建物排水用硬質塩化ビニル管の 高圧洗浄に関する一考察

建物排水用硬質塩化ビニル管の
高圧洗浄に関する一考察
平成19年3月
塩化ビニル管・継手協会
はじめに
硬質塩化ビニル管は、初めて昭和11年(1936)にドイツで生産され、日本では昭和26年(1951)
に生産・販売されてから50年以上経過しています。
当初、その優れた耐化学薬品性・電気絶縁性及び機械的強さから工業的用途に使用され、需要
が増加したことから昭和29年に、日本工業規格:硬質塩化ビニル管(JIS K 6741)及び塩化ビニ
ル電線管(JIS C 8430)が制定されました。
当初は、化学工場の配管、輸送管に使用され呼び径150(6in)以下で圧力用途から始まり、昭和
31年に水道用途がJIS K 6742に分離され、使用する継手の規格及び耐熱性硬質塩化ビニル管が追
加される等周辺のシステム配管ができるようになり、一層選択幅が拡がってきました。
建築分野では、日本の高度成長期のマンション建設にともない、その耐薬品性、自己消火性
(難燃性*)等からその排水管としても広く用いられるようになってきました。
一方、社会生活の向上からディスポーザー使用、生活様式の変化による排水管への生活汚物負
荷の増加等により、メンテナンスとしての管路の洗浄作業の方法も高圧洗浄等が主流となりその
回数が増加してくるものと考えられます。
今回、排水設備分野で使用されている硬質塩化ビニル管に関し、株式会社建物保全センターと
共同で、ラップ洗浄方式での高圧洗浄が硬質塩化ビニル排水管に与える影響についてのモデル実
験を行い、その結果と同センターの知見を加味し、洗浄作業の留意点、管路設計に関する提案を
まとめました。
更に団地で14年、マンションで25年間、戸建て住宅で45年使用した硬質塩化ビニル排水管の
機械的特性(JIS K 6741に準じた試験項目)の測定を行い、硬質塩化ビニル排水管が経年劣化し
難いことについて把握し、まとめました。
この資料が少しでも排水設備分野に携わる方々の参考となれば幸いです。
平成19年3月
*昭和54年10月2日付 消防危50号 消防庁危険物規制課長通知「消防法施行令の一部改正に伴
う運用について」において、酸素指数26以上の合成樹脂を難燃性を有するものと判断している。
一般に、硬質塩化ビニル管は、無可塑で、その測定値は、42以上(VP50の測定値では50.5:
測定法JIS K 7201)であり、難燃性を有するものと判断している。
目 次
1.建築設備における排水管路の洗浄の必要性と洗浄方法の実態
1
1.1 背景
1
1.2 建築設備における排水管路の洗浄方法の実態
2
1.3 ラップ洗浄方法の検討目的
2
2.洗浄の実験モデルと実験結果
3
2.1 実験方法について
3
2.2 測定方法
3
2.3 実験結果について
6
2.4 実験結果のまとめ
9
3.排水用硬質塩化ビニル管を使用する利点と高圧洗浄時の留意点
9
3.1 漏水の可能性の検証
9
3.2 高圧洗浄を行う上での留意点
11
4.既存排水管路の高圧洗浄及び管路設計に関する一考察
11
4.1 既存排水管路の高圧洗浄について
11
4.2 管路設計
12
〈参考資料〉
建築設備に長期に使用された排水管の物性評価
13
1. 引張降伏強さについて
13
2. 耐薬品性について
13
3. ビカット軟化温度について
14
4. 曲げ弾性率について
14
5. 分子量分布について
15
6. 硬質塩化ビニル管の長期寿命について
17
1.建築設備における排水管路の洗浄の必要性と洗浄方法の実態
1.1 背景
(1) 建築設備とは
建物は住居・事務所・店舗・その他いずれの用途であれ、居住環境や作業環境を確保する
ために、社会的・環境的並びに経済的な機能を備えており、要求される機能は、時代と共に
変化しており、その時代のニーズを取り入れた形で作られている。
これらの機能は数多くの部材、並びにシステムで構成されており、色々な組み合わせから
なり、これらの機能を十分に発揮せる為に、役割に応じた建築設備が設置されており、主な
建築設備として次のようなものがある。
○ 電気設備・・・受変電・幹線動力・電灯・コンセント・電話・通信・TV・自動火災報知・
避雷針等
○ 給排水設備・・給水・給湯・排水・衛生器具・ガス・消火・浄化槽 等
○ 冷暖房設備・・冷房・暖房・換気・排煙 等
○ 搬送設備・・・エレベータ・エスカレータ・ダムウエータ・立駐機 等
建築設備はいかに保守管理を徹底したとしても、経年による物理的劣化は避けられず、建
築に比べ耐用年数は短く、一般的に15∼20年程度と言われており、建築設備は15年を過ぎ
た頃から、物理的劣化が、それより以前に社会的劣化が顕在化してくる。
また、建築設備改修が、ややもすると建築に関する工事(外壁・鉄部塗装・防水等)に比
重が置かれ、建築設備関係の工事(排水設備)については軽視されている場合が、かなり見
受けられる。
(2) 排水管路のメンテナンス
排水管路のメンテナンスは、長期の大規模修繕を行う以前の問題として、社会生活の向上
からディスポーザー使用、生活様式の変化による排水管への生活汚物負荷の増加等により、
メンテナンスとしての管路の洗浄作業の回数が増加してくるものと考えられる。
従って、現在、主として実施されている高圧洗浄が、排水管路として使用されている硬質
塩化ビニル管路に与える影響を把握し、排水管路の設計、更新時の管路のチェック方法の注
意点について提案することを目的とする。
建築設備で、一般的に劣化を分けると「社会的劣化」と「物理的劣化」に分けられる。
・「社会的な劣化」とは、建築設備に対して要求される機能は、社会環境の変化に伴って、
時代とともに高度化、並びに多様化する。竣工時には満たされていた、建物機能が経年に
伴って、時代の要求にそぐわなくなること。
-1-
1.2 建築設備における排水管路の洗浄方法の実態
マンションの排水管洗浄は、管理組合が管理する共用部排水立て管、排水横引管、排水横
主管洗浄を行う作業と、下記理由から専有部排水横枝管も洗浄するのが一般的である。 ① 屋上に排水立て管を洗浄するための掃除口が設備されていない。
② 屋上から洗浄できるような立て管配管形態になっていない。
などが挙げられる。その結果、専用部排水横枝管から立て管洗浄を行わざるを得ないという
状況であり、大部分のマンションが専有部の洗浄と同時に排水立て管の洗浄を行うラップ洗
浄方式を採用している。
・ 配管洗浄を行う周期は、ほとんどが1年に1度のペースで実施している。
・ 専有部排水管を洗浄するためのホースとしてステンレスワイヤーホースが使用されて
いる。これは、ホースの保護、補強のためでステンレスワイヤーによりホース全体が
覆われている。
また、
このホースが使用される理由は、
配管の曲がりを比較的簡単に通過するからである。
・ 専有部排水管の管材はVP管、継手はショートエルボ(DL)を採用している。
最近では、台所配管に耐熱HT管が採用されているケースがあり、給湯用のエルボ等
が使用されているマンションもある。
・ 専有部配管の曲がりの数は4∼7ヶ所あり、ステンレスワイヤーホースはこれらの曲
がりを高圧水を噴射しながら通過し、1F∼2F下階の立て管まで洗浄を行う。
その際、ステンレスワイヤーが排水管の継手部や排
水立て管合流部を研磨し、金属製ライニング管であっ
ても、研磨によるライニング材の摩耗により錆が発生
し、漏水が生じる等大きな問題となっている。
築18年経過品 今回、錆等による腐食のないプラスチック単体からなる硬質塩化ビニル管及び継手の高圧
洗浄について検討した。
1.3 ラップ洗浄方法の検討目的
ラップ洗浄方式におけるステンレスワイヤーホースが、排水横枝管継手部及び排水立て管
継手部に与える影響を調査し、排水管に使用された硬質塩化ビニル管の長期物性とあわせ、
適切な洗浄方法と更新方法及びチェック方法について考察する。
-2-
2.洗浄の実験モデルと実験結果
2.1 実験方法について
実験タワーにモデル配管を組み立て、実際の高圧洗浄車を使用し、配管の摩耗状況を測定す
る。ステンレスワイヤーホース口径は、建築設備の高圧洗浄として一般的に使用されている
口径とし、また、洗浄水圧は、ポンプの吐出水量と継手の数を考慮して下記のように設定した。
(1) 標準的な水廻り配管を選定し、モデル配管を組み立てる。(図-1)
(2) 専有部排水横枝管継手には、透明ショートエルボ(DL50)とロングエルボ(LL50)
を用意し、立て管合流部はLT継手を使用した。
(3) ステンレスワイヤーホース口径は4.5mm(外径8mm)15mとした。
(4) 洗浄圧力は、高圧洗浄機で15Mpa{150kg/cm2}をかけることとし、圧力損失を考慮し、
高圧ホース(内径9mm)を120m延長する。
(5) 洗浄ホースの挿入、引き抜きは実際の洗浄作業を再現し行う。
・ホー ス 挿 入 時
:高圧水を噴射しながら立て管2層階まで挿入する。
挿入速度は、20cm/sec程度とする。
・ホース引き抜き時
:高圧水を噴射せず引き抜く。引き抜けない場合は、腕力で引き
抜けるようになるまで断続的に高圧水を噴射する。
引き抜き速度は、20cm/sec程度とする。
(6) 洗浄ホースは出来るだけ新しいものを使用する。
(7) 試験回数は、年1回洗浄するものとして35年相当分の35回とした。 2.2 測定方法
(1) 洗浄ホース挿入時、引き上げ時の荷重測定調査
各エルボ通過時に洗浄ホースに掛かる荷重をバ
ネ量りで計測。挿入時、引き上げ時10回毎に計
測する。
(写真-1)
写真-1 バネ量り
(2) 残存管厚調査
高圧洗浄回数5回ごとに継手部のコーナー管厚
をキャリパーゲージで測定する。(写真-2)
写真-2 継手部のコーナー管厚の測定
-3-
第4エルボ
第1エルボ
平面図
第2エルボ
第3エルボ
L/T
立面図
第1エルボ
実験場所:東京都中野区 (株)建物保全センター内 実験タワー 図-1 実験モデル配管模式図
-4-
写真-2 使用した高圧洗浄車
写真-3 高圧洗浄機ゲージ
シンショー製 車載型高圧洗浄機
SJD−2153
高圧洗浄機で150MPa
{150kg/cm2 }
の圧力で実験
写真-4 実験モデル写真
写真-5 ワイヤー挿入
写真-6 高圧洗浄ノズルの直管部洗浄状況
写真-7 高圧洗浄ワイヤーの曲り部通過
(DL50)
-5-
写真-8 高圧洗浄ワイヤーの曲り部通過
写真-9 高圧洗浄ワイヤーの立て管部通過
(LL50)
(LT 100×50)
2.3 実験結果について
3.1の実験条件で行った結果は、下記の通りである。
(1) 荷重測定結果について
表-1 洗浄ホース挿入時、各エルボ通過後の荷重測定結果
単位:kgf
1F下通過時
2F下通過時
0
0.8
1 0.3
0.25
0.4
0 0.4
0.3
0.2
0.1
0.25
0.5
0.2
0.2
0.4
0.6
第1
第2
第3
第4
2
1.2
0.75
0.7
10回目
0.75
0.5
0.5
20回目
1
0.6
30回目
0.9
0.6
1 回目
立て管合流時
表-2 洗浄ホース引き上げ時、各エルボ通過後の荷重を測定
単位:kgf
立て管合流時
1F下通過時
2F下通過時
第4
第3
第2
第1
1 回目
7.8
5
1.8
1.8
0.9
0.5
0.4
10回目
9.8
5.1
1.2
1.2
1
0.8
0.5
20回目
7.75
3.7
1.4
1.4
1.1
0.8
0.4
30回目
8.8
3.2
2.2
2.2
1
0.8
0.7
-6-
(2) 曲がりとしてDLを使用した場合の測定結果について mm
第4エルボ
12.0
コ
ー
ナ
ー
部
管
厚
第3エルボ
10.0
8.0
第2エルボ
6.0
4.0
第1エルボ
2.0
立管継手
5回目
15回目
10回目
25回目
20回目
35回目
30回目
洗浄回数
図-2 高圧洗浄回数と残存管厚
1.2
1.2
1.0
1.0
0.8
管圧保持比
管圧保持比
0.8
観測値
理論値
下限値
上限値
0.6
0.4
0.4
0.2
0.2
0
0
10
20
30
0
0
40
観測値
理論値
下限値
上限値
0.6
10
洗浄回数
20
30
40
洗浄回数
Y=0.866×0.982X 50回推定値:0.36
Y=0.912×0.988X 50回推定:0.50
図2-1 第1エルボ(DL)の管厚保持比
図2-2 第2エルボ(DL)の管厚保持比
1.2
1.2
1.0
1.0
0.8
管圧保持比
管圧保持比
0.8
観測値
理論値
下限値
上限値
0.6
0.4
0.4
0.2
0.2
0
0
10
20
30
0
0
40
観測値
理論値
下限値
上限値
0.6
10
20
30
40
洗浄回数
洗浄回数
Y=0.949×0.992X 50回推定:0.64
Y=0.960×0.992X 50回推定:0.64
図2-3 第3エルボ(DL)の管厚保持比
図2-4 第4エルボ(DL)の管厚保持比
-7-
1.2
1.0
管圧保持比
0.8
観測値
理論値
下限値
上限値
0.6
0.4
0.2
0
0
10
20
30
40
洗浄回数
Y=0.985×0.993X 50回推定:0.69
図2-5 立て管継手(LT)の管厚保持比
(3) 曲がりとしてLLを使用した場合の測定結果について
20回の洗浄作業を行い、測定した結果は「≒0」でほとんど摩耗は測定精度以下であった。
写真-10 DL:35回洗浄後の状態
写真-11 LL:20回洗浄後の状態
写真-12 LT:35回洗浄後の状態
-8-
2.4 実験結果のまとめ
ラップ洗浄方式で排水立て管及び排水横枝管の排水管洗浄を行った時、直管・継手の摩耗
状況を確認するために、排水立て管洗浄時の噴射ノズル及びホースの上下(6m∼9m)へ
の繰り返し移動に要する荷重を測定した。
その結果、ホース引き上げ時に最大荷重10Kgという力が洗浄ホースに掛かっていること
が測定できた。この荷重が排水立て管合流継手(LT継手)や横枝管継手(DL継手)の内
角部を研磨し、洗浄回数とともにホースの当たる部分が削られ残存管厚が少なくことが確認
できた。この実験では、残存管厚は指数関数で近似できた。
また、横枝管に90°大曲エルボ(LL)を使用した場合にはステンレスホースによる研磨
の影響はなかった。
3.排水用硬質塩化ビニル管を使用する利点と高圧洗浄時の留意点
高圧洗浄の現状として、継手部から漏水事故を引き起こしたり、排水管改修工事を行うなど
の対策を取らざるを得なくなった建物が顕著である。
主な原因として、金属管、プラスチック管、ライニング管に関わらず、排水管洗浄時のホー
スによって継手が摩耗し、肉厚が局所的に削られることにあると考えられる。
一方、排水用硬質塩化ビニル管及び継手をマンションの排水設備に使用するケースが年々多
くなってきている。理由としては下記のことが挙げられる。
① 自己消火性を有し難燃性であること。
② 工事が容易に行えること
③ 配管スペースがコンパクトに収まること。
④ 工事コストが安価であること。
⑤ 腐食が起こらず高耐久性材料であること(参考資料)。
しかしながら、硬質塩化ビニル管及び継手の高圧洗浄の本実験結果から、ショートエルボ
(DL)では洗浄回数を重ねるごとにホースの外径Rに近い半円形に削られている。この部分
は、成形上、継手管厚に比較すると大幅な厚肉となっており、最も削られる第1エルボ(DL)
の35回洗浄後(35年相当)の残存管厚でも5.7mmでありVP50(管厚=4.5mm)の管厚以
上ある。
また、硬質塩化ビニル管の埋設管の寿命は50年以上と推定していることから、実験の解析指
数曲線による推定を50回(50年相当)で計算すると4.1mm(管厚保持率:0.36)となり、削
られた形状がR形状であることから標準配管作業が実施されていた場合、漏水の可能性がある
管厚とは考えられない結果となっている。
3.1 漏水の可能性の検証
この可能性を検証するため、実験済みのDL50の削られたサンプルのモデルを作り、耐
圧性能を評価した。
-9-
(1) 耐圧性能評価に使用した継手
洗浄実験に使用した継手
同モデル
高圧洗浄実験後のDL50(No.1)
同形状に切削加工したモデル
写真-13 水圧試験モデル
継手コーナー部の最小管厚(写真-2の部分)を、実験値から50回(50年相当)洗浄した
ときの推定残存管厚4.1mmに対し、2mmに設定し切削した(実測平均2.55mm)。
(2) 試験方法
JIS K 6739:2004により、高圧洗浄試験に使用した継手と同形状の継手の内部に常温の水
で、0.35MPaの圧力を加えそのまま1分間放置した後,漏れ,その他の欠点の有無を目視に
よって調べる。
参考としてその後,圧力を加え漏れその他の欠点の有無を目視によって調べる。 試験数は、n=3とした。
写真-14 モデル継手の水圧試験
(3) 試験結果
表-3 耐水圧試験結果
試験条件
試験番号
1
2
3
0.35MPa水圧で1分保持
(JIS K 6739)
異常なし
異常なし
異常なし
3.00MPaで5分間保持
(参考試験)
異常なし
異常なし
異常なし
(4) 結論
硬質塩化ビニル製継手(DL50)は、2.55mmの管厚であっても十分な強度を有してお
り、管厚減少による漏水の可能性はないものと考えられる。
-10-
3.2 高圧洗浄を行う上での留意点
高圧洗浄を行う際に洗浄業者に依頼し、現場で下記の確認後、排水管洗浄計画の作成を依
頼する必要がある。
① 配管形態
② 立て管・横枝管に使われている管材
③ 継手の種類等
また、できるだけステンレスワイヤーホースの使用を避け、ワイヤー表面がゴム、プラスチ
ックで被覆した高圧洗浄用ワイヤーを使用すること、更に、屋上の通気ベンドキャップが取
り外せる場合には、立て管をラップ洗浄方式ではなく単独で前方噴射ノズルを使用して洗浄
することが望ましい。
現在までの(株)建物保全センターの経験によると、高圧洗浄に使用するステンレス洗浄ホ
ースとゴム製洗浄ホースでの比較は表−3に示すような結果である。
表-3 ステンレス洗浄ホースとゴム、プラスチックで被覆した洗浄ホースの比較
【メリット】
ステンレスメッシュ製のため作業性
がよく、
作業技術者の技量を問わず
管内清掃が容易にできる。
【デメリット】
材質上、
ささくれ立ったステンレス
ホースが、
排水管接続部
(曲がり部)
での摩擦により、
曲がり部コーナー
部を削る現象が起こる。
【メリット】
ほぼ同サイズのステンレスノズルと
比較して吐出水量、
推進力共に優れ、
材質がゴム又はプラスチック被覆の
ため、
排水管を傷つけることなく排
水管の付着物のみを除去できる。
【デメリット】
・ゴム製のため、
配管内での摩擦抵抗
が大きく、
管内清掃に時間を要する。
・排水管横枝管の継手が4∼5ヶ所
以上の場合には、
作業技術者の技術
力、
経験等が必要である。
4.既存排水管路の高圧洗浄及び管路設計に関する一考察
4.1 既存排水管路の高圧洗浄について
排水管のメンテナンス=排水管洗浄と捉えがちであるが、排水管内の汚れの特性により洗
浄方法、洗浄周期が異なるので、メンテナンスについて再考することが重要である。
-11-
また、ディスポーザー専用配管のメンテナンスは、洗浄が容易に行える掃除口を適切に設
けなければ、適切な洗浄が行えず、溢水事故を引き起こすことなどである。
近年のメンテナンスは、排水用テレビカメラを用いて管内の汚れの特性を随時確認するこ
とができ、また管理台帳にトラブルの記録を整理することによって排水システムの弱点を知
り、適切なメンテナンスを行うことができる方向にある。
4.2 管路設計
排水管に関する設計は、排水流量、管径、勾配、通気の流れ、通気量によって決定される。
しかし、最近の排水システムでは、特殊通気継手の開発により排水立て管の管路設計は一
般的になってきているが、排水横枝管や屋外横主管については、ビニルマスや継手としてのシ
ョートエルボ(DL)やロングエルボ(LL)の使い方、洗浄泡の影響による排水性能低下、
メンテナンス用掃除口の位置など未検討な分野が残っており、今後の課題となっている。
資料
洗浄痕(30回目)
洗 浄 中
写真-15 集合管合流部洗浄痕
-12-
<参考資料>
建築設備に長期に使用された排水管の物性評価
建築設備分野の排水管として、マンション(VP)、戸建て住宅(VU)に使用された14年か
ら45年経過品の物性について測定し、新管の規格と照合した。(詳細データーを表に示した。)
1. 引張降伏強さについて
経過年数と引張降伏強さ
引張破断強度(MPa)
580
570
560
550
540
530
520
510
500
490
480
470
460
450
VP管
VU管
新管の規格値:
47MPa(at20℃)
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
使用経過年数(年)
図参1 14年から45年経過品の引張強さ
引張強度は、新管の規格値を満足しており、45年経過しても問題ない水準にある。
2.
耐薬品性について 使用経過年数と耐薬品性(蒸留水)
0.25
新管の規格:
0.20以下
0.20
重量変化率(mg/cm2)
重量変化率(mg/cm2)
0.25
使用経過年数と耐薬品性(10%塩化ナトリウム水溶液)
0.15
水道:給水管
0.10
排水管:VP管
0.05
排水管:VU管
0.00
-0.05
新管の規格:
0.20以下
0.20
0.15
水道:給水管
0.10
排水管:VP管
0.05
排水管:VU管
0.00
-0.05
-0.10
-0.10
0
10
20
30
40
50
60
0
10
使用経過年数(年)
40
50
60
0.25
使用経過年数と耐薬品性(40%水酸化ナトリウム水溶液)
0.25
新管の規格:
0.20以下
新管の規格:
0.20以下
0.20
重量変化率(mg/cm2)
0.20
重量変化率(mg/cm2)
30
使用経過年数(年)
使用経過年数と耐薬品性(30%硫酸水溶液)
0.15
水道:給水管
0.10
排水管:VP管
排水管:VU管
SRA
0.05
0.00
-0.05
-0.10
20
0
0.15
水道:給水管
0.10
排水管:VP管
排水管:VU管
SRA
0.05
0.00
-0.05
-0.10
10
20
30
40
50
0
60
使用経過年数(年)
10
20
30
40
使用経過年数(年)
-13-
50
60
使用経過年数と耐薬品性(40%硝酸水溶液)
重量変化率(mg/cm2)
0.25
新管の規格:
0.20以下
0.20
0.15
水道:給水管
0.10
排水管:VP管
0.05
排水管:VU管
SRA
0.00
-0.05
-0.10
0
10
20
30
40
50
60
使用経過年数(年)
図参2 14年から45年経過品の耐薬品性
耐薬品性は、新管の規格値を満足しており、45年経過しても問題ない水準にある。
3. ビカット軟化温度について
使用経過年数とビカット軟化温度
ビカット軟化温度(℃)
90.0
水道:給水管
排水管:VP管
排水管:VU管
SRA
85.0
80.0
75.0
新管の規格値:
76℃以上
70.0
0
10
20
30
40
50
60
使用経過年数(年)
図参3 14年から45年経過品のビカット軟化点温度
ビカット軟化点温度は、新管の規格値を満足しており、45年経過しても問題ない
水準にあり脆化等は見られない。 4. 曲げ弾性率について
使用経過年数と曲げ弾性率
4,000
水道関係
排水関係:VP
曲げ弾性率(MPa)
3,500
排水関係:VU
3,000
2,500
下水道用の設計値
2,000
1,500
1,000
500
0
0
10
20
30
40
50
60
使用経過年数(年)
図参4 14年から45年経過品の曲げ弾性率
曲げ弾性率は、下水道用の設計に用いられている値とほぼ同等である。
-14-
5.長期使用品の分子量分布
JIS K 6900(プラスチック用語)での劣化定義は「特に有害な変化を伴うプラスチックの化
学構造の変化」となっており、この変化としては、その分子量分布を見た場合、高分子鎖が切
れ、短くなるので、低分子量側が新管に比べ多いかどうかで判断する。
((財)化学技術戦略推進機構測定)
表参1 測定された分子量分布 Mn: 数平均分子量
Mw:重量平均分子量
Mw/Mn:分散度
管表面
7.56×10
5
1.33×10
1.76
中心部
7.39×104
1.29×105
1.74
管内面
7.45×104
1.28×105
1.72
管表面
7.13×10
5
1.28×10
1.79
中心部
7.64×104
1.31×105
1.71
管内面
7.24×104
1.29×105
1.86
管表面
7.11×10
5
1.32×10
1.78
中心部
7.45×104
1.37×105
1.84
管内面
7.25×104
1.31×105
1.81
25年経過品 VP100
管表面
6.64×10
5
1.20×10
1.80
雨水排水管
中心部
7.65×104
1.30×105
1.70
屋外遮蔽部
管内面
6.93×104
1.24×105
1.78
試 科
新 管
45年経過品 VU40
個人宅の排水管
43年経過品 VU50
工場排水管
4
4
4
4
注 : Mw/Mn:分散度が大きいほど分子量分布が広いことを、またMw/Mn=1は全ての分子の
分子量が等しいことを意味する。
管表面
管中心部
管内面
図参5 試料の取り方
測定結果の新管の分子量分布測定チャートと代表として45年経過品(VU40)の測定結果を
図参6-1から図参7-3に示した。
-15-
図参6-1 新管の管表面の分子量分布図
図参7-1 45年経過品 VU40の管表面の
分子量分布図
図参6-2 新管の管中心部の分子量分布図
図参7-2 45年経過品 VU40の管中心部の
分子量分布図 図参6-3 新管の管内面の分子量分布図
図参7-3 45年経過品 VU40の管中心部の
分子量分布図 -16-
6. 硬質塩化ビニル管の長期寿命について
評価結果から排水管で45年経過した硬質塩化ビニル管の基本物性には新管との有意差がなく、
また、分子量分布から見ても大きな変動がないことから考えると標準施工を行った場合、50年
以上の耐用年数を持つことが確認できた。
-17-
表 排水設備分野に使用された試験結果一覧表
性能項目
単位
-18-
引張降伏強度
JSWAS K-1
20°
換算値
MPa
引張伸び率
(参考試験)
%
ビカット軟化温度
76℃以上
℃
耐薬品性試験
質量変化度
±0.20mg/cm2以内
mg/cm2
偏平試験:
JIS K 6741
−
曲げ強さ
(参考試験)
MPa
曲げ弾性率
(参考試験)
N/mm2
n
試験方法
1
2
3
Ave.
1
2
3
Ave.
1
2
3
Ave.
蒸留水
塩化ナトリウム
硫酸
硝酸
水酸化ナトリウム
1/2D偏平
全偏平
1
2
3
Ave.
1
2
3
Ave.
マンション
14年経過品
排水設備
排水
VP 40
JSWAS K-1
52.8
52.8
53.6
53.1
160
155
170
160
83.6
83.5
84.1
83.8
0.10
0.04
0.02
0.06
-0.04
異常なし
異常なし
92.5
91.6
91.4
91.8
3,250
3,240
3,260
3,330
個人宅
20年経過
排水設備
排水
VU 50
JSWAS K-1
51.8
50.6
50.3
50.9
180
160
68
136
83.5
83.5
83.7
83.6
0.08
0.07
0.04
0.04
-0.02
異常なし
異常なし
115
114
115
115
3,570
3,614
3,687
3,621
某マンション
25年経過
排水設備
排水
VP 50
JSWAS K-1
54.4
52.6
51.9
53.0
138
140
160
146
84.9
84.9
−
84.9
0.07
0.06
0.04
0.04
-0.02
異常なし
異常なし
89
90
91
90
2,990
3,030
3,200
3,070
個人宅
28年経過
排水設備
排水
VU 75
JSWAS K-1
49.5
50.1
49.4
49.7
140
124
132
132
82.4
82.4
82.7
82.5
0.06
0.10
0.03
0.14
-0.02
異常なし
異常なし
105
104
104
104
3,345
3,171
3,273
3,266
個人宅
34年経過
排水設備
排水
AU 100
JSWAS K-1
52.1
51.9
51.7
51.9
124
132
112
123
83.3
83.1
83.4
83.3
0.10
0.07
0.06
0.06
-0.02
異常なし
異常なし
84.4
85.7
88.3
86.1
3,050
3,090
3,160
3,020
工場
43年経過
排水設備
排水
VU 50
JSWAS K-1
53.9
53.0
53.5
53.5
160
140
180
160
82.9
82.8
83.4
83.0
0.07
0.07
0.03
0.03
-0.02
異常なし
異常なし
87.1
87.9
88.9
88.0
3,240
3,250
3,240
3,280
個人宅
45年経過
排水設備
排水
VU 40
JSWAS K-1
工場
52年経過
給水設備
給水管
VP 25
JIS K 6741
52.9
50.6
51.1
51.5
70
135
92
99
85.0
84.8
52.8
54.0
54.8
53.9
128
152
112
131
83.4
83.3
84.9
0.08
0.07
0.04
0.08
-0.02
異常なし
異常なし
107
103
110
107
3,338
3,150
3,745
3,411
83.5
0.09
0.06
0.04
0.06
-0.04
異常なし
異常なし
85.5
87.8
89.1
87.5
3,240
3,220
3,220
3,230
備 考
JIS K 6741 は23℃で
45MPa以上 JSWAS K-1は20℃換算値 47MPa以上
−
−
−
−
−
下水;設計に用いる値
:2,942(20℃)