飯山市土蔵活用ガイド 土蔵のある暮し 飯 山 市 土蔵のある暮し ■飯山市の土蔵 いう気象条件の中で、雁木の街並みや中門作 長い歴史の中で、自然に溶け込むかのよう りなど建築物にも他とは違う個性が見られま に、その地域の風土の上に少しずつ築き上げ す。まさに雪国ならではの建築文化といって てきた営みの産物があります。 も過言ではありません。 それは、まさに全国各地に広がる、個性豊 とりわけ、各地に残る土蔵は、永い時の流 かなまちでした。しかし、物の豊かさを求め れに押し流されることもなく、今に伝えてく るがゆえに、その素晴らしいものを、私たち れています。たとえほこりが被っていてみす は知らず知らずのうちに壊してしまっていま ぼらしくみえても、品位と風格がそなわって した。 います。 幸いにも近年では、物の豊かさから、心の 土蔵から地域を見つめ直し、アイデンティ 豊かさを求める時代になり、環境を捉える視 ティーの掘り起こしをし、さらには現代の価 点も変わりつつあります。それは物から質、 値観で新たな活用について模索し、まちづく つまり精神的、文化的側面から環境を捉える りの一手法を提案するものです。 ようになってきたといえます。 奥信濃飯山、そこは全国有数の豪雪地帯と 飯山市の土蔵 1 ■土蔵のある暮し ます。また、ほとんどの材料が木と土からで ○歴史文化的な価値 きていますから、技術さえあれば剥がれた土 現存する土蔵の多くは明治時代から昭和初 を塗り込んだりして再生することができ、持 期の時代に建てられ、古いものでは江戸時代 続可能な建物といえます。また、材料は全て 後期のものも存在します。太く頑丈な梁や土 土に戻ることができ地球環境にやさしい持続 壁などの材料、大工の技術、手間隙をかける 可能な建物でもあります。 時間のどれをとっても、現代にこのような土 蔵を造ることは、とても難しいことです。そ ■新しい活用 れゆえに土蔵は時を経た希少価値、歴史文化 土蔵の活用は、従来のまま財産や食料の保 的な価値があるといえましょう。 存などの目的に使うか、現代社会に対応した 新しい方法で使うかに分れます。後者の場合 ○恒温恒湿・防音に優れた室内環境 は、店舗やギャラリーなどの商業空間として 土蔵は、貴重な財産や食料を火災や盗難、 活用したり、土蔵をまち並みとして捉えて観 そして雪害から守るために建てられています。 光や地域の活性化に活用することがあります。 そのため、分厚い土の壁や木板に囲まれてい 珍しいところでは、歴史的な建物が、精神に ることから、湿度や温度が一定に保たれてい 安定を与える空間として医療の現場でも利用 ます。時間の経過とともに、味わいの深いも されている例もあります。 のになると同時に、材料は全て自然素材です 土蔵を含めた歴史的建物は、優れた再生や から、シックハウスなどの問題も全くありま 活用が図られると、そこに創られた空間の中 せん。また、厚い壁のおかげで、防音にも優 で、私たちの感覚が活き活きすることがあり れています。 ます。古い建物を利用することは、それを利 用したいと思う人の心が大きく働くのです。 ○土蔵のある風景や空間 土蔵を新しく活用することは、単に建物を使 土蔵はその機能がゆえに、商家の場合は敷 うだけでなく、無限の可能性を含んでいると 地の奥に、農家の場合は母屋の脇に多くが建 考えることができます。 てられています。土蔵はその室内空 間だけでなく、敷地内に母屋ととも に配置され、囲まれた庭などの空間 は、とても居心地がよく、質の高い 屋外空間もつくり出してくれます。 ○地球環境にやさしい建物 古い建物を保存し、使いつづける ことは、思い出、記憶のストックに なるばかりか、資源の節約にもなり 2 飯山市の土蔵 ■まち中の土蔵 飯山市の市街地には、どのような土蔵がど ○土蔵調査 のくらいあるのでしょうか。調べてみると、 調査日:平成17年11月 97棟の土蔵が確認されています。分布図を見 調査範囲:飯山市市街地部 ると土蔵が建ち並ぶ地区とまったく無い地域 調方法:目視による土蔵の確認 が一目で分ります。 飯山市の土蔵たち ●飯山市街地の土蔵分布 3 飯山市の土蔵たち 4 ■飯山市の土蔵の特徴 でしょう。置き屋根方式と腰部の板壁は、豪 少し時代を遡ると、日本家屋のほとんどは 雪地に対応した形態といえます。 木と紙でできており、火災にとても弱い構造 全ての土蔵の屋根は、鉄板ぶき(瓦棒ぶき、 でした。町全体を焼き尽くす大火事も珍しい 横ぶきなど)になっています。しかし、以前 ことではなく、裕福な商家や農家は、土蔵を は萱葺きになっていたと考えられます。少し つくり貴重な財産を火災や盗難から守ってい 前までは、周辺の農村部で萱葺きの土蔵を見 ました。また、多くの土蔵は、この名称のと ることができました。腰部の壁は、一部鉄板 おり厚い土壁で塗られており、温度や湿度が 張りやモルタル塗りもありますが、ほとんど 一定であるということから、味噌醤油、米の が板壁となっています。雪害に対応したこの 貯蔵として利用されることもありました。 板壁の高さは、この地区の積雪の深さと考え 飯山市の土蔵は、火災だけでなく深い雪か ることもできます。 ら財産や食料を守るという役割を持っている 土壁部分については、8割が土壁のままの仕 ため、屋根や壁に雪国独自な特徴を持ってい 上げになっています。残りの2割が漆喰で施 ます。 してあります。漆喰を塗ってある壁は、雪の 影響を受けているせいか、剥がれ落ちている ○土蔵の分布状況 ものが目立ちました。 飯山市の土蔵は、旧街道筋に多く点在して 土蔵の窓には、観音開きの土戸を備えてい います。神明町から愛宕町にかけての仏壇通 るものはわずかです。ほとんどが、鉄格子と りや本町交差点周辺には比較的多く、上町・ 内側に引込み式の土戸を備えた窓となってい 新町におけるがんぎ通り沿道や上倉の住宅地 ます。 にも幾つか点在しています。比較的新しい市 飯山市の土蔵のイメージ 街地の飯山駅周辺や、北町には土蔵がほとん 置屋根 どありません。土蔵の多くは明治・大正から 昭和初期にかけて造られていることから、そ 引込式の土戸 土壁 の当時建物が連たんしていた旧市街地に分布 していると言えます。 板壁 ○建築的形態 飯山市の土蔵の大きな建築的特徴は、置き 一般的な土蔵のイメージ 屋根方式と腰部の板壁です。一般的な土蔵は、 瓦屋根 瓦屋根に軒裏まで土が塗りこまれ、腰部がな まこ壁になっているものを想像しますが、飯 観音開きの土戸 山市にはこの形態を持つ土蔵はほとんどあり 漆喰壁 ません。この形態だと、積雪した時に瓦屋根 なまこ壁 が耐えられず、塗り壁も剥がれおちてしまう 5 飯山市の市街地に見られる土蔵の特徴は、 「月あかり」や「本町ぶらり広場」の土蔵 飯山市だけでなく、木島平や野沢温泉村など は、地域活性化の目的として利用されていま 北信地域の豪雪地帯に見ることができます。 す。また、以前、飯山駅に近く、穀物倉庫と して利用されていた比較的規模の大きな土蔵 ○利用状況 も、現在、市民団体の活動拠点として利用さ 千曲川の水運が盛んに行われていた頃、肴 れています。 町にある土蔵は、近くの千曲川に設けられた 飯山港から荷揚げされたもの保管する場所だ ったと言われています。大切なものを保管す る場所としての土蔵ですから、現在も多くが 物置や倉庫として使われていいます。 飯山の土蔵が新たな用途として活用されて いる例はわずかです。中には、住居として改 修されたもの、飲食店として活用されている ものもあります。 ●特徴の図解 6 よみがえる土蔵 日本各地で注目を浴びる土蔵を活用したまちづくり。歴史伝統や文化を感じ、そして土蔵の ある上質な風景や空間と、そこでのもてなしにより訪れる人々を魅了しています。長野県内で も、長野市の「パティオ大門」や松本市の「蔵のある街・中町」などが話題となっています。 飯山市以外の場所で土蔵がどのようによみがえっているか探り、参考にしてみましょう。 ■長野市:ぱてぃお大門 善光寺門前の長野市大門町「ぱてぃお大門 蔵楽庭(くらにわ)」は、明治から大正時代に 建てられた商家(空店舗)及び使用されてい ない土蔵、立派な庭を備えた3階建ての空家 屋等、既存建物を取得再生し、商業施設とし て2005年11月オープンしました。この事業の 動機は、土蔵造りの空店舗を守るため、住民 土蔵に囲まれたパティオ(中庭) 有志がこの土地を取得し、それを中心市街地 活性化基本計画(長野地区)及び長野TMO 構想事業の推進のため取り組んだものです。 この施設は、地元生活者と観光客の双方の お客様をお迎えする『小さな旅気分を味わえ るまち』というコンセプトのもと、飲食、物 販など20店舗からなるショップと誰でも立ち 寄ることができるパティオ(中庭)を備えて います。現在、多くの人がここを訪れるよう 古い小屋組みを見せた店内 になり、中心市街地活性化の立役者となって ●ぱてぃお大門概要 います。 ・運営 株式会社まちづくり長野 ・敷地面積 約 3,112 ㎡(941.3 坪) ・建物棟数 14棟 ・建物延べ床面積 ・テナント数 約2,641㎡(789.9坪) 20店舗 ・総事業費 5億4,000万円(消費税別) ・事業費負担 国(1/3)中小企業活性化総合支援補助金 市(1/3) TMO(1/3) ぱてぃお大門の全景 7 ■松本市 街なみに調和する「蔵のある街なみ」が整備 ○本町、伊勢町 されつつ賑わいを取り戻しています。 松本市は、中心商店街の本町、伊勢町地区 を再生させようと、18年の歳月をかけて区 画整理事業が行われました。近代的な街並み 整備とともに、「土蔵づくり」の建物を曳き家 工法により生き残った店舗もあります。この 建物により、まち中には、松本の城下町らし い風情がまち中の随所に残されています。 中町の町並み ○中町「蔵の会館」 中町に隣接する宮村町にあった蔵造りの酒 屋「大禮酒造」の母屋・土蔵・離れの三棟を 移築し、地区住民のまちづくりの拠点となる 集会施設やギャラリーとして利用されていま す。通りに面する土蔵は、町が運営する茶房 として再生され、市民に親しまれています。 土蔵を利用した店舗 蔵の会館 土蔵を背景に庭づくり ○中町 旧善光寺街道に沿う松本市の中町は、かつ て本町、東町とともに「親町三町」として町 人街を形成していました。この中町には、歴 史的な資産である土蔵が随所に残っていたた め、建物のファサード(正面周辺部分)の改 修事業や電線類地中化事業を進め、歴史的な 蔵の茶房の店内 8 ■須坂市 ■小布施町: ○蔵のまち 小布施町は、住民と行政が一体となってま 須坂市は、江戸時代に須坂藩主堀氏の館町 ちづくりを進め、景観に対する関心が町全体 (陣屋町)として、また大笹街道の追分の地 に波及ししています。伝統建築様式の切妻、 として、数々の商取引が行われました。その 大壁造りの家が建築され、土蔵が店舗や宿泊 後、明治から昭和初期にかけて近代製糸業に 施設などに積極的に活用されています。 よって繁栄し、今も豪壮な土蔵造りの旧製糸 家建物や繁盛した大壁造りの商屋などの町並 みが残されています。須坂市は、街なみ環境 整備事業を進め、家屋の修理修景をとおした 歴史的景観保存に力をいれています。 栗の小路 蔵のまち並み ○ふれあい館まゆぐら 「ふれあい館まゆぐら」は、現在地から南東 に約180メートル離れた立町に、明治期に 蔵の蕎麦屋 建てられた三階建ての繭蔵を移転・改修したも ■千曲市 のです。解体を迫られたこの建物を、製糸業 稲荷山は、かつて善光寺西街道最大の宿場 で栄えた須坂の歴史を後世に伝える歴史的に 町として、明治以降は商品集積地として発展 貴重な建築物として曳き家移転を行い、まち し、白壁の土蔵が建ち並ぶ街並みが当時の繁 づくり拠点施設として保存再生されました。 栄を物語っています。 ふれあい館まゆぐら 9 稲荷山宿の町並み ■飯山市 ○ぶらり広場、雪あかり 雪と寺の町公園の「雪あかり」、本町ぶらり 広場の土蔵は、かつて土蔵を所有していた屋 敷を公園や広場として整備し、土蔵を機能や 風景の一つとして活用しました。使い方につ いては、まだ未知数ですが、寺町や商店街を 訪れる人々の拠点となることが期待されてい ます。 じょんのび夢蔵でのイベント ●じょんのび夢蔵(旧農協倉庫) 昭和10年 農業会で建築 穀物の貯蔵庫・検査所として活用 平成12年 北信州みゆきの農協より飯山市が 土蔵を受納 平成13年 じょんのび商店街が活用を始める じょんのび縁日、夏祭りなど 床面積:1階397.48㎡ 2階127.52㎡ ※「じょんのび」とは 新潟地方の方言で「寿(じゅ)延(の)ぶ」と考え ぶらり広場の土蔵 られる。またのんびりを意味するようだ。 ○じょんのび夢蔵 飯山駅の南側に位置する「じょんのび夢蔵」。 元は穀物倉庫として使われていました。現在、 ■事例の整理 商店街を中心とする有志により、この空間を 日本各地に目を向けると、埼玉県川越市の 活用したイベントや、活用方法の模索がされ 「蔵造りの町並み」、福島県喜多方市の「蔵の ています。周辺地区は、新幹線開通に伴う駅 まち」、滋賀県長浜市の「黒壁」などが有名で 前整備が計画されており、この土蔵がどう活 す。いずれも地域や商店街が衰退していく過 用するかが検討されています。 程で、地域の財産として残っていた土蔵や土 蔵づくりの建物を活用しようと、地域住民や 商店主が集まったのが始まりです。一軒で土 蔵の保存や活用が難しくても、こころざしが 同じ者が集まれば年間数百万人を呼べるだけ の地域に生まれ変わることができる事例です。 じょんのび夢蔵 10 土蔵をもっと使ってみよう 土蔵は過去の住まい方で生まれてきたものであるため、現代の住まいの要求に応えられなく なり無造作に壊される場合があります。確かに新しい建物に建替え、便利な生活を得たかもし れませんが、その代償として価値ある建物と文化、周囲との調和した景観などを捨ててしまっ たことになります。 土蔵を従来のまま財産や食料の保存などの目的に使うか、現代社会に対応した新しい方法で 再生させるかは所有者の判断によります。いずれも、100 年近く使い込まれたものを更に 100 年以上使う気持ちで粘り強く再生の方法を探りたいものです。 ■ショップ 商家の倉庫として使われていたものが、店 舗として生まれ変わる例が増えてきています。 建物自体が店の象徴となり、太い梁などは店 舗内のインテリアとなっています。土蔵の持 つ生命力は、自然と訪れたお客の心を躍らせ る力を秘めています。 例:書店ギャラリー(長野市) 長野市中央通り沿いにある書店のギャラリ ー。内装にはほとんど手を加えず、造られた 当時の雰囲気を残し、個展など様々なイベン トに活用しています。少々小さめな空間は、 子供への読み聞かせなどに程よい大きさで、 子供たちも落ち着いて聞き入るとのことです。 ■ギャラリー・スタジオ 土蔵は音楽スタジオやギャラリーに向いて います。土壁による防音効果と、常に一定に 保たれる温度と湿度が楽器や芸術作品の保存 に適しているのです。また、音楽コンサート に利用した場合は、土壁の吸音と反響効果が 程よいとのことです。 11 ■ホテル また、土蔵のある敷地に新しい建物を建て 珍しい例としては、中心地に残る土蔵を再 る場合でも、出来るだけ中庭を生み出すよう 生し、内装は落ち着きある洋風に改造してプ に棟を配置すると居心地の良い空間を生み出 チホテルに利用しています。飯山市に近い小 すことができます。 布施町でも幾つかがオープンしています。飯 山市で進めているグリーンツーリズム※注の滞 在場所やゲストハウスとして蔵を活用するの もどうでしょう。 ○興味を引く土蔵のある風景 街路を歩いて心地がいいかどうかは、目に 映る風景が興味深く展開するかどうかです。 飯山市の寺めぐり遊歩道が親しまれている理 由のひとつは、寺だけが目的物でなく、愛宕 町通りのがんぎや伝統工芸品である飯山仏壇、 さらには、町の商家の裏にある土蔵を見るこ ※注:農村や漁村での長期滞在型休暇。都市住民が農 家などにホームステイして農作業を体験したり、その 地域の歴史や自然に親しむ余暇活動。 とができ、興味を引く目的物となっているか らです。 ■風景としての土蔵 これからは、土蔵をまちの目的物としての 財産や食料を保存するという機能面を重視 視線を意識し、引き立つように考えてみまし して造られてきた土蔵を、風景のひとつとし ょう。きっとその周辺のまちが楽しくなるは て考えてみましょう。土蔵は、その重厚な造 ずです。 りと風土に馴染んだデザインにより、新しい 建築にはない風景を生み出すことが出来るで しょう。 ○蔵を背景にした中庭づくり 多くの敷地は細長く、土蔵はその奥に配置 され、その前には多少なりとも中庭となる空 間が存在するはずです。お店の場合、土蔵の 見える中庭を店づくりに活かせば、奥行きと 魅力ある店舗空間となります。 寺めぐり遊歩道から見える土蔵 12 土蔵の改修方法 ■土蔵をチェックしてみよう! 改修には予算があり、職人の方も一概にこ ○土壁の亀裂 の工法でするとは言いきれません。数十年か 大きな亀裂がある場合は、針金のような細 ら100年以上も風雪に耐えてきた土蔵ですから、 いものを挿して確かめてみましょう。荒壁に 出来ればこれからも同じ年月を耐えられる工 も深く入っている場合は構造的な欠陥の可能 法を取りたいものです。 性もあります。また、基礎石の沈み、土台の 土蔵を根本的に修理する場合や、再生修理 白蟻被害、腐れなどがあると、壁に影響を及 する場合には、専門的な知識と経験が必要な ぼすことにもなります。 ので専門技術者に相談することを薦めます。 ○荒壁の風蝕、剥離・剥落 どんなに破損している土蔵でも修理できな 土を触ってみて粉状に感じる場合は風蝕に いことはありません。震災で全壊した建物が 侵されています。剥離・剥落は、見たままの 復旧された例もあります。 ほか、手で軽く押して壁が浮いているかどう かで確かめることができます。 ○軒先 冬の屋根雪の影響から、軒先は破損しやす い場所です。雪解け後には必ずチェックが必 要です。 ○腰周り 下見板張りの場合は、板の腐朽や釘の錆と 板が外れそうか注意が必要です。モルタル塗 りの場合は、土壁と同様に亀裂や浮きを確か 土蔵の改修前(ぱてぃお大門) めましょう。 ■土蔵の改修について 土蔵を改修するには、昔からの工法を受け 継いだ土壁、そして新たな材料と技術を用い る工法と2つの方法が考えられます。前者が 「本物」であるならば、この工法を用いるほ うが良いといえます。しかしながら、現代の 中で、材料の入手や技術、そして工事費のこ 土蔵の改修後(ぱてぃお大門) とを考えれば、必ずしも「本物」が正しいと は言えず、新しい工法は、左官屋さんが努力 した結果ともいえます。 13 ■土蔵の相談 ■「登録有形文化財建造物」の利用 前世代から引き継がれてきた土蔵をいかに 古き良き建造物を守るために、文化財を資 次の世代にバトンタッチするか。急激な技術 産として活かすことを支援する新しい考え方 の変化のなかで、土蔵を含む伝統的な建造物 の制度が平成8年度にできました。「文化財登 に必要な技術や職人は減少しています。長野 録制度(登録有形文化財)」といいます。この 県内でもこの伝統的技術の伝承に取り組んで 制度の新しさは、今まで通りに使うのもよし、 いる団体があります。 事業資産や観光資源に利用しても構わず、資 産として活かし、文化として生かす「ゆるや ○信州伝統的建造物保存技術研究会(NPO) かに守る」という発想です。 同研究会は、信州にある優れた建築遺産を ○登録有形文化財の建造物の登録基準 保全し、後世に継承することを目的として発 築後50年を経過している建造物で、①国土の 足した特定非営利活動法人です。保存技術に 歴史的景観に寄与しているもの、②造形の規範と 関する総合的な調査や記録、優秀な技能者の なっているもの、③再現することが容易でないも のとしています。 顕彰、伝統的建築資材の収集・販売、及び伝 ※別途詳細基準あり ○届出が必要な場合 統的建造物の相談及び調査などを行っていま 減失、き損、現状変更、所有者の変更 ○優遇措置 す。 ・保存活用するための必要な修理の設計監理費の [事務局] 〒396-0621 2分の1を国が補助 長野県伊那市大字富県8403番地 ・敷地の地価税を2分の1に減税 TEL 0265-77-2780 ・登録された家屋の固定資産税を2分の1に減税 ・改修などの必要な資金を日本政策投資銀行より 低利で融資 ■蔵を活用した市民主体のまちづくりの薦め 土蔵をひとくちに再生活用するといっても、 資金面や活用アイディアなど難しくなり壊し てしまった方が早いということが起きてしま います。しかし、土蔵を持っている人、関心 がある人が集まり、知恵を出し合えば、この 土蔵を再生活用する可能性が高まります。こ のような活動や運動は日本各地で起きていま す。喜多方市の「蔵の会」、藤沢市の「蔵の 会」、飯山市の「じょんのび夢蔵」での活動も そのひとつです。再生や活用を思い付いたら、 こころざしを同じくするひとと一緒に考えて みましょう。 14 ■蔵のある風景モデルプラン ○土蔵を街並みと一体化させる(曳家) 敷地の取り残された土蔵 曳家してまち並みと一体化 ○土蔵に囲まれた空間を活用する 敷地の奥に眠っている土蔵 通り抜けや中庭をつくり土蔵を活かす ○蔵のある広場をつくる 土蔵のある広場 ギャラリーなどに利用 イベントステージ 壁面の圧迫感を軽減 する植栽 花壇 ベンチ 雁木 15
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