福祉商品と 本当に必要とする 消費者との 出会いを創造する マッチング

平成23年度(財)ヤマト福祉財団障がい者福祉助成事業
福祉商品と
本当に必要とする
消費者との
出会いを創造する
マッチング事業の
調査・研究
【報告書】
社会福祉法人光明会
平成 23 年度(財)ヤマト福祉財団障がい者福祉助成事業
福祉商品と本当に必要とする消費者との出会いを
創造するマッチング事業の調査・研究【報告書・目次】
はじめに【調査・研究の作業仮設】
………………………………………………………………………… 2
1 福祉施設における現状よく見られる思考【調査・研究の前提】
1−1 工賃の現状 ……………………………………………………………………………………… 3
1−2 障害者の労働能力による限界 ………………………………………………………………… 5
1−3 施設の生産能力による限界 …………………………………………………………………… 6
1−4 市場(消費者)ニーズへの適応力の限界
…………………………………………………… 7
2 今回の調査研究により提案する着眼点【研究のまとめ】
2−1 消費者フォーカス ……………………………………………………………………………… 8
2−2 商品フォーカス ………………………………………………………………………………… 9
2−3 流通フォーカス ………………………………………………………………………………… 9
2−4 消費者の前に出会うべき人がいる ………………………………………………………… 10
3 好事例紹介【取材・インタビュー調査のまとめ】
3−1【地域とつながる】=素材、材料、技術、地域の販路とのつながり
…………………… 12
①農家とつながる
桃農家と葡萄農家の規格外品を使ったコンフィチュールづくり(山梨) … 12
②文化とつながる
ぬりえと都電で下町ブランドの施設に(東京都荒川区) ……… 14
③地域おこしとつながる
地域おこしで知ったキクイモを使った乾燥チップス(熊本)…… 17
④伝統工芸とつながる
江戸小紋の手ぬぐいを使ったあづま袋(東京都江戸川区) …… 19
3−2【施設とつながる】=情報交換、モチベーション、連携による発展
…………………… 21
①ひとつの販路でつながる
銀座、赤坂で販売する施設のコラボブランド ………………… 21
②ひとつのギフトでつながる
施設の掛け合わせギフトをラッピング配送まで行う …………… 24
③ひとつの受注作業でつながる
内職の組み立て作業を8施設で連携 …………………………… 26
④ひとつのパーティーでつながる 施設食材を使ったイベントパーティーや料理教室……………… 27
3−3【人とつながる】=直接ニーズ
……………………………………………………………… 30
①新郎新婦とつながる
施設で一緒につくる、体験型の引出物 ………………………… 30
②被災地とつながる
価値ある廃品で被災地の職おこしを …………………………… 33
4 ネットサイトの構築例【研究のまとめ】
…………………………………………………………… 36
5 調査・研究の体制と経緯 ……………………………………………………………………………… 42
1
平成 23 年度(財)ヤマト福祉財団障がい者福祉助成事業
福祉商品と本当に必要とする消費者との出会いを
創造するマッチング事業の調査・研究
はじめに【調査・研究の作業仮設】
プロダクトアウトとマーケットイン
福祉施設では、サービス利用顧客(障害者)と施設職員が、商品を企画、製造、販売し、その売上高
から製造原価等経費を差し引いた利益が工賃として製造、販売に関わった障害者に支払われる。現状の
工賃水準は次項に示すが、この工賃額が障害基礎年金と合算して一定の生活水準を維持するのに足りる
ものとなっているかどうかがサービス利用顧客に対する福祉施設としての責任を果たす度合いを示すこ
ととなる。
どの福祉施設の職員もできるだけ高い工賃を支払いたいという純粋な願いを持って日々事業に従事し
ているものの願いどおりの工賃を支払い続けることは容易なことではない。
目の前の支援対象である障害者の働く能力を十分に引き出す絶え間のない努力は続けている。さらに
障害者の所得保障のために「作品から製品へ 製品から商品へ」と製造・生産の内容の改善に努めてい
る。「作品から製品へ」とは、製造・生産体制に着目した改善活動を意味する。
「製品から商品へ」とは、
消費者ニーズに着目した改善活動を意味する。このような視点での改善活動が進められてはいるがその
成果を客観的指標の一つである「工賃額」から検証すれば、決して十分とは言えない。
そこで、本調査・研究では、今回の調査・研究の目的を生産者としての視点(=プロダクトアウト)
から消費者の視点(=マーケットイン)に明確にシフトさせるならば、どのような思考・着眼で改善活
動に取り組めばよいかを探り、その「着眼点」を取材・インタビューを通じて得た好事例から抽出して
示すこととした。
消費者の視点に立つ、消費者ニーズを尊重する、とは聞き慣れた言葉ではあるが実際の行動に移すに
は従来の「障害者の能力を引き出す」
「製造・生産環境を改善する」という視点だけでは実現しない。また、
現在のお客様(消費者)の声を伺うという姿勢だけでも(この姿勢を持つことは非常に重要ではあるが)
不十分である。販売量を増やし売上を上げていくには(今までのお客様を含めて)新しい顧客の創造を
しなければならない。ところがいままで目の前にはいなかったお客様のニーズは直接伺うことができな
いから、新しいお客様のニーズを探るには「現在のお客様の声を伺う」とは別の行動をしなければなら
ないのである。
本研究の表題である「福祉商品と本当に必要とする消費者との出会いを創造する」とはこのことを意
味している。
2
1 福祉施設における現状よく見られる思考【調査・研究の前提】
1−1 工賃の現状
厚生労働省の発表によると、平成 19 年度からの「工賃倍増 5 か年計画」の対象施設(新体系では就
労継続支援 A 型事業所、就労継続支援 B 型事業所、旧体系では福祉工場、入所・通所授産施設、小規模
通所授産施設)の工賃(工賃、賃金、給与、手当、賞与その他名称を問わず、事業者が利用者に支払う
全て)の平均は平成 21 年度で、12,695 円。平成 22 年度で、13,079 円 (1 人あたり 月額 ) である。
平成 18 年度の 12,222 円からの伸び率は 107.0% となる。
施設種別毎に見ると工賃倍増 5 か年計画の対象施設である、就労継続支援 B 型事業所は 13,443 円。
入所・通所授産施設は 12,568 円。小規模通所授産施設は 9,194 円。対象外施設である就労継続支援 A
型事業所は 71,693 円。福祉工場は 132,274 円。全施設の平均工賃 ( 賃金 ) は 17,841 円である。
平成 18 年 4 月から障害者自立支援法が施行され、同年 10 月から新事業体系への移行が始まったの
で、対象施設は次第に増加した。そこで、平成 22 年度末時点での就労継続支援 B 型事業所のうち平成
18 年度から継続して工賃倍増 5 か年計画の対象となっている施設の平均工賃を見ると、平成 18 年度
12,431 円、平成 22 年度 14,304 円。伸び率は 115.1%。である。
支援事業名には「倍増」という文字があるものの、実際には 1 割程度の増加に留まった。厚生労働
省は「工賃倍増 5 か年計画(平成 19 ∼ 23)では、都道府県レベルでの計画作成・関係機関や商工団
体等の関係者との連携体制の確立等に力点を置き、工賃向上への取組みが推進されてきたが、個々の
事業所のレベルでは、必ずしも全ての事業所で計画の作成がなされておらず、また、この間の景気の低
迷等の影響も手伝って、十分な工賃向上となり得ていない。市町村レベル・地域レベルでの関係者の理
解や協力関係の確立なども十分とは言えない。
」と分析し、平成 24 年度からの新たな「工賃向上計画」
では「これまでの計画の評価・検証を踏まえ、より工賃向上に資する取組みを、目標設定により計画的
に進める。
新たな計画では、都道府県主体の取組みから、都道府県と事業所が共同して取組むことを重視し、新
体系への移行が完了することにより事業の目的が明確になる中で、個々の事業所において「工賃向上計
画」を作成することを原則とする。特に今後は、作業の質を高め、発注元企業の信頼の獲得により安定
的な作業の確保、ひいては安定的・継続的な運営に資するような取組みが重要であることから、具体的
には、経営力育成・強化や専門家(例:農業の専門家等)による技術指導や経営指導による技術の向上、
共同化の推進のための支援の強化・促進を図る。
」としている。
3
(厚生労働省)
(厚生労働省)
4
1−2 障害者の労働能力による限界
平成 18 年に「工賃倍増 5 か年計画」が発表されたとき、工賃は一人ひとりの障害者が受け取る作業
報酬なので、サービス利用顧客(障害者)の能力アップがその前提として不可欠だという大きな思い込
みが見られた。このことは「支援をしている目の前の障害者の姿を見てもらいたい、このような状態で
工賃アップできるはずがない」とか「今も真剣に一生懸命働いているのに、この倍働けというのか」と
か「行政が施設に積極的に仕事を発注しないのだから仕事が増えるはずがない」という現場からの声が
示している。
福祉施設における現状よく見られる思考の代表的なものの一つに「障害者の労働能力による限界」が
挙げられる。
平成 18 年度に翌年からスタートする「工賃倍増 5 か年計画」のモデル事業(工賃水準ステップアッ
プ事業)が「平成 18 年度障害者保健福祉推進事業(障害者自立支援調査研究プロジェクト)
」として
実施されたが、その事業報告書の中でモデル事業実施施設が立案した実施計画書に対するアドバイスと
して「利用者の作業能力を高めるための研修プログラムが必要になる」
(同報告書 p21-22)と記されて
いることもこのことを示している。
しかしながら、障害者に限らず人の労働能力(作業能力)は職場の人間関係に大きく依存する。退職
理由に関するアンケート調査でも、上司、同僚との人間関係の不調を理由とするものが多い(女性の場
合は結婚・出産を理由とするものが多くなる)
。
ハーズバーグは、人間のモチベーションについて、不快を回避する欲求と、精神的に成長し自己実現
を求める欲求とは全く異質なもので、両者の欲求は全く別個の要素により充足されるものであるという
仮説を立て、その検証で得られた結果が次の図である。
この結果をもとに満足感で示された要因は不満足感の要因にはならないという顕著な傾向があること
から、それまでの衛生要因(職場に発生する不快な状況を取りのぞき良好な環境を維持するうえで不可
欠な要因)に着目した管理ではなく、動機付け要因(職務をとおして精神的成長や自己実現の可能性を
確信できる要因)に着目したマネジメントの重要性を説いたのである。
5
満足の要因は、達成、承認、仕事そのもの、責任、昇進であり、不満足の要因は、会社の政策と経営、
監督技術、給与、対人関係−上役、作業条件である。
労働能力(作業能力)を高めることは一見、達成、承認、仕事そのもの、責任、昇進という動機付け
要因に結びつくかのように見えるが、実は労働能力(作業能力)が現状では不十分であるという判断が
その前提として隠れている。障害者の能力は(極論すれば)どのような状況であったとしても職場の温
かい人間関係の中に置かれてこそその魅力が輝くと考えるべきなのではないか。
また会社の政策と経営、監督技術、給与、対人関係−上役、作業条件は主として人間関係そのものを
示し、さらには職場での合理的配慮の必要性をも示しているから、障害者に対してはその労働能力によ
らず(またはその固有能力の多様性がゆえに)本人にとっての心地よい人間関係と(事業主にとって都
合よいかどうかという判断基準を持ち出さずに)本人にとって必要不可欠な合理的配慮が保証されるべ
きなのである。ちなみに心地よい人間関係や合理的配慮は一般就労の場合の民間企業等に求められるに
留まらず、当然に福祉的就労の場である就労系事業所にも求められるのである。
1−3 施設の生産能力による限界
福祉施設における現状よく見られる思考として「施設の生産能力による限界」もまた挙げられる。こ
れにはハード面とソフト面がある。
ハード面としては、製造・生産関連機器や作業スペース等の事情からの限界意識がある。本来の障害
福祉サービス事業所として機能は保有しているものの製造・生産に適した環境としては不十分であると
いうことである。民間企業であれば主体的に設備投資を計画するが福祉施設では補助金・助成金に依存
した環境整備を計画しがちである。補助(助成)事業ありきの設備整備は、不要不急の機器整備の実態
を招く。取材・インタビューをする中でも補助金・助成金で整備した機器等が様々な事情があるにせよ、
活用されていない事例(本報告書に採り上げた事業所ではほとんど見られないが)が見受けられた。限
られた資源(資金)を緊急度が低いにも関わらず申請・受領してしまう(このことは補助(助成)事業
主体の判断を批判するものではないが)ことで、有効活用の可能性(他の福祉事業者の発展樹会)を奪
うことになることに思いをいたす必要がある。
ソフト面としては、施設の管理者や職員の意識である。具体的には福祉サービス(障害者への個別の
生活支援)優先か経済活動優先かの二択思考に陥ることである。言うまでも無く工賃支払義務のある就
労系事業では「経済活動を通じて福祉サービスを提供する」ことが本旨であるから、二択思考はなじま
ない。両方のバランスをとることが大切であり、商品の製造・生産、販売という経済活動が不調であれ
ばこの就労系事業の福祉サービスはサービス利用顧客(障害者)の期待を裏切ることになるのである。
たとえ個別生活支援が充実していようともそのことをもって高い工賃支払い要請に対する応答義務を免
れるものではない。このことは、障害者への個別生活支援を優先させる意識による「施設の生産能力に
よる限界」
「施設の経済活動の限界」という認識であると気づかなければならない。さらには工賃支払
義務のある就労系事業にあっては高い工賃の支払を可能とする製造・生産、販売体制が充実してこそ「生
活支援」の質が高まり深まるという本来の使命を確認しなければならない。
6
1−4 市場(消費者)ニーズへの適応力の限界
福祉施設における現状よく見られる思考として「市場(消費者)ニーズへの適応力の限界」もまた挙
げられる。
福祉施設では福祉施設職員の事情や施設管理者の好みによる商品選択、事業選択が優先されてしまう
ことがある。施設経営の本流は、定められた施設や人員等の基準を満たした上で利用率が確保できれば
うまくいくと考えてしまいがちである。となると 市場(消費者)ニーズへの適応するために事業転換
(現状を変えること)は難しくなる。
例えば目標工賃月額3万円の目標設定をしたとして、施設のサービス利用顧客が20名ならば、毎月
60万円の工賃支払い資金が必要になる。現在の事業が純利50%ならば、毎月120万円の収入(売
上)が確実でなければならない。月25日営業ならば毎日48千円の収入を得なければならない。その
ためには現在の事業を「確実に事業収入を毎日48千円以上にする」か「毎日確実に48千円収入の得
られる別事業に転換する」ことが必要になる。その収益が既存事業から得られないならば既存事業を止
めて事業転換しなければならない。事業転換のためには、過去の市場分析等に基づいて採用した現在の
設備を廃棄したり新規の設備投資をしたりしなければならない。
従来の仕事を続けながら新規事業を並行して見つけることはできないから、まず既存事業を止める選
択が必要だが、現在の工賃が一旦支払えなくなること、を受け入れる難しさ(またそのような思考)が
市場(消費者)ニーズへの適応力の限界を示している。
7
2 今回の調査研究により提案する着眼点【研究のまとめ】
2−1 消費者フォーカス
「消費者とは誰か」という問いは重要である。プロダクトアウトという生産者の視点に立つとこの問
いへの取り組みを見逃してしまうことになる。前項までに見たように、施設現場では、働く障害者の事
情や福祉施設の置かれた事情から製造・生産する商品を選択したくなる。このときが「消費者とは誰か」
の問いへの取り組みから一番離れているときである。
今現在製造・生産している商品を喜んで購入してくださる固定客層は多少は存在するだろう。だがこ
の消費者は「たまたま」お客様となって購入しているに過ぎない。このお客様にとって最も適した商品
を追求した結果、想定どおりに獲得したお客様、という状況でない限り「行き当たりばったり」の経済
活動のレベルを脱することはできない。これでは「行き当たりばったり」の工賃支払いしかできなくな
る。
ここで確認すべきは、プロダクトアウト(=生産者の視点)で製造・生産している商品のお客様をさ
らに増やすにはどうするか、という思考から一旦離れて、まず自分の福祉事業所が(そして働く障害者
が)誰を幸せにしたいのか、そしてどのようにその幸せを感じるきっかけとなる商品を届けられるかを
検討するのである。
そして今回の調査研究により提案する着眼点としてはこの「お客様は誰か、という検討の場に福祉施
設職員以外の人々を交え、共に協議・検討するしくみをつくる」というものである。消費者ニーズを探
るとはすなわち消費者その人を知ることである。ある人がどのように幸せを感じるかということは想像
や推測ではなく、事実に基づかなければならない。であるから福祉施設職員とそれ以外の人々が「生産
者とその関係者」ではなく(福祉施設職員も消費者としての側面も持つから)全員が「消費者同士」と
いう立場で協議・検討の場に臨むのである。
もう一人の消費者として「バイヤー」の存在も忘れてはならない。バイヤーとは仕入担当者である。
バイヤーは商品を見極めて購入(仕入)することが仕事だから、福祉商品だからという「思い込み」も
「思い入れ」もなく商品としての価値を見る。商品価値とは(さまざまなとらえ方があるものの、ここ
では)消費者のニーズに適合する度合いである。バイヤーは仕入のときにはすでに「お客様は誰か」の
答えを出している。バイヤーの選択眼に適うとき、それは消費者のニーズに適うときである。
繰り返すがバイヤーは仕入が仕事だから、いつでもどこでも商品を探している。バイヤーの要求に応
えるには自商品だけでなく関連する他(施設)商品に関する商品情報とともに提供できるしくみをつく
る必要がある。他施設との協力関係はこのときに有効になる。
「バイヤー」と聞いて、何人の名前が思い浮かぶであろうか。バイヤーも施設にとっては消費者の一
人なのだから、もし誰も知らないというならば「消費者とは誰か」の問いに真剣に向き合ってこなかっ
たことにやはり気づかなければならない。バイヤーは福祉施設職員ではないのだから、取引関係を作
り上げるにはやはり福祉施設以外の人々の力を借りて、共に協議・検討するしくみをつくらなければな
らない。厳しいようだが、今までにバイヤーとの関係を必要と感じていなかったのならば普通のお客様
(消費者)との関係も(本当のところ)必要と感じないまま来ていたと判断せざるを得ないであろう。
施設で製造・生産する商品の生産体制がバイヤーの指定する最低ロットや納期等の条件に合わないと
尻込みすることはない。
「市場に流通していない商品を発掘して、その商品に価値を見出す消費者との
間をつなぐのも小売業の社会的使命」
(日経流通新聞 1 面 2012.3.14)であり「供給力の課題を克
服するために」「焼き菓子などを詰め合わせ」
「ある施設の 1 商品をそのまま販売せず、5 施設以上が製
造する商品を」
「セットにして、供給の不安定さを補う」
(同 1 面)のような取り組みが進んでいる。
「仕
8
入れて販売する」ことを生業とする職業があることにぜひ気づいてほしい。
2−2 商品フォーカス
ここでは「作品から商品へ」という論点ではなく、お客様(消費者)を心から思いやり、気配り・心
配りをして、さらには期待以上の驚きをもたらすものというポイントで説明をしたい。
例えばお客様がパンを購入するのは、パンのコレクターでない限り買うことが目的ではなく食べて満
腹感を得ることが目的である。と同時に家族とか友人とかとともに食卓を囲み和やかな時間を過ごすと
いう目的もある。食べ物であっても「食べる」以外の目的があり、その目的を期待以上の喜びをもって
達成したときに幸せを感じるのである。と同時に感謝と感動をも手にするのである。
次章でも紹介しているが、ギフトの贈り主が施設でギフトの組み合わせ作業現場に立ち会い、障害者
と作業を共にしたところ、障害者の無心な作業、仕事に対する感謝と責任感に「魂がこもり神が宿る作
業を経て商品(ギフト)に命が吹き込まれる瞬間」を感じた。この贈り主は共同作業を通じて結果的に
「作業所にギフトの発注」と「代金支払い」だけでなくもう一つのことをしたのである。それは「神と
つながる」ということ(体験)である。この施設は偶然「ギフトの組み合わせ作業」以外にお客様(贈
り主)にとって価値ある商品を見つけたのである。
また純粋に障害者施設の商品を購入することで工賃支払いに貢献したいという社会貢献的発想に基づ
く購入もある。この場合は、購入がどれほど障害者の喜びにつながるかを明らかにしていかなければな
らない。お客様にとっての貢献度の実感を大切にするという発想である。
「商品とは何か」という問いへの答えの重要な要素の一つに「モノではなくコト」があることは見逃
せない。生産者がお客様(消費者)に届けたい思いは目に見える商品そのものでなく、その商品を「器」
に見立てるとすればその器にどのような思いを載せたいのか、と思考することによって見えてくるので
ある。このことは今までにない新しいコンセプトを起こすことにつながる。お客様を喜ばせたいという
「思い」の「伝え手・メッセンジャー」になることを目指さなければならない。
このポイントに気づくと商品・サービスそのものの品質向上に留まらない改善行動ができるようにな
る。商品の原材料や製造・生産方法(レシピ等)や荷姿の改善はお客様(消費者)の満足を獲得する一
面ではあるがそれがすべてではないのである。
したがって今回の調査研究により提案する着眼点としては「目に見える商品そのものがもたらす効用
による満足を超えたところにあるお客様にとっての本当の喜びを届けるコンセプトに気づきこの点の発
揚に注力する」というものである。
2−3 流通フォーカス
「商品をお客様に届けるとはどういうことか」という問いも大切である。商品は、一般に下図のよう
な流れでいろいろな人の手を経て消費者の手元に届く。
多くの福祉施設で見られる生産販売は、BからDまでを一体に行っていることになる。Aの商品企画
者はコンセプトメーカーやデザイナーである。この流れから見た今回の調査研究により提案する着眼点
は「複線化指向と分担化指向」である。
2-1 消費者フォーカスの項で提案したことは、Aの商品企画を福祉施設職員以外の人を交えて行うと
9
いうことであった。またこの検討の場はEの消費者としてその場に臨むべきであることを記した。
AからDに至る流れのラインは、単線でなく複線を目指すべきであり同時にそれぞれの役割に多くの
人が関わるように指向すべきである。
単独の福祉施設、あるいは複数であっても福祉施設同士の枠を取り払い、連携する必要がある。連携
とは利益を共有するということである。利益共有といえば WIN-WIN の関係を指向すべきという考え
方が一般的に多く推奨されている。 give me
save me というもらい癖が付いたような発想に比べ
ればお互いのプラスの利益を尊重することは大切である。一方がもう一方のサポートに徹したり、一方
だけが損失を負担したりというのでは長続きしない。
しかし、WIN-WIN の関係とはお互い自分の利益を追求し合う関係である。古くは 18 世紀イギリス
のアダム・スミスが『諸国民の富』の中で自由放任経済を説き、市場において売り手買い手が自由に自
らの利益を求めて行動するのであれば「神の見えざる手」に導かれ、交換・分業が進み結果的に国民の
生活は豊かになるとした。
(またアダム・スミスは『道徳情操論』で人間は他者の視線を意識し、他者
に「同感(あるいは共感)
」を感じ、同時に他者から「同感(共感)
」を得られるよう行動すべきことを
説いてもいる。)
ここで提案している「複線化指向と分担化指向」は厳密に言えば WIN-WIN の関係を指向すべきと
いう提案ではない。むしろ GIVE-GIVE の関係の推奨である。すなわちお互い「相手」の利益を追求し
合う関係である。となると福祉施設職員は自らの事業を活性化のために多くの(自分への)協力者を求
めるという態度ではなく、自分が協力すべき相手を求めるという逆の考え方を取るべきなのである。
このことは「高い工賃を支払う」という目的から逆行しているように見える。が「工賃倍増 5 か年
計画」事業が 5 年間で 49 億円の予算を投じても 1 割程度しか工賃増をもたらさなかったことを考えれ
ば、福祉施設職員は従来とは考え方ややり方を変えなければならないのではないか。
(高い工賃を支払
うためという理由であっても)自らの利益拡大を追求すること、そのために自らの事業に協力する者を
求めることから、自らの利益を追求する者同士の連携へと変化するのでは不十分であり、福祉施設職員
は他の協力者の利益が上がることへ思考の優先順位を上げるべく検討を始める必要があるのである。
その検討の場をどう作るか、というときに 2-1 項で提案したのと同様に福祉施設職員以外の人を交え
ることを指向するのである。人は他の人の幸せを考えて行動するときに一番力が出る。このことは障害
者支援の現場で日々実感していることである。福祉施設職員のエネルギーの源は、残念ながら恵まれた
待遇というわけではなく、サービス利用顧客(障害当事者)への直接支援のその場に立つことができる
ことに他ならない。
自らの利益に保険をかけるために他者に協力するなどという狭隘な思考ではなく、純粋に他者の幸せ
のために尽くすという思考と行動を具体化するヒントが、上に示した図のAからEへの流れの複線化と
分担化ということになる。
2−4 消費者の前に出会うべき人がいる
以上 2-1 から 2-3 まで見てきたことをまとめると、消費者に出会う前に出会うべき人がいる、という
ことになる。経済活動やビジネスの本質は人を幸せにする活動である。ビジネスは自分の成果だけを追
い求めては成功しない。他人の幸せのために行動することを忘れていないビジネスは成功している。福
祉施設職員は地域の中小零細企業の創業者・経営者のこの理念を尊敬し共感する必要がある。表面的、
短絡的な「金儲けはよくないこと」という判断は慎むべきではないか。
人を喜ばせたい、人を幸せにしたいという「思い」の伝え手・メッセンジャーになるべきとは 2-2 項
にも示したが、その伝え手はできるだけ多くの人と手を合わせるべきなのである。これは福祉施設が一
人ですべてをやろうとはしない、ということである。一人ですべてをやるというのは「自立」ではなく
10
「利益の独り占め」になるからである。そのためにはどう人と出会い、仲良くなるかを考えなければな
らない。福祉施設関係者以外と出会うためには(大きなストレスとなるかもしれないが)地域の商工会
議所や企業を訪問したり、紹介を受けたりすることを継続する必要がある。ただし、このときに工賃向
上(福祉施設の利益向上)を前面に出してはいけない。あくまでもその企業に対して福祉施設として協
力できる点はないかという考慮をしなくてはならない。まず人を優先する(=自分より得する人をつく
る)のである。
福祉施設関係者以外と出会うためには自分の思いを人に伝えるために発信する必要もある。人を幸せ
にしたいという思いは行動しなければ他人に伝わらない。
もう一度前項に示した図を見ていただきたい。
消費者に商品・サービスが届く前のAからDまでの過程に関わる人を増やすという行動こそ、今回の
調査研究により提案する着眼点の一番のポイントである。
商品企画
原材料生産者
コンセプトメーカー(一部のコンサルタントはこの役割を果たす)
デザイナー 業界団体 消費者団体 行政(保健所等)
資材業者 卸売業者 農林水産業者
加工者
製造業者 メーカー 包材業者 デザイナー ライター 編集者 カメラマン 印刷業者
販売者
卸売業者 小売業者(ショップ、スーパー等)
バイヤー 通信販売業者(ネットサイト運営者)
料理スクール 配送者※
配送業者
上の表にまとめた業者も共に地域で暮らす仲間である。この仲間を増やしその仲間の幸せのために連
携を作り上げる行動を主体的に取らなければならない。声がかかるのを待つのではなく福祉施設から声
をかけていかなければならない。多くの人が関われば多くの人が幸せになれるのである。
このように消費者と出会う前に強い関係を作り上げるべき人々がいることに気づいてほしい。そして
これら関係者の利益をまず優先して考えること(今までこのような発想と行動をしてこなかったことに
気づき、明日の行動を変化させる決意をすること)が、実はお客様(消費者)の幸せを考える行動と軌
を一にするものであり、と同時に障害福祉の現場で障害者の生活支援を組み立てゆく行動と重なるので
ある。だからこそ 1-3 項に示した、経済活動か福祉サービスかという二択思考ではなく両方のバランス
をとることは十分可能なことなのである。
11
3 好事例紹介【取材・インタビュー調査のまとめ】
ここでは、施設職員さんが「やってみよう」と思える販路ある商品開発のアイデアを「何とどうつな
がるか」を切り口にまとめた。
3−1【地域とつながる】=素材、材料、技術、地域の販路とのつながり
①農家とつながる
桃農家と葡萄農家の規格外品を使ったコンフィチュールづくり(山梨)
【keyword】隠れた価値や人脈は地元外の人が結びつける
②文化とつながる
ぬりえと都電で下町ブランドの施設に(東京都荒川区)
【keyword】地域おこしの行く先を見据えてブランディングする
③地域おこしとつながる
地域おこしで知ったキクイモを使った乾燥チップス(熊本)
【keyword】リソースの意外な組み合わせで付加価値をつける
④伝統工芸とつながる
江戸小紋の手ぬぐいを使ったあづま袋(東京都江戸川区)
【keyword】ひとつの工程を請負って伝統工芸を味方にする
3−1 ①農家とつながる
桃農家と葡萄農家の規格外品を使ったコンフィチュールづくり(山梨)
【keyword】隠れた価値や人脈は地元外の人が結びつける
地方では農家を元気にして農業を活性化していくことが重要な課題。それは食料自給率を高める日本全体の問題に
もつながります。
「農家 福祉事業所」が連携できると、もっともっと日本の農家を元気にすることができるのでは
ないでしょうか。
農産物を卸す際、形が悪いものや傷のついた農作物は「規格外品」として、価格が大幅に下がってしまいます。特
に見栄えの良さが売りとなる贈答用の果実は、少しでも傷がついていたらアウト。しかし、形が悪いとか、傷がつい
ているとか、外側の理由のみで、中身が良質な果物であれば、加工するには最適です。とはいえ、ジュース等の製造
加工業者に依頼するには、まとまった量が必要。個別の農家で規格外が出るたびに加工を頼めるかというと、そうう
まくはいきません。全国に、このような規格外の加工先がないと諦めている農家はたくさんあるはずです。庭に捨て
て埋めているという話も聞くのですが、非常にもったいないことです。
有機野菜や自然食品の宅配で知られる「大地を守る会」から規格外たまねぎを仕入れ、福祉事業所でそのたまねぎ
を飴色になるまで炒めて販売しているのが「オニオンキャラメリゼ」。実は、手づくりの小ロット加工が得意な福祉
事業所にとっては、規格外農作物を使った加工作業がとてもマッチしています。ここでは、山梨県にある桃農家と葡
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萄農家が加工先を探しているという話を聞き、山梨県都留市にある東部授産園みとおしさんをご紹介した事例をご紹
介しましょう。
桃の名産地笛吹町にあるこの桃農家さんは、著名な作家や芸
能人などが毎年お取り寄せをしていることで知られ、桃の花の
季節には花見でも賑わうとのこと。大玉で芳醇、桃にしてはか
たく、しかし甘みはたっぷり。なるほど、お取り寄せと納得で
きる美味しさの桃です。
「いい農家は畑を一目見ればわかる」
と言いますが、この桃農家さんの畑は手入れが行き届いていま
した。
もうお一人は、葡萄の名産地である勝沼町で、かつては皇室
献上葡萄を栽培していた方。常にいち早く新種の栽培に着手し、
成功させている地域の牽引役です。いずれのオーナーさんも、
果物に深い愛情を持ち、研究熱心、手入れ作業も熱心でした。
当初、桃の規格外品を破棄するのがもったいないと、桃をネッ
トで代行販売している方からご紹介をいただきました。加工し
てくれる所さえあれば、その加工品を販売したいカフェ店があ
るということでした。
「仕入れ先→販路」まであるのですから、
福祉事業所は加工に専念すればよいわけで、とてもいいお話で
す。
私がその桃の販売をしているネットショップのオーナーにみ
とおしさんをご紹介できたのは、たまたま、みとおしの施設長
さんが、直接私に連絡をくださったからです。私が全国の福祉事業所の食材を集め、それを食べてみたい方にご紹介
する「ウェルフェアトレードパーティ」を東京で開いたのですが、その情報を、とある福祉関係のメーリングリスト
で開催前日に見て、山梨から参加してくださったのです。
そして初対面の私や回りの人たちに、はっきりと「私は障がい者を起業家にすることが夢なんです」「障がい者で
も事業を興すことができると証明したい」とおっしゃったのです。志が高くて驚きました。
「工賃を倍増させたい」
というレベルを超えて、社長にさせたいわけですから。
さらに、「全国の福祉事業所がつながって日本地図がうまっ
ていくイメージがある」とも話されました。頭の中に目標とし
ているイメージが明確にあって、そこに向かって利用者さん、
職員さんたちと日々努力を重ねられているのだなと感心しまし
た。まだ 30 代の女性施設長ですが、そのとき私は、この方と
一緒に何か形にしたいなと思ったのです。
そんな話を伺いながら、先に聞いていた桃の規格外品のこと
を思い出し、後日、桃を販売している店舗の経営者とみとおし
の施設長を、お引き合わせしました。販売会社の経営者さんは、
赤ちゃんのうちに障害で亡くされたお子さんがいらして、
「こ
んな事業をやりたかった」と、とても喜んでくださいました。
ちょうどその頃、引出物の依頼があったので「まずはこの桃を引出物にしてみよう」ということになり、新郎が
シェフだったこともあって、レシピのアドバイスをいただきながら、
「桃のコンフィチュールにしよう」と、話しは
とんとん拍子に進んだのです。引出物らしく、愛情あふれるネーミングにしようと、
「Love&Peace」
(ラブアンドピー
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ス)をもじって、
「Love&Peach」
(ラブアンドピーチ)と新婦さんが命名、かわいいラベルまでつくりました。
熱気がこもる夏の厨房で桃からスタートした「規格外品」シリーズは、その後、林檎シナモン、山梨産干しぶどう
入り林檎、三日煮葡萄、バニラビーンズ入り桃へと種類を増やし、発展していったのです。規格外品の農産物を使う
のに、福祉事業所のいいところは、
「お役に立つならどうぞ」と、ただでもらえてしまうケースが往々にしてあるこ
とです。そうなると材料費はゼロになります。
私は、なにより、このみとおしの施設長の最初の直感に従った行動力がすばらしかったのだと思っています。「会
いたい」
「行ってみたい」と思い立ったら、すぐに行動してみる。連絡を取ってみる。彼女はパーティーの情報を知っ
て翌日、すぐに実行したのです。だからこそ、たまたま山梨の桃の加工先を探している情報にも出会うことができた。
「知り合う機会がない」のではなく、出会いの回数に比例してチャンスは増えます。
ただ、そのとき、目的に合った場所に行くことと、「私は施設をこうしたい」「こんなことがやりたい」と話せるかど
うかが、流れを決めると思います。世の中には、福祉事業所で加工や作業ができることを知らない人が、まだまだた
くさんいるのです。まずはそのことを知ってもらい、そのうえで、どういうことをしたいと思っているのか、目指し
ているのかを話してみてください。人の心を動かすのは、結局のところ、人の「想い」なのですから。
(取材・文責 羽塚順子)
3−1 ②文化とつながる
ぬりえと都電で下町ブランドの施設に(東京都荒川区)
【keyword】地域おこしの行く先を見据えてブランディングする
ここ数年、「ご当地キャラクター」が流行しています。かわいいゆるキャラが並ぶのは微笑ましいことですが、個
人的には、今ひとつだったり、似たり寄ったりのご当地キャラが多い気がしています。
本来、その地域ならではの魅力やよさをきちんと伝わるようにブランディングができれば、ゆるキャラに頼らなく
ても、愛すべき魅力的な地元であることを再認識できるはずです。
東京都内 23 区でも、ブランディングがしっかりできている区は少ないかもしれません。
「下町」というと台東区
浅草のイメージですが、文京区の谷根千(やねせん=谷中根津千駄木地域)も文化的な情緒あふれる下町ですし、江
東区深川も有名です。墨田区は下町というより、すっかり東京スカイツリーが有名になりました。荒川区も町工場が
多く、日本一の生地問屋街、かつては駄菓子屋問屋街もあり、レンガ通りに区立のあらかわ遊園地が残る下町です。
しかし、荒川区のお土産は? 特産品は? 名所は? と聞かれると、これといったものがありません。路面を都
電が走り、もんじゃ発祥の地とも言われますが、お土産の「都電もなか」は、お隣北区の名物。もんじゃは中央区月
島でブランド化されてしまい、特色のある土地柄なのに、上手く活かしきれていないのが事実です。ここにニーズが
あります。
そんな荒川区に、社会福祉法人トラムあらかわが運営する「荒川ひまわり」の店「ぱうんど屋」がありました。プ
レハブ造りの古い質素な店舗兼作業所で、精神障がいのある利用者さんたちがコツコツとパウンドケーキを焼いてい
るのですが、なかなか「ここでしか食べられない」という特色あるメニューを出すにはいたっていませんでした。
そんな荒川ひまわりさんが、工賃倍増のためにコンサルタントの方とプロのパティシエの指導で新しいメニューに
加えたのが、丸い型で焼いた、やわらかいふわふわ生地の「窯出しパウンド」
。しかし、この「窯出しパウンド」を
焼き上げるには手間と技術が必要で、取り組み始めたばかりのときは、1 日 3 台しか焼けませんでした。作業に慣れ
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てきたとしても、オーブンの容量から一回 2 時間かけて最大 5 台、二回で 10 台しか焼き上がらない計算です。
この「窯出しパウンド」を月ごとに季節感を出した味付けやトッピングに変えて販売するということになり、その
段階で施設長さんから連絡があり、私にパッケージデザインのプロデュースをとのお話をいただきました。
もちろん、二つ返事で快く「喜んでお手伝いさせていただきます」と応えて伺いましたが、その後、1 ヶ月以上連
絡がなかったので、
「このお仕事は、なくなったのかしら?」と思っていたところ、ある日、偶然に施設長さんと同
じ都電に乗り合わせ、お互いに気付いたことがあったのです。
目であいさつをかわしましたが、施設長さんは一瞬、気まずそうな顔をして、その後は目を合わせてくださいませ
んでした。
「やはり、パッケージデザインの話はなくなったのだな」。残念ながら、そんな雰囲気だったのです。
ところが、その後しばらくして、施設長さんから連絡をいただき、伺ってみると「あれから職員みんなで頑張って、
パウンドケーキをたくさん売って、1 ヶ月で工賃倍増の実績をつくったんです! なのでぜひ、力になってもらえま
せんか」というのです。
施設長や職員の皆さんは、立ち止まっていたわけではありませんでした。電車の中で会ったときに目を伏せてし
まったのは、新しいパウンドケーキで売り上げの実績をつくろうと、必死になって地道な積み重ねをしている最中。
まだその結果が出せずに、目を伏せてしまったのです。利用者さんの工賃アップに本気で情熱を持って取り組んでい
るのだと心が動かされました。これは、なんとしても売れる商品にしなくてはなりません。
そして、デザイナーさんと一緒に「窯出しパウンド」の試食をさせていただいたのですが、たまたま試食したのが、
黒豆入り抹茶風味の生地に栗と小倉あんを載せたものでした。これが、荒川の昔懐かしい下町情緒とイメージがマッ
チして、ふわふわの生地の食感がよく、甘すぎずにとてもおいしかったのです。
デザイナーさんと私は「これだけでいけるよ! いろんな種類をつくらず、これを荒川土産にしましょうよ」と意
見が合いました。そのときの職員さんたちの反応は「そうですか…?」と、半信半疑で、全く自信がない様子。
しかし、月ごとにトッピングを変えてコストや手間をかけるより、
「THE 定番」と呼べる商品をひとつだけに絞っ
て、
「選択と集中」をしたほうが、固定ファンもつきやすくなることは間違いありません。
職員さんたちとディスカッションをしているなかで出てきた荒川区に対するキーワードは「地元のことが好き」
「長
く住んでいる人が多い」
「ご近所づきあいがある」といった、昔ながらの下町らしい、人付き合いのこと。
また、
「都電」のほかに何があるかというと、
「巨人の星」「あしたのジョー」(星飛雄馬も矢吹ジョーも、荒川区に
住んでいた設定のようです)
、それから「きいちのぬりえ」を多数収蔵した「ぬりえ美術館」もあります。この美術
館は、日本全国から昔を懐かしむ団塊世代や若者が訪れているのに、地元の人はほとんど関心を持っていませんでし
た。
最近では、ただのぬりえではなく携帯電話をキラキラと光るラメで飾り付けるような「デコぬりえ」が、若い女子
には人気とのこと。
この「ぬりえ美術館」を訪れた人が買ってくれるような、下町情緒のあるお土産に「窯出しパウンド」を育ててみ
たいですね、と話し合い、
「ぬりえ美術館」に「きいちのぬりえ」イラストを使用させてもらえないか掛け合ってみ
ることにしました。ところが、著作権を管理している出版社を教えていただいたものの、使用料はとても一施設に払
える金額ではなかったのです。
そこで、デザイナーさんと相談し、下町情緒あふれる、ぬりえの主人公を彷彿とさせるような、女の子のイラスト
を描いてもらうことにしました。
「窯出しパウンド」は、抹茶風味で栗と小倉あんをトッピングしたものを定番として、
荒川区のいちばん土産になることを願い、
「あらかわパウンド」と命名。
この女の子のイラストをパッケージのアイコンとして統一。おしゃれとは言い難い店舗も、なんとかレトロなイ
メージに見せたいという狙いもありました。このロゴとイラストで、のぼりやチラシを作成し、デザインの統一をは
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かりました。
「うどん屋さんじゃないの?
と間違われるので、間違われない店に
したいんです」という、ひらがなの「ぱ
うんど屋」も、今後の定番商品となる
「あらかわパウンド」に合わせてレトロ
な「パウンド屋」に変えました。
今まで販売していたパウンドケーキに
は、レトロ感や下町感はないので、この
普通のパウンドケーキと、なつかしい下
町風に見せる新商品を並べてもバランス
がとれるよう、デザイナーさんが絶妙な
落としどころで仕上げてくださいました。
この「あらかわパウンド」発売に合わ
せたリニューアルスケジュールがタイト
で、決まってからはとても慌ただしくな
りました。しかし、職員さんたちは、デザインラフを見ては驚き、カメラマンさんと撮影した画像を見ては「うち
じゃないみたい!」と喜び、印刷物が上がってくると、チラシとポスターを持って走り回り、休日返上でお店の掃除
やリニューアルをしていました。表情がいきいきとして、モチベーションがものすごく高くなっているのがわかりま
したし、もちろん、利用者さんたちも張り切っていました。
私も何度も店舗に通い、印刷物が上がってくるまで気が気ではなく、看板施行もリニューアル日の直前だったので、
果たして間に合うのかと不安になりながら、古いシートはがしや看板の取り付け作業もせっせと手伝いました。まさ
か、こんなところで、自分が学生時代にアルバイトをしていた看板施行の経験が活かされるとは思いもよりませんで
した。
通りすがるご近所さんが、興味を持ってリニューアル作業の様子を見ていたり、地域情報を収集されているという
不動産会社の女性が「かわいいので写真をとってもいいですか?」と、ポスターとのぼりを撮影してくれました。荒
川区のバスが無料で車内放送をしてくれると申し出てくれたり、その後もいろいろな話がきたようです。
地域の人たちが、いつか、
「うちの近所の名物」として「あらかわパウンド」を誇ってくれる日も遠くはない気が
します。
リニューアル当日はあいにくの雨降りでしたが、職員さん利用者さんの宣伝の頑張りがあって、予約が何件も入り、
好調なスタートを切りました。
リニューアル前と比較して、2 週間でなんと 5 倍近くの売り上げがあったとのこと。これまで足を止めなかった人
たちが続々とお店に来てくれるようになり、リピーターもついてきているようです。これがブランディングとデザイ
ンのチカラ。なにしろ、パッケージとシールがかわいいのです! 商品がどんどん売れるようになれば、将来的には、この施設さんのオーブンだけでなく、近隣の施設さん総出で
「あらかわパウンド」のレシピを指導して、
OEM で焼けるようになれば、地域で工賃を上げることも可能になるでしょ
う。施設長さんや職員さん、そして利用者さんたちの願いが少しずつかなうことになります。
今回改めて感じたのは、施設の職員さんたちはみな、
「なんとかしたい」という想いを秘めながら、心の中は熱い
のだということ。ただ、
「どの方向に頑張ればいいかわからない」という状況も多々あるのかもしれません。そういっ
た情熱のベクトルに道筋をつけるのも、大切な役割ではないかと感じました。
(取材・文責 羽塚順子)
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3−1 ③地域おこしとつながる
地域おこしで知ったキクイモを使った乾燥チップス(熊本)
【keyword】リソースの意外な組み合わせで付加価値をつける
地元の人が自らの地で作られている特産品の価値に意外と気づいていないという状況は、全国どこでもありうるこ
とです。しかし、角度を変えて見れば、素晴らしい宝の山が目の前にある。それを外からの役目として見つける、施
設の職員さんたちに気付いてもらう、というのはとても大切な役目のひとつだと思っています。
熊本県阿蘇郡産山村にある施設さんの事例を通して、特産品というリソースを意外なものと結び付けたお話をしま
しょう。
産山村周辺の特産品のひとつがキクイモです。土に埋まってごつごつとした生姜に似た形状をしており、独特の
食感が特徴ですが、クセのない風味です。地元の人は漬物などで食べることが多いようですが、手をかけずにどこで
もよく育つキクイモは、栽培すると大量に収穫できるため、施設の職員さんたちは、商品価値があまりないものだと
思っていたそうです。ところが、近隣に位置する小国村からある依頼があり、キクイモに対する認識を改めることに
なりました。
この施設さんでキクイモを栽培していると聞きつけた小国村から、「キクイモで地域おこしをするので卸してほし
い」と打診を受け、1kg あたり 5000 円と、予想外に高い値段で買い取ってくれたのです。地元の人にとっては、ご
くありふれた食材であるキクイモでしたが、実は「天然のインスリン」と呼ばれる「イヌリン」という成分が豊富に
含まれており、世界三大健康イモのひとつにも数えられているということや、海外では糖尿病患者の食事にまで取り
入れられることもわかりました。
産山近辺では特に特産物と呼べるものがありませんでした。民間と提携したアイスクリームづくりや、自然栽培み
かんの乾燥、コーヒー焙煎、コーヒーの生豆が入っていたドンゴロス(麻袋)のリサイクルバッグ縫製など、様々な
アイデアで利用者さんの工賃アップにトライしてきた施設長さんは、このことを機に「キクイモじゃ!」と、積極的
に商品開発に乗り出すことにしたそうです。
この施設さんは、食品用の乾燥機を持っていたので、スライスしたキクイモを乾燥させ、パウダーにして健康食材
として卸す仕事を始めました。これを食事や飲み物に混ぜて健康効果を得るという商品です。OEM としてキクイモ
をパウダー加工してパッケージ作業まで受託しながら、同じパウダーを使ってパッケージを変え、オリジナルの自主
製品としての販売も始めました。
「ばんばんキクイモ」というネーミングなのですが、これが、いかにも施設長さんらしいネーミング。とてもエネ
ルギッシュなアイデアマンで、明るくユニークな施設長さんなのです。しかし、そこそこ売れはするものの、効能が
きちんと一般の顧客に知れ渡っていないなど、なかなか工賃アップまでの売上には結びつきません。「糖尿病に効く」
「血糖値が下がる」などと表示してしまっては、薬事法違反になりますから、もちろん書けません。キクイモの売り
上げよりは、青汁用の畑に雑草取りの出張に出かけた方が工賃になっているとのことでした。
とある助成事業として、商品開発プロデュースのお仕事として、自然食のコンサルタントさんとデザイナーさんと
3 人でこの施設さんに伺わせていただいたのですが、最初は、キクイモパウダーありきという状態からのスタートで
した。
乾燥して粉末加工しただけのパウダーを販売していったとしても、全国どこでもキクイモが収穫できますから、乾
燥機さえあれば粉末にするのは簡単です。もしも健康ブームでキクイモに火がついたとしても、誰でも真似ができて
しまう商品では、一瞬で価格競争に巻き込まれてしまいます。
施設さんならではの、手間をかけて丁寧な手作業ができるという特性をいかし、価格競争に巻き込まれない付加価
値をつけた商品に仕上げていったほうがよいわけです。
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しかし、施設長さんたちとブレストをしても、また、その後、東京に戻ってきてからコンサルタントさんとデザイ
ナーさんと 3 人でブレストをしても、何かに混ぜる「健康食品としての粉末」という発想から脱却できずにいました。
たとえば、キクイモパウダーにコラーゲン粉末やザクロ粉末を混ぜ、ダイエット効果や美肌効果と結びつけられな
いか。また、朝鮮人参や青汁と混ぜ合わせて粉末健康飲料にできないか……など。
前者は女性向けに「菊芋美人」
、後者は男性向けに「菊芋太郎」といったネーミングで、男女別に分けてキクイモ
の美容健康パウダーを商品化するのはどうかと詰めていました。しかし、粉末を何かに混ぜて飲むという行為は、そ
のひと手間がかかる故に、購入してもらうハードルが高くなります。
購入動機を高めるには、もっと簡単、手軽にそのまま飲めるといった商品だろうということ、味についてもテスト
マーケティングと試作を重ねていかなくてはならないことでの難しさはぬぐえず、今ひとつ、商品化の決め手に欠け
ている状態でした。
そんな折、施設長さんが、熊本からぜひ上京して話したいとおっしゃってくださったのです。なんとしても商品化
して成功させたいという施設長さんの意気込みが感じられました。その情熱に応えたいと思い、私は自腹で個室のあ
る料亭を予約しました。せっかく飛行機で上京くださるのですから、ゆったりとした環境で、打ち解けてお話をした
かったのです。
美味しい料理と遠慮のいらない環境に、同席したメンバーの話は弾みました。その席で、
「スライスしたキクイモ
を乾燥させて、そのままのキクイモチップに塩をかけるだけでも素朴でうまいんです」と施設長さんが口にしました。
その言葉を聞いて、私は「キクイモチップスだったら食べてみたくなる!」と考えました。しかし、塩味だけでは
インパクトが弱い。
「沖縄の塩でもいいよね」そんな意見も出ました。
確かに、素朴で美味しそうですし、いかにも健康に良さそうです。しかし、
「熊本で沖縄の塩」というのも、物語
としては美しくない気がします。
熊本空港のお土産店を見て私が感じたのは、たくさんの土産品が並ぶ中、「阿蘇で一番のお土産がない」というこ
とでした。ここにニーズがあります。熊本県の PR キャラクター「くまモン君」は、全国でも一番人気に輝き、愛嬌
があってかわいいのですが、商品ではなくてあくまでキャラクター。
熊本の土産店には、博多の明太子が大きなスペースを割かれて陳列されているのです。それだけ博多明太子は有名
で、土産店の売り上げに貢献しているという証ですが、九州を代表する明太子まではいかなくても、
「熊本一番」を
目指せるものにできたらなあと思いました。
観光客のイメージからは、熊本と言えば、阿蘇です。阿蘇と言えば、火山。火山と言えば、噴火をする山です。噴
火するのは何色かと言えば、
「赤」
。
赤い色の食べ物としてすぐ思いつくものといえば、そう、「唐辛子」「キムチ」です。
「赤いキムチに漬けたキクイモチップ……火山チップス!」と、私は思わず叫びました。笑いが起こり、デザイナー
さんが「それ、いけるかも!」と言いました。
辛味と旨味が強いキムチやトウガラシでも、クセのないキクイモなら無理なく馴染んでくれるはずです。
「熊本→阿蘇山→噴火→赤い火口・溶岩」のイメージを表現することで、体にいいとことはもちろん、それ以上に空
港や駅で気軽に手に取れる、おいしいお菓子をつくることができるという話で、その場はおおいに盛り上がりました。
健康効果を前面に押し出しすぎると、薬事法の問題や健康に関心の強い客層しか見込めなくなってしまいますが、
お土産としてインパクトがあり、食べておいしくて、そこにプラスで健康効果があれば、これはとても強みになるで
しょう。
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さっそく、施設長には、キムチ味のキクイモチップスとして、おいし
い味付けになるよう、市販のキムチダレから、キムチ店の粉からつくっ
た自家製のタレまで、調味料と工程の調整、試作を繰り返してもらいま
した。
また、インスピレーションを得たデザイナーさんは、ご自分で火山
の版画を彫り、荒けずりな手づくりのイメージのかっこいいパッケージ
をデザインしてくださいました。試作段階での「火山チップス」は、お
土産として渡したとき、受け取った相手が驚き、しゃれたパッケージに
喜び、かつどこに行って買ってきたお土産かが一目でわかるデザインと
ネーミングです。
そして、中身はインパクトのあるトウガラシ風味で、健康によいこと
を伝えなくても、おやつとして成立する味、ぱりっとした食感を実現し
ました。お酒のつまみに、
「ポテトチップスを食べるならこっちを食べ
たい」というリピーターも想定しています。
このキクイモの乾燥チップスは、世に送り出すべく、現在試作中です。
職員さんたちも嬉々として取り組んでくださっています。地元でイチオシのお土産としてなんとしても成功してほし
いと願ってやみません。
施設を通じての町おこしは、やはり「よその人間」が、様々な角度から、客観的に俯瞰して全体のよさを見渡すこ
とができるのだと思います。地元に住んでいると、見えてこない価値があります。地元にいてキクイモを毎日扱って
いたら、
「キクイモ 乾燥スライス キムチ=阿蘇の火山」という発想はなかなか出てこないでしょう。
このような形で、地元を見直すお手伝いをさせていただきながら、施設を中心として、町や村が元気になっていっ
てくれるのなら、これほどうれしいことはありません。
(取材・文責 羽塚順子)
3−1 ④伝統工芸とつながる
江戸小紋の手ぬぐいを使ったあづま袋(東京都江戸川区)
【keyword】ひとつの工程を請負って伝統工芸を味方にする
東京都内には、古き良き時代の伝統工芸が数多く残されています。職人さんは少なくなって、どこも後継ぎに
困っているようですが、なんとしても大切に残していきたいものです。
私も常々、その古き良き力を施設さんの仕事に結び付けられないかと考えていました。伝統工芸が持つ美しさを生
かす方法が確立できれば、利用者さんは単純な工
程を踏むだけで、魅力ある商品ができると思った
からです。
以前、新聞で紹介されたことがある、江戸川区
で江戸小紋の染付を行っている「高常」さんのこ
とが頭のどこかに引っかかっていました。多摩美
術大学の学生と江戸川区がコラボレーションし、
高常さんが収蔵していた染め布を使って、ブック
カバーが作成されたという内容でした。こういっ
た活動に協力的な方であれば、話を聞いていただ
けるかもしれないと考え、結婚式披露宴の引き出
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物の外袋を探していたとき、直接、問い合わせてみました。
話を聞いてくださったのは、第一線を引退された 3 代目のご主人。快く協力を了承していただきました。そして、
総武線平井駅から歩いて下町の商店街を抜け、住宅街の中にある、高常さんの染付工房を訪ねたのです。
高常さんの工房には、博物館が開けるほどの貴重な染め型が大量に保管されていました。ご自身が使われた型のほ
か、長年、コツコツと古い型を集められたそうで、木枠にはめられた年代ものの染め模様の型が2万種類はあるとの
こと。古くは明治時代初期のものもあるとのことでした。
型職人がどれだけ細かく繊細な模様をつくるか、その模様で染めた着物を身に着ける身分の高い人たちが自慢して
いた時代があったのです。また、倉庫には、高常さんが過去に染めつけた浴衣生地や注文されてつくった手ぬぐいの
残ったものが数百種類保管されており、それを卸していただけることになりました。
カラフルで色とりどり、細かく繊細な江戸小紋特有の柄から大胆な柄、レトロな和柄から現代風のモダンな柄、四
季の花をあしらったもの、おかめひょっとこのお面の柄などなど。様々な模様はどれも美しく、見ているだけで胸が
わくわくしました。それらの柄を活かして、施設さんで作業してもらうには、単純なつくりの「あずま袋」がいいの
ではと考えていたので、さっそく町田市にある縫製が得意な施設さんに連絡をしました。
あずま袋とは、手ぬぐいを2カ所直線縫いするだけで便利な袋状になるという代物。縫い目をほどけば、元の手ぬ
ぐいに戻るという、昔から日本にある日常生活の道具使いの知恵のひとつです。丁寧にしっかりと縫ってもらえば、
丈夫で持ち運びも簡単、さらに美しい袋ができあがります。高常さんの手ぬぐいは数百種類あったので、たくさんつ
くっても柄が同じになることはほとんどありません。オリジナルの美を求める人にとっては、大変魅力的な商品です。
おかげで、結婚式披露宴の引き出物の外袋は、和装の結婚式によく似合う、しゃれたあずま袋となり、出席者の
方々からも好評でした。新郎新婦が、その人に合った柄を選びながら、一人すつ手渡しをしたのです。
「これを欲し
いけれど、どこで作っているのか」
「私もぜひ披露宴で使いたい」というリクエストもいただきました。
こういった伝統工芸の素材を活かし、施設さんが製作をすることで、ニーズに合った商品をつくることは可能です。
よく、ストラップ等を製作されている施設さんを見かけますが、ストラップはコレクションでもしていない限り、何
個も買いませんし、金属やビニールのような人工的なものと組み合わせて小さな商品にするより、もっと付加価値を
あげることができます。
できるだけ「伝統工芸の美しさを活かす」という視点で、かつ、複雑
な工程でなく「単純作業でつくれる」もの、さらに「実用的である」と
いうことをポイントに考えてみるとよいと思います。すでに市場で売れ
ている商品を参考にするのもよいでしょう。
できることなら、プロのデザイナーさんの力を借りてコラボレーショ
ンすることをおすすめします。素人で「これならいいだろう」と思うデ
ザインと、売れる商品に仕上げるプロのデザインは、全く違うものです。
商品専門は「プロダクトデザイナー」で、ロゴマークや印刷物などの専
門は「グラフィックデザイナー」と、デザイナーさんのなかでも専門が
わかれます。
施設さんでつくられている商品にも流行があり、職員さんたちは、ど
うしても成功事例の後追いをしがちですが、売れる、ほしがる人が必ず
いるというニーズの逆算から「何をつくるか」を考えれば、作業の価値
は高まります。
こういった、素材と作業の幸せな出会いを、私自身も機会がある限り
新たに増やしていきたいと考えています。 (取材・文責 羽塚順子)
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3−2【施設とつながる】=情報交換、モチベーション、連携による発展
①ひとつの販路でつながる
銀座、赤坂で販売する施設のコラボブランド
【keyword】商品のコンセプトとストーリーを伝えよう
②ひとつのギフトでつながる
施設の掛け合わせギフトをラッピング配送まで行う
【keyword】体験参加で企業の CSR や研修にもなる
③ひとつの受注作業でつながる
内職の組み立て作業を8施設で連携
【keyword】海外に出していた下請けを施設に切り替えてもらう
④ひとつのパーティーでつながる
施設食材を使ったイベントパーティーや料理教室
【keyword】手間ひまをかけた食材の価値を知ってもらおう
3−2 ①ひとつの販路でつながる
銀座、赤坂で販売する施設のコラボブランド(全国)
【keyword】商品のコンセプトとストーリーを伝えよう
スワンベーカリーさんと言えば皆さんご存知の通り、クロネコヤマト(ヤマトホールディングス株式会社)創設者
の小倉会長がはじめられたベーカリーショップです。
一般の消費者対象のマーケットで売れる製品を作ることを目指し、銀座や赤坂などの一等地に店舗を開店。いまで
は直営店 3 店、チェーン店は 25 店を超え、各地に展開されています。働く障がい者のうち、7 割以上が知的障がい
の方たちであるこのお店は、自立のための低賃金からの脱却をめざし、工賃アップを実現したことでも有名です。
タカキベーカリーさんから販売指導と製造指導の担当者を受け入れ、手間が少ない冷凍生地を開発し、お店では焼
くだけで提供できるようにしたことによってオペレーションを効率化するなど、さまざまな工夫がめぐらされました。
今では障がい者の工賃アップの成功事例として有名なスワンベーカリーさんですが、私はブルーのスワンのロゴ
マークだけでなく、もう少し女性的でおしゃれな感じのロゴマークと、それに合わせた商品ラインナップもそろえる
ことができたら、違った角度から女性に売れるブランドができるのではないかなと、日頃から思っていました。
銀座や赤坂には、おしゃれなもの、新しいもの、洗練されたものなどが好きな OL さんや若い女性たちが日本中か
ら集まってくるのですから、そこには、わかりやすいニーズがあります。
もちろん、ブルースワンのロゴマークはファンの方々の間で定着しており、愛着を感じられている関係者の方がた
くさんおられますので、別の位置づけのブランドづくりということになります。
そんなおり、信頼資本財団の事務局の方から、あるお誘いをいただきました。以前、信頼資本財団の理事長に「福
祉施設の商品をブランド化したい」という相談をしていたために、「一緒にスワンベーカリーさんへ施設商品を使っ
た提案をしてみませんか」と声をかけていただいたのです。信頼資本財団の事務局担当の方と、デザインを担当いた
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だくヒノモトデザインさん、私とで、プロジェクトチームがスタートしました。
まず最初は、皆でディスカッションをしながら、スワンベーカ
リーさんに併設されているカフェでのランチメニューを考えてみま
した。
全国の福祉施設商品のなかから、おいしいおすすめをセレクトし
て、ランチセットにできたら、きっとお客様にも喜ばれると思った
からです。メインの一品、スイーツ類、ハーブティーなど、施設さ
んのおすすめ商品がたくさんあります。自分でもぜひ食べてみたい
ランチメニューです。
施設さんから食材を取り寄せ、プロのシェフにアドバイスをいた
だきながら、オニオングラタンスープとピーチフロマージュ、カモ
ミールティーをセットにしてみました。
そのランチの価値を伝えるには、コミュニケーションツールとし
ての説明が書かれた印刷物をトレーに敷くのがいいと考え、「社会
をラブリーにするランチセット」をテーマに「ラブリーセット」と
名付け、女性をターゲットとしたトレーシートのラフをデザイナー
さんにつくってもらいました。
キーワードは、「ラブリー」「女性」ですから、イメージカラーは
ピンクです。淡いピンクのシートには、ランチセットになっている
それぞれの食材と、それをつくっている施設の紹介文と写真を入れ、真ん中には「たくさんのありがとうでできてい
ます」というコピーを入れました。
施設の利用者さんや職員さんたちの「私たちのことを知ってくださって、食べてくださって、うれしいです、あり
がとうございます」という気持ちを代弁したコピーとなるわけです。
最初の段階から、私自身のなかで全体のイメージやコピーがあったので、この企画はうまくいくのではと思ってい
ました。自分のなかではっきりイメージできるものは実現する確率が高いのですが、残念ながら、結果的にこのアイ
デアは形になりませんでした。
各施設さんからの卸価格や輸送費など、原価が高くなりすぎるというコスト面での問題、衛生基準の問題、賞味期
限の問題など、クリアできない条件が多すぎたため、在庫を持って継続していくのが難しいという結論にいたりまし
た。
スワンカフェの料理長さんにも様々な施設商品を試食いただきましたが、味や食感、使い勝手など、現状のままで
使えるという商品も限定されてしまい、ランチセットにたどりつくまでには、長い長い道のりになることがわかりま
した。私自身、あらためて施設商品を世に出していくことの難しさと課題に直面したことになります。
一般企業と比べれば、福祉施設は手作りの工房で作業するため、安定した衛生基準の保持が難しいのは事実です。
レシピや味を追求できるプロの職員さんがいるわけではありません。しかし、お客様の口に入る商品を販売していく
以上は、一般企業並の衛生基準や味を保つための努力が必要となります。
そのなかで、やっとのこと、練馬区にある施設さんで焼いているチョコケーキが、最終的にスワンさんの試食と衛
生チェックの合格点をいただくことができました。その施設さんも、スワンさんに認められたことをチャンスと捉え、
第三者機関に成分検査、賞味期限検査を依頼。検査結果もクリアされました。
素材となる施設商品が決まった所で、次なるステップは、商品価値を上げる「見せ方をどうするか」です。パッ
ケージを新しくするのはもちろんですが、外側の見栄えを変えるだけではなく、誰が見てもわかる商品の核ともなる、
ぶれないコンセプトが必要になります。
22
この商品は、複数の施設さんとつなげて、新たな価値を生み出すという作業を試みました。それまでも私自身はギ
フトや引出物で施設連携をひとつのパッケージにしてきましたが、店舗で継続して販売される商品としては初の試み
でした。
制作チームで話し合い、コストをかけないようにギフトにもなる
上品なパッケージを試行錯誤しながら試作を重ねた結果、チャコー
ルグレー(濃い焦げ茶色)の紙管を使うことにしました。
パッケージの表には、商品名を印刷するのではなく、金のスタン
プを手で押し、ネーミングは「Gateau Chocolat(ガトーショコラ)」
としました。大量生産でなければ、印刷よりもゴム印のスタンプを
つくったほうが安く上がりますし、利用者さんの作業にもなります。
スタンプのイラストは埼玉県川口市にある障がい児団体の児童が
描いた躍動的でチャーミングな動物の絵に、使用料(パテント代)
を支払って使わせていただき、パッケージの箱の組み立てとスタン
プ押しは、東京都荒川区にある精神障がいの方々の通所施設さんに
お願いしました。
組み立てられたパッケージは、スワン本部まで施設の職員さんが
車で納品くださることになり、中身のチョコケーキも焼き上がった
らスワン本部まで配送いただき、スワンさんで箱詰め作業をしてい
ただくことになりました。
商品そのものとなるチョコケーキも、イラストも組み立ても、以
前から私とおつきあいがあった方々です。
このように、一つの商品ができあがるまでの工程を複数の施設さんで細分化、連携し、仕事となる作業を生み出し、
工賃につなげることができました。最終的にスワンベーカリーさんで箱詰め、販売されるので、お菓子を焼く作業か
ら、パッケージの組み立て、パッケージのイラスト、箱詰めに販売と、4箇所での仕事ができたことになります。
大切なのは、この商品価値とストーリーをどうやってお客様に伝
えるかです。それがこの商品の「コンセプト」を伝えることにもな
ります。
複数の施設商品を味わい、知ってもらうことで、社会をラブリー
にしていきたいという想いは、最初のランチセットのときから変
わっていません。ですから、ブランド名は「ラブリースワン」
。複
数の作業所がコラボレーションして、スワンさんで販売を支援して
もらう、新たなブランドの誕生です。
各施設の作り手が、どんな人たちで、どんな思いでつくっている
のか、「つくっている人の顔」が見えるように、カメラマンさんと
各施設さんを訪ねて笑顔いっぱいの写真を撮影し、デザイナーさん
がポスターにしました。もちろん、職員さんに確認して、顔写真を
出してもよいという利用者さんにお願いしました。
明るい笑顔を見てもらうことで、利用者さんが働くことを喜びに
感じていること、お客様とつながる一体感を感じてもらうことがで
きます。
キャッチコピーは「つくる人たちと、つながる幸せ」
。つまり、
これが商品コンセプトになります。つながる幸せを感じてもらうた
めの、商品説明リーフレットも箱の中に入れました。
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よいもの、おいしいものだから買う。これは当然のことです。ですから、施
設さんがいいものを提供していることを知ってもらう。さらに、それが社会貢
献につながり、障がい者の自立に貢献していることを知り、買っていただくと
いうことが、まずは目標でした。
スワン本部の担当者の方や関係者の皆さんのご尽力もあって、いろいろな場
でラブリースワンのガトーショコラをたくさんの方に買っていただきました。
バレンタインデー前には、スワンベーカリーさんでは早々に売り切れてしまい、
製造が追いつかなかったほどの人気ぶり。
これからもラブリースワンシリーズは継続予定です。ガトーショコラを購入し
てくださった人たちから、また新たな支援の輪が広がっていくことを願ってや
みません。
(取材・文責 羽塚順子)
3−2 ②ひとつのギフトでつながる
施設の掛け合わせギフトをラッピング配送まで行う
【keyword】体験参加で企業の CSR や研修にもなる
施設商品で夏のギフトを準備していたとき、知人の IT 企業の社長さんから「今年のお中元に、ぜひ使わせてほし
い」というリクエストをいただきました。ギフトの内容は、全国の施設さんで製造されているソーセージやカレー、
クッキー、お茶、コンフィチュールなど、おいしいと思う商品をセレクトしました。
詰め合わせの内容は決まりましたが、私は「このギフト、各地の福祉施設さんがつくったものです、で終わらせて
しまってはもったいないな」と感じました。ギフトは、この社長さんや贈る方の思いが詰まっているものですし、受
け取る相手が誰であるかもはっきりわかっています。このしくみをもっと活かして送り主の気持ちを伝えられないか
と考えました。
そこで、ギフトには商品とそのつくり手である施設さ
んの紹介を書いたリーフレットを入れ、その中に依頼主
からの手紙を挟むことにしました。手紙には、「日頃は
お世話になりましてどうもありがとうございます。これ
は障がい者の方々がつくったウェルフェアトレードの商
品になります」といった定型文のメッセージと、依頼主
のお名前と、届ける相手のお名前をひとつひとつ添えた
「Thank You Letter」にしました。
また、ラッピングや配送も、施設の利用者さんにお願
いすることにしました。すべての行程に関わっていただ
き、そこに作業が発生することで、単発的ではあります
が、働く方の工賃となるようにしました。
依頼主さんにとっても、施設さんにとっても追加のひと手間がかかりますが、作業工程さえ明確であれば、お客様
の依頼内容に応じてきめ細やかな対応ができるところが強みになります。
福祉施設商品 依頼主の思いが込められた、とっておきのギフトを、お客様に届く一歩手前まで施設の方が関わっ
て思いを封じ込め、贈る。これこそ、価値ある贈り物を意味する「ギフト」そのものではないでしょうか。
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ラッピングと配送作業は、東京都板橋区に
ある施設さんの知的障がいのある女子チーム
6人に作業スペースまで出張していただき、
一日で行うことになりました。この女子チー
ムは以前にもラッピングをお願いしたことが
あり、慣れているのはわかっていましたし、
出張して別の場所に来ていただくのも訓練と
なります。
そしてなんと、ギフトの依頼主の社長さん
からも「一緒に作業をしたい」というお申し
出を受け、社長さん、取締役さん、社長の奥
様の3名が作業日に参加してくださることに
なりました。当日。箱を組み立てる、ラッピングする、伝票を書く、貼るなど、計画した流れにそって女子チームが
作業を進めていきます。決して効率的なわけでも、作業スピードが早いわけでもありませんが、それぞれ一生懸命に、
役割分担された作業をていねいに進めます。
参加された依頼者さんたちも、ひもを切ったり、紙をまいたり、とても
楽しそうに一緒に作業してくださいました。
社長さんは、ニコニコしながら「ブログにのせよう」と、作業の様子を
写真撮影。2時間ほど楽しそうに作業をした後、和やかな雰囲気で帰られ
ました。
社長の奥さまに至っては「私はこのあと予定がないから残ります」と4
時間以上、作業が終わる最後まで手伝ってくださいました。
後から聞いた話では「なんだかとっても癒されて楽しかった。どんな仕
事でも一生懸命働くことって大切なのだと改めて実感できて、とても良い
機会となった」と、おっしゃっていたそうです。社長の奥様は、普段、医
師をされて非常にご多忙で、この日はたまたまお休みだったのです。
ギフトが届いたお客様、社長さんのブログを見た方々からは「素敵な取
り組みをされたのですね」
「おいしいし、素晴らしい」など、多くの反響
があったそうです。
きっと、その会社や社長さんの考え方・姿勢に共感された方も多いので
はないでしょうか。
商品を送るだけでなく、依頼主も施設の方々と関
わりを持ち、一緒に作業をしたことでひとつのストー
リーが生まれ、それを見た人がそのストーリーを通じ
て会社に共感する。
このことは、企業にとっても CSR(企業の社会的
責任)になるのだと実感しました。企業自身の価値観
や考え方が、お客様との信頼を生み、社会に貢献する
ことにつながっているのですから。
施設さんにとっては、ギフトというパッケージを
つくることで工賃アップにつながり、企業にとっては
CSR になる。
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このお話は、企業と施設がお互いに Win-Win の関係になることができるひとつのモデルになるのではないでしょう
か。
「一緒に体験する」ということそのものにに価値があるというのは、施設側の立場からはなかなか気づきにくいこと
でしょう。
施設さんにはぜひ、障がいのある方々が商品を通じて社会に提供できる価値を知っていただき、積極的に企業さん
や社会へ提案していっていただきたいと思います。
伝わってはじめて相手は心動かされるものですし、施設さんや利用者さんは、その魅力や価値をお持ちなのですか
ら。
(取材・文責 羽塚順子)
3−2 ③ひとつの受注作業でつながる
内職の組み立て作業を8施設で連携(東京都)
【keyword】海外に出していた下請けを施設に切り替えてもらう
日本から中国や東南アジアに下請け作業が流出し、国内での下請け作業が激減していますが、実は福祉施設は下請
け作業を丁寧にできる小さな工房でもあります。以前より、
「海外に出ている仕事を日本の福祉施設が担うようになっ
たらどんなにいいだろう」と、よく知人と話しているのですが、そう痛切に思っている施設の方はきっと多いと思い
ます。
2011 年 3 月 11 日の東日本大震災の後、耐震グッズ、防災グッズがかつてなく売れるようになりました。
そんなとき、以前から施設さんと何かできたらと気にかけて、いろんな方を紹介してもらっていた知人から、「耐
震グッズの生産が今後も増えそうなので、施設さんに作業をお願いすることはできますか」という相談を受けました。
その人は、人気のカフェオーナーであり、ご実家は金型のメーカーでした。ご実家の会社でつくられている「耐震
ラッチ」がヒットして、生産が追いつかず、量販店との取引も始まるとのこと。それまで中国に出していた組み立て
作業を、せっかくなら国内の施設さんでできないかと考えて、声をかけてくれたのです。まずはこれが 5000 個必要
になるとのことでした。
「耐震ラッチ」とは、台所の備え付け食器棚など、戸棚の扉の内側につける留め具のことで、ワンプッシュしてから
でなければ扉が開かない仕組みになっています。地震が来ても、中の食器がすぐには飛び出さないようにする、危険
防止グッズ。カラフルな色があって、好きなカラーが選べるようになっています。アイデア商品ですね。
実はその話を聞いたときに、私は内職の仕事を施設さんに安価でお願いすることに少しばかり罪悪感を感じてしま
いました。一つの耐震ラッチの組み立てを細分化すると、10 工程あって、1個あたり 10 円になるとのこと。
まずは知り合いの福祉関係のメーリングリストに流してみようと思ったのですが、その前に、施設さんの組み立て
作業の金額の相場がわからなかったので、知り合いの福祉部障害者福祉課の方に相談してみることにしました。
驚いたのは、その方が開口一番「メーリングリストに流さず、ぜひその内職を全部やらせてほしいのですが」と
おっしゃったことです。とにかく施設さんの仕事が激減している、ということでした。
確かに、震災後の仕事は施設さんでも減っているわけですが、安価な下請けでも大事な仕事なのだと痛感しました。
この方は、区内外の複数の施設さんとつながりがあり、知り合いの施設さんに声をかけ、そのとりまとめ全般を担っ
てくださるということになりました。どれだけ助けられたことでしょう!
そして、声がかかったどの施設さんからも「ぜひやりたい」というお返事をいただき、たくさんの手が挙がったの
です。
役者がそろいました。区役所の障害者福祉課の方も、請け負ってくださる施設さんも、もちろん依頼主のメーカー
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さんも、複数の福祉施設で同じ製品の下請け・内職作業をするというのは初めての試みです。メーカーさんから細か
な指示書と説明を受け、それぞれの施設さんでの試験的な取り組みとして、まずはスタートしました。
結果的に、8つの施設さんが同じ作業をして、かなりの数を一気にこなすことが可能である、というところまでで
きることがわかりました。福祉課の方が骨を折ってとりまとめてくださったのですが、この方のように間に立ってく
ださる方がいたことも大きなポイントだったと思います。
この取り組みは、関わるすべての人にとって新しい発見でした。複数の施設で連携して下請け作業を受注できる
ということは、今後同じように数の多い仕事やスピードを求められる仕事がまとまってきたとき、施設間での下請け
ネットワークを作っておけば対応することが可能です。
この後、下請け作業の施設間ネットワークが、いくつかの地域であることを知りました。それぞれの施設さんが
持っている作業スキルなどを整理してまとめておけば、企業側も発注しやすいですし、施設側から企業にアプローチ
することだってできるかもしれません。
また、製作途中、メーカーさんからうれしいお話もいただきました。思っていたより丁寧で仕事が速いとのこと。
そして、下請けでお願いしている商品を、福祉施設連携のブランド製品としてのパッケージにして、それぞれの施設
さんで販売したら良いのではないかと提案してくださったのです。
残念ながら、実現には至らなかったお話なのですが、地域にある福祉ショップで売れば、実用的でニーズのある商
品だと思いました。
素晴らしいと感じたのは、このお話はもう「内職」という枠を超えていることです。メーカーさんにとって、福祉
施設に下請けを委託するのは初めての経験でしたが、一度取り組んでみると、ただの下請けや内職という扱いではな
く「施設さんでのモノ作りに活かしては」ということまで想像してくださったのです。そこに新しい価値を感じてい
ただけたということだと思います。
一緒にかかわることやその接点を通じ、誰もがいきいきと働くことの重要性であったり、地域と企業がつながるイ
メージであったり、ノーマライゼーションの視点がメーカーさんに醸成されたのではないかなと感じています。
つながりがつながりを生んだこの事例に、私は改めて施設さんが企業や社会に発信できる価値は大きいと確信しま
した。
(取材・文責 羽塚順子)
3−2 ④ひとつのパーティーでつながる
施設食材を使ったイベントパーティー
【keyword】手間ひまをかけた食材の価値を知ってもらおう
全国の施設さんでつくられているものは様々です。そのなかでも、畑や田んぼを持って、あるいは設備を持って農
業や海産物加工を行う施設さんも少なくありません。
たとえば、
施設長が手製のいけすを作り、湧水だけで稚魚から育てるトラウトサーモンの養殖(いくらとトラウトサーモンの燻
製を商品化)
世界でも高く評価された、完全手づくりのチーズ
開墾した葡萄農園でつくる、ソムリエが日本一美味しいと認めたワイン
20 年以上、無農薬、合鴨農法を続けるコメ作り、野菜づくり
亜熱帯のフルーツを栽培、ジュースやお酒、お茶に加工
・栄養分が増す干し野菜を無農薬、防かび剤など不使用で手づくり
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・昆布を収穫し、干してつまみに加工
・地元の大豆を使用しての手づくり豆腐
などがあります。
特に施設さんのこだわりとして多いのが、完全な手づくり
や無農薬、あるいは減農薬、添加物不使用。企業では難しい、
きめ細やかな手作業が理想の実現を可能にしています。それ
だけでなく、購入した人は、支払った代金で障がい者の「自
立につながる支援」をしていることになります。美味しい、
安心、だけでなく、
「社会貢献できる買い物」をしているこ
とになる。ここに大きな付加価値があります。
「野菜がおいしい」と評判の「岩井屋」さんをご紹介しま
しょう。
この施設さんは、障がい者に限らず、さまざまな人が関わっ
て野菜づくりをしています。農業の知識が豊富な高齢者から
社会復帰の訓練が必要な利用者さんが、農業のノウハウを学びながら野菜を育てています。
岩井屋さんの代表の方は、もともと老人福祉施設で働いていらして、なかなか理想の実現ができないので、一念発
起して、ご自分で施設を立ち上げました。130 年前の古民家を利用して、
さまざまな状況の利用者さんと共に、近隣の農家の人と協力して農作物を
つくっています。ここの高齢者のデイサービスは、お年寄りもいれば、障
がいのある人や小さな子どもたちや、いろんな人たちが一緒に過ごしてい
ている、いわゆる「富山型デイサービス」と呼ばれる、地域の「居場所」
となっているのです。
自家製の肥料作りから行い、
「おじいおばあの知恵」と土地の力を生か
して、滋味豊かな野菜が収穫されています。
岩井屋さんの野菜は甘みがあってファンが多く、東京でも定期的に仕入
れてくださっている料理教室があるほどです。その料理教室の先生曰く、
「本当にいいお野菜は、どう調理してほしいかこちらに語りかけてくるが、
岩井屋さんのお野菜は、まさに語りかけてくる」とのこと。
岩井屋さん以外にも、障がい者と農業の結びつきを成功させている施設
さんや企業があります。例えば、カップラーメンに丸ごと収まるサイズの
「ミニ青梗菜(ちんげんさい)
」
。決まったサイズで刈り取る必要がありま
すが、成育状況をきめ細かく管理することは得意とする所です。
農業は、コツコツと作業をする障がい者に向いているので、全国各地で「農業 障がい者」の様々な取り組みが行
われています。農業に携わることで、利用者さん自身にも大きなメリットがあります。土に触れたり、自然に触れて
体を動かすことで、情緒的な安定が得られる場合も多々あります。
最近では障がい者だけでなく、ニートやフリーター、社会復帰を目指す人たちを交えての実験も行われています。
さて、岩井屋さんから定期的に野菜を仕入れている人がほかにもいます。
「体験型引き出物」の章でご紹介した、
「社
会貢献」を宣言したご夫婦の新郎です。
彼は料理人としてキャリアを積んだ人で、以前から日本橋のレストランで料理長として勤務していました。当時か
ら岩井屋さんの野菜を料理に使っていましたが、独立して世田谷区三軒茶屋にユニバーサル・レストラン「愛と胃袋」
を開店。店内外の設備が、赤ちゃんからお年寄りまで気軽にできるようなユニバーサルデザインであることはもちろ
ん、料理に使う食材は、岩井屋さんの野菜をはじめ、福祉施設で作っているものがあります。
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ご夫婦が「こういうことをやりたい」と強い意志をもって、二人で力を
合わせて取り組んだ結果で、まさに、結婚式の準備での福祉施設とのかか
わりが、ご夫婦の人生を変えたのでしょう。
福祉施設で作られた食品のおいしさを広めるために、私もこれらの食材
を取り寄せて、福祉関係や NPO 関係のイベント等で何度か立食パーティ
を開き、ケータリングを行ったことがあります。その際に依頼したのが新
郎の勤務していたレストランです。
福祉施設関係の講演会、イベント、セミナーなど、軽食や立食などの
ニーズはたくさんあります。そこで施設さんの食材を使ったケータリング
をどんどん利用してほしいと思います。人は、意味を知ることでより大き
な価値を感じます。ただ食材を使うだけでなく、かかわる人たちの物語を
伝え、おいしいことにプラスして、食べることによって自立支援や社旗貢
献につながるということを知ってもらってください。
「どんな人たちが、どんなところでつくっているか」を一文書いて、写
真を添え、コピーして一緒に置くだけでもいいと思います。お弁当をつ
くっている施設さんも、ぜひ、プロのシェフなどにレシピやアドバイスを
もらって、ケイタリングにトライしていただけたらと思います。
ただし、ご承知の通り、食品を持ち出して運ぶのですから、お客様の口に入るまで時間がかかります。衛生管理は
念には念を入れて注意しないとなりません。食品の専門家のアドバイスもぜひもらってください。
社会貢献をしたい、少しでも意義のあるものを使いたい、食べたいという意識を持っている人はたくさんいます。
そこにニーズがあるのですから、ちょっとした工夫と営業次第で、可能性は開けると実感しています。
(取材・文責 羽塚順子)
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3−3【人とつながる】=直接ニーズ
①新郎新婦とつながる
施設で一緒につくる、体験型の引出物
【keyword】お客様が「一緒に作業体験する」というニーズがある
②被災地とつながる
価値ある廃品で被災地の職おこしを
【keyword】リサイクル・リユース素材と職人技で支援できる
3−3 ①新郎新婦とつながる
施設で一緒につくる、体験型の引出物
【keyword】お客様が「一緒に作業体験する」というニーズがある
誰でも自分が働いている業界、業種の価値が、外側からどのように見えているのか、わからない場合が往々にして
あります。障がい者施設で働いていたり、関わっている方々も、施設に対外的な価値を見出していない場合も多いの
ではないかと思います。つまり、施設の中で、障がいがある利用者さんたちと一緒に、作業する、体験するというこ
とことが、誰かにとって価値がある、ということに気づいていないということです。
私が引き出物の依頼を受けた挙式予定
のカップルには、できるだけ、作業所を
見学していただいたり、作業に加わって
いただくようにしています。一緒に見学
を行うと、その帰り道には、新郎新婦か
ら、
「意識が変わった」と思える感想を
聞くことができるのです。
意識が変わるのは、どんな理由からな
のでしょう?
それは、利用者さんたちの明るく人
懐っこいオープンな感情表現であったり、
はにかみながら気にしていることがあり
ありとわかる素直な表情、そして地道に
作業を続ける姿勢、そして、職員さんた
ちの熱心な姿、本気度。
特に知的障がいのある方は、隠し事がありません。興味を持った人には好意を隠さず、作業中も気に入った人に寄
り添うなど、感情表現がいたってストレートです。
「きちんとあいさつを」と教えられていますから、訪問すると、
たいていは嵐のようにあいさつを浴びせてくれます。こちら側も五感が全開、フル稼働になります。
一方で、作業に対して誠実に、コツコツと進める人が多いのも特徴的。もちろん、続けて作業できないタイプの利
用者さんたちも多くいますが、いったんその作業にはまると、ひたすら一所懸命に続ける利用者さんが多いのは事実
です。
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引き出物用のギフトパッケージをお願いした施設さんで、職員さ
んが、利用者さんたちに「これが結婚式で渡されるプレゼントにな
るんですよ」と説明をしてくれたことがありました。すると、
「わあ、
お嫁さんのをつくるの?」
「うれしい」
「きれい」「こんな楽しい作
業ばかりならいいのに」といった感想を口にして、楽しそうに作業
をしてくれたのです。
そんな言葉を聞いてしまうと、こちらもうれしくなって、つい
「もっと引出物やギフトの仕事をいただいて、みんなに喜んでもら
わなくては! 単発仕事では工賃には結びつかないんだから」など
と力が入ってしまいます。
新郎新婦が施設さんを訪れるとなれば、職員さん、利用者さんが
総出で歓迎してくれます。ある施設では、新郎新婦との作業体験の
あと、カップルをお迎えするために、みんなで歌のプレゼントを準
備していました。
日頃、自分の仕事
に大なり小なり不満
を抱いている人は少
なくありません。嫌
な上司や同僚もいるでしょう。気の合わない取引先もあるでしょう。
毎日のルーチンワークに疲れて文句を言いたくなることもあるでしょ
う。
しかし、それらはすべて、働ける職場があってのことです。施設で
利用者さんたちが、少ない工賃でも文句を言わずに懸命に作業をして
いる姿を見ると、そういった不平不満を持っていることが、実はささ
いなことで、
「働くことができて、お給料がもらえるだけでありがた
いと気づきました」という感想を話してくれた人もいました。
そんなふうに、施
設さんで引出物を準
備したカップルで、
私も結婚式にご招待
いただきましたが、オリジナルのソーシャルウエディングでは、
障がいのある子どもたちに新郎新婦の似顔絵を描いてもらい、完全
聴覚障がいの女性にフラワーアレンジのブーケをつくってもらい、
フェアトレードの指輪。お料理にも施設さんのお野菜を取り入れて
いました。
式は人前式だったのですが、出席者に向けての結婚宣言の言葉は、
定番である「明るい家庭を築きます」でも「二人で末永く仲良く暮
らします」でもありませんでした。
それは、
「私たちは、社会貢献ができる夫婦になります!」とい
うものでした。
このカップルの披露宴の引き出物が好評であったことは言うまで
もありませんが、2 次会のミニギフトについても忘れられない出来
事がありました。
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全国の施設さんでつくられているなかか
ら、私がセレクトして集めたのですが、以
前から気になっていた、食用オリーブオイ
ルを使い、デザインも可愛らしい石けんを
作っている九州の施設さんに依頼の電話を
かけてみたときのことです。
電話の向こうで私の話しを聞いた施設
長は、たちまち涙声になり「そんな晴れ
の舞台でうちの商品を使ってくれるんです
か?」と、声を震わせて喜んでくださった
のです。
客観的に見ても、その石けんはとても素
敵な商品で、ミニギフトとしてどこに出し
ても恥ずかしくないものでした。しかし、
そういうニーズに結びつける機会が今までなかったのでしょう。
そんな施設長の喜びを新郎新婦に報告すると、
「わあ、よかった! 私たちもうれしい」と、感慨深げでした。そ
んな挙式準備の中のひとつひとつの出来事や想いが重なって、挙式当日の二人の「社会貢献」宣言につながったのだ
と思います。
複数の施設商品をセレクトし、詰め合わせた引出物のセットは、「すてきな朝を迎えてください」という気持ちを
込めて「Good Morning」セットと名付けました。それぞれの商品がどの施設さんでどのようにつくられているか、
また、新郎新婦と私たちがどのようにつくってきたか、オリジナルの引出物の製作過程をリーフレットにして、引出
物に添えました。
福祉や社会貢献に対する意識は、どう差
し引いてみても女性の方が高く、こういっ
たソーシャルな結婚準備をする場合、男性
側は女性側の好みに付き合うという感覚に
なってしまうと思います。しかし、施設体
験を通して男性の意識は明らかに変わって
いきます。生き方が変わっていくといって
も過言ではありません。それが目に見えて
わかるので、私自身もお手伝いをしてよ
かったと心から思えます。
子どもの頃から障がいのある人たちと当
たり前に接することができれば、何ら特別
なことではないのですが、今は小さい頃か
ら、義務教育の現場が「普通教育」と「特
別支援教育」とに分けられ、まして私立学校やエリート教育を受けてきた人などは、家族や親戚に障がいのある人が
いなければ、全く接する機会のないまま大人になります。
そんな人たちが、大人になって突然「ダイバーシティ」とか、
「障がい者と共存を」と言われても、どう接すれば
よいのかが全くわからないのですから、身構えてしまいます。
あるコンサルタントの方も「40 歳を過ぎて、初めて知的障がいの人と接して衝撃を受けた」と話されていました。
「障がい者と接する」という体験が、世の中に必要とされていることは間違いありません。
(取材・文責 羽塚順子)
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3−3 ②被災地とつながる
価値ある廃品で被災地の職おこし
【keyword】リサイクル・リユース素材と職人技で支援する
「ゲラ」というと、あまり聞き慣れない方が多いかもしれません。
書籍の校正紙のことを業界用語で「ゲラ」といいます。出版社で作家さんの書いた原稿をプリントし、書籍として
出版する前に、赤字で修正や校正を入れるものが「ゲラ」です。内容が固まる前の赤字がたくさん入っているものや、
ほぼ完成で最後に少しだけ赤字が入っているものなど、その段階もさまざまです。
ゲラは出版社さんや作家さんにとって非常に身近なものですが、一般の人が見たりふれたりする機会は、ほとんど
ない存在だと思います。
私は書籍や雑誌の編集、ライターとして仕事をしてきましたが、その中で、生まれては廃棄される山ほどのゲラが
気になっていました。ゲラとはいえ、裏面は真っ白の紙。これは非常にもったいないことです。何かで再利用はでき
ないだろうかと、ずっと思っていました。
それに、たとえば村上春樹さんの手書きのメモが入った「ゲラ」がもしあったとしたら、それだけで欲しがる人も
たくさんいるのではないでしょうか。かつて、パソコンがない時代、原稿用紙に手書きされていた原稿は、作家さん
直筆の「遺稿」となるので、有名作家さんのゲラはきちんと保存されていました。ゲラは「価値ある廃品」なのです。
そんな中、3.11 が起こりました。東北では仕事が激減し、特に弱い立場に置かれたのは福祉施設さんです。
震災後、津波による被害や原発の影響で地元から撤退した企業も多く、これまで企業からの下請け、内職の仕事を
請負っていた施設さんに至っては、仕事そのものがなくなってしまいました。
福島県南相馬市にある NPO 法人さぽーとセンターぴあさん(以下、ぴあさん)もそんな施設さんです。
福島県南相馬市は、震災と津波により 700 名近い方が亡くなったと報道され、原発による避難勧告で一時期は9
割近くが故郷をあとにした土地です。
ぴあさんの施設は無事でしたが、わずか数百メートル海岸方面に向かったある道路から津波の境界線となっており、
そこから先は、すべてが失われていました。震災直後にテレビの報道で見た、津波被害で流されてしまった老人施設
が、ぴあさんのすぐそばにありました。また、南相馬市は原発事故(30 キロ県内)による二次被害により、復興が
ほとんど進められていません。
仕事がなくなり、利用者さんに工
賃を支払えない現状でも、慣れ親し
んだ地を離れられない障がいのある
方は、震災前より増えているそうで
す。
あるとき私は、福祉施設のセミ
ナーで、パネリストとして招かれて
いた、ぴあの理事長のお話を伺いま
した。理事長は、震災後に助成金を
得て、福島の7事業所で作業分担を
しながら「復興支援グッズ」をつく
る事業をされていました。
当初は東北を応援しようという熱
いブームがあり、申し込みが殺到し
たそうですが、徐々に売り上げが下
がり、震災後一年が経とうとしてい
33
る今では余りがある状況だとのこと。
「継続的な仕事が必要です」と、危機感を持たれていました。理事長はこのご
経験から「復興支援」だけではない付加価値がある商品の必要性を感じられていたのかもしれません。
そして、
「東北に対する助成金の募集はあるが、それに応募する 企画 がないのです」とおっしゃっていました。
東北に継続的な仕事を起こすための福祉施設商品を考えたとき、ふと、「ゲラメモ」の存在が浮かびました。
「ゲラメモ」とは、さきほどのゲラを使って作る「手作りの自由帳」のこと。和製本四つ目綴じという、古くから
ある和製本の職人技術で作る仕様にし、1点1点施設の利用者さんに手作りしてもらったら良いのではないかと考え
ました。
ゲラのリサイクル、リユースは東北の再生、復興とリンクします。消えつつある日本の職人技術を伝えていくこと
は、日本そのものの再生を意味します。さらに、それを障がい者施設で作ることにも意味があると思いました。
日本の職人技術は、正確さや型が求められます。こういった作業をひとつひとつ正確にこなしていくことができる
「職人」としての素質が、特に知的障がいのある方には備わっていると感じます。
また、出版社さんにとっては、今までゴミになってしまっていたゲラが、東北の福祉施設の仕事おこしのため、こ
れからの日本のために価値を発揮することになるのです。業界や作家さんにとっても CSR や社会貢献活動となりま
す。
ぴあの理事長にこの「ゲラメモ」の企画について話してみました。
「とてもいいお話だと思いますが、持ち帰って
職員と相談させてください」とのことで、南相馬市に戻られて、すぐにお返事をいただきました。
「職員たちもみな、そんな夢のある商品づくりができるなら、ぜひやってみたいというので、一緒に取り組んでい
ただけませんか」
そこから、ぴあさんとの二人三脚の取り組みがスタートしました。
被災地の支援商品は、誰が誰を支えているのかが明確にわかるほうが良いと感じます。そうすることで、支える人
たちの想いも入りやすく、継続することにつながります。
その関係性についてきちんとデザインされた復興支援商品として、ゲラメモが「見える」継続被災地支援のひとつ
のロールモデルとなればと願っています。
「編集から社会貢献!」を合言葉に、さまざまな出版社さん、作家さんに呼びかけています。
東北を支援したいと思う人は大勢います。
「被災地支援市場」ができたほどです。そのなかでも、ゲラメモのター
ゲットは、次のようなタイプが考えられます。
まず、
「ゲラメモそのもののアイデアやコンセプトが面白い」と感じてくれた人です。「ゲラ」と聞いてすぐにわか
る、出版関係やマスコミ関係、クリエイターなど、業界に近い層の人たちになるはずです。
「へえ、面白いな、話の種に買ってみようか。デザインもいいし、支援になるなら」といった「企画への共感」が
購買動機です。
ですので、デザインがおしゃれであることが、優先順位として高くなります。最初はデザインが気になって手に取
り、ゲラが和製本技術でできていることを知り、最後に被災地の障がい者支援になることを知る、という順番です。
つまり、施設の商品であることは前面に出しません。商品を手に取って見ているとわかる、という程度の表示にな
ります。
商品を手に取って、南相馬市の障がい者の工賃になるところまで理解できた時点で、「誰を支援しているのかが明
確にわかる商品なら買いたい」と思っていたら、多少価格が高くても購入してくれるはずです。
こういった人たちは、
「復興支援」と称して支援金・寄付金付き商品はたくさん出回っているけれど、被災地のど
この誰にそのお金が届くのかがわからないことに不満を感じていた人たちです。ゲラメモであれば、誰の工賃になる
かまでが明白です。
「ゲラメモ」からはじまった被災地支援。今では PReNippon(プレニッポン)というプロジェクト名で複数の仲
34
間とともに進めています。美人でキュートで優秀なプロジェクトリーダーもいます。
「東北の障がい者施設を中心として新たな仕事を起こし、継続的にお金がめぐるしくみをつくる」ことを軸とし、
復興前の、新しい日本の前の、など、
「? の前」を意味する【Pre】、東北の仕事起こしと再生・復興を意味する【Re】
、
さまざまな立場の人が自分にできる方法で支援、【PR】すること、これらをつないで日本の「これから」を紡ぐこと
を目的としています。
「ゲラメモ」を第一弾に、さまざまな商品をさまざまな施設さんやクリエイターたちと連携しながら展開していけ
たらと思っています。
私はたまたま、出版物にかかわってゲラからのインスピレーションを被災地支援につなげましたが、いろいろなこ
とにアンテナを張って日々を生き、周りを見渡していると、「ゲラ」のような発見は、誰にでもきっとあるはずです。
そういった発見やイメージをつなげながら、日本の復興に「Pre? これから ?」の言葉がなくなるとき、本当に復
興したと胸をはっていえるときまで、私も継続していきたいと思っています。
(取材・文責 羽塚順子)
35
4 ネットサイトの構築例【研究のまとめ】
ショッピングモールも意味のある社会貢献商品を求めている
福祉施設商品を販売しているところは、どこも「福祉施設商品」であることをうたっている。
いわゆる「福祉ショップ」で商品を購入する層の多くは、なんらかの形で障がい者や福祉に関わる人
が中心であろう。一般店との違いは「施設でつくりました」ということが一目瞭然で、施設ごとに自主
製品を並べ、施設紹介のパネルやチラシが貼ってある。こうなると
「施設品の展示」であり、そこは「施
設を紹介する場」である。
一般のショップは、消費者の購入につながるよう、消費者目線で商品を開発し、原価計算を行ったう
えで購入してもらえる価格を設定している。また、手に取ってもらいやすいよう工夫され、わかりやす
く陳列されている。もちろん、中には消費者目線で商品をつくって販売し、高い工賃を実現している施
設さんもあるが、ほとんどの施設では、それが実現できずに苦戦している。
「ネットショップで福祉施設の商品を買いたいと思う人はどんな人か?」
多くの施設さんでは、この「ターゲット設定」ができていない。また、ここ数年、楽天などの大手
ショッピングモールから、行政や自治体で支援しているショップ、福祉事業所単位のショップ等、ネッ
ト通販を行う施設さんも増えてきた。しかし、
「ネットで施設商品を購入したい人とは、どんな人であ
るか」という具体的な人物像、ライフスタイルまでを想像し、そのターゲットに向けた「欲しいと思っ
てもらえる店づくり、商品づくり」まで、落とし込めてはいない。
あえて「福祉施設商品」と認知して購入しようとする人は誰かと考えると、施設利用者の家族やそ
の親戚、友人、施設関係者やボランティア、行政関係者など、なんらかの形で障がい者に関わっている
人々であろう。しかし、それ以外の「その他大勢」の人たちに「ぜひ買いたい」と思ってもらえる工夫
をし、顧客開拓を進めていかなければ、関係者の間で購入し合う繰り返しにしかならない。
まず、大前提として、障がい者(施設利用者)が手づくりでコツコツと自主製品をつくって工賃に
しようとしていることを知らない一般の人たちも多い。知っていたとしても「プレゼントにしよう」と
思ったとき、
「パッケージがおしゃれではない」とか、
「誕生日用カードを添えてラッピングできない」
とか、
「指定日に地方までクール便で配送してもらえない」など、一般のショップのクオリティやサー
ビスが劣ることで、購入にいたらないケースも多々ある。
すべてのサービスを民間企業並に揃えるというのは、ショップのプロではない施設職員に求めるべき
ことではない。だからこそ、
「あれもこれもつくれば、どれか売れるのでは」というプロダクトアウト
の発想ではなく、ターゲットを見極めて「ぜひ欲しい」と思ってもらえる商品に絞って製造販売するこ
とが必要になる。
それができれば、販売については、他のショップからも卸取引の引き合いの話がくるなど、営業や販
売をせずとも、製造作業に専念し、商品を卸せばよいことになる。
どの施設の外販でも、消費者は圧倒的に女性のはずである。家庭の中でも、日常の買い物の財布を
握っているのは女性だ。
なかでも「オーガニック
(化学肥料や農薬を使わずに土の力をいかした有機栽培)
「フェアトレード(公
」
正な価格で取引される発展途上国の生産商品)
」などに関心が高い女性たちが散見される。
「社会貢献意
識が高く」
、同じモノを買うなら、地球や環境にいいモノ、体にいいモノ、意味があるモノが欲しいと
考え、そのような商品を選択しているのだ。
この「社会貢献したい女性」たちが「障がい者の自立支援につながる商品」を目にすれば、興味を持
つのは間違いない。そんな女性たちが欲しい思う条件を考えてみればよいという仮説が立つ。
36
「地球や環境にいいと思われるモノ」をつくるための工夫をする。例えば、施設において頻繁に清算
されている無農薬・減農薬野菜を材料に使う。また、リサイクルできる包装資材を使う、過剰包装をし
ないなどの工夫だ。
そして「体にいいモノ」については、添加物や化学調味料を入れない、白砂糖は使わずに粗製糖を使
う、加工油を使わない、といった健康への配慮をする。
「意味があるモノ」とわかるよう、施設の地元
や利用者、職員などのことを書き込んだ商品リーフレットやパンフレットを同封するなどの工夫をする。
いくらいいものをつくっていても、情報が伝わらなければわかってもらえない。ここでは、特にその
情報を「社会貢献につながる買い物がしたい女性」たちに伝えることを意識し、女性が好むであろうイ
メージの「ヤサシイキモチ」というブランドにて、ギフト、引出物を提案をすることにした。
このネーミングは、商品の意味を知り、使ってみたり、食べてみたり、プレゼントとして贈ってみる
ことで、買った人があたたかくやさしい気持ちになれることをイメージしたものである。福祉施設商品
を暮らしに取り入れる人たちが、世の中に増えることによって、思いやりのあるやさしい気持ちになれ
る人が増えるという仮説を立てた。つまり、消費者から見たとき、
「これは施設商品です」というプロ
ダクトアウト型の販売ではなく、
「この商品によって心地よい暮らしができます」というマーケットイ
ンの提案型となるよう、以下の点を工夫した。
1)他者目線のセレクトによる、ひとつのテーマに沿った複数施設商品の詰め合わせであること
2)商品のつくり手である施設利用者の情報が、きちんと伝わること
3)同時に、依頼主からのメッセージ(このギフトを贈る意味)が受取先伝わること
4)女性向けの統一されたパッケージデザインであること
【夏のギフトセットの提案】
<顧客ターゲット>
30 代∼ 40 代の社会貢献につながる買い物がしたい女性層
<販売方法>
「ヤサシイキモチ夏のギフト」として4種のギフトセットをネットで限定販売
ネットで申し込みを受け付け、配送日は固定であることを明記し、配送日にひとつの福祉事業所より
一括送付。
http://www.motherness.com/shop/shop.html
<販売期間>
2011 年 7 月 14 日よりネット上で注文を受け付け、代金を事前振込回収し、2011 年 7 月 28 日に一
括送付
<商品内容>
1)夏のティータイムセット桃 3000 円+税+送料
・桃コンフィチュール 1 瓶(160g)
・カモミールティー 1P(1.5g)
・クッキー 10 種オリジナルポーチ入り
・ヴィスコッティ 2 本
37
・ThankYouLetter
・つくり手のみなさんと商品のご紹介リーフレット
社会福祉法人あすなろの会みとおし
社会福祉法人花水木の会 かすたねっと
社会福祉法人萌友コリアンダーの家
社会福祉法人東京都援護協会 板橋区立蓮根福祉園(送付作業担当)
2)夏のティータイムセット林檎 3000 円+税+送料
・林檎コンフィチュール 1 瓶(160g)
・カモミールティー 1P(1.5g)
・クッキー 10 種オリジナルポーチ入り
・キャラメルくるみ菓子 1 個
・ThankYouLetter
・つくり手のみなさんと商品のご紹介リーフレット
社会福祉法人あすなろの会みとおし
社会福祉法人花水木の会 かすたねっと
社会福祉法人萌友コリアンダーの家
社会福祉法人東京都援護協会 板橋区立蓮根福祉園
3)夏の復興支援セット 4000 円+税+送料
・復興支援「和」オリジナルてぬぐい1本
「藍色」または「水色」
・復興支援カレー2パック
A コース:辛口チキン、キーマ
B コース:ひよこ豆、海老
・ThankYouLetter
・つくり手のみなさんと商品のご紹介リーフレット
特定非営利活動法人クラフト工房 LaMano
社会福祉法人ドリームヴィ 書道クラブ
社会福祉法人青葉仁会デリカッセンイーハトーヴ
社会福祉法人なのはな村
社会福祉法人東京都援護協会 板橋区立蓮根福祉園
4)夏のおつまみセット 5000 円+税+送料
・カスラ(フレッシュなスライスロースハム)約 200g
・アルペンシュペック(味わいある欧風ベーコン)約 100g
・フランクフルター(クラシックなフランクフルト)約 120g
・デブレツイーナ(やや辛パプリカソーセージ)約 120g
・スツッツガーター・ケーゼ(ミートローフ)約 120g
・からふるレトルトカレー2パック
A コース:ビーフ、チキン
B コース:タイグリーン、タイレッド
・なのはな村らっきょう
38
・ThankYouLetter
・つくり手のみなさんと商品のご紹介リーフレット
社会福祉法人上州水土舎
社会福祉法人青葉仁会デリカッセンイーハトーヴ
社会福祉法人なのはな村
一般社団法人からふる
<特徴>
◎一般市場のレベルに近づける工夫について
・デザイナー、クリエイターなどによる協力
・顧客ターゲットを絞り、パッケージのデザインを統一
・「施設商品を集めた」セットではなく、ひとつのテーマに沿ったセット内容に
◎施設商品という付加価値を伝えるサービス
・施設紹介、商品紹介リーフレットを同梱する
・リーフレットには依頼主から受取先へ個別のオリジナル手紙を同封
(依頼主の感謝の言葉と、施設商品である価値を受取先へ伝える)
◎施設での作業増、コスト減等対策
・注文数が読めない中で、仕入れ過剰などのロスを少なくするため、
あらかじめ準備する数を決めて限定販売とした
・注文期間と配送日を決め、配送日にひとつの福祉事業所で配送作業を行った
・低コスト実現のため、安価なレンタルカート機能を使用
・民間企業のネット通販に精通しているボランティアスタッフからの協力
<顧客からの感想>
・コンセプトがしっかりして共感できる
・これからも利用したい、応援したい
・友人に贈ったところ、
「こんなに素晴らしいギフトが世の中にあるなんて」と驚かれた
・オリジナルのメッセージが感動的、これは広がると思う
・つくり手の施設に行ってみたくなる、ぜひ広く紹介したい、知ってもらいたい
・届いた日に家族で話題にしながらやさしい気持ちになった
など、短い期間の限定期間だったが、非常に好評であった
【日本のこだわり手づくり品店への出店】
<顧客ターゲット>
つくり手のこだわりがわかる、おいしく安全な国産品が欲しい女性
<販売方法>
「日本きらり」への出店(
「こだわり」をもってつくられたものと「こだわり」のわかる人をつないで
日本を応援するショッピングサイト)http://www.nippon-kirari.com/
39
<経緯>
夏のギフトを見た知人から、『日本のこだわり品だけを扱うショッピングモール「日本きらり」を、
大手企業がカード会員向けサービス目的に立ち上げることを聞き、ヤサシイキモチを紹介したところ、
ぜひ出品してほしいと言われた』という連絡をもらった。
一般のショッピングモールでは、商品を出すだけで「出店料」等を徴収するが、
「日本きらり」は出
店料がかからず、商品の売り上げから、カード手数料が差し引かれるだけで、出店者の負担が極めて少
ない。また、カード会員向けに会報誌等で告知するため、そこからの集客が見込めるとのことだった。
担当者が非常に興味をお持ちとのことで、まずは施設商品数点の試食デモンストレーションを行った。
コンフィチュールやチーズ、焼き菓子類、ハーブティーなどを持参。美味しさと素材のよさ、手づくり
の味わい、生産者と施設との物語など
に感激してくださり、出店者の製造元
を訪ねて出店契約をする流れとなり、
山梨のコンフィチュールの生産施設訪
問に同行した。
山梨の桃農家さんを紹介くださった山
梨のフルーツ販売を手がけるネット通
販会社に、
「日本きらり」からの注文
の受発注、配送作業などをお願いする
ことにした。通販会社が、山梨の施設
からコンフィチュールを卸価格で買い
取り、販売するという流れである。
今後、他施設からの取り扱い商品が
増えていった場合、ネット通販会社が
商品情報を Web にアップし、顧客対
応と受発注の受付までを行い、商品の
発送は施設からの直接配送することと
した。
<成果>
「30 代∼ 40 代の社会貢献につながる買い物がしたい女性層」を対象とした施設商品をギフトとして
テスト販売したことによって、そのニーズを感じていたショッピングモールのご紹介とオファーをいた
だいた。
「施設商品」という見せ方で販売するだけでなく、
「顧客ニーズ」という視点から、
「日本のこ
だわり手づくり品」というカテゴリーのなかで、紹介、販売していけるのだというひとつの証明ができ
たと思われる。
また、ネットショップの運営、受発注作業を委託した山梨のフルーツを販売手がけるネット通販会社
の方には、楽天、アマゾンなどにも出店していただいている。
「施設商品」とはうたわずに販売するニー
ズはあり、まだまだ開拓の余地がある。
<今後の課題>
今回の調査研究のなかで、最も課題であると感じたのは「食品衛生」
「製造工程」
「食品表示」につい
てである。加工食品を販売する以上、衛生管理は徹底しなくてはならず、まして一般流通に乗せて工賃
向上を目指すのであれば、一般企業と変わらないレベルにまで引き上げなくては販売できない。
「食品衛生基本法」に基づき、衛生基準がどれだけ保たれているか、原材料と製造工程をどれだけ管理
40
できているか、食品表示がきちんとできているか。そういった項目の遵守は施設商品をこだわりの店や
自然食品会社にて、一般流通させようとする際には必須である。保健所で許可されれば、すべて認めら
れたというわけではなく、そこから先の知識と意識、改善が必要であると痛感した。
また、パッケージなどの見栄えは、デザイナーが加わるだけで大きく変わるが、ただパッケージデザ
インをきれいに整えるだけでは、継続して売り上げを上げていくことはできない。その商品を製造、販
売することによって、施設がどのような方向を目指していくのかというコンセプトメイクから入り、衛
生面、味(レシピ)
、ネーミングなどをしっかりと固めていく作業が必要であると感じた。
各施設が、それぞれの地域に根ざしながら、誰のために、何を目指し、何をするのか。それを実現す
るために注力できる商品をひとつに絞り込んだ上でコンセプトに落とし込み、施設職員、施設利用者た
ちの力をひとつの方向にしっかりと向けて発揮させることが重要である。
最後に、この調査研究に多大なるご協力を惜しみなくいただいたみなさまに、心から感謝申し上げま
す。どうもありがとうございました。
41
5 調査・研究の体制と経緯
調査・研究の体制
氏 名
所 属 等
役 割
全体進捗管理 企画会議主宰
報告書執筆 はじめに 1 章 2 章 5 章
内藤 晃 社会福祉法人光明会 常務理事
戸田 直美 社会福祉法人光明会 作業指導員
庶務
取材・インタビュー企画及び実施担当
テストマーケティング実施管理担当
報告書執筆 3 章 4 章
羽塚 順子 MotherNess( マザーネス ) 代表
飯沼 暢子 ホリスティック・ヘルス・コーチ
企画アドバイザー
石田 恵海 株式会社つくるめぐみ代表取締役編集長
取材等協力者
五十嵐 傑 デザイナー
石田 和之 株式会社船井総合研究所
織田久美子 株式会社ヴァインヤード
企画アドバイザー
企画アドバイザー
企画アドバイザー
加藤 未礼 おおきな木 代表
企画アドバイザー
河原由香里 働くしあわせプロジェクト
鈴木 信作 株式会社つくるめぐみ代表取締役料理長
手塚 美幸 ライター
夏目 浩次 ラ・バルカグループ代表
企画アドバイザー
取材等協力者
取材等協力者
企画アドバイザー
平原 礼奈 MotherNess
取材等協力者
深山 健彦 株式会社アメニクス代表取締役
企画アドバイザー
福井佑実子 株式会社プラスリジョン代表取締役
企画アドバイザー
吉村 豪 株式会社マグスター代表取締役
企画アドバイザー
吉村いずみ MotherNess
取材等協力者
調査・研究の経緯
年 月 日
平成23年 3月25日
平成23年 3月29日
平成23年 3月31日
平成23年 4月14日
平成23年 4月18日
平成23年
平成23年
平成23年
平成23年
平成23年
平成23年
平成23年
平成23年
平成23年
平成23年
平成23年
4月27日
5月 6日
5月11日
5月16日
5月20日
5月23日
5月25日
5月26日
5月30日
6月 2日
6月 3日
経 緯 及 び 内 容
【取材】施設商品による震災復興パーティーの実施
第1回企画会議 調査・研究スケジュールの検討
【取材】施設商品による料理教室
【打合せ】企画アドバイザー 加藤未礼氏との意見交換
【取材】福祉施設(飯能市)
第2回企画会議 調査・研究スケジュール 作業仮設の検討
【取材】引出物用あずま袋の縫製練習
【打合せ】企画アドバイザー 飯沼暢子氏との意見交換
【取材】福祉施設(多摩市)
【取材】コラボブランド調査訪問
【取材】コラボブランド調査訪問
【取材・打合せ】コラボブランド検討/ロゴ準備
第3回企画会議 作業仮設の検討 コラボブランド検討
【取材】施設でのギフト包装
【取材・打合せ】コラボブランドパッケージ検討
【取材】福祉施設(川崎市)
【取材・打合せ】コラボブランドパッケージ検討
42
平成23年 6月 4日
平成23年 6月10日
平成23年 6月17日
平成23年 6月23日
平成23年 6月29日
平成23年 6月30日
平成23年 7月 2日
平成23年 7月 4日
平成23年 7月 5日
平成23年 7月12日
平成23年 7月13日
平成23年 7月14日
平成23年 7月15日
平成23年
平成23年
平成23年
平成23年
平成23年
平成23年
平成23年
7月19日
7月20日
7月23日
7月28日
8月 1日
8月 3日
8月 7日
平成23年 8月 9日
平成23年
平成23年
平成23年
平成23年
平成23年
平成23年
平成23年
8月11日
8月15日
8月17日
8月26日
8月29日
8月30日
9月 5日
平成23年 9月 7日
平成23年
平成23年
平成23年
平成23年
9月 8日
9月 9日
9月14日
9月15日
平成23年 9月16日
平成23年 9月30日
平成23年10月 4日
平成23年10月 6日
平成23年10月12日
平成23年10月18日
【取材】福祉施設(台東区)
【打合せ】企画アドバイザー 加藤未礼氏との意見交換
【取材】施設でのギフト包装
【打合せ】企画アドバイザー 加藤未礼氏との意見交換
【取材・打合せ】コラボブランド画像検討
【取材】施設でのブライダルセットアップ
【打合せ】企画アドバイザー 加藤未礼氏との意見交換
【取材】福祉施設(高崎市)
第4回企画会議 調査対象・テストマーケティングの方向性の検討
ブライダル引出物の検討
デザイナー 五十嵐傑氏、企画アドバイザー 加藤未礼氏との意見交換
第5回企画会議 調査対象・テストマーケティングの方向性の検討
デザイナー 五十嵐傑氏、企画アドバイザー 加藤未礼氏との意見交換
【取材・打合せ】テストマーケティング・ネットショップカート企画/商品撮影
【取材・打合せ】コラボブランドパッケージ見本製作
【打ち合わせ】企画アドバイザー飯沼暢子氏、デザイナー五十嵐傑氏との意見交換
【打ち合わせ】企画アドバイザー吉村豪氏、飯沼暢子氏との意見交換
第6回企画会議 調査対象の検討
【取材・打合せ】テストマーケティング・テスト画面完了/商品アップ作業確認
第7回企画会議 テストマーケティングの検討
デザイナー 五十嵐傑氏、企画アドバイザー 加藤未礼氏との意見交換
【取材・打合せ】テストマーケティング・商品リーフレット作成、入稿確認
【取材】食品衛生管理責任者講習会
【取材・打合せ】テストマーケティング・商品手配、パッケージ確認等
【取材】6名の利用者による出張訓練、ギフト包装、発送、体験者との交流
【取材・打合せ】テストマーケティング・コラボブランド商品見本
【取材・打合せ】耐震ラッチの検討・企画アドバイザー夏目浩次氏との意見交換
【打合せ】企画アドバイザー福井佑実子氏による個別研修
第8回企画会議 テストマーケティングの検討
企画アドバイザー加藤未礼氏との意見交換
【取材・打合せ】コラボブランド製作指導
【取材・打合せ】商品撮影
【取材】施設での引出物詰め合わせ作業等体験
【取材】施設のポスター撮影、インタビュー
【取材・打合せ】コラボブランド店舗レイアウト
【取材】工賃アップセミナー
【取材】企業内出張訓練
第9回企画会議 報告書コンテンツ第1案の検討
ホームページコンテンツの内容検討
【取材・打合せ】コラボブランド販売準備
【取材】パワーアップフォーラム
【打合せ】企画アドバイザー 河原由香里氏との意見交換
【取材・打合せ】出産祝いギフト用オーダ実施
第10回企画会議 報告書コンテンツ第1案の検討
企画アドバイザー 深山健彦氏との意見交換
【取材】ローフード、ウィートグラスのセミナー
【取材】福祉施設(都留市)
【取材・打合せ】ブランド化検討
【取材・打合せ】福祉施設(熊本市)の事前検討
【打合せ】企画アドバイザー加藤未礼氏・ローフードアドバイザーMimi氏と意見交換
43
平成23年10月22日
平成23年10月24日
平成23年10月26日
平成23年10月31日
平成23年11月 1日
平成23年11月 3日
平成23年11月 5日
平成23年11月10日
平成23年11月16日
平成23年11月22日
平成23年12月 5日
平成23年12月 9日
平成23年12月10日
平成23年12月13日
平成23年12月14日
平成23年12月23日
平成23年12月26日
平成23年12月27日
平成24年
平成24年
平成24年
平成24年
平成24年
1月 6日
1月13日
1月18日
1月19日
1月21日
平成24年 1月23日
平成24年 1月23日
平成24年 2月 7日
平成24年 2月24日
平成24年 3月17日
平成24年 3月25日
【取材】女性をターゲットとした販売会
【取材・打合せ】コラボブランド第二弾検討
∼27日【取材】福祉施設(熊本市)
【打合せ】企画アドバイザー 夏目浩次氏、石田和之氏との意見交換
【取材】施設リニューアルのヒアリング
【取材】福祉ショップ見学
【取材】福祉ショップ合同セミナー
【取材】福祉施設(松本市)
【取材】福祉施設(平塚市)
【取材】福祉施設・ウィートグラス栽培(都留市)
【取材】福祉施設(熊本市)
【取材・打合せ】パッケージデザイン
【取材】企画アドバイザー石田和之氏の心に残るセミナー
【取材・打合せ】商品撮影
∼15日【取材】福祉施設(松本市・飯田市)
【取材】紅茶教室(施設との国産紅茶共同開発のため)
【取材】福祉施設(南房総市)
第11回企画会議 報告書コンテンツ第2案の検討
テストマーケティングの状況確認
【取材】施設店舗リニューアル
【取材・打合せ】商品パッケージサンプル製作
【取材】商品製造技術指導用セミナー
∼20日【取材】福祉施設(南相馬市)
これまでの取材内容等に基づいた内部研修実施
第12回企画会議 報告書案の検討
企画アドバイザー 深山健彦氏との意見交換
∼28日【取材・打合せ】新商品制作
【取材】福祉施設(千葉市)
第13回企画会議 報告書案の検討
企画アドバイザー 夏目浩次氏との意見交換
第14回企画会議 報告書案の検討
第15回企画会議 報告書案の一部修正
第16回企画会議 報告書案の最終確認
参考文献
・「工賃水準ステップアップ」成功のためのキーワード
平成 18 年度障害者保健福祉推進事業(障害者自立支援調査研究プロジェクト)
工賃水準ステップアップ事業・事業報告書
平成 19 年 3 月 31 日 社会福祉法人全国社会福祉協議会 全国社会就労センター協議会刊
・日経流通新聞 平成 24 年 3 月 14 日版
・アダム・スミス「諸国民の富」
(一)∼(五)岩波文庫
・厚生労働省ホームページ
44