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特集:さまざまな工夫と課題の解決で地域に信頼される老健へ

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特集
介護報酬改定から1年を経て
April Vol.24 No.1
さまざまな工夫と課題の解決で
地域に信頼される老健へ
全国老人保健施設協会 副会長
内藤 圭之
に取り組みたくなるような、活力剤となるような
改定内容にしてほしかった。全体の数パーセント
の老健施設しか算定できないハードルの高いもの
ではなく、30%から 50%の施設は新たな加算が
取れる要件の設定にすべきだった。次期改定には
このような実態を踏まえて臨みたい。
老健施設の多機能性の評価を
ジメント、医療提供といった機能がある。そうし
老健施設の重要な機能の 1 つは当然リハビリ
た機能をもっと評価してほしいというのが率直な
テーションではないか。リハビリテーション機能
ところだ。
の充実によって在宅復帰につながる。介護予防の
今回の介護報酬改定について語る際、老健施設
全老健では、在宅強化型の新しい基本施設サー
ためにもリハビリテーションは重要だ。
の経営状況は現在、非常に厳しいことを認識して
ビス費や在宅復帰・在宅療養支援機能加算の算定
もう 1 つは地域ケアマネジメント。厚生労働
おかなければならない。社会保障審議会介護給付
について調査を実施している。現時点ではまだ集
省が公表している地域包括ケアシステムのイメー
費分科会における改定の議論の折、各サービスの
計中だが、算定要件が厳しく、在宅強化型の新し
ジ図では、地域包括支援センターが中心に描かれ
収支差率として老健施設 9.9%、特養 9.3%とい
い基本施設サービス費の算定は数%、在宅復帰・
ているが、現実問題として、地域ケアマネジメン
う数字が示されたが、これはあくまでも収支差率
在宅療養支援機能加算と合わせても 10 ~ 15%ぐ
トができる可能性があるのは、多職種がいてケア
であって収益率ではない。
らいしか算定している施設はないのが実態だと思
マネジメントできる老健施設しかないだろう。
開設主体の違いがあり、たとえ収支差率が
う。
このリハビリテーションと地域ケアマネジメン
9.9%あっても、医療法人ではこのうち 40%強の
国がいくら旗を振っても、現場の経営が厳しい
トの機能を十分に発揮していくことが、今後の
否定できない。
「あそこの施設は、医療を積極的
法人税を負担し開設時の負債に対する毎年の元金
ため、どうしても守りの姿勢になり、積極的にい
「地域包括ケアシステム」での老健施設の果たす
に提供して、受け入れてくれる」となれば、入所
と利息を返済すると、ほとんど利益は残らず、原
ろいろなトライアルができずにいる状況だ。
べき大きな課題である。
者も家族も安心するし、そうやって地域の信頼を
価償却費を取り崩すところまできている老健施設
これは、在宅復帰に力を入れるほど、ベッド稼
今後「地域ケア会議」といったものが地域の処
獲得する方が、結果的にはより経営は安定するだ
も少なくない。本来、収益率で語られるべき議論
働率が下がることにも問題がある。在宅強化型を
遇困難事例などのマネジメントを担っていくと想
ろう。厳しいかもしれないが、老健施設がこれか
が、いつのまにか収支差率に置き換えられており、
実践する際、算定要件のベッド回転率もさること
定される。
「R4 システム」を活用し、地域ケア会
ら生き残っていくためには、そうした各施設の地
結果、老健施設には厳しい改定となったと言わざ
ながら、ベッド稼働率に注目しなければならない。
議でもリーダーシップをとり、自分たちがその中
域に信頼される日常的な努力は欠かせない。
るを得ない。内部留保金の問題は、社会福祉法人
正直なところベッド稼働率が大体 95%を切ると
心的役割を担っていくという姿勢を示すべきだ。
もちろん努力をお願いするだけでなく、全老健
と医療法人との税制上の格差の問題として考える
加算を取っても基本となる施設サービス費全体が
そのためにも、老健施設は地域から信頼される存
として構造的に矛盾のある制度について整合性が
必要がある。
下がるため収支はプラスにならなくなる。施設経
在になっていかなければならない。
取れるよう働きかけていきたい。単価の極めて高
報酬改定は収支差率ではなく
収益率で議論すべき
今回の改定は在宅復帰に
評価を偏らせ過ぎた
営にとってこのベッド稼働率が大きな問題で、
100%で安定していればその方がいいという判断
地域に信頼される老健へ
になる。今の老健施設全体の経営状態では、あえ
い薬剤については、報酬で評価してほしいと私自
身も願うところである。
老健施設における医療について
在宅復帰、在宅生活支援は老健施設にとって骨
て在宅復帰に積極的に取り組むよりも安全運転で
地域で信頼される老健施設になることについて
格的な機能であるが、今回の改定では、在宅復帰
いこうという動機づけとなっている可能性はある
は、たとえば医療提供の問題も関係してくる。
の評価にあまりにも偏らせ過ぎた印象が強い。老
と思う。
医療提供は施設側の持ち出しになるため、経営
そもそも老健施設に入ったとたん、医師がいる
健施設では、リハビリテーションや地域ケアマネ
元気のない今だからこそ、もっと現場が積極的
的なことを考え医療提供に消極的な施設の存在も
にもかかわらず医療行為が制限され、医療保険か
12 ●老健 2013.4
老健 2013.4 ● 13
特集
介護報酬改定から1年を経て
April Vol.24 No.1
ら給付を受けられないのは制度的な矛盾である。
今回の改定では、所定疾患施設療養費が導入され
た。微々たる評価であり、やはり制度設計上は、
老健施設とターミナルケア、
訪問系事業所との連携
参考1 在宅強化型の要件
評価項目
算定要件
以下の両方を満たすこと。
在宅で介護を受けることになったもの注1
a 医療は診療報酬できちんと評価してほしいと思う。
今回、老健施設でのターミナルケア加算が見直
所定疾患施設療養費について実は、今回の改定
されたことは評価している。ターミナルケアや看
の元となったデータが古く、肺炎や尿路感染症は
取りは今後、老健施設の大きな役割になると思う。
いいとしても、ヘルペスよりも多い脱水が対象外
老健施設の機能には、トリアージという役割が
となったのは問題である。この場合の脱水とは、
ある。
「この方はもう看取りの時期に入った」と
夏の暑さで熱中症になって…というのではなく、
判断したら、訪問看護など訪問系のサービスを提
口からものが食べられなくなることによる脱水だ。
供して在宅へ帰してあげることも可能である。
私は、特殊な治療を必要とする疾患でなければ、
ターミナルケアは最終的に看取る最期の 1 週間
老健施設で治療してもよいのではないかと思って
に至るまでのプロセスが大事で、最期の 1 週間
いる。たとえば肺炎の処置は、点滴と抗生剤と酸
になったら在宅で家族の見守る中で看取っていた
素、場合によっては痰の吸引などがあるが、これ
だくという選択肢もあれば、もちろん家族の介護
動・心理症状緊急加算などがあげられる。認知症
参考2 在宅復帰・在宅療養支援機能加算の要件
は老健施設でも十分にできることとして、今回、評
力の問題等で「ぜひ施設で看取ってほしい」とい
の BPSD は、介護スタッフの認知症の対処方法
価された。同じようにその他の疾患についても老
う選択肢もあるはずである。
をトレーニングすることで、おおむね 2 週間程
評価
項目
健施設でできる治療の範囲の見直しを要望したい。
アンケート調査などでは「自宅で家族で看取り
度で BPSD の症状は治まるケースがほとんどだ。
たい」といった意見は多く見られるが、実際にそ
この間のリハ職の関わりを記録しておくことで、
のときになって本当に家族が入所者を自宅へ連れ
認知症短期集中リハ加算の算定が容易になるはず
て帰れるかは現実的に困難なこともある。訪問介
だ。こちらの適切な対応により症状が治まれば、
護はあっても、まだ訪問看護が少ないのも現実で
在宅へ戻る可能性もでてくる。
ある。老健施設は訪問看護、訪問リハも含めて訪
さらに、これも算定率は低いが「経口維持加
問系サービスの充実や連携に努める必要がある。
算」というのもある。これは、レントゲンで飲み
b 入所者の退所後 30 日注3 以内に、入所者の居宅を訪問し、又は指定居宅介護支援事業者から情報提供を受けることによ
り、入所者の在宅における生活が 1 月注3 以上継続する見込みであることを確認し、記録していること。
注 3:退所時の要介護状態区分が要介護 4 又は要介護 5 の場合にあっては 14 日
ベッドの
回転
重度者の
割合
その他
30.4
平均在所日数
3 月間のうち、
≧ 10% であること。
※平均在所日数
の考え方 =
3 月間の在所者延日数
3 月間の(新規入所者数+新規退所者数)
/2
a 要介護 4・5 の入所者の占める割合が 35%以上
b 喀痰吸引が実施された入所者の占める割合が 10%以上 のいずれかを満たすこと。
c 経管栄養が実施された入所者の占める割合が 10%以上
リハビリテーションを担当する理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士が適切に配置されていること。
ベッドの回転
視鏡は居室のベッドサイドで実施が可能である。
21 単位(1 日当たり)
6 月間の退所者数注2
込み具合を調べる VF という検査、あるいは喉
頭内視鏡の VE という検査があり、特に喉頭内
在宅復帰・在宅療養支援機能加算
以下の両方を満たすこと。
a 在宅で介護を受けることになったもの注1
在宅復帰の状況
14 ●老健 2013.4
在宅復帰の
状況
> 50% であること。
単位
小さな加算の積み重ねによる
経営基盤の改善を
6 月間の退所者数注2
注 1:当該施設における入所期間が 1 月間を超える入所者に限る。
注 2:当該施設内で死亡した者を除く。
> 30%
注 1:当該施設における入所期間が1 月間を超える入所者に限る。
注 2:当該施設内で死亡した者を除く。
b 入所者の退所後 30 日注3 以内に、入所者の居宅を訪問
し、又は指定居宅介護支援事業者から情報提供を受け
ることにより、入所者の在宅における生活が 1 月注3 以
上継続する見込みであることを確認し、記録している
こと。
注 3:退所時の要介護状態区分が要介護 4 又は要介護 5 の場合
にあっては 14 日
30.4
平均在所日数
≧ 5%
老健施設の経営は危機的状態にある。制度的な
そのどちらかを行った上できちんとケアプランを
改善も必要であるが、現場の老健施設での経営努
立てていけば加算が算定できる。
力としての加算取得も大きな課題である。そうい
老健施設への歯科診療は適正な算定が可能であ
う小さな加算の積み重ねによって、ゆくゆくは在
る。今、歯科医師も訪問診療への意向があるにも
宅強化型施設へと至ることも可能となるからだ。
かかわらず、ニーズがうまくマッチングしていな
細かい加算の要件をみていくと、一見ハードル
い状況だ。したがって、老健施設が訪問歯科を受
帰につながる可能性がでてくる。
が高そうでも、やってみると実はそうでもないと
け入れれば、歯科としても訪問診療と検査料が算
在宅復帰を進めつつベッド稼働率を上げるため
いう加算が案外幾つもあることに気づく。全老健
定でき、施設は経口維持加算が算定可能である。
にはショートステイを徐々に増やしていくと、
としては、会員施設へそれらの情報提供をしてい
高齢になると飲み込む力が弱くなるため食事介助
「個別リハビリテーション実施加算」が算定しや
くことも重要な役目だと思っている。
は家族にとって手間のかかる大きな問題だ。歯科
すくなるということがある。
「
(認知症)短期集中
たとえば認知症短期集中リハ加算や認知症行
医師と協力し上手にケアしていくことで、在宅復
リハビリテーション実施加算」と同じ単位数の加
※平均在所日数 =
3 月間の在所者延日数
3 月間の(新規入所者数+新規退所者数)
/2
※ 1:在宅復帰支援機能加算(Ⅰ)は廃止し、在宅復帰支援型の老人保健施
設の基本施設サービス費の要件として改編
※ 2:在宅復帰支援型の老人保健施設の基本施設サービス費を算定する場合
は、在宅復帰・在宅療養支援機能加算を算定できない。
老健 2013.4 ● 15
特集
介護報酬改定から1年を経て
April Vol.24 No.1
算は非常に大きいため、見直してみる価値はある。
個々の入所者の特性やケアの実践についての情報
今の老健施設の危機的な経営状態を改善してい
共有が容易になると思われる。
「R4 システム」を
く上では、たとえ一つひとつは小さな加算でも地
導入することで、いろいろな加算も算定しやすく
道に算定していくしかないと思う。とはいえ、単
なる。
高齢者はいろいろな疾患をもっており、老健施
にお金だけでは測れない魅力があることを伝えな
に加算による収入を増やすという意味ではなく、
要望書を提出する場合も、その根拠を説明する
設における医師は、広範囲の疾患に対処しなけれ
ければならない。
利用者にとって本当に必要なケア、リハビリを行
ためのデータがなければ説得力をもたないが、
ばならない。老健医師としての研修も必要であろ
排泄の仕事はとかく汚い、面倒だというイメー
う。
ジがある。確かにそういう面は否定できないが、
として残るのも魅力だ。全老健としては、この
そこで老健施設の医師の研修制度を立ち上げる
ケアの工夫によってモチベーションを保つことは
「R4 システム」の普及をしっかりと図っていきた
ことになった。この老健医師研修制度は、日本老
可能である。排泄のパターンには個人差があり、
いと考えている。
年医学会が主催し、老健医師が研修するものとな
そのパターンを見分ければ、早めのトイレ誘導は
「R4 システム」とは、全老健がこれまで研究事
る。これにより全国の老健施設の医師は一定レベ
可能である。何より利用者の快適性が保て、オム
全老健としては今後、
「R4 システム」の普及に
業を積み重ねて来た成果で、まずは施設ケアマネ
ルの知識・情報の共有がなされる。われわれとし
ツの節約や、オムツ交換の回数も少なくすること
力を入れたい。厚生労働省からも高く評価されて
ジメントから着手し、一昨年より本格的に開始。
ても老健施設の医療機能を評価してもらう以上、
ができるといえる。
おり、この「R4 システム」がこれからの老健施
昨年 12 月に、通所版の「R4 システム」が完成
医療技術・知識の研鑽、ひいては質の向上は必要
食事についても、対面して食事の介助をするよ
設の目指す方向の大きなカギとなるだろう。
した。さらに現在、準備を進めているのは、居宅
不可欠だと考えている。
りも、隣に座って、自分の食事も一緒に取りなが
「R4 システム」のいちばんの特長は、個々の利
版の「R4 システム」である。居宅のケアマネ
用者の状態像がよくわかるという点だ。今まで施
ジャーにはアセスメントがきちんとできていない
設ごとにさまざまなアセスメントを独自の方式で
との批判もあるため、居宅ケアマネジャーの資質
やってきて、施設内の多職種間はおろか、組織が
向上という意味でも大いに期待される。
「R4 シス
最後に、今回の改定でも大きな議論があった介
にもつながる。
異なるとそこには別のやり方があり、なかなか互
テム」居宅版は日本介護支援専門員協会と全老健
護職員処遇改善交付金の問題に言及する。
入浴もフロアーごとや部屋ごとに順番を決める
いの共通言語をもてない問題があった。それが
との共同研究で進めていくことが決まっており、
処遇改善交付金は今回の改定で介護職員処遇改
のではなく、気が向いた人から順次入浴できるよ
動き始めたところだ。
善加算として介護報酬に組み込まれた。
うなケアの工夫が必要だと思う。
率直に言って、私はやはり介護の賃金はベース
こういった積み重ねに介護の醍醐味があるよう
が低く、そこにきて老健施設の経営基盤が弱いた
な気がする。
め、介護報酬本体に組み込まれても根本的な処遇
加算や交付金も重要だが、もっと介護は魅力あ
改善は難しいと思っている。現時点では、やはり
る、働きがいのある職場だというイメージを現場
外付けの手当てが必要である。老健連盟からは平
から発信していくことも大事なのかもしれないと
成 24 年度の補正予算で処遇改善交付金として手
思っている。
うことにより、自ずと算定される加算が経営の安
定化につながると思っている。
さらなる普及に向け
力を入れたい「R4 システム」
「R4 システム」という共通言語ができたことで、
「R4 システム」に入力した記録は蓄積されデータ
日本老年医学会の協力を得て
老健施設の医師の研修を実施へ
賃金の向上、モチベーションの
上がる職場づくり
てきているが、やはり、他の業種と比べても、介
護は明らかに低い。どうやって人材を確保したら
よいかとなると、給料もそうだが、この仕事自体
ら食事介助をしてみれば、利用者の食事の好みや
食事のペースがよくわかるものである。何より会
話や触れ合いが実感できてモチベーションアップ
当するよう要望が出ている。
とにかく、今、介護業界はどこに行っても本当
に人材不足である。介護職だけでなく、看護職も
足りていない。被災地が人材不足と言われていて、
もちろんその通りなのだが、特に原発のある福島
は悲惨な状況だ。これからボディブローのように
効いてきて、さらに危機的状況になるのではない
かと危惧している。
また経済がデフレで、全体的にも賃金が下がっ
16 ●老健 2013.4
老健 2013.4 ● 17
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