「P2P の過去・現在・未来」

「P2P の過去・現在・未来」
山口大学 教育学部 情報教育課程数理情報コース
糸長ゼミ 能一貢士 松本慎佑
1.はじめに
近年、様々な情報漏えいが問題になっているが、特に Winny を利用していたパソコンか
ら情報が流れ出るという事件が話題になった。その被害は個人や民間企業だけにとどまら
ず、警察や防衛庁、地方自治体などにも深刻な影響を及ぼした。そのため、当時の警察庁
が 2006 年 3 月に警察官全員に対し公私関係なく Winny の使用を全面禁止とする通達を発
し、3 月 15 日に安倍晋三官房長官(当時)が記者会見で Winny の使用を自粛するよう国民
に呼びかけた。
Winny とはどのようなソフトなのか、なぜ Winny が情報漏えいの原因となったのか。私
たちは、この Winny についてとても関心を持ち、その技術背景となっている P2P 技術につ
いて研究するに至った。
本研究では、P2P とはどのようなシステムなのか、そして P2P を応用したソフトウェア
として広く世間に出回った、Winny、Skype について取り上げる。また、最後に P2P を利
用してどのようなことが可能になるかについて考察した。
2.P2P とは
2.1
クライアント・サーバ型との違い
P2P とは「Peer to Peer」の略で、各コンピュ
ータ同士が直接つながって通信を行うネットワー
• クライアント・サーバ型
クである。インターネットでは、P2P と対照的な
• P2P型
ノード
形態である「クライアント・サーバ型」を用いた
ノード
サーバ
サービスが多い。P2P 型はサービスを提供する特
定のサーバがなく、状況に応じて各コンピュータ
ノード
クライアント
クライアント
がサーバの役割を果たす。また、P2P では各コン
ノード
クライアント
ノード
ピュータのことをノードと呼ぶ。
2.2 P2P の歴史
P2P は歴史とその形態によって 3 種類に分類できる。
① 第一世代 ハイブリッド P2P
クライアント・サーバ型と P2P 型のハイブリッド(混合)。サーバがデータ検索を担当し
て、実際のデータのやり取りはノード同士で行う。代表作は Napster、WinMX。
②
第二世代 ピュア P2P
第一世代と違い、インデックスサーバすら持たない。常に他のノードと接続している。
データのやり取りは、そのノード同士で直接行う。代表作は Gnutella、Winny。
第三世代 スーパーノード型ハイブリッド P2P
③
第二世代では各ノードが状況に応じてサーバの役割をしなければならない。第三世代で
は、ノードの代表者であるスーパーノードのみサーバの役割をする。
2.3 P2P のメリット
スケーラビリティ(拡張性):サーバなど、中心になるものがないので、無限のスケー
ラビリティを持っている。
冗長性:一部のノードがダウンして障害が起きても、システム上影響が出ない。
オフライン利用:データが各ノード上に存在するので、オフライン状態でもデータ編
集・閲覧が可能。
3.Winny
3.1 概観
高速・・・上流
Winny は常に検索リンクでネットワークを
形成している。ファイルの転送を行うときにだ
け転送リンクを開く。特徴として、上流、下流
と言う概念が存在し、高速回線を持つノードほ
ど上流に位置づけられている。これは、上流に
ファイルキャッシュを集中させることで、検索
低速・・・下流
検索リンク・・・・・・コンピュータの情報、キーの交換、ファイルの検索
転送リンク・・・・・・ファイルの転送
時間を短縮するためである。
3.2 ファイル公開からダウンロードまで
アップロードフォルダに公開するファイルを配置すると、
「本体」と「キー」を作成する。
キーには、ファイルの名前や大きさ、更新時刻、ファイルの識別に使うファイル ID(ハッ
シュ値)、ファイル本体の位置情報を示す IP アドレスとポート番号などが含まれている。
ファイルの本体は、ファイルの内容そのものである。作られたキーは、隣のノードを伝っ
てネットワークに広がっていく。そしてダウンロードは以下の要領で行われる。
① 検索クエリをネットワークに放出。クエリは、条件に合うキーを詰め込みながらしば
らくノードを伝った後、元のノードへと送り返される。
② クエリにつまったキーの情報からダウンロードするファイルを選ぶ。
③ ノード同士で転送リンクを張り、ファイル転送を開始する。
3.3 ファイル共有率と匿名性
キー
キーに含まれるファイル本体の位置情報は定期的
に書き換えられる。例えばノード A が公開したキー
Y
キー
X
キー
複製ファイル
Xのキャッシュフォルダ
キー
B
転送リンク
転送リンク
A
複製ファイル
Bのキャッシュフォルダ
キー
オリジナルファイル
ファイル公開
が、ノード X で書き換えられた場合、それ以降はファイルの位置情報を X とするキーが分
散する。このキーを入手した場合、右図のような転送が行われる。
この場合、実際にファイルを持たないノード X が「中継」を行うことでノード A からノ
ード B がダウンロードを行う。ノード B がダウンロードしたファイルはノード A からでは
なくノード X からダウンロードしたものとされるため、実際のオリジナルファイルを持つ
人が分からないということである。また、中継を行ったノード X にもファイルが複製され
るので、知らない間にノード X にもファイルが転送されたことになる。この「中継」を繰
り返すことで、究極のファイル共有率と匿名性を実現している。
このように匿名性を持ったがために、著作権を侵害するファイルや違法ファイルが多数
流通したと考えられる。著作権侵害などの罪で逮捕者も出ており、また製作者である金子
勇氏もこの動きを助長させたとして逮捕された。
4.Skype
4.1 概観
近年急激に普及している、スカイプ・テクノロジーズが開発した電話ソフトである。メ
ッセンジャーソフトと違い、固定電話との通話が可能であり、高い接続状態で利用できる。
また、高音質であり、無料もしくは格安な値段で利用できる。さらに、面倒な設定なしに
ほとんどのネットワーク環境で利用可能であることも普及した一因となっている。
Skype ではスーパーノードをリーダーとするグループに別れ、グループごとに電話帳を
持っている。グループ分けの基準は、ID(電話番号の代わり)をハッシュ関数で変換した
数値によって決められている。
4.2 電話のかけ方
電話のかけ方は、グループ内、グループ外によって 2 通りに分かれる。
違うグループ同士の場合
同じグループ同士の場合
Akira
① グループAのスー
パーノードに、通信
相手のIPアドレス
を問い合わせ
ググルルーーププ
AAのの電電話話
帳帳
グループB
グルー プ A
(グループAの
スーパーノード)
① Aiko さ ん の IP ア
ドレスを教えて
② 電話帳を見て、AikoさんのIP
アドレスを通知
Alice
Aiko
③ スーパーノードから聞いたIPアドレスを
利用し、Aikoさんに電話をかける
② グループBのスーパーノードに、
BeckyさんのIPアドレスを問い
合わせ
Aiko
Akira
Bill
Becky
Alice
グ
グル
ルー
ー
プ
プA
Aの
の
電話帳
電話帳
③ BeckyさんのIPアド
レスをAグループの
スーパーノードに回答
グ
グル
ルー
ー
プ
プ BB の
の
電話帳
電話帳
④ BeckyさんのIPア
ドレスを回答
4.3 認証と暗号
Winny と違い、Skype は誰が利用し誰と通話しているかをはっきりさせる必要がある。
まず、ユーザーがスカイプを起動すると、スカイプテクノロジーズのサーバに ID とパス
ワードを送信する。するとサーバが ID とパスワードが正しいかを確認。正しいものだった
ら、
「この人は本物」という証明書を送信する。証明書を受け取ったユーザーは、他の人に
電話をかけるときに、証明書を送って本人であることを証明する。
下図はその証明書で利用している RSA 暗号、そして盗聴対策で利用されている AES 暗
号の仕組みを示したものである。
セキュリティ②(AES暗号)
セキュリティ①(RSA暗号)
アイウエオ
暗号化
復号
RSAで暗号化した
共通鍵
複合
暗号化データ
秘密鍵
○△?×
○△?×
公開鍵
アイウエオ
共通鍵
共通鍵
もしもし
もしもし
B
インター
インター
ネット
ネット
B
A
○△?×
公開鍵で復号できた
→秘密鍵を持っている
この人は確かにBさんだ
A
インター
インター
ネット
ネット
○△?×
通話
5.P2P のこれから
P2P はこれから様々な利用法が考えられる。その中でも私たちは、自分たちの実体験
から教育学部でシステムを利用できないかと考えた。
右図は、生の授業する様子を Skype を通じて
参観するシステムを表したものである。また同
授業
業の
の
授
資料
料
資
学生
時に授業資料も配信する。この方法を用いれば、
参観と同時に授
業資料を配布
授業を参観する機会が増え、より基本実習に入
学生
りやすくなるだろうと考えた。
学生
ただし、このシステムを Skype で行うには、
足りない機能がいくつかある。一つ目は映像配
学生
学生
P2Pネットワークを通じて授業参観
信は複数人に行えないという点。一対一なら音声と同時に映像配信もできるが、今の Skype
では複数人では使えない。二つ目は7人以上で同時に通話ができないという点。今の Skype
では、8人まで同時に通話が可能である。一つは授業側に必要なので、残りの 7 人しか授
業参観ができないということになる。
改善方法として、Skype 自体の改良、もしくは足りない機能を他のソフトウェアで補い、
Skype と連携させる方法が考えられる。
最後に、P2P=ファイル共有ソフト=「悪」ではないということを言っておく。悪用され
るのはユーザー側の問題で、使いようによってはとても便利なシステムとなる。P2P のこ
れからの未来に期待したい。
参考文献
金子勇、Winny の技術、アスキー、2005
池嶋俊、入門
Skype の仕組み、日経 BP 社、2005
岩田真一、なるほどナットク!P2P がわかる本、オーム社、2005
徳力基彦、図解 P2P ビジネス、翔泳社、2005