Lecture 講座 「KANDA WAY」 と呼ぶ「私たちが 図表2 K-Value(神田通信機の価値) 大切にしたいこと」として09年4月に Structure(組織) 策定したビジョンで、その内容は8項 目に及んでいる。 8 得意分野の延長線上の 新規事業 に手応え! ターニングポイントを迎えている通信系ディーラーの経営戦略。 今回は大規模ディーラーである日立製作所特約店の「神田通信機」を取材した。 堅実かつ、積極的な施策は技術力を標榜する通信系ディーラーのお手本となるものだ。 得てしてスローガンは掲げっ放し になり有名無実になることが多いも 比率を落としてきている。 表2)が、社員全員の意識の徹底とモ いて書いてきたが、前回紹介したよ の支店等の拠点を有し、従業員数は の保守や保守工事は、リーマン・ショ これらの施策の旗振りは、松丸社 うに、この先数年は市場が漸増とい 316人の規模で、創立64年目を迎え ック以降の景気低迷やFMCの登場 長のリーダーシップで行われている う予想や、取材したディーラーがレ ている。2011年3月期の売上見通し などで下降線を辿っているが、情報 ことも 「会社全体のまとまり」を感じさ ガシータイプを中心に受注も継続し は49億1700万円で、その柱は①通信 システム関連は、ソフトやハードのサ せるものだ。 て実績も上げているという報告もあ システム開発(PBXとネットワーク中 ポート契約が伸長してきた。それが ることから、本号からタイトルを一部 心)、②情報システム開発(コンピュ 実績を押し上げている。 変更させていただいた。 ーター、LAN/WAN主体)、③保守 より具体的な話をすると、まず、同社 収益基盤の確保を目指している。こ なかで、同社の新規事業分野への進 田区、松丸美佐保社長) を取材した。 を持つ通信系ディーラーが多いが、 れは2010年9月号の本講座で解説し 出スタンスである「得意分野の延長 ンター長、森岡茂営業企画部長、黒 が特徴的だ。 岩伯門通信統括支店専任部長の4氏 図表1 売上構成 現在の事業の柱は3本あると書い た。主な売り上げ構成は図表1のよ 情報システム 開発 うになっている。 14.4% 通信システム 開発 保守料 総論:現状認識と経営施策 19.7% 45.8% 保守工事 18.6% 賃貸事業 1.5% 出典:神田通信機会社説明会資料(2010.6.3) テレコミュニケーション_February 2011 線上にある領域を攻める」 ( 小笹取 締役) というコンセプトを象徴するサ 従業員のモチベーション向上にも繋 ービスおよびソリューションであるこ がっているので紹介しよう。 とから、②の「コンタクトセンター」 と、 同社のホームページや会社案内に も載っているが、1つは「ICT (愛して) 宣言」である。 <補足> 神田通信機の強みである顧客基盤力および情報通信技術を活かし、RFP(Request for Proposal) に常に 目を向け、7つのSを強化することで、 お客様に喜んでいただける 製品・サービス・技術・品質を提供する 出典:神田通信機会社説明会資料(2010.6.3) 図表3 3つのソリューション ②コンタクトセンター 工事関連)である。サブ店(二次店) 同社のスローガンがユニークで、 Staff(人材) ・公的資格の全員保持 ・自己啓発の実践 コンタクトセンター/ハードウェアサポート/ ソフトウェア/ネットワークサポート等 約店である神田通信機(東京都千代 の案件を「自社完結型」にしている点 Style(文化・風土) ・ 「KANDA WAY」の実践 ・7S強化 ・ルール遵守 には図表3のように3つの大きな「ト ータルソリューション」がある。この 長、下宮憲夫システムプロデュースセ Skills(スキル) ・問題解決手法の実践 ・提案力/コンサル力 の向上 同社のイメージを書いてきたが、 持拡大によって売上の安定および高 た「ストックビジネス」である。 ・ 「K-Value」の強化 がユニークである。 料・保守工事(①と②の保守と保守 それを持たない経営形態で、すべて Shared value (ビジョン・共通価値観) ころがけ」の拠りどころにしている点 また、当然ながら、通信システム 小笹嘉治取締役情報通信事業本部 ・社内システムの戦略 システム化 ・統括支店の統括効果 「K-Value(神田通信機の価値)」 (図 同社は、全国に本社のほかに13 同社では、保守料・保守工事の維 ・顧客対応品質向上戦略 ・パッケージ戦略 (SaaS/ASP) から社員全員参加で毎年作っている て通信系ディーラーの経営戦略につ さて、今回は日立製作所の大型特 90 に対応していただいた。 Systems (システム・運用の仕組み) Strategy(戦略) のである。しかし同社では、4年前 チベーションアップを支えており、 「こ 「PBX終焉後の経営戦略」と題し ・人事制度改定 ・技術営業力強化 ①ネットワークソリューション ③ソフトウェアソリューション VoIP/IPインターホン/テレビ会議 /CTI/セキュリティ/ホテル/調 光/病院/情報通信設備構築支援 サービス等 見える会計/冴える人事/ Ryosin Heatful System/大 学教務システム ①のなかの「調光」をピックアップし 出典:神田通信機会社案内 て解説する。 コンタクトセンターは、自社開発ソ この 駄 洒 落 のような スローガン フトの顧客向けに、ヘルプデスクサ また、最近では、顧客からコンタク ら 業務代行 という形態で受付業務 図表1から分かるように、通信シス は、 「お客様を愛して、お客様から ービスを提供する部門として5年前に トセンターに商談が入り、営業部門 を委嘱されたりしていますが、今後 テム開発が5割近くを占めるが、注 愛されて神田通信機が成長してき スタートしたものだ。現在は8名で運 に引き継いで受注に成功するといっ はインバウンドだけではなくアウトバ 目されるのは「保守料+保守工事」が た」が、その源泉は、お客様に喜ば 用 されており、自社 が 販 売した 通 た案件も生まれているという。 ウンドも行えるコンタクトセンターとし 合わせて38.3%と大きな比率を占め れる「情報・通信ソリューション」を 信・ネットワークからコンピューターシ この蓄積されたノウハウを外販す て積極的に顧客獲得を目指したいと ている点である。 技術に裏付けられた「品質」とともに ステムに至る、さまざまなオフィス環 ることで、新規事業としてのプロフィ 思っています」 (下宮センター長) と 通信システムと情報システムの売 お届けする「神田精神(スピリッツ)」 境に対する問い合わせに「24時間 ット化を狙っている。 「現在は、当社 いう。 上比率の推移は、8:2から7:3、さら にあるということを掲げているのだ。 365日緊急障害受付体制」を敷くまで の通信機器やコンピューターシステム 次に「調光」― 。多くの通信系 に6:4と次第に通信システム関連が さらに 筆 者 が目を 留 め た の は 、 になっている。 を購入していただいているお客様か ディーラーにとって調光という用語は テレコミュニケーション_February 2011 91 講座 図表4 Lecture 市場環境の捉え方 分類 要因内容 ・新会社法、新公益法人法、IFRS(国際会計基準)等の制度改革による需要 ・セキュリティ、プライバシー保護等によるICT活用の増大 ・景気不安定によるさらなる効率化、省力化への要求の拡大 外的要因 (フォローの風) ・CO2削減、環境ビジネスへの拡大 ・企業のFMC化および多機能モバイル端末の進展による情報通信融合のさ らなる進展 ・情報と通信の統合した技術力を保有 ・官公庁を中心とした3000有余の顧客基盤力 内的要因(強み) ・コンタクトセンターを中心としたサポートサービスの充実 ・全国拠点展開への対応力の確保 出典:神田通信機会社説明会資料(2010.6.3) 図表5 神田通信機の強み 項目 内容 システム例 企画、提案、コンサル営業推進により大規 ①技術力 (ICTソリューショ 模ネットワーク構築およびICTトータルソリ ンの受注拡大) ューションを提供 ②開発力 (自社ブランド 開発による市場 拡大) 得意分野に特化してきたノウハウで差別化 および高付加価値営業を推進 ネットワーク構築/CTIソリュー ション/IPインターホン/FMC 見える会計(独立行政法人、公 益法人向け)/冴える人事(官 公庁、一般企業向け)/大学教 務システム (国公立大、私立大、 国立高専向けほか) ③協業力 (アライアンス による新規事業 の開拓) 長年培ってきた技術によるアライアンス営 業の推進により、新分野への参入および 新規顧客の獲得 ホテルソリューション/テレビ 会議/遠隔監視システム/調 光ソリューション/セキュリティ ソリューション ④サービス力 (顧客満足度の 向上と顧客基盤 力の維持拡大) コンタクトセンターの充実を図り、ワンスト ップサービスによる安心・信頼の確保 2 4 時 間 3 6 5日対 応 / I S O 27000、14000による品質向 上/セキュリティの確保/ASP、 クラウド (SaaS) への対応 出典:神田通信機会社説明会資料(2010.6.3) 術+SE」項目に関連するが、大きな を定めたというわけだ。 案件への対応で、音声+データ+無 ジにも注力していく。 話は変わるが、もう1つ注目してお 線の技術が必要な場合、それらの人 マルス (MALS:ローマ神話の神= きたいことがある。人員構成だ。営 材をシステムプロデュースセンター内 戦う精神) と名付けた日常業務管理 業マン1人に技術者が2人(1.9人) な で臨機応変に集めて「プロジェクトチ 手法も成果を上げている。 のである。 ーム」を構成するようにしている。つ まり、昨今必要になってきた「トリプ スタマイズしたもので、日報・週報・月 業界のなかで公的資格の取得にも ルSE」を会社の組織で対応している 報の入力や顧客情報などを全国か 積極的に取り組み、技術力を向上さ のである。このことも、大きな施策の ら入力し「情報共有」を図り、それを せ「技術の神田」を前面に受注確保 1つと言ってよい。 ベースにミーティングを行うので、成 こうしたプロジェクトチームで対応 受注する時代」 とも言われているが、 して受注したシステム事例は、枚挙 営業マンから見れば心強い体制で にいとまがないほどである。 ある。 各論:拡販施策等 では、具体的な話をしよう。 (1)市場環境の認識 まず、同社は市場環境を図表4の ように捉えている。 (2) 自社の強み 同社は「自社の強み」を、図表5の (4) システム構成力と事例 プロジェクトチームが手がけた事 果に繋がる速度が速くなるのだ。 (7) モチベーションアップ 社員の「モチベーションアップ」に も力を入れている。 全国規模では、営業マン研修や技 全 技術 316人 142人 SE 43人 技術者/営業 1.9人 ■技術資格認定者 (2010.4.20現在) 経済産業省情報処理技術者・IPTPC:172人 経済産業省電気工事士:5人 総務省電気通信工事担任者:197人 総務省消防設備士:16人 国土交通省監理技術者:15人 日本情報処理開発協会認証ISMS審査員補:3人 誌面の都合で割愛させていただく。 は期に1回「個人目標確認の研修会」 一度、同社のホームページを見るこ を実施する。また、階層別(若手、係 とをお奨めする。これら数多くの実 長クラス、課長クラス)の勉強会も実 ②「ICT(愛して)宣言」や「KANDA 績は、トリプルSE体制で構築したも 施し、マナーから営業テクニックまで WAY」などのスローガンを掲げて のである。 幅広く研修し「プロ意識」を身に付け 社員の意識高揚や経営参加意識 させながら親睦を図るようにしてい 向上を図っている 大口案件では、プレSE(受注まで) 体制を整備している ように表現している。全体としては とアフター(受注後)が上手く機能し る。講師は社内で用意し、単なる ③3つの大きなソリューションを設定 し、経営の柱に据えて機能させて てシステム構築を行っている。前述 「行事のための行事」ではなく、ペー 外光の明るさを測定し、室内の照明 ・ON/OFFだけの制御から華やか 技術力 を十分に生かしたトータル の「営業マン1人に技術者2人」の技 パーテストや時にOJTまでやり、実 ソリューションの提供が可能」として 術尊重体制がそれを支えている。 効を上げている。 ・すべての調光制御をPC上で一括 営業 98人 術者研修を年1回実施、支店ごとで 「長年培ってきた 情報・通信統合の 小笹取締役は、 「この業界は国内 管理 33人 例で紹介したいものは数多くあるが、 の活用等で消費エネルギーを削減 な演出を簡単に実現 人員構成と技術資格認定者数 ソフトブレーン社の管理ソフトをカ イノベーションの激しい情報通信 を目指している。これからは「SEが 図表6 (6) 日常管理手法 馴染みが薄いと思うが、センサーで を自動調整するシステムのことだ。 いるが、それは4つの強みから成り (5)新商材・新分野への挑戦 筆者の所感 いる ④新分野への進出も、社内にベース のあるものの延長で考え着実な成 ではパナソニックの独壇場で、その 管理、管理・運営コストを圧縮 牙城は堅牢ですが、海外メーカーと この特長が示すのは、調光ソリュ 多くの通信系ディーラーは、自社の システムのように、他社との協業(JV 老舗にありがちな「伝統偏重」 もな ⑤日常管理手法も、社内システムの 協業することで、参入への道が開け ーションの世界は通信・電気・コンピ 強みも弱みも的確に把握していない 形式)での対応と、コンタクトセンター く、市場動向を的確に把握し、社長 有効活用で「情報共有」や「有効な ました。通信の隣の市場ですから、 ューターの3つの技術で成り立ってい ように思われる。強みも弱みもきちん のように、自社内でパイを広げる形の 以下幹部の旗振りと社員の意識が上 ミーティング実施」に繋げている 社内人材の活用ができる点が魅力で るという点だ。 と自己判断ができていれば拡販施策 ものがある。いずれも、社内に知識 手く調和して、全社一丸の成長戦略 ⑥「社員は家族」 と謳っているように、 も的確に打つことができるので、自 や技術や資格を持った人材を育成 で着実に新しい経営を実践している 愛情を持って接し、モチベーショ 己分析もきちんとやりたいものだ。 し、それをベースにして体制を整え 印象であった。ポイントをもう一度整 ンのアップにも腐心している チャレンジしてきたのだ。思いつきや 理しておこう。 堅実な実績を上げる会社は、堅実 ネット検索などで、未知の分野に進 ①営業1人に技術者2人の人員構成 す」と調光をソリューションとして取 り扱うようになった背景を話す。 同社の調光ソリューションの特長 同社にとって、LANケーブルの設 計/工事はいうまでもなくお手のもの だし、コンピューターのノウハウもあ を以下に整理した。 る。さらには電気工事士の資格を有 ・TCP/IPと2線式の少ない配線で、 する社員も抱えている。 配管量と配線コストがECO ・最適な調光で電力をECO、太陽光 92 分野の延長線上にある領域」 と狙い テレコミュニケーション_February 2011 調光分野への進出は、人材の有 効活用が図れるという点からも 「得意 立っていると強調している。 (3)人員構成 人員構成については、総論で述べ たが、その中身は図表6のようになっ ている。 図表5の①「技術力」 と図表6の「技 新商材・新分野への進出は、調光 出する手法とは対極にあるものだ。 や臨機応変のプロジェクトチーム 同社はさらに、ナースコールやビジ 構成などに見るように、技術をベ ュアルコミュニケーションやサイネー ースに受注から施工までをこなす 果を上げている な施策を実践していることを感じさ せられた取材であった。 (ふじしま・しんいちろう、通信コン サルタント) テレコミュニケーション_February 2011 93
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