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イノシシ探索犬マニュアル - 一般財団法人 自然環境研究センター

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イノシシ探索犬マニュアル
イノシシ探索犬マニュアル
一般財団法人 自然環境研究センター
鳥獣被害防止部
イノシシ探索犬マニュアル
目
次
1.犬の選択
1
2.訓練
2
1)学習理論
2
2)訓練項目
3
3.訓練成果テスト
6
1)犬選択
6
2)訓練
7
4.試験運用事例
9
イノシシ探索犬マニュアル
1.犬の選択
犬の選択はイノシシ探索犬育成の第一歩であり、イノシシ探索犬に適した犬を選別する
ことを目的とする。犬の選択の主な選別点を以下にまとめる。
1)健康な犬
先天的な欠陥(股関節形成不全等)がある犬は避ける。一般的に血統証のある犬は先天
的な欠陥が少ないとされる。しかし、純血種にこだわる必要はなく、健康な犬であれば雑
種でも良い。
2)非闘犬種
闘犬としての歴史のある犬種(土佐犬、ブルドッグなど)は、今は落ち着いた性格の犬
が多くなったが、ごく希に攻撃的な一面を見せる可能性がある。そのため極力避けて選択
する。
3) 親和性の高い犬
人や犬に対して攻撃性を見せることなく、遊ぼうとするなどの親和性が高い犬が望まし
い。中には警戒心が強く親和的ではない犬もいるが、人や犬に対して攻撃性を見せなけれ
ば問題ない。
4) 好奇心旺盛な犬
様々なものに興味を示し、人とよく遊ぼうとする犬が望ましい。ボールやおもちゃなど
に反応しない、またはしにくい犬は訓練に時間がかかるため避けたほうが良い。
5) 中型犬種
中型犬種の犬が望ましい。大型犬は、日本の山岳地形や藪の多い地域での探索は不向き
であるため、極力避けた方が良い。また、小型犬は大きな岩場や小さい川などの障害物
を越えられない場合があり、人の介助を必要とすることが考えられる。そうなるとハン
ドラーの負担が大きくなるため、避けた方が良い。一方、テリア系統の犬種は高い運動
能力があるので、小型でもイノシシ探索犬に育成することができる場合がある。
6) 若い犬
一般的に使役犬の能力が維持できるのは 8~10 歳くらいまでと言われ、現場で使役する
期間等を考慮した年齢の犬を選択すべきである。訓練を行うのに適した年齢は 6 ヶ月~2 歳
程度が望ましく、現場で作業するのは 2~10 歳程度となる。
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イノシシ探索犬マニュアル
2.訓練
犬が選択できれば次に、訓練となる。訓練方法は犬の性格や体格、犬種の性質などの要
因を考慮して行う必要がある。ここでは、イノシシ探索犬として必要な訓練項目を挙げる
こととするが、訓練の方法は選択した候補犬に合わせた訓練法を各自で選択し訓練する。
プロの訓練士から指導をしてもらうことが最も良い方法である。しかし、訓練所へ犬のみ
を預けて、探索犬に育成した犬を用いることは望ましくない。基本的な犬の知識や訓練技
術のないハンドラーが探索犬を扱うと、探索犬の能力を充分に発揮できないばかりか、人
や犬、イノシシ以外の動物へ危害を加えるなどの問題を引き起こしかねない。そのため、
ハンドラーとなる人もプロの訓練士の指導による講習型の訓練を行うことが重要である。
1) 学習理論
訓練を行うにあたり、ハンドラーは基本的な学習の原理を理解することが必要であるた
め、以下に基本的な学習理論を記す。
犬の学習には主にオペラント条件付けが用いられる。オペラント条件付けは、犬が行う
行動の自発頻度を高めたり、低めたりすることである。オペラント条件付けに用いられる
用語として、行動の前になかった物が行動の後に出現することを「正」と呼び、行動の前
に有ったものが行動の後になくなることを「負」と呼ぶ。自発行動が増えることを「強化」
、
自発行動が減ることを「弱化(罰)
」と言う。オペラント条件付けは「正」
「負」
「強化」
「弱
化」の 4 つを組み合わせた「正の強化・負の強化・正の弱化・負の弱化」の 4 つから成り
立つ。以下に説明する。
正の強化
強化子(ご褒美やうれしいこと)の出現により行動の自発頻度が
増えること。
例)
犬がたまたま自発的に座った瞬間に、おやつやボール(強化子)といったご褒美を与え
る(出現)。そうすることで、犬が自発的に座るという行動の自発頻度が増える(強化)。
そこに、
「座れ」という指示の時に座った時のみ、ご褒美がもらえるという条件を付け加え
ると、
「座れ」の指示に対し座るという行動の自発頻度が増加する。
負の強化
嫌子(嫌なこと)の消失により、行動の自発頻度が増えること。
例)
叱られて(嫌子)いる時、たまたま逃げたら叱られなくなった(消失)。このことで、怒
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イノシシ探索犬マニュアル
られると逃げるという行動の自発頻度が増加する(強化)。
正の弱化
嫌子の出現により行動の自発頻度が減ること。
例)
犬が吠えた瞬間に叱られる(嫌子の出現)。叱られることで、吠えるという行動の自発頻度
が減少する(弱化)
。
負の弱化
強化子の消失により行動の自発頻度が減ること。
例)
楽しい散歩(強化子)の時にリードを引っ張った瞬間、止まる又は散歩を終了させる(消
失)ことで、リードを引っ張るという行動の自発頻度を減少させる(弱化)
。
2) 訓練項目
訓練項目は大きく分けて3段階に分けられる。第 1 段階の服従訓練はジャパンケンネル
クラブ(JKC)等の家庭犬訓練で行われている項目から、イノシシ探索犬育成に必要とさ
れる第 2 段階の探索訓練と第 3 段階の訓練項目を示す。
第 1 段階:服従訓練(ふくじゅうくんれん)
人が犬をコントロールする上で、最も重要な訓練である。第 1 段階では候補犬が人に対
して服従することと同時に、人と犬との信頼関係も築きあげることも重要である。服従訓
練は、以下の項目ができることとする。
① 紐付き脚側行進(ひもつききゃくそくこうしん)
2m 以内の紐(リード)をつけたまま行う。犬は紐を引っ張ったりしないでハンドラー
の隣を歩く。
② 紐なし脚側行進(ひもなしきゃくそくこうしん)
紐(リード)なしで、紐付き脚測行進を行う。犬は紐なしでハンドラーの隣を歩く。
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イノシシ探索犬マニュアル
③ 招呼(しょうこ)
ハンドラーは犬を脚側停座させる。ハンドラーは犬が座った状態のまま犬から約 5m 離
れ、犬と向かい合う。犬と向かい合った後、ハンドラーは犬を招呼し(呼ぶこと)、正面停
座させる。正面停座後、脚側停座させる。
④ 伏臥(ふくが)
犬に「伏せ」の指示を出し、犬は指示に反応して伏せる。
⑤ 脚側行進中の停座(きゃくそくこうしんちゅうのていざ)
犬は脚側行進中にハンドラーの「座れ」の指示で座る。そのときハンドラーは歩き続け
犬から約 5m 離れる。この時、犬は座り続けるようにする。
第2段階:探索訓練(たんさくくんれん)
服従訓練習得後、探索訓練に移行する。探索訓練はイノシシの臭気をたどり、イノシシ
を発見するために必要な訓練となる。
イノシシ探索犬は、警察犬の足跡追求のようにイノシシの臭気を追跡することができる
こと。追跡したイノシシを発見したら、吠えずに止まる又はハンドラーの元へ戻ってきて
発見したことを知らせる。また、探索中はハンドラーと犬の距離が 30m 以内で探索するこ
とができることが重要である。
① 臭気の追跡(しゅうきのついせき)
イノシシが被害地域から 500~1000m 以内に寝屋を設けることが多いので、1000m 程
度の距離を集中して臭気の追跡(探索)ができるようにする。
② 発見後ハンドラーへの報告
犬は追跡したイノシシ(訓練時は毛皮等を使用)を発見したら吠えることなく、ハン
ドラーへ知らせる。知らせる方法はイノシシ(毛皮等)の近くで立ち止まるか、発見した
場所からハンドラーのもとへ戻って来ることで知らせるようにする。
③ 忌避訓練(きひくんれん)
犬はイノシシの臭気をはっきりと区別し、非対象動物の臭気に対して必要以上の興味
を持たないようにする。
第3段階:最終訓練(さいしゅうくんれん)
ここで行う訓練は、これまで行った訓練の結果、探索犬として最低限の行動ができるか
見極めるために行うものである。これで最低限の訓練が終了となるが、終了後も常時、訓
練と現地での経験を積むことにより、よりよい探索犬の育成になる。
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イノシシ探索犬マニュアル
① 現地訓練
実際の探索現場と似た環境の中で、イノシシの臭気を追跡させ、500~1000m 程度の追
跡ができるか。発見後、吠えたり噛みついたりすることなく、立ち止まる又はハンドラ
ーのもとへ戻って来て知らせることを確認する。
② 銃声馴化訓練(じゅうせいじゅんかくんれん)
実際に、イノシシを探索できた場合、そのイノシシを捕獲することを想定し、犬から
5m 程度で銃声が鳴っても取り乱すことなく、落ち着いていられるか訓練する。
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イノシシ探索犬マニュアル
3.訓練成果テスト
本訓練成果テストは暫定的なものとし、探索犬として必要とされる訓練項目の変更や、
成果の方法の変更に伴い随時変化していくものとする。
1) 犬選択
探索犬として、数字の大きいほど望ましく、1 が一つでもある犬は候補犬として認めない。
1 = 不可
2 以上 = 可
① 健康な犬(先天的な疾患がないこと、欠歯等の運動能力に影響がなければ可)
1 = ある
2 = あるが運動能力に影響しない
3 = ない
② 非闘犬種(土佐犬、ブルドッグ等)
1 = ある
2 = なし
③ 親和性の高い犬
1 = 人・犬の両方にない
2 = 人にのみある
3 = 犬のみにある
4 = 人・犬の両方にある
④ 好奇心旺盛な犬
1 = 好奇心がなく物に反応しない
2 = 慣れた場所でのみ遊ぶ
3 = どこでも好奇心旺盛に遊ぶ
⑤ 中型犬種(小型犬種でも運動能力に優れた犬種は可)
1 = 5kg 未満または 30kg 以上
2 = 5kg 以上または 30kg 未満
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イノシシ探索犬マニュアル
⑥ 若い犬
1 = 6 ヶ月未満または 8 歳以上
2 = 4 歳~8 歳
3 = 2 歳~4 歳
4 = 6 ヶ月~2 歳
2)訓練
探索犬であるには全ての項目において評価 3 以上の能力を有していることが望ましい。
また、1 の評価が一つでもあるものは認めない。
点数:1=不可 2=不足 3=可 4=良 5=優
1-1 紐付き脚側行進
1 = 紐(リード)を継続的に引っ張り、ハンドラーと歩くことができない。
2 = 紐(リード)を継続的に引っ張りながらハンドラーの隣を歩く。
3 = 紐(リード)の引っ張りが少なく、ハンドラーの隣を歩ける。
4 = 紐(リード)の引っ張りはないが、方向転換時に引っ張る。
5 = 紐(リード)の引っ張りがなく、方向転換時にもハンドラーの隣を歩ける。
1-2 紐なし脚側行進
1 = 犬がハンドラーから 20m 以上離れ、脚側行進できない。
2 = ハンドラーの隣で脚側行進するが、時折 10m 程度離れてしまう。
3 = ハンドラーの隣で脚側行進するが、方向転換時に 2m程度離れてしまう。
4 = ハンドラーの隣で脚側行進するが、方向転換時に 1m程度離れてしまう。
5 = ハンドラーの隣から離れることなく、脚側行進する。
1-3 停座
1 = 命令されても座らない。
2 = 座るまでに 3 回以上の命令を必要とする。
3 = 座るまでに 2 回以内の命令で座る。
4 = 1 回の命令で座るが、時折 2 回の命令が必要。
5 = 1 回の命令で座る。
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イノシシ探索犬マニュアル
1-4 招呼
1 = 犬が来ず、立ち去ってしまう。
2 = ハンドラーの元へ歩いて来るが、注意力が散漫である。
3 = 2 回以下の命令でハンドラーの元へ来る。
4 = 1 回の命令でハンドラーの元へ来るが、ゆっくりと来る。
5 = 1 回の命令でハンドラーの元へ走ってくる。
2-1 臭気の追跡
1 = 臭気を追跡するが、犬がハンドラーの命令を聞けないほど離れ、ダミーを発見で
きない。
2 = 臭気を追跡するが、犬がハンドラーの見えない範囲で追跡し、ダミーを発見する。
3 = 臭気を追跡し、犬が時折ハンドラーから見えなくなり、ダミーを発見するが時間
がかかる。
4 = 臭気を追跡し、犬が時折ハンドラーから見えなくなるが、スムーズにダミーを発
見する。
5 = 臭気を追跡し、スムーズにダミーを発見する。
2-2 発見後ハンドラーへ知らせる
1 = 発見後、吠えながらダミーを噛む。
3 = 発見後、ハンドラーへ知らせるが、ダミーまでの距離が 5m 以内である。
5 = 発見後、ダミーから 20~10m 程度で知らせる。
2-3 忌避訓練
1 = どの臭気に対しても反応がない、区別できない。
3 = イノシシの臭気に反応るすが、非対象動物の臭気に対し興奮する。
5 = イノシシ以外の臭気には反応しない。
3-1 現地訓練
1 = 500m 未満しか探索できず、ダミーを発見できない。または、非対象動物に対し
て反応し、追跡する。
3 = 時間はかかるが 1000m 程度追跡できる。
5 = スムーズに 1000m 以上追跡ができる。
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イノシシ探索犬マニュアル
3-2 銃声馴化訓練
1 = 銃器を見ただけで逃げ出す。
2 = 5m 以内で発砲すると逃げ出す。
3 = 5m 発砲されても逃げ出さないが、おびえている。
4 = 5m 発砲されても逃げ出さないが、多少おびえる。
5 = 5m 発砲されてもひるむことなく、安定している。
4.試験運用事例
イノシシ探索犬マニュアルに沿って、甲斐犬のメス(愛称:蘭)、1 歳 7 ヶ月(2011 年度
当時)を候補犬として育成した。育成訓練の成果をみるため、群馬県赤城山鳥獣保護区内
で試験的運用を実施した。鳥獣保護区内には被害を受けている耕作地がないため、被害耕
作地の代わりとして「米糠」を林内 1 ヶ所に設置した。
2012 年 11 月に 4 回の探索試験を行い、計 4 回イノシシを発見した。いずれも、耕作地
と見立てた「米糠」から約 600m以内、20 分以内で発見することができた。実際に、銃器
により捕獲できたのは 1 頭で、その 1 頭は 3 頭のウリ坊(写真 1)のうちの 1 頭である。
残り 2 頭のうち 1 頭も射撃したが、半矢となり個体を発見することができなかった。なお、
捕獲したイノシシは疥癬症に感染していた。発見したイノシシは全て、ハンドラーから目
測 30m 以内の散弾銃の有効射程内で目視できていた。
この地域には1頭と 3 頭の群れのイノシシが生息していたことになる。実証試験の結果、
イノシシ探索犬を用いて、イノシシの寝屋もしくは休息場にいるイノシシを発見すること
が実証された。さらに、4日続けてイノシシを発見できていることから、今回訓練した「蘭」
は、イノシシを発見したのち速やかにハンドラーに知らせているため、イノシシに強いプ
レッシャーを与えていないことが確認でき、当方が考えている「イノシシ探索犬」を育成
できたとも考えられた。
表1 11 月実施日程
日程
発見
発見までの探索時間
発見までの距離
捕獲の有無
11/6
1頭
14 分
約 200m
×
11/7
1頭
20 分
約 600m
×
11/8
1頭
19 分
約 400m
×
11/9
4頭
※59(21)分
約 600m
1 頭(1 頭半矢逃走)
※( )内は最初の発見までの時間
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イノシシ探索犬マニュアル
写真 1 ウリ坊 3 頭
写真2 捕獲個体
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イノシシ探索犬マニュアル
イノシシ探索犬マニュアル
(Ver.1.01)
2013 年 8 月�31 日
一般財団法人 自然環境研究センター
鳥獣防止部
東京都墨田区江東橋 3-3-7
電話 03-6659-5610
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