why/how/how much)や重要度が高く伝えたい事実から
先に書き始める新聞の基本ルールをふまえた上で、広報誌用の記事では書きぶりを変えよう。
新聞用に出稿した原稿は、そのまま広報誌に流用しない方がいい。文末を「です・ます」調に変えるだけでは
単調過ぎて魅力に欠ける。
もとより主観・客観は論理的に厳密なものであり得ないのだが、広報誌ではあえて「主観」を大切にした
文章を心がけた方がおもしろいだろう。ただし、文章には常に責任と義務が生じることを忘れずに。
現場を最もよく知るのは現場だ。現地の支所・センターなど出先機関の職員と意思疎通、
情報共有を図り、押しつけでない情報提供を求めよう。組織広報の存在を内部に周知させ、
各方面からの情報発信を促し、一人ひとりが広報関連業務の重要性を考える組織の土壌を
作るのは、担当者自身にほかならない。そのためにも積極的に各支所へ足を運ぼう。情報
提供に協力してくれる人材も見出せる。
3、「広報の仕事」
―組織広報、業務の機能・役割とは
広報誌の作成や新聞原稿の出稿、WEBサイトの管理、あるいはプレスリリースを出すこ
とだけが、広報担当者の仕事ではない。むしろ広報業務は、肥大化した(お客さまにとっ
て、それぞれは良い仕事をしているが、必ずしも互いが何をしているか明確に把握し切れ
ていない)組織各部署の情報共有を図り、「顧客満足」という組織の最大目標を達成させる
ための足並みをそろえ、全役職員・従業員をつなぐ扇の要(かなめ)としての大きな機能・
役割がある(※)。経営幹部層の意向如何に関わらず、組織広報を担う担当者としてリーダ
ーシップを発揮することが大切だ。
※ 扇の要役として、人と人をつなぐ広報担当部署が、「総務課」や「組合員課」といった
管理本部系の部署に置かれることは、その意味でなじみやすい。ただ、これによって同時に業務
内容を恣意的に格付けする考え方や経営方針から長年、組織広報が不当にも他の業務よりも
格下の雑務であるかのように扱われ続けてきた事実については、組織そのものの未熟さを否定で
きない。
「対内広報(組織内広報)」や「対外広報」といった理念的枠組みは「顧客満足」を考え、お客さまの
目線に立てば、とくに大きな意味を持ち得ない。組織内の便宜的な枠組みをお客さまに押しつける
のはやめて、組織にとっての広報業務とは何かを組織全体で自身の問題として捉えなおしてほしい。
4、「様々な媒体から学ぼう」
―具体的な参考事例を交えて
写真集や画集、映画や小説、絵本、ノンフィクション作品など、様々な作品に学ぼう。心
に響く言葉を学ぶには、詩集もいい。端的で上手いみだしの付け方は新聞から学べる。雑
誌広告やテレビCMには「多くの人にものを伝え知らせる」ためのアイデアが満載されて
いる。
訴求力ある誌面(あるいはWEBサイトなど)作りを心がけるのは当然だ。「読んでもらえ
なくてもいい、発行していることに意味がある」というのは、自己満足な言い訳に過ぎな
いばかりか、お客さま(組合員)からお預かりした貴重な金銭を浪費する重大な背任行為、
組織に対する業務の妨害行為にもつながる。広報誌もWEBサイトも、発信した内容は人
に見られ読まれて初めて値打ちがある(というより、そこで初めて価値を生じる可能性を
得るのだ)。どうすれば見てもらえ読んでもらえるかを徹底的に考え、創意工夫しよう。
個人的に影響を受けたのは無料タブロイド紙『GENERATION TIMES(ジェネレーショ
ン・タイムズ)』、月刊誌『relax(リラックス)
』
(マガジンハウス、廃刊)
『Newsweek(ニ
ューズウィーク)日本版』など。『家の光』も一般誌にひけをとらないデザイン性、取材力
の確かさがあり、学ぶところが多い。
左から『GENERATION TIMES』 『relax』 『Newsweek 日本版』 。GENERATION TIMES からは、視点を切り替え、ものごとを多角
的に捉えながらワンテーマを実直に追う編集者のスタンスを、relax では「常識」にとらわれない視点や雑誌レイアウト作りの楽し
さを、Newsweek 日本版からは世界的な視野に立ったものの考え方、目を引く印象的なみだしの作り方や小さな文字でも読みや
すい本文行間の美しさなどを学んだ。
タイトル、リード、みだし、小みだしも手を抜かないようにしよう。キャッチー(目を引
く)で印象的な言葉を選び、誌面開かせ本文を読ませるための工夫が必要だ。誌面の隅々
まで、こだわり抜くことは馬鹿げたことではない。お客さまのお金を拠出して制作してい
る以上、たとえばノンブルのデザインや位置など細部にいたるまで熟考したい。印刷会社
のデザイナーさんにレイアウトをまる投げしたり、事業部発行のチラシで誌面を埋めるな
どしたりせず、仕事に責任を持ちたい。
5、広報誌の発行体制など
発行:企画統制室・総合企画課(担当者 1 人)
、室長決裁
制作:内部作業
印刷:アイコー印刷(旧アイニチ)
発行部数:21,300 部
配布:支所約 50 カ所へ印刷会社から直送→支所職員、地区運営委員らによる手配り
道の駅「きさいや広場」内の JA 直売所「みなみくん」で配布(300~400 部/月)
1 部単価(印刷費): 19 円/16p、25 円/20p、30 円/24p
約 67 万円/月
作業サイクル:
約 670 万円~800 万円/年