Discussion Paper No. 667 日本の「失われた10年」の原因:

Discussion Paper No. 667
日本の「失われた10年」の原因:
家計消費の役割
チャールズ・ユウジ・ホリオカ
June 2006
The Institute of Social and Economic Research
Osaka University
6-1 Mihogaoka, Ibaraki, Osaka 567-0047, Japan
日 本 の 「 失 わ れ た 10 年 」 の 原 因 : 家 計 消 費 の 役 割
チャールズ・ユウジ・ホリオカ
大阪大学社会経済研究所教授
2006 年 6 月 29 日
要約
1990 年 代 に お い て 日 本 経 済 は 長 期 に わ た る 低 迷 を 経 験 し た が ,本 稿 で は ,ま ず ,
需 要 側 の デ ー タ を 用 い て GDP 成 長 の 要 因 分 析 を 行 い , 投 資 ( 特 に 民 間 固 定 資 本
形成)の停滞が日本経済の長期低迷の主因であり,政府消費,純輸出はむしろG
D P 成 長 を 下 支 え し ,家 計 消 費 は そ の 中 間 だ っ た と い う こ と を 明 ら か に し て い る .
次 に ,1990 年 代 の 家 計 消 費 の 停 滞 の 原 因 に つ い て 検 証 し ,家 計 の 可 処 分 所 得 の 低
迷 ,地 価・ 株 価 の 暴 落 に よ る 家 計 資 産 の 減 少 ,将 来( 特 に ,老 後 や 公 的 老 齢 年 金 )
に対する不確実性の上昇,将来展望の悪化などが原因だったことを明らかにして
い る .最 後 に ,1990 年 代 の 日 本 経 済 の 長 期 低 迷 の 原 因 と し て ,需 要 側 の 要 因 と 供
給側の要因のどちらがより重要だったのかについて検証し,前者(政府の誤った
経済政策を含む)がおそらくより重要だったと結論付けている.
連絡先:
〒 567-0047 大 阪 府 茨 木 市 美 穂 ケ 丘 6-1
大阪大学社会経済研究所
Tel.: 81-6-6879-8586
Fax: 81-6-6878-2766
email: [email protected]
1. は じ め に
1990 年 代 に お い て 日 本 経 済 は , 10 年 以 上 に わ た り , ほ ぼ 一 貫 し て 低 迷 し ( い
わ ゆ る 「 失 わ れ た 10 年 」), こ の 期 間 に お け る 日 本 の 経 済 成 長 率 は , 世 界 の 主 要
先 進 国 中 最 低 だ っ た . 例 え ば , 1995-2002 年 の 間 , 日 本 の 実 質 GDP 成 長 率 は 年
率 平 均 で 1.2% に 過 ぎ ず , そ の 他 す べ て の G7 各 国 ―カ ナ ダ ( 3.4% ), ア メ リ カ
( 3.2% ),イ ギ リ ス( 2.7% ),フ ラ ン ス( 2.3% ),イ タ リ ア( 1.8% ),ド イ ツ( 1.4% )
―よ り も 低 く , し か も G 7 以 外 の 主 要 な OECD 加 盟 国 ―韓 国 ( 5.3% ), オ ー ス ト
ラ リ ア ( 3.8% ), ス ペ イ ン ( 3.3% ), オ ラ ン ダ ( 2.9% ), メ キ シ コ ( 2.6% ) ―の
半 分 以 下 で あ り , OECD 加 盟 国 の 平 均 ( 2.7% ) の 半 分 以 下 で も あ っ た .
図 1 は , 1980-2003 年 に お け る 実 質 GDP と 家 計 消 費 の 実 質 成 長 率 の 推 移 を 示
し て お り , こ の 図 か ら 分 か る よ う に , GDP 成 長 率 は 1980-1991 の 期 間 ( い わ ゆ
る「 バ ブ ル 期 」)に お い て は 比 較 的 高 く ,1991-2003 年 の 期 間( い わ ゆ る「 バ ブ ル
崩 壊 期 」) に お い て は 極 め て 低 か っ た . こ れ は 表 1 の 1 列 目 か ら も 確 認 で き る .
こ の 表 か ら 分 か る よ う に ,GDP 成 長 率 は ,1980-91 年 の 間 ,平 均 し て 3.89% に も
の ぼ っ た の に 対 し ,1991-2003 年 の 間 は 平 均 し て 1.14%( 1980-1991 年 に お け る
水 準 の 3 分 の 1) に 過 ぎ な か っ た .
何 が GDP 成 長 率 を 急 激 に 減 少 さ せ , 10 年 以 上 に も わ た り , そ の 低 い 水 準 を 持
続 さ せ た の だ ろ う か ? 本 稿 で は , ま ず , 需 要 側 の デ ー タ を 用 い て GDP 成 長 の 要
因分析を行い,日本経済の長期低迷がどの程度家計消費の停滞によるものだった
の か を 明 ら か に す る . 次 に , 1990 年 代 の 家 計 消 費 の 停 滞 の 原 因 に つ い て 検 証 し ,
最 後 に ,1990 年 代 の 日 本 経 済 の 長 期 低 迷 の 原 因 と し て 需 要 側 と 供 給 側 の 要 因 の ど
ちらがより重要だったのかについて検証する.
本 稿 の 構 成 は 以 下 の 通 り で あ る .第 2 節 で は ,GDP 成 長 の 要 因 分 析 に 関 す る 結
果を紹介し,第 3 節では,家計消費の停滞の原因について検証し,第 4 節では,
日本経済の長期低迷の原因として,需要側と供給側のどちらの要因がより重要だ
1
ったのかについて検証し,第 5 節では,結論を述べる.
本稿の主要な結果について先に述べる.GDP成長の要因分析の結果からは,
投 資 ( 特 に , 民 間 固 定 資 本 形 成 ) の 停 滞 が 1990 年 代 に お け る 日 本 経 済 の 長 期 低
迷 の 主 因 で あ り , 政 府 消 費 , 純 輸 出 は む し ろ GDP 成 長 を 下 支 え し , 家 計 消 費 は
そ の 中 間 だ っ た と い う こ と が 分 か っ た .ま た ,1990 年 代 の 家 計 消 費 の 停 滞 は 主 に
家 計 の 可 処 分 所 得 の 低 迷 ,地 価・株 価 の 暴 落 に よ る 家 計 資 産 の 減 少 ,将 来( 特 に ,
老後や公的老齢年金)に対する不確実性の上昇,将来展望の悪化などによるもの
だ っ た と い う こ と が 分 か っ た .最 後 に ,1990 年 代 の 日 本 経 済 の 長 期 低 迷 の 原 因 と
して,需要側(政府の誤った経済政策を含む)の要因が恐らく供給側の要因より
も重要だったと結論付けている.
2. GDP 成 長 の 要 因 分 析
本 節 で は , 1991-2003 年 の 期 間 に お け る GDP 成 長 の 要 因 分 析 を 行 い , 日 本 経
済の長期低迷がどの程度家計消費の停滞によるものだったのかを明らかにする.
こ の 分 析 に 際 し , 国 内 総 生 産 ( GDP) を 次 の 6 つ の 構 成 要 素 に 分 解 す る : 家 計
現 実 最 終 消 費 ( 以 下 ,「 家 計 消 費 」), 政 府 現 実 最 終 消 費 (「 政 府 消 費 」), 国 内 民 間
総 固 定 資 本 形 成(「 民 間 固 定 投 資 」),国 内 公 的 総 固 定 資 本 形 成(「 政 府 固 定 投 資 」),
在 庫 品 増 加(「 在 庫 品 投 資 」),財 貨・サ ー ビ ス の 純 輸 出(「 純 輸 出 」).家 計 消 費 は ,
「現物社会給付」
( 家 計 が 医 療 サ ー ビ ス・介 護 サ ー ビ ス を 消 費 す る 際 に 受 け る 医 療
保 険 給 付・ 介 護 保 険 給 付 )と 政 府 か ら の「 個 別 的 非 市 場 財・サ ー ビ ス の 移 転 」
(教
科書購入費,児童保護費等負担金など)及び対家計民間非営利団体からの「個別
的 非 市 場 財・サ ー ビ ス の 移 転 」
( 私 立 保 育 園 の 経 営 費 ,美 術 館 や 動 物 園 の 運 営 費 な
ど)から構成される「現物社会移転」を含む家計消費を指し,標準的な概念とは
異なる.現物社会移転の各構成要因の消費は,最終的には家計に便益を与えるた
め,それらを家計消費に含むことが好ましい.逆に,政府消費は,政府から家計
への現物社会移転を除いており,政府消費の標準的な概念とは異なる.
2
ま ず ,図 1 を 見 る と ,1991-2003 年 の 期 間 に お い て ,12 年 中 8 年 に お い て ,家
計 消 費 の 成 長 率 が ,GDP の 成 長 率 を 超 え て い た こ と が 分 か る .こ れ は 家 計 消 費 が ,
経済の足かせになっていたわけではなく,むしろ,経済がさらに低迷することを
阻止したことを示唆する.
表 1 の 最 初 の 2 列 は , 1980-91 年 及 び 1991-2003 年 に お け る GDP お よ び そ の
構 成 要 因 の 年 平 均 実 質 成 長 率 ( 以 下 , 成 長 率 ) を 示 す . ま ず , 1991-2003 年 に つ
い て 見 る と ,こ の 期 間 に お け る GDP 成 長 率 は ,1.14% に 過 ぎ な か っ た の に 対 し ,
家 計 消 費 の 成 長 率 は 1.56% だ っ た .よ っ て ,1991-2003 年 に お い て ,家 計 消 費 の
成 長 率 は GDP 成 長 率 よ り も 幾 ら か 高 く , こ の こ と は , 家 計 消 費 が 経 済 の 足 か せ
に な っ て い た わ け で は な く , む し ろ GDP 成 長 率 を 高 め て い た こ と を さ ら に 裏 付
ける.ただし,家計消費の成長率は,絶対的に高かったわけではなく,純輸出
( 6.39%) や 政 府 消 費 ( 3.22%) の よ う な 他 の GDP の 構 成 要 因 の 成 長 率 ほ ど 高 く
は な く , GDP の 6 構 成 要 因 中 , 3 位 で し か な か っ た こ と に 留 意 さ れ た い .
経済成長の足かせになったのは投資(民間および政府の固定投資および在庫品
投 資 ) で あ り , 1991-2003 年 の 間 , 投 資 関 連 の 3 つ の 構 成 要 因 は G D P よ り 低 い
成長率を示しただけではなく,負の成長を示した:政府固定投資の成長率は
-0.24%で あ り ,民 間 固 定 投 資 の 成 長 率 は -0.59%で あ り ,在 庫 品 投 資 の 成 長 率 は( 最
後の年の値が負だったため)大きく負だったが,計算できない.民間固定投資の
内 訳 を み て み る と , 民 間 の 住 宅 投 資 の 減 少 ( -2.48%) は 設 備 投 資 ( -0.14%) の そ
れよりも遥かに顕著であり,民間の住宅投資の停滞が日本経済の長期低迷の主因
だったかのように見える.
表 1 の 第 3 列 ,第 4 列 は 1980-91 年 お よ び 1991-2003 年 に お け る 実 質 G D P の
各 構 成 要 因 の 寄 与 度 を 示 す . ま ず , 1991-2003 年 に つ い て 見 る と , 家 計 消 費 の 実
質 G D P 成 長 へ の 寄 与 度( 85.40%)が 群 を 抜 い て 大 き か っ た .政 府 消 費 の 寄 与 度
( 18.64%) が 2 番 目 に 大 き く , 純 輸 出 の 寄 与 度 ( 13.07%) が 3 番 目 に 大 き か っ
た.政府固定投資,在庫品投資,民間固定投資の実質GDP成長への寄与度はす
べ て 負 で あ り , そ れ ぞ れ -1.26%, -4.35%お よ び -11.49%で あ り , 民 間 固 定 投 資 の
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寄与度(の絶対値)は特に大きかった.民間固定投資の内訳を見てみると,民間
住 宅 投 資 が 民 間 固 定 投 資 の 負 の 寄 与 度 の 81%を 占 め て お り ,こ の 結 果 も 民 間 住 宅
投資が日本経済の長期低迷の主因であることを示唆する.
GDPの各構成要因の成長率および寄与度に関する以上の結果の一部は互いに
矛盾するが,矛盾は各構成要因のGDPシェアによって説明できる.例えば,家
計消費の成長率が3位に過ぎなかったのにもかかわらず,実質GDP成長への寄
与度が群を抜いて大きかったのは,家計消費のGDPシェアが群を抜いて高く,
6 割 を 越 え て い る か ら で あ る( 表 2 参 照 ).逆 に ,純 輸 出 の 成 長 率 が 群 を 抜 い て 高
かったのにもかかわらず,実質成長率への寄与度が3位に過ぎなかったのは,純
輸出のGDPシェアが小さい(3%以下,6構成要因中5位)からである.
次 に , 1991-2003 年 に お け る 日 本 経 済 の G D P 成 長 の 要 因 分 析 の 結 果 を そ の す
ぐ 前 の 1980-91 年 の そ れ と 比 較 す る .ま ず 表 1 の 第 1 列 ,第 2 列 を 比 較 す る こ と
に よ っ て G D P お よ び そ の 構 成 要 因 の 成 長 率 を 比 較 す る と , 1991-2003 年 に お け
る G D P 成 長 率 は 1980-91 年 の 3 分 の 1 以 下 だ っ た( 1.14%対 3.89%).家 計 消 費
の 成 長 率 は 両 期 間 に お い て 3 位 だ っ た が , 1991-2003 年 に お け る 成 長 率 は
1980-91 年 に お け る そ れ よ り も 遥 か に 低 か っ た ( 1.56%対 3.59%). そ れ で も ,
1980-91 年 に お い て は 家 計 消 費 の 成 長 率 は G D P の そ れ を 下 回 っ た の に も 対 し ,
1991-2003 年 に お い て は G D P の そ れ を 上 回 っ た .
両期間におけるGDPのそれ以外の構成要因の成長率を比較すると,純輸出の
1991-2003 年 の 成 長 率 は 1980-91 年 の そ れ よ り も 遥 か に 高 く ,そ の 順 位 も 遥 か に
高 か っ た ( 1 位 対 6 位 ). 同 様 に , 政 府 消 費 の 1991-2003 年 の 成 長 率 は 1980-91
年 の そ れ よ り も 僅 か な が ら 低 か っ た が ,そ の 順 位 は 遥 か に 高 か っ た( 2 位 対 4 位 ).
逆 に ,G D P の 投 資 関 連 の 構 成 要 因( 民 間 固 定 投 資 ,政 府 固 定 投 資 ,在 庫 品 投 資 )
の 成 長 率 は 1980-91 年 に お い て す べ て 正 で あ り ,在 庫 品 投 資 と 民 間 固 定 投 資 は そ
れ ぞ れ 1 位 と 2 位 だ っ た の に 対 し , 1991-2003 年 に お い て す べ て 負 だ っ た .
次に,表1の第3列と第4列を比較することによって両期間における各構成要
因の実質GDP成長への寄与度を比較する.まず家計消費について見ると,家計
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消 費 の 実 質 G D P 成 長 へ の 寄 与 度 は 両 期 間 に お い て 群 を 抜 い て 高 く , 1991-2003
年 に お け る 成 長 率 が 1980-91 年 の そ れ よ り も 遥 か に 低 く ,絶 対 的 に も 低 か っ た に
も か か わ ら ず ,1991-2003 年 に お け る 寄 与 度 は 1980-91 年 の そ れ よ り も 遥 か に 高
か っ た( 85.40%対 57.24%).な ぜ な ら ば ,1991-2003 年 に お け る G D P の 成 長 率
自 体 が 1980-91 年 の そ れ よ り も 遥 か に 低 か っ た か ら で あ る .
政 府 消 費 と 純 輸 出 の 実 質 G D P 成 長 へ の 寄 与 度 は 1980-91 年 の 場 合 よ り も
1991-2003 年 の 場 合 の ほ う が 遥 か に 高 く ,そ れ ら の 順 位 も そ れ ぞ れ 3 位 か ら 2 位 ,
6位から3位まで上昇した.それに対し,民間固定投資,政府固定投資,在庫品
投 資( 特 に 民 間 固 定 投 資 )の 実 質 経 済 成 長 へ の 寄 与 度 は 1980-91 年 に お い て は す
べ て 正 だ っ た の に 対 し , 1991-2003 年 に お い て は す べ て 負 だ っ た . 最 も 顕 著 な ケ
ースは民間固定投資の場合であり,この構成要因の実質GDP成長への寄与度は
1980-91 に お い て は 34.09% に も 上 っ た の に 対 し , 1991-2003 年 に お い て は
-11.49%で あ り ,そ の 寄 与 度 は 実 に 45.58 ポ イ ン ト も 減 少 し た .こ れ ら の 結 果 は ,
投 資 ( 特 に 民 間 固 定 投 資 ) の 変 動 が い か に 激 し く , 日 本 経 済 の 1991 年 以 降 の 長
期低迷の主犯格だったかということを示唆する.
この主張をより直接的に検証するために,次は,GDPの各構成要因の年平均
実質成長率の両期間間の変化およびGDPの各構成要因の実質GDP成長の両期
間間の変化への寄与度について検証する.まず,成長率の変化(表3の第1列)
に つ い て 見 る と , 家 計 消 費 の 成 長 率 は 1980-91 年 と 1991-2003 年 の 間 2.03 ポ イ
ン ト 減 少 し ,減 少 幅 は G D P 成 長 率 の 減 少 幅( 2.75 ポ イ ン ト )よ り は 大 分 少 な い .
この結果は,家計消費が経済の足かせになっていたわけではないことをさらに裏
付ける.
次に,GDPの他の構成要因の成長率の変化について見ると,成長率が上昇し
た の は 純 輸 出 の 場 合 だ け だ っ た ( 5.60 ポ イ ン ト の 上 昇 ). G D P の そ れ 以 外 の す
べ て の 構 成 要 因 の 成 長 率 は 減 少 し た:政 府 消 費 の 場 合 は 0.32 ポ イ ン ト ,政 府 固 定
投 資 の 場 合 は 1.09 ポ イ ン ト , 民 間 固 定 投 資 の 場 合 は 6.70 ポ イ ン ト 減 少 し , 在 庫
品投資の場合は大きく減少したが,具体的には計算できない.民間固定投資につ
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い て よ り 詳 し く 見 る と ,民 間 設 備 投 資 の 成 長 率 は 実 に 7.59 ポ イ ン ト 減 少 し ,減 少
幅 は 民 間 住 宅 投 資 ( 4.92 ポ イ ン ト ) よ り も 遥 か に 大 き く , 民 間 住 宅 投 資 が 1990
年代の日本経済の長期低迷の主因だったようであるという上述の主張と矛盾する.
最 後 に ,G D P の 各 構 成 要 因 の 実 質 G D P 成 長 の 両 期 間 間 の 減 少 へ の 寄 与 度( 表
3の第2列)について見る.この表から分かるように,民間固定投資の実質GD
P 成 長 の 減 少 へ の 寄 与 度 が 群 を 抜 い て 高 く( 67.91%),家 計 消 費 が 2 位( 36.34%),
在 庫 品 投 資 が 3 位 ( 5.22%), 政 府 固 定 投 資 が 4 位 ( 3.84%) だ っ た . G D P の そ
れ以外の構成要因(政府消費と純輸出)の実質GDP成長の減少への寄与度は負
であり,これらの要因はGDP成長を下支えしたことを意味する.民間固定投資
についてより詳しく見ると,民間設備投資の実質GDP成長の減少への寄与度は
54.86%で あ り , こ の 寄 与 度 は 民 間 住 宅 投 資 の 寄 与 度 ( 13.05%) よ り も 遥 か に 高
か っ た . こ の 結 果 も , 民 間 住 宅 投 資 が 1990 年 代 の 日 本 経 済 の 長 期 低 迷 の 主 因 だ
ったようであるという上述の主張と矛盾する.
これらの結果から以下のことが分かる.すなわち,投資(特に民間固定投資)
が 1990 年 代 の 日 本 経 済 の 長 期 低 迷 の 主 因 で あ り , 純 輸 出 と 政 府 消 費 が 経 済 を 下
支えした.また,家計消費はその中間にあり,実質GDP成長に最も貢献したも
のの,同時に実質GDP成長の減少にもかなり貢献した.
投資(特に民間固定投資)が長期間停滞していた原因については詳しく検証す
ることはできないが,先行研究によると,以下のような要因が貢献したと考えら
れ る .( 1 ) 1980 年 後 半 の バ ブ ル 経 済 の 崩 壊 が 資 産 価 格 ( 株 価 , 地 価 ) の 暴 落 を
招き,それがさらに金融危機と不良債権の増加をもたらし,それがさらに貸し渋
り(「 ク レ ジ ッ ト・ク ラ ン チ 」)と シ ス テ ミ ッ ク・リ ス ク の 増 加 を も た ら し た こ と ,
( 2 ) 1993 年 に B I S 規 制 が 導 入 さ れ た こ と に よ る 更 な る 貸 し 渋 り ,( 3 ) 金 融
危機および不良債権問題への政府の対応が不十分だったこと,
( 4 )バ ブ ル 期 に お
いては,過度に拡張的な金融政策の影響もあり,設備に対する大規模な過剰投資
がなされ,バブル崩壊期においては,企業は超過設備をなくすため,固定投資を
大幅に削減したこと,
( 5 )バ ブ ル 崩 壊 期 に お い て は ,財 政 政 策・金 融 政 策 に よ る
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刺 激 が 不 十 分 だ っ た た め ,有 効 需 要 が 不 十 分 だ っ た こ と ,
( 6 )日 本 経 済 の 将 来 展
望の悪化.
3.家計消費の停滞の原因
第 2 節 で は , 家 計 消 費 が 1990 年 代 の 日 本 経 済 の 長 期 低 迷 の 主 因 で は な か っ た
こ と が わ か っ た が ,こ の 時 期 に お い て 家 計 消 費 が 停 滞 し て い た こ と も 確 か で あ る .
本 節 で は , 1991-2003 年 に お け る 家 計 消 費 の 停 滞 の 原 因 に つ い て 検 証 す る ( 詳 細
に つ い て は , 日 本 銀 行 調 査 統 計 局 ( 1998) 参 照 ).
経 済 理 論 に よ れ ば , 家 計 消 費 は ( 1 ) 家 計 可 処 分 所 得 ,( 2 ) 家 計 資 産 ,( 3 )
将 来 の 所 得 ,雇 用 ,老 後 ,公 的 年 金 な ど に 対 す る 不 確 実 性 ,
( 4 )所 得 ,雇 用 な ど
に対する将来展望などによって決まるはずである.
も し 1991-2003 年 に お い て ,( 1 )家 計 可 処 分 所 得 が 低 迷 し ,( 2 )家 計 資 産 が
減 少 し ,( 3 ) 将 来 に 対 す る 不 確 実 性 が 増 加 し ,( 4 ) 将 来 展 望 が 悪 化 し た の で あ
れば,これらの要因によって家計消費の停滞を説明することができる.
① 家計可処分所得の低迷
家 計 可 処 分 所 得 の 年 平 均 実 質 成 長 率 は 1980-91 年 に お い て は 3.32%だ っ た の
に 対 し ,1991-2003 年 に お い て は 0.98%に 過 ぎ ず ,3 分 の 1 以 下 に 落 ち 込 ん だ 1 .
し か も , 1991-2003 年 に お け る 家 計 可 処 分 所 得 の 年 平 均 実 質 成 長 率 は 同 じ 期 間
に お け る 家 計 消 費 の 年 平 均 実 質 成 長 率 ( 1.56%) よ り も 遥 か に 低 く , こ れ ら の
結果は,家計可処分所得の低迷は家計消費の停滞の主因であり,家計消費を押
し上げる他の要因がなかったら,家計消費の停滞がさらに顕著だったであろう
ことを示唆する.
1
これらの値は家計可処分所得(現物社会移転を含む)の年平均実質成長率を示
す.家計現実最終消費(現物社会移転を含む)のデフレーターを用いて実質化し
た.
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② 家計資産の減少
1990 年 以 降 は バ ブ ル が 崩 壊 し ,株 価 と 地 価 が 暴 落 し ,そ れ が 家 計 資 産 の 減 少
を も た ら し た . そ の 結 果 , 1991− 2003 年 に お い て は , 家 計 資 産 の 実 質 価 値 は
平 均 し て 毎 年 0.39%減 少 し 2 ,そ れ が 家 計 消 費 の 停 滞 を 助 長 し た 可 能 性 が 充 分 あ
る.これはいわゆる「逆資産効果」である.
③ 将来に対する不確実性の増加
も し 1991-2003 年 に お け る 家 計 消 費 の 停 滞 が 将 来 に 対 す る 不 確 実 性 の 増 加 に よ
る も の で あ れ ば , 家 計 貯 蓄 率 が 増 加 し た は ず で あ る が , 実 際 は ( 1996-98 年 の 期
間 を 除 け ば ) 1991-2003 年 の 期 間 を 通 し て 急 速 に 低 下 し た . 分 母 で あ る 家 計 可 処
分所得が現物社会移転を含み,より正しい概念である調整貯蓄率のデータによれ
ば , 家 計 貯 蓄 率 は 1991-2003 年 の 間 , 13.3%か ら 3.3%ま で 低 下 し , 僅 か 12 年 で
元 の 水 準 の 4 分 の 1 ま で 下 が っ て し ま っ た( 表 4 参 照 ).従 っ て ,家 計 貯 蓄 率 の 動
向を見る限り,家計消費の停滞は将来に対する不確実性の増加によるものではな
さそうである.
予 備 的 貯 蓄 に 関 す る よ り 厳 密 な 分 析 と し て , Ginama (1988), 小 川 (1991), 中
川 (1999),土 居 (2001,2003),村 田( 2003a),Murata( 2003b),齊 藤・白 塚 (2003a,
2003b), Zhou (2003)な ど が あ る . こ れ ら の 論 文 は 所 得 , 雇 用 , 年 金 , 老 後 な ど
に関する不確実性がもたらす予備的貯蓄について分析し,どれもある程度重要で
あるが,特に老後・年金に関する不確実性が重要であるといった結果を得ている
( よ り 詳 細 な サ ー ベ イ に つ い て は , Horioka(2006)を 参 照 ).
しかも,金融広報中央委員会が毎年実施している「家計の金融資産に関する世
論 調 査 」 に よ る と , 1991-2003 年 に お い て , 老 後 の 生 活 資 金 に 当 て る た め に 貯 蓄
をしている回答者の割合も,老後の生活について心配している定年前の回答者の
2
家計資産は家計現実最終消費(現物社会移転を含む)のデフレーターを用いて
実 質 化 し た .家 計 資 産 は 暦 年 末 で 評 価 さ れ る た め ,暦 年 末 の デ フ レ ー タ ー と し て ,
当年第四・四半期のデフレーターと翌年第一・四半期のデフレーターの平均を用
いた.
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割合も,老後の生活について心配している定年前の回答者のうち,老後の年金や
保険が充分ではないから心配している回答者の割合も急増し,これらの結果は,
1991-2003 年 に お い て , 老 後 ・ 年 金 に 関 す る 不 確 実 性 が 急 増 し , そ れ が 予 備 的 貯
蓄を増加させ,家計消費の停滞を悪化させたことを示唆する(詳細なデータは
Horioka (2006) に 示 さ れ て い る ). Horioka (2001)が 述 べ て い る 通 り , こ の 時 期
においては,公的年金制度がたびたび改正され,保険料・支給開始年齢の引き上
げ,給付の削減などが実施され,それが老後・年金に関する不安を高めたことが
充分考えられる.
④ 将来展望の悪化
将来に対する不確実性が増加しなくても,所得,雇用などに関する将来展望が
悪 化 す れ ば ,そ れ に よ っ て も 家 計 消 費 が 抑 制 さ れ る .土 居 (2001,2003)に よ れ ば ,
所得に対する将来展望の影響は明確ではないが,雇用に対する将来展望は有意に
家 計 貯 蓄 率 を 上 昇 さ せ る と い っ た 結 果 を 得 て い る .1990 年 代 を 通 し て 日 本 の 失 業
率 は 一 貫 し て 上 昇 し ,2002 年 8 月 に は 史 上 最 高 の 水 準( 5.5%)を 記 録 し た の で ,
人々が雇用の将来展望が悪化したと思ってもなんら不思議ではない.
し た が っ て ,1990 年 代 の 家 計 消 費 の 停 滞 は ,家 計 の 可 処 分 所 得 の 低 迷 ,地 価 ・
株価の暴落による家計資産の減少,将来(特に,老後や公的老齢年金)に対する
不確実性の上昇,将来展望の悪化などによるようである.
4.需要側の要因と供給側の要因
こ れ ま で は , 日 本 経 済 の 1990 年 代 に お け る 長 期 低 迷 の 原 因 と し て 需 要 側 の 要
因 に 着 目 し て き た .Posen (1998),Bayoumi (2001),原 田・岩 田 (2002),野 口 (2002,
2004), 竹 森 (2002) も 需 要 側 の 要 因 を 重 視 す る . し か し , 小 林 ・ 加 藤 (2001),
Hayashi and Prescott (2002), 林 (2003), 宮 川 (2003, 2004), 小 川 (2003),
9
Kawamoto (2004)お よ び Kobayashi and Inada (2005) は 供 給 側 の 要 因 を 重 視 す
る ( 簡 潔 な サ ー ベ イ と し て 宮 尾 (2006)が あ る ) 3 .
長期低迷の原因として需要側の要因を重視する研究者は,第2節の終わりで列
挙している6つの要因を重視する.また,供給側の要因を重視する研究者の主張
を 紹 介 す る と , Hayashi and Prescott (2002) は , 1990 年 代 に お け る 日 本 経 済 の
長 期 低 迷 は 主 に 全 要 素 生 産 性 (TFP)の 成 長 率 の 減 少 お よ び 労 働 基 準 法 の 1988 年
の 改 定 に 伴 っ て 1988-93 年 の 間 ,労 働 時 間 が 44 時 間 か ら 40 時 間 に 減 少 し た こ と
に よ る も の で あ り , 1996-98 年 の 時 期 を 除 け ば , 金 融 制 度 の 崩 壊 は 重 要 で は な か
っ た と い う 結 果 を 得 て い る .そ れ に 対 し ,Kawamoto (2004)は ,1990 年 代 に お い
て 日 本 で 技 術 進 歩 率 が 減 速 し た と い う 証 拠 は ほ と ん ど ,あ る い は 全 く 見 出 さ れ ず ,
循環的な資本・労働の稼働率の減少と,規模の経済効果が小さい産業に生産要素
が 集 中 的 に 配 分 さ れ た こ と の 両 者 が ,技 術 進 歩 と は 無 関 係 な TFP 成 長 率 の 減 少 を
引 き 起 こ し た と い っ た 結 果 を 得 て い る . ま た , Kobayashi and Inada (2005) は
1990 年 代 前 半 に お い て は , 名 目 賃 金 の 下 方 硬 直 性 が 実 質 賃 金 の 上 昇 を も た ら し ,
それが雇用の削減をもたらし,さらにそれが経済低迷をもたらしたと主張する.
さ ら に , 宮 尾 (2006)は , 特 に 1993 年 以 降 , 負 の 生 産 性 シ ョ ッ ク が 継 続 し て 発 生
し , そ れ が 1990 年 代 以 降 の 需 要 不 足 を 説 明 す る 基 調 的 な 要 因 と な り , こ う い っ
たショックが長期的な成長見通しを通じて総需要へもフィードバックした可能性
があることを示している.
つ ま り ,1990 年 代 の 日 本 経 済 の 長 期 低 迷 は 需 要 側 の 要 因 に も ,供 給 側 の 要 因 に
もより,しかも両者の間に相互依存関係がある.したがって,需要側の要因のほ
うが重要だったのか,供給側の要因のほうが重要だったのかは明確ではないが,
データおよび先行研究から判断する限り,需要側の要因のほうが重要だったよう
である.また,最も重要な要因は民間固定投資の停滞であり,民間固定投資の停
滞 は 1980 年 代 後 半 の バ ブ ル 期 に お け る 過 剰 投 資 , バ ブ ル 崩 壊 後 の 資 産 価 格 の 暴
Blomstrom, et al. (2003), Callen and Ostrey (2003), 浜 田 他 (2004), 原 田 ・
岩 田 (2002),岩 田・三 木 谷 (2003),Mikitani and Posen (2000)お よ び Saxonhouse
and Stern (2004) に 収 録 さ れ て い る 論 文 を 参 照 .
3
10
落,これらの出来事に対する政府・日本銀行の不十分な対応(バブル期における
過度に拡張的な金融政策,バブル崩壊後の過度に緊縮的な財政金融政策および金
融危機,不良債権問題への対応の遅れなど)によるものだった.
5.結論
1990 年 代 に お い て 日 本 経 済 は 長 期 に わ た る 低 迷 を 経 験 し た が , 本 稿 は , ま ず ,
需 要 側 の デ ー タ を 用 い て GDP 成 長 の 要 因 分 析 を 行 い , 投 資 ( 特 に 民 間 固 定 資 本
形成)の停滞が日本経済の長期低迷の主因であり,政府消費,純輸出はむしろG
DP成長を下支えし,家計消費はその中間だったということを明らかにした.次
に ,1990 年 代 の 家 計 消 費 の 停 滞 の 原 因 に つ い て 検 証 し ,家 計 の 可 処 分 所 得 の 低 迷 ,
地価・株価の暴落による家計資産の減少,将来(特に,老後や公的年金)に対す
る不確実性の上昇,将来展望の悪化などが原因だったことを明らかにした.最後
に ,1990 年 代 の 日 本 経 済 の 長 期 低 迷 の 原 因 と し て ,需 要 側 の 要 因 と 供 給 側 の 要 因
のどちらがより重要だったのかについて検証し,前者(政府の誤った経済政策を
含む)がおそらくより重要だったと結論付けた.
次に,本稿の分析結果の政策的インプリケーションについて考えたい.本稿に
よ れ ば , 1980 年 代 前 半 の バ ブ ル 期 に お い て も , 1990 年 代 の バ ブ ル 崩 壊 期 に お い
ても,日本政府・日本銀行の経済政策の多くは誤っていた.例えば,バブル期に
おいては,日本銀行は金融政策をより早く引き締め,そうすることによってバブ
ルをより早い時期に終焉させるべきだった.一方,バブル崩壊期においては,日
本 政 府・日 本 銀 行 は 金 融 政 策 を よ り 早 く 緩 和 し ,よ り 拡 張 的 な 財 政 政 策 を 実 施 し ,
金融危機および不良債権問題に対してより早く対応すべきだった.
また,本稿の分析によれば,家計消費を刺激するもう1つの手段として,将来
に対する不確実性(特に老後・年金に対する不確実性)を緩和することがあり,
その最も有効な手段は老後に対する人々の不安が解消されるよう公的年金制度を
抜本的に改革することだった.
11
最 後 に , 供 給 側 を 対 象 と し た 政 策 に つ い て 考 え た い . Hayashi and Prescott
(2003)は 非 効 率 な 企 業 , 斜 陽 産 業 に 対 す る 補 助 金 は 経 済 全 体 の 生 産 性 の 向 上 を 妨
げ る た め , 廃 止 す べ き だ っ た と 主 張 し て い る .Hayashi and Prescott の 主 張 が 実
施されていたら,経済全体の生産性が高まっていただけではなく,同時に政府の
財政再建にも役立っていたので,実施すべきだった.ところが,日本政府はその
逆 を し た . 1998-2001 年 の 間 , す べ て の 中 小 企 業 を 対 象 と し た 特 別 信 用 保 証 制 度
を実施し,非効率な中小企業でも存続できるようにした.
つまり,日本政府・日本銀行は需要側を対象とした政策に関しても,供給側を
対 象 と し た 政 策 に 関 し て も , 誤 っ た 政 策 を 実 施 し , そ れ が 日 本 経 済 の 1990 年 代
の長期低迷の主要な原因の1つだったと考えられる.
謝辞
本 稿 は ,Horioka (2006) を 大 幅 に 加 筆 修 正 し ,和 訳 し た も の で あ る .Bernadette
Andreosso-O’Callaghan, Anton Braun, Robert Dekle, Sheldon Garon, 林 文
夫 , 星 岳 雄 , Michael Hutchison, Nazrul Islam, Douglas Joines, 長 江 亮 , 岡
田 多 恵 , Keunkwan Ryu, 佐 野 晋 平 , 沈 東 , Dariusz Stanko, 若 林 緑 , 万 軍 民 ,
Frank Westermann, 吉 田 恵 子 , 周 燕 飛 各 氏 , 特 に 関 田 静 香 氏 , CESifo Venice
Summer Institute (VSI) Workshop on “Economic Stagnation in Japan” お よ び
財団法人国際東アジア研究センター主催のセミナーの参加者より有益なコメント
をいただいた.また,この研究は文部科学省より科学研究費補助金(特定領域研
究 ( 2), 課 題 番 号 12124207) を 受 け た . こ こ に 記 し て 感 謝 の 意 を 表 し た い .
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18
Japanese
and
実質成長率(%)
図1:GDPおよび家計消費の実質成長率,1981-2003年
8.0
7.0
6.0
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
-1.0
-2.0
GDP
家計消費
1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003
2.9 2.8 1.6 3.1 5.1 3.0 3.8 6.8 5.3 5.2 3.4 1.0 0.2 1.1 1.9 3.4 1.9 -1.1 0.1 2.9 0.4 -0.5 2.5
1.8 4.4 3.2 2.5 3.5 3.4 4.0 4.7 4.6 4.4 3.0 2.6 1.6 2.7 2.1 2.6 0.9 -0.0 0.7 1.7 1.9 0.8 1.2
暦年
備考:家計消費の概念として,家計現実最終消費支出(家計最終消費支出と現物社
会移転(受取)の和)を用いた.
出所:表1と同じ.
19
表1: GDPの各構成要因の年平均実質成長率および実質GDP成長への寄与度,1980-2003年
GDPの構成要因
家計現実最終消費
政府現実最終消費
国内民間総固定資本形成
住宅
企業設備
国内公的総固定資本形成
住宅
企業設備
一般政府
在庫品増加
財貨・サービスの純輸出
財貨・サービスの輸出
財貨・サービスの輸入
国内総支出 (国内総生産)
年平均実質成長率(%)
1980-91
1991-2003
3.59
3
1.56
3
3.54
4
3.22
2
6.11
2 -0.59
5
(2.44)
(-2.48)
(7.44)
(-0.14)
0.85
5 -0.24
4
(-0.53)
(-0.89)
(-2.85)
(-1.06)
(2.45)
(0.02)
9.56
1
… 6
0.78
6
6.39
1
(4.61)
(4.26)
(5.94)
(3.63)
3.89
1.14
実質GDP成長への寄与度
(%)
1980-91
1991-2003
57.24
1 85.40
1
5.45
3 18.64
2
34.09
2 -11.49
6
(3.54)
(-9.27)
(30.54)
(-2.22)
1.67
4 -1.26
4
(-0.04)
(-0.15)
(-1.56)
(-1.18)
(3.26)
(0.07)
1.14
5 -4.35
5
0.42
6 13.07
3
(9.68)
(37.78)
(9.26)
(24.71)
100.00
100.00
備考: t1年からt2年の間における構成要因Xの年平均実質成長率は,[(X(t2)-X(t1))**(1/(t2-t1)) - 1]*100
として計算した.
構成要因Xの実質GDP成長への寄与度は [X(t2) - X(t1)]*100/[GDP(t2)-GDP(t1)] として計算した.
家計現実最終消費支出は,家計最終消費支出と現物社会移転(受取)の和である.
「...」は計算できないことを示す.
各値の右に示されている値は、その値の順位を示す.
日本政府は2004年に,固定基準年方式から連鎖方式へと移行したが,本稿で示されている全てのデー
タは以前の固定基準年方式に従っている. なぜならば,連鎖方式に従ったデータは,1994年以降のみ
利用可能であり,また主要系列のみが利用可能だからである.
出所: 内閣府経済社会総合研究所編,『国民経済計算年報』,2005年版 (メディアランド株式会社).
20
表2: GDPの構成,1980-2003年
GDPの構成要因
家計現実最終消費
政府現実最終消費
国内民間総固定資本形成
住宅
企業設備
国内公的総固定資本形成
住宅
企業設備
一般政府
在庫品増加
財貨・サービスの純輸出
財貨・サービスの輸出
財貨・サービスの輸入
国内総支出 (国内総生産)
実質GDPにおける各項目のシェア
2003
1980
1991
62.91
1
60.97
1
64.08
6.10
4
5.88
4
7.50
19.31
2
24.38
2
19.81
(6.08)
(5.21)
(3.36)
(13.24)
(19.17)
(16.44)
8.91
3
6.43
3
5.45
(0.36)
(0.22)
(0.17)
(2.99)
(1.43)
(1.10)
(5.57)
(4.78)
(4.18)
0.34
6
0.62
6
-0.02
2.42
5
1.73
5
3.18
(7.87)
(8.49)
(12.22)
(5.45)
(6.76)
(9.04)
100.00
100.00
100.00
備考: 各値は、実質GDPに占める各構成要因のシェア(%)を示す.
各値の右に示されている値は、その値の順位を示す.
表1の注も参照のこと.
出所: 表1と同じ.
21
1
3
2
4
6
5
表3: GDPの各構成要因の成長率の減少および実質GDP成長の減少への寄与度,1980-2003年
成長率の変化(%ポイ 実質GDP成長の減少へ
ント)、 1980-91年 対 の寄与度(%)、 19801991-2003年
91年 対 1991-2003年
-2.03
4
36.34
2
-0.32
2
-4.33
5
-6.70
5
67.91
1
(-4.92)
(13.05)
(-7.59)
(54.86)
-1.09
3
3.84
4
(-0.36)
(0.05)
(1.79)
(-1.84)
(-2.44)
(5.63)
…
6
5.22
3
5.60
1
-8.98
6
(-0.35)
(-11.18)
(-0.32)
(-2.20)
-2.75
100.00
GDPの構成要因
家計現実最終消費
政府現実最終消費
国内民間総固定資本形成
住宅
企業設備
国内公的総固定資本形成
住宅
企業設備
一般政府
在庫品増加
財貨・サービスの純輸出
財貨・サービスの輸出
財貨・サービスの輸入
国内総支出 (国内総生産)
備考:GDPの各構成要因の1980-91年から1991-2003年の実質GDP成長の減少への寄与度は,1980-91
年から1991-2003年の実質GDP成長の減少に占める1980-91年から1991-2003年の各構成要因の実質
成長の減少の比率(%)として計算した.
「...」は計算できないことを示す.
各値の右に示されている値は,その値の順位を示す.
表1の注も参照のこと.
出所: 表1と同じ.
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暦年
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
表4: 家計貯蓄率の動向, 1980-2004
貯蓄率
17.3
18.2
16.8
16.2
16.1
15.5
14.8
13.1
13.5
13.6
13.9
15.1
14.2
13.7
12.6
11.9
10.6
10.4
11.7
10.4
8.3
5.0
4.8
4.0
3.1
調整貯蓄率
15.4
16.2
14.9
14.3
14.3
13.7
13.0
11.5
11.9
12.0
12.3
13.3
12.5
12.0
11.1
10.4
9.2
9.0
10.1
8.9
7.1
4.3
4.0
3.3
2.6
備考: 家計貯蓄率は,家計貯蓄(純)を家計可処分所得(純)と年金基金年金準備金の変動
(受取)の和で除することによって計算した.調整家計貯蓄率は,家計貯蓄(純)を調整家計可
処分所得(純)と年金基金年金準備金の変動(受取)の和で除することによって計算した.調整
家計可処分所得(純)は家計可処分所得に現物社会移転(受取)を加えたものである.
1996年以降のデータは2000年基準改定を反映しており,それ以前のデータは反映していな
い.1996年においては,貯蓄率の場合も,調整貯蓄率の場合も,2000年基準改定を反映した
値はこの改訂を反映していない値を0.7ポイント上回っていた.
出所: 内閣府経済社会総合研究所編,『国民経済計算年報』,2006年版 (メディアランド株式
会社).
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