日本分析化学会第 59 回年会の発表を終えて

特集
学生の研究活動報告−国内学会大会・国際会議参加記 13
日本分析化学会第 59 回年会の発表を終えて
藤 林 貴 文
Takafumi FUJIBAYASHI
物質化学科
4年
炭酸リチウムから合成しました.これら,6 種類の
1.はじめに
リチウム化合物を XPS の Li(1s),Cl(2p)XPS スペ
私は 2010 年 9 月 15 日(水)から 17 日(金)に
クトルを測定しました.EELS スペクトルからはリ
東北大学で開催された日本分析化学会第 59 年会に
チウムの結合性によるピーク形状の違いを比較検討
参加し,「XPS および EELS スペクトルによるリチ
しました.
ウム化合物の状態分析」というテーマでポスター発
表を行いました.
4.実験結果と考察
4. 1
2.緒言と目的
XPS スペクトル
6 種類の化合物の Li(1s)XPS ピークを比較検討
リチウムはナトリウム,カリウムとともにアルカ
したところ,フッ化リチウム,酢酸リチウムの Bind-
リ金属に属していますが,実際にはアルカリ土類金
ing energy(eV)はあまり変化が見られませんでし
属であるマグネシウムやカルシウムに似た性質を示
た.それに対し,塩化リチウム,次亜塩素酸リチウ
します.また,リチウムは有機化学反応における試
ム,亜塩素酸リチウム,塩素酸リチウム,過塩素酸
薬,高出力電池材料やイオン伝導体にも利用され,
リチウムのピークは明らかに大きく異なりました.
その重要性がさらに高まっています.本研究では,
次に,Cl(2p)XPS ピークから Cl− →ClO− →ClO−2 →
X 線光電子分光法(XPS)および電子エネルギー損
ClO−3 →ClO−4 の順に高エネルギー側にシフト(電子
失分光法(EELS)を用いて種々のリチウム化合物
密度が低下)することがわかりました.これは Cl
の状態分析を行い,さらに DV-X α 分子軌道計算
と結合している O の電子吸引効果によるものと考
法を用いて理論 XPS および EELS スペクトルを求
えました.また,亜塩素酸リチウムの Cl(2p)XPS
めました.リチウム化合物のスペクトルピークの位
ピークで X 線を照射する時間経過に伴い,Cl(2p)
置とピーク形状によって 3 つに分類し,リチウムの
のピーク形状が変化していることがわかりました.
化学状態との相関を検討しました.
これは亜塩素酸リチウムが X 線の照射により還元
されていると考えました.
3.実験方法
フッ化リチウム,酢酸リチウム,塩化リチウム
4. 2
EELS スペクトル
(無水),塩素酸リチウム(0.5 水和物),過塩素酸リ
それぞれのリチウム化合物の EELS ピークの比
チウムは市販の試薬を用い,次亜塩素酸リチウムは
較検討をしました.酢酸リチウムとフッ化リチウム
t-ブタノールと次亜塩素酸ナトリウムに水酸化ナト
を比較すると,20 eV 付近に異なるピークが確認さ
リウムを加えることによって合成しました.また,
れました.これらのピークはリチウムの結合状態を
亜塩素酸リチウムは亜塩素酸ナトリウムに硝酸鉛と
示すピークで,酢酸リチウムのなだらかなピークは
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くにつれて Binding energy が増加する傾向にありま
した.また,Cl
(2p)の XPS ピークでも高エネルギ
ー側にシフト(電子密度が低下)する傾向があるこ
とがわかりました.また,亜塩素酸リチウムにおい
て Cl
(2p)XPS スペクトルが X 線照射によってピー
Fig. 1
LiCl(左)と CH3COOLi(右)の EELS
スペクトル
ク形状変化を起こしていることが確認できました.
EELS スペクトルにおいては,20 eV 付近にリチウ
ム由来のピークが観測され,そのピーク形状により
リチウム結合性,フッ化リチウムの鋭いピークはイ
酢酸リチウムはリチウム結合性,フッ化リチウム,
オン結合性のピークに分類できます.同様に,塩化
塩素酸系列はイオン結合性のピークに分類できまし
リチウム,次亜塩素酸リチウム,亜塩素酸リチウ
た.
ム,塩素酸リチウム,過塩素酸リチウムにも鋭いピ
今後の課題としては,Cl を含むリチウム化合物
ークが確認できました.また,結合性のピークとは
を分析するとともに,同じハロゲンであるフッ素,
別に 8 eV と 13 eV 付近に塩素由来のピークが確認
臭素,ヨウ素などの化合物を XPS ならびに EELS
でき,これらのピークは亜塩素酸ナトリウムでも確
スペクトル等で分析する必要があると考えていま
認できました.
す.また,電子状態の大きく異なるリチウム化合物
・錯体についても検討する予定です.
5.総括
フッ化リチウム,酢酸リチウム,塩素酸系列のリ
6.おわりに
チウム化合物を用いて X 線光電子分光法(XPS)
今回の発表では色々な方から実験結果に対してご
と電子エネルギー損失分光法(EELS)より検討し
質問や問題点,改善点,今後の課題などを頂き大変
ました.Li
(1s)XPS ピークでは,フッ化リチウム,
勉強になりました.最後に私にご協力して頂いた藤
酢酸リチウムについてはあまり変化が見られません
原教授,研究室の皆様,学会発表でお世話になった
でしたが,塩素酸系列では O 原子の数が増えてい
皆様に心からお礼申し上げます.
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